(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-29
(54)【発明の名称】SUV39H1欠損免疫細胞
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20220921BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220921BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220921BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220921BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220921BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20220921BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220921BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220921BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220921BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220921BHJP
C12N 15/62 20060101ALN20220921BHJP
C12P 21/02 20060101ALN20220921BHJP
C12P 21/08 20060101ALN20220921BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20220921BHJP
C07K 19/00 20060101ALN20220921BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20220921BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20220921BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61P35/02
A61P35/04
A61K35/17 Z
A61K48/00
A61P37/02
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12P21/02 C
C12P21/08
C12N5/0783
C07K19/00
C07K14/705
C12N15/54
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504559
(86)(22)【出願日】2020-07-23
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2020070845
(87)【国際公開番号】W WO2021013950
(87)【国際公開日】2021-01-28
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522029822
【氏名又は名称】ムネモ・セラピューティクス
(71)【出願人】
【識別番号】509181699
【氏名又は名称】アンスティテュ・クリー
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・アミゴレーナ
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・サイタキス
(72)【発明者】
【氏名】シェイラ・ロペ-コボ
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミー・ロドリゴ・フエンテアルバ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG20
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084AA19
4C084MA02
4C084MA16
4C084MA17
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB072
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087BB65
4C087MA16
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
4C087ZC75
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045BA41
4H045DA50
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA72
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、SUV39H1が不活性化され、任意選択でTRAC遺伝子座の破壊及び/又は1つ若しくは複数のITAMの欠失と組み合わされている、CAR又はTCR等の抗原特異的受容体を発現する改良型免疫細胞に関する。また、本発明は、そのような細胞を含む組成物、そのような細胞を産生するための方法、及び養子細胞療法における、例えばがん又は炎症性疾患における、そのような細胞の使用も提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SUV39H1遺伝子が不活性化されている改変免疫細胞であって、前記細胞は、
抗原に特異的に結合する抗原特異的受容体、任意選択でキメラ抗原受容体(CAR)又は異種性TCRをコードする核酸配列の挿入により不活性化されたT細胞受容体(TCR)アルファ定常領域遺伝子
を含み、
任意選択で、前記抗原は、オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、p95HER2、LI-CAM、CD19、CD20、CD22、メソセリン、CEA、B型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、EPHa2、ErbB2、ErbB3、若しくはErbB4、FBP、胎児アセチコリンe受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-アルファ、IL-13R-アルファ2、kdr、カッパ軽鎖、BCMA、Lewis Y、MAGE-A1、メソセリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gplOO、腫瘍胎児性抗原、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺特異的抗原(PSMA)、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、MAGE A3、CE7、又はウィルムス腫瘍(WT-1)である、
改変免疫細胞。
【請求項2】
SUV39H1阻害物質をコードする核酸、任意選択でドミナントネガティブSUV39H1遺伝子を含む改変免疫細胞であって、前記細胞は、
抗原に特異的に結合する抗原特異的受容体、任意選択でキメラ抗原受容体(CAR)又は異種性TCRをコードする核酸配列の挿入により不活性化されたT細胞受容体(TCR)アルファ定常領域遺伝子
を含み、
任意選択で、前記抗原は、オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、p95HER2、LI-CAM、CD19、CD20、CD22、メソセリン、CEA、B型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、EPHa2、ErbB2、ErbB3、若しくはErbB4、FBP、胎児アセチコリンe受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-アルファ、IL-13R-アルファ2、kdr、カッパ軽鎖、BCMA、Lewis Y、MAGE-A1、メソセリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gplOO、腫瘍胎児性抗原、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺特異的抗原(PSMA)、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、MAGE A3、CE7、又はウィルムス腫瘍(WT-1)である、
改変免疫細胞。
【請求項3】
SUV39H1遺伝子が不活性化されており、
a)抗原に特異的に結合する細胞外抗原結合ドメイン、
b)膜貫通ドメイン、
c)任意選択で1つ又は複数の共刺激ドメイン、
d)ITAM2及びITAM3が不活性化されている改変CD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメイン
を含むキメラ抗原受容体(CAR)を発現する改変免疫細胞であって、
任意選択で、前記抗原は、オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、p95HER2、LI-CAM、CD19、CD20、CD22、メソセリン、CEA、B型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、EPHa2、ErbB2、ErbB3、若しくはErbB4、FBP、胎児アセチコリンe受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-アルファ、IL-13R-アルファ2、kdr、カッパ軽鎖、BCMA、Lewis Y、MAGE-A1、メソセリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gplOO、腫瘍胎児性抗原、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺特異的抗原(PSMA)、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、MAGE A3、CE7、又はウィルムス腫瘍(WT-1)である、
改変免疫細胞。
【請求項4】
SUV39H1阻害物質をコードする核酸、任意選択でドミナントネガティブSUV39H1遺伝子を含み、
a)抗原に特異的に結合する細胞外抗原結合ドメイン、
b)膜貫通ドメイン、
c)任意選択で1つ又は複数の共刺激ドメイン、
d)ITAM2及びITAM3が不活性化されている改変CD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメイン
を含むキメラ抗原受容体(CAR)を発現する改変免疫細胞であって、
任意選択で、前記抗原は、オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、p95HER2、LI-CAM、CD19、CD20、CD22、メソセリン、CEA、B型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、EPHa2、ErbB2、ErbB3、若しくはErbB4、FBP、胎児アセチコリンe受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-アルファ、IL-13R-アルファ2、kdr、カッパ軽鎖、BCMA、Lewis Y、MAGE-A1、メソセリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gplOO、腫瘍胎児性抗原、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺特異的抗原(PSMA)、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、MAGE A3、CE7、又はウィルムス腫瘍(WT-1)である、
改変免疫細胞。
【請求項5】
前記細胞が、T細胞、T細胞前駆細胞、造血幹細胞、iPSC、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、CD4+及びCD8+ T細胞、又はNK細胞、又はT
N細胞、T
SCM、T
CM、若しくはT
EM細胞である、請求項1から4のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項6】
前記免疫細胞が、制御性T細胞である、請求項1から4のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項7】
前記CARが、(a)細胞外抗原結合ドメイン、(b)膜貫通ドメイン、(c)任意選択で1つ又は複数の共刺激ドメイン、及び(d)細胞内シグナル伝達ドメインを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項8】
前記細胞外抗原結合ドメインが、scFv、任意選択でがん抗原に特異的に結合するscFvである、請求項7に記載の改変免疫細胞。
【請求項9】
前記膜貫通ドメインが、CD28、CD8、又はCD3-ゼータに由来する、請求項7又は8に記載の改変免疫細胞。
【請求項10】
前記1つ又は複数の共刺激ドメインが、4-1BB、CD28、ICOS、OX40、及びDAP10からなる群から選択される、請求項7から9のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項11】
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、CD3-ゼータポリペプチド、任意選択で免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ2(ITAM2)及び免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ3(ITAM3)が不活性化されているCD3-ゼータポリペプチドの細胞内シグナル伝達ドメイン、又はその断片を含む、請求項7から10のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項12】
前記T細胞が、第2の抗原に特異的に結合する第2の抗原特異的受容体、任意選択でTCR又はCARを更に含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項13】
SUV39H1発現が、少なくとも約50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%低減される、請求項1から12のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項14】
内因性TCR発現が、少なくとも約75%、80%、85%、90%、又は95%低減される、請求項1から13のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項15】
前記免疫細胞が、自己由来である、請求項1から14のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項16】
前記免疫細胞が、同種異系である、請求項1から15のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項17】
HLA-A遺伝子座が、不活性化されている、請求項1から16のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項18】
HLAクラスI発現が、少なくとも約75%、80%、85%、90%、又は95%低減される、請求項17に記載の改変免疫細胞。
【請求項19】
第1の抗原に結合する第1のCAR及び第2の抗原に結合する第2のCARという2つのCARを発現する、請求項1から18のいずれか一項に記載の改変免疫細胞。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項に記載の改変免疫細胞を含む無菌医薬組成物。
【請求項21】
請求項1から19のいずれか一項に記載の改変免疫細胞、及び送達デバイス又は容器を含むキット。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載の改変免疫細胞又は医薬組成物又はキットを使用する方法であって、抗原に関連付けられる疾患、任意選択でがんに罹患している又はそのリスクがある患者を、治療有効量の前記免疫細胞又は医薬組成物を前記患者に投与することによって治療するための、方法。
【請求項23】
前記免疫細胞が、CAR T細胞であり、約5×10
7個未満の細胞、任意選択で約10
5~約10
7個の細胞の用量が、前記患者に投与される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
第2の療法剤、任意選択で1つ又は複数のがん化学療法剤、細胞傷害剤、ホルモン、抗血管新生物質、放射性標識化合物、免疫療法、外科手術、凍結療法、及び/又は放射線療法が前記患者に投与される、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
免疫チェックポイント調節物質が、前記患者に投与される、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項26】
前記免疫チェックポイント調節物質が、PD1、PDL1、CTLA4、LAG3、BTLA、OX2R、TIM-3、TIGIT、LAIR-1、PGE2受容体、EP2/4アデノシン受容体、若しくはA2ARに特異的に結合する抗体又はこれらの他の阻害物質である、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、養子細胞療法の分野に関する。本発明は、特性が増強されたSUV39H1欠損免疫細胞を提供する。
【背景技術】
【0002】
緒言
強力ながん治療代替療法として、組換えT細胞受容体(TCR)及びキメラ抗原受容体(CAR)技術で武装したT細胞を使用する養子T細胞療法(ATCT)が台頭しつつある(Lim WA & June CH. 2018年. Cell 168巻(4号):724~740頁)。治療用T細胞の効率的な生着、長期的持続性、及び疲弊低減は、肯定的な治療成績と相関する。加えて、養子移入細胞の持続性の増加は、セントラルメモリーT細胞(TCM)集団の獲得に依存すると考えられる(Powell DJら、Blood. 2005年、105巻(1号):241~50頁、Huang J、Khong HTら、J Immunother. 2005年、28巻:258~267頁)。
【0003】
T細胞は、活性化されると、不可逆的に直線的な様式でエフェクター(TE)表現型に向かって進行する(Mahnke YDら、Eur J Immunol. 2013年、43巻:2797~2809頁、Farber DL. Semin Immunol. 2009年、21巻:84~91頁)。したがって、レトロウイルス又はレンチウイルス形質導入の細胞分裂活性化は、ナイーブ表現型からTE表現型へのT細胞分化を駆動する。形質導入T細胞の数を臨床応用に必要な数(約109~1011個)へと拡大増殖させるex-vivo培養プロトコールと組み合わせると、T細胞は、より分化した表現型へと向けて駆動されるが、全身への持続性には最適であるとは言えない。固形腫瘍の細胞ベース療法を成功させるための主な障害は、活性化T細胞の疲弊であり、それにより、それらが増殖する能力及びそれらが標的細胞を破壊する能力が減少する。PD-1遮断は、T細胞機能を早期段階で回復させることができるが、このレスキューは不完全であるか又は一過性である可能性がある(Sen DRら、2016年. Science 354巻(6316号):1165~1169頁、Pauken KEら、2016年. Science 354巻(6316号):1160~1165頁)。更に、腫瘍中の免疫抑制微小環境は、T細胞疲弊を媒介する(Joyce JA、Fearon DT. 2015年. Science 348巻(6230号):74~80頁)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2017/062451号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2017/180989号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2014/055668号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2018/132506号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2019/133969号パンフレット
【特許文献6】国際公開第200014257号パンフレット
【特許文献7】国際公開第2013126726号パンフレット
【特許文献8】国際公開第2012/129514号パンフレット
【特許文献9】国際公開第2014031687号パンフレット
【特許文献10】国際公開第2013/166321号パンフレット
【特許文献11】国際公開第2013/071154号パンフレット
【特許文献12】国際公開第2013/123061号パンフレット
【特許文献13】米国特許出願第2002131960号明細書
【特許文献14】米国特許出願第2013287748号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第20130149337号明細書
【特許文献16】米国特許第6,451,995号明細書
【特許文献17】米国特許第7,446,190号明細書
【特許文献18】米国特許第8,252,592号明細書
【特許文献19】米国特許第8,339,645号明細書
【特許文献20】米国特許第8,398,282号明細書
【特許文献21】米国特許第7,446,179号明細書
【特許文献22】米国特許第6,410,319号明細書
【特許文献23】米国特許第7,070,995号明細書
【特許文献24】米国特許第7,265,209号明細書
【特許文献25】米国特許第7,354,762号明細書
【特許文献26】米国特許第7,446,191号明細書
【特許文献27】米国特許第8,324,353号明細書
【特許文献28】米国特許第8,479,118号明細書
【特許文献29】欧州特許出願第2537416号明細書
