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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-03
(54)【発明の名称】医薬溶液の頭蓋内送達
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/142 20060101AFI20220926BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
A61M5/142 524
A61M37/00 550
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506509
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(85)【翻訳文提出日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 US2020044343
(87)【国際公開番号】W WO2021022088
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】62/881,875
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
2.VELCRO
(71)【出願人】
【識別番号】511025503
【氏名又は名称】インキューブ ラブス エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】INCUBE LABS, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186716
【弁理士】
【氏名又は名称】真能 清志
(72)【発明者】
【氏名】ミール イムラン
(72)【発明者】
【氏名】ミール ハッシム
【テーマコード(参考)】
4C066
4C267
【Fターム(参考)】
4C066AA10
4C066BB01
4C066CC01
4C066DD11
4C066EE11
4C066FF01
4C066HH01
4C066JJ07
4C267AA74
4C267BB25
4C267BB40
4C267CC12
(57)【要約】
実施形態は、脳への医薬溶液の頭蓋内送達を提供する。システムは、頭蓋穿頭孔への挿入のための穿頭孔栓と、カテーテルと、接続部材と、コネクター菅と、ポンプとを備える。カテーテルは、脳内の組織部位に栓の開口を通って前進する。カテーテルの近位部は、栓の外溝に固定され、脳内でのカテーテルの動きを最小化する。カテーテル、接続部材、コネクター菅、およびポンプは、共に流体的に連結し、脳内の組織部位への医薬溶液の注入のため、ポンプと、カテーテルの遠位端との間に流路を作成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の脳内の組織部位への医薬溶液の送達のためのシステムであって、
近位端と遠位端とを有するカテーテルであって、少なくとも1つのカテーテルルーメンを画定するカテーテルと、
頭蓋穿頭孔栓であって、栓を通る前記カテーテルの前進のために構造化された栓開口を画定する栓であって、
前記被験者の頭蓋における穿頭孔に挿入されるように構造化されたプラグであって、前記栓開口の壁に位置付けられた少なくとも1つのシールを備え、前記カテーテルの外側と共に流体シールを形成するプラグと、
前記プラグが前記穿頭孔に挿入されたとき、前記被験者の頭蓋骨の外表面に係合するように構造化されたフランジであって、側部にフランジ開口を画定し、上部に前記カテーテルを係合させて保持するように構造化された少なくとも1つの溝を画定するフランジとを備える栓と、
近位端と、前記カテーテルの前記近位端に連結するように構造化された遠位端とを有する接続部材であって、少なくとも1つの接続部材ルーメンを画定する接続部材と、
前記フランジ開口を係合させ、前記接続部材を前記フランジに固定するように構造化された固定要素と、
近位端と、前記接続部材近位端に連結するように構造化された遠位端とを有するコネクター菅であって、少なくとも1つのコネクター菅ルーメンを画定するコネクター菅とを備え、
前記少なくとも1つのカテーテルルーメン、前記少なくとも1つの接続部材ルーメン、および前記少なくとも1つのコネクター菅ルーメンは、前記脳内の前記組織部位への前記医薬溶液の送達のため、共に組み立てられるとき、少なくとも1つの流路を提供するように構造化されるシステム。
【請求項2】
前記コネクター菅の前記近位端に連結するように構造化された出口を有するポンプであって、前記流路を通して前記医薬溶液をポンプで注入するように構造化されたポンプと、
前記医薬溶液の貯蔵のためのリザーバであって、前記ポンプに流体的に連結するリザーバとを更に備える、請求項1のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つのカテーテルルーメンは、そこを通る位置決めスタイレットの前進のために形成および構造化される、請求項1のシステム。
【請求項4】
前記カテーテルは、少なくとも1つの放射線不透過性マーカーを備える、請求項1のシステム。
【請求項5】
前記カテーテルは、20~30の範囲のデュロメータを有する、請求項1のシステム。
【請求項6】
前記脳から前記流路への液体の逆流を防ぐ一方向弁を更に備える、請求項1のシステム。
【請求項7】
前記カテーテルの末端部は、前記組織部位への前記医薬溶液の送達のために前記少なくとも1つのカテーテルルーメンに流体的に連結する複数の開口部を備え、前記複数の開口部は、パターンで配置され、標的拡散体積をもたらすように構造化される、請求項1のシステム。
【請求項8】
前記カテーテルは、第1デュロメータを有する末端部と、前記第1デュロメータよりも大きい第2デュロメータを有する残部とを備える、請求項1のシステム。
【請求項9】
前記流路を通る医薬溶液の流量についての情報を提供するように構造化された圧力センサーを更に備える、請求項1のシステム。
【請求項10】
前記カテーテル上または前記カテーテル内に構造化され、位置付けられ、前記カテーテルの遠位先端の近くの、または前記カテーテルの遠位先端に隣接した、脳組織内の圧力を検出する圧力センサーを更に備える、請求項1のシステム。
【請求項11】
前記穿頭孔栓上または前記穿頭孔栓内に配置された回路を更に備える、請求項1のシステム。
【請求項12】
被験者の頭蓋における腫瘍を局所的に治療するための活性薬剤の脳への頭蓋内送達の方法であって、
前記頭蓋内の穿頭孔に位置付けられた穿頭孔栓内の密封可能な開口を通ってカテーテルを前進させる工程であって、前記穿頭孔栓、前記カテーテルの先端は、前記腫瘍内の、または前記腫瘍に近接した、前記脳内の組織部位に位置付けられ、前記カテーテルは、流体ルーメンを画定し、前記カテーテルは、末端部において前記流体ルーメンに流体的に連結する少なくとも1つの開口部を更に画定する工程と、
前記カテーテルの近位部を前記穿頭孔栓内の固定化機構に貼る工程と、
前記組織部位と、前記活性薬剤を含む医薬溶液を備えるリザーバに動作可能に連結するポンプとの間に流路を作成する工程と、
前記流路を介して前記リザーバから前記組織部位に前記医薬溶液をポンプで注入する工程とを含み、送達の流量および継続時間は、確立されたモデルに基づいて選択され、前記脳組織内で医薬溶液の選択された定常状態の拡散体積を実現できるようにする方法。
【請求項13】
前記カテーテルを前進させる工程は、
前記脳内の前記組織部位に前記穿頭孔栓開口を通ってスタイレットを前進させる工程と、
前記カテーテルの先端が前記組織部位に、または前記組織部位内に、位置付けられるように、前記スタイレットを通して前記カテーテルを前進させる工程と、
前記スタイレットを除去する工程とを含む、請求項12の方法。
【請求項14】
前記医薬溶液は、少なくとも1つのオン期間と少なくとも1つのオフ期間とを含むレジメンにおいて、前記組織部位に送達される、請求項12の方法。
【請求項15】
前記モデルは、経時的に様々な流量での造影剤の注入を使用した、拡散体積の脳画像化観察に基づいて確立される、請求項12の方法。
【請求項16】
前記選択された定常状態の拡散体積は、前記腫瘍周辺の選択された健康な組織境界を治療するために前記腫瘍の体積より大きい、請求項12の方法。
【請求項17】
前記活性薬剤は、活性型および不活性型を有する化学療法薬を備え、前記化学療法薬は、がん性の脳組織においては前記活性型を保ち、健康な脳組織においては前記不活性型に変化する、請求項16の方法。
【請求項18】
前記化学療法薬は、トポテカンを含む、請求項17の方法。
【請求項19】
脳腫瘍を局所的に治療する方法であって、
健康な脳組織で見られるpHで、または健康な脳組織で見られるpHを超えるpHで分解される活性薬剤を含む医薬溶液を、前記腫瘍内の、または前記腫瘍に近接した、前記脳内の組織部位へと頭蓋内送達する工程であって、前記溶液は、実質的に緩衝剤を含まない工程を含み、
前記活性薬剤は、前記腫瘍内のがん組織への細胞毒性効果を有し、前記腫瘍周辺の健康な脳組織に接触すると、または前記腫瘍周辺の健康な脳組織に進入すると、不活性化される、方法。
【請求項20】
前記溶液は、約2.5より大きく、約4未満のpHを有する、請求項19の方法。
【請求項21】
前記活性薬剤は、トポテカンまたはその類似体および誘導体を含む、請求項19の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年8月1日に出願された、Devices, Systems and Methods for Intracranial Delivery of Therapeutic Agents to Treat Brain Tumorsと題する米国仮特許出願第62/881,875号の優先権および利益を主張するものであり、全ての目的のため、参照によりその全体を本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
実施形態は、脳腫瘍その他の頭蓋腫瘍の治療のためなど、神経学的に悪い状態の治療のための装置、システムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0003】
脳のがんその他の神経系のがんは、男女の主たる死亡原因である。例えば、多形神経膠芽腫は、成人で最も多く診断される原発性脳腫瘍であり、発生率が1年に100,000人当たり2~3件である。これは、治療しない場合の平均余命が約4.5カ月で、治療しない場合の最大平均余命が一般に15カ月と見なされているような、特に致命的で即効性のがんである。
【0004】
脳内の望ましくない腫瘍を治療するために採用されている従来の治療法には、外科的切除、放射線療法、および化学療法が挙げられる。治療法が繰り返される、または2つまたはそれ以上の治療法が組み合わされてまたは順番に使用される場合がある。これらの従来の治療法は、それぞれ、周知の弱点があり、神経膠芽腫などの高悪性度の腫瘍の治療には効果がごくわずかであることも多い。
【0005】
外科的切除の主要な弱点として、一般に、頭蓋手術および脳手術と関連するリスク、および腫瘍へのアクセス不可能性に関するリスクが挙げられる。健康な脳組織に囲まれた、または健康な脳組織に介在した腫瘍または腫瘍の一部を除去しようとする試みは、健康な組織を損傷させる可能性があり、よって、医師および被験者は、腫瘍を完全に切除することによる脳損傷の可能性、または切除に際して腫瘍または腫瘍の一部をアクセスできないものとして指定するかのどちらか選択しなければならない。アクセス不可能性は、脳内の健康な組織の多くの異なる領域を侵す神経膠芽腫などの腫瘍について、特に問題となる。アクセス不可能性その他を考慮すると、腫瘍全体の外科的除去は、必ずしも実行可能とは限らず、腫瘍の除去されなかった部分が成長し続ける可能性がある。
【0006】
放射線療法および化学療法に関して、腫瘍細胞を死滅させるために必要な投与量は、一般に正常細胞の死滅にもつながる。化学療法による追加的な合併症として、血液脳関門が従来の送達方法(例えば、静脈内(IV)注射、皮下注射、または経口デリバリ)による脳への送達に対して障害を作り出すことも多く、それにより、より高投与量の化学療法が必要となることがある。そのため、放射線療法および化学療法の副作用は、脳の致命的部分が損傷し、発話能力、運動技能、および認知技能の低下につながるなど、極めて深刻になる可能性がある。さらに、多くの薬は、有意な量で血液脳関門を通ることができない。また、神経膠芽腫が手術不可能な場合(手術不可能な場合が多い)、放射線療法および化学療法治療を組み合わせて使用した生存期間中央値は、わずか約15カ月である。
【発明の概要】
【0007】
ある実施形態において、被験者の脳内の組織部位への医薬溶液の送達のためのシステムは、カテーテルと、頭蓋穿頭孔栓と、接続部材と、固定要素と、コネクター菅とを備える。カテーテルは、近位端と遠位端とを有し、少なくとも1つのカテーテルルーメンを画定する。栓は、そこを通るカテーテルの前進のために構造化された栓開口を画定する。栓は、被験者の頭蓋における穿頭孔に挿入されるように構造化されたプラグを備え、プラグは、栓開口の壁に位置付けられた少なくとも1つのシールを備え、カテーテルの外側と共に流体シールを形成する。栓は、プラグが穿頭孔に挿入されたとき、被験者の頭蓋骨の外表面に係合するように構造化されたフランジを更に備え、側部にフランジ開口を画定し、上部にカテーテルを係合させて保持するように構造化された少なくとも1つの溝を画定する。接続部材は、近位端と、カテーテルの近位端に連結するように構造化された遠位端とを有し、少なくとも1つの接続部材ルーメンを画定する。固定要素は、フランジ開口を係合させ、接続部材をフランジに固定するように構造化される。コネクター菅は、近位端と、接続部材近位端に連結するように構造化された遠位端とを有し、少なくとも1つのコネクター菅ルーメンを画定する。少なくとも1つのカテーテルルーメン、少なくとも1つの接続部材ルーメン、および少なくとも1つのコネクター菅ルーメンは、脳内の組織部位への医薬溶液の送達のため、共に組み立てられるとき、少なくとも1つの流路を提供するように構造化される。
【0008】
ある実施形態において、被験者の頭蓋における腫瘍を局所的に治療するための活性薬剤の脳への頭蓋内送達の方法は、頭蓋内の穿頭孔において、密封可能な開口を画定する穿頭孔栓を位置決めする工程と;穿頭孔栓開口を通ってカテーテルを前進させ、カテーテルの先端が腫瘍内の、または腫瘍に近接した、脳内の組織部位に位置付けられるようにする工程であって、カテーテルは末端部において、少なくとも1つの開口部を有する流体ルーメンを画定する工程と;カテーテルの近位部を穿頭孔栓内の固定化機構に貼る工程と;組織部位と、活性薬剤を含む医薬溶液を備えるリザーバに動作可能に連結するポンプとの間に流路を作成する工程と;流路を介してリザーバから組織部位に医薬溶液をポンプで注入する工程とを含み、送達の流量および継続時間は、確立されたモデルに基づいて選択され、脳組織内で医薬溶液の選択された定常状態の拡散体積を実現できるようにする。
【0009】
ある実施形態において、脳腫瘍を局所的に治療する方法は、健康な脳組織で見られるpHまたはそれを超えるpHで分解される活性薬剤を含む医薬溶液を、腫瘍内の、または腫瘍に近接した、脳内の組織部位へと頭蓋内送達する工程であって、溶液は、実質的に緩衝剤を含まない工程を含み、活性薬剤は、腫瘍内のがん組織への細胞毒性効果を有し、腫瘍周辺の健康な脳組織に接触すると、または腫瘍周辺の健康な脳組織に進入すると、不活性化される。
【0010】
発明のこれらおよび他の実施形態および態様の更なる詳細は、添付図面を参照して、以下でより完全に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】頭蓋内薬物送達システムのある実施形態を示す図である。
図1B図1Aのシステムの実施形態を使用した脳内の送達部位への医薬溶液の送達により作成された活性薬剤の拡散体積を示す図である。
図1C図1Aの拡大図である。
図1D図1Bの拡大図である。
図2A】穿頭孔栓の、ある実施形態を示す図である。
図2B】穿頭孔栓の、ある実施形態を示す図である。
図3A】脳内の組織部位におけるスタイレットを使用したカテーテルの配置の、ある実施形態を示す図であり、スタイレットの前進を示す図である。
図3B】脳内の組織部位におけるスタイレットを使用したカテーテルの配置の、ある実施形態を示す図であり、スタイレットを通るカテーテルの前進を示す図である。
図3C】脳内の組織部位におけるスタイレットを使用したカテーテルの配置の、ある実施形態を示す図であり、脳腫瘍におけるカテーテル先端の配置を示す図である。
図3D】脳内の組織部位におけるスタイレットを使用したカテーテルの配置の、ある実施形態を示す図であり、頭蓋内薬物送達システムに接続された、位置決めされたカテーテルを示す図である。
図4A】頭蓋内薬物送達システムの、ある実施形態を示す図である。
図4B】頭蓋内薬物送達システムの、ある実施形態を示す図である。
図5A】誘導コイルと、コイルに動作可能に連結する関連回路とを含む穿頭孔栓の、ある実施形態を示す図である。
図5B】誘導コイルと、コイルに動作可能に連結する関連回路とを含む穿頭孔栓の、ある実施形態を示す図である。
図5C】穿頭孔栓と外部通信装置との間の通信の、ある実施形態を示す図である。
図6A】穿頭孔栓とヘッドカバーとの間の通信の、ある実施形態を示す図である。
図6B図6Aのヘッドカバーの、ある実施形態を示す図である。
図7】異なる送達レジメンの実施形態を示す、時間に対する医薬溶液の流量のグラフである。
図8】脳内の組織部位に注入された医薬溶液の流量を変化させた場合の、活性薬剤の異なる定常状態の拡散体積の生成を示すグラフである。
