(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-05
(54)【発明の名称】試料の分析物濃度を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20220928BHJP
G01N 27/327 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
G01N27/416 338
G01N27/327 353Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504607
(86)(22)【出願日】2019-07-24
(85)【翻訳文提出日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 US2019043238
(87)【国際公開番号】W WO2021015759
(87)【国際公開日】2021-01-28
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519442612
【氏名又は名称】ライフスキャン アイピー ホールディングス エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】リュウ ズイファン
(72)【発明者】
【氏名】マッコル デイヴィッド
(72)【発明者】
【氏名】ドナルド ロバート
(72)【発明者】
【氏名】サルガド アンナ
(72)【発明者】
【氏名】スミス アントニー
(57)【要約】
流体試料の分析物濃度を測定する方法であって、試料は、電極を有する電気化学セルを含むバイオセンサに適用される。所定電圧波形が、少なくとも第一及び第二の時間間隔の間に印加される。少なくとも第一及び第二の電流値が、それぞれ第一及び第二の時間間隔の間に測定される。転換点時間は、測定された第一の電流値が第一のプロファイルから第二のプロファイルに遷移する第一の時間間隔の間に決定される。試料の分析物濃度は、決定された転換点時間及び少なくとも1つの測定された電流値に基づいて計算される。別の例では、測定された電流値に基づいて、試料の物理的特性が推定される。濃度は、推定された試料の物理的特性が第一又は第二の範囲にある場合、それぞれ第一又は第二のモデルを使用して計算される。
【選択図】
図6C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体試料の分析物濃度を測定する方法であって、
試料をバイオセンサに適用するステップであって、前記バイオセンサが電極を有する電気化学セルを備える、ステップと、
少なくとも第一の時間間隔と第二の時間間隔との間に、所定電圧波形を印加するステップと、
少なくとも前記第一の時間間隔の間に第一の電流値と、前記第二の時間間隔の間に第二の電流値とを測定するステップと、
測定された前記第一の電流値が第一のプロファイルから第二のプロファイルに遷移する、前記第一の時間間隔の間に転換点時間を決定するステップと、
決定された前記転換点時間と、測定された前記第一の電流値及び前記第二の電流値のうちの少なくとも1つの電流値とに基づいて、前記試料の前記分析物濃度を計算するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記計算するステップは、決定された前記転換点時間と、測定された前記第一の電流値のうちの少なくとも1つの電流値と、測定された前記第二の電流値のうちの少なくとも1つの電流値とに基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記計算するステップは、前記転換点時間における転換点電流値に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記分析物濃度を計算するステップは、
【数1】
の形の方程式を用いることを含み、式中、
G
basicは、前記分析物濃度(単位:mg/dL)で、
a
i,jは、係数で、
x
0は、定数で、
x
1は、前記転換点時間t
Turn(単位:秒)で、
x
2は、前記第二の時間間隔の測定された前記第二の電流値の少なくとも一部の合計i
r(単位:マイクロアンペア)で、
x
3は、前記第一の時間間隔の前記第一の電流値の一つ(単位:マイクロアンペア)で、
x
4は、t
Turnでの電流値i
Turn(単位:マイクロアンペア)で、
x
5は、前記第一の時間間隔における前記第一の電流値のうちの1つの逆数(単位:1/マイクロアンペア)で、
x
6は、前記第一の時間間隔における前記第一の電流値のうちの1つの逆数(単位:1/マイクロアンペア)で、
cは、所定の定数である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記所定電圧波形が第三の時間間隔の間にさらに印加され、前記測定するステップは前記第三の時間間隔の間に第三の電流値を測定することをさらに含み、前記計算するステップは決定された前記転換点時間と測定された前記第一、第二及び第三の電流値のうちの少なくとも1つの電流値とに基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記分析物濃度を計算するステップは、
【数2】
の形の方程式を用いることを含み、式中、
G
basicは、前記分析物濃度(単位:mg/dL)で、
a
i,jは、所定の係数で、
x
0は、定数で、
x
1は、前記転換点時間t
Turn(単位:秒)で、
x
2は、前記第三の時間間隔に測定された前記第三の電流値の少なくとも一部の合計i
r(単位:マイクロアンペア)で、
x
3は、前記第二の時間間隔における前記第二の電流値の一つ(単位:マイクロアンペア)で、
x
4は、前記第二の時間間隔における前記第二の電流値のピークに近い値i
pb(単位:マイクロアンペア)で、
x
5は、前記第一の時間間隔における前記第一の電流値のうちの1つの逆数(単位:1/マイクロアンペア)で、
x
6は、前記第一の時間間隔における前記第一の電流値のうちの1つの逆数(単位:1/マイクロアンペア)で、
cは、所定の定数である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記分析物濃度を計算するステップは、
【数3】
の形の方程式を用いることを含み、式中、
G
basicは、前記分析物濃度(単位:mg/dL)で、
t
Turnは、前記転換点時間(単位:秒)で、
【数4】
(単位:マイクロアンペア)で、
i
pcは、前記第三の時間間隔における前記第三の電流値の負のピークに近く(単位:マイクロアンペア)で、
i
pbは、前記第二の時間間隔における前記第二の電流値のピークに近く(単位:マイクロアンペア)、
i
ssは、前記第三の時間間隔における前記第三の電流値の定常状態で、
i
rは、前記第三の時間間隔の測定された前記第三の電流値の少なくとも一部の合計(単位:マイクロアンペア)で、
a、b、p及びz
grは、所定の係数である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記試料を前記バイオセンサに適用した後、前記電気化学セルの前記電極の間にトリガ電流を駆動するステップと、
前記トリガ電流を駆動するステップの間にトリガ電圧の値を測定するステップと、
測定された前記トリガ電圧がトリガ閾値電圧以下に低下したときに、前記所定電圧波形をトリガするステップと、
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記トリガ電流が500~700nAであり、前記トリガ閾値電圧が800~1,100mVである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
第一の所定電圧は、印加された前記試料からの干渉物質の酸化を促進するように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第一のプロファイルがコットレルプロファイルから逸脱し、前記第二のプロファイルが本質的にコットレルプロファイルに従う、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
測定された前記第一の電流値が、前記試料中の干渉物質の存在により、前記第一のプロファイルから前記第二のプロファイルに遷移し、前記干渉物質は、前記電気化学セルで覆われていない電極で酸化を受ける、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記干渉物質は、尿酸又はアスコルビン酸を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記電気化学セルの前記電極は、裸電極と少なくとも部分的に試薬で覆われた電極からなる、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記電気化学セルの前記電極は、共面又は共平面のいずれかである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記第一の電流値及び前記第二の電流値を測定するステップは、50~200Hzの間の周波数で行なわれる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
流体試料の分析物濃度を測定する方法であって、
試料をバイオセンサに適用するステップであって、前記バイオセンサが電極を有する電気化学セルを備える、ステップと、