【特許文献30】国際公開第2014056668号パンフレット
【特許文献31】国際公開第2011009173号パンフレット
【特許文献32】国際公開第2012135854号パンフレット
【特許文献33】米国特許出願公開第20140065708号明細書
【特許文献34】米国特許第8,153,765号明細書
【特許文献35】米国特許第8,603477号明細書
【特許文献36】米国特許第8,008,450号明細書
【特許文献37】米国特許出願公開第20120189622号明細書
【特許文献38】国際公開第2006099875号パンフレット
【特許文献39】国際公開第2009080829号パンフレット
【特許文献40】国際公開第2012092612号パンフレット
【特許文献41】米国特許出願公開第2013/0316380号明細書
【特許文献42】国際公開第2010/000565号パンフレット
【特許文献43】米国特許出願公開第2018/0118849号明細書
【特許文献44】国際公開第2014055668号パンフレット
【特許文献45】国際出願番号PCT/US91/08442
【特許文献46】国際出願番号PCT/US94/05601
【特許文献47】米国特許第6,040,177号明細書
【特許文献48】米国特許第8,697,359号明細書
【特許文献49】米国特許出願公開第2014/0087426号明細書
【特許文献50】米国特許出願公開第2012/0178169号明細書
【特許文献51】米国特許第5,356,802号明細書
【特許文献52】米国特許第5,436,150号明細書
【特許文献53】米国特許第5,487,994号明細書
【特許文献54】米国特許出願公開第20110301073号明細書
【特許文献55】米国特許公開第2014/0120222号明細書
【特許文献56】米国特許公開第2013/0315884号明細書
【特許文献57】米国特許第5,049,386号明細書
【特許文献58】米国特許第4,946,787号明細書
【特許文献59】米国特許第4,897,355号明細書
【特許文献60】国際公開第91/17424号パンフレット
【特許文献61】国際公開第91/16024号パンフレット
【特許文献62】米国特許第5,219,740号明細書
【特許文献63】米国特許第6,207,453号明細書
【特許文献64】米国特許出願公開第2003/0170238号明細書
【特許文献65】米国特許第4,690,915号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Lim WA & June CH、2018年. Cell 168巻(4号):724~740頁
【非特許文献2】Powell DJら、Blood. 2005年、105巻(1号):241~50頁
【非特許文献3】Huang J, Khong HTら、J Immunother. 2005年、28巻:258~267頁
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【非特許文献112】Eyquemら、Nature 543巻:113~117頁(2017年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
当技術分野には、養子細胞療法のための特性が向上された改変又は遺伝子操作T細胞に対する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の概要
免疫細胞、特にSUV39H1が不活性化又は阻害されているT細胞は、セントラルメモリー表現型の増強、養子移入後の生存及び持続性の増強、並びに疲弊の低減を呈する。特に、そのような細胞は蓄積し、長寿命セントラルメモリーT細胞へと増加した効率で再プログラムされる。そのような細胞は、腫瘍細胞拒絶の誘導がより効率的であり、がん治療の有効性の増加を示す。
【0008】
一態様では、本開示は、SUV39H1遺伝子が不活性化又は阻害されている改変免疫細胞であって、抗原に特異的に結合する抗原特異的受容体をコードする核酸配列の挿入により不活性化されているT細胞受容体(TCR)アルファ定常領域遺伝子を含む改変免疫細胞を提供する。核酸配列の挿入は、内因性TCR発現を、少なくとも約75%、80%、85%、90%、又は95%低減させることができる。例えば、抗原特異的受容体をコードする核酸は、免疫細胞に対して異種性であってもよく、その発現が内因性プロモーターの制御下に入るようにT細胞受容体の内因性プロモーターに作動可能に連結していてもよい。抗原特異的受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)であってもよく又は異種性TCRであってもよい。一部の実施形態では、CARをコードする核酸は、内因性TRACプロモーターに作動可能に連結している。抗原特異的受容体が、好ましくは10-7M又は10-8M以下の結合親和性KDで結合する抗原の例としては、以下のものが挙げられる:オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、p95HER2、LI-CAM、CD19、CD20、CD22、メソセリン、CEA、B型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、EPHa2、ErbB2、ErbB3、若しくはErbB4、FBP、胎児アセチコリンe受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-アルファ、IL-13R-アルファ2、kdr、カッパ軽鎖、BCMA、Lewis Y、MAGE-A1、メソセリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gplOO、腫瘍胎児性抗原(oncofetal antigen)、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺特異的抗原(PSMA)、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、MAGE A3、CE7、又はウィルムス腫瘍1(WT-1)。
【0009】
別の態様では、本開示は、SUV39H1遺伝子が不活性化又は阻害されている改変免疫細胞であって、抗原に特異的に結合する抗原特異的受容体を発現する改変免疫細胞を提供する。抗原特異的受容体は、a)細胞外抗原結合ドメイン、b)膜貫通ドメイン、c)任意選択で1つ又は複数の共刺激ドメイン、及びd)単一の活性ITAMドメインを有する細胞内シグナル伝達ドメイン、例えば、ITAM2及びITAM3が不活性化されている改変CD3ゼータドメイン、を含む細胞内シグナル伝達ドメインを含むキメラ抗原受容体(CAR)であってもよい。これは、当技術分野で公知の、例えばITAM2及びITAM3が不活性化されているか又はITAM1及びITAM2が不活性化されている任意の手段により達成することができる。例えば、改変CD3ゼータポリペプチドは、ITAM1のみを保持し、残りのCD3ζドメインは欠失している(残基90~164)。別の例として、ITAM1は、ITAM3のアミノ酸配列で置換されており、残りのCD3ζドメインは欠失している(残基90~164)。抗原特異的受容体は、記載の通りの単一の活性ITAMドメインを有する細胞内シグナル伝達ドメインを含むTCRであってもよい。そのようなCAR又はTCRが、好ましくは10-7M又は10-8M以下の結合親和性KDで結合する抗原の例としては、以下のものが挙げられる:オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、p95HER2、LI-CAM、CD19、CD20、CD22、メソセリン、CEA、B型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、EPHa2、ErbB2、ErbB3、若しくはErbB4、FBP、胎児アセチコリンe受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-アルファ、IL-13R-アルファ2、kdr、カッパ軽鎖、BCMA、Lewis Y、MAGE-A1、メソセリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gplOO、腫瘍胎児性抗原、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺特異的抗原(PSMA)、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、MAGE A3、CE7、又はウィルムス腫瘍1(WT-1)。
【0010】
本明細書に記載の態様のいずれかでは、改変免疫細胞は、T細胞、T細胞前駆細胞、造血幹細胞、iPSC、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、CD4+及びCD8+ T細胞、又はNK細胞、又はTN細胞、TSCM、TCM、若しくはTEM細胞であってもよい。改変免疫細胞は、制御性T細胞であってもよい。本明細書に記載の態様のいずれかでは、SUV39H1活性遺伝子は、免疫細胞のSUV39H1遺伝子の不活性化若しくは破壊により阻害されてもよく、又はSUV39H1阻害物質の発現若しくは送達により阻害されてもよい。一部の実施形態では、免疫細胞は、その野生型遺伝子を保持するが、SUV39H1阻害物質をコードする核酸、任意選択でドミナントネガティブSUV39H1遺伝子を含むように改変されている。
【0011】
本明細書に記載の態様のいずれかでは、抗原特異的受容体は、(a)細胞外抗原結合ドメイン、(b)膜貫通ドメイン、(c)任意選択で1つ又は複数の共刺激ドメイン、及び(d)細胞内シグナル伝達ドメインを含むCARである。細胞外抗原結合ドメインは、scFv、任意選択で本明細書に開示されるようながん抗原に特異的に結合するscFvであってもよい。膜貫通ドメインは、CD28、CD8、又はCD3-ゼータに由来してもよい。1つ又は複数の共刺激ドメインは、4-1BB、CD28、ICOS、OX40、及び/又はDAP10であってもよい。細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3-ゼータポリペプチド、又はその断片、任意選択で免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ2(ITAM2)及び免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ3(ITAM3)が不活性化されているCD3-ゼータポリペプチドの細胞内シグナル伝達ドメインを含んでいてもよい。
【0012】
こうした実施形態のいずれかでは、抗原特異的受容体は、(a)第1の抗原(例えば、がん抗原)及び(b)T細胞活性化抗原、例えば、CD3イプシロン又はTCRの定常鎖(アルファ又はベータ)の両方に結合する二重特異性抗原特異的受容体であってもよい。
【0013】
こうした実施形態のいずれかでは、免疫細胞は、第2の抗原に特異的に結合する第2の抗原特異的受容体、任意選択でTCR又はCARを更に含んでいてもよい。例えば、免疫細胞は、第1の抗原に結合する第1のCAR及び第2の抗原に結合する第2のCARの2つのCARを含んでいてもよい。
【0014】
こうした実施形態のいずれかでは、SUV39H1の不活性化は、SUV39H1発現を、少なくとも約50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、又は95%低減させる。
【0015】
こうした実施形態のいずれかでは、免疫細胞は、自己由来(autologous)であってもよく又は同種異系(allogeneic)であってもよい。こうした実施形態のいずれかでは、免疫細胞は、HLA-A遺伝子座が不活性化されるように改変されている。一部の実施形態では、HLAクラスI発現は、少なくとも約75%、80%、85%、90%、又は95%低減される。
【0016】
また、本開示は、別の態様では、前述の改変免疫細胞のいずれかを含む無菌医薬組成物も提供する。また、本開示は、前述の改変免疫細胞のいずれか及び送達デバイス又は容器を含むキットも提供する。
【0017】
本開示は、前述の改変免疫細胞又は医薬組成物又はキットを使用して、抗原に関連付けられる疾患、任意選択でがんに罹患している又はそのリスクがある患者を、治療有効量の上記免疫細胞又は医薬組成物を患者に投与することにより治療するための方法を更に提供する。一部の実施形態では、免疫細胞はCAR T細胞であり、約5×107個の細胞未満、任意選択で約105~約107個の細胞の用量が患者に投与される。本方法は、第2の療法剤、任意選択で1つ又は複数のがん化学療法剤、細胞傷害剤、ホルモン、抗血管新生物質、放射性標識化合物、免疫療法、外科手術、凍結療法、及び/又は放射線療法を患者に投与することを更に含んでいてもよい。第2の療法剤は、免疫チェックポイント調節物質であってもよい。免疫チェックポイント調節物質の例としては、PD1、PDL1、CTLA4、LAG3、BTLA、OX2R、TIM-3、TIGIT、LAIR-1、PGE2受容体、EP2/4アデノシン受容体、若しくはA2ARに特異的に結合する抗体又はこれらの阻害物質が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】RT-qPCRによる、SUV39H1がノックアウトされているCD8+ T細胞でのSUV39H1の発現レベルを示す図である。
【
図2】
図2A~
図2Cは、フローサイトメトリーによる、モックと比較した幾何平均蛍光強度(MFI)の倍率変化を示す図であり、SUV39H1ノックアウト細胞におけるセントラルメモリーT細胞表面マーカーCCR7、CD27、及びCD62Lの発現レベルの増加が示されている。
【
図3A】フローサイトメトリーにより、SUV39H1ノックアウト細胞におけるセントラルメモリーT細胞表面マーカーCCR7、CD45RO、CD27、及びCD62Lの発現レベルを示す代表的なFACSプロットを示す図である。
【
図3B】CCR7+CD45RO+CD27+CD62L+細胞のセントラルメモリー細胞サブセットの頻度の倍率変化を示す図である。
【
図4】
図4Aは、(a)TIM-3陽性、PD-1陰性、(b)TIM-3陽性、PD-1陽性、(c)TIM-3陰性、PD-1陽性、(d)TIM-3陰性、PD-1陰性である細胞のサブセットの頻度の倍率変化を示す図である。
図4Bは、TIM-3の発現レベル(平均蛍光強度の倍率変化)を示す図である。
【
図5A】T-betの発現レベル(平均蛍光強度の倍率変化)を示す図である。
【
図5B】EOMES及びT-betの発現レベルを示す代表的なFACSプロットを示す図である。
【
図5C】フローサイトメトリーによる、(a)EOMES陽性、Tbet陰性、(b)EOMES陽性、Tbet陽性、(c)EOMES陰性、Tbet陽性、及び(d)EOMES陰性、Tbet陰性である細胞のサブセットの頻度の倍率変化を示す図である。
【
図5D】TCF-1及びT-betの発現レベルを示す代表的なFACSプロットを示す図である。
【
図5E】フローサイトメトリーによる、(a)TCF1陽性、Tbet陰性、(b)TCF1陽性、Tbet陽性、(c)TCF1陰性、Tbet陽性、及び(d)TCF1陰性、Tbet陰性である細胞のサブセットの頻度の倍率変化を示す図である。T細胞マスター転写因子であるT-bet、EOMES、及びTCF-1のこうした発現パターンは、SUV39H1ノックアウト細胞のエフェクター様表現型の減少を示す。
【
図6】連続刺激後の各週のCD8+ T細胞数の倍率変化を示す図であり、SUV39H1ノックアウト細胞の増殖増加が示されている。
【
図7A】第2世代抗CD19 CARのレンチウイルス形質導入後にCARを発現するT細胞のパーセンテージを示す図である。
【
図7B】xCelligenceデバイスにより細胞インピーダンス(細胞インデックス)の変化として測定した、抗CD19 CAR T細胞によるCD19陽性Raji細胞の特異的死滅を示す図である。
【
図7C】生物発光の変化として測定した、ルシフェラーゼ発現CD19陽性NALM-6細胞を注射したNSGマウスにおける抗CD19 CAR-T細胞の特異的in vivo抗腫瘍活性を示す図である。
【
図8A】SUV39標的指向性gRNAを含むCas9 RNPをエレクトロポレーションすることによるSUV39H1ノックアウト後の抗CD19 CAR発現T細胞のパーセンテージを示す図であり、RT-qPCRにより、そのような細胞でのSUV39H1発現レベルの減少を示す図である。
【
図8B】SUV39標的指向性gRNAを含むCas9 RNPをエレクトロポレーションすることによるSUV39H1ノックアウト後の抗CD19 CAR発現T細胞のパーセンテージを示す図であり、RT-qPCRにより、そのような細胞でのSUV39H1発現レベルの減少を示す図である。
【
図8C】全CD3+モック及びSUV39H1KO T細胞におけるCARの発現を示し、またCD4+及びCD8+サブセット内でのCARの発現も示す図である。
【
図8D】ヒストン3(H3K9me3)のトリメチル化リジン9の量をフローサイトメトリーにより定量化した図である。これにより、SUV39H1の不活性化は、その基質であるH3K9me3のレベルに直接的な効果を及ぼすことが確認される。
【
図9】
図9Aは、フローサイトメトリーによる、セントラルメモリー細胞サブセットCCR7+ CD45RO+CD27+CD62L+のマーカーを呈する、SUV39H1がノックアウトされた抗CD19 CAR-T細胞のパーセンテージを示す図である。
図9Bは、セントラルメモリー細胞サブセット頻度の倍率変化を示す図である。
【
図10A】モックと比較した、SUV39H1がノックアウトされた抗CD19 CAR-T細胞におけるTIM-3の発現レベル(平均蛍光強度の倍率変化)を示す図である。
【
図10B】モックと比較した、SUV39H1がノックアウトされた抗CD19 CAR-T細胞におけるT-betの発現レベル(平均蛍光強度の倍率変化)を示す図である。
【
図10C】フローサイトメトリーによる、(a)EOMES陽性、Tbet陰性、(b)EOMES陽性、Tbet陽性、(c)EOMES陰性、Tbet陽性、及び(d)EOMES陰性、Tbet陰性であるSUV39H1KO CAR T細胞のサブセットの頻度の倍率変化を示す図である。
【
図11】2人の代表的なドナーの、連続刺激後の各週のSUV39H1KO CD8+ CAR T細胞数の倍数変化を示す図であり、SUV39H1KO CAR T細胞の増殖増加が示されている。
【
図12】SUV39H1KO CD3+ CAR T細胞数の倍数変化を示す図である。SUV39H1の不活性化は、モックと比較して増殖の増加をもたらす。
【
図13】CD8+ CAR T細胞(モック)及びSUV39H1KO CAR T細胞のサイトカインシグナル伝達及び幹細胞性/メモリー遺伝子の発現レベルを示す図である。
【
図14A】1週間の刺激後のCD8+ CAR T細胞(モック)及びSUV39H1KO CAR T細胞における解糖系遺伝子の発現レベルを示す図である。SUV39H1がノックアウトされた抗CD19 CAR-T細胞は、エフェクター分化の減少を示す。
【
図14B】1週間の刺激後のCD8+ CAR T細胞(モック)及びSUV39H1KO CAR T細胞におけるエフェクターサイトカイン遺伝子の発現レベルを示す図である。SUV39H1がノックアウトされた抗CD19 CAR-T細胞は、エフェクター分化の減少を示す。
【
図14C】メモリー/幹細胞性に関連付けられる遺伝子の発現レベルを示す図である。SUV39H1KO CAR T細胞は、メモリー/幹細胞性遺伝子の発現レベルの増加を示す。
【
図15A】追加の幹細胞性/メモリー遺伝子の発現レベルを示す図である。
【
図15B】最終エフェクター分化(エフェクターサイトカイン及びナチュラルキラー(NK)細胞受容体)に関連付けられる遺伝子の発現レベルを示す図である。
【
図15C】疲弊関連遺伝子の発現レベルを示す図である。SUV39H1KO CAR T細胞は、幹細胞性/メモリー遺伝子の発現増加、並びに最終エフェクター及び疲弊遺伝子の発現減少を示し、これは、最終分化の阻害におけるSUV39H1不活性化の効果と一致する。
【
図16】2:1のエフェクター:標的比で生物発光により測定した、モック又はSUV39H1KOのいずれかの抗CD19 CAR T細胞によるCD19陽性NALM-6細胞の特異的in vitro死滅を示す図である。
【
図17】
図17Aは、細胞外フラックス分析装置Seahorse(Agilent社)により、細胞外酸性化速度(ECAR)の変化として測定した、モック又はSUV39H1KOのいずれかのCAR T細胞の好気性解糖を示す図である。
図17Bは、モック又はSUV39H1KOのいずれかのCAR T細胞の解糖予備能を示す図である。SUV39H1の不活性化は、CAR T細胞の解糖予備能をわずかに増加させる。
【
図18】
図18Aは、細胞外フラックス分析装置Seahorse(Agilent社)により酸素消費速度(OCR)の変化として測定した、モック又はSUV39H1KOのいずれかのCAR T細胞のミトコンドリア呼吸を示す図である。
図18Bは、モック又はSUV39H1KOのいずれかのCAR T細胞のATP産生を示す図である。SUV39H1の不活性化は、グルコース及びピルビン酸の非存在下でミトコンドリア呼吸を増加させ、全体的ATP産生を増加させる。
【
図19】
図19Aは、急性リンパ芽球性白血病の異種腫瘍モデルの実験手順を示す図である。手短に言えば、ルシフェラーゼを発現する2.5×105個のNALM-6細胞を、NSGマウスの尾に静脈内注射し、in vivoでの増殖を、生物発光(IVIS、Perkin Elmer社)で長期間にわたって追跡した。腫瘍注射後3日目に、モック又はSUV39H1KOのいずれかの106個のCAR T細胞を輸注した。
図19Bは、モック又はSUV39H1KO CAR T細胞のいずれかで処理したNSGマウスのNALM-6細胞の増殖及びカプラン・マイヤー生存率グラフを示す図である。SUV39H1KO CAR T細胞は、より強力な抗腫瘍応答を示し、NSGマウスの生存率を増強した。
【
図20】
図20Aは、モック又はSUV39H1KOのいずれかの2×106個のCAR T細胞で処理したNSGマウスのNALM-6細胞の増殖を示す図である。
図20Bは、モック又はSUV39H1KOのいずれかの2×106個のCAR T細胞で処理したNSGマウスのカプラン・マイヤー生存率グラフを示す図である。SUV39H1 CAR T細胞は、より強力な抗腫瘍応答を示し、NSGマウスの生存率を増強した(10匹のうち9匹)。
【
図21A】TRAC遺伝子座へのCAR挿入及びSUV39H1の平行ノックアウトのためのインフレームノックイン/ノックアウトを組み合わせる実験手順を示す図である。
