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特表2022-542691クリプトスポリジウム症の予防および/または治療のための獣医学的組成物
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  • 特表-クリプトスポリジウム症の予防および/または治療のための獣医学的組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-06
(54)【発明の名称】クリプトスポリジウム症の予防および/または治療のための獣医学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7036 20060101AFI20220929BHJP
   A61P 33/02 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 1/12 20060101ALI20220929BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
A61K31/7036
A61P33/02 171
A61P1/12
A61P1/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506177
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2020071631
(87)【国際公開番号】W WO2021019067
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】19305996.1
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513024281
【氏名又は名称】セヴァ サンテ アニマレ
【氏名又は名称原語表記】CEVA SANTE ANIMALE
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ベスケ,ベアトリス
(72)【発明者】
【氏名】ヒメネス,キャサリン
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA09
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA73
4C086ZB38
4C086ZC61
(57)【要約】
本発明は、非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症の予防および/または治療における使用のための、パロモマイシンまたはその薬学的に許容される塩を含む獣医学的組成物に関し、組成物は、当該非ヒト哺乳動物に、80~140mg/kg/日のパロモマイシン用量で3~6日間投与される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症の予防および/または治療における使用のための、パロモマイシンまたはその薬学的に許容される塩を含む獣医学的組成物であって、前記組成物が、前記非ヒト哺乳動物に、80および140mg/kg/日のパロモマイシン用量で3~6日間投与される、獣医学的組成物。
【請求項2】
前記パロモマイシン用量が、84~126mg/kg/日、91~119mg/kg/日、好ましくは98~112mg/kg/日である、請求項1に記載の使用が意図される獣医学的組成物。
【請求項3】
前記パロモマイシン用量が、約105mg/kg/日である、請求項1または2に記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項4】
前記パロモマイシンの薬学的に許容される塩が、硫酸塩である、請求項1~3のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項5】
非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症の予防および/または治療における使用のための、パロモマイシン硫酸塩を含む獣医学的組成物であって、前記組成物が、前記非ヒト哺乳動物に、114.3~200mg/kg/日のパロモマイシン硫酸塩用量で3~6日間投与される、獣医学的組成物。
【請求項6】
前記パロモマイシン硫酸塩用量が、約150mg/kg/日である、請求項5に記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項7】
