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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】膜及びその製造用のポリマー
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20220930BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20220930BHJP
   B01D 61/24 20060101ALI20220930BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20220930BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20220930BHJP
   B01D 69/04 20060101ALI20220930BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20220930BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20220930BHJP
   C08L 55/00 20060101ALI20220930BHJP
   C08L 81/06 20060101ALI20220930BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
A61M1/18 500
B01D61/14 500
B01D61/24
B01D69/00
B01D69/08
B01D69/04
B01D71/44
B01D71/68
C08L55/00
C08L81/06
C08F290/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506363
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(85)【翻訳文提出日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 EP2020071807
(87)【国際公開番号】W WO2021023711
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】62/883,269
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】19197990.5
(32)【優先日】2019-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ナイル, カムレシュ
(72)【発明者】
【氏名】ディ ニコロ, エマヌエーレ
(72)【発明者】
【氏名】ポリーノ, ジョーエル
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
4J002
4J127
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077BB02
4C077KK02
4C077KK12
4C077LL05
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006GA13
4D006MA01
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA06
4D006MA22
4D006MA25
4D006MA31
4D006MA33
4D006MB19
4D006MC04
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC40X
4D006MC48
4D006MC63X
4D006MC81
4D006NA03
4D006NA05
4D006NA13
4D006PA01
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4D006PB09
4D006PB14
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4D006PC47
4J002BJ00Y
4J002BQ00W
4J002CH02Y
4J002CN03X
4J002FD20Y
4J002GB01
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4J127AA03
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4J127BB031
4J127BB221
4J127BC021
4J127BC151
4J127BD211
4J127BE341
4J127BE34Y
4J127BF681
4J127BF68Y
4J127BG051
4J127BG05X
4J127BG141
4J127BG14X
4J127BG171
4J127BG17Y
4J127BG341
4J127BG34X
4J127CB201
4J127CC291
4J127FA43
(57)【要約】
本発明は、新規コポリマー、及び血液透析用途向けの多孔質膜の製造におけるそれらの使用に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 繰り返し単位ポリ(アリールエーテルスルホン)[PAES繰り返し単位]を含む、好ましくはそれからなる第1セグメントと、
- 繰り返し単位ポリ(ビニルピロリドン)[PVP繰り返し単位]を含む、好ましくはそれからなる第2セグメントと
を含むコポリマー[コポリマー(P)]であって、
前記第1セグメントと前記第2セグメントとが、式-O-Ph-NH-C(=O)-C(CH-CH-の基を介して結合している
コポリマー(P)。
【請求項2】
前記コポリマー(P)は、コポリマー(P)の総重量を基準として5重量%超を超える、好ましくは10重量%を超えるPVP繰り返し単位を含み、及び/又は50,000g/モル~2,000,000g/モル(GPCによって測定されるような)の重量平均分子量(M)を有する、請求項1に記載のコポリマー(P)。
【請求項3】
前記PVP繰り返し単位は、好ましくは、以下の式(I):
【化1】
(式中、oは、1を超える整数である)
に従う、請求項1又は2に記載のコポリマー(P)。
【請求項4】
前記PAES繰り返し単位は、少なくとも50モル%の式(K):
【化2】
(式中、
互いに等しいか若しくは異なる、各Rは、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ若しくはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ若しくはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され、
互いに等しいか若しくは異なる、各hは、0~4の範囲の整数であり、
Tは、結合、スルホン基[-S(=O)-]、及び基-C(R)(R)-からなる群から選択され、ここで、互いに等しいか若しくは異なる、R及びRは、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ若しくはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ若しくはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムから選択される。R及びRは、好ましくはメチル基である)
の繰り返し単位(RPAES)を含む、請求項1に記載のコポリマー(P)。
【請求項5】
前記PAES繰り返し単位は、
- 少なくとも50モル%の式(K’-C):
【化3】
の繰り返し単位を含むポリスルホン(PSU)繰り返し単位、
- 50モル%を超える式(K’-A):
【化4】
の繰り返し単位を含むポリフェニルスルホン(PPSU)繰り返し単位、
- 少なくとも50モル%の式(K’-B):
【化5】
の繰り返し単位を含むポリエーテルスルホン(PES)繰り返し単位、
- 少なくとも50モル%の式(K’-D):
【化6】
の繰り返し単位を含むポリ(エーテルエーテルスルホン(PEES)繰り返し単位及び
任意選択的に、式(K’-Db):
【化7】
の繰り返し単位
を含む、好ましくはそれらの繰り返し単位からなる群から選択される、請求項4に記載のコポリマー(P)。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のコポリマー(P)の合成方法であって、以下の工程:
(I)2つの鎖末端(ここで、両鎖末端は、アミン基を含む)を有するポリ(アリールエーテルスルホン)ポリマー[ポリマー(PAES)NN]を提供する工程と、
(II)前記ポリマー(PAES)NNをメタクロイルクロリドと反応させ、こうしてモノ-メタクリル化PAESポリマー[ポリマー(PAES)NA]及びジ-メタクリル化PAESポリマー[ポリマーNA(PAES)NA]を含む混合物[混合物(M-P1)]を提供する工程と、
