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特表2022-541720細胞外小胞に含まれるENAMPTの産生および使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-27
(54)【発明の名称】細胞外小胞に含まれるENAMPTの産生および使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/45 20060101AFI20220916BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220916BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20220916BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220916BHJP
   A61P 3/08 20060101ALI20220916BHJP
   A61P 27/10 20060101ALI20220916BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220916BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220916BHJP
   C12N 9/12 20060101ALI20220916BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20220916BHJP
【FI】
A61K38/45 ZNA
A61P43/00 111
A61P25/20
A61P25/28
A61P3/08
A61P27/10
A61K9/127
A61K47/24
C12N9/12
C12N15/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021572843
(86)(22)【出願日】2020-06-08
(85)【翻訳文提出日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 US2020036616
(87)【国際公開番号】W WO2020247918
(87)【国際公開日】2020-12-10
(31)【優先権主張番号】62/858,483
(32)【優先日】2019-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/988,232
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521535526
【氏名又は名称】今井 真一郎
(71)【出願人】
【識別番号】521535537
【氏名又は名称】吉田 充邦
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 真一郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 充邦
【テーマコード(参考)】
4B050
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4B050CC04
4B050LL01
4C076AA19
4C076BB11
4C076BB21
4C076BB31
4C076CC01
4C076CC10
4C076CC21
4C076DD63
4C076FF63
4C076GG42
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA44
4C084DC25
4C084MA55
4C084ZC01
4C084ZC21
4C084ZC52
(57)【要約】
本発明は、NAMPTおよび/またはその変異体を含む様々な組成物、これらの組成物を調製するためのプロセス、ならびに対象における年齢関連状態を予防または治療するためにこれらの組成物を使用する様々な方法に関する。本発明はまた、細胞におけるNMNおよび/またはNAD+生合成を増加させる方法に関する。
【選択図】図7F
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)および/またはその変異体ならびに脂質を含む組成物であって、前記脂質が、前記NAMPTおよび/またはその変異体を少なくとも部分的に封入する層を形成する、組成物。
【請求項2】
前記組成物が、担体をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記担体が、水を含む、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記脂質が、リン脂質を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記脂質が、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトールリン酸、ホスファチジルイノシトール二リン酸、ホスファチジルイノシトール三リン酸、ジホスファチジルグリセロール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるリン脂質を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記脂質が、スフィンゴ脂質を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記脂質が、セラミドホスホリルコリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリル脂質、およびそれらの組み合わせからなる群から選択されるスフィンゴ脂質を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、前記NAMPTおよび前記脂質を含む複数の小胞を含み、前記小胞が、約10nm~約200nm、約10nm~約100nm、または約20nm~約100nmの平均粒径を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記小胞が、水をさらに含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、賦形剤をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物中のNAMPTおよび/またはその変異体の濃度が、約1重量%~約20重量%である、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、約1:1~約100:1である前記脂質対NAMPTおよび/またはその変異体の重量比を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、NAMPTを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物が、NAMPTの変異体を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号1と少なくとも80%の配列同一性を含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号1と少なくとも85%の配列同一性を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号1と少なくとも90%の配列同一性を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号1と少なくとも95%の配列同一性を含む、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号1と少なくとも99%の配列同一性を含む、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号1と少なくとも99.9%の配列同一性を含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号1と少なくとも99.99%の配列同一性を含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記NAMPTの変異体が、配列番号2の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号2と少なくとも80%の配列同一性を含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
前記NAMPTの変異体が、配列番号2の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号2と少なくとも85%の配列同一性を含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
前記NAMPTの変異体が、配列番号2の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号2と少なくとも90%の配列同一性を含む、請求項1~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
前記NAMPTの変異体が、配列番号2の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号2と少なくとも95%の配列同一性を含む、請求項1~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
前記NAMPTの変異体が、配列番号2の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号2と少なくとも99%の配列同一性を含む、請求項1~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記NAMPTの変異体が、配列番号2の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号2と少なくとも99.9%の配列同一性を含む、請求項1~26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
前記NAMPTの変異体が、配列番号2の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニン残基を有するアミノ酸配列を含み、前記変異体の残りのアミノ酸配列が、配列番号2と少なくとも99.99%の配列同一性を含む、請求項1~27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1または配列番号2の前記野生型NAMPTと少なくとも80%の配列同一性を含み、前記野生型NAMPTと比較して、アセチル化部位を除去する少なくとも1つのアミノ酸置換をさらに含む、請求項1~28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1または配列番号2の前記野生型NAMPTと少なくとも85%の配列同一性を含み、前記野生型NAMPTと比較して、アセチル化部位を除去する少なくとも1つのアミノ酸置換をさらに含む、請求項1~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1または配列番号2の前記野生型NAMPTと少なくとも90%の配列同一性を含み、前記野生型NAMPTと比較して、アセチル化部位を除去する少なくとも1つのアミノ酸置換をさらに含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1または配列番号2の前記野生型NAMPTと少なくとも95%の配列同一性を含み、前記野生型NAMPTと比較して、アセチル化部位を除去する少なくとも1つのアミノ酸置換をさらに含む、請求項1~31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1または配列番号2の前記野生型NAMPTと少なくとも99%の配列同一性を含み、前記野生型NAMPTと比較して、アセチル化部位を除去する少なくとも1つのアミノ酸置換をさらに含む、請求項1~32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1または配列番号2の前記野生型NAMPTと少なくとも99.9%の配列同一性を含み、前記野生型NAMPTと比較して、アセチル化部位を除去する少なくとも1つのアミノ酸置換をさらに含む、請求項1~33のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項35】
前記NAMPTの変異体が、配列番号1または配列番号2の前記野生型NAMPTと少なくとも99.99%の配列同一性を含み、前記野生型NAMPTと比較して、アセチル化部位を除去する少なくとも1つのアミノ酸置換をさらに含む、請求項1~34のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項36】
前記NAMPTの変異体が、前記野生型NAMPTよりも効率的に細胞から分泌されるか、または前記野生型NAMPTよりも効率的にエクソソームにパッケージングされる、請求項1~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
前記組成物が、脂肪細胞、血液、および/または血漿を含まないか、または本質的に含まない、請求項1~36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
対象においてNMNおよび/またはNAD+生合成を増加させる方法であって、請求項1~37に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項39】
