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特表2022-542677空気安定性Ni(0)-オレフィン錯体及び触媒または触媒前駆体としてのそれらの使用
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  • 特表-空気安定性Ni(0)-オレフィン錯体及び触媒または触媒前駆体としてのそれらの使用 図1a
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-06
(54)【発明の名称】空気安定性Ni(0)-オレフィン錯体及び触媒または触媒前駆体としてのそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 15/04 20060101AFI20220929BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20220929BHJP
   C07C 22/08 20060101ALN20220929BHJP
   C07C 15/18 20060101ALN20220929BHJP
【FI】
C07F15/04
B01J31/22 Z
C07C22/08
C07C15/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022505428
(86)(22)【出願日】2020-07-14
(85)【翻訳文提出日】2022-03-16
(86)【国際出願番号】 EP2020069898
(87)【国際公開番号】W WO2021018572
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】19189236.3
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】102019214138.2
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】591091515
【氏名又は名称】シュトゥディエンゲゼルシャフト・コーレ・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Studiengesellschaft Kohle mbH
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Platz 1, D-45470 Muelheim an der Ruhr, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】コルネラ・ジュゼップ
(72)【発明者】
【氏名】ナットマン・ルーカス
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H050
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169BD01A
4G169BD01B
4G169BD04A
4G169BD04B
4G169BD11A
4G169BD12A
4G169BD13A
4G169BD15A
4G169BD15B
4G169BE18A
4G169BE34A
4G169BE34B
4G169BE36A
4G169BE37A
4G169BE37B
4G169CB02
4G169CB25
4G169CB38
4G169CB41
4G169CB47
4G169CB59
4G169CB62
4G169CB75
4G169CB76
4G169DA02
4H006AA03
4H006AB84
4H050AA01
4H050AA03
4H050AB40
(57)【要約】
本発明は、空気安定性のバイナリNi(0)-オレフィン錯体及び有機合成におけるそれらの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気安定性のNi(R)錯体であり、ここでNiはNi(0)を表し、そしてRは同一かまたは異なってよく、式(I)のトランス-スチルベンを表す、空気安定性のNi(R)錯体。
【化1】
[式中、R~R10は同一かまたは異なってよく、そしてH、Cl、Br、F、CN、C~CアルキルまたはC~Cシクロアルキルから選択され、ここでアルキルまたはシクロアルキルは任意選択に一つ以上のハロゲンによって置換されていてよく、
11~R12は、同一かまたは異なってよく、そしてH、C~Cアルキル、C~Cシクロアルキル、-O-C~Cアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択され、
但し、R~R12のうちの少なくとも一つは水素ではない。]
【請求項2】
請求項1に記載の空気安定性のNi(R)錯体であって、
NiがNi(0)を表し、
Rが同一かまたは異なってよく、式(I)のトランス-スチルベンを表し;
式(I)中、R~Rのうちの少なくとも一つ及びR~R10のうちの少なくとも一つが同一かまたは異なり、そしてCl、Br、F、CN、C~CアルキルまたはC~Cシクロアルキルから選択され(ここでアルキルまたはシクロアルキルは、任意選択に一つ以上のハロゲンによって置換されていてよい)、好ましくは任意選択に分岐状であってよく及び/または一つ以上のハロゲンで置換されていてよいC~Cアルキルから選択され、そして他のR~R10が水素であり、そしてR11~R12が同一かまたは異なってよく、そしてH、C~Cアルキル、C~Cシクロアルキル、-O-C~Cアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択される、
空気安定性のNi(R)錯体。
【請求項3】
請求項1に記載の空気安定性のNi(R)錯体であって、
NiがNi(0)を表し、
Rが同一かまたは異なり、式(I)のトランス-スチルベンを表し;
式(I)において、R及びRが同一かまたは異なり、そしてC~Cアルキルから選択され、ここで前記アルキルは任意選択に一つ以上のハロゲンによって置換されていてよく、そして他のR~R10が水素であり、そしてR11~R12が同一かまたは異なっていてよく、そしてH、C~Cアルキル、-O-C~Cアルキル、C~Cシクロアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択される、
空気安定性のNi(R)錯体。
【請求項4】
請求項1に記載の空気安定性のNi(R)錯体であって、
NiがNi(0)を表し、
Rが同一かまたは異なり、式(I)のトランス-スチルベンを表し;
式(I)において、R及びRが同一かまたは異なり、そしてC~Cパーフルオロアルキルから選択され、そして他のR~R10が水素であり、そしてR11~R12が同一かまたは異なっていてよく、そしてH、C~Cアルキル、O-C~Cアルキル、C~Cシクロアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択される、
空気安定性のNi(R)錯体。
【請求項5】
請求項1に記載の空気安定性のNi(R)錯体であって、
NiがNi(0)を表し、
Rが同一であり、式(I)のトランス-スチルベンを表し;
式(I)において、R及びRがそれぞれC~Cパーフルオロアルキルであり、そして他のR~R10及びR11~R12が水素である、
空気安定性のNi(R)錯体。
【請求項6】
請求項1に記載の空気安定性のNi(R)錯体であって、
