(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-28
(54)【発明の名称】メラノフィリンアンチセンスオリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20220920BHJP
C07K 7/02 20060101ALI20220920BHJP
C07K 14/00 20060101ALI20220920BHJP
A61K 31/522 20060101ALI20220920BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220920BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20220920BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20220920BHJP
【FI】
C12N15/113 Z ZNA
C07K7/02
C07K14/00
A61K31/522
A61P17/00
A61Q19/02
A61K8/49
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502825
(86)(22)【出願日】2020-07-14
(85)【翻訳文提出日】2022-03-01
(86)【国際出願番号】 KR2020009228
(87)【国際公開番号】W WO2021010723
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】10-2019-0087228
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519043383
【氏名又は名称】オリパス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ハン ソン-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ファン ソクジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム ジ ウン
(72)【発明者】
【氏名】ソン ギホ
(72)【発明者】
【氏名】イ ヨンウン
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C083AC851
4C083CC02
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB07
4C086MA01
4C086MA04
4C086ZA89
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA15
4H045BA16
4H045BA17
4H045BA54
4H045EA15
4H045EA20
4H045FA33
4H045GA25
(57)【要約】
本発明は、ヒトMLPHプレmRNAの「エキソン2」の3'スプライス部位を標的とするペプチド核酸誘導体を提供する。本発明におけるペプチド核酸誘導体は、細胞内でヒトMLPH mRNAのスプライスバリアントを強力に誘導し、ヒトMLPHタンパク質に関連する皮膚色素沈着の疾患または状態を処置するのに非常に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iで表されるペプチド核酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩:
式中、
nは10~21の整数であり;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAにおける
の30merプレmRNA配列と少なくとも10merの相補的重複を有し;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAに対して完全に相補的であるか、またはヒトMLPHプレmRNAに対して1もしくは2個のミスマッチで部分的に相補的であり;
S
1、S
2、・・・、S
n-1、S
n、T
1、T
2、・・・、T
n-1、およびT
nは独立に、ヒドリド、デューテリド、置換もしくは無置換アルキル、または置換もしくは無置換アリール基を表し;
XおよびYは独立に、ヒドリド、デューテリド、ホルミル、アミノカルボニル、アミノチオカルボニル、置換もしくは無置換アルキル、置換もしくは無置換アリール、置換もしくは無置換アルキルオキシ、置換もしくは無置換アリールオキシ、置換もしくは無置換アルキルアシル、置換もしくは無置換アリールアシル、置換もしくは無置換アルキルオキシカルボニル、置換もしくは無置換アリールオキシカルボニル、置換もしくは無置換アルキルアミノカルボニル、置換もしくは無置換アリールアミノカルボニル、置換もしくは無置換アルキルアミノチオカルボニル、置換もしくは無置換アリールアミノチオカルボニル、置換もしくは無置換アルキルオキシチオカルボニル、置換もしくは無置換アリールオキシチオカルボニル、置換もしくは無置換アルキルスルホニル、置換もしくは無置換アリールスルホニル、置換もしくは無置換アルキルホスホニル、または置換もしくは無置換アリールホスホニル基を表し;
Zはヒドリド、デューテリド、ヒドロキシ、置換もしくは無置換アルキルオキシ、置換もしくは無置換アリールオキシ、置換もしくは無置換アミノ、置換もしくは無置換アルキル、または置換もしくは無置換アリール基を表し;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nは独立に、アデニン、チミン、グアニン、シトシンおよびウラシルを含む天然核酸塩基、ならびに非天然核酸塩基から選択され;かつ、
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nのうちの少なくとも4つは独立に、核酸塩基部分に共有結合した置換または無置換アミノ基を有する非天然核酸塩基から選択される。
【請求項2】
請求項1記載のペプチド核酸誘導体、またはその薬学的塩:
式中、
nは10~21の整数であり;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAにおける
の30merプレmRNA配列と少なくとも10merの相補的重複を有し;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAに対して完全に相補的であるか、またはヒトMLPHプレmRNAに対して1もしくは2個のミスマッチで部分的に相補的であり;
S
1、S
2、・・・、S
n-1、S
n、T
1、T
2、・・・、T
n-1、およびT
nは独立に、ヒドリド、デューテリド基を表し;
XおよびYは独立に、ヒドリド、デューテリド、ホルミル、アミノカルボニル、アミノチオカルボニル、置換もしくは無置換アルキル、置換もしくは無置換アリール、置換もしくは無置換アルキルオキシ、置換もしくは無置換アリールオキシ、置換もしくは無置換アルキルアシル、置換もしくは無置換アリールアシル、置換もしくは無置換アルキルオキシカルボニル、置換もしくは無置換アリールオキシカルボニル、置換もしくは無置換アルキルアミノカルボニル、置換もしくは無置換アリールアミノカルボニル、置換もしくは無置換アルキルアミノチオカルボニル、置換もしくは無置換アリールアミノチオカルボニル、置換もしくは無置換アルキルオキシチオカルボニル、置換もしくは無置換アリールオキシチオカルボニル、置換もしくは無置換アルキルスルホニル、置換もしくは無置換アリールスルホニル、置換もしくは無置換アルキルホスホニル、または置換もしくは無置換アリールホスホニル基を表し;
Zはヒドリド、ヒドロキシ、置換もしくは無置換アルキルオキシ、置換もしくは無置換アリールオキシ、または置換もしくは無置換アミノ基を表し;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nは独立に、アデニン、チミン、グアニン、シトシンおよびウラシルを含む天然核酸塩基、ならびに非天然核酸塩基から選択され;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nのうちの少なくとも4つは独立に、式II、式III、または式IVで表される非天然核酸塩基から選択され:
式中、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は独立に、ヒドリドおよび置換または無置換アルキル基から選択され;
L
1、L
2およびL
3は、塩基性アミノ基を核酸塩基部分に共有結合する、式Vで表される共有結合リンカーであり:
式中、
Q
1およびQ
mは置換または無置換メチレン基[-CH
2-、-CH(置換基)-、-C(置換基)
2-]であり、かつQ
mは塩基性アミノ基に直接連結されており;
Q
2、Q
3、・・・、およびQ
m-1は独立に、置換または無置換メチレン、酸素(-O-)、硫黄(-S-)、および置換または無置換アミノ基[-N(H)-、または-N(置換基)-]から選択され;かつ、
mは1~15の整数である。
【請求項3】
請求項2記載のペプチド核酸誘導体、またはその薬学的塩:
式中、
nは11~19の整数であり;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAにおける
の30merプレmRNA配列と少なくとも10merの相補的重複を有し;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAに対して完全に相補的であり;
S
1、S
2、・・・、S
n-1、S
n、T
1、T
2、・・・、T
n-1、およびT
nはヒドリド基であり;
XおよびYは独立に、ヒドリド、置換もしくは無置換アルキルアシル、または置換もしくは無置換アルキルオキシカルボニル基を表し;
Zは置換または無置換アミノ基を表し;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nは独立に、アデニン、チミン、グアニン、シトシンおよびウラシルを含む天然核酸塩基、ならびに非天然核酸塩基から選択され;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nのうちの少なくとも5つは独立に、式II、式III、または式IVで表される非天然核酸塩基から選択され:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6はヒドリド基であり;
Q
1およびQ
mはメチレン基であり、かつQ
mは塩基性アミノ基に直接連結されており;
Q
2、Q
3、・・・、およびQ
m-1は独立に、メチレンおよび酸素基から選択され;かつ、
