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特表2022-542961リヨセルステープルファイバを生産する方法
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  • 特表-リヨセルステープルファイバを生産する方法 図1
  • 特表-リヨセルステープルファイバを生産する方法 図2
  • 特表-リヨセルステープルファイバを生産する方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】リヨセルステープルファイバを生産する方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 2/00 20060101AFI20220930BHJP
   D04H 1/4258 20120101ALI20220930BHJP
【FI】
D01F2/00 Z
D04H1/4258
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022506112
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(85)【翻訳文提出日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 EP2020071378
(87)【国際公開番号】W WO2021023594
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】19189737.0
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507127314
【氏名又は名称】レンチング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(72)【発明者】
【氏名】シルク,クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】シュレンプ,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】グゲレル,フランツ
【テーマコード(参考)】
4L035
4L047
【Fターム(参考)】
4L035BB11
4L035BB15
4L035BB66
4L035DD19
4L035DD20
4L035FF05
4L035FF08
4L047AA08
4L047AA12
4L047AB02
4L047AB07
4L047AB09
4L047CB01
(57)【要約】
本発明は、以下の順序で以下のステップ:
a)セルロースの有機溶剤中溶液からフィラメントを押し出すステップ、
b)連続セルロースフィラメントを形成するためにセルロースを沈殿させるステップ、
c)セルロースフィラメントを洗浄するステップ、
d)セルロースフィラメントを架橋剤と接触させるステップ、
e)反応室内でセルロースフィラメントを架橋剤と反応させるステップ、
f)処理されたセルロースフィラメントを洗浄するステップ、
g)ステープルファイバを形成するために洗浄されたセルロースフィラメントを切断するステップ、
h)ステープルファイバから不織繊維を形成し、不織繊維をプレスするステップ、
i)不織繊維の仕上げを行い、不織繊維をプレスするステップ、
を有する、リヨセルステープルファイバを生産する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の順序で以下のステップ:
a)セルロースの有機溶剤中溶液からフィラメントを押し出すステップ、
b)連続セルロースフィラメントを形成するためにセルロースを沈殿させるステップ、
c)セルロースフィラメントを洗浄するステップ、
d)セルロースフィラメントを架橋剤と接触させるステップ、
e)反応室内でセルロースフィラメントを架橋剤と反応させるステップ、
f)処理されたセルロースフィラメントを洗浄するステップ、
g)洗浄されたセルロースフィラメントをステープルファイバに切断するステップ、
h)ステープルファイバから不織フリースを形成し、不織フリースをプレスするステップ、
i)不織フリースの仕上げを行い、不織フリースをプレスするステップ、
を含む、リヨセルステープルファイバを生産する方法。
【請求項2】
フィラメントまたはステープルファイバをステップi)の後で初めて乾燥させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップe)での反応がエネルギー入力とともに実施されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップe)での反応が蒸気の存在下で実施されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップe)が蒸気室内で実施されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップe)の継続時間が3~30分、好ましくは10分~25分、特に好ましくは15~20分であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
架橋剤が、セルロース(atro)1kg当たりの架橋剤の含有量G(単位モル)となるような量で使用され、前記含有量Gが、次式:
G×R=0.10~0.45、好ましくは0.10~0.35、特に好ましくは0.20~0.35
(式中、Rは、架橋剤中の反応性基の数を表す)
に従うことを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
式(I)の化合物
【化1】

(式中、Xはハロゲンを表し、R=Hまたはイオン性部分であり、n=0または1である)
またはこの化合物の塩、好ましくは2,4-ジクロロ-6-ヒドロキシ-1.3.5-トリアジンのナトリウム塩が架橋剤として使用されることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
式(I)の化合物の架橋剤が、セルロース(atro)1kg当たり30~80g、好ましくは45~60gの量で使用されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
繊維が、残留捲縮を有し、耐湿潤摩耗性の変動係数(CVNSF)が50%以下、特に45%以下であることを特徴とする、請求項8または9に記載の方法によって得ることができるリヨセルステープルファイバ。