NiがNi(0)を表し、
Rが同一であり、式(I)のトランス-スチルベンを表し;
式(I)において、R及びRがそれぞれ-CFであり、そして他のR~R10及びR11~R12が水素である、
空気安定性のNi(R)錯体。
【請求項7】
空気安定性のNi(R)錯体であり、ここでNiはNi(0)を表し、そしてRは同一かまたは異なってよく、次式(I):
【化2】
[式中、R~R10は同一かまたは異なってよく、そしてH、Cl、Br、F、CN、C~CアルキルまたはC~Cシクロアルキルから選択され、ここでアルキルまたはシクロアルキルは任意選択に一つ以上のハロゲンによって置換されていてよく、
11~R12は、同一かまたは異なってよく、そしてH、C~Cアルキル、C~Cシクロアルキル、-O-C~Cアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択される]
のトランス-スチルベンを表す、空気安定性のNi(R)錯体を製造する方法であって、
NiF、NiCl、NiBr、NiI、Ni(OTf)、Ni(BF、Ni(OTs)、Ni(グリム)Cl、Ni(グリム)Br、Ni(ジグリム)Cl、Ni(ジグリム)Br、Ni(NO、Ni(OR13(式中、R13は-C(O)-C~Cアルキルを表し、これは任意選択に一つ以上のハロゲン、好ましくはClまたはFによって置換されている)、Ni(アセチルアセトネート)、Ni(Ac)またはこれらの混合物から選択されるニッケル(II)化合物を、式(I)のトランス-スチルベン、好ましくは少なくとも三当量の式(I)のトランス-スチルベンと、式Al(R14(式中、R14は同一かまたは異なってよく、そしてC~CアルキルまたはC~Cシクロアルキルから選択される)のアルミニウムアルキル、好ましくは少なくとも二当量の式Al(R14のアルミニウムアルキルの存在下で反応させる、
前記方法。
【請求項8】
式Al(R14のアルミニウムアルキルがAl(CHまたはAl(Cから選択される、請求項7に記載の空気安定性のNi(R)-錯体の製造方法。
【請求項9】
Rが、請求項2~6のいずれか一つに定義される式(I)のトランス-スチルベンを表す、請求項7または8に記載の空気安定性のNi(R)-錯体の製造方法。
【請求項10】
有機合成における触媒または触媒前駆体としての、請求項1~6のいずれか一つに記載の空気安定性のNi(R)錯体の使用であって、ここで
NiはNi(0)を表し、そしてRは同一かまたは異なってよく、式(I)のトランス-スチルベンを表し:
【化3】
~R10は同一かまたは異なってよく、そしてH、Cl、Br、F、CN、C~CアルキルまたはC~Cシクロアルキルから選択され、ここでアルキルまたはシクロアルキルは任意選択に一つ以上のハロゲンによって置換されていてよく、
11~R12は、同一かまたは異なってよく、そしてH、-O-C~Cアルキル、C~CアルキルまたはC~Cシクロアルキルから選択され、
但し、任意選択に、R~R12のうちの少なくとも一つは水素ではない、
使用。
【請求項11】
有機合成における触媒としての、請求項1~6のいずれか一つに記載の空気安定性のNi(R)錯体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気安定性のバイナリNi(0)-オレフィン錯体及び有機合成におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル(Ni)触媒作用は、有機合成に対する新規の切断及び反応性モードの故に、力が注がれている成長研究領域となっている。これらの試みでは、Ni(0)-オレフィン錯体が、配位子交換に対するそれらの高い親和性の故に、Ni(0)の強力な源となっている。例えば、Ni(COD)(ビス(シクロオクタジエン)Ni(0))は、新しい触媒反応性を切り開くための肝要なNi(0)源となっている。
【0003】
しかし、配位子としてオレフィンのみを有するバイナリNi(0)錯体は、空気に曝された時の大きな不安定性及び敏速な分解という欠点があり、そのため、それの取り扱いは不活性雰囲気下でのシュレンク技術またはグローブボックスに制限される。
【0004】
1960年に、DE1191375AS(特許文献1)は、オレフィンとNi塩との反応として、最初のバイナリ金属-オレフィン錯体の合成を開示した。この開示、Ni(0)-オレフィン化合物及び具体的にはNi(COD)は、触媒前駆体として、全てのレベルのケミカルサイエンスに影響を与えた様々な変換を展開する役目を果たした。更に、Ni(COD)及びall-trans-Ni(CDT)は、数トンスケールの様々な重要な工業的プロセス、すなわちオレフィン化合物の重合及び環化三量化のための触媒として役立っている。
【0005】
しかし、均一系触媒作用に関連しては、Ni(COD)が、反応発見に利用される主要な(もしそうでないなら唯一の)Ni(0)源となっている(図1a)。事実、Ni(COD)は、低温下、不活性雰囲気下でのそれの顕著な安定性の故に商業的に入手可能である。ホスフィン類、ジアミン類またはカルベン類などのより求核性の強いカウンターパートと競合した時のNi(COD)中のオレフィン配位子の変わり易さのために、この化合物は反応発見の先頭にたっており、それ故、多くの触媒的変換において最上のものとして君臨している。
【0006】
しかし、それの重大な性質にもかかわらず、Ni(COD)の使用は、空気に曝された時のそれの高い不安定さ及び敏速な分解に結びついて、面倒な作業となり、グローブボックスまたはシュレンク技術の使用を必要とする。代替的なバイナリNi(0)-オレフィン錯体は、Ni(CDT)(シスまたはトランス)、Ni(COT)またはNi(Cに限定され、これらは、さらにより一層不安定であり、かつ空気に対する感受性が極めて高い(図1a)。
【0007】
これらの理由のため、空気下で安定した代替的なNi(0)前駆体についての研究は、長年、化学者の関心を集めており、それ故、このような触媒前駆体は、製造時間及び反応セットアップの観点からの簡易でかつ非常に実用的な方法の開発を可能するであろうと認識されている。
【0008】
事実、Ni(0)-オレフィン錯体の独特な性質及び反応性は、未だ最も重要であり、化学者は、卓上セッティングにおいてNi(COD)の使用を可能にする他のNi(II)触媒前駆体(図1b)またはパラフィンカプセルの開発によって例示されるように、含酸素条件下にこのような化合物を扱うことに多大な努力を費やしてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、空気安定性のNi(0)前駆体の使用についての実用的な解決策の提供へのニーズがなおも存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、その合成を開発し、そしてNi(stb)(Xは様々な置換パターンを表す)によって概略的に示されるような一連の独自の16電子バイナリNi(0)スチルベン錯体の触媒活性を検証した。
【0011】
報告された全ての16-及び18-電子Ni(0)-オレフィン錯体とは対照的に、Ni(stb)は、冷凍機中に-18℃で保存された時に顕著な分解を示すことなく数ヶ月にわたって空気に対して安定している。これらの錯体は、グローブボックスまたはシュレンクを使用せずとも扱うことができ及び高度にモジュール化が可能であり、それ故、Ni触媒作用に通常使用される様々な配位子、例えばジアミン類、ホスフィン類、N-ヘテロ環式カルベン類(NHCs)などとの配位子交換を可能にして、明確に定義されたNi(0)-L化学種を与える。更に、それらの触媒活性を、Ni(COD)の触媒活性を基準として評価したところ、多種多様な異なるNi-触媒反応のための優れた前駆体であることが判明した。
