(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-04
(54)【発明の名称】原子層堆積によって基体をフッ化マグネシウムで被覆する方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/245 20060101AFI20220927BHJP
G02B 1/113 20150101ALI20220927BHJP
【FI】
C03C17/245 Z
G02B1/113
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022505600
(86)(22)【出願日】2020-07-15
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 US2020042050
(87)【国際公開番号】W WO2021021436
(87)【国際公開日】2021-02-04
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ホアン,ミン-ホアン
(72)【発明者】
【氏名】キム,フン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジュエ
【テーマコード(参考)】
2K009
4G059
【Fターム(参考)】
2K009AA02
2K009CC06
2K009DD03
4G059AA11
4G059AC04
4G059EA09
4G059EB02
(57)【要約】
光学基体をフッ化マグネシウムで被覆するための原子層堆積方法。この方法は、2つの主要過程を含む。第1の過程は、基体の表面上に酸化マグネシウム層を形成する工程を含む。第2の過程は、この酸化マグネシウム層をフッ化マグネシウム層に転化させる工程を含む。これら2つの主要過程は、フッ化マグネシウム膜を構成する多数のフッ化マグネシウム層を作るために、複数回繰り返されることがある。このフッ化マグネシウム膜は、光学レンズなどの光学基体のための反射防止コーティング層としての機能を果たすことがある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学レンズをフッ化マグネシウム層で被覆するための原子層堆積方法であって、
(i)マグネシウムを含む前駆体ガスに光学レンズを曝し、それによって、前記レンズの表面を覆ってマグネシウム含有前駆体層を形成する工程、
(ii)前記マグネシウム含有前駆体層を第1の酸素含有ガスに曝し、それによって、酸化マグネシウム層を形成する工程、
(iii)フッ素を含む供給源ガスに前記酸化マグネシウム層を曝し、それによって、マグネシウムとフッ素を含む中間体層を形成する工程、および
(iv)前記中間体層を第2の酸素含有ガスに曝し、それによって、フッ化マグネシウム層を形成する工程、
を有してなる方法。
【請求項2】
前記マグネシウム含有前駆体層を第1の酸素含有ガスに曝す工程が、240℃から260℃の範囲の温度で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第1の酸素含有ガスがH
2Oを含む、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記第1の酸素含有ガスがH
2Oを含み、前記マグネシウム含有前駆体層が、240℃から260℃の範囲の温度でH
2Oに曝される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記フッ素を含む供給源ガスが有機供給源ガスである、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
工程(i)~(iv)を複数サイクル繰り返して、複数のフッ化マグネシウム層を含むフッ化マグネシウム膜を形成する工程をさらに含む、請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記フッ化マグネシウム膜が、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さを有する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記フッ化マグネシウム膜が、266ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、1%以下の光吸収値を有する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記レンズが、前記原子層堆積方法の最中に実質的に静止状態に保持される、請求項1から8いずれか1項記載の方法。
【請求項10】
光学レンズにおいて、
前記光学レンズの表面を覆って被覆され、
25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ、
220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、1%以下の光吸収値、および
5%以下の厚さ変動、
を有するフッ化マグネシウム膜、
を備えた光学レンズ。
【発明の詳細な説明】
【優先権】
【0001】
本出願は、ここに全て引用される、2019年7月30日に出願された米国仮特許出願第62/880250号からの米国法典第35編第119条(e)の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本開示は、フッ化マグネシウムを含む反射防止コーティングの原子層堆積に関する。具体的には、本開示は、光学基体(例えば、光学レンズ)を1つ以上のフッ化マグネシウム膜で被覆するための原子層堆積方法に関する。
【背景技術】
【0003】
物体の表面からの望ましくない光の反射を防ぐ上で、反射防止(AR)コーティングが有用である。一般に、光が大きい入射角で物体の表面に当たると、光は、その表面から反射する可能性が高い。表面曲率がきつい表面を有する物体は、その物体に向けられた光を反射する可能性が高い。何故ならば、光の少なくともいくらかは、比較的大きい入射角でその表面に当たるからである。
【0004】
ARコーティングの現在の物理的気相成長(PVD)過程は、これらの過程は、堆積源から堆積目標への粒子の略線状堆積に依存するので、きつい表面曲率を均一に被覆することができない。この均一性の課題に対処するために、この過程に、複雑な運動とスクリーニングを組み込む必要がある。これにより、過程の複雑さ、過程の費用、および過程を完了するのに要する時間が増してしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、反射防止コーティングを堆積させる新規の方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、フッ化マグネシウム膜の原子層堆積の方法に関する。このフッ化マグネシウム膜は、光学レンズなどの光学基体のための反射防止コーティング層としての機能を果たすことがある。この方法は、2つの主要工程段階を含む。第1の工程段階は、基体の表面を覆って酸化マグネシウム層を形成する工程を含む。この第1の工程段階は、マグネシウムを含む前駆体ガスにその基体を曝して、前駆体層を形成し、続いて、その前駆体層を酸素含有ガスに曝し、結果として、酸化マグネシウム層を形成することによって行われる。第2の工程段階は、酸化マグネシウム層をフッ化マグネシウム層に転化させる工程を含む。の第2の工程段階は、フッ素を含む供給源ガスに酸化マグネシウム層を曝して、中間体層を形成し、続いて、その中間体層を酸素含有ガスに曝し、結果として、フッ化マグネシウム層を形成することによって、行われる。これら2つの主要工程段階は、フッ化マグネシウム膜を構成する多数のフッ化マグネシウム層を作るために、連続して、複数回、繰り返されることがある。少なくとも温度および使用される酸素含有ガスの種類を制御することによって、そのフッ化マグネシウム膜の元素組成を調整して、所望の光学的性質を有する膜を製造することができる。
【0007】
本出願の第1の態様(1)は、光学レンズをフッ化マグネシウム層で被覆するための原子層堆積方法であって、(i)マグネシウムを含む前駆体ガスに光学レンズを曝し、それによって、レンズの表面を覆ってマグネシウム含有前駆体層を形成する工程、(ii)そのマグネシウム含有前駆体層を第1の酸素含有ガスに曝し、それによって、酸化マグネシウム層を形成する工程、(iii)フッ素を含む供給源ガスに酸化マグネシウム層を曝し、それによって、マグネシウムとフッ素を含む中間体層を形成する工程、および(iv)その中間体層を第2の酸素含有ガスに曝し、それによって、フッ化マグネシウム層を形成する工程を有してなる方法に関する。
【0008】
第2の態様(2)において、マグネシウム含有前駆体層を第1の酸素含有ガスに曝す工程が、100℃から300℃の範囲の温度で行われる、第1の態様(1)による原子層堆積方法が提供される。
【0009】
第3の態様(3)において、マグネシウム含有前駆体層を第1の酸素含有ガスに曝す工程が、240℃から260℃の範囲の温度で行われる、第1の態様(1)による原子層堆積方法が提供される。
【0010】
第4の態様(4)において、第1の酸素含有ガスが、水、オゾン、過酸化水素、メタノール、エタノール、酸素によるプラズマ、および酸素含有化学物質によるプラズマの群から選択されるガスを含む、態様(1)~(3)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0011】
第5の態様(5)において、第1の酸素含有ガスがH2Oを含む、態様(1)~(3)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0012】
第6の態様(6)において、第1の酸素含有ガスがH2Oを含み、マグネシウム含有前駆体層が、240℃から260℃の範囲の温度でH2Oに曝される、態様(1)~(5)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0013】
第7の態様(7)において、フッ素を含む供給源ガスが有機供給源ガスである、態様(1)~(6)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0014】
第8の態様(8)において、有機供給源ガスが、ヘキサフルオロアセチルアセトン、フッ化カルボニル、フッ化塩素、三フッ化塩素、1-クロロ-2,2-ジフルオロエテン、クロロジフルオロメタン、1-クロロ-1-フルオロエタン、クロロペンタフルオロベンゼン、クロロペンタフルオロエタン、クロロトリフルオロエテン、クロロトリフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ジフルオロメタン、フルオロプロパン、三フッ化窒素、ペンタフルオロベンゼン、ペンタフルオロエタン、ペンタフルオロフェノール、ペンタフルオロトルエン、ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロシクロヘキセン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロトルエン、1,1,1,2-テトラクロロ-2,2-ジフルオロエタン、トリクロロフルオロメタン、トリフルオロ酢酸、トリフルオロエタン、およびトリフルオロエタノールの群から選択される、態様(7)による原子層堆積方法が提供される。
【0015】
