(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-03
(54)【発明の名称】ニッケル基合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/05 20060101AFI20220926BHJP
【FI】
C22C19/05 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506017
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(85)【翻訳文提出日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 GB2020051819
(87)【国際公開番号】W WO2021019240
(87)【国際公開日】2021-02-04
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520440054
【氏名又は名称】アロイド リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100209060
【氏名又は名称】冨所 剛
(72)【発明者】
【氏名】クラッデン,デイヴィッド
(57)【要約】
質量%で、17.0~21.3%のクロム、7.1%以下のコバルト、0.9~6.3%のモリブデン、4.9%以下のタングステン、1.8~3.2%のアルミニウム、1.8~4.0%のチタン、3.05%以下のタンタル、3.0%以下のニオブ、0.1%以下の炭素、0.001~0.1%のホウ素、0.001~0.5%のジルコニウム、0.02%以下のマグネシウム、0.5%以下のケイ素、0.1%以下のイットリウム、0.1%以下のランタン、0.1%以下のセリウム、0.003%以下の硫黄、0.25%以下のマンガン、0.5%以下の銅、0.5%以下のハフニウム、0.5%以下のバナジウム及び10.0%以下の鉄を備え、残部がニッケルおよび不可避的不純物である、ニッケル基合金組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、17.0~21.3%のクロム、7.1%以下のコバルト、0.9~6.3%のモリブデン、4.9%以下のタングステン、1.8~3.2%のアルミニウム、1.8~4.0%のチタン、3.05%以下のタンタル、3.0%以下のニオブ、0.1%以下の炭素、0.001~0.1%のホウ素、0.001~0.5%のジルコニウム、0.02%以下のマグネシウム、0.5%以下のケイ素、0.1%以下のイットリウム、0.1%以下のランタン、0.1%以下のセリウム、0.003%以下の硫黄、0.25%以下のマンガン、0.5%以下の銅、0.5%以下のハフニウム、0.5%以下のバナジウム及び10.0%以下の鉄を備え、残部がニッケルおよび不可避的不純物である、ニッケル基合金組成物。
【請求項2】
合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの質量%をそれぞれW
Al、W
Ti、W
Nb及びW
Taとすると、以下の式を満たす、請求項1に記載のニッケル基合金組成物。
(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al≦1.1
好ましくは、以下の式を満たす。
(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al≦1.0
【請求項3】
合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの質量%をそれぞれW
Al、W
Ti、W
Nb及びW
Taとすると、以下の式を満たす、請求項1または2に記載のニッケル基合金組成物。
(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al≧0.64
好ましくは、以下の式を満たす。
(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al≧0.72
より好ましくは、以下の式を満たす。
(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al≧0.76
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al≧0.93
【請求項4】
合金に含まれるガンマプライム相の体積分率は、760℃で48%以下であり、好ましくは760℃で44%以下であり、より好ましくは760℃で40%以下であり、最も好ましくは760℃で36%以下である、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項5】
合金に含まれるアルミニウム、チタン、タンタル及びニオブの質量%をそれぞれW
Al、W
Ti、W
Ta及びW
Nbとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし4のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
3.4≦0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta+0.79W
Al
好ましくは、以下の式を満たす。
3.6≦0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta+0.79W
Al
【請求項6】
合金に含まれるアルミニウム、チタン、タンタル及びニオブの質量%をそれぞれW
Al、W
Ti、W
Ta及びW
Nbとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし5のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
4.6≧0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta+0.79W
Al
好ましくは、以下の式を満たす。
4.3≧0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta+0.79W
Al
より好ましくは、以下の式を満たす。
4.0≧0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta+0.79W
Al
【請求項7】
クロムを、質量%で、18.0%以上備える、請求項1ないし6のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項8】
クロムを、質量%で、19.5%以下備える、請求項1ないし7のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項9】
タンタルを、質量%で、2.25%以下、好ましくは1.5%以下、最も好ましくは0.65%以下備える、請求項1ないし8のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項10】
モリブデンを、質量%で、2.0%以上、好ましくは3.0%以上備える、請求項1ないし9のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項11】
チタンを、質量%で、1.9%以上、好ましくは2.0%以上、より好ましくは2.3%以上、さらにより好ましくは2.4%以上、最も好ましくは2.5%以上備える、請求項1ないし10のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項12】
ハフニウムを、質量%で、0.2%以下備える、請求項1ないし11のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項13】
タングステンを、質量%で、2.7%以下、好ましくは0.7%以下備える、請求項1ないし12のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項14】
ニオブを、質量%で、2.0%以下備える、請求項1ないし13のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項15】
チタンを、質量%で、3.5%以下、好ましくは3.0%以下備える、請求項1ないし14のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項16】
アルミニウムを、質量%で、1.9%以上備える、請求項1ないし15のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項17】
アルミニウムを、質量%で、2.75%以下、好ましくは2.6%以下、より好ましくは2.3%以下備える、請求項1ないし16のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項18】
コバルトを、質量%で、5.3%以下、好ましくは3.5%以下、より好ましくは1.6%以下備える、請求項1ないし17のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項19】
バナジウムを、質量%で、0.3%以下、好ましくは0.1%以下備える、請求項1ないし18のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項20】
合金に含まれるタンタル及びコバルトの質量%をそれぞれW
Ta、W
Coとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし19のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
