(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ドラッグキャリアシステムとして用いられる、デキストランでコートされたシリカエアロゲル、及びデキストランでコートされたシリカエアロゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 47/36 20060101AFI20220930BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220930BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220930BHJP
A61K 47/08 20060101ALI20220930BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220930BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
A61K47/36
A61P35/00
A61K9/14
A61K47/08
A61K47/34
A61K47/04
【審査請求】有
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022506345
(86)(22)【出願日】2020-07-22
(85)【翻訳文提出日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 TR2020050644
(87)【国際公開番号】W WO2021021049
(87)【国際公開日】2021-02-04
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520224133
【氏名又は名称】イルディズ テクニク ユニヴァーシテシ
(71)【出願人】
【識別番号】522039496
【氏名又は名称】イルディズ テクノロジ トランフェレ オフィシ アノニム シルケティ
【氏名又は名称原語表記】YILDIZ TEKNOLOJI TRANSFER OFISI ANONIM SIRKETI
【住所又は居所原語表記】YTU Davutpasa Kampusu Yildiz Teknopark Cifte Havuzlar Mah.Eski Londra Asfalti Cad.Idari Bina Dis Kapi No151,Esenler/Istanbul(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100109634
【氏名又は名称】舛谷 威志
(74)【代理人】
【識別番号】100129263
【氏名又は名称】中尾 洋之
(72)【発明者】
【氏名】ユセル,セビル
(72)【発明者】
【氏名】カラクズ イケゼレ,ブルジュ
(72)【発明者】
【氏名】ティレヤキ,エジャム
(72)【発明者】
【氏名】エラレミセ,イエリズ
【テーマコード(参考)】
4C076
【Fターム(参考)】
4C076AA61
4C076AA95
4C076BB01
4C076CC27
4C076DD29
4C076DD40
4C076EE38H
4C076FF31
4C076GG05
(57)【要約】
本発明は、大腸癌の治療におけるドラッグキャリアシステムとして用いられる、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲル、及びゾル・ゲル法で合成されたシリカエアロゲルをアミン基で変性し、デキストラン(D)又はデキストランアルデヒド(DA)でコートして、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲル(S)を得る、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲルの製造方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラッグキャリアシステムとして用いられる、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲルの製造方法であって、
ゾル・ゲル法によって合成されるシリカエアロゲル(S)の表面を改質する工程と、
改質された前記シリカエアロゲル(S)をデキストラン(D)又はデキストランアルデヒド(DA)でコートする工程と、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
デキストラン(D)-シリカエアロゲル(S)結合用のグルタルアルデヒド(G)架橋剤を用いることによって、3-(アミノプロピル)トリエトキシシラン(A)で変成された前記シリカエアロゲル(S)の表面のアミン基と、グルタルアルデヒドのアルデヒド基との間でシッフ塩基反応を行い、グルタルアルデヒド(G)によってデキストラン(D)をシリカ表面にコートする、請求項1に記載の、デキストランでコートされたシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項3】
前記デキストランアルデヒド(DA)の構造のアルデヒド基と、APTES変成シリカエアロゲル表面のアミン基との間で安定なイミド結合を形成することによりデキストランアルデヒド(DA)-シリカエアロゲル(S)結合を形成することを特徴とする、請求項1に記載の、デキストランでコートされたシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項4】
ケイ酸ナトリウムと水とを、好ましくは1:10の比で、常温で混合し、ゾルを形成してケイ酸ナトリウム由来のシリカエアロゲル(S)を得ることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項5】
前記混合する工程の間、pH値が4になるように1MのHClを添加することによりゲル化pHを調整することを特徴とする、請求項4に記載の、デキストランでコートされたシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項6】
得られたゲルの網状構造を強化することを目的として、前記ゲルを空気乾燥機中、50℃で、好ましくは24時間、熟成させ、熟成工程後のゲル構造内の塩を除去するために水で洗浄することを特徴とする、請求項4又は5に記載のデキストランでコートされたシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項7】
洗浄後の空孔内の水を除去するために、エタノールで洗浄する工程を、好ましくは3回行い、エタノール中に入れられたゲルを、空気乾燥機中、50℃で、好ましくは24時間、保持することを特徴とする、請求項6に記載の、デキストランでコートされたシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項8】
前記ゲルの空孔内の前記エタノールを除去するためにn-ヘキサンで洗浄する操作を3回行い、前記ゲルを、n-ヘキサン中で、空気乾燥機中、50℃で保持し、24時間以内に3回n-ヘキサンで洗浄することを繰り返すことを特徴とする、請求項7に記載の、デキストランでコートされたシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項9】
前記合成されたシリカエアロゲル(S)を、入口温度を190℃に調整し、出口温度を80℃に調整した空気噴霧乾燥器内で乾燥させることを特徴とする、請求項8に記載の、デキストランでコートされたシリカエアロゲルの製造方法。
【請求項10】
大腸癌の治療におけるドラッグキャリアシステムとして用いられる、デキストランでコートされたシリカエアロゲル。