第9の態様(9)において、マグネシウムを含む前駆体ガスが、ビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウム、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(II)、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マグネシウム、ビス(N,N’-ジ-sec-ブチルアセトアミジナト)マグネシウム、およびビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)マグネシウムの群から選択される、態様(1)~(8)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0016】
第10の態様(10)において、工程(i)~(iv)を複数サイクル繰り返して、複数のフッ化マグネシウム層を含むフッ化マグネシウム膜を形成する工程を含む、態様(1)~(9)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0017】
第11の態様(11)において、フッ化マグネシウム膜が、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さを有する、態様(10)による原子層堆積方法が提供される。
【0018】
第12の態様(12)において、フッ化マグネシウム膜が、266ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、1%以下の光吸収値を有する、態様(11)による原子層堆積方法が提供される。
【0019】
第13の態様(13)において、フッ化マグネシウム膜が、266ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、94%以上の光透過率値を有する、態様(11)または態様(12)による原子層堆積方法が提供される。
【0020】
第14の態様(14)において、フッ化マグネシウム膜が、1.5ナノメートル以下の表面粗さ(Ra)を有する、態様(11)~(13)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0021】
第15の態様(15)において、フッ化マグネシウム膜が、266ナノメートルの波長を有する光について、1.42以下の屈折率を有する、態様(11)~(14)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0022】
第16の態様(16)において、フッ化マグネシウム膜が、二次イオン質量分析法を使用して測定して、0.02マイクロメートルの深さで1.2原子%以下の炭素含有量を有する、態様(11)~(15)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0023】
第17の態様(17)において、レンズの表面が、周辺エッジを境界とする表面を含み、フッ化マグネシウム膜が、その周辺エッジを境界とする全表面を覆う、態様(11)~(16)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0024】
第18の態様(18)において、フッ化マグネシウム膜の厚さの変動が10%以下である、態様(17)による原子層堆積方法が提供される。
【0025】
第19の態様(19)において、フッ化マグネシウム膜の厚さの変動が5%以下である、態様(17)による原子層堆積方法が提供される。
【0026】
第20の態様(20)において、レンズが、原子層堆積方法の最中に実質的に静止状態に保持される、態様(1)~(19)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0027】
第21の態様(21)において、工程(iii)が遠隔プラズマ過程を含む、態様(1)~(20)のいずれかによる原子層堆積方法が提供される。
【0028】
本出願の第22の態様(22)は、態様(1)~(21)のいずれかによる原子層堆積方法により堆積されたフッ化マグネシウム層で被覆された表面を有する光学レンズに関する。
【0029】
本出願の第23の態様(23)は、光学レンズにおいて、その光学レンズの表面を覆って被覆され、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ、220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、1%以下の光吸収値、および5%以下の厚さ変動を有するフッ化マグネシウム膜を備えた光学レンズに関する。
【0030】
第24の態様(24)において、フッ化マグネシウム膜が、220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、94%以上の光透過率値を有する、態様(23)による光学レンズが提供される。
【0031】
第25の態様(25)において、レンズの表面が、周辺エッジを境界とする表面を含み、フッ化マグネシウム膜が、その周辺エッジを境界とする全表面を覆う、態様(23)または態様(24)による光学レンズが提供される。
【0032】
第26の態様(26)において、レンズが、フッ化マグネシウム膜と光学レンズの表面との間に配置された酸化アルミニウム層をさらに含む、態様(23)~(25)のいずれかによる光学レンズが提供される。
【0033】
本出願の第27の態様(27)は、態様(23)~(26)のいずれかによる光学レンズを備えた半導体ウェハー検査具に関する。
【0034】
本出願の第28の態様(28)は、光学素子において、0.5から1.0の範囲の峻度値(steepness value)を有する第一面およびその第一面と反対にある第二面を有する光学的に透明なレンズであって、峻度値が、この光学的に透明なレンズの有効開口で割った第一面の曲率半径と等しい、光学的に透明なレンズ;および第一面および第二面を覆って配置された光学膜であって、550ナノメートルの波長を有する光について、第1の屈折率を有する第1の屈折率層と、その第1の屈折率層を覆って配置され、フッ化マグネシウム膜および低屈折率層を含む第2の屈折率層であって、この第2の屈折率層は、550ナノメートルの波長を有する光について、第2の屈折率を有し、その第2の屈折率は第1の屈折率よりも小さい、第2の屈折率層とを含む光学膜を備えた光学素子に関する。
【0035】
第29の態様(29)において、第1の屈折率層が、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、フッ化ガドリニウム、およびフッ化ランタンからなる群より選択される材料から作られる、態様(28)による光学素子が提供される。
【0036】
第30の態様(30)において、光学膜が、第一面および第二面の上に配置されている、態様(28)または態様(29)による光学素子が提供される。
【0037】
第31の態様(31)において、フッ化マグネシウム膜が、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ、220ナノメートルの波長と6度の入射角を有する光について、1%以下の光吸収値、および10%以下の厚さ変動を有する、態様(28)~(30)のいずれかによる光学素子が提供される。
【0038】
第32の態様(32)において、フッ化マグネシウム膜が、220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、94%以上の光透過率値を有する、態様(28)~(31)のいずれかによる光学素子が提供される。
【0039】
第33の態様(33)において、第1の屈折率が1.6以上であり、第2の屈折率が1.38以下である、態様(28)~(32)のいずれかによる光学素子が提供される。
【0040】
本出願の第34の態様(34)は、態様(28)~(33)のいずれかによる光学素子を備えた半導体ウェハー検査具に関する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
ここに含まれる添付図面は、本明細書の一部を形成し、本開示の実施の形態を図解する。図面はさらに、説明と共に、開示された実施の形態の原理を説明し、当業者がその実施の形態を実施し、使用することを可能にする働きをする。これらの図面は、限定ではなく、説明に役立つことが意図されている。本開示は、これらの実施の形態に照らして一般的に記載されているが、本開示の範囲をこれらの特定の実施の形態に限定する意図はないことを理解すべきである。図において、同様の参照番号は、同一のまたは機能的に類似の要素を示す。
【
図1】いくつかの実施の形態による、フッ化マグネシウム膜を堆積させるための原子層堆積方法の説明図
【
図2】いくつかの実施の形態による光学レンズの説明図
【
図3】いくつかの実施の形態による光学機器の説明図
【
図4】いくつかの実施の形態による原子層堆積方法に関する、酸素含有ガスの曝露温度の関数としてのフッ化マグネシウム膜の屈折率、成長速度、および均一性のグラフ
【
図5A】一段階原子層堆積方法により堆積されたフッ化マグネシウム膜、およびいくつかの実施の形態による二段階原子層堆積方法により堆積されたフッ化マグネシウム膜に関する光吸収のグラフ
【
図5B】未被覆のシリカ、一段階原子層堆積方法により堆積されたフッ化マグネシウム膜、およびいくつかの実施の形態による二段階原子層堆積方法により堆積されたフッ化マグネシウム膜に関する光透過率のグラフ
【
図5C】未被覆のシリカ、一段階原子層堆積方法により堆積されたフッ化マグネシウム膜、およびいくつかの実施の形態による二段階原子層堆積方法により堆積されたフッ化マグネシウム膜に関する光反射率のグラフ
【
図6】一段階原子層堆積方法により堆積されたフッ化マグネシウム膜、およびいくつかの実施の形態による二段階原子層堆積方法により堆積されたフッ化マグネシウム膜に関する、光波長の関数としての屈折率のグラフ
【
図7A】一段階原子層堆積方法により堆積されたフッ化マグネシウム膜に関する二次イオン質量分析結果のグラフ
【
図7B】いくつかの実施の形態による二段階原子層堆積方法により堆積されたフッ化マグネシウム膜に関する二次イオン質量分析結果のグラフ
【
図8】いくつかの実施の形態による光学膜で被覆された光学レンズの説明図
【
図9A】いくつかの実施の形態による例示の屈折率層に関する、入射光角度の関数としての光反射率のグラフ
【
図9B】いくつかの実施の形態による例示の屈折率層に関する、入射光波長の関数としての光反射率のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下の例は、本開示の説明に役立つものであって、限定するものではない。当該技術分野において通常遭遇し、当業者に明白であろう、様々な条件およびパラメータの他の適切な変更および適用は、本開示の精神および範囲に含まれる。
【0043】
光学レンズなどの光学用途にとって、光の反射および/または吸収は問題となり得る。光の反射および/または吸収は、所望の標的に向かって光学レンズを透過する光の量を減少させる。透過光の減少は、光を収集し、集光するために光学レンズに依存する光学系の分解能を損ない得る。分解能のそのような低下は、物体を正確に撮像する光学系の能力を損ない得る。
【0044】
光の反射および/または吸収は、その光学系が利用する光の波長、および光の波長を集光するために利用される光学レンズの表面曲率に依存し得る。例えば、光学検査システムのための高開口数レンズ(例えば、対物レンズ)は、特定の波長、または波長範囲の光を集光するためにきつい表面曲率を有することがある。そのようなきつい表面から光が反射した場合、物体を正確に撮像する検査システムの能力が損なわれ得る。物体の正確な撮像は、半導体ウェハー検査システムなどの多くの用途において重要である。これらのシステムは、品質管理目的のために半導体ウェハーの表面上のどのような汚染(例えば、破片粒子)も正確に検出できる必要がある。
【0045】
