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特表2022-542642ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用
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  • 特表-ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用 図1A
  • 特表-ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用 図1B
  • 特表-ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用 図2
  • 特表-ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用 図3
  • 特表-ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用 図4A
  • 特表-ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用 図4B
  • 特表-ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用 図5
  • 特表-ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用 図6
  • 特表-ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用 図7
  • 特表-ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用 図8
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ミトコンドリアの疾患または機能不全の処置のためのジスルフィラムまたはその誘導体の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/145 20060101AFI20220929BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A61K31/145
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/08
A61P27/02
A61P3/00
A61P43/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021575228
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(85)【翻訳文提出日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 EP2020067195
(87)【国際公開番号】W WO2020254632
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】19305784.1
(32)【優先日】2019-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513324723
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ダンジェ
(71)【出願人】
【識別番号】521549419
【氏名又は名称】ソントル ホスピタリエ ユニヴェルシテール ダンジェ
【氏名又は名称原語表記】CENTRE HOSPITALIER UNIVERSITAIRE D’ANGERS
(71)【出願人】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル)
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(71)【出願人】
【識別番号】521549431
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ ブルターニュ オクシドンタル
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE BRETAGNE OCCIDENTALE
(71)【出願人】
【識別番号】517276848
【氏名又は名称】アソシエーション フランセーズ コントル レス ミオパシーズ
(71)【出願人】
【識別番号】520053762
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・パリ・シテ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS CITE
(71)【出願人】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(71)【出願人】
【識別番号】516288022
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ デゥ ボルドー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】プロカッチオ, ヴァンソン
(72)【発明者】
【氏名】ルーティグ, アニエス
(72)【発明者】
【氏名】ドゥラオッドゥ, アニエス
(72)【発明者】
【氏名】トリブイヤール-タンヴィエ, デボラ
(72)【発明者】
【氏名】ドュジャルダン, ジュヌヴィエーヴ
(72)【発明者】
【氏名】ブロンデル, マーク
【テーマコード(参考)】
4C206
【Fターム(参考)】
4C206AA01
4C206AA02
4C206JA71
4C206JA72
4C206MA01
4C206MA04
4C206MA55
4C206MA72
4C206NA14
4C206ZA06
4C206ZA33
4C206ZB21
4C206ZC21
(57)【要約】
本発明は、ミトコンドリア機能不全または疾患、有利には遺伝的ミトコンドリア疾患の処置に使用するためのジスルフィラムまたはその誘導体の1つの使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミトコンドリア疾患またはミトコンドリア機能不全の処置に使用するためのジスルフィラムまたはその誘導体の1つを含む医薬組成物。
【請求項2】
ジスルフィラムまたはジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ミトコンドリア疾患がミトコンドリア呼吸鎖病である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ミトコンドリア疾患が遺伝性疾患である、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記ミトコンドリア疾患が、以下の遺伝子:MTTL1、ATP6、TAZ、SURF1、POLG、MPV17、OPA1、COA6、ND6およびBCS1Lの少なくとも1つにおける少なくとも1つの遺伝子欠損に関連するかまたはそれに起因する、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ミトコンドリア疾患が、
