(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-04
(54)【発明の名称】酸化耐性セルピン
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20220927BHJP
C12N 15/81 20060101ALI20220927BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20220927BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20220927BHJP
A61K 38/55 20060101ALI20220927BHJP
A61P 17/18 20060101ALI20220927BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220927BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220927BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220927BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220927BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220927BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220927BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220927BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20220927BHJP
C12N 1/19 20060101ALN20220927BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/81 Z
C07K14/435
C12P21/02 Z
A61K38/55
A61P17/18
A61P43/00 111
A61P31/00
A61P37/06
A61P11/00
A61P3/00
A61P25/28
A61P35/00
A61K47/20
C12N1/19
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506682
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(85)【翻訳文提出日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 US2020044604
(87)【国際公開番号】W WO2021022212
(87)【国際公開日】2021-02-04
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522042681
【氏名又は名称】サープラス テクノロジー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペンバートン フィリップ エー.
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG23
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA79X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C076BB11
4C076BB16
4C076BB21
4C076CC50
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4C076FF63
4C084AA01
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4C084ZA151
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4C084ZB081
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4C084ZC202
4C084ZC211
4C084ZC801
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA56
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、好中球又は膵臓エラスターゼ阻害活性を有するセルピンB1ポリペプチドを提供し、エラスターゼ阻害活性はフリーラジカルによる酸化に対する耐性を示す。フリーラジカルは、活性酸素種若しくは活性窒素種又は両方であり得る。幾つかの実施形態において、セルピンB1ポリペプチドは、配列番号1と比較して残基344でのアミノ酸置換を含む。本明細書において開示されるセルピンB1ポリペプチドは、正常な個体と比較したフリーラジカル生成の増加又は環境源におけるフリーラジカルへの曝露の増加に関連する疾患又は遺伝子疾患を有する患者を処置するために使用され得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルピンB1バリアントポリペプチドであって、配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含み、好中球又は膵臓エラスターゼ阻害活性を有し、前記好中球又は膵臓エラスターゼ阻害活性が、フリーラジカルによる酸化に対する耐性を示す、セルピンB1バリアントポリペプチド。
【請求項2】
前記フリーラジカルが、活性酸素種、活性窒素種、又は両方である、請求項1に記載のセルピンB1バリアントポリペプチド。
【請求項3】
前記セルピンバリアントポリペプチドが、配列番号1の配列と比較して、C344A、C344V、及びC344Gからなる群から選択されるアミノ酸置換を含む、請求項1に記載のセルピンB1バリアントポリペプチド。
【請求項4】
前記セルピンB1バリアントポリペプチドが、IgGのFc部分、抗体の一本鎖可変断片(scFv)に融合されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のセルピンB1バリアントポリペプチド。
【請求項5】
前記セルピンB1バリアントポリペプチドがペグ化されている、請求項1~4のいずれか1項に記載のセルピンB1バリアントポリペプチド。
【請求項6】
請求項1に記載のセルピンB1バリアントポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のセルピンバリアントポリペプチドと薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項8】
医薬組成物であって、配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含むセルピンB1ポリペプチドと、システイン344の酸化を防止する還元剤とを含み、ここで、前記ポリペプチドは、好中球又は膵臓エラスターゼを阻害することができる、医薬組成物。
【請求項9】
前記還元剤がN-アセチルシステイン(NAC)である、請求項7~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
正常な個体と比較したフリーラジカル生成の増加又は環境におけるフリーラジカルへの曝露の増加に関連する疾患を有する患者を処置する方法であって、
セルピンB1バリアントポリペプチドを投与することを含み、前記セルピンB1バリアントポリペプチドが配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含み、前記セルピンバリアントポリペプチドが、配列番号1の天然タンパク質配列と比較して残基344でのアミノ酸置換を含み、
前記セルピンB1バリアントポリペプチドが、好中球又は膵臓エラスターゼのセリンプロテアーゼ活性を阻害することができ、
前記セルピンB1バリアントポリペプチドがフリーラジカルによる酸化に対する耐性を示す、方法。
【請求項11】
前記フリーラジカルが、活性酸素種、活性窒素種、又は両方である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記セルピンバリアントポリペプチドが、配列番号2~4からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
正常な個体と比較したフリーラジカル生成の増加又は環境源におけるフリーラジカルへの曝露の増加に関連する疾患又は遺伝子疾患を有する患者を処置する方法であって、請求項7~9のいずれか1項に記載の医薬組成物を投与することを含む、方法。
【請求項14】
正常な個体と比較したフリーラジカル生成の増加又は環境におけるフリーラジカルへの曝露の増加に関連する疾患を有する患者を処置する方法であって、
有効量のセルピンB1ポリペプチド及び還元剤を投与することを含み、前記セルピンB1ポリペプチドが、配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含み、前記セルピンB1ポリペプチドが、好中球又は膵臓エラスターゼのセリンプロテアーゼ活性を阻害することができ、
前記還元剤が、前記セルピンB1ポリペプチドのC344の酸化を防止するのに十分な量で存在する、方法。
【請求項15】
前記疾患又は遺伝子疾患が、タバコの煙中に存在するフリーラジカルへの曝露、又は正常な個体と比較した自然免疫細胞、粘膜細胞、若しくは腺細胞に存在する酵素によるフリーラジカル生成の増加に関連する、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記疾患が、感染性疾患、自己免疫疾患、呼吸器疾患、代謝疾患、心血管疾患、神経変性疾患、及び腫瘍疾患からなる群から選択される、請求項10~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記酸化耐性セリンプロテアーゼインヒビターが、吸入により、気管内に、局所的に、又は注射により皮下に、静脈内に、若しくは腹腔内に投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記セルピンB1バリアントポリペプチドが、0.01mg/kg~1000mg/kgの用量で投与される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
天然のセルピンB1又はそのバリアントポリペプチドを産生させる方法であって、
サッカロミセス・セレビシエにおいて天然のセルピンB1又はセルピンB1バリアントポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現させることを含み、
前記セルピンB1バリアントポリペプチドが配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含み、前記セルピンバリアントポリペプチドが、配列番号1の天然タンパク質配列と比較して残基344でのアミノ酸置換を含み、
前記セルピンB1バリアントポリペプチドが、好中球又は膵臓エラスターゼのセリンプロテアーゼ活性を阻害することができ、
前記セルピンB1バリアントポリペプチドがフリーラジカルによる酸化に対する耐性を示す、方法。
【請求項20】
前記サッカロミセス・セレビシエがプロテアーゼを欠損している、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記ポリヌクレオチドを発現させる方法が、酵母エピソーム発現プラスミド(YEp)をサッカロミセス・セレビシエに導入することによるものである、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリヌクレオチドが酵母プロモーターに連結されている、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記酵母プロモーターがADH2プロモーターである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ポリヌクレオチドが酵母にて発現されるようにコドン最適化されている、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記セルピンB1バリアントポリペプチドが、IgGのFc部分、抗体の一本鎖可変断片(scFv)に融合されているか、又は前記セルピンB1バリアントポリペプチドがペグ化されている、請求項19~24のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年8月1日付で出願された米国仮特許出願第62/881,858号の利益及び優先権を主張する。この仮特許出願の内容全体は、引用することによって全ての目的のために本明細書の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0002】
ヒトセルピンB1は、セリンプロテイナーゼインヒビター(セルピン)スーパーファミリーのメンバーであり、抗炎症特性を有する。抗炎症特性は、反応部位ループ(RSL)により炎症促進性好中球セリンプロテアーゼ(NSP)を阻害する能力、並びにRSLのC末端に位置するカスパーゼ動員ドメイン結合モチーフ(CBM)によりプロカスパーゼの自己会合及び自発的活性化を抑える能力に部分的に起因する(非特許文献1、非特許文献2)。ヒトセルピンB1は、2つの重複する反応部位:Phe-343及びCys-344での効率的な反応によりNSPであるカテプシンG及びエラスターゼを阻害することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Cooley, et al., 2001
【非特許文献2】Choi et al., 2019
【発明の概要】
【0004】
幾つかの態様では、本開示は、配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含むセルピンB1バリアントポリペプチドを提供し、セルピンB1バリアントポリペプチドは、好中球又は膵臓エラスターゼ阻害活性を有し、セルピンB1バリアントポリペプチドのエラスターゼ阻害活性は、フリーラジカルによる酸化に対する耐性を示す。フリーラジカルは、活性酸素種若しくは活性窒素種又は両方であり得る。幾つかの実施の形態において、セルピンB1バリアントポリペプチドは、配列番号1と比較して残基344でのアミノ酸置換を含む。幾つかの実施の形態において、アミノ酸置換は、C344A、C344V、及びC344Gからなる群から選択される。
【0005】
幾つかの実施の形態において、本明細書に開示されるセルピンB1バリアントポリペプチドは、IgGのFc部分、抗体の一本鎖可変断片(scFv)に融合されている。幾つかの実施の形態において、セルピンB1バリアントポリペプチドは、ペグ化されている。
【0006】
また本明細書において、本開示において開示されるセルピンB1バリアントポリペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドも提供される。
【0007】