W
Ta+0.43W
Co≦3.05
好ましくは、以下の式を満たす。
W
Ta+0.43W
Co≦2.25
より好ましくは、以下の式を満たす。
W
Ta+0.43W
Co≦1.5
最も好ましくは、以下の式を満たす。
W
Ta+0.43W
Co≦0.65
【請求項21】
合金に含まれるチタン、ニオブ、タンタル及びアルミニウムの質量%をそれぞれW
Ti、W
Nb、W
Ta及びW
Alとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし20のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
0.6W
Ti+0.44(W
Nb+0.66W
Ta)+0.2W
Al≧2.8
【請求項22】
ニオブを、質量%で、0.3%以上、好ましくは0.4%以上、より好ましくは0.7%以上、さらにより好ましくは0.8%以上、最も好ましくは1.2%以上備える、請求項1ないし21のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項23】
合金に含まれるモリブデン及びタングステンの質量%をそれぞれW
Mo、W
Wとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし22のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
W
Mo+0.5W
W≧3.4
好ましくは、以下の式を満たす。
W
Mo+0.5W
W≧3.6
【請求項24】
合金に含まれるモリブデン及びタングステンの質量%をそれぞれW
Mo、W
Wとすると、以下の式を満たす、請求項1ないし23のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
W
Mo+0.5W
W≦6.3
好ましくは、以下の式を満たす。
W
Mo+0.5W
W≦5.6
より好ましくは、以下の式を満たす。
W
Mo+0.5W
W≦5.1
最も好ましくは、以下の式を満たす。
W
Mo+0.5W
W≦4.3
【請求項25】
合金に含まれるガンマプライム相の体積分率は、760℃で少なくとも29%であり、好ましくは760℃で少なくとも31%であり、最も好ましくは760℃で少なくとも40%である、請求項1ないし24のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項26】
鉄を、質量%で、6.0%以下、好ましくは5.0%以下備える、請求項1ないし25のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物。
【請求項27】
請求項1ないし26のいずれか1つに記載のニッケル基合金組成物で形成された、鋳造及び鍛造部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、650℃を超える高応力高温用途、例えば、ガスタービンエンジン及び他のターボ機械内の回転部品に用いられる、鋳造及び鍛造(C&W)ニッケル基超合金組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最大動作温度及び最大耐用年数の観点に基づき合金の性能を向上させることは、エンジンの効率及びエンジンの動作の費用対効果に対して、重大な影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
高温及び高応力の用途に使用されるC&Wニッケル基超合金の典型的な組成の例を表1に列挙する。より高い強度を備える合金の開発においては、合金の加工性が低下し、より高コストの元素の使用量が増加する傾向があった。表1は、鋳造及び鍛造ガンマ/ガンマプライムニッケル基超合金の、質量%における公称組成である。
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、機械的強度と熱間加工性との間の改善されたトレードオフを達成することである。所定の場合では、WaspaloyやHaynes 282などの合金と比較して機械的強度を向上させることが望まれ、Rene65、AD730、720Li、TMW-4などの高強度合金の強度を目標強度とする。これは、
図2に関連して説明されるように、γ´体積分率をWaspaloyまたはHaynes282よりも高いレベルまで増加させることによって達成された。所定の場合では、より優れた熱間加工性を維持するために、現在の高強度合金であるRene65、AD730、720LiおよびTMW-4よりもγ´ソルバスを低めることが望まれる。その最適な形態において、本発明の合金は、WaspaloyおよびHaynes 282と比較して改善された機械的強度と、Rene65、AD730、720LiおよびTMW-4よりも低いソルバスと、の双方を同時に達成する。
【0006】
本発明によれば、質量%で、17.0~21.3%のクロム、7.1%以下のコバルト、0.9~6.3%のモリブデン、4.9%以下のタングステン、1.8~3.2%のアルミニウム、1.8~4.0%のチタン、3.05%以下のタンタル、3.0%以下のニオブ、0.1%以下の炭素、0.001~0.1%のホウ素、0.001~0.5%のジルコニウム、0.02%以下のマグネシウム、0.5%以下のケイ素、0.1%以下のイットリウム、0.1%以下のランタン、0.1%以下のセリウム、0.003%以下の硫黄、0.25%以下のマンガン、0.5%以下の銅、0.5%以下のハフニウム、0.5%以下のバナジウム及び10.0%以下の鉄を備え、残部がニッケルおよび不可避的不純物であるニッケル基合金組成物が提供される。このような合金は、強度とガンマプライムソルバス温度との間のトレードオフが改善される。
【0007】
一実施形態では、合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの質量%をそれぞれWAl、WTi、WNb及びWTaとすると、以下の式を満たす。
(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≦1.1
好ましくは、以下の式を満たす。
(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≦1.0
このような合金では、特に鋳造および鍛造プロセスによって製造される場合、イータ相及びデルタ相が形成される可能性が低まる。
【0008】
一実施形態では、合金に含まれるアルミニウム、チタン、ニオブ及びタンタルの質量%をそれぞれWAl、WTi、WNb及びWTaとすると、以下の式を満たす。
(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≧0.64
好ましくは、以下の式を満たす。
(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≧0.72
より好ましくは、以下の式を満たす。
(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≧0.76
さらにより好ましくは、以下の式を満たす。
(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≧0.93
このような合金では、機械的強度が向上する。
【0009】
一実施形態では、合金に含まれるガンマプライム相の体積分率は、760℃で48%以下であり、好ましくは760℃で44%以下であり、より好ましくは760℃で40%以下であり、最も好ましくは760℃で36%以下である。これはガンマプライムソルバスを制限するのに効果的であるため、熱間加工性が向上する。
【0010】
一実施形態では、合金に含まれるアルミニウム、チタン、タンタル及びニオブの質量%をそれぞれWAl、WTi、WTa及びWNbとすると、以下の式を満たす。
3.4≦0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa+0.79WAl
好ましくは、以下の式を満たす。
3.6≦0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa+0.79WAl
このような合金は、許容レベルのガンマプライムを有するため、強度が高い。
【0011】
一実施形態では、合金に含まれるアルミニウム、チタン、タンタル及びニオブの質量%をそれぞれWAl、WTi、WTa及びWNbとすると、以下の式を満たす。
4.6≧0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa+0.79WAl
好ましくは、以下の式を満たす。
4.3≧0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa+0.79WAl
より好ましくは、以下の式を満たす。
4.0≧0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa+0.79WAl
このような合金は、より良好な加工性を有する。
【0012】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるクロムは、質量%で、18.0%以上である。このような合金は、耐酸化性及び耐食性が向上している。
【0013】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるクロムは、質量%で、19.5%以下である。このような合金では、有害な相が析出する可能性が低くなる。
