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特表2022-542975ポリアリールエーテルスルホンとポリアリールエーテルケトンとのブレンドを含む膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ポリアリールエーテルスルホンとポリアリールエーテルケトンとのブレンドを含む膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/10 20060101AFI20220930BHJP
   B01D 71/72 20060101ALI20220930BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20220930BHJP
   C08L 81/06 20060101ALI20220930BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20220930BHJP
   C08K 5/00 20060101ALI20220930BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20220930BHJP
   C08L 73/00 20060101ALI20220930BHJP
   C08J 9/26 20060101ALN20220930BHJP
【FI】
C08L71/10
B01D71/72
B01D71/68
C08L81/06
C08K5/09
C08K5/00
C08K5/42
C08L73/00
C08J9/26 CEZ
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506178
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(85)【翻訳文提出日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2020071215
(87)【国際公開番号】W WO2021018868
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】62/880202
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】19197984.8
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Fluorinert
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】アウリリア, ダリオ
(72)【発明者】
【氏名】ディ ニコロ, エマヌエーレ
(72)【発明者】
【氏名】ブランハム, ケリー ディー.
(72)【発明者】
【氏名】コメル, ヴィダ
【テーマコード(参考)】
4D006
4F074
4J002
【Fターム(参考)】
4D006GA06
4D006GA07
4D006MA03
4D006MA21
4D006MA31
4D006MB02
4D006MB16
4D006MC45X
4D006MC47X
4D006MC62X
4D006MC89
4D006MC90
4D006NA22
4D006NA27
4D006NA54
4D006NA66
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB15
4D006PC41
4F074AA76
4F074AC18
4F074AC19
4F074AC24
4F074AD15
4F074CB03
4F074CB27
4F074DA02
4F074DA03
4F074DA08
4F074DA10
4F074DA23
4J002CH09W
4J002CJ00W
4J002CN03X
4J002EG076
4J002EV256
4J002FD206
4J002GD05
(57)【要約】
本発明は、半結晶性ポリマーとアモルファスポリマーと少なくとも1種の水溶性塩とを含む、多孔質物品、特に膜を製造するための組成物に関する。本発明は、前記多孔質物品を製造するための方法、及び流体を精製するためのその使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマー、
(b)少なくとも1種のポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)ポリマー、及び
(c)アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉄、亜鉛、ニッケル、銅、パラジウム、及び銀からなる群から選択される金属のスルホン酸塩又はカルボン酸塩を含む少なくとも1種の化合物[化合物(S)]、
を含有する組成物[組成物(C)]。
【請求項2】
- 25~65重量%の量の前記少なくとも1種のPAEKポリマー;
- 10~45重量%の量の前記少なくとも1種のPAESポリマー;
- 10~50重量%の量の前記少なくとも1種の化合物(S);
を含有し、これらの量が前記組成物(C)の総重量基準である、請求項1に記載の組成物(C)。
【請求項3】
- 30~55重量%、より好ましくは35~50重量%の量の前記少なくとも1種のPAEKポリマー;
- 20重量%より多く40重量%まで、より好ましくは25重量%~35重量%の前記PAESポリマー;及び
- 10重量%から45重量%未満、より好ましくは15~40重量%の量の前記化合物(S);
を含有し、これらの量が前記組成物(C)の総重量基準である、請求項1又は2に記載の組成物(C)。
【請求項4】
前記PAEKポリマーが、Ar’-C(=O)-Ar基(ここで、Ar’及びArは、互いに等しいか又は異なり、芳香族基である)を含む繰り返し単位(RPAEK)を50モル%超含み、前記繰り返し単位(RPAEK)が、以下の式(J-A)~式(J-D)の単位からなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物(C):
【化1】
(式中、
- R’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び第四級アンモニウムからなる群から選択され;
-j’は、ゼロ、又は1~4の範囲の整数である)。
【請求項5】
前記PAEKポリマーが、
- 式(J’-A);
【化2】
の繰り返し単位(RPAEK)を50モル%より多く含むポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)ポリマー、
- 式(J’-B)及び式(J”-B):
【化3】
の繰り返し単位(RPAEK)を50モル%より多く含むポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)ポリマー、
- 式(J’-C):
【化4】
の繰り返し単位(RPAEK)を50モル%より多く含むポリ(エーテルケトン)(PEK)ポリマー、
- 式(J’-A)(PEEK繰り返し単位)及び式(J’-D)(ポリ(ジフェニルエーテルケトン)(PEDEK)繰り返し単位)
【化5】
の繰り返し単位(RPAEK)を50モル%より多く含むPEEKとポリ(ジフェニルエーテルケトン)とのコポリマー(PEEK-PEDEKコポリマー)、
を含む群の中で、好ましくはこれらからなる群の中で選択される、請求項4に記載の組成物(C)。
【請求項6】
前記PAESポリマーが式(K)の繰り返し単位(RPAES)を少なくとも50モル%含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物(C):
【化6】
(式中、
各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され;
各hは、互いに同じであるか異なり、0~4の範囲の整数であり;
Tは、結合、スルホン基[-S(=O)]、及び基-C(R)(R)-(ここで、R及びRは、互いに等しく又は異なり、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び4級アンモニウムから選択される)からなる群から選択され、R及びRは、好ましくはメチル基である)。
