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特表2022-542010家禽の糞中の水分および窒素含有量を減らすための組成物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-29
(54)【発明の名称】家禽の糞中の水分および窒素含有量を減らすための組成物の使用
(51)【国際特許分類】
   A23K 20/142 20160101AFI20220921BHJP
   A23K 50/75 20160101ALI20220921BHJP
【FI】
A23K20/142
A23K50/75
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022501244
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(85)【翻訳文提出日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2020067847
(87)【国際公開番号】W WO2021018486
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】102019120249.3
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512117801
【氏名又は名称】アルツヒエム トローストベアク ゲー・エム・べー・ハー
【氏名又は名称原語表記】Alzchem Trostberg GmbH
【住所又は居所原語表記】Dr.-Albert-Frank-Str. 32, D-83308 Trostberg, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】サンズ、ユルゲン
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005DA01
2B150AA05
2B150AB12
2B150AB20
2B150DA44
(57)【要約】
本発明は、家禽の糞中の水分を減らすため、および/または家禽の糞中の窒素含有量を減らすための、グアニジノ酢酸およびグリシンを含有する組成物の使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
家禽の繁殖、飼育または肥育中のそれぞれの場合に、家禽の糞中の水分を減らすため、および/または家禽の糞中の窒素含有量を減らすための、グアニジノ酢酸およびグリシンを含有する組成物の使用。
【請求項2】
組成物は、家禽用の飼料中に固形製剤として提供され、当該飼料は、基本飼料、基本飼料1kgあたり0.1から5gの量のグアニジノ酢酸、および1kgあたり0.01から2.5gの量のグリシンを含有することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
組成物は、家禽用の飲用液として提供され、当該飲用液は、水、水1Lあたり0.05から1.2gの量のグアニジノ酢酸、および水1Lあたり0.005から0.12gの量のグリシンを含有することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
飼料又は飲用液が、家禽の栄養のために自由に家禽に提供されることを特徴とする、請求項2または3に記載の使用。
【請求項5】
組成物が、以下を含有することを特徴とする、請求項1に記載の使用:
i)遊離酸として、またはこの酸の塩の形でのグアニジノ酢酸、および/または
ii)遊離酸として、またはこの酸の塩の形でのグリシン。
【請求項6】
グアニジノ酢酸が、グアニジノ酢酸の塩の形で使用され、塩は、グアニジノ酢酸のアルカリ塩またはアルカリ土類塩、特に、グアニジノ酢酸ナトリウム、グアニジノ酢酸カリウム、グアニジノ酢酸マグネシウムまたはグアニジノ酢酸カルシウムの群から選択される、先行する請求項の何れかに記載の使用。
【請求項7】
グリシンが、グリシンの塩の形で使用され、塩は、グリシンのアルカリ塩またはアルカリ土類塩、特に、グリシンナトリウム、グリシンカリウム、グリシンマグネシウムまたはグリシンカルシウムの群から選択されることを特徴とする、先行する請求項の少なくとも1項に記載の使用。
【請求項8】
家禽が、アヒル、ガチョウ、鶏、雌鶏、産卵雌鶏、ブロイラー、七面鳥の雄鶏、ウズラ、ダチョウおよび七面鳥の雌鶏の群から選択されることを特徴とする、先行する請求項の少なくとも1項に記載の使用。
【請求項9】
