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特表2022-541793ヒトにおける心筋症のためのAAV心臓遺伝子治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-27
(54)【発明の名称】ヒトにおける心筋症のためのAAV心臓遺伝子治療
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220916BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20220916BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220916BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20220916BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220916BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220916BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20220916BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N7/01
A61P9/04
A61P9/10
A61K35/76
A61K38/17
A61K48/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022503802
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(85)【翻訳文提出日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 US2020042663
(87)【国際公開番号】W WO2021016126
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】62/876,540
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501453307
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ フロリダ リサーチ ファンデーション, インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】スウィニー,ヒュー リー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93Y
4B065AA95X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZA371
4C084ZA372
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA36
4C087ZA37
(57)【要約】
本開示は、心臓病を処置する際に有用な組成物および方法に関する。開示された組成物および方法は、2以上の導入遺伝子をヒト対象の心臓に送達するための組み換えAAVベクターを含む遺伝子治療に基づいており、ここで、導入遺伝子は、S100A1タンパク質およびカスパーゼ動員ドメインを有する心臓アポトーシスリプレッサー(cARC)アポトーシスインヒビターを含む。様々な態様において、本明細書に開示される組成物および方法は、ヒトにおける発現のためにコドン最適化された、S100A1および/またはcARC cDNA配列を含むベクターを含む。いくつかの側面において、1以上の心臓病の複数の根源を標的とすることは、処置の間に相乗的な利益を提供し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号6~8、16および21のヌクレオチド配列のいずれかに、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99.5%同一である配列を含むポリヌクレオチドを含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクター。
【請求項2】
ポリヌクレオチドが、配列番号6~8、16および21に示す配列のいずれか1つを含む、請求項1に記載のrAAV。
【請求項3】
対象の心臓に2以上の導入遺伝子を送達するためのrAAVベクターであって、該ベクターは、2以上の導入遺伝子を含むポリヌクレオチドを含み、第一の導入遺伝子は、S100ファミリータンパク質をコードし、および、第二の導入遺伝子は、カスパーゼ動員ドメインを有する心臓アポトーシスリプレッサー(cARC)をコードし、
第一の導入遺伝子は、配列番号5、8および19~21に示す配列のいずれか1つに、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99.5%同一であるヌクレオチド配列を含み、第二の導入遺伝子は、配列番号6、7および15~18に示す配列のいずれか1つに、少なくとも90%、少なくとも95%または少なくとも99.5%同一であるヌクレオチド配列を含む、前記rAAVベクター。
【請求項4】
第二の導入遺伝子は、配列番号6および7に示す配列のいずれか1つを含む、請求項3に記載のrAAVベクター。
【請求項5】
S100ファミリータンパク質が、心臓S100カルシウム結合タンパク質A1 (cS100A1)またはそのバリアントである、請求項3または4に記載のrAAVベクター。
【請求項6】
第一の導入遺伝子が、配列番号5に示すヌクレオチド配列を含む、請求項3~5のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項7】
第一の導入遺伝子が、配列番号8に示すヌクレオチド配列を含む、請求項3~5のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項8】
配列内リポソーム進入部位(IRES)が、cS100A1導入遺伝子とcARC導入遺伝子との間に存在する、請求項3~7のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項9】
導入遺伝子が、プロモーターに作動可能に連結されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のrAAV。
【請求項10】
プロモーターが、心臓トロポニンC、心臓トロポニンIおよび心臓トロポニンT(cTnT)から選択される心臓に限局的なプロモーターである、請求項9に記載のrAAVベクター。
【請求項11】
プロモーターが、α-ミオシン重鎖遺伝子、6-ミオシン重鎖遺伝子、ミオシン軽鎖2v遺伝子、ミオシン軽鎖2a遺伝子、CARP遺伝子、心臓α-アクチン遺伝子、心臓m2ムスカリン性アセチルコリン遺伝子、ANF、心筋小胞体Ca-ATPアーゼ遺伝子、および骨格筋α-アクチンからなる遺伝子の群から選択される遺伝子に由来する心臓に限局的なプロモーターであるか、または、MLC-2v遺伝子に由来する人工心臓プロモーターである、請求項9に記載のrAAVベクター。
【請求項12】
プロモーターが、cTnTである、請求項9に記載のrAAVベクター。
【請求項13】
rAAVベクターが、自己相補的である、請求項1~12のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項14】
ベクターが、配列番号9~12に示す配列のいずれか1つと、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99.5%同一であるヌクレオチド配列を含む、請求項1~13のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項15】
ベクターが、配列番号12に示すヌクレオチド配列を含む、請求項14に記載のrAAVベクター。
【請求項16】
AAVカプシド中にカプシド化された、請求項1~15のいずれか一項に記載のrAAVベクターを含むrAAV粒子。
【請求項17】
AAVカプシドが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV6、AAV8、AAVrh.74、AAVrh.10、AAV2/6またはAAV9血清型に由来するカプシドタンパク質を含む、請求項16に記載のrAAV粒子。
【請求項18】
AAVカプシドが、AAVrh.10血清型に由来するカプシドタンパク質を含む、請求項16または17に記載のrAAV粒子。
【請求項19】
請求項16~18のいずれか一項に記載のrAAV粒子を含む組成物。
【請求項20】
請求項19に記載の組成物または請求項16~18のいずれか一項に記載のrAAV粒子を対象に投与することを含む、心臓疾患を患うヒト対象の処置の方法。
【請求項21】
心臓疾患が、対象において心不全を引き起こすものである、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
心臓疾患が、心筋症である、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
心臓疾患が、肥大型心筋症または拡張型心筋症である、請求項20~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
心臓疾患が、急性虚血である、請求項20または21に記載の方法。
【請求項25】
組成物が、対象の心臓への注射または対象の冠動脈への血管内注射を介して投与される、請求項20~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
投与のステップが、対象の心臓における2以上の導入遺伝子の発現を結果として生じる、請求項20~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
S100ファミリータンパク質を含む導入遺伝子が、cARCを含む導入遺伝子の5’側に位置する、請求項3~12のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項28】
cARCを含む導入遺伝子が、S100ファミリータンパク質を含む導入遺伝子の5’側に位置する、請求項3~15のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項29】
ベクターが、配列番号9~12に示す配列のいずれかと、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99.5%同一であるヌクレオチド配列を含む、請求項1~19および27~28のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項30】
ベクターが、配列番号11に示すヌクレオチド配列を含む、請求項29に記載のrAAVベクター。
【請求項31】
ベクターが、配列番号9、10および12に示すヌクレオチド配列のいずれか1つを含む、請求項29に記載のrAAVベクター。
【請求項32】
投与するステップが、対象における改善された心臓機能を結果として生じる、請求項20~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
投与するステップは、対象における10か月超にわたる改善された心臓機能を結果として生じる、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
rAAVベクターは、配列番号13または14に、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99.5%同一であるアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする、請求項1~19および27~31のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【請求項35】
rAAVベクターが、配列番号13または14のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする、請求項1~19および27~31のいずれか一項に記載のrAAVベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、表題「AAV CARDIAC GENE THERAPY FOR CARDIOMYOPATHY IN HUMANS」の2019年7月19日に出願された米国仮出願シリアル番号62/876,504の出願日の35 U.S.C. 119(e)下の利益を主張し、この内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
拡張型心筋症は、対象における心臓疾患の第二の最も一般的な原因であり、二次的兆候の医療管理は、唯一の治療選択肢である。罹患した対象の予後は、疾患の段階および品種に依存する。心臓機能は、カルシウム依存性のシグナリングに重要に依存している。心臓疾患の間、心筋細胞内のカルシウムチャンネルの機能不全は、カルシウム循環異常を促進し、心臓機能をさらに阻害する。カルシウム循環異常を低減するための遺伝子導入手法が、小動物および大動物モデルにおける、ならびに、ヒト臨床試験において、心臓疾患を軽減することが示されている。
【0003】
拡張型心筋症(DCM)は、最も一般的なタイプのヒト心筋症であり、20~60の成年者に発生する。DCMは、心臓の心室および心房、夫々、心臓の下方および上方の房(chamber)に影響する。DCMのほとんどの形態は、冠動脈心疾患、心臓発作、高血圧、糖尿病、甲状腺疾患、心筋を炎症させるウイルス肝炎およびウイルス感染症を包含する多数の原因からの後天性の形態である。アルコール依存およびコカインおよびアンフェタミンなどのある薬物、ならびにがんの処置に使用される少なくとも2つの薬物(ドキソルビシンおよびダウノルビシン)はまた、DCMを導き得る。加えて、デュシェンヌ型およびベッカー型筋ジストロフィーに関連するDCMを包含するが、これらに限定されない、DCMの多数の遺伝子形態が存在する。ベッカー型筋ジストロフィーのある形態の場合、ならびに、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのほとんどの場合では、心筋症は、結局は、患者の生存を制限し得る。
【0004】
概要
ヒトにおいて、拡張型心筋症は、最も一般的なタイプの心筋症であり、および、多数の後天性のならびに遺伝子の状態に由来し得る。イヌおよび他の動物モデルにおけるように、疾患の起源は、カルシウム操作機能障害に基づくが、疾患の最終的な進行は、ミトコンドリア機能障害および/または心筋細胞のストレッチ誘導性アポトーシスによって駆動される。カルシウム操作単独に取り組むことは、疾患初期段階において有効であるかもしれないが、カルシウム操作、ミトコンドリア機能障害、およびアポトーシスの組み合わせに取り組むことは、すべての形態のDCMおよびすべての段階の疾患進行を処置するのに必要であろう。
【0005】
本明細書に開示されるのは、心筋症およびうっ血性心不全を有するヒト対象の処置のための遺伝子送達アプローチである。これらのアプローチは、アポトーシスのすべての根源をブロックし、および、ミトコンドリア機能を正常化させるために、カルシウム操作およびARC(カスパーゼ動員ドメインを有するアポトーシスリプレッサー)の発現に取り組むためのS100A1の発現を含む。開示された自己相補的なAAVベクターアプローチを介するS100A1およびARC導入遺伝子の発現は、迅速であり(すなわち、数時間以内)、これは、末期の心不全の影響に対抗する際に重大であり、心臓に限局的である。よって、これらのアプローチは、DCMの開始および進行の3つすべての駆動に取り組み、およびよって、疾患進行のいずれの段階におけるいずれのDCMの形態にも適用可能なはずである。
【0006】
加えて、本明細書に開示されるのは、ヒト由来タンパク質ARCおよびS100A1をコードする遺伝子送達のための一連の導入遺伝子である。これらの導入遺伝子は、cDNA配列を含み得、およびこれらの配列は、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターシステムを使用して、送達および発現され得る。開示されたDNA配列は、AAV、レンチウイルス、リポソームおよびエキソソームの全ての形態を含むが、これらに限定されない、いずれかのタイプの遺伝子送達ベクターを用いて送達され得る。
【0007】
具体的な態様において、これらの配列は、i)ヒトARCをコードする野生型または最適化されたcDNAおよびii)ヒトS100A1をコードする野生型または最適化されたcDNAを含む、自己相補的バージョンのAAVベクターDNAを使用して発現され得る。ARCおよびs100A1 cDNA配列は、ARCが第一のcDNAを、およびS100A1が第二のcDNAを、5’から3’への方向またはその逆で含むように位置付けられ得る。他の態様において、これらのcDNA配列は、プロモーターおよびIRESではなく、2つのプロモーターを使用して発現され得る。
【0008】