MELAS症候群、母性遺伝性ミオパシーおよび心筋症、NARP症候群、リー症候群、バース症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群4A、ミトコンドリアDNA枯渇症候群4B、ミトコンドリア劣性運動失調症症候群、感覚運動失調症、構音障害および眼筋麻痺、てんかんを伴う脊髄小脳失調症、進行性外眼筋麻痺、ミトコンドリアDNA枯渇症候群-6、ナバホニューロパチー、ベール症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群14、シトクロムcオキシダーゼ欠損症による乳児心筋脳筋症、ミトコンドリア複合体III欠損核型1、GRACILE症候群およびビオルンスタッド症候群からなる群から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が経口投与される、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が毎日投与される、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、8mg/kg以下、または7、6、5、4、3、2、1mg/kg以下、またはさらに0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、もしくは0.1mg/kg以下の投薬量、有利には1日投与量で経口投与される、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が固体形態、有利には錠剤の形態である、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が、500mgの前記活性化合物、特にジスルフィラムを含み、有利には400mg、250mg、200mg未満、またはさらに100mgもしくは50mg未満である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物が、同じ疾患のための他の処置に関連する、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、同じ疾患を処置するための別の化合物を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミトコンドリアの疾患または機能不全を処置するための新しい薬理学的ツールを提供する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリア疾患は、ミトコンドリアが身体が適切に機能するのに十分なエネルギーを産生することができない場合に生じる慢性、長期、主に遺伝性でしばしば遺伝性の障害である。ミトコンドリア疾患は、出生時に存在し得るが、任意の年齢でも生じ得る。5000人に1人がミトコンドリア疾患を有すると推定されている。
【0003】
ミトコンドリア疾患は、脳、神経、筋肉、腎臓、心臓、肝臓、眼、耳または膵臓の細胞を含む身体のほぼあらゆる部分に影響を及ぼし得る。ミトコンドリア疾患の症状は、身体のどの細胞が影響を受けるかに依存する。患者の症状は、軽度から重度の範囲であり得、1つ以上の器官が関連し、任意の年齢で生じ得る。ミトコンドリア疾患の症状には、以下が含まれ得る。
-成長不良
-筋力低下、筋肉痛、筋緊張低下、運動不耐性
-視覚および/または聴覚の問題
-学習障害、発達の遅れ、精神遅滞
-自閉症、自閉症様の特徴
-心臓、心機能不全、心不整脈または伝導障害
-肝臓または腎臓の疾患
-胃腸障害、嚥下困難、下痢または便秘、原因不明の嘔吐、痙攣、逆流
-糖尿病
-感染リスクの増加
-神経学的問題、発作、片頭痛、脳卒中
-運動障害
-甲状腺および/または副腎機能不全
-呼吸(呼吸活動)の問題
-乳酸アシドーシス(乳酸の蓄積)
-乳酸アシドーシス(乳酸の蓄積)認知症
【0004】
ミトコンドリア機能不全は、おそらく別の疾患または状態に起因して、ミトコンドリアが適切に機能しない場合にも生じ得る。多くの状態は、二次的なミトコンドリア機能不全をもたらし、アルツハイマー病またはパーキンソン病、筋ジストロフィー、ルー・ゲーリック病、糖尿病およびがんを含む他の疾患に影響を及ぼし得る。二次的ミトコンドリア機能不全を有する個体は、原発性の遺伝的ミトコンドリア疾患を有さないが、同様の症状も患っている。さらに、一部の医薬品はミトコンドリアを損傷する可能性がある。
【0005】
本処置の目的は、例えば以下の推奨事項を用いて症状を改善し、疾患または機能不全の進行を遅らせることである。
-ビタミン療法の使用
-エネルギーの温存
-活動の調整
-周囲環境温度の維持
-病気への曝露の回避
-十分な栄養および水分補給の確保
【0006】
さらに、ミトコンドリア疾患の大部分が遺伝的起源のものであっても、前記疾患の多様性および複雑性のために遺伝子治療を実施することは困難であると思われる。
【0007】
Gillら(PLOS ONE,2018,13(2))、Maliら(Cellular Signalling,2015,28(2):1-6)、Kurodaら(Int.J.Biochem.,1993,25(1):87-91)およびHassinen(Biochemical Pharmacology,1966,15:1147-53)は、正常細胞またはインタクトなミトコンドリア上で非常に高濃度(25μM超)で試験したジスルフィラムがミトコンドリア機能に影響を及ぼすことを示すインビトロ実験を報告した。Zhaoら(CYTOKINE,2000,12(9):1356-67)は、ジスルフィラムがTNFα誘導性細胞死を阻害することを報告した。
【0008】
したがって、前記の種類の機能不全または疾患を処置するための新しい治療アプローチを見出すことが依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Gillら(PLOS ONE,2018,13(2)
【非特許文献2】Maliら(Cellular Signalling,2015,28(2):1-6)
【非特許文献3】Kurodaら(Int.J.Biochem.,1993,25(1):87-91)
【非特許文献4】Hassinen(Biochemical Pharmacology,1966,15:1147-53)
【非特許文献5】Zhaoら(CYTOKINE,2000,12(9):1356-67)
【発明の概要】
【0010】
本発明者らは、アルデヒドデヒドロゲナーゼに対する阻害剤としての作用のためにアルコール抑制剤として主に知られている薬理学的化合物であるジスルフィラム(DSF)が、ミトコンドリア機能不全またはミトコンドリア疾患を処置するための強力な候補であることを示した。本出願は、それが低毒性を示しながら広範囲の疾患に対して低濃度で効率的であることを明らかにする。
定義
【0011】
以下の定義は、本発明の文脈において一般的に使用される意味を表し、別の定義が明示的に述べられていない限り、考慮されるべきである。
【0012】
本発明の枠内で、冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法的対象の1つまたは複数(すなわち、少なくとも1)を指すために使用される。例として、「1つの要素」は、少なくとも1つの要素、すなわち1つまたは2つ以上の要素を意味する。
【0013】
量、持続時間等の測定可能な値に言及する場合に本明細書で使用される「およそ」、「約」または「近似的に」という用語は、指定された値から±20%または±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±1%、さらにより好ましくは±0.1%の変動を包含すると理解されるべきである。
【0014】
間隔/範囲:本開示を通して、本発明の様々な態様は、値の間隔(範囲形式)の形態で提示され得る。間隔の形態の値の説明は、単に便宜および簡潔さのためのものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の説明は、すべての可能な部分範囲およびその範囲内の個々の数値を具体的に開示したと見なされるべきである。例えば、1~6等の範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6等の部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数、例えば1、2、2.7、3、4、5、5.3、および6を具体的に開示していると見なされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0015】
「単離された」とは、その自然環境または状態から改変または取り出されたことを意味する。例えば、単離された核酸またはペプチドは、天然環境から抽出された核酸またはペプチドであり、天然環境では、それらは例えば植物または生きている動物のいずれかに通常見出される。例えば生きている動物に天然に存在する核酸またはペプチドは、本発明の意味において単離された核酸またはペプチドではないが、その天然環境に存在する他の成分から部分的または完全に分離された同じ核酸またはペプチドは、本発明の意味においてそれ自体「単離され」ている。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在し得るか、または例えば宿主細胞等の非天然環境に存在し得る。
【0016】
「異常な」という用語は、生物、組織、細胞またはその成分に関連して使用される場合、「正常な」(予想される)それぞれの特性を示す生物、組織、細胞またはその成分と少なくとも1つの観察可能または検出可能な特性(例えば、年齢、治療、時刻等)が異なる生物、組織、細胞またはその成分を指す。1つの細胞または組織型について正常であるかまたは予想される特性は、異なる細胞または組織型について異常である可能性がある。
【0017】
