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特表2022-541881アルテミシニン-誘導体N-ヘテロ環状カルベン金(I)ハイブリッド錯体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-28
(54)【発明の名称】アルテミシニン-誘導体N-ヘテロ環状カルベン金(I)ハイブリッド錯体
(51)【国際特許分類】
   C07F 1/12 20060101AFI20220920BHJP
   C07D 493/20 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 11/02 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 11/04 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 13/10 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220920BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220920BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220920BHJP
   A61K 50/00 20060101ALI20220920BHJP
   A61K 31/555 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
C07F1/12 CSP
C07D493/20
A61P1/02
A61P1/04
A61P1/16
A61P1/18
A61P11/00
A61P11/02
A61P11/04
A61P13/02
A61P13/08
A61P13/10
A61P13/12
A61P15/00
A61P17/00
A61P19/08
A61P25/00
A61P27/16
A61P35/00
A61P35/02
A61P35/04
A61K45/00
A61K50/00 100
A61K31/555
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021577084
(86)(22)【出願日】2019-06-27
(85)【翻訳文提出日】2022-02-17
(86)【国際出願番号】 IB2019000823
(87)【国際公開番号】W WO2020260919
(87)【国際公開日】2020-12-30
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】506018536
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ 3
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カトリーヌ・エマール
(72)【発明者】
【氏名】ハインツ・ゴルニツカ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・キュヴィリエ
(72)【発明者】
【氏名】マリー-リーズ・マデラン
【テーマコード(参考)】
4C071
4C084
4C086
4H048
【Fターム(参考)】
4C071AA04
4C071AA07
4C071BB02
4C071BB05
4C071CC14
4C071DD40
4C071EE06
4C071FF17
4C071GG01
4C071HH05
4C071JJ05
4C071KK11
4C071LL01
4C084AA12
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZB072
4C084ZB262
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086CA01
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA01
4C086ZA34
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA67
4C086ZA75
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZA96
4C086ZB26
4C086ZB27
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB28
4H048VA22
4H048VA32
4H048VB10
(57)【要約】
本発明は、アルテミシニン-誘導体N-ヘテロ環状カルベン金(I)ハイブリッド錯体である式(I)の化合物、及びその治療的使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物及びその異性体:
【化1】
(式中、各Rは、独立してC1~C6アルキル、キノリン、ベンジル又はメシチルであり、
X-は、アニオンであり、
nは、3、4又は5に等しい整数である)
から選択される、化合物。
【請求項2】
式(I')の化合物:
【化2】
(式中、各Rは、独立してC1~C6アルキル、キノリン、ベンジル又はメシチルであり、
X-は、アニオンであり、
nは、3、4又は5に等しい整数である)
から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
C1~C6アルキルが、1~6個の炭素原子を含む直鎖状炭化水素基、又は3~6個の炭素原子を含む分枝炭化水素基であり、好ましくはメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル及びn-ヘキシル基から選択され、より好ましくはメチル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、イソプロピル又はtert-ブチルから選択され、より好ましくは、C1~C6アルキルがメチル又はイソプロピルである、請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
R基が、同一であるか又は異なり、メチル、キノリン、ベンジル及びメシチル基から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
両方のR基が同一であり、好ましくは両方のRがメチルである、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
X-がハロゲン、硝酸イオン及びヘキサフルオロリン酸イオンから、好ましくは塩化物イオン(Cl-)及び硝酸イオン(NO3 -)から選択されるアニオンである、請求項1から5のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
下記の化合物:
【化3】
から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項8】
薬学的に許容される媒体に、請求項1から7のいずれか一項に記載の少なくとも1種の式(I)の化合物を含む組成物。
【請求項9】
医薬としての使用のための、請求項1から7のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項10】
対象において、がんを予防及び/若しくは治療するため、並びに/又はがんの転移を予防するため、並びに/又はがんの再発を予防するため、並びに/又は化学療法に対する耐性を低下させるための使用のための請求項1から7のいずれか一項に記載の化合物であって、好ましくは、がんが固形及び非固形がんから、好ましくは結腸がん、結腸直腸がん、メラノーマ、骨がん、乳がん、甲状腺がん、前立腺がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、神経膠腫、子宮頸がん、子宮内膜がん、頭頸部がん、肝臓がん、膀胱がん、腎がん、皮膚がん、胃がん、精巣がん、尿路上皮がん又は副腎皮質がん、白血病及びリンパ腫から選択される、化合物。
【請求項11】
式(IV)の化合物:
【化4】
(式中:
各Rは、独立してC1~C6アルキル、キノリン、ベンジル又はメシチルであり、
X-は、アニオンであり、
nは、3、4又は5に等しい整数である)。
【請求項12】
a)請求項1から7のいずれか一項に記載の化合物、及び
b)少なくとも1種の追加療法
を含む、対象において、がんを治療するため、及び/又はがんの転移を予防するため、及び/又はがんの再発を予防するため、及び/又は追加療法b)に対する耐性を低下させるための同時、個別又は逐次使用のための組合せ品としての製品。
【請求項13】
前記追加療法b)が、免疫療法、化学療法及び/又は放射線療法である、請求項12に記載の製品。
【請求項14】
対象が、がんに罹患し、化学療法に対して耐性があるヒトである、請求項12又は13に記載の製品。
【請求項15】
炎症を予防及び/又は治療するための使用のための、請求項1から7のいずれか一項に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な特定のアルテミシニン-誘導体N-ヘテロ環状カルベン金(I)ハイブリッド錯体、及び療法におけるその使用に関する。
【0002】
化学療法及び放射線療法に対する耐性は、がんの治療を成功させる上で依然として大きな障害となっている。死滅しないがん細胞の一部が変異して耐性を持つようになる可能性がある、遺伝子増幅が原因で、治療を無効にするタンパク質の過剰発現が起こる場合がある、がん細胞が治療を不活化する機序を持つようになる場合がある等、多くの理由によってがんの治療中に耐性が生じることがある。
【0003】
核因子赤芽球2関連因子2(Nrf2又はNFE2L2)は、正常細胞における酸化ストレス及びアポトーシスに対して細胞保護作用を与える、求電子性の生体異物解毒酵素及び排出タンパク質の発現を調節する酸化還元感受性転写因子である。
【0004】
がん細胞は、薬物解毒酵素及び排出ポンプのより多くの発現を示す。この特性は、細胞から有毒薬物、例えば化学療法薬を排除するがん細胞の能力により、がん治療耐性をもたらす可能性がある。更に、がんにおけるNrf2の増加は、薬物解毒酵素及び排出ポンプの発現の増加を引き起こす可能性がある。Nrf2は、化学療法及び放射線療法に耐性のある腫瘍で過剰発現される。
したがって、Nrf2は、がんの治療及び従来の治療に対する感受性の回復における最適な標的である。
【0005】
現在市場に出ている、又は実験段階にある様々な抗がん剤の中には、既に公知なもの、及び/又は様々な治療目的に使用されているものがあり、リポジショニングが行われている。
【0006】
現在、アルテミシニン(ART)とその誘導体は、マラリアと闘うための最も重要なクラスの薬剤の代表である。2010年から2017年の期間において、マラリアによる世界の死亡者数は、主にARTベースの併用療法(ACT)の使用により28%減少した。
しかし、ART誘導体に対する関心はマラリアだけにとどまらず、それは、この種の分子は、ウイルス性疾患及びがんに対して興味深い活性を示すことが明らかとなっているためである。
