(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】緑膿菌のOprFタンパク質に対する抗体、薬剤としてのその使用、及び前記抗体を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220930BHJP
C07K 16/12 20060101ALI20220930BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20220930BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220930BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220930BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220930BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220930BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220930BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220930BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220930BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/12 ZNA
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P31/04
A61K39/395 R
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504553
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(85)【翻訳文提出日】2022-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2020070725
(87)【国際公開番号】W WO2021013904
(87)【国際公開日】2021-01-28
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516247100
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・グルノーブル・アルプ
【氏名又は名称原語表記】Universite Grenoble Alpes
(71)【出願人】
【識別番号】522029408
【氏名又は名称】アンスティチュ・ポリテクニーク・ドゥ・グルノーブル
(71)【出願人】
【識別番号】519208029
【氏名又は名称】セントレ ナシオナル ドゥ ラ レシェルシェ サイエンティフィク
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ルノルマン,ジャン-リュック
(72)【発明者】
【氏名】ガイエ,ランドリー
(72)【発明者】
【氏名】メイユー,ジェラルディーヌ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C085AA14
4C085BA19
4C085CC23
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG08
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のOprFタンパク質に対するモノクローナル抗体、またはこの抗体の機能的断片に関する。この抗体または抗体断片は緑膿菌による感染症の予防処置又は治療処置に特に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のOprFタンパク質に対するモノクローナル抗体、又は前記抗体の機能的断片であって、前記抗体又はその機能的断片は:
― 以下のアミノ酸配列、又はこれらの配列と少なくとも80%の同一性を有する配列を有する3つの相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域:
VH‐CDR1:GYXaa
1FXaa
2Xaa
3Xaa
4G(配列番号:1)、配列中、Xaa
1はスレオニン残基又はセリン残基であり、Xaa
2はセリン残基又はアスパラギン残基であり、Xaa
3はアルギニン残基、セリン残基、又はスレオニン残基であり、Xaa
4はフェニルアラニン残基又はチロシン残基であり、
VH‐CDR2:INAXaa
5TGKXaa
6(配列番号:2)、配列中、Xaa
5はグルタミン酸残基又はアスパラギン酸残基であり、Xaa
6はアラニン残基又はセリン残基であり、
VH‐CDR3:VR、
― 及び、以下のアミノ酸配列、又はこれらの配列と少なくともと80%の同一性を有する配列を有する3つのCDRを有する軽鎖可変領域:
VL‐CDR1:SSVXaa
7TXaa
8Xaa
9(配列番号:3)、配列中、Xaa
7はスレオニン残基、アスパラギン残基、セリン残基、アラニン残基、又はアルギニン残基であり、Xaa
8はアスパラギン残基、グリシン残基、又はセリン残基であり、Xaa
9はチロシン残基又はフェニルアラニン残基であり、
VL‐CDR2:Xaa
10TS、配列中、Xaa
10はグリシン残基、アルギニン残基、又はアラニン残基であり、
VL‐CDR3:QQGXaa
11Xaa
12Xaa
13(配列番号:4)、配列中、Xaa
11はヒスチジン残基又はアスパラギン残基であり、Xaa
12はセリン残基又はスレオニン残基であり、Xaa
13はバリン残基又はイソロイシン残基である
から成ることを特徴とするモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項2】
前記Xaa
3はアルギニン残基であり、前記Xaa
6はアラニン残基であることを特徴とする請求項1に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項3】
前記Xaa
1はスレオニン残基であり、前記Xaa
5はグルタミン酸残基であり、前記Xaa
13はバリン残基であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体又は前記抗体の前記機能的断片では、
― 重鎖可変領域の前記相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%の同一性を有する配列を有し:
VH‐CDR1:GYTFSRFG(配列番号:5)
VH‐CDR2:INAETGKA(配列番号:12)
VH‐CDR3:VR
― 及び/又は前記軽鎖可変領域の前記相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%の同一性を有する配列を有する:
VL‐CDR1:SSVTTNY(配列番号:16)
VL‐CDR2:GTS
VL‐CDR3:QQGHSV(配列番号:24)
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項5】
前記モノクローナル抗体又は前記抗体の前記機能的断片では:
― 前記重鎖可変領域の前記相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%の同一性を有する配列を有し:
VH‐CDR1:GYSFSSYG(配列番号:6)
VH‐CDR2:INADTDGKS(配列番号:13)
VH‐CDR3:VR
― 及び/又は前記軽鎖可変領域の前記相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%の同一性を有する配列を有する:
VL‐CDR1:SSVTTGY(配列番号:17)又はSSVTTNY(配列番号:16)
VL‐CDR2:GTS
VL‐CDR3:QQGHTI(配列番号:25)又はQQGNTI(配列番号:26)
ことを特徴とする請求項1に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項6】
前記モノクローナル抗体又は前記抗体の前記機能的断片では:
― 前記重鎖可変領域の前記相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%の同一性を有する配列を有し:
VH‐CDR1:GYSFSTYG(配列番号:7)もしくはGYSFSRYG(配列番号:8)
VH‐CDR2:INADTGKS(配列番号:13)もしくはINADTGKA(配列番号:14)
VH‐CDR3:VR
― 及び/又は前記軽鎖可変領域の前記相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%の同一性を有する配列を有する:
VL‐CDR1:SSVNTNY(配列番号:18)、SSVTTGY(配列番号:17)もしくはSSVTTNY(配列番号:16)
VL‐CDR2:GTS
VL‐CDR3:QQGHTI(配列番号:25)もしくはQQGNTI(配列番号:26)
ことを特徴とする請求項1に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項7】
単鎖可変断片(scFv)から成ることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項8】
前記重鎖可変部と前記軽鎖可変部とは結合ペプチドにより結合していることを特徴とする請求項7に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項9】
前記モノクローナル抗体又は前記抗体の前記機能的断片は、以下の配列のペア:配列番号:28と配列番号:29、配列番号:30と配列番号:31、配列番号:32と配列番号:33、配列番号:34と配列番号:35、配列番号:36と配列番号:37、配列番号:38と配列番号:39、配列番号:40と配列番号:41、配列番号:42と配列番号:43、配列番号:44と配列番号:45、配列番号:46と配列番号:47、配列番号:48と配列番号:49、又はこれらの配列のペアの1つと少なくとも80%の同一性を有する配列のペアから選択される配列のペアから成ることを特徴とする請求項8に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項10】
キメラ抗体もしくはヒト化抗体、又は抗体断片から成ることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片をコードすることを特徴とする核酸分子。
【請求項12】
請求項11に記載の前記核酸分子を含むことを特徴とする発現ベクター。
【請求項13】
請求項11に記載の核酸分子又は請求項12に記載の発現ベクターを含むことを特徴とする宿主細胞。
【請求項14】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片を調製する方法であって、前記方法には請求項13に記載の宿主細胞の培養が含まれ、前記方法は、前記モノクローナル抗体又は前記抗体の前記断片の発現、及びこのようにして生成した前記抗体又は前記抗体の前記機能的断片の回収を可能にする条件下で行うことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片を調製する方法であって、前記方法は以下の連続した工程:
