(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】改良型精子受精能獲得用緩衝液
(51)【国際特許分類】
C12N 1/04 20060101AFI20220930BHJP
【FI】
C12N1/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022505238
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(85)【翻訳文提出日】2022-01-24
(86)【国際出願番号】 IB2020057093
(87)【国際公開番号】W WO2021019430
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】102019000013248
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522032523
【氏名又は名称】ピピトー、アントニーノ
【氏名又は名称原語表記】PIPITO’, Antonino
(71)【出願人】
【識別番号】522032534
【氏名又は名称】カスターニャ、エリザベッタ
【氏名又は名称原語表記】CASTAGNA, Elisabetta
(71)【出願人】
【識別番号】522032545
【氏名又は名称】トッツォ、ステファノ
【氏名又は名称原語表記】TOZZO, Stefano
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピピトー、アントニーノ
(72)【発明者】
【氏名】カスターニャ、エリザベッタ
(72)【発明者】
【氏名】トッツォ、ステファノ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD25
4B065BD39
4B065CA44
(57)【要約】
有効成分アスタキサンチンと血清アルブミンからなる緩衝液と、二塩基性リン酸カリウムK2HPO4で緩衝された一塩基性リン酸カリウムKH2PO4を含むリン酸緩衝液からなる精子受精能獲得用緩衝液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分アスタキサンチンと血清アルブミンを含む緩衝液と、二塩基性リン酸カリウムK
2HPO
4で緩衝された一塩基性リン酸カリウムKH
2PO
4を含むリン酸緩衝液とからなることを特徴とする、精子受精能獲得用緩衝液。
【請求項2】
0.5~50μMのアスタキサンチンと、1~20mg/mlのヒト血清アルブミンと、0.1~20mMのKH
2PO
4-K
2HPO
4緩衝液とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の緩衝液。
【請求項3】
前記リン酸塩溶液は、0.1~20mMのKH
2PO
4と、0.28~0.4 Osmの浸透圧モル濃度(osmolarity)を有するK
2HPO
4バッファー溶液(pHレンジ7.00~9.00)とからなることを特徴とする、請求項1に記載の緩衝液。
【請求項4】
3つの立体異性体(3R,3’R、3S,3’S及び3R,3’S)を含む、化学式3,3’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(3,3’-dihydroxy-β,β-carotene-4,4’-dione)を有する合成アスタキサンチンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の緩衝液。
【請求項5】
前記立体異性体は、1:1:2の比で存在することを特徴とする、請求項1に記載の緩衝液。
【請求項6】
天然、モノ-又はジ-エステル化アスタキサンチンを含み、化学式3,3’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(3,3’-dihydroxy-β,β-carotene-4,4’-dione,)を有することを特徴とする、請求項1に記載の緩衝液。
【請求項7】
5~50mMの重炭酸ソーダNaHCO
3をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の緩衝液。
【請求項8】
14μMのアスタキサンチン、1mMのMgSO
4、20mMの乳酸カルシウム、10mMのピルビン酸ナトリウム、12mMのリン酸緩衝液、12mg/mlのヒト血清アルブミン、10mMのNaHCO