がんの場合、作用機序の1つは、遊離ヘムからの鉄や、フェロプトーシスを介したART誘導体の活性化による、活性酸素種(ROS)の形成に基づくものである。この活性化は、主にミトコンドリアで起こり、そこでは新鮮なヘムが継続して生成される。ミトコンドリアを標的とするART誘導体は、ミトコンドリアを標的としないものよりも強い抗がん活性を示すことが証明されている。
それでもなお、がんにおけるARTの有効性は、依然として最適ではない。
【0007】
更に、カチオン性N-ヘテロ環状カルベン(NHC)金(I)錯体は、良好な抗がん活性を示し、検討された主な作用機序は、そのような錯体の抗ミトコンドリア活性に起因するアポトーシスに関するものである。記載されている様々な金錯体の中で、オーラノフィンは、前記ファミリーのプロトタイプである。オーラノフィンは、リウマチ性関節炎の治療用として承認されているが、腫瘍学、及び他の病理学におけるそのリポジショニングは、現在調査中である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】F. Rangwala、K. P.Williams、G. R. Smith、Z. Thomas、J. L. Allensworth、H. K. Lyerly、A. M. Diehl、M. A. Morse、G. R. Devi、BMC Cancer 2012、12、402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、腫瘍性組織に対して特異的でありながら効率的である、新規で効率的な抗がん剤の開発が必要とされている。とりわけ、従来の治療に対する感受性を回復させるため、及び/又は化学療法又は放射線療法に対するがん細胞の耐性を低下させるために有用な、新規で効率的な抗がん剤が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、これらのニーズを解決することを目的とする、新しいアルテミシニン-金錯体を提案する。
実際、実施例に示すように、本発明者らは、ジヒドロアルテミシニンのエーテル誘導体を組み込んだカチオン性ビスNHC金(I)錯体が、がん組織に対して細胞毒性があり、選択的であることを発見した。これらの錯体は、カチオン性NHC金(I)錯体と、リンカーを介して錯体に縮合しているジヒドロアルテミシニンのエーテル誘導体との両方を含むため、ハイブリッド(「ハイブリッド錯体」)である。
前記ハイブリッド錯体は、nMのオーダーのIC50で抗腫瘍活性を示し、腫瘍細胞に対して特異的であり、アルテミシニン単独及びオーラノフィン単独よりも高い抗腫瘍活性を示す。
【0011】
更に、いかなる理論にも縛られるものではないが、前記ハイブリッド錯体の作用機序は、ROSの解毒及び排除に関与する重要な転写因子であるNrf2の転写活性を阻害するという独自なものに思われる。
実施例に示すように、驚くべきことに、このハイブリッド錯体は、いずれの用量でもNrf2の活性を阻害するが、アルテミシニン、オーラノフィン又はカチオン性ビスNHC金(I)錯体単独(即ち、錯体3で例示されるようにアルテミシニンを含まない)では、いずれもNrf2を活性化する。
【0012】
本願に使用した図は下記の通りであり、例示のみを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】異なる処理時間後のPC-3、A549、MCF-7及びHepG2細胞上でのジヒドロアルテミシニン(DHA)並びに金錯体(オーラノフィン及び錯体2a)によるROSの誘導。*p<0.05、**p<0.005、***p<0.001、0時間でのROS発生との比較。
図2】錯体2aの細胞毒性に対するN-アセチル-L-システイン(NAC)及び還元グルタチオン(GSH)の影響。HepG2細胞は、異なる濃度のNAC及びGSHの非存在下又は存在下、錯体2a(1mM)で24時間処理した。細胞生存率は、MTTアッセイにより測定した。データは、3回の独立した実験の平均±SEMとして示す。*p<0.05、**p<0.005、***p<0.001、錯体2a単独の細胞生存率との比較。
図3】単離した哺乳類TrxRに対する錯体2aのIC50値。
図4】NRF2転写活性。 HepG2細胞に安定して組み込まれたAREの制御下にあるホタルルシフェラーゼ遺伝子を含有するAREレポーター-HepG2細胞株を使用して、示した用量の様々な錯体で16時間処理した後のNRF2転写活性を定量化した。結果を、AREルシフェラーゼレポーター発現の誘導倍率として示す。破線は、誘導倍率1を示す(値>1は活性化を意味し、値<1は阻害を意味する)。 細胞株を、製造業者の指示に従い、tert-ブチルヒドロキノン(tBHQ)の刺激に対する応答について検証した(A)。 AREレポーター-HepG2細胞の用量応答は、オーラノフィン(B)、DHA(C)、化合物3(D)及び化合物2a(E)に対するものが示されており、「log(阻害剤)対応答」は、明るい灰色の実線(E)で表されている。
図5】NF-κB転写活性。 NF-κBレポーター(Luc)-A549安定細胞株を使用して、1ng/mlのTNFαにより活性化させた(7時間の処理)NF-κBの転写活性に対する本発明の分子の示した用量の阻害効果を定量化した。 発光は照度計を使用して読み取り、示度は、媒体のみを含有するウェルに対して正規化して相対発光単位(RLU)を得た。 エラーバー=標準偏差(SD)。 オーラノフィン(A)、DHA(B)、化合物3(C)及び化合物2a(D)に対するTNFαにより活性化させたNF-κBレポーター-A549細胞の用量応答であり、「log(阻害剤)対応答」は、明るい灰色の実線(A~D)で表わされている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
結果として、本発明はまず、式(I)の化合物及びその異性体:
【0015】
【化1】
【0016】
(式中:
各Rは、独立してC1~C6アルキル、キノリン、ベンジル又はメシチルであり、
X-は、アニオンであり、
nは、3、4又は5に等しい整数である)
から選択される化合物に関する。
【0017】
異性体とは、アルファ及びベータ異性体を意味する。アルファ及びベータ異性体とは、式(I)の化合物が、それぞれアルファ又はベータ構造のジヒドロアルテミシニンを有することを意味する。
【0018】
好ましくは、式(I)の化合物はベータ異性体であり、それは式(I')の化合物である。したがって、好ましくは、本発明は、式(I')の化合物:
【0019】
【化2】
【0020】
(式中:
各Rは、独立してC1~C6アルキル、キノリン、ベンジル又はメシチルであり、
X-は、アニオンであり、
nは、3、4又は5に等しい整数である)
から選択される化合物に関する。
【0021】
本発明による式(I)の化合物は、ジヒドロアルテミシニン(DHA)のエーテル誘導体とのカチオン性ビスNHC金(I)錯体に対応する。DHAは、ARTの半合成誘導体であり、全ART化合物の代謝産物である。
ART及びDHAはそれぞれ、以下の式(II)及び(III)の化合物:
【0022】
【化3】
【0023】
に対応する。
【0024】
本発明による式(I)の化合物は、2つのR基を含み、それらは同一であっても異なってもよく、メチル、イソプロピル、キノリン、ベンジル及びメシチル基から選択される。
【0025】
「C1~C6アルキル」とは、1~6個の炭素原子を含む直鎖状炭化水素基、又は3~6個の炭素原子を含む分枝炭化水素基を意味する。C1~C6アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル及びn-ヘキシル基が挙げられ、好ましくはメチル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、イソプロピル又はtert-ブチルである。より好ましくは、C1~C6アルキルは、メチル又はイソプロピルである。
【0026】
キノリン基とは、基:
【0027】
【化4】
【0028】
を意味する。
【0029】
ベンジル基とは、-CH2-フェニル基を意味し、フェニルは置換されていない。
【0030】
最後に、メシチル基とは、以下の式(a)の基:
【0031】
【化5】
【0032】
を意味する。
【0033】
好ましくは、両方のR基は同一である。
好ましくは、両方のRはメチルである。或いは、好ましくは、両方のRはイソプロピルである。
【0034】
好ましくは、X-は、ハロゲン、硝酸イオン及びヘキサフルオロリン酸イオンから、好ましくは塩化物イオン(Cl-)及び硝酸イオン(NO3 -)から選択されるアニオンである。
【0035】
好ましくは、本発明の式(I)の化合物は、下記の化合物:
【0036】
【化6】
【0037】
から選択される。
【0038】
化合物2aは、両方のRがメチルであり、X-がNO3 -であり、n=3である、式(I)の化合物である。
化合物2bは、両方のRがメチルであり、X-がCl-であり、n=4である、式(I)の化合物である。
化合物2cは、両方のRがメチルであり、X-がCl-であり、n=5である、式(I)の化合物である。
【0039】
実施例に示すように、本発明の式(I)の化合物は、がん組織に対して細胞毒性があり、選択的である。実際、Table 1(表1)~Table 3(表3)に示すように、前記化合物は、非がん性細胞株(前立腺の上皮細胞、線維芽細胞及び骨芽細胞)と比較して、様々ながん(即ち、前立腺、乳房、肝臓、骨、膀胱、肺及び白血病)のがん性細胞株に対して非常に特異的である。
更に、Table 3(表3)に示すように、本発明の式(I)の化合物は、驚くべきことに、アルテミシニン単独のもの、ビスNHC-金(I)錯体3単独のもの(アルテミシニン又はDHAを含まない)、オーラノフィン単独のもの、及びビスNHC-金(I)錯体3単独とDHA単独との混合物(それぞれのモル比1:2)のものよりも有意に高い抗腫瘍活性を示す。
【0040】
興味深いことに、本発明の化合物はまた、興味深い抗炎症特性を示す。実際、化合物は、自然及び獲得免疫機能を調節する炎症応答の中心的経路である、NF-κB経路の阻害効果を示す。
具体的には、用量依存的にTNFアルファによって誘導されるNF-κB転写因子の阻害効果を示す。例えば、化合物2aは、615nM前後のIC50を示し、これは、2.96μMであるオーラノフィンのIC50、及び8.91μMであるジヒドロアルテミシニンのIC50よりも遙かに低い。
【0041】
本発明の化合物の調製
本発明の化合物は、実施例のスキーム1に例示する下記のプロセスによって調製できる:
- 単一β-異性体DHA-C3~DHA-C5に対応するエーテルを得るために、DHAをブロモアルコールと、好ましくは触媒の存在下で反応させる第1の工程;
- 対応するカルベン前駆体(即ち、例えばプロリガンド1a~1c)を得るために、第1の工程で得られる化合物をメチルイミダゾールと反応させる第2の工程;及び
- 式(I)の化合物を得る第3の工程:
・ n=3である式(I)の化合物の場合、Ag2Oを使用した金属交換反応経路と、それに続くAgNO3とのイオン交換、及びその後のAu(SMe2)Clの添加が適用される;
・ n=4又は5である式(I)の化合物の場合、K2CO3とAu(SMe2)Clを使用した直接メタル化が適用される。
【0042】
詳細には、DHAとNHC前駆体を、長さの異なるC3~C5(式(I)におけるnの定義による)の脂肪族リンカーを使用することにより縮合させる。
合成は、C3-誘導体についてHaynesが記載する手順(参考文献1参照)に従い、DHA(市販されている)をブロモアルコールと、好ましくは触媒、例えば三フッ化ホウ素エーテラート触媒の存在下で反応させることによるエーテルの形成で開始され、単一β-異性体DHA-C3~DHA-C5が得られる。
