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特表2022-541876車両動力学に関連付けされたモデルを検証するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-28
(54)【発明の名称】車両動力学に関連付けされたモデルを検証するための方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/10 20120101AFI20220920BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20220920BHJP
【FI】
B60W40/10
B60W60/00
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2021572903
(86)(22)【出願日】2019-06-14
(85)【翻訳文提出日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019065739
(87)【国際公開番号】W WO2020249239
(87)【国際公開日】2020-12-17
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512272672
【氏名又は名称】ボルボトラックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】レイン,レオ
(72)【発明者】
【氏名】クリントベリ,エーミル
(72)【発明者】
【氏名】ニルソン,ピーター
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA49
3D241BC01
3D241CA15
3D241CC01
3D241CC08
3D241CE09
3D241DB24Z
3D241DB27Z
3D241DB28Z
3D241DB32Z
3D241DB47Z
3D241DC47Z
(57)【要約】
自律運転での使用のための車両動力学モデルを検証するための方法。本方法は、少なくとも1つの車両トルクデバイスの動作に車輪スリップ限界を設定するステップと、設定車輪スリップ限界に基づいて車両動力学モデルを取得するステップと、設定車輪スリップ限界に基づいて車両動力学モデルを検証するステップとを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自律運転での使用のための車両動力学モデルを検証するための方法であって、
少なくとも1つの車両トルクデバイス(13、14)の動作に車輪スリップ限界を設定するステップ(S2)と、
前記設定車輪スリップ限界に基づいて、車両動力学に関連付けされたモデルを取得するステップ(S4)と、
前記設定車輪スリップ限界に基づいて、前記車両動力学モデルを検証するステップ(S5)と
を含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1つの車両トルクデバイスは、ブレーキ装置(13)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの車両トルクデバイスは、推進装置(14)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの車両トルクデバイス(13、14)の前記動作に対し、車輪スリップ制御バンド幅要件または立上り時間要件を設定するステップ(S3)を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記車輪スリップ限界は、
【数1】
によって与えられる縦タイヤスリップsの限界を含み、ここでRは、車輪タイヤの半径を表わし、ωは、前記車輪タイヤの角速度を表わし、vは、前記タイヤの縦速度を表わす、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記車輪スリップ限界は、
【数2】
によって与えられる横タイヤスリップsytの限界を含み、ここでvは、タイヤ並進速度を表わし、Rは、車輪タイヤの半径を表わし、ωは、前記車輪タイヤの角速度を表わす、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記車輪スリップ限界は、路面摩擦状態または路面摩擦係数μに依存して構成される、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記車輪スリップ限界は、容認できる車輪スリップ値の範囲と、要求車輪スリップ制御精度を示す許容値とを含む、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記車両動力学モデルは、横操舵能力を含む、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記車両動力学モデルは、前記車両に作用する横タイヤ力Fをモデル化する、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記車両動力学モデルは、前記車両に関連付けされたコーナリング剛性値を含む、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記検証した車両動力学モデルに対応する1つまたは複数のモデル能力を交通状況管理ユニットに伝達するステップ(S6)を含む、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記車両動力学モデルは、車両動力学の明確なモデルである、請求項1から12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記車両動力学モデルは、タイヤおよび/またはトルクデバイスの摩耗影響を考慮するように構成される、請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記車両動力学モデルは、前記車両の軸重および/または軸重分布を考慮するように構成される、請求項1から14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記車輪スリップ限界に準拠するかを決定して前記車両トルクデバイスを認証するステップ(S1)を含む、請求項1から15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
