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特表2022-542247不死化幹細胞株の製造方法およびその用途
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-09-30
(54)【発明の名称】不死化幹細胞株の製造方法およびその用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0735 20100101AFI20220922BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220922BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220922BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20220922BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220922BHJP
   C12N 15/19 20060101ALI20220922BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20220922BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20220922BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALI20220922BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20220922BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20220922BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220922BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220922BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220922BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220922BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220922BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20220922BHJP
【FI】
C12N5/0735
C12N5/10 ZNA
C12N15/12
C12N15/54
C12N15/13
C12N15/19
C12N5/0789
C12N5/0775
C12N5/0797
C12N5/074
A61K35/545
A61P9/10
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/14
A61P25/28
A61K38/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504118
(86)(22)【出願日】2020-07-24
(85)【翻訳文提出日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 KR2020009769
(87)【国際公開番号】W WO2021015584
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】10-2019-0089897
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520278413
【氏名又は名称】エスエルバイジェン インコ―ポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SLBIGEN INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】イ スンミン
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065BA02
4B065BA14
4B065BD13
4B065BD50
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA06
4C084BA44
4C084DB52
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA16
4C084ZA36
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA15
4C087ZA16
4C087ZA36
(57)【要約】
本発明は、不死化遺伝子が導入された幹細胞株であって、細胞治療剤として使用可能になるように増殖が抑制されると同時に、導入遺伝子の発現能が維持される特徴を有する不死化幹細胞株の製造方法およびその用途に関し、本発明の前記不死化幹細胞株は、放射線を照射する過程を経ることによって、細胞の増殖がなされることなく、導入された外来タンパク質の発現が一定レベル以上に維持される特徴を有するので、多様な細胞治療剤など臨床試料として有用に使用できる。
【選択図】図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不死化遺伝子を導入した幹細胞株を製作する段階と、
前記幹細胞株に外来タンパク質をコード化する遺伝子を導入する段階と、
前記幹細胞株を凍結保存する段階と、
前記凍結した状態の幹細胞株に放射線を照射する段階と、を含む、不死化幹細胞株の製作方法。
【請求項2】
前記不死化遺伝子は、c-Mycおよび/またはhTERTである、請求項1に記載の不死化幹細胞株の製作方法。
【請求項3】
前記外来タンパク質は、成長因子、サイトカインまたはがん治療タンパク質、抗体およびケモカイン受容体の中から選ばれる、請求項1に記載の不死化幹細胞株の製作方法。
【請求項4】
前記不死化幹細胞株は、ヒト胚性幹細胞(human embryonic stem cell,hES)、骨髄幹細胞(bone marrow stem cell,BMSC)、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell,MSC)、ヒト神経幹細胞(human neural stem cell,hNSC)、角膜上皮幹細胞(limbal stem cell)または口腔粘膜上皮細胞(oral mucosal epithelial cell)である、請求項1に記載の不死化幹細胞株の製作方法。
【請求項5】
前記放射線は、幹細胞株に対する吸収線量が少なくとも80Gyになるように照射される、請求項1に記載の不死化幹細胞株の製作方法。
【請求項6】
前記幹細胞株に対する吸収線量は、放射線照射線量に対して、下記の範囲を満たす、請求項5に記載の不死化幹細胞株の製作方法。
照射線量0~100Gyであるとき、照射線量の80~140%;
照射線量100~200Gyであるとき、照射線量の80~140%;および
照射線量200Gy以上であるとき、照射線量の60~140%。
【請求項7】
前記放射線は、ガンマ線、ベータ線、中性子線、エックス線および電子線を含む群から選ばれる、請求項1に記載の不死化幹細胞株の製作方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法によって製作された不死化幹細胞株を含む薬剤学的組成物。
【請求項9】
前記薬剤学的組成物は、脳由来神経栄養因子(BDNF)を発現する不死化幹細胞株を含む、請求項8に記載の薬剤学的組成物。
【請求項10】
前記薬剤学的組成物は、神経疾患の予防または治療効果を有する、請求項9に記載の薬剤学的組成物。
【請求項11】
前記神経疾患は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease,AD)、パーキンソン病(Parkinson’s disease,PD)、ルーゲリック病(Amyotrophic Lateral Sclerosis,ALS)、脳梗塞、慢性脳損傷(chronic brain injury)、脊髄損傷、ハンチントン病(Huntington’s disease,HD)、レット病(Rett’s disease,RD)、虚血性脳疾患、脳卒中および外傷性脳損傷(Traumatic brain injury)、新生児虚血性脳症(Neonatal Hypoxic ischemic encephalopathy)、多発性硬化症からなる群から選ばれるものである、請求項10に記載の神経疾患の予防または治療用薬剤学的組成物。
【請求項12】
請求項1に記載の方法によって製作された不死化幹細胞株の細胞治療剤としての用途。
【請求項13】
請求項1に記載の方法によって製作された不死化幹細胞株を治療的に有効な量で個体に投与して疾患を治療する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞治療剤として使用可能になるように増殖が抑制されると同時に、導入された遺伝子に対する発現能が維持される不死化幹細胞株を製造する方法およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
全世界的に細胞を用いた治療方法が開発されており、特に成体幹細胞を用いた細胞治療剤について多くの研究が進行中にある。成体幹細胞である間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem cell;MSC)は、骨、軟骨、筋肉、脂肪、線維芽細胞などに分化できる多能性(multipotent)細胞である。前記MSCは、骨髄、臍帯血、脂肪など多様な成体組織から比較的容易に得ることができる。MSCは、炎症または損傷部位に移動する特異性があるので、治療薬物を伝達するための伝達体としても大きな長所がある。また、T細胞、B細胞、樹状細胞およびナチュラルキラー細胞のような免疫細胞の機能を抑制したり活性化させて、人体の免疫機能を調節できる。それだけでなく、MSCは、試験管内(in vitro)で比較的容易に培養できるという長所がある。このような特性によって、MSCを細胞治療剤として用いるための研究が活発に行われている。
【0003】
しかしながら、このようなMSCの長所にもかかわらず、細胞治療剤として臨床に使用できる等級のMSCを生産することは次のような問題を有する。第一に、MSCの増殖に限界があるので、これを大量で生産しにくい。第二に、収得したMSCは、多様な種類の細胞が混合されていて、生産時に同じ効果を維持しにくい。第三に、MSCのみを用いる場合、治療効果が高くない。最後に、人体に注入されたMSCが体内でがん細胞になる可能性もある。
【0004】
