(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/426 20210101AFI20220930BHJP
H01M 50/42 20210101ALI20220930BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20220930BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20220930BHJP
H01M 50/417 20210101ALI20220930BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20220930BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20220930BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20220930BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20220930BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20220930BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20220930BHJP
H01M 10/058 20100101ALI20220930BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220930BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220930BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220930BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20220930BHJP
C08F 220/26 20060101ALI20220930BHJP
C08F 214/24 20060101ALI20220930BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20220930BHJP
【FI】
H01M50/426
H01M50/42
H01M50/449
H01M50/423
H01M50/417
H01M50/414
H01M50/489
H01M50/403 D
H01M50/434
H01M50/446
H01M50/451
H01M10/058
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M50/46
C08F220/26
C08F214/24
H01G11/52
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504511
(86)(22)【出願日】2020-07-16
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2020070127
(87)【国際公開番号】W WO2021018615
(87)【国際公開日】2021-02-04
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アブスレメ, ジュリオ ア.
(72)【発明者】
【氏名】オリアーニ, アンドレーア ヴィットーリオ
(72)【発明者】
【氏名】ブルソー, セゴレーヌ
【テーマコード(参考)】
4J100
5E078
5H021
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4J100AC24P
4J100AC25Q
4J100AJ02R
4J100AL09R
4J100CA05
4J100DA09
4J100DA22
4J100FA03
4J100FA21
4J100FA29
4J100GC35
4J100JA43
5E078AB02
5E078CA02
5E078CA06
5E078CA12
5H021BB12
5H021BB13
5H021CC04
5H021EE03
5H021EE04
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5H021EE07
5H021EE08
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5H021EE15
5H021EE20
5H021EE21
5H021EE22
5H021EE34
5H021HH07
5H029AJ11
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL01
5H029AL02
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL08
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5H029CJ02
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5H029DJ04
5H029EJ03
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5H029HJ02
5H050AA14
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB09
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5H050DA11
5H050DA19
5H050EA24
5H050GA02
5H050GA22
5H050HA02
(57)【要約】
本発明は、改善された熱安定性を有するフッ化ビニリデンコポリマーを含む、電気化学デバイスのためのセパレータ、その製法方法及びそれを含む電気化学デバイスに関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン及び少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を共重合させることによって得られるフッ化ビニリデンコポリマー(ポリマー(F))で少なくとも部分的にコーティングされた基材層(P)を含む、電気化学デバイスのためのコーティングされたセパレータであって、少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)が共重合中に反応器に連続的に供給される、コーティングされたセパレータ。
【請求項2】
基材層(P)は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン及びポリプロピレン又はそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む、請求項1に記載のコーティングされたセパレータ。
【請求項3】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、式(I):