対象における年齢関連状態を予防または治療する方法であって、請求項1~37に記載の組成物を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項40】
前記年齢関連状態が、身体活動の低下、睡眠の質の低下、認知機能の低下、グルコース代謝の低下、視力の低下、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される生理学的状態を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記組成物が、非経口的に投与される、請求項38~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記対象が、ヒトである、請求項38~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
1日当たり約10~約500mgのNAMPTおよび/またはその変異体が、前記対象に投与される、請求項38~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
細胞におけるNMNおよび/またはNAD+生合成を増加させる方法であって、請求項1~37のいずれか一項に記載の組成物を前記細胞に適用することを含む、方法。
【請求項45】
請求項1~37のいずれか一項に記載の組成物を調製するためのプロセスであって、
前記脂質ならびにNAMPTおよび/またはその変異体を含む小胞を含む培地を分離プロセスに晒し、濃縮された小胞画分を得ることを含み、前記濃縮された小胞画分中の前記小胞の濃度が、前記培地中の前記小胞の濃度よりも高い、プロセス。
【請求項46】
前記培地が、脂肪細胞、血液、および血漿を含む培養物からなる群から選択される、請求項45に記載のプロセス。
【請求項47】
前記培地が、脂肪細胞を含む培養物を含む、請求項45または46に記載のプロセス。
【請求項48】
前記脂肪細胞が、NAMPTおよび/またはその変異体をコードする遺伝子を過剰発現する、請求項47に記載のプロセス。
【請求項49】
前記培地が、血液または血漿を含む、請求項47または48に記載のプロセス。
【請求項50】
前記分離プロセスが、遠心分離を含む、請求項45~49のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項51】
前記分離プロセスが、超遠心分離を含む、請求項45~50のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項52】
前記分離プロセスが、エクソソーム単離技術を含む、請求項45~51のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項53】
前記濃縮された小胞画分またはそれに由来する画分を担体と混合することをさらに含む、請求項45~52のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項54】
請求項1~37のいずれか一項に記載の組成物を調製するためのプロセスであって、複数の脂質ならびにNAMPTおよび/またはその変異体を水性溶媒中で合わせることを含む、プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府支援の研究または開発に関する声明
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与されたAG037457およびAG047902の下で政府の支援を受けて作製された。政府は本発明に一定の権利を有する。
本発明は、NAMPTおよび/またはその変異体を含む様々な組成物、これらの組成物を調製するためのプロセス、ならびに対象における年齢関連状態を予防または治療するためにこれらの組成物を使用する様々な方法に関する。本発明はまた、対象または細胞におけるNMNおよび/またはNAD+生合成を増加させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
老化は組織機能障害および慢性疾患の重大な危険因子である。近年、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)代謝は、多くの種にわたる全身性NAD利用可能性の明らかな年齢関連の低下により、老化および寿命研究の分野における中心的なトピックとして現れている(Canto et al.,2015、Rajman et al.,2018、Verdin,2015、Yoshino et al.,2018)。NAD利用可能性が全身レベルで年齢とともに低下し、多様なモデル生物における様々な年齢関連の病態生理学的変化を引き起こすことが現在確立されている。哺乳類では、NAD利用可能性の年齢関連の低下は、NAD+生合成の減少およびNAD消費の増加という2つの主要な事象によって引き起こされるようである(Imai,2016、Imai and Guarente,2014)。前者は、酸化ストレスの増加および/または炎症性サイトカインの増加を伴う慢性炎症によって引き起こされ得るが、後者は、DNA損傷の増加によって引き起こされ得る。結果として、脂肪組織、骨格筋、肝臓、膵臓、皮膚、神経感覚網膜、および脳を含む複数の組織において、NADレベルが年齢とともに減少する(Canto et al.,2015、Lin et al.,2018、Rajman et al.,2018、Verdin,2015、Yoshino et al.,2018)。年齢関連の病態生理学の基本的な事象としてのそのような全身性NAD低下の実現は、現在、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)およびニコチンアミドリボシド(NR)などの主要なNAD中間体を使用して効果的な老化防止介入を開発するための強力な根拠を提供している(Rajman et al.,2018、Yoshino et al.,2018)。実際、多くの研究は、様々なマウスモデルにおいて、年齢関連の機能低下を緩和し、かつ年齢関連の疾患状態を治療するためのNMNおよびNRの有効性を既に証明している(Rajman et al.,2018、Yoshino et al.,2018)。
【0003】
哺乳動物において、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)は、主要なNAD生合成経路における速度制限酵素であり、ニコチンアミドおよび5’-ホスホリボシル-ピロリン酸(PRPP)をNMNに変換する(Garten et al.,2015、Imai,2009)。興味深いことに、哺乳動物には、細胞内および細胞外NAMPT(それぞれ、iNAMPTおよびeNAMPT)の2つの異なる形態が存在する(Revollo et al.,2007)。重要なNAD生合成酵素としてのiNAMPTの機能は完全に確立されているが、eNAMPTの生理学的関連性および機能は、長い間議論の的となっている。eNAMPTは、以前にプレ-B細胞コロニー増強因子(PBEF)およびインスリン模倣ビスファチンとして同定されていたが、いずれも現在まで再確認されていない(Fukuhara et al.,2007、Garten et al.,2015、Imai,2009、Samal et al.,1994)。加えて、eNAMPTはまた、炎症促進性サイトカインとして機能することが報告されたが、この特定の機能は、機能喪失または機能獲得Nampt変異体においてまだ確認されていない(Dahl et al.,2012)。以前に、Namptの脂肪組織特異的遺伝子操作によるインビボでのeNAMPTの生理学的関連性を実証した(Yoon et al.,201 Yoon et al.,題名“SIRT1-Mediated eNAMPT Secretion from Adipose Tissue Regulates Hypothalamic NAD(+) and Function in Mice,”(2015)Cell Metab 21,706-717)。脂肪組織特異的Namptノックアウト(ANKO)マウス、特に雌は、循環eNAMPTレベルにおいて著しい減少を示す。驚くべきことに、ANKOマウスは、脂肪組織のみならず、視床下部などの他の遠隔組織においても、NADレベルの著しい低減を呈する(Yoon et al.,2015)。その後の集中的な調査により、絶食に応答して視床下部におけるNAD、SIRT1活性、および神経活性化を増強するeNAMPTの新規の機能が明らかになった。これらの所見は、eNAMPTにより媒介される脂肪組織と視床下部との間に新規の組織間相互作用系の存在を示唆している(Imai,2016)。
【0004】
しかしながら、eNAMPTが視床下部のNADレベルをどのように正確に調節するかは理解し難いままである。さらに、インビトロもしくはインビボでeNAMPTを効果的に送達するため、または任意の疾患もしくは状態を緩和するためにそれを適用するための方法は現在存在しない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、脂質ならびにNAMPTおよび/またはその変異体を含む様々な組成物、これらの組成物を調製するためのプロセス、ならびに対象における年齢関連状態を予防または治療するためにこれらの組成物を使用する様々な方法に関する。本発明はまた、対象または細胞におけるNMNおよび/またはNAD+生合成を増加させる方法に関する。
【0006】
他の対象および特徴は、以下に一部が明らかであり、一部が指摘されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】6ヶ月および18ヶ月齢の雌および雄マウス(n=5)の血漿eNAMPTレベル。
図1B】24時間の期間にわたる6ヶ月および18ヶ月齢の雌および雄マウス(年齢ごとに時点につきn=5)の血漿eNAMPT濃度。6ヶ月および18ヶ月齢での血漿eNAMPTレベル間の差は、二元配置反復測定分散分析によって評価され、年齢の影響は、雄および雌の両方で有意であった(p<0.05)。
図1C】異なる年齢群にわたるマウスおよびヒト(マウスの場合n=9、ヒトの場合n=13)の血漿eNAMPTレベル。
図1D】血漿eNAMPTレベルと個々のマウス(n=8)の残存寿命との関係。eNAMPTレベルを26~28ヶ月齢で測定した。
図2A】4ヶ月齢の対照(左のバー)およびANKIマウス(右のバー)(性別ごとに群当たりn=3~4)の血漿eNAMPTレベル。
図2B】24ヶ月齢の対照(左のバー)およびANKIマウス(右のバー)(性別ごとに群当たりn=3~4)の血漿eNAMPTレベル。
図2C】20ヶ月齢の対照およびANKIマウス(性別ごとに群当たりn=3)の組織NADレベル。
図3A】4ヶ月および18ヶ月齢の対照(CTRL)およびANKI雌マウス(群当たり、4ヶ月齢、n=3;18ヶ月齢、n=10~13)の輪走活動。
図3B】18ヶ月齢の対照およびANKI雌マウス(群当たりn=4~5)の総歩行活動(上のパネル)および立ち上がり活動(下のパネル)。
図3C】4ヶ月および20ヶ月の雄マウス(群あたりn=6)、ならびに20ヶ月齢の対照(左のバー)およびANKIマウス(右のバー)(群あたりn=7~8;雄および雌マウスを合わせて)の睡眠断片化のレベル。NREM睡眠(NR)サイクルと覚醒(W)サイクルとの間の移行の数が示される。
図3D】20ヶ月齢の対照およびANKI雌マウス(群当たりn=3~6)の視床下部におけるOx2rおよびPrdm13のmRNA発現レベル。
図4A】血中グルコース(n=8~13)およびインスリン(n=8~9)。
図4B】17~20ヶ月齢の対照(左のバー)およびANKI雄マウス(右のバー)におけるIPGTT中の血中グルコース(n=8~13)レベル。
図4C】20ヶ月齢の対照(左のバー)およびANKI雄マウス(右のバー)(群当たりn=3)の脾臓における膵島の総数。
図4D】20ヶ月齢の対照およびANKI雄マウス(群当たりn=3)の脾臓における膵島の代表的な画像。
図4E】20ヶ月齢の対照(左のバー)およびANKI雄マウス(右のバー)(群当たりn=3)の脾臓における膵島のサイズ分布。
図4F】18~20ヶ月齢の対照およびANKIマウス(群当たりn=6~7;雄および雌を合わせて)のERG分析からの暗順応a波、暗順応b波、および明順応b波。
図5A】雌および雄ANKIマウス(雌、対照39、ANKI40;雄、対照39、ANKI39)のカプラン・マイヤー曲線。
図5B】対照ならびにANKI雌および雄マウスの年齢関連の死亡率。
図6A】超遠心分離および全エクソソーム単離(TEI)キットによって単離された、全血漿、EV画分、および上清中のeNAMPT、細胞外小胞(EV)マーカータンパク質(TSG101、CD63、CD81、およびCD9)および非EVタンパク質(トランスフェリンおよびアルブミン)の比較。EVを血漿の開始体積に等しい体積のPBSで再構成した場合、タンパク質濃度は、典型的には、それぞれ超遠心分離およびTEIキットによって精製されたEVについて、約0.4および約1μg/μlであった。各画分からの40μgのタンパク質を充填した。
図6B】スクロース密度勾配遠心分離から単離された6つの画分(F1~6)におけるeNAMPTおよびEVマーカータンパク質の比較。2mLの血漿をこの分画に使用した。
図6C】4ヶ月齢の3匹の雄マウス、ならびに37、41、および45歳の男性ヒトドナーから単離された全血漿(P)、EV画分(E)、および上清(S)におけるeNAMPTの比較。各画分はそれらを等量に調整した後に充填された。
図6D】プロテイナーゼKおよび/またはTriton X-100によるマウス血漿の治療におけるeNAMPT、TSG101、トランスフェリン、および免疫グロブリン軽鎖(Ig LC)の比較。
図6E】6および22ヶ月齢のマウス(群当たりn=4)からの血漿中のEV含有eNAMPT(EV-eNAMPT)およびCD63のレベル。