【請求項11】
大腸癌の治療におけるドラッグキャリアシステムとして用いられる、デキストランアルデヒドでコートされたシリカエアロゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大腸癌の治療におけるドラッグキャリアシステムとして用いられる、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲル、及びゾル・ゲル法で合成されたシリカエアロゲルをアミン基で変性し、デキストラン(D)又はデキストランアルデヒド(DA)でコートして、上述のデキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲルを得る、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸癌は、腺腫性ポリープに変化しようとしている大腸及び直腸内の正常上皮で発生する。大腸癌は、世界におけるその患者数に関しランク4に位置づけられた癌の一種である。([1] Aydin, R. and Pulat, M. 2012. 5-Fluorouracil Encapsulated Chitosan Nanoparticles for pH-stimulated Drug Carrier: Evaluation of Controlled Release Kinetics. Journal of Nanomaterials, 42).毎年136万人が大腸癌であると診断され、これらの患者のうちほぼ3分の1が、大腸癌に関連する症状によってその命を失っている。([2] Banerjee, A., Pathak, S., Subramanium, V. D., Dharanivasan, G., Murugesan, R. and Verma, R. S. 2017. Strategies for targeted drug carriers in the treatment of colon cancer: current trends and future perspectives. Drug Discovery Today, 22(8), 1224-1232 [3] Siegel, R. L., Miller, K. D., Fedewa, S. A., Ahnen, D. J., Meester, R. G., Barzi, A. and Jemal, A. 2017. Colorectal cancer statistics, 2017. CA: a cancer journal for clinicians, 67(3), 177-193).世界保健機構(WHO)の報告によると、2020年までに大腸癌の症例は50%増加し、新規患者数が約1500万人に到達すると推定されている。([4]世界保健機構、2013)。
【0003】
手術、化学療法、及び放射線治療など、多くの様々な方法が大腸癌の治療に使用されている。しかしながら、これらの方法は患者の回復に対する有効性が十分ではないことが多い。([7] Feng, C., Sun, G., Wang, Z., Cheng, X., Park, H., Cha, D., Kong, M. and Chen, X. 2014. Transport Mechanism of Doxorubicin Loaded Chitosan-based Nanogels across Intestinal Epithelium. European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 87: 197-207, [8] Bose, A., Elyagoby, A. ve Wong, T. 2014. Oral 5-Fluorouracil Colon-Specific Carrier Through In vivo Pellet Coating for Colon Cancer and Aberrant Crypt Foci Treatment. International Journal of Pharmaceutics, 468: 178-186., [9] Liu, K., Wang, Z.Q., Wang, S.J, Liu, P., Qin, Y.H., Ma, Y., Li, X.C. and Huo, Z.J. 2015. Hyaluronic Acid-Tagged Silica Nanoparticles in Colon Cancer Therapy: Therapeutic Efficacy Evaluation. International Journal of Nanomedicine, 10: 6445). 化学療法は最も重要な治療方法の1つであり、様々な薬剤、又は薬剤の組み合わせを用いて、この治療が行われている間の癌細胞の分裂を減少させる。しかしながら、使用されるそれらの化学療法用薬剤は、起こり得る副作用、正確な投与量の規定の欠如、ペプチド-たんぱく質系薬剤は体の環境条件によって影響を受ける可能性が高く、そのため経口での使用が限定されること、健康な細胞及び組織への起こり得るダメージ及び適切でない放出、所望の投与量では目標領域に到達するまでに効果が失われること、血液循環で素早く排出され、半減期が短いこと、など多くの欠点がある。これらの欠点があるために、治療の間、患者にとって心地よく、且つ患者に対して有効な投与ができるドラッグキャリアシステムを開発するニーズが生まれた。上述の問題の解決策として大腸を標的とすることは、pH、時間、又は酵素により制御されたシステムを用いて実施することができる。しかしながら、大腸及び小腸のpHレベルが互いに非常に近いために、pHで制御されたシステムの使用は標的化に関しては不十分であった。胃腸系を通過する遷移期間が異なることから、時間制御システムも制限される。このような理由により、酵素制御システムの開発は大腸特異的な標的化に対する理想的な薬剤送達システムとして作用する。 ([10] Gumusderelioglu, M. 2004. Dextran-Based Colon Indigenous Drug Release System; Studying Biodegradation and pH Sensitivity’s effects on BSA and IgG Release Kinetics. The Scientific and Technical Research Council of Turkey, Ankara., [11] Simonsen, L., Hovgaard, L., Mortensen, P.B. and Brondsted, H. 1995. Dextran Hydrogels for Colon-Specific Drug Carrier, V. Degradation in Human Intestinal Incubation Models. European Journal of Pharmaceutical Sciences, 3: 329-337, [12] Sengel-Turk, C.T., Hascicek, C. and Gonul, N. 2006. DRUG CARRIER SYSTEMS TARGETED AT THE COLON. Journal of the Faculty of Pharmacy Ankara, 35(2): 125-148, 2006., [13] Sinha, V. and Kumria, R. 2001. Polysaccharides in Colon-Specific Drug Carrier. International Journal of Pharmaceutics, 224: 19-38).
