(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-06
(54)【発明の名称】基板へのイオン注入に使用するエネルギーフィルタ
(51)【国際特許分類】
G21K 3/00 20060101AFI20220929BHJP
G21K 5/04 20060101ALI20220929BHJP
G21K 1/00 20060101ALI20220929BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
G21K3/00 W
G21K5/04 A
G21K1/00 A
G21K3/00 Y
H01J37/317 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022503408
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(85)【翻訳文提出日】2022-03-10
(86)【国際出願番号】 EP2020071559
(87)【国際公開番号】W WO2021019038
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】102019120623.5
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518351230
【氏名又は名称】エムアイツー‐ファクトリー ジーエムビーエイチ
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】カサト,コンスタンティン
(72)【発明者】
【氏名】クリッペンドルフ,フロリアン
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA25
5C101EE34
5C101EE44
(57)【要約】
本発明によれば、基板へのイオン注入に用いるエネルギーフィルタ(20)は、基板(12)において、注入によってもたらされるドーパント深さプロファイルおよび/または欠陥深さプロファイルを設けるためのマイクロパターンが形成されており、エネルギーフィルタ(20)の高さ方向に次々と配置される2つ以上の層または層部(14)を有する。エネルギーフィルタ(20)はまた、少なくとも2つの層または層部(14)の間に配置された複数のキャビティ(16)を有し、キャビティ(16)を境界付け、少なくとも2つの層または層部(14)を互いに接合する内壁を有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(12)へのイオン注入に用いるエネルギーフィルタ(20)であって、
注入によってもたらされるドーパント深さプロファイルおよび/または欠陥深さプロファイルを前記基板(12)に設けるためにマイクロパターンが形成され、
前記エネルギーフィルタ(20)の高さ方向に次々に配置される2つ以上の層又は層部(14)を有し、
それぞれが少なくとも2つの層または層部(14)の間に配置された複数のキャビティ(16)を有し、前記キャビティ(16)を境界付け、少なくとも2つの層または層部(14)を互いに接合する内壁(18)を有することを特徴とする、エネルギーフィルタ(20)。
【請求項2】
前記エネルギーフィルタ(20)の外側を境界付ける2つの層(14)が設計において実質的に連続していることを特徴とする、請求項1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項3】
前記エネルギーフィルタ(20)の外側を境界付ける2つの層(14)が設計において実質的に平面的であることを特徴とする、請求項1又は2に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項4】
2つの連続する層または層部(14)間の距離が、100nm-5mm、好ましくは200nm-50μmであることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項5】
層または層部(14)の厚さが50nm-5μm、好ましくは100nm-3μmであることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項6】
内壁(18)の厚さが0.5-500μm、好ましくは2-100μmであることを特徴とする、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項7】
それぞれがキャビティ(16)と少なくとも2つの内壁(18)とを備える複数の個別セル(22)を有することを特徴とする、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項8】
前記個別セル(22)は、ハニカム状に配置されていることを特徴とする、請求項7に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項9】
複数の個別セル(22)の場合、前記エネルギーフィルタ(20)の高さ方向における前記個別セル(22)の前記内壁(18)の延在部に対する前記エネルギーフィルタ(20)の長さ方向又は幅方向における前記個別セル(22)の最大横延在部の比が、1:2-1:12、好ましくは1:4-1:10であることを特徴とする、請求項7又は8に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項10】