【請求項11】
以下の特性:
- 繊維が、1.2dtex~1.5dtex、好ましくは1.25dtex~1.45dtexの範囲の繊度を有する;
- 繊維が、残留捲縮を有する;
- 繊維が、正量状態で少なくとも36cN/tex、好ましくは38cN/tex~42cN/texの範囲の繊維強度を有する;
- 繊維が、F1≧2.1、好ましくは≧2.4、特に好ましくは2.5~3.2の範囲のHoeller係数を有する;
- 繊維が、F2≧3.0、好ましくは≧3.5、特に好ましくは4.0~5.5の範囲のHoeller係数を有する;
の組み合わせによって特徴付けられる、請求項8または9に記載の方法によって得ることができるリヨセルステープルファイバ。
【請求項12】
以下の特性:
- 繊維が、0.6dtex~1.2dtex、好ましくは0.7dtex~1.15dtex、特に好ましくは0.8dtex~1.1dtexの範囲の繊度を有する;
- 繊維が、残留捲縮を有する;
- 繊維が、正量状態で少なくとも40cN/tex、好ましくは42cN/tex~49cN/tex、特に好ましくは43.5cN/tex~46cN/texの範囲の繊維強度を有する;
- 繊維が、F1≧2.8、好ましくは≧3.0、特に好ましくは3.2~3.5の範囲のHoeller係数を有する;
- 繊維が、F2≧3.0、好ましくは≧3.6、特に好ましくは3.9~5.5の範囲のHoeller係数を有する;
の組み合わせによって特徴付けられる、請求項8または9に記載の方法によって得ることができるリヨセルステープルファイバ。
【請求項13】
繊維が、50%以下、特に45%以下の耐湿潤摩耗性の変動係数(NSF CV)を有することを特徴とする、請求項11または12に記載のリヨセルステープルファイバ。
【請求項14】
正量状態で10%以上、好ましくは10%~11%の繊維の伸びによって特徴付けられる、請求項10から13のいずれかに記載のリヨセルステープルファイバ。
【請求項15】
300r/dtex(回転/dtex)以上、好ましくは400r/dtex以上、特に好ましくは450r/dtex以上の耐湿潤摩耗性(NSF)によって特徴付けられる、請求項10から14のいずれかに記載のリヨセルステープルファイバ。
【請求項16】
次式:
G×R=0.10~0.45、好ましくは0.10~0.35、特に好ましくは0.20~0.35
(式中、Rは、架橋剤中の反応性基の数を表す)
に従う、セルロース(atro)1kg当たりの架橋剤の含有量G(単位モル)を有することを特徴とする、請求項10から15のいずれかに記載のリヨセルステープルファイバ。
【請求項17】
式(I)の化合物の架橋剤の含有量が、セルロース(atro)に基づいて1.8~4.5重量%、好ましくは1.9~3.7重量%、特に好ましくは2.0~3.0重量%となることを特徴とする、請求項16に記載のリヨセルステープルファイバ。
【請求項18】
少なくとも20kgの請求項10~17のいずれかに記載のリヨセルステープルファイバを含有する、繊維束。
【請求項19】
請求項10~17のいずれかに記載のリヨセルステープルファイバを含有する、織物物品。
【請求項20】
糸の形態である、請求項19に記載の織物物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リヨセルステープルファイバを生産する方法、および本発明による方法によって得ることができるリヨセルステープルファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース繊維を生産するための公知のビスコース法に関連する環境問題を受け、ここ数十年にわたり、より環境に優しい代替法を提供するために懸命な努力がなされてきた。それによって生じた、近年特に注目を集めている可能性は、誘導体を形成することなくセルロースを有機溶剤に溶解し、前記溶液から成形体を押し出すことである。そのような溶液から紡糸された繊維は、BISFA(人造繊維の標準化のための国際標準局(The International Bureau for the Standardization of Man-made Fibres))からリヨセルという一般名を得ており、ここで、有機溶剤とは有機化学物質と水との混合物と理解される。
【0003】
さらに、そのような繊維は、「溶剤紡糸繊維」という用語でも知られている。
【0004】
特に第三級アミンオキシドと水との混合物がリヨセル繊維および他のリヨセル成形体をそれぞれ生産するための有機溶剤として完全に適していることが判明している。それによって、N-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)が、アミンオキシドとして主に使用されている。他の適切なアミンオキシドは、EP0553070Aに開示されている。イオン性液体も有機溶剤として適している。セルロースのNMMOと水との混合物中溶液からセルロース成形体を生産する方法は、例えば、USA4,246,221またはWO93/19230Aに開示されている。それによれば、セルロース溶液を紡糸口金から押し出し、エアギャップ中で延伸し、水性沈殿槽中で溶液から沈殿させる。このプロセスを、以降、「アミンオキシドプロセス」または「リヨセルプロセス」と呼び、「NMMO」という略語は、以降、セルロースを溶解することができるすべての第三級アミンオキシドを表す。アミンオキシドプロセスによって生産された繊維は、正量状態(conditioned state)だけでなく湿潤状態での高い繊維強度、高い湿潤弾性率、および高い引掛け強度によって特徴付けられる。
【0005】
商業的に製造されるリヨセル繊維は、主にステープルファイバの形態である。
【0006】
紡糸液が紡糸口金を通して押し出されると、連続フィラメントが最初に紡糸液から形成される。これらを紡糸槽内で沈殿させても、連続セルロースフィラメントは形成されたままである。これらのセルロースフィラメントをバラバラの長さに切断すると、ステープルファイバとなる。
【0007】
紡糸後のリヨセル繊維の加工に関して広範な先行技術が知られている。
【0008】
リヨセル繊維を加工するいずれの場合でも必要なステップは以下の通りである(ここで、以下の列挙はプロセスの時系列順と解釈されるべきではない):
- それを複数回洗浄すること;
- 仕上げを施すこと;
- 繊維に捲縮を誘導するための対策を講じること;
- 一回または必要であれば数回繊維を乾燥すること;
- および繊維をステープルファイバに切断すること。
【0009】