【請求項7】
前記PAESポリマーが、
- 式(K’-A):
【化7】
の繰り返し単位を50モル%より多く含むポリフェニルスルホン(PPSU)ポリマー、
- 式(K’-B):
【化8】
の繰り返し単位を少なくとも50モル%含むポリエーテルスルホン(PES)ポリマー、
及び
- 式(K’-C):
【化9】
の繰り返し単位を少なくとも50モル%含むポリスルホン(PSU)ポリマー、
を含む群の中で、好ましくはこれらからなる群の中で選択される、請求項6に記載の組成物(C)。
【請求項8】
前記化合物(S)が以下の式(I)に従う、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物(C):
(R)-Ar-(T) (I)
(式中、
- Arは、5~18個の炭素原子を有する置換又は無置換の、芳香族単環式基又は多環式基からなる群から選択され芳香族部位であり;
- aは、ゼロ又は1~5の範囲の整数であり、好ましくはaはゼロ又は1であり;
- aが1~5の整数である場合、Rのそれぞれは、互いに同じであるか又は異なり、ハロゲン原子、-OH、-NH、C~C18脂肪族基、C~C18脂環式基、及びC~C18芳香族基からなる群から選択され;
- bは1~4の範囲の整数であり、好ましくはbは1又は2であり;
- Tのそれぞれは、互いに同じであるか又は異なり、(SO )(Mp+1/p又は(COO)(Mp+1/pであり、Mp+は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉄、亜鉛、ニッケル、銅、パラジウム、及び銀からなる群から選択されるp価の金属カチオンである)。
【請求項9】
少なくとも1つの多孔質層[層L)]を含む膜[膜(Q)]を製造するための方法[方法()]であって、
(I)請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物[組成物(C)]を準備すること;
(II)前記組成物(C)を処理してペレットを得ること;
(III)工程(II)で得られたペレットを溶融押出して、前駆体層[層(L)]を得ること;
(IV-a)工程(III)で得られた前記層(L)を少なくとも1種の有機溶媒と接触させて、中間多孔質層[層(L-iQa)]を得ること;又は(IV-b1)工程(III)で得られた前記層(L)を水と接触させて第1の中間多孔質層[層(L-iQb)]を得ること;(IV-b2)前記層(L-iQb)を少なくとも1種の有機溶媒と接触させて、第2の中間多孔質層[層(L-iQb2)]を得ること;
(V)工程(IV-a)で得られた前記層(L-iQa)又は工程(IV-b2)で得られた前記層(L-iQb2)を水と接触させて多孔質層[層(L)]を得ること;
を含む方法[方法(M)]。
【請求項10】
前記工程(II)が:
前記PAEKポリマー及び前記化合物(S)を溶融押出して、ペレットの形態の第1の組成物を得る第1の工程と;
前記ペレットを前記PAESポリマーと共に溶融押出してペレットの形態の第2の組成物を得る第2の工程と;
を含む、請求項9に記載の方法(M)。
【請求項11】
- 前記工程(IV-a)が、少なくとも1種の溶媒[溶媒(S)]が入っている第1の浴に前記少なくとも1つの層(L)を入れることによって行われる;並びに/又は
- 前記工程(IV-b1)が、前記少なくとも1つの層(L-iQb)を得るために、水浴に前記少なくとも1つの層(L)を入れることによって行われる、及び前記工程(IV-b2)が、少なくとも1種の溶媒[溶媒(S)]が入っている第2の浴に前記少なくとも1つの層(L-iQb)を入れることによって行われる;
請求項9に記載の方法(M)。
【請求項12】
前記少なくとも1種の溶媒(S)が、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチル-5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエート(Solvayから商品名Rhodiasolv(登録商標)PolarCleanとして市販)、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン、スルホラン、ジヒドロレボグルコセノン(Circa Groupから商品名Cyrene(登録商標)として市販)、ジフェニルスルホン、ε-カプロラクタムなどの極性非プロトン性溶媒から選択される、請求項11に記載の方法(M)。
【請求項13】
前記工程(V)の後に、前記層(L)が、乾燥及び/若しくは延伸される、並びに/又は好ましくは4-アミノ酪酸、6-アミノカプロン酸、8-アミノカプリル酸、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸を含む群の中で選択される液体の溶液の形態でアルカリと接触されられる、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法(M)。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか一項に記載の方法(M)によって得られる、少なくとも1つの層(L)を含む膜[膜(Q)]。
【請求項15】
前記少なくとも1種の流体が、好ましくは、生物学的溶液、緩衝溶液、油/水エマルジョン、生産水を含む群の中で選択された気相又は液相から選択される、請求項14に記載の少なくとも1つの膜(Q)と前記流体を接触させることを含む、少なくとも1種の流体の濾過方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、米国で2019年7月30日に出願された米国特許出願第62/880202号及び欧州で2019年9月18日に出願された欧州特許出願第19197984.8号に基づく優先権を主張し、これらの出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、半結晶性ポリマーとアモルファスポリマーと少なくとも1種の水溶性塩とを含む、多孔質物品、特に膜を製造するための組成物に関する。本発明は、前記多孔質物品を製造するための方法、及び流体を精製するためのその使用にも関する。
【背景技術】
【0003】
多孔質膜は、それらと接触した化学種の浸透を適度にする不連続の薄い界面である。多孔質膜の重要な特性は、膜自体を通した化学種の浸透速度を制御するそれらの能力である。この特徴は、分離用途(水及びガス)又は薬物送達用途のような多くの異なる用途において利用されている。
【0004】
芳香族ポリマー(例えば、ポルスルホン及びポリエーテルスルホンなど)、部分フッ素化ポリマー(例えば、ポリフッ化ビニリデンなど)及びポリアミドは、それらの良好な機械的強度及び熱安定性のため、精密濾過膜及び限外濾過膜の調製に広く使用されている。
【0005】
ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマーを処理することによって製造される多孔質膜は、当該技術分野において、例えば米国特許第4,957,817号明細書及び米国特許第5,200,078号明細書(共にThe Dow Chemical Companyの名義)から公知である。
【0006】
平坦なシート及び中空繊維の両方の形態の多孔質膜も、PAEKポリマーと1つの追加の成分及び任意選択的な溶媒とのブレンドから出発して作製されてきた。
【0007】
米国特許第5,205,968号明細書(The Dow Chemical Company)には、スルホン化されていないポリ(エーテルエーテルケトン)型ポリマーからマイクロポーラス膜を作製するための方法が開示されており、これは、(A)スルホン化されていないポリ(エーテルエーテルケトン)型ポリマーとアモルファスポリマーと可塑剤とを含有する混合物を形成する工程、(B)得られた混合物を加熱して混合物を流体にする工程、(C)流体混合物を膜へと押し出す又はキャストする工程、(D)膜をクエンチする又は凝固する工程、並びに(E)前記可塑剤及び/又は前記アモルファスポリマーの少なくとも一部が前記膜から除去されるような条件下で膜を浸出させる工程を含む。アモルファスポリマーとして、この特許の全体的な説明には長いリストが記載されている。中でも、ポリスルホン(PS)及びポリエーテルスルホンが挙げられている。