図9】医薬溶液の流量に対する活性薬剤の定常状態の拡散体積のモデル化された相関関係を使用した、被験者の脳腫瘍を局所的に治療するアルゴリズムのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、脳腫瘍その他の神経学的状態を治療する頭蓋内薬物送達に使用される技術およびデバイスが説明される。頭蓋内薬物送達は、脳組織、または脳室などの頭蓋内の脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)への送達であってよい。
【0013】
頭蓋内薬物送達についての技術およびデバイスの詳細を論じる前に、読者の便宜上、いくつかの慣例を示す。
【0014】
本明細書において、デシリットル(dl)、ミリリットル(ml)、マイクロリットル(μl)、国際単位(IU)、センチメートル(cm)、ミリメートル(mm)、キログラム(kg)、グラム(gm)、ミリグラム(mg)、マイクログラム(μg)、ミリモル(mM)、摂氏度(°C)、華氏度(°F)、ミリトール(mTorr)、時間(hr)、または分(min)など、標準単位に対して様々な略語が使用されている。
【0015】
本開示において使用されるとき、用語「例えば(e.g.)」、「~などの(such as)」、「例えば(for example)」、「1例として(for an example)」、「別の例として(for another example)」、「~の例(examples of)」、「例として(by way of example)」、および「~など(etc.)」は、先行する、または後続の、1つまたは複数の非制限例のリストを示す。リスト化されていない他の例も本開示の範囲内であることを理解されたい。
【0016】
本開示において使用されるように、単数形の用語「a」、「an」、および「the」は、文脈上明らかに他の方法で指示されていない限り、複数形の指示対象も含みうる。単数形での対象への言及は、明示されていない限り、「唯一の(one and only one)」ではなく、むしろ「1つまたは複数の(one or more)」を意図している。
【0017】
用語「ある実施形態において(in an embodiment)」またはその変形(例えば、「別の実施形態において(in another embodiment)」または「1実施形態において(in one embodiment)」)は、本明細書において、1つまたは複数の実施形態での使用を指し、決して、本開示の範囲を、図示および/または説明された実施形態のみに制限するものではない。従って、実施形態に関して、本明細書において図示および/または説明されたコンポーネントは、別の実施形態において(例えば、本明細書において図示および/または説明された別の実施形態において、または本開示の範囲内であるが、本明細書において図示されていないおよび/または説明されていない別の実施形態において)使用できる。
【0018】
用語「コンポーネント(component)」は、本明細書において、考察しているデバイス、製剤またはシステムを一緒に作り上げる1つまたは複数の項目のセットのうちの1つの項目を指す。コンポーネントは、固体、粉末、ゲル、プラズマ、液体、ガスその他の形態であってよい。例えば、デバイスは、一緒に組み立てられ、デバイスを構築する複数の固体コンポーネントを備えてよく、デバイス内に配置される液体コンポーネントを更に備えてよい。別の例として、製剤は、一緒に混合され、製剤を作る2つまたはそれ以上の粉末および/または液体コンポーネントを備えてよい。
【0019】
用語「設計する(design)」またはその文法的変形(例えば、「designing」または「designed」)は、本明細書において、例えば、設計と関連している公差(例えば、コンポーネント公差および/または製造公差)の推定値、および設計により引き起こされると予想される環境条件(例えば、温度、湿度、外部または内部周囲圧力、外部または内部機械的圧力、外部または内部機械的圧力ストレス、製品の使用年数、生理機能、生体の化学反応、体液または組織の生物学的組成、体液または組織の化学組成、pH、種、食事、健康、性別、年齢、祖先、病気、組織損傷、有効期間、またはそのようなものの組み合わせ)の推定値に基づいて意図的に設計に組み込まれた特徴を指す。送達前および/または送達後の実際の公差および環境条件がそのような設計特徴に影響を与えうることにより、同一の設計を有する異なるコンポーネント、デバイス、製剤、またはシステムがそれらの設計特徴に関して異なる実測値を取る可能性があることを理解されたい。設計には、設計の変更または修正、および製造後に実施される設計の修正も包含される。
【0020】
コンポーネント、デバイス、製剤、またはシステムと関連したとき、用語「製造する(manufacture)」またはその文法的変形(例えば、「manufacturing」または「manufactured」)は、本明細書において、コンポーネント、デバイス、製剤、またはシステムを作成すること、または組み立てることを指す。製造は、全体的にまたは一部は、手でおよび/または自動で実施されてよい。
【0021】
用語「構造化された(structured)」またはその文法的変形(例えば、「structure」または「structuring」)は、本明細書において構想または設計に従って製造されたコンポーネント、デバイス、製剤、またはシステム、またはその変更またはその修正(そのような変更または修正が製造前、製造中、または製造後に生じたとしても)を指し、そのような構想または設計が書面に記載されているかどうかは問わない。
【0022】
用語「身体(body)」は、本明細書において、胃腸管を有する動物界の身体を指す。
【0023】
用語「被験者(subject)」は、本明細書において、本開示の実施形態が送達される身体、または送達されることを意図している身体を指す。例えば、ヒトに関しては、被験者は、医療専門家の治療を受ける患者であってよい。
【0024】
用語「液体(fluid)」は、本明細書において、液体またはガスを指し、水分および湿度を包含する。用語「流体環境(fluidic environment)」は、本明細書において、1つまたは複数の液体が存在する環境を指す。
【0025】
用語「生体物質(biological matter)」は、本明細書において、血液、組織、体液、酵素、間質液、身体のその他の分泌物を指す。
【0026】
用語「医薬溶液(medicinal solution)」は、本明細書において、任意の形態の治療、診断その他の生物学的用途を意図した調合液を指す。各医薬溶液は、1つまたは複数のコンポーネントを備えることができ、デバイスまたはシステムは、1つまたは複数の医薬溶液を備えることができる。医薬溶液のコンポーネントは、例えば、薬理作用のある物質、DNAまたはSiRNA転写物、細胞、細胞毒、ワクチンその他の予防薬、栄養補助剤、血管拡張薬、血管収縮薬、送達促進剤、遅延コンポーネント、賦形剤、または診断薬とすることができる。前述その他のコンポーネントのいずれかなど、身体の組織における生物学的効果を引き起こす目的で医薬溶液に含まれる医薬溶液のコンポーネントは、本明細書において、便宜上「活性薬剤」と呼ばれる。
【0027】
薬理作用のある物質は、例えば、抗生物質、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)、血管新生抑制剤、神経保護薬、化学療法薬、抗体、ナノボディ、ホルモン、または前述のいずれかの生物活性のある変異体または誘導体とすることができる。
【0028】
細胞は、例えば、幹細胞、赤血球、白血球、ニューロンその他の生細胞とすることができる。細胞は、生体により、または生体から作ることができる、または生体のコンポーネントを備えることができる。細胞は、同種または自己とすることができる。
【0029】
血管拡張薬は、例えば、L-アルギニン、シルデナフィル、硝酸(例えば、ニトログリセリン)、またはエピネフリンとすることができる。
【0030】
血管収縮薬は、例えば、刺激薬、アンフェタミン、抗ヒスタミン薬、エピネフリン、またはコカインとすることができる。
【0031】
送達促進剤は、例えば、透過促進剤、酵素遮断剤、プロテアーゼ阻害薬などの抗ウイルス薬、pH調節剤、界面活性物質、脂肪酸、キレート剤、またはキトサンとすることができる。送達促進剤は、例えば、医薬溶液のコンポーネントの送達のための送達媒体として機能する、または身体への医薬溶液のコンポーネントの吸収を改善する働きをすることができる。
【0032】
賦形剤は、例えば、結合剤、崩壊剤、超崩壊剤、緩衝剤、酸化防止剤、または防腐剤とすることができる。賦形剤は、(例えば、製造を補助するため)医薬溶液のコンポーネントの媒体となる、または(例えば、製造中または貯蔵中)医薬溶液のコンポーネントの完全性を維持することができる。
【0033】
診断薬は、例えば、検知剤、造影剤、放射性核種、蛍光物質、発光性物質、放射線不透過性物質、または磁性体とすることができる。
【0034】
用語「分解させる(degrade)」またはその文法的変形(例えば、「degrading」、「degraded」、「分解性の(degradable)」、および「分解(degradation」」)は、本明細書において、溶解、化学分解(生分解を含む)、分解(decomposition)、例えば、化学修飾、機械的分解、または崩壊によって、弱めること、部分的に分解させること、または完全に分解させることを指し、溶解させること、砕くこと、変形させること、縮ませること、または縮小させることも制限なく包含する。用語「非分解性の(non-degradable)」は、予想された環境で、少なくとも予想された継続時間中、分解が最低限である、またはある許容できる設計パーセンテージ内であるという予想を指す。
【0035】
用語「分解率(degradation rate)」またはその文法的変形(例えば、「分解の割合(rate of degradation)」)は、本明細書において、材料が分解する割合を指す。特定の実施において設計された材料の分解率は、標的送達部位における予想された条件下において(例えば、生理的条件において)材料が分解すると予想される割合により定義できる。特定の実施について設計された分解時間は、分解が完了するために設計された時間、または設計目的を達成するのに十分な部分的な分解(例えば、割れ目)のために設計された時間を指すことができる。従って、例えば、設計された分解時間は、コンポーネントに特有、および/または標的送達部位において予想された条件に特有とすることができる。
【0036】
用語「実質的に(substantially)」および「約(about)」は、本明細書において、わずかな変化を記載および説明するために使用される。例えば、数値と併せて使用されるとき、用語は、±5%以下、±4%以下、±3%以下、±2%以下、±1%以下、±0.5%以下、±0.1%以下、または±0.05%以下などの、±10%以下の値の変化を指すことができる。
【0037】
本明細書において使用されるとき、数の範囲には、範囲内の任意の数、また、部分範囲内の最小数および最大数が範囲内に含まれるときは、任意の部分範囲が含まれる。従って、例えば、「<9」は、9未満の任意の数、または部分範囲の最小値がゼロ以上であり、部分範囲の最大値が9未満である、数の任意の部分範囲を指すことができる。本明細書において、比率も範囲で提示されてもよい。例えば、約1~約200の範囲内の比率は、約1および約200の明示的に列挙された制限を含み、約2、約35、および約74などの個々の比率、および約10~約50、約20~約100などの部分範囲なども含むことを理解されたい。
【0038】
医薬溶液の送達に関して、議論を続ける。
【0039】
脳腫瘍その他の神経学的状態の治療のための医薬溶液の送達技術を改善する必要がある。便宜上、用語「腫瘍(growth)」は、本明細書において使用されるとき、腫瘍(tumor)、がん、治療されるべきその他の腫瘍(腫瘍状および/またはがん性を問わず)を包含する。1つのアプローチは、脳組織または脳内のCSFへの頭蓋内送達を使用することである。頭蓋内送達は、腫瘍その他の標的領域に、または腫瘍その他の標的領域内に活性薬剤を直接送達できるという利点を有する。これにより、他の治療(例えば、IV化学療法)に関連する副作用を最小化することができる。それは、頭蓋内に送達される投与量をはるかに少なくすることができ、送達が大部分、頭蓋腔に限定されるためである。頭蓋内送達は、本明細書において取り上げる、多数の難題を突き付ける。例えば、1つの難題は、カテーテルを安定させ、頭蓋内のカテーテルの配置を維持すること、および頭蓋内でのカテーテルの動きを最小化し、健康な脳組織への有害作用を妨げることである。他の難題には、脳からの医薬溶液またはCSFの逆流を妨げること、脳への医薬溶液の過度の送達による脳浮腫を避けること、およびカテーテルを通る医薬溶液の流れが阻害されることにより活性薬剤の送達が不十分になることを避けることが含まれる。
【0040】
様々な実施形態により、頭蓋内に医薬溶液を送達するための技術およびデバイスが提供される。そのような医薬溶液は、1つまたは複数の活性薬剤を含み、脳腫瘍を標的とした局所的治療を提供することができる。
【0041】
図1A図6Bは、被験者の脳「B」内の標的組織部位(target tissue site:TTS)への医薬溶液20の頭蓋内送達のための頭蓋内薬物送達システム10の実施形態を示す。システム10は、カテーテル30と、スタイレット40(カテーテル30をTTSに導入するための導入部材)と、頭蓋骨「S」内の穿頭孔「BH」に挿入された頭蓋穿頭孔栓50と、接続部材60と、コネクター菅70(柔軟な管状部材)と、ポンプ80などの液体送達システムとを備える。
【0042】
ポンプ80は、コネクター菅70の近位端71に連結し、コネクター菅70の遠位端72は、接続部材60の近位端61に連結し、接続部材60の遠位端62は、カテーテル30の近位端31に連結する。従って、ポンプ80からカテーテル30まで、カテーテル30を通って、流路75が画定される。
【0043】
流路75は、1つまたは複数のルーメンを備えてよい。流路75は、TTSへの流路75を通る液体の流れのため(例えば、医薬溶液20を供給するため)に、ポンプ80とカテーテル30の遠位端32との間を流体的に連結する少なくとも1つの流体ルーメンを備える。ある実施形態において、流路75は、ポンプ80とカテーテル30の遠位端32との間をそれぞれ流体的に連結する、2つまたはそれ以上の流体ルーメンを備える。ここで、流体ルーメンの2つまたはそれ以上は、流体的に共に連結されず、(例えば、医薬溶液20を含む)少なくとも2つの異なる液体を(例えば、実質的に同時に、連続的に、または重複したレジメンで)頭蓋内に供給できるようになっている。
【0044】
ある実施形態において、流路75は、1つまたは複数の導電体を分配するため、少なくとも1つのルーメン(このような各ルーメンは本明細書において導体ルーメンと呼ばれる)を更に備え、システム10の2つまたはそれ以上のコンポーネント間の電気的結合を確立する。例えば、導電体は、ポンプ80とカテーテル30の遠位端32との間、ポンプ80と栓50との間、ポンプ80と、状態を検出するために接続部材60またはコネクター菅70内に、または接続部材60またはコネクター菅70上に位置付けられたセンサーとの間、カテーテル30と栓50との間、栓50と、状態を検出するために接続部材60またはコネクター菅70内に、または接続部材60またはコネクター菅70上に位置付けられたセンサーとの間、またはコンポーネント間の他の電気的結合に分配されてよい。ある実施形態において、流路75は、流路75の長さの全体を超えない、少なくとも1つの導体ルーメンを備える。例えば、流路75は、ポンプ80と栓50との間に伸びる第1導体ルーメンと、栓50とカテーテル30の遠位端32との間に伸びる第2導体ルーメンとを備えてよく、ここで、第1導体ルーメンおよび第2導体ルーメンは、接触していない。
【0045】
導電体は、例えば、ワイヤ、マルチフィラメントワイヤを形成する撚線または編組線フィラメント、トレース、または印刷導電性インクであってよい。導電体は、例えば、送達される電力の形で、または1つまたは複数の信号の形で、エネルギー伝搬を可能にする。信号は、単一の導電体で、または複数の導電体(例えば、電流能力を高めるための2本のワイヤ、信号および返送のための2本のワイヤ、信号、返送、およびオフセットのための3本のワイヤ、または陽電極、陰電極、および接地のための3本のワイヤ)で送信されてよい。複数の導電体は、共に、追加的にまたは代替的に、シリアルまたはパラレル通信プロトコルに使用されるなど、バスを実装するために使用されてもよい。
【0046】
流路75を画定する様々なコンポーネントが接続されるとき、様々な接続法が組み込まれてよく、異なる接続法が流路75に沿った異なるインターフェースに対して実施されてよい。例えば、1つのコンポーネントの遠位端は、別のコンポーネントの近位端に挿入されるように形成されてよく、また、1つのコンポーネントの近位端は、別のコンポーネントの遠位端に挿入されるように形成されてよい。特定の例において、近位端31におけるカテーテル30の一部は、遠位端62において接続部材60に挿入されるように形成でき、また、遠位端62における接続部材60の一部は、近位端31においてカテーテル30に挿入されるように形成できる。ある実施形態において、流路75を画定する1つまたは複数のコンポーネントは、接続されたコンポーネントに係合し、接続されたコンポーネント間に流体シールを形成するように構造化される、ねじ切り、畝状の隆起、フランジ形成その他の隆起シーリング機構(本明細書において、これらのいずれかは、便宜上、機構38と呼ばれる)を備える。機構38は、追加的に、カテーテル30の接続部材60への固定化を促進し、頭の動きまたは栓50を含む頭蓋骨「S」の領域への衝撃から生じうる、接続部材60からのカテーテル30の偶発的移動を防ぐように構造化されてよい。ある実施形態において、ルアーロックその他のアダプターまたはコネクターが、コンポーネント間のインターフェースにおいて使用される。
