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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-03
(54)【発明の名称】電気化学センサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/333 20060101AFI20220926BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
G01N27/333 331A
G01N27/333 331C
G01N27/333 331E
G01N27/416 353Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506584
(86)(22)【出願日】2020-07-01
(85)【翻訳文提出日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 US2020040486
(87)【国際公開番号】W WO2021021379
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】62/879,886
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/684,285
(32)【優先日】2019-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】515231553
【氏名又は名称】ローズマウント インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】305023366
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チェン、シン
(72)【発明者】
【氏名】フー、チンポー
(72)【発明者】
【氏名】バールマン、フィリップ
(57)【要約】
架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含むイオン選択性膜を有する電気化学センサーであり、前記架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーは、1.ターゲットのカチオン又はアニオンに対して選択的である、共有結合した、電気的に中性又は帯電したイオノフォア、又は、2.共有結合したカチオン性又はアニオン性のイオン部位、又は、3.共有結合したカチオン性又はアニオン性のイオン部位、及び共有結合した電気的に中性又は帯電したイオノフォアを有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットのカチオン又はアニオンに対して選択的である、共有結合した、電気的に中性又は帯電したイオノフォア、を有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含むイオン選択性膜を有する電気化学センサー。
【請求項2】
高表面積炭素固体コンタクトを含む、請求項1に記載のセンサー。
【請求項3】
前記共有結合したイオノフォアが、Hに対して選択的であり、第一級、第二級若しくは第三級アミン、又はピリジン、キノリン若しくはフェナントレン等の複素環芳香族炭化水素を官能基として含む、請求項1に記載のセンサー。
【請求項4】
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、請求項1に記載のセンサー。
【請求項5】
共有結合したカチオン性又はアニオン性のイオン部位を有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含む、イオン選択性膜を有する電気化学センサー。
【請求項6】
高表面積炭素固体コンタクトを含む、請求項5に記載のセンサー。
【請求項7】
前記共有結合したイオン部位が、テトラフェニルボレート基;スルホン酸基;スルホニルイミド基;又は、スルホニルイミドの1つ若しくは2つのアルキル置換基に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、若しくは18のフッ素原子が結合したスルホニルイミド基を官能基として含む、請求項6に記載のセンサー。
【請求項8】
前記イオン部位官能基を含むイオンと、前記イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合によって作製される、請求項7に記載のセンサー。
【請求項9】
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、請求項5に記載のセンサー。
【請求項10】
前記イオン部位官能基を含むイオンと、前記イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合によって作製される、請求項9に記載のセンサー。
【請求項11】
共有結合したカチオン性又はアニオン性のイオン部位、及び共有結合した電気的に中性又は帯電したイオノフォアを有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマー、イオン選択性膜を有する電気化学センサー。
【請求項12】
高表面積炭素固体コンタクトを含む、請求項11に記載のセンサー。
【請求項13】
前記共有結合したイオノフォアが、Hに対して選択的であり、第一級、第二級若しくは第三級アミン、又はピリジン、キノリン若しくはフェナントレン等の複素環芳香族炭化水素を官能基として含む、請求項11に記載のセンサー。
【請求項14】
前記共有結合したイオン部位が、テトラフェニルボレート基;スルホン酸基;スルホニルイミド基;又は、スルホニルイミドの1つ若しくは2つのアルキル置換基に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、若しくは18のフッ素原子が結合したスルホニルイミド基を官能基として含む、請求項11に記載のセンサー。
【請求項15】
前記イオン部位官能基を含むイオンと、前記イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合によって作製される、請求項14に記載のセンサー。
【請求項16】
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、請求項11に記載のセンサー。
【請求項17】
前記イオン部位官能基を含むイオンと、前記イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合によって作製される、請求項16に記載のセンサー。
【請求項18】
センサー本体;及び
前記センサー本体の上又は内部に配置されたイオン選択性膜を有し、
前記イオン選択性膜が、ターゲットのカチオン又はアニオンに対して選択的である、共有結合した、電気的に中性又は帯電したイオノフォア、を有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含む、電気化学センサー。
【請求項19】
高表面積炭素固体コンタクトを含む、請求項18に記載のセンサー。
【請求項20】
前記共有結合したイオノフォアが、Hに対して選択的であり、第一級、第二級若しくは第三級アミン、又はピリジン、キノリン若しくはフェナントレン等の複素環芳香族炭化水素を官能基として含む、請求項18に記載のセンサー。
【請求項21】
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、請求項18に記載のセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
固体ガラス膜を有するガラス電極は、pH測定のための標準的なセンサーである。しかし、ガラス膜は固有の欠点を有する。多くの種類のガラス膜は、重要な成分として鉛を含み、鉛の除去は著しくエンジニアリング資源を必要とし、ガラス割れに対する危険性を増大させる。ガラス電極の製造は、広範なガラス吹きの専門技術を必要とし、高価である。加えて、ガラスの脆弱性は、食品加工及び埋め込み型又は装着型のセンシング等の適用分野において課題となっている。
【背景技術】
【0002】
現在のガラス電極は、機能するために内部充填溶液を必要とし、これは小さなフォームファクター(form factor)が要求される用途での使用を制限している。pH感受性ガラスバルブ上へのタンパク質吸着は、頻繁な洗浄及びメンテナンスを必要とするファウリング(fouling)を引き起こす。ガラス電極は、また、ガラスの抵抗率が高いために小型化が困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ポリマー膜は、上記課題のいくつかを解決するための代替物である。可塑化PVC膜は、広範囲のpHイオノフォアの開発が成功し、従来型のポリマー膜イオン選択性電極(ISE)となっている。これらのイオノフォアは、アミン及びピリジンの誘導体の場合のようにプロトン化され得る官能基を有する。しかし、PVC系膜に用いられる可塑剤は経時的に浸出することがある。可塑剤のこの段階的な損失は、選択性膜の機能性及び選択性を低下させるだけでなく、炎症反応を引き起こし、可塑化ポリマーを長期間のモニタリング、食品及び医薬品産業等、並びに埋め込み型及び装着型のセンシング用途等の領域において使用するのに望ましくないものとする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
