(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】化学製品製造プラントにおける生産計画の改善のためのコーキングおよびファウリングの進行の予測
(51)【国際特許分類】
C10G 9/16 20060101AFI20220930BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20220930BHJP
C10G 9/36 20060101ALI20220930BHJP
C10G 75/00 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C10G9/16
G05B23/02 T
C10G9/36
C10G75/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022504581
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(85)【翻訳文提出日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 EP2020071140
(87)【国際公開番号】W WO2021014025
(87)【国際公開日】2021-01-28
(32)【優先日】2019-07-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】シメオン・ザウアー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ケック
(72)【発明者】
【氏名】エリック・イェンネ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・バディンスキー
(72)【発明者】
【氏名】ミリアム・アンゲラ・アンナ・ハカラ
(72)【発明者】
【氏名】バルト・ブランケルス
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリック・デ・ヴィンネ
(72)【発明者】
【氏名】ブリッタ・カロリン・ブック
【テーマコード(参考)】
3C223
4H129
【Fターム(参考)】
3C223AA05
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF13
3C223FF24
3C223FF42
3C223GG01
3C223HH04
3C223HH08
4H129AA02
4H129CA04
4H129DA03
4H129FA02
4H129FA20
4H129LA14
4H129NA40
4H129NA45
(57)【要約】
たとえばスチームクラッカーなどの化学製品製造プラントの機器および/または処理ユニットの健康状態の将来の進展を予測するために、今日のキーパフォーマンスインジケータ、今日の処理条件、および予測期間にわたる処理条件に基づいて、将来のキーパフォーマンスインジケータのためのデータ駆動モデルを構築する、コンピュータ実装方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学製品製造プラントの機器の劣化の進行を予測するためのコンピュータ実装方法(100)であって、
a)前記機器の少なくとも1つの動作パラメータの将来値を取得するステップ(110)であり、
前記少なくとも1つの動作パラメータが、前記機器の前記劣化に影響を及ぼし、
前記少なくとも1つの動作パラメータの前記将来値が予測期間にわたって決定され得るように、前記少なくとも1つの動作パラメータが、前記予測期間にわたって既知であり、かつ/または制御可能である、取得するステップ(110)と、
b)前記少なくとも1つの動作パラメータの将来値を含む入力データセットに基づいて、前記予測期間内の少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値を推定するために、予測モデルを使用するステップ(120)であり、
前記予測モデルが、少なくとも1つのプロセス変数および前記少なくとも1つの動作パラメータの履歴データを含むサンプルセットに基づいてパラメータ化または訓練され、前記少なくとも1つのプロセス変数が、前記少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータを決定するために使用される、使用するステップ(120)と、
c)前記少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの前記将来値に基づいて、前記予測期間内の前記機器の劣化の前記進行を予測するステップ(130)と
を含むコンピュータ実装方法(100)。
【請求項2】
前記機器の現在および/または過去の動作中に、前記機器の少なくとも1つの動作パラメータの値を取得するステップをさらに含み、
前記入力データセットが、前記機器の前記現在および/または過去の動作中に取得された前記少なくとも1つの動作パラメータの前記値を含む、
請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項3】
前記機器の現在および/または過去の動作中に測定される少なくとも1つのプロセス変数を取得するステップと、
前記機器の前記現在および/または過去の動作中に取得された前記少なくとも1つのプロセス変数に基づいて、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値を決定するステップとをさらに含み、
前記入力データセットが、前記機器の前記現在および/または過去の動作中に取得された前記少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの前記値をさらに含む、
請求項1または2に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項4】
さらなる予測期間にわたって、a)からc)までのステップを繰り返し実行するステップ
をさらに含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項5】
前記さらなる予測期間が、前記予測期間と部分的に重複している、または
前記さらなる予測期間が、前記予測期間とは別である、
請求項4に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項6】
前記予測モデルが、随意に正則化を伴う多重線形回帰モデルを含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項7】
前記機器が、
スチームクラッカー炉、
スチームクラッカーの移送ライン交換器、および
アニリン触媒
のうちの少なくとも1つを含む、
請求項1から6のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項8】
化学製品製造プラントの機器の劣化の進行を予測するための装置(200)であって、
a)前記機器の少なくとも1つの動作パラメータの将来値を受信するように構成された入力ユニット(210)であり、
前記少なくとも1つの動作パラメータが、前記機器の前記劣化に影響を及ぼし、
前記少なくとも1つの動作パラメータが、予測期間にわたって既知であり、かつ/または制御可能である、入力ユニット(210)と、
b)処理ユニット(220)であり、
前記少なくとも1つの動作パラメータの将来値を含む入力データセットに基づいて、前記予測期間内の少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値を推定するために、予測モデルを使用することであり、
前記予測モデルが、少なくとも1つのプロセス変数および前記少なくとも1つの動作パラメータの履歴データを含むサンプルセットに基づいてパラメータ化または訓練され、前記少なくとも1つのプロセス変数が、前記少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータを決定するために使用される、使用することと、
前記少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの前記将来値に基づいて、前記予測期間内の前記機器の劣化の前記進行を予測することと
を行うように構成された処理ユニット(220)と、
c)前記機器の劣化の前記予測された進行を出力するように構成された出力ユニット(230)と
を含む装置(200)。
【請求項9】
前記入力ユニットが、前記機器の現在および/または過去の動作中に、前記機器の少なくとも1つの動作パラメータの値を取得するように構成されており、
前記入力データセットが、前記機器の前記現在および/または過去の動作中に取得された前記少なくとも1つの動作パラメータの前記値を含む、
請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記入力ユニットが、前記機器の現在および/または過去の動作中に測定される少なくとも1つのプロセス変数を取得するように構成されており、
前記処理ユニットが、前記機器の前記現在および/または過去の動作中に取得された前記少なくとも1つのプロセス変数に基づいて、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値を決定するように構成されており、
前記入力データセットが、前記機器の前記現在および/または過去の動作中に取得された前記少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの前記値をさらに含む、
請求項8または9に記載の装置。
【請求項11】
前記処理ユニットが、さらなる予測期間にわたって、前記推定を繰り返し実行するように構成されている、
請求項8から10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
前記さらなる予測期間が、前記予測期間と部分的に重複している、または
前記さらなる予測期間が、前記予測期間とは別である、
請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記予測モデルが、随意に正則化を伴う多重線形回帰モデルを含む、
請求項9から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