【0014】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタンタルは、質量%で、2.25%以下、好ましくは1.5%以下、最も好ましくは0.65%以下である。このような合金では、機械的強度を改善でき、及び/または同じ強度においてニオブのレベルをより低めることができる。
【0015】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるモリブデンは、質量%で、2.0%以上、好ましくは3.0%以上である。このような合金では、耐クリープ性の向上と、低密度と、の改善された組み合わせが得られる。
【0016】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるチタンは、質量%で、1.9%以上、好ましくは2.0%以上、より好ましくは2.3%以上、さらにより好ましくは2.4%以上、最も好ましくは2.5%以上である。このような合金では、ガンマプライムソルバス温度が低くなる。
【0017】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるタングステンは、質量%で、2.7%以下、好ましくは0.7%以下である。このような合金は低密度である。
【0018】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるニオブは、質量%で、2.0%以下である。このような合金は、より優れた耐酸化性を有する。
【0019】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるチタンは、質量%で、3.5%以下、好ましくは3.0%以下である。このような合金は、より優れた耐酸化性を有する。
【0020】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるアルミニウムは、質量%で、1.9%以上である。このような合金では、ガンマプライム相の安定性が向上する。
【0021】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるアルミニウムは、質量%で、2.75%以下、好ましくは2.6%以下、より好ましくは2.3%以下である。このような合金では、強度と熱間加工性との組み合わせがより良好となる。
【0022】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるコバルトは、質量%で、5.3%以下、好ましくは3.5%以下、より好ましくは1.6%以下である。このような合金では、コストが低くなる。
【0023】
一実施形態では、合金に含まれるタンタル及びコバルトの質量%をそれぞれWTa、WCoとすると、以下の式を満たす。
WTa+0.43WCo≦3.05
好ましくは、以下の式を満たす。
WTa+0.43WCo≦2.25
より好ましくは、以下の式を満たす。
WTa+0.43WCo≦1.5
最も好ましくは、以下の式を満たす。
WTa+0.43WCo≦0.65
このような合金では、コストが制限される。
【0024】
一実施形態では、合金に含まれるチタン、ニオブ、タンタル及びアルミニウムの質量%をそれぞれWTi、WNb、WTa及びWAlとすると、以下の式を満たす。
0.6WTi+0.44(WNb+0.66WTa)+0.2WAl≧2.8
このような合金は、より優れた機械的強度を有する。
【0025】
一実施形態では、ニッケル基合金組成物が備えるニオブは、質量%で、0.3%以上、好ましくは0.4%以上、より好ましくは0.7%以上、さらにより好ましくは0.8%以上、最も好ましくは1.2%以上である。このような合金は、より優れた強度を有する。
【0026】
一実施形態では、合金に含まれるモリブデン及びタングステンの質量%をそれぞれWMo、WWとすると、以下の式を満たす。
WMo+0.5WW≧3.4
好ましくは、以下の式を満たす。
WMo+0.5WW≧3.6
このような合金は、固溶硬化によってマトリックスの強度がより高まるため、引張強度や耐クリープ性などの優れた高温特性を備える。
【0027】
一実施形態では、合金に含まれるモリブデン及びタングステンの質量%をそれぞれWMo、WWとすると、以下の式を満たす。
WMo+0.5WW≦6.3
好ましくは、以下の式を満たす。
WMo+0.5WW≦5.6
より好ましくは、以下の式を満たす。
WMo+0.5WW≦5.1
最も好ましくは、以下の式を満たす。
WMo+0.5WW≦4.3
このような合金は、マトリックス相が強いため、高温クリープ強度が良好である。
【0028】
一実施形態では、合金に含まれるガンマプライム相の体積分率は、760℃で少なくとも29%であり、好ましくは760℃で少なくとも31%であり、最も好ましくは760℃で少なくとも40%である。このような合金は、良好な引張強度特性を有する。
【0029】
本明細書における「を備える」との用語は、組成物を100%として、追加の成分の存在を排斥することでパーセンテージを100%にしていることを示すために用いられる。特に明記しない限り、%は質量%として表される。
【0030】
本発明について、単なる例示を通じて、添付図面を参照しながら、さらに十分に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、760℃でのγ´体積分率と、表2に列挙される合金設計領域内の合金のγ´ソルバス温度と、の間の計算された相関関係を示す。破線は、γ´ソルバス温度の好ましい限界を示す。
【
図2】
図2は、760℃でのγ´相の体積分率と、(強度メリット指数の観点からの)合金強度と、の間の計算された相関関係を示す。Rene65、AD730、720Li、TMW-4などの高強度合金の計算された強度を、破線で示す。
【
図3】
図3は、合金強度と、式((0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al)に基づく元素割合と、の関係を示す。グラフに描かれた破線は、γ´体積分率のさまざまな好ましい範囲における強度限界を示す。Rene65、AD730、720Li、TMW-4などの高強度合金の計算された強度を、破線で示す。
【
図4】
図4は、760℃でのγ´体積分率に対する、アルミニウム元素と、(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Taとの関係に基づく)ニオブ元素、タンタル元素及びチタン元素の合計と、の影響を示す等値線図である。
図4には、(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Alとの関係に基づく、チタン元素、タンタル元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の割合の好ましい限界が重ねられている。影付きの領域は、本願における目標組成範囲を定義する。
【
図5】
図5は、(強度メリット指数の観点からの)降伏強度に対する、アルムニウム元素及びチタン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、ニオブ含有量は0.0質量%に固定され、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。
図5には、0.79W
Al+0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Taとの関係に基づく、チタン元素、タンタル元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の合計の好ましい限界が重ねられており、これは様々なレベルのγ´体積分率を示す。
図5には、(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Alの好ましい限界も重ねられている。影付きの領域は、本願における目標組成範囲を定義する。
【
図6】
図6は、(強度メリット指数の観点からの)降伏強度に対する、アルムニウム元素及びチタン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、ニオブ含有量は1.0質量%に固定され、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。
図6には、0.79W
Al+0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Taとの関係に基づく、チタン元素、タンタル元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の合計の好ましい限界が重ねられており、これは様々なレベルのγ´体積分率を示す。
図6には、(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Alの好ましい限界も重ねられている。影付きの領域は、本願における目標組成範囲を定義する。
【
図7】
図7は、(強度メリット指数の観点からの)降伏強度に対する、アルムニウム元素及びチタン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、ニオブ含有量は2.0質量%に固定され、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。
図7には、0.79W
Al+0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Taとの関係に基づく、チタン元素、タンタル元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の合計の好ましい限界が重ねられており、これは様々なレベルのγ´体積分率を示す。
