(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-29
(54)【発明の名称】偏光補正器を含む光カプラを備える切開装置
(51)【国際特許分類】
A61F 9/008 20060101AFI20220921BHJP
A61F 9/01 20060101ALI20220921BHJP
【FI】
A61F9/008 120C
A61F9/01
A61F9/008 120F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022503892
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2020070302
(87)【国際公開番号】W WO2021013734
(87)【国際公開日】2021-01-28
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518356419
【氏名又は名称】ケラノヴァ
【氏名又は名称原語表記】KERANOVA
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】ボボー、エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ナドルニー、シルヴィ
(57)【要約】
本発明は、パルスの形態で初期レーザビーム(11)を発生させるためのレーザ源(1)と;前記レーザ源(1)の下流に配置され、前記初期レーザビーム(11)を位相変調された単一のレーザビームに変換するための成形システム(2)と;前記レーザ源(1)と前記成形システム(2)との間にある光カプラ(3)であって、光ファイバを含む光カプラ(3)とを備える切開装置であって;当該切開装置は、前記光カプラ(3)の出力端における前記レーザビームの偏光が所望の参照偏光と対応するように、前記光カプラ(3)の入力端において前記治療用レーザビーム(11)の偏光を改変するための偏光補正器(7)をさらに備える、切開装置に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
角膜又は水晶体などのヒト又は動物の組織を切開するための装置であって、当該装置は、
パルスの形態で治療用レーザビーム(11)を発生させるためのレーザ源(1)と、
前記レーザ源(1)の下流に配置され、前記治療用レーザビーム(11)を位相変調された単一の治療用レーザビームに変換するための成形システム(2)(例えば、空間光変調器(SLM))であって、当該成形システムは、前記位相変調された単一の治療用レーザビームのエネルギーを、焦点面(81)内のパターンを形成する少なくとも2つの衝突点に分配するために計算された変調設定値に従って、前記治療用レーザビーム(11)の波面の位相を変調することが可能である、成形システム(2)と、
前記レーザ源(1)と前記成形システム(2)との間にある光カプラ(3)と、
前記光カプラ(3)の下流における治療用レーザビーム(11)の偏光が所望の参照偏光に対応するように、前記光カプラ(3)の上流において治療用レーザビーム(11)の偏光を改変するための偏光補正器(7)であって、前記レーザ源(1)と前記成形システム(2)との間に設けられる偏光補正器(7)と
を備え、さらに
前記光カプラは、フォトニック結晶ファイバ(31)を含み、
前記偏光補正器(7)は、
前記光カプラ(3)の入力端と前記光カプラ(3)の出力端との間における偏光変化を測定するための手段(71)と、
測定された偏光変化を補償するために、前記光カプラ(3)の上流において治療用レーザビーム(11)の偏光を改変するための手段(72)とを備える
ことを特徴とする、装置。
【請求項2】
前記偏光補正器(7)は、前記レーザ源(1)と前記成形システム(2)との間に設けられ、前記偏光補正器(7)は、前記光カプラ(3)の下流における治療用レーザビーム(11)の偏光が前記所望の参照偏光と対応するように、前記光カプラ(3)の上流において治療用レーザビーム(11)の偏光を改変することが可能である、請求項1に記載の切開装置。
【請求項3】
前記測定手段(71)は、前記光カプラ(3)の出力端に光学的に接続されており、前記測定手段(71)は、前記レーザ源(1)によって生成される測定用レーザビーム(12)から治療用レーザビーム(11)の偏光変化を測定することが可能であり、ここで測定用レーザビーム(12)の強度が、治療用レーザビーム(11)の強度より低い、請求項1又は2に記載の切開装置。
【請求項4】
前記測定手段(71)は、
測定用レーザビーム(12)の偏光面を選択的にフィルタリングするための偏光子(711)と、
