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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】センターコードラインVベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/06 20060101AFI20220930BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
F16G5/06 A
F16G5/06 C
F16G5/20 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504117
(86)(22)【出願日】2020-07-23
(85)【翻訳文提出日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 US2020043348
(87)【国際公開番号】W WO2021016495
(87)【国際公開日】2021-01-28
(31)【優先権主張番号】62/877,763
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504005091
【氏名又は名称】ゲイツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】セドラチェク,ダグラス アール.
(72)【発明者】
【氏名】ブッシュホールズ,ウイリアム
(72)【発明者】
【氏名】サウス,ボビー イー.
(72)【発明者】
【氏名】ダットン,マーク エル.
(57)【要約】
非常に高い弾性率の接着ゴムに埋設された螺旋状に巻かれた抗張コードからなる径方向の中心に配置されたコードラインと、オーバーコード層と、アンダーコード層とを備えるセンターコードラインVベルト。接着ゴムが実質的に等方性の弾性率を有し、オーバーコード層とアンダーコード層がウイズグレインとクロスグレイン弾性率において異方性を有する。オーバーコードおよびアンダーコードのクロスグレイン弾性率は、接着ゴムの弾性率よりも低い。異方性の弾性率は配向された短繊維により、ウイズグレイン弾性率はベルト内において軸方向を向く。接着ゴムは好ましくは短繊維を含まない。ベルトは好ましくは補強帆布層や帆布によるラップを備えない。接着ゴム、オーバーコード層、アンダーコード層は、好ましくはエチレン・アルファ・オレフィン・エラストマーをベースとし、過酸化物硬化、強化充填剤、およびα-β-不飽和有機酸の金属塩を使用する。ベルトは、更なる柔軟性のために内側、外側のラジアル表面の一方または両方にノッチを備える。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非常に高い弾性率の接着ゴムに埋設された螺旋状に巻かれた抗張コードからなる径方向の中心に配置されたコードラインと、オーバーコード層と、アンダーコード層とを備え、
前記接着ゴムは実質的に等方性の弾性率を有し、前記オーバーコード層と前記アンダーコード層は均一でないウイズグレインおよびクロスグレインの弾性率を有し、前記オーバーコードおよび前記アンダーコードのクロスグレイン弾性率は、前記接着ゴムの弾性率よりも低い
ことを特徴とするセンターコードラインVベルト。
【請求項2】
177℃以上での可動ダイ硬化レオメータでのMHの値によって示される非常に高い弾性率の接着ゴムの弾性率が、80インチポンド、すなわち9.0Nmよりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のセンターコードラインVベルト。
【請求項3】
177℃以上での可動ダイ硬化レオメータでのMHの値によって示される前記オーバーコード層と前記アンダーコード層の弾性率は、80インチポンド、すなわち9.0Nm未満であることを特徴とする請求項2に記載のセンターコードラインVベルト。
【請求項4】
前記オーバーコード層と前記アンダーコード層の異方性比率は、配向された短繊維によるもので、ウイズグレインの弾性率はベルト内で軸方向に向けられていることを特徴とする請求項1に記載のセンターコードラインVベルト。
【請求項5】
前記オーバーコード層と前記アンダーコード層の異方性比率は、2.0よりも大きいウイズグレイン/クロスグレイン比率で示されることを特徴とする請求項4に記載のセンターコードラインVベルト。
【請求項6】
前記接着ゴムが短繊維を含まないことを特徴とする請求項1に記載のセンターコードラインVベルト。
【請求項7】
前記接着ゴムの実質的に等方性比率は、2.0未満のウイズグレイン/クロスグレイン比率で示されることを特徴とする請求項1に記載のセンターコードラインVベルト。
【請求項8】
補強帆布層および帆布によるラップがないことを特徴とする請求項1に記載のセンターコードラインVベルト。
【請求項9】
前記接着ゴム、前記オーバーコード層および前記アンダーコード層が、エチレン・アルファ・オレフィン・エラストマーをベースとし、過酸化物硬化、強化充填剤、およびα-β-不飽和有機酸の金属塩を使用していることを特徴とする請求項1に記載のセンターコードラインVベルト。
【請求項10】
内側および外側のラジアル表面の一方または両方にノッチを備えることを特徴とする請求項1に記載のセンターコードラインVベルト。
【請求項11】
請求項2から10の限定事項の任意の組み合わせからなる請求項1に記載のセンターコードラインVベルト。
【請求項12】
2点無トルク試験機においてmWで測定される動力損失が、60分のニュートンに15mWを足したハブ荷重以下の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のセンターコードラインVベルト。
【請求項13】
2点無トルク試験機においてmWで測定される動力損失が、60分のニュートンに15mWを足したハブ荷重以下の範囲にあることを特徴とするセンターコードラインVベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは帆布補強を備えていないセンターコードラインVベルトに関し、より具体的には、非常に高い弾性率を有する接着ゴムと、繊維が充填された相対的に低い弾性率のオーバーコードおよびアンダーコードとを備えるVベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
