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特表2022-541650ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物
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  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図1A
  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図1B
  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図2
  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図3
  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図4
  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図5
  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図6
  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図7
  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図8
  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図9
  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図10
  • 特表-ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-26
(54)【発明の名称】ペプチド核酸系の作用物質を用いて癌を治療するための方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20220915BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220915BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20220915BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20220915BHJP
【FI】
A61K48/00
A61P35/00
A61K47/64
A61K38/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022505237
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 US2020043091
(87)【国際公開番号】W WO2021016361
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】62/878,301
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】306018457
【氏名又は名称】ザ・トラスティーズ・オブ・コロンビア・ユニバーシティ・イン・ザ・シティ・オブ・ニューヨーク
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ロスマン,ジェフリー ハロルド
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE59
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA15
4C084BA35
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB261
4C084ZB262
(57)【要約】
本開示は、特に、改良されたPNA作用物質、それを含む組成物、ならびにかかる作用物質および/または組成物を使用することによって癌等の疾患を治療するための方法を提供する。細胞における遺伝子の発現を減少させるための方法も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PNA部分と、
前記PNA部分の少なくとも一方の末端に付着した少なくとも1つの修飾部分と
を含むPNA作用物質であって、前記少なくとも1つの修飾部分がリジン残基からなり、前記リジン残基の少なくとも1つがパルミトイル側鎖部分を含む、PNA作用物質。
【請求項2】
前記少なくとも1つの修飾部分がLys(パルミトイル)-Lys-Lys-の構造を有する、請求項1記載のPNA作用物質。
【請求項3】
Lys(パルミトイル)-Lys-Lys-[PNA]-Lys-Lys-Lys(パルミトイル)の構造を有する、請求項1記載のPNA作用物質。
【請求項4】
Lys(パルミトイル)-Lys-Lys-[PNA]または[PNA]-Lys-Lys-Lys(パルミトイル)の構造を有する、請求項1記載のPNA作用物質。
【請求項5】
前記PNA部分と前記少なくとも1つの修飾部分との間に少なくとも1つのポリ(エチレングリコール)(PEG)スペーサーをさらに含む、請求項1記載のPNA作用物質。
【請求項6】
前記PNA作用物質は、ヘアピンループを形成する傾向が最小である配列を有する、請求項1記載のPNA作用物質。
【請求項7】
前記PNA作用物質は、60%未満のプリンを含有する配列を有する、請求項1記載のPNA作用物質。
【請求項8】
前記PNA部分は、遺伝子を標的とする配列を有する、請求項1記載のPNA作用物質。
【請求項9】
前記PNA部分は、遺伝子の13~20ヌクレオチドの配列を75%以上の相補性で標的とする配列を有する、請求項1記載のPNA作用物質。
【請求項10】
前記PNA部分は、遺伝子の13~20ヌクレオチドの配列を完全な相補性で標的とする配列を有する、請求項1記載のPNA作用物質。
【請求項11】
前記遺伝子は癌遺伝子である、請求項10記載のPNA作用物質。
【請求項12】
前記癌遺伝子が突然変異配列要素を含み、前記PNA作用物質が、前記突然変異配列要素を含むか、またはそれからなる部位を標的とする配列を有する、請求項11記載のPNA作用物質。
【請求項13】
前記PNA作用物質が、
(i)BRAFタンパク質におけるV600E突然変異に対応する突然変異を含むBRAF癌遺伝子の領域、または
(ii)Gnaqタンパク質におけるQ209L突然変異に対応する突然変異を含むGnaq遺伝子の領域、または
(iii)KRASタンパク質におけるG12D突然変異に対応する突然変異を含むKRAS癌遺伝子の領域
を含むか、またはそれからなる部位を標的とする、請求項12記載のPNA作用物質。
【請求項14】
前記PNA作用物質が、癌遺伝子の転座接合部を含む領域を含むか、またはそれからなる部位を標的とする、請求項11記載のPNA作用物質。
【請求項15】
前記PNA作用物質が、
(i)MYBおよびNFIB遺伝子もしくはそれらのフラグメントの接合部を含むMYB-NFIB転座、または
(ii)FUSおよびCHOP遺伝子もしくはそれらのフラグメントの接合部を含むFUS-CHOP転座
の領域を含むか、またはそれからなる部位を標的とする、請求項14記載のPNA作用物質。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項記載のPNA作用物質と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項17】
被験体における疾患、障害または病態を治療するか、またはそのリスクを低下させるための方法であって、前記被験体に有効量の請求項1から15までのいずれか1項記載のPNA作用物質または有効量の請求項16記載の医薬組成物を投与するステップを含む、方法。
【請求項18】
前記疾患、障害または病態が癌である、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記癌が黒色腫、眼内黒色腫、肉腫、膵癌、消化管癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、結腸癌、大腸癌および甲状腺癌から選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞における遺伝子の発現を減少させるための方法であって、前記細胞と有効量の請求項1から15までのいずれか1項記載の少なくとも1つのPNA作用物質とを接触させるステップを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2019年7月24日に出願された米国仮特許出願第62/878,301号明細書の利益を主張し、この出願全体を参照により本明細書に援用するものとする。
【技術分野】
【0002】
本開示は、特に、改良されたPNA作用物質、それを含む組成物、ならびにかかる作用物質および/または組成物を使用することによって癌等の疾患を治療するための方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
医療業界では、癌と闘う患者を治療するための新たな効果的な療法を提供することが常に必要とされている。従来の化学療法アプローチから逸脱した新規の組成物の発見は、医師が癌患者の治療方針を指示するために用いるアプローチに役立つ。特に、化学的アプローチではなく分子生物学的アプローチを用いて癌を治療するための組成物および方法に努力が傾けられている。
【0004】
PNA作用物質は、癌等の疾患を治療するための新薬の研究開発において有望なツールである。特許文献1には、カチオン性-親油性部分を両末端に付加することによるPNA-送達ペプチドコンジュゲートの効力の増大が記載されている。これは、送達を強化し、染色体標的に対する結合を安定化させることで、確かにより強力な転写抑制を生じさせる。しかしながら、これらの両親媒性ペプチドは細胞膜に凝集する傾向があるため、コンジュゲートの界面活性剤様特性の増大には非特異的な細胞毒性のリスクがある。したがって、転写抑制の効力と、送達ペプチドの所要の界面活性剤様特性によって引き起こされる細胞に対する非特異的毒性とのバランスを取ることが依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第10,113,169号明細書
【発明の概要】
【0006】
PNA-送達ペプチドコンジュゲートの末端への疎水性およびカチオン性部分の付加により、染色体DNA標的に対するPNAの送達および標的結合特性が改善することが以前に示されている。これらの末端修飾は、PNAコンジュゲートの送達および標的安定化の改善をもたらした。この時点では、Lys(パルミトイル)-(d)Lys-(d)Lys-のこれらの末端付加が、送達ペプチドを必要とすることなく送達に同様に影響を与え得ると考えられた。PNA配列に対して立体障害となり得る任意の不必要な構造を欠失させることで、その遺伝子標的への結合が最もよく取り除かれると推測される。かかる修飾、すなわち疎水性-カチオン性末端修飾PNAコンジュゲートの送達ペプチド部分の欠失の評価から、AsPC1細胞株におけるKRAS G12Dの有意により良好な抑制が証明された(実施例1を参照されたい)。
【0007】
同様の投与条件下で、末端修飾PNA-送達ペプチドコンジュゲートは、AsPC1細胞株においてKRAS G12Dの転写を通常のベースラインの50%まで抑制することが可能であったが、増殖の検出可能な抑制は検出されなかった。比較すると、同じ治療法であるが、送達ペプチド(NLS)が存在しない場合、AsPC1細胞株においてKRAS G12D転写が通常のベースラインの20%まで抑制され、増殖の濃度依存性抑制とともに増殖の完全な抑制が認められた。さらに、各単一末端Lys(パルミトイル)-(d)Lys-(d)Lys-とPNAオリゴマーセグメントとをポリエチレングリコールスペーサーによって分離することで、有効性がさらに2倍に改善される。
【0008】
これらの実験から、末端Lys(パルミトイル)-(d)Lys-(d)Lys-のみで修飾されたPNAオリゴマー配列が、同様に末端修飾されたPNAオリゴマー-送達ペプチド(NLS)コンジュゲートよりも遺伝子転写をin vitro、またおそらくはin vivoで抑制するのに効果的であるということが証明されている。これは、同様かつ/または十分な送達特性、およびPNAオリゴマーが立体障害となる、もはや不必要な同様のサイズの送達ペプチドに付着していないことによる可能性が高い。不必要な分子構造の除去により、PNAオリゴマーから結合を妨げる潜在的な障害が取り除かれる。PNAオリゴマーを送達成分から分離することの根拠は、PNA-DNA相互作用におけるH結合πスタッキング構成への干渉が少なくなることである。
【0009】
したがって、本開示の一実施形態は、PNA部分と、PNA部分の少なくとも一方の末端に付着した少なくとも1つの修飾部分とを含むPNA作用物質であって、少なくとも1つの修飾部分がリジン残基からなり、リジン残基の少なくとも1つがパルミトイル側鎖部分を含む、PNA作用物質である。
【0010】
本開示の別の実施形態は、本明細書に開示されるPNA作用物質と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物である。
【0011】
本開示の別の実施形態は、被験体における疾患、障害または病態を治療するか、またはそのリスクを低下させるための方法であって、被験体に有効量の本明細書に開示されるPNA作用物質または有効量の本明細書に開示される医薬組成物を投与するステップを含む、方法である。
【0012】
本開示のさらに別の実施形態は、細胞における遺伝子の発現を減少させるための方法であって、細胞と有効量の本明細書に開示される少なくとも1つのPNA作用物質とを接触させるステップを含む、方法である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本特許または出願ファイルは、カラーで作成された少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を含む本特許または特許出願公開の写しは、請求および必要な手数料の支払い後に官庁により提供される。
【0014】
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本開示の或る特定の態様をさらに実証するために含まれる。これらの図面の1つ以上を、本明細書に提示する特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて参照することで、本開示がよりよく理解され得る。
図1A】短い疎水性ポリマー(青色)を付加したPNAオリゴマーの図であり、ポリマーはモルテングロビュール内に留まる。
図1B】より長い疎水性ポリマー(青色)を付加したPNAオリゴマーの図であり、ポリマーはモルテングロビュールの境界を破ることが可能である。
図2】157A、228B、204Cおよび228Aを含む、研究に使用した種々のPNAコンジュゲートの構成を示す図である。
図3】KRAS G12Dに相補的な様々なPNAオリゴマー(図3-204C)に応答した濃度依存性の対立遺伝子特異的細胞増殖を示す図である。付加した疎水性ポリマーのサイズに応じて特性が変化する。全ての実験を三連で行った。
図4】KRAS G12Dに相補的な様々なPNAオリゴマー(図4-228B)に応答した濃度依存性の対立遺伝子特異的細胞増殖を示す図である。付加した疎水性ポリマーのサイズに応じて特性が変化する。全ての実験を三連で行った。
図5】KRAS G12Dに相補的な様々なPNAオリゴマー(図5-157A)に応答した濃度依存性の対立遺伝子特異的細胞増殖を示す図である。付加した疎水性ポリマーのサイズに応じて特性が変化する。全ての実験を三連で行った。
図6】KRAS G12Dに相補的な様々なPNAオリゴマー(図6-228A)に応答した濃度依存性の対立遺伝子特異的細胞増殖を示す図である。付加した疎水性ポリマーのサイズに応じて特性が変化する。全ての実験を三連で行った。
図7】KRAS G12Dに相補的な様々なPNAオリゴマー(図7-204C)に応答した定性的に同様の濃度依存性の細胞増殖を示す図である。内因性KRAS遺伝子を除去し、ヒトKRAS G12D[NCI RPZ26198]、HRAS野生型[NCI RPZ200024]またはKRAS野生型[NCI RPZ26216]に置き換えることによって一連の細胞株を作製した。このようにして、細胞株間に他の差異が存在しないため、細胞株間での挿入ヒト遺伝子の比較がより良好に制御される。付加した疎水性ポリマーのサイズに応じて特性が変化する。全ての実験を三連で行った。
図8】KRAS G12Dに相補的な様々なPNAオリゴマー(図8-228B)に応答した定性的に同様の濃度依存性の細胞増殖を示す図である。内因性KRAS遺伝子を除去し、ヒトKRAS G12D[NCI RPZ26198]、HRAS野生型[NCI RPZ200024]またはKRAS野生型[NCI RPZ26216]に置き換えることによって一連の細胞株を作製した。このようにして、細胞株間に他の差異が存在しないため、細胞株間での挿入ヒト遺伝子の比較がより良好に制御される。付加した疎水性ポリマーのサイズに応じて特性が変化する。全ての実験を三連で行った。
図9】KRAS G12Dに相補的な様々なPNAオリゴマー(図9-157A)に応答した定性的に同様の濃度依存性の細胞増殖を示す図である。内因性KRAS遺伝子を除去し、ヒトKRAS G12D[NCI RPZ26198]、HRAS野生型[NCI RPZ200024]またはKRAS野生型[NCI RPZ26216]に置き換えることによって一連の細胞株を作製した。このようにして、細胞株間に他の差異が存在しないため、細胞株間での挿入ヒト遺伝子の比較がより良好に制御される。付加した疎水性ポリマーのサイズに応じて特性が変化する。全ての実験を三連で行った。
図10】KRAS G12Dに相補的な様々なPNAオリゴマー(図10-228A)に応答した定性的に同様の濃度依存性の細胞増殖を示す図である。内因性KRAS遺伝子を除去し、ヒトKRAS G12D[NCI RPZ26198]、HRAS野生型[NCI RPZ200024]またはKRAS野生型[NCI RPZ26216]に置き換えることによって一連の細胞株を作製した。このようにして、細胞株間に他の差異が存在しないため、細胞株間での挿入ヒト遺伝子の比較がより良好に制御される。付加した疎水性ポリマーのサイズに応じて特性が変化する。全ての実験を三連で行った。