当該偏光子(711)の下流に設けられ、前記光カプラ(3)の出力における測定用レーザビーム(12)の偏光を表す情報を測定するための偏光分析器(712)と
を備える、請求項3に記載の切開装置。
【請求項5】
前記測定手段(71)は、前記偏光分析器(712)によって測定された情報から、
前記レーザ源(1)によって発生された測定用レーザビーム(12)の偏光と、
前記偏光分析器(712)によって受け取られた測定用レーザビーム(12)の偏光と
の間の偏光変化Δ
polarizationを計算するためのコンピュータをさらに備える、請求項1~4のいずれか一項に記載の切開装置。
【請求項6】
前記治療用レーザビーム(11)の偏光を改変するための手段(72)は、前記レーザ源(1)と前記光カプラ(3)との間に配置され、前記手段(72)は、前記光カプラ(3)の上流において治療用レーザビーム(11)の偏光面を、測定された偏光変化に対して反対の角度に回転させることが可能である、請求項1~5のいずれか一項に記載の切開装置。
【請求項7】
前記所望の参照偏光は、前記レーザ源(1)の出力における(すなわち、前記偏光補正器(7)及び前記光カプラ(3)を通って移動する前の)治療用レーザビーム(11)の偏光と同じである、請求項1~6のいずれか一項に記載の切開装置。
【請求項8】
前記成形システム(2)の下流に配置され、前記焦点面(81)における所定の移動経路に沿って前記パターンを移動させるためのスイーピング光学スキャナ(4)と、
当該スイーピング光学スキャナ(4)の下流に配置され、所望の組織(7)に対する切開面における変調されたレーザビームの焦点面(81)を移動させるための光学焦点調整システム(5)と、
前記レーザ源(1)、前記成形システム(2)、前記光カプラ(3)、前記スイーピング光学スキャナ(4)、及び前記光学焦点調整システム(5)を駆動するための制御ユニット(6)と
をさらに備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の切開装置。
【請求項9】
筐体(210)と、当該筐体(210)に設けられたヒンジアーム(200)とを備える治療デバイスであって、
前記アーム(200)が、ヒンジ(205~207)によって接続された複数のアームセグメント(201~204)を含み、
前記治療デバイスが、請求項1~8のいずれか一項に記載の切開装置をさらに備え、前記成形システム(2)、前記スイーピング光学スキャナ(4)及び前記光学焦点調整システム(5)が、前記ヒンジアーム(200)の端部セグメント(204)に設けられ、前記レーザ源(1)及び前記制御ユニット(6)が前記筐体(210)に組み込まれていることを特徴とする、治療デバイス。
【請求項10】
前記治療用レーザビーム(11)の偏光を改変するための手段(72)が、前記筐体(210)に組み込まれている、請求項9に記載の治療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェムト秒レーザを用いて行われる眼疾患の治療の技術分野に関し、より具体的には、特に、角膜または水晶体を切開する用途のための眼科手術の分野に関する。
【0002】
本発明は、フェムト秒レーザを用いる、角膜または水晶体などのヒトまたは動物の組織を切開するための装置に関する。
【0003】
フェムト秒レーザとは、非常に短いパルスの形態でレーザ光を発生させることが可能な光源を意味し、その持続時間は、1フェムト秒~100ピコ秒、好ましくは、1~1000フェムト秒、特に、100フェムト秒程度である。
【背景技術】
【0004】
これまでに、角膜や水晶体を切開する手術のように、フェムト秒レーザを用いて眼科手術を行うことが提案されている。
【0005】
FR3026940には、レーザ源と成形システムとを含む切開装置が記載されている。US2017/340483には、レーザシステムと、手術用顕微鏡と、制御ユニットと、フレームと、上記手術用顕微鏡のヘッドが実装される第1ヒンジアームと、レーザシステムのアプリケータヘッドが実装される第2ヒンジアームとを備え、上記2つのヘッドが互いに接続可能である、眼科手術用システムが記載されている。
【0006】
出願人の名で2019年1月25日に出願された国際出願PCT/EP2019/051872およびPCT/EP2019/051876には、角膜や水晶体のようなヒトまたは動物組織を切開する装置が記載されている。
【0007】
この装置は、
パルスの形態で初期レーザ光を発生させるためのフェムト秒レーザ源1と、
レーザ源1の下流に配置され、初期レーザ光を単一の位相変調レーザ光に変換するための成形システム2(例えば、、空間光変調器(SLM))であって、当該成形システムは、前記レーザ光のエネルギーを、焦点面81内のパターンを形成する少なくとも2つの衝突点に分配するために計算された変調設定値に従って、初期レーザ光の波面の位相を変調することが可能である、成形システムと、