1つの実施形態では、本開示は、ターゲットのカチオン又はアニオンに対して選択的である、共有結合した、電気的に中性又は帯電したイオノフォア、を有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含むイオン選択性膜を有する電気化学センサーを含む。
【0005】
別の実施形態では、本開示は、共有結合したカチオン性又はアニオン性のイオン部位を有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含むイオン選択性膜を有する電気化学センサーを含む。
【0006】
さらに別の実施形態では、本開示は、共有結合したカチオン性又はアニオン性のイオン部位、及び共有結合した電気的に中性又は帯電したイオノフォアを有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含むイオン選択性膜を有する電気化学センサーを含む。
【0007】
さらなる実施形態では、本開示は、高表面積炭素固体コンタクト(solid contact)を含む、前記センサーのいずれか1つを含む。
【0008】
さらに別の実施形態では、本開示は、前記共有結合したイオノフォアが、Hに対して選択的であり、第一級、第二級若しくは第三級アミン、又はピリジン、キノリン若しくはフェナントレン等の複素環芳香族炭化水素を官能基として含む、センサーを含む。
【0009】
さらに別の実施形態では、本開示は、前記共有結合したイオン部位が、テトラフェニルボレート基;スルホン酸基;スルホニルイミド基;又は、スルホニルイミドの1つ若しくは2つのアルキル置換基に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、若しくは18のフッ素原子が結合したスルホニルイミド基を官能基として含む、センサーを含む。
【0010】
さらに別の実施形態では、本開示は、前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、センサーを含む。
【0011】
さらに別の実施形態では、本開示は、前記イオン部位官能基を含むイオンと、前記イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合によって作製される、センサーを含む。
【0012】
本開示は、また、センサー本体及び前記センサー本体の上又は内部に配置されたイオン選択性膜を有し、前記イオン選択性膜が、架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又はコポリマーを含む、電気化学センサーを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、イオノフォア対イオン部位の異なる2つの比(3:1及び1.5:1)を有するPVC相pH選択性電極のpH応答の図である。
図2図2は、固体コンタクトタイプIポリ(MMA-co-LMA)コポリマー膜のpH応答の図である。EMF測定は、pH7.4(10mMのNaCl、10mMのNaHPO及び10mMのNaHPO溶液)で開始した。
図3図3は、内部充填溶液(10mMのNaCl、10mMのNaHPO及び10mMのNaHPO溶液)を用いた従来の電極本体に搭載したタイプIIポリ(MMA-co-LMA)コポリマー膜のpH応答の図である。
図4図4は、様々な重量パーセントの架橋剤を有するポリ(デシルメタクリレート)膜の物理的外観を示す写真である。
図5図5は、内部充填溶液(10mMのNaCl、10mMのNaHPO及び10mMのNaHPO溶液)を用いた従来のISE本体に搭載した架橋ポリ(デシルメタクリレート)コポリマー膜のpH応答の図である。
図6図6は、内部充填溶液(10mMのNaCl、10mMのNaHPO及び10mMのNaHPO溶液)を用いた従来の電極セットアップにおける架橋ポリ(デシルメタクリレート)コポリマー膜のpH応答の2つの図を含む。
図7図7は、内部充填溶液(10mMのNaCl、10mMのNaHPO及び10mMのNaHPO溶液)を用いた従来の電極セットアップにおける架橋ポリ(デシルメタクリレート)コポリマー膜のpH応答の時間プロファイルの2つの図を含む。
図8図8は、固体コンタクト材料としてナノグラファイト炭素の上でUV重合された架橋ポリメタクリレート膜の写真である
図9図9は、固体コンタクト電極セットアップにおける架橋ポリ(デシルメタクリレート)コポリマー膜のpH応答及び可逆性の図を含む。左上:固体コンタクトとしてナノグラファイトを有する1.5wt%の架橋ポリ(メタクリレート)膜。右上:固体コンタクトとしてナノグラファイトを有する4wt%の架橋ポリ(メタクリレート)膜。左下:固体コンタクトとしてグラファイトロッドを有する1.5wt%の架橋ポリ(メタクリレート)膜。右下:固体コンタクトとしてグラファイトロッドを有する4wt%の架橋ポリ(メタクリレート)膜。
図10図10は、水がセンシング膜をバイパスし短絡の問題を引き起こし得る一般的な電極本体の設計(左)、及び外部電極本体に共有結合したポリマー膜を有し、そのような短絡を回避する設計(右)の説明図である。
図11図11は、共有結合したイオノフォアを有する固体コンタクトISEセットアップにおける架橋ポリ(デシルメタクリレート)コポリマー膜のpH応答及び可逆性の図である。
図12図12は、共有結合したイオン部位を有する固体コンタクトISEセットアップにおける架橋ポリ(デシルメタクリレート)コポリマー膜のpH応答の図である。
図13図13は、イオノフォア及びイオン部位の両方が共有結合した固体コンタクトISEセットアップにおける架橋ポリ(デシルメタクリレート)コポリマー膜のpH応答の図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示は、従来のpH電極のガラス膜の代わりに架橋メタクリレートポリマー膜を導入し、高表面積の炭素材料を固体コンタクトとして使用して内部充填溶液を排除することにより、ガラス電極の問題を解決する。架橋メタクリレート膜は、機械的に堅牢であり、鉛を含まず、プロトン選択性イオノフォアを組み込むことで所望のpH動作範囲に微調整することができる。内部充填溶液を炭素の固体コンタクト材料に置き換えることで、電極のサイズを小さくし、小型化することができ、内部充填溶液のメンテナンスの必要性を排除する。
【0015】
可塑剤を避けるため、ポリマー自体を「自己可塑化」させる必要がある。ISE用のポリマー膜に関して、ポリマーは、イオノフォア、イオン部位又はターゲットイオン等のセンシング成分が内部で自由に拡散できるように膜が「ゴムのような」性質を持つように、意図する用途の温度よりも低いガラス転移温度(Tg)を有する必要がある。大部分の通常の測定用では室温より低いTgが一般的な標準である。特有の適用領域では、例えば特定の工業プロセス制御用途の場合、-10℃未満のTgが必要になることがあり、又は埋め込み型センサー用では体温(37℃)未満のTgが必要になることがある。
【0016】
ISEに適した一般的な可塑剤を含まないポリマーは、ポリウレタン、シリコーン、並びにポリ(メタクリレート)系及びポリ(アクリレート)系のポリマーの3つの主要なカテゴリーに分類される。ポリ(メタクリレート)系及びポリ(アクリレート)系のポリマーは、アルキルメタクリレート又はアルキルアクリレートのモノマーの割合を慎重に変えることによって、これらのポリマーのTgを調節することができるという独特の利点を有する。
【0017】
長期間の使用及びモニタリングが可能なセンサーの開発を考慮し、重要なセンサー成分を膜の骨格に共有結合させ、サンプル中への浸出によるこれらの成分の段階的な損失を防ぐことが有益である。メタクリレート及びアクリレートの重合化学は、イオノフォア、イオン部位、イオン液体、及び塩等の成分を膜ポリマーの骨格に共有結合させる機会を与える。周知の理論モデルに基づき、膜中に自由に溶解した場合、トリドデシルアミン、4-ノナデシルピリジン(ETH 1907)、又はオクタデシルイソニコチネート(ETH1778)等のpHイオノフォアは、それぞれ、100%、6.5%、及び92.3%の範囲まで180日以上かけて血清サンプル中に浸出する。
【0018】
特定の用途では、センサー成分の共有結合は、より高温で使用されるISEに対しても魅力的である。しかし、センサー成分を共有結合させることに関する過去の研究は、K若しくはNaイオノフォア又はテトラフェニルボレート系イオン部位をポリマー骨格に共有結合させる少数の研究のみに限られている。
【0019】
本明細書では、架橋ポリ(メタクリレート)膜のための共有結合したイオン部位としてメタクリレート系スルホン酸アルキルが記載されている。メタクリレート単位は、最適な共有結合のために、メタクリレートモノマー及びメタクリレート架橋剤との正確な反応性を確保している。
【0020】