図11】PNAコンジュゲートである157Aまたは204Cに曝露されたKRAS G12D依存性細胞株AsPC1およびKRAS WT発現細胞株BxPC3のリアルタイムPCRの結果を示す図である。NDは、非処理の細胞株の正規化結果である。204Cは、1塩基対のみが異なるKRAS WTに影響を与えることなく、KRAS G12D遺伝子の転写を完全に抑制する。157Aは、KRAS G12Dを部分的にのみ抑制し、同様にKRAS WT遺伝子に影響を与えないことにより特異性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示では、転写抑制を達成し、非特異的毒性を最小限に抑えるためにPNAオリゴマーに付与される十分な界面活性剤様/両親媒性特性を評価する研究を行った(さらに詳しくは実施例1を参照されたい)。この毒性は、標的KRAS G12D遺伝子に依存しない同様の起源の細胞の細胞生存性の抑制によって最もよく説明される。両末端にカチオン性-親油性ペプチドが付加されたKRAS G12D相補的オリゴマーであるLys(C16)-Lys-Lys-[PNA]-Lys-Lys-Lys(C16)(図5および図9)よりも効力は弱いが、一方の末端にのみ付加された同じPNAオリゴマーであるLys(C16)-Lys-Lys-[PNA](図3および図7)は、PCR研究によって示される同様の特異性での転写抑制の改善に加えて、有意に低い非特異的毒性をもたらす(図11)。転写抑制の改善は、立体的特徴がより少ないため、後者の設計である単一末端への付加に付与される結合の動態学的段階が改善することから促される可能性がある。
【0016】
さらに、単一の連続したLys(C16)-Lys-Lys脂肪族鎖がこれらの特性に十分であることが確認された。単一のLys(C8)-Lys-Lys連続脂肪族部分による置換(図6および図10の228A)は、通常の治療濃度でいかなる抑制も認められなかったため、不十分であった。さらに、両末端でのLys(C8)-Lys-Lysの付加(図4および図8の228B)も、同様に有効性が認められなかったため、送達を達成するには不十分であった。これにより、単一の連続したC16脂肪族部分を追加のセグメントとして置き換えることができないことが強く示唆される(図4および図8の228B対図3および図7の204C)。
【0017】
さらに、Lys(C16)-Lys-Lys-[PNA]-Lys-Lysは、Lys(C16)-Lys-Lys-[PNA]-Lys-Lys-Lys(C16)と比較して有効性の増大をもたらさなかったことに加え、非特異的毒性が有意に増大した。
【0018】
これらの発見は、PNAコンジュゲートの統計的鎖モデルと一致する。付加された構成要素の特性は、疎水性力によって収縮した構造全体を越えて広がるために最小の長さを必要とする(図1Aおよび図1B)。より短い長さの複数の配置は、単一のより長い脂肪族鎖の位置化学特性を同等に付与しない。
【0019】
したがって、本開示の一実施形態は、PNA部分と、PNA部分の少なくとも一方の末端に付着した少なくとも1つの修飾部分とを含むPNA作用物質であって、少なくとも1つの修飾部分がリジン残基からなり、リジン残基の少なくとも1つがパルミトイル側鎖部分を含む、PNA作用物質である。
【0020】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つの修飾部分がLys(パルミトイル)-Lys-Lys-の構造を有する。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、Lys(パルミトイル)-Lys-Lys-[PNA]-Lys-Lys-Lys(パルミトイル)の構造を有する。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、Lys(パルミトイル)-Lys-Lys-[PNA]または[PNA]-Lys-Lys-Lys(パルミトイル)の構造を有する。
【0021】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、PNA部分と少なくとも1つの修飾部分との間に少なくとも1つのポリ(エチレングリコール)(PEG)スペーサーをさらに含む。
【0022】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、ヘアピンループを形成する傾向が最小である配列を有する。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、60%未満のプリンを含有する配列を有する。
【0023】
幾つかの実施形態では、PNA部分は、遺伝子を標的とする配列を有する。幾つかの実施形態では、PNA部分は、遺伝子の13~20ヌクレオチドの配列を75%以上の相補性で標的とする配列を有する。幾つかの実施形態では、PNA部分は、遺伝子の13~20ヌクレオチドの配列を完全な相補性で標的とする配列を有する。幾つかの実施形態では、PNA部分は、その長さが少なくとも14、15、16、17または18ヌクレオチドである核酸を標的とする配列を有し、および/または相補性は、少なくとも約80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%である。
【0024】
幾つかの実施形態では、遺伝子は癌遺伝子である。幾つかの実施形態では、癌遺伝子が突然変異配列要素を含み、PNA作用物質が、突然変異配列要素を含むか、またはそれからなる部位を標的とする配列を有する。
【0025】
PNA作用物質が、(i)BRAFタンパク質におけるV600E突然変異に対応する突然変異を含むBRAF癌遺伝子の領域、または(ii)Gnaqタンパク質におけるQ209L突然変異に対応する突然変異を含むGnaq遺伝子の領域、または(iii)KRASタンパク質におけるG12D突然変異に対応する突然変異を含むKRAS癌遺伝子の領域を含むか、またはそれからなる部位を標的とする、請求項12記載のPNA作用物質。
【0026】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質が、癌遺伝子の転座接合部を含む領域を含むか、またはそれからなる部位を標的とする。幾つかの実施形態では、PNA作用物質が、MYBおよびNFIB遺伝子もしくはそれらのフラグメントの接合部を含むMYB-NFIB転座の領域を含むか、またはそれからなる部位を標的とする。幾つかの実施形態では、PNA作用物質が、FUSおよびCHOP遺伝子もしくはそれらのフラグメントの接合部を含むFUS-CHOP転座の領域を含むか、またはそれからなる部位を標的とする。幾つかの実施形態では、PNA作用物質が、EWSおよびFLI1遺伝子もしくはそれらのフラグメントの接合部を含むEWS-FLI1転座の領域を含むか、またはそれからなる部位を標的とする。幾つかの実施形態では、PNA作用物質が、BCRおよびABL遺伝子もしくはそれらのフラグメントの接合部を含むBCR-ABL転座の領域を含むか、またはそれからなる部位を標的とする。幾つかの実施形態では、PNA作用物質が、SYTおよびSSX遺伝子もしくはそれらのフラグメントの接合部を含むSYX-SSX転座の領域を含むか、またはそれからなる部位を標的とする。幾つかの実施形態では、PNA作用物質が、(i)MYBおよびNFIB遺伝子もしくはそれらのフラグメントの接合部を含むMYB-NFIB転座、または(ii)FUSおよびCHOP遺伝子もしくはそれらのフラグメントの接合部を含むFUS-CHOP転座の領域を含むか、またはそれからなる部位を標的とする。幾つかの実施形態では、PNA作用物質が、2つの遺伝子領域または一点突然変異または多点突然変異を含む遺伝子領域の並列/接合を含む転座部位を標的とする。
【0027】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、遺伝子の増幅を含む領域を含むか、またはそれからなる部位を標的とする。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、AKT2、CDK4、MDM2、MYCN、CCNE、CCND1、KRAS、HRAS、EGFR、ERBB2、ERBB1、FGF、FGFR1、FGFR2、MYC、MYBおよびMETを含む遺伝子の増幅を標的とする。
【0028】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、遺伝子中の部位を標的とする配列を有し、このPNA作用物質は、遺伝子を発現する細胞を含む系がPNA作用物質に曝露されると、PNA作用物質が存在する場合に、PNA作用物質が存在せず、それ以外は同等の条件と比較して、遺伝子の発現が通常の活性の20%~90%の抑制の範囲内の量で減少することを特徴とする。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、遺伝子中の部位を標的とする配列を有し、このPNA作用物質は、遺伝子を発現する細胞を含む系がPNA作用物質に曝露されると、PNA作用物質が存在する場合に、PNA作用物質が存在せず、それ以外は同等の条件と比較して、遺伝子の発現が20%~90%の範囲内の量で減少することを特徴とする。幾つかの実施形態では、タンパク質産物は50%未満の発現まで減少する。幾つかの実施形態では、細胞はヒト細胞である。幾つかの実施形態では、系は動物であるか、または動物を含む。幾つかの実施形態では、系は霊長類であるか、または霊長類を含む。幾つかの実施形態では、系はヒトであるか、またはヒトを含む。幾つかの実施形態では、系はマウスであるか、またはマウスを含む。幾つかの実施形態では、系は遺伝子組み換えマウスであるか、または遺伝子組み換えマウスを含む。幾つかの実施形態では、系はBRAFマウスであるか、またはBRAFマウスを含む。幾つかの実施形態では、系は培養細胞であるか、または培養細胞を含む。
【0029】
幾つかの実施形態では、系はin vitro系を含む。幾つかの実施形態では、系はin vivo系を含む。幾つかの実施形態では、系は細胞であるか、または細胞を含む。
【0030】
幾つかの実施形態では、細胞は癌細胞を含む。幾つかの実施形態では、系は細胞培養中の細胞を含む。幾つかの実施形態では、細胞培養中の細胞は、BRAF野生型細胞を含む。幾つかの実施形態では、BRAF野生型細胞はC918細胞を含む。幾つかの実施形態では、細胞培養中の細胞は、BRAF V600E黒色腫細胞を含む。幾つかの実施形態では、BRAF V600E黒色腫細胞は、OCM1Aブドウ膜黒色腫細胞および/またはSK-MEL 7皮膚黒色腫細胞から選択される。
【0031】
幾つかの実施形態では、系は組織であるか、または組織を含む。幾つかの実施形態では、系は生物であるか、または生物を含む。幾つかの実施形態では、標的のレベルまたは活性は、生物の生存に対応する。幾つかの実施形態では、標的のレベルまたは活性の顕著な低下は、生物の生存の50%超の増大を含む。幾つかの実施形態では、生物はマウスを含む。幾つかの実施形態では、マウスはBRAFマウスを含む。
【0032】
本開示の別の実施形態は、本明細書に開示されるPNA作用物質と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物である。
【0033】
幾つかの実施形態では、医薬組成物は、標的組織への直接投与のために製剤化される。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、経口投与のために製剤化される。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、非経口投与のために製剤化される。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、皮内投与のために製剤化される。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、経皮投与のために製剤化される。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、吸入による投与のために製剤化される。幾つかの実施形態では、医薬組成物は液体であるか、または液体を含む。幾つかの実施形態では、医薬組成物は固体であるか、または固体を含む。
【0034】
本開示の別の実施形態は、被験体における疾患、障害または病態を治療するか、またはそのリスクを低下させるための方法であって、被験体に本明細書に開示された有効量のPNA作用物質または本明細書に開示された有効量の医薬組成物を投与するステップを含む、方法に関する。
【0035】
幾つかの実施形態では、疾患、障害または病態が癌である。癌の非限定的例は、黒色腫、眼内黒色腫、肉腫、膵癌、消化管癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、結腸癌、大腸癌および甲状腺癌を含む。
【0036】
本開示のさらに別の実施形態は、細胞における遺伝子の発現を減少させるための方法であって、細胞と本明細書に開示された有効量の少なくとも1つのPNA作用物質とを接触させるステップを含む、方法に関する。
【0037】
幾つかの実施形態では、細胞における標的遺伝子の発現を減少させる方法であって、標的が発現されている細胞と本明細書に開示される少なくとも1つのPNA作用物質とを接触させることと、PNA作用物質が存在する場合に、PNA作用物質が存在せず、それ以外は同等の条件下で観察される標的参照レベルまたは活性と比較して、細胞における標的のレベルまたは活性を決定することと、標的のレベルまたは活性が、PNA作用物質が存在する場合に標的参照レベルまたは活性と比較して顕著に低下するときに、少なくとも1つのPNA作用物質を標的阻害剤として分類することとを含む、方法が提供される。幾つかの実施形態では、標的のレベルまたは活性は、標的mRNAレベルを含む。幾つかの実施形態では、標的のレベルまたは活性は、標的タンパク質レベルを含む。幾つかの実施形態では、標的のレベルまたは活性は、細胞生存性に相当する。幾つかの実施形態では、標的のレベルまたは活性の顕著な低下は、腫瘍細胞生存性の90%超の低下に相当する。
【0038】
幾つかの実施形態では、標的のレベルまたは活性の顕著な低下は、標的活性の30%超の低下を含む。幾つかの実施形態では、標的のレベルまたは活性の顕著な低下は、標的レベルの10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%超の低下を含む。幾つかの実施形態では、標的のレベルまたは活性の顕著な低下は、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍、6000倍、7000倍、8000倍、9000倍、10000倍超、またはそれ以上を含む。幾つかの実施形態では、参照レベルは、履歴参照である。幾つかの実施形態では、履歴参照は、有形かつ/またはコンピュータ可読の媒体に記録される。
【0039】
本発明の付加的な特徴および利点は、図面、定義、詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
【0040】
定義
作用物質:「作用物質」という用語は、本明細書で使用される場合、例えばポリペプチド、核酸、糖類、脂質、小分子、金属またはそれらの組合せを含む任意の化学的分類の化合物または実体を指す可能性がある。文脈から明らかであるように、幾つかの実施形態では、作用物質は細胞もしくは生物、またはその画分、抽出物もしくは構成要素であるか、またはそれを含み得る。幾つかの実施形態では、作用物質は、それが自然界に見られ、かつ/または自然界から得られるという点で天然産物であるか、または天然産物を含む。幾つかの実施形態では、作用物質は、それが人の手の作用によって設計、操作および/もしくは作製され、かつ/または自然界に見られないという点で人工である1つ以上の実体であるか、またはそれを含む。幾つかの実施形態では、作用物質は、単離されたまたは純粋な形態で用いることができ、幾つかの実施形態では、作用物質は、粗製形態で用いることができる。幾つかの実施形態では、潜在的な作用物質は、例えばその中の活性作用物質を特定または特性評価するためにスクリーニングすることができるコレクションまたはライブラリーとして提供される。本発明に従って用いられ得る作用物質の幾つかの特定の実施形態としては、小分子、抗体、抗体フラグメント、アプタマー、siRNA、shRNA、DNA/RNAハイブリッド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、ペプチド、ペプチド模倣物、ペプチド核酸、小分子等が挙げられる。幾つかの実施形態では、作用物質はポリマーであるか、またはポリマーを含む。幾つかの実施形態では、作用物質はポリマーではなく、かつ/または実質的に任意のポリマーを含まない。幾つかの実施形態では、作用物質は、少なくとも1つのポリマー部分を含む。幾つかの実施形態では、作用物質は、任意のポリマー部分を欠くか、または実質的に含まない。
【0041】
親和性:当該技術分野で既知のように、「親和性」は、特定のリガンド(例えば、HAポリペプチド)がそのパートナー(例えば、HA受容体)に結合する際の緊密性の尺度である。親和性は、種々の方法で測定することができる。幾つかの実施形態では、親和性は、定量アッセイ(例えば、グリカン結合アッセイ)によって測定される。幾つかのかかる実施形態では、生理的条件(例えば、細胞表面グリカンへのウイルスHA結合)を模倣するように、結合パートナー濃度(例えばHA受容体、グリカン等)を、リガンド(例えば、HAポリペプチド)濃度を超えるように固定することができる。代替的または付加的に、幾つかの実施形態では、結合パートナー(例えばHA受容体、グリカン等)濃度および/またはリガンド(例えば、HAポリペプチド)濃度を変化させてもよい。幾つかのかかる実施形態では、親和性(例えば、結合親和性)を、同等の条件(例えば、濃度)下で参照(例えば、ヒトの感染を媒介する野生型HA)と比較してもよい。
【0042】
