(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-27
(54)【発明の名称】インイヤーマイクロフォンアレイの部分的HRTF補償又は予測
(51)【国際特許分類】
H04R 1/10 20060101AFI20220916BHJP
H04S 7/00 20060101ALI20220916BHJP
H04R 25/02 20060101ALI20220916BHJP
【FI】
H04R1/10 101A
H04R1/10 104Z
H04S7/00 310
H04R25/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504706
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(85)【翻訳文提出日】2022-03-24
(86)【国際出願番号】 US2020040674
(87)【国際公開番号】W WO2021015938
(87)【国際公開日】2021-01-28
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521524117
【氏名又は名称】アイヨ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スレニー、マルコム
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア、リカルド
(72)【発明者】
【氏名】ウッズ、ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】ルゴロ、ジェイソン
【テーマコード(参考)】
5D005
5D162
【Fターム(参考)】
5D005BA15
5D162AA05
5D162CA26
5D162CD26
5D162DA02
5D162DA22
5D162EG03
(57)【要約】
いくつかの実施形態では、耳装着型音再生システムが提供される。システムは、耳の耳介内に静置されるとともに外耳道を塞ぐ耳装着可能ハウジングを備える。いくつかの実施形態では、耳装着可能ハウジングは、複数の外向きマイクロフォンを有する。外向きマイクロフォンが耳の耳介内であるが外耳道の外側に位置付けられ得るので、マイクロフォンは、耳介の3次元音響効果の全てではなく一部を受けることになる。いくつかの実施形態では、音は、ハウジングが使用者に対して本質的にトランスペアレントであるように、ハウジングがなければ鼓膜において存在するであろう3次元位置特定キューを維持するために、複数の外向きマイクロフォンによって受信された信号に適用される複数のフィルタを用いてハウジングの内向きドライバ要素によって再生される。いくつかの実施形態では、複数のフィルタを導出するための技法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耳装着型音再生システムであって、
内向き部分及び外向き部分を有するハウジングと、
前記ハウジングの前記外向き部分上に取り付けられた複数のマイクロフォンであって、前記ハウジングは、前記複数のマイクロフォンを少なくとも部分的に耳の耳介内に位置決めするように成形される、複数のマイクロフォンと、
前記ハウジングの前記内向き部分上に取り付けられたドライバ要素と、
実行に応答して、前記耳装着型音再生システムに、
信号のセットを受信することであって、前記信号のセットの各信号は、前記複数のマイクロフォンのうちの一マイクロフォンから受信される、受信することと、
前記信号のセットの各信号について、前記信号がそこから受信された前記マイクロフォンに関連付けられたフィルタを用いて前記信号を処理して、別個のフィルタリングされた信号を生成することと、
前記別個のフィルタリングされた信号を合成して、合成信号を作成することと、
前記合成信号を、放射のために前記ドライバ要素に提供することと
を含む動作を実行させるロジックを有する音処理デバイスと、
を備える、耳装着型音再生システム。
【請求項2】
前記信号がそこから受信された前記マイクロフォンに関連付けられたフィルタを用いて前記信号を処理して、別個のフィルタリングされた信号を生成することは、前記ハウジングが存在せずに着用者の外耳道内で受け取られるであろう音をシミュレートするように前記合成信号の放射を引き起こすように最適化されたフィルタのセットからの一フィルタを用いて前記信号を処理することを含む、請求項1に記載の耳装着型音再生システム。
【請求項3】
前記信号がそこから受信された前記マイクロフォンに関連付けられたフィルタを用いて前記信号を処理して、別個のフィルタリングされた信号を生成することは、1つ又は複数の指定された方向から受信された音の再生を増大させるように最適化されたフィルタのセットからの一フィルタを用いて前記信号を処理することを有する、請求項1または2に記載の耳装着型音再生システム。
【請求項4】
前記信号がそこから受信された前記マイクロフォンに関連付けられたフィルタを用いて前記信号を処理して、別個のフィルタリングされた信号を生成することは、前記ハウジングが取り付けられる耳ともう一方の耳との間のターゲット応答の比に基づいて最適化されたフィルタを用いて前記信号を処理することを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の耳装着型音再生システム。
【請求項5】
前記ハウジングは、着用者の外耳道を完全に塞ぐように成形される、請求項1から4のいずれか一項に記載の耳装着型音再生システム。
【請求項6】
前記複数のマイクロフォンは、単一の平面内に配置される、請求項1から5のいずれか一項に記載の耳装着型音再生システム。
【請求項7】
着用者の外耳道内に位置決めされるように成形された前記ハウジングの一部分上に取り付けられたインイヤーマイクロフォンを更に備える、請求項1から6のいずれか一項に記載の耳装着型音再生システム。
【請求項8】
前記音処理デバイスは、前記ハウジング内に位置決めされる、請求項1から7のいずれか一項に記載の耳装着型音再生システム。
【請求項9】
複数の耳装着型マイクロフォンの出力を最適化するコンピュータ実装方法であって、
耳内に挿入されたデバイスの複数のマイクロフォンによって、複数の音源からの入力信号を受信する段階と、
前記複数のマイクロフォンのうちの各マイクロフォンについて、前記マイクロフォンによって受信された前記入力信号を別個のフィルタを用いて処理して、別個の処理された信号を作成する段階と、
前記別個の処理された信号を合成して、合成出力信号を作成する段階と、
前記合成出力信号を、基準信号と比較する段階と、
前記別個のフィルタを調整して、前記合成出力信号と前記基準信号との間の差を最小化する段階と、
前記デバイスのコントローラによって用いるために前記調整されたフィルタを記憶する段階と
を備える、方法。
【請求項10】