前記組成物が、3~5日間、好ましくは5日間投与される、請求項1~6のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項8】
前記組成物が、1日1回投与される、請求項1~7のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項9】
前記組成物が、経口投与される、請求項1~8のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項10】
前記非ヒト哺乳動物が、ウシ、ブタ、ヤギ、またはヒツジであり、好ましくはウシであり、さらにより好ましくは子ウシである、請求項1~9のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項11】
前記非ヒト哺乳動物が、新生であるか、あるいは最高21日齢、好ましくは最高14日齢、さらにより好ましくは2もしくは3日齢または6~13日齢、好ましくは7~10日齢である、請求項1~10のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項12】
前記組成物が、少なくとも1つの賦形剤をさらに含む、請求項1~11のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項13】
前記組成物が、溶液である、請求項1~12のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項14】
オーシストの排泄を低減および/または排除するための、請求項1~13のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項15】
脱水状態を低減および/または排除するための、請求項1~13のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項16】
下痢を治療および/または予防するための、請求項1~13のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【請求項17】
1日の体重増加を増加させるために、請求項1~13のいずれかに記載の使用のための獣医学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的
本発明は、獣医学分野に関し、より具体的には、非ヒト哺乳動物、好ましくは幼い家畜におけるクリプトスポリジウム症を治療するための抗生物質組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クリプトスポリジウム症は、医学的および経済的に非常に重要なCryptosporidium属の原生動物によって引き起こされる人獣共通感染症の国際的な疾患である。実際に、Cryptosporidiumは、広範囲に分布する寄生虫であり、増殖および拡散の能力が大きい。これは、主に感染した水、動物、または食物との直接的な接触を通して、哺乳動物、爬虫類、鳥類、魚類を汚染する。Cryptosporidium parvumは、最も広範囲にわたる人獣共通感染症種であり、反芻動物を含むほとんどの哺乳動物における感染症、ならびに水媒介汚染の大部分の原因となる。反芻動物は、ヒトにとって主な汚染源である。
【0003】
したがって、クリプトスポリジウム症は、主要な世界的な公衆衛生上の課題を提示する。クリプトスポリジウム症は、5歳未満の小児の死亡の30~50%を占めると推定され、ロタウイルスに次いで小児における下痢および死亡の2番目に多い原因と考えられている。研究により、クリプトスポリジウム症の影響を受けた後の5歳児における認知および身体発達の後遺症が報告されている。
【0004】
生産動物において、腸内寄生虫Cryptosporidiumおよびそれに関連する疾患、すなわち、クリプトスポリジウム症は、重度の消化器障害の原因になり、重大な経済的損失(高罹患率、発育不全、獣医学的費用、さらなる作業時間)の原因である。ヨーロッパでは、クリプトスポリジウム症は、生後2~3週間で20~40%の幼い子ウシに影響を及ぼすと推定されている。
【0005】
クリプトスポリジウム症の臨床的発現は、非特異的であるが、21日齢の前に発症する。これは、程度の差はあるが強烈な急性下痢、脱水、無気力、食欲不振、および腹痛を特徴とする。体重減少、発育遅滞、発熱も認められる。オーシストの排泄は、生後4日目頃に始まり、次いで、7日目および8日目にピークを示し、その後減少する。オーシストの感染量が大きく、かつ早いほど、オーシストの排泄は大きく、かつ長くなり、下痢がそうなる。一方ではオーシストの排泄と下痢、他方では90日間の死亡率と高い排泄に関連する重度の下痢との相関が実証されている。この疾患の伝播および急速な拡大は、オーシストによって確実になり、オーシストは、その環境において非常に耐性がある。
