(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】がんを処置する方法及び使用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/06 20060101AFI20220930BHJP
A61K 31/4545 20060101ALI20220930BHJP
A61K 31/337 20060101ALI20220930BHJP
A61K 31/7068 20060101ALI20220930BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220930BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
A61K45/06
A61K31/4545
A61K31/337
A61K31/7068
A61P35/00
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506342
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(85)【翻訳文提出日】2022-01-28
(86)【国際出願番号】 US2020070080
(87)【国際公開番号】W WO2020243745
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522039463
【氏名又は名称】ネルム コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】メディナ,マヌエル,ヒダルゴ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA18
4C084MA02
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C084ZC752
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086CB05
4C086EA17
4C086GA16
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
(57)【要約】
本開示は、それを必要とする対象におけるがん又はがんの影響を処置又は改善する方法であって、有効量のヘッジホッグ阻害剤(HHI)又はその薬学的に許容される塩、及び化学療法薬(CTA)を対象に投与することを含む、方法を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌性腫瘍を有する対象を処置する方法であって、1種以上の追加のがん治療と組み合わせた、ヘッジホッグ阻害剤(HHI)の対象への一時的な投与を含む、方法。
【請求項2】
ヘッジホッグ阻害剤(HHI)を1種以上の追加のがん治療と組み合わせてがん患者に一時的に投与する方法であって、HHIの投与が、臨床的に有意な、有害な線維芽細胞の枯渇を開始する前に中止される、方法。
【請求項3】
HHIが、少なくとも1種の追加のがん治療の実施前に投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
HHIの投与が、追加のがん治療のうちの少なくとも1種の中止前に中止される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
追加のがん治療のうちの少なくとも1種が全身に送達される療法である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
全身に送達される療法が化学療法、標的療法又は免疫療法である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
追加のがん治療が、化学療法薬(CTA)の投与であり、且つ、HHIが、CTAを投与する前に投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
HHIの投与がCTAの中止前に中止される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
腫瘍が線維性腫瘍である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
腫瘍が固形腫瘍である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
腫瘍が高い間質量を有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
HHIが間質量を低減させる、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
HHIが、腫瘍内又は腫瘍周辺の血管新生を誘導する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
HHIがその後に投与されるCTAの腫瘍取込みを改善する、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
HHIの投与が、間質の更なる低減が停止されるように又は臨床的に有意でないように中止される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
HHIの投与が、腫瘍線維芽細胞の更なる枯渇が停止されるように又は臨床的に有意でないように中止される、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
HHIの投与が追加のがん治療の効果を改善するが、臨床的に有意な腫瘍成長を促進する前に中止される、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
HHIの投与が臨床的に有意なHHI誘導性転移をその後に開始しないように、HHIの投与が中止される、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
HHIの投与がその後の腫瘍転移の可能性を著しく増大しないように、HHIの投与が中止される、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
HHIの投与が、その後に実施されるがん治療の有効性を改善する、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
改善が、
A)代謝応答、
B)ポジトロン放出断層撮影、
C)基準に従った客観的応答、
D)無増悪生存、
E)全生存、
F)腫瘍マーカーレベルに基づく応答、
G)毒性、及び
H)腫瘍の弾性
のうちの1つ以上により証明される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
改善が、生存の延長又は無増悪期間の延長により証明される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
改善が、無増悪生存により証明される、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
がんが、膵がん、食道がん、扁平上皮癌、前立腺がん、結腸がん、乳がん、肝細胞癌、腎がん又は胆管細胞癌である、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
がんが膵管腺癌(PDAC)である、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
がんが肝細胞がんである、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
HHIがSmoアンタゴニストである、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
SmoアンタゴニストがTAK 441、グラスデギブ、タラデギブ、ソニデギブ、サリデギブ、パチデギブ、BMS833923、LEQ506及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
HHIがTAK 441である、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