【0047】
ある実施形態において、流路75内に1つまたは複数の一方向弁39が配置され、医薬溶液20またはCSFの逆流を防ぐ。例えば、図1Cは、接続部材60の遠位端62に近い弁39を示し、図2Aは、カテーテル30の近位端31に近い弁39を示す。弁39については他の位置も検討され、制限されないが、カテーテル30の遠位端32の近くも含まれる。
【0048】
1つまたは複数のセンサーは、流路75内の1つまたは複数の位置に置かれ、(例えば、妨害物による)逆流、乱流、または流れの減少を検出してよい。図4Aは、センサー67が接続部材60の遠位端62の近くに位置付けられる実施形態を示す。流路75に沿った他の位置も検討される。センサーの例としては、圧力センサーまたはひずみゲージが挙げられる。
【0049】
他のセンサー(例えば、pHセンサーまたは酸素センサー)は、カテーテル30の遠位端32に位置付けられ、がん組織の徴候となるpHまたは組織酸素化のレベルなどの、TTSにおける、またはTTS内の組織の特性を確認してよい。カテーテル30内の末端に置かれたセンサーは、例えば、TTSにおける組織内の活性薬剤の濃度を測定し、医療従事者またはシステム10がTTSへの医薬溶液20の送達を滴定または調整できるようにしてよい。
【0050】
カテーテル30は、少なくとも1つの流体ルーメン33を含む、1つまたは複数のルーメン33を画定する。ある実施形態において、カテーテル30は、液体(例えば、医薬溶液20)を送達するための2つまたはそれ以上の流体ルーメン33を画定する。ある実施形態において、流路75は、ポンプ80とカテーテル30の近位端31との間に液体を送達するための単一のルーメンを備え、カテーテル30は、2つの流体ルーメン33を画定し、カテーテル30内で流路75を2つの副経路に分割する。ある実施形態において、カテーテル30は、少なくとも1つの流体ルーメン33および少なくとも1つの導体ルーメン33を含む、2つまたはそれ以上のルーメン33を画定し、1つまたは複数の導電体が、導体ルーメン33の1つに配置され、例えば、カテーテル30の遠位端32における電子機器をシステム10内の別の場所にある電子機器(例えば、栓50の電子機器、ポンプ80の電子機器、またはシステム10の外部の電子機器)に接続する。
【0051】
医薬溶液20は、カテーテル30の遠位端32における、または遠位端32の近くの1つまたは複数の開口部34から、カテーテル30を出る。遠位端32は、便宜上、脳腫瘍「BT」として示された頭蓋腫瘍内または頭蓋腫瘍の近くのTTSに位置付けられるように構造化される。遠位端32は、様々なセンサーまたは非侵襲的構造などの、本明細書に記載の1つまたは複数の機構を備えることができる。
【0052】
ある実施形態において、カテーテル30の開口部34は、カテーテル30の遠位端32における、または遠位端32の近くの単一の開口に対応する。ある実施形態において、開口部34は、パターン34pで配置された複数の開口部の1つである。パターン34pは、例えば、互いに30、45、または60度のオフセットで半径方向に分布した開口部34などの、TTSにおける脳組織の体積まで医薬溶液20を送達するための半径方向に分布したパターンであってよい。ある実施形態において、パターン34p内の1つまたは複数の開口部34は、脳内での位置決めの前または後に選択的に開放または閉鎖でき、TTSに、またはTTS内に選択可能な注入区域を作成する。選択的な開放および閉鎖は、カテーテル30内またはカテーテル30上に位置付けられた可動シャッター(図示せず)を用いて実施できる。
【0053】
カテーテル30は、様々な機構およびコンポーネントを備え、カテーテル30および/または頭蓋内薬物送達システム10の使いやすさ、性能、信頼性、および/または安全性を改善してよい。例えば、カテーテル30は、先端部に、および/またはその長さに沿って様々な間隔で位置付けられた、1つまたは複数の放射線不透過性その他の撮像マーカー36を備え、脳内のカテーテル貫通の深さを蛍光透視法その他の撮像法を使用して観察することを可能にし、それにより、カテーテル30の前進が促進される。マーカー36が、一貫したまたは一貫していない間隔でカテーテル30に沿って位置付けられることにより、医師(またはロボット)は、カテーテルがどのぐらい頭蓋に挿入されているかを評価できるようになる。例えば、マーカー36は、1cm、2.5cm、または5cmの一貫した間隔で位置付けられる。別の例として、第1マーカー36および第2マーカー36は、互いに第1距離を取って位置付けでき、第3マーカー36は、第2マーカー36から第2距離を取って位置付けでき、第4マーカー36は、第3マーカー36から第3距離を取って位置付けできる、などである。
【0054】
マーカー36は、放射線不透過性の、機械可視性の、または別の方法で検出可能なしるしを含んでよい。ある実施形態において、カテーテル30は、手術用ロボットのエフェクタにより係合されるように構造化され、この能力を可能にするアダプター(例えば、図示されない近位アダプター)その他の機構または要素を備えることができる。
【0055】
カテーテル30の外径30ODは、栓50により画定された開口51を通り抜けるような大きさとする一方、開口51においてシール53と流体シールを形成する。ある実施形態において、外径30ODは、約1mm~約5mmの範囲内、より好適には約1mm~約2mmの範囲内とすることができる。ある実施形態において、カテーテル30のルーメン33の内径30IDは、約0.1mm~約1mmの範囲内とすることができる。カテーテル30の長さは、治療される腫瘍の深さおよび位置並びに被験者の頭部の大きさによって変更できる。例には、約5cm~約30cmの範囲内のカテーテルの長さが含まれ、約10cm、約15cm、約20cm、および約25cmの特定の実施形態を有する。
【0056】
ある実施形態において、カテーテル30は、カスタマイズ可能な長さに切断可能に構造化される。例えば、マーカー36は、切断可能なカテーテル30の実施形態の場合、医療関係者がカテーテル30の露出部を選択可能な長さに切断できるように使用されてよい。特定の実施形態において、カテーテル30の特性、材料および構造は、(被験者の脳への挿入前または後に)医師がカテーテル30を特定の長さに容易に切断できるようにする一方、まだ接続部材60との良好な接続部を形成できる、きれいで滑らかな近位端は残し、オープンな構成のカテーテル30のルーメン33を保持できる、または取り戻せるように選択される。これらの結果は、シリコーンおよびポリウレタンを含む様々なエラストマー、および様々なポリエチレン(例えば、LLDPEまたはHDPE)などの、柔軟で弾力性のあるポリマーを使用して実現できる。使用された材料または複数の材料は、(例えば、照射により)架橋結合され、フープ弾性および/またはフープ強度などの弾性および/または強度を増加することで、カテーテル30の切断後もルーメン33がオープンな構成を確実に保持できる、または取り戻せるようにしてよい。
【0057】
ある実施形態において、カテーテル30は、栓50の開口51に導入され、導入器を通って(例えば、スタイレット40を通って)前進することにより、TTSまで進むことになる。そのため、カテーテル30は、機械的特性(例えば、押出し性または柔軟性)を有するように構造化され、導入器を通って容易に進むことができるようになる。代替的な実施形態において、カテーテル30は、導入器を必要とすることなくTTSまで導入され、前進するように構造化される。望ましくは、カテーテル30の構造、材料、および寸法は、導入器を通って進み、脳組織内に前進すること、および一旦そのようにして位置付けられたら、周囲の脳組織に付与される力を最小化するように曲がることの両方を可能にするように選択される。
【0058】
ある実施形態において、カテーテル30は、柔軟な材料から形成される。カテーテル30は、様々なエラストマー(例えば、シリコーン、ポリウレタン、シリコーンまたはポリウレタンのコポリマー、シリコーンおよびポリウレタンのコポリマー、またはPEBAX)などの、任意の数の生体適合性ポリマーを含んでよい。NITINOLなどの様々な超弾性金属が使用されてよい。
【0059】
望ましくは、剛性を含む、カテーテル30の機械的特性は、遠位端32を含むカテーテル30がカテーテル30のTTSへの前進中またはその後に脳組織を損傷させないように構築される。さらに、望ましくは、カテーテル30は、その脳への前進が、外傷、出血、脳浮腫または運動欠損または認知欠損などの、生理学的または神経学的有害作用をもたらさないように構造化される。これは、低デュロメータ材料(例えば、シリコーンその他のエラストマー)からカテーテル30を作成することにより、少なくとも一部は実現できる。ある実施形態において、カテーテル30のデュロメータは、約20~約40の範囲内とすることができる。ある実施形態において、カテーテル30の遠位端32、またはその先端部(例えば、カテーテル30の末端の2cm~3cm)は、残りの末端(および/または近位)部より柔軟に作成されることにより、非侵襲的とすることができる。例えば、そのようなカテーテル30の先端部は、約10~約20の範囲内のデュロメータを有することができる一方、残りの末端(および/または近位)部は、約20~約40のデュロメータを有することができる。ある実施形態において、カテーテル30の先端部は、円形の縁または円形のドームなどの、非侵襲的な形状を有することができる。
【0060】
ある実施形態において、カテーテル30のルーメン33は、コイル状のワイヤの内張り(図示せず)を備え、カテーテルが曲げられた、または変形されたとしても、ルーメン33の開存性を維持する。
【0061】
ある実施形態において、カテーテル30は、例えば、高剛性(低柔軟性)から低剛性(高柔軟性)に、および反対方向に遷移する材料の使用を通して、操作可能に構造化される。例えば、形状記憶材料(例えば、NITINOL)は、温度の変化に反応して形状および剛性を変化させることができる。そのような剛性遷移材料の使用が採用されることにより、カテーテル30を、配置中の柔軟性が低い構造から、一旦TTSに位置付けられた後には、柔軟が高い構造に遷移させることができる。このようにして、カテーテル30は、TTSにおける位置決め後により非侵襲的になり、カテーテル30の配置後の外傷または脳組織への損傷のリスクが低減する。
【0062】
スタイレット40は細長い、また、組織を貫通する遠位先端41を有する。望ましくは、スタイレット40は、手動操作により脳組織内に前進できる十分な剛性を有する。ある実施形態において、スタイレット40は、近位アダプター42を備え、医師による前進または手術用ロボットによる前進を促進する。スタイレット40は、一般に、弾力性のある生体適合性金属(例えば、304Vステンレス鋼)または弾力性のあるポリマーを含むことになる。スタイレット40は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの滑らかなコーティング43を備え、組織との摩擦を低減するだけでなく、カテーテル30との摩擦も低減してよい。スタイレット40の長さは、約10cmから約30cmまで変更でき、他の長さも考えられる。スタイレット40は、例えば、遠位先端41に、および/または遠位先端41から離れた位置に、および/またはスタイレット40に沿った他の位置に、医用撮像用の1つまたは複数の視覚的および/または放射線不透過性その他のマーキング45を備えることができる。ある実施形態において、複数のマーキング45が使用され、また、間隔を置いて(例えば、1cm、2cm、2.5cm、5cm、または10cm間隔で)位置付けられた2つまたはそれ以上のマーキング45を含み、医師が、スタイレット40がどのくらい深く脳組織に挿入されているかを評価すること、および蛍光透視法などの医用撮像法を使用してそのようにすることを可能にする。マーキング45は、手術用ロボットその他のデバイスによるスタイレット40の前進の制御を可能にする機械可視性の/検出可能なしるしを含んでもよい。ある実施形態において、スタイレット40は、手術用ロボットのエフェクタにより係合されるように構造化でき、この能力を可能にする(例えば、近位アダプター42その他のアダプターに対応する)1つまたは複数のアダプターその他の機構またはコンポーネントを備えることができる。
【0063】
ある実施形態において、スタイレット40は個別に市販されているため、システム10がキットとして商品化されるときには、スタイレット40は、システム10のコンポーネントととしては除外される。また、カテーテル30が、スタイレットその他の導入部材を使用せずにTTSまで導入され、前進するように構造化できるため、スタイレット40は除外される。
【0064】
栓50は、硬質ポリマー(例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK))、金属(例えば、チタン)、または材料の組み合わせ)などの、剛性の生体適合性材料から製造できる。栓50は、スタイレット40およびカテーテル30の脳を通る、および脳内への前進のために形成および構造化された開口51を備える。開口51は、栓50の縦方向の軸に対して中心に位置付けることができるが、ある実施形態においては、開口51は、例えば、栓50上または栓50内に位置付けられた他のコンポーネント(例えば、電子機器またはアンテナ)に対応させるため、中心を外れて位置付けることができる。開口51の直径は、一部はカテーテル30の外径によって決まる。ある実施形態において、開口51の直径は、約2mm~約20mmの範囲内とすることができる。
【0065】
ある実施形態において、栓50は、2つの部分、プラグ52およびフランジ55を備える。プラグ52およびフランジ55は、一体的に形成されてもよいし、共に連結する別個のコンポーネントであってもよい。フランジ55およびプラグ52は、共に、カテーテル30が通過するための開口51を画定する。プラグ52は、頭蓋骨「S」内の穿頭孔「BH」に挿入されるように形成および構造化される。シール53は、開口51の壁54に位置付けられ、カテーテル30の外面30sと流体シールを形成する。プラグ52の外径は、穿頭孔「BH」に合わせてカスタマイズできるが、一般に約5mm~約20mmの範囲内となり、約10mm、約14mmおよび約16mmの特定の実施形態を有する。プラグ52の長さは、約2mm~約15mmの範囲とすることができるが、より長いおよびより短い長さも検討される。
【0066】
ある実施形態において、フランジ55は、プラグ52が穿頭孔「BH」に挿入されたとき、頭蓋骨「S」を覆う皮膚の外表面に係合して広がるように構造化される。ある実施形態において、フランジ55は、頭蓋骨「S」上および皮膚の下に広がるように構造化され、皮弁が剥がされる間にフランジ55が頭蓋骨「S」に係合するようにし、その後、皮弁がフランジ55上に位置付けられる。
【0067】
フランジ55は、接続部材60に貼り付けられた、または組み込まれたアンカー64を挿入するため、フランジ55の側部に開口56を画定し、カテーテル30の動き、特に被験者の頭部の動きにより生じる動きが最小化されるように、カテーテル30を係合して保持するように構造化されているフランジ55の上部55tに溝57を画定する。ある実施形態において、フランジ55の上部55tは、2つの溝57を備え、少なくとも2つの位置および/または少なくとも軸でカテーテル30を保持できるようにし、それにより被験者の頭部が動いている間のカテーテルの動きを更に低減する。溝57は、(例えば、溝57の上端の、カテーテル30の直径より小さい開口を通って)カテーテル30が所定の位置に留められ、溝57に保持されるように構造化されてもよい。さらに、一旦、溝57にそのように位置付けられると、溝57の上端のより小さい開口は、(例えば、頭部が表面または対象物に押し付けられた場合)カテーテル30のルーメン33を圧迫させうる力を含む、カテーテル30を圧迫させる傾向にある力から、カテーテル30を保護するように機能してもよい。
【0068】
ある実施形態において、フランジ55は、システム10のコンポーネントと関連するセンサー(例えば、センサー67)からの信号に電力を供給する、信号と通信する、および/または信号を分析するためのコンポーネントを含む、回路58として例に示される電子機器を備える。例えば、回路58は、プロセッサその他のコントローラ58c、RFその他の送信機58t、またはバッテリその他の電力貯蔵装置58pの1つまたは複数に対応してよい。回路58のコンポーネントは、フレキシブル回路である、またはフレキシブル回路を備える回路基板58b上に配置されてよい。
【0069】
ある実施形態において、回路58は、フランジ55の上部55t内または上部55t上に埋め込まれた、または別の方法で配置された誘導コイル59に連結してよい。コイル59は、様々な導電性の金属および/またはポリマーを含んでよい。コイル59は、センサーおよび/または回路58を含むシステム10と関連する電気部品の1つまたは複数に電力を供給するための外部装置100の誘導コイルから電力を誘導的に伝送するために使用されるように構造化されてよい。コイル59は、BLUETOOTHその他の標準通信プロトコルまたは専用プロトコルを使用して、セルラー方式その他の携帯電話などの外部通信装置110に信号110sを送信および受信するアンテナ59Aとして構造化されてもよい。ある実施形態において、コイル59は、電磁誘導電力結合のための第1コイル59’および信号伝送(例えば、RF伝送)のための第2コイル59”に対応してよい。外部通信装置110に送信される信号110sは、カテーテル30、接続部材60、またはシステム10の他のコンポーネント上に、またはそれらのコンポーネントと関連して配置された1つまたは複数のセンサー67からの情報を含んでよい。そのような信号110sは、電力レベル、診断チェックおよびエラー状態を含む回路58の状態などの、回路58からの情報を含んでもよい。センサー67は、それらの信号を受信および処理するため、信号67sを回路58に送信することもできる。