「患者」、「対象」、「個体」等の用語は、本明細書では互換的に使用され、インビトロまたはインサイチュにかかわらず、本明細書に記載の方法に適した任意の動物またはその細胞を指す。特定の非限定的な実施形態では、患者、被験体または個体は、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトである。これは、マウス、ラット、ブタ、イヌまたは非ヒト霊長類(NHP)、例えばマカクサルであってもよい。
【0018】
本発明の意味において、「疾患」または「病態」は、その恒常性が悪影響を受け、疾患が処置されない場合悪化し続ける動物の健康状態である。逆に、本発明の意味において、「障害」または「機能不全」は、動物が恒常性を維持することができるが、動物の健康状態が障害がない場合よりも好ましくない健康状態である。処置されなくても、障害は、必ずしも経時的に動物の健康状態の悪化をもたらさない。
【0019】
疾患または障害は、その疾患もしくは障害の症状の重症度、対象がそのような症状を経験する頻度、またはそれらの両方が低減される場合、「緩和」されている(「低減」されている)または「改善」されている(「向上」している)。これには、疾患の進行の消失、すなわち疾患または障害の進行の停止も含まれる。疾患または障害は、その疾患もしくは障害の症状の重症度、患者がそのような症状を経験する頻度、またはその両方が排除される場合、「治癒」(「回復」)している。
【0020】
本発明に関連して、「治療的」処置は、病態の症状(徴候)を軽減または除去する目的で、これらの症状を示す対象に施される処置である。本明細書で使用される場合、「疾患または障害の処置」は、対象が経験する疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を低下させることを意味する。処置は、特に対象が疾患の症状を有していないかもしくは有していない場合、および/または疾患が診断されていない場合、疾患の発症、伝播または悪化を防止するために投与される時には予防的であると言われる。
【0021】
本明細書で使用される場合、「疾患または障害を処置する」は、対象が経験する疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を低下させることを意味する。疾患および障害は、本明細書では処置に関連して互換的に使用される。
【0022】
本発明の意味において、化合物の「有効分量」または「有効量」は、化合物が投与される対象に有益な効果を提供するのに十分な化合物の量である。「治療有効分量」または「治療有効量」という表現は、疾患または障害の症状を軽減することを含む、疾患または障害を予防または処置する(換言すれば、発生を遅延もしくは防止する、進行を防止する、阻害する、減少させる、または逆転させる)のに十分または有効な分量を指す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、ミトコンドリア機能不全またはミトコンドリア疾患を処置するためのジスルフィラム(DSF)またはその誘導体の1つ、有利にはDSFの使用に関する。
【0024】
したがって、より具体的には、第1の態様によれば、本発明は、ミトコンドリア疾患またはミトコンドリア機能不全の処置に使用するための、少なくともジスルフィラム(DSF)またはその誘導体の1つ、有利にはDSFを含む医薬組成物に関する。
【0025】
換言すれば、ジスルフィラム(DSF)またはその誘導体の1つ、有利にはDSFを含む組成物を使用して、ミトコンドリア疾患またはミトコンドリア機能不全の処置を目的とした医薬を調製する。
【0026】
したがって、本発明は、ミトコンドリア疾患またはミトコンドリア機能不全を処置する方法であって、それを必要とする対象に、ジスルフィラム(DSF)またはその誘導体、有利にはDSFを含む組成物を効率的な用量で投与することを含む方法に関する。
【0027】
テトラエチルチウラムジスルフィドまたは1-(ジエチルチオカルバモイルジスルファニル)-N,N-ジエチル-メタンチオアミドとも呼ばれるジスルフィラム(DSFとも呼ばれる)は、カルバメート誘導体である。これは、CAS番号97-77-8および以下の式を有する。
【0028】
これは、一般に、例えばアルコールまたはクロロホルムに対する高い溶解度を有する白色粉末の形態である。
【0029】
これは、RNC(S)SR官能基を有する広いクラスの分子を含むジチオカルバメートファミリーのメンバーである。
【0030】
商品名Antabus(登録商標)またはESPERAL(その500mgを含有する錠剤)で販売されているジスルフィラムは、エタノールに対する急性の感受性を生じさせることによって慢性アルコール依存症の処置を支援するために使用される薬物である。ジスルフィラムは、酵素アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼを阻害することによって作用し、アルコール摂取直後に二日酔いの多くの効果を感じさせる。これに関連して、通常の成人用量は、一般に最初の1~2週間継続して行う(初期用量)1日1回500mgの経口投与、次いで1日1回250mgの維持用量の経口投与(範囲:125mg~500mgを1日1回)である。そのような治療は、数ヶ月またはさらには数年継続される。
【0031】
特に実施例で報告されているように、例えばミトコンドリア複合体IまたはIV活性または呼吸に対する同じ生物学的活性を有するジスルフィラムの誘導体も本発明に包含される。特に興味深いのは、DSFの代謝産物である。
【0032】
そのような誘導体または代謝産物の例は、以下の通りである。
-以下の式のジスルフィラム-d20:
-以下の式のジエチルジチオカルバメートまたはDDTC:

-以下の式のジエチルジチオカルバミン酸ナトリウムまたはDEDTC(CAS番号:148-18-5):
-以下の式のジエチルジチオカルバメート-d10:
-以下の式のCu(DEDTC)
-以下の式のメチルN,N-ジエチルジチオカルバメートまたはDDTC-Me(CAS番号686-07-07):
-以下の式のメチルN,N-ジエチルジチオカルバメート-d10:
-以下の式のメチルN,N-ジエチルジチオカルバモイルスルホキシドまたはDDTC-MeSO(CAS番号:145195-14-8):
-以下の式のS-メチルN,N-ジエチルチオカルバメートまたはDETC-Me(CAS番号:37174-63-3):
-以下の式のS-メチルN,N-ジエチルチオカルバモイルスルホキシドまたはDETC-MeSO(CAS番号:140703-15-7):
-以下の式のジエチルジチオカルバメートメチルエステルスルフィンまたはDDTC-Meスルフィン:
-以下の式のS-メチルN,N-ジエチルチオカルバモイルスルホンまたはDETC-MeSO
-S-メチルN,N-ジエチルジチオカルバモイルスルホンまたはDDTC-MeSO
-以下の式のカルバマチオン:
【0033】
ジスルフィラムを含む前記化合物は、それらの安定性、それらのバイオアベイラビリティおよび/または標的組織、特にミトコンドリアに到達する能力を増加させるようにさらに修飾することができる。
【0034】
当業者に知られているように、前記化合物、特にジスルフィラムは、裸の形態(遊離)で組成物中に存在するか、またはリポソーム等の安定性、標的化および/もしくは生体内溶解性を増加させる送達系に含まれるか、またはヒドロゲル、シクロデキストリン、生分解性ナノカプセル、生接着性マイクロスフェア、ベクター等の担体中に、もしくはカチオン性ペプチドと組み合わせて組み込まれ得る。
【0035】
本発明はまた、少なくとも上記で定義される化合物を有効成分として含有する医薬組成物、ならびに医薬品または医薬としてのこの化合物または組成物の使用に関する。
【0036】
その結果、本発明は、本発明による化合物を含む医薬組成物を提供する。有利には、そのような組成物は、治療有効量の前記化合物と、薬学的に許容される担体とを含む。特定の実施形態において、「薬学的に許容される」という用語は、動物およびヒトにおける使用に関して、連邦政府もしくは州政府の規制機関によって承認されていること、あるいは米国もしくは欧州薬局方または他の一般に認識されている薬局方に記載されていることを意味する。「担体」という用語は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような医薬担体は、滅菌液体、例えば水および油、例えば石油、動物、植物または合成起源のもの、例えば落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油等であってもよい。生理食塩水ならびにデキストロースおよびグリセロール水溶液も、特に注射液用の液体担体として使用することができる。適切な医薬賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等が含まれる。
