IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツングの特許一覧

特表2022-541743ぼけを除去するための局所的長さスケールを使用した信号処理装置および方法
<>
  • 特表-ぼけを除去するための局所的長さスケールを使用した信号処理装置および方法 図1
  • 特表-ぼけを除去するための局所的長さスケールを使用した信号処理装置および方法 図2
  • 特表-ぼけを除去するための局所的長さスケールを使用した信号処理装置および方法 図3
  • 特表-ぼけを除去するための局所的長さスケールを使用した信号処理装置および方法 図4
  • 特表-ぼけを除去するための局所的長さスケールを使用した信号処理装置および方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-27
(54)【発明の名称】ぼけを除去するための局所的長さスケールを使用した信号処理装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G06T 5/00 20060101AFI20220916BHJP
   G10L 21/0208 20130101ALI20220916BHJP
【FI】
G06T5/00 710
G10L21/0208 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022501010
(86)(22)【出願日】2020-07-08
(85)【翻訳文提出日】2022-02-24
(86)【国際出願番号】 EP2020069224
(87)【国際公開番号】W WO2021005098
(87)【国際公開日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】19185002.3
(32)【優先日】2019-07-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.HDMI
(71)【出願人】
【識別番号】511079735
【氏名又は名称】ライカ マイクロシステムズ シーエムエス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Leica Microsystems CMS GmbH
【住所又は居所原語表記】Ernst-Leitz-Strasse 17-37, D-35578 Wetzlar, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フローリアン ツィーシェ
(72)【発明者】
【氏名】カイ ヴァルター
【テーマコード(参考)】
5B057
【Fターム(参考)】
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA16
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CE02
5B057CE03
5B057DB02
5B057DB09
5B057DC30
(57)【要約】
本発明は、デジタル入力信号(I(x))のぼけを除去するための信号処理装置および方法に関する。本信号処理装置および本方法は、局所信号分解能(FRC)と局所信号対雑音比(SNR)とのうちの少なくとも1つから複数の局所的長さスケール(l,l(x),λ)を計算し、かつそれぞれが入力信号の少なくとも1つのサンプル点(x)を含む、デジタル入力信号の異なるロケーション(I(x))における複数の局所的長さスケールの各局所的長さスケールを計算し、複数の局所的長さスケールに基づいて、局所的長さスケールよりも大きいデジタル入力信号の信号構造を表す、入力信号の少なくとも1つのベースライン推定値(f(x,l),f(x,l(x)))を計算し、(a)ベースライン推定値と、(b)デジタル入力信号およびベースライン推定値とのうちの1つに基づいて、デジタル出力信号(O(x))を計算するように構成されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル入力信号(I(x))のぼけを除去するための信号処理装置であって、前記信号処理装置は、
-局所信号分解能(FRC)と局所信号対雑音比(SNR)とのうちの少なくとも1つから複数の局所的長さスケール(l,l(x),λ)を計算し、それぞれが入力信号の少なくとも1つのサンプル点(x)を含む、前記デジタル入力信号の異なるロケーション(I(x))における前記複数の局所的長さスケールの各局所的長さスケールを計算し、
-前記複数の局所的長さスケールに基づいて、前記局所的長さスケールよりも大きいデジタル入力信号の信号構造を表す、前記入力信号の少なくとも1つのベースライン推定値(f(x,l),f(x,l(x)))を計算し、
-(a)前記ベースライン推定値と、(b)前記デジタル入力信号および前記ベースライン推定値と、のうちの1つに基づいて、デジタル出力信号(O(x))を計算するように構成されている、
信号処理装置。
【請求項2】
前記信号処理装置は、
-フーリエリング相関に基づいて、前記各局所的長さスケール(l,l(x),λ)を計算するように構成されている、
請求項1記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記信号処理装置は、
-局所的信号対雑音比(SNR(x))に基づいて、前記局所的長さスケール(l,l(x),λ)を計算するように構成されている、
請求項1または2記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記信号処理装置は、
-複数のサンプル点(x)を含むロケーション(I(x))における複数の局所的長さスケール(l(x),λ)の各局所的長さスケールを計算するようにさらに構成されている、
請求項1から3までのいずれか1項記載の信号処理装置。
【請求項5】
前記信号処理装置は、
-各サンプル点(x)における前記局所的長さスケール(l(x),λ)を計算するために、複数のサンプル点(x)を含むロケーション(I(x))において計算された前記局所的長さスケール(l)を補間するようにさらに構成されている、
請求項4記載の信号処理装置。
【請求項6】
前記信号処理装置は、
-前記デジタル入力信号(I(x))の前記各サンプル点(x)における局所的長さスケール(l(x),λ)を計算し、
-前記デジタル入力信号の各サンプル点における局所的長さスケール(l(x))に基づいて、ベースライン推定値(f(x,l(x)))を計算する、
ように構成されている、
請求項1から3までのいずれか1項記載の信号処理装置。
【請求項7】
前記信号処理装置は、
-前記デジタル入力信号(I(x))の複数のベースライン推定値(f(x,l))を計算するように構成されており、各ベースライン推定値は、異なる一定の局所的長さスケール(l,λ)に基づく、
請求項1から4までのいずれか1項記載の信号処理装置。
【請求項8】
前記信号処理装置は、
-前記異なる一定の局所的長さスケール(l,λ)に基づく前記複数のベースライン推定値(f(x,l))からさらなるベースライン推定値(f(x,l(x)))を計算するように構成されている、
請求項5記載の信号処理装置。
【請求項9】
前記信号処理装置は、
-複数の中間出力信号(J(x))を得るために、前記デジタル入力信号(I(x))から前記異なる一定の局所的長さスケール(l,λ)に個別に基づく前記複数のベースライン推定値(f(x,l))の各々を除去し、
-前記複数の中間出力信号の組み合わせに基づいて、前記デジタル出力信号(O(x))を得る、
ように構成されている、
請求項7記載の信号処理装置。
【請求項10】
前記信号処理装置は、
-整合サンプル点(x)において前記デジタル出力信号(O(x))を計算するために、前記各サンプル点(x)において少なくとも2つの中間出力信号(J(x))を補間するように構成されている、
請求項9記載の信号処理装置。
【請求項11】
前記信号処理装置は、
-前記局所的長さスケール(l,l(x),λ)が表される正則化を使用してベースライン推定値を計算するように構成されている、
請求項1から10までのいずれか1項記載の信号処理装置。
【請求項12】
前記局所的長さスケールは、最小二乗最小化規範に含まれる、
請求項1から11までのいずれか1項記載の信号処理装置。
【請求項13】
前記局所的長さスケールは、前記最小二乗最小化規範のペナルティ項に含まれ、前記ペナルティ項は、前記ベースライン推定値の導関数を含む、
請求項12記載の信号処理装置。
【請求項14】
デジタル入力信号(I(x))のぼけを除去するための信号処理方法であって、
前記信号処理方法は、好適には、請求項1から12までのいずれか1項記載の信号処理装置を動作させるように、または請求項13記載の観察装置を動作させるように構成されており、
前記信号処理方法は、以下のステップ、すなわち、
-局所的信号分解能(FRC)と局所的信号対雑音比(SNR)とのうちの少なくとも1つから複数の局所的長さスケール(l,l(x),λ)を計算するステップであって、複数の局所的長さスケールの各局所的長さスケールは、前記デジタル入力信号の異なるロケーション(I(x))において計算され、各異なるロケーションは前記入力信号の少なくとも1つのサンプル点(x)を含むステップと、
-前記複数の局所的長さスケールに基づいて、前記局所的長さスケールよりも大きい前記デジタル入力信号の信号構造を表す、前記入力信号の少なくとも1つのベースライン推定値(f(x,l),f(x,l(x)))を計算するステップと、
-(a)前記ベースライン推定値と、(b)前記デジタル入力信号および前記ベースライン推定値と、のうちの1つに基づいて、デジタル出力信号(O(x))を計算するステップと、
を含む信号処理方法。
【請求項15】
コンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムがプロセッサ上で実行されるときに、請求項14記載の信号処理方法を実行するためのプログラムコードを備えた、コンピュータプログラム。
【請求項16】
非一過性のコンピュータ可読媒体であって、請求項14記載の信号処理方法をコンピュータに実行させるコンピュータプログラムを格納している、非一過性のコンピュータ可読媒体。
【請求項17】
ニューラルネットワークデバイスであって、複数のデジタル入力信号(I(x))と、前記デジタル入力信号から請求項14記載の方法によって生成された複数のデジタル出力信号(O(x))のうちの少なくとも1つと、によってトレーニングされたニューラルネットワークデバイス。
【請求項18】
デジタル出力信号(O(x))であって、請求項14記載の信号処理方法の結果である、出力信号(O(x))。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル入力信号を強調するための信号処理装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録システムを使用して信号を記録する場合、点状のソースに対する記録システムの非理想的な応答によって、例えば記録システムが画像化システムである場合、そのインパルス応答またはシステム応答によって記述される付加的なノイズが生成される。これは、信号が、レーダー信号または音響信号などの時間依存性の信号であるのかどうか、または場所依存性の信号であるのかどうかには依存しない。信号の次元にも依存しない。ノイズおよびアーチファクトは、一次元信号ならびに画像などの二次元信号、あるいは例えば断層撮影画像もしくは複数の色チャネルを有する画像のような三次元データなどの多次元信号に導入される。信号から任意のノイズおよびアーチファクトを除去する装置および方法を提供するために多くの努力が払われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の課題は、信号内のノイズを低減し、それによって、信号品質を改善することができる装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、デジタル入力信号のぼけを除去するための信号処理装置であって、該信号処理装置は、局所的信号分解能と局所的信号対雑音比とのうちの少なくとも1つから複数の局所的長さスケールを計算し、デジタル入力信号の異なるロケーションにおいて複数の局所的長さスケールの各局所的長さスケールを計算し、各異なるロケーションは、入力信号の少なくとも1つのサンプル点を含み、複数の局所的長さスケールに基づいて、局所的長さスケールよりも大きいデジタル入力信号の信号構造を表す、入力信号の少なくとも1つのベースライン推定値を計算し、(a)ベースライン推定値と、(b)デジタル入力信号およびベースライン推定値と、のうちの1つに基づいて、デジタル出力信号を計算するように構成されている、信号処理装置によって解決される。
