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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】脂質合成を増加させる糖ペプチド
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/64 20060101AFI20220930BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20220930BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20220930BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220930BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 8/60 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/7004 20060101ALI20220930BHJP
   C07H 7/02 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 38/06 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
A61K8/64
A61Q7/00
A61Q19/08
A61Q19/00
A61Q5/00
A61K8/60
A61P17/00
A61P17/06
A61P17/16
A61P17/14
A61P37/08
A61K31/7004
C07H7/02 CSP
A61K38/05
A61K38/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022502519
(86)(22)【出願日】2020-07-17
(85)【翻訳文提出日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 EP2020070339
(87)【国際公開番号】W WO2021009367
(87)【国際公開日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】19305945.8
(32)【優先日】2019-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516281034
【氏名又は名称】テーエフケム
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェラルディーヌ・ドリアンクール-ゴドフロワ
(72)【発明者】
【氏名】ジョスリーヌ・レゴーデク
【テーマコード(参考)】
4C057
4C083
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C057AA18
4C057BB02
4C057EE01
4C083AD201
4C083AD411
4C083CC02
4C083CC31
4C083CC37
4C083EE11
4C083EE21
4C083EE22
4C084AA02
4C084AA07
4C084BA01
4C084BA14
4C084BA15
4C084BA23
4C084BA34
4C084CA59
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZA921
4C084ZA922
4C084ZB131
4C084ZB132
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086EA02
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA63
4C086NA14
4C086ZA89
4C086ZA92
4C086ZB13
(57)【要約】
本発明は、脂質合成を増加させる能力により、皮膚の膨張及び/又は皮膚のボリュームアップ及び/又は皮膚の緻密化及び/又はしわの充填及び/又は皮膚若しくは毛髪の保湿及び/又は皮膚若しくは毛髪の再脂質化及び/又は発毛の刺激及び/又は乾燥肌及び/又はアトピー性皮膚炎及び/又はアトピー性湿疹及び/又は乾癬の治療に有用な、次の化学式Iの糖ペプチド(式中、nは1から6までの整数を表し、mは0又は1、10を表し、pは0又は1を表し、RはH、F、CH3、CH2F、又はCH2OHを表し、R1、R2及びR3は、互いに独立して、H、F、又はOHを表し、R4は、水素、ハロゲン、又はOHを表し、R6及びR7は、互いに独立して、水素、(C1~C6)アルキル、アリール、又はアリール-(C1~C6)アルキルを表し、及びR8はH又はCO-(C1~C20)アルキルを表す)又はその互変異性体、立体異性体若しくは任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容できる塩及び/又はその溶媒和物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式I:
【化1】
(式中、
- nは、1から6までの整数を表し、
- mは、0又は1を表し、
- pは、0又は1を表し、
- Rは、H、F、CH3、CH2F、又はCH2OHを表し、
- R1、R2、及びR3は、互いに独立して、H、F、又はOHを表し、
- R4は、水素、ハロゲン、又はOHを表し、
- R6及びR7は、互いに独立して、水素、(C1~C6)アルキル、アリール、又はアリール-(C1~C6)アルキルを表し、
- R8は、H又はCO-(C1~C20)アルキルを表す)
の糖ペプチド、又はその互変異性体、立体異性体、若しくは任意の比率のその立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、並びに/若しくは生理学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物の使用であって、
皮膚の膨張、及び/又は皮膚のボリュームアップ、及び/又は皮膚の緻密化、及び/又はしわの充填、及び/又は皮膚若しくは毛髪の保湿、及び/又は皮膚若しくは毛髪の再脂質化、及び/又は発毛の刺激のための、使用。
【請求項2】
前記糖ペプチドが、以下の式(Ia)、(Ib)又は(Ic):
【化2】
の糖ペプチド、又はその互変異性体、並びに/若しくは生理学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物である、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
nが、2から6まで、とりわけ3から5まで、例えば4の整数を表す、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
Rが、CH2OHを表し、R1、R2及びR3が各々、OHを表し、有利には、R4が、OHを表す、請求項1から3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
R6及びR7が、互いに独立して、(C1~C6)アルキル、例えばメチルを表す、請求項1から4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記糖ペプチドが、
【化3】
、並びにその互変異性体、並びに/又は生理学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物から選ばれる、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
皮膚の膨張、及び/又は皮膚のボリュームアップ、及び/又は皮膚の緻密化、及び/又はしわの充填、及び/又は皮膚若しくは毛髪の保湿、及び/又は皮膚若しくは毛髪の再脂質化、及び/又は発毛の刺激のための、請求項1から6のいずれか一項に規定の糖ペプチドと少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤とを含む化粧用又は皮膚科用組成物の使用。
【請求項8】
皮膚の膨張、及び/又は皮膚のボリュームアップ、及び/又は皮膚の緻密化、及び/又はしわの充填、及び/又は皮膚若しくは毛髪の保湿、及び/又は皮膚若しくは毛髪の再脂質化、及び/又は発毛の刺激のための方法であって、請求項1から6のいずれか一項に規定の糖ペプチド、又は請求項1から6のいずれか一項に規定の糖ペプチドと少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤とを含む化粧用若しくは皮膚科用組成物の、とりわけ皮膚上への局所的な又は皮下への、投与を含む、方法。
【請求項9】
乾燥肌、及び/又はアトピー性皮膚炎、及び/又はアトピー性湿疹、及び/又は乾癬の治療における使用のための、以下の式I:
【化4】
(式中、
- nは、1から6までの整数を表し、
- mは、0又は1を表し、
- pは、0又は1を表し、
- Rは、H、F、CH3、CH2F、又はCH2OHを表し、