表面を正確に撮像する重要性のために、半導体検査システムのようなある光学検査システムは、深紫外線(DUV)レーザに基づく光(すなわち、193nmから266nmの範囲の波長を有する光)、または広帯域スペクトルの光(すなわち、175nmから300nmの範囲の波長を有する光)を利用する。これらの波長は、光の他の波長(例えば、400nmから700nmの範囲の可視光)よりも高い分解能を達成することができる。しかしながら、これらの波長での光の強度は、比較的低い。低強度は、検査システムの分解能を低下させ得るので、問題となり得る。したがって、光を集光するために、きつい表面曲率を有する高開口数レンズが1つ以上必要とされることがある。DUVまたは広帯域波長を適切に集光すると、検出区域の光の強度が増し、それによって、適切な検出分解能が達成される。
【0046】
DUVまたは広帯域波長を利用する検査システムについて、フッ化マグネシウム(MgF2)が、適切な反射防止コーティング膜材料である。フッ化マグネシウムは、適切に堆積されると、入射角が大きい場合でさえ、DUVおよび広帯域波長での光の反射および吸収に抵抗する。言い換えると、フッ化マグネシウムは、適切に堆積されると、入射角が大きい場合でさえ、著しい量のDUVまたは広帯域波長を完全に伝達することができる。
【0047】
しかしながら、これらの望ましい光学的性質は、フッ化マグネシウム膜の元素組成および均一性に依存する。したがって、フッ化マグネシウム膜を堆積させるのに利用される方法は、均一な厚さおよび適切な元素組成を有する膜を堆積させられるべきである。フッ化マグネシウム膜の原子層堆積が、論文「Atomic Layer Deposition of Magnesium Fluoride Via Bis(ethylcyclopentadienyl)magnesium and anhydrous hydrogen fluoride」(Journal of Vacuum Science and Technology A, 33, 01A125(2015年))にHennessy等(以後、「Hennessey等」と称される)により実証されている。この論文には、一段階原子層堆積過程(ここでは、「一段階ALD過程」と称される)が記載されている。この一段階過程では、フッ素源としてフッ化水素酸(HF)が利用される。フッ化水素酸は、取扱いや処理が危険な材料である。
【0048】
ここに述べられている実施の形態による原子層堆積方法は、一段階ALD過程により堆積されたものより優れた光学的性質を有するフッ化マグネシウム膜を堆積することができる。ここに述べられている実施の形態による方法は、一段階原子層堆積過程により堆積された膜と比べて、低い光反射率、低い光吸収、および/または高い光透過率を有するフッ化マグネシウム膜を生成する。さらに、ここに述べられた方法は、フッ化水素酸を使用せずに、これらの性質を達成することがある。
【0049】
図1は、いくつかの実施の形態による、基体102の表面104上にフッ化マグネシウム膜(例えば、フッ化マグネシウム膜210)を原子層堆積するための方法100を示す。基体102は、例えば、光学レンズ(例えば、光学レンズ200)であることがある。基体102は、ガラス基体、例えば、ソーダ石灰ガラス、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス、アルカリ含有ホウケイ酸ガラス、またはアルカリアルミノホウケイ酸塩ガラス基体であることがある。表面104は、例えば、レンズ200の第一面202および/または第二面204であることがある。方法100は、酸化マグネシウムの形成、およびその後の酸化マグネシウムのフッ化マグネシウムへの転化を含む多段階原子層堆積過程である。
【0050】
工程110において、基体102は、マグネシウムを含む前駆体ガス112に曝され、それによって、基体102の表面104を覆ってマグネシウム含有前駆体層114を形成する。前駆体ガス112としては、以下に限られないが、ビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウム、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(II)、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マグネシウム、ビス(N,N’-ジ-sec-ブチルアセトアミジナト)マグネシウム、ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)マグネシウム、またはこれらのガスの2つ以上の組合せが挙げられるであろう。工程110は、部分的範囲を含む、100℃から300℃の範囲の温度で行われることがある。例えば、工程110は、100℃、150℃、200℃、210℃、220℃、230℃、240℃、250℃、260℃、270℃、280℃、290℃、300℃の温度、またはこれらの値のいずれか2つを端点として有する範囲内の温度で行われることがある。特に明記のない限り、方法100の工程が行われる温度または温度範囲は、基体102の温度である。等温反応器を利用する方法について、基体102が配置される反応槽の温度は、基体102の温度と推定される。等温反応槽の温度は、槽壁に取り付けられた熱電対を使用して測定することができる。非等温反応器を利用する方法について、基体102の温度は、IR(赤外線)温度プローブを使用して測定することができる。
【0051】
工程110においてマグネシウム含有前駆体層114を形成した後、マグネシウム含有前駆体層114は、工程120において酸素含有ガス122(
図1において「H
2OまたはO
3」で表される)に曝される。この酸素含有ガス122への曝露により、酸化マグネシウム層124が形成される。工程110における酸化マグネシウム層124の形成により、工程130におけるフッ化物形成の前に、意図的な著しい酸化物の形成のために、堆積されるフッ化マグネシウム膜中の炭素不純物が減少する(
図7Aおよび7B参照)。膜組成中の炭素が少ないと、一段階ALD過程と比べて、DUVおよび/または広帯域スペクトルにおける、より少量の光吸収および/またはより高い光透過率がもたらされ得る。
【0052】
酸素含有ガス122としては、以下に限られないが、水(H2O)、オゾン(O3)、過酸化水素(H2O2)、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、酸素によるプラズマ、酸素含有化学物質によるプラズマ、またはこれらのガスの2つ以上の組合せが挙げられるであろう。いくつかの実施の形態において、酸素含有ガス122は、これらのガスの1種類以上から実質的になることがある。いくつかの実施の形態において、酸素含有ガス122はこれらのガスの1種類以上からなることがある。
【0053】
工程120は、部分的範囲を含む、100℃から300℃の範囲の温度で行われることがある。例えば、工程120は、100℃、150℃、200℃、210℃、220℃、230℃、240℃、250℃、260℃、270℃、280℃、290℃、300℃の温度、またはこれらの値のいずれか2つを端点として有する範囲内の温度で行われることがある。いくつかの実施の形態において、工程120は、約250℃で、例えば、240℃から260℃の範囲の温度で行われることがある。
【0054】
酸素含有ガス122の種類およびマグネシウム含有前駆体層114が酸素含有ガス122に曝される温度は、結果として得られるフッ化マグネシウム膜の元素組成および厚さの均一性を制御するために利用されることがある。前駆体層114の吸着を向上させるガス122は、前駆体層114からの配位子の除去(例えば、炭素配位子の除去)を最大にする、および/またはそれに続く層の核形成を最適化し、フッ化マグネシウム膜中の酸素と炭素の所望の量を達成するのに役立つ。これにより、光透過率が高く、光吸収が低い膜がもたらされる。いくつかの実施の形態において、酸素含有ガス122はH
2Oを含む。いくつかの実施の形態において、酸素含有ガス122はH
2Oを含み、マグネシウム含有前駆体層114は、240℃から260℃の範囲の温度で酸素含有ガス122に曝される。
図4に関してここに述べられた結果は、工程120を240℃から260℃の範囲の温度で行うと、どのようにして所望の性質を達成できるかを示す。
【0055】
工程120において酸化マグネシウム層124を形成した後、酸化マグネシウム層124は、工程130においてフッ素を含む供給源ガス132(
図1にHhfacで表される)に曝される。この供給源ガス132への曝露により、マグネシウムとフッ素を含む中間体層134が形成される。工程130は、部分的範囲を含む100℃から300℃の範囲の温度で行われることがある。例えば、工程130は、100℃、150℃、200℃、210℃、220℃、230℃、240℃、250℃、260℃、270℃、280℃、290℃、300℃の温度、またはこれらの値のいずれか2つを端点として有する範囲内の温度で行われることがある。
【0056】
いくつかの実施の形態において、供給源ガス132は、1種類以上の有機供給源ガスを含むことがある。供給源ガス132としては、以下に限られないが、ヘキサフルオロアセチルアセトン(Hhfac)、フッ化カルボニル、フッ化塩素、三フッ化塩素、1-クロロ-2,2-ジフルオロエテン、クロロジフルオロメタン、1-クロロ-1-フルオロエタン、クロロペンタフルオロベンゼン、クロロペンタフルオロエタン、クロロトリフルオロエテン、クロロトリフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ジフルオロメタン、フルオロプロパン、三フッ化窒素、ペンタフルオロベンゼン、ペンタフルオロエタン、ペンタフルオロフェノール、ペンタフルオロトルエン、ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロシクロヘキセン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロトルエン、1,1,1,2-テトラクロロ-2,2-ジフルオロエタン、トリクロロフルオロメタン、トリフルオロ酢酸、トリフルオロエタン、トリフルオロエタノール、またはこれらのガスの2つ以上の組合せが挙げられるであろう。いくつかの実施の形態において、供給源ガス132は、これらのガスの1種類以上から実質的になることがある。いくつかの実施の形態において、供給源ガス132は、これらのガスの1種類以上からなることがある。
【0057】
いくつかの実施の形態において、工程130は、遠隔プラズマ過程を含むことがある。そのような実施の形態において、酸化マグネシウム層124は、プラズマ源に1種類以上のフッ素含有供給源ガス132を流すことによって生じるフッ素でフッ素化される。これにより、供給源ガス中に活性フッ素ラジカルが形成される。これらのラジカルは、元の供給源ガスよりも比較的より活性である。
【0058】
工程130において中間体層134を形成した後、中間体層134は、工程140において、酸素含有ガス142(
図1において、「O O
2 O
3」で表される)に曝される。この酸素含有ガス142への曝露により、フッ化マグネシウム層144が形成される。酸素含有ガス122の種類および中間体層134が酸素含有ガス142に曝される温度は、結果として得られるフッ化マグネシウム膜の元素組成および厚さの均一性を制御するために利用されることがある。一酸化炭素(CO)およびCH
x分子(例えば、CH
3、CH
2、またはCH)などの残留化合物を効果的に除去するガス142は、フッ化マグネシウム膜中の酸素と炭素の所望の量を達成するのに役立ち、これにより、光透過率が高く、光吸収が低い膜が得られる。
【0059】
