(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-06
(54)【発明の名称】粒子ビームシステム及び個別粒子ビームの電流強度を柔軟に設定するためのその使用
(51)【国際特許分類】
H01J 37/28 20060101AFI20220929BHJP
H01J 37/141 20060101ALI20220929BHJP
H01J 37/09 20060101ALI20220929BHJP
H01J 37/12 20060101ALI20220929BHJP
【FI】
H01J37/28 B
H01J37/141
H01J37/09 A
H01J37/12
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506262
(86)(22)【出願日】2020-05-23
(85)【翻訳文提出日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 DE2020000101
(87)【国際公開番号】W WO2021018327
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】102019005362.1
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520284322
【氏名又は名称】カール ツァイス マルチセム ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100147692
【氏名又は名称】下地 健一
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン シューベルト
(72)【発明者】
【氏名】ダーク ツァイトラー
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルゴ メタリディス
(72)【発明者】
【氏名】ハンス フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ レンケ
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101EE03
5C101EE12
5C101EE14
5C101EE19
5C101EE43
5C101EE59
5C101EE62
5C101EE65
5C101EE69
5C101EE75
5C101EE78
(57)【要約】
本発明は、個別粒子ビームの電流強度を構造的変更なしで柔軟に且つ大きな値範囲にわたり設定することができる、粒子ビームシステム及び特にマルチビーム粒子顕微鏡に関する。ここで、本発明による粒子ビームシステムは、コンデンサレンズ系と、特定の前置対向電極及び前置多孔プレートを有する前置マルチレンズアレイと、マルチレンズアレイとを備える。本システムは、荷電粒子が前置多孔プレートにテレセントリックに入射可能であるようにコンデンサレンズ系及び前置対向電極に調整可能な励起を供給するよう構成されたコントローラを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子ビームシステムであって、
発散荷電粒子ビームを発生させるよう構成された少なくとも1つの粒子源と、
前記荷電粒子ビームを通過させるコンデンサレンズ系と、
前置マルチレンズアレイであり、前記荷電粒子ビームを通過させる中央開口を有する前置対向電極を有し、且つ該前置対向電極の下流のビーム経路に配置された前置多孔プレートを有し、該前置多孔プレートは荷電粒子が複数の荷電個別粒子ビームの形態で前記前置多孔プレートを通過するように配置される、前置マルチレンズアレイと、
該前置マルチレンズアレイの下流のビーム経路に配置されたマルチレンズアレイであり、前記荷電個別粒子ビームの少なくとも一部を通過させる複数の開口を有する多孔プレートを有し、且つ該多孔プレートの下流のビーム経路に配置された中央開口を有する対向電極を有し、該対向電極は前記複数の個別粒子ビームを実質的に通過させる、マルチレンズアレイと、
前記荷電粒子が前記前置多孔プレートにテレセントリックに入射可能であるように前記コンデンサレンズ系及び前記前置対向電極に調整可能な励起を供給するよう構成されたコントローラと
を備えた粒子ビームシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記コントローラは、前記個別粒子ビームの電流強度を設定するよう構成される粒子ビームシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粒子ビームシステムにおいて、粒子ビームシステムは、前記マルチレンズアレイを含む微小光学ユニットを備える粒子ビームシステム。
【請求項4】
請求項3に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記微小光学ユニットは、前記前置多孔プレートを含む粒子ビームシステム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、粒子ビームシステムは、中央開口を有する前置補助電極をさらに備え、該前置補助電極は、前記前置対向電極の下流且つ前記前置マルチレンズアレイの直上流のビーム経路に配置され、且つ調整可能な電圧を前記コントローラにより供給可能である粒子ビームシステム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、粒子ビームシステムは、中央開口を有する後置補助電極をさらに有し、該後置補助電極は、前記マルチレンズアレイの直下流且つ前記対向電極の上流のビーム経路に配置され、且つ調整可能な電圧を前記コントローラにより供給可能である粒子ビームシステム。
【請求項7】
請求項2又は3に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記微小光学ユニットは、接地電位にあるフレームを有する粒子ビームシステム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記コンデンサレンズ系は、2つのコンデンサレンズを有する粒子ビームシステム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、両方のコンデンサレンズが磁気コンデンサレンズである粒子ビームシステム。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、
前記コンデンサレンズ系は、磁気コンデンサレンズ及び静電コンデンサレンズを有し、該静電コンデンサレンズは、前記磁気コンデンサレンズの下流のビーム経路に配置され、
前記コントローラにより駆動可能なブースター電極が、前記磁気コンデンサレンズと前記静電コンデンサレンズとの間に配置され、該静電コンデンサレンズは前記ブースター電極により励起可能である粒子ビームシステム。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、粒子ビームシステムは、複数の開口を有するビーム電流制限多孔プレートを含むビーム電流制限多孔プレート系をさらに備え、該ビーム電流制限多孔プレート系は、前記前置マルチレンズアレイの下流且つ前記マルチレンズアレイの上流のビーム経路に配置され、且つビーム経路に挿入可能に構成される粒子ビームシステム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記開口は、円形及び/又は環状に形成される粒子ビームシステム。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記ビーム電流制限多孔プレート系は、相互に対して実質的に平行に変位可能でありそれぞれが複数の開口を有する2つ以上の多孔プレートを有し、有効多孔プレート開口サイズが、前記ビーム電流制限多孔プレート系を通過する前記個別粒子ビームに対して調整可能である粒子ビームシステム。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、相互に対して変位可能な前記多孔プレートの前記開口は、実質的に同一のサイズを有し且つ実質的に同じ幾何学的形態を有する粒子ビームシステム。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、相互に対して変位可能な前記多孔プレートの前記開口は、円形又は正方形である粒子ビームシステム。
【請求項16】
請求項11に記載の粒子ビームシステムにおいて、
前記ビーム電流制限多孔プレート系は、ビーム経路に連続して配置された、それぞれが複数の開口を有する2つの多孔プレートを有し、
該2つの多孔プレート間に2つの偏向器が配置され、前記多孔プレート系を通過中に光軸に対する個別粒子ビームの平行オフセットを実質的に得ることができるように駆動可能である粒子ビームシステム。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、粒子ビームシステムは、
ビーム経路の方向で前記マルチレンズアレイの下流に配置され且つ前記個別粒子ビームの実焦点が形成される中間像面であり、前記焦点同士はピッチ1だけ離間する、中間像面と、
ビーム経路の方向で前記マルチレンズアレイの下流に配置された視野レンズ系と、