また本明細書において、本出願において開示されるセルピンB1ポリペプチドのいずれかと薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物も提供される。幾つかの実施の形態において、医薬組成物は、配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含むセルピンB1ポリペプチドと、システイン344の酸化を防止する還元剤とを含み、ここで、該ポリペプチドは、好中球又は膵臓エラスターゼを阻害することができる。幾つかの実施の形態において、還元剤は、N-アセチルシステイン(NAC)である。
【0008】
また本明細書において、正常な個体と比較したフリーラジカル生成の増加又は環境源におけるフリーラジカルへの曝露の増加に関連する疾患を有する患者を処置する方法も提供される。方法は、セルピンB1バリアントポリペプチドを投与することを含み、セルピンB1バリアントポリペプチドが配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含み、セルピンバリアントポリペプチドが、配列番号1の天然タンパク質配列と比較して残基344でのアミノ酸置換を含み、上記セルピンB1バリアントポリペプチドが、好中球又は膵臓エラスターゼのセリンプロテアーゼ活性を阻害することができ、フリーラジカルによる酸化に対する耐性を示す。幾つかの実施の形態において、フリーラジカルは、活性酸素種、活性窒素種、又は両方である。幾つかの実施の形態において、セルピンバリアントポリペプチドは、配列番号2~4からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0009】
また本明細書において、正常な個体と比較したフリーラジカル生成の増加又は環境源におけるフリーラジカルへの曝露の増加に関連する疾患又は遺伝子疾患を有する患者を処置する方法であって、本明細書において開示されるセルピンB1バリアントポリペプチドを含む医薬組成物を投与することを含む、方法も提供される。また、正常な個体と比較したフリーラジカル生成の増加又は環境源におけるフリーラジカルへの曝露の増加に関連する疾患又は遺伝子疾患を有する患者を処置する方法であって、野生型セルピンB1(配列番号1)である配列又は野生型セルピンB1ポリペプチド(配列番号1)と少なくとも90%同一な配列を含むセルピンB1ポリペプチド、及び本明細書において開示される還元剤の医薬組成物を投与することを含む、方法も提供される。
【0010】
幾つかの実施の形態において、疾患又は遺伝子疾患は、環境中に存在するフリーラジカル(例えば、タバコの煙、電子タバコ装置からの放出物)への曝露、又は正常な個体と比較した自然免疫細胞、粘膜細胞、若しくは腺細胞に存在する酵素によるフリーラジカル生成の増加に関連する。幾つかの実施の形態において、疾患は、感染性疾患、自己免疫疾患、呼吸器疾患、代謝疾患、心血管疾患、神経変性疾患、又は腫瘍疾患の群から選択される。感染性疾患としては、限定されるものではないが、呼吸器合胞体ウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、エボラウイルス、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、及び他の日和見病原体により引き起こされる、肺疾患又は全身性疾患、例えば、急性肺損傷(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、肺炎、細気管支炎、全身性凝固障害、又は出血性疾患が挙げられるが、これらに限定されない。自己免疫疾患としては、1型糖尿病、関節リウマチ、乾癬、多発性硬化症、及び患者に突発性炎症を繰り返し起こさせる根底にある遺伝子変異(複数の場合もある)を有する無菌性自己炎症性疾患(SAID)が挙げられるが、これらに限定されない。呼吸器疾患としては、アレルギー性喘息、喫煙者肺気腫、COPD、及び特発性肺線維症(IPF)が挙げられるが、これらに限定されない。代謝疾患としては、2型糖尿病、インスリン抵抗性、脂質異常症、及び白内障発症が挙げられるが、これらに限定されない。心血管疾患としては、アテローム性動脈硬化症及び高血圧が挙げられるが、これらに限定されない。神経変性疾患としては、パーキンソン病及びアルツハイマー病が挙げられるが、これらに限定されない。腫瘍疾患としては、結腸直腸癌、膵臓癌、前立腺癌、乳癌、肺癌、及び膀胱癌が挙げられるが、これらに限定されない。
【0011】
本明細書において開示される酸化耐性セルピンB1バリアントポリペプチド又はその組成物は、吸入により、気管内に、局所的に、又は注射により皮下に、静脈内に、若しくは腹腔内に投与され得る。幾つかの実施の形態において、セルピンB1バリアントポリペプチド又は野生型セルピンB1(配列番号1)は、患者の体重1kg当たり0.01mg~1000mg(すなわち、0.01mg/kg~1000mg/kg)の用量で投与される。幾つかの実施の形態において、セルピンB1バリアントポリペプチド又は野生型セルピンB1が還元剤と組み合わせて投与され、ここで、還元剤は、野生型セルピンB1又はセルピンB1バリアントポリペプチドのC344の酸化を防止するのに十分な量で投与される。幾つかの実施の形態において、還元剤は、患者の体重の1キログラム当たり0.01mg~100mg(すなわち、0.01mg/kg~100mg/kg)の用量で投与される。
【0012】
また本明細書において、野生型セルピンB1又はそのバリアントポリペプチドを産生させる方法も提供され、サッカロミセス・セレビシエ(S. cerevisiae)において野生型セルピンB1又はそのバリアントポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現させることを含み、セルピンB1バリアントポリペプチドが配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含み、セルピンバリアントポリペプチドが、配列番号1の天然タンパク質配列と比較して残基344でのアミノ酸置換を含み、セルピンB1バリアントポリペプチドが、好中球又は膵臓エラスターゼのセリンプロテアーゼ活性を阻害することができ、セルピンB1バリアントポリペプチドがフリーラジカルによる酸化に対する耐性を示す。幾つかの実施の形態において、サッカロミセス・セレビシエは、プロテアーゼを欠損している。
【0013】
幾つかの実施の形態において、ポリヌクレオチドを発現させる方法は、酵母エピソーム発現プラスミド(Yep)をサッカロミセス・セレビシエに導入することによるものである。幾つかの実施の形態、実施の形態19の方法において、ポリヌクレオチドは、酵母プロモーターに連結されている。幾つかの実施の形態において、酵母プロモーターは、ADH2プロモーターである。幾つかの実施の形態において、ポリヌクレオチドは、酵母にて発現されるようにコドン最適化されている。
【0014】
幾つかの実施の形態において、セルピンB1バリアントポリペプチドは、IgGのFc部分、抗体の一本鎖可変断片(scFv)に融合されているか、又はセルピンB1バリアントポリペプチドは、ペグ化されている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A-1C】ヒドロキシアパタイト樹脂でのrhsB1の精製を示す図である。
図1A及び
図1Bは、rhsB1-cys344(野生型)(
図1A)及びrhsB1-ser344(バリアントC344S)(
図1B)のセラミックヒドロキシアパタイト樹脂での精製のクロマトグラフィー結果を示す。
図1Aは、樹脂から溶出させたrhsB1-cys344を含有する2つの主ピークを示すが、
図1Bは、樹脂から溶出させたC344Sバリアントを含有する1つの大きな主ピークのみを示す。これらのタンパク質ピークは、プールされ、濃縮され、4%~20%のSDS-PAGEにより解析された。(C)プールされ、濃縮され、2-メルカプトエタノールなし(「-2-ME」)(左)で、又は2-メルカプトエタノールあり(「+2-ME」)(右)で処理されたrhsB1ピーク試料の4%~20%のSDS-PAGE。-2-ME群及び+2-ME群の両方について、試料の順序は以下の通りである:1. 精製されたrhsB1-C344S;2. 精製されたrhsB1-cys344の第1ピーク(rhsB1M*);3. 精製されたrhsB1-cys344の第2ピーク(rhsB1D);4. PAGE-MASTER protein standard plusマーカー(Genscript社;10kDa、15kDa、20kDa、30kDa、40kDa、50kDa、60kDa、80kDa、及び120kDa)。結果は、rhsB1-cys344(野生型)の精製が2種のrhsB1をもたらすことを示す。
図1Aで溶出した第1の主ピークは、本発明者らがrhsB1M*と名付けた単量体形態のタンパク質を含有する。
図1Aで溶出した第2の主ピークは、2-MEの添加により単量体に還元され得る分子間ジスルフィド結合した二量体形態のタンパク質を含有する。本発明者らは、この形態のタンパク質をrhsB1Dと称した。対照的に、
図1Bにおいて観察されるC344Sバリアントの1つの大きな主ピークは、単量体のrhsB1のみを含有し、このことは、rhsB1 cys-344(野生型)で観察される分子間ジスルフィド結合形成がcys-344により媒介されることを確証する。
【
図2A-2D】N-クロロスクシンイミド(NCS)による酵母可溶化液中のrhsB1の酸化を示す図である。
図2Aは、異なる濃度のNCSで酸化されたrhsB1を含有する5μLの酵母可溶化液とのインキュベーション後のPPE活性の解析の結果を示す。データポイントは、三重反復での分析の平均±SEである。
図2Bは、1mMのNCSで酸化されたrhsB1を含有する酵母可溶化液の4%~20%のSDS-PAGEゲル及びウェスタンブロット分析の結果を示す;1. 処理されていない酵母可溶化液、2. 1mMのNCSで酸化された酵母可溶化液、3. Smart dual color pre-stained protein standard(Genscript社;16kDa、24kDa、30kDa、40kDa、62kDa、及び94kDa)。
図2Cは、1μL、3μL、又は5μLのrhsB1を含有する酸化された酵母可溶化液によるPPE阻害のアッセイ結果を示す。データポイントは、三重反復での分析の平均±SEMである。
図2Dは、1μL、3μL、又は5μLのrhsB1を含有する酸化された酵母可溶化液によるウシαキモトリプシン(BC)阻害の解析結果を示す。データポイントは、三重反復での分析の平均±SEである。
【
図3A-3B】PPEのrhsB1D及びrhsB1M*との相互作用を示す図である。
図3Aは、4%~20%のSDS-PAGEにより分離される、2-MEの非存在下での異なる量のPPEによるrhsB1D又はrhsB1M*の切断プロファイルを示す。より高分子量の酵素:インヒビター複合体は観察されなかった。PPEの濃度が増加するにつれて、漸増する量のより低分子量のrhsB1分解生成物のみが観察された。レーン1. PPEのみ;2. rhsB1Dのみ;3~5. 1:1000、1:100、及び1:10のPPE:rhsB1D比;6. rhsB1M*のみ;7~9. 1:1000、1:100、及び1:10のPPE:rhsB1M*比;M. マーカー。対照的に、
図3Bは、2-MEの存在下にてPPEで処理されたrhsB1Dの結果を示す。この例では、2-MEはrhsB1Dのジスルフィド結合を還元して、漸増する量のPPEを阻害することができ、ゲル(レーン3~5)上で確認できる安定したより高分子量の複合体を漸増する量のPPEと形成することができる活性な単量体のrhsB1(レーン2)を遊離させた。レーン1. マーカー;2. rhsB1D+2-MEのみ;3~5. 0.25、0.5、又は1.0モル比のPPEと共にインキュベートされたrhsB1D+2-ME;6. PPE+2-MEのみ。試料は30分間インキュベートされ、次いで、反応が停止され、「実験手順」に記載されたように解析された。
【
図4A-4B】rhsB1D及びrhsB1M*によるHNEの阻害に対する2-MEの影響を示す図である。
図4Aは、漸増する濃度の2-MEの存在下でのrhsB1DによるHNE阻害の解析結果を示す。2つの濃度のrhsB1D(230nM又は460nM)が、「実験手順」に記載されたように、HNEを阻害するそれらの能力について試験された。
図4Bは、漸増する濃度の2-MEの存在下でのrhsB1M*によるHNE阻害の解析結果を示す。2つの濃度のrhsB1M*(230nM又は460nM)が、「実験手順」に記載されたように、HNEを阻害するそれらの能力について試験された。これらの図は、2-MEによりrhsB1Dが、HNEのインヒビターとして活性である単量体に還元され得ることを確証し、PPEで得られた結果を確証及び拡張する。結果は、rhsB1Dのジスルフィド結合を完全に還元し、最大HNE阻害活性を復元するために、少なくとも40mMの2-ME濃度が必要とされることを示す。対照的に、rhsB1M*への漸増する量の2-MEの添加は、HNE阻害活性を復元しなかった。このことは、この単量体形態のrhsB1が、不可逆的に酸化された状態のシステイン-344を有することを確証する。
【
図5A-5D】rhsB1D及びrhsB1M*のHNEとの相互作用を示す図である。
図5Aは、2-MEの存在下(試料群「PBS+40mMの2-ME」)又は非存在下(試料群「PBS」)での漸増する量のrhsB1Dによる一定濃度のHNEの阻害を示す。
図5Bは、4%~20%のSDS-PAGでのゲル電気泳動により分離された、(A)で生成された反応生成物を示す。
図5Cは、2-MEの存在下又は非存在下での漸増する量のrhsB1M*による一定濃度のHNEの阻害を示す。
図5Dは、4%~20%のSDS-PAGでのゲル電気泳動により分離された、
図5Cで生成された反応生成物を示す。
図5Bにおける数値、0.7、1.4、2.1は、rhB1D対HNEのモル比を表す。
図5Dにおける数値、0.7、1.4、2.1は、rhB1M*対HNEのモル比を表す。結果は、rhsB1Dを、HNEを阻害し、SDS安定性の複合体を形成することができる活性な単量体に還元するために2-MEが必要とされることを確証する。対照的に、rhsB1M*は、2-MEの存在下でHNEと効率的に複合体を形成し、HNEを阻害することができなかった。
【
図6A-6D】キモトリプシンのrhsB1D及びrhsB1M*との相互作用を示す図である。
図6Aは、2-MEの存在下(試料群「PBS+40mMの2-ME」)又は非存在下(試料群「PBS」)での漸増する量のrhsB1Dによる一定濃度のキモトリプシンの阻害を示す。
図6Bは、4%~20%のSDS-PAGEにより分離された、
図6Aで生成された反応生成物を示す。
図6Cは、2-MEの存在下又は非存在下での漸増する量のrhsB1M*による一定濃度のキモトリプシンの阻害を示す。
図6Dは、4%~20%のSDS-PAGEにより分離された、2-MEの非存在下で(C)で生成された反応生成物を示す。「I:Eモル比」は、rhB1D対キモトリプシンのモル比(
図6B)又はrhB1M*対キモトリプシンのモル比(
図6C)を表す。結果は、2-MEの存在下又は非存在下で、rhsB1Dが等モル比付近又はそれ未満でキモトリプシンを効果的に阻害できることを示す。しかしながら、2-MEによるrhsB1Dのその活性な単量体形態への解離は、そのキモトリプシン阻害効果を2倍にする。対照的に、rhsB1M*も2-MEの存在下又は非存在下でキモトリプシンを阻害することができるが、rhsB1Dと比較して効果が3分の1~5分の1であり、その活性は2-MEにより影響を受けない。
【