次の工程は、対応するカルベン前駆体、例えばプロリガンド1a~1cを得るために、ブロモアルキルDHA誘導体とメチルイミダゾールとを反応させることである。
目的の金錯体の形成は、2つのアプローチによって達成される:
- n=3である式(I)の化合物の場合、穏やかな塩基Ag2Oを伴う金属交換反応経路と、それに続くAgNO3とのイオン交換、及びその後のAu(SMe2)Clの添加が用いられる;
- n=4又は5である式(I)の化合物の場合、K2CO3とAu(SMe2)Clを伴う直接メタル化が適用される。
【0043】
本発明の化合物のプロリガンド
本発明はまた、以下の式(IV)で定義されるような、式(I)の化合物のプロリガンドに関する。
したがって、本発明は、式(IV)の化合物及びその異性体:
【0044】
【化7】
【0045】
(式中:
各Rは、独立してC1~C6アルキル、キノリン、ベンジル又はメシチルであり、
X-は、アニオンであり、
nは、3、4又は5に等しい整数である)
から選択される化合物に関する。
【0046】
異性体とは、アルファ及びベータ異性体を意味する。アルファ及びベータ異性体とは、式(IV)の化合物が、それぞれアルファ又はベータ構造のジヒドロアルテミシニンを有することを意味する。好ましくは、式(IV)の化合物はベータ異性体であり、それは、式(IV')の化合物である。
したがって、好ましくは、本発明は、式(IV')の化合物:
【0047】
【化8】
【0048】
に関する。
【0049】
式(I)の化合物に関する上記の定義は全て、式(IV)及び(IV')の化合物にも適用可能である。
【0050】
好ましくは、両方のR基は同一であり、好ましくはメチル又はイソプロピルである。
好ましくは、X-は、ハロゲン、硝酸イオン及びヘキサフルオロリン酸イオンから選択されるアニオン、好ましくは臭化物イオン(Br-)である。
【0051】
好ましくは、式(IV)又は(IV')の化合物は、3'-メチル-1'-[10β-(20-プロポキシ)ジヒドロアルテミシニン]1H-イミダゾール-3-イウムハライド、3'-メチル-1'-[10β-(21-ブトキシ)ジヒドロアルテミシニン]1H-イミダゾール-3-イウムハライド、及び3'-メチル-1'-[10β-(22-ペンタオキシ)ジヒドロアルテミシニン]1H-イミダゾール-3-イウムハライドから選択される。好ましくは、式(IV)又は(IV')の化合物は、3'-メチル-1'-[10β-(20-プロポキシ)ジヒドロアルテミシニン]1H-イミダゾール-3-イウムブロミド、3'-メチル-1'-[10β-(21-ブトキシ)ジヒドロアルテミシニン]1H-イミダゾール-3-イウムブロミド、及び3'-メチル-1'-[10β-(22-ペンタオキシ)ジヒドロアルテミシニン]1H-イミダゾール-3-イウムブロミドから選択される。これらの化合物は、実施例ではそれぞれプロリガンド1a、1b及び1cとして記載されている。
【0052】
組成物及び使用
本発明はまた、薬学的に許容される媒体に、本発明による少なくとも1種の式(I)の化合物を含む組成物に関する。
【0053】
本発明はまた、本発明による式(I)の化合物の医薬としての使用に関する。
【0054】
本発明はまた、本発明による式(I)の化合物のがんを予防及び/又は治療するための使用に関する。
本発明はまた、本発明による式(I)の化合物の炎症を予防及び/又は治療するための使用に関する。
【0055】
抗がん使用
本発明の式(I)の化合物は、がんを予防及び/又は治療するために使用され得る。
「予防」とは、がんの発生を回避することを意味する。
「治療」とは、がんの治療処置を意味する。治療処置は、がんを完全に治療する(治癒させる)、又は部分的に治療する(即ち、腫瘍増殖の安定化、遅延又は退縮を誘発する)処置であると定義される。
「対象」は、任意の対象を指し、典型的には患者、好ましくはがんの治療、例えば免疫療法、化学療法及び/又は放射線療法を受けている対象を指す。いずれの場合も、対象は、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物、更により好ましくはヒトである。
【0056】
「がん」とは、あらゆる種類のがんを意味する。がんは、固形でも非固形でもよく、例えば、結腸がん、結腸直腸がん、メラノーマ、骨がん、乳がん、甲状腺がん、前立腺がん、卵巣がん、肺がん、膵臓がん、神経膠腫、子宮頸がん、子宮内膜がん、頭頸部がん、肝臓がん、膀胱がん、腎がん、皮膚がん、胃がん、精巣がん、尿路上皮がん又は副腎皮質がん、白血病、及び非固形がん、例えばリンパ腫から選択できる。
好ましくは、がんは、乳がん、前立腺がん、肺がん、肝臓がん、骨がん、膀胱がん又は白血病である。
がんは、転移性がんである場合と、そうでない場合がある。典型的ながんは、初回化学療法に耐性のあるがんである。
【0057】
本発明はまた、少なくとも1種の式(I)の化合物の、化学療法薬に対するがんの感受性を高めるための使用に関する。
【0058】
本発明の更なる目的は、少なくとも1種の式(I)の化合物の、化学療法薬に関するがんの耐性を低下させるための使用である。
【0059】
本発明はまた、
a)本発明の少なくとも1種の式(I)の化合物、及び
b)少なくとも1種の追加療法
を含む、対象において、がんを治療するため、及び/又はがんの転移を予防するため、及び/又はがんの再発を予防するため、及び/又は追加療法b)に対する耐性を低下させるための同時、個別又は逐次使用のための組合せ品としての製品に関する。
また、本発明の少なくとも1種の式(I)の化合物の、少なくとも1種の追加療法と組み合わせた、又は関連させたがんを予防及び/又は治療するための使用に関する。
更に、本発明の少なくとも1種の式(I)の化合物の、少なくとも1種の追加療法による治療を受けている対象におけるがんを予防及び/又は治療するための使用に関する。本発明はまた、アジュバントがん療法として使用するための、本発明の少なくとも1種の式(I)の化合物に関する。アジュバント療法は、がんを治療するための療法であって、一次又は初期療法(「初回療法」)に加えて、その有効性を最大化するために行われる。
【0060】
前記追加療法b)は、免疫療法、化学療法及び/又は放射線療法であってもよい。好ましくは、追加療法b)は、免疫療法及び/又は化学療法である。
「免疫療法」とは、免疫応答を誘発、増強又は抑制できる療法を意味する。前記免疫療法は、好ましくはサイトカイン、ケモカイン、成長因子、成長抑制因子、ホルモン、可溶性受容体、デコイ受容体;モノクローナル若しくはポリクローナル抗体、単一特異性、二重特異性若しくは多重特異性抗体、モノボディ、ポリボディ;ワクチン接種;又は養子特異的免疫療法から選択される。
好ましくは、免疫療法は、モノクローナル若しくはポリクローナル抗体、単一特異性、二重特異性若しくは多重特異性抗体、モノボディ、ポリボディ、例えばベバクジマブ(mAb、VEGF-Aを阻害、Genentech社);IMC-1121B(mAb、VEGFR-2を阻害、ImClone Systems社);CDP-791(ペグ化DiFab、VEGFR-2、Celltech社);2C3(mAb、VEGF-A、Peregrine Pharmaceuticals社);VEGFトラップ(可溶性ハイブリッド受容体VEGF-A、PIGF(胎盤成長因子)Aventis/Regeneron社)のような血管新生阻害剤から選択される。
好ましくは、免疫療法は、モノクローナル抗体であり、好ましくは抗チェックポイント抗体である。
抗チェックポイント抗体は、免疫チェックポイントに対する抗体を含み、それは、PD1、PDL1、PDL2、CTLA4、BTLA、CD27、CD40、OX40、GITR(「腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーメンバー18」又はTNFRSF18とも呼ばれる)、CD137(4-1BB又はTNFRS9とも呼ばれる)、CD28、ICOS、IDO(インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ)、B7H3(CD276とも呼ばれる)、KIR2DL2(キラー細胞免疫グロブリン様受容体2DL2とも呼ばれる)、NKG2(C型レクチン受容体のファミリー)、LAG3(リンパ球活性化遺伝子-3とも呼ばれる)、及びCD70から選択できる。好ましくは、抗チェックポイント抗体は、抗PD1、抗PDL1、抗PDL2又は抗CTLA4抗体である。抗PD1抗体には、ニボルマブ及びペムブロリズマブが含まれる。抗CTLA4抗体には、イピリムマブ及びトレメリムマブが含まれる。
【0061】
「化学療法」又は「化学療法剤」は、がんの治療に使用され、ヒトにおける新生物、特に悪性(がん性)病変の発生又は進行を阻害する機能特性を有する化合物を指す。
化学療法剤は、例えばDNA又はRNAのいずれかに影響を与え、細胞周期複製を妨害するといった、様々な作用モードを有する。
DNAレベル又はRNAレベルで作用する化学療法剤の例は、次の通りである:
- 代謝拮抗剤、例えばアザチオプリン、シタラビン、フルダラビンリン酸エステル、フルダラビン、ゲムシタビン、シタラビン、クラドリビン、カペシタビン、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、メトトレキサート、5-フルオロウラシル及びヒドロキシ尿素;
- アルキル化剤、例えばメルファラン、ブスルファン、シスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、イホスファミド、ダカルバジン、フォテムスチン、プロカルバジン、クロラムブシル、チオテパ、ロムスチン、テモゾロマイド;
- 抗有糸分裂剤、例えばビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ドセタキセル、パクリタキセル;
- トポイソメラーゼ阻害剤、例えばドキソルビシン、アムサクリン、イリノテカン、ダウノルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、ミトキサントロン、イダルビシン、テニポシド、エトポシド、トポテカン;
- 抗生物質、例えばアクチノマイシン及びブレオマイシン;
- アスパラギナーゼ;
- アントラサイクリン又はタキサン。