図7には、(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Alの好ましい限界も重ねられている。影付きの領域は、本願における目標組成範囲を定義する。
【
図8】
図8は、(強度メリット指数の観点からの)降伏強度に対する、アルムニウム元素及びチタン元素の影響を示す等値線図である。この合金において、ニオブ含有量は3.0質量%に固定され、タンタル含有量は0.0質量%に固定されている。
図8には、0.79W
Al+0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Taとの関係に基づく、チタン元素、タンタル元素、ニオブ元素及びアルミニウム元素の合計の好ましい限界が重ねられており、これは様々なレベルのγ´体積分率を示す。
図8には、(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Alの好ましい限界も重ねられている。影付きの領域は、本願における目標組成範囲を定義する。
【
図9】
図9は、固溶指数に対する、(W
Mo+0.5W
Wとの関係に基づく)モリブデン元素及びタングステン元素の影響を示す等値線図である。
【
図10】
図10は、目標の安定度数(0.90)を達成可能な最大クロム含有量に対する、γ´体積分率と、(W
Mo+0.5W
Wとの関係に基づく)モリブデン元素及びタングステン元素の合計と、の影響を示す。
【
図11】
図11は、目標の安定度数(0.89)を達成可能な最大クロム含有量に対する、γ´体積分率と、(W
Mo+0.5W
Wとの関係に基づく)モリブデン元素及びタングステン元素の合計と、の影響を示す。
【
図12】
図12は、合金コストに対する、コバルト元素とタンタル元素の影響を示す等値線図である。
【
図13】
図13は、合金密度に対する、タングステン元素とタンタル元素の影響を示す等値線図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
従来、ニッケル基超合金は、経験主義に基づき設計されてきた。したがって、ニッケル基超合金の化学的組成物は、限られた量の材料の小規模処理と、挙動についてのその後の特性分析と、を含む時間のかかる高価な実験開発によって特定されてきた。その後、最良の、またはもっとも望ましい特性の組み合わせを示すことを見出された合金組成物が採用される。この組み合わせを達成可能な合金元素群が多数存在することは、これらの合金が完全には最適化されておらず、より改良された合金が存在する可能性が高いことを示している。
【0033】
超合金においては一般的に、耐酸化性/耐食性を付与するためにクロム(Cr)及びアルミニウム(Al)が添加され、硫化に対する耐性を向上させるためにコバルト(Co)が添加される。耐クリープ性の為に、モリブデン(Mo)、タングステン(W)及びコバルト(Co)が導入されるが、これは、これらの元素が、クリープ変形の割合を決定する熱活性化過程(例えば、転位上昇)を阻害するためである。静的強度及び繰り返し強度を高めるために、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)及びチタン(Ti)が導入されるが、これは、これらの元素が、析出硬化相ガンマプライム(γ´)の形成を促進させるためである。この析出相は、ガンマ(γ)と呼ばれる面心立方(FCC)マトリックス相とコヒーレントである。
【0034】
本明細書においては、ニッケル基超合金の新たなグレードの特定に用いられる、モデルに基づく手法を、「合金設計」(ABD)法という用語で記載する。この手法には、非常に広範な組成領域に亘って設計関連特性を推定するための計算材料モデルのフレームワークが利用される。原則的に、この合金設計ツールにより、いわゆる逆問題が解決可能となる。すなわち、指定された設計制約を最も満足する、最適な合金組成を特定できる。
【0035】
設計過程の第1ステップは、元素表と、その元素表に付随した組成制限の上限及び下限と、を規定することである。本発明においては、「合金設計領域」と呼ばれる、各元素を添加する際の元素ごとの組成制限が考慮される。この組成制限については、表2に詳述されている。表2に、研究された合金設計領域を示す。
【0036】
【0037】
第2ステップは、特定の合金組成物の相図及び熱力学的特性を計算するための、熱力学的計算に基づいて行われる。これは、CALPHAD法(CALculate PHAse Diagram)と呼ばれることが多い。これらの計算を、新しい合金の典型的な使用温度(900℃)で実施することで、相平衡(微細構造)についての情報が得られる。
【0038】
第3段階には、所望の微細構造を有する合金組成物を特定することが含まれる。クリープ変形に対する優れた耐性を必要とするニッケル基超合金の場合、析出硬化相γ´の体積分率が増加するにつれてクリープ破断寿命が徐々に改良される。クリープ破断寿命が最も有益となるγ´の体積分率の範囲は、900℃で60~70%である(ただし、他の設計上の制約により、体積分率はこれよりも低い値に制限されることが多いため、γ´体積分率が50%~60%の合金が含まれる)。γ´の体積分率が70%を超えると、耐クリープ性の低下が観察される。
【0039】
また、γ/γ´格子不整は、コヒーレンシーを失うため、正又は負のうち、いずれか小さい値に従う必要がある。したがって、制限はその値の絶対値に依存する。格子不整δは、γ相とγ´相との間の不整合として定義され、以下の式によって求められる。
【0040】
【0041】
ここで、αγ及びαγ´は、γ相及びγ´相の格子定数である。
【0042】
したがって、このモデルにより、γ´の体積分率の計算結果が所望の値となる、設計領域内における全ての組成物が特定される。これらの組成物では、γ´の格子不整が所定の絶対値未満である。
【0043】
第4段階では、データセット内に残った特定された合金組成物について、メリット指数が推定される。メリット指数には、クリープメリット指数(平均組成のみに基づく合金の耐クリープ性を示す)、強度メリット指数(平均組成のみに基づく合金の析出降伏強度(an alloy’s precipitation yield strength)を示す)、密度、コスト、微細構造安定性及びガンマプライムソルバス温度が含まれる。
【0044】
第5段階では、計算されたメリット指数が所望の挙動に対する制約と比較され、これらの設計制約が、問題に対する境界条件とみなされる。境界条件を満たさないすべての組成物は排斥される。この段階において、試験データセットのサイズは非常に小さくなる。
【0045】
最後の第6段階には、残った組成物のデータセットを分析することが含まれる。この分析は、様々な方法で行われ得る。1つには、メリット指数が最大値を示す合金について、データベースを介して分類してもよい。メリット指数が最大値を示す合金とは、例えば最軽量合金、最も耐クリープ性が高い合金、最も耐酸化性が高い合金、及び最も安価な合金である。又は、その代わりに、データベースを用いて、特性の異なる組み合わせによって生じる、性能の相対的なトレードオフを求めてもよい。
【0046】
7つのメリット指数を説明する。
【0047】
第1のメリット指数はクリープメリット指数である。最も重要な観測は、ニッケル基超合金の時間依存変形(即ち、クリープ)が、γ相に限られた初期活性に伴う転位クリープによって発生することである。したがって、γ´相の割合が大きくなるため、転位セグメントが急速にγ/γ´界面に固定される。律速段階は、γ/γ´界面からの、転位のトラップされた構成の離脱である。それは、クリープ特性に対して合金組成物が及ぼす重大な影響を引き起こす局所化学(この場合はγ相の組成)に依存する。
【0048】
物理学に基づいた微細構造モデルは、荷重が一軸であって<001>結晶学的方向に沿っている場合において、クリープ歪ε・の蓄積速度に援用される。集合方程式は、以下の式である。
【0049】
【0050】
ここで、ρmは可動転位密度、φpはγ´相の体積分率、ωはマトリックスチャネルの幅である。項σ及びΤはそれぞれ、作用応力及び温度である。項b及びkはそれぞれ、バーガースベクトル及びボルツマン定数である。項KCFは、拘束係数である。
【0051】
【0052】
項KCFは、これらの合金内の立方状粒子の近接度を示す。式3は、乗算パラメータC及び初期転位密度の推定を必要とする転位乗算過程を示している。項Deffは、粒子/マトリックス界面における上昇過程を制御する有効拡散率である。
【0053】
なお、上述の内容において、組成依存性は、2つの項φpとDeffから生じる。したがって、微細構造が一定である(微細構造の大部分が熱処理によって制御される)と仮定すると、φpが固定されるため、化学組成への依存性は、Deffによって生じる。ここに説明されている合金設計モデリングの目的のために、各プロトタイプ合金組成物に対して式2及び式3の完全な積分を実施する必要がないことがわかる。代わりに、最大化が必要な、一次メリット指数Mcreepが用いられる。Mcreepは、以下の式で求められる。
【0054】
【0055】
ここで、xiは、γ相中の溶質iの原子分率である。Di
~は、適切な相互拡散係数である。
【0056】
第2のメリット指数は強度メリット指数である。高ニッケル基超合金の場合、強度の大部分は析出相に由来する。したがって、析出強度を最大とするために合金組成を最適化することは、設計上の重要な考慮事項である。硬化理論に基づき、強度のメリット指数Mstrengthが提案される。この指数は、(弱い結合から強い結合への転位せん断の移行が起こる点として決定される)最大可能析出強度を考慮しており、下記の式を用いて近似される。
【0057】
【0058】
ここで、M-はテイラー係数、γAPBは逆位相境界(APB)エネルギー、φpはγ´相の体積分率、bはバーガースベクトルである。