【0004】
抗体や成長因子のような分子を化学療法薬剤の標的化において使用することは文献にて提案されている。しかしながら、それらの分子の多くは高額な分子であり、様々なバイオテクノロジー応用が求められる。同時に、担体物質の最大の欠点は、ドラッグキャリアシステムとして用いられる物質に毒性がある可能性があること、バイオアベイラビリティが低いこと、生分解性でないこと、その表面が望み通りに官能基化できないこと、及び多くの量の薬剤をカプセルに閉じ込めることができないことである。
【0005】
近年、世界中の研究者が大きな進歩を遂げているが、多くの方法や危険因子があることから所望の結果が完全に得られるまでには至っていない。さらに、診断方法が不十分で治療手順が比較的高額であることから、この疾患の患者及びその家族に経済的負担を課している。このような理由により、大腸癌の治療のための革新的なアプローチ、及び廉価で根本的な治療手順への需要が劇的に増加している。
【0006】
今日の大腸癌治療において使用されている大腸の標的化を成功させるためには、大腸癌治療において用いられるドラッグキャリアシステムが薬剤を大腸まで運ぶことができ、且つ胃腸(GI)系の上部において、薬剤がpHの変化による影響を受けてその有効性を失わないことが必要である。この問題の解決法として現在開発されている、大腸を標的とする系は、プロドラッグデザイン、pH及び酵素感受性の系、及び時間制御系である。([1] Anitha, A., Sreeranganathan, M., Chennazhi, K.P., Lakshmanan, V.K. and Jayakumar, R. 2014. In vitro Combinatorial Anticancer Effects of 5-Fluorouracil and Curcumin Loaded N, O-Carboxymethyl Chitosan Nanoparticles toward Colon Cancer and in vivo Pharmacokinetic Studies. European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics, 88: 238-251, [2] Feng, C., Li, J., Kong, M., Liu, Y., Cheng, X.J., Li, Y., Park, H.J. and Chen, X.G. 2015. Surface Charge Effect on Mucoadhesion of Chitosan-based Nanogels for Local Anti-colorectal Cancer Drug Carrier. Colloids and Surfaces B: Biointerfaces, 128: 439-447).
【0007】
大腸を標的にする系の第1のアプローチは経口でのプロドラッグ投与に基づくものであり、プロドラッグは胃の酵素及び微生物叢によって代謝されて有効な薬剤となり、小腸を通過し、大腸領域に達したときに癌に対してその作用を示す。第2のアプローチは、上部胃腸(GI)管から大腸領域への遷移期間に基づくドラッグキャリアシステムを開発することである。抗がん剤は様々な材料でコートされて小球体を形成することにより溶解速度を減少させ、溶解させることなく長期間水溶液のまま抗がん剤を滞留させることができる。第3のアプローチは、pH感受性ポリマーを用いたpH感受性担体系を開発することである。このアプローチにおいて、薬剤はpH感受性ポリマーによってカプセルに閉じ込められており、酸性の環境に耐性があり、中性のpH環境においてのみ薬剤を放出することができる。第4のアプローチにおいては、大腸の酵素によって活性化される微生物叢に感受性のある系を使用する。大腸領域における微生物酵素のおかげで、ポリマー基質が分解されることによって大腸環境において薬剤の有効成分を放出することができる。([3] Gumusderelioglu, M. 2004. Dextran-Based Colon Indigenous Drug Release System; Studying Biodegradation and pH Sensitivity’s effects on BSA and IgG Release Kinetics. The Scientific and Technical Research Council of Turkey, Ankara., [4] Sengel-Turk, C.T., Hascicek, C. and Gonul, N. 2006. DRUG CARRIER SYSTEMS TARGETED AT THE COLON. Journal of the Faculty of Pharmacy Ankara, 35(2): 125-148, 2006., [5] Sinha, V. and Kumria, R. 2001. Polysaccharides in Colon-Specific Drug Carrier. International Journal of Pharmaceutics, 224: 19-38.)
