(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-03
(54)【発明の名称】細胞からミトコンドリアを得る方法および得られたミトコンドリア
(51)【国際特許分類】
C12N 1/00 20060101AFI20220926BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20220926BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220926BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220926BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220926BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220926BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20220926BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20220926BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20220926BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220926BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20220926BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220926BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220926BHJP
A61P 9/02 20060101ALI20220926BHJP
A61P 9/06 20060101ALI20220926BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220926BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220926BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220926BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220926BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20220926BHJP
【FI】
C12N1/00
A61K35/12
A61P43/00 107
A61P3/10
A61P27/02
A61P25/00
A61P25/02
A61P25/22
A61P25/24
A61P25/28
A61P25/08
A61P9/00
A61P11/00
A61P9/02
A61P9/06
A61P25/16
A61P25/14
A61P35/00
A61P37/06
A61P15/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022532237
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(85)【翻訳文提出日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2020029597
(87)【国際公開番号】W WO2021015298
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】P 2019136283
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】519165504
【氏名又は名称】ルカ・サイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】太田 善浩
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 有馬
(72)【発明者】
【氏名】高橋 桃香
(72)【発明者】
【氏名】菅沼 正司
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 芳恵
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA00
4B065AC20
4B065BA30
4B065BD12
4B065BD14
4B065BD50
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB63
4C087MA55
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA06
4C087ZA11
4C087ZA12
4C087ZA15
4C087ZA18
4C087ZA20
4C087ZA33
4C087ZA36
4C087ZA37
4C087ZA38
4C087ZA59
4C087ZA75
4C087ZA81
4C087ZA89
4C087ZB07
4C087ZB11
4C087ZB22
4C087ZB26
4C087ZC35
4C087ZC52
(57)【要約】
本開示はミトコンドリアを細胞から得る方法、そのような方法によって得られたミトコンドリア、およびそのような方法によって得られたミトコンドリアの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたミトコンドリアの集団であって、
(i)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも80%は無傷の内膜および外膜を有し、
(ii)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも80%は蛍光指示薬によって測定すると分極化しており、
および/または
(iii)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも80%は細胞外環境で機能的能力を維持する、
単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項2】
(iii)の細胞外環境での前記機能的能力が膜電位の蛍光指示薬によって測定される、請求項1に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項3】
(iii)の細胞外環境が約8~約12mg/dLの全カルシウム濃度を含む、請求項1に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項4】
(iii)の細胞外環境が約4~約6mg/dLの遊離/活性カルシウム濃度を含む、請求項1に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項5】
前記集団中のミトコンドリアの少なくとも80%がダイナミン関連タンパク質1(drp1)依存性分裂を起こしていない、請求項1に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項6】
前記ミトコンドリアの内膜が、高密度に折りたたまれたクリステを含む、請求項1に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項7】
前記集団中のミトコンドリアの少なくとも80%が非糸状の形状を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項8】
前記ミトコンドリアの少なくとも85%が非糸状の形状を有する、請求項7に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項9】
前記ミトコンドリアの少なくとも90%が非糸状の形状を有する、請求項8に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項10】
前記ミトコンドリアが、グルコース調節タンパク質75(GRP75)の発現によって測定すると、ミトコンドリア会合膜(MAM)との会合の減少を示す、請求項1~9のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項11】
会合の減少が、細胞中のミトコンドリアの、または細胞のホモジナイゼーションを含む方法によって得られた単離されたミトコンドリアの、MAMとの会合と比較して少なくとも約30%の減少である、請求項10に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項12】
会合の減少が少なくとも約50%の減少である、請求項11に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項13】
(i)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも85%は無傷の内膜および外膜を有し、
(ii)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも85%は蛍光指示薬によって測定すると分極化しており、
および/または
(iii)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも85%は細胞外環境で機能的能力を維持する、
請求項1~12のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項14】
(i)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも90%は無傷の内膜および外膜を有し、
(ii)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも90%は蛍光指示薬によって測定すると分極化しており、
および/または
(iii)前記集団中のミトコンドリアの少なくとも90%は細胞外環境で機能的能力を維持する、
請求項1~12のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項15】
前記蛍光指示薬がJC-1、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)およびテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)からなる群から選択される、請求項1~14のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項16】
前記集団中のミトコンドリアの少なくとも80%はサイズが約500nm~約3500nmである、請求項1~15のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項17】
前記集団の多分散指数(PDI)が約0.2~約0.8である、請求項1~16のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項18】
前記集団の多分散指数(PDI)が約0.2~約0.3である、請求項1~16のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項19】
前記ミトコンドリアの集団のゼータ電位が約-15mV~約-40mVである、請求項1~18のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項20】
単離されたミトコンドリアの前記集団が細胞の集団と接触すると、前記単離されたミトコンドリアが前記細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在が可能である、請求項1~19のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項21】
単離されたミトコンドリアの前記集団が細胞の集団と接触すると、前記ミトコンドリアが前記細胞中の内在性ミトコンドリアと融合することが可能である、請求項1~19のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項22】
前記ミトコンドリアが、4℃で少なくとも12時間の保存の後に前記内在性ミトコンドリアとの共局在が可能である、請求項20に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項23】
前記ミトコンドリアが、4℃で少なくとも12時間の保存の後に前記内在性ミトコンドリアと融合することが可能である、請求項21に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項24】
前記集団中の単離されたミトコンドリアの少なくとも70%は、前記集団が1つまたは複数の凍結融解サイクルを受けた後に蛍光指示薬によって測定すると分極化している、請求項1~23のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項25】
前記集団が1つまたは複数の凍結融解サイクルを受けた後に、前記ミトコンドリアが内在性ミトコンドリアとの共局在が可能である、請求項1~24のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項26】
前記集団が-80℃以下で少なくとも2週間冷凍され、その後20℃以下で約5分以内に解凍される、請求項24または25に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項27】
前記集団が約1分以内に解凍される、請求項26に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項28】
前記集団が少なくとも2週間液体窒素中で冷凍される、請求項26または27に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項29】
前記集団が少なくとも2カ月間液体窒素中で冷凍される、請求項28に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項30】
解凍されたミトコンドリアの前記集団が細胞の集団と接触すると、前記集団中の単離されたミトコンドリアが前記細胞中の内在性ミトコンドリアとの融合が可能である、請求項24~29のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項31】
請求項1~30のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団を含む組成物。
【請求項32】
請求項31に記載の組成物および薬学的に許容される担体を含む製剤。
【請求項33】
ミトコンドリアを細胞から単離する方法であって、
(i)第1の溶液中の細胞を界面活性剤に関する臨界ミセル濃度未満の濃度の界面活性剤で処理すること、
(ii)前記界面活性剤を除去して第2の溶液を形成すること、
(iii)前記第2の溶液中の前記細胞をインキュベートすること、および
(iv)前記第2の溶液からミトコンドリアを回収すること
を含む方法。
【請求項34】
前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度が前記界面活性剤の臨界ミセル濃度の約50%以下である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度が前記界面活性剤の臨界ミセル濃度の約10%以下である、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、請求項33~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記界面活性剤がTriton-X 100、Triton-X 114、Nonidet P-40、n-ドデシル-D-マルトシド、Tween-20、Tween-80、サポニンおよびジギトニンからなる群から選択される、請求項33~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記界面活性剤がサポニンまたはジギトニンであり、前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度が約400μM未満である、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記界面活性剤がサポニンまたはジギトニンであり、前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度が約50μM未満である、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
前記界面活性剤がサポニンまたはジギトニンであり、前記第1の溶液中のサポニンまたはジギトニンの濃度は約30μM~約40μMである、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記第1の溶液が、張性剤、浸透圧調節剤またはキレート剤の1つまたは複数を含むバッファーをさらに含む、請求項33~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記第1の溶液がTrisバッファー、スクロースおよびキレーターを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記第1の溶液中の前記細胞を処理することが、前記第1の溶液中の前記細胞を室温で約2分~約30分間インキュベートすることを含む、請求項33~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記界面活性剤を除去することが、前記溶液中の前記界面活性剤を前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度の10%未満へ減少させることを含む、請求項33~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記界面活性剤を除去することが、前記溶液中の前記界面活性剤を前記第1の溶液中の前記界面活性剤の濃度の1%未満へ減少させることを含む、請求項33~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記界面活性剤を除去することが前記細胞をバッファーで洗浄することを含む、請求項33~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記第2の溶液をインキュベートすることが、前記第2の溶液中の前記細胞を約4℃で約5分~約30分間インキュベートすることを含む、請求項33~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記第2の溶液から前記ミトコンドリアを回収することが、上清を回収して単離されたミトコンドリアを回収することを含む、請求項33~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記第2の溶液から前記ミトコンドリアを回収することが、前記第2の溶液を遠心分離し、遠心分離後に上清を回収して単離されたミトコンドリアを回収することを含む、請求項33~48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