さらに、リヨセル繊維はフィブリルしやすいという特定の傾向を有することが知られている。この特性に対して数多くの対策が既に提示されており、リヨセル繊維を架橋剤で処理することは商業的に重要な手順である。
【0010】
適切な架橋剤は、例えば、EP0538977A、WO97/49856A、およびWO99/19555Aに記載されている。他の架橋剤は、例えば、WO94/09191AおよびWO95/28516Aから公知である。
【0011】
特に好ましい架橋剤は、式(I)
【0012】
【化1】

(式中、Xはハロゲンを表し、R=Hまたはイオン性部分であり、n=0または1である)
の物質、またはこの化合物の塩である。以降、この物質を「NHDT」とも呼ぶ。
【0013】
さらに、セルロースフィラメントをいつステープルファイバに切断するか、およびそれからの結果として、どのような形態で(連続フィラメントまたは既に切断されたステープルファイバ)リヨセル繊維を上で示した様々な処理ステップに供するかという問題に関して、先行技術は様々な概念を提供している。
【0014】
例えば、WO94/27903AおよびWO95/24520Aから、まだ切断されていないセルロースフィラメントに対して洗浄するステップおよびまた捲縮を誘導するステップを実行する方法が知られている。これは「トウ後処理」とも呼ばれる。この方法では、いわゆる「スタッファーボックス」を利用して捲縮が繊維に誘導される。WO98/28516Aは、トウ後処理の範囲内でリヨセル繊維を架橋剤で処理することができることを記載している。
【0015】
その一方で、WO97/14829Aからは、紡糸および第1の洗浄槽の直後にセルロースフィラメントがステープルファイバに切断される方法が知られている。
【0016】
WO97/14829Aの方法では、ステープルファイバから不織フリースが形成され、その不織布を圧搾することによってまたはプレスすることによって、繊維にいわゆる「残留捲縮(permanent crimp)」が得られる。繊維の最初の乾燥までのさらなる加工ステップは、ステープルファイバの形態、またはこの不織布の形態で通過させる。以降、この概念は「フリース後処理」と呼ぶ。
【0017】
架橋された繊維を生産する代替方法は、US5,562,739A、GB2373784A、およびWO2004/007818A1から公知である。
【0018】
紡糸されたばかりの繊維の加工に関するさらなる詳細は、CN204265902(U)、CN203960407(U)、CN203904520(U)、CN203403200(U)、CN203402582(U)、CN204000264(U)、CN203999953(U)、CN106757906(A)、およびCN108360182(A)から公知である。
【0019】
特に、架橋剤で処理されたリヨセルステープルファイバ(以降、「架橋繊維」と呼ぶ)の生産に関連して、紡糸されたばかりの繊維の公知の加工方法には、化学物質の消費および方法の効率の両方に関して問題が生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
架橋リヨセルステープルファイバを生産する改善された方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的は、以下の順序で以下のステップ:
a)セルロースの有機溶剤中溶液からフィラメントを押し出すステップ、
b)連続セルロースフィラメントを形成するためにセルロースを沈殿させるステップ、
c)セルロースフィラメントを洗浄するステップ、
d)セルロースフィラメントを架橋剤と接触させるステップ、
e)反応室内でセルロースフィラメントを架橋剤と反応させるステップ、
f)処理されたセルロースフィラメントを洗浄するステップ、
g)洗浄されたセルロースフィラメントをステープルファイバに切断するステップ、
h)ステープルファイバから不織フリースを形成し、不織フリースをプレスするステップ、
i)不織フリースの仕上げを行い、不織フリースをプレスするステップ、
を含む、リヨセルステープルファイバを生産する方法によって実現される。
【0022】
好ましい実施形態は、従属請求項に示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明による方法の好ましい実施形態の順序を示すブロック線図を示す図である。
図2】偏光での光学顕微鏡下での本発明によるリヨセルステープルファイバの画像を示す図である。
図3】先行技術のリヨセルの繊維と本発明によるリヨセルステープルファイバのHoeller係数の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
驚くべきことに、トウ後処理およびもう一方のフリース後処理の2つの概念の要素は新規な様式で組み合わせることができ、その結果として繊維の特性を有意に改善することができることが見出された。
【0025】
本発明によれば、繊維の最初の洗浄(溶剤を除去するための)、および繊維の架橋剤との接触、ならびに架橋剤との反応は、(連続)セルロースフィラメントの形態、すなわちトウの形態のままで実行する。セルロースフィラメントは、新たに洗浄(以降、「架橋剤洗浄」とも呼ぶ)した後で初めてステープルファイバに切断し、不織フリースの形態にし、プレスし、仕上げを施す。
【0026】
いわゆる「フリース後処理」と比較して、ステップc)~f)、特にステップe)である架橋剤との処理を、トウの形態の繊維に対して実施すると、適用するエネルギーおよび使用する化学物質の点で有意な節約になることが見出された。これは、「フリース後処理」と比較して穏やかな条件を繊維の処理に使用することができることも意味する。
【0027】
さりながら、不織形態での最終プロセスステップh)およびi)によって、繊維はさらに「残留捲縮」という価値ある特性を呈する。
【0028】
WO97/14829によれば、「残留捲縮」とは、フィラメント長のミリメートル当たり平均して少なくとも2つの圧搾点が存在することであって、それらの圧搾点が乾燥繊維上でも維持され、直線偏光下で見たときに色の変化として可視化されることとして理解される。好ましくは、この「残留捲縮」は、カーディングおよび紡績の間に生じる機械的応力の後でも依然として検出可能である。
【0029】
驚くべきことに、本発明による方法によって得ることができる架橋繊維は、先行技術によって同じ架橋剤で処理された繊維より良い繊維データを有する(すなわち、フリースまたはトウとして)。
【0030】
本発明による方法の好ましい実施形態は、フィラメントまたはステープルファイバをステップi)の後で初めて乾燥させることを特徴とする。
【0031】
セルロースフィラメントの架橋剤との反応は、通常、高温で行われる。