【0008】
膜の製造のためのPEEKポリマーを含有する三成分ブレンドも、文献に記載されている。「Hollow Fiber Microfiltration Membranes from Poly(ether ether ketone)(PEEK)」(J.Appl. Pol.Sci.,Vol.72,175-181,1999)の中で、Sonnenschein M.F.は、PEEK、ポリスルホン(PS)、及びジフェニルイソフタレート(DPIP)とジフェニルテレフタレート(DPTP)との75/25重量%混合物を含有する組成物からの中空糸膜の作製を開示した。「Micro- and Ultrafiltration Film Membranes from Poly(ether ether ketone)(PEEK)」(J.Appl. Pol.Sci.,Vol.74,1146-1155,1999)の中で、Sonnenschein M.F.は、PEEKとPSと小分子溶媒混合物とのポリマーブレンドを押し出し、その後の抽出工程でPS及び溶媒を除去することによって得られるフィルム膜を開示した。
【0009】
米国特許第4,755,540号明細書(Raychem Limited)には、芳香族と「部分的に非相溶性」であるポリマーを2つのブレンドから溶媒抽出することによって製造される芳香族ポリマーの多孔質膜が開示されている。
【0010】
国際公開第2018/065526号パンフレット(Solvay specialty Polymers USA,L.L.C.)には、マイクロポーラス膜又は中空繊維を製造するためのポリマー組成物が開示されている。この中で記載されている組成物は、
(I)ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)ポリマー又はポリ(フェニレンスルフィド)(PPS)ポリマー、及び
(II)前記組成物の総重量を基準として少なくとも28重量%の、スルホン酸塩又はカルボン酸塩である添加剤、
を含有する。実験項で提供されている組成物の例は、60/40の比率のPEEKとベンゼンスルホン酸ナトリウム、及び50/50の比率のPPSとベンゼンスルホン酸ナトリウムの二成分ブレンドを含む。
【0011】
米国特許出願公開第2019/0136057号明細書(Solvay specialty Polymers USA,L.L.C.)には、ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)、ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)、ポリアリールスルフィド(PAS)、及びポリエーテルイミド(PEI)から独立して選択された少なくとも2種の異なるポリマーと、約0.05~約2重量%の少なくとも1種のアルカリ金属カーボネートとを含有するポリマー組成物が開示されている。
【0012】
多孔質膜及び物品は、米国特許第3,965,020号明細書(General Electric Company)、米国特許出願公開第2003/0208014号明細書(3M Innovative Properties Company)、及び「Sulfonated poly(ether ether ketone)/poly(ether sulfone) composite membranes as an alternative proton exchange membrane in microbial fuel cells」(International Journal of Hydrogen Energy,37(2012)11409-11424)においてSwee Su Limらによっても開示されている。
【発明の概要】
【0013】
出願人は、水透過性に加えて、特に1barより高い圧力で、極めて優れた機械的特性、耐薬品性、及び耐熱性を同時に示す、水濾過における使用に特に適した多孔質膜が依然として求められていることを認識した。
【0014】
出願人は、平坦なシートや管状及び中空の繊維の形態で製造することができ、更に水濾過における使用に適している、極めて優れた機械的特性及び高い透水性を特徴とする多孔質膜を提供するという問題に対峙した。
【0015】
出願人は、驚くべきことに、上記問題が、少なくとも1種のポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマーと、少なくとも1種のポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)ポリマーと、アルカリ金属又はアルカリ土類金属基から選択される金属を有する少なくとも1種のスルホン酸塩又はカルボン酸塩との三成分ブレンド(すなわち3つの成分)を含有する組成物から出発して膜を製造することによって解決できることを見出した。
【0016】
したがって、第1の態様では、本発明は、
(a)少なくとも1種のポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)ポリマー、
(b)少なくとも1種のポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)ポリマー、及び
(c)アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉄、亜鉛、ニッケル、銅、パラジウム、及び銀からなる群から選択される金属のスルホン酸塩又はカルボン酸塩を含む少なくとも1種の化合物[化合物(S)]、
を含有する、好ましくはこれらからなる、組成物[組成物(C)]に関する。
【0017】
好ましい実施形態によれば、前記組成物(C)は、前記組成物(C)の総重量を基準として25重量%~65重量%の量で少なくとも1種のPAEKポリマーを含む。
【0018】
好ましい実施形態によれば、前記組成物(C)は、前記組成物(C)の総重量を基準として10重量%~45重量%の量で前記少なくとも1種のPAESポリマーを含む。
【0019】
好ましい実施形態によれば、前記組成物(C)は、前記組成物(C)の総重量を基準として10重量%~50重量%、より好ましくは10重量%~45重量%、更に好ましくは15重量%~40重量%の量で少なくとも1種の化合物(S)を含む。
【0020】
出願人は、驚くべきことに、上で定義した組成物(C)が、溶融押出しプロセスにより有利に処理され得ることを見出した。
【0021】
したがって、第二の態様では、本発明は、少なくとも1つの多孔質層[層L)]を含む膜[膜(Q)]を製造するための方法[方法(M)]であって、
(I)上で定義した組成物[組成物(C)]を準備すること;
(II)前記組成物(C)を処理してペレットを得ること;
(III)工程(II)で得られたペレットを溶融押出して、前駆体層[層(L)]を得ること;
(IV-a)工程(III)で得られた前記層(L)を少なくとも1種の有機溶媒と接触させて、中間多孔質層[層(L-iQa)]を得ること;
(IV-b1)工程(III)で得られた前記層(L)を水と接触させて第1の中間多孔質層[層(L-iQb)]を得ること、及び(IV-b2)前記層(L-iQb)を少なくとも1種の有機溶媒と接触させて、第2の中間多孔質層[層(L-iQb2)]を得ること;
(V)工程(IV-a)で得られた前記層(L-iQa)又は工程(IV-b2)で得られた前記層(L-iQb2)を水と接触させて多孔質層[層(L)]を得ること;
を含む方法[方法(M)]に関する。
【0022】
第3の態様では、本発明は、少なくとも1つの層(L)を含む膜(Q)に関する。有利には、前記少なくとも1つの層(L)は、上記方法(M)によって得られる。
【0023】
出願人は、驚くべきことに、本発明による膜(Q)が極めて優れた機械的特性によって特徴付けられることを見出した。
【0024】
出願人は、驚くべきことに、本発明による膜(Q)が高い透水性によって特徴付けられることを見出した。実際、高圧濾過法(例えば1barを超える圧力で)で使用される場合、本発明の膜は、圧縮を受けず、圧縮又は有意な流束低下を示さずに高圧に耐えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本説明の目的のために、