互いに隣接して配置され、前記エネルギーフィルタ(20)の高さ全体に渡り延びる複数の柱状構造要素(24)を備え、前記複数の柱状構造要素(24)は、それぞれ、前記エネルギーフィルタ(20)の高さ方向に次々に配置された複数の層部(14)を含むことを特徴とする、請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項11】
前記複数の柱状構造要素(24)は、それぞれ、複数のキャビティ(16)および複数の内壁(18)を含むことを特徴とする、請求項10に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項12】
前記複数の柱状構造要素(24)は、それぞれ、前記エネルギーフィルタ(20)の高さ方向に次々に配置された複数の個別セル(22)を含むことを特徴とする、請求項10に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項13】
複数の充填セル(26)を有することを特徴とする、請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項14】
前記複数の内壁(18)が、前記層または層部(14)に対して垂直に配置されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項15】
前記複数の内壁(18)が、前記層または層部(14)に対して斜めに配置されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板へのイオン注入に使用するエネルギーフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のマイクロパターン化されたエネルギーフィルタは、イオンビームが基板に到達する前に通過し、注入によってもたらされるドーパント深さプロファイルを基板に形成する役割を果たす。
【0003】
このようなエネルギーフィルタの1つは、例えば、DE10 2016 106 119A1に記載されている。それは、典型的には、マイクロパターン化された膜として設計され、その外面には、所定の幾何学的プロファイルが形成されている。また、エネルギーフィルタは、2つ以上の層で構成されていてもよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのようなエネルギーフィルタの問題には、膜の機械的感受性、または、比較的厚い支持層の必要性が含まれ、これらは、その減速特性のために、しばしば望ましくない一次イオンエネルギーの増加を必要とする。
【0005】
本発明の目的は、機械的安定性の向上を示し、したがって、大きな表面積の設計とすることができ、また、低エネルギーの一次イオンビームのための使用にも適しており、基板内の均一かつ高精度のドーパント深さ分布を可能にする、エネルギーフィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的は、請求項1に記載の特徴によって達成される。
【0007】
本発明によれば、基板へのイオン注入に用いるエネルギーフィルタは、基板において、注入によってもたらされるドーパント深さプロファイルおよび/または欠陥深さプロファイルを設けるためのマイクロパターンが形成されており、エネルギーフィルタの高さ方向に次々と配置される2つ以上の層または層部を有する。エネルギーフィルタはまた、少なくとも2つの層または層部の間に配置された複数のキャビティを有し、キャビティを境界付け、少なくとも2つの層または層部を互いに接合する内壁を有する。
【0008】
このようにして、目標とするドーピングプロファイルに必要な最小限の一次イオンエネルギーで動作し、機械的安定性が改善されたエネルギーフィルタが提供される。また、後の理由として、エネルギーフィルタは従来よりも表面積が大きくなり、より大きな基板径に対応することができる。
【0009】
エネルギーフィルタの外側を境界付ける2つの層は設計において実質的に連続している。これにより、エネルギーフィルタでスパッタリングにより除去された物質が基板を広範囲に汚染することを防ぐことができる。
【0010】
エネルギーフィルタの外側を境界付ける2つの層が設計において実質的に平面的である。埃やゴミが溜まりやすいプロファイル面に対し、フラット面は比較的汚れにくい。
【0011】
好ましい実施形態では、2つの連続する層または層部間の距離が、100nm-5mm、好ましくは200nm-50μmである。
【0012】
好ましい実施形態では、層または層部の厚さが50nm-5μm、好ましくは100nm-3μmである。
【0013】
好ましい実施形態では、内壁の厚さが0.5-500μm、好ましくは2-100μmである。
【0014】
エネルギーフィルタは、好ましくは、それぞれがキャビティと少なくとも2つの内壁とを備える複数の個別セルを有する。このようにして、所望のドーピングプロファイルを特に特定の精度で設けることができる。
【0015】
エネルギーフィルタは、好ましくは、ハニカム状に配置されている。
