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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-05
(54)【発明の名称】ライザ反応器システム
(51)【国際特許分類】
   C10G 11/18 20060101AFI20220928BHJP
   B01J 8/24 20060101ALI20220928BHJP
【FI】
C10G11/18
B01J8/24 301
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506099
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(85)【翻訳文提出日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 EP2020071116
(87)【国際公開番号】W WO2021018828
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】62/880,345
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【弁理士】
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】ツイ,ヂゥー
(72)【発明者】
【氏名】ルドルフ,ロバート・アレクサンダー
【テーマコード(参考)】
4G070
4H129
【Fターム(参考)】
4G070AA01
4G070AB06
4G070BB32
4G070BB37
4G070CA06
4G070CA07
4G070CA13
4G070CB17
4G070CC02
4G070CC07
4G070DA21
4H129AA02
4H129CA08
4H129CA09
4H129DA04
4H129GA05
4H129KA02
4H129KB02
4H129NA45
(57)【要約】
ライザ反応器において炭化水素供給物を流体触媒クラッキング(FCC)するための反応器およびプロセスであって、プロセスは、炭化水素供給物をライザ反応器の蒸発ゾーンに注入することと、第1の触媒を蒸発ゾーンに注入することであって、第1の触媒を炭化水素供給物と混合して、蒸発ゾーンに炭化水素の流れを発生させ、蒸発ゾーンの温度が、625℃未満である、注入することと、炭化水素の流れを蒸発ゾーンからライザ反応器のクラッキングゾーンへと通過させて、クラッキングゾーンにクラッキング生成物を発生させることと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライザ反応器において炭化水素供給物を流体触媒クラッキング(FCC)するためのプロセスであって、
前記炭化水素供給物を前記ライザ反応器の蒸発ゾーンに注入することと、
第1の触媒を前記蒸発ゾーンに注入することであって、前記第1の触媒を前記炭化水素供給物と混合して、前記蒸発ゾーンに炭化水素の流れを発生させ、前記蒸発ゾーンの温度が、625℃未満である、注入することと、
前記炭化水素の流れを前記蒸発ゾーンから前記ライザ反応器のクラッキングゾーンへと通過させて、前記クラッキングゾーンにクラッキング生成物を発生させることと、を含む、プロセス。
【請求項2】
前記蒸発ゾーンに注入される第1の触媒の量を調節して、前記蒸発ゾーンにおける前記炭化水素の流れのクラッキングを最小化することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記炭化水素供給物の気化および前記炭化水素供給物と前記第1の触媒との混合が、前記ライザ反応器の直径全体にわたって、かつ前記蒸発ゾーン内で起こる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記クラッキングゾーンに位置する壁領域に第2の触媒を注入して、前記炭化水素の流れをさらにクラッキングすることをさらに含み、前記第2の触媒の前記注入が、前記壁領域における触媒逆混合を最小化し、前記クラッキングゾーンにおける前記クラッキング生成物の半径方向速度分布を変化させる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ライザ反応器に注入される第1の触媒と第2の触媒との比率を調節して、前記蒸発ゾーンにおける前記炭化水素の流れのクラッキングを最小化し、かつ前記クラッキングゾーンにおける前記炭化水素の流れのクラッキングを最大化する、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
炭化水素供給物を流体触媒クラッキング(FCC)するためのライザ反応器であって、
第1の触媒を受け入れる第1の触媒分配器、および前記炭化水素供給物を受け入れる供給物分配器を備える蒸発ゾーンであって、前記第1の触媒を前記炭化水素供給物と混合して、前記蒸発ゾーンに炭化水素の流れの混合物を発生させ、前記蒸発ゾーンの温度が、625℃未満である、蒸発ゾーンと、
前記炭化水素の流れの混合物を受け入れるクラッキングゾーンであって、前記炭化水素の流れをクラッキングして、前記クラッキングゾーンにクラッキング生成物を生成する、クラッキングゾーンと、
前記クラッキングゾーンから前記クラッキング生成物を受け入れる分離ゾーンと、を備え、使用済み触媒が、前記分離ゾーンにおいて前記クラッキング生成物から分離され、除去される、ライザ反応器。
【請求項7】
前記蒸発ゾーンから、そして前記クラッキングゾーンへと通過する前記炭化水素の流れが、部分的にクラッキングされる、請求項1または6に記載の発明。
【請求項8】
前記クラッキングゾーンが、第2の触媒を受け入れる、前記クラッキングゾーンの壁領域に位置する第2の触媒分配器を備え、最小の触媒逆混合が、前記ライザ反応器の前記壁領域で起こり、前記クラッキング生成物の半径方向速度分布の変化が、前記クラッキングゾーンで起こる、請求項6に記載のライザ反応器。
【請求項9】
前記炭化水素の流れの最小のクラッキングが、前記蒸発ゾーンで起こり、前記炭化水素の流れの最大のクラッキングが、前記クラッキングゾーンで起こる、請求項6に記載のライザ反応器。
【請求項10】
前記ライザ反応器内の第1の触媒と第2の触媒との比率が、約1:9~9:1である、請求項5または6に記載の発明。
【請求項11】
前記ライザ反応器内の全触媒と炭化水素供給物との比率が、約1:1~30:1である、請求項4または10に記載の発明。
【請求項12】