フェムト秒レーザ源1と成形システム2との間の光カプラ3であって、フェムト秒レーザ源1から生じたレーザ光11をフィルタリングするためのフォトニック結晶光ファイバを備える光カプラ3と、
成形システム2の下流に配置され、前記焦点面81内の所定の移動経路に沿って前記パターンを移動させるためのスイーピング光学スキャナ4と、
スイーピング光学スキャナ4の下流に配置され、所望の組織7に対する切開面内で、前記変調レーザ光の前記焦点面81を移動させるための光学焦点調整システム5と、
成形システム2、光カプラ3、スイーピング光学スキャナ4、および光学焦点調整システム5を駆動するための制御ユニット6と、を含む(
図1を参照)。
【0008】
有利には、この切開装置はヒンジアームに組み込むことができる。より具体的には、成形システム2、スイーピング光学スキャナ4、及び光学焦点調整システム5は、ヒンジアームの自由端に接続されるチャンバ(以下、「ワーキング(稼働)ヘッド」という。)に設けることができ、またレーザ源1及び制御ユニット6はヒンジアームの筐体内に組み込むことができ、光カプラ3は、筐体とワーキングヘッドの間で延び、レーザ源1と成形システム2の間でレーザビーム11を伝播する。
【0009】
光カプラ3は、離れているレーザ源1と成形システム2の間におけるレーザビーム11の伝達を容易にすることで、切開装置を簡素化することを可能にする。実際、その顕著な大きさのため、レーザ源1をヒンジアームのワーキングヘッド内に配置することはできない。
【0010】
しかしながら、レーザ源1から生じたレーザビーム11は、フォトニック結晶ファイバを通って移動するときに、その偏光が変化を受ける。この偏光変化は、(ヒンジアームの筐体に対するワーキングヘッドの位置及び向きに依存する)フォトニック結晶ファイバの位置及び向きによって変わる。
【0011】
しかしながら、成形システム2はレーザビームの偏光に敏感であるため、偏光変化は、成形システム2の出力における変調されたレーザビームのパワーの減少を引き起こす。
【0012】
本発明の一つの目的は、レーザ源1に対する成形システム2の位置及び向きにかかわらず変調されたレーザビームの最大パワーを維持するための技術的解決手段を提案することにある。
【発明の概要】
【0013】
この目的のため、本発明は、角膜又は水晶体などのヒト又は動物の組織を切開するための装置であって、当該装置は、
パルスの形態で治療用レーザビームを発生させるためのレーザ源と、
レーザ源の下流に配置され、治療用レーザビームを位相変調された単一の治療用レーザビームに変換するための成形システム(例えば、空間光変調器(SLM))であって、当該成形システムは、位相変調された単一の治療用レーザビームのエネルギーを、焦点面内のパターンを形成する少なくとも2つの衝突点に分配するために計算された変調設定値に従って、治療用レーザビームの波面の位相を変調することが可能である、成形システムと、
レーザ源と成形システムとの間にある、フォトニック結晶光ファイバを含む光カプラと
を備え、
前記切開装置は、成形システムの入力における治療用レーザビームの偏光が所望の参照偏光に対応するように、成形システムの上流において治療用レーザビームの偏光を改変するための偏光補正器であって、成形システムの上流に設けられる偏光補正器をさらに備えることを特徴とする、装置を提案する。
有利には、偏光補正器は、
光カプラの入力端と光カプラの出力端の間における偏光変化を測定するための手段と、
測定された偏光変化を補償するために光カプラの上流において治療用レーザビームの偏光を改変するための手段と
を備えることができる。
【0014】
偏光補正器の存在は、光カプラの出力におけるレーザビームの偏光が、成形システムへ導入される前に、レーザビームにとっての所望の参照偏光と実質的に同じになるように、光カプラの入力において初期レーザビームの偏光を改変することを可能にする。上記所望の参照偏光は、成形システムの出力における変調されたレーザビームにとっての最大パワーを得るためのレーザビームの偏光に対応する。
【0015】
本発明において、「衝突点」とは、レーザビームの焦点面に含まれるレーザビームの領域であって、当該領域においてレーザビームの強度が組織中に気泡を生成させるのに十分である領域を意味する。
【0016】
本発明において、「隣接衝突点」とは、互いに向かい合うように配置され、他の衝突点によって分離されない2つの衝突点を意味する。「近接衝突点」は、隣り合う点の集団において、距離が最小となる2つのポイントを意味する。
【0017】