【0032】
特に、ステップe)での反応は、エネルギー入力とともに実施することができる。
【0033】
さらに、ステップe)での反応は、好ましくは蒸気の存在下で実施される。当然のことながら、他の選択肢、例えば、電磁波での、特にマイクロ波での処理も同様に生じる。
【0034】
好ましい実施形態では、本発明による方法のステップe)は、蒸気室内で実施される。例えば、このステップのためにJボックスを使用することができる。
【0035】
ステップe)の継続時間は、3~30分、好ましくは10分~25分、特に好ましくは15~20分であり得る。
【0036】
架橋剤は、セルロース(atro)1kg当たりの架橋剤の含有量G(単位モル)となるような量で使用することができ、該含有量Gは、次式:
G×R=0.10~0.45、好ましくは0.10~0.35、特に好ましくは0.20~0.35
(式中、Rは、架橋剤中の反応性基の数を表す)
に従う。Rは少なくとも2であり、式(I)を有する架橋剤NHDTの場合、R=2である。他の架橋剤の場合では、Rは>2であり得る。例えば、架橋剤として使用することができる、p-[(4,6-ジクロロ-1,3,5-トリアジン-2イル)アミノ]-ベンゼンスルホン酸のナトリウム塩(「SDTB」)の場合、以下:R=3が適用される。
【0037】
本発明の目的のために、「反応性基」という用語がセルロースのOH基と共有結合することができる基を指すことが当業者には理解される。
【0038】
セルロース中の架橋剤の所望の含有量を実現するのに必要とされる量は、当業者によって予備試験の範囲内で決定することができる。通常、それは、元々使用されていた架橋剤の30重量%~70重量%、特に40重量%~60重量%の範囲で繊維中に見出すことができると想定し得る。
【0039】
繊維中に得られる架橋剤の量は、架橋剤の特徴である性質を分析することによって、例えば、窒素性架橋剤の場合であれば、繊維の定量的窒素分析を使用することによって決定することができる。
【0040】
好ましい実施形態では、式(I)の化合物
【0041】
【化2】

(式中、Xはハロゲンを表し、R=Hまたはイオン性部分であり、n=0または1である)
またはこの化合物それぞれの塩、好ましくは2,4-ジクロロ-6-ヒドロキシ-1.3.5-トリアジンのナトリウム塩が、本発明による方法での架橋剤として使用される。以降、この化合物を「NHDT」という略語で略記する。
【0042】
この化合物は2つの反応性基(2つのハロゲン部分)を有する。
【0043】
式(I)の化合物の架橋剤は、好ましくは、セルロース(atro)1kg当たり30~80g、好ましくは45~60gの量で使用される。
【0044】
本発明の目的は、残留捲縮を有し、耐湿潤摩耗性(NSF)の変動係数(CVNSF)が50%以下である、架橋剤NHDTを使用する上記の本発明による方法によって得ることができるリヨセルステープルファイバによって解決される。
【0045】
好ましい実施形態の変形では、本発明によるリヨセルステープルファイバは、45%以下、特に好ましくは40%以下のCVNSFを有する。
【0046】
NSFは、織物の洗浄中に生じるフィブリル化に対する繊維の耐性の鍵となる数値であり、実施例に示される試験方法によって決定される。本発明による繊維の良好な耐湿潤摩耗性に基づいて、架橋繊維に不可欠なこの要件も満たされる。
【0047】
繊維の変動係数CVNSFは、以降の実施例の部に記載する測定方法によって決定される。
【0048】
上で明示したような、本発明による繊維の低いCVNSF値は、NHDTでフリース架橋によって生産された繊維と比較して極めて重要な際立った特徴を表す。上で述べたように、従来のフリース後処理は架橋反応中に繊維の損傷を引き起こし、それによって強度が低減するだけでなく、すべてのセルロース鎖が同程度には損傷されないので(低減した)強度の変動が大きくなる。これによって、最終的に耐湿潤摩耗性の変動係数CVNSFが高くなる。
【0049】
以降の表4および5に示すように、実施例1~8によれば、本発明による繊維はすべて45%未満のCVNSF値を有し、大部分において40%すら下回るCVNSF値を有する。そのように低いCVNSFは、フリース後処理によってNHDTで架橋された繊維からは予想されない。フリース架橋繊維の数多くの例(例えば、市販のリヨセルステープルファイバである、Lenzing Aktiengesellschaft(Werkstrasse 2、A-4860 Lenzing)製の1.7dtexの繊度を有するLENZING(商標)Lyocell LFタイプ)の評価から、それらはすべて60%~80%の間の範囲内のCVNSF値を有することが示されている。
【0050】
本発明の目的はまた、架橋剤NHDTを使用して本発明による方法によって得ることができ、さらに以下の特性:
- 繊維が、1.2dtex~1.5dtex、好ましくは1.25dtex~1.45dtexの範囲の繊度を有する、
- 繊維が、残留捲縮を有する、
- 繊維が、正量状態で少なくとも36cN/tex、好ましくは38cN/tex~42cN/texの範囲の繊維強度を有する、
- 繊維が、F1≧2.1、好ましくは≧2.4、特に好ましくは2.5~3.2の範囲のHoeller係数を有する、および
- 繊維が、F2≧3.0、好ましくは≧3.5、特に好ましくは4.0~5.5の範囲のHoeller係数を有する
の組み合わせによって特徴付けられる、リヨセルステープルファイバによって実現される。
【0051】
さらに、本発明の目的はまた、架橋剤NHDTを使用して本発明による方法によって得ることができ、さらに以下の特性:
- 繊維が、0.6dtex~1.2dtex、好ましくは0.7dtex~1.15dtex、特に好ましくは0.8dtex~1.1dtexの範囲の繊度を有する
- 繊維が、残留捲縮を有する、
- 繊維が、正量状態で少なくとも40cN/tex、好ましくは42cN/tex~49cN/tex、特に好ましくは43.5cN/tex~46cN/texの範囲の繊維強度を有する、
- 繊維が、F1≧2.8、好ましくは≧3.0、特に好ましくは3.2~3.5の範囲のHoeller係数を有する、および
- 繊維が、F2≧3.0、好ましくは≧3.6、特に好ましくは3.9~5.5の範囲のHoeller係数を有する
の組み合わせによって特徴付けられる、リヨセルステープルファイバによって実現される。
【0052】
好ましい実施形態の変形では、上記のような0.6dtex~1.2dtexおよび1.2dtex~1.5dtexの繊度を有するこれらの繊維は各々、50%以下、特に45%以下の耐湿潤摩耗性の変動係数CVNSFを有する。