少なくとも第一の時間間隔と第二の時間間隔との間に、所定電圧波形を印加するステップと、
少なくとも前記第一の時間間隔の間に第一の電流値と、前記第二の時間間隔の間に第二の電流値とを測定するステップと、
測定された前記第一の電流値が第一のプロファイルから第二のプロファイルに遷移する、前記第一の時間間隔の間に転換点時間を決定するステップと、
前記転換点時間、測定された前記第一の電流値及び測定された前記第二の電流値に基づいて、前記試料の物理的特性を推定するステップと、
前記試料の推定された前記物理的特性が第一の範囲にある場合、測定された前記第一の電流値及び測定された前記第二の電流値に基づく第一のモデルを用いて前記試料の前記分析物濃度を計算するステップと、
前記試料の推定された前記物理的特性が第二の範囲にある場合、決定された前記転換点時間、測定された前記第一の電流値及び測定された前記第二の電流値に基づく第二のモデルを用いて前記試料中の前記分析物濃度を計算するステップと、
を含む、方法。
【請求項18】
前記第一のモデルが第一の係数を含み、前記第二のモデルが第二の係数を含み、前記第一の係数及び前記第二の係数は、線形最適化によって決定される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第一のモデルを用いて前記分析物濃度を計算するステップは、
【数5】
の形の方程式を用いることを含み、前記第二のモデルを用いて前記分析物濃度を計算するステップは、
【数6】
の形の方程式を用いることを含み、式中、
【数7】
は、前記第一のモデルを用いて計算された前記分析物濃度(単位:mg/dL)で、
【数8】
は、前記第一のモデルの所定の係数で、
x
0
1及びx
0
2は、定数(例えば、1)で、
【数9】
は、測定された前記電流値に基づく第一のモデル予測値で、
c
1は、前記第一のモデルの所定の定数で、
【数10】
は、前記第二のモデルを用いて計算された前記分析物濃度(単位:mg/dL)で、
【数11】
は、前記第二のモデルの所定の係数で、
【数12】
は、測定された前記電流値に基づく第二のモデル予測値で、
c
2は、前記第二のモデルの所定の定数である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記第一のモデルを用いて前記分析物濃度を計算するステップは、
【数13】
の形の方程式を用いることを含み、前記第二のモデルを用いて前記分析物濃度を計算するステップは、
【数14】
の形の方程式を用いることを含み、式中、
【数15】
は、前記第一のモデルを用いて計算された前記分析物濃度(単位:mg/dL)で、
a
1及びz
gr
1は、前記第一のモデルの所定の係数で
【数16】
は、前記第二のモデルを用いて計算された前記分析物濃度(単位:mg/dL)で、
a
2及びz
gr
2は、前記第二のモデルの所定の係数で、
【数17】
(単位:マイクロアンペア)で、
i
pcは、第三の時間間隔における第三の電流値の負のピークに近く(単位:マイクロアンペア)で、
i
pbは、前記第二の時間間隔における前記第二の電流値のピークに近く(単位:マイクロアンペア)、
i
ssは、前記第三の時間間隔における前記第三の電流値の定常状態で、
i
rは、前記第三の時間間隔の測定された前記第三の電流値の少なくとも一部の合計(単位:マイクロアンペア)で、
b、c、及びpは、所定の係数である、請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、一般に、分析物測定システムに関し、より具体的には、血糖などの試料中の分析物で、濃度測定を不適切に変化させる干渉因子、例えば、ヘマトクリット、尿酸又は他の干渉物質などの物理的な特性又は性質を含む分析物の濃度を決定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生理的流体、例えば血液又は血液由来製品中の分析物の検出は、今日の社会にとってますます重要となってきている。分析物検出アッセイは、臨床検査室での試験、家庭での試験などを含む様々な用途で利用されており、このような試験の結果は、様々な疾患状態における定期的な診断及び管理において重要な役割を果たしている。注目されている分析項目には、とりわけ、糖尿病管理のためのグルコースと、コレステロールとが含まれる。分析物検出の重要性の高まりに対応して、臨床用及び家庭用の両方に使用する様々な検査プロトコル及び装置が開発されてきた。
【0003】
液体試料の分析物検出のために採用される方法の1つは、電気化学的方法である。このような方法では、血液試料のような水性液体試料をバイオセンサ上に堆積し、2つの電極、例えば対向電極及び作用電極を含む電気化学セルの試料受容チャンバに充填する。分析物は、酸化還元試薬と反応させ、分析物濃度に応じた量の酸化性(又は還元性)物質を形成させる。次いで、酸化性(又は還元性)物質の存在量を電気化学的に推定し、沈殿した試料に存在する分析物の量と関連付ける。
【0004】
しかしながら、どのような分析物測定システムも、様々なモードの非効率及び/又は誤差の影響を受けやすい場合がある。例えば、生理学的流体中に存在する干渉物質は、不正確な分析物の測定につながる可能性がある。一つの特定の例として、血液中の尿酸の存在は、血糖測定に干渉し、誤った結果をもたらす可能性がある。場合によっては、これらの誤った結果は、被験体に誤った量の薬を投与するように誤って導き、潜在的に破滅的な結果をもたらす可能性がある。したがって、生理的流体試料中の干渉物質の存在下で行われる分析物濃度測定の精度を向上させる必要性が常に存在している。
【図面の簡単な説明】
【0005】
本発明の特徴を理解することができるように、詳細な説明は、特定の実施形態を参照することによって得ることができ、そのいくつかは添付の図面に示されている。しかしながら、図面は、特定の実施形態のみを例示しているに過ぎず、したがって、開示された主題の範囲は他の実施形態も包含しているので、その範囲を限定すると見なされるべきではないことに留意されたい。図面は、必ずしも一定の縮尺ではなく、選択された実施形態を示すものであり、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。図面において、同様の数字は、様々な図面の全体で同様のパーツを示すために使用されている。
【0006】
【
図1】本明細書に記載される態様による、試験測定器及びバイオセンサ(試験片)を含む分析物測定システムの透視図である。
【
図2】
図1の試験測定器に配置された回路基板の上面図であり、本明細書に記載される態様に従った様々な部品を示す。
【
図3A】
図1及び
図2の分析物測定システムで使用するのに適した組み立てられた試験片の透視図である。
【
図4】
図3A~
図3Fに示した試験片のような試験片の部分と電気的にインターフェースする試験測定器を示す簡略化された概略図である。
【
図5A】試験片に適用される試料の分析物を決定するために、所定時間間隔で試験片の作用電極及び対向電極に
図4の試験測定器によって印加される試験波形の一例を示す。
【
図5B】公称試験片について、
図5Aの波形に基づいて経時的に測定された電流を示す。
【
図5D】試験片中の分析物濃度を決定するための方法を表すフローチャートである。
【
図6A】電極間に電位を印加することによって刺激される2つの電極における酸化還元反応を示す。
【
図6B】試料が
図3A~
図3Fに描かれた試験片に適用されたことを決定することに基づいて、トリガを示す。
【
図6C】電流プロファイルが、例えば非コットレルプロファイルから、例えばコットレルプロファイルに遷移する転換点を含む、電位の印加後に測定された電流対時間のプロットを示す。
【
図6F】本明細書に記載される態様に従って、試料の分析物濃度を決定するための方法を表すフローチャートである。
【
図6G】本明細書に記載される態様に従って、試料の分析物濃度を決定するための方法を表すフローチャートである。
【
図6H】本明細書に記載される態様に従って、干渉物質の存在下での改善された分析物濃度測定の実験的検証を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下の詳細な説明は、図面を参照しながら読まれるべきものであり、異なる図面における同様の要素には同一の番号が付けられている。図面は、必ずしも一定の縮尺ではなく、選択された実施形態を示すものであり、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。詳細な説明は、本発明の原理を例として説明するもので、限定するためではない。この説明により、当業者による本発明の実施及び使用が明確に可能になり、本発明のいくつかの実施形態、適用例、変形例、代替例、及び使用が記述され、その中には、本発明を実施する最良の形態であると現時点において考えられるものも含まれる。
【0008】
本明細書で使用する場合、任意の数値又はその範囲についての「約」又は「およそ」という用語は、構成要素の一部又は集合が、本明細書で述べる意図された目的に沿って機能することを可能とする適切な寸法公差を示す。さらに、本明細書で使用される場合、用語「患者」、「宿主」、「ユーザ」、及び「被験体」は、任意のヒト又は動物の被験体を指し、システム又は方法をヒトで使用することに限定する意図はないが、ヒトの患者に対象技術を使用することは、好ましい実施形態を表すものである。
【0009】