酸素含有ガス142としては、以下に限られないが、水(H2O)、オゾン(O3)、過酸化水素(H2O2)、メタノール(CH3OH)、エタノール(C2H5OH)、酸素によるプラズマ、酸素含有化学物質によるプラズマ、またはこれらのガスの2つ以上の組合せが挙げられるであろう。いくつかの実施の形態において、酸素含有ガス142は、これらのガスの1種類以上から実質的になることがある。いくつかの実施の形態において、酸素含有ガス142は、これらのガスの1種類以上からなることがある。いくつかの実施の形態において、工程140において利用される酸素含有ガス142は、工程120において利用される酸素含有ガス122と同じであることがある。いくつかの実施の形態において、工程140において利用される酸素含有ガス142は、工程120において利用される酸素含有ガス122と異なることがある。いくつかの実施の形態において、酸素含有ガスは、オゾン(O3)を含むことがある。
【0060】
工程140においてフッ化マグネシウム層144を形成した後、方法100により堆積された複数のフッ化マグネシウム層144を有するフッ化マグネシウム膜(例えば、膜210)を形成するために、工程110から工程140が複数回に亘り連続して繰り返されることがある。原子層堆積方法100は、自己限定性フッ化マグネシウム層堆積過程であるので、膜210の厚さは、精密かつ正確に制御されるであろう。原子層堆積方法の自己限定性は、段状表面曲率を有する基体でさえ、基体の表面に亘り均一な厚さを有する膜層の一貫した繰り返し可能な堆積を促進させる。
【0061】
いくつかの実施の形態において、基体102は、方法100の最中に実質的に静止状態に保持されることがある。基体102を実質的に静止状態に保持することにより、フッ化マグネシウム層144の均一な堆積、およびそれゆえのフッ化マグネシウム膜の均一な堆積が促進されるであろう。工程110、120、130、および140に関する堆積槽内の圧力は、1トル(約133Pa)から10トル(約1.33kPa)の範囲にあることがある。
【0062】
図2は、光学レンズ200の第一面202を覆って被覆されたフッ化マグネシウム膜210を示す。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、光学レンズ200の第一面202上に被覆されることがある。ここに用いられているように、「上に被覆された」、「上に配置された」、または「上に堆積された」とは、第1の膜/層/成分が第2の膜/層/成分と直接接触していることを意味する。第2の膜/層/成分「上に被覆された」、「上に配置された」、または「上に堆積された」第1の膜/層/成分は、その第2の膜/層/成分の上に直接、堆積される、形成される、置かれる、または他のやり方で施されることがある。言い換えると、第1の膜/層/成分が、第2の膜/層/成分「上に被覆された」、「上に配置された」、または「上に堆積された」場合、その第1の膜/層/成分とその第2の膜/層/成分との間には、膜/層/成分は配置されていない。第1の膜/層/成分が、第2の膜/層/成分「を覆って配置された」、「を覆って被覆された」または「を覆って堆積された」と記載されている場合、その第1の膜/層/成分とその第2の膜/層/成分との間に、他の膜/層/成分が、存在しても、しなくてもよい。
【0063】
いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、それに加え、またはそれに代えて、光学レンズ200の第二面204を覆って被覆されることがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、それに加え、またはそれに代えて、光学レンズ200の第二面204上に被覆されることがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、方法100の最中に同時に、レンズの第一面202と第二面204の両方の上に、またはそれを覆って、被覆されることがある。
【0064】
いくつかの実施の形態において、第一面202および/または第二面204上のフッ化マグネシウム膜210は、部分的範囲を含む、25ナノメートルから100ナノメートルの範囲の、膜210の第一面212と膜210の第二面214との間で測定される、厚さ216を有することがある。例えば、厚さ216は、25ナノメートル、30ナノメートル、35ナノメートル、40ナノメートル、45ナノメートル、50ナノメートル、55ナノメートル、60ナノメートル、65ナノメートル、70ナノメートル、75ナノメートル、80ナノメートル、85ナノメートル、90ナノメートル、95ナノメートル、100ナノメートル、またはこれらの値のいずれか2つを端点として有する範囲内の値を有する厚さであることがある。いくつかの実施の形態において、厚さ216は、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲にあることがある。特に明記のない限り、ここに記載された厚さ216値は、CauchyモデルのCompleteEASE(商標)ソフトウェアを使用して、可変角度分光エリプソメータ(Woollam M2000(登録商標)、190nmから1600nmの波長の走査、45から約80度の入射角)からのデータをフィッティングすることによって決定される。
【0065】
方法100は、以下の7つの性質の内の1つ以上を有するフッ化マグネシウム膜210の堆積を促進させる。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、その7つの性質の内の2つ以上を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、その7つの性質の内の3つ以上を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、その7つの性質の内の4つ以上を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、その7つの性質の内の5つ以上を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、その7つの性質の内の6つ以上を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、その7つの性質の全てを有することがある。
【0066】
いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ216でその7つの性質の内の1つ以上を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ216でその7つの性質の内の2つ以上を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ216でその7つの性質の内の3つ以上を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ216でその7つの性質の内の4つ以上を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ216でその7つの性質の内の5つ以上を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ216でその7つの性質の内の6つ以上を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ216でその7つの性質の全てを有することがある。
【0067】
(1)DUVおよび/または広帯域波長範囲の波長および6度の入射角(θ)を有する光(
図2に線220で示されている)について、1%以下の光吸収値。言い換えると、フッ化マグネシウム膜210は、DUVおよび/または広帯域波長範囲の波長および6度の入射角(θ)を有する光について、0%から1%の範囲の光吸収値を有することがある。例えば、フッ化マグネシウム膜210は、266ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、1%以下の光吸収値を有することがある。言い換えると、フッ化マグネシウム膜210は、266ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、0%から1%の範囲の光吸収値を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、1%以下の光吸収値を有することがある。言い換えると、フッ化マグネシウム膜210は、220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、0%から1%の範囲の光吸収値を有することがある。
【0068】
「光吸収値」は、光の既定の波長および光の既定の入射角(θ)について、材料の層または膜により吸収される光の百分率である。光の吸収は、光の光子が、その層または膜から反射も、透過もしないが、そうではなく、その層または膜により受け入れられ、通常は熱の形態で、エネルギーとして放出されることを意味する。光の既定の波長は、特定の波長値またはある範囲の波長値であることがある。ある範囲の波長値について、光吸収は、その波長の範囲内の各整数波長の光吸収の平均値を求めることによって、計算される。入射角(θ)は、入射位置で表面に対して垂直な線に対して測定される、光が材料の層または膜の表面に衝突する角度である。光吸収値は、分光計を使用して測定することができる。
【0069】
特に明記のない限り、ここに記載された光吸収値は、以下の手順にしたがって測定される。試験される材料の膜を、8655溶融シリカ基体上に堆積させた。この材料の膜は、この溶融シリカ基体の両側に堆積させ、基体の両側にある膜を通る全光吸収を決定した。400nmから200nmの波長範囲を有するAgilent Cary5000 UV-Vis-NIR Spectrophotometerを使用して、光透過率値および光反射率値を測定した。以下の装置パラメータを使用した:(i)入射角:6度、(ii)データ間隔:1nm、150nm/分、および(iii)平均測定時間:0.4秒。偏光板は使用しなかった。透過率および反射率の測定値は、測定された表面反射率および透過率に対する8655溶融シリカの真の表面反射率および透過率の対応する比に関連付けられた。この相関関係に、sおよびp偏光の反射強度の標準フレネル方程式を使用した。式:
%A=100-%T-%R
を使用して、光吸収を計算した。式中、%Aは光吸収と等しく、%Tは透過光の百分率と等しく、%Rは反射光の百分率と等しい。
【0070】
(2)DUVおよび/または広帯域波長範囲の波長および6度の入射角(θ)を有する光について、94%以上の光透過率値。言い換えると、フッ化マグネシウム膜210は、DUVおよび/または広帯域波長範囲の波長および6度の入射角(θ)を有する光について、94%から100%の範囲の光吸収値を有することがある。例えば、フッ化マグネシウム膜210は、266ナノメートルの波長および6度の入射角(θ)を有する光について、94%以上の光吸収値を有することがある。言い換えると、フッ化マグネシウム膜210は、266ナノメートルの波長および6度の入射角(θ)を有する光について、94%から100%の範囲の光吸収値を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、94%以上の光吸収値を有することがある。言い換えると、フッ化マグネシウム膜210は、220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、94%から100%の範囲の光吸収値を有することがある。
【0071】
「光透過率値」は、光の既定の波長および光の既定の入射角(θ)について、材料の層または膜を透過する光の百分率である。光の既定の波長は、特定の波長値またはある範囲の波長値であることがある。ある範囲の波長値について、光透過率は、その波長の範囲内の各整数波長の光透過率の平均値を求めることによって、計算される。光透過率値は、分光計を使用して測定することができる。
【0072】
