(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-03
(54)【発明の名称】癌の処置に用いるアンジオテンシン2型(AT2)受容体アゴニスト
(51)【国際特許分類】
C07K 7/00 20060101AFI20220926BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220926BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20220926BHJP
A61K 31/41 20060101ALI20220926BHJP
A61K 31/395 20060101ALI20220926BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220926BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C07K7/00 ZNA
A61P35/00
A61K38/12
A61K31/41
A61K31/395
A61K45/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506400
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(85)【翻訳文提出日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 EP2020071775
(87)【国際公開番号】W WO2021023698
(87)【国際公開日】2021-02-11
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516260866
【氏名又は名称】ランティオペプ ベスローテン ヴェンノーツハップ
【氏名又は名称原語表記】LanthioPep B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ナムソレック,パウエル
(72)【発明者】
【氏名】カイパース,アネカ
(72)【発明者】
【氏名】デ フリース,ローウェ
(72)【発明者】
【氏名】フェストゥッチャ,クラウディオ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA10
4C084BA17
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4C084MA52
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4C084ZC751
4C086AA01
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4C086BC63
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4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086ZB26
4C086ZC75
4H045AA10
4H045BA15
4H045BA32
4H045EA20
4H045FA50
(57)【要約】
本発明は、種々のタイプの固形癌、特に脳癌、結腸癌、肺癌及び卵巣癌の処置に有用なアンジオテンシンII2型受容体(以下、AT2受容体)のアゴニストである、環状ペプチドに関する。本発明はさらに、それらを含有する医薬組成物、及び癌の処置のためのそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の処置における使用のためのアンジオテンシン(1-7)の環状ペプチド変異体であって、前記環状ペプチドはアミノ酸配列
Xaa1-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号1)
と、5位のAbu/Alaの側鎖と8位のAbu/Alaの側鎖との間のチオエーテル架橋とを含み、
式中、Xaa1は、Lys、Tyr、Asp、pGlu、及びIleからなる群から選択され、
前記癌は、脳癌、結腸癌、及び/又は卵巣癌からなる群から選択される、環状ペプチド変異体。
【請求項2】
前記環状ペプチドのXaa1がD立体異性体である、請求項1に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項3】
前記環状ペプチドのXaa1がLysである、請求項1又は2に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項4】
前記ペプチドの5位がAlaのD立体異性体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項5】
前記ペプチドの8位がAlaのL立体異性体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項6】
LysがD立体異性体である、請求項5に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項7】
前記ペプチドの5位がAlaのD立体異性体であり、8位がAlaのL立体異性体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項8】
前記ペプチドが2つのAbu(2-アミノ酪酸)残基を含まないという条件で、Lys-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号2)のアミノ酸配列を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項9】
前記癌が脳癌である、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項10】
前記脳癌が多形神経膠芽腫である、請求項9に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項11】
前記環状ペプチドが、テモゾロミド又はAT1受容体アンタゴニストと組み合わせて投与される、請求項9又は10に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項12】
癌の前記処置における前記使用が、腫瘍細胞の血管新生を阻害することを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項13】
癌の前記処置における前記使用が、腫瘍増殖阻害を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の使用のための環状ペプチド。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の環状ペプチドと、薬学的に許容される補助剤、希釈剤又は担体とを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項15】
脳癌、好ましくは多形神経膠芽腫の処置における使用のための、アミノ酸配列Xaa1-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号1)を含む環状ペプチドとテモゾロミドとの相乗的組み合わせであって、前記環状ペプチドが5位のAbu/Alaの側鎖と8位のAbu/Alaの側鎖との間のチオエーテル架橋を含み、Xaa1が、Lys、Tyr、Asp、pGlu、及びIleからなる群から選択される、相乗的組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、異なる種類の癌、特に固形癌の処置に有用なアンジオテンシンII2型受容体(以下、AT2受容体)のアゴニストである環状ペプチドに関する。本発明はさらに、それらを含有する医薬組成物、及び特定の種類の癌の処置のためのそれらの使用に関する。本発明の方法及び使用において有用な環状ペプチドには、アンジオテンシン(1-7)(Ang(1-7))の環化ペプチド変異体、特にAng(1-7)のチオエーテル架橋ペプチド変異体、例えば単一アミノ酸残基を有するN末端伸長を有する変異体(「XcAng(1-7)」と略記)が含まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
内因性ホルモンのアンジオテンシン(「AngII」と略記)は、線状オクタペプチド(Asp1-Arg2-Val3-Tyr4-Ile5-His6-Pro7-Phe8)であり、レニン-アンジオテンシン系(RAS)の活性成分である。これは、レニン及びアンジオテンシン変換酵素(ACE)によるプロホルモンアンジオテンシノーゲンの連続的なプロセシングにより産生される。RASは血圧、体液及び電解質の恒常性の調節に重要な役割を果たしている。
【0003】
AngIIは、腎臓、副腎、心臓、血管、脳、消化管及び生殖器官を含む多くの器官においてこれらの生理作用を発揮する(de Gasparo et al, Pharmacol. Rev.(2000) 52, 415-472)。
【0004】
AngII受容体には2つの主要なクラスが同定されており、1型受容体(以下、AT1受容体)及びAT2受容体と名付けられている。AT1受容体はほとんどの器官で発現しており、AngIIの生物学的作用の大部分を担っていると考えられている。AT2受容体は胎児組織、成体卵巣、副腎髄質及び膵臓においてAT1受容体よりも多く存在する。脳及び子宮で等しい分布が報告されている(Ardaillou, J. Am. Soc. Nephrol., 10, S30-39 (1999))。
【0005】
成体におけるいくつかの研究は、AngII刺激後の応答の調節において、AT2受容体の活性化はAT1受容体によって媒介されるものとは反対の効果を有することを実証しているようである。AT2受容体はまた、アポトーシス及び細胞増殖の阻害に関与することが示されている(de Gasparoら、前出を参照されたい)。さらに、AT2受容体は血圧制御に役割を果たしていると思われる。心血管疾患におけるAT2受容体の機能的関連性は、Jonesら(Pharmacology & Therapeutics 120 (2008) 292-316)において議論されている。
【0006】
AT2受容体の発現はまた、血管損傷、創傷治癒及び心不全のような病理学的状況の間に増加することが示されている(de Gasparoら、前出を参照されたい)。AT2受容体のアゴニズムの予想される薬理学的効果は、一般に、de Gasparoら、前出に記載されている。
【0007】
AT2受容体アゴニストは、消化不良及び過敏性腸症候群のような消化管の障害、並びに多器官不全の処置及び/又は予防において潜在的に有用であることが示されている(国際公開第99/43339号参照)。
【0008】
アンジオテンシンAT1受容体アンタゴニストは、とりわけ、欧州特許出願第409332号、同第512675号;国際特許出願国際公開第94/27597号、同第94/02142号、同第95/23792号及び同第94/03435号;並びに米国特許第5,091,390号、同第5,177,074号、同第5,177,074号、同第5,412,097号、同第5,250,521号、同第5,260,285号、同第5,376,666号、同第5,252,574号、同第5,312,820号、同第5,330,987号、同第5,166,206号、同第5,932,575号、及び同第5,240,928号に開示されている。
【0009】
米国特許出願公開第2009/326026号は、AT2アゴニストとしての三環式イミダゾール含有化合物の使用を開示している。国際公開第04/046128号は、AT2受容体の選択的アゴニストとして有用な二環式化合物に関する。
【0010】
本明細書に記載されるものと構造的に無関係であるペプチド及び非ペプチドAT2受容体アゴニスト、及びその潜在的な使用は、例えば、国際特許出願同第00/38676号、同第00/56345号、同第00/09144号、同第99/58140号、同第99/52540号、同第99/46285号、同第99/45945号、同第99/42122号、同第99/40107号、同第99/40106号、同第99/39743号、同第99/26644号、同第98/33813号、同第00/02905号及び同第99/46285号;米国特許第5,834,432号;並びに日本特許出願第JP143695号に開示されている。
【0011】
1~3アミノ酸のN末端伸長を伴う又は伴わないアンジオテンシン(1-7)の線状ペプチド変異体は、K.Rodgersらにより、例えば、国際公開第99/40106号、同第99/52540号及び同第96/39164号に記載されている。米国特許出願公開第2004/176302号(国際公開第2002087504号)もまた、インビトロで腫瘍細胞増殖を阻害するための線状アンジオテンシノーゲン、アンジオテンシンI、アンジオテンシンII、AT2受容体アゴニストに関する。これらの開示のいずれも、本出願の環状チオエーテル架橋ペプチド変異体の有利な特性を示さず、示唆もしていない。
【0012】
アンジオテンシン(1-7)のチオエーテル架橋ペプチド変異体はまた、当技術分野で公知である。例えば、Kluskensら(J Pharmacol Exp Ther. 2009 Mar; 328(3):849-54)、国際公開第08/130217号及び国際公開第12/070936号を参照されたい。
【0013】
癌におけるAT2受容体の機能的及び臨床的関連性は、当技術分野で議論されている。例えば、AT2受容体の過小発現は、ヒト乳癌サンプルにおいて示され得(Tovart H et al. Comput Biol Chem. 2015 Aug 22)、AT2受容体発現と結腸直腸癌の進行との負の相関が、ヒト患者において観察された(Zhou L et al. Pathobiology; 2014;81(4):169-75)。AT2受容体の腫瘍増殖抑制特性は、インビトロ AT2受容体ノックダウン研究により、マウス直腸癌細胞についてさらに確認された(Zhou L et al. Pathobiology; 2014;81(4):169-75)。
【0014】