【0053】
商業的に生産される繊維には、通常、複数の繊維が存在する。本明細書において、「繊維の繊度」という用語が幾つかの繊維についての何回かの測定の、好ましくは20回の測定の平均を指すことが当業者には理解される。
【0054】
本発明による繊維は、まず、従来のトウ後処理によって生産された市販の架橋リヨセル繊維とは上記の残留捲縮の特性において異なる。
【0055】
フリース後処理で生産された、NHDTで架橋されたリヨセル繊維と比較して、本発明による繊維は、特に正量状態でのその増大された繊維強度によって一線を画す。
【0056】
さらに、本発明による繊維は、上で説明したように、有意に低いCVNSFにおいて、フリース後処理によってNHDTで架橋されたリヨセル繊維とは異なる。
【0057】
1984年に、HollerおよびPuchegger(Melliand Textilberichte 1984、65、573~574)は、「new method to characterize regenerated cellulose fibres」を紹介した。
【0058】
著者らは、算出された2つの係数に基づいた繊維の特性を反映するグラフを提供した。それらの係数は2つの軸上にプロットされ、いわゆる「Hoellerグラフ」を生成する。そのグラフでは、異なる繊維タイプは異なる領域を有する。
【0059】
これらの2つの係数を生成する機械的な織物繊維特性は専門家には周知であり、BISFA「Testing methods viscose,modal,Lyocell und acetate staple fibres and tows」[「Prufverfahren Viskose,Modal,lyocell und Acetat Stapelfasern und Seile」]2004年版、第7章に見出すことができ、それに従って試験することができる。
【0060】
2つのHoeller係数F1およびF2は、以下に記載するように算出される:
F1=-1.109+0.03992*FFk-0.06502*FDk+0.04634*FFn-0.04048*FDn+0.08936*BISFA弾性率+0.02748*SFk+0.02559*KFk、
および
F2=-7.070+0.02771*FFk+0.04335*FDk+0.02541*FFn+0.03885*FDn-0.01542*BISFA弾性率+0.2891*SFk+0.1640*KFk、
式中、
FFkは、正量状態での繊維強度、
FDkは、正量状態での繊維の伸び、
FFnは、湿潤状態での繊維強度、
FDnは、湿潤状態での繊維の伸び、
BISFA弾性率は、5%の伸びでの湿潤弾性率、
SFkは、正量状態での引掛け強度、
SDkは、正量状態での引掛け伸び、
KFkは、正量状態での結節強度、
である。
【0061】
Lenzinger Berichte 2013、91、07~12によれば、Hoellerグラフでは、異なる生産プロセス(例えば、直接溶解であるか、誘導体化であるか)からの繊維は互いに明確に区別することができる。直接溶解繊維タイプの中でも、異なる直接溶剤から生産された繊維(例えば、イオン性液体中溶液から紡糸された繊維であるか、それに対してNMMO中溶液からであるか)は異なる領域を有する。
【0062】
市販のリヨセル繊維(非架橋)は、2~3の間のHoeller F1値および2~8の間のHoeller F2値を呈する(WO2015/101543およびLenzinger Berichte 2013、91、07~12)。イオン性液体中の直接溶液から生産された繊維は、3~5.5の間のHoeller F1値および7~10.5の間のHoeller F2値の領域にわたる(Lenzinger Berichte 2013、91、07~12)。WO2015/101543は、より低い範囲の1~6の間のHoeller F2値および-0.6~右上部境界の間のHoeller F1値を有し、F2-4.5*F1≧3、特に≧1によって定義される新たなリヨセル繊維タイプを開示している。
【0063】
よって、WO2015/101543は、Hoellerグラフ中で特定の位置を有する(非架橋)リヨセル繊維について記載している。特許請求されるリヨセル繊維は、特定の分子量分布および最適化された紡糸パラメータに到達するために、α含有量が高く、ヘミセルロースなどの非セルロース含有量が低い、高品質の木材パルプの混合物を使用して生産された。エアギャップの影響を低減し、紡糸を高温で実行し、そしてより低い延伸比を用いることによる。この繊維は、架橋されていないにもかかわらず、増大した耐湿潤摩耗性によって特徴付けられる。
【0064】
Hoellerグラフの他の領域にあるさらなる形態の非架橋リヨセル繊維は、WO2019/170670A1に開示されている。
【0065】
本発明による繊維は、1.2dtex~1.5dtexの範囲の繊度ではF1≧2.1およびF2≧3.0のHoeller係数、および0.6dtex~1.2dtexの範囲の繊度ではF1≧2.8およびF2≧3.0のHoeller係数を有する。それぞれの繊度に対してそのように高いHoeller係数F1およびF2を有する架橋リヨセル繊維は、まだ記載されていない。
【0066】
以下の表に、幾つかの例であるリヨセル繊維A~Hについて、Hoeller係数の決定に関連する織物パラメータの値を要約する。
【0067】
【表1】
【0068】
繊維Aは、従来のトウ後処理に従って生産された、機械的捲縮を有する市販の架橋繊維であり、本発明による繊維の生産に使用される架橋剤とは異なる架橋剤を使用して処理されたものである。
【0069】
繊維Bは、本発明による繊維と同じ架橋剤で処理された市販の架橋リヨセル繊維である。しかし、繊維Bは同様にトウ後処理によって生産されたものである。
【0070】
繊維Cは、フリース後処理によって生産され、本発明による繊維と同じ架橋剤で処理された市販の繊維である。
【0071】
繊維Dは、繊維Cと同様に、フリース後処理によって生産され、本発明による繊維と同じ架橋剤で処理された超極細繊維であり、その繊度の低さが繊維Cと有意に異なる。
【0072】
別の比較として、非架橋の標準的なリヨセル繊維である繊維Eも挙げた。この比較によって、架橋プロセスがどのような影響を織物パラメータに及ぼすのかを推定することができる。
【0073】
同様に、非架橋のリヨセル超極細繊維である繊維Fも示した。この繊維は、架橋超極細繊維と比較するのに、または架橋プロセスが超極細繊維の織物パラメータに及ぼす影響を決定するのにも適している。
【0074】