【0016】
複数の個別セルの場合、エネルギーフィルタの高さ方向における個別セルの内壁の延在部に対するエネルギーフィルタの長さ方向及び/又は幅方向における個別セルの最大横延在部の比が、1:2-1:12、より好ましくは1:4-1:10である。このように、個別セルは同時に統合されたコリメータ構造として機能する。
【0017】
エネルギーフィルタは、好ましくは、互いに隣接して配置され、前記エネルギーフィルタの高さ全体に渡り延びる複数の柱状構造要素を備え、前記複数の柱状構造要素は、それぞれ、前記エネルギーフィルタの高さ方向に次々に配置された複数の層部を含む。
【0018】
より好ましくは、前記複数の柱状構造要素は、それぞれ、前記エネルギーフィルタの高さ方向に次々に配置された複数の個別セルを含む。
【0019】
この構造要素は、基本的に500nm-500μmの横方向の寸法を持ち、定められた個別の透過イオンエネルギーを定めることができる。
【0020】
所与のターゲット深さプロファイルに必要なすべてのエネルギー調整の構造要素を含む構造要素配置の横方向の延在部は、その横方向の寸法が5μm-30mmの間にある。
【0021】
エネルギーフィルタは、好ましくは3μm-5cmの間、より好ましくは5μm-300μmの間、特に好ましくは50μm-200μmの間の厚さを有する。
【0022】
エネルギーフィルタは、好ましくは2cm-50cmの間の長さおよび幅を有する。
【0023】
エネルギーフィルタはまた、複数の充填セルを有してもよい。 これにより減速能力を高めることができる。
【0024】
複数の内壁が、層または層部に対して垂直に配置されるようにしてもよい。
【0025】
複数の内壁が、層または層部に対して斜めに配置されるようにしてもよい。この場合、層や層部と同じように、内壁も減速の役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、エネルギーフィルタを用いて基板にイオン注入を行う場合の動作原理を示す模式図である。
【
図2】
図2は、エネルギーフィルタの動作モードを示す模式図である。
【
図3】
図3は、異なるパターニングを施したエネルギーフィルタによって生成されるさまざまなドーピングプ ロファイルを示す模式図である。
【
図4】
図4は、本発明のエネルギーフィルタの一実施形態の詳細を示す模式的断面図である。
【
図5】
図5は、本発明のエネルギーフィルタの一実施形態の詳細を示す模式的縦断面図である。
【
図6】
図6は、本発明のエネルギーフィルタの代替実施形態の詳細を示す模式的縦断面図である。
【
図7】
図7は、本発明のエネルギーフィルタの代替実施形態の詳細を示す模式的断面図である。
【
図8】
図8は、本発明のエネルギーフィルタの代替実施形態の詳細を示す模式的断面図である。
【
図9】
図9は、本発明のエネルギーフィルタの代替実施形態の詳細を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1では、エネルギーフィルタ20を用いた基板12へのイオン注入の動作原理が模式的に表されている。
図1に示す基板12へのイオン注入のためのセットアップは、通常高真空である照射室8を示している。照射室8において、ドーピングされる基板12は、基板マウント30に収容される。
【0028】
基板12の材料は、炭化ケイ素(SiC)であることが好ましい。しかし、他の材料、例えば、シリコン、ガリウムヒ素、テルル化カドミウム、セレン化亜鉛、窒化ガリウム、プラスチック、ガラスまたは絶縁体(ダイヤモンド)等も好適である。基板12は、好ましくは、ウェハとして構成される。基板12は、典型的には、4μm-5mmの厚さを有する。
【0029】
粒子加速器(図示せず)によりイオンビーム10を生成し、照射室8へ通す。イオンビーム10のエネルギーは、エネルギーフィルタ20によってそこに拡散され、イオンビームは基板12に衝突して照射される。あるいは、エネルギーフィルタ20は、照射室8内または照射室8に直接接するように、バルブを用いて密閉可能な別の真空室内に配置してもよい。
【0030】
実装基板30は固定されている必要はなく、代わりに基板12をx-y方向(シート面に垂直な面内)に変位させる手段を任意に設けてもよい。また、実装基板30として、さらに、注入用の基板12が固定されるウェハホイールも考慮され、当該ホイールは、注入中に回転する。また、実装基板30のビーム方向(z方向)への変位も可能である。さらに、実装基板30は、任意に冷却機能を備えてもよい。
【0031】
エネルギーフィルタ20の基本原理を、
図2に示す。単一エネルギーのイオンビーム10は、マイクロパターン化されたエネルギーフィルタ20を通過する際に、入射位置に応じてそのエネルギーが変更される。結果として生じるイオンビーム10のイオンのエネルギー分布は、基板12のマトリックスに注入された物質の深さプロファイルの変更をもたらす。E1は第1のイオンのエネルギーを示し、E2は第2のイオンのエネルギーを示し、cはドーピング濃度を示し、dは基板12内の深さを示す。図中の右側には、通常のガウス分布が参照記号Aで示されており、これはエネルギーフィルタ20を使用しない場合に生じる分布である。逆に、参照記号Bで描かれているのは、エネルギーフィルタ20を使用した場合に実現可能な矩形分布である。
