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特表2022-543042Wntタンパク質活性増進用の培地組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】Wntタンパク質活性増進用の培地組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20220930BHJP
   C07K 14/76 20060101ALN20220930BHJP
   C07K 14/46 20060101ALN20220930BHJP
【FI】
C12N5/07 ZNA
C07K14/76
C07K14/46
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506405
(86)(22)【出願日】2020-08-03
(85)【翻訳文提出日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 KR2020010229
(87)【国際公開番号】W WO2021020953
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】10-2019-0093754
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0054946
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506327586
【氏名又は名称】インダストリー-アカデミック コオペレイション ファウンデーション,ヨンセイ ユニバーシティ
(71)【出願人】
【識別番号】522040609
【氏名又は名称】インターパーク バイオ コンバージェンス コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジヌ
(72)【発明者】
【氏名】キム,チョルフン
(72)【発明者】
【氏名】クォン,スンソン
(72)【発明者】
【氏名】ヨ,ジュヘ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB19
4B065BB32
4B065BD25
4B065BD39
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA70
4H045EA60
(57)【要約】
本発明は、Wntタンパク質の活性増進及びオルガノイド培養のための無血清培地組成物及びこれを用いたオルガノイド培養方法に関する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本培地、Wntタンパク質又はその発現細胞、アファミン(Afamin)又はその発現細胞ならびにアルブミン(albumin)を有効成分として含む細胞、細胞凝集体、組織断片又は臓器類似体の培養用の培地組成物。
【請求項2】
前記Wntタンパク質は、Wnt3aタンパク質であることを特徴とする、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項3】
前記アルブミンは、0.1mg/mL~20mg/mLの濃度で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項4】
前記臓器類似体は、オルガノイドであることを特徴とする、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項5】
前記培地組成物は、無血清培地組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項6】
前記基本培地は、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI 1640、F-10、F-12、DMEM-F12、α-MEM(α-Minimal Essential Medium)、G-MEM(Glasgow’s Minimal Essential Medium)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、MacCoy’s 5A培地、AmnioMax、AminoMaxII complete Medium及びChang’s Medium MesemCult-XF Mediumからなる群より選ばれる一つ以上の物質であることを特徴とする、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項7】
前記培地組成物は、上皮成長因子(EGF)、ノギン(Noggin)、チアゾビビン、CHIR99021及びCHIR99021の薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる一つ以上の物質をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の培地組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項記載の培地組成物を用いて、幹細胞、幹細胞の集団、幹細胞から分化した細胞又は単離した組織断片を培養する段階を含む、オルガノイド収得方法。
【請求項9】