【0006】
この蔓延に直面して、多数の分子を伴う様々な治療が、クリプトスポリジウム症に対するそれらの有効性について試験された。例えば、いくつかの研究は、子ウシにおけるクリプトスポリジウム症に対するラサロシドの有効性を実証している。しかしながら、最小有効用量(3mg/kg/日)は、毒性用量(5mg/kg/日)に非常に近い。その治療指数は非常に悪く、その使用は、頻繁かつ重度の副作用(食欲不振、頻脈、頻呼吸、食欲不振、麻痺、および死亡)を引き起こす。したがって、これらの毒性および危険性は、生後7日未満の子ウシでさらに顕著であり、この分子の実用的な使用を減少させる。チアゾリドファミリーの分子であるニタゾキサニドも、子ウシにおけるcryptosporidiumに対するその有効性を示した。一方、ニタゾキサニド系の治療に関連する下痢および多数の副作用の頻繁な持続、ならびに場合によっては高い死亡率も認められた。これらの副作用は、共生細菌叢に対する分子の作用に起因すると推測されている。これらの影響を考慮すると、この分子の使用は、生産動物では推奨されない。
【0007】
Aydogdu et al.も、2つの他の分子、キナゾリノンファミリーの誘導体であるハロフギノン乳酸塩およびパロモマイシンを、Cryptosporidium parvumに自然に感染した子ウシの治療におけるそれらの有効性を比較することによって検査した。より具体的には、Aydogdu et al.は、7日間100μg/kg/日のハロフギノン乳酸塩の用量、および7日間70mg/kg/日のパロモマイシン用量(Gabbrocol(登録商標))に対応する100mg/kg/日のパロモマイシン硫酸塩用量の治療有効性を示した。しかしながら、試験した用量におけるこれらの分子は、感染を完全に排除することができず、したがって、予防目的により適しているであろう。加えて、少なくとも7日間の長期間にわたるこれらの連続的な治療は、その適用が獣医師または飼育者にとって比較的制限的であり、耐性の問題を明らかにし得る。
【0008】
いくつかの有望な結果にもかかわらず、これまで、臨床徴候および寄生虫感染を永続的に制御することができる治療はない。ある特定の薬剤の使用は、寄生虫を完全に根絶することなく、オーシストの排泄および臨床徴候を低減することができる。加えて、寄生虫感染は、家畜の栄養への影響および発育を損なう著しい体重減少と相関している場合が非常に多い。
【0009】
したがって、クリプトスポリジウム症を治療すること、およびこの寄生虫疾患に関連する臨床徴候を改善することの両方を可能にする、新しい有効かつ非耐性の治療を開発する必要性が今日も残っている。
【発明の概要】
【0010】
この文脈において、本発明者らは、非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症を予防および/または治療するための新しい、より有効な治療を提案した。より具体的には、本発明者らは、より高い用量、すなわち、100mg/kg/日超(70mg/kg/日超の用量のパロモマイシンに対応する)でのパロモマイシン硫酸塩の使用により、寄生虫感染を効果的かつより迅速に根絶することが可能になり、同時に、クリプトスポリジウム症に罹患している非ヒト哺乳動物の臨床徴候を迅速に改善することが可能になったことを実証した。これらのより短い期間の有効な治療は、使用者にとって制限がより少ないことに加えて、特に同じ農場からの非ヒト哺乳動物にとっての汚染および増殖のリスクを低減するという利点を有する。これらのより短い期間の有効な治療は、パロモマイシンに耐性のある寄生虫の出現を制限することもできる。
【0011】
したがって、本発明は、非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症の予防および/または治療における使用を目的とする、パロモマイシンまたはその薬学的に許容される塩を含む獣医学的組成物に関し、組成物は、当該非ヒト哺乳動物に、80~140mg/kg/日のパロモマイシン用量で3~6日間投与される。
【0012】
本発明の特定の実施形態によると、パロモマイシン用量は、84~126mg/kg/日、91~119mg/kg/日、好ましくは98~112mg/kg/日である。本発明の好ましい実施形態によると、パロモマイシン用量は、約105mg/kg/日である。
【0013】
本発明の別の特定の実施形態によると、薬学的に許容されるパロモマイシン塩は、硫酸塩である。
【0014】
