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特表2022-542524抗CCR5受容体薬剤の投与を含むがんを処置または予防する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-04
(54)【発明の名称】抗CCR5受容体薬剤の投与を含むがんを処置または予防する方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220927BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220927BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220927BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220927BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 31/439 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 31/506 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 31/499 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 31/444 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 31/351 20060101ALI20220927BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20220927BHJP
   C12N 15/85 20060101ALI20220927BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALN20220927BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20220927BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220927BHJP
   C12N 1/15 20060101ALN20220927BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20220927BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20220927BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P35/04 ZNA
A61P1/00
A61P43/00 111
A61K39/395 U
A61K35/76
A61K48/00
A61K35/12
A61K45/00
A61P13/08
A61P15/00
A61K31/439
A61K31/506
A61K31/499
A61K31/444
A61K31/351
C12N15/13
C12N15/85 Z
A61K31/7088
C07K16/28
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506809
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(85)【翻訳文提出日】2022-04-04
(86)【国際出願番号】 US2020044616
(87)【国際公開番号】W WO2021026028
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】62/882,353
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/047,693
(32)【優先日】2020-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】517057384
【氏名又は名称】サイトダイン インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】CYTODYN INC.
【住所又は居所原語表記】1111 Main Street, Suite 660, Vancouver, Washington 98660 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】バーガー,デニス
(72)【発明者】
【氏名】ケリー,スコット
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA66
4C084ZA81
4C084ZB26
4C084ZC75
4C085AA14
4C085BB31
4C085CC23
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA07
4C086BC17
4C086BC42
4C086CB05
4C086CB09
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZA66
4C086ZA81
4C086ZB26
4C086ZC75
4C087AA01
4C087BB63
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA12
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA66
4C087ZA81
4C087ZB26
4C087ZC01
4C087ZC41
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA22
4H045EA23
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
本開示は、がんの処置または予防における、モノクローナル抗体レロンリマブまたはその結合断片などのCCR5受容体の競合阻害剤の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結腸がん転移を処置、阻害または予防する方法であって、それを必要とする対象に、
(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;
(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;
(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;
(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター
を含む宿主細胞;あるいは
(e)CCL5アゴニスト活性を有さない、抗CCR5細胞受容体結合剤
を含む抗CCR5細胞受容体結合剤を、投与することを含む、前記方法。
【請求項2】
前記投与が、肺または肝臓の少なくとも1つへの結腸がんの転移減少をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
肺への転移が、50%を超えて、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、または85%を超えて、減少する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
肝臓への転移が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、または50%を超えて、減少する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記投与が、腫瘍に関連する血管新生を減少させる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
腫瘍栄養血管の総血管面積が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、60%~70%、または60%を超えて、減少する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
腫瘍栄養血管の血管長密度が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、または50%を超えて、減少する、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
腫瘍栄養血管の数が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、または70%を超えて、減少する、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
より大きい血管の数が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、または50%を超えて、減少する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
より小さい血管の数が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、または70%を超えて、減少する、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記投与が、対象の末梢血中において、増加したレベルのCD4+CD25+細胞または低下したレベルのCD4+CD25-細胞のいずれかをもたらす;あるいは、抗CCR5細胞受容体結合剤が、CD4+細胞におけるチロシンキナーゼリン酸化を変化させない、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
結腸がんを罹患している対象において転移負荷を減少させる方法であって、それを必要とする対象に、
(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;
(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;
(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;
(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター
を含む宿主細胞;あるいは
(e)CCL5アゴニスト活性を有さない、抗CCR5結合剤
を含む抗CCR5細胞受容体結合剤を、投与することを含む、前記方法。
【請求項13】
肺における転移負荷が、50%を超えて、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、または85%を超えて、減少する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
肝臓における転移負荷が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、または50%を超えて、減少する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
結腸がんを罹患している対象において腫瘍に関連する血管新生を減少させる方法であって、それを必要とする対象に、
(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;
(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;
(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;
(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター
を含む宿主細胞;あるいは
(e)CCL5アゴニスト活性を有さない、抗CCR5結合剤
を含む抗CCR5細胞受容体結合剤を、投与することを含む、前記方法。
【請求項16】
腫瘍栄養血管の総血管面積が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、60%~70%、または60%を超えて、減少する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
腫瘍栄養血管の血管長密度が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、または50%を超えて、減少する、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
腫瘍栄養血管の数が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、または70%を超えて、減少する、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
より大きい血管の数が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、または50%を超えて、減少する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
より小さい血管の数が、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、または70%を超えて、減少する、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
転移性結腸がんの処置、阻害または予防のための
(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;
(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;
(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;
(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター
を含む宿主細胞;あるいは
(e)CCL5アゴニスト活性を有さない、抗CCR5結合剤
の使用。
【請求項22】
転移性がん病変の増殖を処置、阻害または予防する方法であって、それを必要とする対象に、CCL5アゴニスト活性を有さない、CCR5細胞受容体に対する競合阻害剤を投与することを含む、前記方法。
【請求項23】
競合阻害剤が、CCR5細胞受容体のECL-2ループに結合する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
競合阻害剤が、CCR5細胞受容体への結合をCCL5と競合する、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
競合阻害剤が、モノクローナル抗体PA14、レロンリマブ、またはCCR5mAb004、あるいはそれらの結合断片を含む、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
競合阻害剤が、CD4+細胞におけるチロシンキナーゼリン酸化を変化させない、請求項22~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
CCR5細胞受容体が、NK細胞上に存在する、請求項22~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
CCR5細胞受容体が、B細胞上に存在する、請求項22~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
転移性がんの拡散を予防する方法であって、それを必要とする対象に、
(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;
(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;
(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;
(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター
を含む宿主細胞;あるいは
(e)CCL5アゴニスト活性を有さない、抗CCR5結合剤
を含む抗CCR5細胞受容体結合剤を、投与することを含む、前記方法。
【請求項30】
抗CCR5細胞受容体結合剤が、レロンリマブまたはその結合断片である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
レロンリマブまたはその結合断片が、scFvを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
レロンリマブまたはその結合断片が、対象に投与される、請求項29~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
レロンリマブまたはその結合断片を含む宿主細胞が、投与される、請求項29~31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
がんが、乳がん、前立腺がん、結腸がん、黒色腫、胃がん、または卵巣がんのうちの1種である、請求項22~33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
がんが、乳がんである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
がんが、前立腺がんである、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
がんが、結腸がんである、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
がんを予防することが、がんの増殖を遅らせることを含む、請求項1~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
がんを予防することが、腫瘍の形成を予防することを含む、請求項1~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
がんを予防することが、腫瘍の大きさを制限するまたは減少させることを含む、請求項1~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
対象に、細胞療法、化学療法薬剤、低分子、またはCCR5/CCL5シグナル伝達阻害剤を投与することをさらに含む、請求項1~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
CCR5/CCL5シグナル伝達阻害剤が、マラビロク、ビクリビロク、アプラビロク、SCH-C、TAK-779、PA14抗体、2D7抗体、RoAb13抗体、RoAb14抗体、または45523抗体を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項43】
CCR5細胞受容体が、NK細胞上に存在する、請求項1~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
CCR5細胞受容体が、B細胞上に存在する、請求項1~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
がんを予防するために、NK細胞上またはB細胞上のいずれかに存在するCCR5受容体に抗CCR5結合剤を標的化する方法。
【請求項46】
CD4+T細胞におけるチロシンキナーゼリン酸化を変化させない、CCR5細胞受容体に対する競合阻害剤を含む、がんの処置のための治療用組成物。
【請求項47】
追加的な細胞療法、化学療法薬剤、低分子、またはCCR5/CCL5シグナル伝達阻害剤をさらに含む、請求項46に記載のがんの処置のための治療用組成物。
【請求項48】
CCR5細胞受容体が、NK細胞上に位置している、請求項46に記載のがんの処置のための治療用組成物。
【請求項49】
CCR5細胞受容体が、B細胞上に位置している、請求項46に記載のがんの処置のための治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表に関する記載
本願に関連する配列表は、書面の代わりにテキスト形式で提供され、これによって参照により本明細書に組み込まれる。配列表を含むテキストファイル名は、230042_429WO_SEQUENCE_LISTING.txtである。このテキストファイルは、15.1KBで、2020年7月30日に作成されており、EFS-Webを介して電子的に提出されているものである。
【0002】
背景
技術分野
本開示は、がんの処置または予防における、モノクローナル抗体レロンリマブ(leronlimab)などのCCR5受容体の競合阻害剤の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
炎症は、外傷、化学的または物理的損傷、自己免疫応答、感染性因子、がんなどに対する応答において生じ得る。炎症は、自然免疫の重要な構成要素であり、適応免疫のプライミングや免疫応答のエフェクター相に必要である。ケモカインなどの可溶性メディエーターは、炎症の様々な構成要素を活動させること、特に白血球の流入において重要な役割を果たすことが示されている。
ケモカインは、白血球、内皮細胞、線維芽細胞、上皮細胞、平滑筋、および実質細胞などを包含する、多くの種類の細胞に発現している受容体に結合する。ケモカインは、定常(basal)状態および炎症状態における細胞の動員および活性化を制御することにより、白血球生物学において重要な役割を果たしている。加えて、ケモカイン受容体は、他の細胞種においても発現しているため、ケモカインは、血管新生(angiogenesis)、組織および血管のリモデリング、病原体の除去、抗原提示、白血球の活性化および生存、慢性炎症、組織の修復/治癒、線維化、胚形成、腫瘍形成を包含する、多様な他の役割も担っている。
【0004】