本開示は、部分的には、使い捨て試験片などのバイオセンサを用いて、分析物濃度を決定するための技術に関する。偏りのある測定値(例えば、実際よりも高い)は、患者に正しくない高い量のインスリンを投与することにつながり、結果として、患者の健康に深刻な影響を与える可能性がある。ある種の干渉物質、例えば尿酸やアスコルビン酸が試料中に存在する場合、干渉物質が少ない試料と比較して酸化が進み、電流の応答が変化することが試験により示されている。血糖測定の精度を向上させる方法を見つける試みの中で、強化された測定技術及び/又は干渉物質によって影響を受ける物理的特性測定値の補正も含め、干渉物質をより正確に考慮する技術が、本明細書において提供される。その結果、試料中の分析物濃度を決定するための方法の様々な態様が本明細書に提示される。本技術の一例では、測定技術が試料に適用され、分析物濃度は、干渉物質の存在について補正することによって決定される。別の例では、推定された物理的特性が計算され、次いで、多くの異なる線形モデルのうちの1つが選択されるが、これは、物理的特性及び他のパラメータに基づいて、分析物濃度を計算するためである。
【0010】
一般に述べられ、少なくとも1つの実施形態によれば、流体試料の分析物濃度を決定するための方法が提供される。試料は、電極を有する電気化学セルを含むバイオセンサに適用される。所定電圧波形が、少なくとも第一及び第二の時間間隔の間に印加される。少なくとも第一及び第二の電流値は、それぞれ第一及び第二の時間間隔の間に測定される。転換点時間は、測定された第一の電流値が第一のプロファイルから第二のプロファイルに遷移する第一の時間間隔の間に決定される。試料の分析物濃度は、決定された転換点時間及び少なくとも1つの測定された電流値に基づいて計算される。
【0011】
一実施形態では、計算するステップは、決定された転換点時間と、測定された第一の電流値の少なくとも1つの電流値と、測定された第二の電流値の少なくとも1つの電流値とに基づいて行われる。別の実施形態では、計算するステップは、転換点時間における転換点電流値に基づく。
【0012】
一つの具体的な実施態様では、分析物濃度を計算するステップは、
【数1】
の形の方程式を使用することを含む。式中、
G
basicは、分析物濃度(単位:mg/dL)で、
a
i,jは、係数で、
x
0は、定数(例えば、1に等しい)で、
x
1は、転換点時間t
Turn(単位:秒)で、
x
2は、第二の時間間隔の測定された第二の電流値の少なくとも一部の合計i
r(単位:マイクロアンペア)で、
x
3は、第一の時間間隔の第一の電流値の1つ(単位:マイクロアンペア)で、
x
4は、t
Turnでの電流値i
Turn(単位:マイクロアンペア)で、
x
5は、第一の時間間隔における第一の電流値のうちの1つの逆数(単位:1/マイクロアンペア)で、
x
6は、第一の時間間隔における第一の電流値のうちの1つの逆数(単位:1/マイクロアンペア)で、
cは、所定の定数である。
【0013】
別の具体的な実施態様では、所定電圧波形が第三の時間間隔の間にさらに印加され、測定するステップは、第三の時間間隔の間に第三の電流値を測定することをさらに含み、計算するステップは、決定された転換点時間と、測定された第一、第二及び第三の電流値のうちの少なくとも1つの電流値に基づいて行われる。このような場合、分析物濃度を計算するステップは、
【数2】
の形の方程式を使用することを含んでもよい。式中、
G
basicは、分析物濃度(単位:mg/dL)で、
a
i,jは、所定の係数で、
x
0は、定数(例えば、1に等しい)で、
x
1は、転換点時間t
Turn(単位:秒)で、
x
2は、第三の時間間隔の測定された第三の電流値の少なくとも一部の合計i
r(単位:マイクロアンペア)で、
x
3は、第二の時間間隔の第二の電流値の一つ(単位:マイクロアンペア)で、
x
4は、第二の時間間隔における第二の電流値のピークに近い値i
pb(単位:マイクロアンペア)で、
x
5は、第一の時間間隔における第一の電流値のうちの1つの逆数(単位:1/マイクロアンペア)で、
x
6は、第二の時間間隔における第二の電流値のうちの1つの逆数(単位:1/マイクロアンペア)で、
cは、所定の定数である。
【0014】
図5Aに示す波形と、
図5Bに示す結果としての電流過渡を用いる更なる特定の実施態様において、分析物濃度を計算するステップは、
【数3】
の形の方程式を用いることを含む。式中、
G
basicは、分析物濃度(単位:mg/dL)で、
t
Turnは、転換点時間(単位:秒)で、
【数4】
(単位:マイクロアンペア)で、
i
pcは、第三の時間間隔における第三の電流値の負のピークに近い電流(単位:マイクロアンペア)で、
i
pbは、第二の時間間隔における第二の電流値のピークに近い電流(単位:マイクロアンペア)で、
i
ssは、第三の時間間隔における第三の電流値の定常状態で、
i
rは、第三の時間間隔の測定された第二の電流値の少なくとも一部の合計(単位:マイクロアンペア)で、
a、b、p及びz
grは、所定の係数である。
【0015】
一例において、本方法は、バイオセンサに試料を適用した後、電気化学セルの電極間にトリガ電流を駆動するステップと、トリガ電流を駆動するステップの間にトリガ電圧値を測定するステップと、測定したトリガ電圧がトリガ閾値電圧より低下すると、所定電圧波形をトリガするステップをさらに含む。
【0016】
別の例では、トリガ電流は、500~700nAの間であり、トリガ閾値電圧は、800~1,100mVの間である。
【0017】
所定電圧波形をトリガした後、電流値は、第一のプロファイルから第二のプロファイルに遷移する。第一のプロファイルは、コットレルプロファイルから逸脱し得、第二のプロファイルは、本質的にコットレルプロファイルに従う。別の態様では、干渉物質は、電気化学セルの電極のうちの裸電極で酸化を受ける。さらなる態様では、干渉物質は、尿酸又はアスコルビン酸を含んでいる。
【0018】
一実施例では、電気化学セルの電極は、裸電極と少なくとも部分的に試薬で覆われた電極とを備える。電気化学セルの電極は、共面的に配置することができ、あるいは電極は共平面的であることができる。第一及び第二の電流値の測定は、50~200Hzの間の周波数で行われる。
【0019】
別の態様では、試料は、電極を有する電気化学セルを含むバイオセンサに適用される。所定電圧波形が、少なくとも第一及び第二の時間間隔の間に印加される。少なくとも第一及び第二の電流値が、それぞれ第一及び第二の時間間隔の間に測定される。転換点時間は、測定された第一の電流値が第一のプロファイルから第二のプロファイルに遷移する第一の時間間隔の間に決定される。測定された電流値に基づいて、試料の物理的特性(例えば、ヘマトクリット)が推定される。濃度は、試料の推定された物理的特性が特定の範囲(例えば、第一、第二、第三の範囲など)にある場合、多数の特定のモデル(例えば、第一、第二、第三等のモデル)のうちの1つを使用して計算される。
【0020】
一実施形態では、第一のモデルは第一の係数を含み、第二のモデルは第二の係数を含み、この場合、第一の係数及び第二の係数は、線形最適化によって決定される。別の実施形態では、物理的特性を推定するステップは、転換点時間を使用することを含む。
【0021】
一つの具体例において、第一のモデルを用いて分析物濃度を計算するステップは、
【数5】
の形の方程式を用いることを含み、第二のモデルを用いて分析物濃度を計算するステップは、
【数6】
の形の方程式を用いることを含む。式中、
【数7】
は、第一のモデルを用いて計算された分析物濃度(単位:mg/dL)で、
【数8】
は、第一のモデルの所定の係数で、
【数9】
は、定数(例えば、1に等しい)で、
【数10】
は、測定された電流値に基づく第一のモデル予測値で、
c
1は、第一のモデルの所定の定数で、
【数11】
は、第二のモデルを用いて計算された分析物濃度(単位:mg/dL)で、
【数12】
は、第二のモデルの所定の係数で、
【数13】
は、測定された電流値に基づく第二のモデル予測値で、
c
2は、第二のモデルの所定の定数である。
【0022】
上記の実施形態は、単なる例示であることを意図している。他の実施形態も開示された主題の範囲内にあることは、以下の議論から容易に明らかであろう。
【0023】
次に、具体的な作業例を、
図1~
図6Hに関して説明する。
【0024】
図1は、携帯型試験測定器10及びバイオセンサを含む糖尿病管理システムを示し、バイオセンサは、血糖の検出用に構成された使い捨て試験片62の形態で提供されている。以下の議論の目的で、携帯型試験測定器10は、分析物測定管理ユニット、グルコース測定器、測定器、及び/又は測定器ユニットとして全体的に同義的に言及される。この図では示されていないが、少なくとも1つの実施形態では、携帯型試験測定器は、インスリン送達装置、追加分析物検査装置、及び薬物送達装置と組み合わされてもよい。携帯型試験測定器10は、ケーブルを介して、あるいは、例えばGSM(登録商標)、CDMA、Bluetooth(登録商標)、WiFiなどの適切な無線技術を介して遠隔コンピュータ又は遠隔サーバに接続されてもよい。このような分析物測定システムは、2014年4月29日に発行され、「Analyte measurement technique and system」と題する米国特許第8,709,232号と、2012年1月26日に公開された「System and Method for Measuring an Analyte in the Sample」と題する国際公開第2012/012341号に、より詳細に説明されており、そのそれぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0025】