したがって、本発明の別の目的は、非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症の予防および/または治療における使用を目的とする、パロモマイシン硫酸塩を含む獣医学的組成物に関し、組成物は、当該非ヒト哺乳動物に、114.3~200mg/kg/日のパロモマイシン硫酸塩用量で3~6日間投与される。好ましい実施形態によると、パロモマイシン硫酸塩用量は、約150mg/kg/日である。
【0015】
別の特定の実施形態によると、本発明に従って使用される組成物は、3~5日間、好ましくは5日間投与される。好ましくは、組成物は、1日1回投与される。
【0016】
別の特定の実施形態によると、本発明に従って使用される組成物は、経口投与される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によると、非ヒト哺乳動物は、ウシ、ブタ、ヤギ、またはヒツジ、好ましくはウシである。さらにより好ましい実施形態によると、非ヒト哺乳動物は、新生であるか、あるいは最高21日齢、好ましくは最高14日齢、さらにより好ましくは2もしくは3日齢または6~13日齢、好ましくは7~10日である。有利に、非ヒト哺乳動物は、子ウシである。
【0018】
別の特定の実施形態によると、本発明に従って使用される組成物は、少なくとも1つの賦形剤も含む。本発明の別の特定の実施形態によると、組成物は、溶液である。
【0019】
本発明の別の目的は、オーシストの排泄を低減および/または排除するための、本出願で定義される組成物の使用に関する。本発明の別の目的は、脱水状態を低減および/または排除するための、本出願で定義される組成物の使用に関する。本発明のさらなる目的は、下痢を治療および/または予防するための、本出願で定義される組成物の使用に関する。本発明の別のさらなる目的は、1日の体重増加を増加させるための、本出願で定義される組成物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】対照群75、100、および150のDt0~Dt5の糞便スコアの展開。
図2】対照群75、100、および150のDt0~Dt5の脱水スコアの展開。
図3】対照群75、100および150のDt0~Dt10のオーシストの平均数の展開。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本出願に開示される本発明は、非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症を予防および/または治療するための、先行技術で一般的に使用されるものよりも高い用量、すなわち、70mg/kg/日超、好ましくは80~140mg/kg/日での、パロモマイシン、またはその薬学的に許容される塩のうちの1つを含む獣医学的組成物の日常的な使用に関する。本発明はまた、好ましくはクリプトスポリジウム症に罹患している、非ヒト哺乳動物におけるCryptosporidium parvumを根絶または排除するためのその使用のための、本出願に開示される獣医学的組成物に関する。本発明はまた、Cryptosporidium parvumを根絶または排除するための方法にも関し、方法は、本出願に開示される獣医学的組成物を、好ましくはクリプトスポリジウム症に罹患している、非ヒト哺乳動物に投与することを含む。
【0022】
したがって、本発明は、非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症の予防および/または治療における使用のための、パロモマイシンまたはその薬学的に許容される塩を含む獣医学的組成物に関し、組成物は、当該非ヒト哺乳動物に、80~140mg/kg/日のパロモマイシン用量で3~6日間投与される。本発明はまた、非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症の予防および/または治療における使用のための、パロモマイシンまたはその薬学的に許容される塩に関し、パロモマイシンまたはその薬学的に許容される塩は、非ヒト哺乳動物に、80~140mg/kg/日のパロモマイシン用量で3~6日間投与される。本発明はまた、非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症を治療するための方法に関し、方法は、この非ヒト哺乳動物において、80~140mg/kg/日のパロモマイシン用量もしくはその薬学的に許容される塩、または当該用量を含む獣医学的組成物を3~6日間投与することを含む。本発明はまた、非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症を治療するための獣医学的組成物の製造のための、80~140mg/kg/日のパロモマイシン用量またはその薬学的に許容される塩の使用に関し、組成物は、当該非ヒト哺乳動物に3~6日間投与される。