- 化合物、化学式又は式の一部を特定する記号又は数字の前後の括弧の使用は、それらの記号又は数字を本文の残りからよりよく区別する目的を有するにすぎず、そのため、前記括弧は、省略することもでき;
- 用語「膜」は、それと接触した化学種の透過を適度にする、不連続の概して薄い界面を示すことが意図され、前記膜は、有限寸法の細孔を含有し;
- 本発明の膜が唯一の層として多孔質層(L)を含む場合、「膜(Q)」という用語は、2つが一致するものとして前記層(L)を示すために使用され;
- 用語「重量空隙率」は、多孔質膜の全体容積にわたって空隙の分率を意味することが意図され;
- 用語「溶媒」は、その通常の意味で本明細書において用いられ、すなわち、それは、別の物質(溶質)を溶解させて、分子レベルで一様に分散した混合物を形成することができる物質を示す。ポリマー溶質の場合、結果として生じた混合物が透明であり、及び相分離が系中で全く見られない場合に溶媒中のポリマーの溶液を指すことが一般的慣習である。相分離は、ポリマー凝集体の形成が原因で溶液が濁るか又は曇るようになる、多くの場合に「曇点」と称されるポイントであると解釈される。
- 「溶融温度(Tm)」又は「Tm」又は「融点」は、実施例において詳述するように、ASTM D3418に従って20℃/分で示差走査熱量測定(DSC)により測定した溶融温度を示すことが意図されており;
- 用語「ハロゲン」は、特に明記しない限り、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素を含み;
- 形容詞「芳香族」は、4n+2(nは1又は任意の正の整数である)に等しいπ電子数を有する任意の単核又は多核の環状基(又は部位)を意味し、芳香族基(又は部位)は、アリール及びアリーレン基(又は部位)であり得る。
【0026】
それらの厚さの全体にわたって均一に分布した細孔を含む膜は、一般に、対称(又は等方性)膜として公知であり;それらの厚さの全体にわたって不均一に分布している細孔を含む膜は、一般に、非対称(又は異方性)膜として公知である。
【0027】
膜(Q)は、対称膜又は非対称膜のいずれであってもよい。
【0028】
非対称多孔質膜(Q)は、典型的には、1つ以上の内層における細孔の平均細孔径よりも小さい平均細孔径を有する細孔を含む外層を含む。それぞれの前記層は、上で定義した層(L)であってよい。
【0029】
好ましくは、前記膜(Q)は、ASTM F316によって測定される0.040μm~0.100μmの平均孔径、0.300μm~0.400μmの泡立ち点(すなわち最大の細孔)、及び0.020μm~0.220μmの最小の細孔を有する。
【0030】
本発明の多孔質膜における平均細孔径の測定のための好適な技法は、例えばHandbook of Industrial Membrane Technology.Edited by PORTER,Mark C.Noyes Publications,1990.p.70-78に記載されている。膜の細孔径は、走査型電子顕微鏡(SEM)、並びに/又は泡立ち点、ガス流束、水流束、及び分子量カットオフの測定を含む複数の手法によって見積もることができる。
【0031】
膜(Q)は、典型的には、膜の全体積を基準として5体積%~90体積%、好ましくは10体積%~85体積%、より好ましくは30%~75%に含まれる重量空隙率を有する。50%~75体積%の重量分析空隙率で良好な結果が得られた。
【0032】
膜(Q)における重量空隙率測定のための好適な技術は、例えば、SMOLDERS,K.らのTerminology for membrane distillation.Desalination.1989,vol.72,p.249-262に記載されている。
【0033】
膜(Q)は、唯一の層としての前記層(L)を含む自立型多孔質膜、又は好ましくは基材上に支持された前記層(L)を含む多層膜のいずれであってもよい。
【0034】
前記基材層は、前記層(L)と部分的に又は完全に相互貫入していてもよい。
【0035】
前記基材は、好ましくは、多孔質膜の選択性に最小限しか影響を及ぼさない材料から製造される。基材層は、好ましくは、不織材料、ガラス繊維、並びに/又はポリマー系材料、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、及びポリエチレンテレフタレートなどからなる。
【0036】
最終的な用途に応じて、膜(Q)は、平膜が必要とされる場合には平坦であってよく、或いは管状膜若しくは中空糸膜が必要とされる場合には管状の形状であってよい。
【0037】
大きい表面積を有するコンパクトモジュールが必要とされる用途では、中空糸膜が特に有利であるのに対して、高い流束が必要とされる場合には、平膜が一般に好ましい。
【0038】
膜(Q)が平坦である場合、その厚さは、有利には約10~約800ミクロン、より好ましくは約25~約600ミクロンである。
【0039】
膜(Q)が管状である場合、その外径は最大15mmであり得る。膜(Q)の外径が0.5mm~3mmに含まれる場合、それは中空糸膜と呼ばれる。膜(Q)の直径が0.5mm未満である場合、それは毛細管膜と呼ばれる。
【0040】
本明細書で使用される場合、「ポリ(アリールエーテルケトン)(PAEK)」は、Ar’-C(=O)-Ar*基(ここで、Ar’及びArは、互いに等しいか又は異なり、芳香族基である)を含む繰り返し単位(RPAEK)を50モル%超含む任意のポリマーを意味する。
【0041】
繰り返し単位(RPAEK)は、以下の式(J-A)~式(J-D)の単位:
【化1】
からなる群から選択することができ、式中、
- R’のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン及び第四級アンモニウムからなる群から選択され;
- j’は、ゼロ、又は1~4の範囲の整数である。
【0042】
繰り返し単位(RPAEK)において、それぞれのフェニレン部位は、独立して、繰り返し単位(RPAEK)においてR’とは異なる他の部位への1,2-、1,4-、又は1,3-結合を有し得る。好ましくは、フェニレン部位は、1,3-又は1,4-結合を有し、より好ましくは、1,4-結合を有する。
【0043】
繰り返し単位(RPAEK)内では、j’は、フェニレン部位がポリマーの主鎖を連結する置換基以外の他の置換基を全く有しないように、好ましくは各存在においてゼロである。
【0044】
有利には、前記PAEKポリマーは、ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)、ポリ(エーテルケトン)(PEK)、及びPEEKとポリ(ジフェニルエーテルケトン)とのコポリマー(PEEK-PEDEKコポリマー)を含む群の中で、好ましくはこれからなる群の中で選択される。
【0045】
好ましくは、前記ポリ(エーテルエーテルケトン)(PEEK)は、50モル%を超える式(J’-A):
【化2】
の繰り返し単位(RPAEK)を含む任意のポリマーを意味する。
【0046】
好ましくは、少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくはすべての繰り返し単位(RPAEK)が、繰り返し単位(J’-A)である。
【0047】
好ましくは、前記ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)は、50モル%を超える式(J’-B)及び式(J”-B):
【化3】
の繰り返し単位(RPAEK)を含む任意のポリマーを意味する。
【0048】
好ましくは、少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくはすべての繰り返し単位(RPAEK)が、繰り返し単位(J’-B)及び(J”-B)の組み合わせである。
【0049】
好ましくは、前記ポリ(エーテルケトン)(PEK)は、50モル%を超える式(J’-C):
【化4】
の繰り返し単位(RPAEK)を含む任意のポリマーを意味する。
【0050】
好ましくは、少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくはすべての繰り返し単位(RPAEK)が、繰り返し単位(J’-C)である。