【0037】
組成物は、所望に応じて、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含有することができる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、持続放出製剤等の形態をとることができる。適切な医薬担体の例は、E.W.Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、対象への適切な投与のための形態を提供するために、治療有効量の治療薬、好ましくは精製形態の治療薬を適切な量の担体と共に含有する。
【0038】
好ましい実施形態において、組成物は、例えばヒトへの経口投与に適合した医薬組成物として日常的な手順に従って製剤化される。典型的には、経口投与のための組成物は、固体剤形およびヒトへの投与に適した賦形剤をさらに含有する錠剤、場合により刻み目の入った錠剤または発泡性錠剤の形態である。例として、ジスルフィラムの入手可能な市販形態は、ポビドン、ステアリン酸マグネシウム、微結晶セルロースおよびカルメロースナトリウムをさらに含有する錠剤である。そのような錠剤は、粉砕し、液体と混合することができる。
【0039】
代替として、組成物は、液体形態、有利には水性組成物であってもよい。任意の他の適切な溶媒を使用することができる。
【0040】
疾患の処置に有効である本発明の治療剤、すなわち上記に開示される化合物の量は、標準的な臨床技術によって決定することができる。さらに、任意選択で、最適な投薬量範囲の予測を助けるためにインビボおよび/またはインビトロアッセイを使用してもよい。製剤に使用される正確な用量はまた、投与経路、体重および疾患の重篤度に依存し、医療従事者の判断および各患者の状況に従って決定されるべきである。
【0041】
特定の実施形態によれば、本発明の組成物は、500mg以下の活性化合物、特にジスルフィラムを含む固体形態、有利には錠剤である。好ましくは、組成物は、400mg、250mg、200mgまたはさらには100mgもしくは50mg以下の量を含む。
【0042】
別の実施形態によれば、本発明の組成物は液体形態であり、有利には1μMまたは500nM未満、より有利には1~100nMの間、さらにより有利には10~20nMの間の活性化合物、特にジスルフィラムを含む。
【0043】
がんを処置するために使用される場合、ジスルフィラムは、ミトコンドリアがアポトーシスおよびプログラム細胞死を誘導するフリーラジカルを産生するように、高(毒性)濃度で投与される。有利には、本発明の枠内で、ジスルフィラムまたはその誘導体は、非毒性(低)濃度で使用される。特定の実施形態によれば、また下記の実施例において例示されるように、毒性は、好都合には変異サイブリッド細胞において、ミトコンドリアの代わりにエネルギー産生のための解糖への切り替えを示す乳酸産生に基づいて評価され得る。結果として、高濃度の乳酸塩は、DSFの薬物毒性と相関する。好ましい実施形態によれば、濃度は、ミトコンドリア機能に対して毒性であると考えられる1μM未満、有利には900nM以下である。
【0044】
適切な投与は、疾患に応じて、治療有効量の治療用製品の標的組織への送達を可能にすべきである。
【0045】
利用可能な投与経路は、局所(局部)、経腸(系全体に及ぶ効果であるが、胃腸(GI)管を通して送達される)または非経口(全身作用であるが、GI管以外の経路によって送達される)である。ミトコンドリア疾患の特定の場合において、本明細書中に開示される組成物の好ましい投与経路は一般に経腸投与であり、これは経口投与を含む。他の実施形態によれば、これは、特に筋肉内(すなわち筋肉の中)または全身投与(すなわち循環システムの中)による非経口投与であってもよい。これに関連して、「注射」(または「灌流」または「注入」)という用語は、血管内、特に静脈内(IV)および筋肉内(IM)投与を包含する。注射は、通常、シリンジまたはカテーテルを使用して行われる。
【0046】
一実施形態によれば、組成物は、経口、筋肉内、腹腔内、皮下、局所、局部、または血管内、有利には経口投与される。好ましい実施形態によれば、組成物は経口投与用である。有利には、組成物は経口的に、すなわち口から投与される。
【0047】
既に述べたように、本発明による組成物は、好ましくは経口投与に適合した固体剤形、有利には1つ以上のカプセルまたは錠剤の形態である。したがって、それらは主食事の前またはその間に少量の水で摂取することができる。
【0048】
好ましい実施形態によれば、本発明による組成物は、毎日、例えば1日1回投与される。処置は、数週間、数ヶ月、数年、または生涯にわたって継続することができる。
【0049】
一般に、治療剤、すなわちジスルフィラムまたはその誘導体の1つの投薬量は、対象の年齢、体重、身長、性別、一般的な病状および以前の病歴等の要因に応じて変動する。典型的には、毒性になることなく効率的な治療剤の個々の用量を患者に提供することが望ましい。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態によれば、組成物の投薬量、有利にはヒトが経口摂取する1日投薬量は、8mg/kg以下、または7、6、5、4、3、2、1mg/kg以下、または0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、もしくは0.1mg/kg以下である。
【0051】
成人の60kgのヒト体重平均に基づくと、これは、組成物の投薬量、有利には経口的に摂取される1日投与量が、500mg以下、または450、400、350、300、250、200、150もしくは100mg以下、またはさらには90、80、70、60、50、40、30、20もしくは10mg以下であることを意味する。
【0052】
既に述べたように、患者は、有利にはヒト、特に新生児、幼児、小児、青年または成人である。しかしながら、本発明による治療ツールは、他の動物、特にブタ、マウス、イヌまたはアカゲザルの処置に適合し、有用であり得る。
【0053】
既に述べたように、本発明は、一般にミトコンドリア疾患、すなわちミトコンドリア機能不全に関連するまたはミトコンドリア機能不全によって引き起こされる疾患の処置に関する。
【0054】
ミトコンドリア呼吸鎖に対するジスルフィラムまたはその誘導体の1つのプラスの効果を示す例に関連して、特に興味深い疾患は、ミトコンドリア呼吸鎖疾患である。
【0055】
さらに、当技術分野で公知のように、ミトコンドリア疾患のほとんどは遺伝性疾患である。
【0056】
遺伝病は、定義により、1つまたは複数の遺伝子における1つまたは複数の遺伝子欠損(もしくは突然変異)に起因する疾患である。遺伝子欠陥は、ミトコンドリアDNAおよび/または核遺伝子に影響を及ぼし得る。
【0057】
ミトコンドリア疾患の原因となる遺伝子欠陥は、コドン変化をもたらす点突然変異であり得る。しかしながら、疾患は、1つ以上の塩基またはコドンの欠失に関連し得る。
【0058】
いくつかのミトコンドリア疾患は、先行技術において十分に報告されている。
【0059】
ミトコンドリア筋症、脳症、乳酸アシドーシス、および脳卒中様エピソードを含むMELAS症候群は、可変的な臨床表現型を有する遺伝的に不均一なミトコンドリア障害である。この障害は、発作、片麻痺、半盲、皮質盲および偶発性嘔吐を含む中枢神経系関与の特徴を伴う。この症候群は最初、ミトコンドリアDNAにおける、すなわちtRNALeu(UUR)(MTTL1)遺伝子におけるm.3243A>G突然変異に関連していた。MELAS症候群はまた、m.3260A>G突然変異等の他のミトコンドリアDNA突然変異に関連し得る。これらのm.3260A>Gまたはm.3243A>G突然変異はまた、母性遺伝性ミオパシーおよび心筋症を含む他の臨床表現型をもたらし得る。
【0060】
NARP(神経原性運動失調、網膜色素変性)症候群は、ミトコンドリアATPaseのサブユニット6をコードする遺伝子(MTATP6またはATP6)における突然変異によって引き起こされる。患者は、発達遅延、網膜色素変性、認知症、発作、運動失調、近位神経原性筋力低下および感覚ニューロパシーの様々な組合せを呈する。この変異は、ミトコンドリアエネルギー生成の欠陥に起因する臨床的および遺伝的に不均一な障害であるリー症候群にも関連する。これは、最も一般的には、生後数ヶ月または数年以内に発症する進行性および重度の神経変性障害として現れ、早期死亡をもたらし得る。罹患した個体は、通常、全体的な発達遅延または発達退行、低血圧、運動失調、ジストニア、および眼振または視神経萎縮等の眼科的異常を示す。神経学的特徴は、脳イメージング上の基底核および/または脳幹におけるT2強調高強度の古典的な所見に関連する。