プログラムコード手段を含むコンピュータプログラム(1020)であって、コンピュータで、または制御ユニット(12)の処理回路(910)で前記プログラムが実行されるときに、請求項1から16のいずれか1項に記載のステップを実行する、コンピュータプログラム(1020)。
【請求項18】
プログラムコード手段を含むコンピュータプログラム(1020)を担持するコンピュータ読み取り可能な媒体(910)であって、コンピュータで、または制御ユニット(12)の処理回路(910)で前記プログラム製品が実行されるときに、請求項1から16のいずれか1項に記載のステップを実行する、コンピュータ読み取り可能な媒体(910)。
【請求項19】
自律運転での使用のための車両動力学モデルを検証するように構成された制御ユニット(12)であって、前記制御ユニット(12)は請求項1から16のいずれか1項に記載の方法のステップを実行するように構成される、制御ユニット(12)。
【請求項20】
請求項19に記載の制御ユニット(12)を備える、車両(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両、車両のパーツおよび/または車両に係わるシステムに関連付けされたモデルを検証するための方法、制御ユニット、および車両に関する。検証したモデルは、例えば、レベル4(L4)の自動運転での用途を有し、特に、車両を安全な状態に導くために緊急操作中に車両を制御する際に関連するものである。
【0002】
本発明は、トラックや建設機械などの重作業用車両に適用できる。本発明は、主として、セミトレーラ車両やトラックなどの貨物輸送車両に関して説明されるが、本発明は、この特定の型の車両に限定されず、乗用車などの他の型の車両で使用することもできる。
【背景技術】
【0003】
先進の車両運動制御システムは、例えば、自律運転機能をサポートし、車両の安全性を向上させるために導入されている。これらの車両制御システムは、車両または車両のパーツが、所与のドライブシナリオのために制御信号に応答してどのように挙動することが予想されるか、を表現しているモデルを使用する。モデルは、黙示的でもよく、即ち、車両状態変数と制御入力との間の一般的な数学的関係を表現してもよく、または、状態変数と制御入力との間の直接的アルゴリズム関係を提供するという点で明示的でもよい。モデルは、単純化されたモデルでもよく、または、例えば、車両運動管理システムに含まれる複雑な制御機能を含んでいてもよい。
【0004】
重要なことは、車両モデルが妥当(valid)であること、即ち、それらが運行設計領域(ODD:operational design domain)の全体のために正確な方法で車両挙動を表わすことである。例えば、達成可能な横タイヤ力について妥当性のないモデルは、許容できない事故のリスク増大を引き起こすことがある。
【0005】
例えば、自律運転システム(ADS:autonomous drive system)は、多くの場合、車両の動作中の事故リスクが容認できるレベルにあることを(少なくとも高い確率で)保証するために設計される。そういった「保証」は、使用されるモデルが妥当であることを確認することによって、モデル使用の妥当な能力を提供することによって、および、ある種の緊急操作(emergency maneuver)を実行することによって車両が事故を回避または軽減できることを確認できるシナリオに車両の動作を限定することによって、達成できる。緊急機動が所与のシナリオで高い確率で首尾よく実行できることを知ることは、典型的には、安全な状態へ移行中の車両動力学(dynamics)のモデルに基づく。
【0006】
多くの場合、車両のODDを最大化することが望ましい。しかしながら、モデルの妥当性を保証するため、大きな安全マージンが多くの場合、要求される。これらの安全マージンは車両ODDを限定し、それが欠点である。
【0007】
車両モデルを検証するための改善された方法の必要性が存在する。
【発明の概要】
【0008】
本開示の目的は、自律運転での使用のための車両動力学に関連付けされたモデルを検証するための方法を提供することである。本方法は、少なくとも1つの車両トルクデバイスの動作に車輪スリップ限界を設定するステップと、設定車輪スリップ限界に基づいて、車両動力学に関連付けされたモデルを取得するステップと、設定車輪スリップ限界に基づいて、車両動力学モデルを検証するステップとを含む。
【0009】
開示された方法においては、明確な車両動力学モデルを使用することにより、例えば、緊急操作中の車両の挙動を分析することが可能になる。これは、データによって黙示的に与えられるモデルと比較した利点であるが、その理由は、明確なモデルが、(i)人によってより容易に分析でき、(ii)制御理論から十分に確立された正式な方法を使用して緊急操作中の挙動を分析するのを可能にするからである。これにより、本明細書に開示された方法は、例えば、緊急操作の性能を検証するときに、データのより効率的な使用を提供する。
【0010】
本明細書に開示された方法に関連する他の有益な効果は、車輪スリップに限界を設定することにより、例えば、緊急操作中に横力を発生する能力を維持できる、ということである。これは、必要なモデル不確実性マージンを減少させ、それ故に、車両ODDを増加させるという利点が得られる。