【0005】
その上さらに、この課題は、デジタル入力信号のぼけを除去するための信号処理方法であって、該信号処理方法は、以下のステップ、すなわち、局所的信号分解能と局所的信号対雑音比とのうちの少なくとも1つから複数の局所的長さスケールを計算するステップであって、複数の長さスケールの各局所的長さスケールは、デジタル入力信号の異なるロケーションにおいて計算され、各異なるロケーションは入力信号の少なくとも1つのサンプル点を含む、ステップと、複数の局所的長さスケールに基づいて、局所的長さスケールよりも大きいデジタル入力信号の信号構造を表す、入力信号の少なくとも1つのベースライン推定値を計算するステップと、(a)ベースライン推定値と、(b)デジタル入力信号およびベースライン推定値とのうちの1つに基づいて、デジタル出力信号を計算するステップと、を含む信号処理方法によって解決される。
【0006】
この課題は、さらに、請求項に記載の方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納している、非一過性のコンピュータ可読媒体によって解決され、コンピュータプログラムがプロセッサ上で実行されるときに、請求項に記載の方法を実行するためのプログラムコードを備えたコンピュータプログラムによって解決され、請求項に記載の方法を実行した結果である出力信号によって解決され、かつ/または入力信号データと、該入力信号データから請求項に記載の方法によって生成された出力信号データと、によってトレーニングされたニューラルネットワークデバイスによって解決される。
【0007】
ノイズ低減は、ベースライン推定値が、特定のロケーションにおける構造に依存する局所的長さスケールを使用して計算され、引き続き除去された場合に改善される。したがって、デジタル入力信号全体の包括的なベースラインを反映するベースライン推定値を計算する代わりに、ベースラインが、入力信号の局所的変動を反映するように局所的に調整される。
【0008】
ほとんどの場合、ベースラインは、大規模な構造を表すデジタル入力信号の滑らかで低周波な成分である。ベースラインによって表されないデジタル入力信号の成分は、通常、小規模な構造の高周波のスパイク状データを含む。ベースラインは未知であるため、推定されなければならない。
【0009】
デジタル入力信号の実際の例として、入力信号は、好適には、デジタル入力画像データ、入力ソナー、音響および/または超音波データ、入力レーダデータ、入力分光法および/またはケプストラを含むスペクトルデータ、入力マイクロ波データ、地震記録データなどの入力振動データ、あらゆる種類の断層撮影の入力断層撮影データおよび証券取引データなどの統計データのうちの1つを含むか、またはそれらから成ることができ、ならびにそれらの任意の組み合わせを含むか、またはそれらから成ることができる。これらの全ては、デジタルデータの整数値配列または実数値配列または複素数値配列であってよい。入力信号は、一次元、二次元、三次元およびN次元のうちの1つであってよく、ここでは、N≧1である。
【0010】
デジタル入力信号としての画像データでは、ベースラインは、焦点の合っていないぼやけた成分を表す場合があるが、焦点の合ったシャープな成分は、ベースラインにないものによって表される。ベースラインは、実際の信号をぼかす他のタイプのノイズを表す場合もある。高周波ノイズが含まれている他の用途では、ベースラインが実際の信号を反映している場合がある。
【0011】
したがって、ベースライン推定値は、入力信号からベースライン推定値を除去するためだけに使用されるのでなく、コンテンツ成分I(x)からベースライン成分I(x)を除去するために使用されてもよい。次いで、これら2つの成分が処理され、最終的に別個に解析されてもよい。例えば、スペクトルデータ、特にハイパースペクトルデータでは、大規模なベースラインスペクトル特徴は、小規模なスペクトル特徴から分離され、独立して検査されてもよい。
【0012】
出力信号は、好適には、デジタル出力画像データ、出力ソナー、音響または超音波データ、出力レーダデータ、出力分光法および/またはケプストラを含むスペクトルデータ、出力マイクロ波データ、地震記録データなどの出力振動データ、証券取引データなどの統計データのうちの1つを含むか、またはそれらから成ることができ、ならびにそれらの任意の組み合わせを含むか、またはそれらから成ることができる。出力信号は、実数値または整数値または複素数値であってもよい。出力信号データは、一次元、二次元、三次元およびN次元のうちの1つであってよい。出力信号データは、さらなる処理のために出力されてもよい。
【0013】
項xは、N個の位置値を含みかつ、サンプル点の配列内の離散位置x(もしくは当該位置に対する位置ベクトル)を表すタプル{x;…;x}の簡易表記である。位置xは、入力信号データを表す配列内のデータまたは好適にはコヒーレントなデータセットによって表されてもよい。離散ロケーションxは、例えば、二次元の入力信号データの場合には、二つ組の離散ロケーション変数{x;x}を表し、三次元の入力信号データの場合には、三つ組の離散ロケーション変数{x;x;x}を表す。i番目の次元では、配列は、M個のロケーション、すなわち、x={xi,1,…,xiMi}を含むことができる。合計で、I(x)は、(M×…×M)個の要素を含むことができる。以下では、具体的なロケーションや具体的な次元については言及しないため、ロケーションは単にxによって示される。表記xは、空間次元および/または時間次元を表すことができる。時間次元と空間次元との組み合わせは、例えば、一連の画像タイムフレームに存在する場合がある。
【0014】
I(x)は、電磁放射または音響の強度を表す値など、ロケーションxにおける任意の値または値の組み合わせであり得る。I(x)は、色空間、例えば、RGB空間における色Rの強度、または2つ以上の色の組み合わせ強度、例えばRGB色空間における(R+G+B)/3を表すことができる。マルチスペクトルカメラもしくはハイパースペクトルカメラによって入力画像として記録された入力信号は、4つ以上のチャネルを含むことができる。他のタイプの入力信号についても同様である。
【0015】
二次元の入力信号または3色のRGBフォーマットの入力画像は、二次元の入力信号データI(x)={I(x);I(x);I(x)}の3つの独立したセットとみなされてもよく、ここで、I(x)は、色Rの強度などの値を表し、I(x)は、色Gの強度などの値を表し、I(x)は、色Bの強度などの値を表す。代替的に、各色は、別個の入力信号を構成し、したがって別個の入力信号データを構成しているものとみなされてもよい。入力信号データが、マルチスペクトルカメラまたはハイパースペクトルカメラを使用して入力画像として記録されている場合には、4つ以上のチャネルが入力信号データによって表されてもよい。各チャネルは、光スペクトルの異なるスペクトルまたはスペクトル範囲を表すことができる。例えば、可視光スペクトルを表現するために4つ以上のチャネルが使用されてもよい。撮像された対象物が、少なくとも1つの蛍光体または少なくとも1つの自家蛍光物質のような蛍光材料を含んでいる場合、各チャネルは、異なる蛍光スペクトルを表すことができる。例えば、複数の蛍光性蛍光体が入力信号内に存在する場合、1つの蛍光体の各蛍光スペクトルは、入力信号の異なるチャネルによって表されてもよい。その上さらに、一方で照明によって選択的にトリガーされた蛍光と、他方でトリガーされた蛍光の副生成物または二次的作用として生成され得る自家蛍光と、については異なるチャネルが使用されてもよい。付加的なチャネルは、NIRおよびIR範囲をカバーすることができる。チャネルは、必ずしも強度データを含んでいなくてもよいが、対象物の画像、例えば位相に関連する他の種類のデータを表すことができる。別の例では、チャネルは、画像内の特定のロケーションにおいてトリガーされた後の蛍光寿命を表す蛍光寿命データを含むことができる。したがって一般的に、入力信号データは、次式の形態を有することができ、
I(x)={I(x);I(x);…;I(x)}
ここで、Cは、入力信号データにおけるチャネルの総数である。好適には、全てのチャネルは、同じ次元を有する。
【0016】
上記の装置および方法は、以下で説明される特徴のうちの1つまたは複数を追加することによってさらに改善されてもよい。以下の特徴のそれぞれは、他の特徴に依存することなく本方法および/または本装置に追加されてもよい。特に、当業者であるならば、本発明の装置を知りながら、本発明の方法が本発明の装置を動作させることができるように本発明の方法を構成することができる。したがって、当業者ならば、本発明の装置が本発明の方法を実行することができるように、本発明の装置を構成することが可能であろう。さらに、以下で説明するように、各特徴は、それ自体で有利な技術的効果を有している。
【0017】
例えば、入力信号中のコンテンツ成分、すなわち、さらなる処理のために分離されるべき成分は、高い空間周波数または時間周波数を有し、例えば、短い距離もしくは時間周期にわたって起こる入力信号の変化の原因であると仮定されてよい。したがって、ノイズ成分は、低い周波数を有するものと仮定され、すなわち、入力信号のより広い領域にわたって拡大する、ほぼ漸進的な強度変化をもたらす。したがって、ノイズ成分は、入力信号のベースラインに反映される。「ノイズ」および「コンテンツ」という用語は、主に2つの成分を区別するために使用される。なお、一部の用途では、「ノイズ」成分が実際に所望の情報を含むが、「コンテンツ」成分は例えばノイズとして無視されるべきことがある点に留意されたい。したがって、ベースライン推定値は、空間領域または周波数領域における小規模または大規模(ベースライン)信号コンテンツのいずれかを抽出および/または除去するために等しく使用することができる。
【0018】
この仮定から出発して、入力信号にわたる変化は、次式のように高周波のコンテンツ成分I(x)と、低周波のノイズ成分I(x)と、に付加的に分離されてよい。
I(x)=I(x)+I(x
【0019】
低い時間周波数もしくは空間周波数のために、ノイズ成分I(x)は、多かれ少なかれ滑らかなベースラインとみなすことができ、その上にコンテンツ成分I(x)が高い周波数の特徴として重畳される。
【0020】
特に画像については、コンテンツ成分からベースライン成分を分離するために考慮されるべき周波数は、空間周波数であってよい。空間周波数の代わりに時間周波数が考慮される場合には、当然ながら同じ考察が適用される。この場合、入力信号は、例えば、スペクトル、ケプストラム、または複数のスペクトルもしくはケプストラムを表すことができる。
【0021】
ベースライン推定値が決定され、したがってI(x)のためのベースライン推定値f(x)が得られたならば、出力信号O(x)は、ベースライン推定値と入力信号とから得られてもよい。特に、出力信号は、次式のようにベースライン推定値を入力信号から減算することによって計算されてもよい。
O(x)=I(x)-f(x
【0022】
出力信号O(x)は、好適には、次元NとM×…×M個の要素とを有する離散デジタルデータ配列によっても表され、したがって、好適には、入力信号および/またはベースライン推定と同じ次元を有する。ベースライン推定値は、N個の次元と(M×…×M)個の要素とを有するハイパーキューブ配列であってもよく、したがって、入力信号と同じ次元を有する。
【0023】
ベースラインは、入力信号に対する当てはめを使用して推定されてもよい。計算上、この当てはめ、すなわちベースライン推定は、離散ベースライン推定値f(x)によって表される。
【0024】
1つの実施形態では、本装置は、例えば以下でさらに説明するように、正則化長さスケールを使用してベースライン推定値を計算するように構成されてもよい。例えば、ベースライン推定値は、ティホノフ正則化を使用して計算されてもよい。
【0025】
信号処理装置は、フーリエリング相関を使用して、デジタル入力信号内のロケーションにおける局所的長さスケールを計算するように構成されてもよい。この計算のために使用することができるフーリエリング相関は、例えば文献(Koho, Sami; Tortarolo, Giorgio; Castello, Marco; Deguchi, Takahiro; Diaspro, Alberto; Vicidomini, Giuseppeらによる(2019年))「Fourier Ring Correlation Simplifies Image Restoration in Fluorescence Microscopy(www.biorxiv.org/content/10,1101/535583v1)」に開示されている。