他の化学療法剤は、チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)である。多数のTKIが、様々なタイプのがんの治療のための開発の後期及び初期段階にある。例示的TKIとしては、BAY43-9006(ソラフェニブ、ネクサバール(登録商標))及びSU11248(スニチニブ、スーテント(登録商標))、イマチニブメシル酸塩(グリベック(登録商標)、Novartis社);ゲフィチニブ(イレッサ(登録商標)、AstraZeneca社);エルロチニブ塩酸塩(タルセバ(登録商標)、Genentech社);バンデタニブ(ザクティマ(登録商標)、AstraZeneca社)、チピファルニブ(ザルネストラ(登録商標)、Janssen-Cilag社);ダサチニブ(スプリセル(登録商標)、Bristol Myers Squibb社);ロナファルニブ(サラサール(登録商標)、Schering Plough社);バタラニブコハク酸塩(Novartis社、Schering AG社);ラパチニブ(チケルブ(登録商標)、GlaxoSmithKline社);ニロチニブ(Novartis社);レスタウルチニブ(Cephalon社);パゾパニブ塩酸塩(GlaxoSmithKline社);アキシチニブ(Pfizer社);カネルチニブ二塩酸塩(Pfizer社);ペリチニブ(米国国立がん研究所、Wyeth社);タンデュチニブ(Millennium社);ボスチニブ(Wyeth社);セマキサニブ(Sugen社、大鵬薬品);AZD-2171(AstraZeneca社);VX-680(Merck社、Vertex社);EXEL-0999(Exelixis社);ARRY-142886(Array BioPharma社、AstraZeneca社);PD-0325901(Pfizer社);AMG-706(Amgen社);BIBF-1120(Boehringer Ingelheim社);SU-6668(大鵬薬品);CP-547632(OSI社);(AEE-788(Novartis社);BMS-582664(Bristol-Myers Squibb社);JNK-401(Celgene社);R-788(Rigel社);AZD-1152HQPA(AstraZeneca社);NM-3(Genzyme Oncology社);CP-868596(Pfizer社);BMS-599626(Bristol-Myers Squibb社);PTC-299(PTC Therapeutics社);ABT-869(Abbott社);EXEL-2880(Exelixis社);AG-024322(Pfizer社);XL-820(Exelixis社);OSI-930(OSI社);XL-184(Exelixis社);KRN-951(キリンビール);CP-724714(OSI社);E-7080(Eisai社);HKI-272(Wyeth社);CHIR-258(Chiron社);ZK-304709(Schering AG社);EXEL-7647(Exelixis社);BAY-57-9352(Bayer社);BIBW-2992(Boehringer Ingelheim社);AV-412(AVEO社);YN-968D1(Advenchen Laboratories社);スタウロスポリン、ミドスタウリン(PKC412、Novartis社);ペリフォシン(AEterna Zentaris社、Keryx社、米国国立がん研究所);AG-024322(Pfizer社);AZD-1152(AstraZeneca社);ON-01910Na(Onconova社);並びにAZD-0530(AstraZeneca社)が挙げられるが、これに限定されない。
【0062】
本明細書においては、(i)がんを予防又は治療する方法、(ii)化学療法剤に対するがんの感受性を高める方法、及び(iii)化学療法薬に関するがんの耐性を低下させる方法も記載され、前記方法のそれぞれは、先に定義したような少なくとも1種の式(I)の化合物の有効量を、好ましくは化学療法薬と共に必要とする対象に投与することを含む。
【0063】
抗炎症使用
本発明の式(I)の化合物は、炎症を予防及び/又は治療するために使用され得る。
「予防」とは、炎症の発生を回避することを意味する。
「治療」とは、炎症の治療処置を意味する。治療処置は、炎症を完全に治療する(治癒させる)、又は部分的に治療する処置であると定義される。
「対象」は、任意の対象を指し、典型的には炎症を患っている患者、又は炎症性疾患の治療を受けている対象、又は炎症性疾患を発症するリスクがある、若しくはリスクが疑われる対象を指す。いずれの場合も、対象は、好ましくは脊椎動物、より好ましくは哺乳動物、更により好ましくはヒトである。
【0064】
炎症性疾患は、好ましくは慢性炎症性疾患であり、関節リウマチ、クローン病、炎症性腸疾患(IBD)、変形性関節症、骨粗しょう症、皮膚炎、乾癬、ぜんそく、呼吸窮迫症候群及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)から選択できる。
【0065】
本明細書においては、先に定義したような少なくとも1種の式(I)の化合物の有効量を必要とする対象に投与することを含む、炎症性疾患を予防及び/又は治療するための方法も記載される。
【0066】
本発明の式(I)の化合物は、好ましくは治療的に有効な量又は用量で投与される。本明細書において使用する場合、「治療的に有効な量又は用量」は、疾患を予防する、除去する、遅らせる、又は対象、好ましくはヒトにおける前記疾患に起因若しくは関連する1つ若しくはいくつかの症状若しくは障害を軽減若しくは遅延させる本発明の化合物の量を指す。本発明の化合物及びその医薬組成物の有効な量、より一般的には投薬計画は、当業者が決定し、適用することができる。有効な用量は、従来の技法を使用し、類似の状況下で得られた結果を観察することにより決定できる。本発明の化合物の治療的に有効な用量は、治療又は予防すべき疾患、その重症度、投与経路、関与する何らかの連携療法、患者の年齢、体重、全身病状、病歴等に応じて変化する。
典型的には、患者に投与すべき化合物の量は、ヒト患者の場合、体重1kg当たり約0.01~500mgの範囲である。特定の実施形態において、本発明による医薬組成物は、0.01mg/kg~300mg/kg、好ましくは0.01mg/kg~3mg/kg、例えば25~300mg/kgの本発明の化合物を含む。
特定の態様において、本発明の化合物は、非経口経路、局所経路、経口経路又は静脈内注射により対象に投与できる。本発明の化合物又はナノ粒子は、数日連続して、例えば2~10日連続して、好ましくは3~6日連続して、毎日(例えば1日1、2、3、4、5、6又は7回)対象に投与してもよい。前記治療は、1、2、3、4、5、6又は7週間、又は2若しくは3週毎に、又は1、2若しくは3カ月毎に繰り返してもよい。或いは、任意選択で2回の治療サイクルの間に例えば1、2、3、4又は5週間の休止期間を設けて数回の治療サイクルを遂行することができる。本発明の化合物は、例えば、週に1回、2週に1回、又は月に1回、単回用量として投与することができる。治療は、年に1回、又は数回繰り返してもよい。
用量は、当業者が決定できる適切な間隔で投与される。選択される量は、投与経路、投与期間、投与時期、化合物又は前記化合物と組み合わせて使用される様々な製品の排出速度、患者の年齢、体重及び健康状態とその病歴、並びに医学において公知の何らかの他の情報を含む複数の要因に依存する。
【0067】
投与経路は、経口、局所又は非経口、典型的には直腸、舌下、経鼻、腹腔内(IP)、静脈内(IV)、動脈内(IA)、筋内(IM)、小脳内、髄腔内、腫瘍内及び/又は皮内とすることができる。医薬組成物は、上記の経路のうちの1つ又はいくつかに適合する。医薬組成物は、好ましくは好適な滅菌溶液の注射若しくは静脈内点滴によって、又は消化管を介して液体若しくは固形投与物の形態で投与される。
【0068】
本発明はまた、薬学的に許容される媒体に、本発明による少なくとも1種の式(I)の化合物を含む組成物に関する。そのような組成物は、薬学的に許容される媒体(又は担体)を含む。
担体は、配合物の他の原材料と適合性があり、レシピエントに有害ではないという意味で「許容できる」ものでなければならない。
医薬組成物は、薬学的に適合性のある溶媒中の液剤として、又は好適な医薬用溶媒又はビヒクル中のゲル剤、油剤、乳剤、懸濁剤、若しくは分散体として、又は固形ビヒクルを含有する丸剤、錠剤、カプセル剤、散剤、坐剤等として、当技術分野で公知の方法で、場合により持続放出及び/又は遅延放出を実現する剤形又はデバイスを介して処方できる。このタイプの配合物の場合、薬剤、例えばセルロース、脂質、炭酸塩又はデンプンが有利には使用される。
配合物(液体及び/又は注射可能及び/又は固形)に使用できる薬剤又はビヒクルは、賦形剤又は不活性ビヒクル、即ち、薬学的に不活性で毒性のないビヒクルである。
例えば、医療用途に適合性があり、当業者に公知の生理食塩水、生理溶液、等張液及び/又は緩衝液を挙げることができる。組成物は、分散剤、可溶化剤、安定剤、防腐剤等から選択される1又は複数種の薬剤又はビヒクルを含有してもよい。
特定の例は、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、シクロデキストリン、ポリソルベート80、マンニトール、ゼラチン、ラクトース、リポソーム、植物油又は動物油、アカシア等である。好ましくは、植物油が使用される。
経口投与に好適な本発明の配合物は、それぞれ所定量の有効成分を含有するカプセル剤、サシェ剤、錠剤若しくはトローチ剤としての個別単位の形態;散剤若しくは顆粒剤の形態;水性液体若しくは非水性液体中の液剤若しくは懸濁剤の形態;又は水中油型乳剤若しくは油中水型乳剤の形態であってもよい。
非経口投与に好適な配合物は、好都合には、好ましくはレシピエントの血液と等張である有効成分の滅菌した油性又は水性調製物を含む。そのような配合物はいずれも、他の薬学的に適合性があり毒性のない助剤、例えば安定剤、抗酸化剤、バインダー、染料、乳化剤又は香味物質等を含有することもできる。
【実施例
【0069】
1. 材料
錯体形成反応は全て、標準的な真空ラインとシュレンク管技法を使用することにより、乾燥窒素の不活性雰囲気下で遂行した。銀化合物を伴う反応は、光を排除して遂行した。CH3CNをCaH2上で乾燥させ、続いて蒸留した。修正された文献手順[1]に従い、10β-(20-ブロモプロポキシ)ジヒドロアルテミシニン(DHA-C3)を合成した。他の試薬は全て、供給業者から受け取ったままの状態で使用した。
ヒト前立腺がんPC-3及び肺がんA549細胞株は、DSMZ(ブラウンシュワイク、ドイツ)から取得した。ヒト膀胱がんT24、ヒト骨肉腫U-2OS、ヒト乳がんMCF-7、ヒト肝細胞がんHepG2細胞、ヒト正常前立腺上皮RPWE-1、ヒト慢性骨髄性白血病LAMA、マウス骨芽細胞MC3T3、及びマウス線維芽細胞NIH3T3は、ATCC-LGC Standards(モルスアイム、フランス)からのものとした。細胞培養培地、ウシ胎児血清(FBS)及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS)は全て、Thermo Fisher Scientific社から購入した。N-アセチル-L-システイン(NAC)、還元グルタチオン(GSH)及び3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾールイウムブロミド(MTT)は、Sigma-Aldrich社から入手した。
【0070】
2. 計装
1H(300又は400MHz)及び13C NMRスペクトル(75又は101MHz)及び2D実験は、溶媒としてのCDCl3中、Bruker AV300、Bruker AV400又はBruker Avance 500分光計で298Kで記録した。1H 及び13Cについての化学シフトは全て、二次標準としての溶媒の1H(残存)又は13C化学シフトを使用するTMSに対するものである。1H及び13C信号は全て、化学シフト、スピン-スピン結合定数、分裂パターン及び信号強度に基づき、錯体2a~2cに関する1H-1H COSY45、1H-13C HMBC及び1H-13C HSQC/HMQC実験を使用することにより割り当てられた。勾配増強1H COSY45は、増分毎に2スキャンを含めて実現した。勾配増強HSQC/HMQCシーケンス(遅延は145Hzの1JCH用に最適化した)を使用した1H-13C相関スペクトルを、増分毎に2スキャンで取得した。勾配増強HMBC実験を遂行し、広範囲カップリング展開(8スキャンを蓄積)に62.5msを許容した。典型的には、256のt1増分について1024のt2データ点を収集した。高分解能質量分析(HRMS)は、「Service de Spectrometrie de Masse de Chimie UPS-CNRS(ツールーズ)」によるエレクトロスプレーイオン化(ESI)を使用するXevo G2 QTOF(Waters社)分光計を用いて遂行した。元素分析は、「Service de Microanalyse du Laboratoire de Chimie de Coordination(ツールーズ)」によって行った。MTTアッセイの吸光度は、Promega E7031マイクロプレートリーダーを使用して測定した。