耳内に挿入されたデバイスの複数のマイクロフォンによって、複数の音源からの入力信号を受信する段階は、デバイスの複数のマイクロフォンが前記耳の外耳道の外側かつ前記耳の耳介の内側にあるように耳に挿入された前記デバイスの前記複数のマイクロフォンによって、複数の音源からの入力信号を受信する段階を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
複数の音源からの入力信号を受信する段階は、前記耳に対して異なる水平位置及び垂直位置にある複数の音源からの入力信号を受信する段階を有する、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記別個のフィルタを調整して、前記合成出力信号と前記基準信号との間の差を最小化する段階は、主成分分析を用いて前記別個のフィルタを調整する段階を有する、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記別個のフィルタを調整して、前記合成出力信号と前記基準信号との間の差を最小化する段階は、前記別個のフィルタを調整して、前記合成出力信号と前記基準信号との間の、位置にわたって総和された二乗差を最小化する段階を有する、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記別個のフィルタを調整して、前記合成出力信号と前記基準信号との間の差を最小化する段階は、少なくとも1つの入力信号を、他の入力信号よりも優先する段階を更に有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの信号についての差を他の入力信号よりも優先する段階は、対角行列を用いて少なくとも1つの入力信号を他の入力信号よりも優先する段階を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記別個のフィルタを調整して、前記合成出力信号と前記基準信号との間の差を最小化する段階は、前記別個のフィルタに、所定の入力信号について所定の値を取るように強制する段階を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記別個のフィルタを調整して、前記合成出力信号と前記基準信号との間の差を最小化する段階は、凸最適化を用いて、前記二乗差を最小化すると同時に、最大二乗差を閾値未満になるように制限する段階を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記耳はイヤーシミュレータであり、前記方法は、前記イヤーシミュレータの内側の基準マイクロフォンによって、前記デバイスが前記イヤーシミュレータ内に挿入される前に前記複数の音源からの入力信号を受信することによって前記基準信号を収集する段階を更に備える、請求項9から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記耳は被験者の実際の耳であり、前記方法は、前記実際の耳の内側のインイヤーマイクロフォンによって、前記デバイスが前記実際の耳内に挿入される前に前記複数の音源からの入力信号を受信することによって前記基準信号を収集する段階を更に備える、請求項9から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記デバイスは第1のデバイスであり、前記耳は頭部の第1の耳であり、前記方法は、
前記頭部の第2の耳内に挿入された第2のデバイスの第2の複数のマイクロフォンによって、前記複数の音源からの前記入力信号を受信する段階であって、前記第2のデバイス内の前記第2の複数のマイクロフォンは、前記第1のデバイス内の前記複数のマイクロフォンに一致する、段階と、
前記第2の複数のマイクロフォンのうちの各マイクロフォンについて、前記第1のデバイスの前記一致するマイクロフォンの前記別個のフィルタを用いて前記マイクロフォンによって受信された前記入力信号を処理して、第2の別個の処理された信号を作成する段階と、
前記第2の別個の処理された信号を合成して、第2の合成出力信号を作成する段階と、
前記第2の合成出力信号を、第2の基準信号と比較する段階と
を更に備え、
前記別個のフィルタを調整して、前記合成出力信号と前記基準信号との間の差を最小化する段階は、
前記別個のフィルタを調整して、前記合成出力信号と前記基準信号との間の差を最小化し、前記第2の合成出力信号と前記第2の基準信号との間の差を最小化し、前記基準信号と前記第2の基準信号との間の比を維持する段階を有する、請求項9から19のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年7月25日に提出された米国特許出願第16/522,394号に基づいており、この米国特許出願の全体が、引用することにより本明細書の一部をなす。
【0002】
本開示は、概して、インイヤーオーディオデバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
ヘッドフォンは、使用者の耳の上又は周囲に着用される一対のラウドスピーカである。耳周囲型(Circumaural)ヘッドフォンは、使用者の耳の上又は中の適所にスピーカを保持するために使用者の頭部の頂部上にバンドを用いる。別のタイプのヘッドフォンは、イヤーバッド(earbud)又はイヤーピース(earpiece)として知られており、使用者の外耳道に近い、使用者の耳の耳介内に着用されるユニットを含む。
【0004】
ヘッドフォン及びイヤーバッドの双方は、パーソナル電子デバイスの使用の増加につれてより一般的になってきている。例えば、人々は、音楽を再生する、ポッドキャスト(podcasts)を聴く等のために、自身の電話に接続するのにヘッドフォンを用いる。別の例として、聴力損失を有する人々も、環境音を増幅するのに耳装着型デバイスを用いる。しかしながら、ヘッドフォンデバイスは、現行では一日中の着用向けには設計されていない。なぜならば、それらのヘッドフォンデバイスの存在が、外部雑音が耳に入るのを妨げるためである。それゆえ、使用者は、会話を聞く、安全に街路を横断する等のためにデバイスを取り外すことが必要とされる。さらに、聴力損失を有する人向けの耳装着型デバイスは、多くの場合に環境キューを正確に再生するのに失敗し、それゆえ、着用者が再生された音を位置特定するのが困難になる。
【発明の概要】
【0005】
この概要は、発明を実施するための形態において以下で更に説明される概念の選択を簡略化した形態で導入するために提供される。この概要は、請求される主題の重要な特徴を特定するように意図されず、請求される主題の範囲を規定する際の補助として用いられるようにも意図されない。
【0006】