上で示した表1は、本発明による繊維GおよびHのHoeller係数を示している。これによれば、繊維Gは、本発明ではない繊維A、B、C、およびEの範囲内の繊度を有する繊維である。繊維Hは、本発明ではない繊維DおよびFの範囲内の繊度を有する超極細繊維である。表1によれば、本発明による繊維のHoeller係数は、他の架橋リヨセル繊維A~DのHoeller係数と大きく異なっており、同様に非架橋リヨセル繊維EおよびFのHoeller係数からも大きく異なっている。特に、それぞれ等しい繊度範囲内の繊維と比較したときにも大きく異なっている。
【0075】
タイプA~Hの繊維についての数多くの測定の結果を示した図3において、Hoeller係数F1およびF2の相違が図的にさらにより明確に認められる。
【0076】
よって、本発明による繊維は極めて高い強度を呈する。
【0077】
とりわけ、従来のフリース後処理では、繊維CおよびDに基づいて示すように、架橋反応中の損傷の結果として繊維強度が大きく減少する。損傷は、セルロース鎖の加水分解に起因して生じる。鎖が短くなれば、その結果として繊維強度が低減する。
【0078】
逆に、トウ後処理によって生産された繊維は、残留捲縮の欠乏に加えて、架橋剤の化学にかかわりなく繊維が極めて脆性になるという欠点を呈する。これは、繊維AおよびBの低い引掛け強度および結節強度から明らかである。この場合、本発明による繊維GおよびHは優れた値を生じ、これは脆化の問題が生じなかったことを意味しており、その結果としてHoeller係数F2が有意に高くなる。
【0079】
最も注目すべきことに、Hoeller係数F1も、標準的な繊維(繊維EおよびF)と比較して増加する。それは乾燥および湿潤状態での繊維の伸びの重み付け(FDk、FDn)がそれにおいてマイナスであったためである。とりわけ、湿潤伸び(FDn)は、繊維の架橋に起因して大きく減少する。
【0080】
加えて、引掛け伸び(SDk)も重要である。同じように、引掛け伸びが低いということは脆性の繊維に等しい。繊維が脆性であると加工性が悪くなり、それはとりわけ、紡績プロセスにおけるダストの形成に起因する。
【0081】
本発明による繊維は、それらの正量状態での繊維の伸び(FDk)の点でもNHDTで架橋された市販のリヨセル繊維より優れている。本発明による繊維の正量状態での繊維の伸び(FDk)は、好ましくは10%以上、特に好ましくは10%~11%である。
【0082】
そのような特性の結果として、本発明による繊維は、好ましくは380%*cN/tex以上の作業能力(working capacity)を有する。表2に示すような作業能力は、繊維強度FFn[cN/tex]と伸びFDk[%]との積から得られる。
【0083】
【表2】
【0084】
NHDTで架橋された商業的に生産された繊維と比較して、本発明による繊維はまた、同じ架橋剤の量で窒素含有量が増加しており、すなわち架橋反応の効率がより高い。
【0085】
さらに、本発明による繊維は、好ましくは、300回転/dtex(r/dtex)以上、好ましくは400r/dtex以上、特に好ましくは450r/dtex以上の耐湿潤摩耗性(NSF)によって特徴付けられる。非架橋リヨセル繊維は、およそ40~80r/dtexのNSFを有する。
【0086】
本発明による繊維中のセルロース(atro)1kg当たり架橋剤の含有量G(単位モル)は、好ましくは次式:
G×R=0.10~0.45、好ましくは0.10~0.35、特に好ましくは0.20~0.35
(式中、Rは、上で既に定義したように、架橋剤中の反応性基の数を表す)
に従う。
【0087】
特に好ましくは、式(I)の化合物の架橋剤の含有量は、セルロース(atro)に基づいて2.0~3.0重量%となる。
【0088】
本発明はまた、少なくとも20kgの本発明によるリヨセルステープルファイバを含有する繊維束に関する。よって、本発明は、本発明による繊維を商業的量で提供する。
【0089】
そのような量のリヨセルステープルファイバは、科学研究用に使用されるような、1つまたは数個しかない紡糸口金を有する、特に数個しかない紡糸孔を有する研究室システムでは生産できないと思われる。
【0090】
裏返して言えば、当然のことながら、そのような研究室システムと商業的生産の間には、ある特定の織物パラメータを有する繊維の製造性の問題に関して著しい差が存在する。
【0091】
本発明はまた、本発明によるリヨセルステープルファイバを含有する織物物品に関する。
【0092】
織物物品は、好ましくは糸の形態で提供される。いずれの場合においても、糸の生産にもある分量の繊維が必要とされ、換言すると、少なくとも数kgの繊維が必要とされ、これは上記のような研究室システムでは生産できないと思われる。
【0093】
以下の表3では、商業的に生産された繊維Cの2つの繊維俵(比較用俵1および2)の糸データが、さらに以降に示すような実施例2および5によって生産された各々の本発明による繊維Gの1つの俵と比較して例示される。
【0094】
【表3】
【0095】
高い糸強度および糸の伸びに加えて、本発明による繊維から作製された俵は、太さ斑および細さ斑ならびにニット(nit)の数が少なくなったことに基づいて、改善された製品品質を得る。記載したように繊維の脆性が低減したために、ダスト値も低減する。これによって、紡績機での繊維の加工性が改善される。
【0096】
図面の詳細な説明
図1は、本発明による繊維の好ましい実施形態を生産するために実施するときのプロセスステップのブロック線図である。繊維の最初の洗浄(溶剤を除去するための)、および繊維の架橋剤との接触、ならびに架橋剤との反応は、(連続)セルロースフィラメントの形態、すなわちトウの形態のままで実施する。セルロースフィラメントは、架橋剤を洗浄した後で初めてステープルファイバに切断される。個々のステップを、以下に時系列順に列挙する:
1) 紡糸液の生成;
2) 連続セルロースフィラメントを形成するためのセルロースの有機溶剤中溶液からのフィラメントの押し出しおよびセルロースの沈殿を含む、繊維の紡糸;
3) トウの洗浄を利用する、セルロースフィラメントの洗浄;
4) セルロースフィラメントを架橋剤と接触させることによる、含浸;
5) 反応室内でのセルロースフィラメントの架橋剤との反応;
6) 処理されたセルロースフィラメントの洗浄による、架橋剤の洗浄;
7) 洗浄されたセルロースフィラメントのステープルファイバへの切断;
8) ステープルファイバからの不織フリースの形成;
9) 不織フリースをプレスすることによる脱水;
10) 不織フリースの仕上げおよび不織フリースのもう一回のプレス;
11) 乾燥;
12) 繊維俵の生産。
【0097】