【0070】
ある実施形態において、外部装置100および/または外部通信装置110は、図6Aおよび6Bに示すような栓50を覆って装着されるヘッドカバー130(例えば、頭蓋骨キャップまたはハット)に対応してもよいし、ヘッドカバー130に組み込まれてもよい。ヘッドカバー130は、栓50の対応するコイルへの導電力結合および/または信号の伝送のため、自身の導電性コイル139および関連回路138を備えてよい。ある実施形態において、ヘッドカバー130は、栓50を含む頭蓋骨「S」の領域を覆うヘッドカバーを固定するためのアタッチメント手段131(例えば、磁石、または面ファスナーアタッチメント(例えば、VELCRO))を備える。磁性アタッチメントの実施形態の場合、栓50の一部、特に、フランジ55は、鉄鋼材を含んでよい。面ファスナーアタッチメントの実施形態の場合、生体材料の皮弁(図示せず)は、栓50上に縫合できる。ここで、生体材料は、ヘッドカバー130の内面に配置された面ファスナー材料の一部を係合させるように構造化された面ファスナー材料の一部を含む。
【0071】
接続部材60は、少なくとも1つのルーメン63を画定する。ある実施形態において、接続部材60は、接続部材60を流れる液体の圧力および/または流れを感知するため、ルーメン63内(例えば、ルーメン63の表面上または表面下)に位置付けられる1つまたは複数の圧力または流量センサー67を備える。センサー67は、有線または無線のいずれかで、栓50内の回路またはポンプ80内の回路に動作可能に連結できる。
【0072】
接続部材60は、フランジ55の側部の開口56に係合する固定要素64を備え、接続部材60をフランジ55に固定する。このように、一旦脳内に位置付けられると、カテーテル30の動きを更に低減する働きをする。
【0073】
ある実施形態において、接続部材60は、固定された肘のような形状を有し、一旦、栓50に取り付けられると、その形状および位置が保持される。接続部材60は、生体適合性ポリマー(例えば、PEEK、PMMA、HDPE)から製造できる。
【0074】
コネクター菅70は、少なくとも1つのルーメン73を画定する。ある実施形態において、コネクター菅70は、コネクター菅70を流れる液体の圧力および/または流れを感知するため、ルーメン73内(例えば、ルーメン73の表面上または表面下)に位置付けられる1つまたは複数の圧力または流量センサー67を備える。センサー67は、有線または無線のいずれかで、栓50内の回路またはポンプ80内の回路に動作可能に連結できる。
【0075】
コネクター菅70は、制限されないが、生体適合性ポリマーを含む様々な柔軟なポリマーの1つまたは複数を含む。
【0076】
コネクター菅70は、コネクター菅70内、またはコネクター菅70上に配置された、またはコネクター菅70の一部を形成する補強材料または構造(例えば、編組材料)を備え、コネクター菅70のよじれを避けてよい。コネクター菅70は、ポンプがどこに位置するか(例えば、腰、背中または胸の領域に移植または運ばれるなど、どこに移植されるか、または被験者によりどのように運ばれるか)によって、様々な長さ(例えば、10cm~40cm)であってよく、例えば、10cm、20cm、30cm、40cmその他の長さである、予め設定された長さでよい。コネクター菅70は、頭蓋内薬物送達システム10を含むキットに予めパッケージ化されてよい。コネクター菅70は、単一のセグメントであってもよいし、または一緒に結合された複数のセグメントであってもよい。
【0077】
ポンプ80は、様々な医療用ポンプタイプから選択できる。例えば、ポンプ80は、容積型ポンプ(例えば、ピストンポンプ)、蠕動ポンプ、またはねじポンプであってよい。ポンプ80は、被験者の頭部または頸部領域(または身体の他の部分)への移植のため、小型化できる。ポンプ80として使用される小型化されたポンプには、MEMおよび/またはバブルジェットベースの小型ポンプを含んでよい。
【0078】
ポンプ80は、望ましくは、内部回路88に操作可能に連結する外部の手動セレクタ(例えば、ボタンまたはスイッチ)の手段を介してプログラムで制御することもできる。ある実施形態において、回路88は、関連するメモリと、コンピューティングデバイスと接続するためのコンポーネントと共に、マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)、PLC(プログラマブル論理制御装置)その他のコンピューティングデバイスなどの、論理回路および/またはコンピューティングデバイスを備える。
【0079】
ある実施形態において、回路88は、外部通信装置110によりアクセスおよびプログラム化されてもよく、この場合、回路88は、有線または無線いずれかの通信インターフェースを備える。ポンプ80のプログラム可能性には、例えば、流量、送達される総量、液体圧力、またはレジメン(例えば、パルス送達、定期送達、または定義されたオン/オフ期間または開始/停止時刻)などの、1つまたは複数の送達パラメータの制御を可能にすることが含まれる。
【0080】
ポンプ80は、リザーバ85または複数のリザーバ85を備える、またはリザーバ85または複数のリザーバ85に連結するように構造化される。リザーバ85は、液体、固体、または粉末を備えてよい。固体または粉末の場合、ポンプ80は、液体を固体または粉末と混合し、溶液を作る手段を有する。ある実施形態において、ポンプ80は、IVバッグである、またはIVバッグに類似する外部リザーバ85に連結する。ポンプ80は、望ましくは、低流量(例えば、1μl/分~50μl/分の範囲内)で、および/または低圧力で注入するように構造化される。
【0081】
ポンプ80は、望ましくは、流路75内の妨害物、ポンプ80内の流路の空気、選択された体積の医薬溶液20が送達されたこと、または、リザーバ85がほとんど空または空であることの検出を含む。ある実施形態において、ポンプ80は、検出された状態の1つまたは複数に対して、視覚警報および/または可聴警報を出す。ある実施形態において、ポンプ80は、検出された状態の1つまたは複数に関する情報を外部通信装置110に提供する。
【0082】
ある実施形態において、ポンプ80は、被験者に(例えば、首、背中または胸の領域に)移植されるように構造化される。ある実施形態において、ポンプ80は、被験者が(例えば、ベルトまたはショルダーストラップに)装着してよい。ある実施形態において、ポンプ80は、Medtronic Corporationから入手可能なSynchromed IIポンプなどの、小型注入ポンプに対応する。ある実施形態において、ポンプ80は、フランジ55の上端内または上端上など、栓50上に、または栓50に隣接して位置付けられる小型ポンプである。望ましくは、そのようなポンプは、薄型である。そのような薄型ポンプの実施形態は、折り畳み式のリザーバ85を押す、または別の方法で移動させる薄型アクチュエータを備えてよく、アクチュエータにより受信された電気信号に反応して、リザーバ85を移動させることにより液体を送達する。アクチュエータは、電気信号に反応して変形する、または動く(例えば、折り畳み式のリザーバ85を押す)(MEMSベースの)圧電またはソレノイドベースのデバイスに対応する。回路88は、ポンプ80を制御して医薬溶液20をTTSに送達するなど、または、1つまたは複数の送達パラメータを制御するため、送達過程の1つまたは複数の態様を制御できる。回路88は、ポンプ80に不可欠であっても、ポンプ80に動作可能に連結してもよい。
【0083】
回路88は、1つまたは複数のセンサー67から受信された信号を受信、分析、および/または送信することができる。加えて、または代替手段において、栓50に不可欠な、または栓50に動作可能に連結するコントローラ58cは、1つまたは複数のセンサー67から受信された信号を受信、分析、および送信することができる。コントローラ58cおよび/または回路88は、プログラム化されて活性薬剤を含む医薬溶液20がそのレジメンに従って送達されるレジメンなどの、1つまたは複数の送達パラメータを制御できる、または、プログラム化されて(例えば、無線または別の方法で)信号を受信し、医薬溶液20の送達を開始すること、または送達レジメンを変更(例えば、1日に1回から1日に2回へ、または、送達の負荷サイクルを変更)することができる。このようにして、医薬溶液20の送達が制御できる。
【0084】
コントローラ58cおよび/または回路88は、カテーテル30、接続部材60、またはポンプ80とカテーテル30との間の流路75内の他の部分の中に、またはそれらの上に位置付けられた、1つまたは複数の圧力または流量センサー67に連結して、または別の方法で1つまたは複数の圧力または流量センサー67から入力を受信して、医薬溶液20のTTSへの送達を制御する。コントローラ58cおよび/または回路88は、送達された医薬溶液20または医薬溶液20に含まれる活性薬剤の組織濃度を測定するように構造化された他のセンサーから入力を受信することもできる。これらの入力は、医薬溶液20の送達を滴定し、TTSにおけるCSF、プラズマ、または組織内の活性薬剤の選択された濃度を実現するためにも使用できる。
【0085】
さらに、センサーは、カテーテル30の遠位端32その他の部分に、および身体の他の部位(例えば、静脈または動脈)に位置付けられ、身体の複数の部位における活性薬剤の分布の薬動力学モデルを発展させることができる。センサーは、活性薬剤の全身レベルをモニタリングするために使用でき、モニタリングされた全身レベルの情報は、医薬溶液20の送達を滴定するために、または活性薬剤の全身濃度が閾値に到達したとき、または閾値を超えたときに医薬溶液20の送達を中断するために使用できる。ポンプ80は、滴定を実施するように、またはそのような事態においてポンプでの注入を中断するようにプログラム化されてよい。加えて、または代替手段において、そのような状態が生じたとき、被験者または医療従事者または介護者は、可聴警報または視覚警報によって、または外部通信装置110を通して送信されるメッセージによって、または外部通信装置110によって、警告を受けてよい。
【0086】
追加的または補足的アプローチにおいて、被験者における活性薬剤のプラズマ濃度は、システム10によるTTSへの活性薬剤の送達後1日または2日間など、標準アッセイによりモニタリングでき、送達は、プラズマ濃度に基づいて停止または滴定することができる。
【0087】
ある実施形態において、医薬溶液20は、トポテカンを含む。トポテカンの全身濃度またはプラズマ濃度は、頭蓋内に送達される量が少ないため、非常に低いはずである。従って、トポテカンの検出の閾値レベルは、全身的に非常に低く設定できる。
【0088】
システム10のコンポーネントは、蛍光透視、X線その他の撮像ガイダンスの下、脳内に位置付けられるように構造化できる。ある実施形態において、システム10のコンポーネントは、磁気共鳴映像法(MRI)を使用して脳内に位置付けられるように構造化され、そのため、システム10のコンポーネントは、ポリマーおよび非鉄金属などの、MRI互換性のある材料から製造される。
【0089】
次に、図3A~3Dを特に参照し、頭蓋内薬物送達のためのシステム10の実施形態を位置決めおよび使用する方法の実施形態を説明する。選択された神経膠芽腫などの腫瘍「BT」の位置およびサイズの判定のために被験者を撮像した後、穿頭孔「BH」を被験者の頭蓋に開けることができる。
【0090】
図3Aにおいて、穿頭孔「BH」は、栓50の実施形態と適合する。続いて、スタイレット40が、栓50の開口51を通して導入され、脳腫瘍「BT」内の、または脳腫瘍「BT」に隣接したTTSまで前進する。スタイレット40の前進は、様々な医用画像診断法のガイダンスの下、実施され、スタイレット40の放射線不透過性材料および/またはスタイレット40に位置付けられた放射線不透過性その他の撮像マーカーの存在により促進されてよい。
【0091】
図3B~3Cにおいて、カテーテル30は、カテーテル30の遠位端32がTTSに位置付けられるまで、スタイレット40を通って、前進する。カテーテル30の前進は、様々な医用画像診断法のガイダンスの下、実施され、カテーテル30に位置付けられた放射線不透過性その他の撮像マーカー36の存在により促進されてよい。シール53(または複数のシール53)は、カテーテル30を所定の位置に保持でき、栓50の開口51に流体バリアを形成することもできる。例えば、シール53は、隔膜シールまたはOリングとすることができる。
【0092】
図3Dにおいて、スタイレット40は、一旦カテーテル30が位置付けられると、除去できる。随意に、続いて、カテーテル30は、適切な長さに切断できる。カテーテル30の近位端31は、接続部材60の遠位端62に接続される。カテーテル30の接続部材60への接続前または後、カテーテル30の近位部が栓50の上部55tにおける1つまたは複数の溝57に位置付けられることにより、カテーテル30の露出された近位部を1つまたは複数の位置および1つまたは複数の軸に固定または安定させることができる。カテーテル30の安定化は、(被験者の頭が動いている間を含む)脳組織内でのカテーテル30の動きを低減するように機能し、注入中、TTSにカテーテル30の遠位端32を維持し、医薬溶液20をTTSに確実に送達できるようにする。
【0093】
カテーテル30の栓50への取り付け/固定化後、コネクター菅70は、接続部材60およびポンプ80に接続でき、流路75が確立される。
【0094】
ある実施形態において、栓50のフランジ55は、被験者の皮膚に縫合される、または別の方法で貼り付けられる。ある実施形態において、皮弁は、栓50の一部(例えば、露出部)にわたって縫合される、または別の方法で貼り付けられる。ある実施形態において、PTFEなどの生体適合性材料の皮弁、または人工皮膚として機能する他の膜は、栓50の一部(例えば、露出部)にわたって縫合される、または別の方法で貼り付けられる。ある実施形態において、ヘッドカバー130は、皮弁、人工皮弁、および/または栓50と係合するように構造化される。
【0095】
ポンプ80のコネクター菅70への接続より前に、または後に、ポンプ80は、身体の所望の組織の位置に(例えば、被験者の背中、頭蓋骨の底部、または胸の領域に)移植でき、コネクター菅70は、(頭皮の皮膚の下を含む)皮膚の下をトンネルで通過でき、接続部材60が皮膚の下に配置されない場合は、コネクター菅70の末端部は、接続部材60に接続されるように表面に出る。代替的に、ポンプ80は、被験者が装着できる、または別の方法で運ぶことができ、コネクター菅70の一部は、露出させることができる、および/またはコネクター菅70の一部は、皮膚の下をトンネルで通過させ、被験者がポンプ80を装着する位置の近くで表面に出すことができる。
【0096】
ある実施形態において、リザーバ85には、予め医薬溶液20を満たすことができる。リザーバ85がポンプ80と共に移植される実施形態の場合、リザーバ85は、密封可能なゴム隔膜などの、皮下の密封可能なアクセスポート(図示せず)を備え、皮下注射によるリザーバ85への補充を可能にしてよい。
【0097】
ポンプ80の移植が実施されても、移植が実施されなくても、ポンプ80がコネクター菅70によってカテーテル30に流体的に連結された後、ポンプ80は、短期間オンにされ、流路に妨害物がないこと、および医薬溶液20がTTSに送達されていることを確認することができる。ある実施形態において、この過程は、医薬溶液20に混じって造影剤が含有されていることにより、または造影剤を含む(ポンプ80内の、またはポンプ80に連結する)別個のリザーバを有することにより、促進される。それにより、ポンプでの注入中、蛍光透視法の下でTTSを観察できるようになり、医薬溶液20がTTSに到達していることが確認され、場合により、おおよそ期待量の医薬溶液20がTTSに到達していることも確認される。代替的に、医師は、コネクター菅70または接続部材60またはどちらか一方に連結するポートにシリンジを接続することにより、造影剤を流路に直接注入することができる。
【0098】
もう1つの圧力センサーを含むシステム10の実施形態の場合、カテーテル30のルーメン33の開存性、および医薬溶液20の送達は、ポンプ80のテストラン中の圧力測定により確認でき、開存性は、圧力センサーの位置によって決まる所望の範囲内の圧力により示される。ルーメン33および流路75の開存性が確認され、医薬溶液20または造影剤のTTSへの送達が確立された後、ポンプ80は、(ポンプ80において手動で、または外部通信装置110を使用するなどにより遠隔でのいずれかで)薬剤送達モードに切り替えられ、脳「B」内のTTSへの医薬溶液20の送達を開始できる。
【0099】
頭蓋内薬物送達システム10の実施形態を使用した医薬溶液20の頭蓋内送達による脳腫瘍の局所的治療を含む、脳腫瘍を治療する方法を、次に説明する。典型的に、医薬溶液20は、特定の脳腫瘍に対して細胞毒性を持つ化学療法薬などの1つまたは複数の活性薬剤を含むことになる。化学療法薬の例としては、トポテカンなどのトポイソメラーゼI阻害薬が挙げられる。医薬溶液20は、防腐剤などの、または粘性改質剤(例えば、マンニトール)などの、様々な賦形剤を含んでもよい。医薬溶液20は、酸(例えば、少量の塩酸)を含み、医薬溶液20を酸性pHに維持し、活性薬剤の活性を維持してもよい。
【0100】
