(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-05
(54)【発明の名称】電気駆動システムにおける永久磁石同期モータベクトル弱め界磁制御システム
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20220928BHJP
【FI】
H02P21/22
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021556965
(86)(22)【出願日】2020-07-09
(85)【翻訳文提出日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 CN2020100989
(87)【国際公開番号】W WO2022006803
(87)【国際公開日】2022-01-13
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505072650
【氏名又は名称】浙江大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG UNIVERSITY
(74)【代理人】
【識別番号】100128347
【氏名又は名称】西内 盛二
(72)【発明者】
【氏名】于 ▲ミアオ▼
(72)【発明者】
【氏名】▲陸▼ ▲玲▼霞
(72)【発明者】
【氏名】▲斉▼ 冬▲蓮▼
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505DD03
5H505DD08
5H505EE30
5H505EE41
5H505GG04
5H505HB01
5H505JJ24
5H505JJ25
5H505JJ26
5H505JJ28
5H505LL22
5H505MM02
(57)【要約】
【課題】本発明は、電気駆動システムにおける永久磁石同期モータベクトル弱め界磁制御システムを開示しており、当該システムは、電流閉ループ調整モジュール、変調比偏差算出モジュール、電流特徴点設定モジュール、電流補償ベクトル角度算出モジュール、電流補償ベクトル振幅算出モジュール、電流補償ベクトル算出モジュールおよび電流指令補正モジュールからなる。
【解決手段】本発明は、モータ三相短絡電流を弱め界磁調整の終点とし、電圧飽和が発生する時、モータ制御システムを飽和から退出させることができる。モータ端部は、インバータが存在して動力電池母線を介して電力を供給するため、その端部電圧はゼロに低下せず、異常要因に対処するための大きなマージンがある。dq電流を導入するとともに補正することにより、電圧飽和に対する圧力をdq電流に分配することができ、単軸電流の調節過多による出力トルク偏差過大を回避することができる。本発明は、駆動システム安全を保証するとともに、駆動システム出力トルクに対する弱め界磁制御リンクの影響をできる限り小さくする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気駆動システムにおける永久磁石同期モータベクトル弱め界磁制御システムであって、電流閉ループ調整モジュール、変調比偏差算出モジュール、電流特徴点設定モジュール、電流補償ベクトル角度算出モジュール、電流補償ベクトル振幅算出モジュール、電流補償ベクトル算出モジュールおよび電流指令補正モジュール等により構成され、
前記電流閉ループ調整モジュールは、電流指令補正モジュールにより補正されたdq電流指令
を比例積分コントローラに入力してdq電圧指令v
dref、v
drefを取得し、
前記変調比偏差算出モジュールは、電流閉ループ調整モジュールによって出力されたdq電圧指令v
dref、v
drefに対して以下の処理を行って所望の変調比
を取得し、
【数6】
ここで、
は母線電圧であり、モータ制御システムの最大変調比
と所望の変調比
との差をさらに求めて
を取得し、最後にローパスフィルタを通して変調比偏差
を取得し、
前記電流特徴点設定モジュールは、モータ三相端部短絡時のd軸母線電流
を以下のように設定し、
【数7】
ここで、
は回転子永久磁石体の磁束であり、
はd軸インダクタンスであり、
前記電流補償ベクトル振幅算出モジュールは、変調比偏差算出モジュールの出力変調比偏差
を入力として、以下の比例積分調整を行い、電流ベクトル補償振幅
を取得し、
【数8】
ここで、k
pは比例積分コントローラの比例係数であり、k
iは比例積分コントローラの積分係数であり、
前記電流補償ベクトル角度算出モジュールは、現在動作点(
)から(
)までの電流補償ベクトル角度
を算出し、
【数9】
前記電流補償ベクトル算出モジュールは、電流補償ベクトル振幅算出モジュールによって出力された電流ベクトル補償振幅
と電流補償ベクトル角度とに基づいて、出力された電流補償ベクトル角度