我々の知る限りでは、共有結合したイオン部位としてメタクリレート系スルホン酸アルキルが用いられるのはこれが初めてである
【0021】
加えて、2種類のメタクリレート系アミンは、共有結合したイオノフォアとして初めて用いられ、自由pHイオノフォアであるトリドデシルアミンを用いた従来のISE膜に匹敵するネルンスト応答(Nernstian response)をもたらした。
【0022】
イオノフォア及びイオン部位の両方は、膜ポリマーに共有結合していてもよい。ポリ(メタクリレート)系固体ISEの概念は、pHイオノフォアを他のイオンのための適切なイオノフォアに変更することにより、pH以外の測定に容易に拡張することができる。
【実施例
【0023】
材料
【0024】
テトラキス(4-クロロフェニル)ほう酸カリウム(KpClPB)、デシルメタクリレート(DMA)、ラウリルメタクリレート(LMA)、メチルメタクリレート(MMA)、2、2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)、2、2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPP)、ヘキサンジオールジメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレート、及び3-スルホニルプロピルメタクリレートカリウム塩をSigma Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。
【0025】
トリドデシルアミン(TDDA)をSigma(St.Louis、MO)から購入した。
【0026】
高分子量PVC及びo-ニトロフェニルオクチルエーテル(o-NPOE)をFluka(Buchs、Switzerland)から購入した。
【0027】
ナノグラファイト粉末(GS-4827、BET表面積250m/g、粒径分布0.10μm~10μm)及び微細押出成形グラファイトロッド(外径0.25インチ)をgraphitestore.com(Northbrook、IL)から購入した。
【0028】
フラーレン粉末(混合、通常98%のC60及び2%のC70)及びテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ほう酸カリウムをAlfa Aesar(Tewksbury、MA)から購入した。
【0029】
使用前に、無水酢酸エチルを活性化4Åモレキュラーシーブスで一晩さらに乾燥させた。
【0030】
無水の阻害剤を含まないTHFを塩基性アルミナのカラムに通して微量の過酸化物を除去した。
【0031】
コロイドインプリントメソポーラス(CIM)炭素を以前報告したように調製した。
【0032】
Milli-Q Plus試薬グレードの水システム(Millipore、Bedford、MA)を用いて、脱イオンし活性炭処理した水(比抵抗0.182MΩcm)で全ての水溶液を調製した。
【0033】
pHイオノフォア トリドデシルアミンの精製
【0034】
トリドデシルアミンを精製するため、1gのトリドデシルアミンを15mLのジエチルエーテルに溶解し、1mMの水酸化カリウム水溶液(15mL×3)で洗浄した後、水(10mL)で洗浄した。その後、有機相を回収し、硫酸マグネシウムで乾燥した。
【0035】
濾過により硫酸マグネシウムを除去した後、真空下で有機溶媒を除去した。1H NMR分光法、MS及び元素分析は、このように精製したトリドデシルアミン及び精製していないトリドデシルアミンが誤差の範囲内で同一であることを示した。1H NMR(CDCl、d):2.33(t、6H、N-CH-(CH)10-CH)、1.25-1.39(m、60H、NCH-(CH)10-CH)、0.87(m、9H、N-CH-(CH)10-CH)。ESI-MS:[トリドデシルアミン-H]=521.7;[ジドデシルアミン-H]=354.5。元素分析(Atlantic Microlab、Norcross、GA):実測値:83.04%のC、14.42%のH、2.48%のN(理論値:82.83%のC、14.48%のH、2.68%のN)。
【0036】
PVC膜の作製
【0037】
pH選択性PVC膜を作製するための溶液は、66mgのPVCを132mgのo-NPOEと1mLのTHFとの撹拌溶液にゆっくりと添加し、その後、39mmol/kgのトリドデシルアミン及びテトラキス(4-クロロフェニル)ほう酸カリウムを添加して、3:1又は1.5:1のイオノフォア対イオン部位の比を得る(ISE膜における最終濃度として、それぞれ、13又は26mmol/kg mmol/kgを得る)ことで調製した。PVCが完全に溶解するまで溶液を撹拌した後、25mm径のガラスペトリ皿に注ぎ、24時間超乾燥させて可塑化PVCマスター膜を得た。7mmの小さな円板をマスター膜から切断し、THFでタイゴン(Tygon)管に接着した。
【0038】
ポリ(MMA-co-LMA)コポリマーの合成及び膜の作製モノマー中の阻害剤の除去
【0039】
阻害剤4-メトキシフェノールを除去するために、5%(w/v)NaOH及び20%(w/v)NaClを含む水溶液で5mLのMMA又はDMAを3回(15mL×3)洗浄し、得られた水相のpHが中性になるまで水で洗浄した。有機液体を回収し、硫酸ナトリウムで乾燥し、使用前に濾過により乾燥剤を除去した。
【0040】
ポリ(MMA-co-LMA)コポリマーの合成:
【0041】
合成方法は、以前報告した手順から適合した。1.06gのMMA及び3.94gのLMA(タイプI、25wt%のMMA及び75wt%のLMA)又は1.50gのMMA及び1.50gのLMA(タイプII、50wt%のMMA及び50wt%のLMA)を3mLの無水酢酸エチルに溶解し、二つ口丸底フラスコに加え、アルゴンで3回パージした。次いで、10.54mgのAIBNの無水酢酸エチル溶液1mLをシリンジで添加した。MMAの蒸気圧が低いため、MMAとLMAの正確な比を確保するためには反応フラスコの密閉が重要である。反応をアルゴン下で18時間還流した後、溶媒蒸発により淡黄色の粘性液体を得て、これを20mLのジオキサンに再溶解した。次いで、激しく撹拌した800mLの脱イオン水のビーカーに滴下漏斗を通して前記ジオキサン溶液を滴下し、非常に粘着性の白色沈殿物を形成した。水相を廃棄し、前記白色沈殿物を100mLのジクロロメタンに再溶解し、硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過による乾燥剤の除去及び溶媒の蒸発により2.03gの最終生成物を得た(収率:40.6%)。
【0042】
膜の作製
【0043】
pH選択性ポリ(MMA-co-LMA)膜のためのカクテル溶液は、13.34mgのTDDA及び3.59mgのKTpClPB(イオノフォア対イオン部位の比3:1を得る)を1.041gのコポリマーの撹拌THF溶液6mLに添加することで調製した。内部充填溶液を用いた従来のセットアップの電極には、200mg相当のコポリマーを用いたカクテル溶液を、その後、直径25mmのテフロンペトリ皿に加え、一晩乾燥させ、マスター膜を得た。19mmの小さな円板をこれらのマスター膜から切断し、カスタムメイドの電極本体に装着した。10mMのNaCl、10mMのNaHPO、及び10mMのNaHPO溶液(pH=7.4)を含む水溶液を内部充填溶液として用いた。使用前に、前記内側充填溶液と同じ組成の溶液中で電極を一晩コンディショニングした。固体コンタクトセットアップの電極には、金電極(不活性Kel-Fポリマーのシャフトに埋め込んだ、直径(2mm)の平面円形金電極;CH Instruments、Austin、TX)を、まず0.5μmの、次いで0.03μmの水性酸化アルミニウムスラリー(Buehler、Lake Bluff、IL)を用い、研磨布上で研磨し、その後、最初に水中で、次いでエタノール中でそれぞれ6分間超音波処理した。アルゴンの流れを用いて電極を乾燥させた。50mgのCIM炭素を1.0mLのTHFに溶解してCIM炭素懸濁液を調製した。次いで、30μLの前記懸濁液を金電極上にドロップキャスト(dropcast)して乾燥させた。続いて、コポリマー膜溶液の2つのアリコート(aliquots)(20μL、続いて30μL)をCIM炭素層上にドロップキャストした。溶媒を一晩蒸発させた後、使用前に、電極を10mMのNaCl、10mMのNaHPO、及び10mMのNaHPO溶液(pH=7.4)でコンディショニングした。
【0044】
架橋ポリ(デシルメタクリレート)の合成及び膜の作製
【0045】
阻害剤ヒドロキノンを除去するために、DMA及びヘキサンジオールジメタクリレートを塩基性アルミナのカラムに通した。センサー成分を添加しないブランクのポリマー膜のために、合計600mgのポリマーマトリクスを準備した。1.5wt%の光開始剤DMPPをバイアルに秤量した。次いで、2、3、及び5wt%の架橋剤ヘキサンジオールジメタクリレート並びに96.5、95.5及び94.5wt%のモノマーデシルメタクリレートを、それぞれ、容積に換算し、マイクロピペットを介してDMPPに添加した。前記溶液を撹拌して、開始剤を完全に溶解した。自由イオン部位を有する膜には、13mmol/kgのテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ほう酸カリウム、及び40mmol/kgのトリドデシルアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、又は2-(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレートのいずれかを膜マトリクス混合物に添加した。