一方、韓国登録特許第1585032号公報には、ハイドロゲルで培養した間葉系幹細胞を含有する細胞治療剤を開示している。前記文献には、細胞治療剤として使用するための間葉系幹細胞を分離する工程で前処理過程を短縮してすぐ投与が可能な組成物を提供しているが、上記のような間葉系幹細胞の問題点およびこれを解消するための方案については全く言及していない。したがって、細胞治療剤として使用できる安全かつ効果的な間葉系幹細胞に関する研究が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これより、本発明者らは、大量生産が可能であり、長期培養中も同じ効果を維持できる幹細胞治療剤を開発するために研究した結果、本発明の不死化遺伝子および外来遺伝子が導入された幹細胞に特定範囲の放射線を照射する場合、導入された外来遺伝子によるタンパク質の発現が安定的に維持され、かつ、幹細胞の増殖が抑制される事実を確認することによって、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明の目的は、不死化遺伝子および外来遺伝子が導入された不死化幹細胞株に放射線を照射する段階を含む、不死化幹細胞株の製作方法および製作された不死化幹細胞株を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、前記製作された不死化幹細胞を用いた薬剤学的組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、不死化遺伝子を導入した幹細胞株を製作する段階と、前記幹細胞株に外来タンパク質をコード化する遺伝子を導入する段階と、前記幹細胞株を凍結保存する段階と、前記凍結した状態の幹細胞株に放射線を照射する段階と、を含む、不死化幹細胞株の製作方法を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記方法によって製作された不死化幹細胞株を細胞治療剤として含む薬剤学的組成物を提供する。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
一態様において、本発明は、
不死化遺伝子を導入した幹細胞株を製作する段階と、
前記幹細胞株に外来タンパク質をコード化する遺伝子を導入する段階と、
前記幹細胞株を凍結保存する段階と、
前記凍結した状態の幹細胞株に放射線を照射する段階と、を含む不死化幹細胞株の製作方法を提供する。
【0012】
本発明の不死化幹細胞株は、不死化遺伝子を導入して長期継代培養中も幹細胞の特性を維持でき、大量生産時にも同じ品質を維持することによって、安定的に大量生産が可能であるという特徴を有する。
【0013】
特に、前記製作過程中、凍結保存された幹細胞株に放射線を照射する段階を導入して、不死化遺伝子が導入された幹細胞が増殖することなく、導入されたタンパク質を長期間安定的に発現させることができるので、細胞治療剤として安全に使用できる。
【0014】
本発明の不死化幹細胞株は、下記の方法で製造できる。
1)宿主細胞にhTERTおよび/またはc-Myc遺伝子のような不死化遺伝子を導入する段階と、
2)前記不死化遺伝子が導入された宿主細胞に外来遺伝子を導入する段階。
【0015】
前記1)段階および2)段階で遺伝子の導入方法は、プラスミド、レトロウイルス、レンチウイルス、AAVなどの多様な方法を使用でき、レンチウイルスを用いる場合、外来遺伝子を含むレンチウイルスの製造時に、外来遺伝子の発現を調節するための特定プロモーターが含まれたベクターをさらに使用でき、この際、前記プロモーターを含む遺伝子をさらに導入する段階を含んでもよい。
【0016】
これに限定されるものではないが、本発明の一実施例では、レンチウイルスベクターを用いて細胞内に遺伝子を導入し、この際、ドキシサイクリンまたはテトラサイクリンによって発現が調節されるTRE promoterを用い、このために、細胞にtTA遺伝子を含むレンチウイルスをさらに感染させた。
【0017】
本発明の幹細胞は、不死化遺伝子が導入されて、不死化したものである。前記1)段階のように、本発明において「不死化遺伝子」は、hTERTおよび/またはc-Myc遺伝子でありうるが、不死化遺伝子として導入可能な他の遺伝子を制限なしに使用できる。
【0018】
本発明において使用する用語「c-Myc」とは、ヒトの8番染色体に位置する転写因子をコードする遺伝子を意味する。細胞内遺伝子約15%の発現を調節するc-Mycにコードされたタンパク質は、転写調節因子(transcription factor)であって、前記転写調節因子が過発現する場合、細胞活性および増殖が促進される。本発明において「hTERT」は、テロメラーゼ逆転写酵素を意味する。前記テロメラーゼ逆転写酵素は、テロメラーゼのRNA鋳型に相補的なDNAを合成して、RNA-DNAハイブリッド形態を成した後、二重鎖DNAになって宿主細胞の染色体に挿入される。すると、前記宿主細胞は、テロメアの代わりにテロメラーゼが染色体末端小粒に付着してテロメアを続いて生成することになって、不死化細胞を形成できる。
【0019】
また、前記段階でさらに含まれ得るtTAは、標的タンパク質の発現を調節できる遺伝子であって、テトラサイクリントランスアクチベーターを意味する。本発明において使用されるTet-offシステムは、上記で記述したような方法でテトラサイクリンまたはドキシサイクリンの存在の有無によって標的タンパク質の発現を調節できる。
【0020】
本明細書において前記「外来遺伝子」は、幹細胞内に導入されて、外来タンパク質をコード化できる遺伝子をいう。本発明の前記不死化幹細胞株は、導入された外来遺伝子によってコード化されるタンパク質の発現能を維持する特徴を有する。また、前記外来タンパク質は、その種類に限定されるものではなく、幹細胞内に導入されて発現できるものであれば、制限なしに含まれ得る。好ましくは、前記外来タンパク質は、疾患に対する治療効果を有するタンパク質でありうる。
【0021】
より具体的に、前記外来タンパク質は、肝細胞成長因子(HGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、神経成長因子(NGF)、脳由来神経成長因子(BDNF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、 インスリン様成長因子(IGF)、形質転換成長因子(TGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、骨由来成長因子(BMP)、コロニー刺激因子(CSF)、表皮成長因子(EGF)、角質細胞成長因子(Keratinocyte growth factor,KGF)のような成長因子、IL-2、IL-4、TNF、IF-γ、G-CSF、GM-CSFのようなサイトカイン、TNF関連アポトーシス誘導リガンドタンパク質(TRAIL)および/またはシトシンデアミナーゼ(CD)のようながん治療遺伝子、またはがん組織を標的化できる特定抗原を認知する抗体、CAR(chimeric antigen receptor)形態の抗体(mono or bi、tri-specific)だけでなく、細胞移動を促進させるケモカイン受容体などが制限なしに含まれ得る。本発明の一実施例では、BDNF、TRAILおよび/またはCDを導入した不死化幹細胞株を製作したが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明の不死化幹細胞株は、BDNFを発現するものでありうる。「脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor,BDNF)」タンパク質は、脳に最も豊富に分布しているニューロトロフィン(neurotrophin)である。これは、神経源(neuron)の成長を促進し、神経伝達物質の合成、代謝、遊離および神経源の活性を調節することが知られている。また、BDNFタンパク質は、うつ病患者の前頭葉皮質または海馬で減少し、その濃度を増加させてうつ病を治療できることが知られている。
【0023】
本発明によるBDNFタンパク質は、ヒト由来タンパク質でありうる。前記タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有するポリペプチドでありうる。前記BDNFタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列と約80%、90%、95%または99%以上の相同性を有することができる。一方、前記BDNFタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号2の塩基配列でありうる。また、前記BDNFタンパク質をコードする塩基配列は、配列番号2の塩基配列と約80%、90%、95%または99%以上の相同性を有することができる。
【0024】
また、本発明の不死化幹細胞株は、TRAILおよびCDを発現するものでありうる。「TNF関連アポトーシス誘導リガンド(TNF-related apoptosis-inducing ligand、以下、TRAILという)」タンパク質は、TNFファミリーのうちII型トランスメンブレンサイトカインに属する。前記TRAILは、自殺遺伝子の一つであって、形質転換細胞のアポトーシスを選択的に誘導する。具体的に、TRAILは、細胞表面に存在する細胞死受容体4-4(DR-4)、DR-5、デコイ(decoy)受容体またはデコイ受容体-2と結合してアポトーシスシグナル伝達系を活性化させる。TRAILは、正常細胞に対しては毒性がなく、がん細胞のみにおいて特異的にアポトーシスを誘導することが知られている。
【0025】
本発明によるTRAILタンパク質は、ヒト由来タンパク質でありうる。前記TRAILタンパク質は、3つの受容体に結合できるホモトリマー(homotrimer)の形態で存在する。本発明のTRAILタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列を有するポリペプチドでありうる。前記TRAILタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列と約70%、80%、90%または95%以上の相同性を有することができる。一方、前記TRAILタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号4の塩基配列を有するポリヌクレオチドでありうる。また、前記TRAILタンパク質をコードする塩基配列は、配列番号4の塩基配列と約70%、80%、90%または95%以上の相同性を有することができる。
【0026】
本明細書において使用される用語「CDタンパク質」は、シトシンデアミナーゼ(cytosine deaminase)タンパク質であって、「CDとUPRT(ウラシルホスホリボシルトランスフェラーゼ(uracil phosphoribosyltransferase))が結合した融合タンパク質」の形態であってもよく、本明細書において「CDタンパク質」は、「CD::UPRT」と混用可能である。本発明によるCDタンパク質をコードする遺伝子の配列は、サッカロミケス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)のCDaseをコードするFCY1遺伝子と、N末端から35個のアミノ酸が欠失したUPRTaseをコードするFUR1△105遺伝子を融合してコドン最適化(codon-optimization)した配列である。前記配列は、米国特許第5,338,678号、国際特許公開WO96/16183号および国際特許公開WO99/54481号に記載されたものでありうる。一実施例によれば、前記CDタンパク質は、配列番号5のアミノ酸配列を有するポリペプチドでありうる。また、前記CDタンパク質は、配列番号5のアミノ酸配列と約70%、80%、90%または95%以上の相同性を有することができる。一方、前記CDタンパク質をコードする遺伝子は、配列番号6の塩基配列を有するポリヌクレオチドでありうる。また、前記CDタンパク質をコードする塩基配列は、配列番号6の塩基配列と約70%、80%、90%または95%以上の相同性を有することができる。
【0027】
本明細書において使用される用語「レンチウイルスベクター」は、レトロウイルスの一種である。前記ベクターは、レンチウイルストランスファーベクターと混用して称されることもある。前記レンチウイルスベクターは、感染対象である細胞のゲノムDNAに挿入されて安定的に遺伝子を発現させる。また、前記ベクターは、分裂細胞および非分裂細胞に遺伝子を伝達できる。前記ベクターは、人体の免疫反応を誘導しないため、発現が持続的である。また、従来に使用されるウイルスベクターであるアデノウイルスベクターに比べて大きいサイズの遺伝子をも伝達可能であるという利点がある。