CCL5(C-Cケモカインリガンド5)は、ランテス(regulated upon activation and normal T cell expressed and secreted)(RANTES)としても知られている炎症性ケモカインであり、これらの免疫学的メカニズムに重要な役割を果たす。CCL5は、炎症部位へのT細胞遊走の主要な制御因子として作用し、損傷部位または感染部位へのT細胞の遊走を指図する。CCL5はまた、T細胞の分化も制御している。ケモカインの多くの生物学的作用は、細胞表面上のケモカイン受容体との相互作用により媒介されている。本発明においては、CCL5に最も関連する既知の受容体はCCR5受容体であるが、CCR1およびCCR3もまたCCL5受容体として知られており、CCR4およびCD44は補助受容体(auxiliary receptor)である。Tamamis et al., Elucidating a KeyAnti-HIV-1 and Cancer-Associated Axis: The Structure of CCL5 (Rantes) in Complex with CCR5, SCIENTIFIC REPORTS, 4: 5447 (2014)。
【0005】
炎症性ケモカインは、長い間、主に免疫および炎症の不可欠な「門番」としてみなされてきた。しかし、近年の研究は、例えば、がん細胞が正常なケモカインシステムを破壊して、これらの分子およびその受容体が、腫瘍促進の役割を発揮する全く異なる様式を有する腫瘍微小環境の重要な構成要素になることを示している。CCR5受容体およびCCL5リガンドは、いくつかの血液学的悪性腫瘍、リンパ腫、および非常に多くの固形腫瘍において検出されているが、CCL5リガンド/CCR5受容体系の役割に関する広範な研究は、限られた数のがんでしか行われていない。Aldinucci et al., The Inflammatory chemokine CCL5 and Cancer Progression, MEDIATORS OF INFLAMMATION, vol.2014, article ID 292376, 12 pages。
【0006】
CCR5受容体は、リンパ球(例えば、NK細胞、B細胞)、単球、マクロファージ、樹状細胞、T細胞のサブセットにおいて発現するC-CケモカインGタンパク質共役型受容体である。CCR5受容体は、細胞の細胞膜を蛇行するように7回貫通している。細胞外部分は、CCR5を標的とする抗体の潜在的な標的を提示しており、アミノ末端ドメイン(Nt)および3つの細胞外ループ(ECL1、ECL2、およびECL3)を含む。CCR5の細胞外部分は、4つのドメインにわたって分布しているわずか90個のアミノ酸を含む。これらのドメインのうち最大のものは、NtおよびECL2であり、それぞれ約30アミノ酸である。Olson et al., CCR5 Monoclonal Antibodies for HIV-1 Therapy, CURR.OPIN. HIV AIDS, March, 4(2): 104-111 (2009)。
【0007】
CCL5リガンドとCCR5受容体との複合体の形成は、Gタンパク質のサブユニットを活性化する受容体の構造変化を引き起こして、シグナル伝達を誘導し、サイクリックAMP(cAMP)、イノシトール三リン酸、細胞内カルシウム、およびチロシンキナーゼ活性化のレベル変化をもたらす。これらのシグナル伝達事象は、細胞の分極化、ならびに、食作用能、細胞生存および炎症促進性遺伝子の転写の増加をもたらす転写因子NF-kBの移行を引き起こす。Gタンパク質依存性のシグナル伝達が生じた後は、CCL5/CCR5受容体複合体はエンドサイトーシスを介して内在化される。
【0008】
CCR5との複合体におけるCCL5の完全な複合体構造が計算により導き出されている。CCL5の1~15残基部分は、CCR5結合ポケットに挿入されており;CCL5の1~6N末端ドメインは、CCR5の膜貫通領域内に埋め込まれており;ならびに、CCL5の7~15残基部分は、大部分がCCR5のN末端ドメインおよび細胞外ループに取り囲まれていることが報告されている。CCL5の残基Ala16およびArg17、ならびに付加的残基である24~50残基部分は、CCR5のN末端ドメイン上部および細胞外ループ境界部と相互作用する。さらに、CCL5のアミノ末端の完全性は、受容体結合および細胞活性化に極めて重要であることが報告されている。さらに、CCL5およびHIV-1は主としてほぼ同じCCR5残基と相互作用し、同じケモカイン受容体結合ポケットを共有することが報告されている。Tamamis et al., Elucidating a Key Anti-HIV-1 and Cancer-Associated Axis: The Structure of CCL5 (Rantes) in Complex with CCR5, SCIENTIFIC REPORTS, 4:5447 (2014)参照。また、CCL5リガンドなどのケモカインは、主にECL2を介してCCR5受容体に結合することも別途報告されている。Olson et al., CCR5 Monoclonal Antibodies for HIV-1 Therapy, CURR. OPIN., HIV AIDS, March, 4(2): 104-111 (2009)。
【0009】
いくつかの研究は、CCR5シグナル伝達が抗腫瘍作用を有し、T細胞活性化のための共刺激分子として作用し、腫瘍微小環境へのT細胞走化性を増加させることを示している。Gao et al., CCL5 activation of CCR5 regulates cell metabolism to enhance proliferation of breast cancer cells, OPEN BIOL., 6: 160122 (2016); Gonzalez-Martin et al., CCR5 in cancer immunotherapy: More than an “attractive” receptor for T cells, ONCOIMMUNOLOGY, 1: 106-108 (2012)を参照。しかしながら、CCL5/CCR5系のシグナル伝達は、例えば、乳がんおよび前立腺といったある種のがんにおいて優先的に活性化されている場合があること、ならびに、かかるシグナル伝達が疾患の進行を促進することも、証拠により示唆されている。例えば、いくつかの研究により、がん細胞は、CCL5、CCR5、またはその両方を過剰発現しており、ラパマイシン(mTOR)のメカニズム的標的におけるCCR5シグナル伝達の作用を介してその増殖および成長に寄与しているであろうことが示されている。Gao et al., CCL5 activation of CCR5 regulates cell metabolism to enhance proliferation of breast cancer cells, OPEN BIOL., 6: 160122 (2016)を参照;また、Chow and Luster, Chemokines in Cancer, CANCER IMMUNOL. RES., 2(12): 1125-1131 (2014); Singh et al., Expression of CCR5 and its ligand CCL5 in pancreatic cancer (Abstract), J IMMUNOL, 196(1 Supplement): 51.3 (2016)も参照。
【0010】
加えて、制御性T細胞(Treg)および骨髄由来サプレッサー細胞(MDSC)を包含する、いくつかの免疫抑制性免疫細胞は、CCR5を発現していることから、それによりCCR5シグナル伝達が腫瘍増殖に寄与し得る別の経路が示唆されている。Mukaida, CCR5 antagonist, an ally to fight against metastatic colorectal cancer, TRANSLATIONAL CANCER RESEARCH, 5(Supp. 2): S309-S312 (2016)。さらに、腫瘍微小環境中のがん細胞は、CD4およびCD8T細胞によるCCL5産生を利用して、腫瘍増殖および腫瘍細胞拡散の増加をもたらすことが報告されている。Halama et al., Tumoral Immune Cell Exploitation in Colorectal Cancer Metastases Can Be Targeted Effectively by Anti-CCR5 Therapy in Cancer Patients, CANCER CELL, 29: 587-601 (2016)。
【0011】
いくつかのがんの種類に関連して、CCL5/CCR5シグナル伝達を変化させるために抗CCR5結合剤を用いた探索的な取り組みがなされてきた。Sicoli et al., CCR5 Receptor Antagonists Block Metastasis to Bone ofv-Src Oncogene-Transformed Metastatic Prostate Cancer Cell Lines, CANCER RES., 74(23): 7103-7114 (2014); Velasco-Velazquez et al., The CCL5/CCR5 Axis Promotes Metastasis In Basal Breast Cancer, ONCOIMMUNOLOGY, 2(4): e23660 (2013); Velasco-Velazquez et al., CCR5 Antagonist Blocks Metastasis of Basal Breast Cancer Cells, CANCER RES., 72(15): 3839-3850 (2012)。CCR5/CCL5受容体/リガンド系(すなわち、CCR5受容体/CCL5リガンド系)を阻害する、妨げる、遮断する、変化させる、または修飾する様々な化合物が存在する。これらの化合物の多くは、CCR5受容体とも結合しおよびCCL5といくつかの結合共通性を共有することが知られている、HIV-1の処置のために開発されてきた。かかる化合物には、例えば、レロンリマブ(細胞外)およびマラビロク(膜貫通)などの細胞外または細胞膜貫通CCR5結合剤、ならびにビクリビロク、アプラビロク、SCH-C、およびTAK-779などの他の化合物、ならびにPA14、2D7、RoAb13、RoAb14、45523などの抗体等が包含される。
【0012】
例えば、レロンリマブ(PRO140とも称される)を包含する最も強力な抗ウイルス性の抗CCR5モノクローナル抗体は、CCR5受容体アミノ酸残基と、EL2だけにおいてまたはNt残基と共にEL2において、結合することが見出されている。また、抗CCR5モノクローナル抗体のCCR5受容体結合部位は、低分子CCR5アンタゴニストのそれとは異なることも判明している。すなわち、マラビロクなどの市販の低分子CCR5アンタゴニストは、膜貫通ヘリックスによって形成されている疎水性の空洞(すなわち、細胞外のNt領域またはループ領域ではない)と結合する。第7番目の膜貫通領域のアミノ酸残基E283は、低分子に対する主要部位または相互作用として特異的に同定されており、マラビロクおよびビクリビロクは、CCR5受容体アミノ酸の同一集団に結合することが見出されている。Olson et al., CCR5 Monoclonal Antibodies for HIV- 1 Therapy, CURR. OPIN. HIV AIDS, March, 4(2): 104-111 (2009)。しかしながら、CCL5リガンドおよびマラビロクは、NtおよびECL2という2つの受容体部位を共有することによってCCR5受容体にドッキングすること、ならびに、合成CCL5由来ペプチドも、CCR5受容体を遮断するのに用いられ得ることも報告されている。Secchi et al., Combination of the CCL5 -Derived Peptide R4.0 with Different HIV-1 Blockers Reveals Wide Target Compatibility and Synergic Cobinding to CCR5, ANTIMICROB AGENTS CHEMOTHER., 58(10): 6215-6223 (2014)。
【0013】
場合によっては、免疫細胞の活性化に関連するCCL5の発現が、腫瘍微小環境中のがん細胞に利用されることがあり、マラビロクなどの阻害剤を用いたCCR5シグナル伝達の遮断が抗腫瘍作用を有する場合がある。ヒト結腸直腸がん肝転移の研究においては、浸潤縁のCD4およびCD8T細胞がCCL5を発現しており、これが、T細胞の疲弊、腫瘍増殖、浸潤性腫瘍細胞の挙動、および腫瘍関連マクロファージによるマトリックスメタロプロテアーゼの産生増加と関連していた。Halama et al., Tumoral Immune Cell Exploitation in Colorectal Cancer Metastases Can Be Targeted Effectively by Anti-CCR5 Therapy in Cancer Patients, CANCER CELL, 29: 587-601 (2016)。マラビロクでのCCL5の阻害は、腫瘍関連マクロファージの再分極および腫瘍細胞死滅をもたらした。Halama et al. (2016)。
【0014】
しかしながら、CCR5シグナル伝達の阻害が、免疫抑制作用を有する場合もある。マラビロクによるCCR5受容体遮断の、潜在的免疫学的メカニズムにおけるヒト活性化T細胞への作用について、in vitroでの研究が行われてきた。マラビロクによるCCR5の遮断は、CCL5およびCCL2によって誘導されるCCR5およびCCR2の内在化プロセスを遮断することができるだけでなく、それらの同族リガンドに対するT細胞の走化性活性をもそれぞれ阻害し得ることが見出された。さらに、マラビロクを高用量で用いてCCR5を遮断することにより、TNF-αおよびIFN-γの産生が低下する傾向がある。また、マラビロクのCCR5への作用は、一時的かつ可逆的であることも指摘されている。Yuan et al., In Vitro Immunological Effects of Blocking CCR5 on T Cells, INFLAMMATION, 38(2): 902-910 (2015);Arberas et al., In vitro effects of the CCR5 inhibitor maraviroc on human T cell function, J. ANTIMICROB. CHEMOTHER., 68(3): 577-586 (2013)参照。
【0015】
CCR5はまた、移植片対宿主病(GVHD)においても役割を果たしていると考えられている。ケモカイン受容体CCR5は、マウスのGVHD病態を媒介することが示されている。ヒト急性GVHD試料の皮膚における浸潤性リンパ球は、主にCCR5T細胞であることが報告されている。Lisa Palmer, George Sale, John Balogun, Dan Li, Dan Jones, Jeffrey Molldrem, Rainer Storb, Qing Ma, Chemokine Receptor CCR5 Mediates Allo-Immune Responses in Graft-vs-Host Disease, Biol Blood Marrow Transplant. 2010 March; 16(3): 311-319, doi: 10.1016/j.bbmt2009.12.002。また、CCR5集団は、活性化エフェクターT細胞の表現型の特徴を示すことも見出されている。CCR5の発現は、同種刺激の際に上方制御され、CCR5細胞は、T細胞活性化マーカーの共発現に伴って増殖する。さらに、炎症性サイトカインTNFα、IL-2またはIFN-γを産生する活性化T細胞は、CCR5について陽性である。それゆえ、CCR5は、GVHDエフェクター細胞のマーカーであり、CCR5T細胞は、ヒト急性GVHDの病態において能動的に関わっている。
【0016】
腫瘍の進行に寄与するCCR5シグナル伝達の数多くの、時には矛盾する役割を考慮すると、意図していない副作用を誘発することがないまたは意図していない副作用の影響を減少させる、治療目的のための、CCR5/CCL5受容体/リガンド系を阻害する、弱める、妨げる、遮断する、変化させる、または修飾するために使用することができる、CCR5受容体に対する競合阻害剤または使用方法への必要性が存在している。さらに、副作用がより少なくかつより重篤でない、より長く持続する、ならびに、投薬の必要性が低下することによる患者コンプライアンスの改善および(望ましくない副作用がより少ないことによる)患者経験の改善を促進する、CCR5受容体に対するかかる競合阻害剤および使用方法への必要性がある(副作用は、競合阻害剤自体によって引き起こされる副作用を包含する)。CCL5/CCR5系を治療標的として用いる最適な治療様式は、特定の悪性疾患におけるCCL5およびCCR5の有害な関与を阻害する必要性、一方で、免疫における潜在的に有益な活性を保護する必要性という、相反する二つの要求に適合させる必要があるであろう。
【発明の概要】
【0017】
簡単な概要
モノクローナル抗体レロンリマブは、CD4T細胞に単独で添加された場合には、cAMPレベルに影響を与えないが、CCL5と一緒に投与された場合には、cAMPレベルへのCCL5の作用を減弱させることがこれまでに示されている。国際公開第2016/210130号。同様に、レロンリマブ単独では、CHO-K1細胞の走化性に影響を与えないが、レロンリマブはCCL5と一緒に投与された場合には、CCL5により誘導される走化性を減少させる。国際公開第2016/210130号。これらの研究は、レロンリマブが、CCR5に対してアゴニスト活性を有さないが、CCR5への結合をCCL5と競合する阻害剤として作用することを示している。
【0018】
しかしながら、本開示においては、レロンリマブ単独では、in vitroで、T細胞のCCR5受容体シグナル伝達の下流にあるチロシンキナーゼリン酸化に影響を与えないこと、および、CCL5によるかかるキナーゼリン酸化の阻害もしないことが示されている。これらの結果は、RANTESに対するCCR5/CCL5系の調節におけるレロンリマブの役割が、一貫していないという証拠、すなわち、レロンリマブは、これがなければCCL5/CCR5結合から生じるであろう下流の活性の一部のみを遮断または阻害するという証拠を提供している。それゆえ、CCL5競合結合阻害剤としてのレロンリマブの活性は、従来からCCR5/CCL5系に関連しているとされた下流活性に関与するCCL5の能力に、複合的な(mixed)影響を与えることを示している。レロンリマブの役割およびその免疫調節作用のさらなる解明は、引き続く研究課題である。
【0019】
さらに、本開示においては、レロンリマブは、T細胞を欠損させたマウスモデルにおいて、腫瘍増殖の予防に予想外に有効であることが見出されており、このことは、レロンリマブがまた、NK細胞、B細胞、またはその両方を介して、免疫応答を調節しおよび抗腫瘍作用を促進することを示している。したがって、非T細胞上、例えばNK細胞上、B細胞上、またはその両方においてCCR5系に結合することにより誘発される活性を調節するレロンリマブの能力が判明した。また、重要なことに、レロンリマブは、非T細胞に対するその活性のみに基づき、マウスモデルにおける腫瘍増殖の予防に驚くほど有効であることが見出されており;それゆえ、このことは非T細胞治療アプローチを示唆している。
【0020】
本開示はさらに、CCR5発現が、腫瘍増殖の加速に関連している一方で、レロンリマブが、ヒト化マウスにおいて、xGVHD(異種移植片GVHD)の進行を遅らせるとともに、抗腫瘍活性を増大させることを示している。レロンリマブは、SW480腫瘍担持(tumor-bearing)マウスおよび非腫瘍担持マウスの両方において、xGVHDの発症を遅延させることが見出された。加えて、レロンリマブは、ヒト化マウスにおいて腫瘍の進行を効果的に遅延させ、その作用は80日まで持続したが、非ヒト化マウスにおいては腫瘍増殖に対して何ら作用を有さないことが見出された。レロンリマブで処置した腫瘍担持ヒト化マウスから得られた末梢血の解析により、循環T細胞数の増加、ならびに、B細胞およびNK細胞のパーセンテージの低下が示された。より詳細な解析により、CD4+CD25+Tregの増加およびCD4+CD25-Tregの低下が示されているが、このことはレロンリマブによるGVHDの抑制に関連している可能性がある。
【0021】
本開示はまた、レロンリマブが、SW480ヒト結腸癌腫(colon carcinoma)細胞を移植したヒト化マウスにおいて転移負荷を減少させることをも立証している。転移性病変(二次部位病変と称される場合もある)における腫瘍阻害の程度は、原発性腫瘍の増殖阻害と比較して、驚くほどより顕著であった。腫瘍の新生血管形成(neoangiogenesis)は、腫瘍の増殖および転移に必要であるため、血管新生に対するレロンリマブの作用を評価した。レロンリマブは、腫瘍の血管新生を妨げることが見出されたが、このことは、観察された転移負荷の減少についてのメカニズムを示唆している。
【0022】
したがって、ある側面において、本開示は、がんおよび/またはGVHDの処置または予防における、モノクローナル抗体レロンリマブまたはその結合断片などの、CCR5受容体の競合阻害剤の使用を対象としている。
【0023】
いくつかの態様において、本開示は、結腸がん転移を処置、阻害または予防する方法であって、それを必要とする対象に、
(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクターを含む宿主細胞;あるいは(e)CCL5アゴニスト活性を有さない、抗CCR5細胞受容体結合剤
を含む抗CCR5細胞受容体結合剤を、投与することを含む、前記方法を提供する。
【0024】
いくつかの態様において、本開示は、結腸がんを罹患している対象において転移負荷を減少させる方法であって、それを必要とする対象に、(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクターを含む宿主細胞;あるいは(e)CCL5アゴニスト活性を有さない、抗CCR5結合剤を含む抗CCR5細胞受容体結合剤を、投与することを含む、前記方法を提供する。
【0025】
いくつかの態様において、本開示は、結腸がんを罹患している対象において腫瘍に関連する血管新生を減少させる方法であって、それを必要とする対象に、(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクターを含む宿主細胞;あるいは(e)CCL5アゴニスト活性を有さない、抗CCR5結合剤を含む抗CCR5細胞受容体結合剤を、投与することを含む、前記方法を提供する。
【0026】
いくつかの態様において、本開示は、転移性結腸がんの処置、阻害または予防のための、(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクターを含む宿主細胞;あるいは(e)CCL5アゴニスト活性を有さない、抗CCR5細胞受容体結合剤の使用を提供する。