(III)工程(II)において得られた前記混合物(M-P1)をビニルピロリドンモノマーと反応させ、こうしてポリマー(P)を含む混合物を提供する工程と
を含む方法。
【請求項7】
前記工程(II)は、
- 前記ポリマー(PAES)NNを不飽和酸又は酸クロリドと反応させることによって、及び/又は
- 加熱下に、より好ましくは100℃以下の温度で、及び/又は
- 極性の非プロトン性溶媒の存在下で
行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記混合物(M-P1)は、前記ポリマーNA(PAES)NAに比べて過半数の、好ましくは少なくとも1.01:1、より好ましくは1.5:1の前記ポリマー(PAES)NA対前記ポリマーNA(PAES)NAの比の前記ポリマー(PAES)NAを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(III)は、
- 極性の非プロトン性溶媒の存在下で、及び/又は
- 好ましくはアゾ化合物又は過酸化物から選択される、少なくとも1種のラジカル開始剤の存在下で、及び/又は
- 加熱下に、より好ましくは50℃~100℃の温度で
行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
- 好ましくは0.01~30重量%の量で、請求項1~5のいずれか一項に記載の少なくとも1種のコポリマー(P)と、
- 好ましくは1~10重量%の量で、少なくとも1種の細孔形成剤と、
- 好ましくは60重量%を超える量で、少なくとも1種の媒体(L)と
を含む組成物[組成物(C)]であって、
前記量が、前記組成物(C)の総重量を基準とている組成物(C)。
【請求項11】
請求項10に記載の組成物(C)であって、前記組成物(C)が、前記組成物(C)の総重量を基準として好ましくは1~35重量%の量で、少なくとも1種のポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)ポリマーを更に含む組成物(C)。
【請求項12】
少なくとも1つの多孔質層[層(L)]を含む膜[膜Q]であって、前記層(L)が、請求項10又は請求項11に記載の組成物(C)から得られる膜Q。
【請求項13】
患者の体液の、好ましくは血液の体外処理のための方法であって、請求項12に記載の少なくとも1つの膜(Q)の使用を含む方法。
【請求項14】
腎機能障害を患っている被検者の治療方法であって、血液透析、血液濾過、血液濃縮又は血液透析濾過から選択される手順に患者をかけることを含み、前記手順が、請求項12に記載の少なくとも1つの膜(Q)を含む透析フィルターを使って実施され、前記膜が、1nm~16nmの平均細孔直径を有する管状又は中空繊維の形態にある方法。
【請求項15】
全血、血漿、分画血液成分又はそれらの混合物などの、血液製品の精製方法であって、請求項12に記載の少なくとも1つの膜(Q)にわたって前記血液製品を透析することを含み、前記膜(Q)が、0.001~5μmの平均細孔直径を有する中空繊維の形態にある方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連特許出願の相互参照
本出願は、米国において2019年8月6日に出願された米国特許出願第62/883269号及び欧州において2019年9月18日に出願された欧州特許出願第19197990.5号の優先権を主張するものであり、これらの出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、新規コポリマー及び血液透析用途向けの多孔質膜の製造におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0003】
多孔質膜は、それらと接触した化学種の透過を適度にする不連続の、薄い界面である。多孔質膜の重要な特性は、膜自体を通っての化学種の透過速度を制御するそれらの能力である。この特徴は、分離用途(水及びガス)又は、薬物送達用途並びに血液透析、半透過性膜による尿毒性滞留生成物の除去によって血液が浄化される体外プロセスなどの、生物医学的用途のような多くの異なる用途において利用されている。
【0004】
精密濾過及び限外濾過のような使用に好適なポリマー膜は、典型的には、液体又は気体の通過が対流流束によって主として支配される、「ふるい」メカニズムの下で透過を制御する。
【0005】
そのようなポリマー膜は、非常に大きい分率の空隙(多孔性)を持ったアイテムを得ることを可能にする相反転法によって主として製造される。
【0006】
この目的のために、ポリマー、好適な溶媒及び/又は共溶媒並びに、任意選択的に、1種以上の添加剤を含有する均一なポリマー溶液(「ドープ溶液」とも言われる)が、典型的には、フィルムへとキャストされ、次いで非溶媒媒体との接触によって、いわゆる非溶媒誘起相分離(NIPS)プロセスで沈澱させられる。非溶媒媒体は、通常、水若しくは水と界面活性剤との混合物、アルコール及び/又は溶媒自体である。
【0007】
沈澱はまた、ポリマー溶液の温度を下げることによって、いわゆる熱誘起相分離(TIPS)プロセスで誘導することができる。
【0008】
或いは、いわゆる蒸気誘起相分離(VIPS)プロセスで、沈澱は、キャスティングにより得られたフィルムを、非常に高い水蒸気含量を有する空気と接触させることによって誘導することができる。
【0009】
更に、沈澱は、キャスティングにより得られたフィルムからの溶媒の蒸発によって、いわゆる蒸発誘起相分離(EIPS)プロセスで誘導され得る。典型的には、このプロセスでは、低い沸点の有機溶媒(例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン等など)が、ポリマー溶液の調製のために水(いわゆる「非溶媒」)と混ぜて使用される。ポリマー溶液は、先ず押し出され、次いで揮発性溶媒の蒸発及び非溶媒の富化のために沈澱する。
【0010】
上記のプロセスは、特定の形態学及び性能を有する膜を提供するために組み合わせて及び/又は順次用いることができる。例えば、EIPSプロセスは、沈澱プロセスを完了させるために、VIPSプロセス及びNIPSプロセスと組み合わせることができる。
【0011】
芳香族スルホンポリマーは、高い機械的強度及び高い熱安定性に恵まれた高性能ポリマーであり、それらは、生物医学分野において使用されるものなどの、精密濾過膜及び限外濾過膜の製造などの、様々な産業用途に使用されている。例えば、血液透析デバイスの製造に使用される微多孔質膜は、例えば、米国特許出願公開第2011/009799A号明細書(INTERFACE BIOLOGICS,INC.)に開示されているように、ポリマー、溶媒、細孔形成剤及び表面改質高分子を含むドープ溶液(別途「紡糸溶液」とも言われる)からフィラメントを紡ぐことによって得ることができる。
【0012】
精密濾過膜及び限外濾過膜の製造に現在使用されている芳香族スルホンポリマーは、高い機械的強度及び高い熱安定性を有するけれども、血液透析膜の製造用の改善された材料を得ることが絶えず必要とされている。
【0013】
任意選択的に好適な添加剤と共に、少なくとも1種の疎水性第1ポリマー(例えば、ポリアミド)と親水性第2ポリマー(例えば、ポリビニルピロリドン)とを混ぜ合わせることによって得られたブレンドから調製される膜は、当技術分野において(例えば、欧州特許第0305787号明細書、欧州特許第2113298号明細書及び米国特許第8,596,467号明細書において)広く開示されている。
【0014】
しかしながら、前記ブレンドを使用して得られた膜は、例えば重症アレルギー反応などの、患者にとって望ましくない健康上の欠点をもたらす、親水性ポリマーの放出が起こり得るので、血液透析用途における使用に好適ではない。
【0015】
欧州特許第2253369号明細書(Gambro Lundia AB)は、選択透過性の非対称膜であって、前記膜がビニルピロリドンと(メタ)アクリル部分を含むスルホベタインとのコポリマーを含む膜を開示している。
【0016】
国際公開第2013/034611号パンフレット(Gambro Lundia AB)は、半透過性の非対称中空繊維膜であって、膜材料が、少なくとも1種の疎水性ポリマーと少なくとも1種の親水性ポリマーとのグラフトコポリマーである膜を開示している。より具体的には、この膜は、好ましくはグラフトコポリマーの総重量を基準として90~99重量%の量での、少なくとも1種のポリスルホン又はポリエーテルスルホンのグラフトコポリマーと、好ましくはグラフトコポリマーの総重量を基準として、1~10重量%の量での、少なくとも1種のポリビニルピロリドンとのグラフトコポリマーでできている。
【0017】
この特許出願の実施例は、約2.0重量%の最終コポリマー中の化学結合したPVPの含量を示した。いかなる理論にも束縛されることなく、本出願人は、最終コポリマー中のPVPのこの低い量が、最終コポリマーが得られる機械的プロセスのためであると考えている。
【0018】