図1を引き続き参照すると、携帯型試験測定器10は、対面する表面上に配置された複数のユーザインタフェースボタン(16、18、20)を有するハウジング11によって規定されている。ディスプレイ14は、バイオセンサ(試験片62)を受け入れるように構成された試験片ポート開口部22に加えて提供される。ユーザインタフェースボタン(16、18、20)は、データの入力、メニューのナビゲーション、及び様々なコマンドの実行を可能にするように構成されてもよい。携帯型試験測定器10のユーザインタフェースボタン16、18、20の構成及び機能は、一例を意図しており、修正及び変形が可能であることは容易に理解されるであろう。この特定の実施形態によれば、ユーザインタフェースボタン18は、二方向トグルスイッチの形態であってもよい。データには、分析物濃度を代表する値、及び/又は個人の日常生活に関連する情報を含んでもよい。日常生活に関する情報には、個人の食事量、服薬状況、健康診断の受診状況、健康状態、及び運動レベルを含んでもよい。
【0026】
図2に示され、簡略化された概略的な形式で示されているように、携帯型試験測定器10の電子部品は、
図1のハウジング11の内部に含まれる回路基板34の上面に配置されている。この実施形態では、これらの電子部品は、試験片ポートコネクタ23、オペアンプ回路35、マイクロコントローラ38、ディスプレイコネクタ14a、不揮発性メモリ40、クロック42、及び第一の無線モジュール46を含む。回路基板34の対向する下面において、電子部品は、電池コネクタ(図示せず)及びデータポート13を含んでもよい。様々な電子部品の相対的な位置は変化させることができ、本明細書で説明する構成は例示的なものであることが理解されるであろう。
【0027】
マイクロコントローラ38は、試験片ポート開口部23(
図1)と位置合わせされた試験片ポートコネクタ22、オペアンプ回路35、第一の無線モジュール46、ディスプレイ14、不揮発性メモリ40、クロック42、少なくとも1つの電池(図示せず)、データポート13、及びユーザインタフェースボタン(16、18、及び20)に電気的に接続されてもよい。
【0028】
オペアンプ回路35は、ポテンショスタット機能及び電流測定機能の一部を提供するように構成された2つ以上のオペアンプを含んでもよい。ポテンショスタット機能は、試験片の少なくとも2つの電極間の試験電圧の印加を指すことがある。電流機能は、印加された試験電圧から生じる試験電流の測定を指すことがある。電流測定は、電流電圧変換器を用いて実行されてもよい。マイクロコントローラ38は、例えば、Texas Instrument(TI)社製MSP430のような混合信号マイクロプロセッサ(MSP)の形態であってもよい。MSP430は、ポテンショスタット機能及び電流測定機能の一部も実行するように構成されてもよい。さらに、430は、揮発性メモリ及び不揮発性メモリを含んでもよい。別の実施形態では、電子部品の多くは、特定用途向け集積回路(ASIC)の形態でマイクロコントローラと一体化されてもよい。
【0029】
試験片ポートコネクタ22は、試験片62への電気的接続を形成するように構成されてもよい。ディスプレイコネクタ14aは、ディスプレイ14に取り付けるように構成されてもよい。この説明の目的で、ディスプレイ14は、測定されたグルコースレベルを報告するために、またインタフェースボタン16、18、20を使用してライフスタイル関連情報の入力を容易にするために、液晶ディスプレイの形態であってもよい。ディスプレイ14は、オプションとして、バックライトを含んでもよい。データポート13は、接続リードに取り付けられた適切なコネクタを受け入れることができ、それによって、試験測定器10をパーソナルコンピュータ(図示せず)などの外部装置にリンクさせることができる。この説明の目的で、データポート13は、例えば、シリアル、USB、又はパラレルポートなどのデータの伝送を可能にする任意のポートであってよい。データポート13は、携帯型試験測定器10のハウジング11を介してアクセスすることができる。クロック42は、ユーザが位置する地理的地域に関連する現在の時刻を保持し、また、時間を測定するために、構成されてもよく、これは、以下で詳述するとおりである。試験測定器は、例えば、少なくとも1つの含まれる電池(図示せず)のような電源に電気的に接続されるように構成されてもよい。
【0030】
図3A~
図3Gは、本明細書に記載される方法及びシステムと共に使用するのに適した試験片62の様々な図を示している。例示的な実施形態では、試験片62は、
図3Aに示すように、遠位端80から対向する近位端82まで延び、横方向の縁56、58を有する細長い本体によって規定されている。
図3Bに示すように、試験片62は、また、第一の電極層66、第二の電極層64、及び試験片62の遠位端80において2つの電極層64、66の間に挟まれたスペーサ60を含む。第一の電極層66は、第一の電極66、第一の接続トラック76、及び第一の接触パッド67を含んでもよく、第一の接続トラック76は、
図3B及び
図3Cに示すように、第一の電極66を第一の接触パッド67と電気的に接続させる。なお、第一の電極66は、
図3A及び
図3Bで示すように、試薬層72の直下にある第一の電極層66の部分である。同様に、第二の電極層64は、第二の電極64、第二の接続トラック78、及び第二の接触パッド63を含んでもよく、第二の接続トラック78は、
図3A~
図3Cに示すように、第二の電極64を第二の接触パッド63と電気的に接続させる。なお、第二の電極64は、
図3B及び
図3Cに最もよく示すように、試薬層72の上方に配置された第二の電極層64の部分である。
【0031】
図3B~
図3Eに示すように、試料受容チャンバ61(例えば、電気化学セル)は、第一の電極66、第二の電極64、及び試験片62の遠位端80に近接したスペーサ60によって規定される。第一の電極66及び第二の電極64は、
図3Gに示すように、試料受容チャンバ61の底部及び頂部をそれぞれ規定してもよい。スペーサ60のカットアウト領域68は、
図3Gに示すように、試料受容チャンバ61の側壁を規定してもよい。一態様において、試料受容チャンバ61は、
図3A~
図3Cに示すように、試料入口及び/又は通気口を提供するポート70を含んでもよい。例えば、ポート70の一方は、流体試料の浸入を可能にし、他方のポート70は、空気の排出を可能にすることができる。
【0032】
例示的な実施形態では、試料受容チャンバ61は、小さな容積を有していてもよい。例えば、チャンバ61は、約0.1マイクロリットル~約5マイクロリットル、約0.2マイクロリットル~約3マイクロリットル、又は、好ましくは約0.3マイクロリットル~約1マイクロリットルの範囲の容積を有してもよい。小さな試料体積を提供するために、カットアウト68は、約0.01cm2~約0.2cm2、約0.02cm2~約0.15cm2、又は、好ましくは、約0.03cm2~約0.08cm2の範囲の面積を有していてもよい。さらに、第一の電極66及び第二の電極64は、約1マイクロメートル~約500マイクロメートルの範囲、好ましくは約10マイクロメートル~約400マイクロメートルの範囲、より好ましくは約40マイクロメートル~約200マイクロメートルの範囲で間隔を空けて配置されてもよい。また、電極の間隔が比較的近いと、酸化還元サイクルの発生が可能になり得、ここで、第一の電極66で生成され酸化されたメディエータは、第二の電極64に拡散して還元され、その後、第一の電極66に拡散して再び酸化されることが可能である。当業者は、電極の様々なそのような体積、面積、及び/又は間隔が、本開示の精神及び範囲内であることを理解するであろう。
【0033】
一実施形態において、第一の電極66及び第二の電極64は、それぞれ電極層を含んでもよい。電極層は、金、パラジウム、炭素、銀、白金、酸化スズ、イリジウム、インジウム、又はそれらの組み合わせ(例えば、インジウムドープ酸化スズ)などの材料から形成される導電材料を含んでもよい。さらに、電極層は、スパッタリング、無電解メッキ、又はスクリーン印刷プロセスによって絶縁シート(図示せず)上に導電材料を配置することによって形成されてもよい。1つの例示的な実施形態において、第一の電極66及び第二の電極64は、それぞれ、スパッタリングされたパラジウム及びスパッタリングされた金から作られた電極層を含んでもよい。スペーサ60として採用され得る適切な材料は、例えば、プラスチック(例えば、PET、PETG、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン)、シリコン、セラミック、ガラス、接着剤、及びこれらの組み合わせなどの様々な絶縁材料を含む。
【0034】
一実施形態では、スペーサ60は、ポリエステルシートの対向する面にコーティングされた両面接着剤の形態であってよく、接着剤は、感圧又は熱活性化されてもよい。第一の電極層66、第二の電極層64、及び/又はスペーサ60のための様々な他の材料が、本開示の精神及び範囲内にあることを、出願人は注記する。
【0035】