基本飼料が、基本飼料1kgあたり8MJから20MJのカロリー価を持ち、および/または基本飼料がAnimal Nutrition Handbook, 3rd Revision, 2014 Section 12, Poultry Nutrition and Feedingに従ったバランスの取れた基本飼料であることを特徴とする、先行する請求項の少なくとも1項に記載の使用。
【請求項10】
基本飼料が、以下を含むことを特徴とする、先行する請求項の少なくとも1項に記載の使用:
i)少なくともひとつの穀物、穀物ミール、粗粒、またはそれらの抽出物、および/または
ii)炭酸カルシウム、リン酸二カルシウム、アミノ酸またはビタミンの群から選択される少なくともひとつのさらなる飼料添加物。
【請求項11】
家禽の糞中の水分を減少させる、および/または家禽の糞中の窒素含有量を減少させる方法であって、グアニジノ酢酸およびグリシンを含む組成物を、家禽が自由に消費するために、家禽の繁殖中、飼育中または肥育中に家禽に提供することを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
明細書
本発明は、家禽の糞中の水分を減らすため、および/または家禽の糞中の窒素含有量を減らすためのグアニジノ酢酸およびグリシンを含有する組成物の使用に関する。
【0002】
家畜の飼育では、様々な種類の糞が発生する。哺乳類では、2種類の排泄物、つまり液体形態と固体-ペースト形態(狭義の尿と糞)の糞が発生するのに対して、鳥類では完全に液体の排泄物は存在しない。水分の少ない尿が、いわゆる総排泄腔(クロアカ;Kloake)から固体-ペースト形態の糞と一緒に排泄される。飼育条件によっては、糞がリター(litter)と混ざることもある。
【0003】
動物の飼育の問題点の1つは、処理しなければならない大量の糞と、そのための処理費用がかかるかもしれないことである[Landbauforschung - vTI Agriculture and Forestry
Research, Special Issue 322 (2008), www.topagrar. com/.../Home-top-News-Die-Guelle-Kosten-explodieren-1122110]。ここでは、輸送コストも別の重要な影響要因である。
【0004】
もう一つの問題は、多くの州で公式に規定されている、冬期の糞散布の禁止である[https://www.landwirtschafts- kammer.de/landwirtschaft/ackerbau/duengung/guelle/verordnung/sperrfrist.htm]。これにより、糞尿(manure)の貯蔵場所の大きさが要求される。
【0005】
さらに、液体の糞尿の貯蔵、輸送、施肥の際に問題となる臭気の迷惑行為が発生する[https://www.lwk-niedersachsen. de/index.cfm/portal/6/nav/348/article/21682.html]。これらの現象は、以下の方法や装置を用いて対策することができる:
A)主に養豚や牧畜で使用される糞尿分離装置で、液体部分と固体部分に分離される。この2つの相は、さらに別々に処理される。固相は堆肥化されるか、乾燥され、熱的に利用される。熱利用については、特殊な燃焼炉が記載されている(EP2249080 A1)。液相は、農地に散布されるか、またはさらに濃縮される。
B)液状の糞尿を気化させ、排出されるアンモニアを回収し、例えば硫酸アンモニウムの形で商業的に販売することができる。
C)DE102010033251 A1には、液状の糞尿を炭酸アンモニウム、固体肥料および生活用水/飲料水に変換する方法が記載されている。
D)液状の糞尿および家禽の排泄物は、バイオガスプラントで発酵させることができる(WO2013/152266 A2、EP1589095 B1)。
E)雌鶏の糞を乾燥させるための特別な方法と装置が記載されている(DE19851793 A1)。
【0006】
これらの方法の欠点は、糞を処理するための装置が非常に複雑でコストがかかることである。発生時点での糞の産出を抑えることはできない。
【0007】
畜産におけるもう一つの問題は、糞からアンモニア、メタン、二酸化炭素(CO)などの環境に関連する汚染ガスが排出されることである。ここでアンモニアは、アミノ酸などの窒素含有化合物の分解によって生成され、これらの化合物は、主に動物の飼料に由来し、動物の体内で完全には利用されない。代表的な窒素レベル(以下、糞のN含有量ともいう)を表1に示す。
【0008】
【表1A】
【0009】
この値は、様々な農場で得られた。雌鶏や鶏の糞、乳牛や牛の糞尿ならびに肥育豚の糞尿における大きな変動は、異なる給餌や飼育の条件に起因する。
【0010】