【0008】
多糖類(アルギン酸類、ヒアルロン酸、デキストラン(D)及びキトサン)、並びに様々なたんぱく質(コラーゲン、アルブミン、エラスチン、及びゼラチン)等の天然高分子を用いた様々なドラッグキャリアシステムが開発中である。Eudragit(登録商標)ポリマーは、この目的を達成するために開発されたものであるが、大腸に特異的な、pH感受性ポリマーである。このポリマーは酸性環境のpHでは溶解しないが、pH6以上で溶解させることによって送達される薬剤を胃の環境から守ることができる。 ([5] Sinha, V., and Kumria, R. 2001. Polysaccharides in Colon-Specific Drug Carrier. International Journal of Pharmaceutics, 224: 19-38.)
【0009】
しかしながら、効果的な治療のためには、今日開発されている送達システムは、大腸領域において効果的に標的を設定すること、多くの量の薬剤を負荷する可能性を提供すること、体に対して毒性作用を示さないこと、生分解性であること、適用するのが安価で簡単な合成手段を持っていることなどの多くの特徴を有することが非常に重要である。多くの検討において開発されたドラッグキャリアシステムはこれらの特徴を有しておらず、通常、標的化の検討は高額なバイオマーカを用いて行われ、それにより治療のコストが増大する。さらに、薬剤の放出速度が早すぎたり遅すぎたりすることもあり、薬剤の有効成分の投与量が制御できない。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲルを製造する製造方法を実施することである。この方法においてはゾル・ゲル法によって合成されるエアロゲルの表面をアミン基で改質し、その後、胃と腸のpHによって影響は受けないが、デキストラナーゼ酵素で制御されて大腸が標的となるドラッグキャリアシステムとして使用するために、デキストラン(D)及びデキストランアルデヒド(DA)で別々にコートする。
【発明の詳細な説明】
【0011】
本発明の目的を達成するために行われる「ドラッグキャリアシステムとして用いられる、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲル及びデキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲルの製造方法」は図面に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る製造方法の、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲル(a)及びデキストランアルデヒド(DA)でコートされたシリカエアロゲル(b)の外観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ドラッグキャリアシステムとして用いられる、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲルの製造方法は以下の工程を含む。
-ゾル・ゲル法によって合成されたシリカエアロゲルの表面改質
-改質されたシリカエアロゲル(S)の、デキストラン(D)又はデキストランアルデヒド(DA)でのコート
【0014】
本発明に係る製造方法において、グルタルアルデヒド(G)架橋剤を用いたデキストラン-シリカ結合のために、APTESで改質されたシリカエアロゲル(S)の表面のアミン基とグルタルアルデヒドのアルデヒド基との間で「シッフ塩基」反応が行われ、グルタルアルデヒド(G)によってシリカ表面上にデキストラン(D)がコートされる。
【0015】
また、デキストランアルデヒド-シリカエアロゲルの結合のために、グルタルアルデヒド(G)架橋剤は必要なく、デキストランアルデヒド(DA)構造のアルデヒド基と、APTESで改質されたシリカエアロゲル表面のアミン基との間で安定なイミド結合が形成される。本発明に係る製造方法によれば、エアロゲルの表面上にコートされたデキストラン(D)及びデキストランアルデヒド(DA)によって、エアロゲルに負荷された薬剤分子は、胃腸系を通過する間は放出されることなく、デキストラン(D)を分解するデキストラナーゼ酵素が見出される大腸領域においてデキストラン(D)が分解された後でのみ放出される。
【0016】
