(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-29
(54)【発明の名称】EPH2Aアプタマーおよびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/115 20100101AFI20220921BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220921BHJP
C12Q 1/6804 20180101ALI20220921BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20220921BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220921BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220921BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220921BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220921BHJP
A61K 51/04 20060101ALI20220921BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20220921BHJP
A61K 49/06 20060101ALI20220921BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220921BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
C12N15/115 Z ZNA
C12N15/113 Z
C12Q1/6804 Z
A61K47/61
A61K48/00
A61K31/713
A61K31/7105
A61K45/00
A61K51/04 320
A61K51/04 310
A61K49/00
A61K49/06
A61P35/00
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021571479
(86)(22)【出願日】2020-06-02
(85)【翻訳文提出日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 EP2020065132
(87)【国際公開番号】W WO2020245076
(87)【国際公開日】2020-12-10
(32)【優先日】2019-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】317002294
【氏名又は名称】フンダシオ インスティトゥト ディンベスティガシオ ビオメディカ デ ベイビジャ(イ デ イ ベ エ エレ エレ)
【氏名又は名称原語表記】FUNDACIO INSTITUT D‘INVESTIGACIO BIOMEDICA DE BELLVITGE(IDIBELL)
(71)【出願人】
【識別番号】521521530
【氏名又は名称】フンダシオン アルバ ペレス,ルチャ コントラ エル カンセル インファンティル
【氏名又は名称原語表記】FUNDACION ALBA PEREZ,LUCHA CONTRA EL CANCER INFANTIL
【住所又は居所原語表記】Avda.Mare de Deu de Bellvitge 158 2o-o2a,08908 HOSPITALET DE LLOBREGAT(ES)
(71)【出願人】
【識別番号】511293663
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ アイオワ リサーチ ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス チラド,オスカル
(72)【発明者】
【氏名】ギアングランデ,パロマ エイチ.
【テーマコード(参考)】
4B063
4C076
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA14
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ79
4B063QQ96
4B063QR31
4B063QR66
4B063QS32
4B063QS36
4B063QX01
4C076AA95
4C076CC27
4C076EE30
4C076EE59
4C084AA12
4C084AA13
4C084AA17
4C084MA05
4C084NA05
4C084NA13
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C085HH03
4C085HH07
4C085HH11
4C085KA26
4C085KA27
4C085KA28
4C085KA29
4C085KA36
4C085KB92
4C085LL18
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA13
4C086ZB21
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、遺伝子治療の分野に属する。特に、本発明は、EphA2発現癌の処置、予防および診断に有用なEphA2特異的RNAベースコンストラクトに言及する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
EphA2に特異的に結合するRNA-アプタマーであって、
(i)配列番号1の配列からなる;または代替として、
(ii)配列番号1の配列からなり、該配列を形成するヌクレオチドの少なくとも1つのピリミジン部分が置換ピリミジンである;または代替として、
(iii)配列番号1の配列を含み、該配列を形成するヌクレオチドの少なくとも1つのピリミジン部分が置換ピリミジンであり;
「置換ピリミジン(substituted pyrimidine)」という用語は、前記ヌクレオチドがシトシンである場合は式(I)のピリミジン、または前記ヌクレオチドがウラシルである場合は式(II)のピリミジンであり;
【化1】
式(I)または(II)のピリミジン環を形成する炭素原子または窒素原子の少なくとも1つに結合した水素基の少なくとも1つが水素以外の基で置換されている、RNA-アプタマー。
【請求項2】
配列番号2を含むかまたはこれからなり、該配列を形成する前記ヌクレオチドの少なくとも1つの前記ピリミジンが置換ピリミジンである、請求項1に記載のRNA-アプタマー。
【請求項3】
配列番号2の配列からなり、該配列を形成する前記ヌクレオチドの少なくとも1つの前記ピリミジンが置換ピリミジンである、請求項1または2に記載のRNA-アプタマー。
【請求項4】
前記ヌクレオチド配列の全ての前記ピリミジン部分が置換ピリミジンである、請求項1から3のいずれか一項に記載のRNA-アプタマー。
【請求項5】
前記置換ピリミジンが、2’位に水素以外の1つの基を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のRNA-アプタマー。
【請求項6】
前記水素以外の基が、ハロゲン、-NR
1R
2、-O-(C
1~C
6)アルキル、-SR
3、アジド、および-OHで任意選択で置換された(C
1~C
6)アルキル(式中、R
1、R
2およびR
3は、-H、(C
1~C
6)アルキル、および(C
1~C
6)アルケニルから選択される)から選択され;特にハロゲンである、請求項1から5のいずれか一項に記載のRNA-アプタマー。
【請求項7】
配列番号1、配列番号3および配列番号4から選択される、請求項1から6のいずれか一項に記載のRNA-アプタマー。
【請求項8】
機能性物質に結合した、請求項1から7のいずれか一項に記載の前記RNA-アプタマーを含む複合体。
【請求項9】
前記RNA-アプタマーがスペーサを介して前記機能性物質に連結され、前記スペーサが好ましくは2~5ヌクレオチドからなる、請求項8に記載の複合体。
【請求項10】
前記スペーサが3ヌクレオチドからなる、請求項9に記載の複合体。
【請求項11】
前記スペーサを形成する前記ヌクレオチドの一部または全部がウラシルヌクレオチドである、請求項8から10のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項12】
前記機能性物質が、
(i)siRNA、microRNA、shRNAまたはリボザイム、好ましくはsiRNAまたはmicroRNA;
(ii)放射性核種、化学療法剤およびそれらの組み合わせから選択される部分、好ましくは化学療法剤;ならびに
(iii)検出可能な標識であって、好ましくは、酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、高電子密度標識、磁気共鳴イメージング用の標識、放射性物質、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される検出可能な標識
から選択される、請求項8から11のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項13】
前記機能性物質がsiRNAである、請求項8から12のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項14】
前記siRNAの一部を形成する前記ヌクレオチドの少なくとも1つが修飾ヌクレオチドであり、特に該修飾ヌクレオチドは修飾シトシンまたはウラシルであり、より具体的には前記siRNAを形成するシトシンヌクレオチドまたはウラシルヌクレオチドの少なくとも1つのピリミジンが置換ピリミジンであり、「置換ピリミジン(substituted pyrimidine)」という用語は請求項1に定義される通りである、請求項13に記載の複合体。
【請求項15】
前記機能性物質が、配列番号5~配列番号10から選択される配列を含むsiRNAである、請求項8から14のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項16】
前記siRNAが3’末端ヌクレオチド尾部を含み、該ヌクレオチド尾部は、好ましくは2~5ヌクレオチド、より好ましくは2または3ヌクレオチドによって形成されている、請求項8から15のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項17】
前記3’-末端ヌクレオチド尾部が、ウラシルヌクレオチドを含むかまたはそれからなる、請求項16に記載の複合体。
【請求項18】
配列番号11~配列番号22から選択される配列を含むかまたはそれからなる、請求項8から17のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項19】
固体支持体上に固定化されている、請求項8から18のいずれか一項に記載の複合体。
【請求項20】
請求項1から7のいずれか一項に記載の前記RNA-アプタマーまたは請求項8から19のいずれか一項に記載の前記治療有効量の複合体を、許容される医薬賦形剤および/または担体と共に含む医薬組成物。
【請求項21】
治療または診断における使用のための、配列番号1の配列を含むかまたはそれからなるEphA2に特異的に結合するRNA-アプタマーであって、該アプタマーの安定性を改善するために、該アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つまたは複数が、ヌクレオチド間結合、糖部分、塩基部分、またはそれらの組み合わせにおいて任意選択で化学修飾されたRNA-アプタマー。
【請求項22】
EphA2、特にユーイング肉腫、ユーイング様肉腫または肺胞横紋筋肉腫を発現することを特徴とする、対象における癌または癌転移を治療または予防する方法における使用のための、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなるEphA2に特異的に結合するRNA-アプタマーであって、該アプタマーの安定性を改善するために、該アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が、ヌクレオチド間結合、糖部分、塩基部分、もしくはそれらの組み合わせにおいて任意選択で化学修飾されていてもよいRNA-アプタマー;生体物質に結合した前記アプタマーを含む複合体;または治療有効量の前記アプタマーもしくは複合体を許容される医薬賦形剤および/もしくは担体と共に含む医薬組成物。
【請求項23】
EphA2、特にユーイング肉腫、ユーイング様肉腫または肺胞横紋筋肉腫を発現することを特徴とする、対象における癌または癌転移を診断するin vivo法における使用のための、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなるEphA2に特異的に結合するRNA-アプタマーであって、該アプタマーの安定性を改善するために、該アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が、ヌクレオチド間結合、糖部分、塩基部分、もしくはそれらの組み合わせにおいて任意選択で化学修飾されていてもよいRNA-アプタマー;生体物質に結合した前記アプタマーを含む複合体;または前記アプタマーもしくは複合体を含む医薬組成物。
【請求項24】
前記アプタマーが請求項1から7のいずれか一項に定義される通りであるか、前記複合体が請求項8から19のいずれか一項に定義される通りであるか、または前記組成物が請求項20に定義される通りである、請求項21から23のいずれか一項に記載の使用のためのRNA-アプタマー。
【請求項25】
EphA2、特にユーイング肉腫、ユーイング様肉腫または肺胞横紋筋肉腫を発現することを特徴とする癌または癌転移のin vitroまたはex vivo診断における診断薬としての、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなるEphA2に特異的に結合するRNA-アプタマーであって、該アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が任意選択で修飾ヌクレオチドであるRNA-アプタマー;生体物質に結合した前記アプタマーを含む複合体;または前記アプタマーもしくは複合体を含む組成物の使用。
【請求項26】
前記アプタマーが請求項1から7のいずれか一項に定義される通りであるか、前記複合体が請求項8から19のいずれか一項に定義される通りであるか、または前記組成物が請求項20に定義される通りである、請求項25に記載の使用のための請求されるRNA-アプタマーの使用。
【請求項27】
配列番号1を含むかまたはそれからなるアプタマーであって、ヌクレオチドの1つが任意選択で修飾ヌクレオチドであるアプタマー;生体物質に結合した前記アプタマーを含む複合体;または前記アプタマーもしくは複合体を含む組成物;および前記アプタマーを検出する手段を備える診断キット。
【請求項28】