センターコードライン(CCL)Vベルトは、何十年前から知られている。コードラインがベルトの中央に配置されていることから、硬化後のベルトスラブまたはスリーブを材料の無駄を最小限に抑えるか、まったく無駄にすることなく、倒立した(inverted)ベルトと正立した(upright)ベルトを交互に配置しながら個々のベルトに切断することができる。センターコードラインは、Vベルトをより安定させることもできる。すなわち、使用中に横転する可能性が低下する。しかし、コードラインが低いため、CCL Vベルトは、コードラインがベルト上部に近い最近のVベルトと比較して、「低品質」ベルト(すなわち、耐荷重能力が低い)として知られている。V字型のため、中央のコードラインでは、ベルトの幅の広い上部近くのコードラインに比べてベルト幅に亘って配置できるコードの数が少なくなり、引張強度が低下する。中央に配置されたコードは、その下の支持材料が少なく、横方向の剛性が低下する傾向があり、端にあるコードが中央のコードよりも長くなりやすく(カッピングまたはサッギング)、ベルトの早期破損を招く。コードの上方の引張セクションに多くの材料があるため、センターコードラインベルトはバッククラックが発生しやすくなる。これらの問題に対するこれまでの解決策は、一般に、補強帆布層を使用してベルトを補強するなどしていたが、それはベルトのコストを増加させ、製造工程を増大させる。これらの問題から、センターコードラインベルトは30年以上に亘ってどちらかと言うと避けられてきた。
【0003】
代表的なセンターコードラインVベルトは、米国特許第3,941,005号明細書および第3,869,933号明細書に開示されており、代表的なハイコードラインベルトは、米国特許第4,231,826号明細書および第3,869,933号明細書に開示されている。後者の特許は、CCL Vベルトにおけるコードラインのサッギングの問題について説明し、帆布層を追加する解決策や、コードラインを上げる解決策を提示している。
【0004】
EPDMや他のエチレンαオレフィンエラストマー材料をベースとするベルトは、米国特許第5,610,217号明細書および第6,616,558号明細書に開示されている。
【0005】
ノッチ付きまたはコグ付きのVベルトおよび方法は、米国特許第4,106,966号明細書および第2,016,140号明細書に開示されている。
【0006】
多くの生地層を備えた最新式のEPDM CCL Vベルトは、ティムケン社(The Timken Company)のパンフレット、「HVAC用のカーライル スパー II Vベルト(Carlisle Super II V-Belt for HVAC)」、2017年、注文番号10952に開示されている。
【0007】
必要とされているのは、最小限のスクラップで製造できながらも、商業的に実現するのに十分な性能を備え、十分低コストであるセンターコードラインVベルトである。必要とされているのは、帆布による補強がないCCL Vベルトである。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、無駄になる材料を最小にする方法を用いて製造可能な、良好な性能特性を備え、より柔軟でより費用対効果が高いCCL Vベルトを提供するシステムおよび方法に向けられている。
【0009】
本発明は、非常に高い弾性率の接着ゴムに埋設された螺旋状に巻かれた抗張コードからなる径方向の中心に配置されたコードラインと、オーバーコード層と、アンダーコード層とを備えるセンターコードラインVベルトに関する。接着ゴムが実質的に等方性の弾性率を有する一方、オーバーコード層とアンダーコード層が均一でないウイズグレインとクロスグレイン弾性率を備える。オーバーコードおよびアンダーコードのクロスグレイン弾性率は、接着ゴムの弾性率よりも低い。異方性の弾性率は配向された短繊維によるもので、ウイズグレイン弾性率はベルト内において軸方向を向いている。接着ゴムは好ましくは短繊維を含まない。ベルトは好ましくは補強帆布層や帆布によるラップを備えない。接着ゴム、オーバーコード層、アンダーコード層は、エチレン・アルファ・オレフィン・エラストマーをベースとすることが好ましく、過酸化物硬化、強化充填剤、およびα-β-不飽和有機酸の金属塩を使用する。
【0010】
好ましい構造は、軸方向、すなわち横方向の剛性と曲げ剛性のバランスまたは比率を最大化する。ベルトは、内側と外側のラジアル表面の一方または両方にノッチを備えていてもよく、これはベルトの柔軟性を更に高める。
【0011】
上記では、本発明の機能と技術的な利点を、以下の本発明の詳細な説明をよりよく理解するために、幾分大雑把に説明した。本発明の特許請求の範囲の主題を形成する本発明の追加の特徴および利点は以下に説明される。開示された概念および特定の実施形態は、本発明と同じ目的を実行するための他の構造を修正または設計するための基礎として容易に利用され得ることが当業者によって理解されるであろう。そのような同等の構造は、添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲から逸脱しないことも当業者によって認識されるであろう。本発明の構成および操作方法の両方に関して本発明の特徴であると考えられる新規の特徴は、更なる目的および利点とともに、添付の図とともに考え合わせることで、以下の説明からよりよく理解されるであろう。しかしながら、各図は、例示および説明のみを目的として提供されており、本発明の限界を定義することを意図されていないことを明確に理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本明細書に組み込まれ、その一部を形成し、同様の数字が同様の部材を表す添付の図面は、本発明の例示的な実施形態を説明し、詳細な説明とともに本発明の原理を説明するために提示される。図面には以下のものが含まれる。
【0013】
図1】本発明の第1実施形態の部分的に断片化された斜視図である。
【0014】
図2】本発明の第2実施形態の部分的に断片化された斜視図である。
【0015】
図3】本発明の第3実施形態の部分的に断片化された斜視図である。
【0016】
図4】本発明の第4実施形態の部分的に断片化された斜視図である。
【0017】
図5】本発明の一実施形態を製造するプロセスのある時点での部分的に断片化された図である。
【0018】
図6】本発明を特徴づけるために使用される荷重試験のレイアウトの概略図である。
【0019】
図7】本発明を特徴づけるために使用される屈曲試験のレイアウトの概略図である。
【0020】
図8】本発明を特徴づけるために使用される安定性試験のレイアウトの概略図である。
【0021】
図9】実施例のベルトに関する動力損失とベルト張力のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、台形断面を有する無端伝動ベルトであるVベルトに関し、軸方向側面はV字または部分的にV字形に角度が付けられている。本発明のVベルトは、エラストマーベルト本体と、エラストマーベルト本体内に埋設され、長手方向に延在してらせん状に巻かれた抗張コードとを有する。センターコードラインVベルトは、ベルト本体の実質的に略中央の層にラジアル状に抗張コードを備える。背景技術で述べたように、Vベルトの性能は、ベルト伝動における負荷を牽引するための高い引張強度と、VシーブやプーリにおいてV字に傾斜された側面に掛かる楔力に抗する高い横剛性と、ベルト伝動におけるプーリ周りの屈曲によるエネルギー消費と熱の蓄積を最小限に抑えるための長手向の高い柔軟性とに依存する。これらの3つの目標は、多くの場合相反する。横方向の剛性が高いゴムコンパウンドは、多くの場合、長手方向への剛性も同等である。異方性ゴムコンパウンドでさえ、横方向と長手方向の剛性に十分な違い(すなわち十分に高い剛性比)をもたらさない。ベルトを補強するための様々な布地の利用が十分とは言えないのにかかわらず、ベルトのコストと製造の複雑さは確実に増加する。通常、剛性を高めるには、屈曲時引張歪が最も大きくなるベルト上部に向けて(径方向に外表面に向けて)コードラインをシフトする必要がある。したがって、ベルトの性能や品質を維持あるいは改善しながら、CCL Vベルトの製造上の利点を得るのは困難である。