本発明において、「パターン」とは、整形されたレーザビーム-すなわち装置の切開面に対応する焦点面におけるいくつかの異なるスポットにそのエネルギーを分配するために位相変調されたレーザビーム-の焦点面に同時に生成される複数のレーザ衝突点を意味する。つまり、成形システムは、選択されたプロファイルに依存する切開の質又は速度を向上させることが可能となるように、切開面におけるレーザビームの強度プロファイルを改変することを可能にする。この強度プロファイルの改変は、レーザビームの位相の変調によって得られる。
【0018】
光学位相変調は、位相マスクを用いることによって行うことができる。入射レーザビームのエネルギーは変調後も維持され、ビームの成形はその波面に対して作用することによって行われる。電磁波の位相は、電磁波の振幅の瞬間的な状態を表す。位相は、時間と空間の両方に依存する。レーザビームの空間成形の場合には、位相の空間変化のみが考慮される。
【0019】
波面は、等しい位相を有するビームの複数の点の表面(つまり、ビームを発生させたレーザ源からの移動時間が等しい複数の点からなる表面)として定義される。そのため、ビームの空間位相を変化させることは、波面を変化させることと関係する。
【0020】
この技術は、モニターされたプロファイルに従って、それぞれが切開を行ういくつかのレーザースポットを実行するため、より速く、より効率的に切開手術を行うことを可能にする。
【0021】
フェムト秒レーザと成形システムとの間に、フォトニック結晶光ファイバを含む光カプラを配置することは、成形システムにより実行されるレーザビームの成形における乱れを回避することを可能にする。
【0022】
切開装置の好適かつ非限定的な態様は以下のとおりである:
- 偏光補正器は、レーザ源と成形システムとの間に設けることができ、偏光補正器は、光カプラの下流における治療用レーザビームの偏光が所望の参照偏光に対応するように、光カプラの上流において治療用レーザビームの偏光を改変することが可能である;
- 測定手段は、光カプラの出力端に光学的に接続することができ、測定手段は、レーザ源によって生成される測定用レーザビームから治療用レーザビームの偏光変化を測定することができ、測定用レーザビームの強度は、治療用レーザビームの強度より低い;
- 測定手段は、
・ 測定用レーザビームの偏光面を選択的にフィルタリングするための偏光子と、
・ 偏光子の下流に設けられ、光カプラの出力における測定用レーザビームの偏光を表す情報を測定するための偏光分析器とを備えていてもよい;
- 測定手段は、偏光分析器によって測定された情報から、
・ レーザ源によって発生された測定用レーザビームの偏光と、
・ 偏光分析器によって受け取られた測定用レーザビームの偏光と
の間の偏光変化Δpolarizationを計算するためのコンピュータをさらに備えていてもよい;
- 治療用レーザビームの偏光を改変するための手段は、レーザ源と光カプラとの間に配置することができ、この偏光を改変するための手段は、光カプラの上流において治療用レーザビームの偏光面を、測定された偏光変化に対して反対の角度に回転させることが可能である;
- 所望の参照偏光は、レーザ源の出力における(つまり、偏光補正器及び光カプラを通って移動する前の)治療用レーザビームの偏光と同じであり得る;
- 切開装置は、
・ 成形システムの下流に配置され、焦点面における所定の移動経路に沿ってパターンを移動させるためのスイーピング光学スキャナと、
・ スイーピング光学スキャナの下流に配置され、所望の組織に対する切開面における変調されたレーザビームの焦点面を移動させるための光学焦点調整システムと、
・ レーザ源、成形システム、光カプラ、スイーピング光学スキャナ、及び光学焦点調整システムを駆動するための制御ユニットと
をさらに備えていてもよい。
【0023】
本発明はまた、筐体と、当該筐体に設けられたヒンジアームとを備える治療デバイスであって、前記アームがヒンジによって接続されたいくつかのアームセグメントを含む治療デバイスに関し、この治療デバイスは、上述の切開装置をさらに備え、成形システム、スイーピング光学スキャナ及び光学焦点調整システムは、ヒンジアームの端部セグメントに設けられ、レーザ源及び制御ユニットは筐体に組み込まれていることを特徴とする。
【0024】
有利には、治療用レーザビームの偏光を改変するための手段は、筐体に組み込ませることができる。
【0025】
本発明の他の特徴及び利点は、例示により、また制限されることなく、添付された図面を参照して、以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図2】
図1に示される切開装置を組み込んだヒンジロボットアームを有する治療デバイスを模式的に示す。
【