特に明記のない限り、ここに記載された光透過率値は、以下の手順にしたがって測定される。試験される材料の膜を、8655溶融シリカ基体上に堆積させた。この材料の膜は、この溶融シリカ基体の両側に堆積させ、基体の両側にある膜を通る全光透過率を決定した。400nmから200nmの波長範囲を有するAgilent Cary5000 UV-Vis-NIR Spectrophotometerを使用して、光透過率値および光反射率値を測定した。以下の装置パラメータを使用した:(i)入射角:6度、(ii)データ間隔:1nm、150nm/分、および(iii)平均測定時間:0.4秒。偏光板は使用しなかった。透過率の測定値は、測定された表面透過率に対する8655溶融シリカの真の表面透過率の対応する比に関連付けられた。この相関関係に、sおよびp偏光の反射強度の標準フレネル方程式を使用した。
【0073】
(3)DUVおよび/または広帯域波長範囲の波長および6度の入射角(θ)を有する光について、5%以下の光反射率値。言い換えると、フッ化マグネシウム膜210は、DUVおよび/または広帯域波長範囲の波長および6度の入射角(θ)を有する光について、0%から5%の範囲の光反射率値を有することがある。例えば、フッ化マグネシウム膜210は、266ナノメートルの波長および6度の入射角(θ)を有する光について、5%以下の光反射率値を有することがある。言い換えると、フッ化マグネシウム膜210は、266ナノメートルの波長および6度の入射角(θ)を有する光について、0%から5%の範囲の光反射率値を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、4%以下の光反射率値を有することがある。言い換えると、フッ化マグネシウム膜210は、220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、0%から4%の範囲の光反射率値を有することがある。
【0074】
「光反射率値」は、光の既定の波長および光の既定の入射角(θ)について、材料の層または膜で反射する光の百分率である。光の既定の波長は、特定の波長値またはある範囲の波長値であることがある。ある範囲の波長値について、光反射率は、その波長の範囲内の各整数波長の光反射率の平均値を求めることによって、計算される。光反射率値は、分光計を使用して測定することができる。
【0075】
特に明記のない限り、ここに記載された光反射率値は、以下の手順にしたがって測定される。試験される材料の膜を、8655溶融シリカ基体上に堆積させた。この材料の膜は、この溶融シリカ基体の両側に堆積させ、基体の両側にある膜を通る全光反射率を決定した。400nmから200nmの波長範囲を有するAgilent Cary5000 UV-Vis-NIR Spectrophotometerを使用して、光透過率値および光反射率値を測定した。以下の装置パラメータを使用した:(i)入射角:6度、(ii)データ間隔:1nm、150nm/分、および(iii)平均測定時間:0.4秒。偏光板は使用しなかった。反射率の測定値は、測定された表面反射率に対する8655溶融シリカの真の表面反射率の対応する比に関連付けられた。この相関関係に、sおよびp偏光の反射強度の標準フレネル方程式を使用した。
【0076】
(4)1.5ナノメートル以下の表面粗さ(Ra)。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、1.5ナノメートルから1ナノメートルの表面粗さ(Ra)を有することがある。Ra表面粗さは、原子間力顕微鏡法を使用して測定することができる。特に明記のない限り、ここに記載されたRa(算術平均粗さ)値は、512×512画素の分解能を有する原子間力顕微鏡により、2マイクロメートル×2マイクロメートルの正方形領域を測定することによって得た表面形状の表面粗さである。
【0077】
(5)266ナノメートルの波長を有する光について、1.42以下の屈折率。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、266ナノメートルの波長を有する光について、1.42から1.38の範囲の屈折率を有することがある。特に明記のない限り、ここに記載された屈折率値は、Cauchyモデルの「CompleteEASE」ソフトウェアを使用して、可変角度分光エリプソメータ(「Woollam M2000」、190nmから1600nmの波長の走査、45から約80度の入射角)からのデータをフィッティングすることによって測定される。
【0078】
(6)二次イオン質量分析法を使用して測定された、0.02マイクロメートルの深さでの1.2原子%以下の炭素含有量。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、二次イオン質量分析法を使用して測定して、0.02マイクロメートルの深さで0.01原子%から1.2原子%の範囲の炭素含有量を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、二次イオン質量分析法を使用して測定して、0.02マイクロメートルの深さで1原子%以下の炭素含有量を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、二次イオン質量分析法を使用して測定して、0.02マイクロメートルの深さで0.01原子%から1原子%の範囲の炭素含有量を有することがある。
【0079】
特に明記のない限り、膜の炭素含有量は、以下のパラメータで、Csマイクロビームイオン銃を使用して測定される:(i)エネルギー(ボルト):1000、(ii)走査サイズ-X:400.0マイクロメートル(μm)、(iii)走査サイズ-Y:400.0マイクロメートル(μm)、(iv)ビーム電流:20ナノアンペア(nA)、(v)一次ビーム角度:45度、および(vi)スパッタ速度:2.9×10-5マイクロメートル/秒。データは、炭素濃度が制御された標準試料に基づいて正規化した。
【0080】
(7)10%以下の厚さ変動。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、部分的範囲を含む、0%から10%の範囲の厚さ変動を有することがある。例えば、フッ化マグネシウム膜210は、0%、0.1%、1%、2%、3%、4%、5%、10%の厚さ変動、またはこれらの値のいずれか2つを端点として有する範囲内の厚さ変動を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、5%以下の厚さ変動を有することがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、3%以下の厚さ変動を有することがある。
【0081】
材料の層または膜に関する「厚さ変動」は、以下の式:
T=SD/A×100
を使用して計算される。式中、Tは厚さ変動と等しく、SDは、厚さ測定値の代表セットの標準偏差と等しく、Aは、厚さ測定値の代表セットの平均値と等しい。厚さ変動は、厚さ測定値のセットで表される、周辺エッジを境界とする表面を覆って配置された膜または層の全表面積に関する厚さ変動により定義される。例えば、レンズ200の第一面202は、周辺エッジ206を境界とする。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、周辺エッジ206を境界とするレンズ200の第一面202全体を覆うことがある。そのような実施の形態において、膜210の厚さ変動は、膜210の一部だけではなく、第一面202全体を覆って配置された膜210の厚さ変動により定義される。同様に、周辺エッジ206を境界とするレンズ200の第二面204全体を覆うフッ化マグネシウム膜210について、膜210の厚さ変動は、膜210の一部だけではなく、第二面204全体を覆って配置された膜210の厚さ変動により定義される。
【0082】
膜の厚さ値は、分光エリプソメータにより測定することができる。厚さ測定値の代表セットは、少なくとも3つの測定値を含む。厚さ測定値の地点を選択する目的のために、それらの地点は、測定されている膜全体を表すものを提供するために、間隔が空けられるべきであり、全てが膜の1つの領域(すなわち、全てが膜のエッジ)に位置するべきではない。
【0083】
1つ以上のフッ化マグネシウム膜210内に被覆された光学レンズ200は、様々な光学用途に利用されることがある。例えば、被覆された光学レンズ200は、光学検査具、顕微鏡、および暗視野偏光散乱計に利用されることがある。特に、被覆された光学レンズ200は、DUV光および/または広帯域スペクトル内の光の収集、伝送、および/または集光が望ましい光学用途に利用されることがある。例えば、被覆された光学レンズ200は、
図3に示された半導体検査具300に利用されることがある。半導体検査具300は、DUV光スペクトルまたは広帯域光スペクトルの波長を有する入射光220を集光するために1つ以上の被覆レンズ200を含む光学素子310を備えることがある。
【0084】
膜210で被覆されたか、されていないレンズ200は、光学的に透明であることがある。ここに用いられているように、「光学的に透明」という用語は、1.0mm厚の材料片を通る、特定の波長、または波長範囲に関して、90%以上の透過率、または平均透過率を意味する。いくつかの実施の形態において、光学的に透明な材料は、特定の波長、または波長範囲に関して、95%以上、または98%以上の透過率、または平均透過率を有することがある。波長範囲に関する平均透過率は、その範囲内の整数波長全ての透過率を測定し、その測定値の平均値を求めることによって計算される。いくつかの実施の形態において、波長は、193nmから266nmの範囲内のどの整数波長であってもよい。いくつかの実施の形態において、波長範囲は193nmから266nmであることがある。いくつかの実施の形態において、波長は、400nmから700nmの範囲内のどの整数波長であってよい。いくつかの実施の形態において、波長範囲は400nmから700nmであることがある。
【0085】
いくつかの実施の形態において、被覆レンズ200の内の1つ以上は、0.5から1.0の範囲内の峻度値を持つ第一面202を有することがあり、ここで、この峻度値は、被覆レンズ200の有効開口で割った第一面202の曲率半径と等しい。この範囲内の峻度値は、DUVおよび/または広帯域スペクトル光の、光学検査システム(例えば、半導体検査具300を含む検査システム)における正確な検出分解能に適した強度への集光を促進させる。
【0086】
「有効開口」は、レンズの目的とする使用中に光が通過するレンズの直径である。ある場合には、「有効開口」は、レンズの周辺エッジ上の互いに反対の地点の間で測定されるレンズ全体の直径であることがある。ある場合には、「有効開口」は、例えば、レンズが、レンズの周辺エッジを覆って終わるフレームで取り囲まれている場合、レンズ全体の直径より小さいことがある。非円形レンズについて、「有効開口」は、レンズの目的とする使用中に光が通過するレンズ形状の最大外側断面寸法である。レンズの峻度値は、以下の式:
S=R/#
を使用して計算される。式中、Sは峻度値であり、Rはレンズ表面の曲率半径であり、#はレンズの有効開口である。
【0087】
いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、検査具300内のレンズの第一面202を覆って、またはその上に配置されることがある。ここに用いられているように、レンズの「第一面」は、目的とする使用中に、入射光がレンズ200に入るレンズの表面であることがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、検査具300におけるレンズ200の第二面204を覆って、またはその上に配置されることがある。ここに用いられているように、レンズの「第二面」は、目的とする使用中に入射光がレンズ200から出るレンズの表面であることがある。いくつかの実施の形態において、フッ化マグネシウム膜210は、検査具300におけるレンズ200の第一面202と第二面204の両方を覆って、またはその上に配置されることがある。いくつかの実施の形態において、第二面204は、0.5から1.0の範囲内の峻度値を持つ曲面であることがあり、ここで、峻度値は、被覆レンズ200の有効開口230で割った第二面204の曲率半径と等しい。