図7A-7C】カテプシンGのrhsB1D及びrhsB1M*との相互作用を示す図である。
図7Aは、2-MEの存在下又は非存在下での漸増する量のrhsB1D及びrhsB1M*による一定濃度のヒトカテプシンGの阻害を示す。
図7Bは、2-MEの存在下又は非存在下でのrhsB1D及びカテプシンGの相互作用により生成された反応生成物のSDS-PAGE解析を示す。
図7Cは、2-MEの非存在下でのrhsB1M*及びカテプシンGの相互作用により生成された反応生成物のSDS-PAGE解析を示す。「I:Eモル比」は、rhB1D対カテプシンGのモル比(
図7B)又はrhB1M*対カテプシンGのモル比(
図7C)を表す。結果は、2-MEの存在下又は非存在下で、rhsB1Dが等モル比で、又はその付近をわずかに越える比率でカテプシンGを効果的に阻害できることを示す。しかしながら、2-MEによるrhsB1Dのその活性な単量体形態への解離は、そのカテプシンG阻害効果を2倍にする。対照的に、rhsB1M*も2-MEの存在下又は非存在下でカテプシンGを阻害することができるが、rhsB1Dと比較して効果が3分の1~5分の1であり、その活性は2-MEにより影響を受けない。
【
図8】ヒトセルピンB1のCys-344の酸化により活性化される潜在的プログラム細胞死経路を示す図である。この図は、セルピンB1におけるC344の酸化と様々なプログラム細胞死経路の活性化との間の潜在的関係を示す。最初の工程は、セルピンB1(sB1)の露出した反応部位ループ(RSL、sB1から突き出ている延長した青色長方形として示される)上のC344の酸化的不活性化を含む。酸化されたsB1は、エラスターゼ阻害活性を欠き、カテプシンG及びプロテイナーゼ3(CatG、PR3)に対する減少した阻害活性を有する。酸化されたsB1は、もはやエラスターゼを阻害することができず、代わりに、RSLにおいて切断され、タンパク質の構造的変化(プロカスパーゼ1、4、及び5の「赤色」のCARDドメインが放出された正方形の青色ボックスとして示される)を引き起こし、この構造的変化は、i)sB1が有する全ての残存するプロテアーゼ阻害活性を破壊し、ii)カスパーゼ1、4、及び5の自己会合及び活性化を許す。次いで、増加した酵素活性(エラスターゼ、CatG、PR3、カスパーゼ)は、下流のエフェクタータンパク質(例えば、ガスダーミンD(GSDMD)、プロカスパーゼ3、及びプロインターロイキン(例えば、プロIL1-β))に作用して、ピロトーシス、NETosis、及びネクローシス(非特許文献2;Pappayannopoulos et al., 2010;Burgener at al., 2019)等の多数の異なる種類のプログラム細胞死経路の進行を許す。
【
図9】PPEにより切断されたrhsB1M*及びrhsB1Dのタンパク質配列決定データを示す図である(実施例1及び5に記載される)。このデータは、どのペプチド結合が酸化されたsB1において切断されているかを示す。
【
図10】クレードBセルピンの反応部位ループにおけるシステイン残基を示す図である。この図は、同様に反応部位ループ内にシステイン残基を有する4種の他の相同性の高いヒトクレードB(細胞内)セルピンと比較した、ヒトセルピンB1(MNEI)の反応部位ループ内のC344の位置を示す。
【
図11】異なる種におけるsB1 RSLタンパク質配列を示す図である。この図は、異なる種のセルピンB1の反応部位タンパク質配列のアラインメントを示す。C344がヒト、齧歯類、及びサルにおいて高度に保存されていることに留意されたい。
【
図12】野生型ヒトセルピンB1(C344)が、活性酸素種及び活性窒素種(ROS/RNS)によりエラスターゼインヒビターとして急速に不活性化されたが、H
2O
2により不活性化されなかったことを示す図である。
【
図13】野生型ヒトセルピンB1(C344)の酸化が、他のプロテアーゼを阻害するその能力を減少させたことを示す図である。rhsB1M*Pは、精製された過酸化亜硝酸により不活化された野生型rhsB1を表し、rhsB1-CLは、PPEにより切断され、不活性化されたrhsB1 WTを表す。
【
図14】ヒトセルピンB1におけるC344でのアミノ酸置換のエラスターゼ阻害に対する効果を示す図である。
【
図15】高い酵素:インヒビター比でC344SヒトセルピンB1バリアントが、安定な複合体を形成するのではなく、PPEにより切断され、不活性化されたことを示す図である。
【
図16】過酸化亜硝酸の存在下でヒトセルピンB1 C344Aバリアントが、エラスターゼ及びキモトリプシン阻害活性を保持していたことを示す図である。
【
図17】野生型ヒトセルピンB1が、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)により生成されたフリーラジカルにより、急速に不活性化されたが、C344Aバリアントは不活性化されなかったことを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
用語
他に定義のない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0017】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において、多くの用語についての言及がなされることになり、用語は、以下の意味を有するよう定義されるものとする。
【0018】
本明細書で使用されている用語は、単に特定の実施形態を記述するためのものであり、本発明を限定することは意図していない。本明細書で使用されている単数形(the singular forms "a," "an," and "the")は、文脈により明らかに異なることが示されていない限り、複数形も含むことが意図されている。
【0019】
全ての数値指定、例えば、pH、温度、時間、濃度、量、分子量は、範囲を含めて、必要に応じて、0.1又は1.0ずつ(+)又は(-)に変化する近似値である。必ずしも明示的に記載されるわけではないが、全ての数値指定は、用語「約」により先行され得ると理解されたい。必ずしも明示的に記載されるわけではないが、本明細書に記載される試薬は、単に例示的なものであり、かかるものの等価物は当該技術分野において既知であることも理解されたい。
【0020】
「任意選択の」又は「任意選択で」は、続いて記載される事象又は状況が起こり得る又は起こり得ないことを意味し、この記載は、事象又は状況が起こる場合及び事象又は状況が起こらない場合を含む。
【0021】
用語「含む(comprising)」は、組成物及び方法が列挙された要素を含むが、その他を除外しないことを意味することを意図する。「から本質的になる(consisting essentially of)」は、組成物及び方法を定義するために使用される場合、明記された物質又は工程、及び特許請求された本発明の基本的かつ新規な特徴(複数の場合もある)に実質的に影響を及ぼさないものを指す。「からなる(consisting of)」は、列挙されていない微量を超える量の他の成分及び他の実質的な方法工程を除外することを意味する。これらの移行句の各々により定義される実施形態は、本発明の範囲内である。
【0022】
用語「rhsB1」は、非ヒト宿主細胞で産生される、本明細書において開示される天然のヒトセルピンB1ポリペプチド(配列番号1)を指す。
【0023】
用語「セルピンB1ポリペプチド」又は「セルピンB1」は、配列番号1の配列を有する天然の(「野生型」とも称される)セルピンB1ポリペプチド、又はそのバリアント(すなわち、セルピンB1バリアントポリペプチド)を指す。
【0024】
用語「ポリヌクレオチド」、「核酸」、及び「オリゴヌクレオチド」は、互換的に使用され、デオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチド又はそれらの類似体のいずれかの任意の長さのポリマー形態のヌクレオチドを指す。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有し得て、既知又は未知の任意の機能を果たし得る。以下はポリヌクレオチドの非限定的な例である:遺伝子又は遺伝子断片(例えば、プローブ、プライマー、EST又はSAGEタグ)、エキソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分枝鎖ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列の単離DNA、任意の配列の単離RNA、核酸プローブ及びプライマー。ポリヌクレオチドは、修飾ヌクレオチド、例えば、メチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類似体を含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造に対する修飾は、ポリヌクレオチドの構築前又は後に付与され得る。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分により中断され得る。ポリヌクレオチドは、標識成分とのコンジュゲーション等により、重合後に更に修飾され得る。またこの用語は、二本鎖分子及び一本鎖分子の両方を指す。特に明記しない限り、又は必要とされない限り、ポリヌクレオチドである本発明の任意の実施形態は、二本鎖形態及び二本鎖形態を構成することが既知であるか、又は予測される2本の相補的な一本鎖形態の各々の両方を包含する。
【0025】
ポリヌクレオチドは、以下の4種のヌクレオチド塩基の特定の配列から構成される:アデニン(A);シトシン(C);グアニン(G);チミン(T);及びポリヌクレオチドがRNAである場合、チミンの代わりにウラシル(U)。したがって、用語「ポリヌクレオチド配列」は、ポリヌクレオチド分子のアルファベット表記である。
【0026】
用語「同一性パーセント」は、2つのペプチドの間又は2つの核酸分子の間の配列同一性を指す。同一性パーセントは、比較を目的としてアラインメントされ得る各配列内の位置を比較することにより決定され得る。比較された配列内のある位置が同じ塩基又はアミノ酸により占められている場合、分子はその位置で同一である。本明細書で使用する場合、語句「相同な」若しくは「バリアント」ヌクレオチド配列又は「相同な」若しくは「バリアント」アミノ酸配列は、ヌクレオチドレベル又はアミノ酸レベルでの、少なくとも指定された百分率の同一性を特徴とする配列を指す。相同なヌクレオチド配列としては、本明細書において記載されるヌクレオチド配列の天然に存在するアレルバリアント及び変異をコードする配列が挙げられる。相同なヌクレオチド配列としては、ヒト以外の哺乳動物種のタンパク質をコードするヌクレオチド配列が挙げられる。相同なアミノ酸配列としては、保存的アミノ酸置換を含有し、ポリペプチドが同じ結合及び/又は活性を有するアミノ酸配列が挙げられる。幾つかの実施形態において、相同なヌクレオチド又はアミノ酸配列は、比較配列との少なくとも60%以上、例えば、少なくとも70%、又は少なくとも80%、少なくとも85%以上の同一性を有する。幾つかの実施形態において、相同なヌクレオチド又はアミノ酸配列は、比較配列との少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有する。幾つかの実施形態において、相同なアミノ酸配列は、15以下、10以下、5つ以下、又は3つ以下の保存的アミノ酸置換を有する。同一性パーセントは、例えば、Smith-Watermanアルゴリズム(Adv. Appl. Math., 1981, 2, 482-489)を使用するGAPプログラム(Wisconsin Sequence Analysis Package、UNIX(商標)用のバージョン8、Genetics Computer Group社、ウィスコンシン州マディソンのUniversity Research Park)により、デフォルト設定を使用して決定され得る。
【0027】
用語「発現する」は、遺伝子産物の産生を指す。発現に言及する場合、用語「一過性」は、ポリヌクレオチドが細胞のゲノムに組み込まれないことを意味する。
【0028】
用語「ベクター」は、例えば、形質転換のプロセスにより許容細胞内に入れられる場合に、ベクターが複製され得るようにインタクトなレプリコンを含む非染色体性核酸を指す。ベクターは、細菌等の1つの細胞種で複製し得るが、哺乳動物細胞等の別の細胞では限定された複製能を有する。ベクターは、ウイルス性又は非ウイルス性であり得る。核酸を送達するための例示的な非ウイルスベクターとしては、裸のDNA;単独で、又はカチオン性ポリマーとの組み合わせでカチオン性脂質と複合体を形成したDNA;アニオン性及びカチオン性リポソーム;DNA-タンパク質複合体、及び場合によっては、リポソームに含有される、カチオン性ポリマー、例えば、不均一なポリリジン、既定の長さのオリゴペプチド、及びポリエチレンイミンと縮合されたDNAを含む粒子;並びにウイルス及びポリリジン-DNAを含む三元複合体の使用が挙げられる。
【0029】
用語「患者」、「対象」、「個体」等は、本明細書において互換的に使用され、in vitroであるかin situであるかにかかわらず、本明細書に記載の方法に適している任意の動物又はその細胞を指す。或る特定の非限定的な実施形態において、患者、対象、又は個体は、ヒトである。
【0030】
本明細書で使用する場合、用語「正常な個体」は、健常な非喫煙個体を指す。
【0031】
疾患又は遺伝子疾患とフリーラジカルとの関係に関して、用語「関連する」は、疾患若しくは遺伝子疾患が、環境における若しくは身体内部での高レベルのフリーラジカルへの曝露に少なくとも部分的に起因すること、又は疾患若しくは遺伝子疾患が、正常な個体と比較して身体内でのフリーラジカル生成の増加を引き起こすことを指す。
【0032】
用語「処置する」又は「処置」は、ヒト等の対象における本明細書に記載される疾患又は障害の処置を包含し、(i)疾患若しくは障害を抑制すること、すなわち、その発症を抑えること;(ii)疾患若しくは障害を軽減すること、すなわち、障害の退縮を引き起こすこと;(iii)障害の進行を遅らせること;及び/又は(iv)疾患若しくは障害の1つ以上の症状の進行を阻害するか、軽減するか、若しくは遅らせることを含む。モノクローナル抗体又はナチュラルキラー細胞の対象への「投与」又は対象に「投与する」という用語は、意図した機能を発揮するために抗体又は細胞を導入又は送達する任意の経路を含む。投与は、細胞又はモノクローナル抗体の送達に好適な任意の経路により実施され得る。したがって、送達経路としては、静脈内送達、筋肉内送達、腹腔内送達、又は皮下送達が挙げられ得る。
【0033】
用語「投与する」は、対象への経口投与、局所接触、坐剤としての投与、静脈内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、病巣内投与、クモ膜下腔内投与、鼻腔内投与、若しくは皮下投与、又は徐放デバイス、例えば、ミニ浸透圧ポンプの植え込みを含む。投与は、非経口及び経粘膜(例えば、口腔内、舌下、口蓋、歯肉、鼻腔内、膣内、直腸、又は経皮)投与が挙げられる任意の経路によるものである。非経口投与としては、例えば、静脈内、筋肉内細動脈内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内、及び頭蓋内投与が挙げられる。他の送達様式としては、リポソーム製剤の使用、静脈内注入、経皮パッチ等が挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、治療上有効量の本明細書に記載される融合タンパク質を投与するための更なる方法を知っているであろう。