【0028】
本発明において使用される組換えレンチウイルスベクターは、プロモーターによってこれに乗っている遺伝子の発現を調節できる。前記プロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)、呼吸器細胞融合ウイルス(RSV)、ヒト成長因子-1アルファ(human elongation factor-1 alpha,EF-1α)またはTRE(tetracycline response elements)プロモーターでありうる。一実施例によれば、組換えレンチウイルスベクターは、1個または2個以上のプロモーターによってBDNF、TRAILおよびCDタンパク質の発現を調節できる。前記プロモーターは、発現させようとするタンパク質をコードする遺伝子に作動可能に連結される。
【0029】
本発明の一実施例によれば、前記BDNF、TRAILおよび/またはCDタンパク質は、好ましくは、TREプロモーターに連結されてもよい。TREプロモーターを使用せずに、他の種類のプロモーターを使用すると、継代が過ぎるほど倍加時間(Doubling time)が増加し、継代が過ぎるほど外来タンパク質の発現量が顕著に減少し、細胞形態が変形されることを確認した。
【0030】
前記TREプロモーターは、tTA(tetracycline transactivator)タンパク質によってプロモーターと連結された遺伝子の転写を活性化させることができる。具体的に、tTAタンパク質は、テトラサイクリン(tetracycline)またはドキシサイクリン(doxycycline)が存在しない場合、TREプロモーターに結合して転写を活性化させる。その一方で、これらが存在する場合には、tTAタンパク質がTREプロモーターに結合しないため、転写を活性化させない。したがって、テトラサイクリンまたはドキシサイクリンの存在の有無によってBDNF、TRAILおよび/またはCDタンパク質の発現を調節できる。
【0031】
前記用語「作動可能に連結された」は、特定のポリヌクレオチドが当該機能を発揮できるように他のポリヌクレオチドに連結されたことを意味する。すなわち、特定タンパク質をコードする遺伝子がプロモーターに作動可能に連結されたというのは、当該プロモーターによって遺伝子がmRNAに転写してタンパク質へと翻訳されうることを意味する。
【0032】
前記「組換えレンチウイルス」は、本発明のレンチウイルスベクター、パッケージング(packaging)プラスミドおよびエンベロープ(envelope)プラスミドで宿主細胞を形質転換させる段階と、形質転換した宿主細胞からレンチウイルスを分離する段階を通じて収得できる。
【0033】
前記用語「パッケージングプラスミド(packaging plasmid)」および「エンベローププラスミド(envelope plasmid)」は、タンパク質をコードする遺伝子が乗っているプラスミドである。これらのプラスミドは、レンチウイルスベクター以外に、レンチウイルスを生産するために必要なヘルパー構造物(例えば、プラスミドまたは単離された核酸)を提供できる。このような構造物は、宿主細胞でレンチウイルスベクターを製造し、これをパッケージングするのに有用な要素を含有する。前記要素としては、GAG前駆体のような構造タンパク質;pol前駆体のようなプロセッシングタンパク質;プロテアーゼ、外皮タンパク質、および宿主細胞でタンパク質を製造し、レンチウイルス粒子を生産するのに必要な発現および調節シグナルなどを含んでもよい。
【0034】
組換えレンチウイルスの生産には、Clontech Laboratories社のLenti-X Lentiviral Expression Systemや、Addgene社で提供するパッケージングプラスミド(例えば、pRSV-Rev、psPAX、pCl-VSVG、pNHPなど)またはエンベローププラスミド(例えば、pMD2.G、pLTR-G、pHEF-VSVGなど)を使用できる。
【0035】
前記用語「形質導入(transduction)」は、ウイルス感染を通じて組換えレンチウイルスベクターに乗っている遺伝子を宿主細胞に伝達することを意味する。
【0036】
前記宿主細胞は、ヒト胚性幹細胞(human embryonic stem cell,hES)、骨髄幹細胞(bone marrow stem cell,BMSC)、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell,MSC)、ヒト神経幹細胞(human neural stem cell,hNSC)、角膜上皮幹細胞(limbal stem cell)または口腔粘膜上皮細胞(oral mucosal epithelial cell)でありうる。本発明の一実施例によれば、前記宿主細胞は、間葉系幹細胞でありうる。
【0037】
前記用語「間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell,MSC)」は、骨細胞、軟骨細胞および脂肪細胞を含む多様な細胞に分化できる多分化能間質細胞をいう。間葉系幹細胞は、骨、軟骨、脂肪、腱、神経組織、線維芽細胞および筋肉細胞など具体的な臓器の細胞に分化できる。これら細胞は、脂肪組織、骨髄、末梢神経血液、臍帯血、骨膜、真皮、中胚葉由来組織などから分離または精製できる。
【0038】
本発明の一実施例において、前記不死化間葉系幹細胞株は、生体外(Ex vivo)でドキシサイクリン処理によって外来遺伝子の発現が抑制され、ドキシサイクリン除去によって外来遺伝子が発現するように製作された細胞株でありうる。
【0039】
本発明の一実施例において、前記不死化間葉系幹細胞株は、ドキシサイクリン除去培地(DMEM-low glucose、10ng/ml FGF、10% FBS)で37℃、5%COの条件下で48時間培養した場合、1×10cellsからドキシサイクリン処理培地と比較して4000倍以上、3000倍以上、1000倍以上、500倍以上、100倍以上、10倍以上、3倍以上、好ましくは、3~6000倍、3~5000倍、3~4000倍、3~3000倍、3~2000倍、3~1000倍、3~500倍、3~300倍、3~100倍、30~6000倍、30~4000倍、30~3000倍、30~1000倍、300~6000倍、300~3000倍または300~1000倍以上増加したレベルでBDNFタンパク質を発現する細胞株でありうる。
【0040】
本発明の一実施例において、本発明のBDNFを発現する不死化間葉系幹細胞株は、単クローンの調製後、12 well plateでドキシサイクリン除去後、48時間培養時、TREプロモーターによってBDNF発現が1.5ng/ml以上発現するクローンを1次選別し、12 well plateで1×10細胞にドキシサイクリン処理し、48時間培養時、BDNF発現が0.5ng/mlを超えないクローンを2次選別した後、最終クローン候補をもう一度単クローンの調製後に選別した。
【0041】
本発明の一実施例において、本発明の不死化間葉系幹細胞株は、長期継代培養時にも、表面抗原タンパク質であるCD44およびCD105タンパク質を発現して、間葉系幹細胞が有する固有な特性が維持される細胞株でありうる。また、本発明の一実施例において、本発明の不死化間葉系幹細胞株は、100日まで長期継代培養時にも、間葉系幹細胞の形態変化がないため、形態学的に間葉系幹細胞の特性が維持される細胞株でありうる。
【0042】
本発明の不死化間葉系幹細胞株は、長期継代培養時にも、安定的に増殖し、倍加時間(Doubling time)が5~25時間、5~20時間、5~15時間、10~25時間、10~20時間または10~15時間と短いため、短い時間内に大量生産が可能な細胞株(cell line)でありうる。本発明の一実施例では、本発明の不死化間葉系幹細胞株が100日以上の長期継代培養時にも、安定的に増殖し、倍加時間(Doubling time)が14~25時間、平均16時間と短いことを確認した。
【0043】
本発明の不死化間葉系幹細胞株は、製作後、凍結保存される。前記凍結保存は、当該技術分野における公知の方法によって行われてもよく、特にその方式が限定されるものではない。凍結保存される温度は、特に限定されるものではないが、-70~-200℃の範囲でありうる。本発明の一実施例では、液体窒素タンクに前記細胞株を保管し、以後の段階でも凍結保存された状態を維持した。
【0044】
本発明の不死化間葉系幹細胞株は、大量生産のための不死化遺伝子の導入時に発生する細胞増殖を抑制するために、人体に投与される細胞治療剤として使用される前に、放射線を照射する段階を含んで製作される。
【0045】
本明細書において用語「放射線照射」は、放射線源から放出される放射線が間葉系幹細胞においてイオン化エネルギーが感受性の高いDNAに作用して直接有効な電離を起こしてDNA鎖が切断される原理を利用して、放射線を照射した間葉系幹細胞は増殖能力を喪失するが、生存期間中に導入された治療遺伝子の発現が維持されることを特徴とする。
【0046】
本発明において放射線は、間葉系幹細胞の増殖を抑制させることができるものであれば、ガンマ線、ベータ線、中性子線、エックス線、電子線など種類に限定されずに使用できる。
【0047】
本発明において前記放射線の「照射線量」は、任意の場所におけるエックス線やガンマ線など放射線が空気中で移動しながら作るカチオンまたは電子エネルギー量の量をいう。したがって、前記照射線量は、放射線照射器の種類、照射される環境および被爆時間などによって実際被験体に吸収される線量に差異を示す。したがって、本発明において照射される放射線の線量は、被験体に放射線のエネルギーが媒質に吸収された程度を示す単位である「吸収線量」に基づいて測定した。すなわち本発明では、不死化幹細胞株が吸収した放射線エネルギーの量にてその範囲を測定した。
【0048】
本発明の一実施例では、不死化幹細胞株としてBDNFが導入されたBM102、BM01A細胞株と、TRAILおよびCDが導入されたBM03細胞株に対して、放射線照射試験を実施し、その結果、特定の吸収線量以上の放射線を吸収した細胞株において、コロニー生成および細胞数の増加がなされないことを確認することによって、前記不死化幹細胞株が細胞治療剤として使用できる最小吸収線量を測定した。
【0049】
すなわち、本発明において吸収線量は、放射線が吸収された幹細胞株を基準として、少なくとも80Gyを超過する範囲であってもよく、好ましくは、81Gy、82Gy、83Gy、84Gy、85Gy、86Gy、87Gy、88Gy、89Gy、90Gyを超過する範囲であってもよく、より好ましくは、80Gy~400Gyの吸収線量の範囲であってもよい。ただし、前記範囲を超過する吸収線量で照射された場合にも、幹細胞の増殖が発生せず、外来タンパク質の発現が維持されることを確認した。前記確認した吸収線量の上限は、実験上測定された範囲であり、その上限が特に制限されるという意味ではない。本発明の一実施例から確認したところ、照射線量の観点から、500Gy以上の放射線照射時にも、本発明の細胞株は臨床試料への使用に適した。
【0050】
また、本発明の一実施例において、幹細胞株が吸収する吸収線量の範囲は、下記の範囲を満たす。
照射線量0~100Gyであるとき、照射線量の90~110%;
照射線量100~200Gyであるとき、照射線量の85~115%;および
照射線量200Gy以上であるとき、照射線量の60~110%。
【0051】
前記範囲を満たす場合、本願発明の不死化幹細胞株は、コロニー形成および細胞数の増加がなされず、導入された外来遺伝子の発現量が一定レベル以上に維持された。これは、不死化遺伝子を導入して大量生産が可能になるように製作した幹細胞株の安全性を確認した結果である。
【0052】