【0012】
それ故、本発明は、Ni(R)錯体に関するものであり、ここで、NiはNi(0)を表し、そしてRは同一かまたは異なってよく、式(I)のトランス-スチルベンを表す:
【0013】
【化1】
式中、R~R10は同一かまたは異なってよく、そしてH、Cl、Br、F、CN、C~CアルキルまたはC~Cシクロアルキルから選択され、ここでアルキルまたはシクロアルキルは任意選択に一つ以上のハロゲンによって置換されていてよく、
11~R12は、同一かまたは異なってよく、そしてH、C~Cアルキル、C~Cシクロアルキル、-O-C~Cアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択され、
但し、R~R12のうちの少なくとも一つは水素ではない。
【0014】
本発明に関連して示される本発明によるNi(R)-錯体では、NiはNi(0)を表す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明によるNi(R)-錯体の他の態様の一つでは、Rは同一かまたは異なり、そして式(I)において、R~Rのうちの少なくとも一つ及びR~R10のうちの少なくとも一つは同一かまたは異なり、そしてCl、Br、F、CN、C~CアルキルまたはC~Cシクロアルキルから選択され(ここでアルキルまたはシクロアルキルは、任意選択に一つ以上のハロゲンによって置換されていてよい)、好ましくは任意選択に分岐状であってよく及び/または一つ以上のハロゲンで置換されていてよいC~Cアルキルから選択され、そして他のR~R10は水素であり、そしてR11~R12は同一かまたは異なってよく、そしてH、C~Cアルキル、C~Cシクロアルキル、-O-C~Cアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択される。
【0016】
本発明によるNi(R)-錯体の他の態様の一つでは、Rは同一かまたは異なり、そして式(I)において、R及びRは同一かまたは異なり、そしてC~Cアルキルから選択され、ここでアルキルまたはシクロアルキルは任意選択に一つ以上のハロゲンによって置換されていてよく、そして他のR~R10は水素であり、そしてR11~R12は同一かまたは異なっていてよく、そしてH、C~Cアルキル、C~Cシクロアルキル、-O-C~Cアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択される。
【0017】
本発明によるNi(R)-錯体の更に別の態様の一つでは、Rは同一かまたは異なり、そして式(I)において、R及びRは同一かまたは異なり、そして分岐状C~Cアルキル、例えばイソプロピル、t-ブチル、ネオペンチルから選択され、ここで前記アルキルは任意選択に一つ以上のハロゲンによって置換されていてよく、そして他のR~R10は水素であり、そしてR11~R12は同一かまたは異なっていてよく、そしてH、C~Cアルキル、C~Cシクロアルキル、-O-C~Cアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択される。
【0018】
本発明によるNi(R)-錯体の更に別の態様の一つでは、Rは同一であり、そして式(I)において、R及びRは同一かまたは異なり、そしてC~Cパーフルオロアルキルから選択され、そして他のR~R10は水素であり、そしてR11~R12は同一かまたは異なっていてよく、そしてH、C~Cアルキル、C~Cシクロアルキル、-O-C~Cアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択される。
【0019】
本発明によるNi(R)-錯体の更に別の態様の一つでは、Rは同一であり、そして式(I)において、R及びRはそれぞれC~Cパーフルオロアルキル、好ましくはCFであり、そして他のR~R10及びR11~R12は水素である。
【0020】
本発明において、アルキルは、分岐状アルキル基も含んで1~8個の炭素原子を有する任意のアルキル基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、ペンチル、ネオペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、オクチル、イソオクチルを表すことが意図される。
【0021】
本発明において、シクロアルキルは、アルキル基も含んで3~6個の炭素原子を有する任意のシクロアルキル基、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、及び置換されたアルキル環を表すことが意図される。
【0022】
全てのアルキルまたはシクロアルキルは、一つ以上のハロゲン、特にフッ素によって置換されていてよい。
【0023】
また本発明は、本発明による空気安定性のNi(R)-錯体であって、ここでNiはNi(0)を表し、そしてRは同一かまたは異なってよくそして次式(I):
【0024】
【化2】
[式中、R~R10は同一かまたは異なってよく、そしてH、Cl、Br、F、CN、C~CアルキルまたはC~Cシクロアルキルから選択され、ここでアルキルまたはシクロアルキルは任意選択に一つ以上のハロゲンによって置換されていてよく、
11~R12は、同一かまたは異なってよく、そしてH、C~Cアルキル、C~Cシクロアルキル、-O-C~Cアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択される]
で表されるトランス-スチルベンを表すNi(R)-錯体を製造する方法であって、
NiF、NiCl、NiBr、NiI、Ni(OTf)、Ni(BF、Ni(OTs)、Ni(グリム)Cl、Ni(グリム)Br、Ni(ジグリム)Cl、Ni(ジグリム)Br、Ni(NO、Ni(OR13(式中、R13は-C(O)-C~Cアルキルを表し、これは任意選択に一つ以上のハロゲン、好ましくはClまたはFによって置換されている)、Ni(アセチルアセトネート)、Ni(Ac)またはこれらの混合物から選択されるニッケル(II)化合物を、式(I)のトランス-スチルベン、好ましくは少なくとも三当量の式(I)のトランス-スチルベンと、式Al(R14(式中、R14は同一かまたは異なってよく、そしてC~CアルキルまたはC~Cシクロアルキルから選択される)のアルミニウムアルキル、好ましくは少なくとも二当量の式Al(R14のアルミニウムアルキルの存在下で反応させる、前記方法にも関する。
【0025】
先に詳述した空気安定性のNi(R)錯体を製造するための本発明による方法の一つの態様では、式Al(R14のアルミニウムアルキルは、Al(CHまたはAl(Cから選択される。
【0026】
先に詳述した空気安定性のNi(R)錯体を製造するための本発明による方法の更に別の一つの態様では、Rは、請求項2~5のいずれかに定義した式(I)のトランス-スチルベンを表す。
【0027】
本発明による方法の他の態様の一つでは、R~R12の少なくとも一つが水素ではない式(I)のトランス-スチルベンが使用される。
【0028】