本発明に係る製造方法において、シリカエアロゲル(S)はケイ酸ナトリウム溶液を用いて合成される。乾燥工程においては、空気噴霧乾燥器(エアスプレードライヤー)が用いられ、それにより親水性のシリカエアロゲルの組織の孔の崩壊が防がれる。
【0017】
本発明に係る製造方法においては、ケイ酸ナトリウム由来のシリカエアロゲルを得るために、好ましくは1:10の比のケイ酸ナトリウム:水を室温で混合してゾルを作成する。混合手順の間、pH値が4となるように1MのHClを添加してゲル化pHを調整する。網状構造を強化する目的で、空気乾燥機中、50℃で、好ましくは24時間ゲルを熟成させ、熟成工程の後、ゲル構造の塩を除去するために、水洗を行う。好ましくは、洗浄工程は3回繰り返すのがよい。水で洗浄した後、孔の中の水を除去するために、好ましくはエタノールで3回洗浄し、洗浄後、エタノール中に置かれたゲルを50℃の空気乾燥機内に24時間保持する。24時間の間に、エタノールでの洗浄工程を3回繰り返す。24時間の終わりに、ゲルの孔からエタノールを除去するためにn-ヘキサンでの洗浄工程を3回行い、n-ヘキサン中において、50℃の空気乾燥機内に24時間保持し、24時間の間に、n-ヘキサンでの洗浄を3回繰り返す。合成されたシリカエアロゲルを、入口温度190℃、出口温度80℃に設定された空気噴霧乾燥器内で乾燥させる。
【0018】
本発明に係る製造方法において、シリカエアロゲル(S)の表面を、APTESを用いて改質する。本発明において、APTESを用いたシリカ表面のシラン化反応を最適化するために、様々なAPTES濃度で作業することにより、最適なAPTES濃度情報に到達する。このために、500mgのシリカエアロゲル(S)粉末を250mlのトルエン中に超音波分散させ、溶液中にAPTESを様々な比率(0.5%、1%、2%、5%、10%)で添加することにより混合物を得て、75℃の温度で好ましくは24時間、マグネチックスターラを用いて混合する。24時間続ける混合工程の終わりに、混合物が室温に到達すると、未結合のシラン剤を混合物から除去する。このために、混合物をトルエンで洗浄し、好ましくは4800rpmで10分間遠心分離し、洗浄工程を好ましくは3回繰り返す。
【0019】
洗浄後に得られる、アミンで改質されたシリカエアロゲルを風乾オーブン内で80℃で乾燥する。
【0020】
【0021】
合成段階(a):シリカエアロゲルの合成、(b)APTESを用いたシリカエアロゲルの表面の改質及びそれへの薬剤5-FUの負荷、(c)シリカエアロゲル表面のデキストラン(D)及びデキストランアルデヒド(DA)でのコーティング。
【0022】
本発明の製造方法によって得られたシリカエアロゲル(S)の薬剤吸着能力を比較するために、実験的検討において、薬剤は純シリカエアロゲル(SiO2)内と、アミン変性(SiO2-NH2)シリカエアロゲル(S)内とにそれぞれ別々に負荷される。実験的検討において、大腸癌治療において用いられる5-フルオロウラシル(5-FU)をモデル薬剤として用いる。これに加えて、pHや負荷容量に対する、アミン基と5-FU付着剤との間の静電相互作用の変化の効果を確認するために、シリカエアロゲルをアミン基(S)で変性した負荷溶液を、pHをpH5からpH8に調整しながら超音波浴中で5分間超音波処理することで、エアロゲルを溶液中で均一に分散することができる。実験的検討においては、負荷工程はマグネチックスターラを用いて室温で24時間行われる。24時間の終わりに、薬剤を負荷したシリカエアロゲル(S)を遠心分離し、50℃の風乾オーブンに24時間放置して乾燥させる。
【0023】
負荷挙動に対する、様々な濃度の溶液の効果を確認するために、好ましくは3mg/mlと6mg/mlの5-FU/水溶液を用意し、負荷挙動に関する薬剤濃度の効果を確認する。薬剤の負荷の前に、シリカエアロゲル(S)を105℃で1時間保持することによってシリカエアロゲルの表面上の水分を除去することができる。負荷工程は、0.1グラムのシリカエアロゲル(S)を、様々な薬剤濃度の50mlの薬剤溶液に添加することによって行い、マグネチックスターラによって室温で24時間混合する。24時間の終わりに、薬剤を負荷したシリカエアロゲル(S)混合物を10分間遠心分離することで、シリカエアロゲルに負荷されていない薬剤分子を保持する上澄みを分離することができる。上澄みの吸光度を「液体クロマトグラフィー・質量分析計」で測定し、シリカエアロゲル(S)への負荷薬剤濃度を計算する。上澄みから分離された、薬剤が負荷されたエアロゲルを50℃の風乾オーブンで24時間乾燥させる。
【0024】