単離された前記ミトコンドリアを冷凍することをさらに含む、請求項33~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
単離された前記ミトコンドリアを、凍結保護物質を含むバッファーの中で冷凍することを含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
請求項33~51のいずれか一項に記載の方法によって得られた、単離されたミトコンドリアの集団。
【請求項53】
疾患または障害を処置する方法であって、それを必要とする対象の細胞を、請求項1~30のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団または請求項31に記載の組成物または請求項32に記載の製剤と接触させることを含み、前記疾患または障害は、糖尿病(I型およびII型)、代謝性疾患、ミトコンドリア機能障害と関連する目の障害、難聴、治療薬と関連するミトコンドリアの毒性、化学療法または他の治療薬と関連する心毒性、ミトコンドリア機能不全障害および片頭痛からなる群から選択される方法。
【請求項54】
ミトコンドリア機能障害と関連する疾患または障害を処置する方法であって、それを必要とする対象の細胞を、請求項1~30のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアの集団または請求項31に記載の組成物または請求項32に記載の製剤と接触させることを含む方法。
【請求項55】
前記疾患または障害が、ミトコンドリアミオパシー、糖尿病および聴覚障害(DAD)症候群、バース症候群、レーベル遺伝性視神経症(LHON)、リー症候群、NARP(神経障害、運動失調、色素性網膜炎および下垂症候群)、筋神経性胃腸脳症(MNGIE)、MELAS(ミトコンドリア脳症、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様発症)症候群、赤色ぼろ線維・ミオクローヌス性てんかん(MERRF)症候群、カーンズ-セイヤー症候群およびミトコンドリアDNA消耗症候群からなる群から選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記疾患または障害が虚血関連の疾患または障害である、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記虚血関連の疾患または障害が、脳虚血再かん流、低酸素性虚血性脳症、急性冠動脈症候群、心筋梗塞、肝臓虚血-再かん流損傷、虚血性損傷-コンパートメント症候群、血管遮断、創傷治癒、脊髄損傷、鎌形赤血球疾患および移植臓器の再かん流損傷からなる群から選択される、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
前記疾患または障害が遺伝子障害である、請求項54に記載の方法。
【請求項59】
前記疾患または障害が加齢性疾患または障害である、請求項54に記載の方法。
【請求項60】
前記疾患または障害が神経変性状態または心血管状態である、請求項54に記載の方法。
【請求項61】
前記神経変性状態が、認知症、フリードライヒ運動失調、筋萎縮性側索硬化症、ミトコンドリアミオパシー、脳症、乳酸アシドーシス、脳卒中(MELAS)、赤色ぼろ線維・ミオクローヌス性てんかん(MERFF)、てんかん、パーキンソン病、アルツハイマー病またはハンチントン病からなる群から選択される、請求項60に記載の方法。
例示的な神経精神医学的障害としては、双極性障害、統合失調症、うつ病、習慣性障害、不安障害、注意欠陥障害、人格障害、自閉症およびアスペルガー病が挙げられる。
【請求項62】
前記心血管状態が、冠状動脈性心疾患、心筋梗塞、アテローム硬化症、高血圧、心停止、脳血管疾患、末梢動脈疾患、リウマチ性心疾患、先天性心臓病、鬱血性心不全、不整脈、脳卒中、深部静脈血栓症および肺塞栓症からなる群から選択される、請求項60に記載の方法。
【請求項63】
前記疾患または障害が、がん、自己免疫性疾患、炎症性疾患または線維症障害である、請求項54に記載の方法。
【請求項64】
前記疾患が急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である、請求項54に記載の方法。
【請求項65】
前記疾患または障害が、子癇前症または子宮内胎児発育遅延(IUGR)である、請求項54に記載の方法。
【請求項66】
単離されたミトコンドリアの前記集団または前記組成物を、静脈内、動脈内、気管内、皮下、筋肉内、吸入または肺内投与経路を通して前記対象に投与することを含む、請求項54~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
無傷の内膜および外膜を有する単離されたミトコンドリアであって、前記内膜は折りたたまれたクリステを含み、前記ミトコンドリアは細胞から単離され、前記ミトコンドリアは蛍光指示薬によって測定すると分極化しており、前記ミトコンドリアは細胞外環境で分極を維持することが可能である、単離されたミトコンドリア。
【請求項68】
非糸状の形状を有する、請求項67に記載の単離されたミトコンドリア。
【請求項69】
前記ミトコンドリアの表面の電位依存性アニオンチャネル(VDAC)はその表面でチューブリンと会合している、請求項67または68に記載の単離されたミトコンドリア。
【請求項70】
前記チューブリンが二量体チューブリンである、請求項67に記載の単離されたミトコンドリア。
【請求項71】
前記チューブリンが、α-チューブリンおよびβ-チューブリンを含むヘテロダイマーである、請求項70に記載の単離されたミトコンドリア。
【請求項72】
前記蛍光指示薬がJC-1、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)およびテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)からなる群から選択される、請求項67~71のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリア。
【請求項73】
グルコース調節タンパク質75(GRP75)の発現によって測定すると、ミトコンドリア会合膜(MAM;mitochondria-associated membrane)との会合の減少を示す、請求項67~72のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリア。
【請求項74】
会合の減少が、細胞中のミトコンドリアの、または細胞のホモジナイゼーションを含む方法によって得られた単離されたミトコンドリアの、MAMとの会合と比較して少なくとも約30%の減少である、請求項73に記載の単離されたミトコンドリア。
【請求項75】
会合の減少が少なくとも約50%の減少である、請求項74に記載の単離されたミトコンドリア。
【請求項76】
膜電位が約-30mV~約-220mVである、請求項67~75のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリア。
【請求項77】
drp1依存性分裂を起こしていない、請求項67~76のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリア。
【請求項78】
サイズが約500nm~3500nmである、請求項67~77のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリア。
【請求項79】
請求項67~78のいずれか一項に記載の単離されたミトコンドリアを含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は2019年7月24日に出願の日本国出願番号第2019-136283号への優先権を主張し、その全内容はここに参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、下の3つの重要な役割を演ずるタイプのオルガネラである:1)ATP合成等の代謝、2)Ca2+および反応性酸素種等の細胞内シグナル伝達、ならびに3)アポトーシスおよび壊死等の細胞死の制御。この意味で、ミトコンドリアは疾患に強くかかわり、健康の観点から多くの研究者によって研究されてきた。
【0003】
ミトコンドリアの機能のために、折りたたまれた内膜および周囲の外膜、および内膜に位置する電子伝達系が重要な役割を演ずる。内膜はクリステと呼ばれる高度に折りたたまれた構造を形成し、それは、クリステ膜の中に電子伝達系のスーパーコンプレックスを保持し、クリステ空間の中にポンプ輸送されたプロトンを閉じ込めることによってプロトン濃度を高くしておくと考えられている。電子伝達系によって形成される電気化学的プロトン勾配は、アニオンの輸送に加えてATP合成およびカチオン輸送を可能にする。
【0004】
低下したミトコンドリア機能は、様々な疾患を引き起こし得る。ミトコンドリア機能および構造的完全性を保持する方法で細胞からミトコンドリアを単離するために、当技術分野で公知の方法は現在ない。この開示は、このおよび他の必要性に対処する。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、単離されたか得られたか処理されたミトコンドリアの集団を提供し、ここで集団中のミトコンドリアは優れた機能的能力を示す。例えば、一態様では、本開示は単離されたミトコンドリアの集団であって、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は無傷の内膜および外膜を有し;および/または集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、蛍光指示薬によって測定すると分極化している、単離されたミトコンドリアの集団を提供する。ある実施態様では、蛍光指示薬は正荷電色素、例えばJC-1、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)およびテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)からなる群から選択される。
【0006】
ある実施態様では、本開示は、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、細胞外環境で機能的能力を維持する(例えば、分極化している)、単離されたミトコンドリアの集団を提供する。ある実施態様では、細胞外環境での機能的能力は、膜電位の蛍光指示薬によって測定される。ある実施態様では、蛍光指示薬は正荷電色素、例えばJC-1、TMRMおよびTMREからなる群から選択される。ある実施態様では、細胞外環境は約4mg/dL~約12mg/dLまたは約1mmol/L(1000μM)~約3mmol/L(3000μM)の全カルシウム濃度を含むことができる。例えば、ある実施態様では、細胞外環境は約8mg/dL~約12mg/dLまたは約2mmol/L(2000μM)~約3mmol/L(3000μM)の全カルシウム濃度を含む。ある実施態様では、細胞外環境は約4mg/dL~約6mg/dLまたは約1mmol/L(1000μM)~約1.5mmol/L(1500μM)の遊離または活性カルシウムの濃度を含む。ある実施態様では、ミトコンドリアの集団は、細胞中のカルシウム環境と比較してより高いカルシウム濃度を有する環境の中で機能的能力を維持する。
【0007】
ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、ダイナミン関連タンパク質1(drp1)依存性分裂を起こしていない、単離されたミトコンドリアの集団がある実施態様において提供される。ある実施態様では、内膜および外膜を有する単離されたミトコンドリアの集団であって、ミトコンドリアの内膜は高密度に折りたたまれたクリステを含む、単離されたミトコンドリアの集団がある実施態様において提供される。
【0008】
ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、実質的に非糸状の、非分枝状の構造または形状を有する、単離されたミトコンドリアの集団がある実施態様において提供される。例えば、ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアは、顕微鏡下で見たとき円形、点状、球状、不規則形および/またはわずかに伸長した形、またはその任意の混合の外観である。ある実施態様では、集団におけるミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%が、4:1以下、3.5:1以下または3:1以下の長径対短径比を有する。ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアの集団中の単離されたミトコンドリアのうち、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、ミトコンドリアの流体力学的直径の2倍または3倍より短い長さを有する。このように、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、細胞の中にあるほとんどのミトコンドリアの形状(糸状)と比較した場合、著しく異なる形状(非糸状)を有する。したがって、ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアの集団は、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は形状が非糸状であるという点で、細胞中に存在して単離されていないミトコンドリアと異なる形状を有する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、ミトコンドリア会合膜(MAM;mitochondria-associated membrane)との会合の減少を示す。ある実施態様では、MAMとの会合は、グルコース調節タンパク質75(GRP75)の発現によって測定される。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、細胞中のミトコンドリアと、ならびに/またはある実施態様においてさらに記載される通り従来の単離方法、例えば、ホモジナイゼーションおよび/もしくは高レベルの界面活性剤法を含む方法によって得られたミトコンドリアと比較した場合、約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、約60%、約50%、約40%、約30%またはそれ以下のMAMとの会合を示す。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、MAMとの会合の減少を示し、減少は、細胞中のミトコンドリア、または従来の単離方法によって単離されたミトコンドリアの、MAMとの会合と比較して、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%またはそれ以上である。
【0009】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、サイズが約500nm~約3500nmである。ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%は、サイズが約500nm~約3500nmである。ある実施態様では、集団中のミトコンドリアの平均サイズは、約500nm、約600nm、約700nm、約800nm、約900nm、約1000nm、約1100nm、約1200nm、約1300nm、約1400nm、約1500nm、約1600nm、約1700nm、約1800nm、約1900nm、約2000nm、約2100nm、約2200nm、約2300nm、約2400nm、約2500nm、約2600nm、約2700nm、約2800nm、約2900nm、約3000nm、約3100nm、約3200nm、約3300nm、約3400nmまたは約3500nmである。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団の多分散指数(PDI)は約0.2~約0.8である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団のPDIは約0.2~約0.5である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団のPDIは約0.25~約0.35である。ある実施態様では、ミトコンドリアの集団のゼータ電位は約-15mV~約-40mVである。ある実施態様では、ミトコンドリアの集団のゼータ電位は約-20mV、約-25mV、約-30mV、約-35mVまたは約-40mVである。
【0010】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、単離されたミトコンドリアの集団が細胞の集団と接触すると、細胞への組込み、および/または細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在が可能である。例えば、ある実施態様では、本開示は、細胞からミトコンドリアを得、その後細胞(例えば、ex vivoまたはin vivoの細胞)の集団を単離したミトコンドリアの集団と接触させる方法を提供する。そのようなある実施態様では、ここで記載されるiMIT法を通して単離される、ここで提供されるミトコンドリアは、細胞に存在する内在性ミトコンドリアと共局在することが可能である。ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアは、それらが接触した細胞に存在するミトコンドリアと融合することがさらに可能である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの集団のかなりの割合は、細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/または融合が可能である。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/または融合が可能である。したがって、ここで提供されるミトコンドリアは、それらが細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/または融合が可能であるという点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。