【0011】
少なくとも1つの車両トルクデバイスは、少なくとも1つのブレーキ装置および/または少なくとも1つの推進装置を含むことができる。
【0012】
したがって、本方法は、ブレーキ装置および推進装置双方が同じフレームワークを使用して処理できるという点で非常に用途が広い。これは、車両制御を改善し、異なるモデルの広範囲にわたるモデル検証を可能にするという利点が得られる。
【0013】
いくつかの態様によれば、本方法は、少なくとも1つの車両トルクデバイスの動作に対し、車輪スリップ制御バンド幅要件または立上り時間要件を設定するステップを含む。これが意味することは、設定スリップ限界の外側でスリップを引き起こす予期しない突然の出来事が、それらが十分迅速に抑制される限り許容できる、ということである。これは利点であるが、その理由は、車両のODDの幾つかの制限が除去できるからである。例えば、車両は、バンプの上を走ることがあり、それによって、軸重が一時的に減少し、一時的な車輪スリップを引き起こす。また、車両タイヤは、油や氷のスポットやストレッチに突然あたることがあり、予測できない突然のスリップを引き起こすことがある。しかしながら、トルクデバイスが車輪スリップを十分速く制御できる場合、モデル妥当性は、一時的な車輪スリップがあったとしても保証できる。
【0014】
いくつかの態様によれば、車輪スリップ限界は、路面摩擦係数などの路面摩擦状態に依存して構成される。これは、異なった路面状態を考慮に入れることができるという利点が得られる。これによって、本方法の汎用性が向上し、また、車輪スリップ限界がより精緻に設定できるため、例えば、ODDの必要なマージンを減少させる。
【0015】
いくつかの態様によれば、車輪スリップ限界は、容認できる車輪スリップ値の範囲と、要求車輪スリップ制御精度を示す許容値とを含む。これにより、設定限界を満足するための自由度がトルクデバイスに許容され、トルクデバイスの動作が改善する。
【0016】
いくつかの態様によれば、本方法は、検証した車両動力学モデルに対応する1つまたは複数のモデル能力を、車両の制御スタックの上位層に含まれる交通状況管理ユニットに伝達するステップを含む。したがって、交通状況管理ユニットは、基礎となる機能、例えば、車両に関連付けされた車両運動管理システムによって保証された検証モデルを受信する。これは、少なくとも部分的に、車輪スリップに設定限界を設けることによって可能となる。
【0017】
いくつかの態様によれば、車両動力学モデルは、タイヤおよび/またはトルクデバイスの摩耗影響を考慮するように構成される。タイヤおよびトルクデバイスの摩耗は、車両モデルに著しく影響することがある。したがって、そういった影響を考慮することによって、検証された車両モデルは、より精緻化されるようになり、必要な安全マージンがより小さくてすむ可能性がある。これは、車両の動作を改善する。
【0018】
いくつかの態様によれば、車両動力学モデルは、車両の軸重および/または軸重分布を考慮するように構成される。軸重および/または軸重分布も、車両に関連付けされたモデルへの影響を有する。例えば、コーナリング剛性は、軸重から少なくとも部分的に決定される車両のタイヤに作用する法線力に依存する。
【0019】
いくつかの態様によれば、本方法は、車輪スリップ限界に準拠するかを決定して車両トルクデバイスを認証するステップを含む。これにより、車輪スリップが実際に設定値に限定されるという意味で、要件を課されたトルクデバイスが設定車輪スリップ限界に実際に準拠することが保証される。これにより、非準拠のデバイスを車両に使用することがより難しくなるため、車両の安全性が向上する。
【0020】
本明細書に同じく開示されるものは、上述した利点に関連する制御ユニット、コンピュータプログラム、コンピュータ読み取り可能な媒体、コンピュータプログラム製品、および、車両である。
【0021】
一般に、特許請求の範囲で使用される全ての用語は、本明細書で明示的に別途規定されない限り、技術分野におけるそれらの通常の意味に従って解釈されるべきである。「1つ(a)/1つ(an)/その(the)要素、装置、構成要素、手段、ステップ等」に対する全ての参照は、明示的に別途記述されない限り、要素、装置、構成要素、手段、ステップ等の少なくとも1つの例を参照しているとして、オープンに解釈されるべきである。本明細書に開示された任意の方法のステップは、明示的に記述されない限り、開示された正確な順序で実行されなくてもよい。本発明の更なる特徴および利点は、添付の特許請求の範囲および以下の説明を検討するときに明らかになるであろう。当業者は、本発明の異なった特徴が、本発明の範囲から逸脱することなく、以下に説明されるそれら以外の実施形態を作り出すために組み合わせできる、ということを理解する。
【0022】
添付の図面を参照して、以下に、例として言及される本発明の実施形態をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】貨物輸送用の車両を概略例証する図である。
図2A】車両に作用する力の例を示す図である。
図2B】車両に作用する力の例を示す図である。
図2C】車両に作用する力の例を示す図である。
図3】車輪スリップおよび車輪力間の関係を示すグラフ図である。
図4】車輪に作用する力を概略的に示す図である。
図5】変化する複雑さの車両モデルを例証する図である。
図6】車両制御システム例を例証する図である。
図7】車両制御システム例を例証する図である。
図8】方法を例証するフローチャート図である。
図9】制御ユニットを概略的に例証する図である。
図10】コンピュータプログラム製品例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のある態様が示される添付図面を参照して、より本発明を詳細に説明する。しかしながら、本発明は、多数の異なった形態で具現化でき、また、本明細書に記載される実施形態および態様に限定されると解釈すべきでなく、寧ろ、これらの実施形態は、本開示を完璧で完全として、当業者に本発明の範囲を十分に伝えるための例として提供されるものである。同様の符号は、説明の全体にわたって同様の要素を指す。