アミノ酸:本明細書で使用される場合、「アミノ酸」という用語は、その最も広い意味で、ポリペプチド鎖に組み込むことができる任意の化合物および/または物質を指す。幾つかの実施形態では、アミノ酸は、一般構造H2N-C(H)(R)-COOHを有する。幾つかの実施形態では、アミノ酸は自然発生アミノ酸である。幾つかの実施形態では、アミノ酸は合成アミノ酸であり、幾つかの実施形態では、アミノ酸はd-アミノ酸であり、幾つかの実施形態では、アミノ酸はl-アミノ酸である。「標準アミノ酸」は、自然発生ペプチドに一般に見られる20種の標準l-アミノ酸のいずれかを指す。「非標準アミノ酸」は、それが合成的に調製されるか、または天然源から得られるかにかかわらず、標準アミノ酸以外の任意のアミノ酸を指す。本明細書で使用される場合、「合成アミノ酸」は、塩、アミノ酸誘導体(アミド等)および/または置換を含むが、これらに限定されない化学修飾アミノ酸を包含する。ペプチド中のカルボキシ末端および/またはアミノ末端アミノ酸を含むアミノ酸は、メチル化、アミド化、アセチル化、保護基、および/またはペプチドの活性に悪影響を及ぼすことなくペプチドの循環半減期を変化させることができる他の化学基による置換によって修飾することができる。アミノ酸は、ジスルフィド結合に関与していてもよい。アミノ酸は、1つ以上の化学的実体(例えばメチル基、アセテート基、アセチル基、リン酸基、ホルミル部分、イソプレノイド基、スルフェート基、ポリエチレングリコール部分、脂質部分、炭水化物部分、ビオチン部分等)との会合等の1つ以上の翻訳後修飾を含み得る。「アミノ酸」という用語は、「アミノ酸残基」と区別なく使用され、遊離アミノ酸および/またはペプチドのアミノ酸残基を指す可能性がある。それが遊離アミノ酸を指すか、またはペプチドの残基を指すかは、この用語が使用されている文脈から明らかである。
【0043】
動物:本明細書で使用される場合、「動物」という用語は、動物界の任意のメンバーを指す。幾つかの実施形態では、「動物」は、任意の発達段階のいずれかの性別のヒトを指す。幾つかの実施形態では、「動物」は、任意の発達段階の非ヒト動物を指す。幾つかの実施形態では、非ヒト動物は、哺乳動物(例えば齧歯類、マウス、ラット、ウサギ、サル、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、霊長類および/またはブタ)である。幾つかの実施形態では、動物として、哺乳動物、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、昆虫および/または蠕虫が挙げられるが、これらに限定されない。幾つかの実施形態では、動物はHCVによる感染を起こしやすい。幾つかの実施形態では、動物はトランスジェニック動物、遺伝子組み換え動物および/またはクローンであり得る。
【0044】
抗体作用物質:本明細書で使用される場合、「抗体作用物質」という用語は、特定の抗原に特異的に結合する作用物質を指す。幾つかの実施形態では、この用語は、特異的結合をもたらすのに十分な免疫グロブリン構造要素を有する任意のポリペプチドを包含する。好適な抗体作用物質としては、ヒト抗体、霊長類化抗体、キメラ抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体、コンジュゲート抗体(すなわち、他のタンパク質、放射標識、細胞毒素とコンジュゲートまたは融合した抗体)、mall odular mmunoharmaceutical(「SMIP(商標)」)、一本鎖抗体、ラクダ科動物抗体および抗体フラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、「抗体作用物質」という用語は、無傷モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、シングルドメイン抗体(例えば、サメシングルドメイン抗体(例えば、IgNARまたはそれらのフラグメント))、少なくとも2つの無傷抗体から形成される多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、また、所望の生物活性を示す限りにおいて、抗体フラグメントも含む。幾つかの実施形態では、この用語は、ステープルペプチドを包含する。幾つかの実施形態では、この用語は、1つ以上の抗体様結合ペプチド模倣物を包含する。幾つかの実施形態では、この用語は、1つ以上の抗体様結合足場タンパク質を包含する。幾つかの実施形態では、この用語は、モノボディまたはアドネクチンを包含する。幾つかの実施形態では、抗体作用物質は、相補性決定領域(CDR)として当業者に認識されている1つ以上の構造要素をアミノ酸配列が含むポリペプチドであるか、またはそれを含み、幾つかの実施形態では、抗体作用物質は、参照抗体に見られるものと実質的に同一の少なくとも1つのCDR(例えば、少なくとも1つの重鎖CDRおよび/または少なくとも1つの軽鎖CDR)をアミノ酸配列が含むポリペプチドであるか、またはそれを含む。幾つかの実施形態では、含まれるCDRは、参照CDRと比較して配列が同一であるか、または1~5つのアミノ酸置換を有するという点で、参照CDRと実質的に同一である。幾つかの実施形態では、含まれるCDRは、参照CDRと少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を示すという点で、参照CDRと実質的に同一である。幾つかの実施形態では、含まれるCDRは、参照CDRと少なくとも96%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を示すという点で、参照CDRと実質的に同一である。幾つかの実施形態では、含まれるCDRは、含まれるCDR内の1~5つのアミノ酸が参照CDRと比較して欠失、付加または置換されているが、含まれるCDRが参照CDRとそれ以外は同一のアミノ酸配列を有するという点で、参照CDRと実質的に同一である。幾つかの実施形態では、含まれるCDRは、含まれるCDR内の少なくとも1つのアミノ酸が参照CDRと比較して欠失、付加または置換されているが、含まれるCDRが参照CDRとそれ以外は同一のアミノ酸配列を有するという点で、参照CDRと実質的に同一である。幾つかの実施形態では、含まれるCDRは、含まれるCDR内の少なくとも1つのアミノ酸が参照CDRと比較して置換されているが、含まれるCDRが参照CDRとそれ以外は同一のアミノ酸配列を有するという点で、参照CDRと実質的に同一である。幾つかの実施形態では、含まれるCDRは、含まれるCDR内の1~5つのアミノ酸が参照CDRと比較して欠失、付加または置換されているが、含まれるCDRが参照CDRとそれ以外は同一のアミノ酸配列を有するという点で、参照CDRと実質的に同一である。幾つかの実施形態では、抗体作用物質は、免疫グロブリン可変ドメインとして当業者に認識されている構造要素をアミノ酸配列が含むポリペプチドであるか、またはそれを含む。幾つかの実施形態では、抗体作用物質は、免疫グロブリン結合ドメインと相同またはほぼ相同の結合ドメインを有するポリペプチドタンパク質である。
【0045】
アンタゴニスト:本明細書で使用される場合、「アンタゴニスト」という用語は、i)別の作用物質の効果を阻害、低減もしくは軽減し、例えば核酸を不活性化し、かつ/またはii)1つ以上の生物学的事象、例えば1つ以上の核酸の発現もしくは1つ以上の生物学的経路の刺激を阻害、低減、軽減もしくは遅延させる作用物質を指す。アンタゴニストは、例えば小分子、ポリペプチド、核酸、炭水化物、脂質、金属、および/または関連の阻害活性を示す任意の他の実体を含む任意の化学的分類の作用物質であるか、またはそれを含み得る。アンタゴニストは、直接的であっても(この場合、受容体に直接影響を及ぼす)、または間接的であってもよい(この場合、受容体への結合ではなく、例えば受容体の発現または翻訳の変化、受容体によって直接活性化されるシグナル伝達経路の変化、受容体のアゴニストの発現、翻訳または活性の変化によって影響を及ぼす)。
【0046】
抗体ポリペプチド:本明細書で使用される場合、「抗体ポリペプチド」もしくは「抗体」、または「その抗原結合フラグメント」という用語は、区別なく使用され得るが、エピトープに結合することが可能なポリペプチドを指す。幾つかの実施形態では、抗体ポリペプチドは完全長抗体であり、幾つかの実施形態では、完全長未満であるが、少なくとも1つの結合部位(抗体「可変領域」の構造を有する少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つの配列を含む)を含む。幾つかの実施形態では、「抗体ポリペプチド」という用語は、免疫グロブリン結合ドメインと相同またはほぼ相同の結合ドメインを有する任意のタンパク質を包含する。幾つかの実施形態では、「抗体ポリペプチド」は、免疫グロブリン結合ドメインと少なくとも99%の同一性を示す結合ドメインを有するポリペプチドを包含する。幾つかの実施形態では、「抗体ポリペプチド」は、免疫グロブリン結合ドメイン、例えば参照免疫グロブリン結合ドメインと少なくとも70%、80%、85%、90%または95%の同一性を示す結合ドメインを有する任意のタンパク質である。含まれる「抗体ポリペプチド」は、天然源に見られる抗体と同一のアミノ酸配列を有していてもよい。本発明に従う抗体ポリペプチドは、例えば天然源もしくは抗体ライブラリーからの単離、宿主系におけるもしくは宿主系による組み換え産生、化学合成等、またはそれらの組合せを含む任意の利用可能な手段によって作製することができる。抗体ポリペプチドは、モノクローナルまたはポリクローナルであり得る。抗体ポリペプチドは、ヒトクラス:IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEのいずれかを含む任意の免疫グロブリンクラスのメンバーであり得る。幾つかの実施形態では、抗体はIgG免疫グロブリンクラスのメンバーであり得る。本明細書で使用される場合、「抗体ポリペプチド」または「抗体の特徴的部分」という用語は、区別なく使用され、対象のエピトープに結合する能力を有する抗体の任意の誘導体を指す。幾つかの実施形態では、「抗体ポリペプチド」は、完全長抗体の特異的結合能の少なくとも大部分を保持する抗体フラグメントである。抗体フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Fv、dsFvダイアボディおよびFdフラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。代替的または付加的には、抗体フラグメントは、例えばジスルフィド結合によって連結される複数の鎖を含み得る。幾つかの実施形態では、抗体ポリペプチドはヒト抗体であり得る。幾つかの実施形態では、抗体ポリペプチドはヒト化されていてもよい。ヒト化抗体ポリペプチドは、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖または抗体ポリペプチド(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2、または抗体の他の抗原結合部分配列等)であり得る。概して、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)に由来する残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラットまたはウサギ等の非ヒト種(ドナー抗体)のCDRに由来する残基に置き換えられたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。
【0047】
抗原:「抗原」は、抗体が結合する分子または実体である。幾つかの実施形態では、抗原はポリペプチドまたはその一部分であるか、またはそれを含む。幾つかの実施形態では、抗原は、抗体によって認識される感染因子の一部分である。幾つかの実施形態では、抗原は、免疫応答を惹起する作用物質、および/または(ii)生物に曝露または投与された場合に、T細胞受容体が結合するか(例えば、MHC分子によって提示される場合)、もしくは抗体(例えば、B細胞によって産生される)に結合する作用物質である。幾つかの実施形態では、抗原は生物において体液性応答(例えば、抗原特異的抗体の産生を含む)を惹起し、代替的または付加的に、幾つかの実施形態では、抗原は生物において細胞性応答(例えば、受容体が抗原と特異的に相互作用するT細胞が関与する)を惹起する。特定の抗原が、標的生物(例えばマウス、ウサギ、霊長類、ヒト)の1つまたは幾つかのメンバーにおいて免疫応答を惹起し得るが、標的生物種の全てのメンバーにおいて免疫応答を惹起するものではないことが当業者には理解される。幾つかの実施形態では、抗原は、標的生物種の少なくとも約25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%のメンバーにおいて免疫応答を惹起する。幾つかの実施形態では、抗原は、抗体および/またはT細胞受容体に結合し、生物において特定の生理学的応答を誘導しても、または誘導しなくてもよい。幾つかの実施形態では、例えば、抗原はin vitroで抗体および/またはT細胞受容体に結合することができ、これは、かかる相互作用がin vivoで起こるか否かにかかわらない。概して、抗原は、例えば小分子、核酸、ポリペプチド、炭水化物、脂質、生体ポリマー以外(例えば、核酸またはアミノ酸ポリマー以外)のポリマー等の任意の化学的実体であるか、またはそれを含み得る。幾つかの実施形態では、抗原はポリペプチドであるか、またはポリペプチドを含む。幾つかの実施形態では、抗原はグリカンであるか、またはグリカンを含む。当業者には、概して、抗原が単離されたもしくは純粋な形態で提供されてもよく、または代替的には、粗製形態で(例えば細胞抽出物等の抽出物中の他の物質、または抗原含有源の他の比較的粗製の調製物とともに)提供されてもよいことが理解される。幾つかの実施形態では、本発明に従って用いられる抗原は、粗製形態で提供される。幾つかの実施形態では、抗原は組み換え抗原であるか、または組み換え抗原を含む。
【0048】
およそ:本明細書で使用される場合、対象の1つ以上の値に適用される「およそ」または「約」という用語は、規定の参照値と同様の値を指す。幾つかの実施形態では、「およそ」または「約」という用語は、特に規定しない限り、または文脈から明らかでない限り(かかる数値が可能な値の100%を超える場合を除く)、規定の参照値のいずれかの方向(より大きいまたはより小さい)に25%、20%、19%、18%、17%、16%、15%、14%、13%、12%、11%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%以下に含まれる値の範囲を指す。
【0049】
生物学的に活性な:本明細書で使用される場合、「生物学的に活性な」という語句は、生物系(例えば細胞培養物、生物等)において活性を有する任意の物質の特徴を指す。例えば、生物に投与した場合に、その生物に対して生物学的効果を有する物質は、生物学的に活性とみなされる。幾つかの実施形態では、タンパク質またはポリペプチドが生物学的に活性である場合、タンパク質またはポリペプチドの少なくとも1つの生物活性を共有する、そのタンパク質またはポリペプチドの部分は通例、「生物学的に活性な」部分と称される。
【0050】
特徴的部分:本明細書で使用される場合、物質の「特徴的部分」という用語は、その最も広い意味で、物質全体に対して或る程度の配列または構造の同一性を共有する部分である。幾つかの実施形態では、特徴的部分は、無傷の物質と少なくとも1つの機能的特徴を共有する。例えば、タンパク質またはポリペプチドの「特徴的部分」は、ともにタンパク質またはポリペプチドの特徴をなすアミノ酸の連続ストレッチまたはアミノ酸の連続ストレッチのコレクションを含む部分である。幾つかの実施形態では、かかる連続ストレッチは各々、概して少なくとも2、5、10、15、20、50またはそれ以上のアミノ酸を含む。概して、物質(例えばタンパク質、抗体等)の特徴的部分は、上で指定した配列および/または構造の同一性に加えて、関連する無傷の物質と少なくとも1つの機能的特徴を共有する部分であり、エピトープ結合特異性が一例である。幾つかの実施形態では、特徴的部分は生物学的に活性であり得る。
【0051】
併用療法:「併用療法」という用語は、本明細書で使用される場合、疾患の治療のための2つ以上の異なる医薬品が重複レジメンで投与されることで、被験体が少なくとも2つの作用物質に同時に曝露される状況を指す。幾つかの実施形態では、異なる作用物質が同時に投与される。幾つかの実施形態では、1つの作用物質の投与が少なくとも1つの他の作用物質の投与と重複する。幾つかの実施形態では、異なる作用物質が、作用物質が被験体において同時に生物学的活性を有するように順次投与される。
【0052】
検出実体:「検出実体」という用語は、本明細書で使用される場合、それが連結した作用物質(例えば、抗体)の検出を容易にする任意の元素、分子、官能基、化合物、それらのフラグメントまたは部分を指す。検出実体の例としては、様々なリガンド、放射性核種(例えばH、14C、18F、19F、32P、35S、135I、125I、123I、64Cu、187Re、111In、90Y、99mTc、177Lu、89Zr等)、蛍光色素(具体的な蛍光色素の例については、下記を参照されたい)、化学発光剤(例えばアクリジニウムエステル、安定化ジオキセタン等)、生物発光剤、スペクトル的に分解可能な無機蛍光性半導体ナノ結晶(すなわち、量子ドット)、金属ナノ粒子(例えば金、銀、銅、白金等)ナノクラスター、常磁性金属イオン、酵素(酵素の具体例については、下記を参照されたい)、比色標識(例えば色素、コロイド金等)、ビオチン、ジゴキシゲニン、ハプテン、および抗血清またはモノクローナル抗体が利用可能なタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
診断情報:本明細書で使用される場合、診断情報または診断に使用される情報は、患者が疾患もしくは病態を有するかを決定し、かつ/または表現型カテゴリー、もしくは疾患もしくは病態の予後、もしくは疾患もしくは病態の治療(治療全般または任意の特定の治療のいずれか)に対して予想される応答に関して重要な任意のカテゴリーに疾患もしくは病態を分類する上で有用な任意の情報である。同様に、診断は、被験体が疾患もしくは病態(癌等)を有する可能性があるか、被験体が呈する疾患もしくは病態の状態、病期もしくは特徴、腫瘍の性質もしくは分類に関連する情報、予後に関連する情報、および/または適切な治療の選択に有用な情報を含むが、これらに限定されない、あらゆる種類の診断情報を提供することを指す。治療の選択には、特定の治療(例えば、化学療法)剤または外科手術、放射線照射等の他の治療法の選択、療法を差し控えるか、または実行するかについての選択、投与計画(例えば、特定の治療薬または治療薬の組合せの1回以上の投与の頻度またはレベル)に関する選択等が含まれ得る。
【0054】