【0011】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約4℃での保存の後に安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、約4℃での保存の後に、安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約-20℃以下で保存の後に、安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、約-20℃での保存の後に安定であり、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約-80℃以下で保存の後に、安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、約-80℃で保存の後に安定であり、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、液体窒素中で保存の後に安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、液体窒素中で保存の後に安定であり、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、保存は少なくとも約2時間、少なくとも約6時間、少なくとも約12時間、少なくとも約24時間、少なくとも約48時間、少なくとも約1週間、少なくとも約2週間、少なくとも約3週間、少なくとも約1カ月、少なくとも約2カ月、少なくとも約3カ月、またはそれより長い。したがって、ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、少なくとも新たに単離されるとき、および保存の後でさえもそれらが機能的能力を維持するという点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。
【0012】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、ミトコンドリアの集団を保存のために冷凍した後に、およびその後解凍した後に、安定し、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。ある実施態様では、冷凍しその後解凍した後に、膜電位の維持率は、冷凍前のミトコンドリアの膜電位に対して約90%である。例えば、ある実施態様では、冷凍、解凍したミトコンドリアの集団の分極比は、冷凍前のその集団の分極比の約90%である。ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、保存のために冷凍しその後解凍した後に、例えば、保存のために冷凍しその後1回、2回、3回またはそれより多く解凍した後に、安定であり、および/または分極化しており、および/または膜電位を維持し、および/または無傷の内膜および外膜を維持し、および/または細胞外環境への曝露の後に(例えば、約4mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度への曝露の後に)機能する能力を維持する。したがって、ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、少なくとも保存のために冷凍しその後解凍した場合でさえもそれらが機能的能力を維持するという点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。
【0013】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、ここで提供されるいずれかの温度での(例えば、4℃±3℃、-20℃±3℃、-80℃±3℃、または液体窒素中での)ミトコンドリアの保存の後に、細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/もしくは融合が可能である。例えば、ある実施態様では、集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%は、ミトコンドリアが保存された後、および/または1つまたは複数の凍結融解サイクルを受けた後に、細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/もしくは融合が可能である。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団を保存して解凍する方法は、集団を約-20℃±3℃、約-80℃±3℃、またはそれより低い温度で(例えば、液体窒素中で)保存し、その後ミトコンドリアを約20℃±3℃またはそれより低い温度で解凍することを含み、ミトコンドリアは約5分以内、約4分以内、約3分以内、約2分以内または約1分以内に解凍される。特定のある実施態様では、ミトコンドリアの集団は約1分以内に解凍される。したがって、ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアは、少なくともそれらを細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/もしくは融合が可能であり、一方、従来の方法によって単離されるミトコンドリアは細胞に組み込むこと、ならびに/または細胞中の内在性ミトコンドリアと共局在および/もしくは融合することが不可能であるかまたはその能力が大きく低減している点で、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと著しく異なる。ある実施態様では、共局在する単離されたミトコンドリアは、糸状の構造、ネットワーク構造および/または網状構造を形成することができる。
【0014】
ある実施態様では、本開示は、ここで提供される単離されたミトコンドリアを含む組成物を提供する。組成物は、ある実施態様では、1つまたは複数の薬学的に許容される担体をさらに含む。
【0015】
ある実施態様では、本開示は、ミトコンドリアを細胞から単離する方法であって、従来公知である方法と異なり、ここで提供される優れた機能および他の特徴を有するミトコンドリアをもたらす方法を提供する。ある実施態様では、ミトコンドリアを細胞から単離する方法は、第1の溶液中の細胞を界面活性剤の臨界ミセル濃度(CMC)未満の濃度の界面活性剤で処理すること、界面活性剤を除去して第2の溶液を形成すること、第2の溶液中の細胞をインキュベートすること、および第2の溶液からミトコンドリアを回収することを含む。ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、界面活性剤のCMCの約50%以下である。例えば、ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、界面活性剤のCMCの約40%以下、約30%以下、約20%以下、または約10%以下である。
【0016】
ある実施態様では、界面活性剤は非イオン性界面活性剤である。ある実施態様では、界面活性剤はTriton-X 100、Triton-X 114、Nonidet P-40、n-ドデシル-D-マルトシド、Tween-20、Tween-80、サポニンおよびジギトニンからなる群から選択される。ある実施態様では、界面活性剤はサポニンまたはジギトニンである。ある実施態様では、界面活性剤の濃度は約400μM未満である。例えば、ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、約300μM未満、約200μM未満、約100μM未満または約50μM未満である。ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、約100μM、約75μM、約60μM、約50μM、約40μM、約30μMまたは約20μMである。ある実施態様では、第1の溶液中の界面活性剤の濃度は、約20μM~約50μMまたは約30μM~約40μMである。
【0017】
ある実施態様では、第1の溶液は、張性剤、浸透圧調節剤またはキレート剤の1つまたは複数を含むバッファーをさらに含む。ある実施態様では、第1の溶液はトリスバッファー、スクロースおよびキレーターを含む。
【0018】
ある実施態様では、低濃度の界面活性剤(例えば、界面活性剤のCMC未満)を含む第1の溶液中の細胞を処理するステップは、第1の溶液中の細胞を室温で約2分~約30分間インキュベートすることを含む。例えば、ある実施態様では、第1の溶液中の細胞を処理するステップは、第1の溶液中の細胞を約2、約5、約10、約15、約20、約25または約30分間インキュベートすることを含む。インキュベーションは、約4℃~約37℃の温度で実行することができる。
【0019】
ある実施態様では、界面活性剤を除去するステップは、溶液中の界面活性剤を第1の溶液中の界面活性剤濃度の10%未満へ、または第1の溶液中の界面活性剤濃度の1%未満へ減少させることを含む。ある実施態様では、界面活性剤を除去するステップは、細胞をバッファーで洗浄することを含む。
【0020】
ある実施態様では、第2の溶液をインキュベートするステップは、第2の溶液中の細胞を約5分~約30分間インキュベートすることを含む。例えば、ある実施態様では、第2の溶液中の細胞をインキュベートするステップは、第2の溶液中の細胞を約5、約10、約15、約20、約25または約30分間インキュベートすることを含む。ある実施態様では、第2の溶液中の細胞をインキュベートするステップは、約4℃±3℃の温度でまたは氷上で実行される。
【0021】
ある実施態様では、第2の溶液からミトコンドリアを回収するステップは、上清を回収して単離されたミトコンドリアを回収することを含む。ある実施態様では、第2の溶液からミトコンドリアを回収するステップは、第2の溶液を遠心分離し、遠心分離後に上清を回収して単離されたミトコンドリアを回収することを含む。
【0022】
ある実施態様では、iMITは培養表面に付着している細胞の上で実行することができる。ある実施態様では、iMITは、細胞を表面から切り離すことなく培養表面に付着している細胞の上で実行することができる。ある実施態様では、第2の溶液からミトコンドリアを回収するステップは、上清を回収して単離されたミトコンドリアを回収することを含み、その後必要に応じて培養表面の残りの細胞を第2の溶液または別の第2の溶液で洗浄してそれを上清と合わせることができる。
【0023】
ある実施態様では、ここで提供される方法は、単離されたミトコンドリアを冷凍することをさらに含む。ある実施態様では、本方法は、ミトコンドリアを、凍結保護物質(例えば、グリセロール)を含むバッファーの中で冷凍することを含む。ある実施態様では、本方法は、ミトコンドリアを液体窒素中のバッファーの中で冷凍することを含む。ある実施態様では、本方法は、冷凍後にミトコンドリアを解凍することをさらに含む。ある実施態様では、ミトコンドリアを解凍する方法は、ミトコンドリアを速やかに、例えば約5分以内に、または約1分以内に解凍することを含む。ある実施態様では、ミトコンドリアは約20℃±3℃~約37℃±3℃の温度を有する温浴中で解凍される。ある実施態様では、ミトコンドリアは約20℃±3℃またはそれ以下の温度で解凍される。
【0024】
ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によって得られる単離されたミトコンドリアの集団を提供する。ある実施態様では、ここで提供される方法は「iMIT」方法であり、この方法によって得られるミトコンドリアは本明細書において「Q」ミトコンドリアと呼ばれる。ある実施態様では、本開示は、ここで提供される方法によって得られる単離されたミトコンドリアの集団を含む組成物および/または製剤を提供する。
【0025】
ある実施態様では、本開示は、ミトコンドリア機能障害と関連した疾患または障害を治療または予防する方法であって、対象の細胞を、ここで提供される単離されたミトコンドリア、例えばQミトコンドリアの集団と接触させることを含む方法を提供する。ある実施態様では、疾患または障害は、虚血関連の疾患または障害である。例えば、ある実施態様では、虚血関連の疾患または障害は、脳虚血再かん流、低酸素性虚血性脳症、急性冠動脈症候群、心筋梗塞、肝臓虚血-再かん流損傷、虚血性損傷-コンパートメント症候群、血管遮断、創傷治癒、脊髄損傷、鎌形赤血球疾患および移植臓器の再かん流損傷からなる群から選択される。ある実施態様では、疾患または障害は遺伝子障害である。ある実施態様では、疾患または障害は、がん、心血管疾患、目の障害、耳の障害、自己免疫性疾患、炎症性疾患または線維性障害である。ある実施態様では、疾患は急性呼吸窮迫症候群(ARDS)である。ある実施態様では、疾患または障害は加齢性疾患もしくは障害、または加齢関連の状態である。ある実施態様では、疾患または障害は、子癇前症または子宮内胎児発育遅延(IUGR)である。
【0026】
ある実施態様では、本開示は、ここで規定される疾患または障害を治療または予防する方法であって、それを必要とする対象に単離されたミトコンドリアの集団または組成物を投与することを含む方法を提供する。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアの投与経路は、静脈内、動脈内、気管内、皮下、筋肉内、吸入または肺内の投与経路によるものである。ある実施態様では、対象は哺乳動物、例えばヒトである。
【0027】
ある実施態様では、本開示は、無傷の内膜および外膜を有する単離されたミトコンドリアであって、内膜は折りたたまれたクリステを含み、ミトコンドリアは細胞から単離され、ミトコンドリアは蛍光指示薬(例えば、JC-1、TMRMまたはTMRE)によって測定すると分極化しており、ミトコンドリアは細胞外環境で分極を維持することが可能である、単離されたミトコンドリアを提供する。ある実施態様では、折りたたまれたクリステは高密度に折りたたまれたクリステである。ある実施態様では、ミトコンドリアは実質的に非糸状の形状を有する。ある実施態様では、ミトコンドリアはその表面でチューブリンと会合している電位依存性アニオンチャネル(VDAC)を含む。例えば、ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、表面のVDACと会合している二量体チューブリンを含む。ある実施態様では、チューブリンは少なくともα-チューブリンを含む。ある実施態様では、チューブリンは、α-チューブリンおよびβ-チューブリンを含むヘテロダイマーである。ある実施態様では、チューブリンはホモダイマーである。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、GRP75発現によって測定するとMAMとの会合の減少を示す。例えば、ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、細胞中に存在する(すなわち、単離されていない)ミトコンドリア、ならびに/または本明細書にさらに記載される通り従来の単離方法、例えば、ホモジナイゼーションおよび/もしくは高レベルの界面活性剤法を含む方法によって得られたミトコンドリアと比較した場合、約70%、約60%、約50%、約40%、約30%またはそれ以下のMAMとの会合を示す。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアはMAMとの会合の減少を示し、ここで減少は、細胞中に存在する(すなわち、単離されていない)ミトコンドリア、および従来の単離方法によって単離されたミトコンドリアの、MAMとの会合と比較して、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%またはそれ以上である。
【0028】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、約-30mV~約-220mVの膜電位を有する。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは形状が非糸状である。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアはdrp1依存性分裂を経ていない。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアはサイズが約500nm~3500nmである。例えば、ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは、サイズが約500、約600、約700、約800nm、約900nm、約1000nm、約1100nm、約1200nm、約1500nm、約2000nm、約2500nm、約3000nmまたは約3500nmである。
【0029】
ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によって得られる単離されたミトコンドリアを提供する。ある実施態様では、本開示は、ここで提供される単離されたミトコンドリアを含む組成物および製剤を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1A】脱分極剤で脱分極されたミトコンドリアへの蛍光指示薬の蛍光強度比(バックグラウンド蛍光強度へのミトコンドリア蛍光強度の比)の分布を示す図である。
図1Aでは、脱分極されたミトコンドリアの97.5%は1.2未満の蛍光強度を示した。したがって、この実験では、ミトコンドリアは蛍光強度比が1.2を超えた場合膜電位を有するとみなされた。
【
図1B】透過光および透過光像と同じ領域での蛍光指示薬(TMRE)による蛍光像による本発明の方法によって得られたミトコンドリアの顕微鏡像を示す図である。スケールバーは10μmを表す。
【
図2A】ホモジナイゼーション法によって得られたミトコンドリアのTMRE蛍光像と比較したDHF法によって得られたミトコンドリアのTMRE蛍光像を示す図である。スケールバーは25μmを表す。
【
図2B】上パネルは、DHF法対ホモジナイゼーション法によって単離されたミトコンドリア分画のタンパク含有量(μg)を示す。
図2Bの下パネルは、DHF法対ホモジナイゼーション法によって単離されたミトコンドリア分画のTMRE陽性ミトコンドリア(%)を示す。DHF法は、統計学的に有意により高い%TMRE陽性分画(p<0.05)をもたらした。
【
図2C】単離されたミトコンドリアの顕微鏡像(上パネル)およびTMRE染色蛍光像(下左パネル)を示す図である。画像は下右パネルでマージされ、単離された集団の中のほとんど全てのミトコンドリアが分極化していることを示す。
【
図2D】ここで提供される方法によって単離されたミトコンドリアの電子顕微鏡像を示す図である。スケールバーは1μmである。画像は、単離されたミトコンドリアが無傷の内膜および外膜、ならびに高密度に折りたたまれたクリステを有することを示す。
【
図2E】Qミトコンドリア、Hミト(従来のホモジナイゼーション法によって単離されたミトコンドリア)およびDミト(従来の界面活性剤法によって単離されたミトコンドリア)のSTED顕微鏡検査像を示す図である。ミトコンドリアの外膜は緑色に染色され(Tom20の免疫蛍光法)、内膜はMitotracker Redによって赤色に染色された。単離されたミトコンドリアの無傷の外膜の比およびサイズの数量化は、表3で提供される。
【
図3A】実施例においてホモジナイゼーションなしでまたは界面活性剤なしで臨界ミセル濃度以上の濃度での(DHF法)ミトコンドリア抽出によって得られた、凍結融解の前のミトコンドリアの集団の動的光散乱によるサイズ分布、多分散(PDI)および測定されたゼータ電位を示す図である。
【
図3B】DHF法によって得られた、凍結融解後のミトコンドリアの集団の動的光散乱によるサイズ分布、多分散(PDI)および測定されたゼータ電位を示す図である。
【
図3C】DHF法において(2.2.1の第7項)遠心分離法を1000×gで実行したこと以外はDHF法と同じ方法によって得られた、凍結融解後のミトコンドリアの集団のサイズ分布、多分散(PDI)および測定されたゼータ電位を示す図である。
【
図3D】DHF法によって得られた凍結融解前のミトコンドリアおよび凍結融解後のミトコンドリアの集団の透過顕微鏡像およびTMRE染色像の重ねた像を示す図である。
【
図4】DHF法によるマウス組織の各々からのミトコンドリアの集団の単離、ならびに動的光散乱による単離されたミトコンドリアの集団のサイズ分布、多分散(PDI)および測定されたゼータ電位を示す図である。
【