図3】切開装置の光カプラ、偏光補正器、及び制御ユニットを模式的に示す。
【
図4】光カプラ及び偏光補正器の詳細を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、フェムト秒レーザ源を用いてヒト又は動物の組織を切開するための装置に関する。本明細書の残りの部分では、例として、ヒト又は動物の眼の角膜の切開について本発明を説明するが、本発明は眼組織の他のいかなる種類の治療にも使用することができることが理解される。
【0028】
1.概要
1.1.切開装置
上に示したように、切開装置は、
高強度パルスの形態で治療用レーザビーム11を発生可能なフェムト秒レーザ源1と、
レーザ源1の下流に配置され、治療用レーザビーム11の位相を変調し、位相変調された単一のレーザビーム21を得るための成形システム2であって、当該成形システムにより、治療用レーザビーム11のエネルギーはその焦点面における複数の衝突点に分配され、当該複数の衝突点はパターンを定義する、成形システム2と、
レーザ源1と成形システム2との間にある光カプラ3であって、レーザ源1から生じた治療用レーザビーム11の成形システム2への伝播を可能にする光カプラ3と、
焦点面81におけるユーザによって予め決められた移動経路に沿ってパターンを移動させるために、変調されたレーザビーム21を方向づける、成形システム2の下流にあるスイーピング光学スキャナ4と、
スイーピング光学スキャナ4から生じた偏向されたレーザビーム41の、切開面に対応する焦点面81を移動させるための、スイーピング光学スキャナ4の下流にある光学焦点調整システム5と、
レーザ源1、成形システム2、光カプラ3、スイーピング光学スキャナ4、及び光学焦点調整システム5を駆動するための制御ユニット6と
を備える。
【0029】
成形システム2は、焦点面81に複数の強度ピークを形成するために、レーザ源1から生じる治療用レーザビーム11の位相を変調することを可能にし、各強度ピークは、切開面に対応する焦点面に各衝突点を生成する。成形システム2は、図示された実施形態によれば、液晶の空間光変調器であり、SLMとしても知られている。公知の方法において、SLMは位相マスク、つまり焦点面81において所定の振幅分布を得るために治療用レーザビームの位相がどの程度改変される必要があるのかを決定するマップを実行する。このような成形システムの使用は、一方では(いくつかの衝突点を同時に生成することにより)生物組織の切開時間の低減を可能にし、他方では実質的に等しい衝突点(各点の形、位置、及び直径は、成形システムによって計算され、また成形システムに表示される位相マスクによって動的にモニターされる)を得ることを可能にする。
【0030】
光カプラ3は、レーザ源1と成形システム2との間における治療用レーザビーム11の伝達を可能にする。光カプラ3は、有利には、光ファイバを備える。この光ファイバは、フォトニック結晶ファイバ(PCF)、特に中空コアフォトニック結晶ファイバであることができる。中空コアフォトニック結晶ファイバは、高エネルギーの短レーザパルスの伝播に特に適合している。したがって、このようなファイバの使用は、レーザ源1から生じる治療用レーザビーム11を最適に伝達するために有利である。
【0031】
1.2.
治療装置
光カプラ3の使用によって、
図2に示すように、ヒンジアーム200及びヒンジアーム200が取り付けられる固定筐体210を含む治療デバイスに切開装置を取り付けることができる。しかしながら、読者は、切開装置が必ずしもアームと固定筐体を含む治療デバイスに取り付けられる必要がないことを理解するであろう。特に、治療デバイスは、単体で、つまりヒンジアーム及び筐体に取り付けることなく使用することができる。
【0032】
アーム200は、さまざまなセグメント201~204が互いに対して自動回転移動することを可能にするためのモータ駆動ヒンジ205~207(ピボット又はボールジョイント)によって接続された、いくつかのアームセグメント201~204を備える。
【0033】
アーム200は、
一の手術室から他の手術室へ、及び/又は、手術室の中へアーム200を運ぶことを容易にする休止位置(図示せず)と、
治療される眼組織の上部にアーム200の端部が延びる稼働位置と
の間で移動可能である。
【0034】
成形システム2、スイーピング光学スキャナ4、及び光学焦点調整システム5は、アーム200の端部セグメント204(すなわち「ワーキングヘッド」)に取り付けることができる。
【0035】
レーザ源1及び制御ユニット6は、治療デバイスの可動筐体210に組み込むことができ、光カプラ3は、レーザ源1から生じた治療用レーザビーム11を成形システム2へ伝播するために、筐体210と端部セグメント204との間に延びている。
【0036】
2.