【0071】
3. プロリガンド1a~c及び錯体2a~cの合成
錯体2a~cの調製のための一般的なスキームは、下記の通りである:
【0072】
スキーム1. プロリガンド1a~c及び金(I)錯体2a~cの合成
【0073】
【化9】
【0074】
錯体2a~cは、本発明による式(I)の化合物である。
DHAとNHC前駆体とを縮合させるため、本発明者らは、長さの異なるC3~C5脂肪族リンカーを使用した。合成(スキーム1)は、C3-誘導体についてHaynesが記載する手順に従い、三フッ化ホウ素エーテラート触媒の存在下で市販のDHAをブロモアルコールと反応させることによるエーテルの形成で開始され、単一β-異性体DHA-C3~DHA-C5が得られる(参考文献1参照)。次の工程は、39~92%の範囲の収率で対応するカルベン前駆体1a~1cを得るために、ブロモアルキルDHA誘導体とメチルイミダゾールとを反応させることである。目的の金錯体の形成は、2つのアプローチにより達成されている。C3誘導体の場合、穏やかな塩基Ag2Oを伴う簡便な金属交換反応経路と、それに続くAgNO3とのイオン交換、及びその後のAu(SMe2)Clの添加が使用されてきた。C4及びC5誘導体の場合、K2CO3及びAu(SMe2)Clを伴う直接メタル化が適用されてきた。金(I)錯体2a~cは、クロマトグラフィーによる精製後、31~84%の収率で白色固体として単離された。化合物は全て、1H及び13C NMR分光法、高分解能質量分析及び元素分析により特性評価した。
【0075】
3.1. プロリガンド1a~cの合成
下記の図は、H(1H NMR)及びC(13C NMR)の番号付けを記載する。これらの表記は、次の実験セクションで使用する。
【0076】
【化10】
【0077】
10β-(20-ブロモプロポキシ)ジヒドロアルテミシニン(DHA-C3)[1]
窒素雰囲気下、ジヒドロアルテミシニン(DHA)(2g、7.0mmol)を200mLのEt2Oに溶解させた。3-ブロモプロパン-1-オール(0.76mL、8.4mmol、1.2当量)及びBF3・Et2O(6滴)を添加し、反応混合物を室温で4時間撹拌した。次いで、溶液をNaHCO3の飽和溶液で処理し、生成物をEt2O(3×20mL)で抽出した。合わせた有機相をNa2CO3上で乾燥させ、ろ過し、乾燥するまで溶媒を蒸発させた。粗生成物を、ヘキサン-酢酸エチルを溶離剤(100/0~100/20)として使用したシリカ上でのカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体(1.277g、収率45%)を得た。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 5.44 (s, 1H, H12), 4.82 (d, J = 3.4 Hz, 1H, H10), 4.04-3.97 (m, 1H, H18), 3.54-3.47 (m, 3H, H18, H20), 2.70-2.60 (m, 1H, H9), 2.43-2.33 (m, 1H, H4), 2.15-2.06 (m, 2H, H19), 2.03-2.01 (m, 1H, H4), 1.94-1.85 (m, 1H, H5), 1.80-1.72 (m, 2H, H8), 1.68-1.62 (m, 1H, H7), 1.54-1.50 (m, 1H, H8a), 1.49-1.47 (m, 1H, H5), 1.46 (s, 3H, H14), 1.37-1.30 (m, 1H, H6), 1.29-1.23 (m, 1H, H5a), 0.97 (d, J = 6.3 Hz, 3H, H15), 0.94-0.89 (m, 1H, H7), 0.92 (d, J = 7.4 Hz, 3H, H16). 13C NMR (75 MHz, CDCl3): δ = 104.05 (1C, C3), 102.07 (1C, C10), 87.89 (1C, C12), 80.99 (1C, C12a), 65.66 (1C, C18), 52.56 (1C, C5a), 44.36 (1C, C8a), 37.42 (1C, C6), 36.40 (1C, C4), 34.62 (1C, C7), 32.52 (1C, C19), 30.86 (1C, C9), 30.57 (1C, C20), 26.16 (1C, C14), 24.65-24.49 (2C, C5, C8), 20.35 (1C, C15), 12.96 (1C, C16).
【0078】
10β-(21-ブロモブトキシ)ジヒドロアルテミシニン(DHA-C4)
窒素雰囲気下、ジヒドロアルテミシニン(DHA、500mg、1.76mmol)を200mLのEt2Oに溶解させた。4-ブロモブタン-1-オール(398mg、2.6mmol、1.48当量)及びBF3・Et2O(6滴)を添加し、反応混合物を室温で4時間撹拌した。次いで、溶液をNaHCO3の飽和溶液で処理し、生成物をEt2O(3×20mL)で抽出した。合わせた有機相をNa2CO3上で乾燥させ、ろ過し、乾燥するまで溶媒を蒸発させた。粗生成物を、ヘキサン-酢酸エチルを溶離剤(100/0~100/20)として使用したシリカ上でのカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体(220.3mg、収率29%)を得た。C19H31BrO5についての分析計算値:C、54.42;H、7.45。実測値:C、54.36;H、7.38。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 5.40 (s, 1H, H12), 4.80 (d, J = 3.2 Hz, 1H, H10), 3.9-3.88 (m, 1H, H18), 3.50-3.36 (m, 3H, H18, H21), 2.71-2.59 (m, 1H, H9), 2.45-2.32 (m, 1H, H4), 2.08-2.03 (m, 1H, H4), 1.99-1.86 (m, 3H, H19, H5), 1.83-1.74 (m, 4H, H8, H20), 1.70-1.63 (m, 1H, H7), 1.56-1.53 (m, 1H, H8a), 1.51-1.49 (m, 1H, H5), 1.46 (s, 3H, H14), 1.38-1.32 (m, 1H, H6), 1.30-1.26 (m, 1H, H5a), 0.98 (d, J = 6.3 Hz, 3H, H15), 0.97-0.95 (m, 1H, H7), 0.92 (d, J = 7.4 Hz, 3H, H16). 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ = 104.10 (1C, C3), 102.02 (1C, C10), 87.92 (1C, C12), 81.10 (1C, C12a), 67.44 (1C, C18), 52.58 (1C, C5a), 44.42 (1C, C8a), 37.49 (1C, C6), 36.44 (1C, C4), 34.64 (1C, C7), 33.63 (1C, C21), 30.90 (1C, C9), 29.83 (1C, C19), 28.34 (1C, C20), 26.22 (1C, C14), 24.69-24.51 (2C, C5, C8), 20.37 (1C, C15), 13.04 (1C, C16). HRMS (ES+): C19H31BrNaO5の計算値m/z = 441.1253; 実測値441.1251.
【0079】
10β-(22-ブロモペンタオキシ)ジヒドロアルテミシニン(DHA-C5)
窒素雰囲気下、ジヒドロアルテミシニン(DHA、1g、3.5mmol)を200mLのEt2O.5-ブロモペンタン-1-オール(601mg、3.6mmol、1.03当量)に溶解させ、BF3・Et2O(6滴)を添加し、反応混合物を室温で4時間撹拌した。次いで、溶液をNaHCO3の飽和溶液で処理し、生成物をEt2O(3×20mL)で抽出した。合わせた有機相をNa2CO3上で乾燥させ、ろ過し、乾燥するまで溶媒を蒸発させた。粗生成物を、ヘキサン-酢酸エチルを溶離剤(100/0~100/20)として使用したシリカ上でのカラムクロマトグラフィーにより精製して、白色固体(314.4mg、収率21%)を得た。C20H33BrO5についての分析計算値:C、55.43;H、7.68。実測値:C、55.49;H、7.82。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 5.41 (s, 1H, H12), 4.79 (d, J = 3.2 Hz, 1H, H10), 3.87 (dt, J = 9.8, 6.2 Hz, 1H, H18), 3.45-3.37 (m, 3H, H18, H22), 2.66-2.61 (m, 1H, H9), 2.39 (ddd, J = 14.5, 13.4, 3.9 Hz, 1H, H4), 2.08-2.02 (m, 1H, H4), 1.94-1.87 (3H, H5, H21), 1.82-1.77 (m, 1H, H7), 1.67-1.48 (m, 8H, H5, H8, H8a, H19, H20), 1.50 (s, 3H, H14), 1.40-1.32 (m, 1H, H6), 1.29-1.22 (m, 1H, H5a), 0.97 (d, J = 6.3 Hz, 3H, H15), 0.98-0.91 (m, 1H, H7), 0.92 (d, J = 7.4 Hz, 3H, H16). 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ = 104.05 (1C, C3), 101.99 (1C, C10), 87.92 (1C, C12), 81.12 (1C, C12a), 68.01 (1C, C18), 52.58 (1C, C5a), 44.45 (1C, C8a), 37.46 (1C, C6), 36.44 (1C, C4), 34.66 (1C, C7), 33.81 (1C, C22), 32.41 (1C, C21), 30.92 (1C, C9), 28.82 (1C, C19), 26.21 (1C, C14), 24.96 (1C, C20), 24.68-24.48 (2C, C5, C8), 20.36 (1C, C15), 13.04 (1C, C16). HRMS (ES+): C20H33BrNaO5の計算値m/z = 455.1409; 実測値455.1409.