― 緑膿菌のOprFタンパク質を含むプロテオリポソームを生成する工程、
― 非ヒト哺乳動物、特にカニクイザル(Macaca fascicularis)種に前記プロテオリポソームを接種する工程、
― 前記哺乳動物の細胞から抽出したRNAから、抗体又は抗体断片のバンクを構築する工程、
― 前記プロテオリポソームに関する前記バンクを、発現技術、特にファージディスプレイによりスクリーニングする工程、
― 前記プロテオリポソームに対して反応性のあるクローンを選択する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
細菌感染症を治癒させるための医薬組成物であって、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片を活性物質として、薬学的に許容される賦形剤中に含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項17】
薬剤として使用することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項18】
緑膿菌感染症を治癒させるために使用することを特徴とする請求項17に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項19】
肺感染症を治癒させるために使用することを特徴とする請求項18に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片。
【請求項20】
個体から得た体液中で緑膿菌をインビトロ又はエキソビボで検出することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の前記機能的断片の使用。
【請求項21】
個体から得た体液中の緑膿菌をインビトロ又はエキソビボで検出するためのキットであって、請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片、及び前記モノクローナル抗体又は前記抗体の前記機能的断片を用いて、個体から得た体液中の緑膿菌をインビトロ又はエキソビボで検出する方法を実施するための説明書を含むことを特徴とするキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細菌感染症、特に緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)種の細菌などの感染症の治療分野に関する。
【背景技術】
【0002】
より詳細には、本発明は、緑膿菌のOprFタンパク質に対するモノクローナル抗体、又はこの抗体の機能的断片に関する。また、本発明は、この抗体又は抗体断片をコードする核酸分子、そのような核酸分子を含む発現ベクター、及びそのような核酸分子又はそのような発現ベクターを含む宿主細胞に関する。また、本発明は、本発明に従った抗体又は抗体断片を調製する方法、並びに、特に緑膿菌感染症の予防処置又は治療処置のための、薬剤としてのこの抗体又は抗体断片の使用に関する。本発明は更に、このような抗体又は抗体断片を含む医薬組成物に関する。本発明はまた、個体から得た体液中の緑膿菌を検出するための本発明に従った抗体又は抗体断片の使用、及びこのような抗体又は抗体断片を含む、このような検出のためのキットに関する。
【0003】
病院セクターでは、院内感染の予防及び治療が大きな課題となっている。特に、これらの感染症の原因となる病原体の抗生物質耐性が高まっていることから、これら感染症の発生率は着実に増加している。
【0004】
緑膿菌は特に、病院現場において院内感染や肺炎の主要な原因の1つである。緑膿菌は院内感染症の10%を占めていると推定されている。この病原体に罹患した人の数は非常に多く、免疫防御機能が低下している人では関連する死亡率が高い。緑膿菌は日和見菌であり、特に人工呼吸器下の患者や嚢胞性線維症の患者の急性及び慢性感染に関与しており、また免疫不全患者、中でも移植患者や重度火傷を負った患者の敗血症の原因となっている。
【0005】
院内感染の原因となっている緑膿菌株は、広範囲の抗生物質や従来の抗生物質治療に対して内因的に耐性を有することが特徴的である。この細菌はこの抗生物質耐性、及び患者の肺にバイオフィルムを形成する能力により、排除することが困難である。
【0006】
しかし、この病原体は広く流通して抗生物質耐性株が増加しているにもかかわらず、製薬業界は緑膿菌感染症に対する有効な治療法を現在まで確立していない。
【0007】
このような治療法を開発するために、先行技術では様々な治療アプローチを想定してきた。
【0008】
細菌毒性メカニズムに関する近年の研究のおかげで、緑膿菌の中でも一定数の免疫原性タンパク質が同定されている(Chevalierら、Federation of European Microbiological Societies、2017年、第41号:p.698‐722(非特許文献1))。これらの研究から、これらの免疫原は、主に鞭毛、線毛、リポ多糖、外膜タンパク質などの特定の構造的コンパートメントに位置するか、粘液状の菌体外多糖、菌体外毒素A、プロテアーゼなどの分泌物の一部を形成していることが明らかになっている。外膜タンパク質のうち、ポリンOprF及びOprIは重要な研究の対象となっている(Chevalierら、Federation of European Microbiological Societies、2017年、第41号:p.698‐722(非特許文献1))。これらのタンパク質の既知のエピトープを含むハイブリッドタンパク質が融合により生成され、動物モデルで試験している(Weimerら、Infection and Immunity、2009年、第77号(6):p.2356‐2366(非特許文献2))。
【0009】
先行技術で想定されている別の治療アプローチは、全緑膿菌株が保持する分子標的を標的とした抗体の使用に基づいている。そのため、現在、3種の抗体:III型分泌系を標的とする抗PcrV(Shionogiら、Human Vaccines & Immunotherapeutics、2016年、第12号(11):p.2833‐2846(非特許文献3))、細菌を死滅させて自然免疫系エフェクターを補充することを可能にする抗LPS抗体、並びにPcrV及びPsIアプローチを標的とする二重特異性抗体、が研究されている。
【0010】
しかし、現在、いくつかの治療アプローチが開発及び試験されているが、緑膿菌感染症がもたらす重要な公衆衛生上の問題に対処するためには、緑膿菌感染症を治療するための新たな解決策を創造する必要が依然としてある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Chevalierら、Federation of European Microbiological Societies、2017年、第41号:p.698‐722
【非特許文献2】Weimerら、Infection and Immunity、2009年、第77号(6):p.2356‐2366
【非特許文献3】Shionogiら、Human Vaccines & Immunotherapeutics、2016年、第12号(11):p.2833‐2846
【非特許文献4】Moonら、Investigative Ophthalmology & Visual Science、1988年、第29号:p.1277‐1284
【非特許文献5】Rawlingら、Infection and Immunity、1995年、第63号:p.38‐42
【非特許文献6】Langmuir、2017年、第33号、p.9988‐9996
【非特許文献7】Advanced Drug Delivery Reviews、2013年、第65号(10):p.1357‐1369
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、細菌感染症、特に緑膿菌感染症を効果的に治癒させることを可能にする治療薬を提供することであり、この治療薬は、緑膿菌の抗生物質耐性に伴う問題、及び院内感染や嚢胞性線維症患者の主な死亡原因となっているこの感染症に対する有効な治療法の欠如に伴う問題を解消する。
【0014】
この目的のために、本発明者らは、抗感染症抗体型の新規な活性剤を開発することに努め、このため本発明者らはより具体的に、分子標的として、ポリンOprFとしても知られている膜タンパク質OprFに注目した。OprFタンパク質は大口径の導電性孔を有する38kDaの巨大タンパク質であり、多数の様々な機能に関与しており、全緑膿菌株で高度に保存されている(Genbank受託番号:AFM37279.1)。OprFタンパク質は緑膿菌毒性に重要な役割を担っていることが先行技術で説明されており、抗感染症治療の有力な標的となっている。
【0015】
緑膿菌のOprFタンパク質を標的とする抗体は先行技術により提案されており、特に、文献、国際公開第2016/033547号(特許文献1)、Moonら、Investigative Ophthalmology & Visual Science、1988年、第29号:p.1277‐1284(非特許文献4)、及びRawlingら、Infection and Immunity、1995年、第63号:p.38‐42(非特許文献5)で説明されている。しかし、これらの抗体は、可溶性のOprFタンパク質断片、又は洗剤を用いて可溶化したOprFタンパク質全体のいずれかを接種して得られたものであり、即ち、細菌の膜に使用されているタンパク質の天然立体構造に対応しない形態である。そのため、これらの抗体は、細菌内でタンパク質により自然に露出した立体構造エピトープを認識できない。
【0016】
本発明者らは、OprF膜抗原を標的とした特異的な抗体又はこれらの抗体の一部がOprFタンパク質に対して、その天然線状エピトープ及び立体構造エピトープの全てで特に高い生物学的中和活性を有し、従って緑膿菌による細菌感染症に対して大きな治療効果を有することを発見した。
【0017】
緑膿菌のOprFタンパク質と特異的に結合する抗体の生成を求め、本発明者らは革新的な方法を開発し、天然膜形態のタンパク質に対して特に強い親和性を有する抗体を発見するに至った。
【0018】
この方法は、概略的には、緑膿菌のOprFタンパク質を含むプロテオリポソームから霊長類中で生成された免疫バンクから抗体を生成する工程から成る。また、この方法は緑膿菌のポリンOprF以外の抗原にも適用可能である。
【0019】
より具体的には、本発明に従った抗体又は機能的抗体断片の調製方法には、緑膿菌のOprFタンパク質が天然かつ活性な形態であるプロテオリポソームを生成し、立体構造エピトープを露出させる工程が含まれる。この工程は、緑膿菌のOprFタンパク質のコード配列を含む発現ベクターと合成リポソームとを無細胞性タンパク質合成系の存在下で接触させて反応媒体を形成することにより行う。この系はタンパク質の転写及び同時に翻訳を可能にする。その後、前記タンパク質を合成リポソームの脂質二重層に挿入し、プロテオリポソームを形成する。このような工程は特に、Maccariniらによる刊行物、Langmuir、2017年、第33号、p.9988‐9996(非特許文献6)に記載されている。緑膿菌膜OprFタンパク質を模倣したリポソームの脂質二重層は、天然立体構造及びオープンチャネル立体構造を有することに適した配向で膜中に観察される。より具体的には、プロテオリポソームにおいて、OprFタンパク質は有利にも、開口状態と閉鎖状態の2つの形態で観察され、細菌膜、又は免疫反応に対抗するために細菌が放出する小胞に天然に存在する。特に、本発明者らが行ったプロテオリポソーム分析から、OprFタンパク質は;リポソーム膜中で正しい配向にあること;8個及び16個の膜貫通通路をそれぞれ特徴とする開口及び閉鎖形態両方の膜トポロジーで膜中に存在していること;リポソーム膜中でポア/チャネルを形成していること;膜中、オリゴマー化した形態で観察されることが実証された。