Vinson GP et al, Endocr Relat Cancer. 2012 Feb 13;19(1)は、乳癌におけるレニン-アンジオテンシン系の役割があいまいであることを概説している。ACE阻害剤及びAT1受容体遮断薬の治療用途の可能性について考察され、乳癌におけるAT2受容体アゴニストの役割について推測されているが、この点については十分な研究が待たれる。この概説は、抗体とのAT1受容体拮抗作用に焦点を当て、AT2アゴニストとしての環状ペプチド変異体については全く言及していない。
【0015】
癌の処置のための治療選択肢としてのAT2受容体過剰発現及びAT2受容体刺激も当技術分野で議論されている。
【0016】
ヒト前立腺癌及び膀胱癌細胞における組換えAT2受容体過剰発現は、インビボで腫瘍進行阻害をもたらした(Pei N et al. J Exp Clin Cancer Res. 2017 Jun 9;36(1):77);Li J, J Cancer. 2016 Jan 1; 7(2):184-91)。さらに、ヒトLewis肺癌細胞におけるAT2受容体の組換え過剰発現は、マウス肺における腫瘍結節の数を減少させた。
【0017】
また、AT2受容体アゴニストによる細胞内AT2受容体刺激は、インビトロで休止状態のヒト平滑筋肉腫細胞に速やかな細胞死を誘導することが示され(Zhao Y et al. J. Clin Sci (Lond). 2015; 128:567-578)、またインビボでマウス大腸癌細胞の肝転移を抑制した(Ager El et al. Cancer Cell Int. 2010 Jun 28; 10:19)。
【0018】
AT2受容体過剰発現とAT1受容体アンタゴニストによる処置との組み合わせは、インビボモデルにおいてヒト肺腺癌細胞における腫瘍体積を相乗的に減少させ(Su Y, Biomaterials. 2017 Sept; 139:75-90)、一方、AT2受容体過剰発現とAT2受容体アゴニストとの組み合わせは、インビボモデルにおいて腫瘍重量の減少及び膵管腺癌におけるアポトーシスの促進をもたらした(Ishiguro S et al. Cancer Biol Ther. 2015; 16(2):307-16)。AT2受容体アゴニストとAT1受容体アンタゴニストとの組み合わせは、インビボで上皮性卵巣癌の増殖を相乗的に阻害した(Park YA, Gynecol Oncol. 2014 Oct; 135(1):108-17)。
【0019】
Mas受容体を介して作用する天然の線状アンジオテンシン(1-7)は、抗腫瘍活性を有することが報告されている(Mao Y et al 2018, Int. J. Biol. Sci. 14, 57-68;Hinsley EE et al 2017, Eur J Oral Sci 125 247-257;Cambados N et al 2017 Oncotarget 8, 88475-88487;Chen et al 2017 Oncotarget 8, 354-363;Pei et al 2016 Molecular Cancer Therapeutics 15, 37-47;Liu et al 2015, Mol Med 21, 626-36;Krishnan et al 2013 Prostate. 73, 71-82;Soto-Pantoja et al 2009 Mol Cancer Ther 8, 1676-1683;Menon et al 2007, Cancer Res. 67, 2809-15)。さらに、アンジオテンシン-(1-7)は、腫瘍細胞を阻害する能力を保持する非天然環状アミノ酸によって安定化されている(Wester A et al 2017 Amino Acids. Oct;49(10):1733-1742)。
【0020】
米国特許出願公開第2014/296143号は、天然の線状アンジオテンシン-(1-7)ペプチド(Asp-Arg-Val-Tyr-Ile-His-Pro)の、肺及び乳房腫瘍に対する抗癌及び化学予防治療薬としての使用を開示している。
【0021】
しかしながら、N末端伸長を有するアンジオテンシン(1-7)のチオエーテル架橋ペプチド変異体が、脳、結腸、肺又は卵巣癌の処置に有用であることは、当技術分野では教示されていない。
【0022】
脳腫瘍は、脳内に異常な細胞ができると発生する。癌性脳腫瘍は、脳の内部から発生する原発性腫瘍と、脳転移腫瘍として知られる他の器官から転移した続発性腫瘍に分けることができる。多形神経膠芽腫(GBM)は、それが高度に浸潤性で増殖性であり、標準治療戦略に抵抗性であるため、最も一般的(50.4%)で侵攻性の悪性成体原発性脳腫瘍である。悪性神経膠腫に対する現在の処置法には、外科的切除、放射線療法又は放射線手術と、化学療法(典型的にはテモゾロミドなどのアルキル化剤)との組み合わせが含まれる。GBMは、永続的な自己複製及び増殖の能力を有し、腫瘍増殖を促す下流の前駆細胞を産生する癌幹細胞(CSC)の存在と関連している。その他の原発性脳腫瘍には、髄膜腫(20.8%)、下垂体腺腫(15%)及び神経鞘腫瘍(8%)が含まれる(Park BJ, et al. (2009).“Epidemiology”. In Lee JH (ed.). Meningiomas:Diagnosis, Treatment, and Outcome. Springer)。
【0023】
大腸癌又は結腸直腸癌(CRC)としても知られる結腸癌は、結腸又は直腸からの癌の発生である。これは3番目に多いタイプの癌で、世界の全症例の約10%を占めている。使用される処置には、手術、放射線療法、化学療法及び標的療法、並びにそれらの組み合わせが含まれる。結腸壁内に限局する癌は手術で治癒可能であるが、広範囲に拡がった癌は通常治癒不可能であり、管理は生活の質及び症状の改善に向けられる。
【0024】
肺癌は最も一般的で重篤なタイプの癌の1つである。肺中で開始する癌は原発性肺癌と呼ばれる。別の器官から肺へ伝播する癌は、続発性肺癌として知られている。原発性肺癌には主に2つの形態があり、即ち(i)非小細胞肺癌-最も一般的な形態であり、症例の87%以上を占める。これは扁平上皮癌、腺癌、又は大細胞癌の3種類のいずれかであり得る。(ii)小細胞肺癌-非小細胞肺癌よりも通常、より速く伝播するまれな型。腫瘍が早期に診断された場合には、小さな領域に限局した癌細胞を切除する手術が適用される場合がある。さもなければ、放射線療法、化学療法又は標的療法を用いる場合がある。
【0025】
卵巣癌は、卵巣内又は卵巣上に発生する腫瘍である。これは、他の器官に転移する異常な細胞を生じさせる。卵巣癌の種類には以下が含まれる:(i)卵巣の外側を覆っている組織内の、上皮性腫瘍。卵巣癌の約90%は上皮性腫瘍である、(ii)ホルモン産生細胞を含む卵巣組織内の、間質性腫瘍。卵巣腫瘍の約7%は間質由来である、(iii)卵子産生細胞中の、胚細胞腫瘍。胚細胞腫瘍はまれである。卵巣癌の処置は通常、卵巣癌の亜型にかかわらず、手術、化学療法、及びときには放射線療法を含む。卵巣腫瘍の60%がエストロゲン受容体を有するという事実にもかかわらず、卵巣癌はホルモン療法に反応することがごくまれである。
【0026】
症状を緩和し、患者の生活を改善するために、これらの癌及び他の型の癌を処置するための代替選択肢を提供するために、依然として巨大な医学的必要性が存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0027】
発明の概要
本発明の発明者らは驚くべきことに、N末端に追加のアミノ酸で伸長されたAng(1-7)のチオエーテル架橋ペプチド変異体、特にAng(1-7)のチオエーテル架橋ペプチド変異体が、癌の処置、特に脳、結腸、卵巣又は肺癌などの固形癌のAT2受容体アゴニストXcAng(1-7)による処置に有用であることを見出した。
【0028】
従って、本開示は、癌の処置における使用のための、N末端において追加のアミノ酸で伸長されたチオエーテル架橋Ang(1-7)ペプチド(「XcAng(1-7)」と略記)を提供する。
【0029】
特定の実施形態では、本開示によるXcAng(1-7)は、固形癌の処置における使用のためのものである。特定の実施形態では、本開示によるXcAng(1-7)は、脳癌、結腸癌、肺癌、及び/又は卵巣癌の処置における使用のためのものである。好ましい実施形態において、XcAng(1-7)は、結腸癌の処置における使用のためのものである。別の好ましい実施形態において、XcAng(1-7)は、脳癌の処置における使用のためのものである。特定の実施形態では、脳癌は多形神経膠芽腫である。
【0030】
特定の実施形態では、XAng(1-7)の前記チオエーテル架橋ペプチド変異体は、環状ペプチドを指す。
【0031】
特定の態様において、本開示は、癌の処置における使用のための、アミノ酸配列
Xaa1-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号1)
からなる環状ペプチドを提供し、これは5位のAbu/Alaの側鎖と8位のAbu/Alaの側鎖との間のチオエーテル架橋結合を含み、ここでXaa1は、Lys、Tyr、Asp、pGlu及びIleからなる群から選択される。
【0032】
一実施形態では、本開示による環状ペプチドは、癌の処置における使用のためのものである。
【0033】
さらなる実施形態では、本開示による環状ペプチドは、癌の処置における使用のためのものであり、前記癌は固形癌である。
【0034】
一実施形態では、前記固形癌は、脳癌、結腸癌、肺癌、及び/又は卵巣癌である。
【0035】
一実施形態では、本開示は、結腸癌の処置における使用のための本開示による環状ペプチドを提供する。
【0036】
別の実施形態では、本開示は、脳癌、特に神経膠芽腫の処置における使用のための本開示による環状ペプチドを提供する。
【0037】
一実施形態では、本開示は、本開示による使用のための本開示による環状ペプチドを提供し、前記環状ペプチドのXaa1はD立体異性体である。
【0038】
一実施形態では、本開示は、本開示による使用のための本開示による環状ペプチドを提供し、前記環状ペプチドのXaa1はLysのD立体異性体である。
【0039】
一実施形態では、本開示は、本開示による使用のための本開示による環状ペプチドを提供し、前記環状ペプチドの5位はAlaのD立体異性体である。
【0040】
一実施形態では、本開示は、本開示による使用のための本開示による環状ペプチドを提供し、前記環状ペプチドの8位はAlaのL立体異性体である。
【0041】
一実施形態では、本開示は、本開示による使用のための本開示による環状ペプチドを提供し、前記環状ペプチドの8位はAlaのL立体異性体であり、1位はLysのD立体異性体である。
【0042】
一実施形態では、本開示は、本開示による使用のための本開示による環状ペプチドを提供し、前記環状ペプチドの5位はAlaのD立体異性体であり、8位はAlaのL立体異性体である。
【0043】
一実施形態では、本開示は、ペプチドが2つのAbu(2-アミノ酪酸)残基を含まないという条件下で、Lys-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号2)のアミノ酸配列を有する、本開示による使用のための本開示による環状ペプチドを提供する。
【0044】
本開示の一実施形態では、癌の処置における使用のための環状ペプチドは、以下からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する:
Lys-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号2)(「K-cAng(1-7)」と略記)
Asp-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号3)(「D-cAng(1-7)」と略記)
Tyr-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号4)(「Y-cAng(1-7)」と略記)
Ile-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号5)(「I-cAng(1-7)」と略記)
Asn-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号6)(「N-cAng(1-7)」と略記)
これらは5位のAbu/Alaの側鎖と8位のAbu/Alaの側鎖との間のチオエーテル架橋を有し、またペプチドが2つのAbu(2-アミノ酪酸)残基を含まないことを条件とする。
【0045】
本開示の一実施形態では、癌の処置における使用のための環状ペプチドは、以下からなる群から選択される:
Lys-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号2)
これは5位のAbu/Alaの側鎖と8位のAbu/Alaの側鎖との間のチオエーテル架橋を有し、またペプチドが2つのAbu(2-アミノ酪酸)残基を含まないことを条件とする。
【0046】
本開示の一実施形態では、環状ペプチドは、国際公開第2012/070936号に開示されているペプチド化合物である。
【0047】
一実施形態では、癌の処置における前記使用は、固形癌の処置における使用、好ましくは脳癌、結腸癌、肺癌、及び/又は卵巣癌の処置における使用のためである。
【0048】
一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のための本開示による環状ペプチドを含む医薬組成物を提供する。別の実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のための、本開示による環状ペプチドと、薬学的に許容される補助剤、希釈剤又は担体とを含む医薬組成物を提供する。
【0049】
一実施形態では、本開示による環状ペプチドを含む前記医薬組成物は、固形癌の処置における使用のためのものである。
【0050】
一実施形態では、本開示による環状ペプチドを含む前記医薬組成物は、脳癌、結腸癌、肺癌又は卵巣癌の処置における使用のためのものである。
【0051】
癌の処置における使用に適した本開示による環状ペプチドは、それらがAT2受容体に選択的に結合し、AT2受容体でアゴニスト活性を示すという利点を有する。
【0052】