前記蒸発ゾーンが、前記ライザ反応器の直径全体にわたって延在する、請求項6に記載のライザ反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素供給物を流動触媒クラッキング(FCC)するための装置および方法に関する。より具体的には、本発明は、供給物の気化および供給物と触媒(すなわち、炭化水素)との混合を、FCCライザ反応器においてそのように指定されたゾーンに含有させるため、ならびに供給物の気化中に熱クラッキングおよび乾燥ガスの生成を減少させ、供給物/触媒の混合を改善する努力の中で、複数の注入点において供給物/触媒をFCCライザ反応器に注入するための、装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動触媒クラッキング(FCC)のプロセスは、最新の石油精製所でよく行われる重要な変換プロセスである。FCCプロセスは、触媒を使用して、原油に由来する高沸点炭化水素留分を、ガソリン構成成分(ナフサ)、燃料油、およびオレフィンガス(すなわち、エテン、プロペン、ブテン)などのより価値のあるFCC最終生成物に変換する化学プロセスである。典型的なFCCユニットは、FCC反応器(すなわち、ライザ反応器)、再生器、および分離器を含む各々のうちの少なくとも1つを含む。ライザ反応器および再生器は、FCCユニットの主要構成要素と考慮される。例えば、炭化水素供給物およびコークス堆積物の吸熱クラッキング反応の大部分はライザ反応器内で行われるが、再生器は、蓄積されたコークス堆積物を燃焼させることによって触媒を再活性化するために利用される。
【0003】
FCC操作中に、加熱された触媒は、再生器から流れ、そして加熱された炭化水素供給物と接触する、ライザ反応器の底部セクションへと流れる。接触すると、触媒は、気化し、供給物の長鎖分子を新しいより短い分子にクラッキングまたは破壊し、それによって、供給物と触媒との混合物が形成される。気化した供給物は、固体触媒を流動化させ、それにより、供給物と触媒との混合物は膨張し、ライザ反応器内を上向きに流れて、さらにクラッキングされ、それによって、1つ以上の望ましいクラッキング生成物をもたらす。さらに、反応中にコークスの形成が触媒上に堆積し始め、それに伴って、触媒を徐々に不活性化させる。
【0004】
望ましいクラッキング生成物がライザ反応器の頂部から引き出されて、分離器の底部セクションへと流れ、不活性化された触媒がライザ反応器の底部から引き出されて、再生器へと流れる。主要分留器とも称される分離器へと流れるクラッキング生成物は、より価値のあるFCC最終生成物に蒸留される。再生器を出る再生された、すなわち、再活性化された触媒は、ライザ反応器の底部セクションに再循環され、このサイクルが繰り返される。多くの場合、再生された触媒とともに新しい触媒を加えて、クラッキングプロセスを最適化することができる。
【0005】
FCCプロセスは75年以上にわたって商業的に確立されてきたが、技術の進歩は、新しい課題にこたえ、かつ全体的な継続的な改善を提供するために継続的に進化している。例えば、市場の競合他社は、供給物および/または触媒の分配ならびに供給物/触媒の混合を改善する努力の中での供給物注入ノズルの設計変更、クラッキング反応の生成物の収率および選択性を増加させるための複数の触媒注入点の作成、ならびに非選択的な熱クラッキングおよび乾燥ガス生成を排除するか、または減少させるための反応システムの再設計など、FCCライザ反応器に関連する様々なプロセス、技術、および機器を導入している。これらの開発のうちのいくつかを以下で考察する。
【0006】
米国特許第4,795,547号および米国特許第5,562,818号は、微粒化された供給物を運ぶ供給パイプの出口にある異なるダイバータコーン設計を有する2つの底部入口ノズルについて説明している。これらのダイバータコーンの機能は、再生された触媒と供給物との混合を強化する努力の中で、軸方向に流れる供給物の流れを出口で半径方向に吐出する供給物に向け直すためのものである。
【0007】
米国特許第5,565,090号は、接触改質プロセス中にナフサ供給原料から芳香族の収率を得るための複数の触媒注入点を備えたライザ反応器について説明している。触媒は、ライザ反応器の基部で供給原料に合流し、ライザの長さに沿った中間点で、供給原料、反応物、および触媒の結果として生じた混合物に注入される。ライザの基部にある1つおよび1~9つの中間点を含む、2~10個の触媒注入点が支給されていることが好ましい。触媒の約10~95%は、ライザ反応器の下側端部で供給原料に合流し、触媒の約1~70%は、ライザの長さに沿った任意の単一の他の点で注入される。
【0008】
米国特許第5,055,177号は、ガス懸濁液相をライザ変換ゾーンの出口から吐出して、FCCプロセスにおいてクラッキング触媒を炭化水素蒸気/触媒粒子懸濁液から迅速に分離させる際に、触媒相をガス懸濁液相から分離するための方法および装置を記載している。特に、炭化水素蒸気/触媒粒子懸濁液は、炭化水素変換生成物の過剰なクラッキングを低減し、所望の生成物の回収を促進する努力の中で、触媒粒子を懸濁液から分離する一連のサイクロン式分離器へとライザから直接通過する。単一の反応器容器内に直列に接続されたサイクロン式分離器には、ライザサイクロン分離器、一次サイクロン分離器、および二次サイクロン分離器が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
様々な試みにもかかわらず、継続的な進歩のためには、他の所望される改善の中でも、ライザ反応器にわたる温度および速度プロファイル、供給物と触媒との混合中の均一性、ならびに触媒反応中の性能に関連する改善を含む、強化されたFCCプロセス、構成成分、および技術が依然として必要である。
【0010】
本発明の目的は、炭化水素供給物を流体触媒クラッキング(FCC)するための装置および方法を提供することである。
【0011】
本発明の目的は、供給物の気化および供給物/触媒の混合を、FCCライザ反応器においてそのように指定されたゾーンに含有させるため、ならびに供給物の気化中に熱クラッキングおよび乾燥ガスの生成を減少させ、供給物/触媒の混合を改善する努力の中で、複数の注入点において供給物および触媒をFCCライザ反応器に注入するための、装置および方法を提供することである。
【0012】
本発明の目的は、供給物の気化および供給物と触媒との混合がFCCライザ反応器内の特定のゾーンに指定される装置およびその方法を提供することである。
【0013】
本発明の目的は、供給物の気化および供給物と触媒との混合がFCCライザ反応器内の特定のゾーンに指定され、触媒がFCCライザの長さに沿った複数の注入点で注入される、装置およびその方法を提供することである。