【0034】
用語「治療上有効量」又は「有効量」は、必要とされる投与量及び期間での、所望の治療結果又は予防結果を達成するのに効果的な量又は含量を含む。
【0035】
本明細書で使用する場合、用語「実質的に同じ」は、酵素阻害活性、例えば、好中球エラスターゼ阻害活性に言及する場合、阻害活性の2つの測定値が互いに25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、8%以下、又は5%以下の差があることを指す。
【0036】
序論
ヒトセルピンB1(hsB1)は、in vitroで培養されたヒト単球中に高濃度で存在する作用の速いエラスターゼインヒビターとして1985年に最初に同定され、その後にマクロファージ及び好中球中に存在することが同定された(Remold-O'Donnell et al., J. Exp. Med. 162, 2142-2155(1985);Remold-O'Donnell et al., J. Exp. Med. 169, 1071-1086(1989),2)。hsB1は約42kDaの分子量を有し、典型的な分泌シグナルを有さないタンパク質のセルピンスーパーファミリーのクレードB分枝のメンバーである(Remold-O'Donnell et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 89, 5635-5639(1992))。他のセルピンとの配列アラインメントにより、観察されたEIAを担う反応部位ループ(RSL)上の推定P1残基としてCys-344が同定された。その後に、エラスターゼ-hsB1複合体に由来するN末端配列データ及びこのタンパク質のEIAのアルキル化剤であるヨードアセトアミドに対する感受性により、この割り当てが確証された(Remold-O'Donnell et al., J. Exp. Med. 169, 1071-1086(1989);Cooley et al. Biochemistry 40, 15762-15770(2013))。多数のセルピンが、異なるクラスのプロテイナーゼを効率的に阻害するために、重複する反応部位を利用することが実証されている。これはhsB1にも当てはまり、hsB1は、Phe-343を利用して、ウシキモトリプシン、カテプシンG(catG)、マスト細胞キマーゼ、グランザイムH(GmzH)、及び前立腺特異抗原(PSA)が挙げられるキモトリプシン様プロテアーゼを阻害するだけでなく、Cys-344も利用して、好中球プロテイナーゼ3を阻害する(Cooley et al.;Wang et al.,, J. Immunol. 190, 1319-1330(2013))。
【0037】
セルピンB1は、in vivoで多数の保護的な抗炎症役割を示す。組換えhsB1は、嚢胞性線維症における炎症性気道分泌物により媒介される損傷からラット肺を保護するために、緑膿菌(P. aeruginosa)肺感染のマウスモデルにおける細菌の増殖を抑制するために、及び肝移植のラットモデルにおける手術後の急性肺損傷を改善するために、予防的に使用されている(Cooley et al.(1998))。2007年にBenerafaらは、ヒトsB1のマウスホモログ(sb1a)遺伝子をノックアウトし、細菌感染時の過剰な炎症反応の制御においてこの遺伝子が果たす重要な役割を実証した(Benerafa et al.(2007))。2011年にGongらは、同じモデルを使用して、sb1aが、ウイルス排除に影響を及ぼすことなく肺インフルエンザにより誘発される過剰な炎症からも保護することを実証した(Gong et al.,(2011))。Benarafa及びO'Donnellのグループによる更なる研究により、sb1aが骨髄の好中球を保護し、カテプシンGの特異的な阻害により好中球及び単球におけるプログラムネクローシスを予防することが明らかにされた(Benerafa et al.,(2011))。2012年にFarleyらは、sB1が、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)によるROSの生成に部分的に依存するプロセスである、複数の異なる刺激により誘発される好中球細胞外トラップ(NET)の形成を調節し得ることを発見した(Choi et al.(2019))。この役割において、sb1aは、好中球の細胞質から核に移動することが観察されたが、現在、この移行を駆動するメカニズム及びその核内標的(複数の場合もある)は不明である(Farley et al.(2012))。加えて報告によれば、sb1aは、システインカテプシン、最も顕著にはカテプシンLの阻害によりTh17表現型T細胞の増殖を調節する(Zhao et al.(2014))。ごく最近では、El Ouaamariらが、増殖及び生存経路のタンパク質の調節により膵臓のβ島細胞増殖を誘発することによりインスリン抵抗性に対する代償性β細胞反応を促進する因子としてsB1を同定した一方で(El Ouaamari et al.(2016))、Choiらが、炎症性カスパーゼ1、4、5、及び11の活性化の制限並びにピロトーシスの予防を担う、セルピンB1におけるCARD(カスパーゼ動員ドメイン)結合モチーフ(CBM)を同定した(非特許文献2)。
【0038】
他には、sB1がアポトーシスにおいて直接的な役割を果たすことが示唆されている。1998年に、Torrigliaらは、DNアーゼIIと称される広範な細胞内カチオン非依存性酸性エンドヌクレアーゼを部分的に配列決定し、それがブタsB1のタンパク質配列と相同であることを発見した(Torringlia et al.(1998))。その後、このグループは、エラスターゼ又はアポトーシスに関与する他の一部のプロテアーゼにより切断される際に、sB1が構造再編成を受け、L-DNアーゼIIと称する分子の潜在的エンドヌクレアーゼ活性(もし確証されれば、セルピンの実にユニークかつ驚くべき活性)の覆いが取られることを示唆する多数の論文を公開した(Padron-Barthe et al.(2007))。
【0039】
本出願において、本発明者らは、sB1におけるCys-344の露出した物理的位置が、sB1を炎症性シグナル伝達現象又は酸化還元により媒介されるシグナル伝達現象の間に生成される反応性フリーラジカル種(例えば、ROS又はRNS)に対して感受性にすることを開示する。本出願は、還元された状態のCys-344の維持が、sB1がエラスターゼを効率的に阻害するのに必要とされることを開示し、Cys-344の酸化が、プロテアーゼ阻害活性が変化した翻訳後修飾された形態(PTM)のsB1を生成し得ることを実証する。炎症の初期段階及びおそらく他の酸化還元により媒介される細胞シグナル伝達現象の間に、セルピンB1の制御機能は、或る特定の種類のフリーラジカルにより下方調節され得て、これにより、炎症の進行を許す。したがって、本出願は、セルピンB1バリアントポリペプチドを含む方法及び組成物を提供し、ここで、セルピンB1バリアントポリペプチドは、好中球エラスターゼ阻害活性を有し、好中球エラスターゼ阻害活性は、フリーラジカルによる酸化に耐性を示す。幾つかの例では、セルピンB1バリアントポリペプチドは、配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を有する。これらのセルピンB1バリアントポリペプチドは、正常な個体と比較した好中球、単球におけるフリーラジカル生成の増加に関連する疾患又は遺伝子疾患を有する患者を処置するために使用され得る。
【0040】
A. セルピンB1のエラスターゼ阻害活性は、C344-SHが還元された状態の維持を必要とする
本明細書において本発明者らは、構造的に露出したCys-344(Wang et al., J. Immunol. 190, 1319-1330(2013))が、sB1をインヒビターからエラスターゼの基質に変換する翻訳後修飾(PTM)を受け、このことが、エラスターゼ阻害活性の喪失をもたらし、全てのプロテアーゼ阻害活性の完全な喪失を引き起こし得ることの証拠を提供する。実施例3、実施例10、及び実施例11を参照のこと。酵母細胞内で産生された組換えヒトセルピンB1(rhsB1)は、エラスターゼ及びキモトリプシンの両方を阻害する(EIA及びCIA)が、EIAは、酸化剤であるN-クロロスクシンイミド、過酸化亜硝酸、及び次亜塩素酸ナトリウム、並びにミエロペルオキシダーゼにより生成されたフリーラジカルによる急速な不活性化に対して感受性を示す(
図2、
図12、及び
図17)。さらに本発明者らは、還元剤の非存在下でのrhsB1の精製により、修飾された単量体(rhsB1M*)及びそれぞれのrhsB1単量体のCys-344間で形成された分子間ジスルフィド結合により生成された二量体(rhsB1D)という2種の固有のより高分子量形態のrhsB1の形成に付随して、EIAの進行性のかつ特異的な喪失がもたらされる(
図5A)が、CIAの喪失はもたらされない(
図6A)ことを示す。完全に還元されたrhsB1と異なり、rhsB1M*及びrhsB1Dは、エラスターゼの優れた基質であり、反応部位ループ内の複数の隣接する部位(RSL;Gly339-Ile340、Ala341-Thr342、及びThr342-Phe343)で急速に、かつ触媒的に切断される。さらに、rhsB1M*及びrhsB1DがCIAを保持していても、それらの各々の阻害効率は顕著に低減される。
【0041】
これらの発見は、hsB1が、Cys-344の還元が維持されている条件下でエラスターゼ及びキモトリプシン様プロテアーゼの両方を阻害することができることを確証する。しかしながら、本発明者らは、炎症、又は或る特定の種類の活性酸素種(ROS)若しくは活性窒素種(RNS)が関与する、酸化還元により媒介される細胞シグナル伝達現象において、Cys-344のPTMが、エラスターゼ、カテプシンG、及びプロテイナーゼ3活性の増加により炎症性経路の進行を許す重要な現象であり得ることを提唱する。エラスターゼによるhsB1の切断された不活性(R)形態への変換は、反応部位ループにより媒介される全ての直接的プロテアーゼ阻害活性を完全に不活性化し、このタンパク質の三次構造内の他の制御ドメイン(複数の場合もある)(例えば、CBM)も破壊し得て、これにより、他の炎症誘発性経路の活性化/増幅を許す。
【0042】
B. 酸化耐性セルピンB1バリアント
本開示は、好中球エラスターゼ阻害活性を有するセルピンB1バリアントポリペプチドを提供し、好中球エラスターゼ阻害活性は、フリーラジカルによる酸化に対して耐性を示す。天然のセルピンB1の好中球(及び膵臓)エラスターゼ阻害活性は、還元型のC344に依存する(「C344依存的なエラスターゼ阻害活性」)。セルピンB1のC344の酸化は、エラスターゼ阻害活性の顕著な減少又は完全な喪失をもたらすため、セルピンB1のC344依存的なエラスターゼ阻害活性は、フリーラジカルによる酸化に感受性である。用語「フリーラジカル」又は「ラジカル」又は「反応性フリーラジカル種」は、通常、不対電子を有し、反応性が高い分子を指す。ラジカルは、極めて高い化学反応性を有し、過剰に生成されるか、又は適切に制御されない場合、細胞に傷害を与え得る。本開示において開示されるフリーラジカルは、任意のシステイン反応性フリーラジカル種、例えば、天然のセルピンB1(配列番号1)のC344を酸化することができ、そのエラスターゼ阻害活性を減少させることができる反応性フリーラジカル種を指す。エラスターゼ阻害活性の減少は、C344が未酸化状態である天然のセルピンB1と比較して少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、又は少なくとも60%であり得る。これらのフリーラジカルとしては、酸素に由来するもの(「活性酸素種」)又は窒素に由来するもの(「活性窒素種」)が挙げられ得るが、これらに限定されない。フリーラジカルによるシステインの酸化は、例えば、S-ニトロソシステイン、システインスルフェン酸、スルフィン酸、及びスルホン酸、二硫化物、並びに過硫化物が挙げられる種々の酸化生成物を生成し得る。その結果、フリーラジカルによるシステインの酸化は、肺気腫及び癌等の多数の疾患との毒性学的関連を有し得て、身体の抗細菌防御及び抗ウイルス防御を障害し得る。
【0043】
フリーラジカルは、煙及び汚染粒子等の外因性源に存在するか、又はそれにより誘導され得て、ウイルス若しくは細菌等の病原体、又は個体を「無菌性」自己炎症性疾患(SAID)に罹患しやすくなる遺伝子疾患に応答して内因性源により生成され得る。内因性ROS及びRNSは、自然免疫細胞(例えば、好中球、好酸球、マクロファージ、単球)、粘膜細胞(例えば、肺気道粘膜、腸管粘膜)、及び腺細胞(例えば、甲状腺、乳腺、及び唾液腺)に内在するか、又はそれから分泌される酵素(例えば、ペルオキシダーゼ及び一酸化窒素合成酵素)により生成される。
【0044】
ROSの非限定的な例としては、次亜塩素酸、次亜塩素酸イオン、N-クロロスクシンイミド、過酸化水素、及び次亜塩素酸ナトリウムが挙げられる。RNSの非限定的な例としては、一酸化窒素(NO)が挙げられる。幾つかの作用物質は、ROS及びRNS、例えば、過酸化亜硝酸の両方であり得る。反応性フリーラジカル種の他の例としては、Griendling et al.(2016), Measurement of Reactive Oxygen Species, Reactive Nitrogen Species, and Redox-Dependent Signaling in the Cardiovascular System Circulation Research, Vol. 119, No. 5に記載のものが挙げられるが、これらに限定されない。非限定的な例として、好中球は、H2O2及びNaClをROSである次亜塩素酸及び次亜塩素酸イオン(HOCl、-OCl)に変換するミエロペルオキシダーゼを産生し、次亜塩素酸及び次亜塩素酸イオンは、抗菌性であり、宿主防御機構の重要な一部であるが、細胞膜、DNA、及びタンパク質にも損傷を与え得るはるかに強力なフリーラジカルである(Klebanoff, S. J. (2005). Myeloperoxidase:Friend and Foe. J. Leucocyte Biology. 77:598-625)。マクロファージは、大量の一酸化窒素(NO)を生成する誘導性一酸化窒素合成酵素2(iNOS)を産生する。H2O2及びNOは、結合して、非常に強力なRNSである過酸化亜硝酸(ONOO-)を形成し、これは宿主防御機構の重要な一部でもあるが、膜、DNA、及びタンパク質にも損傷を与える(Pacher P, Beckmann JS and Liaudet L. (2007). Nitric Oxide and Peroxynitrite in Health and Disease. Phsiol. Rev., 87(1):315-424)。
【0045】
粘膜細胞及び腺細胞は、H2O2の存在下でチオシアネート(SCN)のヒポチオシアナイト(OSCN)への変換を触媒するラクトペルオキシダーゼを産生する。ヒポチオシアナイトは、強力な抗菌活性を有し、ヒト細胞に対して非毒性であるようである(Day BJ. (2019). The science of licking your wounds:Function of oxidants in the innate immune system. Biochem Pharmacol., 163:451-457)。
【0046】