図6F】24ヶ月齢の対照(CTRL)およびANKIマウス(群当たりn=4)の血漿中のEV含有eNAMPT(EV-eNAMPT)およびCD63のレベル。
図7A】BODIPY標識EVとのインキュベーション後の一次視床下部ニューロンの蛍光画像。400μlのマウス血漿から精製されたEVを、200μlの培養培地に添加した。矢印は、BODIPY標識EVを内在化したニューロンを示す。
図7B】recNAMPT単独またはEV含有recNAMPTとともにインキュベートした後の、一次視床下部ニューロンにおけるFLAGタグ付き組換えNAMPT(recNAMPT)および細胞NADレベルの細胞質レベル(n=3)。
図7C】超遠心分離およびTEIキットにより血漿から単離されたEVとともにインキュベートした後の、一次視床下部ニューロンにおけるNAD生合成の相対速度(n=4)。
図7D】OP9脂肪細胞から生成された対照(CTRL)およびNamptノックダウン(NAMPT-KD)EVとともにインキュベートした後の、一次視床下部ニューロンにおける相対細胞NAMPT活性(n=3~6)。
図7E】6および18ヶ月齢のマウス(n=4)から単離されたEVとともにインキュベートした後の、一次視床下部ニューロンにおける細胞質NAMPTおよびNADのレベル。
図7F】6および20~22ヶ月齢のマウス(n=9~13)から単離されたEVとともにインキュベートした後のNADレベルの変化。
図7G】20ヶ月齢の対照(左のバー)およびANKIマウス(右のバー)から単離されたEVとともにインキュベートした後の、一次視床下部ニューロンにおけるNADレベル。
図7H】4~6ヶ月齢のマウス(n=5)から精製されたEVを1日4回連続で注射する前後の、暗闇および光時間中の20ヶ月齢の雌マウスの総輪走活動数。
図7I】OP9脂肪細胞から精製された対照(CTRL)およびNamptノックダウン(NAMPT-KD)EVを1日4回連続で注射する前後の、暗闇時間中の25ヶ月齢の雌マウス(n=6)の総輪走活動数。
図7J】カプラン・マイヤー曲線および代表的な画像。
図7K】4~12ヶ月齢のマウス(n=11~12)から単離されたビヒクルまたはEVを注射した加齢雌マウスのカプラン・マイヤー曲線。マウスの画像は、3ヶ月の治療後に撮影された。
図8A】8ヶ月齢の雄マウス(n=5)から単離された原発性脂肪細胞におけるNAMPTレベル。
図8B】6ヶ月および18ヶ月齢の雌マウス(年齢ごとの時点ごとにn=5)における24時間の経過にわたる血漿eNAMPTレベルについてのウェスタンブロット。6-1~5および18-1~5は、それぞれ6ヶ月および18ヶ月齢での個々の血漿試料である。シグナル定量におけるバイアスを回避するために、各ブロットの試料の順序を意図的にランダム化した。
図8C】6ヶ月および18ヶ月齢の雄マウス(年齢ごとの時点ごとにn=5)における24時間の経過にわたる血漿eNAMPTレベルについてのウェスタンブロット。6-1~5および18-1~5は、それぞれ6ヶ月および18ヶ月齢での個々の血漿試料である。シグナル定量におけるバイアスを回避するために、各ブロットの試料の順序を意図的にランダム化した。
図9A】6ヶ月齢の対照、18ヶ月齢のANKI、および18ヶ月齢の対照マウス(n=3)の血漿eNAMPTレベル。血漿eNAMPTは、二重の帯(右パネル)を示し、その両方を定量した(左パネル)。
図9B】20ヶ月齢の対照およびANKI雌マウス(群当たりn=5)の血漿eNAMPTレベルおよび視床下部NAD+レベルの関係。
図10A】6および18ヶ月齢の野生型マウス(n=3~9)の輪走活動。差異を、ウィルコクソンの符号付順位和検定によって評価した。
図10B】18ヶ月齢の対照(CTRL)およびANKI雄マウス(n=4~7)の歩行活動(上)および立ち上がり活動(下)。
図11A】インスリン負荷試験中の17~20ヶ月齢の対照ならびにANKI雄マウス(右のバー)(群当たりn=8)の相対血中グルコースレベル。各時点でのグルコースレベルは、0分の時点でのグルコースレベルに正規化される。
図11B】18~20ヶ月齢の対照(左のバー)ならびにANKI雌および雄マウス(右のバー)(雄、n=20~36;雌、n=19~23)の体重。
図11C】17~20ヶ月齢の対照(左のバー)ならびにANKI雄および雌マウス(右のバー)の体組成。
図11D】23ヶ月齢の対照(左のバー)ならびにANKI雄および雌マウス(右のバー)(n=6~9)の1日食物摂取量。
図11E】23ヶ月齢の対照(左のバー)ならびにANKI雄および雌マウス(右のバー)(n=3)の相対血漿サイトカインレベル。
図11F】20ヶ月齢の対照およびANKI雌マウスの文脈的恐怖条件付け試験。第1のグラフ:ベースラインおよびショックトーントレーニング中の対照およびANKIマウスのすくみ行動時間パーセント;第2のグラフ:2日目の文脈的恐怖反応;第3のグラフ:3日目のベースラインおよび聴覚キュー応答(n=5)。
図12A】超遠心分離で精製されたEVのスクロース密度勾配への浮遊により単離された6つの画分におけるeNAMPTおよびEVマーカータンパク質。
図12B】12画分の密度、ならびにTotal Exosome Isolation(TEI)キットによって精製されたEVのスクロース密度勾配分離から単離された各画分におけるeNAMPTおよびEVマーカーAlixの比較。画分#11で共分画されたeNAMPTおよびAlixのごくわずかな画分は、タンパク質凝集体の汚染に起因する可能性が最も高い。
図12C】マウスおよびヒト血漿から単離されたEVの電子顕微鏡画像および粒径分布。
図12D】マウス(各分析についてn=100)から単離されたEVの電子顕微鏡画像および粒径分布。
図12E】OP9脂肪細胞の馴化培地中のeNAMPT、EVマーカータンパク質(CD9、C81、Hsp70、およびTSG101)、および非EVタンパク質(アディポネクチンおよびアディプシン)の比較。EV画分および上清を超遠心分離により分離した。各画分からの40μgのタンパク質を充填した。
図13A】OP9脂肪細胞からのBODIPY標識EVとのインキュベーション後の一次視床下部ニューロンの蛍光画像。
図13B】OP9脂肪細胞の馴化培地から単離された各画分(培地、EV、および上清)とともにインキュベートした後の、一次視床下部ニューロンにおける相対NAMPT酵素活性。D-4-NAMを用いた質量分析によって測定された各NMN生合成レベルを、未処理細胞におけるものに対して正規化した。
図13C】対照およびNamptノックダウン(NAMPT-KD)OP9脂肪細胞から単離されたEVにおけるeNAMPTレベル。両方の馴化培地から精製されたEVのタンパク質濃度は非常に類似しており、両方の細胞株から放出されたEVの量に差がなかったことを示唆した。
図13D】6および18ヶ月齢のマウスからの血漿とともにインキュベートした後の、一次視床下部ニューロンにおける細胞質NAMPTのレベル。
図13E】4~6ヶ月齢のマウス(n=5)から単離されたEVを1日4回連続で注射する前後の、20ヶ月齢の雌マウスの24時間にわたる総輪走活動数。
図13F】対照(CTRL)およびNAMPT-KD OP9脂肪細胞から精製されたEVを1日4回連続で注射する前後の、光時間中の25ヶ月齢の雌マウス(n=5~6)の総輪走活動数。
図13G】4~6ヶ月齢のマウス(n=5)から精製されたEVを1日4回連続で注射する前後の、暗闇および光時間中の20ヶ月齢の雄マウスの総輪走活動数。
図14】マウス血漿由来EVで処置した培養原発マウス海馬ニューロン(****p<0.0001、多重比較のためのシダック補正を伴う一元配置分散分析)。
図15】Bodipy-TR-セラミド標識EVで処理したアストロサイト濃縮培養物。
図16】Bodipy-TR-セラミド標識EVで処理したミクログリア培養物。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)および/またはその変異体を含む様々な組成物、これらの組成物を調製するためのプロセス、ならびに対象における年齢関連状態を予防または治療するためにこれらの組成物を使用する様々な方法に関する。本発明はまた、細胞におけるNMNおよび/またはNAD+生合成を増加させる方法に関する。方法および組成物は、NAMPTおよび/またはその変異体の、細胞および生物への改善された送達系を可能にし、そこでNAMPTおよび/またはその変異体を利用することができ、老化防止修飾因子として作用し得る。
【0009】
本発明は、マウスおよびヒトにおける細胞外ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(eNAMPT)の循環レベルが、年齢とともに著しく低下するという発見に基づく。NAMPTの脂肪組織特異的過剰発現によって、加齢マウスにおける循環eNAMPTレベルを増加させることは、複数の組織におけるNADレベルを増加させ、それによって、それらの機能を増強し、雌マウスにおける健康寿命を延長する。しかしながら、本発明に先立って、eNAMPTがインビボでどのように送達されるか、または加齢個体においてNAMPTのレベルがどのように増加され得るかは不明であった。
【0010】
NAMPTの細胞外小胞(EV)送達は、細胞系または個体においてNAMPTを補充する有効な方法を提供することが発見されている。eNAMPTは、マウスおよびヒトにおける全身循環を通じて細胞外小胞(EV)において担持される。EVを介したeNAMPTの送達は、細胞内在化およびNAD生合成をもたらす。若年マウスから単離されたeNAMPT含有EVを補充することは、輪走活動を著しく向上させ、加齢マウスでの寿命を延長する。したがって、本発明者らは、全身性NAD生合成を促進し、かつ老化に対抗する、eNAMPTの新規のEV媒介性送達機構を明らかにし、ヒトにおける老化防止介入の潜在的な手段を示唆している。
【0011】
近年、多くの研究が、タンパク質およびマイクロRNAを輸送するための新しい細胞間または組織間相互作用ツールとしてのEVの重要な役割を報告している(Whitham et al.,2018、Ying et al.,2017、Zhang et al.,2017)。実際、脂肪組織は、遠隔組織における遺伝子発現を調節する循環EV含有マイクロRNAの主要な供給源であることが最近実証されている(Thomou et al.,2017)。これに関しては、血液循環におけるeNAMPTがほぼEVのみに含まれていることが興味深い。脂肪組織において、iNAMPT上のリジン53のSIRT1依存性脱アセチル化は、タンパク質を分泌しやすくし、この脱アセチル化がNAMPTタンパク質をEVに組み込むプロセスに関与し得ることを暗示する(Yoon et al.,2015)。しかしながら、eNAMPT含有EVが、視床下部、海馬、膵臓、および網膜などのある特定の組織に特異的にどのように標的化されるかは未知のままである。EV媒介性送達は、eNAMPTが細胞内に適切に内在化され、NMN/NAD細胞内生合成を増強するために重要であることが見出されている。eNAMPTタンパク質を単独で与える場合、タンパク質は適切に内在化されない。
【0012】
さらに、eNAMPT含有EVは、ある個体から別の個体に移送され得ることが見出されている。特に、若年マウスから精製されたeNAMPT含有EVを補充することは、輪走活動を著しく増強し、加齢マウスにおいて寿命を延長することが発見されている。ヒトの血液中では、eNAMPTはまたEVのみに含まれている。したがって、このモデルは、ヒトにおける老化防止生物学的薬剤としてのEV含有eNAMPTの使用を支持する。これらの所見は、効果的な老化防止介入のための生物学的薬剤としてeNAMPTのEV媒介性全身送達を使用する新しい可能性をもたらす。
【0013】
したがって、本発明の様々な組成物は、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)および/またはその変異体ならびに脂質を含み、脂質は、NAMPTおよび/またはその変異体を少なくとも部分的に封入する層を形成する。例えば、脂質は、NAMPTおよび/またはその変異体を封入するミセルまたはリポソームを形成するために凝集することができる。いくつかの実施形態では、組成物は、NAMPTおよび/またはその変異体を含むエクソソームを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、NAMPTおよび/またはその変異体を含むエクソソームを含む。
【0014】
いくつかの実施形態では、脂質は、リン脂質を含む。例えば、リン脂質は、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトールリン酸、ホスファチジルイノシトール二リン酸、ホスファチジルイノシトール三リン酸、ジホスファチジルグリセロール、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。様々な実施形態では、脂質は、スフィンゴ脂質を含む。例えば、スフィンゴ脂質は、セラミドホスホリルコリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリル脂質、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0015】
様々な実施形態では、組成物中のNAMPTおよび/またはその変異体の濃度は、約1重量%~約20重量%である。いくつかの実施形態では、組成物は、約1:1~約100:1であるNAMPTおよび/またはその変異体の重量比を有する。
【0016】
典型的には、組成物は、複数の小胞を含む。様々な実施形態では、小胞は、約10nm~約200nm、約10nm~約100nm、または約20nm~約100nmの平均粒径を有することを特徴とする。いくつかの実施形態では、小胞は、水をさらに含む。
【0017】
様々な実施形態では、組成物は、ある特定の生物学的構成成分を含まないか、または本質的に含まない(例えば、1重量%未満またはさらには0.1重量%未満)。例えば、いくつかの実施形態では、脂肪細胞、血液、および/または血漿を含まないか、または本質的に含まない(例えば、1重量%未満またはさらには0.1重量%未満)。