- R1、R2、及びR3は、互いに独立して、H、F、又はOHを表し、
- R4は、水素、ハロゲン、又はOHを表し、
- R6及びR7は、互いに独立して、水素、(C1~C6)アルキル、アリール、又はアリール-(C1~C6)アルキルを表し、
- R8は、H又はCO-(C1~C20)アルキルを表す)
の糖ペプチド、又はその互変異性体、立体異性体、若しくは任意の比率のその立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、並びに/若しくは生理学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物。
【請求項10】
前記糖ペプチドが、以下の式(Ia)、(Ib)又は(Ic):
【化5】
の糖ペプチド、又はその互変異性体、並びに/若しくは生理学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物である、請求項9に記載の使用のための糖ペプチド。
【請求項11】
nが、2から6まで、とりわけ3から5まで、例えば4の整数を表す、請求項9又は10に記載の使用のための糖ペプチド。
【請求項12】
Rが、CH2OHを表し、R1、R2及びR3が各々、OHを表し、有利には、R4が、OHを表す、
請求項9から11のいずれか一項に記載の使用のための糖ペプチド。
【請求項13】
R6及びR7が、互いに独立して、(C1~C6)アルキル、例えばメチルを表す、請求項9から12のいずれか一項に記載の使用のための糖ペプチド。
【請求項14】
前記糖ペプチドが、
【化6】
、並びにその互変異性体、並びに/又は生理学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物の中から選ばれる、請求項9から13のいずれか一項に記載の使用のための糖ペプチド。
【請求項15】
請求項9から14のいずれか一項に記載の糖ペプチドと少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤とを含む、乾燥肌、及び/又はアトピー性皮膚炎、及び/又はアトピー性湿疹、及び/又は乾癬の治療における使用のための、化粧用又は皮膚科用組成物。
【請求項16】
以下の式I":
【化7】
(式中、
- nは、1から6までの整数を表し、
- mは、0又は1を表し、
- pは、0又は1を表し、
- Rは、H、F、CH3、CH2F、又はCH2OHを表し、
- R1、R2、及びR3は、互いに独立して、H、F、又はOHを表し、
- R4は、水素、ハロゲン、又はOHを表し、
- R6及びR7は、互いに独立して、水素、(C1~C6)アルキル、アリール、又はアリール-(C1~C6)アルキルを表し、
- R9は、CO-(C1~C20)アルキルを表す)
の糖ペプチド、又はその互変異性体、立体異性体、若しくは任意の比率のその立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、並びに/若しくは生理学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物。
【請求項17】
前記糖ペプチドが、以下の式(Ia")、(Ib")又は(Ic"):
【化8】
を有する、又はその互変異性体、並びに/若しくは生理学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物である、請求項16に記載の糖ペプチド。
【請求項18】
nが、2から6まで、とりわけ3から5まで、例えば4の整数を表す、請求項16又は17に記載の糖ペプチド。
【請求項19】
Rが、CH2OHを表し、R1、R2及びR3が各々、OHを表し、有利には、R4が、OHを表す、
請求項16から18のいずれか一項に記載の糖ペプチド。
【請求項20】
R6及びR7が、互いに独立して、(C1~C6)アルキル、例えばメチルを表す、請求項16から19のいずれか一項に記載の糖ペプチド。
【請求項21】
前記糖ペプチドが、
【化9】
、並びにその互変異性体、並びに/又は生理学的に許容される塩及び/若しくは溶媒和物から選ばれる、請求項16から20のいずれか一項に記載の糖ペプチド。
【請求項22】
請求項16から21のいずれか一項に記載の糖ペプチドと少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤とを含む、化粧用又は皮膚科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧又は皮膚科用途における、特に皮膚の膨張(plumping)及び/若しくは皮膚のボリュームアップ(volumizing)及び/若しくは皮膚の緻密化(densifying)、及び/若しくはしわの充填及び/若しくは皮膚若しくは毛髪の保湿及び/若しくは皮膚若しくは毛髪の再脂質化(relipiding)及び/若しくは発毛の刺激のための、並びに/又は乾燥肌及び/若しくはアトピー性皮膚炎及び/若しくは湿疹及び/若しくは乾癬の治療のための、糖ペプチド誘導体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
年齢とともに、皮膚の弾力性の喪失と脂肪組織の劣化は、体(手、足、臀部、胸、顔)、とりわけ顔に望ましくない外見上の影響:線やしわの出現、目の周りの皮膚の体積の減少及びこけた頬、をもたらす。体の形を再度整え、表情線やしわを埋め、肌を膨張させるために、外科的脂肪注入(脂肪移植又は脂肪充填)が開発され、体の脂肪が豊富な部位から除去された脂肪を再注入することによって、皮膚、特に顔のボリュームを回復する。ただし、現在使用されているこの手法は、高価であり、炎症反応を引き起こす可能性があり、満足のいく結果を得るには数回やり直す必要がある。
【0003】
新しい脂肪充填法を見つけるために、科学者は皮膚の生理学、特に脂肪組織とその成分に興味を持っていた。脂肪組織は、主に脂肪細胞と、前脂肪細胞、線維芽細胞、内皮細胞等の他の細胞で構成されている。脂肪細胞は、脂質の合成と貯蔵の場所であり、前脂肪細胞が成熟脂肪細胞に発達する、脂肪細胞分化とも呼ばれる、脂肪生成のプロセスから提供される(Eur. J. Cell Biol. 2013, 92, 229-236)。
【0004】
線維芽細胞及び脂肪細胞は、一般的な間葉系多能性前駆細胞から提供されることも示されている(Exp. Dermatol.2014, 23(9), 629-631)。したがって、脂肪細胞は、線維芽細胞の分化によって生成される可能性がある。
【0005】
脂肪生成と脂質の合成を刺激すると、脂肪細胞の体積が増加し、それによって皮膚の体積が回復する。そのため、脂肪細胞の数と体積を増加させる効果のある化合物は、皮膚の膨張及び/又はボリュームアップ及び/又は緻密化剤及び/又はしわの充填剤として作用する能力について記載されている。
【0006】
加えて、脂質合成の低下は、乾燥肌(WO98/10739)、アトピー性皮膚炎、湿疹、又は乾癬で観察される皮膚バリア異常を引き起こす可能性がある(J. Invest. Dermatol. 1991, 96, 523-526, Skin Pharmacol. Physiol. 2015, 28, 42-55)。
【0007】
更に、脂質、特にコレステロール合成が毛髪生物学において主要な役割を果たすことも証明されている。したがって、脂質合成の減少、特にコレステロールの減少は、毛髪周期を乱す(J. Invest. Dermatol. 2010, 130(5), 1205-1207, J. Invest. Dermatol. 2010,130, 1237-48)
【0008】
本発明の枠組みにおいて、本発明者らは、驚くべきことに、糖ペプチド誘導体の存在下で、線維芽細胞における転写レベルでの脂質合成及びコレステロール合成のシグナル伝達経路の誘導活性化を実証した。
【0009】
本発明による糖ペプチド誘導体の調製及び、飢餓状態、UVストレス、酸化ストレス又は細菌ストレス等の異なるストレス下でのインビトロでのヒト皮膚線維芽細胞及びヒト鼻粘膜上皮細胞に対するそれらの保存/保護効果は、国際出願W02015/140178に記載された。このPCT出願で提示された結果のいずれも、本発明による糖ペプチド誘導体が脂質の合成を刺激し、それによって皮膚の膨張及び/又はボリュームアップ及び緻密化剤及び/又はしわ充填剤及び/又は皮膚若しくは毛髪保湿剤及び/又は皮膚若しくは毛髪の再脂質化及び/又は発毛刺激剤、及び/又は乾燥肌、乾癬、アトピー性皮膚炎又は湿疹の治療に使用できるという事実を、当業者に予測させることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO98/10739
【特許文献2】W02015/140178
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Eur. J. Cell Biol. 2013, 92, 229-236
【非特許文献2】Exp. Dermatol. 2014, 23(9), 629-631
【非特許文献3】J. Invest. Dermatol. 1991, 96, 523-526