【0020】
次に、本発明者らが開発した方法は、これらのプロテオトリポソームで非ヒト哺乳動物、好ましくはマカク属サル(macaque)(カニクイザル(Macaca fascicularis))を免疫する工程、次いで、免疫した検体の骨髄試料から抗体バンク、特にscFv断片のバンクを作製する工程を含む。
【0021】
発現技術、特にファージディスプレイを用いてこのscFvバンクをスクリーニングすることにより、本発明者らは陽性クローンに関連する11個を超える配列を同定することが可能となり、その配列の相補性決定領域を決定できた。よって、本発明者らは、重鎖及び軽鎖可変領域の各々の3つの相補性決定領域に対する特異的配列を有する緑膿菌のOprFタンパク質を標的とする抗体が、このタンパク質の天然エピトープに対して特に重要な親和性及び特異性を有し、前記抗体が緑膿菌感染症の治療的処置のために選択した活性物質となることを見出した。何故なら特に、その霊長類の性質により、前記抗体がヒトにおいて特に良好な許容性があるからである。本明細書では、治療とは、治癒的な治療と予防的な治療の両方を指す。このような有利な結果の獲得を支持する現象については、本明細書では早まった判断はしない。しかし、このことは、上述したように、プロテオリポソーム技術におけるOprFタンパク質発現と、マカク属サルに免疫化するためのこれらのプロテオリポソームの使用との組み合わせに少なくとも部分的に起因していると考えられる。このような組み合わせにより、緑膿菌の膜ポリンOprF、より具体的にはその天然の線形エピトープや立体構造エピトープとこれらの抗体が非常に強い親和性で特異的に結合することにより抗体領域を同定できるという結果を示唆するものは、先行技術にはなかった。
【0022】
従って、本発明の1態様によれば、緑膿菌のOprFタンパク質又はこの抗体の機能的断片を標的とした、即ち特異的に結合するモノクローナル抗体が提案される。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この抗体又は機能的断片は、以下から成る:
― 以下のアミノ酸配列、又はこれらの配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列を有する3つの相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域:
VH‐CDR1:GYXaa1FXaa2Xaa3Xaa4G(配列番号:1)、配列中、Xaa1はスレオニン残基又はセリン残基であり、Xaa2はセリン残基又はアスパラギン残基であり、Xaa3はアルギニン残基、セリン残基、又はスレオニン残基であり、Xaa4はフェニルアラニン残基又はチロシン残基であり、
VH‐CDR2:INAXaa5TGKXaa6(配列番号:2)、配列中、Xaa5はグルタミン酸残基又はアスパラギン酸残基であり、Xaa6はアラニン残基又はセリン残基であり、
VH‐CDR3:VR、
― 及び、以下のアミノ酸配列、又はこれらの配列と少なくともと80%、好ましくは85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列を有する3つのCDRを有する軽鎖可変領域:
VL‐CDR1:SSVXaa7TXaa8Xaa9(配列番号:3)、配列中、Xaa7はスレオニン残基、アスパラギン残基、セリン残基、アラニン残基、又はアルギニン残基であり、Xaa8はアスパラギン残基、グリシン残基、又はセリン残基であり、Xaa9はチロシン残基又はフェニルアラニン残基であり、
VL‐CDR2:Xaa10TS、配列中、Xaa10はグリシン残基、アルギニン残基、又はアラニン残基であり、
VL‐CDR3:QQGXaa11Xaa12Xaa13(配列番号:4)、配列中、Xaa11はヒスチジン残基又はアスパラギン残基であり、Xaa12はセリン残基又はスレオニン残基であり、Xaa13はバリン残基又はイソロイシン残基である。
【0024】
本発明の意味合いでの抗体とは、通常、重鎖及び軽鎖として公知の2種類のグリコポリペプチド鎖から成る糖タンパク質、即ち2本の重鎖及び2本の軽鎖がジスルフィド架橋により結合している抗体を意味する。それぞれの鎖は可変領域と定常領域から成る。重鎖可変領域VH及び軽鎖可変領域VLはそれぞれ、相補性決定領域(CDR)として公知の3つの超可変領域を有する。従って、本明細書において「相補性決定領域」とは、従来、抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域の3つの超可変領域のそれぞれを意味し、これらの超可変領域は、パラトロープの要素を形成し、抗原エピトープとの抗体の相補性を決定することを可能にする。これらの3つの超可変領域は、フレームワーク(FR領域)を形成する4つの定常領域により囲まれており、可変ドメインに安定した構造を与える。抗体のCDRは、抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列に基づいて、当業者に周知の基準に従って定義する。本発明に従った抗体のCDRは、より具体的にはIMGT命名法に従って決定する。
【0025】
更に、機能的な抗体断片とは、抗原に結合する能力を保持し、これにより緑膿菌のOprFタンパク質に対して元の抗体と同じ親和性を有する抗体の任意の断片を意味する。このような断片は、特にFv、scFv、Fab、Fab’、F(ab’)2断片、ナノボディ等になり得る。本発明に従った抗体断片は、元の抗体に属さないペプチド配列を含むことも可能であり、そのペプチド配列は例えば重鎖部分及び軽鎖部分などの抗体の部分間にある結合ペプチド、又はペプチドタグ、例えば当業者に周知のポリヒスチジンタグやc‐mycタグなどの、例えばその精製や検出等を可能にするC‐末端に対応する。
【0026】
また、「抗体断片」という表現には、抗体断片の多価形態、特に2つ、3つ、又は4つの断片、特に、二重特異性抗体、三重特異性抗体、四重特異性抗体などのscFvの2価、3価、又は4価の形態が挙げられる。本発明に従ったモノクローナル抗体は、二重特異性型であってもよく、より一般的には任意の多価形態を有してもよい。
【0027】
重鎖VHの可変領域と軽鎖VLの可変領域との融合タンパク質である単鎖可変断片(scFv)は本発明の範囲内で特に好ましい。これらのscFv断片は、特に、これらの可変領域の間に、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを連結する結合ペプチドを含むことが可能である。この結合ペプチドは、scFvドメイン中の任意の従来のペプチドであってもよい。好ましくは、この結合ペプチドは、少なくとも5個のアミノ酸、好ましくは約5~20個のアミノ酸から成る。この結合ペプチドは、例えば配列GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号:11)を有することが可能である。本発明に従って使用できる結合ペプチドの他の例は、Chenらの刊行物、Advanced Drug Delivery Reviews、2013年、第65号(10):p.1357‐1369(非特許文献7)(特に表3)に記載されている。
【0028】
結合ペプチドは、重鎖可変領域のN末端と軽鎖可変領域のC末端とを接続できる。好ましくは、軽鎖可変領域のN末端と重鎖可変領域のC末端とを接続する。
【0029】
scFv断片は、重鎖VHの可変領域をコードする相補的DNA(cDNA)及び軽鎖VLの可変領域をコードするcDNAから生成可能であり、これらcDNAは、例えばハイブリドーマ、細菌、無細胞系、又は本発明に従った抗体を生成する任意の他の組換えタンパク質生成系から従来のタンパク質発現技術に従って得られる。
【0030】
より一般的には、本発明に従った抗体又は抗体断片は、遺伝子組み換え又は化学合成により生成可能であり、又は、天然の供給源、特にハイブリドーマから精製することにより単離可能である。
【0031】
本発明の定義に準拠した抗体又は抗体断片は、緑膿菌のOprFタンパク質に対して高い親和性を有する。これらの抗体又は抗体断片と抗原との結合の解離定数は、特に200nM程度になり得る。これらの抗体は更に、細胞内(in cellulo)で細菌に対して高い中和力を有する。
【0032】
簡略化のため、本発明に従ったモノクローナル抗体は、本明細書では「抗体」と称し、この抗体の機能的断片を「抗体断片」又は「この抗体の断片」と称する。
【0033】
本発明によれば、参照配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列は、この参照配列に対して1つ以上の変形部分を有する配列でありながら、この参照配列において抗原親和性を有する抗体又は抗体断片をもたらす。これらの変形部分は、配列中の1つ以上のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は挿入となり得る。
【0034】
同一性の割合は、2つの配列を最適に整列させた後に得られる、比較する配列間の同一アミノ酸の割合に相当する。配列の最適な整列は、例えば、BLASTソフトウェアを使用して、当業者にとって任意の従来方法で行うことが可能である。同一性の割合は、2つの配列間でアミノ酸が同一である位置の数を決定し、その数を配列中の位置の総数で除算し、その結果に100を乗算することにより計算する。
【0035】
本発明に従った抗体又は抗体断片のCDRの配列が、上記の配列の1つ、特に配列番号:1、配列番号:2、配列番号:3、又は配列番号:4の1つに対して同一性が100%未満の割合である場合、この参照配列に対して挿入、欠失、及び/又は置換を有する可能性がある。置換の場合、その置換は、元のアミノ酸と同じファミリーのアミノ酸によって起こることが好ましく、例えば、リジン残基などの別の塩基性残基によるアルギニンなどの塩基性残基の置換、グルタミン酸などの別の酸性残基によるアスパラギン酸などの酸性残基の置換、スレオニンなどの別の極性残基によるセリンなどの極性残基の置換、イソロイシンなどの別の脂肪族残基によるロイシンなどの脂肪族残基の置換等が挙げられる。
【0036】
好ましくは、本発明に従った抗体又は抗体断片は、以下の特徴の1つ以上に準拠する。
― Xaa1はスレオニン残基であり、
― Xaa3はアルギニン残基であり、
― Xaa5はグルタミン酸残基であり、
― Xaa6はアラニン残基であり、
― 及び/又はXaa13はバリン残基である。
【0037】
好ましくは、本発明に従った抗体又は抗体断片では、重鎖VH‐CDR1のCDRに対応する配列番号:1の配列において、Xaa3はアルギニン残基であり、重鎖VH‐CDR2のCDRに対応する配列番号:2の配列において、Xaa6はアラニン残基である。
【0038】