を算出し、dq軸補償成分△i
dref、△i
drefを以下のように算出し、
【数10】
前記電流指令補正モジュールは、電流補償ベクトル算出モジュールの出力△i
dref、△i
drefをオリジナルのdq電流指令i
dref、i
drefに重畳して、補正されたdq電流指令
を取得する、
【数11】
ことを特徴とする電気駆動システムにおける永久磁石同期モータベクトル弱め界磁制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石同期モータ制御分野に属し、特に電気駆動システムにおける永久磁石同期モータベクトル弱め界磁制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
車両用埋込型永久磁石同期モータ(IPMSM)制御システムでは、実際の適用場面において制御対象であるIPMSMが必然的に変化するため、制御プログラム内の事前定めた制御パラメータが無効になり、モータが高速動作し、弱め界磁が不足となり、電圧飽和を引き起こし、モータ駆動システムの安定性を危うくする。
【0003】
IPMSMは、電力密度が大きく、動作範囲が広く、効率が高いという特徴を有して電気自動車の駆動モータに広く使用され、そのトルク方程式は、次のとおりであり、
【数1】
(1)
ただし、
はモータの電磁トルクであり、
はモータ磁極対数であり、
は回転子永久磁石体の磁束であり、
はq軸電流であり、
はd軸電流であり、
はd軸インダクタンスであり、
はq軸インダクタンスであり、IPMSM正常駆動中には、
である。
【0004】
上式から分かるように、トルクは、電流電流と正の相関関係にあるが、異なるdq軸電流組合せは、異なるトルクに対応しており、各固定電流振幅においては、特定のdq軸電流組合せのセットが存在して、モータがその電流において最大トルクを出力することができる。磁場飽和により、電流がある範囲を超えた後でdq軸インダクタンス
が電流の変化に伴って変化し、変化範囲は最大で200%に達することができる。これらのパラメータの変化により、オンラインで各電流における最適なdq電流組合せを求めることが非常に困難または不可能である。したがって、車両用モータ制御では、一般に実験的な方法でテストと校正することによって各トルクに対応する最適な電流組合せを得る。全トルク範囲内の全てのような電流組合せを結んだ線は、IPMSMの最大トルク電流比(MTPA)曲線と呼ばれる。
【0005】
また、車両用IPMSMの動作は、インバータが動力電池の母線を三相交流電に変換することに依存し、これは、モータ端子電圧が直流母線によって制限されることを意味し、IPMSMの電圧方程式は、次のとおりであり、
【数2】
(2)
ここで、
はモータd軸電圧であり、
はモータq軸電圧であり、
は固定子抵抗であり、
はモータの電気角速度であり、高速定常状態において、モータ端子電圧
の振幅は、近似的に以下のようになる。
【数3】
(3)
【0006】
モータ回転速度が上昇すると、モータ端子電圧が上昇し、現在の母線電圧によって供給できる交流電圧振幅を超えると、弱め界磁制御を行う必要があり、現在の母線によって供給できる最大交流電圧は、電圧制限
であり、電圧制限の式は、一般的に次のとおりであり、
【数4】
ここで、
は母線電圧であり、
はモータ制御システムの最大変調比(maximum modulation index)であり、その値は一般的に1の近傍をとり、最大に1.1027である。
【0007】
トルク方程式および電圧制限の両方を満たすことができる電流組合せを得るために、異なる母線と回転速度における各トルクに対応するdq電流組合せを依然として実験的な手段で較正によって得る。次に、これらのデータをテーブル化してデジタル制御チップに記憶し、モータがリアルタイムで動作しているときに、テーブルを検索することにより、異なる回転速度および母線電圧におけるトルク指令を対応するdq電流指令に変換する。
【0008】
上記のプロセスが正常に機能する前提は、プロトタイプの実験較正によって得られた電流組合せが同一のタイプの各モータに適用できることであるが、実際の適用では、この仮定がもはや成立しないいくつかの態様がある。
1.モータが大量生産されるとき、プロセス、材料は必然的にモータの不一致を引き起こす。
2.モータの回転オフセット量に偏差が生じるとき、電流レギュレータが正常に動作する場合であっても、制御上の磁場配向に偏差が生じ、さらにモータにおける実際のdq電流が所望の電流指令と一致しなくなる。
3.環境温度の変化は、永久磁石体の磁束結合に影響を与え、温度が低下すると、
が上昇し、較正によって得られるdq電流指令が電圧制限を満たさなくなる。
【0009】
したがって、電気駆動制御システムの高速動作領域のロバスバート性を高めるために、一般的に弱め界磁制御リンクを追加する。