【0023】
本発明の特定の実施形態によると、パロモマイシン用量は、84~126mg/kg/日、91~119mg/kg/日、好ましくは98~112mg/kg/日である。好ましい実施形態によると、パロモマイシン用量は、約105mg/kg/日である。
【0024】
本発明の文脈において、「治療」および「治療すること」という用語は、広い意味では、下痢、脱水、一般的な健康状態、1日の体重増加、および行動など、疾患、疾患に関連する障害または臨床徴候、この場合は、クリプトスポリジウム症の改善、予防、治癒を意味する。「クリプトスポリジウム症の治療」という用語はまた、非ヒト哺乳動物におけるCryptosporidium parvumなどのクリプトスポリジウム症の原因となる寄生虫の制御、すなわち、根絶、排除、または低減を意味する。これはまた、非ヒト哺乳動物におけるCryptosporidium parvumなどのクリプトスポリジウム症の原因となる寄生虫のオーシストの排泄の制御、すなわち、オーシストの排泄の低減またはさらには排除を意味する。
【0025】
特定の実施形態では、これらの発現には、クリプトスポリジウム症に対する非ヒト哺乳動物の治療的処置が含まれる。「治癒的処置」という用語は、非ヒト哺乳動物がクリプトスポリジウム症に対して治癒されることを可能にする処置を意味する。特に、治療される非ヒト哺乳動物は、好ましくは0に等しい糞便スコア、および/または一般的な健康状態スコア、および/または水和スコア、および/または最小の臨床的回復スコアを有する。
【0026】
別の特定の実施形態によると、これらの発現は、クリプトスポリジウム症に対する非ヒト哺乳動物の予防的処置を含む。第1の態様によると、予防的処置とは、非ヒト哺乳動物がクリプトスポリジウム症を引き起こすか、またはその原因となる薬剤に曝露されるか、またはそれと接触する前に行われる処置を意味する。したがって、予防的処置は、クリプトスポリジウム症を発症する非ヒト哺乳動物のリスクを低減する。したがって、「治療」および/または「予防」という用語はまた、クリプトスポリジウム症に対する、またはその障害のうちの少なくとも1つに対する非ヒト哺乳動物の保護を意味することができる。第2の態様によると、予防的処置はまた、クリプトスポリジウム症に罹患している非ヒト哺乳動物において行われる処置を意味する。病気の対象において行われる治療は、その環境におけるクリプトスポリジウム症の原因となる寄生虫を制御し、かつ周囲の健康な対象における感染および汚染のリスクを低減することを可能にし、したがってクリプトスポリジウム症の拡大を制限することに寄与することができる。
【0027】
パロモマイシンは、アミノグリコシドのグループに属する抗生物質化合物である。これは、メッセンジャーRNAの翻訳に作用するため、タンパク質合成を中断する。その抗菌活性は、主にリボソームとのその不可逆的な相互作用に起因する。パロモマイシンは、グラム陽性およびグラム陰性細菌に対して広範囲の活性を示す。したがって、これは特に、そのパロモマイシン硫酸塩(Gabbrovet(登録商標)、Parofor(登録商標))の形態で3~5日間、25~50mg/kg/日の用量で、ブタおよび離乳前の動物におけるE.coliおよびSalmonellaによって引き起こされる胃腸感染に対する治療で使用される。導入部に示されるように、これはまた、子ウシにおけるクリプトスポリジウム症に対して使用されるが、本発明で使用されるものよりも低い用量を使用し、かつ最長7日間のより長い期間の治療で使用される。
【0028】
「薬学的に許容される塩」という用語は、有機塩および無機塩の両方を意味する。無機塩の代表的な例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ素酸塩、スルホン酸塩、硫酸塩、およびリン酸塩が挙げられる。有機塩の代表的な例としては、ギ酸塩、酢酸塩、トリクロロ酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、ケイ皮酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、およびメタンスルホン酸塩が挙げられる。好ましくは、薬学的に許容される塩は、硫酸塩である。好ましい実施形態によると、本発明に従って使用されるパロモマイシンは、パロモマイシン硫酸塩の形態である。
【0029】