【0088】
いくつかの実施の形態において、光学素子310の1つ以上のレンズ200は、1つ以上のフッ化マグネシウム膜210を含む光学膜(例えば、光学膜802)で被覆されることがある。そのような実施の形態において、その光学膜は、第一面202を覆って、またはその上に、第二面204を覆って、またはその上に、もしくはその両方に配置されることがある。
【0089】
以下の試験は、本発明の実施の形態にしたがって堆積されたフッ化マグネシウム膜210の有効性を明らかにする。具体的には、以下の試験は、一段階ALD過程と比べて、本発明の実施の形態にしたがって堆積されたフッ化マグネシウム膜210の優れた組成特性、構造特性、および光学的性質を説明する。
【0090】
図4は、フッ化マグネシウム膜の屈折率、成長速度、および均一性を制御し、最適化するために、方法100の工程120をどのように利用できるかを示すグラフ400を示す。グラフ400に示された結果は、方法100によって光学レンズ上に堆積された、50ナノメートルの厚さを有する3つのフッ化マグネシウム膜に関する。各膜210は、(i)光学レンズを250℃の温度でビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウムガスに曝して、マグネシウム含有前駆体層を形成し、(ii)そのマグネシウム含有前駆体層をH
2Oガスに曝して、酸化マグネシウム層を形成し、(iii)その酸化マグネシウム層を250℃の温度でHhfacガスに曝して、中間体層を形成し、(iv)その中間体層を250℃の温度でオゾンガスに曝して、フッ化マグネシウム層を形成し、工程(i)~(iv)を複数回繰り返して、50ナノメートルの膜厚を達成することによって、堆積させた。第1の膜に関する工程(ii)におけるH
2Oガス曝露温度は200℃であり、第2の膜に関する工程(ii)におけるH
2Oガス曝露温度は250℃であり、第3の膜に関する工程(ii)におけるH
2Oガス曝露温度は300℃であった。
【0091】
グラフ400に示されるように、550ナノメートルでの屈折率は、工程(ii)におけるH2Oガス曝露温度が200℃から300℃に上昇するにつれて、減少する。第1の膜、第2の膜、および第3の膜は、1.4から1.2の範囲内の550ナノメートルでの屈折率を有した。理論で束縛されるものではないが、工程(ii)の処理温度が高いほど、マグネシウム含有前駆体層中に存在する配位子の熱分解のために、フッ化マグネシウム膜中の炭素が多くなると考えられる。このより高い炭素含有量は、第1、第2、および第3の膜に亘る屈折率の減少により認識できる。
【0092】
成長速度について、グラフ400は、約250℃のH2Oガス曝露温度が、サイクル(1サイクル=工程(i)~(iv)の一回の反復)当たりの成長速度を増加させることを示す。成長速度は、約250℃の温度に関して約0.6オングストローム(Å)/サイクルでピークに達し、温度が300℃に向かって上昇するにつれて、わずかに減少する。0.6オングストローム/サイクルの成長速度は、200℃で行われる一段階ALD過程に関する約0.4オングストローム/サイクルより、約50%速い。
【0093】
均一性に関して、グラフ400は、約250℃のH2Oガス曝露温度は、最良の厚さ均一性(すなわち、「厚さ変動」の最低値)をもたらすことを示す。第2の膜は、約10%の厚さ均一性を有した。これは、第1の膜と第3の膜に関するものの半分に満たない。第1と第3の膜の両方とも、20%超の厚さ均一性を有する。フッ化マグネシウム膜の厚さ均一性は、膜の光学的性質に影響するので、このことは、意義深い。例えば、不均一性は、光吸収を局所的に増加させ得る、および/または光透過率を局所的に減少させ得る。
【0094】
全体として見ると、グラフ400は、方法100における工程120の曝露温度を利用して、フッ化マグネシウム膜の性質を制御し、最適化することができることを示す。一段階ALD過程は、工程120を含まず、したがって、このやり方でフッ化マグネシウム膜の性質を制御し、最適化することはできない。具体的には、グラフ400は、いくつかの実施の形態において、工程120に関する240℃から260℃の範囲の曝露温度を利用して、フッ化マグネシウム膜の性質を最適化することができることを示す。また、グラフ400は、いくつかの実施の形態において、工程120に関する240℃から260℃の範囲のH2Oガスの曝露温度を利用して、フッ化マグネシウム膜の性質を最適化することができることを示す。
【0095】
方法100の工程120における異なる酸素含有ガスの効果を評価するために、オゾンガスの代わりにH2Oガスを使用したことを除いて、グラフ400において第2の膜に使用したものと同じ工程パラメータを使用して、光学レンズ上にフッ化マグネシウム膜を堆積させた。工程120においてH2Oガスを使用して堆積させた膜(すなわち、グラフ400における第2の膜)は、工程120においてオゾンガスを使用して堆積されたものと比べて、より低い厚さ変動および550ナノメートルでのより高い屈折率を示した。このより高い屈折率は、より高い酸化物密度および膜中のより少ない炭素を意味する。したがって、工程120における酸素含有ガスの組成も、フッ化マグネシウム膜の性質を制御し、最適化するために利用できる。重ねて、一段階ALD過程は、工程120を含まず、したがって、このやり方でフッ化マグネシウム膜の性質を制御し、最適化することはできない。
【0096】
図5A~5Cは、入射角の波長の関数として、本発明の実施の形態にしたがって堆積されたフッ化マグネシウム膜(「二段階:MgF
2」と称する)および一段階ALD過程にしたがって堆積されたフッ化マグネシウム膜(「一段階:MgF
2」と称する)の光学的性質を比較するグラフである。
図5Bおよび5Cは、参考のために、未被覆のシリカに関する光学的性質も示す。入射角は、6度の入射角を有した。
【0097】
二段階:MgF2膜は、250℃の処理温度、前駆体ガス112としてのビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウム、酸素含有ガス122としてのH2O、供給源ガス132としてのHhfac、および酸素含有ガス142としてのO3を用いた方法100を使用して堆積させた。一段階:MgF2膜は、150℃の処理温度および供給源ガスとしてのHFを用いた、Hennessy等に記載された方法を使用して堆積させた。
【0098】
図5Aのグラフ500に示されるように、二段階:MgF
2膜は、200ナノメートルと300ナノメートルとの間の波長について、すぐ分かるほどより低い光吸収を有する。例えば、二段階:MgF
2膜は、約210ナノメートルほど小さい波長について、1%未満の光吸収を示した。一段階:MgF
2膜は、約254ナノメートルの波長で1%未満の光吸収を達成した。したがって、グラフ500は、二段階:MgF
2膜が、一段階:MgF
2膜と比べて、DUVおよび/または広帯域光波長範囲においてより小さい光吸収を有することを示す。これは、二段階膜組成におけるより少ない炭素の結果(
図7Aおよび7B参照)であると考えられる。
【0099】
それに関連して、
図5Bのグラフ520に示されるように、二段階:MgF
2膜は、200ナノメートルと250ナノメートルとの間の波長について、すぐ分かるほどより高い光透過率を有する。例えば、二段階:MgF
2膜は、約210ナノメートルほど小さい波長について、94%超の光透過率を示した。一段階:MgF
2膜は、約255ナノメートルの波長で94%超の光透過率を達成した。したがって、グラフ520は、二段階:MgF
2膜が、一段階:MgF
2膜と比べて、DUVおよび/または広帯域光スペクトルにおける短波長でより大きい光透過率を達成できることを示す。これは、二段階膜組成におけるより少ない炭素の結果(
図7Aおよび7B参照)であると考えられる。
【0100】
図5Cのグラフ540に示されるように、二段階:MgF
2膜は、250ナノメートル未満の波長について、すぐ分かるより低い光反射率も有する。例えば、二段階:MgF
2膜は、200ナノメートルから250ナノメートルの範囲の波長について、約4%の光反射率を示した。一段階:MgF
2膜は、約240ナノメートルの波長で、4%未満の光反射率を達成した。したがって、グラフ540は、二段階:MgF
2膜が、一段階:MgF
2膜と比べて、DUVおよび/または広帯域光スペクトルにおける短波長でより低い光反射率を達成できることを示す。重ねて、これは、二段階膜組成におけるより少ない炭素の結果(
図7Aおよび7B参照)であると考えられる。
【0101】
グラフ500、520、および540で明らかなように、二段階:MgF2膜は、全DUV光スペクトル(すなわち、193nmから266nmの範囲内の波長)に亘り、一段階:MgF2膜より優れたか、または少なくともそれに匹敵する、光学的性質を達成した。しかしながら、二段階:MgF2膜は、HFを使用せずに堆積された。HFは比較的危険な材料であるので、HFを必要としない堆積方法が有益であろう。
【0102】
図6のグラフは、入射角の波長の関数としての、本発明の実施の形態にしたがって堆積されたフッ化マグネシウム膜(「二段階:MgF
2」と称される)および一段階ALD過程にしたがって堆積されたフッ化マグネシウム膜(「HF
MgF
2」と称される)に関する屈折率の比較を示す。グラフ600に示されるように、二段階:MgF
2膜は、より低い屈折率を有した。このより低い屈折率は、二段階:MgF
2膜中のより少ない量の炭素により生じると考えられる。
【0103】
本発明の実施の形態にしたがって堆積されたフッ化マグネシウム膜と、一段階ALD過程を使用して堆積された膜との間の組成の差異を分析するために、二次イオン質量分析法(SIMS)を使用した。
図7Aは、一段階:MgF
2膜に関するSIMS結果のグラフ700を示す。
図7Bは、二段階:MgF
2膜に関するSIMS結果のグラフ750を示す。
【0104】
グラフ700における一段階ALD膜に関する平均正規化炭素イオン強度および平均正規化酸素イオン強度は、それぞれ、約1.66原子%および約0.0041原子%である。対照的に、グラフ750における二段階MgF2膜に関する平均正規化炭素イオン強度および平均正規化酸素イオン強度は、それぞれ、約1原子%および約0.019原子%である。したがって、二段階MgF2膜は、約40%少ない炭素イオンおよび著しく多い酸素イオンを含有した。例えば、0.02マイクロメートルの近似深さでは、二段階MgF2膜は、約1原子%の炭素含有量を有し、一段階ALD膜は、約1.66原子%の炭素含有量を有した。先に述べたように、二段階MgF2膜中の炭素のより少ない量は、DUVおよび/または広帯域光スペクトルにおける光学用途に使用するための膜の光学的性質を改善する。
【0105】
いくつかの実施の形態において、所望の性質を有する光学膜を製造するために、フッ化マグネシウム膜210に他の光学層が層状に重ねられることがある。
図8は、いくつかの実施の形態による、光学レンズ800の表面804を覆って配置された光学膜802を示す。いくつかの実施の形態において、光学膜802は表面804上に配置されることがある。表面804は、光学レンズの第一面(例えば、第一面202)または光学レンズの第二面(例えば、第二面204)であることがある。いくつかの実施の形態において、光学膜802は、光学レンズの互いに反対側(例えば、第一面202および第二面204)上に、またはそれを覆って配置されることがある。