【0023】
本発明の実施形態によれば、CCL Vベルトは、高い横方向剛性、高い引張強度、高い柔軟性を備えており、屈曲および耐負荷試験で良好なベルト寿命をもたらす。本発明のベルトは、抗張コード以外に帆布や生地の補強を備えていない。センターコードラインを使用すると、製造効率と廃棄物を最小限に抑えることができる。中央の抗張コード層には、螺旋状に巻かれた抗張コードと非常に高い弾性率の接着ゴムが含まれる。ベルト本体の残りの部分(つまり、オーバーコード層とアンダーコード層)は、繊維を充填した高弾性ゴムコンパウンドからなる。
【0024】
図1図4は、本発明のVベルトの4つの実施形態が示される。
【0025】
本発明の第1実施形態は、図1に示される。図1において、Vベルト10は、抗張コード13を含む抗張力層12と、本明細書では接着ゴム14として参照される非常に高い弾性率のコンパウンド14とを含む。Vベルト10は、オーバーコード16とアンダーコード18も備える。
【0026】
本発明の第2実施形態は、図2に示される。図2において、Vベルト20は、抗張コード13および接着ゴム14を含む抗張力層12を備える。Vベルト10は、オーバーコード16およびアンダーコード18も備える。Vベルト20は、ベルトの内面または底面にある一組のノッチ25を備える。ノッチは、凹部や窪みとコグや歯部のような突起が交互に配置されたものである。これら交互に配置された凹部と突起は、ベルトがベルト作動中にプーリやシーブの周りを走行するときに曲げ応力を分散し最小化するように、一般的には、図に示されるように正弦波の軌道に沿っていることが好ましい。
【0027】
本発明の第3実施形態は、図3に示される。図3において、Vベルト30は、抗張コード13および接着ゴム14を含む抗張力層12を備える。Vベルト10は、オーバーコード16およびアンダーコード18も備える。Vベルト30は、ベルトの外側面または上面に設けられた一組のノッチ37も備える。
【0028】
本発明の第4の実施形態は、図4に示されている。図4において、Vベルト40は、抗張コード13および接着ゴム14を含む抗張力層12を備える。Vベルト10は、オーバーコード16およびアンダーコード18も備える。Vベルト20は、アンダーコードおよびオーバーコードに、2組のノッチ25および37をそれぞれに備える。
【0029】
各実施形態において、抗張コード層は、抗張コードと本明細書では「接着ゴム」としても参照される非常に高い弾性率のゴムコンパウンドとを含む。抗張コードおよびアンダーコードおよびオーバーコードへの接着は、接着ゴムの役割の1つにすぎないことを理解されたい。このコンパウンドは、高い横方向の剛性の鍵でもある。高弾性の抗張コード層は、ベルト本体の中心にある比較的薄い層に制限され、抗張力層が長手方向に十分に柔軟なままであることに貢献する。抗張コード層の厚さは、例えばコード直径よりわずかに厚く、コード直径の数倍までであってもよい。直径が約1mm程度のコードの場合、抗張コード層は、厚さが約1mmから約7mm、あるいは、厚さが1.5mmから5mm、あるいは2から3mmの厚さの範囲にあり得る。他のサイズのVベルトおよびコードの場合、抗張コードと接着ゴムの両方を含む抗張コード層の厚さは、1~7、あるいは1~5、あるいは1.5~5、あるいは2~3のコード直径の範囲にあり得る。
【0030】
熟練した専門家であれば、図1~4のいくつかにおいて、接着剤ゴム14をベルトの他のエラストマー部と視覚的に区別するために誇張された形で示されていることを容易に理解するであろう。実際には、硬化後の合成物は、特定の場合、例えば、接着剤ゴム14とアンダーコード18および/またはオーバーコード16の一方に繊維が充填され、他方には充填されていない場合などを除いて、周囲のエラストマーベルト本体部と視覚的に区別できないことが多い。接着ゴムは更に、オーバーコードまたはアンダーコードで完全に平坦な境界面を形成する必要はなく、また、図1によって示唆される比率に似通っている必要もない。接着ゴムの塗布方法とベルトの成形方法によっては、接着ゴムは、図に示される滑らかな境界面の代わりに、ローブまたは他の形状のフローラインを含んでもよい。
【0031】
抗張コードは、Vベルトで知られている任意の所望の高弾性繊維素材である。抗張コードは、例えばポリエステル、ナイロン、グラスファイバー、炭素繊維、アラミド(パラ、メタ、またはコポリアラミドの何れか)、スチールワイヤまたはケーブル、あるいはそれらの組み合わせである。ポリエステル、ナイロン、およびアラミドが好ましいコード素材である。抗張コードは、任意の所望の構造、すなわち、ヤーンスタイル、ツイストレベル、プライ状やケーブル状などである。抗張コードは、任意の所望のサイジング、コーティング、接着剤などで処理することができる。
【0032】
ベルト本体の引張セクション、すなわちオーバーコード16は、抗張コード層の径方向外側にあり、ベルトが正立しているときのベルトの最上層である。ベルト本体の圧縮セクション、すなわちアンダーコード18は、抗張コード層の径方向内側にあり、ベルトが正立した向きにあるときのベルトの最下層である。したがって、引張セクションのゴムコンパウンドはオーバーコードと呼ばれる。圧縮セクションのゴムコンパウンドはアンダーコードと呼ばれる。抗張コード層が中央に位置することから、オーバーコードは、アンダーコードと略同じ厚さである。オーバーコードとアンダーコードは、例えば同じ組成であり、倒立したベルトや正立したベルトが同じスリーブから切り出されても、同じ組成と同等の特性を有する。好ましくは、アンダーコードとオーバーコードのコンパウンドは、同じ組成である。好ましくは、アンダーコードとオーバーコードのコンパウンドは、接着ゴムよりも高い柔軟性および耐亀裂性を有する。一般的に、より高い柔軟性は、低い弾性率や高い伸長などを必要とする。オーバーコードおよびアンダーコードのコンパウンドは、傾斜した両側面とシーブの間に所望の摩擦係数(「COF」)を与えるように選択できる。オーバーコードとアンダーコードのCOFは、抗張コード層の接着ゴムに比べて表面積が大きいことからVベルトの摩擦特性を支配する。短繊維は、オーバーコードおよびアンダーコード化合物に含まれ得る。短繊維は、所望のCOFを提供するのに役立つ。軸方向に(つまり、ベルト内で横方向に)配向されると、短繊維は、縦方向の柔軟性への影響を最小限に抑えながら、横方向の剛性を与えるのに役立つ。