【0046】
従来の自立膜では、厚さ0.25mmの一対のすきまゲージによって分離された2つのUV透過石英ガラスの間に膜の溶液を入れた。密閉したボックスをアルゴンで10分間パージした。アルゴンを流し続けながら、365nmのピーク出力を有するUVランプを20分間使用して(短すぎるか、長すぎる場合には、膜の分極又は炭化が不完全になる可能性がある)、重合により架橋ポリメタクリレート膜を得た。19mmの小さな円板をマスター膜から切断し、カスタムメイドの電極本体に装着した。10mMのNaCl、10mMのNaHPO、及び10mMのNaHPO溶液(pH=7.4)を含む水溶液を内部充填溶液として用いた。使用前に、前記内側充填溶液と同じ組成の溶液中で電極を一晩コンディショニングした。
【0047】
ナノグラファイト又はフラーレンを固体コンタクトとする電極については、本明細書で先に説明した方法と同じ方法で金電極を洗浄し、作製した。1.0mLのTHFに50mgの炭素を溶解させた後、30分間超音波処理することにより、ナノグラファイト又はフラーレンのいずれかの炭素懸濁液を調製した。次いで、2μLの前記懸濁液をマイクロシリンジでドロップキャストして、金表面を完全に覆うのに十分な大きさであるが、金電極を囲む不活性Kel-Fを完全に覆うのに必要な大きさよりも小さいディスクを形成した。これに続いて、電極表面の縁部からマイクロシリンジを用いて、5mLの膜溶液を慎重に添加して、先に堆積した炭素層上に膜溶液を徐々に流した。このようにすることで、ポリマー溶液の添加によって炭素層が乱されなかった。グラファイトロッドを含む固体コンタクトセットアップを有する電極については、グラファイトロッドをサンドペーパーで研磨して平滑な表面を得た。ポリマー膜溶液の2つのアリコート(5μL、続いて30μL)を前記ロッド表面にドロップキャストした。
【0048】
膜溶液を添加した後、UV透過石英ガラス板で覆われた良好に密閉したボックス内に電極を配置した。ボックスをアルゴンで10分間パージした後、同じアルゴンを流し続け、膜をUV照射下(ピーク出力:365nm)で20分間重合した。密閉ボックス及びアルゴンフローによって提供される無酸素環境が重要であることが見出された。良好に密閉したセットアップ及びアルゴンフローがなければ、重合が部分的に又は完全に欠如することが観察された。
【0049】
グラファイトロッドを固体コンタクトとして有する電極の場合には、外部のカスタムメイドの電極本体ケースを用いてカーボンロッドを慎重かつ完全に囲み、銅線を用いてカーボンロッドをポテンショスタットに接続した。電極本体を組み立てる際に、可能な限り回転運動が少なくなるように注意すべきである。センシング膜と接続している電極本体の端がポリ(メタクリレート)膜を切断又は損傷しないように、不必要に過剰な機械的圧力を使用すべきではない。使用前に、全ての電極を10mMのNaCl、10mMのNaHPO、及び10mMのNaHPO溶液(pH=7.4)でコンディショニングした。
【0050】
共有結合可能なイオン部位3-スルホニルプロピルメタクリレートトリドデシルアンモニウム塩の合成
【0051】
512.12mgの3-スルホニルプロピルメタクリレートカリウム塩(4当量)を7mLの水性の1M HCl溶液に溶解し、271.80mgのTDDA(1当量)を33mLのジエチルエーテルに溶解した。前記2つの溶液を、分液漏斗で互いに慎重に平衡化した。次いで、エーテル相を回収し、硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を除去し、溶媒を蒸発させることにより、最終生成物(合計367.97mg、75mol%の3-スルホニルプロピルメタクリレートトリドデシルアンモニウム塩、及び25mol%のTDDA)を得た。
【0052】
3-スルホニルプロピルメタクリレートN-イソプロピル-N-(2-(メタクリロイルオキシ)-エチル)プロパン-2-アンモニウム塩の合成
【0053】
5グラムの強酸性陽イオン交換樹脂をカラムに充填し、150mLの1M HClで洗浄した。次いで、pHが中性になるまで樹脂を脱イオン水で洗浄した。0.30gの3-スルホニルプロピルメタクリレートカリウム塩(1当量)を少量の水に溶解してカラムに添加した。カラムからの酸性画分を回収し、0.26gの2-(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレートを前記水溶液に添加した。前記溶液を-80℃で2時間に渡ってフリーザーで凍結した後、高真空凍結乾燥機(0.124mbar)に1日置いた。水を除去し、最終生成物として粘性のある無色の液体を得た。
【0054】
電位差測定
【0055】
16チャネル電位差計(Lawson Labs、Malvern、PA)及び自由流動自由拡散ダブルジャンクション参照電極(DX200、Mettler Toledo、Switzerland;内部基準としてAg/AgCl、内部溶液としてAgCl飽和3.0M KCl、及びブリッジ電解質として1.0M LiOAc)を用いて、撹拌溶液中で電位差測定を行った。高濃度のNaOH又はHCl溶液の少量のアリコートを添加し、サンプル溶液のpHを段階的に変更した。ハーフセルpHガラス電極(InLab 201、Mettler Toledo、Columbus、OH;pH4.0、7.0、10.0、及び12.0の標準NIST pH緩衝液で校正した)を用いてpHを個別に測定した。固定干渉法(FIM)でNaについて選択係数を決定した。全ての場合においてネルンスト勾配を確認した。ネルンスト応答領域における応答時間は全て高速であった(<5秒)。2パラメーターのデバイ・ヒュッケル近似により活量を計算した。
【0056】
結果及び考察
【0057】
イオノフォアとイオン部位との最適比
【0058】
【化1】
【0059】
トリドデシルアミンは、水素イオノフォアIとして市販されている周知のpHイオノフォアである。その高い疎水性により、有機膜相中に残留する傾向があり、サンプル溶液へのイオノフォアの段階的な損失に対する優れた耐性が得られる。
【0060】
イオノフォア対イオン部位の異なる2つの比(すなわち3:1及び1.5:1)で作られた可塑化PVC膜を調べ、最適比を確立した(図1を参照)。3:1の比を有するISE膜は、1.5:1の比を有する膜(-51.6±1.1mV/decade、n=7)と比較して、より高く、より理論に近いネルンスト応答勾配(-57.7±0.5mV/decade、n=7)を得た。3:1のイオノフォア対イオン部位の比を有する膜は、また、干渉するNaに対してより選択的であり、-10.0±0.7(n=3)の電位差選択係数
【0061】
【数1】
【0062】
を有し、これは1.5:1のイオノフォア対イオン部位の比を有するISE膜の値
【0063】
【数2】
【0064】
よりも2桁高い。
【0065】
図1を参照して、EMF測定をpH7.4(10mMのNaCl、10mMのNaHPO及び10mMのNaHPO溶液)で開始した。6MのNaOH溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを上昇させた。次いで、pH7.4で再び開始し、1MのHCl溶液のアリコートを添加することにより、pHを低下させた。線形範囲:pH4.1~12.0。勾配:3:1のイオノフォア対イオン部位の比(n=7)では-57.7±0.5mV/decade、及び1.5:1のイオノフォア対イオン部位の比(n=7)では-51.6±1.1mV/decade。
【0066】
3:1のイオノフォア対イオン部位の比を有するISE膜におけるより高い勾配及びより良好な選択性は、一般的なpHイオノフォアと一次イオンとしてのHとの間の従来想定される結合比1:1に対し、本開示で検討したイオノフォアトリドデシルアミンとHとは、1:1の錯体に加えて2:1の錯体も同時に形成することを強く示唆している。このことは、1.5:1のイオノフォア対イオン部位の比を有する膜の低い性能を説明することができ、そこでは2:1のイオノフォア-H錯体の形成により自由イオノフォアが十分に存在しない。一次イオンに結合していない自由イオノフォアは、高い電位差選択性のための必要条件である。低極性フルオラス相ISEは、また、4:1のイオノフォア対イオン部位の比で調製した場合に、優れた性能を示すことが示された。Hと他のトリアルキルアミンイオノフォアとの間でも2:1の錯体が形成される可能性があるとみられる。
【0067】
ポリ(MMA-co-LMA)コポリマー膜を有するISE
【0068】