ビーム経路の方向で前記視野レンズ系の下流に配置された対物レンズ、特に磁気対物レンズと、
前記個別粒子ビームが粒子光学的に結像し且つ前記個別粒子ビーム同士がピッチ2だけ離間する物体面と
をさらに備えた粒子ビームシステム。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記コントローラは、前記ピッチ2が前記物体面で設定され、特に前記個別粒子ビームのビーム電流強度を変えた場合に一定に保たれるように、粒子ビームシステムの粒子光学コンポーネントを駆動するよう構成される粒子ビームシステム。
【請求項19】
請求項1~18のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムにおいて、前記コントローラは、前記物体面における開口数が設定され、特に前記個別粒子ビームの指定のビーム電流強度について前記物体面における分解能が最適化されるように、粒子ビームシステムの前記粒子光学コンポーネントを駆動するよう構成される粒子ビームシステム。
【請求項20】
個別粒子ビームの電流強度を設定するための請求項1~19のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムの使用。
【請求項21】
物体面における分解能、特に最適な分解能を設定するための請求項1~19のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムの使用。
【請求項22】
請求項1~19のいずれか1項に記載の粒子ビームシステムを備えたマルチビーム粒子顕微鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の粒子ビームを操作する粒子ビームシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
シングルビーム粒子顕微鏡と同様に、マルチビーム粒子顕微鏡を用いて、微視的スケールの物体を分析することができる。これらの粒子顕微鏡を用いて、例えば物体の表面を表すその物体の画像を記録することができる。このようにして、例えば表面の構造を分析することができる。シングルビーム粒子顕微鏡では、電子、陽電子、ミュオン、イオン等の荷電粒子の単独の粒子ビームを用いて物体を分析するが、マルチビーム粒子顕微鏡では、複数の粒子ビームをこの目的で用いる。束とも称する複数の粒子ビームを同時に物体の表面に指向させる結果として、同じ期間内に走査し分析できる物体の表面の面積は、シングルビーム粒子顕微鏡に比べて大幅に大きい。
【0003】
特許文献1は、平行な電子ビーム束を用いて検査対象の物体を走査するために複数の電子ビームを用いて動作する電子顕微鏡システムの形態の多粒子ビームシステムを開示している。電子ビーム束は、複数の開口を有する多孔プレートに電子源を向けることにより生成された電子ビームにより生成される。電子ビームの電子の一部は多孔プレートに入射してそこに吸収され、ビームのうち別の部分は多孔プレートの開口を通過することで、各開口の下流のビーム経路で電子ビームが整形され、この電子ビームの断面は開口の断面により規定される。さらに、適切に選択された電界が多孔プレートの上流及び/又は下流のビーム経路に与えられることにより、多孔プレートの各開口がそこを通過する電子に対してレンズとして働くことで、多孔プレートから離れて位置する平面に電子ビームが集束するという効果がある。電子ビームの焦点が形成される平面は、下流の光学ユニットにより検査対象の物体の表面に結像され、個々の電子ビームが一次ビームとして集束して物体に入射する。それから、物体から生じる後方散乱電子又は二次電子等の相互作用生成物が生成され、これらが二次ビームを形成するように整形されてさらに別の光学ユニットにより検出器に指向される。検出器では、二次ビームのそれぞれが別個の検出器素子に入射し、当該検出器素子により検出された電子強度が、対応する一次ビームが物体に入射する部位における物体に関する情報を提供する。走査型電子顕微鏡の慣例的な方法で物体の電子顕微鏡写真を生成するために、一次ビーム束は、物体の表面にわたって系統的に走査される。
【0004】
記載の多粒子ビームシステムでは、粒子光学結像の範囲内の高分解能が実際には非常に重要である。分解能は、物体面における開口数と、個別粒子ビームのビーム電流とに応じて変わる。原理上は、回折に起因して、無収差光学ユニットには以下のことが当てはまる。物体面の開口数が大きいほど、これにより物体面で得られる照射スポットが小さくなるので分解能が高い。個別粒子ビームのビーム電流が小さいほど、分解能が高い。ここで、開口数及び個別粒子ビームのビーム電流の値は、結像倍率により相互に密接に関係又は関連する。収差は分解能に影響する付加的要因であり、これらの寄与は開口数に応じてさまざまである。所与の動作点で、特に指定のビーム電流で、且つ設定されたシステムパラメータ(例えば、収差係数、光源の画像表現の倍率、ビーム電流)で、いずれの場合も、試料における開口数について個別粒子ビームのスポットサイズを最小化する値がある。ここで、開口数は、通常はシステムの1つの動作点のみについて最適化され、ここではまた、あらゆる計算にもかかわらず、開口数はこの1つの動作点に最適でない場合がある。
【0005】
したがって、多粒子ビームシステムの開口数を変更可能であることが望ましい。これにより、動作中の分解能の向上すなわち最適化が可能となる。さらに、可能であれば多粒子ビームシステムに構造的な変更を加える必要なく、指定の動作点について、特に指定のビーム電流強度について分解能を向上させる又は最適化すること、又は逆に、所望の分解能に対して大きな値範囲にわたり連続的に且つできる限り柔軟にビーム電流強度を設定することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、独立して且つ大きな値範囲にわたり、すなわち特に単純に且つ粒子ビームシステムに構造的な変更を加えることなく、最適な分解能にとって最適的なビーム電流及び最適な開口数をそれぞれ設定することを可能にする、粒子ビームシステムを提供することである。ここで、必須ではないが、例えば試料への入射時の個別粒子ビーム間の距離(いわゆる「ピッチ」)等の他の粒子光学パラメータを変えることが可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、独立特許請求項の主題により達成される。本発明の有利な実施形態は、従属特許請求項から明らかである。
【0009】
本特許出願は、独国特許出願第10 2019 005 362.1号及び国際特許出願第PCT/DE2020/000101号の優先権を主張し、両出願の開示の全体を参照により本願に援用する。
【0010】
本発明の第1態様によれば、本発明は、粒子ビームシステムであって、
発散荷電粒子ビームを発生させるよう構成された少なくとも1つの粒子源と、
荷電粒子ビームを通過させるコンデンサレンズ系と、
前置マルチレンズアレイであり、荷電粒子ビームを通過させる中央開口を有する前置対向電極を有し、且つ前置対向電極の下流のビーム経路に配置された前置多孔プレートを有し、当該前置多孔プレートは荷電粒子が複数の荷電個別粒子ビームの形態で前置多孔プレートを通過するように配置される、前置マルチレンズアレイと、
前置マルチレンズアレイの下流のビーム経路に配置されたマルチレンズアレイであり、荷電個別粒子ビームの少なくとも一部を通過させる複数の開口を有する多孔プレートを有し、且つ多孔プレートの下流のビーム経路に配置された中央開口を有する対向電極を有し、当該対向電極は複数の個別粒子ビームを実質的に通過させる、マルチレンズアレイと、
荷電粒子が前置多孔プレートにテレセントリックに入射可能であるようにコンデンサレンズ系及び前置対向電極に調整可能な励起を供給するよう構成されたコントローラと
を備えた粒子ビームシステムに関する。
【0011】
好ましくは、コントローラは、個別粒子ビームの電流強度を設定するよう構成される。
【0012】
よって、本発明によれば、粒子源が設けられるが、複数の粒子源を設けることもできる。荷電粒子は、例えば電子、陽電子、ミュオン、又はイオンその他の荷電粒子であり得る。好ましくは、荷電粒子は、例えば熱電界放出源(TFE)を用いて生成された電子である。しかしながら、他の粒子源を用いることもできる。
【0013】
コンデンサレンズ系は、1つ、2つ、又はそれ以上のコンデンサレンズを有することができる。好ましくは、コンデンサレンズ系はダブルコンデンサを有する。好ましくは、コンデンサレンズ系は、コンデンサレンズを2つだけ、特に好ましく2つの磁気コンデンサレンズを含む。
【0014】
本特許出願の範囲内では、多孔プレートとマルチレンズアレイとは全体を通して言語的に区別される。多孔プレートは、複数の開口を有するプレートである。ここで、この多孔プレート全体に電圧が印加され得る。これは可能だが必ずしもそうである必要はない。いずれの場合も、多孔プレートの全ての開口は、均一で全体的に同一の電位及び磁位を有する。本特許出願の範囲内では、マルチレンズアレイは、相互に実質的に平行に配置された複数のレンズを有し、その屈折力を変えることができる。レンズ効果は、多孔プレート及び対向電極の組み合わせにより生じ、レンズの屈折力は、特に対向電極の異なる励起により変えることができる。
【0015】