欧州特許第3108955号明細書(Pall Corporation)は、芳香族疎水性ポリマーと、式A-B又はA-B-A(式中、Aは、重合したモノマー又は式CH2=C(R1)C(R2)のモノマーの混合物を含む親水性セグメントであり、Bは、芳香族疎水性ポリマーセグメントであり、ここで、B及びAは、式:-B-[NH-C(=O)-(CH-S]-A-で表されるアミドアルキルチオ基によって結合している)のコポリマーを含む湿潤剤とを含む多孔質膜を開示している。
【0019】
この特許に開示された合成は、ジアミンマクロマー(すなわち、二官能性出発化合物)とメルカプト酢酸ナトリウムとの反応から出発して、その両鎖末端が-SH基で終わったマクロ-CTF(連鎖移動剤)を提供し、-SH基が次いで1-ビニルピロリド-2-オン及びアゾビス-イソブチロニトリル(AIBN)と反応させられて、式:
【化1】
のブロックコポリマーを提供する。
【0020】
芳香族疎水性ポリマーは、ポリスルホン(PSU)、ポリフェニレンエーテルスルホン(PPES)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ(フタラジノンエーテルスルホンケトン)(PPESK)、ポリフェニルスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェニレンオキシド(PPO)及びポリエーテルイミド(PEI)から選択される。芳香族疎水性セグメントBは、それぞれ、1つ又は好ましくは2つのアミノ置換部分で終わった、PSU、PPES、PES、PEEK、PPS、PPE、PPO又はPEIから選択することができる。
【発明の概要】
【0021】
本出願人は、膜が生物医学分野において、より具体的には血液透析のために使用される場合に、前記膜から親水性材料の放出が全く起こらない膜が依然として必要とされていることを認識した。
【0022】
特に、本出願人は、上で引用された、Pall Corporation名義の欧州特許第3108955号明細書に開示された合成が、所定の化学構造を有するブロックコポリマーを得るために高分子連鎖移動剤の使用を必要とすることに注目した。しかしながら、連鎖移動剤がフリーラジカル重合において使用されている限りは、それらの使用は、重合速度の低下をもたらし得るし、また、低い分子量で特徴付けられる、例えば、(GPCによって測定されるような)約19,000g/モル~約30,000g/モルの重量平均分子量(M)のポリマーをもたらし得る。
【0023】
本出願人は、国際公開第2013/034611号パンフレット(Gambro Lundia AB)に開示されたコポリマーを検討したが、最終コポリマー中のPVPの低い量(実施例1に示されているように、最終コポリマーの総重量を基準として2.0重量%)が、機械的プロセスによってコポリマーが製造されるという事実のためであると認識した。
【0024】
したがって、本出願人は、迅速な、工業プラントへのスケールアップが容易である、及び高価な反応剤又は出発原料を伴わない化学合成によって得られる、少なくとも1種の疎水性セグメントと少なくとも1種の親水性セグメントとを含むコポリマーを提供するという課題に直面した。
【0025】
また、本出願人は、当技術分野において既に開示されたコポリマーに比べてより高い分子量を有する及び、最終コポリマーの総重量を基準として2%を優に上回る重量比で、共有結合したPVPを含むコポリマーを提供するという課題に直面した。
【0026】
したがって、第1態様において、本発明は、
- 繰り返し単位ポリ(アリールエーテルスルホン)[PAES繰り返し単位]を含む、好ましくはそれからなる第1セグメントと、
- 繰り返し単位ポリ(ビニルピロリドン)[PVP繰り返し単位]を含む、好ましくはそれからなる第2セグメントと
を含むコポリマー[コポリマー(P)]であって、
前記第1セグメントと前記第2セグメントとが、式-O-Ph-NH-C(=O)-C(CH-CH-の基を介して結合している
コポリマー(P)に関する。
【0027】
有利には、前記コポリマー(P)は、コポリマー(P)の総重量を基準として、5重量%超、好ましくは10重量%を超えるPVPセグメントを含む。
【0028】
有利には、前記コポリマー(P)は、コポリマー(P)の総重量を基準として、少なくとも12重量%、更に好ましくは少なくとも15重量%のPVPセグメントを含む。
【0029】
有利には、前記コポリマー(P)は、(GPCによって測定されるような)50000g/モル~2000000g/モルの重量平均分子量(M)で特徴付けられる。
【0030】
第2態様において、本発明は、上で定義されたコポリマー(P)の合成方法であって、前記方法が、以下の工程:
(I)2つの鎖末端(ここで、両鎖末端は、アミン基を含む)を有するポリ(アリールエーテルスルホン)ポリマー[ポリマー(PAES)NN]を提供する工程と、
(II)前記ポリマー(PAES)NNをメタクロイルクロリドと反応させ、こうしてモノ-メタクリル化PAESポリマー[ポリマー(PAES)NA]及びジ-メタクリル化PAESポリマー[ポリマーNA(PAES)NA]を含む混合物[混合物(M-P1)]を提供する工程と、
(III)工程(II)において得られた前記混合物(M-P1)をビニルピロリドンモノマーと反応させ、こうしてポリマー(P)を含む混合物を提供する工程と
を含む方法に関する。
【0031】
第3態様において、本発明は、組成物[組成物(C)]であって、
- 前記組成物(C)の総重量を基準として好ましくは0.01~30重量%の量で、上で定義されたような少なくとも1種のコポリマー(P)と、
- 前記組成物(C)の総重量を基準として好ましくは1~10重量%の量で、少なくとも1種のPVPポリマーと、
- 任意選択的に、前記組成物(C)の総重量を基準として好ましくは1~35重量%の量で、少なくとも1種のポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)ポリマーと、
- 前記組成物(C)の総重量を基準として好ましくは60重量%を超える量で、少なくとも1種の溶媒[媒体(L)]と
を含む組成物(C)に関する。
【0032】
第4態様において、本発明は、少なくとも1つの多孔質層[層(L)]を含む膜[膜(Q)]であって、前記層(L)が上で定義されたような組成物(C)から得られる膜(Q)に関する。
【0033】
本出願人は、意外にも、膜が本発明によるコポリマー(P)を使用して製造される場合に、PVPが人体中に放出されないので同時にアレルギー反応が回避されながら、膜と血液との適合性が増加するので、前記膜が血液透析用途向けに使用できることを見出した。
【0034】
加えて、本出願人は、意外にも、本発明のコポリマーを使用すると、本発明の膜が使用された場合に患者の血液の凝固速度への活性化効果が全く検出されないことを意味する、高い血液適合性を有する膜が得られることを見出した。
【0035】
したがって、さらなる態様において、本発明は、患者の体液の、好ましくは血液の体外処理のための方法であって、前記方法が本発明による少なくとも1つの膜(Q)の使用を含む方法に関する。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本説明の及び以下の特許請求の範囲の目的のためには:
- 化合物、化学式又は式の部分を特定する記号又は数字の前後の括弧の使用は、それらの記号又は数字を本文の残りからよりよく区別する目的を有するにすぎず、これ故に、前記括弧はまた省略することができ、
- 用語「膜」は、それと接触した化学種の透過を適度にする、不連続の、概して薄い界面を示すことを意図され、前記膜は、有限寸法の細孔を含有し、前記細孔は、以下の記載に定義される寸法を有し、
- 本発明の膜が、唯一の層として多孔質層(L)を含む場合、用語「膜(Q)」は、2つがぴったり合うような前記層(L)を示すために用いられ、
- 用語「重量多孔率」は、多孔質膜の全体容積にわたって空隙の分率を意味することを意図され、
- 用語「溶媒」は、その通常の意味で本明細書において用いられ、すなわち、それは、別の物質(溶質)を溶解させて分子レベルで一様に分散した混合物を形成することができる物質を示す。ポリマー溶質の場合、結果として生じた混合物が透明であり、及び相分離が系中で全く見られない場合に溶媒中のポリマーの溶液を指すことが一般的慣習である。相分離は、ポリマー凝集体の形成が原因で溶液が濁るか又は曇るようになる、「曇点」と多くの場合に言われる、ポイントであると解釈される。
- 「ガラス転移温度(T)」は、実施例において詳述されるように、20℃/分でASTM D3418に従って示差走査熱量測定(DSC)によって測定される温度を示すことを意図され、
- 用語「多孔質の」は、本発明の膜がその厚さの全体にわたって分布した細孔を含有することを示すことを意図され、
- 「フィルム」又は「層」と関連する用語「緻密な」は、フィルム若しくは層がその厚さの全体にわたって分布した細孔を含有しないか、又は、細孔が存在する場合、重量多孔率が、フィルムの全容量を基準として、3%未満、より好ましくは1%未満のものであることを示すことを意図され、
- 表現「上で定義されたような」は、その記述の先行部分におけるその表現によって言及された全ての包括的及び具体的又は好ましい定義又は実施形態を含むことを意図され、