これらのcDNA配列の発現は、第一のcDNAの5’側に位置する心臓トロポニンTプロモーター(cTnT)、および/または、第二のcDNAの5’側に位置する配列内リポソーム進入部位(IRES)によって作動可能に制御され得る。cTnTプロモーターは、AAVが心臓および他の組織への循環を介してかまたは直接注射を介して導入されるとき、2つの導入遺伝子の発現を心筋細胞へ制限する。その結果得られるARCの発現は、心筋細胞において発現されると、アポトーシスを防止し、および、ミトコンドリア膜電位の正常化、フリーラジカル生成の低減、および、ミトコンドリア機能の改善に役立つ。S100A1発現は、筋小胞体Ca2+-ATPase(SERCA)ポンプ(例として、SERCAアイソフォーム2aポンプ、またはSERCA2a)による心筋細胞の筋小胞体(SR)への改善されたカルシウムポンピング、および、リアノジン受容体チャンネルを介するSRからのカルシウム漏出の減少をもたらす。この組み合わせは、心筋細胞カルシウム操作の正常化、および、心臓における改善された収縮および拡張機能を可能にする。
【0009】
アポトーシス効果の不在、改善されたミトコンドリア機能、および、改善されたカルシウム操作の組み合わせ効果は、心不全の進行を遅らせ、および、心臓機能を改善する。開示されたrAAVベクターは、全ての形態のヒト心筋症および心不全において有効であり得る。そのため、開示されたrAAVベクターは、不十分な心臓機能を含む疾患、障害または状態(例として、ヒト心筋症および心不全)を患う対象(例として、ヒト対象)に送達され得る。
【0010】
結果的に、本開示のいくつかの側面は、対象の心臓へ導入遺伝子を送達するための、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを提供する。いくつかの態様において、かかるrAAVベクターは、少なくとも2つの導入遺伝子を包含し、1つはS100ファミリータンパク質をコードし、および1つはアポトーシスインヒビターをコードする。かかるrAAVベクターは、5’から3’の順で、第一のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)配列、導入遺伝子に操作可能に連結されたプロモーター、および第二のAAV逆方向末端反復(ITR)配列を包含してもよい。いくつかの態様において、2つの導入遺伝子は、同じ単一のプロモーターに操作可能に連結されている。他の態様において、各導入遺伝子は、別々のプロモーターに操作可能に連結されている。
【0011】
いくつかの態様において、rAAVベクターはまた、少なくとも1のポリアデニル化シグナルを包含する(例として、単一のプロモーターから発現される2つの導入遺伝子の3’側、または異なるプロモーターから発現される1つまたは両方の導入遺伝子の3’側)。本開示の側面は、2以上の導入遺伝子を対象の心臓に送達するための、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)核酸ベクターを提供し、ここで該ベクターは、5’から3’へ、第一のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)配列、2以上の導入遺伝子および2以上の導入遺伝子に操作可能に連結されたプロモーター、ポリアデニル化シグナル、および第二のAAV逆方向末端反復(ITR)配列を含み、ここで2以上の導入遺伝子は、S100ファミリータンパク質およびアポトーシスインヒビターを含む。
【0012】
本開示の導入遺伝子は、S100ファミリータンパク質およびアポトーシスインヒビターを含み得る。例えば、S100ファミリータンパク質は、心臓S100カルシウム結合タンパク質A1(cS100A1)またはそのバリアントを含み得る。別の例において、アポトーシスインヒビターは、カスパーゼ動員ドメインを有する心臓アポトーシスリプレッサー(cARC)またはそのバリアントを含み得る。
【0013】
いくつかの態様において、本開示の1以上の導入遺伝子は、天然に存在するまたは野生型配列である。いくつかの態様において、1以上の導入遺伝子(例としてcARC導入遺伝子)は、ヒトにおける発現のためにコドン最適化されている。
【0014】
様々な態様において、本明細書に提供されるのは、プロモーター、ポリアデニル化(ポリA)シグナルおよび2以上の導入遺伝子を含むポリヌクレオチドを含む、rAAVベクターである。いくつかの態様において、第一の導入遺伝子は、S100ファミリータンパク質(例としてcS100A1またはそのバリアント)をコードし、および第二の導入遺伝子は、cARCをコードする。具体的な態様において、S100ファミリータンパク質およびcARC導入遺伝子は、ヒトに由来する。
【0015】
いくつかの態様において、ポリヌクレオチドの第一の導入遺伝子(S100ファミリータンパク質をコードする)は、配列番号5に示すヌクレオチド配列を含む。代替的に、第一の導入遺伝子は、配列番号8に示すヌクレオチド配列を含み得る。
【0016】
いくつかの態様において、第一の導入遺伝子(S100ファミリータンパク質をコードする)は、配列番号19~21のいずれか1つと、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99.5%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。第一の導入遺伝子は、配列番号19~21のいずれか1つのヌクレオチド配列を含み得る。具体的な態様において、第一の導入遺伝子は、配列番号21に示すヌクレオチド配列を含み得る。
【0017】
ポリヌクレオチドの第二の導入遺伝子は、配列番号6と、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99.5%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。代替的に、第二の導入遺伝子は、配列番号7と、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99.5%同一のヌクレオチド配列を含み得る。第二の導入遺伝子は、配列番号6および7のいずれか1つの配列を含み得る。
【0018】
いくつかの態様において、第二の導入遺伝子(cARCタンパク質をコードする)は、配列番号15~18のいずれか1つと、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99.5%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。第一の導入遺伝子は、配列番号15~18に示すヌクレオチド配列のいずれかを含み得る。具体的な態様において、第一の導入遺伝子は、配列番号16の配列を含む。
【0019】
いくつかの態様において、配列内リポソーム進入部位(IRES)は、2以上の導入遺伝子の間(例として、cS100A1導入遺伝子とcARC導入遺伝子との間)に存在する。いくつかの態様において、S100ファミリータンパク質をコードする導入遺伝子は、アポトーシスインヒビターをコードする導入遺伝子の5’側にある。他の態様において、アポトーシスインヒビターをコードする導入遺伝子は、S100ファミリータンパク質をコードする導入遺伝子の5’側にある。
【0020】
さらに本明細書に提供されるのは、AAVカプシド中にカプシド化された、本明細書に開示のrAAVベクターを含有するrAAV粒子である。本開示の他の側面は、本明細書に記載のrAAV粒子を含有する組成物を包含する。かかる組成物は、心臓疾患のための遺伝子治療のために対象に投与され得る。いくつかの態様において、心臓疾患は、対象において心不全を引き起こす。いくつかの態様において、心臓疾患は、心筋症である。他の態様において、心臓疾患は、肥大型心筋症または拡張型心筋症である。他の態様において、心臓疾患は、急性虚血である。
【0021】
本開示の組成物は、異なるルートを介して、対象に投与され得る。いくつかの態様において、組成物は、注射を介して対象の心臓に投与される。いくつかの態様において、組成物の投与は、対象の心臓における導入遺伝子(例として、2以上の導入遺伝子)の発現を結果として生じる。様々な態様において、組成物を投与するステップは、対象における10か月超にわたる改善された心臓機能などの、対象における心臓機能の改善を結果として生じる。いくつかの態様において、投与は、12か月超、14か月超、16月か月超、17月か月超、20月か月超、22か月超、または24月か月超にわたる、心臓機能の改善を結果として生じる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図面の簡単な記載
以下の図面は、本願明細書の一部を形成し、および、本開示のある側面をさらに示すために包含される。本開示は、似たような参照数字が似たような要素を同定する、添付の図面と併せて、以下の記載を参照することによって、より良く理解され得る。
【0023】
図1図1は、例示のAAV構築物の図表を描写する。第一のAAV逆方向末端反復(ITR)は、これに続き心臓トロポニンTプロモーター(cTnT)、次いでS100カルシウム結合タンパク質A1(cS100A1)をコードする配列、これに続き配列内リポソーム進入部位(IRES)、これに続きカスパーゼ動員ドメインを有するアポトーシスリプレッサー(cARC)をコードする配列、これに続きポリアデニル化(PA)配列、および第二のAAV ITRが続く。
図2図2は、ベースラインおよび遺伝子送達の数週間後における処置された筋ジストロフィーのイヌからの拡張期MRI画像を描写する。データは、拡張期の左心室体積における軽度の減少を有する、安定したまたはわずかに改善した心臓リモデリングを支持する。
【0024】
図3図3は、ベースラインおよび遺伝子送達の数週間後における処置された筋ジストロフィーのイヌからの収縮期MRI画像を描写する。データは、処置後の安定したまたはわずかに改善した左心室収縮期機能を支持し、改善した収縮力および左心室心拍出量における増加を示唆する、収縮期体積の軽度の低減を有する。
図4図4は、AAVrh.10-S100A1/ARC処置後の、D2.mdxマウスの駆出率、ピークストレイン、および心拍出量を示す。24週期間にわたり、治療用AAVを注射したマウスは、シャム注射のマウスと比較して、駆出率、ストレイン発生、および心拍出量をよりよく維持していた。
【0025】
図5図5は、組換えAAVrh.10-S100A1/ARCベクターで処置したマウスおよび対照マウスにおけるS100A1およびARC発現レベルを示す。タンパク質分析(ウェスタンブロット)は、S100A1およびARCの両方のレベルが、対照(シャム注射)と比較して、処置された組織において上昇したことを確認した。
図6図6は、10Xおよび20X倍率下での対照および処置マウスの心筋細胞を示す。心臓の組織学データは、対照心臓と比較して、DMD病的状態を少なく示すことを表す。
【0026】
図7図7は、(二匹のうちの)第一のジストロフィン欠損イヌ(GRMDイヌ)名称カルビンが、組換えAAVrh.10-S100A1/ARC処置後に、(駆出率によって測定される)改善した心筋機能を示したことを示す。両方の注射されたイヌは、心臓MRIによって測定され、および、エコーデータによって確認される、処置後の駆出率および他の心臓パラメータにおける改善を示した。
図8図8は、第二のGRMDイヌ名称セバスチャンが、AAVrh.10-S100A1/ARC処置後に、改善された心臓機能を示したデータを示す。
【0027】
図9図9A~9Cは、両肢の面積(図9A)、最大断面積(CSA)(図9B)、および両肢の体積(図9C)によって測定される場合の、AAV-S100A1/ARC処置が、GRMDイヌの肢筋肉質量のMRI測定値において血清クレアチンキナーゼ(CK)レベルを減少させ、および、筋委縮症を防止したことを示す。結果は、骨格筋質量が、心臓処置後に、増加したかまたは変化しないままのいずれかであったことを示す。
図10図10は、GRMD対象の骨格筋における循環クレアチンキナーゼレベル(CK)レベルが、AAVrh.10-S100A1/ARC注射後に低減されたことを示し、進行中の筋肉損傷における低減を表す。
【0028】
図11-1】図11は、コドン最適化されたイヌARC cDNA配列およびコドン最適化されたヒトARC cDNA配列の間の配列アライメントを示す。配列は、上から下に、配列番号15、16、および6に対応する。
図11-2】図11は、コドン最適化されたイヌARC cDNA配列およびコドン最適化されたヒトARC cDNA配列の間の配列アライメントを示す。配列は、上から下に、配列番号15、16、および6に対応する。
図12-1】図12は、コドン最適化されたおよびネイティブなヒトARC cDNA配列の間の配列アライメントを示す。配列は、上から下に、配列番号17、18、および6に対応する。
図12-2】図12は、コドン最適化されたおよびネイティブなヒトARC cDNA配列の間の配列アライメントを示す。配列は、上から下に、配列番号17、18、および6に対応する。
図13図13は、コドン最適化されたおよびネイティブなヒトS100A1 cDNA配列の間の配列アライメントを示す。配列は、上から下に、配列番号19、5、および8に対応する。
【0029】
図14図14は、コドン最適化されたイヌS100A1 cDNA配列およびコドン最適化されたヒトS100A1 cDNA配列の間の配列アライメントを示す。配列は、上から下に、配列番号20、8、および21に対応する。
図15図15は、10月齢のD2.mdxマウス(n=12)の、1月齢でのAAVrh.10-S100A1/ARC処置後の、短縮率および駆出率を示す。短縮率および駆出率の両方は、AAVrh.10-S100A1/ARC処置マウスにおいて、野生型D2マウスと有意に異なっていなかったが、未処置のD2.mdxマウスは、機能において有意な低減を有していた。
図16図16は、1月齢でのAAVrh.10-S100A1/ARC処置後の、10月齢のD2.mdxマウス(n=12)の、左心室の体積および直径を示す。拡張期および収縮期の両方の間の、増大した体積および直径は、拡張型心筋症を指し示す。体積および直径の両方は、AAVrh.10-S100A1/ARC処置マウスにおいて、野生型D2とは有意に異なっていなかったが、未処置のD2.mdxマウスは、両方のパラメータにおいて有意な増加を有していた。
【0030】
図17図17は、6週齢で運動を始めたが、6月齢まで処置を受けなかった、D2.mdx.sk_ユートロフィンマウス(研究開始において1グループあたりn=12)の5%生存の齢を示す。処置を受けなかった対照グループにおいて、生存中央値は、10月齢であった。AAVrh.10-ARCを受けたグループは、14月の生存中央値を有し、AAVrh.10-S100A1を受けたグループは、16月の生存中央値を有し、および、AAVrh.10-S100A1/ARCを受けるグループは、20月の生存中央値を有していた。
図18図18は、駆出率が、コロニーの未処理のGRMDイヌ(n=10)において加齢とともに変化すること、および、駆出率が、赤い矢印によって指し示される齢(3月齢と7月齢との間)において、AAVrh.10-S100A1/ARCベクターでの処置を受けた個々のGRMDイヌにおいて変化することを示す。処置されたイヌの4匹全てにおいて、駆出率は、処置後に改善し、および、その後安定している。
図19図19は、7月齢においてAAVrh.10-S100A1/ARCベクターでの処置を受けた、正常な1年齢のゴールデンレトリバー(最左パネル)およびGRMDイヌ(WnM3/Calvin)の左心室組織学(H&E染色)を示す。処置されたイヌは、誤嚥性肺炎に起因して34月齢で死んだが、彼の心臓機能は依然として正常範囲内であった(図18)。中央の3つのパネルは、8、24および30月齢で未処置のGRMDイヌからの左心室組織学を示す。筋肉組織と置き換わる、見掛けのおよび進行性の線維症が存在する(桃色)。最右の処置イヌのパネルにおいて、組織学は、正常のイヌのものとは識別可能に異なっておらず、および、および、未処置のGRMDイヌよりも著しく線維性ではなく、および、より無傷である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
詳細な記載
本開示は、ヒト対象における心臓疾患、例として心筋症についての心臓遺伝子治療の組成物および方法に関する。本開示の方法は、2つ以上の導入遺伝子の同時送達および発現のための、組換えAAV(rAAV)粒子の使用に関する。本開示の導入遺伝子は、少なくとも2つのクラスのタンパク質を含み、各々が、心臓疾患の異なる側面に取り組むための特定の機能を有する。1つのクラスの導入遺伝子は、心筋細胞におけるカルシウムシグナリングを調節する(例として、S100ファミリータンパク質)。他のクラスの導入遺伝子は、アポトーシスリプレッサーを含む。いくつかの態様において、導入遺伝子は、心臓S100カルシウム結合タンパク質A1(cS100A1)またはそのバリアント、およびカスパーゼ動員ドメインを有する心臓アポトーシスリプレッサー(cARC)またはそのバリアントであり得る。
【0032】