mは1~9の整数である。
【請求項4】
請求項3記載のペプチド核酸誘導体、またはその薬学的塩:
式中、
nは11~19の整数であり;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAにおける
の30merプレmRNA配列と少なくとも10merの相補的重複を有し;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAに対して完全に相補的であり;
S
1、S
2、・・・、S
n-1、S
n、T
1、T
2、・・・、T
n-1、およびT
nはヒドリド基であり;
Xはヒドリド基であり;
Yは置換または無置換アルキルオキシカルボニル基を表し;
Zは置換または無置換アミノ基を表し;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nは独立に、アデニン、チミン、グアニン、シトシンおよびウラシルを含む天然核酸塩基、ならびに非天然核酸塩基から選択され;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nのうちの少なくとも5つは独立に、式II、式III、または式IVで表される非天然核酸塩基から選択され:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6はヒドリド基であり;
L
1は-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-、-CH
2-O-(CH
2)
2-、-CH
2-O-(CH
2)
3-、-CH
2-O-(CH
2)
4-、または-CH
2-O-(CH
2)
5-を表し;かつ、
L
2およびL
3は独立に、-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-、-(CH
2)
3-O-(CH
2)
2-、-(CH
2)
2-O-(CH
2)
3-、-(CH
2)
2-、-(CH
2)
3-、-(CH
2)
4-、-(CH
2)
5-、-(CH
2)
6-、-(CH
2)
7-、および-(CH
2)
8-から選択される。
【請求項5】
以下に示すペプチド核酸誘導体の群から選択される、請求項4記載のペプチド核酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩:
式中、
A、T、GおよびCは、それぞれアデニン、チミン、グアニンおよびシトシンの天然核酸塩基を有するペプチド核酸のモノマーであり;
C(pOq)、A(p)、およびG(p)は、それぞれ式VI、式VII、および式VIIIで表される非天然核酸塩基を有するペプチド核酸のモノマーであり;
式中、
pおよびqは整数であり、
において、pは1、5、または6であり、かつqは2であり;かつ、
「Fethoc-」は「[2-(9-フルオレニル)エチル-1-オキシ]カルボニル」の略記である。
【請求項6】
ヒトMLPH遺伝子転写に関連する疾患または状態を処置する方法であって、請求項1記載のペプチド核酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩を、対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項7】
皮膚色素沈着を処置する方法であって、請求項1記載のペプチド核酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩を、対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項8】
ヒトMLPH遺伝子転写に関連する疾患または状態を処置するための薬学的組成物であって、請求項1記載のペプチド核酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩を含む、薬学的組成物。
【請求項9】
ヒトMLPH遺伝子転写に関連する疾患または状態を処置するための化粧用組成物であって、請求項1記載のペプチド核酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩を含む、化粧用組成物。
【請求項10】
皮膚色素沈着を処置するための薬学的組成物であって、請求項1記載のペプチド核酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩を含む、薬学的組成物。
【請求項11】
皮膚色素沈着を処置するための化粧用組成物であって、請求項1記載のペプチド核酸誘導体、またはその薬学的に許容される塩を含む、化粧用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラノフィリンによって媒介される皮膚色素沈着の改善のための、ヒトメラノフィリンプレmRNAを相補的に標的とするペプチド核酸誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
人口の急速な高齢化と経済レベルの改善により、生活の質および健康的な加齢に関心が高まってきた。特に、加齢の徴候は皮膚で最も明白であるため、皮膚加齢および色素沈着は大きく注目されている。皮膚加齢の予防および処置は生活の質において非常に重要であるため、関連する健康食品、化粧品、薬剤などにますます注意が集中している。皮膚加齢には2つの主なプロセスがある。1つは内因性または自然の加齢を伴う加齢であり、他は外因性の加齢で、太陽への曝露、喫煙、および栄養障害などの外来の原因によって引き起こされる。
【0003】
美白剤:美白剤は、急成長している抗加齢化粧品市場において主要な役割を果たしている。皮膚のメラニン生合成の様々なメカニズムに基づいて、多くの美白剤が開発されており、その中でチロシナーゼが最も代表的な標的であった。様々な美白製品が開発されているが、安全性、機能性、および仕様、ならびに分析法に関していくつかの議論があり、一部の製品は有害であると疑われている[Int. J. Cosmetic Sci. vol 33, 210-221 (2011); Int. J. Mol. Sci. vol 10, 2440-2475 (2009); Phytother Res. vol 21, 805-816 (2007)]。日本で開発された美白化粧品の活性成分であるRhododenol(登録商標)は、白斑などの皮膚疾患を誘発すると最近報告され、化粧品の安全性問題に関する論争が続いている[Pigment Cell Melanoma Res. vol 27, 754-763 (2014)]。したがって、メラニン生合成に関連せず、しかしデノボメカニズムを標的とする、効果的で安全な美白製品を開発する必要がある。
【0004】
加えて、様々なチロシナーゼ阻害剤があるが、チロシナーゼに対するIC50値はほとんどの場合マイクロモル濃度(μM)である[J. Enzyme Inhibition Med. Chem. vol 32(1), 403-425 (2017)]。そのようなIC50値は、それらの分子サイズを考慮すると乏しいと考えられ、他の分子標的との交差反応性の可能性が出てくる。低い阻害活性は高い経皮用量につながるため、皮膚色素沈着に対する望ましい経皮活性と、同時に安全性を満たすために、阻害効力を著しく改善する必要がある。
【0005】
メラノフィリン:メラノソームは、動物細胞で見られる直径500nmの小器官で、動物界で見られる最も一般的な光吸収色素であるメラニンの合成、貯蔵および輸送のための部位である。メラニン形成細胞においてメラノソームは核の近くで合成され、細胞の端部に運ばれ、これは近くの角化細胞に輸送されて色素沈着を誘発し得る。メラニン形成細胞中で、メラノソームは3つのタンパク質、すなわちメラノソームに結合したリンクタンパク質Rab27A、アクチンフィラメントに結合したモータータンパク質ミオシン-Va、およびRab27Aとミオシン-Vaとを連結する担体タンパク質メラノフィリンの三元複合体によってアクチンフィラメントに沿って運ばれる[Kor. J. Aesthet. Cosmetol. vol 11, 417-426 (2013)]。したがって、これらのタンパク質の発現を阻害することによって、近くの角化細胞へのメラノソームの移動および皮膚色素沈着を抑制することができるであろう。
【0006】
3つのタンパク質の中で、Rab27Aおよびミオシン-Vaの発現の阻害は、免疫および神経損傷ならびに色素沈着低下を誘発すると報告された[Nat. Genet. vol 25 173-176 (2000); J. Cell Biol. vol 152, 835-842 (2001); J. Neurol. vol 247, 570-572 (2000)]。一方、メラニン形成細胞でのみ発現されるメラノフィリンの阻害は、いかなる他の合併症も伴わずに、色素沈着低下だけを誘発すると報告された[J. Clin. Invest. vol 112, 450-456 (2003)]。したがって、過剰な皮膚色素沈着に対する化粧品または薬剤のためにメラノフィリン発現のメカニズムに基づく製品を開発することは非常に興味深く、かつ必要で、その有効性および安全性が期待される。
【0007】
プレmRNA:遺伝情報はDNA(2-デオキシリボース核酸)上に担持される。DNAは核内で転写されてプレmRNA(プレメッセンジャーリボ核酸)を生成する。哺乳動物のプレmRNAは通常、エキソンおよびイントロンからなり、エキソンおよびイントロンは
図1aに示すとおり互いに相互接続されている。
【0008】
プレmRNAのスプライシング:プレmRNAは、
図1bに概略を示す「スプライシング」と総称される一連の複雑な反応によって、イントロンの欠失後にmRNAへと処理される[Ann. Rev. Biochem. 72(1), 291-336 (2003); Nature Rev. Mol. Cell Biol. 6(5), 386-398 (2005); Nature Rev. Mol. Cell Biol. 15(2), 108-121 (2014)]。
【0009】
スプライシングは、プレmRNAとスプライシングアダプター因子との間に「スプライセオソームE複合体」(すなわち、初期スプライセオソーム複合体)を形成することによって開始される。「スプライセオソームE複合体」において、U1はエキソンNとイントロンNとの接合部に結合し、U2AF35はイントロンNとエキソン(N+1)との接合部に結合する。したがって、エキソン/イントロンまたはイントロン/エキソンの接合部は、初期スプライセオソーム複合体の形成において極めて重要である。「スプライセオソームE複合体」は、U2とのさらなる複合体形成後に「スプライセオソームA複合体」に発展する。「スプライセオソームA複合体」は、一連の複雑な反応を起こしてイントロンを欠失させまたは切り出し、隣接するエキソン同士を結び付ける。