2種類のpH選択性ポリ(MMA-co-LMA)コポリマー膜を、図2に示す合成スキームを用いて作製した。外気に対する反応系の密閉は、還流反応の過程でのMMAの低い蒸気圧及び潜在的損失を考慮すると、モノマーの所望の比率を確保するために重要である。25wt%のMMA及び75wt%のLMAを有し、フォックス方程式で計算したガラス転移温度が-35℃であるタイプIコポリマーでは、自立膜は得られなかった。この比率のコポリマーは、軟らかく、テフロン基板からも剥離しにくく、水と接触した場合には容易に膨潤してゲル状になった。50wt%のMMA及び50wt%のLMAから調製され、フォックス方程式で計算したガラス転移温度が-5℃であるタイプIIコポリマーは、自立する(図3を参照)。タイプIの膜は自立していないため、炭素中間層を有する固体コンタクト電極を、それらのpH応答を明らかにするために作製した。タイプIIの膜は、内部充填溶液を用いた従来のセットアップを用いて試験した。タイプIの膜及びタイプIIの膜のpHに対する応答曲線をそれぞれ図2及び図3に示す。両タイプのポリ(MMAco-LMA)膜で作られた電極は、誤差の範囲内で、pH応答の同じ線形範囲(pH4.1~12.4)及び勾配(タイプI:54.8±1.1;タイプII:53.8±1.8;mV/decade)、並びにNaに対する選択性
【0069】
【数3】
【0070】
を得た。
【0071】
pH選択性ポリ(MMA-co-LMA)系ISEの線形範囲、勾配、及び選択性は、また、同じイオノフォア対イオン部位の比を有するPVC系ISEの場合と同じである。可塑化PVC相からポリ(MMA-co-LMA)への膜マトリクスの変化は、pHに対するISE応答に最小限の影響しか与えなかったと安全に結論付けることができる。このことは、25/75wt%~50/50wt%の範囲のMMA/LMA比を有するコポリマーが、o-NPOEで可塑化したPVCと非常に類似した膜極性を有し、ポリ(MMA-co-LMA)が、可塑剤を含まないpH ISEを開発するための適切な膜マトリクスの選択肢であることを示す。
【0072】
以下に、共重合によるポリ(MMA-co-LMA)の形成を示す。
【0073】
【化2】
【0074】
図2に示すように、6MのNaOH溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを上昇させた。次いで、pH7.4で再び開始し、1MのHCl溶液のアリコートを添加することにより、pHを低下させた。線形範囲:pH4.1~12.4(勾配:54.8±1.1mV/decade;n=5)。
【0075】
図3に示すように、EMF測定をpH7.4の溶液(10mMのNaCl、10mMのNaHPO及び10mMのNaHPO溶液)で開始した。6MのNaOH溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを上昇させた。次いで、pH7.4で再び開始し、1MのHCl溶液のアリコートを添加することにより、pHを低下させた。線形範囲:pH4.1~12.4(勾配:53.8±1.8mV/decade;n=3)。
【0076】
UV重合架橋ポリ(デシルメタクリレート)膜
【0077】
より迅速かつより容易な方法で作製することができる可塑剤を含まないポリ(メタクリレート)系膜の開発を考慮して、UV重合を試験した。
【0078】
適切な光開始剤により、UV重合は、熱重合に必要なはるかに長い時間(>18時間)に比べて、数分以内に、ISEでの使用に適した膜を生成することができる。これは、また、膜を有するISEが、高温で不安定なイオノフォア、イオン部位、イオン液体、又は塩を含む場合に有益である。架橋した膜の使用は、また、膜マトリクスを調製するために使用されるモノマーと同様の機能単位(理想的には、反応性を正確に一致させるためのメタクリレート単位)を有するセンサー成分を共有結合する機会を開く。イオノフォア及びイオン部位等のセンサー成分の化学結合は、これらの成分のサンプルへの浸出を防止することができる。これは、長期間の使用のためのセンサーの開発、及び高温又は高圧を伴う特殊な用途において特に重要である。
【0079】
このセクションは、膜マトリクスの物理的性質における異なる濃度の架橋剤の影響を調べるために、異なる重量パーセントの二官能性架橋剤ヘキサンジオールジメタクリレートを用いたUV重合によるデシルメタクリレートモノマーからのセンサー成分を含まないブランク膜の開発について説明する。反応スキームを以下に示し、得られた膜の物理的外観の比較を図4に示す。2wt%の架橋レベルでは、膜は柔らかく、粘着性であり、下部の基板から除去するのが非常に困難である。3wt%の架橋レベルでは、膜は粘着性が少なく、基板からの除去がより容易である。5wt%の架橋レベルでは、膜は粘着性ではなく、下部の基板から除去するのが非常に容易である。ここで試験した基板はガラスであった。テフロンは理想的な基板ではあるが、テフロンは軟らかく、典型的には完全に平坦ではなく、密閉されていない状態及び不完全な重合のいずれかを引き起こす。テフロン基板全体を良好に密閉したボックスに入れた場合、非常に厚い膜を使用しない限り、液体の膜溶液は、皿を構成するテフロンリングの下から浸出することがある。長期間の使用が意図されている架橋ポリ(メタクリレート)については、それらの物理的性質及び水への暴露によって誘発される変化を理解することが重要である。
【0080】
架橋ポリ(デシルメタクリレート)膜を有するISE
【0081】
架橋ポリ(デシルメタクリレート)膜の作製のための反応スキーム
【0082】
【化3】
【0083】
pH選択性の架橋ポリ(デシルメタクリレート)膜及びイオノフォア対イオン部位の比3:1を有する3つの同一の電極を、それらのpH応答について試験した。前記電極の2つは、コンディショニング中に膜にピンホールを徐々に生じ、従って、内部充填溶液の漏れ及び開回路の形成により故障した。残りの電極は、ポリ(MMA-co-LMA)に基づくpH選択性ISE及び同じイオノフォア対イオン部位比でドープされたPVC系ISE膜と、誤差の範囲内で、pH応答において同じ線形範囲(pH4.1~12.4)及び勾配(54.9mV/decade)、並びにNaに対する選択性
【0084】
【数4】
【0085】
を示した。ここで、これらの3つの膜マトリクス(可塑化PVC、ポリ(MMA-co-LMA)及び架橋ポリ(デシルメタクリレート))は、同様のマトリクス極性を有すると結論づける。これは、また、架橋ポリ(デシルメタクリレート)が、可塑剤を含まないpH ISEを開発するための適切な膜マトリクスであり、速いUV重合、及びイオノフォア、イオン部位、イオン液体、又は塩等のセンサー成分をポリマー骨格に共有結合することを可能にするメタクリレート化学の利点を有することを示す。
【0086】
EMF測定をpH7.4の溶液(10mMのNaCl、10mMのNaHPO及び10mMのNaHPO溶液)で開始した。6MのNaOH溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを上昇させた。次いで、pH7.4で再び開始し、1MのHCl溶液のアリコートを添加することにより、pHを低下させた。線形範囲:pH4.1~12.4(勾配:54.9mV/decade;n=1)。
【0087】
架橋メタクリレート膜を有するISEにおける熱曝露の影響
【0088】
熱暴露の影響は、架橋メタクリレート膜のpH応答の測定に続いて、架橋メタクリレート膜について調べた。電極を90℃で30分間水中に入れ、次いで、室温で1時間再コンディショニングし、それらのpH応答を再試験した。熱暴露の前後のpH応答の比較を図6に示し、それらの電位-時間プロファイルの比較を図7に示す。電極は、線形ネルンスト応答、抵抗、及びNaに対する選択性を維持した(熱暴露前:勾配:51.3mV/decade、抵抗:590MΩ、及び
【0089】
【数5】
【0090】
熱暴露後:勾配:52.8mV/decade、抵抗:450MΩ、及び
【0091】
【数6】
【0092】
このことは、90℃での熱暴露は優れたpH特性を損なわないことを示す。しかし、電極は約1桁遅い応答を有していた(図11)。pH変化後の最終応答の95%に達するまでの応答時間(t95)は、熱暴露後では5秒から50秒に増加した。このより遅い応答を理解し、防止するために、架橋レベル並びに共有結合したイオノフォア及びイオン部位を増加させた膜のさらなる調査が現在行われている。
【0093】
EMF測定をpH7.4の溶液(10mMのNaCl、10mMのNaHPO及び10mMのNaHPO溶液)で開始した。6MのNaOH溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを上昇させた。
【0094】
EMF測定をpH7.4(10mMのNaCl、10mMのNaHPO及び10mMのNaHPO溶液)で開始した。6MのNaOH溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを上昇させた。
【0095】
自由イオノフォア及びイオン部位を含む架橋ポリ(デシルメタクリレート)膜を有する固体コンタクトISE
【0096】
架橋ポリ(メタクリレート)膜を有するペンシル形状の固体コンタクト電極のUV重合の最適化
【0097】
UV照射後にメタクリレートカクテルが液体のままであったため、フラーレン固体コンタクト上のメタクリレート膜は重合できなかった。これは、フラーレンがメタクリレート溶液中に溶解し、フラーレンによるUV光の吸収によりUV重合を阻害することによるものだと考えられる。当初の実験では、ナノグラファイト固体コンタクト上のメタクリレート膜は重合したが、重合条件は、また、炭素層の深刻な亀裂及び断裂をもたらした。このプロセスの最適化は、金表面よりわずかに大きいが、金ディスクを取り囲むKel-Fポリマーよりは小さくなるように、炭素ディスクのサイズを減少させることによって行われた。次いで、Kel-F本体の前面全体を覆うようにメタクリレート膜をキャストして、より小さい炭素ディスクを完全に包み込んだ。このセットアップでのUV重合は、信頼性があることが証明され、亀裂の問題も生じなかった。