【
図21B】CD4+及びCD8+サブセットにおけるCAR発現細胞のパーセンテージ及びCAR+細胞の平均蛍光強度(細胞表面のCAR分子数の定量化)を示す図である。
【
図21C】TRACのみに対するgRNA又はTRAC及びSUV39H1に対するgRNAで処理したCAR T細胞におけるSUV39H1の発現レベルを示す図である(図では「SUV」として示されている)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
定義
本明細書における「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、インタクト抗体、並びに断片抗原結合性(Fab)断片、F(ab')2断片、Fab'断片、Fv断片、組換えIgG(rIgG)断片、抗原に特異的に結合することが可能な可変重鎖(VH)領域、単鎖可変断片(scFv)を含む単鎖抗体断片、及び単一ドメイン抗体(例えば、sdAb、sdFv、ナノボディ)断片を含む機能的(抗原結合性)抗体断片を含むポリクローナル及びモノクローナル抗体を含む。この用語は、イントラボディ、ペプチボディ(peptibodies)、キメラ抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、及びヘテロコンジュゲート抗体、多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体、ダイアボディ、トライアボディ、及びテトラボディ、タンデムdi-scFv、タンデムtri-scFv等の免疫グロブリンの組換え型並びに/又は他の改変型を包含する。別様の記載がない限り、「抗体」という用語は、その機能的抗体断片を包含すると理解されるべきである。また、この用語は、IgG及びそのサブクラスIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgE、IgA、及びIgDを含む任意のクラス又はサブクラスの抗体を含むインタクト抗体又は完全長抗体を包含する。一部の実施形態では、抗体は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。
【0020】
「抗体断片」は、インタクト抗体が結合する抗原に結合するインタクト抗体の部分を含む、インタクト抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、これらに限定されないが、Fv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2、ダイアボディ、線状抗体、可変重鎖(VH)領域、VHH抗体、scFv等の単鎖抗体分子、及び単一ドメインVH単一抗体、並びに抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。特定の実施形態では、抗体は、scFv等の、可変重鎖領域及び/又は可変軽鎖領域を含む単鎖抗体断片である。
【0021】
「単一ドメイン抗体」は、抗体の重鎖可変ドメインの全て若しくは部分又は軽鎖可変ドメインの全て若しくは部分を含む抗体断片である。ある特定の実施形態では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である。
【0022】
遺伝子の「不活性化」又は「破壊」とは、遺伝子発現の低下若しくは消失を引き起こすか、又は非機能的遺伝子産物の発現を引き起こす、ゲノムDNA配列の変化を指す。例示的な方法としては、遺伝子サイレンシング、ノックダウン、ノックアウト、並びに/又は例えば切断及び/若しくは相同組換えの誘導による遺伝子編集等の遺伝子破壊技法が挙げられる。そのような遺伝子破壊の例は、遺伝子全体の欠失を含む、遺伝子又は遺伝子の一部の挿入、フレームシフト及びミスセンス突然変異、欠失、ノックイン、並びにノックアウトである。そのような破壊は、コード領域、例えば、1つ又は複数のエキソンで生じてもよく、終止コドンが挿入されること等により、完全長産物、機能性産物、又は任意の産物を産生することができなくなる。また、そのような破壊は、遺伝子の転写が防止されるように、プロモーター又はエンハンサー又は転写の活性化に影響を及ぼす他の領域を破壊することにより生じてもよい。遺伝子破壊としては、相同組換えによる標的遺伝子不活性化を含む遺伝子標的化が挙げられる。
【0023】
遺伝子産物の「阻害」は、その活性及び/又は遺伝子発現が、阻害又は抑制されていない野生型の活性又は発現レベルと比較して、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は99%、又はそれよりも大きく減少することを指す。
【0024】
「非機能的」は、野生型タンパク質と比較して、活性が低減されている又は検出可能な活性を欠如するタンパク質を指す。
【0025】
「ドミナントネガティブ」遺伝子産物は、同じ細胞内の野生型産物の機能を妨害するか又は悪影響を及ぼす突然変異非機能的遺伝子産物を指す。典型的には、野生型産物と同じエレメントと相互作用する突然変異遺伝子産物の能力は残留するが、一部の機能的側面は遮断される。
【0026】
本発明の細胞
免疫細胞
本発明による免疫細胞は、典型的には、哺乳動物細胞、例えばヒト細胞である。
【0027】
特に、本発明の細胞は、血液、骨髄、リンパ、又はリンパ器官(特に胸腺)に由来し、先天性免疫又は適応免疫の細胞等の免疫系の細胞(つまり、免疫細胞)、例えば、リンパ球を含む骨髄性若しくははリンパ系細胞、典型的にはT細胞及び/又はNK細胞である。
好ましくは、本発明によると、細胞は、特に、T細胞、B細胞、及びNK細胞を含むリンパ球である。
【0028】
また、本発明による細胞は、リンパ系前駆細胞、より好ましくはT細胞前駆細胞等の免疫細胞前駆細胞であってもよい。T細胞前駆細胞の例としては、誘導多能性幹細胞(iPSC)、造血幹細胞(HSC)、多能性前駆細胞(MPP)、リンパ球刺激多能性前駆細胞(LMPP)、リンパ系共通前駆細胞(CLP)、リンパ系前駆細胞(LP)、胸腺定着前駆細胞(TSP)、初期胸腺前駆細胞(ETP)が挙げられる。造血幹細胞及び前駆細胞は、例えば、臍帯血から、又は末梢血から得ることができ、その例は、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)による動員処理後の末梢血由来CD34+細胞である。
【0029】
T細胞前駆細胞は、典型的には、CD44、CD117、CD135、及びSca-1を含むコンセンサスマーカーのセットを発現するが、Petrie HT、Kincade PW. Many roads、one destination for T cell progenitors. The Journal of Experimental Medicine. 2005年、202巻(1号):11~13頁も参照されたい。
【0030】
細胞は、典型的には、対象から直接単離されたもの、及び/又は対象から単離され凍結されたもの等の初代細胞である。
【0031】
本発明の細胞は、治療しようとする対象に対して、同種異系であってもよく及び/又は自己由来であってもよい。
【0032】
自己免疫細胞療法では、免疫細胞は、患者から収集され、本明細書に記載されるように改変され、患者に戻される。同種異系免疫細胞療法では、免疫細胞は、患者ではなく健常ドナーから収集され、本明細書に記載されるように改変され、患者に投与される。典型的には、これらは、宿主による拒絶の可能性を低減するためにHLA一致である。また、免疫細胞は、HLAクラスI分子の破壊又は除去等の改変を含んでいてもよい。例えば、Torikaiら、Blood. 2013年、122巻:1341~1349頁では、ZFNを使用してHLA-A遺伝子座がノックアウトされ、Renら、Clin. Cancer Res. 2017年、23巻:2255~2266頁では、HLAクラスI発現に必要なベータ-2ミクログロブリン(B2M)がノックアウトされた。
【0033】
加えて、ユニバーサルな「既製」製品の免疫細胞は、TCRαβ受容体の不活性化(例えば、破壊又は欠失)等の、移植片対宿主病を低減するように設計された改変を含まなければならず、得られる細胞は、内因性TCR発現の著しい低減又はほぼ消失を呈する。総説は、Grahamら、Cells. 2018年10月、7巻(10号):155頁を参照されたい。アルファ鎖(TRAC)は、ベータ鎖のように2つの遺伝子によりコードされるのではなく、単一の遺伝子によりコードされるため、TRAC遺伝子座は、TCRαβ受容体発現を除去又は破壊するための典型的な標的であるが、TCRβ遺伝子座を代わりに破壊してもよい。その代わりに、TCRαβシグナル伝達の阻害物質を発現させてもよく、例えば、CD3ζの短縮型は、TCR阻害分子として作用することができる。Renらは、TCRαβ、B2M、及び免疫チェックポイントPD1を同時にノックアウトした。
【0034】
一部の実施形態では、細胞は、機能、活性化状態、成熟度、分化の可能性、拡大増殖、再循環、局在化、及び/又は持続能力、抗原特異性、抗原特異性、受容体のタイプ、特定の器官若しくは区画における存在、マーカー若しくはサイトカイン分泌プロファイル、及び/又は分化度により規定されるもの等の、全T細胞集団、CD4+細胞、CD8+細胞、及びこれらの部分集団等の、T細胞又は他の細胞タイプの1つ又は複数のサブセットを含む。
【0035】
T細胞並びに/又はCD4+及び/若しくはCD8+ T細胞のサブタイプ及び部分集団には、幹細胞メモリーT(TSCM)細胞、セントラルメモリーT(TCM)細胞、エフェクターメモリーT(TEM)細胞、又は最終分化エフェクターメモリーT細胞等のナイーブT(TN)細胞、エフェクターT細胞(TEFF)、メモリーT細胞、及びこれらのサブタイプ、腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)、未熟T細胞、成熟T細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞、天然に存在する及び獲得された制御性T(Treg)細胞、TH1細胞、TH2細胞、TH3細胞、TH17細胞、TH9細胞、TH22細胞等のヘルパーT細胞、濾胞性ヘルパーT細胞、アルファ/ベータT細胞、並びにデルタ/ガンマT細胞がある。好ましくは、本発明による細胞は、SUV39H1の阻害による幹細胞性/メモリー特性及びより高い再構成能力を有するTEFF細胞、並びにTN細胞、TSCM細胞、TCM細胞、TEM細胞、及びこれらの組合せである。
【0036】
一部の実施形態では、T細胞集団の1つ又は複数は、表面マーカー等の1つ若しくは複数の特定のマーカーが陽性であるか又はそれらを高レベルで発現する細胞、或いは1つ若しくは複数のマーカーが陰性であるか又はそれらを比較的低レベルで発現する細胞が富化されているか又は枯渇している。一部の場合では、そのようなマーカーは、T細胞のある特定の集団(非メモリー細胞等)には存在しないか又は比較的低レベルで発現されるが、T細胞のある特定の他の集団(メモリー細胞等)では存在するか又は比較的高レベルで発現されるものである。一実施形態では、細胞(CD8+細胞又はT細胞、例えばCD3+細胞等)は、CD117、CD135、CD45RO、CCR7、CD28、CD27、CD44、CD127、及び/若しくはCD62Lが陽性であるか又はそれらを高い表面レベルで発現する細胞が富化されており、並びに/又はCD45RAが陽性であるか若しくはそれを高い表面レベルで発現する細胞が枯渇している(例えば、ネガティブ選択されている)。一部の実施形態では、細胞は、CD122、CD95、CD25、CD27、及び/若しくはIL7-Ra(CD127)が陽性であるか又はそれらを高い表面レベルで発現する細胞が富化又は枯渇している。一部の例では、CD8+ T細胞は、CD45RO陽性であり(又はCD45RAが陰性である)及びCD62L陽性である細胞が富化されている。CCR7+、CD45RO+、CD27+、CD62L+細胞である細胞のサブセットは、セントラルメモリー細胞サブセットを構成する。
【0037】
例えば、本発明によると、細胞としては、CD4+ T細胞集団及び/又はCD8+ T細胞部分集団、例えば、セントラルメモリー(TCM)細胞が富化された部分集団を挙げることができる。或いは、細胞は、ナチュラルキラー(NK)細胞、粘膜関連インバリアントT(MAIT)細胞、自然リンパ系細胞(ILC)、及びB細胞を含む、リンパ球の他のタイプであってもよい。
【0038】
本発明に従って遺伝子操作するための細胞及びそうした細胞を含む組成物は、試料、特に、例えば対象から得られるか又は対象に由来する生物学的試料から単離される。典型的には、対象は、細胞療法(養子細胞療法)を必要としており、及び/又は細胞療法を受けることになるものである。対象は、好ましくは哺乳動物、特にヒトである。本発明の一実施形態では、対象はがんを有する。
【0039】
試料としては、対象から直接採取される組織、液体、及び他の試料、並びに分離、遠心分離、遺伝子操作(例えば、ウイルスベクターによる形質導入)、洗浄、及び/又はインキュベーション等の1つ又は複数の処理工程からもたらされる試料が挙げられる。生物学的試料は、生物学的供給源から直接得られる試料であってもよく又は処理される試料であってもよい。生物学的試料としては、これらに限定されないが、血液、血漿、血清、脳脊髄液、滑液、尿、及び汗等の体液、並びにそれらに由来する処理試料を含む組織及び器官試料が挙げられる。好ましくは、細胞が由来する又は単離される試料は、血液若しくは血液由来試料であるか、又はアフェレーシス若しくは白血球アフェレーシス産物であるか若しくはそれに由来する。例示的な試料としては、全血、末梢血単核細胞(PBMC)、白血球、骨髄、胸腺、組織生検、腫瘍、白血病、リンパ腫、リンパ節、腸関連リンパ組織、粘膜関連リンパ組織、脾臓、他のリンパ組織、及び/又はこれらに由来する細胞が挙げられる。細胞療法(典型的には、養子細胞療法)の状況では、試料としては、自己供給源及び同種異系供給源に由来する試料が挙げられる。
【0040】
一部の実施形態では、細胞は、細胞株、例えば、T細胞株に由来する。また、細胞は、マウス、ラット、非ヒト霊長類、又はブタ等の異種供給源から得ることもできる。好ましくは、細胞はヒト細胞である。
【0041】
SUV39H1ヒトSUV39H1メチルトランスフェラーゼは、UNIPROTではO43463として参照されており、X染色体に位置する遺伝子SUV39H1(NCBIではgene ID:6839)によりコードされる。1つの例示的なヒト遺伝子配列は配列番号1であり、1つの例示的なヒトタンパク質配列は配列番号2であるが、種々の対象のゲノムには、異なる配列を有する多型又はバリアントが存在することが理解される。したがって、本発明によるSUV39H1という用語は、SUV39H1の全ての哺乳動物バリアント、及びSUV39H1活性(つまり、H3K9-ヒストンメチルトランスフェラーゼによるヒストンH3のLys-9のメチル化)を有する、配列番号2と少なくとも75%、80%、又は典型的には85%、90%、又は95%同一であるタンパク質をコードする遺伝子を包含する。
【0042】
本発明による「SUV39H1の発現低減」は、正常レベルと比較して、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は99%、又はそれよりも大きなSUV39H1発現の低減を指す。
【0043】
「非機能的」SUV39H1タンパク質とは、本明細書では、上記に記載されるような活性が低減されているか又は検出可能な活性を欠如するタンパク質が意図されている。
【0044】
本明細書で使用される場合、2つの配列間の「同一性パーセンテージ」という表現は、上記の配列の最良のアラインメントで得られる、比較しようとする2つの配列間で同一である塩基又はアミノ酸のパーセンテージを意味し、このパーセンテージは、純粋に統計学的であり、こうした2つの配列間の差異は、2つの配列にわたってランダムに分散している。本明細書で使用される場合、「最良のアラインメント」又は「最適なアラインメント」は、決定された同一性パーセンテージ(下記を参照)が最も高いアラインメントを意味する。2つの核酸配列間の配列比較は、通常、最良のアラインメントに従って以前にアラインメントされているこうした配列を比較することにより実現される。この比較は、類似性のある局所領域を特定及び比較するために、比較セグメントに対して実現される。比較を実施するための最良の配列アラインメントは、手作業の他に、SMITH及びWATERMAN(Ad. App. Math.、2巻、482頁、1981年)により開発されたグローバルホモロジーアルゴリズムを使用することにより、NEDDLEMAN及びWUNSCH(J. Mol. Biol、48巻、443頁、1970年)により開発されたローカルホモロジーアルゴリズムを使用することにより、PEARSON及びLIPMAN(Proc. Natl. Acd. Sci. USA、85巻、2444頁、1988年)により開発された類似性の方法を使用することにより、そのようなアルゴリズムを使用するコンピューターソフトウェア(Wisconsin Genetics software Package、Genetics Computer Group、575 Science Dr.、マディソン、ウィスコンシン州、米国のGAP、BESTFIT、BLAST P、BLAST N、FASTA、TFASTA)を使用することにより、MUSCLE多重アラインメントアルゴリズム(Edgar, Robert C、Nucleic Acids Research、32巻、1792頁、2004年)を使用することにより、実現することができる。最良のローカルアラインメントを得るには、好ましくは、BLASTソフトウェアを使用することができる。2つの配列間の同一性パーセンテージは、最適にアラインされたこうした2つの配列を比較することにより決定され、配列は、こうした2つの配列間の最適なアラインメントを得るために、参照配列に対して付加又は欠失を含むことができる。同一性パーセンテージは、こうした2つの配列間で同一である位置の数を決定し、この数を比較した位置の総数で除算し、得られた結果に100を掛けて、こうした2つの配列間の同一性パーセンテージを得ることにより算出される。
【0045】
抗原特異的受容体
一部の実施形態では、免疫細胞は、表面上に抗原特異的受容体を発現する。したがって、細胞は、1つ又は複数の抗原特異的受容体をコードし、任意選択で異種調節性制御配列に作動可能に連結している1つ又は複数の核酸を含んでいてもよい。典型的には、そのような抗原特異的受容体は、10-6M以下、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、10-10M以下、又は10-11M以下のKd結合親和性で標的抗原に結合する(数値が小さいほど結合親和性が高いことを示す)。
【0046】
典型的には、核酸は、異種性である(つまり、例えば、遺伝子操作されている細胞に及び/又はそのような細胞が由来する生物に通常は見出されない)。一部の実施形態では、核酸は、天然に存在せず、複数の異なる細胞タイプに由来する種々のドメインをコードする核酸のキメラ組合せを含む。核酸及びそれらの調節性制御配列は、典型的には異種性である。例えば、抗原特異的受容体をコードする核酸は、免疫細胞に対して異種性であってもよく、その発現が内因性プロモーターの制御下に入るようにT細胞受容体の内因性プロモーターに作動可能に連結していてもよい。一部の実施形態では、CARをコードする核酸は、内因性TRACプロモーターに作動可能に連結している。
【0047】
本発明による抗原特異的受容体には、組換えT細胞受容体(TCR)及びその成分、並びにキメラ抗原受容体(CAR)等の機能的非TCR抗原特異的受容体がある。
【0048】
免疫細胞は、特に同種異系の場合、移植片対宿主病を低減するように設計されていてもよく、細胞は、不活性化された(例えば、破壊又は欠失された)TCRαβ受容体を含む。アルファ鎖(TRAC)は、ベータ鎖のように2つの遺伝子によりコードされているのではなく、単一の遺伝子によりコードされているため、TRAC遺伝子座は、TCRαβ受容体発現を低減するための典型的な標的である。したがって、抗原特異的受容体(例えば、CAR又はTCR)をコードする核酸は、機能的TCRアルファ鎖の発現を著しく低減させる、TRAC遺伝子座の位置、好ましくは第1エキソンの5'領域(配列番号3)に組み込まれていてもよい。例えば、Jantzら、国際公開第2017/062451号パンフレット;Sadelainら、国際公開第2017/180989号パンフレット;Torikaiら、Blood、119巻(2号):5697~705頁(2012年)、Eyquemら、Nature. 2017年3月2日、543巻(7643号):113~117頁を参照されたい。内因性TCRアルファの発現は、少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%、又は99%低減され得る。そのような実施形態では、抗原特異的受容体をコードする核酸の発現は、任意選択で、内因性TCR-アルファプロモーターの制御下にある。
【0049】
キメラ抗原受容体(CAR)
一部の実施形態では、遺伝子操作抗原特異的受容体は、活性化又は刺激性CAR、共刺激性CAR(国際公開第2014/055668号パンフレットを参照)、及び/又は阻害性CAR(iCAR、Fedorovら、Sci. Transl. Medicine、5巻(215号)(2013年12月)を参照)を含むキメラ抗原受容体(CAR)を含む。
【0050】
キメラ抗原受容体(CAR)(キメラ免疫受容体、キメラT細胞受容体、人工T細胞受容体としても知られている)は、免疫エフェクター細胞(T細胞)に任意の特異性を移植する遺伝子操作抗原特異的受容体である。典型的には、こうした受容体は、モノクローナル抗体の特異性をT細胞に移植するために使用され、それらのコード配列の移入はレトロウイルスベクターにより容易になる。
【0051】
CARは、一般に、一部の態様ではリンカー及び/又は膜貫通ドメインを介して、1つ若しくは複数の細胞内シグナル伝達成分に連結している細胞外抗原(又はリガンド)結合ドメインを含む。そのような分子は、典型的には、天然の抗原受容体を介したシグナル、共刺激受容体と組み合わせてそのような受容体を介したシグナル、及び/又は共刺激受容体のみを介したシグナルを模倣又は近似する。
【0052】
CARは、
(a)細胞外抗原結合ドメイン、
(b)膜貫通ドメイン、
(c)任意選択で共刺激ドメイン、及び
(d)細胞内シグナル伝達ドメイン
を含んでいてもよい。
【0053】