【0051】
好ましくは、前記PEEK-PEDEKコポリマーは、50モル%を超える式(J’-A)(PEEK繰り返し単位)及び式(J’-D)(ポリ(ジフェニルエーテルケトン)(PEDEK)繰り返し単位)
【化5】
の繰り返し単位(RPAEK)を含む任意のポリマーを意味する。
【0052】
PEEK-PEDEKコポリマーは、95/5~60/40の範囲の相対モル比率の繰り返し単位(J’-A)及び(J’-D)(PEEK/PEDEK)を含んでもよい。好ましくは、繰り返し単位(J’-A)と(J’-D)の合計が、PAEK中の繰り返し単位の60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、を占める。一部の態様において、繰り返し単位(J’-A)及び(J’-D)は、PAEK中の繰り返し単位のすべてを占める。
【0053】
最も好ましくは、PAEKは、PEEK又はPEEK-PEDEKである。
【0054】
多孔質膜を作製するのに使用したPAEKポリマーがPEEKであった場合に、非常に優れた結果が得られた。KETASPIRE(登録商標)PEEKは、Solvay Specialty Polymers USA,LLC.から市販されている。
【0055】
本発明の目的上、ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)は、式(K)の繰り返し単位(RPAES)を少なくとも50モル%含む任意のポリマーを意味する:
【化6】
(式中、
各Rは、互いに等しいか又は異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され;
各hは、互いに同じであるか異なり、0~4の範囲の整数であり;
Tは、結合、スルホン基[-S(=O)]、及び基-C(R)(R)-(ここで、R及びRは、互いに等しく又は異なり、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ又はアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ又はアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び4級アンモニウムから選択される)からなる群から選択される)。R及びRは、メチル基であるのが好ましい。
【0056】
好ましくは、少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくはPAES中の繰り返し単位のすべてが、繰り返し単位(RPAES)である。
【0057】
有利には、前記PAESポリマーは、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリスルホン(PSU)を含む群の中で、好ましくはこれからなる群の中で選択される。
【0058】
好ましくは、前記ポリフェニルスルホン(PPSU)は、式(K’-A)
【化7】
の繰り返し単位を50モル%超含む任意のポリマーを意味する。
【0059】
好ましくは、少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モ、%、99モル%、最も好ましくはPPSU中の繰り返し単位のすべてが、式(K’-A)の繰り返し単位である。
【0060】
PPSUは、公知の方法によって調製することができ、とりわけSolvay Specialty Polymers USA,L.L.C.からRADEL(登録商標)PPSUとして入手可能である。
【0061】
好ましくは、前記ポリエーテルスルホン(PES)は、式(K’-B) :
【化8】
の繰り返し単位を少なくとも50モル%含む任意のポリマーを意味する。
【0062】
好ましくは、少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくはPES中の繰り返し単位のすべてが、式(K’-B)の繰り返し単位である。
【0063】
PESは、公知の方法によって調製することができ、とりわけ、Solvay Specialty Polymers USA,L.L.C.からVERADEL(登録商標)PESUとして入手可能である。
【0064】
好ましくは、前記ポリスルホン(PSU)は、式(K’-C):
【化9】
の繰り返し単位を少なくとも50モル%含む任意のポリマーを意味する。
【0065】
好ましくは、少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくはPSU中の繰り返し単位のすべてが、式(K’-C)の繰り返し単位である。
【0066】
PSUは、公知の方法によって調製することができ、またSolvay Specialty Polymers USA,L.L.C.からUDEL(登録商標)PSUとして入手可能である。
【0067】
多孔質膜を作製するのに使用した前記PEASポリマーがPSUであった場合に、非常に優れた結果が得られた。
【0068】
好ましくは、前記化合物(S)は、次式(I)に従う:
(R)-Ar-(T) (I)
(式中、
- Arは、5~18個の炭素原子を有する置換又は無置換の、芳香族単環式基又は多環式基からなる群から選択され芳香族部位であり;
- aは、ゼロ又は1~5の範囲の整数であり、好ましくはaは7ゼロ又は1であり;
- aが1~5の整数である場合、Rのそれぞれは、互いに同じであるか又は異なり、ハロゲン原子、-OH、-NH2、C~C18脂肪族基、C~C18脂環式基、及びC~C18芳香族基からなる群から選択され;
- bは1~4の範囲の整数であり、好ましくはbは1又は2であり;
- Tのそれぞれは、互いに同じであるか又は異なり、(SO )(Mp+1/p又は(COO)(Mp+1/pであり、Mp+は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、鉄、亜鉛、ニッケル、銅、パラジウム、及び銀からなる群から選択されるp価の金属カチオンである)。
【0069】
上の式(I)で示されているように、化合物(S)は、上で定義した互いに同じであるか異なる1~4個の基Tを含み得る。
【0070】
好ましくは、各Rは、互いに同じであるか異なり、ハロゲン原子、-OH、-NH、及びC~C脂肪族基(メチル、エチル、又はプロピルなど)からなる群から選択される。
【0071】
好ましくは、Mp+は、アルカリ金属(周期表のIA族)又はアルカリ土類金属(周期表のIIA族)から選択される。
【0072】
好ましい実施形態では、Mp+はナトリウム又はカリウムであり、その結果、Tはスルホン酸及び/又はカルボン酸のナトリウム及び/又はカリウム塩である。
【0073】
好ましくは、式(I)中の前記芳香族部位は、以下からなる群から選択される:
【化10】
(これらの式中、
Zは、-SO-、-CO-、及び1~6個の炭素原子のアルキレンからなる群から選択される二価の部位である)。
【0074】
好ましくは、Zは、nが1~6の整数である-C(CH-又は-C2n-から選択され、例えば-CH-又は-CH-CH-である。
【0075】
好ましくは、式(Ar-A)~(Ar-D)の芳香族部位は、互いに同じであるか異なる1、2、又は3つの基Tを含み、Xは上で定義した通りである。
【0076】
より好ましくは、式(Ar-A)~(Ar-D)の芳香族部位は、上で定義した1つ又は2つの基Tを含む。
より好ましくは、式(I)における前記芳香族部位は、以下の式(Ar-A-II)に従う:
【化11】
(式中、
a、R、b、及びTは上述した通りである)。
【0077】
好ましくは、上記の式(I)及び(II)において、aは、0、1、又は2である。
【0078】
一実施形態によれば、aはゼロであり、そのため、フェニレン部位は、スルホネート又はカルボキシレート官能基以外の置換基を有さない。
【0079】
別の実施形態によれば、aは1であり、Rは-NHである。
【0080】
有利には、化合物(S)は本質的に水溶性である。
【0081】
当業者に明らかなように、前記化合物(S)は、以下で定義されるように抽出可能であるといわれる場合もある。
【0082】