- 用語「プロセス」及び「方法」は、同義語である。
【0037】
上述のように、本発明によるコポリマー(P)は、繰り返し単位ポリ(アリールエーテルスルホン)[PAES繰り返し単位]を含む。
【0038】
好ましくは、前記PAES繰り返し単位は、ポリフェニルスルホン(PPSU)繰り返し単位、ポリエーテルスルホン(PES)繰り返し単位、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)繰り返し単位及びポリスルホン(PSU)繰り返し単位を含む、好ましくはそれらからなる群の中で選択される。
【0039】
本発明の目的のためには、ポリ(アリールエーテルスルホン)(PAES)は、少なくとも50モル%の式(K):
【化2】
[式中、
互いに等しいか若しくは異なる、各Rは、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ若しくはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ若しくはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムから選択され、
互いに等しいか若しくは異なる、各hは、0~4の範囲の整数であり、
Tは、結合、スルホン基[-S(=O)-]、及び基-C(R)(R)-(ここで、互いに等しいか若しくは異なる、R及びRは、水素、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリ若しくはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリ若しくはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミン、及び第四級アンモニウムから選択される)からなる群から選択される。R及びRは、好ましくはメチル基である]
の繰り返し単位(RPAES)を含む任意のポリマーを示すことを意図される。
【0040】
PAES中の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくは全てが、繰り返し単位(RPAES)である。
【0041】
一実施形態において、PAES繰り返し単位は、ポリフェニルスルホン(PPSU)繰り返し単位である。本明細書で用いるところでは、ポリフェニルスルホン(PPSU)繰り返し単位は、50モル%を超える式(K’-A):
【化3】
の繰り返し単位を含むポリマーを示すことを意図される。
【0042】
PPSU中の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくは全てが、式(K’-A)の繰り返し単位である。
【0043】
いくつかの実施形態において、PAES繰り返し単位は、ポリエーテルスルホン(PES)繰り返し単位である。本明細書で用いるところでは、ポリエーテルスルホン(PES)繰り返し単位は、少なくとも50モル%の式(K’-B):
【化4】
の繰り返し単位を含む任意のポリマーを示すことを意図される。
【0044】
PES中の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくは全てが、式(K’-B)の繰り返し単位である。
【0045】
いくつかの実施形態において、PAES繰り返し単位は、ポリスルホン(PSU)繰り返し単位である。本明細書で用いるところでは、ポリスルホン(PSU)繰り返し単位は、少なくとも50モル%の式(K’-C):
【化5】
の繰り返し単位を含むポリマーを示すことを意図される。
【0046】
PSU中の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくは全てが、式(K’-C)の繰り返し単位である。
【0047】
好ましい実施形態によれば、PAES繰り返し単位は、ポリ(エーテルエーテルスルホン)(PEES)繰り返し単位である。本明細書で用いるところでは、ポリ(エーテルエーテルスルホン)(PEES)繰り返し単位は、少なくとも50モル%の式(K’-D):
【化6】
の繰り返し単位を含むポリマーを示すことを意図される。
【0048】
PSU中の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、70モル%、80モル%、90モル%、95モル%、99モル%、最も好ましくは全てが、式(K’-D)の繰り返し単位である。
【0049】
式(K’-D)の繰り返し単位に加えて、前記PEESは、式(K’-Db):
【化7】
の繰り返し単位を更に含むことができる。
【0050】
優れた結果は、PAES繰り返し単位がPSU繰り返し単位又はPEES繰り返し単位であった場合に得られている。
【0051】
上述のように、本発明によるコポリマー(P)は、繰り返し単位ポリ(ビニルピロリドン)[PVP繰り返し単位]を含む。
【0052】
前記PVP繰り返し単位は、好ましくは以下の式(I):
【化8】
(式中、oは、1を超える整数である)
に従う。
【0053】
有利には、前記コポリマー(P)は、式-O-Ph-NH-C(=O)-C(CH-CH-の基を介して結合した、前記PAES繰り返し単位を含む1つのセグメントと、前記PVP繰り返し単位を含む1つのセグメントとを含む。
【0054】
好ましくは、コポリマー(P)は、以下の式:
{E-[PAES]-O-(C)-NH-C(=O)-C(CH-CH-[PVP]-H
(式中、
[PAES]は、上で定義されたようなPAES繰り返し単位、より好ましくはPEES繰り返し単位を示し、
[PVP]は、上で定義されたようなPVP繰り返し単位を示し、
互いに等しいか若しくは異なる、m、n及びoのそれぞれは、1を超える整数であり、
Eは、-(C)-NH-(C=O)-(C)である)
に従う。
【0055】
以下のコポリマー(P)の合成方法の説明から明らかであるように、コポリマー(P)は、ポリマー(P)と、以下の化学式:
E*-{[PAES]-O-(C)-NH-C(=O)-C(CH-CH-[PVP]-H
(式中、[PAES]、[PVP]、n及びoは、上に定義されたとおりであり、
E*は、基-O-(C)-NH-C(=O)-C(CH-CH-[PVP]-Hである)
に従う、少量のその対応する二官能性ポリマーとを含む混合物で提供される。
【0056】
本発明の方法の工程(I)の下で、前記ポリマー(PAES)NNは、当業者に公知の好適な反応剤を使用して調製することができる。
【0057】
例えば、ポリマー(P)がPPSU繰り返し単位を含む場合、工程(I)の下で好適なポリマー(PAES)NNは、Solvay Specialty Polymers USA,L.L.C.から商業的に入手可能な、RADEL(登録商標)PPSUから出発して調製することができる。
【0058】
ポリマー(P)がPES繰り返し単位を含む場合、ポリマー(PAES)NNは、Solvay Specialty Polymers USA,L.L.C.製のVERADEL(登録商標)PESUから出発して調製することができる。
【0059】
ポリマー(P)がPSU繰り返し単位を含む場合、ポリマー(PAES)NNは、Solvay Specialty Polymers USA,L.L.C.製のUDEL(登録商標)PSUから出発して調製することができる。
【0060】
ポリマー(P)が(PEES)繰り返し単位を含む好ましい実施形態によれば、工程(I)の下で好適なポリマー(PAES)NNは、名称KM-177でSolvay-Cytec Industriesから商業的に入手可能である。
【0061】
本発明の方法の工程(II)の下で、前記ポリマー(PAES)NNが、例えばメタクロイルクロリド、アクリロイルクロリド、アクリル酸、メタクリル酸及び類似のオレフィン含有酸、酸クロリド又はそれらの誘導体などの、好適な不飽和カルボン酸又は酸クロリドと反応させられる、フリーラジカル重合反応が行われる。
【0062】
好ましくは、工程(I)の後で及び工程(II)の前に、前記(PAES)NNポリマーは、有利には、好ましくはジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチルピロリドン(NMP)、N-ブチリピロリドン(NBP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、クロロホルム、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)から選択される、極性の非プロトン性溶媒に溶解させられる。
【0063】
好ましくは、工程(II)は、加熱下で、より好ましくは室温~100℃の温度で行われる。
【0064】
好ましくは、工程(II)は、上でリストアップされたもののような、極性の非プロトン性溶媒の存在下で行われる。
【0065】
有利には、工程(II)が上述の条件下で行われる場合、前記ポリマーNA(PAES)NAに比べて過半数の前記ポリマー(PAES)NAを含む混合物(M-P1)が得られる。
【0066】