本発明に従った抗体又は抗体断片では、更に好ましくは、重鎖VH‐CDR1のCDRに対応する配列番号:1の配列において、Xaa1はスレオニン残基であり、重鎖VH‐CDR2のCDRに対応する配列番号:2の配列において、Xaa5はグルタミン酸残基であり、軽鎖VL‐CDR3のCDRに対応する配列番号:4の配列において、Xaa13はバリン残基である。
【0039】
本発明に従った特に好ましい配列は、以下の配列である:
― VH‐CDR1の場合:GYTFSRFG(配列番号:5)、GYSFSSYG(配列番号:6)、GYSFSTYG(配列番号:7)、GYSFSRYG(配列番号:8)、GYSFNTYG(配列番号:9)、又はGYSFSTFG(配列番号:10);
― VH‐CDR2の場合:INAETGKA(配列番号:12)、INADTGKS(配列番号:13)、INADTGKA(配列番号:14)、又はINAETGKS(配列番号:15);
― VL‐CDR1の場合:SSVTTNY(配列番号:16)、SSVTTGY(配列番号:17)、SSVNTNY(配列番号:18)、SSVSTNY(配列番号:19)、SSVATGF(配列番号:20)、SSVSTSY(配列番号:21)、SSVRTGY(配列番号:22)、又はSSVSTGY(配列番号:23);
― VL‐CDR2の場合:GTS又はRTS;
― VL‐CDR3の場合:QQGHSV(配列番号:24)、QQGHTI(配列番号:25)、QQGNTI(配列番号:26)又はQQGHSI(配列番号:27)。
【0040】
本発明に従った特定の抗体又は抗体断片は以下のようなものである:
― 重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列を有し:
VH‐CDR1:GYTFSRFG(配列番号:5)
VH‐CDR2:INAETGKA (配列番号:12)
VH‐CDR3:VR
― 及び/又は軽鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列を有する:
VL‐CDR1:SSVTTNY(配列番号:16)
VL‐CDR2:GTS
VL‐CDR3:QQGHSV(配列番号:24)。
【0041】
本発明に従った他の特異的な抗体又は抗体断片は以下のようなものである:
― 重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列を有し:
VH‐CDR1:GYSFSSYG(配列番号:6)
VH‐CDR2:INADTDGKS(配列番号:13)
VH‐CDR3:VR
― 及び/又は軽鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列を有する:
VL‐CDR1:SSVTTGY(配列番号:17)又はSSVTTNY(配列番号:16)
VL‐CDR2:GTS
VL‐CDR3:QQGHTI(配列番号:25)又はQQGNTI(配列番号:26)。
【0042】
本発明に従った他の特異的な抗体又は抗体断片は以下のようなものである:
― 重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列を有し:
VH‐CDR1:GYSFSTYG(配列番号:7)もしくはGYSFSRYG(配列番号:8)
VH‐CDR2:INADTGKS(配列番号:13)もしくはINADTGKA(配列番号:14)
VH‐CDR3:VR
― 及び/又は軽鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)は、以下のそれぞれのアミノ酸配列、もしくはこれらの配列と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列を有する:
VL‐CDR1:SSVNTNY(配列番号:18)、SSVTTGY(配列番号:17)もしくはSSVTTNY(配列番号:16)
VL‐CDR2:GTS
VL‐CDR3:QQGHTI(配列番号:25)もしくはQQGNTI(配列番号:26)。
【0043】
本発明に従った特異的な抗体又は抗体断片は以下の表1に示す配列のCDRを有し、VH‐CDR3の配列はVRである:
【0044】
【0045】
本発明に従った他の特異的な抗体又は抗体断片は、以下の表2に示す配列のCDRを有し、VH‐CDR3の配列はVRである:
【0046】
【0047】
本発明に従った特異的な抗体又は抗体断片は、以下の配列のペア:配列番号:28と配列番号:29、配列番号:30と配列番号:31、配列番号:32と配列番号:33、配列番号:34と配列番号:35、配列番号:36と配列番号:37、配列番号:38と配列番号:39、配列番号:40と配列番号:41、配列番号:42と配列番号:43、配列番号:44と配列番号:45、配列番号:46と配列番号:47、配列番号:48と配列番号:49、又はこれらの配列のペアの1つと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列のペアから選択される配列のペアから成る。このペアは、配列の各々が、上記収載した複数の配列ペアのうちの1つの配列ペアの一方の配列とそれぞれ、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、及び最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有する任意の配列のペアを意味する。
【0048】
配列ペアの配列は、特にペプチド結合により互いに直接結合するか、又は結合ペプチドの配列により互いに結合できる。
【0049】
本発明に従った特定の抗体断片、特にscFv断片は、配列番号:50、配列番号:51、配列番号:52、配列番号:53、配列番号:54、配列番号:55、配列番号:56、配列番号:57、配列番号:58、配列番号:59、及び配列番号:60、又はこれらの配列の1つと少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、最も好ましくは少なくとも99%の同一性を有する配列から選択される配列を含むか、又はそれのみから成る。
【0050】
特に、これらの配列中で構成される配列(G4S)3(配列番号:11)の結合ペプチドは、他の任意の結合ペプチドで置換することが可能である。
【0051】
好ましくは、本発明に従った抗体又は抗体断片の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域はマカク属サル(カニクイザル)由来のものである。また、重鎖定常領域及び/又は軽鎖定常領域についても同様である。マカク属サルは特に、ヒトと遺伝子配列の相同性が非常に高いという利点がある。その他、これらの領域の1つ以上はトランスジェニック動物から得ることが可能である。
【0052】
好ましくは、本発明に従った抗体又は抗体断片は、アミノ酸配列、配列番号:73を持たない。特に、本発明に従った抗体又は抗体断片は、配列番号:74の配列を有する軽鎖可変領域、又は配列番号:75の配列を有する軽鎖可変領域CDR、即ち、配列SSVXaa7TXaa8Xaa9(配列番号:3)の軽鎖可変領域CDRを含まない。その配列中、Xaa7、Xaa8、及びXaa9は上記で定義したとおりであるが、Xaa7及びXaa8は、同時に、Xaa7についてはアスパラギン残基ではなく、Xaa8についてはセリン残基ではない。
【0053】
本発明に従った抗体又は抗体断片は、ハイブリドーマ、特にマカク属サルから生成された抗体のパラトープを含む組換え抗体又は抗体断片とすることが可能であり、その組換え抗体又は抗体断片の定常領域はヒトに関する免疫原性を最小限にするように改変されている。例えば、その組換え抗体又は抗体断片は、キメラ抗体もしくは抗体断片、又はヒト化抗体もしくは抗体断片である。
【0054】
本明細書において、キメラ抗体又は抗体断片とは、従来、ある種の抗体に由来する天然の可変領域を、この種とは異種の抗体の定常領域と共に含む抗体又は抗体断片を意味する。このような抗体は、例えば遺伝子組み換えにより調製できる。
【0055】
本発明に従ったキメラ抗体又は抗体断片では、重鎖定数領域及び/又は軽鎖定数領域が含まれる場合、重鎖定数領域及び/又は軽鎖定数領域はヒト由来であり、可変領域はその一部がマカク属サル由来であることが好ましい。
【0056】
ヒト化抗体又は抗体断片は、非ヒト哺乳動物抗体、好ましくは本発明によればマカク属サル由来のCDR、及びヒト抗体由来のフレームワーク領域FR及びCから成る。いずれの修飾が所与の抗体をヒト化できるかを決定することは当業者の技術の範囲内にある。例えば、このヒト化は、配列番号:61の配列(ヒトIgG1、G1m1、17アロタイプ)の重鎖定常との融合により実施できる。
【0057】
また、本発明の範囲には、例えばエフェクター機能の一部を最適化するために緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性を維持しつつ修飾した抗体又は抗体断片も含まれる。修飾は、アミノ酸残基又はペプチド結合に行うことが可能である。このような修飾の例としては、ポリエチレングリコールの結合が挙げられる。
【0058】
本発明の別の態様は、本発明に従った前記抗体のモノクローナル抗体又は機能的断片をコードする核酸分子に関する。
この核酸分子は、例えば配列番号:62~配列番号:72の配列から選択される配列を有することが可能である。これらの配列は本発明に従った抗体断片をコードし、その断片中、配列(G4S)3(配列番号:11)の結合ペプチドは重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを連結する。
【0059】
本発明はまた、本発明に従った核酸分子を含む発現ベクターに関する。この発現ベクターは、遺伝子工学で使用するための自体公知の任意のタイプのベクター、特にプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージとすることが可能であり、これらは本発明に従った抗体又はこの抗体の機能的断片をコードする配列の転写及び翻訳に必要な要素を含む。
【0060】
本発明はまた、本発明に従った核酸分子又は発現ベクターを含む宿主細胞に関する。この宿主細胞は等しく良好に、特に抗体もしくはこの抗体の機能的断片の大量生産のための原核細胞、特に細菌、又は下等もしくは高等真核生物、例えば酵母、無脊椎動物もしくは哺乳動物になり得る真核細胞とすることが可能である。特に、本発明の範囲には、本発明に従った抗体又はこの抗体の機能的断片を、安定的に、誘導的又は構成的に、そうでなければ一過性に発現する細胞株が含まれる。
【0061】
本発明に従った抗体又は抗体断片は、当業者に公知の任意の従来方法により生成できる。特に、遺伝子組み換えや化学合成により得られる。
【0062】
本発明の具体的な実施によれば、本発明に従った抗体又は抗体断片を調製する方法には、本発明に従った宿主細胞、即ち本発明に従った抗体又は抗体断片をコードする核酸分子、又はそのような核酸分子を含む発現ベクターの培養が含まれ、この方法は、前記モノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片の発現、及びこのようにして生成した抗体又はこの抗体の機能的断片の回収を可能にする条件下で行う。
【0063】
本発明に従った抗体又は抗体断片を調製するための代替方法も本発明の範囲内であり、この方法は、特に緑膿菌のOprF抗原を、任意にフロイントのアジュバントと共に非ヒト哺乳動物に接種し、この抗原に対して親和性を有する抗体を生成するハイブリドーマをスクリーニングすることにより行い、本発明に従った抗体又は抗体断片は、その配列を分析することにより同定する。この目的のために、接種に使用されるOprFタンパク質は、上記で引用したMaccariniらの刊行物に記載されているようなプロテオリポソームの形態である。