第一の電極66又は第二の電極64のいずれかが、少なくとも1つの印加試験電圧の大きさ及び/又は極性に応じて、作用電極の機能を果たすことができる。作用電極は、還元されたメディエータ濃度に比例する限界試験電流を測定してもよい。例えば、電流を制限する種が還元されたメディエータ(例えば、フェロシアン化カリウム)である場合、試験電圧が第二の電極64に関して酸化還元メディエータ電位よりも十分に大きい限り、第一の電極66で酸化されてもよい。この状況では、第一の電極66が作用電極の機能を果たし、第二の電極64が対向/参照電極の機能を果たす。対向/参照電極を単に参照電極又は対向電極と呼んでもよいことを出願人は注記する。限界酸化は、還元されたメディエータの全てが作用電極の表面で枯渇したときに生じ、測定された酸化電流がバルク溶液から作用電極表面に向かって拡散する還元されたメディエータのフラックスに比例するようになる。本明細書で使用する「バルク溶液」という用語は、還元されたメディエータが枯渇領域内に位置しない、作用電極から十分に離れた溶液の部分を意味する。試験片62について特に断らない限り、試験測定器10によって印加される全ての電位は、以下、第二の電極64に対して記載されることに留意されたい。
【0036】
同様に、試験電圧が酸化還元メディエータ電位より十分に小さい場合、還元されたメディエータが、制限電流として第二の電極64で酸化されることもある。そのような状況では、第二の電極64は作用電極の機能を果たし、第一の電極66は対向/参照電極の機能を果たす。
【0037】
最初に、分析は、ポート70の1つを介して試料受容チャンバ61に流体試料の量を導入することを含んでもよい。一態様では、ポート70及び/又は試料受容チャンバ61は、毛細管現象によって流体試料が試料受容チャンバ61を充填するように構成されてもよい。第一の電極66及び/又は第二の電極64は、試料受容チャンバ61の毛細管現象を促進するために、親水性試薬でコーティングされてもよい。例えば、2-メルカプトエタンスルホン酸のような親水性部位を有するチオール誘導体化試薬を、第一の電極及び/又は第二の電極にコーティングしてもよい。
【0038】
上記試験片62の分析において、試薬層72は、PQQ補酵素に基づくグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)とフェリシアン化物を含むことができる。別の実施形態では、PQQ補酵素に基づく酵素GDHを、FAD補酵素に基づく酵素GDHに置き換えることができる。血液又はコントロール溶液が試料反応チャンバ61に投薬されると、グルコースはGDH(ox)により酸化され、そのプロセスで、以下の化学変化T.1に示すように、GDH(ox)をGDH(red)に変換させる。なお、GDH(ox)はGDHの酸化状態を意味し、GDH(red)はGDHの還元状態を意味する。
【0039】
T.1 D-グルコース+GDH(ox) → グルコン酸+GDH(red)
【0040】
次に、GDH(red)は、以下の化学変化T.2に示すように、フェリシアン化物(すなわち、酸化されたメディエータ又はFe(CN)6
3-、例えばフェリシアン化カリウム)によって、活性な酸化状態に再生される。GDH(ox)を再生するプロセスでは、T.2に示すような反応からフェロシアン化物(すなわち、還元されたメディエータ又はFe(CN)6
4-、例えば、フェロシアン化カリウム)が生成される。
【0041】
T.2 GDH(red)+2Fe(CN)6
3-→GDH(ox)+2Fe(CN)6
4-
【0042】
図4は、試験片62の第一の接触パッド67a、67b及び第二の接触パッド63と連動する試験測定器10を示す簡略化された概略図を提供する。第二の接触パッド63は、
図3Bに図示すように、U字型ノッチ65を介して試験測定器10との電気的接続を確立するために使用されてもよい。一実施形態において、試験測定器10は、
図4に概略的に示すように、第二の電極コネクタ101、第一の電極コネクタ(102a、102b)、試験電圧ユニット106、電流測定ユニット107、プロセッサ212、メモリユニット210、及び視覚ディスプレイ202を含んでもよい。第一の接触パッド67は、67a及び67bと付された2つのプロングを含んでもよい。一つの例示的な実施形態において、第一の電極コネクタ102a及び102bは、それぞれ別々にプロング67a及び67bに接続する。第二の電極コネクタ101は、第二の接触パッド63に接続してもよい。試験測定器10は、プロング67aと67bとの間の抵抗又は電気的導通を測定して、試験片62が試験測定器10に電気的に接続されているかどうかを決定してもよい。
【0043】
一実施形態では、試験測定器10は、第一の接触パッド67と第二の接触パッド63との間に試験電圧及び/又は電流を印加してもよい。試験測定器10は、試験片62が挿入されたことを認識すると、試験測定器10をオンにして、流体検出モードを開始させる。一実施形態では、流体検出モードは、試験測定器10に、第一の電極66と第二の電極64との間に約1マイクロアンペアの定電流を印加させる。試験片62は最初乾燥しているので、試験測定器10は比較的大きな電圧を測定する。投薬プロセス中に流体試料が第一の電極66と第二の電極64との間のギャップを埋めるとき、試験測定器10は、試験測定器10に自動的にグルコース試験を開始させる所定の閾値以下である測定電圧の減少を測定することになる。
【0044】
図5A~
図5Dを参照しながら、試験片62及び試験測定器10を使用して、分析物濃度を決定するための方法を、以下に説明する。概要として、まず、試験電圧の印加と電流値の測定について説明し、その後、分析物濃度測定について説明する。
【0045】
まず、試験片への電圧の印加に関して、実施例の試験測定器10及び実施例の試験片62を参照する。試験測定器10は電子回路を含んでもよく、電子回路は、試験片62に複数の電圧を印加し、試験片62の試験チャンバ内の電気化学反応から生じる電流過渡出力を測定するために使用できる。試験測定器10は、また、本明細書に開示されるような流体試料中の分析物濃度を決定する方法のための命令セットを有する信号プロセッサを含んでもよい。一実施形態では、分析物は、血糖である。
【0046】
試験電圧の印加の議論を続けると、
図5Aは、所定時間間隔で試験片62に印加される複数の試験電圧からなる例示的な波形を示している。この波形による複数の試験電圧は、第一の時間間隔t
1にわたって印加される第一の試験電圧E1、第二の時間間隔t
2にわたって印加される第二の試験電圧E2、及び第三の時間間隔t
3にわたって印加される第三の試験電圧E3を含む。第三の電圧E3は、第二の試験電圧E2に対して、起電力の大きさ、極性、又はその両方の組み合わせにおいて異なっていてもよい。好ましい実施形態及び図示のように、E3は、E2と同じ大きさであり得るが、極性は反対であり得る。グルコース試験時間間隔t
Gは、グルコース試験を行うための時間量(ただし、必ずしもグルコース試験に関連する全ての計算を行う必要はない)を表す。グルコース試験時間間隔tGは、約1.1秒~約5秒の範囲であってよい。さらに、
図5Aに示すように、第二の試験電圧E2は、一定(DC)試験電圧成分と、短い時間間隔に印加される重畳交番(AC)、又は交番振動試験電圧成分とを含んでもよい。より具体的には、重畳交番又は振動試験電圧成分は、第二の時間間隔の開始時にt
capによって示される時間間隔にわたって印加されてもよい。
【0047】
いずれかの時間間隔の間に測定される複数の試験電流値は、1マイクロ秒当たり約1回の測定から100ミリ秒当たり約1回の測定の範囲内の頻度で、好ましくは約10ミリ秒で実行されてもよい。連続して3つの試験電圧を使用する実施形態を説明しているが、グルコース試験は、異なる数の開回路及び試験電圧を含んでもよい。
【0048】
図5Cは、試料が
図3A~3Fに描かれた試験片62を充填したと決定することに基づいて、
図5Aの試験波形をトリガするのを描いている。例えば、試験サイクルの間、ユーザは血液試料を試験片に適用することができ、適用の初期段階の間に、試験片62が試料で充填され始めることになる。このとき、試料が電気化学セルに物理的に入るため、信号はかなりノイズが多くなることがある。試料の試験をいつ開始するかを最もよく決定するために、500~700nAのトリガ電流を電極間に印加し、
図5Cに描かれているように平均電圧値を測定することができる。電圧値が約3.0Vから所定値、例えば0.5Vに低下すると、
図5Aの試験波形がトリガされ、試験サイクルが開始されてもよい。有利なことに、平均電圧が所定の閾値を下回るのを待つことで、試験の前にノイズ信号が消散するための時間を確保することができる。
【0049】
図5Dは、
図5Aの波形及び
図5Bに示すように測定された電流に基づいて、試験片中の分析物濃度を決定するための方法500を表すフローチャートである。例示的なステップ510において、グルコースアッセイは、試験片62を試験測定器10に挿入し、試験片62上に試料を堆積させることによって開始される。例示的なステップ520において、試験測定器10は、第一の時間間隔t
1(例えば、
図5Aにおいて1秒)にわたって、第一の電極66と第二の電極64との間に第一の試験電圧E1(例えば、
図5Aにおいておよそ20mV)を印加してもよい。第一の時間間隔t
1は、約0.1秒~約3秒の範囲であってよく、好ましくは約0.2秒~約2秒の範囲であり、最も好ましくは約0.3秒~約1.1秒の範囲である。
【0050】
第一の時間間隔t
1は、試料受容チャンバ61が試料で完全に充填され、また試薬層72が少なくとも部分的に溶解又は溶媒和するように、十分に長くてもよい。一態様では、第一の試験電圧E1は、比較的少量の還元電流又は酸化電流が測定されるように、メディエータの酸化還元電位に比較的近い値であってよい。
図5Bは、第二の時間間隔t
2及び第三の時間間隔t
3と比較して、第一の時間間隔t