本発明によると、パロモマイシンは、80~140mg/kg/日の用量で非ヒト哺乳動物に投与される。本出願に開示されるように、パロモマイシン用量は、1日当たり非ヒト哺乳動物体重1キログラム当たりに投与されるパロモマイシンの重量による量に対応する。パロモマイシンの重量による量は、パロモマイシンそれ自体の、すなわち、投与されるパロモマイシン形態(塩形態など)を考慮しない重量による量に対応する。当業者が、使用されるパロモマイシンの形態に従って量を適応させる方法を知ることが理解される。例えば、80~140mg/kg/日の用量のパロモマイシンは、114.3mg/kg/日~200mg/kg/日のパロモマイシン硫酸塩用量に対応する。80、84、91、98、105、112、119、126、および140mg/kg/日のパロモマイシン用量は、それぞれ、114.3、120、130、140、150、160、170、180、および200mg/kg/日のパロモマイシン硫酸塩用量に対応する。
【0030】
したがって、本発明はまた、非ヒト哺乳動物におけるクリプトスポリジウム症の予防および/または治療における使用を目的とする、パロモマイシン硫酸塩を含む獣医学的組成物に関し、組成物は、当該非ヒト哺乳動物に、114.3~200mg/kg/日、好ましくは120~200mg/kg/日、120~180mg/kg/日、130~170mg/kg/日、140~160mg/kg/日のパロモマイシン硫酸塩用量で3~6日間投与される。好ましくは、パロモマイシン硫酸塩用量は、約150mg/kg/日である。
【0031】
「約」という用語は、当業者によって理解され、使用される文脈に応じてある程度変化し得る。この用語のある特定の使用は、文脈に応じて当業者には明確でないが、「約」は、特定の用語のプラスまたはマイナス20%、好ましくはプラスまたはマイナス10%を意味する。
【0032】
パロモマイシンもしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらを含む組成物は、本明細書に指定される用量で1~6日間、1~5日間、2~6日間、2~5日間、3~6日間、および3~5日間、非ヒト哺乳動物に投与され得る。本発明の文脈において、上記で定義されるようなX~Y日間の投与は、最小X日間および最大Y日間の投与を意味する。換言すれば、治療は、少なくともX日間および最長Y日間適用される。したがって、1~6日間の投与は、少なくとも1日間および最長6日間、すなわち、1、2、3、4、5、または6日間の投与を意味する。次いで、6日目に投与が行われた後に治療が停止される。
【0033】
より具体的には、パロモマイシンもしくはその薬学的に許容される塩、またはそれらを含む組成物は、本出願に指定される用量で3~6日間、非ヒト哺乳動物に投与される。したがって、パロモマイシン、またはその薬学的に許容される塩のうちの1つは、時間T0(Dt0)で非ヒト哺乳動物に投与され、次いで、1日後または24時間後の時間T1(Dt1)で再び投与される。したがって、治療は、T0から3~6日間、すなわち3、4、5、または6日間、好ましくは3~5日間、毎日繰り返される。本発明の好ましい実施形態によると、パロモマイシン、もしくはその薬学的に許容される塩のうちの1つ、またはそれらを含む組成物は、3日間、4日間、および好ましくは5日間投与される。
【0034】
パロモマイシンまたはその薬学的に許容される塩は、1日1回または数回、好ましくは1日1回投与され得る。本発明の好ましい実施形態によると、パロモマイシン、もしくはその薬学的に許容される塩のうちの1つ、またはそれらを含む組成物は、3~6日間、3~5日間、3日間、4日間、および好ましくは5日間投与される。
【0035】
本発明で使用される獣医学的組成物は、経口、または静脈内、筋肉内、および皮下注射によるものを含む非経口などの当業者に既知の任意の投与経路によって投与され得る。本発明の好ましい実施形態によると、組成物は、経口投与される。経口投与の文脈において、組成物は、非ヒト哺乳動物に直接投与されてもよく、または食物と混合して投与されてもよい。
【0036】
特定の実施形態によると、本出願に開示される組成物はまた、賦形剤を含む。「賦形剤」という用語は、クリプトスポリジウム症に対してそれ自体活性ではなく、かつ非ヒト哺乳動物によって耐容性良好である、すなわち、副作用を引き起こさない、組成物中に存在する任意の成分を意味する。賦形剤の例として、当業者に既知のすべての獣医学的賦形剤、特に溶媒、可溶化剤、界面活性剤、抗酸化剤、増粘剤、防腐剤、および消泡剤のクラスに属するものについて言及することができるが、これらに限定されない。
【0037】