【0026】
フーリエリング相関を計算するために、信号処理装置は、デジタル入力信号を複数のロケーションに分離するように構成されてもよく、各ロケーションは、例えば予め定められたサイズのブロックである。二次元の入力信号の場合では、ロケーションは、例えば、2次元の入力信号の16×16、32×32もしくは64×64、あるいは一般的に2×2のサンプル点もしくは円形領域を含むことができる。N次元の入力信号では、かかるロケーションは、N次元の球体であり得る。ロケーションは重なっていてもよいし、重なっていなくてもよい。また、任意の形状のブロックが使用されてもよい。
【0027】
フーリエリング相関をK個のブロック(Kは整数)に対して計算するならば、K個の局所的長さスケールl,k=1…Kが、各ブロックに対して1つ得られる。これは、次式のように表すことができる。
=FRC(l(x))=FRC
【0028】
フーリエリング相関を計算するために付加的または代替的に、局所的信号対雑音比が、各サンプル点SNR(x)かまたは複数のサンプル点を含むロケーションSNRにおいて計算されてもよい。例えば、信号対雑音比は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる欧州特許出願第18194617.9号明細書、または参照によりその全体が本明細書に組み込まれる国際特許出願PCT/EP2019/051863号明細書に記載されるように、各サンプル点において計算されてもよい。
【0029】
信号対雑音比が大きい場合には、信号対雑音比が小さい場合よりも小さい長さスケールが選択される。信号対雑音比は、計算された信号対雑音比の値範囲を局所的長さスケールの予め定められた値範囲にマッピングすることによって、局所的長さスケールにマッピングさせてもよい。例えば、最小の局所的長さスケールLminおよび最大の局所的長さスケールLmaxが予め定められ、計算された最大信号対雑音比がSNRmaxであり、最小信号対雑音比がSNRminである場合、局所的長スケールは、次式のように計算されてもよい。
l(x)=1/(SNRmax-SNRmin)[Lmax(SNR(x)-SNRmin)-Lmin(SNR(x)-SNRmax)]
【0030】
上記の式において、信号雑音比がK個のロケーションにおいてのみ計算された場合、SNR(x)は、SNRによって置き換えられることになる。最大および最小局所的長さスケールは、以下でさらに説明するように設定されてもよい。
【0031】
局所的長さスケールは、異なる次元において異なっていてもよく、すなわちl=lk,jまたはl(x)=l(x)であってもよく、ここで、インデックスjは、異なる次元を示す。
【0032】
局所的長さスケールの計算から得られる不合理な結果が誤った正則化結果につながることを回避するために、局所的長さスケールまたは同等に正則化長さスケールに対する許容値の範囲が、それぞれLminおよびLmaxとして予め定められていてもよい。例えば、局所的長さスケール/正則化長さスケールは、例えば記録システムのインパルス応答によって決定されるようなデジタル入力信号の分解能の半分よりも小さくならないように予め定められてもよい。最大の長さスケールは、例えば最小の長さスケールの倍数などのように自由に決定されてもよい。
【0033】
局所的長さスケールが最小の長さスケールを下回るか、または最大の長さスケールを超える場合、局所的長さスケールまたはそこから導出される正則化長さスケールの値範囲は、Lmin~Lmaxにわたる範囲にマッピングされてもよい。
【0034】
1つの例として、以下のようなマッピングが使用されてもよい。
【数1】
ここで、nは整数であり、n≧1であり、lk,maxは、lの全ての値の最大値であり、lk,minは、lの全ての値の最小値である。
【0035】
好適には、各サンプル点において局所的長さスケールを得るために、フーリエリング相関から直接得られる局所的長さスケールまたは局所的信号対雑音比の計算の代わりに、局所的長さスケールのマッピングされた値が補間のために使用される。
【数2】
ここでも、nは、任意の正の整数である。局所的長さスケールのn乗の補間は、線形、二次、三次、双次、もしくは高次、またはスプライン補間など任意のタイプが使用されてもよい。
【0036】
次に、ベースライン推定値がどのように計算されてもよいかについて、実施形態を説明する。
【0037】
本装置は、最小二乗最小化規範を使用してベースライン推定値を計算するように構成されてもよい。この最小化規範は、好適には、ベースライン推定値と特徴長さとを含む。特に、最小二乗最小化規範のペナルティ関数は、長さスケールを含むことができる。好適には、この長さスケールは、上述したように局所的長さスケールに設定される。
【0038】
別の実施形態では、最小二乗最小化規範は、長さスケール、特に局所的長さスケールと、ベースライン推定値の少なくとも1つの導関数と、の好適な無次元の組み合わせを含むことができる。この導関数は、好適には、少なくとも1つの次元xに関する導関数または導関数の組み合わせである。
【0039】
1つの特定の例では、この当てはめは、入力信号に対する多項式当てはめであってもよい。特に、ベースライン推定値は、次式のように任意のN次元iにおけるK次多項式によって表されてもよい。
【数3】
ここで、αi,kは、i番目の次元における多項式の係数である。各次元i=1,…,Nに対して、別個の多項式が計算されてもよい。1つの実施形態によれば、多項式当てはめは、入力信号の次元に依存して、複数の次元で同時に行われてもよい。
【0040】
最大多項式次数Kの最適値は、ベースライン推定値に必要な平滑性に依存する。滑らかなベースラインのためには、多項式次数をできるだけ低く設定する必要があるが、非常に不規則な背景の当てはめには、より高い次数が必要になる場合がある。
【0041】
多項式当てはめの場合、ベースライン推定値データは、多項式係数αi,kのみで構成することができる。しかしながら、多項式当てはめは、入力信号データに対して調整を可能にするパラメータのみが最大多項式次数であるため、制御が難しく、正確ではない可能性がある。多項式次数は、整数値しかとることができない。それゆえ、常に最適なベースライン推定値を見つけることができない場合もある。最適でない多項式当てはめは、ベースライン推定値において局所的な最小値を示す場合があり、このことは、厄介なアーチファクトにつながる可能性がある。
【0042】
したがって、別の好適な実施形態によれば、入力信号データに対する当てはめは、スプラインフィット、特に平滑化スプラインフィットであってもよい。スプラインフィットは、通常、多項式当てはめよりも信頼性の高い結果を提供するが、その理由は、例えば平滑性の点で制御がより簡単であり、ノイズに対してもより堅牢であり、また少ないアーチファクトしか生成しないからである。他方で、スプラインフィットは、多項式当てはめよりも計算上より複雑である。
【0043】
ベースライン推定値を計算するために、最小二乗最小化規範が好適には使用され、この最小二乗最小化規範は、当てはめのために最小化されるべきである。最小二乗最小化規範の正確な定式化により、当てはめの特性、したがってベースライン推定値データの特性が決定される。最小二乗最小化規範の不適切な選択は、ベースライン推定値が十分な精度でノイズ成分を表さないことを引き起こす可能性がある。
【0044】
ベースライン推定値データが、入力信号データにおけるノイズもしくはベースライン成分の正確な表現であることを保証し、ベースライン推定値がコンテンツ成分に当てはまることを回避するために、最小二乗最小化規範は、ペナルティ項を含むことができる。このペナルティ項は、高い周波数のコンテンツを有し、したがってコンテンツ成分に属すると考えられる入力信号データの成分を表すなど、ベースライン推定値の望ましくない挙動にペナルティを課すために使用される。
【0045】
1つの実施形態によれば、最小二乗最小化規範M(f(x))は、以下のような形態を有することができる。
M(f(x))=C(f(x))+P(f(x))
ただしC(f(x))は、コスト関数であり、P(f(x))はペナルティ項である。最小二乗最小化規範、コスト関数およびペナルティ項は、好適にはスカラー値である。
【0046】
1つの特定の例では、コスト関数は、入力信号I(x)とベースライン推定値f(x)との間の差分を表す。例えば、次式のようにε(x)が、入力信号とベースライン推定値との間の差分項を表す場合、
ε(x)=I(x)-f(x
コスト関数C(f(x))は、Lノルム||ε(x)||を含むことができ、これは、ここでは、次式のように入力信号とi番目の次元におけるベースライン推定値との間の差分二乗和の全ての次元にわたる二乗平均平方根値の合計の簡略表記として使用される。
【数4】
【0047】
ノルム||ε(x)||は、スカラー値である。コスト関数の1つの例は、次式のような二次差分項である。
C(f(x))=||ε(x)||
【0048】
ベースライン推定値の精度を改善するために、入力信号とベースライン推定値との間の差分を、例えば切断された差分項の使用によって切断すると有利な場合がある。切断された差分項は、入力信号データにおけるピークがベースライン推定値データに与える影響を低減する。そのような低減は、コンテンツ成分がI(x)のピークにあると想定される場合に有効である。切断された差分項のために、ベースライン推定値から予め定められた定数閾値sを超えて逸脱する入力信号データにおけるピークは、閾値に対する当てはめ、特にスプラインフィットに基づく自身のペナルティの切断によって、コスト関数において「無視される」。したがって、ベースライン推定値は、限られた量までしかそのようなピークに従わない。切断された二次式は、対称的であってもよいし、非対称であってもよい。切断された差分項は、以下ではφ(ε(x))によって表される。
【0049】
一部の用途においては、コンテンツ成分は、入力信号における山、例えば画像の輝点のみに含まれているか、または少なくとも主として含まれている場合がある。これは、非対称であり、当てはめ、特にスプラインフィットを、入力信号データにおける山ではなく谷に追従させることができる、切断された二次項を選択することによって反映させてもよい。例えば、非対称の切断された二次式φ(ε(x))は、以下の形態であってもよい。
【数5】
【0050】
他の特定の用途において、谷、すなわち暗い領域または入力信号内の低い値を有する領域もコンテンツ成分としてみなされるべきである場合には、対称的な切断された二次式が非対称の切断された二次式の代わりに使用されてもよい。例えば、対称的な切断された二次式は、以下の形態を有することができる。
【数6】
【0051】
切断された二次式を使用する場合、コスト関数C(f(x))は、好適には、次式のように表してもよい。
【数7】
【0052】
最小二乗最小化規範M(f(x))におけるペナルティ項P(f(x))は、ベースライン推定値がコンテンツ成分I(x)に属するとみなされるデータに当てはまる場合に、ペナルティを導入する任意の形態をとることができる。入力信号におけるコンテンツ成分がベースライン推定値で表される場合、ペナルティ項の値を増加させるペナルティが作成される。
【0053】
例えば、ノイズ成分I(x)が低い空間周波数を有するとみなされることが想定された場合、ペナルティ項は、ベースライン推定値の空間周波数が大きくなると大きくなる項を含むことができる。
【0054】
そのようなペナルティ項は、1つの実施形態では、滑らかなベースラインから逸脱する滑らかでないベースライン推定値データにペナルティを課し、したがって高い空間周波数を有するデータの当てはめに効果的にペナルティを課す粗さペナルティ項であってもよい。
【0055】
特に、ベースライン推定値は、長さスケールを含むペナルティ項を使用して計算されてもよい。この長さスケールは、それより上では入力信号中の特徴がノイズとみなされ、それより下では入力信号中の特徴がコンテンツとみなされる長さスケールを表したものである。例えば、長さスケールが0.01mmに設定されている場合、0.01mmよりも小さいデジタル入力データ内の全ての特徴は、コンテンツとみなされ、したがって、ベースライン推定値に含まれている場合にはペナルティが課せられる。この長さスケールは、正則化長さスケールとして、または正則化長さスケールを計算するために使用されてもよい。
【0056】