本開示の組成物および方法は、これらが対象の心臓に同時に送達されおよび発現するときの、2つの導入遺伝子、例としてS100A1およびARCの相乗効果に少なくとも一部基づいている。S100A1タンパク質は、収縮機能の正常化を導く筋小胞体トランジェントの正常化を包含する、カルシウム操作の側面を改善する。ARCタンパク質は、ミトコンドリアおよび非ミトコンドリア機構によって開始されるアポトーシス(ストレッチ誘導性アポトーシスなど)をブロックし、および、ミトコンドリア機能を改善する。換言すれば、S100A1およびARCは、相乗的な利益を有する、2つの別々の心不全の構成要素(カルシウム操作機能障害およびアポトーシス)に取り組み、より良い長期の治療成果を導く。さらに、本開示の組成物および方法は、心不全のいずれの疾患段階でも有効である。
【0033】
さらに本明細書に提供されるのは、対象の心臓に導入遺伝子、例としてS100A1およびARCまたはそのバリアントを送達するのに好適なrAAV粒子を作製する方法である。かかるrAAV粒子は、導入遺伝子をコードする核酸分子を含む、組換えAAVゲノムを含み得、ここで該核酸分子は、AAVカプシドタンパク質によってカプシド化される。いくつかの態様において、rAAV粒子は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)核酸ベクターを包含する。組換えAAVゲノムは、宿主ゲノムへのAAVゲノムの統合および導入遺伝子の発現を容易にする配列要素をさらに含み得る一本鎖DNAである。例えば、組換えAAVゲノムは、標的組織または器官における導入遺伝子の発現を保証するために、組織特異的プロモーターを含み得る。かかるrAAV粒子は、心臓病の処置のための組成物において使用され得る。
【0034】
よって、本開示はさらに、対象の心臓に導入遺伝子を送達するための組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを提供する。いくつかの態様において、開示されたrAAVベクターは、少なくとも2の導入遺伝子を包含し、1つは、S100ファミリータンパク質をコードし、1つは、アポトーシスインヒビターをコードする。これらのrAAVベクターは、5’から3’の順で、第一のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)配列、導入遺伝子に操作可能に連結されたプロモーター、および第二のAAV逆方向末端反復(ITR)配列を包含してもよい。いくつかの態様において、2つの導入遺伝子は、同じ単一のプロモーターに操作可能に連結されている。他の態様において、各導入遺伝子は、別々のプロモーターに操作可能に連結されている。いくつかの態様において、rAAVベクターはまた、少なくとも1のポリアデニル化シグナルを包含する(例として、単一のプロモーターから発現される2つの導入遺伝子の3’側に位置するか、または、異なるプロモーターから発現される1つまたは両方の導入遺伝子の3’側に位置する)。
【0035】
本開示はさらに、対象の心臓に2以上の導入遺伝子を送達するための、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)核酸ベクターを提供する。いくつかの態様において、rAAVベクターは、正確に、2つの導入遺伝子を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターは、3つの導入遺伝子を含む。いくつかの態様において、該ベクターは、5’から3’に、第一のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)配列、2以上の導入遺伝子および2以上の導入遺伝子に操作可能に連結されたプロモーター、ポリアデニル化シグナル、および第二のAAV逆方向末端反復(ITR)配列を含む。特定の実施形態において、2以上の導入遺伝子は、S100ファミリータンパク質を含む第一の導入遺伝子、およびアポトーシスインヒビターを含む第二の導入遺伝子を含む。
【0036】
「導入遺伝子」は、本明細書に使用されるとき、1つの生物から別の生物へ天然にまたは数多の遺伝子工学技法のいずれかによって導入された遺伝子または遺伝子材料を指す。導入遺伝子は、目的のタンパク質またはポリペプチド(例として、S100A1、ARC)または目的のRNA(例として、siRNAまたはマイクロRNA)であってもよい。いくつかの態様において、1つのrAAVベクターは、1以上の導入遺伝子についてのコード配列を含み得る。例えば、1つのrAAVベクターは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10の導入遺伝子についてコード配列を含み得る。いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターは、S100A1およびARCの両方またはそのバリアントのコード配列を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターはさらに、Repタンパク質をコードする領域を含む。本開示の導入遺伝子は、2つのクラスのタンパク質を含み、各々は、1以上の心臓病の異なる側面に取り組むための特定の機能を有する。導入遺伝子の1つのクラスは、心筋細胞におけるカルシウムシグナリングを調節し得る(例として、S100ファミリータンパク質)。別のクラスの導入遺伝子は、アポトーシスリプレッサーを含み得る。
【0037】
本明細書に使用されるとき、用語「バリアント」は、天然に存在するものから逸脱した特徴を有する核酸を指す(例として、「バリアント」は、野生型核酸と、少なくとも約70%同一、少なくとも約80%同一、少なくとも約90%同一、少なくとも約95%同一、少なくとも約96%同一、少なくとも約97%同一、少なくとも約98%同一、少なくとも約99%同一、少なくとも約99.5%同一、または少なくとも約99.9%同一である)。実例として、導入遺伝子バリアントは、その野生型配列と比較して、導入遺伝子のヌクレオチドにおいて1以上の置換を含む核酸である。これらの置換は、サイレントであってもよく、すなわち、これらはコードされるいずれかのタンパク質のアミノ酸配列を改変しない(またはその他、バリアントアミノ酸配列を結果として生じる)。代替的に、これらの置換は、コードされるタンパク質のアミノ酸配列への改変を結果として生じ得、野生型タンパク質配列と比べて、1以上のアミノ酸置換を有する(例として、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、10~15、または15~20アミノ酸置換を有する)コードされたタンパク質を結果として生じる。これらの置換は、化学的改変ならびにトランケーションを包含する。この用語はさらに、野生型核酸配列の機能的フラグメントも包含する。参照配列のこれらの改変は、参照配列の5’または3’末端、または、参照配列中のヌクレオチドの中で個々にもしくは参照配列内に1以上の連続するグループで分散してかのいずれかで、これらの位置の間のいずれかにおいて生じ得る。
【0038】
実際問題として、いずれかの具体的な核酸分子が、導入遺伝子のヌクレオチド配列と、実例として、少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるかどうかは、公知のコンピュータプログラムを使用して慣用的に決定することができる。問合せ配列(例として、本開示の配列)および対象配列の間の最良の全体の一致(グローバル配列アライメントとも称される)を決定するための好ましい方法は、Brutlag et al. (Comp. App. Biosci. 6:237-245 (1990))のアルゴリズムに基づく、FASTDBまたはblastnコンピュータプログラムを使用して決定することができる。配列アライメントにおいて、問合せ配列および対象配列は、両方ともヌクレオチド配列であるか、または、両方ともアミノ酸配列であるかのいずれかである。該グローバル配列アライメントの結果は、パーセント同一性として表される。FASTDBアミノ酸アライメントにおいて使用される好ましいパラメータは以下である:マトリックス=PAM 0、k-tuple=2、ミスマッチペナルティ=1、結合ペナルティ=20、ランダム化グループ長さ=0、カットオフスコア=1、ウィンドウサイズ=配列長さ、ギャップペナルティ=5、ギャップサイズペナルティ=0.05、ウィンドウサイズ=500または対象アミノ酸配列の長さのいずれか短い方。ヌクレオチドが一致/配列されたかどうかは、FASTDB配列アライメントの結果によって決定される。このパーセンテージは、次いでパーセント同一性から減算され、特定されたパラメータを使用して上記FASTDBプログラムによって計算され、最終的なパーセント同一性スコアに到達する。この最終的なパーセント同一性スコアは、本開示の目的のために使用されるものである。問合せ配列に対して、5’および/または3’末端でトランケートされた対象配列については、パーセント同一性は、問合せ配列の5’または3’に位置する問合せ配列のヌクレオチドの数(対応する対象ヌクレオチドと一致/配列されない)を、問合せ配列の総数のパーセントとして算出することによって補正される。
【0039】
本開示に従って使用され得るS100ファミリータンパク質は、限定せずに、S100A1、S100A2、S100A3、S100A4、S100A5、S100A6、S100A7(例として、ソリアシン)、S100A8(例として、カルグラニュリンA)、S100A9(例として、カルグラニュリンB)、S100A10、S100A11、S100A12(例として、カルグラニュリンC)、S100A13、S100A14、S100A15(例として、koebnerisin)、S100A16、S100B、S100P、およびS100Z、またはそれらのバリアントを包含する。
【0040】
いくつかの態様において、S100ファミリータンパク質は、S100カルシウム結合タンパク質A1(S100A1)であり得る。いくつかの態様において、S100A1は、心臓S100A1(cS100A1)またはそのバリアントである。cS100A1タンパク質は、心筋収縮性の調節因子である。cS100A1タンパク質レベルは、肺の高血圧症のモデルの右心室の肥大組織において低減した。さらに、S100A1は、MYH7、ACTA1およびS100Bを包含する、肥大性遺伝子のアルファ1アドレナリン作動性刺激を阻害する点で、S100A1は、心臓肥大の基礎となる遺伝子プログラムの調節因子である。
【0041】
心筋細胞において、S100A1は、リアノジンレセプター2(RyR2)、筋小胞体Ca2+ATPアーゼ(SERCA)、タイチン、およびミトコンドリアF1-ATPアーゼ活性のモジュレーションを介して、SR、サルコメア、およびミトコンドリア機能のカルシウム制御されたネットワークを調節する。結果として、増大したS100A1発現を有する心筋細胞および心臓は、増大した収縮性および弛緩性性能を示す(減少した弛緩性SR Ca2+漏出および増強されたCa2+再隔離(resquestration)と一緒に、増強されたSR Ca2+負荷およびこれに続く収縮期Ca2+放出から生じる改善されたCa2+の一過性の振幅の結果)。同時に、S100A1は、ミトコンドリア高エネルギーホスファート産生を増大させ、およびよって、増強された心筋細胞Ca2+代謝回転によって増大したアデノシン5’三リン酸(ATP)需要と、エネルギー供給を協調させる。心筋細胞における低減したS100A1発現は、低減した伸縮機能に関連し、このタンパク質の病態生理学的重要性を実証する。
【0042】
いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターのいずれかのポリヌクレオチドのS100A1 cDNA(導入遺伝子)配列は、天然に存在するヒト由来S100A1配列に対して100%同一性を有する。他の態様において、S100A1 cDNA配列は、天然に存在するS100A1配列に対して、少なくとも約70%同一性、少なくとも約80%同一性、少なくとも約90%同一性、少なくとも約95%同一性、少なくとも約96%同一性、少なくとも約97%同一性、少なくとも約98%同一性、少なくとも約99%同一性、少なくとも約99.5%同一性、または少なくとも約99.9%同一性を有する。
【0043】
いくつかの態様において、S100A1 cDNA配列は、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている。いくつかの態様において、S100A1 cDNA(導入遺伝子)配列は、配列番号5または配列番号8に100%同一性を有する配列を含む。他の態様において、S100A1 cDNA配列は、配列番号5または配列番号8に、少なくとも約70%同一性、少なくとも約80%同一性、少なくとも約90%同一性、少なくとも約95%同一性、少なくとも約96%同一性、少なくとも約97%同一性、少なくとも約98%同一性、少なくとも約99%同一性、少なくとも約99.5%同一性、または少なくとも約99.9%同一性を有する。
【0044】
他の態様において、S100A1 cDNA配列は、イヌ細胞における発現のためにコドン最適化されている。いくつかの態様において、rAAVベクターは、配列番号21に、少なくとも約70%同一性、少なくとも約80%同一性、少なくとも約90%同一性、少なくとも約95%同一性、少なくとも約96%同一性、少なくとも約97%同一性、少なくとも約98%同一性、少なくとも約99%同一性、少なくとも約99.5%同一性、または少なくとも約99.9%同一性を有するS100A1 cDNA配列を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターは、配列番号21を含む。
S100A1 cDNA配列の非限定例は、以下に記載される。
【0045】
ネイティブな S100A1 (homo sapiens)
ATGGGCTCTGAGCTGGAGACGGCGATGGAGACCCTCATCAACGTGTTCCACGCCCACTCGGGCAAAGAGGGGGACAAGTACAAGCTGAGCAAGAAGGAGCTGAAAGAGCTGCTGCAGACGGAGCTCTCTGGCTTCCTGGATGCCCAGAAGGATGTGGATGCTGTGGACAAGGTGATGAAGGAGCTAGACGAGAATGGAGACGGGGAGGTGGACTTCCAGGAGTATGTGGTGCTTGTGGCTGCTCTCACAGTGGCCTGTAACAATTTCTTCTGGGAGAACAGTTGA (配列番号5)
【0046】
最適化された S100A1 (homo sapiens)
ATGGGCAGCGAGCTGGAGACCGCCATGGAGACCCTGATCAACGTGTTCCACGCCCACAGCGGCAAGGAGGGCGACAAGTACAAGCTGAGCAAGAAGGAGCTGAAGGAGCTGCTGCAGACCGAGCTGAGCGGCTTCCTGGACGCCCAGAAGGACGTGGACGCCGTGGACAAGGTGATGAAGGAGCTGGACGAGAACGGCGACGGCGAGGTGGACTTCCAGGAGTACGTGGTGCTGGTGGCCGCCCTGACCGTGGCCTGCAACAACTTCTTCTGGGAGAACAGCTGA (配列番号8)
【0047】
コドン最適化されたヒトおよびネイティブなヒトS100A1 cDNA配列(夫々配列番号8および5)の間のヌクレオチド配列アライメントは、図13に示される。
参照のために、動物由来のS100A1 cDNA配列のある非限定例は、以下に記載される。コドン最適化されたイヌS100A1 cDNA配列およびコドン最適化されたヒトS100A1 cDNA配列(夫々、配列番号21および8)の間のヌクレオチド配列アライメントは、図14に示される。
【0048】
S100A1 (canis lupus familiaris)
(NCBI参照配列: XM_005622816.2)
ATGGGCTCTGAGCTGGAGACAGCGATGGAGACTCTCATCAATGTGTTCCATGCCCACTCGGGCAAGGAGGGAAACAAGTACAAGCTGAGCAAGAAGGAGCTAAAGGAGCTGCTGCAGACTGAGCTCTCCGGCTTCCTGGACGCCCAGAAGGATGCGGATGCTGTGGACAAGGTGATGAAAGAGCTAGATGAGAATGGAGATGGGGAGGTGGACTTCCAGGAGTATGTGGTGCTGGTGGCTGCCCTCACAGTGGCCTGTAACAACTTCTTCTGGGAAAACAGTTGA (配列番号1)
【0049】
S100A1 (felis catus)
(NCBI参照配列: XM_003999773.3)
ATGGGCTCAGAGCTGGAGACGGCGATGGAGACTCTCATCAACGTGTTCCACGCCCACTCGGGCAAGGAGGGAGACAAGTACAAGCTGAGCAAGAAGGAGCTAAAAGAGCTGCTGCAGACCGAGCTCTCTGGCTTCCTGGACGCCCAGAAGGATGCCGACGCTGTGGACAAGGTGATGAAAGAGCTAGACGAGAATGGAGATGGGGAGGTGGACTTCCAAGAGTATGTGGTGCTGGTGGCTGCCCTCACAGTGGCCTGTAACAACTTTTTCTGGGAGAACAGTTGA (配列番号2)
【0050】