マルチレンズアレイは、複数の個別粒子ビームを用いる粒子ビームシステムのコアを形成する。ここで、マルチレンズアレイは、多孔プレート及び対向電極を含む。個別粒子ビームは、マルチレンズアレイを通過するより前に生成され、上記個別粒子ビームは、マルチレンズアレイの下流でそれぞれ集束される。その際に生じる焦点は、粒子源の複数の像に対応し、続いて後続の粒子光学結像のための始点又は仮想マルチソースアレイとみなすことができる。ここで、マルチレンズアレイの集束効果は、多孔プレートの上流及び下流の電界強度が異なることから生じ、ビーム経路で多孔プレートの下流に配置された中央開口を有する対向電極は、個別粒子ビームが分断されること又は個別粒子ビームの焦点が多孔プレートの個々の開口同士よりも大きく相互に離間することをさらに確実にする。原理上は、これらのことは従来技術から既知である。
【0016】
さらに、マルチレンズアレイの上流のビーム経路に前置多孔プレートを配置することは既知であり、この前置多孔プレートは、その場合は個別粒子ビームを整形するか又はそれらを荷電粒子ビームから切り取る働きをする。マルチレンズアレイの上流に前置多孔プレートを配置することは、マルチレンズアレイの多孔プレートがそこに入射する粒子により荷電されないので有利である。とはいえ、従来技術による粒子ビームシステムは、上記前置多孔プレートなしでも動作することができる。しかしながら、本発明によれば、前置多孔プレートが設けられ、これは前置マルチレンズアレイの機能構成要素である。
【0017】
従来技術によれば、個別粒子ビームの電流強度は次のように設定される。コンデンサレンズ系はさまざまに励起される。その際に、元の発散荷電粒子ビームがコンデンサレンズ系によりコリメートされ、これらのコリメートビームがマルチレンズアレイ又はその上流に配置され得る前置多孔プレートに入射する。よって、厳密に言えば、コンデンサレンズ系はコリメーションレンズ系である。ここで、コンデンサレンズ系の励起に応じて、荷電粒子ビーム全体が異なるビーム径を有する。つまり、個別粒子ビームに割り当てられる電流又はビーム電流密度をコンデンサレンズ系の設定により変えることができる。しかしながら、得られるビーム電流密度のこのような変化を実現できる範囲は、構造的理由から多粒子ビーム系では制限される。小電流へのより顕著な変化のためには、コンデンサレンズ系の焦点距離を大幅に増加させる必要があり、これは既存のシステム内では不可能であり、そうでないとしても重大な構造的対策(実験室の天井高さを高くする)が伴う。これが本発明の出発点となる。
【0018】
自体公知のコンデンサレンズ系及び自体公知のマルチレンズアレイに加えて、本発明による粒子ビームシステムは、以下のように構成される前置マルチレンズアレイを有する。前置マルチレンズアレイは、荷電粒子ビームを通過させる中央開口を有する前置対向電極を有する。さらに、前置マルチレンズアレイは、前置対向電極の下流のビーム経路に配置された多孔プレートを有し、当該多孔プレートは、荷電粒子が複数の荷電個別粒子ビームの形態で前置多孔プレートを通過するように配置される。この前置多孔プレートは、それ自体公知/既存の前置多孔プレートであってもよい。しかしながら、前置対向電極が前置多孔プレートと組み合わさって前置マルチレンズアレイを形成すること、及び調整可能な電圧を前置対向電極に印加できることがここで重要である。したがって、前置マルチレンズアレイは、全体として、そこを通過する荷電個別粒子ビームに集束効果も及ぼす。同時に、前置対向電極の領域に大域レンズ場が生じ、当該大域レンズ場は、コンデンサレンズ系を通過する荷電粒子ビームに作用する。結果として、本発明によれば、荷電粒子ビームがコンデンサレンズ系を通過後にコリメートされる必要がないので、コンデンサレンズ系の照射条件を広範囲にわたり変えることができる。コリメートされる代わりに、荷電粒子ビームは、コンデンサレンズ系を通過後に収束又は発散して前置対向電極の大域レンズ場に入ることができる。調整可能な励起、すなわち電圧及び/又は電流をコンデンサレンズ系及び前置対向電極に供給するコントローラは、荷電粒子が前置多孔プレートへの入射時にテレセントリシティ条件を満たすことができるようにこれらの励起を選択することができる。このテレセントリシティ条件を満たすことで、粒子光学コンポーネントの構成が簡略化されるので、粒子ビームシステム内の後続のビーム経路での粒子光学結像の品質にはこのテレセントリシティ条件を満たすことが好ましい。コンデンサレンズ系及び前置対向電極において適当な電圧を設定することにより、カラムの構造的な変更/延長なしで個別粒子ビームのビーム電流を変えることが可能である。ここで、本発明による特徴の組合わせの中心的な効果は、電流変更目的での光源の有孔開口数の変化である。よって、ここで重要なのは、個別粒子ビームがそれぞれその荷電粒子を得る粒子源の出射角/立体角である。よって、本発明による粒子ビームシステムは、個別粒子ビームの電流強度がシステムの構造的な変更なしで広範囲にわたり調整可能となるように、コントローラを構成することを可能にする。
【0019】
前置多孔プレート及びマルチレンズアレイの多孔プレートの開口は、同じ直径を有し得る。しかしながら、これらが異なる直径を有することも可能である。ここで、特に、前置多孔プレートの開孔の直径は、マルチレンズアレイの多孔プレートの開孔の直径より小さい場合がある。好ましくは、前置多孔プレート及びマルチレンズアレイの多孔プレートの開口は円形であり、概して、個々の開口は六角形構造で配置される。しかしながら、他の配置の選択肢も可能である。理想的には、前置多孔プレート及び多孔プレートの開口の数は、個別粒子ビームの数に一致する。六角形配置の場合、粒子ビームの数が、nを任意の自然数として3n(n-1)+1であれば有利である。
【0020】
本発明の好ましい一実施形態によれば、粒子ビームシステムは、マルチレンズアレイを含む微小光学ユニットを有する。さらに別の好ましい実施形態によれば、微小光学ユニットは、多孔プレートも備える。原理上は、微小光学ユニットは、組み合わせて微小光学ユニットになる粒子光学素子の組立体である。ここで、組立体は、組立体の固有のホルダ又は組立体の共通のフレームを有することができる。その際に、微小光学ユニットはさらに他の粒子光学コンポーネントも有することができる。この例は、例えばマルチティグメータ又は他のマルチレンズアレイであり、例えば存在し得る像面湾曲を補正するための個別粒子ビームの焦点距離の個別補正のために、多孔プレートの個々の開口のレンズ効果を、必要であれば個別粒子ビーム毎に個別に設定することもできる。言及したもの以外のコンポーネントも、微小光学ユニットの構成要素であり得る。
【0021】
これに対して、前置マルチレンズアレイの前置対向電極は、普通は組立体としての微小光学ユニットの構成要素ではない。微小光学ユニットの個々の素子間の通常の距離は、約50μm~約1mmである。これに対して、前置対向電極は、通常は前置多孔プレートからさらに離れており、その距離Aは、約3mm≦A≦30mm、好ましくは5mm≦A≦20mm、例えばA=6mmである。
【0022】
本発明の好ましい一実施形態によれば、微小光学ユニットは、接地電位にあるフレームを有する。通常は、前置多孔プレート及びマルチレンズアレイの多孔プレートも接地電位にある。これに対して、数キロボルト程度の電圧、例えば、+-12kV、+-15kV、+-16kV、又は+-20kVが対向電極又は前置対向電極に印加される。
【0023】
接地電位の微小光学ユニットのフレームの代わりに、好ましい実施形態による粒子ビームシステムは、中央開口を有する前置補助電極を有することができ、これは、前置対向電極の下流且つ前置多孔プレートの直上流のビーム経路に配置され、且つ調整可能な電圧をコントローラにより供給可能である。これにより、大域レンズ場及びそれにより起こる集束の変更、並びに全体として粒子ビームシステムによる粒子光学結像のさらなる変化の選択が可能となる。その場合、仮想粒子源の焦点位置及び中間像における個別粒子ビームのピッチを、その際にさらにより柔軟に変えることができる。さらに、像面湾曲を補正することが可能である。
【0024】
同様に、粒子ビームシステムがさらに中央開口を有する後置補助電極を有し、これが多孔プレートの直下流且つ対向電極の上流のビーム経路に配置され、且つ調整可能な電圧をコントローラにより供給可能であることが、追加として又は代替として可能である。
【0025】
前置補助電極と前置多孔プレートとの間の選択距離及び後置補助電極と多孔プレートとの間の距離は、前置補助電極又は後置補助電極に印加される励起又は電圧による追加の調整選択肢の広さに影響を及ぼす。距離が小さいほど、特に像面湾曲補正の調整及びテレセントリシティに関して設定の実施時の感度が高くなる。したがって、構造的観点から依然として実現可能である最小距離、すなわち約50μm~約1mmが、前置補助電極と前置多孔プレートとの間で選択されることが好ましい。その場合、前置補助電極に印加される電圧は、約-1000V~+1000Vであり得る。
【0026】
後置補助電極と多孔プレートとの間の距離は、前置補助電極と前置多孔プレートとの間の距離よりも僅かに大きくなり得る。その場合、後置補助電極に印加される電圧は、対向電極に印加される電圧と接地電位との間の略平均値に選択することができる。本質的に、前置補助電極の励起により像面湾曲の補正を設定することができ、後置補助電極を用いてピッチを設定することができるので、これは有利である。距離及び励起の他の構成、したがって他の調整選択肢も可能である。