別の態様によれば、滑らかなベースラインからの逸脱は、ベースライン推定値の一次導関数、すなわち急勾配もしくは勾配と、二次導関数、すなわち曲率と、のうちの少なくとも1つにおいて値を増加させることにつながる可能性がある。したがって、粗さペナルティ項は、ベースライン推定値の一次空間導関数、特に一次空間導関数の二乗および/または絶対値と、ベースライン推定値の二次導関数、特に二次空間導関数の二乗および/または絶対値と、のうちの少なくとも1つを含み得る。より一般的には、ペナルティ項は、ベースライン推定値のあらゆる任意の次数の空間導関数、またはベースライン推定値の空間導関数のあらゆる線形結合を含むことができる。異なるペナルティ項が、異なる次元で使用されてもよい。
【0057】
1つの実施形態では、ペナルティ項P(f(x))は、その次元の少なくとも1つに関するベースライン推定値f(x)の少なくとも1つの偏導関数と、局所的長さスケールlk,l(x)の関数である正則化長さスケールλと、を含む場合がある。異なる次元に対しては異なる長さスケールが使用されてもよい。したがって、λ=λ(lk,j)またはλ=λ(l(x))である。ここで、lは、ブロックなどの複数のサンプル点における局所的長さスケールを表し、l(x)は、各サンプル点における局所的長さスケールを表す。
【0058】
例えば、粗さペナルティ項P(f(x))は、次式のように形成されてもよい。
【数8】
【0059】
この粗さペナルティ項は、ベースライン推定値の勾配における大きな変化率、すなわち高い曲率にペナルティを課し、したがって、滑らかな推定値に有利である。ここで、
【数9】
は、j番目の次元における二次導関数を計算するための離散演算子である。二次導関数の単位は、(xの単位)-2、すなわち長さ-2または時間-2であるため、長さスケールλは、局所的長さスケールの4乗
【数10】
に設定され、ここで、lは、lかまたはl(x)に対する省略表記であり、それによって、ペナルティ項はスカラー値となる。
【0060】
次式のような一次導関数∂に基づくペナルティ項では、
【数11】
正則化に使用される長さスケールλは、一次導関数の単位が(xの単位)-1であることから、局所的長さスケールの二乗
【数12】
に等しくてよい。
【0061】
次式のような様々な導関数の組み合わせに対して、
【数13】
正則化長さスケールの各々は、局所的長さスケールから各導関数に依存して決定される。上記の例では、次の通りである。
【数14】
【0062】
f(xi,j)、i≠jなどの組み合わされた導関数では、局所的長さスケールの対応する組み合わせ、例えばiおよびj方向の複合微分に対する(l・l)が使用されてもよい。
【0063】
正則化長さスケールは、フーリエリング相関または信号対雑音比の計算から決定された局所的長さスケールをマッピングするための指数として使用され、さらに点ごとの局所的長さスケールを決定するための指数として使用される整数nを決定することができる。好適には、この指数nは、正則化長さスケールにおける局所的長さスケールの指数に対応している。
【0064】
離散においては、畳み込みを使用して微分が効率的に計算されてよい。例えば、次式
【数15】
では、以下のような二階微分行列
【数16】
を有する。
【0065】
しかしながら、粗さペナルティ項P(f(x))は、次式のように形成されるのが有利である。
【数17】
【0066】
これは、ベースライン推定値における小さなスケールの特徴および大きな勾配にペナルティを課す粗さペナルティ項である。jにわたる合計は、異なる次元において異なるペナルティ項を使用することができる。ここでは、xおよびf(x)はどちらも離散的であるので、微分配列∂を用いた畳み込みによって微分を実行することができる点に留意されたい。演算子∂は、次元jにおける離散一次導関数または勾配演算子を表し、これは、配列によって表されてもよい。
【0067】
ベースライン推定値の導関数または導関数の線形結合の代わりに、またはそれに加えて、ペナルティ項は、特徴抽出フィルタ、特に線形フィルタまたはそのようなフィルタの線形結合を含めることができる。特徴抽出フィルタは、Sobelフィルタ、Laplaceフィルタおよび/またはFIRフィルタ、例えば、高い空間周波数用の通過帯域を有するハイパスまたはバンドパス空間フィルタであってもよい。
【0068】
そのような一般的な定式化では、j番目の次元に対するペナルティ項は、一般的な演算子ζ(j)を含むことができ、次式のように表されてよい。
【数18】
ここでも、λは、ζ(j)に含まれる単位の逆を表している。特に、正則化長さスケールλは、局所的長さスケールlの関数、λ=g(l)であってもよい。より具体的には、正則化長さスケールは、局所的長さスケールlの線形関数、二次関数、またはより一般的には多項式関数であってよい。
【0069】
最小二乗最小化規範M(f(x))は、既知の方法を使用して最小化されてもよい。1つの例では、好適には、反復二次もしくは半二次最小化スキームが使用されてもよい。最小化を実行するために、ベースライン推定器エンジンは、最小化エンジンを含むことができる。最小化は、2つの反復ステージを有する反復機構を含むことができる。
【0070】
最小化スキームは、例えば、計算上効率的なLEGENDアルゴリズムの少なくとも一部を含むことができる。LEGENDアルゴリズムについては、(Idier,J.(2001年))「Convex Half-Quadratic Criteria and Interacting Variables for Image Restoration」(IEEE Transactions on Signal Processing,10(7)、1001-1009頁)、および(Mazet,V.、Carteret,C.、Bire,D、Idier,J.、およびHumbert,B(2005年))「Background Removal from Spectra by Designing and Minimizing a Non-Quadratic Cost Function」(Chemometrics and Intelligent Laboratory Systems、76、121-133頁)に記載されている。両記事は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0071】
LEGENDアルゴリズムは、好適には、入力信号データと同じ次元である離散補助データd(x)を導入する。これらの補助データは、最新の初期ベースライン推定値、切断された二次項および入力信号データに依存して各反復において更新される。
【0072】
LEGENDアルゴリズムでは、コスト関数のみを含みペナルティ項は含んでいない最小二乗最小化規範が、収束基準が満たされるまで、2つの反復ステップを使用して最小化される。
【0073】
適切な収束基準は、例えば、全てのロケーションxにわたる現在のベースライン推定値と先行のベースライン推定値との間の差分の合計が、予め定められた閾値よりも小さいことであってもよい。
【0074】
さらなる改善において、収束基準は、次のように表されてもよい。
【数19】
ただし、tはユーザーによって設定されてよいスカラー収束値である。
【0075】
LEGENDアルゴリズムにおける開始ステップとして、ベースライン推定データの初期セットが定義される。
【0076】
LEGENDアルゴリズムは、多項式当てはめが使用される場合に、第1のベースライン推定値
【数20】
のための係数αの開始セットを、i=1,…,Nの多項式の各々について選択することによって開始されてよい。
【0077】
スプラインフィットが使用される場合、LEGENDアルゴリズムを開始するための初期条件はd(x)=0,f(x)=I(x)であってよく、反復は、第2の反復ステップにおいて入力することによって開始される。
【0078】
第1の反復ステップでは、補助データは、以下のように更新されてもよい。
【数21】
ここで、l=1…Lは、現在の反復のインデックスであり、αは選択可能な定数である。好適には、αは、0.5に近いが0.5ではない。αの適切な値は、0.493である。混乱を避けるために、反復インデックスは括弧に入れてある。
【0079】
第2の反復ステップでは、ベースライン推定値f(l)(x)が、先行して計算された補助データd(l)(x)、先行の反復l-1からのベースライン推定値f(l-1)(x)およびペナルティ項P(x)に基づいて更新される。
【0080】
ベースライン推定値f(l)(x)は、補助データを含めることによって、LEGENDアルゴリズム用に修正された最小化規範M(f(x))を最小化することであってもよい。
【0081】
特に、更新されたベースライン推定値データは、第2の反復LEGENDステップにおいて、以下のような式を使用して計算されてもよい。
【数22】
ここで、[||I(x)-f(l-1)(x)+d(l)(x)||+P(f(x))]は、修正された最小化規範を表す。
【0082】
第2の反復ステップでは、以下のような行列計算を使用してベースライン推定値データを更新することができる。
【数23】
ここで
【数24】
は、(M×…×M次元配列である。二次元の場合、Aは(M-1)(M-1)×M配列であり、これは以下のように、
【数25】
として与えられ、
【数26】
を伴う。
【0083】
(l)(x)およびf(l)(x)を更新するための2つの反復ステップは、収束基準が満たされるまで繰り返される。
【0084】
別の態様によれば、LEGENDアルゴリズムの第2のステップは、行列計算の代わりに畳み込みを使用して修正される。これにより、計算労力が大幅に軽減される。
【0085】
より具体的には、好適には、更新されたベースライン推定値f(l)(x)は、入力信号と更新された補助データとの合計を用いてグリーン関数を畳み込むことによって直接的に計算される。
【0086】
より具体的な態様によれば、LEGENDアルゴリズムの第2の反復ステップは、以下のような反復ステップによって置き換えられてもよく、ここでは、更新されたベースライン推定値データf(l)(x)が、以下のようにグリーン関数G(x)を使用してl番目の反復において計算される。
(l)(x)=G(x)*(I(x)+d(l)(x))
【0087】
このステップにより、従来のLEGENDアルゴリズムと比較して、計算負荷が大幅に軽減される。
【0088】
計算負荷の軽減は、上記の第2の反復ステップに従って、畳み込みが計算されるということから結果として生じる。この計算は、FFTアルゴリズムを使用して効率的に実行することができる。その上さらに、第2の反復ステップは、FFTアルゴリズムのために、グラフィックス処理ユニットまたはFPGA等の配列プロセッサを最大限に使用することができる。入力信号データとその他の全ての配列とが二次元である場合、計算上の問題は、(M×MからM×Mへ軽減される。一般的なN次元の場合には、計算負荷は、(M×…×M次元行列計算から、(M×…×M)次元配列を用いたFFTの計算へ軽減される。
【0089】
したがって、ベースライン推定値の除去は、二次元の入力信号データに対して、非常に迅速に、好適にはリアルタイムで実行されてもよい。(2k×2k)データ配列では、ベースライン推定値の除去は、50ms以下で実行されてもよい。
【0090】
1つの特定の実施形態では、グリーン関数は、以下の形態を有することができる。
【数27】
ここで、F[…]は、離散N次元フーリエ変換であり、F-1[…]は、逆離散N次元フーリエ変換であり、λは、粗さペナルティ項の長さスケールを表し、
【数28】
は、ロケーションmでのi番目の次元における離散ペナルティ配列であり、Nは、次元の総数である。上方のインデックスD(j)は、各次元jに対して異なるペナルティ配列が存在し得ることを示す。
【0091】
好適には、離散ペナルティ配列
【数29】
は、j番目の次元に使用されるペナルティ項P(j)(f(x))の汎関数微分
【数30】
の離散表現に対応する。全ての関数は、離散配列によって表されるので、微分は、次のような畳み込みによって数値的に行うことができる。
【数31】
ここで、
【数32】
は、汎関数微分
【数33】
を計算するための離散配列である。
【0092】
上記のグリーン関数の大きな利点は、任意の形式のペナルティ項P(f(x))が、最小化エンジンにおける第2の反復ステップの高速計算からの恩恵を受けることができる点にある。したがって、グリーン関数を使用する実施形態では、良好なベースライン推定値を得るための任意のペナルティ項が使用されてよい。
【0093】
ペナルティ項の一般式については、次式、
【数34】
の通りであり、前述の配列
【数35】
は、次式
【数36】
によって定義される。ここで、ζ(j)は、ペナルティ項の一般的な演算子であり、*は、N次元畳み込みを表し、▽は、例えば強度を表すことができる、関数f(xi,m)における離散的な一次の汎関数微分に対応する。この方程式は、最小二乗法によって解くことができる。