【0033】
図5は、本発明のCCL Vベルトを製造するための1つの製造プロセスにおける、ある時点を模式的に示す。ベルト材料をビルドアップするためのマンドレル50が例えば用意される。内面および外面の一方または両方が滑らかなVベルトを製造するために、円筒形のマンドレル(滑らかな円筒表面を有する)が使用されてもよい。ノッチ付きの実施形態をビルドアップ、および/またはモールドするために、溝付き、または波状のマンドレルが使用されてもよい。あるいは、溝付きまたは波状のマトリックスを滑らかなマンドレルの周りに巻き付けて、ノッチ付きの実施形態を成形することができる。例えば、アンダーコードまたはオーバーコードの何れかが最初にマンドレルに適用される。次に、例えば抗張コード層の材料がその上に適用される。抗張コード層12は、幾つかの方法で適用され得る。抗張コードは、マンドレルに螺旋状に巻くことができる。抗張コードは、並行して同時に適用される、「S」ツイストコードおよび「Z」ツイストコードなどの2つのコードを含んでもよい。接着ゴム14は、抗張コードの前または後に、または抗張コード前後の2つの層として適用できる。最後に、オーバーコードとアンダーコードの内のもう一方が、その上に適用される。最終的にビルドアップされた材料の層は、ベルトスラブまたはベルトスリーブ52と呼ばれる。
【0034】
ベルトスリーブ52は、マンドレル50上で硬化されてもよく、または硬化(または加硫)のために第2のマンドレルまたはモールドに移されてもよい。硬化は、当技術分野で知られている任意の方法で達成される。典型的な方法は、マンドレルに取り付けられたベルトスリーブの周りに硬化バッグを置き、ベルトスリーブを硬化させるのに十分な熱と圧力を加えるものである。ノッチが必要な場合、硬化バッグは溝付きまたは波状とされ得る。あるいは、ノッチが必要な場合、滑らかな硬化バッグ内に配置する前に、溝付きまたは波状のマトリックスをベルトスラブに巻き付けることができる。硬化後、ベルトスリーブをマンドレルまたはモールドから取り外されるか、マンドレルまたはモールド上で更に処理され得る。最も重要な更なる処理ステップは、個々のCCL Vベルトを形成するためのベルトスリーブの切断である。好ましい方法は、図5に示されるように切断角度を交互にし、正立するベルト54は、倒立ベルト55と交互に切断される。この切断アプローチは、材料を最大限に活用し、各ベルトスリーブからは2つの部分的なベルトエンドピース53のみが廃棄物とされる。マンドレルまたはモールドの損傷を避けるために、独立した切断装置で切断を実行してもよい。
【0035】
実行され得る他の処理ステップには、ベルトへのラベルの貼付または印刷、所望の仕上がりや外観のための1以上の表面のタッチ研削(touch griding)または機械加工、および正立方向とするための倒立させたベルトの裏返し処理が含まれる。
【0036】
オーバーコードとアンダーコードに異なるコンパウンドを使用したい場合、スリーブをVカットするか、正方形のカットに続いてVアングルを研磨することにより、ベルトを同じにすることができる。したがって、好ましい製造プロセスに応じて、全てのベルトを倒立させることも、全て正立させることもできる。もちろん、このことは、CCL Vベルトを製造する主な理由である廃棄物の削減が、このプロセスでは達成されないことを意味する。
【0037】
ベルトの両側のノッチは実質的に同等であるが、それらは互いに鏡写しであるわけではない。ベルトを経済的に製造するのに必要なプロセスでは、上下のノッチピッチを完全に等しくすることはできない。そのため、上部と下部のノッチの山と谷は、ある程度の周期性を持って位相が一致したりずれたりする。一方のノッチパターンが内側に曲がり、もう一方のノッチパターンが外側に曲がることにより、周期性またはピッチは、ベルトの周長に依存し得る。したがって、任意のベルトの任意のポイントでの上から下へのノッチの向きは、通常ランダムである。
【0038】
接着ゴム、オーバーコード、およびアンダーコードのコンパウンドは、ベースエラストマーがエチレン・アルファ・オレフィンコポリマーから選択されるゴム配合物であることが好ましい。適切なエチレン・アルファ・オレフィンコポリマーには、ポリ(エチレンプロピレン)、ポリ(エチレンブテン)、ポリ(エチレンペンテン)などから、ポリ(エチレンオクテン)までが含まれる。適切なコポリマーには、キュア・サイト・ジエン・モノマーや、他の不飽和成分などの1つ以上の追加のモノマーを含み得る、上記の何れかが含まれる。最も重要な例は、エチレン・プロピレン・ジエン・ターポリマーエラストマー(EPDM)である。本明細書では、このような全てのエチレン・アルファ・オレフィンベースのエラストマーおよびそれらの混合物は、「エチレンエラストマー」(「EE」)として参照される。
【0039】
接着ゴム、オーバーコードおよびアンダーコードのコンパウンドのゴム配合には、α-β-不飽和有機酸の金属塩が含まれることが好ましい。本発明において有用なα-β-不飽和有機酸の金属塩は、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、エタクリル酸、ビニルアクリル酸、イタコン酸、メチルイタコン酸、アコニット酸、メチルアコニット酸、クロトン酸、アルファメチルクロトン酸、アスコルビン酸、桂皮酸、および2、4-ジヒドロキシケイ皮酸などの酸の金属塩である。これらの塩類は、例えば、亜鉛、カドミウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、またはアルミニウムのものであり、好ましくは亜鉛のものである。α-β-不飽和有機酸の好ましい金属塩は、亜鉛ジアクリレートおよび亜鉛ジメタクリレートである。不飽和有機酸の最も好ましい金属塩は、亜鉛ジメタクリレートである。本発明で有用な金属塩の量は、ベルトのどの成分が配合されるかに依存する。
【0040】
接着ゴム、オーバーコードおよびアンダーコードのコンパウンドのゴム配合には、1つ以上の強化充填剤が含まれることが好ましい。好ましい強化充填剤には、シリカやカーボンブラックが含まれる。充填剤の量と種類は、ベルトのどの成分が配合されているかに依存する。一般的に、より高次構造(higher structure)、より小さな粒子サイズの充填剤は補強力が強く、したがって、本発明で有用な高弾性コンパウンドを得るのに好ましい。
【0041】