身体へのシステム10またはその一部の設置後、選択された容量の医薬溶液20が、送達パラメータ(流量、送達される総量、液体圧力、および/またはレジメン)に従って送達され、医薬溶液20中の治療上有効な投与量の活性薬剤をTTSに送達することができる。送達パラメータに従った医薬溶液20の送達期間の後、腫瘍サイズ、腫瘍サイズの変化率、および/または腫瘍生存率の他のしるし(例えば、バイオマーカー)の1つまたは複数がモニタリングされることで、治療の有効性が確認でき、それに応じて送達パラメータの1つまたは複数が調整されてよい。送達は、元の腫瘍サイズ、腫瘍サイズの変化率、腫瘍サイズの変化(例えば、増減)、バイオマーカーの変化(例えば、腫瘍の表面抗原、腫瘍のDNA、またはそれにより生成されたタンパク質)、または治療の有効性の他のしるしに関して調整できる。腫瘍サイズは、MRI、コンピュータ断層撮影(CT)、またはコンピュータ体軸断層撮影(CAT)スキャンによりモニタリングできる。腫瘍バイオマーカーは、液体細胞診により、および/またはシリンジ(または他の真空源)を使用してカテーテル30を真空にすることによって、または(スタイレット40と同様の直径および長さを有する)生検針の挿入を可能にするようにカテーテル30を構造化することによって、カテーテル30を生検装置として使用することにより、モニタリングできる。同様に、組織および/または体液の試料を取り出すことにより、TTSにおける活性薬剤の濃度がモニタリングできる。また、活性薬剤の全身レベルもモニタリングできる。
【0101】
ある実施形態において、送達パラメータが制御されることにより、治療の有効性を最適化し、腎臓、肝臓、または骨髄などの、被験者の1つまたは複数の臓器または系への毒性などの副作用を最小化することができる。骨髄への毒性は、骨髄抑制の形を取るが、これは、好中球減少症による白血球数(特に好中球)の減少、貧血による赤血球数の減少、または血小板減少症による血小板の減少の発生により判定および定量化することができる。腎臓および肝臓への毒性は、尿素および肝酵素レベルについてモニタリングすることにより判定できる。毒性状態は、送達された活性薬剤の全身レベルをモニタリングすることにより防ぐことができる。
【0102】
ある実施形態において、医薬溶液20の流量は、1μl/分~50μl/分の範囲内に維持され、医薬溶液20中の活性薬剤の長期送達を可能にし、脳浮腫、またはアレルギーその他の反応などの他の有害な副作用のリスクを最小化する。また、医薬溶液20の注入がまず開始されると、最初の数時間はより低い流量が使用され(例えば、1μl/分~2μl/分)、アレルギーその他の有害反応についてモニタリングされる。有害反応がないことが観察されれば、続いて、送達パラメータが調整され、医薬溶液20のTTSへの送達を増加させることができる。ある実施形態において、送達パラメータは、ポンプ80に通信装置110からプログラミング命令を送信することにより調整できる。ある実施形態において、送達パラメータは、タッチスクリーンまたはスイッチなどの、ポンプ80の手入力システムで調整できる。
【0103】
ある実施形態において、送達される医薬溶液20中の活性薬剤の投与量は、局所的な細胞毒性効果をもたらす一方、好中球減少症、貧血および血小板減少症を含む血液学的影響が生じうる、腎臓(ネフローゼ)または肝臓、または骨髄抑制への有害作用などの、末梢への有害作用を最小化するように選択される。望ましくは、特定の活性薬剤の送達される投与量は、明らかな全身的有害作用をもたらす活性薬剤の閾値投与量よりも少なくとも5%、より望ましくは少なくとも10%、更により望ましくは20%以上低い全身濃度をもたらす。例えば、明らかな血液学的有害作用は、白血球(例えば、好中球)、赤血球、および/または血小板の10%を超える減少とすることができ、それに対応して、活性薬剤の送達される投与量は、望ましくは、血液細胞および/または血小板の10%の減少をもたらす活性薬剤の投与量よりも5%少なくてよい。別の例として、腎臓または肝臓への有害作用は、腎臓の場合、血清クレアチニンまたは尿素レベル、および肝臓の場合、様々な肝酵素の測定により判定されるような、それぞれの臓器の機能の減少により定義でき、明らかな有害作用は、臓器機能の5%を超える減少と考えてよく、それに対応して、活性薬剤の送達される投与量は、望ましくは、臓器機能の5%の減少をもたらす活性薬剤の投与量より少なくとも20%少なくてよい。
【0104】
図7は、脳腫瘍その他の神経学的状態の治療のための頭蓋内送達レジメンの実施形態を示す。レジメンは、(医薬溶液20がTTSに送達されている)1つまたは複数の「オン」期間および(医薬溶液20がTTSに送達されていない)1つまたは複数の「オフ」期間を含むことができる。図7に図示される、第1および第2「オン」期間91は、各々、約6時間の継続時間を有し、その後、約6時間の「オフ」期間93が続く。このように、レジメンは、初めの36時間は50%の負荷サイクルであり、約12.8μl/分の流量である、12時間の周期性を含む。続いて、レジメンは、24時間(負荷サイクル50%)であり、約6.5μl/分の流量である、異なる周期性で継続される。ここで、第3「オン」期間91’は、約12時間の継続時間を有し、その後、約12時間の「オフ」期間93’が続き、第4「オン」期間91’’は、約12時間の継続時間を有する。
【0105】
図7に示す例は、医薬溶液20をある期間(「オン」期間)供給することができ、その後、休止(「オフ」期間)があること、および医薬溶液20を様々な流量で供給できることを示すために提供される。図7の実施形態において、レジメンは、第1周期性(50%の負荷サイクルで12時間)および第1流量(約12.8μl/分)および第2周期性(50%の負荷サイクルで24時間)および第2流量(約6.5μl/分)を含む。レジメンは、これらのまたは他の周期性、負荷サイクル、および流量を含んでもよいし、単一の期間の連続送達を含んでもよい。
【0106】
(例えば、一貫したまたは可変の周期性および/または負荷サイクルを有する)オン/オフ治療レジメンには、いくつかの利点がある。まず、そのようなレジメンは、より長期間にわたって活性薬剤を送達することを可能にする一方、健康な脳組織への毒性の潜在的リスクを低減する。これは、TTSにおける注入中および注入後、活性薬剤が脳腫瘍「BT」内の拡散体積中に拡散し、徐々に、これが、活性薬剤の治療上有効な濃度が維持されて腫瘍の細胞に作用する、定常状態の拡散体積(steady state diffusion volume:SSDV)となるためである。設定期間の後、活性薬剤の注入がオフになることにより、腫瘍内の活性薬剤の濃度が治療上有効なレベルに留まる一方、周囲の健康な脳組織内の活性薬剤の濃度は、毒性レベルに達しない。これは、活性薬剤が脳内のCSFの循環により最終的に流し出されるためである。同様に、これにより、注入が1回の持続注入(例えば、1日または数日間)で実施される場合よりも長期間(例えば、1週間または1カ月でさえ)、腫瘍組織を治療濃度の活性薬剤に曝すことが可能になり、治療の効力が向上する(例えば、腫瘍がより速く縮小する、および寛解への時間がより短くなる)。特に、より長期間にわたる、特定の型の腫瘍の変異を含むより抵抗力が高い形態への治療が可能になる。不均一な腫瘍(例えば、変異により発達するものを含む、いくつかの型のがん細胞からなる腫瘍)の場合、より抵抗力が高い形態のがんは、初めは優性の形態ではないかもしれないが、抵抗力が低い、より優性型のがんが、短期の持続注入の終了時に死滅した後になって現れる。(例えば、図7に示すような)オン/オフレジメンの実施形態を使用してより長期間にわたって注入をすることにより、最終的に、腫瘍がより速く縮小または寛解するだけでなく、がんの再発率を場合により著しく低減させることができる。これにより、カテーテル20、穿頭孔(burr hold)栓50、またはポンプ50の1つまたは複数を再移植/再挿入する必要性を含む、後続の治療を行う必要性が減少し、従って、コンポーネントの再挿入および/または再移植と関連する感染その他の有害作用のリスクが低減する。様々な実施形態において、腫瘍のサイズおよび型、および結果としての反応(例えば、腫瘍の縮小量)によって、オン/オフレジメンを含む治療レジメンは、1週間または数週間、1カ月または更に長期間、維持することができる。典型的に、「オン」および「オフ」期間は、等しい継続時間(例えば、50%の負荷サイクル)となる、または様々な比率で維持されることになる。例えば、「オン」期間の「オフ」期間に対する比率は、約4:1~約1:4の範囲内である(例えば、約25%~約75%の負荷サイクル)。
【0107】
1つまたは複数の送達パラメータに対するSSDVの相関関係のモデルからの情報は、所望のSSDVに基づいて医薬溶液20の流量を選択および/または滴定するために使用できる。SSDVは、医薬溶液20の体積への流入が拡散(例えば、フィックの拡散)による体積からの流出と一致する時点における、閾値濃度の活性薬剤を有する脳内の組織の体積を反映する。例えば、SSDVの周囲長は、送達の点を中心とした球状に近づくかもしれない。例えば、モデルは、活性薬剤を含む医薬溶液20の流量に対する、定常状態における脳内の活性薬剤の所望の量を示すことができる。モデルは、選択された流量での(例えば、μl/分で)、造影剤(例えば、X線/CATスキャン用にヨウ素、またはMRI用にガドリニウム)の頭蓋内注入を使用して発展させることができ、続いて、造影剤の拡散体積は、拡散体積がSSDVに到達するまで、MRIまたは蛍光透視法によりモニタリングできる。
【0108】
図8は、モデルの実施形態を示し、システム10の実施形態を使用した医薬溶液20のTTSへの送達の所与の割合に対するSSDVを予測する。図8において、例えば、拡散体積が、1μl/分、2μl/分、5μl/分、および10μl/分の場合に、時間に対してプロットされ、各拡散率において、(例えば、拡散体積が流量に対してほぼ一定になった時点で)SSDVに到達することが示されている。図8における曲線は、送達された特定の活性薬剤に関して、互いに関連した異なる流量に対してSSDVがどのように変化したかを示している。
【0109】
SSDVモデルは、経験的データに基づいて発展させることができる。SSDVモデルは、ヒトからのデータを使用して、または脳形態がヒトに近い動物(例えば、サル、類人猿、ブタ、またはイヌ)からのデータを使用して、発展させることができる。SSDVモデルは、より多くのデータが入手可能になれば、更新させることができる。1種類の動物からのデータに基づいたモデルは、別の種類の動物からのデータで更新することができる。非ヒト動物のデータに基づいたモデルは、入手可能になれば、ヒトのデータで更新することができる。代替的に、または追加的に、動物のデータに基づいたモデルは、(例えば、脳の体積、生体構造、または薬理学的特性の観点から)ヒトの脳に対する動物における既知のまたは予想される差を考慮することにより、ヒトに対して調整することができる。実際のSSDVは、一様でない周囲長、または1つまたは複数の軸を中心とした非対称形を有してよく、モデルを作成するために使用される各SSDVの形状および周囲長は、滑らかな周囲長を有する球に近似されるなど、標準形状および周囲長に手動でまたは数学的に近似されてよい。モデルが使用されることになる選択された薬剤(例えば、トポテカン)の拡散係数に対する、モデルについてのデータの収集の際に使用された造影剤(例えば、ガドリニウムまたはヨウ素)の拡散係数の差について、モデルが更に調整される。特定の調整は、造影剤の分子量、極性、親液性、および組織溶解性などの、パラメータに基づいて行われる。モデルを発展させるために様々な数値手法が採用される(例えば、最小二乗法、ニュートンラプソン法、オイラー法、ルンゲクッタ、または三次スプライン適合(cubit spline fit))。モデルが初めに開発された後、より多くのデータが使用されることにより、モデル適合技術(例えば、誤差関数を組み込んだもの)を使用してモデルを調整することができる。
【0110】
標的SSDVが腫瘍によって占められた体積と同一のサイズか、腫瘍によって占められた体積よりわずかに大きくなる(例えば、数mmだけ)ように選択されることにより、腫瘍の周囲の選択された健康な組織の境界が治療されてよい。SSDVは、初期治療に対してはより小さいSSDV、および再発した腫瘍の治療に対してはより大きいSSDVなど、または後期腫瘍に対してはより大きいSSDV、および早期腫瘍に対してはより小さいSSDVなど、または治療の初めの「オン」期間に対してはより大きいSSDV、および治療の後続の「オン」期間に対してはより小さいSSDV(または小さくなる傾向にある)など、腫瘍の型および段階によって選択されてよい。SSDVは、ある場合には、腫瘍の体積より小さくなるように選択できる。腫瘍の体積は、CATスキャンまたは頭蓋MRIの1つまたは両方により判定できる。医薬溶液20が活性薬剤、および造影剤を含む診断薬を含むことにより、蛍光透視法またはMRIの下、拡散体積が可視化できるようにしてよい。
【0111】
図9は、注入流量情報のモデルを使用するためのアルゴリズム300の実施形態を示し、脳腫瘍の治療のために形成された、選択されたSSDVを実現する。310において、被験者がMRIまたはCATスキャンなどの撮像を経ることで、腫瘍の境界が判定される。撮像の結果は、球を判定するために使用され、その体積は、腫瘍全体、または腫瘍のかなりの部分を取り囲むことになる。320において、続いて、医師は、判定された情報(例えば、形状、境界、取り囲む体積)を使用して、所望の健康な組織の境界などの要素を考慮して、所望のSSDVを判定し、腫瘍を治療する。330において、SSDV-流量モデルは、溶液(例えば、医薬溶液20)の適切な注入流量を判定し、溶液中の活性薬剤により治療される脳組織の所望のSSDVを実現するために使用される。
【実施例
【0112】
トポテカン
本開示の様々な実施形態は、トポテカンを含む医薬溶液の頭蓋内送達を検討する。本開示内の任意の場所での「トポテカン」への言及は、イリノテカン(およびその活性代謝物)、10,11-メチレンジオキシ-CPT(MDC)、およびアルキル化誘導体7-クロロメチル-10,11-MDCを含む、カンプトテシン(水溶性の類似体を含む)の他の類似体または誘導体も包含する。「トポテカン」への言及は、具体的にその類似体および誘導体を想定すると理解される。
【0113】
トポテカンは、カンプトテシンの半合成誘導体であるトポイソメラーゼI阻害薬である。トポテカン遊離塩基の化学名は、(S)-10-[(ジメチルアミノ)メチル]-4-エチル-4,9-ジヒドロキシ-1Hピラノ[3’,4’:6,7]インドリジノ[1,2-b]キノリン-3,14-(4H,12H)-ジオンである。トポテカンは、分子式C23H23N3O5および421.45の分子量を有する。トポテカンの塩酸塩は、水に溶けやすく、213°C~218°Cで分解して融解する。
【0114】
FDAにより、注入用のトポテカン溶液は、1mg/mlのトポテカン遊離塩基濃度で、使い捨てバイアル内の、無菌で、非発熱性の、透明な、淡黄から緑がかった溶液として供給される。ミリリットルごとに、トポテカン塩酸塩(1mgのトポテカン遊離塩基に相当)、12mgのマンニトール(USP)、および5mgの酒石酸(NF)を含有する。また、塩酸および水酸化ナトリウムも含有することで、pHを調整してよい。溶液のpHは、2.0~2.5の範囲である。
【0115】
トポイソメラーゼIは、可逆的な一本鎖切断を誘発することによりDNAのねじれひずみを緩和する。トポテカンは、トポイソメラーゼI DNA複合体に結合し、これらの一本鎖切断の再連結を妨ぐ。トポテカンの細胞毒性は、複製酵素がトポテカン、トポイソメラーゼI、およびDNAにより形成された三重複合体と相互作用するとき、DNA合成中に生じる二本鎖DNA損傷に起因すると考えられる。哺乳類細胞は、これらの二本鎖切断を効率的に修復することができない。
【0116】
トポテカンの投与量制限毒性は、白血球減少症である。白血球数は、トポテカン投与量またはトポテカンAUCが増加するに伴い、減少する。トポテカンがIV注入により5日間、1.5mg/m/日の投与量で投与されるとき、最下点での80%~90%の白血球数の減少は、典型的に治療の第1サイクル後に観察される。
【0117】
トポテカンの薬物動態は、30分のIV注入として0.5~1.5mg/mの投与量が投与された後のがん被験者において評価されてきた。トポテカンは、2~3時間の終末相半減期で、多次指数関数的な薬物動態を示す。総曝露量(AUC)は、おおよそ投与量に比例する。分布:トポテカンの血漿タンパク質への結合は、約35%である。代謝:トポテカンは、そのラクトン部分の可逆的なpH依存性の加水分解を経るが、それは、薬理活性があるラクトン型である。pH≦4においてはラクトンが独占的に存在する一方、生理的pHにおいては開環ヒドロキシ酸型が優勢である。ヒト肝ミクロソームにおけるin vitro研究は、トポテカンが代謝されてN脱メチル化代謝物になることを示している。平均代謝物:親AUC比率は、静脈内投与後のトポテカンおよびトポテカンラクトンの合計の約3%である。
【0118】
トポテカンの頭蓋内注入のための投与は、TTSへの局所的な直接送達を考慮して調整され、トポテカンが一定の割合しか腫瘍に到達しないIVによる遠回りのルートと比較して、トポテカンの全てまたはほとんどが腫瘍内または腫瘍近くに供給されるようにする。頭蓋内注入は、IV注入による身体中へのトポテカンの全身分散も避け、それに応じて全身毒性が低減する。
【0119】
ある実施形態において、頭蓋内注入のためのトポテカンを含む医薬溶液20は、0.01mg/ml~1mg/mlの濃度のトポテカンを有することができる。ある実施形態において、神経膠芽腫の治療のための医薬溶液20中のトポテカンの濃度は、約0.1mg/ml以下である。
【0120】
システム10の実施形態または他の頭蓋内送達システムを使用して送達されるトポテカンの総量は、治療につき約0.1mg~約10mgの範囲とすることができる。ある実施形態において、1日につき複数の治療、1日につき1つの治療、1週間につき1つの治療、または2週間ごとに1つの治療などの、複数の治療が予定される。各治療は、持続注入であってもよいし、静的または可変(例えば、静的または可変期間、および/または静的または可変負荷サイクル)であるオン/オフサイクル(例えば、期間および負荷サイクルを有する)で提供されてもよい。レジメンが調整されることで、例えば、成果を向上させ、副作用を低減し、SSDVを増加させ、または特定の被験者に対する最小有効投与を判定してよい。
