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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-03
(54)【発明の名称】イオン化コントロール
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20220926BHJP
【FI】
G01N27/62 V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022505507
(86)(22)【出願日】2020-07-23
(85)【翻訳文提出日】2022-03-04
(86)【国際出願番号】 GB2020051758
(87)【国際公開番号】W WO2021019211
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】1910697.0
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514212652
【氏名又は名称】ザ バインディング サイト グループ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】スティーブン ハーディング
(72)【発明者】
【氏名】グレッグ ウォーリス
(72)【発明者】
【氏名】ジェイミー アシュビー
(72)【発明者】
【氏名】ニア マロット
(72)【発明者】
【氏名】サイモン ノース
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041EA04
2G041EA12
2G041EA13
2G041FA12
2G041JA02
2G041LA09
(57)【要約】
一つまたは複数の検体特異的抗体またはその断片から一つまたは複数の所定の検体を溶出するため、または標的抗原から一つまたは複数の所定の抗体または断片を溶出するための溶出バッファーであって;ここでその溶出バッファーはpH1~5を有し;そしてその溶出バッファーは所定の量の酸安定性質量分析イオン化コントロールタンパク質を含む。また、例えば質量分析による、検体の検出および定量におけるその溶出バッファーの使用についても記載されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つまたは複数の検体特異的抗体またはその断片から一つまたは複数の所定の検体を溶出するため、または標的抗原から一つまたは複数の所定の抗体または断片を溶出するための溶出バッファーであって;
ここで前記溶出バッファーはpH1~5を有し;そして前記溶出バッファーは所定の量の酸安定性質量分析イオン化コントロールタンパク質を含む、溶出バッファー。
【請求項2】
前記イオン化コントロールタンパク質が前記溶出バッファー中で少なくとも30日間実質的に安定である、請求項1に記載の溶出バッファー。
【請求項3】
前記イオン化コントロールタンパク質の少なくとも一つの質量分析m/zピーク値が、少なくとも30日間実質的に安定である、請求項1または2に記載の溶出バッファー。
【請求項4】
前記イオン化コントロールタンパク質が、前記または各所定の検体の質量分析ピークと実質的に重ならないm/z値を有する少なくとも一つの質量分析ピークを有するように選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の溶出バッファー。
【請求項5】
前記イオン化コントロールタンパク質が、少なくとも一つの前記所定の検体からの一つまたは複数のピークの検出または定量に使用される所定の質量分析ウィンドウ内で少なくとも一つの質量分析m/zピーク値を有するように選択される、請求項4に記載の溶出バッファー。
【請求項6】
(a)水中の5v/v%酢酸;
(b)0.1Mグリシン、pH2.0~3.0、または0.2MグリシンpH2~6
から選択される溶出バッファーを含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の溶出バッファー。
【請求項7】
イオン化コントロールタンパク質を0.5~100ng含む、前記請求項のいずれか一項に記載の溶出バッファー。
【請求項8】
前記イオン化コントロールタンパク質が少なくとも30個のアミノ酸を含む、前記請求項のいずれか一項に記載の溶出バッファー。
【請求項9】
前記イオン化コントロールタンパク質が少なくとも3kDaの質量を有する、前記請求項のいずれか一項に記載の溶出バッファー。
【請求項10】
前記イオン化コントロールタンパク質がアプロチニン、β2糖タンパク質、トランスサイレチンおよびα1酸性糖タンパク質から選択される、前記請求項のいずれか一項に記載の溶出バッファー。
【請求項11】
前記請求項のいずれか一項に記載の溶出バッファーおよび一つまたは複数の前記所定の検体に特異的な一つまたは複数の検体特異的抗体またはその断片を含む、一つまたは複数の検体の質量分析による解析に使用するためのキット。
【請求項12】
前記検体がタンパク質またはペプチドである、前記請求項のいずれか一項に記載のキット。
【請求項13】
前記検体または抗原特異的抗体が血清タンパク質またはペプチドある、請求項11または12に記載のキット。
【請求項14】