いくつかの実施形態では、耳装着型音再生システムが提供される。前記システムは、ハウジングと、複数のマイクロフォンと、ドライバ要素と、音処理デバイスとを備える。前記ハウジングは、内向き部分及び外向き部分を有する。前記複数のマイクロフォンは、前記ハウジングの前記外向き部分上に取り付けられる。前記ハウジングは、前記複数のマイクロフォンを少なくとも部分的に耳の耳介内に位置決めするように成形される。前記ドライバ要素は、前記ハウジングの前記内向き部分上に取り付けられる。前記音処理デバイスは、実行に応答して、前記耳装着型音再生システムに、信号のセットを受信することであって、前記信号のセットの各信号は、前記複数のマイクロフォンのうちの一マイクロフォンから受信される、受信することと、前記信号のセットの各信号について、前記信号がそこから受信された前記マイクロフォンに関連付けられたフィルタを用いて前記信号を処理して、別個のフィルタリングされた信号を生成することと、前記別個のフィルタリングされた信号を合成して、合成信号を作成することと、前記合成信号を、放射のために前記ドライバ要素に提供することとを含む動作を実行させるロジックを有する。
【0007】
いくつかの実施形態では、複数の耳装着型マイクロフォンの出力を最適化するコンピュータ実装方法が提供される。耳内に挿入されたデバイスの複数のマイクロフォンは、複数の音源からの入力信号を受信する。前記複数のマイクロフォンの各マイクロフォンについて、前記マイクロフォンによって受信された前記入力信号は、別個のフィルタを用いて処理されて、別個の処理された信号が作成される。前記別個の処理された信号は、合成されて、合成出力信号が作成される。前記合成出力信号は、基準信号と比較される。前記別個のフィルタは調整されて、前記合成出力信号と前記基準信号との間の差が最小化される。前記調整されたフィルタは、前記デバイスのコントローラによって用いるために記憶される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本発明の前述の態様及び付随の利点の多くは、添付の図面と併せて、以下の詳細な説明を参照することによってより良く理解されるにつれてより容易に認識されるであろう。
【0009】
【
図1】本開示の様々な態様に係るデバイスの非限定的な例示的実施形態の部分切欠き図を示す概略図である。
【0010】
【
図2】参照のために、耳介の解剖学的構造の様々な要素を示す漫画図である。
【0011】
【
図3】本開示の様々な態様に係る音再生システムの非限定的な例示的実施形態を示すブロック図である。
【0012】
【
図4A】本開示の様々な態様に係る、耳装着型マイクロフォンアレイにおける部分的頭部伝達関数を補償するためのフィルタを発見するとともに用いる方法の非限定的な例示的実施形態を示すフローチャートである。
【
図4B】本開示の様々な態様に係る、耳装着型マイクロフォンアレイにおける部分的頭部伝達関数を補償するためのフィルタを発見するとともに用いる方法の非限定的な例示的実施形態を示すフローチャートである。
【
図4C】本開示の様々な態様に係る、耳装着型マイクロフォンアレイにおける部分的頭部伝達関数を補償するためのフィルタを発見するとともに用いる方法の非限定的な例示的実施形態を示すフローチャートである。
【
図4D】本開示の様々な態様に係る、耳装着型マイクロフォンアレイにおける部分的頭部伝達関数を補償するためのフィルタを発見するとともに用いる方法の非限定的な例示的実施形態を示すフローチャートである。
【0013】
【
図5A】本開示の様々な態様に係る実験の設定の非限定的な例示的実施形態を示す図である。
【0014】
【
図5B】
図5Aにおいて示されるイヤーシミュレータ内に位置付けられるデバイスの非限定的な例示的実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示のいくつかの実施形態では、耳装着型音再生システムが提供される。システムは、耳の耳介内に静置されるとともに外耳道を塞ぐ耳装着可能ハウジングを備える。いくつかの実施形態では、耳装着可能ハウジングは、複数の外向きマイクロフォンを有する。外向きマイクロフォンが耳の耳介内であるが外耳道の外側に位置付けられ得るので、マイクロフォンは、耳介の3次元音響効果の全てではなく一部を受けることになる。望まれているものは、ハウジングが使用者に対して本質的にトランスペアレントであるように、ハウジングがなければ鼓膜において存在するであろう3次元位置特定キューを維持するために、ハウジングの内向きドライバ要素によって再生される音のためのものである。
【0016】
図1は、本開示の様々な態様に係るデバイスの非限定的な例示的実施形態の部分切欠き図を示す概略図である。この図において見られるように、耳装着可能ハウジング304が、耳の外耳道103内に挿入される。ハウジングの外向き部分は、複数のマイクロフォン310を含む。
図1では単一の平面内に配置されているものとして示されているものの、いくつかの実施形態では、複数のマイクロフォン310は、半球形、又は単一の平面ではない他の配置においてハウジングの外向き部分上に配置されてよい。ハウジングの内向き部分は、外耳道103を塞ぐとともに、少なくともドライバ要素312を有する。示されている実施形態は、任意選択のインイヤーマイクロフォン314も備える。ドライバ要素312は、鼓膜112によって受け取られる音を生成するように構成される。
【0017】
示されているように、耳装着可能ハウジング304は、複数のマイクロフォン310が少なくとも部分的に耳の耳介102内に位置するように挿入される。例えば、耳装着可能ハウジング304の外向き部分は、外耳道103の外側であるが、甲介の内側、耳珠/対珠の後ろ、又はそれ以外の耳介の解剖学的構造の一部分内に位置決めされてよい。
図2は、参照のために、耳介の解剖学的構造の様々な要素を示す漫画図である。マイクロフォン310は少なくとも部分的に耳介102内にあるので、マイクロフォン310は、耳介102によって与えられる3次元音響効果の一部を受けることになる。これは、外部に取り付けられたマイクロフォンアレイを有するオーバーイヤーヘッドフォンのセットとは異なる。なぜならば少なくとも、オーバーイヤーヘッドフォン用のラウドスピーカが(マイクロフォンと同様に)耳介の外側にあるので、そのようなヘッドフォンが、3次元聴覚キューを複雑な処理を伴わずに容易に再生することができる閉じたシステムを構成するためである。対照的に、マイクロフォン310は、耳介102によって与えられる3次元音響効果の全てではなく一部を受信する。それに応じて、ハウジング304がなければ鼓膜112において受け取られるであろう3次元音響効果をドライバ要素312に正確に再生させるために、フィルタは、マイクロフォン310からの信号を合成してそのような効果を正確に再生することができるように決定されるべきである。トランスペアレンシを提供することができるフィルタが決定されると、ビームフォーミング等の更なる機能も同様に提供されてよい。
【0018】