【0018】
本明細書に記載される組成物は、これらに限定されないが、経口、静脈内、筋肉内、動脈内、髄内、くも膜下腔内、脳室内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、非経口、局所、舌下、または直腸手段を含む経路によって投与され得る。様々な実施形態では、投与は、経口、鼻腔内、腹腔内、静脈内、筋肉内、直腸、および経皮からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、組成物は、経口的に投与され得る。様々な実施形態では、組成物は、非経口的に投与される。
【0019】
経口投与のための組成物は、経口投与に好適な投与量で、当該技術分野で既知の薬学的に許容される担体および賦形剤を使用して製剤化され得る。そのような担体は、対象による消化のために、組成物を錠剤、丸剤、糖衣錠、カプセル、液体、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁液などとして製剤化することを可能にする。ある特定の実施形態では、組成物は、非経口投与のために製剤化される。製剤化および投与のための技術のさらなる詳細は、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCESの最新版(Mack Publishing Co.、Easton,Pa.、これは参照により本明細書に組み込まれる)に見出され得る。組成物が調製された後、それらを適切な容器に入れ、示された状態の治療のために標識することができる。そのような標識は、投与の量、頻度、および方法を含むであろう。
【0020】
活性成分(例えば、阻害剤化合物)に加えて、組成物は、好適な薬学的に許容される担体および賦形剤を含み得る。いくつかの実施形態では、組成物は、担体をさらに含む。担体には、例えば、水が含まれる。また、様々な実施形態では、組成物は、賦形剤をさらに含む。様々な賦形剤には、例えば、様々な非毒性、不活性固体、半固体、もしくは液体の充填剤、希釈剤、封入材料、または任意の種類の製剤補助剤が含まれる。薬学的に許容される賦形剤として機能し得る材料のいくつかの例は、ラクトース、グルコース、およびスクロースなどの糖類;トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、および酢酸セルロースなどのセルロースおよびその誘導体;粉末トラガント;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバターおよび座薬ワックスなどの賦形剤;ピーナッツ油、綿実油、紅花油、ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油、および大豆油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;Tween 80などの洗剤;水酸マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;発熱性物質除去水;等張食塩水;リンガー溶液;エチルアルコール;人工脳脊髄液(CSF)、およびリン酸緩衝液、ならびにラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの他の非毒性適合性潤滑剤、ならびに着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味料、香味剤、および芳香剤であり、防腐剤および抗酸化剤もまた組成物中に存在し得る。
【0021】
上述したように、本発明はまた、本明細書に記載されるNAMPT含有組成物またはNAMPT変異体含有組成物を使用する様々な方法に関する。1つの方法は、細胞におけるNMNおよび/またはNAD+生合成を増加させることを対象とする。この方法は、本明細書に記載される組成物を細胞に適用することを含む。理論に拘束されることなく、組成物の小胞の脂質膜は、細胞の形質膜と融合し得るため、小胞内容物(すなわち、NAMPT)の細胞への移行を促進すると考えられる。内在化すると、NAMPTおよび/またはその変異体は、細胞生合成経路で使用して、例えば、NMNおよび/またはNAD+を産生することができる。他の方法は、対象においてNMNおよび/またはNAD+生合成を増加させることを含む。これらの方法は、本明細書に記載される組成物を対象に投与することを含む。
【0022】
別の方法は、対象(例えば、予防または治療を必要とする対象)における年齢関連状態を予防または治療することを対象とする。方法は、対象に有効量の本明細書に記載される組成物を対象に投与することを含む。本明細書に記載される方法は、生理学的レベルを上回るNMNおよび/またはNAD+生合成を増加させることができる。生理学的レベルは、ある特定の時点で細胞または生物によって産生されると予想される生成物の量に対応する。産生は、生物の生涯にわたって自然に変化し得る。したがって、様々な実施形態では、NMNおよび/またはNAD+の増加は、その時点で対象により合理的に合成される量に対して決定され得る。
【0023】
様々な実施形態では、年齢関連状態は、身体活動の低下、睡眠の質の低下、認知機能の低下、グルコース代謝の低下、視力の低下、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される生理学的状態を含む。様々な実施形態では、本明細書に開示される方法は、これらに限定されないが、II型糖尿病、肥満、年齢関連の肥満、年齢関連の血中脂質レベルの増加、年齢関連のインスリン感受性の低下、年齢関連の記憶機能の喪失もしくは低下、年齢関連の眼機能の喪失もしくは低下、年齢関連の生理学的低下、グルコース刺激インスリン分泌の障害、糖尿病、ミトコンドリア機能の改善、神経死亡、ならびに/またはアルツハイマー病における認知機能、虚血/再灌流傷害からの心臓の保護、神経幹細胞/前駆細胞集団の維持、傷害後の骨格筋ミトコンドリア機能および動脈機能の回復、ならびに年齢関連の機能の低下などの、NMN代謝を伴う任意の年齢関連疾患または状態の治療、改善、緩和、または逆転のために使用され得る。
【0024】
様々な実施形態では、年齢関連状態は、それを必要とする対象におけるインスリン感受性および/またはインスリン分泌の年齢関連の喪失を含み得る。いくつかの実施形態では、年齢関連状態は、年齢関連の記憶機能障害を含む。様々な実施形態では、年齢関連状態は、眼機能の低下を含む。いくつかの実施形態では、眼機能の低下は、年齢関連の網膜変性を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、年齢関連状態は、筋肉疾患を含み得、本発明は、当該筋肉疾患を治療することを必要とする対象においてそれを治療する方法を含む。様々な構成では、本教示に従って治療され得る筋肉疾患には、筋肉の衰弱、筋肉の萎縮、筋肉消耗、筋力の低下が含まれるが、これらに限定されない。様々な構成では、本教示に従って治療され得る筋肉疾患には、サルコペニア、ダイナペニア、悪液質、筋ジストロフィー、筋緊張障害、脊髄性筋萎縮症、およびミオパチーが含まれるが、これらに限定されない。筋ジストロフィーは、例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、遠位型筋ジストロフィー、エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、または眼咽頭型筋ジストロフィーであり得る。いくつかの構成では、筋緊張障害は、筋緊張性ジストロフィー、先天性筋緊張症、または先天性パラミオトニアであり得る。いくつかの構成では、ミオパチーは、ベスレムミオパチー、先天性筋線維タイプ不均等症、進行性骨化性線維異形成症、甲状腺機能亢進ミオパチー、甲状腺機能低下ミオパチー、ミニコアミオパチー、多核ミオパチー、筋細管ミオパチー、ネマリンミオパチー、周期性四肢麻痺、低カリウム性ミオパチー、または高カリウム性ミオパチーであり得る。いくつかの構成では、筋肉疾患は、酸マルターゼ欠乏症、カルニチン欠乏症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠乏症、デブランシャー酵素欠乏症、乳酸脱水素酵素欠乏症、ミトコンドリアミオパチー、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠乏症、ホスホリラーゼ欠乏症、ホスホフルクトキナーゼ欠乏症、またはホスホグリセリン酸キナーゼ欠乏症であり得る。いくつかの構成では、筋肉疾患は、サルコペニア、ダイナペニア、または悪液質であり得る。いくつかの構成では、筋肉疾患は、サルコペニアであり得る。
【0026】
年齢関連状態を予防および治療する実施形態は、それを必要とする対象において年齢関連の機能低下を予防することを含み得る。様々な構成では、年齢関連の機能低下は、非限定的な例では、食欲不振、低グルコースレベル、筋力低下、栄養失調、または加齢による食欲不振からもたらされ得るか、またはそれに関連し得る。本明細書に記載される組成物によって治療され得る他の非限定的な年齢関連状態には、糖尿病(例えば、II型糖尿病)および肥満が含まれ得る。
【0027】
様々な実施形態では、本発明は、対象におけるNMN/NAD+の産生を促進するために、本明細書に記載される組成物を投与することを含む。
【0028】
治療有効用量は、所望の結果を提供する活性成分の量を指す。正確な投与量は、治療を必要とする対象に関連する要因に照らして、開業医によって決定される。十分なレベルの活性成分を提供するため、または所望の効果を維持するために、投与量および投与を調整する。考慮され得る因子には、疾患状態の重症度、対象の全般的な健康、対象の年齢、体重、および性別、食事、投与時間および頻度、薬物の組み合わせ、反応感受性、ならびに療法に対する耐容性/応答が含まれる。いくつかの実施形態では、組成物は、1日当たり約10mg~約500mg、または約50mg~約500mgのNAMPTおよび/またはその変異体を提供する用量で対象に投与される。いくつかの実施形態では、対象は、ヒトである。様々な実施形態では、対象は、ヒトである。
【0029】
本発明はまた、本明細書に記載される様々な組成物を調製するためのプロセスを対象とする。様々な実施形態では、方法は、脂肪細胞、血液、および血漿を含む培養物からなる群から選択される構成成分を含む培地から小胞を分離することを含む。
【0030】
様々な実施形態では、培地は、脂肪細胞を含む培養物である。脂肪細胞は、NAMPT(例えば、Nampt)または生合成前駆体をコードする遺伝子を過剰発現し得る。
【0031】
様々な実施形態では、培地は、血液または血漿を含む培養培地である。
【0032】
様々な実施形態では、分離プロセスは、遠心分離(例えば、超遠心分離)を含む。いくつかの実施形態では、分離プロセスは、エクソソーム単離技術を含む。
【0033】
様々な実施形態では、本明細書に記載される組成物の小胞は、合成または半合成的に誘導される。例えば、NAMPTおよび/またはその変異体は、組換え技術によって産生され得る。続いて、NAMPTおよび/またはその変異体および脂質は、例えば、水性溶媒中で合わされ得る。
【0034】
NAMPTおよびNAMPTの変異体
様々な実施形態では、組成物は、NAMPTを含む。いくつかの実施形態では、NAMPTは、配列番号1の野生型NAMPTを含む。いくつかの実施形態では、NAMPTは、配列番号2の野生型NAMPTを含む。
【表1】
【0035】
様々な実施形態では、組成物は、NAMPTの変異体を含む。例えば、NAMPTタンパク質の2つの単一アミノ酸変異体、K53RおよびK53Qが報告されている。K53はiNAMPT上でアセチル化され、SIRT1はこのリジンを脱アセチル化し、NAMPTが分泌されやすくなる。K53R変異体は、野生型NAMPTタンパク質よりも約3倍高く分泌されるが、一方で、K53Q変異体は、分泌の著しい減少を示す。K53RはNAMPTの酵素活性を変化させないため、K53R変異体は、エクソソームにパッケージングされ、かつ標的組織に送達されるより良好な効率を呈し得る。
【0036】
したがって、NAMPTの変異体は、配列番号1の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニンまたはグルタミン残基(特に、アルギニン残基)を有するアミノ酸配列を含むことができ、変異体の残りのアミノ酸配列は、配列番号1と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、少なくとも99.9%、または少なくとも99.99%の配列同一性を含む。いくつかの実施形態では、NAMPTの変異体は、配列番号2の野生型NAMPTの53位に対応する位置にアルギニンまたはグルタミン残基(特に、アルギニン残基)を有するアミノ酸配列を含み、変異体の残りのアミノ酸配列は、配列番号2と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、少なくとも99.9%、または少なくとも99.99%の配列同一性を含む。
【0037】
様々な実施形態では、NAMPTの変異体は、配列番号1または配列番号2の野生型NAMPTと少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、少なくとも99.9%、または少なくとも99.99%の配列同一性を含み、野生型NAMPTと比較して、アセチル化部位を除去する少なくとも1つのアミノ酸置換をさらに含む。いくつかの実施形態では、NAMPTの変異体は、野生型NAMPTよりも効率的に細胞から分泌されるか、または野生型NAMPTよりも効率的にエクソソームにパッケージングされる。
【0038】
NAMPTの変異体には、以下の配列を有するものも含まれ得る。
【表2】
【0039】
本発明を詳細に説明した後、添付の特許請求の範囲で定義された本発明の範囲から逸脱することなく、修正および変形が可能であることは明らかであろう。
【実施例