【0010】
モータ制御弱め界磁の課題について、発明特許CN101855825Bでは、より代表的な解決案を提案しており、すなわち、電流レギュレータの出力電圧と電圧制限値との差を求めて電圧偏差を取得し、当該偏差に対して比例積分リンク(PI)を行ってI
d電流補正量を得てd軸電流に重畳し、当該補正量の上限を0に制限することで、
図1に示すように、弱め界磁を深くして弱め界磁制御の目的を達成する。式(3)により、
のとき、負のi
dを大きくして、出力電圧を下げることができ、すなわち、このような技術案が有効である。しかし、
のとき、負のi
dを増加させ続けると、
が逆方向に増加して出力電圧がさらに上昇し、逆に電圧飽和現象がより深刻になる。したがって、当該方法を使用する場合、
を確保する必要がある。しかし、車両用モータ制御では、この制限を加えると、モータの高速領域でのリラクタンストルクが十分に利用されず、モータの性能が犠牲になる。
【0011】
上記技術案において電圧飽和時にidを下げる方法を採用すると、弱め界磁場を深くして、モータを電圧飽和状態から退出させることができるが、当該方法は、出力トルクに大きく影響し、その理由としては、補正idを修正するだけで、大きなid補正量dqが必要となり電流組合せが大きく変化して出力トルクに大きな影響を与える。文献(T.M. Jahns、 「Flux Weakening Regime Operation of an Interior Permanent-Magnet Synchronous Motor Drive」、 IEEE Trans. on Ind. Appl.、 vol. IA-23、 no.4、 pp. 55-63、 1987)では、弱め界磁領域でiqを低減する方法を提案しているが、単一の電流を調整するだけでは、同様に、2で説明した出力トルクに大きな影響を与える課題に直面する。電圧飽和の問題に効果的に対処できるとともに、できる限り小さく出力トルクに影響を与えることができる優れた従来技術は、まだ見つかっていない。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、従来技術の欠点に鑑み、電気駆動システムにおける永久磁石同期モータベクトル弱め界磁制御システムを提供することにある。本発明では、電気駆動制御システムの高速動作領域のロバスバート性を増強するために、弱め界磁制御リンクを追加する。
【0013】
本発明の目的は、以下の技術手段によって実現される。電気駆動システムにおける永久磁石同期モータベクトル弱め界磁制御システムは、電流閉ループ調整モジュール、変調比偏差算出モジュール、電流特徴点設定モジュール、電流補償ベクトル角度算出モジュール、電流補償ベクトル振幅算出モジュール、電流補償ベクトル算出モジュールおよび電流指令補正モジュールにより構成され、
前記電流閉ループ調整モジュールは、電流指令補正モジュールによって補正されたdq電流指令
を比例積分コントローラに入力してdq電圧指令v
dref、v
drefを取得し、
前記変調比偏差算出モジュールは、電流閉ループ調整モジュールによって出力されたdq電圧指令v
dref、v
drefに対して以下の処理を行って所望の変調比
を取得し、
【数6】
ここで、
は母線電圧であり、モータ制御システムの最大変調比
と所望の変調比
との差をさらに求めて
を取得し、最後にローパスフィルタを通して変調比偏差
を取得し、
前記電流特徴点設定モジュールは、モータ三相端部短絡時のd軸母線電流
を以下のように設定し、
【数7】
ここで、
は回転子永久磁石体の磁束であり、
はd軸インダクタンスであり、
前記電流補償ベクトル振幅算出モジュールは、変調比偏差算出モジュールの出力変調比偏差
を入力として、以下の比例積分調整を行って電流ベクトル補償振幅
を取得し、
【数8】
ここで、k
pは比例積分コントローラの比例係数であり、k
iは比例積分コントローラの積分係数であり、
前記電流補償ベクトル角度算出モジュールは、現在動作点(
)から(
)までの電流補償ベクトル角度
を算出し
【数9】
前記電流補償ベクトル算出モジュールは、電流補償ベクトル振幅算出モジュールによって出力された電流ベクトル補償振幅
と、電流補償ベクトル角度算出モジュールよって出力された電流補償ベクトル角度
とに基づいて、dq軸補償成分△i
dref、△i
drefを以下のように算出し、
【数10】
前記電流指令補正モジュールは、電流補償ベクトル算出モジュールの出力△i
dref、△i
drefをオリジナルのdq電流指令i
dref、i
drefに重畳して、補正されたdq電流指令
を取得する
【数11】
。
【0014】