【0059】
式(5)より、γ´相における欠陥エネルギー(例えば逆位相境界APBエネルギー)が、ニッケル基超合金の変形挙動に大きな影響を与えることは明らかである。APBエネルギーを増加させることは、引張強度およびクリープ変形に対する耐性を含む機械的性質を改善することがわかった。APBエネルギーの研究は、密度汎関数理論を用いて、多くのNi-Al-X系について行われた。この研究により、γ´相のAPBエネルギーに対する三元元素の影響が計算され、複合多成分系を考慮した場合における、各三元元素の添加による影響の線形重畳が仮定された。その結果、以下の式が導かれた。
【0060】
【0061】
ここで、xCr、xMo、xW、xTa、xNb及びxTiはそれぞれ、γ´相におけるクロム、モリブデン、タングステン、タンタル、ニオブ及びチタンの原子%濃度を表す。γ´相における組成は、相平衡計算によって求められる。
【0062】
第3のメリット指数は、密度である。密度ρは、混合物の単純な規則及び補正係数を用いることで計算された。ここで、ρiは所与の元素の密度であり、xiは合金元素の原子分率である。
【0063】
【0064】
第4のメリット指数は、コストである。各合金のコストを推定するために、混合物の単純な規則を適用した。ここで、各合金のコストは、合金元素の質量分率xiに、合金元素の現在(2017)の原材料コストciを掛けたものを用いた。
【0065】
【0066】
この推定は、加工コストがすべての合金において同一であると仮定している。すなわち、製品収率は組成物による影響を受けない。
【0067】
第5のメリット指数は、TCP相に対する感受性(susceptibility)に基づいて作成された不適切な微細構造を基礎とする合金候補の除外に基づいている。これを行うために、合金元素のd軌道エネルギーレベル(Mdと称す)を用い、以下の式に従って総有効Mdレベルを決定する。
【0068】
【0069】
ここで、xiは、合金に含まれる元素iのモル分率を表す。Mdの値が高いほど、TCP形成の可能性が高いことを示す。
【0070】
第6のメリット指数は、ガンマプライムソルバス温度である。ガンマプライムソルバスは、ガンマプライムの体積分率が0になる傾向がある温度として定義される。これは、合金設計法の第2ステップにおいて上述したように、熱力学計算を用いて決定される。特定の合金組成物の相図及び熱力学的特性を計算し、相転移が生じる温度を発見するために用いる。
【0071】
第7のメリット指数は固溶メリット指数である。固溶硬化は、ガンマ(γ)と呼ばれる(FCC)マトリックス相で起こり、特にこの硬化メカニズムは、高い強度及び耐クリープ性のために、高温において重要である。マトリックス相の強化に対する個々の溶質原子の重ね合わせを仮定するモデルが採用されている。設計領域内で考慮される元素の固溶強度係数kiは、アルミニウム、コバルト、クロム、モリブデン、ニオブ、タンタル、チタンおよびタングステンにおいてそれぞれ、225、39.4、337、1015、1183、1191、775および977MPa/at.%1/2である(H. Roth, C. Davis, and R. Thomson: Metallurgical and Materials Transactions A, 1997, vol. 28, pp. 1329 - 1335)。固溶指数は、以下の式を使用して、マトリックス相の平衡組成に基づいて計算される。
【0072】
【0073】
ここで、Msolid-solutionは固溶メリット指数、xiは、γマトリックス相中の元素iの濃度である。
【0074】
上述のABD法を用いて、本発明の合金組成物を特定した。この合金の設計意図は、高強度と良好な熱間加工性との改善されたバランスを有する、鋳造および鍛造(C&W)タイプの合金を開発することである。これは、合金コストの削減、高レベルの耐酸化性および耐食性、優れた微細構造安定性、および優れた合金密度と組み合わせて実現される。新たな合金の特性のバランスによれば、特に応力が高く且つ温度が650℃以上という構造用途での使用において、従来技術で説明されている他のC&W合金に比べて大幅な利点がもたらされる。
【0075】
高応力且つ高温で使用される商業用のC&W合金の公称組成(表1に記載)における、(ABD法を用いて決定された)材料特性を、表3に列挙する。これらの合金について列挙されている予測特性と関連付けて、新しい合金の設計が考慮された。表3は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相割合、不整合及びメリット指数を示している。これは、表1に列挙されたニッケル基超合金に関する結果である。
【0076】
新しい合金の設計原理について、以下に説明する。
【0077】
【0078】
鋳造および鍛造(C&W)形態で使用されるニッケル基超合金では、熱間加工能力(「熱間加工性」)と合金の強度との間にバランスがある。
図1は、一般に、主要な強化相であるγ´の増加と、γ´ソルバス温度の増加と、には相関関係があることを示している。典型的には、本発明の合金は、ソルバス温度の近くまたはそれ以上の温度で熱間加工される。したがって、γ´ソルバスが高くなると、高温での変形に対する材料の耐性が高まるため、熱間加工がより困難になる。さらに、熱間加工温度が上昇すると、熱間加工後の冷却時に蓄積する熱誘起応力が増加し得る。これは、熱間加工材料の冷却時における亀裂、例えば、急冷亀裂またはひずみ時効亀裂メカニズムにつながる可能性がある。
【0079】
図2では、合金の望ましい動作温度(約700~750℃)での強度の増加(強度メリット指数で決定)が、γ´ソルバス温度の増加と相関していることがわかる。したがって、
図1と
図2から、熱間加工プロセスで合金を製造する能力と、動作中の全体的な強度と、の間に複雑なトレードオフがあることが示される。
【0080】
図1と
図2は、トレードオフが存在するものの、表2で定義された合金設計領域内に、表1に列挙される現在の合金より熱間加工性と高温強度の組み合わせが改善された合金組成が存することを示す。本発明の目的は、WaspaloyまたはHaynes 282などの合金と比較して改善された機械的強度を達成することであり、好ましくは、Rene65、AD730、720LiおよびTMW-4などの高強度合金に匹敵する強度を目標とする。これは、
図2に関連して説明されているように、γ´体積分率を、WaspaloyまたはHaynes282よりも高いレベルに上げることによって実現される。機械的強度の向上と組み合わせて、現在の高強度合金(Rene65、AD730、720LiおよびTMW-4)よりソルバスを低めることが望まれている。これにより、より優れた熱間加工性が維持される。
【0081】
図1は、表2に列挙されている組成領域における、γ´体積分率とγ´ソルバス温度との相関関係を示す。所定のγ´体積分率に対して、γ´ソルバス温度に最大約100℃の広がりがあることがわかる。高温強度と熱間加工性の優れた組み合わせを備えた合金の場合、γ´体積分率の最大値と、γ´ソルバス温度の最小値と、を達成することが好ましい。合金Rene65及びAD730のソルバスは、1100℃である。本発明において、改善された成形性を確実にするために、1080℃以下のソルバスを有することが望ましい。したがって、γ´体積分率は、760℃で48%までに制限される。本発明において、強度、耐酸化性および合金微細構造安定性の組み合わせを確保するために、γ´体積分率を44%以下に制限することが望ましい。これは、
図10~11を参照して後で説明される。所定の場合では、熱間加工性をさらに向上させるためにγ´ソルバスを1050℃までに制限することが望ましく、より好ましくは、熱間加工性をさらにより向上させるためにγ´ソルバスを1025°Cまでに制限する。したがって、γ´体積分率は、好ましくは40%以下、より好ましくは36%以下に制限される。これは、強度の低下を犠牲にしてもたらされ得る。
【0082】
図2は、強度メリット指数の観点から、γ´相の体積分率と合金強度との間のトレードオフを示す。γ´体積分率が増加するにつれて、合金強度が増加する一般的な傾向があることがわかる。ただし、
図3および
図5~8を参照して後で説明するように、所定のγ´体積分率において、合金の最適な化学的性質を選択することで強度を変更できる可能性がある。いくつかの高強度C&W超合金の強度レベルを、
図2に示す。本発明の合金は、少なくともAD730またはRene65と同等の強度を有することが望ましい。これを達成するには、760℃で最低29%のγ´体積分率が必要である。好ましくは、合金720Liと同等の強度を有する合金が望ましく、より好ましくは、合金TMW-4と同等の強度を有する合金が望ましい。したがって、γ´の最小値が少なくとも31%であることがより好ましく、40%以上のγ´体積分率を有することが、さらにより好ましい。
【0083】
図3は、式((0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al)に基づく、合金強度と元素割合との関係を示す。グラフに描かれている破線は、前のセクションで説明した、γ´体積分率のさまざまな範囲での強度の限界を示す。γ´相のアルミニウムを、チタン元素、ニオブ元素及びタンタル元素に置き換えると、APBエネルギーが増加するため、合金の強化が促進される(式6参照)。ただし、値が高すぎると、イータ相やデルタ相などの不要な相が形成される可能性がある。C&W製造ルートを介して製造される合金において、これらの不要な相の析出を避けるために、式((0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al)に基づく元素の比率は、望ましくは1.1以下、より好ましくは1.0以下である。これは、インゴットの製造中に発生する元素の偏析に特に関係があり、それは、元素の偏析が合金の一部の領域をより高い比率で局所的に濃縮できる(locally enrich)ためである。元素の偏析が、合金の一部の領域をより高い比率で局所的に濃縮できることにより、合金が(粉末冶金など)別の方法で製造された場合に達成できるレベルよりも、低いレベルに保たれる。