剤形:本明細書で使用される場合、「剤形」および「単位剤形」という用語は、被験体に投与される治療用組成物の物理的に不連続な単位を指す。各単位は、所定量の活性物質(例えば、治療薬)を含有する。幾つかの実施形態では、所定量は、投与計画の用量として投与された場合に所望の治療効果と関連付けられた量である。特定の被験体に投与される治療用組成物または作用物質の総量が1人以上の主治医によって決定され、複数の剤形の投与を含み得ることが当業者には理解される。
【0055】
投与計画:「投与計画」(または「治療計画」)は、この用語が本明細書で使用される場合、典型的には一定期間で区切られた、被験体に個別に投与される一連の単位用量(通例、2回以上)である。幾つかの実施形態では、所与の治療薬は、推奨される投与計画を有し、これは1回以上の投与を含み得る。幾つかの実施形態では、投与計画は、各々が同じ長さの期間で互いに区切られた複数回の投与を含み、幾つかの実施形態では、投与計画は、複数回の投与および個々の投与を区切る少なくとも2つの異なる期間を含む。幾つかの実施形態では、投与計画は、患者の集団全体に投与する場合に、所望の治療転帰と関連があるか、または関連付けられている。
【0056】
発現:本明細書で使用される場合、核酸配列の「発現」は、以下の事象の1つ以上を指す:(1)DNA配列からのRNA鋳型の生成(例えば、転写による);(2)RNA転写産物のプロセシング(例えばスプライシング、エディティング、5’キャップ形成および/または3’末端形成による);(3)ポリペプチドもしくはタンパク質へのRNAの翻訳;および/または(4)ポリペプチドもしくはタンパク質の翻訳後修飾。
【0057】
機能的:本明細書で使用される場合、「機能的」生体分子は、それを特徴付ける特性および/または活性を示す形態の生体分子である。生体分子は、2つの機能(すなわち、二機能性)または多くの機能(すなわち、多機能性)を有し得る。
【0058】
遺伝子:本明細書で使用される場合、「遺伝子」という用語は、当該技術分野で理解されるような意味を有する。幾つかの実施形態では、「遺伝子」という用語は、遺伝子調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサー等)および/またはイントロン配列を含み得る。幾つかの実施形態では、この用語は、タンパク質をコードしないが、tRNA、RNAi誘導剤等の機能的RNA分子をコードする核酸を指す。代替的または付加的に、幾つかの実施形態では、「遺伝子」という用語は、本願で使用される場合、タンパク質をコードする核酸の部分を指す。この用語が他の配列(例えば非コード配列、調節配列等)を包含するかは、当業者には文脈から明らかである。
【0059】
遺伝子産物または発現産物:本明細書で使用される場合、「遺伝子産物」または「発現産物」という用語は概して、遺伝子から転写されたRNA(プロセシング前および/またはプロセシング後)または遺伝子から転写されたRNAによってコードされるポリペプチド(修飾前および/または修飾後)を指す。
【0060】
相同性:本明細書で使用される場合、「相同性」という用語は、ポリマー分子間、例えばポリペプチド分子間の全体的な関連性を指す。幾つかの実施形態では、抗体等のポリマー分子は、それらの配列が少なくとも80%、85%、90%、95%または99%同一である場合に互いに「相同」とみなされる。幾つかの実施形態では、ポリマー分子は、それらの配列が少なくとも80%、85%、90%、95%または99%類似している場合に互いに「相同」とみなされる。
【0061】
リジンまたはリジン残基:本明細書で使用される場合、「リジン」または「リジン残基」という用語は、塩基性アミノ酸残基およびその誘導体を指す。かかる誘導体には、側鎖修飾を有するリジン残基が含まれる。リジン誘導体には、e-パルミトイルリジンまたはLys(パルミトイル-(dLys)2が含まれる。
【0062】
マーカー:マーカーは、本明細書で使用される場合、その存在またはレベルが特定の腫瘍またはその転移性疾患の特徴である作用物質を指す。例えば、幾つかの実施形態では、この用語は、特定の腫瘍、腫瘍サブクラス、腫瘍の病期等に特徴的な遺伝子発現産物を指す。代替的または付加的に、幾つかの実施形態では、特定のマーカーの存在またはレベルは、例えば特定のクラスの腫瘍に特徴的であり得る特定のシグナル伝達経路の活性(または活性レベル)と相関する。マーカーの存在または非存在の統計的有意性は、特定のマーカーに応じて変動し得る。幾つかの実施形態では、マーカーの検出は、腫瘍が特定のサブクラスである高い確率を反映するという点で高度に特異的である。かかる特異性は、感度を犠牲にして得られる可能性がある(すなわち、腫瘍がマーカーを発現することが予想される腫瘍であっても陰性結果が生じる可能性がある)。逆に、高度の感度を有するマーカーは、より感度が低いマーカーよりも特異性が低い可能性がある。本発明によると、有用なマーカーは、特定のサブクラスの腫瘍を100%の精度で区別する必要はない。
【0063】
突然変異体:本明細書で使用される場合、「突然変異体」という用語は、その自然発生対応物と比較した核酸(または任意に遺伝子)配列の任意の変化を指す。突然変異体は、突然変異した遺伝子を有する遺伝子産物(タンパク質等)、細胞、または生物を指すこともある。突然変異を有する核酸配列は、突然変異配列要素と称される場合もある。
【0064】
非プロモーター領域:本明細書で使用される場合、「非プロモーター領域」という用語は、転写開始部位ではない遺伝子のセクションを指す。非プロモーター領域は、プロモーター領域とは異なり、閉鎖的であり、他の要素に接近しにくい傾向がある。
【0065】
癌遺伝子:本明細書で使用される場合、「癌遺伝子」という用語は、その産物が生物において癌、異形成、過形成等を引き起こすことに関連する遺伝子を指す。本開示の癌遺伝子としては、ABL1、ABL2、ALK、AKT1、AKT2、ATF1、BCL11A、BCL2、BLC3、BCL6、BCR、BRAF、CARD11、CBLB、CBLC、CCND1、CCND2、CCND3、CDX2、CTNNB1、DDB2、DDIT3、DDX6、DEK、EGFR、ELK4、ERBB2、ETV4、ETV6、EVI1、EWSR1、FEV、FGFR1、FGFR1OP、FGFR2、FUS、GOLGA5、HMGA1、HMGA2、HRAS、IRF4、IDH1、IDH2、JUN、KIT、KRAS、LCK、LMO2、MAF、MAFB、MAML2、MDM2、MET、MITF、MLL、MPL、MYB、MYC、MYCL1、MYCN、NCOA4、NFKB2、NRAS、NTRK1、NUP214、PAX8、PDGFB、PIK3CA、PIM1、PLAG1、PPARG、PTPN11、RAF1、REL、RET、ROS1、SMO、SS18、TCL1A、TET2、TFG、TLX1、TPRおよびUSP6を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0066】
患者:本明細書で使用される場合、「患者」または「被験体」という用語は、提供される組成物が、例えば実験、診断、予防、美容および/または治療目的で投与されるか、または投与され得る任意の生物を指す。典型的な患者としては、動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類および/またはヒト等の哺乳動物)が挙げられる。幾つかの実施形態では、患者はヒトである。幾つかの実施形態では、患者は、1つ以上の障害または病態に罹患しているか、または罹患しやすい。幾つかの実施形態では、患者は、障害または病態の1つ以上の症状を示す。幾つかの実施形態では、患者は、1つ以上の障害または病態であると診断されている。幾つかの実施形態では、障害または病態は、癌または1つ以上の腫瘍の存在であるか、またはそれを含む。幾つかの実施形態では、かかる癌または腫瘍は、前立腺の癌または前立腺の腫瘍であるか、またはそれを含む。幾つかの実施形態では、障害または病態は転移性癌である。幾つかの実施形態では、障害または病態は黒色腫である。
【0067】
ペプチド:「ペプチド」という用語は、ペプチド結合または修飾ペプチド結合によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を指す。幾つかの実施形態では、「ペプチド」は、約100アミノ酸未満、約50アミノ酸未満、20アミノ酸未満または10アミノ酸未満の長さを有するポリペプチドを指す。
【0068】
ペプチド核酸:「ペプチド核酸」という用語は、DNAまたはRNAに類似しているが、それぞれデオキシリボースおよびリボース糖骨格を欠く合成ポリマーを指す。ペプチド核酸は、ペプチド結合によって連結された反復N-(2-アミノエチル)-グリシン単位で構成される骨格を有する。プリンおよびピリミジン塩基がメチレン架橋およびカルボニル基によって骨格に連結される。
【0069】
薬学的に許容可能な:「薬学的に許容可能な」という用語は、本明細書で使用される場合、適切な医学的判断の範囲内で、妥当なベネフィット/リスク比に見合った、過度の毒性、刺激、アレルギー応答、または他の問題もしくは合併症なしに、ヒトおよび動物の組織と接触させて使用するのに適した物質を指す。
【0070】
医薬組成物:本明細書で使用される場合、「医薬組成物」という用語は、1つ以上の薬学的に許容可能な担体とともに製剤化される活性作用物質を指す。幾つかの実施形態では、活性作用物質は、関連する集団に投与した場合に所定の治療効果を達成する統計的に有意な確率を示す治療計画での投与に適切な単位用量で存在する。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、固体または液体形態での投与のために特別に製剤化することができ、以下に適合したものが挙げられる:経口投与、例えば飲薬(水性または非水性の溶液または懸濁液)、錠剤、例えば口腔、舌下および体内吸収を対象としたもの、ボーラス、粉末、顆粒、舌に適用するためのペースト;例えば皮下、筋肉内、静脈内もしくは硬膜外注射による、例えば滅菌溶液もしくは懸濁液、もしくは徐放性製剤としての非経口投与;例えばクリーム、軟膏もしくは放出制御パッチ、もしくは皮膚、肺もしくは口腔に適用するスプレーとしての局所適用;例えばペッサリー、クリームもしくはフォームとしての膣内もしくは直腸内;舌下;眼内;経皮;または経鼻、肺内および他の粘膜表面に対するもの。
【0071】
ポリペプチド:本明細書で使用される場合、「ポリペプチド」は一般的に、ペプチド結合によって互いに付着した少なくとも2つのアミノ酸の鎖である。幾つかの実施形態では、ポリペプチドは、各々が少なくとも1つのペプチド結合によって互いに付着した少なくとも3~5個のアミノ酸を含み得る。ポリペプチドが「非天然」アミノ酸、またはそれにもかかわらず任意にポリペプチド鎖に組み込むことが可能な他の実体を含む場合があることが当業者には理解される。
【0072】
予後情報および予測情報:本明細書で使用される場合、予後情報および予測情報という用語は、治療の非存在下または存在下のいずれかで疾患または病態の経過の任意の局面を示すために用いられ得る任意の情報を指すために区別なく使用される。かかる情報としては、患者の平均余命、患者が所与の時間(例えば6ヶ月、1年、5年等)にわたって生存する可能性、患者の疾患が治癒する可能性、患者の疾患が特定の療法に応答する可能性(ここで、応答は様々な方法のいずれかで定義することができる)を挙げることができるが、これらに限定されない。予後情報および予測情報は、診断情報の広義のカテゴリーに含まれる。
【0073】
プロモーター:本明細書で使用される場合、「プロモーター」という用語は、特定の遺伝子の転写開始部位として働くDNAの領域を指す。プロモーター配列は多くの場合、開いた/解かれた状態であり、他の要素への結合を待っている。
【0074】
タンパク質:本明細書で使用される場合、「タンパク質」という用語は、ポリペプチド(すなわち、ペプチド結合によって互いに連結された少なくとも3~5個のアミノ酸の鎖)を指す。タンパク質は、アミノ酸以外の部分を含んでいてもよく(例えば、糖タンパク質、プロテオグリカン等であってもよい)、かつ/または別の形でプロセシングまたは修飾されてもよい。幾つかの実施形態では、「タンパク質」は、細胞によって産生され、かつ/または細胞において活性を有する完全なポリペプチド(シグナル配列を有するまたは有しない)であってもよく、幾つかの実施形態では、「タンパク質」は、細胞によって産生され、かつ/または細胞において活性を有するポリペプチド等の特徴的部分であるか、またはそれを含む。幾つかの実施形態では、タンパク質は、2つ以上のポリペプチド鎖を含む。例えば、ポリペプチド鎖は、1つ以上のジスルフィド結合によって連結し得るか、または他の手段によって会合し得る。幾つかの実施形態では、本明細書に記載されるタンパク質またはポリペプチドは、L-アミノ酸、D-アミノ酸もしくはその両方を含んでもよく、かつ/または当該技術分野で既知の様々なアミノ酸修飾もしくは類似体のいずれかを含んでもよい。有用な修飾としては、例えば末端アセチル化、アミド化、メチル化等が挙げられる。幾つかの実施形態では、タンパク質またはポリペプチドは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、合成アミノ酸および/またはそれらの組合せを含み得る。幾つかの実施形態では、タンパク質は抗体、抗体ポリペプチド、抗体フラグメント、それらの生物学的に活性な部分および/またはそれらの特徴的部分であるか、またはそれを含む。
【0075】
応答:本明細書で使用される場合、治療に対する応答は、治療の結果として生じるか、または治療と相関する被験体の病態の任意の有益な変化を指す可能性がある。かかる変化は、病態の安定化(例えば、治療の非存在下で起こり得る悪化の予防)、病態の症状の改善、および/または病態の治癒の見通しの改善等を含み得る。これは被験体の応答または腫瘍の応答を指す可能性がある。腫瘍または被験体の応答は、臨床基準および客観的基準を含む広範な基準に従って測定することができる。応答を評定する手法としては、臨床検査、ポジトロン放出断層撮影、胸部X線CTスキャン、MRI、超音波、内視鏡検査、腹腔鏡検査、被験体から得られたサンプル中の腫瘍マーカーの存在もしくはレベル、細胞学および/または組織学が挙げられるが、これらに限定されない。これらの手法の多くは、腫瘍のサイズを決定するか、またはそうでなければ総腫瘍負荷を決定しようとするものである。治療に対する応答を評定する方法および指針は、Therasse et. al., "New guidelines to evaluate the response to treatment in solid tumors", European Organization for Research and Treatment of Cancer, National Cancer Institute of the United States, National Cancer Institute of Canada, J. Natl. Cancer Inst., 2000, 92(3):205-216に論考されている。正確な応答基準は、任意の適切な方法で選択することができるが、但し、腫瘍および/または患者の群を比較する場合に、比較される群は、応答率の決定のための同じまたは同等の基準に基づいて評定される。当業者であれば適切な基準を選択することができる。
【0076】
サンプル:本明細書で使用される場合、被験体から得られるサンプルは、以下のいずれかまたは全てを含み得るが、これらに限定されない:細胞(単数または複数)、組織の部分、血液、血清、腹水、尿、唾液、および他の体液、分泌物または排泄物。「サンプル」という用語は、かかるサンプルを処理することによって派生した任意の物質も含む。派生サンプルは、サンプルから抽出されるか、またはサンプルをmRNAの増幅または逆転写等の手法に供することによって得られたヌクレオチド分子またはポリペプチドを含み得る。
【0077】
特異的結合:本明細書で使用される場合、「特異的結合」または「に対して特異的な」または「に特異的な」という用語は、標的実体(例えば、標的タンパク質またはポリペプチド)と結合剤(例えば、提供される抗体等の抗体)との間の相互作用(通例、非共有結合的)を指す。当業者には理解されるように、相互作用は、それが代替的相互作用の存在下で有利である場合に「特異的」とみなされる。幾つかの実施形態では、相互作用は通例、結合分子によって認識される抗原決定基またはエピトープ等の標的分子の特定の構造的特徴の存在に依存する。例えば、抗体がエピトープAに対して特異的である場合、遊離標識Aおよびそれに対する抗体の両方を含む反応における、エピトープAを有するポリペプチドの存在または遊離非標識Aの存在は、抗体に結合する標識Aの量を減少させる。特異性が絶対的である必要がないことを理解されたい。例えば、多数の抗体が、標的分子に存在するエピトープに加えて他のエピトープと交差反応することは当該技術分野で既知である。かかる交差反応性は、抗体が使用される用途によっては許容される場合がある。当業者であれば、任意の所与の用途(例えば、標的分子の検出、治療目的等)において適切に機能するのに十分な程度の特異性を有する抗体を選択することができる。特異性は、標的分子に対する結合分子の親和性対他の標的(例えば、競合物)に対する結合分子の親和性等の付加的な要因との関連で評価することができる。結合分子が、検出が所望される標的分子に対して高い親和性を示し、非標的分子に対して低い親和性を示す場合、抗体が免疫診断目的に適格の試薬となる可能性がある。結合分子の特異性が1つ以上の状況で確立されると、その特異性を再評価する必要なしに他の、好ましくは同様の状況で結合分子を用いることができる。
【0078】
癌の病期:本明細書で使用される場合、「癌の病期」という用語は、癌の進行レベルの定性的または定量的評定を指す。癌の病期の決定に使用される基準としては、腫瘍のサイズおよび転移の程度(例えば、限局または遠隔)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
実質的に:本明細書で使用される場合、「実質的に」という用語は、対象の特徴または特性の範囲または程度の全体またはほぼ全体を示す定性的な条件を指す。生物学分野の当業者には、生物学的および化学的現象が完結し、かつ/もしくは完全に進行するか、または絶対的な結果が達成もしくは回避されることが仮にあるとしても稀であることが理解される。したがって、「実質的に」という用語は、多くの生物学的および化学的現象につきものの完全性の潜在的欠如を捉えるために本明細書で使用される。
【0080】
に罹患している:疾患、障害または病態(癌)「に罹患している」個体は、その疾患、障害または病態であると診断されており、かつ/またはその1つ以上の症状を示す。幾つかの実施形態では、癌に罹患している個体は、癌を有しない個体と比べて腫瘍関連または腫瘍内癌関連マーカーが上昇している個体である。