【0098】
加えて、重合中の連続的なアルゴンパージによる重合のための改良された良好に密閉したボックスも非常に重要であることが証明された。アルゴン雰囲気でない場合、重合効率が低下するか、場合によっては重合が観察されなかった。新規な膜/炭素層構造並びに改良された無酸素及び水環境により、ナノグラファイト炭素固体コンタクトを有するメタクリレート膜のUV重合は信頼できるものである。この手順により作製した電極を、図11に示す。改良されたセットアップ並びに無酸素及び無水の条件により、膜は、炭素固体コンタクトに亀裂を生じることなく、効率的に重合されることができる。
【0099】
ISE pH応答及び可逆性
【0100】
pH選択性の架橋ポリ(メタクリレート)膜を、応答可逆性及び線形(ネルンスト)応答の範囲(pH4~11)について試験した。2種類の架橋ポリ(メタクリレート)膜(1.5wt%及び4wt%の架橋剤濃度)及び2種類の固体コンタクト材料(ナノグラファイト及びグラファイトロッド)を全ての可能な組み合わせで使用し、4つの異なる構成を得た。これら4つの構成の各々について、3つの同一の電極を作製した。各電極について2つの後続の校正の勾配及び切片を比較することにより可逆性を評価した:まず、pH4からpH11までの応答曲線、次いで、pH11からpH4まで戻る応答曲線。表1に、4つの構成の各々の代表として図9に示す電極1、6、9、及び10の校正曲線について、勾配、切片、及び抵抗値の完全なセットを示す。EMF測定をpH4.7の溶液(10mMのNaCl及び10mMのNaHPO溶液)で開始した。6MのNaOH溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを上昇させた。次いで、1MのHCl溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを低下させた。
【0101】
ナノグラファイトを固体コンタクトとして使用した場合、1.5及び4wt%の架橋ポリ(メタクリレート)膜の両方が、良好なネルンスト及び可逆的pH応答を示し、1.5wt%の架橋膜はわずかにより良好な可逆性を有した。グラファイトロッドを固体コンタクトとして使用した場合、1.5及び4wt%の架橋ポリ(メタクリレート)膜の両方が、良好なネルンスト及び可逆的pH応答を示し、4wt%の膜はわずかにより良好な可逆性を有した。
【0102】
表1 架橋ポリ(メタクリレート)膜を有する固体コンタクトISEのpH応答及び可逆性
【0103】
【表1】
【0104】
グラファイトロッド固体コンタクト電極の漏水及び短絡
【0105】
しかし、電極8及び12は、どちらも外部電極本体の内部に封入された固体コンタクトとしてグラファイトロッドを有し、2桁超も低い抵抗を示した。これは、水が電極本体に入り、導電性炭素との短絡を引き起こしていることの明らかな証拠である。これは、外部電極本体の設計に伴う問題である。炭素短絡経路を有する電極本体の設計の図を図10(左)に示す。この問題を回避するための根本的に異なる方法は、図10(右)に図示し、かつ図8に示すように、センシング膜を外部の本体に共有結合することである。本開示のセンサーは、pH分析装置として有用である。センサーは、センサー本体の内部又は上に配置されてもよい。流体は、連続プロセスでのように流れてもよく、又は、撹拌若しくは静止しているバッチ操作での流体であってもよい。
【0106】
管状電極本体等のための好適な材料としては、表面修飾により、ポリ(メタクリレート)系膜の結合を可能にして水短絡を回避することができる機能性メタクリレート単位を生成することができるグリコール修飾ポリエチレンテレフタレート(PTET-G)が挙げられる。これは、多くの用途において、ペンシル形状の電極が望ましく、基板からの膜剥離が頻繁な問題であるため、有望な方向である。
【0107】
架橋ポリ(デシルメタクリレート)膜及び共有結合したイオノフォアを有するISE
【0108】
共有結合したイオノフォアを有するポリ(メタクリレート)ISE膜は、メタクリレート基を有するアミン、すなわち、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート又は2-(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレート(反応スキームについては下記参照)との共重合によって製造した。
【0109】
当該イオノフォアは、ポリマーマトリクスのモノマーと全く同じ機能性メタクリレート単位を有するため、重合中にマトリクスポリマー骨格に共有結合する。このアプローチは、サンプルへのセンサーの露出中におけるイオノフォアの損失を回避し、ポリマーマトリクスに共有結合していないイオノフォアをドープしたISE膜と比較して、センサーの寿命を向上させることが期待される。
【0110】
共有結合したpHイオノフォアを有する架橋ポリ(メタクリレート)膜の作製のための反応スキーム
【0111】
【化4】
【0112】
共有結合したイオノフォアを有する電極の校正は、ネルンスト応答及び可逆応答を示した(図11)。EMF測定をpH4.7の溶液(10mMのNaCl及び10mMのNaHPO溶液)で開始した。pH1.9からpH9.2までの線形範囲は、イオノフォアとして自由トリドデシルアミンをドープした膜を有するISEと比較して、酸性方向に約2pH単位シフトされた。これは、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートがトリドデシルアミンよりも構造的に塩基性が低いアミンであることを考慮して、十分に発達した理論に基づいて予想される。2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート及びトリドデシルアミンのpKa値は、それぞれ、8.2及び9.8と推定される。pKaの差は、対数スケールで1.66であり、2pH単位のこれらの動作範囲シフトに非常に近い。抵抗は300MΩと測定され、これは、自由イオノフォアトリドデシルアミンを有する同じ膜マトリクスの場合と同じ桁数である。このことは、イオン部位が依然として同じであり、ポリマー骨格に共有結合していないことを考慮すると、驚くべきことではない。6つの同一の電極のうち、3つは55.7±1.0mV/decadeの平均勾配を得て、他の3つは50mV/decade未満の勾配を得た。
【0113】
共有結合可能なイオノフォア2-(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレートを用いた追跡実験が行われた。中心窒素上の2つのメチル基を置換する2つのイソプロピル基により、新規イオノフォアはより塩基性(推定pKa:9.3)であり、トリドデシルアミンのpH範囲に近いpH範囲を得る。
【0114】
6MのNaOH溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを上昇させた。次いで、1MのHCl溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを低下させた。平均勾配:55.7±1.0mV/decade(n=3)。
【0115】
架橋ポリ(デシルメタクリレート)膜及び共有結合イオン部位共有結合可能なイオン部位を有するISE
【0116】
ISEにおいて最も使用されている自由イオン部位は、その化学的安定性を向上するために、4-Cl、2、3、4、5、6-ペンタフルオロ、又は3、5-トリフルオロメチル置換等により電子求引基でそれらの芳香環の4つ全てを修飾された疎水性テトラフェニルボレート系塩である。以前に文献で報告されている共有結合のためのイオン部位は、メタクリロイルメチル単位、トリエトキシシリルプロポキシ単位、又はアリルオキシ単位で修飾されたテトラフェニルボレート、及びスルホン化PVCポリマー(イオン部位としてのスルホン酸塩)である。しかし、前者は市販されておらず、その4つのフェニル環のうちの1つが共有結合可能な単位で修飾された後、残りの3つのフェニル環はいずれの電子求引基でも修飾されないままであった。後者は、スルホン化PVCポリマーとして、非PVCポリマー膜材料と共に容易に使用することができない。スチレンスルホン酸ナトリウムは、炭素-炭素二重結合を有しているが、メタクリレートではなく、膜マトリクスとは異なる重合反応性をもたらす。本明細書に記載の開示では、初めて、メタクリレート単位を有するアルキルスルホネートを用いて、重合における反応性をメタクリレートマトリクスモノマーの反応性と正確に一致させた。pH測定の場合、1つの必要条件は、イオン部位が十分に低いpKaを有し、全ての関連する用途において、イオン部位がHから解離し、負に帯電したままであることである。この研究に用いられるスルホン酸塩のpKa値は、これまで報告されていない。しかし、比較のために、水中のベンゼンスルホン酸及びメタンスルホン酸のpKaは、それぞれ-2.85及び-1.95であり、これらはいずれも大多数の用途に対して十分に低い。