本発明の方法では、溶剤の選択は、溶剤が、ジエチルエーテル、ベンゼン、トルエンなどの芳香族溶剤、ペンタン、ヘキサンなどの炭素原子数5~8の脂肪族炭化水素溶剤、またはこれらの混合物から選択される非プロトン性非極性溶剤である限りは、重大ではない。反応条件も重大ではなく、反応は、通常は、-78℃~0℃、好ましくは-30℃~-5℃の温度で、周囲圧力下に及び任意選択に不活性ガス雰囲気下に行われる。この反応は、通常は、式(I)のトランス-スチルベンを化学理論量よりも若干過剰に、好ましくは少なくとも3当量で、及び式Al(R14のアルミニウムアルキルも化学理論量よりも若干過剰量で、好ましくは少なくとも2当量で用いて行われ、この際、式(I)のトランス-スチルベン及び式Al(R14のアルミニウムアルキルはそれぞれ好ましくは追加的に10モル%までである。
【0029】
本発明は、有機合成における触媒としての本発明による空気安定性Ni(R)-錯体の使用にも関し、ここで
NiはNi(0)を表し、そしてRは同一かまたは異なってよく、式(I)のトランス-スチルベンを表す。
【0030】
【化3】
式中、R~R10は同一かまたは異なってよく、そしてH、Cl、Br、F、CN、C~CアルキルまたはC~Cシクロアルキルから選択され、ここでアルキルまたはシクロアルキルは任意選択に一つ以上のハロゲンによって置換されていてよく、及び
11~R12は、同一かまたは異なってよく、そしてH、C~Cアルキル、C~Cシクロアルキル、-O-C~Cアルキルまたは-O-C~Cシクロアルキルから選択され、
但し、任意選択に、R~R12のうちの少なくとも一つは水素ではない。
【0031】
触媒特性
配位子をNi触媒作用に通常使用される配位子と交換する能力を実証した上で、本発明者らは、関連する様々な有機変換におけるNi(0)源としての本発明によるNi(0)-オレフィン錯体の触媒特性の検証を開始した。この目的のために、本発明者らは、Ni(O)の源として様々なNi-触媒変換におけるそれらの触媒を評価し、そして本発明によるNi(0)-オレフィン錯体の性能を、Ni(COD)及び幾つかのNi(II)触媒前駆体と比較した。触媒特性は、例示的に、触媒(Ni(0)(4-CF3stb)3)及び(Ni(0)(4-tBustb)3)を用いて検証した。
【0032】
先ず本発明者らは、近代の合成におけるそれの大きな重大性からスズキ・カップリングを触媒できるかを検証した。触媒前駆体としての本発明によるNi(0)-オレフィン錯体の使用は、ヘテロアリールボロン酸及びヘテロアリールブロマイドのカップリングを優れた収率(図4a、>99%)で可能にした。
【0033】
大きな関心がもたれる他の反応は、オゴシによって報告されたニトリル類とジエン類との間の酸化的環化付加反応(oxidative cycloaddition)である。反応に使用する温度が比較的高い温度(130℃)にもかかわらず、本発明によるNi(0)-オレフィン錯体は、安定かつ触媒として有能であり、84%の収率で生成物を与えることが判明した(図4b)。
【0034】
Ni触媒作用をベースとするC-H活性化の方策は、触媒前駆体源としてNi(0)を利用することにより最近になって登場した。一例として、チャタニは、単純なアミド類及びアルキン類からのイソキノロン類の合成を実証した。このような目的のためには単純なPPhが最適な配位子であることが報告され;この場合、本発明によるNi(0)-オレフィン錯体も、優れた収率を与えるNi(0)源としての優れた候補であることが判明した(図4c、94%)。
【0035】
本発明によるNi(0)-オレフィン錯体の触媒としての能力を更に試験するために、本発明者らは、次に、重要なC-N結合の形成に注視した。この目的のために、本発明者らは、芳香族及び脂肪族アミン類の両方とのアリールハロゲン化物のアミノ化についての報告を利用した。SIPrを配位子として利用した場合、本発明によるNi(0)-オレフィン錯体は、優れた収率で生成物を円滑に与えた(図4d、91%)。その代わりに芳香族アミンを使用した場合には、配位子としてdppfを使用し、そしてビス芳香族アミン類への円滑な転化が得られた(図4e、90%収率)。この後者の例において、一部のNi-錯体では、報告されたものよりも僅かに高い温度が必要であったことを指摘することは価値のあることである。これは恐らくは、(dppf)Ni(0)(4-CF3stb)中間物が高い安定性を持ち(図3)、そのため、そのNi(COD)類似物と比べてスチルベン配位子の解離を促進するのにより高いエネルギーを要するからであろう。
【0036】
アリール化のためのアセタール類の活性化は、最近になってドリルによって報告された。AmOHなどのプロトン性溶剤が存在するものの、本発明によるNi(0)-オレフィン錯体は、極めて良好な候補であり、アリール化の優れた収率が得られることが判明した(図4f、85%)。低原子価のNi化学種が、アミド類をそのC-N結合を介して活性化する能力は、有機合成のための強力な切断(disconnection)であることが実証された。本発明によるNi(0)-オレフィン錯体は、トリプトフォールとN-Me-Bocアミド類からのエステル形成の高収率(図4g、65%)によって強調されるように、これに関連してよい前兆となる。本発明によるNi(0)-オレフィン錯体は、図4hで得られたC-C結合の58%の収率によって例示されるように、強力なアルキル-アルキル・ネギシ・クロスカップリングにおいてもNi(0)源として優れる傾向がある。最後の二つの反応が、テルピリジン及びPyBOX誘導体を配位子として使用して首尾よく行われ、そうして本発明によるNi(0)-オレフィン錯体から、三座配位子を有する活性L-Ni(0)化学種への容易な転化を強調する点を述べることは価値がある。
【0037】
本発明によるNi(0)-オレフィン錯体2によって触媒されたアリールブロマイドとビニル亜鉛試薬との間のネギシ・クロスカップリングは、報告された対応するNi(0)前駆体と類似の収率を達成できた(92%、図4i)。Ni(0)-オレフィン錯体は、補助的な配位子を加えずに不均一系Ni(0)粒子の生成のための前駆体としても活用された。これに関連して、本発明によるNi(0)-オレフィン錯体が、シラン類を用いたチオメチルエーテル類の還元に示されるように、優れた候補であることが判明した(91%、図4j)。
【0038】
最近は、Ni(COD)と組み合わせたNHCなどの高電子供与性配位子の使用は、C-H活性化を介したヒドロアリール化方策に関連して選抜された触媒系であった。しかし、触媒と配位子とのこの特定の組み合わせは、COD配位子のヒドロ金属化の結果としての望ましくないNiπ-アリル錯体の形成を招くことが分かった。構造的な証明及び反応性に関する研究は、このような化学種が、触媒活性及びターンオーバー数を妨げることを結論づけた。本発明者らは、本発明によるNi(0)-オレフィン錯体が、ある種のC-Hアリール化方策において観察される有害な経路を避けることができ、それ故、生産的触媒作用を促進すると想定した。この仮定を試験するために、本発明者らは、電子欠損アレーン類を用いたアルキン類の直接的ヒドロアリール化を検査した。報告された通り、IMesと組み合わせたNi(COD)の使用は、ヒドロアリール化生成物の痕跡を与えた。他方で、本発明によるNi(0)-オレフィン錯体2の使用は、室温で円滑に反応し、そして生成物の顕著な90%収率が得られた(図5)。この結果は、本発明によるNi(0)-オレフィン錯体が、Ni(0)触媒前駆体として有用であり及び幾つかの事例では、COD副反応が起こる場合に独特な代替物として使用し得るという事実を強調する。本発明によるNi(0)-オレフィン錯体の使用が高感度のフリーのカルベンの使用を必要としない点、及び塩基と組み合わせた母体HCl塩の簡単な使用が反応性を達成するために十分であった点を述べることは重要である。