【0064】
接種は任意の経路、特に皮下注射、筋肉内注射、静脈注射、腹腔内注射等で行うことが可能である。数日間隔で1回又は複数回の注射を行うことが可能である。
【0065】
本発明の特定の実施形態に従った抗体又は抗体断片を調製する方法は、以下の連続した工程を含む:
― 緑膿菌のOprFタンパク質を含むプロテオリポソームを生成する工程。この工程は、無細胞タンパク質合成系の存在下で、緑膿菌のポリンOprFのコード配列を含む発現ベクターと、合成リポソーム、特に定義した脂質組成物とを接触させて反応媒体を形成することにより実施可能であり、この系は、例えば細菌溶菌液、又は酵母、哺乳動物細胞、小麦胚芽、もしくは他の任意の生物供給源から得た他の任意の溶菌液から任意に得られ、この系は、例えば上述のMaccariniらの刊行物に記載のプロトコルに従って、タンパク質の転写及び同時翻訳を可能にする;
― 非ヒト哺乳動物、特にカニクイザル種に前記プロテオリポソームを接種する工程;
― 前記哺乳動物のBリンパ球から抽出したRNAから、抗体又は抗体断片、特にscFvのバンクを構築する工程;
― 前記プロテオリポソームに関する前記バンクを、発現技術、特に例えばファージディスプレイ及び酵素結合免疫吸着検定(ELISA)によりスクリーニングする工程;
― プロテオリポソーム標的に対して反応性のあるクローンを選択して回収する工程。
【0066】
本発明によれば、ELISAで測定したプロテオリポソーム標的に対するクローンの解離定数が10μM以下である場合、クローンはプロテオリポソーム標的に対して反応性があると考える。
優先的に、前記方法は、このようにして選択されたプロテオリポソームに対して反応性のあるクローンの場合、クローンの余剰分を配列決定により単離して実証する工程を含む。
【0067】
前記哺乳動物のBリンパ球から抽出したRNAから、抗体又は抗体断片、特にscFvのバンクを構築することには、例えば、抗体の可変ドメインVLk、VLλ、及びVHをコードするメッセンジャーRNA(mRNA)を逆転写及びポリメラーゼ連鎖反応(RT‐PCR)により増幅すること、ファージミドベクターにおける可変ドメインVLk、VLλ及びVHの順次クローニングによるscFvのバンクを構築すること、並びにファージ、特にInvitrogen(登録商標)社製のファージM13KO7においてscFvのバンクをカプセル化及び増幅することが含まれる。
【0068】
本発明に従った抗体又は機能的抗体断片を調製する方法は、この抗体又は抗体断片の少なくとも1つのCDR配列をヒト抗体のフレームワーク領域FRに移植することにより非ヒト哺乳動物から生成された抗体又は抗体断片をヒト化する工程を含むことが可能である。
更に、前記方法は、非ヒト哺乳動物から生成された抗体又は抗体断片の1つ以上のアミノ酸の置換、挿入及び/又は欠失を含むことが可能である。
【0069】
本発明に従った抗体又は抗体断片により、細菌感染症、特に緑膿菌感染症の治療に特に有利な用途を見出せる。
従って、別の態様によれば、本発明は、細菌感染症、特に緑膿菌感染症、特に急性及び慢性肺感染症を治癒させるための医薬組成物、特にワクチン組成物に関する。この組成物は、活性物質としての本発明に従ったモノクローナル抗体又は前記抗体の機能的断片を、薬学的に許容される賦形剤中に含む。
【0070】
本発明に従った医薬組成物は、哺乳動物への投与に適した任意の剤形、特に経口又は非経口投与に適した剤形にすることが可能である。特に、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、又は経鼻投与、又は吸入に適した剤形にすることが可能である。
賦形剤は、特にワクチン組成物の分野で自身公知の任意の従来の賦形剤から構成することが可能である。賦形剤は、特に水性賦形剤から構成することが可能である。
【0071】
本発明に従った医薬組成物は更に、自体公知の任意の従来の添加剤、並びに任意に他の活性物質を含むことが可能である。
本発明に従った医薬組成物に使用可能な添加剤として、界面活性剤、特にポリソルベートタイプの界面活性剤、溶媒又は安定化剤、例えばグリシン、アルギニン等を挙げることが可能である。
【0072】
本発明の別の態様は、特に細菌感染症、特に緑膿菌感染症、特に呼吸器系感染症、特に肺感染症、特に急性及び慢性肺感染症を治癒させるために、モノクローナル抗体又はこの抗体の機能的断片を薬剤として予防又は治療のために使用することに関する。
この使用は、前記抗体もしくは抗体断片、又はこれを含む医薬組成物を、治療有効量で哺乳動物、特にヒトに投与する工程を含む。
【0073】
この投与は、任意の経路で行うことが可能である。投与は、好ましくは経口投与もしくは非経口投与、特に静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、もしくは皮下注射、又は経鼻投与もしくは吸入により行う。
本発明に従った抗体又は抗体断片は、治療対象者に単回投与、又は数回投与、特に数日の間隔をおいて投与することが可能である。
【0074】
有効量、投与期間、及び投与回数は、治療対象の個体、特に年齢、体重、症状等に依存する。正確な治療条件の決定は、施術者の権限の範囲内である。
例えば、本発明に従った抗体又は抗体断片の治療有効量は、単回投与の場合、1~1000mgとすることが可能である。
【0075】
本発明に従った抗体又は抗体断片は、それを必要とする任意の個体、特に細菌感染症、特に緑膿菌感染症に罹患した任意の個体を治療するために、又は、そのような感染症に罹患する可能性の高いリスクを伴う任意の個体、例えば免疫低下状態の患者、嚢胞性線維症患者、人工呼吸下にある患者、もしくは重度の火傷を負った患者などを入院中に予防するために使用できる。このような予防的治療を行うことで、緑膿菌感染症のリスクを大幅に排除できるようになる。
【0076】
本発明はまた、本発明に従った抗体又は抗体断片の他の用途、例えば緑膿菌のOprFタンパク質の検出、及び任意に精製に関する。
従って、本発明は、生物学的流体、特に個体、特にヒト又は動物の個体から得た体液中で緑膿菌をインビトロ又はエキソビボで検出するための、本発明に従ったモノクローナル抗体又は機能性抗体断片の使用に関する。これにより、体液は前記個体から抽出されることになる。
この検出は、当業者に自体公知の任意の従来技術により、例えば、ウェスタンブロット、フローサイトメトリー、表面プラズマ共鳴、ELISA等により行うことが可能である。
【0077】
本発明の別の態様は、生物学的流体、特に個体、特にヒト又は動物の個体由来の体液における緑膿菌を検出するための診断キットに関する。このキットは、本発明に従った抗体又は機能性抗体断片、及びこのモノクローナル抗体又は機能性抗体断片により個体から得られた体液中の緑膿菌をインビトロ又はエキソビボで検出する方法を実施するための説明書を含む。
このキットは、このような検出方法を使用するための自体公知の従来の任意の試薬も含むことが可能である。
本発明に従った抗体又は抗体断片は他に、二重特異性抗体を調製するために使用できる。
【0078】
本発明の特徴及び利点は、
図1~
図15を参照して、以下の実装の例に照らして、より明確になるものであり、これらは単に説明のために提供するものであり、本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】
図1は、緑膿菌のOprFタンパク質を含むプロテオリポソームで免疫した後、0日目、24日目、38日目にマカク属サルから採取した血清(OPRF D0、OPRF D24、OPRF D38)、及びウシ血清アルブミンで免疫した後、38日目にマカク属サルから採取した血清(BSA D38)に対して実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を血清希釈率の関数として示したグラフである。
【
図2】
図2は、本発明に従った緑膿菌のOprFタンパク質に対する6つのscFv断片の配列を示しており、6つのCDRに対応する配列、及び重鎖可変領域を軽鎖可変領域に結合する結合ペプチドの配列には下線が引かれており、 ― これらの配列では、慣例的にN末端が左側に、C末端が右側にある。
【
図3】
図3は、本発明に従った緑膿菌のOprFタンパク質に対する他の5つのscFv断片の配列を示しており、6つのCDRに対応する配列、及び重鎖可変領域を軽鎖可変領域に結合する結合ペプチドの配列には下線が引かれており、 ― これらの配列では、慣例的にN末端が左側に、C末端が右側にある。
【
図4】
図4は、本発明に従ったscFv断片の異なる希釈液(E2)、及び陰性対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)において実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を希釈率の関数として示したグラフである。
【
図5】
図5は、本発明に従ったscFv断片の異なる希釈液(E5)、及び陰性対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)において実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を希釈率の関数として示したグラフである。
【
図6】
図6は、本発明に従ったscFv断片の異なる希釈液(F8)、及び陰性対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)において実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を希釈率の関数として示したグラフである。
【
図7】
図7は、本発明に従ったscFv断片の異なる希釈液(G9)、及び陰性対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)において実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を希釈率の関数として示したグラフである。
【
図8】
図8は、本発明に従ったscFv断片の異なる希釈液(E3)、及び陰性対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)において実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を希釈率の関数として示したグラフである。
【
図9】
図9は、本発明に従ったscFv断片の異なる希釈液(E7)、及び陰性対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)において実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を希釈率の関数として示したグラフである。
【
図10】
図10は、本発明に従ったscFv断片の異なる希釈液(F10)、及び陰性対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)において実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を希釈率の関数として示したグラフである。
【
図11】