前記血清タンパク質が、補体タンパク質、免疫グロブリンまたはその断片、アルブミン、β2ミクログロブリン、α1ミクログロブリン、シスタチンC、ミクロアルブミン、α1酸性糖タンパク質、α1アンチトリプシン、α2-マクログロブリン、抗ストレプトリジン-О、抗破傷風トキソイド免疫グロブリン、アポリポタンパク質A、アポリポタンパク質B、セルロプラスミン、C反応性タンパク質、ハプトグロビン、プレアルブミン、リウマトイド因子、血清総タンパクトランスフェリン、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)特異的免疫グロブリン、ジフテリア(dipthteria)トキソイド特異的免疫グロブリン、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)特異的免疫グロブリン、チフス菌(Salmonella typhi)特異的免疫グロブリンまたは水痘帯状疱疹(Varicella zoster)ウイルス特異的免疫グロブリンである、請求項11から13のいずれか一項に記載のキット。
【請求項15】
前記検体特異的抗体が、抗IgA、抗IgG、抗IgМ、抗IgD、抗IgD、抗IgE、抗総軽鎖、抗遊離軽鎖、抗ラムダ軽鎖、抗カッパ軽鎖、抗ラムダ遊離軽鎖、抗カッパ遊離軽鎖、抗重鎖サブクラス、抗重鎖クラス-軽鎖タイプまたは抗重鎖サブクラス-軽鎖タイプ特異的である、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記抗体またはその断片が基質に結合している、請求項11から14のいずれか一項に記載のキット。
【請求項17】
抗IgG、抗IgA、抗IgM、抗カッパおよび/または抗ラムダ特異的抗体を含む、請求項15から16のいずれか一項に記載のキット。
【請求項18】
所定の量のコントロール検体を含む、請求項14から17のいずれか一項に記載のキット。
【請求項19】
一つまたは複数の試料希釈バッファー、還元剤、質量分析マトリックス、質量分析マトリックス溶媒、MALDIターゲットおよび質量分析計質量キャリブレータを含む、請求項11から18のいずれか一項に記載のキット。
【請求項20】
標準血清タンパク質コントロールをさらに含む、請求項11から19のいずれか一項に記載のキット。
【請求項21】
所定の検体を免疫精製すること、請求項1から10のいずれか一項に記載の溶出バッファーで前記検体を溶出すること、そして前記検体および前記イオン化コントロールタンパク質を質量分析により検出することを含む、検体の検出または定量方法。
【請求項22】
前記質量分析がMALDI-TOFである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記キットの使用を含む、請求項21から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
(a)前記検体を同定する方法;
(b)前記検体の一つまたは複数の予想されるピークの前記m/zと比較して、前記イオン化コントロールの少なくとも一つのピークの前記m/zを同定する方法;
(c)前記m/z範囲および酸安定性を有するイオン化コントロールタンパク質を同定する方法
を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の溶出バッファーの製造方法。
【請求項25】
コンピュータ実装方法であって、検体をインプットすること、前記検体の一つまたは複数のm/zピークを酸安定性を有する複数のイオン化コントロールタンパク質候補のm/zピークと比較すること、および前記検体に対する前記m/z範囲および酸安定性を有する一つまたは複数のイオン化コントロールタンパク質の同定をアウトプットすることを含む、コンピュータ実装方法。
【請求項26】
前記コンピュータがコンピュータプロセッサおよびコンピュータメモリを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
請求項25または26に記載の前記コンピュータ実装方法の使用を含む、請求項21から24のいずれか一項に記載の方法を一つまたは複数の検体の質量分析によって解析するための装置。
【請求項28】
質量分析計を含む、請求項27に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は質量分析に使用する酸安定性イオン化コントロールを所定の量含む溶出バッファー、かかるバッファーを含むキット、かかるバッファーおよびキットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
質量分析によるタンパク質プロファイリングは、体外診断における重要な臨床的有用性を有する;しかしながら、解析の再現性が潜在的な問題として残っており、そしてピーク強度およびm/z値は実験間で顕著に変動することがある。
【0003】
ヒトの疾患の体外診断において日常的な使用を可能にするために解析の変動性および再現性を制御する現在のアプローチには、自動試料処理、広範囲の前分画戦略、免疫捕獲、予め構築化されたターゲット表面、標準化マトリックス(共)結晶化、改良されたMALDI-TOF質量分析(MS)装置部品、内部標準ペプチド、品質管理試料、反復測定、正規化およびピーク検出のアルゴリズムを含む(Albrethsen, J., Clin Chem 2007; 53(5): 852-858)。
【0004】
しかしながら、これらの方法は、マトリックスと試料間の結晶形成に加えて、他の要因の対象となることから、スポッティング、結晶化およびイオン化を正確に反映することができない。
【0005】
MALDI-TOF MSにおける実験間および実験内の変動性を制御するこれまでの試みは、典型的には、較正ペプチドおよび検体のイオン強度を比較する前に、目的のタンパク質と同等の物理化学的性質を有する内部較正ペプチドを利用して、様々な濃度で試料にスパイクしていた。しかしながら、このアプローチの問題は、ピーク強度に変動性を含むことであった。コントロールと反復アルゴリズムを組み合わせること、および/または複製解析を実施することは、時間の経過に伴ういくつかの分析変動を補正し、MALDI-TOF MSによるタンパク質プロファイリングの再現性を向上させるための可能な解決策として提案されている(Albrethsen, J., Clin Chem 2007; 53(5): 852-858)。