【0061】
TAZ遺伝子は、テトラリノレオイル部分を優勢に含むその成熟組成物への未成熟カルジオリピンのリモデリングを触媒するミトコンドリアのトランスアシラーゼであるタファジンをコードする。TAZ突然変異は、従来、心内膜線維弾性症(EFE)を伴う拡張型心筋症(CMD)、主に近位の骨格筋症、成長遅延、好中球減少症、および有機酸尿、特に過剰の3-メチルグルタコン酸を特徴とするX連鎖疾患であるバース症候群をもたらす。
【0062】
SURF1遺伝子は、ミトコンドリア複合体IVの集合因子をコードする。SURF1変異は、生後数ヶ月または数年以内に発症する進行性および重度の神経変性障害であるリー症候群に関連しており、早期死亡をもたらし得る。罹患した個体は、通常、全体的な発達遅延または発達退行、低血圧、運動失調、ジストニア、および眼振または視神経萎縮等の眼科的異常を示す。
【0063】
POLGは、mtDNAの複製に関与することが知られている唯一のポリメラーゼであるミトコンドリアDNAポリメラーゼをコードする。POLG突然変異は、優性または劣性形質として伝達される異なる臨床症状に関連する。
【0064】
劣性POLG突然変異は以下をもたらす:
-乳児および幼児における精神運動遅滞、難治性てんかん、および肝不全の臨床三徴候を特徴とするミトコンドリアDNA枯渇症候群4A(アルパース型)。病理学的所見には、反応性星状膠細胞症および肝硬変を伴う脳灰白質におけるニューロン喪失が含まれる。この障害は進行性であり、しばしば3歳前に肝不全またはてんかん重積状態による死に至る。
-慢性胃腸運動不全および偽閉塞、悪液質、進行性外眼筋麻痺(PEO)、軸索感覚性運動失調性ニューロパチー、および筋力低下を臨床的に特徴とするミトコンドリアDNA枯渇症候群4B(MNGIE型)。
-SANDO(成人発症の感覚性運動失調性ニューロパチー、構音障害および眼筋麻痺)およびSCAE(てんかんを伴う脊髄小脳失調症)を含むミトコンドリア劣性運動失調症候群。
【0065】
優勢POLG突然変異は、以下をもたらす:
-ミトコンドリアDNA欠失を伴う進行性外眼筋麻痺(PEO)。最も一般的な臨床的特徴には、成人の外眼筋の衰弱の発症および運動不耐性が含まれる。さらなる症状は様々であり、白内障、難聴、感覚性軸索神経障害、運動失調、うつ病、性腺機能低下症およびパーキンソニズムを含み得る。
【0066】
MPV17は、機能未知のミトコンドリア内膜タンパク質をコードする。MPV17突然変異は以下を引き起こす:
ミトコンドリアDNA枯渇症候群-6、しばしば生後1年で死に至る進行性肝不全の乳児発症を特徴とする常染色体劣性障害。生存した者は、運動失調、緊張低下、ジストニア、および精神運動退行を含む進行性の神経学的関与を発症する。
ナバホニューロパチー:徴候には、角膜潰瘍形成、無痛性骨折および先端切除をもたらす重度の麻痺;筋力低下;深部腱反射の喪失、または著しい低下;および正常IQが含まれる。
【0067】
OPA1遺伝子は、ミトコンドリア内膜に局在し、ミトコンドリアネットワークの安定性、ミトコンドリア生体エネルギー出力、およびミトコンドリアクリステ空間内のアポトーシス促進性シトクロムcオキシダーゼ分子の隔離を含むいくつかの重要な細胞プロセスを調節するタンパク質をコードする。
【0068】
ヘテロ接合OPA1突然変異は、mtDNA欠失を伴うまたは伴わない優性視神経萎縮に関連する。化合物ヘテロ接合性OPA1突然変異は、以下をもたらす。
-運動失調、錐体路徴候、痙縮および精神遅滞を含む神経学的特徴を伴う早期発症視神経萎縮の集合を指すベール症候群。
-致死性乳児心脳筋症を伴うミトコンドリアDNA枯渇症候群14。
【0069】
COA6遺伝子は、ミトコンドリアのシトクロムcオキシダーゼの集合因子(複合体IV)をコードする。COA6突然変異は、致死性乳児心脳筋症を有する2つの独立した家族において報告されている。
【0070】
ヒトBCS1L遺伝子は、ミトコンドリア呼吸鎖の複合体IIIの構築に関与するS.cerevisiae bcs1タンパク質のホモログをコードする。BCSL1突然変異は、以下に関連する:
-ミトコンドリア複合体III欠損症、新生児近位尿細管症を特徴とする核1型、肝臓病変、および脳症。
-成長遅延、アミノ酸尿症、胆汁うっ滞、鉄過剰、乳酸アシドーシス、および早期死亡を伴うGRACILE症候群。
-感音性難聴および捻転毛を特徴とするビオルンスタッド症候群。
【0071】
ミトコンドリアゲノムによってホストされるND6遺伝子は、呼吸鎖複合体IのサブユニットであるNADH-ユビキノン酸化還元酵素鎖6タンパク質をコードする。置換pPro25Leuをもたらすヒト突然変異m.14600G<Aは、ミトコンドリア疾患の原因である(Linら;McManusら)。
【0072】
特定の実施形態によれば、本発明の枠内で処置される疾患は、以下の遺伝子:MTTL1、ATP6、TAZ、SURF1、POLG、MPV17、OPA1、COA6、ND6およびBCS1Lの少なくとも1つにおける遺伝子欠損に関連するかまたはそれに起因する。
【0073】
特に興味深いのは、MELAS症候群、母性遺伝性ミオパシーおよび心筋症、NARP症候群、リー症候群、バース症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群4A(アルパース型)、ミトコンドリアDNA枯渇症候群4B(MNGIE型)、ミトコンドリア劣性運動失調症症候群、感覚運動失調症、構音障害および眼筋麻痺、てんかんを伴う脊髄小脳失調症、進行性外眼筋麻痺、ミトコンドリアDNA枯渇症候群-6、ナバホニューロパチー、ベール症候群、ミトコンドリアDNA枯渇症候群14、シトクロムcオキシダーゼ欠損症(COA6突然変異)による乳児心筋脳筋症、ミトコンドリア複合体III欠損核型1、GRACILE症候群およびビオルンスタッド症候群からなる群から選択される疾患の処置である。
【0074】
より一般的には、ジスルフィラムまたはその誘導体の1つを使用して、ミトコンドリア機能不全を処置することができる。電子伝達鎖における効率の喪失およびアデノシン-5’-三リン酸(ATP)等の高エネルギー分子の合成の減少を特徴とするミトコンドリア機能不全は、老化および本質的にすべての慢性疾患の特徴である。
【0075】
これらの疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ルー・ゲーリック病)、およびフリードライヒ運動失調症等の神経変性疾患、アテローム性動脈硬化症および他の心臓および血管の状態、糖尿病およびメタボリックシンドローム等の心血管疾患、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、および1型糖尿病等の自己免疫疾患、自閉症スペクトラム障害、統合失調症、ならびに双極性および気分障害等の神経行動および精神疾患、胃腸障害、疲労性疾患、例えば慢性疲労症候群および湾岸戦争病、筋骨格系疾患、例えば線維筋痛症および骨格筋肥大/萎縮症、筋ジストロフィー、がん、ならびに慢性感染症が含まれる。
【0076】
特定の実施形態によれば、がんは、本発明の枠内で処置される疾患の定義から外れている。
【0077】
一態様によれば、本発明による組成物は、同じ疾患の他の処置に関連する。
【0078】
特定の実施形態によれば、本発明は、同じ疾患または異なる疾患、有利には同じ疾患の処置のための、上記の化合物および潜在的に他の活性分子(他の遺伝子治療タンパク質、化学基、ペプチドまたはタンパク質等)を含有する組成物、有利には医薬組成物または医薬品に関する。
【0079】
より一般的には、ミトコンドリア疾患に関連して、ミトコンドリア機能を改善することができるさらなる化合物は、同時にまたは異なる時間に投与することができる。同時投与の場合、2種の化合物を同じ組成物中で会合させることができる。
【0080】
そのようなさらなる化合物の例は、天然サプリメント、例えばL-カルニチン、アルファ-リポ酸(αリポ酸[1,2-ジチオラン-3-ペンタン酸])、補酵素Q10(CoQ10[ユビキノン])、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、膜リン脂質であり、場合により組み合わされている。
【0081】
例えばMELAS症候群の場合に使用される化合物の例は、アルギニンおよびシトルリンなどの一酸化窒素(NO)前駆体である。
【0082】
1つの具体的な実施形態によれば、本発明の化合物は、銅またはその塩(例えばグルコン酸銅等)と組み合わされない。
【0083】