CTAが、ゲムシタビン、ナブパクリタキセル、タキソール、イリノテカン、テモゾロミド、カペシタビン、トポテカン、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、カンプトテシン、シタラビン、フルオロウラシル、シクロホスファミド、エトポシドリン酸塩、テニポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン及びペメトレキセドからなる群から選択される、請求項26から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
CTAがナブパクリタキセル、ゲムシタビン及びシスプラチンのうちの1種以上である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
CTAがナブパクリタキセル及びゲムシタビンのうちの1種以上である、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
HHIの投与経路が、静脈内、経口及び局所からなる群から選択される、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
追加のがん治療の投与経路が、静脈内、経口及び局所からなる群から選択される、請求項1から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
HHI及び追加のがん治療の用量が、生物学的有効用量と最大耐量との間で投与される、請求項1から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
患者が、処置サイクルを受け、且つ、追加のがん治療がCTAであり、全又は実質的に全処置サイクル中に投与される、請求項1から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
患者が、追加のがん治療の処置サイクルを受け、且つ、HHIが、全処置サイクルより短いサイクル中に投与される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
患者が、サイクル中に追加のがん治療の処置を受けており、且つ、1つ以上の用量のHHIが、初期処置サイクル前及びそのサイクル中にのみ投与される、請求項1から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
1つ以上の用量のHHIが、1~5サイクルの化学療法の1~10日前にのみ投与される、請求項37又は38に記載の方法。
【請求項40】
1つ以上の用量のHHIが、第3のサイクルまでに投与される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
各サイクルが28日であり、且つ、HHIがサイクル1~3の各サイクルの-4日~-1日及び10~13日目に投与され、且つ、CTAが28日ごとに1日目、8日目及び15日目に投与される、請求項37から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
HHIが800mg用量のTAK 441である、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
CTAが、1000mg/m
2のゲムシタビン及び125mg/m
2のナブパクリタキセルのうちの1種以上から選択される、請求項41又は42に記載の方法。
【請求項44】
1つ以上の用量の追加のがん治療の後に、1つ以上の用量のチェックポイント阻害剤(CI)が続く、請求項1から43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
CTAが1つ以上の用量で投与されるチェックポイント阻害剤(CI)である、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
CIの投与経路が、静脈内、経口又は局所からなる群から選択される、請求項44又は45に記載の方法。
【請求項47】
1つ以上の用量のCIが、生物学的有効用量と最大耐量との間で投与される、請求項44~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
CIがCTLA 4阻害剤、PD1阻害剤又はPDL1阻害剤である、請求項44から47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
CIが、トレメリムマブ、イピリムマブ、デュルバルマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、セミプリマブ、AGEN1884、AGEN2034又はAGEN1181である、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
CIがイピリムマブである、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
患者がサイクルで処置を受け、且つ、1つ以上の用量のCIが、処置サイクルの終了近く又は開始近くにのみ投与される、請求項44から50のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
1つ以上の用量のCIが処置サイクル終了の7日以内にのみ投与される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
1つ以上の用量のCIが、少なくとも1、2又は3処置サイクル後にのみ投与される、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
サイクルが28日であり、且つ、CIが、サイクル4から開始して各サイクルの1日目及び21日目に投与される、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
CI用量がイピリムマブの3mg/kg IV用量である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
それを必要とする対象においてがん又はがんの影響を処置又は改善する方法であって、有効量のヘッジホッグ阻害剤(HHI)又はその薬学的に許容される塩、及び化学療法薬(CTA)を対象に投与することを含む、方法。
【請求項57】
HHIがTAK 441である、請求項56に記載の方法。
【請求項58】
CTAがナブパクリタキセルである、請求項56又は57に記載の方法。
【請求項59】
CTAがチェックポイント阻害剤(CI)である、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
チェックポイント阻害剤(CI)の投与を更に含む、請求項58に記載の方法。
【請求項61】
がんが線維性間質を有する、請求項56から60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
がんが、膵がん、食道がん、扁平上皮癌、前立腺がん、結腸がん、乳がん、肝細胞癌、腎がん又は胆管細胞癌である、請求項56から61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
がんが膵管腺癌(PDAC)である、請求項56から62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項64】
がんが肝細胞癌である、請求項56から62のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
処置の効果が腫瘍退縮により測定される、請求項56から64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
処置の効果が、
A)フルオロデオキシグルコース(FDG)により測定される代謝応答、
B)EORTC基準に従ったPET、
C)RECIST(固形癌効果判定基準)基準に従った客観的応答、
D)無増悪生存、
E)全生存、
F)腫瘍マーカー(例えばCA 19.9)レベルに基づく応答、
G)毒性(例えば有害事象用語共通毒性規準、国立がん研究所、第4.03版(NCI CTCAE v4.03)に従った)及び
H)腫瘍の弾性
からなる群のうちの1つ以上から選択される腫瘍成長阻害モデルにおける腫瘍成長阻害因子により測定される、請求項56から65のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その各々の全体の内容が、参照により本明細書に組み込まれる、2019年5月29日に出願された米国仮特許出願第62/853,842号の優先権の利益を主張するものである。
【0002】
発明の分野
本開示は、それを必要とする対象においてがん又はがんの影響を処置もしくは改善する方法又は使用であって、有効量のヘッジホッグ阻害剤(HHI)又はその薬学的に許容される塩、及び化学療法薬(CTA)を対象に投与することを含む、方法又は使用を含む。