図3は、本開示の様々な態様に係る音再生システムの非限定的な例示的実施形態を示すブロック図である。いくつかの実施形態では、音再生システム302は、1つ又は複数の音再生目標を達成するために、耳装着可能ハウジング304の複数のマイクロフォン310によって受信された信号のためのフィルタを発見するように構成される。いくつかの実施形態では、音再生システム302は、ドライバ要素312を用いてマイクロフォン310によって受信された音を再生するためにそのようなフィルタを用いるように構成される。示されているように、音再生システム302は、耳装着可能ハウジング304と、デジタル信号プロセッサ(DSP)デバイス306と、音処理デバイス308とを備える。いくつかの実施形態では、耳装着可能ハウジング304、DSPデバイス306、及び音処理デバイス308は、任意の適切な通信技術を用いて互いに通信可能に接続されてよく、この任意の適した通信技術は、限定されないがEthernet(登録商標)、USB、Thunderbolt、Firewire(登録商標)及びアナログオーディオコネクタを含む有線技術、並びに限定されないがWi-Fi(登録商標)及びBluetooth(登録商標)を含む無線技術を含むが、これらに限定されない。
【0019】
いくつかの実施形態では、耳装着可能ハウジング304は、複数のマイクロフォン310と、ドライバ要素312と、任意選択のインイヤーマイクロフォン314とを有する。耳装着可能ハウジング304は、内向き部分及び外向き部分を有する。外向き部分及び内向き部分はともに、限定されないがバッテリ、通信インタフェース、及びプロセッサのうちの少なくとも1つを含む他の構成要素が内部に設けられ得る容積を囲む。
【0020】
いくつかの実施形態では、内向き部分は、使用者の外耳道内にフィットするように成形され、摩擦嵌合を用いて外耳道内で保持され得る。いくつかの実施形態では、内向き部分は、特定の使用者の外耳道の特定の形状にカスタム形成されてよい。いくつかの実施形態では、内向き部分は、外耳道を完全に塞いでよい。ドライバ要素312及び任意選択のインイヤーマイクロフォン314は、内向き部分の遠位端に取り付けられてよい。
【0021】
いくつかの実施形態では、外向き部分は、マイクロフォン310が上に取り付けられる表面を有してよい。いくつかの実施形態では、外向き部分は、円形形状を有してよく、マイクロフォン310がその円形形状全体に分散される。いくつかの実施形態では、外向き部分は、使用者の耳介の解剖学的構造と一致するようにカスタム形成される形状を有してよい。いくつかの実施形態では、外向き部分は、マイクロフォン310が単一の平面内に配置されるように、平坦な表面を有してよい。いくつかの実施形態では、外向き部分は、マイクロフォン310が単一の平面内に配置されないように、半球形構造又はマイクロフォン310が上に配置される他の何らかの形状を有してよい。いくつかの実施形態では、耳装着可能ハウジング304が耳内に位置決めされたとき、マイクロフォン310が位置付けられる平面は、頭部の前部に対して角度をなす。
【0022】
いくつかの実施形態では、複数のマイクロフォン310のマイクロフォンは、限定されないがMEMSマイクロフォンを含む、適切なフォームファクタを有する任意のタイプのマイクロフォンであってよい。いくつかの実施形態では、ドライバ要素312は、可聴周波数の全範囲(例えば、約50Hz~約20KHz)を生成することが可能である任意のタイプの高精細ラウドスピーカであってよい。いくつかの実施形態では、インイヤーマイクロフォン314も、限定されないがMEMSマイクロフォンを含む、適切なフォームファクタを有する任意のタイプのマイクロフォンであってよい。インイヤーマイクロフォン314は任意選択であってよく、これはなぜならば、いくつかの実施形態では、ドライバ要素312の性能を測定するために別個のマイクロフォンのみが用いられてよいためである。
【0023】
上記で言及されたように、音再生システム302は、DSPデバイス306も備える。いくつかの実施形態では、DSPデバイス306は、マイクロフォン310からアナログ信号を受信し、それらを、音処理デバイス308によって処理されるデジタル信号に変換するように構成される。いくつかの実施形態では、DSPデバイス306は、音処理デバイス308からデジタル信号を受信し、それらのデジタル信号をアナログ信号に変換し、それらのアナログ信号を再生のためにドライバ要素312に提供するように構成されてもよい。DSPデバイス306として用いるのに適したデバイスの1つの非限定的な例は、Analog Devices, Inc.によって提供されるADAU1467Z SigmaDSPプロセッサである。
【0024】
示されているように、音処理デバイス308は、信号記録エンジン316と、フィルタ決定エンジン318と、信号再生エンジン320と、記録データストア322と、フィルタデータストア324とを有する。いくつかの実施形態では、信号記録エンジン316は、DSPデバイス306からデジタル信号を受信し、受信信号を記録データストア322に記憶するように構成される。信号記録エンジン316は、受信信号に関連付けられた特定のマイクロフォン310及び/又は音源のインジケーションを記憶してもよい。いくつかの実施形態では、フィルタ決定エンジン318は、耳装着可能ハウジング304がなければ鼓膜において受け取られるであろう信号に、処理された信号が一致するように可能な限り近い合成信号を生成するために合成され得るように、マイクロフォン310から受信された信号に適用することができるフィルタを決定するように構成される。フィルタ決定エンジン318は、決定されたフィルタをフィルタデータストア324に記憶するように構成されてよい。いくつかの実施形態では、信号再生エンジン320は、DSPデバイス306から受信された信号にフィルタを適用し、合成された処理済みの信号を、ドライバ要素312によって再生されるようにDSPデバイス306に提供するように構成される。
【0025】
概して、本明細書において用いられる場合、「エンジン」という用語は、ハードウェア又はソフトウェア命令において具現化されるロジックを指し、これらの命令は、C、C++、COBOL、JAVA(登録商標)、PHP、Perl、HTML、CSS、JavaScript(登録商標)、VBScript、ASPX、C♯等のMicrosoft(登録商標) .NET言語、Matlab(登録商標)等の特定用途向け言語、及び/又は同様なもの等のプログラミング言語において記述することができる。エンジンは、実行可能プログラムにコンパイルされてもよいし、又はインタプリタ型プログラミング言語において記述されてもよい。エンジンは、他のエンジンから又はそれら自身から呼び出し可能であってよい。概して、本明細書において説明されるエンジンは、他のエンジン若しくはアプリケーションとマージすることができる、又はサブエンジンに分割することができるロジカルモジュールを指す。エンジンは、任意のタイプのコンピュータ可読媒体又はコンピュータストレージデバイスに記憶することができるとともに、1つ又は複数の汎用コンピュータ上に記憶し、これによって実行することができ、それゆえ、エンジンを提供するように構成された専用コンピュータが作成される。それに応じて、本明細書において示されるデバイス及びシステムは、示されるエンジンを提供するように構成された1つ又は複数のコンピューティングデバイスを含む。