本発明の組成物から利益を得ることができる対象には、ミトコンドリア機能不全を有する、ミトコンドリア疾患と診断された、またはそのようなミトコンドリア疾患を発症するリスクがあるすべての患者が含まれる。結果として、処置される対象は、例えば遺伝子配列決定を含む当業者に公知の任意の方法によって、および/または当業者に公知の任意の方法による対応するタンパク質発現または活性の評価によって、上に列挙した好ましい遺伝子における突然変異または欠失の同定に基づいて選択することができる。
【0084】
本発明の標的は、安全な(毒性のない)処置を提供することである。さらなる目的は、疾患の発症を延期、減速または防止することを可能にし、場合によっては、以下に開示されるように臨床レベルで容易に監視することができる患者の表現型を改善することを可能にする効率的な処置を提供することである。
【0085】
対象において、本発明による組成物は、以下のために使用することができる:
-ミトコンドリア機能、特にミトコンドリア呼吸を改善するため;
-成長を改善するため;
-筋機能を改善するため;
-視覚および/もしくは聴覚を改善するため;
-呼吸機能を改善するため;
-心臓、肝臓もしくは腎臓の機能を改善するため;
-脳機能を改善するため;
-消化機能を改善するため;ならびに/または
-生存を延ばすため、より一般的には生活の質および平均余命を改善するため。
【0086】
一態様によれば、本発明は、ミトコンドリア機能を有利には有害作用なしに改善する方法であって、それを必要とする対象に治療分量の上記開示の組成物を投与することを含む方法に関する。
【0087】
有利には、前記改善は、処置開始後1ヶ月まで、または3ヶ月もしくは6ヶ月もしくは9ヶ月間、より有利には処置開始後1年まで、2年、5年、10年、またはさらに対象の全生涯にわたって観察される。
【0088】
一実施形態において、前記改善は、症状の重症度および/もしくは頻度の低下、ならびに/または出現の遅延をもたらす。
【0089】
改善は、当技術分野で公知の方法に基づいて、例えば、MELASの場合以下に基づいて評価され得る:
-例えば磁気共鳴分光法(MRS)によって測定される乳酸レベル、特に脳室乳酸の評価。
-臨床規模による生活の質および/または平均余命の評価、例えばNMDAS(Newcastle Mitochondrial Disease Scale for Adults)スコアまたはSF-36(Short Form Health Survey)スコア。
-磁気共鳴画像法(MRI)を使用した脳の変化の評価。
-静脈乳酸およびGDF15濃度の変化の評価。
-尿および血液中のmtDNAヘテロプラスミーの変化の評価。
【0090】
所与の症例に対する適切なパラメータは、ミトコンドリア疾患に応じて適合させることができる。
【0091】
したがって、特許請求された処置は、未処置の対象と比較して、臨床状態および上に開示された様々なパラメータを改善することを可能にする。
【0092】
本発明の実施は、特に明記しない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来の技術を使用し、これらは十分に当業者の範囲内である。そのような技術は、文献、例えば「Molecular Cloning:A Laboratory Manual」、第4版(Sambrook,2012);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait、1984);「Culture of Animal Cells」(Freshney、2010);「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir、1997);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(MillerおよびCalos、1987);「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel、2002);「Polymerase Chain Reaction:Principles,Applications and Troubleshooting」(Babar、2011);「Current Protocols in Immunology」(Coligan、2002)において十分に説明されている。これらの技術は、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの産生に適用可能であり、したがって、本発明の作製および実施において考慮され得る。特定の実施形態のための特に有用な技術は、以下のセクションで説明される。
【0093】
本明細書で引用される特許、特許出願、および刊行物のそれぞれの開示は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0094】
さらなる説明がない場合、当業者は、前述の説明および以下の例示的な実施例を使用して、本発明の化合物を作製および利用し、特許請求される方法を実施することができると考えられる。
【実施例
【0095】
本発明およびその利点は、添付の図面を支持する以下に示される例からよりよく理解される。特に、本発明は、ミトコンドリア疾患の様々な酵母モデルおよびいくつかの細胞質ハイブリッド(サイブリッド)細胞株に対するジスルフィラムの効果に関して説明される。しかしながら、これらの例は決して限定的ではない。
【図面の簡単な説明】
【0096】
図1A】ハロ試験によって検出される、呼吸培地上での様々な突然変異酵母株の増殖に対するDSFの効果を示す図である。
図1B】ハロ試験によって検出される、呼吸培地上でのshy1突然変異酵母株の増殖に対するジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(DEDTC)およびDSF(10および30nmol)の効果を示す図である。
図2】CCCPありまたはなしでの、様々な酵母突然変異株のO消費速度(VO、nmol O 10細胞/分)に対するDSFの効果を示す図である。データは、少なくとも3回の独立した実験の平均±SEMである。試料と対照との間の変動の有意性は、Anova多因子検定を使用して推定した:Tukey;(P値<0.05;**P<0.01;***P<0.001;****P<0.0001))。
図3】グルコース欠乏培地で増殖させたNARPサイブリッド細胞株(JCP239 NARP(T8993G))に対するDSFの効果を示す図である。以前の研究(Couplan EらおよびAiyar RSら)と同様に、DHLA(ジヒドロリポ酸)を陽性対照として使用した。示されるように、様々な濃度のDSFを試験した。DSF、またはDMSO(陰性対照)、またはDHLA(陽性対照)による5日間の処理とそれに続くトリプシン処理の後、Scepter Counter(Millipore)を使用して生細胞の数を決定した。全ての細胞数を、100%に設定したDMSO値に対して表した。この実験を3連で2回繰り返し、エラーバーは標準偏差を表す。各条件について、得られた6点の平均値を示し、スチューデントのt検定(P=0.0153;**P=0.0025;***P<0.0001)を用いて陰性対照(DMSO処理細胞)と比較する。
図4】神経MELASサイブリッド細胞の増殖に対する非毒性の最大DSF濃度の決定を示す図である。 A/90nM~900nMのDSF濃度の範囲。 B/5nM~40nMのDSF濃度の範囲。
図5】低グルコース培地(0.5g/l)中のMELAS神経サイブリッド細胞における複合体I酵素活性に対する、48時間曝露後の未処理突然変異細胞(DMSOビヒクル)と比較したDSFの効果を示す図である。
図6】低グルコース培地(0.5g/l)中で48時間曝露した後のMELAS神経サイブリッド細胞におけるミトコンドリア複合体I呼吸に及ぼすDSFの効果を示す図である。
図7】低グルコース培地(0.5g/l)中の透過処理MELAS神経サイブリッド細胞のミトコンドリア複合体I(左)および複合体IV(右)呼吸に対する48時間曝露後の10nMでのDSFの効果を示す図である。
図8】神経MELASサイブリッド細胞の乳酸産生に対する非毒性の最大DSF濃度の決定を示す図である。100nM~10μMのDSF濃度の範囲。 実施例1~3:酵母モデル
【0097】
実施例1~3で用いた様々なサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)酵母株はそれぞれ、ミトコンドリア疾患をもたらすヒト突然変異をモデル化した異なる特異的突然変異を含む。異なる程度で、これらの酵母株はすべて、(株に応じて)28℃または36℃でエタノールまたはグリセロール等の呼吸培地上で増殖させた場合に増殖欠陥を示す。
酵母突然変異株:
【0098】