前記アプタマーが請求項1から7のいずれか一項に定義される通りであるか、前記複合体が請求項8から19のいずれか一項に定義される通りであるか、または前記組成物が請求項20に定義される通りである、請求項27に記載の診断キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年6月3日に出願された欧州特許出願第19382451.3号の利益を主張する。
【0002】
本発明は、遺伝子コンストラクトおよび治療の分野に属する。特に、本発明は、EphA2に特異的に結合するRNA-アプタマーおよびその用途に言及する。
【背景技術】
【0003】
エフリン(Eph)受容体は、血管新生、組織境界形成、細胞移動および細胞可塑性を含むいくつかのプロセスに関与する受容体チロシン-キナーゼの最も広範なサブファミリーである。これらの受容体は、細胞間相互作用および運動性における十分に確立されたメディエータであり、黒色腫、前立腺癌、乳癌、結腸癌、肺癌および食道癌等のヒト癌において発現される。これらの受容体の中で、EphA2(エフリンA型受容体2)は、移動、浸潤、転移、増殖、生存および血管新生等の悪性進行に重要な多くの過程に関与している。この目的のために、EphA2の阻害は、乳癌、卵巣癌および膵癌の複数の前臨床モデルにおいて腫瘍成長、生存および腫瘍誘導性血管新生の減少をもたらす(Tandonら、KasinskiおよびSlack、Quinnら)。高悪性度疾患を有する患者には、より高い治療用量が投与されることが多く、これらの患者は、しばしば正常組織への非特異的標的化に起因する毒性の影響を受ける。これは、改善された安全性および有効性プロファイルを有する新しいモダリティを開発する必要性を強調している。
【0004】
肉腫は、罹患率および死亡率が高い稀な高悪性度腫瘍である。それらの全体的な発生率は、過去20年間にわたって推定26%の割合で増加している。肉腫の1/3は、低い突然変異負荷のカテゴリーに属し、染色体転座として知られる特異的な再発性遺伝子変化を特徴とする。このカテゴリーの肉腫は、転座関連肉腫(以下、TAS)として知られており、これには、とりわけ、ユーイング肉腫(以下、ES)、肺胞横紋筋肉腫(以下、ARMS)、滑膜肉腫(以下、SS)が含まれる。これらの染色体転座(およびそれらに関連する融合産物)の2つの非常に重要な特性は、それらの一貫性および特異性である。複数の研究が、所与の肉腫の症例のほとんどで同じ転座(またはいくつかの場合において、関連する転座群のうちの1つ)が生じることを示しており、したがって、転座または転座群は、肉腫カテゴリー内で一致する(Xiaoら、染色体内の正確な位置およびこれらの転座の結果として生じる融合は、この参考文献に開示されており、参照により本明細書に組み込まれる)。さらに、この転座または関連する転座群の1つは、他のいずれのタイプの肉腫においても生じず、したがって転座は肉腫カテゴリーに特異的である。したがって、転座またはその融合産物と肉腫カテゴリーとの間には非常に密接な関係がある。
【0005】
最近、EphA2がES細胞において発現され、キナーゼ非依存的様式でESの攻撃特性に必須であることが示された。したがって、EphA2発現またはその機能の遮断は、ESの処置に治療的に有用であり得る(Garcia-Moncliisら)。
【0006】
RNA技術の最近の進歩は、肉腫および他の癌に対する治療法を開発するための新しい有望なツールを提供する。これらの技術の1つは、アプタマー技術である。治療試薬として、RNAアプタマーは、小分子阻害剤またはタンパク質ベースの試薬よりもいくつかの利点を有する。ほとんどの小分子阻害剤とは異なり、アプタマーは極めて特異的であり、標的療法に使用することができる。抗体とは対照的に、アプタマーは容易に化学合成することができ、それらをヌクレアーゼに対して耐性にし、in vivoでそれらの薬物動態を改善する化学修飾に適している。さらに、化学修飾RNAアプタマーは、免疫原性がほとんどないか、または全くないため、臨床用途にははるかに安全である。
【0007】
しかしながら、アプタマーは、少なくとも上記の利点を有する強力な治療ツールであることが知られているにもかかわらず、RNA-アプタマーを使用した効果的な癌処置は、最新技術において依然として保留されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
興味深いことに、本発明者らは、癌、特にEphA2発現癌の処置、予防および診断に有用なRNA-アプタマーおよびそれをベースとしたコンストラクトを開発した。
【0009】
これまで、全ての試みは、EphA2発現細胞に対するEphA2標的化担体としてアプタマーを使用することに集中していた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、配列番号1の配列を含むアプタマーが、それ自体で、EphA2発現癌細胞に対して顕著な治療効果を発揮し得ることを見出した。実施例4、
図3Cは、配列番号1の配列を含むアプタマーの投与が腫瘍細胞のクローン形成能を低下させることを示している。
【0011】
アプタマーに加えてsiRNAを含む複合体内に配列番号1を組み込んで、癌細胞のクローン原性活性のこの減少が確認された。
図10から結論付けることができるように、複合体が配列番号1の配列を含む場合、EphA2発現癌細胞のクローン原性活性は劇的に低減された。
【0012】
後述の実施例6は、配列番号1の配列を含むアプタマーの投与が腫瘍の発生を遅延させることを示している。
【0013】
EphA2発現癌細胞への結合に基づいて、そのような治療挙動を有するRNA-アプタマーが報告されたのは初めてである。
【0014】
したがって、本発明の第1の態様において、本発明は、EphA2に特異的に結合するRNA-アプタマーに言及し、RNA-アプタマーは、
(i)配列番号1の配列からなる;あるいは、
(ii)配列番号1の配列からなり、配列を形成するヌクレオチドの少なくとも1つのピリミジン部分が置換ピリミジンである;あるいは、
(iii)配列番号1の配列を含み、配列を形成するヌクレオチドの少なくとも1つのピリミジン部分が置換ピリミジンであり;
「置換ピリミジン」という用語は、ヌクレオチドがシトシンである場合は式(I)のピリミジン、またはヌクレオチドがウラシルである場合は式(II)のピリミジンであり
【化1】
式(I)または(II)のピリミジン環を形成する炭素原子または窒素原子の少なくとも1つに結合した水素基の少なくとも1つが水素以外の基で置換されており、これが分解に対する安定性をアプタマーに付与する。ピリミジン環を置換することによって(in vitroまたはin vivoで)アプタマー安定性を改善するものとして先行技術で既に報告されている基はいずれも、「水素以外の基」として使用することができる。本発明者らは、構造解析を行い、ループ二次構造を獲得した配列番号1がEphA2タンパク質に結合したと結論付けた。EphA2への結合は、細胞を内在化するために必須である。しかし、本発明のアプタマーは、他の標的化要素として内在化することができるだけでなく、ひとたびEphA2発現細胞内に入ると、それ自体で抗癌効果を提供することができる。
【0015】
配列番号1の配列によって付与される技術的効果は、EphA2への結合および内在化に関して非常に堅牢であるため、より長いアプタマーの一部を形成するように試験される場合(配列番号4)およびより大きなコンストラクトの一部を形成するように試験される場合(配列番号17の配列の複合体であり得るように)の両方で同じ挙動が見出される。どちらの場合も、EphA2発現癌細胞および内在化細胞への効率的な結合能が維持される。
【0016】
本発明はまた、EphA2に特異的に結合し、
(i)配列番号1の配列からなる;または
(ii)配列番号2の配列の1~20位および46~51位のいずれかの中に位置する1つ、2つもしくは3つの置換を任意選択で含む配列番号2の配列を含む、RNAアプタマーを提供する。
【0017】
上記に加えて、
図10はまた、本発明のアプタマーが標的細胞にsiRNAを運ぶだけでなく、アプタマーおよびsiRNAの両方が内在化されると癌細胞に有益な治療効果を発揮し得ることを示している。
図3Bは、アプタマーが内在化されると、癌細胞のクローン形成能が実質的に低下することを既に示しており、この能力は、アプタマーおよびsiRNA(複合体の一部を形成する)の両方が癌細胞において内在化される場合、ほぼ完全に無効である(
図10)。これは、アプタマー単独(
図3B)の治療効率だけでなく、機能性物質、すなわちsiRNAと組み合わせたアプタマー(
図10)の治療効率も示している。
【0018】
上記に加えて、これらのデータはまた、本発明のアプタマーが機能性物質の効率的な送達担体としても作用し得ることを裏付けている。最新技術では、抗癌治療分子の安定性および安全な送達に関連するいくつかの欠点が報告されているため、これも非常に重要である。例えば、siRNAは、投与されると急速に分解され得るため、非常に不安定であると報告されている。先行技術は、それらを分解から保護するためのリポソームの使用を教示しているが、リポソームへの封入は毒性を有するものとして報告されている。
【0019】
有利には、本発明のアプタマーは、機能性物質の安全および安定な送達を可能にし、したがってこれまでに報告された送達担体の欠点を克服する。
【0020】
したがって、第2の態様において、本発明は、機能性物質に結合した本発明のRNA-アプタマーを含む複合体に言及する。
【0021】
第3の態様において、本発明は、本発明のアプタマーまたは複合体を含む組成物に言及する。
【0022】
さらなる態様において、本発明は、治療または診断における使用のための、EphA2に特異的に結合し、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなるRNA-アプタマーであって、アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が任意選択で修飾ヌクレオチドであるRNA-アプタマー;またはアプタマーもしくは複合体を含む組成物を提供する。本発明において、「修飾ヌクレオチド」という表現は、とりわけ糖または塩基部分の化学修飾によって、配列番号1の配列の同じ位置に位置するものとは異なるヌクレオチドを指す。そのような化学修飾は、アプタマーの安定化を担うことが十分に確立されている。
【0023】
第4の態様において、本発明は、EphA2を発現することを特徴とする癌または癌転移の処置または予防における使用のための、EphA2に特異的に結合し、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなるRNA-アプタマーであって、アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が任意選択で修飾ヌクレオチドであるRNA-アプタマー;または機能性物質に結合したアプタマーを含む複合体;またはアプタマーもしくは複合体を含む組成物に言及する。代替として、この態様は、EphA2を発現することを特徴とする癌または癌転移の処置または予防のための方法として説明することができ、この方法は、EphA2に特異的に結合し、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなる治療有効量のRNA-アプタマーであって、アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が修飾ヌクレオチドであってもよいRNA-アプタマーを、それを必要とする対象に投与すること;あるいは機能性物質に結合したアプタマーを含む複合体;またはアプタマーもしくは複合体を含む組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。この態様はまた、代替として、EphA2を発現することを特徴とする癌または癌転移の処置または予防のための医薬の製造における、EphA2に特異的に結合し、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなるRNA-アプタマーであって、アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が任意選択で修飾ヌクレオチドであるRNA-アプタマー;または機能性物質に結合したアプタマーを含む複合体;またはアプタマーもしくは複合体を含む組成物の使用として説明され得る。
【0024】
第5の態様において、本発明は、EphA2を発現することを特徴とする癌または癌転移のin vitroまたはex vivo診断のための、EphA2に特異的に結合し、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなるRNA-アプタマーであって、アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が任意選択で修飾ヌクレオチドであるRNA-アプタマー;または機能性物質に結合したアプタマーを含む複合体;またはアプタマーもしくは複合体を含む組成物の使用に言及する。この態様は、代替として、EphA2を発現することを特徴とする対象における癌または癌転移のin vitroまたはex vivo診断のための方法として説明することができ、この方法は、EphA2に特異的に結合し、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなるRNA-アプタマーであって、アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が修飾ヌクレオチドであってもよいRNA-アプタマー;または機能性物質に結合したアプタマーを含む複合体;またはアプタマーもしくは複合体を含む組成物に、対象の単離された試験試料を接触させることと;アプタマーまたは複合体の位置を検出することとを含む。
【0025】
第6の態様において、本発明は、EphA2を発現することを特徴とする癌のin vivo診断の方法における使用のための、EphA2に特異的に結合し、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなるRNA-アプタマーであって、アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が任意選択で修飾ヌクレオチドであるRNA-アプタマー;または機能性物質に結合したアプタマーを含む複合体;またはアプタマーもしくは複合体を含む組成物に言及する。この態様は、代替として、EphA2を発現することを特徴とする対象における癌または癌転移のin vivo診断のための方法として説明することができ、この方法は、EphA2に特異的に結合し、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなるRNA-アプタマーであって、アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が修飾ヌクレオチドであってもよいRNA-アプタマー;または機能性物質に結合したアプタマーを含む複合体;またはアプタマーもしくは複合体を含む組成物を投与することと;アプタマーまたは複合体の位置を検出することとを含む。
【0026】