【0027】
いくつかの態様において、本開示は、転移性がん病変の増殖を処置、阻害または予防する方法であって、それを必要とする対象に、CCL5アゴニスト活性を有さない、CCR5細胞受容体に対する競合阻害剤を投与することを含む、前記方法を提供する。
【0028】
いくつかの態様において、本開示は、転移性がんの拡散を予防する方法であって、それを必要とする対象に、(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクターを含む宿主細胞;あるいは(e)CCL5アゴニスト活性を有さない、抗CCR5結合剤を含む抗CCR5細胞受容体結合剤を、投与することを含む、前記方法を提供する。
【0029】
いくつかの態様において、本開示は、がんを予防するために、NK細胞上またはB細胞上のいずれかに存在するCCR5受容体に抗CCR5結合剤を標的化する(targeting)方法を提供する
いくつかの態様において、本開示は、CD4+T細胞におけるチロシンキナーゼリン酸化を変化させない、CCR5細胞受容体に対する競合阻害剤を含む、がんの処置のための治療用組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、PMA処理に対する応答におけるチロシンキナーゼの活性化を示す。未染色(例えば、示されたリン酸化タンパク質に対する抗体なし;「CTL」)、染色されているが未処理(「未処理」)、またはPMA25nMで処理(「PMA処理」)のいずれかであるソーティングされていない(unsorted)T細胞についての結果である。蛍光強度中央値は、FloJoソフトウェアv10を用いて定量化した。
図2図2は、ソーティングされた(sorted)対照およびRANTESで処理されたCD4CCR5T細胞における蛍光強度中央値のヒストグラムのシフトを示す。抗リン酸化LCK抗体を用いて、RANTES(0.1μM)処理に対する応答におけるLCKのリン酸化を定量化した。結果は、その後の蛍光強度中央値を抽出するために用いられるヒストグラムの典型を示している。
【0031】
図3図3は、レロンリマブが、CREB、ERK、LCK、VASP、またはZAP-70(本願ではZAP-70またはZAP70と称される)のリン酸化を誘導しないことを示す。CD4CCR5でソーティングされたT細胞を、タンパク質リン酸化を定量化するための固定および染色の前に、レロンリマブ(1μg/mL)で15分間処理した。結果は、それぞれの未処理対照と比較したリン酸化の倍率(fold phosphorylation)として示されている。リン酸化における統計的に有意な変化が生じたかどうかを決定するために、一元配置分散分析を用いた;有意な変化は検出されなかった。
図4図4は、レロンリマブがFSKにより誘導されるリン酸化に影響を与えないことを示す。CD4CCR5ソーティングされたT細胞を、タンパク質リン酸化を定量化するための固定および染色の前に、レロンリマブ(1μg/mL)および/またはフォルスコリン(10μM)で15分間処理した。結果は、それぞれの未処理対照に対するリン酸化の倍率として示されている。一元配置分散分析の結果により、リン酸化における変化は統計的に有意でないことが示された。
【0032】
図5図5は、レロンリマブが、RANTESにより誘導されるリン酸化に影響を与えないことを示す。CD4CCR5でソーティングされたT細胞を、タンパク質リン酸化を定量化するための固定および染色の前に、レロンリマブ(1μg/mL)および/またはRANTES(0.1μM)で15分間処理した。結果は、それぞれの未処理対照に対するリン酸化の倍率として示されている。リン酸化における統計的に有意な変化が生じたかどうかを決定するために、一元配置分散分析を用いた;有意な変化は検出されなかった。
図6図6は、SW480ヒト結腸癌腫細胞を接種し、次いで、レロンリマブ2mgまたは非特異的対照抗体(IgG)2mgのいずれかを、接種後1日から開始して週2回投与した、NCr nu/nu雄性マウスにおける腫瘍体積を示す。接種後42日では、レロンリマブを投与したマウスの腫瘍体積は、対照抗体で処置したマウスのそれと比較して、有意に小さくなっていた。N=16腫瘍/群;p=0.014。
【0033】
図7図7は、SW480ヒト結腸癌腫細胞を接種し、次いで、レロンリマブ2mgまたは非特異的対照抗体(IgG)2mgのいずれかを、接種後1日から開始して週2回投与した、NCr nu/nu雄性マウスについての、試験期間にわたるマウス体重を示す。接種後40日まで、レロンリマブで処置したマウスの体重は、減少しなかったのに対し、対照抗体を与えられたマウスの体重は、レロンリマブにより処置されたマウスの体重よりも、有意に低下していた。N=16腫瘍/群;p=0.047。
図8図8は、SW480ヒト結腸癌腫細胞を接種し、次いで、レロンリマブ2mgまたは非特異的対照抗体(IgG)2mgのいずれかを、接種後21日から開始して週2回投与した、NCr nu/nu雄性マウスにおける腫瘍体積を示す。接種後42日では、平均腫瘍体積は2群間で差がなかった。N=8腫瘍/群;p=0.719。
【0034】
図9図9は、SW480ヒト結腸癌腫細胞を接種し、次いで、レロンリマブ0.2mgまたは非特異的対照抗体(IgG)0.2mgのいずれかを、接種後1日から開始して週2回投与した、NCr nu/nu雄性マウスにおける腫瘍体積を示す。接種後42日では、平均腫瘍体積は2群間で差がなかった。N=16腫瘍/群;p=0.272。
図10図10は、SW480ヒト結腸癌腫細胞を接種し、次いで、レロンリマブ0.2mgまたは非特異的対照抗体(IgG)0.2mgのいずれかを、接種後1日から開始して投与した、NCr nu/nu雄性マウスについての、試験期間にわたるマウス体重を示す。接種後40日まで、平均マウス体重は2群間で差がなかった。N=16腫瘍/群;p=0.708。
【0035】
図11図11は、SW480ヒト結腸癌腫細胞を接種し、次いで、レロンリマブ2mgまたは非特異的対照抗体(IgG)2mgのいずれかを、接種後1日から開始して週2回投与した、NSG雄性マウスにおける腫瘍体積を示す。接種後42日では、平均腫瘍体積は2群間で差がなかった。N=16腫瘍/群;p=0.076。
図12図12は、SW480ヒト結腸癌腫細胞を接種し、次いで、レロンリマブ2mgまたは非特異的対照抗体(IgG)2mgのいずれかを、接種後1日から開始して投与した、NSG雄性マウスについての、試験期間にわたるマウス体重を示す。接種後40日まで、平均マウス体重は2群間で差がなかった。N=16腫瘍/群;p=0.61。
【0036】
図13図13A~13Cは、CCR5を発現するFACSでソーティングされたSW480結腸癌腫の増殖を表す。図13A。破片を除外するためのゲーティング(gating)(FSC対SSC)の後、76.70%の細胞がゲート1に包含されていた。図13B。ゲート1からのAPC陽性細胞のヒストグラムであり、101-102APC間のインターバルゲート(interval gate)は、輝度が低い(dim)CCR5陽性細胞を画定し(delineated)、2.53-1.14APCのインターバルゲートは、輝度が高い(bright)CCR5陽性細胞を画定した。図13C。ソーティングされた細胞を、非照射NSGマウスの左体側(left flank)(輝度低、LO)および右体側(right flank)(輝度高、HI)に接種した(部位あたり2.5×105細胞)。したがって、各マウスは2個の腫瘍を担持しており、そのそれぞれの対照として機能した。ベースの(basal)増殖速度が表されており;処置は施されていない。
【0037】
図14図14Aおよび14Bは、レロンリマブが、ヒト化SW480腫瘍担持マウスにおけるxGVHDの発症を遅延させることを示す。亜致死照射された(sub-lethally irradiated)NSGマウスに、正常ヒトBM(107 Ficoll-Hypaque精製単核細胞)を0日に接種した。図14Aは、マウスの平均体重を示す。図14Bは、生存%を示す。処置群:IgG-5週:IgG2mg i.p.2回/週を35日間の後、中止(非腫瘍担持)、Ler-5週:レロンリマブ2mg ip 2回/週を35日間の後、中止(非腫瘍担持、IgG-tum:IgG2mg ip2回/週を継続、35日にSW480(2.5x105細胞s.c.)接種、Ler-tum:レロンリマブ2mg ip2回/週を継続、35日にSW480接種、n=8マウス/群。
【0038】
図15図15は、レロンリマブ抗腫瘍活性に対するマウスヒト化の作用を示す。NSGマウスを、ヒト化(正常ヒトBM、107単核細胞)または偽注射し、その後、35日にSW480(2.5x105細胞s.c.)を接種した。ヒト化マウスには、IgG(h-IgG)またはレロンリマブ(h-Ler)のいずれかが与えられた。非ヒト化マウスには、IgG(IgG)またはレロンリマブ(Ler)が与えられた。全群には、7日から週2回、Ab2mgがi.p.で与えられ、n=8マウス/群とした。
【0039】
図16図16は、末梢血B、T、およびNK細胞に対するレロンリマブの作用を示す。亜致死照射されたNSGマウスに、正常ヒトBM単核細胞を接種した。処置群:IgG-5週:IgG2mg i.p.2回/週を35日間の後、中止(非腫瘍担持)、Ler-5週:レロンリマブ2mg ip2回/週を35日間の後、中止(非腫瘍担持)、IgG-tum:IgG2mg ip2回/週を継続、35日にSW480(2.5x105細胞s.c.)を接種、Ler-tum:レロンリマブ2mg ip2回/週を継続、35日にSW480を接種、n=8マウス/群。末梢血は、62日に解析した(hCD45+でゲーティング)。有意なp値が示されている。
【0040】
図17図17は、末梢血Treg細胞に対するレロンリマブの作用を示す。亜致死照射されたNSGマウスに、正常ヒトBM単核細胞を接種した。処置群:IgG-5週:IgG2mg i.p.2回/週を35日間の後、中止(非腫瘍担持)、Ler-5週:レロンリマブ2mg ip2回/週を35日間の後、中止(非腫瘍担持、IgG-tum:IgG2mg ip2回/週を継続、35日にSW480(2.5x105細胞s.c.)を接種、Ler-tum:レロンリマブ2mg ip2回/週を継続、35日にSW480を接種、n=8マウス/群。末梢血は、62日に解析した(hCD45+でゲーティング)。有意なp値が示されている。
【0041】
図18図18A~18Cは、in vivoにおけるluc-SW480結腸癌腫の転移に対するレロンリマブの作用を示す。SW480細胞は、ヒト化NSGマウスの盲腸に同所性接種した。10日にIVISイメージングを行い、両処置群における同程度の生着レベルが立証された(図18A)。マウスは、2mgのIgGまたはレロンリマブのいずれかを2回/週で皮内投与する継続的な抗体処置を受けた。45日におけるハーベストの後、摘出した肝臓および肺を、ex vivoにおいてルシフェリン基質とインキュベートした。レロンリマブ処置は、肝臓(図18B)および肺(図18C)において発光シグナルの低下をもたらした。
【0042】
図19図19Aおよび19Bは、皮膚血管新生アッセイを示す。腫瘍が直径2mmより大きく増殖するためには、新しい宿主血管が誘導されなければならない。SW480腫瘍細胞(2x10)は、ヒト化NSGマウスの真皮(dermis)に、体積0.1mlのPBS中の懸濁液で接種した。マウスは、2mgのIgGまたはレロンリマブの2回/週での皮内投与により処置した。10日後にマウスを安楽死させ、接種部位を12.5倍の倍率で写真撮影した。VESGENソフトウェアを用いて、血管数、直径、分岐、血管世代数、およびネットワーク特性を解析した。VESGENにより血管は分岐世代G1-G9へ割付される。ここでは、標本のVESGEN出力画像は、動脈終点領域についての、10の連続的により小さい分岐世代(G1-G9)への血管分類を例示している。血管の分岐世代は、(1)血管径の減少および(2)ほぼ対称である血管分岐(すなわち親血管から分岐する次世代の血管径がほぼ等しい場合)により決定される。 図19Aは、顕微鏡写真および血管サイズ解析の結果を示す。図19Bは、総血管面積、血管長密度、血管数、および腫瘍面積についての定量化データを示す。レロンリマブ処置マウスは、IgG処置マウスと比較して、新生血管の形成(neo vessel formation)が2倍を超えて減少していたが、これは、総画素数、血管長密度、および血管の総数の減少によって証明されている。最も劇的であったのは、より大きな血管(世代1~3)と比較して、より小さな血管(世代4~9)の減少である。
【0043】
詳細な説明
本開示は、CCR5細胞受容体に対する競合阻害剤を投与することを含む、癌を処置または予防するための方法を提供する。いくつかの態様においては、競合阻害剤は、レロンリマブまたはその結合断片を含む。
【0044】
用語解説
本開示をより詳細に記載する前に、本明細書において用いられる特定の用語の定義を提供することは、その理解に有用であり得る。他に定義されていない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は、この発明が属する技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。追加的な定義は、本開示全体を通して記載される。
【0045】
本記載において、全ての濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率範囲、または整数範囲は、特に示されていない限り、記載された範囲内の任意の整数値、および適切な場合にはその分数(整数の10分の1および100分の1など)を包含することが理解される。また、用量などの身体的特徴に関連している本明細書において記載されている全ての数の範囲は、特に指示されていない限り、記載された範囲内の任意の整数を包含することが理解される。本明細書において用いられている通り、用語「約」は、特に指示されていない限り、示された範囲、値、または構造の±20%を意味する。
【0046】
本明細書において用いられる用語「a」および「an」は、「1以上」の列挙された構成要素に言及するものと理解されるべきである。選択肢(alternative)(例えば、「または」)の使用は、選択肢のいずれか一方、両方、またはそれらの任意の組み合わせを意味すると理解されるべきである。
本明細書において用いられている通り、用語「包含する(include)」、「有する」、および「含む(comprise)」は、同義的に使用され、これらの用語およびその変化形は非限定的に解釈されることが意図される。
【0047】
用語「から本質的になる」は、クレームの範囲を、特定された物質または工程に、あるいはクレームに記載された発明の基本的特性に実質的に影響を与えないこれらのものに、限定する。例えば、タンパク質ドメイン、領域、またはモジュール(module)(例えば、結合ドメイン、ヒンジ領域、リンカーモジュール)あるいはタンパク質(1つ以上のドメイン、領域、またはモジュールを有し得る)は、ドメイン、領域、またはモジュールあるいはタンパク質のアミノ酸配列が、伸長、欠失、変異またはこれらの任意の組み合わせ(例えば、アミノ末端またはカルボキシ末端あるいはドメイン間のアミノ酸)を包含し、これらが、組み合わせて、ドメイン、領域、またはモジュールあるいはタンパク質の長さの、最大で20%(例えば、最大で15%、10%、8%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%)に寄与し、ドメイン、領域、モジュール、またはタンパク質の活性(例えば、結合タンパク質の標的結合親和性)に実質的に影響を与えない(例えば、40%、30%、25%、20%、15%、10%、5%または1%以下など、50%を超えて活性を減少させない)場合に、具体的なアミノ酸配列「から本質的になる」。
【0048】
本明細書において用いられている通り、「ケモカイン」は、白血球の活動を促進するサイトカインを意味する。ケモカインは、アミノ末端の2個のシステイン残基が直接的に隣接しているか、または1個のアミノ酸により隔てられているかに応じて、Cys-CysまたはCys-X-Cysのいずれかとして特徴付けされる場合がある。これには、CCL5(RANTESとしても知られている)、MIP-1α、MIP-1β、またはSDF-1等が包含されるが、これらに限定されない。ケモカインは、細胞表面受容体への結合を介してその作用を発揮する。
【0049】
本明細書において用いられている通り、「ケモカイン受容体」は、ケモカインと結合する7回膜貫通型細胞表面タンパク質の相同性ファミリーのメンバーを意味する。
本明細書において用いられている通り、「CCR5」は、C-Cグループのケモカインのメンバーと結合するケモカイン受容体であり、そのアミノ酸配列は、Genbankアクセッション番号1705896で提供されるもの、および関連する多型バリアントを含む。
【0050】
本明細書において用いられている通り、「抗体」は、2本の重鎖および2本の軽鎖を含み、抗原を認識する免疫グロブリン分子を意味する。免疫グロブリン分子は、IgA、分泌型IgA、IgG、およびIgMを包含するがこれらに限定されない、任意の一般的に知られているクラスまたはアイソタイプに由来していてもよい。IgGサブクラスもまた、当業者にはよく知られており、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を包含するが、これらに限定されない。これには、例として、天然に存在する抗体と天然に存在しない抗体の両方が包含される。具体的には、「抗体」には、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、ならびに、その1価および2価の断片が包含される。さらに、「抗体」には、キメラ抗体、全合成抗体、一本鎖抗体、およびその断片が包含される。任意に、抗体は、検出可能なマーカーにより標識されていてもよい。検出可能なマーカーには、例えば、放射性または蛍光性マーカーが包含される。抗体は、ヒト抗体または非ヒト抗体であってもよい。非ヒト抗体は、ヒトにおける免疫原性を減少させるために、組換え法によりヒト化されていてもよい。抗体をヒト化する方法は、当業者に知られている。
【0051】
本明細書において用いられている通り、「モノクローナル抗体」は、「mAb」とも呼ばれるが、その一次配列が本質的に同一であり、かつ同じ抗原特異性を示す抗体分子を記載するのに用いられる。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ、組換え、トランスジェニック、または当業者に知られている他の技術によって産生され得る。
【0052】
本明細書において用いられている通り、「重鎖」は、1つの可変ドメイン(VH)および3つもしくは4つの定常ドメイン(CH1、CH2、CH3、およびCH4)から構成される抗体分子の大きいほうのポリペプチド、またはその断片を意味する。
本明細書において用いられている通り、「軽鎖」は、1つの可変ドメイン(VL)および1つの定常ドメイン(CL)から構成される抗体分子の小さいほうのポリペプチド、またはその断片を意味する。
【0053】
本明細書において用いられている通り、抗体の「結合断片」あるいは「抗原結合断片または部分」は、損なわれていない(intact)抗体により認識される抗原標的分子と結合する能力を有するまたは保持する、損なわれていない抗体の断片または部分に言及し、抗原結合断片(fragment antigen binding)(Fab)断片、F(ab’)2断片、Fab’断片、Fv断片、組み換えIgG(rIgG)断片、一本鎖可変断片(scFv)を包含する一本鎖抗体断片、および単一ドメイン抗体(例えば、sdAb、sdFv、ナノボディ)断片を包含する。この用語は、細胞内抗体(intrabodies)、ペプチボディ(peptibodies)、キメラ抗体、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、およびヘテロ複合体(heteroconjugate)抗体、多重特異性(例えば、二重特異性)抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、タンデムジscFv、およびタンデムトリscFvなどの、免疫グロブリンの遺伝子操作されたまたはその他の方法で改変された形態を包含する。
【0054】
本明細書において用いられている通り、「Fab」は、1本の軽鎖および重鎖の一部からなる免疫グロブリンの一価の抗原結合断片を意味する。簡単なパパイン消化または組換え法によって得ることができる。
本明細書において用いられている通り、「F(ab’)2断片」は、両方の軽鎖および両方の重鎖の一部からなる免疫グロブリンの2価の抗原結合断片を意味する。簡単なペプシン消化または組換え法によって得ることができる。
【0055】
本明細書において用いられている通り、「CDR」または「相補性決定領域」は、抗体の可変ドメインにおけるアミノ酸の高度可変配列を意味する。CDRおよびフレームワーク領域のナンバリングは、例えば、the Kabat, Chothia, EU, IMGT, and AHo numbering schemes(例えば、Kabat et al., “Sequences of Proteins of Immunological Interest, US Dept. Health and Human Services, Public Health Service National Institutes of Health, 1991, 5th ed.; Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987)); Lefranc et al., Dev. Comp. Immunol. 27:55, 2003; Honegger and Plueckthun, J. Mol. Bio. 309:657-670 (2001)参照)などの任意の既知の方法またはスキームにしたがって決定することができる。Antigen receptor Numbering And Receptor Classification(ANARCI)ソフトウェアツール(2016, Bioinformatics 15:298-300)を用いることにより、等価である残基位置は、アノテーションを付すことができ、異なる分子が比較される。したがって、1つのナンバリングスキームに従って本明細書で提供されている例示的な可変ドメイン(VHまたはVL)配列のCDRの同定は、異なるナンバリングスキームを用いて決定された同じ可変ドメインのCDRを含む抗体を排除するものではない。
【0056】