1の間に、比較的少量の電流が観察されることを示す。例えば、メディエータとしてフェリシアン化カリウム及び/又はフェロシアン化カリウムを使用する場合、
図5Aにおける第一の試験電圧E1は、約1mV~約100mVの範囲、好ましくは約5mV~約50mVの範囲、及び最も好ましくは約10mV~約30mVの範囲であってよい。好ましい実施形態では、印加電圧は正の値として与えられているが、負の領域における同じ電圧も、特許請求される本発明の意図する目的を達成するために利用され得る。この時間間隔の間、第一の電流出力は、ステップ530において、この時間間隔にわたって、電流値を収集するためにプロセッサによってサンプリングされ得る。
【0051】
例示的なステップ540において、第一の試験電圧E1を印加し(ステップ520)、出力をサンプリングした後(ステップ530)、試験測定器10は、第二の時間間隔t
2(例えば、
図5Aにおいて約3秒)にわたって、第一の電極66と第二の電極64の間に、第二の試験電圧E2(例えば、
図5Aにおいて約3ミリボルト)を印加する。第二の試験電圧E2は、第一の試験電圧E1とは異なる値であってよく、限界酸化電流が第二の電極64で測定されるように、メディエータ酸化還元電位に対して十分に負であってよい。例えば、メディエータとしてフェリシアン化カリウム及び/又はフェロシアン化カリウムを使用する場合、第二の試験電圧E2は、約0mV~約600mVの範囲、好ましくは約100mV~約600mVの範囲であり得、また、より好ましくは約300mVである。
【0052】
第二の時間間隔t2は、還元されたメディエータ(例えば、フェロシアン化カリウム)の生成速度を限界酸化電流の大きさに基づいて監視し得るように、十分に長いことが好ましい。還元されたメディエータは、試薬層72との酵素反応によって生成される。第二の時間間隔t2の間に、限界量の還元されたメディエータが第二の電極64で酸化され、限界量ではない酸化されたメディエータが第一の電極66で還元されて、第一の電極66と第二の電極64との間に濃度勾配が形成される。
【0053】
例示的な実施形態において、第二の時間間隔t
2は、また、十分な量のフェリシアン化カリウムが第二の電極64に拡散され得るように、あるいは第一の電極上の試薬から拡散され得るように、十分に長いことが好ましい。十分な量のフェリシアン化カリウムが第二の電極64で必要とされるが、それは、第三の試験電圧E3の間に、第一の電極66でフェリシアン化カリウムを酸化させるための制限電流が測定できるようにするためである。第二の時間間隔t
2は、約60秒未満で、好ましくは、約1.1秒~約10秒の範囲で、より好ましくは、約2秒~約5秒の範囲であってよい。同様に、
図5Aにおいてt
capとして示される時間間隔も、ある時間の範囲にわたって持続してよいが、1つの例示的な実施形態では、その持続時間は約20ミリ秒である。1つの例示的な実施形態では、重畳交番試験電圧成分は、第二の試験電圧E2の印加後、約0.3秒~約0.4秒後に印加され、約±50mVの振幅で約109Hzの周波数を有する正弦波を誘発する。この時間間隔の間、第二の電流出力は、ステップ550において、この時間間隔にわたる電流値を収集するためにプロセッサによってサンプリングされてもよい。
【0054】
図5Bは、第二の時間間隔t
2の開始後に電流i
pbが比較的小さく、その後、第二の時間間隔t
2の間に、酸化電流の絶対値が漸増していることを示す。小さな電流i
pbは、第一の電圧E1から第二の電圧E2に遷移後の内因性又は外因性還元剤の酸化により発生し、第二の時間間隔t
2の間に、酸化電流の絶対値の漸増をもたらす。
【0055】
例示的なステップ560において、第二の試験電圧E2を印加し(ステップ540)、出力をサンプリングした後(ステップ550)、試験測定器10は、第一の電極66と第二の電極64との間に第三の試験電圧E3(例えば、
図5Aでは約-300ミリボルト)を、第三の時間間隔t
3(例えば、
図5Aでは1秒)にわたって印加する。第三の試験電圧E3は、限界酸化電流が第一の電極66で測定されるように、メディエータ酸化還元電位の十分に正の値であってよい。例えば、メディエータとしてフェリシアン化カリウム及び/又はフェロシアン化カリウムを使用する場合、第三の試験電圧E3は、約0mV~約-600mVの範囲、好ましくは約-100mV~約-600mVの範囲であってもよく、より好ましくは約-300mVである。
【0056】
第三の試験電圧E3を印加した後、ステップ570において、第三の時間間隔t3に、電流値が測定される。第三の時間間隔t3は、酸化電流の大きさに基づいて、第一の電極66付近の還元されたメディエータ(例えば、フェロシアン化カリウム)の拡散を監視するために、十分に長くてよい。第三の時間間隔t3の間に、限界量の還元されたメディエータが第一の電極66で酸化され、限界量ではない酸化されたメディエータが第二の電極64で還元される。第三の時間間隔t3は、約0.1秒~約5秒の範囲で、好ましくは約0.3秒~約3秒の範囲で、より好ましくは約0.5秒~約2秒の範囲であってもよい。
【0057】
図5Bは、公称試験片について、第三の時間間隔t
3の開始時に電流i
pcが比較的大きく、その後、ほぼ定常状態の電流i
ss値まで減少していることを示す。一実施形態では、第二の試験電圧E2は第一の極性を有してもよく、第三の試験電圧E3は第一の極性とは反対の第二の極性を有してもよい。別の実施形態では、第二の試験電圧E2は、メディエータ酸化還元電位の十分に負であってもよく、第三の試験電圧E3は、メディエータ酸化還元電位の十分に正であってもよい。第三の試験電圧E3は、第二の試験電圧E2の直後に印加されてもよい。しかしながら、当業者であれば、第二及び第三の試験電圧の大きさ及び極性は、分析物濃度が決定される方法に応じて選択され得ることを理解するであろう。
【0058】
次に、本明細書に記載される実施形態について、
図5Dのステップ580に規定されるように、グルコース濃度決定について説明する。
図5A及び
図5Bは、試験片過渡期におけるイベントのシーケンスを示す。試験シーケンスの開始の約1.1秒後(及び第二の電圧E2の印加により第二の電極を作用電極とした直後)、試薬がまだ第一の電極に到達しておらず、電流は主に血漿中の干渉性還元剤に起因するときに(第二の電極64におけるメディエータの不在時に)、電流測定が行われる。約1.4秒~約4秒の間に、(少なくとも第二の電圧E2が印加されるこの時間間隔の後半において)還元されたメディエータが第二の電極に拡散したときに、第一のグルコース比例電流i
lが測定される。第三の電圧E3の印加により第一の電極を作用電極とした直後に、2つの単一点測定(本実施形態によれば約4.1秒及び約5秒において)及び1つの積算測定i
rが行われる。この具体的な実施形態に従って1.1秒、4.1秒及び5秒で、それぞれサンプリングされた測定値は、干渉する還元剤からの付加電流(i
2corr)に対してi
rを補正するために使用される。i
lとi
rの比は、ヘマトクリットの干渉効果についてi
2corrを補正するために使用される。
【0059】
一実施形態では、次いで、以下の式
【数14】
が、グルコース濃度を決定するために使用される。式中、
G
basicは、分析物濃度(単位:mg/dL)で、
i
rは、第三の時間間隔の間の第三の電流値の合計で、
i
lは、第二の時間間隔の間の第二の電流値の合計で、
【数15】
で、
a、b、p及びz
grは、所定の係数である。
【0060】
【0061】
別の例では、異なる試験片ケミストリーを使用してもよく、その場合、電流の評価に現れる時間は、上記の一般的な関係に従って変更される。印加波形及び試験片の分析物濃度の決定に関連する追加の詳細は、参照により本明細書に以前に組み込まれた米国特許第8,709,232号及び国際公開番号第2012/012341号に提供されている。
【0062】
図6A~
図6Hは、本明細書に記載される技術の作業例を提供する。
【0063】
最初に
図6Aから始めると、測定問題の基礎となる機構が特定される。
図6Aでは、電気化学的試験片、例えば、
図1の自己監視式血糖試験片62について酸化還元反応が描かれている。例示の試験片は、2つの電極、第一の電極E1及び第二の電極E2を有する。しかしながら、同様の結果は3つ以上の電極でも得られ、電極は、共面であっても、共平面であっても、あるいは他の離間した構成を有していてもよい。第一の電極E1は、酸化還元メディエータ(M)及び他の材料(例えば酵素)を含む試薬層で覆われており、一方、第二の電極E2は、試薬層で覆われていない表面を有している。第一の電極E1及び第二の電極E2は、それぞれポテンショスタット(図示せず)に電気的に接続されている。使用時には、第一の電極E1と第二の電極E2とがそれぞれ全血試料に接触し、両電極間に電位(電圧)が印加される。これにより、両電極で酸化還元反応が起こる。第一の電極E1と第二の電極E2との間で、その結果生じる電流が時間の関数として測定される。
【0064】
試験片を用いた試験を行うには、電位を第一の電極E1と第二の電極E2との間に印加し、その結果生じる電流を測定する。電位の大きさと極性は、第一の電極E1でメディエータの還元を、第二の電極E2で酸化還元活性物質の酸化を開始させるように選択される。
【0065】
血液試料を試験片試料チャンバに適用すると、血液試料の物理的特性(例えば、ヘマトクリット)及び酸化還元活性物質に依存する物理的及び化学的プロセス/変化がトリガされる。物理的プロセスには、試薬層の水和、メディエータの溶解、及び二重層帯電(血液中の荷電種の再配列により電極表面近傍の電荷不均衡を中和するプロセス)を含む。化学的プロセスとしては、