本発明に係る製造方法においては、シリカエアロゲル(S)の表面をデキストラン(D)でコートするために、デキストラン(D)ーグルタルアルデヒド(G)での架橋及びデキストランアルデヒド(DA)との結鎖を用いた。コーティング手順としては、アミン基で官能基化され、モデル薬剤を負荷したシリカエアロゲル(S)を、グルタルアルデヒド(G)架橋剤を用いてデキストラン(D)(Mw:75000)でコートする。シリカエアロゲルが最もよくコートされるグルタルアルデヒドの濃度の最適化は、様々な濃度でグルタルアルデヒド(G)溶液を調整することにより行われる。シリカエアロゲル(S)に結合されたアミン基とグルタルアルデヒド(G)のアルデヒド基との間でのシッフ塩基反応が起こるのに最適なpHであるpH8.5の重炭酸ナトリウム溶液(NaHCO3)を調製し(50ml)、その溶液内にエアロゲル粒子(0.1g)を均一に分散させる。
【0025】
様々な比率(5%及び10%w/wのGA/溶液)のグルタルアルデヒド(G)を添加し、混合物を室温で3時間混合し、混合工程の終わりに、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBH3CN)を混合物に添加することにより、反応を止めて安定な2次鎖を形成することができる。反応の終わりに得られた粒子を、透析膜を用いて一晩水に対して透析し、表面がグルタルアルデヒド(G)に結合されたシリカエアロゲル(S)を風乾オーブンで50℃で乾燥させる。デキストラン(D)をpH2で塩化カリウム(KCl)溶液(50ml)中に溶解させる。グルタルアルデヒド(G)が結合したシリカエアロゲル(S)(0.1g)をデキストラン(D)溶液に添加して室温で24時間混合し、結合していない分子を除去するために、反応の最後に得られる、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲルを水で洗浄し、風乾オーブンでの50℃での乾燥工程に供する。
【0026】
さらにデキストランアルデヒド(DA)で結鎖する手順において、デキストランアルデヒド(DA)の合成として、3.3グラムのデキストラン(D)(Mw:75000)を30mlの蒸留水中に溶解させる。8グラムの(メタ)過ヨウ素酸ナトリウム(NaIO4)を70mlの蒸留水に溶解させる。NaIO4溶液をデキストラン(D)溶液にゆっくりと添加し、マグネチックスターラで24時間暗所において室温で混合する。24時間の終わりに、余剰のNaIO4を除去するために、蒸留水に対して、透析膜を用いて一晩暗所において室温で洗浄する。洗浄後に得られる溶液を凍結乾燥機で凍結させることにより乾燥する。前のステップでシリカエアロゲル(S)がコートされるように合成されたデキストランアルデヒド(DA)を、蒸留水(50ml)中で溶解させる。薬剤が負荷されたシリカエアロゲル(0.1g)をデキストランアルデヒド(DA)溶液内に入れ、溶液のpHを8.5に調整し、マグネチックスターラを用いて室温で24時間混合する。24時間の終わりに、シアノ水素化ホウ素塩(NaBH4)(1mg/ml)を上記混合物に添加し、15分間混合する。15分の終わりにNaBH4(1mg/ml)を再度添加し、混合物をもう30分間混合することができる。反応に関与しない物質を除去するために、透析膜を用いて蒸留水で一晩洗浄する。洗浄後に得られた、デキストランアルデヒド(DA)でコートされたシリカエアロゲル(S)を風乾オーブンで50℃で乾燥する。
【0027】
実験的検討において、シリカエアロゲル(S)からの5-フルオロウラシル薬剤のインビトロでの放出の検討のために、透析膜法を用いる。まず始めに、酵素のない環境での放出の検討のために、デキストランでコートされた、及びコートされていないシリカエアロゲル(S)を疑似胃液に入れ、胃のpH(1.2)での放出挙動及び放出時のデキストラン(D)コーティングの作用を分析する。2時間の終わりに、エアロゲルを、pHが6.8の疑似胃液に入れ、15~18時間保持し、胃腸系におけるpHの変化に対する、薬剤を負荷したシリカエアロゲル(S)の放出挙動を比較した。
【0028】
次に、酵素のある環境における放出の検討として、酵素の存在の有無による、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲル(S)の放出を検討するために、デキストラナーゼ(緩衝酢酸溶液、pH5.5)を含む放出環境におけるシリカエアロゲル(S)の放出プロファイルを検討する。シリカエアロゲル(S)から放出された5-FUの濃度を定義するために、「液体クロマトグラフィー・質量分析計」を用いて行う時間依存測定によって累積放出値を算出した。