接着ゴムは、非常に高弾性のコンパウンドであることが好ましい。弾性率は、ASTMD412やISO37などの適切な直接測定によって測定できる。弾性率は、ショア高度計などの間接測定、好ましくは、例えばASTM D2240で示されるAまたはDスケール、または例えばASTM D1415で示されるIRHDスケールを使用して示すこともできる。硬化レオメータテスト(ASTM D5289に記載されている可動ダイレオメーターなど)でのMH(つまり、達成された最高トルク)も、高温での接着ゴムの非常に高い弾性率に適した指標である。接着ゴムは、短繊維補強材を含まないことが好ましい。短繊維は、特にアスペクト比が高い場合に弾性率を劇的に増加させることが知られているが、この効果はCCL Vベルトの抗張コード層では有利であることはない。したがって、好ましい接着ゴムは、その物理的特性においてかなり等方的である。例えば、ウイズグレイン(with-grain)/クロスグレイン(cross-grain)の比率として定義される接着ゴムの異方性は、2.0未満、または1.5未満、または1.2未満であることが好ましい。接着ゴムの場合、α-β-不飽和有機酸の金属塩の量は、例えば約20phrから約50phrの範囲であり、好ましくは、約25から約35phrである。Phrは、ゴムまたはエラストマーの1つ以上の成分の100分率である。接着ゴム用の強化充填剤は、好ましくは殆どがシリカであり、選択的にカーボンブラックも含まれる。シリカは、しばしば同様の充填率でカーボンブラックよりも高い弾性率を示す。強化充填剤の全体のレベルは、例えば約30phrから約200phrの範囲にあり、約40phrから約100phrの範囲にあることが好ましい。シラン、チタン酸塩、またはジルコン酸塩のカップリング剤を強化充填剤と一緒に使用して、コンパウンドの弾性率およびその他の物理的特性を更に高めることもできる。非常に高い弾性率の接着ゴムは、短繊維または不連続な繊維の使用に関する内容を除いて、米国特許第5,610,217号明細書および米国特許第6,616,558号に記載されているその関連する内容に基づき配合することができる。
【0042】
RT(室温)におけるASTMD412に基づいて決定された10%伸長での引張応力(「M10」)に基づく接着ゴムの弾性率の推奨範囲は、500psi(3.45 MPa)よりも大きい。125度C(257°F)における接着ゴムのM10の推奨範囲は、ウイズグレインおよびクロスグレイン方向において、250psi(1.72MPa)よりも高いか、350psi(2.41MPa)よりも高いか、400 psi(2.76MPa)から約600psi(約4.14MPa)である。デュロメータ硬度によって示される好ましい弾性率は、約90ショアAよりも大きいか、または約40ショアDよりも大きいか、あるいは40から60ショアDである。好ましいMH値は80インチポンド(9Nm)よりも大きいか、90インチポンド(10Nm)よりも大きいか、100インチポンド(11Nm)よりも大きいか、110インチポンド(12Nm)よりも大きいか、または80から140インチポンド(9~16Nm)の範囲か、90から130インチポンド(10~15Nm)の範囲、あるいは100から120インチポンド(11~14Nm)の範囲か、あるいは110から130インチポンド(12~15Nm)の範囲である。MHは、177℃以上、好ましくは198℃または200℃の温度で測定することができる。
【0043】
オーバーコードは、接着ゴムよりも低い弾性率の配合物であることが好ましい。オーバーコードは、カレンダリング、押し出し、または他の加工処理によって配向された短繊維を追加することによって、特性が異方性となることが好ましい。繊維の配向方向は「ウイズグレイン(with-grain)」方向と呼ばれ、繊維に直交する方向は「クロスグレイン(cross-grain)」方向と呼ばれる。オーバーコードは、接着ゴムの弾性率よりも低いクロスグレイン弾性率であることが好ましいが、繊維によって、接着ゴム弾性率と比較してウイズグレイン方向に同等または更に大きい弾性率であってもよい。重要なのは、オーバーコードがベルトの長手方向(コンパウンドのクロスグレイン方向)に対して適度に柔軟であり、使用中にベルトのその部分がシーブに巻き付けられるときに受けるより高い歪による繰り返しの屈曲に耐えることである。一方、接着ゴムは、抗張コード層の領域に限定されており、ベルトの使用中にそのような激しい歪および応力に曝されない。したがって、接着ゴムの弾性率を非常に高くすることがでる。
【0044】
アンダーコードも、接着ゴムよりも低い弾性率の配合物であることが好ましい。アンダーコードもまた、カレンダリング、押し出し、または他の加工処理によって配向された短繊維を追加することによって、特性が異方性になることが好ましく、それにより、ウイズグレイン方向はベルト幅を横切って整列する。アンダーコードの配合は、オーバーコードの配合と同じであってもよい。オーバーコードとアンダーコードが同じ配合であり、両者がベルトにおいてコード方向に対して横方向に配向されている場合、同じベルトスリーブから倒立した向きおよび正立した向きで切断された個々のベルトは、同一の構造を有する(図5に示される)。
【0045】
室温(「RT」)におけるオーバーコードおよびアンダーコードのM10の推奨範囲は、クロスグレイン方向において100psi(0.69MPa)よりも大きいか、200psi(1.38MPa)よりも大きいか、300psi(2.07MPa)よりも大きいか、400psi(2.76MPa)よりも大きく、ウイズグレイン方向において200psi(1.38MPa)よりも大きいか、400psi(2.76MPa)よりも大きいか、600psi(4.14MPa)よりも大きいか、900psi(6.21MPa)よりも大きい。したがって、オーバーコードおよびアンダーコードのRTにおけるM10に基づく異方性比率は、2.0より大きいか、2.5より大きいか、約3あるいは3.0より大きいことが好ましい。125度CにおけるオーバーコードとアンダーコードのM10の推奨範囲は、クロスグレイン方向において50psi(0.35MPa)よりも大きいか、100psi(0.69MPa)よりも大きいか、200psi(1.38MPa)よりも大きいか、250psi(1.72MPa)よりも大きいか、あるいは最大約200psi(約1.38 MPa)、400psi(2.76MPa)、または600psi(4.14MPa)であり、ウイズグレイン方向において100 psi(0.69 MPa)よりも大きいか、200psi(1.38MPa)よりも大きいか、500psi(3.45MPa)よりも大きいか、あるいは600psi(4.14MPa)よりも大きい。したがって、オーバーコードおよびアンダーコードに対する125℃でのM10に基づく異方性比率は、2.0より大きいか、2.5より大きいか、または約3または3.0より大きいことが好ましい。RTにおいてデュロメータ硬度によって示される、オーバーコードおよびアンダーコードの好ましい弾性率は、約75、80、85、あるいは90ショアAよりも大きいか、約30または40ショアDよりも大きいか、あるいは40から60ショアDである。デュロメータ硬度によって示される、オーバーコードおよびアンダーコードの好ましい弾性率は、接着ゴムの弾性率よりも数ポイント低いか、3から20ポイント低いか、あるいは5から10ポイント低い。推奨されるMH値は80インチポンド(9Nm)未満か70インチポンド(8Nm)未満か、60インチポンド(7Nm)未満か、50インチポンド(6Nm)未満か、あるいは20から80インチポンド(2~9Nm)の範囲か、25から70インチポンド(3~8Nm)か、あるいは30から60インチポンド(3~7Nm)である。MHは、177℃以上、好ましくは198℃または200℃の温度で測定することができる。