好ましくは、混合物(M-P1)は、少なくとも1.01:1の、好ましくは1.5:1の、好ましくは2:1の比の前記ポリマー(PAES)NA対前記ポリマーNA(PAES)NAを含む。
【0067】
前記ポリマーNA(PAES)NAの存在が、その後の工程の反応性に悪影響を及ぼさないので、混合物(M-P1)は、有利には、本発明の方法の工程(III)の下でそのようなものとして使用される。しかしながら、必要ならば、当業者は、当技術分野において公知の分離又は精製方法を用いて混合物(M-P1)から前記ポリマーNA(PAES)NAを分離する又は除去することができる。
【0068】
好ましくは、前記工程(III)は、上でリストアップされたもののような、極性の非プロトン性溶媒の存在下で行われる。
【0069】
好ましくは、工程(III)の下で、前記(PAES)NAポリマーは、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などのアゾ化合物、又はベンゾイルペルオキシド若しくはヒドロペルオキシドなどの、過酸化物からより好ましくは選択される、少なくとも1種のラジカル開始剤の存在下でPVPと反応させられる。
【0070】
好ましくは、工程(III)は、加熱下で、より好ましくは50℃~100℃の温度で行われる。
【0071】
好ましい実施形態によれば、本発明による組成物(C)は、上で定義されたような少なくとも1種のポリマー(P)と、少なくとも1種の細孔形成剤と少なくとも1種の媒体(L)とを含む。
【0072】
この実施形態によれば、組成物(C)は、好ましくは:
- 0.01~30重量%の少なくとも1種のポリマー(P)と、
- 1~10重量%の少なくとも1種の細孔形成剤と、
- 65~98.99重量%の少なくとも1種の媒体(L)と
を含む。
【0073】
好ましくは、前記少なくとも1種の細孔形成剤は、PVP、例えば、商品名Pluronic(登録商標)F 68、F 88、F 108及びF 12でASF AGによって商業的に入手可能であるポリマーなどの、ポリエチレングリコール、ポリグリコールモノエステル及びポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマー、例えば、商品名Tween(登録商標)で市場に出されている、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、モノラウレート又はモノパリミテートなどの、ポリソルベートから選択される。
【0074】
好ましくは、前記少なくとも1種の媒体(L)は、水又は極性の非プロトン性溶媒から選択される。より好ましくは、前記極性の有機溶媒は、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジエチルホルムアミド、NMP、DMI、DMSO、NPB及びRhodiasolv(登録商標)Polarcleanを含む群の中で選択される。
【0075】
別の好ましい実施形態によれば、本発明による組成物(C)は、上で定義されたような少なくとも1種のポリマー(P)と、少なくとも1種のPVPポリマーと、少なくとも1種のPAESポリマーと少なくとも1種の媒体(L)とを含む。
【0076】
この実施形態によれば、組成物(C)は、好ましくは、
- 前記組成物(C)の総重量を基準として、0.01~10重量%、より好ましくは0.5~8重量%、更により好ましくは0.9~8重量%の量で少なくとも1種のポリマー(P)と、
- 前記組成物(C)の総重量を基準として、1~10重量%の量の少なくとも1種の細孔形成剤と、
- 前記組成物(C)の総重量を基準として、1~35重量%、より好ましくは5~25重量%、更により好ましくは10~20重量%の量で少なくとも1種のPAESポリマーと、
- 前記組成物(C)の総重量を基準として60重量%超~97.99重量%、より好ましくは65~95重量%、更により好ましくは70~90重量%の量で少なくとも1種の媒体(L)と
を含む。
【0077】
好ましくは、前記PAESポリマーは、上で定義されたような、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)及びポリスルホン(PSU)を含む、好ましくはそれらからなる群の中で選択される。
【0078】
優れた結果は、前記PEASポリマーがPSU又はPESである場合に得られた。
【0079】
好ましい実施形態によれば、組成物(C)は、可塑剤を含まない、すなわち、可塑剤は、組成物(C)に添加されないか、又はそれらは、前記組成物(C)の総重量を基準として1重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満の量で存在するかのどちらかである。
【0080】
それらの厚さの全体にわたって均一に分布した細孔を含有する膜は、一般に、対称(又は等方性)膜として知られ、それらの厚さの全体にわたって不均一に分布している細孔を含有する膜は、一般に、非対称(又は異方性)膜として知られる。
【0081】
膜(Q)は、対称膜か又は非対称膜かのどちらかであり得る。
【0082】
非対称膜(Q)は、典型的には、1つ以上の内層における細孔の平均細孔直径よりも小さい平均細孔直径を有する細孔を含有する外層を含む。前記層のそれぞれは、上で定義されたような層(L)であることができる。
【0083】
本発明の多孔質膜は、好ましくは、100nm未満、より好ましくは50nm未満、更により好ましくは10nm未満の平均細孔直径を有する。好ましい実施形態によれば、血液透析用の使用に好適な本発明の膜は、8nm未満の平均細孔直径を有する。血液透析以外の使用のために調製される膜は、0.001μm~50μmの平均細孔直径を有する。
【0084】
本発明の多孔質膜における平均細孔直径の測定のための好適な技法は、例えばHandbook of Industrial Membrane Technology.Edited by PORTER,Mark C.Noyes Publications,1990.p.70-78に記載されている。膜の細孔サイズは、走査電子顕微鏡法(SEM)、並びに/又は泡立ち点、ガスフラックス、水フラックス、及び分子量カットオフの測定などの幾つかの技法によって推定され得る。
【0085】
膜(Q)は、典型的には、膜の全容積を基準として、5容積%~90容積%、好ましくは10容積%~85容積%、より好ましくは30%~75%に含まれる重量多孔率を有する。良好な結果は、70~85容積%の重量多孔率について得られている。
【0086】
膜(Q)における重量多孔率の測定のための好適な技法は、例えば、SMOLDERS,K.らTerminology for membrane distillation,Desalination,1989,vol.72,p.249-262によって記載されている。
【0087】
膜(Q)は、前記層(L)を唯一の層として含む自立多孔質膜か、又は基材上に支持された前記層(L)を好ましくは含む、多層化膜かのどちらかであり得る。
【0088】
前記基材層は、前記層(L)と部分的に又は完全に相互貫入し得る。
【0089】
前記基材は、好ましくは、多孔質膜の選択性に最小限の影響を及ぼす材料でできている。基材層は、好ましくは、不織材料、ガラス繊維及び/又は、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリマー材料からなる。
【0090】
膜(Q)は、相反転法などの、従来法に従って製造される。
【0091】
通常、膜(Q)の製造のために、組成物(C)が従来法によって製造され、フィルム(F)へと加工され、任意選択的にフィルム(F)が膜(Q)へと更に加工される。
【0092】
第1実施形態によれば、フィルム(F)及び膜(Q)は、液相で起こるプロセス[プロセス(MP-1)]を用いて製造され、プロセス(MP-1)は、典型的には:
(i^)上で定義されたような組成物(C)を提供する工程と、
(ii^)工程(i^)において提供された組成物(C)を加工し、それによってフィルム(F)を提供する工程と、任意選択的に、
(iii^)工程(ii^)において得られたフィルム(F)を加工し、それによって膜(Q)を提供する工程と
を含む。
【0093】
工程(i^)の下で、組成物(C)は、任意の従来技法によって製造される。例えば、媒体(L)が、コポリマー(P)に及び、任意選択的に、ポリマー(PAES)に並びに任意のさらなる原料に添加され得るか、又は、好ましくは、ポリマー(PAES)及び、任意選択的に、ポリマー(P)並びにさらなる原料が、媒体(L)に添加される、或いはポリマー(PAES)及び、任意選択的に、ポリマー(P)、任意のさらなる原料並びに媒体(L)が同時に混合される。
【0094】
任意の好適な混合装置が用いられ得る。好ましくは、混合装置は、最終的な膜に欠陥を生じさせ得る組成物(C)中に閉じ込められた空気の量を減少させるように選択される。混合は、好都合にも、任意選択的に不活性雰囲気下に保たれた、密閉容器中で実施される。不活性雰囲気、より正確には窒素雰囲気が、組成物(C)の製造にとって特に有利であると分かった。
【0095】