【化1】
(式中、
互いに等しいか又は異なるR
1、R
2及びR
3は、水素原子及びC
1~C
3炭化水素基から独立して選択され、及び
R
OHは、水素原子又は少なくとも1つのヒドロキシル基及び/若しくは少なくともカルボン酸基を含むC
1~C
5炭化水素部分である)
に従う、請求項1又は2に記載のコーティングされたセパレータ。
【請求項4】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、式(II):
【化2】
(式中、互いに等しいか又は異なるR1及びR2のそれぞれは、水素原子及びC
1~C
3炭化水素基から独立して選択され、
R3は、水素であり、R
OHは、水素原子又は少なくとも1つのヒドロキシル基及び/若しくは少なくともカルボン酸基を含むC
1~C
5炭化水素部分である)
に従う、請求項3に記載のコーティングされたセパレータ。
【請求項5】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、
- 式:
【化3】
のヒドロキシエチルアクリレート、
- 式:
【化4】
のいずれかの2-ヒドロキシプロピルアクリレート、
- 式:
【化5】
のアクリル酸、及び
- それらの混合物
からなる群から選択される、請求項3又は4に記載のコーティングされたセパレータ。
【請求項6】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、アクリル酸である、請求項5に記載のコーティングされたセパレータ。
【請求項7】
ポリマー(F)は、0.5~10モル%の範囲の量における、クロロトリフルオロエチレンに由来する繰り返し単位と、0.2~1.5モル%の範囲の量における、アクリル酸に由来する繰り返し単位とを含む、請求項6に記載のコーティングされたセパレータ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の電気化学のためのコーティングされたセパレータの調製の方法であって、
i)コーティングされていない基材層(P)を提供する工程と;
ii)フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン及び少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)であって、共重合中に反応器に連続的に供給される少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を共重合させることによって得られるフッ化ビニリデン(ポリマー(F))を含むコーティング組成物(組成物(C))を提供する工程と;
iii)工程ii)のコーティング組成物(C)を基材層(P)の少なくとも1つの部分上に少なくとも部分的に塗布する工程と;
iv)工程iii)の少なくとも部分的にコーティングされた基材層(P)を乾燥させる工程と
を含む方法。
【請求項9】
組成物(C)は、溶媒(S)を更に含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
組成物(C)は、少なくとも1つの湿潤剤及び/又は少なくとも1つの界面活性剤を更に含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
組成物(C)は、少なくとも1つの非電気活性の無機充填材料を更に含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
- 請求項1~7のいずれか一項に記載のコーティングされたセパレータと;
- 正極と;
- 負極と
を含む電気化学デバイスであって、正極及び負極の少なくとも1つは、電極活物質及びバインダーを含む電極であり、前記バインダーは、フッ化ビニリデンコポリマー[ポリマー(A)]であって、
- フッ化ビニリデンに由来する繰り返し単位と、
- 0.05~10モル%の量における、アクリル酸に由来する繰り返し単位と、
- 任意選択的に、前記ポリマー(A)中の繰り返し単位の総モル量に対して0.5モル%~5.0モル%、好ましくは1.5~4.5モル%、より好ましくは1.5モル%~3.0モル%、更により好ましくは2.0~3.0モル%の量における、少なくとも1つのペルハロゲン化モノマー(FM)に由来する繰り返し単位と
を含むフッ化ビニリデンコポリマー[ポリマー(A)]を含む、電気化学デバイス。
【請求項13】
コーティングされたセパレータは、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン及び少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)であって、共重合中に反応器に連続的に供給される少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を共重合させることによって得られるフッ化ビニリデンコポリマー(ポリマー(F))で少なくとも部分的にコーティングされた基材層(P)を含み、モノマー(MA)は、アクリル酸である、請求項12に記載の電気化学デバイス。
【請求項14】
ポリマー(A)中のモノマー(FM)は、クロロトリフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンから選択される、請求項12又は13に記載の電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年7月29日出願の欧州特許出願公開第19315080.2号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、改善された熱安定性を有するフッ化ビニリデンコポリマーを含む、電気化学デバイスのためのセパレータ、その製法方法及びそれを含む電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池は、人間の日常生活に欠かせないものになっている。持続可能な開発に関連して、リチウムイオン電池は、電気自動車及び再生可能エネルギー貯蔵での使用が一層注目されているため、それらは、より重要な役割を果たすことが期待されている。
【0004】
セパレータ層は、電池の重要な構成要素である。これらの層は、電解質がそれを通過できるようにしながら、電池のアノードとカソードとの接触を防ぐのに役立つ。
【0005】
リチウムイオン電池におけるセパレータの性能は、空隙率、化学安定性、電気絶縁体、濡れ性、寸法安定性並びに化学試剤及び電解質による劣化への耐性などのいくつかの要件によって決定される。更に、セパレータは、長期運転及び電池使用時の温度ピークに耐えるために良好な熱安定性を有するべきである。
【0006】
フッ化ビニリデン(VDF)ポリマーは、複合セパレータの製造として及び電池、好ましくは二次電池などの非水性型電気化学デバイスでの使用のための多孔質セパレータのコーティングとして好適であることが当技術分野において知られている。
【0007】
例えば、Lee et al.,J.Polym.Sci.Part B Polym.Phys.2013,51,349-357から、ポリフッ化ビニリデン-co-クロロトリフルオロエチレン(PVDF-co-CTFE)の電界紡糸ナノ粒子でのポリプロピレン微小孔性セパレータのコーティングが公知である。しかしながら、PVDF-co-CTFEコポリマーは、PVDFホモポリマーの熱安定性よりも低い不満足な熱安定性によって特徴付けられる。