図5A】iMIT法によって単離され、指示された時点で、1mMリンゴ酸および1μMオリゴマイシンによって処理された単一のミトコンドリアにおける経時的な(分)TMRE蛍光強度を示す図である。
【
図5B】
図5Aに示す時点でリンゴ酸を加えた一般的な時間経過における、iMIT法によって単離された単一のミトコンドリアのTMRE蛍光像を示す図である(1mMのリンゴ酸は0分から1分の間に加えられ、1μMのオリゴマイシンは5分から6分の間に加えられた)。
【
図6A】レシピエントの線維芽細胞中のミトコンドリア(左パネル)と共局在する単離されたミトコンドリア(中央のパネル)を示す図である。マージされた像は右パネルに示す。
【
図6B】レシピエント細胞中のミトコンドリア(下パネル)とのQミトコンドリアの共局在を示す図である。対照的に、ホモジナイゼーション法を通して単離されたミトコンドリアはレシピエント細胞内部にあるようであるが、内在性ミトコンドリアと共局在していない。
【
図7A】10μMのDrp1阻害剤Mdivi1の非存在下(左パネル)または存在下(右パネル)でのミトコンドリアの形状を示すために染色された固定された細胞を示す図である。10μMのMdivi1の有無に関係なく、細胞中のミトコンドリアはネットワーク化された分枝形状を維持した。
【
図7B】30μMのジギトニンの追加および以降の洗浄工程の後、10μMのMdivi1の有無に関係なく、細胞中のミトコンドリアは形状が非糸状であることを示す。
【
図7C】0または10μMのMdivi1で処理した細胞からiMITによって単離されたGFP+ミトコンドリアは非糸状の形状を保持することを示す図である。
【
図8】Qミトコンドリア(上パネル)と従来の界面活性剤法(中央のパネル)または従来のホモジナイゼーション法(下パネル)によって単離されたミトコンドリアとの間での分極の比較を示す図である。パネルの左の列は顕微鏡像であり、ミトコンドリアが各々の方法によって単離されたことを示す。右のパネルはTMRE蛍光を示し、Qミトコンドリアだけが高い割合の分極化ミトコンドリアを有することを示す。
【
図9A】Qミトコンドリアが単離の後に無傷のミトコンドリア膜を有し(上パネル)、0.96mMのカルシウムの追加の後でさえ無傷の膜を維持する(下パネル)ことを示すカルセイン蛍光染色を示す図である。
【
図9B】Qミトコンドリアがカルシウムへの曝露の前(上パネル)および後(下パネル)に分極化していることを示すTMRE蛍光染色を示す図である。
【
図10A】ミトコンドリアの集団の物理的破壊がミトコンドリア膜を破壊すること、および0.96mMのカルシウムの追加が膜をさらに破壊する結果、高カルシウム環境との撹拌の組合せの後にカルセイン蛍光をもはや検出することができないことを示す図である。
【
図10B】膜電位(TMRE染色によって測定される)は撹拌によるミトコンドリアの物理的破壊の後に維持されるが、0.96mMのカルシウムの追加の後に失われることを示す図である。
【
図11】従来の界面活性剤法(D、左レーン)または従来のホモジナイゼーション法(H、中央レーン)を通して単離されたミトコンドリアと比較した、iMITミトコンドリア(Qミトコンドリア;右レーン)のウエスタンブロットアッセイ(左パネル)によるGRP75タンパク含有量を示す図である。タンパク含有量対照(右パネル)として、シトクロムオキシダーゼを使用した。
【
図12】4週心筋梗塞モデル研究の試験計画を提供する模式図である。
【
図13】虚血再かん流モデルにおけるラットの左心室収縮機能を示す図である。疑似群、PBS群、ホモジナイズされたミトコンドリア群ならびに高いおよび低いQミトコンドリア群の動物に対するEF%を示す。**(p<0.01)。
【
図14】7日心筋梗塞モデル研究の試験計画を提供する模式図である。
【
図15】試験群(IR Q)、陰性対照(IR PBS)または疑似梗塞(疑似Q)群におけるPBSまたはミトコンドリア(Q)による投薬の1、3および7日後の駆出率(EF%)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本開示は、様々な疾患、障害および状態を処置するのに有益である高度に機能的なミトコンドリアおよび高度に機能的なミトコンドリアの集団を提供する。ある実施態様では、ミトコンドリアは細胞から単離され、機能する能力を保持する。例えば、ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアは細胞から単離され、高度な分極および/または本明細書に記載されるミトコンドリア機能の他の態様を保持する。本開示は、得られるミトコンドリアが高度に機能的であるようにミトコンドリアを得る方法をさらに提供する。本明細書で提供される方法および単離されたミトコンドリアは、細胞からミトコンドリアを単離する既知の方法、およびそれらの既知の方法からもたらされる単離されたミトコンドリアからかなり向上している。
【0032】
本明細書で使用される用語「単離」および「単離すること」は、細胞の中から外へのミトコンドリアの回収を指す。用語「単離すること」は、細胞外に回収されたミトコンドリアを含有する溶液から溶液中の他の構成成分の少なくとも1つを除去することを含むことができる。したがって、本明細書で使用される用語「単離された」は、ミトコンドリアが細胞の中にもはやないことを意味する。用語「処理された」または「得られた」等は、「単離された」と互換的に使用することができる。ある実施態様では、単離されたミトコンドリアまたはミトコンドリアの単離された集団は、ここで提供される方法を通して細胞環境からそれを得るために処理されている。本明細書で提供される方法は、ミトコンドリアへの最小限の構造的傷害を引き起こし、それらが単離の後でさえ膜完全性および膜電位を維持することを可能にする方法で細胞からミトコンドリアを得る手段である。
【0033】
本明細書で使用される用語「細胞」は真核生物の細胞、すなわち細胞質にミトコンドリアを含有する細胞、例えば動物細胞、例えば哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞である。本明細書で使用される用語「細胞」は、組織中に存在する細胞、および組織から分離された細胞(例えば、単一の細胞)、および細胞の集団(例えば、対象の組織から得られた細胞の集団、および/または細胞系から得られた細胞の集団)の中の細胞を含む意味で使用される。
【0034】
本明細書で使用される用語「ミトコンドリア」は、二重層脂質膜、内膜および外膜ならびにクリステおよび内膜によって囲まれるマトリックスを有する真核生物細胞に存在するオルガネラである。ミトコンドリア(複数のミトコンドリア)は、酸化的リン酸化に関与する呼吸鎖複合体等の酵素をそれらの内膜の上に有する。呼吸鎖複合体等の作用によって形成される内部-外部プロトン勾配のために、内膜は膜電位を有する。ミトコンドリアは、内膜が破壊される場合に膜電位を維持することができないと考えられている。ミトコンドリアは、細胞核の中のゲノムと異なるそれ自身のゲノム(ミトコンドリアゲノム)を有することが知られている。本明細書で使用される「ミトコンドリアの集団」は、複数のミトコンドリアを含む集団である。
【0035】
本明細書で使用される用語「分極」は、ミトコンドリアが膜電位を示すことを意味する。本明細書で使用される用語「分極比」は、分極化ミトコンドリアの全ミトコンドリアに対する比である。ミトコンドリアの分極は、例えば、市販されている蛍光指示薬によって当業者が便利に検出することができる。蛍光性指示薬としては、限定されずに、JC-1、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)およびテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)が挙げられる。
【0036】
本明細書で使用される用語「界面活性剤」は、1分子中に親水性部分および疎水性部分を有する分子を意味する。界面活性剤は界面で表面張力を低減するか、またはミセルを形成することによって極性および無極性の物質を混合する役割を有する。界面活性剤は、非イオン性界面活性剤およびイオン性界面活性剤に大きく分類される。非イオン性界面活性剤は親水性部分がイオン化されないものであり、イオン性界面活性剤は親水性部分がカチオンかアニオンまたはカチオンおよびアニオンの両方を含むものである。
【0037】
本明細書で使用される用語「臨界ミセル濃度」(CMC)は、その濃度に到達したときに界面活性剤がミセルを形成する濃度を指し、その系にさらに加えられる界面活性剤はミセル形成、特にバルク中の濃度に寄与する。臨界ミセル濃度以上の濃度では、系への界面活性剤の追加はミセルの量、特にミセルの数を理想的に増加させる。
【0038】
ミトコンドリアを単離する従来の方法は、全細胞を機械的に磨砕する(ホモジナイズする)か、または界面活性剤もしくは界面活性剤法を使用して細胞膜を可溶化して細胞からミトコンドリアを回収する方法を含んでいた。後者の方法では、界面活性剤または界面活性剤法は、細胞膜および細胞中のいかなる膜も破壊するのに十分高い濃度で(すなわち、CMCより高い濃度で)細胞に投与される。一部の場合には、これらの方法(ホモジナイゼーションおよび高濃度の界面活性剤または界面活性剤法の使用)は、ミトコンドリアの収量を増加させるために組み合わせて使用されてきた。他の方法には、細胞膜の破壊のための凍結融解および/または超音波処理を含む方法が挙げられる。これらの方法によって得られるミトコンドリアは一部の機能を示すことができるが、それらの方法によって達成される低い分極比を考慮すると、(1)細胞膜を破壊するために細胞をホモジナイズし、および/または細胞を凍結融解し、および/または細胞を超音波処理する方法では、細胞の中でネットワーク構造を形成するミトコンドリアは、膜を損傷する剪断応力、および/または氷晶形成、および/または膜を損傷する超音波によってそれぞれ物理的傷害を受け;ならびに(2)界面活性剤に基づく方法では、ミトコンドリア膜は、ミトコンドリア膜に加えて細胞膜を可溶化することができる界面活性剤に曝露させられるか、または、界面活性剤はミトコンドリア膜タンパク質に結合し、次に単離されたミトコンドリアは界面活性剤によって化学的傷害を受ける、と考えられている。
【0039】
研究者は、原形質膜に孔を形成するために界面活性剤の代わりにタンパク質を使用してミトコンドリアを回収しようとも試みた(1)。この方法は多少の高品質ミトコンドリアも与えたが、収量は低く、大部分のミトコンドリアは傷害を受けた。収量を増加させるために細胞を繰り返しピペット操作したので、細胞の外のミトコンドリアは傷害を受けたようだった。
【0040】
一態様では、本開示は、「界面活性剤法およびホモジナイゼーションフリー(DHF)」法または代わりに「iMIT」法とここで呼ばれる、新規の方法によって単離されたミトコンドリアを提供する。本明細書に記載される通り、iMIT法によって単離されるミトコンドリアは傷害を受けず(例えば、内膜および外膜の完全性を保持する)、機能的能力(例えば、膜電位)を維持する。iMIT法によって得られるミトコンドリアは、本明細書において「Q」ミトコンドリアと呼ばれる。これらのミトコンドリアは、本明細書に記載されるものを含む様々な疾患および障害のために、例えばミトコンドリアの移植による処置で使用するのに好適である。ミトコンドリアの移植は、様々な疾患および障害で有用であると予想される処置である。ミトコンドリア機能を回復および/または増強するために、ミトコンドリアがひどく機能不全である細胞および/または高度に機能的なミトコンドリアの流入が利益である細胞に、外因性ミトコンドリア(例えば、Qミトコンドリア)が内在化される。
【0041】
本明細書で企図される別の適用は、ミトコンドリアの機構、特に刺激へのミトコンドリアの応答を研究することである。単離されたミトコンドリアは、それらの周囲環境のそれらの制御可能性のために、ミトコンドリアがどのように細胞内シグナルに応答するかについて調査するのに非常に適している(例えば、プロトン起動力がATPの合成を推進する役割を担うこと、すなわち、電子が電子伝達鎖を通過するときにプロトンがミトコンドリア内膜を越えてポンプ輸送されるというピーター・ミッチェルの化学浸透圧理論の実証を、単離されたミトコンドリアで実行することができる)。本方法によって得られたミトコンドリアの分極比を考慮すると、従来の方法によって得られる単離されたミトコンドリアは外膜および内膜の両方に重い傷害を受けると考えられる。したがって、従来の方法によって多数のミトコンドリアを回収することによって、残りの機能のほんの一部だけが測定されると考えられる。対照的に、本開示の方法によって得られるミトコンドリアは、傷害を受けたミトコンドリアで測定可能でない多くの現象の測定を可能にする。
【0042】
傷害を受けたミトコンドリアの混入は、生きている生物体および細胞に有害な影響を引き起こす可能性がある。本明細書で提供されるミトコンドリアは従来の方法によって単離されるそれらより優れているが、その理由は、一つにはそれらが細胞傷害性と関連していないから、および/または、例えば従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと比較したときにはるかにより少ない細胞傷害性と関連しているからである。さらに、本明細書で提供されるミトコンドリアは、それらが本明細書に記載される機能的能力に優れているので、従来の方法によって単離されるそれらより優れている。本開示の方法では、ミトコンドリアはそれらの回収過程の間に界面活性剤による物理的破壊または化学的破壊の影響がなく、界面活性剤との接触がないか、または第1の溶液から除去することができず、iMITの回収過程の間にミトコンドリアを損傷することができないCMCよりずっと低い濃度の界面活性剤と接触するので、傷害の程度を低減することができること、および、特にそれらが界面活性剤と接触しておらず、したがって生物体および細胞への傷害を受けたミトコンドリアの有害な影響を低減すると予想することができる場合、傷害の程度を最小にすることができることが予想される。
【0043】
ミトコンドリアを得る方法
ある実施態様では、本開示は、溶液中の細胞を臨界ミセル濃度(CMC)未満の濃度の界面活性剤で処理し、処理された細胞を含有する溶液から界面活性剤を除去し、界面活性剤処理細胞を次にインキュベートしてミトコンドリアを溶液中に回収し、それによって細胞からミトコンドリアを回収することによって細胞からミトコンドリアを回収または単離する方法を提供する。本方法は、「iMIT」と本明細書で呼ばれる。したがって、本明細書では、iMIT、細胞からミトコンドリアを得る方法であって、以下を含む方法が提供される:
【0044】
(A)第1の溶液中の細胞を臨界ミセル濃度(CMC)未満の濃度の界面活性剤で処理すること、
(B)第1の溶液から界面活性剤を除去して第2の溶液を形成すること、および
(C)第2の溶液中の界面活性剤処理細胞をインキュベートして第2の溶液中のミトコンドリアを回収すること。上の(A)から(C)および本方法の追加の構成が下で記載される。
【0045】
本開示の方法により、それらの細胞質にミトコンドリアを有する細胞は、溶液中で臨界ミセル濃度未満の濃度の界面活性剤で処理される。したがって、ある実施態様では、細胞膜は構造強度が弱体化されるが、界面活性剤の低い濃度のために透過性化されず、ミトコンドリア膜はほとんど界面活性剤に曝露させられず、無傷のままである。ある実施態様では、細胞膜は部分的に透過性化されることがあるが、ミトコンドリア膜は界面活性剤の低い濃度のためにほとんど界面活性剤に曝露させられず、無傷のままである。
【0046】
ある実施態様では、(A)の溶液はバッファーを含むことができる。ここで提供される方法で使用するための例示的なバッファーとしては、例えば、トリスバッファー、HEPESバッファーおよびリン酸緩衝液が挙げられる。バッファーは、例えばpH6.7~7.6(例えばpH6.8~7.4、pH7.0~7.4、例えばpH7.2~7.4、例えばpH7.4)であってよい。ある実施態様では、バッファーは張性剤および浸透圧調節剤を含むことができる。例示的な張性剤および浸透圧調節剤としては、単糖(例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、イノシトール、リボース、キシロース等)、二糖(例えば、ラクトース、スクロース、セロビオース、トレハロース、麦芽糖等)、三糖(例えば、ラフィノース、メレシノース(melesinose)等)、多糖(例えば、シクロデキストリン等)、糖アルコール(例えば、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルチトール等)、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。バッファーは、キレート剤、特に二価金属のためのキレート剤、例えばカルシウムイオンのためのキレート剤を含有することもできる。キレート剤としては、例えば、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が挙げられる。
【0047】
ある実施態様では、バッファーはスクロースおよびキレーターを含むトリスバッファーであってよく、pHは6.7~7.6(例えばpH6.8~7.4、pH7.0~7.4、例えばpH7.2~7.4、例えばpH7.4)である。ある実施態様では、トリスバッファーはジギトニンまたはサポニン、またはここで提供される別の界面活性剤を含むことができる。ある実施態様では、ジギトニンまたはサポニンまたは他の界面活性剤は、臨界ミセル濃度の20%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、または10%以下の濃度を有することができる。ある実施態様では、ジギトニンは、400μM以下、350μM以下、200μM以下、150μM以下、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、40μM以下または30μM以下の濃度で(例えば、30μMの濃度で)使用することができる。ある実施態様では、サポニンは、400μM以下、350μM以下、200μM以下、150μM以下、100μM以下、90μM以下、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、40μM以下、または30μM以下の濃度で(例えば、30μMの濃度で)使用することができる。
【0048】
ある実施態様では、ここで提供される方法で使用される界面活性剤は、イオン性または非イオン性の界面活性剤であってよい。本発明で使用される非イオン性界面活性剤には、例えば、エステル、エーテルおよびアルキルグリコシド形を含めることができる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルおよびアルキルグリコシドが挙げられる。非イオン性界面活性剤には、Triton-X 100、Triton-X 114、Nonidet P-40、n-ドデシル-D-マルトシド、Tween-20、Tween-80、サポニンおよび/またはジギトニンを含めることができる。処理工程(A)では、Triton-X 100、サポニンおよびジギトニンからなる群から選択される界面活性剤の少なくとも1つが使用される。ある実施態様では、界面活性剤はサポニンまたはジギトニンである。
【0049】
ある実施態様では、処理工程(A)は、細胞を臨界ミセル濃度未満の濃度の界面活性剤で処理することを含む。工程(A)での細胞の処理時間は、例えば、1~30分、例えば1~10分、または例えば1~5分、例えば2~4分、例えば3分であってよい。(A)での細胞の処理は、氷上で、4℃で、または室温で、またはその間の温度で実行することができる。
【0050】