【背景技術】
【0003】
膵がんの1つの特徴的な特性は、典型的には密度が非常に高く線維性のその間質である。間質に重点を置くことは、膵がんの処置における新しい戦略として新たに台頭しつつあり、異なる手法が現在試験中である。例えば、Nab-Pでの前臨床及び臨床研究は、薬物がその効果を発揮する機構のうちの1つが、膵がんの腫瘍間質を除去することによるものであることを示している。除去は、腫瘍血管新生における改善及び癌細胞への薬物の更なる浸透を伴い、これは抗腫瘍有効性を高めることができる。Nab-Pで処置した患者のその後の臨床研究では、同様の所見が認められると同時に、Gem及びNab-Pの組み合わせで処置した腫瘍では、エラストグラフィによりその弾性を測定した場合、弾性が高くなることも実証された。ヒアルロン酸が多い腫瘍を有する患者において興味深い結果を示しているペグ化ヒアルロニダーゼPEGPH20を含む、膵がんの間質に対する他の薬剤が開発中である。
【0004】
膵がんにおいて研究される1つの治療標的は、ヘッジホッグ(Hh)経路である。前臨床研究において、シクロパミン類似体(IPI-926)によるSmoの阻害は、これらのモデルにおいて間質の選択的除去、良好な腫瘍血管新生及びGem化学療法のより高い効果をもたらした。これらの研究に基づき、間質除去及び良好な血管新生が、良好な薬物分布及びより高い活性に関連し得るという仮説から、Gemと組み合わせたSmo阻害剤での一連の臨床試験が開始された。しかし、有望な前臨床データにもかかわらず、これらの研究では良好な結果が示されなかった。
【0005】
Smoを遺伝的に除去する(遺伝子欠失による)又はSmo阻害剤での長期処置のその後の前臨床研究は、臨床試験の負のデータを説明し得る結果を示している。これらの研究において、間質の長期除去は、腫瘍の血管新生及び悪性細胞の増殖を著しく増加させ、処置した動物において、より多くの転移数およびより低い生存率を持続的にもたらす。
【0006】
ヘッジホッグ(Hh)経路は、幹細胞の維持、細胞分化、組織の極性及び細胞増殖を含む脊椎動物の胚発生における多くの基本過程の主要な制御因子である。Hhシグナル伝達経路は、神経膠腫に関連する癌遺伝子(Gli)転写因子のアクチベーター形態とリプレッサー形態との間のバランスを変化させるシグナル伝達カスケードを介して、その生物学的効果を発揮する。Gli転写因子に伝達するシグナル伝達に関与するHhシグナル伝達経路の成分としては、ヘッジホッグリガンド(ソニックHh[SHh]、インディアンHh[IHh]及びデザートHh[DHh])、Patched受容体(Ptch1、Ptch2)、Smoothened受容体(Smo)、融合ホモログのサプレッサー(Sufu)、キネシンタンパク質Kif7、タンパク質キナーゼA(PKA)及び環状アデノシン一リン酸塩(cAMP)が挙げられる。Gliのアクチベーター形態は、核に移動し、そのプロモーターに結合することにより標的遺伝子の転写を刺激する。Hhシグナル伝達経路の主な標的遺伝子は、PTCH1、PTCH2及びGLI1である。
【0007】
腫瘍発生をもたらすHh経路の恒常的活性化は、基底細胞癌及び髄芽腫で見られる。様々な他のヒトがんも、この経路の不適当な活性化を実証する。Hhシグナル伝達経路の調節解除は、ゴーリン症候群を含む発生異常及びがん、並びに散発性がん、例えば膵、乳、結腸、卵巣及び小細胞肺癌に関連する。Hhシグナル伝達経路の異常な活性化は、関連遺伝子の変異(リガンド非依存性シグナル伝達)によるか又はHhシグナル伝達分子の過剰発現(リガンド依存性シグナル伝達-オートクリン又はパラクリン)により生じる。腫瘍から周囲の間質へのパラクリンHhシグナル伝達は、腫瘍発生を促進することが最近示された。この経路はまた、がん幹細胞の増殖を調節し、腫瘍の浸潤性を増大することも示された。Hhシグナル伝達の標的阻害は、多くの種類のヒトがんの処置及び予防に有効であり得る。
【0008】
幾つかのHhシグナル伝達経路阻害剤、例えばビスモデギブ及びソニデギブは、がん処置のために開発された。これらの薬物は、特に難治/進行がんを有する患者に有望ながん治療薬とみなされる。他のヘッジホッグ阻害剤としてはTAK 441、タラデギブ、ソニデギブ、サリデギブ(パチデギブ)、BMS833923及びLEQ506が挙げられる。
【0009】
Ohashi等により記載されたように、ピロロ[3,2-c]ピリジン誘導体TAK-441は、溶解度の増加に基づくPKプロファイルの改善により、腫瘍関連間質組織において転写因子Gli1 mRNAの発現を抑制し、マウス髄芽腫同種移植片モデルにおいて腫瘍成長(処置/対照比、3%)を阻害した。このような背景教示に関して参照により本明細書に組み込まれる、Ohashi等、Discovery of the investigational drug TAK-441, a pyrrolo[3,2-c]pyridine derivative, as a highly potent and orally active hedgehog signaling inhibitor: Modification of the core skeleton for improved solubility, Bioorganic & Medicinal Chemistry、20巻、18号、2012年9月15日を参照のこと。
【0010】
TAK-441は、6-エチル-N-[1-(ヒドロキシアセチル)ピペリジン-4-イル]-1-メチル-4-オキソ-5-(2-オキソ-2-フェニルエチル)-3-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-4,5-ジヒドロ-1H-ピロロ[3,2-c]ピリジン-2-カルボキサミド、式(I):
【0011】
【0012】
TAK-441を合成する方法は、各々、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8,217,176号及び同第8,399,449号に開示されている。更に、その全体が参照により本明細書に同様に組み込まれる、国際出願番号PCT/JP2017/003453、WO 2017/135259は、TAK-441とL-リンゴ酸又はL-酒石酸とのある特定の共結晶形態を開示している。このような共結晶形態は、本開示の方法で使用できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ヘッジホッグ阻害剤を利用するがんの処置の改善が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示の一実施形態は、癌性腫瘍を有する対象を処置する方法であって、1種以上の追加のがん治療と組み合わせた、ヘッジホッグ阻害剤(HHI)の対象への一時的な投与を含む、方法を含む。本開示の一実施形態は、ヘッジホッグ阻害剤(HHI)を1種以上の追加のがん治療と組み合わせてがん患者に一時的に投与する方法であって、HHIの投与が、臨床的に有意な、有害な線維芽細胞の枯渇を開始する前に中止される、方法を含む。
【0015】
一態様において、HHIは、少なくとも1種の追加のがん治療の実施(投与)前に投与される。一態様において、HHIの投与は、追加のがん治療のうちの少なくとも1種の中止前に中止される。一態様において、追加のがん治療のうちの少なくとも1種は、全身に送達される治療である。一態様において、全身に送達される治療は化学療法、標的療法又は免疫療法である。一態様において、追加のがん治療は、化学療法薬(CTA)の投与であり、HHIは、CTAを投与する前に投与される。一態様において、HHIの投与はCTAの中止前に中止される。一態様において、腫瘍は線維性腫瘍である。一態様において、腫瘍は固形腫瘍である。一態様において、腫瘍は高い間質量を有する。一態様において、HHIは間質量を低減させる。一態様において、HHIは、腫瘍内又は腫瘍周辺の血管新生を誘導する。一態様において、HHIは、その後に投与されるCTAの腫瘍取込みを改善する。一態様において、HHIの投与は、間質の更なる減少が停止されるように又は臨床的に有意でないように中止される。一態様において、HHIの投与は、腫瘍線維芽細胞の更なる枯渇が停止されるように又は臨床的に有意でないように中止される。一態様において、HHIの投与は追加のがん治療の効果を改善するが、臨床的に有意な腫瘍成長を促進する前に中止される。一態様において、HHIの投与が臨床的に有意なHHI誘導性転移をその後に開始しないように、HHIの投与は中止される。一態様において、HHIの投与は、HHIの投与がその後の腫瘍転移の可能性を著しく増大しないように中止される。一態様において、HHIの投与は、その後に実施(投与)されるがん治療の有効性を改善する。