【0117】
しかし、メタクリレート単位を有する唯一の市販のアルキルスルホネートである、3-スルホプロピルメタクリレートカリウム塩は、デシルメタクリレートには十分に溶解しない。溶解度を高めるために、スルホン酸塩の存在下で酸性水溶液をイオノフォアのエーテル溶液で平衡化することにより、イオノフォアトリドデシルアミンのプロトン化形態であるトリドデシルアンモニウムイオンとカリウムイオンを交換した。テトラアルキルアンモニウムイオン等の他の(不活性)疎水性カチオンを用いて、イオン部位と組み合わせて、ISEイオン交換膜の重合に用いられるモノマー溶液におけるイオン部位の塩の溶解度を増加させてきた。しかし、このような不活性イオンは、pH(H)に選択的な膜のためにHとのイオン交換により置換される必要があるため、このような不活性イオンを使用することは不利である。カチオンとしてプロトン化トリデシルアミンを使用することで、その後のイオン交換の必要性を排除し、従って、ISE膜のコンディショニングを著しく簡略化することができる。
【0118】
スルホン酸塩の存在下で酸性水溶液をトリドデシルアミンのエーテル溶液で平衡化した後、1H-NMRスペクトルにより、生成物は、75mol%の3-スルホプロピルメタクリレートトリドデシルアンモニウム塩及び25mol%過剰の中性トリドデシルアミンを含むことを確認した。前記生成物は、デシルメタクリレートモノマーに十分に可溶である。ISE膜においてイオノフォアがイオン部位よりも多量に使用され(例えば、本開示で使用される3:1のイオノフォア対イオン部位の比)、重合に必要な溶液にいずれにせよ添加する必要があったため、過剰なトリドデシルアミンは除去しなかった。共有結合したアルキルスルホネートイオン部位を有する膜の作製のための重合スキームを以下に示す。
【0119】
【化5】
【0120】
共有結合イオン部位を有する膜のpH応答
【0121】
共有結合したイオン部位及び(移動型)イオノフォアトリドデシルアミンを有する膜を有するISEの校正曲線は、図12に示すように、移動型イオン部位を有する膜(pH4~12)と同様のpH応答の線形範囲を示す。EMF測定をpH12.0(pH12に調整した10mMのNaCl及び10mMのNaHPO溶液)で開始した。1MのHCl溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを低下させた。平均勾配:56.0mV/decade(n=1)。
【0122】
作製した6つの同一の電極の中で、1つの電極は、23GΩの膜抵抗を有し、理論上のネルンスト応答勾配に非常に近い56.0mV/decadeを与えた。他の3つの電極は、48.3±1.7mV/decadeの平均勾配(平均抵抗:18GΩ)を与え、他の2つの電極は、十分なpH応答を与えなかった。このことは、共有結合したイオン部位を有するISEがネルンスト応答を与えることができるが、(自由イオノフォア又は共有結合したイオノフォアのいずれかを有し)自由イオン部位を有するISE膜よりもほぼ2桁高い抵抗を有することを示す。これらの電極は、4wt%のイオン部位(膜における54mmol/kgの濃度に相当)で作製した。しかし、イオン部位の著しく高い重量パーセントは、メタクリレートマトリクスの疎水性を低下させ、pH応答に影響を与える可能性がある。
【0123】
架橋ポリ(デシルメタクリレート)膜と、共有結合可能なイオノフォア及びイオン部位を有し、イオン部位及びイオノフォアの両方が共有結合した塩とを有するISE
【0124】
3-スルホニルプロピルメタクリレートを2-(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレートと組み合わせることで、カチオンとしてイオノフォアプロトン化(2-(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレート)及びアニオンとしてイオン部位(3-スルホニルプロピルメタクリレート)を有するアンモニウム-スルホネート塩を得る。このようにして、イオノフォア及びイオン部位の両方は、どちらも全く同じメタクリレート機能単位を有し、かつ当該アンモニウム-スルホネート塩がメタクリレートマトリクスに十分に可溶であるため、膜に共有結合することができる。3-スルホニルプロピルメタクリレートN-イソプロピル-N-(2-(メタクリロイルオキシ)-エチル)プロパン-2-アンモニウム塩を水/エーテル抽出により合成しようとする当初の試みは、カチオン及びアニオンの両方の高い親水性のために、1%未満の収率を与えた。その後の水/酢酸エチル抽出の使用でも、おそらく酢酸エチル溶媒の蒸発に必要な昇温に起因する副反応により、所望の化合物を与えなかった。所望の塩を調製するには、まず、強酸性陽イオン交換カラムに3-スルホニルプロピルメタクリレートカリウム塩を通過させて、プロトン化された3-スルホニルプロピルメタクリレート(すなわち、スルホン酸)を水溶液として得た。次いで、これを2-(ジイソプロピルアミノ)エチルメタクリレートに添加して、アンモニウム塩の溶液を形成し、そこから水溶媒を凍結乾燥により除去して、最終生成物である粘性のある無色の液体を得た。ポリマー膜マトリクスに共有結合したイオノフォア及びイオン部位の両方を有する膜の重合スキームを以下に示す。
【0125】
ポリマー骨格に共有結合したイオノフォア及びイオン部位の両方を有する架橋ポリメタクリレート膜の作製のための反応スキーム
【0126】
【化6】
【0127】
イオノフォア及びイオン部位の両方が共有結合した膜のpH応答
【0128】
イオノフォア及びイオン部位の両方が共有結合した固体コンタクトISEセットアップにおける架橋ポリ(デシルメタクリレート)コポリマー膜のpH応答は、図13を参照する。EMF測定をpH12.0(pH12に調整した10mMのNaCl及び10mMのNaHPO溶液)で開始した。1MのHCl溶液の少量のアリコートを添加することにより、pHを低下させた。平均勾配:10.5±12.3mV/decade(n=6)。
【0129】
イオノフォア及びイオン部位の両方が共有結合した膜を有するISEの校正曲線は、十分なネルンスト応答を与えなかった。作製した6つの同一の電極の中で、1つの電極は、pH4.6からpH8.2までの範囲において-27.6mV/decadeの勾配を与えた。他の5つの電極は、当該イオノフォアに予想される範囲におけるpHにほとんど又は全く応答がなかった。3つの電極は、68±115GΩの平均膜抵抗を与え、他の3つの電極は、シャント法(shunt method)で測定するには高すぎる膜抵抗を有する。
高い抵抗は、低い膜イオン移動度の明らかな証拠である。共有結合が起こったかどうかをまず検証するために、元素分析及びXPSを行って、これらの膜の硫黄及び窒素の含有量を特定した。イオノフォア及びイオン部位が重合中に共有結合しなかった場合、イオノフォア及びイオン部位は、高い親水性のために、センシング膜から水溶液中に完全に浸出したと予想される。元素分析では浸出の証拠は見つからなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【手続補正書】
【提出日】2022-06-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットのカチオン又はアニオンに対して選択的である、共有結合した、電気的に中性又は帯電したイオノフォア、を有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含むイオン選択性膜を有する電気化学センサー。
【請求項2】
素固体コンタクトを含む、請求項1に記載のセンサー。
【請求項3】
前記共有結合したイオノフォアが、Hに対して選択的であり、第一級、第二級若しくは第三級アミン、又は複素環芳香族炭化水素を官能基として含む、請求項1に記載のセンサー。
【請求項4】
前記複素環芳香族炭化水素が、ピリジン、キノリン又はフェナントレンを含む、請求項3に記載のセンサー。
【請求項5】
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、請求項1に記載のセンサー。
【請求項6】
共有結合したカチオン性又はアニオン性のイオン部位を有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含む、イオン選択性膜を有する電気化学センサー。
【請求項7】
素固体コンタクトを含む、請求項に記載のセンサー。
【請求項8】
前記共有結合したイオン部位が、テトラフェニルボレート基;スルホン酸基;スルホニルイミド基;又は、スルホニルイミドの1つ若しくは2つのアルキル置換基に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、若しくは18のフッ素原子が結合したスルホニルイミド基を官能基として含む、請求項に記載のセンサー。
【請求項9】
前記イオン部位官能基を含むイオンと、イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合物を含む、請求項に記載のセンサー。
【請求項10】