処理ユニットによって実行されると、請求項1から7のうちの1つに記載の方法を実行するように適合されている、請求項8から13のいずれか一項に記載の装置を制御するためのコンピュータプログラム要素。
【請求項15】
請求項14に記載のプログラム要素を記憶しているコンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学製品製造プラントの機器の劣化の進行を予測するためのコンピュータ実装方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
化学製品製造プラントは、コーキングまたは他のファウリングプロセスに問題がある可能性がある。そのような化学製品製造プラントの一例は、スチームクラッカーである。スチームクラッカーは、蒸気を使用して、原油、ナフサまたは液化石油ガス(LPG)などの製品を約850℃の温度で「分解」する。これは、エチレン、プロピレン、C4生成物などのオレフィン、ならびにベンゾール、トルオール、キシロールなどの芳香族化合物を生成する。それらは、化石燃料に基づく化学の基本的な生成物である。スチームクラッカーの動作中、いくつかの機器または処理ユニットは、コークス残留物の蓄積に問題がある可能性がある。たとえば、スチームクラッカーの炉内のクラッキングコイルの内壁は、動作中のコークス層の形成に問題がある。同じ問題が、炉のすぐ下流の移送ライン交換器においても生じる。これは両方の機器タイプの性能を劣化させるので、コークスは、バーンオフによって、または機械的手段によって、定期的に除去されなければならない。コークスが適時に除去されなかった場合、有効性の低下または資産の不具合によって、計画外の生産損失が引き起こされる可能性がある。同様のコーキング、またはより一般的には、ファウリングプロセスは、他の化学プラントにおいてもプロセス機器の効率を低減する。
【0003】
そのような化学製品製造プラントの別の例は、以下の刊行物、R. Kelling, G. Kolios, C. Tellaeche, U. Wegerle, V.M. Zahn, A. Seidel-Morgenstern: “Development of a control concept for catalyst regeneration by coke combustion", Chemical Engineering Science, Volume 83, 2012, Pages 138-148に記載されているような脱水素反応器である。さらなる例を、Jens R. Rostrup-Nielsen: “Industrial relevance of coking", Catalysis Today, Volume 37, Issue 3, 1997, Pages 225-232で見ることができる。
【0004】
さらなる例として、流動床反応器で使用されるアニリン触媒も、動作中のコークス形成に問題がある。これは、アニリン生産の減少、不十分な熱放散、床高さの低下、および最終的には流動化の崩壊をもたらし得る。したがって、コークスは、実行中のキャンペーンを終了する酸化によって定期的に除去されなければならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】R. Kelling, G. Kolios, C. Tellaeche, U. Wegerle, V.M. Zahn, A. Seidel-Morgenstern:“Development of a control concept for catalyst regeneration by coke combustion", Chemical Engineering Science, Volume 83, 2012, Pages 138-148
【非特許文献2】Jens R. Rostrup-Nielsen:“Industrial relevance of coking", Catalysis Today, Volume 37, Issue 3, 1997, Pages 225-232
【非特許文献3】Cai H, Krzywicki A, Oballa MC. Coke formation in steam crackers for ethylene production. Chemical Engineering and Processing: Process Intensication 2002;41(3):199-214, and Muller-Steinhagen H. Heat exchanger fouling: Mitigation and cleaning techniques. IChemE; 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
予測期間にわたる化学製品製造プラントの機器および/または処理ユニットの予想される健康状態の進展に関する合理的な予測を提供するためのシステムを提供する必要があり得る。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、独立請求項の主題によって解決され、さらなる実施形態が従属請求項に組み込まれる。以下に説明する本発明の態様は、コンピュータ実装方法および装置にも適用されることに留意されたい。
【0008】
本発明の第1の態様は、化学製品製造プラントの機器の劣化の進行を予測するためのコンピュータ実装方法を提供し、
a)機器の少なくとも1つの動作パラメータの将来値を取得するステップ(110)であり、
少なくとも1つの動作パラメータが、機器の劣化に影響を及ぼし、
少なくとも1つの動作パラメータの将来値が予測期間にわたって決定され得るように、少なくとも1つの動作パラメータが、予測期間にわたって既知であり、かつ/または制御可能である、取得するステップ(110)と、
b)少なくとも1つの動作パラメータの将来値を含む入力データセットに基づいて、予測期間内の少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値を推定するために、予測モデルを使用するステップ(120)であり、
予測モデルが、少なくとも1つのプロセス変数および少なくとも1つの動作パラメータの履歴データを含むサンプルセットに基づいてパラメータ化または訓練され、少なくとも1つのプロセス変数が、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータを決定するために使用される、使用するステップ(120)と、
c)少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値に基づいて、予測期間内の機器の劣化の進行を予測するステップ(130)と
を含む。
【0009】
言い換えれば、データ駆動予測モデルは、スチームクラッカーなどの化学製品製造プラントの機器の劣化の予測のために使用される。特に、劣化キーパフォーマンスインジケータの将来の進展は、所与のシナリオ、すなわち、プラント負荷、および予測期間にわたるクラッキング温度などの1つまたは複数の所与の動作パラメータの仮定の下で予測される。この情報に基づいて、プロセス機器の劣化または不具合による計画外の生産損失を防止するために、必要なアクションを実施することができる。たとえば、スチームクラッカーの異なる炉間の停止時間の計画および整合は、たとえば、2つ以上の炉の並列停止時間を回避することによって改善することができる。予測モデルのためにこの状況で典型的に使用されるデータは、プラント内のセンサーによって製造プロセスの近くで作成される。
【0010】
1つまたは複数の動作パラメータの将来値により、それは、たとえば、予測期間にわたる低減された供給負荷、供給組成、および反応器温度などのプロセス条件の変化として、「what-if」シナリオをシミュレートするために使用され得る。提案された予測モデルは、過去および/または現在の動作状態から将来の動作状態を推定するのではなく、むしろ、接続されたプラントからの要求の変化および/または生産性能の最適化など、将来のプラントの動作状態の変化を考慮するために、将来の動作パラメータのためのユーザ入力を必要とすることに留意されたい。将来の動作パラメータに対する値の使用は、プラント運転における将来の変化を考慮し得る。キーパフォーマンスインジケータは、システム上の負荷の関数である。将来の動作パラメータの値を使用することによって、たとえば、予測のためにシステムへの将来の負荷を含めることが可能である。プラント内の計画に基づいて将来の動作パラメータの値を変化させることができることは、追加の自由度を提供することができ、これは、予測モデルの品質を向上させ、予測をよりロバストにすることができる。
【0011】
たとえば、予測モデルは、アニリン生産のための生産計画ツールとして使用されてもよい。アニリンプラントにおける運転は、一般に、接続されたプラントからの要求の変化ならびに/または触媒および生産性能の最適化を考慮するために、キャンペーン中に調整される。したがって、これらの動作パラメータを明示的に設定し、変化する将来の動作パラメータをモデルにおいて考慮することが有益であり得る。
【0012】
以下では、機器の現在の動作中に取得された少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値は、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの現在値とも呼ばれ得る。機器の過去の動作中に取得された少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値は、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの過去値とも呼ばれ得る。同様に、機器の現在の動作中に取得された少なくとも1つの動作パラメータの値は、少なくとも1つの動作パラメータの現在値と呼ばれ得る。機器の過去の動作中に取得された少なくとも1つの動作パラメータの値は、少なくとも1つの動作パラメータの過去値と呼ばれ得る。これは、後述する他のパラメータについても同様である。
【0013】
以下、2つの例示的な例について詳細に説明する。これら2つの例示的な例の概要を以下で説明する。
【0014】
第1の例では、スチームクラッカーの炉内のクラッキングコイルの内壁は、動作中のコークス層の形成に問題がある。同じ問題が、炉のすぐ下流の移送ライン交換器(TLE)においても生じる。これは両方の機器タイプの性能を劣化させるので、コークスは、バーンオフによって、または機械的手段によって、定期的に除去されなければならない。