工程(i^)の下で、無色透明な均一組成物(C)を得るために必要とされる攪拌中の混合時間は、成分の溶解速度、温度、混合装置の効率、組成物(C)の粘度等に依存して広く変わり得る。
【0096】
工程(ii^)の下で、組成物(C)は、典型的には液相で加工される。
【0097】
工程(ii^)の下で、組成物(C)は、典型的には、キャストし、それによってフィルム(F)を提供することによって加工される。
【0098】
キャスティングは、典型的にはキャスティングナイフ、ドローダウン棒又はスロットダイが、好適な媒体(L)を含む液体組成物の平らなフィルムを好適な支持体にわたって広げるために使用される、溶液キャスティングを一般に伴う。
【0099】
工程(ii^)下で、組成物(C)がキャスティングによって加工される温度は、組成物(C)が撹拌下に混合される温度と同じものであっても同じでなくてもよい。
【0100】
膜(Q)の最終形態に応じて、異なるキャスティング技法が用いられる。
【0101】
膜(Q)が平膜である場合、組成物(C)は、典型的にはキャスティングナイフ、ドローダウン棒又はスロットダイを用いて、平坦な支持基材、典型的にはプレート、ベルト若しくは布、又は別の微小孔性支持膜一面にフィルム(F)としてキャストされる。
【0102】
工程(ii^)の第1実施形態によれば、組成物(C)は、平担な支持基材上へキャストしてフラットフィルム(F)を提供することによって加工される。
【0103】
工程(ii^)の第2実施形態によれば、組成物(C)は、キャストして管状フィルム(F)を提供することによって加工される。
【0104】
本発明のこの第2実施形態の変形によれば、管状フィルム(F)は、紡糸口金を用いて製造される。
【0105】
用語「紡糸口金」は、少なくとも2つの同心毛細管:組成物(C)の通路のための第1外側毛細管と、一般に「ルーメン」と言われる、支持流体の通路のための第2内側毛細管とを含む環状ノズルを意味すると本明細書では理解される。任意選択的に、外部の外側毛細管は、コーティング層を押し出すために用いることができる。
【0106】
中空繊維膜及び毛細管膜は、工程(ii^)の第2実施形態のこの変形によるいわゆる「紡糸プロセス」によって製造することができる。この変形によれば、組成物(C)は、一般に、紡糸口金を通してポンプ送液され、ルーメンは、組成物(C)のキャスティングのための支持体として働き、中空繊維前駆体又は毛細管前駆体の穴を開いた状態に維持する。ルーメンは、ガス、又は、好ましくは、媒体(NS)若しくは媒体(NS)と媒体(L)との混合物であることができる。ルーメン及びその温度の選択は、それらが膜中の細孔のサイズ及び分布に著しい影響を及ぼし得るので、最終的な膜の必要とされる特性に依存する。
【0107】
(MP-1)の工程(iii^)の下で、空気中又は制御雰囲気中での短い滞留時間の後に、紡糸口金の出口において、中空繊維前駆体又は毛細管前駆体が沈澱し、それによって中空繊維膜又は毛細管膜(Q)を提供する。
【0108】
支持流体は、最終的な中空繊維膜又は毛細管膜(Q)の穴を形成する。
【0109】
管状膜は、それらのより大きい直径のため、中空繊維膜の製造のために用いられる方法とは異なる方法を用いて一般に製造される。
【0110】
プロセス(MP-1)の工程(ii^)及び工程(iii^)のいずれか1つにおいて提供されるフィルムと媒体(NS)との間の温度勾配は、組成物(C)からの(PAES)ポリマーの沈澱の速度を調整するような方法で当業者によって選択されるものとする。
【0111】
したがって、プロセス(MP-1)の第1変形は、
(i^*)上で定義されたような組成物(C)を提供する工程と、
(ii^*)工程(i^*)において提供された組成物(C)を加工し、それによってフィルムを提供する工程と、任意選択的に
(iii^*)工程(ii^*)において提供されたフィルムを非溶媒媒体[媒体(NS)]と接触させ、それによって膜(Q)を提供する工程と
を含む。
【0112】
[プロセス(MP-1)]のさらなる変形は、
(i^**)上で定義されたような組成物(C)を提供する工程と、
(ii^**)工程(i^**)において提供された組成物(C)を加工し、それによってフィルムを提供する工程と、任意選択的に
(iii^**)工程(ii^**)において提供されたフィルムを冷却することによって加工し、それによって多孔質膜(Q)を提供する工程と
を含む。
【0113】
工程(ii^**)の下で、フィルムは、典型的には、組成物(C)を均一溶液として維持するのに十分に高い温度で加工される。
【0114】
工程(ii^**)の下で、フィルムは、典型的には、60℃~250℃、好ましくは70℃~220℃、より好ましくは80℃~200℃に含まれる温度で処理される。
【0115】
工程(iii^**)の下で、工程(ii^**)において提供されたフィルムは、典型的には任意の従来技法を用いて、100℃未満、好ましくは60℃未満、より好ましくは40℃未満の温度に冷却することによって処理される。
【0116】
工程(iii^**)の下で、冷却は、典型的には、工程(ii)において提供されたフィルムを液体媒体[媒体(L’)]と接触させることによって実施される。
【0117】
工程(iii^**)の下で、媒体(L’)は、好ましくは水を含み、より好ましくは水からなる。
【0118】
或いは、工程(iii^**)の下で、冷却は、工程(ii^**)において提供されたフィルムを空気と接触させることによって実施される。
【0119】
工程(iii^**)の下で、媒体(L’)か空気かのどちらかが、典型的には、100℃未満、好ましくは60℃未満、より好ましくは40℃未満の温度に維持される。
【0120】
プロセス(MP-1)のさらなる変形は、
(i^***)上で定義されたような組成物(C)を提供する工程と、
(ii^***)工程(i^***)において提供された組成物(C)を加工し、それによってフィルム(F)を提供する工程と、任意選択的に
(iii^***)工程(ii^***)において提供されたフィルム(F)を、気相からの非溶媒媒体[媒体(NS)]の吸収によって処理し、それによって多孔質膜(Q)を提供する工程と
を含む。
【0121】
工程(iii^***)の下で、工程(ii^***)において提供されたフィルム(F)は、好ましくは、水蒸気相から水の吸収によって沈澱させられる。
【0122】
工程(iii^***)の下で、工程(ii^***)において提供されたフィルム(F)は、典型的には10%超、好ましくは50%を超える相対湿度を有する、空気の下で好ましくは沈澱させられる。
【0123】
[プロセス(MP-1)]の変形は、
(i^****)上で定義されたような組成物(C)を提供する工程と、
(ii^****)工程(i^****)において提供された組成物(C)を加工し、それによってフィルム(F)を提供する工程と、任意選択的に
(iii^****)工程(ii^****)において提供されたフィルムを媒体(L)の蒸発によって処理し、それによって多孔質膜(Q)を提供する工程と
を含む。
【0124】
好ましくは、媒体(L)が2種以上の有機溶媒を含む場合、工程(ii^****)は、組成物(C)を加工してフィルムを提供する工程を含み、フィルムは、次いで、最低沸点を有する有機溶媒の沸点よりも上の温度での媒体(L)の蒸発によって工程(iii^****)において沈澱させられる。
【0125】
好ましい実施形態によれば、工程(ii^****)は、組成物(C)を高電圧電場で加工することによって行われる。
【0126】
プロセス(MP-1)は、前に本明細書で記載された変形の1つ以上にあり得る。
【0127】
プロセス(MP-1)によって得られる膜(Q)は、追加の後処理工程、例えば、すすぎ洗い及び/又は延伸及び/又は熱処理(アニーリング)を受け得る。
【0128】
プロセス(MP-1)によって得られる膜(Q)は、典型的には、媒体(L)と混和性の液体媒体を使用してすすぎ洗いされる。
【0129】
プロセス(MP-1)によって得られる膜(Q)は、有利には、その平均多孔率を高めるために延伸され得る。
【0130】
最終の意図される使用に応じて、膜(Q)は、平膜が必要とされる場合、平坦であることができるか、又は管状膜若しくは中空繊維膜が必要とされる場合、形状が管状であることができる。
【0131】
膜(Q)が平坦である場合、その厚さは、有利には約10~約300ミクロン、より好ましくは約25~約150ミクロンである。
【0132】
膜(Q)が管状である場合、その外径は10mm以下であることができる。
【0133】
膜(Q)が0.5mm~3mmに含まれる直径を有する場合、それは、中空繊維膜と言われる。膜(Q)が0.5mm未満の直径を有する場合、それは、毛細管膜と言われる。
【0134】
本発明によるフィルム(F)及び膜(Q)は、幾つかの技術分野において、とりわけに液相及び/若しくは気相の濾過のために、並びに逆浸透のために(薄い選択的な緻密層として)使用することができる。
【0135】
したがって、一態様において、本発明は、1種以上の固体混入物を含む液相及び/又は気相の濾過のための膜(Q)の使用に関する。
【0136】