【0027】
本発明の好ましい一実施形態によれば、コンデンサレンズ系は2つのコンデンサレンズを有する。好ましくは、両方のコンデンサレンズが磁気コンデンサレンズである。
【0028】
代替として、コンデンサレンズ系は、1つの磁気コンデンサレンズ及び1つの静電コンデンサレンズのみを有し、静電コンデンサレンズは、磁気コンデンサレンズの下流のビーム経路に配置され、コントローラにより駆動可能なブースター電極が、磁気コンデンサレンズと静電コンデンサレンズとの間に配置され、静電コンデンサレンズは、上記ブースター電極により励起可能である。前置対向電極及びブースター電極の下端と組み合わせて、可変静電レンズが形成され、これは下部コンデンサレンズとして働く。エミッタの陰極及び磁気レンズと共に、ブースター電極の上端は、上部コンデンサレンズの場を上部で形成する。
【0029】
本発明の好ましい一実施形態によれば、粒子ビームシステムは、複数の開口を有するビーム電流制限多孔プレートを含むビーム電流制限多孔プレート系をさらに有し、ビーム電流制限多孔プレート系は、前置マルチレンズアレイとマルチレンズアレイとの間のビーム経路に配置されてビーム経路に挿入可能に具現される。多様に使用可能な多孔プレート系を配置するのに十分な設置空間が、前置マルチレンズアレイとマルチレンズアレイとの間で利用可能である。挿入性は、機械的アクチュエータを用いて実現することができる。ここで、ビーム電流制限多孔プレート系を用いて、前置多孔プレート及び後続の粒子光学ユニットに到達するビーム電流が再度制限される。ここで、ビーム電流制限多孔プレート系の挿入性により、高い柔軟性又は可変性が達成可能である。ここで、ビーム電流制限多孔プレート系は、ビーム電流制限多孔プレートを1つだけ有し得るが、多孔プレート系は、2つ以上のビーム電流制限多孔プレートを有してもよい。機械的観点から、約1マイクロメートルのオーダのビーム電流制限多孔プレートの位置決め精度を達成することが可能である。ビーム電流制限多孔プレート系により、電流強度をさらに最大で約10倍変える又は低減することが可能である。しかしながら、小さな開孔の場合の回折誤差及び大きな開孔の場合のレンズ誤差は、電流変化範囲にわたり取得可能な分解能を低下させることになる。本発明は、分解能変化の最小化及び分解能の最適化を容易にする。
【0030】
原理上は、ビーム電流制限多孔プレートを前置マルチレンズアレイとマルチレンズアレイとの間に配置固定することもできる。上記ビーム電流制限多孔プレートは、好ましくは接地電位にある。
【0031】
好ましい一実施形態によれば、少なくとも1つのビーム電流制限多孔プレートの開口は、円形及び/又は環状に形成される。円形開口に比べて、環状開口は、開口数が変わらない又は小さくならないので有利である。厳密に言えば、環状開口の回折パターンの中央最大部は、従来の円形開口の回折パターンよりもさらに狭いが、環状開口の場合にはより高い二次極大が生じる。開孔が、場合によっては中央の小さな円形開口に加えて、複数の環状リングを有することもできる。
【0032】
さらに別の好ましい実施形態によれば、ビーム電流制限多孔プレート系は、相互に対して実質的に平行に変位可能でありそれぞれが複数の開口を有する2つの多孔プレートを有し、有効多孔プレート開口サイズが、ビーム電流制限多孔プレート系を通過する個別粒子ビームに対して調整可能である。ここで、相互に対して変位可能な2つの多孔プレートの開口が、実質的に同一のサイズを有し且つ実質的に同じ幾何学的形態を有することが好ましい。結果として、得られる多孔プレート開口のサイズは、2つの多孔プレートを相互に重ねて又は相互に対して変位させる際に容易に調整可能であり、得られる多孔プレート開口の形態がその際に変わらないように相対移動を選択することが可能である。さらに、同一の開口を設けることで、多孔プレートの製造が単純化される。
【0033】
好ましい一実施形態によれば、相互に対して変位可能な多孔プレートの開口は、円形又は正方形である。正方形開孔の場合、Zがシステムの中心光軸を示す場合のXY平面内でプレートを相互に対して変位させることができる。その場合、得られる多孔プレート開口は、多孔プレートの各開口と同じ形態を有することができ、具体的には同様に正方形であり得る。変位プロセスが異なる形で実行される場合、得られる開口は矩形又は三角形(プレートの相互に対する捩れ)を表す可能性もあるが、これは有利ではない。相互に対して実質的に平行に変位可能な2つの多孔プレートの開口が円形である場合、略楕円形のいわゆるレンズ形状が有効多孔プレート開口として生じる。実質的に楕円形の個別粒子ビームが得られることにより、楕円形のビームプロファイルから得られる非点収差を補正するために、それ以降のビーム経路ではマルチスティグメータが有利である。
【0034】
さらに別の実施形態によれば、ビーム電流制限多孔プレート系は、ビーム経路に連続して配置された、それぞれが複数の開口を有する2つ以上の多孔プレートを有し、2つの多孔プレート間に2つの偏向器が配置され、多孔プレート系を通過中に光軸に対する個別粒子ビームの平行オフセットを実質的に得ることができるように駆動可能である。ここで、2つの多孔プレートは、同一の構成であることが好ましく、それらの開口は、Z方向又はビーム電流方向に特に正確に相互に重なる。2つの偏向器が非作動である場合、粒子ビームが2つの多孔プレートを実質的に妨げられずに通過し、すなわち個別粒子ビームの実質的に全ての粒子がその一連の2つの多孔プレートを通過する。逆に、2つの偏向器が起動された場合、平行オフセットにより、個別粒子ビームがビーム経路で下流側に配置された多孔プレートに一部しか通過しない状況が生じる。個別粒子ビームの一部は、ビーム経路で下流側に配置された多孔プレートに入射して吸収され、又はそれ以降の個別粒子ビームには利用可能ではなくなる。これによっても、個別粒子ビームの電流強度をさらに変えることができる。
【0035】
本発明のさらに別の実施形態によれば、粒子ビームシステムは、
ビーム経路の方向でマルチレンズアレイの下流に配置され且つ個別粒子ビームの実焦点が形成される中間像面であり、上記焦点同士はピッチ1だけ離間する、中間像面と、
ビーム経路の方向で中間像面の下流に配置された視野レンズ系と、
ビーム経路の方向で視野レンズ系の下流に配置された対物レンズ、特に磁気対物レンズと、
個別粒子ビームが粒子光学的に結像し且つ個別粒子ビーム同士がピッチ2だけ離間する物体面と
をさらに有する。したがって、本発明による粒子ビームシステムは、既知の多粒子ビームシステムの残りのコンポーネントと、特に既知の多粒子顕微鏡と組み合わせることができる。
【0036】
好ましくは、本発明による粒子ビームシステムのコントローラは、ピッチ2を物体面で設定でき、特に個別粒子ビームのビーム電流強度を変えた場合に一定に保つことができるように、粒子ビームシステムの粒子光学コンポーネントを駆動するよう構成される。このような調整のために、本発明による粒子ビームシステムは、相互に独立して変えることができる十分な自由度又は粒子光学コンポーネントを必要とする。マルチビーム粒子ビームシステムの場合に、選択された多孔プレートにわたる複数の個別粒子ビームの走査配置のビーム間隔又はピッチが原理上は予め固定的に決まっているという背景から、これは特に重要である。ここで、ピッチ及び開口数は相互に結び付いており、それ自体を相互に独立して変えることはできない。複数の個別粒子ビームが共通の光学ユニットにより結像される場合、開口数の変化は必然的にピッチの変化にもつながり、これは望ましくない。したがって、従来のマルチビーム粒子顕微鏡では、同時にピッチを変えずに開口数を変えることができない。その代わりに、システムに付加的な自由度を導入するさらに別の粒子光学コンポーネントがこのような設定のために必要である。例として、これは追加の視野レンズであり得る。3つの視野レンズからなる視野レンズ系を有する従来のマルチビーム粒子顕微鏡には、例えば、視野レンズ系以外に4つの視野レンズを補うことができる。この場合、ヘルムホルツ-ラグランジュの不変式を満たす付加的な大域レンズ場の提供が重要である。
【0037】
本発明のさらに別の実施形態によれば、コントローラは、特に指定のビーム電流強度について、物体面における開口数が調整可能であり物体面における結像の分解能が最適化可能であるように、粒子ビームシステムの粒子光学コンポーネントを駆動するよう構成される。好ましくは、コントローラは、物体面における焦点、回転、及び/又はテレセントリシティ等の粒子光学結像の他のパラメータが同様に調整可能であるように、粒子光学コンポーネントを駆動するよう構成される。好ましくは、コントローラは、ビーム電流強度及び/又は物体面における開口数の変更時にこれら他の粒子光学パラメータの値を一定に保つことができるように構成される。
【0038】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明は、個別粒子ビームの電流強度を設定するための上述の粒子ビームシステムの使用に関する。この場合の個別粒子ビームの電流強度の設定により、粒子光学結像の他のパラメータを変える多角的な選択肢が広がり、特に、分解能がビーム電流に強く依存するので、低分解能と高分解能との間で粒子ビームシステムの動作を切り替えることができる。
【0039】