癌の処置における使用のための本開示による環状ペプチドはまた、先行技術において公知の化合物よりも、より有効であり、より毒性が低く、より長く作用し、より強力であり、より副作用が少なく、より容易に吸収され、及び/又はより良好な薬物動態プロファイル(例えば、より高い経口バイオアベイラビリティー及び/又はより低いクリアランス)を有するという利点を有し得る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図面の簡単な説明
【
図1A】マウスモデルにおける4種類の異なる結腸癌PDXに対するKcAng(1-7)のインビボ有効性。マウスを、ビヒクル(白丸)で処置し、0.2μg/kg/d KcAng(1-7)(黒四角)で処置し、又は30μg/kg/d KcAng(1-7)(黒三角)で処置した。
【
図1B】マウスモデルにおける4種類の異なる結腸癌PDXに対するKcAng(1-7)のインビボ有効性。マウスを、ビヒクル(白丸)で処置し、又は0.2μg/kg/d KcAng(1-7)(黒四角)で処置した。
【
図1C】マウスモデルにおける4種類の異なる結腸癌PDXに対するKcAng(1-7)のインビボ有効性。マウスを、ビヒクル(白丸)で処置し、又は0.2μg/kg/d KcAng(1-7)(黒四角)で処置した。
【
図1D】マウスモデルにおける4種類の異なる結腸癌PDXに対するKcAng(1-7)のインビボ有効性。マウスを、ビヒクル(白丸)で処置し、又は0.2μg/kg/d KcAng(1-7)(黒四角)で処置した。
【
図2】マウスのHN10309頭頸部PDXモデルに対するKcAng(1-7)のインビボ有効性。動物をビヒクル(白丸)で処置し、0.2μg/kg/d KcAng(1-7)(黒四角)で処置し、又は30μg/kg/d KcAng(1-7)(黒三角)で処置した。
【
図3】マウスのLu7433肺癌PDXモデルに対するKcAng(1-7)のインビボ有効性。動物をビヒクル(白丸)で処置し、0.2μg/kg/d KcAng(1-7)(黒四角)で処置し、又は30μg/kg/d KcAng(1-7)(黒三角)で処置した。
【
図4】マウスのMaCa4151乳癌PDXモデルに対するKcAng(1-7)のインビボ有効性。動物をビヒクル(白丸)で処置し、0.2μg/kg/d KcAng(1-7)(黒四角)で処置し、又は30μg/kg/d KcAng(1-7)(黒三角)で処置した。
【
図5】マウスのOvCa 13329卵巣癌PDXモデルに対するKcAng(1-7)のインビボ有効性。動物をビヒクル(白丸)で処置し、0.2μg/kg/d KcAng(1-7)(黒四角)で処置し、又は30μg/kg/d KcAng(1-7)(黒三角)で処置した。
【
図6A】KcAng(1-7)又はビヒクルによる処置後の結腸癌PDXモデルから抽出した腫瘍組織の組織学。Co9689A PDXにおける切断カスパーゼ3(CC3、アポトーシス)の免疫組織化学分析の結果。
【
図6B】KcAng(1-7)又はビヒクルによる処置後の結腸癌PDXモデルから抽出した腫瘍組織の組織学。Co9689A PDXにおける切断カスパーゼ3(CC3、アポトーシス)の免疫組織化学分析の結果。
【
図6C】KcAng(1-7)又はビヒクルによる処置後の結腸癌PDXモデルから抽出した腫瘍組織の組織学。Co9689A PDXにおけるKi67(増殖)の免疫組織化学分析の結果。
【
図6D】KcAng(1-7)又はビヒクルによる処置後の結腸癌PDXモデルから抽出した腫瘍組織の組織学。Co9689A PDXにおけるKi67(増殖)の免疫組織化学分析の結果。
【
図7A】健康なヒト結腸組織との関係におけるATIPの腫瘍RNA発現レベル。結腸腫瘍組織を、KcAng(1-7)又はビヒクルで処置したマウスCo7809モデルから抽出した。
【
図7B】健康なヒト結腸組織との関係におけるTP53の腫瘍RNA発現レベル。結腸腫瘍組織を、KcAng(1-7)又はビヒクルで処置したマウスCo7809モデルから抽出した。
【
図7C】健康なヒト結腸組織との関係におけるTIMP1の腫瘍RNA発現レベル。結腸腫瘍組織を、KcAng(1-7)又はビヒクルで処置したマウスCo7809モデルから抽出した。
【
図7D】健康なヒト結腸組織との関係におけるBaxの腫瘍RNA発現レベル。結腸腫瘍組織を、KcAng(1-7)又はビヒクルで処置したマウスCo7809モデルから抽出した。
【
図8】マウスのU87MG神経膠芽腫CDXモデルに対するKcAng(1-7)のインビボ有効性。動物をビヒクル(白丸)で処置し、0.2μg/kg/d KcAng(1-7)(黒四角)で処置し、16mg/kgテモゾロミド(TMZ)(黒丸)で処置し、又はKcAng(1-7)とTMZの組み合わせ(黒三角)で処置した。
【
図9】ビヒクル(白丸)で処置した、0.2μg/kg/d KcAng(1-7)(黒四角)で処置した、16mg/kgテモゾロミド(TMZ)(黒丸)で処置した、又はKcAng(1-7)とTMZの組み合わせ(黒三角)で処置したU87MG CDXにおける腫瘍進行の時間-TTP(日)。
【
図10】マウスのU87MG神経膠芽腫CDXモデルに対するKcAng(1-7)のインビボ有効性。動物をビヒクル(白丸)で処置し、20mg/kg/dロサルタン(黒四角)で処置し、1μg/kg/d KcAng(1-7)(黒丸)で処置し、又はKcAng(1-7)とロサルタンの組み合わせ(白三角)で処置した。
【
図11】ビヒクル(白丸)で処置した、20mg/kg/dロサルタン(黒四角)で処置した、1μg/kg/d KcAng(1-7)(黒丸)で処置した、又はKcAng(1-7)とロサルタンの組み合わせ(白三角)で処置したU87MG CDXにおける腫瘍進行の時間-TTP(日)。
【
図12】ビヒクル(白丸)で処置した、1μg/kg/d KcAng(1-7)(黒四角)で処置した、20mg/kg/dロサルタン(黒丸)で処置した、又はKcAng(1-7)とロサルタンの組み合わせ(白三角)で処置したU87MG CDXにおける腫瘍ヘモグロビンレベル。
【
図13】マウスのU251MG神経膠芽腫CDXモデルに対するKcAng(1-7)のインビボ有効性。動物をビヒクル(白丸)で処置し、20mg/kg/のロサルタン(黒四角)で処置し、1μg/kg/d KcAng(1-7)(黒丸)で処置し、又はKcAng(1-7)とロサルタンの組み合わせ(白三角)で処置した。
【
図14】ビヒクル(白丸)で処置した、20mg/kg/dロサルタン(黒四角)で処置した、1μg/kg/d KcAng(1-7)(黒丸)で処置した、又はKcAng(1-7)とロサルタンの組み合わせ(白三角)で処置したU251MG CDXにおける腫瘍進行の時間-TTP(日)。
【
図15】ビヒクル(白丸)で処置した、20mg/kg/dロサルタン(黒四角)で処置した、1μg/kg/d KcAng(1-7)(黒丸)で処置した、又はKcAng(1-7)とロサルタンの組み合わせ(白三角)で処置したU251MG CDXにおける腫瘍ヘモグロビンレベル。
【発明を実施するための形態】
【0054】
発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用される用語「変異体」は、少なくとも50%の別のペプチドのアミノ酸残基をその配列中に有し、他方のペプチドの機能又は作用を模倣するペプチドを指す。
【0055】
用語「ペプチド」は、50以下のアミノ酸を有する分子を意味する。
【0056】
用語「環状ペプチド」は、1つ以上の分子内結合によって形成される二次構造を有するアミノ酸、ペプチド又はポリペプチドのストレッチを指す。アミノ酸又はペプチド又はポリペプチドの全ストレッチが環状である必要はない。本開示の一実施形態では、環状ペプチドは単環ペプチドである。別の実施形態では、環状ペプチドは、天然に存在する又は人工ペプチドなどのペプチド、及び全タンパク質の断片又はドメインであるペプチドを含む。さらなる実施形態では、環状ペプチドは、アミド化環状ペプチドである。
【0057】
用語「チオエーテル」又は「チオエーテル架橋」は、それぞれの分子中の2つの異なる炭素原子又はヘテロ原子に結合した硫黄原子を指す。一実施形態では、チオエーテル架橋は、1つ以上のセリン又はトレオニン残基の翻訳後脱水及び前記脱水残基のシステインへのカップリング後に形成される。別の実施形態では、チオエーテル架橋ペプチドは、ジスルフィド架橋ペプチドの塩基支援硫黄押出によって形成される。一実施形態では、チオエーテル架橋は、ランチオニン(Ala-S-Ala)又はメチルランチオニン(Abu-S-Ala又はAla-S-Abu)の一部である。ランチオニンは、化学式(HOOC-CH(NH2)-CH2-S-CH2-CH(NH2)-COOH)を有する非タンパク質原性のアミノ酸であり、それらのβ-炭素原子上でチオエーテル架橋によって架橋されている2つのアラニン残基で構成されている。メチルランチオニンは、化学式(HOOC-CH(NH2)-CH(CH3)-S-CH2-CH(NH2)-COOH)を有する非タンパク質原性のアミノ酸である。
【0058】
用語「脱水残基」は、反応分子からの水分子の損失を含む化学反応を受けた修飾アミノ酸残基を指す。一実施形態では、「脱水残基」は、脱水セリン又は脱水トレオニンである。
【0059】
所与のポリペプチド配列の「N末端」という用語は、所与のポリペプチド配列のN末端残基又はその付近で始まる所与のポリペプチド配列の連続した長さであるか、又は末端ピログルタメート(pGlu)である。
【0060】
本明細書で使用される場合、用語「処置する」、「処置すること」などは、一時的又は永続的に、症状を軽減すること、症状の原因を排除すること、又は指定された障害若しくは状態の症状の出現を予防し若しくは遅延させることを意味する。
【0061】
「予防すること」又は「予防」は、疾患を獲得若しくは発症するリスクを低下させること(即ち、疾患の発症に先行して、疾患の原因となる物質に曝露される可能性のある又は疾患に罹りやすい対象において疾患の臨床症状の少なくとも1つを発症させないこと)を指す。「予防」はまた、疾患若しくはその症状の発症を予防すること、又は疾患若しくはその症状の発症を遅らせることを目的とする方法を指す。
【0062】
「投与される」又は「投与」は、例えば静脈内、筋肉内、皮内若しくは皮下経路などの注射可能な形態により、又は粘膜経路、例えば吸入のための鼻スプレー若しくはエアロゾルとして、又は摂取可能な溶液、カプセル若しくは錠剤としての薬物の送達を含むが、これらに限定されない。好ましくは、投与は注射可能な形態による。
【0063】
この文脈で使用される「対象」又は「種」又は「個体」は、マウス又はラットなどのげっ歯類、及びカニクイザル(Macaca fascicularis)、アカゲザル(Macaca mulatta)又はヒト(Homo sapiens)などの霊長類を含む任意の哺乳類を指す。好ましくは、対象は霊長類であり、最も好ましくはヒトである。
【0064】
AT2受容体に「選択的に結合する」環状ペプチドは、少なくとも5:1、好ましくは少なくとも10:1、より好ましくは少なくとも20:1である関連化合物(AT2:AT1)に対する親和性比を有する。
【0065】
用語「阻害」又は「阻害する」又は「低下」又は「低下させる」又は「中和」又は「中和させる」は、任意の表現型特性(結合又は生物学的活性又は機能など)の低下若しくは停止、又はその特徴の発生率、程度、若しくは可能性の低下若しくは停止を指す。「阻害」、「低下」又は「中和」は、適切なアッセイを用いて検出可能である限り、完全である必要はない。いくつかの実施形態では、「低下」又は「阻害」又は「中和」は、20%以上の減少を引き起こす能力を意味する。別の実施形態では、「低下」又は「阻害」又は「中和」は、50%以上の減少を引き起こす能力を意味する。さらに別の実施形態では、「低下」又は「阻害」又は「中和」は、75%、85%、90%、95%、又はそれ以上の全体的な減少を引き起こす能力を意味する。
【0066】
用語「増加する」又は「増加すること」又は「増強する」又は「増強すること」は、任意の表現型特性(結合又は生物学的活性又は機能など)の増加、又はその特徴の発生率、程度、若しくは可能性の増加を指す。「増加する」又は「増強すること」は、適切なアッセイを用いて検出可能である限り、最大の効果である必要はない。いくつかの実施形態では、「増加すること」又は「増強すること」は、20%以上の増加を引き起こす能力を意味する。別の実施形態では、「増加すること」又は「増強すること」は、50%以上の増加を引き起こす能力を意味する。さらに別の実施形態では、「増加すること」又は「増強すること」は、75%、85%、90%、95%又はそれ以上の全体的な増加を引き起こす能力を意味する。
【0067】
本明細書で使用される用語「アンタゴニスト」は、抗原と相互作用し、抗原の生物学的活性若しくは機能若しくは任意の他の表現型特性を阻害する分子を指す。
【0068】
本明細書で使用される用語「アゴニスト」は、抗原と相互作用し、標的抗原の生物学的活性若しくは機能、若しくは任意の他の表現型特性を増加若しくは増強し、及び/又は抗原の発現を上方制御する分子を指す。
【0069】
「薬学的に許容される」は、連邦若しくは州政府の規制機関、又は米国以外の国の対応する機関によって承認され若しくは承認可能であるか、又は動物、より具体的にはヒトにおける使用のために米国薬局方若しくは他の一般に認められている薬局方に記載されていることを意味する。
【0070】
本開示の「組成物」は、治療的又は予防的適用のために使用され得る。従って、本開示は、本明細書に開示される環状ペプチド及び薬学的に許容される担体又は賦形剤を含有する医薬組成物を含む。
【0071】
用語「医薬組成物」は、その中に含まれる活性成分の生物学的活性が有効であることを可能にするような形態であり、そして製剤が投与される対象に対して許容できないほど毒性であるさらなる成分を含まない調製物を指す。
【0072】
用語「薬学的に許容される担体」は、対象に対して無毒な、活性成分以外の医薬組成物中の成分を指す。薬学的に許容される担体は、緩衝液、賦形剤、安定剤、又は保存剤を含むが、これらに限定されない。
【0073】
「治療有効量」又は「有効量」は、本明細書で使用される場合、それが投与される細胞又は組織における所望の生理学的変化を誘発するための、本開示による環状ペプチドの量を指す。
【0074】
本明細書で使用される場合、アミノ酸残基は、それらのフルネームによって、又は標準的な3文字若しくは1文字のアミノ酸コードに従って示される。「天然に存在するアミノ酸」は、以下のアミノ酸を意味する:
【0075】
【0076】
用語「Abu」は、化学式C4H9NO2を有する非タンパク質原性α-アミノ酸であるα-アミノ酪酸又は2-アミノ酪酸を指す。
【0077】
用語「癌」は、原発性悪性腫瘍(例えば、元の腫瘍の部位以外の対象の体内の部位に細胞が移動していないもの)及び続発性悪性腫瘍(例えば、転移、元の腫瘍の部位とは異なる二次的部位への腫瘍細胞の移動から生じるもの)を含む。
【0078】
実施形態
本開示によるXcAng(1-7)は、治療方法において使用され得る。
【0079】
本発明の発明者らは驚くべきことに、アンジオテンシン(1-7)のペプチド変異体、特にAng(1-7)のチオエーテル架橋ペプチド変異体、より具体的にはN末端において追加の単一アミノ酸で伸長されたAng(1-7)のチオエーテル架橋ペプチド変異体が、癌の処置、特に脳、結腸、卵巣又は肺癌などの固形癌の処置に有用であることを見出した。
【0080】
本開示のさらなる態様によれば、本開示は、AT2受容体アゴニストの内因性産生が欠損している癌、及び/又はAT2受容体アゴニストの効果の増加が所望若しくは必要とされる癌、及び/又はAT2受容体が発現され、それらの刺激が所望若しくは必要とされる癌、及び/又はAT2受容体発現のリガンド媒介性アップレギュレーションが所望される癌の処置における使用のための、本開示によるXcAng(1-7)を提供する。
【0081】
一実施形態では、癌の処置における前記使用は、そのような癌に罹患しているか、又はそのような癌に感受性である対象への、治療有効量の本開示によるXcAng(1-7)の投与を含む。
【0082】
従って、一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)のペプチド変異体を提供する。
【0083】
一実施形態では、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)の前記ペプチド変異体は、ペプチドである。別の実施形態では、前記変異体は環状ペプチドである。さらなる実施形態では、前記環状ペプチドは、チオエーテル架橋環状ペプチドである。一実施形態では、前記チオエーテル架橋環状ペプチドは、N末端において追加のアミノ酸で伸長される。
【0084】
一実施形態では、前記追加の単一アミノ酸残基は、天然に存在するアミノ酸である。一実施形態では、前記追加の単一アミノ酸残基は、天然に存在するアミノ酸である。一実施形態では、前記追加の単一アミノ酸残基は、荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸、及び疎水性アミノ酸からなる群から選択される。
【0085】
一実施形態では、癌の処置における前記使用は、固形癌の処置における使用である。
【0086】
固形癌の非限定的な例は、膀胱癌、脳癌、頭頸部癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、食道癌、結腸癌、結腸直腸癌、直腸癌、胃癌、前立腺癌、血液癌、肉腫、皮膚癌、扁平上皮癌、骨癌、メラノーマ、腎細胞癌、又は腎臓癌を含む。
【0087】
一実施形態では、前記固形癌は、脳癌、結腸癌、肺癌及び/又は卵巣癌である。一実施形態では、前記固形癌は結腸癌である。別の実施形態では、前記固形癌は、脳癌、好ましくは神経膠芽腫である。
【0088】
実施形態において、前記癌は、TP53腫瘍抑制遺伝子における突然変異を含む腫瘍細胞から構成される。
【0089】
一実施形態では、癌の処置における前記使用は、対象における腫瘍細胞の増殖を阻害することを含む。一実施形態では、癌の処置における前記使用は、対象における脳癌細胞、結腸癌細胞、肺癌細胞及び/又は卵巣癌細胞の増殖を阻害することを含む。一実施形態では、脳癌の処置における前記使用は、神経膠芽腫癌細胞の増殖を阻害することを含む。
【0090】
一実施形態では、癌の処置における前記使用は、対象における腫瘍増殖阻害を含む。一実施形態では、癌の処置における前記使用は、対象における脳癌細胞、結腸癌細胞、肺癌細胞及び/又は卵巣癌細胞の腫瘍増殖阻害を含む。一実施形態では、脳癌の処置における前記使用は、神経膠芽腫癌細胞の腫瘍増殖阻害を含む。
【0091】
一実施形態では、癌の処置における前記使用は、対象における腫瘍細胞においてアポトーシスを誘導及び/又は増強することを含む。一実施形態では、癌の処置における前記使用は、対象における脳癌細胞、結腸癌細胞、肺癌細胞及び/又は卵巣癌細胞においてアポトーシスを誘導及び/又は増強することを含む。一実施形態では、脳癌の処置における前記使用は、神経膠芽腫癌細胞においてアポトーシスを誘導及び/又は増強することを含む。
【0092】
一実施形態では、癌の処置における使用は、対象における腫瘍細胞の血管新生を阻害することを含む。一実施形態では、癌の処置における使用は、対象における脳癌細胞、結腸癌細胞、肺癌細胞及び/又は卵巣癌細胞の血管新生を阻害することを含む。一実施形態では、脳癌の処置における使用は、神経膠芽腫癌細胞の血管新生を阻害することを含む。
【0093】
一実施形態では、癌の処置における前記使用は、固形癌の処置における使用である。一実施形態では、前記固形癌は、脳癌、結腸癌、肺癌及び/又は卵巣癌である。一実施形態では、前記固形癌は結腸癌である。別の実施形態では、前記固形癌は脳癌である。特定の実施形態では、前記脳癌は多形神経膠芽腫である。
【0094】
一実施形態では、癌の処置における使用のためのAng(1-7)の前記環状ペプチド変異体は、アミノ酸配列:
Xaa1-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号1)
からなり、これは5位のAbu/Alaの側鎖と8位のAbu/Alaの側鎖との間のチオエーテル架橋結合を含み、Xaa1は、Lys、Tyr、Asp、pGlu及びIleからなる群から選択される。
【0095】
別の実施形態では、癌の処置における使用のためのAng(1-7)の前記環状ペプチド変異体は、アミノ酸配列:
Xaa1-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号1)
を含み、これは5位のAbu/Alaの側鎖と8位のAbu/Alaの側鎖との間のチオエーテル架橋結合を含み、Xaa1は、Lys、Tyr、Asp、pGlu及びIleからなる群から選択される。
【0096】
一実施形態では、Ang(1-7)の前記環状ペプチド変異体のXaa1は、D立体異性体である。
【0097】
一実施形態では、Ang(1-7)の前記環状ペプチド変異体のXaa1は、Lysである。
【0098】
一実施形態では、Ang(1-7)の前記環状ペプチド変異体の5位は、AlaのD立体異性体である。
【0099】
一実施形態では、Ang(1-7)の前記環状ペプチド変異体の8位は、AlaのL立体異性体である。
【0100】
一実施形態では、Ang(1-7)の前記環状ペプチド変異体の8位は、AlaのL立体異性体であり、LysはD立体異性体である。
【0101】
一実施形態では、Ang(1-7)の前記環状ペプチド変異体の5位は、AlaのD立体異性体であり、8位はAlaのL立体異性体である。
【0102】
一実施形態では、Ang(1-7)の前記環状ペプチド変異体は、ペプチドが2つのAbu(2-アミノ酪酸)残基を含まないという条件下で、Lys-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号2)のアミノ酸配列を有する。別の実施形態では、Ang(1-7)の前記環状ペプチド変異体は、ペプチドが2つのAla残基を含まないという条件下で、Lys-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号2)のアミノ酸配列を有する。
【0103】
作用様式
一般に、本開示によるAng(1-7)の環状ペプチド変異体は、AT2受容体アゴニストの内因性産生が欠損している、及び/又はAT2受容体アゴニストの効果の増加が所望若しくは必要とされる、及び/又はAT2受容体が発現され、それらの刺激が所望若しくは必要とされる、及び/又は構成的に活性なAT2Rのリガンド媒介性アップレギュレーションが所望される場合、癌の処置において使用され得る。
【0104】
従って、特定の実施形態において、本開示は、AT2受容体アゴニストの内因性産生が欠損している癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供する。一実施形態では、前記AT2受容体アゴニストは、Xaa1-cアンジオテンシン(1-7)である。
【0105】
一実施形態において、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供し、ここで前記XcAng(1-7)は、AT2受容体アゴニストの効果を増加又は増強する。一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供し、ここで前記XcAng(1-7)は、腫瘍及び/又は癌細胞上で発現されるAT2受容体活性を刺激又は増強する。
【0106】
一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供し、ここで前記XcAng(1-7)は、AT2Rを介して選択的作用を有し、AT1Rを介して作用しない。別の実施形態では、XcAng(1-7)は、腫瘍及び/又は癌細胞上で発現されるAT2受容体によって媒介されるシグナル伝達経路及び/又は機構を刺激又は増強する。一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供し、ここで前記cAng(1-7)は、AT2受容体媒介シグナル伝達を特異的に増強又は刺激する。
【0107】
一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供し、ここで前記XcAng(1-7)は、AT2受容体活性を作動させる。
【0108】
一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供し、ここで前記XcAng(1-7)は、構成的に活性なAT2受容体の発現をアップレギュレートする。
【0109】
一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供し、ここで前記XcAng(1-7)は、AT2受容体のアゴニストである。
【0110】
一実施形態では、前記癌は、望ましくない非存在又は低下したAT2受容体活性、特にヒトAT2受容体活性に関連する。
【0111】
一実施形態では、前記癌は、望ましくない非存在又は低下したAT2R関連腫瘍サプレッサー(ATIP及び/又はSHP-1/SHP-2及び/又はPLZF)発現又は活性に関連する。
【0112】
一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供し、ここで前記cAng(1-7)は、AT2R関連腫瘍サプレッサー(ATIP及び/又はSHP-1/SHP-2及び/又はPLZF)発現又は活性を刺激又は増強する。
【0113】
一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供し、ここでAT2R刺激はATIP及びp53のアップレギュレーションをもたらし、XcAng(1-7)は好ましくはKcAng(1-7)であり、癌は好ましくは結腸癌である。
【0114】
一実施形態では、前記AT2受容体活性及び/又は前記AT2R関連腫瘍サプレッサー(ATIP及び/又はSHP-1/SHP-2及び/又はPLZF)活性は、インビボで刺激又は増強される。一実施形態では、前記活性は、前記XcAng(1-7)を投与した後、対象において刺激又は増強される。
【0115】
一実施形態では、癌の処置における前記使用は、固形癌の処置における使用である。一実施形態では、前記固形癌は、脳癌、結腸癌、肺癌及び/又は卵巣癌である。一実施形態では、前記固形癌は結腸癌である。別の実施形態では、前記固形癌は脳癌である。特定の実施形態では、前記脳癌は多形神経膠芽腫である。
【0116】
一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供し、前記XcAng(1-7)はAT2受容体のアゴニストである。
【0117】
一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)を提供し、前記XcAng(1-7)はAT2受容体のアゴニストである。
【0118】
一実施形態では、本開示は、XcAng(1-7)の環化ペプチド変異体を提供し、ここでXcAng(1-7)の前記環化ペプチド変異体は、AT2受容体のアゴニストである。
【0119】
一実施形態では、本開示は、XcAng(1-7)のチオエーテル架橋ペプチド変異体を提供し、ここで前記ペプチド変異体はAT2受容体のアゴニストである。
【0120】
より特定の実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のための、N末端において追加のアミノ酸で伸長されたXcAng(1-7)のチオエーテル架橋ペプチド変異体を提供し、ここでN末端において追加のアミノ酸で伸長されたアンジオテンシン-(1-7)の前記チオエーテル架橋ペプチド変異体は、AT2受容体のアゴニストである。
【0121】
一実施形態では、前記追加の単一アミノ酸残基は、荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸、及び疎水性アミノ酸からなる群から選択される。
【0122】
一実施形態では、前記追加の単一アミノ酸残基は、天然に存在するアミノ酸である。一実施形態では、前記追加の単一アミノ酸残基は、荷電アミノ酸、芳香族アミノ酸、及び疎水性アミノ酸からなる群から選択される。
【0123】
一実施形態では、癌の処置における使用のためのXcAng(1-7)の前記ペプチド変異体は、アミノ酸配列:
Xaa1-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号1)
からなり、これは5位のAbu/Alaの側鎖と8位のAbu/Alaの側鎖との間のチオエーテル架橋結合を含み、
式中、Xaa1は、Lys、Tyr、Asp、pGlu及びIleからなる群から選択される。
【0124】
