(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-06
(54)【発明の名称】ピアスナットおよび閉じた断面形状を持つ相手部材の内面へのピアスナットの固定方法
(51)【国際特許分類】
F16B 37/04 20060101AFI20220929BHJP
B21D 39/00 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
F16B37/04 E
B21D39/00 D
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502161
(86)(22)【出願日】2021-05-26
(85)【翻訳文提出日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2021019915
(87)【国際公開番号】W WO2022004201
(87)【国際公開日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2020113082
(32)【優先日】2020-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001977
【氏名又は名称】弁理士法人クスノキ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松並 重樹
(72)【発明者】
【氏名】古賀 一博
(72)【発明者】
【氏名】増井 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 建一郎
(72)【発明者】
【氏名】小島 剛
(72)【発明者】
【氏名】勝又 雄一
(57)【要約】
本発明のピアスナットは、ナット本体10の中央に形成されためねじ部11と、その外周に突設された環状打ち抜き部12と、その外周に形成された環状溝部16と、その外周に突設された座面17とからなるピアスナットであって、環状打ち抜き部12の高さhを、従来とは逆に、座面17の高さH以下としたものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナット本体の中央に形成されためねじ部と、このめねじ部の外周に突設された環状打ち抜き部と、この環状打ち抜き部の外周に形成された環状溝部と、この環状溝部の外周に突設された座面とからなるピアスナットであって、
前記環状打ち抜き部の内周壁及び外周壁をテーパ状とし、
前記環状打ち抜き部の高さを、前記座面の高さ以下としたことを特徴とするピアスナット。
【請求項2】
前記環状溝部の深さを、相手部材の板厚の1.2~2.0倍としたことを特徴とする請求項1に記載のピアスナット。
【請求項3】
前記環状打ち抜き部の高さは、環状溝部の底面と座面との範囲内において、環状溝部の底面から50~99%の位置にあることを特徴とする請求項1または2に記載のピアスナット。
【請求項4】
前記環状溝部の外周壁に、セレーションを形成したことを特徴とする請求項1~3の何れかに記載のピアスナット。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載のピアスナットを、閉じた断面形状を持つ相手部材の内面で保持してピアスナットの座面を相手部材の内面に密着させ、相手部材の外側に配置されたダイスを降下させてダイスの環状突起により相手部材を打ち抜き、相手部材をピアスナットの座面に支持したまま、ピアスナットを相手部材の内面にかしめ固定することを特徴とする閉じた断面形状を持つ相手部材の内面へのピアスナットの固定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば角材やアルミ押出し材のような閉じた断面形状を持つ相手部材に取り付けられるピアスナットと、このピアスナットを閉じた断面形状を持つ相手部材の内面固定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ピアスナットは相手部材に打ち込むことによってかしめ固定されるナットであり、特許文献1に示されるように従来から広く知られている。
図1に示すように、従来のピアスナットはめねじ部1の外周に環状打ち抜き部2を突設し、この環状打ち抜き部2の外周に環状溝部3と座面4とを形成した構造が一般的である。そしてこの環状打ち抜き部2は、相手部材を確実に打ち抜くために座面4よりも上方に突出している。
【0003】
このようなピアスナットは、
図2に示すように相手部材Wの表面にセットされ、相手部材Wの裏面に配置されたダイス5と、パンチ6とを用いて打ち込まれる。打ち込みと同時に環状打ち抜き部2が相手部材Wに貫通孔を形成し、貫通孔の周囲の金属を環状打ち抜き部2の外周に形成された環状溝部3に塑性流動させ、相手部材Wにかしめ固定される。この場合にはダイス5により固定された相手部材Wに対して、ピアスナットが移動して打ち込まれることとなる。