【0046】
オーバーコードおよびアンダーコードコンパウンドに有用な短繊維は、例えば綿、ケナフ、木材、レーヨン、ポリエステル、アラミド、カーボン(ナノチューブを含む)、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ナイロンやファイバーガラスなど、従来の材料、適切な材料や形態の任意のものであり得る。そして形態としては、ステープル、チョップドファイバー、パルプ化やフロックファイバーなどが含まれる。繊維は、選択的にサイジング、接着剤や、当技術分野で知られている他の従来のおよび/または適切な繊維処理で処理することができる。好ましい繊維は、綿、ナイロン、ポリエステル、およびアラミドである。最も好ましい繊維は綿である。必要なレベルは、強化充填剤や他の成分のレベルを考慮して、熟練した専門家が容易に識別できる必要がある。一般的に、繊維の量は、体積比において約1phrから約75phr、あるいは約10%から約20%の範囲であり得る。短繊維の長さは、例えば最大約7mmの範囲である。一部の天然ステープルファイバーは、より長い長さを持ち得る。細断された合成繊維は、通常1~3mmの範囲で有用である。
【0047】
アンダーコードおよびオーバーコードの配合物は、米国特許第5,610,217号明細書および米国特許第6,616,558号明細書に記載されている関連する内容を利用することができ、短繊維や不連続な繊維の使用に関する内容が含まれる。
【0048】
接着ゴム、オーバーコードおよびアンダーコードのコンパウンドには、所望の特性が得られる限り、重量比でエラストマー全体の50%未満、あるいは好ましくは20%未満でブレンドされた他のエラストマー;その他の強化充填剤および非強化充填剤;加工助剤および分散助剤;抗分解剤;可塑剤、軟化剤、およびオイル;架橋助剤;硬化剤などが含まれる。
【0049】
任意の適切な硬化システムを接着ゴム、オーバーコードおよびアンダーコードに使用することができ、それらは全て、最大の互換性および接着のために似通ったものとなり得る。コンパウンドは、混合硬化システムにおいて少量の硫黄の存在下、選択的に有機過酸化物や他のフリーラジカル促進材で硬化されることが好ましい。エチレンエラストマーを硬化させるための適切な過酸化物には、例えば、過酸化ジクミル、ビス(t-ブチルペルオキシ-ジイソプロピルベンゼン、t-ブチルペルベンゾエート、ジ-t-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-t-ブチルペルオキシヘキサン、α-α-ビス(t-ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンが含まれる。好ましい有機過酸化物硬化剤は、α-α-ビス(t-ブチルペルオキシ)ジイソプロピルベンゼンである。本発明の目的のための硬化有効量の有機過酸化物は、通常約2から約10phrである。有機過酸化物の好ましいレベルは、約4から約6phrである。混合硬化システムの一部として、約0.01から約1.0phrの量で有機過酸化物硬化剤に選択的に硫黄を添加することができる。
【0050】
コンパウンドの柔軟性または耐屈曲性は、ASTM D430のメソッドBに記載されているDeMattia疲労試験、またはASTM D813の穴あきDeMattia亀裂成長試験により測定できる。最初の亀裂が1インチ(試験片の幅)に成長するまでのキロサイクル(「kcycles」)で測定された屈曲破損寿命は、屈曲の下でのコンパウンドの性能の相対的な指標として使用できる。
【0051】
コンパウンドは、既知の方法で混合することができる。例えば、それらは、内部ミキサーで混合され、ミルで仕上げられ、繊維を配向し、マンドレル上にVベルトを構築するために、所望の幅および厚さにカレンダー加工されてもよい。例えば一般的な硬化温度と圧力が使用される。
【0052】
接着性ゴムおよびオーバーコードとアンダーコードの両方の配合例を表1に示し、値はphrで示される。コンパウンドの幾つかの特性は表2に示される。表2において、Tbは破断時の引張応力であり、Ebは6インチ/分(150mm/min)で引っ張られたASTM D412のダイCによる破断点伸びである。記載されている特性に加えて、DeMattia亀裂成長試験が、オーバーコード/アンダーコードのコンパウンドに対して300cpm、0.5インチ(1.27cm)ストローク、125℃、w/gで実行された。綿繊維を除いたオーバーコードのコンパウンドで同じテストを繰り返した。繊維を使用した場合の平均屈曲破損寿命は約5kcycles/インチであり、繊維を使用しない場合の平均屈曲破損寿命は約19kcycles/インチであった。これは、非常に高い弾性率の配合である場合、接着ゴムから繊維を省き、繊維を充填したオーバーコード/アンダーコードのコンパウンドの弾性率を低下させることができることを示している。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
実施例(「Ex.」)のCCL Vベルトは、図5に関連して本明細書に記載されるように作製された。ベルトは、公称長さ42インチ(107cm)、外周45インチ(114cm)のいわゆる「Bセクション」ベルトであった。実施例のベルトは、前述のコンパウンドとポリエステル抗張コード(Sツイスト、直径約0.050インチ(1.27mm)、16.5コード/インチ)で構成された。実施例1は、図1の実施形態に従って、ノッチなしで構成された。抗張コード層を構成するカレンダー加工された接着ゴム全体の厚さは0.024インチ(0.061cm)であった。実施例1のベルトの全体の厚さは0.39インチ(9.9mm)であった。実施例2は、実施例1のように構成されるが、接着ゴムの厚さは0.060インチ(0.152cm)である。実施例2のベルトの全体の厚さは0.36インチ(9.1mm)であった。
【0056】
実施例4は、図4の実施形態に従って、デュアルノッチで構成された本発明のCCL Vベルトである。実施例4のベルトの全体の厚さは、0.43インチ(10.9mm)であった。
【0057】
本発明のベルトとの比較のために、比較例(「Comp. Ex.」)ベルトも作成または入手された。比較例3は実施例1や実施例2と同様のCCL Vベルトであったが、全て上記オーバーコード/アンダーコードの配合で作成され、非常に高い弾性率の接着ゴムは使用されていない。同様に、比較例5は実施例4と同様のCCL Vベルトであるが、全て上記オーバーコード/アンダーコードの配合で作成され、非常に高い弾性率の接着ガムは使用されていない。
【0058】