【0008】
VDFポリマーは、電極のためのバインダーの調製に関しても公知である。国際公開第2008/129041号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY S.P.A.)は、電流コレクタへの電極の非常に良好な接着を付与する、電極のためのバインダーとしての、少なくとも1つの(メタ)アクリルコモノマー及びVDFと異なる少なくとも別のフッ素化コモノマーに由来する繰り返し単位を含むVDFコポリマーを開示している。
【0009】
セパレータと電極との間の接着は、電池組立体における別の重要な特徴であり、それは、電池性能特性及び製造中の取扱いの容易さを向上させる可能性がある。
【0010】
欧州特許第2631974号明細書(SAMSUNG SDI)は、セパレータの少なくとも1つの表面をPVDFホモポリマー層でコーティングすることにより、リチウム電池における負極とセパレータとの間の接着強度を向上させることを提案しており、ここで、負極バインダーは、VDF系コポリマーを含む。
【0011】
電池、とりわけリチウム電池の技術分野において、セパレータ基材材料への良好な傑出した接着性を提供することができ、且つ同時に電極へのセパレータの接着性を改善し、良好なラミネーション強度、導電性及び電極ポリマーバインダーと同様の又はそれよりも良好な熱安定性を有するコーティングされたセパレータを提供するという課題があると思われる。
【発明の概要】
【0012】
従って、本出願人は、電気化学セルのためのセパレータの基材材料をコーティングするのに好適なポリマーであって、前記ポリマーが、セパレータベース材料への傑出した接着性及びコーティングされたセパレータの電極への改善された接着性を同時に提供し、こうして電池の長期性能を向上させるようなものであるポリマーを提供するという課題に直面した。
【0013】
意外にも、本出願人は、電気化学セルのためのセパレータが、全フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー主鎖の全体にわたってランダムに分布した親水性(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位を含むフッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレンコポリマーで少なくとも部分的にコーティングされる場合、前記課題を解決できることを見出した。
【0014】
従って、第1態様において、本発明は、フッ化ビニリデン(VDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)及び共重合中に反応器に連続的に供給される少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を共重合させることによって得られるフッ化ビニリデンコポリマー(ポリマー(F))で少なくとも部分的にコーティングされた基材層(P)を含む、電気化学デバイスのためのコーティングされたセパレータに関する。
【0015】
意外にも、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー主鎖の全体にわたってランダムに分布する、親水性(メタ)アクリルモノマーに由来する繰り返し単位の存在は、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー自体の熱安定性を向上させる。
【0016】
第2態様において、本発明は、上で定義されたような電気化学デバイスのためのコーティングされたセパレータの調製の方法であって、
i)コーティングされていない基材層(P)を提供する工程と;
ii)フッ化ビニリデン(VDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)及び少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)であって、共重合中に反応器に連続的に供給される少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を共重合させることによって得られるフッ化ビニリデンコポリマー(ポリマー(F))を含むコーティング組成物(組成物(C))を提供する工程と;
iii)工程ii)のコーティング組成物(C)を基材層(P)の少なくとも1つの部分上に少なくとも部分的に塗布する工程と;
iv)工程iii)の少なくとも部分的にコーティングされた基材層(P)を乾燥させる工程と
を含む方法に関する。
【0017】
更なる態様において、本発明は、上で定義されたようなコーティングされたセパレータを含む電気化学デバイスに関する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に関連して、用語「重量パーセント」(重量%)は、特定の成分の重量と混合物の総重量との間の比として計算される、混合物中の特定の成分の含量を示す。ポリマー/コポリマー中のある種のモノマーに由来する繰り返し単位に言及する場合、重量パーセント(重量%)は、ポリマー/コポリマーの総重量で割ったそのようなモノマーの繰り返し単位の重量間の比を示す。液体組成物の総固形分(TSC)に言及する場合、重量パーセント(重量%)は、液体中の全ての不揮発性成分の重量間の比を示す。
【0019】
用語「セパレータ」とは、本明細書では、電気化学セルにおける反対の極性の電極を電気的及び物理的に分離し、且つそれらの間を流れるイオンを通す、多孔質の単層又は多層ポリマー材料を意味することを意図する。
【0020】
用語「電気化学セル」とは、本明細書では、正極、負極及び液体電解質を含む電気化学セルであって、単層又は多層セパレータが前記電極の1つの少なくとも1つの表面に接着されている電気化学的セルを意味することを意図する。
【0021】
電気化学セルの非限定的な例としては、とりわけ、電池、好ましくは二次電池及び電気二重層キャパシタが挙げられる。
【0022】
本発明の目的のために、「二次電池」とは、再充電可能な電池を意味することを意図する。二次電池の非限定的な例としては、とりわけ、アルカリ又はアルカリ土類二次電池が挙げられる。
【0023】
本発明に関連して、用語「基材層」は、本明細書では、単一層からなる単層基材又は互いに隣接した少なくとも2つの層を含む多層基材のいずれかを意味することを意図する。
【0024】
基材層(P)は、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエチレンナフタレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン及びポリプロピレン又はそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1つの材料を含む、電気化学デバイスにおけるセパレータのために一般的に使用される任意の多孔質の基材又は布地によって製造することができる。好ましくは、基材層(P)は、ポリエチレン又はポリプロピレンである。
【0025】