【0080】
【化11】
【0081】
3'-メチル-1'-[10β-(20-プロポキシ)ジヒドロアルテミシニン]1H-イミダゾール-3-イウムブロミド(1a)
CH3CN(6mL)にDHA-C3(304mg、0.75mmol)を溶解させた溶液を還流下で撹拌し、そこに1-メチルイミダゾール(60μL、0.75mmol)を添加し、反応混合物を還流下で3日間撹拌した。減圧下で溶媒を蒸発させ、粘性の残留物をCH2Cl2-MeOHを溶離剤(1/0.1~1/0.25)としたシリカ上でのクロマトグラフィーにより精製して、白色固体(238mg、収率65%)を得た。C22H35BrN2O5についての分析計算値:C、54.21;H、7.24;N、5.75。実測値C、54.12;H、7.26;N、5.68。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 10.44 (s, 1H, H2'), 7.48 (s, 1H, H4'), 7.38 (s, 1H, H5'), 5.38 (s, 1H, H12), 4.79 (d, J = 3.6 Hz, 1H, H10), 4.44 (t, J = 7.2 Hz, 2H, H20), 4.14 (s, 3H, H6'), 3.92-3.86 (m, 1H, H18), 3.53-3.47 (m, 1H, H18), 2.68-2.61 (m, 1H, H9), 2.37 (ddd, J = 14.6, 13.4, 4.0 Hz, 1H, H4), 2.29-2.22 (m, 2H, H19), 2.04 (ddd, J = 14.6, 4.9, 2.9 Hz, 1H, H4), 1.93-1.86 (m, 1H, H5), 1.81-175 (m, 1H, H7), 1.72-1.61 (m, 2H, H8), 1.51-1.44 (m, 2H, H5, H8a), 1.42 (s, 3H, H14), 1.38-1.31 (m, 1H, H6), 1.29-1.23 (m, 1H, H5a), 0.97 (d, J = 6.3 Hz, 3H, H15), 0.95-0.89 (m, 1H, H7), 0.92 (d, J = 7.4 Hz, 3H, H16). 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ = 137.90 (1C, C2'), 123.37 (1C, C4'), 122.15 (1C, C5'),104.23 (1C, C3), 102.20 (1C, C10), 87.96 (1C, C12), 80.92 (1C, C12a), 64.60 (1C, C18), 52.42 (1C, C5a), 47.48 (1C, C20), 44.16 (1C, C8a), 37.45 (1C, C6'), 36.90 (1C, C6), 36.33 (1C, C4), 34.45 (1C, C7), 30.77 (1C, C9), 30.60 (1C, C19), 26.10 (1C, C14), 24.63-24.57 (2C, C5, C8), 20.29 (1C, C15), 13.13 (1C, C16). HRMS (ES+): C22H35N2O5の計算値m/z = 407.2545; 実測値407.2546.
【0082】
3'-メチル-1'-[10β-(21-ブトキシ)ジヒドロアルテミシニン]1H-イミダゾール-3-イウムブロミド(1b)
CH3CN(3mL)にDHA-C4(75mg、0.18mmol)を溶解させた溶液を還流下で撹拌し、そこに1-メチルイミダゾール(57μL、0.72mmol、4当量)を添加し、反応混合物を還流下で5日間撹拌した。減圧下で溶媒を蒸発させ、粘性の残留物をCH2Cl2-MeOHを溶離剤(1/0.1~1/0.25)としたシリカ上でのクロマトグラフィーにより精製して、白色固体(83mg、収率92%)を得た。C23H37BrN2O5についての分析計算値:C、55.09;H、7.44;N、5.59。実測値C、55.12;H、7.56;N、5.58。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 10.38 (s, 1H, H2'), 7.55 (t, 1H, J = 1.8 Hz, H4'), 7.42 (t, 1H, J = 1.8 Hz, H5'), 5.34 (s, 1H, H12), 4.75 (d, J = 3.4 Hz, 1H, H10), 4.37 (t, J = 7.4 Hz, 2H, H21), 4.10 (s, 3H, H6'), 3.83 (dt, 1H, J = 9.9, 6.0 Hz, H18), 3.40 (dt, 1H, J = 9.9, 6.4 Hz, H18), 2.62-2.52 (m, 1H, H9), 2.37-2.29 (m, 1H, H4), 2.04-1.83 (m, 3H, H4, H20), 1.90-1.83 (m, 1H, H5), 1.73-1.59 (m, 5H, H7, H8, H19), 1.51-1.41 (m, 2H, H8a, H5), 1.39 (s, 3H, H14), 1.35-1.27 (m, 1H, H6), 1.25-1.17 (m, 1H, H5a), 0.94 (d, J = 6.3 Hz, 3H, H15), 0.91-0.83 (m, 1H, H7), 0.87 (d, J = 7.3 Hz, 3H, H16). 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ = 137.95 (1C, C2'), 123.41 (1C, C4'), 121.59 (1C, C5'),104.13 (1C, C3), 102.12 (1C, C10), 87.91 (1C, C12), 81.03 (1C, C12a), 67.43 (1C, C18), 52.49 (1C, C5a), 49.88 (1C, C21), 44.29 (1C, C8a), 37.43 (1C, C6'), 36.82 (1C, C6), 36.38 (1C, C4), 34.51 (1C, C7), 30.84 (1C, C9), 27.28-26.44 (2C, C19, C20), 26.17(1C, C14), 24.65-24.52 (2C, C5, C8), 20.32 (1C, C15), 13.09 (1C, C16). HRMS (ES+): C23H37N2O5の計算値m/z = 421.2702; 実測値421.2704.
【0083】
3'-メチル-1'-[10β-(22-ペンタオキシ)ジヒドロアルテミシニン]1H-イミダゾール-3-イウムブロミド(1c)
CH3CN(6mL)にDHA-C5(189mg、0.45mmol)を溶解させた溶液を還流下で撹拌し、そこに1-メチルイミダゾール(143μL、1.80mmol、4当量)を添加し、反応混合物を還流下で3日間撹拌した。減圧下で溶媒を蒸発させ、粘性の残留物をCH2Cl2-MeOHを溶離剤(1/0.1~1/0.25)としたシリカ上でのクロマトグラフィーにより精製して、白色固体(91mg、収率39%)を得た。C24H39BrN2O5についての分析計算値:C、55.92;H、7.63;N、5.43。実測値C、55.86;H、7.56;N、5.38。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 10.40 (s, 1H, H2'), 7.54 (t, 1H, J = 1.8 Hz, H4'), 7.43 (t, 1H, J = 1.8 Hz, H5'), 5.34 (s, 1H, H12), 4.73 (d, J = 3.6 Hz, 1H, H10), 4.33 (t, J = 7.5 Hz, 2H, H22), 4.12 (s, 3H, H6'), 3.79 (dt, 1H, J = 9.8, 6.3 Hz, H18), 3.45 (dt, 1H, J = 9.8, 6.5 Hz, H18), 2.62-2.54 (m, 1H, H9), 2.38-2.30 (m, 1H, H4), 2.04-1.92 (m, 3H, H4, H21), 1.89-1.83 (m, 1H, H5), 1.74-1.58 (m, 5H, H7, H8, H19), 1.53-1.37 (m, 4H, H5, H8a, H20), 1.40 (s, 3H, H14), 1.35-1.29 (m, 1H, H6), 1.27-1.18 (m, 1H, H5a), 0.94 (d, J = 6.3 Hz, 3H, H15), 0.90-0.83 (m, 1H, H7), 0.86 (d, J = 7.3 Hz, 3H, H16). 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ = 137.60 (1C, C2'), 123.51 (1C, C4'), 121.89 (1C, C5'),104.07 (1C, C3), 101.99 (1C, C10), 87.88 (1C, C12), 81.09 (1C, C12a), 67.86 (1C, C18), 52.52 (1C, C5a), 50.00 (1C, C22), 44.37 (1C, C8a), 37.44 (1C, C6'), 36.77 (1C, C6), 36.40 (1C, C4), 34.56 (1C, C7), 30.88 (1C, C9), 30.06-29.01 (2C, C19, C21), 26.19 (1C, C14), 24.66-24.48 (2C, C5, C8), 23.00 (1C, C20), 20.35 (1C, C15), 13.05 (1C, C16). HRMS (ES+): C24H39N2O5の計算値m/z = 435.2859; 実測値435.2861.