本開示の側面は、アポトーシスインヒビター(例として、抗アポトーシス剤)をコードする導入遺伝子を包含する組成物およびその送達を包含する方法を提供する。アポトーシスインヒビターの説明に役立つ例は、アデノウイルスからのfink、p35、crmA、Bcl-2、Bcl-XL、Mcl-1、E1B-19K、ならびにアポトーシス促進剤のアンタゴニスト(例として、アンチセンス、リボザイム、抗体、等々)を包含する。いくつかの態様において、アポトーシスインヒビターは、カスパーゼ動員ドメイン(ARC)を有する心臓アポトーシスリプレッサーまたはそのバリアントである。他の態様において、アポトーシスインヒビターは、心臓ARCまたはそのバリアントである。
【0051】
いくつかの態様において、S100ファミリータンパク質およびアポトーシスインヒビターを個別に送達することが所望され得る。ある態様において、S100ファミリータンパク質をコードする導入遺伝子は、1以上の小分子アポトーシスインヒビターと同時にまたは連続して送達される。他の例示の小分子アポトーシスインヒビターは、c-Mycインヒビター、Baxインヒビター、p53インヒビター、tBidインヒビター、カスパーゼインヒビター、およびアポトーシス促進性BCL-2ファミリーメンバーのインヒビターを包含する。
【0052】
cARCは、筋芽細胞においてほとんど排他的に発現されるアポトーシス調節タンパク質である。それは、いくつかの開始剤カスパーゼの活性化をブロックする、カスパーゼ動員ドメイン(CARD)を含有する。ARCはまた、アポトーシスに関連するカスパーゼ独立事象をブロックする。急性虚血およびこれに続く心室リモデリングによって引き起こされるアポトーシスは、心不全のメディエーターとして関係づけられる。虚血後の心不全は、複数の原因を有し得るが、近年の注目は、アポトーシスまたはプログラム細胞死の貢献の理解に向けられている。
【0053】
アポトーシスは、ミトコンドリアおよび筋細胞膜の保存、核クロマチン縮合、および炎症反応を引き起こすことのないマクロファージまたは隣接する細胞による食作用によって特徴づけられる。アポトーシスの活性化は、不活性な前駆体として合成されたおよびその活性形態にタンパク質分解によって切断される、システインプロテアーゼのファミリーである、カスパーゼを伴う機構を介して生じることが知られている。ARCは、カスパーゼをブロックすることによって、アポトーシスの活性化をブロックすることができる。
【0054】
結果的に、いくつかの側面において、本明細書に提供されるのは、配列番号6~8、16、および21のヌクレオチド配列のいずれか1つに、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99.5%同一である配列を含むポリヌクレオチドを含むrAAVベクター(またはrAAV核酸ベクター)である。いくつかの態様において、ポリヌクレオチド配列は、配列番号6~8、16、および21のいずれか1つの配列と、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、または12を超えるヌクレオチドが異なっている。具体的な態様において、開示されたrAAVベクターのいずれかは、配列番号6~8、16、および21のいずれかを含むポリヌクレオチドを含む。
【0055】
いくつかの態様において、開示されたcARCおよびS100導入遺伝子配列は、野生型配列と比べて、5’または3’末端にトランケーションを含む。いくつかの態様において、開示された導入遺伝子配列は、配列番号5~8および15~21と比べて、5’または3’末端にトランケーションを含む。いくつかの態様において、導入遺伝子は、配列番号5~8および15~21のいずれか1つの配列と、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、または12を超えるヌクレオチドが異なるヌクレオチド配列を含む。
【0056】
いくつかの態様において、開示されるrAAVベクターのポリヌクレオチドの心臓ARC cDNA(または導入遺伝子)配列は、天然に存在するヒト由来cARC配列に対して100%同一性を有する。他の態様において、cARC cDNA配列は、天然に存在するヒト由来cARC配列に対して、少なくとも約70%同一性、少なくとも約80%同一性、少なくとも約90%同一性、少なくとも約95%同一性、少なくとも約96%同一性、少なくとも約97%同一性、少なくとも約98%同一性、少なくとも約99%同一性、少なくとも約99.5%同一性、または少なくとも約99.9%同一性を有する。
【0057】
具体的な態様において、cARC cDNA配列は、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化されている。いくつかの態様において、cARC cDNA(導入遺伝子)配列は、配列番号6または配列番号7に100%同一性を有する配列を含む。他の態様において、cARC cDNA配列は、配列番号6または配列番号7に、少なくとも約70%同一性、少なくとも約80%同一性、少なくとも約90%同一性、少なくとも約95%同一性、少なくとも約96%同一性、少なくとも約97%同一性、少なくとも約98%同一性、少なくとも約99%同一性、少なくとも約99.5%同一性、または少なくとも約99.9% 同一性を有する。
【0058】
他の態様において、cARC cDNA配列は、イヌ細胞における発現のためにコドン最適化されている。いくつかの態様において、rAAVベクターは、配列番号16に、少なくとも約70%同一性、少なくとも約80%同一性、少なくとも約90%同一性、少なくとも約95%同一性、少なくとも約96%同一性、少なくとも約97%同一性、少なくとも約98%同一性、少なくとも約99%同一性、少なくとも約99.5%同一性、または少なくとも約99.9%を有するcARC cDNA配列を含む。いくつかの態様において、rAAVベクターは、配列番号16を含む。
cARC cDNA配列の非限定例は、以下に記載されている。
【0059】
最適化された ARC (homo sapiens)
ATGGGCAACGCCCAGGAGCGGCCCAGCGAGACCATCGACCGGGAGCGGAAGCGGCTGGTGGAGACCCTGCAGGCCGACAGCGGCCTGCTGCTGGACGCCCTGCTGGCCCGGGGCGTGCTGACCGGCCCCGAGTACGAGGCCCTGGACGCCCTGCCCGACGCCGAGCGGCGGGTGCGGCGGCTGCTGCTGCTGGTGCAGGGCAAGGGCGAGGCCGCCTGCCAGGAGCTGCTGCGGTGCGCCCAGCGGACCGCCGGCGCCCCCGACCCCGCCTGGGACTGGCAGCACGTGGGCCCCGGCTACCGGGACCGGAGCTACGACCCCCCCTGCCCCGGCCACTGGACCCCCGAGGCCCCCGGCAGCGGCACCACCTGCCCCGGCCTGCCCCGGGCCAGCGACCCCGACGAGGCCGGCGGCCCCGAGGGCAGCGAGGCCGTGCAGAGCGGCACCCCCGAGGAGCCCGAGCCCGAGCTGGAGGCCGAGGCCAGCAAGGAGGCCGAGCCCGAGCCCGAGCCCGAGCCCGAGCTGGAGCCCGAGGCCGAGGCCGAGCCCGAGCCCGAGCTGGAGCCCGAGCCCGACCCCGAGCCCGAGCCCGACTTCGAGGAGCGGGACGAGAGCGAGGACAGCTGA (配列番号6)
【0060】
最適化された ARC (homo sapiens)
ATGGGGAATGCCCAAGAAAGGCCTTCTGAGACTATAGACCGCGAGCGCAAGAGGCTTGTAGAAACCTTGCAGGCGGACTCTGGTCTCTTGCTGGACGCTCTGCTTGCGCGGGGTGTTCTGACTGGACCGGAGTACGAAGCATTGGATGCCCTTCCTGATGCAGAGAGACGAGTTAGACGCCTGTTGCTTCTTGTGCAAGGCAAGGGTGAAGCCGCCTGTCAAGAGCTCCTGAGGTGTGCTCAACGAACCGCCGGGGCGCCAGATCCGGCATGGGATTGGCAACATGTGGGGCCCGGCTATCGGGACCGGAGCTACGATCCACCATGCCCGGGTCATTGGACGCCGGAGGCTCCAGGATCTGGTACAACATGCCCAGGACTCCCAAGAGCCAGTGACCCCGATGAAGCTGGAGGCCCCGAGGGCAGTGAAGCCGTACAGAGCGGTACCCCAGAAGAACCAGAACCGGAGCTGGAGGCTGAAGCTAGTAAAGAGGCGGAACCTGAACCCGAACCGGAGCCTGAGCTCGAGCCAGAGGCTGAGGCCGAGCCAGAGCCTGAACTCGAACCCGAACCTGATCCAGAACCAGAGCCCGACTTCGAGGAACGGGATGAGTCAGAGGATTCTTGA (配列番号7)
【0061】
コドン最適化されたヒトおよびネイティブなヒトARC cDNA配列(夫々、配列番号6および18)の間のヌクレオチド配列アライメントは、図12に示される。
参照のために、動物由来のARC cDNA配列の非限定例は、以下に記載される。コドン最適化されたイヌARC cDNA配列およびコドン最適化されたヒトARC cDNA配列(夫々、配列番号16および6)の間のヌクレオチド配列アライメントは、図11に示される。
【0062】
ARC (canis lupus familiaris)
(NCBI参照配列: NM_001048121.1)
ATGCAGGAAGCGCCAGCCGCGCTGCCCACGGAGCCGGGCCCCAGCCCCGTGCCTGCCTTCCTCGGCAAGCTGTGGGCGCTGGTGGGCGACCCGGGGACCGACCACCTCATCCGCTGGAGCCCGAGCGGGACCAGTTTCCTCGTCAGCGACCAGAGCCGCTTCGCCAAGGAAGTGCTGCCCCAGTACTTCAAGCACAGCAACATGGCGAGCTTCGTGCGGCAGCTCAACATGTACGGTTTTCGGAAGGTGGTGAGCATCGAGCAGGGCGGCCTGCTCAGGCCGGAGCGCGACCACGTCGAGTTCCAGCACCCGAGCTTCGTCCGCGGCCGAGAGCAACTCCTGGAGCGCGTGCGGCGCAAGGTGCCCGCGCTGCGCAGCGACGACGGCCGCTGGCGCCCCGAGGACCTGGGCCGGCTGCTGGGCGAGGTGCAGGCTTTGCGGGGAGTGCAGGAGATCACCGAGGCGCGGCTGCGGGAGCTCAGGCAGCAGAACGAGATCTTATGGAGGGAGGTGGTGACTCTGCGGCAGAGCCACGGTCAGCAGCATCGCGTCATTGGCAAGCTGATCCAGTGCCTCTTTGGGCCACTTCAGACAGGGTCCAGCGGCGCAGGAGCTAAGAGAAAGCTGTCTCTGATGCTGGATGAGGGGAGCTCATGCCCAACACCGGCCAAATTCAACACCTGTCCTTTACCTGGTGCCCTCTTGCAGGATCCCTACTTTATCCAGTCGCCCCTCCCAGAGACCACCTTGGGCCTCAGCAGCTCTCATAGGACCAGGGGCCCTATCATCTCTGACATCCATGAAGACTCTCCCTCCCCTGATGGGACCAGGCTTTCTCCTTCCAGTGGTGGCAGGAGGGAGAAGGGCCTGGCACTGCTCAAAGAAGAGCCGGCCAGCCCAGGGGGGGAAGGCGAGGCCGGGCTGGCCCTGGCCCCAAACGAGTGTGACTTCTGCGTGACAGCCCCCCCCCCACTGTCCGTGGCTGTGGTGCAGGCCATCCTGGAAGGGAAGGGGAACTTCAGCCCCGAGGGGCCCAGGAATGCCCAACAGCCTGAACCAAGGGGTCCCAGGGAGGTACCTGACAGGGGGACTCTGGGCCTGGACAGGGGGGCACGAAGCCCAGAGAATCTGCTGCCTCCCATGCTGCTTCGGGCCCCCCCTGAAAGTGTGGAGCCTGCAGGGCCCCTGGATGTGCTGGGCCCCAGCCATCAAGGGCGAGAATGGACCCTGATGGACTTGGACATGGAGCTGTCCCTGATGCAGCCCTTGGGTCCAGAGAGGAGTGAGACTGAGCTGGCGGTCAAGGGGTTAAATTCTCCGGGGCCAGGGAAGGACTCCACACTTGGGGCACCACTCCTGCTCGATGTCCAAGCGGCTTTGGGAGGCCCAGCTCTCAGCCTTCCTGGAGCTTTAACCATTTACAGCACCCCTGAGAGCCGAGCCAACTACCTAGGCCCAGGGGCCAATCCCTCCCCCTGA (配列番号3)
【0063】
ARC (felis catus)
(NCBI参照配列: XM_006941587.2)
ATGGGCAATGCGCAGGAGCGGCCCTCAGAGACGATCGATCGCGAGCGGAAACGCCTAGTGGAGACGCTGCAGGACGACTCCGGGCTGCTGCTGGATGCACTGCTGGCGCGCGGCGTGCTCACCGGGCCTGAGTATGAGGCGTTGGACGCGCTGCCTGATGCCGAGCGCAGGGTGCGTCGCCTGCTGCTGCTGGTACAAAGCAAGGGCGAGGCCGCCTGCCAGGAGCTGCTGCACTGCGCCCAGCGTACTACGCGCGCGCCAGACCCGGCCTGGGACTGGCAGCACGTGGGCACTGGCTACCGGGAACGCAGCTACGACTCTCCATGCCCTGGCCACTGGACGCCTGAGGCACCTGACTTGAGGACCGCTTGCCCCGAAACGCCCAGAGCTTCAGACTGCGACGAGGCTGGGGTTTCAGGGGGCTCGGAGGCAGTATCCGGAACCCTCGAGGAACTCGATCCGGAAGTGGAAGCTGAAGTCTCTGAAGGGGCTGAGCCAGAGCCAGAGCCAGAGCCCGACTTTGAGGCGGGTGATGAGTCTGAAGATTCC (配列番号4)
【0064】
他の側面において、開示されたrAAVベクターのいずれかの2以上の導入遺伝子は、ホスホランバン(またはdn-PLN)のドミナントネガティブ形態を含む導入遺伝子を含む。ホスホランバン(PLN)は、筋小胞体Ca2+ATPアーゼ2a(SERCA2a)ポンプの内在性インヒビターであり、これは、心筋細胞の筋小胞体(SR)へのカルシウムイオンの取り込みを媒介する。ドミナントネガティブ形態は、SERCA2aの結合のために、ネイティブなホスホランバンと競合する偽リン酸化(pseudophosphorylated)形態であり、およびそれによってSERCA2aに対するその阻害効果を低減する(Bish, et al, Hum Gene Ther. 2011; 22(8): 969-977を参照のこと、参照により本明細書中に援用される)。結果的に、いくつかの態様において、開示されたrAAVベクターの第二の導入遺伝子は、dn-PLNを含む。いくつかの態様において、開示されたrAAVベクターは、開示されたS100A1導入遺伝子(例として、ヒトコドン最適化されたS100A1配列)およびdn-PLN導入遺伝子のいずれかを含み得る。いくつかの態様において、開示されたrAAVベクターは、S100A1タンパク質およびdn-PLNタンパク質をコードし得、およびそれによって細胞に送達する。
【0065】
さらなる側面において、開示されたrAAVベクターのいずれかは、3以上の導入遺伝子を含み得る。いくつかの態様において、rAAVベクターは、3つの導入遺伝子をコードする。いくつかの態様において、第三の導入遺伝子は、dn-PLN配列である。該3つの導入遺伝子は、S100A1(例として、ヒトコドン最適化されたS100A1配列)をコードする第一の導入遺伝子、cARC(例として、ヒトコドン最適化されたcARC配列)をコードする第二の導入遺伝子、およびdn-PLNをコードする第三の導入遺伝子を含み得る。
【0066】
いくつかの態様において、開示されたrAAVベクターは、イヌまたはネコ由来のタンパク質をコードしない。いくつかの態様において、開示されたベクターのいずれかは、ネイティブなイヌまたはネコS100A1をコードするまたはARCをコードするヌクレオチド配列を含まない。いくつかの態様において、開示されたrAAVベクターは、配列番号1または2を含まない。いくつかの態様において、開示されたrAAVベクターは、配列番号3または4、または配列番号1~4のいずれかを含まない。
【0067】
組換えAAV(rAAV)ベクター
本開示の側面は、心臓疾患の遺伝子治療のために使用され得る組換えAAVベクターに関する。本明細書に使用されるとき、用語「ベクター」は、核酸ベクター(例として、プラスミドまたは組換えウイルスゲノム)、野生型AAVゲノム、またはウイルスゲノムを含むウイルスを指し得る。いくつかの態様において、用語「ベクター」は、AAVウイルス粒子などのウイルス粒子を指し得る。
【0068】