本明細書において用いられている通り、「ヒト化(humanized)」は、CDR領域外のアミノ酸の一部、大部分、または全部が、ヒト免疫グロブリン分子由来の対応するアミノ酸で置換されている抗体を記載する。抗体のヒト化形態の一つの態様においては、CDR領域外のアミノ酸の一部、大部分、または全部が、ヒト免疫グロブリン分子由来のアミノ酸で置換されているが、1つ以上のCDR領域内のアミノ酸の一部、大部分、または全部は変更されていない。アミノ酸の少量の付加、欠失、挿入、置換、または修飾は、それらが所定の抗原に結合する抗体の能力を損なわない限り、許容される。適切なヒト免疫グロブリン分子には、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、およびIgM分子が包含されるであろう。「ヒト化」抗体は、元の抗体と同様の抗原特異性、例えば、本開示においてはCCR5と結合する能力、を保持するであろう。
【0057】
当業者は、主題発明のヒト化抗体をどのように作製するかを知っているであろう。様々な刊行物(そのうちのいくつかは参照により本願に組み込まれる)にも、ヒト化抗体をどのように作製するかが記載されている。例えば、米国特許明細書第4,816,567号に記載されている方法は、ある抗体の可変領域および別の抗体の定常領域を有するキメラ抗体の製造を含んでいる。米国特許第5,225,539号は、ヒト化抗体を製造するための別のアプローチを記載している。この特許は、ヒト化抗体が所望の標的を認識するが、ヒト対象の免疫システムによって有意に認識されないように、ある免疫グロブリンの可変領域のCDRが異なる特異性を有する免疫グロブリンからのCDRで置換されたヒト化抗体を製造するための組み換えDNA技術の使用を記載している。具体的には、CDRをフレームワークに移植するために、部位特異的変異導入が用いられている。
【0058】
抗体をヒト化するための他のアプローチは、米国特許第5,585,089号および第5,693,761号、ならびに国際公開第90/07861号において記載されており、これらには、ヒト化免疫グロブリンを製造するための方法が記載されている。これらは、ドナー(donor)免疫グロブリンからの1つ以上のCDRおよび可能性のある付加アミノ酸、ならびにアクセプトする(accepting)ヒト免疫グロブリンからのフレームワーク領域を有する。これらの特許は、所望の抗原に対する抗体の親和性を増加させる方法を記載している。フレームワークにおけるいくつかのアミノ酸は、アクセプター(acceptor)よりもむしろドナーにおけるそれらの位置のアミノ酸と同じになるように選択される。具体的には、これらの特許は、マウスモノクローナル抗体のCDRを、ヒト免疫グロブリンのフレームワークおよび定常領域と組み合わせることによる、受容体に結合するヒト化抗体の調製を記載している。ヒトのフレームワーク領域は、マウスの配列との相同性が最大になるように選択することができる。コンピュータモデルは、CDRまたは特異的抗原と相互作用する可能性のあるフレームワーク領域のアミノ酸を同定するのに用いることができ、次いで、これらの位置にマウスのアミノ酸を用いてヒト化抗体を創り出すことができる。
【0059】
上記の米国特許第5,585,089号および第5,693,761号、ならびに国際公開第90/07861号はまた、ヒト化抗体を設計するのに用いることができる、4つの可能性のある基準を提案している。第一の提案は、アクセプターについて、ヒト化されることになるドナー免疫グロブリンと著しく相同性の高い特定のヒト免疫グロブリンからのフレームワークの使用、または、多数のヒト抗体からの共通フレームワークの使用であった。第二の提案は、ヒト免疫グロブリンのフレームワークのアミノ酸が通常のものでなく(unusual)、その位置のドナーのアミノ酸がヒトの配列に典型的である場合には、アクセプターよりもむしろドナーのアミノ酸を選択してよい、ということであった。
【0060】
第三の提案は、ヒト化免疫グロブリン鎖の3つのCDRに直接的に隣接する位置においては、アクセプターのアミノ酸よりもむしろドナーのアミノ酸を選択してよいということであった。第四の提案は、アミノ酸が、抗体の3次元モデルにおいてCDRの3A内に側鎖原子を有すると予測され、およびCDRと相互作用することができると予測されるフレームワーク位置における、ドナーのアミノ酸残基を用いることであった。上記の方法は、当業者がヒト化抗体を作製するのに採用し得る方法のいくつかの例示に過ぎない。ヒト化抗体の結合の親和性および/または特異性は、Wu et al., J. MOL. BIOL., 284:151 (1999)ならびに米国特許第6,165,793号;第6,365,408号;および第6,413,774号に記載されている通り、進化工学(directed evolution)の方法を用いて増加させることができる。
【0061】
ヒト化抗体の可変領域は、ヒト免疫グロブリンの免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分に連結されていてもよい。一つの態様においては、ヒト化抗体は、軽鎖定常領域および重鎖定常領域の両方を含有する。重鎖定常領域は、通常、CH1、ヒンジ、CH2、CH3、および、場合によってCH4領域、を包含する。一つの態様においては、ヒト化抗体の定常領域は、ヒトIgG4アイソタイプのものである。
【0062】
本明細書において開示されている抗体または結合断片は、標識化されていてもよく、または非標識化されていてもよい。非標識化抗体は、ヒト免疫グロブリン定常領域に特異的な抗体などの、ヒト化抗体に反応性の他の標識化抗体(二次抗体)と組み合わせて用いることができる。あるいは、抗体は直接的に標識化されてもよい。放射性核種、蛍光物質(fluor)、酵素、酵素基質、酵素補因子、酵素阻害剤、リガンド(特にハプテン)などの、幅広い様々な標識を採用することが可能である。数多くの種類のイムノアッセイが入手可能であり、CCR5発現細胞の検出またはCCR5を発現することができる細胞におけるCCR5調節の検出のためのものは当業者によく知られている。
【0063】
本開示はまた、非誘導体化抗体断片よりも、血清半減期の増加、循環における平均滞留時間(MRT)の増加、および/または血清クリアランス速度の減少をもたらす、有効なサイズまたは分子量を有する、抗体または抗体断片-ポリマー複合体(polymer conjugate)をも提供する。抗体断片-ポリマー複合体は、所望の抗体断片を不活性ポリマーで誘導体化することにより作製することができる。所望の見かけ上のサイズを有する複合体を提供する、または選択された事実上の分子量を有する、任意の不活性ポリマーが、本発明の抗体断片-ポリマー複合体の構築における使用に適していることが理解されるであろう。
【0064】
多くの不活性ポリマーは、医薬における使用に適している。例えば、Davis et al., Biomedical Polymers: Polymeric Materials and Pharmaceuticals for Biomedical Use, pp. 441-451 (1980)を参照。本明細書において開示されている抗体または抗体断片-ポリマー複合体には、非タンパク質性ポリマーが用いられる。非タンパク質性ポリマーは、通常、親水性合成ポリマー、すなわち、自然界においては他に見出されないポリマーである。しかしながら、自然界に存在するが、組換えまたはin vitroの方法によって製造されるポリマーもまた有用であり、自然の供給源から単離されるポリマーもまた同様である。
【0065】
親水性ポリビニルポリマーは、本発明の範囲に入り、例えば、ポリビニルアルコールおよびポリビニルピロリドンである。特に有用なのは、ポリエチレングリコール(PEG)などのポリアルキレンエーテル;ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、およびポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンとのブロックコポリマー(Pluronics)などのポリオキシアルキレン;ポリメタクリラート;カルボマー;糖モノマーであるD-マンノース、D-およびL-ガラクトース、フコース、フルクトース、D-キシロース、L-アラビノース、D-グルクロン酸、シアル酸、D-ガラクトロン酸、D-マンヌロン酸(例えば、ポリマンヌロン酸、またはアルギン酸)、D-グルコサミン、D-ガラクトサミン、D-グルコースならびにノイラミン酸を含む、分岐または非分岐多糖類(これには、ラクトース、アミロペクチン、デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、アミロース、硫酸デキストラン、デキストラン、デキストリン、グリコーゲンなどのホモ多糖類およびヘテロ多糖類、または酸性ムコ多糖類の多糖サブユニット、例えば、ヒアルロン酸、ポリソルビトールおよびポリマンニトールなどの糖アルコールのポリマー、ヘパリン、あるいはヘパロンが包含される)である。
【0066】
架橋前のポリマーは、水溶性である必要はないものの、水溶性であることが好ましいが、最終的な複合体は水溶性でなければならない。好ましくは、複合体は、少なくとも約0.01mg/ml、およびより好ましくは少なくとも約0.1mg/ml、およびさらにより好ましくは少なくとも約1mg/mlの水溶性を示す。一つの態様においては、ポリマーは、複合体の形態では高度に免疫原性であってはならず、また、複合体が静脈内注入または注射の経路で投与されることを意図する場合には、それに適合しない粘性を有していてはならない。
【0067】
一つの態様において、ポリマーは、反応性である単一の基のみを含有する。これは、タンパク質分子の架橋を回避するのに役立つ。しかしながら、架橋を減少させるために反応条件を最大化すること、あるいは実質的に均質な誘導体を回収するためにゲルろ過またはイオン交換クロマトグラフィーによって反応生成物を精製することは、本発明の範囲内である。他の態様においては、ポリマーは、複数の抗体断片をポリマー骨格に連結する目的で、2種以上の反応性基を含有する。
【0068】
ゲルろ過またはイオン交換クロマトグラフィーは、実質的に均質な形態の所望の誘導体を回収するのに用いることができる。
ポリマーの分子量は、約500,000Dまでの範囲とすることができ、および好ましくは少なくとも約20,000D、または少なくとも約30,000D、または少なくとも約40,000Dである。選択される分子量は、達成すべき複合体の有効サイズ、ポリマーの性質(例えば、直鎖または分岐などの構造)および誘導体化の程度、すなわち抗体断片あたりのポリマー分子の数、ならびに抗体断片における1以上のポリマー付着部位に依存し得る。
【0069】
ポリマーは、ポリマーおよび連結される抗体断片の1個以上のアミノ酸残基と反応する多官能性架橋剤を介して、抗体断片に共有結合により連結させることができる。しかしながら、誘導体化されたポリマーを抗体断片と反応させることにより、ポリマーを直接的に架橋すること、あるいはその逆もまた本発明の範囲内である。
抗体断片における共有結合架橋部位には、N末端アミノ基、およびリジン残基に見出されるイプシロンアミノ基、ならびに他のアミノ基、イミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、水酸基、または他の親水性基が包含される。米国特許第6,458,355号に記載されている通り、ポリマーは、多官能性(通常は、二官能性)架橋剤を用いることなく、抗体断片に直接的に共有結合していてもよい。
【0070】
かかるポリマーによる置換の程度は、抗体断片における反応部位の数、ポリマーの分子量、親水性、および他の特性、ならびに選択される特定の抗体断片の誘導体化部位に応じて変わるであろう。一般には、複合体は1~約10のポリマー分子を含有するが、本発明の抗体断片に付着されるポリマー分子の数は、より多いこともまた、企図されている。所望の量の誘導体化は、時間、温度、および他の反応条件を変えて、置換の程度を変える実験マトリックスを用いることによって容易に達成され、その後、複合体のポリマー置換のレベルは、サイズ排除クロマトグラフィーまたは当該技術分野において知られている他の手段によって決定される。
【0071】
本発明の抗体断片を修飾するための官能基化PEGポリマーは、Shearwater Polymers, Inc.(ハンツビル、アラバマ州)から入手可能である。かかる市販のPEG誘導体は、アミノ-PEG、PEGアミノ酸エステル、PEG-ヒドラジド、PEG-チオール、PEG-コハク酸エステル、カルボキシメチル化PEG、PEG-プロピオン酸、PEGアミノ酸、PEGスクシンイミジルコハク酸、PEGスクシンイミジルプロピオン酸、カルボキシメチル化PEGのスクシンイミジルエステル、PEGのスクシンイミジルカーボナート、アミノ酸PEGのスクシンイミジルエステル、PEG-オキシカルボニルイミダゾール、PEG-ニトロフェニルカーボナート、PEGトレシラート(tresylate)、PEG-グリシジルエーテル、PEG-アルデヒド、PEG-ビニルスルホン、PEG-マレイミド、PEG-オルトピリジルジスルフィド、ヘテロ官能基性PEG、PEGビニル誘導体、PEGシランおよびPEGホスホリドを包含するが、これらに限定されない。これらのPEG誘導体をカップリングさせるための反応条件は、タンパク質、所望のPEG化の程度、および利用するPEG誘導体に応じて変わるであろう。PEG誘導体の選択に関与するいくつかの要因には、所望の付着ポイント(リジンまたはシステインR基など)、誘導体の加水分解安定性および反応性、連結の安定性、毒性および抗原性、分析への適性が包含される。任意の特定の誘導体の使用についての具体的な説明書は、製造業者から入手可能である。その複合体は、ゲルろ過またはイオン交換HPLCによって未反応の出発物質から分離することができる。
【0072】
本明細書において用いられている通り、「抗ケモカイン受容体抗体」は、ケモカイン受容体上のエピトープを認識し、かつこれに結合する抗体を意味する。本明細書において用いられている通り、「抗CCR5抗体」は、CCR5ケモカイン受容体上のエピトープを認識し、かつこれに結合するモノクローナル抗体を意味する。
本明細書において用いられている通り、「エピトープ」は、抗体または他の化合物を結合させるための、表面を形成する1個以上の分子の一部を意味する。エピトープは、連続または非連続のアミノ酸、炭水化物、あるいは他の非ペプチジル部位またはオリゴマー特異的表面を含み得る。
本明細書において用いられている通り、「ポリペプチド」は、ペプチド結合によって連結されている2個以上のアミノ酸を意味する。
【0073】
本明細書において用いられている通り、「核酸分子」または「ポリヌクレオチド」は、RNAまたはDNAの形態であってよく、これには、cDNA、ゲノムDNA、および合成DNAが包含される。核酸分子は、二本鎖であっても一本鎖であってもよく、一本鎖の場合には、コード鎖であっても非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。コード分子は、当該技術分野で既知のコード配列と同一のコード配列を有していてもよく、あるいは、遺伝子コードの重複性もしくは縮重性の結果として、またはスプライシングによって、同じポリペプチドをコードすることができる、異なるコード配列を有していてもよい。
【0074】
抗体または結合断片の「アナログ」には、保存的アミノ酸置換により抗体または結合断片と異なっている分子が包含される。アミノ酸置換を保存的または非保存的として分類する目的で、アミノ酸を以下のようにグループ化することができる:グループI(疎水性側鎖):met、ala、val、leu、ile;グループII(中性親水性側鎖):cys、ser、thr;グループIII(酸性側鎖):asp、glu;グループIV(塩基性側鎖):asn、gln、his、lys、arg;グループV(鎖の配向性に影響する残基):gly、pro;およびグループVI(芳香族側鎖):trp、tyr、phe。保存的置換は、同じクラスのアミノ酸間の置換を伴う。非保存的置換は、これらクラスのうちのあるクラスのメンバーを他のクラスのメンバーと交換することに相当する。
【0075】
遺伝子コードの縮重性のため、様々な核酸配列が本明細書において開示されるタンパク質またはポリペプチドをコードする。例えば、相同である核酸分子は、参照ヌクレオチド配列と少なくとも約90%同一であるヌクレオチド配列を含み得る。より好ましくは、ヌクレオチド配列は、参照ヌクレオチド配列と少なくとも約95%同一、少なくとも約97%同一、少なくとも約98%同一、または少なくとも約99%同一である。相同性は、当業者によく知られている、様々な公開されているソフトウェアツールを用いて計算することができる。例示的なツールには、国立衛生研究所の国立生物工学情報センター(NCBI)のウェブサイトから入手可能なBLASTシステムが包含される。
【0076】
高度に相同であるヌクレオチド配列を同定する方法の1つは、核酸ハイブリダイゼーションを介するものである。それゆえ、相同である核酸分子は、高ストリンジェンシー(high stringency)条件下でハイブリダイズする。関連配列の同定はまた、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および関連核酸配列のクローニングに適した他の増幅技術を用いて達成することも可能である。好ましくは、PCRプライマーは、CDRなどの目的の核酸配列の一部を増幅するように選択される。
【0077】
本明細書において用いられている用語「高ストリンジェンシー条件」は、当技術分野でよく知られたパラメータに言及する。核酸ハイブリダイゼーションのパラメータは、かかる方法をまとめた参考文献、例えば、MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, J. Sambrook, et al., eds., Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., (1989)、またはCURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, F. M. Ausubel, et al., eds., John Wiley & Sons, Inc., New Yorkに見出すことができる。高ストリンジェンシー条件の一例は、ハイブリダイゼーションバッファー(3.5×SSC、0.02%Ficoll、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaH2PO4(pII7)、0.5%SDS、2mM EDTA)中で摂氏65度でのハイブリダイゼーションである。SSCは、0.15M塩化ナトリウム/0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7;SDSはドデシル硫酸ナトリウム;およびEDTAはエチレンジアミン四酢酸である。ハイブリダイゼーション後、核酸が転写された膜は、例えば、室温で2×SSC、次いで、摂氏68度までの温度で0.1~0.5×SSC/0.1×SDSで洗浄する。
【0078】
本明細書において用いられている通り、用語「ベクター」は、別の核酸を運搬することができる核酸分子に言及する。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス、またはファージであってもよい。「発現ベクター」は、適切な環境に存在する場合に、ベクターが運ぶ1種以上の遺伝子によってコードされるタンパク質を発現させることができるベクターである。
【0079】
核酸配列は、その配列が発現制御配列と作動可能に連結された(すなわち、それが確実に機能するように配置された)後、宿主において発現され得る。これらの発現ベクターは、典型的には、エピソームとして、または宿主染色体DNAの一体となっている部分として、宿主生物において複製可能である。一般的に、発現ベクターは、所望のDNA配列で形質転換された細胞が検出できるようにするために、選択マーカー、例えばテトラサイクリンまたはネオマイシン、を含有するであろう。例えば、米国特許第4,704,362号(これは参照により本明細書に組み込まれる)参照。
【0080】
大腸菌は、本発明のDNA配列のクローニングに特に有用な原核生物宿主の1種である。使用に適した他の微生物宿主には、枯草菌などの桿菌、ならびに、サルモネラ、セラチア、および様々なシュードモナス属などの他の腸内細菌科が包含される。これらの原核生物宿主中で、発現ベクターを作製することも可能であり、かかるベクターは、典型的には、宿主細胞に適合した発現制御配列(例えば、複製起点)を含むであろう。加えて、ラクトースプロモーターシステム、トリプトファン(trp)プロモーターシステム、ベータ-ラクタマーゼプロモーターシステム、またはファージラムダからのプロモーターシステムなどの、任意の数の様々なよく知られているプロモーターが存在するであろう。プロモーターは、典型的には、任意にオペレーター配列により、発現を制御し、ならびに、転写および翻訳を開始および完了するためのリボソーム結合部位配列等を有することになるであろう。
【0081】
酵母などの他の微生物もまた、発現に有用であり得る。サッカロミセスは、好ましい宿主であり、所望に応じ、3-ホスホグリセリン酸キナーゼまたは他の解糖系酵素を包含するプロモーター、ならびに、複製起点、終結配列などの発現制御配列を有する、適したベクターを含む。
【0082】
微生物に加えて、哺乳動物組織細胞培養もまた、本発明のポリペプチドの発現および産生に用いることができる。Winnacker, From Genes to Clones, VCH Publishers, New York, N.Y. (1987)を参照。真核細胞が実際に好ましいのは、損なわれていない免疫グロブリンを分泌することができる数多くの適した宿主細胞株が当技術分野で開発されているからであるが、これには、CHO細胞株、種々のCOS細胞株、HeLa細胞、好ましくは骨髄腫細胞株等、および形質転換B細胞またはハイブリドーマが包含される。これらの細胞のための発現ベクターは、複製起点、プロモーター、エンハンサーなどの発現制御配列(Queen et al., IMMUNOL. REV., 89: 49-68 (1986)、これは参照により本明細書に組み込まれる)、ならびに、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列などの必要なプロセシング情報部位を包含し得る。好ましい発現制御配列は、免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、サイトメガロウイルス、ウシパピローマウイルスなどに由来するプロモーターである。
【0083】