【0084】
3.2. 錯体2a~cの合成
錯体2a
シュレンク管中、1a(102mg、0.21mmol)及びAg2O(25mg、0.11mmol)を窒素雰囲気下及び光保護下でCH3CN(3mL)に溶解させ、室温で一晩撹拌した。2mLのCH3CNにAgNO3(19mg、0.11mmol)を溶解させた溶液を添加し、混合物を2時間撹拌した。最後に、Au(SMe2)Cl(32mg、0.11mmol)を添加し、室温で1時間撹拌した後、溶液をセライトのパッドを通してろ過し、減圧下で溶媒を除去して、白色固体(95mg、収率84%)を得た。この錯体のCH3CN溶液中でのEt2Oのゆっくりとした拡散により、X線回折分析に好適な結晶が得られた。C44H68AuN5O13についての分析計算値:C、49.30;H、6.39;N、6.53。実測値C、49.32;H、6.45;N、5.49。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.26 (d, J = 1.8 Hz, 1H, H4'), 7.16 (d, J = 1.9 Hz, 1H, H5'), 5.37 (s, 1H, H12), 4.79 (d, J = 3.5 Hz, 1H, H10), 4.28 (t, J = 7.0 Hz, 2H, H20), 3.95 (s, 3H, H6'), 3.91-3.89 (m, 1H, H18), 3.46-3.43 (m, 1H, H18), 2.64-2.62 (m, 1H, H9), 2.37-2.34 (m, 1H, H4), 2.19-2.16 (m, 2H, H19), 2.04-2.02 (m, 1H, H4), 1.89-1.87 (m, 1H, H5), 1.73-1.71 (m, 2H, H8), 1.61-1.59 (m, 1H, H7), 1.48-1.46 (m, 1H, H8a), 1.46-1.43 (m, 1H, H5), 1.42 (s, 3H, H14), 1.32-1.30 (m, 1H, H6), 1.25-1.20 (m, 1H, H5a), 0.96 (d, J = 6.2 Hz, 3H, H15), 0.95-0.92 (m, 1H, H7), 0.91 (d, J = 7.4 Hz, 3H, H16). 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 183.71 (1C, C2'), 123.26 (1C, C4'), 121.84 (1C, C5'), 104.19 (1C, C3), 101.98 (1C, C10), 87.93 (1C, C12), 80.89 (1C, C12a), 64.81 (1C, C18), 52.46 (1C, C5a), 48.50 (1C, C20), 44.22 (1C, C8a), 38.21 (1C, C6'), 37.52 (1C, C6), 36.35 (1C, C4), 34.50 (1C, C7), 31.70 (1C, C19), 30.75 (1C, C9), 26.11 (1C, C14), 24.66-24.54 (2C, C5, C8), 20.31 (1C, C15), 13.10 (1C, C16) HRMS (ES+): C44H68AuN4O10の計算値m/z 1009.4601; 実測値1009.4591.
【0085】
錯体2b
窒素雰囲気下、炭酸カリウム(27.7mg、0.20mmol)を、乾燥CH3CN(5mL)中の1b(80mg、0.16mmol)とAu(SMe2)Cl(26.5mg、0.09mmol)との混合物に添加した。次いで、混合物を60℃に加熱し、2時間撹拌した。室温に冷却後、溶液をセライトのパッドを通してろ過し、減圧下で溶媒を除去した。錯体をCH2Cl2-MeOHを溶離剤(100/8)としたシリカプレート上での分取クロマトグラフィーにより精製して、白色固体(68.7mg、収率80%)を得た。C46H72AuClN4O10についての分析計算値:C、51.47;H、6.76;N、5.22。実測値C、51.39;H、6.68;N、5.18。1H NMR (400 MHz, CDCl3): δ 7.37 (d, J = 1.9 Hz, 1H, H4'), 7.22 (d, J = 1.9 Hz, 1H, H5'), 5.33 (s, 1H, H12), 4.74 (d, J = 3.2 Hz, 1H, H10), 4.25 (t, J = 7.0 Hz, 2H, H21), 3.97 (s, 3H, H6'), 3.86-3.80 (m, 1H, H18), 3.42-3.37 (m, 1H, H18), 2.61-2.57 (m, 1H, H9), 2.38-2.30 (m, 1H, H4), 2.04-1.84 (m, 4 H, H4, H5, H20), 1.76-1.58 (m, 5H, H7, H8, H19), 1.46-1.37 (m, 2H, H5, H8a), 1.40 (s, 3H, H14), 1.30-1.19 (m, 2H, H5a, H6), 0.94 (d, J = 5.9 Hz, 3H, H15), 0.95-0.84 (m, 1H, H7), 0.86 (d, J = 7.3 Hz, 3H, H16). 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 183.57 (1C, C2'), 123.45 (1C, C4'), 121.53 (1C, C5'), 104.10 (1C, C3), 101.99 (1C, C10), 87.87 (1C, C12), 80.97 (1C, C12a), 67.50 (1C, C18), 52.40 (1C, C5a), 51.04 (1C, C21), 44.27 (1C, C8a), 38.42 (1C, C6'), 37.49 (1C, C6), 36.35 (1C, C4), 34.53 (1C, C7), 30.79 (1C, C9), 28.34 (1C, C20), 26.73, (1C, C19), 26.16 (1C, C14), 24.65-24.48 (2C, C5, C8), 20.35 (1C, C15), 13.08 (1C, C16) HRMS (ES+): C46H72AuN4O10の計算値m/z 1037.4914; 実測値1037.4929.
【0086】
錯体2c
窒素雰囲気下、炭酸カリウム(38.7mg、0.28mmol)を、乾燥CH3CN(5mL)中の1c(118.5mg、0.23mmol)とAu(SMe2)Cl(35.3mg、0.12mmol)との混合物に添加した。次いで、混合物を60℃に加熱し、2時間撹拌した。室温に冷却後、溶液をセライトのパッドを通してろ過し、減圧下で溶媒を除去した。錯体をCH2Cl2-MeOHを溶離剤(100/8)としたシリカプレート上での分取クロマトグラフィーにより精製して、白色固体(39.3mg、収率31%)を得た。C48H76AuClN4O10についての分析計算値:C、52.34;H、6.95;N、5.09。実測値C、52.39;H、6.98;N、5.08。1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ 7.32 (d, J = 1.9 Hz, 1H, H4'), 7.22 (d, J = 1.9 Hz, 1H, H5'), 5.36 (s, 1H, H12), 4.75 (d, J = 3.6 Hz, 1H, H10), 4.25 (t, J = 7.0 Hz, 2H, H22), 3.99 (s, 3H, H6'), 3.88-3.78 (m, 1H, H18), 3.41-3.33 (m, 1H, H18), 2.63-2.58 (m, 1H, H9), 2.43-2.32 (m, 1H, H4), 2.08-1.97 (m, 4H, H4, H5, H21), 1.78-1.59 (m, 5H, H7, H8, H19), 1.53-1.38 (m, 4H, H5, H8a, H20), 1.43 (s, 3H, H14), 1.30-1.24 (m, 2H, H5a, H6), 0.97 (d, J = 6.1 Hz, 3H, H15), 0.97-0.84 (m, 1H, H7), 0.87 (d, J = 7.4 Hz, 3H, H16). 13C NMR (101 MHz, CDCl3): δ 183.59 (1C, C2'), 123.28 (1C, C4'), 121.65 (1C, C5'), 104.08 (1C, C3), 101.91 (1C, C10), 87.86 (1C, C12), 81.01 (1C, C12a), 67.85 (1C, C18), 52.49 (1C, C5a), 51.22 (1C, C22), 44.32 (1C, C8a), 38.38 (1C, C6'), 37.48 (1C, C6), 36.37 (1C, C4), 34.58 (1C, C7), 31.22 (1C, C21), 30.82 (1C, C9), 29.13 (1C, C19), 26.18 (1C, C14), 24.66-24.46 (2C, C5, C8), 23.23 (1C, C20), 20.37 (1C, C15), 13.02 (1C, C16) HRMS (ES+): C48H76AuN4O10の計算値m/z 1065.5221; 実測値1065.5226.