図2は、本発明によるリヨセルステープルファイバの好ましい実施形態(以降の表4からの実施例1)の偏光顕微鏡写真を示す。直線偏光を利用して、紡績中も乾燥繊維上に維持された不規則な圧搾点が可視化される。WO97/14829によれば、「残留捲縮」とは、フィラメント長のミリメートル当たり平均して少なくとも2つの圧搾点が存在することと理解される。図2の繊維は、本発明による方法の最終プロセスステップh)およびi)(それぞれ図1のプロセスステップ9~11)の結果として得られる、「残留捲縮」という価値ある特性を有する。図2のリヨセルステープルファイバの微小捲縮(microcrimp)は107/2cmとなる。
【0098】
図3は、先行技術のリヨセル繊維と本発明によるリヨセルステープルファイバの好ましい実施形態のHoeller係数F1およびF2の比較を有するHoeller図50を示す。
【0099】
図50は、繊維A~繊維Hのタイプの繊維についての測定の結果である。表1および繊維A~Hに関連する説明を参照されたい。軸51および52はそれぞれ、Hoeller係数F1およびF2に該当する。図50は、次いで幾つかの領域53~58に分割することができ、それにおいて領域53は繊維AおよびBの点、領域54は繊維CおよびDの点、領域55は繊維Eの点、領域56は繊維Fの点を含む。本発明による繊維G(領域57)およびH(領域58)は、他の領域53~56から明確に区切られている。
【実施例
【0100】
実施例1~5
連続セルロースフィラメントを半商業的なパイロットプラントでそれ自体公知の方式で紡糸して繊維トウを形成し、トウの洗浄により継続的に洗浄してそれらをNMMO不含にした。トウの洗浄後、繊維トウをプレスして、後続の含浸槽への洗浄水の持越しを最小限に抑えた。含浸槽は、架橋剤(NHDT)を含有しており、高濃度槽(strong bath)からの架橋剤で継続的に強化した。架橋剤と接触させた直後に、水酸化ナトリウム溶液をさらなる槽で施した。水酸化ナトリウム槽も、長期にわたって適切な濃度を一定に保つために水酸化ナトリウム溶液で連続的に強化した。
【0101】
副反応を低減するために、この槽を10℃に冷却した。次いで、このように改質された繊維トウを、Jボックスの形態に設計された蒸気室内に誘導した。
【0102】
滞留時間は、対応するトウ上の印およびストップウォッチを利用して測定可能であった。
【0103】
繊維トウをJボックスから引出し、過剰な化学物質を除去するために架橋剤洗浄に供した。その直後に、ステープルファイバを形成するためにトウを切断塔に供給した。繊維ステープルを水ですすぎ、不織フリースの形成に供した。不織フリースが形成された後、不織フリースをプレスし、仕上げに供した。仕上げされた不織フリースを再度プレスし、不織フリースセパレータによって開き、適切な乾燥機内で乾燥させて仕上げ済み繊維にし、次いでこん包機に供した。
【0104】
以下の表4に、本発明によるおよそ1.35dtexの範囲内の繊度を有する繊維の生産に関する幾つかの試験(実施例1~5)の試験パラメータを要約する。この実験は、様々な重要な生産パラメータ、すなわちNHDT投与量、アルカリ溶液槽濃度、および滞留時間の影響を示す。
【0105】
【表4】
【0106】
実施例2では、生産速度が増加したことによって滞留時間が低減した。架橋繊維を同様に生産することができるが、より低い窒素充填率が実現されることが示される。
【0107】
以下の表5はさらに、およそ0.9dtexの範囲内の繊度を有する本発明による超極細繊維の生産に関する幾つかの試験(実施例6~8)の試験パラメータを示す。生産パラメータであるNHDT投与量、アルカリ溶液槽濃度、および滞留時間は試験中基本的に一定に保持する。よって試験データは、本発明による方法によって生産された繊維の織物パラメータの自然な、生産に関連する変動を示している。
【0108】
【表5】
【0109】
すべての実施例1~8は、生産された繊維の繊度とは無関係に、耐湿潤摩耗性の変動係数CVNSFが各場合で45%を下回り、または実施例の大部分で40%すら下回ることを示している。
【0110】
原則として、本発明による技術は、例えば、反応性染料を施し、その後それを架橋する場合など、繊維ストランド上への様々な他の改質にも適している。
【0111】
しかし、本発明による技術はまた、概して、架橋剤以外の他の改質剤、例えばキトサンなどの施用(WO2010/031091A1)にも適している。
【0112】
上記の架橋剤NHDTだけでなく、これに関して上で述べた文献に記載される架橋剤などの他の架橋剤、または大気の湿度、酸素、もしくは温度の作用によって硬化する他の反応性樹脂、例えば、単一もしくは多成分系、特にエポキシ、アクリレート、ポリウレタン、および同様の化合物も使用することができる。特に、化学物質を施す場合に必要な条件を極めて容易に調整することができる。例えば、含浸槽は加熱することもできる。反応室も、それぞれ必要とされる温度または滞留時間に適合させることができる。
【0113】
試験方法
耐湿潤摩耗性(NSF)の決定
耐湿潤摩耗性(NSF)は、フィブリル化に対する繊維の耐性の鍵となる数値である。この鍵となる数値は、「Zur Fasernassscheuerung von Viskosefasern」、Faserforschung und Textiltechnik 19(1968)、10号、447~452頁に記載される湿潤摩耗法を使用して決定した。このプロセスでは、繊維を湿ったローラの上で回転させて、擦り落とす。繊維が半分に破れるまでの回転数を決定する。
【0114】
湿潤状態で予荷重用の重りによって予荷重をかけられた単繊維の耐摩耗性を、フィラメントホース(ビスコースフィラメントストッキング)で覆われた鋼鉄製回転軸を利用して決定する。繊維が摩耗し、破れるまでの回転数を計数し、それぞれの繊維の繊度と関連付ける。
【0115】
測定を較正するために、またはフィラメントストッキングの摩耗が測定に影響を及ぼさないことを確実にするために、較正用繊維の耐湿潤摩耗性を一定間隔で、特に少なくとも毎日決定する。較正測定値は、新たなフィラメントストッキングを用いたすべての較正測定値の長期平均値から好ましくは20%より多く逸脱しないべきであり、そうでない場合は、フィラメントストッキングを交換しなければならない。本発明の範囲内で、1.3dtexの繊度を有するLenzing AG(Werkstrasse 2、A-4860 Lenzing)のLENZING(商標)Lyocell A100のタイプのTAHTで架橋されたリヨセルステープルファイバ(例えば、WO95/28516に記載されるプロセスによって生産される)を較正に使用した。この繊維のすべての較正測定値の耐湿潤摩耗性NSFの長期平均値は471r/dtexとなった。