目的のDNAセグメント(例えば、重鎖および軽鎖をコードする配列および発現制御配列)を含有するベクターは、細胞宿主の種類に応じて変わる、よく知られている方法によって宿主細胞内に導入することが可能である。例えば、塩化カルシウムトランスフェクションは、一般的に原核生物細胞に利用されるのに対し、リン酸カルシウム処理またはエレクトロポレーションは、他の細胞宿主に用いられ得る。一般に、Maniatis et al., MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Press (1982)(これは参照により本明細書に組み込まれる)を参照。
【0084】
一度発現された後は、本発明の完全抗体、その二量体、各軽鎖および各重鎖、あるいは他の免疫グロブリン形態または結合断片は、硫酸アンモニウム沈殿、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動などを包含する、当技術分野の標準的手法にしたがって精製することができる。一般に、R.Scopes, PROTEIN PURIFICATION, Springer-Verlag, New York (1982)を参照。医薬用途には、少なくとも均質性が約90~95%である実質的に純粋な免疫グロブリンが好ましく、および均質性が98~99%以上であるのが最も好ましい。所望に応じて一度部分的にまたは均質に精製された後は、ポリペプチドは次いで、治療的に(体外を包含する)またはアッセイ手法、免疫蛍光染色などを開発するおよび行う際に、用いることができる。一般に、IMMUNOLOGICAL METHODS、Vols.I and II, Lefkovits and Pernis, eds., Academic Press, New York, N.Y. (1979 and 1981)を参照。
【0085】
本明細書において用いられている通り、「阻害する」は、組成物の存在下で、その組成物なしで生じるであろう量と比較して、その量が減少することを意味する。
本明細書において用いられている用語「競合阻害剤」は、標的への結合について、参照分子と競合し、それによって参照分子の標的における作用を鈍化させる、阻害する、弱める、減少させる、または遮断する分子に言及する。例えば、レロンリマブは、CCR5受容体に対するCCL5結合の競合阻害剤である。
【0086】
本開示において用いられている「アゴニスト活性」は、分子による標的への結合に言及し、その結合は、標的を活性化させて応答を生成する。
本明細書において用いられている「CCL5アゴニスト活性」は、CCL5による活性化と一致する活性に言及する。
本開示において用いられている「アンタゴニスト活性」は、標的への分子による結合に言及し、その結合は、標的を活性化させて応答を生成せず、およびその結合は、1種以上のアゴニスト分子の作用を遮断する。
【0087】
本明細書において用いられている通り、「対象」は、がんを罹患し得る動物または人工的に改変された動物を意味する。人工的に改変された動物には、ヒトの免疫システムを有するSCIDマウスが包含されるが、これに限定されない。動物には、マウス、ラット、イヌ、モルモット、フェレット、ウサギ、および霊長類が包含されるが、これらに限定されない。好ましい態様において、対象はヒトである。
本明細書において用いられている通り、「処置すること(treating)」は、所定の疾患または障害の進行を阻害する、遅らせる、止める、または逆転させることを意味する。好ましい態様において、「処置すること」は、疾患または障害の進行を逆転させることを意味する。いくつかの態様においては、処置することは、疾患または障害を除去する段階まで、疾患または障害の進行を逆転させることを包含する。
【0088】
本明細書において用いられている通り、「予防すること(preventing)」は、疾患または障害が生じるのを予防すること;疾患または障害の発症または進行を遅延させること;あるいは疾患または障害の病態もしくは症状を減少させることに言及する。例えば、がんを予防することは、腫瘍の発生を予防すること、腫瘍の増殖を遅らせること、および腫瘍の発生を遅延させることを包含する。
本明細書において用いられている通り、「投与すること」は、当業者に知られている任意の方法を用いて達成されてもよくまたは行われてもよい。方法は、静脈内、筋肉内、または皮下手段を含み得る。
本明細書において用いられている通り、「有効用量」は、対象を処置するため、または対象ががんを発症するのを予防するために十分な数量を意味する。当業者は、簡単な滴定実験を行って、対象を処置するのに必要とされる量を決定することができる。
【0089】
CCR5アンタゴニスト
ある側面において、本開示は、CCR5受容体を標的し、かつCCL5アゴニスト活性を提供することなくCCR5細胞受容体に対する競合阻害剤として作用する、CCR5アンタゴニストの使用に関する。
【0090】
一つの態様において、本開示は、がんを処置または予防することにおけるレロンリマブ抗体またはその結合断片の使用を提供する。レロンリマブ(本明細書においてはPRO140とも称される)は、米国特許第7,122,185号および第8,821,877号(これらは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されているヒト化モノクローナル抗体である。レロンリマブは、CD4CCR5細胞に対して作製されたマウスmAbであるPA14のヒト化バージョンである。Olson et al., Differential Inhibition of Human Immunodeficiency Virus Type 1 Fusion, gp 120 Binding and CC-Chemokine Activity of Monoclonal Antibodies to CCR5, J. VIROL., 73: 4145-4155. (1999)。レロンリマブは、細胞表面に発現するCCR5に結合し、in vitroにおいておよびHIV-1感染のhu-PBL-SCIDマウスモデルにおいて、CCR5ケモカイン受容体活性に影響を及ぼさない濃度で、HIV-1の侵入および複製を強力に阻害する。Olson et al., Differential Inhibition of Human Immunodeficiency Virus Type 1 Fusion, gp 120 Binding and CC-Chemokine Activity of Monoclonal Antibodies to CCR5, J. VIROL., 73: 4145-4155. (1999);Trkola et al., Potent, Broad-Spectrum Inhibition of Human Immunodeficiency Virus Type 1 by the CCR5 Monoclonal Antibody PRO 140, J. VIROL., 75: 579-588 (2001)。
【0091】
ヒト化レロンリマブ抗体の重鎖および軽鎖をコードする核酸は、ATCCに寄託されている。具体的には、それぞれpVK-HuPRO140、pVg4-HuPRO140 (mut B+D+I)、およびpVg4-HuPRO140 HG2として指定されるプラスミドは、ブダペスト条約の要件に従って、およびそれを満たして、ATCC(20108 アメリカ合衆国、バージニア州、マナサス)に2002年2月22日、それぞれATCCアクセッション番号PTA 4097、PTA 4099およびPTA 4098の下に寄託された。pVK-HuPRO140およびpVg4-HuPRO140 HG2として指定されるプラスミドは、それぞれレロンリマブの軽鎖および重鎖をコードしている。
【0092】
レロンリマブのHCDR1~3およびLCDR1~3のアミノ酸配列は、それぞれ、配列番号12~14および9~11に記載されている。レロンリマブのVHおよびVLの配列は、それぞれ、配列番号3のアミノ酸20~141および配列番号1のアミノ酸20~131に記載されている。レロンリマブの重鎖および軽鎖の配列は、それぞれ配列番号7および8に記載されている。
【0093】
一つの態様において、本明細書において開示されている方法は、レロンリマブと呼ばれるヒト化抗体、またはCCR5受容体への結合をレロンリマブと競合する抗体を投与することを含み、レロンリマブは、(i)2つの軽鎖、ここで各軽鎖は、pVK:HuPRO140-VK(ATCC寄託指定PTA-4097)として指定されるプラスミドの発現生成物を含む、および(ii)2つの重鎖、ここで各重鎖は、pVg4:HuPRO140 HG2-VH(ATCC寄託指定PTA-4098)として指定されるプラスミド、またはpVg4:HuPRO140(mut B+D+I)-VH(ATCC寄託指定PTA-4099)として指定されるプラスミドのいずれかの発現生成物を含む、を含む。さらなる態様においては、レロンリマブは、抗体であるレロンリマブが結合するのと同じエピトープに結合する、ヒト化抗体またはヒト抗体である。別の態様においては、モノクローナル抗体は、レロンリマブと呼ばれるヒト化抗体である。
【0094】
いくつかの態様において、本開示は、配列番号1と少なくとも70%同一、配列番号1と少なくとも75%同一、配列番号1と少なくとも80%同一、配列番号1と少なくとも85%同一、配列番号1と少なくとも90%同一、または配列番号1と少なくとも95%同一である軽鎖可変領域(VL)を有する、抗CCR5抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。いくつかの態様において、本開示は、配列番号1と70%~100%同一、配列番号1と75%~100%同一、配列番号1と80%~100%同一、配列番号1と85%~100%同一、配列番号1と90%~100%同一、配列番号1と91%~100%同一、または配列番号1と95%~100%同一である軽鎖可変抗体領域を有する、抗CCR5抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。
【0095】
いくつかの態様において、本開示は、配列番号1のアミノ酸20~131と少なくとも70%同一、配列番号1のアミノ酸20~131と少なくとも75%同一、配列番号1のアミノ酸20~131と少なくとも80%同一、配列番号1のアミノ酸20~131と少なくとも85%同一、配列番号1のアミノ酸20~131と少なくとも90%同一、または配列番号1のアミノ酸20~131と少なくとも95%同一である軽鎖可変領域(VL)を有する、抗CCR5抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。いくつかの態様において、本開示は、配列番号1のアミノ酸20~131と70%~100%同一、配列番号1のアミノ酸20~131と75%~100%同一、配列番号1のアミノ酸20~131と80%~100%同一、配列番号1のアミノ酸20~131と85%~100%同一、配列番号1のアミノ酸20~131と90%~100%同一、配列番号1のアミノ酸20~131と91%~100%同一、または配列番号1のアミノ酸20~131と95%~100%同一である軽鎖可変抗体領域を有する、抗CCR5抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。
【0096】
いくつかの態様において、本開示は、配列番号3と少なくとも70%同一、配列番号3と少なくとも75%同一、配列番号3と少なくとも80%同一、配列番号3と少なくとも85%同一、配列番号3と少なくとも90%同一、または配列番号3と少なくとも95%同一である重鎖可変領域(VH)を有する、抗CCR5抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。いくつかの態様において、本開示は、配列番号3と70%~100%同一、配列番号3と75%~100%同一、配列番号3と80%~100%同一、配列番号3と85%~100%同一、配列番号3と90%~100%同一、配列番号3と91%~100%同一、または配列番号3と95%~100%同一である重鎖抗体可変領域を有する、抗CCR5抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。
【0097】
いくつかの態様において、本開示は、配列番号3のアミノ酸20~141と少なくとも70%同一、配列番号3のアミノ酸20~141と少なくとも75%同一、配列番号3のアミノ酸20~141と少なくとも80%同一、配列番号3のアミノ酸20~141と少なくとも85%同一、配列番号3のアミノ酸20~141と少なくとも90%同一、または配列番号3のアミノ酸20~141と少なくとも95%同一である重鎖可変領域(VH)を有する、抗CCR5抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。いくつかの態様において、本開示は、配列番号3のアミノ酸20~141と70%~100%同一、配列番号3のアミノ酸20~141と75%~100%同一、配列番号3のアミノ酸20~141と80%~100%同一、配列番号3のアミノ酸20~141と85%~100%同一、配列番号3のアミノ酸20~141と90%~100%同一、配列番号3のアミノ酸20~141と91%~100%同一、または配列番号3のアミノ酸20~141と95%~100%同一である重鎖抗体可変領域を有する、抗CCR5抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。
【0098】
いくつかの態様において、本開示は、配列番号5と少なくとも70%同一、配列番号5と少なくとも75%同一、配列番号5と少なくとも80%同一、配列番号5と少なくとも85%同一、配列番号5と少なくとも90%同一、または配列番号5と少なくとも95%同一である重鎖可変領域(VH)を有する抗CCR5抗体の使用を提供する。いくつかの態様において、本開示は、配列番号5と70%~100%同一、配列番号5と75%~100%同一、配列番号5と80%~100%同一、配列番号5と85%~100%同一、配列番号5と90%~100%同一、配列番号5と91%~100%同一、または配列番号5と95%~100%同一である重鎖可変抗体領域を有する抗CCR5抗体の使用を提供する。
【0099】
いくつかの態様において、本開示は、配列番号5のアミノ酸20~141と少なくとも70%同一、配列番号5のアミノ酸20~141と少なくとも75%同一、配列番号5のアミノ酸20~141と少なくとも80%同一、配列番号5のアミノ酸20~141と少なくとも85%同一、配列番号5のアミノ酸20~141と少なくとも90%同一、または配列番号5のアミノ酸20~141と少なくとも95%同一である重鎖可変領域(VH)を有する抗CCR5抗体の使用を提供する。いくつかの態様において、本開示は、配列番号5のアミノ酸20~141と70%~100%同一、配列番号5のアミノ酸20~141と75%~100%同一、配列番号5のアミノ酸20~141と80%~100%同一、配列番号5のアミノ酸20~141と85%~100%同一、配列番号5のアミノ酸20~141と90%~100%同一、配列番号5のアミノ酸20~141と91%~100%同一、または配列番号5のアミノ酸20~141と95%~100%同一である重鎖可変抗体領域を有する抗CCR5抗体の使用を提供する。
【0100】
いくつかの態様において、本開示は、重鎖可変領域(VH)および軽鎖可変領域(VL)を含む、抗CCR5抗体またはその抗原結合断片の使用を提供し、ここで、VHは、配列番号12のアミノ酸配列を含む重鎖CDR1(VH-CDR1)、配列番号13のアミノ酸配列を含む重鎖CDR2(VH-CDR2)、および配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖CDR3(VH-CDR3)を含み;ならびに、VLは、配列番号9のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1(VL-CDR1)、配列番号10のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2(VL-CDR2)、および配列番号11のアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3(VL-CDR3)を含む。
【0101】
いくつかのかかる態様においては、VHは、配列番号3のアミノ酸配列または配列番号のアミノ酸20~141と、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する、アミノ酸配列を含み、およびVLは、配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸20~131と、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する、アミノ酸配列を含み、ただしVH-CDR(配列番号12~14)およびVL-CDR(配列番号9~11)のアミノ酸配列は変更されていない;あるいは、VHは、配列番号5のアミノ酸配列または配列番号5のアミノ酸20~141と、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、およびVLは、配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸20~131と、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の同一性を有する、アミノ酸配列を含み、ただしVH-CDR(配列番号12~14)およびVL-CDR(配列番号9~11)のアミノ酸配列は変更されていない。
【0102】
いくつかの態様において、本開示は、(a)配列番号3のアミノ酸配列または配列番号3のアミノ酸20~141を含むVH、および配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸20~131を含むVL;あるいは(b)配列番号5のアミノ酸配列または配列番号5のアミノ酸20~141を含むVH、および配列番号1のアミノ酸配列または配列番号1のアミノ酸20~131を含むVL、を含む、抗CCR5抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。
【0103】
さらなる態様においては、本開示は、CCR5mAb004として指定されるヒト抗体またはその結合断片の使用に関する。CCR5mAb004は、Abgenix XenoMouse(登録商標)技術を用いて作製された完全ヒトmAbであり、CCR5を特異的に認識し、かつこれに特異的に結合する。Roschke et al., Characterization of a Panel of Novel Human Monoclonal Antibodies That Specifically Antagonize CCR5 and Block HIV Entry, 44th Annual Interscience CONFERENCE ON ANTIMICROBIAL AGENTS AND CHEMOTHERAPY, Washington, D.C., Oct. 30-Nov. 2, 2004 (2004);HGS Press Release, Human Genome Sciences Characterizes Panel of Novel Human Monoclonal Antibodies That Specifically Antagonize the CCR5 Receptor and Block HIV-1 Entry, Nov. 2, 2004 (2004);HGS Press Release, Human Genome Sciences Begins Dosing of Patients in a Phase 1 Clinical Trial of CCR5 mAb in Patients Infected With HIV-1, Mar. 30, 2005 (2005)参照。
【0104】
一つの態様においては、本開示は、PA14(ATCCアクセッション番号HB-12610)として指定されるハイブリドーマ細胞株によって産生されるモノクローナル抗体PA14、その結合断片、またはCCR5受容体への結合をモノクローナル抗体PA-14と競合する抗体の、がんの処置または予防における使用に関する。
【0105】
本明細書において記載されている方法の一つ態様においては、抗体またはその結合断片は、抗体の軽鎖を含んでいる。別の態様においては、抗体またはその結合断片は、抗体の重鎖を含む。さらなる態様において、抗体またはその結合断片は、抗体のFab部分を含む。またさらなる態様において、抗体またはその結合断片は、抗体のF(ab’)部分を含む。追加的態様において、抗体またはその結合断片は、抗体のFd部分を含む。別の態様においては、抗体またはその結合断片は、抗体のFv部分を含む。さらなる態様において、抗体またはその結合断片は、抗体の可変ドメインを含む。またさらなる態様において、抗体またはその結合断片は、抗体の1つ以上のCDRドメインを含む。また別の態様においては、抗体またはその結合断片は、抗体の6個のCDRドメインを含む。
【0106】
いくつかの態様において、本開示は、Fc領域部分を含む抗CCR5抗体の使用を提供する。本明細書において用いられている通り、「Fc領域部分」は、抗体からのFc断片(「結晶化可能断片」領域またはFc領域)の重鎖定常領域セグメントに言及し、CH2、CH3、CH4またはそれらの任意の組み合わせなどの、1つ以上の定常ドメインを包含し得る。いくつかの態様において、Fc領域部分は、IgG、IgA、またはIgD抗体のCH2およびCH3ドメイン、またはそれらの任意の組み合わせ、あるいは、IgMまたはIgE抗体のCH3およびCH4ドメイン、およびそれらの任意の組み合わせを包含する。いくつかの態様において、CH2CH3またはCH3CH4構造は、同じ抗体アイソタイプからのサブ領域ドメインを有し、および、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、またはIgMなどのヒトのもの(例えば、ヒトIgG1からのCH2CH3)である。
【0107】
背景として、Fc領域は、ADCC(抗体依存性細胞傷害)、CDC(補体依存性細胞傷害)、および補体結合反応(complement fixation)などの抗体のエフェクター機能、Fc受容体(例えば、CD16、CD32、FcRn)への結合、Fc領域欠損ポリペプチドに対してin vivoでの半減期がより長いこと、プロテインA結合、ならびに、おそらく胎盤移行にも、関与している(Capon et al. Nature 337: 525, 1989参照)。いくつかの態様において、本開示の抗体または抗原結合断片におけるFc領域部分は、これらのエフェクター機能の1つ以上を媒介することができる。いくつかの態様において、本開示の抗体または抗原結合断片におけるFc領域部分は、正常なエフェクター機能を有するが、このことは、野生型IgG1抗体と比較して、エフェクター機能(例えば、ADCC、CDC、半減期またはそれらの任意の組み合わせ)において20%、15%、10%、5%、1%未満の差を有することを意味する。