ドイツでは2014年、74万トンのアンモニアが排出された。欧州経済委員会(UNECE)が2010年に設定したアンモニアの最大量である55万トンを、これまでは上回っていた。アンモニア排出量の95%までは農業が原因である(http://www.umweltbundesamt.de/daten/luftbelastung/ luftschadstoff-emissionen-in-deutschland/ammoniak-emissionen#textpart-1)。排出量の半分は、糞や液状糞尿などの有機肥料の散布によるものである(https://www.lwk-niedersachsen.de/index.cfm/portal/ 6/nav/348/article/ 21682.html)。
【0011】
アンモニアは、二酸化炭素(CO)の約300倍の温室効果を持つ亜酸化窒素に変換され、自然界での平均滞留時間は114年であることから、アンモニアの排出は深刻な気候問題となっている。糞からのアンモニアの排出を削減するために考えられる技術的手段は以下の通りである:
A)糞の低排出散布
B)糞を直接土壌に投入する
C)糞の貯蔵場所を覆う
D)硝化抑制剤を使用した糞の散布。
上記の方法の欠点は、対策が最後に施されるだけで、糞中の窒素含有量(N含有量)を減らせないことである。
【0012】
糞中の窒素含有量のもう一つの問題は、法制化された、圃場面積あたりの窒素の最大許容量に関する規制である。あらゆる種類の糞尿には窒素が含まれる。現代の農業では、飼料生産者が食肉生産者を兼ねていることはあまりないので、食肉生産者は動物の排泄物を散布するための十分な畑の面積を持っていないことが多い。そのため、糞を回収するため
のお金がかかってしまう。実際には窒素が含まれているので価値があるはずの糞が、法的規制のために市場価値がマイナスになっている。糞中の窒素化合物のもう一つの欠点は、窒素が様々な形で結合しており、植物にとっては放出が早すぎたり遅すぎたりすることである。家禽の糞には、尿酸の形で大量の窒素が含まれている。これは、糞中の窒素が許容窒素量で含まれていても、その窒素が植物に利用されないことを意味する。
【0013】
糞の発生や蓄積に関連して、例えば湿ったリター(litter)を使用するなど、飼育条件があまりにも湿っている場合、鳥の皮膚に炎症が見られるという問題もある。また、鳥の成長にも悪影響を及ぼす可能性がある(M.F. Martland, Avian Pathology, 14 (1985) 353 - 364; Ulcerative Dermatitis in Broiler Chickens: M.F. Martland, Avian Pathology, 13 (1984) 241 - 252; Wet Litter as a Cause of Plantar Pododermatitis Leading
to Foot Ulceration and Lameness in Fattening Turkeys)。
【0014】
小屋の中の過度に液状の糞は、鳥の居住区を湿らせる原因となる。液状の糞は健康な動物でも発生する可能性がある。小屋の変更、飼料の変更、外気温の上昇および緑色飼料などが液状糞の増加の原因として挙げられる。
【0015】
過度に湿った鳥の糞のもう一つの欠点は、機械的な処理がしにくいことである。湿った糞は壁や床に付着して取り除くのが難しく、運搬装置からの荷降ろしの際にも問題が発生するため、湿った糞のある小屋の機械的な清掃は乾いた糞の場合よりも複雑になる。
【0016】
先行技術によれば、鳥類の居住区の湿気を減らすための様々な可能な解決策がある。その目的は、高い飼育密度にもかかわらず、糞が動物に与える有害な影響を回避、または少なくとも大きく低減させ、廃棄コストを低く抑え、小屋の清掃を容易にし、糞を良好に運搬できるようにすることである:
A)主に乾燥したリターを使用する
B)リターは定期的に取り除き、交換する
C)牛や豚の飼育では、定期的に清掃・消毒された部分的または完全に隙間のある床が使用されている。液体の排泄物は、隙間のある床から簡単に流れ出ることができる
D)鶏の地上繁殖では、鳥の排泄物を除去するために、小屋の一部に糞尿ボードまたは糞尿バンカーを使用してもよい
E)鶏のケージ繁殖では、糞尿は格子状の床を通って落下し、鳥にはもはや届かない
F)飼料にベントナイトを加えることで、特に糞中の水分を減らす[例えば、J.H. Quisenberry, Clays and Clay Minerals, 1968, Vol.16, 267-270]。
【0017】