一実施形態では、XcAng(1-7)の前記ペプチド変異体のXaa1は、D立体異性体である。
【0125】
一実施形態では、XcAng(1-7)の前記ペプチド変異体のXaa1はLysである。
【0126】
一実施形態では、XcAng(1-7)の前記ペプチド変異体の5位は、AlaのD立体異性体である。
【0127】
一実施形態では、XcAng(1-7)の前記ペプチド変異体の8位は、AlaのL立体異性体である。
【0128】
一実施形態では、XcAng(1-7)の前記ペプチド変異体の8位は、AlaのL立体異性体であり、1位は、Lys及びD立体異性体である。
【0129】
一実施形態では、XcAng(1-7)の前記ペプチド変異体の5位は、AlaのD立体異性体であり、8位はAlaのL立体異性体である。
【0130】
一実施形態では、XcAng(1-7)の前記ペプチド変異体は、2つのAbu(2-アミノ酪酸)残基を含まないという条件下で、Lys-Asp-Arg-Val-Abu/Ala-Ile-His-Abu/Ala(配列番号2)のアミノ酸配列を有する。
【0131】
処置方法
本開示はまた、治療有効量の本発明による環状ペプチドを対象に投与することを含む、癌を処置する方法を提供する。
【0132】
特定の実施形態では、本開示は、治療有効量の本開示による環状ペプチドを対象に投与することを含む、腫瘍増殖を阻害する方法を提供する。
【0133】
本開示のさらなる態様によれば、AT2受容体アゴニストの内因性産生が欠損している癌、及び/又はAT2受容体アゴニストの効果の増加が所望若しくは必要とされる癌、及び/又はAT2受容体が発現され、それらの刺激が所望若しくは必要とされる癌、及び/又は構成的に活性なAT2Rのリガンド媒介性アップレギュレーションが所望される癌の処置方法が提供される。
【0134】
別の実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のための医薬の製造における使用のための、本開示による環状ペプチドを提供する。
【0135】
一実施形態では、本開示は、癌の処置のための医薬の調製における本発明による環状ペプチドの使用を提供する。
【0136】
一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のための医薬としての使用のための、本開示による環状ペプチドを提供する。
【0137】
一実施形態では、本開示は、癌の処置における使用のための医薬の製造のための、本開示による環状ペプチドの使用を提供する。特定の実施形態では、癌は固形癌である。特定の実施形態では、固形癌は、脳癌、結腸癌、肺癌及び/又は卵巣癌である。特定の実施形態では、対象はヒトである。特定の実施形態では、癌は抵抗性癌及び/又は再発癌である。
【0138】
本開示は、脳癌、結腸癌、肺癌及び/又は卵巣癌の処置における使用のための、本開示による環状ペプチド、特にKcAng(1-7)(配列番号2)を提供する。
【0139】
特定の態様において、本開示は、多形神経膠芽腫の処置における使用のためのKcAng(1-7)(配列番号2)を提供する。
【0140】
別の態様では、KcAng(1-7)(配列番号2)を含む医薬組成物が、脳癌、結腸癌、肺癌及び/又は卵巣癌の処置における使用のために提供される。
【0141】
特定の態様において、KcAng(1-7)(配列番号2)を含む医薬組成物が、多形神経膠芽腫の処置における使用のために提供される。
【0142】
別の実施形態では、本開示は、脳癌、結腸癌、肺癌及び/又は卵巣癌の処置における使用のための医薬の調製のためのKcAng(1-7)(配列番号2)の使用を提供する。
【0143】
特定の実施形態において、本開示は、多形神経膠芽腫の処置における使用のための医薬の調製のためのKcAng(1-7)(配列番号2)の使用を提供する。
【0144】
一態様において、本開示の環状ペプチド、特にKcAng(1-7)(配列番号2)を使用して脳癌、結腸癌、肺癌及び/又は卵巣癌を処置する方法が提供される。特定の態様では、本開示の環状ペプチド、特にKcAng(1-7)(配列番号2)を使用して多形神経膠芽腫を処置する方法が提供される。
【0145】
特定の実施形態において、抵抗性癌は、EGFR阻害剤、Her2阻害剤、Her3阻害剤、IGFR阻害剤及びMet阻害剤を含むがこれらに限定されないチロシンキナーゼ阻害剤に対して抵抗性である。特定の実施形態では、前記チロシンキナーゼ阻害剤抵抗性癌は、EGFR阻害剤、Her2阻害剤、Her3阻害剤、IGFR阻害剤及び/又はMet阻害剤に対して抵抗性である。
【0146】
疾患の処置のために、本開示による環状ペプチドの適切な投与量は、処置される疾患のタイプ、疾患の重症度及び経過、疾患の反応性、以前の処置法、患者の臨床歴などの様々な因子に依存する。本開示による環状ペプチドは、1回、又は数日~数ヶ月続く一連の処置にわたって、又は治癒が達成されるか、若しくは疾患状態の減少が達成される(例えば、腫瘍サイズの減少)まで投与され得る。
【0147】
併用療法
特定の実施形態では、本開示による環状ペプチドは、他の治療剤、例えば、他の抗癌剤、抗アレルギー剤、抗悪心剤(又は制吐剤)、疼痛緩和剤、細胞保護剤、及びそれらの組み合わせと組み合わされる。
【0148】
一実施形態では、本開示による環状ペプチドは、抗癌特性を有する第2の化合物と、医薬組み合わせ製剤、又は組み合わせ療法としての投薬レジメンにおいて組み合わされる。
【0149】
医薬組み合わせ製剤又は投薬レジメンの第2の化合物は、それらが互いに悪影響を及ぼさないように、組み合わせの環状ペプチドに対して相補的活性を有することができる。
【0150】
例えば、本開示による環状ペプチドは、化学療法剤、チロシンキナーゼ阻害剤、AT2受容体下流シグナル伝達経路アクチベーター、AT1受容体アンタゴニスト、IAP阻害剤、Bcl2阻害剤、Mcl1阻害剤、及び他のAT2受容体アゴニストと組み合わせて投与され得るが、これらに限定されない。
【0151】
本明細書で使用される用語「医薬組み合わせ」は、1つの単位剤形における固定された組み合わせ、又は非固定の組み合わせ、又は2つ以上の治療剤が時間間隔内で同時に若しくは別々に独立して投与され得、特に、これらの時間間隔が、組み合わせパートナーが協同的、例えば相乗的効果を示すことを可能にする、組み合わせ投与のための部分のキットのいずれかを指す。
【0152】
用語「併用療法」は、本開示に記載される治療状態又は障害を処置するための2つ以上の治療剤の投与を指す。このような投与は、活性成分の固定比を有する単一カプセル中など、実質的に同時の様式でのこれらの治療剤の共投与を包含する。或いは、このような投与は、各活性成分について複数の又は別個の容器(例えば、カプセル、粉末、及び液体)中での共投与を包含する。粉末及び/又は液体は、投与前に所望の用量に再構成又は希釈され得る。さらに、このような投与はまた、ほぼ同時に又は異なる時点のいずれかでの連続的な様式での各タイプの治療剤の使用を包含する。いずれの場合も、処置レジメンは、本明細書に記載の状態又は障害の処置において、薬物組み合わせの有益な効果を提供するであろう。
【0153】
併用療法は「相乗作用」を提供し、「相乗的」、即ち、一緒に使用される活性成分が、化合物を別々に使用することから生じる効果の合計よりも大きい場合に達成される効果(組み合わせの付加的効果)を証明し得る。相乗的効果は、活性成分が:(1)共製剤化され、そして組み合わせられた単位剤形において同時に投与若しくは送達される場合;(2)別々の製剤として交互に若しくは並行して送達される場合;又は(3)いくつかの他のレジメンによって達成され得る。交互療法で送達される場合、相乗的効果は、化合物が例えば、別々の注射器における異なる注射によって、連続的に投与又は送達される場合に達成され得る。一般に、交互療法中、各活性成分の有効用量は連続的に、即ち順次に投与され、一方、併用療法では、2つ以上の活性成分の有効用量は、一緒に投与される。組み合わせの「相乗作用」、「相乗性」又は「相乗的活性」は、ここではClarkeらの方法により決定される。Clarke et al., Issues in experimental design and endpoint analysis in the study of experimental cytotoxic agents in vivo in breast cancer and other models, Breast Cancer Research and Treatment 46:255-278 (1997)を参照されたい。
【0154】
併用療法での使用が考慮される一般的な化学療法剤には、アナストロゾール(Arimidex(登録商標))、ビカルタミド(Casodex(登録商標))、ブレオマイシン硫酸塩(Blenoxane(登録商標))、ブスルファン(Myleran(登録商標))、ブスルファン注射(Busulfex(登録商標))、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、N4-ペントキシカルボニル-5-デオキシ-5-フルオロシチジン、カルボプラチン(Paraplatin(登録商標))、カルムスチン(BiCNU(登録商標))、クロラムブシル(Leukeran(登録商標))、シスプラチン(Platinol(登録商標))、クラドリビン(Leustatin(登録商標))、シクロホスファミド(Cytoxan(登録商標)又はNeosar(登録商標))、シタラビン、シトシンアラビノシド(Cytosar-U(登録商標))、シタラビンリポソーム注射(DepoCyt(登録商標))、ダカルバジン(DTIC-Dome(登録商標))、ダクチノマイシン(Actinomycin D、Cosmegan)、ダウノルビシン塩酸塩(Cerubidine(登録商標))、ダウノルビシンクエン酸塩リポソーム注射(DaunoXome(登録商標))、デキサメサゾン、ドセタキセル(Taxotere(登録商標))、ドキソルビシン塩酸塩(Adriamycin(登録商標)、Rubex(登録商標))、エトポシド(Vepesid(登録商標))、フルダラビンリン酸エステル(Fludara(登録商標))、5-フルオロウラシル(Adrucil(登録商標)、Efudex(登録商標))、フルタミド(Eulexin(登録商標))、テザシチビン(tezacitibine)、ゲムシタビン(ジフルオロデオキシシチジン)、ヒドロキシ尿素(Hydrea(登録商標))、イダルビシン(Idamycin(登録商標))、イホスファミド(IFEX(登録商標))、イリノテカン(Camptosar(登録商標))、L-アスパラギナーゼ(ELSPAR(登録商標))、ロイコボリンカルシウム、メルファラン(Alkeran(登録商標))、6-メルカプトプリン(Purinethol(登録商標))、メトトレキサート(Folex(登録商標))、ミトキサントロン(Novantrone(登録商標))、マイロターグ、パクリタキセル(Taxol(登録商標))、フェニックス(Yttrium90/MX-DTPA)、ペントスタチン、カルムスチンインプラントを有するポリフェプロサン20(Gliadel(登録商標))、タモキシフェンクエン酸塩(Nolvadex(登録商標))、テニポシド(Vumon(登録商標))、6-チオグアニン、チオテパ、チラパザミン(Tirazone(登録商標))、注射用のトポテカン塩酸塩(Hycamptin(登録商標))、ビンブラスチン(Velban(登録商標))、ビンクリスチン(Oncovin(登録商標))、及びビノレルビン(Navelbine(登録商標))が含まれる。
【0155】
一態様において、本開示は、本開示による環状ペプチドを、1つ以上のAT1受容体アンタゴニスト及び/又は1つ以上のAT2受容体アゴニストと組み合わせて、それを必要とする対象に投与することによって癌を処置する使用のための本開示による環状ペプチドを提供する。
【0156】
AT1に結合するアンジオテンシン受容体アンタゴニストは、とりわけ、欧州特許出願第409332号、同第512675号、国際公開第94/27597号、国際公開第94/02142号、国際公開第95/23792号及び国際公開第94/03435号;並びに米国特許第5,091,390号、同第5,177,074号、同第5,412,097号、同第5,250,521号、同第5,260,285号、同第5,376,666号、同第5,252,574号、同第5,312,820号、同第5,330,987号、同第5,166,206号、同第5,932,575号及び同第5,240,928号に開示されている。
【0157】
一実施形態では、前記AT1受容体アンタゴニストは、サルタン、例えば、ロサルタン及び/又はカンデサルタンである。
【0158】
一態様において、本開示は、本開示による環状ペプチドを、1つ以上の他のAT2受容体アゴニストと組み合わせて、それを必要とする対象に投与することによって癌を処置する使用のための、本開示による環状ペプチドを提供する。ペプチド及び非ペプチドAT2受容体アゴニストは、例えば、国際特許出願国際公開第00/38676号、同第00/56345号、同第00/09144号、同第99/58140号、同第99/52540号、同第99/46285号、同第99/45945号、同第99/42122号、同第99/40107号、同第99/40106号、同第99/39743号、同第99/26644号、同第98/33813号、同第00/02905号及び同第99/46285号;米国特許第5,834,432号;並びに日本特許出願第JP143695号に開示されている。
【0159】
アンジオテンシン-(1-7)のチオエーテル架橋ペプチド変異体も当技術分野で知られている。例えば、Kluskensら(J Pharmacol Exp Ther. 2009 Mar; 328(3):849-54)、国際公開第2008/130217号及び国際公開第2012/070936号を参照されたい。
【0160】
一態様では、本開示は、本開示による環状ペプチドを、EGFR阻害剤、Her2阻害剤、Her3阻害剤、IGFR阻害剤、及びMet阻害剤を含むがこれらに限定されない、1つ以上のチロシンキナーゼ阻害剤と組み合わせて、それを必要とする対象に投与することによって癌を処置する使用のための本開示による環状ペプチドを提供する。
【0161】