本発明のさらに別の実施態様によれば、本発明は、物体面における分解能、特に最適な分解能を設定するための上述の粒子ビームシステムの使用に関する。既に何度も説明したように、ビーム電流、開口数、物体面における個別粒子ビームの間隔、及び光源の画像表現の結像倍率は、相互に密接な関係がある。ここで、本発明による粒子ビームシステムの使用により、特に優れた柔軟性が得られ、個別粒子ビームの所定のビーム電流の場合でも、特に最適な分解能の設定が容易になる。
【0040】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明は、上述の粒子ビームシステムを備えたマルチビーム粒子顕微鏡に関する。よって、本発明による粒子ビームシステムには、自体公知のマルチビーム粒子ビーム顕微鏡のコンポーネントを補うことができ、特にこれは任意の既知の検出ユニットを含む。詳細に関しては、既に何度も引用している特許文献1を例えば参照されたい。
【0041】
本発明は、添付図面を参照してよりよく理解される。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【
図2】従来技術によるコンデンサレンズによる電流変化を概略的に示す。
【
図3】従来技術によるコンデンサレンズ系よる微小光学ユニットの照射を概略的に示す。
【
図4】コンデンサレンズ系の下流で収束ビーム誘導を用いる本発明の一実施形態を概略的に示す。
【
図5】コンデンサレンズ系の下流で発散ビーム誘導を用いる
図4に示す本発明の実施形態を概略的に示す。
【
図6】ビーム電流制限多孔プレート系を有する本発明のさらに別の実施形態を概略的に示す。
【
図7】静電コンデンサレンズ及びブースター電極を有する本発明のさらに別の実施形態を概略的に示す。
【
図8】付加的な前置補助電極を有する
図7に示す本発明の実施形態を概略的に示す。
【
図9】ビーム電流変更用の、相互に対して変位可能な2つ以上の多孔プレートを有する多孔プレート系を概略的に示す。
【
図10】ビーム電流変更用の、2つの連続して配置された多孔プレートを有する多孔プレート系及びそれらの間に位置付けられた偏向器系を概略的に示す。
【
図11】ビーム電流変更用の種々の開孔を概略的に示す。
【
図12】最適な分解能の設定用の粒子光学コンポーネントを有するマルチビーム粒子顕微鏡を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
図1は、複数の粒子ビームを用いるマルチビーム粒子顕微鏡1の形態の粒子ビームシステム1の概略図である。粒子ビームシステム1は、検査対象の物体から生じてその後に検出される相互作用生成物、例えば二次電子を生成するために、その物体に入射する複数の粒子ビームを生成する。粒子ビームシステム1は、走査型電子顕微鏡(SEM)タイプであり、複数の部位5で物体7の表面に入射して相互に空間的に離れた複数の電子ビーム点又はスポットをそこで生成する複数の一次粒子ビーム3を用いる。検査対象の物体7は、任意の所望のタイプ、例えば半導体ウェーハ又は生体試料とし、小型化素子等の配置を含み得る。物体7の表面は、対物レンズ系100の対物レンズ102の第1平面101(物体面)に配置される。
【0044】
図1の拡大抜粋I
1は、第1平面101に形成された入射部位5の正矩形視野103を有する物体面101の平面図を示す。
図1において、入射部位の数は25個であり、5×5視野103を形成する。入射部位の数25は、説明の単純化の理由から選択された数である。実際には、ビームの数、したがって入射部位の数は、大幅に多く、例えば20×30、100×100等になるよう選択することができる。
【0045】
図示の実施形態において、入射部位5の視野103は、隣接する入射部位間が一定のピッチP1である実質的に正矩形の視野である。ピッチP1の例示的な値は、1マイクロメートル、10マイクロメートル、及び40マイクロメートルである。しかしながら、視野103が他の対称性、例えば六方対称性等を有することも可能である。
【0046】
第1平面101で整形されたビームスポットの直径は小さくなり得る。上記直径の例示的な値は、1ナノメートル、5ナノメートル、10ナノメートル、100ナノメートル、及び200ナノメートルである。ビームスポット5を整形するための粒子ビーム3の集束は、対物レンズ系100により実行される。
【0047】
物体に入射した一次粒子は、相互作用生成物、例えば、二次電子、後方散乱電子、又は他の理由で運動の逆転を起こした一次粒子を生成し、これらが物体7の表面から又は第1平面101から生じる。物体7の表面から生じる相互作用生成物は、対物レンズ102により整形されて二次粒子ビーム9を形成する。粒子ビームシステム1は、複数の二次粒子ビーム9を検出器系200へ誘導する粒子ビーム経路11を提供する。検出器系200は、二次粒子ビーム9を粒子マルチ検出器209へ指向させる投影レンズ205を有する粒子光学ユニットを含む。
【0048】
図1の抜粋I
2は、二次粒子ビーム9が部位213で入射する粒子マルチ検出器209の個々の検出領域が位置付けられた平面211の平面図を示す。入射部位213は、相互に対して規則的なピッチP
2で視野217に置かれる。ピッチP
2の例示的な値は、10マイクロメートル、100マイクロメートル、及び200マイクロメートルである。
【0049】
一次粒子ビーム3は、少なくとも1つの粒子源301(例えば、電子源)、少なくとも1つのコリメーションレンズ303、多孔装置305、及び視野レンズ307、又は複数の視野レンズからなる視野レンズ系を備えたビーム生成装置300で生成される。粒子源301は、発散粒子ビーム309を生成し、これは、多孔装置305を照射するビーム311を整形するためにコリメーションレンズ303によりコリメート又は少なくとも実質的にコリメートされる。
【0050】
図1の抜粋I
3は、多孔装置305の平面図を示す。多孔装置305は、複数の開口又は開孔315が形成された多孔プレート313を含む。開口315の中心点317は、物体面101のビームスポット5により形成された視野103に結像される視野319に配置される。開孔315の中心点317間のピッチP
3の例示的な値は、5マイクロメートル、100マイクロメートル、及び200マイクロメートルであり得る。開孔315の直径Dは、開孔の中心点間のピッチP
3より小さい。直径Dの値の例は、0.2×P
3、0.4×P
3、及び0.8×P
3である。
【0051】
照射粒子ビーム311の粒子は、開孔315を通過して粒子ビーム3を形成する。プレート313に入射した照射ビーム311の粒子は、プレート313に吸収されて粒子ビーム3の形成に寄与しない。
【0052】
印加される静電界により、多孔装置305は、ビーム焦点323が平面325に形成されるように粒子ビーム3のそれぞれを集束させる。代替として、ビーム焦点323は仮想的であり得る。ビーム焦点323の直径は、例えば10ナノメートル、100ナノメートル、及び1マイクロメートルであり得る。
【0053】
視野レンズ307及び対物レンズ102は、ビーム焦点323が形成される平面325を第1平面101に結像して入射部位5又はビームスポットの視野103がそこに生じるようにするための第1結像粒子光学ユニットを提供する。物体7の表面が第1平面に配置されている場合、ビームスポットも対応して物体表面に形成される。
【0054】
対物レンズ102及び投影レンズ装置205は、第1平面101を検出平面211に結像するための第2結像粒子光学ユニットを提供する。よって、対物レンズ102は第1及び第2粒子光学ユニット両方の一部であるレンズだが、視野レンズ307は第1粒子光学ユニットのみに属し、投影レンズ205は第2粒子光学ユニットのみに属する。
【0055】
ビームスイッチ400が、多孔装置305と対物レンズ系100との間の第1粒子光学ユニットのビーム経路に配置される。ビームスイッチ400は、対物レンズ系100と検出器系200との間のビーム経路の第2光学ユニットの一部でもある。
【0056】
こうしたマルチビーム粒子ビームシステム及びそこで用いられるコンポーネント、例えば粒子源、多孔プレート、及びレンズ等に関するさらなる情報は、国際特許出願である特許文献1、国際公開第2007/028595号、国際公開第2007/028596号、国際公開第2011/124352号、及び国際公開第2007/060017号、及び独国特許出願第10 2013 026 113.4号及び独国特許出願第10 2013 014 976.2号から得ることができ、上記出願の開示の全範囲を参照により本願に援用する。
【0057】
多粒子ビームシステムは、多粒子ビームシステムの個々の粒子光学コンポーネントを制御するよう構成され且つマルチ検出器209により得られた信号を評価及び解析するよう構成されたコンピュータシステム10をさらに有する。この場合、コンピュータシステム10は、複数の個別コンピュータ又はコンポーネントから構成され得る。コンピュータシステム10は、本発明によるコントローラも含み得る。
【0058】
本発明による粒子ビームシステムの構成要素は、この多粒子ビームシステムに組み込むことができる。
【0059】
図2は、従来技術に従ったコンデンサレンズによる電流変化を示す。例えばマルチビーム粒子顕微鏡等の粒子ビームシステムの抜粋を示す。このシステムは、発散粒子ビーム309を発生させる粒子源301を含む。発散粒子ビーム309は、続いて2つのコンデンサレンズ330及び331を有するコンデンサレンズ系に到達し、これらは図示の例ではそれぞれ磁気コンデンサレンズである。