【0014】
本発明の実施形態の他の利点および特徴は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。しかしながら、詳細な説明は、本発明の好ましい実施形態を示しているが、本発明の趣旨および範囲内での様々な変更および修正が、この詳細な説明から当業者には明らかになるので、例示としてのみ与えられることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
特定の例示的な実施形態を、以下の詳細な説明および図面を参照して説明する。
【0016】
図1】本発明の実施形態による、多段触媒注入を伴うライザ反応器システムを含むFCCユニットの概略図である。
図2】本発明の実施形態による、図1に示される多段触媒注入を伴うライザ反応器システムの概略図である。
図3】本発明の第1の実施形態による、図2に示される多段触媒注入を伴うライザ反応器システムの第2の段の注入デバイスの概略図である。
図4】本発明の第2の実施形態による、図2に示される多段触媒注入を伴うライザ反応器システムの第2の段の注入デバイスの概略図である。
図5】本発明の実施形態による、図2に示される多段触媒注入を伴うライザ反応器システムの温度プロファイルと比較した際の、従来のライザ反応器の温度プロファイルのグラフィカルな比較である。
図6】本発明の実施形態による、図2に示される多段触媒注入を伴うライザ反応器システムの軸方向速度の半径方向分布プロファイルと比較した際の、従来のライザ反応器の軸方向速度の半径方向分布プロファイルのグラフィカルな比較である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
FCCプロセス中の吸熱クラッキング反応の大部分は、1つ以上の反応ゾーンから構成され得るFCCライザ反応器内で行われる。従来のFCCライザ反応器では、供給物の気化とクラッキング反応の両方が、反応器の同じ反応ゾーンで、通常、上昇した温度、例えば、少なくとも630℃で起こり得る。他の典型的なFCCライザ反応器では、いくつかのライザ反応器を直列に使用することができ、各ライザ反応器は、供給物を連続的に気化およびクラッキングさせるように、上昇した温度の範囲内で動作する少なくとも1つの反応ゾーンを含む。
【0018】
望ましい最終生成物の最大収率を生成するために、気化した供給物のクラッキングを開始する前に、供給物の実質的に大部分、好ましくはすべてを気化させ、触媒と均一に混合する必要がある。そうでない場合、供給物の不完全な気化が、油と油との接触によるコークスなどの望ましくない副生成物の形成につながる可能性がある。従来のライザ反応器に関して前述したように、上昇した温度が、気化した供給物の性急な熱クラッキングを促進する可能性もある。望ましくない熱クラッキングは、不必要な乾燥ガスの発生につながり、それに伴って、軽質オレフィンなどのより価値のある生成物の生成収率に影響を与える可能性がある。
【0019】
熱クラッキングプロセスでは、触媒の使用を伴わずに、上昇した温度および圧力を使用して供給物をクラッキングする。逆に、FCCプロセスでは、気化した供給物は、熱クラッキングの条件と比較した際に、より低い温度および圧力で高温の触媒と接触するとクラッキングされる。クラッキング反応を開始するために触媒が使用されるかどうかにかかわらず、ライザ反応器内の、約630℃超などの上昇した反応温度は、供給物の早過ぎる熱クラッキングを助長する。この点に関して、ライザ反応器にわたって温度が増加すると、高価値の生成物の収率が減少する一方、重質燃料および軽質ガス(例えば、メタンおよびエタン)などの低価値の生成物が増加する。
【0020】
とりわけ、熱クラッキング、乾燥ガスの生成、および均一な供給物/触媒の混合の欠如によって引き起こされる記載された問題は、FCCプロセス中に使用するための本発明のライザ反応器、および本発明のライザ反応器において炭化水素供給物を触媒によってクラッキングするためのFCCプロセスに関する本発明によって克服され得ることがここで有利に見出された。本実施形態のライザ反応器は、蒸発ゾーンおよびクラッキングゾーンを含む、別々の特有のゾーンを含む。供給物/触媒の混合および供給物の気化の実質的に大部分、好ましくは本質的にすべてが、本ライザ反応器の実施形態の蒸発ゾーンに限られ、蒸発ゾーン内の温度は、625℃未満、好ましくは550℃未満、より好ましくは525℃未満である。最小のクラッキングが蒸発ゾーンで起こるので、気化した供給物の実質的に大部分は、本ライザ反応器の実施形態のクラッキングゾーンでクラッキングされる。
【0021】
驚くべきことに、供給物の気化のため、および供給物/触媒の混合物を含有するために構成された蒸発ゾーンを備えた本発明のライザ反応器は、蒸発ゾーンの温度が625℃未満、好ましくは550℃未満、より好ましくは525℃未満であるため、供給物の触媒クラッキングが始まる前に熱クラッキングが起こることを低減させることが見出された。熱クラッキングの低減に伴い、本発明の実施形態によって提供される他の利点には、乾燥ガスの生成(例えば、メタン、エタン)を低減すること、および湿潤ガス圧縮機などの様々なFCC機器が過剰な乾燥ガスで過負荷にならないため、FCCユニット能力が増加し、それによって、より高い生成物の収率を提供することが含まれる。
【0022】
典型的なFCCユニットでは、触媒の大部分がライザ反応器の底部セクションに注入され、その結果、触媒濃度は、その特定のセクションの供給物濃度よりも高くなる。しかし、ライザ反応器の片側で触媒の注入が行われると、局所的な触媒濃度は、ライザ反応器の断面平均触媒濃度よりも、その片側に沿って高くなる。これが起こると、ライザ反応器内の触媒分布の不均一性につながる可能性がある。しかしながら、本実施形態は、ライザ反応器の長さに沿って、蒸発ゾーンにおける少なくとも1つの触媒注入点およびクラッキングゾーンにおける少なくとも1つの触媒注入点を含む少なくとも2つの触媒注入点を含み、その結果、触媒濃度は、より均等に分配される。この点に関して、従来の動作中に底部セクションに注入されたであろう触媒濃度の大部分は、ここでは、蒸発ゾーン(すなわち、第1の段の触媒注入)およびクラッキングゾーン(すなわち、第2の段の触媒注入)の両方に注入される。したがって、本実施形態では、ここで、ライザ反応器の底部セクションに位置する蒸発ゾーンには、より低い触媒濃度、または希釈された触媒濃度が存在する。複数の触媒注入点の有益な利点には、ライザ反応器の全長に沿ったより完全で均一な供給物/触媒の混合が含まれる。本発明の他の実施形態では、触媒注入の追加の段(例えば、第3および/または第4の段の触媒注入)が実施され得ることに留意されたい。