【0032】
図3に示すエネルギーフィルタ20のレイアウトまたは三次元構造は、エネルギーフィルタ20を用いて多数のドーパント深さプロファイルまたは欠陥深さプロファイルを生成するための理論的可能性を示している。ここでも、cはドーピング濃度を示し、ここでもdは基板12内の深さを示す。フィルタ構造プロファイルは、原則として、新しいフィルタ構造プロファイル、ひいては新しいドーパント深さプロファイルまたは欠陥深さプロファイルを得るために、互いに組み合わせることができる。
【0033】
本発明のエネルギーフィルタ20は、フィルタフレーム(図示せず)に保持されていてもよい。フィルタフレームは、フィルタマウント(図示せず)に交換可能に収容されてもよい。
【0034】
図4は、本発明のエネルギーフィルタ20の一実施形態の詳細を、模式的な断面で示したものである。示されているエネルギーフィルタ20の詳細は、全体の構造のほんの一部に過ぎない。
【0035】
エネルギーフィルタ20は、矢印で示すように、好ましくはイオンビーム10のビーム方向に対応する高さ方向に多層構造となっている。このため、エネルギーフィルタ20は、エネルギーフィルタ20の高さ方向に次々と配置される複数の層又は層部14を有する。層または層部14の数は、2-100であり、好ましくは10-30である。
【0036】
ある特定の層14は、エネルギーフィルタ20の全幅および/または全長に渡って延在することが可能であり、より詳細には、エネルギーフィルタ20の外側を境界付ける2つの層14(
図4では、最上部および最下部の層14)である。また、特定の層または層部14が、エネルギーフィルタ20の小領域にのみ延在することも、本発明の文脈では好ましいことである。これらの層または層部14は、主にエネルギーフィルタ20におけるイオンビーム10のエネルギーを調整する役割を担っている。
【0037】
エネルギー調整をする層又は層部14は、互いに平行に配置されていることが好ましい。しかしながら、1つのエネルギー調整をする層14が他の層14に対して平行に配向されていない場合もあり得る(
図4の左側参照)。
【0038】
各層又は層部14は、膜として構成されていることが好ましい。層または層部14の材料は、同一であっても異なっていてもよい。層または層部14の好適な材料としては、特に、シリコン、炭化ケイ素、またはカーボンが挙げられる。他の材料も考えられる。層または層部14は、典型的には、エネルギーフィルタ20の高さ方向に互いに距離を置いているが、2つ以上の層または層部14が互いに直接接していることも可能である。
【0039】
結果として生じる、エネルギーフィルタ20の下流にある単一エネルギーのイオンビーム10のエネルギー分布は、エネルギーフィルタ20におけるそれぞれの累積エネルギー損失に対応した離散的なエネルギーで構成されることになる。
【0040】
エネルギーフィルタ20の高さ方向に連続する2つの層または層部14が互いに間隔を空けて配置されている場合、これらの層または層部14の間にキャビティ16が形成される。本発明によれば、エネルギーフィルタ20は、複数のこのようなキャビティ16を有している。内壁18は、キャビティ16を境界付け、それぞれの場合に少なくとも2つの層または層部14を互いに接続する。
図4に示す例示的な実施形態では、内壁18は、エネルギーフィルタ20の高さ方向、すなわち、イオンビーム10のビーム方向に平行に走っている。エネルギーフィルタ20の個々のキャビティ16の間の横方向に境界付けるこれらの内壁18が、イオンが隣接するキャビティ16に通過できないような厚さを有していると有利である場合がある。
【0041】
従来のエネルギーフィルタにおける状況とは逆に、エネルギーフィルタ20の外側を境界付ける両層14は、設計において実質的に平面的になっている。この場合、エネルギーフィルタ20の内部構造は、所望のエネルギー調整を確保するために、それ自体で必要とされる。しかしながら、エネルギーフィルタ20の外側を境界付ける2つの層14の少なくとも一方が、部分的または完全なプロファイルを有することも可能である。
【0042】
本発明のエネルギーフィルタ20の構造を換言すれば、エネルギーフィルタ20は、各場合にキャビティ16と少なくとも2つの内壁18とを含む複数の個別セル22を有している。
図4では、個別セル22の一例がハッチングで示されている。本発明のエネルギーフィルタ20をより機能的な観点から説明するならば、それは、互いに隣接して配置され、エネルギーフィルタ20の高さ全体に渡り延びる複数の柱状構造要素24から構成される。
図4には、柱状構造要素24の一例がドットで描かれている。大多数の柱状構造要素24は、それぞれ、エネルギーフィルタ20の高さ方向に次々に配置された複数の層部14を含んで構成される。それぞれの柱状構造要素24においてイオンビーム10が通過することになる層部14の数、材料および厚さは、エネルギーフィルタ20のこの微小領域におけるイオンビームのエネルギー損失を規定する。
【0043】
言い換えれば、全てではないにしても、大多数の柱状構造要素24は、それぞれ、複数のキャビティ16と複数の内壁18とを含んで構成される。同様に、一般に、複数の柱状構造要素24は、それぞれ、エネルギーフィルタ20の高さ方向に次々に配列された複数の個別セル22を有する。
【0044】