【非特許文献4】Skin Pharmacol. Physiol. 2015, 28, 42-55
【非特許文献5】J. Invest.Dermatol. 2010, 130(5), 1205-1207
【非特許文献6】J. Invest. Dermatol. 2010,130, 1237-48
【非特許文献7】International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook, eds. Wenninger and McEwen (The Cosmetic, Toiletry, and Fragrance Assoc., Washington, D.C., 7@th Edition, 1997)
【非特許文献8】Genome Biology 2007,8:R183
【非特許文献9】Nucleic Acids Research,2009,Vol.37,No.11-13
【非特許文献10】http://david.abcc.ncifcrf.gov/
【非特許文献11】http://www.geneontology.org
【発明の概要】
【0012】
第1の態様によれば、本発明は、次の化学式I又は化学式I'の糖ペプチド:
【化1】
(式中、
- nは1から6までの整数を表し、
- mは0又は1を表し、
- pは0又は1を表し、
- Rは、H、F、CH3、CH2F、又はCH2OHを表し、
- R1、R2、及びR3は、互いに独立して、H、F、又はOHを表し、
- R4は、水素、ハロゲン、又はOHを表し、
- R6及びR7は、互いに独立して、水素、(C1~C6)アルキル、アリール、又はアリール-(C1~C6)アルキルを表し、
- R8はH又はR9、とりわけHを表し、
- R9はCO-(C1~C20)アルキル(例えば、CO-(C1~C15)アルキル)を表す)
又は互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物の、
皮膚の膨張及び/又は皮膚のボリュームアップ及び/又は皮膚の緻密化及び/又はしわの充填及び/又は皮膚若しくは毛髪の保湿及び/又は皮膚又は毛髪の再脂質化及び/又は発毛の刺激のための使用に関する。
【0013】
本発明は、皮膚の膨張及び/又は皮膚のボリュームアップ及び/又は皮膚の緻密化及び/又はしわの充填及び/又は皮膚若しくは毛髪の保湿及び/又は皮膚又は毛髪の再脂質化及び/又は発毛の刺激のための方法であって、前記の化学式I若しくはI'の糖ペプチド又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物の投与、とりわけ皮膚(発毛の刺激のため頭皮を含む)又皮下への局所投与を含む方法にも関する。
【0014】
本発明は、皮膚の膨張及び/又は皮膚のボリュームアップ及び/又は皮膚の緻密化及び/又はしわの充填及び/又は皮膚若しくは毛髪の保湿及び/又は皮膚又は毛髪の再脂質化及び/又は発毛の刺激のための、前記の化学式I若しくはI'の糖ペプチド又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物にも関する。
【0015】
本発明は、皮膚の膨張及び/又は皮膚のボリュームアップ及び/又は皮膚の緻密化及び/又はしわの充填及び/又は皮膚若しくは毛髪の保湿及び/又は皮膚又は毛髪の再脂質化及び/又は発毛の刺激を対象とする化粧用又は薬用(例えば、皮膚科用)組成物の製造のための、前記の化学式I若しくはI'の糖ペプチド又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物の使用にも関する。
【0016】
本発明は、皮膚の膨張及び/又は皮膚のボリュームアップ及び/又は皮膚の緻密化及び/又はしわの充填及び/又は皮膚若しくは毛髪の保湿及び/又は皮膚又は毛髪の再脂質化及び/又は発毛の刺激のための方法であって、前記の化学式I若しくはI'の糖ペプチド又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を、それを必要とする個人に投与することを含む方法にも関する。
【0017】
前記の化学式I若しくはI'の糖ペプチド又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物は、前記の化学式I若しくはI'の糖ペプチド又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物と少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤とを含む、組成物、特に、化粧用又は皮膚科用組成物の方法で、使用又は投与される。
【0018】
第2の態様によれば、本発明は、乾燥肌及び/又はアトピー性皮膚炎及び/又はアトピー性湿疹及び/又は乾癬の治療に使用するための、次の化学式I又は化学式I'の糖ペプチド:
【化2】
(式中、
- nは1から6までの整数を表し、
- mは0又は1を表し、
- pは0又は1を表し、
- Rは、H、F、CH3、CH2F、又はCH2OHを表し、
- R1、R2、及びR3は、互いに独立して、H、F、又はOHを表し、
- R4は、水素、ハロゲン、又はOHを表し、
- R6及びR7は、互いに独立して、水素、(C1~C6)アルキル、アリール、又はアリール-(C1~C6)アルキルを表し、
- R8はH又はR9、とりわけHを表し、
- R9はCO-(C1~C20)アルキル(例えば、CO-(C1~C15)アルキル)を表す)
又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物に関する。
【0019】
本発明は、乾燥肌及び/又はアトピー性皮膚炎及び/又はアトピー性湿疹及び/又は乾癬の治療に使用するための、前記の化学式I若しくはI'の糖ペプチド又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物にも関する。
【0020】
本発明は、乾燥肌及び/又はアトピー性皮膚炎及び/又はアトピー性湿疹及び/又は乾癬の治療を対象とする化粧用又は薬用(例えば、皮膚科用)組成物の製造のための、前記の化学式I若しくはI'の糖ペプチド又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物の使用にも関する。
【0021】
本発明は、乾燥肌及び/又はアトピー性皮膚炎及び/又はアトピー性湿疹及び/又は乾癬の治療のための方法であって、前記の化学式I若しくはI'の糖ペプチド又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物を、それを必要とする個人に投与することを含む方法にも関する。
【0022】
前記の化学式I若しくはI'の糖ペプチド又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物は、前記の化学式I若しくはI'の糖ペプチド又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物と少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤とを含む、組成物、特に、皮膚科用組成物の方法で、使用又は投与される。
【0023】
第3の態様によれば、本発明は、次の化学式I''の糖ペプチド:
【化3】
(式中、
- nは1から6までの整数を表し、
- mは0又は1を表し、
- pは0又は1を表し、
- Rは、H、F、CH3、CH2F、又はCH2OHを表し、
- R1、R2、及びR3は、互いに独立して、H、F、又はOHを表し、
- R4は、水素、ハロゲン、又はOHを表し、
- R6及びR7は、互いに独立して、水素、(C1~C6)アルキル、アリール、又はアリール-(C1~C6)アルキルを表し、
- R9はCO-(C1~C20)アルキル(例えば、CO-(C1~C15)アルキル)を表す)
又は互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物に関する。
【0024】
第4の態様によれば、本発明は、前記で規定された化学式I''の糖ペプチドと少なくとも1種の生理学的に許容される賦形剤とを含む化粧用又は皮膚科用組成物に関する。
【0025】
定義
本発明の目的のために、「生理学的に許容される」という用語は、化粧用又は薬用(例えば、皮膚科用)組成物の調製に有用なものであって、及び化粧用又は薬用(例えば、皮膚科用)での使用、とりわけヒト等の哺乳類での使用において、一般的に安全で非毒性のものを意図している。
【0026】
「生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物」という用語は、本発明の枠組みにおいて、前記で定義されるように生理学的に許容され、対応する化合物の化粧用又は薬用活性を有する化合物の塩及び/又は溶媒和物を意味することを意図する。
【0027】
本発明の文脈において、「生理学的に許容される塩」は、次のものであってよい:
(1)塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸と、又は酢酸、ベンゼンスルホン酸、フマル酸、グルコヘプトン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリコール酸、ヒドロキシナフトエ酸、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムコニック酸、2-ナフタレンスルホン酸、プロピオン酸、コハク酸、ジベンゾイル- L-酒石酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸及びトリフルオロ酢酸等の有機酸とで形成される酸付加塩、又は
(2)化合物中に存在する酸性プロトンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン等の金属イオンで置換されるか、有機又は無機の塩基で配位されて形成される塩。許容される有機塩基は、ジエタノールアミン、エタノールアミン、N-メチルグルカミン、トリエタノールアミン、トロメタミン等を含む。許容される無機塩基は、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等を含む。
【0028】
より具体的には、塩は、塩酸又は酢酸等の酸で形成された塩であってよい。
【0029】
本発明の文脈において、本発明の糖ペプチド誘導体の「生理学的に許容される溶媒和物」は、溶媒の存在のために、本発明の化合物の調製の最終段階中に形成されるもの等の従来からある溶媒和物を含む。一例として、水(これらの溶媒和物は水和物とも呼ばれる)又はエタノールの存在に起因する溶媒和物について言及できる。
【0030】
本発明の目的のために、「互変異性体」は、本発明による糖ペプチドの糖が想定し得る様々な互変異性体、すなわちピラノース(6員環)形態、フラノース(5員環)形態又は直鎖状(開環)形態を指すことを意図する。しかしながら、実際的な理由から、本発明による糖ペプチドの糖は、本明細書ではそのピラノース形態によって表されている。
【0031】
しかしながら、本発明の化合物は、R4基がOH基を表す場合にのみ様々な互変異性体形態をとることができ、本発明の糖ペプチドがフラノース形態であり得るためには、R1もOH基を表さなければならない。
【0032】
したがって、例えば、ガラクトース系では、本発明の糖ペプチドは、次の様々な形態(X=F)で現れる可能性がある:
【化4】
【0033】
したがって、
【化5】
基、例えば、
【化6】
は、R4=R1=OHの場合、次の互変異性体の形をとることができる:
- ピラノース形態:
【化7】
、例えば
【化8】

- フラノース形態:
【化9】
、例えば
【化10】
;及び
- 直鎖状形態:
【化11】
、例えば
【化12】
【0034】
同様に、
【化13】
基、例えば
【化14】
は、したがって、R4=R1=OHの場合、次の互変異性体の形をとることができる:
- ピラノース形態:
【化15】
、例えば
【化16】

- フラノース形態:
【化17】
、例えば
【化18】
;及び
- 直鎖状形態:
【化19】
、例えば
【化20】
【0035】
アノマー炭素は、閉じたピラノース及びフラノースの形態の2つの異なる構成で現れる可能性がある。
【0036】
本発明の化合物は、平衡状態で溶液中に存在できる異なる互変異性体形態をとることができ、任意選択で、他の互変異性体形態と比較して主要な互変異性体形態をとることができ、又は本発明の化合物は、ピラノース型のみ等、単一の互変異性体形態をとることができる。これは、とりわけ溶媒の性質、温度、化合物の濃度等に依存するだろう。
【0037】
本発明の意味の範囲内で、「立体異性体」は、ジアステレオマー又はエナンチオマーを指すことを意図している。したがって、これらは光学異性体である。したがって、互いに鏡像ではない立体異性体は「ジアステレオマー」と呼ばれ、重ね合わせることができない鏡像である立体異性体は「エナンチオマー」と呼ばれる。
【0038】
とりわけ、本発明の化合物の糖部分及びアミノ酸部分は、D体又はL体に所属できる。
【0039】
4つの同一でない置換基に結合した炭素原子は、「キラル中心」と呼ばれる。
【0040】
2つのエナンチオマーの等モル混合物は、「ラセミ混合物」と呼ばれる。
【0041】
本発明の目的のため、「回転性の異性体」とも呼ばれる「回転異性体」は、本発明による糖ペプチドがとり得る立体配座異性体を示すことを意図し、前記立体配座異性体は、糖ペプチドの分子に存在する単結合の周りの回転によって得られる。立体異性体とは異なり、回転異性体は単結合の周りの自由回転によって相互変換可能であるため、分離できない。
【0042】
本発明で使用される「ハロゲン」という用語は、フッ素、臭素、塩素又はヨウ素の原子を指す。有利には、これはフッ素の原子である。
【0043】
本発明で使用される「(Cx~Cy)アルキル」という用語は、x個からy個の炭素原子を含み、飽和した、直鎖状又は分岐状炭化水素鎖を指す。したがって、例えば、本発明で使用される「(C1~C6)アルキル」という用語は、1から6個の炭素原子を含み、飽和した、直鎖状又は分岐状炭化水素を指し、特にメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソ-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基を指す。特にメチル基であってよい。
【0044】
本発明で使用される「CO-(Cx~Cy)アルキル」という用語は、カルボニル(CO)基によって分子の残りの部分に結合した、前記で定義された(Cx~Cy)アルキル基を指す。したがって、例えば、本発明で使用される「CO-(C1~C20)アルキル」という用語は、アセチル基やパルミトイル基のような、カルボニル(CO)基によって分子の残りの部分に結合した(C1~C20)アルキル基を指す。
【0045】
本発明で使用される「アリール」という用語は、好ましくは6から10個の炭素原子を含み、1個又は複数個の縮合環、例えば、フェニル基又はナフチル基を含む芳香族炭化水素基を指す。有利に、フェニル基であろう。
【0046】
本発明で使用される「アリール-(C1~C6)-アルキル」という用語は、前記で定義される(C1~C6)-アルキル基による方法で分子に結合される、前記で定義される任意のアリール基を指す。特に、ベンジル基であってよい。
【0047】
本発明で使用される「皮膚の膨張」、「皮膚のボリュームアップ」及び「皮膚の緻密化」という用語は、とりわけ脂肪量を増加させることによって、皮膚の体積を増加させ、皮膚を再形成するという事実を指す。
【0048】
本発明で使用される「しわの充填」という用語は、とりわけ特に脂肪量を増加させることによって、表情線を含むしわを低減又は削減するために、皮膚の体積、膨満感及び滑らかさを回復するという事実を指す。
【0049】
本発明で使用される「皮膚又は毛髪の保湿」という用語は、とりわけ脂質(例えば、コレステロール)の合成を増やすことによって、皮膚又は毛髪の水分含有量を増加させ、皮膚を柔らかくしなやかで滑らかに保ち、毛髪を柔らかくしなやかで輝くように保つという事実を指す。
【0050】
本発明で使用される「皮膚又は毛髪の再脂質化」という用語は、皮膚を柔らかくしなやかで滑らかに保ち、毛髪を柔らかくしなやかで輝くように保つために、皮膚又は毛髪の脂質含有量を増加させ、皮膚又は毛髪の脂質膜を回復させるという事実を指す。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、対照である正常なヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)の顕微鏡観察写真を表す。
図2図2は、10mg/mLの化合物1で処理した後のNHDFの顕微鏡観察写真を表す。
図3図3は、20mg/mLの化合物1で処理した後のNHDFの顕微鏡観察写真を表す。
図4図4は、対照であるNHDFの顕微鏡観察写真を表す。
図5図5は、13mg/mlの化合物4で処理した後のNHDFの顕微鏡観察写真を表す。
図6図6は、化合物4及び化合物5の合成スキームを表す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
1.糖ペプチド誘導体
皮膚の膨張及び/又は皮膚のボリュームアップ及び/又皮膚の緻密化及び/又はしわ充填及び/又は皮膚若しくは毛髪保湿及び/又は皮膚若しくは毛髪の再脂質化及び/又は発毛刺激及び/又は乾燥肌及び/又はアトピー性皮膚炎及び/又はアトピー性湿疹及び/又は乾癬の治療に使用する場合、
本発明による糖ペプチド、又はその互変異性体、立体異性体又は任意の比率のそれら立体異性体の混合物、特にエナンチオマーの混合物、特にラセミ混合物、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物は、
次の化学式I":
【化21】
又は次の化学式I若しくは化学式I':
【化22】
(式中、
- nは1から6までの整数を表し、
- mは0又は1を表し、
- pは0又は1を表し、
- Rは、H、F、CH3、CH2F、又はCH2OHを表し、
- R1、R2、及びR3は、互いに独立して、H、F、又はOHを表し、
- R4は、水素、ハロゲン、又はOHを表し、