一態様において、改善は、代謝応答、ポジトロン放出断層撮影、基準に従った客観的応答、無増悪生存、全生存、腫瘍マーカーレベルに基づく応答、毒性及び腫瘍の弾性のうちの1つ以上により証明される。一態様において、改善は、生存の延長又は無増悪期間の延長により証明される。一態様において、改善は、無増悪生存により証明される。一態様において、がんは膵がん、食道がん、扁平上皮癌、前立腺がん、結腸がん、乳がん、肝細胞癌、腎がん又は胆管細胞癌である。一態様において、がんは膵管腺癌(PDAC)である。一態様において、がんは肝細胞がんである。一態様において、HHIはSmoアンタゴニストである。一態様において、SmoアンタゴニストはTAK-441、グラスデギブ、タラデギブ、ソニデギブ、サリデギブ、パチデギブ、BMS833923、LEQ506及びこれらの組合せからなる群から選択される。一態様において、HHIはTAK-441である。一態様において、CTAはゲムシタビン、ナブパクリタキセル、タキソール、イリノテカン、テモゾロミド、カペシタビン、トポテカン、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、カンプトテシン、シタラビン、フルオロウラシル、シクロホスファミド、エトポシドリン酸塩、テニポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン及びペメトレキセドからなる群から選択される。一態様において、CTAはナブパクリタキセル、ゲムシタビン及びシスプラチンのうちの1種以上である。一態様において、CTAはナブパクリタキセル及びゲムシタビンのうちの1種以上である。一態様において、HHIの投与経路は静脈内、経口及び局所からなる群から選択される。一態様において、追加のがん治療の実施(投与)経路は、静脈内、経口及び局所からなる群から選択される。一態様において、HHI及び追加のがん治療の用量は、生物学的有効用量と最大耐量との間で投与(実施)される。一態様において、患者は、処置サイクルを受け、追加のがん治療はCTAであり、全又は実質的に全処置サイクル中に投与される。一態様において、患者は追加のがん治療の処置サイクルを受け、HHIは、全処置サイクルより短いサイクル中に投与される。一態様において、患者は、サイクル中に追加のがん治療の処置を受けており、1回以上の用量のHHIは、初期処置サイクル前及びそのサイクル中にのみ投与される。一態様において、1回以上の用量のHHIは、1~5サイクルの化学療法の1~10日前にのみ投与される。一態様において、1回以上の用量のHHIは、第3のサイクルまでに投与される。一態様において、各サイクルは28日であり、HHIはサイクル1~3の各サイクルの-4日~-1日及び10日目~13日目に投与され、CTAは28日ごとに1日目、8日目及び15日目に投与される。一態様において、HHIは800mg用量のTAK441である。一態様において、CTAは、1000mg/m2のゲムシタビン及び125mg/m2のナブパクリタキセルのうちの1種以上から選択される。一態様において、1回以上の用量の追加のがん治療の後に、1回以上の用量のチェックポイント阻害剤(CI)が続く。一態様において、CTAは1回以上の用量で投与されるチェックポイント阻害剤(CI)である。一態様において、CIの投与経路は静脈内、経口又は局所からなる群から選択される。一態様において、1回以上の用量のCIは、生物学的有効用量と最大耐量との間で投与される。一態様において、CIはCTLA4阻害剤、PD1阻害剤又はPDL1阻害剤である。一態様において、CIはトレメリムマブ、イピリムマブ、デュルバルマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アテゾリズマブ、セミプリマブ、AGEN1884、AGEN2034又はAGEN1181である。一態様において、CIはイピリムマブである。一態様において、患者はサイクルで処置を受け、1回以上の用量のCIは、処置サイクルの終了近く又は開始近くにのみ投与される。一態様において、1回以上の用量のCIは、処置サイクル終了の7日以内にのみ投与される。一態様において、1回以上の用量のCIは、少なくとも1、2又は3処置サイクル後にのみ投与される。一態様において、サイクルは28日であり、CIは、サイクル4から開始して各サイクルの1日目及び21日目に投与される。一態様において、CI用量はイピリムマブ3mg/kg IV用量である。
【0016】
本開示の一実施形態は、それを必要とする対象においてがん又はがんの影響を処置又は改善する方法であって、有効量のヘッジホッグ阻害剤(HHI)又はその薬学的に許容される塩、及び化学療法薬(CTA)を対象に投与することを含む、方法を含む。
【0017】
一態様において、HHIはTAK441である。一態様において、CTAはナブパクリタキセルである。一態様において、CTAはチェックポイント阻害剤(CI)である。一態様において、方法は、チェックポイント阻害剤(CI)の投与を更に含む。一態様において、がんは線維性間質を有する。一態様において、がんは膵がん、食道がん、扁平上皮癌、前立腺がん、結腸がん、乳がん、肝細胞癌、腎がん又は胆管細胞癌である。一態様において、がんは膵臓腺癌(PDAC)である。一態様において、癌は肝細胞癌である。一態様において、処置の効果は腫瘍退縮で測定される。一態様において、処置の効果は、フルオロデオキシグルコース(FDG)により測定される代謝応答、EORTC基準に従ったPET、RECIST(固形癌効果判定基準(Response Evaluation Criteria in Solid Tumors))基準に従った客観的応答、無増悪生存、全生存、腫瘍マーカー(例えばCA 19.9)レベルに基づく応答、毒性(例えば有害事象用語共通毒性規準(Common Toxicity Criteria for Adverse Events Terminology)、国立がん研究所(National Cancer Institute)、第4.03版(NCI CTCAE v4.03)に従った)及び腫瘍の弾性からなる群のうちの1つ以上から選択される腫瘍成長阻害モデルにおける腫瘍成長阻害因子により測定される。
【0018】
本開示の一実施形態は、列挙された疾患又は障害の処置のための列挙された薬剤の使用として本明細書に記載される方法を含む。
【0019】
本開示の一実施形態は、列挙された疾患又は障害の処置のための医薬の製造における列挙された薬剤の使用として本明細書に記載される方法を含む。
【0020】
本開示の一実施形態は、列挙された疾患又は障害の処置のための列挙された薬剤の使用を含む。
【0021】
本開示の一実施形態は、列挙された疾患又は障害の処置のための医薬としての列挙された薬剤の使用を含む。
【0022】
本開示の一実施形態は、列挙された疾患又は障害の処置のための列挙された薬剤を含む医薬組成物を含む。
【0023】
本開示の一実施形態は、列挙された疾患又は障害の処置における使用に適した列挙された薬剤を含む。
【0024】
1つ以上の態様及び実施形態は、具体的には記載されていないが、異なる実施形態に組み込まれてもよい。即ち、全ての態様及び実施形態は、任意の方法又は組合せで組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】指示されたレジメンで処置されたPanc163モデルの腫瘍成長(%は腫瘍の初期体積を指す)を示すグラフである。腫瘍は皮下移植された。
【
図2】指示されたレジメンで処置されたJH051モデルの腫瘍成長(%は腫瘍の初期体積を指す)を示すグラフである。腫瘍は皮下移植された。
【
図3】指示されたレジメンで処置されたPanc025モデルの腫瘍成長(%は腫瘍の初期体積を指す)を示すグラフである。腫瘍は皮下移植された。
【
図4】全実験群から得たPanc 163腫瘍試料からのマッソン染色の代表的画像である。
【
図5】全実験群から得たPanc 025腫瘍試料からのマッソン染色の代表的画像である。1列目には、処置開始日の染色パターンが示されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
定義
本明細書で使用する「処置」(また、「処置する」又は「処置している」)は、特定の疾患、障害又は状態の1つ以上の症状、特徴又は原因を部分的に又は完全に軽減する、改善する、緩和する、阻害する、その発症を遅延させる、その重症度を低減する又はその発生率を減少させる任意の医学的介入又は物質の投与を指す。
【0027】
本明細書で使用する「薬剤の一時的な投与」は、全処置サイクルにわたって投与し続けないように、永久的に又は一定期間中止される投与を指す。
【0028】
本明細書で使用する「がん」、「悪性」、「新生物」、「腫瘍」及び「癌」は交換可能に使用でき、異常成長、制御されない成長又は自律成長を示す細胞を指し得る。