【0025】
理解すべきは、本発明が本明細書で説明され、図面に例証された実施形態に限定されないことであり、寧ろ、当業者は、多数の変更および修正が添付の特許請求の範囲内でできることを認識するであろう。
【0026】
図1を参照すると、車両1がトラックの形式で示されている。車両は、複数の車輪104、104’、108、114を含む。各車輪は、それぞれの車輪ブレーキ13を含む。車輪ブレーキ13は、ここではディスクブレーキとして示されているが、ドラムブレーキまたは車両バッテリを充電するための回生ブレーキなどの他のタイプのブレーキシステムも、本開示の範囲に同じく含まれる。図1に示された実施形態では、車輪104、104’、108、114のそれぞれは、車輪ブレーキ13を具備する。しかしながら、1つまたは複数のペアの車輪が車輪ブレーキなしに配置できることが理解される。
【0027】
車両1は、車両1の少なくとも1つの車輪を推進するために配置された車輪推進装置14も含む。図1に示された実施形態では、最後尾の車輪だけが車輪推進装置を具備する。しかしながら、各車輪、または選択された数の車輪が車輪推進装置14を具備することがあり、あるいは、全ての車輪がそれを具備しないこともある。車輪推進装置は、電気バッテリ15のような電気エネルギー貯蔵部から給電される電気モータであることが好ましい。
【0028】
ここに、車輪ブレーキおよび車輪推進装置は、一般に車輪トルクデバイスと呼ばれる。
【0029】
図1の例では、各車輪ブレーキ13は、車輪ブレーキ13の動作を制御するために配置された対応する分散型車輪制動コントローラ10に接続される。同様に、車輪推進装置14は、その動作を制御するために配置された分散型車輪推進コントローラ10’に接続される。車両1が車両運動制御用の分散型車輪ブレーキおよび推進コントローラの統合システムを利用してもよいことが理解される。
【0030】
車輪制動コントローラ10および車輪推進コントローラ10’のそれぞれは、データバス通信装置11を介して車両1の車両運動管理(VMM:vehicle motion management)制御ユニット12に接続される。これにより、データは、VMM制御ユニット12と車輪制動コントローラ10および車輪推進コントローラ10’の間で伝達できる。
【0031】
図2Aは、車両1’およびその車輪104、105、108、110、114、116に作用する力の幾つかの例を例証する。留意すべきは、図2Aの車両1’がセミトレーラ車両であり、他方、図1の車両1’がリジッドトラックであるが、これは単に、車両タイプの観点から、本明細書に開示された方法が提供する汎用性を例示するものである。本明細書に開示された技術は、セミトレーラ車両およびトラック双方を含む幅広い多様な車両タイプに適用可能である。
【0032】
留意されることは、本明細書でスリップ制御が、トラクタユニットの車輪だけでなく、車両およびトレーラの組合せの任意の車輪へのスリップ制御を指すことである。
【0033】
図2Aに示す一対の操舵可能車輪104、106は、旋回実行中であり、それ故に、車両前方方向に関して操舵角δで配置される。操舵角δは、図2Aの単純化のために、左104操舵可能車輪および右106操舵可能車輪について同じように例証されており、車両1’の長手軸に対する車輪の角度である。車両1’は、Vとして示された車両速度で動作する。操舵可能車輪104、106は、それぞれの車輪トルクアクチュエータ103、105も含む。
【0034】
前車軸102は、車両1’の質量中心210から距離lで配置され、第1の後車軸112は、車両1’の質量中心210から距離lに配置され、第2の後車軸118は、車両1’の質量中心210から距離lに配置される。質量中心210は、車両1’に影響する合計した全体の力が既知の方法で表わされる車両1’の位置である。
【0035】
以下では、x軸は、車両1、1’の長手方向に延び、y軸は、車両1、1’の横方向に延び、z軸は、車両1、1’の鉛直方向に延びる。旋回中、車両1’は、質量中心210でトルクMを受ける。また、車両は、全体的な縦力Fと全体的な横力Fに晒される。
【0036】
さらに、前車軸102の操舵可能車輪104、106が操舵角δにあるとき、左側の操舵可能車輪104は、縦力Fx,104および横力Fy,104を受け、右側の操舵可能車輪106は、縦力Fx,106および横力Fy,106を受ける。
【0037】
左側の操舵可能車輪104および右側の操舵可能車輪106の横力の和は、合計前輪横力として表現できる。前輪縦力の和は、例えば、車両の推進時または車両の制動時に増加および減少し得る。
【0038】
第1の後輪108、110は、それぞれ横力Fy,108およびFy,110を受け、第2の後輪114、116は、それぞれ横力Fy,114およびFy,116を受ける。図2Aの例では、一対の第1の後輪108、110および一対の第2の後輪114、116の縦力は、ゼロに設定される、即ち、それぞれの車輪は、推進または制動に起因するいかなる力も受けない。
【0039】
図2Bは、軸重(axle load)F1、F2、およびF3を有する連結車両220の例を例証する。車両200は、約40トンの連結車両総重量(GCW:gross combination weight)を有するトラクタとセミトレーラの連結車両である。したがって、軸重の合理的な値は、F1=7.0トン、F2=12.1トン、および、F3=20.9トンである。図2Cは、軸重F4、F5、F6を有する別の連結車両230の例を示す。この連結も、GCWは40トンであり、その分布はF4=7.0トン、F5=16.0トン、および、F6=17.0トンである。軸重は、より詳細に後述するように、車輪スリップに影響する。
【0040】