本発明の一実施例において、前記製作過程によって製作された間葉系幹細胞株は、TRE(tetracycline response elements)プロモーター遺伝子および脳由来神経栄養因子(brain-derived neurotrophic factor,BDNF)タンパク質をコードする遺伝子を含む組換えレンチウイルスで形質感染した不死化間葉系幹細胞株であって、前記細胞株は、生体外(ex vivo)でドキシサイクリンを処理して培養した間葉系幹細胞株と比較してドキシサイクリンを除去して培養した間葉系幹細胞株において遺伝子の発現様相が下記のように現れる不死化間葉系幹細胞株を提供する:
BDNF過発現;
ANGPTL4、ANGPT1、CEND1、NFASC、GRAP2またはTRIM6遺伝子の発現量増加;および
IL2RB、IL6、IL1BまたはPTGS2の発現量減少。
【0053】
前記不死化間葉系幹細胞株は、生体外(Ex vivo)でドキシサイクリン処理によってBDNF発現が抑制され、ドキシサイクリン除去によってBDNFが発現する不死化間葉系幹細胞株であって、BDNFの発現有無によって転写産物(transcriptome)が変化可能である。
【0054】
本明細書において用語「転写産物(transcriptome)」とは、発現したすべてのRNAの総和を意味する。本発明の不死化間葉系幹細胞株は、ドキシサイクリン処理の前後と比較して次のようなRNAの変化を含んでもよい。
【0055】
本発明の一実施例において、不死化間葉系幹細胞株をドキシサイクリンが添加された培地で増殖させ、ドキシサイクリンを除去した場合、BDNFが過発現し、ANGPTL4、ANGPT1、CEND1、NFASC、GRAP2およびTRIM6からなる群から選ばれるいずれか一つ以上の遺伝子の発現が増加し、IL2RB、IL6、IL1BまたはPTGS2遺伝子の発現が減少することを確認した(図10a)。
【0056】
本発明のANGPLT4(angiopoietin like 4)およびANGPT1(angiopoiein 1)は、血管生成過程に関連していることが知られており、IL2RB(interleukin 2 receptor subunit beta)、IL6(interleukin 6)、IL1B(interleukin 1 beta)およびPTGS2(prostaglndin-endoperoxidase synthase 2)は、炎症に関連していて、CEND1(cell cycle and neuronal differentiation 1)およびNFASC(neurofascin)は、神経生成過程に関連していて、GRAP2(GRB2-related adaptor protein 2)およびTRIM6(Tripartite motif containing 6)は、免疫システムに関連していることが知られている。
【0057】
本発明の一実施例において、前記不死化間葉系幹細胞株は、ドキシサイクリンが添加された培地で増殖させ、ドキシサイクリンを除去した場合、HLF、ROR2、またはICAM1遺伝子の発現量が減少し、CEBPB、EGR2、BMP8A、BEX2、KLF4、TNFSF15、PTBP3またはIGFBP2遺伝子の発現量が減少することをさらに確認した(図10b)。
【0058】
本発明のHLF(HLF、PAR bZIP transcription factor)、ROR2(Receptor tyrosine kinase like orphan receptor 2)およびICAM1(Intracellular adhesion molecule 1)遺伝子は、細胞分化、移動および増殖を調節する遺伝子であることが知られている。
【0059】
また、CEBPB(CCAAT/enhancer binding protein beta)、EGR2(early growth receptor 2、BMP8A(Bone morphogenetic protein 8a)、BEX2(brain expressed X-linked 2)、KLF4(kruppel like factor 4)、TNFSF15(TNF superfamily member 15)、PTBP3(polypyrimidine tract binding protein 3)およびIGFBP2(insulin growth factor binding protein 2)は、アポトーシスを調節する遺伝子であることが知られている。
【0060】
本発明の一実施例において、前記不死化間葉系幹細胞株は、ドキシサイクリンが添加された培地で増殖させ、ドキシサイクリンを除去した場合、MiR4444-1、MiR4444-2、MiR1244-1の発現が増加し、MiR1244-4、MiR319I、MiRLET7Dの発現が減少することをさらに確認した(図10c)。
【0061】
さらに他の態様において、本発明は、上記で記述したような方法によって製作された不死化間葉系幹細胞株を含む薬剤学的組成物を提供する。前記薬剤学的組成物は、不死化間葉系幹細胞株に導入された外来遺伝子から発現するタンパク質を有効成分とするものでありうる。
【0062】
前記薬剤学的組成物は、薬学的に許容可能な担体をさらに含んでもよい。前記担体は、薬品の製造時に通常用いられるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾアート、プロピルヒドロキシベンゾアート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイルなどを含んでもよい。
【0063】
また、本発明の薬剤学的組成物は、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤およびこれらの組み合わせからなる群から選ばれる薬学的に許容可能な添加剤をさらに含んでもよい。
【0064】
前記担体は、本発明の薬剤学的組成物の総重量に基づいて約1重量%~約99.99重量%、好ましくは、約90重量%~約99.99重量%で含まれ得、前記薬学的に許容可能な添加剤は、約0.1重量%~約20重量%で含まれ得る。
【0065】
前記薬剤学的組成物は、通常の方法によって、薬学的に許容される担体および賦形剤を用いて製剤化することによって単位用量の形態で製造したり、または多用量容器内に内入させて製造できる。この際、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤または乳化液の形態であるか、エキス剤、散剤、粉末、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態であってもよく、分散剤または安定化剤をさらに含んでもよい。
【0066】
本発明の一実施例において、BDNFによって良好に成長することが知られた神経膠細胞C6をBM102細胞株と共培養した場合、BM102細胞株の数字に比例してC6細胞の増殖率が増加することから、BM102細胞株が細胞治療剤として使用できるほどにBDNFを安定的に大量生産することができ、BDNFを安定的に発現するBM102細胞株が神経細胞を保護したり治療する細胞治療剤として使用できることを確認した(図22)。
【0067】
また、本発明の一実施例では、BM102細胞株が細胞培養時に形質転換能力がなく、試験管内(in vitro)腫瘍原性がないことを確認した(図21)。
【0068】
これより、本発明の不死化間葉系幹細胞株は、BDNFおよび不死化遺伝子が導入された形質転換された細胞であるにもかかわらず、腫瘍原性がなく、BDNFの発現を通じて神経保護効果を示すことができるので、多様な中枢神経障害の治療に安全に使用できる。
【0069】
前記神経疾患は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease,AD)、パーキンソン病(Parkinson’s disease,PD)、ルーゲリック病(Amyotrophic Lateral Sclerosis,ALS)、脳梗塞、慢性脳損傷(chronic brain injury)、虚血性脳疾患、脊髄損傷、ハンチントン病(Huntington’s disease,HD)、レット病(Rett’s disease,RD)、脳卒中、多発性硬化症、外傷性脳損傷(Traumatic brain injury)、新生児虚血性脳症(Neonatal Hypoxic ischemic encephalopathy)および勃起不全からなる群から選ばれ得る。
【0070】
また、本発明は、本発明の薬剤学的組成物を個体に投与する段階を含む、上記で記述したような神経疾患を予防または治療する方法を提供する。
【0071】
前記個体は、哺乳動物、具体的に、ヒトでありうる。前記薬剤学的組成物の投与経路および投与量は、患者の状態および副作用の有無によって多様な方法および量で被験体に投与でき、最適な投与方法および投与量は、通常の技術者が適切な範囲で選択できる。また、前記薬剤学的組成物は、治療しようとする疾患に対して治療効果が公知となった他の薬物または生理学的活性物質と併用して投与したり、他の薬物との組み合わせ製剤の形態で剤形化できる。
【0072】
前記薬剤学的組成物を非経口的に投与する場合、その例としては、皮下、眼、腹腔内、筋肉内、口腔、直腸、眼窩内、脳内、頭蓋内(intracranial)、脊椎および髄腔内、脳室内、髓腔内、鼻内、静脈内、頚動脈を含む動脈投与がある。
【0073】
前記投与は、1回以上、2回以上、3回以上、4回以上、1~4回以上投与でき、具体的に2回に分けて投与できる。これを反復投与する場合には、12~48時間、24~36時間隔、1週間、2週間~4週間の間隔で投与でき、具体的には、24時間または1週間以上の間隔で投与できる。前記投与は、レンチウイルスの場合、成人を基準として1日に1.0×10~1.0×1012 TU、具体的に、1.0×10~1.0×1010 TUの量で投与できる。一方、細胞の場合、成人を基準として1日に1.0×10~1.0×1011 cells、具体的に1.0×10~1.0×10 cellsの量で投与できる。投与量が多い場合には、1日に数回にわたって投与できる。
【発明の効果】
【0074】
本発明の不死化幹細胞株の製作方法は、不死化遺伝子および外来遺伝子が導入された幹細胞株に放射線を照射する段階をさらに含み、これによって、異常分化および増殖の可能性が低いため、安全性が高いと同時に、治療成分として使用可能な外来タンパク質の発現量が長期間維持される不死化幹細胞株を製作できる。また、前記製作方法によって製作された不死化幹細胞株は、多様な疾患の予防または治療用薬剤学的組成物に有用に活用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図1図1は、c-Mycによって不死化したMSC(STEM24)と不死化しないMSC(BM-MSC)の細胞増殖率を比較したグラフである: X軸:培養期間;および Y軸:累積細胞集団倍加数(population doubling level,PDL)。
図2図2は、c-MycおよびhTERTが導入されて不死化したMSCと不死化しないMSCの細胞増殖率を比較したグラフである: imMSC:不死化MSC; MSC:不死化しないMSC; X軸:培養期間;および Y軸:累積細胞集団倍加数。
図3a図3aは、BDNFタンパク質発現量が確認されたクローンのドキシサイクリンの存在の有無によるBDNFタンパク質発現量を示すグラフであり、図3aは、本発明のBM102、を選別するためのクローンの発現量を示す図である。
図3b図3bは、BDNFタンパク質発現量が確認されたクローンのドキシサイクリンの存在の有無によるBDNFタンパク質発現量を示すグラフであり、図3bは、BM01Aを選別するためのクローンの発現量を示す図である。
図4図4は、BM102単クローン細胞株の遺伝子操作後のMSCが有する固有な特性である表面抗原タンパク質CD44とCD105などの発現と骨髓由来MSCの表面抗原タンパク質の発現を比較して示す図である。