本明細書において開示されるセルピンB1バリアントポリペプチドは、フリーラジカルの存在下であってもその好中球又は膵臓エラスターゼ阻害活性を保持することができる。バリアントポリペプチドのエラスターゼ阻害活性は、当該技術分野において既知の方法を使用して試験され得る。例えば、エラスターゼがセルピンB1バリアントポリペプチドと共にインキュベートされて、続いて、エラスターゼ基質が添加され得る。エラスターゼは基質を切断して、好適な装置を使用して検出され得る比色シグナル又は蛍光シグナルを生成する。1つの例示的な基質は、Succ-AAPV-pNAである。同様のアッセイが、フリーラジカル(ROS又はRNS)又はフリーラジカルを生成する酵素若しくは他の薬剤、例えば、過酸化亜硝酸、次亜塩素酸、又はミエロペルオキシダーゼで処理されたセルピンB1バリアントポリペプチドを用いて実行されて、そのエラスターゼ阻害活性が評価され得る。フリーラジカルに曝露された後のセルピンB1バリアントポリペプチドのエラスターゼ阻害活性は、曝露前のセルピンB1バリアントポリペプチドのエラスターゼ阻害活性と実質的に同じである。エラスターゼ阻害アッセイの1つの実例は、実施例1に記載される。
【0047】
バリアントポリペプチド(複数の場合もある)は、配列番号1の全長配列にわたり配列番号1と少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一なアミノ酸配列を有し、バリアントポリペプチドは、エラスターゼ(例えば、ヒト好中球エラスターゼ又は膵臓エラスターゼ)のプロテアーゼ活性を阻害することも可能である。幾つかの実施形態において、バリアントポリペプチドは、天然のヒトセルピンB1(配列番号1)と比較して、C344A、C344V、及びC344Gからなる群から選択される単一アミノ酸置換を含む。幾つかの実施形態において、バリアントポリペプチドは、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4の配列を含む。
【0048】
本明細書において開示される配列同一性又は類似性は、J. of Mol. Biol. Vol. 147, Issue 1:195-197(1981)のSmith及びWatermanの局所配列同一性アルゴリズム;Needleman及びWunschの配列同一性アラインメントアルゴリズム;Pearson及びLipmanの類似性検索法;これらのアルゴリズムのコンピュータ実装(Wisconsin Genetics Software Package(Genetics Computer Group社、ウィスコンシン州マディソンの575 Science Drive)のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST、Clustal Omega、及びTFASTA);又は好ましくはデフォルト設定を使用するDevereux et al. Nucleic Acids Res. 12:387-95(1984)により記載されたBest Fit配列プログラムが挙げられるが、これらに限定されない当該技術分野において既知の標準的な技術を使用して決定され得る。一実施形態において、Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215:403-410に記載されたBLAST 2.0アルゴリズムのコンピュータ実装(デフォルトパラメータを使用する)が配列同一性を決定するために使用され得る。
【0049】
配列同一性は、配列の目視検査によっても決定され得る。例えば、上記のソフトウェアを使用して、又は手動でアラインメントされた配列Aと配列Bとの間の配列同一性は、配列Aと配列Bとの間の一致する残基の合計を、配列Aの長さから配列Aにおけるギャップ残基の数を引き、配列Bにおけるギャップ残基の数を引いた結果で除算し、100を掛けることにより決定され得る。
【0050】
セルピンB1バリアントポリペプチドは、当業者に既知の方法により天然のポリペプチド(配列番号1)を修飾することにより作製され得る。かかる方法としては、所望の変化を有するように設計されたプライマーを使用するPCR法による変異誘発;標的領域を変異させるためのネステッドプライマー;及び逆方向に向けられたプライマーを使用して未知の配列領域を増幅する逆PCR法が挙げられるが、これらに限定されない。多数の他の変異法及び進化法も利用可能であり、関連する技術分野の当業者の技術の範囲内であると思われる。
【0051】
本明細書に記載されるセルピンB1バリアントポリペプチドをコードするポリヌクレオチドも所望の配列に従って既知の合成プロセスにより化学合成され得る。これらの配列は、以下で更に記載されるように、確立されたクローニング手順を使用して発現ベクターにクローニングされ得る。
【0052】
発現されたポリヌクレオチド及びポリペプチドの化学的又は酵素的改変が実行され得る。例えば、配列は、標準的方法を使用した脂質、糖、ペプチド、有機又は無機化合物の付加、修飾ヌクレオチド又はアミノ酸の組み込み等により修飾され得る。したがって、本発明は、変異、化学的若しくは酵素的修飾、又は他の利用可能な方法によるセルピンB1バリアントポリヌクレオチド又はポリペプチドのいずれかの修飾、及びかかる方法、例えば、様々な修飾アプローチの出発基質として本明細書における配列を使用する方法を実施することにより生成される生成物を提供する。
【0053】
C. セルピンB1又はセルピンB1バリアントを含む医薬組成物
本開示は、天然のセルピンB1又は本明細書において開示されるセルピンB1バリアントポリペプチドと、1種以上の薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物も提供する。セルピンバリアントポリペプチドは、好中球エラスターゼ阻害活性を有する。幾つかの実施形態において、好中球エラスターゼ阻害活性は、フリーラジカルによる酸化に対する耐性を示す。幾つかの実施形態において、医薬組成物は、天然のセルピンB1、又は配列番号1と少なくとも90%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一なアミノ酸配列を有するセルピンB1バリアントポリペプチドを含む。幾つかの実施形態において、バリアントポリペプチドは、天然のヒトセルピンB1(配列番号1)と比較して、C344G、C344A、及びC344Vからなる群から選択される単一アミノ酸置換を含む。幾つかの実施形態において、バリアントポリペプチドは、配列番号2、配列番号3、又は配列番号4の配列を含む。
【0054】
幾つかの実施形態において、薬学的に許容される担体は、セルピンB1ポリペプチドのC344がフリーラジカルにより酸化されるのを防止することができる還元剤(例えば、N-アセチルシステイン(NAC))である。幾つかの実施形態において、医薬組成物は、配列番号1の配列を有する天然のセルピンB1と還元剤とを含む。幾つかの実施形態において、医薬組成物は、配列番号1の全長配列にわたり配列番号1と少なくとも90%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%同一なアミノ酸配列を有するセルピンB1バリアントを含み、バリアントポリペプチドは、好中球エラスターゼ(例えば、ヒト好中球エラスターゼ)又は膵臓エラスターゼ(例えば、ヒト膵臓エラスターゼ)のプロテアーゼ活性を阻害することも可能である。
【0055】
他の薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤も好適な投与量及び濃度で使用され得る。これらの薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤としては、緩衝剤、例えば、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸;アスコルビン酸及びメチオニンが挙げられる抗酸化剤;防腐剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル、又はベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチル又はプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、若しくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、若しくはリジン;グルコース、マンノース、若しくはデキストリンが挙げられる単糖、二糖、及び他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、スクロース、マンニトール、トレハロース、若しくはソルビトール;塩形成性対イオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/又は非イオン性界面活性剤、例えば、TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、又はポリエチレングリコール(PEG)が挙げられるが、これらに限定されない。例示的な製剤は、国際公開第98/56418号(引用することにより明示的に本明細書の一部をなす)に記載されている。皮下投与に適した凍結乾燥製剤は、国際公開第97/04801号に記載されている。かかる凍結乾燥製剤は、好適な希釈剤を用いて高タンパク濃度に再構成され得て、再構成された製剤は、本明細書における処置される個体に皮下投与され得る。セルピンB1ポリペプチド又はそのバリアントを、それを必要とする患者に送達するために、リポフェクチン又はリポソームが使用され得る。
【0056】
医薬組成物に使用される還元剤の量は異なり得るが、野生型セルピンB1ポリペプチド又はセルピンB1バリアントポリペプチドのC344の酸化を防止するのに十分な量でなければならない。
【0057】
D. 酸化耐性セルピンを用いた疾患の処置
セルピンB1バリアントポリペプチド又はそれを含む医薬組成物は、高レベルのフリーラジカルへの曝露又は環境源(例えば、タバコの煙、電子タバコ装置からの放出物が挙げられる大気汚染物質)に存在するフリーラジカルへの曝露の増加に関連する疾患又は遺伝子疾患を有する患者を処置するために使用され得る。セルピンB1バリアントポリペプチド又はそれを含む医薬組成物は、例えば、自然免疫細胞(例えば、好中球、単球、マクロファージ、好酸球)又は組織及び器官に内在する内因性の活性型酵素(例えば、ペルオキシダーゼ又は一酸化窒素合成酵素)による、正常な個体と比較したフリーラジカル生成の増加に関連する疾患又は遺伝子疾患を処置するためにも使用され得る。
【0058】
これらの疾患の非限定的な例は、感染性疾患、自己免疫疾患、呼吸器疾患、代謝疾患、心血管疾患、神経変性疾患、又は腫瘍疾患の群から選択される。感染性疾患としては、限定されるものではないが、呼吸器合胞体ウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、エボラウイルス、緑膿菌、及び他の日和見病原体により引き起こされる、肺疾患又は全身性疾患、例えば、急性肺損傷(ALI)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、肺炎、細気管支炎、全身性凝固障害、又は出血性疾患が挙げられるが、これらに限定されない。自己免疫疾患としては、1型糖尿病、関節リウマチ、乾癬、多発性硬化症、及び患者に突発性炎症を繰り返し起こさせる根底にある遺伝子変異(複数の場合もある)を有する無菌性自己炎症性疾患(SAID)が挙げられるが、これらに限定されない。呼吸器疾患としては、アレルギー性喘息、喫煙者肺気腫、COPD、及び特発性肺線維症(IPF)が挙げられるが、これらに限定されない。代謝疾患としては、2型糖尿病、インスリン抵抗性、脂質異常症、及び白内障発症が挙げられるが、これらに限定されない。心血管疾患としては、アテローム性動脈硬化症及び高血圧が挙げられるが、これらに限定されない。神経変性疾患としては、パーキンソン病及びアルツハイマー病が挙げられるが、これらに限定されない。腫瘍疾患としては、結腸直腸癌、膵臓癌、前立腺癌、乳癌、肺癌、及び膀胱癌が挙げられるが、これらに限定されない。フリーラジカルに関連する疾患の例は、Maddu, Diseases Related To Types Of Free Radicals, (2019), DOI:10. 5772/intechopen. 82879においても記載されており、その内容全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0059】
野生型セルピンB1又はセルピンB1バリアントポリペプチドの医薬組成物は、上記のような疾患又は遺伝子疾患を処置するために治療上有効用量で対象に投与され得る。医薬組成物は、例えば、吸入により、気管内に、局所的に、又は注射により皮下に、静脈内に、若しくは腹腔内に投与され得る。
【0060】
通常、投与される投与量は、所望の治療効果を達成するのに有効な投与量である。当業者は、投与される用量が、対象の体重、年齢、個体の状態、処置される領域の表面積若しくは体積、及び/又は投与様式が挙げられるがこれらに限定されない多数の因子に応じて異なることを理解するであろう。用量のサイズは、特定の化合物の投与に伴う特定の対象における任意の有害作用の存在、性質、及び程度によっても決定される。好ましくは、望ましい結果をもたらすために必要とされる最小用量及び最小濃度が使用されなければならない。投与量は、小児、高齢者、衰弱した患者、並びに心疾患及び/又は肝臓疾患を有する患者に対して適切に調整されなければならない。投与量を評価するための実験動物モデルを使用した当該技術分野において既知の試験により、更なる指針が得られ得る。幾つかの実施形態において、投与される投与量は、0.01mg/kg~1000mg/kg、例えば、0.1mg/kg~500mg/kg、0.5mg/kg~100mg/kg、1.0mg/kg~50mg/kg、又は1.0mg/kg~25mg/kgの範囲の量の天然のセルピンB1(配列番号1)又はセルピンB1バリアントポリペプチドを送達する投与量である。幾つかの実施形態において、天然のセルピンB1又は本明細書において開示されるセルピンB1バリアントポリペプチドは、本明細書において開示される還元剤と組み合わせて(例えば、同時又は逐次的に)投与される。幾つかの実施形態において、還元剤(例えば、NAC)は、患者の体重1キログラム当たり0.01mg~100mgの量で送達され得る。
【0061】
最適な投薬スケジュールは、対象の身体における薬剤蓄積の測定により計算され得る。一般に、投与量は、1日1回以上、週1回以上、又は月1回以上与えられ得る。当業者は、最適な投与量、投薬方法、及び反復数を容易に決定することができる。幾つかの実施形態において、本発明の組成物は、1日1回以上、例えば、1日1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回、又はそれ以上投与される。幾つかの実施形態において、本発明の組成物は、約1日間~約31日間、例えば、1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間、20日間、21日間、22日間、23日間、24日間、25日間、26日間、27日間、28日間、29日間、30日間、又は31日間投与される。幾つかの実施形態において、本発明の組成物は、少なくとも1日間投与される。他の実施形態において、本発明の組成物は、1週間以上、例えば、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、13週間、14週間、又はそれ以上投与される。更なる他の実施形態において、組成物は、1ヶ月以上、例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月、12ヶ月、又はそれ以上投与される。