先行技術による方法の欠点は、使用される方法が労働集約的であり、減少するのが糞中の実際の水分ではなく、単に湿った糞との接触の確率であることである。導入するリターの最小量は、予想される水分量に合わせなければならない。水分が少なければ、使用するリターの量も少なくて済み、それによってリターのコストと使用後のリターの廃棄コストの両方を削減することができる。したがって、上述の方法は部分的にしか効果がなく、湿った糞との接触の可能性を減らすことしかできない。ケージ繁殖の欠点は、これが種に適した飼育ではないことである。また、ケージでの繁殖が禁止又は禁止予定の国も増えてきている。方法Fの欠点は、ベントナイトを多量に(%の範囲で)添加しなければならないことである。
【0018】
本発明は、家禽の繁殖、飼育または肥育の間に生産時点で発生する家禽の排泄物の品質を向上させるという目的に基づく。さらに、鳥類の炎症や病気を減らすために、糞中の水分を減少させる。さらに、糞の生産に密接に関連した廃棄問題を緩和し、量、水分およびアンモニア放出の点で排泄物貯蔵所の負荷を軽減し、畜産からのアンモニア放出に関して環境への悪影響を軽減するように、家禽の排泄物の質を改善しなければならない。
【0019】
この目的は、請求項1に記載の使用によって達成される。本発明の好ましい実施形態は、任意に互いに組み合わせることができる従属項に与えられる。
【0020】
したがって、本発明の主題は、家禽の繁殖、飼育または肥育中に、家禽の糞中の水分を減らす、および/または家禽の糞中の窒素含有量を減らすための、グアニジノ酢酸およびグリシンを含有する組成物の使用である。
【0021】
家禽の繁殖、飼育または肥育中のこの使用において、グアニジノ酢酸およびグリシンを含有する組成物が使用されることが、本発明の本質である。当該組成物は、固形製剤として飼料中で使用してもよいし、水に溶解して飲用液として使用してもよい。飼料または飲用液は、通常の栄養補給のために家禽に提供される。
【0022】
グアニジノ酢酸(CAS番号352-97-6、総式C、以下GAAとも称する)は、グリコシアミン、N-アミジノグリシン、N-(アミノイミノ-メチル)-グリシンとしても知られ、以前から市販されており、肥育家禽の飼料添加物として使用することが認められている。多くの研究により、家禽の繁殖、飼育または肥育中にグアニジノ酢酸を使用することで、飼料の節約、飼料消費量の改善、および/または肥育効果の増加などが示されている。
【0023】
グリシン(syn.グリコール(glycoll)、アミノ酢酸、アミノエタン酸、CNO、CAS番号56-40-6)は、EUで食品添加物E640として数量制限なしに使用が許可され、また、長期にわたり飼料添加物として市販され、家禽の肥育にも使用が許可されている。鶏を対象とした研究[Corzo A.; Kidd, M.T. (2004) Dietary Glycine needs of broiler chicks, Poult. Sci. 83(8), 1382-4]では、グリシンは動物自身においても生成されるものの、制限栄養素であることが示されている。鳥自身は最適な成長に必要な量の60~70%しか生成していないことが判明している[Graber, G.; Baker, D.H. (1973) The essential nature of glycine and proline for growing chicks,
Poult. Sci. 52, 892-896)]。
【0024】
クレアチンとは対照的に、グアニジノ酢酸およびその塩は、酸性の水溶液中での安定性が著しく高く、生理的条件下でのみクレアチンに変換される。グアニジノ酢酸はここで、特に肝臓で再吸収された後にのみクレアチンに変換される。このように、クレアチンとは対照的に、飼料中に投与または供給されるグアニジノ酢酸の大部分は、例えば胃の中での不安定な反応によって分解されず、再吸収される前に排泄されるが、実際には対応する生理的な代謝反応に利用可能である。
【0025】
驚くべきことに、グアニジノ酢酸およびグリシンを含有する組成物を投与すると、糞中の水分が減少し、糞中の窒素含有化合物の含有量が減少するという、望ましい恩恵が得られることがわかった。これは、通常の栄養摂取や肥育に必要な水と飼料組成物の両方が、鳥の1日の必要量を超える量で提供される場合にも当てはまる。このようにして、鳥は正常に、あるいはより速く成長することができ、同時に糞の質も改善される。理論に縛られることなく、グアニジノ酢酸およびグリシンが鳥の消化器官の活動に良い影響を与え、グアニジノ酢酸およびグリシンを含まない飼料組成物を摂取した家禽の糞と比較して、糞中の水分と糞中の窒素含有化合物の含有量の両方が減少することが推定される。特に、リターの量も減らすことができ、それによって糞の貯蔵に必要な貯蔵容積が少なくなり、廃棄のためにかかる輸送コストが低くなる。