【0039】
本発明によるNi(0)-オレフィン錯体が触媒前駆体である全ての例において、反応セットアップは、開放(open-air)環境及びベンチで行われた点を述べることは重要である。それ故、グローブボックスの使用は、各々の特定のケースにとっての最適な配位子の感受性のためのものであって、該Ni-オレフィン触媒前駆体によるものでは決してない。全体として、これらの結果は、様々な触媒的状況において効果的なNi(0)源として作用するNi(stb)(2-6)の競争力を強調する。更に、本発明によるNi(0)-オレフィン錯体が作用した場合に得られた良好な収率は、異なるキレート特性または求核性の配位子が使用されるべき場合のそれのモジュール式を強調する。
【0040】
本発明を、図面及び実施例を参照してより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1a】a:Ni触媒作用のための従来技術のバイナリNi(0)オレフィン錯体
図1b】b:Ni(0)化学種に関連した空気感受性の問題を回避するための現行の方策
図1c】c:Ni(stb)によって例示される本発明:空気安定性16電子Ni(0)-オレフィン錯体
図1d】d:それぞれ異なるアリール置換基(複数可)をそれぞれのアリールコア上に有する六種の異なる本発明によるNi(stb)錯体(1~6)、及びそれらの製造及び安定性
図2】錯体1及び2の合成: 反応条件:all-トランス-Ni(CDT)(1.0当量)、トランス-スチルベンまたはトランス-(4-トリフルオロメチルフェニル)スチルベン(それぞれ3.30及び3.15当量)、-5℃、THFまたはEtO中。
図3】触媒作用における異なる通例の配位子での錯体2の配位子交換: a)2(1.0当量)、dppf(1.0当量)、THF中、25℃、定量的; b)2(1.0当量)、bipy(1.0当量)、THF中、25℃、定量的; c)2(1.0当量)、PPh(2.0当量)、THF中、25℃、定量的; d)-78℃、THF中での2のゆっくりとした結晶化。Ar=p-CF-C
図4図4 様々なNi触媒変換における2の触媒特性 a.スズキ・クロスカップリング; b.環化異性化反応; c.C-H活性化; d.アルキルアミン類を用いたバックワルド・ハートウィッグC-N結合形成; e.アリールアミン類を用いたバックワルド・ハートウィッグC-N結合形成; f.アセタール類のC-Oアリール化; g.アミド類のC-N結合活性化を介したエステル形成; h.アルキル-アルキル・クロスカップリング; i.ネギシ・クロスカップリング; j.シラン類を用いたC-SMe還元。
図5】錯体2は、旧来のCOD副反応を回避する。
図6】触媒6の二つの工業的に重要な変換及び配位の図解。
【0042】
図6Aに示すように、他のオレフィンとの配位子交換の安定性及び容易さも、従来技術においてNi(COD)を必要とする二つの工業的に重要な変換において実証される。例えば図6Aで、ブタジエンからアジポニトリルの効果的な合成において極めて重要な、Ni(4-tBustb)(6)の存在下での2M3BN(2-メチル-3-ブテンニトリル(44))から3PN(3-ペンテンニトリル(45))へのN-触媒異性化に示すように、この変換は、PPhを用いたニート条件下に進行し、45への同等のレベルの反応性を与える(67%)。他のプロセスは、Ni触媒SHOP(シェル高級オレフィンプロセス(Shell Higher Olefin Process))(図6B)であり、これは、エチレンをオリゴマー化して高分子量のα-オレフィンを得ることを可能にする。未最適化条件下では、触媒前駆体を単離しない場合は、錯体6が、図6Bに示す配位子混合物と共に、α-オレフィンの混合物の形成を高効率で首尾よく触媒した。これらの結果は、工業的に重要なセッティングにおける6のポテンシャルを強調し、それ故、現行のNi(0)触媒に対する空気及び温度安定性の代替物を提供する。
【0043】
Ni(4-tBustb)(6)は、空気安定性のNi(COD)代用物と見なし得るかもしれないが、両錯体の根本的な配位ケミストリは大きく異なっている。例えば、Ni(COD)を4.0当量のPPhと混合した場合は、Ni(PPhと(PPhNi(COD)との分離不能な混合物が通常得られる(図6C、上部)。他方で、代わりに6が使用された場合は、16電子化合物45へのクリーンな転化が形成される(図6C、底部)。配位ケミストリにおけるこれらの違いは、明確に定義されたL-Ni(0)-オレフィン錯体の合成のための既存の方策に対するオルトゴナルツールを提供する。
【0044】
実験に関する一般的な備考
他に記載がなければ、全ての処理は、ヒートガンで乾燥したガラス器具中で乾燥アルゴン雰囲気下にシュレンク技術を用いて行った。作業台上で保存したNi(4-tBustb)は除いて、Ni(stb)は、冷凍機(-18℃)内、空気下に、スクリューキャップバイアル中に保存した。全ての錯体は空気中で秤量した。無水溶剤は適当な乾燥剤から蒸留し、そしてアルゴン下に移した:THF、EtO(Mg/アントラセン)、CHCl、CHCN(CaH)、ヘキサン類、トルエン(Na/K)、EtN、DMA、1,4-ジオキサン(MS)、CPME、NMP及びAmOHは無水グレードで購入し、そしてMS上で保存した。無水KPO、NaOBu及びNaHMDSは、シュレンク中にまたはグローブボックス中に保存した。フラッシュカラムクロマトグラフィ:メルクシリカゲル60(40~63μm)。MS(EI):フィニガン社 MAT8200(70eV)。精密質量決定:MAT95(フィニガン社)。NMRスペクトルは、ブルカー・アバンスVIII-300またはブルカー・アバンスIII HD400MHzスペクトロメータを用いて記録した。H NMRスペクトルは、使用した重水素化溶剤の残留プロトンを基準とした。13C NMRスペクトルは、NMR溶剤のDカップルド13C共鳴を内部標準とした。化学シフト(δ)は、TMS(テトラメチルシラン)に対してppmで表記し、そして結合定数(J)はHzで示す。19F NMRスペクトルは、CFCl19F共鳴を外部基準とした。31P NMRスペクトルは、HPOのP31共鳴を外部基準とした。
【0045】
(E)-スチルベン類の製造のための一般手順
【0046】
【化4】
置換ベンズアルデヒド(1当量)を、大型のスターラーバー及び還流冷却器を備えた三つ首丸底フラスコ中でTHF(0.3M)に加えた。この溶液を-78℃に冷却し、そしてTiCl(1.25当量)を滴下した。反応を室温まで放温し、そして10分間攪拌した。Zn粉末(2.5当量)を、2分間かけて数回にわけて加えた。反応を3時間還流し、次いで室温まで放冷した。水(1.5×THF量)を加え、その後、HCl(0.1×THF量、3M)を加えた。この反応を5分間攪拌し、そして分液漏斗に移した。水性層をMTBE(2×二倍THF量)で抽出し、一緒にした有機層を飽和NaCl水溶液で洗浄し、そしてMgSO上で乾燥した。溶剤を減圧下に蒸発させ、そして残渣をカラムクロマトグラフィにかけた。精製した生成物を高真空下に乾燥した。
【0047】
(E)-1,2-ビス(4-(トリフルオロメチル)フェニル)エタン
【0048】
【化5】