【0029】
本明細書で使用する「化学療法薬」は前アポトーシス剤、細胞分裂停止剤又は細胞傷害性剤のうちの1種以上を指す。
【0030】
本明細書で使用する「臨床的に有意な」は臨床的意思決定について考察する価値があるか、又はそれに影響を及ぼすものを指すが、これに限定されない。
【0031】
本明細書で使用する用語「臨床」は理論的又は基礎科学と区別される、患者の実際の観察及び処置に関する又はそれに基づく情報を指す。
【0032】
本明細書で使用する語句「投与計画」又は代替的に「処置レジメン」は、典型的には期間ごとに区切られて、対象に個々に投与され得る一連の典型的には1つ超の単位用量を指す。
【0033】
本明細書で使用する「無増悪期間」(「TTP」)は、最初の処置の時点からがん進行又は悪化までの週又は月で一般に測定される期間を指す。このような進行は、試験又は観察により決定でき、例えば熟練した臨床医により評価され得る。
【0034】
本明細書で使用する「TTPの延長」は、未処置の患者に対する処置した患者における疾患進行までの期間の増加を指す。
【0035】
本明細書で使用する「生存」は、生き残っている患者を指し、全生存及び無増悪生存を含む。
【0036】
本明細書で使用する「全生存」は、診断又は処置いずれかの時点から規定の期間、例えば1年、5年又はそれより長い期間生き残っている患者を指す。
【0037】
本明細書で使用する「無増悪生存」は、がんが進行又は悪化せずに、生き残っている患者を指す。このような進行は、試験又は観察により決定でき、例えば熟練した臨床医により評価され得る。
【0038】
本明細書で使用する「生存の延長」は、未処置の患者に対する処置した患者における全生存又は無増悪生存の増加を指す。
【0039】
本明細書で使用する治療達成の相対的な用語、例えば「改善する」、「増加する」又は「低減させる」又はその文法的等価物は、ベースライン測定値又は状態、例えば本明細書に記載される処置の開始前の同じ個体の測定値、又は本明細書に記載される処置なしの対照個体(又は複数の対照個体)の測定値と比較した値及び状態を示す。
【0040】
本明細書で使用する「生物学的有効用量」は、体内の作用標的又は部位に到達して、生物学的効果をもたらす吸収される化合物の量を指す。
【0041】
本明細書で使用する「最大耐量」(又はMTD)は、許容できない副作用を引き起こさない薬物又は処置の最高用量を指す。
【0042】
本明細書で使用する「サイクル」は、一定期間にわたって投与される処置レジメンを指す。
【0043】
本明細書で使用する「悪性腫瘍に対する線維性応答」は、腫瘍における線維腫発生及び/又は持続の増加又は減少を指す。
【0044】
本明細書で使用する「腫瘍退縮」は、腫瘍本体若しくは組織の成長の停止、又はそのサイズ、質量若しくは数の減少を指す。
【0045】
本明細書の上で参照するように、TAK-441は、経口投与され、Smoを阻害する治験小分子である。インビトロモデルにおいて、TAK-441は、ヒトSmo阻害剤シクロパミンの結合を、8.6nMの50%阻害濃度(IC50)で阻害した。去勢抵抗性前立腺がんのマウスモデルにおいて、TAK-441は、Hhリガンドのパラクリンシグナル伝達を阻害し、このようにして腫瘍進行を阻害することが示された。
【0046】
TAK-441は、スペインの参加施設での第I相試験において研究された。この最近公開された試験では、単回用量及び複数回用量のTAK-441の安全性、忍容性、薬物動態及び予備臨床活性が研究された。進行期の固形腫瘍(結腸直腸がん(26%)、基底細胞癌(21%)及び膵がん(9%))を有する合計34名の患者(年齢中央値:59歳、範囲:28~82歳)が含まれた。患者は、50~1600mgに及ぶ1日用量の経口TAK-441(PO)を受けた。該1日用量はその後、最大耐量(MTD)に達するまで、各コホートにおいて倍増された。血液試料を採取して、投与後のTAK-441の血漿濃度を評価し、皮膚生検で、Gli1遺伝子発現の阻害を決定した。
【0047】
MTDは、錠剤のサイズ及びその効力に基づき1600mg/日で確立された。用量制限毒性は、筋痙攣及び疲労を含んでいた。経口吸収はかなり速く、平均最大時間(Tmax)は、単回用量の投与後1.8~4.2時間であり、数回用量の投与後2.4~4.0時間であった。排出半減期の中央値は12.9~18.3時間であった。血漿濃度時間の曲線下面積(AUC)に基づくTAK-441の薬物動態は、全用量範囲にわたって直線的であった。皮膚生検におけるGli1遺伝子発現の阻害は、分析された全ての用量で観察された。
【0048】
上述の通り、本開示は、癌性腫瘍を有する対象を処置する方法を含む。方法は、1種以上の追加のがん治療と組み合わせた、ヘッジホッグ阻害剤(HHI)の対象への一時的な投与を含む。追加のがん治療は、化学療法、免疫療法及び標的療法からなるが、これらに限定されない群から選択され得る。本開示は更に、HHIを1種以上の追加のがん治療と組み合わせてがん患者に一時的に投与する方法であって、HHIの投与が、全身の副作用、例えば悪液質、貧血及び他の腫瘍随伴症候群の発症、並びに免疫抑制の誘導及びがんの促進を含むがこれらに限定されない、臨床的に有意な、有害な線維芽細胞の枯渇を開始する前に中止される、方法を含む。
【0049】
この関連で、間質の低減及び血管新生の誘導は、化学療法薬の良好な送達を可能にするため有益とみなされ得る。線維性腫瘍は血管密度が低く、低血管性である。これらの理由から、薬物は線維性腫瘍に浸透できない。したがって、血管新生の誘導は、薬物の取込みを改善する。しかし、この作用が有益である場合と、その後に有害となる場合との間に微妙なバランスがある。線維症を除去又は過度に制限した場合、腫瘍が過度に血管新生し、転移が増加し、患者の生存が短縮される。
【0050】
TAK-441は、進行血液及び非血液悪性腫瘍の処置における経口使用のために開発中である。前臨床研究では、TAK-441が複数の種において経口生体利用可能であることが決定された。TAK-441は、細胞/Gli-luc NIH3Tにおけるルシフェラーゼ-Gli-感受性(Gli-luc)プロモータアッセイにおいて4.4nMの50%阻害(IC50)を生じる濃度でGli転写活性を阻害した。TAK-441はまた、MRC5ヒト胚線維芽細胞においてGli1 mRNAの発現を1.9nMのIC50となる濃度で阻害する。更に、TAK-441は、ヒトSmo(hSmo)を過剰発現する293T細胞においてhSmoへのシクロパミンの結合を8.6nMのIC50で阻害する。これらのデータは、TAK-441が、Smoへのその結合を介してHhシグナル伝達経路を阻害することを示唆している。
【0051】
Ptch1(+/-)(Ptch1ヘテロ接合体)及びp53(-/-)(p53ヌル)の変異を有する髄芽腫同種移植片モデル、又はマウス異種移植片モデルPAN-04原発性ヒト膵臓における、TAK-441の投与は、インビボGli1 mRNAの発現に関連するマウス又は間質腫瘍それぞれの用量依存的阻害をもたらした。TAK-441は、これらのモデルにおいて有意な用量依存的腫瘍活性を実証した(p<0.025)。更に、TAK-441とmTOR(哺乳動物ラパマイシン標的)の阻害剤であるラパマイシンとの組合せは、膵がんのPAN-04マウスモデルにおけるいずれかの薬剤単独の活性と比較して、組み合わせで良好な抗腫瘍活性を示した。
【0052】
インビボ薬物動態
TAK-441は、それぞれ31.7%及び90.3%のラット及びイヌにおける経口生物学的利用能と共に、低いCL(161.3及び397.9ml/時/kg)、定常状態血漿中の適度な分布体積(Vss)(681.6及び2181.3ml/kg)及び適度なt1/2(1.7及び9.8時間)を特徴とする。ラット又は犬のいずれかにおいて性別間での血漿曝露における差はなかった。食物の作用に関しては、イヌにおいては、TAK-441を、給餌されたイヌに投与した場合(絶食させたイヌと比較)、約2倍の吸収の程度の増加が観察され、Cmax及び0~24時間の時間曲線に対する血漿濃度曲線下面積(AUC0~24時間)の両方が増加した。
【0053】
TAK-441は、1.73mMの濃度で、マウス(99.7%)及びラット(96.2%)において血漿タンパク質への高い結合、並びにイヌ(79.6%)及び人間(87.7%)の両方において低い結合を有する。TAK-441は、ラット及びイヌへの経口投与後、チトクロムP450(CYP)アイソザイムCYP3A4/5により未同定代謝産物に代謝される。肝ミクロソームのインキュベーションを行った場合、ヒトに特有の代謝産物は検出されなかった。TAK-441は、CYP2C8の弱い阻害剤であり、他のCYPアイソザイムに対して阻害作用を有していなかった。TAK-441は、ヒト肝ミクロソームにおいてCYPアイソザイムの時間依存的阻害剤ではない。したがって、TAK-441が、同時に投与される他のCYP3A4/5基質の薬物動態に影響を及ぼす可能性は低い。しかし、CYP3A阻害剤及び/又は誘導剤の同時投与は、TAK-441の薬物動態に影響を及ぼす可能性がある。TAK-441は、Caco-2細胞に高い透過性(Papp、A~B 19.6'10-6cm/秒;Papp、B~Un 37.8'10-6cm/秒)を有し、P-糖タンパク質(P-gp)フローポンプにとって不良な基質であり、P-gpの弱い阻害剤(6.59mMのIC50)である。