一部の実施形態では、がんマーカー等の、養子細胞療法により標的とされる特定の細胞タイプで発現される抗原等の特定の抗原(又はマーカー若しくはリガンド)に対する特異性を有するCARが構築される。CARは、典型的には、その細胞外部分に、1つ又は複数の抗原結合分子例えば、抗体の1つ又は複数の抗原結合断片、ドメイン、又は部分、典型的には1つ又は複数の抗体可変ドメイン等を含む。例えば、細胞外抗原結合ドメインは、軽鎖可変ドメイン及び重鎖可変ドメインを、典型的にはscFvとして含んでいてもよい。
【0054】
抗原との結合に使用される部分としては、抗体に由来する単鎖抗体断片(scFv)、ライブラリーから選択されるFab、又はそれらの同種受容体に係合する天然リガンド(第1世代CARの場合)のいずれかの3つの基本カテゴリーが挙げられる。こうしたカテゴリーの各々での成功例は、特に、Sadelain M、Brentjens R、Riviere I. The basic principles of chimeric antigen receptor (CAR) design. Cancer discovery. 2013年、3巻(4号):388~398頁(特に表1を参照)に報告されており、それらは本出願に含まれる。
【0055】
抗体としては、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体が挙げられ、上記に記載されるように更に親和性成熟及び選択することができる。げっ歯動物免疫グロブリン(例えば、マウス、ラット)に由来するキメラ又はヒト化scFvは、十分に特徴付けられているモノクローナル抗体から容易に導出されるため、広く使用されている。ヒト化抗体は、げっ歯動物配列由来のCDR領域を含み、典型的には、げっ歯動物CDRがヒトフレームワークに移植されており、ヒトフレームワーク残基の一部は、親和性を保存するために元のげっ歯動物フレームワーク残基に逆突然変異されていてもよく、及び/又は1つ若しくは少数のCDR残基は、親和性を増加させるために突然変異されていてもよい。完全ヒト抗体は、マウス配列を有しておらず、典型的には、ヒト抗体ライブラリーのファージディスプレイ技術により、又は天然の免疫グロブリン遺伝子座がヒト免疫グロブリン遺伝子座のセグメントに置き換えられているトランスジェニックマウスを免疫化することにより産生される。天然アミノ酸配列に1つ又は複数のアミノ酸置換、挿入、又は欠失を有する抗体のバリアントを産生することができ、抗体は、その特異的結合機能を保持するか又は実質的に保持する。アミノ酸の保存的置換は周知であり、上記に記載されている。抗原に対する親和性が向上された更なるバリアントを産生することもできる。
【0056】
典型的には、CARは、モノクローナル抗体(mAb)の可変重(VH)鎖及び可変軽(VL)鎖に由来する単鎖抗体断片(scFv)等の、抗体分子の1つ又は複数の抗原結合性部分を含む。一部の実施形態では、CARは、本明細書に記載されているか又は当技術分野で公知である標的抗原のいずれか等の、腫瘍細胞又はがん細胞等の標的とされる細胞又は疾患のがんマーカー又は細胞表面抗原等の抗原に特異的に結合する抗体重鎖可変ドメインを含む。
【0057】
一部の実施形態では、CARは、細胞の表面上に発現される、インタクト抗原等の抗原を特異的に認識する抗体又は抗原結合性断片(例えば、scFv)を含む。
【0058】
一部の実施形態では、CARは、細胞表面にMHC-ペプチド複合体として提示される、腫瘍関連抗原等の細胞内抗原を特異的に認識する抗体又は抗原結合性断片(例えば、scFv)等のTCR様抗体を含む。一部の実施形態では、MHC-ペプチド複合体を認識する抗体又はその抗原結合性部分は、抗原特異的受容体等の組換え受容体の一部として細胞上に発現されてもよい。抗原特異的受容体には、キメラ抗原受容体(CAR)等の機能的な非TCR抗原特異的受容体がある。一般に、ペプチド-MHC複合体に対するTCR様特異性を呈する抗体又は抗原結合性断片を含むCARは、TCR様CARとも呼ばれる場合がある。
【0059】
一部の態様では、抗原特異的結合又は認識成分は、1つ又は複数の膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインに連結されている。一部の実施形態では、CARは、CARの細胞外ドメインに融合された膜貫通ドメインを含む。一実施形態では、CARのドメインの1つと天然で付随する膜貫通ドメインが使用される。一部の例では、膜貫通ドメインは、選択されるか、アミノ酸置換により修飾され、同じ又は異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインへのその結合を回避して、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑える。
【0060】
一部の実施形態では、膜貫通ドメインは、天然供給源又は合成供給源のいずれかに由来する。供給源が天然である場合、ドメインは、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来してもよい。膜貫通領域としては、T細胞受容体のアルファ、ベータ、若しくはゼータ鎖、CD28、CD3イプシロン、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、ICOS、又はGITRに由来する(つまり、少なくともそれらの膜貫通領域を含む)ものが挙げられる。また、膜貫通ドメインは合成であってもよい。一部の実施形態では、膜貫通ドメインは、CD28、CD8、又はCD3-ゼータに由来する。
【0061】
一部の実施形態では、短鎖オリゴ又はポリペプチドリンカー、例えば、2~10アミノ酸長のリンカーが存在し、CARの膜貫通ドメインと細胞質シグナル伝達ドメインとの間の連結を形成する。
【0062】
CARは、一般に、少なくとも1つ又は複数の細胞内シグナル伝達成分を含む。第1世代CARは、典型的には、内因性TCRからのシグナルの主要な伝達機構である、CD3ζ鎖に由来する細胞内ドメインを有していた。第2世代CARは、典型的には、T細胞に追加のシグナルを提供するために、CARの細胞質側の末端に、種々の共刺激タンパク質受容体(例えば、CD28、41BB(CD28)、ICOS)に由来する細胞内シグナル伝達ドメインを更に含む。共刺激ドメインとしては、ヒトCD28、4-1BB(CD137)、ICOS-1、CD27、OX40(CD137)、DAP10、及びGITR(AITR)に由来するドメインが挙げられる。2つの共刺激ドメインの組合せ、例えば、CD28及び4-1BB、又はCD28及びOX40が企図される。第3世代CARでは、CD3z-CD28-4-1BB又はCD3z-CD28-OX40等の、複数のシグナル伝達ドメインの組合せにより効力が増大される。
【0063】
細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞活性化及び細胞傷害を媒介するTCR CD3+鎖、例えばCD3ゼータ鎖等の、TCR複合体の細胞内成分に由来してもよい。代替的な細胞内シグナル伝達ドメインとしては、FcεRIyが挙げられる。細胞内シグナル伝達ドメインは、その3つの免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)の1つ又は2つを欠如する改変CD3ゼータポリペプチドを含んでいてもよく、ITAMはITAM1、ITAM2、及びITAM3である(N末端からC末端へと付番されている)。CD3-ゼータの細胞内シグナル伝達領域は、配列番号4の残基22~164である。ITAM1はアミノ酸残基61~89周囲に位置し、ITAM2はアミノ酸残基100~128周囲に位置し、ITAM3は残基131~159周囲に位置する。したがって、改変CD3ゼータポリペプチドは、ITAM1、ITAM2、又はITAM3のいずれか1つが不活性化されていてもよい。その代わりに、改変CD3ゼータポリペプチドは、任意の2つのITAM、例えばITAM2及びITAM3、又はITAM1及びITAM2が不活性化されていてもよい。好ましくは、ITAM3が不活性化、例えば欠失されている。より好ましくは、ITAM2及びITAM3が不活性化、例えば欠失されており、ITAM1はそのままである。例えば、1つの改変CD3ゼータポリペプチドはITAM1のみを保持し、残りのCD3ζドメインが欠失されている(残基90~164)。別の例として、ITAM1はITAM3のアミノ酸配列で置換されており、残りのCD3ζドメインが欠失されている(残基90~164)。例えば、Bridgemanら、Clin. Exp. Immunol. 175巻(2号):258~67頁(2014年)、Zhaoら、J. Immunol. 183巻(9号):5563~74頁(2009年)、Mausら、国際公開第2018/132506号パンフレット、Sadelainら、国際公開第2019/133969号パンフレット、Feuchtら、Nat Med. 25巻(1号):82~88頁(2019年)を参照されたい。
【0064】
したがって、一部の態様では、抗原結合性分子は、1つ又は複数の細胞シグナル伝達モジュールに連結されている。一部の実施形態では、細胞シグナル伝達モジュールは、CD3膜貫通ドメイン、CD3細胞内シグナル伝達ドメイン、及び/又は他のCD膜貫通ドメインを含む。また、CARは、Fc受容体γ、CD8、CD4、CD25、又はCD16等の1つ又は複数の追加の分子の部分を更に含んでいてもよい。
【0065】
一部の実施形態では、CARがライゲーションすると、CARの細胞質ドメイン又は細胞内シグナル伝達ドメインは、対応する非遺伝子操作免疫細胞(典型的にはT細胞)の正常なエフェクター機能又は応答のうちの少なくとも1つを活性化する。例えば、CARは、細胞溶解活性又はTヘルパー活性等のT細胞の機能、サイトカイン又は他の因子の分泌を誘導することができる。
【0066】
一部の実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、T細胞受容体(TCR)の細胞質配列、また、一部の態様では、天然状況においてそのような受容体と協調して作用し、抗原特異的受容体係合後にシグナル伝達を開始させる共受容体及び/若しくはそのような分子のバリアントの細胞質配列、並びに/又は同じ機能的能力を有する任意の合成配列を含む。
【0067】
T細胞活性化は、一部の態様では、2つのクラスの細胞質シグナル伝達配列:TCRを介して抗原依存性一次活性化を開始させるもの(一次細胞質シグナル伝達配列)及び抗原非依存的な様式で作用して二次又は共刺激シグナルを提供するもの(二次細胞質シグナル伝達配列)により媒介されると記載されている。一部の態様では、CARは、そのようなシグナル伝達成分の一方又は両方を含む。
【0068】
一部の態様では、CARは、刺激性又は抑制性のいずれかでTCR複合体の一次活性化を調節する一次細胞質シグナル伝達配列を含む。刺激性様式で作用する一次細胞質シグナル伝達配列は、免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ又はITAMとして知られているシグナル伝達モチーフを含んでいてもよい。一次細胞質シグナル伝達配列を含むITAMの例としては、TCRゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CDS、CD22、CD79a、CD79b、及びCD66dに由来するものが挙げられる。一部の実施形態では、CARの細胞質シグナル伝達分子は、細胞質シグナル伝達ドメイン、その部分、又はCD3ゼータに由来する配列を含む。
【0069】
また、CARは、CD28、4-1BB、OX40、DAP10、及びICOS等の共刺激受容体のシグナル伝達ドメイン及び/又は膜貫通部分を含んでいてもよい。一部の態様では、同じCARが活性化成分及び共刺激成分を両方とも含み、その代わりに、活性化ドメインは1つのCARにより提供され、共刺激成分は、別の抗原を認識する別のCARにより提供される。
【0070】
また、CAR又は他の抗原特異的受容体は、阻害性CAR(例えば、iCAR)であってもよく、免疫応答等の応答を減弱又は抑制する細胞内成分を含む。そのような細胞内シグナル伝達成分の例は、PD-1、CTLA4、LAG3、BTLA、OX2R、TIM-3、TIGIT、LAIR-1、PGE2受容体、A2ARを含むEP2/4アデノシン受容体を含む免疫チェックポイント分子に見出されるものである。一部の態様では、遺伝子操作細胞は、細胞の応答を減弱させる役目を果たすように、そのような阻害性分子の又はそのような阻害性分子に由来するシグナル伝達ドメインを含む阻害性CARを含む。そのようなCARは、例えば、活性化受容体、例えばCARにより認識される抗原が、正常細胞の表面でも発現されるか又は発現され得る場合、オフターゲット効果の可能性を低減するために使用される。
【0071】
TCR
一部の実施形態では、抗原特異的受容体としては、組換えT細胞受容体(TCR)及び/又は天然に存在するT細胞からクローニングされたTCRが挙げられる。TCRをコードする核酸は、天然に存在するTCR DNA配列をポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で増幅し、続いて抗体可変領域を発現させ、続いて抗原に対する特異的結合を選択する等により、様々な供給源から得ることができる。一部の実施形態では、TCRは、患者から単離されたT細胞から、又は培養T細胞ハイブリドーマから得られる。一部の実施形態では、標的抗原のTCRクローンは、ヒト免疫系遺伝子(例えば、ヒト白血球抗原系又はHLA)で遺伝子操作されたトランスジェニックマウスで生成されている。例えば、腫瘍抗原を参照されたい(例えば、Parkhurstら(2009年) Clin Cancer Res. 15巻:169~180頁及びCohenら(2005年) J Immunol. 175巻:5799~5808頁)。一部の実施形態では、ファージディスプレイを使用して、標的抗原に対するTCRを単離する(例えば、Varela-Rohenaら(2008年) Nat Med. 14巻:1390~1395頁及びLi(2005年) Nat Biotechnol. 23巻:349~354頁を参照されたい)。
【0072】
「T細胞受容体」又は「TCR」は、可変a鎖及びβ鎖(それぞれTCRα及びTCRβとしても知られている)又は可変γ鎖及びδ鎖(それぞれTCRγ及びTCRδとしても知られている)を含み、MHC受容体に結合した抗原ペプチドに特異的に結合することが可能な分子を指す。一部の実施形態では、TCRは、αβ形態である。典型的には、αβ形態及びγδ形態で存在するTCRは一般に構造的に類似しているが、それらを発現するT細胞は、異なる解剖学的位置又は機能を有する場合がある。TCRは、細胞表面に見出されてもよく又は可溶型であってもよい。一般に、TCRは、T細胞(又はTリンパ球)の表面に見出され、一般にはそこで、主要組織適合複合体(MHC)分子に結合した抗原の認識に関与する。また、一部の実施形態では、TCRは、定常ドメイン、膜貫通ドメイン、及び/又は短鎖細胞質尾部を含んでいてもよい(例えば、Janewayら、Immunobiology: The Immune System in Health and Disease、第3版、Current Biology Publications、4:33頁、1997年を参照)。例えば、一部の態様では、TCRの各鎖は、1つのN末端免疫グロブリン可変ドメイン、1つの免疫グロブリン定常ドメイン、膜貫通領域、及びC末端に短鎖細胞質尾部を有してもよい。一部の実施形態では、TCRは、シグナル伝達の媒介に関与するCD3複合体のインバリアントタンパク質と付随する。別様の記載がない限り、「TCR」という用語は、その機能的TCR断片を包含すると理解されるべきである。この用語は、αβ形態又はγδ形態のTCRを含む、インタクト又は完全長TCRも包含する。
【0073】
したがって、本明細書の目的では、TCRへの言及は、MHC分子に結合した特異的抗原ペプチド、つまりMHC-ペプチド複合体に結合するTCRの抗原結合性部分等の、任意のTCR又は機能的断片を含む。TCRの「抗原結合性部分」又は「抗原結合性断片」は、同義的に使用することができ、TCRの構造ドメインの部分を含むが、全長TCRが結合する抗原(例えば、MHC-ペプチド複合体)に結合する分子を指す。一部の場合では、抗原結合性部分は、一般に、各鎖が3つの相補性決定領域を含む等、特定のMHC-ペプチド複合体に結合するための結合部位を形成するのに十分な、TCRの可変a鎖及び可変β鎖等の、TCRの可変ドメインを含む。
【0074】
一部の実施形態では、TCR鎖の可変ドメインは、付随してループ、即ち、抗原認識を付与し、TCR分子の結合部位を形成することによりペプチド特異性を決定する、免疫グロブリンと類似する相補性決定領域(CDR)を形成し、ペプチド特異性を決定する。典型的には、免疫グロブリンのように、CDRは、フレームワーク領域(FR)により隔てられている(例えば、Joresら、Pwc. Nat'lAcad. Sci. U.S.A. 87巻:9138頁、1990年、Chothiaら、EMBO J. 7巻:3745頁、1988年を参照。またLefrancら、Dev. Comp. Immunol. 27巻:55頁、2003年も参照)。一部の実施形態では、CDR3は、プロセシングされた抗原の認識に関与する主要なCDRであるが、アルファ鎖のCDR1も、抗原性ペプチドのN末端部分と相互作用することが示されており、ベータ鎖のCDR1は、ペプチドのC末端部分と相互作用する。CDR2は、MHC分子を認識すると考えられている。一部の実施形態では、β鎖の可変領域は、更なる超可変性(HV4)領域を含んでいてもよい。
【0075】
一部の実施形態では、TCR鎖は、定常ドメインを含む。例えば、免疫グロブリンのように、TCR鎖(例えば、a鎖、β鎖)の細胞外部分は、2つの免疫グロブリンドメイン、N末端の可変ドメイン(例えば、Vα又はVβ、典型的には、Kabatら、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、US Dept. Health and Human Services、Public Health Service National Institutes of Health、1991年、第5版のKabat付番に基づき、アミノ酸1~116)、及び細胞膜に隣接する1つの定常ドメイン(例えば、α鎖定数ドメイン又はCα、典型的にはKabatに基づきアミノ酸117~259、β鎖定数ドメイン又はCβ、典型的にはKabatに基づきアミノ酸117~295)を含んでいてもよい。例えば、一部の場合では、2つの鎖により形成されるTCRの細胞外部分には、2つの膜近位定常ドメイン、及びCDRを含む2つの膜遠位可変ドメインを含む。TCRドメインの定常ドメインは、システイン残基がジスルフィド結合を形成し、2つの鎖の間に連結を製作する短鎖接続配列を含む。一部の実施形態では、TCRは、TCRが定常ドメインに2つのジスルフィド結合を含むように、a鎖及びβ鎖の各々に追加のシステイン残基を有してもよい。
【0076】
一部の実施形態では、TCR鎖は、膜貫通ドメインを含んでいてもよい。一部の実施形態では、膜貫通ドメインは正に荷電している。一部の場合では、TCR鎖は、細胞質尾部を含む。一部の場合では、構造は、TCRが、CD3のような他の分子と付随することを可能にする。例えば、膜貫通領域を有する定常ドメインを含むTCRは、タンパク質を細胞膜に係留し、CD3シグナル伝達機構又は複合体のインバリアントサブユニットと付随させることができる。
【0077】
一般に、CD3は、哺乳動物では3つの別個の鎖(γ、δ、及びε)及びζ鎖を持してもよい多タンパク質複合体である。例えば、哺乳動物では、複合体は、CD3γ鎖、CD3δ鎖、2つのCD3ε鎖、及びCD3ζ鎖のホモ二量体を含んでいてもよい。CD3γ、CD3δ、及びCD3ε鎖は、単一の免疫グロブリンドメインを含む免疫グロブリンスーパーファミリーの高度に関連する細胞表面タンパク質である。CD3γ、CD3δ、及びCD3ε鎖の膜貫通領域は負に荷電しており、これは、こうした鎖が、正に荷電しているT細胞受容体鎖と付随することを可能にする特質である。CD3γ、CD3δ、及びCD3ε鎖の細胞内尾部は各々、免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ又はITAMとして知られている単一の保存モチーフを含むが、各CD3ζ鎖は3つを有する。一般に、ITAMは、TCR複合体のシグナル伝達能力に関与する。こうしたアクセサリー分子は、負に荷電している膜貫通領域を有し、TCRから細胞内へとシグナルを伝播させる役割を果たす。CD3γ鎖、δ鎖、ε鎖、及びζ鎖は、TCRと共に、T細胞受容体複合体として知られているものを形成する。
【0078】
一部の実施形態では、TCRは、2つの鎖a及びβ(又は任意選択でγ及びδ)のヘテロ二量体であってもよく、又はTCRは、単鎖TCR構築物であってもよい。一部の実施形態では、TCRは、1つ又は複数のジスルフィド結合により連結されている2つの別々の鎖(α鎖及びβ鎖又はγ鎖及びδ鎖)を含むヘテロ二量体である。
【0079】
CAR及び組換えTCRを含む例示的な抗原特異的受容体、並びに受容体を遺伝子操作するための及び細胞内に導入するための方法は、例えば、以下の文献に記載されているものが挙げられる:国際公開第200014257号パンフレット、国際公開第2013126726号パンフレット、国際公開第2012/129514号パンフレット、国際公開第2014031687号パンフレット、国際公開第2013/166321号パンフレット、国際公開第2013/071154号パンフレット、国際公開第2013/123061号パンフレット、米国特許出願第2002131960号明細書、米国特許出願第2013287748号明細書、米国特許出願公開第20130149337号明細書、米国特許第6,451,995号明細書、米国特許第7,446,190号明細書、米国特許第8,252,592号明細書、米国特許第8,339,645号明細書、米国特許第8,398,282号明細書、米国特許第7,446,179号明細書、米国特許第6,410,319号明細書、米国特許第7,070,995号明細書、米国特許第7,265,209号明細書、米国特許第7,354,762号明細書、米国特許第7,446,191号明細書、米国特許第8,324,353号明細書、及び米国特許第8,479,118号明細書、並びに欧州特許出願第2537416号明細書、並びに/又はSadelainら、Cancer Discov. 2013年4月、3巻(4号):388~398頁、Davilaら(2013年) PLoS ONE 8巻(4号):e61338; Turtleら、Curr. Opin. Immunol.、2012年10月、24巻(5号):633~39頁、Wuら、Cancer, 2012年3月18巻(2号):160~75頁。一部の態様では、抗原特異的受容体としては、米国特許第7,446,190号明細書に記載されているようなCAR、及び国際公開第2014056668号パンフレットに記載されているものが挙げられる。