別の態様において、本発明は、1種以上の固体混入物を含む液相及び/又は気相の濾過方法であって、前記方法が、1種以上の固体混入物を含む前記液相及び/又は気相を本発明の膜(Q)と接触させる工程を含む方法に関する。
【0137】
1種以上の固体混入物を含む液相及び気相は、「サスペンション」とも言われ、すなわち、連続相(又は液体若しくは気体の形態にある、「分散媒体」)中へ分散した少なくとも1種の固体粒子(混入物)を含む不均一混合物である。
【0138】
前記少なくとも1種の固体混入物質は、好ましくは、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)及びシュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)などの細菌、藻類、真菌、原虫及びウイルスからなる群から好ましくは選択される、微生物を含む。
【0139】
膜(Q)は、生物学的溶液(例えば、バイオバーデン、ウイルス、他の大きな分子)及び/又は緩衝溶液(例えば、DMSO若しくは他の極性の非プロトン性溶媒のような少量の溶媒を含有し得る溶液)を濾過するために使用することができる。
【0140】
一実施形態において、2つ以上の多孔質膜(Q)を、液相及び/又は気相の濾過のために直列で使用することができる。有利には、第1濾過工程は、1種以上の固体混入物を含む液相及び/又は気相を、5μm超、より好ましくは5~50μmの平均細孔直径を有する本発明による膜(Q)と接触させることによって行われ、第2濾過工程は、前記第1の濾過工程後に、同じ液相及び/又は気相を0.001~5μmの平均細孔直径を有する膜と接触させることによって行われる。
【0141】
或いは、少なくとも1つの膜(Q)が、本発明による組成物(C)とは異なる組成物から得られる少なくとも1つの多孔質膜と直列で使用される。
【0142】
本発明の特定の及びさらなる実施形態によれば、管状又は中空繊維の形態における、及び0.001~5μmの平均細孔直径を有する膜(Q)は、生物学的流体、すなわち血液を精製するために体外血液回路又は透析フィルター内で使用される。本発明による膜(Q)は抗血栓性であることが実際に観察されており、特に、本発明のコポリマー(P)を含む膜(Q)は、抗血栓効果を有することが観察されている。
【0143】
本明細書で用いるところでは、用語「抗血栓性」は、全血が膜(Q)と接触する場合に血栓症が発生する割合が、全血が、コポリマー(P)を含まない組成物から出発して調製された膜と接触する場合の割合よりも低いことを意味する。血液透析を受ける患者の身体へ及び身体から血液が輸送される場合に、ヘパリンなどの抗凝固剤が、典型的には、凝固又は血栓症を防ぐために添加されることは、例えば米国特許出願公開第2015/0008179号明細書(INTERFACE BIOLOGICS INC.)から、当技術分野において周知である。しかしながら、一方でヘパリンの使用が有利である場合に、それは、アレルギー反応及び出血によって複雑にされ得、加えて、それは、ある特定の薬物を服用している患者において禁忌である。
【0144】
したがって、さらなる態様において、本発明は、体外血液回路における又は透析フィルターにおける構成要素としての、1nm~16nmの平均細孔直径を有する中空繊維の形態における膜(Q)の使用に関する。
【0145】
さらなる態様において、本発明は、腎機能障害を患っている被検者の治療方法であって、本方法が、血液透析、血液濾過、血液濃縮又は血液透析濾過から選択される手順に患者をさらす工程を含み、前記手順が、1nm~16nmの平均細孔直径を有する管状又は中空繊維の形態における少なくとも1つの膜(Q)を含む透析フィルターを使って実施される方法に関する。
【0146】
さらなる態様において、本発明は、全血、血漿、分画血液成分又はそれらの混合物などの、血液製品の精製方法であって、0.001~5μmの平均細孔直径を有し、且つ、上で定義されたような少なくとも1つの層(L)を含む少なくとも1つの中空繊維膜にわたって前記血液製品を透析する工程を含む方法に関する。
【0147】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0148】
本発明は、以下の実験の部に含有される実施例によってより詳細に本明細書で以下に例示されるが、実施例は、例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【実施例
【0149】
原材料
下記は、Sigma-Aldrich,U.S.A.から入手した:
ジメチルアセトアミド(DMAc)、クロロベンゼン(MCB)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ビニルピロリドンモノマー、メタクロイルクロリド、トリブチルアミン、ポリビニルピロリドン(PVP)K 90及びイソプロピルアルコール(IPA)。
【0150】
アミン末端PEESポリマー(KM-177)、VERADEL(登録商標)3000 MPポリエーテルスルホン(PESU)及びUDEL(登録商標)3500 LCD MB3(PSU)は、Solvay Specialty Polymers USA.,LLC.から入手した。
【0151】
方法
GPC-分子量(Mn、Mw)
RALS(直角光散乱)、RI及び粘度検出器からなるTDA302トリプル検出器配列を備えたViscotek GPC Max(自動試料採取器、ポンプ、及び脱ガス器)を使用した。
一連の3つのカラム:ガードカラム(CLM1019-20kDaの排除限界の)、高Mwカラム(ポリスチレンに対して10MMダルトンのCLM1013排除)及び低Mwカラム(CLM1011-PSに対して20kダルトンの排除限界)を通して1.0mL/分で65℃にて0.2重量/重量%のLiBr入りNMP中で試料をランした。
較正は、約100kDaのただ一つの単分散性ポリスチレン標準を使って行った。
光散乱、RI、及び粘度検出器は、標準を使って提供された一連のインプットデータに基づいて較正した。
試料は、NMP/LiBr中の約2mg/mLとして調製した。
データ解析のためにViscotek’s OMNISec v4.6.1ソフトウェアを用いた。
【0152】
熱重量分析(TGA)
TGA実験は、TA Instrument TGA Q500を用いて実施した。TGA測定値は、窒素下で20℃から800℃まで10℃/分の加熱速度で試料を加熱することによって得た。
【0153】
H NMR
H NMRスペクトルは、重水素化溶媒としてTCEを使って400MHz Bruker分光計を用いて測定した。全てのスペクトルは、溶媒中の残存プロトンを基準とする。
【0154】
DSC
DSCを用いてガラス転移温度(「T」)を決定した。
DSC実験は、TA Instrument Q100を用いて実施した。DSC曲線は、20℃/分の加熱及び冷却速度で25℃~320℃間で試料を加熱する、冷却する、再加熱する、及び次いで再冷却することによって記録した。全てのDSC測定値は、窒素パージ下で取った。報告されるT値は、特に明記しない限り2回目の加熱曲線を使用して提供された。
【0155】
接触角
水に対する静的接触角は、ASTMD5725-99に従ってDSA10機器(Kruess GmbH、独国製)を用いることによって25℃で評価した。
測定値は、膜及び緻密フィルムの上側(空気との界面)で取った。値は、少なくとも6つの測定値の平均である。
【0156】
重量多孔率
膜の重量多孔率は、膜の総容積で割った細孔の容積と定義した。
膜多孔率(ε)は、下で詳述される重量法に従って測定した。
完全に乾燥した膜試験片を秤量し、24h、イソプロピルアルコール(IPA)中で含浸させた。この時間後に、過剰の液体をティッシュペーパーで除去し、膜重量を再び測定した。多孔率は、Appendix of Desalination,72(1989)249-262に記載されている手順に従って湿潤流体としてIPA(イソプロピルアルコール)を使用して測定した。
【数1】
(ここで、
「Wet」は、湿潤膜の重量であり、
「Dry」は、乾燥膜の重量であり、
ρpolymerは、PSUの密度(1.30g/cm)であり、
ρliquidは、IPAの密度(0.78g/cm)である。)
【0157】
引張測定
フラットシート多孔質膜に関する機械的特性は、ASTM D 638標準手順(タイプV、グリップ距離=25.4mm、初期長さLo=21.5mm)に従って、室温(23℃)で評価した。速度は、1~50mm/分であった。水中に保管されたフラットシート多孔質膜を容器ボックスから取り出し、直ちに試験した。
【0158】
吸水率
吸水率試験は、緻密な非多孔質フィルムに関してASTM D570(「Standard test method for absorption of plastics」)に従って行った。検体(それぞれ、およそ2×3cm)を、105℃で24h、真空オーブン中で乾燥させ、次いで、デシケータ中で冷却し、0.001gの位まで直ちに秤量した。次いで、それらを、23±1℃の温度に維持される蒸留水の容器中に入れた。48hの浸漬後に、それらを一度に一つずつ水から取り出し、全ての表面水を乾燥クロスで拭い取り、直ちに0.001gの位まで秤量した。引用値は、各ポリマー型について少なくとも6つのアイテムの平均値である。