本発明の好ましい実施形態によると、少なくとも1つの賦形剤は、無水コロイドシリカ、グルコース一水和物、ベンジルアルコール、メタ重亜硫酸ナトリウム、およびエデト酸二ナトリウムから選択される。
【0038】
本発明で使用される獣医学的組成物は、当業者に既知の任意の形態で製剤化され得る。例えば、組成物は、液体形態、好ましくは溶液またはエマルションの形態であってもよい。組成物はまた、固形形態であってもよく、好ましくは、ゲル、ペースト、粉末、錠剤、カプセル、顆粒、カプレット、またはピルの形態であってもよい。明らかに、当業者は、考慮される製剤および投与経路に従って賦形剤の割合および性質を調整する方法を知るであろう。本発明の特定の実施形態によると、組成物は、粉末または溶液である。本発明の好ましい実施形態によると、組成物は、溶液である。
【0039】
本発明は、任意の動物、より具体的には任意の非ヒト哺乳動物の治療に好適である。本発明の特定の実施形態によると、非ヒト哺乳動物は、ウシ、ブタ、ヤギ、またはヒツジ、好ましくはウシ、有利には子ウシである。本発明のさらにより特定の実施形態によると、非ヒト哺乳動物は、新生であるか、または最高21日齢、好ましくは最高14日齢である。好ましい実施形態によると、非ヒト哺乳動物は、2または3日齢である。別の好ましい実施形態によると、非ヒト哺乳動物は、6~13日齢、好ましくは7~10日齢である。本発明のさらにより好ましい実施形態によると、非ヒト哺乳動物は、新生または最高4日齢、好ましくは2もしくは3日齢のウシまたは子ウシである。本発明の別のさらにより好ましい実施形態によると、非ヒト哺乳動物は、最高14日齢、好ましくは6~13日齢、およびさらにより好ましくは7~10日齢のウシまたは子ウシである。
【0040】
本発明の好ましい目的は、ウシにおけるクリプトスポリジウム症の予防および/または治療における使用を目的とする、パロモマイシン硫酸塩、またはその薬学的に許容される塩のうちの1つを含む獣医学的組成物であり、組成物は、114.3~200mg/kg/日、好ましくは120~200mg/kg/日、120~180mg/kg/日、130~170mg/kg/日、140~160mg/kg/日、およびさらにより好ましくは約150mg/kg/日のパロモマイシン硫酸塩用量で、3~6日間、好ましくは3~5日間、およびさらにより好ましい方法で5日間、当該ウシに経口投与される。
【0041】
本発明のさらなる目的は、オーシストの排泄を低減および/または排除するための、本出願に開示される使用のための獣医学的組成物に関する。本発明はまた、脱水状態を低減および/または排除するための、本出願に開示される使用のための獣医学的組成物に関する。本発明はまた、下痢を治療および/または予防するための、本出願において開示される使用のための獣医学的組成物に関する。本発明はまた、1日の体重増加を増加させるための、本出願において開示される使用のための獣医学的組成物に関する。
【0042】
別のさらなる目的は、オーシストの排泄を低減および/または排除するための方法に関し、方法は、クリプトスポリジウム症に罹患している非ヒト哺乳動物において、80~140mg/kg/日のパロモマイシン用量で、パロモマイシンまたはその薬学的に許容される塩を含有する獣医学的組成物を3~6日間投与することを含む。別の目的はまた、脱水状態を低減および/または排除するための方法に関し、方法は、クリプトスポリジウム症に罹患している非ヒト哺乳動物において、80~140mg/kg/日のパロモマイシン用量で、パロモマイシン、またはその薬学的に許容される塩のうちの1つを含有する獣医学的組成物を3~6日間投与することを含む。別の目的はまた、下痢を治療および/または予防するための方法に関し、クリプトスポリジウム症に罹患している非ヒト哺乳動物において、80~140mg/kg/日のパロモマイシン用量で、パロモマイシン、またはその薬学的に許容される塩のうちの1つを含有する獣医学的組成物を3~6日間投与することを含む。さらに別の目的は、クリプトスポリジウム症に罹患している非ヒト哺乳動物の1日の体重増加を増加させるための方法に関し、方法は、当該非ヒト哺乳動物において、80~140mg/kg/日のパロモマイシン用量で、パロモマイシン、またはその薬学的に許容される塩のうちの1つを含有する獣医学的組成物を3~6日間投与することを含む。
【0043】
本発明の他の態様および利点は、以下の実施例を読むことによって明らかになり、実施例は、例示的であり限定的ではないと考えられるべきである。
【実施例
【0044】
材料および方法
組成物
本研究で使用した組成物は、200mg/mLのパロモマイシン硫酸塩(140mg/mLのパロモマイシンに対応する)を含有する経口溶液であった。75、100、および150mg/kgの異なる用量のパロモマイシン硫酸塩を、200mg/mLのパロモマイシン硫酸塩でこの経口溶液から得た。