【0106】
光学膜802は、屈折率層810および屈折率層820を含む。屈折率層820は、屈折率層810を覆って配置されており、少なくとも1つのフッ化マグネシウム膜210を含む。いくつかの実施の形態において、光学膜802は、複数の屈折率層810および/または複数の屈折率層820を含むことがある。いくつかの実施の形態において、光学膜802は、複数の屈折率層810および/または複数のフッ化マグネシウム膜210を含むことがある。いくつかの実施の形態において、光学膜802は、交互に配列された複数の屈折率層810および複数のフッ化マグネシウム膜210を含むことがある。
【0107】
いくつかの実施の形態において、屈折率層820は、少なくとも1つの低屈折率層822を含むことがある。低屈折率層822は、使用中にレンズ800を取り囲む雰囲気に触れる光学膜802の最外層であることがある。
【0108】
屈折率層810および/または低屈折率層822の屈折率は、光学レンズ800から反射する光の量を最小にするのに役立つことがある。典型的にシリカから製造される、光学レンズは、一般に、550ナノメートルの波長を有する光について、約1.5の屈折率を有する。一般に、望ましい反射防止特性を提供するために、反射防止コーティングは、550ナノメートルの波長を有する光について、約1.2の屈折率を有するように設計されている。しかしながら、本出願の実施の形態によるフッ化マグネシウム膜は、550ナノメートルの波長を有する光について、1.42から1.38の屈折率を有することがある。
【0109】
比較的高い屈折率を有する屈折率層810を使用すると、レンズ800の同等の屈折率が高まる。このことは、約1.2を上回る比較的高い屈折率を有するフッ化マグネシウム膜の使用の助けになる。低屈折率層822は、雰囲気と、約1.2を上回る比較的高い屈折率を有するフッ化マグネシウム膜との間の屈折率の不一致を減少させる。このことは、光が光学膜802に入るときの光の反射を防ぐのに役立つ。
【0110】
屈折率層810は、550ナノメートルの波長を有する光について、第1の屈折率を有し、屈折率層820は、550ナノメートルの波長を有する光について、第1の屈折率より小さい第2の屈折率を有する。いくつかの実施の形態において、第1の屈折率は1.6以上であることがある。例えば、いくつかの実施の形態において、第1の屈折率は、1.6から2.0の範囲にあることがある。いくつかの実施の形態において、第2の屈折率は、1.38以下であることがある。例えば、いくつかの実施の形態において、第2の屈折率は、1.2から1.38の範囲にあることがある。フッ化マグネシウム膜210および低屈折率層822を含む屈折率層820について、屈折率層820の屈折率は、フッ化マグネシウム膜210の屈折率と低屈折率層822の屈折率の平均である。
【0111】
屈折率層810は、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、フッ化ガドリニウム、フッ化ランタン、またはその組合せの群から選択される材料を含むことがある。いくつかの実施の形態において、屈折率層810は、表面804上に配置されることがある。いくつかの実施の形態において、屈折率層810は、これらの材料の内の1つ以上から実質的になることがある。いくつかの実施の形態において、屈折率層810は、これらの材料の内の1つ以上からなることがある。いくつかの実施の形態において、屈折率層810は、部分的範囲を含む、25ナノメートルから100ナノメートルの範囲の厚さを有することがある。例えば、屈折率層810は、25ナノメートル、30ナノメートル、35ナノメートル、40ナノメートル、45ナノメートル、50ナノメートル、55ナノメートル、60ナノメートル、65ナノメートル、70ナノメートル、75ナノメートル、80ナノメートル、85ナノメートル、90ナノメートル、95ナノメートル、100ナノメートルの厚さ、またはこれらの値のいずれか2つを端点として有する範囲内の値を有する厚さを有することがある。
【0112】
低屈折率層822は、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、またはフッ化リチウム、もしくはその組合せの群から選択される材料を含むことがある。いくつかの実施の形態において、低屈折率層822は、これらの材料の内の1つ以上から実質的になることがある。いくつかの実施の形態において、低屈折率層822は、これらの材料の内の1つ以上からなることがある。いくつかの実施の形態において、低屈折率層822は、部分的範囲を含む、25ナノメートルから100ナノメートルの範囲の厚さを有することがある。例えば、低屈折率層822は、25ナノメートル、30ナノメートル、35ナノメートル、40ナノメートル、45ナノメートル、50ナノメートル、55ナノメートル、60ナノメートル、65ナノメートル、70ナノメートル、75ナノメートル、80ナノメートル、85ナノメートル、90ナノメートル、95ナノメートル、100ナノメートルの厚さ、またはこれらの値のいずれか2つを端点として有する範囲内の値を有する厚さを有することがある。
【0113】
望ましい光学的性質は、1つ以上のフッ化マグネシウム膜210および1つ以上の屈折率層810を層状に重ねることによって、達成することができる。
図9Aのグラフ900は、226ナノメートルの波長を有する光について、入射角の関数としての、(i)いくつかの実施の形態による、屈折率層810およびフッ化マグネシウム膜210を含む二層光学膜802、および(ii)2つのフッ化マグネシウム膜210および2つの屈折率層810を含む四層光学膜802のモデル化光反射率を示す。
図9Bのグラフ950は、垂直入射角(すなわち、ゼロと等しい入射角)を有する光について、波長の関数としての同じ2つの例示の光学膜のモデル化光反射率を示す。
【0114】
二層光学膜802および四層光学膜802の両方とも、光学レンズ上に被覆されたものとしてモデル化した。二層光学膜802は、(i)レンズ上に被覆された49ナノメートル厚の酸化アルミニウム層、および(ii)この酸化アルミニウム層上に被覆された42ナノメートル厚のフッ化マグネシウム膜を含んだ。四層光学膜802は、(i)レンズ上に被覆された70ナノメートル厚の酸化アルミニウム層、(ii)70ナノメートル厚の酸化アルミニウム層上に被覆された82ナノメートル厚のフッ化マグネシウム膜、(iii)82ナノメートル厚のフッ化マグネシウム膜上に被覆された34ナノメートル厚の酸化アルミニウム層、および(iv)34ナノメートル厚の酸化アルミニウム層上に被覆された50ナノメートル厚のフッ化マグネシウム膜を含んだ。
【0115】
グラフ900に示されるように、二層と四層光学膜802の両方とも、25度以下の入射角について、0.2%未満の光反射率を有した。25度より大きい入射角では、四層光学膜802のほうが小さい光反射率を有した。しかし、両方の光学膜802とも、50度以下の入射角について、2%以下の光反射率を有した。グラフ950に示されるように、二層光学膜802は、一般に、より小さい波長で、より小さい光反射率を有し、四層光学膜802は、一般に、より大きい波長で、より小さい光反射率を有した。しかし、両方の光学膜802とも、230度と330度の間の波長について、2%以下の光反射率を有した。
【0116】
様々な実施の形態をここに記載してきたが、それらは、限定としてではなく、例として提示されている。ここに提示された教示および指針に基づいて、適用および改変が、開示された実施の形態の等価物の範囲と意味に含まれる意図があるのが明白であろう。したがって、本開示の精神および範囲から逸脱せずに、ここに開示された実施の形態に、形態と詳細の様々な変更を行えることが当業者に明白であろう。ここに提示された実施の形態の要素は、必ずしも、相互排他的ではなく、当業者に認識されるであろうように、様々な状況に応じて交換可能である。
【0117】
本開示の実施の形態は、同一または機能的に類似の要素を示すために、同様の参照番号が使用されている、添付図面に示されたように、その実施の形態を参照して、ここに詳しく記載されている。「1つの実施の形態」、「ある実施の形態」、「いくつかの実施の形態」、「特定の実施の形態」などへの言及は、記載された実施の形態が、特定の特性、構造、または特徴を含むことがあるが、全ての実施の形態が、必ずしも、その測定の特性、構造、または特徴を含まなくてもよいことを示す。さらに、そのような句は、必ずしも、同じ実施の形態を称しているわけではない。さらに、特定の特性、構造、または特徴が、ある実施の形態に関して記載されている場合、明白に記載されていようとなかろうと、他の実施の形態に関するそのような特性、構造、または特徴に影響があることが、当業者の知識に含まれると考えられる。
【0118】
実施例は、本開示の説明に役立つものであり、限定するものではない。当該技術分野で通常遭遇し、当業者に明白であろう、様々な条件およびパラメータの他の適切な改変および適用は、本開示の精神および範囲に含まれる。
【0119】
ここに用いられている、「または」という用語は、包括的である;より詳しくは、「AまたはB」という句は、「A、B、またはAとBの両方」を意味する。排他的な「または」は、例えば、「AまたはBのいずれか」および「AまたはBの一方」などの用語によりここに指定される。
【0120】
要素または構成部材を記載するための不定冠詞「a」および「an」は、これらの要素または構成部材の内の1つまたは少なくとも1つが存在することを意味する。これらの冠詞は、従来、修飾された名詞が単数名詞であることを示すために使用されるが、ここに用いられているように、冠詞「a」および「an」は、特定の例においてそうではないと述べられていない限り、複数も含む。同様に、ここに用いられている定冠詞「the」も、重ねて、特定の例においてそうではないと述べられていない限り、修飾された名詞が単数または複数であってよいことを示す。
【0121】
請求項に使用されるように、「含む」は、制約のない移行句である。移行句「含む」の後に続く要素のリストは、非排他的なリストであり、よって、そのリストに具体的に列挙されたものに加えた要素も、存在してよい。請求項に使用されるように、「から実質的になる」、または「から実質的に構成される」は、材料の組成を、特定の材料、およびその材料の基本的特徴と新規の特徴に実質的に影響を与えないものに限定する。請求項に使用されるように、「からなる」または「から完全に構成される」は、材料の組成を特定の材料に限定し、指定されいいないどの材料も排除する。
【0122】
「ここで」という用語は、構造の一連の特徴の記述を導入するために、制約のない移行句として使用される。
【0123】
上限と下限を含む、数値の範囲がここに挙げられている場合、具体的な状況において他に述べられていなければ、その範囲は、その端点、並びにその範囲内の全ての整数と分数を含むことが意図される。請求項の権利範囲は、範囲を定義するときに、列挙された特定値に限定されることは意図されていない。さらに、範囲、1つ以上の好ましい範囲、または好ましい上限値および好ましい下限値のリストとして、量、濃度、もしくは他の値またはパラメータが与えられている場合、これは、任意の上限範囲または好ましい値と、任意の下限範囲または好ましい値との任意の対から形成される全ての範囲を、そのような対が別々に開示されているか否かにかかわらず、具体的に開示していると理解すべきである。最後に、値または範囲の端点を記載する上で、「約」という用語が使用されている場合、その開示は、言及されている特定の値または端点を含むと理解すべきである。数値または範囲の端点に「約」が付いていようとなかろうと、その数値または範囲の端点は、「約」で修飾されたもの、および「約」で修飾されていないものの2つの実施の形態を含むことが意図されている。
【0124】