前記培地組成物は、上皮成長因子(EGF)、ノギン(Noggin)、チアゾビビン、CHIR99021及びCHIR99021の薬学的に許容可能な塩からなる群より選ばれる一つ以上の物質をさらに含む、請求項8に記載のオルガノイド収得方法。
【請求項10】
アファミン(Afamin)又はその発現細胞及びアルブミン(albumin)を有効成分として含む、生物学的試料内のWntタンパク質の活性増進用の組成物。
【請求項11】
アファミン(Afamin)又はその発現細胞及びアルブミン(albumin)を有効成分として含む、生物学的試料内のWntタンパク質の安定化用の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Wntタンパク質の活性増進、オルガノイド培養のための培地組成物、及びこれを用いたオルガノイド培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オルガノイド作製技術は、理論的に、ほとんど全ての種類の臓器を幹細胞だけで作製できるので、様々な疾病に利用可能であることが期待されている。オルガノイドは、2次元で作った細胞組織に比べて、新薬の安全性及び効能を試験する上でより効果的であるとともに、毀損している或いは十分に発達していない臓器にオルガノイドを移植し、状態を改善することに活用できるとされている。これにより、近年、再生医学の観点でもオルガノイド関連研究がより活発化している趨勢であり、様々な分野にオルガノイドを広く利用できると見込まれている。
【0003】
一方、オルガノイドの作製において必須因子の一つであるWntタンパク質は、一般に、保存されているSer残基に脂質が共有結合した形態で存在する。Wntタンパク質は、結合している脂質によって強い疎水性(hydrophobic)の性質を帯びて凝集してしまい、純粋なタンパク質を分離して使用することに困難があった。ところが、ウシ胎児血清(Fetal brovine serum,FBS)を入れた培地を利用すると安定したWntタンパク質が得られることが明らかになり、オルガノイド作製においてウシ胎児血清を含むWntタンパク質が利用されてきた。
【0004】
しかしながら、ウシ胎児血清はオルガノイド成長を抑制する物質を含んでいるため、長期間にわたりオルガノイドを培養する場合には、不適であるという問題点が依然としてある。このため、Wntタンパク質の活性を維持しながらも持続した成長を可能にする培地の開発が要求されている。しかも、ウシ胎児血清を含んでいるWnt生産培地からWntを精製すると、動物性不純物の汚染が避けられず、ヒトに使用するWnt治療剤材を作る上で大きな限界となるため、ウシ胎児血清を含まないWnt生産培地の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、基本培地、Wntタンパク質又はその発現細胞、アファミン(Afamin)又はその発現細胞、ならびにアルブミン(albumin)を有効成分として含む、細胞、細胞凝集体、組織断片又は臓器類似体の培養用の培地組成物を提供することである。
【0006】
本発明の他の目的は、前記培地組成物を用いたオルガノイド収得方法を提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、生物学的試料内Wntタンパク質の活性増進用又は安定化用の組成物を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面からより明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の一態様は、基本培地、Wntタンパク質又はその発現細胞、アファミン(Afamin)又はその発現細胞ならびにアルブミン(albumin)を有効成分として含む、細胞、細胞凝集体、組織断片又は臓器類似体の培養用の培地組成物に関する。
【0010】
本発明において、「培地(culture media)」とは、細胞成長及び生存を支持可能にする培地を意味し、細胞の培養に適切なものとして用いられる如何なる通常の培地も含む。
【0011】
本発明の具体的な具現例によれば、本発明の培養培地は、無血清培地であってよい。
【0012】
本発明において、「無血清培地」とは、血清が含まれていない或いは血清が培養環境内における血清の生物学的及び生理学的な機能を発揮できる有効量未満で含まれている培地のことを指す。血清は、FBS(fetal bovine serum)、FCS(fetal calf serum)、透析ウシ胎血清(dialyzed fetal bovine serum)、ウシ新生仔血清(newborn calf serum,NCS)などの通常の細胞培養に含まれる血清(serum)のことを総称する。血清は、広範囲な高分子タンパク質、低分子栄養分、不溶性物質に対する運搬体、ホルモンなどを含んでおり、通常、基本培地に添加される場合が多いが、本発明における培地組成物は、血清を含まない或いは有効量未満でしか含まないにもかかわらず、オルガノイドなどの培養に必須のWntタンパク質を活性形態で維持することができる。
【0013】
本発明において、「Wntタンパク質」は、多くの細胞類型において増殖及び分化間のバランスに影響を及ぼし、骨の形成、免疫の調節、癌、幹細胞の再生などに関係するシステインが豊富に分泌されるポリペプチド系のタンパク質である。特に、動物細胞において組織と臓器の形成を調整すること場合に、Wntタンパク質依存的Wnt信号伝達経路が重要である。
【0014】