全体として、エネルギーフィルタ20の構成には、多数の点で実質的に制限はない。既に上述したように、層または層部14は、エネルギーフィルタ20の全長および/または全幅に渡って、またはそれより大きな、または、より小さな小領域にわたって延在してもよい。同様に、内壁18は、エネルギーフィルタ20の高さ方向において、エネルギーフィルタ20の高さ全体に渡って延在していてもよいし、さもなければ、その小領域にわたってのみ延在していてもよい。その結果、個別セル22がそれぞれ個々の柱状構造要素24に属するパターン、そうでなければ2つ以上の柱状構造要素24に渡って包括的に延在している可能性もある。
【0045】
このようにして、エネルギーフィルタ内で、層または層部14、および内壁18の適切なパターニングを通じて、イオンビーム10の所望のエネルギー調整をもたらすエネルギーフィルタ20の内部プロファイルパターンを形成することが可能となる。
【0046】
図4に示された実施形態では、結果として得られる構造は、実質的に三角形の構造を有する層または層部14の階段状のプロファイルのそれであり、ドットで描かれた構造要素24の左側にピークを有する。この中間の構造要素24において、イオンビーム10は、エネルギーフィルタ20の高さ方向において最も多くの層または層部14を通過しなければならず、したがって、最も多くのエネルギーを失う。さらに側方に配置された構造要素24では、それぞれ、イオンビーム10が通過しなければならない層または層部14の数が少なくなっていく。このような三角形構造または他の規則的な幾何学的構造は、層および層部14の適切な選択および配置によってほぼ無限に生成することができる。
【0047】
図4に示された構造要素24は、一緒に構造要素配置28を形成する。このような構造要素配置28は、例えば、大面積基板12を照射するために、任意の所望の方法で周期的に互いに並んで多重に配置され、一緒にエネルギーフィルタ20を形成することができる。
【0048】
任意の深さプロファイルの設計は、個々の構造要素24が異なる延在部を占め、したがって構造要素配置28の全体表面積との関係で異なる二次元延在部を占めることによって達成され得る。この手段により、各設計について、基板12内のこのイオンエネルギーに割り当てられた浸透深さの結果としてのイオン濃度が、任意の所望の形態で設計されることが可能である。
【0049】
エネルギーフィルタ20の静的使用(基板12およびエネルギーフィルタ20は移動しない)の場合、所望のエネルギースペクトル全体を近似する構造要素配置28の延在部を、エネルギーフィルタ20による散乱により、基板12の各エリア要素上の横方向に均一な深さ分布を確保するように、その横方向寸法を十分に小さく保つことが重要である。静的照射の場合における構造要素配置28の最大可能寸法は、イオンエネルギー、イオン種類、及びエネルギーフィルタ20と基板12との間の距離の関数である。
【0050】
既に上述したように、また、
図4から明らかなように、柱状構造要素24の幅は変化してもよい。同様に、各柱状構造要素24は、2つの境界層または層部14によって外側が覆われていてもよく、あるいは、
図4の端部領域で明らかなように、各要素24は、片側または両側にも開口していてもよい。
【0051】
特に重要なのは、示された断面構造または対応する所望の構造が、示された方向に垂直な方向にも同様に存在することであり、言い換えれば、エネルギーフィルタ20は、長さ方向および幅方向の両方でマイクロパターン化されている三次元物体を形成していることである。
【0052】
図5及び
図6は、(イオンビーム10を示す
図4の矢印の方向から見て)縦断面における柱状構造要素24及びそれぞれの個別セル22の配置に関する2つの例示的な可能性を示す図である。
図5のようなハニカム形状、または
図6のような断面矩形の構造要素24を入れ子状にしたものが優先される。
【0053】
図7に示されるのは、さらに、本発明のエネルギーフィルタ20は、エネルギーフィルタ20に規則的または不規則的なパターンで分布することができる充填セル26を有することもできる、という事実である。したがって、特定の場所でエネルギーフィルタ20のより大きな減速能力を達成することが可能である。充填セル26の材料は、例えば、SiO
2などの適切な酸化物および窒化物を含むSi、SiC、Cまたはダイヤモンドであってよく、またはPMMAなどのプラスチック、さらにはセラミックまたは金属が同様に適切である。
【0054】
図8から明らかなように、内壁18がエネルギーフィルタ20の高さ方向ではなく、その斜め方向に走ること、または
図8に示されているように、隣接する層または層部14の間で湾曲した経路で走ることも考えられる。これらの場合にも、内壁18は、イオンビーム10を減速させることに寄与する。
【0055】
その場合、エネルギーフィルタ20には、順に、イオンビーム10がより多くの層又は層部14及び内壁18を通過する必要がある領域(ダッシュで示された左側の領域を参照、イオンビームが5つの層/層部/内壁を通過しなければならない)と、イオンビーム10がより少ない数の層又は層部14及び内壁18を通過しなければならない領域(ダッシュで示された右側の領域を参照、イオンビームがわずか4つの層/層部/内壁を通過しなければならない)とが存在する。
【0056】