軸重が公称値と著しく異なる場合では、例えば、コーナリング剛性(cornering stiffness)を含む車両モデル(より詳細に以下で考察される)は、もはや妥当でないことがある。したがって、本明細書で考察される方法のいくつかの態様によれば、軸重を監視し、車両モデルの妥当性を、監視した軸重にも基づいて確立する。例えば、軸重が、タイヤに作用する法線力Fzの大部分を決定することから、軸重は達成可能な横タイヤ力へも大きな影響を与える。ここで、F≦μFであり、μは、路面摩擦状態に関連する摩擦係数である。
【0041】
摩擦限界は、所与の車両に関連付けされたODDに組み込むことができる。例えば、ODDが、例えば、μ≦0.5を要求するように、もっぱら雨の間の低い摩擦状態では決して輸送を行わないようにしてもよい。したがって、異なる車軸について軸重を監視すること、および軸重がそれぞれの許容可能な軸重の範囲内にあることを要求することによって、モデル妥当性を決定することができる。
【0042】
図2Aおよび図2Bは、タイヤの摩耗状態を決定するためのタイヤ検査240についても例証する。タイヤの摩耗は、車両の挙動へ著しい影響を与える場合がある。例えば、タイヤの摩耗は、タイヤのコーナリング剛性に影響を与える。
【0043】
ADSは、高い信頼性で事故リスクが許容できるレベルにあることを保証する必要がある。この責任は、概して有用性および性能の双方について高い要件で実施される安全システムが担うものとして説明できる。本明細書に開示された技術は、そのようなシステムを促進する目的で、制動システムおよび/または電気モータなどの推進装置へ要件を課すことに関する。本開示は、最大達成可能な横力Fyと、車両が、例えば、タイヤにおいて達成できる最大縦力Fxとの間の関連性が任意の時点で存在するという考察に少なくとも部分的に基づいている。これが意味することは、適用される縦制動力が高すぎる場合に、車両の横操舵能力が失われることである。モデルの観点から、これが暗示することは、制限のない制動が許容されると、車両の横方向の動力学において大きな不確実性が存在するであろうことである。大きな不確実性は、緊急操作の性能の慎重な分析につながり、したがってADSにおけるODDが著しく減少する。本開示のねらいは、モデル検証のための改善された方法を提供することによって、この欠点を克服することである。これらの改善された方法は、制動装置や推進装置などの車輪トルクデバイスには、許容可能な車輪スリップの限界がかけられるということに少なくとも部分的に基づく。
【0044】
ここに、用語「縦車輪スリップ」または「縦タイヤスリップ」は、車両の車輪とその地面との間の相対的縦運動、即ち、「スキッド」の量を意味すると理解すべきである。「縦車輪力」は、車輪の表面とその路面との間の(縦方向の)摩擦力を意味すると理解すべきである。この摩擦力は、例えば、制動トルク、ブレーキ圧、車輪速度等に関する入力を受け取る状態オブザーバなどの、例えば、推定モデルに基づいて推定される推定摩擦力であってよい。タイヤに作用する幾つかの力の例は、以下の図4に概略的に例証される。縦タイヤスリップsは、幾つかの態様によれば、
【数1】
として定義できる。ここでRは、タイヤの半径を表わし、ωは、タイヤの角速度を表わし、vは、タイヤの縦速度を表わす。縦タイヤスリップと、縦タイヤ力と、最大達成可能な横タイヤ力との間の典型的な関係300は、図3に例示される。留意すべきは、許容される縦タイヤスリップが高すぎる場合には、横タイヤ力を発生させる能力が著しく減少330するということである。しかしながら、最大許容可能なタイヤスリップが範囲310内に収まるように制限される場合には、常に横タイヤ力を発生させる能力は維持される。車輪スリップがさらに制限320される場合には、横タイヤ力を発生させる能力はより一層、影響されない。したがって、必須であることは、例えば、緊急操作中に使用されるブレーキ装置または推進装置が、操作持続中に十分な横タイヤ力が発生できるように縦タイヤスリップが制限されるのを保証できる、ということである。
【0045】
最大許容可能なスリップの基準は、次のように決定できる。車両があるODDに関連すると仮定する。例えば、速度vおよび道路曲率Qについて限界が、または、車両による操作(maneuver)について幾つかの他のタイプの限界が、存在し得る。そこで、最大横加速度ay,maxは、
【数2】
として決定できる。ここでvx,maxは、速度限界である。この横加速度は、横タイヤ力F(車両の質量特性に依存する)をもたらす。この横タイヤ力は、最大許容可能なスリップ限界340を見つけるために、例えば、図3で使用できる。
【0046】
車輪に関連する幾つかの用語、および、車輪に作用する力のモデル400は、図4に示される。タイヤ(または車輪)は、多くの場合、図4に示されるように、それ自体の座標系で説明される。車両は、所定の方向410に或る速度Vで走行する。しかしながら、車輪は、僅かに異なった方向420に向かう420。したがって、スリップ角αが存在する。3つの力およびモーメントは、地面から車輪に作用する。法線力Fは、路面430に垂直な方向に延びる。縦力Fは、路面430において車輪に沿って延び、横力Fは、路面430において車輪に対して垂直に延びる。車輪面440は、路面430に対する法平面450に関してキャンバ角εを有する。車輪は、車輪スピン軸450にも関連する。
【0047】
所謂ブラシモデル(brush model)は、車両モデルであり、タイヤが接地面でどのように力を展開するかを説明するために頻繁に使用される。ブラシモデルは、物理ベースのモデルであり、局所的なレベルで、即ち、接触パッチの各接触点について剪断応力および乾燥摩擦を使用する。
【0048】