第7の態様において、本発明は、EphA2に特異的に結合し、配列番号1の配列を含むかもしくはそれからなるRNA-アプタマーであって、アプタマーの配列を形成するヌクレオチドの1つもしくは複数が任意選択で修飾ヌクレオチドであるRNA-アプタマー;または機能性物質に結合したアプタマーを含む複合体;または本発明のアプタマーもしくは複合体を含む組成物を備える診断キットに言及する。
【0027】
本出願の他の目的、特徴、利点および態様は、以下の説明および添付の特許請求の範囲から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】横紋筋肉腫(RMS)細胞株のパネルにおける総EphA 2発現およびS897残基でのそのリン酸化を示す代表的なウエスタンブロットである。RH4、RH41、RH28(少量のEphA2を発現する)、RMS13、RH30、CW9019は、ARMS細胞株である。RD、RH36、RUCH2、A204は、胚性RMS細胞株である。
【
図1B】RH4細胞(RH4shE2およびRH4shE17)から作製されたサイレンシングモデル、RH4細胞、ならびにRH4/CMV(サイレンシングの陽性対照)におけるEphA2発現を示す代表的なウエスタンブロットである。
【
図1C】EphA2サイレンシングモデルを使用したボイデンチャンバーにおける移動アッセイの結果のグラフ表示である。RH4/SCRは、スクランブルアプタマー(非特異的RNA配列)で処置されたRH4細胞を表す。
【
図2】示された時点(6、24、48および72時間)後の内在化RNAのqPCRによる定量のグラフ表示である。
【
図3A】スクランブルアプタマー処置の14日後のA673細胞コロニーの写真である。
【
図3B】EphA2アプタマー処置の14日後のA673細胞コロニーの写真である。
【
図3C】100nMのスクランブル(SCR)またはEphA2アプタマー(EPH)のいずれかで14日間にわたって3日ごとに処置したA673(A6)およびTC252(TC2)、RH4およびRMS13について、各細胞株(×3)でカウントされたコロニー数を中央値パーセンテージとして示すグラフである。A673およびTC252は、ES細胞株である。
【
図4A】スクランブル処置後のA673移動細胞の顕微鏡写真を示す。
【
図4B】EphA2アプタマー処置後のA673移動細胞の顕微鏡写真を示す。細胞をスクランブルまたはEphA2アプタマーのいずれかで6時間処置してから、250nMでボイデンチャンバーに一度入れた。播種の48時間後に顕微鏡写真を撮影した。
【
図4C】移動細胞を48時間(A673、図中でA6として表される)および6時間(RMS13)で測定したグラフである。グラフは、横軸で移動細胞のパーセンテージを表す。
【
図5】スクランブル(n=8、実線)またはEphA2アプタマー(n=9、破線)で処置したマウスの腓腹筋で増殖するA673細胞の生存差(手術に十分な腫瘍体積に達するまでの時間として測定)を比較するカプラン-マイヤー曲線である。ロングランク(マンテル-コックス検定)分析を使用してp値を生成した。P=0.0237。
【
図6A】スクランブル処置マウスにおける肺微小転移を表す顕微鏡写真である。
【
図6B】EphA2アプタマー処置マウスの健康な肺を表す顕微鏡写真である。
【
図6C】スクランブル処置マウス(SCR、n=8)およびEphA2アプタマー処置マウス(APT、n=9)の17匹全てのマウスにおける転移の定量化を示す図である。
【
図7】qPCRによって測定されたEWS/FLI1発現を表すグラフである。A673細胞(A6)を、レピジン系を使用せずに、異なる濃度(2μMおよび3μM)の非標的化キメラ(NTキメラ)または特異的キメラ(Apt-siEF)で48時間処置した。
【
図8A】VARNA3.7を使用して予測された、配列番号2または4の配列のアプタマーの二次構造の表現を示す図である。破線の長方形でマークされた部分は、機能的ループと考えられるものに対応し、それぞれ配列番号1または3に対応する。
【
図8B】アプタマー-siRNA複合体の二次構造のモデルを示す図である。複合体は、より短い鎖(siRNAガイド鎖配列を含む-白丸として示されている)がより長い鎖の3’末端領域(濃い灰色の円)と逆相補的である2本の鎖からなる。より長い鎖は、アプタマー配列およびsiRNAのセンス(パッセンジャー、黒丸)部分を含み、両方とも3ヌクレオチドリンカーによって分離されている(UUU、薄灰色)。表現を容易にするために、アプタマーはパネルAのものではない。
【
図9】本発明の主要仮説のモデルを示す図である。図中、挿入図は、アプタマー-siRNAキメラがどのようにして形質膜中の受容体を認識して細胞に入るかを示す。右側には、アプタマー-siRNAキメラ(本発明による複合体)の構造をシミュレートしたイラストが示されている。
【
図10】スクランブルアプタマー-EWS/FLI1 siRNAキメラ処置(上のウェル)およびEphA2-EWS/FLI1 siRNAキメラ処置(下のウェル)の14日後のA673細胞コロニーの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本出願で使用される場合、単数形、例えば「a」、「an」および「the」は、文脈が明らかにそうでないことを指示しない限り、それらの対応する複数形を含むことに留意しなければならない。別段に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0030】
本発明の文脈における特定の用語の意味の理解および明確化を容易にするために、本発明の異なる態様の全ての実施形態に適用可能な以下の定義およびその特定の好ましい実施形態が提供される。
【0031】
本明細書で使用される「アプタマー(aptamer)」という用語は、一般に、単一の定義された配列のオリゴヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドの混合物のいずれかを指し、混合物はEphA2に特異的に結合する特性を保持する。本明細書で使用される場合、「アプタマー(aptamer)」は、一本鎖核酸を指す。構造的に、本開示のアプタマーは、特異的に結合するオリゴヌクレオチドである。
【0032】
「オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)」という用語は、本明細書で使用される場合、ポリデオキシリボヌクレオチド(2’-デオキシ-D-リボースまたはその修飾形態を含む)、すなわちDNA、ポリリボヌクレオチド(Dリボースまたはその修飾形態を含む)、すなわちRNA、およびプリンもしくはピリミジン塩基、または修飾プリンもしくはピリミジン塩基または塩基性ヌクレオチドのN-グリコシドまたはC-グリコシドである任意の他の種類のポリヌクレオチドを含む。本開示によれば、「オリゴヌクレオチド(oligonucleotide)」という用語は、従来の塩基、糖残基およびヌクレオチド間結合を有するものだけでなく、これらの3つの部分のいずれかまたは全ての修飾を含むもの(以下、「修飾ヌクレオチド(modified nucleotides)」とも呼ばれる)も含む。
【0033】
「RNA-アプタマー(RNA-aptamer)」という用語は、本明細書で使用される場合、リボヌクレオシド単位、例えばアデノシン、グアノシン、5-メチルウリジン、ウリジン、5-メチルシチジン、シチジン、プソイドウリジン、イノシン、N6-メチルアデノシン、キサントシンおよびワイブトシンを含むアプタマーである。
【0034】
本明細書で使用される場合、「特異的に結合する(specifically binds)」という用語は、RNAアプタマーが、特定の細胞または物質と、代替の細胞または物質と反応するより頻繁に、より迅速に、より長い期間、および/またはより高い親和性で反応または会合することを意味すると解釈されるべきである。例えば、標的タンパク質に特異的に結合するRNAアプタマーは、無関係のタンパク質および/またはエピトープまたはその免疫原性断片に結合するより高い親和性、結合活性で、より容易に、および/またはより長い期間そのタンパク質またはエピトープまたはその免疫原性断片に結合する。この定義を読むことによって、例えば、第1の標的に特異的に結合するRNAアプタマーは、第2の標的に特異的に結合してもしなくてもよいことも理解される。したがって、「特異的結合(specific binding)」は、必ずしも別の分子の排他的結合または検出不能な結合を必要とせず、これは「選択的結合(selective binding)」という用語に包含される。一般に、必ずしもそうとは限らないが、結合への言及は特異的結合を意味する。
【0035】
本発明のアプタマーは、EphA2に結合する能力を特徴とする。アプタマーがEphA2に結合する能力は、2つの分子間の結合を決定することを可能にする任意の適切な方法によって決定することができる。一実施形態において、EphA2に結合するアプタマーの能力は、EphA2発現細胞を、以前に免疫蛍光標識されたアプタマーと接触させることによって決定される。蛍光シグナルが細胞内に位置する場合、これは、アプタマーがEphA2に結合し、その後内在化されたことを示す。代替の実施形態において、EphA2発現細胞がアプタマーと接触され、一定期間後、アプタマー配列を増幅するプライマー(例えば、実施例3、配列番号24および25で使用されるもの等)を使用して、RT-PCRによって細胞内のRNA-アプタマーの量が決定される。EPH受容体A2(エフリンA型受容体2)は、ヒトにおいてEPHA2遺伝子によってコードされるタンパク質である。この遺伝子は、タンパク質-チロシンキナーゼファミリーのエフリン受容体サブファミリーに属する。EPHおよびEPH関連受容体は、特に神経系における発達事象の媒介に関与している。EPHサブファミリーの受容体は、典型的には、単一のキナーゼドメインと、Cysリッチドメインおよび2つのフィブロネクチンIII型リピートを含む細胞外領域とを有する。エフリン受容体は、それらの細胞外ドメイン配列の類似性、ならびにエフリン-Aおよびエフリン-Bリガンドに結合するためのそれらの親和性に基づいて、2つの群に分けられる。この遺伝子は、エフリン-Aリガンドに結合するタンパク質をコードする。ヒト受容体に対するUniprotアクセッション番号:P29317。
【0036】
「結合した(coupled to)」という用語は、本明細書で使用される場合、RNAアプタマーが本明細書に記載の機能性物質に連結、付着または繋がった任意の構造を包含することを意図する。カップリングを実行するための方法は当業者に公知であり、コンジュゲーション、ペプチドリンカーを介した連結、またはRNAおよび機能性物質の全鎖としての直接化学合成によるものを含むが、これらに限定されない。
【0037】
本明細書で使用される場合、「処置する(treat)」または「処置(treatment)」または「処置すること(treating)」という用語は、治療有効量の本明細書に開示されるRNAアプタマー、複合体または組成物を投与し、がんに関連する、またはがんによって引き起こされる臨床状態の少なくとも1つの症状を軽減または阻害することを意味すると理解されるべきである。
【0038】
本明細書で使用される場合、「予防する(prevent)」または「予防すること(preventing)」または「予防(prevention)」という用語は、予防有効量の本発明によるRNAアプタマー、複合体または組成物を投与し、癌の少なくとも1つの症状の発症または進行を停止または妨害または遅延させることを意味すると解釈されるべきである。
【0039】
「治療有効量(therapeutically effective amount)」という表現は、EphA2発現癌細胞の数および/または癌の1つもしくは複数の症状を低減または阻害するのに十分な量の本発明によるRNAアプタマー、複合体または組成物を指す。当業者は、そのような量が、例えば、特定の対象および/または疾患の種類もしくは重症度もしくはレベルに応じて変動することを認識するであろう。この用語は、本開示を特定の量のRNAアプタマー、複合体または組成物に限定すると解釈されない。
【0040】
「予防有効量(prophylactically effective amount)」という表現は、癌の少なくとも1つの症状の発生または進行を停止または妨害または遅延させるのに十分な量の本発明によるRNAアプタマー、複合体または組成物を指す。当業者は、そのような量が、例えば、特定の対象および/または疾患の種類もしくは重症度もしくはレベルに応じて変動することを認識するであろう。この用語は、本開示を特定の量のRNAアプタマー、複合体または組成物に限定すると解釈されない。
【0041】
本明細書で使用される場合、「対象(subject)」という用語は、ヒトまたは非ヒト対象を含む任意の対象を意味すると解釈される。非ヒト対象には、非ヒト霊長類、有蹄動物(ウシ、ポーチ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、スイギュウおよびバイソン)、イヌ、ネコ、ウサギ目動物(ウサギ、ノウサギおよびナキウサギ)、げっ歯類(マウス、ラット、モルモット、ハムスターおよびスナネズミ)、鳥類および魚類が含まれ得る。好ましくは、対象はヒトである。
【0042】
本明細書で使用される場合、「EphA2を発現することを特徴とする癌(cancer characterised by expressing EphA2)」または「EphA2発現癌(EphA2 expressing cancer)」という表現は、EphA2を発現する細胞(EphA2陽性細胞)を含む腫瘍または癌を指す。より詳細には、これは、EphA2を過剰発現する、すなわちEphA2を過剰発現する細胞を有する癌を指す。どの癌が「EphA2を発現することを特徴とする癌(cancer characterised by expressing EphA2)」または「EphA2発現がん(EphA2 expressing cancer)」という表現に包含されるかは、当業者によって十分に理解されている(Zhou Y.ら、「Emerging and Diverse Functions of the EphA2 Noncanonical Pathway in Cancer Progression」、Biol.Pharm.Bull.40、1616~1624(2017))。
【0043】
「EphA2+」または「EphA2発現細胞(EphA2 expressing cell)」という用語は、本明細書で使用される場合、互換的に使用され得る。この用語は、任意の適切な手段によって検出され得るEphA2の細胞表面発現を包含する。
【0044】
アプタマーのいくつかの固有の特性によって、アプタマーは、広範な分子生物学用途において、および潜在的な医薬品として使用するための魅力的なツールとなる。治療試薬として、RNAアプタマーは、小分子阻害剤またはタンパク質ベースの試薬よりもいくつかの利点を有する。ほとんどの小分子阻害剤とは異なり、アプタマーは極めて特異的であり、標的療法に使用することができる。アプタマーの結合部位は、現在入手可能な多くの医薬品と非常に類似した拮抗活性をもたらす標的分子の裂け目および溝を含む。さらに、アプタマーは、広範囲の温度および保存条件にわたって構造的に安定である。抗体とは対照的に、アプタマーは容易に化学合成することができ、それらをヌクレアーゼに対して耐性にし、in vivoでそれらの薬物動態を改善する化学修飾に適している。さらに、化学修飾RNAアプタマーは、免疫原性がほとんどないか、または全くないため、臨床用途にははるかに安全である。それらの特性を考慮すると、RNAアプタマーは、強力な新しい治療ツールとして急速に進化している。