本発明の有益な効果としては、本発明は、電圧フィードフォワードに基づく車両用永久磁石同期モータ端部短絡保護システムであって、駆動システム安全を保証するとともに、駆動システム出力トルクに対する弱め界磁制御リンクの影響をできる限り小さくし、具体的には、
1、モータ三相短絡電流を弱め界磁調整の終点とし、現在モータの動作領域がどこにあっても、従来技術における
に制限されず、電圧飽和が発生するとき、モータ制御システムを飽和から退出させることができる。
2、モータ三相短絡電流を弱め界磁調整の終点とし、理想条件下では、当該点の出力電圧がゼロであり、モータ弱め界磁動作の限界点である。実際、モータ端部は、インバータが存在して動力電池母線を介して電力を供給し、その端部電圧がゼロに低下しないため、本発明では、モータ回転子磁束結合変化、回転オフセット量偏差などが高速で電圧飽和を招く異常要因に対応するための大きなマージンがある。
3、dq電流を導入するとともに補正することにより、電圧飽和に対する圧力をdq電流に分配することができ、単軸電流の調節過多による出力トルク偏差過大を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】従来技術の弱め界磁制御システムの概略図である。
【
図2】本発明の弱め界磁システムの全体トポロジー構成のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図2に示すように、本発明に係る電気駆動システムにおける永久磁石同期モータベクトル弱め界磁制御システムには、電流閉ループ調整モジュール、変調比偏差算出モジュール、電流特徴点設定モジュール、電流補償ベクトル角度算出モジュール、電流補償ベクトル振幅算出モジュール、電流補償ベクトル算出モジュールおよび電流指令補正モジュールが含まれ、具体的には下記のとおりである。
【0017】
(1)電流閉ループ調整モジュールについては、電流指令補正モジュールによって補正されたdq電流指令
を比例積分PIコントローラに入力してdq電圧指令v
dref、v
drefを取得し、
【数5】
ここで、
はそれぞれ比例積分PIコントローラのd軸比例係数、q軸比例係数であり、
はそれぞれ比例積分PIコントローラのd軸積分係数、q軸積分係数であり、
はそれぞれ比例積分コントローラ動作にリアルタイムで収集したdq軸フィードバック電流である。
【0018】
(2)
図3に示すように、変調比偏差算出モジュールについては、電流閉ループ調整モジュールによって出力されたdq電圧指令v
dref、v
drefの二乗和を求めてから平方根を取り、さらに
で母線電圧
を除算することによって、所望の変調比
を取得し、
【数6】
モータ制御システムの最大変調比
と所望の変調比
との差を求め、この
は、設定可能であり、その理論限界は0.635であり、
をローパスフィルタ(LPF)を通させて変調比偏差
を取得し、ここで、ローパスフィルタは、dq電流レギュレータにおける高周波ノイズを除去し、出力弱め界磁制御システムに電流補正量を平滑出力させ、モータトルクが大きく変動することを防止する役割を果たす。
【0019】
(3)電流特徴点設定モジュールについては、
は、モータ三相端部短絡時のd軸母線電流であり、このとき、モータ出力電圧は0であり、モータの弱め界磁限界点であり、その理論値は、以下のとおりであり、
【数7】
ここで、
は回転子永久磁石磁束であり、
はd軸インダクタンスである。飽和効果により、
は、d軸インダクタンスの変化により変化するが、モータの高速動作領域では、定常状態において
はほぼ一定値である。なお、
は、モータ駆動システムによって許容される最大電流よりも大きい可能性があり、本発明で使用されるシナリオは、短絡電流が最大電流よりも小さいことであり、これも、車両用高速IPMSMモータの共通特徴である。
【0020】
(4)
図4に示すように、電流補償ベクトル振幅算出モジュールについては、変調比偏差
を入力として、以下の比例積分PI調整を行い、電流ベクトル補償振幅
を取得し、
【数8】
ここで、k
pは、比例積分コントローラの比例係数であり、k
iは、比例積分コントローラの積分係数である。
【0021】
(5)
図5に示すように、電流補償ベクトル角度算出モジュールについては、現在動作点(
)から(
)までの電流補償ベクトル角度
を算出し、
【数9】
【0022】
(6)電流補償ベクトル算出モジュールについては、モジュール(4)における電流ベクトル補償振幅
とモジュール(5)における電流補償ベクトル角度
とに基づいて、dq軸補償成分△i
dref、△i
drefを以下のように算出し、
【数10】
【0023】
(7)電流指令補正モジュールについては、電流補償ベクトル算出モジュールの出力△i
dref、△i
drefをオリジナルのdq電流指令i
dref、i
drefに重畳して、補正されたdq電流指令
を取得する。
【数11】
【国際調査報告】