【0006】
例えば、ある研究では、特定の検体と同じ一次配列を持つ合成ペプチドを血液試料にスパイクする方法が利用されている(Yi, Jら, Methods Mol Biol 2011; 728: 161-75)。
【0007】
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析の解析に内部コントロールを使用することで、試料中の細菌の濃度を測定する感度が向上することもまた示された。内部コントロールとしてシトクロムCを添加すると、高濃度の細菌を含む試料ではシグナル強度が20~30%低下したが、いくつかの低濃度の細菌ではシグナル強度が改善された。この場合、タンパク質はマトリックスにスパイクされ、マトリックスと検体の比率が2:1で予備混合された(Gantt, SLら, J Am Soc Mass Spectrom 1999; 10(11):1131-7)。
【0008】
別の実施形態では、大気圧マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析におけるイオン抑制効果は、384Prespotted AnchorChipの全分画に内部標準物質としてアンジオテンシンIIアナログをスパイクすることによって調査された(Li, Gら, Rapid Commun Mass Spectrom 2019; 33(4): 327-335)。その後、シグナル強度をコントロールに従って正規化し、続いてピーククラスタリング解析を行った。より低い強度のピークは、より高い強度のピークと同等の再現性を有した。
【0009】
試料間の定量の変動性を調整する他の試みの一例は、外れ値値除去による解析後の調整、および強度スケーリングによるベースライン除去を含む(Neubertら, J Proteome Res 2008; 7(6) 2270-9)。
【0010】
質量分析法が重要な有用性を有する体外診断使用の一例は、抗体産生細胞に関する多くの増殖性疾患と関連する。
【0011】
抗体分子(免疫グロブリンとしても知られる)は、二回転対称性を有し、そして典型的には二つの同一の重鎖および二つの同一の軽鎖からなり、それぞれ可変および定常領域を含む。重鎖および軽鎖の可変領域が結合して抗原結合部位を形成するため、両鎖は抗体分子の抗原結合特異性に寄与している。抗体の基本的な四量体構造は、ジスルフィド結合により共有結合した2本の重鎖を含む。各重鎖は、次に再度ジスルフィド結合を介して軽鎖に結合する。これは、実質的に「Y」字型の分子を生成する。
【0012】
多くのこのような増殖性疾患は、形質細胞が増殖し、同一の形質細胞のモノクローナル腫瘍を形成する。これにより、同一の免疫グロブリンが大量に産生することになり、単クローン性免疫グロブリン血症として知られている。
【0013】
骨髄腫および原発性全身性アミロイドーシス(ALアミロイドーシス)などの疾患は、英国においてがん死亡者のそれぞれ大体1.5%および0.3%を占める。多発性骨髄腫は、非ホジキンリンパ腫に次いで二番目に多い血液系悪性腫瘍である。白色人種集団では、その発生率は年間100万人あたり大体40人である。従来、多発性骨髄腫の診断は、骨髄中の過剰なモノクローナル形質細胞の存在、血清または尿中のモノクローナル免疫グロブリン、および高カルシウム血症、腎不全、貧血または骨病変などの関連臓器または組織障害に基づいている。骨髄中の正常な形質細胞の含有量は約1%であるが、一方で多発性骨髄腫における含有量は典型的には10%超、しばしば30%以上超であるが90%を超える場合もある。
【0014】
ALアミロイドーシスは、アミロイド沈着物としてモノクローナル遊離軽鎖断片の蓄積を特徴とするタンパク質立体構造障害である。典型的には、これらの患者は心不全または腎不全を呈するが、末梢神経および他の臓器も関与していることがある。
【0015】
患者の血流、または尿中でさえもモノクローナル免疫グロブリンの存在により同定され得る数多くの他の疾患がある。これらは、形質細胞腫および髄外性形質細胞腫(骨髄の外部に発生し任意の臓器に発生し得る形質細胞腫瘍)を含む。存在する場合、モノクローナルタンパク質は典型的にはIgAである。多発性骨髄腫の兆候があってもなくても多発性孤立性形質細胞腫(Multiple solitary plasmacytomas)が生じることがある。ワルデンシュトレームマクログロブリン血症は、モノクローナルIgMの生成に関する低悪性度リンパ増殖性疾患である。米国では年間大体1,500例、英国では300例の新たな症例がある。血清IgMの定量は、診断およびモニタリングの両方で重要である。B細胞性非ホジキンリンパ腫は、英国の全ての癌死亡者のうち、大体2.6%の原因となっており、標準的な電気泳動法を使用して約10~15%の患者の血清中にモノクローナル免疫グロブリンが同定された。B細胞性慢性リンパ性白血病では、遊離軽鎖免疫アッセイによりモノクローナルタンパク質が同定されている。
【0016】
加えて、いわゆるMGUSと呼ばれる状態がある。これらは、意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症のことである。この用語は、多発性骨髄腫、ALアミロイドーシス、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症などの兆候を持たない人に、インタクトなモノクローナル免疫グロブリンが予想外に存在することを表す。MGUSは、50歳以上で人口の1%、70歳以上で3%および80歳以上で10%まで見られることがある。これらのほとんどはIgGまたはIgM関連であるが、よりまれにIgA関連またはバイクローン性(bi-clonal)であることがある。MGUSを持つほとんどの人は関連の無い疾患で死亡するが、MGUSは悪性単クローン性免疫グロブリン血症に変わることもある。