- R6及びR7は、互いに独立して、水素、(C1~C6)アルキル、アリール、又はアリール-(C1~C6)アルキルを表し、
- R8はH又はR9、とりわけHを表し、
- R9はCO-(C1~C20)アルキル(例えば、CO-(C1~C15)アルキル)を表す)
を有する。
【0053】
本発明によるこの糖ペプチドは、回転異性体の混合物の形態で得られる。
【0054】
特定の実施形態によれば、本発明の化学式I、化学式I'又は化学式I''の糖ペプチドの糖部分はガラクトース系であり、本発明による糖ペプチドは、有利に、次の化学式(Ia)、(Ib)、(Ic)、(Ia')、(Ib')、(Ic')、(Ia'')、(Ib'')又は(Ic'')の糖ペプチド:
【化23】
又はその互変異性体、及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物である。
【0055】
nは、1、2、3、4、5、又は6を表す。有利に、nは2から6までの整数、とりわけ3から5までの整数、例えば4を表す。
【0056】
m及びpはそれぞれ1を表す、又はm及びpはそれぞれ0を表す、又はmとpの一方が0で、他方が1である。特に、m及びpはそれぞれ1を表す。
【0057】
有利に、RはCH2OHを表し、R1、R2及びR3はそれぞれOHを表す。
【0058】
有利に、R4はOHを表す。
【0059】
特に、R6及びR7は、互いに独立して、H、CH3、CH(CH3)2、CH2CH(CH3)2、CH(CH3)CH2CH3、又はCH2Phを表す。好ましくは、R6及びR7は、互いに独立して、(C1~C6)アルキル、例えばメチルを表す。
【0060】
R8はH又はR9を表す。特に、R8は、H、アセチル基又はパルミトイル基、とりわけHを表す。
【0061】
R9は、CO-(C1~C20)アルキル、例えばCO-(C1~C15)アルキル)等、例えばCO-(C1~C6)アルキルを表す。R9はアセチル基又はパルミトイル基であってよい。
【0062】
第1の特定の実施形態によれば、nは2から6までの整数、すなわち2、3、4、5又は6、とりわけ4を表し、RはCH2OH基を表し、R1、R2及びR3はOHを表す。
【0063】
第2の特定の実施形態によれば、nは2から6までの整数、すなわち2、3、4、5又は6、とりわけ4を表し、RはCH2OH基を表し、R1、R2、R3及びR4はOHを表す。
【0064】
第3の特定の実施形態によれば、nは2から6までの整数、すなわち2、3、4、5又は6、とりわけ4を表し、RはCH2OH基を表し、R1、R2、R3及びR4はOHを表し、m及びpはそれぞれ1を表す。
【0065】
第4の特定の実施形態によれば、nは2から6までの整数、すなわち2、3、4、5又は6、とりわけ4を表し、RはCH2OH基を表し、R1、R2、R3及びR4はOHを表し、m及びpはそれぞれ0を表す。
【0066】
第5の特定の実施形態によれば、nは2から6までの整数、すなわち2、3、4、5又は6、とりわけ4を表し、RはCH2OH基を表し、R1、R2、R3及びR4はOHを表し、m及びpのうちの一方は0で、他方は1である。
【0067】
第6の特定の実施形態によれば、nは2から6までの整数、すなわち2、3、4、5又は6、とりわけ4を表し、RはCH2OH基を表し、R1、R2、R3及びR4はOH基を表し、及びR6及びR7は、(C1~C6)アルキル、例えばメチルを表す。
【0068】
第7の特定の実施形態によれば、nは2から6までの整数、すなわち2、3、4、5又は6、とりわけ4を表し、RはCH2OH基を表し、R1、R2、R3及びR4はOH基を表し、R6及びR7は(C1~C6)アルキル、例えばメチルを表し、m及びpはそれぞれ1を表す。
【0069】
第8の特定の実施形態によれば、nは2から6までの整数、すなわち2、3、4、5又は6を表し、とりわけ4を表し、RはCH2OH基を表し、R1、R2、R3及びR4はOH基を表し、R6は(C1~C6)アルキル、例えばメチルを表し、mは1、pは0である。
【0070】
第9の特定の実施形態によれば、nは4を表し、RはCH2OH基を表し、R1、R2、R3及びR4はOH基を表し、R6及びR7は(C1~C6)アルキル、例えばメチルを表し、m及びpは1を表す。
【0071】
本発明の化合物は、有利に、以下の化合物1から4のうちの1つであってよく、とりわけ化合物1:
【化24】
であるか、又はそれらの互変異性体及び/又は生理学的に許容される塩及び/又は溶媒和物である。
【0072】
化学式I'による糖ペプチドを調製するための方法は、WO2015/140178に開示されている。同じ方法は、化学式I''による糖ペプチドの調製に使用でき、ここではCF2基のαにおけるアミノ基(NH)をR9基で置換する追加の工程を伴い、このような置換工程は当業者に周知である。
【0073】
2.化粧用又は皮膚科用組成物
本発明による糖ペプチド誘導体は、前記糖ペプチドと少なくとも1つの生理学的に許容される賦形剤とを含む化粧用又は皮膚科用組成物の方法によって、使用又は投与される。
【0074】
このような組成物は、より具体的には、局所(例えば、経皮)投与又は非経口(例えば、皮下)投与、好ましくは、局所投与、特に頭皮を含む皮膚への投与、又は注射、特に皮下注射を意図している。
【0075】
したがって、このような組成物は、溶液、分散剤、乳剤、油剤、軟膏、シャンプー、ペースト、クリーム、化粧水、乳液、泡状物質、ゲル、懸濁液、スプレー、化粧液、パッチ、スティック、マスク等であってよい。
【0076】
本発明の組成物は、賦形剤として、懸濁剤、湿潤剤、酸化防止剤、皮膚軟化剤、他の保湿剤、増粘剤、キレート剤、緩衝剤、芳香剤、防腐剤、顔料又は着色剤、乳白剤又は艶消し剤等、1種又は複数種の添加剤を含んでいてもよい。このような添加剤は、当業者にとっては従来からあるものである。
【0077】
これらの添加物の例は、以下に記載されているだけでなく、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook, eds. Wenninger and McEwen (The Cosmetic, Toiletry, and Fragrance Assoc., Washington, D.C.,7@th Edition, 1997)にも記載されている。
【0078】
懸濁剤は、例えば、アルギン酸塩、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシルメチルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロース、ヒドロキシルプロピルメチルセルロース、微結晶性セルロース、アカシアガム、トラガカントガム又はキサンタンガム等のガム、ゼラチン、カラギーナン、ポリビニルピロリドンであってよい。
【0079】
湿潤剤は、グリセリン、プロピレングリコール、又はレシチン、ポリソルベート若しくはポロキサマー等の非イオン性界面活性剤であってよい。
【0080】
酸化防止剤は、組成物に含まれるか又は組成物と接触する酸化剤から、組成物の成分を保護するために使用できる。酸化防止剤の例としては、アスコルビン酸、パルミチン酸アスコルビル、クエン酸、アセチルシステイン、亜硫酸塩(亜硫酸水素塩、メタ重亜硫酸塩)、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウム、モノチオグリセロール、チオ尿素、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピルカリウム、没食子塩オクチル、没食子酸ドデシル、フェニル-α-ナフチルアミン、及びα-トコフェロール等のトコフェロール類が挙げられる。
【0081】
皮膚軟化剤は、皮膚を柔らかく滑らかにする薬剤である。皮膚軟化剤の例としては、ジメチコン及びその誘導体等のシロキサン等の油及びワックス、微結晶性ワックス、ポリエチレン、ヒマシ油、ココアバター、サフラワー油、コーン油、オリーブ油、肝油、アーモンド油、パーム油、スクアレン、大豆油のトリグリセリドエステル、アセチル化モノグリセリド、エトキシル化グリセリド、脂肪酸、脂肪酸のアルキルエステル、脂肪酸のアルケニルエステル、脂肪族アルコール、脂肪族アルコールエーテル、エーテルエステル、ラノリン及びラノリンの誘導体、多価アルコールエステル、ミツバチワックス、植物性ワックス等のワックスエステル、リン脂質、ステロール、パルミチン酸イソプロピル又はステアリン酸グリセリルが、挙げられる。
【0082】
保湿剤は、皮膚の水分量を増やし、柔らかく滑らかに保つ。保湿剤は、例えば、尿素、アミノ酸、乳酸及びその塩(乳酸ナトリウム等)、グリセロール(グリセリンとも呼ばれる)、プロピレングリコール、ブチレングリコール、PEG(ポリエチレングリコール、例えばPEG-4からPEG-32)、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、マンニトール、ポリデキストロース、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸とその塩(例えばナトリウム塩やカリウム塩)、ペクチン、ゼラチン、キトサン、アロエベラ、蜂蜜等であってよい。