【0094】
例えば、ペナルティ項が次式、
【数37】
の場合、畳み込みにおける微分配列は、次のように表すことができる。
【数38】
【0095】
次に、例えばフーリエリング相関によって得られたものとしての複数の局所的長さスケールlを、改善されたベースライン推定値または改善された出力信号を計算するためにどのように使用することができるかについて、実施形態を説明する。
【0096】
例えば補間によってlから得るなどして局所的長さスケールl(x)を使用することにより、ベースライン推定値は、次式を用いてペナルティ項の一般定式化を直接使用して計算されてもよい。
【数39】
ここで、ロケーションxi,mにおける長さスケールλ(xi,m)は、局所的長さスケールl(x)の関数であり、したがって、現在のサンプル点の関数、すなわちλ=λ(l(x))=λ(x)であり、これにより、ペナルティ項は、上記で説明したように、スカラー値である。以下では、点ごとの局所的長さスケールl(x)を使用して得られたベースライン推定値を、f(x,l(x))または省略的にf(x)と称する。
【0097】
局所的長さスケールに基づいて、ベースライン推定値f(x,l(x))を効率的に計算するために、LEGENDアルゴリズムは、ベースライン推定値の任意のm次導関数を使用して、正則化長さスケールを局所的長さスケールλ(x)=l(x2mに設定することに使用してもよい。例えば、LEGENDアルゴリズムの第2のステップは、以下のように再定式化されてもよい。
【数40】
ここで、
【数41】
はアダマール積であり、次式、
【数42】
は、各サンプル点における局所的長さスケールl(x)を考慮するための正則化行列である。
【0098】
グリーン関数に基づくベースライン推定値のより迅速な修正を使用するために、LEGENDアルゴリズムにおいてλ(x)または同等にl(x)を直接使用するのとは異なるアプローチを採用してもよい。
【0099】
例えば、ベースライン推定値は、定数λを用いて、すなわち、全てのサンプル点において同じであるが、各方向jで異なる可能性がある局所的長さスケールを用いて計算されてもよい。次いで、この計算は、異なる一定の局所的長さスケール、すなわちλの異なる値の各々に対して繰り返し行うことができる。その結果として、各々が異なる一定の局所的長さスケールに基づく、異なるベースライン推定値f(x)の配列が得られる。異なる局所的長さスケールが存在するのと同じくらい多くの異なるベースライン推定値を計算する必要がある。これには計算コストがかかるので、代替的に、lまたは同等にλのN個の値のセットを計算してもよい。ただし、Nは、サンプル点の数よりも小さい。次いで、異なるベースライン推定値のセットが、N個の異なる一定の局所的長さスケールに対してのみ計算される。そのようなベースラインは、f(x,l)として、または省略してf(x)として表してもよい。このアプローチを使用することにより、使用される異なる一定の局所的長さスケールの数を10以下に低減できる場合がある。
【0100】
ベースラインが所望の信号コンテンツを得るためにデジタル入力信号から除去されるべき場合には、複数の中間出力信号J(x)を得るために、別個のベースライン推定値f(x)の各々が、次式のようにデジタル入力信号から別個に除去されてもよい。
(x)=I(x)-f(x),n=1…N
【0101】
局所的長さスケールが各サンプル点において反映されている出力信号を得るために、本信号処理装置は、以下のように各サンプル点において中間出力信号を補間するように構成されてもよい
【数43】
ここでも、任意のタイプの補間が使用されてよい。好適には、これらの中間出力信号のみが、このサンプル点に対して計算された局所的正則化長さスケールに最も近いサンプル点での出力信号の補間に使用される。
【0102】
例えば、線形補間を使用することにより、
出力画像に到達すべく中間出力信号から出力信号を計算するために、次式
【数44】
が使用されてもよい。ここで、
【数45】
は、正則化において一定の局所的長さスケール
【数46】
を使用して計算された中間出力信号を表し、
【数47】
は、一定の局所的長さスケール
【数48】
を使用して計算された中間出力信号を表す。
【0103】
代替的手段として、単一のベースライン推定値を、出力画像および中間出力画像について上述したのと同じやり方で、各サンプル点における補間により、一定の局所的長さスケールに基づく複数のベースライン推定値から計算してもよい。より具体的には、単一のベースライン推定値は、以下のように補間により、複数のベースライン推定値から計算されてもよい。
【数49】
【0104】
線形補間を使用する場合、ベースライン推定値は、以下のように計算することができる。
【数50】
ここで、
【数51】
は、一定の局所的長さスケール
【数52】
を使用して計算されたベースライン推定値を表し、
【数53】
は、一定の局所的長さスケール
【数54】
を使用して計算されたベースライン推定値を表す。次いで、出力信号は、例えば次式のような減算により、入力信号から当該ベースライン推定値を除去することによって計算されてもよい。
O(x)=I(x)-f(x
【0105】
局所的長さスケールの値範囲から正則化のために低減されたN個の局所的長さスケールのセットを選択するために、同様に離間されたN個の局所的長さスケールが計算されてもよい。これは、例えば、ここで次式のような線形補間を使用して行うことができる。
λ=[(λmax-λmin)/(N-1)]n+λmin
【0106】
線形補間を使用する代わりに、N個の正則化長さスケールは、特定の長さスケールが入力信号においてより頻繁に発生する領域内では、より少なく離間されるように計算されてもよい。例えば、N個の正則化長さスケールは、分位数に基づいて計算されてもよい。
【0107】
本装置は、記憶セクションを含むことができる。この記憶セクションは、入力信号、出力信号、1つまたは複数のベースライン推定値および中間出力信号のうちの少なくとも1つを、少なくとも一時的に格納するように構成されてもよい。
【0108】
本装置は、信号入力セクションを含むことができ、この信号入力セクションは、例えば、1つまたは複数の標準コネクタおよび/またはHDMI、USB、RGB、DVIなどの1つまたは複数の標準化されたデータ交換プロトコルを含むことができる。信号入力セクションは、1つまたは複数の標準コネクタおよび/または1つまたは複数のデータ交換プロトコルを介して、入力信号を受信するように適合されてもよい。例えば、記憶デバイスおよび/またはカメラなどのセンサが、信号入力セクションに接続されてもよい。
【0109】
本装置は、信号出力セクションを含むことができ、この信号出力セクションは、例えば1つまたは複数の標準コネクタおよび/またはHDMI、USB、RGB、DVIなどの1つまたは複数の標準化されたデータ交換プロトコルを含む。信号出力セクションは、1つまたは複数の標準コネクタおよび/または1つまたは複数のデータ交換プロトコルを介して、出力信号を出力するように適合されてもよい。例えば、別のコンピュータ、ネットワークおよび/またはディスプレイが、信号出力セクションに接続されてもよい。
【0110】
本装置は、信号プロセッサをさらに含むことができ、この信号プロセッサは、ベースライン推定値を計算するように構成されてもよい。
【0111】
信号処理装置は、ベースライン除去セクションを含むことができる。このベースライン除去セクションは、出力信号を計算するために、入力信号から例えばベースライン推定値などのベースライン成分を除去する、特に減算するように適合されてもよい。一部の用途では、コンテンツ成分が入力信号の低周波成分内に存在することを想定した場合、ベースライン推定値は、既にコンテンツ成分を表すことができる。この場合、入力信号からベースライン推定値を除去する必要はない。むしろ、ベースライン推定値は、表示またはさらなる処理のために直接的に出力されてもよい。
【0112】
信号プロセッサは、ベースライン推定エンジンを含むことができる。このベースライン推定エンジンは、入力信号の少なくとも1つのサブセットに対する当てはめによってベースライン推定値を計算するように構成されてもよい。ベースライン推定エンジンは、最小二乗最小化規範(M(x))の離散表現を含むことができる。
【0113】
信号プロセッサ、ベースライン推定エンジン、ベースライン除去セクションおよび最小化エンジンは、それぞれ、ハードウェアで、ソフトウェアで、またはハードウェアとソフトウェアとの組み合わせとして実装されてもよい。例えば、信号プロセッサ、ベースライン推定器エンジン、ベースライン除去セクションおよび最小化エンジンのうちの少なくとも1つは、少なくとも部分的に、サブルーチン、CPUなどの汎用プロセッサおよび/またはCPU、GPU、FPGA、ベクトルプロセッサおよび/またはASICなどの専用プロセッサのセクションによって、実施することができる。
【0114】
本装置および本方法の上記の任意の実施形態を実施する別のやり方は、入力信号データおよび出力信号データの二つ組を使用して人工ニューラルネットワーク、例えば畳み込みニューラルネットワークをトレーニングすることであり、ここで、出力信号データは、上述した方法の実施形態を使用して生成されたものである。このようにトレーニングされたニューラルネットワークデバイスは、入力信号データおよび出力信号データのトレーニングペアを生成するために使用された方法の実装とみなすことができる。
【0115】
入力信号I(x)が事前に畳み込みまたは逆畳み込みされない場合には、ベースラインの計算および/または除去が最良の結果を提供する点に留意されたい。
【0116】
次に、1つの実施形態を、図面にも示されているサンプルの実施形態を使用して単なる例としてさらに説明する。図面では、機能および設計のうちの少なくとも1つに関して相互に対応する特徴には、同じ参照符号が使用されている。
【0117】
添付の実施形態に示された特徴の組み合わせは、説明のみを目的としており、変更することができる。例えば、特定の用途には不要である技術的効果を有する実施形態の特徴は省かれてよい。同様に、実施形態の一部として示されていない特徴が、この特徴に関連する技術的効果が特定の用途のために必要とされる場合には、追加されてもよい。
【0118】
上記から明らかであるように、任意のタイプの画像データが使用されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0119】
図1】入力信号におけるノイズを低減するための装置の1つの実施形態の概略図である。
図2】入力信号データ、入力信号におけるコンテンツ成分、入力信号におけるノイズ成分、ベースライン推定値データおよび出力信号データの概略図である。
図3】局所的長さスケールに基づいてベースライン推定値および/または出力信号を計算する概略的なフローチャートを示す図である。
図4】入力信号におけるベースライン除去を計算するフローチャートの概略図である。
図5図4の細部Vを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0120】
図1を始めに参照して信号処理装置1の構造および機能を説明する。
【0121】
この装置1は、観察デバイス2、特に、内視鏡または顕微鏡2aなどの医療用もしくは実験用の観察デバイス、または空撮用もしくは天体観測用のデバイスなど、高品質の画像を捕捉するように構成された任意の他のデバイスによって構成されていてもよい。単に説明のために、装置1の例として顕微鏡2aが示されている。以下の実施形態の説明の目的について、内視鏡との間または顕微鏡との間に違いはない。
【0122】
装置1は、記録システム4を含むことができ、この記録システム4は、表示されたデータにおいて画像データの形式である入力信号データ6を捕捉するように適合されている。記録システム4が画像化システムである場合、記録システム4に、例えば、好適にはデジタルフォーマットでデジタル入力画像を記録するように構成されたカメラ8が設けられていてもよい。このカメラは、画像センサ9を含むことができる。カメラ8は、入力信号データ6を複数のチャネル10に記録するCCDカメラ、マルチスペクトルカメラ、またはハイパースペクトルカメラであってよく、ここで、各チャネル10は、好適には例えば赤外線から紫外線までの異なる光スペクトル範囲を表す。以下では、入力信号データ6も入力信号I(x)と表記する。各チャネル10は、別個の二次元画像または信号とみなされてもよい。代替的に、複数のチャネルは、まとめて多次元配列として解釈されてもよい。
【0123】
以下では、入力信号データ6も入力信号I(x)と表記される。
【0124】