【0017】
上記で示した疾患の少なくともいくつかの症例では、異常な濃度のモノクローナル免疫グロブリンまたは遊離軽鎖が存在する。疾患により形質細胞の異常な複製が生じると、この細胞のタイプによってより多くの免疫グロブリンがしばしば生成され、その「モノクローン」が増殖して血液中に現れる。
【0018】
遊離カッパ軽鎖および遊離ラムダ軽鎖を別々に検出できる高感度アッセイが開発された。この方法では、遊離カッパまたは遊離ラムダ軽鎖のいずれかに特異的なポリクローナル抗体を使用する。WO97/17372では、そのような抗体の可能性を高めることはまた、さまざまに考えられる特異性の一つであるとしても議論された。当該文書は、従来技術で生成できるよりも、より特異的な所望の抗体を生成することを可能にするために動物を寛容化する方法を開示している。遊離軽鎖アッセイは、抗体を使用して遊離ラムダまたは遊離カッパ軽鎖に結合する。遊離軽鎖の濃度は、ネフェロメトリーまたはタービディメトリーによって測定される。
【0019】
遊離軽鎖(FLC)、重鎖またはサブクラス、または重鎖のクラスまたはサブクラスに結合する軽鎖タイプの量またはタイプの特性評価は、多発性骨髄腫などのB細胞性疾患および単クローン性免疫グロブリン血症などのB細胞性疾患(多発性骨髄腫が一例)を含む他の免疫性疾患、高ガンマグロブリン血症および低ガンマグロブリン血症の両方を含む、幅広い範囲の疾患において重要である。
【0020】
WO2015/154052は、その全体が本明細書に組み込まれ、MSを使用した免疫グロブリン軽鎖、免疫グロブリン重鎖、またはその混合物の検出方法を開示している。免疫グロブリン軽鎖、重鎖、またはその混合物を含む試料は、免疫精製され、そしてその試料の質量スペクトルを得るために質量分析に供される。これは、患者からの試料中のモノクローナルタンパク質を検出することに使用できる。また、モノクローナル抗体のフィンガープリント法、アイソタイプおよび同定に使用できる。
【0021】
MSは、例えば、質量および電荷により試料中のラムダおよびカッパ鎖を分離することに使用される。また、例えば、還元剤を使用して重鎖および軽鎖間のジスルフィド結合を還元することで免疫グロブリンの重鎖および軽鎖成分を検出することにも使用され得る。MSはまたWO2015/131169においても記載され、その全体が本明細書に組み込まれる。
【0022】
診断手順における試料中の免疫グロブリンの精製には、典型的に、抗IgG、抗IgA、抗IgM、抗IgD、抗IgE、抗総カッパ、抗総ラムダ抗体または抗遊離軽鎖抗体、例えば抗遊離カッパ(κ)または抗遊離ラムダ(λ)軽鎖抗体などの全抗体および/または遊離軽鎖に対する抗体を使用する。精製および検出工程が正確に行われることを保証するために、キャリブレータを持つことが重要である。
【0023】
WO2017/144900は、検出される検体のより重いバージョンまたは検出される検体のモノクローンのいずれかを利用する多くのコントロールが記載されている。すなわち、例えば、IgAはより重いIgAカッパの所定の量と比較して定量され得る。
【0024】
これは、異なるタンパク質が質量分析マトリックスにおいて異なる割合で結晶化することが予想されたためである。これは、マトリックスが質量分析によってサンプリングされたときに、異なる量のコントロールタンパク質および検体が検出されることを意味することになる。さらに、それらのイオン化率も異なることが予想された。これは、見かけ上検出される免疫グロブリンの量の不一致につながることになる。加えて、質量分析に基づく方法の解析再現性の問題は、ピーク強度が実験間で顕著に変動することがあり、そして記録されたm/z値が影響を与え得る質量ドリフトが発生することがあり得ることを意味する。MALDI-TOFイオン化は、例えば、マトリックス(例えばHCCA)と試料間の結晶形状のスポット間の変動プロセスに依存している。
【0025】
考案者らは、驚くべきことに、質量分析のイオン化における解析の変動性は、免疫沈降の後およびスポッティングの前に、酸性溶出バッファー内で独立したマーカーを使用することによって制御できることを発見した。
【発明の概要】
【0026】
概要
本明細書は、一つまたは複数の検体特異的抗体またはその断片から一つまたは複数の所定の検体を溶出するための、または標的抗原から一つまたは複数の所定の抗体または断片を溶出するための溶出バッファーを提供する:
ここでその溶出バッファーはpH1~5、より好ましくはpH1~3、またはさらにより好ましくはpH1.5~3.0を有する;そして溶出バッファーは所定の量の酸安定性質量分析イオン化コントロールタンパク質を含む。
【0027】
溶出バッファーは、溶出に使用することができ、例えば基質に付着した抗体に結合した検体を溶出するために使用できる。あるいは、標的抗原を基質に付着させ、標的抗原から抗原特異的抗体または断片を溶出させることができる。
【0028】
このような溶出バッファーは、検体特異的抗体に結合した検体を放出するために使用される。イオン化コントロールをバッファーに含めることで、サプライヤーによってそれらを提供できるようになり、ユーザーが使用するイオン化コントロール物質の量を別々に測定または準備しなければならないことに起因するユーザーエラーが減少する。
【0029】