【0015】
このメンテナンス手順をスケジュールするために、ある臨界コイル壁温度(CWT)または臨界TLE出口温度に達するときを少なくとも1~2週間前に知っておくことが非常に有利である。このようにして、スチームクラッカーの異なる炉間の停止時間の計画および整合は、たとえば、2つ以上の炉の並列停止時間を回避することによって改善することができる。
【0016】
クラッキングコイルにおけるコーキングに関するキーパフォーマンスインジケータ(KPI)は、コイル壁温度(CWT)であってもよく、TLEでは、それらの出口温度であってもよい。
【0017】
両方のKPIについて、予測モデルは、履歴生産データに基づいて開発されてもよい。それは、次の4週間にわたるクラッキングコイルおよびTLEにおけるコーキングの進行を、定量化された信頼マージンで予測することができる。さらに、少なくとも1つの動作パラメータの将来値により、それは、「what-if」シナリオ、すなわち、低減された供給負荷、供給タイプ、またはクラッキング温度などのプロセス条件の変化をシミュレートするために使用することができる。
【0018】
スチームクラッカーの予測モデルにより、次のメンテナンス事象までの炉/TLEの残存耐用年数(RUL)の定量化において、いくつかの炉の並列運転停止のリスクが低減され得る。さらに、近い将来、低減された供給負荷、供給タイプ、またはクラッキング温度などの代替的な生産シナリオをシミュレートする可能性により、プロセスマネージャは、たとえば、他のメンテナンスタスクと同期させるために、洗浄手順を先行的に遅延させることが可能であり得る。
【0019】
第2の例では、流動床反応器で使用されるアニリン触媒も、動作中のコークス形成に問題がある。これは、触媒の失活、従ってアニリン転化率の低下を引き起こし、これは、より短いキャンペーン、より頻繁な触媒再生、従って生産の損失をもたらす。第2の効果は、いくつかの場合には、流動化品質の低下、したがって熱伝達の低下を伴う床高さの低下である。したがって、コークスは、実行中のキャンペーンを終了する酸化によって定期的に除去されなければならない。
【0020】
また、この場合、1~2週間前に反応器性能およびキャンペーンの終了を予測することが非常に有利であり得る。これは、他の接続されたプラントでの生産計画に有用であるが、性能および触媒寿命を最適化するのにも有用である。
【0021】
KPIは、ここでは、コーキング(ベッド上の圧力降下による)、床高さ、床と熱交換器パイプとの間の熱伝達係数、およびアニリン転化率である。
【0022】
すべてのKPIについて、1つの反応器の履歴データを使用して予測モデルが開発され得る。また、世界中のより多くの反応器のために、同じタイプの予測モデルが開発され得る。スチームクラッカーの場合と同様に、このモデルは、キャンペーンの指定された終了までの定量化された信頼マージンにより、アニリン触媒のコーキングの進行、ならびに床高さ、熱伝達係数、およびアニリン転化率の進展を予測することができる。それはまた、「what-if」シナリオを、たとえば、低減された供給負荷、供給組成および反応器温度などのプロセス条件の変化としてシミュレートすることもできる。
【0023】
アニリン反応器の予測モデルは、以下の利点の少なくとも1つを有し得る。
a)圧力降下、床高さ、熱伝達係数およびアニリン転化率の予測を使用して、触媒寿命を延ばすことができる。これは、より低い触媒消費をもたらし得る。
b)供給負荷、供給組成および反応器温度などの代替的な生産シナリオをシミュレートする可能性は、アニリン生産の最適化、より良好な生産計画、および接続されたプラントとの連携を可能にする。
【0024】
アニリン流動床反応器の予測モデルにより、プロセス管理は、近い将来のコーキングの推定される進行、ならびに床高さ、熱伝達係数およびアニリン転化率の進展を監視することができる。すべてのKPIは、キャンペーンの長さを予測するために使用され、したがって、触媒の再生をスケジュールすることを可能にし、したがって、より良好な計画を可能にする。さらに、触媒寿命は、コークスの蓄積を最小限にすることによって延長され得る。これは、プロセス条件の最適化によって達成することができ、この場合、将来の異なるプロセス条件をシミュレートすることができる。
【0025】
多種多様な影響を受ける機器および化学製品製造プラント、ならびにそれらの基礎となるまったく異なる物理的または化学的劣化プロセスがあるが、これらの機器の劣化は、以下の特徴のいくつかを共有する可能性がある。
1.化学製品製造プラントの考慮される機器は、劣化の進行を定量化することが可能な1つまたは複数のキーパフォーマンスインジケータを有し得る。
2.たとえば、不連続プロセスのバッチ時間、または連続プロセスの設定点変化間の典型的な時間など、典型的な生産時間スケールよりも長い時間スケールでは、キーパフォーマンスインジケータは、より高い値またはより低い値に多かれ少なかれ単調に漂い、不可逆的劣化現象の発生を示す。しかしながら、より短い時間スケールでは、キーパフォーマンスインジケータは、劣化プロセス自体によって駆動されるのではなく、むしろ、周囲温度などのプロセス条件またはバックグラウンド変数を変化させることによって駆動される変動を示し得る。
3.キーパフォーマンスインジケータは、汚れた熱交換器の洗浄、不活性触媒の交換または再生などのメンテナンス事象の後、ほぼそれらのベースラインに戻る。
4.劣化は、プロセス機器の徐々に進行する不可避の摩耗および/または破損によって引き起こされる。
言い換えれば、キーパフォーマンスインジケータの進展は、制御されていない外部要因によってではなく、プロセス条件によってかなりの程度まで決定され、この時間枠内の計画されたプロセス条件が与えられると、劣化キーパフォーマンスインジケータの進展をある時間範囲にわたって予測することを可能にする。
【0026】
そのようなキーパフォーマンスインジケータは、以下に説明するように、移送ライン交換器の出口温度など、測定されたプロセスデータのセットに含まれるパラメータ、および/または測定されたプロセスデータのセットに含まれる1つまたは複数のパラメータの関数を表す導出されたパラメータを含むパラメータから選択されてもよい。たとえば、触媒活性は、プロセス変数において直接測定されないが、それ自体、プロセスの収率および/または転化率の低下を示す。
【0027】
本明細書で使用する「現在」という用語は、特定の機器の測定がリアルタイムで実行されない場合があるので、最も最近の測定を指す。
【0028】
本明細書で使用する「将来」という用語は、予測期間内の特定の時点を指す。後で説明するように、機器の劣化のための有用な予測期間は、通常、数時間から数カ月の範囲である。適用される予測期間は、2つの要因によって決定される。第1に、予測は、決定の基礎として使用されるのに十分正確でなければならない。正確さを達成するためには、将来の生産計画の入力データが利用可能でなければならず、これは、将来の限られた日数または週数の場合にのみ当てはまる。さらに、予測モデル自体は、モデル識別に使用される履歴データセットのノイズが多く有限の性質の結果である、基礎となる予測モデル構造または不十分なパラメータ定義のために、正確さに欠ける可能性がある。第2に、予測期間は、メンテナンスアクションをとること、計画決定を行うことなど、関連する運用上の問題に対処するのに十分な長さでなければならない。
【0029】
たとえば、以下の機器、すなわち、コークス層形成および/または重合に起因するコーキングまたは他のファウリングプロセスに問題がある熱交換器、コークス層形成および/または重合に起因するコーキングまたは他のファウリングプロセスにより質量流が阻害されるパイプ、コークス層形成、重合、および/または上流ユニット操作から生じる固体材料の堆積に起因するコーキングまたは他のファウリングプロセスに問題がある固定床反応器、コークス層形成、重合、および/または上流ユニット操作から生じる固体材料の堆積に起因するコーキングまたは他のファウリングプロセスに問題がある流動床反応器、および重合および/または上流ユニット操作から生じる固体材料の堆積に起因して効率が低下するフィルタのうちの少なくとも1つにおいて、劣化の進行が予測される。
【0030】
一般に、上記および下記に記載される方法および装置は、コーキングまたは他のファウリングプロセスに問題がある任意の機器に適用され得る。たとえば、熱交換器は、コークス層の形成または重合、あるいは微生物または無機の堆積物によるコーキングまたは他のファウリングプロセスに問題があることがある。熱交換器のコーキング/ファウリング現象に関する詳細な説明については、以下の刊行物、Cai H, Krzywicki A, Oballa MC. Coke formation in steam crackers for ethylene production. Chemical Engineering and Processing: Process Intensication 2002;41(3):199-214, and Muller-Steinhagen H. Heat exchanger fouling: Mitigation and cleaning techniques. IChemE; 2000を参照されたい。さらなる例として、パイプを通る質量流は、コークス層の形成および重合に起因するコーキングまたは他のファウリングプロセスによって阻害され得る。さらなる例として、固定床反応器および流動床反応器の性能は、コークス層の形成、重合、および/または上流ユニット操作から生じる固体材料の堆積によるコーキングまたは他のファウリングプロセスに問題があり得る。さらなる例として、フィルタの効率は、重合および/または上流のユニット操作から生じる固体材料の堆積のために低下し得る。
【0031】
たとえば、化学製品製造プラントは、脱水素反応器、スチームクラッカー、または流動床反応器のうちの少なくとも1つを含む。
【0032】
一般に、上記および下記に記載される方法および装置は、化学製品製造プラントがコーキングまたは他のファウリングプロセスに問題がある可能性がある機器を有する任意の化学製品製造プラントに適用され得る。そのような化学製品製造プラントの一例は、スチームクラッカーである。そのような化学製品製造プラントの別の例は、脱水素反応器または流動床反応器である。
【0033】