【0045】
驚くべきことに、本発明者らは、EphA2に特異的に結合するRNAアプタマー、すなわちEphA2に特異的結合するRNAアプタマーであって、EphA2陽性細胞を内在化するだけでなく、上記で詳細に説明したように、それ自体で治療効果を発揮することもできるRNAアプタマーを開発した。
【0046】
したがって、第1の態様において、本発明は、EphA2に特異的に結合するRNA-アプタマーであって、
(i)配列番号1の配列からなる;または代替として、
(ii)配列番号1の配列からなり、配列を形成するヌクレオチドの少なくとも1つのピリミジンが置換ピリミジンである;または代替として、
(iii)配列番号1の配列を含み、配列を形成するヌクレオチドの少なくとも1つのピリミジンが置換ピリミジンであるRNA-アプタマーに言及し、
「置換ピリミジン」という用語は、ヌクレオチドがシトシンである場合は式(I)の、またはヌクレオチドがウラシルである場合は式(II)のピリミジン環を形成する炭素または窒素原子の少なくとも1つの水素基が、
【化2】
水素以外の基で置換されていることを意味する。
【0047】
本発明はまた、EphA2に特異的に結合し、
(i)配列番号1の配列(gucgucuugcguccccagacgacuc)からなる;または
(ii)配列番号2の配列の1~20位および46~51位のいずれかの中に位置する1つ、2つもしくは3つの置換を任意選択で含む配列番号2の配列(gggaggacgaugcgguccuugucgucuugcguccccagacgacucgcccga)を含む、RNAアプタマーを提供する。
【0048】
特に、アプタマーは、単離されたアプタマーである。特定の実施形態において、本発明はまた、本発明で定義されるアプタマーのEphA2に結合する能力と実質的に同じ能力を有する単離RNAアプタマーを提供する。
【0049】
特定の実施形態において、アプタマーの配列長は、容易な化学合成を可能にする25~100塩基、好ましくは25~70塩基、より好ましくは25~55塩基である。「塩基(base)」という用語は、グアニン(G)、アデニン(A)、ウラシル(U)またはシトシン(C)等の「リボヌクレオシド単位」または「ヌクレオチド塩基」または「残基」によって互換的に使用され得る。塩基は、シトシンとグアニンとの間、アデニンとウラシルとの間およびグアニンとウラシルとの間に水素結合を形成し得る。
【0050】
一実施形態において、アプタマーは配列番号2の配列を含む。
【0051】
本発明のアプタマーは、当技術分野で公知の任意の方法により合成することができる。好ましい実施形態において、アプタマーは、細胞-SELEX(指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化)によって生成され、より好ましくは本明細書に記載の方法によって生成される(実施例1を参照されたい)。有利には、細胞-SELEX法は、タンパク質の細胞外領域の天然の立体配座およびグリコシル化パターンを複製することによって、細胞表面標的に対するアプタマーの生成を可能にする。したがって、アプタマーは、細胞状況でEphA2に結合し、EphA2発現細胞(すなわちEphA2陽性細胞)に内在化する。
【0052】
治療薬としての核酸の使用において遭遇する1つの潜在的な問題は、それらのホスホジエステル形態のオリゴヌクレオチドが、所望の効果が現れる前にエンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼ等の細胞内および細胞外酵素によって体液中で迅速に分解され得ることである。アプタマーが、アプタマーの安定性(in vitroまたはin vivo)を改善する1つ以上の修飾(修飾アプタマー)、例えば、アプタマーをヌクレアーゼに対して耐性にするための修飾を含み得ることは、最新技術において周知である。ヌクレアーゼに耐性のオリゴヌクレオチドを生成するための修飾は当業者に周知であり、1つ以上の置換ヌクレオチド間連結、改変された糖、改変された塩基、またはそれらの組み合わせを含み得る。「修飾ヌクレオチド(modified nucleotides)」をもたらすそのような修飾には、2’位の糖修飾、2’位のピリミジン修飾、5位のピリミジン修飾、8位のプリン修飾、環外アミンでの修飾、4-チオウリジンの置換、5-ブロモまたは5-ヨード-ウラシルの置換、骨格修飾、ホスホロチオエートまたは(C1~C10)アルキルホスフェート修飾、メチル化、ならびにイソ塩基イソシチジンおよびイソグアノシン等の異常な塩基対合の組み合わせ;キャッピング等の3’および5’修飾;高分子量の非免疫原性化合物へのコンジュゲーション;親油性化合物へのコンジュゲーション;およびリン酸骨格修飾が含まれる。
【0053】
本発明の特定の実施形態において、「修飾ヌクレオチド(modified nucleotides)」は、修飾シトシンまたはウラシルである。別の実施形態において、「修飾ヌクレオチド(modified nucleotides)」は、シトシンまたはウラシルであり、ピリミジン部分は上記で定義される「修飾ピリミジン(modified pyrimidine)」である。
【0054】
本発明において、第1の態様のアプタマーは、少なくとも1つの置換ピリミジンを含む。RNAオリゴヌクレオチドは、以下の2種類のピリミジン誘導体を含み得る。
【化3】
【0055】
別段に明記されない限り、本発明において「置換ピリミジン(modified pyrimidine)」に言及する場合、ピリミジン環の一部を形成する炭素原子または窒素原子の少なくとも1つに結合した水素基の少なくとも1つが異なる基によって置き換えられている式(I)または(II)のピリミジンとして理解されるべきである。
【0056】
一実施形態において、RNA-アプタマーは、配列番号2を含むかまたはこれからなり、配列を形成するヌクレオチドの少なくとも1つのピリミジンが置換ピリミジンである。別の実施形態において、本発明のRNA-アプタマーは、配列番号2の配列からなり、配列を形成するヌクレオチドの少なくとも1つのピリミジンが置換ピリミジンである。
【0057】
別の実施形態において、ピリミジンの少なくとも約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%が置換ピリミジンである。特に、ヌクレオチド配列の全てのピリミジンが置換ピリミジンである。
【0058】
別の実施形態において、1つまたは複数の置換ピリミジンは、2’位に水素以外の基を含む式(I)または(II)のピリミジンである。「2’位に水素以外の1つの基を含む(comprising one radical other than hydrogen at 2’-position)」という用語は、ピリミジン環が環の他の位置にさらなる置換を含み得る可能性を排除することなく、ピリミジン部分が2’位に水素以外の基を含むことを意味する。
【0059】
別の実施形態において、1つまたは複数の置換ピリミジンは、1つまたは複数の2’-置換ピリミジンからなる。「2’-置換ピリミジンからなる(consist(s)of2’-substituted pyrimidine(s))」という用語は、ピリミジン部分が2’位でのみ単一の修飾(すなわち水素以外の基による置換)を示し、環の他の位置でのさらなる置換は除外されることを意味する。
【0060】
別の実施形態において、本発明のアプタマーは、上で定義されたように、2’位に水素以外の1つの基を含む1つまたは複数の置換ピリミジン、および2’-置換ピリミジンからなる1つまたは複数の置換ピリミジンを含む。
【0061】
別の実施形態において、本発明のアプタマーは、上で定義したように、2’-置換ピリミジンからなる置換ピリミジンのみを含む。
【0062】
別の実施形態において、アプタマーは、上で定義された2つ以上の置換ピリミジンを含み、水素以外の基は、全ての置換ピリミジンにおいて同じである。
【0063】
別の実施形態において、水素以外の基は、ハロゲン、-NR1R2、-O-(C1~C6)アルキル、-SR3、アジド、および-OHで任意選択で置換された(C1~C6)アルキル(式中、R1、R2およびR3は、-H、(C1~C6)アルキル、および(C1~C6)アルケニルから選択される)から選択される。別の実施形態において、水素以外の基はハロゲン、特にフッ化物である。
【0064】
(C1~C6)アルキルという用語は、1~6個の炭素原子を有する飽和直鎖または分岐アルキル鎖を指す。例示的な限定されない例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、ネオ-ペンチルおよびn-ヘキシルである。
【0065】
(C2~C6)アルケニルという用語は、2~6個の炭素原子を含み、1つまたは複数の二重結合も含む飽和直鎖または分岐状アルキル鎖を指す。例示的な限定されない例は、エテニル、プロペニル、ブテニル、1-メチル-2-ブテン-1-イル等である。
【0066】
「ハロゲン(halogen)」という用語は、5つの化学的に関連する元素:フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)、およびアスタチン(At)からなる周期表中の族を指す。
【0067】
別の特定の実施形態において、アプタマーは、5’末端および/または3’末端をフルオロフォアもしくは逆dTまたはポリアルキレングリコール、好ましくはポリエチレングリコール(PEG)分子に結合することによって修飾される。
【0068】
特に、修飾が修飾ヌクレオシド(例えば2’-フルオロ-ピリミジン)によって行われる場合、アプタマーはヌクレアーゼ媒介分解に対して極めて耐性であり、したがって、細胞培養および動物/対象において使用することができる。別の好ましい実施形態において、ピリミジン塩基は2’-フルオロ(2’-F)修飾であり、より好ましくは配列番号3(gUCgUCUUgCgUCCCCagaCgaCUC、大文字は2’F修飾塩基を示す)および配列番号4(gggaggaCgaUgCggUCCUUgUCgUCUUgCgUCCCCagaCgaCUCgCCCga、大文字は2’F修飾塩基を示す)のいずれか1つに示される通りである。したがって、好ましい実施形態において、アプタマーは、(i)配列番号3からなる;または(ii)配列番号4の配列の1~20位および46~51位のいずれかの中に位置する1つ、2つもしくは3つの置換を任意選択で含む配列4を含むか、それからなるか、もしくはそれから本質的になる。より好ましくは、アプタマーは、実施例に示されるように、EphA2陽性細胞に特異的に結合して内在化する配列番号4を含み、これは機能性物質(例えばsiRNA)の成功した送達剤である。
【0069】
特に、PEGの末端付加により修飾が行われる場合、PEGの分子量は特に限定されず、好ましくは1000~100000、より好ましくは20000~90000である。PEGは、直鎖状であってもよく、または2つ以上の鎖に分岐していてもよい(マルチアームPEG)。PEGの末端付加は、3’末端および5’末端の一方のみに付加されてもよく、3’末端および5’末端の両方に付加されてもよい。好ましくは、PEGはアプタマーの5’末端に付加される。有利には、これはアプタマーを血流中に維持し、腎臓によって濾過されない。
【0070】
そのようなPEGは特に制限されず、当業者は市販または公知のPEGを適宜選択して使用することができる。本発明において、PEGは末端に直接付加されてもよい。より好ましくは、PEG等に結合可能な基を有するリンカーがその末端に付加され、リンカーを介して本明細書で提供されるアプタマーにPEGが付加されるべきである。PEGおよびリンカーとしては、市販製品が好ましくは使用され得る。本明細書で提供されるPEG、リンカーおよびアプタマーの結合に関する反応条件等は、当業者により適宜決定され得る。
【0071】
別の実施形態において、本発明のアプタマーは、配列番号1、配列番号3および配列番号4から選択される。
【0072】
アプタマーの結合は、アプタマーオリゴヌクレオチドによって形成される二次構造に大きく依存する。本発明のアプタマーのRNA鎖の二次構造を、VARNA3.7を使用して予測した。配列番号2または4のアプタマーの予測二次構造を
図8Aに示す。予測二次構造は、配列番号1または3(
図8Aの破線矩形)の配列を有するループを有することが分かる。理論に束縛されることを望まないが、本発明者らは、このループが受容体に結合する機能的ループであるため、この配列からなるアプタマーはEphA2に対して機能的かつ特異的であり得ると考えている。特定の実施形態において、本発明のアプタマーは、
図8Aに示される二次構造を有する。
【0073】
アプタマーは、リン酸基の負電荷に基づくイオン結合、リボースに基づく疎水結合および水素結合、ならびに核酸塩基に基づく水素結合およびスタッキング相互作用等、多種多様な結合様式で標的分子に結合する。特に、構成ヌクレオチド数と同数存在するリン酸基の負電荷に基づくイオン結合は強く、タンパク質の正電荷の表面に存在するリジンおよびアルギニンに結合する。このため、標的分子への直接的な結合に関与しない核酸塩基を置換することができる。特に、ステム構造の領域は既に塩基対を形成しており、二重らせん構造の内側に面しているため、核酸塩基が標的分子に直接結合する可能性は低い。したがって、塩基対を別の塩基対に置き換えても、アプタマーの活性が低下しないことが多い。したがって、上で定義されたように、本発明のアプタマーは、予測された機能的ループの外側、すなわち、配列番号2または配列番号4の1~20位および46~51位内の任意の位置に1つ、2つまたは3つの置換を含むことができる。
【0074】
リボースの2’位の修飾に関して、リボースの2’位の官能基は、標的分子と直接相互作用することは少ないが、多くの場合、関連性はなく、別の修飾分子で置換することができる。先の実施形態のいずれか1つによる別の特定の実施形態において、アプタマーは、EphA2陽性(癌)細胞に特異的に結合する。これは、例えば、配列番号4のアプタマーがES細胞に特異的に結合する実施例3に示されている。実施例では、アプタマーがEphA2陽性細胞を内在化することができることも示されている。EphA2の安定なノックダウンにより、細胞移動およびコロニー形成がRMS細胞において阻止されるため(
図1Cおよび
図3を参照されたい)、アプタマーは、ES細胞においてそうであるように、EphE2陽性RMS細胞を内在化すると予想される。したがって、特定の実施形態において、アプタマーは、EphA2陽性(癌)細胞を内在化し、したがって上記の特定の細胞の送達系として使用することができる。
【0075】
本発明のアプタマーは、複合体を形成する機能性物質(以下キメラとも呼ばれる)と結合することができる。このように、アプタマーは、治療効果を提供するだけでなく、EphA2陽性癌細胞に対する機能性物質の送達剤としても作用する。したがって、第2の態様において、本発明は、機能性物質に結合した、本発明の第1の態様の実施形態のいずれか1つによるRNA-アプタマーを含む複合体に言及する。