【0081】
症状が軽減する:本発明によると、特定の疾患、障害または病態の1つ以上の症状の大きさ(例えば、強度、重症度等)および/または頻度が低減する場合に「症状が軽減する」。明確にするために、特定の症状の発症の遅延は、その症状の頻度の低減の一形態とみなされる。腫瘍がより小さい多くの癌患者は、症状を有しない。本発明が、症状が解消される場合にのみ限定されることは意図されない。本発明は、1つ以上の症状が完全に解消されなくとも、軽減する(それにより被験体の状態が「改善する」)治療を特に企図するものである。
【0082】
治療薬:本明細書で使用される場合、「治療薬」という語句は、被験体に投与した場合に治療効果を有し、かつ/または所望の生物学的および/もしくは薬理学的効果を惹起する任意の作用物質を指す。
【0083】
治療有効量:本明細書で使用される場合、「治療有効量」という用語は、任意の医学的治療に適用可能な妥当なベネフィット/リスク比で、治療される被験体に対して治療効果をもたらす治療用タンパク質の量を指す。治療効果は、客観的(すなわち、何らかの試験またはマーカーによって測定可能とされる)または主観的(すなわち、被験体が効果の兆候を示すか、または効果を感じる)であり得る。特に、「治療有効量」は、所望の疾患もしくは病態を治療、改善もしくは予防するか、または例えば疾患に関連する症状を改善し、疾患の発症を予防もしくは遅延させ、かつ/またはさらには疾患の症状の重症度もしくは頻度を下げることによって検出可能な治療効果もしくは予防効果を示すのに効果的な治療用タンパク質または組成物の量を指す。治療有効量は一般に、複数の単位用量を含み得る投与計画で投与される。任意の特定の治療用タンパク質について、治療有効量(および/または効果的な投与計画内の適切な単位用量)は、例えば投与経路、他の医薬品との組合せに応じて変動し得る。また、任意の特定の患者に対する特定の治療有効量(および/または単位用量)は、治療される障害および障害の重症度;用いられる特定の医薬品の活性;用いられる特定の組成物;患者の年齢、体重、健康全般、性別および食生活;用いられる特定の融合タンパク質の投与時期、投与経路、および/または排泄率もしくは代謝率;治療の期間;ならびに医学分野でよく知られている同様の要因を含む様々な要因に依存し得る。
【0084】
治療:本明細書で使用される場合、「治療」(同様に「治療する」または「治療すること」)という用語は、特定の疾患、障害および/または病態(例えば、癌)の1つ以上の症状、特徴および/または原因を部分的または完全に緩和し、改善し、軽減し、抑制し、発症を遅延させ、重症度を低減し、かつ/または発生率を低減する物質の任意の投与を指す。かかる治療は、関連する疾患、障害および/もしくは病態の兆候を示さない被験体、ならびに/または疾患、障害および/もしくは病態の初期兆候のみを示す被験体の治療であってもよい。代替的または付加的に、かかる治療は、関連する疾患、障害および/または病態の1つ以上の確立された兆候を示す被験体の治療であってもよい。幾つかの実施形態では、治療は、関連する疾患、障害および/または病態に罹患していると診断された被験体の治療であってもよい。幾つかの実施形態では、治療は、関連する疾患、障害および/または病態の発症リスクの増大と統計的に相関する1つ以上の感受性因子を有することが知られる被験体の治療であってもよい。
【0085】
PNAおよびPNA部分という用語は、本明細書において区別なく使用される。PNA作用物質およびPNA誘導体という用語は、本明細書において区別なく使用される。
【0086】
ペプチド核酸(PNA)作用物質の構造
ペプチド核酸は、DNAおよびRNAと類似した合成ポリマーである。PNAは、ペプチド結合によって連結された反復N-(2-アミノエチル)-グリシン単位の骨格を有する。PNAは、本明細書においてPNA部分とも呼ばれる。これは、それぞれデオキシリボースおよびリボース糖骨格で構成されるDNAおよびRNAの骨格とは異なる。さらに、ピリミジンおよびプリン塩基が、カルボニル基およびメチレン架橋によってPNA骨格に連結される。PNA骨格は、帯電したリン酸基を含まない。したがって、静電反発力を欠くことから、PNA配列とDNA(またはRNA)鎖との間の結合は、2つのDNA(またはRNA)鎖間の結合よりも強い。より高い結合強度のために、20~25塩基よりも長いPNAオリゴマーは、通常必要とされない。PNA鎖の長さを増すことで、標的DNA(またはRNA)配列に対する特異性が低下する可能性がある。PNA/DNAミスマッチは、DNA/DNAミスマッチよりも不安定性が大きく、PNAは、相補的配列に結合する場合にDNAよりも高い特異性を示す。帯電したリン酸基の欠如は、PNAの疎水性にも寄与し、PNAは、何らかの修飾がなければ細胞膜を通過することができない。これらの修飾としては、細胞透過性ペプチドの共有結合および/またはカチオン性/疎水性ペプチドの付加を挙げることができるが、これらに限定されない。PNAはまた、広いpH範囲にわたって安定しており、プロテアーゼまたはヌクレアーゼのいずれによっても認識されないため、酵素分解に耐性を示す。
【0087】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、標的配列に対して相補的である。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、対象の遺伝子によって発現されるmRNA配列の正確なコピーである。幾つかの実施形態では、これは遺伝子のセンス鎖配列でもある。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、対象の任意の遺伝子に対して相補的に作製することができる。
【0088】
幾つかの実施形態では、本明細書に開示されるPNA作用物質は、以下の構造の1つを有する:
AcNH-Lys(パルミトイル)-dLys-dLys-[PNA]-dLys-dLys-Lys(パルミトイル)-CONH2(送達ペプチドなし)、
AcNH-Lys(パルミトイル)-dLys-dLys-[PNA]-CONH2(送達ペプチドなし)、
および
AcNH-[PNA]-dLys-dLys-Lys(パルミトイル)-CONH2(送達ペプチドなし)
遺伝子標的化
幾つかの実施形態では、カチオンに帯電した末端は、特定の核酸配列を有する遺伝子を標的とするPNAの能力を改善する。アニオン性DNAに対してカチオンに帯電したリジン誘導体化末端を安定化することで、Zimm-Bragg統計モデルに従い、末端核形成によって動態学的により速い結合がもたらされる。これにより、改善された方法でPNAを非プロモーター配列に標的化することができ、このことは、プロモーター配列が通常は開いた/解かれた状態であり、結合を待っているのに対し、遺伝子の非プロモーター領域は接近しにくいことを考えると特に予期せぬものである。PNAは、単に反発するアニオン性リン酸、すなわちリン酸反発力を欠くために(エンタルピー的利点)、そのDNA標的に対して安定化される。PNA-ペプチドのカチオン性末端は、標的に対してPNA-ペプチドのより立体配置的に自由な末端を安定化させることによって結合のエントロピー成分を改善する。
【0089】
幾つかの実施形態では、PNA-ペプチドコンジュゲートのPNAは、標準的な設計のものであり、長さ範囲は通常、13~18塩基である。13塩基未満の長さでは、結合のエンタルピーが減少することから、結合が熱力学的にはるかに不利なものとなる。18塩基を超える長さでは、エンタルピー結合エネルギーの増加が、このように長い鎖を適切に配置することの動態学的不利点によって相殺されるため(より多くの分子内基質が結合状態と競合し得る)、熱力学的利点の多くをもたらさない。
【0090】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、特定の遺伝子または遺伝子配列を標的とする。PNA作用物質は、既知の突然変異配列だけでなく、遺伝子転座の部位を有する遺伝子を標的とするように設計することができる。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は癌遺伝子を標的とする。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、突然変異癌遺伝子を標的とすることができる。幾つかの実施形態では、標的とすることができる野生型および突然変異癌遺伝子は、ABL1、ABL2、AKT1、AKT2、ALK、ATF1、BCL11A、BCL2、BLC3、BCL6、BCR、BRAF、CARD11、CBLB、CBLC、CCND1、CCND2、CCND3、CDX2、CTNNB1、DDB2、DDIT3、DDX6、DEK、EGFR、ELK4、ERBB2、ETV4、ETV6、EVI1、EWSR1、FEV、FGFR1、FGFR1OP、FGFR2、FUS、GOLGA5、HMGA1、HMGA2、HRAS、IDH1、IDH2、IRF4、JUN、KIT、KRAS、LCK、LMO2、MAF、MAFB、MAML2、MDM2、MET、MITF、MLL、MPL、MYB、MYC、MYCL1、MYCN、NCOA4、NFKB2、NRAS、NTRK1、NUP214、PAX8、PDGFB、PIK3CA、PIM1、PLAG1、PPARG、PTPN11、RAF1、REL、RET、ROS1、SMO、SS18、TCL1A、TET2、TFG、TLX1、TPRおよびUSP6を含む群から選択される。幾つかの実施形態では、標的とされる癌遺伝子はBRAF、GnaqおよびKRASを含む。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、遺伝子異常の部位を標的とすることができる。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、転座部位を標的とすることができる。幾つかの実施形態では、転座部位は、MYB-NFIB転座の接合部を含み得る。幾つかの実施形態では、転座部位は、FUS-CHOP転座の接合部を含み得る。幾つかの実施形態では、転座部位は、BCR-ABL転座の接合部を含み得る。幾つかの実施形態では、転座部位は、SYT-SSX転座の接合部を含み得る。任意の遺伝子配列を標的とすることができ、提示されるPNA-ペプチド作用物質は、単一点突然変異(および/またはその組合せ)、遺伝子転座点、遺伝子増幅、または腫瘍を誘導する過剰発現野生型遺伝子からなる癌遺伝子に対して標的化されることになる。
【0091】
PNA作用物質を試験するための系
PNA作用物質は、癌株だけでなく、遺伝子異常を発現する細胞株においても試験することができる。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、癌細胞株において試験される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、黒色腫細胞株において試験される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、ブドウ膜黒色腫および皮膚黒色腫、ならびにユーイング肉腫細胞株において試験される。PNA作用物質は、癌以外の疾患に関連する遺伝子異常を発現する細胞株において試験することができる。PNA作用物質は、異常な遺伝子発現を有する神経細胞株および/または筋細胞株において試験することができる。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、突然変異遺伝子配列を含む齧歯類モデルにおいて試験される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、任意の細胞株において試験され得る。PNAペプチドを試験するために様々な細胞株が当業者によって用いられる。
【0092】
PNA作用物質の用途
PNA作用物質による標的化および結合は、研究ツール、医療診断および薬物治療としての用途を有する。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、特定の遺伝子配列を標的とし、結合するために使用することができる。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、遺伝子配列の発現を抑制するために使用することができる。特定の遺伝子に標的化されたPNA作用物質は、これらの遺伝子の機能を理解する上で有益な研究ツールとなり得る。特定の遺伝子産物の発現を抑制することは、異なる生物学的経路におけるこれらの産物の役割を解明し、発見するのに役立つ。
【0093】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、BRAF遺伝子を標的とし、その発現を抑制するために使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、突然変異BRAF遺伝子を標的とし、その発現を抑制するために使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、突然変異Gnaq遺伝子を標的とし、その発現を抑制するために使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、突然変異KRAS遺伝子を標的とし、その発現を抑制するために使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、遺伝子配列に関連する疾患を治療するために使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、突然変異したBRAF遺伝子に関連する疾患を治療するために使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、突然変異したGnaq遺伝子に関連する疾患を治療するために使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、突然変異したKRAS遺伝子に関連する疾患を治療するために使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、癌を治療するために使用される。
【0094】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、動物における癌の治療に使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、哺乳動物における癌の治療に使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、霊長類における癌の治療に使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、ヒトにおける癌の治療に使用される。
【0095】
PNA作用物質は、突然変異した遺伝子配列を標的として結合し、突然変異癌遺伝子の発現を抑制し、それにより癌を抑制および/または治療することができる。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、突然変異したBRAF遺伝子に起因する癌を治療するために使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、突然変異したGnaq遺伝子に起因する癌を治療するために使用される。幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、転座に起因する癌を治療するために使用される。PNA作用物質は、遺伝子転座の接合部を標的として結合し、突然変異した遺伝子配列の発現を抑制し、それにより転座に関連する癌を予防および/または治療することができる。MYB-NFIB転座およびFUS-CHOP転座の接合部を本開示のPNA作用物質によって標的化し、抑制することができる。BCR-ABL転座およびSYT-SSX転座の接合部を本開示のPNA作用物質によって標的化し、抑制することができる。PNA作用物質は、遺伝子増幅の接合部を標的として結合し、突然変異した遺伝子配列の発現を抑制し、それにより増幅に関連する癌を予防および/または治療することができる。遺伝子AKT2、CDK4、MDM2、MYCN、CCNE、CCND1、KRAS、HRAS、EGFR、ERBB2、ERBB1、FGF、FGFR1、FGFR2、MYC、MYBおよびMETを含む遺伝子増幅を本開示のPNA作用物質によって標的化し、抑制することができる。
【0096】
PNA作用物質は、癌に関連しない疾患における遺伝子異常を治療するために使用することができる。突然変異遺伝子産物によって引き起こされる疾患または病態は、有害な遺伝子産物を発現する突然変異遺伝子にPNA作用物質を標的化することによって治療することができる。標的化PNA作用物質の使用によって遺伝性または先天性の障害を治療することができる。PNA作用物質は、肥満、メタボリックシンドロームまたは関連する脈管障害を支持する遺伝子等の正常遺伝子を抑制するために使用することができる。PNA作用物質は、感染を引き起こす真菌遺伝子、ウイルス遺伝子または細菌遺伝子を標的とするために使用することができる。
【0097】
医薬組成物
本発明は、1つ以上の提供される抗体、そのフラグメントまたは特徴的部分を含む組成物も提供する。幾つかの実施形態では、本発明は、少なくとも1つのPNAコンジュゲートおよび少なくとも1つの薬学的に許容可能な添加剤を提供する。かかる医薬組成物は任意に、1つ以上の付加的な治療的または生物学的に活性な物質を含み、かつ/またはそれと組み合わせて投与することができる。幾つかの実施形態では、提供される医薬組成物は、医学または薬剤の製造に有用である。幾つかの実施形態では、提供される医薬組成物は、癌およびその神経変性障害の治療または予防における予防薬(すなわち、ワクチン)として有用である。幾つかの実施形態では、提供される医薬組成物は、例えば癌に罹患している個体における治療用途に、例えば細胞毒性薬または異常な細胞シグナル伝達を遮断する化合物を特異的に標的とすることが可能な送達ビヒクルとして有用である。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、診断用途および治療用途において同時に有用である。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、ヒトへの投与のために製剤化される。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、治療薬または本明細書で定義される他の治療剤と組み合わせるか、またはそれにコンジュゲートした抗体を含む。