図1に示すように、第二の電極E2での酸化還元活性物質の酸化と、第一の電極E1での酸化されたメディエータM
oxの還元とを含む。
【0066】
上述した物理的及び化学的プロセスの結果として、記録された電流は、
図6Cに示すように、既知のコットレル電流減衰プロファイルから逸脱する独自パターンを有する過渡を有する。しかしながら、
図5Cに関して説明した試料充填のためのトリガは、この独自パターンを見るには遅すぎる。
【0067】
したがって、
図6Bは、試料が
図3A~
図3Fに描かれた試験片に適用されたことを決定することに基づいて、より早いトリガを描いている。この例では、ユーザは血液試料を試験片に適用することができ、適用の初期段階の間、試験片は、
図5Cに関して上述したように試料で充填され始め、500~700nAのトリガ電流が電極間に印加されて、電圧値が測定されることがある。
図5Cとは対照的に、電圧値が約3.0Vから、より高い所定値、例えば1.0Vに低下すると、
図5Aの試験波形がトリガされ、試験サイクルが開始され得る。有利なことに、この早めのトリガにより、
図6Cに描かれた転換点/観察を含め、早めの電気化学的挙動の一部の監視が可能となる。
【0068】
図6Cは、電位印加後に測定された電流対時間のプロットを示す。
図6Dは、図に描かれた試験片の電流値の測定値を示し、電流プロファイルが、例えば非コットレルプロファイルから、例えばコットレルプロファイルに遷移する転換点も含まれている。
図6Dは、
図5Aの試験波形に基づいて、
図3A~
図3Fに描かれた試験片の測定された電流値を示す。
図6Eは、別の波形に基づいて、
図3A~
図3Fに描かれた試験片の測定された電流値を示す。この例では、別の波形も、上述したような転換点を示している。
【0069】
図6C~
図6Eの各電流プロットには、転換点が記されており、電流パラメータi
Turn及び時間パラメータt
Turnを有している。転換点は、低レベルの振動を伴う第一の過渡部分が終了し、滑らかな電流減衰を伴う第二の過渡部分が開始する点である。第一の過渡部分はコットレル電流減衰プロファイルから逸脱しているが、第二の過渡部分は実質的にコットレル電流減衰プロファイルに従う。第二の過渡部分は、電流が定常状態に達するか、試薬層からの拡散によって酸化還元メディエータが第二の電極E2に到達すると、すぐに終了する。転換点は、様々な数学的アプローチ/技術を使用して開発され得るプロセス/アルゴリズムにより特定され得る。
【0070】
理論によって制限されることを望むことなく、コットレル電流減衰からの電流過渡の逸脱、特に第一の過渡部分は、第一の電極E1の活性表面積及び/又は第一の電極E1での還元に対するメディエータの利用可能性を変えるこの段階で主要な役割を果たす物理的プロセスから生じるようである。これらの物理的プロセスは、血液試料の拡散に依存しているようである。基礎となる物理的メカニズムに関係なく、過渡電流が第一の過渡部分から第二の過渡部分へ遷移する時間は、拡散の関数である。
【0071】
また、理論によって制限されることを望むことなく、試験片を用いた試験の初期段階では、還元されたメディエータは試料チャンバを横切って拡散せず、第二の電極E2の表面に到達するようである。したがって、酸化電流は、主に酸化還元活性物質の酸化によって発生するように見える。同時に、酸化還元活性物質の酸化は、流体試料中の酸化還元活性物質の物質移動に依存している。基礎となる物理的メカニズムに関係なく、iTurnは、酸化還元活性物質とその拡散の両方の関数である。
【0072】
tTurnの関数とiTurnの関数は、指定された拡散特性と酸化還元活性物質を有する流体試料を試験することによって得られた実験室データから導き出すことができる。これにより、例えば、拡散係数、ヘマトクリット(拡散に影響を与える)、凝固又は粘度のような拡散に関連する特徴を決定することができる。任意の酸化還元活性物質の寄与を測定できるようにするには、目的の酸化還元活性物質を、転換時間tTurnの関数として、さらに転換電流iTurnの関数として校正する必要がある。あるいは、目的の酸化還元活性物質を、転換時間tTurnと転換電流iTurnに依存する数学的関数で表現することもできる。いずれの場合も、酸化還元活性物質、転換時間tTurn、転換電流iTurnの関係が分かれば、後の測定で、酸化還元活性物質の測定値又は推定値、あるいは酸化還元活性物質による測定電流への寄与を得るために使用することができる。
【0073】
酸化還元活性物質の測定値は、試料中の物質濃度の測定値であってもよい。酸化還元活性物質によってなされた寄与の測定値は、電流への寄与の測定値であってもよい。これは、後続のステップ又はプロセスにおいて、電流測定に基づく任意の計算で、そのような計算が酸化還元活性物質の影響を除外する必要があるときに、修正するために使用することができる。例えば、尿酸は電気化学的なグルコース測定を妨害するが、本発明により、尿酸の影響を特定し、グルコースレベルの計算から除外することができる。
【0074】
図6Fは、分析物濃度を決定するための方法600を表すフローチャートである。
図6Fの実施形態では、ブロック610における方法600は、試料をバイオセンサに適用する。バイオセンサは、
図1の試験片62のような電極を有する電気化学セルであってもよい。一例において、電気化学セルの電極は、裸電極と、少なくとも部分的に試薬で覆われた電極とからなる。別の例において、電気化学セルの電極は、共面又は共平面のうちのいずれかである。一例において、この方法は、バイオセンサに試料を適用した後、電気化学セルの電極間でトリガ電流を駆動するステップと、トリガ電流を駆動するステップの間にトリガ電圧値を測定するステップと、測定されたトリガ電圧が所定のトリガ閾値電圧より低下すると、電圧波形をトリガするステップとをさらに含む。別の例において、トリガ電流は500~700nAであり、トリガ閾値電圧は800~1,100mVである。
【0075】
次に、ブロック620における方法600は、少なくとも第一の時間間隔及び第二の時間間隔の間、電圧波形を印加する。例えば、ブロック620において、
図5A、
図6D又は
図6Eの波形のいずれかを
図1の試験片62に印加してもよい。さらに、任意の波形が印加されてもよく、AC及び/又はDC成分を含んでもよい。さらなる例では、第一の所定電圧は、印加された試料からの干渉物質の酸化を促進するように選択される。
【0076】
続けて、ブロック630における方法600は、少なくとも第一の時間間隔の間に第一の電流値を測定し、第二の時間間隔の間に第二の電流値を測定する。また、波形は、第三、第四、第五などの時間間隔にわたって継続し、対応する第三、第四、第五などの電流値を測定する。さらなる例では、第一及び第二の電流値を測定するステップは、50~200Hzの間の周波数である。
【0077】
次いで、ブロック640における方法600は、測定された第一の電流値が、例えば試料中の干渉物質の存在により第一のプロファイルから第二のプロファイルに遷移する第一の時間間隔中の転換点時間を決定する。上記で説明したように、転換点は、試験片62を試料で充填する初期段階中に発生する。電流値は、転換点電流を決定するために、転換点時間に測定することができる。一実施形態では、第一のプロファイルはコットレルプロファイルから逸脱し、第二のプロファイルはコットレルプロファイルに本質的に従う。別の実施形態では、干渉物質は、電気化学セルの電極のうち裸電極で酸化を受ける。さらなる実施形態では、干渉物質は、尿酸又はアスコルビン酸からなる。
【0078】
ブロック640での転換点時間を決定するステップの後、ブロック650で方法600は、決定された転換点時間と、測定された第一及び第二の電流値のうちの少なくとも1つの電流値とに基づいて、試料の分析物濃度を計算する。
【0079】
例えば、計算するステップは、決定された転換点時間と、測定された第一の電流値の少なくとも1つの電流値と、測定された第二の電流値の少なくとも1つの電流値とに基づいてもよい。別の実施形態では、計算するステップは、転換点時間における転換点電流値に基づいている。
【0080】
一つの具体的な実施態様において、分析物濃度を計算するステップは、
【数17】
の形の方程式を用いることを含み、式中、
G
basicは、分析物濃度(単位:mg/dL)で、
a
i,jは、係数で、
x
0は、定数で、
x
1は、転換点時間t
Turn(単位:秒)で、
x
2は、第二の時間間隔の測定された第二の電流値の少なくとも一部の合計i
r(単位:マイクロアンペア)で、
x
3は、第一の時間間隔の第一の電流値の一つ(単位:マイクロアンペア)で、
x
4は、t
Turnでの電流値i
Turn(単位:マイクロアンペア)で、
x
5は、第一の時間間隔における第一の電流値のうちの1つの逆数(単位:1/マイクロアンペア)で、
x
6は、第一の時間間隔における第一の電流値のうちの1つの逆数(単位:1/マイクロアンペア)で、
cは、所定の定数である。
【0081】
【数18】
の形の一次方程式を使用する場合の具体例を、以下の表1に示す。
表1:一次方程式で使用されるパラメータ
【表1】
【0082】
さらなる具体的な実施態様において、分析物濃度を計算するステップは、
【数19】
の形の方程式を使用することからなり、式中、
G
basicは、分析物濃度(単位:mg/dL)で、
t
Turnは、転換点時間(単位:秒)で、
【数20】
(単位:マイクロアンペア)で、
i
pcは、第三の時間間隔における第三の電流値の負のピークに近い電流(単位:マイクロアンペア)で、
i