【0076】
アプタマーに関して上記で提供された全ての実施形態は、本発明の第2の態様の実施形態でもある。
【0077】
アプタマーと複合体中の機能性物質との間の結合は、共有結合または非共有結合であり得る。本発明の複合体は、本発明のアプタマーと、1つまたは複数(例えば2つまたは3つ)の同種または異種の機能性物質とが結合したものであり得る。
【0078】
好ましくは、機能性物質はアプタマーの3’末端に結合している。
【0079】
先の実施形態のいずれか1つによる複合体の特定の実施形態において、機能性物質は、好ましくは2~5ヌクレオチド、より好ましくは3ヌクレオチド(例えばUUU)のスペーサもしくはリンカーによってアプタマーに結合され、および/または機能性物質は、その3’末端にテール、好ましくは2~5ヌクレオチド、より好ましくは2もしくは3ヌクレオチド(例えばUUもしくはUUU)のテールを含む。有利には、このリンカーおよび/またはテールは、複合体の安定性を改善する。
【0080】
本発明の複合体の一実施形態において、スペーサは、1つまたは複数のウラシルヌクレオチドを含む。別の実施形態において、スペーサは、ウラシルヌクレオチドで形成される。別の実施形態において、スペーサは、2~5つのウラシルヌクレオチド、特に2~3つのウラシルヌクレオチド、より具体的には3つのウラシルヌクレオチドからなる。
【0081】
機能性物質は、本発明のアプタマーにある特定の機能を新たに追加する、または本発明のアプタマーが有し得るある特定の特徴を変化させる(例えば改善する)ことができるものであれば特に限定されない。機能性物質の例として、タンパク質(リボザイム等)、ペプチド、アミノ酸、脂質、糖、単糖、ポリヌクレオチド、ヌクレオチド等を挙げることができる。機能性物質のさらなる例として、親和性物質(例えばビオチン、ストレプトアビジン、標的相補配列(例えばsiRNA、microRNA(miR、mirもしくはmiRNAとも呼ばれる)、shRNA)に対する親和性を有するポリヌクレオチド、抗体、グルタチオン(セファロース、ヒスチジン)、標識物質(例えば蛍光物質、発光物質、放射性同位体)、酵素(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)、薬物(例えばドキソルビシン、ゲムシタビン等の化学療法剤)を挙げることができる。
【0082】
本発明の第2の態様の複合体の特定の実施形態において、機能性物質は、
(i)siRNA、microRNA、shRNAもしくはリボザイム、好ましくはsiRNAもしくはmicroRNA;または
(ii)放射性核種、化学療法剤およびそれらの組み合わせ、好ましくは化学療法剤から選択される部分
を含む。
【0083】
好ましくは、機能性物質は、siRNA、microRNA、化学療法剤、またはsiRNAもしくはmiRNAと化学療法剤との組み合わせである。少量の化学療法分子が負荷されたsiRNAまたはmiRNAのいずれかとの複合体は、化学療法剤の有害作用を低減する。
【0084】
別の実施形態において、機能性物質はsiRNAまたはmiRNAであり、その3’末端にヌクレオチドテール、好ましくは2~5ヌクレオチド、より好ましくは2または3ヌクレオチドで形成されたテールを含む。別の実施形態において、上記または下記に提供される実施形態のいずれかと任意選択で組み合わせて、機能性物質はsiRNAまたはmiRNAであり、1つまたは複数のウラシルヌクレオチドを含む3’末端テールを含む。別の実施形態において、機能性物質はsiRNAまたはmiRNAであり、2~5つのウラシルヌクレオチド、特に3つのヌクレオチドからなる3’末端テールを含む。
【0085】
別の実施形態において、複合体は、2~5ヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~5ヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合された本発明のアプタマーを含む。別の実施形態において、複合体は、2~5ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~5ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合された本発明のアプタマーを含む。別の実施形態において、複合体は、2~5ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~5ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むはsiRNAに結合された本発明のアプタマーを含む。別の実施形態において、本発明の複合体は、2~3ヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合された本明細書で提供されるアプタマーを含む。別の実施形態において、本発明の複合体は、2~3ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合された本明細書で提供されるアプタマーを含む。別の実施形態において、本発明の複合体は、2~3ヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むsiRNAに結合された本明細書で提供されるアプタマーを含む。別の実施形態において、本発明の複合体は、2~3ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むsiRNAに結合された本明細書で提供されるアプタマーを含む。
【0086】
別の実施形態において、複合体は、配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含み、全てのピリミジンは、2~5ヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~5ヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合した置換ピリミジン、好ましくは2’置換ピリミジンである。別の実施形態において、複合体は、配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含み、全てのピリミジンは、2~5ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~5ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合した置換ピリミジン、好ましくは2’置換ピリミジンである。別の実施形態において、複合体は、配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含み、全てのピリミジンは、2~5ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~5ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むsiRNAに結合した置換ピリミジン、好ましくは2’置換ピリミジンである。別の実施形態において、本発明の複合体は、配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含み、全てのピリミジンは、2~3ヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合した置換ピリミジン、好ましくは2’置換ピリミジンである。別の実施形態において、本発明の複合体は、配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含み、全てのピリミジンは、2~3ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合した置換ピリミジン、好ましくは2’置換ピリミジンである。別の実施形態において、本発明の複合体は、配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含み、全てのピリミジンは、2~3ヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むsiRNAに結合した置換ピリミジン、好ましくは2’置換ピリミジンである。別の実施形態において、本発明の複合体は、配列番号2の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含み、全てのピリミジンは、2~3ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むsiRNAに結合した置換ピリミジン、好ましくは2’置換ピリミジンである。
【0087】
別の実施形態において、複合体は、2~5ヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~5ヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合された、配列番号4の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含む。別の実施形態において、複合体は、2~5ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~5ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合された、配列番号4の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含む。別の実施形態において、複合体は、2~5ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~5ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むsiRNAに結合された、配列番号4の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含む。別の実施形態において、本発明の複合体は、2~3ヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合された、配列番号4の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含む。別の実施形態において、本発明の複合体は、2~3ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むmiRNAまたはsiRNAに結合された、配列番号4の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含む。別の実施形態において、本発明の複合体は、2~3ヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むsiRNAに結合された、配列番号4の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含む。別の実施形態において、本発明の複合体は、2~3ウラシルヌクレオチドで形成されたスペーサを介して、2~3ウラシルヌクレオチドで形成された3’末端テールを含むsiRNAに結合された、配列番号4の配列を含むかまたはそれからなるアプタマーを含む。
【0088】
先行する実施形態のいずれか1つによる好ましい実施形態において、機能性物質はsiRNAである。好ましくは、siRNAは、20~30ヌクレオチドからなり、より好ましくは23~27ヌクレオチドからなり、さらにより好ましくは25ヌクレオチドからなる。有利には、これらのsiRNAは、成熟siRNAを放出するためのダイサー複合体の活性に有利である。
【0089】
RNAi技術は、ヒトゲノム中の実質的に任意の遺伝子の発現を阻害するように容易に適合可能であるため、悪性腫瘍中の無秩序な細胞増殖および生存の機構を解明するための貴重なツールとなっている。さらに、癌治療ツールとしてのその潜在的な使用も明らかになり、大いに追求されている。しかしながら、いくつかの有効な抗癌細胞siRNAの開発にもかかわらず、現在までのところ、癌の処置のための承認されたsiRNAに基づく治療法はない。臨床で使用するための効果的な治療へのsiRNAの翻訳を成功させるための主な問題は、送達および安全性(毒性の問題による)である。驚くべきことに、本発明者らは、siRNAに連結されるとEphA2陽性細胞への送達剤として働くアプタマーを開発した。さらに、siRNAは分解から保護され、ダイサーによって正しく処理され、上記siRNAの標的遺伝子のサイレンシングをもたらす(実施例8を参照されたい)。
【0090】
前述のように、TASは、腫瘍特異的染色体転座による特異的融合タンパク質の固有の存在を特徴とする。したがって、前の段落による好ましい実施形態において、siRNAは、TAS等のEphA2発現癌を特徴付ける特異的転座産物に対するものである。例えば、siRNAは、ESを特徴付ける特異的転座産物であるEWS/FLI1、ARMSを特徴付ける特異的転座産物であるPAX3/FOXO1、SSを特徴付ける特異的転座産物であるSS18/SSX1-2、ユーイング様肉腫を特徴付けるCIC/DUX4およびBCOR-CCNB3特異的転座産物、線維形成性小円形細胞腫瘍(DSRCT)を特徴付けるEWS/WT1特異的転座産物、ならびに粘液様脂肪肉腫(MLS)を特徴付けるEWS/DDIT3およびFUS/DDIT3特異的転座産物に対するものである。
【0091】
先の実施形態のいずれか1つに記載の好ましい実施形態において、アプタマーはsiRNAに結合され、上記siRNAは、配列番号5(cgggcagcagaacccuucuuaugac)、配列番号6(auggccucucaccucagaauucaau)および配列番号7(ugcccaagaagccagcagaggaauu)の配列のいずれか1つを含むかまたはそれからなる。これらの配列の各々は、それぞれES、ARMSおよびSSを特徴付ける染色体転座に特異的である。より好ましくは、本発明の複合体は、
配列番号11:gggaggacgaugcgguccuugucgucuugcguccccagacgacucgcccgauuucgggc agcagaacccuucuuaugacuu、
配列番号12:gucgucuugcguccccagacgacucuuucgggcagcagaacccuucuuaugacuu、
配列番号13:gggaggacgaugcgguccuugucgucuugcguccccagacgacucgcccgauu uauggccucucaccucagaauucaauuu、
配列番号14:gucgucuugcguccccagacgacucuuuauggccucucaccucagaauucaauuu、
配列番号15:gggaggacgaugcgguccuugucgucuugcguccccagacgacucgcccgauuuug cccaagaagccagcagaggaauuuuおよび
配列番号16:gucgucuugcguccccagacgacucuuuugcccaagaagccagcagaggaauuuu
から選択される配列を含むかまたはそれからなる。