【0040】
以下の非限定的な例は、本発明をさらに例示するために提供される。
【0041】
材料および方法
以下の実施例における実験を実施するために、以下の材料(表1)および方法を使用した。
【表3】
【0042】
動物モデル
Jackson Laboratoriesから購入したマウス、またはNIH加齢げっ歯類コロニーから入手したマウスを使用して、C57BL/6Jマウスを本研究室で繁殖させた。各実験で使用した若年(4~6ヶ月齢)および加齢(18~26ヶ月齢)マウスは、年齢および供給源が一致していた。Cre誘導性STOP-Namptマウスおよびアディポネクチン-Creマウスは、それぞれ、ペンシルベニア大学のJoseph Baurおよびベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのEvan Rosenによって提供された。すべての株をC57BL/6Jバックグラウンドに戻し交配させた。研究全体について、ヘテロ接合型ANKIマウスは、ヘテロ接合型アディポネクチン-Creマウスとホモ接合型STOP-Namptマウスとの交配によって生み出された。雄および雌ANKIマウスの両方を、eNAMPTおよび組織NAD定量化、輪走分析、睡眠断片化計数、ERG分析、ならびに寿命を含むそれらの特徴付けに使用した。雄ANKIマウスのみが、それらのより堅牢な表現型のために、グルコ代謝および膵島形態計測解析に使用された。特に指定のない限り、すべてのマウスに、標準的な飼料食(LabDiet5053;LabDiet、St.Louis,MO)を自由に摂食させ、4~5の群において、12/12時間の明暗サイクルで、22℃で収容した。ケージと寝床は週に1回交換された。マウスは健康状態を定期的にモニタリングされ、本研究中にウイルス感染および寄生虫感染はなかった。
【0043】
ヒト対象
eNAMPT定量化に使用したヒト血漿試料は、37~80歳の範囲の男性対象から得た。
【0044】
細胞培養物
HEK293を、ATCC(Manassas,VA)から入手し、10%FBS、100U/mLのペニシリン、および100μg/mlのストレプトマイシンを補充したDMEM(Sigma Aldrich、St.Louis,MO)中で維持した。OP9前脂肪細胞を、20%FBSおよびペニシリン-ストレプトマイシンを補充したα-MEM(Sigma Aldrich、St.Louis,MO)中で維持した。すべての細胞を、37℃および5%COで維持した。OP9前脂肪細胞を、0.2%FBS、175nMインスリン、アルブミンに結合した900μMオレイン酸とともにα-MEM中で48時間培養することにより、完全に分化した脂肪細胞に分化させた。一次視床下部ニューロンをE14胚から単離し、10%FBS、2mM L-グルタミン酸、およびB27を補充した神経基底培地(Sigma Aldrich、St.Louis、MO)中で培養した。HEK293は雌胎児に由来した。OP9前脂肪細胞が由来したマウスの性別は不明である。一次視床下部ニューロンは、両性の胚から単離した。
【0045】
寿命およびハザード比の分析
すべての動物を、標準的な実験室の食事および水への無制限のアクセスとともに、本研究の動物施設に保持した。生存研究のために用意したマウスは、任意の他の生化学的、生理学的、または代謝分析には使用しなかった。加齢コホート内のすべてのマウスを毎日注意深く検査した。寿命のエンドポイントは、各マウスが死亡しているか、またはIACUCガイドラインに従って安楽死されたかのいずれかであるときに決定された。剖検は、ワシントン大学マウス病理コアによる死亡または安楽死の直後に実施した。年齢関連死亡率(q)は、各間隔の終了時に生存している動物の数を、間隔の開始時に生存している動物の数で割ることによって計算した。ハザード比(hz)を、hz=2q/(2-q)によって計算し、hzの自然対数を時間に対してプロットした。
【0046】
身体活動
ワシントン大学動物行動コアで自発運動活動の評価を行った。簡単に述べると、個々のマウスを、歩行の総数を定量化した4×8マトリックスのフォトセルの対に囲まれた透明なポリスチレン容器に入れた。垂直な立ち上がり運動を定量化するために、フォトセルの別のセットを床から7cm上に配置した。走輪を有する個々のケージにマウスを配置し、12:12の明暗サイクル下で概日キャビネット内に収容することによって、輪走活動の評価を行った。マウスを、輪走活動測定の前に2週間慣らした。
【0047】
睡眠分析
マウスをイソフルオランで麻酔し、脳波検査(EEG)のために頭蓋骨にスクリュー電極、および筋電図(EMG)のために項部筋にステンレス針金電極を外科的に埋め込んだ。マウスを3日間手術から回復させ、続いて記録ケージ内で2週間慣らした。EEG/EMG記録を2日連続で、連続して行った。10秒間のEEG/EMGシグナルのエポックは、覚醒[EMG活性が高い低振幅デルタ(1~4Hz)およびシータ(4~8Hz)周波数]、NREM睡眠[EMG活性がない場合の高振幅デルタ]、およびREM睡眠[EMG活性がない場合の低振幅リズムシータ活性]として視覚的にスコア付けされた。スコアラーは、定量化中に遺伝子型について盲検化された。
【0048】
代謝評価
グルコース負荷試験では、アスペン寝床での一晩の絶食後、マウスに1回の用量のデキストロース(1g/kg体重)を腹腔内注射した。グルコースおよびインスリンレベルの測定のために、各時点で尾静脈から血液を収集した。インスリン負荷試験では、マウスにインスリン(0.70単位/kg体重)を腹腔内注射し、血中グルコースの測定のために尾静脈から血液を収集した。ワシントン大学の臨床研究のためのコアラボラトリーでSingulexアッセイを用いて、血漿インスリンレベルの定量化を行った。EchoMRIは、ワシントン大学糖尿病研究センターの糖尿病モデル表現型コアで実施した。
【0049】
網膜電図
ケタミンおよびキシラジンの混合物で麻酔したマウスを、UTAS-E3000 Visual Electrodiagnostic Systemを使用してERGに供した。ERG波形の定量化は、a波振幅を平均ベースラインと平均トレースの最も負の点との間の差として定義し、かつb波振幅を最も負の点と波ピークの最も高い正の点との間の差としても定義する、既存のMicrosoft Excelマクロを使用して行った。
【0050】
小規模コホート前向き寿命分析
26~28ヶ月齢の雌C57BL/6Jマウスは、NIA老化コロニーから入手した。血漿を尾静脈血液から収集し、eNAMPTレベルを定量化した。続いて、マウスをケージ当たり4匹のマウスの群で収容し、毎日の検査を除いて触れなかった。採血から死亡までの日数を残存寿命として計算した。
【0051】
eNAMPTのウェスタンブロット分析
ケタミン-キシラジン麻酔下で、硫酸ヘパリンで前処理したシリンジを用いたキャピラリーまたは心臓穿刺によって尾静脈から血漿を収集した。血液を3000×gでスピンダウンした。2μlの新たに収集した血漿を、200μlの1倍試料緩衝液とともに95℃で10分間インキュベートした後、その使用まで-30℃で保存した。分析の直前に、5μlの各試料を、45μlの1倍試料緩衝液に添加し、95℃で30分間さらにインキュベートした。この30分間の沸騰は、eNAMPT帯を個別的かつ定量化可能にするために必要であった。血漿eNAMPTは、SDS-PAGEの稼働時間が十分に長かったときに、二重として検出された。10μlの最終混合物を、4~15%SDS-PAGE上で分離し、マウスの場合は抗NAMPTポリクローナル抗体(Bethyl)およびヒトの場合は抗NAMPTモノクローナル抗体(Adipogen)を用いたウェスタンブロットによって分析した。NAMPT抗体を1:1000希釈で使用した。他のすべての抗体を1:100希釈で使用した。
【0052】
遺伝子発現分析
RNAをRNeasyミニキット(QIAGEN)によって抽出し、High-Capacity cDNA逆転写キット(Thermo)によってcDNAに変換した。定量的リアルタイムRT-PCRを、StepOnePlusシステム(Applied Biosystems)で実施し、Gapdhレベル、および次に対照マウスの平均に正規化することにより、各遺伝子について相対発現レベルを計算した。
【0053】
EVの精製および特徴付け
この研究で使用したEVを、製造業者の指示に従って、超遠心分離または血漿からの全エクソソーム単離キット(ThermoFisher Scientific)を使用して単離した。1000×gで10分間血液を遠心分離することによってマウス血漿を単離した。また、完全に分化したOP9脂肪細胞で48時間、血清を含まないα-MEMを調節することによってインビトロでEVを収集した。単離した血漿およびOP9馴化培地を1000×gで10分間遠心分離した。上清を2000×gで20分間再び遠心分離した。得られた上清を、EV単離前に10,000×gで30分間さらに遠心分離した。
【0054】
超遠心分離による血漿からのEV単離のために、血漿を、PBS中で1:1に希釈し、100,000×gで2時間遠心分離した。得られた上清をウェスタンブロット分析のために収集し、残りのペレットを出発血漿体積に等しい体積のPBSに再懸濁し、1,000,000xgで2時間再び遠心分離した。超遠心分離によるOP9馴化培地からのEV単離のために、培地を100,000×gで2時間遠心分離した。再び、得られた上清をウェスタンブロット分析のために収集し、残りのペレットを、培地の出発体積に等しい体積のPBSに再懸濁した。再懸濁したEVを、100,000×gで2時間再度遠心分離した。血漿およびOP9の両方からのEVの最終的な得られたペレットを、50μlのPBS中に再懸濁した。
【0055】
全エクソソーム単離(TEI)キットによるEV単離のために、別段の記載がない限り、EVを単離するために使用する血漿の体積と同じ体積のPBS中にEVを再懸濁した。EV単離後の得られた上清を、可溶性タンパク質画分として収集した。単離されたEVの質は、EVマーカータンパク質[Alix(Santa Cruz Biotechnology)、TSG101(Santa Cruz Biotechnology)、CD63(Santa Cruz Biotechnology)、CD81(Santa Cruz Biotechnology)、およびCD9(BD Bioscience)]、および非EVタンパク質[トランスフェリン(abcam)、アルブミン(abcam)、アディポネクチン(abcam)、およびアディプシン(R&D)]のレベルを測定することによって確認した。全血漿からの40μgのタンパク質、単離したEV画分、および上清/可溶性タンパク質画分を、SDS-PAGEゲルに充填し、ウェスタンブロットにより評価した。
【0056】
EVのスクロース勾配分画分析
EVは、100,000×gで2時間の超遠心分離、またはTEIキットのいずれかによって調製した。単離されたEVを90%スクロース溶液で希釈して、最終濃度82%にした。次いで、EVを底部に層状にし、続いて、82%~10%の範囲のスクロース溶液を上に層状にした。試料を100,000×gで20時間遠心分離し、6個の画分を収集した。各画分をPBS中1:100に希釈し、100,000×gで2時間遠心分離してEVをペレット化した。次いで、各画分からのペレットを、等しい体積のPBS中に再懸濁し、ウェスタンブロットによる分析に供した。
【0057】
プロテイナーゼK消化アッセイ
プロテイナーゼKを1μg/μlの最終濃度で50μl血漿に添加し、37℃で10分間インキュベートした。続いて、25μlのPBSおよび15μlのエクソソーム沈殿試薬(ThermoFisher Scientific)を添加し、混合物を氷上で30分間インキュベートした。混合物を1000×gで遠心分離し、沈殿したEVをウェスタンブロッティングによって分析した。
【0058】
血漿EVのプロテオーム分析
6および24ヶ月齢の野生型B6雌マウスならびに24ヶ月齢の対照およびANKI雌マウスから単離したEDTA補充血液から血漿を単離した。EVを、400μlの血漿から超遠心分離によって単離し、水中で再構成した。タンパク質を抽出し、Progenesis LC-MS(NonLinear Dynamics)によって分析した。タンパク質の同定をMascot Server v2.4(Matric Science)で行った。同定されたタンパク質のリストを、最小95%のペプチド閾値、最小95%のタンパク質閾値、および最小2個のペプチドで生成し、タンパク質偽発見率を0.5%とした。閾値を超えて同定された248個のタンパク質のうち、181個のタンパク質は、EVpedi.orgに基づいて、EV/エクソソームの過去のプロテオミクス研究において同定された。
【0059】
一次視床下部ニューロンの単離
E16~E18胚からの視床下部を解剖し、Hibernate E培地中の氷上に置いた。視床下部を、DNase I(Sigma)を補充した0.25%トリプシン-EDTA(Sigma)中で、37℃で15分間消化した。10%FBSを補充した等量のDMEMを添加した後、塊が残らなくまるまでピペッティングによって細胞を穏やかに解離した。細胞を、室温で5分間、450×gで遠心分離することによって収集した。細胞を洗浄し、10%FBS、2%B27、2M L-グルタミン、および抗生物質を含む神経基底培地に再懸濁した。細胞を、ウェル上に直接、またはポリ-l-リジン(Sigma)で予めコーティングされたカバースリップ上に配置した。単離の2日後、細胞を10μMのAra-C(Sigma)で少なくとも4日間、または非神経細胞が除去されるまで処理した。
【0060】
EV内在化アッセイ
単離されたEVをPBS中に再懸濁した。DMSO中のBODIPY TRセラミドを、100μMの最終濃度でEVまたはPBSに添加し、37℃で1時間インキュベートした。標識したEVからの未組み込みの染料を、製造業者の指示に従ってエクソソームスピンカラム(ThermoFisher Scientific)によって除去した。精製したEVまたはPBS溶液を、カバースリップ上で成長する一次視床下部ニューロンに直接添加し、30分間インキュベートした。インキュベーション後、細胞をPBS中で洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中で固定した。