【0010】
リボソームタンパク質合成:タンパク質はDNA(2-デオキシリボース核酸)によってコードされる。細胞刺激に反応して、または自然に、DNAは、核内で転写されてプレmRNA(プレメッセンジャーリボ核酸)を生成する。プレmRNAのイントロンは、酵素的に切り出されてmRNA(メッセンジャーリボ核酸)を生成し、これは次いで細胞質に移行する。細胞質内で、リボソームと呼ばれる翻訳機構の複合体がmRNAに結合し、コードされた遺伝情報をmRNAに沿ってスキャンして、タンパク質合成を行う[Biochemistry vol 41, 4503-4510 (2002); Cancer Res. vol 48, 2659-2668 (1988)]。
【0011】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO):DNA、mRNAおよびプレmRNAを含む核酸に配列特異的な様式で(すなわち、相補的に)結合するオリゴヌクレオチドは、アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)と呼ばれる。
【0012】
例えば、細胞質内でASOがmRNAに緊密に結合すると、ASOはmRNAに沿ってのリボソームタンパク質合成を阻害することができるであろう。ASOは、その標的タンパク質のリボソームタンパク質合成を阻害するために細胞質内に存在する必要がある。
【0013】
スプライシングのアンチセンス阻害:核内でASOがプレmRNAに緊密に結合すると、ASOはプレmRNAのmRNAへのスプライシングを阻害または調節することができるであろう。ASOは、プレmRNAのmRNAへのスプライシングを阻害または調節するために核内に存在する必要がある。そのようなスプライシングのアンチセンス阻害は、ASOが標的とするエキソンを欠いたmRNAを生成する。そのようなmRNAは「スプライスバリアント」と呼ばれ、全長mRNAによってコードされるタンパク質よりも小さいタンパク質をコードする。
【0014】
原理的には、「スプライセオソームE複合体」の形成を阻害することにより、スプライシングを中断することができる。ASOが(5'→3')エキソン-イントロンの接合部、すなわち「5'スプライス部位」に緊密に結合すると、ASOはプレmRNAとU1因子との間の複合体形成を阻止し、したがって「スプライセオソームE複合体」の形成を阻止する。同様に、ASOが(5'→3')イントロン-エキソンの接合部、すなわち「3'スプライス部位」に緊密に結合すると、「スプライセオソームE複合体」は形成され得ない。
【0015】
3'スプライス部位および5'スプライス部位の概略を、
図1cに示す。
【0016】
非天然オリゴヌクレオチド:DNAまたはRNAオリゴヌクレオチドは、内因性ヌクレアーゼによる分解を受けやすく、治療的有用性が制限される。今日までに、多くの種類の非天然(天然に存在しない)オリゴヌクレオチドが開発され、集中的に研究されてきた[Clin. Exp. Pharmacol. Physiol. vol 33, 533-540 (2006)]。それらのいくつかは、DNAおよびRNAと比較して長期の代謝安定性を示す。代表的な非天然オリゴヌクレオチドのいくつかの化学構造を
図2aに提供する。このようなオリゴヌクレオチドは、予想通り、DNAまたはRNAと同様に相補的核酸に結合する。
【0017】
ホスホロチオエートオリゴヌクレオチド:ホスホロチオエートオリゴヌクレオチド(PTO)は、モノマー1個あたり骨格のホスフェート酸素原子の1つが硫黄原子で置き換えられたDNA類縁体である。このような小さい構造変化により、PTOはヌクレアーゼによる分解に比較的抵抗性となった[Ann. Rev. Biochem. vol 54, 367-402 (1985)]。
【0018】
PTOとDNAの骨格の構造的類似性を反映して、これらはいずれもほとんどの哺乳動物細胞型において細胞膜透過性が乏しい。しかし、DNAの輸送体を大量に発現する一部の細胞に対して、DNAおよびPTOが良好な細胞透過性を示すこともある。全身投与されたPTOは、肝臓および腎臓に分布しやすいことが公知である[Nucleic Acids Res. vol 25, 3290-3296 (1997)]。
【0019】
インビトロでのPTOの細胞透過を促進するために、リポフェクションが一般的に実施されている。しかし、リポフェクションは細胞膜を物理的に変化させ、細胞毒性を引き起こし、したがって、長期間のインビボでの治療的使用には理想的ではないであろう。
【0020】
過去30年にわたり、アンチセンスPTOおよびPTOのバリアントは、癌、免疫障害、代謝疾患などを処置するために臨床評価されてきた[Biochemistry vol 41, 4503-4510 (2002); Clin. Exp. Pharmacol. Physiol. vol 33, 533-540 (2006)]。このようなアンチセンス薬物候補の多くは、一部にはPTOの細胞透過性が悪いためにうまく開発されてこなかった。細胞透過性不良を克服するために、PTOは治療活性のために高用量で投与する必要がある。しかし、PTOは、凝固時間の増大、補体活性化、尿細管性腎症、クッパー細胞活性化、および免疫刺激、例えば脾腫、リンパ組織過形成、単核細胞浸潤を含む、用量制限毒性と関連することが公知である[Clin. Exp. Pharmacol. Physiol. vol 33, 533-540 (2006)]。
【0021】
多くのアンチセンスPTOは、肝臓または腎臓が著しく寄与する疾患に対し、相応の臨床活性を示すことが判明している。ミポメルセンは、LDLコレステロール輸送に関与するタンパク質であるapoB-100の合成を阻害するPTO類縁体である。ミポメルセンは、おそらくは肝臓への優先的な分布により、アテローム性動脈硬化症患者において相応の臨床活性を示した[Circulation vol 118(7), 743-753 (2008)]。ISIS-113715は、タンパク質チロシンホスファターゼ1B(PTP1B)の合成を阻害するPTOアンチセンス類縁体であり、II型糖尿病患者において治療活性を示すことが判明した。[Curr. Opin. Mol. Ther. vol 6, 331-336 (2004)]。
【0022】
ロックド核酸:ロックド核酸(LNA)では、RNAの骨格リボース環は、構造的に制約されて、RNAまたはDNAに対する結合親和性を増大させる。したがって、LNAは、高親和性DNAまたはRNA類縁体であるとみなされ得る[Biochemistry vol 45, 7347-7355 (2006)]。
【0023】
ホスホロジアミデートモルホリノオリゴヌクレオチド:ホスホロジアミデートモルホリノオリゴヌクレオチド(PMO)では、DNAの骨格ホスフェートおよび2-デオキシリボースがそれぞれホスホロアミデートおよびモルホリンで置き換えられている[Appl. Microbiol. Biotechnol. vol 71, 575-586 (2006)]。DNA骨格は負に帯電しているが、PMO骨格は帯電していない。したがって、PMOとmRNAとの間の結合には骨格間の静電反発がなく、DNAとmRNAとの間の結合よりも強い傾向がある。PMOはDNAとは構造的に大きく異なるため、PMOはDNAを認識する肝輸送体によって認識されない。PMOはPTOとは異なる組織分布を示し得るが、PMOは、PTOと同様に、細胞膜を容易に透過しない。
【0024】
ペプチド核酸:ペプチド核酸(PNA)は、単位骨格としてN-(2-アミノエチル)グリシンを有するポリペプチドであり、Dr. Nielsenらによって発見された[Science vol 254, 1497-1500 (1991)]。PNAの化学構造および略記を
図2bに示す。DNAおよびRNAと同様に、PNAも相補的核酸に選択的に結合する[Nature (London) vol 365, 566-568 (1992)]。相補的核酸と結合する際に、PNAのN末端はDNAまたはRNAの「5'末端」と等価とみなされ、PNAのC末端はDNAまたはRNAの「3'末端」と等価とみなされる。
【0025】
PMOと同様に、PNA骨格は帯電していない。したがって、PNAとRNAとの間の結合はDNAとRNAとの間の結合よりも強い傾向がある。PNAはDNAとは化学構造が著しく異なるため、PNAはDNAを認識する肝輸送体によって認識されず、DNAまたはPTOとは異なる組織分布特性を示すであろう。しかし、PNAも哺乳動物細胞膜の透過性が悪い[Adv. Drug Delivery Rev. vol 55, 267-280 (2003)]。
【0026】
PNAの膜透過性を改善するための修飾核酸塩基:PNAは、カチオン性脂質またはその等価物が共有結合した修飾核酸塩基を導入することによって、哺乳動物細胞膜に対し高度に透過性となった。このような修飾核酸塩基の化学構造を
図2cに示す。このようなシトシン、アデニン、およびグアニンの修飾核酸塩基は予想どおり、それぞれグアニン、チミン、およびシトシンと相補的にハイブリダイズすることが判明した[PCT出願番号PCT/KR2009/001256;EP2268607;US8680253]。
【0027】
PNA上へのこのような修飾核酸塩基の組み込みは、リポフェクションの場合と似ている。リポフェクションにより、リン酸骨格を有するオリゴヌクレオチド分子はリポフェクタミンなどのカチオン性脂質分子で包まれ、そのようなリポフェクタミン/オリゴヌクレオチド複合体は裸のオリゴヌクレオチド分子と比べて容易に膜を透過する傾向がある。
【0028】
良好な膜透過性に加えて、これらのPNA誘導体は相補的核酸に対して非常に強い親和性を有することが判明した。例えば、11~13mer PNA誘導体上に4~5個の修飾核酸塩基を導入すると、相補的DNAとの二本鎖形成において容易に20℃以上のTm値上昇が得られる。さらに、このようなPNA誘導体は、単一塩基ミスマッチに対して非常に感受性が高い。単一塩基ミスマッチは、修飾塩基の種類およびPNA配列に応じて11~22℃のTm低下をきたした。
【0029】
低分子干渉RNA(siRNA):低分子干渉RNA(siRNA)は、20~25塩基対の二本鎖RNAを指す[Microbiol. Mol. Biol. Rev. vol 67(4), 657-685 (2003)]。siRNAのアンチセンス鎖は、タンパク質と何らかの形で相互作用して「RNA誘導サイレンシング複合体」(RISC)を形成する。次いで、RISCは、siRNAのアンチセンス鎖と相補的なmRNAの一定の部分に結合する。RISCと複合体形成したmRNAは切断を受ける。したがって、siRNAは、その標的mRNAの切断を触媒的に誘導し、その結果、mRNAによるタンパク質発現を阻害する。RISCは、その標的mRNA内の完全な相補的配列に必ずしも結合するとは限らず、これはsiRNA療法のオフターゲット効果に関する懸念を引き起こす。DNAまたはRNA骨格を有するオリゴヌクレオチドの他のクラスと同様に、siRNAは細胞透過性が低く、したがって良好な膜透過性を有するように適切に製剤化または化学修飾しない限り、インビトロまたはインビボでの治療活性が低くなる傾向にある。