【0108】
いくつかの態様において、本開示は、例えば、当該技術分野で知られているFc領域部分における1個以上のアミノ酸の置換または欠失によって、これらのエフェクター機能のうちの1つ以上が増加しているFc領域部分を含む、抗CCR5抗体の使用を提供する。エフェクター機能が増加している変異またはバリアントFc領域部分を有する抗体または抗原結合断片は、抗体が、野生型Fc領域部分を有する抗体と比較して、FcR結合、ADCC、CDC、またはそれらの任意の組み合わせにおいて少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の増加を示すことを意味する。いくつかの態様において、変異またはバリアントFc領域部分は、FcRn、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)、またはこれらの任意の組み合わせに対する結合の増加を示す。いくつかの態様において、本開示の抗体または抗原結合断片におけるFc領域部分は、ADCC、CDC、半減期、またはその任意の組み合わせが増加している、バリアントFc領域部分である。
【0109】
Fc機能性を修飾する(例えば、改善する、減少させる、または取り除く)ためのアミノ酸修飾(例えば、置換)には、例えば、T250Q/M428L、M252Y/S254T/T256E、H433K/N434F、M428L/N434S、E233P/L234V/L235A/G236 + A327G/A330S/P331S、E333A、S239D/A330L/I332E、P257I/Q311、K326W/E333S、S239D/I332E/G236A、N297Q、K322A、S228P、L235E + E318A/K320A/K322A、L234A/L235A、およびL234A/L235A/P329G変異が包含され、これらの変異は、InvivoGenにより出版された「Engineered Fc Regions」(2011)において要約されおよび注釈が付されているが、これはwww.invivogen.com/PDF/review/review-Engineered-Fc-Regions-invivogen.pdf?utm_source=review&utm_medium=pdf&utm_campaign=review&utm_content=Engineered-Fc-Regionsにおいてオンラインで入手でき、参照により本明細書に組み込まれる。
【0110】
いくつかの態様においては、本開示は、例えば、当該技術分野で知られているFc領域部分における1個以上のアミノ酸の置換または欠失によって、これらのエフェクター機能の1つ以上が減少または欠損しているFc領域部分を含む、抗CCR5抗体の使用を提供する。エフェクター機能が減少している変異またはバリアントFc領域部分を有する抗体または抗原結合断片は、抗体が、野生型Fc領域部分を有する抗体と比較して、FcR結合、ADCC、CDC、またはそれらの任意の組み合わせにおいて少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または99%の低下を示すことを意味する。
【0111】
いくつかの態様において、変異またはバリアントFc領域部分は、FcRn、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)、またはこれらの任意の組み合わせに対する結合の低下を示す。いくつかの態様では、本開示の抗体または抗原結合断片におけるFc領域部分は、ADCC、CDC、半減期、またはそれらの任意の組み合わせが減少している、バリアントFc領域部分である。いくつかの態様において、Fc領域部分は、Kabatに記載のEUに従ってナンバリングされている、アミノ酸E233P、L234V、L234A、L235A、L235E、ΔG236、G237A、E318A、K320A、K322A、A327G、P329G、A330S、P331S、またはそれらの任意の組み合わせに対応する変異を含む、バリアントIgG1 Fc領域部分である。例えば、IgG1 Fc領域部分に導入されたアミノ酸置換L234A、L235E、G237Aは、FcγRI、FcγRIIa、およびFcγRIII受容体への結合を減少させ、IgG1 Fc領域部分に導入されたA330SおよびP331Sは、C1qにより媒介される補体結合反応を減少させる。
【0112】
いくつかの態様において、本開示は、例えば、当該技術分野で知られているFc領域部分における1個以上のアミノ酸の置換または欠失によって、これらのエフェクター機能の1つ以上が増加しているFc領域部分を含む、抗CCR5抗体の使用を提供する。エフェクター機能が増加している変異またはバリアントFc領域部分を有する抗体または抗原結合断片は、抗体が、野生型Fc領域部分を有する抗体と比較して、FcR結合、ADCC、CDC、またはそれらの任意の組み合わせにおいて少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または99%の増加を示すことを意味する。いくつかの態様において、変異またはバリアントFc領域部分は、FcRn、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)、またはこれらの任意の組み合わせに対する結合の増加を示す。いくつかの態様において、本開示の抗体または抗原結合断片におけるFc領域部分は、ADCC、CDC、半減期、またはその任意の組み合わせが増加している、バリアントFc領域部分である。
【0113】
いくつかの態様において、本開示は、グリコシル化されている抗CCR5抗体の使用を提供する。IgGサブタイプ抗体は、Fc領域部分のCH2ドメインにおいてアミノ酸N297に保存されたグリコシル化部位を含有する。いくつかのかかる態様においては、本開示の抗体または抗原結合断片におけるFc領域部分は、Kabatに記載のEUに従ってナンバリングされているN297を含む。いくつかの態様において、本開示は、Fc領域部分のN297におけるグリコシル化を変化させる変異を含む抗CCR5抗体の使用を提供し、任意に、グリコシル化を変化させる変異は、N297A、N297Q、またはN297Gを含む。いくつかの態様において、N297A、N297Q、またはN297G変異を含む抗体またはその抗原結合断片は、1つ以上の低親和性FcγRとのFc相互作用の減少、CDCの減少、ADCCの減少、またはそれらの任意の組合せを示す。
【0114】
いくつかの態様において、本開示は、重鎖(HC)および軽鎖(LC)を含む抗CCR5抗体の使用を提供し、ここで、HCは、配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み;および、LCは、配列番号8のアミノ酸配列と少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0115】
いくつかの態様において、本開示は、配列番号7のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列を含むHC、および配列番号8のアミノ酸配列を有するアミノ酸配列を含むLCを含む、抗CCR5抗体の使用を提供する。
いくつかの態様において、本開示は、CH2(またはその断片)、CH3(またはその断片)、またはCH2およびCH3を包含する、Fc領域またはその断片を含む抗CCR5抗体の使用を提供し、ここで、CH2、CH3、または両方は、いずれのアイソタイプであってもよく、それぞれ、対応する野生型CH2またはCH3と比較して、アミノ酸置換または他の修飾を含有していてもよい。特定の態様においては、本開示のFc領域は、会合して二量体を形成する2個のCH2-CH3ポリペプチドを含む。
【0116】
本明細書において用いられている通り、特に規定しない限り、例えば、ヒトIgG1重鎖の、定常領域におけるアミノ酸残基の位置は、ヒトIgG1の可変領域がKabatナンバリング規則に従って128アミノ酸残基で構成されていると仮定してナンバリングされる。次いで、ナンバリングされたヒトIgG1重鎖の定常領域は、他の免疫グロブリン重鎖の定常領域におけるアミノ酸残基のナンバリングの参照として用いられる。ヒトIgG1重鎖以外の免疫グロブリン重鎖の定常領域における目的のアミノ酸残基の位置は、目的のアミノ酸残基が並ぶ(align)ヒトIgG1重鎖のアミノ酸残基の位置である。ヒトIgG1重鎖の定常領域と他の免疫グロブリン重鎖の定常領域との間のアライメント(alignment)は、デフォルトパラメータを使用したClustal W法を用いるMegalign program(DNASTAR Inc.)などの、当技術分野において知られているソフトウェアプログラムを用いて行うことができる。本明細書において記載されているナンバリングシステムに従えば、例えば、ヒトIgG2 CH2領域は、他のCH2領域と比較してそのアミノ末端付近にアミノ酸欠失を有する場合があるものの、ヒトIgG2 CH2の296に位置する「N」の位置は、この残基がヒトIgG1 CH2の297位における「N」に並ぶことから、依然として297位とみなされる。
【0117】
加えて、本開示は、典型的にはFab領域とFc領域との間に位置するヒンジ配列(ただし、ヒンジの下部はFc領域のアミノ末端部分を包含する場合がある)を含む抗CCR5抗体の使用を提供する。背景として、免疫グロブリンのヒンジは、Fab部分が空間において自由に動くことを可能にする柔軟なスペーサーとして作用する。定常領域とは対照的に、ヒンジは構造的に多様であり、免疫グロブリンのクラス間、さらにはサブクラス間でも、配列および長さの両方が変わる。
【0118】
例えば、ヒトIgG1ヒンジ領域は、十分に柔軟性があり、これは、Fab断片がその対称軸の周りを回転し、2個の重鎖間ジスルフィド架橋のうちの1番目のものが中心となっている球の範囲内を動くことを可能にする。比較すると、ヒトIgG2ヒンジは、比較的短く、その柔軟性を制限する4個の重鎖間ジスルフィド架橋により安定化された硬いポリプロリンIIヘリックス(poly-proline double helix)を含有する。ヒトIgG3ヒンジは、その独特の伸長されたヒンジ領域(IgG1ヒンジの約4倍の長さ)により他のサブクラスとは異なっており、62個のアミノ酸(21個のプロリンおよび11個のシステインを包含する)を含有し、柔軟性のないポリプロリンIIヘリックスを形成し、ならびにFab断片がFc断片から比較的離れているためより大きい柔軟性を与える。ヒトのIgG4ヒンジは、IgG1より短いがIgG2と同じ長さを有し、その柔軟性は、IgG1のそれとIgG2のそれとの中間である。免疫グロブリンの構造および機能は、例えば、Harlow et al., Eds., Antibodies: A Laboratory Manual, Chapter 14 (Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, 1988)において概説されている。
【0119】
いくつかの態様において、本開示は、キメラである、ヒト化されている、またはヒトのものである、抗CCR5抗体またはその抗原結合断片の使用を提供する。非ヒト(例えば、マウス)抗体のキメラおよびヒト化形態は、非ヒト免疫グロブリン由来の配列を含有し得る、無傷の(全長)キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはその抗原結合断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)2または抗体の他の標的結合サブドメインなど)であってもよい。一般に、ヒト化抗体またはその抗原結合断片において、CDR領域の外側(例えば、フレームワーク(FR)領域)のアミノ酸の大部分または全部は、ヒト免疫グロブリン分子由来の対応するアミノ酸で置換されている。抗体のヒト化形態の一つの態様においては、CDR領域の外側のアミノ酸の一部、大部分、または全部が、ヒト免疫グロブリン分子からのアミノ酸で置換されているが、1つ以上のCDR領域内のアミノ酸の一部、大部分、または全部は、変更されていない。アミノ酸の少量の付加、欠失、挿入、置換、または修飾は、所定の抗原と結合する抗体の能力を損なわない限り、許容される。ヒト化抗体はまた、ヒト免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部を含み得る。非ヒト抗体をヒト化することにおける使用に適したヒト免疫グロブリン分子には、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、およびIgM分子が包含されるであろう。「ヒト化」抗体は、元の抗体と同様の抗原特異性、例えば、本開示においては、CCR5と結合する能力を保持するであろう。
【0120】
使用の方法
一つの側面において、本開示は、結腸がん転移を処置、阻害または予防する方法であって、それを必要とする対象に、抗CCR5細胞受容体結合剤を投与することを含む、前記方法を提供する。
【0121】
一つの態様において、本開示は、結腸がん転移を処置、阻害または予防する方法であって、それを必要とする対象に、(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター、を含む宿主細胞;あるいは(e)CCL5アゴニスト活性を有さない、抗CCR5細胞受容体結合剤、を含む抗CCR5細胞受容体結合剤を投与することを含む、前記方法を提供する。
【0122】
一つの態様において、投与は、肺または肝臓の少なくとも1つへの結腸がんの転移減少をもたらす。一つの態様において、肺への転移は、50%を超えて、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~90%、または85%を超えて、減少する。一つの態様において、肝臓への転移は、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、または50%を超えて、減少する。
【0123】
一つの態様において、投与は、腫瘍に関連する血管新生を減少させる。一つの態様において、腫瘍栄養血管(vessels feeding a tumor)の総血管面積は、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、60%~70%、または60%を超えて、減少する。一つの態様において、腫瘍栄養血管の血管長密度は、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、または50%を超えて、減少する。一つの態様において、腫瘍栄養血管の数は、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、または70%を超えて、減少する。一つの態様において、より大きい血管(larger vessels)の数は、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、または50%を超えて、減少する。一つの態様において、より小さい血管(smaller vessels)の数は、40%を超えて、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、または70%を超えて、減少する。
【0124】
前述の態様のいずれかにおいては、投与が、対象の末梢血中において、増加したレベルのCD4+CD25+細胞または低下したレベルのCD4+CD25-細胞のいずれかをもたらし得る。前述の態様のいずれかにおいて、抗CCR5細胞受容体結合剤は、CD4+細胞におけるチロシンキナーゼリン酸化を変化させなくてもよい。
【0125】
さらなる側面において、本開示は、がんを処置または予防する方法であって、それを必要とする対象に、それ自体はCCL5アゴニスト活性を有さない、CCR5細胞受容体に対する競合阻害剤を投与することを含む、前記方法を提供する。特定の態様において、がんを予防する方法が提供される。
【0126】
一つの態様において、本開示は、がんを予防する方法であって、それを必要とする対象に、それ自体はCCL5アゴニスト活性を有さない、CCR5細胞受容体に対する競合阻害剤を投与することを含み、ここで、競合阻害剤が、CCR5細胞受容体のECL-2ループに結合する、前記方法を提供する。さらなる態様において、競合阻害剤は、CCR5細胞受容体への結合をCCL5と競合する。さらなる態様において、競合阻害剤は、モノクローナル抗体PA14、レロンリマブ、またはCCR5mAb004、あるいはその結合断片を含む。さらなる態様において、競合阻害剤は、結合を、モノクローナル抗体PA14、レロンリマブ、またはCCR5mAb004、あるいはその結合断片と競合する。
【0127】
一つの態様において、本開示は、がんを予防する方法であって、それを必要とする対象に、(a)レロンリマブ抗体またはその結合断片;(b)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸;(c)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター;あるいは(d)(i)レロンリマブ抗体またはその結合断片、(ii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸、あるいは(iii)レロンリマブ抗体またはその結合断片をコードする核酸を含むベクター、を含む宿主細胞、を投与することを含む、前記方法を提供する。前述の態様において、レロンリマブ抗体またはその結合断片は、例えば、レロンリマブモノクローナル抗体またはscFvを含み得る。
【0128】
一つの態様において、本開示は、がんを予防する方法であって、それを必要とする対象に、レロンリマブ抗体またはその結合断片を投与することを含む、前記方法を提供する。
前述の態様のいずれかにおいて、がんは、例えば、乳がん、前立腺がん、結腸がん、黒色腫、胃がん、卵巣がん、肺(非小細胞)がん、膵臓がん、肉腫、または血液細胞がんであってもよい。特定の態様において、がんは、乳がんである。特定の態様において、がんは、前立腺がんである。別の特定の態様においては、癌は、結腸がんである。
【0129】
前述の態様のいずれかにおいて、がんを予防することは、癌の増殖を遅らせること、腫瘍の形成を予防すること、あるいは腫瘍の増殖またはサイズを制限するまたは減少させることを含み得る。
一つの態様において、レロンリマブなどのCCR5細胞受容体に対する競合阻害剤は、薬学的に許容し得る担体と共に投与される。薬学的に許容し得る担体は、当業者によく知られている。かかる薬学的に許容し得る担体には、水性または非水性溶液、懸濁液、およびエマルジョンが包含され得るが、これらに限定されない。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性担体には、水、アルコール性/水性溶液、エマルジョンまたは懸濁液、生理食塩水、緩衝液が包含される。非経口用ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、D-グルコースリンゲル液(Ringer's dextrose)、ブドウ糖および塩化ナトリウム、加乳酸リンゲル液(lactated Ringer's)、または不揮発性油が包含される。静脈内投与用ビヒクルには、体液および栄養補給剤、D-グルコースリンゲル液をベースとしたものなどの電解質補給剤等が包含される。例えば、抗菌剤、酸化防止剤、キレート剤、不活性ガスなどの防腐剤および他の添加剤が含まれていてもよい。
【0130】
本発明の組成物の用量は、対象および用いられる特定の投与経路に応じて変わるであろう。投与量は、0.1~100,000μg/kgの範囲とすることができる。組成物に基づいて、用量は、連続ポンプによる等、連続的に送達されてもよく、または定期的な間隔、例えば、1回以上の別々の機会、で送達されてもよい。特定の組成物の複数回の用量の所望の時間間隔は、当業者により過度の実験をすることなく決定され得る。
【0131】
本方法の一つの態様において、抗体またはその結合断片は、対象に複数回投与され、各投与は、対象に対して、抗体またはその結合断片を、体重kg当たり0.01mg~体重kg当たり50mg送達する。別の態様においては、各投与は、対象に対して、抗体またはその結合断片を、体重kg当たり0.1mg~体重kg当たり10mg送達する。またさらなる態様においては、各投与は、対象に対して、抗体またはその結合断片を、体重kg当たり0.5mg~体重kg当たり5mg送達する。別の態様において、各投与は、対象に対して、抗体またはその結合断片を、体重kg当たり1mg~体重kg当たり3mg送達する。別の態様において、各投与は、対象に対して、抗体またはその結合断片を、体重kg当たり約2mg送達する。好ましい一つの態様において、各投与は、175mg、350mg、525mg、700mg、875mg、1050mg、1225mg、1400mg、1575mg、1750mg、1925mg、または2100mg用量のうちの1つを送達する。好ましい態様において、用量は、皮下注射として投与または自己投与され得る。別の好ましい態様においては、用量は、175mg/mLの濃度で製剤化され得る。
【0132】
一つの態様において、抗体またはその結合断片は、複数回投与され、最初の投与は、その後の投与と、1週間未満の間隔で隔てられている。別の態様においては、最初の投与は、その後の投与と、少なくとも1週間の間隔で隔てられている。さらなる態様において、最初の投与は、その後の投与と、1週間の間隔で隔てられている。別の態様において、最初の投与は、その後の投与と、2~4週間の間隔で隔てられている。別の態様において、最初の投与は、その後の投与と、2週間の間隔で隔てられている。さらなる態様において、最初の投与は、その後の投与と、4週間の間隔で隔てられている。さらなる別の態様においては、抗体またはその結合断片は、複数回投与され、最初の投与は、その後の投与と、少なくとも1か月の間隔で隔てられている。
【0133】
さらなる態様において、抗体またはその結合断片は、静脈内注入を介して対象に投与される。別の態様においては、抗体またはその結合断片は、皮下注射を介して対象に投与される。別の実施形態では、抗体またはその結合断片は、筋肉内注射を介して対象に投与される。
【0134】