【0080】
抗原
抗原特異的受容体が標的とする抗原には、養子細胞療法により標的とされる疾患、状態、又は細胞タイプの状況で発現されるものがある。疾患及び状態には、増殖性、新生物性、及び悪性疾患及び障害、特にがんがある。感染性及び自己免疫疾患、炎症性又はアレルギー性疾患も企図される。
【0081】
がんは、固形がんであってもよく、又は血液、骨髄、及びリンパ系に影響を及ぼし、造血組織及びリンパ組織の腫瘍としても知られており、特に白血病及びリンパ腫を含むがん等の「液体腫瘍」であってもよい。液体腫瘍としては、例えば、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、及び慢性リンパ性白血病(CLL)(マントル細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)等の種々のリンパ腫、腺腫、扁平上皮癌、喉頭癌、胆嚢及び胆管がん、網膜芽細胞腫等の網膜のがんを含む)が挙げられる。
【0082】
固形がんとしては、特に、結腸、直腸、皮膚、子宮内膜、肺(非小細胞肺癌を含む)、子宮、骨(骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、線維肉腫、巨大細胞腫瘍、アダマンチノーマ、及び脊索腫等)、肝臓、腎臓、食道、胃、膀胱、膵臓、子宮頸部、脳(髄膜腫、神経芽細胞腫、低悪性度星状細胞腫、オリゴデンドロサイトーマ(Oligodendrocytomas)、下垂体腫瘍、シュワン腫、及び転移性脳がん等)、卵巣、乳房、頭頸部領域、精巣、前立腺、及び甲状腺からなる群から選択される器官の1つに影響を及ぼすがんが挙げられる。
【0083】
好ましくは、本発明によるがんは、上記に記載されるような、血液、骨髄、及びリンパ系に影響を及ぼすがんである。一部の実施形態では、がんは、多発性骨髄腫であるか又はそれに関連付けられる。
【0084】
また、本発明による疾患は、これらに限定されないが、ウイルス、レトロウイルス、細菌、及び原生動物感染症、HIV免疫不全、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、アデノウイルス、BKポリオーマウイルス等の感染性疾患又は状態を包含する。
【0085】
また、本発明による疾患は、関節炎、例えば関節リウマチ(RA)等の自己免疫性又は炎症性疾患又は状態、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、炎症性腸疾患、乾癬、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患、グレイブス病、クローン病、多発性硬化症、喘息、及び/又は移植に関連付けられる疾患若しくは状態を包含する。そのような状況では、制御性T細胞は、SUV39H1がノックアウトされている細胞であってもよい。
【0086】
一部の実施形態では、抗原はポリペプチドである。一部の実施形態では、抗原は、炭水化物又は他の分子である。一部の実施形態では、抗原は、正常又は非標的細胞又は組織と比較して、疾患又は状態の細胞、例えば、腫瘍又は病原性細胞上で選択的に発現又は過剰発現される。他の実施形態では、抗原は、正常細胞上で発現され、及び/又は遺伝子操作細胞上で発現される。一部のそのような実施形態では、本明細書で提供されるような多重標的指向性及び/又は遺伝子破壊手法は、特異性及び/又は有効性を向上させるために使用される。
【0087】
一部の実施形態では、抗原は、ユニバーサル腫瘍抗原である。「ユニバーサル腫瘍抗原」という用語は、一般に、非腫瘍細胞よりも腫瘍細胞にてより高いレベルで発現され、起源が異なる腫瘍でも発現される、タンパク質等の免疫原性分子を指す。一部の実施形態では、ユニバーサル腫瘍抗原は、ヒトがんの30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%超、又はそれよりも多くで発現される。一部の実施形態では、ユニバーサル腫瘍抗原は、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、少なくとも6つ、少なくとも7つ、少なくとも8つ、又はそれよりも多くの異なるタイプの腫瘍で発現される。一部の場合では、ユニバーサル腫瘍抗原は、正常細胞等の非腫瘍細胞で発現される場合があるが、腫瘍細胞で発現されるよりも低いレベルで発現される。一部の場合では、ユニバーサル腫瘍抗原は、正常細胞では発現されない等、非腫瘍細胞では全く発現されない。例示的なユニバーサル腫瘍抗原としては、例えば、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)、サバイビン、マウスダブルミニッツ2ホモログ(MDM2、mouse double minute 2 homolog)、チトクロームP450 1B1(CYP1B)、HER2/neu、p95HER2、ウィルムス腫瘍遺伝子1(WT1)、livin、アルファフェトプロテイン(AFP)、がん胎児性抗原(CEA)、ムチン16(MUC16)、MUC1、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、p53、又はサイクリン(D1)が挙げられる。ユニバーサル腫瘍抗原を含む腫瘍抗原のペプチドエピトープは当技術分野で公知であり、一部の態様では、TCR又はTCR様CAR等のMHC制限抗原特異的受容体を生成するために使用することができる(例えば、国際公開第2011009173号パンフレット又は国際公開第2012135854号パンフレット及び米国特許出願公開第20140065708号明細書)。
【0088】
一部の態様では、抗原は、CD38、CD138、及び/又はCS-1等の多発性骨髄腫で発現される。他の例示的な多発性骨髄腫抗原としては、CD56、TIM-3、CD33、CD123、及び/又はCD44が挙げられる。そのような抗原に対する抗体又は抗原結合性断片は公知であり、例えば、以下の文献に記載のものが挙げられる:米国特許第8,153,765号明細書、米国特許第8,603477号明細書、米国特許第8,008,450号明細書、米国特許出願公開第20120189622号明細書、及び国際公開第2006099875号パンフレット、国際公開第2009080829号パンフレット、又は国際公開第2012092612号パンフレット。一部の実施形態では、そのような抗体又はそれらの抗原結合性断片(例えば、scFv)を使用して、CARを生成することができる。
【0089】
一部の実施形態では、抗原は、がん又は腫瘍細胞上で発現又は上方制御されるが、休止又は活性化T細胞等の免疫細胞でも発現され得るものであってもよい。例えば、一部の場合では、hTERT、サバイビン、及び他のユニバーサル腫瘍抗原の発現は、活性化Tリンパ球を含むリンパ球に存在することが報告されている(例えば、Wengら(1996年) J Exp. Med.、183巻:2471~2479頁、Hathcockら(1998年) J Immunol、160巻:5702~5706頁、Liuら(1999年) Proc. Natl Acad Sci.、96巻:5147~5152頁、Turksmaら(2013年) Journal of Translational Medicine、11巻:152頁を参照)。同様に、一部の場合では、CD38及び他の腫瘍抗原も、活性化T細胞で上方制御される等、T細胞等の免疫細胞で発現される場合がある。例えば、一部の態様では、CD38は、既知のT細胞活性化マーカーである。
【0090】
一部の実施形態では、がんは、HER2又はp95HER2の過剰発現を伴うか又は関連付けられる。p95HER2は、完全長HER2受容体をコードする転写産物のメチオニン611で翻訳が代替的に開始されることより産生される、HER2の構成的に活性なC末端断片である。p95HER2のアミノ酸配列は配列番号5に示されており、細胞外ドメインのアミノ酸配列は、MPIWKFPDEEGACQPCPINCTHSCVDKDDKGCPAEQRASPLT(配列番号6)である。
【0091】
HER2又はp95HER2は、乳がんで、並びに胃部(胃)がん、胃食道がん、食道がん、卵巣がん、子宮子宮内膜がん、子宮頸がん、結腸がん、膀胱がん、肺がん、及び頭頸部がんで過剰発現されることが報告されている。p95HER2断片を発現するがんを有する患者は、完全な形態のHER2を主に発現する患者よりも、転移を発症する可能性がより高く、予後がより不良である。Saezら、Clinical Cancer Research、12巻:424~431頁(2006年)。
【0092】
HER2と比較してp95HER2に特異的に結合することができる(つまり、p95HER2に結合するが、完全長HER2受容体には著しくは結合しない)抗原結合ドメインは、Sperindeら、Clin. Cancer Res. 16巻、4226~4235頁(2010年)及び米国特許出願公開第2013/0316380号明細書に開示されている。これらの文献は参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。HER2と比較してp95HER2に特異的に結合することができる抗原結合ドメインを有するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、国際公開第2010/000565号パンフレット及びParra-Palauら、Cancer Res. 70巻、8537~8546頁(2010年)に開示されている。例示的なCARは、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、又は10-10M以下の結合親和性KDでp95HER2のエピトープPIWKFPDに結合する。p95HER2及びそのCDRに特異的に結合する例示的な抗原結合ドメインは、米国特許出願公開第2018/0118849号明細書の配列番号14~19(本明細書の配列番号7~12)に開示されており、好ましくは、p95HER2に対する結合親和性KDが、10-7M以下、10-8M以下、10-9M以下、又は10-10M以下である。参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれるRius Ruizら、Sci. Transl. Med. 10巻、eaat1445(2018年)及び米国特許出願公開第2018/0118849号明細書には、p95HER2のエピトープPIWKFPD及びTCRのCD3イプシロン鎖に特異的に結合するT細胞二重特異的抗体が記載されている。p95HER2-TCBと名付けられた抗体は、CD3イプシロンとは一価性に及びp95HER2とは二価性に結合する非対称2アーム免疫グロブリンG1(IgG1)で構成されている。二重特異性抗体は、CD3イプシロンに対する一価性親和性が低く、約70~100nMであり、それにより非特異的活性化の可能性が低減され、p95HER2に対する二価性親和性が高く、約9nMである。
【0093】
本明細書で提供されるような一部の実施形態では、T細胞等の免疫細胞は、発現された抗原特異的受容体が、免疫細胞自体でのその発現の状況では抗原に特異的に結合しないように、抗原をコードする遺伝子が免疫細胞中で抑制又は破壊されるように遺伝子操作されていてもよい。したがって、一部の態様では、これは、遺伝子操作免疫細胞がそれら自体に対して結合することにより、例えば養子細胞療法との関連で、免疫細胞における遺伝子操作の有効性が低減される可能性があること等の、オフターゲット効果を回避することができる。
【0094】
阻害性CARの場合等、一部の実施形態では、標的は、疾患細胞又は標的とされる細胞上では発現されないが、同じ遺伝子操作細胞の活性化又は刺激性受容体により標的とされている疾患特異的標的も発現する正常又は非疾患細胞上で発現される抗原等のオフターゲットマーカーである。例示的なそのような抗原は、例えば、そのような分子が下方制御されるが非標的細胞では発現が維持される疾患又は状態の治療に関連するMHCクラスI分子等のMHC分子である。
【0095】
一部の実施形態では、遺伝子操作免疫細胞は、1つ又は複数の他の抗原を標的とする抗原特異的受容体を含んでいてもよい。一部の実施形態では、1つ又は複数の他の抗原は、腫瘍抗原又はがんマーカーである。本提供の免疫細胞上の抗原特異的受容体により標的とされる他の抗原としては、一部の実施形態では、以下のものが挙げられる:オーファンチロシンキナーゼ受容体ROR1、tEGFR、Her2、p95HER2、LI-CAM、CD19、CD20、CD22、メソセリン、CEA、及びB型肝炎表面抗原、抗葉酸受容体、CD23、CD24、CD30、CD33、CD38、CD44、EGFR、EGP-2、EGP-4、EPHa2、ErbB2、ErbB3、若しくはErbB4、FBP、胎児アセチコリンe受容体、GD2、GD3、HMW-MAA、IL-22R-アルファ、IL-13R-アルファ2、kdr、カッパ軽鎖、Lewis Y、L1-細胞接着分子、MAGE-A1、メソセリン、MUC1、MUC16、PSCA、NKG2Dリガンド、NY-ESO-1、MART-1、gplOO、腫瘍胎児性抗原、ROR1、TAG72、VEGF-R2、がん胎児性抗原(CEA)、前立腺特異的抗原、PSMA、Her2/neu、p95HER2、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、エフリンB2、CD123、CS-1、c-Met、GD-2、及びMAGE A3、CE7、ウィルムス腫瘍1(WT-1)、サイクリンAl(CCNA1)等のサイクリン、並びに/又はビオチン化分子、並びに/又はHIV、HCV、HBV、若しくは他の病原体により発現される分子。
【0096】
一部の実施形態では、CARは、病原体特異的抗原に結合する。一部の実施形態では、CARは、ウイルス抗原(HIV、HCV、HBV等)、細菌抗原、及び/又は寄生虫抗原に特異的である。
【0097】
一部の実施形態では、本発明の細胞は、各々が異なる抗原を認識し、典型的には各々が異なる細胞内シグナル伝達成分を含む2つ又はそれよりも多くの抗原特異的受容体を細胞上に発現するように遺伝子操作されている。そのような多重標的指向性戦略は、例えば、国際公開第2014055668号パンフレット(例えば、オフターゲット、例えば正常細胞上では個々に存在するが、治療しようとする疾患又は状態の細胞上でのみ一緒になって存在する2つの異なる抗原を標的とする活性化及び共刺激CARの組合せが記載されている)、及びFedorovら、Sci. Transl. Medicine、5巻(215頁)(2013年12月)(活性化CARが、正常又は非疾患細胞及び治療しようとする疾患又は状態の細胞の両方で発現される1つの抗原に結合し、阻害性CARは、正常細胞上又は治療が所望ではない細胞上でのみ発現される別の抗原に結合する、活性化CAR及び阻害性CARを発現する細胞が記載されている)に記載されている。
【0098】
抗原結合受容体の例としては、所望の抗原だけでなく、CD3イプシロン等の活性化T細胞抗原にも結合するT細胞活性化抗体である二重特異性抗体が挙げられる。
【0099】
一部の状況では、刺激因子(例えば、リンホカイン又はサイトカイン)の過剰発現は、対象にとって毒性であり得る。したがって、一部の状況では、遺伝子操作細胞は、養子細胞療法にて投与する場合等、細胞をin vivoでのネガティブ選択に対して感受性にする遺伝子セグメントを含む。例えば、一部の態様では、細胞は、それらが投与される患者のin vivo状態の変化の結果として排除され得るように遺伝子操作されている。ネガティブ選択可能な表現型は、投与される作用剤、例えば化合物に対する感受性を付与する遺伝子の挿入に起因してもよい。ネガティブ選択可能な遺伝子としては、ガンシクロビル感受性を付与する単純ヘルペスウイルスI型チミジンキナーゼ(HSV-I TK)遺伝子(Wiglerら、Cell II :223頁、1977年)、細胞性ヒポキサンチンホスフリボシルトランスフェラーゼ(phosphribosyltransferase)(HPRT)遺伝子、細胞性アデノシンホスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)遺伝子、細菌性シトシンデアミナーゼ(Mullenら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 89巻:33号(1992年))が挙げられる。
【0100】
本発明の他の実施形態では、細胞、例えばT細胞は、組換え抗原特異的受容体を発現するように遺伝子操作されておらず、むしろ、例えばインキュベーションステップ中に特定の抗原特異性を有する細胞の拡大増殖を促進するためにin vitro又はex vivoで培養された腫瘍浸潤性リンパ球及び/又はT細胞等、所望の抗原に特異的な天然に存在する抗原特異的受容体を含む。例えば、一部の実施形態では、養子細胞療法のための細胞は、腫瘍特異的T細胞、例えば、自己腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)を単離することにより産生される。自己腫瘍浸潤性リンパ球を使用したヒト腫瘍の直接標的化は、一部の場合では、腫瘍退縮を媒介することができる(Rosenberg SAら(1988年) N Engl J Med. 319巻:1676~1680頁を参照)。一部の実施形態では、リンパ球は、切除腫瘍から抽出される。一部の実施形態では、そのようなリンパ球は、in vitroで拡大増殖される。一部の実施形態では、そのようなリンパ球は、リンホカイン(例えば、IL-2)と共に培養される。一部の実施形態では、そのようなリンパ球は、自己腫瘍細胞の特異的溶解を媒介するが、同種異系腫瘍又は自己正常細胞では媒介しない。
【0101】
追加の核酸、例えば、導入するための遺伝子には、移入細胞の生存能及び/又は機能を促進すること等により療法の有効性を向上させるもの、in vivo生存又は局在化を評価するため等の、細胞を選択及び/又は評価するための遺伝子マーカーを提供する遺伝子、例えば、Lupton S.Dら、Mol. and Cell Biol.、11巻:6頁(1991年)及びRiddellら、Human Gene Therapy 3巻:319~338頁(1992年)により記載されているように、細胞をin vivoでのネガティブ選択に感受性にすることにより安全性を向上させる遺伝子がある。また、ドミナントポジティブ選択可能マーカーとネガティブ選択可能マーカーとの融合から導出される二機能性選択可能融合遺伝子の使用が記載されているLuptonらによるPCT/US91/08442及びPCT/US94/05601の公報を参照されたい。例えば、Riddellら、米国特許第6,040,177号明細書の14~17欄を参照されたい。
【0102】
本発明による細胞を得るための方法
「SUV39H1活性の阻害」は、本明細書で使用される場合、阻害されていないSUV39H1タンパク質の活性又はレベルと比較して、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、又は99%、又はそれよりも大きなSUV39H1活性の減少を指す。優先的には、SUV39H1活性の阻害は、SUV39H1の実質的で検出可能な活性が細胞内に存在にしないことに結び付く。
SUV39H1活性の阻害は、SUV39H1遺伝子発現の抑制により、又は細胞のSUV39H1遺伝子の不活性化により、又は外因性阻害物質の発現により達成することができる。例えば、抑制は、細胞におけるSUV39H1の発現を、抑制の非存在下で本方法により産生される同じ細胞と比べて、少なくとも50、60、70、80、90、又は95%低減させることができる。また、遺伝子破壊は、SUV39H1タンパク質の発現の低減、又は非機能的SUV39H1タンパク質の発現に結び付く場合もある。本発明による免疫細胞におけるSUV39H1の阻害は、恒久的及び不可逆的であってもよく、又は一過性であってもよく、又は可逆的であってもよい。好ましくは、SUV39H1阻害は、恒久的及び不可逆的である。細胞内でのSUV39H1の阻害は、下記に記載されるように、標的とされる患者に細胞を注射する前に又は後で達成することができる。
【0103】
一部の実施形態では、本明細書に開示の遺伝子操作免疫細胞におけるSUV39H1活性の阻害は、SUV39H1の発現及び/又は活性を阻害又は遮断する少なくとも1つの作用剤、つまり「SUV39H1阻害物質」を送達又は発現することにより達成される。好適なSUV39H1阻害物質としては、例えば、SUV39H1の発現又は活性を遮断又は阻害するアプタマー等の、SUV39H1遺伝子又はその調節エレメントにハイブリダイズ又は結合する作用剤;SUV39H1に相補的なアンチセンス分子等の、転写又は翻訳を遮断する核酸分子、RNA干渉剤(低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、マイクロRNA(miRNA)、又はpiwiRNA(piRNA)等)、リボザイム、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0104】
また、好適なSUV39H1阻害物質としては、a)SUV39H1ゲノム核酸配列とハイブリダイズする遺伝子操作された天然に存在しない、クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats、CRISPR)ガイドRNA、及び/又はb)CRISPRタンパク質(典型的には、II型Cas9タンパク質)をコードするヌクレオチド配列を含む外因性核酸を挙げることができ、任意選択で、細胞は、Cas9タンパク質を発現するためにトランスジェニックである。また、作用剤は、ジンクフィンガータンパク質(ZFN)又はTALタンパク質であってもよい。Cas9タンパク質、TALタンパク質、及び/又はZNFタンパク質は、リプレッサー及び/又は阻害物質に直接的に又は間接的に連結されている。
【0105】
また、好適なSUV39H1阻害物質としては、非機能的SUV39H1が挙げられる。一部の実施形態では、野生型SUV39H1遺伝子は不活性化されておらず、むしろSUV39H1阻害物質が細胞内で発現される。一部の実施形態では、阻害物質は、野生型SUV39H1の活性を阻害するレベルで非機能的遺伝子産物を発現するドミナントネガティブSUV39H1遺伝子である。これは、ドミナントネガティブSUV39H1遺伝子の過剰発現を含んでいてもよい。
【0106】
免疫細胞におけるSUV39H1の不活性化、及び標的抗原に特異的に結合する抗原特異的受容体の導入は、同時に又は任意の順序で連続して実施することができる。
【0107】