図11は、本発明に従ったscFv断片の異なる希釈液(F3)、及び陰性対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)において実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を希釈率の関数として示したグラフである。
【
図12】
図12は、本発明に従ったscFv断片の異なる希釈液(F4)、及び陰性対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)において実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を希釈率の関数として示したグラフである。
【
図13】
図13は、本発明に従ったscFv断片の異なる希釈液(A1)、及び陰性対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)において実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を希釈率の関数として示したグラフである。
【
図14】
図14は、本発明に従ったscFv断片の異なる希釈液(A8)、及び陰性対照としてのウシ血清アルブミン(BSA)において実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を希釈率の関数として示したグラフである。
【
図15】
図15は、E7、F8、F10、及びG9と称する本発明に従った4つのscFv断片それぞれにおいて実施したELISA試験(緑膿菌のOprFタンパク質に対する親和性)での、450nmの光学密度を濃度の関数として示したグラフである。
【
図16】
図16は、本発明に従ったscFv断片(F8、G9、E7)の緑膿菌(「Pa」)によるマクロファージ(「Ma」)の感染に対する中和力を、乳酸脱水素酵素活性を検定することにより判定する細胞内試験において、490nmの吸光度から680nmの吸光度を差し引いた値(「A490-A680nm」)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0080】
A/ 緑膿菌のOprFタンパク質を含むプロテオリポソームの生成
OprFを発現する組換えベクターの構築
OprFがN末端ポリヒスチジンタグから成る組換えベクターpIVEX2.4‐OprFは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅した緑膿菌のゲノムDNAから増幅したOprF遺伝子を、発現ベクターpIVEX2.4d(Roche Diagnostics社)中で以下のプライマーを用いてクローニングすることにより構築する:
センス 5’‐GGAATTCCATATGAAACTGAAGAACACCTTAG‐3’(配列番号:76)
アンチセンス 5’‐TAGAAGCTGAAGCCAAGTAACTCGAGTAACGC‐3’(配列番号:77)
【0081】
この目的のために、高忠実度DNAポリメラーゼを用いて30回のPCRサイクルを実施する。次いで、このようにして得られたPCR生成物をQIAquickゲルキット(Qiagen社)を用いて精製した後、制限酵素NdeI、XhoI(Roche Diagnostics社)で消化し、再度1回精製した後、Rapid DNAライゲーションキット(Roche Diagnostics社)を用い、酵素NdeI及びXhoIで事前に消化したプラスミドベクターpIVEX2.4d(Roche Diagnostics社)中に結合させる。得られた組換えプラスミドpIVEX2.4‐OprFは、ベクターpIVEX2.4dのポリヒスチジンタグと同位相でOprFをコードする遺伝子が挿入されていることを確認するために、シーケンシング(LGC Genomics社)により検証する。
【0082】
リポソーム調製
事前にクロロホルムに可溶化した脂質組成物を乾燥させることにより、以下の異なる脂質組成物(LC)についてリポソームを調製する。
― 脂質組成物1(LC1):コレステロール、1,2‐ジオレオイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホコリン(DOPC)、1,2‐ジオレオイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホエタノールアミン(DOPE)、1,2‐ジミリストイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスフェート(ナトリウム塩)(DMPA)、モル比[2:4:2:2];
― LC1’:LC1+1mg/mLモノホスホリル脂質A(MPLA);
― LC2:1‐パルミトイル‐2‐オレオイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホエタノールアミン(POPE)、1‐パルミトイル‐2‐オレオイル‐sn‐グリセロ‐3‐ホスホ‐(1’‐rac‐グリセロール)(ナトリウム塩)(POPG)、大腸菌(E.coli)カルジオリピン(CL)、モル比[6:2:2];
― LC2’:LC2+1mg/mL MPLA;
― LC3:POPE、POPG、大腸菌CL、DMPA、モル比[6:2:1:1];
― LC3’:LC3+1mg/mL MPLA(Avanti Polar Lipids社)
【0083】
乾燥は窒素下での蒸発により行われる。クロロホルムの微量残渣は真空ポンプを用いて除去する。脂質膜を500μlのトリス溶液(50mM、pH7.5)中でボルテックスにより水和させた後、液体窒素中で4回の凍結/解凍サイクルに供する。この脂質混合物を押出機(Avanti Polar Lipids社)を用いて押し出し、平均寸法が約200nmのリポソームを生成する。こうして得たリポソームを4℃で保存する。
【0084】
無細胞系におけるOprFを含むプロテオリポソームの生成及び精製
異なるリポソーム組成物(LC1、又はLC2、又はLC3もしくはLC1’、又はLC2’もしくはLC3’)の存在下、Biotechrabbit社製RTS500 ProteoMaster E.coli HY無細胞タンパク質合成キットを用い、緑膿菌のOprF膜タンパク質を合成する。この目的のために、ポリヒスチジンタグ(6×His)と融合したOprFタンパク質をコードする遺伝子を含む組換えプラスミドpIVEX2.4‐OprFを、15μg/mlの濃度で、6つの脂質組成物LC1~LC3’のうちの1つに由来するリポソーム1~4mg/mlの存在下で、キットの細胞溶菌液に添加する。OprF組換えタンパク質を含むプロテオリポソームは、反応量/容器量が1:30の割合で、攪拌下(300rpm)、25℃で16時間かけて生成する。次に、得られた組換えプロテオリポソームを2工程で精製する:
― 初めに、pH7.5のトリス緩衝液50mM中、0~40%のショ糖勾配において、勾配の頂部で反応混合物が沈殿し、次いでTH‐641ロータを用いて287.660gで2時間遠心分離する。勾配の頂部から1mlの画分を採取し、HRPセイヨウワサビペルオキシダーゼ(Sigma社)を結合した抗ヒスチジン抗体を用いてウェスタンブロットで分析する。
- その後、OprFを含有するプロテオリポソームを含む各画分に50mM pH7.5のトリス緩衝液を1ml添加し、その溶液を30,000gで4℃、30分間遠心分離し、プロテオリポソームのペレットを形成する。このペレットを5MのNaCl溶液で、4℃で30分間2回洗浄した後、50mM pH7.5のトリス溶液に所望の濃度で再懸濁する。試料の純度はクマシーブルーで染色したSDS‐PAGEゲルで分析する。
緑膿菌のOprFタンパク質を含むプロテオリポソームが得られる。
【0085】
B/ scFv断片のバンクの調製及びスクリーニング
動物の免疫化
緑膿菌OprFの細菌膜抗原標的を標的としたscFv断片は、マカク属サル(カニクイザル)において、脂質組成物LC1から得たプロテオリポソームを用いた免疫化からD0、D14、D28、D50日目に得る。このマカク属サルは他の類似した動物と共に、他の種が存在しない無菌状態で飼育されている。最初の注射の前に、動物の生理的状態を確認するために血液検査を行う。滅菌したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の100μgの組成物LC1をフロイントのアジュバントと50/50で混合したもの(最初の注射は完全、その後の注射は不完全)を、以下のプロファイルに従って、動物の肩甲骨部の2箇所に皮下注射する(1箇所につき250μl):0日目、14日目、28日目、50日目に投与。
D0、D24、D38日目に採取した血清において免疫酵素検定(ELISA)により免疫応答を分析し、OprF膜抗原標的を標的とする抗体の滴定を行う。麻酔をかけた動物に最終注射(D50)を行った後、D53、D60、D67、及びD74日目に骨髄試料を採取する。
【0086】
血清滴定
書籍「Phage Display」、Methods and Protocols、Springer Protocols、「Construction of Macaque Immune Libraries」の章、Arnaud Avrilら、Methods in Molecular Biology、2018年;第1701号:p.83‐112、doi:10.1007/978‐1‐4939‐7447‐4_5に記載されているプロトコルに従って、免疫前血清及び免疫血清の一連の希釈液(100、1000、10,000、1,000,000、10,000,000、及び100,000,000の希釈)を使用し、免疫後の体液応答を間接的ELISA法により分析する。簡単に言えば、プロテオリポソーム形態のOprF膜抗原、又はウシ血清アルブミン(BSA)などの陰性対照を、初めにELISAプレートの底部に沈殿させ、4℃で16時間インキュベートする。飽和工程(2%の乾燥ミルクを200μlのPBSリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁)の後、希釈した各血清(PBS/Tween(登録商標)0.05%/BSA0.5%中、初めは1:100、次いで1:10)を、OprF抗原又は陰性対照(BSA)に対して37℃で2時間、並行して試験する。その後、HRPセイヨウワサビペルオキシダーゼを接合した二次抗マカク属サルFc抗体を用い、ウェルに色が現れるまでテトラメチルベンジジン(TMB)を添加し、OprFに対する特異的な抗体を検出する。結果は、450nmの光学密度を読み取ることで分析する。
OprFを含むプロテオリポソームでの免疫化後のD0、D24、及びD38日目に採取した血清、並びにBSAでの免疫化のD38日目に採取した血清について、得られた結果を
図1に示す。
D38日目には、1:200000の力価が観察され、これは本方法の他の指標とも矛盾がない。
【0087】
骨髄採取及びBリンパ球単離
麻酔をかけた動物から骨髄試料を採取する。試料はMallarmeトロカールを用いて、大腿骨の転子窩及び上腕骨の結節から採取する。各試料は、10~15%のクエン酸溶液を入れた50mlのFalcon(登録商標)チューブに採取する。D53、D60、D67、及びD74日目に約5mlの試料を得る。その後、各試料を500g(1500rpm)、4℃で10分間遠心分離する。上清を取り出し、クライオチューブに入れた後、-20℃で保存する。その後、Trizol/Chloroform技術で各骨髄の全RNAを抽出し、分光光度計を用いて260nm及び280nmの光学密度(OD)を読み取ることで定量する。