一つの態様において、前述の方法は、対象に、細胞療法、例えば、自己または同種異系免疫療法;低分子;化学療法薬剤;またはCCR5/CCL5シグナル伝達阻害剤を投与することをさらに含み得る。一つの態様において、CCR5/CCL5シグナル伝達阻害剤が投与され、これは、マラビロク、ビクリビロク、アプラビロク、SCH-C、TAK-779、PA14抗体、2D7抗体、RoAb13抗体、RoAb14抗体または45523抗体を含む。
【0135】
一つの態様において、レロンリマブなどのCCR5細胞受容体に対する競合阻害剤は、単独で、あるいは、細胞療法、例えば、自家または同種異系免疫療法;低分子;化学療法剤;または、マラビロク、ビクリビロク、アプラビロク、SCH-C、TAK-779、PA14抗体、2D7抗体、RoAb13抗体、RoAb14抗体、もしくは45523抗体などのCCR5/CCL5シグナル伝達阻害剤などの、1種以上の他の治療分子または処置と組み合わせて、投与される。一つの態様において、本明細書において開示されている方法は、レロンリマブを、マラビロク、ビクリビロク、アプラビロク、SCH-C、TAK-779、PA14抗体、2D7抗体、RoAb13抗体、RoAb14抗体、または45523抗体と組み合わせて投与することを含む。
【0136】
一つの態様においては、レロンリマブなどのCCR5細胞受容体に対する競合阻害剤は、例えば、チオテパおよびシクロホスファミドなどのアルキル化剤;ブスルファン、インプロスルファン、およびピポスルファンなどのアルキルスルホナート;ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ(meturedopa)、およびウレドパ(uredopa)などのアジリジン;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミドおよびトリメチロールメラミンを包含するエチレンイミンおよびメチルメラミン;クロラムブシル、クロルナファジン、クロロホスファミド、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノブエンビキン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、およびウラシルマスタードなどの窒素マスタード;カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、およびラニムスチンなどのニトロソ尿素;アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アントラマイシン、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケアマイシン、カルビシン、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、およびゾルビシンなどの抗生物質;メトトレキサートおよび5-フルオロウラシル(5-FU)などの代謝拮抗薬;
【0137】
デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、およびトリメトレキサートなどの葉酸類似体;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、およびチオグアニンなどのプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジンおよび5-FUなどのピリミジン類似体;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、およびテストラクトンなどのアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、およびトリロスタンなどの抗副腎剤(anti-adrenal);フォリン酸などの葉酸補充剤;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル;ビスアントレン;エダトレキサート;デフォファミン;デメコルシン;ジアジクオン;エルフォルミチン(elformithine);酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;
【0138】
ピラルビシン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(商標);ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジクオン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキサン、例えば、パクリタキセル(タキソール(商標)、Bristol-Myers Squibb Oncology、ニュージャージー州、プリンストン)およびドセタキセル(タキソテール(商標)、Rhone-Poulenc Rorer、フランス、アントニー);クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチンおよびカルボプラチンなどの白金類似体;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロン酸塩;CPT-11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラミシン;およびカペシタビン;ならびに、上記のいずれかの薬学的に許容し得る塩、酸または誘導体などの、1種以上の化学治療剤と組み合わせて投与される。
【0139】
本明細書において用いられている通り、「低分子」CCR5受容体アンタゴニストは、例えば、CCR5受容体に結合し、かつ該受容体の活性を阻害する有機低分子を包含する。一つの態様において、低分子は、1,500ダルトン未満の分子量を有する。別の態様においては、低分子は、600ダルトン未満の分子量を有する。
【0140】
一つの態様においては、レロンリマブなどのCCR5細胞受容体に対する競合阻害剤は、SCH-C(Strizki et al, PNAS,98.12718-12723 (2001));SCH-D(SCH417670;ビクリビロク);UK-427,857(マラビロク;1-[(4,6-ジメチル-5-ピリミジニル)カルボニル]-4-[4-[2-メトキシ-1(R)-4-(トリフルオロメチル)フェニル]エチル-3(S)-メチル-1-ピペラジニル-4-メチルピペラジン);GW873140;TAK-652;TAK-779;AMD070;AD101;1,3,4-三置換ピロリジン(Kim et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 15:2129-2134(2005));修飾4-ピペリジニル-2-フェニル-1-(フェニルスルホニルアミノ)-ブタン(Shah et al., BIOORG. MED.CHEM.LETT., 15:977-982(2005));アニバミンTFA、オフィオボリンC、または19,20-エポキシシトカラシンQ(Jayasuriya et al., J. NAT. PROD., 67: 1036-1038 (2004));5-(ピペリジン-1-イル)-3-フェニル-ペンチルスルホン(Shankaran et al., BIOORG. MED.CHEM.LETT., 14:3589-3593(2004));4-(ヘテロアリールピペリジン-1-イルメチル)-ピロリジン-1-イル-酢酸アンタゴニスト(Shankaran et al., BIOORG. MED.CHEM.LETT., 14:3419-3424(2004));4-(ピラゾリル)ピペリジン側鎖を含有する薬剤(Shu et al., BIOORG. MED. CHEM.LETT., 14:947-52(2004);Shen et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 14:935-939(2004);Shen et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 14: 941-945 (2004));
【0141】
3-(ピロリジン-1-イル)プロピオン酸類似体(Lynch et al., Org. Lett., 5: 2473-2475 (2003));[2-(R)-[N-メチル-N-(1-(R)-3-(S)-((4-(3-ベンジル-1-エチル-(1H)-ピラゾール-5-イル)ピペリジン-1-イル)メチル)-4-(S)-(3-フルオロフェニル)シクロペント-1-イル)アミノ]-3-メチルブタン酸(MRK-1)](Kumar et al., J. PHARMACOL. EXP.THER., 304: 1161-1171 (2003));4-アミノヘテロ環置換ピペリジン側鎖を有する1,3,4-三置換ピロリジン(Willoughby et al., BIOORG. MED.CHEM. LETT., 13:427-431(2003);Lynch et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 12:3001-3004(2003);Lynch et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 13:119-123(2003);Hale et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 12:2997-3000(2002));二環式イソオキサゾリジン(Lynch et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 12: 677-679 (2002));コンビナトリアル合成のCCR5アンタゴニスト(Willoughby et al, BIOORG. MED. CHEM. LETT., 11: 3137-41 (2001));複素環含有化合物(Kim et al, BIOORG. MED. CHEM. LETT., 11: 3103-3106 (2001));ヒダントイン含有アンタゴニスト(Kim et al, BIOORG. MED. CHEM. LETT., 11:3099-3102(2001));
【0142】
1,3,4三置換ピロリジン(Hale et al., BIOORG. MED. CHEM.LETT., 11: 2741-2745 (2001));1-[N-(メチル)-N-(フェニルスルホニル)アミノ]-2-(フェニル)-4-(4-(N-(アルキル)-N-(ベンジルオキシカルボニル)アミノ)ピペリジン-1-イル)ブタン(Finke et al., BIOORG. MED.CHEM.LETT., 11: 2475-2479 (2001));植物リッピア・アルバ(Lippia alva)からの化合物(Hedge et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 12:5339-5342(2004));ピペラジン系(piperazine-based)CCR5拮抗薬(Tagat et al., J. MED. CHEM., 47: 2405-2408 (2004));オキシミノ-ピペリジノ-ピペリジン系CCR5アンタゴニスト(Palani et al., BIOORG. MED. CHEM.LETT., 13:709-712(2003));SCH351125の回転異性体(Palani et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 13: 705-708 (2003));ピペラジン系対称型ヘテロアリールカルボキサミド(McCombie et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 13:567-571(2003));オキシミノ-ピペリジノ-アミド(Palani et al., J. MED. CHEM., 45:3143-3160(2002));Sch-351125およびSch-350634(Este, CURR. OPIN. INVESTIG. DRUGS., 3:379-383(2002));1-[(2,4-ジメチル-3-ピリジニル)カルボニル]-4-メチル-4-[3(S)-メチル-4-[1(S)-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]エチル]-1-ピペラジニル]-ピペリジンN1-オキシド(Sch-350634)(Tagat et al., J. MED. CHEM., 44:3343-3346(2001));
【0143】
4-[(Z)-(4-ブロモフェニル)-(エトキシイミノ)メチル]-1’-[(2,4-ジメチル-3-ピリジニル)カルボニル]-4’-メチル-1,4’-ビピペリジンN-オキシド(SCH351125)(Palani et al., J.MED. CHEM., 44:3339-3342(2001));2(S)-メチルピペラジン(Tagat et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 11:2143-2146(2001));ピペリジン-4-カルボキサミド誘導体(Imamura et al., BIOORG. MED.CHEM., 13:397-416, 2005);スルホキシド骨格含有1-ベンザゼピン誘導体(Seto et al., BIOORG. MED. CHEM. LETT., 13: 363-386 (2005));ピリジンN-オキシド骨格含有アニリド誘導体(Seto et al., CHEM. PHARM. BULL.(Tokyo), 52: 818-829 (2004));3級アミン骨格含有1-ベンゾチエピン1,1-ジオキシドおよび1-ベンザゼピン誘導体(Seto et al., CHEM. PHARM.BULL.(Tokyo), 52: 577-590 (2004));N-[3-(4-ベンジルピペリジン-1-イル)プロピル]-N,N’-ジフェニル尿素(Imamura eta l., BIOORG. MED.CHEM., 12: 2295-2306 (2004));5-オキソピロリジン-3-カルボキサミド誘導体(Imamura et al., CHEM. PHARM. BULL.(Tokyo), 52:63-73(2004);4級アンモニウム骨格を含むアニリド誘導体(Shiraishi et al., J.MED. CHEM., 43:2049-2063(2000));AK602/ONO4128/GW873140(Nakata et al., J. VIROL., 79:2087-2096(2005));スピロジケトピペラジン誘導体(Maeda et al., J. BIOL. CHEM., 276: 35194-35200 (2001); Maeda et al., J. VIROL., 78: 8654-8662 (2004));ならびに、選択的CCR5アンタゴニスト (Thoma et al., J. MED. chem., 47: 1939-1955 (2004))などの、1種以上の低分子と組み合わせて投与される。
【0144】
一つの態様において、レロンリマブなどのCCR5細胞受容体に対する競合阻害剤は、SCH-C、SCH-D(SCH417670またはビクリビロク)、UK-427,857(マラビロク)、GW873140、TAK-652、TAK-779 AMD070、またはAD101のうちの1種以上と組み合わせて投与される。米国特許第8,821,877号参照。
【0145】
一つの態様において、レロンリマブなどのCCR5細胞受容体に対する競合阻害剤は、細胞療法、低分子、化学療法剤、またはCCR5/CCL5シグナル伝達阻害剤などの、1種以上の他の治療分子または処置と組み合わせて投与される場合に、相乗作用を示す。2種以上の薬剤間の「相乗」は、薬剤の組み合わせた作用がそれらの相加作用よりも大きいことに言及する。薬剤間の相乗作用、相加作用、または拮抗作用は、併用係数(CI)法を用いた用量反応曲線の解析により定量化することができる。1より大きいCI値は、拮抗作用を示し;1に等しいCI値は、相加作用を示し;および1未満のCI値は、相乗作用を示す。一つの態様において、相乗的相互作用のCI値は、0.9未満である。別の態様においては、CI値は0.8未満である。別の態様においては、CI値は0.7未満である。
【0146】

例1
CD4T細胞におけるキナーゼ活性化およびリン酸化に対するレロンリマブの作用
CCR5は、ケモカインであるRANTES、MIP-1α、MIP-1βに応答して、細胞の活性化および輸送を媒介する、Gタンパク質共役型ケモカイン受容体(GPCR)である。CCR5は、CD4ヘルパーT1、T細胞、単球由来マクロファージ、および末梢血樹状細胞において発現している。Bleul et al., The HIV coreceptors CXCR4 and CCR5 are differentially expressed and regulated on human T lymphocytes, PNAS 94(5): 1925-1930 (1997);Loetscher et al., CCR5 is characteristic of Th1 lymphocytes, NATURE, 391(6665):344-345 (1998);Lee et al., Quantification of CD4, CCR5, and CXCR4 levels on lymphocyte subsets, dendritic cells, and differentially conditioned monocyte-derived macrophages, PNAS 96(9): 5215-5220 (1999)。
【0147】
GPCRに結合するケモカインは、細胞内のcAMPレベル、ホスホリパーゼおよびPI3Kの活性化、ならびにチロシンキナーゼ活性を変化させる。Rodriguez-Frade et al., Similarities and Differences in RANTES-and (AOP)-RANTES-triggered Signals: Implications for Chemotaxis, THE JOURNAL OF CELL BIOLOGY, 144(4): 755-765 (1999);Ward et al., Chemokines and T lymphocytes: More than an attraction, IMMUNITY, 9(1): 1-11 (1998)。MIP-1α、MIP-1β、およびRANTES(CCL5)によるCCR5結合は、同様の親和性および下流作用を伴って生じる。Ward et al., Chemokines and T lymphocytes: More than an attraction, IMMUNITY, 9(1): 1-11 (1998)。
【0148】
かかる作用の一つが、STAT転写因子の活性化である。Mellado et al., Chemokine receptor homo-or heterodimerization activates distinct signaling pathways, THE EMBO JOURNAL, 20(10): 2497-2507 (2001)。CCR5に結合するケモカインは、チロシンキナーゼ(TK)活性を刺激し、ならびに、STAT1およびSTAT3活性を促進し、これらは、T細胞におけるがん原遺伝子c-fosの発現に関わっている。
【0149】
モノクローナル抗体レロンリマブは、CD4T細胞に単独で添加された場合には、cAMPレベルに影響を与えないが、CCL5と一緒に投与された場合には、cAMPレベルへのCCL5の作用を減弱させることがこれまでに示されている。国際公開第2016/210130号。同様に、レロンリマブ単独では、CHO-K1細胞の走化性に影響を与えないが、レロンリマブはCCL5と一緒に投与された場合には、CCL5により誘導される走化性を減少させる。国際公開第2016/210130号。これらの研究は、レロンリマブが、CCR5に対してアゴニスト活性を有さないが、CCR5への結合をCCL5と競合する阻害剤として作用することを示している。CCR5は様々な生化学的経路に関与しているため、レロンリマブによるこれら経路の制御可能性を評価することは重要である。
【0150】
レロンリマブが、CCR5作動(engagement)の下流で活性化されることが知られている別のシグナル伝達経路に対し、アンタゴニストまたはアゴニスト活性を有するかどうかをさらに検討するため、特定のチロシンキナーゼ活性化に対するレロンリマブの作用を評価した。
【0151】
(a)細胞株:3人の健康なドナーから血液を採取し、遠心分離して末梢血単核細胞(PBMC)が分離および単離するようにした。PBMCをロイコアグルチニンPHA-L 1μg/mLで刺激した(24ウェルプレート中、2E6細胞/ウェル)。PHA株は、刺激後24時間、およびCD4CCR5T細胞のFACS(7~10日)まで1日おきに、IL-2 30U/mLを用いて拡大させた。FACSソーティングは、抗ヒトCD4-percp-Cy5.5 クローンRPA-T4、マウスIgG1κ、および抗ヒトCCR5-PE クローンNP-6G4、マウスIgG1κを、それぞれ25μg/mLで用い、作用濃度(working concentration)0.125μg/mLで行った。FACSでソーティングしたCD4CCR5T細胞は、抗CD3および抗CD28アゴニスト抗体を、含むまたは含まない、IL-2条件培地(30UmL)中で一晩培養した。
【0152】
(b)方法:細胞株は、レロンリマブ(1μg/mL)への応答におけるチロシンキナーゼ(CREB、ERK、LCK、VASP、ZAP-70)活性化についてアッセイを行った。加えて、フォルスコリン(「FSK」;10μM)およびRANTES(0.1μM)に対するレロンリマブの作用も試験した。細胞は、37℃で15分間インキュベートし、次いで16%PFA16μLの添加により固定し、さらに20分間RTでインキュベートした。次いで細胞を、2%ウシ血清アルブミンおよび0.1%Triton-X100を含むリン酸緩衝生理食塩水中でブロッキング/透過化した。以下の通りのリン酸化キナーゼに対する蛍光タグ標識抗体:CREB-Alexa Fluor 488 tag, BD Cat #558435;ERK1/2-Alexa Fluor 488 tag, BD Cat #612592;LCK-PE tag, BD Cat #558552;VASP-FITC tag, Enzo Cat #ALX-804-240F-C100;およびZAP-70-Alexa Fluor 488 tag, BD Cat#558518、を用いて染色した。FL-1またはFL-2チャンネルにおける蛍光強度は、BD FACScaliburフローサイトメーターを用いて測定した。蛍光強度中央値の集団シフトを使用して、細胞集団におけるリン酸化を定量化した。