偏光補正器
2.1.
概要
図3に示すように、切開装置は、偏光補正器7も備えている。
【0037】
この偏光補正器7は、光カプラ3の出力における治療用レーザビームの偏光が、成形システム2へ導入される前に、治療用レーザビームにとっての所望の参照偏光と実質的に同じとなるように、光カプラ3の入力において治療用レーザビーム11の偏光を改変することを可能にする。
【0038】
実際、上記のとおり、成形システム2は、焦点面81内に複数の強度ピークを形成するように、レーザ源1から生じた治療用レーザビーム11の位相を変調することを可能にし、各強度ピークは、切開面に対応する焦点面内に各衝突点を生成する。
【0039】
波面の位相変調は、2次元干渉の現象としてみられる。レーザ源1から生じる治療用レーザビーム11の各部分は、これらの部分それぞれがレンズの焦点面におけるN個の異なる点で建設的干渉を得るために向き直されるよう、初期波面に対して遅められ、又は早められる。複数の衝突点へのエネルギーの再配分は、単一の面(つまり焦点面81)内においてのみ行われ、変調された治療用レーザビームの伝播経路の全てに沿っては行われない。
【0040】
しかしながら、成形システム2は、入射してくる治療用レーザビームの偏光に敏感である。例えば、液晶の空間光変調器の場合、成形システム2に進入してくる治療用レーザビームの波面の偏光が空間光変調器の液晶の異常軸と一致するとき、「純粋な」位相変調が可能である。
【0041】
したがって、レーザ源1から生じた治療用レーザビーム11の「純粋な」位相変調を行うには、成形システム2に進入してくる治療用レーザビームの偏光が所望の参照偏光に対応することが好ましい(例えば、液晶の空間光変調器の場合、SLMに進入してくる治療用レーザビームの偏光は液晶の光学軸と合っていることが好ましい)。
【0042】
しかしながら、稼働位置に届くようにするためのワーキングヘッド204の移動は、成形システム2に進入してくる治療用レーザビームの偏光を改変し得る光カプラ(及び、特に、ねじれる可能性がある、カプラの光ファイバなど)の位置及び向きの変化を誘発する。
【0043】
成形システム2に進入してくる治療用レーザビームの偏光の改変は、成形システム2の出力における変調された信号の質を劣化させ得る。
【0044】
偏光補正器7は、成形システム2から出てくる変調された治療用レーザビーム21の質が最適となるように、成形システム2に進入してくる治療用レーザビームの偏光を補正することを可能にする。
【0045】
2.2.偏光補正器を構成する要素
偏光補正器7は、偏光補正器7によって測定されたデータの制御ユニット6への送信を可能にし、かつ、制御ユニット6により出されたモニタリング信号の偏光補正器7への送信を可能にするため、制御ユニット6に接続される。
【0046】
図4に示すように、偏光補正器7は、
光カプラ3の入力と光カプラ3の出力との間における治療用レーザビーム11の偏光変化を測定するための手段71と、
光カプラの入力と出力との間において測定されたレーザビームの偏光変化を補償するために光カプラ3に進入してくる治療用レーザビーム11の偏光を改変するための手段72と
を備える。
【0047】
2.2.1.偏光変化を測定するための手段
いったんヒンジアーム200が稼働位置にくると、測定手段71は、治療用レーザビーム11が光カプラ3を通って移動したときに受けた偏光改変を推定することを可能とする。
【0048】
治療用レーザビーム11が受けた偏光改変を測定するため、制御ユニット6は、治療用レーザビーム11の発生前に測定用レーザビーム12が生成され、測定用レーザビーム12の強度が治療用レーザビーム11の強度に比べ非常に低く(特に、10~1000倍低く)なるように、レーザ源1を駆動するようにプログラムされている。
【0049】
したがって、治療用レーザビーム11が受けた偏光改変を測定するために、直線偏光子が付属された発光ダイオードのような二次的な低強度偏光源から生じた偏光ビームを用いるよりも、レーザ源1から生じる(低強度の)測定用レーザビーム12を用いる方が好ましい。
【0050】
本発明者らは、二つの異なる光源から生じる同一の偏光ビームが、光カプラ3を通って移動するときに同じ偏光改変を受けないことを実際に見出している。
【0051】