図3は、γ´体積分率が44%以下の場合、比率が0.64以上だと、強度メリット指数がRene65及びAD730の強度メリット指数と等しくなるため、これが比率の望ましい最小レベルであることを示している。
図3は、γ´が熱間加工性をより向上させる範囲(29~36%)の場合、比率が0.72以上だと、Rene65及びAD730と同等の強度が達成されるため、これが比率の望ましい最小レベルであることも示している。γ´が熱間加工性をより向上させる範囲(29~40%)の場合、比率が0.76以上だと、合金720Liと同等の強度レベルが達成されるため、これが比率の望ましい最小レベルである。γ´が熱間加工性をさらにより向上させる最も好ましい範囲(29~36%)である場合、比率が0.93以上だと、合金720Liと同等の強度レベルが達成され、強度と熱間加工性との最も好ましいバランスがもたらされるため、これが比率の望ましい最小レベルである。
【0084】
図4は、(等値線としての)合金γ´の割合と、(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Taの関係に基づく)チタン、タンタル及びニオブの合計対プロットされたアルミニウムに基づく合金組成と、の関係を示す。チタン、ニオブ及びタンタルの添加量には、質量%を「アルミニウム相当量」に変換するための重み係数が付与される。これにより、大幅に密度が異なる元素を、直接比較することができる。たとえば、アルミニウムは2.7g/cm
3の密度を有するのに対して、チタンは4.5g/cm
3の密度を有するため、係数として0.6が適用される(すなわち、2.7/4.5=0.6)。チタンと同様に、ニオブ元素(8.57g/cm
3)及びタンタル元素(16.4g/cm
3)の添加量を「アルミニウム相当量」に変換するために、定数が追加される。すなわち、ニオブ及びタンタルの補正係数は、アルミニウムに対するそれらの元素の密度から決定され、それぞれ0.31と0.15である。
図4より、以下の式に従って、アルミニウム、チタン、タンタル及びニオブの添加量によってγ´体積分率が決定されることがわかる。
f(γ´)=0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta+0.79W
Al
【0085】
ここで、f(γ´)は数値であり、ガンマプライム割合を29%以上とするためには、この数値を3.4以上とする必要がある。W
Ti、W
Nb、W
Ta及びW
Alはそれぞれ、合金に含まれるチタン、ニオブ、タンタル及びアルミニウムの質量%である。ガンマプライム体積分率を31%以上とするためには、f(γ´)の数値範囲を3.6とすることが好ましい。クロム含有量を17.0質量%以上とすることにより、高強度と、高い耐酸化性及び高い耐食性と、の組み合わせが実現される。これは、表3に列挙されている高強度合金(AD730、720Li及びTMW-4)よりも高く、これらの合金と比較して酸化に関する良好さがもたらされる。合金の安定性を維持しながら(すなわちTCP相を実質的に含まずに)、高いクロム含有量を達成することが望ましい。したがって、(
図10、11を参照して後で説明するように)ガンマプライム割合を44%以下にすることが有益である。ガンマプライム割合を44%以下とするには、f(γ´)の数値を4.6以下とする必要がある。したがって、f(γ´)の数値範囲は、3.6~4.6の範囲であることが好ましい。熱間加工性をより向上させるには、合金のγ´ソルバス温度を1050℃以下にすることが、より好ましい。これにより、γ´が40%以下に制限され、f(γ´)の数値が4.3以下となる。さらにより好ましくは、合金のγ´ソルバス温度を1025℃以下とする必要がある。これにより、γ´割合が36%以下に制限される。これを実現するには、f(γ´)の数値を4.0以下とする必要がある。
【0086】
760℃でのγ´体積分率は、以下の手順によって実験的に測定される。長時間760℃の熱に暴露した後、(例えば1cm3の)試料が水で急冷されて材料の一部が切り取られ、走査型電子顕微鏡を用いて従来の/標準的な冶金準備技術を利用して研磨される。準備が完了するとγ/γ´の微細構造を走査型電子顕微鏡によって観察できるようにし、直径30nm以上の粒子を観察できるようにする。統計的に代表的なデータセットを提供する、最低10枚の画像が撮影される。該画像は少なくとも1mm2の領域をカバーする必要がある。γ/γ´の微細構造を明らかにする2次元画像を、γ´相を特定するように処理し、ガンマプライム相の面積率を算出する必要がある。該相の面積率は、γ´体積分率とみなされる。
【0087】
図4から、((0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al≦1.1の場合に達成される)強度、加工性及びガンマプライム相安定性の組み合わせを実現するために必要な最小アルミニウム含有量は、1.8質量%以上であると判断される。好ましくは、(γ´相の安定性を高めるために)(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al≦1.0の場合、アルミニウム含有量の最小値は1.9質量%以上に制限される。 γ´体積分率が44%であって(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al≧0.64の場合、合金に含有されるアルミニウムの最大値は3.2質量%までに制限される。好ましくは、γ´が40%以下であって(0.6W
Ti+0.31W
Nb+0.15W
Ta)/W
Al≧0.76である場合、アルミニウム含有量は、2.75質量%までに制限する必要がある。
【0088】
最も好ましくは、γ´が36%以下である場合、強度と熱間加工性とをより良好なバランスとするために、(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≧0.72であることがより良好であり、すなわちアルミニウム含有量を2.6質量%以下とすることが望ましい。さらに好ましくは、強度と熱間加工性のより良好な組み合わせのために、(0.6WTi+0.31WNb+0.15WTa)/WAl≧0.93とする必要があり、合金中のアルミニウムを2.3質量%までに制限する必要がある。
【0089】
本発明の合金の場合、700℃以上の温度において引張特性およびクリープ特性を高レベルとすることが必要である。しかしながら、これらの特性と組み合わせて、合金の耐酸化性を高めることが望ましい。酸化は、本発明のいくつかの適用分野において失敗の原因となる可能性がある。特に、ガスタービンにおける高温高応力の用途では、酸化アシスト亀裂メカニズム(oxidation assisted cracking mechanism)が生じる可能性があり、例えば、タービンディスク合金において滞留疲労(dwell fatigue)が発生する可能性がある。この亀裂メカニズムは、極端な環境で動作しているときに、合金内での急速な酸化(及び酸化ニオブや酸化チタンなどの非保護酸化物の形成)によって促進される。保護酸化物の形成は、(合金の耐酸化性を向上させることによって)亀裂の成長を阻止するのに役立つ。酸化割れに対する感受性を低減するために、本発明は、耐酸化性を改善する元素(主にクロム)のレベルを高め、酸化に悪影響を与え得る元素(主に、非保護酸化物を形成し得るチタンおよびニオブ)の使用を制限することを目的とする。
【0090】
酸化に対する耐性をもたらすために、クロムを高レベルとすることが好ましい。クロムを高レベルとすることにより、高温腐食に対する耐性も向上させる。クロムのレベルを少なくとも17.0質量%とする必要がある。これにより、他の高強度合金(TMW-4、Alloy 720Li、AD730、Rene 65)よりも優れた耐酸化性と耐食性が得られる。ただし、クロムが添加されると、シグマ(σ)相などの有害なTCP相を合金が形成する傾向が高まる。TCP相は高温動作中における材料特性の劣化を引き起こすため、TCP相形成の析出を制限または停止することは有益である。耐酸化性と高温強度との間の特性のトレードオフについては、
図10~11を参照して後述する。
【0091】
チタンは、クロム基の酸化物スケールの保護能力を制限し且つ酸化速度を加速させる酸化チタンを形成することにより、クロミア形成超合金の酸化性能を低下させることが知られている(S. Cruchley, et al., Chromia layer growth on a Ni-based superalloy: Sub-parabolic kinetics and the role of titanium, Corrosion Science 75:58-66, 2013 参照)。本発明において、チタンは、より良好な耐酸化性を備えるために、3.5質量%までに制限されることが好ましい。より良好なレベルの耐酸化性を備えるために、チタンのレベルをさらに低めることが好ましい。チタンは3.0質量%までに制限されることが好ましい。これにより、非常に良好な酸化特性を有することが知られているWaspaloyと同等の酸化性を達成しうる。また、Waspaloyは、滞留疲労などの酸化アシスト亀裂メカニズムに対して、優れた耐性を有することも知られている。
【0092】