【0023】
熱クラッキング/乾燥ガスの生成の低減およびより均一な供給物/触媒の混合に加えて、蒸発ゾーンのより低い温度と多触媒注入の組み合わせによって呈される相乗効果的な挙動には、理想的なプラグフロー条件、およびライザ反応器全体を通じたより均一な半径方向のガス/固体速度プロファイルも含まれる。この点に関して、本発明のライザ反応器の有益な効果は、クラッキング反応中の触媒の選択性/活性の増加、および生成物の収率の増加を促進する。
【0024】
さらに、本発明のライザ反応器によって表示される相乗効果は、他のいくつかの有益性および利点をもたらす。典型的なFCCライザ反応器と比較すると蒸発ゾーンの温度がより低いため、本発明のライザ反応器は、反応器の全長にわたって全体的により低く、かつより均一な温度プロファイルを示し、それに伴って、より高いライザ反応器の温度プロファイル(例えば、少なくとも700℃)が回避される。ライザ反応器の実施形態の全体的なより低い温度は、有益には、より高い温度に影響されやすい材料の使用を含む、FCCユニット内で利用される材料のタイプに関して、より多くの柔軟性を提供する。さらに、別個の蒸発ゾーンおよびクラッキングゾーンを用いて、本発明は、例えば、直列のいくつかのライザ反応器などの追加の機器が実装される場合、機器のコストの増加および操作の複雑さを回避するという予想外の利点を提供する。
【0025】
最新のFCCユニットは、多種多様な供給原料および触媒を処理することができ、異なる市場の需要を満たすために、ガソリン、中間留分、または軽質オレフィンなどの価値のあるFCC最終生成物の生成を最大化するために動作条件を調節するように構成され得る。本実施形態に関して記載される供給物には、重質ガス油(HGO)、真空ガス油(VGO)、別様に残留燃料油にブレンドされ得る残留供給原料、大気ガス油(AGO)、原油留分、プロセス中間体、および生成物リサイクルなど、当業者に周知の様々な供給原料が含まれ得る。しかしながら、本実施形態の目的のために、供給物のタイプおよび供給物の注入方法は、従来の標準および技術を条件とし、ひいては、本明細書では考察されない。
【0026】
本発明の実施形態の範囲内で触媒クラッキングのために使用され循環される触媒は、適切な触媒クラッキング条件の下でクラッキング活性を有することが当技術分野で知られている任意の好適な触媒であってもよい。例えば、本実施形態で使用するための好ましいクラッキング触媒には、多孔質の無機耐火性酸化物マトリックスもしくは結合剤に分散されたクラッキング活性を有するモレキュラシーブから構成される従来の再生されたクラッキング触媒および/または新しいクラッキング触媒、ならびにZSM-5などの形状選択的なクラッキング添加剤、および特定の沸点範囲の供給物構成成分を選択的にクラッキングするように設計された他のクラッキング強化添加剤が含まれ得る。それにもかかわらず、本実施形態の目的のために、本発明で使用される触媒のタイプおよび触媒クラッキングの条件は、従来の標準および技術を条件とし、ひいては、本明細書では考察されない。
【0027】
図1は、本発明の実施形態による、多段触媒注入を伴うライザ反応器システムを含むFCCユニット100の概略図である。図1に示されるように、ライン102を介した炭化水素供給物(本明細書では「供給物」と称される)が、ライザ反応器104の底部セクションに導入される。ライザ反応器104は、当技術分野で知られているような触媒クラッキング反応に適した反応容器であってもよく、内部ライザ反応器または外部ライザ反応器として構成され得る。ライン106を介した高温の再生された触媒(本明細書では「触媒」と称される)が、再生器108から、そしてライザ反応器104の底部へと流れ、供給物と混合および反応して、供給物と触媒との混合物を形成する。具体的には、供給物は、ライザ反応器104の底部内の高温の触媒と接触すると気化する。供給物の蒸気がライザ反応器104の高さに沿って上向きに流れるときに、触媒が流動化され、蒸気によって輸送され、その結果、供給物と触媒との混合物が形成される。任意選択で、しかし好ましくは、ライン110を介したリフトガスをライザ反応器104の底部に導入して、触媒をさらに流動化し、適切な供給物と触媒との混合を促進することができる。
【0028】
供給物と触媒との混合物は、ライザ反応器104内を上向きに通過する間に上昇した温度に供される。かかる上昇した温度は、供給物の蒸気の長鎖分子を新しいより短い分子に破壊またはクラッキングして、1つ以上のクラッキング生成物を生成する一方で、同時にコークスが触媒、すなわち、使用済み触媒上に堆積するのに十分である。クラッキング生成物と使用済み触媒との混合物は、ライザ反応器104の頂部セクションを出て、少なくとも1つの分離器114を備える反応器容器112へと流れる。分離器114は、分離ゾーンもしくは揮散ゾーン、またはこれらの両方を画定し、かつクラッキング生成物を使用済み触媒から分離するための手段を提供する、任意の従来のシステムであってもよい。
【0029】
分離されたクラッキング生成物は、ライン116を介して、分離器114から主要分留器システム118まで通過し、主要分留器システム118は、クラッキング生成物を回収し、様々な最終生成物に分離するための、当業者には既知の任意のシステムを含み得る。主要分留器システム118を出る最終生成物には、例えば、継続使用のために、システム118からライン120、122、124をそれぞれ通って通過するオレフィン(例えば、C2-C4オレフィン)、ガソリン、中間留分が含まれ得る。
【0030】
分離された使用済み触媒は、分離器114から、そしてライン126を介して再生器108へと通過する。再生器108は、再生ゾーンを画定し、かつ炭素燃焼条件下で、使用済み触媒を空気などの酸素含有ガスと接触させて、コークス堆積物を除去するための手段を提供する。酸素含有ガスは、ライン128を介して再生器108に導入され、発火ガスは、ライン130を介して再生器108から通過する。再生された触媒は、動作のサイクルを繰り返すように、再生器108からライン106を介して、そしてライザ反応器104へと流れる。
【0031】
図2は、本発明の実施形態による、図1に示される多段触媒注入を伴うライザ反応器システムの概略図である。図1に関して同様の番号が記載されている。図2に示されるように、ライザ反応器204は、任意のタイプであっても、例えば、内部もしくは外部のライザ反応器および/またはライザ反応器204の下側端部に位置するリフトポット232を含むライザ反応器を含むライザ反応器であってもよい。
【0032】