一例では、ステップb)は、現在の動作の前のあらかじめ定義された期間内に機器の過去の動作中に測定された少なくとも1つのプロセス変数に基づいて、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの過去値を決定することをさらに含む。ステップc)は、過去の動作中に、機器の少なくとも1つの動作パラメータの過去値を取得することをさらに含む。ステップd)において、入力データセットは、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの過去値と、少なくとも1つの動作パラメータの過去値とをさらに含む。
【0034】
過去値は、ラグ値とも呼ばれ得る。したがって、予測モデルは、経時的にフィードバックを組み込むために、ラグ変数を使用して、よりロバストである。対照的に、ラグ変数のないモデルは、現在の事象に排他的に応答するシステムを表す。ラグ値/ラグウィンドウのためのあらかじめ定義された時間ウィンドウは、たとえば、機器のタイプに従って、モデル開発者によって選択されてもよい。たとえば、あらかじめ定義された期間は、機器の2つのメンテナンスアクション間の典型的な時間期間の5%、10%、または15%であってもよい。
【0035】
本発明の一実施形態によれば、コンピュータ実装方法は、機器の現在および/または過去の動作中に取得された機器の少なくとも1つの動作パラメータの値を取得することをさらに含む。入力データセットは、機器の現在および/または過去の動作中に取得された少なくとも1つの動作パラメータの値を含む。
【0036】
言い換えれば、劣化キーパフォーマンスインジケータの将来の進展は、所与のシナリオ、すなわち、プラント負荷、および予測期間にわたるクラッキング温度などの1つまたは複数の所与の動作パラメータの仮定の下で、現在および/または過去の動作パラメータに基づいて予測され得る。したがって、キーパフォーマンスインジケータの予測は、より正確であり得る。
【0037】
本発明の一実施形態によれば、コンピュータ実装方法は、機器の現在および/または過去の動作中に測定される少なくとも1つのプロセス変数を取得するステップと、機器の現在および/または過去の動作中に取得された少なくとも1つのプロセス変数に基づいて、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値を決定するステップとをさらに含む。入力データセットは、機器の現在および/または過去の動作中に取得された少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値をさらに含む。
【0038】
言い換えれば、劣化キーパフォーマンスインジケータの将来の進展は、機器の現在および/または過去の健康状態を反映する現在および/または過去のキーパフォーマンスインジケータに基づいて予測される。したがって、劣化キーパフォーマンスインジケータの将来の進展の予測は、より正確である。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、コンピュータ実装方法は、さらなる予測期間にわたって、a)からc)までのステップを繰り返し実行するステップをさらに含む。
【0040】
予測期間は、第1の予測期間と呼ばれ、一方、さらなる予測期間は、第2の予測期間とも呼ばれ得る。
【0041】
ラグ変数による反復アプローチを使用すると、一般に、より近い将来(アニリンの場合、1~2週間)に、より良好な予測がもたらされ得る。これは、モデルが常に更新された初期値を使用するという事実による。より遠い将来(アニリンの場合、>4週間)、ラグ変数のないより単純なモデルは、より良好な精度を有する傾向がある。より遠い将来におけるより悪い性能は、モデルの反復的性質に起因する予測誤差の合計に由来する。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、さらなる予測期間は、予測期間と部分的に重複する。代替的に、さらなる予測期間は、予測期間とは別である。
【0043】
言い換えれば、第2の予測期間、すなわち、さらなる予測期間は、第1の予測期間の後に開始し得る。代替的に、これらの2つの予測期間は、部分的に重複してもよい。
【0044】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値は、少なくとも1つのプロセス変数の関数を表す少なくとも1つの変換されたプロセス変数に基づいて決定される。
【0045】
たとえば、変換は、両方が同じ移送ライン交換器(TLE)を流れる2つ以上のパイプにおける供給レートの単純な合計であり得る。別のアプローチは、データの情報内容を増加させるために、生データにおいてエネルギー/質量バランスまたは非線形変換を使用することである。
【0046】
たとえば、入力データセット内および/またはサンプルセット内の少なくとも1つの動作パラメータの1つまたは複数の値が、動作範囲のあらかじめ定義されたセットに違反する場合、少なくとも1つの動作パラメータの1つまたは複数の値は除去される。
【0047】
言い換えれば、予測モデルは、少なくとも1つの動作パラメータの1つまたは複数の値が動作範囲のあらかじめ定義されたセットに違反するとき、入力データセットおよび/またはサンプルセット内の少なくとも1つの動作パラメータの1つまたは複数の値をフィルタリングまたは除去することによって補正される。このようにして、訓練の段階および/または少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値を推定するために予測モデルを使用する段階で、不合理な観察がフィルタ除去される。不合理な観察のいくつかの例は、本開示のセクションA(TLE)において提供される。
【0048】
本発明の一実施形態によれば、予測モデルは、随意に正則化を伴う多重線形回帰モデルを含む。
【0049】
正則化は、不良設定問題を解決するために、またはオーバーフィッティングを防止するために、追加の情報を導入するために使用されてもよい。
【0050】
本発明の一実施形態によれば、履歴データは、少なくとも10回の洗浄サイクル、好ましくは、少なくとも30回の洗浄サイクルの少なくとも1つのプロセス変数および少なくとも1つの動作パラメータの履歴値を含む。
【0051】
本明細書で使用する「サイクル」という用語は、2つの連続した洗浄手順の間の時間期間を指すことがあり、これは、スチームクラッカーでは2~3カ月であり得る。アニリンの場合、「サイクル」という用語は、キャンペーンとも呼ばれ得る。
【0052】
本発明の一実施形態によれば、機器は、スチームクラッカー炉、スチームクラッカーの移送ライン交換器、およびアニリン触媒のうちの少なくとも1つを含む。
【0053】
スチームクラッカー炉および移相ライン交換器は、その健康状態がスチームクラッカーの全体の効果に大きい影響を与えるため、重要な構成要素と呼ばれることもある。特に、スチームクラッカーの炉内のクラッキングコイルの内壁は、動作中のコークス層の形成に問題がある。同じ問題が、炉のすぐ下流の移送ライン交換器においても生じる。これは両方の機器タイプの性能を劣化させるので、コークスは、バーンオフによって、または機械的手段によって、定期的に除去されなければならない。流動床反応器で使用されるアニリン触媒は、動作中のコークス形成に問題がある。これは、アニリン生産の減少、不十分な熱放散、床高さの低下、および最終的には流動化の崩壊をもたらし得る。したがって、コークスは、実行中のキャンペーンを終了する酸化によって定期的に除去されなければならない。
【0054】
一例では、スチームクラッカー炉内でのコーキングのための少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータは、スチームクラッカー炉内のクラッキングコイルの管金属温度を含む。移送ライン交換器におけるコーキングのための少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータは、移送ライン交換器の出口温度を含む。
【0055】
一例では、スチームクラッカー炉のための少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータを決定するための少なくとも1つのプロセス変数は、スチームクラッカー炉内のクラッキングコイルの管金属温度を含む。移送ライン交換器のための少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータを決定するための少なくとも1つのプロセス変数は、移送ライン交換器の出口温度を含む。
【0056】
一例では、少なくとも1つの動作パラメータの現在値は、現在のナフサ供給負荷および/または現在のクラッキング温度を含む。
【0057】
一例では、少なくとも1つの動作パラメータの将来値は、予測期間にわたる将来のナフサ供給負荷、予測期間にわたる将来のクラッキング温度、および予測期間にわたり蓄積され、予測期間中に移送ライン交換器を通過する異なるナフサ成分の量の各成分の重量分率によって重み付けされた供給負荷のうちの少なくとも1つを含む。ナフサ成分は、n-パラフィン、i-パラフィン、ナフテン、芳香族化合物、およびオレフィンのうちの少なくとも1つを含む。
【0058】
一例では、移送ライン交換器の少なくとも1つの動作パラメータの現在値および将来値は、現在の液化石油ガス供給負荷、将来の液化石油ガス供給負荷、および予測期間にわたって蓄積され、予測期間中に移送ライン交換器を通過する異なる液化石油ガス成分の量の各成分の重量分率によって重み付けされた供給負荷のうちの少なくとも1つをさらに含む。液化石油ガス成分は、プロパン、n-ブタン、i-ブタン、イソブテン、1-ブタン、ブテン-2-トランス、ブテン-2-シス、およびペンタンのうちの少なくとも1つを含む。
【0059】
本発明のさらなる態様は、化学製品製造プラントの機器の劣化の進行を予測するための装置を提供し、
a)入力ユニット(210)であり、
機器の少なくとも1つの動作パラメータの将来値を受信するように構成されており、
少なくとも1つの動作パラメータが、機器の劣化に影響を及ぼし、
少なくとも1つの動作パラメータが、予測期間にわたって既知であり、かつ/または制御可能である、入力ユニット(210)と、
b)処理ユニット(220)であり、
少なくとも1つの動作パラメータの将来値を含む入力データセットに基づいて、予測期間内の少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値を推定するために、予測モデルを使用することであり、