野生型AAVゲノムは、プラス鎖またはマイナス鎖のいずれかの一本鎖デオキシリボ核酸(ssDNA)である。ゲノムは、2つの逆方向末端反復(ITRs)(DNA鎖の各末端に1つ)および2つのオープンリーディングフレーム(ORF):ITRの間にrepおよびcapを含む。rep ORFは、AAV生活環について必要なRepタンパク質をコードする4つの重複する遺伝子を含む。cap ORFは、一緒に相互作用してウイルスカプシドを形成する、カプシドタンパク質:VP1、VP2およびVP3をコードする重複する遺伝子を含む。
【0069】
VP1、VP2およびVP3は、2つの異なる様式でスプライシングされ得る、1つのmRNA転写産物から翻訳される。より長いまたはより短いかのいずれかのイントロンが、切除され、2つのmRNAアイソフォーム:~2.3kbおよび~2.6kb長のmRNAアイソフォームの形成を結果として生じ得る。カプシドは、およそ60の個々のカプシドタンパク質サブユニットの、AAVゲノムを保護することができる、非エンベロープのT-1正二十面体格子の超分子アセンブリを形成する。成熟したAAVカプシドは、約1:1:10の比率で、VP1、VP2、およびVP3(夫々およそ87、73、および62kDaの分子量)から構成される。
【0070】
組換えAAV(rAAV)粒子は、組換え核酸ベクター(以下、「rAAVベクター」と称される)を含み得、これは、最小限で:(a)導入遺伝子をコードする配列を含む1以上の異種核酸領域;および(b)対象のゲノムへの異種核酸領域の統合を容易にする配列を含む1以上の領域(任意に発現を容易にする配列を含む1以上の核酸領域を用いる)を含み得る。いくつかの態様において、対象のゲノムへの異種核酸領域の統合を容易にする配列(任意に発現を容易にする配列を含む1以上の核酸領域を用いる)は、1以上の核酸領域(例として、異種核酸領域)に隣接する逆方向末端反復(ITR)配列(例として、野生型ITR配列または改変されたITR配列)である。
【0071】
いくつかの態様において、rAAV核酸ベクターは、プロモーターに作動可能に連結した目的のタンパク質またはポリペプチドをコードする配列を含む1以上の導入遺伝子を含み、1以上の導入遺伝子は、ITR配列と各末端において隣接している。いくつかの態様において、核酸ベクターは、本明細書に記載のRepタンパク質をコードする領域をさらに含み、これは、ITRが隣接する領域内に含有されるか、または、プロモーターに作動可能に連結した領域または核酸の外側に含有されるかの、いずれかである。
【0072】
ITR配列は、いずれかのAAV血清型(例として、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)に由来してもよいし、1を超える血清型に由来してもよい。いくつかの態様において、ITR配列はAAV2またはAAV6血清型に由来する。いくつかの態様において、本明細書に提供される第一の血清型は、AAV2またはAAV8血清型ではない。いくつかの態様において、第一の血清型のITR配列は、AAV3、AAV5またはAAV6に由来する。いくつかの態様において、ITR配列は、AAV2、AAV3、AAV5またはAAV6に由来する。いくつかの態様において、ITR配列は、カプシドと同じ血清型である(例として、AAV6 ITR配列およびAAV6カプシド、等々)。いくつかの態様において、ITR配列は、AAVrh.10血清型に由来する。
【0073】
ITR配列およびITR配列を含有するプラスミドは、当該技術分野において知られており、および市販されている(例として、Vector Biolabs, Philadelphia, PA; Cellbiolabs, San Diego, CA; Agilent Technologies, Santa Clara, Ca;およびAddgene, Cambridge, MAから入手可能な製品およびサービス;およびGene delivery to skeletal muscle results in sustained expression and systemic delivery of a therapeutic protein. Kessler PD,et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 Nov 26;93(24):14082-7;およびCurtis A. Machida. Methods in Molecular Medicine(商標). Viral Vectors for Gene Therapy Methods and Protocols. 10.1385/1-59259-304-6:201(著作権)Humana Press Inc. 2003. Chapter 10. Targeted Integration by Adeno-Associated Virus. Matthew D. Weitzman, Samuel M. YoungJr., Toni Cathomen and Richard Jude Samulski;米国特許第5,139,941号および第5,962,313号を参照のこと、これらすべては参照により本明細書に組み込まれる)。いくつかの態様において、rAAVは、pTR-UF-11プラスミド主鎖を含み、これは、AAV2 ITRを含有するプラスミドである。このプラスミドは、American Type Culture Collectionから市販されている(ATCC MBA-331)。
【0074】
いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターは、対象における同時送達および発現のために、cS100A1導入遺伝子およびcARC導入遺伝子の両方を含む。S100ファミリータンパク質をコードする導入遺伝子(例として、cS100A1)は、本明細書に記載のrAAV核酸ベクター内のアポトーシスインヒビターをコードする導入遺伝子(例として、cARC)の5’側に位置し得る。代替的には、アポトーシスインヒビターをコードする導入遺伝子は、記載されるrAAV核酸ベクター内のS100ファミリータンパク質をコードする導入遺伝子の5’側に位置し得る。
【0075】
よって、いくつかの態様において、rAAVベクターは、導入遺伝子(例として、異種核酸)の発現を容易にする配列(例として、核酸に操作可能に連結された発現制御配列)を含む1以上の領域を含む。無数のかかる配列は、当該技術分野において知られている。発現制御配列の非限定例は、プロモーター、インスレーター、サイレンサー、応答エレメント、イントロン、エンハンサー、開始部位、配列内リポソーム進入部位(IRES)終止シグナル、およびポリ(A)シグナルを包含する。かかる制御配列のいずれかの組み合わせは、本明細書で企図される(例として、プロモーターおよびポリ(A)シグナル)。いくつかの態様において、rAAVベクターは、導入遺伝子のコード配列に操作可能に連結され、および、導入遺伝子の発現を容易にするプロモーターを含む。
【0076】
「プロモーター」は、明細書に使用されるときは、核酸配列の残りの転写の開始および速度が制御される核酸の制御領域を指す。プロモーターは、それが調節する核酸配列の転写を駆動し、よって、それは、遺伝子の転写開始部位かまたはその近くに典型的に位置付けられる。プロモーターは、例えば、100~1000ヌクレオチドの長さを有し得る。いくつかの態様において、プロモーターは、核酸、または核酸の配列(ヌクレオチド配列)に操作可能に連結されている。プロモーターが配列を調節するように(例として、配列の転写開始および/または発現を制御する(「駆動する」)ように)その配列に関して正確な機能的な位置および配向でプロモーターが存在するとき、プロモーターは、それが調節する核酸の配列に「操作可能に連結」されていると考えられる。
【0077】
本開示に従って使用され得るプロモーターは、対象の心臓において導入遺伝子の発現を駆動できるいずれかのプロモーターを含み得る。いくつかの態様において、プロモーターは、組織特異的プロモーターであり得る。「組織特異的プロモーター」は、本明細書に使用されるときは、特定のタイプの組織、例として心臓においてのみ機能することができるプロモーターを指す。よって、「組織特異的プロモーター」は、他のタイプの組織において導入遺伝子の発現を駆動することはできない。いくつかの態様において、本開示に従って使用され得るプロモーターは、心臓に限局的なプロモーターである。例えば、プロモーターは、心臓トロポニンC、心臓トロポニンI、および心臓トロポニンT(cTnT)から選択される心臓に限局的なプロモーターである。
【0078】
代替的には、プロモーターは、限定せずに、以下の遺伝子:α-ミオシン重鎖遺伝子、6-ミオシン重鎖遺伝子、ミオシン軽鎖2v(MLC-2v)遺伝子、ミオシン軽鎖2a遺伝子、CARP遺伝子、心臓α-アクチン遺伝子、心臓m2ムスカリン性アセチルコリン遺伝子、ANF、心臓トロポニンC、心臓トロポニンI、心臓トロポニンT(cTnT)、心臓筋小胞体Ca-ATPアーゼ遺伝子、骨格筋α-アクチンの1つからのプロモーター;またはMLC-2v遺伝子に由来する人工心臓プロモーターであり得る。
【0079】
開示されたrAAVベクターのいくつかの態様において、2以上の導入遺伝子は、単一のプロモーターによって操作可能に制御される。他の態様において、2以上の導入遺伝子の各々は、別個のプロモーターによって操作可能に制御される。
【0080】
いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターはさらに、配列内リポソーム進入部位(IRES)を含む。IRESは、タンパク質合成のより大きなプロセスの一部として、メッセンジャーRNA(mRNA)配列の中央における翻訳開始を可能にするヌクレオチド配列である。開始複合体のアセンブリのために5’キャップ認識が必要とされるので、大抵、真核生物において、翻訳は、mRNA分子の5’末端のみにおいて開始することができる。いくつかの態様において、IRESは、導入遺伝子の間に位置付けられる。かかる態様において、異なる導入遺伝子によってコードされるタンパク質は、個々に翻訳される(すなわち、融合タンパク質として翻訳されるのに対して)。
【0081】
いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターはさらに、ポリアデニル化(pA)シグナルを含む。真核生物のmRNAは、典型的には前駆体mRNAとして転写される。前駆体mRNAは、ポリアデニル化プロセスを包含し、成熟したmRNAを生成するようにプロセシングされる。ポリアデニル化のプロセスは、遺伝子ターミネーターの転写として開始する。新しく作製された前駆体mRNAの最も3’側のセグメントは、一組のタンパク質によって最初に切断される。これらのタンパク質は次いで、RNAの3’末端においてポリ(A)テールを合成する。切断部位は典型的には、ポリアデニル化シグナル、例として、AAUAAAを含有する。ポリ(A)テールは、mRNAの核外輸送、翻訳、および安定性に重要である。
【0082】
いくつかの態様において、本開示のrAAVベクターは少なくとも、5’から3’の順に、第一のアデノ随伴ウイルス(AAV)逆方向末端反復(ITR)配列、第一の導入遺伝子に操作可能に連結されたプロモーター、第二の導入遺伝子に操作可能に連結されたIRES、ポリアデニル化シグナル、および第二のAAV逆方向末端反復(ITR)配列を含む。
【0083】
いくつかの態様において、rAAVは、環状である。いくつかの態様において、rAAVベクターは、直鎖状である。いくつかの態様において、rAAVベクターは、一本鎖である。いくつかの態様において、rAAVベクターは、二本鎖である。いくつかの態様において、rAAVベクターは、自己相補的なrAAVベクターである。本明細書に記載のいずれかのrAAVベクターは、AAV6カプシドまたはいずれの他の血清型(例として、ITR配列と同じ血清型である血清型)などのウイルスカプシドによってカプシド化されてもよい。
【0084】
以下に記載のものは、本開示の例示のrAAVベクターである。以下に説明されるベクターは、配列番号9~12に示す直鎖状プラスミド配列を含む。本開示のベクターは、配列番号9~12に示す配列と、少なくとも70%同一性、少なくとも約80%同一性、少なくとも約90%同一性、少なくとも約95%同一性、少なくとも約96%同一性、少なくとも約97%同一性、少なくとも約98%同一性、少なくとも約99%同一性、少なくとも約99.5%同一性、または少なくとも約99.9%同一性を有するヌクレオチド配列を含み得る。これらの配列は、以下のKeyで注釈を付けている。
【0085】
いくつかの態様において、開示されたrAAV核酸ベクター配列のいずれかは、配列番号9~12のいずれか1つの配列と比べて、5’または3’末端においてトランケーションを含む。いくつかの態様において、rAAVベクターのいずれかは、配列番号9~12のいずれか1つの配列とは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または18を超えるヌクレオチドが異なっている。
【0086】
pAAVsc.cTnT.Opt.hARC_Opt.hS100A1 (配列番号9)
【化1】
【0087】
pAAVsc.cTnT.Opt.hS100A1 _ Opt.hARC (配列番号10)
【化2】
【0088】
pAAVsc.cTnT.hS100A1.hARC_opt (配列番号11)
【化3】
【0089】
pAAVsc.cTnT.hARC_Opt.hS100A1 (配列番号12)
【化4】
【0090】
組換えAAV(rAAV)粒子
さらに本明細書に提供されるのは、rAAVウイルス粒子またはかかる粒子を含有するrAAV調製物である。rAAV粒子は、本明細書に記載のウイルスカプシドおよびrAAVベクターを含み、これは、ウイルスカプシドによってカプシド化される。rAAV粒子を生成する方法は、当該技術分野において知られており、および、市販されている(例として、Zolotukhin et al., Production and purification of serotype 1, 2, and 5 recombinant adeno-associated viral vectors. Methods 28 (2002) 158-167;および米国特許出願公開番号US2007/0015238およびUS2012/0322861を参照のこと、これらは参照により本明細書に組み込まれる;ならびにプラスミドおよびキットは、ATCCおよびCell Biolabs, Inc.から入手可能である)。
【0091】
例えば、rAAVベクターを含有するプラスミドは、1以上のヘルパープラスミド、例として、rep遺伝子(例として、Rep78、Rep68、Rep52およびRep40をコードする)およびcap遺伝子(VP1、VP2、およびVP3をコードし、本明細書に記載の改変されたVP3領域を包含する)を含有するものと組み合わされ得、およびrAAV粒子がパッケージングされおよび続いて精製できるように、生産株にトランスフェクトされ得る。
【0092】
本明細書に開示のrAAV粒子またはrAAV調製物内の粒子は、いずれかの誘導体またはシュードタイプ(例として、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、2/1、2/5、2/8、2/9、3/1、3/5、3/8、または3/9)を包含する、いずれかのAAV血清型であってもよい。本明細書に使用されるとき、rAAV rAAV粒子の血清型は、組換えウイルスのカプシドタンパク質の血清型を指す。いくつかの態様において、rAAV粒子は、rAAV6またはrAAV9である。誘導体およびシュードタイプの非限定例は、AAVrh.10、AAVrh.74、AAV2/1、AAV2/5、AAV2/6、AAV2/8、AAV2/9、AAV2-AAV3ハイブリッド、AAVhu.14、AAV3a/3b、AAVrh32.33、AAV-HSC15、AAV-HSC17、AAVhu.37、AAVrh.8、CHt-P6、AAV2.5、AAV6.2、AAV2i8、AAV-HSC15/17、AAVM41、AAV9.45、AAV6(Y445F/Y731F)、AAV2.5T、AAV-HAE1/2、AAV クローン32/83、AAVShH10、AAV2(Y->F)、AAV8(Y733F)、AAV2.15、AAV2.4、AAVM41、およびAAVr3.45を包含する。
【0093】
かかるAAV血清型および誘導体/シュードタイプ、およびかかる誘導体/シュードタイプを生産する方法は、当該技術分野において知られている(例として、Mol Ther. 2012 Apr;20(4):699-708. doi: 10.1038/mt.2011.287. Epub 2012 Jan 24. The AAV vector toolkit: poised at the clinical crossroads. Asokan A1, Schaffer DV, Samulski RJ.を参照のこと)。特定の態様において、本明細書に開示されるrAAV粒子のいずれかのカプシドは、AAVrh.10血清型のものである。いくつかの態様において、カプシドは、AAV2/6血清型のものである。いくつかの態様において、rAAV粒子は、偽型のrAAV粒子であり、これは、(a)1つの血清型(例として、AAV2、AAV3)からのITRを含むrAAVベクターおよび(b)別の血清型(例として、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、またはAAV10)に由来するカプシドタンパク質から構成されるカプシドを含む。シュードタイプのrAAVベクターを生産および使用する方法は、当該技術分野において知られている(例として、Duan et al., J. Virol., 75:7662-7671, 2001; Halbert et al., J. Virol., 74:1524-1532, 2000; Zolotukhin et al., Methods, 28:158-167, 2002;およびAuricchio et al., Hum. Molec. Genet., 10:3075-3081, 2001)。