好ましくは、化合物(S)は、安息香酸塩、メチル安息香酸塩、エチル安息香酸塩、プロピル安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ベンゼンジスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、クメンスルホン酸塩、p-シメンスルホン酸塩、及びドデシルベンゼンスルホン酸を含む群の中で、より好ましくはこれらからなる群の中で選択される。
【0083】
本発明の好ましい実施形態によれば、化合物(S)は、ナトリウム又はカリウムベンゾエート、ナトリウム又はカリウムメチルベンゾエート、ナトリウム又はカリウムエチルベンゾエート、ナトリウム又はカリウムブチルベンゾエート、ナトリウム又はカリウムベンゼンスルホネート、ナトリウム又はカリウムベンゼン-1,3-ジスルホネート、ナトリウム又はカリウムp-トルエンスルホネート、ナトリウム又はカリウムキシレンスルホネート、ナトリウム又はカリウムクメンスルホネート、ナトリウム又はカリウムパラ-シメンスルホネート、ナトリウム又はカリウムn-ブチルベンゼンスルホネート、ナトリウム又はカリウムイソ-ブチルベンゼンスルホネート、ナトリウム又はカリウムtert-ブチルベンゼン(benezene)スルホネート及びナトリウム又はカリウムドデシルベンゼンスルホネートからなる群から選択される。
【0084】
別の好ましい実施形態によれば、化合物(S)は、少なくとも1つのアミノ基を更に含む。この実施形態では、化合物(S)の適切な例は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含むパラ-アミノ安息香酸塩である。
【0085】
更に好ましい実施形態では、前記組成物(C)は、
- 30重量%から55重量%未満、より好ましくは35重量%から50重量%未満の量の前記PAEKポリマー;
- 20重量%より多く40重量%まで、より好ましくは25重量%~35重量%の前記PAESポリマー;及び
- 10重量%から45重量%未満、より好ましくは15~40重量%の量の前記化合物(S);
を含有し、
これらの量は前記組成物(C)の総重量基準である。
【0086】
更に好ましい実施形態では、前記少なくとも1種のPAEKポリマーは上で定義したPEEKポリマーであり、前記少なくとも1種のPAESポリマーは上で定義したPSUポリマーである。
【0087】
本発明による組成物(C)には、任意選択的な成分を添加することができる。前記任意選択的な成分は、膜の意図される最終用途に基づいて、当業者が選択することができる。
【0088】
存在する場合、前記任意選択的な成分は、前記組成物(C)の総重量に基づいて、10重量%未満、好ましくは5重量%未満、更に好ましくは3重量%未満の合計量である。
【0089】
適切な任意選択的な成分は、(ナノ)シリカ、TiO、ZnO、ZrO、硫酸塩、NaCl、炭酸塩などの無機フィラー; ジフェン酸、N,N-ジフェニルホルムアミド、ベンジル、アントラセン、i-フェニルナフタレン、4-ブロモビフェニル、4-ブロモジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、1-ベンジル-2-ピロリジノン、o,o’-ビフェノール、フェナントレン、トリフェニルメタノール、トリフェニルメタン、トリフェニレン、1,2,3-トリフェニルベンゼン、ジフェニルスルホン、2,5-ジフェニルオキサゾール、2-ビフェニルカルボン酸、4-ビフェニルカルボン酸、m-テルフェニル、4-ベンゾイルビフェニル、2-ベンゾイルナフタレン、3-フェノキシベンジルアルコール、フルオランテン、2,5-ジフェニル1-1,3,4-オキサジアゾール、9-フルオレノン、1,2,ジベンゾイルベンゼン、ジベンゾイルメタン、p-テルフェニル、4-フェニルフェノール、4,4’-ブロモビフェニル、ジフェニルフタレート、2,6-ジフェニルフェノール、フェノチアジン、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、9,10-ジフェニルアントラセン、ペンタクロロフェノール、ピレン、9,9’-ビフルオレン、テルフェニル混合物、部分的に水素化されたテルフェニルの混合物、テルフェニルとクアテルフェニルとの混合物、1-フェニル-2-ピロリジノン、4,4’-イソプロピリデンジフェノール、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、クアテルフェニル、ジフェニルテレフタレート、4,4’-ジメチルジフェニルスルホン、3,3’,4,4’-テトラメチルジフェニルスルホン、これらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含む可塑剤;から選択される。
【0090】
好ましい実施形態では、本発明の方法(M)で使用される組成物(C)は、前記PAEKポリマー、前記PAESポリマー、及び前記化合物(S)のみを含む。
【0091】
上で定義した組成物(C)は、当業者に周知の方法によって調製することができる。
【0092】
例えば、そのような方法としては、溶融混合プロセスが挙げられるが、これに限定されない。溶融混合プロセスは、典型的には、熱可塑性ポリマーをその溶融温度より上に加熱することによって行われ、それによって熱可塑性ポリマーの溶融物が形成される。そのようなプロセスは、ポリマーの溶融物を形成するためにPAEKポリマーの溶融温度(Tm)を超えて、及び/又PAESポリマーのガラス転移温度(Tg)を超えてポリマーを加熱することにより、行うことができる。
【0093】
いくつかの実施形態において、処理温度は、約180~450℃、好ましくは約220~440℃、約260~430℃又は約280~420℃の範囲である。
【0094】
好ましくは、処理温度は、PAEKポリマーの溶融温度(Tg)よりも少なくとも15℃、好ましくは少なくとも30℃、少なくとも50℃、少なくとも80℃、又は少なくとも100℃高い。
【0095】
好ましくは、処理温度は、PAESポリマーのガラス転移温度(Tg)よりも少なくとも15℃、好ましくは少なくとも30℃、又は少なくとも50℃高い。
【0096】
PAEKポリマーとPAESポリマーとのブレンドが供給される場合、溶融混合プロセスは、Tm又はTg温度の最も高い温度で行われる。
【0097】
本発明の方法(M)の工程(I)及び工程(II)は、以下の通りに行うことができる。
【0098】
工程(I)は、溶融混合装置で実施することができ、このために、溶融混合によってポリマー組成物を調製する、当業者に公知の任意の溶融混合装置を用いることができる。好適な溶融混合装置は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、一軸押出機、及び二軸押出機である。好ましくは、所望の成分をすべて押出機に、押出機の供給口又は溶融物のいずれかに投入するための手段を備えた押出機が使用される。ポリマー組成物の調製のためのプロセスにおいては、組成物を形成するための構成成分が、溶融混合装置に供給され、その装置で溶融混合される。構成成分は、ドライブレンドとしても知られている粉末混合物又は顆粒ミキサーとして同時に供給してもよく、又は個別に供給してもよい。
【0099】
本発明の方法の工程(II)では、組成物(C)は、ペレットの形態で有利に提供され、これは、その後工程(III)の下での溶融押出プロセスによって処理される。
【0100】
溶融混合中にポリマーを混ぜ合わせる順序は、特に限定されない。好ましい実施形態では、前記PAEKポリマー及び前記化合物(S)を溶融押出する第1の工程が行われ、その結果ペレットの形態の第1の組成物が得られ、続いて前記PAESを用いて得られたペレットを溶融押出する第2の工程が行われ、その結果ペレットの形態の第2の組成物が得られる。その後、前記第2の組成物は、本発明の方法の工程(III)で使用される。
【0101】
ポリマー組成物(C)を製造する方法は、必要ならば、異なる条件下での溶融混合又は押出成形のいくつかの連続工程を備えてもよい。
【0102】
方法自体、又は関連する場合には方法の各工程は、溶融混合物を冷却することから構成される工程も更に含み得る。
【0103】
工程(III)において、層(L)は、溶融押出プロセスを使用してポリマー組成物(C)から製造される。
【0104】
好ましくは、前記層(L)は、工程(IV-a)又は工程(IV-b1)においてそのまま使用される。