【0029】
実験的検討の結果、大きな表面積(520.53m2/g)及び細孔径(5.73nm)を有するシリカエアロゲル(S)を合成し、アミンで変性されたその表面が薬剤負荷を増加させ、デキストラン(D)コーティングの効率を高めることが確認される。10%の割合のAPTES(A)(611.96mg/gの薬剤/シリカエアロゲル)を用いた場合、pH8で高い薬剤負荷効率が生じることが確認される。胃(pH=1.2)、腸(pH=6.8)、及び大腸腫瘍(pH=5.5)環境における、デキストラン・グルタルアルデヒド及びデキストランアルデヒド(DA)で2つの異なる方法でコートされたシリカエアロゲル(S)のモデル薬剤の5-FUの放出挙動を個別に検討する。その結果、デキストラン(D)でコートされていない純シリカエアロゲル(S)は、胃と腸及び大腸のpHで24時間以内に85-86%の5-FU薬剤を放出する。デキストラン(D)及びデキストランアルデヒド(DA)でコートされた後のシリカエアロゲル(S)からの薬剤5-FUの放出は、胃液及び腸液において24時間以内にそれぞれ1.68%及び3.49%の値で起こり、一方、酵素のない大腸pHではそれぞれ4.21%及び0.97%で起こる。
【0030】
酵素の存在による放出への効果を、大腸のpHを提供する緩衝酢酸溶液に2U/mlのデキストラナーゼ酵素を添加することによって検討する。酵素を添加してから24時間後、デキストラン(D)及びデキストランアルデヒドでコートされたシリカエアロゲルからの薬剤5-FUの放出が、それぞれ24.02%及び13.42%増加していることが見られる。天然高分子であるデキストラン(D)と、デキストランの誘導体であるデキストランアルデヒド(DA)でシリカエアロゲル(S)をコーティングすることにより、pHの変化に影響を受けることなく、またその作用と、酵素の作用による制御された放出を失うことなく、5-FU薬剤を大腸領域に到達させることができる。
【0031】
本発明に係る製造方法で用いられるシリカエアロゲル(S)(SiO2)はその大きな表面積及び大きな細孔体積、並びに高い多孔度と高い吸着能を有するその生体適合性構造のおかげで、理想的なドラッグキャリアシステムとして用いられる。
【0032】
シリカエアロゲル(S)(SiO2)の表面をデキストラン(D)でコーティングすることによってその表面を容易に変成することができるおかげで、制御され、大腸を標的とする、見込みのあるドラッグキャリアシステムが得られる。
【0033】
生分解性で生体適合性のある天然高分子であるデキストラン(D)は多糖類である。デキストラン(D)は、分子量分布が広く、毒性がなく、体から容易に除去することができるなどのその特徴から好まれている。
【0034】
本発明に係る製造方法においては、シリカエアロゲル(S)の表面は好ましくは3-(アミノプロピルトリエトキシシラン)(APTES)(A)(SiO2-NH2)で改質される。アミン基によって、グルタルアルデヒドのアルデヒド基とのシッフ塩基反応が行われる。なおグルタルアルデヒドはデキストラン(D)コーティング用の架橋剤として用いられる(シリカエアロゲル(S)@3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)(A)-SiO2-NH2)。シリカエアロゲル(S)の表面のデキストラン(D)コーティングのためにグルタルアルデヒド(G)架橋剤を使用し、表面に結合するグルタルアルデヒド(G)の能力は直接デキストラン(D)コーティング効率に影響する。シリカエアロゲル(S)の表面のデキストラン(D)でのコーティングは、酸性条件において、表面に結合したグルタルアルデヒド(G)のアルデヒド基と、デキストラン(D)のヒドロキシル基との間で生じる。(シリカエアロゲル(S)@APTES(A)@グルタルアルデヒド(G)-(SiO2-NH2-GA))
【0035】
本発明に係る製造方法では、シリカエアロゲル(S)の表面がデキストラン(D)でコートされているおかげで、エアロゲルに負荷された薬剤の胃液及び腸液での放出が抑止され、大腸を標的とする放出が行われる。したがって、シリカエアロゲル(S)の表面にコートされたデキストラン(D)は大腸に存在するデキストラナーゼ酵素でのみ分解され、標的に向けた薬剤の放出が可能となる。(シリカエアロゲル(S)@APTES(A)@グルタルアルデヒド(G)@デキストラン(D)-(SiO2-NH2-Dex))