【0094】
心臓疾患のためのrAAV遺伝子治療
本開示はまた、開示されたrAAV粒子または調製物の1以上を含む組成物に関する。いくつかの態様において、rAAV調製物は、第一の血清型(例として、AAV3、AAV5、AAV6、またはAAV9)のITRを含有するrAAVベクターおよびrAAVベクターをカプシド化するカプシドタンパク質を含むrAAV粒子を含む。いくつかの態様において、カプシドタンパク質は、第一の血清型(例として、AAV3、AAV5、AAV6、またはAAV9)のものである。いくつかの態様において、調製物は、AAV2 ITRを含有するrAAVベクターを使用して調製された調製物と比較して、(例として、Huh7などのヒト肝細胞がん細胞株において)、少なくとも4倍高い形質導入効率を有する。
【0095】
本明細書に記載のとおり、かかる組成物はさらに、医薬賦形剤、緩衝剤、または希釈剤を含んでいてもよく、およびex vivoで宿主細胞にまたは動物にin situで、具体的にはヒトへ投与のために、製剤化され得る。かかる組成物はさらに、任意に、リポソーム、脂質、脂質複合体、ミクロスフェア、マイクロ粒子、ナノスフェア、またはナノ粒子を含んでいてもよいし、または他に、細胞、組織、器官、またはこれを必要とするヒト対象の身体への投与のために製剤化されてもよい。かかる組成物は、例えば、本明細書に記載の疾患または障害を結果として生じる状態を包含する、ペプチド欠乏症、ポリペプチド欠乏症、ペプチド過剰発現、ポリペプチド過剰発現などの状態の寛解、予防、および/または処置におけるなどの、様々な治療における使用のために製剤化され得る。
【0096】
本開示のrAAVベクター、rAAV粒子、またはrAAV粒子を含む組成物は、これを必要とする対象における心臓疾患の遺伝子治療のために使用され得る。本開示の方法および組成物を使用して処置され得る心臓疾患の例は、これらに限定されないが、心筋症および急性虚血を包含する。いくつかの態様において、心臓心筋症は、肥大型心筋症または拡張型心筋症である。心筋症または他の心臓疾患によって引き起こされる心不全は、2つの構成要素、カルシウム操作機能障害およびアポトーシスを含む。rAAVベクター、粒子、およびrAAV粒子を含む組成物は、例として、冠動脈への血管送達および/または心臓への直接注射を介して、これを必要とする対象に投与される場合、かかる心不全の処置に使用され得る。
【0097】
rAAVベクター、粒子、およびrAAV粒子を含む組成物は、対象の心筋細胞において、cS100A1タンパク質およびARCタンパク質の同時発現を駆動する。S100A1は、収縮機能の正常化を導く筋小胞体トランジェントの正常化を包含する、カルシウム操作の側面を改善する。ARCは、ミトコンドリアおよび非ミトコンドリア機構(ストレッチ誘導性アポトーシスなどの)によって開始されるアポトーシスをブロックし、ならびに、ミトコンドリア機能を改善するだろう。よって、本開示の導入遺伝子によって発現される2つのタンパク質の相乗的な利益は、心筋症の両方の側面を標的化することにより、より良い長期治療効果を導き得る。
ヒト由来S100A1およびARCタンパク質のアミノ酸配列は、以下に記載される。
【0098】
ヒト ARC:
MGNAQERPSETIDRERKRLVETLQADSGLLLDALLARGVLTGPEYEALDALPDAERRVRRLLLLVQGKGEAACQELLRCAQRTAGAPDPAWDWQHVGPGYRDRSYDPPCPGHWTPEAPGSGTTCPGLPRASDPDEAGGPEGSEAVQSGTPEEPEPELEAEASKEAEPEPEPEPELEPEAEAEPEPELEPEPDPEPEPDFEERDESEDS (配列番号13)
ヒト S100A1:
MGSELETAMETLINVFHAHSGKEGDKYKLSKKELKELLQTELSGFLDAQKDVDAVDKVMKELDENGDGEVDFQEYVVLVAALTVACNNFFWENS (配列番号14)
【0099】
いくつかの側面において、開示されたrAAVベクターは、配列番号13または14と、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99.5%同一のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする。いくつかの側面において、開示されたrAAVベクターは、配列番号13と、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99.5%同一のアミノ酸配列を含む第一のタンパク質、配列番号14と、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99.5%同一のアミノ酸配列を含む第二のタンパク質をコードする。いくつかの態様において、AAVベクターは、配列番号13を含むタンパク質をコードする。いくつかの態様において、rAAVベクターは、配列番号14を含むタンパク質をコードする。具体的な態様において、rAAVベクターは、配列番号13を含む第一のタンパク質、および、配列番号14を含む第二のタンパク質をコードする。
【0100】
いくつかの態様において、開示されたrAAVベクターのいずれかは、配列番号13または14のいずれかの配列とは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、または12を超えるアミノ酸が異なる第一のタンパク質配列をコードする。いくつかの態様において、開示されたrAAVベクターのいずれかは、配列番号13または14の配列のいずれかと比べて、NまたはC末端において、1、2、3、または3を超えるアミノ酸がトランケートしているタンパク質をコードする。
【0101】
よって、本開示の他の側面は、本開示のrAAV粒子を、それが必要な対象に投与することに関する。いくつかの態様において、対象に投与されるrAAV粒子の数は、約10~約1014粒子/mLまたは約10~約1013粒子/mLの範囲のオーダー、または例えば、約10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、または1014粒子/mLなどの、いずれかの範囲の間のいずれかの値であり得る。いくつかの態様において、対象に投与されるrAAV粒子の数は、約10~約1014ベクターゲノム(vgs)/mLまたは10~1015vgs/mLの範囲のオーダー、または例えば、約10、10、10、10、1010、1011、1012、1013、または1014vgs/mLなどの、いずれかの範囲の間のいずれかの値であり得る。rAAV粒子は、単回用量として投与することができ、または処置される具体的な疾患または障害の治療を達成するために要求され得るとおり、2以上の投与に分けることができる。いくつかの態様において、約0.0001mL~約10mLの範囲の用量が、対象に送達される。
【0102】
所望される場合、rAAV粒子およびrAAVベクターは、治療用ポリペプチド、生物学的に活性なフラグメント、またはそのバリアントの1以上の投与を包含する、例として、タンパク質またはポリペプチドまたは様々な薬学的に活性な薬剤などの、他の薬剤と組み合わせて、同様に投与され得る。追加の薬剤が標的細胞または宿主組織と接触した際に有意な弊害を引き起こさないかぎり、事実上は包含され得る他の構成要素に制限はない。rAAV粒子または調製物は、よって、必要に応じ具体的な場合に、様々な他の薬学的に許容し得る薬剤と一緒に送達され得る。かかる組成物は、宿主細胞または他の生物学的供給源から精製されてもよく、または代替的に本明細書に記載されるとおり、化学的に合成されてもよい。
【0103】
薬学的に許容し得る賦形剤および/または担体溶液を含む製剤は、例として、経口、非経口、静脈内、鼻腔内、関節内、および筋肉内の投与および製剤化を包含する様々な処置計画において、本明細書に記載の具体的な組成物を使用するための好適な投薬および処置計画の開発と同様に、当業者に周知である。
【0104】
典型的には、これらの製剤は、少なくとも約0.1%またはそれ以上の治療剤(例として、rAAV粒子または調製物および/またはrAAVベクター)を含有してもよいが、活性成分(単数または複数)のパーセンテージは、もちろん、全製剤の重量または体積の約1または2%と、約70%または80%またはそれ以上との間で便宜上変化してもよい。当然ながら、各治療上有用な組成物中の治療剤(単数または複数)の量は、好適な投薬量がいずれかの所定の単位用量の化合物で得られるであろう様式で、調製され得る。可溶性、バイオアベイラビリティ、生物学的半減期、投与ルート、製品貯蔵寿命などの因子、ならびに他の薬理学的な考慮は、かかる医薬製剤を調製する場合に、当業者に企図されるだろう。加えて様々な投薬量および処置計画が所望され得る。
【0105】
ある状況において、皮下に、血管内に、心臓内に、眼内に、硝子体内に、非経口的に、皮下に、静脈内に、脳室内に、筋肉内に、髄腔内に、経口的に、腹腔内に、経口または経鼻吸入によって、または1以上の細胞(例として、心筋細胞および/または他の心臓細胞)、組織、または器官への直接注射によってのいずれかで、本明細書に開示の好適に製剤化された医薬組成物中で、rAAV粒子または調製物および/またはrAAVベクターを送達することが望ましいだろう。いくつかの態様において、本開示のrAAV粒子またはrAAV粒子を含む組成物は、冠動脈へ血管内投与される。他の態様において、開示されるrAAV粒子または組成物は、対象の心臓への直接注射により投与される。心臓への直接注射は、例として、針カテーテルを使用する、心筋組織、心臓の裏層(lining)、または心臓を囲む骨格筋の1以上への注射を含み得る。
【0106】
注射可能な用途に好適な組成物の医薬製剤は、滅菌水性溶液または分散体を包含する。いくつかの態様において、製剤は、滅菌され、および容易な通針性(syringability)が存在する程度に流動性である。いくつかの態様において、形態は、製造及び保管の条件下で安定であり、および、細菌および真菌などの微生物の混入作用に対して保存されている。担体は、例えば、水、生理食塩水、エタノール、ポリオール (例として、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、好適なそれらの混合物、植物油または合衆国食品医薬品局によって一般的に安全と認められている(Generally Recognized as Safe(GRAS))ものなどの他の薬学的に許容し得る担体を含有する、溶媒または分散媒体である。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散の場合の要求される粒子サイズの維持によって、および、界面活性剤の使用によって、維持され得る。
【0107】
用語「担体」は、rAAV粒子または調製物および/またはrAAVベクターと一緒に投与される、希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。かかる医薬担体は、水および油などの滅菌された液体(鉱油などの石油、落花生油、大豆油、およびゴマ油などの植物油、動物油、または合成起源の油のものを包含する)であり得る。生理食塩水溶液および水性のデキストロースおよびグリセロール溶液もまた、液体担体として使用され得る。
【0108】
注射可能な水性溶液の投与のために、例えば、溶液は、好適に緩衝化され得、必要ならば、液体希釈剤が、充分な生理食塩水またはグルコースを用いて、最初に等張性にされる。これらの具体的な水性溶液は、静脈内、筋肉内、硝子体内、皮下および腹腔内の 投与にとくに好適である。この文脈では、使用され得る滅菌された水性媒体は、本開示を考慮して、当業者に公知であろう。例えば、1投薬量は、1mLの等張性NaCl溶液中に溶解され得、および、1000mLの皮下注入液に添加されるか、または、注入の提案部位において注射されるか、のいずれかである(例えば、”Remington’s Pharmaceutical Sciences” 15th Edition, pages 1035-1038 and 1570-1580を参照)。投薬量におけるいくつかのバリエーションは、処置される対象の状態に応じて、必然的に発生するだろう。投与を担う人は、いずれの事象においても、個々の対象について適切な用量を決定するだろう。その上、ヒト投与のために、調製物は、無菌状態、発熱性、ならびに例として、FDAの生物製剤標準局(Office of Biologics standards)によって要求される、一般的な安全性および純度標準を満たすべきである。
【0109】
滅菌された注射可能な溶液は、rAAV粒子または調製物、Repタンパク質、および/またはrAAVベクターを、上に列挙される他の成分のいくつかと共に、要求される量で、適切な溶媒中に組み込み、これに続きフィルター滅菌ことによって調製される。一般に、分散体は、様々な滅菌された活性成分を、基本的な分散媒体および上に列挙されるものからの他の成分を含有する滅菌されたビヒクルに組み込むことによって調製される。滅菌された注射可能な溶液の調製のための滅菌された粉末の場合、調製の好ましい方法は、真空乾燥および凍結乾燥技法であり、これは、これまでに滅菌ろ過されたそれらの溶液からの、活性成分およびいずれかの追加の所望される成分の粉末を生産する。
【0110】
rAAV粒子または調製物、および/またはrAAVベクター組成物の量、ならびにかかる組成物の投与の時間は、本発明の教示の利益を有する当業者のプレビューの範囲内であろう。しかしながら、治療的に有効量の本開示の組成物の投与は、単一の投与、例えば、かかる処置を受ける患者に治療上の利益を提供するのに充分な数の感染粒子の単一の注射によって達成され得るだろう。代替的に、いくつかの状況において、rAAV粒子または調製物、および/またはrAAVベクター組成物の複数または連続する投与を、かかる組成物の投与を監視する医師によって決定され得るように、相対的に短い期間、または相対的に長い期間のいずれかで、提供することが所望され得る。
【0111】
本開示の組成物は、rAAV粒子または調製物および/またはrAAVベクターを、単独で、あるいは、天然または組換えの供給源から得られ得るまたは化学的に合成され得る、1以上の追加の活性成分と組み合わせて、包含し得る。いくつかの態様において、rAAV粒子または調製物は、ボルテゾミブなどのプロテアソームインヒビター、またはヒドロキシ尿素と、同じ組成物中で、または同じ処置計画の一部として、投与される。
【0112】
用語として、疾患を「処置する」とは、対象によって経験される疾患または障害の兆候または症状の少なくとも1つの頻度または重症度を低減させることを意味する。上に記載の添え生物は、典型的には、有効量で対象に投与され、これは、所望される結果を産生することができる量である。所望される結果は、投与される活性剤に依存するだろう。例えば、有効量のrAAV粒子は、異種核酸を宿主の器官、組織または細胞に移入させることができる粒子の量であり得る。
【0113】
本開示の方法において利用される組成物の毒性および有効性は、LD50(集団の50%に致死的な用量)を決定するために、培養細胞または実験動物のいずれかを使用して、標準的な医薬手順によって決定され得る。毒性と有効性との間の用量比率は、治療的指標であり、およびそれは、比率LD50/ED50によって表され得る。大きい治療的指標を示す組成物が好ましい。毒性の副作用を示す組成物は使用され得るが、かかる副作用の潜在的な損傷を最小化する送達系を設計するように注意されるべきである。本明細書に記載の組成物の投薬量は、一般に、毒性がほとんどないかまたは毒性が全くないED50を包含する範囲内である。投薬量は、使用される剤形および利用される投与ルートに依存して、この範囲内で変化し得る。
【0114】
本開示の他の側面は、ヒトまたは非ヒト対象、対象におけるin situの宿主細胞、または対象に由来する宿主細胞などの、対象を用いる使用のための方法および調製物に関する。いくつかの態様において、対象は、哺乳動物である。いくつかの態様において、対象は、伴侶動物である。「伴侶動物」は、本明細書に使用されるときは、ペットおよび他の飼育動物を指す。伴侶動物の非限定例は、イヌおよびネコ;ウマ、畜牛、ブタ、ヒツジ、ヤギ、およびニワトリなどの家畜;およびマウス、ラット、モルモット、およびハムスターなどの他の動物を包含する。いくつかの態様において、対象は、ミニブタ(a miniature pig) またはミニブタ (mini-pig)である。いくつかの態様において、対象は、ヒト対象である。
【0115】
いくつかの態様において、対象は、遺伝子治療で処置され得る心臓疾患を有するかまたはこれを有すると疑われている。いくつかの態様において、対象は、心不全のいずれかの段階である。いくつかの態様において、心不全は、心筋症によって引き起こされる。いくつかの態様において、心不全は、肥大型心筋症または拡張型心筋症によって引き起こされる。