また、本発明による細胞でのSUV39H1の不活性化は、欠失、例えば、遺伝子全体、エキソン、又は領域の欠失、及び/又は外因性配列による置換え等による、SUV39H1遺伝子の抑制又は破壊により、及び/又は遺伝子内、典型的には遺伝子のエキソン内の突然変異、例えばフレームシフト若しくはミスセンス突然変異により達成することができる。一部の実施形態では、破壊により、早期終止コドンが遺伝子に組み込まれることがもたらされ、SUV39H1タンパク質は発現されないか又は非機能性である。破壊は一般にDNAレベルで実施される。破壊は、一般に、恒久的、不可逆的、又は非一過性である。
【0108】
一部の実施形態では、遺伝子不活性化は、遺伝子に特異的に結合又はハイブリダイズするDNA結合タンパク質若しくはDNA結合性核酸、又はそれを含む複合体、化合物、若しくは組成物等の、DNA標的指向性分子等の遺伝子編集作用剤を使用して達成される。一部の実施形態では、DNA標的指向性分子は、DNA結合ドメイン、例えば、亜鉛フィンガータンパク質(ZFP)DNA結合ドメイン、転写活性化因子様タンパク質(TAL)、又はTALエフェクター(TALE)DNA結合ドメイン、クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(CRISPR)DNA結合ドメイン、又はメガヌクレアーゼに由来するDNA結合ドメインを含む。
【0109】
ジンクフィンガー、TALE、及びCRISPR系結合ドメインは、所定のヌクレオチド配列に結合するように「遺伝子操作」することができる。
【0110】
一部の実施形態では、DNA標的指向性分子、複合体、又は組合せは、DNA結合性分子、及び遺伝子の抑制又は破壊を促進するためのエフェクタードメイン等の1つ又は複数の追加のドメインを含む。例えば、一部の実施形態では、遺伝子破壊は、DNA結合性タンパク質及び異種性調節ドメイン又はそれらの機能的断片を含む融合タンパク質により実施される。
【0111】
典型的には、追加のドメインは、ヌクレアーゼドメインである。したがって、一部の実施形態では、遺伝子破壊は、ヌクレアーゼ、及びヌクレアーゼ等の非特異的DNA切断分子と融合又は複合体化された配列特異的DNA結合ドメインで構成されるヌクレアーゼ含有複合体又は融合タンパク質等の、遺伝子操作されたタンパク質を使用して、遺伝子編集又はゲノム編集により促進される。
【0112】
こうした標的化キメラヌクレアーゼ又はヌクレアーゼ含有複合体は、標的化二本鎖切断又は一本鎖切断を誘導し、エラーが発生しやすい非相同末端結合(NHEJ)及び相同組換え修復(homology-directed repair、HDR)を含む細胞DNA修復機序を刺激することにより、正確な遺伝子改変を実施する。一部の実施形態では、ヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)等のエンドヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼ(TALEN)、CRISPR関連(Cas)タンパク質等のRNA誘導性エンドヌクレアーゼ(RGEN)、又はメガヌクレアーゼである。そのような系は当技術分野で周知である(例えば、以下の文献を参照されたい:米国特許第8,697,359号明細書、Sander及びJoung(2014年) Nat. Biotech. 32巻:347~355頁、Haleら(2009年) Cell 139巻:945~956頁、Karginov及びHannon(2010年) Mol. Cell 37巻:7頁、米国特許出願公開第2014/0087426号明細書及び米国特許出願公開第2012/0178169号明細書、Bochら(2011年) Nat. Biotech. 29巻: 135~136頁、Bochら(2009年) Science 326巻: 1509~1512頁、Moscou及びBogdanove (2009年) Science 326巻: 1501頁、Weberら(2011年) PLoS One 6:el9722、Liら(2011年) Nucl. Acids Res. 39巻:6315~6325頁、Zhangら(2011年) Nat. Biotech. 29巻:149~153頁、Millerら(2011年) Nat. Biotech. 29巻: 143~148頁、Linら(2014年) Nucl. Acids Res. 42:e47).そのような遺伝子戦略では、当技術分野で周知の方法に従って、構成的発現系又は誘導性発現系を使用することができる。
【0113】
ZFP及びZFN、TAL、TALE、及びTALEN
一部の実施形態では、DNA標的指向性分子は、エンドヌクレアーゼ等のエフェクタータンパク質に融合された、1つ又は複数の亜鉛フィンガータンパク質(ZFP)又は転写活性化因子様タンパク質(TAL)等のDNA結合性タンパク質を含む。例としては、ZFN、TALE、及びTALENが挙げられる。Lloydら、Frontiers in Immunology、4巻(221号)、1~7頁(2013年)を参照されたい。
【0114】
一部の実施形態では、DNA標的指向性分子は、配列特異的な様式でDNAに結合する1つ又は複数のジンクフィンガータンパク質(ZFP)又はそれらのドメインを含む。ZFP又はそのドメインは、亜鉛イオンの配位により構造が安定化される結合ドメイン内のアミノ酸配列の1つ又は複数のジンクフィンガー領域を介して、配列特異的な様式でDNAに結合する、より大きなタンパク質内のタンパク質又はドメインである。一般に、ZFPの配列特異性は、ジンクフィンガー認識ヘリックスの4つのヘリックス位置(-1、2、3、及び6)にてアミノ酸置換をなすことにより変更することができる。したがって、一部の実施形態では、ZFP又はZFP含有分子は、天然に存在せず、例えば、選択した標的部位に結合するように遺伝子操作されている。例えば、Beerliら(2002年) Nature Biotechnol. 20巻:135~141頁、Paboら(2001年) Ann. Rev. Biochem. 70巻:313~340頁、Isalanら(2001年) Nature Biotechnol. 19巻:656~660頁、Segalら(2001年) Curr. Opin. Biotechnol. 12巻:632~637頁、Chooら(2000年) Curr. Opin. Struct. Biol. 10巻:411~416頁を参照されたい。
【0115】
一部の実施形態では、DNA標的指向性分子は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)を形成するようにDNA切断ドメインに融合されたジンクフィンガーDNA結合ドメインであるか、又はそれを含む。一部の実施形態では、融合タンパク質は、少なくとも1つのIIS型制限酵素に由来する切断ドメイン(又は切断ハーフドメイン)及び1つ又は複数のジンクフィンガー結合ドメインを含み、それらは、遺伝子操作されていてよく又はされていなくてもよい。一部の実施形態では、切断ドメインは、IIS型制限エンドヌクレアーゼFok Iに由来する。例えば、米国特許第5,356,802号明細書、米国特許第5,436,150号明細書、及び米国特許第5,487,994号明細書、並びにLiら(1992年) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89巻:4275~4279頁、Liら(1993年) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90巻:2764~2768頁、Kimら(1994年a) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91巻:883~887頁、Kimら(1994年b) J. Biol. Chem. 269巻:31,978~31,982頁を参照されたい。
【0116】
一部の態様では、ZFNは、例えば、標的遺伝子(つまり、SUV39H1)のコード領域の所定の部位で、二本鎖切断(DSB)を効率的に生成する。典型的な標的化遺伝子領域としては、エキソン、N末端領域をコードする領域、第1のエキソン、第2のエキソン、及びプロモーター又はエンハンサー領域が挙げられる。一部の実施形態では、ZFNの一過性発現は、遺伝子操作細胞における標的遺伝子の非常に効率的で恒久的な破壊を促進する。特に、一部の実施形態では、ZFNの送達は、50%を超える効率で遺伝子の恒久的な破壊をもたらす。多くの遺伝子特異的遺伝子操作ジンクフィンガーが市販されている。例えば、Sangamo Biosciences社(リッチモンド、カリフォルニア州、米国)は、Sigma-Aldrich社(セントルイス、ミズーリ州、米国)と共同で、研究者がジンクフィンガー構築及び検証を全て迂回することを可能にする、ジンクフィンガー構築用のプラットフォーム(CompoZr)を開発し、何千個ものタンパク質に対して特異的に標的化されたジンクフィンガーを提供している。Gajら、Trends in Biotechnology、2013年、31巻(7号)、397~405頁。一部の実施形態では、市販のジンクフィンガーが使用されるか、又は特注設計される。(例えば、Sigma-Aldrich社カタログ番号CSTZFND、CSTZFN、CTI1-1KT、及びPZD0020を参照)。
【0117】
一部の実施形態では、DNA標的指向性分子は、転写活性化因子様タンパク質エフェクター(TALE)タンパク質にあるもの等の、天然に存在するか又は遺伝子操作された(天然に存在しない)転写活性化因子様タンパク質(TAL)DNA結合ドメインを含む。例えば、米国特許出願公開第20110301073号明細書を参照されたい。一部の実施形態では、分子は、TALEヌクレアーゼ(TALEN)等のDNA結合性エンドヌクレアーゼである。一部の態様では、TALENは、TALEに由来するDNA結合ドメイン、及び核酸標的配列を切断するためのヌクレアーゼ触媒ドメインを含む融合タンパク質である。一部の実施形態では、TALE DNA結合ドメインは、標的抗原及び/又は免疫抑制分子をコードする遺伝子内の標的配列に結合するように遺伝子操作されている。例えば、一部の態様では、TALE DNA結合ドメインは、CD38及び/又はA2AR等のアデノシン受容体を標的とすることができる。
【0118】
一部の実施形態では、TALENは、遺伝子中の標的配列を認識及び切断する。一部の態様では、DNAの切断は、二本鎖切断をもたらす。一部の態様では、切断は、相同組換え又は非相同末端結合(NHEJ)の速度を刺激する。一般に、NHEJは不完全な修復プロセスであり、切断部位のDNA配列に変化をもたらすことが多い。一部の態様では、修復機序は、直接再ライゲーション(Critchlow及びJackson、Trends Biochem Sc.1998年10月、23巻(10号):394~8頁)又はいわゆるマイクロホモロジー媒介性末端結合により、2つのDNA末端の残りのものを再結合することを含む。一部の実施形態では、NHEJによる修復は、小型の挿入又は欠失をもたらすため、遺伝子を破壊し、それにより遺伝子を抑制するために使用することができる。一部の実施形態では、改変は、少なくとも1つのヌクレオチドの置換、欠失、又は付加であってもよい。一部の態様では、切断誘導性突然変異誘発事象、つまり、NHEJ事象に続く突然変異誘発事象が生じた細胞は、当技術分野で周知の方法により特定及び/又は選択することができる。
【0119】
TALEリピートは、SUV39H1遺伝子を特異的に標的とするようにアセンブリすることができる。(Gajら、Trends in Biotechnology、2013年、31巻(7号) 、397~405頁)。18,740個のヒトタンパク質コード遺伝子を標的とするTALENのライブラリーが構築されている(Kimら、Nature Biotechnology. 31巻、251~258頁(2013年))。特注設計のTALEアレイは、Cellectis Bioresearch社(パリ、フランス)、Transposagen Biopharmaceuticals社(レキシントン、ケンタッキー州、米国)、及びLife Technologies社(グランドアイランド、ニューヨーク州、米国)から市販されている。具体的には、CD38を標的とするTALENが市販されている(Gencopoeia社、カタログ番号HTN222870-1、HTN222870-2、及びHTN222870-3を参照されたい。これらは、www.genecopoeia.com/product/search/detail.php?prt=26&cid=&key=HTN222870のワールドワイドウェブで入手可能である)。例示的な分子は、例えば、米国特許公開第2014/0120222号明細書、及び米国特許公開第2013/0315884号明細書に記載されている。
【0120】
一部の実施形態では、TALENは、1つ又は複数のプラスミドベクターによりコードされる導入遺伝子として導入される。一部の態様では、プラスミドベクターは、そのベクターを受け取った細胞の特定及び/又は選択を提供する選択マーカーを含んでいてもよい。
【0121】
RGEN(CRISPR/Cas系)
遺伝子抑制は、RNA誘導エンドヌクレアーゼ(RGEN)による破壊、又は別のRNA誘導エフェクター分子による他の形態の抑制等、1つ又は複数のDNA結合性核酸を使用して実施することできる。例えば、一部の実施形態では、遺伝子抑制は、クラスターを形成し規則正しい間隔を持つ短いパリンドロームリピート(CRISPR)及びCRISPR関連タンパク質を使用して実施することができる。Sander及びJoung、Nature Biotechnology、32巻(4号):347~355頁を参照されたい。
【0122】
一般に、「CRISPR系」は、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現、又はその活性の指図に関与する転写物及び他のエレメントを指す総称であり、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNA又は活性な部分的tracrRNA)、tracr-mate配列(内因性CRISPR系の状況での「定方向反復」及びtracrRNAでプロセシングされた部分的定方向反復を包含する)、ガイド配列(内因性CRISPR系の状況では「スペーサー」とも呼ばれる)、及び/又はCRISPR遺伝子座からの他の配列及び転写物が挙げられる。
【0123】
典型的には、CRISPR/Casヌクレアーゼ又はCRISPR/Casヌクレアーゼ系は、DNAと配列特異的に結合する非コードRNA分子(ガイド)RNA、及びヌクレアーゼ機能性(例えば、2つのヌクレアーゼドメイン)を有するCRISPRタンパク質を含む。CRISPR系の1つ又は複数のエレメントは、Casヌクレアーゼ等のI型、II型、又はIII型CRISPR系に由来してもよい。好ましくは、CRISPRタンパク質は、Cas9等のCas酵素である。Cas酵素は、当分野で周知であり、例えば、化膿レンサ球菌(S. pyogenes)Cas9タンパク質のアミノ酸配列は、SwissProtデータベースの受入番号Q99ZW2に見出すことができる。一部の実施形態では、Casヌクレアーゼ及びgRNAが細胞内に導入される。一部の実施形態では、CRISPR系は、標的部位でDSBを誘導し、続いて本明細書で考察されるように破壊を起こす。他の実施形態では、「ニッカーゼ」とみなされるCas9バリアントを使用して、標的部位で一本鎖にニックを入れることができる。また、各々が、異なるgRNA標的指向性配列の対により指図される対のニッカーゼを使用して、例えば特異性を向上させることができる。更に他の実施形態では、触媒的に不活性なCas9を、転写リプレッサー等の異種性エフェクタードメインに融合させて、遺伝子発現に影響を及ぼすことができる。
【0124】
一般に、CRISPR系は、標的配列の部位におけるCRISPR複合体の形成を促進するエレメントにより特徴付けられる。典型的には、CRISPR複合体の形成の状況では、「標的配列」は、一般に、ガイド配列が相補性を有するように設計されている配列を指し、標的配列とガイド配列とのハイブリダイゼーションは、CRISPR複合体の形成を促進する。ハイブリダイゼーションを引き起こし、CRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があれば、完全な相補性は必ずしも必要ではない。標的配列は、DNA又はRNAポリヌクレオチド等の任意のポリヌクレオチドを含んでいてもよい。一般に、標的配列を含む標的化遺伝子座への組換えに使用することができる配列又は鋳型は、「編集鋳型」又は「編集ポリヌクレオチド」又は「編集配列」と呼ばれる。一部の態様では、外因性鋳型ポリヌクレオチドは、編集鋳型と呼ばれる場合がある。一部の態様では、組換えは相同組換えである。
【0125】
一部の実施形態では、CRISPR系の1つ又は複数のエレメントの発現を駆動する1つ又は複数のベクターは、CRISPR系のエレメントの発現が1つ又は複数の標的部位でのCRISPR複合体の形成を指図するように細胞内に導入される。例えば、Cas酵素、tracr-mate配列に連結されたガイド配列、及びtracr配列は各々、別々のベクターの別々の調節エレメントに作動可能に連結していてもよい。その代わりに、同じ又は異なる調節エレメントから発現されるエレメントの2つ又はそれよりも多くを単一のベクター内に組み合わせ、1つ又は複数の追加のベクターが、第1のベクターに含まれていないCRISPR系の任意の成分を提供してもよい。一部の実施形態では、単一のベクター内に組み合わされているCRISPR系エレメントは、任意の好適な方向に配置されていてもよい。一部の実施形態では、CRISPR酵素、ガイド配列、tracr-mate配列、及びtracr配列は、同じプロモーターに作動可能に連結しており、同じプロモーターから発現される。一部の実施形態では、ベクターは、Casタンパク質等のCRISPR酵素をコードする酵素コード配列に作動可能に連結した調節エレメントを含む。
【0126】
一部の実施形態では、ガイド配列と組み合わせた(及び任意選択で複合体化された)CRISPR酵素が細胞に送達される。典型的には、CRISPR/Cas9技術を使用して、遺伝子操作細胞においてSUV39H1の遺伝子発現をノックダウンすることができる。例えば、Cas9ヌクレアーゼ及びSUV39H1遺伝子に特異的なガイドRNAを、例えば、レンチウイルス送達ベクター、又はCas9分子及びガイドRNAを送達するための少なからぬ公知の方法若しくはビヒクルのいずれか等の、少なからぬ公知の送達方法若しくは細胞移入用ビヒクルのいずれかを使用して細胞内に導入することができる(以下も参照)。
【0127】
遺伝子破壊分子及び複合体をコードする核酸の送達
一部の実施形態では、DNA標的指向性分子、複合体、又は組合せをコードする核酸は、細胞に投与又は導入される。典型的には、ウイルス及び非ウイルスベースの遺伝子移入法を使用して、CRISPR、ZFP、ZFN、TALE、及び/又はTALEN系の成分をコードする核酸を、培養中の細胞に導入することができる。
【0128】
一部の実施形態では、ポリペプチドは、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを細胞内に導入した結果として、細胞にてin situで合成される。一部の態様では、ポリペプチドは、細胞の外で産生され、次いで細胞内に導入されてもよい。
【0129】
ポリヌクレオチド構築物を動物細胞内に導入するための方法は公知であり、非限定的な例としては、ポリヌクレオチド構築物が細胞のゲノム内に組み込まれる安定的形質転換法、ポリヌクレオチド構築物が細胞のゲノム内に組み込まれない一過性形質転換法、及びウイルスを媒介とする方法が挙げられる。
【0130】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチドは、例えば、組換えウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス)、及びリポソーム等により細胞内に導入してもよい。一過性形質転換法としては、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、又は微粒子銃法が挙げられる。核酸は、発現ベクターの形態で投与される。好ましくは、発現ベクターは、レトロウイルス発現ベクター、アデノウイルス発現ベクター、DNAプラスミド発現ベクター、又はAAV発現ベクターである。
【0131】
核酸の非ウイルス送達法としては、リポフェクション、ヌクレオフェクション、マイクロインジェクション、遺伝子銃、ビロソーム、リポソーム、免疫リポソーム、ポリカチオン又は脂質核酸コンジュゲート、ネイキッドDNA、人工ビリオン、及び作用剤増強DNA取込みが挙げられる。リポフェクションは、例えば、米国特許第5,049,386号明細書、米国特許第4,946,787号明細書、及び米国特許第4,897,355号明細書)に記載されており、リポフェクション試薬は市販されている(例えば、Transfectam(商標)及びLipofectin(商標))。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに好適なカチオン性及び中性脂質としては、Feigner、国際公開第91/17424号パンフレット、国際公開第91/16024号パンフレットのものが挙げられる。送達は、細胞に対してであってもよく(例えば、in vitro又はex vivo投与)又は標的組織に対してであってもよい(例えば、in vivo投与)。
【0132】
RNA又はDNAウイルスベース系としては、遺伝子移入用のレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、及び単純ヘルペスウイルスベクターが挙げられる。
【0133】
遺伝子治療手順の総説については、以下の文献を参照されたい:Anderson、Science 256巻:808~813頁(1992年)、Nabel & Feigner、TIBTECH 11巻:211~217頁(1993年)、Mitani & Caskey、TIBTECH 11巻:162~166頁(1993年)、Dillon. TIBTECH 11巻:167~175頁(1993年)、Miller、Nature 357巻:455~460頁(1992)、Van Brunt、Biotechnology 6巻(10号):1149~1154頁(1988年)、Vigne、Restorative Neurology and Neuroscience 8巻:35~36頁(1995年)、Kremer & Perricaudet、British Medical Bulletin 51巻(1号):31~44頁(1995年)、Haddadaら、in Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Bohm (編)(1995年)、及びYuら、Gene Therapy 1巻:13~26頁(1994年).