【0062】
所望の治療効果を達成するために、本発明の組成物は、治療上有効な1日量で複数日間投与され得る。したがって、対象における関連する状態又は本明細書に記載される疾患を処置するための本発明の組成物の治療上有効な投与には、3日間~2週間以上の範囲の期間継続する周期的(例えば、毎日又は1日2回)投与が必要とされる。連続した1日量が治療上有効な用量を達成するのに好ましい手段であるが、薬剤が毎日投与されない場合であっても、対象における薬剤の治療上有効な濃度を維持するのに十分な頻度で投与が繰り返される限り、治療上有益な効果は達成され得る。例えば、毎日、1日おきに、又はより高用量の範囲が用いられ、対象において忍容性がある場合、週2回薬剤が投与され得る。
【0063】
細胞培養物で決定されたIC50(症状の最大半減阻害を達成する薬剤の濃度)を含む濃度範囲を達成するための動物モデルでの用量が設定され得る。かかる情報は、ヒトにおける有用な用量をより正確に決定するために使用され得る。便又は腸組織試料中のレベルが、例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定され得る。一般に、本発明の組成物の活性成分の等価用量は、典型的な対象で約1ng/kg~約1000mg/kg、例えば、約1mg/kg~約100mg/kgである。
【0064】
本発明の組成物の投与量は、症状の重症度、再発頻度、及び/又は治療計画に対する生理的反応に応じて、処置期間を通じてモニタリング及び調整され得る。一般に、当業者は治療計画のかかる調整に関与する。
【0065】
E. 天然のセルピンB1及びそのバリアントの産生
所望により、本開示は、天然のセルピンB1、又は発現効率を最大化するために宿主(例えば、酵母)のコドン使用パターンに適合するように操作されたセルピンB1バリアントポリペプチドのコード配列を提供する。コドン最適化の方法は、容易に入手でき、例えば、genomes.urv.es/OPTIMIZERにて無料で利用可能なOptimizer、GenScript社(ニュージャージー州ピスカタウェイ)のOPTIMUMGENE(商標)アルゴリズム、及びDNA 2.0社(カリフォルニア州ニューアーク)のGENEGPS(商標) Expression Optimization Technologyである。一実施形態において、コード配列は、サッカロミセス・セレビシエ(S. cerevisiae)にて発現されるようにコドン最適化されている。幾つかの実施形態において、コード配列は、コドン最適化されていない。
【0066】
セルピン又はそのバリアントのコード配列は、発現ベクター、例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス(例えば、植物ウイルス)、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)等にクローニングすることができ、そこに本発明の核酸配列が順方向又は逆方向で挿入される。この実施形態の好ましい態様では、構築物は、例えば、配列に作動可能に連結されたプロモーターが挙げられる、調節配列を更に含む。多数の好適なベクター及びプロモーターが当業者に既知であり、市販されている。幾つかの実施形態において、発現ベクターは、選択マーカーを含有する酵母エピソーム発現プラスミド(YEp)である。
【0067】
幾つかの実施形態において、プロモーターは、酵母プロモーター、例えば、酵母ADH2プロモーターである。他の実施形態において、ベクターは、遺伝子操作された酵母2ミクロンプラスミドである。
【0068】
上記で開示されたコード配列を含む発現ベクターは、種々の宿主種又は宿主株に形質転換され得る。一実施形態において、宿主種は、サッカロミセス・セレビシエである。別の実施形態において、サッカロミセス・セレビシエは、プロテアーゼ欠損となるように遺伝子改変された菌株である。
【0069】
天然のセルピンB1又はセルピンB1バリアントポリペプチドと第2のポリペプチドとを含む融合タンパク質の方法及び組成物も本明細書において提供される。幾つかの実施形態において、第2のポリペプチドは、融合タンパク質の半減期を増加させる。例えば、第2のポリペプチドは、IgGのFc部分、一本鎖可変断片(scFv)、又は抗体を含み得るか、又はそれからなり得る。
【0070】
幾つかの実施形態において、天然のセルピンB1又はセルピンB1バリアントポリペプチドは、例えば、ペグ化により翻訳後修飾される。
【0071】
本開示の方法及び組成物のために使用され得るか、それらと共に使用され得るか、それらの準備に使用され得るか、又はそれらの産物である、材料、組成物、及び構成要素が開示される。これらの材料及び他の材料が本明細書において開示されており、これらの材料の組み合わせ、サブセット、相互作用、グループ等が開示される場合、これらの化合物の様々な個別的及び集合的な組み合わせ及び順列の各々について具体的な言及は明示的に開示されなくてもよく、各々が本明細書において具体的に意図及び記載されているものと理解される。例えば、方法が開示及び検討され、方法を含む多数の分子になされ得る多数の改変が検討される場合、特に反対の規定がない限り、方法及び可能な変形形態のいずれの組み合わせ及び順列も具体的に意図される。同様に、これらの任意のサブセット又は組み合わせも具体的に意図及び開示される。この概念は、本開示の組成物を使用する方法の工程が挙げられるがこれに限定されない、本開示の全ての態様に適用される。したがって、実行され得る種々の追加の工程が存在する場合、これらの追加の工程の各々が、本開示の方法の任意の具体的な方法工程又は方法工程の組み合わせと共に実行され得て、かかる組み合わせ又は組み合わせのサブセットの各々が具体的に意図されており、開示されたと見なされるべきであると理解される。
【実施例】
【0072】
以下の実施例は、例示目的にすぎず、特許請求された発明の限定と解釈されるべきでない。意図される発明を成功裡に実行するのを同様に可能にする、当業者が利用可能な種々の代替技術及び手法が存在する。
【0073】
実施例1:実験手順
材料 - 精製されたヒト好中球エラスターゼ(HNE)及びカテプシンG(CatG)は、Lee Biosolutions社(ミズーリ州セントルイス)から購入した。ブタ膵臓エラスターゼ(PPE)、TLCK処理ウシαキモトリプシン(BC)、N-クロロスクシンイミド(NCS)、ウサギ抗セルピンB1ポリクローナル抗体(PN#SAB1101121)、及びヤギ抗ウサギHRPコンジュゲートは、Sigma-Aldrich社(ミズーリ州セントルイス)から購入した。エラスターゼ基質であるN-Succ-AAPV-pNA及びBC基質であるSucc-AAPF-pNAは、Bachem Americas社(カリフォルニア州トーランス)から購入した。2-メルカプトエタノール(2-ME)は、MP Biomedical社(カリフォルニア州サンタアナ)から購入した。チオ硫酸ナトリウム五水和物は、VWR International社(カリフォルニア州バイセイリア)から購入した。クロマトグラフィー樹脂であるQXL fast-flow、Sephacryl S100 HR、及びHitrap Q HPは、GE Healthcare Life Sciences社(ペンシルバニア州ピッツバーグ)から購入した。ヒドロキシアパタイト(Macro-Prep Ceramic、タイプ1、40μm)は、Biorad Laboratories社(カリフォルニア州ハーキュリーズ)から購入した。Zorbax 300SB-C3 HPLCカラムは、Agilent Technologies社(カリフォルニア州サンタクララ)から購入した。
【0074】
酵母における組換えヒトsB1の発現 - 組換えヒトセルピンB1(rhsB1)を、酵母(サッカロミセス・セレビシエ)に発現させ、酵母から精製した。Genscript USA社(ニュージャージー州)で酵母ADH2プロモーターの制御下の野生型ヒトセルピンB1をコードするヒトmRNA配列が合成され、大腸菌(e. coli)ベクターpUC57にサブクローニングされた。ベクター(2μg)をエンドヌクレアーゼで消化し、ZymocleanゲルDNA回収キット(Zymo Research社、サンディエゴ)を使用して適切にサイズ分類されたDNA断片を回収した。ura選択マーカーを含有する2μmの酵母プラスミド(pSB100)にこの断片をライゲーションし、サッカロミセス・セレビシエに形質転換した。Ura-/8%グルコースプレート上で増殖した幾つかのコロニーを、ウラシルを欠くが、8%のグルコースを含有する合成限定(SD)培地(Sunrise Sciences社、サンディエゴ)の接種物中で30℃にて一晩増殖させることによりrhB1発現についてスクリーニングし、次いで、酵母抽出物/ペプトン/2%のグルコース(YEPD)に移し、更に72時間増殖させた。試料を24時間、48時間、及び72時間の時点で採取し、増殖(OD600)、タンパク質発現(SDS-PAGE)、及びrhB1活性(ブタ膵臓エラスターゼの阻害)について解析した。rhsB1の良好な発現及び活性を示す幾つかのクローンを選択し、グリセロールストックを調製し、-80℃にて凍結させた。Genscript USA社(ニュージャージー州)で、G1031をCで置換する部位特異的変異導入により、Cys-344→セリン変異がpUC57のヒトセルピンB1コード配列に導入された。野生型rhsB1タンパク質について記載したように、このバリアント配列を切除し、サブクローニングし、酵母に形質転換した。発現構築物のコード配列をDNA塩基配列決定により確認した。
【0075】
組換えヒトsB1の精製 - カラムクロマトグラフィー及び硫安塩析の組み合わせを使用してrhsB1を酵母ペースト(50g~100g)から精製した。本発明者らは、sB1の2つのシステイン残基(Cys-214、Cys-344)の反応性、及び高度に還元的な酵母細胞内環境から開放されたら、それらがどのように振る舞うかに興味があったため、還元剤を全ての精製工程から除去した。要約すると、ビーズ式破砕機(BioSpec Products社、オクラホマ州)を使用して、1mMのEDTA(TE)を含有する10mMのトリス緩衝液(pH8.0)中で細胞をガラスビーズ溶解に供した。可溶化液を20000×gでの遠心分離により清澄化し、pHを8.0に調整し、その後、TE緩衝液中で平衡化したQXL fast flow樹脂を含有するアニオン交換カラム上に直接ロードした。結合したタンパク質を、平衡化緩衝液中1MのNaClまでの5CVの勾配を用いて溶出させた。活性なrhsB1を含有する画分を、SDS-PAGE及びPPE阻害アッセイ(酵素阻害アッセイのセクションを参照のこと)を使用して位置付け、プールし、更に精製し、連続的な45%及び65%硫安(AS)塩析工程により濃縮した。これらの工程の各々について、rhsB1を含有するプールに固体のASを添加し、室温にて30分間混合し、次いで、20000×gで20分間遠心分離した。65%のASペレットを最小容量の10×TE緩衝液(pH8.0)中に再溶解し、100mMのNaClのTE(pH7.4)中で平衡化したSephacryl S100 HR樹脂を含有するサイズ排除カラム上にロードした。タンパク質を5mL/分で溶出させ、単量体のrhB1を含有するピークをSDS-PAGE解析により位置付けた。ピークの画分をプールし、10mMのNaCl、5mMのリン酸ナトリウム(pH6.9)中で一晩透析し、透析緩衝液中で平衡化したセラミックヒドロキシアパタイト(CHA)のカラム上に5mL/分でロードした。カラムを平衡化緩衝液で洗浄し、10mMのNaCl、0.3Mのリン酸ナトリウム(pH6.9)までの20カラム容量の勾配を用いて結合したタンパク質を溶出させた。カラムから溶出させたピークを、SDS-PAGE及びPPE阻害によりrhsB1含量について試験した。rhsB1を含有する画分をプールし、Vivaspin 20限外濾過スピンカラム(Sartorius社、ドイツ)上で濃縮した。1mg/mLのrhsB1溶液で1.16の公開された吸光係数を使用してタンパク質濃度を決定し、アリコートを-80℃で凍結させた(12)。
【0076】
酵母可溶化液中のrhsB1のN-クロロスクシンイミド(NCS)による酸化に対する感受性 - rhsB1を発現する酵母ペーストの100mg試料を機械的破砕により溶解させた。酵母ペーストの入ったマイクロチューブに、0.75mLのガラスビーズ(0.5mm)及び0.75mLのTE(pH8.0)を添加し、チューブをミニボルテクサー(VWR scientific社)で1分間、3回混合し、各回の間に氷上で1分間静置した。可溶性のrhsB1を含有する可溶化液を、20000×gで10分間の遠心分離により清澄化した。清澄化した可溶化液のアリコート(90μL)を、各アリコートに10μLの10×NCS濃縮物(TE中、pH8.0)を添加し、1分間、5分間、又は30分間のいずれかの間、30℃でインキュベートすることにより、様々な濃度のNCS(0mM~1mM)にした。過剰な1.0Mチオ硫酸ナトリウムを添加することにより反応を停止させた。試料を採取し、PBS中でのブタ膵臓エラスターゼ(PPE)及びウシキモトリプシン(BC)の阻害について分析し、rhsB1の分子形態についてSDS-PAGE及びウェスタンブロット法により解析した。
【0077】
酵素阻害アッセイ:
ブタ膵臓エラスターゼ(PPE)アッセイ - PPEの阻害を、精製中にrhsB1を含有する画分を検出するためのツール、並びに酸化された酵母可溶化液及び高度に精製されたタンパク質調製物中に存在するPTM形態のrhsB1の相対的なPPE阻害活性を評価するためのアッセイの両方として使用した。精製工程をモニタリングするために、様々な量の選択されたクロマトグラフピーク画分を、PPE(100nM又は200nM)と共にマイクロタイタープレート内で2-MEを含有する又は非含有の195μLのPBS(pH7.4)の最終容量で最高5分間インキュベートした。次いで、エラスターゼ基質であるSucc-AAPV-pNAを1mMの最終濃度に添加し、遊離パラニトロアニリド(pNA)の放出をプレートリーダー(SPECTRAmax 340PC、Molecular Devices社)上で405nmにて数分間モニタリングした。完全にPPEを阻害した画分を、rhsB1を含有する画分とし、プールし、精製セクションに記載されているように更に処理した。酸化された酵母可溶化液及び高度に精製された調製物中に存在するrhsB1タンパク質の相対的な阻害活性を評価するアッセイとして使用される場合、一定濃度のPPEを使用した(100nm)。異なる容量の各試料と共にPPEを、マイクロタイタープレート内の2-MEを含有する又は非含有の一定容量(195μL)のPBS(pH7.4)中で異なる時間インキュベートした。残存するPPE活性を上記の通り測定した。同様のアッセイが、セルピンB1バリアントのヒト膵臓エラスターゼに対する阻害活性を評価するために実行され得る。
【0078】
ヒト好中球エラスターゼ(HNE)アッセイ - ヒト好中球エラスターゼ(HNE;170nM)を、酸化された、又は酸化されていない異なる容量の酵母可溶化液及び異なる量の精製されたrhsB1タンパク質調製物と共に、マイクロタイタープレート内で2-MEを含有する又は非含有の一定容量(195μL)のPBS(pH7.4)中で異なる時間インキュベートした。エラスターゼ基質であるSucc-AAPV-pNAを添加し、上記の通りモニタリングすることにより残存するHNE活性を決定した。