【0026】
概して、本明細書において説明される場合、「データストア」は、コンピューティングデバイスによるアクセスのためにデータを記憶するように構成された任意の適切なデバイスによって提供されてよい。データストアの1つの例は、1つ又は複数のコンピューティングデバイス上で実行され、かつローカルに、又は高速ネットワークを介してアクセス可能である高信頼度、高速リレーショナルデータベース管理システム(RDBMS)である。しかしながら、キーバリューストア、オブジェクトデータベース、及び/又は同様なもの等の、記憶されたデータをクエリに応答して迅速かつ高信頼度で提供することが可能である他の任意の適切なストレージ技法及び/又はデバイスが用いられてよい。データストアを提供するコンピューティングデバイスは、ネットワークを介する代わりにローカルにアクセス可能であってもよいし、又はクラウドベースサービスとして提供されてもよい。データストアは、以下で更に説明されるように、コンピュータ可読記憶媒体上に、編成された様式で記憶されるデータを含んでもよい。データストアの別の例は、フラッシュメモリ、ランダムアクセスメモリ(RAM)、ハードディスクドライブ、及び/又は同様なもの等のコンピュータ可読媒体上のファイル(又はレコード)にデータを記憶するファイルシステム又はデータベース管理システムである。本開示の範囲から逸脱することなく、本明細書において説明される複数の別個のデータストアは、単一のデータストアに結合されてよく、及び/又は、本明細書において説明される単一のデータストアは、複数のデータストアに分離されてよい。
【0027】
示されているように、音再生システム302は、耳装着可能ハウジング304用、DSPデバイス306用、及び音処理デバイス308用の別個のデバイスを備える。いくつかの実施形態では、音処理デバイス308によって提供されるものとして説明される機能は、1つ又は複数の特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、又はロジックを実装するための回路部を有する他の任意のタイプのハードウェアによって提供されてよい。いくつかの実施形態では、音処理デバイス308によって提供されるものとして説明される機能は、コンピュータ可読媒体内に記憶された命令によって具現化されてよく、音再生システム302に、命令の実行に応答してその機能を実行させてよい。いくつかの実施形態では、音処理デバイス308の機能は、MOTUサウンドカードと、Pro Tools、Studio One、Cubase、又はMOTU Digital Performer等のデジタルオーディオワークステーション(DAW)ソフトウェアを実行するラップトップコンピューティングデバイス、デスクトップコンピューティングデバイス、サーバコンピューティングデバイス、又はクラウドコンピューティングデバイス等のコンピューティングデバイスとによって提供されてよい。DAWソフトウェアは、エンジン機能を提供するために、仮想スタジオ技術(VST)プラグインを用いて強化されてよい。エンジンによって実行される更なる数値解析は、matlab(登録商標)等の数学的解析ソフトウェアにおいて実行されてよい。いくつかの実施形態では、DSPデバイス306の機能は、同様に、Cycling '74によって提供されるMAX msp、又はPure Data(PD)等の、音処理デバイス308によって実行されるソフトウェアによって提供されてよい。
【0028】
いくつかの実施形態では、DSPデバイス306の機能は、耳装着可能ハウジング304又は音処理デバイス308に組み込まれてよい。いくつかの実施形態では、機能の全てが耳装着可能ハウジング304内に位置してよい。いくつかの実施形態では、音処理デバイス308によって提供されるものとして説明される機能の一部が、代わりに耳装着可能ハウジング304内に提供されてよい。例えば、別個の音処理デバイス308が、用いられるフィルタを決定するために、信号記録エンジン316、フィルタ決定エンジン318、及び記録データストア312を提供してよい一方で、フィルタデータストア324及び信号再生エンジン320の機能は、耳装着可能ハウジング304によって提供されてよい。
【0029】
図4Aから
図4Dは、本開示の様々な態様に係る、耳装着型マイクロフォンアレイにおける部分的頭部伝達関数を補償するためのフィルタを発見するとともに用いる方法の非限定的な例示的実施形態を示すフローチャートである。高レベルにおいて、方法400は、複数の音源によって生成される信号についてイヤーシミュレータ503内でターゲット信号を決定する。その後、耳装着可能ハウジング304がイヤーシミュレータ503内に配置され、信号が、マイクロフォン310の各々によって記録される。その後、音処理デバイス308は、マイクロフォン310によって記録された信号と基準信号との間の差を最小化するフィルタを決定する。決定されたフィルタは、ドライバ要素312を用いて信号を生成するのに用いることができる。
【0030】
いくつかの実施形態では、方法400の目標は、合成信号の周波数応答が可能な限り厳密に所与のターゲット信号に一致するように、複数のマイクロフォン310のうちのM個のマイクロフォンからの信号を合成することが可能であることである。式A(f,k,m)は、周波数fにおける、位置k=1,2,...,kにある音源についてのマイクロフォンm=1,2,...,Mにおける複素値周波数応答を表し、式T(f,k)は、音源kについてのターゲット周波数応答を表す。合成は、マイクロフォン信号をフィルタリングすることと、フィルタ出力をともに加算することとを含む。フィルタリング及び合成プロセスの全体出力の周波数応答Y(f,k)は、以下のように記述することができる。
【数1】
ここで、W(f,m)は、設計される第mのフィルタの周波数応答であり、
【数2】
は、M要素列ベクトルであり、ただし第m要素はA(f,k,m)であり、
Tは、行列転置を意味し、
【数3】
は、M要素列ベクトルであり、ただし第m要素はW(f,m)である。本明細書において開示される設計方法は、何らかの一致基準を所与としてY(f,k)がT(f,k)に一致するようなフィルタW(f,m)を探索する。フィルタリング及び合成プロセスは、周波数領域において、又はW(f,m)のフィルタをM個の時間領域フィルタのセットに変換するか、若しくは時間領域における類似の設計技法を用いることによって行うことができる。 複数の音源についての合成信号における誤差を最小化することによって、 到来する音の方向にかかわらずデバイス304の最大性能を提供するフィルタを決定することができる。以下で更に論述されるように、他の最適化(ビームフォーミング又はそれ以外にいくつかの方向を他の方向よりも優先すること等)を用いる類似の技法が用いられてもよい。