予測モデルが、少なくとも1つのプロセス変数および少なくとも1つの動作パラメータの履歴データを含むサンプルセットに基づいてパラメータ化または訓練され、少なくとも1つのプロセス変数が、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータを決定するために使用される、使用することと、
少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値に基づいて、予測期間内の機器の劣化の進行を予測することとを行うように構成された処理ユニット(220)と、
c)機器の劣化の予測された進行を出力するように構成された出力ユニット(230)と
を含む。
【0060】
本発明の一実施形態によれば、入力ユニットは、機器の現在および/または過去の動作中に、機器の少なくとも1つの動作パラメータの値を取得するように構成されている。入力データセットは、機器の現在および/または過去の動作中に取得された少なくとも1つの動作パラメータの値を含む。
【0061】
本発明の一実施形態によれば、入力ユニットは、機器の現在および/または過去の動作中に測定される少なくとも1つのプロセス変数を取得するように構成されている。処理ユニットは、機器の現在および/または過去の動作中に取得された少なくとも1つのプロセス変数に基づいて、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値を決定するように構成されている。入力データセットは、機器の現在および/または過去の動作中に取得された少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値をさらに含む。
【0062】
本発明の一実施形態によれば、処理ユニットは、さらなる予測期間にわたって、推定を繰り返し実行するように構成されている。
【0063】
本発明の一実施形態によれば、さらなる予測期間は、予測期間と部分的に重複する。代替的に、さらなる予測期間は、予測期間とは別である。
【0064】
本発明の一実施形態によれば、処理ユニットは、入力データセットおよび/またはサンプルセット内の少なくとも1つの動作パラメータの1つまたは複数の値が、動作範囲のあらかじめ定義されたセットに違反する場合、少なくとも1つの動作パラメータの1つまたは複数の値を除去するように構成されている。
【0065】
本発明の一実施形態によれば、予測モデルは、随意に正則化を伴う多重線形回帰モデルを含む。
【0066】
本発明のさらなる態様は、処理ユニットによって実行されると、本方法を実行するように適合されている、装置に指示するためのコンピュータプログラム要素を提供する。
【0067】
本発明のさらなる態様は、プログラム要素を記憶したコンピュータ可読媒体を提供する。
【0068】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下の説明において例として説明される実施形態および添付の図面から明らかになり、それらを参照してさらに説明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【
図1】化学製品製造プラントの機器の劣化の進行を予測するためのコンピュータ実装方法を示すフローチャートである。
【
図2A】TLE Aでの測定された出口温度および対応する14日間予測を示す図である。
【
図2B】TLE AおよびTLE Bでの異なる予測期間についてのモデルの予測誤差を示す図である。
【
図3】TLE Bでの14日間予測の結果を示す図である。
【
図6】化学製品製造プラントの機器の劣化の進行を予測するための装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0070】
図は、単に概略的であり、一定の縮尺で描かれていないことに留意されたい。図中、すでに説明された要素に対応する要素は、同じ参照番号を有している可能性がある。非限定として示されているかどうかにかかわらず、例、実施形態、または任意の特徴は、特許請求される本発明を限定するものとして理解されないものとする。
【0071】
劣化の進行を予測する方法
図1は、スチームクラッカーなど、化学製品製造プラントの機器の劣化の進行を予測するためのコンピュータ実装方法100を示すフローチャートを示す。
【0072】
ステップ110、すなわち、ステップa)で、機器の少なくとも1つの動作パラメータの将来値が取得される。少なくとも1つの動作パラメータは、機器の劣化に影響を及ぼす。少なくとも1つの動作パラメータの将来値が予測期間にわたって決定され得るように、少なくとも1つの動作パラメータは、予測期間にわたって既知であり、かつ/または制御可能である。
【0073】
動作パラメータの例は、ナフサ供給負荷およびクラッキング温度である。少なくとも1つの動作パラメータは、機器の劣化の進行に影響を及ぼす。言い換えれば、機器の劣化を決定するのに関連する動作パラメータのみが選択される。少なくとも1つの動作パラメータの将来値が予測期間にわたって計画または予想され得るように、少なくとも1つの動作パラメータは、予測期間にわたって既知であり、かつ/または制御可能である。
【0074】
機器の劣化のための有用な予測期間は、通常、数時間から数カ月の範囲である。適用される予測期間は、2つの要因によって決定される。第1に、予測は、決定の基礎として使用されるのに十分正確でなければならない。正確さを達成するために、将来の生産計画の入力データが利用可能でなければならず、これは限られた予測期間でのみ利用可能である。
【0075】
さらに、予測モデル自体は、モデル識別に使用される履歴データセットのノイズが多く有限の性質の結果であり得る、基礎となる予測モデル構造または不十分に定義されたモデルパラメータのために、正確さに欠ける可能性がある。第2に、予測期間は、メンテナンスアクションをとること、計画決定を行うことなど、関連する運用上の問題に対処するのに十分な長さでなければならない。
【0076】
随意に、少なくとも1つのプロセス変数は、たとえば、機器の現在および/または過去の動作中に、1つまたは複数のセンサーによって測定される。プロセス変数の例は、限定はしないが、温度、圧力、流量、レベル、および組成を含み得る。機器については、考慮される機器の健康状態に関する情報を提供する適切なセンサーが選択され得る。センサーは、経験およびプロセスの理解に基づいて選択され得る。
【0077】
重要な構成要素の健康状態が、スチームクラッカーまたは脱水素反応器などの化学製品製造プラントのメンテナンス活動により強い影響を及ぼすので、機器は、重要な構成要素の1つであり得る。重要な構成要素の選択に関するこの情報のソースは、バッドアクター分析または操作の一般的な経験であり得る。機器の例には、限定はしないが、コークス層形成および/または重合に起因するコーキングまたは他のファウリングプロセスに問題がある熱交換器、コークス層形成および/または重合に起因するコーキングまたは他のファウリングプロセスにより質量流が阻害されるパイプ、コークス層形成、重合、および/または上流ユニット操作から生じる固体材料の堆積に起因するコーキングまたは他のファウリングプロセスに問題がある固定床反応器、コークス層形成、重合、および/または上流ユニット操作から生じる固体材料の堆積に起因するコーキングまたは他のファウリングプロセスに問題がある流動床反応器、および重合および/または上流ユニット操作から生じる固体材料の堆積に起因して効率が低下するフィルタがある。
【0078】
随意に、機器の現在の動作中に取得された少なくとも1つのプロセス変数に基づいて、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの現在値が決定される。随意に、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの過去値は、現在の動作の前のあらかじめ定義された期間内に機器の過去の動作中に1つまたは複数のセンサーによって測定された少なくとも1つのプロセス変数に基づいて決定され得る。言い換えれば、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの現在値に加えて、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの過去値、すなわち、ラグ値が決定される。現在の動作の前のあらかじめ定義された期間は、モデル開発者によって設定されてもよい。たとえば、あらかじめ定義された期間は、機器の2つのメンテナンスアクションの間の時間期間の10%であってもよい。
【0079】
キーパフォーマンスインジケータは、生の測定値を表す1つまたは複数の測定されたプロセス変数を含み得る。随意に、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの現在値および/または過去値は、少なくとも1つのプロセス変数の関数を表す少なくとも1つの変換されたプロセス変数に基づいて決定される。言い換えれば、生の測定値は、圧力補償温度、または体積流量測定値から計算された質量流量などの新しい変数に数学的に結合される。新しい変数、すなわち、変換されたプロセス変数は、プロセスオペレータが最も馴染み深い測定値のバージョンを含むように、または予測モデルのデータの相関構造を改善するために作成され得る。キーパフォーマンスインジケータは、ユーザ(たとえば、プロセスオペレータ)によって、または統計モデル、たとえば、ホテリングT2スコアまたは主成分分析(PCA)から導出されるDModX距離などの関連するプロセス変数の多変量空間内の機器の「健全な」状態、すなわち、劣化のない状態までの距離を測定する異常スコアによって定義され得る。
【0080】
随意に、現在の動作中に、機器の少なくとも1つの動作パラメータの現在値が取得される。随意に、過去の動作中に、機器の少なくとも1つの動作パラメータの過去値、すなわち、ラグ値が取得され得る。
【0081】
ステップ120、すなわち、ステップb)で、予測モデルを使用して、予測期間内の少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値を推定する。予測モデルの入力は、少なくとも1つの動作パラメータの将来値を含む入力データセットを含む。
【0082】
随意に、入力データセットは、機器の現在および/または過去の動作中に取得された少なくとも1つの動作パラメータの値を含む。
【0083】