もちろん他のタイプの入力信号データ6が、カメラもしくは画像センサ以外のデバイスもしくはセンサ、例えば点検出器、線検出器、フォトンカウンタ、1つまたは複数のマイクロフォン、振動センサ、加速度計、速度センサ、アンテナ、圧力トランスデューサ、温度センサ、容量センサ、磁気センサを用いて記録されてもよく、かつ/または、放射線撮影方式、断層撮影方式、超音波方式、ならびにそれらの任意の組み合わせによって記録されてもよい。
【0125】
RGB色空間で記録するCCDカメラの場合、例えば、対象物12の可視光入力信号を表すために、例えばRチャネル、GチャネルおよびBチャネルの3つのチャネル10が設けられてもよい。マルチスペクトルカメラまたはハイパースペクトルカメラの場合、合計4つ以上のチャネル10が、可視光範囲、赤外光範囲、近赤外光範囲および紫外光範囲の少なくとも1つにおいて使用されてもよい。
【0126】
記録システム4としての画像化システムの場合、対象物12は、プローブボリューム13内に配置される。このプローブボリュームは、装置1によって検査されるべき対象物12を受容するように構成されてもよい。記録システムとしての画像化システムの場合、プローブボリュームは、好適には、画像化システムの視野14に配置される。対象物12は、生物および/または無生物を含むことができる。対象物12は、少なくとも1つの蛍光体15などの1つまたは複数の蛍光材料をさらに含むことができる。
【0127】
マルチスペクトルカメラまたはハイパースペクトルカメラは、対象物12内の蛍光材料の異なる蛍光スペクトルごとにチャネル10を有することができる。例えば、各蛍光体15は、照明システム16によってトリガーされる蛍光スペクトルに整合する少なくとも1つのチャネル10によって表されてもよい。代替的または付加的に、別個のチャネル10が、自動蛍光スペクトル用、または照明システム16によって励起される蛍光によってトリガーされる二次蛍光のスペクトル用、または寿命蛍光データ用に提供されてもよい。もちろん、照明システム16は、対象物12における蛍光をトリガーすることなく、白色光または他の任意の組成の光を放出することもでき、または単独で放出することもできる。
【0128】
顕微鏡2aは、例えば照明システム16によって適切な蛍光励起波長を有する光で対象物12内の蛍光体15の蛍光を励起するように適合されてもよい。照明システム16は、プローブボリューム13に関して記録システム4と反対側に配置されてもよく、かつ/または記録システム4と同じ側に配置されてもよい。
【0129】
照明システム16が記録システム4と同じ側に配置されている場合、その光はレンズ17を通して案内されてもよく、該レンズ17を通して入力信号I(x)も獲得される。照明システム16は、光を1つまたは複数の異なる方向から対象物12上に向けるための1つまたは複数のフレキシブルな光導波路を含むことができ、あるいはそのような光導波路から成ることができる。適切な阻止フィルタ(図示せず)が、例えばグレアを抑制するために、カメラ8の前方の光路に配置されてもよい。蛍光の場合、阻止フィルタは、好適には、照明波長のみを阻止し、対象物12における蛍光体15の蛍光はカメラ8まで通すことができる。
【0130】
照明システムがプローブボリューム13に対向して配置されている場合、その光はプローブボリューム13を通過することができる。
【0131】
入力信号データ6は、強度または位相などのような離散的な実数値量もしくは整数値量I(x)のデジタル表現であり、ここでxは、入力信号データ6におけるサンプル点を表し、Iは、入力信号を構成するそのサンプル点における量である。項xは、N個(N≧1)の次元を含みかつ離散入力信号データ内の離散ロケーションxを表すタプル{x;…;x}の簡易表記である。サンプル点xは、入力信号データ内のピクセル、ボクセル、または好適にはピクセルもしくはボクセルのコヒーレントな集合であってもよく、あるいは任意の他の種類のサンプル点であってもよい。離散ロケーションxは、例えば、二次元の入力信号データの場合には、二つ組の離散ロケーション変数{x;x}を表し、三次元の入力信号データの場合には、三つ組の離散ロケーション変数{x;x;x}を表す。i番目の次元では、配列は、M個のロケーション、すなわち、x={xi,1,…,xiMi}を含むことができる。合計で、I(x)は、N次元の場合、(M×…×M)個の要素を含むことができる。
【0132】
入力信号は、例えば単一のチャネル10が二次元画像に含まれる場合、二次元である。入力信号は、3つ以上のチャネル10が含まれている場合、かつ/または入力信号データ6が三次元画像などの三次元配列を表している場合、三次元以上の高い次元を有することができる。信号は、自身が例えば時間トレースまたは一次元空間測定値を表す場合、一次元であってよい。
【0133】
三次元入力は、観察デバイス2により、例えば、光場技法、顕微鏡におけるZスタッキング、SCAPE顕微鏡によって得られた画像および/またはSPIM顕微鏡によって得られた画像の三次元再構成を使用することによって記録されてもよい。三次元入力信号の他のソースは、断層撮影画像であってもよい。三次元画像の場合、三次元入力信号データ6の各平面は、二次元入力信号6とみなされてもよい。ここでも、各平面は、複数のチャネル10を含むことができる。
【0134】
記録システムは、入力信号I(x)の後続セット19の時系列18を生成することができ、例えば各セット19は、時系列18から結果として得られるビデオのフレームであってもよい。
【0135】
装置1は、少なくとも一時的に入力信号データ6を含むように適合された記憶セクション20を含むことができる。この記憶セクション20は、汎用コンピュータ、PCおよび/またはGPU26などの計算デバイス24のCPU22のキャッシュメモリなどの揮発性メモリまたは不揮発性メモリを含むことができる。記憶セクション20は、RAM、ハードディスクドライブ、少なくとも1つのSSDドライブ、あるいはUSBスティックまたはSDカードなどの交換可能な記憶セクションをさらに含むことができる。記憶セクション20は、これらのタイプのメモリの任意の組み合わせを含むことができる。
【0136】
入力信号データ6を例えばカメラ8から獲得するために、信号入力セクション28が設けられてもよい。この信号入力セクション28は、標準化されたデータ交換プロトコル、ハードウェアコネクタおよび/または無線接続、あるいはそれらの任意の組み合わせなどの標準化された接続手段30を含むことができる。カメラ8が接続されてもよい標準化されたコネクタの例は、HDMIコネクタ、USBコネクタおよびRJ45コネクタである。
【0137】
装置1は、各々が出力信号データ36を1つまたは複数のディスプレイ37に出力するように構成された、標準されたデータ交換プロトコル、ハードウェアコネクタおよび/または無線接続などの標準化された接続手段34を含むことができる信号出力セクション32をさらに含むことができる。出力信号データ36は、好適には、入力信号データ6と同じ次元を有し、出力信号O(x)を形成する離散値の離散配列によって表される。
【0138】
入力信号I(x)から出力信号O(x)を計算するために、信号プロセッサ38が設けられてもよい。この信号プロセッサ38は、少なくとも部分的にハードウェア、少なくとも部分的にソフトウェアおよび/またはハードウェアとソフトウェアとの両方の組み合わせであってもよい。例えば、信号プロセッサ38は、計算デバイス24のCPU22およびGPU26のうちの少なくとも1つを含むことができ、ならびにソフトウェアで符号化され、CPU22および/またはGPU26における動作状態としての構造エンティティとして一時的に存在するセクションを含むことができる。信号プロセッサ38は、本装置および本方法に必要な動作を実行するように特別に設計された1つまたは複数のASICおよび/またはFPGAなどの付加的なハードウェアも含むことができる。
【0139】
図2を参照して、図1のさらなる説明を続ける前に、ベースラインを推定し、必要に応じて除去することによって、入力信号I(x)を強調する一般的な原理を説明する。ベースラインの除去のために、信号プロセッサ38は、ベースライン除去セクション40を含むことができる。
【0140】
入力信号I(x)は、主として低い空間周波数を有する成分から成るか、または低い空間周波数を有する成分を含む成分I(x)から付加的に構成されることを想定する。したがって、この成分I(x)、以下における「ノイズ」成分は、滑らかなベースラインを表し、その周りで成分I(x)、「コンテンツ」成分は、より高い空間周波数で変動する。ノイズ成分I(x)は、滑らかでありかつ長さスケールI(x)を有することが想定され、対照的に、コンテンツ成分I(x)は、滑らかではなくかつ山と谷の少なくとも1つを含み、ノイズ成分よりも小さい長さスケールl(x)を有する構造もしくは特徴から構成されることが想定される。
【0141】
図2に示されるように、ノイズ成分、すなわちベースラインを除去すること、特に減算することにより、画像コントラストが強調され、ノイズが低減される。しかしながら、一部の状況では、この状況が逆であってもよく、関心コンテンツが大規模な構造に存在し、ノイズが小規模な構造に存在する場合もある。この場合、ベースライン推定値は、関心データを表す。
【0142】
(x)もI(x)も既知ではないので、それらを推定する必要がある。例えば、ノイズ成分I(x)に対する推定値が計算されてもよい。この推定値は、ベースライン推定値f(x)、すなわち、ベースラインの推定を表すデータによって表される。ベースライン推定値f(x)は、好適には入力信号I(x)および/または出力信号O(x)と同じ次元を有する離散的で好適な実数値配列である。ベースライン推定値f(x)は、図1ではベースライン推定値データ44によって構成されている。ベースライン推定値f(x)は、少なくとも一時的に記憶セクション20に存在していてもよい。ベースライン推定値が計算されると、各ロケーション(x)における入力信号I(x)からベースライン推定値f(x)を減算することによって、出力信号(本明細書ではO(x)として表される)が得られる。
【0143】
図1によれば、信号プロセッサ38は、ベースライン推定器エンジン42を含むことができ、このベースライン推定器エンジン42は、入力信号データ6の少なくともサブセットに対する当てはめによってベースライン推定値f(x)を計算するように構成されている。好適には、入力信号データの少なくともサブセットに対する当てはめは、スプラインフィットである。
【0144】
計算上効率的なスプラインフィットについて、ベースライン推定器エンジン42は、半二次または二次最小化エンジン46を含むことができ、この半二次または二次最小化エンジン46は、例えばサブルーチンであってもよいし、ハードワイヤードアルゴリズムとソフトウェアとの組み合わせであってもよい。最小化エンジン46は、二次または半二次最小化スキームを実行するように構成されてもよく、この目的に向けて、2つの反復ステージ48,50を含むことができる。
【0145】
好適には、最小化エンジン46は、第2の反復ステージ50におけるベースライン推定値データ44の計算のために畳み込みを使用する。この畳み込みは、FFTを使用して配列プロセッサ上でより効率的に計算することができるので、信号プロセッサ38は、GPU26などの配列プロセッサを含んでいると有利である。動作中、信号プロセッサは、最小化エンジン46を含む。
【0146】
図3を参照すると、入力信号I(x)から出力信号O(x)を計算するステップは、それらが装置1によって実行されるものとして説明されている。入力信号としての入力画像の場合、各チャネル10は、別個に処理されてもよいし、あるいは全てのチャネルを単一の多次元配列として処理してもよいことに留意されたい。
【0147】
第1のステップ300では、入力信号I(x)は、例えば記憶セクション20から、または直接カメラ8から取得される。
【0148】
次いで、ステップ302では、局所的長さスケールlのセットが計算され、ここでは、k=1…Kである。例えば、入力信号I(x)は、ステップ304において、まず重複していても重複していなくてもよいK個のロケーションに分割され得る。ロケーションは、単一のサンプル点であってもよいし、または好適には、隣接するサンプル点の隣接するサブセット、例えばサンプル点のブロックであってもよい。例えば、入力信号は、32×32の非重畳ブロックに分割され、各ブロックがロケーションl(x)を表す4kまたはUHD画像であってもよい。
【0149】
次に、セグメント化された入力信号I(x)を使用して、局所的長さスケールlが、フーリエリング相関(ステップ306)と信号雑音比(ステップ308)とのうちの少なくとも1つを用いて、ロケーションI(x)の各々について計算される。両方の方法が使用される場合、加重平均値または非加重平均値を、局所的長さスケールの計算のために使用することができる。