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、請求項に記載のセンサー。
【請求項11】
前記イオン部位官能基を含むイオンと、イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合物を含む、請求項10に記載のセンサー。
【請求項12】
共有結合したカチオン性又はアニオン性のイオン部位、及び共有結合した電気的に中性又は帯電したイオノフォアを有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含む、イオン選択性膜を有する電気化学センサー。
【請求項13】
素固体コンタクトを含む、請求項12に記載のセンサー。
【請求項14】
前記共有結合したイオノフォアが、Hに対して選択的であり、第一級、第二級若しくは第三級アミン、又は複素環芳香族炭化水素を官能基として含む、請求項12に記載のセンサー。
【請求項15】
前記複素環芳香族炭化水素が、ピリジン、キノリン又はフェナントレンを含む、請求項14に記載のセンサー。
【請求項16】
前記共有結合したイオン部位が、テトラフェニルボレート基;スルホン酸基;スルホニルイミド基;又は、スルホニルイミドの1つ若しくは2つのアルキル置換基に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、若しくは18のフッ素原子が結合したスルホニルイミド基を官能基として含む、請求項12に記載のセンサー。
【請求項17】
前記イオン部位官能基を含むイオンと、前記イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合物を含む、請求項16に記載のセンサー。
【請求項18】
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、請求項12に記載のセンサー。
【請求項19】
前記イオン部位官能基を含むイオンと、前記イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合物を含む、請求項18に記載のセンサー。
【請求項20】
センサー本体;及び
前記センサー本体の上又は内部に配置されたイオン選択性膜を有し、
前記イオン選択性膜が、ターゲットのカチオン又はアニオンに対して選択的である、共有結合した、電気的に中性又は帯電したイオノフォア、を有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含む、電気化学センサー。
【請求項21】
素固体コンタクトを含む、請求項20に記載のセンサー。
【請求項22】
前記共有結合したイオノフォアが、Hに対して選択的であり、第一級、第二級若しくは第三級アミン、又は複素環芳香族炭化水素を官能基として含む、請求項20に記載のセンサー。
【請求項23】
前記複素環芳香族炭化水素が、ピリジン、キノリン又はフェナントレンを含む、請求項22に記載のセンサー。
【請求項24】
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、請求項20に記載のセンサー。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0129
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0129】
イオノフォア及びイオン部位の両方が共有結合した膜を有するISEの校正曲線は、十分なネルンスト応答を与えなかった。作製した6つの同一の電極の中で、1つの電極は、pH4.6からpH8.2までの範囲において-27.6mV/decadeの勾配を与えた。他の5つの電極は、当該イオノフォアに予想される範囲におけるpHにほとんど又は全く応答がなかった。3つの電極は、68±115GΩの平均膜抵抗を与え、他の3つの電極は、シャント法(shunt method)で測定するには高すぎる膜抵抗を有する。
高い抵抗は、低い膜イオン移動度の明らかな証拠である。共有結合が起こったかどうかをまず検証するために、元素分析及びXPSを行って、これらの膜の硫黄及び窒素の含有量を特定した。イオノフォア及びイオン部位が重合中に共有結合しなかった場合、イオノフォア及びイオン部位は、高い親水性のために、センシング膜から水溶液中に完全に浸出したと予想される。元素分析では浸出の証拠は見つからなかった。
本開示に係る態様は以下の態様も含む。
<1>
ターゲットのカチオン又はアニオンに対して選択的である、共有結合した、電気的に中性又は帯電したイオノフォア、を有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含むイオン選択性膜を有する電気化学センサー。
<2>
高表面積炭素固体コンタクトを含む、<1>に記載のセンサー。
<3>
前記共有結合したイオノフォアが、H に対して選択的であり、第一級、第二級若しくは第三級アミン、又はピリジン、キノリン若しくはフェナントレン等の複素環芳香族炭化水素を官能基として含む、<1>に記載のセンサー。
<4>
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、<1>に記載のセンサー。
<5>
共有結合したカチオン性又はアニオン性のイオン部位を有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含む、イオン選択性膜を有する電気化学センサー。
<6>
高表面積炭素固体コンタクトを含む、<5>に記載のセンサー。
<7>
前記共有結合したイオン部位が、テトラフェニルボレート基;スルホン酸基;スルホニルイミド基;又は、スルホニルイミドの1つ若しくは2つのアルキル置換基に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、若しくは18のフッ素原子が結合したスルホニルイミド基を官能基として含む、<6>に記載のセンサー。
<8>
前記イオン部位官能基を含むイオンと、前記イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合によって作製される、<7>に記載のセンサー。
<9>
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、<5>に記載のセンサー。
<10>
前記イオン部位官能基を含むイオンと、前記イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合によって作製される、<9>に記載のセンサー。
<11>
共有結合したカチオン性又はアニオン性のイオン部位、及び共有結合した電気的に中性又は帯電したイオノフォアを有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマー、イオン選択性膜を有する電気化学センサー。
<12>
高表面積炭素固体コンタクトを含む、<11>に記載のセンサー。
<13>
前記共有結合したイオノフォアが、H に対して選択的であり、第一級、第二級若しくは第三級アミン、又はピリジン、キノリン若しくはフェナントレン等の複素環芳香族炭化水素を官能基として含む、<11>に記載のセンサー。
<14>
前記共有結合したイオン部位が、テトラフェニルボレート基;スルホン酸基;スルホニルイミド基;又は、スルホニルイミドの1つ若しくは2つのアルキル置換基に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、若しくは18のフッ素原子が結合したスルホニルイミド基を官能基として含む、<11>に記載のセンサー。
<15>
前記イオン部位官能基を含むイオンと、前記イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合によって作製される、<14>に記載のセンサー。
<16>
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、<11>に記載のセンサー。
<17>
前記イオン部位官能基を含むイオンと、前記イオノフォアとセンサーのターゲットイオンであってもなくてもよい交換性イオンとの錯体である対イオンと、からなる塩を含む膜成分の重合によって作製される、<16>に記載のセンサー。
<18>
センサー本体;及び
前記センサー本体の上又は内部に配置されたイオン選択性膜を有し、
前記イオン選択性膜が、ターゲットのカチオン又はアニオンに対して選択的である、共有結合した、電気的に中性又は帯電したイオノフォア、を有する架橋されたアルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーを含む、電気化学センサー。
<19>
高表面積炭素固体コンタクトを含む、<18>に記載のセンサー。
<20>
前記共有結合したイオノフォアが、H に対して選択的であり、第一級、第二級若しくは第三級アミン、又はピリジン、キノリン若しくはフェナントレン等の複素環芳香族炭化水素を官能基として含む、<18>に記載のセンサー。
<21>
前記アルキルメタクリレートホモポリマー又は2つ以上のアルキルメタクリレートのコポリマーが、前記ポリマーをフッ素化する、複数のフッ素原子で置換されたアルキル基を含む、<18>に記載のセンサー。
【国際調査報告】