3、及び0.28 Osmまでの生理食塩水(pH7.5)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の緩衝液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精子の受精能力獲得のための改良された緩衝液に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の分野は、医学的な受精補助技術の分野であり、精子は、その生存率と機能性を保証しなければならない栄養と保護液からなる緩衝液とも呼ばれる培養液に集められる。特に、その最適化特性により、前記緩衝液中では、最も運動性の高い精子が選択され(スイムアップ法により)、とりわけ、それらは「成熟」させられる、すなわち、それなしでは受精能力を得ることができない一連の変化を完了させられるのである。
【0003】
例えば、すでに分析され、市場で最高のものの1つとされている有名な純精液洗浄液(Pure Sperm Wash buffer)(ニダコン社のPSW)などの市販のバッファに見られる問題は、主に、精子が受精に十分なレベルの静電容量に達することができないことである(Andrisaniらの「精子生存性及び受精能獲得性に及ぼす種々の市販緩衝液の影響-生殖医療におけるシステム生物学、2014年」)。実際、このバッファーを用いても、精子の頂端部(又は、頭部)で細胞膜を再構築し、特定の酵素活性化を行うことからなる精子調製過程は、かなりの割合で卵子の受精に達するのに十分なレベルまで持っていくことができない。
【0004】
さらに、市販のバッファーの欠点は、時間が経つと不安定になることである。つまり、ボトルを開けたらすぐに、とにかくできるだけ短時間でバッファーを使用しなければならない。
【0005】
Alessandra Andrisaniら、「アスタキサンチンによるリンの変位と活性化の誘導によるヒト精子の生殖能力の改善」,Marine Drugs,vol.13 no.9,25 Jan 2015,pp.5533-5551(以下、A1と呼ぶ)及びGabriella Donaら、「アスタキサンチンのヒト精子生殖能力に及ぼす影響」,Marine Drugs,vol.11,2013年1月1日6日、1909~1919年頁(以下「A2」という。)による刊行物には、ヒト精子の受精能獲得に対するアスタキサンチンの作用機序に関する試験が記載されている。これらの研究は、精子を含有する培地にインキュベーション時にアスタキサンチンを即時に添加することによって実施され、したがって、最終組成物の不安定性による生成物の変性に関する生化学的パラメータおよび運動性の時間的変化についてのいかなる研究も行わなかった。
【発明の概要】
【0006】
本発明の主な目的は、精子の成熟のための新規な緩衝液を提供することであり、これは、公知の緩衝液とは異なり、成熟過程において精子を補助できる全ての物質を含有する、完全かつバランスのとれた生成物を提供する。
【0007】
さらに、別の提案された目的は、この新たな緩衝液は、医学的に補助された受精技術においてより有効な、より高いパーセンテージの精子によって実証される、受精能獲得プロセスの増強を決定し得ることである。
【0008】
最後に、この新しい緩衝液は、実験の全期間だけでなく、公知の化学式よりもはるかに長い時間、その特性を完全に維持し、保存時間は、無傷のボトル中で90日を超え、ボトルを開けた後14日を超える。
【0009】
これらの目的は、請求項1の緩衝液によって達成される。本発明の好ましい実施形態は、残りの特許請求の範囲から明らかになるのであろう。
【0010】
本発明の緩衝液は、即時添加を全く必要とせずにすぐに使用できるという利点を提供し、改善された受精能力獲得反応の利点を提供し、これは、医学的に補助された受精技術のためのより大きな効率で、より多数の成熟精子が産生されることを可能にし;それはその機能性を完全に維持することにおいて長い安定性を提示し(ボトルが開封された後14日を超えて);そして調製されると、それは3ヶ月を超えて密封されたボトル中に保持され得る。
【0011】
特に、本発明は、特に、異常なROS生成を有する精子と共に使用される場合、従って、生存及び成熟の低い確率で、精子能力獲得機構を有意に増強する。実際、本発明によれば、リン酸緩衝液及び血清アルブミンと組み合わせたアスタキサンチンの存在は、膜を有意に再構築し、精子能力獲得プロセスを効果的に補助する。さらに、記載された活性成分の組み合わせは、本発明の緩衝溶液に安定性を与える。なぜなら、それは生成物の変性をかなり低減し、成分の自然酸化及び/又は細菌汚染を防止するからである。
【0012】
公知の化学式と比較して、ECB緩衝液の化学式は、各単一の手順の開始時の即時調製の必要性を排除する。ECB緩衝液の処方は、アスタキサンチンを安定な溶液中に保つことを可能にし、それによって緩衝液自体の使用をかなり単純化する。実際、包装ボトル内に収容された緩衝液は、オペレータによってそのまま使用することができ、これはすべて、結果の信頼性及び再現性に関して大きな利点を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
これら及び他の目的、利点及び特徴は、非限定的な例として以下に記載される、本発明の緩衝液の以下の処方から生じる。