【0105】
工程(IV-a)において、少なくとも1種の溶媒(S)を用いた抽出を行うことで、PAESポリマーの少なくとも一部が層(L)から除去され、その結果層(L-iQa)が得られる。
【0106】
前記工程(IV-a)は、好ましくは、少なくとも1種の溶媒(S)が入っている第1の浴(「浸出浴」又は「溶媒抽出用浴」とも呼ばれる)に前記少なくとも1つの層(L)を入れることによって行われる。
【0107】
適切な溶媒(S)は、極性非プロトン性溶媒から選択され、好ましくは、
ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、メチル-5-(ジメチルアミノ)-2-メチル-5-オキソペンタノエート(Solvayから商品名Rhodiasolv(登録商標)PolarCleanとして市販)、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン、スルホラン、ジヒドロレボグルコセノン(Circa Groupから商品名Cyrene(登録商標)として市販)、ジフェニルスルホン、ε-カプロラクタムを含む群の中で、好ましくはこれからなる群の中で選択される
【0108】
有利には、前記工程(IV-a)は、5℃から溶媒の沸点までの温度で行われる。
【0109】
好ましくは、前記浴中での滞留時間は、前記PAESポリマーの少なくとも一部が除去されるような時間である。PAESポリマーの少なくとも一部を溶解するのに必要な時間は変動する。好ましくは、時間は30分から10時間の間で変動し得る。
【0110】
工程(IV-b1)において、水による抽出を行うことで、化合物(S)の少なくとも一部が前記層(L)から除去され、その結果層(L-iQb)が得られる。その後、少なくとも1種の溶媒(S)を用いた抽出の工程(IV-b2)が行われ、PAESポリマーの少なくとも一部が層(L-iQb)から除去され、その結果層(L-iQ2)が得られる。
【0111】
前記工程(IV-b1)は、前記少なくとも1つの層(L)を水浴に入れることによって行われる。
【0112】
前記工程(IV-b2)は、前記少なくとも1つの層(L-iQb)を、少なくとも1種の溶媒(S)が入っている第2の浴(「浸出浴」又は「溶媒抽出用浴」とも呼ばれる)の中に入れることによって行われる。好ましい溶媒(S)、温度、及び時間は、工程(IV-a)について上述した通りである。
【0113】
工程(V)では、水による抽出が行われることで、前の工程で使用された溶媒(S)と、任意選択的な化合物(S)の少なくとも一部の両方が除去され、その結果層(L)が得られる。
【0114】
前記工程(V)は、前記層(L-iQa)又は前記層(L-iQb2)を水浴に入れることによって行われる。
【0115】
任意選択的には、酸、より好ましくは硫酸(HSO)による化学処理の工程は、工程(IV-a)、(IV-b1)、(IV-b2)、及び(V)のそれぞれの前又は後に行うことができる。
【0116】
好ましい実施形態によれば、化学処理の前記工程は、前記工程(IV-a)又は(IV-b1)又は(V)の前に行われる。
【0117】
任意選択的には、1つ以上の任意選択的な工程を工程(V)の後に行うことができる。
【0118】
好ましくは、工程(V)の後に得られる前記層(L)を、少なくとも1種の酸化剤と接触させることができる。適切な酸化剤は、例えば、過マンガン酸カリウム;過硫酸アンモニウム;次亜塩素酸ナトリウム;過酸化水素;オゾン;二クロム酸塩;及びそれらの組み合わせを含む群の中で選択される。
【0119】
好ましくは、前記少なくとも酸化剤と一緒に鉄塩を触媒として使用することができる。
【0120】
例えば、工程(V)の後に得られる前記層(L)は、乾燥及び/又は引き伸ばし(この工程は「延伸」とも呼ばれる)することができ、及び/又は好ましくは例えば4-アミノ酪酸、6-アミノカプロン酸、8-アミノカプリル酸、3-アミノ-1-プロパンスルホン酸などの液体の溶液の形態でアルカリと接触させることができる。
【0121】
一実施形態によれば、乾燥前に、膜に残っている溶媒(S)を、溶媒(S)と比較して低い表面張力を有する、より揮発性の高い非極性乾燥剤[溶媒(D)]と交換することができる。
【0122】
有利には、前記溶媒(D)は、工程(IV)で使用される溶媒(S)の溶媒であり、且つPAEKポリマーの非溶媒であり、その結果、乾燥中に細孔が崩壊する可能性が低減される。好ましくは、溶媒(D)は、イソプロパノール又はイソオクタンから選択される。
【0123】
溶媒(S)から溶媒(D)への交換は、膜に悪影響を及ぼさない温度、好ましくは約0℃~約100℃で行うことができる。
【0124】
乾燥は、真空下で作業することによって行うことができる。
【0125】
膜(Q)は、好ましくは、膜(Q)が悪影響を受けないように、温度を適切に選択することによって乾燥される。
【0126】
有利には、乾燥は、0℃~200℃、より好ましくは40℃~100℃の温度で行われる。
【0127】
工程(V)の終わりに、
- 唯一の層としての前記(L)、
- 前記層(L)と上で定義した前記基材、
を含む膜(Q)が得られる。
【0128】
好ましくは、前記膜(Q)は、PAEKポリマーのガラス転移温度(T)よりも高く、且つPAEKポリマーの結晶融点より低い温度で引き伸ばされる。
【0129】
別の実施形態によれば、前記膜(Q)をアニーリングする工程、又は言い換えると前記膜(Q)を高温に曝す工程を、前記工程(III)の後且つ前記工程(IV-a)又は(IV-b1)の前に任意選択的に行うことができる。
【0130】
好ましくは、前記アニーリング工程は、前記PAEKポリマーのガラス転移温度(T)より高い温度且つPAEKポリマーの融点より約10℃低い温度で行われる。
【0131】
好ましくは、前記アニーリング工程は、約30秒から約24時間行われる。
【0132】
好ましくは、本発明による膜(Q)は、生物学的溶液(例えば、バイオバーデン、ウイルス、他の大きな分子)及び/又は緩衝溶液(例えばDMSOのような少量の溶媒又は他の極性非プロトン性溶媒を含有し得る溶液)を濾過するために使用される。
【0133】
好ましくは、本発明による膜(Q)は、特にフラッキング水及びいわゆる「生産水」、又は言い換えれば油井からの水、高固形分の水、廃水などの油/水エマルジョンを濾過するために使用される。
【0134】
したがって、更なる態様では、本発明は、生物学的溶液、緩衝溶液、油/水エマルジョン、生産水を含む群から、好ましくはこれらからなる群から選択される少なくとも1種の流体を濾過するための、上で定義した膜(Q)の使用に関する。
【0135】
別の態様によれば、本発明は、前記流体を上で定義した少なくとも1種の膜(Q)と接触させることを含む、少なくとも1種の流体を濾過するための方法に関する。
【0136】
有利には、前記流体は、生物学的溶液(例えば、バイオバーデン、ウイルス、他の大きな分子);及び/又は緩衝溶液(例えばDMSOのような少量の溶媒又は他の極性非プロトン性溶媒を含有し得る溶液);及び/又は特にフラッキング水及びいわゆる「生産水」、若しくは言い換えれば油井からの水、高固形分の水、廃水などの油/水エマルジョンを含む群の中で、より好ましくはこれらからなる群の中で選択される液相である。
【0137】
上に加えて、本発明による膜(Q)は、逆浸透、限外濾過、及びガス分離プロセス、並びに液体から及び液体へのガス移動用途においても使用することができる。
【0138】
ガス分離用途の例には、空気からの窒素の生成、製油所及び石油化学プラントでの水素回収、ガスの脱水、及び天然ガスからの酸性ガスの除去が含まれる。
【0139】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0140】
本発明は、以下に、非限定的な実施例によって以下のセクションでより詳細に例証される。
【実施例
【0141】
材料
以下のものは、Solvay Specialty Polymers USA,LLC.から入手した:
- Ketaspire(登録商標) KT-820 NL PEEKポリマー(400℃、2.16Kgで測定したMFR=3g/10分);
- Udel(登録商標) P1700 PSUポリマー(343℃/2.16Kgで測定したMFR=6.5g/10分);