例えば、車両のコーナリング応答を検討するときに、有用なことは、車軸上の全タイヤの影響を1つの仮想タイヤにまとめることである。この仮定は、ワントラックモデル(またはシングルトラックモデルあるいはバイシクルモデル)と呼ばれており、理解を容易にするが、重要な現象を捉えることもできる。ワントラックモデルに単純化することは、図5Aに例証されている。ここで、複数の非操舵車軸およびデュアルタイヤを備えた車両1のツートラックモデルは、先ず、複数の車軸にそれぞれ単一のタイヤを有するワントラックモデルに単純化され、次いで、同等のホイールベースと単一のタイヤとを備えたワントラックモデルに単純化される。シングルトラックモデルへの車両動力学モデルの単純化は、よく知られており、本明細書ではより詳細には考察しない。
【0049】
横車輪スリップsywは、
【数3】
として定義でき、ここでv、vは、それぞれ横速度、縦速度を表わす。横タイヤスリップsytは、
【数4】
として定義でき、ここでvは、タイヤ並進速度(tyre translational velocity)を表わす。縦スリップが存在しない場合、v=Rω、および、syt=sywである。車輪スリップ角α(図4参照)は、syw=tanαとして定義できる。小さい横タイヤスリップ、横タイヤ力Fは、モデル化できる。
【0050】
小さい横タイヤスリップについて、横タイヤ力Fは、
=-Cyt
としてモデル化でき、ここでCは、定数である。この定数は、コーナリング剛性と呼ばれることもあり、図2Bおよび図2Cに関連して上述した、例えば、車輪スリップおよび法線力Fに依存する。横力Fは、F*μを超えることはない。ここでμは、摩擦係数である。1つまたは複数の駆動車軸上の軸重は、どのように車両が加速できるかを決定する際に、特に重要である。駆動車軸における軸重の低さは、多くの場合、車輪がよりスリップしやすいことを意味する。
【0051】
車両のコーナリング剛性は、車両モデルの一例であり、車輪スリップの限界を設定することによって検証できる。これの少なくとも部分的な理由は、コーナリング剛性のモデルは、車輪が厳しいスリップ状態に入ると大きく変化し、一方、低スリップ値、即ち、小さい横タイヤスリップについては、より単純なモデルを妥当であると仮定できるからである。留意されることは、また、許容可能な車輪スリップに限界を課すことによって、小さい車輪スリップについて妥当な車両特性の単純化モデルが使用できることである。
【0052】
幾つかの態様によれば、車両の軸重も監視され、車両に関連するモデルを検証するために使用される。例えば、軸重のチェックは、車両をスタートする前に実行でき、軸重が構成された限界内にない場合には、車両は、作動が許可されない、または、軸重分布を考慮して減少されたODDに関連付けされることができる。したがって、軸重が、車両モデルが十分に正確である範囲内にあると仮定することによって、車両モデルが検証される。
【0053】
タイヤ摩耗は、コーナリング剛性のような車両特性に影響することもある。図2Bおよび図2Cを参照すると、車両タイヤ221、222、223、231、232、および233は、定期的に摩耗の検査240をすることができ、各タイヤの摩耗レベルは、対応する車両に関連するモデルを精緻化するために使用できる。例えば、コーナリング剛性は、多くの場合、タイヤの摩耗に依存する。実際上、摩耗したタイヤは、新しいタイヤと比較して最大で60%超、コーナリング剛性に関連することがある。
【0054】
上述した関係を、sがゼロに等しくないが小さいという仮定と組み合わせることにより、以下の式が得られる。
=-C(1-s)tanα
【0055】
これ、αに関するFの感度が、以下の式で与えられることを意味する。
【数5】
【0056】
それ故に、例えば、|s|≦0.15に制限することによって、横能力は、制動中の縦タイヤスリップによって最大で15%影響されることになる。したがって、許容可能な車輪スリップに対して制限を設定することによって、単純化されたシングルトラックモデルを、車両動力学をモデル化するために使用できる。さらに、これらのモデルは、車輪スリップが或る所定の限界内に維持される限り、ODDに関して十分に正確であると検証できる。
【0057】
図6は、1つまたは複数の運動サポートデバイス610、即ち、ブレーキ装置611および/または推進装置612を含む車両制御スタックの例を示す。運動サポートデバイス610はVMMデバイス620に通信可能に結合され、VMMデバイス620は、上述した制御ユニット12を含むことができる。VMMユニット620は、トルク要求および車輪スリップ限界を運動サポートデバイス610に伝達するように構成することができる。車輪スリップ限界を伝達することによって、上述したように、車両動力学モデル化を大幅に単純化できる。
【0058】
概括すると、VMM620は、トルクデバイス13、14などの少なくとも1つの運動サポートデバイス610の動作に関して、車輪スリップ限界を設定するか、または、要求する。VMMは、次いで、設定車輪スリップ限界に基づいて車両動力学モデルを取得し、設定車輪スリップ限界に基づいて車両動力学モデルを検証する。したがって、車輪スリップ限界を設定すること、および、その後に運動サポートデバイス610が設定車輪スリップ限界に従うと信頼することにより、これまで知られていなかった方法でのモデルの検証が可能になる。
【0059】
VMMユニット620は、また、幾つかの態様によれば、検証したモデルのモデル能力(model capabilities)を、車両制御スタック600内で上方に、U方向に、例えば、交通状況管理(TSM:traffic situation management)ユニット630に送るように構成される。TSMユニット630は、経路および輸送管理ユニット640と通信し、次いでそれは輸送ミッション管理ユニット650と通信する。これらの機能は、より高い層の特徴を提供するが、それらは本開示の範囲内ではないため、本明細書ではより詳細に考察しない。
【0060】