随意に、入力データセットは、現在および/または過去の動作中の機器の健康状態に関する情報を提供するので、機器の現在および/または過去の動作中に取得された少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値をさらに含む。少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの現在および/または過去値を入力として含めることにより、予測精度を改善し得る。
【0084】
予測モデルは、少なくとも1つのプロセス変数および少なくとも1つの動作パラメータの履歴データを含むサンプルセットに基づいてパラメータ化または訓練される。サンプルセットのサイズが予測モデルの性能に影響を及ぼすので、履歴データは、好ましくは、少なくとも10回の洗浄サイクル、好ましくは少なくとも30回の洗浄サイクルの少なくとも1つのプロセス変数および少なくとも1つの動作パラメータの履歴値を含む。たとえば、予測モデルは、モデルを較正するために履歴洗浄サイクルの80%を使用し、モデルの適合度または予測精度を検証するために履歴洗浄サイクルの20%を使用し得る。モデルによって捕捉されないプロセス変化に対処するために、定期的にモデルを再較正することも重要である。
【0085】
随意に、予測モデルは、少なくとも1つの動作パラメータの1つまたは複数の値が動作範囲のあらかじめ定義されたセットに違反するとき、入力データセットおよび/またはサンプルセット内の少なくとも1つの動作パラメータの1つまたは複数の値をフィルタリングまたは除去することによって補正される。このようにして、訓練の段階および/または少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値を推定するために予測モデルを使用する段階で、不合理な観察がフィルタ除去される。
【0086】
予測モデルの一例は、多重線形回帰(MLR)モデルであり、これは、観察されたデータに線形方程式を当てはめることによって、2つ以上の説明変数、すなわち、随意に、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの現在値、少なくとも1つの動作パラメータの現在値、および少なくとも1つの動作パラメータの将来値と、応答変数、すなわち、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値との間の関係をモデル化する。
【0087】
ステップ130、すなわち、ステップc)で、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値に基づいて、予測期間内の機器の劣化の進行が予測される。
【0088】
上記の動作は、適用可能な場合、たとえば入力/出力関係によって必要とされる特定の順序に従って、任意の適切な順序で、たとえば連続的に、同時に、またはそれらの組合せで実行されてもよいことが諒解されよう。
【0089】
予測モデルの例
予測モデルが、数日先および数週間先の機器の健康状態の予測にも適用可能であることを示すために、スチームクラッカー炉、スチームクラッカーの、TLEとしても知られる移送ライン交換器、および流動床反応器で使用されるアニリン触媒を含む機器の3つの例を提供する。
【0090】
A.TLE
TLEはコーキングする傾向があるので、その冷却能力は経時的に劣化し、出口のガス温度が上昇する可能性がある。洗浄したばかりのTLEの場合、この温度は約380℃である。1~3カ月以内に470~480℃に上昇し、これは、(バーンオフまたは機械的手段のいずれかにより)デバイスを洗浄するためのしきい値である。前者のセクションに関して、出口温度は、劣化プロセスを監視するためのキーパフォーマンスインジケータである。洗浄タスクをスケジュールするために、臨界出口温度に達するときを少なくとも1~2週間前に知っていくことが明らかに非常に有利である。
【0091】
TLEコーキングの予測のさらなる利点は、近い将来における低減された供給負荷またはクラッキング温度などの代替シナリオをシミュレートする可能性であり、プロセスマネージャが、たとえば、他のメンテナンスタスクと同期させるために、洗浄手順を先行的に遅延させることを可能にする。これらの理由のために、出口温度の信頼性のある予測は、非常に大きい利点である。
【0092】
A1.TLE A
TLE Aの予測目標は、出口温度、すなわち、キーパフォーマンスインジケータの将来値である。明快のために、これは、予測モデルによって、将来の固定の時間シフト、すなわち、予測期間における出口温度の値を推定することを意味する。
【0093】
モデルの入力量は、以下の方法で選択され得る。第1に、コーキングに影響を及ぼすことが知られているかまたは信じられているすべての量が、たとえば、領域専門家によって選択される。次いで、これらの量の特徴のいくつかが結合され、予測モデルの適切な数学的形式が選択され、モデル履歴データが較正される。また、履歴データ内の無関係な特徴を記憶し、したがって、新しいデータの正確な予測を生成できない(「オーバーフィッティング問題」)モデルを回避することが好ましい。
【0094】
その結果、モデルへの入力として、以下の特徴が選択された。
a.現在時間t
now(予測が行われた日)に測定された量
・TLE Aに接続されたすべてのクラッキングコイルにわたって平均された、現在のナフサ供給負荷[t/h]
・(コイル長の90%における)現在のクラッキング温度[℃]、および
・現在のTLE出口温度
b.(少なくとも原則的には)将来的に既知であるか、さらには運用によって制御されるので、予測期間にわたって確実に予測できる量
・予測が行われる日であるt
futureにおけるナフサ供給負荷[t/h]
・t
futureにおけるクラッキング温度[℃]
・予測期間中にTLEを通過する異なるナフサ成分の量[t]。明快のために、これは、予測期間にわたって蓄積され、供給中の成分の重量分率によって重み付けされた供給負荷として定義され、i番目の成分についてm
iによって示される。
【数1】
29個の測定された成分すべてを検討する代わりに、以下のクラスの成分に集約される重量分率を含む。
・n-パラフィン
・i-パラフィン
・ナフテン
・芳香族化合物、および
・オレフィン。
【0095】
特徴エンジニアリングの追加のステップとして、モデルに対する上記の入力量のすべてを、より高い多項式次数、たとえば、すべての入力における2次の因数モデルに拡張することができる。次のステップは、これらの入力量と目標キーパフォーマンスインジケータ、すなわち、将来の出口温度との間の関係を、履歴データから、多重線形回帰を使用して決定することである。この目的のために、最後の48回の洗浄サイクル(~10年)のすべての量の履歴値が、1時間のサンプリングレートを使用して収集された。システムの「不良」観察値、すなわち、回帰に使用すべきでないデータ点をフィルタ除去するために、いくつかの基準が適用された。
・時点tnowまたはtfutureにおいて、TLEがデコーキングされた観察値
・時点tnowまたはtfutureにおいて「異常に」低い、または非常に高い供給負荷を伴う観察値
・時点tnowまたはtfutureにおいて「異常な」クラッキング温度値を有する観察値
・入力変数または出力のいずれかが測定されない観察値。
【0096】
次に、データセットが検証セット(8洗浄サイクル)および訓練セット(40サイクル)に分割された。訓練セットのみを使用して、多重線形回帰が行われた。
【0097】
MLRの最小二乗フィッティング手順のためのロバスト化法を使用して、モデル精度に対する外れ値の有害な影響を軽減した。
【0098】
モデルの予測誤差(1-σ-信頼度)は、予測のモデル推定値と予測期間におけるその値との間の二乗平均平方根偏差(RMSE)によって定量化された。検証セットおよび訓練セットのRMSEは、同様の大きさであり、モデルがオーバーフィッティングを受けないことを示す。測定された出口温度および対応する14日間予測が、履歴の例示的なセグメントについて
図2Aに示されている。特に、出口温度の真値10は、2010年10月から2010年11月の間、および2011年2月から2011年4月の間の訓練データにおける対応する14日間予測12と比較される。出口温度の真値10は、2010年11月から2011年2月の間の検証データにおける対応する14日間予測14と比較される。明快のために、曲線12および曲線14は、予測期間中の供給負荷および供給組成が正確に予測された場合、14日前に計算されたであろう所与の日についての予測である。
【0099】
予測と実測値との間の一致は非常に良好である。瞬間の変化(供給負荷の突然の変化によって引き起こされる)は、コーキングによって引き起こされる一般的な増加傾向と同様に捕捉される。異なる予測期間のモデルの予測誤差を
図2Bに示す。予想されるように、不確実性は、将来の予測が長くなるほど高くなる。しかし、このモデルは、1カ月までの期間の間に許容可能な予測値(誤差10℃以下)をもたらす。
【0100】
A2.TLE B
TLE Aと非常に類似して、TLE Bの出口温度の予測モデルが確立された。しかしながら、TLE Aが位置する炉Aとは対照的に、TLE Bが位置する炉Bは、ナフサを排他的に処理するだけでなく、LPGまたは両方の混合物を供給することもある(「コクラッキング」)。これは、サイクル長(すなわち、2つの洗浄手順の間の時間間隔)のより大きい変動につながる。その結果、プラント要員は、炉Aと比較して炉Bのコーキングの「直感」がはるかに弱くなり、信頼性のある予測モデルの利点が増大する。
【0101】
また、供給原料を(たとえば、ナフサから液体石油ガスへ)切り替えることが進行劣化に及ぼす影響をシミュレートする可能性は、TLE Bの予測モデルのさらなる利点である。
【0102】
TLE Bの予測モデルへの入力として、TLE Aと同じ量から開始し、以下を追加した。
・現在のLPG供給負荷[t/h]
・tfutureにおけるLPG供給負荷[t/h]、および
・以下を含む異なるLPG成分の量
・プロパン
・n-ブタン
・i-ブタン
・イソブテン
・1-ブテン
・ブテン-2-トランス
・ブテン-2-シス、および
・ペンタン類(合計)
【0103】
不合理な観察をフィルタ除去するための基準は、より大きい範囲の有効なクラッキング温度値以外は、TLE Aと同様であった。モデル構築プロセスの他のすべてのステップは、TLE Aについて記載したとおりであった。
【0104】
14日間予測の結果を