- Udel(登録商標) P3703 PSUポリマー(343℃/2.16Kgで測定したMFR=17g/10分);
ジメチルアセトアミド(DMAC)及びイソプロピルアルコール(IPA)は、Sigma Aldrich(登録商標)から入手した。
微粉化安息香酸ナトリウムは、Fluid Energy,Telford,PA.から商業的に入手した。
【0142】
実施例1
PEEKポリマーと安息香酸ナトリウム又はベンゼンスルホン酸ナトリウムとのプレブレンドは、12のバレルゾーンと最大450℃で作動する加熱された出口ダイとを備えたZSK-26二軸押出機(Coperion GmbH,Stuttgart,Germany)を使用して、これらの成分を表1に詳述する比率でブレンドすることによって得た。
【0143】
バレルプロファイルは以下の通りであった:
【0144】
【表1】
【0145】
【表2】
【0146】
成分の適切な質量比を得るために、K-TronT-35重量測定フィーダ(Coperion GmbH,Stuttgart,Germanyより)を使用して各プレブレンドを押出機の供給セクションに供給した。成分を溶融し、均一な溶融組成物が得られるように設計されたスクリューで混合した。出口ダイでの実際の溶融温度を小型機器で測定したところ、390~400℃であることが分かった。
【0147】
溶融流を空冷し、Maag Primo 60Eペレタイザー(Maag Automatik GmbH,Stuttgart,Germanyより)に供給した。典型的な量産速度は1時間あたり10~20kgであった。各プレブレンドからのペレットを回収し、表2に詳述されている組成でコンパウンドを製造するために使用した。
【0148】
【表3】
【0149】
ペレットを回収し、溶融膜押出に使用するまで密封されたプラスチックバケツの中に保管した。
【0150】
ペレットを130℃で一晩乾燥させ、続いて一軸押出機に供給し、フィルムダイを使用してプロファイル温度360~390℃で膜へと押し出した。膜は、0.5~2m/分の速度及び90~170℃の温度で作動する冷却されたゴデットロール上に巻き取った。
【0151】
上の工程で得た前駆体層をDMAC中で一晩浸出させ、デカントし、2時間撹拌しながらきれいなDMACを添加し、デカントし、室温で2時間撹拌しながらきれいなDMACを添加し、その後それぞれ1時間撹拌しながら3回の水洗で水に移行させた。
【0152】
最終組成物は、実施例1に開示の方法に従って、以下の実施例に記載の通りに製造した。
【0153】
実施例2
70%のプレブレンドBを30%のUdel(登録商標)P1700と混ぜ合わせることによって、45.5重量%のKetaSpire(登録商標)KT-820Pと、30重量%のUdel(登録商標)P-1700と、24.5重量%の安息香酸ナトリウムとのコンパウンドを調製した。
【0154】
実施例3
74%のプレブレンドDを26%のUdel(登録商標)P1700と混ぜ合わせることによって、40.7重量%のKetaSpire(登録商標)KT-820と、26重量%のUdel(登録商標)P-1700と、33.3重量%の安息香酸ナトリウムとのコンパウンドを調製した。
【0155】
実施例4
70%のプレブレンドCを30%のUdel(登録商標)P1700と混ぜ合わせることによって、40.6重量%のKetaSpire(登録商標)KT-820と、30重量%のUdel(登録商標)P-1700と、29.4重量%の安息香酸ナトリウムとのコンパウンドを調製した。
【0156】
実施例5
70%のプレブレンドBを30%のUdel(登録商標)P3703と混ぜ合わせることによって、45.5重量%のKetaSpire(登録商標)KT-820と、重量%のUdel(登録商標)P-3703と、24.5重量%の安息香酸ナトリウムとのコンパウンドを調製した。
【0157】
実施例6
70%のプレブレンドAを30%のUdel(登録商標)P3703と混ぜ合わせることによって、49重量%のKetaSpire(登録商標)KT-820と、30重量%のUdel(登録商標)P-3703と、21重量%の安息香酸ナトリウムとのコンパウンドを調製した。
【0158】
実施例7(比較例):
成分をCoperion ZSK-26二軸押出機(Coperion GmbH,Stuttgart,Germany)の中でブレンドすることによって、55重量%のKetaSpire(登録商標)KT-820と45重量%のUdel(登録商標)P-3703とのコンパウンドを調製した。成分を溶融し、均一な溶融組成物が得られるように設計されたスクリューで混合した。溶融流を水浴で冷却し、Maag Primo 60Eペレタイザー(Maag Automatik GmbH,Stuttgart,Germany)に供給した。ペレットを回収し、溶融膜押出に使用するまで密封されたプラスチックバケツの中で保管した。
【0159】
その後、実施例1で上述したものと同じ手順に従って、ペレットを前駆体層へと処理した。次いで、前駆体層をDMAC中で一晩浸出させ、デカントし、2時間撹拌しながらきれいなDMACを添加し、デカントし、室温で2時間撹拌しながらきれいなDMACを添加した。
【0160】
方法
水流束透過率
所定の圧力で各膜を通る水流束(J)は、単位面積当たり及び単位時間当たり透過する容積と定義した。L/(h×m)で表される流束(J)は、次式によって計算される:
【数1】
(式中、
V(L)は透過液の量であり、
A(m)は膜面積であり、
Δt(h)は作動時間である)。
水流束の測定は、1barの一定の窒素圧力下でデッドエンド形状を用いて室温(23℃)で行った。11.3cmの有効面積の膜ディスクを、水中に保管したアイテムから切り取り、金属板上に置いた。
【0161】
重量空隙率
膜の重量空隙率は、膜の総体積で割った細孔の容積と定義した。膜の空隙率(ε)は、以下で詳述する重量測定法に従って決定した。完全に乾燥した膜片の重量を測定し、24時間、イソプロピルアルコール(IPA)中で含浸させた。この時間の後、過剰量の液体をティッシュペーパーで除去し、そして膜重量を再び測定した。空隙率は、Appendix of Desalination,72(1989)249-262に記載されている手順に従って湿潤流体としてIPA(イソプロピルアルコール)を使用して測定した。
【数2】
(式中、
「Wet」は、湿潤膜の重量であり、
「Dry」は、乾燥膜の重量であり、
ρpolymerは、Ketaspire(登録商標)PEEK(1.30g/cm)の密度であり、
ρliquidは、IPAの密度(0.78g/cm)であった)。
【0162】
泡立ち点及び細孔径の決定
ASTM F316法に従い、毛細管流動気孔測定器Porolux(商標)1000(Porometer-Belgium)を用いて、膜の泡立ち点(すなわち最も大きい細孔の測定)、最小の細孔径、及び平均細孔径を求めた。それぞれの試験に関して、Fluorinert C 43 (16dyn/cmの表面張力を有するフッ素系流体)を用いて、膜試料を最初に十分に濡らした。窒素(不活性ガス)を使用した。
【0163】
厚さ測定
厚さの値は、Mitutoyoデジマティックインジケータ(モデルID-H0530)を使用して乾燥膜で測定した。少なくとも5回の測定を行い、平均値を計算した。それらは以下の表に報告されている。
【0164】
引張測定
引張測定は、ASTM D638タイプVに従って行った。各サンプルは5回試験した。以下の表に報告されている値には、弾性率、破断応力、及び破壊ひずみが含まれる。
【0165】
膜の作製
膜は、表1に詳述されている組成物を使用して製造した。配合、膜押出、及び膜抽出手順は、上の実施例1に詳述されている通りに行った。
【0166】
膜4は、膜押出後且つ膜抽出前にアニーリングの工程(250℃で1時間の熱処理)を行うことによって作製した。
【0167】
【表4】
【0168】
【表5】
【0169】
【表6】
【0170】
上記の結果は、本発明に従って作製された膜が、各圧力段階において、特に1バールより上でより良好な流束を保持すること、及び圧力が増加したときに流束と圧力との間の比例関係が維持されることを示した。それに対して、圧力が増加したとき、比較膜について測定された流束は、圧力圧縮によって強く影響を受けた。
【国際調査報告】