【0030】
MLPH siRNA:MLPH mRNAを標的とする21mer siRNAは、20μMでメラン-a細胞中のMLPHタンパク質の発現を阻害し、メラノソーム輸送を抑制し、メラノソームの凝集を増強することが報告された[Appl. Biochem. Biotechnol. Vol 172, 1882-1897 (2014)]。これらの結果は、メラノフィリン発現に関連する材料の開発に有用であり得る。
【発明の概要】
【0031】
発明の開示
解決しようとする課題
メラニン生合成の様々なメカニズムに基づく様々な美白製品が開発されているが、安全性、機能性、および仕様、ならびに分析法に関していくつかの議論があり、製品のいくつかは有害であると疑われている。したがって、メラニン生合成に関連しないメカニズムに基づく製品を開発し、有効性および安全性を確保する必要がある。過剰な皮膚色素沈着に対する化粧品または薬剤のためにメラノフィリン発現のメカニズムに基づく製品を開発することは非常に興味深く、かつ必要で、その有効性および安全性が期待される。
【0032】
課題を解決するための手段
本発明は、式Iで表されるペプチド核酸(PNA)誘導体、またはその薬学的に許容される塩を提供する:
式中、
nは10~21の整数であり;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAにおける
の30merプレmRNA配列と少なくとも10merの相補的重複を有し;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAに対して完全に相補的であるか、またはヒトMLPHプレmRNAに対して1もしくは2個のミスマッチで部分的に相補的であり;
S
1、S
2、・・・、S
n-1、S
n、T
1、T
2、・・・、T
n-1、およびT
nは独立に、ヒドリド(-H)、デューテリド、置換もしくは無置換アルキル、または置換もしくは無置換アリール基を表し;
XおよびYは独立に、ヒドリド、デューテリド、ホルミル[H-C(=O)-]、アミノカルボニル[NH
2-C(=O)-]、アミノチオカルボニル[NH
2-C(=S)-]、置換もしくは無置換アルキル、置換もしくは無置換アリール、置換もしくは無置換アルキルオキシ、置換もしくは無置換アリールオキシ、置換もしくは無置換アルキルアシル、置換もしくは無置換アリールアシル、置換もしくは無置換アルキルオキシカルボニル、置換もしくは無置換アリールオキシカルボニル、置換もしくは無置換アルキルアミノカルボニル、置換もしくは無置換アリールアミノカルボニル、置換もしくは無置換アルキルアミノチオカルボニル、置換もしくは無置換アリールアミノチオカルボニル、置換もしくは無置換アルキルオキシチオカルボニル、置換もしくは無置換アリールオキシチオカルボニル、置換もしくは無置換アルキルスルホニル、置換もしくは無置換アリールスルホニル、置換もしくは無置換アルキルホスホニル、または置換もしくは無置換アリールホスホニル基を表し;
Zはヒドリド、デューテリド、ヒドロキシ、置換もしくは無置換アルキルオキシ、置換もしくは無置換アリールオキシ、置換もしくは無置換アミノ、置換もしくは無置換アルキル、または置換もしくは無置換アリール基を表し;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nは独立に、アデニン、チミン、グアニン、シトシンおよびウラシルを含む天然核酸塩基、ならびに非天然核酸塩基から選択され;かつ
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nのうちの少なくとも4つは独立に、核酸塩基部分に共有結合した置換または無置換アミノ基を有する非天然核酸塩基から選択される。
【0033】
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAにおいて「エキソン2」のスキッピングを誘導し、「エキソン2」を欠くヒトMLPH mRNAスプライスバリアントを生じ、メラノフィリンタンパク質の活性に関連する過剰な皮膚色素沈着に対する化粧品または薬剤に有用である。
【0034】
「nが10~21の整数である」状態は文字通り、nが11、12、13、14、15、16、17、18、19、および20の整数の群から選択可能な整数であることを意味する。
【0035】
式Iの化合物は、ヒトMLPH DNA[NCBI Reference Sequence: NG_007286]由来のヒトMLPHプレmRNAの「イントロン1」および「エキソン2」の3'スプライス部位に相補的に結合する。
の30mer配列は、ヒトMLPHプレmRNAの15mer「イントロン1」および15mer「エキソン2」の3'スプライス部位にまたがる。したがって、30merプレmRNA配列は、慣習的に
と表示してもよく、ここでイントロンおよびエキソン配列はそれぞれ「小文字」および「大文字」で提供し、「イントロン1」と「エキソン2」との接合部は「|」で表す。
【0036】
式IのPNA誘導体中の天然または非天然核酸塩基の化学構造を、
図3に例示する。本発明の天然(すなわち自然発生の)または非天然(自然に発生しない)核酸塩基は、
図3に提供する核酸塩基を含むが、これらに限定されない。このような非天然核酸塩基の提供は、許容される核酸塩基の多様性を例示するためであり、したがって本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0037】
式IのPNA誘導体を記載するために採用された置換基を、
図4a~4eに例示する。
図4aは、置換または無置換アルキル基の例を提供する。置換または無置換アルキルアシルおよび置換または無置換アリールアシル基を
図4bに例示する。
図4cは、置換または無置換アルキルアミノ、置換または無置換アリールアミノ、置換または無置換アリール、置換または無置換アルキルスルホニルまたはアリールスルホニル、および置換または無置換アルキルホスホニルまたはアリールホスホニル基の例を示す。
図4dは、置換または無置換アルキルオキシカルボニルまたはアリールオキシカルボニル、置換または無置換アルキルアミノカルボニルまたはアリールアミノカルボニル基の例を提供する。
図4eでは、置換または無置換アルキルアミノチオカルボニル、置換または無置換アリールアミノチオカルボニル、置換または無置換アルキルオキシチオカルボニル、および置換または無置換アリールオキシチオカルボニル基の例を提供する。このような例示的置換基の提供は、許容される置換基の多様性を例示するためであり、したがって本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。当業者であれば、オリゴヌクレオチド配列は、N末端またはC末端の置換基よりも、標的プレmRNA配列へのオリゴヌクレオチドの配列特異的結合の優先因子であることを容易に理解するであろう。
【0038】
式Iの化合物は、先行技術[PCT/KR2009/001256]に例示するとおり、相補的DNAに緊密に結合する。式IのPNA誘導体とその全長相補的DNAまたはRNAとの間の二本鎖のTm値は高すぎて水性緩衝液中で確実に決定することができない。式IのPNA化合物は、長さが短い相補的DNAと高いTm値を生じる。
【0039】
式Iの化合物は、ヒトMLPH遺伝子から転写されたヒトMLPHプレmRNAの標的3'スプライス部位に緊密に結合し、「スプライセオソーム初期複合体」の形成を妨害して、「エキソン2」を欠く(エキソン2スキッピング)MLPH mRNAスプライスバリアントを生じる。
【0040】
強力なRNA親和性により、式Iの化合物は、PNA誘導体がMLPHプレmRNA内の標的3'スプライス部位と1つまたは2つのミスマッチを有する場合でも、MLPH「エキソン2」のスキッピングを誘導することが可能となる。同様に、式IのPNA誘導体は、標的スプライス部位に1つまたは2つのSNP(一塩基多型)を有するMLPH変異型プレmRNAにおいても、MLPH「エキソン2」のスキッピングを誘導し得る。
【0041】
式Iの化合物は良好な細胞透過性を有し、先行技術[PCT/KR2009/001256]に例示するとおり、「裸」のオリゴヌクレオチドとして細胞内に容易に送達することができる。したがって、本発明の化合物は、ヒトMLPHプレmRNA内で「エキソン2」のスキッピングを誘導し、「裸」のオリゴヌクレオチドとしての式Iの化合物で処理した細胞において、MLPH「エキソン2」を欠くヒトMLPH mRNAスプライスバリアントを生じる。式Iの化合物は、細胞内の標的エキソンのスキッピングを強力に誘導するために、細胞内に送達するためのいかなる手段または製剤化も必要としない。式Iの化合物は、「裸」のオリゴヌクレオチドとしての本発明の化合物によりフェムトモル以下の濃度で処理した細胞のヒトMLPH プレmRNAにおいて、「エキソン2」のスキッピングを容易に誘導する。
【0042】
良好な細胞または膜透過性により、式IのPNA誘導体を「裸」のオリゴヌクレオチドとして局所投与して、皮膚においてMLPH「エキソン2」のスキッピングを誘導することができる。式Iの化合物は、意図する治療または生物活性のために標的組織への経皮送達を増大させるための製剤化を必要としない。通常、式Iの化合物は、水および共溶媒に溶解し、ピコモル以下の濃度で局所または経皮投与して、標的皮膚において所望の治療または生物活性を誘発する。本発明の化合物は、局所治療活性を誘発するために、大量にまたは侵襲的に製剤化する必要はない。それにもかかわらず、式IのPNA誘導体は、局所クリームまたはローションとして化粧用成分または補助剤と共に製剤化することができる。このような局所化粧用クリームまたはローションは、皮膚色素沈着を改善するのに有用であり得る。
【0043】
本発明の式Iの化合物は、1aMから1nMを超えるまでの範囲の治療的または生物学的に有効な濃度で、対象に局所投与することができ、これは投与スケジュール、対象の状態または状況などに応じて変動し得る。
【0044】
式Iの化合物(PNA誘導体)は、注射剤、鼻スプレー、経皮パッチなどを含むが、それらに限定されない、様々な製剤にすることができる。加えて、式IのPNA誘導体は、治療的有効な用量で対象に投与することができ、投与量は、適応症、投与経路、投与スケジュール、対象の状態または状況などに応じて多様化し得る。
【0045】