【0031】
ブロック402(
図4A)において、イヤーシミュレータ503が、複数の音源を有する部屋内に位置付けられ、ブロック404において、基準マイクロフォンが、イヤーシミュレータ503の外耳道の内側に位置付けられる。生体の被験者の代わりにイヤーシミュレータを用いることにより、イヤーシミュレータが正確にかつ再現可能にテスト環境内に位置付けられること、及び精密な音響測定が行われることが可能になるが、いくつかの実施形態では生体の被験者がインイヤーマイクロフォンとともに用いられてよい。
図5Aは、本開示の様々な態様に係る実験の設定の非限定的な例示的実施形態を示している。示されているように、イヤーシミュレータ503を備える人工頭部502が提供される。いくつかの実施形態では、イヤーシミュレータ503は、実際の耳の解剖学的構造を近似するように成形されており、人間の肌膚、軟骨、及び実際の耳の他の構成要素に類似の音響特性を有する材料から作成されてよい。人工頭部502及びイヤーシミュレータ503は、外耳道103を備える。外耳道103内に、かつ鼓膜112の位置に近づけて、基準マイクロフォン512が位置付けられる。いくつかの実施形態では、基準マイクロフォン512は、耳装着可能ハウジング304のマイクロフォン310と類似のデバイスであってよく、類似の方式でDSPデバイス306に通信可能に結合されてよい。いくつかの実施形態では、基準マイクロフォン512は、Dayton Audio UMM-6 USBマイクロフォン等のより単純なデバイスであってよい。いくつかの実施形態では、基準マイクロフォン512は、外耳道の入口における位置、又は頭部の中心の位置における位置(ただし頭部は存在しない)等の、鼓膜112位置に対する既知の固定関係を有する位置にあってよい。いくつかの実施形態では、基準マイクロフォン512は、平均的な鼓膜に一致する空気カップリングパラメータ(air coupling parameters)を呈するように調節されてよい。
【0032】
図5Aは、複数の音源のうちの第1の音源504及び第2の音源506も示している。各音源は、テスト信号を生成するように構成されたコンピューティングデバイスに通信可能に結合されるSony SRSX5ポータブルラウドスピーカ等のラウドスピーカであってよい。いくつかの実施形態では、複数の音源は、人工頭部502の周囲に配置された16個以上の音源を含んでよい。いくつかの実施形態では、複数の音源は、人工頭部502に対する様々な水平位置及び垂直位置にあってよい。簡潔性のために示されていないものの、いくつかの実施形態では、人工頭部502は、第2のイヤーシミュレータ及び基準マイクロフォンを備えてよい。いくつかの実施形態では、人工頭部502は、人工胴体、毛髪、衣類、アクセサリ、及び/又は頭部伝達関数に寄与し得る他の要素を備えてもよい。いくつかの実施形態では、人工頭部502及び複数の音源は、環境的因子からの干渉を更に低減するために、無響室内に位置してよい。いくつかの実施形態では、複数の音源504、506を提供するために複数のデバイスを有する代わりに、実験間で複数の位置を正確に複製するためのロボットアーム又は別の技法を用いて複数の音源504、506を提供するために単一のデバイスが複数の位置に移動されてよい。
【0033】
図5Aは人工頭部502及びイヤーシミュレータ503を示しているものの、いくつかの実施形態では、測定値の収集は、人間の被験者を含んでよい。そのような実施形態の場合、インイヤーマイクロフォンは、被験者の実際の耳内の鼓膜の近くに位置付けられてよい。被験者には、被験者が試験中に静止状態かつ一貫した位置を保つことを助けるためのヘッドレスト又は類似のデバイスが提供されてよい。
【0034】
図4Aに戻ると、forループが、forループ開始ブロック406とforループ終了ブロック414との間で規定され、イヤーシミュレータ503の周囲に配置された複数の音源のうちの音源ごとに実行される。forループ開始ブロック406から、方法400は、ブロック408に進み、ブロック408において、音源は、テスト信号を生成する。テスト信号のいくつかの非限定的な例は、正弦波掃引、発話、音楽、及び/又はそれらの組み合わせを含んでよい。ブロック410において、基準マイクロフォン512は、イヤーシミュレータ503によって影響を受けたものとしてテスト信号を受信し、受信信号を音処理デバイス308に送信する。いくつかの実施形態では、基準マイクロフォン512は、受信信号をDSPデバイス306に提供し、その後、DSPデバイス306は、デジタル形式の受信信号を音処理デバイス308に提供する。いくつかの実施形態では、アナログ/デジタル変換器が基準マイクロフォン512に存在してよく、デジタルオーディオ信号が、基準マイクロフォン512によって音処理デバイス308に提供されてよい。
【0035】
ブロック412において、音処理デバイス308の信号記録エンジン316は、受信信号を、その音源についてのターゲット信号として記録データストア322に記憶する。処理すべき更なる音源が残されている場合、方法400は、次の音源を処理するために、forループ終了ブロック414からforループ開始ブロック406に進む。そうではなく、音源の全てが処理済みであった場合、方法400は、forループ終了ブロック414から継続ターミナル(「ターミナルA」)に進む。いくつかの実施形態では、複数の音源のうちの各音源は、各音源から得られた読み取り値が互いに干渉しないように別個に処理される。
【0036】
ブロック416(
図4B)において、複数のマイクロフォン310を有するデバイス304がイヤーシミュレータ503内に位置付けられる。デバイス304という用語は、耳装着可能ハウジング304という用語と本明細書において同義で用いられる。
図5Bは、
図5Aにおいて示されるとともに上記で論述されたイヤーシミュレータ503内に位置付けられるデバイス304の非限定的な例示的実施形態を示している。複数の音源504、506のレイアウトは、示されるとともに上記で論述されたものと同じままであり、人工頭部502、イヤーシミュレータ503、及び基準マイクロフォン512の設定に関するその他全てについても同様である。示されているように、音源504、506の各々からの信号は、僅かに異なる時点において、及び僅かに異なる角度からマイクロフォン310の各々によって受信されることになる。また、信号は、特に人工頭部502の背後又は人工頭部502のイヤーシミュレータ503とは反対側に位置する音源の場合、マイクロフォン310に直接到達することから部分的に遮蔽されるか、又は別様に人工頭部502の一部分又は人工頭部502が取り付けられる人工胴体によって音響的に影響を受け得る。デバイス304は明確さのためにイヤーシミュレータ503の外側に延在するものとして