イオン化コントロールは、例えば、MALDIおよびエレクトロスプレー質量分析の両方を含む質量分析の方法において、「ロックマススペクトルキャリブレータ」として使用されることもできる。このようなロックマススペクトルキャリブレータは、イオン化コントロールから得られる既知のm/z値を有するイオンで、装置およびMALDIターゲットプレート内のドリフトから生じるm/zシフトを補正することにより、スペクトル内でリアルタイムに再較正を行うことができる。
【0030】
検体を含む試料は、血液、唾液、血清、血漿、脳脊髄液または尿、より典型的には血液、血清また血漿などの生物学的試料でよい。
【0031】
試料は低ガンマグロブリン血症または高ガンマグロブリン血症を示す被験者からのものでよい。被検者は、単クローン性免疫グロブリン血症などの抗体産生細胞に関連する増殖性疾患を有していてよい。これらには、骨髄腫および原発性全身性アミロイドーシス、形質細胞腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、およびMGUSを含む。
【0032】
イオン化コントロールタンパク質は、所定の検体に適合されるように選択される。
【0033】
イオン化コントロールタンパク質は、少なくとも30日間、より好ましくは少なくとも60日間、典型的には少なくとも4か月間または少なくとも6か月間、溶出バッファー中で実質的に安定であり得る。
【0034】
不適当なコントロールの長期保存は、物理的安定性に問題があり、溶出バッファー中でのタンパク質の沈殿またはその他の影響を受け、ターゲット上での結晶化不良またはイオン化不良を引き起こす可能性があり、これらは両方ともm/zピークの高さや面積に影響を与えることがある。
【0035】
質量またはイオン化状態の変化をもたらすコントロール自体の損傷はまた、測定されたm/zを変化させることもある。
【0036】
コントロールタンパク質は、例えば22℃またはそれ以下、または4℃において安定であり得る。pH、UVまたは光安定性であり得る。
【0037】
イオン化コントロールタンパク質の少なくとも一つの質量分析m/zピーク値は、上記に記載したように実質的に安定であり得る。
【0038】
イオン化コントロールタンパク質は、それまたは各所定の検体の質量分析ピークと実質的に重ならないm/z値を有する少なくとも一つの質量分析ピークを有するように選択され得る。典型的には、一貫してイオン化し、そして典型的に質量分析シグナルの強度に実質的に影響を与えないように選択され得る。
【0039】
イオン化コントロールタンパク質は、少なくとも一つの所定の検体からの一つまたは複数のピークの検出または定量化に使用され、所定の質量分析ウィンドウ内に少なくとも一つの質量分析m/zピーク値、または質量分析計によって見られるm/z範囲を有するように選択され得る。
【0040】
試料は、典型的には、溶出後で質量分析を行う前に、還元剤で処理されることができる。これは、試料中の免疫グロブリン軽鎖が重鎖と結合している場合に特に有用である。還元剤の使用により、重鎖から軽鎖が分離し、質量分析計で軽鎖を別々に検出することが可能になる。還元剤はまた、他の検体タンパク質を分離し、存在する場合はサブユニットを分離することもできる。
【0041】
デカップリングは、全免疫グロブリンを還元剤、例えばDTT(2,3ジヒドロキシブタン-1,4-ジチオール)、DTE(2,3ジヒドロキシブタン(dihydroxybutame)-1,4-ジチオール)、チオグリコレート、システイン、サルファイト、ビサルファイト、スルフィド、ビスルフィド、TCEP(トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン)、2-メルカプトエタノール、およびその塩形態などで処理することにより達成することができる。いくつかの実施形態では、還元工程は、タンパク質を変性させるために、昇温状態、例えば約30℃~約65℃の温度範囲、約55℃などで行われる。
【0042】
デカップリング工程は、通常、試料中の免疫グロブリンの免疫精製または他の濃縮の後、または試料の免疫精製の後の溶出工程の一部として実施される。
【0043】
免疫精製において使用される抗体は、インタクトな抗体またはその断片、例えばFab、F(ab)およびF(ab’)2断片、または単鎖抗体であり得る。抗体またはその断片は、例えば、その全体が本明細書に組み込まれるWO2017144903に記載されているように、架橋されていてもよい。
【0044】
MALDI-TOFなどの質量分析計のイオン化工程に干渉しない限り、任意の酸性バッファー(pH1~5、より好ましくはpH1~3、またはpH1.5~3)を使用することができる。
【0045】
溶出バッファーは、クエン酸、酢酸、ギ酸、尿酸、プロピオン酸などの有機酸、および塩酸などの無機酸を含んでよい。酸性バッファーまたは塩を含む溶液は、高濃度ではイオン化または結晶化を干渉し得るため、特により高濃度においては避けることができる。
【0046】
例えば、本発明の溶出バッファーは、
(a)水中の5%v/v酢酸;
(b)0.1MグリシンpH2.0~3.0、または0.2MグリシンpH2~6
から選択される溶出バッファーを含んでよい。
【0047】
5%酢酸を含むバッファーは、好ましくは大体2のpHを有する。
【0048】
溶出バッファーは、イオン化コントロールタンパク質を1~100ng/μl、より好ましくは1~10ng/μl含んでよい。
【0049】
還元剤は、溶出バッファーと組み合わせて使用してよく、そしてトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン、ジチオスレイトール、2-メルカプトエタノール、またはシステインをさらに含んでよい。還元剤は、予め秤量されていてよく、または10~100mM、またはより好ましくは大体20mMの範囲の最終濃度を供給するために提供されてもよい。
【0050】