【0026】
グアニジノ酢酸およびグリシンを添加した場合、グアニジノ酢酸およびグリシンを添加していない同じ基本飼料での給餌と比較して、水分含有量、すなわち糞中の水分含有量が
、好ましくは少なくとも3.5%、より好ましくは少なくとも4%、さらに好ましくは少なくとも5%、特に好ましくは少なくとも6%、さらに好ましくは少なくとも8%、最も好ましくは少なくとも10%減少する。
【0027】
また、まったく驚くべきことに、グアニジノ酢酸およびグリシンを添加した飼料を与えると、鳥が本能に従い消化管が処理できるだけの水と飼料を摂取しているにもかかわらず、糞中の窒素含有量が減少することがわかった。
【0028】
グアニジノ酢酸およびグリシンを伴う本発明の飼料サプリメントでは、グアニジノ酢酸およびグリシンを添加していない同じ基本飼料での給餌と比較して、糞中の窒素含有量は、好ましくは少なくとも5%、より好ましくは少なくとも6%、さらに好ましくは少なくとも7%減少する。
【0029】
好ましくは、グアニジノ酢酸およびグリシンを含有し、グアニジノ酢酸およびグリシンの重量比が、1:1から100:1、好ましくは1:1から10:1、さらに好ましくは1.5:1から10:1、さらに好ましくは2:1から8:1および好ましくは2:1から6:1の範囲にある組成物を使用することができる。
【0030】
本発明の好ましい実施形態によれば、組成物が鳥類用飼料に固形製剤として提供されるような用途を提供することができる。さらに好ましくは、本組成物は、鳥類用飼料中に固体製剤として提供され、その飼料は、基本飼料、基本飼料1kgあたり0.1から5gの量のグアニジノ酢酸、および基本飼料1kgあたり0.01から2.5gの量のグリシンを含む。
【0031】
本明細書では、さらに好ましくは、飼料は、基本飼料1kgあたり、少なくとも0.2g、好ましくは少なくとも0.3g、さらに好ましくは少なくとも0.4gの量のグアニジノ酢酸を含んでいてもよい。さらに、好ましくは、飼料は、基本飼料1kgあたり、最大5g、さらに好ましくは最大4g、さらに好ましくは最大3g、特に好ましくは最大2.5gの量のグアニジノ酢酸を含んでいてもよい。
【0032】
さらに好ましい実施形態では、飼料は、グアニジノ酢酸を、基本飼料1kgあたり、好ましくは0.01gから1g、さらにより好ましくは0.1gから1gの量で含有する。
【0033】
本明細書では、さらに好ましくは、飼料は、基本飼料1kgあたり、少なくとも0.02g、好ましくは少なくとも0.03g、さらに好ましくは少なくとも0.04gの量のグリシンを含む。さらに好ましくは、飼料は、基本飼料1kgあたり最大2.5g、さらに好ましくは最大2g、さらに好ましくは最大1g、特に好ましくは最大0.6gの量のグリシンを含んでいてもよい。
【0034】
したがって、当該組成物を家禽用の飼料に固形製剤として提供する用途が特に好ましく、飼料は、基本飼料、基本飼料1kgあたり0.1から5gの量のグアニジノ酢酸、基本飼料1kgあたり0.01から2.5gの量のグリシンを含む。
【0035】
特に好ましくは、グアニジノ酢酸およびグリシンからなる組成物が使用される。
【0036】
さらなる実施形態によれば、当該組成物は、家禽用飲用液の形態で水溶液として提供することもできる。したがってまた、本発明のさらなる目的は、家禽の繁殖、飼育または肥育中に家禽の糞中の水分を減らし、および/または家禽の糞中の窒素含有量を減らすための、グアニジノ酢酸およびグリシンを含む組成物の使用であって、当該組成物が家禽用の飲用液として提供され、飲用液が、好ましくは、水、水1Lあたり0.05から1.2g
、特に0.4から1.2g、さらに好ましくは0.1から0.3gの量のグアニジノ酢酸、および水1Lあたり0.005gから0.12g、特に0.04から0.12gの量のグリシンを含む。
【0037】
水溶液の濃度は、鳥類の大きさ、年齢および/または体重に応じて変えてもよい。好ましくは、溶液は、少なくとも0.05g/L、さらに好ましくは少なくとも0.1g/L、また-同時にまたは独立して-さらに好ましくは最大1.2g/L、さらに好ましくは最大1g/L、さらに好ましくは最大0.8g/L、さらに好ましくは最大0.6g/L、特に好ましくは最大0.5g/L、特に好ましくは最大0.4g/L、かなり特に好ましくは最大0.3g/Lの濃度の水中グアニジノ酢酸を含む。
【0038】
さらに好ましくは、溶液は、少なくとも0.005g/L、さらに好ましくは少なくとも水1Lあたり0.01g、また-同時にまたは独立して-さらに好ましくは水1Lあたり最大0.12g、さらに好ましくは水1Lあたり最大0.1g、特に好ましくは水1Lあたり最大0.05gの濃度の水中グリシンを含む。
【0039】