図3に示す。特に、出口温度の真値10は、2008年7月から2008年9月の間、および2008年12月から2009年2月の間の訓練データにおける対応する14日間予測12と比較される。出口温度の真値10は、2008年9月から2008年12月の間の検証データにおける対応する14日間予測14と比較される。予測モデルは、~8℃の許容可能な誤差までの訓練データと検証データの両方に関する履歴データを記述している。TLE Bの予測誤差は、すべての期間についてTLE Aの予測誤差よりもわずかに大きく、これは、コクラッキング操作がコーキングを予測することをより困難にするので、プラント要員の期待を反映する。
【0105】
したがって、開発された出口温度の予測モデルは、劣化の中心的なキーパフォーマンスインジケータであり、利用可能な10年間の履歴データを非常によく表す。2週間までの予測では、+/-7℃(1-σ-信頼レベル)の精度での予測が可能であり、これは出口温度が正常に変化する温度ウィンドウと比較して小さい。さらに、モデルは、今後数日における供給負荷、クラッキング温度、および供給組成が出口温度の進行にどのような影響を及ぼすかをシミュレートすることができ、したがって、操作が次の洗浄手順を都合のよい日付に合わせることを可能にする。
【0106】
B.スチームクラッカー炉
スチームクラッカー炉については、TLEと同様のアプローチが使用される。スチームクラッカー炉内でのコーキングのためのキーパフォーマンスインジケータは、スチームクラッカー炉内のクラッキングコイルの管金属温度を含む。キーパフォーマンスインジケータを決定するために、スチームクラッカー炉内のクラッキングコイルの管金属温度は測定されるべきプロセス変数である。キーパフォーマンスインジケータの将来値、すなわち、クラッキングコイルの管金属温度を予測するために、予測モデルは、上記セクションAで説明したアプローチを使用して、たとえば過去10年間の履歴生産データに基づいて開発される。予測モデルは、定量化された信頼マージンで、今後4週間以上にわたるクラッキングコイルにおけるコーキングの進行を予測することができる。さらに、「what-if」シナリオ、すなわち、プロセス条件の変化、すなわち、低減された供給負荷、クラッキング温度の供給タイプなどの動作パラメータの変化をシミュレートするために使用される。
【0107】
動作パラメータ、妥当性範囲、導出された特徴、回帰方法などは、TLEについて上述したものと同一である。
【0108】
C.アニリン触媒
アニリン触媒の場合、コークスの蓄積はまた、触媒の性能劣化をもたらし、それとともにアニリンの生成の減少をもたらす。コークスの蓄積および触媒粒子の質量の結果としての増加は、流動床反応器の床上の圧力降下の増加をもたらす。触媒粒子の質量の変化ならびにサイズの変化は、触媒粒子と反応器内部の熱交換器との間の床高さおよび熱伝達係数の変化をさらに引き起こし、これはk値とも略される。加えて、コーキングは、触媒の不活性化によるアニリン転化率も低下させる。前者のセクションに関して、床上の圧力降下が、劣化プロセスを監視するためのキーパフォーマンスインジケータである。しかしながら、熱伝達係数、床高さおよびアニリン転化率は、キャンペーンの終了を決定し、それとともに触媒の再生の開始を決定するためのキーパフォーマンスインジケータである。キャンペーンの終了は、通常、熱交換器のレベル未満の床高さの低下、あるレベル未満の熱伝達係数および/またはアニリン転化率の低下によって定義される。これらのケースの各々は、最終的に、キャンペーン/サイクルの終了につながる。キャンペーンの終了は、通常、2~5週間の間に達成される。触媒の再生をスケジュールするために、少なくとも次の1~2週間以内のキーパフォーマンスパラメータの進展、およびそれに伴うキャンペーン/サイクルのおおよその終了を知ることは、明らかに非常に有利である。
【0109】
前に説明した例のように、予測のさらなる利点は、増加した供給負荷、供給組成または反応器温度のような代替シナリオをシミュレートする可能性であり、これにより、プロセスマネージャは、触媒の再生、したがってプラントの停止を他の接続されたプラントと整合させることができる。
【0110】
より良好な予測結果に到達するために、ある前処理ステップが、モデルの目標パラメータおよび入力パラメータに適用される。モデルの目標パラメータは、キーパフォーマンスインジケータであり、明確には、床上の圧力降下、床高さ、および熱伝達係数、ならびに個別にはアニリン転化率である。すべての目標パラメータに対して、単純な移動平均から二重指数平滑化アルゴリズムまでの範囲の平滑化アルゴリズムが適用される。モデルの入力パラメータは、TLEの例と同様に選択される。第1に、コーキング、熱伝達係数、床高さおよび転化率に影響を及ぼすことが知られているか、または信じられているすべての量は、たとえば、専門家によって選択される。さらに、無関係な入力は、モデル精度を低下させるだけなので、無視される。加えて、より良いモデル精度のために、目標ならびに入力パラメータの遠い外れ値が除去される。次いで、予測モデルの適切な数学的形式が選択される。これは、モデルの1回の反復について考慮される過去値および将来値の数の決定を含む。加えて、正則化アルゴリズムおよびパラメータは、訓練データの過度に正確な予測、およびオーバーフィッティングとしても知られるモデルの不十分な一般化を回避するために選択される。
【0111】
モデルへの可能な入力として、以下の特徴が選択された。
a.過去および現在に測定され、将来動作によって定義される動作パラメータ
・反応器へのMNB流量
・反応器温度
・サイクルガスの流量
・オフガスの水素濃度
b.過去および現在において計算され、将来の動作パラメータから取得可能なプロセス変数
・触媒の最初の使用からの触媒1トン当たりの生成されたMNBのトン数で表した触媒の年数
・実行中のキャンペーン中の触媒1トン当たりの生成されたMNBのトン数で表したキャンペーン長
・現在または以前のキャンペーンにおける平均コーキング率
c.初期目標変数
・初期床高さ
・初期熱伝達係数
・初期圧力降下
反応器の動作に応じて、したがってそれぞれの入力に対する目標変数の予測の依存性に応じて、入力パラメータの異なる選択が反応器ごとに選択され得る。加えて、目標変数の過去および現在の値(床上の圧力降下、熱伝達係数および床高さ)も、モデルの入力として役立つ。
【0112】
モデルの訓練、ハイパーパラメータ調整、および検証には、入れ子式交差検証の方法が使用された。反応器の年数に応じて、数年から10年を超えるまで係属中のモデルの訓練のために、異なる数のキャンペーンが利用可能である。ここでは、入れ子式交差検証の内側および外側の折り畳みに5つの折り畳みが使用された。モデルの予測誤差(1-σ-信頼度)は、予測のモデル推定値と予測期間におけるその値との間の二乗平均平方根偏差(RMSE)によって定量化された。ここで、モデルの凡化誤差の推定値を与えるので、外側再サンプリングにわたるテストセットにわたるRMSEの平均が使用された。また、ここで、誤差は、予測期間が増加するにつれて増加する。訓練セットとテストセットとの間の小さい差は、モデルがオーバーフィッティングに問題がないことを示す。
【0113】
長期的には、時間による誤差の進展はランダムウォークのものに似ているが、短期的には、誤差はモデルと真のデータとの間の固有の差によって支配されると仮定する。したがって、モデルとして以下を提案する。
【数2】
ここで、定数オフセット「a」は、短期的な誤差を表し、sqrt(t)依存性は、ランダムウォークの長期的な進展を表す。
【0114】
提案された方法の原理
次に、提案された方法の原理を示す
図4Aおよび
図4Bを参照する。提案された予測モデルは、将来の動作パラメータに基づいてキーパフォーマンスインジケータを予測する。
【0115】
線2000は、現在時間であり得る予測の第1の反復の開始を反映する。過去の方向は、矢印2500によって示され、一方、将来の方向は、矢印2600として示される。
図4Aに示される値は、中空円2100および完全な円2200として示される過去値を含むキーパフォーマンスインジケータである。完全な円はまた、予測モデルで使用される過去値を反映する。非限定的な例では、これらのキーパフォーマンスインジケータは、床上の圧力降下(コークス含有量)、熱伝達係数、床高さおよびアニリン触媒の転化率、ならびにTLEの出口温度など、上記の例で説明した1つまたは複数のキーパフォーマンスインジケータとすることができる。
【0116】
モデルに組み込まれた過去値を選択するための時間スパンは2300として示されている。予測期間は2400として示されている。予測KPI値は2700として示されている。いくつかの例では、予測の反復は1回だけであってもよい。場合によっては、予測期間を延長することが好ましい場合がある。これは、第1の予測期間の間または終了時に予測を繰り返し実行することによって行われ得る。
【0117】
図4Bは、対応する動作値およびプロセス変数を示す。
図4Bでは、動作値およびプロセス変数3000、3100、3200が時間軸に沿ってプロットされている。予測モデルでは考慮されていない過去の動作値およびプロセス変数は、3000として示されている。予測において考慮される過去の動作値およびプロセス変数は3100として示され、予測において考慮される将来の動作値およびプロセス変数は3200として示され、予測期間2400内にある。これらの動作値およびプロセス変数の例は、セクション「予測モデルの例」で上述されている。
【0118】
いくつかの例では、将来の動作パラメータのみを予測に使用することができる。
【0119】
いくつかの例では、将来のプロセス変数のみが、予測モデルのための入力として使用され得る。
【0120】
次の予測サイクルは、4000で開始し、これは、
図4Aの第1の予測期間2400の終了をマークする。
【0121】
いくつかの例では、予測の反復は1回だけであってもよい。
【0122】
いくつかの例では、予測期間を延長することが好ましい場合がある。これは、第1の予測期間の終了時に予測を繰り返し実行することによって行われ得る。一例が
図5Aおよび
図5Bに示される。代替的に(図示せず)、これは、第1の予測期間中に繰り返し実行することによって行われてもよく、すなわち、第1の反復および第2の反復は、互いに重複してもよい。
【0123】
ラグ変数による反復アプローチを使用すると、一般に、より近い将来(アニリンの場合、1~2週間)に、より良好な予測がもたらされ得る。これは、モデルが、常に更新された初期値を使用するという事実による。より遠い将来(アニリンの場合、>4週間)、ラグ変数のないより単純なモデルは、より良好な精度を有する傾向があり得る。より遠い将来におけるより悪い性能は、モデルの反復的性質に起因する予測誤差の合計に由来する。