一つの実施形態において、測定手段71は、誘電処置に基づく偏光子又は複屈折材料に基づく偏光子などの直線偏光子711と、直線偏光子711の下流にある、フォトダイオード又はフォトトランジスタなどの偏光分析器712とを備える。
【0052】
直線偏光子711は、光カプラ3から生じる偏光された光を選択的にフィルタリングすることを可能にする。偏光分析器712は、光カプラ3から生じる測定用レーザビーム12の偏光を表す情報を測定することを可能にする。
【0053】
測定手段71は、光学デマルチプレクサ33を介して光カプラ3の出力に光学的に接続されており、光学デマルチプレクサ33は、光カプラ3又は直線偏光子711に組み込むことが可能である。
【0054】
より具体的には、光カプラ3は、成形システム2に最も近い中空コアフォトニック結晶ファイバ31の端部に設けられた光学デマルチプレクサ33を備える。
【0055】
光学デマルチプレクサ33は、
- フォトニック結晶ファイバに光学的に接続された入力チャネル333と、
- レーザ源1から生じた治療用レーザビーム11の成形システム2への伝達を可能にするために成形システム2に光学的に接続された第1出力チャネル331と、
- 測定用レーザビーム12の測定手段71への伝達を可能にするために測定手段71に光学的に接続された第2出力チャネル332と
を含む。
【0056】
光学デマルチプレクサ33は、入力チャネル333を通って移動するビーム(つまり、測定用又は治療用レーザビーム)が伝達される出力チャネル331、332を、当該ビームを成形システム2又は測定手段71のいずれかに向けるために、選択することを可能にする。
【0057】
光カプラ3の入力と光カプラ3の出力との間におけるレーザビームの偏光変化を測定するための手段71の動作原理は、次のとおりである。ここでは、ヒンジアーム200は稼働位置にある、つまり(成形システム2、スイーピング光学スキャナ4及び光学焦点調整システム5を含む)アーム200の端部204は治療される眼組織の上方に延びているものとする。
【0058】
組織を治療するためのレーザ源1による治療用レーザビーム11の発生の前に、レーザ源1は、低強度の測定用レーザビーム12を出すように制御ユニット6によってアクティベートされる。測定用レーザビーム12は、光カプラ3に進入し、フォトニック結晶ファイバ31を通って移動する。
【0059】
フォトニック結晶光ファイバ31を通って移動するとき、測定用レーザビーム12の偏光は変化(例えば、フォトニック結晶光ファイバ31のねじれによる偏光面の回転)を受ける。
【0060】
その後、測定用レーザビーム12は、デマルチプレクサ33の入力チャネル333を通って移動し、デマルチプレクサ33の第2出力チャネル332に切り替えられる。測定手段71は、測定用レーザビーム12を感知する。偏光分析器712は、受け取られた測定用レーザビーム12の偏光を表す情報を測定する。
【0061】
偏光分析器712によって測定された情報は、測定手段71(制御ユニット6に組み込まれていてもよいし、組み込まれていなくてもよい)のコンピュータに送信される。測定された情報から、レーザ源1によって出された測定用レーザビーム12の偏光を認識したコンピュータは、
レーザ源1によって出された測定用レーザビーム12の偏光と、
偏光分析器712によって受け取られた測定用レーザビーム12の偏光と
の間における偏光変化Δpolarizationを計算することが可能である。
【0062】
計算された偏光変化はコンピュータによって使用され、光カプラ3の出力における治療用レーザビーム11の偏光が、成形システム2へ導入される前に、治療用レーザビームにとっての所望の参照偏光に対応するように、レーザ源1によって発生された治療用レーザビーム11の偏光を補正するための補償信号が生成される。
【0063】
この補償信号は、レーザビームの偏光を改変するための手段72に送信される。
【0064】
2.2.2.偏光を改変するための手段
治療用レーザビームの偏光を改変するための手段72は、測定手段71によって測定された偏光変化Δpolarizationを補正することを可能にする。
【0065】
偏光を改変するための手段72は、光カプラ3の下流に設けることができる。この場合、偏光を改変するための手段72は、アーム200の端部セグメント204(つまり「ワーキングヘッド」)に組み込まれる。これは大型化の問題を誘発しうる。
【0066】