【0083】
増粘剤は、組成物の粘度及び濃さを増加させるために使用される。増粘剤の例としては、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ミリスチルアルコール、カルナウバワックス、又はステアリン酸等の脂質増粘剤;ヒドロキシエチルセルロース、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム等のセルロース誘導体、又はゼラチン等の天然由来の増粘剤;シリカ、ベントナイト、又はケイ酸アルミニウムマグネシウム等の鉱物増粘剤;カルボマー等の合成増粘剤;NaCl等のイオン性増粘剤;が挙げられる。
【0084】
キレート剤は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)塩であってよい。
【0085】
緩衝剤は、酢酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、トリエタノールアミン(TRIS)であってよい。
【0086】
芳香剤及び香料の例としては、ペパーミント、ローズオイル、ローズウォーター、アロエベラ、クローブオイル、メントール、カンファー、ユーカリオイル、その他の植物抽出物が挙げられる。組成物からの特定の臭いを除去するために、マスキング剤を使用してよい。
【0087】
防腐剤は、組成物を劣化から保護するために使用できる。防腐剤の例としては、フェノール、クレゾール、クロロブタノール、フェノキシエタノール、ブチルパラベン、プロピルパラベン、エチルパラベン、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、安息香酸、ベンジルアルコール、及びリクアパーオイル(liquipar oil)等のそれらの混合物が、挙げられる。しかしながら、本発明の組成物は防腐剤を含まなくてもよい。
【0088】
顔料又は着色剤は、白色の組成物を得るため等、組成物の色を変更するために使用される。
【0089】
酸化チタン等の乳白剤は、不透明にするために、透明又は透き通った組成物で使用される。したがって、本発明は、乳白剤の使用の有無に応じて、透明又は不透明にできる。
【0090】
艶消し剤は、肌を艶消しにする成分で、肌の輝きを防ぐ。それは、例えば、タルク、シリカ、米粉、又はそれらの混合物であってよく、特に微粉化された形態であってよい。
【0091】
当業者は、所望の効果を得るため、化粧用又は皮膚科用組成物中の本発明による糖ペプチドの量を調整することができるであろう。
【0092】
3.化粧又は皮膚科用途
本発明による糖ペプチド誘導体又はそのような糖ペプチド誘導体を含む本発明による化粧用若しくは皮膚科用組成物は、皮膚の膨張及び/又は皮膚のボリュームアップ及び皮膚の緻密化及び/又はしわ充填及び/又は皮膚若しくは毛髪保湿及び/又は皮膚若しくは毛髪の再脂質化及び/又は発毛刺激に有用である。
【0093】
実際、このような効果は、脂肪組織の量及びコレステロールのような脂質の合成を増加する活性により、本発明による糖ペプチド誘導体によって得ることができる。
【0094】
本発明による糖ペプチド誘導体又はそのような糖ペプチド誘導体を含む本発明による化粧用若しくは皮膚科用組成物は、乾燥肌及び/又はアトピー性皮膚炎及び/又湿疹及び/又は乾癬の治療にも有用である。
【0095】
実際、文献で報告されているように、このような病状は、皮膚のバリア機能障害につながる脂質合成の減少に関連している。本発明による糖ペプチド誘導体は、脂質合成において有用であり、その結果、このような化合物をこれらの病状の治療に使用できることが実証されている。
【0096】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって説明される。
【実施例
【0097】
実施例では、次の略語が使用されている。
DCE:ジクロロエタン
DCM:ジクロロメタン
DIEA:N、N-ジイソプロピルエチルアミン
NMR:核磁気共鳴
PTFE:ポリテトラフルオロエチレン
THF:テトラヒドロフラン
【0098】
1.本発明による化合物の合成
化合物1~3は、それらの塩酸塩の形で、W02015/140178に報告されているように調製する。塩基形態は、次の手順に従って取得する:
Amberlite(登録商標)IRA-67(前もって水で洗浄、17.0g)を水(325mL)中の塩酸塩(12.3mmol、1eq)の溶液に加えた。溶液を室温で1時間30分間撹拌した。溶液のpHを測定し(pH=7.0)、混合物をろ過した(0.2μm、HPTFE)。次に、ろ液を凍結乾燥して、化合物1~3の塩基形態を得た。
【0099】
化合物4~5は、図6に示す合成スキームに従って調製する。合成プロトコルの詳細を以下に示す。
【0100】
化合物Cの合成:
【化25】
【0101】
化合物A及びBの合成は、W02015/140178に記載してある。
【0102】
不活性雰囲気下で、無水DCE(2.37L)中の化合物B(89.5g、119mmol、1eq)の溶液に、MgSO4(42.8g、356mmol、3eq)、化合物A(48.23g、119mmol、1eq)及びジエチルアミノメチル-ポリスチレン(約3.2mmol/g積載、94.3g、237mmol、2eq)を順次加えた。19F NMRが完全な変換を示すまで、反応物を還流した。次に、混合物を室温に冷却し、窒素流下でCelite(登録商標)のパッド上で急速にろ過した。得られた中間体イミンの溶液を丸底フラスコに移し、精製せずに次の工程で使用した。
【化26】
【0103】
トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(51.5g、236mmol、2eq)を、不活性雰囲気下でDCE中の中間体イミンの冷溶液(0℃)に少しずつ加えた。次に酢酸(7.03mL、118mmol、1eq)を混合物に滴下した。反応混合物を0℃で30分間撹拌した後、室温に温め、16時間撹拌した。NaHCO3の溶液(飽和水溶液、400mL)を加え、混合物を90分間激しく撹拌した。次に、混合物をDCM(3x300mL)で抽出した。次に、混合した有機層を塩水で洗浄して、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過して、濃縮した。残留物をフラッシュクロマトグラフィー(トルエン/アセトン95:5から75:25)により精製して、化合物C(65.6g、収率52%)を得た。
【0104】
19F dec NMR(CDCl3,282.5MHz):-110.0(d,258Hz,1F);-111.0(d,258Hz,1F).
Mass(ESI+):1063.4[M+H]+.
【0105】
化合物Dの合成:
【化27】
【0106】
DCM(50.0mL)中の塩化アセチル(0.64mL、9.02mmol、1.2eq)の溶液を、不活性雰囲気下で、無水DCM(50.0mL)中の化合物C(8.00g、7.52mmol、1eq)及びDIEA(2.74mL、16.6mmol、2.2eq)の混合物に滴下した。得られた溶液を25℃で24時間撹拌した。
【0107】
NH4Cl(飽和水溶液)を加え、水層をDCM(3x150mL)で抽出した。次に、混合した有機層を塩水で洗浄して、硫酸ナトリウムで乾燥させ、ろ過して、濃縮した。粗残留物をフラッシュクロマトグラフィー(AITカートリッジ、80g、SiOH、シクロヘキサン/酢酸エチル100:0から60:40)により精製して、化合物D(6.58g、収率79%)を白色固体として得た。
【0108】
19F NMR(CDCl3,282.5MHz):化合物Dは2つの回転異性体の形態で存在する。
形態1(54%):-108.3(brdd,255Hz,30Hz,1F);-112.3(brdd,256Hz,30Hz,1F).
形態2(46%):-110.2(ddd,259Hz,22Hz,10Hz,1F);-111.3(259Hz,22Hz,10Hz,1F).
Mass(ESI+):1105.5[M+H]+;1127.5[M+Na]+;1143.5[M+K]+
【0109】
化合物Eの合成:
【化28】
【0110】
パラジウム炭素(10質量%積載、活性炭支持、0.63g、0.60mmol、0.1eq)を、あらかじめ窒素で脱気したTHF(230mL)中の化合物D(6.58g、5.95mmol、1eq)の溶液に加えた。次に、HClの溶液(水中2M、11.9mL、23.81mmol、4eq)を加えた。混合物を水素雰囲気下に置き、18時間撹拌した。反応物を窒素で脱気した後、ろ過(0.45μm、ポリアミド)して、パラジウム残留物を除去した。ろ過材をTHFと水の混合物で洗浄し、混合した溶液を濃縮してTHFを除去した。次に、残留物を水で希釈して、溶液を凍結乾燥し、化合物E(2.78g、100%)を無定形のオフホワイトの固体として得た。
【0111】
19F dec NMR(MeOD,282.5MHz):化合物Eは4つの主要な形態で存在する。
形態1(53%):-117.2(d,250Hz,1F);-119.2(d,250Hz,1F).
形態2(21%):-116.6(d,251Hz,1F);-118.3(d,251Hz,1F).