【0150】
フーリエリング相関のみが使用される場合、局所的長さスケールは、次式のように直接取得される。
=FRC
【0151】
ステップ302の最後におけるステップ310では、局所的長さスケールlの離散的セットが取得された。
【0152】
信号対雑音比は、欧州特許出願第18194617.9号明細書に記載されているように計算されてもよい。
【0153】
例えばステップ306および/またはステップ308で計算されるようなlの不合理な値がベースライン推定値の計算を損なうことを回避するために、計算された最小の局所的長さスケールlk,minと、計算された最大の局所的長さスケールlk,maxと、によって定義される局所的長さスケールの値範囲は、予め定められた最大の長さスケールLmaxに対するユーザー定義値と、予め定められた最小の長さスケールLminに対するユーザー定義値と、によって定義される、予め定められた値範囲にマッピングされてもよい。例えば、予め定められた最小の長さスケールは、記録システム4の分解能の半分に設定されてもよい。また、予め定められた最大の長さスケールは、ノイズ成分に属するとみなされる構造の最大の長さの100~150%に設定されてもよい。これは、ステップ312で実行される。
【0154】
マッピングl→[Lmin;Lmax]は、例えば次式のように計算されてもよい。
【数55】
【0155】
同様のマッピングは、次式のように信号対雑音比を局所的長さスケールにマッピングするために使用されてもよい。すなわち、
l(x)=1/(SNRmax-SNRmin)[Lmax(SNR(x)-SNRmin)-Lmin(SNR(x)-SNRmax)]
【0156】
上記の式において、K個のロケーションにおける信号雑音比しか計算されていなかった場合には、SNR(x)は、SNRに置き換えられるべきである。最大および最小の局所的長さスケールは、以下でさらに説明するように設定されてもよい。
【0157】
次に、ステップ314では、各サンプル点xにおける局所的長さスケールl(x)が、k個のブロックの各々における局所的長さスケールlから計算され、その結果、局所的長さスケールのアップサンプリングが行われる。これは、例えば、ブロックごとの局所的長さスケールlの各サンプル点xにおけるバイキュービック補間またはスプライン補間によって行われてもよい。
【0158】
局所的長さスケールl(x)が各サンプル点xについて得られた後、出力画像O(x)は、図3のI、IIおよびIIIとして示された3つの実施形態のいずれかを使用して計算されてもよい。
【0159】
実施形態Iによれば、ステップ316において、局所的長さスケールl(x)を直接使用する単一のベースライン推定値f(x)やf(x,l(x))が、好適には、LEGENDアルゴリズムを使用して計算される。次いで、このベースライン推定値は、出力信号O(x)として直接使用されるか、または出力信号に到達するために入力信号I(x)から除去される。
【0160】
この計算にはかなりのリソースを必要とする可能性があるので、代替手段IIおよびIIIの方が、計算上より効率的になる場合がある。
【0161】
代替手段IIおよびIIIの両方において、N個の異なる局所的長さスケールlのセットが使用され、これらの異なる局所的長さスケールの各々に基づいて、異なるベースライン推定値f(x)が使用される。この計算では、局所的長さスケールlは一定であり、つまりロケーションに依存しない。次いで、ロケーション依存性は、以下でさらに説明するように後続のステップで再導入される。代替手段IIとIIIとでは、ロケーション依存性をどのように導入するかが異なっている。
【0162】
局所的長さスケールl(n=1…N)のセットは、ステップ320で決定される。1つの実施形態における局所的長さスケールのセットは、ステップ302で得られたK個の局所的長さスケールのセットから、例えば、K個の局所的長さスケールからN個の局所的長さスケールをランダムに選択することによって、適正に決定することができる。通常、異なるベースライン推定値を計算するためには、好適には10未満の局所的長さスケールが必要であるため、ここではK>Nである。
【0163】
ただし、好適には、N個の局所的長さスケールは、ビニングによって、特に補間、例えば線形補間によって次式のように計算され、
【数56】
ここで、ln,min、ln,maxは、それぞれステップ310または312の後で得られる最小および最大の局所的長さスケールである。
【0164】
しかしながら、より良好な結果は、局所的長さスケールが頻繁に発生する値とともにより密になるように離間して、局所的長さスケールlのセットが決定された場合に得られる。例えば、セットは、一般化された中央値に基づいて計算されてもよい。
【0165】
次に、ステップ322では、N個のベースライン推定値f(x)(n=1…N)が入力信号I(x)から計算される。ベースライン推定値の各々について、局所的長さスケール、したがって正則化長スケールが一定に保持される。これにより、第2の反復ステップにおいて畳み込みを使用する、計算上効率的な修正されたLEGENDアルゴリズムを使用することができる。
【0166】
代替的手段IIでは、ベースライン推定値f(x)またはf(x,l(x))は、ステップ324において、N個のベースライン推定値f(x)またはf(x,l)に基づいて、例えばステップ314で計算された局所的長さスケールl(x)を使用した補間によって計算される。線形補間を使用するならば、ベースライン推定値は、次式のように各サンプル点において計算されてもよい。
【数57】
ここで、
【数58】
は、一定の局所的長さスケール
【数59】
を使用して計算されたベースライン推定値を表し、
【数60】
は、一定の局所的長さスケール
【数61】
を使用して計算されたベースライン推定値を表す。この計算で使用される一定の局所的長さスケールは、好適には、現在のサンプル点xにおける局所的長さスケールl(x)に最も近いN個の局所的長さスケールのセットのうちの局所的長さスケールである。
【0167】
各サンプル点において得られた局所的長さスケールを反映するベースライン推定値が得られると、このベースライン推定値f(x)は、出力信号として直接使用されるか、あるいはステップ326においてベースライン推定値が入力信号から除去されてもよい。
【0168】
代替的手段IIIによれば、一定の局所的長さスケールに基づくベースライン推定値f(x)の各々は、ステップ330で各中間出力画像J(x)を得るために、ステップ328において入力信号I(x)から別個に除去される。この除去が減算によって実施される場合、次式
(x)=I(x)-f(x
がn=1…Nについて計算される。
【0169】
次に、ステップ332では、例えば補間によって、N個の中間出力画像から、出力画像O(x)が各サンプル点xにおいて計算される。任意の補間が、例えば以下の形態を有する線形補間が使用されてもよい。
【数62】
ここで、
【数63】
は、一定の局所的長さスケール
【数64】
を使用して計算された中間出力信号を表し、
【数65】
は、一定の局所的長さスケール
【数66】
を使用して計算された中間出力信号を表す。補間については、現在のサンプル点におけるl(x)の値に最も近い局所的長さスケール
【数67】
が好適には使用される。
【0170】
このようにして、各サンプル点における局所的長さスケールが出力信号に反映される。
【0171】
出力信号O(x)および逆畳み込みされた出力信号J(x)は、ステップ334において、後処理されてもしくは後処理なしでディスプレイ37上に表示されてよい。
【0172】
図4および図5を以下では参照して、例えばステップ316,322の各々において、ベースライン推定値f(x)またはf(x)がどのように計算される場合があるかについて説明する。
【0173】
第1のステップ60では、プリセットされる必要があるベースライン推定器エンジン42の様々なパラメータが、ユーザーによって、例えばグラフィカルユーザーインタフェース62(図1)使用して定義されてよい。これらのパラメータは、ベースライン推定器エンジン42によって実行されるべき入力信号データ6に対する当てはめのタイプを含むことができる。例えば、ユーザーは、入力信号データ6に対するベースライン推定値データ44の多項式当てはめとスプラインフィットとの間で選択することができる。
【0174】
さらに、ユーザーは、最小化スキームで使用される様々なペナルティ項P(f(x))間で選択することができる。これらのペナルティ項は、ベースライン推定値におけるコンテンツ成分I(x)の成分表現にペナルティを課すことにより、ベースライン推定値の形状を決定する。
【0175】
例えば、ベースライン推定値データ44の滑らかでない特性にペナルティを課す様々なペナルティ項の選択がユーザーに提示されてもよい。例えば、ペナルティ項は、ベースライン推定値データ44用のハイパス空間周波数フィルタであってもよく、これは、ベースライン推定値データ44が高い空間周波数を有する成分を含んでいる場合により大きくなる。他のペナルティ項は、ベースライン推定値データ44の勾配を含むことができる。ペナルティ項の別の例は、ベースライン推定値データ44の曲率であってもよい。さらに、Sobel、Laplaceおよび/またはFIRバンドパス、ハイパスもしくはローパスフィルタなどの特徴抽出フィルタが、ペナルティ項としてユーザーによって選択されてもよい。さらに、上記の任意の線形結合が選択されてもよい。異なるペナルティ項が、入力信号データ6の異なる次元または異なるチャネルに対して選択されてもよい。
【0176】
ペナルティ項の一般的な表現は次式の通りである。
【数68】
ここで、ζ(j)は、ペナルティ項のプロパティを定義する、ペナルティ項の一般演算子であり、λは、正則化長さスケールである。この正則化長さスケールの次元は、ペナルティ項がスカラー値となるように適合される。好適には、一般演算子は、入力信号の次元の1つに沿った(偏)導関数またはそのような導関数の線形結合を表す。正則化長さスケールは、局所的長さスケールの関数であり、l,λ=g(l)、すなわち、局所的正則化長さスケールを表す。好適には、局所的長さスケールは、正則化長さスケールが依存する唯一の変数である。
【0177】
λのインデックスjから明らかなように、正則化長さスケール、したがって長さスケールは、各方向において異なっていてもよい。もちろん、1つの方向に依存しない特徴長さだけが使用されてもよい。
【0178】
ユーザーは、特定の次元において異なる場合がある最小の局所的長さスケールLminおよび/または最大の局所的長さスケールLmaxをさらに選択することができる。これらの値は、ステップ312で使用されてもよい。例えば、ユーザーは、Lminを、記録システムの分解能に、または該分解能の半分に対応するように選択してもよい。Lmaxは、例えば、コンテンツを表す入力信号内の最も大きな小規模構造の長さの150%に対応するように決定されてもよい。
【0179】
ユーザーは、ステップ304において、入力信号をセグメント化するために使用されるロケーションまたはブロックのサイズを選択することができる。例えば、ユーザーは、32×32のサンプル点のブロックサイズをさらに選択することができる。
【0180】
ユーザーは、一定の局所的長さスケールに基づいて、複数のベースライン推定値f(x)を計算するために使用される一定の局所的長さスケールlの数値Nを選択することもできる(ステップ320参照)。
【0181】
ユーザーは、どの代替的手段が、出力信号の計算のために使用されるべきかをさらに選択することができる。
【0182】
その上さらに、ユーザーは、ステップ316、322、330の各々において、どの種類の補間が使用されるかを個別に選択することができる。
【0183】
以下では、ユーザーが、以下のような形態を有するベースライン推定値f(xi,m)の勾配に基づいて、勾配ベースの粗さペナルティ項を選択することを想定する。
【数69】
【0184】
このペナルティ項は、ベースライン推定値データにおける大きな勾配にペナルティを課す。演算子∂は、次元jにおける一次導関数または勾配を表す。この項について、局所的正則化長さスケールは、局所的長さスケールλ=l(x)の二乗に対応する。簡略化のために、長さスケールは、方向依存性がないこと、すなわち、λ=l(x)であることが想定されてもよい。
【0185】
ベースライン推定器エンジンのためのパラメータを選択するとき、ユーザーは、ベースライン推定値データに対する大きなピークの効果を特定することによって、ベースライン推定値の形状も決定する対称の二次項と非対称の二次項φ(ε(x))との間で選択することができる。