図2では、コンデンサレンズ330、331を楕円で示す。ここで、広い楕円は磁気レンズの強い励起を示すが、これに対して狭い楕円は、対応するコンデンサレンズの励起がほとんど又は全くないことを示す。2つのコンデンサレンズ330及び331は、コンデンサレンズ系又はコリメーションレンズ系303を形成し、これは
図1にも既に示した。ここで、従来技術によれば、コリメーションレンズ系303を通過した後にさらに先の粒子光学コンポーネント、特に微小光学ユニットに到達する照射粒子ビーム311は、コリメートされる。図示の例では、照射粒子ビーム311は、電流の制限に用いられる前置多孔プレート380に最初に到達し、そこを通過すると個別粒子ビーム3が形成される。こうして形成された個別粒子ビーム3は、微小光学ユニットのそれ以降の構成要素を通過する。ここでは、2つの微小光学補正器353及び354を例示的に図示し、当該微小光学補正器353、354は、微小光学ユニットのコア、図示の例では具体的には多孔プレート351及びその対向電極352の上流に配置される。対向電極352の励起に応じて、多孔プレート351の通過中に電界が変わり、個別粒子ビーム3は程度の差はあるが集束され分断される。続いて、集束した個別粒子ビーム3は、図示の例では単一の視野レンズで示す視野レンズ系307に到達する。コントローラ(図示せず)により、コンデンサレンズ330及び331を有するコンデンサレンズ系をさまざまな方法で確実に駆動できる。その際に、コンデンサレンズ330及び331は、さまざまな程度に励起される。
図2に太い両矢印で示すように、作動に応じて、照射粒子ビーム311は大なり小なり広げられる。ここで、実際の粒子源301の特徴は不変であるものとする。つまり、粒子源が発する荷電粒子の総数又は単位時間当たりの関連する粒子束は一定であるものとする。照射粒子ビーム311の異なる拡大の結果として、ビーム電流密度、すなわち単位面積及び単位時間当たりの荷電粒子数の変化がある。いずれの場合も、全ての荷電粒子のうち一定の割合をこうして形成された個別粒子ビーム3の1つに割り当てることが可能である。ここでは前置多孔プレート380の開口の開口径により決定的に設定される、他の点では機械的に同一の開孔の場合、照射粒子ビーム311の拡大が異なれば、個別粒子ビーム毎の電流強度の変化が生じる。この場合、
図2a)及びb)の状況は、個別粒子ビームに対して比較的大きなビーム電流が達成される様子の同等の選択肢を示す。
図2a)によれば、コンデンサレンズ330は強く励起され、コンデンサレンズ331は事実上非作動である。
図2b)では、両方のコンデンサレンズ330、331の励起が略同じであり、具体的には平均励起である。したがって、照射粒子ビーム311の電流密度は
図2a)及びb)の2つの場合で同一である。生成された個別粒子ビーム3の電流強度にもこれが当てはまる。これに対して、
図2c)は、低ビーム電流密度での微小光学ユニットの照射を示す。この目的で、第1コンデンサレンズ330は事実上励起されないが、これに対して第2コンデンサレンズ331は非常に強く励起される。これにより、大きく拡大された照射粒子ビーム311が得られ、これは前置多孔プレート380の同一開孔及び微小光学ユニットの下流素子に到達する。したがって、
図2c)の構成による個別粒子ビームの電流強度は低減される。第1及び第2コンデンサレンズ330、331の励起を変えることにより、例えば、4倍のズーム倍率を実現して、約15倍のビーム電流変化をもたらすことが可能である。
【0060】
コンデンサレンズ又はコリメーションレンズ系の異なる励起による電流変化に加えて、さらなる関係が既知である。例として、ビーム電流強度をさらに低減するためにコンデンサレンズ系の焦点距離(焦点距離fCL参照)を増加させることが可能である。この欠点は、その結果としてシステム全体のカラム高さが激増することである。この目的で必要な構造的対策は、概して許容不可能であり(システム全体の延長には一般的な場合とは異なる天井高さが必要である)、したがって実際の選択肢とはならない。例として、約25倍のビーム電流変化を達成するためにコンデンサ系のズーム倍率を4倍から5倍に増加させることが意図される場合、カラム高さは約30cm~50cm長くなる。
【0061】
追加として又は代替として、微小光学ユニットの開孔径、この場合は例えば前置多孔プレート380の開孔径を減らすことで、ビーム電流強度を低減することが考えられる。しかしながら、この欠点は、開口数も同様に減り、したがってこれが回折効果により分解能の低下につながることである。
【0062】
粒子源301に関しても同様に変化の選択肢がある。原理上は、粒子源が小さいほど低い電流強度を得ることができる。しかしながら、粒子源(「チップ」)の交換には保守時間がかかり、これは望ましくない。さらに別の手法は、引出電極電位を変えることで、約2倍のビーム電流変化を可能にすることにある。しかしながら、引出電極電位の変化は、ビーム電流強度の不都合なドリフトにつながる。
【0063】
微小光学ユニットの開孔径を減らすと同時に、対物レンズの物体距離又は粒子源の多中間像と試料との間の距離を増加させることが可能である。原理上は、これによりビーム電流の低減が可能であると共に、最適値への開口数の適合も可能である。しかしながら、これらの利点には、生成された個別粒子ビーム間の距離が試料上で大きく変わるという代償が伴う。さらに、これもシステム全体の高さつまりカラム高さを大幅に増加させ、これはまた実験室の所与の環境下では許容不可能である。その上、これは試料上のビームのピッチの大きな変化にもつながり、これは原則として望ましくない。
【0064】
微小光学ユニットにおける開孔径を減らすと同時に微小光学ユニットの焦点距離を減らすことも可能である。原理上は、これも同様に、ビーム電流強度の低減及び良好な分解能への開口数の適合を促す。しかしながら、これらの場合にはビームピッチも大きく変わる。微小光学ユニットの焦点距離の変化に起因したピッチの変化を打ち消すために、機械的変更が必要となることで、システム全体の柔軟性が大きく低下する。
【0065】
図3は、従来技術に従ったコンデンサレンズ系303による微小光学ユニット399の照射を概略的に示す。
図2に比べて、
図3では、照射粒子ビーム311及び個別粒子ビーム3のビーム経路をより明確に識別可能である。照射粒子ビーム311は、複数の軌道で表される。照射粒子ビーム311の一部は、図示の例では微小光学ユニット399の第1コンポーネントを形成する前置多孔プレート380を通過する。
図3は、微小光学ユニット内の電界の等電位線をいくつか示し、微小光学ユニット399の集束効果、より詳細には、多孔プレート351を通過する際の個別粒子ビーム3の集束効果を全体的に識別することが可能であり、この集束効果は、対向電極352に電界が印加されることで多孔プレート351の領域の電界の変化が起こることによるものである。個別粒子ビームは、当該個別粒子ビームが焦点323に集束する前に対向電極352の大域レンズ場により分断される。
図3において、照射粒子ビーム311の成分が前置多孔プレート380にテレセントリックに到達することで、微小光学ユニット399の残りの粒子光学コンポーネント及びシステム全体のさらなるコンポーネント(図示せず)のその後の通過が単純になる。
【0066】
この条件下で、本発明は、独立して且つ大きな値範囲にわたり、正確には特に単純に且つ粒子ビームシステムに構造的な変更を加えることなく、最適な分解能にとって最適なビーム電流及び開口数をそれぞれ設定することを容易にする。その際に、カラム高さの実質的な変化は必要ない。特に、本発明は、その際にカラム高さを高くする必要なく、各個別ビームのビーム電流強度を15倍以上、好ましくは25倍以上変えることを容易にする。一例では、各個別ビームのビーム電流強度の50倍以上、例えば100倍以上の変化を得ることが可能である。
【0067】
次に、
図4は、磁気コンデンサレンズ330及び331を有するコンデンサレンズ系の下流で収束ビーム誘導を用いる本発明の一実施形態を概略的に示す。コンデンサレンズ系を通過後に、照射ビーム311aは収束し、粒子源310の同じ立体角から出る荷電粒子の一部がいわば圧縮されて、この立体角から形成された個別粒子ビームのビーム電流強度が増す。収束が大きいほど、ビーム電流密度が高くなる。しかしながら、図示の例の前置多孔プレート380で始まる微小光学ユニットをテレセントリックに照射することが依然として必要であるか、又は少なくとも有利である。これは、コンデンサレンズ331と前置多孔プレート380、361との間に付加的な前置対向電極362を設けることにより可能となる。コントローラ(図示せず)が、荷電粒子が前置多孔プレート361にテレセントリックに入射可能であるようにコンデンサレンズ系330、331及び前置対向電極362に調整可能な電圧を供給するよう構成される。
図4において、このテレセントリシティ条件は、中央の個別粒子ビーム又は関連するビーム軌道で識別できる。光軸Zの領域では、粒子ビームの軌道は前置多孔プレート361への入射時に平行である。テレセントリシティ条件は、光軸から離れても(例えば、上部軌道)満たされるが、これは簡略化した概略図により図面では識別できない。この場合、テレセントリック入射の所望の効果は、前置対向電極362により生成される大域レンズ場と、前置多孔プレート361の局所レンズ場との組み合わせにより達成される。概して、これにより集束効果が得られ、これがマルチレンズアレイ351及び対向電極352の組合わせ系の集束効果に追加される。これも、微小光学ユニットの焦点距離を短くする。すなわち、