図5Bにおいて示されているものの、実際の実施形態では、デバイス304は、マイクロフォン310の各々によって受信された信号がイヤーシミュレータ503の音響特性によっても影響を受けるように部分的にイヤーシミュレータ503内にあることになる。
【0037】
図4Bに戻ると、forループが、forループ開始ブロック418とforループ終了ブロック430との間で規定され、イヤーシミュレータ503の周囲に配置された複数の音源のうちの各音源について実行される。forループ418~430が実行される複数の音源の音源は、forループ406~414が実行された音源と同じであるものの、音源が処理される順序は変化してよい。forループ開始ブロック418から、方法400は、forループ開始ブロック420とforループ終了ブロック428との間で規定されたforループに進み、これは、デバイス104の各マイクロフォン310について実行される。実際には、この入れ子型forループは、ブロック422~426を、音源及びマイクロフォンの全ての組み合わせについて実行する。
【0038】
forループ開始ブロック420から、方法400は、ブロック422に進み、ブロック422において、音源は、テスト信号を生成する。テスト信号は、ブロック408において生成されるテスト信号と同じである。ブロック424において、マイクロフォン310は、イヤーシミュレータ503の少なくとも一部分によって影響を受けたものとしてテスト信号を受信し、受信信号を音処理デバイス308に送信する。いくつかの実施形態では、受信信号を音処理デバイス308に送信する段階は、アナログ信号を、マイクロフォン310からDSPデバイス306に送信する段階と、アナログ信号をデジタル信号に変換する段階と、デジタル信号をDSPデバイス306から音処理デバイス308に送信する段階とを含む。ブロック426において、信号記録エンジン316は、マイクロフォン310及びその音源についての受信信号を記録データストア322に記憶する。
【0039】
その音源について処理すべき更なるマイクロフォン310が残されている場合、方法400は、次のマイクロフォン310を処理するために、forループ終了ブロック428からforループ開始ブロック420に進む。そうではなく、マイクロフォン310の全てが処理済みであった場合、方法400は、forループ終了ブロック430に進む。処理すべき更なる音源が残されている場合、方法400は、次の音源を処理するために、forループ終了ブロック430からforループ開始ブロック418に進む。そうではなく、音源の全てが処理済みであった場合、方法400は、継続ターミナル(「ターミナルB」)に進む。
【0040】
図4Cにおいて、forループが、forループ開始ブロック432とforループ終了ブロック444との間で規定され、イヤーシミュレータ503の周囲に配置された複数の音源のうちの各音源について実行される。forループ開始ブロック432から、方法400は、forループ開始ブロック434に進み、forループ開始ブロック434は、forループ開始ブロック434とforループ終了ブロック438との間で規定された別のforループを開始する。forループ開始ブロック434とforループ終了ブロック438との間で規定されたforループは、複数のマイクロフォンのうちの各マイクロフォン310について一度ずつ実行される。本質的には、これらの入れ子型forループは、音源の各々についてマイクロフォン310によって受信された信号の各々を処理する。
【0041】
forループ開始ブロック434から、方法400は、ブロック436に進み、このブロック436において、音処理デバイス308の信号再生エンジン320は、マイクロフォン310用の別個のフィルタを用いて記憶された受信信号を処理して、別個の処理された信号を作成する。いくつかの実施形態では、別個のフィルタは、複数のマイクロフォンのうちの特定のマイクロフォン310からの信号に適用されるフィルタである。いくつかの実施形態では、特定のマイクロフォン310についての第1の通過ブロック436に用いられる別個のフィルタは、以下で論述されるように、後に調整されるデフォルトフィルタであってよい。
【0042】
処理すべき更なるマイクロフォン310が残されている場合、方法400は、次のマイクロフォン310についての記憶された受信信号を処理するために、forループ終了ブロック438からforループ開始ブロック434に進む。そうではなく、マイクロフォン310の全てについての記憶された受信信号が処理済みであった場合、方法400は、forループ終了ブロック438からブロック440に進む。ブロック440において、信号再生エンジン320は、別個の処理された信号を合成して、その音源についての合成出力信号を作成する。ブロック442において、信号再生エンジン320は、その音源についての合成出力信号を、記録データストア322に記憶する。
【0043】
その後、方法400は、forループ終了ブロック444に進む。処理すべき更なる音源が残されている場合、方法400は、次の音源を処理するために、forループ終了ブロック444からforループ開始ブロック432に進む。そうではなく、音源の全てが処理済みであった場合、方法400は、forループ終了ブロック444から継続ターミナル(「ターミナルC」)に進む。
【0044】
ブロック446(
図4D)において、音処理デバイス308のフィルタ決定エンジン318は、合成出力信号を、ターゲット信号と比較する。いくつかの実施形態では、比較は、以下の式において示されるように、位置にわたって総和された、信号同士の間の二乗差を決定する。
【数4】
【0045】
これは、ベクトル表記法を用いて表すこともできる。
【数5】
、ここで、
【数6】
は、K要素列ベクトルであり、ただし、第k要素はT(f,k)であり、
【数7】
は、行
【数8】
を有するM×K行列であり、
【数9】
は、その複素共役転置である。
【0046】
判定ブロック448において、判断は、既存のフィルタの性能が適切であるか否かに関して行われる。既存のフィルタの性能が適切ではないと判断された場合、判定ブロック448の結果はNOである。ブロック450において、フィルタ決定エンジン318は、合成出力信号とターゲット信号との間の差を最小化するために別個のフィルタを調整し、その後、新たに調整されたフィルタを用いて記憶された受信信号を処理するためにターミナルBに戻る。
【0047】
示されている反復方法は、合成誤差を最小化するための様々な最適化技法を含んでよい。いくつかの実施形態では、方法は、フィルタを再テストするためにループバックすることなく、理想フィルタを直接計算することが可能であってよい。いくつかの実施形態では、上記で説明された二乗差誤差基準を最小化する
【数10】
を求めるために、勾配は、
【数11】
に対して取られるとともに、ゼロに等しく設定されてよく、これにより、次式が得られる。
【数12】
【0048】
そして、最終的には、
【数13】
となり、ここで、
【数14】
及び
【数15】