【0153】
最初の実験では、ソーティングされていないT細胞をホルボール12-ミリスタート13-アセタート(PMA)25nMに暴露して、これらの細胞において、確立されているフローに基づく(flow-based)方法を用いてTKリン酸化を評価することができるかどうかを試験した。ベースラインのリン酸化レベルは、未処理の抗体染色細胞(未処理)と未染色細胞(CTL未染色)との間の蛍光強度中央値を比較することにより観察した。
【0154】
(c)結果:PMAを用いた予備実験により、T細胞において、チロシンキナーゼ活性化がフローサイトメトリーを用いて定量化することができることが確認された。PMA処理は、CREBおよびERKのリン酸化を増加させたが、VASPまたはZAP-70のリン酸化は増加させなかった(図1)。ソーティングされたCD4CCR5T細胞はまた、蛍光強度中央値のヒストグラムにおけるシフトも示した(図2、LCKリン酸化に対するRANTESの作用を示している)。
【0155】
レロンリマブは、試験したキナーゼのタンパク質リン酸化を変化させず、アデニリルシクラーゼアゴニストであるフォルスコリンまたはCCR5アゴニストであるRANTESにより誘導されるリン酸化における変化を変化させなかった。レロンリマブ処理は、CREB、ERK、LCK、VASPまたはZAP-70の統計的に有意なリン酸化を生じさせなかった(図3)。フォルスコリン処理は、CREBのリン酸化を増加させ;レロンリマブによる前処理は、この応答を統計的に変化させなかった(図4)。同様に、RANTES処理は、リン酸化CREBを増加させたが、この応答は、レロンリマブ前処理により統計的に変化しなかった(図5)。レロンリマブはcAMPの形成または分解を変化させないというこれまでの知見と一致して、本試験は、レロンリマブがまた、CREB、ERK、LCK、VASP、またはZAP-70の活性化をも有意に変化させないこと、および、レロンリマブが、フォルスコリンまたはRANTESによるこれらキナーゼの活性化を変化させないことを示している。それゆえ、レロンリマブは、CD4CCR5濃縮(CD4+ CCR5+-enriched)T細胞におけるCCR5シグナル伝達およびcAMP濃度を低下させるCCR5の能力を鈍化させるが、ここで試験したTKの活性に対しては明らかな作用を有さない。加えて、レロンリマブは、ベースのTK活性化、またはcAMP合成を刺激するアゴニストであるフォルスコリンによって誘導される応答を、変化させなかった。
【0156】
(d)結論:この試験の結果は、レロンリマブが、CD4細胞株におけるキナーゼ活性化に対する直接的作用も、RANTES(CCR5アゴニスト)またはフォルスコリンによるかかるキナーゼのリン酸化を阻害する明らかな能力も、有さないことを示唆している。
【0157】
例2
レロンリマブは免疫不全マウスモデルにおいてがんを予防する
免疫不全マウスで増殖させたSW480ヒト結腸癌腫のマウス異種移植モデルにおいて、レロンリマブヒト化モノクローナル抗体の抗腫瘍活性を評価した。レロンリマブは、in vitroではT細胞においてCCL5がチロシンキナーゼ活性化を調節する能力に影響を及ぼさなかったが(例1)、レロンリマブは、T細胞欠損マウスにおいて免疫調節作用を示し、T細胞、NK細胞およびB細胞欠損マウスにおいては免疫調節作用を示さなかった。
【0158】
(a)方法:SW480ヒト結腸癌腫細胞(ATCC)を培地(DMEM、10%FBS、抗生物質、抗真菌剤)中で拡大させ、雄性NCr nu/nuマウス(Taconic)、および雄性NOD-scid-IL2Rg(NSG)マウス(Jackson)の体側に皮下接種した(部位あたり200万個、s.c.)。NCr nu/nuマウスおよびNSGマウスの両方は、T細胞を欠損しており、これは、マウスの免疫システムが移植されたヒト結腸細胞を拒絶することを予防する。しかしながら、NSGマウスは、NK細胞およびB細胞も欠損している。マウスを無作為に割り当てて、週2回(月、木)、対照ヒトIgGまたはレロンリマブをi.p.で与えた。腫瘍の直径を測径器で週3回(月、水、金)測定し、長球の計算式を用いて腫瘍体積を算出した。マウスの体重は、週1回(水)測定した。
【0159】
レロンリマブの投与量は、Freireich et al., Quantitative comparison of toxicity of anticancer agents in mouse, rat, hamster, dog, monkey, and man, CANCER CHEMOTHER REP., 50:219-44 (1966);およびthe National Cancer Institute Developmental Therapeutics Program http://dtp.nci.nih.govからの「Representative Surface Area to Weight Ratios (km) for Various Species」を用いて算出した。レロンリマブのヒト用量=5.8mg/kgから始まり、5.8mg/kg×12(ヒトからマウスへの(man-to-mouse)換算係数)=69.6mg/kgマウス用量;平均的マウス=0.025kg、したがって、用量は69.6mg/kg×0.025kg=1.74mg(マウス単回用量)である。これを2.0mgに切り上げて「高用量」とした。「低用量」(0.2mg)も試験した。ヒト血清由来のIgG(>95% SDS-PAGE、Sigma、I4506)を非特異的対照抗体として用いた。
試験は、表1に示されている通り、異なるマウス系統、薬物用量、および薬物スケジュールを用いて、4つのパートで行った。
【0160】
【表1】
【0161】
(b)結果:結腸癌腫細胞をマウスに接種した直後に開始したレロンリマブの高用量での投与は、試験終了時の腫瘍体積の有意な減少をもたらしたが、接種3週間後に開始したレロンリマブの投与は、腫瘍体積の有意差とは関連していなかった。
レロンリマブの投与(パート1、週2回2mg i.p.)は、42日までにSW480の腫瘍体積の62.8%減少をもたらした(p=0.014)(図6)。レロンリマブを与えられたマウスは、試験期間にわたって、正常な体重増加を示したが、非特異的IgGを与えられたマウスは、試験後半の間に体重が減少した(p=0.047)(図7)。
【0162】
21日に開始した、より大きな定着腫瘍(established tumor)(体積:対照-68.5±47.25;レロンリマブ-47.25±34.89mm)のレロンリマブによる処置(パート2、週2回2mg i.p.)は、腫瘍増殖の有意な阻害をもたらさなかった(p=0.719)(図8)。
減少した用量でのレロンリマブの投与(パート3、週2回0.2mg i.p.)は、42日までにSW480腫瘍体積の18.3%減少を誘導したが、統計的有意には達しなかった(p=0.272)(図9)。試験後半における腫瘍進行の間、両群は同程度の体重減少を示した(p=0.708)(図10)。
【0163】
ヌードマウス(T細胞欠損)からより免疫抑制された宿主(NSGマウス、T、B、NK細胞欠損)への切り替えは、レロンリマブの抗腫瘍効果の喪失をもたらした。レロンリマブ群では、対照群と比較して腫瘍体積が32%減少していたが、これは統計的有意には達しなかった(p=0.076)(図11)。両処置群では、同程度の体重減少があった(p=0.61)(図12)。
結論:この試験の結果は、結腸癌腫細胞への曝露直後のレロンリマブ投与は、腫瘍の増殖を遅らせる、または阻害する傾向があることを示唆している。しかしながら、この作用は、投与量、結腸癌腫細胞への曝露とレロンリマブ投与との間の時間、ならびに、マウスモデルがT細胞を欠損しているか、またはT細胞、NK細胞およびB細胞を欠損しているかに依存していた。
【0164】
例3
レロンリマブはxGVHDの発症を遅らせ、結腸がんのヒト化マウスモデルにおける抗腫瘍活性を増大させる
レロンリマブヒト化モノクローナル抗体の抗腫瘍活性を、ヒト化マウスで増殖させたSW480ヒト結腸癌腫のマウス異種移植モデルにおいて評価した。
【0165】
(a)ヒト化マウス:雄性の、NOD scid IL-2受容体γノックアウトマウスとして一般に知られているNOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1Wjl/SzJ(NSG,Jackson Laboratory, Stock No.005557)は、使用時に6~8週齢であった。マウスは、X線源(Precision X-Rad 320、コネチカット州、ノースブランフォード)を介して225cGyの全身照射を受けた。X線照射の24時間後、マウスにヒトBM細胞を移植した。Cleveland Clinic Bone Marrow Transplant programにより利用されている逆流式(back-flushing)フィルターパックにより非同定ヒトドナー細胞を得た。新鮮な(非凍結)白血球を、Ficoll-Hypaque勾配遠心により精製し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で洗浄し、生存率を評価した(ViCell、Beckman Coulter、カリフォルニア州、ブレア)。ヒトBM単核白血球を尾静脈側部に注射した(10個細胞/マウス)。
【0166】
(b)方法:
異所性接種:ヒト白血球の移植の明確な証拠があった35日に、マウスに、リポフェクタミンを用いてルシフェラーゼ-pcDNA3(Addgene plasmid #18964 ;http://n2t.net/addgene :18964 ;RRID :Addgene_18964)を安定導入させたSW480ヒト結腸癌腫細胞(ATCC、バージニア州、マナサス)2.5×10個を腹側に接種した。マウスは、GvHDの臨床症状(体の姿勢、活動性、毛皮および皮膚の状態、体重減少)について、2回/週モニターした。末梢血は、伏在静脈の静脈穿刺(50μL)(K-EDTAチューブに採取)を利用して、週1回、移植についてモニターした。81日には、半数を超えるマウスが>10%の体重減少、GvHDの臨床症状を示し、実験的エンドポイントに達したとみなされた。
【0167】
同所性接種:ケタミン-キシラジン麻酔下で、ベタジンスクラブおよび70%エタノール拭き取り(×3)による皮膚準備の後、10mmの切開により盲腸を露出させた。31ゲージの針を用い、盲腸の漿膜下にSW480-luc細胞10個を10μLの体積で接種した。盲腸を腹腔に戻し、筋肉および皮膚を2重の縫合糸で閉じ、マウスを回復させた。
【0168】
安楽死:マウスは、制御勾配CO吸入(Quietek、NextAdvance、ニューヨーク州、アベリルパーク)の後、頸椎脱臼して安楽死させ、腫瘍および臓器をハーベストした。
生物発光イメージング:転移を評価するため、マウスは、IVIS Spectrum In Vivo Imaging System(PerkinElmer、マサチューセッツ州、ウォルサム)を用いて解析した。ルシフェリン用量は、in vivoでのイメージングには3mg i.p.、摘出した肺および肝臓のin vitroでのイメージングには150μg/mLであった。
【0169】
レロンリマブ処置:マウスは、体重により各8匹ずつの対照群および処置群に無作為に割り当てた。レロンリマブは、週2回、2.0mg/マウスで腹腔内(i.p.)投与した。2.0mgの用量は、急性GvHDに対するヒト第2相臨床試験で使用された用量に近似するように算出された。HIV陽性患者におけるこの用量の単回投与は、HIV負荷を、10倍を超えて減少させることが示されている。対照マウスには、同じ用量の比較で正常ヒトIgG(Sigma Aldrich、ミズーリ州、セントルイス)が与えられた。
【0170】
(c)結果:CCR5発現は腫瘍増殖の加速と関連している-ヒト化ヒト結腸異種移植マウスモデルにおけるレロンリマブの抗腫瘍作用および免疫調節作用が特徴付けられた。CCR5が、この異種移植モデルにおける結腸がん進行の機能的に関連するマーカーであることを立証するため、SW480ヒト結腸癌腫細胞を、CCR5発現の強度に従ってFACSソーティングした(図13A)。上位および下位20%の発現細胞を含有するプールを、(非照射)NSGマウスに接種するために用いた(図13B)。CCR5を最も強く発現する細胞(Hi)から始まった腫瘍は、最も低いCCR5発現を有する細胞(Lo)よりも、速く増殖する腫瘍を生成した、n=4、p=0.019(図13C)。したがって、薬物処置がない場合には、CCR5を多数発現する腫瘍細胞は、in vivoにおける増殖の優位性を示した。
【0171】
レロンリマブはxGVHDの発症を遅らせる-ヒト化NSGマウスとの関連におけるSW480腫瘍の挙動について検討した。NSGマウスは、225cGyの全身照射を行い、24時間後に正常ヒトBM単核球を接種して調製した。3週間以内に、IgGを与えられたマウスは、体重減少、体の姿勢、活動性、毛皮および皮膚の状態によって特徴付けられる異種移植片対宿主病(xGVHD)の兆候を示し始めた(図14Aおよび図14B)。非腫瘍担持マウスにおいて、Abによってもたらされる抗GVHD活性の持続期間および持続性を決定するため、レロンリマブおよびIgG処置を5週で中止した。処置停止後、IgG群およびレロンリマブ群の両方で全身症状が悪化した。xGVHDの兆候は、両方のレロンリマブ処置群で7週まで遅延した。体重減少は、両方の腫瘍担持群において、非腫瘍担持動物と比較して加速した。IgGと比較して、レロンリマブは、腫瘍担持マウスおよび非腫瘍担持の両方において、xGVHDの発症を遅延させた、p=0.001。
【0172】
レロンリマブはヒト化マウスにおける抗腫瘍活性を増大させる-次いで、抗腫瘍活性に対するヒト化の作用を評価した。ヒト化NSGマウスでは、レロンリマブは、IgG処置と比較して腫瘍の進行を効果的に遅延させ、その作用は80日まで持続した(図15)、p=0.004。非ヒト化NSGマウスでは、腫瘍増殖に対するレロンリマブ処置の作用はIgG処置と差がなかったが(p=0.782)、このことは、抗SW480活性の媒介におけるヒトエフェクター細胞の重要性を示している。IgG処置と組み合わせたヒト化は、初期の抗腫瘍作用をもたらし、これは最終的には60日までに失われた。
【0173】
例4
レロンリマブは結腸がんのヒト化マウスモデルにおいて肺および肝臓転移病変の増殖速度を減少させる
レロンリマブヒト化モノクローナル抗体の抗転移活性を、ヒト化マウスで増殖させたSW480ヒト結腸癌腫のマウス異種移植モデルにおいて評価した。
【0174】
(a)方法:ヒト化マウスに、上記の通りにSW480ヒト結腸癌腫細胞を同所性接種した。ルシフェラーゼ標識結腸癌腫細胞の盲腸漿膜下への同所性接種の10日後、マウスに生物発光イメージングを施し、開始時の腫瘍体積が同等であることを確認した。45日に、腹部において直径15mmを超えて測定される触診可能な腫瘍があり、両処置群におけるマウスの全身症状が悪化したため、試験を終了した。肝臓および肺を摘出し、ルシフェリン基質を含有する培地に入れた。
【0175】
(b)結果:IgG処置マウスおよびレロンリマブ処置マウスに移植された腫瘍によって放出された初期の発光シグナル(光子/秒、p/s)の間に有意差はなかった(p=0.074)(図18A)。肝臓転移負荷は、レロンリマブ処置マウスにおいて59%低下したが、有意にまでは達しなかった(p=0.067)(図18B)。肺転移負荷は、IgG処置動物と比較して、レロンリマブ処置マウスで87%低下した(p=0.012)(図18C)。したがって、腫瘍阻害の程度は、原発性皮下腫瘍の増殖阻害と比較して、転移性病変においてより顕著であった。
【0176】
例5
レロンリマブは特定の免疫細胞の発現を増大させる
フローサイトメトリーを用いて、レロンリマブの抗腫瘍作用の媒介に関与する免疫細胞の種類を同定した。
(a)方法:末梢血(PB)試料をフローサイトメトリーにより解析した。赤血球を塩化アンモニウムにより溶解させ、細胞をPBSで2回洗浄し、PBS/0.5mM EDTA/0.5%BSA中において、4℃で15分間、下記抗体:抗ヒトCD3-FITC(クローンUCHT1、IM1281U)、抗ヒトCD45-PC7(クローンJ.33、IM3548U)、抗マウスCD45.1-FITC(クローンA20)、eBioscience(Thermo Fisher)、および抗ヒトCD56-PE(クローン5.1H11)、BioLegendを用いて染色した。ヒトCD45、マウスCD45、およびヒトCD3については、結果を総イベント数におけるパーセンテージとして表した。ヒトCD56については、結果を総イベント数におけるパーセンテージとして表した。免疫抑制細胞の解析には、True-Nuclear Human Treg Flow Kit(FoxP3 AlexaFluor 488/CD4 PE-Cy5/CD25 PE)をメーカーの説明書に従って用いた(BioLegend、カリフォルニア州、サンディエゴ)。試料は、Cytomics FC500 Flow Analyzer (Beckman/Coulter)で解析した。
【0177】
(b)結果:ヒト化マウスからの末梢血は、免疫細胞組成の変化について解析した。非腫瘍担持マウスにおいて、レロンリマブは、循環NK細胞の28.9%増加を誘導した(p=0.017)(図16、左パネル)。腫瘍担持マウスにおいては、レロンリマブ処置は、循環B細胞の低下(40.1%、p=0.037)および循環NK細胞の低下(49.8%、p=0.006)、ならびにT細胞の増加(9.0%、p=0.002)をもたらした(図16、左および右のパネル)。レロンリマブ投与後のこの細胞の再分布は、ヒト白血球による腫瘍浸潤の増大によって続発するものではなかった。SW480腫瘍の免疫組織化学は、B、T、NK細胞およびマクロファージ(CD206およびCD163)について染色がみられず、著しく精彩のないものであった(データは示さず)。
【0178】
腫瘍担持動物および非腫瘍担持動物の両方の末梢血において、レロンリマブは、免疫抑制ヒトCD4+CD25+細胞を誘導した(それぞれ、1.47倍増加、p=0.016;2.22倍増加、p=0.0038)(図17)。レロンリマブはまた、GVHD促進性のヒト循環CD4+CD25-細胞の1.84倍の減少(p=0.033)を引き起こした。FoxP3+細胞は検出されなかった。
【0179】
例6
レロンリマブは腫瘍関連血管新生を阻害する
ヒト化マウスで増殖させたSW480ヒト結腸癌腫のマウス異種移植モデルにおける、腫瘍関連血管新生に対するレロンリマブの作用を評価した。
【0180】
(a)方法:ヒト化NSGマウスに皮膚接種して10日のSW480結腸癌腫瘍の周囲に増殖している血管を、解剖顕微鏡を用いて12.5倍の倍率で写真撮影した。腫瘍結節の外周に接している可視血管はすべて1本の血管として点数化した。腫瘍面積を評価するため、2種の測定を行った(皮膚と同一平面上にある最大直径、および第一の直径に垂直な第二の直径)。これら2種の測定値の積を腫瘍面積の指標として用いた。画像は、12.5対物レンズ付き手術用顕微鏡(World Precision Instruments、PSMT5、フロリダ州、サラソタ)を用いて撮影した。各実験群は8匹のマウスを含んでいた。腫瘍写真は、VESGENソフトウェアを用いてデジタル解析を行い、目的の腫瘍塊を表す領域により腫瘍の外周を定義した。出力は、一連のカラー世代マップ(黒色背景にカラー血管)で、最大径の血管がG1と定義され、それに続くより小さい各世代がG2~G9として表された。血管数は、総血管面積、血管長密度、および血管径に基づき表された。
【0181】
(b)結果:腹側の真皮に接種されて10日のSW480結腸癌腫腫瘍を直接的に栄養する血管の定量的解析により、IgG処置宿主と比較して、レロンリマブ処置ヒト化マウスからの腫瘍における血管数の有意な低下が明らかになり、(図19A)、これは、腫瘍床における新生血管形成に対してレロンリマブが阻害作用を引き起こすことと一致していた。VESGENソフトウェアの利用により、処置群間の詳細な比較が可能となり、総血管面積(ピクセル)の62%減少(p=0.013)、血管長密度の53%減少(p=0.0011)、大血管(例えば、世代1~3(G1~G3))の数の61%減少(p=0.0082)および小血管(例えば、世代4~9(G4~G9))の数の80%減少(p=0.017)を包含する、腫瘍栄養血管網の複数の主要特性における著しい減少が明らかになった(図19B)。それゆえ、同じ初期腫瘍負荷を有する動物からの原発性腫瘍は、レロンリマブによる処置後に血管新生の低下を示した。
【0182】
2019年8月2日に出願された米国仮特許出願第62/882,353号および2020年7月2日に出願された米国仮特許出願第63/047,693号を包含する、本明細書において言及されるおよび/または出願データシートに列挙されている、米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願は全て、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。態様の側面は、必要に応じて、様々な特許および出願の概念を採用し、別のさらなる態様を提供するために改変することができる。上記の様々な態様は、組み合わせてさらなる態様を提供することができる。
【0183】
本発明の特定の態様が例示および記載されているが、上記の様々な態様は、さらなる態様を提供するために組み合わせることができること、および本発明の精神および範囲から逸脱することなく、そこに様々な変更を行うことができることが容易に理解されるであろう。これらおよび他の変更は、上記の詳細な説明に照らし、態様に対して行うことができる。
一般に、以下の特許請求の範囲においては、用いられる用語は、特許請求の範囲を明細書および特許請求の範囲において開示された特定の態様に限定するように解釈されるべきではなく、かかる特許請求の範囲が権利を有する等価物の全範囲とともに、全ての可能な態様を包含するように解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は、本開示によって限定されない。
図1
図2
図3
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図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18A
図18B
図18C
図19A
図19B
【手続補正書】
【提出日】2022-05-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】追加
【補正の内容】
【配列表】
2022542524000001.app
【国際調査報告】