ある実施態様では、処理工程(A)における界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度未満の濃度、例えば、臨界ミセル濃度の90%以下、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、15%以下、14%以下、13%以下、12%以下、11%以下、10%以下、例えば5~15%、例えば8~12%、例えば10%であってよい。
【0051】
ある実施態様では、処理工程(A)は、細胞の前処理である。理論に束縛されることを望まないが、臨界ミセル濃度未満の界面活性剤による細胞の処理は、細胞膜の強度を低減することができると;および/または細胞内ミトコンドリアへの界面活性剤法の影響を部分的にもしくは完全に排除すると考えられている。
【0052】
したがって、ミトコンドリアへの界面活性剤の影響を最小にすることを考慮すれば、細胞からのミトコンドリアの回収の間および後に、少なくともいずれかの工程(例えば、工程(B)~(E)の各々)でミトコンドリアが接触する溶液中の界面活性剤の濃度は、臨界ミセル濃度未満、例えば、臨界ミセル濃度の10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%以下未満であってよいか;または検出限界未満であってよい。ミトコンドリアへの界面活性剤の影響を最小にすることを考慮すれば、好ましくは、細胞からのミトコンドリアの回収の間および後に、ミトコンドリアが接触する溶液に界面活性剤を加えるべきでない。
【0053】
ある実施態様では、細胞は組織中に存在する細胞の形であってよいか、またはそれらは組織から単離されるか(例えば、単一の細胞)もしくはその集団であってよい。組織から単離される細胞は、培養細胞であってよいか、またはそれらを単一の細胞にするために使用されたコラゲナーゼ等の酵素による組織もしくは培養細胞の処理によって得られる単一の細胞もしくはその集団であってよい。組織は、所望により、コラゲナーゼ等の酵素処理の前に細断されてもよい。
【0054】
ある実施態様では、ミトコンドリアと接触している界面活性剤の濃度を低減するかまたはミトコンドリアと接触している界面活性剤を十分に低減するために、ミトコンドリアが(A)で界面活性剤処理細胞から回収される前に、界面活性剤を溶液から除去することができる。
【0055】
除去工程(B)では、界面活性剤の除去は、例えば、バッファーをより低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)と置き換えるか、またはバッファーにその溶液を加えることによって実行することができる。界面活性剤処理細胞が接着細胞である場合、界面活性剤を含有するバッファーは、溶液を吸引し、必要な場合細胞をより低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)で水洗し、および、より低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)を加えることによって除去することができる。界面活性剤処理細胞が浮遊細胞である場合、細胞を遠心分離し、上清を除去し、必要な場合細胞をより低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)で水洗し、および、より低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)を加えることによって界面活性剤を除去することが可能である。
【0056】
除去とは、例えば、界面活性剤の濃度の10%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%以下未満;またはミトコンドリアが接触する溶液中の検出限界未満を含めて、ミトコンドリアが接触する溶液中の界面活性剤の濃度を少なくとも減少させることを意味する。溶液からの界面活性剤の除去を確実にするために、(B)は、細胞をより低いか低減された濃度の界面活性剤を含有する溶液(好ましくは無界面活性剤溶液)(例えば、バッファー)で洗浄することを含むことができる。
【0057】
(B)では、溶液から界面活性剤を除去するために、溶液に加えられるかまたはそれと交換される溶液は、好ましくはバッファーであってよく、上の(A)に記載されるバッファーであってもよい(しかし、より低い濃度の界面活性剤を含有する溶液、好ましくは界面活性剤を含まないかまたは検出不能レベルの界面活性剤を含む溶液)。
【0058】
(A)で処理された細胞は低減された原形質膜強度を有し、単に溶液中でそれらをインキュベートすることによってミトコンドリアが細胞内部から細胞外領域に放出されることを可能にすることができる。しかし、(C)の前の工程ではミトコンドリアに接触する界面活性剤の量は少なく、ミトコンドリアへの界面活性剤の影響は限定的であり、したがって、ミトコンドリア膜の強度の低下も限定的であり、および/またはミトコンドリア膜は無傷のままである。
【0059】
ある実施態様では、本方法は、細胞を単に第2の溶液中に静置させることによって、第2の溶液中に放出されるミトコンドリアを得ることを含む。
【0060】
したがって、本発明では、細胞内部から細胞外領域にミトコンドリアを放出するために、界面活性剤処理細胞を溶液中でインキュベートすることができる。(C)の「放出する」という用語は、ミトコンドリアが細胞の内部から原形質膜によって囲まれる領域の外側(例えば、溶液側または細胞の外側)に脱出することを意味する。
【0061】
(C)でインキュベートするのに使用するための溶液(「第2の溶液」)は、より低い濃度の界面活性剤を含有する溶液であってよい。好ましいある実施態様では、第2の溶液は無界面活性剤溶液、または無視できる量および/または検出不能である量の界面活性剤を含む溶液である。(C)でインキュベートするのに使用するための溶液は、例えば上の(A)に記載されているバッファーであってよく、およびバッファー(上の(A)に記載されているものより低い濃度の界面活性剤を含む)(好ましくは無界面活性剤溶液)であってよい。(C)で使用される溶液は、例えばバッファー、浸透圧調節剤および二価金属キレーターを含み、界面活性剤を実質的に含まない溶液であってよい。本明細書で使用される「実質的に含まない」は、除去することも検出することもできない「実質的に含まれない成分」の量の混入の存在を排除しないという意味で使用される。
【0062】
(C)では、インキュベーションは、例えば1~30分、例えば5~25分、または例えば5~20分、例えば5~15分、例えば10分であってよい。(C)での細胞の処理は、氷上で、または室温で、またはそれらの間の温度で実行することができる。
【0063】
(C)では、細胞からのミトコンドリアの回収を増強するために、ミトコンドリアの脂質二重層が機械的破壊を引き起こさないように物理的刺激を加えることができる。したがって、(C)では、例えば、インキュベーションは振盪条件下または非振盪条件下で実行することができる。(C)では、例えば、インキュベーションは撹拌条件下または非撹拌条件下で実行することができる。(C)では、界面活性剤処理は、細胞が接着表面から脱離するのをより容易にし、したがって、前記のような軽い水流による接着表面からの細胞の脱離は、分極比に負の影響を及ぼすことはないようである。あるいは、(C)では、インキュベーションは細胞が脱離しない程度に実行することができる。
【0064】
(C)では、溶液で回収されるミトコンドリアは、単離されたミトコンドリアの集団として様々な適用で使用することができる。ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によってもたらされる、「Q」ミトコンドリアとここで呼ばれるミトコンドリアの集団を提供する。ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によってもたらされる、個々のミトコンドリアを提供する(すなわち、個々のQ)。
【0065】
ある実施態様では、ここで提供される方法は、(D)溶液中で回収されたミトコンドリアを精製することをさらに含む。ミトコンドリアは、遠心分離によって1つまたは複数の他の細胞構成成分から分離することができる。例えば、ミトコンドリアは、(C)で回収されるミトコンドリア集団の、ミトコンドリア集団に含有される脱離した細胞等の混入物を沈殿させるための1500g以下、1000g以下または500g以下での遠心分離によって上清として精製することができる。ミトコンドリアは、好ましくは例えば500gの遠心分離によって上清として精製することができる。ミトコンドリアは、生じた上清を富化等のためにさらなる遠心分離(例えば、8000g~12000g)にかけることによって沈殿物として回収することもできる。本明細書で使用される用語「精製された」は、ミトコンドリアが操作によって溶液中の他の構成成分の少なくとも1つから分離されることを意味する。
【0066】
上の(C)および/または(D)で得られるミトコンドリア集団は、様々な適用で単離されたミトコンドリア集団として使用することができる。
【0067】
本発明の方法は、(E)ミトコンドリアを冷凍することをさらに含むことができる。冷凍は、冷凍のためのバッファーにミトコンドリアを軽く懸濁させることによって実行することができる。冷凍のためのバッファーは(A)に記載のバッファーであってもよいが界面活性剤を含まず、凍結保護物質をさらに含むことができる。例示的な凍結保護物質は当技術分野で公知であり、例としては、グリセロール、スクロース、トレハロース、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチルグリコール、トリエチレングリコール、グリセロール-3-リン酸、プロリン、ソルビトール、ホルムアミドおよびポリマーが挙げられる。したがって、本明細書で提供されるミトコンドリアは、冷凍によって保存することができる。本開示の方法では、低温保存が必要でないならばミトコンドリアは冷凍されず、例えば、ミトコンドリアは新たに単離されたときに使用することができる。他のある実施態様では、ミトコンドリアは約4℃±3℃でまたは氷上で保存することができる。ある実施態様では、ここで提供される方法によって生成されるここで提供されるミトコンドリアは、液体窒素中で約-80℃±3℃以下、約-20℃±3℃以下、または約4℃±3℃で保存することができる。ある実施態様では、ミトコンドリアは数日間、数週間または数カ月間以上保存することができ、解凍後も機能する能力を保持する。
【0068】
ある実施態様では、ここで提供される方法は、ここで規定される通りに単離され、その後冷凍されたミトコンドリアを解凍する方法をさらに含む。ここで提供されるミトコンドリアを解凍する方法は、約20℃±3℃以下の温度でミトコンドリアを解凍すること、およびミトコンドリアを急速に、例えば約5分、約4分、約3分、約2分または約1分以内に解凍することを含む。ある実施態様では、ミトコンドリアの急速な解凍は、ミトコンドリアによる本明細書に記載される機能的能力の保持をもたらす。
【0069】
ある実施態様では、ここで提供される方法は、ミトコンドリア膜が破壊されるような方法で細胞からミトコンドリアを回収する全過程で、細胞膜を破壊する方法を含まない。例えば、ここで提供される方法では、細胞からミトコンドリアを回収する過程で細胞はホモジナイゼーションによって破壊されない。すなわち、ある実施態様では、ここで提供される方法は、ホモジナイゼーションを含まない;ある実施態様では、本方法はホモジナイゼーションを含むが、ホモジナイゼーションはそれがいかなる気泡も引き起こさないか細胞もしくは組織と比較して溶液に気泡を引き起こさない程度で実行されるだけである。ある実施態様では、本方法は、細胞の凍結融解も含まない。細胞の反復凍結融解は原形質膜を破壊してその内容物を回収するのに好適であり、細胞からミトコンドリアを回収するために使用することができるが、得られるミトコンドリアの膜電位は維持されないので(ミトコンドリア膜電位が維持される本開示の方法と対照的に)、凍結融解はミトコンドリア脂質二重層も破壊すると考えられている。
【0070】
ある実施態様では、本開示の方法は、細胞からミトコンドリアを回収する全過程で、細胞膜を破壊する他の方法(例えば、超音波処理、溶液が気泡を引き起こす程度のまたは溶液が泡立つ程度の強力な水流による処理)を含まない。ある実施態様では、本開示の方法は、物理的、化学的または生理的傷害をミトコンドリアに実質的に引き起こすかもしれないいかなるプロセスも実行することなく実行されるが、保存のために凍結融解周期をミトコンドリアに適用することができる。したがって、本発明の方法は、最小限の傷害でミトコンドリアを得ることが可能である。
【0071】
本発明の方法は、細胞から回収されるミトコンドリアを精製するのに1つまたは複数の濾過工程を必要としない。
【0072】
ある実施態様では、ここで提供される方法は、ミトコンドリアがなお細胞中にある間に、ミトコンドリアを損傷せずに微小管系からミトコンドリアを静かに分離する。インキュベーション期間の間、ミトコンドリア表面からの微小管の脱離のために形状が非糸状になったミトコンドリアは、界面活性剤処理細胞膜を通って細胞から脱出することができる。したがって、開示の方法を通して細胞から得られるミトコンドリアは、ミトコンドリア膜を破ることおよび引裂くことなしに、さもなければミトコンドリアの構造を損傷させずに得られる。したがって、ここで提供される単離されたミトコンドリアおよびその集団は、単離の後に機能を維持することが可能であり、疾患状態の処置で使用するのに以前に記載されたいかなる単離されたミトコンドリアよりも非常に好適である。
【0073】
したがって、ここで提供される方法は、ミトコンドリアを単離するための従来の方法と重要な点で異なり、従来の方法または以前に開示されたいかなる他の方法によって単離されるミトコンドリアと比較して、意外で有利な機能を有する単離されたか得られたミトコンドリアを提供する。
【0074】
ミトコンドリアの集団
一態様では、本開示は、ここで提供される方法を使用して細胞から単離され、その結果高度に機能的であるミトコンドリアの集団を提供する。上記のように、ここで提供される新規単離方法は、「DHF」法または「iMIT」法と互換的に呼ばれる;DHFまたはiMIT法によって得られるミトコンドリアは、本明細書において「Q」ミトコンドリアと呼ばれる。Qミトコンドリアは、ミトコンドリアが従来の方法を通して単離される場合に起こる破壊および膜破壊を免れ、したがって、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアより構造的および機能的に優れている。
【0075】
ある実施態様では、本開示は単離されたか得られたミトコンドリアの集団を提供し、集団は高い割合の分極化ミトコンドリアを含有する(すなわち、集団は高い分極比を有する)。したがって、ここで提供されるミトコンドリアの集団は、膜電位を有するミトコンドリアの高い割合を含む。ある実施態様では、本開示はミトコンドリアの集団を提供し、集団中の高い割合のミトコンドリアは無傷の内膜および外膜を有する。ある実施態様では、無傷の内膜および外膜の存在は、ミトコンドリアの機能的活性、例えば、膜電位および分極によって決定することができる。
【0076】
本明細書で提供されるミトコンドリアの集団は、したがって、従来の方法、例えば、前記のように、ホモジナイゼーションおよび/または細胞の凍結融解および/または高濃度の界面活性剤法もしくは界面活性剤を含む方法を使用して細胞から得られるミトコンドリア集団より優れている。例えば、従来の方法を通して細胞から単離されるミトコンドリアは、単離プロセスによって必然的に傷害を受け、機能的能力を失う。したがって、本開示は、従来の方法によって得られたミトコンドリアの集団より高い分極比および/またはより高い%分極、および/またはより高い%の無傷の内膜および外膜を有するミトコンドリアを有する単離されたミトコンドリアの集団を提供する。
【0077】
ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の分極比は、例えば、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、または85%以上であってよい。
【0078】
ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%以上は、蛍光指示薬によって測定すると分極化している。ある実施態様では、蛍光指示薬は、ミトコンドリア膜電位を測定するのに好適であることが当業者に公知である任意の蛍光指示薬であってよい。ある実施態様では、蛍光指示薬はJC-1、TMRMおよびTMREからなる群から選択される。
【0079】
ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上は、無傷の内膜および外膜を有する。ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上は、内膜中に高密度に折りたたまれたクリステを有する。例えば、ある実施態様では、Qミトコンドリアのクリステ構造は、細胞中の、すなわち細胞から単離されていないミトコンドリアのクリステ構造のそれに似ている。本明細書で使用される用語「高密度に折りたたまれたクリステ」は、ミトコンドリアが高密度で存在するクリステ、すなわち高度に折りたたまれたクリステを含むことを意味する。クリステの密度は、顕微鏡検査(例えば、共焦顕微鏡検査を含む透過電子または光学式顕微鏡検査)を使用して調査することができる。ある実施態様では、ミトコンドリア中のクリステ密度は、平方マイクロメートルあたりのクリステひだの数によって測定することができ、それはひだの数を数えることによって手動で、および/または自動化ソフトウェアプログラムによって決定することができる。ある実施態様では、「高密度のクリステ」、「高密度に折りたたまれたクリステ」等は、平方マイクロメートルにつき少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約7、少なくとも約8またはそれ以上のクリステ(すなわち、クリステひだ)を意味する。あるいは、またはさらに、ミトコンドリア中のクリステ密度は、ミトコンドリアの容量あたりのクリステ表面積によって測定することができる。したがってある実施態様では、「高密度のクリステ」、「高密度に折りたたまれたクリステ」等は、ミトコンドリアの容量あたりのクリステ表面積(μm2μm-3)が、少なくとも約20、少なくとも約25、少なくとも約30、少なくとも約35、少なくとも約40またはそれより大きいことを意味する。クリステ密度を決定する方法は、当技術分野で公知である(例えば、Segawa等、「Quantification of cristae architecture reveals time dependent characteristics of individual mitochondria」Life Science Alliance第3巻7号、2020年6月;およびNielsen等、The Journal of Physiology 595.9(2017)2839~47頁を参照する)。ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリアの集団中のミトコンドリアの少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、またはそれ以上は、平方マイクロメートルにつき少なくとも約3、少なくとも約4、少なくとも約5、少なくとも約6、少なくとも約7、少なくとも約8、またはそれ以上のクリステを有し;および/またはミトコンドリアの容量につき少なくとも約20のクリステ表面積(μm2μm-3)、少なくとも約25μm2μm-3、少なくとも約30μm2μm-3、少なくとも約35μm2μm-3、少なくとも約40μm2μm-3またはそれ以上を有する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、単離されたミトコンドリアが得られた細胞型でのミトコンドリアのクリステ密度と同等のおよび/またはそれより有意に低くない平均的なまたは代表的なクリステ密度を有する。ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリア集団中のミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上は、単離されたミトコンドリアが得られた細胞型でのミトコンドリアの平均的なまたは代表的なクリステ密度と同等のおよび/またはそれより有意に低くないクリステ密度を示す。