【0134】
グルタチオン-5-トランスフェラーゼ(GST)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、クロランフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)ベータ-ガラクトシダーゼ、ベータ-グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、HcRed、DsRed、シアン蛍光タンパク質(CFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、及び青色蛍光タンパク質(BFP)を含む自己蛍光タンパク質を含むがこれらに限定されないレポーター遺伝子を細胞内に導入して、遺伝子産物発現の変更又は改変を測定するためのマーカーとしての役目を果たす遺伝子産物をコードすることができる。
【0135】
細胞調製
細胞の単離は、当分野で周知の技法による1つ又は複数の調製及び/又は非親和性ベース細胞分離ステップを含む。一部の例では、細胞を洗浄し、遠心分離し、及び/又は1つ又は複数の試薬の存在下でインキュベートして、例えば、不要な成分を除去し、所望の成分を富化し、特定の試薬に感受性である細胞を溶解又は除去する。一部の例では、細胞は、密度、付着特性、サイズ、特定の成分に対する感受性及び/又は耐性等の1つ又は複数の特性に基づいて分離される。
【0136】
一部の実施形態では、細胞調製物は、単離、インキュベーション、及び/又は遺伝子操作の前又は後のいずれかで、細胞を凍結、例えば凍結保存するためのステップを含む。一部の態様では、様々な既知の凍結用溶液及びパラメーターのいずれかを使用することができる。
【0137】
インキュベーションステップは、培養、インキュベーション、刺激、活性化、拡大増殖、及び/又は増殖を含んでいてもよい。
【0138】
一部の実施形態では、組成物又は細胞は、刺激条件又は刺激剤の存在下でインキュベートされる。そのような条件としては、集団内の細胞の増殖、拡大増殖、活性化、及び/又は生存を誘導し、抗原曝露を模倣し、及び/又は抗原特異的受容体の導入等の遺伝子操作のために細胞を初期刺激するように設計された条件が挙げられる。
【0139】
インキュベーション条件としては、特定の培地、温度、酸素含有量、二酸化炭素含有量、時間、作用剤、例えば、栄養素、アミノ酸、抗生物質、イオン、及び/又はサイトカイン、ケモカイン、抗原、結合パートナー、融合タンパク質、組換え可溶性受容体等の刺激因子、及び細胞を活性化するように設計された任意の他の作用剤の1つ又は複数を挙げることができる。
【0140】
一部の実施形態では、刺激条件又は作用剤は、TCR複合体の細胞内シグナル伝達ドメインを活性化することが可能な1つ又は複数の作用剤、例えばリガンドを含む。一部の態様では、作用剤は、T細胞においてTCR/CD3細胞内シグナル伝達カスケードをオンにするか又は開始させる。そのような作用剤としては、TCR成分及び/又は共刺激受容体、例えば、ビーズ等の固体支持体に結合されている抗CD3、抗CD28、及び/又は1つ若しくは複数のサイトカインに特異的なもの等の抗体を挙げることができる。任意選択で、拡大増殖法は、抗CD3及び/又は抗CD28抗体を培養培地に(例えば、少なくとも約0.5ng/mlの濃度で)添加するステップを更に含んでいてもよい。一部の実施形態では、刺激剤は、IL-2及び/又はIL-15を含み、例えば、IL-2濃度は少なくとも約10単位/mLである。
【0141】
一部の態様では、インキュベーションは、Riddellらの米国特許第6,040,177号明細書、Klebanoffら、J Immunother. 2012年、35巻(9号): 651~660頁、Terakuraら、Blood. 2012年、1巻:72~82頁、及び/又はWangら、J Immunother. 2012年、35巻(9号):689~701頁に記載のもの等の技法に準拠して実施される。
【0142】
一部の実施形態では、T細胞は、非分裂末梢血単核細胞(PBMC)等の培養開始組成物フィーダー細胞に添加し(例えば、得られる細胞集団が、拡大増殖しようとする初期集団中に、各Tリンパ球毎に少なくとも約5、10、20、又は40個、又はそれよりも多くのPBMCフィーダー細胞を含むように)、及び培養物をインキュベートする(例えば、T細胞数の拡大増殖に十分な時間にわたって)ことにより拡大増殖される。一部の態様では、非分裂フィーダー細胞は、ガンマ線照射されたPBMCフィーダー細胞を含んでいてもよい。一部の実施形態では、PBMCは、細胞分裂を防止するために、約3000~3600ラドの範囲のガンマ線で照射される。一部の態様では、フィーダー細胞は、T細胞の集団を添加する前に培地に添加される。
【0143】
一部の実施形態では、刺激条件は、ヒトTリンパ球の増殖に好適な温度、例えば、少なくとも約摂氏25度、一般に少なくとも約摂氏30度、及び一般に約摂氏37度を含む。任意選択で、インキュベーションは、非分裂EBV形質転換リンパ芽球様細胞(LCL)をフィーダー細胞として添加することを更に含んでいてもよい。LCLは、約6000~10,000ラドの範囲のガンマ線で照射されていてもよい。一部の態様では、LCLフィーダー細胞は、LCLフィーダー細胞の初期Tリンパ球に対する比が少なくとも約10:1である等、任意の好適な量で提供される。
【0144】
実施形態では、抗原特異的CD4+及び/又はCD8+ T細胞等の抗原特異的T細胞は、ナイーブ又は抗原特異的Tリンパ球を抗原で刺激することにより得られる。例えば、サイトメガロウイルス抗原に対する抗原特異的T細胞株又はクローンは、感染した対象からT細胞を単離し、同じ抗原を用いて細胞をin vitroで刺激することにより生成することができる。
【0145】
一部の態様では、本方法は、遺伝子操作された細胞又は遺伝子操作されている細胞の表面上の1つ又は複数のマーカーの発現を評価するステップを含む。一実施形態では、本方法は、例えば、フローサイトメトリー等の親和性ベースの検出法により、養子細胞療法で標的としようとしている1つ又は複数の標的抗原(例えば、抗原特異的受容体により認識される抗原)の表面発現を評価する工程を含む。
【0146】
細胞遺伝子操作のためのベクター及び方法
一部の態様では、遺伝子操作は、遺伝子破壊タンパク質又は核酸をコードする成分等の、細胞内に導入するための遺伝子操作された成分又は他の成分をコードする核酸を導入することを含む。
【0147】
一般に、CARを免疫細胞(T細胞等)内に遺伝子操作するには、細胞を培養して、形質導入及び拡大増殖を可能にする必要がある。形質導入には、様々な方法を使用することができるが、クローン的に拡大増殖し遺伝子操作細胞が持続するようにCAR発現の維持を可能にするには、安定的な遺伝子移入が必要である。
【0148】
一部の実施形態では、遺伝子移入は、最初に細胞成長、例えば、T細胞成長、増殖、及び/又は活性化を刺激し、続いて活性化細胞を形質導入し、臨床応用に十分な個数へと培養中で拡大増殖させることにより達成される。
【0149】
遺伝子操作された成分、例えば、抗原特異的受容体、例えばCARを導入するための種々の方法は周知であり、本提供の方法及び組成物と共に使用することができる。例示的な方法としては、ウイルス、例えば、レトロウイルス又はレンチウイルス、形質導入、トランスポゾン、及びエレクトロポレーションによることを含む、受容体をコードする核酸を移入するための方法が挙げられる。
【0150】
一部の実施形態では、組換え核酸は、例えば、サルウイルス40(SV40)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)に由来するベクター等の、組換え感染性ウイルス粒子を使用して細胞内に移入される。一部の実施形態では、組換え核酸は、ガンマレトロウイルスベクター等の、組換えレンチウイルスベクター又はレトロウイルスベクターを使用してT細胞内に移入される(例えば、Kosteら(2014年) Gene Therapy 2014年4月3日、Carlensら(2000年) Exp Hematol 28巻(10号):1137~46頁、Alonso-Caminoら(2013年) Mol Ther Nucl Acids 2巻、e93、Parkら、Trends Biotechnol. 2011年11月、29巻(11号):550~557頁を参照されたい)。
【0151】
一部の実施形態では、レトロウイルスベクター、例えば、モロニーネズミ白血病ウイルス(MoMLV)、骨髄増殖性肉腫ウイルス(MPSV)、ネズミ胚性幹細胞ウイルス(MESV)、ネズミ幹細胞ウイルス(MSCV)、脾臓フォーカス形成ウイルス(SFFV)、又はアデノ関連ウイルス(AAV)に由来するレトロウイルスベクターは、長い末端反復配列(LTR)を有する。ほとんどのレトロウイルスベクターは、マウスレトロウイルスに由来する。一部の実施形態では、レトロウイルスとしては、任意のトリ又は哺乳動物細胞源に由来するものが挙げられる。レトロウイルスは、典型的には、両種指向性であり、これは、ヒトを含む幾つかの種の宿主細胞に感染することが可能であることを意味する。一実施形態では、発現させようとする遺伝子により、レトロウイルスのgag、pol、及び/又はenv配列が置き換えられている。少なからぬ例示的なレトロウイルス系が記載されている(例えば、米国特許第5,219,740号明細書、米国特許第6,207,453号明細書、米国特許第5,219,740号明細書、Miller及びRosman (1989年) BioTechniques 7巻:980~990頁、Miller, A. D.(1990年) Human Gene Therapy 1巻:5~14頁、Scarpaら(1991年) Virology 180巻:849~852頁、Burnsら(1993年) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90巻:8033~8037頁、並びにBoris-Lawrie及びTemin(1993) Cur. Opin. Genet. Develop. 3巻:102~109頁)。
【0152】
レンチウイルス形質導入法も公知である。例示的な方法は、例えば、Wangら(2012年) J. Immunother. 35巻(9号):689~701頁、Cooperら(2003年) Blood. 101巻:1637~1644頁、Verhoeyenら(2009年) Methods Mol Biol. 506巻:97~114頁;及びCavalieriら(2003年) Blood. 102巻(2号):497~505頁に記載されている。
【0153】
一部の実施形態では、組換え核酸は、エレクトロポレーションによりT細胞内に移入される(例えば、Chicaybamら、(2013年) PLoS ONE 8巻(3号):e60298及びVan Tedelooら(2000年) Gene Therapy 7巻(16号):1431~1437頁を参照)。一部の実施形態では、組換え核酸は、転位によりT細胞内に移入される(例えば、Manuriら(2010年) Hum Gene Ther 21巻(4号):427~437頁、Sharmaら(2013年) Molec Ther Nucl Acids 2巻、e74、及びHuangら(2009年) Methods Mol Biol 506巻:115~126頁を参照)。免疫細胞に遺伝物質を導入し発現させるための方法としては、リン酸カルシウムトランスフェクション(例えば、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、ニューヨーク市、ニューヨーク州に記載されるような)、原形質融合、カチオン性リポソーム媒介性トランスフェクション、タングステン粒子促進性マイクロ粒子銃(Johnston、Nature、346巻:776~777頁(1990年)) 、及びリン酸ストロンチウムDNA共沈殿(Brashら、Mol. Cell Biol.、7巻:2031~2034頁(1987年))が挙げられる。
【0154】
遺伝子操作産物をコードする遺伝子操作核酸を移入するための他の手法及びベクターは、例えば、国際公開第2014055668号パンフレット及び米国特許第7,446,190号明細書に記載されているものである。
【0155】
本発明の組成物
また、本発明は、本明細書に記載されるような及び/又は本提供の方法により産生される細胞を含む組成物を含む。典型的には、上記組成物は、投与用の医薬組成物及び製剤であり、好ましくは、養子細胞療法用等の無菌組成物及び製剤である。
本発明の医薬組成物は、一般に、本発明の少なくとも1つの遺伝子操作免疫細胞及び無菌の薬学的に許容される担体を含む。
【0156】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」という文言は、医薬品投与と適合性である生理食塩水、溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤及び抗真菌剤、等張剤、及び吸収遅延剤等を含む。補完的な活性化合物を組成物に更に組み込むことができる。一部の態様では、医薬組成物中の担体の選択は、部分的には、特定の遺伝子操作CAR又はTCR、CAR又はTCRを発現するベクター又は細胞により、並びにCARを発現するベクター又は宿主細胞を投与するために使用される特定の方法により決定される。したがって、様々な好適な製剤が存在する。例えば、医薬組成物は、保存剤を含んでいてもよい。好適な保存剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、及び塩化ベンザルコニウムを挙げることができる。一部の態様では、2つ又はそれよりも多くの保存剤の混合物が使用される。保存剤又はその混合物は、典型的には、全組成物の約0.0001~約2質量%の量で存在する。
【0157】
医薬組成物は、その意図されている投与経路と適合するように処方される。
【0158】
治療法
また、本発明は、養子細胞療法(特に養子T細胞療法)に、典型的にはそれを必要とする対象のがんの治療に、並びに感染性疾患及び自己免疫性、炎症性、又はアレルギー性疾患の治療に使用するための、以前に規定の細胞に関する。上記の「抗原」セクションに列挙されている疾患のいずれかの治療が企図される。
【0159】
「治療」又は「治療すること」は、本明細書で使用される場合、がん等の疾患、又は疾患(例えば、がん)の任意の症状を治癒する、回復させる、緩和する、軽減する、変更する、治す、寛解させる、改善する、又は影響を及ぼす目的で、それを必要とする患者に、本発明による細胞又は細胞を含む組成物を適用又は投与することであると規定される。特に、「治療する」又は「治療」という用語は、がん等の疾患に関連付けられる少なくとも1つの有害な臨床症状、例えば、痛み、腫れ、血球数低下等を低減又は緩和することを指す。
【0160】
また、がん治療に関する「治療する」又は「治療」という用語は、新生物性脱制御細胞増殖の進行を遅延又は逆行させること、つまり、既存腫瘍を縮小させること及び/又は腫瘍成長を停止させることも指す。また、「治療する」又は「治療」という用語は、対象のがん又は腫瘍細胞にアポトーシスを誘導することを指す。
【0161】
免疫細胞、特にSUV39H1が不活性化されているT細胞は、セントラルメモリー表現型の増強、養子移入後の生存及び持続性の増強、及び疲弊の低減を呈する。効率及び有効性の増加は、本明細書に記載の向上を示さないT細胞と比較してより低いレベルでのそれらの投与を可能にすることができる。したがって、SUV39H1が不活性化されており、任意選択で本明細書に記載の他の特徴のいずれかを有する(例えば、CARを発現する、及び/又はT細胞受容体(TCR)アルファ定常領域遺伝子が、CAR又はTCRをコードする核酸配列の挿入により不活性化されている、並びに/又はCARが、a)細胞外抗原結合ドメイン、b)膜貫通ドメイン、c)任意選択で1つ又は複数の共刺激ドメイン、並びにd)ITAM2及びITAM3が不活性化又は欠失されている及び/又はHLA-A遺伝子が不活性化又は欠失されている改変CD3ゼータ細胞内シグナル伝達ドメインを含む細胞内シグナル伝達ドメインを含む)T細胞を、ある特定の用量で投与することができる。例えば、SUV39H1が不活性化されている免疫細胞(例えば、T細胞)は、約108個未満の細胞、約5×107個未満の細胞、約107個未満の細胞、約5×106個未満の細胞、約106個未満の細胞、約5×105個未満の細胞、又は約105個未満の細胞の用量で成体に投与することができる。小児患者の用量は、約100分の1であってもよい。代替的な実施形態では、本明細書に記載の免疫細胞(例えば、T細胞)のいずれかを、105~109個の細胞、又は105~108個の細胞、又は106~108個の細胞の範囲の用量で患者に投与することができる。
【0162】
本発明の対象(つまり、患者)は、哺乳動物、典型的にはヒト等の霊長類である。一部の実施形態では、霊長類は、サル又は類人猿である。対象は雄であってもよく又は雌であってもよく、幼仔対象、若年対象、青年対象、成体対象、及び老齢対象を含む任意の好適な年齢であってもよい。一部の実施形態では、対象は、げっ歯動物等の非霊長類哺乳動物である。一部の例では、患者又は対象は、疾患の、養子細胞療法の、及び/又はサイトカイン放出症候群(CRS)等の毒性転帰を評価するための検証動物モデルである。本発明の一部の実施形態では、上記対象は、がんを有するか、がんを有するリスクがあるか、又はがんの寛解状態にある。
【0163】
がんは、固形がんであってもよく、又は血液、骨髄、及びリンパ系に影響を及ぼし、造血組織及びリンパ組織の腫瘍としても知られており、特に白血病及びリンパ腫を含むがん等の「液体腫瘍」であってもよい。液体腫瘍としては、例えば、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、及び慢性リンパ性白血病(CLL)(マントル細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫(NHL)、腺腫、扁平上皮癌、喉頭癌、胆嚢及び胆管がん、網膜芽細胞腫等の網膜のがん等の種々のリンパ腫を含む)が挙げられる。
【0164】
固形がんとしては、特に、結腸、直腸、皮膚、子宮内膜、肺(非小細胞肺癌を含む)、子宮、骨(骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、線維肉腫、巨大細胞腫瘍、アダマンチノーマ、及び脊索腫等)、肝臓、腎臓、食道、胃、膀胱、膵臓、子宮頸部、脳(髄膜腫、神経膠芽細胞腫、低悪性度星状細胞腫、オリゴデンドロサイトーマ、下垂体腫瘍、シュワン腫、及び転移性脳がん等)、卵巣、乳房、頭頸部領域、精巣、前立腺、及び甲状腺からなる群から選択される器官の1つに影響を及ぼすがんが挙げられる。
【0165】
好ましくは、本発明によるがんは、上記に記載されるような、血液、骨髄、及びリンパ系に影響を及ぼすがんである。典型的には、がんは、多発性骨髄腫であるか又はそれに関連付けられる。
【0166】
一部の実施形態では、対象は、これらに限定されないが、ウイルス、レトロウイルス、細菌、及び原生動物感染症、免疫不全、サイトメガロウイルス(CMV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、アデノウイルス、BKポリオーマウイルス等の感染性疾患又は状態を罹患しているか又はそのリスクがある。
【0167】
一部の実施形態では、疾患又は状態は、関節炎、例えば関節リウマチ(RA)等の自己免疫性又は炎症性疾患又は状態、I型糖尿病、全身性エリテマトーデス(SLE)、炎症性腸疾患、乾癬、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患、グレイブス病、クローン病、多発性硬化症、喘息、及び/又は移植に関連付けられる疾患若しくは状態である。
【0168】
また、本発明は、治療方法、特に養子細胞療法、好ましくは養子T細胞療法であって、それを必要とする対象に、以前に記載されるような組成物を投与するステップを含む方法にも関する。
【0169】
一部の実施形態では、細胞又は組成物は、がん又は上記で言及されているような疾患のいずれか1つを有するか又はそのリスクがある対象等の対象に投与される。一部の態様では、本方法は、それにより、例えば、遺伝子操作細胞により認識される抗原を発現するがんの腫瘍負荷を軽減することにより、がんに関するもの等の疾患又は状態の1つ又は複数の症状を治療、例えば寛解させる。
【0170】
養子細胞療法用に細胞を投与するための方法は公知であり、本提供の方法及び組成物と共に使用することができる。例えば、養子T細胞療法の方法は、例えば、Gruenbergらの米国特許出願公開第2003/0170238号明細書、Rosenbergの米国特許第4,690,915号明細書、Rosenberg(2011年) Nat Rev Clin Oncol. 8巻(10号):577~85頁)に記載されている。例えば、Themeliら(2013年) Nat Biotechnol. 31巻(10号):928~933頁、Tsukaharaら(2013年) Biochem Biophys Res Commun 438巻(1号):84~9頁、Davilaら(2013年) PLoS ONE 8巻(4号):e61338を参照されたい。
【0171】
一部の実施形態では、細胞療法、例えば、養子細胞療法、例えば、養子T細胞療法は、自己移入により実施され、細胞は、細胞療法を受けようとする対象から又はそのような対象に由来する試料から単離及び/又はそうでなければ調製される。したがって、一部の態様では、細胞は、治療を必要とする対象、例えば患者に由来し、細胞は、単離及び処理後に同じ対象に投与される。
【0172】
一部の実施形態では、細胞療法、例えば、養子細胞療法、例えば、養子T細胞療法は、同種異系移入により実施され、細胞は、細胞療法を受けようとするか又は最終的に受ける対象以外の対象、例えば第1の対象から単離及び/又はそうでなければ調製される。そのような実施形態では、細胞は、次いで、同じ種の異なる対象、例えば第2の対象に投与される。一部の実施形態では、第1及び第2の対象は遺伝的に同一である。一部の実施形態では、第1及び第2の対象は遺伝的に類似している。一部の実施形態では、第2の対象は、第1の対象と同じHLAクラス又は上位タイプを発現する。一部の実施形態では、HLA一致は、免疫細胞が、内因性TCR及びHLAクラスI分子の発現を低減させるように改変されている場合、それほど重要ではない。
【0173】