4-トリフルオロメチルベンズアルデヒド(11.0mL、14.0g、80.5mmol)、TiCl(11.0mL、19.0g、100.3mmol、1.25当量)及びZn粉末(13.0g、198mmol、2.5当量)から一般手順に従い製造した。カラムクロマトグラフィ:勾配ヘキサン類:MTBE(100:0~99:1)。
収量:8.44g、26.7mmol、66%;無色固形物。
【0049】
(E)-1,2-ビス(4-(tert-ブチル)フェニル)エテン
【0050】
【化6】
4-(tert-ブチル)ベンズアルデヒド(10.20ml、9.86g、60.8mmol、1当量)、TiCl(20.0mL、34.6g、182.4mmol、3当量)及びZn粉末(29.8g、456mmol、7.5当量)から一般手順に従い製造した。カラムクロマトグラフィ:勾配ヘキサン類:MTBE(50:1~20:1)。分光分析データは、文献に従う。
収量:3.98g、13.6mmol、45%;無色固形物。
【0051】
(E)-1,2-ビス(4-(フルオロフェニル)エタン
【0052】
【化7】
4-フルオロベンズアルデヒド(1.30ml、1.50g、12.09mmol、1当量)、TiCl(1.60mL、2.75g、14.50mmol、1.2当量)及びZn粉末(1.98g、30.22mmol、2.5当量)から一般手順に従い製造した。カラムクロマトグラフィ:99:1(ヘキサン類:MTBE)。分光分析データは、文献に従う。
収量:1.28g、5.91mmol、49%;無色固形物。
【0053】
(E)-1,2-ビス(3,5-ジメチルフェニル)エタン
【0054】
【化8】
3,5-ジメチルベンズアルデヒド(5.01ml、5.00g、37.27mmol、1当量)、TiCl(4.90mL、8.48g、44.72mmol、1.2当量)及びZn粉末(6.10g、93.28mmol、2.5当量)から一般手順に従い製造した。カラムクロマトグラフィ:50:1(ヘキサン類:MTBE)。分光分析データは、文献に従う。
収量:2960mg、18.63mmol、67%;無色固形物。
【0055】
(E)-1,2-ジ-p-トリルエテンの合成
【0056】
【化9】
4-メチルスチレン(1.98mL、1.77g、15mmol、1当量)及びグラブス第二世代(9.4mg、0.015mmol、0.1モル%)をDCM(3mL)中に溶解した。この反応を3時間還流し、溶剤を減圧下に蒸発させ、そして固形物をカラムクロマトグラフィ(純ヘキサン類)によって精製した。分光分析データは、文献に従う。
収量:1.1212g、5.38mmol、72%;無色固形物。
【0057】
Ni(stb)(1)の製造
【0058】
【化10】
Ni(CDT)(CDT=1,5,9-トランス,トランス,トランス-シクロドデカトリエン)(794mg、3.60mmol)をアルゴンホースを介してシュレンク管に仕込み、そしてTHF(7mL)中に溶解した。この溶液を、アルゴン下に濾過して-78℃に保持したシュレンク管中に入れた。フィルターケーキを3mLのTHFを用いて洗浄した。トランス-スチルベン(2.13g、11.87mmol、3.30当量)を別のシュレンク管に仕込み、そして真空/アルゴンの一サイクルに付した。この配位子をTHF(10mL)中に懸濁し、そして懸濁液として前記の最初のシュレンク管に移し、その後、定量的な移動を保証するために一回洗浄(2mL THF)した。この反応を-78℃で10分間攪拌し、次いで-5℃の冷却浴中に入れ、そしてその温度で12時間攪拌した。
【0059】
アルゴンフリットを-30℃に冷却し、そして反応をこのフリットに移した。この混合物を1分間放冷し、次いでアルゴンの正圧を用いて濾過した。フリット上の固形物を、フリットにアルゴン流を流すことによって乾燥した。次いで、この固形物をシュレンク管に移し、更に室温で高真空下に乾燥して、空気安定性の褐赤色の固形物として1を得た(1.07g、1.66mmol、46%)。
【0060】
Ni(4-CF3stb)(2)の製造
【0061】
【化11】
Ni(CDT)(CDT=1,5,9-トランス,トランス,トランス-シクロドデカトリエン)(610mg、2.76mmol)をアルゴンホースを介してシュレンク管に仕込み、そして新鮮なEtO(10mL)を-78℃で加えて、原料を懸濁させた。トランス-pCF-スチルベン(2.28g、9.12mmol、3.15当量)を別のシュレンク管に仕込み、そして真空/アルゴンの一サイクルに付した。この配位子をEtO(10mL)中に懸濁し、そして懸濁液として前記の最初のシュレンク管に移し、その後、定量的な移動を保証するために数回洗浄(3+2+2mL)した。この反応を-5℃の冷却浴中に入れ、そしてその温度で3時間攪拌した。
【0062】
アルゴンフリットを-30℃に冷却し、そして反応をこのフリット上に移した。この反応を1分間放冷し、次いでアルゴンの正圧を用いて濾過した。このフリット上の固形物を、EtO(3×2mL)で洗浄し、そしてこのフリットにアルゴン流を通して乾燥した。次いで、この固形物をシュレンク管に移し、更に室温で高真空下に乾燥して、空気安定性の赤色の固形物として2を得た(1.93g、1.92mmol、70%)。この触媒を冷凍機内で空気下に保存した。
【0063】
Ni(acac)からのNi(4-CF3stb)の製造
【0064】
【化12】
無水Ni(acac)(904.4mg、3.52mmol)をアルゴンホースを介して及び(E)-1,2-ビス(4-(トリフルオロメチル)フェニル)エタン(3.50g、11.1mmol、3.14当量)を100mLシュレンク管に仕込んだ。ジエチルエーテル(20mL)を加え、そしてこの溶液を-20℃に冷却した。AlEt(ニート)(1.10mL、7.5mmol、2.1当量)をジエチルエーテル(5mL)中に溶解した。次いで、この溶液を、Ni(acac)及びスチルベン配位子を含む前記シュレンクに10分間かけて滴下した。この反応を-20℃で1時間攪拌し、次いでドライアイス浴(-78℃)中で10分間冷却した。この懸濁液を、冷却(-78℃)したアルゴンフリットで濾過して、フリット上に生成物を残した。この固形物を、ジエチルエーテル(2×2mL)で洗浄し、そして高真空下に乾燥した。Ni(stb)が、赤色の固形物として純粋な形で単離された(2.17g、2.16mmol、61%)。他のNi(0)錯体は、上記のプロセスに沿って製造した。
【0065】
触媒反応
5-(チオフェン-3-イル)ピリミジン(13)
【0066】
【化13】
Ni(4-CF3stb)(2.0mg、0.002mmol、0.005当量)、5-ブロモピリミジン(64.5mg、0.406mmol)、チオフェン-3-イルボロン酸(102.3mg、0.800mmol、2当量)、dppf(1.1mg、0.002mmol、0.005当量)及び無水KPO(135mg、0.64mmol、1.5当量)をスクリューキャップバイアル中に入れ、これを次いで、真空/アルゴンの一サイクルに付した。1,4-ジオキサン(1mL)を加え、そしてこの反応を80℃に8時間加熱した。水を加え、そしてその水性層を10mLのEtOを用いて三回抽出した。一緒にした有機層をMgSOを用いて乾燥し、そして減圧下に蒸発させた。この粗製生成物をカラムクロマトグラフィ(3:1~1:1;ヘキサン類:EtOAc)に付して、白色の固形物として分析的に純粋な形態で13を生成した(66.7mg、>99%)。錯体2のサンプルを、それを冷凍機内で>100日間保存した後に触媒前駆体として使用した場合に同じ収率が得られた。
【0067】
4,5-ジメチル-2-フェニルピリジン(16)
【0068】