【0004】
ところが
図3のように、角材やアルミ押出し材のような閉じた断面形状を持つ相手部材Wの内面にピアスナットを取付けたい場合には、パンチ6を相手部材Wの内側で移動させることはできない。このため、相手部材Wの内側でパンチ6を固定し、相手部材Wの外側からダイス5を下降させてかしめることとなる。
【0005】
この
図3に示す状態では、環状打ち抜き部2の先端が相手部材Wの内面に当接しており、座面4との間に隙間7がある。そして
図4のようにダイス5を下降させて打ち込みを行うと、環状打ち抜き部2が相手部材Wを貫通すると同時に、相手部材Wは座面4に当接するまで押し下げられる。この場合には
図2に示した従来技術とは異なり、固定されたピアスナットに対して相手部材Wが移動する。このため相手部材Wのピアスナットの取付面8の位置が隙間7の分だけ周囲よりも下がることとなり、
図5のように別部材9をボルト固定する場合に、好ましくないくぼみが発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は上記した従来の問題点を解決して、閉じた断面形状を持つ相手部材に取り付けた場合にも、ピアスナット取付面の位置が下がることのないピアスナットおよび閉じた断面形状を持つ相手部材の内面へのピアスナットの固定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明のピアスナットは、ナット本体の中央に形成されためねじ部と、このめねじ部の外周に突設された環状打ち抜き部と、この環状打ち抜き部の外周に形成された環状溝部と、この環状溝部の外周に突設された座面とからなるピアスナットであって、前記環状打ち抜き部の高さを、前記座面の高さ以下としたことを特徴とするものである。なお、前記環状溝部の深さを、相手部材の板厚の1.2~2.0倍とすることが好ましい。また、前記環状打ち抜き部の高さは、環状溝部の底面と座面との範囲内において、環状溝部の底面から50~99%の位置にあることが好ましい。また、前記環状溝部の外周壁に、セレーションを形成することが好ましい。
【0009】
また上記の課題を解決するためになされた本発明の閉じた断面形状を持つ相手部材の内面へのピアスナットの固定方法は、上記したピアスナットを、閉じた断面形状を持つ相手部材の内面で保持してピアスナットの座面を相手部材の内面に密着させ、相手部材の外側に配置されたダイスを降下させてダイスの環状突起により相手部材を打ち抜き、相手部材をピアスナットの座面に支持したまま、ピアスナットを相手部材の内面にかしめ固定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のピアスナットは、環状打ち抜き部の高さを座面の高さ以下としたという従来にない構造であるため、閉じた断面形状を持つ相手部材に取り付ける場合、相手部材はピアスナットの座面に当接したままでダイスによる打ち込みが完了する。このため、従来のように相手部材の取付面の高さが下がることはなく、取付面の周囲がくぼむように変形することを防止することができる。
【0011】
なお、環状溝部の深さは相手部材の板厚と同等又はそれよりも浅くするのが普通であるが、環状溝部の深さを相手部材の板厚の1.2~2.0倍として従来よりも深くしておけば、環状打ち抜き部の高さを座面の高さよりも低くしても、孔抜き及びかしめ効果が低下することがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】従来のピアスナットを平板状の相手部材に打ち込む状態を示す断面図である。
【
図3】従来のピアスナットを閉じた断面形状を持つ相手部材に打ち込む直前の状態を示す断面図である。
【
図4】従来のピアスナットを閉じた断面形状を持つ相手部材に打ち込む状態を示す断面図である。
【
図5】従来のピアスナットを閉じた断面形状を持つ相手部材に打ち込んだ場合の問題点を示す断面図である。
【
図6】本発明の実施形態のピアスナットを示す断面図である。
【
図7】本発明のピアスナットを閉じた断面形状を持つ相手部材に打ち込む直前の状態を示す断面図である。
【
図8】本発明のピアスナットを閉じた断面形状を持つ相手部材に打ち込む状態を示す断面図である。
【
図9】本発明のピアスナットを閉じた断面形状を持つ相手部材に打ち込んだ後の状態を示す断面図である。
【
図10】本発明のピアスナットを閉じた断面形状を持たない相手部材に打ち込んだ状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。
図6は実施形態のピアスナットの断面図であり、10は鋼製のナット本体、11はその中央部に形成されためねじ部、12はこのめねじ部11の外周に突設された環状打ち抜き部である。