好ましくは、溶液は、0.1から0.8g/L、特に好ましくは0.1から0.5g/L、かなり特に好ましくは0.1から0.3g/Lの濃度の水中グアニジノ酢酸、および0.01から0.08g/L、特に好ましくは0.01から0.05g/L、かなり特に好ましくは0.01から0.03g/Lの濃度の水中グリシンを含む。
【0040】
本明細書では、かなり特に好ましくは、飼料または飲用液は、家禽の栄養補給のために、家禽に自由に(ad libitum)提供される。
【0041】
本発明に関連して、自由に(ad libitum)という用語は、飼料および飲用液の量が、鳥の各個体の飼料および飲用液に対する1日の栄養必要量を超えるか、または、当該個体の全体に関して、個体の全体の1日の栄養必要量を超えることを意味する。したがって、本発明によれば、飼料または飲料液は、好ましくは「自由に(ad libitum)」、すなわち家禽による自由な消費のために余剰量で提供される。
【0042】
このように、自由に、の好ましい使用は、活性物質の特定の投与とは大きく異なる。活性物質の特定の投与とは、例えば、定義された量である1日500mgを単回投与の形で、さらなる栄養や食料品とは独立して毎日投与することである。基本飼料、飼料1kgあたり0.1から5gの量のグアニジノ酢酸および飼料1kgあたり0.01から2.5gの量のグリシンを含む飼料を自由に、すなわち家禽が自由に摂取できるように提供するだけで、または水、水1Lあたり0.05から1.2gの量のグアニジノ酢酸および水1Lあたり0.005から0.12gの量のグリシンを含む飲用液を自由に、すなわち家禽に自由に摂取できるように提供するだけで、所望の成果、すなわち家禽の糞中の水分の減少および/または家禽の糞中の窒素含有量の減少が得られることはさらに驚くべきことである。
【0043】
グリシンと組み合わせたグアニジノ酢酸の本発明の使用は、そのままの物質に限定されないことが見出された。むしろ、その使用においては、グアニジノ酢酸をそのまま、すなわち遊離酸として、あるいはグアニジノ酢酸の塩としても使用しうることが見出された。
【0044】
したがって、本発明の使用は、組成物が以下を含むことが好ましい:
i)遊離酸として、またはこの酸の塩の形のグアニジノ酢酸、および/または
ii)遊離酸として、またはこの酸の塩の形のグリシン。
【0045】
特に好ましくは、塩として、グアニジノ酢酸のアルカリ塩またはアルカリ土類塩の群か
ら選択されてもよい。本明細書では、かなり特に好ましいのは、グアニジノ酢酸ナトリウム、グアニジノ酢酸カリウム、グアニジノ酢酸マグネシウムまたはグアニジノ酢酸カルシウムである。
【0046】
さらに、グリシンをそのまま、すなわち遊離酸として、あるいはグリシンの塩の形で使用してもよいことも見出された。特に好ましくは、塩は、グリシンのアルカリ塩またはアルカリ土類塩、特にグリシンナトリウム、グリシンカリウム、グリシンマグネシウムまたはグリシンカルシウムの群から選択されてもよい。
【0047】
本明細書に記載の発明は、複数の様々な家禽類に適用することができる。特に好ましくは、グアニジノ酢酸およびグリシンを含む組成物は、アヒル、ガチョウ、鶏、雌鶏、産卵雌鶏、ブロイラー、七面鳥の雄鶏、ウズラ、ダチョウおよび七面鳥の雌鶏の群から選択される家禽に使用してもよい。
【0048】
さらに、本発明の基礎となる実験では、使用される基本飼料が定義されたカロリー価を持つべきであることが示された。第1に、基本飼料は、通常の栄養状態と健康的な成長のために設定されたカロリー価をまずは下回らないカロリー価、第2に、肥満を避けるために前記カロリー価を上回らないカロリー価を有すべきである。家禽用基本飼料が基本飼料1kgあたり8MJから20MJ、特に基本飼料1kgあたり10MJから15MJのカロリー価を持ち、および/または基本飼料がAnimal Nutrition Handbook, 3rd Revision,
2014 Section 12, Poultry Nutrition and Feedingに従ってバランスの取れた基本飼料である場合、良好な結果が見出されている。
【0049】
本方法および本使用はいずれも、基本飼料が、少なくともひとつの穀物、穀物ミール、粗粒、またはそれらの抽出物を含むことで特に好ましく実施され得る。さらに、本明細書では、少なくともひとつの穀物、穀物ミール、粗粒、またはそれらからの抽出物が、以下の群から選択される方法または使用が好ましい:
a.トウモロコシ、トウモロコシミール、粗挽きトウモロコシ、またはその抽出物
b.キビ、キビミール、粗挽きキビ、またはその抽出物
c.大豆、大豆ミール、粗挽き大豆、またはその抽出物
d.小麦、小麦ミール、粗挽き小麦、またはその抽出物、および/または