【0116】
以下の例は、本開示のある態様の説明を意図するものであり、および、非限定的なものであることを意図しない。本願全体に引用されるすべての参考文献(参考文献、交付済み特許、公開された特許出願、および同時係属中の特許出願を包含する)の内容全体は、本明細書に参照により明確に援用される。
【実施例
【0117】
例1:心不全の複数の側面を治療的に標的とする
いくつかの側面において、本開示は、1以上の心臓病(例として、心筋症、肥大型 心筋症、拡張型心筋症、心不全、心臓疾患、等々)を処置する際に有用な組成物および方法を提供する。いくつかの態様において、本開示によって提供される組成物は、冠動脈へ血管内に投与される。いくつかの態様において、組成物は、心臓への複数回の直接注射を介して、対象に提供することができる。対象に提供することができる例示のAAV構築物は、図1に描写される。ある態様において、かかる例示の構築物は、組換えAAV(例として、AAVrh.10またはAAV6)によってカプシド化され、および、1以上の心臓病(例として、心筋症)の2つの別々の側面に取り組むために、S100カルシウム結合タンパク質A1(S100A1)およびカスパーゼ動員ドメインを有するアポトーシスリプレッサー(ARC)のコード配列を含む。図1における例示的な構築物の両方の導入遺伝子は、心臓TnTプロモーターによって駆動され、およびよって心筋細胞においてのみ発現するだろう。
【0118】
S100A1は、収縮性機能の正常化を導く筋小胞体トランジェントの正常化を包含する、カルシウム操作の側面を改善する。ARCは、ミトコンドリアおよび非ミトコンドリア機構によって開始されるアポトーシス(例として、ストレッチ誘導性アポトーシス)をブロックし、ならびにミトコンドリア機能を改善するだろう。心不全のこれら2つの別々の構成要素(カルシウム操作機能障害およびアポトーシス)は、個別に取り組まれるが、決して一緒に取り組まれない。そのため、かかるアプローチの相乗的な利益は、改善された長期成果を結果として生じ得る治療的選択肢を提供する。心筋症の両方の側面を標的とすることによって、本願によって提供される組成物および方法は、複数の心臓病(例として、肥大型心筋症または拡張型心筋症)に取り組むために使用され得、および、心不全のいずれかの段階において有益であろう。
【0119】
本明細書において言及されるすべての刊行物、特許および配列データベースエントリーは、あたかも各々個々の刊行物または特許が具体的におよび個々に参照により援用されるように表されるかのように、それらの全体が参照により援用される。矛盾が生じる場合、本明細書のいずれかの定義を包含する本出願が優先する。
【0120】
例2:イヌにおける拡張型心筋症の遺伝子治療
拡張型心筋症(DCM)は、イヌにおける後天性心臓疾患の第二の最も一般的な原因であり、最も一般的にはドーベルマン・ピンシェル、グレート・デーンおよびアイリッシュ・ウルフハウンドなどの大型犬種に影響する。この疾患に罹患したヒトにおいて、心臓移植および左心室補助デバイスなどの外科手術選択肢が存在する。しかしながら、獣医学において、唯一の治療的選択肢は、心不全に関連する兆候の医療管理である。罹患したイヌの予後は、疾患の段階および品種に依存する。例えば、ほとんどのドーベルマン・ピンシェルは、うっ血性心不全(CHF)の発症後6か月未満生存する。対照的にコッカー・スパニエルなどの他の品種は、それより長く生存する傾向がある。心臓疾患が進行するにつれて、心臓細胞内のカルシウム移動を調節するチャネルの機能障害は、カルシウム循環異常、さらに心臓の収縮および弛緩の機能障害を促進する。注目すべきことに、カルシウム輸送異常は、天然に存在するDCM5を有するイヌにおいて認識されており、および、多くの異なる病理学に続発する心不全とともに発生する。
【0121】
カルシウム循環異常を正常化するように設計された遺伝子導入ストラテジーは、様々な形態の心臓疾患を有する小動物および大型動物モデルにおいて、心臓疾患を寛解する。事実上、臨床試験は、心筋症へのこの治療的アプローチを試験するために、ヒトにおいて既に進行中であり、および予備結果は、勇気づけるものである。パイロット研究は、DCMに罹患し、およびCHFを示す、ドーベルマン・ピンシェルにおけるカルシウム操作を正常化するように設計された遺伝子送達の有効性を評価している。ドーベルマン・ピンシェルは、DCMがこの品種において広範囲に広がっており、および、一旦CHFが発症するとこの疾患がこの品種において迅速かつ均一に進行するので、利用されている。DCMに取り組むための新規なモダリティは、ドーベルマン・ピンシェル、ボクサー犬、グレート・デーン、ジャーマン・シェパード、ゴールデンレトリバー等々を包含するこの突発性疾患に罹りやすいすべてのイヌ品種に対して有意な影響を与えるだろう。注目すべきことに、最も一般的な形態の天然に存在する心臓疾患(イヌ変性性弁疾患およびDCM)を有するイヌからの試料における心筋タンパク質レベルの先の調査は、複数のタンパク質(S100A1を包含する)レベルが異常である(S100A1が減少している)ことを見出した。
【0122】
これらの知見は、S100A1を標的とする遺伝子送達が、DCMおよび変性性弁疾患に続発する心不全の発症を有効に処置し得ることを示唆する。加えて、アポトーシス(プログラム細胞死)は、罹患した心筋において最も一般的であり、および、ARCは、アポトーシスの強力なおよび多機能性インヒビターである。目下、獣医学心不全のための治療標準は、流体過負荷およびうっ血の医療管理である。異常な心筋調節分子に向けられた遺伝子送達技法は、獣医学臨床医が、初めて、心筋疾患過程に具体的に取り組むことを可能にし得る分子標的を提供する。その上、現在のベクター産生技法およびベクターの心筋内遺伝子送達に関連する費用は、この治療の費用を、経時的に減少することが予測される費用を有する多くのオーナーにとって手が届くものとする。
【0123】
AAV 2/6ベクターを使用する最小限に侵襲性の遺伝子導入方法は、正常なイヌにおいて、>75%の心筋細胞の形質導入を結果として生じた(Bish LT, Sleeper MM, Brainard B, et al. Percutaneous transendocardial delivery of self-complementary adeno-associated virus 6 achieves global cardiac gene transfer in canines. Mol. Ther. 16, 1953-9 (2008)を参照のこと)。6匹の正常な雑種犬を、ホスホランバンのドミナントネガティブ形態(dn-PLN)(ネイティブなホスホランバンと競合する、したがってSERCA2aに対するその阻害性効果を低減する偽リン酸化(pseudophosphorylated)形態)(n=4)またはAAV2/6 dn-PLNおよびS100A1(n=2)をコードするAAV2またはAAV6ベクターのいずれかで処置した。すべてのイヌは、処置後2年にわたり、正常な心臓血管機能を有して健康なままであり、治療は、心筋炎を引き起こさず、または、心臓機能を有意に変更しないことを表し、したがって、この治療的アプローチの安全性を支持する。心臓機能は、駆出率または当該分野で公知の任意の他の方法によって測定され得る。
【0124】
実に、40を超える正常なおよび疾患のイヌ(以下を参照のこと)が注射され、および、今日までの結果は、注射技法は、十分なに許容されることを表す。加えて、ペンシルベニア大学のMatthew J. Ryanベタリナリー病院における20匹の無作為のイヌの症例を、rAAV2/6に対する抗体のためにサンプリングし、および、力価は、20匹のイヌのうち19匹において、処置について許容できる範囲内であることが見出され、先の免疫応答が有意な割合の治療候補を排除しないだろうということを表す。この治療的アプローチがDCMの処置に効果的であるかどうかを決定するために、重篤な形態の迅速に進行する若年性DCMを有するポーチュギーズ・ウォーター・ドッグを次いで処置した。
【0125】
注目すべきことに、AAV2/6 dn-PLNを注射したイヌは、リン酸化された PLNにおける著しい減少を示し、このアプローチの、この疾患モデルにおけるカルシウム循環を正常化する潜在的能力を支持する。その上、dn-PLNおよびS100A1の両方を含有する遺伝子送達は、dn-PLN単独を含有するベクターの送達よりも大きい程度で、DCMに続発するCHFの発症を示した。組み合わせベクターは、dn-PLN治療単独と比較して、CHFの開始を平均4週間遅延させた。この理由のために、組み合わせベクターアプローチは、成体発病DCMおよびうっ血性心不全に罹患するドーベルマンの寿命を延長するのに遺伝子治療が有効であるかどうかを決定するための、パイロット研究において利用される。
【0126】
研究は、盲目のプラセボ制御設計を有する。処置されたDCMおよびCHFの最後の12のドーベルマン・ピンシェル症例に基づいて、148日の平均生存(160日の標準偏差)が存在した。0.8の検出力、0.05のアルファ(両側)および1の症例対対照の比率を使用して、各群13匹のイヌの試料サイズは、6か月生存における差異を検出するために必要とされる。この計算は、パラメータ試料サイズ試験を使用して決定された。DCMおよび制御されたCHFを有する26匹のドーベルマン・ピンシェルが登録される。登録に適格となるためには、イヌは、1:20未満のAAV2/6に対する循環中和抗体力価を有しなければならず、および、心臓以外の疾患がなければならない。
【0127】
加えて、先天性心疾患または原発性僧帽弁疾患の証拠を同時に有するイヌは除外される。ベースライン(登録時間)において、抗体力価、CBC、および化学パネルは、スクリーニング目的で使用される。イヌは、3分間の心電図(ECG)および完全な心エコー(complete echocardiogram)(ECHO)を受け、オーナーは、これまでに確証された生活の質のアンケートを完了する。ECGは、インターバル期間および不整脈の存在について評価される。ECHOは、2D、Mモードおよびドプラ研究(組織ドプラを包含する)を包含する。胸部X線検査は疾患を段階づけるために使用される(イヌは、うっ血性心不全の病歴を臨床的に補償される)。
【0128】
登録のための要件を満たすイヌは、無作為にプラセボ治療群(生理食塩水での心臓注射)または遺伝子治療群(AAV2/6-ARC-s100a1を用いる心臓注射)に割り当てられる。DCMおよびうっ血性心不全のための標準的な医療管理は、すべてのイヌの研究を通してずっと続く(ピモベンダン、アンギオテンシンインヒビターおよび利尿薬治療)。処置群がプラセボ群と比較して有意な改善を示す場合、対照イヌが遺伝子送達を受けることができるように、空のカプシドの代わりに生理食塩水が、シャム治療として使用される。治療の2、4、6、9、および12月後において、ECG、ECHO、生活の質のアンケートおよび実験室分析は、繰り返される。統計分析は、2か月の間隔で行われる。
【0129】
図2および3は、夫々、処置された筋ジストロフィーイヌにおける、拡張期(弛緩)および収縮期(収縮)データを描写する。心内膜および心外膜の輪郭は、図の各々において観察され得る。データは、表1においてみられるような数週間にわたる処置後の安定したまたはわずかに改善された機能を表す。以下の表1は、時間1(処置前)および時間2(処置後)においてとられたデータについての、左心室質量(LVM[g])、収縮終期体積(EDV[ml])、拡張終期体積(ESV[ml])、脳卒中体積(SV[ml])、駆出率(EF[%])、および心拍出量(CO[l/min])の結果を示す。
【0130】
【表1】
【0131】
例3:マウスおよびイヌへのベクター送達後のジストロフィー表現型の査定
S100A1/ARC自己相補的なベクターの心臓AAV遺伝子送達は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(ジストロフィン欠乏症)のマウスおよびイヌモデルにおいて査定された。以前には、AAV8(その複数のバリアントを包含する)、AAV9、およびAAVrh.10血清型は、イヌ心臓に感染するそれらの能力について比較され、およびAAVrh.10は、最も効率的であると見出された。この理由のために、AAVrh.10は、この例において記載されるすべての実験のために使用された。
【0132】
DBA/2JバックグラウンドのMdx(ジストロフィン欠損)マウス(「D2.mdx」)は、組換えAAVrh.10-S100A1/ARCベクター(以下、「治療的AAV」と称される)で、4週齢で注射され、および、24週後にサクリファイスされた。D2.mdxマウスは、低減した下方後肢筋肉質量、委縮した筋線維、増大した線維症および炎症、および筋肉衰弱などの、デュシェンヌ型筋ジストロフィーミオパチーの数個のヒト特徴を再現する。24週間にわたり、治療用AAVを注射されたマウスは、心臓MRIによって測定する場合、シャム注射マウスと比較して、駆出率、ストレイン発生、および心拍出量をよりよく維持した(図4を参照のこと)。タンパク質分析(ウェスタンブロット)は、S100A1およびARCの両方のレベルが、対照(シャム注射)と比較して、処置組織おいて上がったことを確認した(図5を参照のこと)。さらにまた、心臓組織学は、処置された心臓が、対照心臓と比較して、病的状態がはるかに少ないことを示した(図6を参照のこと)。
【0133】
2匹のGRMD(ジストロフィン欠損)イヌ(ヒトのデュシェンヌ型筋ジストロフィーのイヌモデル)は、冠動脈へのカテーテル送達を介して、心臓駆出率における最初の減少の時期に治療用ベクターを注射された。心臓駆出率は、心筋症の発病を表す兆候を構成し表す。イヌ対象の自然の病歴研究からの初期の知見は、駆出率が低下し始めるとすぐに、これらは、翌年にかけて、増進的に低下し続けることを表した(図18)。イヌは、典型的には、駆出率がこの着実な減少を開始した後、8~12か月より長くは生存しない。
【0134】
図7および8に示されるように、両方の対象は、心臓MRIによって測定される場合、および、エコー測定によって確認される場合、AAVrh.10-S100A1/ARCを用いる処置後数か月で、駆出率および他の心臓パラメータにおける改善を示した。処置の大体12月後に、最初の対象は、正常範囲内の、着実な駆出率を示した。同じく、処置の大体7月後に、第二の対象は、着実な正常な駆出率を示した。
【0135】
心臓機能が改善されるだけでなく、運動の間に対象をフィルム撮影することによって定量的に評価する場合、イヌの運動能力における一定の改善がまた存在していた。この改善された運動能力と一貫して、対象の肢のMRI測定は、骨格筋質量が、AAV処置後に増強されたかまたは変化しなかったかのいずれかであったことを示した(図9A~9C)。加えて、骨格筋において循環するクレアチンキナーゼレベル(CK)レベルは、処置後に低減され(図10)、進行中の筋肉損傷における低減を表す。
【0136】
例4:DCMイヌ対象の処置
ドーベルマン・ピンシェルは、いずれのイヌ品種のうちでDCMの発生率が最も高い。これの遺伝的基礎は、イヌのサブセットのみについて知られている。これは、任意の他の遺伝的複合なしで、DCMおよび心不全の大規模な動物モデルを提供する。後期心不全のイヌのみが、GRMDイヌにおいて使用される同じAAV.S100A1.ARCベクターで処置される。この処置の目的は、心臓機能を改善し、および、寿命を延長することである。
【0137】
二匹のドーベルマン・ピンシェル対象は、今日まで、冠動脈へのAAVrh.10-S100A1/ARCカテーテル送達で処置されており、両方のイヌは、処置の時点で心不全を経験している。両方のイヌは、処置後に迅速な改善を示した。各イヌは、処置後に2回の心エコー装置によって評価し、心室体積、壁圧、および拡張期および収縮期の房の直径、ならびに、短縮率および駆出率を含むがこれに限定されない心臓の構造および機能的パラメータを評価した。最初のイヌは、たった10%の駆出率で処置され、したがって、処置の時点で死に近かった。処置後24時間以内に、駆出率は、25%まで改善した。処置後4か月での、イヌの最初の経過観察訪問において、駆出率は、26%で着実に維持されていた。6か月での、2回目の経過観察訪問において、その駆出率は32%であった。イヌは、8月齢でうっ血性心不全により死亡した。よって、処置は、寿命を延長させるが、心臓機能は処置においてすでに損なわれ過ぎており、長期生存を可能にはできなかった。
【0138】
第二の処置されたドーベルマン・ピンシェルは、処置の前に32%の駆出率(低い率)を有していたが、差し迫った死の危険はない。イヌの駆出率は、処置後24時間以内に49%まで改善し、これは正常範囲内である。処置試験の4月後において、イヌの駆出率は、52%であり、および、8か月での調査において、駆出率は50%であった。1年の調査に戻る前に、イヌは、肺がんと診断され、2月後に死亡した。その死亡の原因は、心不全とは関連していなかった。
これらの知見に基づき、AAVrh.10-S100A1/ARC処置は、イヌにおける心臓機能を正常範囲まで回復することができる。
【0139】
例5:ヒト由来cDNA配列を含むベクターの評価
ヒト由来ARC(「hARC」)およびS100A1(「hS100A1」) cDNA配列を含むプラスミドを、マウスにおける評価のために構築した。ネイティブなヒトcARCおよびS100A1遺伝子は、ヒト細胞における発現のためにコドン最適化した。