図9に示されているように、エネルギーフィルタ20は、統合されたコリメータ構造を有することもできる。
【0057】
エネルギー調整する層または層部14へのイオンの進入時の一次エネルギーに応じて、この層または層部14でのイオンの散乱の程度が大きくまたは小さくなり、したがって、入射一次イオンビーム10と比較して出現イオンビームの角度分布の拡がりがある。このようなエネルギー依存性の理由は、物質における微視的な減速機構が、物質の電子系の励起(電子減速)または層内の原子との原子間衝突(核減速)を介して動作するためである。電子的減速は散乱効果が小さく、イオンエネルギーが高い場合に選ばれる。核減速は、散乱効果が大きく、エネルギーが低い場合に選ばれる。
【0058】
エネルギーフィルタされたイオンの適用としては、エネルギーフィルタ20を透過したイオンが極めて狭い角度分布を有することがしばしば望まれる。特に、マスキングを伴う適用では、注入されるイオンの角度分布が極めて重要である。
【0059】
エネルギーフィルタ20の個別セル22は、エネルギーを変更する層または層部14の間のキャビティ16のアスペクト比(高さに対する最大長または幅の比)の寸法設定を通じて所望の程度の集束効果を達成するように設計されている。集束と「単純な」個別セル22との間の相違は、それらのアスペクト比から推定することができる。
最大個別セル径:個別セル高さ > 1:1、例:5:1 集束要素なし
最大個別セル径:個別セル高さ<1:1、例:1:5 集束要素
【0060】
本発明によれば、少なくとも複数の個別セル22について、エネルギーフィルタ20の長さ方向及び/又は幅方向における個別セル22の最大横方向延在部aと、エネルギーフィルタ20の高さ方向における個別セル22の内壁18の延在部bとの比が、1:2-1:12、好ましくは1:4-1:10であると望ましい。この場合、集束が比較的強くなる。この種のアスペクト比を有するセルは、例えば、
図9の個別セル22の最下段の列に存在する。
図9において、イオンが通過しなければならない各構造要素24の最下部のキャビティ16は、通過するイオンの最大角度αをもたらすような垂直方向の延在部を有する。この最下部のキャビティ16は、さらに、好ましくはエネルギーを調整する層14によって閉塞されている。
【0061】
この種のエネルギーフィルタ20は、エネルギーを変更する層または層部14と集束要素の連続として理解することもでき、また、統合型エネルギーフィルタおよび集束装置と称することもできる。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板(12)へのイオン注入に用いるエネルギーフィルタ(20)であって、
注入によってもたらされるドーパント深さプロファイルおよび/または欠陥深さプロファイルを前記基板(12)に設けるためにマイクロパターンが形成され、
前記エネルギーフィルタ(20)の高さ方向に次々に配置される2つ以上の層又は層部(14)を有し、
それぞれが
前記層または層部(14)の
うちの少なくとも2つの間に配置された複数のキャビティ(16)を有し、前記キャビティ(16)を境界付け
、層または層部(14)を互いに接合する内壁(18)を有する
、エネルギーフィルタ(20)。
【請求項2】
前記エネルギーフィルタ(20)の外側を境界付ける2つの層(14)が設計において実質的に連続している
、請求項1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項3】
前記エネルギーフィルタ(20)の外側を境界付ける2つの層(14)が設計において実質的に平面的である
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項4】
2つの連続する
前記層または層部(14)間の距離が、100nm-5mm
である
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項5】
2つの連続する
前記層または層部(14)間の距離が
、200nm-50μmである
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項6】
少なくとも1つの前記層または層部(14)の厚さが50nm-5μm
である
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項7】
少なくとも1つの前記層または層部(14)の厚さ
が100nm-3μmである
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項8】
少なくとも1つの前記内壁(18)の厚さが0.5-500μm
である
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項9】
少なくとも1つの前記内壁(18)の厚さ
が2-100μmである
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項10】
それぞれが
前記複数のキャビティ(16)
のうちの1つと少なくとも2つの
前記内壁(18)とを備える複数の個別セル(22)を有する
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項11】
前記個別セル(22)は、ハニカム状に配置されている