【0080】
ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、高カルシウム(Ca2+)環境に曝露させた場合でも機能的能力を維持する意外な機能を有する。ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアの集団は、ここで提供される単離方法のために、細胞外環境において機能的能力を維持する。ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上は、細胞外環境で機能的能力を維持する。ある実施態様では、細胞外環境は約6mg/dL~約14mg/dL、または約8mg/dL~約12mg/dLの全カルシウム濃度を含む。ある実施態様では、細胞外環境は約3mg/dL~約8mg/dL、または約4mg/dL~約6mg/dLの遊離/活性カルシウムの濃度を含む。したがって、ある実施態様では、ここで提供されるQミトコンドリアは、最小限であるか無視できる損傷で細胞環境から単離されるという注目に値する特徴を有し、細胞外環境、例えば、さもなければミトコンドリアへの損傷を引き起こし、および/またはそれらの機能的能力を有意に阻害することが予想される冨カルシウム環境に曝露させられる場合でも機能する能力を保持する。
【0081】
理論に束縛されることを望まないが、一部のある実施態様では、細胞外環境で機能的能力を維持するここで提供される単離されたか得られたミトコンドリアの能力は、一部または全体的に、チューブリンとミトコンドリア表面の電位依存性アニオンチャネル(VDAC)との会合によるものである。例えば、ある実施態様では、ここで提供されるiMIT単離プロセスの間、チューブリンはミトコンドリアの表面で全てのまたはかなりの数のVDACと会合することができ、そのため、冨カルシウム環境(例えば、約3mg/dL~約14mg/dLのカルシウムまたはそれより多くを含む細胞外環境)でさえミトコンドリアは機能を維持することが可能である。ある実施態様では、チューブリンと単離されたミトコンドリアの表面のVDACとの会合は、ミトコンドリアの表面でチューブリンの存在を例えば染色によって検出することによって決定することができる。
【0082】
理論に束縛されることを望まないが、一部のある実施態様では、ここで提供される単離されたQミトコンドリアは、全体的にまたは一部iMIT単離の間のQミトコンドリア外膜におけるコレステロール、エルゴステロールおよび/または関連分子の減損のために、細胞外環境において機能的能力を維持することが可能である。すなわち、コレステロール(VDAC構造を安定させる)は、単離手順の間に少量の界面活性剤がミトコンドリア膜と接触するためにある程度減損してもよく、一部または全ての機能を失ったVDACを表面に有する単離されたミトコンドリアをもたらし、そのため、ミトコンドリアは細胞外カルシウム濃度(例えば、約3mg/dL~約14mg/dLのカルシウムまたはそれより多くを含む細胞外環境)に耐性になる。したがって、ある実施態様では、ここで提供される単離されたミトコンドリアは、非常に低いレベルのステロール濃度をミトコンドリア膜に含む。
【0083】
ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団は、細胞中のミトコンドリアおよび/または従来の方法、例えば細胞のホモジナイゼーションおよび/もしくは細胞の凍結融解を含む方法を使用して単離されたか得られたミトコンドリアと比較して、MAM(mitochondria-associated membrane)との会合の減少をさらに示す。ある実施態様では、減少したMAMとの会合は、ミトコンドリアの表面でのグルコース調節タンパク質GRP75の発現によって測定される。
【0084】
ある実施態様では、単離されたミトコンドリアは形状が実質的に非糸状である。「非糸状」は、「非ネットワーク様」等と互換的に使用することができ、ミトコンドリアが細胞中に存在するミトコンドリアの分枝状および網状のネットワークを示さないことを意味する(例えば、
図7Aの細胞中のミトコンドリアの代表的な糸状の形状を参照する)。ある実施態様では、糸状か、ネットワーク化されたか、または分枝状の構造を有するよりも、ここで提供されるミトコンドリアは、顕微鏡下で見たとき、円形、球状、不規則形および/またはわずかに伸長した形、またはその任意の混合の外観である。より低い拡大率では、単離されたミトコンドリアは点状構造のように見える。対照的に、より低い拡大率では、細胞中のミトコンドリアの非常に細長いネットワーク状または分枝状の構造は可視的である。ある実施態様では、単離されたか得られたミトコンドリアの集団の少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%またはそれ以上は、4:1以下、3.5:1以下または3:1以下の長径対短径比を有する。理論に束縛されることを望まないが、本明細書で提供される方法を通して単離されるミトコンドリアの形状は、ミトコンドリアが単離前の細胞中になおある間の、微小管への運動タンパク質による連結の穏やかな除去からもたらされる。すなわち、ミトコンドリアが細胞の微小管にもはや連結されていないと、それらは、代わりに本明細書に記載される非糸状の形状を形成するために細胞中で有していた、非常に細長く、分枝状/ネットワーク化された形状を失う。
【0085】
ある実施態様では、ここで提供されるミトコンドリア集団中の単離されたミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%は、ミトコンドリアの流体力学的直径の2倍より短い長さを有する。ある実施態様では、流体力学的直径は約1μmであり、ここで提供されるミトコンドリア集団中の単離されたミトコンドリアのうち少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、または少なくとも約95%は、主軸の長さが2μm以下、1.9μm以下、1.8μm以下、1.7μm以下、1.6μm以下、1.5μm以下、1.4μm以下、または1.3μm以下の長さを有する。ある実施態様では、流体力学的直径は動的光散乱法(DLS)によって測定される。ある実施態様では、流体力学的直径は中位径D50である。
【0086】
一般に細胞では、ミトコンドリアは前記のように形状が非常に細長いか、または糸状の分枝状構造の形である。非糸状で細長くないミトコンドリアは、一般的にdrp1依存性分割またはdrp1依存性分裂が起こっているときに細胞に存在するだけである。ミトコンドリア分裂のこの過程では、小胞体との相互作用がミトコンドリアの最初の狭窄を引き起こす。Drp1タンパク質がミトコンドリアに動員されてその表面に集合し、さらなる狭窄を引き起こす。膜切断の最終段階を実行するためにDYN2が動員される。生じたミトコンドリアは、形状が一般的に球状であってよい。細胞中では、そのような球状ミトコンドリアは、細長くなるか、またはより一般的な枝様構造を形成する前の限定的な期間、球状の形状を保持することができる。対照的に、iMIT法を使用して単離されるミトコンドリアは、Drp1媒介分裂を受けることなしに形状が非糸状である。さらに、細胞のホモジナイゼーションを含む方法等の従来の方法によって単離されるミトコンドリアは、形状が非糸状であり、ほとんど円形または球状であるミトコンドリアを産するが、その理由は、それらが傷害を受けており、さもなければそれらに細長い形状を維持させる細胞中の微小管から引裂かれているからである。このような方法で単離されるミトコンドリアと対照的に、本明細書で提供されるiMIT法によって単離されるミトコンドリアは、微小管からの有害な除去を受けておらず、drp1媒介分裂を受けていない。したがって、本開示のミトコンドリアは、細胞中の天然のミトコンドリアおよび、より伝統的な方法によって単離されるミトコンドリアと異なる。例えば、ある実施態様では、iMIT法を通して得られるここで提供されるミトコンドリアは、形状が実質的に非糸状であるが、drp1分裂を受けずに、高度に機能的な状態(例えば、分極)、高密度に折りたたまれたクリステを含む無傷の内膜および外膜構造を同時に示す。
【0087】
ある実施態様では、ここで提供されるQミトコンドリアは、細胞または細胞の集団と接触させると、細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在という意外な機能を示す。Qミトコンドリアは、従来の方法を通して単離されるミトコンドリアと比較して、大いにより高い程度で内在性ミトコンドリアと共局在する。ある実施態様では、ここで提供されるQミトコンドリアは、細胞または細胞の集団と接触させると、細胞中の内在性ミトコンドリアと融合する。単離されたQミトコンドリアの融合は、従来の方法で単離されるミトコンドリアとは明らかな差であり、それより有利である。ある実施態様では、ミトコンドリアは保存の後でさえこの能力を保持する。したがって、ある実施態様では、ここで提供されるQミトコンドリアは、少なくともそれらが細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在および/または融合がより効率的であるという点で、従来通りに単離されるミトコンドリアより優れており、したがって、本明細書に記載されるもの等の任意の疾患または障害を処置するために使用するとき、優れた臨床効果を示す。これは、ここで提供されるQミトコンドリアが、従来通りに単離されるミトコンドリアと比較してより頑強でほぼ無傷の外膜を有することを示唆しているのかもしれない。
【0088】
ある実施態様では、本開示はここで提供される方法によって単離されるか得られるミトコンドリアの集団を提供する。例えば、本開示は、ここで上に記載されるiMIT法の工程(A)~(C)を含む方法によって単離されるか得られるミトコンドリアの集団を提供する。ある実施態様では、本開示は、ここで上に記載される(A)~(E)の工程を含む方法によって単離されるか得られるミトコンドリアの集団を提供する。
【0089】
本開示により、本発明の単離されたミトコンドリアの集団を含む組成物が提供される。本開示により、本発明の単離されたミトコンドリアの集団を含むミトコンドリア製剤が提供される。本発明の単離されたミトコンドリアの集団を含む組成物は、バッファーをさらに含むことができる。本発明の単離されたミトコンドリアの集団を含むミトコンドリア製剤は薬学的に許容され、薬学的に許容される追加の構成成分、例えば賦形剤をさらに含むことができる。本開示の単離されたミトコンドリアの集団、またはそれを含有する組成物もしくはミトコンドリア製剤は、蛍光発色細胞選別(FACS)等のフローサイトメーターによる細胞選別を使うことなく、分離プロセスの間に得ることができる。したがって、本発明の単離されたミトコンドリアの集団、またはそれを含有する組成物もしくはミトコンドリア製剤は、蛍光色素および蛍光プローブ(ならびに非蛍光性ミトコンドリア染色剤およびプローブ)を含有しない。ある実施態様では、組成物は医薬組成物である。
【0090】
ミトコンドリア膜電位の検出
ミトコンドリアが膜電位を有するかどうか(分極化しているかどうか)は、ミトコンドリア膜電位を検出することによって決定することができる。ミトコンドリア膜電位は、指示薬、例えば蛍光指示薬を使用して検出することができる。ミトコンドリア膜電位を検出する蛍光指示薬としては、JC-1、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)およびテトラメチルローダミンエチルエステル(TMRE)が挙げられる。JC-1はミトコンドリアに蓄積し、ミトコンドリア膜電位を感知して緑色から赤色になる。TMRMおよびTMREはミトコンドリアに蓄積し、ミトコンドリア膜電位を感知して赤色光を生成する。
【0091】
脱分極したミトコンドリアは、ミトコンドリア膜電位を検出した後に陰性対照として使用することができる。ミトコンドリアは、ミトコンドリア脱分極剤によって脱分極させることができる。ミトコンドリアの脱分極剤としては、例えば、カルボニルシアニド-m-クロロフェニルヒドラゾン(CCCP)が挙げられる。例えば、5μMのCCCPの存在下で室温で1時間のインキュベーションによって脱分極させた後のミトコンドリア膜電位(または、蛍光指示薬による蛍光強度)は陰性対照として使用することができ、陰性対照の膜電位より高い電位(または、蛍光指示薬による蛍光強度)を有するミトコンドリアは、膜電位を有するミトコンドリアであると決定することができる。分析物および陰性対照の蛍光強度は、バックグラウンドからの蛍光の影響を排除することによって決定することができる(例えば、バックグラウンド蛍光強度との比またはそれとの差として)。例えば陰性対照のミトコンドリア膜電位が変動する場合、陰性対照の90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、または99%以上が有する膜電位より大きな膜電位を有するミトコンドリアは、膜電位を有するミトコンドリアであると決定することができる。この方法で、ミトコンドリアの集団でミトコンドリア膜電位を検出することができる。本開示の方法では、ミトコンドリア膜電位の喪失につながる追加の工程をミトコンドリア膜電位の検出において実行することができない。
【0092】
ミトコンドリアの分極比は、膜電位を有するミトコンドリアの数とミトコンドリア総数との比(%)である。ミトコンドリアの分極比は、例えば、ミトコンドリアが固定化されるガラス等の基質ボードのある特定の領域(例えば、100μm2~10,000μm2)に含有されるミトコンドリアの数、およびその領域の中の膜電位を有するミトコンドリアの数から計算することができる。ミトコンドリアは、例えば光学顕微鏡を使用して数えることができる。
【0093】
処置の方法
一態様では、本開示は、ミトコンドリア機能障害と関連する疾患もしくは障害、またはさもなければ健康な機能的ミトコンドリアの補給が有益である疾患もしくは障害を処置する方法を提供する。
【0094】
ある実施態様では、ここで提供されるQミトコンドリアによる処置が好適な疾患または障害は、遺伝的疾患もしくは障害、虚血関連の疾患もしくは障害、神経変性の疾患もしくは障害、がん、心血管疾患もしくは障害、自己免疫性疾患、炎症性疾患、線維性疾患、加齢性の疾患もしくは障害、または出産の合併症と関連した疾患である。
【0095】
例示的な虚血関連の疾患および障害としては、脳虚血再かん流、低酸素性虚血性脳症、急性冠動脈症候群、心筋梗塞、肝臓虚血-再かん流損傷、虚血性損傷-コンパートメント症候群、血管遮断、創傷治癒(例えば、急性創傷または慢性創傷;切り傷、裂傷、圧迫創傷、火傷創傷(例えば、化学的、熱または火炎、風または日焼け)または医学的もしくは外科的介入からもたらされる創傷)、脊髄損傷、鎌形赤血球疾患および移植臓器の再かん流損傷が挙げられる。ある実施態様では、Qミトコンドリアは、虚血-再かん流損傷による臨床状態を治療、予防、改善および/または向上させることができる。ある実施態様では、Qミトコンドリアは駆出率(EF)を向上させること、心肥大を抑制すること、および/または虚血-再かん流損傷の後の線維化を治療、予防、改善および/または向上させることができる。
【0096】
例示的な自己免疫性および/または炎症性および/または線維性の疾患および障害としては、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、腹腔疾患、血管炎、ループス、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、過敏性腸疾患、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎、クローン病)、多発性硬化症、アテローム硬化症、関節炎および乾癬が挙げられる。
【0097】
例示的ながんとしては、例えば、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、前立腺がん、精巣がん、肺がん、肝細胞がん、腎臓がん、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、膵がん、食道がん、黒色腫、リンパ腫、白血病および芽細胞腫(例えば、神経芽細胞腫)が挙げられる。
【0098】
本明細書で提供されるQミトコンドリアの投与によって処置し得る追加の疾患および障害としては、糖尿病(I型およびII型)、代謝性疾患(例えば、高血糖、低血糖、グルコース不耐性、インスリン抵抗性、高インスリン血症、メタボリックシンドローム、エックス症候群、高コレステロール血症、高血圧、高リポタンパク血症、高脂血症、脂質異常症、高トリグリセリド血、腎臓病、ケトアシドーシス、血栓性障害、腎症、糖尿病性神経障害、脂肪肝、非アルコール性脂肪肝疾患および脂肪肝炎)、ミトコンドリアの機能障害と関連した目の障害(例えば、緑内障、糖尿病網膜症または年齢関連の黄斑変性症)、難聴、治療薬と関連したミトコンドリアの毒性、化学療法または他の治療薬と関連した心毒性、ミトコンドリア機能不全障害(例えば、ミトコンドリアミオパシー、糖尿病および聴覚障害(DAD)症候群、バース症候群、レーベル遺伝性視神経症(LHON)、リー(Leigh)症候群、NARP(神経障害、運動失調、色素性網膜炎および下垂症候群)、筋神経性胃腸脳症(MNGIE)、MELAS(ミトコンドリア脳症、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様発症)症候群、赤色ぼろ線維・ミオクローヌス性てんかん(MERRF)症候群、カーンズ-セイヤー症候群およびミトコンドリアDNA枯渇症候群)、または片頭痛が挙げられる。ある実施態様では、疾患または障害は、子癇前症または子宮内胎児発育遅延(IUGR)である。
【0099】
ある実施態様では、本開示は、それを必要とする対象にここで提供されるQミトコンドリアを投与することによって、加齢および加齢と関連する状態を処置する方法を提供する。正常な加齢ならびに加齢関連の状態は、ここで提供される組成物および方法で処置することができる。加齢関連の状態としては、神経変性状態、心血管状態、高血圧、肥満、骨粗しょう症、がんおよびII型糖尿病が挙げられる。
【0100】
例示的な神経変性の疾患および障害としては、例えば、認知症、フリードライヒ運動失調、筋萎縮性側索硬化症、ミトコンドリアミオパシー、MELAS(脳症、乳酸アシドーシス、脳卒中)、赤色ぼろ線維・ミオクローヌス性てんかん(MERFF)、てんかん、パーキンソン病、アルツハイマー病またはハンチントン病が挙げられる。例示的な神経精神医学的障害としては、双極性障害、統合失調症、うつ病、習慣性障害、不安障害、注意欠陥障害、人格障害、自閉症およびアスペルガー病が挙げられる。
【0101】
例示的な心血管疾患としては、冠状動脈性心疾患、心筋梗塞、アテローム硬化症、高血圧、心停止、脳血管疾患、末梢動脈疾患、リウマチ性心疾患、先天性心臓病、鬱血性心不全、不整脈、脳卒中、深部静脈血栓症および肺塞栓症が挙げられる。
【0102】