分配器入口206を介する第1の触媒の流れが、リフトポット232に導入され、ここで、ライン210を介するリフトガスもまた、リフトポット232に注入される。触媒粒子を上向き方向に循環させ、持ち上げるために十分な量のリフトガスが提供され、その結果、粒子は、ライザ反応器204の蒸発ゾーン234へと流れる。リフトガスの例としては、水蒸気、軽質炭化水素ガス、気化した石油および/もしくは石油留分、ならびに/またはこれらの任意の混合物が挙げられる。実用的な観点から、リフトガスとして水蒸気が最も好ましい。軽質炭化水素ガスには、例えば、水素、メタン、エタン、エチレン、および/またはこれらの混合物が含まれ得る。しかしながら、リフトガスとしての気化した油および/または油留分(好ましくは気化した液化石油ガス、ガソリン、ディーゼル、灯油、もしくはナフサ)の使用は、有利かつ同時に水素供与体として作用し得、コークス形成を防止または低減し得る。好ましい実施形態では、水蒸気、ならびに気化した油および/もしくは気化した油留分、軽質炭化水素ガス、および/またはこれらの混合物の両方をリフトガスとして使用することができる。リフトガスは、単一の流れとして、または各流れが同じソースであっても、異なるソースであってもよい複数の流れとして導入され得る。例えば、1つの流れが、水蒸気であってもよく、別の流れが、気化した油および/もしくは油留分、軽質炭化水素ガス、ならびに/またはこれらの混合物であってもよい。
【0033】
高温の触媒粒子が蒸発ゾーン234に上向きに通過する間、分配器入口202を介した第1の供給物もまたゾーン234に導入され、ここで、触媒粒子からの熱が供給物を気化させる。典型的なプロセスでは、第1の供給物は、蒸発ゾーン234に注入される前に予熱され、リフトガスは、供給物の気化を支援するためにも使用され得る。さらに、供給物の微粒化ならびに供給物/触媒の接触および混合を強化するように、当技術分野で知られている様々な技術を、供給物の注入中に実施することができる。
【0034】
気化した供給物と触媒粒子とが混合すると、第1の供給物/触媒の混合物(以下、「炭化水素」と称される)236が蒸発ゾーン234に形成される。本実施形態では、蒸発ゾーン234は、ライザ反応器204の実質的に直径全体(点線238で描かれる)にわたって延在する。したがって、供給物の気化および供給物/触媒の混合は、実質的に、そして最も好ましくは完全に、蒸発ゾーン234内で、ライザ反応器204の直径238全体にわたって起こる。蒸発ゾーン234がライザ反応器204の実質的に直径238全体にわたって延在することにより、ゾーン234およびライザ反応器204全体の温度プロファイルが均一に維持される。この均一に維持された温度プロファイルは、ライズ反応器(rise-reactor)204において、価値のある生成物を価値の低い生成物へと過度にクラッキングし過ぎることを回避し、望ましくない副生成物、例えば、乾燥ガスおよびコークスを生成し得る熱クラッキングを最小化する。
【0035】
前述のように、触媒温度は、供給物の気化速度、および蒸発ゾーン234における適時でない供給物のクラッキングの可能性の両方に影響を与える。有利には、蒸発ゾーン234内の第1の触媒の温度は、第1の供給物を完全に気化させるが、蒸発ゾーン234を出て、ライザ反応器204のクラッキングゾーン240に入る炭化水素236の熱クラッキングを実質的に妨げるのに十分である。特に、本発明によれば、蒸発ゾーン234を出る炭化水素236の触媒クラッキングおよび熱クラッキングは、ゾーンの温度が625℃未満、好ましくは550℃未満、および最も好ましくは525℃未満に維持されるため、蒸発ゾーン234において、実質的に最小レベルまで、より好ましくは本質的に熱クラッキングなしにまで低減される。
【0036】
様々な実施形態によれば、蒸発ゾーン234の温度に影響を与える努力の中で、動作変数を監視し、それに伴って、ゾーン234内の第1の供給物の完全な気化および最小の熱クラッキングを確実にすることができる。監視される動作変数の例としては、とりわけ、温度、供給物の流量、および触媒の循環速度が挙げられる。かかる変数の読み取り値に基づいて、分配器入口206を介して蒸発ゾーン234に注入される第1の触媒の流れの量は、第1の触媒が完全に気化するのに十分な熱を提供するが、第1の供給物を過熱しないように調節し、それに伴って、蒸発ゾーン234における供給物の熱クラッキングを低減および/または排除することができる。実施形態では、蒸発ゾーン234の温度範囲は、625℃未満、好ましくは550℃未満、および最も好ましくは525℃未満に維持される。分配器入口206を介して蒸発ゾーン234に注入される第1の触媒の流れの量は、全触媒注入の約10%~90%、より好ましくは約30%~60%、最も好ましくは45%~55%の範囲である一方、触媒の流れの合計と供給物との比率は、好ましくは1:1~30:1、より好ましくは3:1~15:1、および最も好ましくは5:1~10:1の範囲にある。第1の混合物を気化させるのみで、実質的にクラッキングしない温度範囲を維持するのに十分な量の触媒を注入することにより、本ライザ反応器204の蒸発ゾーン234の温度は、従来のFCCライザ反応器で供給物を気化させるために使用される温度よりも低くなる。
【0037】
本実施形態では主題ではないが、監視される動作変数の各々は、当技術分野で一般的に使用されるプロセス制御システムによってコンピュータ制御することができる。例えば、変数をリモートで監視することができ、それによって、変数の出力に基づいて自動調節が実施され、それに伴って、手動による変更および調整の必要性が低減される。前述以外の、蒸発ゾーン234の温度の調整に関連する変数を監視することができることに留意されたい。
【0038】
気化した供給物の生成による増加した速度のフローは、炭化水素が蒸発ゾーン234から、そしてクラッキングゾーン240へと通過するように、炭化水素236をライザ反応器204へとさらに上に運ぶための手段として作用する。クラッキングゾーン240は、蒸発ゾーン234の上に位置し、ライザ反応器204の実質的に直径238全体にわたって延在する。実施形態の蒸発ゾーン234、クラッキングゾーン240、ならびにライザ反応器204の長さおよび直径を含むサイズは、他の変数の中でもとりわけ、動作パラメータ、ならびに所望の炭化水素供給物の変換および生成能力のレベルに応じて変化し得る。
【0039】
クラッキングゾーン240へと流れるために蒸発ゾーン234を去る炭化水素236の温度は熱クラッキング温度よりも低いため、反応コークス堆積による最小の触媒の不活性化がゾーン234で起こる。したがって、クラッキングゾーン240へと流れる炭化水素236中の触媒の実質的に大部分は、クラッキング反応を触媒するために利用可能である。さらに、炭化水素236の供給物のクラッキングは蒸発ゾーン234において実質的に最小レベルまで低減されるため、炭化水素236は、クラッキングゾーン240へと流れる際に部分的にクラッキングされていると考慮され得る。