【0061】
組換えNAMPT含有EVの生成およびそれらの内在化アッセイ
単離したEVを1μg/μlのFLAGタグ付き組換えNAMPTタンパク質(recNAMPT)中に再懸濁し、37℃で一晩インキュベートした。0.2体積のエクソソーム沈殿試薬(ThermoFisher Scientific)を添加することによって、recNAMPT含有EVを混合物から単離した。recNAMPT含有EVを、出発血漿と同じ体積のPBSに再構成した。
【0062】
EV注射後の輪走アッセイ
EV注射実験では、20ヶ月齢の雄および雌マウスを6日間の模擬注射により慣らした。輪走活動の処置前測定のために、マウスに100μlのPBSを4日間腹腔内注射した。続いて、同じマウスに、4~6ヶ月齢のマウスから収集した200μlの血漿から精製された100μlの再懸濁EVを注射し、PBSに再懸濁した。すべての注射を、午後5時30分頃に行った。
【0063】
EV注射されたマウスの寿命研究
25ヶ月齢の雌C57BL/6Jマウスを、米国国立老化研究所(NIA)から入手した。マウスをその体重によって選別し、同様の体重を有するマウスのペアを各群に割り当てた。ケージ当たり4匹のマウスを収容した。EVを、TEIキットによって4~12ヶ月齢の野生型マウスの血漿から単離した。この寿命研究では、利用可能な限られた数のマウスからのEVの最高収率を達成するために、TEIキットの使用が必要であった。500μlの血漿から単離したEVを、100μlのPBS中に再懸濁し、26ヶ月齢から開始して、腹腔内注射により週1回マウスに投与した。
【0064】
データ解析
結果を平均値±SEMとして表す。すべての統計学的検定は、GraphPad Prism5を使用して行った。2つの群間の有意性は、スチューデントt検定によって評価した。データの正規性をグラフで評価した。複数群間の比較は、テューキー事後検定を用いた一元配置分散分析を用いて実施した。6~18ヶ月齢のマウスの24時間にわたる血漿eNAMPTレベルの分析を、二元配置反復測定分散分析を使用して行った。線形回帰分析を用いて、異なる年齢群にわたるマウスおよびヒトの血漿eNAMPTレベルを分析した。自発運動活動と輪走活動との比較は、ウィルコクソンの符号付順位和検定によって行った。ERGシグナルを、ボンフェローニ事後検定を用いた二元配置反復測定分散分析によって分析した。寿命の統計学的分析には、ゲーハン-ブレスロー-ウィルコクソン検定を用いた。フィッシャーの正確検定を使用して、死因の割合を比較した。EV注射による処置前および処置後の輪走活動の統計的比較を、対応のあるt検定によって行った。試料サイズおよび他の統計パラメータは、図および文章に示される。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。有意性はp<0.05で結論付けた。
【0065】
実施例1:マウスおよびヒトの両方において、血漿eNAMPTレベルは年齢とともに低下する。
以前の研究では、脂肪NAMPTの発現が年齢とともに減少することが示されている(Yoshino et al.,2011)。一貫して、単離された脂肪細胞におけるiNAMPTのタンパク質発現レベルが、6ヶ月齢~18ヶ月齢まで減少したことを見出した(図8A)。脂肪組織が循環eNAMPTの主要な供給源であることを考慮し(Yoon et al.,2015)、循環eNAMPTレベルがマウスの老化中に変化したかどうかを調べた。血漿eNAMPTレベルは、6ヶ月齢~18ヶ月齢まで、雌マウスおよび雄マウスの両方でそれぞれ33%および74%有意に低下した(図1A)。若年(6ヶ月齢)マウスでは、計算された血漿eNAMPT濃度は、雄(29~52ng/μl)におけるものよりも雌(55~123ng/μl)の方が高かった。しかしながら、加齢(18ヶ月齢)マウスにおいて、雄および雌の両方が、1日を通じて循環eNAMPTレベルの有意な低下を示した(図1Bおよび8B)。
【0066】
血漿eNAMPTの年齢関連の低下は、血漿eNAMPTレベルが、老化のための貴重な代用バイオマーカーであり得る可能性を提起した。したがって、マウスおよびヒトのいくつかの異なる年齢群にわたる血漿eNAMPTレベルを測定した。マウスおよびヒトの両方において、血漿eNAMPTレベルが年齢とともに直線的に低下することを見出し(図1C)、これは、eNAMPT分泌の基底となるプロセスおよび老化中のその潜在的意義が両方の種において保存され得ることを示唆する。血漿eNAMPTレベルと加齢との間の潜在的な関連性をさらに評価するために、血漿eNAMPTレベルの低下は、小規模前向き研究において、マウスのより高い死亡リスクおよび残存寿命を予測することができるかどうかを問うた。興味深いことに、eNAMPT測定日以降の個々のマウスが生存した日数は、その血漿eNAMPTレベルと高度に相関していた(図1D)。血漿eNAMPTのレベルが高いほど、残存寿命が長くなる。これらの結果は、循環eNAMPTが、老化のプロセスだけでなく、哺乳動物の寿命も調節する上で重要な役割を果たし得るという興味深い仮説をもたらした。
【0067】
実施例2:Namptの脂肪組織特異的過剰発現は、老化中に複数の組織で血漿eNAMPTレベルおよびNAD生合成を維持する。
老化および寿命制御におけるeNAMPTの役割を調査するために、脂肪組織特異的Namptノックイン(ANKI)マウスの加齢コホートを調べた(Yoon et al.,2015)。4ヶ月齢では、血漿eNAMPTレベルは、ANKIマウスと対照マウスとの間で、自由摂食条件下で異なっていなかった(図2A)。若年ANKIマウスは、絶食に応答してのみ著しく高いレベルの血漿eNAMPTを示した(Yoon et al.,2015)。それらが24ヶ月齢に達したとき、血漿eNAMPTレベルは、年齢が一致した対照マウスのものと比較して、それぞれANKI雌および雄マウスにおいて3.3倍および3.6倍高いレベルで維持された(図2B)。18ヶ月齢のANKIマウスにおける血漿eNAMPTレベルは、6ヶ月齢の対照マウスのものと同等であった(図9A)。脂肪組織Nampt過剰発現は、対照マウスのものと比較して、加齢ANKIマウスにおいて約1.5倍高く維持され、Nampt過剰発現が生理学的範囲内であることを確認し、ANKIモデルが生理学的に有効であることを示唆した(データには示さず)。
【0068】
自由に摂食させた20ヶ月齢のANKIマウスにおいて、雌では視床下部、海馬、膵臓、および網膜においてNADレベルの増加が観察されたが、雄では膵臓および網膜のみにおいてNADレベルの増加が示された(図2Cおよび9B)。加齢ANKIマウスにおけるNADレベルの増加を示した組織は、iNAMPTのレベルが比較的非常に低い組織であることに留意されたい(Revollo et al.,2007、Stein et al.,2014、Yoon et al.,2015)。これらの結果は、Namptの脂肪組織特異的過剰発現が、視床下部、海馬、膵臓、および網膜を含む複数の組織における循環eNAMPTレベルおよび組織NADレベルの年齢依存的低下を緩和することを示唆する。
【0069】
実施例3:加齢ANKIマウスは、身体活動および睡眠の質の著しい向上を示す。
加齢ANKI雌マウスにおいて視床下部NADレベルが増加し、また、老化中の身体活動および睡眠の質を調節するために視床下部SIRT1活性が重要であることを考慮して(Satoh et al.,2013、Satoh et al.,2015)、加齢ANKI雌マウスにおけるこれらの年齢関連の生理学的特性を調べた。年齢に伴う循環eNAMPTレベルの低下と一致して、6ヶ月齢の野生型マウスと比較して、18ヶ月齢の野生型マウスでは暗闇時間中の輪走活動が有意に低下した(図10A)。4ヶ月齢のANKI雌マウスは、年齢が一致した対照マウスのものと同等レベルの暗闇時間中の輪走活動を呈したが、18ヶ月齢のANKI雌マウスは、6ヶ月齢の野生型マウスの活性レベルと同様に、年齢が一致した対照マウスのものと比較して有意に強化された輪走活動を示した(図3Aおよび10A)。加えて、これらのマウスのオープンフィールドにおける自発運動活動を評価した。暗闇時間中の輪走活動と一致して、加齢ANKI雌マウスは、年齢が一致した対照マウスと比較して、有意により高い総歩行活動および立ち上がり活動を示した(図3B)。しかしながら、加齢ANKI雄マウスは、視床下部におけるNAD増加の欠如と一致して、年齢が一致した対照マウス(図10B)と比較して、総歩行活動および立ち上がり活動においていかなる有意差も示さなかった(図2C)。
【0070】
ヒトでは、睡眠覚醒の移行の数が年齢とともに増加することがよく記録されており、睡眠断片化と呼ばれる現象である(Mander et al.,2017)。老齢のヒトにおけるそのような変化と一致して、20ヶ月齢の野生型マウスはまた、4ヶ月齢の野生型マウスのものと比較して、非REM(NREM)睡眠サイクルと覚醒サイクルとの間の移行の数の増加を示し(図3C、左パネル)、マウスにおいて年齢とともに睡眠断片化が著しく増加することを示した。REM睡眠サイクルと覚醒またはNREM睡眠サイクルとの間の移行の数に差異はなかった(データには示さず)。興味深いことに、年齢が一致した対照マウスと比較して、加齢ANKIマウスは、NREM睡眠と覚醒サイクルとの間の移行の数において著しい低下を示し、これは、4ヶ月齢の野生型マウスで見られたものと同様のレベルを維持し(図3C、右パネル)、加齢ANKIマウスがより良好な睡眠の質を維持することを暗示した。
【0071】
これらの年齢関連の活動および睡眠特性は、その下流標的遺伝子であるオレキシン2受容体(Ox2r)およびPRドメイン13(Prdm13)の調節を通じて、視床下部SIRT1によって調節される(Satoh et al.,2013、Satoh et al.,2015)。Ox2r発現は、暗闇時間における輪走活動の制御に重要である(Satoh et al.,2013)が、一方、Prdm13発現は、睡眠の質の維持に重要である(Satoh et al.,2015)。したがって、年齢が一致した対照およびANKI雌マウスの視床下部におけるOx2rおよびPrdm13のmRNA発現レベルを調べた。身体活動および睡眠の質の観察された向上と一致して、視床下部Ox2rおよびPrdm13発現レベルは、年齢が一致した対照マウスと比較して、加齢ANKI雌マウスで有意に増加された(図3D)。これらの結果は、循環eNAMPTレベルの年齢関連の低下が、視床下部NADレベルおよびSIRT1活性の低下に寄与し、身体活動および睡眠の質の年齢関連の低下をもたらすことを示し、これらの機能低下は、循環eNAMPTを増加させることによって改善することができることを示す。
【0072】
実施例4:加齢ANKIマウスは、グルコース刺激インスリン分泌、光受容体機能、および認知機能の著しい改善を示す。
膵臓、網膜、および海馬のNADレベルは、加齢ANKIマウスで増加されたため(図2C)、それらはまた、グルコース代謝、網膜機能、および認知機能の改善を呈し得ると疑った。まず、加齢ANKIマウスおよび対照マウスで腹腔内グルコース負荷試験(IPGTT)を行った。加齢ANKI雄マウスにおいて、グルコース耐性の中等度であるが有意な改善が観察された(図4A)。IPGTTの間、30分の時点でのグルコース刺激インスリン分泌の有意な増加も検出した(図4B)。インスリン負荷試験の結果は、加齢ANKIマウスと対照マウスとの間で異なっておらず、両方とも重篤なインスリン抵抗性を示し(図11A)、加齢ANKIマウスにおけるグルコース耐性の改善は、主にインスリン分泌の増加に起因することを示唆している。興味深いことに、加齢ANKIマウスは、年齢が一致した対照と比較して、より高い総数の膵島を保有していた(図4CおよびD)。加えて、加齢ANKI雄で観察されたこれらの膵島は、年齢が一致した対照で観察された膵島よりも小さく維持された(図4E)。これらの結果は、膵臓β細胞におけるグルコース刺激インスリン分泌の促進およびストレスからのそれらの保護におけるNAD生合成およびSIRT1の役割と一致している(Kitamura et al.,2005、Moynihan et al.,2005、Ramsey et al.,2008、Revollo et al.,2007)。加齢ANKI雌マウスはまた、より高い総数の膵島を維持したが、膵臓NADレベルにおけるはるかに大きな変動と一致して(図2C)、グルコース耐性の改善を示さなかった(データには示さず)。加齢ANKI雌マウスは、体重および脂肪質量の中等度の増加を示したが、加齢ANKI雄マウスは、差異を示さなかった(図11Bおよび11C)。さらに、それらの食物摂取量は、それらの年齢が一致した対照と比較して、全く有意差を示さなかった(図11D)。また、加齢ANKIマウスにおける炎症促進性サイトカインの循環レベルを調べた。加齢ANKI雌におけるIL-2のわずかな増加およびG-CSFの中等度の減少を除いて、加齢ANKI雄および雌の両方において、循環炎症促進性サイトカインレベルに著しい変化はなかった(図11E)。したがって、グルコース代謝において観察されるANKI表現型は、体重、脂肪、または炎症促進性サイトカインレベルとは無関係である。
【0073】
次に、桿体および錐体を主体とした試験条件下で網膜機能を調べるために、網膜電図を行った。年齢が一致した対照マウスと比較して、加齢ANKIマウスは、5dbで著しく高い暗順応a波振幅を示し、-4および0dbでより高い暗順応a波振幅の傾向を示したことを見出した。(図4F、左パネル)、桿体光受容体機能の改善を示す。同様に、桿体光受容体機能の改善はまた、強化された暗順応b波の傾向にもつながった(図4F、中央パネル)。また、加齢ANKIマウスでは、強化された明順応b波振幅の傾向が観察され、これは、強化された錐体機能を示唆した(図4F、右パネル)。興味深いことに、これらの変化は、長期的なNMN投与で観察されるものと著しく類似している(Mills et al.,2016)。