同様に、滞留疲労から保護するために、合金のニオブ含有量を3.0質量%以下に制限する必要がある。ニオブは、ピリング-ベッドワース比の高い酸化ニオブを形成すると、酸化アシスト亀裂の成長を加速させる(すなわち、酸化ニオブの体積膨張が大きいため、体積増加の結果として、合金に応力が発生する)ことが知られている。酸化環境での使用に特に適した実施形態では、ニオブは2.0質量%以下である。なぜなら、合金が含有するニオブを2.0質量%以下とすることにより、酸化環境にさらされたときに酸化ニオブの形成傾向をあまり示さず、すなわち合金に悪影響を及ぼさないためである(Nemeth A.A.N et. al., On the Influence of Nb/Ti Ratio on Environmentally Assisted Crack Growth in High-Strength Nickel Based Superalloys, Metal. And Mat Trans A 49:3923-3937, 2018 参照)。
【0093】
合金強度を高めるために使用される主な合金添加物は、ガンマプライム(γ´)形成元素、アルミニウム、チタン、ニオブ、タンタルである(強度メリット指数の観点から決定される)。
図5~8は、合金の強度に対するアルミニウム、チタン、ニオブの元素の影響を示す。
【0094】
図5~8に基づき、元素添加量(チタン、アルミニウム、ニオブに基づく)と、目標合金強度と、の関係が導き出された。3次元局面を表す関係は、次のように決定された。合金強度と、アルミニウムおよびチタンと、の関係は、目標強度を1450MPa以上として、
図5~8から決定され、これは、これらの値の等値線において決定された。異なるニオブ含有量の関数としての線の平行移動は、
図5~8から決定された。説明したプロセスに基づいて、アルミニウム、チタン及びニオブの添加量は、次の式に従うことがわかる(ただし、ニオブはAPBエネルギー強度に大きな影響を与えるため(式6参照)、γ´形成への影響に基づいて決定された0.31の代わりに、0.44が係数としてニオブに適用されることに留意されたい。式6に基づき、ニオブのAPB強度係数は21.4であり、チタンに適用される係数は15であるため、強度において、ニオブは1.42倍強力である。この係数にニオブのアルミニウム相当量(0.31)を掛けると、係数0.44が導き出される(すなわち、1.42×0.31=0.44)。)。
f(strength)=0.6W
Ti+0.44W
Nb+0.2W
Al
ここで、f(strength)は数値であり、W
Ti、W
Nb及びW
Alは、それぞれ合金中のチタン、ニオブ及びアルミニウムの質量パーセントである。強度メリット指数が1450MPa以上の合金を製造するには、f(strength)の数値を2.8以上とする必要がある。
【0095】
γ´体積分率が44%以下(f(γ´)≦4.6)の場合、最大のニオブ含有量を3.0質量%とすると、1450MPa以上の強度メリット指数を達成するためには、チタンの最小値は1.8質量%必要である。したがって、合金の最大ニオブ含有量は3.0%である。好ましくは、γ´体積分率が40%以下(f(γ´)≦4.3)に制限され、さらに好ましくはγ´体積分率が36%以下(f(γ´)≦4.0)であり、すなわち、チタン含有量がそれぞれ、1.9質量%以上及び2.0質量%以上であることが好ましい(
図8)。1450MPa以上の強度メリット指数を達成すべく、γ´体積分率を44%以下(f(γ´)≦4.6)とするために、好ましいニオブ含有量(2.0質量%)において、チタンの最小値を2.3質量%とする必要がある(
図7)。好ましくは、γ´体積分率が40%以下(f(γ´)≦4.3)に制限され、さらに好ましくはγ´体積分率が36%以下(f(γ´)≦4.0)であり、すなわち、チタン含有量がそれぞれ、2.4質量%以上及び2.5質量%以上であることが好ましい(
図7)。
【0096】
チタンの最大含有量が3.5質量%の場合、合金にニオブが含まれていないと、1450MPaの強度メリット指数を達成することは困難である(
図5)。ただし、このような合金は、γ´ソルバスが低いため、並外れた熱間加工性を備える。合金にニオブが含まれていない場合、チタンの最小値を4.0質量%とすることにより、1450MPaの強度メリット指数が達成される(
図5)。したがって、チタンの最大量は4.0%である。チタンが3.5質量%以下の場合、ニオブを添加することで、1450MPaの強度メリット指数を達成できる。この強度メリット指数を達成するには、チタン0.5質量%に相当するニオブの添加が必要である。したがって、1450MPaの望ましい強度メリット指数を達成するために、合金には最低0.4質量%のニオブが必要である(次の方法で決定すると、係数0.6で除して係数0.44をかけたチタン0.5質量%は、ニオブ0.4質量%に相当する)。より好ましくは、チタンは3.0質量%までに制限され、これは、1.0質量%相当のニオブが必要であることを意味し、これは、1450MPaの目標強度メリット指数を達成するためには、0.7質量%のニオブである。最も好ましくは、チタンが3.0質量%までに制限され、1550MPaの強度メリット指数が達成される場合、1.6質量%のチタンに相当するニオブが必要であり、これは、1.2質量%以上のニオブ含有量に相当する。
【0097】
タンタルは、3.05質量%以下の量で存在する任意の元素である。この制限は、合金コストを管理するためのものである(
図12参照)。本発明の一実施形態において、タンタルは、ニオブの代替として3.05質量%のレベルまで添加され、タンタルの密度(.15/.31)及び強度係数(27.1/21.4)に基づいて、0.66Taの置換係数が導き出される。タンタルが3.05質量%で、合金にニオブが含まれていない場合でも、高い強度メリット指数を備える合金を実現することができる。好ましくは、タンタルは、コストを制御するために、2.25質量%まで、より好ましくは1.5質量%まで、最も好ましくは0.65質量%までに制限される(
図12を参照して後述する)。
f(strength)=0.6W
Ti+0.44(W
Nb+0.66W
Ta)+0.2W
Al
強度メリット指数が1450MPa以上の合金を製造するには、f(strength)の値を2.8以上とする必要がある。
【0098】
(強度メリット指数の観点から算出された)ガンマプライム相に起因する析出硬化に基づく強度寄与の増加とともに、強力なガンママトリックス相を有する合金を設計することが望ましい。ガンママトリックスの強度は、固溶メリット指数の観点から算出することができる。固溶強度は、合金に高温強度(引張強度及びクリープ強度の双方)を付与するために、特に重要である。タングステン及びモリブデンは、係数が大きく、ガンマ相に強力に分配される。これと異なり、ニオブ及びタンタルは、強度係数は大きいものの、ガンマ相への分配が制限される(式10参照)。そのため、合金のガンマ相の固溶強度は、主にタングステン及びモリブデンの添加量に依存する。
図9は、モリブデン、タングステン及び固溶指数の関係を示す。タングステンの密度はモリブデンの密度の約2倍であるため、タングステン含有量に対して係数0.5が適用される。すなわち、この係数は、密度の相違を説明している。優れたレベルの加工性を維持しながら、表3に記載の合金と同等またはそれ以上のクリープ強度を実現するために、固溶指数を(TMW-4と同等の)97MPa以上とすることが望ましい。
図10より、タングステン及びモリブデンの添加量と、固溶指数と、の関係を決定することができる。
f(solid solution)=W
Mo+0.5W
W
【0099】
ここで、95MPa以上の固溶メリット指数を有する望ましい合金を実現するために、f(solid solution)は、3.4以上の数値が必要であり、WMo及びWWはそれぞれ、合金内のモリブデン及びタングステンの質量%を表す。f(solid solution)は3.6以上であることが望ましい。これにより、固溶メリット指数を100MPa以上とすることができる。
【0100】
図10は、目標安定度数0.9において、達成可能な最大クロム含有量での、γ´体積分率と、(W
Mo+0.5W
Wの関係に基づく)モリブデン元素及びタングステン元素の合計と、の影響を示す。タングステンはモリブデンの約2倍の密度を有するため、タングステンには補正係数0.5が適用される。この係数は、元素の密度の実質的な違いを示す。
【0101】
(強度メリット指数の観点から)合金の強度要件に基づくと、γ´体積分率は29%以上である。耐クリープ性と高温強度を実現するには、固溶指数を高くする必要があり、(W
Mo+0.5W
W)の最小値は3.4質量%である必要がある。これらの最小要件と、クロム含有量を少なくとも17.0質量%とする必要がある点と、に基づくと、前述の望ましい特性とともに目標安定度数(Md≦0.90)を達成するために、γ´体積分率は44%までに制限する必要があることがわかる。γ´体積分率のレベル(29%)では、W
Mo+0.5W
Wは6.3質量%までに制限される。したがって、Mo含有量の最大値は6.3%以下である。合金の最大クロム含有量は、強度(γ´体積分率及び高温強度)、(W
Mo+0.5W
W))及び耐酸化性のバランスを確保するために、21.3質量%以下に制限される(
図10)。好ましくは、合金のクロム含有量は、18.0質量%以上であり、これにより、合金にさらに良好な耐酸化性および耐食性がもたらされる。このレベルのクロムにおいては、γ´相の体積分率は40%までに制限されることが好ましく、モリブデン元素とタングステン元素の合計は(Mo+0.5Wの関係に従って)5.6質量%までに制限される。
【0102】
好ましくは、より良いレベルの微細構造安定性を確保し、TCP形成を回避するために、目標安定度を0.89以下とすることが望ましい。表3で最も望ましい安定性を有する合金は、0.89以下の安定度数を有する。
図11は、目標安定度数0.89において、達成可能な最大クロム含有量に対する、γ´体積分率と、モリブデン元素及びタングステン元素の合計(W