e.大麦、大麦ミール、粗挽き大麦、またはその抽出物。
【0050】
さらに、基本飼料が少なくともひとつの追加の飼料添加物、特にミネラル物質、アミノ酸およびビタミンの群からの追加の飼料添加物をさらに含む場合、その使用は特に好ましい。かなり特に好ましくは、この飼料添加物は、炭酸カルシウム、リン酸一カルシウムまたはリン酸二カルシウム、リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、アルギニンおよびビタミン、ならびにそれらの混合物の群から選択されてもよい。
【0051】
特に好ましい実施形態では、それ自体がグアニジノ酢酸およびグリシンを含有しない基本飼料が使用される。
【0052】
例えば、本願の表1aに示されているような、好ましい基本飼料は、以下を含む:
150‰から200‰、特に188‰の小麦、
300から400‰、特に350‰のトウモロコシ、
150‰から200‰、特に165‰の大豆ミール、
50‰から70‰、特に60‰のヒマワリミール、
70‰から90‰、特に80‰の小麦混合物、
10‰から30‰、特に20‰の動物性脂肪、
20‰から30‰、特に24‰の大豆油、
25‰から40‰、特に32‰の石灰、
60‰から70‰、特に64‰の粗挽き穀物(グリット;grit)、
4‰から8‰、特に6‰のリン酸一カルシウム、
2‰から3‰、特に2.5‰の塩(NaCl)、
1‰から2‰、特に1.6‰の炭酸水素ナトリウム、
0.4‰から0.8‰、特に0.6‰のL-リジンHCl、
1‰から1.5‰、特に1.2‰のDL-メチオニン、および
0.02から0.05‰、特に0.035‰のコリン。
【0053】
さらに、水として、飲料水、湧水、井戸水または水道水を使用する場合には、その使用は特に好ましい。
【0054】
さらに、グアニジノ酢酸およびグリシンを含有する組成物を用いたサプリメントは、鳥の一生を通じて恒常的に与えてもよいし、選択された段階で与えてもよい。
【0055】
本発明はさらに、家禽の糞中の水分を減らす、および/または家禽の糞中の窒素含有量を減らすための方法であって、グアニジノ酢酸およびグリシンを含有する組成物を、家禽が自由に消費するために、家禽の繁殖中、飼育中または肥育中に家禽に投与する方法に関する。
【0056】
本発明の方法の好ましい実施形態は、本発明の使用のために記載されている。
【0057】
さらに、本発明は、家禽の繁殖中、飼育中または肥育中のそれぞれの場合において、家禽の糞中の水分を減らす、および/または、家禽の糞中の窒素含有量を減らすための、グアニジノ酢酸およびグリシンを含有する組成物に関する。
【0058】
特に、本発明は、家禽の繁殖中、飼育中または肥育中のそれぞれの場合において、家禽の糞中の水分を減らす、および/または、家禽の糞中の窒素含有量を減らすための、グアニジノ酢酸およびグリシンからなる組成物に関する。
【0059】
本発明の組成物の好ましい実施形態は、本発明の使用のために記載されている。
【0060】
以下の実施例で本発明を説明する。
【実施例
【0061】
実施例
試験1で使用する飼料組成物:
【0062】
【表1B】
【0063】
試験1:
192羽の産卵雌鶏(Lohmann LSL Classic、年齢:38週)を無作為に48羽ずつ4グループに分け、メッシュケース(30×45cm2)に入れて4週間飼育した。各雌鶏は、毎日水道水を補充した2つのニップル飲料に制限なくアクセスできた(自由に)。飼料ポイントも毎日補充した(自由に)。最低気温は20℃で、室内は1日に14時間照明し10時間暗室にした。個々の雌鶏の各排泄物を、糞尿箱に入れた。糞尿箱は毎週空にし、グループごとにまとめた。まとめた各グループの糞尿をきれいに取り除き、機械的に均質化した後、130℃で真空乾燥して固形分を測定した。乾燥した試料の窒素含有量をケルダール法で測定した。
【0064】
グループ1には、上記の飼料を与えた(表1a、1b)。グループ2には、上記の飼料1000kgごとに、グアニジノ酢酸600gを飼料に添加した。グループ3では、上記飼料1000kgごとに、グリシン10gを飼料に添加した。グループ4では、上述の飼料1000kgごとに、グアニジノ酢酸600gとグリシン10gを飼料に添加した。
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
(100-固形分含有量)%=水分含有量%の換算で、表4の水分含有量が得られる。
【0068】
【表4】
【0069】
ここから、まず減算により、グループ1に対する水分含有量の絶対的変化率(Δabs)を算出し、グループ1に対する水分含有量の相対的変化率(Δrel)を算出した。そ
の結果を表5に示す。
【0070】
【表5】
【0071】