得られた結果を以下の表3に示す。
【0088】
【0089】
可変部VLκ、VLλ、及びVHをコードするRNAのRT‐PCR増幅
骨髄試料の各々について、重鎖及び軽鎖の可変ドメインG及びκ/λをコードするメッセンジャーRNA(mRNA)を逆増幅し、特定のプライマーを用いて相補的DNA(cDNA)のバンクを得る。このことは、Avrilらの刊行物、Methods in Molecular Biology、2018年、第1701号:p.83‐112に記載されている。
増幅の特質は、アガロースゲル電気泳動により制御する。
D53~D74日目に得られたcDNAバンクから増幅したPCR生成物は、供給元のプロトコルに従ってプラスミドpGemT(Promega社)にクローニングし、確実なクローンのバンクを得る。
【0090】
scFv断片のバンクの構築
D53日目及びD60日目に得られたDNAから、2つのバンク(D53日目及びD60日目のそれぞれ1つ)を、供給元のプロトコルに従って、最初にVL断片をファージミドベクターpTh1(Addgene社)に挿入し、次にVH断片を挿入することにより、順次クローニングして構築し、VH‐[(G4S)×3(配列番号:11)]‐VL‐6×ヒスチジン‐EQKLISEEDL(配列番号:MM)の形式の構造を得る。ここでは、VH断片のC末端をVL断片のN末端に結合し、そのC末端にポリヒスチジンタグ(配列番号:79)及びc‐mycタグ(配列番号:78)を含む結合ペプチドGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号:11)により、VH断片とVL断片とが結合している。
D53日目に得られたDNAについては、1.5.107CFU(75%フルサイズのインサート)のバンクが得られる。D60日目に得られたDNAについては、1.107CFU(100%フルサイズのインサート)のバンクが得られる。
【0091】
ファージディスプレイ技術を用いたscFv断片バンクのスクリーニング ― 緑膿菌のOprFタンパク質に親和性を有する断片の同定
供給元のプロトコルに従って、バンクをファージM13Ko7(米国環境調整事務局(Nebb))中にカプセル化し、増幅する。
ファージミドに含まれるscFvバンクは、96ウェルプレートに固定したOprF膜抗原を含むプロテオリポソームに対する選定を4ラウンド行う。
【0092】
スクリーニングのプロトコルは以下の通りである:マイクロ滴定プレートに標的抗原を、PBS中10μg/mlの濃度で、4℃で一晩コーティングする。その後、プレートをPBS中の3%BSAにより37℃で2時間ブロッキングし;洗浄後、バンクを37℃で更に2時間インキュベートする。第1ラウンドでは、0.1%Tween(登録商標)20を含むPBSを用いてプレートを2回洗浄し、各洗浄の間に5分間の間隔を置く。最後に、プレートを洗浄し、滅菌PBSですすぎ、トリプシン(PBS中10mg/ml)を用いて37℃で30分間ファージを溶離する。溶離したファージは、テトラサイクリン(10μg/ml)及びカルベニシリン(50μg/ml)を添加したSB(Super Broth)培地で培養した大腸菌(SURE株、Stratagene社)の感染に使用する。新たなファージ粒子を生成するために、感染株を補助ファージと共感染させ、テトラサイクリン(10μg/mL)、カルベニシリン(50μg/mL)、及びカナマイシン(70μg/mL)を添加したSB培地中、30℃で一晩培養する。PEG/NaCl(4%(w/v)PEG‐8000、3%(w/v)NaCl)を用いてファージ粒子を析出させ、次のサイクルに使用する。第2ラウンドを上記と同様に実施する。第3ラウンドで得た感染株をペトリ皿中のSB培地で培養し、スクリーニングに使用する。
【0093】
各ラウンドの後、OprFと相互作用したファージのみが溶離する。OprF標的に対する選定の各ラウンド後のファージの反応性は、ELISA検定により試験する。第1選定ラウンドと第4ラウンドとの間で、ファージは30倍のシグナル増加を示し、OprFに対して反応性のあるscFvが多いことが分かる。
【0094】
第2、第3、第4選定ラウンドで単離した96個のクローンを採取し、可溶性scFvの生成に使用する。これらのクローンから57個の陽性クローンを選定し、そのうち15個を保存する。前記57個のクローンのヌクレオチド及びペプチド配列を分析して、いくつかの配列の潜在的な余剰分を決定する。43配列が、不必要かつ非組み換えの配列であることが判明した。これら43配列のうち、11配列を以下のプロトコルに従って大腸菌細菌中で生成する:選定プロセス後に単離したファージミドDNAを用いて、可溶性scFv断片を発現するように非抑制性大腸菌株を形質転換する。無作為に選択した形質転換体の単一コロニーを使用し、カルベニシリンを添加したSB培地5mlに植菌する。培養物を強く攪拌(250rpm)しながら37℃で一晩インキュベートする。次に、カルベニシリンを添加したSB培地500mlに各培養物500μlを植菌する。培養物は、600nmでの光学密度が1.5に達するまで30℃で培養する。その後、IPTG(1mM)を一晩かけて添加し、22℃で遺伝子発現を誘導する。2500gで、4℃、15分間遠心分離して細胞を回収する。scFvをポリミキシンB硫酸塩で抽出し、メーカー説明書に従ってニッケルカラム(Ni‐NTAカラム、Qiagen社)で精製した後、PBSに対して透析する。
【0095】
その後、生成された対応するscFvを精製し、ELISA法によりOprF標的に対する親和性を確認する。
これら11個のscFv断片は、以下の表4に示す配列から成る。
【0096】
【0097】
これらの配列は、ポリヒスチジンタグ(配列番号:79)及びc‐mycタグ(配列番号:78)により、そのC末端で延長されている。
これらのscFv断片は全て、以下から成る:
― 以下のアミノ酸配列を有する3つの相補性決定領域(CDR)を有する重鎖可変領域:
VH‐CDR1:GYXaa1FXaa2Xaa3Xaa4G(配列番号:1)、配列中、Xaa1はスレオニン残基又はセリン残基であり、Xaa2はセリン残基又はアスパラギン残基であり、Xaa3はアルギニン残基、セリン残基、又はスレオニン残基であり、Xaa4はフェニルアラニン残基又はチロシン残基であり、
VH‐CDR2:INAXaa5TGKXaa6(配列番号:2)、配列中、Xaa5はグルタミン酸残基又はアスパラギン酸残基であり、Xaa6はアラニン残基又はセリン残基であり、
VH‐CDR3:VR、
― 及び、以下のアミノ酸配列を有する3つのCDRを有する軽鎖可変領域:
VL‐CDR1:SSVXaa7TXaa8Xaa9(配列番号:3)、配列中、Xaa7はスレオニン残基、アスパラギン残基、セリン残基、アラニン残基、又はアルギニン残基であり、Xaa8はアスパラギン残基、グリシン残基、又はセリン残基であり、Xaa9はチロシン残基又はフェニルアラニン残基であり、
VL‐CDR2:Xaa10TS、配列中、Xaa10はグリシン残基、アルギニン残基、又はアラニン残基であり、
VL‐CDR3:QQGXaa11Xaa12Xaa13(配列番号:4)、配列中、Xaa11はヒスチジン残基又はアスパラギン残基であり、Xaa12はセリン残基又はスレオニン残基であり、Xaa13はバリン残基又はイソロイシン残基である。
【0098】
これらのscFv断片は全て本発明に従ったものである。
これらのscFv断片の各配列は、A1、A8、E2、E3、E5、E7については
図2に、F3、F4、F8、F10、G9については
図3に示す。図中、CDR配列には下線が引かれている。従って、左から右に向かって重鎖可変領域のCDRの連続配列が視認でき(VH‐CDR1、続いてVH‐CDR2、続いてVH‐CDR3)、そして軽鎖可変領域(VL‐CDR1、続いてVL‐CDR2、続いてVL‐CDR3)が続く。また、3つのCDRトリプレット間で、結合ペプチド配列にも下線が引かれている。
【0099】
C/ 緑膿菌のOprFタンパク質に対する本発明に従ったscFv断片の親和性の分析
上記で生成した11個のscFv断片を精製する。
以下の量の本発明に従った各scFv断片を得る:0.346mg/mlのE2、0.401mg/mlのE3、0.559mg/mlのE5、0.453mg/mlのE7、0.387mg/mlのF4、0.436mg/mlのF3、0.333mg/mlのF8、0.403mg/mlのF10、0.570mg/mlのG9、0.385mg/mlのA1、及び0.626mg/mlのA8。
プロテオリポソーム形態のOprF標的に対するこれらのscFv断片の親和性を確認するために、以下のように、MaxiSorp(登録商標)プレート上でELISA検定を実施する。
200μlのPBSリン酸緩衝生理食塩水に懸濁した2.5%の乾燥ミルクでプレートを飽和させる。
scFv断片を、PBS/0.05%Tween(登録商標)‐20/0.5%BSA中、異なる希釈率:1:20、1:40、1:80、1:160、1:320、1:640、1:1280でインキュベートする。検出は、セイヨウワサビペルオキシダーゼと結合した抗c‐mycタグ二次抗体を用いて行う。450nmの光学密度を記録する。
【0100】
本発明に従った断片で得られた結果、及び陰性対照(BSA)で得られた結果を、E2については
図4、E5については
図5、F8については
図6、G9については
図7、E3については
図8、E7については
図9、F10については
図10、F3については
図11、F4については
図12、A1については
図13、A8については
図14に示す。
本発明に従ったscFv断片の全てが、緑膿菌のOprFタンパク質に対して高い親和性を有することが分かる。
例として、解離定数Kdは、ELISA法によりscFv断片E7、F8、F10、及びG9について決定する。
【0101】
この目的のために、固定用緩衝液(0.1Mの炭酸ナトリウム、0.1Mの重炭酸ナトリウム)に含まれる100μlのOprFプロテオリポソーム(OprF濃度1μg/ml)を、96ウェルプレート(Thermo Scientific(登録商標)社)のウェルの底部に、撹拌下、4℃で一晩かけて固定する。その後、5%のミルクを含む100μlのTBS Tween(TBST)緩衝液によりウェルを21℃で1時間ブロックする。100μlのTBST緩衝液でウェルを洗浄した後、100μlのscFv断片(E7、F8、F10、又はG9)を、TBST緩衝液中1:50、1:200、1:400、1:800、1:1600、及び1:3200に希釈して、対応するウェルに添加し、攪拌下、37℃で1時間インキュベートする。ウェルを洗浄した後、100μlの抗c‐myc‐Peroxidase抗体(Roche社)(5%のミルクを含むTBST緩衝液中、1:10000に希釈)をウェルに添加し、撹拌下、37℃で1時間インキュベートする。ウェルを3回洗浄した後、50μlのTMBをウェルに添加し、プレートを遮光して周囲温度で約15分間インキュベートする。その後、50μlの1M塩酸を添加し、各ウェルの吸光度を450nmで測定する。次いで、これらの吸光度データを、GraphPad Prismソフトウェア(非線形回帰分析、「1部位特異的結合」式)を用いて分析し、試験した各scFv断片の解離定数Kdを算出する。比較のため、緩衝液のみでの測定も行う。
断片E7、F8、F10、及びG9の各々について得られた結果を
図15に示す。
このようにして求めた解離定数Kdの値を以下の表5に明記する。
【0102】
【0103】
これらの結果から、緑膿菌のOprFタンパク質を含むプロテオリポソーム標的に対する本発明に従った断片の親和性が非常に良好であることが分かる。