ここに用いられているように、「約」という用語は、量、サイズ、配合、パラメータ、および他の数量と特徴が、正確ではなく、正確ある必要はなく、公差、変換係数、丸め、測定誤差など、および当業者に公知の他の要因を反映して、必要に応じて、近似である、および/またはそれより大きいかまたは小さいことがあることを意味する。
【0125】
ここに用いられている「実質的」、「実質的に」という用語、およびその変形は、記載された特徴が、ある値またはその記載と等しいまたはほぼ等しいことを示す意図がある。例えば、「実質的に平らな」表面は、平らなまたはほぼ平らな表面を示す意図がある。さらに、「実質的に」は、2つの値が等しいかまたはほぼ等しいことを示す意図がある。いくつかの実施の形態において、「実質的に」は、互いの約5%以内、または互いの約2%以内など、互いの約10%以内の値を示すことがある。
【0126】
本発明の実施の形態は、特定の機能およびその関係の実施を示す機能的な構成要素を用いて、先に記載されてきた。これらの機能的な構成要素の境界は、説明の便宜上、ここに任意に定義されてきた。特定の機能およびその関係が適切にはたされる限り、代わりの境界を定義することができる。
【0127】
ここに用いられている表現または専門用語は、限定のためではなく、説明の目的のためであることを理解すべきである。本開示の広がりと範囲は、先に記載された例示の実施の形態のいずれによっても限定されるべきではなく、以下の特許請求の範囲およびその等価物にしたがって定義されるべきである。
【0128】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0129】
実施形態1
光学レンズをフッ化マグネシウム層で被覆するための原子層堆積方法であって、
(i)マグネシウムを含む前駆体ガスに光学レンズを曝し、それによって、前記レンズの表面を覆ってマグネシウム含有前駆体層を形成する工程、
(ii)前記マグネシウム含有前駆体層を第1の酸素含有ガスに曝し、それによって、酸化マグネシウム層を形成する工程、
(iii)フッ素を含む供給源ガスに前記酸化マグネシウム層を曝し、それによって、マグネシウムとフッ素を含む中間体層を形成する工程、および
(iv)前記中間体層を第2の酸素含有ガスに曝し、それによって、フッ化マグネシウム層を形成する工程、
を有してなる方法。
【0130】
実施形態2
前記マグネシウム含有前駆体層を第1の酸素含有ガスに曝す工程が、100℃から300℃の範囲の温度で行われる、実施形態1に記載の方法。
【0131】
実施形態3
前記マグネシウム含有前駆体層を第1の酸素含有ガスに曝す工程が、240℃から260℃の範囲の温度で行われる、実施形態1または2に記載の方法。
【0132】
実施形態4
前記第1の酸素含有ガスが、水、オゾン、過酸化水素、メタノール、エタノール、酸素によるプラズマ、および酸素含有化学物質によるプラズマからなる群より選択されるガスを含む、実施形態1から3のいずれか1つに記載の方法。
【0133】
実施形態5
前記第1の酸素含有ガスがH2Oを含む、実施形態1から4のいずれか1つに記載の方法。
【0134】
実施形態6
前記第1の酸素含有ガスがH2Oを含み、前記マグネシウム含有前駆体層が、240℃から260℃の範囲の温度でH2Oに曝される、実施形態1から5のいずれか1つに記載の方法。
【0135】
実施形態7
前記フッ素を含む供給源ガスが有機供給源ガスである、実施形態1から6のいずれか1つに記載の方法。
【0136】
実施形態8
前記有機供給源ガスが、ヘキサフルオロアセチルアセトン、フッ化カルボニル、フッ化塩素、三フッ化塩素、1-クロロ-2,2-ジフルオロエテン、クロロジフルオロメタン、1-クロロ-1-フルオロエタン、クロロペンタフルオロベンゼン、クロロペンタフルオロエタン、クロロトリフルオロエテン、クロロトリフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン、ジフルオロエタン、ジフルオロメタン、フルオロプロパン、三フッ化窒素、ペンタフルオロベンゼン、ペンタフルオロエタン、ペンタフルオロフェノール、ペンタフルオロトルエン、ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロシクロヘキセン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロメチルシクロヘキサン、ペルフルオロトルエン、1,1,1,2-テトラクロロ-2,2-ジフルオロエタン、トリクロロフルオロメタン、トリフルオロ酢酸、トリフルオロエタン、およびトリフルオロエタノールからなる群より選択される、実施形態7に記載の方法。
【0137】
実施形態9
前記マグネシウムを含む前駆体ガスが、ビス(エチルシクロペンタジエニル)マグネシウム、ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム(II)、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-3,5-ヘプタンジオナト)マグネシウム、ビス(N,N’-ジ-sec-ブチルアセトアミジナト)マグネシウム、およびビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)マグネシウムからなる群より選択される、実施形態1から8のいずれか1つに記載の方法。
【0138】
実施形態10
工程(i)~(iv)を複数サイクル繰り返して、複数のフッ化マグネシウム層を含むフッ化マグネシウム膜を形成する工程をさらに含む、実施形態1から9のいずれか1つに記載の方法。
【0139】
実施形態11
前記フッ化マグネシウム膜が、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さを有する、実施形態10に記載の方法。
【0140】
実施形態12
前記フッ化マグネシウム膜が、266ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、1%以下の光吸収値を有する、実施形態11に記載の方法。
【0141】
実施形態13
前記フッ化マグネシウム膜が、266ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、94%以上の光透過率値を有する、実施形態11または12に記載の方法。
【0142】
実施形態14
前記フッ化マグネシウム膜が、1.5ナノメートル以下の表面粗さ(Ra)を有する、実施形態11から13のいずれか1つに記載の方法。
【0143】
実施形態15
前記フッ化マグネシウム膜が、266ナノメートルの波長を有する光について、1.42以下の屈折率を有する、実施形態11から14のいずれか1つに記載の方法。
【0144】
実施形態16
前記フッ化マグネシウム膜が、二次イオン質量分析法を使用して測定して、0.02マイクロメートルの深さで1.2原子%以下の炭素含有量を有する、実施形態11から15のいずれか1つに記載の方法。
【0145】
実施形態17
前記レンズの表面が、周辺エッジを境界とする表面を含み、前記フッ化マグネシウム膜が、該周辺エッジを境界とする全表面を覆う、実施形態11から16のいずれか1つに記載の方法。
【0146】
実施形態18
前記フッ化マグネシウム膜の厚さの変動が10%以下である、実施形態17に記載の方法。
【0147】
実施形態19
前記フッ化マグネシウム膜の厚さの変動が5%以下である、実施形態17に記載の方法。
【0148】
実施形態20
前記レンズが、前記原子層堆積方法の最中に実質的に静止状態に保持される、実施形態1から19のいずれか1つに記載の方法。
【0149】
実施形態21
工程(iii)が遠隔プラズマ過程を含む、実施形態1から20のいずれか1つに記載の方法。
【0150】
実施形態22
実施形態1から21のいずれか1つに記載の方法にしたがって堆積されたフッ化マグネシウム層で被覆された表面を有する光学レンズ。
【0151】
実施形態23
光学レンズにおいて、
前記光学レンズの表面を覆って被覆され、
25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ、
220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、1%以下の光吸収値、および
5%以下の厚さ変動、
を有するフッ化マグネシウム膜、
を備えた光学レンズ。
【0152】
実施形態24
前記フッ化マグネシウム膜が、220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、94%以上の光透過率値を有する、実施形態23に記載の光学レンズ。
【0153】
実施形態25
前記レンズの表面が、周辺エッジを境界とする表面を含み、前記フッ化マグネシウム膜が、該周辺エッジを境界とする全表面を覆う、実施形態23または24に記載の光学レンズ。
【0154】
実施形態26
前記フッ化マグネシウム膜と前記光学レンズの表面との間に配置された酸化アルミニウム層をさらに含む、実施形態23から25のいずれか1つに記載の光学レンズ。
【0155】
実施形態27
実施形態23から26のいずれか1つに記載の光学レンズを備えた半導体ウェハー検査具。
【0156】
実施形態28
光学素子において、
0.5から1.0の範囲の峻度値を有する第一面および該第一面と反対にある第二面を有する光学的に透明なレンズであって、該峻度値が、該光学的に透明なレンズの有効開口で割った該第一面の曲率半径と等しい、光学的に透明なレンズ、および
前記第一面および前記第二面を覆って配置された光学膜であって、
550ナノメートルの波長を有する光について、第1の屈折率を有する第1の屈折率層と、
前記第1の屈折率層を覆って配置され、フッ化マグネシウム膜および低屈折率層を含む第2の屈折率層であって、該第2の屈折率層は、550ナノメートルの波長を有する光について、第2の屈折率を有し、該第2の屈折率は前記第1の屈折率よりも小さい、第2の屈折率層と、
を含む光学膜、
を備えた光学素子。
【0157】
実施形態29
前記第1の屈折率層が、酸化アルミニウム、酸化ハフニウム、フッ化ガドリニウム、およびフッ化ランタンからなる群より選択される材料から作られる、実施形態28に記載の光学素子。
【0158】
実施形態30
前記光学膜が、前記第一面および前記第二面の上に配置されている、実施形態28または29に記載の光学素子。
【0159】
実施形態31
前記フッ化マグネシウム膜が、25ナノメートルから75ナノメートルの範囲の厚さ、220ナノメートルの波長と6度の入射角を有する光について、1%以下の光吸収値、および10%以下の厚さ変動を有する、実施形態28から30のいずれか1つに記載の光学素子。
【0160】
実施形態32
前記フッ化マグネシウム膜が、220ナノメートルの波長および6度の入射角を有する光について、94%以上の光透過率値を有する、実施形態28から31のいずれか1つに記載の光学素子。
【0161】
実施形態33
前記第1の屈折率が1.6以上であり、前記第2の屈折率が1.38以下である、実施形態28から32のいずれか1つに記載の光学素子。
【0162】
実施形態34
実施形態28から33のいずれか1つに記載の光学素子を備えた半導体ウェハー検査具。
【符号の説明】
【0163】
100 方法
102 基体
104 表面
112 マグネシウムを含む前駆体ガス
114 マグネシウム含有前駆体層
122、142 酸素含有ガス
124 酸化マグネシウム層
132 フッ素を含む供給源ガス
134 中間体層
144 フッ化マグネシウム層
200、800 光学レンズ
202 光学レンズの第一面
204 光学レンズの第二面
206 周辺エッジ
210 フッ化マグネシウム膜
212 フッ化マグネシウム膜の第一面
214 フッ化マグネシウム膜の第二面
220 入射光
300 半導体検査具
310 光学素子
802 光学膜
810、820 屈折率層
822 低屈折率層
【国際調査報告】