【0040】
分配器入口206を介した第1の触媒の流れに加えて、図2のライザ反応器204は、図3および図4に関してさらに考察される第2の段の注入デバイス242をさらに備える。本実施形態の第2の段の注入デバイス242は、分配器入口244を介した第2の触媒の流れ、および分配器入口246を介した第2の供給物の流れを、クラッキングゾーン240へと供給するように構成されている。好ましい実施形態では、ライザ反応器204における第1の触媒と第2の触媒との比率は、蒸発ゾーン234における炭化水素236の熱クラッキングを最小化し、クラッキングゾーン240でクラッキング温度に供されたときに炭化水素236のクラッキングを最大化するように、約1:9~約9:1の範囲であってもよい。
【0041】
第2の供給物は、第2の触媒と混合し、それに伴って、第2の供給物/触媒の混合物(図示せず)を形成するように、デバイス242へと流れる。好ましくは、さらに考察されるように、第2の供給物/触媒の混合物は、ライザ反応器204の壁領域(図示せず)に注入されて、クラッキングゾーン240へとさらに流れる。ゾーン240に入ると、第2の供給物/触媒の混合物は、クラッキングゾーン240に入るために蒸発ゾーン234を出る、立ち上がる炭化水素236と接触して混合する。第2の供給物/触媒の混合物の上昇した温度は、炭化水素236のさらなるクラッキングを引き起こし、その結果、最終的なクラッキング生成物248が生成されて、ライザ反応器204の頂部セクションを出る。さらに考察されるように、本実施形態における第2の触媒の注入は、壁領域における触媒逆混合を最小化すること、供給物/触媒の混合中の改善された均一性を促進すること、およびライザ反応器204におけるクラッキング生成物の半径方向速度分布を改善することを含む、いくつかの有益性を提供する。
【0042】
図3は、本発明の第1の実施形態による、図2に示される多段触媒注入を伴うライザ反応器システムの第2の段の注入デバイスの概略図である。図1および図2に関して同様の番号が記載されている。
【0043】
第2の段の注入デバイス342は、分配器入口344を介した第2の触媒の流れ、および分配器入口346を介した第2の供給物の流れを、ライザ反応器のクラッキングゾーン340に注入することを提供する。デバイス342は、内壁350、外壁352、および基部354を含む。本発明によれば、外壁352は、内壁350の上方に垂直に延在し、第2の触媒の流れを受け入れるための分配器入口344を含む。
【0044】
クラッキングゾーン340の内部領域356内の長手方向断面の半分が図3に示されており、ライザ反応器の幾何学形状の中心垂直軸358が点線で表されている。内壁350の頂部セクションは、中心垂直軸358から離れる方向に向き付けされた傾斜した上向き斜面360を含み、それによって、外壁352と斜面360との間に位置し、内部領域356に流体接続されるように構成された開口部362を形成する。傾斜した上向き斜面360は、流体逆流の侵入を防止することができ、例えば、中心垂直軸358に沿って上向きに流れる炭化水素336が壁領域364および/または第2のデバイス342へと流れることを防止する。
【0045】
デバイス342の基部354は、第2の供給物の流れを受け入れるための少なくとも1つの基部開口部(図示せず)を含む。第2の供給物の流れは、デバイス342の下側セクション366へと流れ、接触時に、高温の第2の触媒の流れによって気化される。第2の供給物の流れと第2の触媒の流れとの接触および混合は、デバイス342の空洞370内に、以下において「流動リング混合物(fluidized ring mixture)368」と称される、第2の供給物/触媒の混合物を形成する。流動リング混合物368内の触媒粒子は、気化した供給物によって流動化され、その結果、混合物368は、開口部362を通り、そして壁領域364に注入されるように上向きに立ち上がる。好ましい実施形態では、基部354は、流動リング混合物368の流動化を維持する努力の中で、リフトガスを受け入れるためにさらに使用され得る。他の実施形態では、基部354は、第2の供給物の流れおよびリフトガスを収容するための別個の基部開口部を含み得る。
【0046】
中心垂直軸358に沿って上向きに移動するとき、炭化水素336のフローは、高密度に凝集した触媒粒子(すなわち、高密度触媒層372)の濃度が壁領域364内で下向きに流れる一方、より密度の低い凝集した触媒粒子(すなわち、中央触媒374)の濃度が中心垂直軸358に沿って上向きに流れ続ける、コア環パターンとして説明することができる。壁領域364内の高密度触媒層372の形成は、多くの場合、不均一なガス/固体速度分布プロファイルと同様に、クラッキングゾーン340全体にわたる不均一な触媒粒子の分布および不均一な供給物/触媒の混合につながる。さらに、壁領域364に沿って下向きに流れる高密度触媒層372、またはクラッキングゾーン340の周辺は、固体触媒粒子の逆混合の可能性を増加させ得る。本発明において、逆混合は、再循環されていない触媒粒子が流動リング混合物368内を上向きに流れる状態で、高密度触媒層372内を下向きに流れることによって、クラッキングゾーン340の一部をすでに通過した触媒の再循環をもたらすことになるため、望ましくない。逆混合が起こると、多くの場合、最適以下の供給物/触媒の接触につながり、望ましくないクラッキング反応をもたらし、それによって、価値のある生成物の収率が減少する。
【0047】
しかしながら、本実施形態では、流動リング混合物368の壁領域364への上向きのフローは、高密度触媒粒子372の下向きのフローを偏向させるように作用する。したがって、高密度触媒粒子372を内部領域356に強制的に戻すことにより、改善された供給物/触媒の接触および改善された触媒分布が、最小の逆混合または逆混合がない状態で、達成される。実施形態では、壁領域364は、上向きに流れる流動リング混合物368が下向きに流れる高密度触媒層372を偏向させる、クラッキングゾーン340内のエリアを含むと理解され得ることに留意されたい。
【0048】
かかる改善により、本実施形態は、それによって、有利には、最小化された触媒逆混合が起こるため、所望のプラグフロー条件を促進し、それによって、所望の生成物の収率を増加させるように、望ましくないクラッキング反応を低減させる。さらに、理想的なプラグフロー条件は、副次的および不完全な触媒反応が起こるのを低減し、ひいては、所望の生成物の収率も増加させる。さらに、望ましいプラグフロー条件のために、本発明のライザ反応器を通る速度流量は、従来のライザ反応器での典型的な速度プロファイルと比較して、より一定で均一であると想定される。したがって、本ライザ反応器の実施形態はまた、ライザ反応器の長さに沿って測定したときに、改善された全体的な半径方向のガスおよび固体速度プロファイルを提供する。