【0014】
ECB(増強生殖能力緩衝液)と呼ばれる緩衝液は、好ましくは、ヒト起源の血清アルブミンと組み合わされた活性物質アスタキサンチン、及び二塩基性リン酸カリウムK2HPO4で緩衝された一塩基性リン酸カリウムKH2PO4からなるリン酸緩衝液の存在を特徴とする。
【0015】
上記緩衝液は、好ましくは、0.5~50μMのアスタキサンチン、1~20mg/mlの血清アルブミン、好ましくは、ヒト血清アルブミン、及び0.1~20mMのKH2PO4-K2HPO4溶液を含み、次いで、これは、7.00~9.00の間のpHを決定するための種々の濃度の化合物から構成される。特に、前記リン酸溶液は、0.1~20mMのKH2PO4-K2HPO4緩衝液(pHレンジ7.00~9.00)と、0.28~0.4 Osmの浸透圧モル濃度(osmolarity)を有する。
【0016】
さらにより好ましくは、上記緩衝液は、0.5~10mMのMgSO4、5~50mMの乳酸カルシウム、0.1~20mMのピルビン酸ナトリウム、0.5~50μMのアスタキサンチン、1~20mg/mlのヒト血清アルブミン及び0.1~20mMのKH2PO4-K2HPO4液を含む。
【0017】
好ましくは、緩衝液はまた、5~50mMの重炭酸ソーダNaHCO3を含む。
【0018】
本発明の緩衝液に使用されるアスタキサンチンは、一般式3S,3S’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(3S,3S’-dihydroxy-β,β-carotene-4,4’-dione)(CAS 7542-45-2)として、好ましくは、1:1:2の比率で3つの立体異性体(3R,3’R、3S,3’S及び3R,3’S)を含む合成アスタキサンチンのラセミ混合物からなる。しかし、いくつかの藻類又は真菌中に抗酸化機能を有する天然のモノエステル化又はジエステル化アスタキサンチンを、一般式3S,3S’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(3S,3S’-dihydroxy-β,β-carotene-4,4’-dione)と共に使用することもできる。
【0019】
以下は、本発明の緩衝溶液のいくつかの例である:
μMは、ミクロモル/リットルを表す。
mMは、ミリモル/リットルを表す。
Osmは、オスモル/リットルを表す。
【実施例】
【0020】
実施例1
アスタキサンチン 0.5-50μM
リン酸緩衝液 0.1-20mM
ヒト血清アルブミン 1-20mg/ml
生理食塩水pH7.5 最大0.28Osm
【0021】
実施例2
アスタキサンチン 14μM
MgSO4 1mM
乳酸カルシウム 20mM
ピルビン酸Na 10mM
リン酸緩衝液 12mM
ヒト血清アルブミン 12mg/ml
NaHCO3 10mM
生理食塩水pH7.5 最大0.28 Osm
【0022】
実施例3
アスタキサンチン 1μM
MgSO4 4mM
乳酸カルシウム 10mM
ピルビン酸Na 15mM
リン酸緩衝液 18mM
ヒト血清アルブミン 5mg/ml
NaHCO3 10mM
生理食塩水pH8.0 最大0.30 Osm
【0023】
実施例4
アスタキサンチン 10μM
MgSO4 9mM
乳酸カルシウム 10mM
ピルビン酸Na 12mM
リン酸緩衝液 10mM
ヒト血清アルブミン 9mg/ml
NaHCO 12mM
生理食塩水pH7.7 最大0.4 Osm
【0024】
実施例5
【0025】
【0026】
ヒト精子の受精能獲得における緩衝液の有効性は、以下の観点から測定される:精子頭部上のラフト(raft)のすべりを伴う精子の割合(CTB)(Andrisaniら、「精子生存性及び受精能獲得性に及ぼす種々の市販緩衝液の影響-生殖医療におけるシステム生物学、2014年」);頭部上のチロシンリン酸化を有する細胞の割合(p-Tyr);先体反応(ARC)を得る細胞の割合;進行性及び非進行性運動性を有する細胞の割合(M)。これらのパラメーターは、精子の生化学的(CTB、p-Tyr、ARC)及び機械的-物理的(M)特性を表し、次いで、精子が緩衝液中で産生するROSフリーラジカルの量によって特徴付けられる。
【0027】
様々な市販緩衝液の有効性を記述するために分析されたパラメータは、受精能獲得過程の基本的パラメータとして参考文献に報告されているものであり(Bottoら、「炭酸水素塩は、雄ブタ精子の受精能獲得過程における脂質マイクロドメインにおける膜再編成とCBR1及びTRPV1エンドカンナビノイド受容体の移動を誘導する」、膜生物学ジャーナル、2010;Donaら、「内因性活性酸素種含量及び精子受精能獲得過程におけるチロシンリン酸化の調節」:ROS、「ヒト精子におけるTyr-リン酸化及び受精能獲得」、国際アンドロロジージャーナル2011a;Nixonら、「ヒト精子界面活性剤耐性膜のプロテオーム解析及び機能解析」、Journal of Cellular Physiology 2011;Andrisaniら、2014)、含まれ:
-ROSの生成、過酸化脂質を二次的に誘導することで膜の再配列を助けることができるが、膜やDNAの変性を誘導しないように最大値を超えてはならない;ルミノールによる検出によって行われる(Donaら、2011aによる);
-いわゆる脂質ラフトの滑り、これは、受精の間、膜構造の再編成に関与する;これは、コレラ毒素(CTB)のサブユニットBによる染色によって可視化される(Nixonら、2011;Andrisaniら、2014、によって与えられた表示に従って)。
-精子頭部に位置するタンパク質のチロシンリン酸化(Tyr-P)のレベル、これは、膜に位置するタンパク質および酵素が正しく機能していることを示すものとして、前述のラフトの再編成に続いて増加しなければならない(Donaら、2011b)。
-先体反応(ARC)に到達した細胞の割合、これは、精子膜と卵子膜の融合の最終ステップを意味する(Donaら,2011a)。
【0028】
-異なる緩衝液の容量条件で180分間インキュベートした後に評価した精子の運動性と運動パラメータ(M=進行性及び非進行性運動性の両方を有する精子の割合)。
【0029】
PSWによって表される既存の緩衝液と比較して、本発明の緩衝液の有効性をより良好に評価するために、ROS産生の分析技術は、精液サンプルを、2つの基、すなわち、ROSの正常な産生を有するサンプル(以下の表中のNG)及びROS産生問題を有するサンプル(以下の表1中のLPG)にそれぞれ分類することを可能にした:
【0030】
【0031】
ROSの内因性産生は、受精能獲得条件下での精子のインキュベーションの間、ルミノールルミネセンスをモニターすることによって検出される。値は、2×106精子についての相対発光単位(RLU)/30秒の移動平均として表される。
【0032】
評価
本発明による試験を実施するために使用される試料は、書面によるインフォームドコンセントを与えた健康なドナー(n=48)(年齢群、28~45歳、平均年齢34.6歳)に由来し、世界保健機関(世界保健機関、2010年)によって記載されたパラメータに従って正常性の基準を満たした。密度勾配(Donaら.,2011a)に従って単離及び精製したら、精子をアリコートに分割し、異なる緩衝液で別々に洗浄し、濃度、運動性、生存率及び形態について再分析した。次いで、サンプルを、前述のROS産生基準に基づいて、正常群(NG)又は低性能群(LPG)に属するものとして同定した(Donaら、2011a、2011b)。次いで、各サンプルのアリコートを、上記に列挙したパラメーターのための異なる緩衝液中で処理した(Donaら,2011b,2011a;Andrisaniら,2014)。
【0033】
以下の表2は、従来技術のPSW緩衝液と比較した、合成アスタキサンチンを用いた本発明のECB緩衝液によって明らかにされた、評価されたパラメーターの各々についての改善パーセンテージを列挙する。
【0034】
【0035】
使用される緩衝液は、PSW(対照緩衝液)であり、ECB緩衝液は、調製後(ECB30、60、90)、又はボトルを開けてから2週間後(旧ECB)、新鮮に、又は30、60もしくは90日後に使用される。分析したパラメータは、頭部にラフトがすべっている精子の割合(CTB)、頭部にチロシンリン酸化を有する細胞の割合(p‐Tyr)及び先体反応(ARC)を得る細胞の割合である。データは、PSW緩衝液(100%とする)と比較した、種々の条件下でECB緩衝液で得られた値の増加パーセンテージとして表される。全ての値は、平均±標準偏差として表される。
【0036】
正常ボランティア(NG)の群において明らかな改善は、精子の処置のための最適な緩衝液であることが証明されたPSW緩衝液で得られたものに対して12~約19%の範囲で予想される(Andrisaniら、2014)。本発明のECB緩衝液で処置したLPG群では、この改善が膜の再配置について49%であり、先体反応(ARC)について52%もの改善である。さらに、調製後1、2、3ヶ月でさえ、ECB緩衝液は、種々のパラメーターの同じパーセンテージの増加を細胞に保証することを示し、したがって、3ヶ月後でさえその最適な特性を維持することを実証する。ECB緩衝液の安定性は、開封後14日目に使用したボトルの効力を評価することによってさらに確認され、これは、逆に、以前の研究で実証されたように、PSW緩衝液の明らかな分解を引き起こした条件である。実際、得られたデータは、本発明のECB緩衝液がボトルを開封した直後に使用した緩衝液のレベルを維持したことを実証する(表2)。
【0037】
運動性細胞(M)のパーセンテージについても分析した場合、インキュベーション期間(180’)の終わりに、本発明のECB緩衝液は、以下の表3に示すように、進行性運動性を誘導及び維持し、運動性細胞のパーセンテージを増加させる際に、PSWよりも有効であることが証明された。