【0116】
耐湿潤摩耗性は、Lenzing Instrumentsの装置「Delta 100」を利用することによって決定した。鋼鉄製軸は、フィラメントホースに溝ができないように、測定中に継続的に長手方向に移動させた。
【0117】
フィラメントホース(ビスコースフィラメントストッキング)の供給源は、VOM BAUR GmbH&KG.(Markstrasse 34、D-42369 Wuppertal)であった。
【0118】
20房の繊維から、38mmの長さを有する1本の繊維を、各場合において1cmの厚さを有する鋼鉄製軸上に置き、予荷重用の重りで荷重をかける。フィラメントホースで覆った鋼鉄製軸は、回転中に継続的に湿らせる。測定中に、鋼鉄製軸を1分当たり500回転の速度で回し、同時に繊維の軸に対して対角線状に前後に動かし、およそ1cmの振り子運動をもたらす。
【0119】
繊維が摩耗し、予荷重用の重りが接触子に触れるまでの回転数を決定した。5000回転の後は、誤った測定値を避けるために、いかなる場合でも測定を停止するべきである。測定された耐湿潤摩耗性NSFは、回転数の20回すべての測定値の平均をそれぞれの繊維の繊度で除して得られる[r/dtex]。
【0120】
試験パラメータ:
水の流量:8.2mL/分
回転速度:500rpm
摩耗角:40°
予荷重の重り:50mg
【0121】
200r/dtex以上、とりわけ400r/dtex以上が、低フィブリル化(LF)繊維、または従来の湿潤プロセスでのフィブリル化に耐性がある繊維を構成する。
【0122】
耐湿潤摩耗性の変動係数CVNSFの決定
本発明によるリヨセルステープルファイバのCVNSFは、耐湿潤摩耗性(NSF)の標準偏差σNSFと期待値μNSFの比率である:
CVNSF=σNSF/μNSF
限られたサンプルサイズを有するサンプルの測定値を使用して耐湿潤摩耗性を決定することしかできないため、ランダムサンプルの測定値にわたる平均値NSFを期待値μNSFの近似値として使用する。よって、近似されたCV NSFは、標準偏差sNSFを平均値NSFで標準化することによって得られる:
CV NSF=sNSF/NSF
サンプルサイズがn→∞となる場合、ランダムサンプルから決定されるCV NSFは、期待値から決定されるCVNSFに収束する。
【0123】
サンプルサイズが不十分に小さいか、またはサンプルが不適切であるならば、例えば、繊維がサンプルの一部分のみから採取されているならば、決定されたCV NSFは、それによってCVNSFから有意に逸脱する可能性がある。
【0124】
したがって、リヨセルステープルファイバの変動係数CVNSFの意味のある値を決定するために、十分に大きいサンプル(例えば、繊維俵)からの十分に大きい繊維のサンプルを使用してそれぞれのNSFを決定するべきである。この目的のために、サンプル中の異なる場所から繊維房を採取し、上記のように繊維房からの一本一本の繊維のNSFを決定することが好ましい。このように、俵中の異なる場所からの少なくとも20の繊維房を使用し、平均値NSFおよび変動係数CV NSFをこれらの20の測定値から決定する。
【0125】
チェックとして、少なくとも20の異なる繊維房からのさらなる繊維のサンプルを、前に選択した繊維房とは独立にサンプルから再度採取し、検査する。次いで、すべてのサンプルの予め決定したすべてのNSF値から平均値NSFおよび変動係数CV NSFを算出する。このように得られた平均NSFまたは変動係数CV NSFが、第1のサンプルについて前に決定した値から10%超異なっているならば、特に5%超異なっているならば、決定した値の十分な収束が得られるまで上記の手順を繰り返さなければならない。
【0126】
検査しようとするサンプルの均質性に応じて、100超の繊維、ある場合には1000超の繊維の合計ランダムサンプルが、変動係数を決定するのにこのようにして必要な場合がある。
【0127】
サンプルを燃焼させることによって窒素充填率を決定するための窒素分析器
繊維についての窒素充填率は、サンプルを燃焼させることによりN含有量を測定することによって(例えば、LECO FP 328窒素分析器を使用して)決定する。これから架橋剤の量を決定することができる。
【0128】
微小捲縮の計数
複合サンプルを得るために、繊維俵から取り出した繊維サンプルから様々な位置で繊維を取り出した。スライド上に1滴のグリセリンを置き、複合サンプルからの何本かの個々の繊維をその中に可能な限りまっすぐに置いた。何本かの個々の繊維を含有する1滴のグリセリンの上にカバーガラスを置いた。そのスライドを偏光顕微鏡の下に置いた。カバーガラスの領域(2×2cm)内の微小捲縮を計数した。
【0129】
ダスト試験(糸)
紡績プロセスでのダスト形成は、例えば、脆性の繊維およびそれらの乏しい加工性によって誘導される。ダスト形成は、パイロットプラントで測定した。試験しようとする繊維を巻き取った。約500gの糸を1000m/分のボビン速度で巻き取った。巻き取った糸の量を1mg単位まで決定した。このプロセスで生じた繊維ダストを収集し、化学天秤を使用して0.1mg単位まで計量した。繊維ダストの量は、紡績工場での加工中に繊維になされた機械的損傷の度合いを明示する。ダストの量[ppm]が多いほど、加工中の繊維が影響を受けやすくなる。
【0130】
算出に次式を使用した:
ダスト(単位ppm)=(計量された繊維ダスト[g]*1,000,000)/巻き取った糸の量[g]
例えば:97.83ppm=(0.0520g*1,000,000)/531.512g
【0131】
細さ/太さ斑およびニット
糸は、例えば、細さ斑、太さ斑、およびニットなどの様々な表面のむらを有する。細さ斑および太さ斑ならびにニットの試験を、以下のステップを使用して実施した。試験しようとする糸は、USTER(登録商標)試験機を使用してチェックした。前記試験機は、繊維ストランドの重量のばらつきを決定するのに静電容量方式を用い、それによって表面上のむらについて推断する。糸の重量の平均は、糸の最初の100mに基づいて決定した。その後の1000mの糸を1cm単位で測定した。最初に測定した平均からの偏差を記録した。偏差の数(細さ斑の場合-50%/太さ斑の場合+50%/ニットの場合+>100%)を計数した。ニットは、1cmより短い太さ斑であり、>100%の糸の重量の平均からの糸の重量の偏差を呈する。USTER(登録商標)Testerは通常、>140%または>200%の偏差で幾つのニットが生じたかを明示する(表3参照)。
図1
図2
図3
【国際調査報告】