【0098】
例えば、医薬組成物は、滅菌注射剤形(例えば、皮下注射または静脈内注入に適した形態)で提供することができる。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、注射に適した液体剤形で提供される。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、任意に真空下で、注射前に水性希釈剤(例えば水、緩衝液、塩溶液等)で再構成される粉末(例えば、凍結乾燥および/または滅菌した)として提供される。幾つかの実施形態では、医薬組成物は水、塩化ナトリウム溶液、酢酸ナトリウム溶液、ベンジルアルコール溶液、リン酸緩衝生理食塩水等で希釈および/または再構成される。幾つかの実施形態では、粉末は水性希釈剤と静かに混合する必要がある(例えば、振盪しない)。
【0099】
幾つかの実施形態では、提供される医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容可能な添加剤(例えば防腐剤、不活性希釈剤、分散剤、界面活性剤および/または乳化剤、緩衝剤等)を含む。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、1つ以上の防腐剤を含む。幾つかの実施形態では、医薬組成物は防腐剤を含まない。
【0100】
幾つかの実施形態では、医薬組成物は、冷蔵および/または冷凍することができる形態で提供される。幾つかの実施形態では、医薬組成物は、冷蔵および/または冷凍することができない形態で提供される。幾つかの実施形態では、再構成された溶液および/または液体剤形は、再構成後に或る特定の期間(例えば2時間、12時間、24時間、2日間、5日間、7日間、10日間、2週間、1ヶ月、2ヶ月またはそれ以上)にわたって保存することができる。幾つかの実施形態では、指定時間よりも長い抗体組成物の保存は、抗体の分解を引き起こす。
【0101】
液体剤形および/または再構成された溶液は、投与前に粒子状物質および/または変色を有する場合がある。幾つかの実施形態では、変色もしくは濁りがある場合、および/または粒子状物質が濾過後に残る場合には溶液を使用すべきではない。
【0102】
本明細書に記載される医薬組成物は、薬理学分野で既知のまたは今後開発される任意の方法によって調製することができる。幾つかの実施形態では、かかる調製法は、活性成分を1つ以上の添加剤および/または1つ以上の他の副成分と合わせた後、必要および/または所望に応じて、製品を所望の単回または複数回投与単位に成形および/または包装する工程を含む。
【0103】
本発明に従う医薬組成物は、バルクで、単一単位用量として、かつ/または複数の単一単位用量として調製、包装および/または販売することができる。本明細書で使用される場合、「単位用量」は、所定量の活性成分、例えばペプチド核酸作用物質を含む医薬組成物の個別の量である。活性成分の量は概して、被験体に投与される用量、および/またはかかる用量の好都合な分量、例えば、かかる用量の2分の1または3分の1に等しい。
【0104】
本発明に従う医薬組成物中の活性成分、薬学的に許容可能な添加剤および/または任意の付加的な成分の相対量は、治療される被験体の独自性、大きさおよび/もしくは状態に応じて、かつ/または組成物を投与する経路に応じて変動し得る。例として、組成物は0.1%~100%(w/w)の活性成分を含み得る。
【0105】
本発明の医薬組成物は、薬学的に許容可能な添加剤を付加的に含んでいてもよく、これは、本明細書で使用される場合、所望の特定の剤形に適した、溶媒、分散媒、希釈剤または他の液体ビヒクル、分散助剤または懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、防腐剤、固体結合剤、滑剤等であり得るか、またはこれらを含み得る。Remington's The Science and Practice of Pharmacy, 21st Edition, A. R. Gennaro, (Lippincott, Williams & Wilkins, Baltimore, MD, 2006)には、医薬組成物の製剤化に使用される様々な添加剤およびその調製のための既知の手法が開示されている。任意の従来の添加剤媒体が、例えば任意の望ましくない生物学的作用を生じさせるか、または医薬組成物の任意の他の構成要素と別の形で有害に相互作用することで、物質またはその誘導体と適合しない場合を除き、その使用は本発明の範囲内であることが企図される。
【0106】
コンジュゲート全般
本明細書に記載される多機能性作用物質は、各々が少なくとも1つの機能を有する複数の実体を含む。企図される多機能性作用物質の或る特定の実施形態は、標的化実体と、以下の実体:検出実体、治療実体および診断実体の少なくとも1つとを含む。幾つかの実施形態では、本発明の多機能性作用物質は、標的化実体、治療実体および検出実体を含有する。幾つかの実施形態では、作用物質の実体は、互いにコンジュゲートしていてもよい。多機能性作用物質を形成する様々な実体のコンジュゲーションは、コンジュゲーションの特定の様式に限定されない。例えば、2つの実体は互いに直接、共有結合的にコンジュゲートしていてもよい。代替的には、2つの実体は、例えばリンカー実体を介して、互いに間接的にコンジュゲートしていてもよい。幾つかの実施形態では、多機能性作用物質は、作用物質の幾つかの実体が直接コンジュゲーションによってコンジュゲートし、作用物質の他の実体が1つ以上のリンカーを介して間接的にコンジュゲートするように、作用物質内に異なるタイプのコンジュゲーションを含んでいてもよい。幾つかの実施形態では、本発明の多機能性作用物質は、単一種類のリンカー実体を含む。幾つかの実施形態では、本発明の多機能性作用物質は、2種類以上のリンカー実体を含む。幾つかの実施形態では、多機能性作用物質は、単一種類であるが、様々な長さのリンカー実体を含む。
【0107】
幾つかの実施形態では、多機能性作用物質に含まれる実体間または実体内に共有結合性会合が存在する。当業者には理解されるように、部分は直接的または間接的に(例えば、下記のようにリンカーを介して)互いに付着し得る。
【0108】
幾つかの実施形態では、多機能性作用物質の1つの実体(標的化実体等)および第2の実体が互いに直接、共有結合的に連結される場合、かかる直接共有結合性コンジュゲーションは、アミド、エステル、炭素-炭素、ジスルフィド、カルバメート、エーテル、チオエーテル、尿素、チオ尿素、イソチオ尿素、アミンまたはカーボネート連結等の連結(例えば、リンカーまたは連結実体)を介したものであり得る。共有結合性コンジュゲーションは、多機能性作用物質の第1の実体および/または第2の実体上に存在する官能基を利用することによって達成することができる。代替的には、重要でないアミノ酸を、カップリング目的に有用な基(アミノ、カルボキシまたはスルフヒドリル等)を導入する別のアミノ酸に置き換えてもよい。代替的には、付加的なアミノ酸を多機能性作用物質の実体の少なくとも1つに付加し、カップリング目的に有用な基(アミノ、カルボキシまたはスルフヒドリル等)を導入することができる。部分を互いに付着させるために使用することができる好適な官能基としては、アミン、無水物、ヒドロキシル基、カルボキシ基、チオール等が挙げられるが、これらに限定されない。カルボジイミド等の活性化剤を用いて直接連結を形成することができる。多種多様な活性化剤が当該技術分野で既知であり、1つの実体を第2の実体にコンジュゲートするのに適している。
【0109】
幾つかの実施形態では、本発明に包含される多機能性作用物質の実体は、リンカー基を介して互いに間接的に、共有結合的に連結される。かかるリンカー基は、リンカーまたは連結実体と称されることもある。これは、ホモ官能性およびヘテロ官能性作用物質を含む、当該技術分野で既知の任意の数の安定した二官能性作用物質を用いて達成することができる(かかる作用物質の例については、例えばPierce Catalog and Handbookを参照されたい)。二官能性リンカーが得られるコンジュゲート(作用物質)に存在する連結部分をもたらすのに対し、活性化剤が反応に関与する2つの部分間の直接カップリングをもたらすという点で、二官能性リンカーの使用は活性化剤の使用とは異なる。二官能性リンカーの役割は、そうでなければ不活性の2つの部分間の反応を可能にすることであり得る。代替的または付加的に、反応生成物の一部となる二官能性リンカーは、或る程度の配座柔軟性を作用物質に与えるように選択することができる(例えば、二官能性リンカーは、幾つかの原子を含む直鎖アルキル鎖を含み、例えば、直鎖アルキル鎖は、2~10個の炭素原子を含む)。代替的または付加的に、二官能性リンカーは、提供される抗体と治療薬との間に形成される連結が切断可能、例えば加水分解可能となるように選択することができる(かかるリンカーの例については、例えば米国特許第5,773,001号明細書;同第5,739,116号明細書および同第5,877,296を参照されたい;これらの各々の全体を参照により本明細書に援用するものとする)。かかるリンカーは例えば、コンジュゲートの加水分解後に標的化剤等の或る特定の実体および/または治療実体のより高い活性が観察される場合に使用され得る。実体が多機能性作用物質から切断され得る例示的な機構としては、リソソーム(ヒドラゾン、アセタールおよびcis-アコニテート様アミド)の酸性pHにおける加水分解、リソソーム酵素(カテプシンおよび他のリソソーム酵素)によるペプチド切断、およびジスルフィドの還元が挙げられる。かかる実体が多機能性作用物質から切断される別の機構としては、細胞外または細胞内の生理的pHでの加水分解が挙げられる。この機構は、或る実体を別の実体にカップリングするために使用される架橋剤がポリデキストラン等の生分解性/生体内分解性構成要素である場合に適用される。
【0110】
例えば、ヒドラゾン含有多機能性作用物質は、所望の放出特性をもたらすカルボニル基の導入により作製することができる。多機能性作用物質は、一端にジスルフィド基、他端にヒドラジン誘導体を有するアルキル鎖を含むリンカーを用いて作製することもできる。ヒドラゾン以外の官能基を有するリンカーもリソソームの酸性環境で切断される可能性がある。例えば、多機能性作用物質は、エステル、アミドおよびアセタール/ケタール等の細胞内で切断可能なヒドラゾン以外の基を有するチオール反応性リンカーから作製することができる。
【0111】
pH感受性リンカーのクラスの別の例は、アミド基と並列したカルボン酸基を有するcis-アコニテートである。カルボン酸は、酸性リソソームにおけるアミド加水分解を加速する。幾つかの他のタイプの構造を有する、同様のタイプの加水分解速度の加速を達成するリンカーを用いることもできる。
【0112】
治療薬のコンジュゲートの別の可能な放出方法は、リソソーム酵素によるペプチドの酵素加水分解である。一例では、提供される抗体を、アミド結合を介してパラアミノベンジルアルコールに付着させた後、カルバメートまたはカーボネートをベンジルアルコールと治療薬との間に生成する。ペプチドの切断によりアミノベンジルカルバメートまたはカーボネートが崩壊し、治療薬が放出される。別の例では、カルバメートの代わりにフェノールをリンカーの崩壊によって切断することができる。別の変形例では、ジスルフィド還元を用いてパラメルカプトベンジルカルバメートまたはカーボネートの崩壊を開始する。
【0113】
本明細書で提供される多機能性作用物質の連結実体として使用することができる有用なリンカーとしては、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール、エチレングリコールのコポリマー、ポリプロピレングリコール、プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/無水マレイン酸コポリマー、ポリアミノ酸、デキストランn-ビニルピロリドン、ポリn-ビニルピロリドン、プロピレングリコールホモポリマー、プロピレンオキシドポリマー、エチレンオキシドポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール、ポリビニルアルコール、直鎖または分岐グリコシル化鎖、ポリアセタール、長鎖脂肪酸、長鎖疎水性脂肪族基が挙げられる。
【0114】
本発明の幾つかの実施形態では、少なくとも1つの非共有結合的に会合した実体を含む多機能性作用物質を用いる。非共有結合性相互作用の例としては、疎水性相互作用、静電相互作用、双極子相互作用、ファンデルワールス相互作用および水素結合が挙げられるが、これらに限定されない。結合、相互作用またはカップリングの性質にかかわらず、第1の実体と第2の実体との間の会合は、幾つかの実施形態では、標的への輸送/送達の前またはその最中に作用物質に含まれる第2の実体が第1の実体から解離しないよう、十分に選択的、特異的かつ強力である。このため、多機能性作用物質の複数の実体間の会合は、当業者に既知の任意の化学的、生化学的、酵素的または遺伝学的カップリングを用いて達成することができる。
【0115】
治療用コンジュゲート
本明細書に記載されるように、PNA作用物質は、癌または神経変性障害に関連する治療的有用性を有する多機能性作用物質の部分を含み得る。本開示との関連における治療的有用性の例としては、限定されるものではないが、標的化に関連する有用性(例えば、特定の遺伝子配列への結合)、治療効果に関連する有用性(例えば、細胞傷害効果および/または細胞静止効果、抗増殖効果、抗血管新生効果、症状の軽減等)、および診断、検出または標識化に関連する有用性等が挙げられる。
【0116】
標的化実体は、対象の標的と特異的に相互作用することによって作用部位に影響を及ぼし、もしくは制御するか、または対象の標的に対して親和性を有する、作用物質に含まれ得る分子構造である。一例として、標的は細胞表面、例えば或る特定の細胞型、組織等に存在する分子または分子複合体であり得る。本発明の幾つかの実施形態では、標的は腫瘍関連遺伝子または腫瘍内遺伝子であり、標的化実体はPNA作用物質である。治療薬等の作用物質への標的化部分の使用が当該技術分野で既知である。本願との関連では、原発性または転移性癌細胞だけでなく、他の細胞型も標的となる。すなわち、分子レベルでは、標的は、接触時にPNA作用物質に特異的または選択的に結合することができるように細胞上に存在する(例えば、選択的に発現される)分子または細胞構成要素である。本発明のPNA作用物質は、それらの標的(例えば、癌細胞の癌遺伝子)に対して特異性を発揮し、核に局在化して、それらの標的に結合することが可能である。幾つかの実施形態では、PNA作用物質の標的化実体は、癌細胞に局在化し、一定期間にわたってそれらの会合を保持する。幾つかの実施形態では、PNA作用物質の標的は、腫瘍内および/または内在性膜タンパク質をコードする核酸配列である。
【0117】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質は、1つ以上の治療薬にコンジュゲートしたPNA作用物質から本質的になる遺伝子標的化実体を含む多機能性作用物質である。癌または他の障害の診断または評定、治療、およびそれに対する薬剤の製造に使用することができるPNA作用物質の有用なコンジュゲートの非限定的な実施形態を以下に提示する。
【0118】
本発明の実施における使用に適した核酸抗癌剤としては、腫瘍形成および細胞成長または細胞形質転換に関連する遺伝子(例えば、細胞分裂を刺激するタンパク質をコードする癌原遺伝子)、血管新生/抗血管新生遺伝子、腫瘍抑制遺伝子(細胞分裂を抑制するタンパク質をコードする)、腫瘍成長および/または腫瘍移動に関連するタンパク質をコードする遺伝子、ならびに自殺遺伝子(アポトーシスまたは他の形態の細胞死を誘導する)、特に急速に分裂している細胞において最も活性が高い自殺遺伝子を標的とする作用物質が挙げられる。
【0119】
腫瘍形成および/または細胞形質転換に関連する遺伝子の例としては、MLL融合遺伝子、BCR-ABL、TEL-AML1、EWS-FLI1、TLS-FUS、PAX3-FKHR、Bc1-2、AML1-ETO、AML1-MTG8、Ras、Fos PDGF、RET、APC、NF-1、Rb、p53、MDM2等;多剤耐性遺伝子等の過剰発現遺伝子;サイクリン;β-カテニン;テロメラーゼ遺伝子;c-myc、n-myc、Bc1-2、Erb-B1およびErb-B2;ならびにRas、Mos、RafおよびMet等の突然変異遺伝子が挙げられる。腫瘍抑制遺伝子の例としては、p53、p21、RB1、WT1、NF1、VHL、APC、DAPキナーゼ、p16、ARF、ニューロフィブロミンおよびPTENが挙げられるが、これらに限定されない。抗癌療法に有用な核酸作用物質の標的とすることができる遺伝子の例としては、インテグリン、セレクチンおよびメタロプロテイナーゼ等の腫瘍移動に関連するタンパク質をコードする遺伝子;血管内皮成長因子(VEGF)またはVEGFr等の新生血管の形成を促進するタンパク質をコードする抗血管新生遺伝子;エンドスタチン、アンギオスタチンおよびVEGF-R2等の新血管形成を阻害するタンパク質をコードする抗血管新生遺伝子;ならびにインターロイキン、インターフェロン、線維芽細胞成長因子(α-FGFおよびβ-FGF)、インスリン様成長因子(例えば、IGF-1およびIGF-2)、血小板由来成長因子(PDGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、トランスフォーミング成長因子(例えば、TGF-αおよびTGF-β、上皮成長因子(EGF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、幹細胞因子およびその受容体c-Kit(SCF/c-Kit)リガンド、CD40L/CD40、VLA-4/VCAM-1、ICAM-1/LFA-1、ヒアルリン(hyalurin)/CD44等のタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
【0120】
PNA作用物質は、例えば抗癌剤または他の治療薬、プローブ、プライマー等としての使用を含む様々な用途のいずれかを有し得る。核酸作用物質は、酵素活性(例えば、リボザイム活性)、遺伝子発現阻害活性(例えば、アンチセンスまたはsiRNA作用物質等として)、および/または他の活性を有し得る。核酸作用物質は、それ自体が活性であってもよく、または活性核酸作用物質を送達するベクターであってもよい(例えば、送達される核酸の複製および/または転写による)。本明細書の目的上、かかるベクター核酸は、それ自体が治療活性を有していなくとも、治療上活性な作用物質をコードするか、または別の形で送達する場合に「治療薬」とみなされる。