【0092】
これらの複合体は、3’末端にUUテールを有する配列番号5、配列番号6または配列番号7の配列のsiRNAに3UUUスペーサによって連結された本発明のアプタマー(配列番号3または4)を有し、したがってそれぞれES、ARMSまたはSSの治療剤として有用である。
【0093】
先行する実施形態のいずれか1つによる複合体の別の好ましい実施形態において、機能性物質は、1つまたは様々なmiRである。特に、miRNAは、腫瘍抑制因子(オンコサプレッサ)miRNA、より具体的にはEphA2を発現することを特徴とする腫瘍の腫瘍抑制因子miRNAである。好ましい実施形態において、miRNAは、mir-130a(前立腺癌における腫瘍抑制因子);mir-143(骨肉腫およびSSにおける腫瘍抑制因子);mir-145(ES、骨肉腫、前立腺癌、膵臓癌、乳癌および結腸直腸癌における腫瘍抑制因子);mir-302、mir-505またはmir-520c(結腸直腸癌における腫瘍抑制因子);mir-202(膵臓癌における腫瘍抑制因子);mir-34a(ESおよび前立腺癌における腫瘍抑制因子);mir-206およびmir-29(RMSにおける腫瘍抑制因子)ならびにmir-424(乳癌における腫瘍抑制因子)からなる群から選択される。アプタマー-siRNA複合体またはアプタマー-miRNA複合体の作製は、siRNAまたはmiRNAの生物製剤特性を有意に改善するが、さらなる修飾は産物をさらに改善し得る。最近の研究では、20kDaのPEG基の化学的コンジュゲーションは、アプタマー-siRNA複合体の循環半減期を延長した。そのようなPEG分子は、アプタマー標的または標的遺伝子サイレンシング活性への結合に影響を与えることなく、化学合成によってsiRNAパッセンジャー鎖に配置された(Dassieら)。したがって、先行する実施形態のいずれか1つによる本発明の複合体の特定の実施形態において、機能性物質は、PEG分子がsiRNAパッセンジャー鎖で結合したsiRNAであり、好ましくはPEGは化学合成によって結合している。
【0094】
さらに、ナノテクノロジーは、血清中の核酸の安定性を延長し、増強された透過性および保持効果によって担持された薬剤の腫瘍分布を増強することが示されており、これは、異常な漏出性の腫瘍血管系および腫瘍リンパ管の非存在に起因する腫瘍微小環境におけるナノ粒子の蓄積にある。ポリラクチド-コ-グリコリド酸(PLGA)等の生分解性およびFDA承認ポリマーのPEG化ナノ粒子は、非PEG化ナノ粒子と比較して、全身循環時間を増加させ、腫瘍分布を改善する。さらに、PEGを使用して、標的化分子をナノ粒子の表面にコンジュゲートさせることができる(ChengおよびSaltzman)。したがって、先行する実施形態のいずれか1つによる特定の実施形態において、複合体は、表面上にPEGコンジュゲート化アプタマー-siRNAまたはmiRNA複合体を担持するPEG化ナノ粒子の形態である。
【0095】
有利には、この複合体は、アプタマーをその分解から保護しながら、リポソームなしで製剤化され得る。リポソーム内に複合体を製剤化する必要がないことは、複数の利点を有する。とりわけ、これは、リポソームに固有の毒性、約20%の細胞死の増加の原因となる毒性を防止する。
【0096】
先の実施形態のいずれか1つによる別の特定の実施形態において、siRNAまたはmicroRNAは、それらをヌクレアーゼ分解から保護するための修飾を含むことができる。本発明のアプタマーについて上記で説明した修飾は、siRNAおよびmicroRNAに適用可能である。特定の実施形態において、siRNAまたはmicroRNAは、修飾ヌクレオシド(例えば2’-フルオロ-ピリミジン)を含み、このように、siRNAまたはmicroRNAはヌクレアーゼ媒介分解に対して極めて耐性であり、したがって、細胞培養および動物/対象において使用することができる。好ましくは、miRNAまたはsiRNAの一部を形成するピリミジン塩基の1つまたは複数は、置換ピリミジンである。アプタマーにおける「置換ピリミジン」について上記で提供された全ての実施形態は、本発明の複合体の一部を形成するsiRNAまたはmicroRNAに任意選択で含まれる「置換ピリミジン」に適用され、したがってその実施形態でもある。一実施形態において、miRNAまたはsiRNAのピリミジン塩基の全てまたは一部は、2’修飾ピリミジンであり、基は、ハロゲン、-NR1R2、-O-(C1~C6)アルキル、-SR3、アジド、および-OHで任意選択で置換された(C1~C6)アルキル(式中、R1、R2およびR3は、-H、(C1~C6)アルキル、および(C1~C6)アルケニルから選択される)から選択される。別の実施形態において、miRNAまたはsiRNAの置換ピリミジン塩基は全て、2’-フルオロ(2’-F)修飾されている。このように、好ましい実施形態において、siRNAは、配列番号8(CgggCagCagaaCCCUUCUUaUgaC、大文字は2’-F修飾塩基を示す)、配列番号9(aUggCCUCUCaCCUCagaaUUCaaU、大文字は2’-F修飾塩基を示す)または配列番号10(UgCCCaagaagCCagCagaggaaUU、大文字は2’-F修飾塩基を示す)の配列を含むかまたはそれからなる。
【0097】
より好ましくは、複合体は、
配列番号17:gggaggaCgaUgCggUCCUUgUCgUCUUgCgUCCCCagaCgaCUCgCCCgauuuCgggCagCagaaCCCUUCUUaUgaCuu、
配列番号18:gUCgUCUUgCgUCCCCagaCgaCUCuuuCgggCagCagaaCCCUUCUUa UgaCuu、
配列番号19:gggaggaCgaUgCggUCCUUgUCgUCUUgCgUCCCCagaCgaCUCgCCCgauuuaUggCCUCUCaCCUCagaaUUCaaUuu、
配列番号20:gUCgUCUUgCgUCCCCagaCgaCUCuuuaUggCCUCUCaCCUCagaaUUC aaUuu、
配列番号21:gggaggaCgaUgCggUCCUUgUCgUCUUgCgUCCCCagaCgaCUCgCCCgauuuUgCCCaagaagCCagCagaggaaUUuuおよび
配列番号22:gUCgUCUUgCgUCCCCagaCgaCUCuuuUgCCCaagaagCCagCagaggaaUUuu
から選択される配列を含むかそれからなり、大文字は2’-F修飾塩基を示す。
【0098】
これらの複合体は、アプタマーおよびsiRNA中に2’-フルオロ修飾ピリミジンを含み、それらをヌクレアーゼ分解に対して耐性にし、ES、ARMSまたはSSの治療剤として有用である。
【0099】
本発明の複合体の別の好ましい実施形態において、機能性物質は化学療法剤である。一実施形態において、化学療法剤は、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセル、トラベクテジン、テモゾロミド、エリブリンおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。より好ましくは、化学療法剤は、ドキソルビシン、ゲムシタビン、ドセタキセルおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0100】
本発明による複合体の別の特定の実施形態において、機能性物質は、検出可能な標識であり、好ましくは、酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、高電子密度標識、磁気共鳴イメージング用の標識、放射性物質、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。このように、複合体は、EphA2陽性細胞を検出することができるため、診断剤として役立ち得る。
【0101】
本発明のアプタマーまたは複合体は、例えば、医薬組成物の形態で使用することができる。したがって、第3の態様において、本発明は、治療有効量のRNA-アプタマーまたは本発明の複合体を、許容されるまたは薬学的な賦形剤および/または担体と共に含む組成物に言及する。「賦形剤および/または担体(excipients and/or carriers)」という表現は、許容可能な材料、組成物またはビヒクルを指す。各成分は、組成物の他の成分と適合性であるという意味で薬学的に許容されなければならない。これはまた、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、免疫原性、または合理的な利益/リスク比に見合った他の問題もしくは合併症なしに、人間および人間以外の動物の組織または器官と接触する使用に適切でなければならない。適切な許容される賦形剤の例は、溶媒、分散媒体、希釈剤、または他の液体ビヒクル、分散または懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤または乳化剤、防腐剤、固体結合剤、潤滑剤等である。任意の従来の賦形剤媒体が、任意の望ましくない生物学的効果を生成すること、または別様に医薬組成物もしくは化粧品組成物の任意の他の成分と有害な様式で相互作用すること等によって、物質またはその誘導体と不適合である場合を除いて、その使用は本発明の範囲内であることが企図される。
【0102】
本明細書に記載の医薬組成物の配合物は、薬理学の分野で公知のまたは今後開発される任意の方法によって調製することができる。一般に、そのような調製方法は、活性成分(アプタマーまたは複合体)を賦形剤および/または1つ以上の他の補助成分と会合させ、次いで、必要および/または望ましい場合、生成物を所望の単回または複数回投薬単位に成形および/または包装するステップを含む。
【0103】
本発明の医薬組成物は、バルクで、単一単位用量として、および/または複数の単一単位用量として調製、包装、および/または販売され得る。本明細書で使用される場合、「単位用量(unit dose)」は、所定量の活性成分を含む医薬組成物の個別量である。
【0104】
本発明の組成物中の活性成分(本発明のアプタマーまたは複合体)、許容される賦形剤、および/または任意の追加の成分の相対量は、処置される対象の同一性、サイズ、および/または状態に応じて、さらに組成物が投与される経路に応じて変動する。
【0105】
薬学的に許容される担体の例は、これらに限定されないが、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、ラクトース、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、および炭酸カルシウム等の賦形剤;セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、スクロース、およびデンプン等の結合剤;デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルデンプン、ナトリウムグリコールデンプン、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、およびクエン酸カルシウム等の崩壊剤;ステアリン酸マグネシウム、Aerosil(登録商標)、タルク、およびラウリル硫酸ナトリウム等の滑沢剤;クエン酸、メントール、グリチルリチン-アンモニウム塩、グリシン、およびオレンジパウダー等の香料;安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、およびプロピルパラベン等の保存剤;クエン酸、クエン酸ナトリウム、および酢酸等の安定剤;メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、およびステアリン酸アルミニウム等の懸濁化剤;界面活性剤等の分散剤;水、生理食塩水、およびオレンジ果汁等の希釈剤;カカオバター、ポリエチレングリコール、および白灯油等の基材ワックス等を含む。
【0106】
本発明の組成物は、所望の投与(例えば経口、非経口、吸入剤)に適した当業者に公知の任意の形態で製剤化することができる。
【0107】
先の実施形態のいずれか1つによる特定の実施形態において、本発明の組成物または医薬のアプタマーおよび/または複合体は、組成物の活性成分である。
【0108】
また、本発明は、本発明のアプタマーまたは複合体が固定化された固相担体を提供する。固相担体の例として、基板、樹脂、プレート(例えばマルチウェルプレート)、フィルタ、カートリッジ、カラム、および多孔質材料が挙げられる。基板は、DNAチップ、タンパク質チップ等に使用されるもの、例えばニッケル-PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)基板、ガラス基板、アパタイト基板、シリコン基板、アルミナ基板等であってもよく、またこれらの基板をポリマー等でコーティングして調製された基板が挙げられる。樹脂の例として、アガロース粒子、シリカ粒子、アクリルアミドとN,N’-メチレンビスアクリルアミドとのコポリマー、ポリスチレン架橋ジビニルベンゼン粒子、エピクロルヒドリンと架橋されたデキストランの粒子、セルロース繊維、アリルデキストランとN,N’-メチレンビスアクリルアミドとの架橋ポリマー、単分散合成ポリマー、単分散親水性ポリマー、Sepharose(登録商標)、Toyopearl(登録商標)等が挙げられ、また、これらの樹脂に各種官能基を結合させることにより調製された樹脂も含まれた。本発明の固相担体は、EphA2の精製、検出、および定量などに有用であり得る。本発明のアプタマー又は複合体は、当業者に公知の方法により、固相担体に固定化することができる。
【0109】
先に述べたように、本発明のアプタマーは送達系として使用することができ、診断および治療の可能性を有する。したがって、第4の態様において、本発明は、癌または癌転移の処置または予防における使用のための、上で提供された実施形態のいずれか1つによるアプタマー、複合体または組成物に言及し、癌は、EphA2を発現することを特徴とする(EphA2発現癌)。
【0110】
本発明のアプタマー、複合体および組成物について上に提供される全ての実施形態は、本発明の第4の態様の実施形態でもある。
【0111】
第4の態様はまた、EphA2を対象において発現させることを特徴とする、癌または癌転移の処置方法であって、治療有効量の上記で提供された実施形態のいずれか1つによるRNAアプタマー、または複合体、または組成物を上記対象に投与することを含む方法を含む。
【0112】
第4の態様はまた、対象におけるEphA2発現癌またはEphA2発現癌転移の予防方法であって、予防有効量の上記で提供された実施形態のいずれか1つによるRNAアプタマー、または複合体、または組成物の上記対象への投与を含む方法を含む。
【0113】
第4の態様の一実施形態において、本発明は、EphA2を発現することを特徴とする癌または癌転移の処置における、本明細書で定義されるアプタマー、複合体または組成物のさらなる抗癌物質/療法との併用を提供する。それらは、連続的に、同時に、一緒にまたは別々に投与され得る。
【0114】