形態3(18%):-116.4(d,250Hz,1F);-117.3(d,250Hz,1F).
形態4(8%):-114.9(d,252Hz,1F);-116.1(d,252Hz,1F).
Mass(ESI+): NH2形態の431.2[M+H]+
【0112】
化合物4の合成:
【化29】
【0113】
Amberlite(登録商標)IRA-67(前もって水で洗浄、13.0g)を、水(156.6mL)中の化合物E(2.78g、5.955mmol、1eq)の溶液に加えた。溶液を室温で1時間30分間撹拌した。溶液のpHを測定し(pH=7.0)、混合物をろ過した(0.2μm、H-PTFE)。次に、ろ液を凍結乾燥して、化合物4(2.39g、収率93%)を白色粉末として得た。
【0114】
19F dec NMR(D2O,282.5MHz):化合物4は4つの主要な形態で存在する。
形態1(32%):-116.0(d,250Hz,1F);-118.1(d,250Hz,1F).
形態2(29%):-115.4(d,250Hz,1F);-117.2(d,250Hz,1F).
形態3(22%):-115.4(d,252Hz,1F);-116.3(d,252Hz,1F).
形態4(17%):-114.4(d,252Hz,1F);-115.5(d,252Hz,1F).
Mass(ESI+):431.2[M+H]+
【0115】
化合物Fの合成:
【化30】
【0116】
無水DCM(25mL)中の塩化パルミトイル(1.15mL、3.76mmol、1eq)の溶液を、不活性雰囲気下で、無水DCM(25mL)中の化合物C(4.0g、3.75mmol、1eq)及びDIEA(1.25mL、7.5mmol、2eq)の混合物に滴下した。反応混合物を室温で24時間撹拌した。次に、NH4Clの溶液(飽和水溶液)を加えた。水層をDCM(3x)で抽出し、混合した有機層を塩水で洗浄して、硫酸ナトリウムで乾燥し、ろ過して、濃縮した。粗残留物をフラッシュクロマトグラフィー(シクロヘキサン/酢酸エチル100:0から55:45)により精製して、化合物F(4.65g、収率95%)を黄色がかったゲルとして得た。
【0117】
19F NMR(CDCl3,282.5MHz):化合物Fは2つの回転異性体の形態で存在する。
形態1(56%):-108.6(dd,255Hz,32Hz,1F);-112.6(dd,255Hz,27Hz,1F).
形態2(44%):-110.0(ddd,258Hz,27Hz,9Hz,1F);-112.6(258Hz,27Hz,9Hz,1F).
Mass(ESI+):1301.7[M+H]+;1323.7[M+Na]+;1339.7 [M+K]+
【0118】
化合物Gの合成:
【化31】
【0119】
パラジウム炭素(10質量%積載、活性炭支持、0.38g、0.36mmol、0.1eq)を、あらかじめ窒素で脱気したTHF(140mL)中の化合物F(4.65g、3.57mmol、1eq)の溶液に加えた。次に、HClの溶液(水中2M、7.15mL、14.3mmol、4eq)を加えた。混合物を水素雰囲気下に置き、18時間撹拌した。反応物を窒素で脱気した後、ろ過(0.45μm、ポリアミド)して、パラジウム残留物を除去した。ろ過材をTHFと水の混合物で洗浄し、混合した溶液を濃縮してTHFを除去した。次に、残留物を水で希釈し、溶液をろ過して(0.2μm、H-PTFE)、凍結乾燥し、化合物G(2.25g、95%)を白色粉末として得た。
【0120】
19F dec NMR(MeOD,282.5MHz):化合物Gは4つの主要な形態で存在する。
形態1(53%):-119.5(d,249Hz,1F);-117.6(d,249Hz,1F).
形態2(23%):-117.7(d,250Hz,1F);-116.8(d,250Hz,1F).
形態3(18%):-118.3(d,250Hz,1F);-116.4(d,250Hz,1F).
形態4(6%):-116.4(d,252Hz,1F);-114.9(d,252Hz,1F).
Mass(ESI+):NH2形態の627.4[M+H]+;649.4 [M+Na]+NH2形態
【0121】
化合物5の合成:
【化32】
【0122】
Amberlite(登録商標)IRA-67(前もって水で洗浄、7.3g)を、水(89mL)中の化合物G(2.25g、3.39mmol、1eq)の溶液に加えた。溶液を室温で1時間30分間撹拌した。溶液のpHを測定し(pH=7.0)、混合物をろ過した(0.2μm、H-PTFE)。次に、ろ液を凍結乾燥して、化合物5(1.97g、収率93%)を白色粉末として得た。
【0123】
19F dec NMR (MeOD, 282.5MHz):化合物5は4つの主要な形態で存在する。
形態1(58%):-117.5(d,249Hz,1F);-119.63(d,249Hz,1F).
形態2(28%):-116.8(d,250Hz,1F);-118.6(d,250Hz,1F).
形態3(8%):-114.9(d,252Hz,1F);-116.4(d,252Hz,1F).
形態4(5%):-116.8(d,249Hz,1F);-117.7(d,249Hz,1F).
Mass(ESI+):627.4[M+H]+;649.4[M+Na]+
【0124】
2.培養中のヒト皮膚線維芽細胞に対する化合物1及び化合物4の効果:顕微鏡観察
材料及び方法
正常なヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)は、ウシ胎児血清(FCS)10%、抗生物質(ペニシリン50U/ml-ストレプトマイシン50μg/ml)及びL-グルタミン2mM最終濃度を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養した。細胞は、37℃、5%CO2インキュベーターで培養した。
【0125】
線維芽細胞を24ウェルプレートに播種し、培地で24時間培養した。次に、培地をアッセイ培地と交換し、細胞を更に24時間インキュベートした。アッセイのために、異なる濃度の試験化合物を含む又は含まない(実験対照)アッセイ培地と、培地を交換した。48時間後、形態学的観察を評価した。
【0126】
結果
線維芽細胞培養に対する10mg/ml及び20mg/mlの化合物1の効果を観察し、未処理の細胞と比較した。代表的な画像は、図1(実験対照)、図2(10mg/mlで処理)、及び図3(20mg/mlで処理)で報告する。未処理の細胞(実験対照、図1)と比較して、10mg/mlで使用した試験化合物(図2)では効果が示されていないが、20mg/ml(図3)では、化合物1が線維芽細胞で脂質小胞の形成を誘導する。
【0127】
線維芽細胞培養に対する13mg/mlの化合物4の効果を観察し、未処理の細胞と比較した。代表的な画像は、図4(実験対照)と図5(13mg/mlで処理)で報告する。
【0128】
未処理の細胞(実験対照、図4)と比較して、13mg/mlで使用した試験化合物4(図5)は、線維芽細胞での脂質小胞の形成と細胞の膨張を誘発する。
【0129】
3.ヒト皮膚線維芽細胞における遺伝子発現に対する化合物1、2、3及び4の効果。Affymetrixマイクロアレイを使用したヒト≪完全トランスクリプトーム≫分析
本研究では、化合物1、2、3、及び4の転写効果(遺伝子発現の調節)を、基本条件下で、正常なヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)により評価した。
【0130】
より具体的には、様々なトランスクリプトームプロファイルの比較分析を、Affymetrix GeneAtlasプラットフォーム並びに36,000の転写産物及びバリアントを含むヒトの「フルトランスクリプトーム」U219チップを使用して実施した。
【0131】
材料及び方法
遺伝子スクリーニングアッセイ
線維芽細胞を24ウェルプレートに播種し、培地で24時間培養した。次に、培地をアッセイ培地と交換し、細胞を更に24時間インキュベートした。培地を、異なる濃度の試験化合物を含む又は含まない(実験対照)アッセイ培地と交換し、細胞を24時間プレインキュベートした。すべての実験条件は3回実施した。インキュベーションの最後に、培養上清を除去して、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液で洗浄し、すぐに-80℃で凍結した。
【0132】
差次的発現分析