一態様では、本開示は、細胞で、対象の組織で、臓器で、卵細胞で、または胚でミトコンドリア機能を向上させる方法を提供する。ある実施態様では、臓器は心臓、肺、腎臓、脳、骨格筋、皮膚組織、顔の筋肉、骨髄組織または白色脂肪組織である。ある実施態様では、臓器は移植臓器である。ある実施態様では、細胞は移植された細胞である。ある実施態様では、組織は移植された組織、例えば、移植された骨髄組織である。
【0103】
一態様では、本開示は、ミトコンドリア機能障害を検出する方法を提供する。ある実施態様では、本方法はミトコンドリア機能障害のバイオマーカーを検出することを含む。ある実施態様では、本開示は、ミトコンドリア機能障害がその対象で検出される場合、ここで提供されるQミトコンドリアを有する対象と合わせてミトコンドリア機能障害を検出する方法を提供する。例示的なある実施態様では、ミトコンドリア機能障害のバイオマーカーは、ヘテロプラスミー、末梢ミトコンドリア数、ミトコンドリアDNAの欠失もしくは複製、および/またはDNAメチル化レベルであってよい。ある実施態様では、バイオマーカーは成長分化因子15(GDF15)、アペリン、ヒューマニンおよび/または線維芽細胞増殖因子21(FGF21)の血中レベルであってよい。
【0104】
ある実施態様では、ここで提供されるQミトコンドリアは、全身に(例えば、鼻腔内、筋肉内、皮下、動脈内、気管内、吸入経路、肺内、または静脈内)または局所的に投与される。ある実施態様では、ミトコンドリアは薬学的に許容される担体の中で対象に投与される。ある実施態様では、ミトコンドリアは、疾患または障害を処置するように設計された1つまたは複数の追加の薬剤および/または追加の療法と組み合わせて対象に投与される。ある実施態様では、ミトコンドリアは同種同系であるか、同種異系であるか、異種のミトコンドリアである。
【0105】
本開示は、本明細書で規定される疾患および障害を処置するための医薬の製造におけるQミトコンドリアの使用も提供する。本開示は、本明細書で提供される方法のいずれかで使用するためのQミトコンドリアも提供する。
【0106】
本開示は、本明細書で規定される疾患および障害の処置で使用するためのキットも提供する。ある実施態様では、キットはここで提供されるQミトコンドリアの集団を含む。ある実施態様では、キットは、対象に前記Qミトコンドリアを投与するための使用説明書をさらに含む。ある実施態様では、本開示は、Qミトコンドリアを単離するためのキット、例えばiMIT単離方法を実行するためのキットも提供する。ある実施態様では、キットは、iMIT法を通して細胞からミトコンドリアを単離するための、ここで規定される界面活性剤、バッファーおよび使用説明書を含む。
【0107】
特許、特許出願、記事、本、論文およびインターネットウェブページを限定されずに含む、この出願で引用される全ての文献および類似の資料は、あらゆる目的のために参照により完全に明示的に組み込まれる。別途規定されない限り、本明細書で使用される全ての専門用語および科学用語は、本明細書に記載される様々なある実施態様が属する分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。組み込まれた参考文献における用語の定義が本教示で規定される定義と異なるようであるとき、本教示で規定される定義が支配するものとする。
【実施例】
【0108】
実施例1:従来の方法と比較して界面活性剤法およびホモジナイゼーションフリー(DHF)の方法(「iMIT」)
ホモジナイゼーションおよび/または高濃度の界面活性剤を含む従来の単離方法を、本明細書で提供される界面活性剤法およびホモジナイゼーションフリーの方法と比較するための試験を実行した。iMIT法によって単離されるミトコンドリアは、本明細書において「Q」ミトコンドリアと呼ばれる。ホモジナイゼーションおよび界面活性剤法によって単離されるミトコンドリアは、本明細書においてそれぞれH-ミトコンドリアまたはH-ミト、およびD-ミトコンドリアまたはD-ミトと呼ばれる。
【0109】
この試験で使用された細胞は、RIKENの細胞バンクから購入したヒト由来のHeLa細胞(RCB3680)であった。培養のために使用した培地は、MEM+10%FBS中で週1~2回継代させた。DHF法のために、以下の工程を実行した。
1)直径が100mmのシャーレで細胞を培養し、80%コンフルエントであることを確認した。
2)培地を捨て、細胞を単離バッファー(10mM Tris-HCl、250mMスクロース、0.5mM EGTA、pH7.4)3mLで2回洗浄した。
3)3mLの30μMジギトニンを含有する単離バッファーを加え、シャーレを室温で3分の間静置させた。
30μMは、ジギトニンの臨界ミセル濃度(cmc)の約1/10である(2,3)。
4)シャーレの内部は、単離バッファー3mLで2回洗浄した。
5)単離バッファー3mLを加え、シャーレを4℃で10分の間静置させた。
6)マイクロピペットを使用して弱くピペット操作することによって、細胞を脱離させた。
7)その後、脱離した細胞およびミトコンドリアを含有する懸濁液を15mL遠心管に移し、500×g、4℃で10分間遠心分離し、上清の2mLを回収して単離されたミトコンドリアの集団を得た。単離されたミトコンドリアの集団は、この段階で以下の方法を通して冷凍されても冷凍されなくてもよい。
8)冷凍するとき、単離バッファーを使用せずに、冷凍バッファー(10mM Tris-HCl、225mMマンニトール、75mMスクロース、0.5mM EGTA、pH7.4)にグリセロールを加えてグリセロール濃度10%にし、単離されたミトコンドリアの冷凍材料(冷凍状態の単離されたミトコンドリアの集団またはそれを含有する組成物)は、液体窒素で冷凍することによって得られた。
【0110】
より高い濃度の界面活性剤(臨界ミセル濃度以上の)を使用してミトコンドリアの単離を試験するために、第2の単離方法を実行した。以下の工程を実行した。
1)直径が100mmのシャーレで細胞を培養し、80%コンフルエントであることを確認した。
2)培地を捨て、単離バッファー3mLで細胞を2回洗浄した。
3)単離バッファー3mLに溶解させたジギトニンを400μMの濃度(臨界ミセル濃度)で加え、シャーレを室温で3分の間静置させた。
4)マイクロピペットを使用して弱くピペット操作することによって、細胞を脱離させた。
5)懸濁液3mLを15mL遠心管に移し、500×g、4℃で10分間遠心分離し、上清の2mLを回収して単離されたミトコンドリアの集団を得た。
6)冷凍するとき、グリセロールを冷凍バッファーに加えてそれを懸濁させ、グリセロールの濃度を10%にし、それを液体窒素で冷凍して、単離されたミトコンドリアの冷凍材料を得た。
【0111】
従来のホモジナイゼーション法および以下の工程を使用して、第3の単離方法を実行した。
1)直径が100mmのシャーレで細胞を培養し、80%コンフルエントであることを確認した。
2)培地を捨て、単離バッファー2mLで細胞を2回洗浄した。
3)単離バッファー3mLを加え、細胞スクレーパーを使用して細胞を脱離させた。
4)脱離した細胞の懸濁液をポッター型のガラスTeflon(登録商標)ホモジナイザーの中でホモジナイズし、その間は懸濁液を氷中で冷却した。この操作のために5セットの上下動を実行した。
5)ホモジネートを15mL遠心管に移し、500×g、4℃で10分間遠心分離し、上清の2mLを回収して単離されたミトコンドリアの集団を得た。
6)冷凍するとき、グリセロールを冷凍バッファーに加えてそれを懸濁させ、グリセロールの濃度を10%にし、それを液体窒素で冷凍して、単離されたミトコンドリアの冷凍材料を得た。
【0112】
上記の方法の各々によって単離されたミトコンドリアはガラスベースのシャーレに吸着させ、個々のミトコンドリアの膜電位を蛍光顕微鏡法で観察した。手順は次の通りであった:
1)単離されたミトコンドリアを含有する懸濁液(300μL)をガラスベースのシャーレのガラス表面に広げ、氷上で1時間静置させてガラス表面に単離されたミトコンドリアを固定化した。その後、2mLの1M KOHをガラスベースのシャーレ(35mm)に加えてガラス表面を洗浄した。
2)シャーレは、2mLのMilli-Q水で2回洗浄した。
3)2mLのエタノールで洗浄した。
4)シャーレは、2mLのMilli-Q水で2回洗浄した。
5)シャーレは、2mLの単離バッファーで2回洗浄した。
【0113】
zetasizer(Nanosize Nano-ZS、Malvern)を使用して、単離されたミトコンドリアの粒径分析、ゼータ電位分析および多分散(PDI)分析を製造業者のマニュアルによって実行した。ミトコンドリアの脱分極および膜電位感受性色素によるミトコンドリアの染色を、以下の通りに実行した。
1)ガラスベースのシャーレに吸着させたミトコンドリアを、2mLの単離バッファーで洗浄した。
2)5μM CCCPを含有する単離バッファーの2mLを加え、シャーレを室温で1時間静置させた。
3)バッファーは、5μMのCCCPを含有する2700μLのTMRE染色バッファー(10mM Tris-HCl、250mMスクロース、10nM TMRE、0.33mg/mL BSA)で置き換え、シャーレを暗所において室温で10分の間静置させた。
4)合計56μLのリンゴ酸およびグルタミン酸を加えて、各々の濃度を5mMにした。5分以内に室温で蛍光観察を実行した。
【0114】
単離されたミトコンドリアは、膜電位感受性色素で以下の通りに染色した。
1)ガラスベースのシャーレに吸着させたミトコンドリアを、2mLの単離バッファーで洗浄した。
2)バッファーは2700μLのTMRE染色バッファー(10mM TrisHCl、250mMスクロース、10nM TMRE、0.33mg/mL BSA)で置き換え、シャーレを暗所において室温で10分の間静置させた。
3)合計56μLのリンゴ酸およびグルタミン酸を加えて、各々の濃度を5mMにした。5分以内に室温で蛍光観察を実行した。
【0115】
観察のためにオリンパス蛍光顕微鏡IX70および冷却CCDカメラ(Sensicam QE、PCO AG;Kelheim、Germany)(6.45μm/ピクセル)を以下の条件下で使用した:
対物レンズ:×40、N.A.0.9
光源:ハロゲンランプ
吸収フィルター:中心波長546nmおよび帯域通過10nm
CCDカメラ:ビニング:2×2
露光時間:1秒
【0116】
透過光と同じ機器で同じ視野を観察した。透過光と異なる条件は、以下の通りだった:
光源:キセノンランプ
励起フィルター:520~550nmを通過する帯域通過フィルター
蛍光フィルター:580nm以上の光を通過するシャープカットフィルター
【0117】
蛍光像の分析のために、個々のミトコンドリア透過光像で0.94μm2の領域をとり、その領域の中の蛍光強度の平均値を得た。この値とバックグラウンド蛍光強度との比は、各々のミトコンドリア蛍光強度の比として決定された。蛍光強度比は、第2小数位への端数切り捨てによって計算した。
【0118】
蛍光強度の比の分布は、セクション2.4.7に記載されているように決定された脱分極ミトコンドリアの蛍光強度の比から得、脱分極ミトコンドリアを表す蛍光の強度比の閾値を決定した。結果は、
図1Aに示す。
図1Aに示すように、97%を超えるミトコンドリアは、5μMのCCCPの存在下で1.2以下の蛍光強度比で存在した。したがって、我々は1.2の蛍光強度比を閾値として使用して、ミトコンドリアが分極化するかどうかについて決定した。
【0119】
単離されたミトコンドリアのために分極化ミトコンドリアの割合をDHF法、ホモジナイゼーション法および界面活性剤法によってそれぞれ決定した(それぞれ、n=130~150)。結果は、表1に示す。分極比は、例えば、
図1Bの左パネルの透過光像において直径が0.5~1.5μmのように見える黒点のパーセンテージであり、
図1Bの右パネルのTMREの蛍光強度比は1.2の閾値より大きい。
検査したミトコンドリアは、冷凍前であった。
【0120】
【0121】
図2Aは、Qミトコンドリア(iMIT法)対ホモジナイゼーション法ミトコンドリアの集団のTMRE蛍光を示す。表1および2および
図2Bにより、単離時の同数の細胞および得られたミトコンドリア分画の同等のタンパク含有量で、iMIT法によって単離されたミトコンドリアは、従来の方法と比較してTMRE陽性ミトコンドリアのパーセントの統計的に有意な増加を示すことが確認される(*p<0.05、
図2B、下パネル)。
図2Cは、iMIT法を通して得られたほとんど全てのミトコンドリアがTMRE+であることを示す。TMRE陽性染色と比較した明視野像からの10個の黒点の無作為選択は、ミトコンドリアの90%がTMRE陽性であることを示した。
図2Dは、iMITによって単離されたミトコンドリアが二重膜(内膜および外膜)およびクリステ構造を保持することを示す。
【0122】
【0123】
従来のホモジナイゼーション法(Hミト)または従来の界面活性剤法(Dミト)を通して得られるミトコンドリアと比較してiMIT法を通して得られるQミトコンドリアを可視化するために、誘導放出抑制(STED)顕微鏡法を利用した(
図2E)。外膜は緑色に染色され(Tom20の免疫蛍光法)、内膜はMitotracker Redを使用して赤色に染色された。
図2Eに見られるように、Qミトコンドリアは無傷の内膜および外膜を有していたが、Hミトははるかにより少ない検出可能な内膜または無傷の外膜を有し、Dミトはさらにより少ない検出可能な内膜または外膜を有した。さらに、Hミトでは、内膜の一部が外膜から突き出ることが示され、外膜が単離プロセスの間に物理的傷害を受けることを示唆する。Dミトでは、外膜からの多くの小さい細片が検出され、外膜のいくつかは外膜の内部に内膜を有さず、それは単離プロセスの間に使用される界面活性剤が外膜および内膜を可溶化して単離されたミトコンドリアを化学的に破壊するだろうことを示唆する。試験から得られた膜電位を有するミトコンドリアの比、無傷の外膜を有するミトコンドリアの比、長径に沿ったミトコンドリアの長さ、および長径と短径との比の数量化は、下の表3で提供される。タンパク含有量も測定した(HeLa細胞から得たミトコンドリア-1シャーレ150Φ、12,000,000細胞)。膜電位は、HUVEC細胞から単離されたミトコンドリアで測定した。無傷の外膜、直径、および長:短直径の比は、HeLa細胞から単離されたミトコンドリアで測定した。
【0124】
【0125】
これらの試験の結果は、本開示のiMIT法が、構造的完全性を維持し、分極を示すことが可能であるミトコンドリアを調製するのに好適であることを実証した。試験は、本開示のiMIT法によって得られたミトコンドリアが、従来のミトコンドリアの調製方法(ホモジナイゼーションおよび高界面活性剤法)よりも、分極を示すことのできるより高い割合(分極比)のミトコンドリアを有することも示した。試験は、iMIT法を通して単離されたミトコンドリアが、非糸状の形状を有し、HおよびDミトコンドリアと比較して一般的により丸くないか球状でないことも実証した。試験は、臨界ミセル濃度未満の濃度の界面活性剤による細胞の前処理が、細胞内部からのミトコンドリアの回収に十分であることを明らかにした。さらに、試験は、iMIT法によって単離されたミトコンドリアは、従来の方法によって単離されたミトコンドリアと比較して基本的に異なり、機能的に優れていることを示した。
【0126】
iMIT法によって単離されたミトコンドリアのサイズ分布およびゼータ電位を測定した。冷凍前の試料(すなわち、iMIT法を通して新たに単離されたQミトコンドリア)のサイズ分布およびゼータ電位を、
図3Aに示す。
図3Aに示すように、iMIT法によって単離されたミトコンドリアは、1034nmのサイズ(粒径)で単一分散を示した。この結果は、細胞に由来する核DNAおよび細片のより少ない混入があること、ならびに回収された材料の大部分がミトコンドリアであることを示唆する。
【0127】
冷凍および以降の解凍の後にiMIT法を通して得られた試料のサイズ分布およびゼータ電位は、
図3Bに次に示す。冷凍は、冷凍バッファーにミトコンドリアを懸濁させ、その後その試料を液体窒素で冷凍することによって実行された。液体窒素へのおよびそれからの試料の輸送は、ドライアイスの上で実行した。解凍は、3分以内に解凍するように、バイアルを回しながらミトコンドリアのバイアルを水道水の流水下に保持することによって実行した。
図3Bに示すように、iMIT法によって単離されたミトコンドリアは、凍結融解の後でさえ1171nmのサイズ(粒径)であった。
【0128】
さらに、遠心分離が500×gの代わりに1000×gで実行されたこと以外はiMIT法によって単離されたミトコンドリアのサイズ分布およびゼータ電位を決定し、結果は
図3Cに示す。このように単離されたミトコンドリアを冷凍し、解凍した後に、試料のサイズ分布およびゼータ電位は858.5nmのサイズ(粒径)であった。
【0129】
ゼータ(ζ)電位は、上記の試料の全部で優れていた(-22.4mV~031.0mV)。
【0130】
図3Aの試料および
図3Bの試料をTMRE染色にかけ、明視野像に重ねた染色(マージ)を
図3Dに示す。結果は、単離されたミトコンドリアが凍結融解の前後に高い分極比を示すことを示した。
【0131】
ジギトニン以外の界面活性剤の使用を調査するために、試験を実行した。ジギトニンの代わりにサポニンを使用して(濃度:概ね40μM、濃度はCMCの概ね1/15である)、前記と類似の方法でミトコンドリアを細胞から単離した。サポニンのCMCは538~646μMであると考えられている(Komatsu等、J.Oleo.Sci.54:265~270頁(2002)。ジギトニンを使用して得られるミトコンドリアのそれらに類似した特徴を有する、優れたミトコンドリアの集団がこの方法によって得られた。
【0132】
それぞれマウスから得られた心臓、肝臓および骨格筋の概ね0.1g、1.2gおよび1.2gを細かく切り、コラゲナーゼ(濃度:0.2重量%)により37℃で30分間処理した。この方法では、CMC未満のジギトニンを使用した上記のiMIT法を使用して、ミトコンドリアを単細胞化細胞から単離した。動的光散乱による単離されたミトコンドリアのサイズ、多分散およびゼータ電位を測定した。結果は、
図4に示す通りであった。
図4に示すように、肝臓および心臓から単離されたミトコンドリアは、優れたゼータ電位を示した。骨格筋から単離されたミトコンドリアも優れたゼータ電位(すなわち、約-15mV)を示し、約100nm~約2,000nmのサイズ分布を有する。これらの結果は、iMIT法によってミトコンドリアを組織試料から直接的に単離することができることを示す。特に、肝臓から得られたミトコンドリアは最も低いゼータ電位を示し、これらの例の間で好ましいと考えられた。
【0133】
iMIT法によって単離されたミトコンドリアの活性は、
図5Aおよび5Bに示すように調査した。単離の後、20nM TMRE、1mM KH
2PO
4、0.5mM ADP-K、0.33mg/mlのBSA、0.5M EGTA、10mM Tris、110mMスクロースおよび70mM KClにミトコンドリアを室温で10分の間インキュベートした。TMRE蛍光を10個のミトコンドリアで平均し、t=0の1に正規化した。0から1分の間で、リンゴ酸を1mMで加えた。5から6分の間で、オリゴマイシンを1μMで加えた。
図5Aは、TMRE蛍光が単一のミトコンドリアで変化することを示す。
図5Bは、単一のミトコンドリアにおけるTMREの蛍光像の一般的な経過の画像を示す。画像の間の時間間隔は、1分であった。
【0134】
実施例2:Qミトコンドリアとレシピエント細胞中の内在性ミトコンドリアとの共局在
iMIT法(Q)を通して単離されたミトコンドリアがレシピエント細胞中のミトコンドリアと共局在が可能であるかどうか決定するために、試験を実行した。ミトコンドリアは心臓前駆体細胞からiMIT法を通して単離し、Mito Tracker(赤色)で染色した。レシピエントLHON線維芽細胞中の内在性ミトコンドリアは、緑色で標識した。外因性のMitotrackerミトコンドリアをレシピエント細胞と接触させ、共焦顕微鏡検査像をとった。代表的画像は