、請求項
10に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項12】
前記エネルギーフィルタ(20)の高さ方向における
1つの前記個別セル(22)の前記内壁(18)の延在部に対する前記エネルギーフィルタ(20)の長さ方向又は幅方向における
1つの前記個別セル(22)の最大横延在部の比が、1:2-1:12
である
、請求項
10に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項13】
互いに隣接して配置され、前記エネルギーフィルタ(20)の高さ全体に渡り延びる複数の柱状構造要素(24)を備え、前記複数の柱状構造要素(24)
の少なくともいくつかは、それぞれ、前記エネルギーフィルタ(20)の高さ方向に次々に配置された
前記複数の層部(14)を含む
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項14】
前記複数の柱状構造要素(24)の
少なくともいくつかは、それぞれ、複数の
前記キャビティ(16)および複数の
前記内壁(18)を含む
、請求項
13に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項15】
前記複数の柱状構造要素(24)は、それぞれ、前記エネルギーフィルタ(20)の高さ方向に次々に配置された複数の
前記個別セル(22)を含む
、請求項
13に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項16】
複数の充填セル(26)を有する
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項17】
前記複数の内壁(18)が、前記層または層部(14)に対して垂直に配置されている
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【請求項18】
前記複数の内壁(18)が、前記層または層部(14)に対して斜めに配置されている
、請求項
1に記載のエネルギーフィルタ(20)。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0006
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明の一態様によれば、基板へのイオン注入に用いるエネルギーフィルタは、基板において、注入によってもたらされるドーパント深さプロファイルおよび/または欠陥深さプロファイルを設けるためのマイクロパターンが形成されており、エネルギーフィルタの高さ方向に次々と配置される2つ以上の層または層部を有する。エネルギーフィルタはまた、少なくとも2つの層または層部の間に配置された複数のキャビティを有し、キャビティを境界付け、少なくとも2つの層または層部を互いに接合する内壁を有する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0042
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0042】
本発明の
一態様によるエネルギーフィルタ20の構造を換言すれば、エネルギーフィルタ20は、各場合にキャビティ16と少なくとも2つの内壁18とを含む複数の個別セル22を有している。
図4では、個別セル22の一例がハッチングで示されている。本発明の
一態様によるエネルギーフィルタ20をより機能的な観点から説明するならば、それは、互いに隣接して配置され、エネルギーフィルタ20の高さ全体に渡り延びる複数の柱状構造要素24から構成される。
図4には、柱状構造要素24の一例がドットで描かれている。大多数の柱状構造要素24は、それぞれ、エネルギーフィルタ20の高さ方向に次々に配置された複数の層部14を含んで構成される。それぞれの柱状構造要素24においてイオンビーム10が通過することになる層部14の数、材料および厚さは、エネルギーフィルタ20のこの微小領域におけるイオンビームのエネルギー損失を規定する。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0060
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0060】
本発明
の一態様によれば、少なくとも複数の個別セル22について、エネルギーフィルタ20の長さ方向及び/又は幅方向における個別セル22の最大横方向延在部aと、エネルギーフィルタ20の高さ方向における個別セル22の内壁18の延在部bとの比が、1:2-1:12、好ましくは1:4-1:10であると望ましい。この場合、集束が比較的強くなる。この種のアスペクト比を有するセルは、例えば、
図9の個別セル22の最下段の列に存在する。
図9において、イオンが通過しなければならない各構造要素24の最下部のキャビティ16は、通過するイオンの最大角度αをもたらすような垂直方向の延在部を有する。この最下部のキャビティ16は、さらに、好ましくはエネルギーを調整する層14によって閉塞されている。
【手続補正6】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】
【国際調査報告】