【化14】
Ni(4-CF3stb)(50.4mg、0.05mmol、0.1当量)を圧密シュレンク管中に入れ、これをシールし、そして真空/アルゴンの一サイクルに付した。このシュレンク管をグローブボックスに移し、PCy(56.1mg、0.2mmol、0.4当量)を加え、そしてこのシュレンク管をグローブボックスから再び取り出した。トルエン(3mL)を加え、その後、2,3-ジメチルブタ-1,3-ジエン(226.3μL、164.3mg、2mmol、4当量)及びベンゾニトリル(51.1μL、51.6mg、0.5mmol)を加えた。このシュレンク管を圧密にシールし、そして48時間、130℃に加熱した。溶剤を減圧下に除去し、そして粗生成物を、カラムクロマトグラフィ(9:1~5:1;ヘキサン類:EtOAc)によって精製して、黄色の油状物として16を生成した(76.7mg、0.419mmol、84%)。
【0069】
3,4-ジプロピル-2-(ピリジン-2-イルメチル)イソキノリン-1(2H)-オン(19)
【0070】
【化15】
N-(ピリジン-2-イルメチル)ベンズアミド(106.1mg、0.50mmol)、PPh(52.5mg、0.20mmol、0.4当量)、4-オクチン(0.22mL、1.50mmol、3.0当量)及びNi(4-CF3stb)(50.4mg、0.05mmol、0.1当量)を10mL圧密シュレンク管に仕込んだ。乾燥トルエン(2mL)を加え、そしてこの反応混合物を、170℃の予熱した油浴中に入れ、そして20時間攪拌した。室温に冷却した後、溶剤を減圧下に除去した。カラムクロマトグラフィ(1:1;ヘキサン類:EtOAc)を介した粗製残渣の精製により、黄色帯びた油状物として純粋な19が得られた(151mg、0.47mmol、94%)。
【0071】
4-(4-(トリフルオロメチル)フェニル)モルホリン(22)
【0072】
【化16】
Ni(4-CF3stb)(27.2mg、0.027mmol、0.05当量)、SIPr・HCl(26.8mg、0.063mmol、0.116当量)及び乾燥CPME(1.5mL)を、12mLスクリューキャップバイアルに仕込んだ。4-クロロベンゾトリフルオライド(72μL、0.540mmol、1.00当量)及びモルホリン(57μL、0.648mmol、1.20当量)をこの溶液に加えた。この溶液を室温で15分間攪拌すると、この混合物は橙黄帯びの色になった。次いで、NaOtBu(THF中2M、543μL、1.080mmol、2.00当量)を加え、そしてこの褐色の反応混合物を、予熱した油浴中で100℃で4時間攪拌した。室温に冷却した後、溶剤を減圧下に除去した。粗製残渣のカラムクロマトグラフィ(9:1;ヘキサン類:EtOAc)により、無色の固形物として22(114mg、0.493mmol、91%収率)が得られた。
【0073】
N-(4-メトキシフェニル)-2,5-ジメチルアニリン(825)
【0074】
【化17】
Ni(4-CF3stb)(20.1mg、0.02mmol、0.02当量)、dppf(22.2mg、0.04mmol、0.04当量)及び無水ナトリウムt-ブトキシド(134.5mg、1.40mmol、1.40当量)を12mLスクリューキャップバイアルに仕込んだ。トルエン(2mL)を加え、次いで、2-クロロ-p-キシロール(0.134mL、1.00mmol、1.00当量)及びp-アニシジン(147.8mg、1.20mmol、1.20当量)を加えた。追加のトルエン(2mL)を加え、そしてこのバイアルを130℃の予熱した油浴中にセットし、そして48時間攪拌した。室温に冷却した後、この反応混合物をEtOAcで希釈し、そして水を加え、そして各層を分離した。水性層をEtOAcで抽出し、そして一緒にした有機層をMgSO上で乾燥した。溶剤を減圧下に除去し、そして粗製残渣をカラムクロマトグラフィ(勾配:50:1~20:1;ヘキサン類:EtOAc)を介して精製して、橙色の油状物として25を生成した(205.1mg、0.90mmol、90%収率)。
【0075】
2-(2-(トリフルオロメチル)フェニル)-2H-クロメン(28)
【0076】
【化18】
Ni(4-CF3stb)(58.6mg、0.05mmol、0.09当量)及びPPh(39.3mg、0.15mmol、0.27当量)を、12mLスクリューキャップバイアルに仕込んだ。1,4ジオキサン(1ml)を加え、そしてこの溶液を5分間攪拌した。2-エトキシ-2H-クロメン(98.9mg、0.56mmol)、(2-(トリフルオロメチル)フェニル)ボロン酸(189.9mg、1.00mmol、1.78当量)、ジオキサン(23mL)及びt-AmOH(2mL)を50mLシュレンク管に仕込んだ。前記触媒+配位子溶液を、二番目のシュレンク管に移し、そしてこの反応を、100℃の予熱した油浴中に40分間入れた。この反応を放冷し、そして溶剤を減圧下に蒸発させた。残渣をカラムクロマトグラフィ(純粋なヘキサン類)に付して、無色の油状物として純粋な28を得た(131.9mg、0.56mmol、85%)。
【0077】
2-(1H-インドール-3-イル)エチル3-フェニルプロパノアート(31)
【0078】
【化19】
Ni(4-CF3stb)(20.1mg、0.02mmol、0.1当量)、テルピリジン(4.7mg、0.02mmol、0.1当量)、tert-ブチルベンジル(3-フェニルプロパノイル)カルバメート(67.9mg、0.20mmol、1.00当量)及びトリプトフォール(40.3mg、0.25mmol、1.25当量)を12mLスクリューキャップバイアルに仕込んだ。トルエン(0.2mL)を加え、そしてこのバイアルを、130℃の予熱した油浴中にセットした。23時間攪拌した後、この溶液を室温に放冷し、そしてその内容物を、EtOAc及びヘキサン類と一緒に丸底フラスコに移した。溶剤を減圧下に除去し、そして粗製残渣をカラムクロマトグラフィ(7:1;ヘキサン類:EtOAc)を介して精製して、橙色の油状物として31を生成した(38.5mg、0.13mmol、65%収率)。
【0079】
2-メチルウンデカン(34)
【0080】
【化20】
Ni(4-CF3stb)(10.0mg、0.010mmol、0.04当量)及び2,6-ビス((R)-4-フェニル-4,5-ジヒドロオキサゾール-2-イル)ピリジン(7.4mg、0.020mmol、0.08当量)を12mLスクリューキャップバイアルに仕込んだ。DMA(0.4mL)をアルゴン下に加え、深青色の溶液を室温で10分間攪拌し、そしてテトラデカン(GC分析用の内部標準、20μL、0.077mmol)を加えた。この混合物を室温で更に10分間攪拌し、そしてn-ノニル亜鉛ブロマイド(DMA中0.85M、0.47mL、0.400mmol、1.57当量)及びi-プロピルブロマイド(24μL、0.256mmol、1.00当量)の溶液を加えた。反応混合物を60℃で20時間攪拌した後、GC-FID分析により34の58%の収率が決定された。
【0081】
1-ビニルナフタレン(37)
【0082】
【化21】
Ni(4-CF3stb)(10.1mg、0.01mmol、0.05当量)をスクリューキャップバイアルに仕込み、真空/アルゴンの一サイクルを行い、そしてこのバイアルをグローブボックスに移した。キサントホス(5.8mg、0.01mmol、0.05当量)を加え、そしてこのバイアルをグローブボックスから取り出した。THF(150μL)、1-ブロモナフタレン(28.0μL、41.4mg、0.2mmol)及びビニル亜鉛ブロマイド(THF/NMP中1M、350μL、1.75当量)を加えた。この反応を50℃に5時間加熱し、次いでEtOAcで希釈した。メシチレン(25μL、21.6mg)を内部標準として加え、そしてGC-FID分析により37の92%の収率が決定された。