図4において、焦点323が光軸Zの方向で左側にさらにシフトされる。
図4では、本発明によるマルチレンズアレイ350及び前置マルチレンズアレイ360は相互に鏡像構成である。この場合、コンデンサレンズ系330、331の適当に選択された作動と組み合わせた前置マルチレンズアレイ360の組合わせ又は重点的な作動により、ビーム電流強度の設定が可能である。
図4の例示的な実施形態によれば、
図2a)に示すようなコンデンサレンズ330、331の変更によるビーム電流強度の増加に加えて、その際にコンデンサレンズ系の設置長さ又はカラム長さを増やすことなく、ビーム電流強度のさらなる増加が達成されるように、個別ビームのビーム電流強度が増加される。同様に、追加視野レンズ370(
図12参照)のもの等の付加的な設定パラメータを適切に選択してマルチレンズアレイ350を設定することにより、物体面における開口数の変化が可能であり、概して分解能の向上、より詳細には最適化が得られる。
【0068】
図4は、収束入射放射線311aでの中ビーム電流密度を示すが、
図5は、発散ビーム誘導311bでの低ビーム電流密度を示す。ここで、
図5の図は非常に概略的であり、両方のコンデンサレンズ330、331の励起は、簡略的に描かれた図では発散粒子ビーム309が事実上偏向されていないようなごく弱いものでしかない。発散照射粒子ビーム311bは、前置対向電極362を通過する。しかしながら、
図4に比べて異なる電位がこのときこの前置対向電極362に印加され、選択された設定の結果としてこの場合も前置多孔プレート361への粒子ビームのテレセントリック入射が達成されるようになる。
図4の例に比べて、各個別粒子ビーム3により取り込まれるビーム電流は小さい。よって、前置対向電極362の特別に選択された作動と組み合わせたコンデンサレンズ系及び特にコンデンサレンズ331の重点的な作動も、この場合はビーム電流の個別設定を可能にし、これはさらにシステム全体を対象にした分解能の向上を容易にする。
図5の例示的な実施形態によれば、
図2c)に示すようなコンデンサレンズ330、331の変更によるビーム電流強度の低減に加えて、その際にコンデンサレンズ系の設置長さ又はカラム長さを増やすことなく、ビーム電流強度のさらなる低減が達成されるように、個別ビームのビーム電流強度が低減される。したがって、各個別ビームの開口数が不変のまま各個別ビームのビーム電流強度を15倍以上、好ましくは20倍以上、30倍以上、又は50倍以上変更可能な、複数の個別ビームを用いたマルチビーム粒子顕微鏡であって、カラム長さが不変であり、特にカラム長さが1.5メートル未満、好ましくは1m未満であるマルチビーム粒子顕微鏡が提供される。
【0069】
エミッタ301が電子を発する場合、通常は-30kVの電圧がエミッタに印加される。関連の引出電極302は、通常は3kV~7kVを有する。微小光学ユニット自体は、概して接地電位、すなわち0kVにある。本発明による前置対向電極は、通常は約+-12kV~+-20kVの範囲で動作する。したがって、これはマルチレンズアレイ350の対向電極352の電圧供給と同じオーダである。他の電圧値も可能である。本発明によれば、特に言えるのは、コントローラが調整可能な電圧を粒子光学コンポーネントに供給するよう構成されるということである。この目的で、特に荷電粒子が前置多孔プレート361にテレセントリックに入射できるようにすることが可能である。このコントローラは、粒子ビームシステム全体も制御する中央コントローラ、例えば本特許出願の
図1に示すコントローラ又はコンピュータシステム10であり得る。粒子光学コンポーネントを駆動するための特定の値をルックアップテーブルに記憶することが可能である。
【0070】
図7は、静電コンデンサレンズ及びブースター電極332を有する本発明のさらに別の実施形態を概略的に示す。ここで、コンデンサレンズ系は、磁気コンデンサレンズ330及びその下流に配置された静電コンデンサレンズ332bを含む。それらの各励起を両矢印で示す。2つのコンデンサレンズ330と332bとの間に、ブースター電極332により昇圧電位が印加される。この場合も、前置対向電極362及び前置多孔プレート361を有する本発明による前置マルチレンズアレイ360が、静電コンデンサレンズ332の下流のビーム経路に配置される。前置マルチレンズアレイ360の焦点距離は、前置対向電極362の電界により設定することができる。前置対向電極362及びブースター電極332の下端と組み合わせて、下部コンデンサレンズ332bとして働く可変静電レンズが形成される。エミッタの陰極301及び磁気レンズ330と共に、ブースター電極332の上端(陰極に近い)は、上部コンデンサレンズ330の場を形成する。対応するコンデンサレンズ330及び332bを用いて、ビーム電流を設定することができ且つテレセントリック照射条件を成立させることができる。
【0071】
図8は、前置補助電極363を補った
図7に示す本発明による実施形態を概略的に示す。例として、この前置補助電極363を用いて像面湾曲を補正することができる。概して、電界Eは、前置補助電極363の設定によって変わり、これがビーム間の焦点距離変化、ひいてはビーム配列の「負」の像面湾曲につながる。前置補助電極が前置多孔プレート361の近くに配置されるほど、生じる像面湾曲に対する効果が大きくなる。したがって、本発明により、正確にはコンデンサレンズ系330、332a及び前置対向電極362を適宜駆動することにより、前置多孔プレート361でのテレセントリック入射条件をそれでも達成することができる。
【0072】
図9は、ビーム電流変更用の、相互に対して変位可能な2つ以上の多孔プレート386、387を有する多孔プレート系を概略的に示す。多孔プレート系は、ビーム経路に挿入可能であるよう具現され、これは、多孔プレート386、387の少なくとも一方が粒子ビームシステム又はそこで生成される粒子ビームに対して変位可能であることから既に明らかである。例えば
図6に示すように、いわゆるスライドイン開孔399を配置することができる。挿入可能なビーム電流制限多孔プレート系385は、前置マルチレンズアレイ360とマルチレンズアレイ350との間、したがって前置多孔プレート361と多孔プレート351との間に、好ましくは前置多孔プレート361の下流の微小光学補正器354、353の上流に、但しマルチレンズ場398の外部に位置する。2つの多孔プレート386及び387の相互に対する相対変位性は、適当な機構及びアクチュエータ、例えばピエゾアクチュエータにより達成することができる。ここで、多孔プレート386、387の位置決めの精度は、約1マイクロメートルのオーダである。対応する可変的に挿入可能な開孔を用いて、ビーム電流をさらに別の割合で(約1/6に)低減することが可能である。ここで、2つの多孔プレート386、387の一方は、既に上述した前置多孔プレート361と同一でもあり得る。しかしながら、そうである必要はない。相互に対してオフセットした多孔プレート386及び387の側面図で、
図9は、照射ビーム311が規定の直径を有する個別粒子ビーム3となる様子を示す。2つのプレート386、387が相互に対して大きく変位するほど、個別粒子ビーム3の直径は小さくなり、個別粒子ビーム3における電流強度が低くなる。
【0073】
ここで、相互に対して変位可能な多孔プレート386、387の開口は、実質的に同じサイズ及び実質的に同じ幾何学的形態を有することができる。
図9b)及びc)は2つの例を示す。
図9b)によれば、開口386、387aは、それぞれ丸形又は円形である。相互に対する変位により、いわゆるレンズ形状388が得られる。このレンズ形状は、楕円形態で近似することができるので、円形のビーム断面を再度得るためにこのような実現にマルチスティグメータを組み合わせることが好ましい。
図9c)に示す変形実施形態は、正方形の開口386a及び387aを示す。この場合、2つの多孔プレート486及び387の相互に対するオフセットが適宜選択及びスケーリングされれば、得られる開口388は同様に正方形であり得る。
【0074】
図10は、ビーム電流変更用の、2つの連続して配置された多孔プレート390、391及びそれらの間に位置付けられた偏向器系を有する多孔プレート系を概略的に示す。個々の偏向器392及び393を有する二重偏向器が図示されている。これらにより、多孔プレート393に入射する照射ビーム311の平行オフセットが容易になる。偏向器系392、393が非作動になり、2つの多孔プレート390及び391がそれに従って位置合わせされた、すなわちそれらの各開口が等しいサイズであり相互に中心を合わせて位置付けられた場合、全ビーム311が多孔プレート系を通過し、これにより粒子ビーム径が最大の個別粒子ビーム3が得られる。これに対して、偏向器392、393が起動された場合、これにより粒子ビームの平行オフセットが行われ、オフセットした粒子ビームは第2多孔プレート391に部分的に当たって一部しかそこを通過しない。これにより、縮径された個別粒子ビーム及び全体的に低下した電流強度が得られる。
【0075】
一例では、個別ビーム電流強度は、多孔プレート386及び387の開口の変化又は2つの連続して配置された多孔プレート390、391及びそれらの間に位置付けられたビーム電流変更用の偏向器系と共に、