図6Aで提供され、単離されたミトコンドリアが一晩で細胞に移動し、レシピエントミトコンドリアと共局在したことを示す。
図6Bは、従来のホモジナイゼーション法を使用して単離されたミトコンドリアと本明細書で提供されるiMIT法を使用して単離されたミトコンドリアとの間の共局在の比較を提供する。
図6Bの上パネルは、従来の方法によって単離された2、3のミトコンドリアが細胞に移動するようであったことを示す。しかし、iMIT法を通して単離されたはるかに多くのミトコンドリアが細胞に移動し、iMIT法のミトコンドリアだけがレシピエント細胞ミトコンドリアと共局在し、糸状、ネットワーク様および/または網状構造を形成した(
図6B、下パネル)。
【0135】
実施例3:機能的な単離されたミトコンドリアの形状
本明細書で提供されるiMIT法によって単離されたミトコンドリアがdrp1媒介の分裂を受けているかどうか決定するために、試験を実行した。一般に、ほとんどの細胞型におけるミトコンドリアは長く、糸状であり、ネットワーク様または網状構造を形成する;長い糸状および網状の形状を有しない細胞中のいかなるミトコンドリアも、drp1媒介の分裂を受けるので一般的に非糸状である。
【0136】
試験では、drp1阻害剤Mdivi1が細胞に加えられた。細胞中のミトコンドリアは、ネットワーク化された、および糸状の形状を示す(
図7A)。対照的に、iMIT法で処理された細胞中のミトコンドリアは、Mdivi1の非存在下および存在下で(0または10μMのMdivi1;
図7B)形状が非糸状であった。したがって、ミトコンドリアがなお細胞中にある間にiMITの非糸状の形状が開始され、drp1媒介の分裂に依存しない。
図7CはiMIT単離の後のミトコンドリアを示し、それらが非糸状の形状を保持することを実証する。したがって、本試験は、本明細書で提供されるiMIT法によって単離されるミトコンドリアの非糸状の形状がdrp1分裂に依存しないことを示した。すなわち、Qミトコンドリアは、少なくともそれらが非糸状であるがdrp1依存性分裂を受けない点で、細胞中に存在するミトコンドリアと異なる。
【0137】
実施例4:Ca2+条件下での分極性
高カルシウム条件下のQミトコンドリアの機能を調査するために、試験を実行した。ミトコンドリアは、iMIT法、界面活性剤法またはホモジナイゼーション法を通して細胞から単離した。これらの3つのミトコンドリア集団の各々を、2つの亜集団に分けた。第1の亜集団は、対照としてBSAおよび10nMのTMREと TrisHCl-スクロース-EGTAバッファーの中でインキュベートした。第2の亜集団は、BSAおよび10nMのTMREと200mg/mLのCaCl2を含有するDMEMの中で10分の間インキュベートした。
【0138】
試験の結果は、iMIT法(Q)を通して単離されたミトコンドリアはCa2+条件下で分極性を示したが、界面活性剤法(D-ミト)またはホモジナイゼーション法(H-ミト)で単離されたミトコンドリアはCa2+条件下で分極性を示さなかったことを示した(
図8)。
図8の中央の列では、D-ミトの顕微鏡像の拡大像は、試料中に多くのミトコンドリアがあるが、TMRE像はいかなるTMRE+ミトコンドリアも示さないことを示す。対照的に、
図8の上の列では、多くのTMRE+Qミトコンドリアが見られる。したがって、本試験は、高Ca2+環境に曝露させたときでも、Qミトコンドリアが機能する能力を保持することを示した。
【0139】
ミトコンドリア膜中の穴を検出するためにカルセイン蛍光を使用して、さらなる試験を実行した。QミトコンドリアはHUVEC細胞からiMIT法を通して単離し、ガラスベースのシャーレに吸収させた。個々のミトコンドリアにおけるTMREおよびカルセイン蛍光を、蛍光顕微鏡検査で観察した。指示された処理の後の蛍光の変化を、同じ顕微鏡視野で逐次的に観察した。
【0140】
Qミトコンドリアは、5mMリンゴ酸および5mMグルタミン酸を含有する単離バッファー中で1μMカルセイン-AMと室温で10分の間インキュベートし、単離バッファーで静かに洗浄した。
図9Aの上パネルは、1mLの単離バッファーによるQのカルセイン蛍光を示す。(
図9A)。
図9Aの下パネルは、4mLのHBS(10mM HEPES、120mM NaCl、4mM KCl、0.5mM MgSO4、1mM NaH2PO4、4mM NaHCO3、25mMグルコース、1.2mM CaCl2、0.1%ウシ血清アルブミン、pH7.4)の追加の後のQのカルセイン蛍光を示す。HBSは、シャーレの端の方へ静かに加えた。このように、カルシウムの追加はカルセイン蛍光を変化させず、iMIT法を通して単離されるQミトコンドリアが冨Ca2+環境で膜完全性を維持することを確認した。
【0141】
本試験は、TMRE蛍光によって測定したとき、冨Ca2+環境中のQミトコンドリアが膜電位を維持することをさらに確認した(
図9B)。5mMリンゴ酸および5mMグルタミン酸を含有する単離バッファー中でQを10nM TMREと10分の間インキュベートし、単離バッファーで静かに洗浄した。
図9Bの上パネルは、1mLの単離バッファーによるQのTMRE蛍光を示す。1mLの単離バッファーを含有するガラスベースのシャーレの中心に、Qを吸着させた。
図9Bの下パネルは、4mLのHBSを追加したTMRE蛍光を示す。HBSは、シャーレの端の方へ静かに加えた。TMRE蛍光は、HBSの追加の後にも維持された。
【0142】
興味深いことに、Ca2+環境の存在に加えてピペット操作(撹拌)の物理的刺激を加えることによってミトコンドリアを物理的に破壊したとき、ミトコンドリアはカルセイン蛍光を失った(
図10A)。Qは、5mMリンゴ酸および5mMグルタミン酸を含有する単離バッファー中で1μMカルセイン-AMと室温で10分の間インキュベートし、単離バッファーで静かに洗浄した。
図10Aの右上のパネルに示すように、ピペット操作(10~15回)によるQの撹拌はカルセイン蛍光を低減した。0.96mMのCa2+の追加の後のカルセイン蛍光は、右パネルの中央の列に示す。Ca2+を加えるために、5mMリンゴ酸および5mMグルタミン酸を含む4mLのHBSを、シャーレの端の方に静かに加えた。Ca2+の存在下で、10~15回のピペット操作でQを再び撹拌し、Ca2+の追加および撹拌の後のカルセイン蛍光は左パネルの中央の列に示す。10分後のカルセイン蛍光は、
図10Aの下パネルに示す。さらに、
図10Bは、ミトコンドリア膜への撹拌(10~5回のピペット操作)の影響にもかかわらず、膜電位(TMRE染色によって測定される)が維持されたことをTMRE染色が示したことを示す;しかし、Ca2+環境(0.96mM Ca2+)の撹拌したミトコンドリアの曝露の後、ミトコンドリアは膜電位を失った。5mMリンゴ酸および5mMグルタミン酸を含有する単離バッファー中でQを20nM TMREに室温で10分の間インキュベートした。蛍光の値は、ミトコンドリア中のTMRE蛍光とバックグラウンドとの比であった(左上パネル、
図10B)。10~15回のピペット操作による撹拌後のTMRE蛍光を、
図10Bの右上パネルに示す。Ca2+の追加の後のQにおけるTMRE蛍光を、
図10Bの右下パネルに示す。5mMリンゴ酸および5mMグルタミン酸を含む4mLのHBSを、シャーレの端の方に静かに加えた。10~15回のピペット操作による撹拌後のCa2+の存在下でのQにおけるTMRE蛍光を、
図10Bの左下パネルに示す。試験の結果は、ミトコンドリアはCa2+環境に耐性であるが、物理的刺激または破壊を受けた後に、ミトコンドリアはCa2+耐性を失う可能性があることを示した。したがって、理論に束縛されることを望まないが、結果は、ミトコンドリアの物理的破壊(振盪、撹拌等)および/または冨Ca2+環境と物理的破壊、例えば振盪もしくは撹拌との組合せが、ミトコンドリアが膜完全性および/または膜電位を失うことを引き起こす可能性があることを示唆する。理論に束縛されることを望まないが、結果は、iMIT法を通して単離されるミトコンドリアは、Ca2+環境と接触するか、またはその中で保存される場合、例えば治療処置で使用する前に最小限の破壊で取り扱うべきであることを示唆した。
【0143】
実施例5:GRP27含有量
本明細書で提供されるiMIT法を通して単離されたミトコンドリアのグルコース調節タンパク質75(GRP75)含有量を界面活性剤法またはホモジナイゼーション法から単離されるミトコンドリアのそれと比較するために、試験を実行した。ミトコンドリアは3方法の各々によってHeLa細胞から単離し、GRP75タンパク質を検出するウエスタンブロットを実行した。タンパク含有量対照として、シトクロムオキシダーゼを使用した。試験の結果は、本明細書で提供されるiMIT法を通して単離されたミトコンドリアは、界面活性剤法またはホモジナイゼーション法を通して単離されたミトコンドリアと比較して、はるかにより低いGRP75含有量を有したことを示した(
図11および表4)。
【0144】
【0145】
実施例6:4週経過観察による心筋梗塞モデルにおけるin vivo効果
心機能向上および心臓リモデリング予防への影響、ならびにQミトコンドリア(本明細書で提供されるiMIT法を通して単離される)の局所注射の安全性を、ラットの心筋梗塞(冠状動脈の虚血性再かん流)モデルを使用して評価した。
【0146】
試験品、「Q」ミトコンドリア集団は、HUVEC(不死化ヒト臍帯静脈内皮細胞系、HUEhT-1)を使用して、本明細書で提供されるiMIT法によって調製した。単離すると、使用時まで1~2週間、ミトコンドリア集団を液体窒素で低温保存した。調製された集団を解凍し、使用中の内部手順によって試験施設で製剤化した。心筋梗塞を誘導するために30分の左前下行(LAD)動脈外科的閉塞を使用して、11~12週齢の雄のSlc:Wisterラットを試験で使用した。平均体重が群の間でほとんど等しいように、動物をStratified Random Allocation Methodによってグループ化した。
【0147】
再かん流の1分前に、左心室心筋組織の上の梗塞領域の近くの3部位に、針(26~30G)を使用して各部位に30μLで0.23μg/体(低用量)または11.5μg/体(高用量)で、Qミトコンドリアを局所的に注射した。陰性対照としてPBS(-)を使用した。従来のミトコンドリア単離キット(89874、Thermo Scientific)を使用して単離されたミトコンドリアは、Qミトコンドリアと同様に投与された高い用量(11.5μg/体)のコンパレーターとして使用した。疑似群は開放手術を受けたが、それ以外は未処置だった。10個体の動物をそれぞれ群に割り当てた。投与の後、体重を毎週測定し、超音波心臓検査を投薬前、2週目および4週目に実行した。4週目に、血液サンプリングならびに心臓および肺を単離し、心臓、左右の心房および心室ならびに肺の重さを測定した。単離した左心室を使用して、組織病理検査を実行した。追加的に、心筋梗塞部位のサイズおよび心臓線維化の相対面積を決定した。動物の一般状態は、毎日観察した。投与の4週後に全ての動物を屠殺し、臓器重量測定および心臓と肺の組織病理検査を実行した。
図12は、試験計画の模式図を提供する。
【0148】
本試験で用意した虚血性再かん流(IR)モデル動物は、左心室組織リモデリング(肥大したLVIDsおよびLVIDs、および低下したLVAWd)、異常な左心室収縮機能(低下したEFおよび%FS)、相対臓器重量の有意な増加ならびに心筋梗塞病巣の形成および心臓線維化を示した。追加的に、組織病理検査は、心臓再生壊死、炎症性細胞浸潤、間質性水腫、線維化および出血を見出した。対照群の10中1動物は、心筋梗塞モデル調製から8日目に死亡した(投与の8日後)。このでき事は、心筋梗塞に関連した病理学的死亡であると判断された。
【0149】
PBS対照および従来のミトコンドリア対照群と比較して、Q群の体重に有意差はなかった。
【0150】
超音波心臓検査データは、表5に示す。PBS対照または従来のミトコンドリア群と比較して、LVIDd(拡張期左心室内部寸法:心臓拡張時の内部寸法)、LVAWd(拡張期左心室前壁:心臓拡張時の前壁の厚さ)、またはLVPWd(拡張期左心室後壁:心臓拡張時の後壁の厚さ)に関してQ群で有意差はなかった。
【0151】
LVIDs(収縮期左心室内部寸法:心収縮時の内部寸法)に関して、高用量Qは、PBSおよび従来のミトコンドリア対照群と比較して有意な低下を実証した(PBS対照に対してp<0.05、従来のミトコンドリア対照に対してp<0.01)(表5)。
【0152】
駆出率(EF;単一の心収縮によって駆出される全血量の指数)を調査したとき、両方のQ群について2週目および4週目にPBS対照および従来のミトコンドリア対照と比較して有意な増加(p<0.01)が観察された(表5)。データは、
図13にも示される。
【0153】
短縮率(FS;左心室における収縮度の指数)の場合、両方のQ群FSについて2週目および4週目にPBS対照および従来のミトコンドリアと比較して有意な増加(p<0.01)が同じく観察された(表5)。
【0154】
【0155】
臓器重量は、表6に示す。群間の全体的心臓重量または群間の全体的相対心臓重量(全体重の臓器重量)に有意差はなかった。しかし、従来のミトコンドリア対照群と比較して、左心房重量で有意な抑制効果(p<0.01)が高用量Q群で観察された。PBS対照(p<0.05)および従来のミトコンドリア対照(p<0.01)群と比較したとき、左心房の相対重量も高用量Qで有意に抑制された。従来のミトコンドリア対照群と比較したとき、右心室の相対重量が高用量Qで有意に低減した(p<0.05)。従来のミトコンドリア対照群と比較して高用量Q(p<0.01)および低用量Q(p<0.05)で肺重量は有意に低く、PBS対照(p<0.05)およびミトコンドリア対照(p<0.01)群と比較して、相対肺重量は高用量Qで有意に抑制され、従来のミトコンドリア対照と比較して、低用量Qで有意に抑制された(p<0.05)。
【0156】
【0157】
【0158】
従来のミトコンドリア対照と比較して、心筋梗塞サイズに有意差はなかったが、心筋線維化の相対面積は高用量Qで有意に小さかった(p<0.05)(表7)。
【0159】
【0160】
組織病理研究では、疑似群の10動物で得られた検体で見出された異常はなかった。全ての他の群では、軽度から中等度の心筋再生壊死、軽度から中等度の間質性水腫および軽度から中等度の線維化が報告された。
【0161】
要約すると、高用量(11.5μg)Q群は、陰性対照およびコンパレーター(従来通りに単離されたミトコンドリア)群と比較して、統計的に有意な差(p<0.01)で左心室組織リモデリング(LVIDs肥大の抑制)および左心室収縮機能(EFおよび%FS)において統計的に有意な向上を実証した(
図13)。相対臓器重量(心臓および肺)および心臓線維化領域の有意な低減もQ群で観察された。組織病理検査では、線維化および間質性水腫の変化の程度は、陰性対照およびコンパレーター群で観察されたそれと比較してQ群でより低かった。統計的有意性(p<0.01)は、陰性対照およびコンパレーター群と比較したときに、Q低用量(0.23μg)群で左心室収縮機能(EF、%FS)の向上および間質性水腫の程度においても検出された(
図13)。
【0162】
まとめると、本明細書で提供される試験に基づき、IRモデルラットにおける0.23μg/体または11.5μg/体の用量でのQミトコンドリアの局所注射は、超音波心臓検査に基づくと左心室肥大を阻止し、左心室収縮機能を向上させた。追加的に、組織病理検査結果によると、Qミトコンドリアは、心臓と肺の相対臓器重量および心臓線維症形成の増加を改変した。Qミトコンドリアの効果は、11.5μgの用量でより高かった。
【0163】
実施例7:7日分析による心筋梗塞モデル
虚血性再かん流による損傷から保護するQミトコンドリアの能力をさらに調査するために、心筋梗塞(冠状動脈の虚血性再かん流)ラットモデルにおいて第2の試験を実行した。試験品「Q」は、GFP-HUVEC(緑色蛍光タンパク質標識不死化ヒト臍帯静脈内皮細胞系)を使用してiMIT法によって調製し、試験で使用するまで概ね4週間液体窒素の中で低温保存した。この実施例では、Qミトコンドリアは「QN-01」と呼ぶ。
【0164】
平均体重が群の間でほとんど等しいように、動物をStratified Random Allocation Methodによってグループ化した。疑似群(0.23μg標識QN-01、疑似手順-開放手術、IR準備なし)および対照群(PBS)において、各々2動物を1日目、3日目および7日目の観察に割り当てた。標識QN-01群(0.23μg標識QN-01試験群)での同じ観察に、各々3動物を割り当てた。
【0165】
ラットの左前下行(LAD)の30分間の閉塞と続く再かん流によって、動物を調製した。実施例6の上記の試験のように、再かん流の1分前(29分の閉塞後)に、LVの近くの3部位の心筋組織にQN-01を0.23μgの用量で投与した。
【0166】
投与の1、3または7日後、体重を測定し、超音波心臓検査を実行した。さらに、投与の1、3または7日後、血液サンプリングを実行し、心臓および肺を単離し、心臓、左右の心房および心室ならびに肺の重さを測定した。全ての動物を臓器重量測定および心臓と肺の組織病理検査にかけた。試験動物から得られた検体は、GFPの存在を見出すために顕微鏡で検査し、標識QN-01の細胞取り込みを調査するために抗ヒトミトコンドリア抗体を一次抗体として使用して免疫組織化学染色によって試験した。試験計画の模式図を、
図14に提供する。
【0167】
本試験で報告された死亡はなく、全ての動物は予定された検死まで監視された。超音波心臓検査では、投与(PBS投与)の1、3および7日後に陰性対照群は低下したEF(放出分画)、低下した%FS(短縮率)および肥大したLVIDsを示し、肥大したLVIDsは投与の3および7日後に観察された。陰性対照と比較したとき、Q群は左心室収縮機能(EFおよび%FS)を向上させるのに優れた効果を実証したが、本試験では限定された動物数のために統計分析は計画されなかった。(
図15および表8)。対照と比較してLVIDdおよびLVIDsの肥大も抑制された(表9)。
【0168】
【0169】
【0170】
組織病理学では、フルオレセイン染色強度は、陰性対照群を含む用量群の間で差はなく、Qは、1、3または7日目に回収された検体のいずれでも検出されなかった。同様に、免疫組織化学的染色試験では、試験した検体のいずれもQ検出が陽性でなかった。組織病理調査では、7日目に、陰性対照と比較したとき、心筋の変性および壊死ならびに炎症性細胞浸潤の程度はQ群でわずかに低減された(表10)。動物の全てから回収された血漿試料は、Multiplex Assayシステム(Luminex 17 Plex* Assay、R&D System)を使用して、サイトカインおよびケモカインについて分析した。
【0171】
【0172】
要約すると、QN-01群では、超音波心臓検査は、投与の1、3および7日後のEFおよび%FSの低下がPBS対照群と比較して抑制されたことを見出した。さらに、LVIDdおよびLVIDsの肥大も抑制された。投与の7日後の組織病理検査では、対照群で見出された心筋再生壊死および炎症性細胞浸潤がQN-01群と比較してわずかに増加する傾向があった。したがって、本研究は、30分の梗塞によって調製した心筋梗塞モデルラットにおけるQN-01の局所注射が、左心室肥大を阻止し、左心室収縮機能を向上させることを実証した。追加的に、QN-01は、心臓における心筋再生壊死および炎症性細胞浸潤の程度を改変した。
【0173】
参考文献
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【国際調査報告】