【0079】
ウシキモトリプシンアッセイ - ウシキモトリプシン(BC;100nM)を、酸化された、又は酸化されていない異なる容量の酵母可溶化液及び異なる量の精製されたrhsB1タンパク質調製物と共に、マイクロタイタープレート内で2-MEを含有する又は非含有の一定容量(195μL)のPBS(pH7.4)中で異なる時間インキュベートした。BC基質であるSucc-AAPF-pNAを添加し、上記の通りモニタリングすることにより残存するBC活性を決定した。
【0080】
ヒト好中球カテプシンG(CatG)アッセイ - ヒト好中球カテプシンG(CatG;100nM)を、異なる量の精製されたrhsB1タンパク質調製物と共に、マイクロタイタープレート内で2-MEを含有する又は非含有の一定容量(195μL)のPBS(pH7.4)中で異なる時間インキュベートした。基質であるSucc-AAPF-pNAを添加し、BCについて上記したようにモニタリングすることにより残存するCatG活性を決定した。
【0081】
PPE、HNE、BC、及びCatGのrhsB1タンパク質との相互作用 - 酵素:rhsB1複合体をSDS-PAGE及びクマシーブルーG250による染色により可視化した。典型的には、一定量の酵素を異なる量の精製されたrhsB1タンパク質と共に、又は一定量の精製されたrhsB1タンパク質を異なる量の酵素と共に、最大限の複合体形成又はrhsB1タンパク質のより低分子量形態への最大限の変換のいずれかを達成するのに十分な異なる時間インキュベートした(公開された会合速度定数(4)及び上記の酵素アッセイから得られたデータに基づく)。残存する酵素を低分子量の合成プロテアーゼインヒビターカクテル(Sigma社)の添加により阻害し、試料をSDS-PAGEにより解析した。
【0082】
切断されたrhsB1M*及びrhsB1Dのタンパク質配列解析 - PPEにより切断され、精製されたrhsB1M*及びrhsB1Dを、Hitrap Q HPカラム(5mL)でのイオン交換クロマトグラフィーにより更に精製して、PPE及び残存する低分子量の合成プロテアーゼインヒビターを除去した。各々の試料は、カリフォルニア大学デイビス校の分子構造解析施設(カリフォルニア州デイビス)でエドマン分解により7サイクルにて配列決定された。
【0083】
実施例2:還元剤非存在下での精製は、エラスターゼ阻害活性を欠く翻訳後修飾された形態のrhsB1をもたらす
rhsB1を含有する5μLの酵母可溶化液を異なる濃度のNCSとインキュベートし、酸化させた(
図2A)。データポイントは、三重反復での分析の平均±SEである。rhsB1を発現する酵母は、ウェスタンブロット法において抗sB1抗血清と特異的に交差反応する、SDS-PAGEで確認できる約42kDaの分子量の主要な単一のタンパク質バンドを示した(
図2B、レーン1)。rhsB1を発現する酵母細胞可溶化液のアリコートは、外来性に添加された還元剤の非存在下でPPE及びBCのインヒビターとして活性であった(
図2C及び
図2D)。したがって、本発明者らは、阻害活性を保持するために選択される還元剤として2-MEを用いるCooley et al(12)の方法を使用してrhsB1を精製することを最初に試みたが、得られた生成物がRP-HPLCにより判断して相対的に純粋でなく(90%未満)、場合によっては、RSL内での限定的なタンパク質分解に起因して不活性であることが分かった(データ非表示)。したがって、本発明者らは、この方法を改変して、還元剤を除外し、硫安分画及びセラミックヒドロキシアパタイト(CHA)樹脂上でのクロマトグラフィーという2つの追加の工程を組み込んだ。本発明者らは、QXL FFプールでの硫安分画が、サイズ排除クロマトグラフィーの前にrhsB1を更に精製し、濃縮するための迅速な方法であることを発見した。しかしながら、サイズ排除カラムから溶出する生成物がまだ相対的に純粋でなかったため、CHAクロマトグラフィーを最後の仕上げ工程として組み込んだ。サイズ排除クロマトグラフィープロセス中のrhsB1の二量体化に起因する若干の生成物の損失はあったものの、本発明者らは、CHAクロマトグラフィーにより2つのrhsB1含有ピークを分離することができた(
図1A)。第1の主ピークは、完全に還元されたrhsB1(
図1C、レーン2、3[+2-ME])及びSer-344バリアント(
図1C、レーン1、2[-2-ME])よりわずかに分子量の高い単量体形態のrhsB1を含有した。本発明者らは、この化学種をrhsB1M*と称する。第2のピークは、2-MEが添加されると単量体rhsB1のサイズに減少され得る、約84kDaのはるかにより高分子量の化学種を含有した(
図1C、レーン3(複数の場合もある)[-/+2-ME])。このサイズは二量体化形態のrhsB1のものと一致し、したがって、本発明者らはこの化学種をrhsB1Dと称する。本発明者らが2-MEを用いてrhsB1M*及びrhsB1Dを同じサイズに完全に還元させることができなかったという事実は、各翻訳後修飾の性質が異なり、還元されたチオール基(R-SH)を含有する別の分子との単純なジスルフィド結合形成だけではないことを最初に示した。加えて、本発明者らは、精製の間のrhsB1Dの量の増加に伴うEIAの段階的な喪失を認めたが、CIAの喪失は認められず、このことは、グルタチオン及びL-システイン等の酵母の内因性抗酸化剤から除去されると、反応部位であるCys-344が翻訳後修飾(PTM)に対して感受性になり得ることを示唆する。この仮説を支持するように、CHAクロマトグラフィーでのSer-344バリアントの精製は、rhsB1M*と同様の位置で溶出する、単量体rhsB1を含有する単一のピークのみをもたらした(
図1B)。さらに、Ser-344バリアントタンパク質は、可溶化液中に存在するものと比べてより高分子量ではなく(データ非表示)、SDS-PAGEゲルにおけるその移動度は、2-MEによる影響を受けなかった(
図1C、レーン1(複数の場合もある))。これらの結果は、rhsB1内のCys-214又は他の残基での修飾ではなく、Cys-344のPTMが、rhsB1M*及びrhsB1Dにおいて生じる分子量シフトの原因である可能性が最も高いことを示す。
【0084】
実施例3. 酵母可溶化液中のrhsB1の直接的な酸化は、rhsB1M*において観察されるものと同様のPTMを急速に引き起こす
酵母可溶化液中のrhsB1は、NCSによる酸化に対する感受性(EIAの喪失により決定される)を示し、NCSによる酸化はrhsB1M*において観察されるものと同様の分子量シフトを引き起こした。未処理の可溶化液のアリコート(5μL)は、PPE(100nM)活性を完全に阻害することができたが、このEIAは、NCSにより酸化されると急速かつ特異的に用量依存的様式で消失した(
図2A、
図2C)。600μM超のNCS濃度がrhsB1のEIAを減少させることができ、酸化されていないrhsB1よりわずかに分子量の高い特異的なバンドの出現を同時に引き起こした(
図2B、レーン2[SDS-PAGE及びウェスタンブロット])。本発明者らは、この反応が急速であり、本発明者らが試験した最も早い時点(1分)以内にほぼ完了することを観察した。SDS-PAGEで確認できる他のどの主要な酵母タンパク質もこのシフトを起こさなかった。対照的に、rhsB1を含有する酸化された可溶化液は、そのCIAを保持した(
図2D)。
【0085】
実施例4. rhsB1D及びrhsB1M*はブタ膵臓エラスターゼの基質である
2-MEの非存在下では、rhsB1M*もrhsB1DもPPEを阻害することができなかった。代わりに、両方ともより低分子量の化学種に容易に切断された。
図3A(レーン3~5及び7~9)は、1:10~1:1000の範囲の酵素対インヒビター(E:I)モル比により生成された、それぞれrhsB1D及びrhsB1M*の切断プロファイルを示す。rhsB1D及びrhsB1M*の両方が、1:100以上のE:Iモル比で30分の時間内に約38kDaのより低分子量の化学種に特異的に分解された。セルピンでは、この分解パターンは、特にそのセルピンに起因する酵素阻害機能の特異的喪失を伴う場合、通常、RSL内での限定的なタンパク質分解を示す。rhsB1Dの場合、約46kDaの中間の分解種(
図3A、レーン4)及び約8kDa~10kDaの一過性に染色された分解種も観察された(レーン5)。約46kDa種のサイズは、切断されたrhsB1分子から放出されたRSLペプチド(約4kDa)にCys-344によりジスルフィド結合されたインタクトなrhsB1単量体(約42kDa)のサイズと一致する。8kDa~10kDaの種は、おそらくCys-344により互いにジスルフィド結合された2つのRSLペプチドを含む。
【0086】
25mMの2-MEの存在下では、rhsB1M*は、依然としてPPEを効率的に阻害することができず、また上記のようにより低分子量の化学種に分解された(データ非表示)。対照的に、rhsB1Dは、25mMの2-MEにより、用量依存的様式でPPEとSDS安定性の複合体を形成することができる活性な単量体rhsB1に還元された(
図3B)。しかしながら、このゲルは、形成されたより高分子量のE:I複合体に加えて、上記の切断された形態と同様の別のより低分子量の化学種が0.25超のE:Iモル比で生成された(約38kDa)ことを明白に示す。
【0087】
実施例5. rhsB1D及びrhsB1M*は、ブタ膵臓エラスターゼにより反応部位ループ内の複数の部位で切断される
PPEにより切断されたrhsB1M*の直接的タンパク質配列解析により、別個であるが、重複するsB1のRSLに由来する3つの配列が得られ(表1、
図9)、結果はRP-HPLCで観察された3つのピークと一致した。存在する主な配列(約49%)は、Thr-342:Phe-343結合の切断により生じた。他の2つの配列は、より低量で存在し、Ala-338:Gly-339(約20%)及びAla-341:Thr-342(約31%)結合の切断により生じた。PPEで切断されたrhsB1Dの配列解析により全く同じ3つの配列が得られたが、各々の収率が異なった。Thr-342:Phe-343及びAla-341:Thr-342結合の切断の量がそれぞれ39%及び23%に減少し、一方でAla-338:Gly-339結合の切断が38%に増加した。これらの結果は、PPEの報告された特異性と一致し、rhsB1Dにおけるジスルフィド結合形成を担う残基としてのCys-344を裏付ける。Cys-344は、この相互作用に参加することができる、RSL内に存在する唯一のシステイン残基であり、エラスターゼ切断部位のC末端に存在するが、Cys-214は38kDa種の一部である。
【0088】
おそらくエドマン分解のプロセス化学に干渉するN-アセチルトランスフェラーゼB(NatB)によるN末端メチオニンのα-アミノ基のアセチル化に起因して、rhsB1のN末端アミノ酸からのタンパク質配列データは取得されなかった。これは、他のN-アセチル化されたクレードBセルピン及び細胞内で発現されたタンパク質で観察されている(29)。
【0089】
実施例6. 最大エラスターゼ阻害活性を復元するためのrhsB1Dの還元には、高濃度の2-MEが必要とされる
完全に還元されたrhsB1D又はrhsB1M*のヒト好中球エラスターゼ(HNE)対する阻害活性を正確に評価するために、本発明者らは、一定量の各々(230nM又は460nM)を異なる濃度の2-MEで滴定し、次いで、それらを一定量のHNE(170nM)と反応させた。2-MEのみでのHNE活性に対する効果を評価する適切な対照が含まれた。
図4Aは、230nMのrhsB1Dを含有する溶液における40mMまでの2-MEの濃度の増加が、初期値の約40%までのHNEの残存活性の漸進的減少をもたらしたことを示す。これを超える2-MEの濃度(最高0.5M)は更なる影響を及ぼさなかったが、アッセイにおけるrhsB1Dの量を2倍にすると、HNEの完全な阻害がもたらされた。これは、EIAを完全に復元するために、rhsB1Dにおける分子間のCys-344:Cys-344ジスルフィド結合が、比較的高濃度の還元剤(2-MEの場合、少なくとも25mM以上)を必要とすることを示す。
【0090】
対照的に、2-MEでの230nMのrhsB1M*の滴定は、試験された濃度のいずれにおいてもEIAに対する小さな影響しか及ぼさなかった(
図4B)。しかし、460nMではこの影響がわずかに増強され、このことは、rhsB1M*調製物のごく一部が還元に対して感受性であり、不可逆的に修飾されていなかったことを示唆する。
【0091】
実施例7. rhsB1D及びrhsB1M*はHNEの基質でもある
rhsB1D及びrhsB1M*のHNEとの相互作用は、上記のPPEでの結果とよく似た結果を提供した。還元剤の非存在下ではどちらもHNEを顕著に阻害することができず、両方とも
図3Aにおいて観察されるものと同様の分解パターンを示した(
図5B及び
図5D;PBS)。
図5A及び
図5Bは、40mMの2-MEの存在下又は非存在下での一定濃度のHNEと漸増する量のrhsB1Dとの相互作用を示す。等モル量の活性酵素を完全に阻害するのに必要とされる活性なセルピンのモル量は、しばしば、阻害の化学量論すなわちSOIと称され(30)、本発明者らが酵素調製物の特異的活性を決定していなかったとしても、
図5Aの動態データから、完全に還元されたrhsB1DのHNEとのSOIが約2.1であることが明らかである。このデータは、2-MEの非存在下では、複合体が観察されず、二量体が完全に切断されて、RSLが切断されたrhsB1を生じた(
図5B;「PBS」)が、2-MEの存在下では、約68kDaのHNE:rhsB1複合体が約57kDaの中間種及び約42kDaのRSLが切断されたrhsB1と共に容易に観察されたように(
図5B、PBS+40mMの2-ME)、還元型のrhsB1DがHNEの阻害に絶対的に必要とされることを確証する。HNE阻害が最大である場合、中間種は観察されず、複合体、RSLが切断されたrhsB1、及びインタクトなrhsB1のみが可視的であった。中間種は、遊離酵素の複合体に対する作用により生成され得る。
【0092】
対照的に、還元されたrhsB1M*のHNEとのSOIは、約13(データ非表示)であり、RSL内で触媒的に切断されている大部分のrhsB1M*及び少量の中間の約57kDa複合体がSDS-PAGEで確認できる(
図5C、
図5D;PBS+40mMの2-ME)。これは、この調製物中の一部のrhsB1M*が不可逆的に酸化されなかったことの更なる証拠を提供する。
【0093】
実施例8. rhsB1D及びrhsB1M*は、キモトリプシン阻害活性を保持するが、阻害の化学量論が変化している
エラスターゼとは対照的に、BCは、2-MEの存在下又は非存在下でrhsB1D及びrhsB1M*の両方により阻害されたが、それらのSOIは変化した。本発明者らの動態データは、2-MEの存在下でrhsB1Dが0.5に近いSOIを有していたことを示した(
図6A)。しかしながら、このような低いSOIは、理論的に不可能であり、おそらく、BC調製物の50%以下の特異的活性を反映している。2-MEの非存在下ではこの比率は約1.0に増加し、試料のインキュベート時間が最長1時間に延長された場合に、変化しなかった。このことは、反応が完了していたことを示す。2-MEの非存在下でのSOIのこの倍増の1つの説明は、BCがインタクトな二量体のRSLの一方に結合すると、他方のRSLへのアクセスが立体障害され、これにより、1つの二量体分子による1つのBC分子のみの阻害が可能となるということであり得る。或いは、複合体形成に伴う構造的変化が、第2のRSLが効果的にBCと相互作用できなくして、複合体を形成できなくする可能性がある。SDS-PAGEデータは、動態データを確証し、2-MEの存在下又は非存在下で、漸増する量のrhsB1Dで滴定された際の一定濃度の遊離BCの消失を示した(