【0074】
また、加齢ANKIマウスおよび年齢が一致した対照マウスに対して文脈的恐怖条件付け試験を行い、それらの非空間的海馬依存性学習および記憶能力を評価した。両方のマウスは、ベースラインおよび1日目のトレーニング試験中に同等の応答を示した(図11F、第1のグラフ)。しかしながら、2日目の文脈的恐怖条件付け試験の最初の1分間に、加齢ANKIマウスは、年齢が一致した対照と比較して著しく高いレベルのすくみ行動を示した(図11F、第2のグラフ)。同様の傾向は、この試験中に2分および3分の時点でも観察された。ベースラインおよび3日目の聴覚キュー試験を通じて、加齢ANKIマウスおよび年齢が一致した対照マウスは、いかなる有意差も示さなかった(図11F、第3のグラフ)。それらの海馬NAD増加と一致して、これらの結果は、加齢ANKIマウスが、それらの年齢が一致した対照と比較して、より良好な海馬依存性認知機能を維持することを示唆する。したがって、まとめると、これらの所見は、全身性NAD生合成を増強することによって、老化中の視床下部、海馬、膵臓、および網膜などの組織機能の維持におけるeNAMPTの生理学的意義へのさらなる支持を提供する。
【0075】
実施例5:ANKI雌マウスは、寿命の中央値の有意な延長および老化の遅延を呈する。
より高いeNAMPTレベルを維持することは、加齢ANKIマウスにおける年齢関連の機能低下を有意に緩和するため、ANKIマウスおよび対照マウスのコホートを設定して、それらの寿命を調べる。標準的な飼料を自由に摂食させたとき、ANKI雌マウスは、寿命の中央値の統計的に有意な延長(13.4%)を示した(対照693日対ANKI 786日、ゲーハン-ブレスロー-ウィルコクソン検定、χ=6.043、df=1、p=0.014)(図5A表2)。
【表4】
【0076】
それらの最大寿命は、対照マウスの寿命と変わらなかった(表2)。興味深いことに、ANKI雌マウスは、約2年齢までの年齢関連の死亡率において有意な遅延を呈した(図5B)。しかしながら、寿命の終わりに近づいて、年齢関連の死亡率の差はもはや存在せず、これが最大寿命の延長の欠如を説明し得る。新生物は死亡の主要な原因であるが、ANKIマウスと対照マウスとの間で、新生物の発生率および種類は変わらなかった(表3)。
【表5】
【0077】
雌とは対照的に、最高齢の10%ANKI雄は、対照マウスと比較して有意により長い最大寿命を示したが、ANKI雄マウスは、寿命延長は呈さず(図5Aおよび表2)、ほとんどの寿命を通じて年齢関連の死亡率に差はなかった(図5B)。これらの結果は、著しい性差があるが、若年レベルの循環eNAMPTを維持することが、老化を遅らせ、かつマウスにおける健康寿命を延長するために重要であることを実証する。
【0078】
実施例6:血漿eNAMPTは細胞外小胞のみに局在している。
循環eNAMPTが組織NAD生合成をどのように増強するかは、現在のところ理解し難いままである。eNAMPTが組織特異的な方法でNAD生合成を増強するという所見は、循環eNAMPTが、その標的組織におけるNAD生合成に直接寄与し得ることを示唆した。近年、ある組織から別の組織へのEVによるマイクロRNAの輸送機構は、組織間相互作用の重要な機構として多くの注目を集めている(Whitham et al.,2018、Ying et al.,2017、Zhang et al.,2017)。このため、eNAMPTも全身循環でEVによって輸送され得るかどうかを問うた。従来の超遠心分離によって、またはポリマーベースの全エクソソーム単離(TEI)キットを使用して、マウス血漿からEVを精製した。TEI法からのEVの収率は超遠心分離よりもはるかに高かったが、両方の方法は、全血漿または残りの非EV画分と比較して、eNAMPTがEV画分において高度に濃縮されていることを明確に示した(図6A)。EVにおけるeNAMPTの局在化は、TG101、CD63、CD81、およびCD9を含むいくつかのEVマーカーの濃縮、ならびにトランスフェリンおよびアルブミンの枯渇によっても確認された。また、TEIまたは超遠心分離からのEV画分を、スクロース密度勾配に浮遊させることによってさらに精製した。両方のEV画分において、eNAMPTは、スクロース密度勾配からの第3の画分において、Alix、TSG101、CD63、CD81、およびCD9を含む他のいくつかのEVマーカーで明確に検出された(図6Bおよび12A)。さらに、TEI法によって単離されたeNAMPT含有EVを担持する画分の密度を測定した。eNAMPTは、1.10~1.15の範囲のEVについて以前に報告された密度画分において、EVマーカーの1つであるAlixで共精製された(図12B)(Ying et al.,2017)。ヒト血漿中のeNAMPTがEVに含まれているかどうかも調べた。マウスeNAMPTと一致して、ヒト血漿eNAMPTは主にEV画分に含まれていた(図6C)。マウスおよびヒト血漿からのEVの適切な濃縮は、電子顕微鏡法によってさらに確認され(図12Cおよび12D)、これは、マウスおよびヒト血漿から精製されたEVの種類が、小さなEVとして特徴付けられるものと一致することを示す(Durcin et al.,2017)。残念ながら、EVに含まれるeNAMPTの免疫ゴールド標識の試みは、この目的に適切な抗体が利用できないために失敗した。したがって、血漿中のeNAMPTが、そのEV内の局在化によりプロテアーゼ処置から保護されるかどうかを調べた。プロテイナーゼKによる血漿の処理が、トランスフェリンおよび免疫グロブリン軽鎖などの循環血漿タンパク質をほぼ完全に消化したのに対し、eNAMPTおよびEVマーカーTSG101は、プロテイナーゼKの消化に対する耐性を呈した(図6D)。さらに、洗剤(Triton-X)を添加してEVの脂質二重層を溶解させると、プロテイナーゼK処理はeNAMPTおよびTSG101を排除することができた。これらの所見はさらに、血液循環に分泌されたeNAMPTがEVに封入されたことを確認した。培養したOP9脂肪細胞を用いることにより、完全に分化した脂肪細胞は、eNAMPTおよび他のEVマーカータンパク質を含むが、アディポネクチンおよびアディプシンなどの他の分泌タンパク質を含まないEVを分泌することも確認した(図12E)。
【0079】
EVにおけるeNAMPT含有量が6~22ヶ月齢のマウスで劇的に減少したことを見出した(図6E)。また、24ヶ月齢のANKIマウスからのEVにおけるeNAMPTの含有量は、年齢が一致した対照マウスよりも有意に高かったことを見出した(図6F)。これらの観察されたEVに含まれるeNAMPTレベルの変化は、若年(6ヶ月齢)マウスと加齢(24ヶ月齢)マウスとの間、および加齢ANKIマウスと対照マウスとの間のEV含有タンパク質のプロテオミクス比較が、EV含有タンパク質(同定された181タンパク質)のわずかな画分(2~3%)のみが、これらの条件において有意な変化を呈し、これらのタンパク質のいずれもNAD代謝に関連しないことを示したため、生理学的に重要であった(図12F)。まとめると、この結果は、マウスおよびヒトの循環におけるeNAMPTがEVによって担持されること、ならびに老化中またはANKIマウスにおいて観察される血漿eNAMPTレベルの変化が、EVに含まれるeNAMPTに特異的な変化に起因することを示す。
【0080】
実施例7:EVに含まれるeNAMPTは細胞内に内在化され、NAD生合成を直接増強する。
EV内のeNAMPT局在化を実証した後、EVに含まれるeNAMPTが細胞内に内在化され、細胞内でNAD生合成を増強できるかどうかを調べた。まず、EVの脂質二重層を標識することができる赤色蛍光色素であるBODIPY TRセラミドを用いて単離されたEVを標識し、次に、これらのBODIPY標識EVとともに一次視床下部ニューロンをインキュベートした。一次視床下部ニューロンは、BODIPY標識EVを添加するときのみ標識したが、対照BODIPY処置培地を添加するときは標識せず、EVが一次視床下部ニューロンに組み込まれたことを示唆した(図7A)。図7.EVに含まれるeNAMPTは、一次視床下部ニューロンにおけるNAD+生合成を直接増強し、マウスにおける年齢関連の身体活動の低下を改善し、寿命を延長する。
【0081】
次に、細菌産生FLAGタグ付き組換えNAMPT単独またはEVに封入されたFLAGタグ付き組換えNAMPTを一次視床下部ニューロンに添加した。興味深いことに、EVに含まれるFLAGタグ付きNAMPTのみが、一次視床下部ニューロンの細胞質画分に内在化された(図7B)。FLAGタグ付き組換えNAMPTを精製されたEVに組み込むとき、追加の量のNAMPTを有するこれらのEVは、一次視床下部ニューロンにおける細胞内NADレベルを増加させることができた(図7B、右のパネル)。細胞NAD生合成に対するEVに含まれるeNAMPTの効果をさらに確認するために、一次視床下部ニューロンにおける同位体標識ニコチンアミド(D-4-NAM)を使用してNAD生合成速度を測定した。超遠心分離およびTEI法によりマウス血漿から精製された両方のEV(タンパク質濃度として1μg/μl)は、対照と比較して、NAD生合成において同等の増加を示した(図7C)。NAD生合成に対する観察された効果が、EVに含まれるeNAMPTの酵素活性に起因するかどうかを調べるために、超遠心分離によってOP9脂肪細胞の培養培地から精製されたEVを使用した。OP9脂肪細胞からの超遠心分離により精製されたEVが、一次視床下部ニューロンに適切に内在化されたことを確認した(図13A)。このOP9脂肪細胞系を使用して、EV枯渇上清ではないが、OP9培養培地からの濃縮されたEVは、一次視床下部ニューロンにおけるNMN生合成の有意な増強を示したことを実証した(図13B)。次いで、対照およびNamptノックダウン(Nampt-KD)OP9脂肪細胞の培地から精製されたEVの、一次視床下部ニューロンにおけるNMN生合成に対する効果を比較した。NAMPT発現は、Nampt-KD OP9脂肪細胞から分泌されるEVで80%低減された(図13C)。対照OP9脂肪細胞の培養培地から精製されたEVが、NMN生合成の増強を明らかに示したのに対し、Nampt-KD OP9脂肪細胞の培養培地から精製されたEVは、一次視床下部ニューロンにおけるNMN生合成の増強を示さず(図7D)、細胞NMN/NAD生合成を刺激するEVのこれらの効果が、主にEVに含まれるeNAMPTに起因することを実証した。
【0082】
EVに含まれるeNAMPTの一次視床下部ニューロンの細胞質への内在化もまた、マウス血漿ならびに6および18ヶ月齢のマウスから精製されたEVを使用することによって調べた(図13Dおよび7E)。細胞質中の内在化NAMPTの量は、元の血漿または精製されたEVに含まれるeNAMPTの量を反映しており、若年マウスからのEVが、加齢マウスからのものと比較して、より多くの量のeNAMPTを細胞に送達することができることを示す。次に、一次視床下部ニューロンにおけるNAD生合成を刺激する、若年および加齢マウス血漿から精製されたEVの能力を比較した。細胞内NADレベルの増加は、6ヶ月齢のマウスからのEVでは、20~22ヶ月齢のマウスからのものと比較して有意により高かった(図7F)。さらに、ANKI雄および雌マウスからのEVは、年齢が一致した対照マウスからのものと比較して、一次視床下部ニューロンにおける細胞内NADレベルを増加させることができた(図7G)。これらの結果は、標的細胞内に内在化されるEVに含まれるeNAMPTが、その標的細胞内のNMN/NAD生合成の増強に寄与し得るという説得力のある証拠を提供する。
【0083】
実施例8:EVに含まれるeNAMPTの補充は、加齢マウスにおける輪走活動を強化し、寿命を延長する。
EVに含まれるeNAMPTは、一次視床下部ニューロンにおける細胞内NADレベルを増強することができたことを考慮して、eNAMPT含有EVの補充は、加齢ANKIマウスで観察されるように、加齢野生型マウスに同様の老化防止効果を伝達することができると推論した。この可能性を検証するため、4~6ヶ月齢のマウスの血漿から精製されたEVを、20ヶ月齢の野生型雌マウスに4日間連続で腹腔内注射した。注目すべきことには、若年マウスの血漿から精製されたEVの補充は、PBS注射された年齢が一致した対照マウスと比較して、暗闇時間中の加齢マウスにおける輪走活動を有意に強化した(図13Eおよび7H)。興味深いことに、暗闇時間中の輪走活動が明らかに増加したが、光時間中の活動は有意に減少し、それらのEV注射された加齢マウスがより良好に眠り得ることを暗示する。この効果がEVに含まれるeNAMPTに起因するかどうかをさらに確認するために、対照およびNampt-KD OP9脂肪細胞の培養培地から精製されたEVを注射することにより、加齢野生型雌マウスの輪走活動を比較した。対照OP9培地から精製されたEVが、暗闇時間および光時間中に輪走活動の有意な増加および減少を再び呈したのに対し、Nampt-KD OP9培地から精製されたEVは、これらの効果を示すことができず(図7Iおよび13F)、この効果がEVに含まれるeNAMPTによって媒介されることを実証した。加齢雄マウスにおいても、輪走活動の軽度の強化が観察され(図13G)、雄マウスは、高レベルのEVに含まれるeNAMPTの補充にも応答することができることを示唆した。
【0084】
次いで、若年マウスの血漿から精製されたeNAMPT含有EVが、加齢マウスの寿命を延長することができるかどうかを試験した。若年~中年(4~12ヶ月齢)のマウスから精製されたEVを、26ヶ月齢の雌マウスに週1回注射し始めた。注目すべきことには、若年~中年マウスから精製されたEVの補充により、加齢マウスの寿命が有意に延長した(図7J)。寿命の中央値は10.2%延長され(ビヒクル注射マウスの場合840日、EV注射マウスの場合926日、ゲーハン-ブレスロー-ウィルコクソン検定、χ=11.10、df=1、p=0.0009)、結果が記録された時点で2匹のマウスはまだ生存していた。各群における4匹の最も長く生きたマウスの平均最大寿命は、ビヒクル注射されたマウスおよびEV注射されたマウスでそれぞれ881±63.6および999±47日であった(スチューデントt検定、p=0.0016、13.3%延長)。EV注射された加齢マウスは、ビヒクル注射された年齢が一致した対照マウスと比較して、概して、はるかに健康的な外観およびより高い活動を維持した(図7K)。まとめると、これらの知見は、EVに含まれるeNAMPTの補充が、マウスにおける年齢関連の機能低下を緩和し、かつ寿命を延長するための効果的な老化防止介入であることを示す。