図5図5は、BDNF遺伝子を含むレンチウイルスで形質導入された不死化MSCの細胞を長期培養することで増殖率を確認したグラフである: X軸:培養期間;および Y軸:累積細胞集団倍加数(population doubling level,PDL)。
図6図6は、ドキシサイクリンの処理有無によるBM102の細胞増殖率を長期培養することで確認したグラフである。 X軸:培養期間;および Y軸:累積細胞集団倍加数(population doubling level,PDL)。
図7図7は、ドキシサイクリンの処理有無によるBM102細胞株の各継代別に形態学的に細胞の特性が維持されることを確認した図である。
図8図8は、ドキシサイクリンの処理有無によるBM102細胞株のBDNFタンパク質発現量を示すグラフである。
図9図9は、BM102細胞株に遺伝子が導入されたことを確認した図である。
図10a図10aは、ドキシサイクリンの処理有無によるBM102細胞株の転写産物を比較して変化する遺伝子を示す図である。図10aは、ドキシサイクリン除去によってBM102細胞株において血管生成、炎症、神経生成および免疫システム過程に関連していると知られた遺伝子の転写産物の変化を示す図である。増加した転写産物の数値は正の値であり、減少した転写産物の数値は負の値で示した。
図10b図10bは、ドキシサイクリン除去によってBM102細胞株において細胞分化、移動、増殖およびアポトーシスに関連していると知られた遺伝子の転写産物の変化を示す図である。増加した転写産物の数値は正の値で、減少した転写産物の数値は負の値で示した。
図10c図10cは、ドキシサイクリン除去によってBM102細胞株においてmicro RNA遺伝子の転写産物の変化を示す図である。増加した転写産物の数値は正の値で、減少した転写産物の数値は負の値で示した。
図11図11は、BDNF発現不死化幹細胞株(BM102)にガンマ線を照射した後、細胞数を測定した結果を示す図である。
図12図12は、BDNF発現不死化幹細胞株(BM102)にエックス線を照射した後、細胞数を測定した結果を示す図である。
図13図13は、BDNF発現不死化幹細胞株(BM102)にガンマ線を照射した後、細胞力価の変化をBDNF発現量を通じて確認した結果である。
図14図14は、BDNF発現不死化幹細胞株(BM102)にエックス線を照射した後、細胞力価の変化をBDNF発現量を通じて確認した結果(1次)である。
図15図15は、BDNF発現不死化幹細胞株(BM102)にエックス線を照射した後、細胞力価の変化をBDNF発現量を通じて確認した結果(2次)である。
図16図16は、BDNF発現不死化幹細胞株(BM01A)にガンマ線を照射した後、細胞数を測定した結果を示す図である。
図17図17は、BDNF発現不死化幹細胞株(BM01A)にガンマ線を照射した後、細胞力価の変化をBDNF発現量を通じて確認した結果である。
図18図18は、TRAILおよびCDを発現する不死化幹細胞株(BM03)に低準位ガンマ線を照射した後、細胞数を測定した結果である。
図19図19は、TRAILおよびCDを発現する不死化幹細胞株(BM03)に高準位ガンマ線を照射した後、細胞数を測定した結果である。
図20図20は、TRAILおよびCDを発現する不死化幹細胞株(BM03)に低準位ガンマ線を照射した後、細胞力価の変化を前記TRAILおよびCD遺伝子発現量を通じて確認した結果である。
図21図21は、BM102細胞株の遺伝子操作後にも腫瘍原性がないことを確認したグラフである。
図22図22は、BM102細胞株とC6細胞を共培養時におけるC6細胞の増殖率を確認したグラフである。X軸:BM102細胞数;およびY軸:C6細胞の増殖率。
【発明を実施するための形態】
【0076】
一態様において、本発明は、不死化遺伝子を導入した幹細胞株を製作する段階と、前記幹細胞株に外来タンパク質をコード化する遺伝子を導入する段階と、前記幹細胞株を凍結保存する段階と、前記凍結した状態の幹細胞株に放射線を照射する段階と、を含む、不死化幹細胞株の製作方法に関する。
【0077】
本発明の一実施態様において、前記不死化遺伝子は、c-Mycおよび/またはhTERTである。
【0078】
本発明の一実施態様において、前記外来タンパク質は、成長因子、サイトカインまたはがん治療タンパク質、抗体およびケモカイン受容体の中から選ばれるものである。
【0079】
本発明の一実施態様において、前記不死化幹細胞株は、ヒト胚性幹細胞(human embryonic stem cell,hES)、骨髄幹細胞(bone marrow stem cell,BMSC)、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell,MSC)、ヒト神経幹細胞(human neural stem cell,hNSC)、角膜上皮幹細胞(limbal stem cell)または口腔粘膜上皮細胞(oral mucosal epithelial cell)である。
【0080】
本発明の一実施態様において、前記放射線は、幹細胞株に対する吸収線量が少なくとも80Gyになるように照射されるものであり、より具体的に、前記吸収線量は、照射線量0~100Gyであるとき、照射線量の80~140%;照射線量100~200Gyであるとき、照射線量の80~140%;および照射線量200Gy以上であるとき、照射線量の60~140%の範囲を満たす。
【0081】
本発明の一実施態様において、前記放射線は、ガンマ線、ベータ線、中性子線、エックス線および電子線を含む群から選はれるものである。
【0082】
他の態様において、本発明は、前記方法によって製作された不死化幹細胞株を含む薬剤学的組成物に関する。
【0083】
本発明の一実施態様において、前記薬剤学的組成物は、脳由来神経栄養因子(BDNF)を発現する不死化幹細胞株を含むものである。
【0084】
本発明の一実施態様において、前記薬剤学的組成物は、神経疾患の予防または治療効果を有するもので、前記神経疾患は、アルツハイマー病(Alzheimer’s disease,AD)、パーキンソン病(Parkinson’s disease,PD)、ルーゲリック病(Amyotrophic Lateral Sclerosis,ALS)、脳梗塞、慢性脳損傷(chronic brain injury)、脊髄損傷、ハンチントン病(Huntington’s disease,HD)、レット病(Rett’s disease,RD)、虚血性脳疾患、脳卒中および外傷性脳損傷(Traumatic brain injury)、新生児虚血性脳症(Neonatal Hypoxic ischemic encephalopathy)、多発性硬化症からなる群から選はれるものである。
【0085】
さらに他の態様において、本発明は、前記方法によって製作された不死化幹細胞株の細胞治療剤としての用途に関する。
【0086】
さらに他の態様において、本発明は、前記方法によって製作された不死化幹細胞株を治療的に有効な量で個体に投与して疾患を治療する方法に関する。
【実施例
【0087】
以下、本発明を下記実施例に基づいて詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示するためのものに過ぎず、本発明がこれらによって限定されるものではない。
【0088】
実施例1.不死化間葉系幹細胞(MSC)の製造
実施例1.1.不死化遺伝子を含むレンチウイルスベクターの製造
MSCを不死化させるために、不死化遺伝子c-Mycおよび/またはhTERTを含むレンチウイルスベクターを製造した。この際、Tet-offシステムを使用するために、tTAタンパク質を発現する遺伝子コンストラクトを共に挿入した。
【0089】
まず、pWPTベクター(Bioneer合成)の発現カセット内にEFプロモーターをCMVプロモーターに置換してpBDレンチウイルスベクターを製作した。前記pBDレンチウイルスベクターに、c-Myc遺伝子(配列番号7)をCMVプロモーターによって発現が調節されうるように挿入した。前記製作されたベクターは、pBD-1と命名した。
【0090】
一方、pBDレンチウイルスベクターに、hTERT遺伝子(配列番号8)をCMVプロモーターによって発現が調節されうるように挿入した。そこに、ゼオマイシン(zeomycin)に対する抵抗性を有する遺伝子(ZeoR;配列番号12)は、RSVプロモーターによって発現が調節されうるように挿入した。前記製作されたベクターは、pBD-2と命名した。
【0091】
また、pBDレンチウイルスベクターに、tTA(tetracycline transactivator)遺伝子配列番号9)をCMVプロモーターによって発現が調節されうるように挿入した。製作されたベクターは、pBD-3と命名した。
【0092】
実施例1.2.不死化遺伝子を含むレンチウイルスの生産
前記実施例1.1.で製作されたレンチウイルスベクターを用いて、次のような方法で不死化遺伝子を含むレンチウイルスを生産した。
【0093】
まず、レンチ-X細胞(Clontech Laboratories、米国)は、10%ウシ胎児血清が含まれたDMEM培地を用いて150mmディッシュ(dish)に培養した。一方、レンチウイルスベクターは、EndoFree Plasmin Maxi Kit(Qiagen、米国)を用いてDH5α大腸菌細胞から抽出および定量した。
【0094】
前記培養されたレンチ-X細胞をPBSで洗浄した後、3mlのTrypLETM Select CTSTM(Gibco、米国)を添加した。細胞を37℃で約5分間放置した後、細胞が脱離されたことを確認した。脱離された細胞を7mlの10%ウシ胎児血清が含まれたDMEM培地を添加して中和させた。中和した細胞は、50mlチューブに集めて1,500rpmで5分間遠心分離した。上澄み液を除去し、10mlの10%ウシ胎児血清が含まれたDMEM培養培地を添加して細胞を再懸濁した。
【0095】
懸濁された細胞は、 ヘモサイトメーターで数を測定した後、150mmディッシュに1.2×10個の細胞になるように分注した。前記分注した細胞の細胞飽和度が約90%程度に培養されたとき、12μgのレンチウイルスベクター、12μgのpsPAX(Addgene;gag-pol発現、パッケージングプラスミド)および2.4μgのpMD.Gプラスミド(Addgene;VSVG発現、エンベローププラスミド)混合物を前記細胞に形質導入した。形質導入を助けるために、リポフェクタミン(Invitrogen、米国)とプラスリエージェント(Invitrogen、米国)を使用した。形質導入6時間後、10%ウシ胎児血清が含まれたDMEMに培地を交換した。これを48時間追加培養した後、上澄み液を集めた。
【0096】
前記収得した上澄み液をレンチウイルス濃縮キット(Lenti-X concentrator、Clontech Laboratories、米国)と混合した後、4℃で一晩中培養した。これを4℃、4,000rpmの条件で2時間遠心分離してウイルスを収得し、これをFBSが含まれていない0.5mlのDMEMに再懸濁した。
【0097】
実施例1.3.不死化間葉系幹細胞の製造
前記実施例1.2.で生産された不死化遺伝子を含むレンチウイルスを用いて不死化MSCを製造した。
【0098】
まず、骨髄由来MSCを次のような方法で準備した。具体的に、健康な供与者(donor)の腸骨稜(iliac crest)から骨髄穿刺液(bone marrow aspirate)を収得した。これを滅菌コンテナで20IU/mlのヘパリンと混合して凝固を抑制した。前記骨髄混合液を4℃、739Gの条件で7分間遠心分離した後、上澄み液を除去し、10倍体積の滅菌された水と混合した。これを同じ条件でさらに遠心分離して、細胞のペレットを収得した。収得されたペレットを20%のウシ胎児血清および5ng/mlのb-FGF(100-18B、Peprotech、米国)が含まれたDMEM-low glucose(11885-084、Gibco、米国)培地に懸濁して、培養フラスコに分注した。これを37℃、5%COの条件で24~48時間培養した後、新しい培地に交替した。これを3~4日の間隔で新しい培地に交替しつつ、継代培養し、培養2週後に蛍光細胞分析装置を用いてMSCの有無を確認した。