比較例6は、ゲイツ コーポレイションからHi-Power(登録商標)IIの商標で販売されている従来市販のB42帆布ラップVベルトであった。比較例6は、図1のようにフラットで、ノッチを備えていない。比較例6のポリエステル抗張コードは、ベルト本体の上部1/3に配置されているためCCLベルトではない。実施例7は、ティムケン社からCarlisle(登録商標) Super IIの商標で販売されている生のエッジのラミネートCCL Vベルトであった。比較例7は、外周が65インチ(165cm)のB62構造であった。したがって、比較例7のベルト試験の結果は、SAE J637の寿命期間2.75のべき乗則の関係を使用して、他の例と比較するために同等の長さに調整する必要があった。比較例7は、ラップされたVベルトよりも優れていると宣伝されている。したがって、比較例6および比較例7は、最先端の商用ベルトを代表している。
【0059】
本発明のベルトの性能を評価するために、3つの異なるベルト試験が実施された。試験は、耐荷重試験、屈曲試験、安定性試験であった。全てのサンプルベルトについて、全てのテストが完了しているわけではない。これらのテストの結果を表3に示す。最初の5つの実施例では、構築および切断プロセスからの倒立ベルトと正立ベルトの両方がテストされた。背面側のアイドラがテストにおいて最も厳しい曲げ応力を発生するため、倒立ベルトは屈曲試験で正立ベルトよりも優れていると予想される。
【0060】
図6に示す荷重試験は、2点テストであり、ベルト60は直径4.75インチ(12.1cm)の原動シーブ62および従動シーブ62に掛け回され、室温の下、1750rpmで2つの異なる負荷条件で実行された。最初の負荷条件は、総張力262ポンド(1170N)、10馬力(7.5kW)の負荷で実行された。2番目の負荷条件は、総張力313ポンド(1390N)、12馬力(8.9kW)の負荷で実行された。荷重試験は、実際のベルトの運用で推奨されるよりも大幅に大きい馬力と大幅に高い張力を使用して大幅に加速される。また、第1近似としては、馬力が10%増加するとベルトの寿命が半分になると予想される。比較として、比較例3の推奨最大馬力は約70ポンド(310N)の総張力で約3.8馬力(2.8kW)である。
【0061】
図7に示される屈曲試験は、直径5インチ(12.7cm)の平らな背面アイドラ74とともに、直径4.75インチ(12.1cm)の原動シーブ72と従動シーブ73上において、室温の下、3600rpm、50ポンド(220N)の総張力、無負荷状態で実行された。ベルトの実際の使用において推奨されるよりも大幅に小さいアイドラ直径を使用することにより、屈曲試験が大幅に加速された。これらのベルトに対してARPM規格で推奨されている背面アイドラの最小直径は約7.7インチ(約19.6cm)である。
【0062】
図8に示される安定性試験は、ベルト60が横転するまでミスアライメント角度84を増加させることを含む。安定性試験のレイアウトは2点テストであり、室温で直径6.75インチ(17.1cm)のプーリ82、83を使用し、室温で700rpm、総張力260ポンド(1160N)で実行される。プーリ軸は平行であるが、1つのプーリ82はベルト60がひっくり返って故障するまで、その軸に沿って変位される。ひっくり返った時のミスアライメント角度84が、ベルトの安定性を示している。
【0063】
利用可能なベルト試験の結果を表3に示す。このデータから幾つかの比較を行うことができる。まず、接着ゴムの厚さの影響を比較する。実施例2に見られるより厚い接着ゴムは、12馬力(8.9kW)および10馬力(7.5kW)の負荷テストで実施例1よりも実施例2の方が優れた性能を発揮する。これらの試験は高い張力で実行されるため、良好な横方向の剛性が必要であり、これは抗張コード層の接着ゴムによって提供される。両厚さレベルは、横方向応力をそれほど発生させない屈曲試験では良好に機能するが、長手向の柔軟性が必要であり、これは、より低い弾性率のオーバーコードとアンダーコードによって与えられる。実施例4にノッチを追加すると、屈曲試験の最高の結果が得られるが、10馬力(7.5kW)の荷重試験では寿命が幾分短くなる。12馬力(8.9kW)の試験は、これらのベルト構造の一部では全く非現実的である。
【0064】
同様に、接着ゴムを備えるベルト(実施例1、2および4)と接着ゴムなしのベルト(比較例3および5)を比較すると、接着ゴムを備える本発明のベルトは、一般に多少優れた性能となることを示している。
【0065】
最後に、本発明のCCL Vベルト(実施例1、2および4)は、市販の最先端のベルトである比較例6および7との比較において非常に有利である。
【0066】
【表3】
【0067】
したがって、本発明のCCL Vベルトは、多くの利点を提供する。帆布の通常のラミネートやラップを避けることで、製造が簡単になり、材料費が削減される。本明細書に記載されている高弾性材料を適用することにより、その性能は、予想外に従来のラミネートまたはラップされたVベルトと同等またはそれよりも優れている可能性がある。したがって、CCL Vベルトの品質が悪いという評判は驚くほど克服されている。
【0068】
CCL Vベルトの両側にノッチを成形することにより、屈曲時の歪レベルが更に低減され、材料費がさらに削減される。同時に、帆布の使用が更に回避される。ダブルノッチCCL Vベルトは、従来のバンド(ラップ)Vベルトよりも優れた性能を発揮する。
【0069】
本発明のベルトが荷重試験および屈曲試験で良好に機能する理由は、軸方向の剛性および長手方向の柔軟性の最適な組み合わせであることが当業者によって認識されるであろう。ベルトが荷重を運ぶことができるようにするには、一定の軸方向の剛性が必要である。抗張コードは、プーリにトルクを与えるための引張強度のほとんどを提供するが、コードは、それをサポートするためにVプーリを横切る「ブリッジ」を必要とする。十分にサポートされていない場合、端にあるコードは中央のコードよりも長くなり、ベルトの早期破損をもたらす。したがって、純粋な荷重伝達には、非常に剛性の高いエラストマー材料が必要とされる。
【0070】
しかし、ベルトはその走行(長手)方向にも屈曲する必要がある。そのため、非常に硬いベルトは、ヒステリシス損失のために効率が低下し、ベルトの高い動作温度により、より早く破損する。したがって、必要とされているのは、軸方向と長手方向の剛性の比率が高いベルトである。更に、比率だけが重要ではない。必要な最小限の軸方向剛性と最大限の許容曲げ剛性も存在する。
【0071】