【0054】
安全性薬理
TAK-441(10mMの濃度)の生化学的活性を、合計126の試験で行った。TAK-441のアッセイに含まれる酵素、受容体及び輸送体の中で、TAK-441は、酵素であるヒトPDE4ホスホジエステラーゼ及び輸送体であるヒト神経伝達物質ドーパミンを50%超(それぞれ67%及び75%)阻害した。
【0055】
毒性研究
優良試験所規準(GLP)に従った毒性研究において、TAK-441の投与は、有効性を得るために予想された濃度を超える曝露でラット及びイヌに対して行われ、これは、Hhシグナル伝達経路の薬理学的阻害に起因し得る様々な変化に関連していた。これらの変化としては体重減少、肋骨及び毛包の成長板の萎縮、胃粘膜のびらん又は潰瘍、貧血、骨髄の壊死及び低細胞性、並びに肺の炎症及び出血が挙げられる。イヌにおいて観察された用量制限毒性は、体重減少、食物摂取の低下、胃腸管の損傷(嘔吐、下痢、食欲不振、体重減少、潰瘍及び出血)からなる。これらの作用は各々、臨床的及び臨床検査による経過観察の両方に影響を受けやすいと考えられる。
【0056】
TAK-441で行われた研究結果は、血液学的パラメーター、胃腸障害、食欲減退及び体重減少における変化を含む、観察された臨床的に関連性のある変化が可逆的であることを示している。可逆性が示されなかった孤立した変化としては、毛包及び骨における成長板の萎縮、並びに切歯における変化が挙げられた。成人患者において、成長板は既に閉鎖し、切歯は既に成熟しているため、がんを有する成人患者へのTAK-441の臨床投与の場合、成長板の萎縮及び切歯の変化はいずれも、関連性のある毒性所見と認められない。その一方で、ラットにおいて観察された歩調変化及び振戦は、ヒトとの関連性が不明であり、臨床的経過観察の影響を受けやすい。
【0057】
TAK-441の第1相試験
本明細書の上で概説したように、TAK-441は、進行がんを有する患者における第1相研究で評価された。進行期の固形腫瘍(結腸直腸がん(26%)、基底細胞癌(21%)及び膵がん(9%))を有する合計34名の患者(年齢中央値:59歳、範囲:28~82歳)が含まれた。患者は、50~1600mgに及ぶ1日用量のTAK-441 POを受けた。1日用量はその後、最大耐量(MTD)に達するまで、各コホートにおいて倍増された。血液試料を採取して、投与後のTAK-441の血漿濃度を評価し、皮膚生検で、Gli1遺伝子発現の阻害を決定した。MTDは(錠剤のサイズ及びその効力に基づき)1,600mg/日で確立された。観察された有害作用を表2に詳述する。用量制限毒性は、筋痙攣及び疲労を含んでいた。経口吸収はかなり速く、平均Tmaxは、単回用量の投与後1.8~4.2時間であり、数回用量の投与後2.4~4.0時間であった。排出半減期の中央値は12.9~18.3時間であった。血漿濃度時間のAUCに基づくTAK-441の薬物動態は、全用量範囲にわたって直線的であった。皮膚生検におけるGli1遺伝子発現の阻害は、分析された全ての用量で観察された。
【0058】
基底細胞癌を有する患者において部分応答、及び幾つかの固形腫瘍を有する7名の患者において疾患の安定性が観察された。TAK-441は忍容性が良好であり、1600mg/日のMTDを示し、抗腫瘍活性が証明される。
【0059】
化学療法薬(CTA)
2つの例示的なCTAとしては、細胞分裂阻害薬、特にゲムシタビン(「Gem」)及びナブパクリタキセル(「nab-P」)(Abraxane(登録商標))が挙げられる。Gemは、局所進行性又は転移性膵臓腺癌を有する患者に対する販売許可を有する。Nab-P(Abraxane(登録商標))は、アルブミンに結合したパクリタキセルのナノ粒子製剤であり、これは、他のパクリタキセル製剤と比較してかなり異なる特性を有し得る。Nab-Pは、進行膵がんを有する患者の処置のためにGemと組み合わせた商品化が欧州医薬品庁(EMA)により承認されている。
【0060】
細胞毒はいずれも、調剤業務により調製され、その各技術データシートに記載された仕様に従って静脈内に投与される。可能な場合、処置は、患者が外来に残ることが可能なように日中に病院で、及び自宅で行われる必要がある。Nab-Pは30分のIV注入として投与され得、その後にGemの30分のIV注入が続く。
【0061】
1つの典型的な用量及び投与スケジュールでは、nab-P 125mg/m2 IV、次いでGem 1000mg/m2 IVが、28日のサイクルの1日目、8日目及び15日目に投与される。
【0062】
更なるCTAとしてはタキソール、イリノテカン、テモゾロミド、カペシタビン、トポテカン、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン、カンプトテシン、シタラビン、フルオロウラシル、シクロホスファミド、エトポシドリン酸塩、テニポシド、ドキソルビシン、ダウノルビシン及びペメトレキセドが挙げられるが、これらに限定されない。
【実施例】
【0063】
[実施例1]
TAK441での膵がん間質の標的化
TAK441及びナブパクリタキセルを組み合わせた結果、抗腫瘍相乗効果をもたらすか否かを決定するために、並びに血管形成作用の順次の促進及び阻害の影響を評定するために、PanXenoBankからの3つの異なる膵管腺癌(PDAC)腫瘍(Panc163、JH051及びPanc025)を、ナブパクリタキセル(ABI)及びTAK-441(ヘッジホッグ阻害剤)の組み合わせで処置した。
【0064】
ナブパクリタキセルの最も実現可能な用量を定義するための幾つかの用量設定研究後、50mg/kg 1dq4×3の用量を使用した。TAK-441を選択し、推奨用量(25mg/kg/日 p.o.)で毎日投与した。研究は21日間行った。
【0065】
図1~3に示すように、2種の薬剤の組合せは、いずれかの薬剤単独と比較して、分析したモデル全てにおいて相乗的な腫瘍退縮をもたらした。
【0066】
実験日21日目の腫瘍体積値に基づき、表1に示す腫瘍成長阻害(TGI)因子を推定した。マウスをナブパクリタキセル及び抗間質剤TAK-441の組み合わせで処置した場合、3つの膵がんモデル全てにおいて、最大の阻害が観察された。
【0067】
【0068】
処置後の間質の組織学的状態を評価するために、Panc 163及びPanc 025モデルからのマッソントリクローム染色スライドを分析した。
【0069】
図4及び5に示すように、ABI処置群からの試料は、腫瘍の更なる縮小及び線維症の存在の増加を示した(コラーゲン染色による)。
【0070】
[実施例2]
(データの裏付けのない実施例)
オープン、多施設及び非ランダム化のうちの1つ以上であり得る第I/II相臨床試験は、
関連性のある基準及び/又はプロトコールに従って除外されない又はこれらに従ってその後除去されない、プロトコールに規定された包含基準を満たす、進行膵がんを有する患者を含み、患者の数は25等、検出力が十分であるように選択される。
【0071】
患者は、従来の処置スキームに従って、ゲムシタビン(1000mg/m2 IV)(G)及びAbraxane(登録商標)nab-P(125mg/m2 IV)(A)での従来の化学療法を各サイクル(28日ごと)の1日目、8日目及び15日目に受ける。サイクル1~3において、1日目及び15日目の処置前に、TAK-441(NLM-001とも称する)を800mg/日POの用量で4日間投与した後、化学療法で処置する前に休息日が続く。最初に、サブセット、例えば6名の患者が含まれ、1つの処置サイクルの毒性が観察される。TAK-441に関連する2つ超のグレード3以上の毒性事象が発生した場合、薬物の用量を400mg/日に低減させる。
【0072】
腫瘍の弾性を、エラストグラフィを用いた超音波内視鏡検査によりベースライン並びにサイクル1の-1日目及び13日目に測定する。原発性腫瘍の生検を、ベースライン及びサイクル1の13日目に同時に行う。第1のサイクル後、患者は、疾患の進行又は許容できない毒性まで処置を続ける。
【0073】
【0074】
患者を4サイクル、即ち4日間のオン及び4日間の停止で処置する。
【0075】
処置した患者は、以下のうちの1つ以上における改善を含むがこれらに限定されない、対照患者を上回る改善を示すと考えられる:
【0076】
FGDによる代謝応答、EORTC基準に従ったPET
RECIST基準に従った客観的応答。固形癌効果判定基準(RECIST)v 1.1により決定される客観的応答。これらの基準は、がん患者が処置中に改善、安定又は悪化する時期を定義する一連の公開された基準である。結果を、異なる応答分類に従って表にする。
【0077】
無増悪生存、全生存:ランダム化から記録された、登録の3又は6カ月後にがんが進行(成長又は拡大)していない患者のパーセンテージとして定義される3及び6カ月での無増悪生存(PFS)の比率(%PFS-3m;%PFS-6m)。カプラン・マイヤー法を用いて生存表を作成することにより推定する。統計分析のために、疾患の進行に相当する日は以下の通りである:
i. 進行がCT及び/又は身体検査により文書化される場合、計画的応答レビュー。
ii. 以前に文書化された進行なしに何らかの原因による死亡。
iii. 毒性によるか又は忍容性によるかにかかわらず、何らかの原因でプロトコール処置を中止することを決定した後の二次処置の開始。
iv. プロトコール処置の中止後に、二次処置が続かなかった場合、進行の文書化。
v. 処置開始から何らかの原因による患者の死亡までの全生存を決定する。これは、カプラン・マイヤー法を用いて生存表を作成することにより推定される。
【0078】
腫瘍マーカーCA 19.9レベルに基づく応答
CA 19.9応答を、各センターの現地検査室において、正常の上限の1.25倍より高いベースラインを有する患者におけるベースラインに対する最大変化率として計算する。更に、結果を、応答者及び非応答者の分類に従って表にし、3つの異なる応答基準:それぞれ50%超、75%超及び90%超の低減を使用する。
【0079】
CTCAE NCI v4.03に従った毒性
臨床事象及び検査室データを含む、観察された有害作用を全て表にして、処置の安全性を記載する。これらを分類し、有害事象共通用語規準、国立がん研究所、第4.3版(CTCAE-NCI v. 4.3)に従ってその重症度を定量化する。疾患の進行は、疾患の自然経過の結果とみなされ、したがって患者CRFに収集され、この研究の有害事象として処理されない。したがって、疾患の進行は医薬品安全性監視手順に従って伝達されるのではなく、これは、プロトコールに規定された手段に従って応答分類に記録される必要がある。
【0080】
腫瘍の弾性
研究の二次変数は、前述の通り、腫瘍組織と正常な組織との間の「ひずみ率比」として定義されるエラストグラフィによる腫瘍の弾性の測定値である。Pentaxリニア型超音波内視鏡及びHitachi EUB900装置をその測定に使用する。腫瘍及び正常な周囲組織を代表する領域を選択する。エラストグラフィの結果を、腫瘍組織と正常な組織との間の「ひずみ率比」により示す。以前の研究では、この指数は平均値32である。TAK-441での処置により、これが少なくとも50%低減することが期待される。
【0081】
バイオマーカー
Gli-1 mRNAの発現、平滑筋アクチン陽性がん関連線維芽細胞(SMA+CAF)、コラーゲン構造及びリンパ球浸潤(CD3、CD4及びCD8)。
【0082】
[実施例3]
(データの裏付けのない実施例)
実施例2と同様にオープン、多施設及び非ランダム化のうちの1つ以上であり得る第I/II相臨床試験であり、チェックポイント阻害剤、例えばPD1又はCTLA4阻害剤の投与を更に追加する。一例としてはイピリムマブがある。
【0083】
一例として、3mg/kg IV用量のイピリムマブを、スキーム2に例示するように、サイクル4から開始して各サイクルの1日目及び21日目に投与する。別な方法では、用量及び改善のエンドポイントは依然として実施例2に記載される通りである。
【0084】
【0085】
別の例として、処置レジメンとしては、NLM-001:800mg/日 経口 サイクル1~3の各サイクルの-4日~-1日及び10日目~13日目、ゲムシタビン(G):1,000mg/m2 IV 28日ごとに1日目、8日目及び15日目、アブラキサン(A):125mg/m2 IV 28日ごとに1日目、8日目及び15日目、並びにCTLA-4阻害剤(CTLA-4):サイクル1の15日目及びその後のサイクルの1日目及び15日目に1mg/kgを挙げることができる。スキーム3を例示する。
【0086】
【0087】
実施例2に上記したように、腫瘍の弾性を、エラストグラフィを用いた超音波内視鏡検査によりベースライン並びにサイクル1の-1日目及び13日目に測定する。原発性腫瘍の生検を、ベースライン及びサイクル1の13日目に同時に行う。第1のサイクル後、患者は、疾患の進行又は許容できない毒性まで処置を続ける。また、改善のエンドポイントは依然として実施例2に記載される通りある。
【0088】
データの裏付けのない実施例である実施例2及び3は共に、進行膵がんを有する患者におけるTAK441の一時的、いわゆる「ショック」投与が、膵がんの間質を一時的に低減させ、それにより化学療法処置の作用に有利に働くことを実証することへの方向性を与える。
【0089】
[実施例4]
(データの裏付けのない実施例)
肝細胞癌(HCC)は、主としてC型肝炎感染症の蔓延により、発生率が米国で増加している致命的な腫瘍である。HCCは、最も頻度の高い原発性肝がんであり、世界的にがんによる死亡の第2の主要な原因である。Ferlay J、Soerjomataram I、Dikshit R、Eser S、Mathers C、Rebelo M等、Cancer incidence and mortality worldwide: sources, methods and major patterns in GLOBOCAN 2012. Int J Cancer. 2015;136(5):E359~E386. doi: 10.1002/ijc.29210を参照のこと。HCCの診断及び処置における著しい進歩にもかかわらず、その予後は依然として非常に不良であり、全ステージを合わせた5年全生存(OS)率は12%である(同文献)。ほとんどのHCC(80~90%)が、基礎慢性肝疾患(硬変を伴う又は伴わない)で発生し、主な原因としては、慢性B型肝炎ウイルス(HBV)又はC型肝炎ウイルス(HCV)感染症、アルコール摂取、非アルコール性脂肪性肝炎又は他の頻度の低い病因、例えばヘモクロマトーシス、タバコ及びアフラトキシンB1が挙げられる。HCCの最も高い発生率は東南アジア及び中央アフリカにおいて認められ、そこでは慢性HBV感染症の地域特有の有病率は症例の70%を占める。各々、HCCの背景に関して参照により組み込まれる、例えばPawlotsky JM.、Pathophysiology of hepatitis C virus infection and related liver disease. Trends Microbiol. 2004;12(2):96~102;Trepo C等、Hepatitis B virus infection. Lancet. 2014; 384(9959):2053~2063;Morgan TR等、Alcohol and hepatocellular carcinoma. Gastroenterology、2004;127 (5 補遺1):S87~S96;Zhang DY等、Fibrosis-dependent mechanisms of hepatocarcinogenesis. Hepatology. 2012;56(2):769~775; Bugianesi E等、NASH and the risk of cirrhosis and hepatocellular carcinoma in type 2 diabetes. Curr Diab Rep. 2007;7(3):175~180; Forner A等, hepatocellular carcinoma. Lancet. 2012; 379(9822):1245~1255;及びLlovet JM、Zucman-Rossi J、Pikarsky E、Sangro B、Schwartz M、Sherman M等、hepatocellular carcinoma. Nat Rev Dis Prime. 2016を参照のこと。
【0090】
「バルセロナ臨床肝がん」(BCLC)分類は、HCC患者の予後を評定し、患者に最も適した処置を選択するために現在推奨されている(https://www.esmo.org/Guidelines/Gastrointestinal-Cancers/Hepatocellular-Carcinomaでオンラインから入手可能)。5つのBCLC分類(0、A、B、C及びD)があり、これはチャイルド・ピュースコアにより評定される基礎肝機能、及びEastern Collaborative Oncology Groupパフォーマンスステータス(ECOG PS)に従った患者の全身状態の両方を考慮する。初期HCC(BCLCステージ0、A)を有する患者に確保されたHCCの唯一の治癒的処置は、外科的切除、熱剥離、放射線療法及び/又は肝移植である。アジュバント処置は、HCCに対しては有効でなかった。