式Iの化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、塩酸、メタンスルホン酸、クエン酸、トリフルオロ酢酸などを含むが、それらに限定されない、薬学的に許容される酸または塩基と組み合わせて用いてもよい。
【0046】
式IのPNA誘導体またはその薬学的に許容される塩は、クエン酸、塩酸、酒石酸、ステアリン酸、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エタノール、イソプロパノール、炭酸水素ナトリウム、蒸留水、保存剤などを含むが、それらに限定されない、薬学的に許容される補助剤との組み合わせで、対象に投与することができる。
【0047】
興味深いのは、式IのPNA誘導体、またはその薬学的に許容される塩である:
式中、
nは10~21の整数であり;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAにおける
の30merプレmRNA配列と少なくとも10merの相補的重複を有し;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAに対して完全に相補的であるか、またはヒトMLPHプレmRNAに対して1もしくは2個のミスマッチで部分的に相補的であり;
S
1、S
2、・・・、S
n-1、S
n、T
1、T
2、・・・、T
n-1、およびT
nは独立に、ヒドリド、デューテリド基を表し;
XおよびYは独立に、ヒドリド、デューテリド、ホルミル、アミノカルボニル、アミノチオカルボニル、置換もしくは無置換アルキル、置換もしくは無置換アリール、置換もしくは無置換アルキルオキシ、置換もしくは無置換アリールオキシ、置換もしくは無置換アルキルアシル、置換もしくは無置換アリールアシル、置換もしくは無置換アルキルオキシカルボニル、置換もしくは無置換アリールオキシカルボニル、置換もしくは無置換アルキルアミノカルボニル、置換もしくは無置換アリールアミノカルボニル、置換もしくは無置換アルキルアミノチオカルボニル、置換もしくは無置換アリールアミノチオカルボニル、置換もしくは無置換アルキルオキシチオカルボニル、置換もしくは無置換アリールオキシチオカルボニル、置換もしくは無置換アルキルスルホニル、置換もしくは無置換アリールスルホニル、置換もしくは無置換アルキルホスホニル、または置換もしくは無置換アリールホスホニル基を表し;
Zはヒドリド、ヒドロキシ、置換もしくは無置換アルキルオキシ、置換もしくは無置換アリールオキシ、または置換もしくは無置換アミノ基を表し;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nは独立に、アデニン、チミン、グアニン、シトシンおよびウラシルを含む天然核酸塩基、ならびに非天然核酸塩基から選択され;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nのうちの少なくとも4つは独立に、式II、式III、または式IVで表される非天然核酸塩基から選択され:
式中、
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は独立に、ヒドリドおよび置換または無置換アルキル基から選択され;
L
1、L
2およびL
3は、塩基性アミノ基を核酸塩基部分に共有結合する、式Vで表される共有結合リンカーであり:
式中、
Q
1およびQ
mは置換または無置換メチレン基[-CH
2-、-CH(置換基)-、-CH(置換基)
2-]であり、かつQ
mは塩基性アミノ基に直接連結されており;
Q
2、Q
3、・・・、およびQ
m-1は独立に、置換または無置換メチレン、酸素(-O-)、硫黄(-S-)、および置換または無置換アミノ基[-N(H)-、または-N(置換基)-]から選択され;かつ、
mは1~15の整数である。
【0048】
非常に興味深いのは、式IのPNAオリゴマー、またはその薬学的に許容される塩である:
式中、
nは11~19の整数であり;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAにおける
の30merプレmRNA配列と少なくとも10merの相補的重複を有し;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAに対して完全に相補的であり;
S
1、S
2、・・・、S
n-1、S
n、T
1、T
2、・・・、T
n-1、およびT
nはヒドリド基であり;
XおよびYは独立に、ヒドリド、置換もしくは無置換アルキルアシル、または置換もしくは無置換アルキルオキシカルボニル基を表し;
Zは置換または無置換アミノ基を表し;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nは独立に、アデニン、チミン、グアニン、シトシンおよびウラシルを含む天然核酸塩基、ならびに非天然核酸塩基から選択され;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nのうちの少なくとも5つは独立に、式II、式III、または式IVで表される非天然核酸塩基から選択され:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6はヒドリド基であり;
Q
1およびQ
mはメチレン基であり、かつQ
mは塩基性アミノ基に直接連結されており;
Q
2、Q
3、・・・、およびQ
m-1は独立に、メチレンおよび酸素基から選択され;かつ、
mは1~9の整数である。
【0049】
さらに非常に興味深いのは、式IのPNA誘導体、またはその薬学的に許容される塩である:
式中、
nは11~19の整数であり;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAにおける
の30merプレmRNA配列と少なくとも10merの相補的重複を有し;
式Iの化合物は、ヒトMLPHプレmRNAに対して完全に相補的であり;
S
1、S
2、・・・、S
n-1、S
n、T
1、T
2、・・・、T
n-1、およびT
nはヒドリド基であり;
Xはヒドリド基であり;
Yは置換または無置換アルキルオキシカルボニル基を表し;
Zは置換または無置換アミノ基を表し;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nは独立に、アデニン、チミン、グアニン、シトシンおよびウラシルを含む天然核酸塩基、ならびに非天然核酸塩基から選択され;
B
1、B
2、・・・、B
n-1、およびB
nのうちの少なくとも5つは独立に、式II、式III、または式IVで表される非天然核酸塩基から選択され:
R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6はヒドリド基であり;
L
1は-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-、-CH
2-O-(CH
2)
2-、-CH
2-O-(CH
2)
3-、-CH
2-O-(CH
2)
4-、または-CH
2-O-(CH
2)
5-を表し;かつ、
L
2およびL
3は独立に、-(CH
2)
2-O-(CH
2)
2-、-(CH
2)
3-O-(CH
2)
2-、-(CH
2)
2-O-(CH
2)
3-、-(CH
2)
2-、-(CH
2)
3-、-(CH
2)
4-、-(CH
2)
5-、-(CH
2)
6-、-(CH
2)
7-、および-(CH
2)
8-から選択される。
【0050】
特に興味深いのは、以下に示す化合物の群から選択される本発明のPNA誘導体(以下、それぞれASO 1、6、7、および8と呼ぶ)、またはその薬学的に許容される塩である:
ここで、
A、T、G、およびCは、それぞれアデニン、チミン、グアニンおよびシトシンの天然核酸塩基を有するPNAモノマーであり;
C(pOq)、A(p)、およびG(p)は、それぞれ式VI、式VII、および式VIIIで表される非天然核酸塩基を有するPNAモノマーであり;
式中、
pおよびqは整数であり、例えば、ASO 1の場合、pは1、5、または6であり、かつqは2であり;かつ
「Fethoc-」は「[2-(9-フルオレニル)エチル-1-オキシ]カルボニル」の略記であり、かつ「-NH
2」は無置換「-アミノ」基の略記である。
【0051】
図5は、A、G、T、C、C(pOq)、A(p)、A(pOq)、G(p)、およびG(pOq)と略記したPNAモノマーの化学構造をまとめて明確に提供する。先行技術[PCT/KR2009/001256]において論じるとおり、C(pOq)は「グアニン」に対するそのハイブリダイゼーションにより、「修飾シトシン」PNAモノマーとみなされる。A(p)は「チミン」に対するそのハイブリダイゼーションにより、「修飾アデニン」PNAモノマーとみなされ、G(p)は「シトシン」に対するそのハイブリダイゼーションにより、「修飾グアニン」PNAモノマーとみなされる。加えて、このようなPNA誘導体に対して使用される略記を例示するために、14mer ASO 1
の化学構造を
図6に明確に示す。
【0052】
ASO 1は、プレmRNAへの相補的結合について
のDNA配列と等価である。14mer PNAは、ヒトMLPHプレmRNAにおける「イントロン1」と「エキソン2」との接合部にまたがる
の「太字」および「下線付き」でマークされたRNA配列と、14merの相補的重複を有する。
【0053】
いくつかの態様において、本発明は、対象のヒトMLPH遺伝子転写に関連する疾患または状態を処置する方法であって、対象に本発明のペプチド核酸誘導体またはその薬学的に許容される塩を投与する段階を含む方法を提供する。
【0054】
いくつかの態様において、本発明は、対象の皮膚色素沈着を処置する方法であって、対象に本発明のペプチド核酸誘導体またはその薬学的に許容される塩を投与する段階を含む方法を提供する。
【0055】
いくつかの態様において、本発明は、ヒトMLPH遺伝子転写に関連する疾患または状態を処置するための薬学的組成物であって、本発明のペプチド核酸誘導体またはその薬学的に許容される塩を含む薬学的組成物を提供する。
【0056】
いくつかの態様において、本発明は、ヒトMLPH遺伝子転写に関連する疾患または状態を処置するための化粧用組成物であって、本発明のペプチド核酸誘導体またはその薬学的に許容される塩を含む化粧用組成物を提供する。
【0057】
いくつかの態様において、本発明は、皮膚色素沈着を処置するための薬学的組成物であって、本発明のペプチド核酸誘導体またはその薬学的に許容される塩を含む薬学的組成物を提供する。
【0058】
いくつかの態様において、本発明は、皮膚色素沈着を処置するための化粧用組成物であって、本発明のペプチド核酸誘導体またはその薬学的に許容される塩を含む化粧用組成物を提供する。
【0059】