チロシンキナーゼ阻害剤には、以下が含まれるがこれらに限定されない:エルロチニブ塩酸塩(Tarceva(登録商標));リニファニブ(N-[4-(3-アミノ-1H-インダゾール-4-イル)フェニル]-N’-(2-フルオロ-5-メチルフェニル)尿素、ABT 869としても知られる、Genentechから入手可能);スニチニブリンゴ酸塩(Sutent(登録商標);ボスチニブ(4-[(2,4-ジクロロ-5-メトキシフェニル)アミノ]-6-メトキシ-7-[3-(4-メチルピペラジン-1-イル)プロポキシ]キノリン-3-カルボニトリル、SKI-606としても知られ、米国特許第6,780,996号に記載されている);ダサチニブ(Sprycel(登録商標));パゾパニブ(Votrient(登録商標));ソラフェニブ(Nexavar(登録商標));ザクチマ(ZD6474);及びイマチニブ又はイマチニブメシル酸塩(Gilvec(登録商標)及びGleevec(登録商標))。
【0162】
上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤には、塩酸エルロチニブ(Tarceva(登録商標))、ゲフィチニブ(Iressa(登録商標));N-[4-[(3-クロロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-7-[[(3”S”)-テトラヒドロ-3-フラニル]-オキシ]-6-キナゾリニル]-4(ジメチルアミノ)-2-ブテンアミド、Tovok(登録商標));バンデタニブ(Caprelsa(登録商標));ラパチニブ(Tykerb(登録商標));(3R,4R)-4-アミノ-1-((4-((3-メトキシフェニル)アミノ)ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-5-イル)メチル)ピペリジン-3-オール(BMS690514);カネルチニブ二塩酸塩(CI-1033);6-[4-[(4-エチル-1-ピペラジニル)メチル]フェニル]-N-[(1R)-1-フェニルエチル]-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン(AEE788、CAS 497839-62-0);ムブリチニブ(TAK165);ペリチニブ(EKB569);アファチニブ(BIBW2992);ネラチニブ(HKI-272);N-[4-[[1-[(3-フルオロフェニル)メチル]-1H-インダゾール-5-イル]アミノ]-5-メチルピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-6-イル]-カルバミン酸、(3S)-3-モルホリニルメチルエステル(BMS599626);N-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニル)-6-メトキシ-7-[[(3aα,5β,6aα)-オクタヒドロ-2-メチルシクロペンタ[c]ピロール-5-イル]メトキシ]-4-キナゾリンアミン(XL647、CAS 781613-23-8);及び4-[4-[[(1R)-1-フェニルエチル]アミノ]-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-6-イル]-フェノール(PKI166、CAS 187724-61-4)が含まれるがこれらに限定されない。
【0163】
EGFR抗体には、セツキシマブ(Erbitux(登録商標));パニツムマブ(Vectibix(登録商標));マツズマブ(EMD-72000);トラスツズマブ(Herceptin(登録商標));ニモツズマブ(hR3);ザルツムマブ;TheraCIM h-R3;MDX0447(CAS 339151-96-1);及びch806(mAb-806、CAS 946414-09-1)が含まれるがこれらに限定されない。
【0164】
ヒト上皮成長因子受容体2(Her2受容体)(Neu、ErbB-2、CD340、又はp185としても知られる)阻害剤には、トラスツズマブ(Herceptin(登録商標));ペルツズマブ(Omnitarg(登録商標));トラスツズマブエムタンシン(Kadcyla(登録商標));ネラチニブ(HKI-272,(2E)-N-[4-[[3-クロロ-4-[(ピリジン-2-イル)メトキシ]フェニル]アミノ]-3-シアノ-7-エトキシキノリン-6-イル]-4(ジメチルアミノ)ブタ-2-エンアミド、及びPCT公開国際公開第05/028443号)に記載されている;ラパチニブ又はラパチニブジトシレート(Tykerb(登録商標));(3R,4R)-4-アミノ-1-((4-((3-メトキシフェニル)アミノ)ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-5-イル)メチル)ピペリジン-3-オール(BMS690514);(2E)-N-[4-[(3-クロロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-7-[[(3S)-テトラヒドロ-3-フラニル]オキシ]-6-キナゾリニル]-4-(ジメチルアミノ)-2-ブテンアミド(BIBW-2992、CAS 850140-72-6);N-[4-[[1-[(3-フルオロフェニル)メチル]-1H-インダゾール-5-イル]アミノ]-5-メチルピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-6-イル]-カルバミン酸、(3S)-3-モルホリニルメチルエステル(BMS 599626、CAS 714971-09-2);カネルチニブ二塩酸塩(PD183805又はCI-1033);及びN-(3,4-ジクロロ-2-フルオロフェニル)-6-メトキシ-7-[[(3aα,5β,6aα)-オクタヒドロ-2-メチルシクロペンタ[c]ピロール-5-イル]メトキシ]-4-キナゾリンアミン(XL647、CAS 781613-23-8)が含まれるがこれらに限定されない。
【0165】
Her3阻害剤には、LJM716、MM-121、AMG-888、RG7116、REGN-1400、AV-203、MP-RM-1、MM-111、及びMEHD-7945Aが含まれるがこれらに限定されない。
【0166】
MET阻害剤には、以下が含まれるがこれらに限定されない:カボザンチニブ(XL184、CAS 849217-68-1);フォレチニブ(GSK1363089、以前はXL880、CAS 849217-64-7);チバンチニブ(ARQ197、CAS 1000873-98-2);1-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル)-N-(5-(7-メトキシキノリン-4-イルオキシ)ピリジン-2-イル)-5-メチル-3-オキソ-2-フェニル-2,3-ジヒドロ-1H-ピラゾール-4-カルボキサミド(AMG 458);クリゾチニブ(Xalkori(登録商標)、PF-02341066);(3Z)-5-(2,3-ジヒドロ-1H-インドール-1-イルスルホニル)-3-({3,5-ジメチル-4-[(4-メチルピペラジン-1-イル)カルボニル]-1H-ピロール-2-イル}メチレン)-1,3-ジヒドロ-2H-インドール-2-オン(SU11271);(3Z)-N-(3-クロロフェニル)-3-({3,5-ジメチル-4-[(4-メチルピペラジン-1-イル)カルボニル]-1H-ピロール-2-イル}メチレン)-N-メチル-2-オキソインドリン-5-スルホンアミド(SU11274);(3Z)-N-(3-クロロフェニル)-3-{[3,5-ジメチル-4-(3-モルホリン-4-イルプロピル)-1H-ピロール-2-イル]メチレン}-N-メチル-2-オキソインドリン-5-スルホンアミド(SU11606);6-[ジフルオロ[6-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-1,2,4-トリアゾロ[4,3-b]ピリダジン-3-イル]メチル]-キノリン(JNJ38877605、CAS 943540-75-8);2-[4-[1-(キノリン-6-イルメチル)-1H-[1,2,3]トリアゾロ[4,5-b]ピラジン-6-イル]-1H-ピラゾール-1-イル]エタノール(PF04217903、CAS 956905-27-4);N-((2R)-1,4-ジオキサン-2-イルメチル)-N-メチル-N’-[3-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-5-オキソ-5H-ベンゾ[4,5]シクロヘプタ[1,2-b]ピリジン-7-イル]スルファミド(MK2461、CAS 917879-39-1);6-[[6-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-1,2,4-トリアゾロ[4,3-b]ピリダジン-3-イル]チオ]-キノリン(SGX523、CAS 1022150-57-7);及び(3Z)-5-[[(2,6-ジクロロフェニル)メチル]スルホニル]-3-[[3,5-ジメチル-4-[[(2R)-2-(1-ピロリジニルメチル)-1-ピロリジニル]カルボニル]-1H-ピロール-2-イル]メチレン]-1,3-ジヒドロ-2H-インドール-2-オン(PHA665752、CAS 477575-56-7)。IGF1R阻害剤には、BMS-754807、XL-228、OSI-906、GSK0904529A、A-928605、AXL1717、KW-2450、MK0646、AMG479、IMCA12、MEDI-573、及びBI836845が含まれるがこれらに限定されない。
【0167】
別の態様では、本開示は、本開示による環状ペプチドを、1つ以上のAT2受容体下流シグナル伝達経路阻害剤(例えば、ERbB4阻害剤)と組み合わせて、それを必要とする対象に投与することによる、癌の処置における使用のための本開示による環状ペプチドを提供する。
【0168】
別の態様では、本開示は、本開示による環状ペプチドを、IAP阻害剤、Bcl2阻害剤、MCl1阻害剤、Trail剤、Chk阻害剤を含むがこれらに限定されない1つ以上のプロアポトーシス剤と組み合わせて、それを必要とする対象に投与することによる、癌の処置における使用のための本開示による環状ペプチドを提供する。
【0169】
IAP阻害剤には、LCL161、GDC-0917、AEG-35156、AT406、及びTL32711が含まれるがこれらに限定されない。IAP阻害剤の他の例には、国際公開第04/005284号、国際公開第04/007529号、国際公開第05/097791号、国際公開第05/069894号、国際公開第05/069888号、国際公開第05/094818号、米国特許出願公開第2006/0014700号、米国特許出願公開第2006/0025347号、国際公開第06/069063号、国際公開第06/010118号、国際公開第06/017295号及び国際公開第08/134679号に開示されるものが含まれるが、これらに限定されない。
【0170】
BCL-2阻害剤には、4-[4-[[2-(4-クロロフェニル)-5,5-ジメチル-1-シクロヘキセン-1-イル]メチル]-1-ピペラジニル]-N-[[4-[[(1R)-3-(4-モルホリニル)-1-[(フェニルチオ)メチル]プロピル]アミノ]-3-[(トリフルオロメチル)スルホニル]フェニル]スルホニル]ベンズアミド(ABT-263としても知られ、PCT公開国際公開第09/155386号に記載されている);テトロカルシンA;アンチマイシン;ゴシポール((-)BL-193);オバトクラクス;エチル-2-アミノ-6-シクロペンチル-4-(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチル)-4Hクロモン-3-カルボキシレート(HA14-1);オブリメルセン(G3139、Genasense(登録商標));Bak BH3ペプチド;(-)-ゴシポール酢酸(AT-101);4-[4-[(4’-クロロ[1,1’-ビフェニル]-2-イル)メチル]-1-ピペラジニル]-N-[[4-[[(1R)-3-(ジメチルアミノ)-1-[(フェニルチオ)メチル]プロピル]アミノ]-3-ニトロフェニル]スルホニル]-ベンズアミド(ABT-737、CAS 852808-04-9);及びナビトクラクス(ABT-263、CAS 923564-51-6)が含まれるがこれに限定されない。
【0171】
デュラネルミン(AMG-951、RhApo2L/TRAIL);マパツズマブ(HRS-ETR1、CAS 658052-09-6);レクサツムマブ(HGS-ETR2、CAS 845816-02-6);アポマブ(Apomab(登録商標));コナツムマブ(AMG655、CAS 896731-82-1);及びティガツズマブ(CS1008、CAS 946415-34-5、第一三共から入手可能)を含むがこれらに限定されない、DR4(TRAILR1)及びDR5(TRAILR2)を含むプロアポトーシス受容体アゴニスト(PARA)。
【0172】
チェックポイントキナーゼ(CHK)阻害剤には、7-ヒドロキシスタウロスポリン(UCN-01);6-ブロモ-3-(1-メチル-1H-ピラゾール-4-イル)-5-(3R)-3-ピペリジニル-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-7-アミン(SCH900776、CAS 891494-63-6);5-(3-フルオロフェニル)-3-ウレイドチオフェン-2-カルボン酸N-[(S)-ピペリジン-3-イル]アミド(AZD7762、CAS 860352-01-8);4-[((3S)-1-アザビシクロ[2.2.2]オクタ-3-イル)アミノ]-3-(1H-ベンゾイミダゾール-2-イル)-6-クロロキノリン-2(1H)-オン(CHIR 124、CAS 405168-58-3);7-アミノダクチノマイシン(7-AAD)、イソグラニュラチミド、デブロモヒメニアルジシン;N-[5-ブロモ-4-メチル-2-[(2S)-2-モルホリニルメトキシ]-フェニル]-N’-(5-メチル-2-ピラジニル)尿素(LY2603618、CAS 911222-45-2);スルホラファン(CAS 4478-93-7、4-メチルスルフィニルブチルイソチオシアネート);9,10,11,12-テトラヒドロ-9,12-エポキシ-1H-ジインドロ[1,2,3-fg:3’,2’,1’-kl]ピロロ[3,4-i][1,6]ベンゾジアゾシン-1,3(2H)-ジオン(SB-218078、CAS 135897-06-2);並びにTAT-S216A(YGRKKRRQRRRLYRSPAMPENL)、及びCBP501((d-Bpa)sws(d-Phe-F5)(d-Cha)rrrqrr)が含まれるがこれらに限定されない。