である。
【0049】
いくつかの実施形態では、上記で説明された二乗誤差に対する変形形態が用いられてよい。例えば、いくつかの実施形態では、いくつかのソース位置からの信号が処理された信号の合成において最も正確に再生されることを保証するために、それらのソース位置に対して他のソース位置よりも重きを置くためにK×K対角行列Qが用いられてよい。対角線の第k要素上にスカラ値q
kkを有することで、結果として得られるフィルタ
【数16】
は、より大きい値q
kkを有する位置kに対して、より小さい値を有する他の位置よりも感度が高くなることになる。そのような実施形態の場合、基準は、
【数17】
になり、これにより、
【数18】
がもたらされ、ただし、
【数19】
及び
【数20】
である。
【0050】
いくつかの実施形態では、基準は、特定の音源位置について特定の値を取るようにフィルタを制約することを条件として、上記で論述されたように、二乗差を用いてよい。N個の列が制約付き位置に対応する
【数21】
ベクトルであるM×N行列を
【数22】
とする。取るべき値を有するN要素列ベクトルを
【数23】
とする。その場合、これらの追加の制約は、
【数24】
のように記述することができる。ラグランジュ未定乗数法(method of Lagrange multipliers)を用いると、結果として得られる
【数25】
ベクトルは、
【数26】
となる。
【0051】
凸最適化の理論を用いて他の基準を満たすことができる。例えば、いくつかの実施形態では、上記のように二乗差を最小化すると同時に、最大二乗差を何らかの所定の閾値以下に制限するフィルタを求めるために凸最適化が用いられてよい。
【0052】
判定ブロック448に戻ると、既存のフィルタの性能が適切であると判断された場合、判定ブロック448の結果はYESである。ブロック452において、フィルタ決定エンジン318は、調整された別個のフィルタを、音処理デバイス308のフィルタデータストア324に記憶する。
【0053】
いくつかの実施形態では、その後、調整された別個のフィルタは、ドライバ要素312によって再生される信号を生成するために信号再生エンジン320によって用いられてよい。例えば、マイクロフォン310によって音源からライブ信号(live signal)が受信されてよい。マイクロフォン310の各々は、ライブ信号のその受信バージョンを(DSPデバイス306を介して)信号再生エンジン320に提供する。信号再生エンジン320は、マイクロフォン310用の調整された別個のフィルタを用いて受信されたライブ信号を処理し、処理されたライブ信号を合成し、合成された処理済みのライブ信号を、再生のために(DSPデバイス306を介して)ドライバ要素312に提供する。
【0054】
上記で説明された基準は、単一のデバイス304において測定されたときの周波数応答に基づく。いくつかの実施形態では、2つのデバイス(例えば、聴取者の各耳に1つずつ)が用いられてよい。そのような実施形態では、別の有用な基準は、2つの耳におけるターゲット応答の比を維持することに関係付けられる。左側デバイス及び右側デバイス、並びに各アレイ出力に別個に適用されるフィルタの同じセットを用いると、所与の位置kにおける比に基づく基準は、
【数27】
となり、ここで、添え字L及びRは、それぞれ左及び右を意味し、T
kL及びT
kRは、ソース位置kについてのターゲット応答である。これを変形して次式を得ることができる。
【数28】
【0055】
自明な解
【数29】
は、回避されるべきである。自明な解を回避するための1つ技法は、所与の位置について特定の結果をもたらすようにフィルタを制約することである。一般性を失うことなく、厳密にk=0である場合に前述の式が満たされることを指定することができる。 k=0において前述の式を厳密に満たすことを条件として、全ての位置kにわたる上記の式の左辺の二乗の総和を最小化するために、二乗の総和は、次式のように記述することができ、
【数30】
これは、次式のように簡略化される。
【数31】
ここで、
【数32】
及び
【数33】
である。
【0056】
簡潔に言及すると、本発明者らは、
【数34】
及び
【数35】
を条件として、
【数36】
を最小化することを望む。
【0057】
この定式化は、線形制約最小分散ビームフォーマの定式化と同じであり、解は、
【数37】
であり、ここで、
【数38】
及び
【数39】
である。
【0058】
図4Aから
図4Dは、逐次的に実行されるブロックを示している。いくつかの実施形態では、方法400は、示される順序とは異なる順序で実行されるか、又は一度のみではなく複数回実行されるいくつかのブロックを含んでよい。いくつかの実施形態では、方法400の一部分は、並列に実行されてよい。例えば、複数のコンピューティングスレッド又はプロセスは、ブロック432~444において、逐次的ではなく並列に複数のマイクロフォン310及び/又は音源について記憶された受信信号を処理するために用いられてよい。
【0059】
さらに、ターゲット応答は、
図4Aの方法を用いて測定されたときの未加工の応答、若しくはこれらのターゲット応答の空間的平滑化バージョン、又は使用者の人体測定学の知識から導出された応答とすることができる。いくつかの実施形態では、マイクロフォン合成設計プロセスは、ターゲット応答を直接用いるのではなく、ターゲット応答又は他のデータのセットに基づいて「空間聴覚(spatial hearing)」の知覚モデルを用いてよい。いくつかの実施形態では、マイクロフォン信号合成プロセスは、リニアフィルタの代わりにニューラルネットワークを介してインスタンス化されてよい。
【0060】
いくつかの実施形態では、フィルタの複数のセットが決定されてよく、実行時に所与の条件について「最良の」フィルタが選択されてよい。例えば、いくつかの実施形態では、第1のフィルタは、発話を再生する際の最適な性能のために決定されてよく、第2のフィルタは、音楽を再生する際の最適な性能のために決定されてよく、第3のフィルタは、雑音を有する環境における最適な性能のために決定されてよく、第4のフィルタは、所定の方向における最適な性能のために決定されてよい。実行時、フィルタは、使用者によって選択されてもよいし、又は検出された環境条件に基づいて自動的に実行されてもよい。いくつかの実施形態では、実行時のフィルタ間の切り替えは、経時的に係数をモーフィングすることによって、又は第1のフィルタを用いて生成されたオーディオを、第2のフィルタを用いて生成されたオーディオに経時的に平滑にミキシングすることによって、平滑に実行されてよい。
【0061】
例示的な実施形態が図示及び説明されたものの、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本明細書において様々な変更が行われ得ることが認識されるであろう。
排他的な所有権又は特権が請求される本発明の実施形態が、以下のとおり定義される。
【国際調査報告】