発明の効果
ヒトMLPH遺伝子転写に関連する疾患または状態は、式IのPNA誘導体またはその薬学的に許容される塩を投与することによって処置することができる。
【0060】
過剰な皮膚色素沈着は、式IのPNA誘導体またはその薬学的に許容される塩を投与することによって処置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1b】イントロンNの除去のためのスプライシング工程の概略図である。
【
図1c】スプライセオソームE複合体の3'スプライス部位および5'スプライス部位の概略図である。
【
図2a】DNAおよび代表的な非天然オリゴヌクレオチドの化学構造である。
【
図2b】プロトタイプPNAの化学構造および略式命名法である。
【
図2c】PNAの膜浸透性を改善するために開発された修飾核酸塩基である。
【
図3a】式Iのペプチド核酸誘導体のために選択可能な天然または非天然(修飾)核酸塩基の例である。
【
図3b】式Iのペプチド核酸誘導体のために選択可能な天然または非天然(修飾)核酸塩基の例である。
【
図3c】式Iのペプチド核酸誘導体のために選択可能な天然または非天然(修飾)核酸塩基の例である。
【
図4a】式Iのペプチド核酸誘導体のために選択可能な置換基、置換または無置換アルキルの例である。
【
図4b】式Iのペプチド核酸誘導体のために選択可能な置換基、置換または無置換アルキルアシル、および置換または無置換アリールアシルの例である。
【
図4c】式Iのペプチド核酸誘導体のために選択可能な置換基、置換アルキルアミノ、置換アリールアミノ、置換または無置換アリール、置換または無置換アルキルスルホニル、置換または無置換アリールスルホニル、置換または無置換アルキルホスホニル、および置換または無置換アリールスルホニルの例である。
【
図4d】式Iのペプチド核酸誘導体のために選択可能な置換基、置換または無置換アルキルオキシカルボニルおよび置換または無置換アリールオキシカルボニル、置換または無置換アルキルアミノカルボニル、および置換または無置換アリールアミノカルボニルの例である。
【
図4e】式Iのペプチド核酸誘導体のために選択可能な置換基、置換または無置換アルキルオキシチオカルボニルおよび置換または無置換アルキルアミノチオカルボニル、置換または無置換アリールアミノチオカルボニル、および置換または無置換アリーオキシチオカルボニルの例である。
【
図5】略記したPNAモノマー、A、G、T、C、C(pOq)、A(p)、A(pOq)、G(p)、およびG(pOq)の化学構造である。
【
図6】略記した14mer「(N→C) Fethoc-GG(5)T-CA(6)C-A(6)C(1O2)C-TG(5)G-A(6)A-NH
2」の化学構造である。
【
図7】本発明のPNA誘導体を合成するために用いたFmoc-PNAモノマーの化学構造である。
【
図8】本発明のSPPSで採用した典型的なモノマー伸長サイクルの概略図である。
【
図9a】HPLC精製前の「ASO 2」のC
18-逆相HPLCクロマトグラムである。
【
図9b】HPLC精製後の「ASO 2」のC
18-逆相HPLCクロマトグラムである。
【
図10】HPLC精製後の「ASO 2」で得たES-TOF質量スペクトルデータである。
【
図11a】「ASO 2」で処理した黒色腫メラン-aにおけるリアルタイムqPCRデータである。
【
図11b】「ASO 3」で処理した黒色腫メラン-aにおけるリアルタイムqPCRデータである。
【
図11c】「ASO 4」で処理した黒色腫メラン-aにおけるリアルタイムqPCRデータである。
【
図11d】「ASO 5」で処理した黒色腫メラン-aにおけるリアルタイムqPCRデータである。
【
図12a】「ASO 3」で処理した黒色腫メラン-aにおける電気泳動分析データである。
【
図12b】「ASO 4」で処理した黒色腫メラン-aにおける電気泳動分析データである。
【
図12c】「ASO 5」で処理した黒色腫メラン-aにおける電気泳動分析データである。
【
図13a】「ASO 2」で処理した黒色腫メラン-aにおけるウエスタンブロットデータである。
【
図13b】「ASO 3」で処理した黒色腫メラン-aにおけるウエスタンブロットデータである。
【
図13c】「ASO 4」で処理した黒色腫メラン-aにおけるウエスタンブロットデータである。
【
図13d】「ASO 5」で処理した黒色腫メラン-aにおけるウエスタンブロットデータである。
【
図14a】siRNAおよびASOで処理した黒色腫メラン-aにおけるメラノソーム凝集レベル評価のための顕微鏡デジタル画像である。
【
図14b】定量したメラノソーム凝集レベルである。
【
図15】「ASO 1」で処理したヒトメラニン形成細胞におけるリアルタイムqPCRデータである。
【
図16】「ASO 1」で処理したヒトメラニン形成細胞におけるウエスタンブロットデータである。
【
図17】「ASO 1」で処理したヒトメラニン形成細胞におけるメラノソーム凝集レベル評価のための顕微鏡デジタル画像および相対メラノソーム凝集レベルである。
【
図18】「ASO 1」で処理したヒトメラニン形成細胞における相対生存率である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
発明を実施するための最良の形態
PNAオリゴマーの調製のための一般手順
修飾核酸塩基を有するPNAモノマーは、先行技術[PCT/KR 2009/001256]に記載のとおり、またはわずかな改変を伴って合成した。本発明のPNA誘導体を合成するために用いたFmoc-PNAの化学構造を
図7に提示する。
図7のFmoc-PNA[Fmoc={(9-フルオレニル)メトキシ}カルボニル]モノマーは例と考えるべきであり、したがって本発明の範囲を限定すると考えるべきではない。そのような修飾核酸塩基を有するFmoc-PNAモノマーおよび天然核酸塩基を有するFmoc-PNAモノマーを用いて、先行技術[US6,133,444;WO96/40685]で開示した方法に従い、わずかであるが相応の改変を伴って、Fmoc化学に基づく
図8に示す固相ペプチド合成(SPPS)により、PNAオリゴマーを合成した。本研究で用いた固体支持体は、PCAS BioMatrix Inc. (Quebec, Canada)から購入したH-Rink Amide-ChemMatrix樹脂であった。PNAオリゴマーは、C
18逆相HPLC(0.1%TFAを含む水/アセトニトリルまたは水/メタノール)により精製し、ESI/TOF/MSを含む質量分析によって特徴付けた。
図9aおよび9bはそれぞれ、HPLC精製前および精製後の「ASO 2」の例示的HPLCクロマトグラムである。
図10は、HPLC精製後の「ASO 2」のESI/TOF/MSスペクトルで、これらはオリゴマーの例と考えるべきであり、したがって本発明の範囲を限定すると考えるべきではない。
【0063】
図8は、本発明のSPPSで採用した典型的なモノマー伸長サイクルを例示し、各反応段階を以下のとおりに簡単に提示する。
【0064】
[H-Rink-ChemMatrix Resinの活性化]樹脂上のアミンがFmocで保護されていない場合、20%ピペリジン/DMF 1.5mL中のChemMatrix樹脂0.01mmol(樹脂約20mg)をライブラチューブ中で20分間ボルテックス処理し、脱Fmoc溶液をろ過した。樹脂を、塩化メチレン(MC)1.5mL、ジメチルホルムアミド(DMF)1.5mL、MC 1.5mL、DMF 1.5mL、およびMC 1.5mLでそれぞれ30秒間連続して洗浄した。固体支持体上の得られた遊離アミンをFmoc-PNAモノマーとのカップリングに供した。
【0065】
[脱Fmoc]樹脂上のアミンがFmocで保護されている場合、20%ピペリジン/DMF 1.5mL中の樹脂0.01mmol(約20mg)を7分間ボルテックス処理し、脱Fmoc溶液をろ過した。樹脂を、MC 1.5mL、DMF 1.5mL、MC 1.5mL、DMF 1.5mL、およびMC 1.5mLでそれぞれ30秒間連続して洗浄した。固体支持体上の得られた遊離アミンをただちにFmoc-PNAモノマーとのカップリングに供した。
【0066】
[Fmoc-PNAモノマーとのカップリング]固体支持体上の遊離アミンをFmoc-PNAモノマーと、以下のとおりにカップリングさせた。PNAモノマー0.04mmol、HATU 0.05mmol、およびDIEA 0.1mmolを無水DMF 1mL中で2分間インキュベートし、遊離アミンを有する樹脂に加えた。樹脂溶液を1時間ボルテックス処理し、反応媒質をろ過した。次いで、樹脂を、MC 1.5mL、DMF 1.5mL、およびMC 1.5mLでそれぞれ30秒間連続して洗浄した。
【0067】
[キャッピング]カップリング反応の後、未反応の遊離アミンをキャッピング溶液1.5mL(DMF中5%無水酢酸および6%2,6-ロイチジン(2,6-leutidine))中で5分間振盪してキャッピングした。次いで、キャッピング溶液をろ過し、MC 1.5mL、DMF 1.5mL、およびMC 1.5mLでそれぞれ30秒間連続して洗浄した。
【0068】
[N末端における「Fethoc」基の導入]「Fethoc」基を、以下の方法により、樹脂上の遊離アミンを「Fethoc-OSu」と反応させることによりN末端に導入した。無水DMF 1mL中Fethoc-OSu 0.1mmolおよびDIEA 0.1mmolの溶液中の樹脂の懸濁液を1時間ボルテックス処理し、溶液をろ過した。樹脂をMC 1.5mL、DMF 1.5mL、およびMC 1.5mLでそれぞれ30秒間連続して洗浄した。本発明において使用する「Fethoc-OSu」[CAS No. 179337-69-0、C
20H
17NO
5、MW 351.36]の化学構造を以下に示す。
【0069】
[樹脂からの切断]樹脂に結合したPNAオリゴマーを、切断溶液(トリフルオロ酢酸中2.5%トリイソプロピルシランおよび2.5%水)1.5mL中で3時間振盪することにより樹脂から切断した。樹脂をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮した。逆相HPLCによる精製のために、得られた残渣をジエチルエーテルで粉砕し、得られた沈殿をろ取した。
【0070】
[HPLC分析および精製]樹脂からの切断に続いて、PNA誘導体の粗生成物を、C
18逆相HPLCにより、0.1%TFAを含む水/アセトニトリルまたは水/メタノール(勾配法)を溶出させて精製した。
図6aおよび6bは、それぞれHPLC精製の前および後の「ASO 1」の例示的HPLCクロマトグラムである。
【0071】
式IのPNA誘導体の合成例