【0121】
医薬溶液20の流量が調整されることで、選択されたレジメンがもたらされる。例えば、流量は、約0.1μl/分~約50μl/分の範囲とすることができる。治療の期間は、選択された治療タイプ(例えば、連続またはオン/オフサイクル)および選択された流量によって決まる。
【0122】
トポテカンの送達のための1つの特定の治療レジメンにおいて、約4mgのトポテカンを、約0.2mg/ml以下、好適には約0.1mg/ml以下のトポテカンを含む医薬溶液20に対する約5μl/分~約10μl/分の流量に対応する、66.7~333時間の期間にわたり送達できる。
【0123】
トポテカンを含む医薬溶液20は、粘性を制御するためのマンニトールその他の薬剤などの1つまたは複数の賦形剤、防腐剤、または塩酸などの酸を含むことができる。マンニトールは、約1mg/ml~約12mg/mlの範囲とすることができ、低粘性の場合、より少量、および高粘性の場合、より多量となる。ある実施形態において、トポテカンを含有する医薬溶液20は、緩衝剤をほとんどまたは実質的に含有せず(例えば、モル濃度または体積で5%未満、より好適には1%未満、なおより好適には0.25%未満)、特に酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、またはクエン酸ナトリウムなどの酸性緩衝剤をほとんどまたは実質的に含有しない。
【0124】
そのような、緩衝剤をほとんどまたは全く含有しないトポテカン溶液の製剤は、トポテカンに関する技術分野の教示に反していると考えられる。特にトポテカンに関して、当技術分野(具体的に、FDAによる製造の添付文書)は、トポテカン溶液が既知の酸性緩衝剤である酒石酸を含有すると教示している。より具体的に、そのような緩衝剤をほとんどまたは全く含有しないトポテカン溶液の製剤の実施形態は、がんの治療に対するトポテカン製剤に関する技術分野の特定の教えに反しているが、それは、強酸性緩衝液中で活性薬剤を含む溶液を調剤するからであり、本開示の実施形態は、腫瘍の酸性環境を活用し、腫瘍の範囲内でトポテカンの抗腫瘍効果を向上または維持する。そのようなアプローチは、製剤の酸性緩衝能力を制限および/または除去することを伴う。代わりに、検討されたトポテカン製剤の実施形態は、(約7.28~7.32のpHを有する)脳組織全体を浸すCSFの高い緩衝能力に依存し、健康な脳組織に浸出するトポテカンを中和する。健康な脳組織の高いpHは、急激にトポテカンを不活性化させ、それにより健康な脳組織に対しては無毒化する。これにより、健康な脳組織はそのままに、成果を大幅に改善することができる。
【0125】
トポテカンを含む医薬溶液20の注入がまず開始されると、最初の数時間はより低い流量が使用され(例えば、1μl/分~2μl/分)、アレルギーその他の有害反応(例えば、発熱)についてモニタリングされる。有害反応がないことが観察されれば、続いて、流量は、治療に対して選択されたより高い流量に増加させることができる。そのような送達レジメンは、ポンプ80にプログラム化できる、または医療従事者により手動で設定できる。オン/オフ送達サイクルを含む治療レジメンの実施形態において、トポテカンは、6~12時間の「オン」期間および6~12時間の「オフ」期間を含むレジメンで送達できるが、より長いおよび短い期間も検討される。これは、トポテカンを含有する医薬溶液20への有害反応を低減する一方、治療上有効な濃度のトポテカンへの、治療中の腫瘍の総曝露期間をより長くすることを可能とする別のアプローチである。
【0126】
望ましくは、トポテカンの頭蓋内送達に対する投与量、送達パラメータおよび送達レジメンは、全身または他の末梢への有害作用を含むトポテカンへの有害反応を最小化する、または防ぐように選択される。望ましくは、特定の活性薬剤の送達される投与量は、明らかな全身的有害作用をもたらす活性薬剤の閾値投与量よりも少なくとも5%、より望ましくは少なくとも10%、更により望ましくは20%以上低い全身濃度をもたらす。明らかな血液学的有害作用は、被験者の白血球、赤血球、および/または血小板の1つまたは複数における、10%を超える、より好適には5%を超える減少を含む。更なるトポテカン送達への明らかな全身/末梢の有害反応は、以下の定量的測定のいずれかを含む:≦1、500細胞/mmの好中球数、≦100,000細胞/mmの血小板数、<9.0gm/dlのヘモグロビン、または>1.5mg/dlの血清クレアチニン。これらの数は、CBCその他の生化学分析技術を使用して測定できる。有害作用は、本明細書に記載のオン/オフレジメンの実施形態を使用することにより最小化する、または防ぐことができる。特定の実施形態において、有害作用は、トポテカンを合計で約10mg以下、好適には約5mg以下、または更により好適には約4mg以下で送達することによっても、最小化する、または防ぐことができる。有害作用は、低注入流量(例えば、約0.2mg/ml以下、好適には約0.1mg/ml以下のトポテカンの濃度において、50μl/分未満、より好適には10μl/分未満および更により好適には5μl/分未満)での頭蓋内送達により更に最小化する、または防ぐことができる。
【0127】
本開示の様々な実施形態は、薬剤を脳に送達するデバイス、システムおよび方法を提供し、脳の様々な状態を治療する。多数の実施形態は、活性薬剤(例えば、化学療法その他の治療剤)を含む医薬溶液を脳に送達するデバイス、システムおよび方法を提供し、神経膠芽腫を含む様々な型の脳がんを治療する。特定の実施形態は、1つまたは複数の活性薬剤を含む医薬溶液を脳内の標的位置に頭蓋内送達するシステムおよび関連方法を提供し、神経膠芽腫などの脳腫瘍の標的局所的治療をもたらす。特定の実施形態において、医薬溶液は、がん細胞に影響を与える細胞毒性を有するトポテカンその他のトポイソメラーゼ阻害薬(例えば、トポイソメラーゼI阻害薬)を含む。本開示に従った頭蓋内薬物送達システムは、カテーテルその他の柔軟な送達部材(以下、概して「カテーテル」と呼ばれる)と、カテーテルが脳組織に前進する際に通る頭蓋アクセス装置と、カテーテルに流体的に連結し、カテーテルを通して脳腫瘍の部位などの脳内の選択されたTTSに活性薬剤を含む医薬溶液を注入するポンプとを含んでよい。実施形態は、そのようなシステムを使用して、脳組織内に医薬溶液/活性薬剤の選択されたSSDVを作成する方法も提供する。SSDVは、選択された方法で、腫瘍の体積と一致させることができる。典型的に、SSDVは、腫瘍の周囲の健康な組織境界を取り囲む、または別の方法で含むことができるようにやや大きくなるように選択されることになる。拡散体積は、予測モデルを使用した医薬溶液の流量および送達時間の選択により制御でき、これらのパラメータは拡散体積に関連付けられる。そのようなモデルは、適用可能なSSDVを識別するために使用できる。実施形態は、脳内の位置により手術不可能な、および/または放射線または関連する治療により容易に治療できない、神経膠芽腫などの脳腫瘍の標的局所的治療に特に有益である。そのような標的局所的治療は、脳腫瘍の周辺に治療上有効なレベルの活性薬剤を長時間、送達および維持する一方、脳組織の周囲の健康な組織はそのままに、または健康な組織への影響は最小限に抑え、活性薬剤が全身的に送達されたときの身体の他の組織への毒性を低減または除去するという利点をもたらす。
【0128】
ある態様において、医薬溶液の被験者の脳内のTTSへの頭蓋内送達のためのシステムが提供される。医薬溶液は、トポテカンその他のトポイソメラーゼ阻害薬などの1つまたは複数の活性薬剤、および様々な医用画像診断法のための造影剤を含むもう1つの診断薬を含んでよい。ある実施形態において、システムは、脳への医薬溶液の注入のためのカテーテルと、カテーテルを脳内のTTSに導入するためのスタイレットその他の導入部材と、カテーテルが脳に前進する際に通る頭蓋穿頭孔栓と、カテーテルに連結する接続部材と、ポンプと、流体接続するためのコネクター菅、またはポンプと接続部材との間の流路とを含む。ある実施形態において、前述のコンポーネントの全てまたは一部は、ポリマーおよび非鉄金属を含む材料から製造でき、これらはMRI互換性がある。特定の実施形態において、スタイレット、穿頭孔栓、カテーテル、接続部材、およびコネクター菅の1つまたは複数は、MRI互換性のある材料から製造できる。
【0129】
導入部材は、典型的に、組織貫通端を有する細長いスタイレットを備えることになる。議論を簡単にするため、導入部材は、スタイレットと呼ぶが、他の導入部材またはデバイスが代わりに使用されてもよい。スタイレットは、手動操作による脳組織への前進を可能にする十分な剛性を有する。ある実施形態において、スタイレットは、近位フィッティングまたはアダプターを備える。スタイレットは、典型的に、弾力性のある生体適合性金属(例えば、304Vステンレス鋼)または弾力性のあるポリマーを含み、典型的に、PTFEなどの滑らかなコーティングを備え、組織との摩擦、およびカテーテルの少なくとも1つのルーメンとの摩擦を低減することになる。スタイレットの長さは、約10cm~約30cmで変更でき、他の長さも検討される。スタイレットは、規則的間隔(例えば、1cm、2cm、2.5cm、5cm、または10cm)で視覚マーキングおよび/または放射線不透過性その他の医用画像マーキングを備えることができ、医療従事者が、スタイレットがどのくらい脳組織に挿入されているかを視覚的に確認すること、および蛍光透視法などの医用撮像法を使用してそのようにすることを可能にする。放射線不透過性マーキングを有する実施形態の場合、1つまたは複数の放射線不透過性マーカーがスタイレットの先端に、または先端の近くに位置付けられ、医師が、蛍光透視法の下、脳内のスタイレット先端の位置を視覚化できるようにすることができる。これらのマーキングは、機械可視性の/検出可能なしるしを含み、手術用ロボットその他のデバイスによるスタイレットの前進の制御を可能にしてもよい。従って、スタイレットは、手術用ロボットのエフェクタにより係合されるように構造化でき、この能力を可能にするアダプターその他の機構または要素を含むことができる。
【0130】
頭蓋穿頭孔栓は、硬質ポリマー(例えば、HDPE、PEEK)、金属(例えば、チタン)、または両方の組み合わせを含む、剛性の生体適合性材料から製造できる。穿頭孔栓は、脳へのカテーテルの前進のための開口部(aperture)または開口(opening)を有する。開口部は、穿頭孔栓の縦の軸に対して中心に位置付けられてよいが、代わりに、開口部は、中心を外れて位置付けられることもできる。ある実施形態において、栓は、2つの部分、プラグおよびフランジを備える。プラグは、穿頭孔に挿入されるように形成および構造化され、少なくとも1つのシールを含む。シールは、プラグ開口部の壁に位置付けられ、カテーテルの外側と共に流体シールを形成する。プラグの直径は、穿頭孔に対してカスタマイズできるが、典型的に約5~20ミリメートル(mm)の範囲内であり、10、14および16mmの特定の実施形態を有する。プラグの長さは、2~15mmの範囲内とすることができるが、より長いおよびより短い長さも検討される。フランジは、プラグが穿頭孔に挿入されるとき、被験者の頭蓋骨の外表面に係合し、外表面に及ぶように構造化される。フランジは、カテーテルが通過するためのフランジの上端の開口と、接続部材の固定要素の挿入のためのフランジの側部の開口と、カテーテルの動きが最小化するようにカテーテルを係合して保持するように構造化されたフランジの上部の少なくとも1つの溝とを有する。多数の実施形態において、フランジの上部は、2つの溝を備えることができ、少なくとも2つの位置および/または少なくとも2つの軸においてカテーテルを保持し、それにより頭が動いている間のカテーテルの動きを低減できるようにする。ある実施形態において、フランジは、回路を備える。そのような回路は、頭蓋内薬物送達システムのコンポーネントと関連するセンサー(例えば、圧力センサー)からの信号に電力を供給する、信号と通信する、および信号を分析する能力を有することができる。特定の実施形態において、回路は、フランジの上部内または上部に埋め込まれた、または別の方法で配置された少なくとも1つのコイルに連結してよい。コイルは、電気部品またはセンサーの1つまたは複数に電力を供給するための外部コイルから電力を誘導的に伝送するために使用されるように構造化されてよい。コイルは、BLUETOOTHその他の通信プロトコルを使用して、携帯電話などの外部通信装置へ、および外部通信装置から、信号を送受信するためのアンテナとして構造化されてよい。ある実施形態において、少なくとも1つのコイルは、誘導電力結合のための第1コイルおよび信号伝送(例えば、RF伝送)のための第2コイルに対応してよい。ある実施形態において、少なくとも1つのコイルは、アンテナおよび電力伝送コイルの両方として構造化される。外部装置に送信された信号は、頭蓋内薬物送達システムのコンポーネント上に、またはコンポーネントと関連して配置された1つまたは複数のセンサーから受信された情報を含んでよい。そのような信号は、穿頭孔栓内の(埋め込まれた、または別の方法で含められた)回路から送信されてよい。アンテナ経由で送信された他の情報は、電力レベル、診断チェックおよびエラー状態を含む、回路の状態についての情報を含んでよい。ある実施形態において、外部通信装置は、穿頭孔栓を覆って装着されたヘッドカバー(例えば、頭蓋骨キャップまたはハット)に対応してよい。ヘッドカバーは、導電力結合および/または穿頭孔栓内の対応するコイルへの信号の伝送のため、自身の導電性コイルおよび関連回路を含んでよい。ある実施形態において、ヘッドカバーは、磁性その他のアタッチメント手段(例えば、穿頭孔栓を含む頭蓋骨の領域にわたるヘッドカバーを固定するための面ファスナー)を含んでよい磁性アタッチメントの実施形態の場合、穿頭孔栓の一部は、鉄ベースの材料を含んでよい。面ファスナーアタッチメントの実施形態の場合、穿頭孔栓にわたる生体材料縫合線の皮弁は、ヘッドカバーの内面に配置された面ファスナー材料の一部と係合するように構造化された面ファスナー材料の一部を含んでよい。
【0131】
接続部材は、近位および遠位端を有し、遠位端はカテーテルの近位端に連結するように構造化され、近位端は、コネクター菅に連結するように構造化されている。ある実施形態において、近位および遠位端は、カテーテルの近位端またはコネクター菅の遠位端上の対応するコネクターに接続するように構造化されたルアーロックその他のコネクターを含んでよい。接続部材は、また、医薬溶液を流すため、カテーテルの少なくとも1つのルーメンと流体的に通信するルーメンと、フランジ側部の開口に係合し、接続部材をフランジに固定する固定要素とを含む。接続部材は、固定された肘のような形状を有することができる。接続部材は、生体適合性硬質ポリマー(例えば、PEEK、PMMA、HDPE)から製造でき、一旦穿頭孔栓に取り付けられたら、その形状および位置を保持できるようにする。接続部材は、圧力、および/または接続部材を通って流れる医薬溶液その他の溶液の流れを感知するための、接続部材ルーメンの内表面に、または内表面の下に位置付けられた1つまたは複数の圧力または流量センサーを含んでもよい。センサーは、センサーと回路との間の一方向または双方向通信のため、無線または有線のいずれかで、穿頭孔栓内の(典型的に、フランジ内の)回路に動作可能に連結できる。
【0132】
コネクター菅は、様々な柔軟なポリマーを含んでよく、近位および遠位端を有し、近位端は、ポンプその他の液体送達手段に連結し、遠位端は、接続部材の近位端に連結し、最終的にカテーテルを含む、ポンプと接続部材との間の流路が作成できるようにする。コネクター菅は、菅壁内に、または菅の外部表面に配置される補強ブレイドを備えてよく、菅がよじれないように防ぐ。コネクター菅は、腰、または背中または胸の領域内など、ポンプが移植される場所、または被験者が運ぶ場所によって、様々な長さ(例えば、10cm~40cm)であってよく、頭蓋内薬物送達システムのより多くのコンポーネントを含むキットに予めパッケージ化されている、10、20、30、40その他の長さである、予め設定された長さでよい。コネクター菅は、ルアーロックコネクターを含む様々な医療用コネクターを含んでもよく、ポンプおよび接続部材の1つまたは両方における対応するコネクターに接続される。
【0133】
カテーテルは、医療溶液のTTSへの送達のための少なくとも1つの流体ルーメンを備え、流体ルーメンは、カテーテルの遠位端または先端に、または遠位端または先端の近くに位置付けられた溶液の出口のための少なくとも1つの開口部を有する。カテーテルの遠位端は、TTSに位置付けられるように構造化され、様々なセンサーまたは非侵襲的構造などの、1つまたは複数の機構を備えることができる。近位端は、接続部材の遠位端に連結し、接続部材ルーメンと少なくとも1つの流体ルーメンとの間に流路を形成するように構造化される。これは、カテーテルがコネクター部材に挿入されるように、逆もまた同様に挿入されるように、2つの部材を形成することにより成し遂げられる。カテーテルと接続部材との間の良好な流体シールを促進するため、カテーテルの近位端は、カテーテルの近位端が接続部材ルーメンの遠位端に挿入されたとき、接続部材ルーメンの内面と係合して流体シールを形成するように構造化されたリッジその他の隆起シーリング機構を備えることができる。リッジその他の隆起シーリング機構は、カテーテルの近位端を接続部材に固定し、頭の動きまたは穿頭孔栓を含む頭蓋骨の領域への衝撃から生じうるような、接続部材からのカテーテルの偶発的移動を防ぐように構造化されてもよい。ある実施形態において、カテーテルの近位端は、コネクター部材の遠位端において対応するコネクターと接続するように構造化されたルアーロックその他の医療用コネクターを備えることができる。
【0134】