A29G→MCC123tRNALeuA30(29)G:MATα、his3-11、ade2-1、leu2-3、112、ura3-1、trp1-D2、can1-100、syn(A30(29)G突然変異はtRNALeu(UUR)遺伝子のヒトm.3260A>G突然変異を模倣する)(De Luca C.ら)
【0099】
mip1→DWM-5A:Mat ade2-1 leu2-3、112 ura3-1 trp1-1 his3-11、15 can1-100 Δmip1::ヒトG848S POLG突然変異と同義のmip1G651S対立遺伝子を発現する低コピー数プラスミド(ARS-CEN)pFL39(TRP1)により形質転換されたKanR(Baruffini,E.ら)
【0100】
bcs1-F401Iおよびshy1-G137R突然変異は、W303の核バックグラウンドおよびイントロンレスミトコンドリアゲノムを含むCW252株において構築されている。
【0101】
coa6Δ突然変異はBY4742バックグラウンドにある(MATα his3Δ1 leu2Δ0 lys2Δ0 ura3Δ0)
【0102】
taz1Δ酵母株は、W303-1A株(MATa ade2-1 ura3-1 his311、15 trp1-1 leu2-3、112 can1-100)において、TAZ1のオープンリーディングフレームをTRP1のオープンリーディングフレームに置き換えることによって構築された(de Taffin de Tilquesら)。
【0103】
sym1Δ酵母株は、W303-1A株(MATa ade2-1 ura3-1 his311、15 trp1-1 leu2-3、112 can1-100)において、SYM1のオープンリーディングフレームをkanMX6のオープンリーディングフレームに置き換えることによって構築された。
【0104】
mgm1-G430D突然変異はW303バックグラウンドにある(MAT a;ade2-1;leu2-3;his3-11、15;ura3-1;trp1-1;can1-100;mgm1-5_G408(430)D;[Rho+])。
【0105】
fmc1→一次スクリーンの場合MC6 MAT ade2-1 his3-11,15 trp1-1 leu2-3,112 ura3-1 fmc1::HIS3:[Δi ER OR]および二次スクリーンの場合MR14 MAT ade2-1 his3-11,15 trp1-1 leu2-3,112 ura3-1 CAN1 arg8::HIS3 ρ+atp6-L183RまたはRKY20 MATa ade2-1 his3-11,15 trp1-1 leu2-3,112 ura3-1 CAN1 arg8::HIS3 ρ+atp6-L183P
【0106】
NARP(ニューロパチー、運動失調、および網膜色素変性)症候群は、ATPaseのサブユニット(OXPHOS複合体V)をコードするミトコンドリアにコードされたATP6遺伝子の様々な突然変異によって引き起こされる。突然変異は、同じ細胞内ではしばしばヘテロプラズミック(突然変異ミトコンドリアDNAおよびwtミトコンドリアDNA、mtDNAの両方の共存)である。突然変異の型および変異mtDNAのパーセンテージ(ヘテロプラスミーの程度)の両方に依存して、臨床転帰は多かれ少なかれ重症である。ATP6 m.8993T>C/G突然変異は、NARP患者において最も頻繁であり、重篤な形態のNARP症候群をもたらす。NARPに対して潜在的に活性な薬物を特定するNARP症候群のための酵母ベースアッセイが、Couplan Eらによって開発された。この2段階スクリーニングアッセイは、まず、一次スクリーニングにおいて、fmc1Δ突然変異の呼吸増殖欠陥を抑制する薬物の能力に基づく。FMC1は、ATPシンターゼのF1セクタの構築のために高温(35~37℃)で必要とされるタンパク質をコードし、それによりNARP患者において観察されるヘテロプラスミーを模倣する核遺伝子である。実際、制限温度(35~37℃)で成長させた場合、fmc1Δ突然変異のミトコンドリアは、野生型(WT)株よりもはるかに少ない集合ATPシンターゼ複合体を含有するが、集合するものは完全に機能的である。この不均一性は、ヘテロプラズミックATP6突然変異に起因してATPシンターゼのレベルが低下した患者においても見出される。したがって、fmc1Δ突然変異は、これらの障害の適切なモデルを構成する。二次スクリーニングでは、活性化合物を様々なホモプラスミック酵母NARP突然変異、特にT8993GおよびT8993C突然変異の同等物で試験した。
実施例1:非発酵性(呼吸)培地上で増殖させた突然変異酵母株の増殖に対するDSFの効果
材料および方法
【0107】
以前に記載されたアッセイ(Bach SらおよびCouplan Eら)と同様に、様々な酵母突然変異株を固体寒天ベースの呼吸(グリセロールまたはエタノールベース)培地に広げ、試験化合物、すなわちDSFと記されるジスルフィラム(Sigma、CAS番号:97-77-8、DMSOに希釈された粉末)をスポットしたフィルターに曝露した。次いで、プレートを指示された温度(株に応じて28℃または36℃であり得る)でインキュベートした。
【0108】
より正確には、0.4 OD600で液体YPDリッチ発酵性培地(1%酵母抽出物、0.5%バクトペプトン、2%グルコース)中で増殖させた様々な酵母突然変異株200μLを、寒天ベースの固体呼吸培地:YPG(1%酵母抽出物、0.5%バクトペプトン、2%グリセロール)またはYPE(1%酵母抽出物、0.5%バクトペプトン、2%エタノール)のいずれかに広げた。次いで、小型滅菌フィルターを寒天表面に置き、示された分量で漸増濃度のDSFをフィルターに加えた。次いで、プレートを28℃または36℃(株に応じて)で4~5日間インキュベートし、次いで撮影した。左上には、DMSO(化合物ビヒクル)が陰性対照として使用されている。
結果
【0109】
結果を図1に示す。
【0110】
DSFの活性は、フィルターの周りの増殖増強のハロによって特定された。この方法の利点は、1つの単純な実験において、成長培地中の薬物の拡散により広範囲の濃度を試験することを可能にすることである。したがって、この設計は、活性化合物(DSFを含む、下記参照)が高濃度で毒性であり得るため、スクリーニングの感度を劇的に改善する。次いで、得られた陽性ヒットを、同じ実験手順を用いて確認した。
【0111】
図1Aは、異なる程度で、DSFが、試験した全ての突然変異株の非発酵性(呼吸)培地上の増殖欠陥を抑制することを明らかにしている。
【0112】
図1Bは、2つの異なる濃度(10および30nmol)で、DSFの代謝産物であるジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(DEDTC)が、shy1突然変異株の非発酵性(呼吸)培地上での増殖欠陥を同様に抑制することを明らかにしている。
実施例2:様々な突然変異酵母株の呼吸器増殖欠陥の抑制をもたらす最小DSF濃度の決定
材料および方法
【0113】
指数関数的に増殖する細胞を、DSF濃度を増加させて、または増加させずに、新鮮な非発酵性YPGまたはYPE培地に接種した。呼吸増殖欠陥を抑制する能力に関するDSFの最適濃度と、それが毒性を示す濃度の両方を決定するために、24または48時間後に細胞密度を決定した。
【0114】
より正確には、shy1-G137RおよびΔcoa6細胞は、炭素源として2%グリセロールおよび0.1%ガラクトースを含有し、漸増濃度のDSF(100nM~6μM)を含有する液体培地中で40時間増殖させた。A29Gおよびfmc1Δ細胞は、炭素源として2%グリセロールおよび漸増濃度のDSF(50nM~5μM)を含有する液体培地中で48時間増殖させた。taz1Δおよびsym1Δ細胞は、炭素源としてそれぞれ2%エタノール/0.2%ガラクトースおよび2%グリセロール/2%エタノールを含有し、漸増濃度のDSF(100nM~9μM)を含有するリッチ液体培地中で48時間増殖させた。
【0115】
ATP6、mgm1、mip1およびbcs1突然変異株の呼吸増殖欠陥の抑制につながる最小DSF濃度の決定は調査されていない。
結果
【0116】
結果を以下の表1に示す。
実施例3:酵母呼吸に対するDSFの効果
材料および方法
【0117】
呼吸強度は、時間および細胞の量に対して消費される酸素の量に対応する。これは、細胞の酸化的代謝を反映する。
【0118】