図6B)。2-MEの非存在下(PBS)では、二量体は、二量体及び酵素からなる約109kDaの予測される分子量の複合体を形成するのではなく、約67kDaのより低分子量のバンド及び微量の約42kDaのバンドの形成に付随して解離するようであった。前者のバンドは、還元されていないBC(約25kDa、PBS、E)と単量体rhsB1(約42kDa、PBS+40mMの2-ME、I)との間で形成された複合体の分子量と一致する分子量を有し、後者は、インタクトであるか、又はRSLが切断されたrhsB1のいずれかの分子量と一致する。2-MEの存在下では、BCは、約15kDa及び約10kDaの2本の鎖に解離し、このうちの小さい方が活性部位Ser-195を保持する。したがって、これらの条件下では、少量のRSLが切断されたrhsB1に加えて、非常により小さい複合体及び中間の複合体(約52kDa及び約48kDa)がrhsB1とBCとの間で形成される(PBS+40mMの2-ME)。
【0094】
rhsB1M*のBCとのSOIは、2-MEの非存在下又は存在下で約3であり、2-MEの存在下でSOIがわずかにより低くなる傾向があった(
図6C、
図6D)。SDS-PAGEでは、2-MEの非存在下でBCと形成される複合体の分子量は、RSLが切断されたrhsB1M*が視覚的により明瞭であったことを除き、2-MEの非存在下でのrhsB1Dで観察されたものと同様であった。この発見は、観察されたより高いSOIと一致する。
【0095】
実施例9. rhsB1D及びrhsB1M*のCatGとの相互作用は、BCとの相互作用と同様であった
CatGはキモトリプシンと密接に関連するため、本発明者らは、そのrhsB1D及びrhsB1M*との相互作用は、BCとrhsB1D及びrhsB1M*とについての上記のデータと同様のデータをもたらすであろうと予想した。結果は、動態的に、及び反応産物のSDS-PAGE解析により同様の相互作用を示した。還元された二量体は、還元されていない二量体と比較した場合、CatGの阻害において2倍効果的なようであったが、各々のSOIは、rhB1DのBCとの相互作用について記載されたSOIの約2倍であった。おそらくこれは、CatG調製物のより高い特異的な活性、複合体形成時のCatGによるrhB1Dのより高い代謝回転率、又は2つの組み合わせのいずれかを反映している。2つ目の仮説を支持するように、
図6B及び
図7BのSDS-PAGEプロファイルの比較から、2-MEの非存在下でBCとrhsB1Dとの間で形成される複合体は、CatGとrhsB1Dとの間で形成されるものより非常に安定しており、ごくわずかな中間の複合体又はRSLが切断されたrhsB1しか生じないようである。rhsB1M*のBC又はCatGのいずれかとの相互作用についてのSDS-PAGEプロファイルの比較もこの比較的不安定性を実証し、CatGと反応した場合に、BCと反応した場合と比べてより多くのrhsB1M*が、中間物又は完全な複合体を形成するよりも、RSL切断経路に分配する(
図6D、
図7C)。このために、CatGのrhsB1D又はrhsB1M*のいずれかとの相互作用のSOIが、BCのrhsB1D又はrhsB1M*との相互作用で観察されるSOIよりそれぞれ高い可能性がある。
【0096】
本明細書に記載される実施例及び実施形態は、例示目的のためにすぎず、それらを考慮しての種々の改変又は変更が当業者に示唆され、本出願の要旨及び範囲内並びに添付の特許請求の範囲内に含まれることが理解されよう。本明細書において引用される全ての刊行物、配列アクセッション番号、特許、及び特許出願は、全ての目的のためにそれらの全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0097】
実施例10. 野生型sB1の特徴付け
この実験は、生理学的に関連するROS及びRNSのsB1のエラスターゼ阻害活性に対する影響を解析するために実施された。野生型セルピンB1(rhsB1 WT(C344))を発現する酵母をPBS、1mMのEDTA(pH7.5)中で溶解させ、野生型(C344)セルピンB1を含有する可溶性の可溶化液を遠心分離により不溶性の細胞片から分離した。酵素(PPE)をPPE活性が観察されなくなるまで可溶化液で滴定した。この実験の条件は、実施例1に記載されたのと同様であり、rhsB1は、酵母可溶化液中に存在する内因性の抗酸化剤により安定化された未酸化状態の遊離単量体rhsB1 C344-SHとして存在した。
【0098】
別個の可溶化液の試料を、異なる濃度の各ROS/RNSで異なる時間処理し、反応を過剰のチオ硫酸ナトリウムを停止させた。次いで、
図1の凡例に記載した方法を使用して処理に関連する容量変化に対して調整した後に、酸化された可溶化液試料をPPEと反応させて、阻害活性を再評価した。
図12のパネルAは、異なる濃度の過酸化亜硝酸(ROS及びRNSの両方)、N-クロロスクシンイミド(ROS)、過酸化水素(ROS)、及び次亜塩素酸ナトリウム(ROS)の各試料中に存在するエラスターゼ阻害活性に対する影響を示す。
図12のパネルBは、1mMの濃度の過酸化亜硝酸が、野生型セルピンB1のエラスターゼ阻害活性を急速に不活性化することができ、測定された最も早い時点(5分)で80%のPPE活性が復元されたことを示す。これらの結果は、野生型セルピンB1(C344)が、強力な酸化剤(例えば、過酸化亜硝酸)である活性酸素種及び活性窒素種(ROS/RNS)によりエラスターゼインヒビターとして急速に不活性化されるが、同様にROSであるが、より弱い酸化剤である過酸化水素(H
2O
2)により不活性化されないことを示す。この差は、rhsB1のC344-SH基がタンパク質内の周囲のアミノ酸により安定化されていることに起因する可能性が高く、C344-SH基は、強力な酸化剤によってのみ酸化され得る。
【0099】
次に、本発明者らは、酸化された野生型sB1の他のプロテアーゼを阻害する能力を試験するための実験を実行した。過酸化亜硝酸で処理され、不活性化された野生型セルピンB1(C344)を含有する酵母可溶化液を使用して、ウシα-キモトリプシンを阻害する能力を評価した(
図13、パネルA)。最大阻害のベースライン条件を確立するための酵素に対する酸化されていない可溶化液の最初の滴定を、キモトリプシンの発色基質であるSucc-AAPF-pNAを使用することを除き、PPEについて記載したように実施した。結果は、野生型セルピンB1(C344)の酸化が、ウシα-キモトリプシンを阻害する能力を減少させることを示す。
【0100】
次いで、本発明者らは、過酸化亜硝酸により不活化された野生型セルピンB1を精製し、好中球プロテイナーゼ3を阻害する能力を試験した(PR3;
図13、パネルB)。この実験では、10μLの3.3μMのPR3を、2倍モル過剰の各精製されたインヒビターとマイクロタイタープレート内で195μL(PBS、pH7.4)の最終容量に混合した。試料を5分インキュベートし、次いで、5μLの発色基質であるメトキシSucc-AAPV-pNA(約1mMの最終濃度)を添加し、残存する酵素活性をΔ405nmで20分間モニタリングした。結果は、野生型rhsB1(rhsB1-WT)が、プロテイナーゼ3(PR3)の発色基質切断活性を完全に阻害することができるが、過酸化亜硝酸により酸化されたrhsB1(rhsB1M*P)がその阻害活性の約40%を失っていることを示す(
図13パネルB)。対照的に、酸化耐性C344Aバリアント(rhsB1 A344)は、阻害活性を少しも失っていなかった。最後に、エラスターゼにより切断された形態のrhsB1(rhsB1-CL)は、全ての阻害活性を失い、実際にはPR3活性を約50%刺激した。このことは、反応部位ループ内での切断が全てのプロテアーゼ阻害活性を完全に破壊することを確証する。
【0101】
実施例11. sB1バリアントのエラスターゼ阻害活性の評価
野生型アミノ酸(C344)のDNAコード配列を部位特異的変異誘発により変化させることにより、セルピンB1反応部位バリアントを構築した。配列をDNA配列決定により確認し、酵母発現ベクターにクローニングし、酵母(サッカロミセス・セレビシエ)に形質転換した。バリアントタンパク質を発現させ、前述したように精製した。
【0102】
ヒトα1-アンチトリプシン(AAT)が基準対照として含まれた。セルピンB1の約42500ダルトンに対して、AATの分子量は約54000ダルトンである。
【0103】
酵素アッセイ:マイクロタイタープレート内の200μLの最終容量で、発色基質であるSucc-AAA-pNAを用いて405nmで約400mAU/分のVmaxを生じたブタ膵臓エラスターゼ(PPE)の濃度を使用した。これは通常160nMであった。マイクロタイタープレートウェルへの試薬の添加順序は、以下の通りであった:1. 酵素(8μL~10μLの0.1mg/mL作業用原液のPPE);2. 緩衝液(PBS、pH7.4、+40mMの2-メルカプトエタノール);3. インヒビター。溶液を混合し、25℃で5分間インキュベートし、次いで、5μLの発色基質を1mMの最終濃度に添加し、SpectraMax 340 PCマイクロタイタープレートリーダー(Molecular Devices社)で酵素活性を2分間記録した。各アッセイを三重反復で2回実行した。結果は、4つ全てのバリアントがエラスターゼ阻害活性を示すが、それらが非常に異なる効率でエラスターゼを阻害することを示した(
図14)。C344A(A344)バリアントのみが、野生型rhsB1(C344(野生型))のように、PPEを完全に阻害するために同量の精製されたタンパク質(1μg)を必要とし、精製されたヒトAATと同等であった。C344V(V344)バリアントは次善であり、1.5μgの精製されたタンパク質を必要とした一方で、C344Gバリアントは同じ阻害レベルを達成するために3.5μgのタンパク質を必要とした。C344Sバリアントは、完全な阻害を達成するために13μgの精製されたタンパク質を必要とする、PPEの弱いインヒビターであった。理想的には、C344Aバリアントが、酸化耐性型のタンパク質として最良の置換であり、それにC334V及びC344G、その次にC344Sが続く。明らかに、セルピンB1のC344の保存的のように思われる置換をすることにより、PPEを阻害する能力が非常に異なるタンパク質がもたらされる。
【0104】
C344Sは、エラスターゼの弱いインヒビターである
この実験では、一定量の野生型rhsB1(C344)又はC344Sバリアント(S344)を、異なる量のPPEと共に示されるモル比でインキュベートした。反応容量を20μLに固定した。PPEを最初に添加し、続いて、緩衝液及びインヒビターを添加した。試料を25℃で5分間インキュベートし、次いで、合成プロテアーゼインヒビターミックス(Sigma、カタログ番号P8215)を添加して、活性酵素をクエンチし、SDS-PAGE用ローディング緩衝液を添加し、試料を5分間加熱した。反応産物を4%~20%のSDS-PAGEにより分離し、クマシーブルーR250による染色により可視化した(
図15)。Iはインヒビター(セルピンB1タンパク質)を表し、Eはブタ膵臓エラスターゼ(PPE)を表し、MはSDS-PAGE用分子量マーカー(10kDa、15kDa、20kDa、30kDa、40kDa、50kDa、60kDa、80kDa、及び120kDa)を表す。結果は、通常、野生型(C344)セルピンB1とSDS及び熱安定性の複合体を形成する酵素:インヒビター比で、C344SセルピンB1バリアントがPPEにより急速に切断され、不活性化されることを示す。プロテアーゼインヒビターの生物学の当業者にとって、この種の相互作用は、「阻害の化学量論」(SI)と称され、ここで、セルピンは、標的酵素の非常に「効率的な」インヒビターであり、酵素が不活性である等モルのインヒビター:酵素比で、若しくはその付近で安定な複合体を形成することができるか、又はセルピンは、非常に弱いインヒビターであり、その大部分が触媒的に切断される基質経路に分配し、決して安定した複合体を形成しない。効率的なインヒビターと比較して、標的酵素を阻害するために非常に多量の弱いインヒビターが必要とされるため、これは生理学的に非常に重要である。
【0105】
C344A rhsB1バリアントは、酸化に対する耐性を示す
この実験では、野生型セルピンB1(C344)又はC344Aバリアントを含有する酵母可溶化液を、上記で記載されたように酸化剤である過酸化亜硝酸で処理した。次いで、
図3及び
図4に記載されているように試料を、エラスターゼ及びキモトリプシンを阻害するそれらの能力について試験した。結果(
図16に示す)は、セルピンB1 C344Aバリアントが、過酸化亜硝酸の存在下でエラスターゼ及びキモトリプシン阻害活性を保持するが、野生型セルピンB1(rhsB1 C344)が漸増する量の過酸化亜硝酸により急速に不活性化されることを示す。
【0106】
この実験では、セルピンB1野生型タンパク質(rhsB1 WT)又はC344Aバリアント(rhsB1 A344)のいずれかを発現する酵母をPBS(pH7.5)中で溶解させた。酵素(PPE)をPPE活性が観察されなくなるまで可溶化液(複数の場合もある)で滴定した。次いで、可溶化液(複数の場合もある)を、1U又は5Uの精製されたヒト好中球ミエロペルオキシダーゼ(MPO)+25mMの塩化ナトリウム及び80μMのH
2O
2と共に異なる時間、インキュベートし、反応を過剰のチオ硫酸ナトリウムで停止させた。酸化された可溶化液試料をPPEと反応させて、前述したように阻害活性を再評価した。精製されたヒトAAT(hAAT)を、MPOにより生成されたフリーラジカルにより不活性化されることが以前に示されたため、対照として使用した。結果(
図17に示す)は、野生型セルピンB1(rhsB1 WT)及びhAATが、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)により生成されたフリーラジカルにより用量依存的様式で急速に不活性化されたが、C344Aバリアント(rhsB1 A344)は不活性化されなかったことを示す。
【0107】
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【0108】
本明細書において引用された全ての刊行物及び特許文献は、各刊行物及び文献が引用することにより本明細書の一部をなすことが具体的に、かつ個々に示されているかのように引用することにより本明細書の一部をなす。本発明は、主に特定の実施形態を参照して記載されているが、本開示を読むことにより他の実施形態が当業者に明らかとなることも想定され、かかる実施形態は本発明の方法の範囲内に包含されることが意図される。
【0109】
例示的配列の表
配列番号1:ヒトMNEI(セルピンB1)野生型(C344)のタンパク質配列(下線付きは残基C344である)
配列番号2:ヒトMNEI C344Gバリアントのタンパク質配列(下線付きは残基C344での置換を示す)
配列番号3:ヒトMNEI C344Aバリアントのタンパク質配列(下線付きは残基C344での置換を示す)
配列番号4:ヒトMNEI C344Vバリアントのタンパク質配列(下線付きは残基C344での置換を示す)
配列番号5:ヒトMNEI C344Sバリアントのタンパク質配列(下線付きは残基C344での置換を示す)
配列番号6:酵母ADH2プロモーターのDNA配列(アクセッション番号:J01314 M13475 V01293)
【配列表】
【国際調査報告】