改変例として、偏光を改変するための手段72は、レーザ源1と光カプラ3との間に設けることができる。これにより、偏光を改変するための手段72を治療デバイスの筐体210に組み込むことが可能となる(これは大型化の問題を制限する)。この場合、偏光を改変するための手段72は、光カプラ3の出力におけるレーザビームの偏光が所望の参照偏光に対応するように、光カプラ3の入力において補正された偏光レーザビームを生成することを可能にする。
【0067】
より具体的には、レーザ源1の出力における治療用レーザビーム11の偏光は、成形システム2へ導入される前に、最適な偏光、つまり治療用レーザビームにとっての所望の参照偏光に対応する。
【0068】
フォトニック結晶光ファイバ31を通る移動が、この偏光を改変する。
【0069】
偏光を改変するための手段72は、治療用レーザビーム11がフォトニック結晶光ファイバ31を通って移動するときに受ける偏光改変を補償することを可能にする。
【0070】
したがって、光カプラ3の出力における治療用レーザビーム11の偏光は、レーザ源1の出力における治療用レーザビーム11の最適な偏光に対応する。
【0071】
偏光を改変するための手段72は、電気的制御電圧の作用の下で、レーザ源1から生じた治療用レーザビーム11の偏光面を回転させる役割をもつ電気光学セルを備えることができる。このセルは、光に対して作用する、当業者に知られた種類のうちの一つでありえる。例えば、このセルは、液晶セル(このような結晶は低エネルギー消費での制御が特に容易である)、又は好ましくは回転波長板、特に、液晶セルより遥かに安価であるとの利点を有する回転半波長板であってよい。
【0072】
偏光を改変するための手段72の動作原理は次のとおりである。ここでは、偏光を改変するための手段72は、レーザ源1と光カプラ3との間に配置されているものとする。
【0073】
いったんコンピュータによって補償信号が推定されると、この補償信号は、偏光を改変するための手段72へ、それらを設定するために送られる。
【0074】
レーザ源1から生じた治療用レーザビーム11の偏光面は、偏光を改変するための手段72を通って移動するとき、測定された偏光変化Δpolarizationと反対の方向への回転を受ける。補正された偏光レーザビームが得られる。
【0075】
例えば、測定された偏光変化Δpolarizationが反時計回り方向に45°の角度の偏光された光ビームの回転に対応する場合、レーザ源1から生じた治療用レーザビーム11の偏光面は逆方向に45°の角度(すなわち反時計回り方向に-45°の角度)で回転される。
【0076】
したがって、光カプラ3の出力において、治療用レーザビーム11の偏光はレーザ源1の出力における治療用レーザビーム11の偏光に対応する。
【0077】
偏光補正器7は、治療用レーザビーム11の偏光を、成形システム2へ導入される前に、改変することを可能にする。この解決手段は、ヒンジアーム200の端部セグメント204(つまり「ワーキングヘッド」)がいかなる位置及び向きであっても、成形システム2の出力における変調されたレーザビーム21のパワーのすべてを維持することを可能にする。
【0078】
3.結論
本発明は、効率的かつ正確な切開ツールを提供する。レーザビームの波面の再構成可能な変調は、それぞれが焦点面81におけるモニターされたサイズ及び位置を有する複数の衝突点を同時に生成することを可能にする。これらの異なる衝突点は、変調されたレーザビームの焦点面71においてパターンを形成する。
【0079】
中空コアフォトニック結晶ファイバ31を含む光カプラ3の使用は、パターンを形成する異なる衝突点間の距離を短縮することを可能にする。実際、光スペクトルの分散の現象を制限することにより、中空コアフォトニック結晶ファイバ31を含む光カプラ3は、位相変調されたレーザビームをより純粋にすることを可能にする。
【0080】
偏光補正器7の存在は、成形システム2の入力における治療用レーザビーム11の偏光が成形デバイスの入力における所望の偏光に対応するように、治療用レーザビーム11が光カプラ3を通って移動するときに受ける偏光変化を補償することを可能にする。
【0081】
読者は、上で説明した発明に対し、本明細書に説明された新規な教示及び利点から実体的に逸脱することなく、多くの改変がなされうることを理解するであろう。したがって、そのようなすべての改変は、添付の特許請求の範囲の記載の範囲内に含まれることが意図される。
【国際調査報告】