イオン化コントロールタンパク質は、少なくとも30個のアミノ酸、または少なくとも50個のアミノ酸を含んでよく、および/または少なくとも3kDaの質量を有してよく、または標的抗原kDaからの一つまたは複数の所定の抗体または断片を溶出するためのものである。
【0051】
イオン化コントロールタンパク質は、検体のアッセイウィンドウ内で使用できるように、異なる質量範囲、またはイオンゲートを有利に有し、または複数の電荷状態を有する。イオン化コントロールタンパク質またはペプチドは、天然物または合成物でよい。
【0052】
イオン化コントロールとして使用するのに適したタンパク質は、アプロチニン、α1酸性糖タンパク質、β2糖タンパク質、またはプレアルブミン(トランスサイレチンとも称される)を含んでよい。より好ましくは、イオン化コントロールは、アプロチニンまたはトランスサイレチンを含んでよい。アプロチニンは、ウシの膵臓に由来するセリンプロテアーゼ阻害剤である。これは、純粋なタンパク質および薬品の両方として商業的供給源から容易に入手可能である;TRASYLOL(CAS番号:9087-70-1、モル質量6511.5Da。UniProtKBアクセッション番号P00974。等電点pH10.5)。中性または酸性媒体中で高温で安定である。トランスサイレチン(TTR、プレアルブミンまたはTBPA)は、血清中および脳脊髄液中に見られる輸送タンパク質で、甲状腺ホルモンのサイロキシンおよびレチノールに結合したレチノール結合タンパク質を運搬する。55kDaのホモテトラマーまたはダイマーの四次構造のダイマーである。ヒトタンパク質は、UniProtKBアクセッション番号P02766を有する。
【0053】
しかしながら、他の実質的に酸に安定的なタンパク質は、異なる質量範囲(イオンゲート)、または一つまたは複数のタンパク質荷電状態が特にm/zアッセイウィンドウにおいて使用するのに適している場合に使用することができる。例えば、m/z 5~30kDaのアッセイウィンドウにおいては、α1酸性糖タンパク質(+1~21560)、β2糖タンパク質I(+1 36255)またはプレアルブミンモノマー(+1~13760)が適することになる。
【0054】
より大きな質量ウィンドウをターゲットにすること、例えばデュアルイオンゲーティングアプローチ、または幅広い質量ウィンドウは、装置の追加プレートの利用およびゲートの反転を通して可能である。
【0055】
本明細書ではまた、上記に記載した溶出バッファー、および一つまたは複数の所定の検体に特異的な一つまたは複数の検体特異的抗体またはその断片とを含む、一つまたは複数の検体の質量分析による解析に使用するキットを提供する。
【0056】
検体または抗原特異的抗体は、タンパク質またはペプチド、より好ましくは血清タンパク質またはペプチドであり得る。
【0057】
抗原特異的抗体には、抗スプレプトリジンО、抗破傷風トキソイド免疫グロブリン、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)特異的免疫グロブリン、ジフテリア(Diptheria)トキソイド特異的免疫グロブリン、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)特異的免疫グロブリン、チフス菌(Salmonella typhi)特異的免疫グロブリンまたは水痘帯状疱疹(Varicella zoster)ウイルス特異的免疫グロブリンを含む。
【0058】
検体が血清タンパク質である場合、血清タンパク質は一つまたは複数の補体タンパク質を含んでいてよく、例えば、血清タンパク質はC1、C2、C3、C4、またはその成分、例えば成分C3a、C3b、C3cなどの一つまたは複数の補体タンパク質成分を含んでよい。
【0059】
血清タンパク質は、免疫グロブリンまたはその断片、アルブミン、β2-ミクログロブリン、α1ーミクログロブリン、シスタチンC、ミクロアルブミン、α1-酸性糖タンパク質、α1-アンチトリプシン、α2-マクログロブリン、抗ストレプトリジンО、抗破傷風トキソイド免疫グロブリン、アポリポタンパク質A、アポリポタンパク質B、セルロプラスミン、C反応性タンパク質、ハプトグロビン、プレアルブミン、リウマトイド因子または血清総タンパクトランスフェリンを含んでよい。
【0060】
検体は、治療用モノクローナル抗体などのモノクローナル抗体であり得る。キット内に含まれ得る検体特異的抗体は、抗IgA、抗IgG、抗IgM、抗IgD、抗IgE、抗総軽鎖、抗遊離軽鎖、抗ラムダ軽鎖、抗カッパ軽鎖、抗ラムダ遊離軽鎖、抗カッパ遊離軽鎖、抗重鎖サブクラス、抗重鎖クラス-軽鎖タイプまたは抗重鎖サブクラス-軽鎖タイプ特異的抗体の一つまたは複数であってよく;より好ましくは抗IgG、抗IgA、抗IgM、抗カッパおよび/または抗ラムダ特異的抗体である。
【0061】
一つまたは複数の所定の検体に特異的な抗体またはその断片は、基質にさらに結合されていてもよく;例えば、抗体またはその断片はラテックスビーズに結合されていてよい。標的抗原はまた、ラテックスビーズなどの基質に結合していてもよい。
【0062】
キットは、所定の量のコントロール検体をさらに含む。
【0063】
キットは、試料希釈バッファー、免疫捕捉試薬またはビーズ、洗浄バッファー、任意の還元剤を含む溶出バッファー、質量分析マトリックス、質量分析マトリックス溶媒、MALDIターゲットおよび質量分析キャリブレータの一つまたは複数を含んでいてよい。
【0064】
キットの還元剤は、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン、ジチオスレイトール、2-メルカプトエタノール、またはシステインを含んでもよく、そして上記のように規定されてもよい。
【0065】