【0104】
D/ 細胞内における本発明に従ったscFv断片の中和力判定
この実験では、断片E7、F8、及びG9を試験し、緑膿菌(CHA株)でのマクロファージ感染に関する中和力を、MOI(感染多重度)10で測定した。
【0105】
以下のプロトコルを実施した:
― ホルボールミリスチン酸アセテート(PMA)添加に続く、THP‐1細胞(ヒト単球株)のマクロファージへの分化:10%非働化ウシ胎仔血清(dFCS)を含むRPMI培地に懸濁したTHP‐1細胞(440,000細胞/ml)10mlに、15μlのPMA(ストック溶液0.1mg/ml)を添加し;培養皿T25を37℃のオーブン(5%CO2を含む雰囲気)中で少なくとも48時間インキュベートし、THP‐1細胞を接着性マクロファージへと分化させる;
― 緑膿菌(CHA株)の培養及び調製:10mlのLB培地に入れた少量の細菌グリセロールのストックから緑膿菌(CHA株)の培養を開始し;細菌培養物を攪拌下、37℃で一晩インキュベートし;1mlの培養物中、600nmで測定した光学密度が0.5になるまで(6×108CFU/ml)、LB培地中に培養物を希釈し;4000gで5分間遠心分離し;上清を除去し、ペレットをRPMI‐10%dFCS培地1mlに再懸濁し;4000gで5分間の2回目の遠心分離を行い;上清を除去し、ペレットをRPMI‐10%dFCS培地1mlに再懸濁し;15,000,000菌/mlを含む懸濁液を得るために同じ培地で希釈し;PBS中の35μlの緑膿菌懸濁液+35μlのscFvE7(0.453mg/ml)、PBS中の35μlの緑膿菌懸濁液+35μlのscFvF8(0.333mg/ml)、PBS中の35μlの緑膿菌懸濁液+35μlのscFvG9(0.570mg/ml)、35μlの緑膿菌懸濁液を37℃で2時間インキュベートする;
― マクロファージの調製:培養上清を除去し;2mlのバーゼン液を添加して付着した細胞を剥離し;細胞菌叢を剥離した後、2mlの培地を添加して細胞を回収し;400gで5分間遠心分離し;細胞ペレットを2mlの培地に再懸濁し、細胞を計数し;細胞懸濁液を96ウェルプレートのウェルに15,000個/ウェルとなるように充填し、必要量のRPMI‐10%dFCS培地を添加し、以下の表6に明記した最終容量を得る。
【0106】
【0107】
― 乳酸脱水素酵素(LDH)検定キット「Pierce(登録商標)LDH細胞毒性検定キット」の説明書で定義されたプロトコルに従って培養液中の細胞性LDH(乳酸脱水素酵素)の放出を定量するための細胞毒性試験の完成:A、B、C列の1~5番のウェル、及びD、E、F列の1番のウェルに10μlの滅菌PBSを添加し;A、B、C列の3番のウェル、及びD、E、F列の1番のウェルに10μlの緑膿菌(Pa)を添加し;20μlの以下の混合物:Pa+F8をD、E、F列の2番のウェルに、Pa+G9をD、E、F列の3番のウェルに、Pa+E7をD、E、F列の4番のウェルに添加し;A、B、C列の1番及び3番のウェルに10μlの超純粋滅菌水を添加し;プレートを37℃のオーブン(5%CO2を含む雰囲気)で16時間インキュベートし;A、B、C列の2番及び5番のウェルに10μlの溶解緩衝液(10×)を添加し;37℃のオーブン(5%CO2を含む雰囲気)で45分間インキュベートし;250gで3分間遠心分離し;各ウェルから新しい96ウェルプレートに50μlを移し;各ウェルに50μlの反応混合物を添加し;プレートを周囲温度で遮光して30分間インキュベートし;各ウェルに50μlの停止液を添加し;490nm及び680nmで各ウェルの吸光度を測定し;吸光度値の差:A490nm-A680nmを求める。
【0108】
得られた結果を
図16に示す。本発明に従ったScFv断片の存在下では、マクロファージに対する緑膿菌の細胞毒性が約2/3に減少していることが観察される。このことは、緑膿菌に対するこれらの断片の中和作用を明らかにしている。
【0109】
E/ 本発明に従ったScFvを得るために使用した緑膿菌のOprFタンパク質を含むプロテオリポソームの分析
上記A/に記載の実験で得られたプロテオリポソームを以下の分析に供した。
【0110】
E.1/ 材料及び方法
トリプシンによる消化 ― ショ糖勾配での遠心分離により精製したOprFプロテオリポソーム(LC1)を、周囲温度(RT)でトリプシン:タンパク質質量比1:10を用いてタンパク質分解した。試料は異なる時間に回収し、次工程のウェスタンブロット分析のためのSDS‐PAGEゲルに装填した。
【0111】
陰性染色電子顕微鏡法 ― ネガティブステイニングオングリッド(SOG)技術を用いて試料を調製した。10μLのOprFプロテオリポソーム(LC1、[OprF]:0.1mg/mL)を、又はDNAを含まない反応混合物中でインキュベートした10μLのリポソーム(4mg/mL)(=陰性対照)を、カーボンフィルムでコーティングしたグロー放電グリッドに3分間かけて添加し、グリッドを50μlのリンタングステン酸(PTA、蒸留水中1%)で2分間染色した。余分な溶液はろ紙で吸収し、グリッドを風乾した。Tecnai 12 LaB6電子顕微鏡で、CCD Gatan Orius(登録商標)1000カメラを用いて、加速電圧120kV、デフォーカス値1.2~2.5μmで、低線量条件(<10e-/Å2)下で画像を撮影した。平均孔径はオープンソースの画像処理プログラムImageJを用いて判定した。
【0112】
AFMチップの― ゴールデンチップ(NPG‐10、Bruker Nano AXS社)を、エタノール中の0.1mMのNTA‐SAM(Prochimia社)溶液中で一晩インキュベートした後、NTA‐SAMでコーティングした。その後、チップを大量のエタノールですすぎ、窒素下で乾燥させ、PBS溶液中の40mMのNiSO4中で1時間インキュベートし、0~5℃で保存した。
【0113】
力/距離(FD)に基づくAFM ― Resolve(登録商標)AFM(Bruker社)を「PeakForceTapping」モードで使用した。公称バネ定数が約0.06~0.12N.m-1で、水中での共振周波数が約18kHzの長方形カンチレバーを選択した。AFM実験は全て、イメージング緩衝液中、周囲温度(約24℃)で行った。機能化したチップを0.25kHzで25nmの振幅で振動させ、100pNのイメージング力を印加することで接着チャートを得た。1秒間に0.125ラインをデジタル化して、128×128又は256×256画素のトポグラフィを行った。引き込み速度は1500nm/秒で、チップと試料との接触時間は500msであった。
【0114】
データ分析
各相互作用認識実験の力/距離(FD)曲線を保存し、テキストファイル形式でエクスポートした。NanoScope Analysis v1.9及びBiomecaAnalysisを用い、力/時間曲線を特定の接着事象を示すFD曲線に変換した。次に、得られた力/距離曲線を「みみず鎖」(Worm‐Like Chain:WLC)モデルに基づいて分析した。このモデルは、ポリペプチド伸長の説明に最も適し、最も頻繁に使用されている。巨大分子の伸長zは、下記式により引き込み力Fadhと相関する:
【0115】
【0116】
式中、持続長lpは鎖の剛性を直接測定したものであり、lcは生体巨大分子の全輪郭長であり、KBはボルツマン定数である。
次に、ポリペプチド鎖のモノマー数は下記式から導出した:
【0117】
【0118】
E.2/ AFM(原子間力顕微鏡法)によるリポソーム膜中のOprFタンパク質配向の決定
OprFプロテオリポソーム試料を雲母表面に吸着させ、OprFのN末端ポリヒスチジンタグを結合するTris‐Ni+‐NTA基で機能化したプローブを用いてAFMにより分析した。AFM分析は、Triton(登録商標)X‐100洗剤を使用した場合と使用しない場合で行った。Triton(登録商標)1×溶液を用いてリポソーム膜のOprFタンパク質を可溶化することで、リポソーム内に存在する全てのポリヒスチジンタグを露出させ、機能化したプローブとの結合を可能にした。Triton(登録商標)X‐100を使用した場合と使用しない場合に得たトポグラフィ画像から、試料表面にOprFプロテオリポソームが示された。Triton(登録商標)を使用しない場合、プロテオリポソームの表面上で機能化プローブとOprFのN末端ポリヒスチジンタグとの間に特異的な接着現象はほとんど起こらなかったことが、80~150pNの接着力を示す対応の接着チャートにより分かった。一方、Triton(登録商標)の存在下では、多数の特異的な接着事象が検出された。平均して、機能化したプローブは、Triton(登録商標)を使用しない場合、6つのOprFのうち1つのOprFのポリヒスチジンタグと結合し、Triton(登録商標)を使用した場合、6つのOprFのうち5つのOprFタンパク質のポリヒスチジンタグと結合した。このことから、OprFのN末端のポリヒスチジンタグは主にリポソーム内に存在することが明らかになった。
【0119】
E.3/ トリプシン消化及びAFMによるリポソーム膜中OprFタンパク質のトポロジー決定
ショ糖勾配での超遠心分離により精製したOprFプロテオリポソームは、リポソーム膜中OprFのトポロジーを決定するために、限定的なタンパク質加水分解実験に供した。OprFタンパク質の配列には32個のトリプシン切断部位が含まれる。OprF膜保護がない場合、トリプシンは146~4649Daの質量のペプチドを生成する(PeptideCutterプログラム)。OprFプロテオリポソームをトリプシン消化し、抗ヒスチジン抗体を用いてウェスタンブロットで可視化した結果から、OprFは、リポソーム内で少なくとも2つの異なる膜トポロジー:完全OprFタンパク質のポリヒスチジンタグに対応するシグナルが経時的に消失しなかったことから、OprFが完全に膜に挿入され、それによりタンパク質加水分解から保護される第1トポロジー;及び、分子量20~25kDaの小さいタンパク質断片が経時的に生成されたことから、6xHis‐OprFタンパク質のおよそ半分しか膜に統合されていない第2トポロジー:を有することが明らかになった。
【0120】
次に、これらの最初の観察所見はAFMにより裏付けられ改良された。Triton(登録商標)1×溶液中で特異的な接着現象を示す力/距離(FD)曲線を分析したところ、OprFはリポソーム膜中に、クローズドチャネル立体構造及びオープンチャネル立体構造に対応する2つの異なる膜貫通トポロジーを有することが示された。WLCモデルに基づいて、特異的な接着現象の64%は8個の膜貫通ドメイン(クローズドチャネル立体構造)に対応し、36%は16個の膜貫通ドメイン(オープンチャネル立体構造)に対応していた。
【0121】
E.4/ 陰性染色電子顕微鏡法及びAFMを用いたプロテオリポソーム中OprFの孔形成活性研究
OprFプロテオリポソームの陰性染色電子顕微鏡法及びAFM分析により、リポソーム膜中OprFの孔形成活性を可視化できた。電子顕微鏡像では、孔に対応する平均サイズ9.5±4nmの一連の「穴」が、OprFを再構築したリポソームの膜を貫通していることが観察された。リポソーム膜のこのような穿孔は、細胞溶解液、及びDNAを含まない無細胞系の反応混合物と共にインキュベートした対照リポソーム(陰性対照)の画像では観察されなかった。更に、OprFプロテオリポソームの表面のトポグラフィAFM画像でも、OprFタンパク質に囲まれ、平均径10nmの孔の存在が確認された。従って、孔形成はリポソーム膜中のOprFタンパク質の活性に起因していた。
【配列表】
【国際調査報告】