【0085】
実施例1~8の結果は、マウスにおける老化のプロセスを制御し、かつ健康寿命および寿命を決定する上で、重要なNAD生合成酵素であるeNAMPTを特定の組織に送達する新規のEV媒介性組織間相互作用機構の重要性を示す。年齢関連の、循環するEVに含まれるeNAMPTのレベルの低下は、視床下部、海馬、膵臓、および網膜を含む、これらの標的組織におけるNAD利用可能性および組織機能を制限する。さらに、EVに含まれるeNAMPTを加齢マウスに補充することは、遺伝的または薬理学的に、老化中の年齢関連の生理学的低下を緩和し、マウスの寿命を延長することが示された。
【0086】
視床下部は、哺乳動物における高次の老化制御センターとして機能することが示唆されているため(Satoh et al.,2013、Zhang et al.,2013、Zhang et al.,2017)、脂肪組織から分泌されるeNAMPTが、老化のプロセスおよび最終的な寿命に影響を与える重要な役割を果たしていると仮定された。この仮説に対処するために、脂肪組織特異的Namptノックイン(ANKI)マウスを生み出し(Yoon et al.,2015)、それらの老化表現型を特徴付けた。興味深いことに、加齢ANKIマウスは、視床下部、海馬、膵臓、および網膜を含む複数の組織において、若年レベルの循環eNAMPTおよび増加したNADレベルを維持し、身体活動、睡眠の質、認知機能、グルコース代謝、および光受容体機能において有意な改善を呈した。老化に対するこれらの有益な効果により、ANKIマウス、特に雌は、健康寿命の有意な延長を示した。驚くべきことに、eNAMPTが、マウスおよびヒトにおいて血液循環を介して細胞外小胞(EV)において担持されたことを見出した。EVに含まれるeNAMPTは一次視床下部ニューロンに内在化され、細胞内でNAD生合成を増強した。Namptノックダウン脂肪細胞からではないが、若年マウスまたは培養脂肪細胞から精製されたeNAMPT含有EVを注射により、加齢マウスにおける輪走活動を強化し、寿命を延長することができた。これらの所見は、eNAMPTのEV媒介性送達によって駆動される新規の組織間相互作用機構を示す。EVに含まれるeNAMPTによって媒介されるこの新しい生理学的系は、全身性NAD生合成の維持および年齢関連の生理学的低下への対抗に重要な役割を果たし、ヒトにおける潜在的な老化防止生物学的薬剤としてのEVに含まれるeNAMPTを暗示する。
【0087】
本明細書の実施例1~8は、eNAMPTのEV媒介性全身送達が、マウスにおける視床下部、海馬、膵臓、および網膜を含む特定の標的組織における年齢関連の機能低下を緩和し、年齢関連の死亡率を遅延させ、健康寿命および寿命を延長することを示す。この研究における驚くべき所見は、EVに含まれるeNAMPTが標的細胞に内在化され、細胞内でNMN/NAD生合成を増強する一方で、NAMPTタンパク質単独ではそれ自体で内在化することができないことである。これは、哺乳動物におけるeNAMPTの生理学的重要性および機能に関する長年にわたる議論の重要な解決策を提供する。eNAMPTが全身性NAD生合成酵素として機能し、視床下部におけるNAD、SIRT1活性、および神経活性を増強させることができる一方で(Revollo et al.,2007、Yoon et al.,2015)、eNAMPTは炎症促進性サイトカインとしても機能することが報告されている(Dahl et al.,2012)。循環中のeNAMPTは、生理的条件下ではほぼ完全にEVのみに含まれ、またEVに含まれるeNAMPTのみが細胞の細胞質画分に適切に内在化されることを考慮すると、eNAMPTの生理学的関連性および機能は、全身的に、特に視床下部、海馬、膵臓、および網膜などの比較的低レベルのiNAMPTを有する組織において、NMN/NAD生合成を維持することであることが示唆される。eNAMPT含有EVがこれらの組織に特異的に標的化される正確な機構は解明される必要があるが、eNAMPTのこのEV媒介性全身送達は、哺乳動物における全身にわたるNAD恒常性を維持し、かつ老化のプロセスおよび寿命を調節する新規の組織間相互作用機構である。
【0088】
NAMPT媒介性NAD生合成の全身的な低下は、老化中の組織機能を制限する。
哺乳動物において、NAMPTは、ビタミンBの形態であるニコチンアミドから始まる主要なNAD生合成経路における速度制限酵素である。現在では、全身性NAD利用可能性が年齢にわたり劇的に低下し、iNAMPTレベルの年齢関連の低下が多くの組織におけるNAD利用可能性の制限に寄与することが十分に確立されている(Yoshino et al.,2018)。ここで、循環eNAMPTレベルが、マウスおよびヒトの年齢とともに低下し、eNAMPT媒介性NAD生合成に依存する特定の組織におけるNAD利用可能性を制限することを示す。Namptの脂肪組織特異的過剰発現は、循環eNAMPTレベルを維持し、加齢マウスにおける身体活動、睡眠の質、グルコース刺激インスリン分泌、網膜光受容体機能、および認知機能の顕著な増強をもたらす。eNAMPTのこれらの顕著な老化防止効果は、マウスにおける寿命の中央値の延長にも寄与する。加齢ANKIマウスにおいて、炎症および癌リスクを含むeNAMPTのいかなる有意な副作用も観察されず、炎症促進性サイトカインとしてのeNAMPTの提案された主要機能に反論した。
【0089】
循環eNAMPTレベルは年齢とともに低下するため、時間の経過とともに組織の機能的恒常性を維持するためには、高レベルの循環eNAMPTを維持する個体の能力が重要でなければならず、これが各個体の健康寿命を決定する可能性が高い。小規模前向き研究の結果は、この概念に対する説得力のある支持を提供し、循環eNAMPTレベルと残存寿命との間に有意な相関関係を示す。脂肪組織からのeNAMPT分泌がNAD/SIRT1依存的様式で調節されることを考えると(Yoon et al.,2015)、脂肪NADのリザーバーおよび/またはターンオーバーは、eNAMPTレベルを循環させ、それによって寿命のための重要な決定因子であり得る。興味深いことに、食事制限による寿命延長の効果は、中間年齢および後期年齢で測定された脂肪の低減と逆相関していることが報告されており、脂肪に関連するある特定の因子が、食事制限下での生存および寿命延長に重要であることを示唆する(Liao et al.,2011)。この結果に基づいて、脂肪組織から分泌されるeNAMPTが、食事制限の遅延した老化および寿命延長効果の顕著な要因であるかどうかを調べることが非常に興味深いであろう。
【0090】
eNAMPTの遺伝子補充は、老化を遅延させ、マウスにおける健康寿命を延長する。
加齢ANKIマウスは、視床下部、海馬、膵臓、および網膜におけるNADレベルおよび組織機能の顕著な増強を示す。以前に、NAMPT媒介性NAD生合成およびNAD依存性サーチュインが、これらの組織機能の調節において重要な役割を果たすことを示した。視床下部において、NAD/SIRT1シグナル伝達は、老化のプロセスを制御し、寿命を決定するのに重要である(Satoh et al.,2013)。海馬において、NAMPTは、興奮性ニューロン(Stein et al.,2014)、特にCA1領域のニューロン(Johnson et al.,2018)の機能において重要な役割を果たす。膵臓β細胞において、NAMPTおよびSIRT1は、グルコース刺激インスリン分泌を調節するために重要である(Moynihan et al.,2005、Revollo et al.,2007)。網膜において、NAMPTおよびミトコンドリアサーチュインSIRT3/5は、桿体および錐体光受容体ニューロンの機能に不可欠である(Lin et al.,2016、Mills et al.,2016)。これらの組織は、NAD低下に対して最も脆弱な組織のグループを表す可能性が最も高い。eNAMPTもまた、適切なNAD生合成を維持するために標的化される他の組織が存在し得る。脂肪組織が循環eNAMPTの主要な供給源であることを考慮すると(Yoon et al.,2015)、EV媒介性eNAMPT送達を通じて脂肪組織と他の組織との間の組織間相互作用をさらに解明することが重要であろう。
【0091】
興味深いことに、加齢ANKIマウスの表現型は、加齢BRASTOマウスの表現型と重複する(Satoh et al.,2013)。特に、ANKI加齢およびBRASTOマウスの両方において、輪走活動および睡眠の質の強化が観察される。これらの表現型と一致して、これらの表現型を担う2つのSIRT1標的遺伝子であるOx2rおよびPrdm13の視床下部発現レベル(Satoh et al.,2013、Satoh et al.,2015)は、両方のマウスモデルにおいて著しく増加される。それにもかかわらず、BRASTOマウスは、寿命の中央値および最大寿命の延長の両方を呈するが、ANKIマウスは、寿命の中央値の延長のみを示す。BRASTOマウスとANKIマウスとの間のこの不一致は、視床下部ニューロンにおけるSIRT1のレベルが、主にそれらの機能の最大レベルを決定し、それによって最大寿命を制限する一方で、循環eNAMPTのレベルが視床下部ニューロン機能の程度を調節し、それによって寿命の中央値を変化させるという興味深い可能性を示唆する。eNAMPT含有EVの連続補充が、加齢マウスの寿命の中央値および最大寿命を延長することを考えると、ANKIマウスにおけるeNAMPTの効果は、脂肪組織質量の低減によって老化の非常に後期の段階で阻害され得る。
【0092】
実施例9
一次ニューロンをE16でマウス胚から単離し、以下の添加剤の示される組み合わせを含む神経基底培地(NB)で、インビトロで7日後に処理した。未処理-ニューロンを、B27、N2、およびグルタミン補充を含む標準的な神経基底培養培地に残した;NB-添加剤なしの神経基底;200μl EV-200μlのマウス血漿から抽出したEV、FK866(10nM)-NAMPT阻害剤;NMN-250μMのニコチンアミドモノヌクレオチド(NAD+前駆体);SN-EV抽出後に血漿から回収した上清血清、1/2の比率でNBと組み合わせた。NAD/NADH-Glo蛍光キットにより、30分間の適用可能な処置の後にNAD+レベルを測定した。図14は、細胞外小胞(EV)に含まれるeNAMPTの処置による、培養した初代マウス海馬ニューロンにおけるNAD+生合成の誘導を示す。栄養枯渇したNBのみの培地で培養されたニューロンではNAD+レベルが減少し、EVの補充によって部分的に救済された効果がある。これらのデータは、EVがニューロンNAD+含有量を増加させるのに十分であることを示す。この増加は、FK866処置で遮断され、EV処置によって誘導されるNAD+の増加がNAMPTに依存することを示唆する。
【0093】
初代海馬グリア培養物をp2仔から単離し、振盪して接着性の低いミクログリアを除去した。マウス血漿から単離したEVを、スフィンゴ脂質色素Bodipy-TR-セラミドで標識した。アストロサイト濃縮培養物を、これらの標識されたEVで30分間処理し、続いて、アストロサイトマーカーGFAPの固定および免疫蛍光染色を行う。図15は、初代マウスGFAP+アストロサイトにおける低レベルのEV取り込み、およびGFAP細胞におけるより実質的なEV取り込みを示す。低レベルのBodipy色素は、GFAP+アストロサイト(白色の矢印)において観察することができ、アストロサイトによるある程度のEVの取り込みを示す。しかしながら、より実質的な染色は、GFAP細胞において明らかに見られ、そのいくつかは明らかなミクログリア形態を示す(白色の矢印)。これらのデータは、アストロサイトがEVを取り込むことができるが、EVに対するアストロサイトの親和性が他の細胞型よりも低い場合があることを示す。
【0094】
図16は、ミクログリアによる顕著なEVの取り込みを示す。アストロサイト濃縮培養物から振盪した原発性マウス海馬ミクログリア細胞(図15を参照されたい)を再播種し、同様にBodipy標識EVで処理した。ミクログリアマーカーIBA1の免疫蛍光標識でのBodipyシグナルの一貫した共局在化は、原発性ミクログリアによるかなりのEVの取り込みを示す。これらのデータは、少なくとも培養物において、ミクログリアがEV取り込みに対する高い親和性を有することを示唆する。
【0095】
本発明の要素またはその好ましい実施形態を紹介する場合、冠詞「a」、「an」、「the」、および「said」は、要素のうちの1つ以上が存在することを意味することが意図される。「含む(comprising)」、「含む(including)」、および「有する(having)」という用語は、包括的であることが意図されており、列挙されている要素以外の追加の要素が存在し得ることを意味する。
【0096】
以上のことから、本発明のいくつかの目的が達成され、他の有利な結果が達成されることが分かるであろう。本発明の範囲から逸脱することなく、上記の方法、プロセス、および組成物において様々な変更を行うことができるため、上記の説明に含まれ、かつ添付の図面に示されるすべての主題は、例示として解釈されるべきであり、限定的な意味で解釈されるべきではないことが意図される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図7H
図7I
図7J
図7K
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図11E
図11F
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図13A
図13B
図13C
図13D
図13E
図13F
図13G
図14
図15
図16
【国際調査報告】