【0099】
前記実施例1.2.で生産されたpBD-1レンチウイルスにより前記準備したMSCをレトロネクチン(Retronectin、Clontech Laboratories、米国)を用いて100MOIで感染させた。その結果、c-mycを含むMSCおよびそうでないMSCの細胞増殖率を図1に示した。図1に示されたように、不死化遺伝子c-Mycを含むレンチウイルスによって感染したMSC細胞は、不死化遺伝子によって不滅化するにつれて、感染後に培養30日を基準として増殖率が増加し、50日まで高い増殖率を維持した。その一方で、正常MSC細胞は、培養20日以降には細胞増殖率が急激に減少した。
【0100】
また、前記c-Mycを含むレンチウイルスによって感染した細胞に、hTERTを含むpBD-2レンチウイルスベクターを100MOIで感染させた。感染後、安定化した細胞の培養液に500μg/mlのゼオマイシンを添加して、pBD-2レンチウイルスに感染した細胞を選別した。
【0101】
これについては、図2から明らかなように、不死化遺伝子c-MycおよびhTERTを両方とも含むレンチウイルスによって感染したMSC細胞は、培養120日以降にも高い細胞増殖率を維持した。その一方で、正常MSC細胞は、培養40日以降には細胞増殖率が急激に減少した。
【0102】
また、前記pBD-1および/またはpBD-2に感染した細胞にtTAを含むpBD-3レンチウイルスベクターを100MOIで感染させた。感染後、安定化した細胞の培養液に1μg/mlのピューロマイシンを添加して、pBD-3レンチウイルスに感染した細胞を選別した。
【0103】
実施例2.外来遺伝子を含むレンチウイルスの製作
実施例2.1.BDNF遺伝子を含むレンチウイルスの製作
前記実施例1.1.で製作したpBDレンチウイルスベクターに、BDNF遺伝子(配列番号2)を挿入した。
【0104】
まず、BDNF発現に及ぼすプロモーターの影響を確認するために、CMVプロモーターおよびTREプロモーターをそれぞれ用いてBDNF遺伝子が発現するようにレンチウイルスベクターを製造し、これを用いてBDNF遺伝子を発現するMSCを製造した。その結果、CMVプロモーターが適用された細胞株の場合、長期継代培養時にBDNFを発現するMSCが形態学的に変化し、継代培養が進められるほどBNDFの発現率が減少することを確認した。
【0105】
これより、BNDF遺伝子をTREプロモーターによって発現が調節されるようにそれぞれのpBDベクターに挿入した。TREプロモーターは、ドキシサイクリンの添加有無によって前記プロモーターと連結された遺伝子の発現を調節できる。
【0106】
また、前記製作されたBDNF遺伝子を含むレンチウイルスベクター(pBD-4およびpBD-5)を用いて、前記実施例1.2.の記載と同じ方法でレンチウイルスを生産した。生産されたレンチウイルスは、4.7×10 copies/ml(pBD-4)、1.4×1012 copies/ml(pBD-5)の濃度でそれぞれ準備した。
【0107】
実施例2.2.TRAILおよびCD遺伝子を含むレンチウイルスの製作
TRAILおよびCD遺伝子を含むレンチウイルスは、韓国登録特許第10-1985271号公報に記載された内容によって製作した。前記実施例1.1で製作されたpBDレンチウイルスベクターに、TRAIL遺伝子(配列番号4)およびCD遺伝子(配列番号6)を挿入した。この際、挿入されたTRAILおよびCD遺伝子がIRES(internal ribosome entry site)に連結され、TREプロモーターによって発現が調節されるようにした。IRESは、リボソーム結合部位であり、5’-キャップ構造がなくても翻訳(translation)が開始できるようにして、一つのmRNAで2つのタンパク質が発現できるようにする。一方、TREプロモーターは、ドキシサイクリンの添加有無によって前記プロモーターと連結された遺伝子の発現を調節できる。
【0108】
前記TRAILおよびCDが挿入されたベクターは、pBD-6と命名し、これを用いて、前記実施例1の記載と同じ方法でレンチウイルスを生産した。生産されたレンチウイルスは、7.6×10 TU/mlの濃度で準備した。
【0109】
実施例3.外来遺伝子を含むレンチウイルスで形質感染した不死化幹細胞の製作
実施例3.1.BDNF遺伝子を含むレンチウイルスで形質感染したMSCの製作
3.1.1.BM102細胞株の製作
前記実施例1.3.で製造した不死化MSCに、前記実施例2.1.で生産したBDNF遺伝子を含むレンチウイルスを100MOI感染させて、BDNF遺伝子を発現する細胞を製造した。ここで、前記レンチウイルスは、不死化遺伝子のうちc-Mycが導入されたpBD-1ベクターによって生産されたものを使用した。形質導入された細胞は、2μg/mlのドキシサイクリン(doxycycline、631311、Clontech、米国)が添加された培地で培養することによって、培養中にBDNFタンパク質の発現を抑制させた。
【0110】
Clone select imagerを用いて前記細胞がコロニーを形成するように培養した。96 well plateで細胞を接種したwell別に番号を付与した後、コロニーの形成を確認した200個余りのクローンのうちヒトBDNF DuoSet ELISAキット(R&D systems、DY248、米国)でBDNFタンパク質の発現有無を確認した。
【0111】
前記細胞のうち、pBD-4を導入したレンチウイルスによって製作された不死化MSCは、ドキシサイクリンの除去後、BDNFタンパク質を1.5ng/ml以上発現する#10、#22、#28、#65、#110、#116、#126、#596、#669および#741クローンを選別した。その後、ドキシサイクリン処理時に、BDNFタンパク質を0.5ng/ml以下で発現する#28と#110クローンを選別した(図3a)。
【0112】
前記選別されたクローンの細胞増殖能を確認した結果、安定した増殖パターンを示し、BDNFタンパク質発現量が最も優秀な#28クローンをBM102細胞株と命名し、特許菌株として寄託した(韓国生命工学研究院、KCTC13876BP)。
【0113】
3.1.2.BM01A細胞株の製作
また、前記3.1.1と同一に、pBD-1とpBD-2を導入したレンチウイルスによって感染させた不死化MSCを製作した。前記細胞株の製造方法は、韓国登録特許第10-2074336号に記載された方法によって製作した。ウイルス感染後、細胞を安定化させた後、培養液に500μg/mlのG418を添加して、c-MycおよびhTERT遺伝子が両方とも導入されたpBD-5レンチウイルスに感染した細胞を選別した。選別された細胞は、1μg/mlのドキシサイクリン(doxycycline、631311、Clontech、米国)が添加された培地で培養することによって、培養中にBDNFタンパク質の発現を抑制した。
【0114】
前記選別された細胞がコロニーを形成するように培養した。ヒトBDNF DuoSet ELISAキット(R&D systems、DY248、米国)でBDNFタンパク質の発現有無を確認して、形成された#1~#50のクローンのうちBDNFタンパク質を発現する#10、#12、#14、#18、#20、#22、#23、#26、#29および#41クローンを選別し、ドキシサイクリン処理時にBDNFタンパク質を発現しない#14、#22、#23および#41クローンを再選別した(図3b)。同じ方法で細胞増殖能を確認し、安定した増殖パターンを示し、発現量が最も優秀な#41クローンをBM-01A細胞株と命名した。
【0115】
実施例3.2.TRAILおよびCD遺伝子を含むレンチウイルスに形質感染したMSCの製造
韓国登録特許第10-1985271号に記載された方法によって、前記実施例1-3で製造した不死化MSCに、前記実施例2-2で生産したTRAILおよびCD遺伝子を含むレンチウイルスを感染させて、TRAILおよびCD遺伝子を発現する細胞を製造した。感染は、実施例1-3の記載と同じ方法で行われた。感染後、安定化した細胞の培養液に1μg/mlのドキシサイクリン(doxycycline、631311、Clontech、米国)を添加して、TRAILおよびCDの発現を抑制させた状態で培養した。細胞が安定化した後、ドキシサイクリンを除去した培養培地で72時間培養してTRAILおよびCDの発現を誘導させ、前記細胞でFACSを行って、細胞表面にTRAILを発現する細胞を選別した。
【0116】
具体的に、TRAILおよびCD遺伝子を含むレンチウイルスに感染した細胞をFACSチューブ当たり5×10個になるように分注し、これを4℃で、1,500rpmの条件で5分間遠心分離して、上澄み液を除去した。そこに1mlのFACS緩衝液(2%ウシ胎児血清が含まれたPBS)を添加して細胞を再懸濁し、同じ条件で遠心分離して、上澄み液を除去した。上記の洗浄過程を1回さらに行った後、1mlのFACS緩衝液に細胞を再懸濁した。再懸濁した細胞に200μlのFACS緩衝液に0.3μlのLIVE/DEAD Fixable Near-IR Dead Cell Stain(Life Technologies-Molecular Probes、米国)および5μlの抗TRAIL抗体であるAPC anti-human CD253抗体(BioLegend、Cat#.308210、米国)を添加した混合物を添加して、4℃で30分間反応させた。反応後、上記のような方法で細胞を2回洗浄し、上澄み液を除去した。洗浄した細胞に300μlの固定緩衝液(fixing buffer)(2%ホルムアルデヒドおよび1%ウシ胎児血清が含まれたPBS)を添加し、4℃で最小15分間放置した。前記細胞をFACS(LSRFortessa、BD biosciences、米国)機器で分析して、TRAILを発現する細胞を選別し、コロニーを形成するように培養した。
【0117】
形成されたコロニーから単クローンの細胞を培養して細胞株を確立し、これをBM-03と命名した。
【0118】
実施例4.不死化幹細胞株に対する放射線照射試験
前記実施例3で製作されたそれぞれの不死化MSC細胞株を臨床試料として使用するために、細胞が増殖することなく、治療タンパク質の発現量を維持させるための放射線照射段階をさらに実施し、これを通じて好適な放射線照射(吸収)線量を確認した。
【0119】
まず、剤形化して液体窒素タンクで凍結保管中の不死化MSC細胞株を放射線照射のために製作された移動カートリッジを用いて輸送した。この際、ドライアイスを用いて冷凍状態を維持した。
【0120】
前記凍結状態の不死化MSC細胞株に放射線照射を実施した。放射線照射は、公知の方法および機器を使用し、ガンマ線の場合、低準位ガンマ線照射器または高準位ガンマ線照射器(MDS Nordion、Canada)を使用し、エックス線の場合、X-RAD 320 X-RAY IRRADIATOR(ソウル大学校融合科学技術院)またはRS1800Q(Rad Source technologies,Inc)を使用した。放射線照射中にも移動カートリッジ内部の温度がドライアイスによって凍結状態を持続できる温度に維持され、放射線照射が完了したMSC細胞株は、さらに液体窒素タンクに保管された。
【0121】
放射線照射線量を確認するために、放射線吸収線量は、別途のアラニンドシメータを用いて照射量別に測定し、前記結果値を通じて不死化MSC細胞株の吸収線量を計算することができた。
【0122】