Mo+0.5W
Wの関係に基づく)と、の影響を示す。安定度数が0.89の場合、合金に含有されるクロムは19.5質量%以下に制限されることが好ましい。γ´相の体積分率の最大値は39%以下に制限されることが好ましい。好ましくは、好ましいクロム含有量(18質量%以上)が合金に含まれる場合、(W
Mo+0.5W
Wの関係に基づく)モリブデン元素とタングステン元素の合計は、5.1質量%までに制限される。このレベルのクロムにおいては、γ´相の体積分率は36%までに制限され、モリブデン元素とタングステン元素の合計は(W
Mo+0.5W
Wの関係に基づいて)4.3質量までに制限される。
【0103】
表1に定義されている鋳造及び鍛造合金の場合、合金AD730は、700℃以上の動作温度での高応力用途に適した最も低コストの合金である。現在の元素価格(2019年)に基づく合金のコストは、14.6$/kgと推定される。これらの用途で最も有名な鋳造及び鍛造合金は合金718であり、合金718の組成の例が挙げられており(Ni-19Cr-0.8Ti-0.5Al-3Mo-29.7Fe-5Nb-0.06C)、この合金の推定コストは9.9$/kgである。ただし、IN718は、高応力用途では、650℃以下の動作温度に制限される。本発明では、AD730よりも著しく低い目標コスト(14$/kg)が望まれる。表2で定義されている組成領域で、コストに影響を与える主な元素は、タンタルとコバルトであり、合金コストに対するこれらの元素の影響を
図12に示す。したがって、最大コバルト含有量を7.1質量%とすることが望ましく、好ましくは合金コストは13$/kgまでに制限されるので、コバルトを5.3質量%以下に制限することが好ましい。より好ましくは、合金コストは12$/kgまでに制限されるので、コバルトを3.5質量%以下に制限することが好ましく、最も好ましくは、合金コストは11$/kgまでに制限されるので、コバルトを1.6質量%以下に制限することが最も好ましい。
【0104】
図12から、コバルトとタンタルの添加量は次の式に従うことがわかる。
f(cost) = W
Ta+0.43W
Co
ここで、f(cost)は数値であり、W
Coは合金中のコバルトの質量パーセントである。14$/ kg以下のコストを有する合金を製造するには、f(cost)の数値が3.05以下である必要がある。元素コストが13$/kg以下、12$/kg以下、11$/kg以下の合金を製造するには、f(cost)の数値をそれぞれ、2.25以下、より好ましくは1.5以下、最も好ましくは0.65以下にすることが望ましい。
【0105】
コストを削減し、合金のリサイクル能力を高めるために、鉄を合金に加えることができる。鉄を添加すると、微細構造が不安定になる可能性がある。鉄の添加量を10.0質量%までに制限することにより、低コスト、改善されたリサイクル性および微細構造安定性の良好なバランスを生み出す。より好ましくは、鉄を6質量%以下に制限し、より好ましくは、鉄を1.0質量%から5.0質量%の範囲とすることが望ましい。これは、コストと、リサイクル性と、合金性能と、の間の最良のバランスをもたらす。
【0106】
タングステン元素とタンタル元素は、合金の強度と耐クリープ性を大幅に向上させることができる。ただし、これらの元素はニッケルよりもはるかに密度が高いため、合金の密度を上げることもできる。強度の増加と密度の増加のバランスをとる方法で、これらの元素を添加することが重要である。
図13は、γ´相の体積分率が29~44%である合金における、合金密度に対するこれらの元素の影響を示す。表3に列挙されている合金よりも密度が高くならないように、目標密度を8.6g/cm
3以下とすることが望ましい。したがって、タングステンの添加量は4.9質量%以下に制限される。前述のように、タングステンは固溶強化を通じて強度と耐クリープ性をもたらす役割も果たすが、必要な固溶強化を達成するには、Mo+0.5W≧3.4質量%であることが前もって決定されている。最大タングステン添加量(4.9質量%)に基づいて、モリブデンを少なくとも0.9質量%添加する。より好ましくは、タングステンは、8.5g/cm
3以下の密度を達成するために、2.7質量%以下に制限され、最も好ましくは、8.4g/cm
3以下の密度を達成するために、タングステンは0.7質量%以下に制限される。したがって、最小モリブデン含有量を、少なくとも2.0質量%、最も好ましくは3.0質量%とすることが好ましい。
【0107】
粒界に強度を与えるためには、炭素、ホウ素、ジルコニウムの添加が必要である。これは、合金のクリープ特性及び疲労特性に特に有益である。炭素濃度は、0.1質量%以下に制限される必要があり、より好ましくは、炭素は、合金の鍛造性を改善するので、0.07質量%以下に制限される。ホウ素は凝固中に液相に分離し、合金の溶接中に液化割れを引き起こす可能性があるため、ホウ素濃度は0.001~0.1質量%、好ましくは0.03質量%以下に制限される。より好ましくは、ホウ素濃度は、良好な溶接性を確保するために、0.02質量%以下に制限される。ジルコニウム濃度は、0.001質量%~0.5質量%、好ましくは0.01質量%以下、より好ましくは0.006質量%以下の範囲とする必要がある。マグネシウムの添加は、鍛造合金の高温延性を改善するために使用でき、熱間加工性とクリープ破断寿命が改善される。200PPMまでのマグネシウムの添加が望ましく、好ましくは、熱間加工性およびクリープ破断特性を改善するために、合金に10PPM~100PPMの間でマグネシウムを添加することが望ましい。
【0108】
合金が製造されるとき、合金に不可避的不純物が実質的にないことが有益である。これらの不純物には、硫黄元素(S)、マンガン元素(Mn)及び銅元素(Cu)が含まれ得る。硫黄元素は、0.003質量%(質量換算で30PPM)以下とすべきである。マンガンは、0.25質量%までに制限される不可避的不純物であり、好ましくは0.1質量%以下に制限される。銅(Cu)は、好ましくは0.5質量%までに制限される不可避的不純物である。0.003質量%を超える硫黄の存在は、合金の脆化を引き起こす可能性があり、また、硫黄は、酸化中に形成される合金/酸化物界面に偏析する。このため、硫黄のレベルは、好ましくは、0.001質量%以下である。不可避的不純物であるバナジウムは、合金の酸化挙動に悪影響を及ぼすため、好ましくは0.5質量%までに制限され、好ましくは0.3質量%以下、最も好ましくは0.1質量%以下に制限される。この偏析は、保護酸化物スケールの破砕の増加につながる可能性がある。これらの不可避的不純物の濃度が指定されたレベルを超えると、製品の歩留まりと合金の材料特性の劣化に関する問題が予期される。
【0109】
合金内の不可避的不純物を拘束するため、及び強度を付与するために、ハフニウム(Hf)を0.5質量%まで添加すること、より好ましくはハフニウム(Hf)を0.2質量%まで添加することは、有益である。ハフニウムは強力な炭化物形成材であるため、さらなる粒界の強化をもたらし得る。
【0110】
いわゆる「反応性元素」(イットリウム(Y)、ランタン(La)及びセリウム(Ce))は、0.1質量%までのレベルの添加とする。これは、Cr2O3等の保護酸化物層の接着性を向上させるのに有益である。これらの反応性元素は、硫黄などの有害元素を「掃討」することができる。硫黄は、合金酸化物界面に偏析して酸化物と基材との結合を弱め、酸化物の剥離をもたらす。ケイ素(Si)は、0.5質量%まで添加することが有益となりうる。ニッケル基超合金に0.5質量%までのレベルのケイ素を添加することは、酸化特性に対して有益であることが示されている。特にケイ素は合金/酸化物界面に偏析し、基材に対する酸化物の結合力を向上させる。これにより、酸化物の剥離が抑制され、結果として耐酸化性が向上する。
【0111】
このセクションにおける本発明の記載に基づき、本発明の広範な範囲を表4に列挙する。また、表4には、好ましい範囲が示されている。表4は、新しい設計合金における組成範囲を質量%で示す。
【0112】
【0113】
次のセクションでは、本発明の例示的な組成物について説明する。これらの新しい合金における計算された特性が列挙される。これらの合金の設計の論理的根拠を、次に説明する。
【0114】
本発明の3つの例を表5に記載する。この合金の予測される特性を表6に列挙する。列挙されている合金は、表3に記載されている従来技術の合金(特に、1450MPa以上の強度メリット指数を有する他の高強度合金)と比較して、γ´ソルバス温度を低めることで決定される熱間加工性と、(強度メリット指数の観点から)高強度と、の改善された組み合わせが達成されるという利点を有する。材料性能に関するこれらの改善は、1450MPa以上の強度指数を有する合金よりも低い元素コストを維持しながら、達成される。表5は、表1に列挙された合金の例と比較した、本発明の合金の例である。
【表5】
【0115】
本発明の合金と従来技術との比較によれば、本発明の合金が有するコバルトのレベルがはるかに低いことがわかる。コバルトは通常、ガンマプライムソルバスを下げる元素として、従来技術の合金に添加されている。ほとんどの従来技術では、その技術的効果(コバルトを増やすとソルバスが減少し、したがって加工性が向上する)に基づいて、コバルトの好ましい範囲が決定される。一方、本明細書で説明する合金は、ガンマプライム形成元素などの他の元素とのバランスを取ることにより、少ないコバルト含有量においてガンマプライムソルバスを低めることを実現する。これにより、優れた熱間加工性と低い元素コストを備えた合金がもたらされる。表6は、「合金設計」ソフトウェアによって作成された、計算された相分率及びメリット指数を示す。表6は、表5に列挙された組成と、表1に列挙された合金の例の結果である。
【表6】
【国際調査報告】