ある実施形態において、カテーテルの少なくとも1つの開口部は、流体ルーメンの遠位端に、または遠位端の近くに位置する単一の開口に対応してよい。ある実施形態において、少なくとも1つの開口部は、TTSにおける脳組織のより広いまたはより大きい体積への医薬溶液の送達のため、パターン(例えば、半径方向に分布したパターン)で配置される複数の開口部を有してよい。ある実施形態において、開口部を、互いに30、45、または60度のオフセットで半径方向に分布させることができる。開口部の1つまたは複数は、脳内の位置決め前または後に選択的に開放または閉鎖でき、TTS内に選択可能な注入区域を作成できるようにする。そのような実施形態は、内部の流体ルーメン壁内に位置付けられる可動シャッターを用いて実施できる。シャッターは、磁性または圧電材料を用いて、移植の前に、またはその後、手動で動かすことができる。ある実施形態において、開口部の制御は、形状(例えば、温度その他の状態の変化に反応した直径)が変化する形状記憶材料の使用により実現できる。
【0135】
カテーテルの外径は、約1mm~約5mm、より好適には1~2mmの範囲内とすることができる一方、内径(例えば、ルーメンの直径)は、約0.2mm~約1mmの範囲内とすることができる。カテーテルの長さは、5cm~30cmの範囲内などで変更することができ、10cm、15cm、20cm、および25cmの特定の実施形態を有する。カテーテルの外側部は、カテーテルの長さに沿って、1cm、2.5cm、5cmその他の間隔で位置付けられた可視マーカーを備え、医師に、カテーテルが被験者の脳組織にどれくらい挿入されているかを知らせることができる。可視マーカーは、切断可能なカテーテルの実施形態の場合、医師が、カテーテルの露出された近位部をより容易に選択可能な長さに切断できるようにするために使用されてもよい。これらのマーキングは、手術用ロボットその他のデバイスによるカテーテルの前進の制御を可能にする機械可視性の、または別の方法で検出可能なしるしを含んでもよい。これらのおよび関連する実施形態において、カテーテルは、手術用ロボットのエフェクタにより係合されるように構造化でき、この能力を可能にするアダプターその他の機構または要素を備えることができる。
【0136】
カテーテルの直径は、穿頭孔栓の開口部に適合できるような大きさにされる一方、穿頭孔栓の開口部内の1つまたは複数のシールと流体シールを形成する。典型的に、カテーテルは、穿頭孔栓の開口部に導入され、流体ルーメンまたは場合によっては別個のルーメンを使用して、柔軟な導入器スタイレットを通って前進することにより、脳組織内をTTSまで進むことになる。そのため、カテーテルは、機械的特性(例えば、押出し性または柔軟性)を有し、スタイレットを通って容易に進むことができるように構造化される。代替的な実施形態において、カテーテルは、導入器スタイレットを必要とせず、TTSに導入され、前進するように構造化できる。そのような機能は、例えば、強化ブレイドまたは補強ワイヤの使用により、様々なカテーテル構成部品および製造技術を使用して実現できる。
【0137】
カテーテルは、例えば、シリコーンおよびポリウレタンなどの様々なエラストマーおよびそのコポリマーおよびPEBAXを含む、任意の数の柔軟な生体適合性ポリマーを含んでよい。他の実施形態は、NITINOLなどの様々な超弾性金属を採用してよい。特定の実施形態において、カテーテルの材料、特性および構造は、カテーテルを(脳への挿入前または後に)特定の長さに容易に切断できるようにする一方、接続部材の遠位端と、なお良好に接続できる、きれいで滑らかな近位端を残せるように選択される。また、望ましくは、カテーテルの少なくとも1つの流体ルーメンは、切断後も開いたままである。これらの結果は、照射により架橋結合され、その弾性、特にそのフープ弾性/強度を増加させることで、ルーメンを切断後も確実に開いたままにする、シリコーンおよびポリウレタンを含む様々なエラストマーおよび様々なポリエチレン(例えば、LLDPEまたはHDPE)を含む柔軟で弾力性のあるポリマーの使用により実現できる。
【0138】
望ましくは、剛性を含む、カテーテルの機械的特性は、先端を含むカテーテルが、カテーテルのTTSへの前進中またはその後に、脳組織に損傷をもたらさないように構成される。さらに、望ましくは、カテーテルは、その脳への前進が、外傷、出血、脳浮腫または運動または認知欠損などの、生理学的または神経学的有害作用をもたらさないように構造化される。これは、低デュロメータ材料(例えば、シリコーンその他のエラストマー)からカテーテルを作成することにより実現できる。例えば、カテーテルのデュロメータは、20~40の範囲とすることができる。カテーテルの末端部、例えば、先端部(例えば、カテーテルの末端の2cm~3cm)は、残りの近位部より柔軟に作成されることにより、非侵襲的に作成できる。例えば、カテーテルの先端その他の末端部は、10~20の範囲のデュロメータを有することができる一方、残りの近位部は、20~40のデュロメータを有することができる。また、先端部は、非侵襲的な形状(例えば、円形の縁)を有することができる。
【0139】
カテーテルは、様々な機構および要素を備え、カテーテルおよび/または概して、頭蓋内薬物送達システムの、使いやすさ、性能、信頼性、および安全性の1つまたは複数を改善してよい。例えば、カテーテルは、先端に、および様々な間隔で位置付けられた1つまたは複数の放射線不透過性その他の撮像マーカーを備え、脳内のカテーテル貫通の深さを蛍光透視法その他の撮像法を使用して観察できるようにし、それによりカテーテルの前進を促進してよい。カテーテルの少なくとも1つのルーメンは、コイル状のワイヤの内張りを備え、カテーテルが曲げられた、または変形された場合に、ルーメンの開存性を維持するしてもよい。さらに、ある実施形態において、カテーテル(または接続部材)は、一方向弁を備え、カテーテル外への医薬溶液またはCSFの逆流を防ぐようにしてよい。カテーテルは、1つまたは複数のセンサーを備え、1つまたは複数の機能を実行してもよい。例えば、カテーテルは、1つまたは複数の圧力センサーを備え、圧力、およびカテーテルを流れる、またはカテーテル外に出る医薬溶液の流れを感知できるようにしてよい。そのような圧力センサーは、流体ルーメンの内面またはその真下に配置されてよい。圧力センサーは、流体ルーメンの近位および/または末端部内、または他の位置に位置付けられ、カテーテルルーメンの複数の位置で圧力を測定し、溶液がルーメンを流れてカテーテルから出るのを確認し、流体ルーメン内の妨害物およびそれらの位置を確認するようにしてもよい。圧力センサーは、MEMS、またはMEMSベースのひずみゲージその他のセンサーなどの、他の小型圧力センサーに対応してよい。他のセンサー(例えば、pHまたは酸素センサー)は、カテーテルの遠位端その他の末端部に位置付けられ、がん組織の徴候となるpHまたは組織酸素化のレベルなどの、TTS内の組織の特性を確認してもよい。カテーテルの末端に置かれたセンサーは、TTSにおける組織内の活性薬剤(例えば、トポテカン)の濃度を測定するためのセンサーに対応し、医薬溶液のTTSへの送達を滴定または調整できるようにしてよい。使用の際、そのような濃度センサーは、TTS内の治療上有効なレベルの活性薬剤のより正確な維持を可能にする。また、前述のセンサーの1つまたは複数は、カテーテル先端またはルーメン表面上、またはそれらの中に容易に適合できるようにするMEMベースのセンサーに対応してよい。センサーは、センサーに連結した、またはセンサーに組み込まれたRF ID型チップの使用により、有線または無線で、穿頭孔栓内の電子機器に動作可能に連結してもよい。
【0140】
追加的または代替的な実施形態において、カテーテルは、カテーテル技術を使用して操作可能に構造化できる。特定の実施形態において、これは、高剛性(低柔軟性)から低剛性(高柔軟性)に、および反対方向に遷移する材料の使用を通して成し遂げることができる。特定の実施形態において、これは、温度の変化に反応して形状および剛性が変化する形状記憶材料(例として、NITINOL)の使用を通して実現することができる。そのような剛性遷移材料の使用は、一旦カテーテル先端がTTSに位置付けられたら、カテーテルをより柔軟な構造に遷移させるために採用することもできる。このようにして、カテーテルは、TTSでの位置決め後、より非侵襲的になり、カテーテル配置後の外傷または脳組織への損傷のリスクを低減する。
【0141】
ポンプは、例えば、容積型ポンプ(例えば、ピストンポンプ)、蠕動ポンプ、またはねじポンプに対応してよい。ポンプは、望ましくは、外部のボタン/スイッチまたは携帯電話などの外部通信装置の手段を介してプログラムで制御することもできる。プログラム可能な能力は、流量、送達される総量、レジメン、およびポンプ圧力の1つまたは複数の制御を可能にする。ポンプは、IVバッグその他のリザーバに対応するリザーバを備える、またはリザーバに連結するように構造化される。ポンプは、望ましくは、低流量(例えば、1-50μl/分の範囲内、または更に1-10μl/分の範囲内)および低圧力で注入するように構造化される。ポンプは、望ましくは、以下の1つまたは複数を検出したとき、警報を検出し、伝えることもできる:流路内の妨害物、ポンプの流路内の空気、選択された体積の溶液が送達されたとき、またはIVバッグその他のリザーバがほとんど空または空のとき。ある実施形態において、ポンプは、(例えば、首の根元に、または背中または胸の領域に)移植されるように構造化される。ある実施形態において、ポンプは、被験者が(例えば、ベルトまたはショルダーストラップに)装着してよい。特定の実施形態において、ポンプは、容易に移植可能な、または被験者が容易に装着できるポンプを実現する小型注入ポンプに対応する。代替的な実施形態において、ポンプは、穿頭孔栓フランジ内またはフランジの上端など、穿頭孔栓に、または穿頭孔栓に隣接して位置付けられている小型ポンプに対応してよい。望ましくは、そのようなポンプは薄型で、フランジにわたり、フランジ上、またはフランジ内に適合するようになっている。そのような薄型ポンプの実施形態は、折り畳み式の医薬溶液リザーバを押す、または別の方法で移動させる薄型アクチュエータを備え、アクチュエータにより受信された電気信号に反応して、リザーバを移動させることにより液体を送達する。アクチュエータは、電気信号に反応して折り畳み式のリザーバを変形または移動させる(例えば、押す)圧電またはソレノイドベースのデバイスに対応してよい。
【0142】
頭蓋内薬物送達システムは、例えば、医薬溶液をTTSに送達するためのポンプの制御を含む、薬剤送達過程の1つまたは複数の態様を制御するため少なくとも1つのコントローラを含む、または少なくとも1つのコントローラに操作可能に連結することができる。ある実施形態において、コントローラは、流量、圧力、送達する総量、またはTTSに注入される医薬溶液のレジメンの1つまたは複数を制御するためのポンプに不可欠であってもよいし、ポンプに動作可能に連結してもよい。追加的または代替的な実施形態において、システムは、カテーテルまたは接続部材内に配置された1つまたは複数のセンサーから受信された信号を受信、分析および送信するための、穿頭孔栓に不可欠な、または穿頭孔栓に動作可能に連結する第2コントローラを含んでよい。コントローラは、医薬溶液その他の薬剤が長期間にわたって一定間隔で(例えば、1日に1回または2回)送達される送達レジメンを含むようにプログラム化できるマイクロプロセッサその他の論理デバイスに対応してよい。コントローラは、(例えば、無線その他の方法で)信号を受信し、薬剤の送達を開始する、または送達レジメンを変更(例えば、1日に1回から1日に2回に)するように構造化することもできる。このようにして、被験者または医療機関は、医薬溶液の送達を制御できる。
【0143】
コントローラは、カテーテル、接続部材、またはポンプとTTSとの間の流路内の他のポイントに位置付けられた圧力または流量センサーに連結し、または別の方法で流量センサーから入力を受信し、医薬溶液のTTSへの送達を制御できるようにすることができる。コントローラは、送達された活性薬剤の組織濃度を測定するように構造化された他のセンサーから入力を受信することもできる。これらの入力は、医薬溶液の送達を滴定するために使用され、(例えば、CSF、プラズマ、または組織内の)活性薬剤の選択された濃度を実現することもできる。そのようなセンサーは、カテーテルの遠位先端その他の末端部、および身体の他の部位(例えば、静脈または動脈)に位置付けられ、身体の複数の部位における活性薬剤の分布の薬動力学モデルを発展させるようにすることができる。
【0144】
頭蓋内薬物送達のためのシステムおよびそのコンポーネントを位置決めおよび使用する方法の実施形態が、次に説明される。選択された腫瘍(例えば、神経膠芽腫などの脳腫瘍)の位置およびサイズの判定のための撮像後、外科的手法を使用して被験者の頭蓋の上端その他の部分に、穿頭孔が開けられ、本明細書に記載の穿頭孔アダプターの実施形態に適合させることができる。続いて、スタイレットが、穿頭孔栓の開口を通って導入され、医用画像ガイダンス(例えば、蛍光透視法)の下、腫瘍内または腫瘍に隣接したTTSまで前進できる。続いて、カテーテルは、遠位先端がTTSに位置付けられるまで、スタイレットを通って前進する。また、前進は、様々な医用画像診断法のガイダンスの下、実施され、カテーテルの先端に、およびカテーテルの長さに沿って様々な間隔で位置付けられた放射線不透過性その他の撮像マーカーの存在により促進されてよい。スタイレットの除去後、カテーテルは、穿頭孔栓の開口部(aperture)または開口(opening)内に位置付けられた隔膜状のシールまたはOリングなどの、シールの存在により所定の位置に保持できる。注入されたカテーテルを固定したまま、挿入の深さによって、医師は、続いて、カテーテルの近位端を切断し、それを接続部材の遠位端に張り付けることができる。カテーテルの接続部材への取り付け前または後、医師は、カテーテルの近位部を穿頭孔栓の上面の1つまたは複数の溝に挿入および固定し、カテーテルの露出した近位部を1つまたは複数の軸に固定または安定させるようにすることができる。使用の際、そのようなカテーテルの安定化のためのシステムの技術および構造は、(被験者の頭部が動いている間を含む)脳組織内のカテーテルの動きを低減するように機能し、注入中、カテーテルの遠位端をTTSに維持し、医薬溶液20をTTSに確実に送達できるようにする。
【0145】
カテーテルの穿頭孔栓への取り付け/固定化後、続いて、医師は、コネクター菅を接続部材およびポンプに接続し、ポンプと接続部材との間の流路、最終的にカテーテルに至る、およびカテーテルを通る流路を作成することができる。続いて、医師は、穿頭孔栓の露出部を覆って皮弁を縫合することができる、または代替的に、人工皮膚として機能し、穿頭孔栓を覆うPTFEその他の膜などの生体適合性材料の皮弁を縫合または別の方法で固定することができる。穿頭孔栓カバーは、穿頭孔栓カバーおよび/またはカテーテルに含まれる電子回路に誘導的に電力を供給する、および/または電子回路と通信するための少なくとも1つの導電性コイルを備える別のヘッドカバーと係合するように構造化できる。ポンプの流路への接続後(および場合によっては接続前)、リザーバを含むポンプは、被験者の背中、頭蓋骨の底部、または胸の領域などの、所望の組織位置に移植できる。コネクター菅は、被験者の頭皮の皮膚の下を含む、皮膚の下をトンネルで通過でき、コネクター菅の末端部は、接続部材に接続されるように表面に出る。代替的に、ポンプは、被験者が(例えば、ベルトまたはベルト用のクリップを用いて、腰回りに)装着できる、または別の方法で運ぶことができ、(移植された場合)コネクター菅の一部を、被験者がポンプを装着する位置(例えば、腰回り)の近くで表に出すことができる。リザーバには、予め溶液(例えば、医薬溶液)を満たすことができる。ポンプがリザーバと共に移植される実施形態の場合、リザーバは、密封可能なゴム隔膜などの、皮下の密封可能なアクセスポートを含み、皮下注射によるリザーバへの補充を可能にしてよい。ポンプ80の移植が実施されても、移植が実施されなくても、ポンプが流路によりカテーテルに流体的に連結した後、ポンプは、短期間オンにされ(および/またはそのようにプログラム化され)、流路に妨害物がないこと、および医薬溶液がTTSに送達されていることを確認することができる。ある実施形態において、この過程は、医薬溶液に混じって造影剤が含有されていることにより、または造影剤を含有する(ポンプを有する、またはポンプに連結する)別個のリザーバを有することにより促進でき、医師が、ポンプでの注入中、蛍光透視法の下にTTSを観察し、医薬溶液がTTSに到達していることを確認できるようにする。代替的に、造影剤は、流路に連結するポートにシリンジを接続することにより、流路に直接注入できる。1つまたは複数の圧力センサーを含むシステムの実施形態の場合、流路の開存性および医薬溶液の送達は、ポンプのテストラン中の圧力測定により確認でき、圧力により示された開存性は、カテーテル内の圧力センサーの位置による所望の範囲内となる。例えば、センサーの近位配置については、高すぎる圧力が流路内の妨害物を示す一方、センサーの末端配置については、流路の妨害物は、(例えば、カテーテルルーメンの近位部、または流路の他の部分の妨害物のため)低すぎる圧力により示されるかもしれない。流路の開存性および医薬溶液/造影剤のTTSへの送達が判定された後、ポンプは、(手動で、または外部通信装置を使用するなどして無線でのいずれかで)薬剤送達モードに切り替えられ、トポテカンなどの1つまたは複数の活性薬剤を含む薬剤溶液のTTSへの送達を開始できる。
【0146】