車両制御スタック600内のTSMと上方における使用モデルの妥当性および能力は、VMM620によって、保証、即ち、検証される。この検証は、特定のバンド幅(bandwidth)、例えば、+/-0.02の許容値を有する-0.15の最大スリップ限界の範囲内で正確なスリップ制御を保証するように、例えば、サービスブレーキおよび電気モータトルクデバイスなどの運動サポートデバイスのサプライヤに要求し、契約を結ぶことによって可能にされる。
【0061】
VMMは、運動サポートデバイス610の制御バンド幅に要件を課すこともできる。バンド幅または立上り時間(rise-time)は、重要であり、その理由は、車輪スリップが、回避できない様々な理由に起因して設定限界を突然超えることがあるからである。例えば、車両は、氷のバンプやパッチの上を走ることがあるが、コントローラは、それらを事前に予測できない。バンド幅の要件は、スリップを再度設定限界内へ戻すために、いかに速くコントローラがこれらの予期しない出来事に応答するかに関する要件である。
【0062】
所与の運動サポートデバイスが要求された車輪スリップ限界を実際に維持可能であることを保証するために、認証手順を実行してもよい。これは、チャレンジメッセージを運動サポートデバイス610に送信するステップを含み、運動サポートデバイス610はこれに対し、検証できる応答やキーで応答することが期待される。運動サポートデバイスが、例えば、車輪スリップに対して課された要求に従うことが以前に検証されていた場合には、その運動サポートデバイスには、チャレンジへの応答としてVMMに送り返すことのできる所定の応答を生成する応答機構が設けられている。これによる、VMMは、運動サポートデバイスが車輪スリップなどについて課された要件に準拠していることを保証できる。他の既知の認証機構も勿論使用できる。換言すると、本明細書には、車輪スリップ限界に準拠するかを決定して車両のトルクデバイスを認証するための方法が開示されている。
【0063】
図7は、運動サポートデバイス700の例をより詳細に示す。この運動サポートデバイスは、例えば、トルク要求710および車輪スリップ限界値720を受信するように構成されたブレーキ装置デバイスである。運動サポートデバイス700の例は、対応する車輪の表面と路面との間の車輪スリップについての縦車輪スリップ値を計算するように構成された車輪スリップ制御モジュール730を含む。車輪スリップ制御モジュール730は、例えば、VMM620から車輪の最大許容可能車輪スリップ限界710を受信するように構成され、その値は、車両運動管理コントローラ620の制御ユニット12から受信できる。車輪スリップ制御モジュール730は、その後に、車輪を車輪スリップ限界値710に対応する縦スリップ値に導くのに必要な要求ブレーキ圧または制動トルク値740を計算/決定する。
【0064】
制動トルクデマンドモジュール750は、車輪スリップ制御モジュール730によって計算された要求制動トルク値740と、例えば、車両運動管理コントローラ620から受信された車両のオペレータからの所望の制動トルクデマンド720と、を受信するように構成される。制動トルクデマンドモジュール750は、例えば、要求制動トルク740の最小値と、オペレータからの所望の制動トルクデマンド値720と、を用いて制動トルクデマンド値760を決定する。したがって、オペレータからの所望の制動トルクデマンドが要求制動トルクを超える場合、制動トルクデマンドモジュールは、これらの値の最小値である要求制動トルクを選択/使用する。これによって、車輪スリップは、例えば、VMM制御ユニット12によって課される車輪スリップ限界710を超えることが防止される。
【0065】
関連する制御方法を備えた車輪トルクデバイス制御ユニットの例は、WO2017/215751A1に記載されており、そのために本明細書ではより詳細には説明しない。
【0066】
図8は、上記考察を要約した方法を説明するフローチャートである。自律運転で使用するための車両動力学に関連付けされたモデルを検証するための方法が示される。本方法は、少なくとも1つの車両トルクデバイスの動作に車輪スリップ限界を設定するステップS2を含む。車輪スリップ限界の設定は、図3に関連して上述した。車両トルクデバイスは、図7に関連して例示および説明した。本方法は、また、設定車輪スリップ限界に基づいて車両動力学モデルを取得するステップS4を含む。この車両動力学モデルは、例えば、上述した図5に関連するモデル化原理のうちの1つに基づいて取得でき、即ち、シングルトラックモデルを用いることができる。コーナリング剛性を含むモデルとすることもできる。本方法は、設定車輪スリップ限界に基づいて車両動力学モデルを検証するステップS5を含む。この検証は、課された車輪スリップ限界によって可能にされるが、その理由は、ある設定限界を超える車輪スリップが発生しない、またはほぼ発生しないという仮定に基づいて明確なモデル(explicit models)を形成できるからである。幾つかの態様によれば、車両動力学の単純化モデル、または車両のパーツの特性の単純化モデルを使用できるが、その理由は、車輪スリップを、これらの単純化モデルが妥当であるという範囲に限定するからである。
【0067】
上述したように、少なくとも1つの車両トルクデバイスは、ディスクブレーキ、ドラムブレーキ、または回生ブレーキなどのブレーキ装置104を含むことができる。少なくとも1つのトルクデバイスは、電気モータなどの推進装置を含むこともできる。
【0068】
幾つかの態様によれば、車輪スリップ限界の設定は、少なくとも1つの車両トルクデバイスの制御動作に関する車輪スリップ制御バンド幅または最大立上り時間値を設定するステップS3を含むことができる。この制御バンド幅または立上り時間は、上述したように、予測およびモデル化することが難しい遅れ(lag)を示さない、十分に速い車輪トルク制御を保証する目的で、重要であり得る。このように、車両のODDマージンは、幾つかのケースでは低減できるが、その理由は、トルクデバイスが、スリップし易い路面状態などの突然の到来といった運転状態の変化に対して速やかに対応ができる、ということが知られているからである。