図6に示されるように、この環状打ち抜き部12の内周壁13及び外周壁14はテーパ状であって、その上面である打ち抜き面15はフラットとなっている。この実施形態では、内周壁13は打ち抜き面15に対して約45度の角度、外周壁14は打ち抜き面15に対して約75度の角度となっている。しかしこれらの角度に限定されるものではない。
【0014】
16はこの環状打ち抜き部12の外周に形成された環状溝部であり、その外周にはフラットな座面17が形成されている。この実施形態では環状溝部16の外周壁18は座面17に対して垂直であり、セレーション19が形成されている。なお、座面17にも回り止め用の凹凸を形成してもよい。
【0015】
本発明のピアスナットは従来のピアスナットとは異なり、環状打ち抜き部12の高さhが座面17の高さ以下となっている。ここで環状打ち抜き部12の高さhは、環状溝部16の底面20から打ち抜き面15までの距離を意味し、座面17の高さHは環状溝部16の底面20から座面17までの距離を意味する。
図6に示した実施形態では、環状打ち抜き部12の高さhが座面17の高さHよりも0.1mm程度低くなっている。しかし環状打ち抜き部12の高さhを座面17の高さHより大幅に低くすると相手部材Wを打ち抜き難くなる。このため、環状打ち抜き部12の高さhは、環状溝部の底面20と座面17との範囲内において、環状溝部の底面20から50~99%の位置にあることが好ましい。すなわち、h/H=0.5~0.99とすることが好ましい。
【0016】
環状溝部16の深さ(前記した座面17の高さHに等しい)は、相手部材Wの板厚と同等又はそれよりも浅くするのが普通である。しかしこの実施形態では、環状溝部16の深さを相手部材Wの板厚よりも深くしてある。これは、環状打ち抜き部12の高さを低くしたことによる打ち抜き特性の低下を緩和する意味があり、この深さを相手部材Wの板厚の1.2~2.0倍とすることが好ましい。このように環状溝部16の深さを従来よりも深くしておけば、打ち抜き特性の向上とともに、相手部材を環状溝部16の内部に深く塑性流動させてかしめ特性の向上を図ることもできる。環状溝部16の深さがこの数値範囲を下回ると打ち抜き特性及びかしめ特性が不足し、この数値範囲を超えると環状溝部16の内部を塑性流動した金属で十分に満たすことができなくなり、やはりかしめ特性が不足するおそれがある。
【0017】
この実施形態のように、環状溝部16の外周壁18にセレーション19を形成しておけば、環状溝部16の内部に塑性流動した金属がセレーション19に食い込むため、回り止め効果を高めることができる。
【0018】
このように構成された本発明のピアスナットを取付けるには、先ず
図7に示すように、閉じた断面形状を持つ相手部材Wの内部において、ナット本体10の下面をパンチ21で支持して相手部材Wの内面に押し付ける。このピアスナットは座面17が打ち抜き面15よりも高い位置にあるため、座面17が相手部材Wの内面に密着した状態となる。
【0019】
相手部材Wの外側の同軸上の位置にはダイス22を配置し、
図8に示すようにピアスナットに向けて降下させる。
図8はダイス22の下面が相手部材Wの表面に接触した瞬間を示しており、ダイス22はさらに降下し、その環状突起23が相手部材Wを円形に打ち抜くとともに、打ち抜き部分の周囲を環状溝部16の内部に塑性流動させ、
図9のようにピアスナットを相手部材Wの内面にかしめ固定する。
【0020】
このとき、相手部材Wはピアスナットの座面17に支持されたままであって、ピアスナットの中心部のみが打ち抜かれるとともに塑性変形するだけである。このため
図9に示すように、相手部材Wの取付面の周囲は完全にフラットな状態のままとなり、従来のように取付面が下がることによるくぼみが生ずることはない。
【0021】
以上に説明したように、本発明のピアスナットはパンチを入れることができない閉じた断面形状を持つ相手部材Wの内部に取り付けるに適したものである。なお、
図10に示したように、本発明のピアスナットは閉じた断面構造を持たない相手部材Wにも取り付け可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0022】
W 相手部材
1 めねじ部(従来のピアスナット)
2 環状打ち抜き部
3 環状溝部
4 座面
5 ダイス
6 パンチ
7 隙間
8 取付面
9 別部材
10 ナット本体(本発明のピアスナット)
11 めねじ部
12 環状打ち抜き部
13 内周壁
14 外周壁
15 打ち抜き面
16 環状溝部
17 座面
18 外周壁
19 セレーション
20 底面
21 パンチ
22 ダイス
23 環状突起
【手続補正書】
【提出日】2022-01-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0006】
【国際調査報告】