【0036】
本発明に係る製造方法においては、シリカエアロゲル(S)の表面はまた、グルタルアルデヒド(G)架橋剤を用いずに、デキストランアルデヒド(DA)でコートされる。デキストランアルデヒド(DA)は、デキストランアルデヒド(DA)が有するアルデヒド基の、シリカエアロゲルの表面上のアミン基とのシッフ塩基反応により結合し、シリカエアロゲル(S)が大腸に薬剤を効果的に運ぶことを可能とする。(シリカエアロゲル(S)@APTES(A)@グルタルアルデヒド(G)@デキストランアルデヒド(DA)-(SiO2-NH2-Dex-CHO))
【0037】
本発明に係る製造方法では、大腸癌治療で用いられる、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲル(S)が得られる。デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲルは、大腸癌の治療のためのドラッグキャリアシステムとして使用されている。デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲル(S)の製造においては、多くの担体系の合成において、及びシリカナノ粒子の合成において用いられる、テトラエチルオルトケイ酸塩(TEOS)やテトラメチルオルトケイ酸塩などの、有機構造の、コストが高く、毒性があり、高価なシリカ源に代えて、ドラッグキャリアシステムで用いられるように高い吸着能を有するシリカエアロゲルが用いられ、生体適合性があり経済的なケイ酸ナトリウムを用いてゾル・ゲル法で合成される。
【0038】
この手段により、過去の技術に存在する多くの検討に反して、相応に高い量の薬剤負荷が実施される。
【0039】
文献にはデキストランヒドロゲルを用いた、大腸を標的とする担体系、デキストラン(D)と複合化された薬剤、ペクチンやキトサンのような多糖類を基礎とする担体、シリカ及び類似のナノ粒子、並びに薬剤の複合物は存在するものの、大腸に運ぶことを目的としてシリカエアロゲルが使用され、シリカエアロゲル(S)がデキストラン(D)と複合化される製造方法は過去の技術には存在しない。本発明に係る製造方法では、新規で効果的な、デキストラン(D)-シリカエアロゲル(S)及びデキストランアルデヒド(DA)-シリカエアロゲル(S)の有機-無機ハイブリッド系が得られる。
【0040】
本発明に係る製造方法においては、デキストラン(D)と、デキストラン(D)の誘導体であるデキストランアルデヒド(DA)をシリカエアロゲル(S)上にコーティングする工程によって、過去の技術では行われていたような高額な材料の使用の必要性が排除される。化学療法薬剤の標的化における抗体や成長因子等の分子の使用は文献に存在するものの、酸性環境によって影響を受けず、大腸に元々存在するデキストラナーゼ酵素によって阻害される、デキストラン(D)、及びデキストラン(D)の誘導体であるデキストランアルデヒド(DA)でシリカエアロゲル(S)をコーティングする工程によってコストが削減され、薬剤が安定的に大腸を標的にすることが保証される。
【0041】
本発明に係る製造方法で得られ、ドラッグキャリアシステムとして用いられる、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲル(S)は、注射で投与される、今日使用されている化学療法薬剤とは対照的に、経口投与することができ、それにより、短時間で体内から薬剤が除去されるのを防ぐ。このようにして、化学療法薬剤に基づく副作用を減少させつつ大腸の腫瘍領域に到達することが保証され、健康な細胞を傷めず、一度により効果的な治療を適用することが可能となる。本発明に係る製造方法で得られる、デキストラン(D)でコートされたエアロゲルによって、長期の薬剤放出が実践され、表面にコートされたデキストラン(D)の層の厚みを調整することによって放出速度を制御することができる。
【0042】
本発明の主題である、ドラッグキャリアシステムとして用いられる、デキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲル、及びデキストラン(D)でコートされたシリカエアロゲルの製造方法(1)の様々なバージョンを開発することが可能であるが、本発明は本開示で説明する実施例に限定されることはなく、請求項によって定義されている通りである。
【国際調査報告】