【0124】
図5Aを参照すると、キーパラメータインジケータの予測の第2の反復が示されている。この予測サイクルは、4000で開始し、これは、
図4Aの第1の予測期間2400の終了をマークする。破線4000は、
図4および
図6において同様に同じ時間を示す。モデルに組み込まれた過去値を選択するための時間スパンは、ここでは4300として示されている。予測期間は、ここでは4400として示されている。この反復の予測KPI値は、4700の空の十字として示される。ハッシュされた三角形は、第2の反復のための将来の動作値およびプロセス変数を表す。ここで、完全な予測は、一点鎖線2000から破線6000までの時間スパンをカバーする。さらに、反復は、移動ウィンドウアプローチに似ている場合がある。ここで、ウィンドウは、第1の予測時間スパンの終わりに移動する。
【0125】
予測期間は、問題の必要性に応じて調整可能であってもよい。たとえば、予測期間は、数日先または数週間先であってもよい。たとえば、触媒の再生をスケジュールするために、少なくとも次の1~2週間以内のキーパフォーマンスパラメータの進展、およびそれに伴うキャンペーン/サイクルのおおよその終了を知ることは、明らかに非常に有利である。たとえば、キャンペーン/サイクルの終了は、通常、2~5週間の間に達成される。
【0126】
時間ウィンドウ2300、すなわち、モデルに組み込まれた過去値を選択するための時間スパンは、問題の必要性に応じて調整可能であってもよい。たとえば、時間ウィンドウは、機器の2つのメンテナンスアクションの間の時間期間の10%、20%、30%、40%、または50%であってもよい。
【0127】
予測モデルは、多重線形回帰モデルであってもよい。いくつかの例では、予測モデルは、正則化を伴う多重線形回帰モデルであってもよい。正則化は、不良設定問題を解決するために、またはオーバーフィッティングを防止するために、追加の情報を導入するプロセスである。正則化する1つの方法は、損失関数に制約を追加することである。
【0128】
正則化損失=損失関数+制約
正則化するために使用することができる複数の異なる形式の制約がある。例としては、限定はしないが、リッジ回帰、ラッソ、およびエラスティックネットがある。
【0129】
劣化の進行を予測するための装置
図6は、スチームクラッカー炉など、化学製品製造プラントの機器の劣化の進行を予測するための装置200を概略的に示す。装置200は、入力ユニット210、処理ユニット220、および出力ユニット230を含む。
【0130】
入力ユニット210は、機器の少なくとも1つの動作パラメータの将来値を受信するように構成されている。少なくとも1つの動作パラメータは、機器の劣化に影響を及ぼし、少なくとも1つの動作パラメータの将来値が予測期間にわたって決定され得るように、少なくとも1つの動作パラメータは、予測期間にわたって既知であり、かつ/または制御可能である。
【0131】
随意に、入力ユニット210は、機器の現在または過去の動作中に取得された少なくとも1つの動作パラメータの値を受信するようにさらに構成されている。
【0132】
随意に、入力ユニット210は、機器の現在および/または過去の動作中に測定される少なくとも1つのプロセス変数を受信するように構成されている。
【0133】
したがって、入力ユニット210は、一例では、イーサネットインターフェース、USBインターフェース、WiFi(登録商標)もしくはBluetooth(登録商標)などのワイヤレスインターフェース、または入力周辺機器と処理ユニット220との間のデータ転送を可能にする任意の同等のデータ転送インターフェースとして実装され得る。
【0134】
処理ユニット220は、入力データセットに基づいて予測期間内の少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値を推定するために、多重線形回帰モデルなどの予測モデルを使用するようにさらに構成されている。入力データセットは、機器の現在および/または過去の動作中に取得された少なくとも1つの動作パラメータの値、および少なくとも1つの動作パラメータの将来値を含む。予測モデルは、少なくとも1つのプロセス変数および少なくとも1つの動作パラメータの履歴データを含むサンプルセットに基づいてパラメータ化または訓練される。処理ユニット220は、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの将来値に基づいて、予測期間内の機器の劣化の進行を予測するようにさらに構成されている。
【0135】
随意に、入力ユニット210は、機器の現在および/または過去の動作中に、機器の少なくとも1つの動作パラメータの値を取得するように構成されている。入力データセットは、機器の現在および/または過去の動作中に取得された少なくとも1つの動作パラメータの値を含む。
【0136】
随意に、処理ユニット220は、少なくとも1つのプロセス変数に基づいて、少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値を決定するように構成されている。入力データセットは、機器の現在および/または過去の動作中に取得された少なくとも1つのキーパフォーマンスインジケータの値をさらに含む。
【0137】
随意に、処理ユニットは、さらなる予測期間にわたって、推定を繰り返し実行するように構成されている。さらなる予測期間(第2の予測期間とも呼ばれる)は、予測期間(第1の予測期間とも呼ばれる)と部分的に重複される。代替的に、これらの2つの予測期間は、互いに別々であってもよい。これは、特に
図5Aおよび
図5Bに示された実施形態に関して、上記で説明されている。
【0138】
したがって、処理ユニット220は、様々なプロセスおよび方法を実行するためにコンピュータプログラム命令を実行することができる。処理ユニット220は、特定用途向け集積回路(ASIC)、電子回路、1つもしくは複数のソフトウェアもしくはファームウェアプログラムを実行するプロセッサ(共有、専用、またはグループ)および/またはメモリ(共有、専用、またはグループ)、組合せ論理回路、ならびに/あるいは説明した機能を提供する他の適切な構成要素を指すか、それらの一部であるか、それらを含むことができる。さらに、そのような処理ユニット220は、当業者に知られているように、揮発性または不揮発性ストレージ、ディスプレイインターフェース、通信インターフェースなどに接続され得る。
【0139】
出力ユニット230は、機器の劣化の予測された進行を出力するように構成されている。
【0140】
したがって、出力ユニット230は、一例では、イーサネットインターフェース、USBインターフェース、WiFi(登録商標)もしくはBluetooth(登録商標)などのワイヤレスインターフェース、または出力周辺機器と処理ユニット230との間のデータ転送を可能にする任意の同等のデータ転送インターフェースとして実装され得る。
【0141】
本発明のこの例示的な実施形態は、最初から本発明を使用するコンピュータプログラムと、更新によって既存のプログラムを本発明を使用するプログラムに変えるコンピュータプログラムの両方をカバーする。
【0142】
さらに、コンピュータプログラム要素は、上述の方法の例示的な実施形態の手順を実行するために必要なすべてのステップを提供することが可能であり得る。
【0143】
本発明のさらなる例示的な実施形態によれば、CD-ROMなどのコンピュータ可読媒体が提示され、コンピュータ可読媒体は、その上に記憶されたコンピュータプログラム要素を有し、コンピュータプログラム要素は、前のセクションによって説明される。
【0144】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒に、または他のハードウェアの一部として供給される光記憶媒体またはソリッドステート媒体などの適切な媒体上に記憶および/または配布することができるが、インターネットまたは他の有線もしくはワイヤレス電気通信システムを介してなど、他の形態で配布することもできる。
【0145】
しかしながら、コンピュータプログラムは、ワールドワイドウェブのようなネットワークを介して提示することもでき、そのようなネットワークからデータプロセッサのワーキングメモリにダウンロードすることができる。本発明のさらなる例示的な実施形態によれば、ダウンロードのために利用可能なコンピュータプログラム要素を作成するための媒体が提供され、コンピュータプログラム要素は、本発明の前述の実施形態のうちの1つによる方法を実行するように構成される。
【0146】
本発明の実施形態は、異なる主題に関して説明されることに留意されたい。特に、いくつかの実施形態は、方法タイプの請求項に関して説明され、他の実施形態は、デバイスタイプの請求項に関して説明される。しかしながら、当業者は、上記および以下の説明から、別段の通知がない限り、1つのタイプの主題に属する特徴の任意の組み合わせに加えて、異なる主題に関する特徴間の任意の組み合わせも、本出願で開示されると考えられることを推測するであろう。しかしながら、すべての特徴を組み合わせて、特徴の単純な合計よりも大きい相乗効果を提供することができる。
【0147】
本発明は、図面および前述の説明において詳細に図示および説明されてきたが、そのような例示および説明は、例示的または例示であり、限定的ではないと見なされるものとする。本発明は、開示された実施形態に限定されない。開示された実施形態に対する他の変形は、図面、開示、および従属請求項の検討から、請求された発明を実施する際に当業者によって理解され、実施され得る。
【0148】
特許請求の範囲において、「含む(comprising)」という単語は、他の要素またはステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は複数を除外しない。単一のプロセッサまたは他のユニットは、特許請求の範囲に記載されたいくつかの項目の機能を果たし得る。いくつかの手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組合せが有利に使用できないことを示すものではない。特許請求の範囲の任意の参照符号は、その範囲を制限するものとして解釈されないものとする。
【符号の説明】
【0149】
10 真値
12 訓練データにおける対応する14日間予測
14 検証データにおける対応する14日間予測
100 コンピュータ実装方法
200 装置
210 入力ユニット
220 処理ユニット
230 出力ユニット
【国際調査報告】