還元剤は好ましくは予め秤量されるか、またはそうでなければ、10~100mM、またはより好ましくは大体20mMの範囲の最終濃度を供給するように提供される。
【0066】
キットは標準血清タンパク質コントロールを追加で含んでよい。例えば、キットは抗ヒト特異的抗体である抗体を含んでよい。
【0067】
本明細書ではまた、所定の検体を免疫精製すること、本発明による溶出バッファーで検体を溶出すること、検体およびイオン化コントロールタンパク質を質量分析により検出することを含む検体の検出および定量の方法を提供する。
【0068】
その方法は、質量分析の任意の特定の方法に限定されない;しかしながら、質量分析の方法は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)またはMALDI-TOF質量分析を含んでよい。より好ましくは、質量分析の方法はMALDI-TOF質量分析を含んでよい。
【0069】
本発明が適用される免疫アッセイは;1)検体の免疫捕捉、2)検体の溶出、3)検体の任意な還元、および4)MALDI-TOFターゲットプレートへの検体のスポッティング、の3つの主な工程を有する。
【0070】
本発明は、イオン化コントロールタンパク質が工程2)に使用される試薬内に含まれることがあり、そのためそのコントロールおよび検体が工程3)の前に組み合わされ、そして工程4で一緒に有利にスポットされることを提供する。これは、イオン化コントロールが工程3における変動性、それに続くMALDI-TOF質量分析計内のイオン化を制御するために使用されるため、重要である。
【0071】
本方法は、先の請求項のいずれか一項に記載の溶出バッファーおよび一つまたは複数の所定の検体に特異的な一つまたは複数の検体特異的抗体またはその断片を含む一つまたは複数の検体の質量分析の解析に使用するため、本発明に従ったキットの使用をさらに提供することができる、
【0072】
本明細書はまた、本発明に従った溶出バッファーの製造方法であって、ここで溶出バッファーは一つまたは複数の検体特異的抗体またはその断片から一つまたは複数の所定の検体を溶出するためのものであって;ここで
溶出バッファーは、pH1~6、より好ましくはpH2~6、さらに好ましくはpH1~4、またはさらにより好ましくはpH1.5~3.0を有する;および当該溶出バッファーは、所定の量の酸安定性質量分析イオン化コントロールタンパク質を含む。
【0073】
本発明による溶出バッファーの製造方法は:
(a)検体を同定する方法;
(b)検体の一つまたは複数の予想されるピークのm/zと比較して、イオン化コントロールの少なくとも一つのピークのm/zを同定する方法;
(c)m/z範囲および酸安定性を有するイオン化コントロールタンパク質を同定する方法、
を含む。
【0074】
検体をインプットすること、検体の一つまたは複数のm/zピークを、酸安定性を有する複数のイオン化コントロールタンパク質候補のm/zピークと比較すること、および検体に対するm/z範囲および酸安定性を有する一つまたは複数のイオン化コントロールタンパク質の同定をアウトプットすることを含む、コンピュータ実装方法。
【図面の簡単な説明】
【0075】
図面の説明
本発明は、下記の図を参照することでのみ実施例の方法をここで記載することになる。
図1図1は、アプロチニンを含む酢酸で溶出した後の検体(カッパ軽鎖(k))の質量分布を示すMALDI-TOF質量スペクトルの一例である。検体(カッパ軽鎖)のピークと干渉していないアプロチニンのシングルピークが観察された(+1電荷)。イオン電荷状態は括弧内に記載した。
図2図2は、検体の存在下および非存在下において相対イオン化コントロールタンパク質のシグナルが安定していることを示す。検体の非存在下で得られたアプロチニンのMALDI-TOF質量スペクトル(黒線)は、正常ヒト血清(NHS)由来のカッパ軽鎖を含むアプロチニンのスペクトル(灰色線および挿入図)と顕著な違いはない。
図3図3は、アプロチニンが5%酢酸中で安定であることを示す。カッパ軽鎖は22℃で保存されていたアプロチニンを含む5%酢酸で定期的に溶出された。各時点でMALDI-TOF質量スペクトルを取得し、アプロチニンおよびカッパ軽鎖(+2)のピーク面積(±標準偏差)を測定した。8週間にわたり、いずれのタンパク質もシグナルの低下は観察されなかった。
図4図4は、イオン化コントロールとしてのアプロチニンに対する検体のシグナルが、時間の経過とともに安定した状態を維持したことを示す。アプロチニンを含む5%酢酸を22℃で保存し、そしてカッパ軽鎖を溶出するために定期的に使用した。各時点でMALDI-TOF質量スペクトルを取得し、そしてアプロチニンおよびカッパ軽鎖(+2)のピーク面積比(±標準偏差)を測定した。8週間にわたり、ピーク面積比に明らかな変化は観察されなかった。
図5a図5はMALDI-TOFイオン化コントロールとしてのトランスサイレチン(TTR)を示す。MALDI-TOF質量スペクトルは、ポリクローナルIgGと混合または混合無しで、酢酸で溶出した後のTTRの質量分布を示す(図5AおよびB)。TTRのピークは、13827m/zおよび6914m/zで観察され、いずれの任意のラムダまたはカッパポリクローナル軽鎖のピークとも干渉していない。TTRイオン化コントロールのピークのシグナル強度は検体の存在下または非存在下で変化は無い(B)。TTRのシグナルピークはまた、アプロチニン(C)または(より大きな質量の)グリコシル化カッパ遊離軽鎖(D)とも重ならない。イオン電荷状態は、括弧内に記載した。