用語「(メタ)アクリルモノマー」には、本明細書で用いる場合、アクリル酸及び/又はメタクリル酸、アクリル酸又はメタクリル酸のエステル並びにそれらの誘導体及び混合物が含まれる。
【0026】
用語「少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」は、ポリマー(A)が、上で記載されたような1つ又は2つ以上の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含み得ることを意味すると理解される。本明細書の残りの部分において、表現「親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)」及び「モノマー(MA)」は、本発明の目的のために、複数形及び単数形の両方において理解され、すなわち、それらは、1つ又は2つ以上の両方の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を意味すると理解される。
【0027】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、好ましくは、式(I):
【化1】
(式中、
互いに等しいか又は異なるR
1、R
2及びR
3は、水素原子及びC
1~C
3炭化水素基から独立して選択され、及び
R
OHは、水素原子又は少なくとも1つのヒドロキシル基及び/若しくは少なくともカルボン酸基を含むC
1~C
5炭化水素部分である)
に従う。
【0028】
より好ましくは、親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、好ましくは、式(II):
【化2】
(式中、R1、R2、R
OHのそれぞれは、上で定義されたような意味を有し、及びR3は、水素であり;より好ましくは、R1、R2、R3のそれぞれは、水素である一方、R
OHは、上で詳述したのと同じ意味を有する)
に従う。
【0029】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の非限定的な例は、とりわけ、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0030】
モノマー(MA)は、より好ましくは、
- 式:
【化3】
のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、
- 式:
【化4】
のいずれかの2-ヒドロキシプロピルアクリレート(HPA)、
- 式:
【化5】
のアクリル酸(AA)、及び
- それらの混合物
の中で選択される。
【0031】
最も好ましくは、モノマー(MA)は、AA及び/又はHEAである。
【0032】
ポリマー(F)は、その物理化学的特性に影響を与えることも損なうこともない、欠陥、末端基等などの他の部分を更に含み得る。
【0033】
ポリマー(F)は、半結晶性である。半結晶性という用語は、検出可能な融点を有するポリマー(F)を意味することを意図する。半結晶性ポリマー(F)は、有利には、少なくとも0.4J/g、好ましくは少なくとも0.5J/g、より好ましくは少なくとも1J/gの、ASTM D3418に従って測定される融解熱を有すると一般に理解される。
【0034】
ポリマー(F)は、線状コポリマーであり、すなわち、それは、VDFモノマー、CTFEモノマー及び(MA)モノマーからの繰り返し単位の実質的に線状の配列でできた高分子から構成され;ポリマー(F)は、従って、グラフト化及び/又はくし状ポリマーと区別できる。
【0035】
ポリマー(F)は、好ましくは、少なくとも0.05モル%、より好ましくは少なくとも0.1モル%、更により好ましくは少なくとも0.5モル%の、CTFEに由来する繰り返し単位を含む。
【0036】
ポリマー(F)は、好ましくは、最大で10モル%、より好ましくは最大で7モル%、更により好ましくは最大で5モル%の、CTFEに由来する繰り返し単位を含む。
【0037】
ポリマー(F)は、好ましくは、少なくとも0.05モル%、より好ましくは少なくとも0.1モル%、更により好ましくは少なくとも0.2モル%の、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0038】
ポリマー(F)は、好ましくは、最大で2モル%、より好ましくは最大で1.8モル%、更により好ましくは最大で1.5モル%の、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位を含む。
【0039】
より好ましい実施形態において、ポリマー(F)は、0.5~10モル%の範囲の量における、CTFEに由来する繰り返し単位と、0.2~1.5モル%の範囲の量における、前記親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位とを含む。
【0040】
本発明のより好ましい実施形態において、ポリマー(F)では、式(I)の親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)に由来する繰り返し単位は、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル数に対して0.2~1モル%の量で含まれ、及びCTFEモノマーに由来する繰り返し単位は、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モル数に対して0.5~4モル%の量で含まれる。
【0041】
より好ましくは、親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)は、式(II)の親水性(メタ)アクリルモノマーであり、更により好ましくは、それは、アクリル酸(AA)であり、ポリマー(F)は、VDF-AA-CTFEターポリマーである。
【0042】
ポリマー(F)は、0.15l/g超及び最大で0.60l/g、好ましくは0.20~0.50l/gの範囲、より好ましくは0.25~0.40l/gの範囲に含まれる、25℃においてジメチルホルムアミド中で測定される固有粘度を有利に有する。
【0043】
ポリマー(F)の調製は、フッ化ビニリデン(VDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)及び少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)であって、共重合中に連続的にVDF及びCTFEに添加される少なくとも1つの親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)を共重合させる工程を含む、フッ化ビニリデンコポリマーの製造方法である。
【0044】
表現「連続的な供給」、又は「連続的に添加」、又は「連続的に供給」は、重合が完了するまで、親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の水溶液のゆっくりした、少量の、徐々に増加する添加が行われることを意味する。
【0045】
こうして得られるポリマー(F)は、ポリマー主鎖中のモノマー(MA)の高い一様性を有し、それは、有利には、結果として生じるコポリマーの接着性及び/又は親水性挙動の両方への改質モノマー(MA)の影響を最大限にする。