【0186】
例えば、ユーザーは、以下のような非対称の切断された二次項を選択することができる。
【数70】
ここで、sは、ユーザーによって入力されるべき閾値を表す。この閾値は、入力信号データとベースライン推定値データとの間の最大偏差を定める。ベースライン推定値を超えるピークは、閾値分逸脱したピークよりもベースライン推定値を引き寄せることはない。
【0187】
最終的に、ユーザーは、収束基準および/または収束基準が到達しなければならない閾値tを選択することができる。
【0188】
ベースライン推定器エンジン42のための初期パラメータが設定された後、ステップ64において反復最小化スキーム66のためにデータが初期化される。
【0189】
それ以降、反復最小化スキーム66は、収束基準68が満たされるまで最小化エンジン46によって実行される。実施形態では、以下のような収束基準が使用される。
【数71】
ここで、lは現在の反復を示し、tは、ユーザーが指定してもよい一定のスカラー閾値である。
【0190】
収束基準68が満たされる場合には、ベースライン推定値データ44が正常に計算されたものと想定される。
【0191】
図5には、最小化スキーム66をより詳細に説明するために、図4の細部Vが示されている。この最小化スキーム66は、第1の反復ステージ48および第2の反復ステージ50を含む。
【0192】
原則として、最小化エンジン46によって実行される最小化スキーム66は、LEGENDアルゴリズムであってもよい。
【0193】
代替的手段Iのように、局所的長さスケールが現在のサンプル点に依存し、l=l(x)が同じく現在のサンプル点に依存する局所的正則化長さスケールをもたらす場合、λ=l(x)=λ(x)、LEGENDアルゴリズムの第2のステップは、(l)番目の反復において以下の微分方程式を解くように指示される。
【数72】
収束に達すると、上記の定式化におけるLEGENDアルゴリズムは、直接的にf(x,l(x))を導出する。
【0194】
しかしながら、計算負荷を大幅に軽減するために変更されてもよいLEGENDアルゴリズムの第2のステップを変更することが有利である。これは、代替的手段IIおよびIIIにおいて使用され、そこでは、各ベースライン推定値において、局所的長さスケール、したがって局所的正則化長さスケールが、サンプル点の関数ではなく、方向に依存するかもしれないが一定である。
【0195】
この条件のもとで、第2の反復ステージ50は、ステップ64においてデータを初期化した後に入力される。この時点で、ベースライン推定値データの第1の推定値f(l)(x)は、グリーン関数G(x)を用いた入力信号データの畳み込みを使用して計算される。
(l)(x)=G(x)*I(x
【0196】
この実施形態で使用される勾配ベースのペナルティ項について、グリーン関数は、以下のように定義される。
【数73】
ここで、F[…]は、離散N次元フーリエ変換であり、F-1[…]は、逆離散N次元フーリエ変換であり、λは、粗さペナルティ項の長さスケールであり、さらに次式の通りである。
【数74】
【0197】
次いで、第1の反復ステージ48では、補助データd(l)(x)の更新バージョンが、現在のベースライン推定値データ44を使用して以下のように計算されてもよい。
【数75】
【0198】
パラメータαは、ユーザーによって指定されていてもよい定数である。
【0199】
次に、第2の反復ステージ50では、更新されたベースライン推定値データ44が、現在の反復lの更新された補助データd(x)を使用して以下のように計算される。
(l)(x)=G(x)*(I(x)+d(x))
【0200】
次のステップでは、収束基準68が満たされているか否かが検査される。収束基準68が満たされていない場合には、最小化スキーム66は、更新されたベースライン推定値データf(l)(x)を使用する反復ステップ48に進む。
【0201】
ベースライン推定値がこのようにして決まれば、図3を参照して説明したように使用することができる。
【0202】
ベースラインの除去とマルチ画像逆畳み込みの適用に関する一般的な注意事項として、データの次元は、配列を再配置することによって変更してもよい。例えば、二次元データは、一次元データの1つまたは複数のセットとしてレンダリングされてもよい。これは、後続する行または列を相互に後方に連結することによって達成されてもよい。さらに、後続する面の1つを相互に後方に連結することによって、三次元データを二次元データに低減してもよい。この原理を再帰的に使用することにより、任意のN次元データを、上述のスキームが適用され得る一次元または二次元のデータに低減してもよい。
【0203】
逆に、任意の一次元配列は、それをより小さな一次元配列に単純に分解し、好適には同じ長さを有するそれらのより小さな配列を2次元またはより高次元のスキームでインデックス化することによって、2次元またはより高次元の配列として配置してもよい。さらに、任意のタイプのデータは、例えば、上述のように、入力信号データの各値にグレースケールの強度を割り当て、それを2次元または3次元の配置で表示することによって、画像データまたは画像とみなして表示してもよい。
【0204】
本明細書で使用されるように、用語「および/または(かつ/または)」は、関連する記載項目のうちの1つまたは複数の項目のあらゆる全ての組み合わせを含んでおり、「/」として略記されることがある。
【0205】
いくつかの態様を装置の文脈において説明してきたが、これらの態様が、対応する方法の説明も表していることが明らかであり、ここではブロックまたは装置がステップまたはステップの特徴に対応している。同様に、ステップの文脈において説明された態様は、対応する装置の対応するブロックまたは項目または特徴の説明も表している。ステップの一部または全部は、例えば、プロセッサ、マイクロプロセッサ、プログラマブルコンピュータまたは電子回路等のハードウェア装置(またはハードウェア装置を使用すること)によって実行されてもよい。いくつかの実施形態では、極めて重要なステップのいずれか1つまたは複数が、そのような装置によって実行されてもよい。
【0206】
一定の実装要件に応じて、本発明の実施形態は、ハードウェアまたはソフトウェアで実装され得る。この実装は、非一過性の記憶媒体によって実行可能であり、非一過性の記憶媒体は、各方法を実施するために、プログラマブルコンピュータシステムと協働する(または協働することが可能である)、電子的に読取可能な制御信号が格納されている、デジタル記憶媒体等であり、これは例えば、フロッピーディスク、DVD、ブルーレイ、CD、ROM、PROMおよびEPROM、EEPROMまたはFLASHメモリである。したがって、デジタル記憶媒体は、コンピュータ読取可能であってもよい。
【0207】
本発明のいくつかの実施形態は、本明細書に記載のいずれかの方法が実施されるように、プログラマブルコンピュータシステムと協働することができる、電子的に読取可能な制御信号を有するデータ担体を含んでいる。
【0208】
一般的に、本発明の実施形態は、プログラムコードを備えるコンピュータプログラム製品として実装可能であり、このプログラムコードは、コンピュータプログラム製品がコンピュータ上で実行されるときにいずれかの方法を実施するように作動する。このプログラムコードは、例えば、機械可読担体に格納されていてもよい。
【0209】
別の実施形態は、機械可読担体に格納されている、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するためのコンピュータプログラムを含んでいる。
【0210】
したがって、換言すれば、本発明の実施形態は、コンピュータプログラムがコンピュータ上で実行されるときに本明細書に記載のいずれかの方法を実施するためのプログラムコードを有するコンピュータプログラムである。
【0211】
したがって、本発明の別の実施形態は、プロセッサによって実行されるときに本明細書に記載のいずれかの方法を実施するために、格納されているコンピュータプログラムを含んでいる記憶媒体(またはデータ担体またはコンピュータ読取可能な媒体)である。データ担体、デジタル記憶媒体または被記憶媒体は、典型的に、有形である、かつ/または非一過性である。本発明の別の実施形態は、プロセッサと記憶媒体を含んでいる、本明細書に記載されたような装置である。
【0212】
したがって、本発明の別の実施形態は、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するためのコンピュータプログラムを表すデータストリームまたは信号シーケンスである。データストリームまたは信号シーケンスは例えば、データ通信接続、例えばインターネットを介して転送されるように構成されていてもよい。
【0213】
別の実施形態は、処理手段、例えば、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するように構成または適合されているコンピュータまたはプログラマブルロジックデバイスを含んでいる。
【0214】
別の実施形態は、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するために、インストールされたコンピュータプログラムを有しているコンピュータを含んでいる。
【0215】
本発明の別の実施形態は、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するためのコンピュータプログラムを(例えば、電子的にまたは光学的に)受信機に転送するように構成されている装置またはシステムを含んでいる。受信機は、例えば、コンピュータ、モバイル機器、記憶装置等であってもよい。装置またはシステムは、例えば、コンピュータプログラムを受信機に転送するために、ファイルサーバを含んでいてもよい。
【0216】
いくつかの実施形態では、プログラマブルロジックデバイス(例えばフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)が、本明細書に記載された方法の機能の一部または全部を実行するために使用されてもよい。いくつかの実施形態では、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイは、本明細書に記載のいずれかの方法を実施するためにマイクロプロセッサと協働してもよい。一般的に、有利には、任意のハードウェア装置によって方法が実施される。
【符号の説明】
【0217】
1 装置
2 観察デバイス
2a 顕微鏡
4 記録システム
6 入力信号データI(x
8 カメラ
9 画像センサ
10 チャネル
12 対象物
13 プローブボリューム
14 視野
15 蛍光体
16 照明システム
17 対物レンズ
18 入力信号の時系列
19 入力信号のセット
20 記憶セクション
22 CPU
24 計算デバイス
26 GPU
28 信号入力セクション
30 信号入力セクションの接続手段
32 信号出力セクション
34 信号出力セクションの接続手段
36 出力信号データO(x
37 ディスプレイ
38 信号プロセッサ
40 ベースライン除去セクション
42 ベースライン推定器エンジン
44 ベースライン推定値f(x
46 二次または半二次最小化エンジン
48 第1の反復ステージ
50 第2の反復ステージ
60 ベースライン推定値パラメータの設定
62 グラフィカルユーザーインタフェース
64 最小化エンジンおよび/またはスキームの初期化
66 二次または半二次最小化スキーム
68 収束基準
70 出力信号データの計算
300 入力信号を取得する
302 局所的長さスケールのセットを計算する
304 入力信号をセグメント化する
306 フーリエリング相関を計算する
308 局所的信号対雑音比を計算する
310 局所的長さスケールを取得する
312 局所的長さスケールの値範囲をマッピングする
314 局所的長さスケールをアップサンプリングする
316 アップサンプリングされた局所的長さスケールを使用してベースライン推定値を計算する
318 出力信号を計算する
320 局所的長さスケールのセットを決定する
322 局所的長さスケールのセットからベースライン推定値のセットを計算する
324 ベースライン推定値のセットからベースライン推定値を計算する
326 出力信号を得る
328 入力信号からベースライン推定値の各々を除去する
330 中間出力信号のセットを得る
332 中間出力信号のセットから出力信号を得る
334 出力信号をさらに処理する
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】