【0091】
ヘッジホッグシグナル伝達は、腫瘍関連マクロファージの極性化を促進して、腫瘍内CD8+T細胞の動員を抑制する。このような試験プロトコールに関して参照により本明細書に組み込まれる、Petty等、Journal of Clinical Investigation (2019)を参照のこと。本開示の化合物TAK-441はPD-1遮断薬と組み合わせて投与されて、相乗的有効性をもたらすことができる。このような試験プロトコールに関して参照により本明細書に組み込まれる、https://medicalxpress.com/news/2019-10-scientistsimmuno-oncology-drugs.htmlからのScientists discover reasons why targeted immuno-oncology drugs sometimes fail(2019年10月23日)の論説も参照できる。この相乗効果は、特にHCCの処置に適し得る。
【0092】
PD-1は、身体が、体内で異常な細胞及び疾患を認識するのに役立つ、免疫細胞の一種であるT細胞上のチェックポイントタンパク質である。PD-1は通常、T細胞が他の細胞を攻撃することを防ぐのに役立つ「オフスイッチ」として働く。PD-1阻害剤は、このタンパク質を選択的に遮断し、免疫応答を高めてがん細胞を攻撃するために使用される。以前に報告されたデータでは、一部のがん患者がPD-1治療に応答しない主な理由が、ファイターT細胞(CD8 T細胞として公知)が、「冷たい腫瘍」としても公知の状態である腫瘍微小環境に浸潤できないためであることが示された。Yang等は、彼らの研究で、CD8 T細胞が腫瘍微小環境に浸潤する能力を制限する、特定の細胞機構を示すデータを報告している。彼らは、ヘッジホッグシグナル伝達が、CD8 T細胞の浸潤に必須である腫瘍関連マクロファージによるケモカイン分泌を遮断することを示している。ヘッジホッグ経路を遮断(阻害)することにより、該研究者等は、プロセスを逆転させ、腫瘍微小環境へのCD8 T細胞の浸潤を促進することができた。データは、肝及び肺がんの両方を含む前臨床モデルにおいて、PD-1遮断薬と組み合わせて投与されたヘッジホッグ阻害剤が、単独での単剤よりがん細胞を死滅するのに有効であることを実証した。
【0093】
ヘッジホッグ(HH)経路は、肝臓の胚発生に関与し、その再活性化は、肝細胞癌(HCC)においてがん細胞の成長及び進行を維持する重大な役割を果たす。肝細胞癌形成において、HHシグナル伝達は、肝胚細胞の分化、増殖及び極性に必要とされる。HCC組織におけるHH成分の高レベルの発現は、間葉特性に相関し、HCC進行において動的な悪性細胞源であるがん幹細胞の増殖を維持する。前臨床モデルにおけるHH阻害の現在のデータは、HHの役割を更に確認するものであり、臨床設定において今後調査する価値がある。例えばImplication of the Hedgehog pathway in hepatocellular carcinoma、Della Corte等、World J Gastroenterol.2017年6月28日;23(24):4330~4340を参照のこと。2017年6月28日にオンラインで公開された。
【0094】
チェックポイント阻害剤の例としては1種以上のPD-1阻害剤、例えばペムブロリズマブ(KEYTRUDA(登録商標))、ニボルマブ(OPDIVO(登録商標))及びセミプリマブ(LIBTAYO(登録商標));PD-L1阻害剤、例えばアテゾリズマブ(TECENTRIQ(登録商標))、アベルマブ(BAVENCIO(登録商標))及びデュルバルマブ(IMFINZI(登録商標));及びCTLA-4阻害剤、例えばイピリムマブ(YERVOY(登録商標))を挙げることができる。更なるチェックポイント阻害剤としてはトレメリムマブ、AGEN1884、AGEN2034又はAGEN1181が挙げられる。
【0095】
研究の説明
実施例2と同様のオープン、多施設及び非ランダム化のうちの1つ以上である第I/II相臨床試験であり、本明細書に記載されるチェックポイント阻害剤、例えばPD1又はCTLA4阻害剤の投与を更に追加した。
【0096】
NLM001とも称され得るヘッジホッグ阻害剤TAK-441を4サイクル、800mg/日の用量(既に投与された最大量を下回る1用量)で5日間投与し得る。各サイクルの終了時、投与の後に、チェックポイント阻害剤の投与が続く。組合せは、個々の単剤いずれかで示されたものを上回る効果を実証すると考えられる。
【0097】
本明細書で提供される実施例の一態様において、患者に対する改善は:
代謝応答、
ポジトロン放出断層撮影、
基準に従った客観的応答、
無増悪生存、
全生存、
腫瘍マーカーレベルに基づく応答、
毒性、及び
腫瘍の弾性
のうちの1つ以上により証明される。
【0098】
この関連で、代謝応答は、フルオロデオキシグルコース(FDG)により測定され得、PETは、EORTC基準に従って評価され得、客観的応答は、RECIST(固形癌効果判定基準)基準に従って評価され得、無増悪生存は本明細書に定義される通りであり、全生存は本明細書に定義される通りであり、腫瘍マーカーレベルに基づく応答は、例えばCA 19.9に対して評価され得、毒性は、例えば有害事象用語共通毒性規準、国立がん研究所、第4.03版(NCI CTCAE v4.03)に従って評価され得、腫瘍の弾性は、腫瘍組織と正常な組織との間の「ひずみ率比」として定義されるエストグラフィーにより評価され得る。
【0099】
対象は全て、「処置意図による」原則に従って有効性分析に含まれる。第1の処置サイクルの少なくとも第1の用量を受けた対象は全て、毒性分析に含まれる。
【0100】
弾性指数を対象及び測定時間ごとにグラフで表す。患者ごとに、このパラメーターの変動を、測定点ごとに計算する。異なる測定点の値を、対試料のノンパラメトリック検定で比較する。CA 19.9の変動を同じ手段で分析する。
【0101】
CT及び/又はMRIによる客観的応答をRECIST基準に従って分析し、応答を各対象に帰属させる。研究の包括的データを、記述統計を使用して要約する。PETによる応答も、EORTC基準を使用して分析する。
【0102】
バイオマーカー分析を対象ごとにグラフで示す。データは、処置前後の比例的変化の計算及び対試料のノンパラメトリック法による比較を含む収集点ごとの記述統計を使用して要約する。包括的に、本発明者等はGAでの研究において以前に公開された方法論を使用する。
【0103】
同様に、薬物動態パラメーターをグラフで表し視覚化し、記述統計を使用して要約する。
【0104】
種類、頻度、重症度(国立がん研究所有害事象共通用語規準(NCI CTCAE)第4.03版によるグレード分け)、タイミング、重篤度及び研究治療との関連性を特徴とする有害事象を、記述統計を使用して記載する。
【0105】
全生存は、包含日から死亡日までの間に経過した時間として定義される。無増悪生存は、包含日から進行日、文書化された進行又は死亡を伴わず二次処置の開始日までに経過した時間として定義される。両方の変数を、カプラン・マイヤー法に従って生存曲線を用いて研究する。
【0106】
研究計画の探索的性質を考慮すると、使用した試験の多重度の補正は必要ないとみなされる。
【0107】
全ての統計試験において使用した有意性のレベルは、p値=0.05両側である。
【0108】
分析の詳細は、研究データベースをクローズする前に作成される統計分析計画に反映される。
【0109】
本明細書に引用される全ての刊行物、特許及び特許出願は、このような引用を使用することを教示するために参照により本明細書に組み込まれる。
【0110】
本明細書に記載される実験のための試験化合物は、遊離又は塩の形態で用いられた。
【0111】
観察された特定の応答は、選択された特定の活性化合物又は担体が存在するか否か、並びに製剤の種類及び用いられた投与方式に従って及びこれらに応じて異なり得、結果におけるこのような予想される変動又は差は、本発明の実施に従って企図される。
【0112】
本発明の特定の実施形態が本明細書に例示され、詳細に記載されているが、本発明はこれらに限定されない。上記の詳細な説明は、本発明の例示として提供されるものであり、本発明の何らかの限定を構成するとして解釈されるべきではない。改変は当業者に明らかであり、本発明の精神から逸脱しない全ての改変は、添付の特許請求の範囲の範囲に含まれることが意図される。
【国際調査報告】