【0046】
加えて、本出願人は、意外にも、ポリマー(F)中に一様に分布したモノマー(MA)の存在が、さもなければ不満足に低い、特にVDFホモポリマーの熱安定性よりも低いVDF-CTFEコポリマーの熱安定性を向上させる効果を有することを見出した。
【0047】
ポリマー(F)は、典型的には、例えば国際公開第2008/129041号パンフレットに記載されている手順に従い、少なくとも1つのVDFモノマーと、少なくとも1つの含水素(メタ)アクリルモノマー(MA)と、CTFEとの乳化重合又は懸濁重合によって得られる。
【0048】
第2態様において、本発明は、上で定義されたような電気化学デバイスのためのコーティングされたセパレータの調製の方法に関する。
【0049】
本方法の工程ii)において、上で定義されたようなポリマー(F)を含む組成物(C)が提供される。
【0050】
組成物(C)は、好ましくは、上で定義されたようなポリマー(F)と溶媒(S)とを含む。
【0051】
溶媒(S)の選択は、それがポリマー(F)を可溶化するのに好適であることを条件として特に限定されない。
【0052】
溶媒(S)は、典型的には、
- メチルアルコール、エチルアルコール及びジアセトンアルコールなどのアルコール、
- アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン及びイソホロンなどのケトン、
- イソプロピルアセテート、n-ブチルアセテート、メチルアセトアセテート、ジメチルフタレート及びγ-ブチロラクトンなどの線状又は環状エステル、
- N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド及びN-メチル-2-ピロリドンなどの線状又は環状アミド、及び
- ジメチルスルホキシド
からなる群から選択される。
【0053】
組成物(C)は、少なくとも1つの湿潤剤及び/又は少なくとも1つの界面活性剤並びに1つ又は2つ以上の追加の添加剤を更に含み得る。
【0054】
組成物(C)は、少なくとも1つの非電気活性の無機充填材料を更に含み得る。
【0055】
用語「非電気活性の無機充填材料」とは、本明細書では、電気化学セルのための電気絶縁セパレータの製造に好適である非導電性の無機充填材料を意味することを意図する。
【0056】
本発明によるセパレータにおける非電気活性の無機充填材料は、典型的には、ASTM D 257に従って20℃で測定されて少なくとも0.1×1010オームcm、好ましくは少なくとも0.1×1012オームcmの電気抵抗率(p)を有する。
【0057】
好適な非電気活性の無機充填材料の非限定的な例としては、とりわけ、天然及び合成シリカ、ゼオライト、アルミナ、チタニア、金属炭酸塩、ジルコニア、リン酸ケイ素並びにケイ酸塩等が挙げられる。
【0058】
組成物(C)は、ポリマー(F)を溶媒(S)と混合することを含む方法によってなど、当技術分野における任意の公知の方法によって調製することができる。
【0059】
本発明の方法の工程iii)において、工程ii)において得られた組成物(C)は、キャスティング、スプレーコーティング、回転スプレーコーティング、ロールコーティング、ドクターブレーディング、スロットダイコーティング、グラビアコーティング、インクジェット印刷、スピンコーティング及びスクリーン印刷、ブラシ、スキージ、泡塗布器、カーテンコーティング、真空コーティングから選択される技術により、前記基材層(P)の少なくとも1つの部分に少なくとも部分的に塗布される。
【0060】
本発明は、上に定義されたようなコーティングされたセパレータと、正極と、負極とを含む電気化学デバイスにも関する。
【0061】
好ましくは、電気化学デバイスは、二次電池であり、好ましくはリチウム二次電池である。
【0062】
本発明の好ましい実施形態において、リチウム二次電池は、
- 上で定義されたようなコーティングされたセパレータと、
- 正極と、
- 負極と
を含み、正極及び負極の少なくとも1つは、電極活物質及びバインダーを含む電極であり、前記バインダーは、フッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]であって、
- フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
- 0.05~10モル%の量における、アクリル酸に由来する繰り返し単位と、
- 任意選択的に、前記ポリマー(A)中の繰り返し単位の総モル量に対して0.5モル%~5.0モル%、好ましくは1.5~4.5モル%、より好ましくは1.5モル%~3.0モル%、更により好ましくは2.0~3.0モル%の量における、少なくとも1つのペルハロゲン化モノマー(FM)に由来する繰り返し単位と
を含むフッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]を含む。
【0063】
本発明のより好ましい実施形態において、リチウム二次電池は、
- ポリマー(F)がVDF-AA-CTFEターポリマーである、上で定義されたようなコーティングされたセパレータと、
- 正極と、
- 負極と
を含み、正極及び負極の少なくとも1つは、電極活物質及びバインダーを含む電極であり、前記バインダーは、フッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]であって、
- フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と、
- 0.05~10モル%の量における、アクリル酸に由来する繰り返し単位と、
- 任意選択的に、前記ポリマー(A)中の繰り返し単位の総モル量に対して0.5モル%~5.0モル%、好ましくは1.5~4.5モル%、より好ましくは1.5モル%~3.0モル%、更により好ましくは2.0~3.0モル%の量における、少なくとも1つのペルハロゲン化モノマー(FM)に由来する繰り返し単位と
を含むフッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]を含む。
【0064】
ポリマー(A)は、半結晶性である。半結晶性という用語は、検出可能な融点を有するポリマー(A)を意味することを意図する。半結晶性ポリマー(A)は、有利には、少なくとも0.4J/g、好ましくは少なくとも0.5J/g、より好ましくは少なくとも1J/gの、ASTM D3418に従って測定される融解熱を有すると一般に理解される。
【0065】
ポリマー(A)は、VDFモノマー、アクリル酸及び任意選択的にモノマー(FM)からの繰り返し単位の実質的に線状の配列でできている高分子で構成されており;ポリマー(A)は、従って、グラフト化及び/又はくし状ポリマーと区別できる。
【0066】
ポリマー(A)は、好ましくは、少なくとも0.05モル%、より好ましくは少なくとも0.1モル%、更により好ましくは少なくとも0.5モル%の、モノマー(FM)に由来する繰り返し単位を含む。
【0067】
ポリマー(A)は、好ましくは、最大で10モル%、より好ましくは最大で7モル%、更に好ましくは最大で5モル%の、モノマー(FM)に由来する繰り返し単位を含む。
【0068】
好適なモノマー(FM)の非限定的な例としては、とりわけ、
- テトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレン(HFP)などのC2~C8パーフルオロオレフィン;
- フッ化ビニル、1,2-ジフルオロエチレン及びトリフルオロエチレンなどのC2~C8含水素フルオロオレフィン;
- 式CH2=CH-Rf0(式中、Rf0は、C1~C6パーフルオロアルキルである)のパーフルオロアルキルエチレン;
- クロロトリフルオロエチレン(CTFE)などのクロロ-及び/又はブロモ-及び/又はヨード-C2~C6フルオロオレフィン;
- 式CF2=CFORf1(式中、Rf1は、C1~C6フルオロ-又はパーフルオロアルキル、例えばCF3、C2F5、C3F7である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- CF2=CFOX0(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル(式中、X0は、C1~C12アルキル基、C1~C12オキシアルキル基又はパーフルオロ-2-プロポキシ-プロピル基などの1つ以上のエーテル基を有するC1~C12(パー)フルオロオキシアルキル基である);
- 式CF2=CFOCF2ORf2(式中、Rf2は、C1~C6フルオロ-又はパーフルオロアルキル基、例えばCF3、C2F5、C3F7又は-C2F5-O-CF3などの1つ以上のエーテル基を有するC1~C6(パー)フルオロオキシアルキル基である)の(パー)フルオロアルキルビニルエーテル;
- 式CF2=CFOY0(式中、Y0は、C1~C12アルキル基若しくは(パー)フルオロアルキル基、C1~C12オキシアルキル基又は1つ以上のエーテル基を有するC1~C12(パー)フルオロオキシアルキル基であり、Y0は、その酸、酸ハライド又は塩の形態でカルボン酸又はスルホン酸基を含む)の官能性(パー)フルオロ-オキシアルキルビニルエーテル;
- フルオロジオキソール、好ましくはパーフルオロジオキソール
が挙げられる。
【0069】
フッ素化モノマー(FM)は、好ましくは、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)又はヘキサフルオロプロピレン(HFP)である。
【0070】
ポリマー(A)は、その物理化学的特性に影響を与えることも損なうこともない、欠陥、末端基等などの他の部分を更に含み得る。
【0071】
好適なポリマー(A)は、典型的には、当技術分野において記載されているように調製される(例えば、国際公開第2008/129041号パンフレット及び国際公開第2019/101806号パンフレットを参照されたい)。
【0072】
本発明の好ましい実施形態において、ポリマー(A)は、VDF-AAコポリマーである。
【0073】
本発明の別の好ましい実施形態において、ポリマー(A)は、VDF-AA-CTFEターポリマーである。
【0074】
本発明の好ましい実施形態において、リチウム二次電池は、
- VDF-AA-CTFEであるポリマー(F)であって、AAに由来する繰り返し単位は、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対して0.2~1モル%の量で含まれ、及びCFTEに由来する繰り返し単位は、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対して0.5~4モル%の量で含まれる、ポリマー(F)で少なくとも部分的にコーティングされた基材層(P)を含むコーティングされたセパレータと、
- 正極と、
- 負極と
を含み、正極及び負極の少なくとも1つは、電極活物質及びバインダーを含む電極であり、前記バインダーは、VDF-AAコポリマーを含む。
【0075】
本発明の更により好ましい実施形態において、リチウム二次電池は、
- VDF-AA-CTFEであるポリマー(F)であって、AAに由来する繰り返し単位は、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対して0.2~1モル%の量で含まれ、及びCTFEに由来する繰り返し単位は、ポリマー(F)の繰り返し単位の総モルに対して0.5~4モル%の量で含まれる、ポリマー(F)で少なくとも部分的にコーティングされた基材層(P)を含むコーティングされたセパレータと、
- 正極と、
- 負極と
を含み、正極及び負極の少なくとも1つは、電極活物質及びバインダーを含む電極であり、前記バインダーは、VDF-AA-CTFEターポリマーであるフッ化ビニリデン(VDF)コポリマー[ポリマー(A)]を含む。
【0076】
本出願人は、意外にも、正極及び負極の少なくとも1つのバインダーがポリマー(A)を含む場合、本発明の少なくとも部分的にコーティングされたセパレータと、前記少なくとも1つの電極との接着性が大きく高められることを見出した。
【0077】
いかなる理論にも制約されることなく、本発明者らは、アクリルモノマー構造、すなわちそれぞれ親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)及びアクリル酸モノマーを含むポリマーの、セパレータのコーティング中及び電極のバインダー中の両方における存在が、セパレータと電極との間の相溶性の向上に関与し、こうして本発明の少なくとも部分的にコーティングされたセパレータと電極との大きく高められた接着性をもたらすと考える。
【0078】
上で定義されたようなポリマー(A)を含むバインダーを使用することによって調製される正極及び負極は、当業者に公知の任意の手順に従って調製することができる。
【0079】
ポリマー(A)を電極のためのバインダーとして使用する場合、ポリマー(A)のバインダー溶液が一般に調製される。
【0080】
ポリマー(A)を溶解させて、本発明によるバインダー溶液を提供するために使用される有機溶媒は、好ましくは、極性のものであり得、その例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスファミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、トリエチルホスフェート及びトリメチルホスフェートが挙げられ得る。本発明に使用されるフッ化ビニリデンポリマーは、従来のものよりもはるかに大きい重合度を有するため、上述の有機溶媒の中でも、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド又はN,N-ジメチルアセトアミドなど、より大きい溶解力を有する窒素含有有機溶媒を使用することが更に好ましい。これらの有機溶媒は、単独で又は2つ以上の化学種の混合物で使用され得る。
【0081】
上で詳述されたようなポリマー(A)のバインダー溶液を得るために、100重量部のそのような有機溶媒に0.1~10重量部、特に1~5重量部のコポリマー(A)を溶解させることが好ましい。0.1重量部未満では、ポリマーは、溶液中で少なすぎる割合を占め、従って粉末状の電極材料を結び付けるその性能を示すことができなくなりがちである。10重量部超では、溶液の異常に高い粘度が得られ、その結果、電極形成組成物の調製が困難になるだけでなく、ゲル化現象の回避も問題になり得る。
【0082】