【0173】
さらなる実施形態において、本発明は、本開示による環状ペプチドを、1つ以上の免疫モジュレーター(例えば、共刺激分子のアクチベーター又は免疫チェックポイント分子の阻害剤のうちの1つ以上)と組み合わせて、それを必要とする対象に投与することによる、癌の処置における使用のための本開示による環状ペプチドを提供する。
【0174】
特定の実施形態では、免疫モジュレーターは、共刺激分子のアクチベーターである。一実施形態では、共刺激分子のアゴニストは、OX40、CD2、CD27、CDS、ICAM-1、LFA-1(CD11a/CD18)、ICOS(CD278)、4-1BB(CD137)、GITR、CD30、CD40、BAFFR、HVEM、CD7、LIGHT、NKG2C、SLAMF7、NKp80、CD160、B7-H3又はCD83リガンドのアゴニスト(例えば、アゴニスト抗体又はその抗原結合断片、又は可溶性融合物)から選択される。
【0175】
特定の実施形態において、免疫モジュレーターは、免疫チェックポイント分子の阻害剤である。一実施形態では、免疫モジュレーターは、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA4、TIM3、LAG3、VISTA、BTLA、TIGIT、LAIR1、CD160、2B4及び/又はTGFRβの阻害剤である。一実施形態では、免疫チェックポイント分子の阻害剤は、PD-1、PD-L1、LAG-3、TIM-3若しくはCTLA4、又はそれらの任意の組み合わせを阻害する。
【0176】
阻害分子の阻害は、DNA、RNA又はタンパク質レベルで行うことができる。いくつかの実施形態では、阻害核酸(例えば、dsRNA、siRNA又はshRNA)を使用して、阻害分子の発現を阻害することができる。他の実施形態では、阻害シグナルの阻害剤は、阻害分子に結合するポリペプチド、例えば可溶性リガンド(例えば、PD-1-Ig又はCTLA-4 Ig)、又は抗体若しくはその抗原結合断片;例えば、PD-1、PD-L1、PD-L2、CTLA4、TIM3、LAG3、VISTA、BTLA、TIGIT、LAIR1、CD160、2B4及び/又はTGFRβに結合する抗体若しくはその断片、又はそれらの組み合わせである。
【0177】
特定の実施形態において、免疫モジュレーターは、PD-1、例えばヒトPD-1の阻害剤である。別の実施形態では、免疫モジュレーターは、PD-L1、例えばヒトPD-L1の阻害剤である。一実施形態では、PD-1又はPD-L1の阻害剤は、PD-1又はPD-L1に対する抗体分子である。PD-1又はPD-L1阻害剤は、単独で、又は他の免疫モジュレーターと組み合わせて、例えば、LAG-3、TIM-3又はCTLA4の阻害剤と組み合わせて投与することができる。例示的な実施形態では、PD-1又はPD-L1の阻害剤、例えば、抗PD-1又はPD-L1抗体分子は、LAG-3阻害剤、例えば、抗LAG-3抗体分子と組み合わせて投与される。別の実施形態では、PD-1又はPD-L1の阻害剤、例えば、抗PD-1又はPD-L1抗体分子は、TIM-3阻害剤、例えば、抗TIM-3抗体分子と組み合わせて投与される。さらに他の実施形態では、PD-1又はPD-L1の阻害剤、例えば、抗PD-1抗体分子は、LAG-3阻害剤、例えば、抗LAG-3抗体分子、及びTIM-3阻害剤、例えば、抗TIM-3抗体分子と組み合わせて投与される。PD-1阻害剤(例えば、PD-L2、CTLA4、TIM3、LAG3、VISTA、BTLA、TIGIT、LAIR1、CD160、2B4及び/又はTGFRのうちの1つ以上)との免疫モジュレーターの他の組み合わせもまた、本開示の範囲内である。
【0178】
一実施形態では、PD-1阻害剤は、ニボルマブ、ペンブロリズマブ又はピジリズマブから選択される抗PD-1抗体である。PD1に特異的に結合するニボルマブ及び他のヒトモノクローナル抗体は、米国特許第8,008,449号及び国際公開第2006/121168号に開示されている。
【0179】
他の実施形態では、抗PD-1抗体は、ペンブロリズマブである(Hamid, O. et al. (2013) New England Journal of Medicine 369 (2):134-44、国際公開第2009/114335号;米国特許第8,354,509号を参照されたい)。他の抗PD1抗体は、米国特許第8,609,089号、米国特許出願公開第2010028330号、及び/又は米国特許出願公開第20120114649号に開示されている。
【0180】
特定の実施形態では、PD-1阻害剤は、イムノアドヘシン(例えば、定常領域(例えば、免疫グロブリン配列のFc領域)に融合されたPD-L1又はPD-L2の細胞外又はPD-1結合部分を含むイムノアドヘシン)である。いくつかの実施形態では、PD-1阻害剤はAMP-224である。
【0181】
特定の実施形態では、PD-L1阻害剤は、抗PD-L1抗体である。いくつかの実施形態では、抗PD-L1阻害剤は、国際公開第2013/0179174号に開示されているYW243.55.S70、MPDL3280A、MEDI-4736、又はMDX-1105MSB-0010718C(A09-246-2とも呼ばれる)から選択される。
【0182】
一実施形態では、PD-L1阻害剤は、国際公開第2007/005874号に記載されているMDX-1105である。一実施形態では、PD-L1阻害剤は、YW243.55.S70(国際公開第2010/077634号)である。
【0183】
一実施形態では、PD-L1阻害剤は、MDPL3280A(Genentech / Roche)である。MDPL3280A及びPD-L1に対する他のヒトモノクローナル抗体は、米国特許第7,943,743号及び米国特許出願公開第20120039906号に開示されている。
【0184】
他の実施形態では、PD-L2阻害剤は、AMP-224(Amplimmune;国際公開第2010/027827号及び国際公開第2011/066342号)である。
【0185】
特定の態様において、多形神経膠芽腫又は未分化星状細胞腫などの脳癌を処置する使用のための本開示による環状ペプチドは、Temodar又はTemodal(登録商標)の商標名で販売されるテモゾロミド(TMZ)と組み合わされる。
【0186】
特定の態様において、本開示は、多形神経膠芽腫の処置における使用のためのKcAng(1-7)を提供し、ここでKcAng(1-7)は、テモゾロミド(TMZ)と組み合わせて投与される。本開示はまた、多形神経膠芽腫の処置における使用のためのテモゾロミドを提供し、ここでテモゾロミドは、KcAng(1-7)と組み合わせて投与される。
【0187】
さらに、テモゾロミド(TMZ)及び/又はAT1アンタゴニスト、好ましくはロサルタンと組み合わせてKcAng(1-7)を使用して、多形神経膠芽腫又は未分化星状細胞腫などの脳癌を処置するための方法が提供される。
【0188】
別の態様では、本開示は、多形神経膠芽腫の処置における使用のためのKcAng(1-7)を提供し、ここでKcAng(1-7)は、AT1-アンタゴニスト、好ましくはロサルタンと組み合わせて投与される。本開示はまた、多形神経膠芽腫の処置における使用のためのAT1-アンタゴニスト、好ましくはロサルタンを提供し、ここでロサルタンは、KcAng(1-7)と組み合わせて投与される。
【0189】
特定の態様において、多形神経膠芽腫の処置における使用のためのKcAng(1-7)とテモゾロミド(TMZ)との相乗的組み合わせが提供される。
【0190】
別の態様では、多形神経膠芽腫の処置における使用のためのKcAng(1-7)とテモゾロミド(TMZ)との相乗的組み合わせが提供され、ここで相乗的効果は、腫瘍重量減少に対するものである。
【実施例】
【0191】
作業実施例
実施例1
様々なヒト患者由来異種移植片(PDX)癌モデルの増殖に対するKcAng(1-7)の効果のインビボ評価。
1.1 インビボ試験デザイン
EPO GmbH Berlinでインビボ試験を行った。大規模な試験(
図1A、2、3、4、5)は、表1に概説されるように、10匹のマウス/群の3群及び予備として5匹の動物を含んだ。試験開始時に、30匹のマウスにそれぞれのPDX腫瘍を接種した(PDX腫瘍は表2に要約する)。より小規模な試験(
図1B、1C、1D)は、1群あたり3匹のマウスの2群を含んだ。動物を様々な処置群(例えば、0.2μg/kg及び30μg/kg)に割り当て、1群あたり最大10匹の動物とした。その後、腫瘍接種後に到達した十分な腫瘍サイズの0日目から開始して、週2回、動物の腫瘍増殖を観察した。群は表1に概説するように皮下(s.c.)薬物注射(最大28日間)を受けた。
【0192】
NMRI nu/nuマウスをこの試験で使用した。動物は6~8週齢の雌であった。それぞれのPDX腫瘍を皮下(s.c.)に接種し、腫瘍を増殖させて、それぞれの処置の開始前に触知可能な腫瘍サイズを達成した。PDXには、乳癌(MaCa4151)、結腸癌(Co9689A)、頭頸部癌(HN10309)、肺癌(Lu7433)及び卵巣癌(OvCa13329)が含まれた(表2)。
【0193】
【0194】
【0195】
KcAng(1-7)による処置は、腫瘍体積に関して動物を無作為に割り付けた後、触知可能な腫瘍を用いて開始した。KcAng(1-7)を、0.2μg/kg又は30μg/kgの用量で、最大28日間(又は試験の人道的なエンドポイントによって定義されるように、より早く)連日注射によって皮下に適用した。
【0196】
KcAng(1-7)を以下のように調製した:化合物を無菌PBSに懸濁し、透明な溶液を得た。この製剤の残留物を4℃で保存した。
【0197】
KcAng(1-7)の腫瘍増殖刺激活性又は阻害活性は、腫瘍体積(TV)の測定により評価した。試験中、腫瘍体積及び体重を週2回測定し、化合物処置群とビヒクル処置群との間の平均腫瘍体積の比(T/C)を計算した。
【0198】
腫瘍体積及びT/Cは、以下の式に従って計算した:
腫瘍体積=(腫瘍の幅)×(腫瘍の幅)×(腫瘍の長さ)÷2
T/C=T÷C
T:化合物処置群の平均推定腫瘍体積
C:ビヒクル処置群の平均推定腫瘍体積
【0199】
さらなる分析のために、麻酔したマウスの屠殺後に腫瘍を採取した。腫瘍サンプルを急速凍結又はホルマリン固定(FFPE)した。
【0200】
1.2 インビボ試験の結果
以下、KcAng(1-7)についてのデータは、得られた実験データから引き出された実体特異的結論を含む、各腫瘍実体(1つのPDXによって表される)について示される。
【0201】
1.3 結腸癌PDX Co9689A
結腸癌PDXモデルCo9689Aについては、KcAng(1-7)による処置を28日間実施した。全体的に、平均体重評価により決定した処置の忍容性は良好であった(データは示さず)。
【0202】
KcAng(1-7)を投与した結果、腫瘍増殖は統計学的に有意且つ用量依存的に減少し、28日目(試験41日目)の腫瘍体積は0.2μg/kgの用量で58%、30μg/kgの用量で45%減少した。腫瘍増殖の減少は、30μg/kgの用量で最も有意であった。
【0203】
腫瘍体積測定値、T/C及びRTV値の平均値を表3に要約する。
【0204】
【0205】
1.4 頭頸部癌PDXモデルHN10309
頭頸部癌PDXモデルについては、KcAng(1-7)による処置を28日間実施し、平均体重により決定した忍容性は良好であった(データは示さず)。KcAng(1-7)による処置では、処置14日目の用量0.2μg/kgでは100~126%、用量30μg/kgでは71%のoptT/C値に反映されるように、腫瘍体積の減少又は増加をもたらさなかった。表4は、腫瘍体積測定値T/C及びRTV値の平均値を要約する。
図2は、経時的な腫瘍体積成長を示す。
【0206】
【0207】
1.5 肺癌PDX Lu7433
肺癌PDXモデルについては、KcAng(1-7)による処置を19日間実施し、平均体重により決定した忍容性は良好であった(データは示さず)。人道的なエンドポイント(腫瘍体積>1.5cm3)に達したため、28日以前に試験を終了した。全体的に、KcAng(1-7)での処置は腫瘍増殖の中程度であるが有意な減少をもたらし、これは、0.2μg/kgの用量について68.2%のoptT/C値及び30μg/kgの用量について71.9%のoptT/C値によって反映された。表5は、腫瘍体積測定値T/C及びRTV値の平均値を要約する。
【0208】
【0209】
1.6 乳癌PDX MaCa4151
乳癌PDXモデルについては、KcAng(1-7)による処置を17日間実施し、平均体重により決定した忍容性は、同様に良好であった(データは示さず)。ビヒクル群における腫瘍体積(腫瘍体積>1.5cm
3)に関する人道的なエンドポイントの到達のために、28日以前に試験を終了した。KcAng(1-7)での処置は、腫瘍増殖の増加又は腫瘍増殖の減少をもたらさなかった。これは、
図4及び表6に示すデータの統計分析によっても反映される。
【0210】
【0211】
1.7 卵巣癌PDX OvCa13329
卵巣癌PDXモデルについては、KcAng(1-7)による処置を15日間実施し、平均体重により決定した忍容性は、同様に良好であった(データは示さず)。この試験は、人道的なエンドポイント(腫瘍体積>1.5cm
3)の到達により、提案された処置の28日以前に終了しなければならなかった。KcAng(1-7)による処置は腫瘍増殖を促進しなかった。処置の結果、腫瘍体積が有意に減少し、これは処置11日目の用量0.2μg/kgでは55.8%、用量30μg/kgでは51%のoptT/C値に反映された。これは、
図5及び表7に示すデータの統計分析によっても反映される。
【0212】
【0213】
1.8 結論
PDXインビボ試験を実施して、固形癌の5つの異なるヒトPDX癌モデル(乳癌MaCa4151、結腸癌Co9689A、頭頸部癌HN10309、肺癌Lu7433、卵巣癌OvCa13329)における、化合物KcAng(1-7)の癌増殖に対する有効性を評価した。
【0214】
本試験では、試験した全てのモデルで使用した両用量(0.2及び30mg/kg)で薬物の良好な忍容性が明らかになり、これらは全て雌NMRI nu/nuマウスで実施された。