【0083】
ナフタレン(40)
【0084】
【化22】
2-(メチルチオ)ナフタレン(87.2mg、0.50mmol、1.0当量)及びNi(4-CF3stb)(50.4mg、0.05mmol、0.1当量)を12mLスクリューキャップバイアルに仕込んだ。n-ドデカン(GC分析用の内部標準、20μL、0.09mmol)、EtMeSiH(0.13mL、0.98mmol、2.0当量)及びトルエン(2mL)を加えた。このバイアルを、90℃の予熱した油浴中にセットし、そして14時間、攪拌し続けた。室温に冷却した後、この混合物をEtOAc(4mL)で希釈し、そしてGC-FID分析により40の91%の収率が決定された。
【0085】
1,2,3,4,5-ペンタフルオロ-6-(オクタ-4-エン-4-イル)ベンゼン(43)
【0086】
【化23】
Ni(4-CF3stb)(20.1mg、0.02mmol、0.1当量)、IMes・HCl(6.8mg、0.02mmol、0.1当量)及び無水NaHMDS(3.6mg、0.02mmol、0.1当量)をスクリューキャップバイアルに仕込んだ。トルエン(1.5mL)を加え、そしてこの混合物を5分間攪拌した。1,2,3,4,5-ペンタフルオロベンゼン(22.2μL、33.6mg、0.2mmol)及び4-オクチン(44.0μL、33.1mg、0.3mmol、1.5当量)を加え、そしてトルエン(0.5mL)を用いてこれらの基質を洗い流した。反応を室温で3時間攪拌し、そしてCHClを加えてクエンチした。この混合物を、シリカプラグに通して濾過し、そして蒸発乾固した。α,α,α-トリフルオロトルエン(24.6μL、29.2mg、0.2mmol、1.0当量)を内部標準として加え、そして収率(90%)を19F NMRで決定した。
【0087】
先に記載の通り、Ni触媒作用の領域における長年の問題が、Ni(COD)2の顕著な反応性と類似するが、頑健で、空気安定性でかつ開放フラスコ条件で簡単に扱えるという利点を有するNi(0)触媒前駆体として本発明の錯体を供することによって解決された。ここで、本発明者らは、これらの要求の全てを満たしかつ、煩雑なシュレンク技術またはグローブボックスを使用せずにNi触媒作用を可能にするバイナリNi(0)-オレフィン錯体の合成及び特徴付けを報告した。本発明によるNi(0)-オレフィン錯体Ni(R)は、空気下で顕著な安定性を有しかつその16電子構成の故に溶液状態での高い反応性から利益を受けるモジュラー式Ni(0)-オレフィン錯体の独特な例である。その触媒能力を、Ni(COD)の触媒能力を基準に評価し、そして本発明者らは、Ni(R)が、Ni触媒変換の範囲における優れた触媒前駆体であることを示した。Ni(II)錯体をベースとする通例の空気安定性の前駆体とは異なり、Ni(R)は、溶液状態でNi(0)化学種を送達しそして個別のかつ明確に定義されたNi(0)配位子錯体を与えるそれの固有の能力によって特徴づけられる。Ni(0)としてのNi(R)の優れた性能は、Ni触媒作用の全ての領域に速やかに広がり、そうして容易なセットアップを可能にしそして新しい反応性の発見を加速することが想定される。
【0088】
(E)-ペンタ-3-エンニトリル(45)
【0089】
【化24】
この化合物は、文献手順に従い製造したが、Ni(COD)の代わりに錯体6を使用した。Ni(4-tBustb)(1.04g、1.11mmol、0.9mol%)及びPPh(2.91g、11.1mmol、9mol%)をシュレンク管に仕込んだ。2-メチルブタ-3-エンニトリル(12.5ml、10.0g、123.3mmol、1当量)を加え、そしてこの反応を100℃に3時間加熱した。この反応を室温まで放冷した後、この溶液を空気に開放し、そして非乾燥トルエンを含む丸底フラスコに移した。蒸留を試みたが、異性体である場合は生成物と三種の物質の沸点が近いために失敗した。全ての画分を蒸留残渣と一緒にし、そしてCHBr(8.65mL、21.43g、123.3mmol、1当量)を内部標準として加えた。収率をNMRによって決定した:67%(6.70g、82.6mmol)。
【0090】
α-オレフィンC~C22
【0091】
【化25】
これらの化合物は、文献手順を採用して製造したが、Ni(COD)の代わりに錯体6を使用した。ガラス製入口を備えた50mL鋼製オートクレーブをアルゴン下にセットした。Ni(4-tBustb)(12.2mg、0.013mmol、1当量)、1-フェニル-2-(トリフェニル-λ-ホスファニリデン)エタン-1-オン(4.9mg、0.013mmol、1当量)及びPPh(3.4mg、0.013mmol、1当量)をシュレンク管に仕込んだ。固形物はトルエン(20mL)中に溶解し、そしてシリンジを用いてオートクレーブに移した。このオートクレーブを5barのエチレンガスで加圧し、そして25℃で15時間攪拌した。次いで、このオートクレーブを60barのエチレンで加圧し、そして45分間、60℃に加熱する。この反応は発熱の性質を示し、80bar及び75℃内部温度のピークで圧力及び温度の上昇を招いた。このオートクレーブを室温になるまで放置し、そして圧力を解放した。1-ウンデセン(200μL、150mg)を内部標準として加え、そしてGCサンプルを調製した(シリカプラグ上で濾過、ペンタンで溶離)。
【0092】
GC分析の結果:
【0093】
【表1】
【0094】
Ni(PPh4-tBustb)(48)
【0095】
【化26】
Ni(4-tBustb)(46.8mg、0.05mmol、1当量)及びPPh(52.4mg、0.2mmol、4当量)をd-トルエン(1mL)中に溶解し、NMRチューブに移した。31P-NMRによる分析は、錯体48と2当量のフリーのPPhとの1:1混合物を示す。同じ手順に従い、Ni(COD)(13.8mg、0.05mmol、1当量)及びPPh(52.4mg、0.2mmol、4当量)をd8-トルエン(1mL)中に溶解し、そして31P NMRによって分析した。Ni(COD)(PPhとNi(PPhとの1:3混合物。
【0096】
以上を纏めると、本発明は、支持スチルベン類のアリール環におけるそれらの置換が異なる空気安定性の16電子トリス-オレフィン-Ni(0)錯体のファミリーの合成、並びに様々な触媒用途におけるそれらの使用を提供する。これらの置換基の系統的研究により、本発明者らは、酸化に対する高安定性の原因が、(好ましくはスチルベン配位子のパラ位における)置換基によって推論される立体的要求の結果であることを確立できた。この根本的な観察は、顕著な物理的特性を持つ優れたNi(0)源であることが判明した。本発明による錯体は、アリール残基上のそれらの実際の置換に依存して、より速い速度論的プロファイル、より広範な触媒性能を提供し、そして殆どの用途において、課題の多い触媒転換においてNi(COD)と同じレベルで機能することが示された。本発明による錯体は、そのNi(COD)との反応性の高い類似性、広範な利用可能性、高い実行可能性及び堅牢さの故に、Ni触媒作用の分野において速やかに使用されるであろう。
図1a
図1b
図1c
図1d
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】