前記放射線照射が完了した不死化MSC細胞株は、検体別に3バイアルずつ37℃恒温水槽で約2分間解凍した後、9mLのPBSを添加して4℃、1,500rpmの条件で5分間遠心分離した後に上澄み液を除去し、10%FBS(16000-044、Gibco、米国)、10ng/mLのb-FGF(100-18B、Peprotech、米国)が含まれたDMEM-low glucose glucose(11885-084、Gibco、米国)培地に懸濁した。懸濁した細胞は、ヘモサイトメーターで数を測定した後、実験を進めた。
【0123】
実験例1.BM102細胞株において表面抗原タンパク質発現の確認
遺伝子を挿入する前の骨髄由来MSCとBDNF遺伝子が挿入されたBM102細胞株の表面抗原タンパク質発現をヒトMSC分析キット(StemflowTM、Cat No562245、BD)を用いて分析した。実験は、各キットに含まれているマニュアルに沿って行われ、実験結果を図4に示した。
【0124】
その結果、図4に示されたように、BM102細胞株は、BDNFを発現させるための遺伝子操作を経た後にも、MSCが有する固有な特性である表面抗原タンパク質CD44とCD105の発現が骨髄由来MSCと類似していることを証明した。
【0125】
実験例2.放射線照射前のBM102細胞株の増殖率の確認
前記実施例3.1.で確立したBM102細胞株の増殖率を確認した。T175フラスコに0.2×10~0.8×10個のBM102細胞株を接種した後、ドキシサイクリンを添加するかまたは添加せず、3日または4日培養を進め、PDL(population Doubling Level)と細胞生存率を測定した。PDLは、「PDL=X+3.222(logY-logI)」公式によって計算し、Xは初期PDL、Iはフラスコに接種された初期細胞数、Yは最終細胞数を示した。確立された細胞株の増殖率を図5および図6に示した。
【0126】
その結果、図5に示されたように、BM102細胞株は、100日を超える期間まで安定的に増殖した。また、図6に示されたように、ドキシサイクリンを添加せずに80日まで培養したBM102細胞株は、ドキシサイクリンを添加して培養したBM102細胞株と比較して細胞増殖率が次第に減少することを確認した。
【0127】
実験例3.継代培養によるBM102細胞株の形態学的確認
前記実施例3.1.で確立したBM102細胞株の継代培養による形態学的変形を確認するために、実験例2.でBM102細胞株の増殖率を確認しつつ、顕微鏡で細胞の写真を撮影し、BM102細胞の形態を図7に示した。
【0128】
その結果、図7に示されたように、BM102細胞株は、100日まで長期培養をしても形態学的に変化がないことを確認し、これを通じて、長期培養による細胞老化のような現象が観察されないことが分かった。しかしながら、ドキシサイクリンを添加せずに培養した場合、BDNFの発現によってBM102細胞株が形態学的に変化することを確認した。これは、BDNFタンパク質が発現することによってBM102細胞に影響を及ぼし、そのため、細胞の特性が変化することを意味する。
【0129】
実験例4.放射線照射前のBM102細胞株においてBDNFタンパク質の発現確認
前記実施例3.1.で確立したBM102細胞においてBDNFタンパク質の発現をELISA分析方法で確認した。具体的に、BDNFタンパク質の発現レベルは、ヒトBDNF DuoSet ELISAキットで確認した。実験は、各キットに含まれているマニュアルに沿って行われた。ドキシサイクリンを除去した培地とドキシサイクリンを除去しない培地で約1×10個の細胞から48時間発現が誘導されたBDNFタンパク質の発現レベルを図8に示した。
【0130】
その結果、図8に示されたように、ドキシサイクリンが存在する培地では、約0.2ngのBDNFが検出されたのに対し、ドキシサイクリンを除去した培地では、約740ngのBDNFが検出された。
【0131】
【表1】
【0132】
その結果、前記表1のように、放射線を照射する前のBM102細胞株においては、約740ng/10 cellsのBDNFタンパク質が発現することを確認した。
【0133】
実験例5.BM102細胞株においてBDNF導入遺伝子の確認
前記実施例3.1.で製造したBM102細胞株に遺伝子が導入されたかを確認するためにPCRを行った。具体的に、前記BM102細胞株を9mlのPBSが含まれた15mlチューブに移した後、1,500rpmで5分間セルダウン(Cell Down)させた。PBSを完全に除去した後、1.5mlチューブに200μlのPBSでペレットを懸濁させた後に移した。その後、NucleoSpin(登録商標)Tissue(MN、740952.250)を用いてgDNAを準備し、下記表2のように混合物を作成した後、下記表3の段階でPCRを行った。この際、陽性対照群として100ngのBM102プラスミドDNAを、陰性対照群として1μlの精製水を入れた。前記BM102プラスミドDNAは、韓国公開特許第2017-0093748号に記載された方法によって分離精製できる。
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【0136】
1%(v/v)アガロースゲルを電気泳動キットに入れた。一番目のウェルに10μlのDNA Size Markerをローディングし、次のウェルから陰性対照群、陽性対照群、3個のBM102検体の順にそれぞれ10μlずつローディングした。以後、100Vで20分間電気泳動を実施し、ゲル写真を撮って、その結果を図9に示した。その結果、図9に示されたように、3個のBM102細胞株がいずれも陽性対照群と同じサイズ(0.6kb)のPCRプロダクトであることを確認した。
【0137】
実験例6.BM102細胞株において転写産物の変化の確認
前記実施例3.1.で製造したBM102細胞株においてドキシサイクリン処理の有無によるBDNF発現による遺伝子の発現変化を確認するために、転写産物の塩基配列分析(transcriptome sequencing)を行った。
【0138】
塩基配列分析は、マクロジェンに依頼して結果を確保した。試験は、NovaSeq 6000 S4 Reagent Kit(illumina)を用いてNovaSeq 6000 System User Guide Document #1000000019358 v02(illumina)によって行い、NovaSeq sequencerおよび1000000019358 v02 software(illumina)を通じて分析を実施した。BM102細胞株においてドキシサイクリン除去によって変化する転写産物は、図10a、図10bおよび図10cに羅列した。
【0139】
その結果、図10aに示されたように、ドキシサイクリン除去によってBM102細胞株において血管生成、炎症、神経生成および免疫システム過程に関連していることが知られたANGPTL4、ANGPT1、CEND1、NFASC、GRAP2およびTRIM6遺伝子の発現が増加し、IL2RB、IL6、IL1BおよびPTGS2の発現が減少することを確認した。
【0140】
また、図10bに示されたように、ドキシサイクリン除去によってBM102細胞株において細胞分化、移動および増殖に関連していることが知られたHLF、ROR2、ICAM1遺伝子の発現が減少し、アポトーシスに関連していることが知られたCEBPB、EGR2、BMP8A、BEX2、KLF4、TNFSF15、PTBP3およびIGFBP2遺伝子の発現が減少することを確認した。
【0141】
さらに、ドキシサイクリン除去によってBM102細胞株においてmicro RNA遺伝子の転写産物の変化がまた確認され、具体的に、MiR4444-1、MiR4444-2、MiR1244-1の発現が増加し、MiR1244-4、MiR319I、MiRLET7Dの発現が減少することを確認した(図10c)。
【0142】
実験例7.BM102細胞株に対する放射線照射試験
BM102細胞株に対して、ガンマ線およびエックス線を用いて放射線照射試験を実施例4のような方法で進め、照射される放射線の種類は、ガンマ線およびエックス線を使用した。
【0143】
まず、80、100、120、140Gyの照射線量でガンマ線を1次照射した後、BM102細胞株の吸収線量と、コロニー形成の有無、細胞数および力価を確認し、200、300Gyの照射線量でガンマ線を2次照射した後、同じ方法で吸収線量、コロニー形成の有無、細胞数および力価をそれぞれ確認した。
【0144】
その結果を下記表4に示した。
【0145】
【表4】
【0146】
また、エックス線を用いて1次に100、200、300、400、500Gyの照射線量でそれぞれ照射して、吸収線量、コロニー形成の有無および力価を確認し、表5および図11に示し、2次に0、50、100、200、300、400、500Gyの照射線量でそれぞれ照射して、その結果を下記の表6および図12に示した。
【0147】
【表5】
【0148】
【表6】
【0149】
実験例7.1.放射線照射されたBM102細胞株のコロニー形成の有無
BM102細胞株に対して、ガンマ線およびエックス線を前記範囲でそれぞれ照射後、コロニー形成の有無を確認するために、6-wellプレートでwellに5×10個の細胞になるように、バイアル当たり12個のwellに分注して、合計2個の6-wellプレートに分注した。プレートを振とうして細胞が均一に広がるようにし、37℃、5%CO培養器で3日あるいは4日ごとに培地を交換しつつ、顕微鏡を用いてコロニーが形成されるかを目視で観察した。
【0150】
その結果、前記表4から明らかなように、ガンマ線を照射した場合、照射線量80Gyであるとき、コロニーが形成され、それ以上の範囲では、コロニーが形成されないことを確認した。コロニーが形成された場合、細胞株の放射線吸収線量は79.5Gyであることが確認され、実験上確認した最大吸収線量は約322Gyであった。
【0151】
また、エックス線の照射結果、コロニー形成の有無に対しても同一に確認した。前記表5および表6から明らかなように、1次実験で照射線量が100Gyである場合には、コロニーが形成されて、臨床試料として使用が適していないことを確認し、それ以上の範囲では、コロニーが形成されなかった。コロニーが形成された場合、細胞株の吸収線量は62.5Gyであることが確認された。
【0152】
その一方で、2次エックス線照射実験で確認したところ、100Gyで照射した場合、吸収線量が83.1Gyと測定された。この際、コロニーは形成されなかった。すなわち、同じ照射線量で照射された場合であるとしても、吸収線量に差異があり得、細胞に吸収される線量が62.5Gyである場合には、臨床試料として使用が適合していないが、83.1Gyである場合には使用が可能であることを確認することができた。したがって、吸収線量を基準として約80Gy超過範囲の放射線が吸収される場合、本発明の細胞株は、臨床試料として使用が可能であることを予測できる。
【0153】
実験例7.2.放射線照射されたBM102細胞株の細胞数の測定結果
前記コロニー形成の有無の試験のために接種された細胞を用いて細胞数測定試験を実施した。前記実験例7でガンマ線が照射されたBM102細胞株に対して、細胞解凍日を基準としてDay 7、14、28、35、49、63日にそれぞれ付着した細胞をトリプシンを用いて脱離させた後、トリパンブルー(Trypan blue)染色を行い、ヘモサイトメーター(Hemocytometer)を用いて総細胞数と生存細胞数の個数を計数した。
【0154】
その結果、下記の表7および図11から明らかなように、ガンマ線を用いた1次照射試験および2次照射試験の両方で、63日まで観察した場合、放射線照射時に細胞が増殖しなかったことを確認した。
【0155】
【表7】
【0156】
また、エックス線を用いて照射実験を進めた細胞株に対して、細胞株を解凍した日以降、14、28、42、56、70日にそれぞれ細胞数を測定した結果、下記の表8、図12のように、300、400、500Gyそれぞれの照射グループで観察したすべての期間中に追加で増殖する細胞がないことを確認した。
【0157】
【表8】
【0158】
実験例7.3.放射線照射されたBM102細胞株のBDNF発現の確認