ヒトMLPHプレmRNAにおける「エキソン2」の3'スプライス部位を相補的に標的とするために、本発明のPNA誘導体を、前述の合成手順に従い、またはわずかな改変を伴って調製した。ヒトMLPHプレmRNAを標的とするこのようなPNA誘導体の提供は、式IのPNA誘導体を例示するためであり、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0072】
(表1)ヒトMLPHプレmRNAにおける「エキソン2」の3'スプライス部位を相補的に標的とするPNA誘導体および質量分析による構造的特徴付けデータ
a)理論上の精密質量、
b)観測された精密質量
【0073】
表1は、ヒトMLPH遺伝子[NCBI Reference Sequence: NG_007286]から読み出されたヒトMLPHプレmRNAにおける「エキソン2」の3'スプライス部位を相補的に標的とするPNA誘導体を、質量分析による構造的特徴付けデータと共に提供する。表1における本発明のペプチド核酸誘導体の提供は、式IのPNA誘導体を例示するためであり、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0074】
「ASO 1」は、ヒトMLPHプレmRNAにおける「イントロン1」と「エキソン2」との接合部にまたがる
の30merRNA配列内に「太字」および「下線付き」で記される14mer配列と、14merの相補的重複を有する。したがって、「ASO 1」は、ヒトMLPHプレmRNA内に「イントロン1」との6merの重複および「エキソン2」との8merの重複を有する。
【0075】
マウスMLPHプレmRNAを相補的に標的とするPNA誘導体の合成例
容易に入手可能なマウス由来メラン-aによる有効性評価を容易にするために、マウスMLPH遺伝子[NCBI Reference Sequence: NC_000067]から読み出されたマウスMLPHプレmRNAにおける「イントロン1」と「エキソン2」との接合部にまたがる3'スプライス部位を相補的に標的とする本発明のPNA誘導体を調製した。
の30mer配列は、マウスMLPHプレmRNAの15mer「イントロン1」および15mer「エキソン2」の3'スプライス部位にまたがる。したがって、30merプレmRNA配列は、慣習的に
と表示してもよく、ここでイントロンおよびエキソン配列はそれぞれ「小文字」および「大文字」で提供し、「イントロン1」と「エキソン2」との接合部は「|」で表す。
【0076】
マウスMLPHプレmRNAを標的とするそのようなPNA誘導体の提供は、式IのPNA誘導体を例示するためであり、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0077】
(表2)マウスMLPHプレmRNAにおける「エキソン2」の3'スプライス部位を相補的に標的とするPNA誘導体および質量分析による構造的特徴付けデータ
a)理論上の精密質量、
b)観測された精密質量
【0078】
表2は、マウスMLPH遺伝子から読み出されたマウスMLPHプレmRNAにおける「エキソン2」の3'スプライス部位を相補的に標的とするPNA誘導体を、質量分析による構造的特徴付けデータと共に提供する。表2における本発明のペプチド核酸誘導体の提供は、式IのPNA誘導体を例示するためであり、本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0079】
「ASO 3」は、マウスMLPHプレmRNAにおける「イントロン1」と「エキソン2」との接合部にまたがる以下の
のRNA配列内に「太字」および「下線付き」で記される配列と、17merの相補的重複を有する。したがって、「ASO 3」は、マウスMLPHプレmRNA内に「イントロン1」との6merの重複および「エキソン2」との11merの重複を有する。
【0080】
相補的DNAに対する「ASO」の結合親和性
式IのPNA誘導体を、N末端またはC末端のいずれかを相補的に標的とする10mer DNAに対するその結合親和性について評価した。結合親和性は、PNAと10mer相補的DNAとの間の二本鎖のTm値によって評価した。PNA誘導体と完全相補的DNAとの間の二本鎖が示すTm値は高すぎて、Tm測定中に緩衝溶液が沸騰する傾向があるため、水性緩衝溶液中では確実に決定することができない。全長PNAのTm値は、PNAと10mer相補的DNAとの間の二本鎖のTm値に基づいて予測および比較することができる。
【0081】
Tm値を、UV/Vis分光計で以下のとおりに決定した。320μLの50μM PNAオリゴマー、320μLの50μM相補的10mer DNA、および3.36mLの水性緩衝液(pH7.16、10mMリン酸ナトリウム、100mM NaCl)の混合溶液を、15mLポリプロピレンファルコンチューブ中、90℃で数分間インキュベートし、周囲温度までゆっくり冷却した。次いで、溶液を気密キャップを備えた3mL石英UVキュベットに移し、キュベットをAgilent 8453 UV/Visible分光光度計に固定した。260nmでの吸光度変化を、キュベットの温度を毎分0.5または1℃上昇させて記録した。吸光度-温度曲線から、吸光度の最大上昇率を示す温度を、PNAと10mer DNAとの間のTmとして読み出した。Tm測定用のDNAは、Bioneer(www.bioneer.com, Dajeon, Republic of Korea)から購入し、それ以上精製せずに使用した。
【0082】
式IのPNA誘導体のTm観測値は非常に高く、その結果を表3に示す。
【0083】
(表3)PNAのN末端またはC末端のいずれかを標的とするPNAと10mer相補的DNAとの間のT
m値
【0084】
例えば、「ASO 1」は、
において「太字」および「下線付き」で記されるPNA中のN末端10merを標的とする10mer相補的DNAとの二本鎖について、81.02℃のT
m値を示した。一方、「ASO 1」は、
において「太字」および「下線付き」で記されるPNA中のC末端10merを標的とする10mer相補的DNAとの二本鎖について、90.37℃のT
m値を示した。
【実施例】
【0085】
式IのPNA誘導体の生物活性の実施例
本発明におけるPNA誘導体を、リアルタイム定量的ポリメラーゼ連鎖反応(RT-qPCR)などを用いてマウス黒色腫メラン-aおよびヒトメラニン形成細胞におけるインビトロMLPHアンチセンス活性について評価した。本生物学的実施例は、式IのPNA誘導体の生物学的特性を示す例として提供し、したがって本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【0086】
実施例1. マウス黒色腫メラン-aにおけるMLPH発現に対するASOの効果
「ASO 2」、「ASO 3」、「ASO 4」、および「ASO 5」を、以下に記載するとおり、マウス黒色腫メラン-aにおけるMLPH発現に影響を及ぼすそれらの能力について評価した。
【0087】
[細胞培養およびASO処理]マウス黒色腫メラン-aを、10%FBS(ウシ胎児血清)(Cat. No. 10099-41、GIBCO)、1%ストレプトマイシン/ペニシリン(Cat. No. 15140-122、GIBCO)、および200nM TPA(Sigma、Cat. No.79346)を補足したRPMI 1640(GIBCO、Cat. No.11875-093)中、37℃、5%CO2雰囲気下で培養した。マウス黒色腫メラン-a(2×105)を安定化のために60mm培養皿で24時間培養し、何もなし(陰性対照)または100zM、10aM、1fM、もしくは1μMの「ASO 2」、「ASO 3」、「ASO 4」、もしくは「ASO 5」のいずれかで48時間処理した。
【0088】
[RNA抽出およびcDNA合成]全RNAを、ASO処理した細胞からRNeasy Miniキット(Qiagen、Cat. No. 714106)を製造者の指示に従って用いて抽出し、500ngのRNAから、PrimeScript(商標) 1st strand cDNA Synthesis Kit(Takara、Cat. No. 6110A)を用いてcDNAを調製した。PCRチューブ中、RNA 500ng、ランダムヘキサマー1マイクロリットル、およびdNTP(10mM)1マイクロリットルの混合物に、DEPC処理水を全量10マイクロリットルまで加え、65℃で5分間反応させた。PrimeScript RTase反応混合物10マイクロリットルを加え、30℃で10分間および42℃で60分間逐次反応させることにより、cDNAを合成した。
【0089】
[リアルタイムqPCR]マウスMLPH mRNAの発現レベルを評価するために、合成したcDNAでTaqmanプローブを用いてリアルタイムqPCRを実施した。PCRチューブ中、cDNA、Taqmanプローブ(Thermo、Cat. No. Mm00453498_m1)、IQスーパーミックス(BioRad、Cat. No. 170-8862)およびヌクレアーゼフリー水の混合物を、CFX96 Touch Real-Timeシステム(BioRad)を用い、以下のとおりに指定されたサイクル条件に従って反応させた:95℃で3分と、続いて95℃で10秒および60℃で30秒の40サイクル。蛍光強度を、各サイクル終了時に測定し、PCRの結果を融解曲線で評価した。各遺伝子の閾サイクル(Ct)をGAPDHのものによって標準化した後、マウスMLPH mRNAの相対発現レベルを比較し、解析した。
【0090】
図11a、
図11b、
図11c、および
図11dは、それぞれ「ASO 2」、「ASO 3」、「ASO 4」、および「ASO 5」で処理した細胞におけるマウスMLPH mRNAの相対発現レベルを提供する。「ASO 3」、「ASO 4」、および「ASO 5」(「ASO 2」ではない)で処理した細胞におけるマウスMLPH mRNAの相対発現レベルは、用量依存的様式で低減した(スチューデントT試験を行って、知見の統計学的有意性をチェックした)。
【0091】
[エキソンスキッピング]マウスMLPH mRNAのエキソンスキッピングレベルを評価するために、合成したcDNAで、PCR PreMix(Bioneer, Cat. No. K-2612, South Korea)を用い、以下のサイクル条件:95℃で5分と、続いて95℃で1分、59℃で1分、72℃で2分、および72℃でさらに3分の25サイクルに従って、[フォワード:
;およびリバース:
]のプライマーセットに対して標準PCRを実施した。
【0092】
PCR生成物(10マイクロリットル)を2%アガロースゲル上で電気泳動分離に供した。標的バンドを回収し、サンガー配列決定法により分析して、エキソンスキッピング配列を評価した。
【0093】
図12a、
図12b、および