第4の態様の特定の実施形態において、アプタマーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4の配列を含むかまたはそれからなり、複合体は、配列番号17の配列を含むかまたはそれからなる。第5の態様において、本発明は、癌または癌転移のin vitroまたはex vivo診断のための、上で提供された実施形態のいずれか1つによるアプタマー、複合体または組成物の使用に関し、癌はEphA2発現がんである。
【0115】
第5の態様はまた、対象においてEphA2を発現させることを特徴とする癌または癌転移を診断するin vitro方法を含み、方法は、本発明の第3の態様の実施形態のいずれか1つによるRNAアプタマーまたは複合体を対象の試験試料と接触させることを含む。
【0116】
本発明のアプタマー、複合体および組成物について上に提供される全ての実施形態は、本発明の第5の態様の実施形態でもある。
【0117】
第5の態様の特定の実施形態において、アプタマーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4の配列を含むかまたはそれからなり、複合体は、配列番号17の配列を含むかまたはそれからなる。
【0118】
第6の態様において、本発明は、癌または癌転移のin vivo診断方法における使用のための、本発明の実施形態のいずれか1つに記載のアプタマー、複合体または組成物に言及し、癌はEphA2発現がんである。
【0119】
第6の態様はまた、対象においてEphA2を発現させることを特徴とする癌または癌転移のin vivo診断方法を含み、方法は、RNAアプタマー、本発明の第2の態様の実施形態のいずれか1つによる複合体、または本発明で定義される組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む。
【0120】
本発明のアプタマー、複合体および組成物について上に提供される全ての実施形態は、本発明の第6の態様の実施形態でもある。
【0121】
第6の態様の特定の実施形態において、アプタマーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4の配列を含むかまたはそれからなり、複合体は、配列番号17の配列を含むかまたはそれからなる。
【0122】
本発明の第4、第5および第6の態様の実施形態のいずれか1つによる特定の実施形態において、EphA2を発現することを特徴とする癌(EphA2発現癌)は、EphA2陽性細胞を含む癌である。したがって、特定の実施形態において、癌は、EphA2陽性細胞を含む癌である。同様に、別の特定の実施形態において、癌はEphA2を過剰発現する癌である。EphA2の過剰発現は、EphA2の発現が健康な組織におけるEphA2発現よりも少なくとも2、3、4または5倍高いことを意味する。
【0123】
好ましくは、EphA2発現癌は、軟部組織および骨肉腫、特にTAS、例えばES、ARMS、SS、ユーイング様肉腫(非ETS遺伝子で再編成されたCIC-、BCOR-およびEWSR1)、DSRCT、MLS;胎児横紋筋肉腫;骨肉腫;乳癌、特にトリプルネガティブ乳癌;結腸直腸癌;黒色腫;腎細胞癌;膵臓癌;前立腺癌、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される。より好ましくは、EphA2発現癌は、軟部組織および骨肉腫、特にTAS、例えばES、ARMS、SS、ユーイング様肉腫(非ETS遺伝子で再編成されたCIC-、BCOR-およびEWSR1);DSRCT、MLS;骨肉腫;乳癌、特にトリプルネガティブ乳癌;結腸直腸癌;黒色腫;腎細胞癌;膵臓癌;前立腺癌、ならびにそれらの組み合わせからなる群から選択される。より具体的には、EphA2発現癌は、TAS、好ましくはES、ARMS、SS;ユーイング様肉腫(例えば非ETS遺伝子で再編成されたCIC-、BCOR-およびEWSR1)、DSRCT、MLSまたは乳癌、好ましくはトリプルネガティブ乳癌である。さらにより好ましくは、癌は、ES、ARMSまたはSSである。
【0124】
本発明のアプタマー、複合体または組成物の投与量は、活性成分の種類および活性、疾患の重症度、投与対象、投与対象の薬物忍容性、体重、年齢等に依存して変動し、通常の投与量は、成人の1日当たりの活性成分の量に基づいて、約0.0001~約100mg/kg、例えば約0.0001~約10mg/kg、好ましくは約0.005~約1mg/kgであってもよい。
【0125】
本発明のアプタマー、複合体および/または組成物は、パーツのキットに含めることができる。したがって、本発明の第7の態様は、本発明の第1の態様の実施形態のいずれか1つによるアプタマー、本発明の第2の態様の実施形態のいずれか1つによる複合体、および/または本発明の第3の態様の実施形態のいずれか1つによる組成物を含む診断キットに関する。本発明はまた、癌または癌転移のin vitroまたはex vivo診断のためのこのキットの使用に言及し、癌は、EphA2を発現することを特徴とする。好ましくは、キットは、アプタマーを検出する手段を含む。より好ましくは、キットは、その使用説明書を含む。
【0126】
アプタマー、複合体または組成物について上に提供される全ての実施形態は、本発明の第7の態様の実施形態でもある。
【0127】
本発明の第7の態様の一実施形態において、アプタマーは、配列番号1、配列番号2、配列番号3または配列番号4の配列を含むかまたはそれからなり、複合体は、配列番号17の配列を含むかまたはそれからなる。
【0128】
上記の発明は、明確さおよび理解のためにある程度詳細に記載されているが、本発明の真の範囲および添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、形態および詳細の様々な変更を行うことができることが、本発明の解釈から当業者によって理解されるであろう。
【0129】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するのに役立ち、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【実施例】
【0130】
実施例1-材料および方法
【0131】
1.細胞内在化SELEX
30ヌクレオチド(nt)可変領域(gggaggacgaugcggnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnnncagacgacucgcccga、配列番号23)を有するRNAライブラリを、突然変異体Y639F T7 RNAポリメラーゼおよび化学合成DNA鋳型(IDT)を使用したin vitro転写によって生成した。ライブラリおよびその後の全てのラウンドのSELEXのin vitro転写反応に2’-フルオロ修飾CTPおよびUTP(TriLink Biotechnologies)を補充して、ヌクレアーゼ耐性であるRNAを生成した。
【0132】
細胞SELEXの各ラウンドにおいて、100μg/ml酵母tRNA(Invitrogen)を補充したRNAアプタマープール(150nM)を最初に非標的MCF10A(EphA2-)細胞上で30分間インキュベートして、非標的細胞に結合してその中に内在化されるアプタマーを除去した。次に、上清(非標的細胞に内在化しないRNAアプタマーを含む)を標的MDA-MB231(EphA2+)細胞に30分間移した。後のラウンドの細胞内在化SELEXにおける選択のストリンジェンシーを高めるために、内在化時間および細胞数を減少させた。未結合および表面結合アプタマーを除去するために、標的細胞(MDA-MB231)を、0.5M NaCl(高塩洗浄)に調整した氷冷DPBSで5分間洗浄した。次いで、TRIzol試薬(Invitrogen)を製造者の説明書に従って使用して内在化RNAアプタマーを回収し、DNAに逆転写し、PCR(Sel2 5’プライマー:taatacgactcactatagggaggacgatgcgg、配列番号24;Sel2 3’プライマー:tcgggcgagtcgtctg、配列番号25)により増幅し、in vitro転写して、次のラウンドの細胞内在化SELEXのためのRNAアプタマーの濃縮プールを生成した。
【0133】
70 Illuminaディープシーケンシング(Iowa State DNA Facility)を使用して、選択したヒトEphA2ラウンドからのアプタマーのプールを配列決定した。濃縮パーセントを決定するために、各ラウンドにおける一意の配列の総数を、各ラウンドにおいて得られた配列の総数で除した。アプタマーを、それぞれの個々のアプタマー配列を選択において他の全てと比較することによってファミリーに分類した。最も高度に表されたアプタマーを使用して、細胞に入るその能力を試験した。
【0134】
全ての実施例で使用されたアプタマーの配列は、
gggaggaCgaUgCggUCCUUgUCgUCUUgCgUCCCCagaCgaCUCgCCCga(配列番号4)であり、大文字は2’-フルオロ修飾塩基を示す。
【0135】
2-内在化アッセイ
標的(A673およびSKNMC)細胞を、100nMアプタマーまたはアプタマー-siRNAキメラと共に、5%CO2、37℃で30分間インキュベートした。細胞を氷冷高塩洗浄で洗浄し、TRIzol試薬を使用してRNAを回収した。サンプルを内部RNA参照対照に対して正規化した。具体的には、0.5pmol/試料M12-23アプタマーを参照対照としてTRIzolと共に各試料に添加した。回収されたRNAを、Biorad iCyclerと共にSYBR Green(Biorad)を含むiScript One-Step RT-PCR Kitを使用して定量した。全ての反応は、RNAアプタマーに特異的なプライマー(Sel2 5’プライマー(配列番号24);Sel2 3’プライマー(配列番号25)およびM12-23参照対照(Sel1 5’プライマー:gggggaattctaatacgactcactatagggagagaggaagagggatggg、配列番号26;Sel1 3’プライマー:ggggggatccagtactatcgacctctgggttatg、配列番号27))を用いて3連で50μlの体積で行った。試料をM12~23、およびSCR1対照アプタマーと比較した各アプタマーのPCR増幅効率に対して正規化した。
【0136】
3.RNA抽出および逆転写
記載された濃度でのアプタマーまたはキメラ処置の後、Macherey-Nagel製のnucleoSpin RNAまたはNucleoSpin miRNA(マイクロアレイ目的用)を使用して抽出した全RNA(2μg)を、Superscript II Reverse Transcriptase(Life Technologies)を用いたcDNA合成に使用した。
【0137】
4.定量的リアルタイムPCR(qPCR)
定量的逆転写-PCRを、LightCycler 480 II機器(Roche)においてユニバーサルサイクリング条件下で、Life TechnologiesのTaqMan PCR MastermixおよびTaqManプローブを使用して行った。
【0138】
実施例2-EPHA2の発現
【0139】
細胞を、プロテアーゼ阻害剤(完全、ミニ;プロテアーゼ阻害剤カクテル錠剤、Roche)およびホスファターゼ阻害剤(PhosStop、ホスファターゼ阻害剤カクテル錠剤、Roche)を含むRIPA緩衝液(Thermo Fisher Scientific、米国マサチューセッツ州ウォルサム)で氷上で30分間溶解した。溶解物を超音波処理し、4℃、13,000rpmで30分間遠心分離し、上清を回収した。試料(50μg)を8、10または12%SDS-PAGEによって分離し、ニトロセルロース膜(0.2μm、Bio-Rad、カリフォルニア州ハーキュリーズ、米国)上に移した。0.1%Tween20(Sigma-Aldrich)を含むPBS中の5%脱脂乳を用いて、膜ブロッキングを室温で1時間行った。次に、膜を適切な一次抗体(EphA2 1:1,000#6997)と共に4℃で一晩インキュベートした。次いで、ブロットを、ホースラディッシュペルオキシダーゼにコンジュゲート化された二次抗体(ヤギ抗ウサギ、Life Technologies)と共に室温で1時間インキュベートし、ペルオキシダーゼ活性を、製造者の説明書に従って増強化学発光(Thermo Fisher Scientific)により検出した。Abeamからのa-チューブリン(#ab28439)またはb-アクチン(#ab49900)の免疫検出をローディングコントロールとして使用した。
【0140】
図1に示すように、EphA2はRMS細胞で高度に発現される(
図1A)。さらに、RH4細胞におけるEphA2の安定なノックダウン(
図1B)は、特に移動時におけるこれらの細胞の新生物表現型の減少をもたらす(
図1C)。したがって、EphA2はRMS細胞で過剰発現され、その下方制御は細胞移動の減少をもたらす。
【0141】
実施例3-認識および内在化
【0142】
EphA2を発現するA673細胞を、100nMのスクランブルアプタマー、非特異的RNA配列またはEphA2特異的アプタマーで処置した。細胞を固定し、EphA2の免疫蛍光を行った。細胞の膜上の緑色染色EphA2、DAPI染色核および赤色は、細胞を内在化したEphA2アプタマーに結合したCy3タグに起因する。処置の3時間後に写真を撮影した。
【0143】
本発明のEphA2アプタマーは、細胞が赤色染色されるように、ES A673細胞(EphA2発現細胞)を認識および侵入したことが分かった。したがって、EphA2陽性細胞を認識および内在化する本発明のアプタマーの能力が実証される。このように、本発明のアプタマーは、上記EphA2陽性細胞に結合した任意の機能性物質の完全な治療候補および送達剤である。
【0144】
さらに、EphA2(EPH)およびスクランブル(SCR)RNAアプタマーをES EphA2+A673細胞と共にインキュベートした。細胞内に内在化したRNAをTRIzol抽出によって回収し、示された時点の後にqPCRを使用して定量した(
図2)。SCR RNAアプタマーをこのアッセイにおける細胞内在化のための陰性対照として使用した。予測されたように、EphA2 RNAアプタマーは、6時間でピークを伴ってA673細胞に特異的に内在化し、SCR RNAアプタマーを使用すると内在化しない、またはほとんど内在化しないことが観察された。黒いバーは、アプタマーに特異的な内在化RNA(生成ライブラリの特異的プライマーとしてSEL2/SEL1が使用された)を表し、薄灰色のバーは、特異的プライマーと細胞由来の内部RNAとの比に関連する(L32は、細胞中に存在するリボソームタンパク質に由来するRNAを表す)。
【0145】
実施例4-クローン原性アッセイ
【0146】
アプタマーが細胞を内在化する能力を実証した後、本発明者らは、クローン原性アッセイによってそれが何らかの治療効果を有し得るかどうかを試験した。
【0147】
クローン原性アッセイのために、500個の細胞を6ウェルプレートのウェルに播種した。播種後約14日でコロニーが飽和に達したら、細胞を冷メタノールで10分間固定し、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(PBS、Biowest)で洗浄し、クリスタルバイオレット(Sigma-Aldrich)で20分間染色し、水で洗浄した。ImageJを使用して、総コロニー数を手作業でカウントした。いくつかの場合において、コロニーを10%氷酢酸溶液で変色させ、クリスタルバイオレットを分光法によって定量した。