【0049】
図4は、本発明の第2の実施形態による、図2に示される多段触媒注入を伴うライザ反応器システムの第2の段の注入デバイスの概略図である。図1図3に関して同様の番号が記載されている。
【0050】
クラッキングゾーン440の内部領域456にわたる長手方向断面の半分が図4に示されており、ライザ反応器の幾何学形状の中心垂直軸458が点線で表されている。第2の段の注入デバイス442は、クラッキングゾーン440内に位置し、分配器入口444を介した第2の触媒の流れおよび分配器ライン446を介した第2の供給物の流れの第2の段の注入を提供する。第2の段の注入デバイス442は、内壁450、外壁、および基部454を含む。本実施形態によれば、内壁450の頂部セクションは、内部領域456に向かう方向に向き付けされた傾斜した上向き斜面460を含む。図4に示されるように、外壁は、第1の垂直セクション452、第2の垂直セクション453、および第1の垂直セクション452の頂部端部を第2の垂直セクション453の底部端部に接続する傾斜した斜面455を含む。この構成により、外壁の第2の垂直セクション453は、内部領域456に流体接続された開口部462を形成するように、内壁450の真上に垂直に延在する。外壁の第1の垂直セクション452は、第2の触媒の流れをデバイス442に注入するための分配器入口444を含む。
【0051】
デバイス442の基部454は、第2の供給物の流れを受け入れるための少なくとも1つの基部開口部(図示せず)を含む。第2の供給物の流れは、デバイス442の下側セクション466へと流れて、第2の触媒の流れと接触すると気化する。第2の供給物の流れと第2の触媒の流れとの混合は、デバイス442の空洞470内に、以下において「流動リング混合物468」と称される、第2の供給物/触媒の混合物を形成する。触媒粒子は、気化した供給物によって流動化され、その結果、流動リング混合物468は、開口部462を通り、そして壁領域464へと流れるように上向きに立ち上がる。
【0052】
中心垂直軸458に沿って上向きに移動するとき、炭化水素436の流れは、高密度に凝集した触媒粒子(すなわち、高密度触媒層472)の濃度が壁領域464内で下向きに流れる一方、より密度の低い凝集した触媒粒子(すなわち、中央触媒474)の濃度が中心垂直軸458に沿って上向きに流れ続ける、コア環パターンを含むものとして説明することができる。壁領域464内の高密度触媒層472の形成は、多くの場合、不均一なガス/固体速度分布プロファイルと同様に、クラッキングゾーン440全体にわたる不均一な触媒粒子の分布および不均一な供給物/触媒の混合につながる。さらに、壁領域464に沿って下向きに流れる高密度触媒層472、またはクラッキングゾーン440の周辺は、固体触媒粒子の逆混合の可能性を増加させ得る。逆混合が起こると、多くの場合、不完全なクラッキングがもたらされ、それによって、生成物の収率が減少する。
【0053】
しかしながら、本実施形態では、流動リング混合物468の壁領域464への上向きのフローは、高密度触媒層472の下向きのフローを偏向させるように作用する。したがって、高密度触媒層472を内部領域456に強制的に戻すことにより、改善された供給物/触媒の接触および改善された触媒分布が、最小の逆混合または逆混合がない状態で、達成される。かかる改善により、本実施形態は、それによって、有利には、最小化された触媒逆混合が起こるため、所望のプラグフロー条件を促進し、それによって、所望の生成物の収率を増加させるように、望ましくないクラッキング反応を低減させる。さらに、理想的なプラグフロー条件は、副次的および不完全な触媒反応が起こるのを低減し、ひいては、所望の生成物の収率も増加させる。さらに、望ましいプラグフロー条件のために、本発明のライザ反応器を通る速度流量は、従来のライザ反応器での典型的な速度プロファイルと比較して、より一定で均一であると想定される。したがって、本ライザ反応器の実施形態はまた、ライザ反応器の長さに沿って測定したときに、改善された全体的な半径方向のガスおよび固体速度プロファイルを提供する。
【0054】
図5は、本発明の実施形態による、図2に示される多段触媒注入を伴うライザ反応器システムの温度プロファイルと比較した際の、従来のライザ反応器の温度プロファイルのグラフィカルな比較である。図5に示されるように、当技術分野で知られている任意の望ましい単位で測定したときのライザ反応器内の温度は、当技術分野で知られている任意の望ましい単位で測定したときのライザ反応器の高さに対してプロットされる。従来のライザ反応器502(破線で描かれる)、および本発明の多段触媒注入504を伴うライザ反応器システム(実線で描かれる)の温度プロファイルの両方の温度プロファイルは両方とも、吸熱クラッキング反応の性質によりライザ反応器の高さが増加するにつれて下降する。したがって、本明細書に記載される温度プロファイルは、ライザ反応器の長さの実質的に大部分に沿ったライザ反応器内の温度に関連する。
【0055】
図2に関して考察され、図5によって示されるように、本ライザ反応器の蒸発ゾーン内の炭化水素の流れは、従来のライザ反応器の底部セクション内の温度よりも少なくとも50℃低い温度に供される。本実施形態における蒸発ゾーンは、ライザ反応器の第1の供給物注入位置のすぐ下から、第1の供給物注入位置の約5メートル(m)上まで位置する。多段触媒注入を伴う本発明のライザ反応器システムを使用することの利点は、従来のライザ反応器と比較した場合に、全体的な温度プロファイルの少なくとも15%の低減、好ましくは20%の低減、およびより好ましくは25%の低減に至ることである。この点に関して、本ライザ反応器の蒸発ゾーン内の炭化水素の流れは、クラッキングゾーンに入るまで、従来のライザ反応器内の供給物/触媒の混合物と比較した場合に、より低い温度を維持する。特に、第2の供給物/触媒の混合物をクラッキングゾーンに注入した後、第1の供給物/触媒の混合物は、クラッキング反応が始まると、上昇した温度に供され、それに伴って、多段触媒注入504を伴うライザ反応器システムの温度プロファイルによって示される温度のスパイク503を形成する。
【0056】