【0087】
13C NMR分光法は、183.6~183.7ppmに位置するカルベン炭素の共鳴を伴うカチオン性金(I)錯体の形成を明確に証明している。2a~cのHRMSスペクトルは、カチオン性フラグメント[M-X-]+についての古典的なピークを呈し、元素分析は、一般的な[AuL2][X]式に対応する。
【0088】
4. 2aについての結晶学的データ
X線構造分析に好適な単結晶が、ジエチルエーテルからアセトニトリル中の2aの飽和溶液への気相拡散により得られた。固体状態では、金(I)は、2つのNHC配位子によって安定化された典型的な線形配位を示す。NHC平面は、C-Au-C軸付近で、116°~138°のねじれ角で交差している。かさばるDHA-誘導体基が中央のビスNHC金モチーフの同じ側にあることは、注目に値する。これは、Au-Au距離が345.0pmの錯体の二量体形をもたらす金親和性相互作用によるものである。
データは全て、MoKa放射(λ =0.71073Å)を備えたBruker-AXS APEX II回折計で、オイルコーティングした衝撃冷却結晶を使用して低温で収集した。構造は、直接法[2]により解明し、非水素原子は全て、F2上での最小二乗法を使用して非等方的に精緻化した。[3]絶対構造パラメータは、フラック法を使用して精緻化されている。[4]
錯体2a:C44H68AuN5O13.12、Mr=1074.0、結晶サイズ=0.40×0.30×0.05mm3、斜方晶、空間群I222、a=10.644(2)Å、b=19.073(3)Å、c=48.320(8)Å、V=9809(3)Å3、Z=8、収集反射数59886、固有反射数6963(Rint=0.1151)、R1=0.0568、wR2=0.1300[I>2σ(I)]、R1=0.1309、wR2=0.1727(全データ)、絶対構造因子x=-0.021(8)、残留電子密度=3.308eÅ-3
【0089】
5. 細胞培養及び細胞生存率アッセイ(MTTアッセイ)
PC-3ヒト前立腺がん細胞、及びLAMA慢性骨髄性白血病を、10%のウシ胎仔血清と1%の抗生物質(100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン)とを含有するRPMI1640中、5%CO2加湿インキュベータにおいて37℃で培養した。HL60慢性骨髄性白血病を、15%のウシ胎仔血清と1%の抗生物質(100U/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシン)とを含有するRPMI1640中、5%CO2加湿インキュベータにおいて37℃で培養した。HepG-2ヒト肝臓がん細胞を、10%のFBS、1%の非必須アミノ酸、1mMのピルビン酸Na、1%のPenStrep抗生物質、及び600μg/mLのジェネティシンを含有するEMEM中で培養した。A549ヒト肺がん細胞、T24ヒト膀胱がん細胞、MCF-7ヒト乳腺がん細胞、U-2OSヒト骨肉腫、及びNIH3T3マウス線維芽細胞を、10%のウシ胎仔血清と1%の抗生物質とを含有するDMEM培地中、5%CO2加湿インキュベータにおいて37℃で培養した。MC3T3マウス骨芽細胞を、10%のウシ胎仔血清と1%の抗生物質とを含有するMEM培地中、5%CO2加湿インキュベータにおいて37℃で培養した。RWPE-1ヒト前立腺正常細胞を、0.05mg/mlのウシ下垂体抽出物(BPE)と5ng/mlの上皮成長因子(EGF)を含有するK-SFM培地中、5%CO2加湿インキュベータにおいて37℃で培養した。
MTT試薬(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾールイウムブロミド)を使用して、Mosmann[5]が最初に記載し、Cuvillier[6]らが修正したようにして細胞死を判定した。端的に言えば、細胞を24ウェルプレートに、細胞の種類に応じて5,000~10,000細胞/ウェルで播種し、一晩付着させた。錯体はいずれもDMSOに溶解させた。錯体の濃度は、元素分析により判定した錯体の元素組成に従って計算した。試験を行った錯体の存在下で培地を添加し、様々な濃度(5μM~0.01μM)に段階的に希釈した。これらの濃度に加え、DHAでは50、20及び10μM、カチオン性ビスNHC金(I)錯体3では0.001μMを使用した。培地中のDMSOの最大濃度は、0.5%(v/v)を超えなかった。72時間の処理後、細胞を37℃及び5%CO2で、25μLのMTT溶液(5mg/mL;Sigma-Aldrich社)と共に24ウェルプレートにおいて約3~4時間インキュベートした。500μLの溶解緩衝液(DMSO)での可溶化後、ホルマザンをマイクロプレートリーダーを用いた570nmの吸光度での分光光度法により定量化した。細胞増殖の50%阻害を引き起こした濃度に対応するGI50値を、非線形回帰分析(Prism8、Graphpad Software社)によって得られた用量応答曲線から計算した。結果は全て、3回の独立した実験で得られたデータから計算した。
【0090】
前駆体1a~c及び錯体2a~cを、PC-3前立腺がん細胞株と3種の非がん細胞株(線維芽細胞NIH3T3、骨芽細胞MC3T3及び上皮前立腺RPWE-1)に対するin vitro細胞毒性能力について評価した(以下のTable 1(表1))。興味深いことに、イミダゾリウム塩1a~cは、細胞毒性効果を示さず(GI50>20μM)、一方、錯体2a~cは、GI50値が20nMと70nMの間の強い抗増殖活性を呈した。2a~cの選択指数(SI=GI50(非がん細胞株)/GI50(がん細胞株))は、NIH3T3細胞に関しては15.5~16.7の範囲のほぼ同じ値であったが、RPWE-1細胞は、最高が2aのSI=6.9と、より分化した結果であった。参照薬剤として、現在抗がん剤として臨床フェーズI及びII試験の段階にある抗関節炎薬、オーラノフィンと、DHAの試験を行った。更に、ハイブリッド錯体の潜在的な相乗効果を評価するために、メチル及びキノリン置換基を含有する公開されたカチオン性ビスNHC金(I)錯体3[7]と、3とDHAとの(1:2)混合物を調査した。カチオン性ビスNHC金(I)錯体3の構造は、下記の通りである:
【0091】
【化12】
【0092】
際立つのは、錯体2a~cは、PC-3細胞に対してオーラノフィン及びDHAよりも、それぞれ16~55倍及び22~78倍高い有効性を示したことである。更に、2種の参照薬剤と比較して、NIH3T3よりもがん細胞に対して6.2~16.7倍選択的である。注目すべきことに、錯体2aは、DHAのSI PC-3/RPWE-1値に近い値を示しているが、金参照物であるオーラノフィンと錯体3の両方で得られた値よりもそれぞれ69倍及び35倍高い。錯体3は、2a~cの10~35分の1の活性を示し、3とDHAとの混合物は、効率がDHAと3の間で、選択性は低い。全体として、これらの結果は、ビスNHC金(I)単位のNHC足場にDHAの誘導体を結合すると、高い選択性と相まった高い細胞毒性によって発現される相乗効果がもたらされることを強調している。
【0093】
本発明者らは、更なる生物学的な調査のために、そのより良好な選択性から、錯体2aを選択した。2aは、7種の他の代表的なヒトがん細胞株の一団、即ち、A549(肺)、MCF-7(乳房)、T24(膀胱)、U-2OS(骨)、LAMA(白血病)、HL60(急性骨髄性白血病)及びHep-G2(肝臓)に対して試験を行った(Table 2(表2)参照)。PC-3細胞の場合と同様、6種のがん細胞株についてのGI50値は、22~175nMの低いnM範囲にあった。錯体2aは、この研究で使用した対照分子よりも、試験を行ったがん細胞株に対して十分に効果的であり続け、常に治療が困難な肝細胞がんHepG-2に対しても効果的であった(現在肝細胞がんの治療に使用されている市販薬ソラフェニブは、HepG-2細胞株に対して6.4μMのIC50を示す)。ヒト肝臓腫瘍及び星細胞株における化学増感に対する三酸化ヒ素の異なる効果(F. Rangwala、K. P.Williams、G. R. Smith、Z. Thomas、J. L. Allensworth、H. K. Lyerly、A. M. Diehl、M. A. Morse、G. R. Devi、BMC Cancer 2012、12、402)は、金(I)-アルテミシニン様ハイブリッド錯体の概念を立証する。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
以下のTable 3(表3)も、各細胞株、試験を行った様々な分子、即ち、本発明の化合物(I)(化合物2a)、オーラノフィン、DHA、NHC-金(I)錯体3単独(アルテミシニン又はDHAを含まない)、及びNHC-金(I)錯体3単独とDHA単独とのモル比1:2の混合物について観察されたIC50を表す。
【0097】
【表3】
【0098】
6. 細胞内活性酸素種(ROS)の測定及びROS発生の判定
細胞のROS発生が、以前に報告されたプロトコルに従い、DCFの蛍光強度の増加によって示された。[8]端的に言えば、PC-3、A549、MCF-7及びHepG2細胞を50,000細胞/ウェルの密度で24ウェルプレートに24時間播種した。細胞をPBS緩衝液で洗浄し、DCFH-DA(最終濃度20μM)で45分間染色した。次いで、細胞をPBS緩衝液で洗浄し、金錯体を含有するフェノールレッドを含まない培養媒体を細胞に添加した。DCFの蛍光強度(励起/発光、485/535nm)を、様々な時点で蛍光発光マイクロプレートリーダーにより測定した。
N-アセチル-システイン(NAC)及び還元グルタチオン(GSH)処理では、細胞を様々な濃度のNAC及びGSH(2、5及び10mM)で1時間前処理し、次いで、金錯体2aを添加して72時間インキュベートした。その後、細胞を37℃及び5%CO2で、25μLMTT溶液(5mg/mL;Sigma-Aldrich社)と共に24ウェルプレートでおよそ3時間、更にインキュベートした。細胞毒性は、上記のように判定した。
結果を図1及び図2に示す。
【0099】
7. 哺乳類TrxRの阻害
哺乳類TrxRの阻害を判定するため、確立されたマイクロプレートリーダーベースのアッセイをわずかな修正を加えて遂行した。[9]この目的のため、市販のラット肝臓TrxR(Sigma-Aldrich社製)を使用し、蒸留水で希釈して3.5U/mLとした。原液として錯体2aを新たに滅菌DMSOに溶解させた。酵素の25μLアリコートと、段階的濃度の錯体2aを含有する25μLリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)、又は錯体を含まないがDMSOを含む25μL緩衝液(陽性対照)のいずれかを添加した。結果として得られた溶液(最終DMSO濃度0.5%v/v)を、96ウェルプレートにおいて適度に振とうしながら37℃で75分間インキュベートした。各ウェルに、225μLの反応混合物(1.0mLの反応混合物は、500μLの100mMリン酸カリウム緩衝液pH7.0、80μLの100mMのEDTA溶液pH7.5、20μLの0.2%BSA、100μLの20mMNのNADPH及び300μLの蒸留水からなる)を添加し、25μLの20mMのDTNB溶液を添加することによって反応を直ちに開始させた。完全に混合した後、マイクロプレートリーダーにより、405nm、1分間隔で10回測定してTNBの形成を監視した。経時的なTNB濃度の上昇は、直線的な傾向(r2≧0.99)に従い、酵素活性は、勾配(1秒当たりの吸光度の増加)として計算した。アッセイ成分との干渉がないことは、酵素を含まない試験化合物を使用した陰性対照実験により確認した。IC50値は、非処理対照の酵素活性を50%減少させる化合物の濃度として計算した。結果を図3に示す。
【0100】
8. NRF2転写活性
ARE-レポーター-HepG-2細胞を成長培地1Kでの培養から採取し、40,000細胞/ウェルの濃度でジェネティシンを含まない45μLの成長培地1Kを入れた白色透明底96ウェルマイクロプレートに播種した。細胞を一晩付着させ、次いで様々な濃度の錯体2a(0.01μM~20μM)、オーラノフィン(0.01μM~20μM)又はDHA(0.01μM~3、5、10、20及び50μM)、及び錯体(0.01μM~20μM)で処理した。37℃及び5%CO2で16時間インキュベートした後、ONE-Stepルシフェラーゼアッセイ試薬(100μL)を添加し、室温で15分以上振盪させた。次いで、各ウェルの発光を、CLARIOstarマイクロプレートリーダーにより判定して、AREの誘導を定量化した。生物学的三重実験として3回の独立した実験を遂行した。結果を図4に示す。
【0101】
9. NF-κB転写活性
結果を図5に示す。
【0102】
10. 参照文献
(参照文献)
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】