それを必要とする対象への本発明による少なくとも1つの細胞の投与は、同時に又は任意の順序で連続してのいずれかで、1つ又は複数の追加の療法剤と組み合わせて行ってもよく、又は別の療法介入と共に行ってもよい。一部の状況では、細胞は、細胞集団が1つ又は複数の追加の療法剤の効果を増強するように又はその逆になるように、別の療法と時間的に十分に近接して共投与される。一部の実施形態では、細胞集団は、1つ又は複数の追加の療法剤の前に投与される。一部の実施形態では、細胞集団は、1つ又は複数の追加の療法剤の後で投与される。
【0174】
がん治療に関して、併用がん治療としては、これらに限定されないが、がん化学療法剤、細胞傷害剤、ホルモン、抗血管新生物質、放射性標識化合物、免疫療法、外科手術、凍結療法、及び/又は放射線療法を挙げることができる。
【0175】
従来のがん化学療法剤としては、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管阻害剤、及びB-raf酵素阻害剤が挙げられる。
【0176】
アルキル化剤としては、ナイトロジェンマスタード(メクロレタミン、シクロホスファミド、イホスファミド、メルファラン、及びクロラムブシル等)、エチレンアミン及びメチレンアミン誘導体(アルトレタミン、チオテパ等)、スルホン酸アルキル(ブスルファン等)、ニトロソ尿素(カルムスチン、ロムスチン、エストラムスチン等)、トリアゼン(ダカルバジン、プロカルバジン、テモゾロミド等)、及び白金含有抗新生物剤(シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン等)が挙げられる。
【0177】
代謝拮抗剤としては、5-フルオロウラシル(5-FU)、6-メルカプトプリン(6-MP)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、シタラビン(Ara-C(登録商標))、フロクスウリジン、フルダラビン、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、ヒドロキシ尿素、メトトレキサート、ペメトレキセド(Alimta(登録商標))が挙げられる。
【0178】
アントラサイクリンとしては、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン(登録商標))、エピルビシン、イダルビシンが挙げられる。他の抗腫瘍抗生物質としては、アクチノマイシン-D、ブレオマイシン、マイトマイシン-C、ミトキサントロンが挙げられる。
【0179】
トポイソメラーゼ阻害剤としては、トポテカン、イリノテカン(CPT-11)、エトポシド(VP-16)、テニポシド、又はミトキサントロンが挙げられる。
【0180】
微小管阻害剤としては、エストラムスチン、イクサベピロン、タキサン(パクリタキセル、ドセタキセル、及びカバジタキセル等)、及びビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビノレルビン、ビンデシン、及びビンフルニン等)が挙げられる。
【0181】
B-raf酵素阻害剤としては、ベムラフェニブ(Zelboraf)、ダブラフェニブ(Tafinlar)、及びエンコラフェニブ(Braftovi)が挙げられる。
【0182】
免疫療法としては、これらに限定されないが、免疫チェックポイント調節物質(つまり、阻害剤及び/又はアゴニスト)、サイトカイン、免疫調節性モノクローナル抗体、がんワクチンが挙げられる。
【0183】
好ましくは、本発明による養子T細胞療法における細胞の投与は、免疫チェックポイント調節物質の投与と併用される。例としては、PD-1、CTLA4、LAG3、BTLA、OX2R、TIM-3、TIGIT、LAIR-1、PGE2受容体、及び/又はA2ARを含むEP2/4アデノシン受容体の阻害物質(例えば、特異的に結合し、活性を阻害する抗体)が挙げられる。好ましくは、免疫チェックポイント調節物質は、抗PD-1及び/又は抗PDL-1阻害物質(例えば、抗PD-1及び/又は抗PDL-1抗体)を含む。
【0184】
また、本発明は、対象のがん、感染性疾患若しくは状態、自己免疫疾患若しくは状態、又は炎症性疾患若しくは状態を治療するための医薬を製造するための、本明細書に記載されるような遺伝子操作免疫細胞を含む組成物の使用にも関する。
【実施例】
【0185】
(実施例1)
ヒトCD8+ T細胞(SUV39H1ノックアウトT細胞)におけるSUV39H1の不活性化
活性化ヒトCD8+ T細胞を、SUV39H1遺伝子のエキソンを欠失の標的としたgRNAを含むCas9リボヌクレオタンパク質粒子(RNP)をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーションの4日後にRT-qPCRによりSUV39H1発現の一貫した減少が観察された。これは、ノックアウトが成功したことを示す(
図1)。
【0186】
(実施例2)
ヒトSUV39H1KO T細胞のメモリー表現型決定
CD8+ T細胞のメモリー表現型に重要なセントラルメモリーT細胞表面マーカーの発現を観察するために、実施例1のSUV39H1KO T細胞をaCD3+aCD28ビーズで1週間刺激し、次いでフローサイトメトリーで分析した。セントラルメモリーT細胞マーカーCCR7、CD27、及びCD62Lは、SUV39H1KO細胞において発現レベルの増加を示した。結果は、ドナー毎にモックと比較した、CCR7、CD27、及びCD62Lの幾何MFIの倍率変化として、それぞれ
図2A~
図2Cに示されている。加えて、セントラルメモリー細胞サブセットを構成するCCR7+CD45RO+CD27+CD62L+細胞の割合は、SUV39H1KO細胞で増加した。結果は、代表的なFACSプロットとして
図3Aに、ドナー毎にモックと比較したCCR7+CD45RO+CD27+CD62L+細胞の頻度の倍率変化として
図3Bに示されている。SUV39H1をノックアウトすると、セントラルメモリー細胞の割合が増加した。
【0187】
(実施例3)
ヒトSUV39H1KO T細胞上での免疫チェックポイント受容体の発現
実施例2の細胞の、2つの重要な免疫チェックポイント受容体であるPD-1及びTIM-3の発現を評価した。PD-1の全体的な発現レベルは変化せず、TIM-3の発現レベルは減少した。SUV39H1KOでは、非疲弊活性化細胞であるとみなされるTIM3-PD1+の割合の増加、及びTIM3+PD1-細胞の割合の減少が観察された。
図4Aには、PD-1及びTIM-3を発現する細胞のサブセットの頻度の結果が示されており((a)TIM-3陽性、PD-1陰性、(b)TIM-3陽性、PD-1陽性、(c)TIM-3陰性、PD-1陽性、(d)TIM-3陰性、PD-1陰性)、及び
図4Bには、ドナー毎にモックと比較したTIM-3の倍率変化が幾何MFIとして示されている。このように、SUV39H1をノックアウトすると、T細胞疲弊が低減された。
【0188】
(実施例4)
ヒトSUV39H1KO T細胞上でのマスター転写因子T-bet、EOMES、及びTCF-1の発現
実施例2の細胞のマスター転写因子T-bet、EOMES、及びTCF-1の発現を評価した。T-bet発現はエフェクター関与及び機能の増加を指揮し、EOMES発現はエフェクター機能の増加を規定し、TCF-1発現は自己複製を制御する。EOMES及びTCF-1とT-betのバランスが、T細胞分化を決定する。SUV39H1KOは、ドナー毎にモックと比較した幾何MFIの倍率変化として
図5Aに示されているように、T-betの発現レベルの減少をもたらした。EOMES及びTCF-1の発現レベルは変化しなかった。EOMES又はTCF-1のいずれかとT-betとのバランスも分析した。EOMES陽性/T-bet陰性及びTCF-1陽性/T-bet陰性の割合は、SUV39H1KOでは増加した(
図5B~
図5E)。結果は、ドナー毎にモックと比較した種々の細胞サブセットの頻度として
図5C及び
図5Eに示されており、SUV39H1KOのエフェクター様表現型の減少が示唆された。代表的なFACSプロットは、
図5B及び
図5Dに示されている。
【0189】
(実施例5)
連続刺激後のヒトSUV39H1KO T細胞の増殖
SUV39H1がノックアウトされたCD8+ T細胞を、aCD3+aCD28ビーズで週1回4週間の期間にわたって刺激した。
図6には、SUV39H1KO CD8+ T細胞の細胞数と動態が図示されており、SUV39H1KO細胞は、連続刺激後に増殖の増加を示したことを表す。結果は、3人の異なるドナーの、1週目の播種と比較した細胞数の倍率変化として示されている。増殖能は、メモリー細胞の重要な特徴であり、抗腫瘍有効性の重要な予測因子である。
【0190】
要約すると、実施例1~5の結果は、CD8+ T細胞のSUV39H1をノックアウトすると、a)セントラルメモリーマーカーCCR7、CD27、及びCD62Lの発現レベルの全体的増加、及びセントラルメモリー細胞サブセットCCR7+CD45RO+CD27+CD62L+細胞の割合の増加;b)TIM-3の発現レベルの減少、c)エフェクター機能調節因子T-betの発現レベルの減少、及び転写因子のバランスをエフェクター様表現型に向けて傾けるT-bet陰性細胞の割合の増加、並びにd)連続刺激後の増殖の増加をもたらした。
【0191】
(実施例6)
CAR T細胞の生成
ヒトCD8+ T細胞を、第2世代抗CD19 CARをコードする遺伝子を含むレンチウイルスベクターで形質導入した。
図7Aは、10人のドナーのCAR発現T細胞のパーセンテージを示す。
図7Bには、2:1のエフェクター:標的比における代表的なドナーのCD19陽性Raji細胞の死滅がxCelligenceデバイスで示されている。
図7Cには、代表的なドナーに由来する6×10
6個のCAR T細胞を輸注した後(4日目)に5×10
5個の細胞をNSGマウスに注射した後の、腫瘍細胞生物発光強度として示される、NALM-6細胞の増殖を示す。結果は、CAR T細胞が、in vitroで、CD19陽性Raji細胞に対して細胞傷害活性を示し、また、NSGマウスにおいてCD19陽性NALM-6細胞を根絶させたことを示した。
【0192】
(実施例7)
CAR T細胞(SUV39H1KO CAR T細胞)におけるSUV39H1の不活性化
全CD3+又はCD8+ T細胞をPBMCから精製し、CAR導入遺伝子をレンチウイルスで形質導入した実施例6に記載されるように、CAR導入遺伝子をレンチウイルスで形質導入した。次いで、細胞を、SUV39H1遺伝子のエキソンを欠失の標的としたSUV39H1標的指向性gRNAを含むCas9 RNPをエレクトロポレーションした。ノックアウト細胞(SUV39H1KO T細胞)は、ロバストなCAR発現を保持及び示し、エレクトロポレーションの4日後にRT-qPCRで検出したところ、SUV39H1発現の一貫した減少を呈した(
図8A~
図8B)。具体的には、
図8A及び図は、それぞれCD8+及びCD3+ T細胞のCAR発現を図示し、
図8Bは、SUV39H1発現の欠失を図示する。
図8Bでは、ウエスタンブロッティングによりSUV39H1タンパク質の枯渇が更に確認され、SUV39H1活性に依存するH3K9me3のレベルが、SUV39H1KO T細胞で全体的に減少していることが確認された(
図8D)。
【0193】
(実施例8)
SUV39H1KO CAR T細胞のメモリー表現型、マスター転写因子発現、遺伝子発現プロファイル、及び増殖
CD8+ T細胞のメモリー表現型に重要なセントラルメモリーT細胞表面マーカーの発現を観察するために、実施例7のSUV39H1KO CAR T細胞を、aCD3+aCD28ビーズで1週間刺激し、次いでフローサイトメトリーで分析した。これにより、CAR T細胞の増殖に対するSUV39H1欠失の効果を特異的に観察することが可能だった。その後は毎週、SUV39H1KO CAR T細胞のメモリー表現型、遺伝子発現プロファイル、細胞数を分析した。1ラウンドの週1回刺激の後、SUV39H1KO CAR T細胞にて、セントラルメモリー細胞サブセットを構成するCCR7+CD45RO+CD27+CD62L+細胞の割合が増加した。結果は、ドナー毎にモックと比較した、セントラルメモリー細胞表現型を呈する細胞のパーセンテージとして
図9Aに示されている。
図9Bには、モックと比較した、セントラルメモリー細胞サブセットの倍率変化が示されている。加えて、CAR T細胞におけるSUV39H1のノックアウトは、TIM-3発現レベルの減少(
図10A)、T-bet発現レベルの減少(
図10B)、及びT-bet陰性細胞頻度の増加(
図10C)をもたらした。全CD3+細胞を使用して調製したSUV39H1KO CAR T細胞についても同様の結果が得られた。
【0194】
細胞を、aCD3+aCD28ビーズで週1回4週間の期間にわたって刺激した。SUV39H1KO CD8+ CAR T細胞の週1回刺激中の細胞数及び動態の倍率変化は、
図11及び
図12に図示されており、こうしたSUV39H1KO CAR T細胞が、連続刺激後に、in vivo抗腫瘍有効性の重要な予測因子であるin vitro増殖及び持続性の増加を示したことを示す。
【0195】
産生直後だが初回刺激前に、CAR T細胞トランスクリプトームのナノストリング分析(mRNAレベルが定量化される)を、4人の異なるドナーで実施した。
図13には、SUV39H1KO CAR T細胞が、転写因子STAT3、STAT5A、及びSTAT5Bの発現レベルの増加を示したことが例示されている。こうした転写因子は、サイトカイン受容体の、幹細胞性及びメモリー形成を促進する転写因子TCF7の、並びにセントラルメモリーマーカーCD27及びSELL(CD62Lをコードする)の下流で機能する。こうした結果により、SUV39H1KO CAR T細胞が幹細胞様表現型を有し、サイトカインシグナル伝達をより受け入れ易いことが確認される。
【0196】
1ラウンドの週1回刺激後のCAR T細胞のナノストリング分析は、SUV39H1KO CAR T細胞が、より低いレベルの解糖系酵素(
図14A)及びエフェクターサイトカイン(
図14B)を発現したことを明らかにした。対照的に、
図14Cは、CAR T細胞が、メモリー機能に関連するサイトカイン受容体遺伝子IL7R、IL21R、IL6STのレベル増加、及び転写因子、特にLEF1に関連付けられる幹細胞性のレベル増加を有していたことを示す。こうした結果により、SUV39H1KO CAR T細胞は、1ラウンドの週1回刺激後に、モックと比較して分化が進んでいないことが示唆される。
【0197】
3ラウンドの週1回刺激後、SUV39H1KO CAR T細胞は、幹細胞性及びメモリー関連遺伝子の発現レベルの増加(
図15A)、並びにエフェクターサイトカイン及び阻害性ナチュラルキラー細胞受容体の発現レベルの減少(
図15B)を示した。これは、最終エフェクター分化が減少したことを示唆する。最後に、SUV39H1KO及びモックCAR T細胞は、疲弊マーカーHAVCR2(TIM-3をコードする)及びLAG3の発現レベルに有意差を示さないが、CD274(PD-L1をコードする)及びEOMES(
図15C)では有意差を示した。こうした結果により、SUV39H1KO CAR T細胞は、モックCAR T細胞よりも最終分化に対して抵抗性であり、幹細胞特質及びメモリー特質を維持するという結論が裏付けられる。
【0198】
(実施例9)
SUV39H1KO CAR T細胞の細胞傷害機能
CAR T細胞の細胞傷害性に対するSUV39H1欠失の効果を、ルシフェラーゼを発現するNALM-6細胞に対するin vitro死滅アッセイにより評価した。手短に言えば、5×10
4個のNALM-6細胞をU底プレートに添加し、次いでエフェクター細胞を、2:1のエフェクター:標的比で添加した。プレートを一晩培養し、ルシフェリンを添加した後、生存NALM-6細胞の生物発光をプレートリーダーで定量化した。SUV39H1KOの細胞傷害機能と、全CD3+又は精製CD8+のいずれかに由来するモックCAR T細胞との間に有意差は見出されなかった(
図16)。
【0199】
(実施例10)
SUV39H1KO CAR T細胞の代謝適応度
市販の細胞外フラックス分析装置(Seahorse、Agilent社)を使用して、週1回刺激中の様々な時点でSUV39H1KO CAR T細胞の代謝特質を調査した。好気性解糖の尺度である細胞外酸性化速度、及びミトコンドリア呼吸の尺度である酸素消費速度を定量化した。手短に言えば、1ウェル当たり1.5×10
5個の細胞を添加し、2つの異なるアッセイを分析装置で実施した。一方のアッセイは、それぞれ解糖系及びミトコンドリア呼吸の初期基質であるグルコース及びピルビン酸の存在下で実施し、他方のアッセイは非存在下で実施した。SUV39H1KO CAR T細胞は、グルコース及びピルビン酸の存在下では、モックと同様の程度に好気性解糖を行ったが(
図17A)、解糖予備能のわずかな増加を示した(ミトコンドリア呼吸阻害剤オリゴマイシンの添加後に、この特定の細胞外酸性化速度の増加に応じて算出した)(
図17B)。同様に、グルコース及びピルビン酸の存在下では、SUV39H1KO CAR T細胞及びモックCAR T細胞は、ミトコンドリア呼吸も同様に効率的だった(
図18A)。しかしながら、グルコース及びピルビン酸の非存在下では、SUV39H1KO CAR T細胞は、ミトコンドリア呼吸を増加させた(
図18A)。最後に、ミトコンドリアATP産生の定量化は(呼吸阻害剤オリゴマイシンの添加後に、この特定の酸素消費速度の減少に応じて、グルコース及びピルビン酸の存在下で算出した)、SUV39H1KO CAR Tが、3ラウンドよりも多くの週1回刺激後に、より多くのATPをこの経路で産生し続けることができることを示した(
図18B)。こうした結果は、SUV39H1KO CAR T細胞が、モックCAR T細胞よりも代謝的により適応しており、悪条件でのエネルギー源の切り替え、つまりミトコンドリア呼吸の阻害後のより多くの解糖への切り替え又はグルコース及びピルビン酸の欠乏時のミトコンドリア呼吸の増加が、より柔軟であるという所見と一致している。
【0200】
(実施例11)
ヒトSUV39H1 CAR T細胞のin vivo抗腫瘍有効性
急性リンパ芽球性白血病の異種モデルを使用して、ヒトCAR T細胞の抗腫瘍有効性に対するSUV39H1の効果を研究した(
図19A)。手短に言えば、ルシフェラーゼを発現する2.5×105個のNALM-6細胞を、NSGマウスの尾に静脈内注射し、in vivoでのそれらの増殖を、生物発光(IVIS、Perkin Elmer社)で長期間にわたって追跡した。腫瘍注射後3日目に、モック又はSUV39H1KOのいずれかの10
6個のCAR T細胞を輸注した。2人の異なるドナーのSUV39H1KO CAR T細胞は、より強力な抗腫瘍応答を示し、NSGマウスの生存率を増強した(
図19B)。CAR T細胞の用量を2×10
6個に増やすと、完全な腫瘍拒絶(
図20A)、及び10匹中9匹のマウスの生存(
図20B)がもたらされた。
【0201】
(実施例12)
不活性化内因性TCR及び不活性化SUV39H1を有するCAR T細胞の生成
CRISPR-Cas9 RNPを使用して、Eyquemら、Nature 543巻:113~117頁(2017年)に示されているように、CAR遺伝子をT細胞受容体α定常(TRAC)遺伝子座に導入し、内因性TCRの発現が著しく低減又はほぼ排除されたT細胞を得た。手順は
図21Aに図示されている。
ヒトT細胞に、(1)TRAC遺伝子座の最初の、好ましくは5'末端付近のエキソンを標的とするgRNA(gRNA配列の例: 5'C*A*G*GGUUCUGGAUAUCUGUGUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCGUUAUCAACUUGAAAAAGUGGCACCGAGUCGGUGCU*U*U*U3、配列中、アスタリスクは2'-O-メチル3'ホスホロチオエートを表す)(配列番号16)を含むCas9 RNP、及び(b)抗CD19 CARをコードするドナーAAVをエレクトロポレーションした。得られるT細胞は、CARを内因性TRACプロモーターの制御下で発現する。T細胞には、並行して、SUV39H1遺伝子のエキソンを欠失の標的としたSUV39H1標的指向性gRNAを含むCas9 RNPもエレクトロポレーションした。抗CD19 CARを発現する細胞を選択及び拡大増殖した。
図21B~
図21Cは、そのような細胞が、SUV39H1発現の低減及び内因性TCR発現の低減を呈したことを示す。
【0202】
図21Bは、種々の滴定量のAAVでCAR陽性だったCD4+及びCD8+ T細胞のパーセンテージ、並びにCAR+細胞におけるCAR発現の幾何平均蛍光強度を示す。後者は、AAVによる感染多重度とは関わりなく安定的なCAR発現を示した。これにより、TRAC遺伝子座への取込みが成功したこと及び内因性TRACプロモーターによりCAR発現が制御されることが確認された。
図21Cは、RT-qPCRで測定したSUV39H1の発現を示す。結果は、TRAC gRNAの存在下では、AAV形質導入とは関わりなく、SUV39H1の欠失が成功し効率的であることを示す。したがって、このプロトコールで産生されたT細胞は、TRAC遺伝子座へのCARノックイン、及びSUV39H1の特異的欠失を両方とも示した。
【0203】
(実施例13)
SUV39H1が不活性化され、ITAM活性が低減されたCAR T細胞の生成
ITAM2及びITAM3が、不活性化されているか、又はCD3ゼータの細胞内シグナル伝達領域から欠失されている抗CD19 CAR(ITAM低減CAR)をコードする核酸を生成する。CARは、少なくとも1つの共刺激ドメイン(例えば、CD28)、又は2つ若しくはそれよりも多くの共刺激ドメイン(CD27、CD28、4-1BB、及び/又はOX40)を有する。CARをコードする核酸を、実施例7又は実施例9に従ってヒトT細胞内に導入し、SUV39H1をノックアウトする。
【0204】
このように、この抗CD19 ITAM低減CARを発現し、SUV39H1の発現低減を呈する細胞を、実施例7の方法を使用して生成する。抗CD19 ITAM低減CARを発現し、SUV39H1の発現低減及び内因性TCRの発現低減を呈する細胞を、実施例9の方法を使用して生成する。得られた細胞を、セントラルメモリー細胞表現型(CCR7+CD45RO+CD27+CD62L+)、連続刺激後の増殖、及び疲弊特質(TIM-3、PD-1、LAG-3発現)について評価する。
【配列表】
【国際調査報告】