グアニジノ酢酸およびグリシンを補給したグループ4では、グループ1に比べて糞中の固形分含有量が増加しており、糞中の水分含有量は8.4%から11.9%の間で減少した。グアニジノ酢酸のみを補給したグループ(グループ2)では、水分含有量への影響が弱く、グリシンのみを補給したグループ(グループ3)では、水分含有量への効果はほとんど見られなかった。
【0072】
乾燥試料の窒素含有量をケルダール法で測定し、表6に示した。
【0073】
【表6】
【0074】
表6の値から、まず減算により、グループ1に対する窒素含有量の絶対的変化(ΔNabs)を算出し、そこからグループ1に対する窒素含有量の相対的変化率(ΔNrel)を算出した。その結果を表7に示す。
【0075】
【表7】
【0076】
グアニジノ酢酸およびグリシンを補給したグループ4では、グループ1に比べて糞中の窒素含有量は低かった。糞中の窒素含有量は比較グループに比べて、6.3%から8.7%低下した。グアニジノ酢酸のみを補給したグループ(グループ2)とグリシンのみを補給したグループ(グループ3)では、窒素含有量にわずかな効果しか見られなかった。
【0077】
試験2:
2505羽の肥育鶏(Cobb 400)を、木屑の上に94.5平方インチ/羽の密度で収容した。水と飼料は自由に摂取できた。最初の15日間は、赤外線ランプで加温した。18日間、すべての鳥に家禽用スターター飼料(小麦、粗挽き大豆抽出物、トウモロコシ、大豆トースト、トウモロコシ胚芽をベースにしたもの):Gallugold(登録商標)家禽用スターターOG(12.2MJ/kg、生タンパク質22.00%、メチオニン0.62%、生脂肪6.00%、生繊維3.80%、生灰分6.80%、カルシウム0.95%、リン0.65%、ナトリウム0.16%;1kgあたりの添加物:ビタミンA 10,000IU、ビタミンD3 5,000IU、ビタミンE 100mg、銅10mg、セレン0.45mg)を18日間与えた。18日目から、鳥を無作為に46羽の4グループに分けた。
グループ1には、Gallugold(登録商標)家禽用穀物OG(トウモロコシ、大豆、小麦、大豆トースト、植物油、トウモロコシ胚芽)(12.6MJ/kg、生タンパク質22.00%、メチオニン0.56%、生脂肪6.8%、生繊維3.5%、生灰分9.0%、カルシウム0.90%、リン0.65%、ナトリウム0.15%、1kgあたりの添加物:ビタミンA 13,000IU、ビタミンD3 5,000IU、ビタミンE
100mg、銅10mg、セレン0.42mg)を与えた。
グループ2には、最初に0.06w.-%のグアニジノ酢酸を飼料に添加しその後飼料をドラムで10分間機械的に混合する以外はグループ1と同様に与えた。グループ3には、最初に0.002w.-%のグリシンを飼料に添加しその後飼料をドラムで10分間機械的に混合する以外はグループ1と同様に与えた。
グループ4には、最初に0.06w.-%のグアニジノ酢酸と0.002w.-%のグリシンを飼料に添加しその後飼料をドラムで10分間機械的に混合する以外はグループ1と同様に与えた。
【0078】
21日目、25日目、30日目に、各グループを24時間、コンクリート床でリターのない空の小屋に移動させた。24時間後、各グループを戻し、回収箱を用いて各グループの糞を回収し、130℃で真空乾燥して固形分を測定した。その値を表8および9に示す。
【0079】
【表8】
【0080】
【表9】
【0081】
(100-固形分含有量)%=水分含有量%の換算で、表10の水分含有量が得られる。
【0082】
【表10】
【0083】
このことから、まず減算により、グループ1に対する水分含有量の絶対的変化率(Δabs)を算出し、グループ1に対する水分含有量の相対的変化率(Δrel)を算出した。その結果を表11に示す。
【0084】
【表11】
【0085】
グアニジノ酢酸およびグリシンを補給したグループ4では、グループ1に比べて、糞中の固形分が増加し、糞中の水分が3.6%から4.2%低下した。グループ2では、わずかな効果があった。グループ3ではほとんど効果が見られなかった。
【0086】
乾燥した試料の窒素含有量をケルダール法で測定した。
【0087】
【表12】
【0088】
【表13】
【0089】
さらに、グアニジノ酢酸およびグリシンを補給したグループ4では、グループ1に比べて、糞中の窒素含有量が低かった。糞中の窒素含有量は、比較グループよりも6.4%から7.8%低かった。グループ2では、窒素含有量の低下に関する効果も明らかになったが、これはグループ4に比べて有意に小さかった。グループ2では、21日目と30日目において、コントロールグループに比べてN含有量がわずかに(0.3%と0.9%)高かった。
【国際調査報告】