【0140】
これらのプラスミドは、配列番号9~12のヌクレオチド配列を含む。これらのプラスミドの各々は、cTnTプロモーターによって作動可能に制御されたcARCおよびS100A1 cDNA配列、ならびにこれらの配列の間のIRESを含む。すべての4つのプラスミドは、コドン最適化されたヒトcARC(hARC)配列を含む。配列番号9および10に示すプラスミドは、コドン最適化されたhS100A1配列をさらに含む;および配列番号11および12に示すプラスミドは、野生型hS100A1配列をさらに含む。
【0141】
これらの4つのプラスミドの各々は、自己相補的なAAVrh.10ベクターにクローニングされ、および続いて、rAAV粒子にカプシド化された。これらのベクターを含むrAAVrh.10粒子は、マウスに投与された。
マウスにおけるARCおよびS100A1の発現レベルを評価した。ジストロフィー表現型および心臓の駆出率を含む心臓機能を、モニタリングおよび評価した。
【0142】
例6:長期のマウスおよびイヌ研究
ジストロフィーマウス研究
S100A1およびARCのAAV心臓遺伝子送達は心臓機能の保存を導く
これまでに提供されたマウス研究に加えて(図4~6)、2つのタイプの長期研究を実施し、その結果を、図15~17に要約する。図15および16に示されるのは、重度の線維化背景に基づくジストロフィン欠損マウス、DBA/2J(また「D2」と称される)マウスからのデータであり、よって、D2.mdxマウスと称されるものを作成した。これらのマウスは、心臓トロポニンT(cTnT)プロモーターにより作動可能に制御される、二重導入遺伝子(S100A1およびARC)カセットを含有するAAVで、1月齢で処置した。マウスは、10月齢まで、ほとんど体を動かさない環境に収容され、その時点で、心臓病を評価した。
【0143】
いずれかの導入遺伝子単独と比較した、S100A1およびARCのAAV心臓遺伝子送達の優位性
これらの研究と並行して、生存研究を、D2.mdxマウスにおいて実施した。このマウスにおいては、骨格筋アルファ-アクチンプロモーターの制御下でのユートロフィンの発現により、骨格筋のみのトランスジェニックレスキューが存在し(Rafael JA, et al. Skeletal muscle-specific expression of a utrophin transgene rescues utrophin-dystrophin deficient mice. Nat Genet. 19:79-82, 1998を参照)、これは、D2.mdx.sk_ユートロフィンマウスと称される。このポイントは、一般に肺筋系または骨格筋系の疾患なしで、心不全および死亡を導く、純粋な拡張型心筋症を有するマウスを作製することであった。これは、マウスが、回し車と共に個別にそれらを収容することによって運動させることを可能にした。この運動は、心臓に対してさらなる負荷およびストレスを創出し、心筋症および心不全の発生の加速を導く。個体が、測定可能な心疾患の開始の前に処置を受けない臨床事態をよりよくモデル化するために、マウスを6月齢で処置し、このときに、線維症が存在し、および心臓機能異常が出現し始めた。
【0144】
ARCまたはS100A1単独の送達と比べて、同じ構築物中のS100A1+ARCの一緒の送達の潜在的な優位性を評価するために、導入遺伝子なし(対照)を送達するか、または、二重導入遺伝子構築物中に使用される同じ心臓プローターを含有するrAAVベクターを送達したが、二重カセット中で使用される同じS100A1またはARC cDNAのいずれかを駆動するが、組み合わせてではなく、単独で駆動する。よって、ARC単独、S100A1単独、S100A1およびARCの組み合わせのいずれかの能力を、この心不全モデルにおいて寿命を延長させるために、比較した。
【0145】
図17に示されるとおり、導入遺伝子単独で、寿命を有意に延長することができ、ARCは4か月、およびS100A1は5か月延長できた。しかしながら、導入遺伝子S100A1およびARCの組み合わせは、20月齢まで、10か月寿命を延長させた。野生型D2マウスは、~23月の寿命を有するのみであり、それで、これは、心臓の顕著に強いレスキューを表した。二重rAAV構築物への導入遺伝子の組み合わせは、相乗的な効果を提供した。ベクターの投与は、D2マウスの寿命をおよそ野生型の寿命まで延長させ、、単一導入遺伝子ベクターと比べて寿命を4~5か月延長させ、これらの結果は、単一のベクター治療と比べて、統計学的に有意な改善を表す。
【0146】
ジストロフィーイヌ研究
次に、GRMDイヌにマウス処置の結果を拡大するための研究を行った。GRMDイヌ(今日まで、4匹のイヌ)において進行中の研究は、駆出率によって評価される心臓機能が、未処置のイヌの自然経過のレベル未満に下がるときに、AAVrh.10-S100A1/ARC(イヌ導入遺伝子配列)での処置を伴う。心臓の構造および機能的パラメータを評価するために、頻繁な心エコー装置および/またはMRIが、使用されて、イヌの心臓病をフォローする。第一の処置されたイヌ(WnM3/カルビン)は、2年を超えてフォローされ、その間、その心臓機能は改善し、および安定していた。このイヌは、34月齢で、誤嚥性肺炎に関連する合併症に起因して死亡したが、その心臓機能は依然として安定しており、その齢の間ずっと正常な範囲内であった。他の3匹のイヌは、最初の処置の後に全て改善し、および、1年を超えて、安定な心臓機能を示した。
【0147】
このデータは、図18に示される。肺炎でのカルビンの死亡は、彼の心臓組織学の査定を可能にし、これは、図19に示される。顕著なことには、左心室の組織学(これは、処置なしでは、8月齢(WnM3は処置を受けた1月後)で高度に線維性である)は、正常のイヌのそれとはほとんど区別可能でないようである(図19)。これは、心不全および1歳と2歳との間の死亡へ進行するDCMの大動物モデルにおけるほとんど完全な心臓レスキューの証拠である。このコロニーにおいて、30月齢よりも長く生存した未処置のイヌは存在せず(図18)、および、死亡の典型的な原因は、心不全である。
【0148】
例7:免疫応答研究
45~70重量kgの4匹のミニブタを、本開示のrAAVベクターで処置した。2匹のブタは、高用量の2×1014ゲノムコピーを受け、および他の2匹は、低用量の2×1013ゲノムコピーを受ける。各場合において、3分の2のウイルスは、左心室へ送達され、および3分の1の用量は、右心に送達される。ブタは、研究の登録に先立ち、AAV-rh10に対する抗体についてスクリーニングされる。同調性は、この目的のために血液を提供する。
【0149】
血液は、先端が赤色のチューブに回収し、血液をおよそ30分間凝結させ、および、15分間、1000×Gでスピンダウンし、および、血清を200μlにアリコートし、および、スクリーニングに先立ち凍結する。血清は、既存の抗体の分析のために使用される。
【0150】
免疫抑制レジメン
遺伝子導入の1日前に開始して、対象は、1mg/kgのグルココルチコイド(または等価なプレドニゾン)を毎日60日間、注入後に受けた。遺伝子導入の60日後、漸減用量のグルココルチコイドが実施され、および、肝臓酵素は、免疫応答についてモニタリングされる。免疫応答の事象において、グルココルチコイドの用量およびレジメンは、医者の裁量で再び投与される。
グルココルチコイド投与を通じてずっと、予防的抗生物質は、予防として投与される。
【0151】
ブタ心臓へのrAAV粒子の送達
・導入器は、頸動脈または大腿動脈に配置される
・ピッグテール血管カテーテルは、デジタル式蛍光透視診断法(digital fluoroscopy)に基づいて冠動脈をロードマップするための冠血管造影のために左心室に進行する
・冠動脈カテーテル(各々)は1ccの対象の血液とヘパリン処理した生理食塩水でフラッシュされ、大動脈根および左および右の噴門へ進む(動物サイズに依存してジャドキンスRまたはL)
・アデノシンCRI(1mg/kg/min)は静脈内で開始する。ベクターは、アデノシンCRIの15秒後に冠動脈に送達される。ベクターは、5~10秒にわたり投与され、およびCRIはベクターの送達が完了した後、30秒続く。
・2/3のベクターは、左冠動脈に投与され、および、1/3のベクターは、右冠動脈に投与される。
【0152】
ブタ対象は、AAV送達後2か月間、毎週の採血(血清化学、CBC、AAVrh10抗体(スポンサーによって行われる)、エリスポット応答)によってモニタリングされる。送達の2月後、ブタは、サクリファイスし、および、心臓および他の組織(以下のリストを参照)を調製し(ホルマリン固定および新たな凍結のために採取した試料)および組織は、入手可能である。
【0153】
必要な採血:
血清化学 1本の先端赤色の管
CBCパネル 1本のEDTA先端紫色の管
抗AAVrh10 ELISAアッセイ 1本の先端赤色の管
最小限のELISPOT 1本の10mL EDTA先端紫色の管
【0154】
死後手順
特別手順
新鮮凍結組織収集およびホルマリン固定したパラフィン包埋組織
【表2】
【0155】
等価物
数個の本発明の態様が、本明細書に記載され、および、説明されているが、当業者は、本明細書に記載の、機能を実施するための、および/または、結果および/または1以上の利点を得るための、様々な他の手段および/または構造を容易に心に描くだろう。および、かかるバリエーションおよび/または改変の各々は、本明細書に記載の本発明の態様の範囲内であるとみなされる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および配置は、例示的であることを意味すること、および、実際のパラメータ、寸法、材料および/または配置は、本発明の教示が使用される特定の出願(単数または複数)に依存するだろうということを、容易に理解するだろう。
【0156】
当業者は、本明細書に記載の特定の本発明の態様に対する多くの等価物を認識するか、または、ルーチンな実験法を使用するだけでこれを確かめることができるであろう。したがって、上記の態様は、一例としてのみ提示されること、および添付の請求項およびそれに対する等価物の範囲内で、本発明の態様は、具体的に記載されおよび特許請求される以外に実施され得ること、が理解されるべきである。本開示の複数の態様は、本明細書に記載の、各々の個々の特色、系、物品、材料、キット、および/または方法に関する。加えて、かかる特色、系、物品、材料、キット、および/または方法の2以上の組み合わせは、かかる特色、系、物品、材料、キット、および/または方法が相互に不一致でない場合、本開示の範囲内に包含される。
【0157】
すべての定義は、本明細書に定義されおよび使用される場合、辞書の定義、参照によって組み込まれる文献における定義、および/または定義される用語の通常の意味に優先することが理解されるべきである。
本明細書に開示の、すべての参考文献、特許および特許出願は、各々が引用される主題に関して、参考により援用され、いくつかのケースにおいて、文献全体を包含し得る。
不定冠詞「a」および「an」は、本明細書および請求項に使用されるとき、それとは反対であることが明確に表されない限り、「少なくとも1の」を意味すると理解されるべきである。
【0158】
句「および/または」は、本明細書および請求項に使用されるとき、等位接続される要素の「いずれかまたは両方」を意味すると理解されるべきである(すなわち、いくつかのケースにおいて等位接続的に存在し、他のケースにおいて、選言的に存在する)。「および/または」とともに列挙される複数の要素は、同じ様式で解釈されるべきである(すなわち、そのように等位接続される要素の1以上)。具体的に同定されるこれらの要素に関連するか関連しないかにかかわらず、「および/または」節によって具体的に同定される要素以外の、他の要素は任意に存在してもよい。よって、非限定例として、「Aおよび/またはB」への参照は、「含む(comprising)」などのオープンエンドの言語との接続において使用される場合、一態様において、Aのみを指し得る(任意にB以外の要素を包含する);別の態様において、Bのみを指し得る(任意にA以外の要素を包含する);もう1つの態様において、AおよびBの両方を指し得る(任意に他の要素を包含する);等々。
【0159】
本明細書および請求項に使用されるとき、「または」は、上に定義されるとおりの「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リストにおける項目を分離する場合、「または」または「および/または」は、包括的であると解釈されるべきである(すなわち、要素の数またはリストのうち、少なくとも1つを包含するが、1を超えて包含し、および、任意に、追加の列挙されていない項目を包含する)。「のうち1つのみ」または「のうち厳密に1つ」、または、請求項において使用される場合「のみからなる」などの、それとは反対であることが明確に表される用語のみが、要素の数またはリストのうちの正確に1つの要素の包含を指す。一般に、用語「または」は、本明細書に使用されるとき、「のいずれか」、「のうちの1つ」、「のうちの1つのみ」または「のうち厳密に1つ」などの、排他的な用語が先行する場合、代替(すなわち、「両方ではなく、一方または他方」)を排除することを表すものとしてのみ解釈されるべきである。「のみから本質的になる」は、請求項において使用される場合、特許法の分野において使用されるその通常の意味を有するべきである。
【0160】
本明細書および請求項に使用されるとき、句「少なくとも1の」は、1以上の要素のリストを参照して、要素のリスト中の要素のいずれか1以上から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解されるべきであるが、要素のリスト内に具体的に列挙される各要素および全ての要素の少なくとも1つを必ずしも包含しなくてもよく、要素のリスト中の要素のいずれかの組み合わせを排除しない。この定義はまた、具体的に同定されている要素に関連するかしないかにかかわらず、成句「少なくとも1つ」が参照する要素のリスト内に具体的に同定される要素以外の要素が任意に存在してもよいことを可能にする。
【0161】
よって、非限定例として、「AおよびBの少なくとも1の」(または等価には、「AまたはBの少なくとも1の」または等価には、「Aおよび/またはBの少なくとも1の」)は、一態様において、任意に1より多くのAを包含し、Bが存在しない、少なくとも1つ(および任意にB以外の要素を包含する);別の態様において、任意に1より多くのBを包含し、Aが存在しない、少なくとも1つ(および任意にA以外の要素を包含する);もう1つの態様において、任意に1より多くのAを包含する少なくとも1つ、および、任意に1より多くのBを包含する少なくとも1つ(および任意に他の要素を包含する);等々を指し得る。
【0162】
それとは反対であることが明確に表されない限り、1を超えるステップまたは行為を包含する、本明細書で特許請求されるいずれかの方法において、方法のステップまたは行為の順序は、方法のステップまたは行為が記載される順序に必ずしも限定されない。
【0163】
請求項において、ならびに、上記明細書において、「含む(comprising)」、「包含する(including)」、「保有する(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「伴う(involving)」、「保持する(holding)」、「から構成される(composed of)」等などのすべての移行句は、オープンエンドであることが理解されるべきである(すなわち、包含するが、これに限定されないことを意味する)。移行句「のみからなる(consisting of)」および「から本質的になる(consisting essentially of)」のみが、合衆国特許庁特許審査便覧セクション2111.03に表されるように、夫々、クローズまたは半クローズの移行句であるべきである。
【0164】
オープンエンドの移行句(例として、「含む」)を使用するこの文献において記載される態様はまた、代替の態様において、オープンエンドの移行句によって記載される特徴「のみからなる」および「から本質的になる」として企図されることが理解されるべきである。例えば、本開示が、「AおよびBを含む組成物」を記載する場合、本開示はまた、「AおよびBのみからなる組成物」および「AおよびBから本質的になる組成物」の代替の態様を企図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11-1】
図11-2】
図12-1】
図12-2】
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
2022541793000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-04-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】全図
【補正方法】変更
【補正の内容】
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図9C
図10
図11-1】
図11-2】
図12-1】
図12-2】
図13
図14
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図16
図17
図18
図19
【国際調査報告】