【0215】
本試験では、試験したPDXモデルでは、腫瘍増殖刺激作用がないことが明らかとなった。
【0216】
さらに重要なことに、肺、結腸及び卵巣癌PDXモデルでは、試験した最低用量の0.2μg/kg/日でも、腫瘍増殖の有意な阻害が観察された。
【0217】
この知見は、ヒト癌モデルにおけるKcAng(1-7)の抗腫瘍活性を明確に示している。
【0218】
実施例2
2.1 作用様式及び関与するシグナル伝達経路
作用様式及び関与するシグナル伝達経路を調べるために、実施例1に記載されている処置で顕著な腫瘍増殖遅延(約40%)を示した結腸癌PDXモデルにおいて、KcAng(1-7)処置及びビヒクル処置PDXサンプルの包括的キナーゼ活性プロファイリングを行った。特に、キナーゼ活性に対する処置の効果を決定するために、結腸癌PDX由来の溶解物におけるチロシン(PTK)及びセリン/トレオニン(STK)PamChip(登録商標)ベースのキナーゼ活性プロファイリングを、PamGene International B.V.(オランダ)が実施した。
【0219】
ビヒクル処置結腸癌PDX腫瘍(対照、n=10)及びKcAng(1-7)処置結腸癌PDX腫瘍(処置、n=10)についてPamGene(登録商標)キナーゼ活性プロファイルを測定した。
【0220】
腫瘍サンプルの凍結組織を処置して溶解物を作製し、続いてチロシンキナーゼ及びセリン/トレオニンキナーゼ活性プロファイルを決定した。データセットはPamGeneバイオインフォマティクスツールボックスによって、例えば、Upstream Kinase Analysisと呼ばれるPamGeneのメソッドを使用することによって分析した。
【0221】
2.2 結果
キナーゼのランク付けには、対応するキナーゼに用いられるペプチドのセットに関して、キナーゼの有意性及び特異性に基づいてキナーゼのスコアを用いた。キナーゼ統計は、キナーゼを表すペプチドセットの全体的な変化を示す。キナーゼ統計値<0は、ビヒクル処置腫瘍におけるより高い活性を示す。
【0222】
【0223】
【0224】
さらに、タンパク質のUniprot ID及びPamChip対数倍率変化を用いて、組み合わせたPTK及びSTKデータセットについて、3つの異なる経路分析(GeneGo、Enrichr and Proteome Maps)を行った。KcAng(1-7)処置腫瘍においてダウンレギュレートされるn=62タンパク質(p<0.10のカットオフ)の入力データを用いたEnrichr解析により、関与する以下の経路が明らかになった(KEGG経路の上位10の結果のみを列挙する):MAPK、PI3K-Akt、Rap1、Ras、ニューロトロピン、前立腺癌、HIF-1、癌におけるプロテオグリカン、cGMP-PKG、VEGFシグナル伝達経路。
【0225】
2.3.結論
PamChip(登録商標)データに基づき、主要なキナーゼとその関連経路を同定した。特に、阻害キナーゼLMR1(AATYK)、HER、FGFR(PTK)及びCDK、ERK、MAPK、JNK(STK)を含む特異的キノーム阻害を、KcAng(1-7)処置結腸PDX腫瘍溶解物において同定した。KcAng(1-7)処置結腸腫瘍で変化する主要共通経路は、MAPKシグナル伝達経路(MAPK1、MAPK3、MAPK7、MAPK12及びAKT1)、及びRasシグナル伝達経路(FGFR、FLT1/VEGFR1、CSF1R)であることが見出された。
【0226】
実施例3
多形神経膠芽腫(GBM)細胞培養由来異種移植モデル(CDX)におけるテモゾロミド又はロサルタンと組み合わせたKcAng(1-7)の抗腫瘍効果のインビボ評価
3.1 インビボ試験デザイン
KcAng(1-7)の効果をヌードマウスの皮下GBM異種移植モデルにおいてインビボで評価した。神経学的現象の反乱と生存率の差を評価した。ヒトGBM細胞株U87MG及びU251MGを使用した。細胞株を、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、及び25mM HEPES緩衝液を補充したDMEM栄養混合物中で増殖させた。全ての細胞株を、5% CO2及び95%空気からなる加湿雰囲気中、37℃で培養した。培地を2日毎に交換し、細胞形態を顕微鏡下で毎日評価した。
【0227】
6週齢の雄無胸腺ヌードマウス(5~7週齢)を、温度制御された室内で食物及び水に自由にアクセスさせて収容した。各群は、10匹の異種移植片cd1 nu/nuマウスによって表される。マウスに、PBS/Matrigel(Matrigel BD Biosciences)の2:1溶液0.15mLに懸濁した100万の培養ヒト腫瘍細胞株を右遠位後肢にて皮下注射した。異種移植片を、デジタルキャリパーを用いて、2つの垂直な次元で4日毎に測定した。腫瘍体積は、以下の式に従って計算した:
腫瘍体積=(腫瘍の幅)×(腫瘍の幅)×(腫瘍の長さ)÷2
【0228】
実験終了時にマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出した。体重減少又は円背姿勢などの苦痛の他の徴候を、処置中及び処置後にチェックした。
【0229】
処置の有効性は、(1)腫瘍のサイズ(ビヒクル対照及び処置)、(2)実験終了時の相対重量、及び(3)ヘモグロビンレベルを測定することによる血管新生の間接的評価によって評価した。
【0230】
処置に対するインビボ腫瘍応答を、以下のパラメーターを用いて評価した:(i)完全応答(CR):測定可能な病変の消失として定義される;(ii)部分応答(PR):測定可能な病変の断面直径の積の合計の50%を超える減少として定義される;(iii)安定疾患(SD):測定可能な病変の断面直径の積の合計の50%未満の減少又は25%未満の増加として定義される;(iv)腫瘍進行(TP):測定された病変の断面直径の積の合計の50%を超える増加として定義される;(v)腫瘍増殖遅延を定義する進行までの時間(TTP)。腫瘍進行は、生物発光イメージング(BLI)光子カウントの分析を通じて計算し、可能な場合には磁気共鳴イメージング(MRI)によって計算した腫瘍体積の分析を通じて計算し、(vi)無病生存(DFS)は、ルシフェラーゼ活性がもはや検出されない時点と動物の死との間に経過した時間であり、(vii)全生存(OS)は、腫瘍接種と動物の死との間に経過した時間である。動物は神経学的徴候(例えば、歩行の変化、振戦/痙攣、嗜眠)又は手術前の体重の20%以上の体重減少の非倫理的状態を示した場合に安楽死させた。ルシフェラーゼトランスフェクト細胞を生物発光評価に使用した。
【0231】
統計方法
データは、平均及び平均の標準誤差(SEM)又は標準偏差(SD)として示す。対照群と投与群との統計学的比較は、Kruskal-Wallis検定(ノンパラメトリック一元配置分散分析)又はMann-Whitney検定(2群の場合)を実施して確立した。有意性のレベルは、P値に、Tukeyの補正に従って行われた比較の数(n)を掛けることによって補正した。TP、TTP及びDFSは、Kaplan-Meier曲線及びGehanの一般化Wilcoxon検定により解析した。全ての統計解析は、SPSS 10.0を用いて行った。
【0232】
3.2 神経膠芽腫CDX U87MG
3.2.1 KcAng(1-7)+テモゾロミド
マウスにおける異所性U87MG細胞培養ベース異種移植片(CDX)に対するKcAng(1-7)と標準治療テモゾロミド(TMZ)の相乗作用。
U87MG細胞CDXを有するマウスを0日目に無作為に割り付けた。KcAng(1-7)を、0日目から始めて最大42日目の(倫理的)エンドポイントまで、毎日皮下注射した(0.2μg/kg)。TMZを16mg/kgで連続5日間、即ち2日目~7日目に投与した。腫瘍の体積評価を4日毎に行い、実験の最後に腫瘍重量を測定した。
【0233】
腫瘍重量の結果を
図8及び表10に示す。KcAng(1-7)及びテモゾロミド(TMZ)の組み合わせ処置について、腫瘍重量減少に対する相乗的効果を示すことができる(表11)。腫瘍進行の時間を
図9及び表12に示す。
【0234】
【0235】
相乗作用は、Clarke et al. Breast Cancer Research and Treatment 46:255-278 (1997)に記載されている方法を用いて決定した。
【0236】
データは以下の方法で分析される:
拮抗的:(AB)/C>(A/C)×(B/C)
相加的:(AB)/C=(A/C)×(B/C)
相乗的:(AB)/C<(A/C)×(B/C)
Aは、処置1に対する応答であり;Bは、処置2に対する応答であり;Cは、ビヒクルに対する応答であり;ABは、処置A及びBの組み合わせである。
【0237】
【0238】
結論:34.2((A/C)x(B/C))は28.8((AB)/C)より大きいので、Clarkeらによれば、腫瘍重量減少に対するKcAng(1-7)及びテモゾロミドの相乗的効果が実証される。表12に示すように、このことは、ビヒクル及びKcAng(1-7)単独処置に対して、組み合わせ処置においてTTPが有意(p<0.0001)に延長したことにも反映されている。
【0239】
【0240】
皮下U87MG異種移植(CDX)モデルは、KcAng(1-7)処置マウス対ビヒクルにおいて、KcAng(1-7)がU87MG由来腫瘍のサイズ及び重量を減少させることを明らかにした。KcAng(1-7)単独処置は、腫瘍重量の有意な減少をもたらした。特に、KcAng(1-7)とテモゾロミドの組み合わせは、腫瘍塊の強力な相乗的減少をもたらした。さらに、KcAng(1-7)は腫瘍進行の時間を約2日間延長させ、テモゾロミドの有効性の増大をもたらした。
【0241】
これらの結果は、KcAng(1-7)とテモゾロミドの組み合わせがU87神経膠腫細胞のインビボ増殖を相乗的に阻害することを示唆する。
【0242】
3.2.2 KcAng(1-7)+ロサルタン
マウスにおける異所性U87MG細胞培養ベース異種移植片(CDX)に対するKcAng(1-7)及びロサルタン。
U87MG細胞CDXを有するマウスを0日目に無作為に割り付けた。KcAng(1-7)を毎日皮下注射した(1μg/kg)。ロサルタンは20mg/kg/日を腹腔内投与した。
【0243】
腫瘍重量の結果を
図10及び表12に示す。腫瘍重量減少に対するわずかな相乗的効果が、組み合わせ群KcAng(1-7)+ロサルタンにおいて観察された(表13)。
図11及び表14は、腫瘍進行の時間を示す。
【0244】
【0245】
【0246】
結論:44.5((A/C)x(B/C))は43.4((AB)/C)よりも大きいので、Clarkeらによれば、KcAng(1-7)及びロサルタンのわずかな相乗的効果が示唆され得る。表14に示すように、これはまた、ビヒクル、KcAng(1.7)及びロサルタン処置に対する組み合わせ処置におけるTTPの有意な延長を意味する。
【0247】
【0248】
3.2.3 KcAng(1-7)は神経膠芽腫U87MG CDXのヘモグロビン含量を低下させる
血管新生は、Gravina GL, et al., Endocr Relat Cancer. 2011; 18:385-400によって記載されているように、ヘモグロビンアッセイを用いて腫瘍ヘモグロビンレベル(HgB)を評価することによって間接的に評価した。簡単に述べると、腫瘍を二重蒸留水中でホモジナイズした。80マイクロリットルのホモジネートを1mLのDrabkin溶液と混合し、室温で15分間インキュベートした。400×gで5分間遠心分離した後、上清を540nmでの吸光度測定に供した。ヘモグロビン濃度に比例する吸収を腫瘍重量で割った。
【0249】
腫瘍ヘモグロビンレベルに関する結果を
図12及び表15に示す。全ての処置群において、HgBレベルはビヒクル対照に対して有意に減少した。KcAng(1-7)とロサルタンの組み合わせで処置した群でHgBレベルが最も低かった。
【0250】
【0251】
1μg/kgのKcAng(1-7)は、ロサルタンよりも神経膠芽腫U87MG CDXに対して強い阻害効果を発揮する。HgB(mg/g組織)のレベルは、腫瘍のサイズ及び処置の有効性と相関する。
【0252】
これらのデータは、KcAng(1-7)が血管新生を阻害することによって神経膠芽腫の増殖を抑制することを示唆している。
【0253】
3.3 神経膠芽腫CDX U251MG
3.3.1 KcAng(1-7)+ロサルタン
マウスにおける異所性U251MG細胞培養ベース異種移植片(CDX)に対するKcAng(1-7)及びロサルタンの効果。動物を、ビヒクルで処置するか、20mg/kg/dのロサルタンで処置するか、1μg/kg/dのKcAng(1-7)で処置するか、又はKcAng(1-7)及びロサルタンの組み合わせで処置した。
【0254】
腫瘍重量減少の結果を
図13に示す。腫瘍進行の時間を表16に示す。KcAng(1-7)単独処置は、ロサルタン単独処置と比較して腫瘍進行をより遅延させる。TTP延長に対する最も強い効果は、KcAng(1-7)とロサルタンの組み合わせ処置で認められる。
【0255】
【0256】
3.2.3 KcAng(1-7)は神経膠芽腫U251MG CDXのヘモグロビン含量を低下させる
U251モデルにおける腫瘍ヘモグロビンレベルの結果を
図15及び表17に示す。
【0257】
【0258】
全ての処置群において、HgBレベルはビヒクル対照に対して有意に減少した。興味深いことに、最低レベルのHgBはKcAng(1-7)単独処置で観察され、1μg/kgのKcAng(1-7)は神経膠芽腫U251MG細胞CDXに対して阻害効果を発揮することを示した。
【0259】
3.4 結論
標準薬物テモゾロミドと組み合わせてインビボU87MG CDXモデルに投与されるKcAng(1-7)(0.2μg/kg/日)は、腫瘍重量減少に対して相乗的効果を示す。
【0260】
1μg/kgのKcAng(1-7)は、ロサルタンよりも神経膠芽腫U87MG及び251MG CDXに対して強い阻害効果を発揮する。
【0261】
腫瘍進行の時間は、KcAng(1-7)を含む全ての処置群において、U87及びU251神経膠芽腫CDXモデルのいずれにおいても有意に遅延する。
【0262】
まとめると、これらの試験は、KcAng(1-7)単独、又はテモゾロミド若しくはロサルタンとの組み合わせがヒト神経膠芽腫CDXモデルにおいて抗腫瘍活性を有することを示唆している。
【配列表】
【国際調査報告】