【0121】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質のコンジュゲートは、リボザイムである核酸治療薬を含む。本明細書で使用される場合、「リボザイム」という用語は、他のRNAまたはDNA分子を標的特異的に切断することができる触媒RNA分子を指す。リボザイムは、対象の遺伝子の任意の望ましくない産物の発現を下方調節するために使用することができる。本発明の実施において使用することができるリボザイムの例としては、癌遺伝子のmRNAまたはDNAに特異的なリボザイムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0122】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質のコンジュゲート内の実体または部分は、光線力学的療法(PDT)に使用される光増感剤を含む。PDTでは、患者への光増感剤の局所または全身投与に続いて、治療対象の組織または器官において光増感剤によって吸収される光の照射が行われる。光増感剤による光の吸収により、細胞に有害な反応種(例えば、ラジカル)が生成する。最大の有効性のためには、光増感剤は通例、投与に適した形態であり、また、標的部位での細胞内在化を、多くの場合、正常組織に対して或る程度の選択性で容易に受けることができる形態である。
【0123】
光増感剤と会合したPNA作用物質のコンジュゲートは、PDTにおける新たな送達系として使用することができる。本発明による光増感剤の送達は、光増感剤の凝集を低減することに加えて、標的組織/器官に対する特異性の増大および光増感剤の細胞内在化等の他の利点を示す。
【0124】
本発明における使用に適した光増感剤としては、PDTに有用な光増感特性を有する様々な合成および自然発生分子のいずれかが挙げられる。幾つかの実施形態では、光増感剤の吸収スペクトルは、可視範囲にあり、通例、350nm~1200nm、好ましくは400nm~900nm、例えば600nm~900nmである。本発明に従って毒素にカップリングすることができる好適な光増感剤としては、ポルフィリンおよびポルフィリン誘導体(例えばクロリン、バクテリオクロリン、イソバクテリオクロリン、フタロシアニンおよびナフタロシアニン);メタロポルフィリン、メタロフタロシアニン、アンゲリシン、カルコゲナピリリウム(chalcogenapyrrillium)色素、クロロフィル、クマリン、フラビンおよび関連化合物、例えばアロキサジンおよびリボフラビン、フラーレン、フェオホルビド、ピロフェオホルビド、シアニン(例えば、メロシアニン540)、フェオフィチン、サフィリン、テキサフィリン、プルプリン、ポルフィセン、フェノチアジニウム、メチレンブルー誘導体、ナフタルイミド、ナイルブルー誘導体、キノン、ペリレンキノン(例えば、ヒペリシン、ヒポクレリンおよびセルコスポリン)、ソラレン、キノン、レチノイド、ローダミン、チオフェン、ベルジン(verdins)、キサンテン色素(例えばエオシン、エリトロシン、ローズベンガル)、ポルフィリンのダイマー形態およびオリゴマー形態、ならびに5-アミノレブリン酸等のプロドラッグ(R.W. Redmond and J.N. Gamlin, Photochem. Photobiol., 1999, 70: 391-475)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0125】
本発明における使用に適した例示的な光増感剤としては、米国特許第5,171,741号明細書;同第5,171,749号明細書;同第5,173,504号明細書;同第5,308,608号明細書;同第5,405,957号明細書;同第5,512,675号明細書;同第5,726,304号明細書;同第5,831,088号明細書;同第5,929,105号明細書;および同第5,880,145号明細書(これらの各々の内容全体を参照により本明細書に援用するものとする)に記載のものが挙げられる。
【0126】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質のコンジュゲートは、放射線増感剤を含む。本明細書で使用される場合、「放射線増感剤」という用語は、放射線療法に対する腫瘍細胞の感受性を高める分子、化合物または作用物質を指す。放射線療法を受けている患者に対する放射線増感剤の投与は概して、放射線療法の効果の増強をもたらす。放射線増感剤を標的化実体(例えば、腫瘍内遺伝子配列を標的とすることが可能なPNA作用物質)にカップリングすることの利点は、標的細胞のみに対する放射線増感効果である。使いやすさのためには、放射線増感剤は、全身投与した場合であっても標的細胞を見つけることができるのが望ましい。しかしながら、現在利用可能な放射線増感剤は通例、腫瘍に対して選択的でなく、哺乳動物の体内で拡散により分布する。本発明のPNA作用物質のコンジュゲートは、放射線増感剤の新たな送達系として使用することができる。
【0127】
様々な放射線増感剤が当該技術分野で既知である。本発明における使用に適した放射線増感剤の例としては、パクリタキセル(TAXOL(登録商標))、カルボプラチン、シスプラチンおよびオキサリプラチン(Amorino et al., Radiat. Oncol. Investig., 1999, 7: 343-352;Choy, Oncology, 1999, 13: 22-38;Safran et al., Cancer Invest., 2001, 19: 1-7;Dionet et al., Anticancer Res., 2002, 22: 721-725;Cividalli et al., Radiat. Oncol. Biol. Phys., 2002, 52: 1092-1098);ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))(Choy, Oncology, 2000, 14: 7-14;Mornex and Girard, Annals of Oncology, 2006, 17: 1743-1747);エタニダゾール(Nitrolmidazole(登録商標))(Inanami et al., Int. J. Radiat. Biol., 2002, 78: 267-274);ミソニダゾール(Tamulevicius et al., Br. J. Radiology, 1981, 54: 318-324;Palcic et al., Radiat. Res., 1984, 100: 340-347)、チラパザミン(Masunaga et al., Br. J. Radiol., 2006, 79: 991-998;Rischin et al., J. Clin. Oncol., 2001, 19: 535-542;Shulman et al., Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 1999, 44: 349-353);ならびに核酸塩基誘導体、例えばハロゲン化プリンまたはピリミジン、例えば5-フルオロデオキシウリジン(Buchholz et al., Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 1995, 32: 1053-1058)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0128】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質のコンジュゲートは、放射性同位体を含む。好適な放射性同位体の例としては、腫瘍部位に局在化して細胞破壊をもたらす任意のα-放出体、β-放出体またはγ-放出体が挙げられる(S.E. Order, "Analysis, Results, and Future Prospective of the Therapeutic Use of Radiolabeled Antibody in Cancer Therapy", Monoclonal Antibodies for Cancer Detection and Therapy, R.W. Baldwin et al. (Eds.), Academic Press, 1985)。かかる放射性同位体の例としては、ヨウ素-131(131I)、ヨウ素-125(125I)、ビスマス-212(212Bi)、ビスマス-213(213Bi)、アスタチン-211(211At)、レニウム-186(186Re)、レニウム-188(188Re)、リン-32(32P)、イットリウム-90(90Y)、サマリウム-153(153Sm)およびルテチウム-177(177Lu)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0129】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質のコンジュゲートは、指向性酵素プロドラッグ療法に使用することができる。指向性酵素プロドラッグ療法アプローチでは、指向性/標的化酵素およびプロドラッグを被験体に投与し、標的化酵素が被験体の身体の一部に特異的に局在化して、そこでプロドラッグを活性薬物に変換する。プロドラッグは、活性薬物に1段階で(標的化酵素により)または2段階以上で変換され得る。例えば、プロドラッグを標的化酵素によって活性薬物の前駆体に変換することができる。次いで、例えば1つ以上の付加的な標的化酵素、被験体に投与される1つ以上の非標的化酵素、被験体内または被験体の標的部位に自然に存在する1つ以上の酵素(例えばプロテアーゼ、ホスファターゼ、キナーゼまたはポリメラーゼ)の触媒活性によって、被験体に投与される作用物質によって、かつ/または酵素的に触媒されない化学的プロセス(例えば酸化、加水分解、異性化、エピマー化等)によって前駆体を活性薬物に変換することができる。
【0130】
本発明の幾つかの実施形態では、PNA作用物質指向性酵素プロドラッグ療法を用い、PNA作用物質が酵素に連結されて被験体に注入され、腫瘍関連遺伝子または転移性遺伝子への酵素の選択的結合がもたらされる。続いて、プロドラッグを被験体に投与する。プロドラッグは、癌細胞内またはその近くでのみ酵素によって活性型に変換される。PNA作用物質の特異性によって、また、癌および正常組織の酵素レベル間に大きな差異が生じるまでプロドラッグ投与を遅らせることによって選択性が達成される。癌細胞は、プロドラッグ活性化酵素をコードする遺伝子を用いて標的化することもできる。このアプローチは、ウイルス指向性酵素プロドラッグ療法(VDEPT)またはより一般的にはGDEPT(遺伝子指向性酵素プロドラッグ療法)と呼ばれており、実験室系において良好な結果を示している。指向性酵素プロドラッグ療法の他のバージョンとしては、PDEPT(ポリマー指向性酵素プロドラッグ療法)、LEAPT(レクチン指向性酵素活性化プロドラッグ療法)およびCDEPT(クロストリジウム指向性酵素プロドラッグ療法)が挙げられる。
【0131】
本発明における使用に適した酵素/プロドラッグ/活性薬物の組合せの非限定的な例は、例えばBagshawe et al., Current Opinions in Immunology, 1999, 11: 579-583;Wilman, "Prodrugs in Cancer Therapy", Biochemical Society Transactions, 14: 375-382, 615th Meeting, Belfast, 1986;Stella et al., "Prodrugs: A Chemical Approach To Targeted Drug Delivery", in "Directed Drug Delivery", Borchardt et al., (Eds), pp. 247-267 (Humana Press, 1985)に記載されている。酵素/プロドラッグ/活性抗癌剤の組合せの非限定的な例は、例えばRooseboom et al., Pharmacol. Reviews, 2004, 56: 53-102に記載されている。
【0132】
プロドラッグ活性化酵素の例としては、ニトロレダクターゼ、シトクロムP450、プリン-ヌクレオシドホスホリラーゼ、チミジンキナーゼ、アルカリホスファターゼ、β-グルクロニダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ペニシリンアミダーゼ、β-ラクタマーゼ、シトシンデアミナーゼおよびメチオニンγ-リアーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
プロドラッグ活性化酵素によるプロドラッグの活性化によってin vivoで形成され得る抗癌剤の例としては、5-(アジリジン-1-イル)-4-ヒドロキシル-アミノ-2-ニトロ-ベンズアミド、イソホスホルアミドマスタード、ホスホルアミドマスタード、2-フルオロアデニン、6-メチルプリン、ガンシクロビル-トリホスフェートヌクレオチド、エトポシド、マイトマイシンC、p-[N,N-ビス(2-クロロエチル)アミノ]フェノール(POM)、ドキソルビシン、オキサゾリジノン、9-アミノカンプトテシン、マスタード、メトトレキサート、安息香酸マスタード、アドリアマイシン、ダウノマイシン、カルミノマイシン、ブレオマイシン、エスペラミシン、メルファラン、パリトキシン、4-デスアセチルビンブラスチン-3-カルボン酸ヒドラジド、フェニレンジアミンマスタード、4’-カルボキシフタラト(1,2-シクロヘキサン-ジアミン)白金、タキソール、5-フルオロウラシル、メチルセレノールおよび二フッ化カルボノチオン酸(carbonothionic difluoride)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0134】
幾つかの実施形態では、治療(例えば、抗癌)剤は、1つ以上のPNA作用物質と抗血管新生薬とのコンジュゲートを含む。本発明における使用に適した抗血管新生薬としては、血管新生のプロセス、または既存の血管から発生することで新生血管が形成されるプロセスを遮断、阻害、遅延または低減する任意の分子、化合物または因子が挙げられる。かかる分子、化合物または因子は、(1)発生元の血管の膜の分解、(2)内皮細胞の移動および増殖、ならびに(3)移動細胞による新たな血管系の形成の工程を含む(これらに限定されない)、血管新生に関与する工程のいずれかを遮断、阻害、遅延または低減することによって血管新生を遮断することができる。
【0135】
抗血管新生薬の例としては、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))、セレコキシブ(CELEBREX(登録商標))、エンドスタチン、サリドマイド、EMD121974(シレンギチド)、TNP-470、スクアラミン、コンブレタスタチンA4、インターフェロン-α、抗VEGF抗体、SU5416、SU6668、PTK787/2K 22584、Marimistal、AG3340、COL-3、NeovastatおよびBMS-275291が挙げられるが、これらに限定されない。
【0136】
投与
本発明に従うPNA作用物質および本発明の医薬組成物は、任意の適切な経路およびレジメンに従って投与することができる。幾つかの実施形態では、経路またはレジメンは、プラスの治療効果に関連付けられているものである。
【0137】
幾つかの実施形態では、正確な投与量は、医学分野でよく知られている1つ以上の要因に応じて、被験体によって異なり得る。かかる要因としては、例えば被験体の種、年齢、全身状態、投与される特定の組成物、その投与様式、その作用様式、疾患の重症度;用いられるPNA作用物質の活性;投与される特定の医薬組成物;投与後の組成物の半減期;被験体の年齢、体重、健康全般、性別および食生活;用いられる特定の化合物の投与時期、投与経路および排泄率;治療の期間;用いられる特定の化合物と組み合わせてまたは同時に使用される薬物等の1つ以上を挙げることができる。医薬組成物は、投与の容易さおよび投与量の均一性のために単位剤形で製剤化することができる。しかしながら、本発明の組成物の1日の総使用量が適切な医学的判断の範囲内で主治医によって決定されることが理解される。
【0138】
本発明の組成物は、当業者には理解されるように、任意の経路によって投与することができる。幾つかの実施形態では、本発明の組成物は、経口(PO)、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、動脈内、髄内、髄腔内、皮下(SQ)、脳室内、経皮、皮間(interdermal)、皮内、直腸(PR)、膣内、腹腔内(IP)、胃内(IG)、局所(例えば粉末、軟膏、クリーム、ゲル、ローションおよび/または滴剤による)、粘膜、鼻腔内、口腔内、経腸、硝子体内、舌下によって;気管内点滴注入、気管支内点滴注入および/もしくは吸入によって;口腔スプレー、鼻腔スプレーおよび/もしくはエアロゾルとして、ならびに/または門脈カテーテルを介して投与される。
【0139】
幾つかの実施形態では、本発明に従うPNA作用物質および/またはその医薬組成物は静脈内に、例えば静脈内注入によって投与され得る。幾つかの実施形態では、本発明に従うPNA作用物質および/またはその医薬組成物は、筋肉内注射によって投与され得る。幾つかの実施形態では、本発明に従うPNA作用物質および/またはその医薬組成物は、腫瘍内注射によって投与され得る。幾つかの実施形態では、本発明に従うPNA作用物質および/またはその医薬組成物は、皮下注射によって投与され得る。幾つかの実施形態では、本発明に従うPNA作用物質および/またはその医薬組成物は、門脈カテーテルを介して投与され得る。しかしながら、本発明は、薬物送達における起こり得る進歩を考慮した、任意の適切な経路による本発明に従うPNA作用物質および/またはその医薬組成物の送達を包含する。
【0140】
幾つかの実施形態では、本発明に従うPNA作用物質および/またはその医薬組成物は、所望の治療効果を得るために1日当たり約0.001mg/kg~約100mg/kg、約0.01mg/kg~約50mg/kg、約0.1mg/kg~約40mg/kg、約0.5mg/kg~約30mg/kg、約0.01mg/kg~約10mg/kg、約0.1mg/kg~約10mg/kg、または約1mg/kg~約25mg/kg(被験体の体重)を送達するのに十分な投与量レベルで投与することができる。所望の投与量は、1日3回超、1日3回、1日2回、1日1回、1日おき、2日おき、毎週、2週間に1回、3週間に1回、4週間に1回、2ヶ月に1回、6ヶ月に1回または12ヶ月に1回送達することができる。幾つかの実施形態では、所望の投与量は、複数回の投与(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14回またはそれ以上の投与)を用いて送達することができる。