pbは、第二の時間間隔における第二の電流値のピークに近い電流(単位:マイクロアンペア)で、
i
ssは、第三の時間間隔における第三の電流値の定常状態で、
i
rは、第三の時間間隔の測定された第三の電流値の少なくとも一部の合計(単位:マイクロアンペア)で、
a、b、p及びz
grは、所定の係数である。
【0083】
図6Gは、分析物濃度を決定するための方法601を表すフローチャートである。
図6Gの実施形態では、ブロック610における方法601は、試料をバイオセンサに適用する。バイオセンサは、
図1の試験片62のような電極を有する電気化学セルを含んでもよい。
【0084】
次に、ブロック620における方法601は、少なくとも第1の時間間隔及び第二の時間間隔の間、電圧波形を印加する。例えば、ブロック620において、
図5A、
図6D又は
図6Eの波形のいずれかが、
図1の試験片62に印加されてもよい。
【0085】
続いて、ブロック630における方法601は、第一の時間間隔の間に第一の電流値を測定し、第二の時間間隔の間に第二の電流値を少なくとも測定する。
【0086】
次いで、ブロック640における方法601は、測定された第一の電流値が、例えば試料中の干渉物質の存在により第一のプロファイルから第二のプロファイルに遷移する第一の時間間隔中の転換点時間を決定する。
【0087】
ブロック640での転換点時間を決定するステップの後、ブロック660における方法601は、例えば、転換点時間、測定された第一の電流値及び測定された第二の電流値の1つ以上に基づいて、試料の物理的特性を推定する。
【0088】
一つの場合において、試料の推定された物理的特性が第一の範囲にある場合、ブロック670における方法601は、第一のモデル、測定された第一の電流値及び測定された第二の電流値を用いて、試料の分析物濃度を計算する。試料の推定された物理的特性が第二の範囲にある場合、ブロック670における方法601は、決定された転換点時間、測定された第一の電流値及び測定された第二の電流値に基づく第二のモデルを用いて、試料の分析物濃度を計算する。
【0089】
一つの具体例において、第一のモデルを用いて分析物濃度を計算するステップは、
【数21】
の形の方程式を用いることを含み、第二のモデルを用いて分析物濃度を計算するステップは、
【数22】
の形の方程式を用いることを含み、式中、
【数23】
は、第一のモデルを用いて計算された分析物濃度(単位:mg/dL)で、
【数24】
は、第一のモデルの所定の係数で、
【数25】
は、定数(例えば、1に等しい)で、
【数26】
は、測定された電流値に基づく第一のモデル予測値で、
c
1は、第一のモデルの所定の定数で、
【数27】
は、第二のモデルを用いて計算された分析物濃度(単位:mg/dL)で、
【数28】
は、第二のモデルの所定の係数で、
【数29】
は、測定された電流値に基づく第二のモデル予測値で、
c
2は、第二のモデルの所定の定数である。
【0090】
一実施形態において、第一のモデルは第一の係数を含み、第二のモデルは第二の係数を含み、第一の係数及び第二の係数は、線形最適化によって決定される。方法別の実施形態では、物理的特性を推定するステップは、転換点時間を使用することを含む。
【0091】
以下に示すのは、
図6D又は
図6Eの2つの波形のいずれかを使用して、1つの特定の物理的特性、すなわちヘマトクリットレベルを推定する作業例である。
【0092】
第一のステップは、線形モデルがヘマトクリットHを推定するために使用されることである。このモデルは、以下の式:
【数30】
を使用し、式中、線形モデル推定量及び係数は、表1から選択された波形に応じて、以下の表2~6によって与えられる。
表2:ヘマトクリットに対する線形モデル推定量
【表2】
表3:
図6Dの波形に対する係数
【表3】
表4:
図6Eの波形に対する係数
【表4】
【0093】
次いで、上記の式を用いて推定ヘマトクリットHを求めた後、線形モデルのグルコース計算では、選択された波形に応じて、Hがどの範囲に入るかに依存して選択された以下の係数が使用される。
表5:
図6Dの波形に対する係数
【表5】
表6:
図6Eの波形に対する係数
【表6】
【0094】
図6Hは、
図6Dの波形を用いた表1の線形モデルを用いて、干渉物質の存在下での改善された分析物濃度測定の実験的検証を示す。
図6Hにおいて、左側から最初の3つの箱ひげ図は、尿酸の量がスパイキングレベル0、2及び4であるときの試料血液の目標グルコース濃度70mg/dLをそれぞれ示している。次の3つの箱ひげ図は、以下の表7に定義されるように、尿酸の量がそれぞれスパイキングレベル0、2、4のときの試料血液の目標グルコース濃度300mg/dLを示している。個々の箱ひげ図は、表7に規定されるように、アスコルビン酸のスパイキングレベル0、2及び4におけるすべての結果からなる。
表7:
図6Hに示すスパイキングレベルの定義
【表7】
【0095】
図6Hに示すように、表4及び表7の線形モデルを用いて、上記のように、本技術は、補正された分析物濃度測定を提供する。
【0096】
本発明を特定の変形例及び例示的な図面に関して説明してきたが、当業者は、本発明が説明された変形例又は図面に限定されないことを認識するであろう。加えて、上述の方法及びステップが特定のイベントが特定の順序で生じることを示す場合には、当業者は、特定のステップの順序が変更され得ることも、そのような変更が本発明の変形例によるものであることも認識するであろう。さらに、ステップの特定のものは、上述のような順序で行われるだけでなく、可能な場合には並行したプロセスで同時に行われ得る。したがって、本開示の精神の範囲内にあるか、あるいは特許請求の範囲に見出される本発明と等価である本発明の変形例が存在する限り、本特許は、それらの変形例も網羅することが意図される。
【0097】
特許請求の範囲が複数の要素に関して「の少なくとも1つ」という語句を引用する範囲において、これは列挙された要素のうちの少なくとも1つ以上を意味することを意図し、各要素のうちの少なくとも1つに限定されない。例えば、「要素A、要素B、及び要素Cのうちの少なくとも1つ」は、要素Aのみ、もしくは要素Bのみ、もしくは要素Cのみ、又はそれらの任意の組み合わせを指すことを意図する。「要素A、要素B、及び要素Cのうちの少なくとも1つ」は、要素Aの少なくとも1つ、要素Bの少なくとも1つ、及び要素Cの少なくとも1つに限定することを意図しない。
【0098】
本明細書は、実施例を用いて、最良の形態を含めて本発明を開示し、また任意の当業者が任意の装置又はシステムの作製及び使用も、任意の取り入れられた方法の実行も含めて本発明を実施できるようにするものである。本発明の特許可能な範囲は、特許請求の範囲によって定められ、当業者が想起する他の例を含み得る。そのような他の例は、特許請求の範囲の文言と異ならない構造要素を有する場合、又は特許請求の範囲の文言と実質に異ならない等価な構造要素を含む場合には、本特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0099】
本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することを目的としたものにすぎず、限定することを意図したものではない。本明細書で使用される場合、単数形「1つの(a、an)」及び「その(the)」は、文脈により別段の明示がない限り、複数形も含むことを意図する。「備える(comprise)」(並びに「comprises」及び「comprising」のような備える(comprise)の任意の語形)、「有する(have)」(並びに「has」及び「having」のような有する(have)の任意の語形)、「含む(include)」(並びに「includes」及び「including」のような含む(include)の任意の語形)、及び「含有する(contain)」(並びに「contains」及び「containing」のような含有する(contain)の任意の語形という用語は、オープンエンドの接続動詞であるものとさらに理解される。その結果、1つ以上のステップ又は要素を「備える」、「有する」、「含む」又は「含有する」方法又は装置は、それらの1つ以上のステップ又は要素を保持するが、それらの1つ以上のステップ又は要素を保持することに限定されない。同様に、1つ以上の特徴を「備える」、「有する」、「含む」又は「含有する」方法のステップ又は装置の要素は、それらの1つ以上の特徴を保持するが、それらの1つ以上の特徴を保持することに限定されない。さらに、特定の方法で構成される装置又は構造は、少なくともその方法で構成されるが、列挙されていない方法で構成されてもよい。
【0100】
以下の特許請求の範囲の全てのミーンズプラスファンクション又はステッププラスファンクションの要素の対応する構造体、材料、行為、及び等価物は、存在する場合には、具体的に特許請求された他の特許請求要素との組み合わせにおいて機能を行うための任意の構造、材料、又は行為を含むことを意図する。本明細書に記載された説明は、例示及び説明の目的で提示されているが、網羅的であることも、あるいは開示された形態に限定されることも意図していない。当業者には、本開示の範囲及び精神から逸脱することなく、多くの修正例及び変形例が明らかであろう。実施形態を選択して、説明したが、それは、本明細書に記載の1つ以上の態様の原理及び実際の応用例を最も良く説明し、他の当業者が企図された特定の使用に適した様々な修正を伴う様々な実施形態について本明細書に記載された1つ以上の態様を理解できるようにするためである。
【国際調査報告】