【0069】
幾つかの態様によれば、車輪スリップ限界は、
【数6】
によって与えられる縦タイヤスリップsの限界を含む。ここで、Rは、車輪タイヤの半径を表わし、ωは、車輪タイヤの角速度を表わし、vは、タイヤの縦速度を表わす。縦タイヤスリップの他の定義も、勿論可能である。しかしながら、本明細書に開示された方法および技術は概念的なものであり、それ故に、タイヤスリップの異なる定義にも適用可能であることを理解されたい。
【0070】
車輪スリップ限界は、
【数7】
によって与えられる横タイヤスリップsytの限界を任意選択で含んでもよい。ここで、vは、タイヤ並進速度を表わし、Rは、車輪タイヤの半径を表わし、ωは、車輪タイヤの角速度を表わす。
【0071】
路面摩擦は、タイヤスリップに影響することが知られている。本方法は、したがって、路面摩擦状態に依存して車輪スリップ限界を構成することを含んでもよい。これは、図3に関連して上述した。
【0072】
幾つかの態様によれば、車輪スリップ限界は、容認できる車輪スリップ値の範囲と、要求車輪スリップ制御精度を示す許容値と、を含む。許容値は、例えば、運動サポートデバイス610に要件を設定するものであり、運動サポートデバイスが許容要件を満たす、十分な精度の動作を提供することを要求する。
【0073】
幾つかの態様によれば、車両動力学モデルは、上述したような横操舵能力を含む。これは、上位層の制御ユニットは、車両において所与のレベルの横操舵が期待できることが保証されるということを意味する。
【0074】
幾つかの他の態様によれば、車両動力学モデルは、上述した式F=-C(1-s)tanαなどの、車両に作用する横タイヤ力Fをモデル化する。
【0075】
他の幾つかの態様によれば、車両動力学モデルは、車両に関連するコーナリング剛性値を含む。小さいスリップだけを仮定すると、コーナリング剛性がF対α線図、または対tanα線図における勾配として定義されるかどうかは、問題にならない。それ故に、文献上のコーナリング剛性の表記は、CαおよびC間で変化する。
【0076】
図6に関連して説明したように、本方法は、また、検証した車両動力学モデルに対応する1つまた複数のモデル能力を交通状況管理ユニットに伝達するステップS6を含んでもよい。
【0077】
いくつかの態様によれば、車両動力学モデルは、車両動力学の明確なモデルである。これまでに言及したように、開示された本方法は、車両動力学の明確なモデルを使用することによって、例えば、緊急操作中の車両の挙動を分析することが可能となる。これは、データによって黙示的に与えられるモデルと比較した利点であるが、その理由は、明確なモデルが、(i)人によってより容易に分析でき、(ii)制御理論から十分に確立された正式な方法を使用して緊急操作中の挙動を分析するのを可能にするからである。
【0078】
いくつかの態様によれば、車両動力学モデルは、タイヤおよび/またはトルクデバイスの摩耗影響を考慮するように構成される。
【0079】
いくつかの態様によれば、本方法は、または、車輪スリップ限界に従うかを決定して車両トルクデバイスを認証するステップS1を含む。
【0080】
図9は、幾つかの機能ユニットに関して、本明細書において検討した実施形態に係る制御ユニット12の構成要素を概略的に例証する。この制御ユニット12は、車両1、1’に設けることができる。処理回路910は、適切な中央処理ユニットCPU、マルチプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタルシグナルプロセッサDSP等のうちの1つまたは複数の任意の組合せを使用して設けられており、例えば、記憶媒体930の形式のコンピュータプログラム製品に記憶されたソフトウエア命令を実行できる。処理回路910は、少なくとも1つの特定用途向け集積回路ASICまたはフィールドプログラマブルゲートアレイFPGAとしてさらに設けてもよい。
【0081】
特に、処理回路910は、制御ユニット12に、図8に関連してけんとうし多方法など、1セットの動作またはステップを実行させるように構成される。例えば、記憶媒体930は、動作のセットを記憶でき、処理回路910は、記憶媒体930から動作のセットを取り出し、制御ユニット12に動作のセットを実行させるように構成できる。動作のセットは、1セットの実行可能な命令として設けてもよい。したがって、処理回路910は、それによって、本明細書に開示された方法を実行するように構成される。
【0082】
記憶媒体930は、例えば、磁気メモリ、光メモリ、固体メモリ、さらに遠隔実装メモリの任意の単独1つまたは組合せにできる持続性ストレージを含むこともできる。
【0083】
制御ユニット12は、少なくとも1つの外部デバイスと通信するためのインターフェース920をさらに含むことができる。そのため、インターフェース920は、アナログおよびデジタル構成要素との有線または無線通信のための適切な数のポートを含む1つまたは複数の送信機および受信機を含むことができる。
【0084】
処理回路910は、例えば、データおよび制御信号をインターフェース920および記憶媒体930に送信すること、インターフェース920からデータおよびレポートを受信すること、ならびに、記憶媒体930からデータおよび命令を取り出すことによって、制御ユニット12の全般的な動作を制御する。制御ノードの他の構成要素および関連する機能は、本明細書に提示される概念を不明瞭にしないように省略される。
【0085】
図10は、コンピュータプログラムを担持するコンピュータ読み取り可能な媒体1010を例証しており、前記プログラム製品がコンピュータ上で実行されるときに、図8に例証された方法を実行するプログラムコード手段1020を含む。コンピュータ読み取り可能な媒体およびコード手段は、コンピュータプログラム製品1000を共同して形成できる。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【国際調査報告】