【0045】
処置
2~4日齢の35頭の子ウシに、Cryptosporidium parvumの約10個の胞子形成オーシストを接種した。次いで、子ウシを以下の4つの群に分け、Dt0(0日目)に以下の条件で処置した。
-9頭の未処置の子ウシ(対照群)、
-75mg/kg/日のパロモマイシン硫酸塩で5日間処置した9頭の子ウシ(群75)、
-100mg/kg/日のパロモマイシン硫酸塩で5日間処置した9頭の子ウシ(群100)、および
-150mg/kg/日のパロモマイシン硫酸塩で5日間処置した9頭の子ウシ(群150)。
【0046】
結果
1.臨床徴候
下痢(糞便スコア)
糞便の硬さをDt0、次いで、Dt5まで1日2回(朝食前および午後)分析した。以下の観察結果に基づいて、0~2のスコアを割り当てた。
-スコア0:正常な糞便
-スコア1:下痢
-スコア2:水様下痢(糞便なし)
図1の結果は、処置開始後1日目から、対照群75および100と比較して、群150についてより低い糞便スコアを示す。
【0047】
以下の表1の結果は、処置中の各群の糞便スコアを記載する。より良好な糞便スコア(すなわち、より低い)が、治療の5日後に群150について得られる。
【表1】
【0048】
一般的な健康状態スコア
子ウシの一般的な健康状態をDt0、次いで、Dt5まで1日2回(朝食前および午後)観察した。以下の観察結果に基づいて、0~3のスコアを割り当てた。
-スコア0:機敏かつ活発な子ウシ
-スコア1:中程度に元気のない子ウシ(垂れ下がった耳、および刺激に対してわずかに非感受性)
-スコア2:元気のない子ウシ(垂れ下がった耳および頭、ならびに立っていることに興味がない)
-スコア3:横たわっている子ウシ(立つことができない)
【0049】
以下の表2の結果は、処置中の各群の子ウシの一般的な健康状態の展開を記載する。より良好な一般的な健康状態スコアが、処置の開始後の最初の12時間からの群150について得られる。
【表2】
【0050】
水和スコア
水和スコアを、Dt0~Dt5の朝食前に1日1回測定した。以下の観察結果に基づいて、0~3のスコアを割り当てた。
-スコア0:正常な水和状態、1秒未満の皮下脂肪厚
-スコア1:わずかな脱水、わずかにくぼんだ目、および2秒以下の皮下脂肪厚
-スコア2:中等度の脱水、くぼんだ目、乾燥した鼻口部、2秒超および5秒未満の皮下脂肪厚
-スコア3:重度の脱水、重度の眼球陥入、5秒超の皮下脂肪厚
図2の結果は、対照群75および100と比較して、群150についてより低い水和スコア(すなわち、より良好な水和)を示す。
【0051】
臨床的治癒
臨床的治癒を上記の臨床データから計算し、試験した用量の有効性を決定することを可能にした。子ウシは、0の糞便スコア、0の一般的な健康状態スコア、および0の水和スコアを有する場合に治癒されたとみなされる。
【0052】
以下の表3の結果は、処置中の各群の子ウシの臨床的治癒の展開を記載する。より良好な臨床的治癒が、処置中に群150について観察される。
【表3】
【0053】
2.オーシスト数
糞便試料を、Dt0~Dt10の午前中に毎日採取した。Cryptosporidium parvumオーシストの定量分析を、Meridian Diagnostics製のMerifluor(登録商標)試薬を用いて行った。
【0054】
図3の結果は、対照群75および100と比較して、群150について試料中に存在するオーシストの数がはるかに少ないことを示す。したがって、これは、群150が対照群75および100よりも少ないオーシストを排泄することを実証する。
【0055】
3.体重
子ウシの1日の平均体重増加も、各群についてDt0~Dt21に計算した。この1日の体重増加の平均を以下の表4に示す。より良好な1日の体重増加が、処置中の群150について観察される。
【表4】
【0056】
所見
上記の実施例は、150mg/kg/日のパロモマイシン硫酸塩用量(または105mg/kg/日のパロモマイシン)の投与を含む処置により、Cryptosporidium parvumオーシストを接種された子ウシにおいて、臨床徴候(下痢、一般的な健康状態、水和)を改善し、オーシスト排泄を低減し、1日の体重増加を増加させることが可能になることを示す。したがって、本発明者らは驚くべきことに、80~140mg/kg/日のパロモマイシン用量で、パロモマイシン、またはその薬学的に許容される塩のうちの1つを3~6日間使用することにより、クリプトスポリジウム症、ならびにこの疾患に関連する臨床徴候を完全に、より効果的に、かつより迅速に治療することが可能になることを実証した。
図1
図2
図3
【国際調査報告】