別の態様において、脳腫瘍を治療する方法は、上述の頭蓋内薬物送達システムの実施形態を使用した、医薬溶液の頭蓋内送達による脳腫瘍の局所的治療を含む。典型的に、医薬溶液は、神経膠芽腫などの脳腫瘍に対して細胞毒性がある1つまたは複数の活性薬剤を含むことになるが、治療および診断の両方の他の薬剤も検討される。例えば、活性薬剤は、化学療法薬であってよい。化学療法薬は、トポテカンなどのトポイソメラーゼI阻害薬を含む。医薬溶液は、防腐剤、マンニトールなどの粘性改質剤、および造影剤を含む様々な賦形剤を含有し、溶液のTTSへの送達が確認されてもよい。医薬溶液は、酸(例えば、少量の塩酸)を含有し、溶液を酸性pHに維持し、活性薬剤(例えば、トポテカン)の活性を維持できるようにしてもよい。送達システムの設置後、続いて、選択された容量の医薬溶液が、選択された期間にわたり選択された流量で送達され、治療上有効な投与量の活性薬剤をTTSに送達できるようにすることができる。活性薬剤の送達後、腫瘍サイズ(およびその変化率)および/または腫瘍生存率の他のしるし(例えば、バイオマーカー)の1つまたは複数がモニタリングされることで、治療の有効性が確認できるようになり、それに従って1つまたは複数の送達パラメータを調整できる。腫瘍サイズは、MRIまたはCATスキャンによりモニタリングできる一方、腫瘍バイオマーカーは、液体細胞診技術を使用して、および/またはシリンジ(または真空源)を使用してカテーテルを真空にすることによって、またはスタイレットと類似の直径および長さを有する生検針の挿入を可能にするようにカテーテルを構造化することによって、カテーテルを生検装置として使用することにより、モニタリングできる。同一の手順が、組織および/または体液の試料を取り出して、TTSにおける活性薬剤の濃度をモニタリングするために使用できる。活性薬剤の全身レベルも同様にモニタリングできる。
【0147】
様々な実施形態において、流量、送達レジメン、および送達の他のパラメータが制御されることにより、活性薬剤の治療の有効性を最適化し、副作用、特に骨髄、腎臓、または肝臓などの、1つまたは複数の臓器/系への毒性を最小化することができる。送達パラメータは、元の腫瘍サイズおよび腫瘍の成長率および/または腫瘍サイズの変化(例えば、縮小)またはバイオマーカー(例えば、腫瘍の表面抗原、腫瘍のDNA、またはそれにより生成されるタンパク質)または治療の有効性の他のしるしに対しても調整できる。典型的に、医薬溶液の流量は、1μl/分~50μl/分の範囲内で維持され、活性薬剤の長期送達を可能にし、脳浮腫、またはアレルギーその他の関連反応などの他の有害な副作用のリスクを最小化できるようにする。また、選択された活性薬剤(例えば、トポテカン)を含む医薬溶液の注入がまず開始されると、初めの数時間はより低い流量が使用され(例えば、1μl/分~2μl/分)、アレルギーその他の有害反応(例えば、発熱)をモニタリングすることができる。有害反応がないことが観察されれば、続いて、流量は、より高い流量に増加させることができる。そのような送達レジメンは、ポンプ80にプログラム化できる、または手動で設定できる。トポテカンの場合、流量は、1μl/分~50μl/分の範囲内、なお特に1μl/分~10μl/分の範囲内とすることができる一方、総送達期間は、12~100時間の範囲内とすることができ、24、36、48、60、66.7、72、84、および96時間の特定の実施形態を有する。トポテカンの送達のための1つの特定の治療において、約4mgのトポテカンを、約0.2mg/ml以下、好適には0.1mg/mlのトポテカンを含む医薬溶液に対する、10μl/分~5μl/分の流量に対応する66.7~333時間の期間にわたり送達できる。
【0148】
腫瘍その他の神経学的状態の治療のための頭蓋内薬物送達レジメンの方法は、活性薬剤を含む医薬溶液の注入の1つまたは複数のオンおよびオフ期間のレジメンを含む。オンおよびオフ期間(すなわち、注入がオンまたはオフのいずれかである期間)の例は、約2~24時間の範囲内であってよく、4、6、8、10、12、14 16、18、および20時間の特定の実施形態を有する。
【0149】
説明した頭蓋内薬物送達システムの実施形態を使用した、医薬溶液の頭蓋内送達により腫瘍を局所的に治療する方法の追加的な実施形態において、溶液の流量に対する、脳内の医薬溶液のSSDVの相関関係のモデルからの情報は、脳内の医薬溶液の所望のSSDVに基づいて、医薬溶液の流量を選択および/または滴定するために使用できる。SSDVは、注入による医薬溶液の体積への流入が、拡散(例えば、フィックの拡散)による体積からの流出と一致する時点における、閾値濃度の医薬溶液/治療剤を有する脳内の組織の体積のことである。相関関係は、選択された流量での本明細書に記載の頭蓋内薬物送達システムの実施形態を使用した動物モデルにおける、造影剤(例えば、X線に対するヨウ素またはMRIに対するガドリニウム)の頭蓋内注入を使用して発展させることができ、続いて、造影剤の拡散体積は、SSDVに到達するまで、MRIまたは蛍光透視法の下、モニタリングできる。選択された活性薬剤(例えば、トポテカン)に対する造影剤の拡散係数の差に関しても、調整が可能である。
【0150】
典型的に、SSDVは、被験者の脳腫瘍の体積と同一の大きさ、またはわずかに大きくなる(例えば、数ミリメートルだけ)ように選択され、腫瘍の型および段階によって、腫瘍の周りの選択された健康な組織境界を治療できるようにする。しかしながら、SSDVは、腫瘍の型および段階によって、腫瘍の体積より大きく(数ミリメートルを超えて)または小さくなるようにも選択できる。腫瘍の体積は、CATスキャンまたは頭蓋MRIの1つまたは両方により判定できる。医薬溶液は、1つまたは複数の活性薬剤、1つまたは複数の診断薬(例えば、(ヨウ素ベースの薬剤を使用した)蛍光透視法または(ガドリニウムベースの造影剤を使用した)MRIの下、拡散体積の可視化を可能にする造影剤/媒体を含んでよい。そのような方法の実施形態において、被験者が、MRIまたはCATスキャンなどの撮像を経て、腫瘍の体積、可能であれば腫瘍の型が判定される。続いて、医師は、その情報、特に腫瘍の体積を使用し、医薬溶液の適切な注入流量を判定し、医薬溶液により治療される脳組織の所望の治療体積を実現する。治療体積は、腫瘍の体積よりやや大きくなるように選択され、腫瘍の周囲の健康な組織境界を治療できるようにする。判定は、所望の治療体積を、医薬溶液の選択された流量により実現された治療体積のデータベースに関連付けることにより実施される。
【0151】
更に別の態様において、脳腫瘍を局所的に治療する方法は、健康な脳組織で見られるpHまたはそれを超えたpHにおいて分解される、または化学的に変化する活性薬剤(例えば、化学療法薬)を含む医薬溶液を、腫瘍内または腫瘍に近接した脳内の標的組織に頭蓋内送達することを含み、ここで、溶液は、例えば、酸性緩衝剤を含む緩衝剤を実質的に含まない。そのような酸性緩衝剤は、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸またはクエン酸ナトリウムの1つまたは複数を含んでよい。例えば、活性薬剤は、腫瘍内のがん組織への細胞毒性効果を有するが、、腫瘍の周囲の健康な脳組織に触れると、または健康な脳組織に進入すると、その組織の通常の生理的pH(例えば、7.1~7.4)により、少なくとも部分的に、がん細胞に対するある程度の治療効果が不活化される、または別の方法で失われる。そのような腫瘍標的剤は、腫瘍の周囲のCSFのpH(例えば、7.28~7.32)により不活化されてもよい。議論を簡単にするため、そのようなCSFは、腫瘍の周囲の健康な組織の一部と定義されることになる。通常の健康な組織のpHへの曝露により不活性化される細胞毒性効果は、DNA複製を含む細胞複製を妨げるまたは阻害する効果を含んでよい。そのような実施形態において、細胞毒性効果は、トポイソメラーゼ酵素の抑制またはトポイソメラーゼ酵素への干渉を含んでよく、ここで、トポイソメラーゼは、トポイソメラーゼIを含む。トポイソメラーゼIを含むトポイソメラーゼを抑制する薬剤は、それぞれトポイソメラーゼ阻害薬およびトポイソメラーゼI阻害薬(後者は前者のサブセットである)として知られている。トポイソメラーゼI阻害薬の例には、ラメラリンD、カンプトテシン、およびトポテカンなどのその類似体、イリノテカン(およびその活性代謝物、10,11-メチレンジオキシ-CPT(MDC)、およびアルキル化誘導体、7-クロロメチル-10,11-MDCが挙げられる。これらの化合物の後者の2つはいくらかより安定的であるものの、これらの類似体の全ては、それでもなお、健康な脳組織のpHを含む健康な組織のpHで分解される。これは、全てが生理学的pHにおいて可逆的にヒドロキシ酸を形成する分子のeリングに不安定なラクトンを有しているという事実のためである。ラクトンは活性型であり、ヒドロキシ酸は不活性である。反応は可逆的であるため、分子は、それ自身が腫瘍内、特に脳腫瘍内などの酸性環境にあると判明したとき、活性型のまま留まるか、活性型に戻るかのいずれかになる。
【0152】
上述のような健康な組織のpHで分解される腫瘍トポイソメラーゼI阻害薬の1つの主要例がトポテカンであり、別の例がイリノテカンである。その腫瘍標的能力を維持するため、本開示により検討されたトポテカンを含有する医薬溶液の実施形態は、緩衝剤をほとんど、または実質的に含有しない(例えば、モル濃度または体積で5%未満、より好適には1%未満、なおより好適には0.25%未満)。トポテカンその他のカンプトテシン類似体を含む医薬溶液の特定の実施形態において、溶液は、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸またはクエン酸ナトリウムの1つまたは複数を含む酸性緩衝剤を含有しない、またはほとんど含有しない、または実質的に含有しない。そのような標的溶液は、ほぼ全ての非経口薬剤溶液(例えば、IVまたは皮下)が溶液を安定化させて通常の生理学的範囲内に溶液のpHを維持する目的で緩衝剤を含有しているという、医薬品の技術分野における教えに反していると考えられる点で、新奇性が高い。特にトポテカンに関して、当技術分野(具体的に、FDAによる製造の添付文書)は、トポテカン溶液が既知の酸性緩衝剤である酒石酸を含有することを教示する。
【0153】
そのような腫瘍標的剤および溶液の利点は、それらはがん性組織への細胞毒性効果を有しているが、健康な組織で見られるpHにより不活性化するため、健康な組織への毒性効果はほとんどない、または全くないことである。これにより、より高濃度で、それに付随する投与量の標的剤を腫瘍の体積に送達することが可能になり、より高く、より速い細胞毒性効果がもたらされるが、周囲の健康な脳組織への毒性効果はほとんどない、または全くない。
【0154】
腫瘍標的剤を含有する腫瘍標的溶液を使用する方法の実施形態において、少なくとも1つの活性薬剤を含む医薬溶液は、上述の頭蓋内薬物送達システムの実施形態を使用して、被験者の脳腫瘍内のTTSに、頭蓋内投与される。医薬溶液は、続いて、腫瘍内のがん細胞への細胞毒性効果を有する腫瘍の体積内に拡散する。溶液が健康な組織内に拡散し始めると、健康な組織のpHにより化学的に不活化し、健康な組織へのその細胞毒性その他の毒性効果が失われる。そのような不活性化により、標的溶液を、長期間、腫瘍内に(連続的または断続的のいずれかで)注入できるようになり、腫瘍細胞に対する細胞毒性効果が向上するが、健康な組織への有害作用は最小化される、または健康な組織への有害作用は全くない。ある実施形態において、カテーテルは、その遠位先端に、または遠位先端の近くにpHセンサーを備え、TTSにおけるpHの判定を可能にしてよい。続いて、pHセンサーからの情報は、注入流量、レジメンまたは送達される医薬溶液の総量の1つまたは複数を制御または滴定するために使用され、腫瘍標的剤がその活性(例えば、細胞毒性)型を維持するために、最適なpHを維持できるようにする。使用の際、そのような方法のこれらまたは他の実施形態は、腫瘍への細胞毒性効果を持続および/または向上させ、それにより、健康な脳組織への有害作用を最小としながら腫瘍の縮小を速めるという利点をもたらす。
【0155】
様々な実施形態の前述の説明は、図示および説明の目的のために提示されており、発明を開示された正確な形式に制限する意図はない。多数の修正、変更および改良は、当技術分野の実務者にとっては明白である。例えば、デバイスの実施形態は、様々な小児および新生児への適用および様々な獣医学的適用のために形成される、またはその他適応させることができる。また、当業者であれば、ただ所定の実験を使用するだけで、本明細書に記載の特定のデバイスおよび方法の多数の等価物を認識する、または確認できるであろう。そのような等価物は、本発明の範囲内であると考えられ、以下に添付の請求項によりカバーされる。
【0156】
本開示は、その特定の実施形態を参照して説明および図示されてきたが、これらの説明および図示は、本開示を制限しない。添付の請求項により定義されたような本開示の真の主旨および範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能で、実施形態内で同等のコンポーネントに置換できることは明白に理解できる。また、1つの実施形態のコンポーネント、特徴、または作用は、他の実施形態の1つまたは複数のコンポーネント、特徴または作用と容易に再結合または置換され、発明の範囲内で多数の追加的な実施形態を形成することができる。さらに、他のコンポーネントと結合するとして図示または説明されているコンポーネントは、様々な実施形態において、独立型のコンポーネントとして存在できる。さらに、コンポーネント、特徴、構成要素、機構、段階などを積極的に列挙する場合、発明の実施形態は、そのコンポーネント、値、特徴、構成要素、機構、段階などの除外を具体的に検討する。図は、必ずしも縮尺通りに描かれているわけではない。製造過程などの変更により、本開示における芸術的演出と、実際の装置との間には差異が生じる可能性がある。具体的に図示されていない本開示の他の実施形態も存在する。明細書および図面は、制限的なものではなく、例示的なものであるとみなされる。修正は、特定の状況、材料、組成物、方法、または過程を、本開示の目的、主旨および範囲に適応させるために実施できる。そのような全ての修正は、ここに添付の請求項の範囲内であることが意図されている。本明細書において開示された方法は、特定の順序で実施される特定の操作を参照して説明されたが、本開示の教えを逸脱することなく、これらの操作が結合され、さらに分割され、または並び替えられ、同等の方法を形成できることが理解できる。それゆえ、本明細書において具体的に示されない限り、操作の順序およびグルーピングは、本開示の制限ではない。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2022-04-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の脳内の組織部位への医薬溶液の送達のためのシステムであって、
近位端と遠位端とを有するカテーテルであって、少なくとも1つのカテーテルルーメンを画定するカテーテルと、
頭蓋穿頭孔栓であって、栓を通る前記カテーテルの前進のために構造化された栓開口を画定する栓であって、
前記被験者の頭蓋における穿頭孔に挿入されるように構造化されたプラグであって、前記栓開口の壁に位置付けられた少なくとも1つのシールを備え、前記カテーテルの外側と共に流体シールを形成するプラグと、
前記プラグが前記穿頭孔に挿入されたとき、前記被験者の頭蓋骨の外表面に係合するように構造化されたフランジであって、側部にフランジ開口を画定し、上部に前記カテーテルを係合させて保持するように構造化された少なくとも1つの溝を画定するフランジとを備える栓と、
近位端と、前記カテーテルの前記近位端に連結するように構造化された遠位端とを有する接続部材であって、少なくとも1つの接続部材ルーメンを画定する接続部材と、
前記フランジ開口を係合させ、前記接続部材を前記フランジに固定するように構造化された固定要素と、
近位端と、前記接続部材近位端に連結するように構造化された遠位端とを有するコネクター菅であって、少なくとも1つのコネクター菅ルーメンを画定するコネクター菅とを備え、
前記少なくとも1つのカテーテルルーメン、前記少なくとも1つの接続部材ルーメン、および前記少なくとも1つのコネクター菅ルーメンは、前記脳内の前記組織部位への前記医薬溶液の送達のため、共に組み立てられるとき、少なくとも1つの流路を提供するように構造化されるシステム。
【請求項2】
前記コネクター菅の前記近位端に連結するように構造化された出口を有するポンプであって、前記流路を通して前記医薬溶液をポンプで注入するように構造化されたポンプと、
前記医薬溶液の貯蔵のためのリザーバであって、前記ポンプに流体的に連結するリザーバとを更に備える、請求項1のシステム。
【請求項3】
前記少なくとも1つのカテーテルルーメンは、そこを通る位置決めスタイレットの前進のために形成および構造化される、請求項1のシステム。
【請求項4】
前記カテーテルは、少なくとも1つの放射線不透過性マーカーを備える、請求項1のシステム。
【請求項5】
前記カテーテルは、20~30の範囲のデュロメータを有する、請求項1のシステム。
【請求項6】
前記脳から前記流路への液体の逆流を防ぐ一方向弁を更に備える、請求項1のシステム。
【請求項7】
前記カテーテルの末端部は、前記組織部位への前記医薬溶液の送達のために前記少なくとも1つのカテーテルルーメンに流体的に連結する複数の開口部を備え、前記複数の開口部は、パターンで配置され、標的拡散体積をもたらすように構造化される、請求項1のシステム。
【請求項8】
前記カテーテルは、第1デュロメータを有する末端部と、前記第1デュロメータよりも大きい第2デュロメータを有する残部とを備える、請求項1のシステム。
【請求項9】
前記流路を通る医薬溶液の流量についての情報を提供するように構造化された圧力センサーを更に備える、請求項1のシステム。
【請求項10】
前記カテーテル上または前記カテーテル内に構造化され、位置付けられ、前記カテーテルの遠位先端の近くの、または前記カテーテルの遠位先端に隣接した、脳組織内の圧力を検出する圧力センサーを更に備える、請求項1のシステム。
【請求項11】
前記穿頭孔栓上または前記穿頭孔栓内に配置された回路を更に備える、請求項1のシステム。
【国際調査報告】