前記実験例7で放射線を照射したBM102細胞の一部は、力価試験のために12-wellプレートでwellに1×10または5×10個の細胞になるように、バイアル当たり合計1個のwellに分注した。プレートを振とうして細胞が均一に広がるようにし、37℃、5%CO培養器で48時間または60時間培養した。
【0159】
BDNFの発現量を測定するために、前記培養液から上澄み液を収得し、4℃で5,000rpmで5分間遠心分離した後、上澄み液を200μLずつ4個のe-tubeに小分し、-80℃で冷凍保管した。BDNFタンパク質の発現量は、BDNF分析キット(DBD00、R&D systems、米国)を用いて分析した。
【0160】
ガンマ線を照射したBM102細胞株の場合、表4および図13から明らかなように、放射線の照射時にもBDNFの発現量が適正レベル(500ng/5×10/48hrs)以上に維持されることを確認し、エックス線を照射した場合には、表5および図14図15から確認できるように、高い照射線量でもBDNFの発現量が維持されること(100ng/10/48hrs以上または400ng/10/60hrs以上)を確認した。
【0161】
実験例8.BM01A細胞株に対する放射線照射試験
実験例7と同じ方式で、BM01A細胞株に対する放射線照射試験を実施した。照射される放射線の種類は、ガンマ線を使用し、照射線量90、100、110、120Gyのガンマ線を一次に照射した後、吸収線量と、コロニー形成の有無、細胞数および力価を確認し、照射線量140、160、180Gyのガンマ線を2次に照射した後、同じ方法で吸収線量、コロニー形成の有無、細胞数および力価をそれぞれ確認した。その結果を下記表9に記載した。
【0162】
【表9】
【0163】
実験例2.1.放射線照射されたBM01A細胞株のコロニー形成の有無
BM01A細胞株を6-wellプレートで3×10cell/wellの数で分注し、前記実験例7.1.と同じ方法で培養した後、培地でコロニー形成の有無を確認した。
【0164】
その結果、前記表9から明らかなように、照射線量90~120Gyおよび140~180Gyの範囲で全部コロニーが形成されず、これを通じて、コロニーが生成されない最小吸収線量が95.6Gy、最大吸収線量が191.4Gyであることを確認した。
【0165】
実験例8.2.放射線照射されたBM01A細胞株の細胞数の測定結果
前記実験例7.2.と同じ方法で、ガンマ線が照射されたBM01A細胞株の細胞数測定実験を実施した。
【0166】
細胞解凍日を基準としてDay 7、14、28、35、42日に付着した細胞をトリプシンを用いて脱離させた後、トリパンブルーで染色を行い、ヘモサイトメーターで総細胞数と生存細胞数の個数を計数した。
【0167】
その結果、下記表10および図16から明らかなように、BM01A細胞株に対してガンマ線を照射した場合、42日まで観察した場合、細胞数が増殖しないことを確認した。
【0168】
【表10】
【0169】
実験例8.3.放射線照射されたBM01A細胞株のBDNF発現量の確認
前記実験例8で放射線照射されたBM01A細胞株の力価試験のために、実験例7.3.と同じ方法で細胞を培養および冷凍保管した。BM01AのBDNF発現量は、BDNF分析キット(DY248、R&D systems、米国)を用いて分析した。
【0170】
その結果、表9および図17から明らかなように、ガンマ線の照射時に、照射しない場合と比較してBDNFの発現量が高いレベルに維持されることを確認した。
【0171】
実験例9.BM03細胞株に対する放射線照射試験
TRAILおよびCDを発現する不死化幹細胞BM03細胞株に対して、実験例7と同じ方式で放射線照射試験を実施した。BM03菌株の放射線照射試験はガンマ線を活用し、低準位および高準位ガンマ線をそれぞれ照射して、その結果を確認した。
【0172】
低準位ガンマ線は、バイアルに充填後、凍結したBM03(BM03-P005、1×10 cells/ml/vial)を韓国原子力研究院の先端放射線研究所で低準位照射器を用いて放射線照射を実施し、照射線量0、10、20、30、40、50、60、70Gyでそれぞれ照射して、下記の表11のように、吸収線量、コロニー形成の有無、細胞数および力価を確認した。
【0173】
【表11】
【0174】
また、同じ方法で、高準位ガンマ線の照射試験を実施し、高準位ガンマ線は、0、30、40、60、70Gyで1次試験後、0、100、110、120、130Gyの線量で2次試験を実施して、吸収線量、コロニー形成の有無を測定した。バイアルに充填後、凍結されたBM03(1×10 cells/ml/vial)を韓国原子力研究院の先端放射線研究所の高準位照射器を用いて実施し、それぞれの試験において、吸収線量はAlanine doxymeterを用いて測定した。その結果を下記表12のように確認した。
【0175】
【表12】
【0176】
実験例9.1.放射線照射されたBM03細胞株のコロニー形成の有無
前記実験例9のBM03細胞に対するコロニー形成の有無を確認するために、前記実験例7.1.と同じ方式で細胞株のコロニー形成の有無を確認した。前記実験例9で、低準位ガンマ線が照射されたBM03および高準位ガンマ線が照射されたBM03に対してコロニー形成の有無を確認した結果、前記表11および表12から明らかなように、低準位ガンマ線の照射時に、特に50Gy以下の照射線量でコロニーが形成され、高準位ガンマ線の照射時には、60Gy以下の照射線量でコロニーが形成されて、臨床試料として使用するのに適していないことを確認した。しかしながら、低準位ガンマ線の場合、70Gy以上、高準位ガンマ線の場合、100Gy以上では、コロニーが形成されないことを確認した。
【0177】
実験例9.2.放射線照射されたBM03細胞株の細胞数の測定
実験例9.1.で培養される細胞に対して、低準位ガンマ線が照射されたBM03細胞株の場合、細胞解凍日からそれぞれ2、7、14、28、35、42、49日に付着した細胞の数を計数して、培養された細胞数の増加の有無を確認した。
【0178】
その結果、下記表13および図18から明らかなように、10Gy照射グループでは、Day 7から接種数より多い細胞数が確認され、20Gy照射グループでは、Day 14、30、40Gy照射グループでは、Day 21、および50Gy照射グループでは、Day 35に接種数より多い細胞数が確認された。また、60Gy照射グループでは、接種数より少ない数の細胞が維持されたが、Day 42からは細胞数が増加し、70Gyでは、生存細胞数が持続的に減少した。これは、低準位ガンマ線の照射線量および吸収線量が60Gy以下である場合、細胞が増殖する可能性があることを示す。
【0179】
【表13】
【0180】
また、同じ方法で高準位ガンマ線が照射されたBM03細胞株の場合、細胞解凍日から7、14、21、28日(1次)、および7、14、21、28、35、42、49、63日(2次)目に付着した細胞数を計数した。
【0181】
その結果、下記表14および図19から明らかなように、1次実験で30Gy、40Gy照射グループでは、Day 14から接種数より多い細胞数が確認され、50Gy照射グループでは、Day 21、60Gy照射グループでは、Day 28に接種数より多い細胞数が確認された、しかしながら、2次試験結果、100、110、120、130Gy照射グループで63日まで観察した場合、増殖する細胞がないことを確認した。
【0182】
このような結果から、BM03細胞株の場合、最小吸収線量が60Gy以上でなければならないことが分かる。
【0183】
【表14】
【0184】
実験例9.3.放射線照射されたBM03細胞株の遺伝子発現量の確認
放射線照射後、細胞の力価の変化を測定するために、挿入された治療遺伝子TRAILとCD::UPRTを確認できるプライマーを選定した後、qRT-PCR反応を通じて挿入された遺伝子の発現を定量的に測定した。
【0185】
解凍直後、2日、7日、14日間培養した細胞をそれぞれ収穫した後、Trizolを用いてRNAを抽出し、5X Prime Script RT Master Mix(Takara)を用いてRNA 1ugでcDNAを合成し、TRAILとCDそれぞれに特異的に結合できるプライマーを用いてRT-qPCRを行った。
【0186】
その結果、図20から明らかなように、低準位ガンマ線が照射されたBM03細胞株において発現する治療遺伝子TRAILおよびCDの発現量は有意差が発見されなかった。高準位ガンマ線の照射時にも、生存細胞が存在する場合、放射線照射線量による力価の変化が殆どないことを確認した。
【0187】
実験例10.試験管内(in vitro)BM102細胞株の腫瘍原性の確認
CytoSelectTM 96-well Cell Transformation Assayを用いてソフト寒天ゲル(Soft Agar Gels)で骨髄由来MSC、BM102細胞株、陽性対照群(HeLa)および陰性対照群(NIH3T3)において足場非依存性増殖(Anchorage-independent Growth)によるコロニー形成の有無を確認し、MTS溶液で染色して、吸光度を測定することによって、細胞形質転換による腫瘍形成の有無を定量化した。
【0188】
その結果、図21に示されたように、陽性対照群において細胞形質転換によるコロニーが形成され、陰性対照群、骨髄由来MSCおよびBM102細胞株は、コロニーが形成されないことから、BM102細胞株は、細胞培養時に形質転換能力がなく、試験管内(in vitro)腫瘍原性がないことを確認することができた。
【0189】
実験例11.試験管内(in vitro)BM102細胞株の神経細胞の保護および治療効果の確認
BM102細胞株の神経細胞の保護および治療効果を確認するために、BDNFによって良好に成長することが知られた神経膠細胞C6をBM102細胞株と共培養した後、C6細胞の増殖率の増加を細胞数依存的に確認した。
【0190】
具体的に、C6細胞とBM102細胞株をtrans-wellを用いて共培養した。C6細胞を同一に2×10個ずつ96-well plateに接種した後、BM102細胞株は、1×10個から1/2ずつ希釈してtrans-wellに接種する方式で共培養する細胞数を異ならせた。24時間共培養後、培養中のC6細胞培地にMTS溶液を処理して吸光度を測定することによって、BM102細胞株において発現するBDNFタンパク質によるC6細胞の増殖率を定量化した。
【0191】
その結果、図22に示されたように、BM102細胞株の数字に比例して増加するBDNF分泌量によって直接的な接触がなくともC6細胞の増殖率が増加することを確認した。
【0192】
上記結果から、BM102細胞株が細胞治療剤として使用できるほどにBDNFを安定的に大量生産することができ、BDNFを安定的に発現するBM102細胞株が神経細胞を保護したり治療する細胞治療剤として使用できることを確認した。
【0193】
寄託機関名:韓国生命工学研究院
受託番号:KCTC13876BP
受託日:20190702
図1
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図3a
図3b
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図10c
図11
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図15
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図19
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図21
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【配列表】
2022542247000001.app
【国際調査報告】