軸方向の剛性(または横方向の剛性)と長手方向の柔軟性を提供する1つの手段は、異方性の特性を持つエラストマー材料を適用することである。カレンダリングと切断/反転によって適切に整列されると、短繊維強化エラストマーは明確な直交異方性の材料弾性率を生み出すことができる。従来、この手段は軸方向の剛性に大部分依存してきた。ここで、本手段は、優れた柔軟性を維持する手法を通してオーバーコードとアンダーコードに適用される。次に、軸方向の剛性を高めるための第2の手段、つまり接着ゴムも適用される。従来これらのゴムの機能は、単に周りを流れて抗張コードに接着することであった。本発明では、接着ゴムは、コードラインの周りの狭い帯域における超高弾性率の材料である。したがって、この材料は、従来のベルトよりもベルトの軸方向の剛性にはるかに大きな役割を与えると同時に、高剛性材料をベルトの中立軸の非常に近くに維持する。そのため、超高弾性率の材料は、ヒステリシス損失を引き起こし得る大きな歪みに曝されることがないが、それでも十分な軸方向の剛性をもたらす。その結果、中立軸から離れたベルトのオーバーコード領域とアンダーコード領域における柔軟なエラストマー材料に、より良いバランスがもたらされる。その結果、優れた耐荷重性と柔軟性を備えたベルトが得られる。その結果、エネルギー効率が高く、ヒステリシス損失や熱の蓄積が少ないベルトが得られる。EE素材を使用すると、ポリクロロプレンやスチレンブタジエンゴムなどの従来のエラストマーと比較して、非常に高い耐熱性(最大285°Fまたは140℃の動作温度)も得られる。
【0072】
以上のことから、本発明は以下のようなものに関する。
【0073】
長手方向の曲げ剛性を低く抑えながら、荷重を効率よく運ぶことができる十分な軸方向剛性(抗張コードサポート)を備えたベルト。
【0074】
軸方向剛性と曲げ剛性(または損失)の比率が最大にされたベルト。そのような比率の測定が計画されている。
【0075】
軸方向の剛性の大部分が、抗張コードを囲む非常に高い弾性率のエラストマー(つまり接着ガム)の薄い層によって提供されるベルト。この抗張コード層の厚さ(抗張コードおよび接着ゴムを含む)は、好ましくは1mmから5mmの間である。この層の厚さは、コード直径の倍数で指定することも、ベルト全体の厚さのパーセントとして指定することもできる。ベルトのオーバーコードおよびアンダーコードであるベルトの残りの部分は、曲げ剛性を最小限に抑えるために、より柔軟な材料で構成されてもよい。
【0076】
抗張コードはベルトの中心線に配置される好ましい。
【0077】
ベルトは片側または両側にノッチが設けられてもよい。
【0078】
本明細書に記載されている特徴の任意の組み合わせを適用することもできる。
【0079】
本明細書に記載の本発明のVベルト構造は、多種多様なVベルト用途において有用である。この構造は、布で包まれたVベルト(バンド付きVベルト)など、他のタイプまたはスタイルのVベルトのベースベルトの本体としても使用できるものと認識される必要がある。本発明の構造は、パワーバンド、すなわち、一体的にバンドされたマルチVベルトのベースとして使用することもできる。変速Vベルトにも使用できる。
【0080】
製造上の利点を放棄することをいとわないのであれば、本明細書に記載のベルト材料を、高いコードラインのVベルトに適用することができる。
【0081】
別の一連の試験では、本発明のベルト構造が、他のVベルト構造よりも高い効率、あるいはより効率的なベルト性能をもたらすことが見出されている。この試験において、レイアウトは図6に示される通りであり、プーリ62、63の外径は5.75インチ、Bセクションベルトのピッチ径は5.40インチであった。原動部は、トルクが掛けられていない状態において1770RPMで回転された。動力損失試験において、平均負荷、平均駆動速度、および平均駆動トルクが測定された。まず、非常に薄くて小さなベルトを各ハブ荷重において走行させることによって、駆動装置の寄生トルク、すなわちベアリング損失が特定された。次に、様々なベルトの実施例が走行され、ベルト構造による所与のハブ荷重における動力損失を特定するためにベアリング損失が差し引かれた。特定された動力損失は、mW(ミリワット)の単位で表4に示される。本発明のCCLベルトは、倒立して切り出されたものも、正立して切り出されたものも、従来の比較例のベルトの何れに対しても著しく動力損失が少ない状態で動作する。
【0082】
動力損失は、図9においてハブ荷重に対してプロットされており、各ベルトに関する表4のデータが直線によく沿っていることが明らかである。実施例2の直線が、比較例の直線はるかに下回っている。本発明のベルトを比較例のベルトから別ける破線は、式1によって与えられ得る。
動力損失(mW)=ハブ荷重(N)/60(mW/N)+15(mW)
したがって、本発明のベルトは、不等式によって記述される設計領域:動力損失(mW)≦ハブ荷重(N)/60(mW/N)+15(mW)によって特徴付けられ得る。この結果は、公称5/8インチのトップ幅と45インチの長さのBセクションVベルトに対して生成されたものであるが、適切にスケーリングされたテストレイアウトにおいて測定されるのであれば、他のVベルト断面、長さ、およびサイズに少なくとも近似的に適用されると期待される。「断面」という用語は、当技術分野でよく知られているように、ベルトの断面形状すなわちプロファイルを指す。
【0083】
【表4】
【0084】
再び要約すると、本発明のVベルトは、半分が倒立して利用され、半分が正立して利用されることで、それらが無駄なくスラブから切り取られ製造されるようにセンターコードラインで構成される。本発明のベルトは、コードラインに非常に高い弾性率の接着ゴム層を使用し、コードラインの上下には共に相対的に低い弾性率の材料を使用する。本発明のベルトは、追加の帆布、すなわち布による補強層を備えない。それでも、本発明のベルトは、より高い位置にコードラインを備え、または帆布で補強されたCCL Vベルトである使い古された従来のラップされたVベルトよりも、耐荷重試験および屈曲試験でより良い性能を発揮する。更に、本発明のCCL Vベルトは、従来のVベルトよりも動力損失が低い。
【0085】
本発明およびその利点は詳細に説明されてきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な代替、置換、および変更をここで行うことができることを理解されたい。更に、本出願の範囲は、本明細書に記載されている特定のプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、およびステップの実施形態に限定されることを意図するものではない。当業者は、本発明の開示から、ここで説明された実施形態に対応するのと実質的に同じ機能または実質的に同じ結果をもたらす現在存在し、または後に開発されるプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、またはステップを、本発明に基づき用いることができることを容易に理解するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、そのようなプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、またはステップを含むことを意図している。本明細書に開示される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない要素が存在しない場合にも適切に実施することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】