図5b図5はMALDI-TOFイオン化コントロールとしてのトランスサイレチン(TTR)を示す。MALDI-TOF質量スペクトルは、ポリクローナルIgGと混合または混合無しで、酢酸で溶出した後のTTRの質量分布を示す(図5AおよびB)。TTRのピークは、13827m/zおよび6914m/zで観察され、いずれの任意のラムダまたはカッパポリクローナル軽鎖のピークとも干渉していない。TTRイオン化コントロールのピークのシグナル強度は検体の存在下または非存在下で変化は無い(B)。TTRのシグナルピークはまた、アプロチニン(C)または(より大きな質量の)グリコシル化カッパ遊離軽鎖(D)とも重ならない。イオン電荷状態は、括弧内に記載した。
図5c図5はMALDI-TOFイオン化コントロールとしてのトランスサイレチン(TTR)を示す。MALDI-TOF質量スペクトルは、ポリクローナルIgGと混合または混合無しで、酢酸で溶出した後のTTRの質量分布を示す(図5AおよびB)。TTRのピークは、13827m/zおよび6914m/zで観察され、いずれの任意のラムダまたはカッパポリクローナル軽鎖のピークとも干渉していない。TTRイオン化コントロールのピークのシグナル強度は検体の存在下または非存在下で変化は無い(B)。TTRのシグナルピークはまた、アプロチニン(C)または(より大きな質量の)グリコシル化カッパ遊離軽鎖(D)とも重ならない。イオン電荷状態は、括弧内に記載した。
図5d図5はMALDI-TOFイオン化コントロールとしてのトランスサイレチン(TTR)を示す。MALDI-TOF質量スペクトルは、ポリクローナルIgGと混合または混合無しで、酢酸で溶出した後のTTRの質量分布を示す(図5AおよびB)。TTRのピークは、13827m/zおよび6914m/zで観察され、いずれの任意のラムダまたはカッパポリクローナル軽鎖のピークとも干渉していない。TTRイオン化コントロールのピークのシグナル強度は検体の存在下または非存在下で変化は無い(B)。TTRのシグナルピークはまた、アプロチニン(C)または(より大きな質量の)グリコシル化カッパ遊離軽鎖(D)とも重ならない。イオン電荷状態は、括弧内に記載した。
【0076】
20mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)還元剤を含む5%酢酸中の質量分析用のイオン化コントロールとして2ng ml-1のアプロチニンを含む溶出バッファーを調製した。5%酢酸は、免疫捕捉ビーズからの検体の溶出および免疫グロブリン重鎖および軽鎖の分離を同時に促進することの両方に使用した。20mM TCEPは酸安定性還元剤として使用し、インタクトな免疫グロブリンを一緒に保持しているジスルフィド結合を切断した。
【0077】
正常ヒト血清試料(NHS)を1:10に希釈し、(上記の工程1に準じて)、ヒトカッパ免疫グロブリン軽鎖に特異的な抗体を含む常磁性微粒子を使用して捕捉した。これは、還元剤およびアプロチニン(イオン化コントロールとして)の両方を含む酸性バッファー溶液で溶出された。続いて、溶出液をMALDIマトリックス(HCCA)で挟んだ状態でMALDI-TOFターゲットプレートにスポットし、乾燥した。質量スペクトルは、検体(ヒトカッパ軽鎖;表1)の一価(+1、m/z 22705)、二価(+2、m/z 11353)、および三価(+3、m/z 7569)イオンを含む5000~30,000のm/z範囲をカバーするポジティブイオンモードで取得した。
【0078】
【表1】
【0079】
アプロチニンのシグナル強度は、検体の任意の3つのピークに干渉または重なり合っていないm/z 6512の明瞭なピークとして明確に図1に示されている。アプロチニンのシグナルが検体の存在に依存していないことを示すために、後者の存在下(+NHS)および非存在下(-NHS)で解析した。図2は、アプロチニンのイオン化コントロールシグナル強度がいずれの場合でも同じであることを示している。
【0080】
酸性条件下におけるイオン化コントロールの安定性を調査するために、製剤の個々の50mlアリコート(2ng ml-1アプロチニンを添加した5%酢酸)を22℃で保存した。個々のアリコートを一定間隔で除去し、還元剤(TCEP)を補充し、そしてその後MALDI-TOF解析のために抗カッパ微粒子から検体を溶出するために使用した。カッパの検体およびアプロチニンの両方で得られた質量スペクトルピーク面積を図3に示す。両者のピーク面積は、実験中に変動している。この変動は、既知のMALDIスポット間試料の不整合によるものであるが、22℃で60日間にわたり、検体またはアプロチニンのいずれのシグナルにも劣化は無かった。外挿により、アプロチニンは4℃で保存した場合、少なくとも6ヶ月間は酸性条件下で安定であることが示された(アレニウスの式を使用)。安定性データをイオン化コントロールシグナルピークに対する検体シグナルピークの比率で表すと、変動はかなり少なくなる(図4)。これは、異なるMALDI-TOF取得間のイオン化の違いを克服するために、アプロチニン(イオン化コントロールとして)を使用することを説明する。
【0081】
図5は、イオン化コントロールの別の例、トランスサイレチンを示す。MALDI-TOF質量スペクトルは、0.1mg/mlポリクローナルIgGの存在または非存在下における溶出バッファー中のTTR(0.01mg/ml)の質量(m/z)分布を示した(図5AおよびB)。TTRモノマーピークは、13827m/z(+1電荷状態)および6914m/z(+2電荷状態)に観察され、いずれもIgGから任意のラムダまたはカッパポリクローナル軽鎖ピークと干渉していない。TTRイオン化コントロールピークのシグナル強度は、検体の存在下また非存在下においても変化しない(図5B)。TTRシグナルピークはまた、アプロチニン(図5C)または(より大きいm/zの)グリコシル化カッパ遊離軽鎖のそれらのいずれにも重ならない。
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図5c
図5d
【国際調査報告】