図2a)~c)に示すようなコンデンサレンズの励起の変化により変更され、マルチビーム粒子顕微鏡のカラム長さを増加させることなく、20倍以上、例えば30倍又は50倍の個別ビーム電流変化が達成される。一例では、個別ビーム電流強度は、
図5及び
図6に示すような前置対向電極362の励起の変化と共に、また多孔プレート386及び387の開口の変化又はビーム電流変更用の2つの連続して配置された多孔プレート390、391及びそれらの間に位置付けられた偏向器系と共に、
図2a)~2c)に示すようなコンデンサレンズの励起の変化により変更され、マルチビーム粒子顕微鏡のカラム長さを増加させることなく、30倍以上、例えば50倍又は100倍の個別ビーム電流変化が達成される。
【0076】
図11は、例えば記載のビーム電流制限多孔プレート系で用いることができる、ビーム電流変更用の種々の開孔を概略的に示す。
図11a)は、最初に円形のビーム断面710を示す。ビーム電流強度を開孔により低下させる場合、これは、
図11a)に示すように円形開口により実施され得る。しかしながら、比較的小さい開孔711の場合の制限された電流は、個別ビーム口径を減らすことで分解能の低下を招く。これに比べて、
図11b)の配置による解決手法は改善されている。ここでは、電流は環状開孔712により制限されるが、最大開口径は同じである。この場合、中央遮蔽絞りは微細な機械的接続により保持される。環状開孔の使用時に、横分解能が維持される。従来の円形開孔を環状開孔と比べた場合、環状開口がさらに小さい中央最大部を有するベッセルビームを生成し、したがって分解能を向上させることが顕著である。しかしながら、この代償として、それぞれの場合に従来の円形開孔の使用を環状開孔の使用と比較検討すべきであるような、高い二次極大が生じる。
図11c)は、2つの環状開孔を有する開孔を示す。中央遮蔽絞り及び環状絞りは、この場合もウェブ715により保持される。図示の開孔は、Toraldoフィルタとも称する。これは、環状開口と同様の最大回折を達成するが、単一の環状開孔に比べて二次極大が低い。環状開孔の、特に相互に内外に同心配置された少なくとも2つの環状開孔の系の使用により、マルチビーム粒子顕微鏡のカラム長さを増やすことなく、開口数、したがって分解能を不変としたまま個別ビーム電流のさらなる低減が可能である。特に、撮像の下流のデジタル画像処理、例えば環状開孔、特に相互に内外に同心配置された少なくとも2つの環状開孔の系の回折像に対応する畳み込みカーネルを用いて得られた生画像データの逆畳み込み演算により、不変の分解能を確保することができる。
【0077】
図12は、最適な分解能を設定するための粒子光学コンポーネントを有するマルチビーム粒子顕微鏡1をさらに簡略化して概略的に示す。例えば電子を発する粒子源301から始まり、荷電粒子はコンデンサレンズ系303を通過し、コンデンサレンズ系303は、図示の例では2つの磁気コンデンサレンズ330、331を有し、これらのそれぞれがコントローラ(図示せず)により駆動され得る。その後、荷電粒子は、下流のビーム経路で前置マルチレンズアレイ360と、続いてマルチレンズアレイ350とを通過する。ここで、前置マルチレンズアレイ360及びマルチレンズアレイ350は、相互に対して実質的に鏡像的な実施形態を有する。前置マルチレンズアレイ360は、前置対向電極362及び前置多孔プレート361を含む。マルチレンズアレイ350は、多孔プレート351及び対向電極352を含む。この場合、前置対向電極362及び対向電極352は、コントローラ(図示せず)により駆動されて適当な電位を供給される。より詳細に上述したように、適当な作動により個別粒子ビーム3の電流強度を変えることができる。中間像面E1における焦点323、323aの焦点距離又は位置は、対向電極352に印加される電圧の変化により変わる。ここで、中間像面E1における焦点のピッチと、粒子光学コンポーネントが適当に駆動された場合にはシステムの光軸Z(図示せず)に対する平面E1の位置との両方で変化がある。中間像面E1における焦点323、323aは、粒子源301の複数の像と考えることができる。したがって、これらは仮想粒子源323、323aを形成する。ここで、実線は粒子ビーム3を示し、これに対して破線は対向電極352の調整条件を変更した場合の粒子ビーム3aを示す。中間像面E1における変更後の焦点位置を、円323とは異なり星323aで示す。
【0078】
3つの視野レンズからなる視野レンズ系307と、その下流のビームスイッチ400及び対物レンズ102、この場合は特に磁気対物レンズとが、中間像面E1の下流のビーム経路に位置する。結果として、荷電個別粒子ビーム3は、中間像面E1から物体面E2に粒子光学的に結像される。物体面E2への入射時の個別粒子ビームの開口数は、中間像面E1における焦点323、323aの位置の変化と、光軸Z(図示せず)の方向で任意に実施される中間像面E1の変位とにより変えることができ、その際、物体面E2における個別粒子ビーム間のピッチ(ピッチ2)を一定に保つことが可能である。物体面E2におけるピッチ2を一定に保つというこの追加条件は、図示の例では中間像面E1と3つの視野レンズからなる視野レンズ系307との間に配置された追加視野レンズ370を設けることにより達成することができる。物体面における焦点、回転、及び/又はテレセントリシティ等の残りの粒子光学的パラメータも同様に一定に保つことができる。
【0079】
続いて、試料7から生じる二次粒子ビーム9が、投影レンズ205及び絞り210を通過し、最後に粒子マルチ検出器209に到達する。
【0080】
ここで、2つの付加的な大域的粒子光学コンポーネントにより、図示のマルチビーム粒子顕微鏡1は、粒子光学結像での分解能の総合的な向上及び場合によっては最適化を可能にする。最初に、コンデンサレンズ系303の重点的な駆動を前置対向電極362の重点的な駆動と組み合わせて、個別粒子ビームの電流強度の重点的な調整が可能である。微小光学ユニットへの、又はここでは簡易的に表す前置多孔プレート361への入射時のテレセントリシティ条件を達成することができ、これは有利であると共に後続の粒子光学結像に必要であり得る。それ以降では、対向電極352の重点的な駆動を追加視野レンズ370と組み合わせて、その際に物体面E2におけるピッチ2を変えることなく物体面E2における開口数を変えることができる。したがって、この詳細な設定を容易にするために、追加視野レンズ370は、粒子光学変更コンポーネントであり、システムに付加的な自由度を導入する。
【0081】
一例では、対向電極352の重点的な駆動を追加視野レンズ370と組み合わせて、
図9に示す例示的な実施形態の1つによる多孔プレート386及び387の開口の変化又は
図10に示す例示的な実施形態による2つの連続して配置された多孔プレート390、391及びそれらの間に位置する偏向器系と共に、個別ビームの開口数を少なくとも略一定に保つことが可能である。したがって、複数の粒子ビームを用いるマルチビーム粒子顕微鏡であって、個別ビームのビーム電流強度を20倍以上、例えば30倍、50倍、又はさらに100倍変えるよう設計され、マルチビーム粒子顕微鏡のカラム長さが一定であり且つ1.5m未満、好ましくは1m未満の長さであると共に、ビーム電流強度の変更時の各個別ビームの分解能が略一定のままである、マルチビーム粒子顕微鏡が提供される。
【0082】
図示のマルチビーム粒子顕微鏡をさらに他の粒子光学コンポーネントと組み合わせることが可能である。この点で、図示の実施形態は単なる例と理解すべきである。
【符号の説明】
【0083】
1 マルチビーム粒子顕微鏡
3 一次粒子ビーム(個別粒子ビーム)
3a 二次粒子ビーム(個別粒子ビーム)
5 ビームスポット、入射部位
7 物体
9 二次粒子ビーム
10 コンピュータシステム、コントローラ
100 対物レンズ系
101 物体面
102 対物レンズ
103 視野
200 検出器系
205 投影レンズ
209 粒子マルチ検出器
210 絞り
211 検出平面
213 入射部位
217 視野
300 ビーム生成装置
301 粒子源
302 引出電極
303 コリメーションレンズ系又はコンデンサレンズ系
305 多孔装置
313 多孔プレート
315 多孔プレートの開口
317 開口の中心点
319 視野
307 視野レンズ系
309 発散粒子ビーム
311 照射粒子ビーム
323 ビーム焦点
323a ビーム焦点
325 中間像面
330 コンデンサレンズ(磁気)
331 コンデンサレンズ(磁気)
332 コンデンサレンズ(静電)
333 昇圧電位
350 マルチレンズアレイ
351 多孔プレート
351 対向電極
353 微小光学補正器、特にマルチスティグメータ
354 微小光学補正器、特に集束マルチレンズアレイ
355 フレーム
360 前置マルチレンズアレイ
361 前置多孔プレート
362 前置対向電極
363 前置補助電極
370 追加視野レンズ
380 前置多孔プレート
385 挿入可能なビーム電流制限多孔プレート系
386 第1多孔プレート
386a 第1多孔プレートの開口
387 第2多孔プレート
387a 第2多孔プレートの開口
388 有効開口
390 第1多孔プレート
391 第2多孔プレート
392 第1偏向器
393 第2偏向器
397 挿入可能な多孔プレート系
398 マルチレンズ場
399 微小光学ユニット
400 ビームスイッチ
410 ビーム管
710 円形ビーム断面
711 円形開孔
712 環状開孔
713 Toraldoフィルタ
715 ウェブ
E1 中間像面
E2 物体面
Z 光軸
【国際調査報告】