図5に描かれる所見に基づいて、驚くべきことに、本発明のライザ反応器は、典型的な上昇した温度(例えば、630℃以上)が、とりわけ蒸発ゾーン内で回避されるため、反応器の全長に沿って改善された温度プロファイルを促進することが見出された。本実施形態によれば、蒸発ゾーンの温度は、蒸発ゾーン内の熱クラッキングおよび触媒クラッキングを有利に低減するように、動作の厳しさがより低い温度、すなわち、625℃未満、好ましくは550℃未満(図5に示されるように)、および最も好ましくは525℃未満の温度である。蒸発ゾーンでの熱クラッキングが低減されるため、乾燥ガス生成の低減、およびFCCユニット能力の増加など、他の有益な効果が呈され、それに伴って、生成物分布の改善、すなわち、望ましい最終生成物につながる場合がある。ライザ反応器の長さおよび直径を含む、本発明のライザ反応器のサイズは、他の変数の中でもとりわけ、動作パラメータ、ならびに所望の炭化水素供給物の変換および生成能力のレベルに応じて変化し得ることに留意されたい。
【0057】
図6は、本発明の実施形態による、図2に示される多段触媒注入を伴うライザ反応器システムの軸方向速度の半径方向分布プロファイルと比較した際の、従来のライザ反応器の軸方向速度の半径方向分布プロファイルのグラフィカルな比較である。図6に描かれるように、速度は、ライザ反応器の長さに対してプロットされている。具体的には、当技術分野で知られている任意の望ましい単位で測定したときのガス速度(「U」)および固体速度(「U」)は、当技術分野で知られている任意の望ましい単位で測定したときのライザ反応器の壁領域(「r=R」)に対するライザ反応器の中心領域(「r=0」)に対してプロットされる。固体(「s」)は、触媒粒子構成成分に関連し、ガス(「g」)は、気化した供給物または生成物の構成成分に関連し、両方の構成成分は、ライザ反応器内を流れる炭化水素/触媒の混合物を形成する成分である。
【0058】
図3および図4に関して前述したように、本発明のライザ反応器は、第2の触媒の流れおよび第2の供給物の流れをクラッキングゾーンに注入するための第2の段の注入デバイスを含む。第2の触媒と第2の供給物とが一緒に混合して第2の触媒/供給物の混合物を形成し、第2の触媒/供給物の混合物は、蒸発ゾーンからクラッキングゾーンへと流れる部分的にクラッキングされた炭化水素の流れをさらにクラッキングするように作用する。図6に描かれるガスおよび固体速度プロファイルによって説明されるように、本発明のライザ反応器に第2の段の注入デバイスを実装することのさらなる有益性は、第2の段の注入を組み込まない従来のライザ反応器と比較した場合、容易に明らかである。図6に示されるように、従来のライザ反応器における触媒粒子の固体速度は、破線602によって描かれており、本発明のライザ反応器の固体速度は、実線604によって描かれている。本発明のライザ反応器604の固体速度は、従来のライザ反応器602の固体速度よりも均一である。特に、壁領域Xにおける本発明のライザ反応器604の固体速度(r=R)は、壁領域での触媒の逆混合が著しく低減されることを示す。
【0059】
同様に、従来のライザ反応器における気化した供給物のガス速度は、破線606によって描かれており、本発明のライザ反応器における気化した供給物のガス速度は、実線608によって描かれている。本発明のライザ反応器608のガス速度は、従来のライザ反応器606のガス速度よりも均一である。図6に描かれるように、本発明のライザ反応器608内のガス蒸気は、従来のライザ反応器606内のガス蒸気が壁領域に接近するときでさえ、かなりの速度を維持し続ける。これは、本発明のライザ反応器における(触媒およびガスの両方の)フローがより「プラグフロー」であり、より高い変換(すなわち、より高い収率)ならびにより望ましい生成物分布をもたらすことを意味する。
【0060】
本発明の目的には、炭化水素供給物の熱クラッキングおよび供給物の気化中の乾燥ガスの生成を最小化することと、FCCプロセス中の供給物/触媒の混合および全体的な温度およびガス/固体速度プロファイルを改善することと、が含まれた。本発明のライザ反応器および本発明のライザ反応器を使用して炭化水素供給物を触媒によってクラッキングする方法は、本発明の目的を果たす。前述の実施形態に記載されるように、本発明のライザ反応器は、少なくとも1つの蒸発ゾーンを含み、供給物の気化および供給物と触媒との混合は、さらにクラッキングされるように少なくとも1つのクラッキングゾーンへと通過する前に、少なくとも1つの蒸発ゾーンに含有される。本発明のライザ反応器は、蒸発ゾーンの温度を625℃未満、好ましくは550℃未満、より好ましくは525℃未満に制限し、それによって、蒸発ゾーン内の熱クラッキング反応を抑制する。したがって、気化した供給物のクラッキングの実質的に大部分、より好ましくは本質的にすべてが、本ライザ反応器の実施形態の蒸発ゾーンではなく、クラッキングゾーンで起こる。供給物の気化および供給物/触媒の混合中の熱クラッキングの低減により、本発明の実施形態によって提供される別の利点には、従来のライザ反応器の温度プロファイルとは対照的に、全体的により低い(また、より均一な)温度プロファイルが含まれた。結果として、より低い温度プロファイルにより、本実施形態によって提供される別の驚くべき有益性には、乾燥ガス生成/コークス堆積物の低減、および所望の生成物のより高い収率のためのFCCユニット能力の増加が含まれる。
【0061】
さらに、本発明のライザ反応器によって提供される強化は、多段触媒注入によって増強される。蒸発ゾーンへの第1の段の触媒注入の後、本実施形態の技術は、クラッキングゾーンへの第2の段の触媒注入を含み得る。蒸発ゾーン内だけでなく全長に沿って触媒濃度を均等に分配することにより、本実施形態のライザ反応器は、ライザ反応器の全長に沿ってより完全で均一な供給物/触媒の混合を提供する。
【0062】
触媒分布の改善に加えて、壁領域を流れる固体触媒粒子がライザ反応器の中心領域へと押し戻されるため、気化した供給物の分布も改善される。この点に関して、本実施形態は、本発明のライザ反応器の全長に沿って、より均一な、ひいては、改善された半径方向の固体速度プロファイルを提供する。本実施形態の改善されたガスおよび固体速度プロファイルによって提供される相乗効果的な挙動は、逆混合の低減、固体/ガスの混合の改善、および理想的なプラグフロー条件を促進し、これは次に、望ましい生成物のより高い収率を提供するように触媒反応を強化する。
【0063】
本発明の技術は、様々な修正および代替の形態が可能であるが、上述した例示的な例は、例としてのみ示されている。この技術は、本明細書に開示されている特定の例に限定されることを意図するものではないことを理解されたい。実際、本実施形態は、本技術の範囲内にあるすべての代替、修正、および同等物を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】