ポリマー(A)バインダー溶液を調製するために、コポリマー(A)を30~200℃、より好ましくは40~160℃、更に好ましくは50~150℃の高温で有機溶媒に溶解させることが好ましい。30℃未満では、溶解は、長時間を要し、一様な溶解が困難になる。
【0083】
電極形成組成物は、粉末状電極材料(電池又は電気二重層キャパシタのための活性物質)並びに導電性付与添加剤及び/又は粘度調整剤などの任意選択的な添加剤を、このようにして得られたポリマー(A)バインダー溶液中に添加し、分散させることによって得ることができる。
【0084】
リチウムイオン電池のための正電極を形成する場合、活性物質は、LiMY2(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr及びVなどの遷移金属の少なくとも1つの化学種を表し;Yは、O又はSなどのカルコゲンを表す)の一般式で表される複合金属カルコゲナイドを含み得る。これらの中でも、LiMO2(式中、Mは、上記と同じである)の一般式で表されるリチウム系複合金属酸化物を使用することが好ましい。それらの好ましい例としては、LiCoO2、LiNiO2、LiNixCo1-xO2(0<x<1)及びスピネル構造化LiMn2O4が挙げられ得る。
【0085】
代替として、更にリチウムイオン電池のための正極を形成する場合、活性物質は、公称式AB(XO4)fE1-f(式中、Aは、リチウムであり、それは、A金属の20%未満を表す別のアルカリ金属によって部分的に置換され得、Bは、Fe、Mn、Ni又はそれらの混合物の中で選択される、+2の酸化レベルでの主なレドックス遷移金属であり、それは、+1~+5の酸化レベルでの及び0を含む、主な+2レドックス金属の35%未満を表す1つ以上の追加の金属によって部分的に置換され得、XO4は、XがP、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せのいずれかである任意のオキシアニオンであり、Eは、フルオリド、ヒドロキシド又はクロリドアニオンであり、fは、XO4オキシアニオンのモル分率であり、一般に0.75~1に含まれる(極値を含む))のリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電極材料を含み得る。
【0086】
上記のAB(XO4)fE1-f活性物質は、好ましくは、ホスフェート系であり、規則正しい又は改質されたかんらん石構造を有し得る。
【0087】
より好ましくは、上で記載されたような活性物質は、式Li3-xM’yM’’2-y(XO4)3に従い、式中、0≦x≦3、0≦y≦2であり、M’及びM’’は、同じ又は異なる金属であり、そのうちの少なくとも1つは、レドックス遷移金属であり;XO4は、別のオキシアニオンで部分的に置換され得る主にPO4であり、式中、Xは、P、S、V、Si、Nb、Mo又はそれらの組合せである。更により好ましくは、活物質は、公称式Li(FexMn1-x)PO4を有するホスフェート系電極材料であり、式中、0≦x≦1であり、ここで、xは、好ましくは、1(すなわち式:LiFePO4の鉄リン酸リチウム)である。
【0088】
リチウム電池のための負極を形成する場合、活性物質は、好ましくは、炭素系材料及び/又はケイ素系材料を含み得る。
【0089】
いくつかの実施形態において、炭素系材料は、例えば、天然若しくは人工黒鉛などの黒鉛、グラフェン又はカーボンブラックであり得る。
【0090】
これらの材料は、単独で又はそれらの2つ以上の混合物として使用され得る。
【0091】
炭素系材料は、好ましくは、黒鉛である。
【0092】
炭素質材料は、好ましくは、約0.5~100μmの平均径を有する粒子の形態で使用され得る。
【0093】
ケイ素系化合物は、クロロシラン、アルコキシシラン、アミノシラン、フルオロアルキルシラン、ケイ素、塩化ケイ素、炭化ケイ素及び酸化ケイ素からなる群から選択される1つ以上であり得る。より特に、ケイ素系化合物は、酸化ケイ素又は炭化ケイ素であり得る。
【0094】
存在する場合、少なくとも1つのケイ素系化合物は、活性物質の総重量に対して1~30重量%、好ましくは5~10重量%の範囲の量で活性物質中に含まれる。
【0095】
特に、限定された導電性を示す、LiCoO2又はLiFePO4などの活性物質を使用する場合、本発明の電極形成組成物の塗布及び乾燥によって形成された結果として得られる複合電極層の導電性を改善するために導電性付与剤が添加され得る。それらの例としては、カーボンブラック、黒鉛微粉末及び繊維などの炭素質材料並びにニッケル及びアルミニウムなどの金属の微粉末及び繊維が挙げられ得る。
【0096】
電気二重層キャパシタのための活性物質は、好ましくは、0.05~100μmの平均粒子(又は繊維)径及び100~3000m2/gの比表面積を有する、すなわち電池のための活性物質のものと比べて比較的小さい粒子(又は繊維)径及び比較的大きい比表面積を有する、活性炭、活性炭繊維、シリカ又はアルミナ粒子などの微細な粒子又は繊維を含み得る。
【0097】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0098】
本発明は、以下の実施例に関連してより詳細に以下で説明されるが、それらは、本発明を単に例示する目的で提供され、本発明の範囲を限定する意図はない。
【実施例】
【0099】
原材料
ポリマーA-1:国際公開第2008/129041号パンフレットに記載されているように得られた、25℃においてDMF中で0.30l/gの固有粘度及び162℃のT2fを有するVDF-AA(0.9モル%)ポリマー。
【0100】
ポリマーA-2:国際公開第2008/129041号パンフレットに記載されているように得られた、25℃においてDMF中で0.35l/gの固有粘度及び167℃のT2fを有するVDF-AA(0.2モル%)ポリマー。
【0101】
ポリマー(F-1):25℃においてDMF中で0.35l/gの固有粘度及び161.6℃のT2fを有するVDF-AA(0.9モル%)-CTFE(0.56モル%)ポリマー。
【0102】
ポリマー(F-2):25℃においてDMF中で0.352l/gの固有粘度及び161.3℃のT2fを有するVDF-AA(0.2モル%)-CTFE(3.7モル%)ポリマー。
【0103】
開始剤(TAPPI):イソドデカン中のt-アミル-パーピバレート(イソドデカン中のt-アミルペルピバレートの75重量%溶液)、Arkemaから市販されている。
【0104】
懸濁剤B1:Alcotex AQ38、水中のAlcotex 80の38g/l水溶液:80%加水分解された高分子量ポリビニルアルコール、SYNTHOMERから市販されている。
【0105】
懸濁剤B2:AkzoNobel製のBermocoll(登録商標)E230FQ。
【0106】
活物質NMC:LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、Umicore SAから市販されている。
【0107】
導電性付与添加剤:C-NERGYTM SUPER C65(SC-65)、Imerys Graphite&Carbonから市販されている。
【0108】
ポリマーの固有粘度の測定
固有粘度(η)[dl/g]は、Ubbelhode粘度計を用い、ポリマー(A)を約0.2g/dlの濃度でN,N-ジメチルホルムアミド中に溶解させることによって得られた溶液の、25℃での落下時間に基づいて、以下の式:
【数1】
(式中、cは、ポリマー濃度[g/dl]であり、η
rは、相対粘度、すなわちサンプル溶液の滴下時間と溶媒の滴下時間との間の比であり、η
spは、比粘度、すなわちη
r-1であり、Γは、ポリマー(A)について3に対応する実験因子である)
を用いて測定した。
【0109】
DSC分析
DSC分析は、ASTM D 3418標準に従って実施し;融点(Tf2)は、10℃/分の加熱速度で決定した。
【0110】
ポリマーF-1の調製
650rpmの速度で動作するインペラーを備えた4リットルの反応器に1913gの脱塩水及びMni(設定点温度の前に反応器に添加される初期のモノマー)の1kg当たり1.6gの懸濁剤B1を順に導入した。反応器を20℃において一連の真空(30mmHg)及び窒素パージでパージした。次いで、4.57gのTAPPIを導入した。880rpmの速度で0.44gのアクリル酸(AA)、14gのクロロトリフルオロエチレン(CTFE)及び1348gのフッ化ビニリデン(VDF)を導入した。反応器を55℃の設定点温度まで徐々に加熱し、圧力を120バールに固定した。水の1kg当たり10.12gに固定したアクリル酸の濃度で1041gのアクリル酸水溶液を重合中に供給することによって圧力を常に120バールに等しく保った。この供給後、それ以上の水を導入せず、圧力は、低下し始め、大気圧に達するまで反応器を脱ガスすることによって重合を止めた。86%におけるモノマーの全ての転化率に達した。次いで、そのようにして得られたポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃で一晩中乾燥させた。
【0111】
ポリマーF-2の調製
250rpmの速度で動作するインペラーを備えた80リットルの反応器に44.8kgの脱塩水及びMni(設定点温度の前に反応器に添加される初期のモノマー)の1kg当たり1.6gの懸濁剤B2を順に導入した。反応器を20℃において一連の真空(30mmHg)及び窒素パージでパージした。次いで、37.47gのTAPPI及び102.6gのジエチルカーボネート(DCE)を添加した。撹拌の速度を300rpmに上げた。最後に、2.81gのアクリル酸、1.4kgのクロロトリフルオロエチレン(CTFE)及び26.6kgフッ化ビニリデン(VDF)を反応器に導入した。反応器を55℃の設定点温度まで徐々に加熱し、圧力を120バールに固定した。水の1kg当たり3.27gのAAの濃度で20.6kg gのアクリル酸の水溶液を供給することによって圧力を常に120バールに等しく保った。この供給後、それ以上の水溶液を導入せず、圧力は、低下し始めた。次いで、大気圧に達するまで反応器を脱ガスすることによって重合を止めた。コモノマーの87%の転化率が得られた。次いで、そのようにして得られたポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃で乾燥させた。
【0112】
比較ポリマー1の調製:
重合条件及び原料は、アクリル酸を全て重合の開始時に供給したことを除いて、ポリマーF-2の調製において記載されたものである。(アクリル酸溶液の代わりに)脱塩水を重合中に供給することにより、圧力を常に120バールに等しく保った。この供給後、それ以上の水を導入せず、圧力は、低下し始め、大気圧に達するまで反応器を脱ガスすることによって重合を止めた。モノマーの84%転化率に達した。次いで、そのようにして得られたポリマーを回収し、脱塩水で洗浄し、65℃で一晩中乾燥させた。T2fから、本発明者らは、T2fがF-2のものよりも高いため、F-2と比べて分布がランダムでないと結論することもできる。これは、ポリマー中のコモノマー単位の不均一分布に特有である。
【0113】
PVDFホモポリマー及びVDF-CTFEコポリマーの熱安定性
窒素下のTGAダイナミックを以下のポリマーに関して10℃/分の加熱速度で実施した。
ポリマーa:25℃においてDMF中で約0.1l/gの固有粘度を有するPVDFホモポリマー;及び
ポリマーb:25℃においてDMF中で約0.10l/gの固有粘度を有するVDF-CTFE(8.4モル%)ポリマー。
【0114】
2つのポリマーa及びbが1%、2%及び10%の重量を失う温度を記録した。結果を表1に示す。
【0115】
【0116】
結果は、VDF-CTFEポリマー、すなわちポリマーbが、PVDFホモポリマー、すなわちポリマーaと比べてより低い熱安定性を有することを示す。
【0117】
熱安定性
10℃/分の加熱速度で200℃での窒素下のTGA分析をポリマーF-1及びF-2に関して並びにポリマーA-1及びA-2に関して実施した。
【0118】
結果を表2に示す。
【0119】
【0120】
結果は、本発明のセパレータに使用するための、ポリマーF-1及びF-2が、電極のためのバインダーとして先行技術において使用されるポリマーA-1及びA-2よりも良好な熱安定性を有することを示す。
【0121】
化学安定性
ポリマーF-1の塩基性物質に対する耐薬品性をポリマーA-1のものと比較した。NMP中の0.3重量%の濃度を提供するための量でDEA(ジエチルアミン)を添加した、NMP中のポリマーの5重量%溶液に関して試験を実施した。4時間後にポリマー分解(共役二重結合の存在)をUV-可視検出器によって観察した。
【0122】
結果は、相対百分率で表すと、ポリマーF-1の分解がポリマーA-1のものに対して35%であったことを示す。
【0123】
電極の一般的な調製
本発明のセパレータで使用するためのポリマーF-1及びF-2の接着挙動を、電極バインダーとして当技術分野において一般的に使用されるもの、すなわちポリマーA-1及びA-2と比較するために、NMP中のポリマー(F-1、F-2、A-1及びA-2)の8重量%溶液の14.9g、115.4gのNMC、2.4gのSC-65及び37.7gのNMPを遠心ミキサーにおいて10分間プレミックスすることによって組成物を調製した。
【0124】
混合物を、次いで高速ディスクインペラーを2000rpmで1時間使用して混合した。そのようにして得られた組成物を、ドクターブレードを用いて20μm厚さのAl箔上にキャストし、そのようにして得られたコーティング層を90℃の温度で約70分間、真空オーブン中で乾燥させることによって正極を得た。乾燥したコーティング層の厚さは、約110μmであった。
【0125】
そのようにして得られた正極は、以下の組成を有した:97重量%のNMC、1重量%のポリマー、2重量%の導電性添加剤。
【0126】
接着剥離力方法
Al箔への乾燥したコーティング層の接着性を評価するために、20℃で300mm/分の速度において、標準ASTM D903に記載されたセットアップを用いて、上で記載されたように調製された電極に関して剥離試験を行った。結果を表3に示す。
【0127】
【0128】
上記を考慮して、ポリマーF-1(ここで、ポリマーF-1は、ポリマー主鎖中に一様に分布したモノマーAAに由来する繰り返し単位を有する)をバインダーとして使用することによって調製された電極は、重合の開始時にAAを全て一緒に添加することによって調製された、比較ポリマー1を使用することによって得られたものよりもはるかに高い金属箔への接着性を有することが見出された。
【国際調査報告】