酸素消費量は、Hansatech電極を使用して測定した。細胞を、DMSOまたはDSF(A29Gについては200nM;shy1およびcoa6突然変異については300nM)のいずれかを補充したYPE培地(1%酵母抽出物、0.5%バクトペプトン、2%エタノール)またはガラクトース培地(1%酵母抽出物、0.5%バクトペプトン、2%ガラクトース)中、28℃で24時間または48時間、7~8世代増殖させた。10個の細胞を、28℃でHansatech電極に導入した。O消費量は、CCCP(カルボニルシアニドm-クロロ-フェニルヒドラジン;前記呼吸鎖の正常な活動中に確立されたプロトン勾配を消散させる脱共役剤)あり、またはなしで記録した。CCCPの存在下では、ミトコンドリア内膜を横切る電位の維持が不可能であり、呼吸が最大になる。O消費率は、O消費量の線形部に基づいて算出した。
結果
【0119】
結果を図2に示す。
【0120】
すべての場合において、DSFが酵母呼吸を増加させることは明らかである。DSFで処理した突然変異株の呼吸は、対応する野生型株で観察された呼吸のレベルに達し得る。
実施例4~7:ヒト細胞モデル
【0121】
DSFは様々な酵母突然変異株に基づいてプラスの効果を有することが分かったため、次に患者由来のヒト突然変異細胞で試験した:NARPまたはMELAS突然変異を有するサイブリッド(細胞質ハイブリッド)細胞が実施例4~7で使用される。
実施例4:低グルコース培地におけるNARPサイブリッド呼吸増殖に対するDSFの効果
材料および方法
【0122】
サイブリッド細胞株JCP213(WT対照)およびJCP239(NARP T8993G、Manfredi Gら)を、高グルコース(4.5g/L最終濃度)DMEM(ウシ胎児血清-FBS-を5%の最終濃度で、ピルビン酸ナトリウムを1 mMの最終濃度で、L-グルタミンを4mMの最終濃度で、ウリジンを200μMの最終濃度で補充したもの)中で増殖させ、次いで、解糖ではなくOXPHOS(酸化ホスホリル化)に依存する細胞を促すためにグルコースが欠乏していることを除いて、以下を補充した同じDMEMベース培地に移した:
-様々な濃度のDSF;または
-対照として等量のDMSO(化合物ビヒクル、陰性対照);または
-以前の研究(Couplan EらおよびAiyar RSら)と同様に、陽性対照としての150μMのジヒドロリポ酸(DHLA)。全ての細胞を、5%CO2の存在下、37℃で増殖させた。
結果
【0123】
結果を図3に示す。
【0124】
DSFは、低濃度(1nMから)では、グルコース欠乏培地でのNARPサイブリッドの増殖に対して有意なプラスの効果を有する。対照的に、同じ濃度範囲では、DSFはグルコース欠乏培地での対照サイブリッド(JCP213)の増殖に影響を及ぼさない。
実施例5:ニューロンMELASサイブリッドに対するDSFの効果
材料および方法
【0125】
MELAS症候群の原因となる98.6%の突然変異負荷量を有するm.3243A>Gを有するSH-SY5Yニューロン突然変異サイブリッドを、別の文献に記載されているように(Desquiret-DumasらおよびGeffroyら)、10%ウシ胎児血清、1%グルタミンおよび50μg/mlウリジンを補充した標準DMEM高グルコース培地(4.5g/L)または低グルコース(0.5g/L)中で、5%COの存在下、37℃で培養した。薬物濃度を最適化するために、細胞を、様々な濃度のDSFまたはビヒクル(DMSO)を補充した低グルコース培地0.5g/l(細胞を解糖ではなくOXPHOSに依存させるため)に移した。
【0126】
実験を少なくとも3連で繰り返し、エラーバーは標準偏差を表す。処理細胞と未処理細胞(DMSO)との差を、スチューデントのt検定を用いて有意なp値<0.05で評価した。
結果
【0127】
結果を図4~7に示す。
【0128】
図4は、300nM未満の濃度では、DSFが、900nMの濃度とは対照的に、MELASサイブリッドの細胞増殖に影響を及ぼさないことを明らかにしている(図4A)。
実施例6:MELASサイブリッド細胞のミトコンドリア複合体I酵素活性に対するDSFの効果
材料および方法
【0129】
複合体Iの酵素活性を、説明されているように(Desquiret-Dumasら、2012)、UVmc2分光光度計(SAFAS)で37℃で測定した。複合体I酵素活性のために、50万個の細胞を超音波処理し(5秒間6サイクル)、次いで反応培地(KHPO 100 mM、pH7.4、KCN 1mM、NaN 2mM、BSA 1mg/ml、ユビキノン-1 0.1mMおよびDCPIP 0.075mM)中37℃でインキュベートした。0.15mMのNADHを添加することによって反応を開始し、DCPIPの消失速度を600nmで2分間測定した。非特異的活性を、ロテノン(5μM)の存在下で測定した。
結果
【0130】
図5は、様々な濃度、特に30~90nMのDSFが、MELASニューロン突然変異サイブリッド細胞における複合体I活性を増加させることを示している。
実施例7:MELASサイブリッド細胞のミトコンドリア複合体I呼吸に対するDSFの効果
材料および方法
【0131】
細胞酸素消費量を、別の文献に記載されているように(Desquiret-Dumasら、2012)、高解像度オキシグラフ(Oroboros)で、処理されたMELASサイブリッド細胞対未処理突然変異細胞において37℃で測定した。
【0132】
短時間処理および未処理の突然変異細胞をトリプシン処理し、ペレットを15μg/100万細胞のジギトニンを含有する呼吸緩衝液(KHPO 10mM、マンニトール300mM、KCl 10mM、MgCl 5mM、pH7.4)に再懸濁した。細胞を室温で2.5分間インキュベートし、1mg/mlのBSAを補充した5容量の呼吸緩衝液を添加することによってジギトニン作用を停止させた。細胞を遠心分離し(800rpm、2.5分)、呼吸緩衝液+BSA(50μl/100万細胞)に再懸濁し、オキシグラフチャンバ(Oroboros)に入れた。酸素消費量は、状態II(5mMリンゴ酸塩+ピルビン酸塩)、状態III(5mMリンゴ酸塩+ピルビン酸塩+1.5mM ADP+0.5mM NADまたは5mMコハク酸塩+10μMロテノン+1.5mM ADP+0.5mM NAD)、状態IV(8μg/mlオリゴマイシン)および最大シトクロムcオキシダーゼ能力(4mMアスコルビン酸塩+0.2mM TMPD)で測定した。オキシグラフ測定の後、400μlの細胞懸濁液をチャンバから取り出し、ビシンコニン酸を用いてタンパク質濃度を測定した。
結果
【0133】
図6は、様々な濃度のDSFがMELAS神経サイブリッド細胞における複合体I関連呼吸を増加させることを示している。
【0134】
さらに、図7は、10nMの濃度のDSFが、MELAS神経サイブリッド細胞におけるミトコンドリア複合体Iおよび複合体IV関連呼吸を増加させることを明らかにしている。
実施例8:MELASサイブリッド細胞の乳酸産生に対する非毒性の最大DSF濃度の決定。
材料および方法
乳酸測定
【0135】
培養培地中の乳酸濃度は、製造業者(Roche Diagnosis、ベール、スイス)の推奨に従ってHitachi-Roche装置で分光光度法によって決定した。細胞培養の上清中の乳酸濃度の増加は、ミトコンドリア機能を犠牲にした解糖適応を証明しており、酸化的ミトコンドリア代謝の減少は、DSFの高濃度および薬物毒性と相関している。
結果
【0136】
結果を図8に示す。
【0137】
図8は、1μM未満の濃度では、DSFが、1μMまたはさらに高濃度の3μMもしくは10μMとは対照的に、薬物毒性を評価するためのMELASサイブリッドの乳酸産生に影響を及ぼさないことを明らかにしている。
実施例9:マウスモデルにおけるDSF処置の有効性
【0138】
ND6遺伝子のミトコンドリアDNA(mtDNA)のホモプラスミックm.13997G<Aを有するマウスモデルND6mutを使用して試験を行った。前記遺伝子は、呼吸鎖複合体IのサブユニットであるNADH-ユビキノン酸化還元酵素鎖6タンパク質をコードする。対応するヒト突然変異はm.14600G<Aであり、置換pPro25Leuをもたらす。そのような遺伝的変異は、ヒトにおけるミトコンドリア疾患の原因であるとして報告された。ND6mutマウスは、通常6月齢で始まる脳障害、光学的萎縮ならびに心筋症を示す。
【0139】
DSFによる処置を5月齢マウスに1ヶ月間適用する。DSFを以下の1日用量で経口投与する。
-100mg/kg
-50mg/kg
-25mg/kg
-5mg/kg
【0140】
以下の試験を、処置の前後に、対照マウス(ND6遺伝子について変異していない)、およびDSFで処置したまたは処置していないND6mutマウスに対して行う:
-心エコー分析による心機能の評価;
-トレッドミル試験および自発的な回転輪運動(ACTIVIWHEEL)による筋肉機能の評価;
-取り出された心臓の分子的および組織学的分析(例えば、ミトコンドリアゲノムの完全性および複合体I活性)。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】