【0141】
予防用途
幾つかの実施形態では、本発明に従うPNA作用物質は、予防用途に用いることができる。幾つかの実施形態では、予防用途は、癌または他の障害に罹患しやすく、かつ/またはその症状を示す個体における癌もしくは他の障害、および/または任意の他の遺伝子関連病態を予防し、その進行を阻害し、かつ/または発症を遅延させるための系および方法を伴う。
【0142】
併用療法
本発明に従うPNA作用物質およびその治療上活性なコンジュゲート、ならびに/またはその医薬組成物が、診断および/または治療を補助するために併用療法にて用いられ得ることが理解される。「併用」とは、作用物質を同時に投与し、かつ/または送達のために一緒に製剤化しなければならないことを意味することを意図したものではないが、これらの送達方法は、本発明の範囲内である。組成物は、1つ以上の他の所望の治療法または医療処置と同時に、その前に、またはその後に投与することができる。併用して用いられる治療上活性な作用物質を単一の組成物で一緒に投与しても、または異なる組成物で別々に投与してもよいことが理解される。概して、各作用物質は、その作用物質について決定された用量および/または日程で投与される。
【0143】
併用レジメンで用いるための療法(例えば、治療法または処置)の特定の組合せには、所望の治療法および/または処置の適合性、ならびに達成すべき所望の治療効果を考慮する。本明細書に開示されるPNA作用物質の医薬組成物を併用療法(例えば、併用化学療法)で用いることができ、すなわち、医薬組成物が1つ以上の他の所望の治療法または化学療法処置と同時に、その前に、またはその後に投与され得ることが理解される。
【0144】
PNA作用物質またはその薬学的に許容可能な組成物は、原発性または転移性癌を治療するために化学療法剤と組み合わせて投与することができる。幾つかの実施形態では、活性成分は、限定されるものではないが、アドリアマイシン、デキサメタゾン、ビンクリスチン、シクロフォスファミド、フルオロウラシル、トポテカン、タキソール、インターフェロン、白金誘導体、タキサン(例えば、パクリタキセル)、ビンカアルカロイド(例えば、ビンブラスチン)、アントラサイクリン(例えば、ドキソルビシン)、エピポドフィロトキシン(例えば、エトポシド)、シスプラチン、メトトレキサート、アクチノマイシンD、アクチノマイシンD、ドラスタチン10、コルセチン、エメチン、トリメトレキサート、メトプリン、シクロスポリン、ダウノルビシン、テニポシド、アムホテリシン、アルキル化剤(例えば、クロラムブシル)、5-フルオロウラシル、カンプトテシン、シスプラチン、メトロニダゾール、イマチニブ、Gleevec(商標)、スニチニブおよびSutent(登録商標)、ならびにそれらの組合せ等の化学療法剤である。
【0145】
幾つかの実施形態では、PNA作用物質、そのコンジュゲートまたはその薬学的に許容可能な組成物は、アバレリクス、アルデスロイキン、アルデスロイキン、アレムツズマブ、アリトレチノイン、アロプリノール、アルトレタミン、アミフォスチン、アナストロゾール、三酸化ヒ素、アスパラギナーゼ、アザシチジン、BCG Live、ベバシズマブ、アバスチン、フルオロウラシル、ベキサロテン、ブレオマイシン、ボルテゾミブ、ブスルファン、カルステロン、カペシタビン、カンプトテシン、カルボプラチン、カルムスチン、セレコキシブ、セツキシマブ、クロラムブシル、シスプラチン、クラドリビン、クロファラビン、シクロフォスファミド、シタラビン、ダクチノマイシン、ダルベポエチンアルファ、ダウノルビシン、デニロイキン、デクスラゾキサン、ドセタキセル、ドキソルビシン(中性)、ドキソルビシン塩酸塩、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピルビシン、エポエチンアルファ、エルロチニブ、エストラムスチン、リン酸エトポシド、エトポシド、エキセメスタン、フィルグラスチム、フロクスウリジン、フルダラビン、フルベストラント、ゲフィチニブ、ゲムシタビン、ゲムツズマブ、酢酸ゴセレリン、酢酸ヒストレリン、ヒドロキシウレア、イブリツモマブ、イダルビシン、イホスファミド、メシル酸イマチニブ、インターフェロンα-2a、インターフェロンα-2b、イリノテカン、レナリドミド、レトロゾール、ロイコボリン、酢酸ロイプロリド、レバミゾール、ロムスチン、酢酸メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、6-MP、メスナ、メトトレキサート、メトキサレン、マイトマイシンC、ミトタン、ミトキサントロン、ナンドロロン、ネララビン、ノフェツモマブ、オプレルベキン、オキサリプラチン、パクリタキセル、パリフェルミン、パミドロネート、ペガデマーゼ、ペグアスパラガーゼ、ペグフィルグラスチム、ペメトレキセド二ナトリウム、ペントスタチン、ピポブロマン、プリカマイシン、ポルフィマーナトリウム、プロカルバジン、キナクリン、ラスブリカーゼ、リツキシマブ、サルグラモスチム、ソラフェニブ、ストレプトゾシン、リンゴ酸スニチニブ、タルク、タモキシフェン、テモゾロミド、テニポシド、VM-26、テストラクトン、チオグアニン、6-TG、チオテパ、トポテカン、トレミフェン、トシツモマブ、トラスツズマブ、トレチノイン、ATRA、ウラシルマスタード、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ゾレドロネートまたはゾレドロン酸のいずれか1つ以上から選択される抗増殖剤または化学療法剤と組み合わせて投与される。
【0146】
併用レジメンに用いるための療法の特定の組合せには、概して、所望の治療法および/または処置の適合性、ならびに達成すべき所望の治療効果を考慮する。用いられる療法および/または化学療法が同じ障害に対する所望の効果を達成しても(例えば、本発明の抗原を別の化学療法薬または神経薬と同時に投与することができる)、または異なる効果を達成してもよいことも理解される。用いられる療法が同じ目的に対する所望の効果を達成しても(例えば、癌または他の障害の治療、予防および/または発症の遅延に有用なPNA作用物質を、癌または障害の治療、予防および/または発症の遅延に有用な別の作用物質と同時に投与することができる)、または異なる効果(例えば、任意の有害作用の制御)を達成してもよいことが理解される。本発明は、医薬組成物のバイオアベイラビリティを改善し、それらの代謝を低減および/または変更し、それらの排泄を阻害し、かつ/またはそれらの体内分布を変更し得る作用物質と組み合わせた医薬組成物の送達を包含する。
【0147】
幾つかの実施形態では、併用で用いられる作用物質は、それらが個別に用いられるレベルを超えないレベルで用いられる。幾つかの実施形態では、併用で用いられるレベルは、個別に用いられるレベルよりも低い。
【0148】
幾つかの実施形態では、併用療法は、単一の遺伝子を対象とする複数のPNA作用物質の投与を含み得る。幾つかの実施形態では、併用療法は、異なる遺伝子配列を認識する複数のPNA作用物質を含むことができる。
【0149】
キット
本発明は、本発明に従う方法を簡便かつ/または効果的に行うための様々なキットを提供する。キットは通例、1つ以上のPNA作用物質を含む。
【0150】
幾つかの実施形態では、本発明に従って使用されるキットは、1つ以上の参照サンプル;説明書(例えばサンプルの処理、試験の実施、結果の解釈、PNA作用物質の投与、PNA作用物質の保存等について);緩衝液;および/または試験の実施に必要とされる他の試薬を含み得る。幾つかの実施形態では、キットはPNA作用物質のパネルを含み得る。キットの他の構成要素としては、細胞、細胞培養培地、組織、および/または組織培養培地を挙げることができる。
【0151】
幾つかの実施形態では、キットは、PNA作用物質を含む医薬組成物の多数の単位投与形態(dosages)を含む。例えば数字、文字および/または他の表示の形態で、かつ/または投与形態を投与することができる治療スケジュールの日付/時間を指定する差し込みカレンダーを用いて記憶補助が提供され得る。投与形態を毎日服用するキットを提供するために、医薬組成物の投与形態と同様または異なる形態のプラシーボ投与形態および/またはカルシウム栄養補助食品が含まれていてもよい。
【0152】
キットは、個々の構成要素または試薬の一部が別々に収容され得るように1つ以上の入れ物または容器を含んでいてもよい。キットは、商用販売のために個々の容器を比較的厳重に密閉して同梱するための手段、例えばプラスチックの箱を含んでいてもよく、説明書、発泡スチロール等の包装材が同梱され得る。
【0153】
幾つかの実施形態では、キットは、癌または他の障害に罹患し、かつ/または罹患しやすい被験体の治療、診断および/または予防に使用される。幾つかの実施形態では、かかるキットは、(i)少なくとも1つのPNA作用物質;(ii)被験体への少なくとも1つのPNA作用物質の投与のための注射器、針、アプリケーター等;および(iii)使用説明書を含む。
【0154】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下の実施例を検討することでさらに理解されるが、実施例は、本発明の或る特定の実施形態を例示することを意図するものであり、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0155】
以下の実施例は、本開示の或る特定の態様をさらに説明するために提供される。これらの実施例は、例示にすぎず、本開示の範囲をいかなる形でも限定することを意図していない。
【実施例
【0156】
実施例1
改良されたペプチド核酸(PNA)を用いたKRAS発現の阻害
分子鎖(例えば、疎水性ポリマー)が一様な物理化学的特徴、例えば細胞膜透過性からなることを考えると、付加される自由回転ランダムコイル鎖(例えば、PNAオリゴマー)に特性を与えるために必要とされる最小の長さが存在する。この必要最小限の長さは、それが付加されるランダムコイル鎖の運動特性、最も重要にはその長さ、すなわち、それを構成するモノマーの数によって決まる。
【0157】
ランダムコイルポリマーのよりエントロピー的に有利な構成は、ポリマーの全構成要素の同様の結合回転を必要とする伸長状態と比べて比較的コンパクトなコイルであると考えられる。これは、理想的鎖モデルによって示すことができ、時間平均末端間距離は、N1/2(N=モノマー数)に比例し、その回転半径にも比例する。同じ推論により、付加された鎖(例えば、疎水性)も同じ特性に従う。さらに、非結合のPNAオリゴマーについても、その疎水性からコイル状態が好ましい。この複雑な構成を考えると、付加されたフラグメント/部分は、その表面に露出する(図1B)のではなく、この「モルテングロビュール」構成に容易に埋もれ(図1A)、それらの特徴が機能するようになる。これに相当するのは、付加する化学的特徴の量ではなく、それが内に付加するモルテングロビュールの外部へのアクセス可能性である。常に再構築されるランダムコイルの表面を十分に効果的な時間にわたって突破するには、最小の長さが必要とされる。
【0158】
この前提を評価するために、1もしくは2本のC8アルキル鎖または1もしくは2本のC16アルキル鎖を末端に付加して、KRAS G12D癌遺伝子の癌遺伝子配列に相補的なPNAオリゴマーを合成した(図2)。これまで、消化管癌の80%近くを誘導するこの癌遺伝子に対する阻害剤は開発されていない。評価のために、これらのPNAコンジュゲートをヒト細胞株であるAsPC1(KRAS G12Dに依存する細胞株)、MiaPaca2(KRAS G12Cを発現する細胞株)、BxPC3(野生型を発現する細胞株)およびPanc1(G12Dおよび野生型を発現するが、G12Dに依存しない細胞株)に適用した。野生型およびG12Cは、G12Dとは18mer標的領域内の単一の核酸塩基のみが異なり、その特異性の限界に挑戦するものである。
【0159】
G12依存性細胞株増殖の対立遺伝子特異的抑制を示し、他の抑制を殆ど示さない最良の結果がC16-PNAである204Cで達成された(図3)。上記の前提と一致して、C8-PNA-C8である228B(C16-PNAと同量の疎水性ポテンシャルを有する)の使用は、AsPC1内のその相補的標的だけでなく、他の細胞株内の他の標的に対しても有効性を示さなかった(図4)。極端な場合、C16-PNA-C16である157Aへの曝露は、特異性の低下を犠牲にして増殖応答のより強力な抑制を示し(図5)、C8-PNAである228Aは、いずれの細胞株についても増殖の効果的な抑制を有しないままであった(図6)。
【0160】
更なる確認のために、内因性KRAS遺伝子を除去し、ヒトKRAS G12D[NCI RPZ26198]、HRAS野生型[NCI RPZ200024]またはKRAS野生型[NCI RPZ26216]に置き換えることによって作製した一連の細胞株にこれらのPNAを適用した。このようにして、細胞株間に他の差異が存在しないため、細胞株間での挿入ヒト遺伝子の比較がより良好に制御される。結果(図7図10)は、上の先行段落に記載される上記のヒト由来細胞株の結果と定性的に一致していた。
【0161】
さらに、204Cと比べた157Aの特異性の低下を伴う効力の増大に関して、効力が、親油性の増大に起因する脂質二重層細胞膜へのより良好な送達によるものである可能性が高いと推測することができる(二重のC16対単一の末端C16)。標的KRAS G12D転写のPCRアッセイによって示されるように、204Cが転写を完全に抑制するのに対し、157Aは、転写を通常の25%まで部分的にしか抑制しない(図11)。予想のとおり、どちらもBxPC3におけるKRAS WTの転写に影響を与えず(図11)、不必要に増大した親油性特性による可能性が最も高い、明らかな非特異的毒性の信憑性が高まる。最も重要なことには、過剰な親油性鎖を有することで、膜送達が増加する可能性があるが、同様に遺伝子標的へのPNAオリゴマーのアクセスが立体的に妨げられる可能性もある。
【0162】
均等物および範囲
当業者であれば、日常実験を用いるだけで、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態の多くの均等物を認識するか、または確認することができる。本発明の範囲は、上記の説明に限定されることを意図したものではない。同様に、上の記載が本発明の或る特定の好ましい実施形態を表しているにすぎないことが当業者には容易に理解される。上記の手順および組成物に対する様々な変更および修正を、以下の特許請求の範囲に記載される本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく行うことができる。
【0163】
特許請求の範囲において、「a」、「an」および「the」等の冠詞は、反対の指定がない限り、または他に文脈から明らかでない限り、1つまたは2つ以上を意味し得る。このため、例えば、「抗体(an antibody)」への言及は、複数のかかる抗体を含み、「細胞(the cell)」への言及は、当業者に既知の1つ以上の細胞への言及を含む等となる。群の1つ以上の成員の間に「または」を含む請求項または記載は、反対の指定がない限り、または他に文脈から明らかでない限り、群の成員の1つ、2つ以上または全てが所与の生成物またはプロセスに存在するか、用いられるか、または別の形で関連する場合、満たされるとみなされる。本発明は、群の正確に1つの成員が所与の生成物またはプロセスに存在するか、用いられるか、または別の形で関連する実施形態を含む。本発明は、群の成員の2つ以上または全てが所与の生成物またはプロセスに存在するか、用いられるか、または別の形で関連する実施形態を含む。さらに、本発明が、列挙される請求項の1つ以上からの1つ以上の限定、要素、条項、記述用語等が別の請求項に導入される全ての変形、組合せおよび並び替えを包含することを理解されたい。例えば、別の請求項に従属する任意の請求項を、同じ基本請求項に従属する任意の他の請求項に見られる1つ以上の限定を含むように修正することができる。さらに、請求項に組成物が挙げられる場合、他に指定がない限り、または矛盾もしくは不一致が生じることが当業者に明らかでない限り、本明細書に開示される目的のいずれか1つのために組成物を使用する方法が含まれ、本明細書に開示される製造方法または当該技術分野で既知の他の方法のいずれかに従って組成物を製造する方法が含まれることを理解されたい。
【0164】
要素がリストとして、例えばマーカッシュ群形式で提示される場合、要素の各亜群も開示され、任意の要素を群から除外し得ることを理解されたい。概して、本発明または本発明の態様が特定の要素、特徴等を含むと言及される場合、本発明の或る特定の実施形態または本発明の態様が、かかる要素、特徴等からなるか、またはこれらから本質的になることを理解されたい。簡潔にするために、これらの実施形態は、本明細書においてこのとおりの言葉で具体的には記載されていない。「含む(comprising)」という用語が、非限定であることが意図され、付加的な要素または工程を含めることを許容するものであることに留意されたい。
【0165】
範囲が与えられる場合、端点が含まれる。さらに、他に指定がない限り、または他に文脈および当業者の認識から明らかでない限り、範囲として表される値は、本発明の異なる実施形態における指定範囲内の任意の特定の値または部分範囲を、文脈上明らかに他の指示がある場合を除き、その範囲の下限の単位の10分の1まで想定し得ると理解されたい。
【0166】
加えて、従来技術の範囲内にある本発明の任意の特定の実施形態が、請求項のいずれか1つ以上から明示的に除外され得ることを理解されたい。かかる実施形態は、当業者に既知であるとみなされるため、除外が本明細書に明示的に記載されていなくても除外される場合がある。本発明の組成物の任意の特定の実施形態は、従来技術の存在に関係するか否かを問わず、任意の理由で任意の1つ以上の請求項から除外され得る。
【0167】
上記および本文全体を通して論考される刊行物は、本願の出願日前の開示についてのみ提供される。本明細書のいかなる内容も、本発明者らが事前開示を理由としてかかる開示に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。
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【国際調査報告】