【0038】
【0039】
使用される緩衝液は、PSW(対照緩衝液)であり、ECB緩衝液は、調製後(ECB30、60、90)、又はボトルを開けてから2週間後(旧ECB)、新鮮に、又は30、60もしくは90日後に使用される。値は、進行性及び非進行性運動性(M)を有する細胞の割合を表す。データは、PSW緩衝液(100%とする)と比較した、種々の条件下でECB緩衝液で得られた値の増加パーセンテージとして表される。すべての値は、平均±偏差で表す。
【0040】
従って、これらの結果に基づいて、本発明の緩衝液は、試料の容量のパーセンテージを有意に増加させるという点で、精子を調製する際に真に有効であることが証明されたと結論付けることができる。生存能力の保存及び精子運動性の増加におけるその有効性も考慮すると、医学的に支援されたプロクレーション処理、又はPMAの範囲内で受精が成功する確率は、疑いなく莫大に高められる。
【0041】
洗浄緩衝液中の精子の調製は、細胞の正確な生理学的活性を維持する際の非常に重要な工程であり、精子を調製するためにPMAセンターで使用される緩衝液が、先体反応を得るための最適条件を誘導する場合、本発明のECB緩衝液は、既に市場で最も有効なもの1つとして示されているPSW緩衝液との比較から分かるように、他のものよりはるかに優れている。
【0042】
問題/解決基準に関して、対処される技術的問題は、完全培地(その成分が完全にバランスがとれている)を使用することによって精子容量を増加させることであり、これは経時的(90日間にわたる)、さらにより重要なことには、ボトルが開封されてから14日後の調製からの安定性を保証する。
【0043】
この問題は、新しく調製されたアスタキサンチンの可能な即時添加による新鮮な緩衝液の特徴を単に分析する前述の文献A1~A2のいずれによっても対処されず、したがって解決されない(A1p.5538、表1;A2p.1916、par.3.5及び3.6を参照のこと)。
【0044】
さらに、A1p.5538間の比較から、表1、PGグループの欄と本件明細書の表2、LPGの欄の比較から、後者は、フレッシュな緩衝液条件だけでなく、ボトルを開封してから14日後にも、p-Tyr及びARCの著しい増加をもたらすことが確認できる。
【0045】
したがって、A1を最も関連する技術水準として考慮すると、従来技術文献のいずれも、調製後少なくとも90日間、及びボトルを開封した後少なくとも14日間、完全かつ安定な、すぐに使用できる緩衝液中の最適条件下で、精子能力を増加させる目的で、請求項1の緩衝液を特徴付ける活性成分の組み合わせを教示していない。
【0046】
言い換えれば、従来技術のバッファと本発明のバッファとの間の差異を示す少なくとも2つの本質的な要素が存在すると言うことができる:
・安定性、持続性、結果の再現性;
・公知の緩衝剤とは異なり、非独自的であるが構造的な方法でアスタキサンチンを使用すること。
【0047】
文書A1及びA2に示された研究は、以下のステップを含むだけであり、使用される緩衝剤の時間的持続性に関するいかなる情報も提供していない。
-選択された市販の緩衝液、例えばPSW中の精子の懸濁液。
-即時準備された、タイムT0時のアスタキサンチンの追加。
-実験から得られたデータの記録。
-実験の終わり(T180’)、特殊な実験室廃棄物中に予め調製された即席液(精子を含む)の除去。
【0048】
この手順から、A1、A2ともに、アスタキサンチンの挙動とその作用機構を調べることが目的であり、A1、A2で使用した2つの市販緩衝液の成分とアスタキサンチン自体の潜在的な相乗作用や反作用の時間発展には注意が払われていないことが確認された。
【0049】
したがって、A1およびA2の両方において、時間T0より前に知られている緩衝液の特性に関するいかなる情報も発見、外挿または再構築することができないことは極めて明白である。
【0050】
同じ理由で、A1及びA2の両方において、時間T180’以降に知られている緩衝液の特性に関するいかなる情報も、発見、推定又は再構築することができないことは、極めて明らかである。
【0051】
即時調製の前後の既知の緩衝液(例えば、PSW+アスタキサンチン)についての情報の完全な欠如は、本発明の緩衝液に関する基本的かつ基本的な相違を表し、この情報の欠如は、当業者に、請求項1の主題を特徴付ける教示を提供しない。
【0052】
さらに、比較の結果から、ECB緩衝液(本発明の主題)は、A1及びA2で使用される即時緩衝液と比較して、冷蔵庫での貯蔵を必要とせずに少なくとも90日の貯蔵時間を有し、それは希釈を必要とせず、緩衝液は、そのまま使用され、使用時に物質を添加する必要はなく、アスタキサンチンは緩衝液中に既に存在し、生成物は絶対的に安定であり、制御又はpH調整を必要とせず、緩衝液は瓶を開封した後少なくとも2週間その特性を維持し、瓶を開封した後少なくとも2週間、各瓶の結果の複製可能性が保証されると結論付けることができる。
【国際調査報告】