【0148】
ES細胞:A673(A6)およびTC252(TC2)、ならびにARMS細胞:RH4およびRMS13を、スクランブル(SCR)またはEphA2アプタマー(EPH)のいずれかで100nMで3日ごとに14日間処置した。
図3AおよびBは、それぞれSCRおよびEphA2アプタマー処置細胞における染色コロニー数の代表的な実験を示す。
図3Cのグラフは、各細胞株において計数されたコロニーの数を中央値パーセンテージとして示している(×3)。スクランブルアプタマーと比較して、本発明のEphA2アプタマーは、ESおよびARMS実体を代表する細胞のクローン原性能力を低下させることができた(
図3C)。
【0149】
実施例5-トランスウェル移動アッセイ
【0150】
スクランブルまたはEphA2アプタマーのいずれかで処置されたA673(ES)およびRMS13(ARMS)細胞に対して移動アッセイを行った。
【0151】
細胞を通常通り採取した。RPMIでさらに洗浄した後、150μLの無血清培地中の1.5×105個の細胞を8μm細孔ポリカーボネートトランスウェル(Transwell Permeable Supports-Corning)の上部チャンバに加えた。一方、底部チャンバに、500μLの完全培地(10%FBS)を加えた。250nMアプタマーの存在下での移動アッセイのために、播種の6時間前に細胞をアプタマーで前処理し、アプタマーを両方のチャンバに加えた。A673については48時間後、RMS13については6時間後に、上部チャンバ上の細胞を綿棒で除去した。膜の下側にまだ付着している移動細胞を、70%エタノールを使用して30分間固定し、クリスタルバイオレットで染色した。
【0152】
スクランブルおよびEphA2アプタマー処置後の移動A673細胞の代表的な顕微鏡写真をそれぞれ
図4Aおよび4Bに示す。
【0153】
トランスウェル膜を収集し、各トランスウェルの5枚の写真を光学顕微鏡(100×)によって取得した。全般的に、膜を10%氷酢酸溶液で変色させ、クリスタルバイオレットを分光法によって定量した。いくつかの例では、本発明者らは、ImageJを使用して膜中の移動細胞の数を直接手動でカウントすることを選択した。結果は、指定された対照条件のパーセンテージとして提示されている(
図4C)。
【0154】
図4Cに示されるように、本発明のアプタマーはES細胞およびRMS細胞の両方の移動を減少させ、アプタマーがEphA2をノックダウンする効果を模倣することを強く示唆している。
【0155】
実施例6-腫瘍発生
【0156】
in vitro結果に基づいて、本発明者らは、本発明者らによって開発された同所性モデルを使用することによってin vivoでアプタマーの効果を試験した(Lagares-Tenaら)。A673細胞(2×10
6個)をbalb/c雌マウス(スクランブル処置に8匹のマウスおよびEphA2アプタマー処置に9匹のマウス)の腓腹筋に注射し、2日後、スクランブルおよびEphA2アプタマーを2nmol濃度で3日ごとに尾静脈を通して全身適用した(4~5回の注射を適用した)。
図5に示すように、全てのスクランブル処置マウスは、18日までに手術に適した腫瘍を発達させた。対照的に、処置の結果として、特異的アプタマーで処置した9匹のマウスのうち3匹で腫瘍は発生せず、他のマウスのうち4匹で発生した腫瘍は有意な増殖遅延を有した。さらに、手術のための体積に達する時間が遅延した。
【0157】
実施例7-同所性異種移植転移アッセイ
【0158】
同所性モデル、腫瘍切除後に肺転移を発症するため、本発明者らは、動物の各群における肺転移の数を測定した。
【0159】
簡潔には、100μLのPBSに再懸濁した2×106個の細胞を、Harlanからの6週齢の雌無胸腺ヌードマウス(BALB/cnu/nu)の腓腹筋に注射し(スクランブル処置に8匹のマウスおよびEphA2アプタマー処置に9匹のマウス)、2日後、スクランブルおよびEphA2アプタマーを2nmol濃度で3日ごとに尾静脈を通して全身適用した(4~5回の注射を適用した)。原発腫瘍を有する肢部が800mm3の体積に達したら、腓腹筋を外科的に切除した。注射後60日目に、マウスを安楽死させ、肺を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋した。肺切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、転移を光学顕微鏡下で計数した。
【0160】
スクランブル処置マウスおよびEphA2アプタマー処置マウス由来の健康な肺における肺微小転移の代表的な顕微鏡写真を、それぞれ
図6Aおよび
図6Bに示す。
図6Cに見られるように、EphA2アプタマーで処置された2匹のマウスのみが肺に微小転移を示し、試料の28%を占めた。対照的に、スクランブルアプタマーで処置された7匹のマウスでは、肺に微小転移が見られ、試料の77%を占めた。
【0161】
実施例8-アプタマー-siRNA複合体
【0162】
キメラ生成
EphA2アプタマー-EWS/FLI1 siRNAキメラのより長い鎖を、EWS/FLI1アンチセンス配列に相補的なヌクレオチドをEphA2 RNAアプタマーの3’末端に付加することによって操作した(下記の配列番号17において下線が引かれている)。アプタマーとsiRNAとの間にリンカーuuuが含まれ、siRNAの3’末端にテールuuが含まれていた(下記の配列番号17における斜体)。in vitro転写によって生成された全てのRNAは、RNAをヌクレアーゼ分解に対して耐性にするために2’-フルオロ修飾ピリミジン(配列中の大文字)を用いて産生された。4倍モル過剰のEWS/FLI1アンチセンス配列を、長鎖RNA鎖を95°Cで10分間加熱し、4倍過剰のアンチセンスsiRNA鎖を折り畳まれていないアプタマー溶液に添加し、混合物を65℃の乾燥浴に7分間移すことによって、各長鎖RNA鎖にアニールさせた(最終濃度1μM)。RNA混合物を25℃で20分間冷却して、2本のRNA鎖のアニーリングを可能にした。次いで、RNAアプタマーおよびsiRNAを1XBB中で折り畳んでアニールした(20mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、2mM CaCl2)。過剰なアンチセンスsiRNA鎖を、折り畳まれたRNAをAmicon Y-30カラム(Millipore、UFC803024)を通して濾過することによって除去した。
【0163】
この実施例で使用されたキメラは、
gggaggaCgaUgCggUCCUUgUCgUCUUgCgUCCCCagaCgaCUCgCCCgauuuCgggCagCagaaCCCUUCUUaUgaCuu(配列番号17)であった。
【0164】
A673細胞を、レピジン系を使用せずに、異なる濃度の非標的化(NT)キメラおよび特異的キメラ(Apt-siEF)で48時間処置した。Life Technologies ACTB 4333762FのTaqManプローブおよびEWS-FLI 1 Hs03024497を使用して、EWS/FLI1発現をqPCRによって測定した。融合遺伝子のレベルは、siRNA送達後に約80%低下した(
図7を参照されたい)。したがって、EWS/FLI1のsiRNAと複合体化したこのEPhA2特異的アプタマーで48時間処置したA673細胞は、EWS/FLI1の効率的な下方制御をもたらす。
【0165】
この実施例は、本発明によるアプタマー-siRNA複合体が特定の細胞型(EphA2陽性細胞)に内在化することができ、機能性物質(この場合EWS/FLI1に特異的なsiRNA)をin vitroで細胞に送達することができ、その結果、siRNAの標的遺伝子(この場合EWS/FLI1)の発現が下方制御されることを示している。したがって、本発明のアプタマーは、それに複合体化したsiRNAの内在化を可能にし、上記siRNAをその分解から保護する良好な送達剤であることが証明される。
【0166】
これらの結果は、siRNA標的の発現を阻害するために効率的にプロセシングされる細胞に特定のsiRNAを送達する本発明によるアプタマーの有用性を強く示唆している。
【0167】
EphA2アプタマー-siRNAキメラが細胞レベルでどのように機能するかについての仮説モデルを
図9に示す。アプタマー-siRNAキメラは、形質膜中の受容体を認識して細胞に入る。
【0168】
実施例9-本発明の複合体を使用したクローン原性アッセイ
【0169】
上記の実施例4に開示されたものと同じプロトコルに従ったが、アプタマーを実施例8の配列番号17の配列の複合体に置き換え、A673細胞に対する効果を試験した。
【0170】
結果を
図10に要約する。複合体は、ES細胞のクローン原性能力を低下させるのに非常に効率的であることは明らかである。
【0171】
文献
- Xiao et al., Advances in chromosomaltranslocations and fusion genes in sarcomas and potential therapeuticapplications. Cancer Treat Rev. 2018; 63: 61-70.
- Tandon et al., Emerging strategies forEphA2 receptor targeting for cancer therapeutics. Expert Opin Ther Targets.2011; 15(1): 31-51.
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- Zhou Y. et al.,“Emergingand Diverse Functions of the EphA2 Noncanonical Pathway in Cancer Progression”,Biol. Pharm. Bull. 40, 1616-1624 (2017).
【0172】
完全を期すために、本願発明の種々の面を以下の番号の項に提示する。
【0173】
項目
第1項.EphA2に特異的に結合するRNA-アプタマーであって、
(i)配列番号1の配列からなる;または、
(ii)配列番号2の配列を含み、任意に、配列番号2の1~20及び46~51位の任意の個所において、1、2、又は3個の置換を有する。
第2項.前記アプタマーは、ヌクレアーゼ消化から保護されるために修飾され、好ましくは2’-フルオロ(2’-F)修飾されたピリミジン塩基により、又は前記アプタマーの5’末端へのポリエチレングリコールカップリングにより修飾されている、第1項に記載のアプタマー
第3項.前記アプタマーは、2’-フルオロ(2’-F)修飾されたピリミジン塩基を含み、且つ、
(i)配列番号3の配列からなる;または、
(ii)配列番号4の配列を含み、任意に、配列番号4の1~20及び46~51位の任意の個所において、1、2、又は3個の置換を有する、第2項に記載のアプタマー。
第4項.配列番号2又は4、好ましくは配列番号4の配列からなる、又は含む、第1項~第3項のいずれか1項に記載のアプタマー。
第5項.機能性物質に結合した、好ましくは前記アプタマーの3’末端で結合した、第1項~第4項のいずれか1項に記載の前記RNA-アプタマーを含む、複合体。
第6項.前記RNA-アプタマーがスペーサを介して前記機能性物質に連結され、前記スペーサが好ましくは2~5ヌクレオチド、更に好ましくは3ヌクレオチドからなり、及び/又は前記機能性物質が3’末端尾部を含み、好ましくは2~5ヌクレオチド、より好ましくは2若しくは3ヌクレオチドの尾部を含む、第5項に記載の複合体。
第7項.前記機能性物質が、
(i)siRNA、microRNA、shRNA若しくはリボザイム、好ましくはsiRNAまたはmicroRNA;又は
(ii)放射性核種、化学療法剤およびそれらの組み合わせ、好ましくは化学療法剤から選択される部分を含む、第5項又は第6項に記載の複合体。
第8項.前記アプタマーは、siRNAと結合し、好ましくは、前記siRNAは、配列番号5~配列番号10の配列のいずれか1つを含む、第7項に記載の複合体。
第9項.配列番号11~配列番号22の配列のいずれか1つを含む、第7項に記載の複合体。
第10項.前記機能性物質が、検出可能な標識であって、好ましくは、酵素、補欠分子族、蛍光物質、発光物質、生物発光物質、電子密度標識、磁気共鳴イメージング用の標識、放射性物質、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される検出可能な標識である、第5項又は第6項に記載の複合体。
第11項.第1項~第4項のいずれか一項に記載の前記アプタマー、および/または第5項~第10項のいずれか一項に記載の複合体と、薬学的又は生理学的に許容される担体と、含む、組成物。
第12項.被験者のがん又はがんの転移を処置又は予防する方法において使用するための、第1項~第4項のいずれか一項に記載の前記アプタマー、または第5項~第10項のいずれか一項に記載の複合体、または第11項に記載の組成物であって、前記がんは、EphA2を発現する、好ましくは、前記がんは軟部組織及び骨肉腫、特に転座関連肉腫、例えば、ユーイング様肉腫、胞巣状横紋筋肉腫、滑膜肉腫;ユーイング様肉腫;骨肉腫、乳癌、特にトリプルネガティブ乳癌;結腸直腸癌;黒色腫;腎細胞癌;膵臓癌;前立腺癌、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、第1項~第4項のいずれか一項に記載の前記アプタマー、または第5項~第10項のいずれか一項に記載の複合体、または第11項に記載の組成物。
第13項.インビトロ又はエクスビボで、がん又はがんの転移を診断するための、第1項~第4項のいずれか一項に記載の前記アプタマー、または第10項のいずれか一項に記載の複合体、または第11項に記載の組成物であって、前記がんは、EphA2を発現する、好ましくは、前記がんは軟部組織及び骨肉腫、特に転座関連肉腫、例えば、ユーイング様肉腫、胞巣状横紋筋肉腫、滑膜肉腫;ユーイング様肉腫;骨肉腫、乳癌、特にトリプルネガティブ乳癌;結腸直腸癌;黒色腫;腎細胞癌;膵臓癌;前立腺癌、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、第1項~第4項のいずれか一項に記載の前記アプタマー、または第10項のいずれか一項に記載の複合体、または第11項に記載の組成物。
第14項.インビボで、EphA2を発現することを特徴とするがんを診断する方法において使用するための、好ましくは、前記がんは軟部組織及び骨肉腫、特に転座関連肉腫、例えば、ユーイング様肉腫、胞巣状横紋筋肉腫、滑膜肉腫;ユーイング様肉腫;骨肉腫、乳癌、特にトリプルネガティブ乳癌;結腸直腸癌;黒色腫;腎細胞癌;膵臓癌;前立腺癌、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、第1項~第4項のいずれか一項に記載の前記アプタマー、または第10項のいずれか一項に記載の複合体、または第11項に記載の組成物。
第15項.第1項~第4項のいずれか1項に記載のRNAアプタマー、又は第10項に記載の複合体、又は第11項に記載の組成物と、任意に前記アプタマーを検出する手段と、を備える、診断キット。
【配列表】
【国際調査報告】