【0159】
合成
工程(a):メタクロイル化ポリエーテルエーテルスルホンの合成
反応は、オーバーヘッド攪拌機、窒素注入口及びオーバーヘッド蒸留セットアップを備えたガラス反応器(1L)中で行われた。KM-177(600g)を、真空下に110℃で一晩乾燥させ、次いで、反応器に装入した。次に、ジメチルアセトアミド(900g)を添加し、ポリマーを溶解させた。ポリマー溶液にトリブチルアミン(132g)及びクロロベンゼン(300g)を添加した。
【0160】
反応混合物を、クロロベンゼンのほとんどが留去されるように、1℃/分の加熱ランプを用いて室温から170℃まで加熱した。次いで、内温が60℃に達するように加熱を弱くし、メタクロイルクロリドを30分の期間にわたって滴加した。反応を60℃で12時間進行させた。その後、ベンゾイルクロリド(10.11g)を添加し、反応を追加の4時間実施した。
【0161】
反応が完了した後、反応混合物をメタノール(3L)中で凝固させ、熱水で洗浄し、次いで110℃で一晩、真空オーブン中で乾燥させた。
【0162】
キャラクタリゼーション:
GPC:M=21035g/モル、M=10158g/モル、PDI=2.07
TGA:熱分解の開始は、500℃で観察された。
DSC:Tに相当する熱転移は、199℃で観察された。
H NMR(d-TCE溶媒):メタクロイル基の存在は、反応前のポリマーにおいて存在しなかった、メチル基の一重項2.08ppm及びオレフィンプロトンの5.5及び5.8ppmにおける2つの一重項の出現によって確認された。
【0163】
工程(b):メタクロイル化ポリエーテルエーテルスルホンの共重合
反応は、オーバーヘッド攪拌機、窒素注入口及びオーバーヘッド蒸留セットアップを備えたガラス反応器(1L)中で行われた。工程(a)において得られたメタクロイル化ポリエーテルエーテルスルホン(PEES)(150g)を、真空下に110℃で一晩乾燥させ、次いで、反応器に装入した。次いで、ジメチルアセトアミド(1500g)を添加し、ポリマーを溶解させた。ポリマー溶液に、ビニルピロリドン(200.25g)を添加し、室温で30分間Nパージすることによって溶液を脱ガスした。
【0164】
次いでAIBNを反応混合物に添加し、反応温度を2時間60℃に上げ、その後反応温度を24時間75℃に上げた。
【0165】
反応混合物を次いで水中で凝固させ、凝固した材料を300gの沸騰水で1時間洗浄した。いかなる遊離PVPポリマーも洗い流されたことを確実にするために、それぞれ新たな水を使用して、5回これを繰り返した。第5水洗浄後に、ポリマーを100℃で一晩真空下に乾燥させた。
【0166】
キャラクタリゼーション:
光散乱GPC:M=373042g/モル、M=1321000g/モル、PDI=3.54
TGA:TGAは、2つのはっきりと異なる熱分解温度:PVP熱分解を示す379℃での熱分解の開始及びPEES分解を示す520℃での他のものを示した。
DSC:ただ一つのTが207℃で観察された。
H NMR:メタクロイルオレフィンプロトンの完全な消失があり、ポリビニルピロリドンに特有の、脂肪族領域において幅広いピークの存在が見られた。
接触角:キャストされたポリマーのフィルムの接触角は、非改質PEESポリマーと比べてより親水性表面を示す66°で典型的なPEESポリマーよりも低かった。
【0167】
多孔質膜又は緻密フィルム製造のためのコポリマー(P)の溶液の製造のための一般的な手順
選択されたポリマー(PSU若しくはPESU)及び/又は上で記載された工程(b)の終わりに得られるようなコポリマー(P)を磁気撹拌することによりガラス瓶中で混合することによって溶液を調製した。DMAc及び、任意選択的に、細孔形成剤(PVP K90)を添加し、25℃~80℃の温度範囲で30分~6時間の範囲の時間撹拌を行った。
下の表1に提供される組成を有する溶液を調製した。
【0168】
【表1】
【0169】
緻密膜の調製
フラットシートフィルムは、上で開示された手順に従って得られたポリマー溶液を、40℃で自動化キャスティングナイフを用いて好適な滑らかなガラス支持体一面にフィルム化することによって調製した。ナイフ隙間は、500μmに設定した。キャスティング後に、溶媒を、130℃で数時間真空オーブン中で蒸発させた。
【0170】
緻密フィルムを試料No.1、5及び6(*)から出発して調製し、緻密フィルムのそれらの機械的特性を評価した。結果を以下の表2に報告する:
【0171】
【表2】
【0172】
多孔質膜の調製
自動化キャスティングナイフを用いて好適な滑らかなガラス支持体一面に溶液をフィルム化することによってフラットシート多孔質膜を調製した。
【0173】
ポリマーの時期尚早の沈澱を防ぐために、ドープ溶液、キャスティングナイフ及び支持体温度を25℃に保つことによって膜キャスティングを行った。ナイフ隙間は、250μmに設定した。
【0174】
キャスティング後に、相反転を誘発するために、多孔質膜のフィルムを凝固浴に直ちに浸漬した。凝固浴は、純脱イオン水、又は混合物水/DMAc 50/50v/vからなった。凝固後に、膜をその後数日間に純水中で数回洗浄して残留溶媒痕跡を除去した。膜を水中で(湿式)保管した。
【0175】
多孔質膜は、以下の表3に詳述される量でPVP K90を添加した、溶液試料No.1から及び溶液試料No.4から出発して調製した。凝固浴及び膜の特性も、表3に詳述する。
【0176】
【表3】
【0177】
PVPとPESU又はPSUポリマーとの間の共有結合は、以下の表4に示されるように、緻密フィルム及び多孔質膜に関してNMR分析を行うことによって実証された。
【0178】
【表4】
【0179】
血液凝固試験(非活性化部分的トロンボプラスチン時間-uPTTの測定)
非多孔質緻密フィルムと接触した血清の部分的トロンボプラスチン時間(uPTT)を、ISO 10993-4:2017[Hemocompatibility test-Biological evaluation of medical devices-Part 4:Selection of tests for interactions with blood]に従って(二重反復試験で)評価した。試験は、ランダムに選択された及び抗凝固療法で治療されていない患者からの血清を使用して行った。
【0180】
6cm2/mlの表面/体積比に達するために非多孔質緻密フィルムの12cm(6+6cm)検体を2mlの血漿中に浸漬し、動的条件(攪拌機)において37℃±1℃の温度で30分間培養した。
【0181】
血液測定は、試験アイテムと接触しなかった、対照血漿、及び試験アイテムと接触した、試験血漿の両方に関して行った。凝固時間値は、以下の方程式:
D=[(T-C)/T]×100
(ここで:
D=処理血漿と対照との間の差(%)
T=処理血漿、すなわち、アイテムに曝露された血漿のuPTT時間値の平均(秒単位、2回繰り返された)
C=対照血漿のuPTT時間値の平均(秒単位、2回繰り返された))
を用いて陰性対照のパーセントとして計算した。
【0182】
結果を下の表5に報告する。
【0183】
血小板凝集試験
生物学的評価は、全血との試料接触が血小板凝集を誘導するかどうかを評価するための必要なデータを得ることを狙って実施した。
【0184】
試験は、ISO 10993-4:2017に従って遂行した。血液適合性試験は、ランダムに選択された及び抗凝固療法で治療されていない供血者からの血液を使用して行った。
【0185】
6cm2/mlの表面/体積比に達するために12cm2(6+6cm)の試験アイテムを2mlの血液中に浸漬し、動的条件(攪拌機)において37℃±1℃の温度で30分間培養した。
【0186】
対照血液測定は、試験アイテムと接触しなかったリチウムヘパリン血液の部分の残存部分に関して行った。
【0187】
血小板凝集試験は、血小板が互いに付着する能力を評価する。血小板は、活性化剤TRAP-6(トロンビン受容体活性化ペプチド6)によって及び血液中に沈められた2つの電極を通じて活性化される。試験は、血小板が凝集するときに起こる電気インピーダンス変動を測定する。
【0188】
結果は、時間で割った凝集の速度として表され、曲線下の面積(AUC)を測定した(2つの独立した測定を同じ試験管で及び同時に行った)。試験アイテムとの接触が血小板凝集を引き起こす場合、このパラメータの減少が検出される。
【0189】
結果「曲線下の面積」(ACU)は、AU/分(吸光度単位)として表され、同じ試験管で実行された2つの独立した及び同時の測定間の平均である。
【0190】
値は、
D=[(T-C)/T]×100
(ここで:
D=処理検体と対照との間の差(%)
T=処理検体(AUC、試料に曝露された血液)
C=対照AUC(AUC、試料と接触していない対照血液))
として表す。
【0191】
正の値は、凝集の全くの不在(すなわち、検体に曝露されていない対照血液よりも良好)を示す。
【0192】
結果を下の表5に報告する。
【0193】
【表5】
【0194】
上記の結果は、ポリマーPの添加が血液の凝固性向を低下させ、本発明の組成物を血液透析用の膜の調製のための2つの対照試料よりも良好なものにすることを示した。
【国際調査報告】