RNAを抽出する前に、複製物をプールした。サプライヤーの指示に従って、TriPure Isolation Reagent(登録商標)を使用して、各試料からトータルRNAを抽出した。キャピラリー電気泳動(Bioanalyzer2100、Agilent Technologies社)を使用して、すべての試料の全RNAの量と質を評価した。各RNAから、GeneChip 3'IVT PLUSキット(Affymetrix社)を使用して、標識及び増幅されたアンチセンスRNA(aRNA)を得た。標識及び増幅された各aRNA試料について、キャピラリー電気泳動(Bioanalyzer2100、Agilent Technologies社)を使用して、断片化の前後にプロファイルを評価した。断片化されたaRNAのAffymetrix(登録商標)U219チップ(36,000の転写産物及びバリアント)へのハイブリダイゼーションは、GeneAtlas(商標)fluidics Affymetrix(登録商標)ハイブリダイゼーションステーションにおいて、45℃で20時間実施した。GeneAtlas(商標)イメージングステーション(Affymetrix(登録商標)社、解像度2μm)を使用してU219チップを分析し、蛍光強度データを生成した。
【0133】
データ管理及び結果の提示
Expression Consoleと品質管理:データは、RMAアルゴリズムを使用して、Expression Console(Affymetrix(登録商標)社)ソフトウェアで正規化した。次に、標識化とハイブリダイゼーションの品質管理を実施した。ハイブリダイゼーションと標識化の工程は、これらの実験の品質管理に首尾よく合格した。
【0134】
データ削減、Excelファイルの説明:Expression Consoleで一度正規化すると、データの削減を更に進めるために、データをMicrosoft Excel(登録商標)ファイルに移した。データの順位付けと並べ替え、そして最終的にデータの解釈を支援するために、計算と道具を加えた。倍率変化に関する検出しきい値が定義され、正規化されたデータに適用された。
【0135】
【表1】
【0136】
結果は、遺伝子(プローブではない)ごとに検討され、提示又はコメントされる。プローブセットは、遺伝子の特定の配列を調べるために設計されたプローブの集合体である。データの解釈では、1種のプローブで得られた最も重要な相対的発現値は、対応する遺伝子を代表すると見なされる。
【0137】
このファイルは、次のデータを含んでいる:
・各試料の相対的発現(RE)、
・倍率変化計算、
・遺伝子情報。
【0138】
関連する生物学的プロセスの同定:有意に調節された遺伝子のリストは、機能分析(Genome Biology 2007,8:R183,Nucleic Acids Research,2009,Vol.37,No.11-13)のために、オンラインデータベースであるDAVID(アノテーション、視覚化、統合的発見のためのデータベース:http://david.abcc.ncifcrf.gov/)に転送した。遺伝子オントロジーデータベースは、より具体的なデータ解釈に使用されている。DAVID機能アノテーション部分を、変調された遺伝子を重要な生物学的プロセスにクラスター化するために使用した。この分析では、傾向(UR又はDR)又は信号強度は考慮されず、対象の比較に関係する生物学的機能のみが同定される。DAVIDデータベースは、遺伝子オントロジーコンソーシアム(http://www.geneontology.org)の語彙(GO用語)を使用して、関連する生物学的プロセスの観点から遺伝子産物を記述する。それらの中で、p値が0.05以下の生物学的プロセスのみを考慮した。
【0139】
シグナル伝達経路分析:次に、結果をIPA(Ingenuity Pathway Analysis、Qiagen(登録商標)社)ソフトウェアで処理して、各処理によって変調されたシグナル伝達経路を同定した。このソフトウェアは、各遺伝子の倍率変化値を考慮に入れており、十分な情報がある場合は、シグナル伝達経路の変調の方向を同定できる。所与の経路に対する各処理の効果の関連性は、Z値によって定量化した。Z値は、その効果の方向の変化を予測する。
【0140】
【表2】
【0141】
結果
関連する生物学的プロセスの同定
化合物1(10mg/ml)、化合物3(10mg/ml)及び化合物4(10mg/ml)で処理されたNHDFの遺伝子調節を実験対照と比較分析して、調節された遺伝子を有意な生物学的プロセスにクラスター化した(p値≦0.05)。
【0142】
以下のTable 1(表3)は、試験化合物1に関連する主な生物学的プロセスは、脂質代謝プロセスとコレステロール生合成プロセスであることを示している。
【0143】
以下のTable 2(表4)は、試験化合物3に関連する主な生物学的プロセスは、脂質代謝プロセスとコレステロール生合成プロセスであることを示している。
【0144】
以下のTable 3(表5)は、試験化合物4に関連する主な生物学的プロセスは、脂質代謝プロセスとコレステロール生合成プロセスだけでなく、セラミド代謝プロセスであることも示している。
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】
【0147】
【表5】
【0148】
mRNA発現の調節
以下のTable 4(表6)及びTable 5(表7)は、試験化合物1によって誘導され、脂質合成又はコレステロール生合成プロセスにそれぞれ関連する様々な遺伝子を示す。倍率変化は、それらが上方制御されているか(>2)、下方制御されているか(<0.5)を表す。
【0149】
以下のTable 6(表8)及びTable 7(表9)は、試験化合物2(7.5mg/ml)によって誘導され、脂質合成又はコレステロール生合成プロセスにそれぞれ関連する様々な遺伝子を示す。倍率変化は、それらが上方制御されているか(>2)、下方制御されているか(<0.5)を表す。
【0150】
以下のTable 8(表10)及びTable 9(表11)は、試験化合物3によって誘導され、脂質合成又はコレステロール生合成プロセスにそれぞれ関連する様々な遺伝子を示す。倍率変化は、それらが上方制御されているか(>2)、下方制御されているか(<0.5)を表す。
【0151】
以下のTable 10(表12)、Table 11(表13)、及びTable 12(表14)は、試験化合物4によって誘導され、脂質合成、コレステロール生合成プロセス、又はセラミド代謝プロセスにそれぞれ関与する様々な遺伝子を示す。倍率変化は、それらが上方制御されているか(>2)、下方制御されているか(<0.5)を表す。
【0152】
【表6A】
【表6B】
【表6C】
【0153】
【表7】
【0154】
【表8】
【0155】
【表9】
【0156】
【表10A】
【表10B】
【表10C】
【0157】
【表11】
【0158】
【表12A】
【表12B】
【表12C】
【表12D】
【表12E】
【0159】
【表13】
【0160】
【表14】
【0161】
シグナル伝達経路の分析
Ingenuity Pathway Analysisソフトウェア(Qiagen(登録商標)社のIPA)を使用して、より高度なバイオインフォマティクス分析を実施した。この分析により、影響を受けるシグナル伝達経路を同定し、それらの調節を予測できる。
【0162】
【表15A】
【表15B】
【0163】
【表16】
【0164】
【表17】
【0165】
シグナル伝達経路の分析は、化合物1による転写レベルでの脂質合成及びコレステロール生合成プロセスの予測的活性化を示している。
【0166】
したがって、アッセイの実験条件下で、10mg/mlで試験した、化合物1によるNHDFの処理は、脂質及びコレステロール合成の上方制御をもたらした。
【0167】
【表18】
【0168】
【表19A】
【表19B】
【0169】
シグナル伝達経路の分析は、化合物3(10mg/ml)による転写レベルでの脂質合成及びコレステロール生合成プロセスの予測的活性化、並びに化合物4(10mg/ml)による脂肪酸及び脂質合成及び脂肪細胞分化の刺激の予測的活性化を示す。
【0170】
したがって、アッセイの実験条件下で、試験化合物3又は試験化合物4によるNHDFの処理は、脂肪酸、コレステロール又はセラミドを含む脂質合成の上方制御をもたらした。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】