図12cは、それぞれ「ASO 3」、「ASO 4」、および「ASO 5」で処理した細胞における電気泳動分離の結果を提供する。「ASO 4」で処理した細胞はエキソンスキッピングバンドを生じず、1μM「ASO 5」で処理した細胞はエキソン2スキッピングバンドをかすかに生じた一方で、1μM「ASO 3」で処理した細胞は全長MLPH mRNAバンドの代わりにエキソン2スキッピングバンドだけを生じた。したがって「ASO 3」は3'スプライス部位のMLPHプレmRNAを標的とし、1μMでエキソン2を読み飛ばしたスプライスバリアントMLPH mRNAを生じる。
【0094】
[ウエスタンブロッティング]細胞を前述のとおりに培養した。各ASOによる処理の48時間後、細胞を回収し、次いで冷PBS(リン酸緩衝化食塩水)で2回洗浄し、RIPA緩衝液(Cell Signaling、Cat. No.9806)に溶解した。タンパク質をBCA溶液(Thermo、Cat. No. 23225)で定量し、10%SDS-PAGE Gelにより精製した。タンパク質をPVDF膜(フッ化ポリビニリデン膜)(Millipore、Cat. No. IPVH00010)に転写し、これを5%スキムミルク緩衝溶液中で1時間ブロックした。膜を一次抗体としての抗MLPH(Proteintech、Cat. No.10338-1AP)および抗β-アクチン(Sigma、Cat. No. A3854)で検出し、ヤギ抗ウサギ(CST、Cat. No. 7074)を二次抗体として用いた。HRP基質(Millipore、Cat. No. WBKLS0500)を化学発光シグナルの検出のために使用し、シグナル強度をGel Docシステム(ATTO)を用いて測定した。各バンドのウエスタンブロッティング結果に基づき、MLPHの相対発現レベルをImage-Jプログラムで定量し、グラフに変換した。
【0095】
図13a、
図13b、
図13c、および
図13dは、それぞれ「ASO 2」、「ASO 3」、「ASO 4」、および「ASO 5」で処理した細胞におけるマウスMLPHタンパク質の相対発現レベルを提供する。全体にASOで処理した細胞において、マウスMLPHタンパク質の相対発現レベルは低減し、特に「ASO 3」で処理した細胞において、レベルは用量依存的様式で低減した(スチューデントT試験を行って、知見の統計学的有意性をチェックした)。
【0096】
[メラノソーム凝集]細胞を前述のとおりに培養した。メラノソーム凝集の程度を評価するために、メラノフィリンsiRNAを陽性対照として用いた。メラノフィリンsiRNAはBioneer、Daejeon、South Koreaから購入し、
のセンス配列および
のアンチセンス配列を有する。黒色腫メラン-aを60mm培養皿で24時間培養し、培地を3mLのOpti-MEM(Gibco、Cat.No.31985-070)に交換した。1.5mLエッペンドルフチューブ中の500μLのOpti-MEMおよび5μLのlipofectamin2000(Invitrogen、Cat.No.11668-019)の混合物に、3mLの10μM siRNA保存溶液(siRNAの最終濃度:10nM)を加えた。15分後、得られた溶液を培養皿の3mL Opti-MEMに加え、37℃で6時間培養し、これに新しい培地を適用した。
【0097】
siRNAまたはASOの処理後24または48時間で、メラノソーム凝集の程度を評価するために、細胞を明視野顕微鏡により数百倍で撮影した。
図14aは、メラノソーム凝集の程度を評価するための陰性対照、siRNA処理細胞、およびASO処理細胞の顕微鏡デジタル画像を提供し、
図14bは、メラノソーム凝集細胞の数を提供する。
【0098】
図14aおよび14bに見られるとおり、siRNAまたはASOで24または48時間処理した細胞は、陰性対照に比べて多くのメラノソーム凝集を生じ、これはメラノフィリンsiRNAまたはASOがMLPHタンパク質の発現を阻害したと解釈することができ、メラノソーム輸送を抑制し、メラノソーム凝集を増強すると解釈することができる。したがって、メラノフィリンsiRNAまたはASOは、メラノソーム輸送を抑制することにより、皮膚色素沈着を阻害することが期待される。
【0099】
実施例2. ヒトメラニン形成細胞におけるMLPH発現に対するASOの効果
「ASO 1」を、以下に記載するとおり、ヒトメラニン形成細胞におけるMLPH発現に影響を及ぼすそれらの能力について評価した。
【0100】
[細胞培養およびASO処理]ヒトメラニン形成細胞(Lonza、Cat. No. CC-2586)を、1%ストレプトマイシン/ペニシリン(GIBCO、Cat. No. 15140-122)を補足したメラニン形成細胞専用培地(Lonza、Cat. No. CC-3249)中、37℃、5%CO2雰囲気下で培養した。ヒトメラニン形成細胞(3×105)を安定化のために60mm培養皿で24時間培養し、何もなし(陰性対照)または1μMの「ASO 1」のいずれかで24または48時間処理した。
【0101】
[RNA抽出およびcDNA合成]全RNAを、「ASO 1」で処理した細胞からRNeasy Miniキット(Qiagen、Cat. No. 714106)を製造者の指示に従って用いて抽出した。500ngのRNAから、PrimeScript(商標) 1st strand cDNA Synthesis Kit(Takara、Cat. No. 6110A)を用いてcDNAを調製した。PCRチューブ中、RNA 500ng、ランダムヘキサマー1マイクロリットル、およびdNTP(10mM)1マイクロリットルの混合物に、DEPC処理水を全量10マイクロリットルまで加え、65℃で5分間反応させた。PrimeScript RTase反応混合物10マイクロリットルを加え、30℃で10分間および42℃で60分間逐次反応させることにより、cDNAを合成した。
【0102】
[リアルタイムqPCR]ヒトMLPH mRNAの発現レベルを評価するために、合成したcDNAでTaqmanプローブを用いてリアルタイムqPCRを実施した。PCRチューブ中、cDNA、Taqmanプローブ(Thermo、Cat. No. Hs00983107_m1)、IQスーパーミックス(BioRad、Cat. No. 170-8862)およびヌクレアーゼフリー水の混合物を、CFX96 Touch Real-Timeシステム(BioRad)を用い、以下のとおりに指定されたサイクル条件に従って反応させた:95℃で3分と、続いて95℃で10秒および60℃で30秒の40サイクル。蛍光強度を、各サイクル終了時に測定し、PCRの結果を融解曲線で評価した。各遺伝子の閾サイクル(Ct)をGAPDHのものによって標準化した後、ヒトMLPH mRNAの相対発現レベルを比較し、解析した。
【0103】
図15は、「ASO 1」で処理した細胞におけるヒトMLPH mRNAの相対発現レベルを提供し、1μMの「ASO 1」で48時間処理した細胞においてレベルは低減した(スチューデントT試験を行って、知見の統計学的有意性をチェックした)。
【0104】
[ウエスタンブロッティング]細胞を前述のとおりに培養した。「ASO 1」による処理の24および48時間後、細胞をそれぞれ回収し、次いで冷PBS(リン酸緩衝化食塩水)で2回洗浄し、RIPA緩衝液(Cell Signaling、Cat. No.9806)に溶解した。タンパク質をBCA溶液(Thermo、Cat. No. 23225)で定量し、10%SDS-PAGE Gelにより精製した。タンパク質をPVDF膜(フッ化ポリビニリデン膜)(Millipore、Cat. No. IPVH00010)に転写し、これを5%スキムミルク緩衝溶液中で1時間ブロックした。膜を一次抗体としての抗MLPH(Novus、Cat. No.NBP2-45883)および抗β-アクチン(Sigma、Cat. No. A3854)で検出し、ウマ抗ウサギ(CST、Cat. No. 7076)を二次抗体として用いた。HRP基質(Millipore、Cat. No. WBKLS0500)を化学発光シグナルの検出のために使用し、シグナル強度をGel Docシステム(ATTO)を用いて測定した。各バンドのウエスタンブロッティング結果に基づき、MLPHの相対発現レベルをImage-Jプログラムで定量し、グラフに変換した。
【0105】
図16は、ヒトMLPHタンパク質の相対発現レベルを提供し、1μMの「ASO 1」で48時間処理した細胞においてレベルは低減した(スチューデントT試験を行って、知見の統計学的有意性をチェックした)。
【0106】
[免疫蛍光染色]細胞を前述のとおりに培養し、「ASO 1」処理の48時間後に、回収した細胞を4%ホルムアルデヒドで固定し、これを0.25%トリトンX-100による透過処理の後、1%ウシ血清アルブミンで1時間ブロックした。試料を、一次抗体としての抗チューブリン抗体(abcam、Cat. No.ab44928)および抗Trp1抗体(Novus、Cat. No. NBP2-53252)、ならびに二次抗体としてのFITC結合ウサギ抗マウス抗体(Jackson ImmunoResearch、Cat. No.315-095-003)およびFluor 594結合ヤギ抗ウサギ抗体(Jackson ImmunoResearch、Cat. No. 111-585-144)で連続して免疫染色した。対比染色をDAPI(Thermo Fisher、Cat. No. 62248)を用いて実施し、蛍光デジタル画像をAxio Scan Z1(Carl Zeiss)により数百倍で評価した。全細胞数に対する、核付近でTrp1により赤色に染色された細胞数の比をグラフに変換した。
【0107】
図17は、「ASO 1」処理細胞におけるメラノソーム凝集の程度をTrp1の赤色染色を通じて提供する。1μMの「ASO 1」で48時間処理した細胞において、細胞骨格チューブリンに比べてDAPI染色された核付近のTrp1の赤色染色は、メラノソーム移動の抑制によるメラノソーム凝集を示唆していた(スチューデントT試験を行って、知見の統計学的有意性をチェックした)。
【0108】
[水溶性クロロテトラゾリウム-1]細胞を前述のとおりに培養し、96ウェル中で培養したヒトメラニン形成細胞(1×103)について水溶性クロロテトラゾリウム-1検定を実施した。1fM、1pM、1nM、1μM、および10μM「ASO 1」処理の24、48、および72時間後、培地の10分の1の量のEZ-CYTOX(DoGen、Cat. No. EZ-3000)を96ウェル中の細胞に加え、得られた混合物をインキューベーター内で2時間反応させた。室温で1分間の振盪による均質化の後、450nmでの相対吸光度を測定し、グラフに変換した。
【0109】
図18は、「ASO 1」処理細胞の生存率を提供する。1fM、1pM、1nM、1μM、および10μM「ASO 1」処理の24、48、および72時間後、「ASO 1」処理細胞の生存率は72時間後の全ての濃度で90%よりも高かった。
【配列表】
【国際調査報告】