前記Wntタンパク質は、オルガノイド作製に必須な成長因子の一つであり、Wnt1、Wnt2、Wnt2B、Wnt3、Wnt3A、Wnt4、Wnt5A、Wnt5B、Wnt6、Wnt7A、Wnt7B、Wnt8A、Wnt8B、Wnt9A、Wnt9B、Wnt10A、Wnt10B、Wnt11及びWnt16を含む。具体的に、前記Wntタンパク質は、Wnt3aタンパク質であってよい。
【0015】
本発明において、「アファミン(Afamin)」は、体液中の疏水性分子の運搬体として働く糖タンパク質であり、Wnt1、Wnt2B、Wnt3、Wnt3A、Wnt5A、Wnt7A、Wnt7B、Wnt8、Wnt9A、Wnt9B、Wnt10A及び/又はWnt10Bを含む脂質化されたWntファミリーの活性及び溶解に必須のタンパク質である。その他にも、ビタミンEと結合して、脂質タンパク質システムが十分でない条件でビタミンEを運搬する、或いは血液-脳障壁(Blood-brain barrier,BBB)を横切ってビタミンEを運搬することに関与できる。
【0016】
アファミンを暗号化する遺伝子、AFM遺伝子は、ヒトアファミン(例えば、NCBI Accession No.NP_001124)又はマウスアファミン(NP_660128)を暗号化する遺伝子、例えば、NCBI Accession No.NM_001133、NM_145146と表現される遺伝子であってよいが、これに制限されるものではない。
【0017】
本発明によれば、本発明者は、培養液中のWntタンパク質の安定性及び活性の維持に、アルブミン及びアファミンの組合せが核心的な役割を担うという事実を初めて究明した。本発明の培地において、Wntタンパク質とアファミンは、ペプチドの形態で培地に添加されてもよく、Wntタンパク質及び/又はアファミンタンパク質を発現させる細胞を共培養することによって供給されてもよい。
【0018】
本明細書において、「Wntタンパク質(アファミン)を発現させる細胞」は、Wntタンパク質(アファミン)を内在的(endogenously)に発現させる細胞、及び遺伝子伝達体を通じて各タンパク質のコーディング核酸分子が導入された形質導入(transfection)細胞を全て包括する。
【0019】
本明細書において、「核酸分子」という用語は、一本鎖又は二本鎖の形態で存在するデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドであり、別に断りのない限り、自然のヌクレオチドの類似体を含む(Scheit,Nucleotide Analogs,John Wiley,New York(1980);Uhlman and Peyman,Chemical Reviews,90:543-584(1990))。
【0020】
本明細書において、「遺伝子伝達体」という用語は、所望のターゲット遺伝子を対象細胞に導入して発現させるための媒介体を意味する。理想的な遺伝子伝達体は、人体に無害であり、大量生産が容易であり、効率的に遺伝子を伝達可能である必要がある。
【0021】
本明細書において、「遺伝子伝達」という用語は、遺伝子が細胞内に運搬されることを意味し、遺伝子の細胞内取り込み(transduction)と同じ意味を有する。細胞及び組織のレベルにおいて、遺伝子伝達は、遺伝子の拡散(spread)と同じ意味を有する。したがって、本発明の遺伝子伝達体は、遺伝子取り込みシステム及び遺伝子拡散システムと記載されてよい。
【0022】
Wntタンパク質とアファミンがその発現細胞を用いた組換え的形態で供給される場合に、2種のタンパク質がそれぞれの異なる宿主細胞を通じて発現してもよく、一つの宿主細胞で共発現(co-expression)してもよい。
【0023】
本発明において、「アルブミン(albumin)」は、血清、血漿などに含まれているタンパク質であり、全血清タンパク質の約55~60%を占める。アルブミンは、水分を引き込む働きをし、血液中の水分含有量を保つものとして知られている。現在、広く使用されている血清にはFBS、FCSなどがあるが、ヒト狂牛病の発病原因として報告されたことがあり、安全性が指摘されている。特に、オルガノイド培養において血清を用いる場合には、アルブミン以外の成分及び不純物によってオルガノイドの成長が抑制されるので、オルガノイドの長期培養が不可能である問題がある。そのため、血清を含まないながらもオルガノイド培養に必要なWntタンパク質の活性を導き出し得る技術の開発が要求されている。
【0024】
本発明の具体的な具現例によれば、本発明で使用されるアルブミンは、血清アルブミン(serum albumin)である。
【0025】
具体的に、前記アルブミンは、0.1mg/mL~20mg/mLの濃度で含まれることが好ましい。より好ましい具体例では、前記アルブミンは、0.3mg/mL~20mg/mLの濃度で含まれ、最も好ましい具体例では、5mg/mL~20mg/mLの濃度で含まれる。
【0026】
本発明の一の実施例では、Wnt3が含まれている条件培地、Wnt3a及びアファミンが含まれている条件培地においてアルブミンの添加量が増加するほど濃度依存的にWntタンパク質の活性が増加することを確認した(図1及び図2)。また、ウシ血清アルブミンだけでなく、ヒトアルブミンを含む場合にも、濃度依存的にWntタンパク質の活性が増加した(図3)。
【0027】
これは、オルガノイドの長期培養に障害となるFBSなどの血清を含まなくとも、本発明の組成物を用いてオルガノイド培養に必要なWntタンパク質の活性を示し得るということが示唆される。
【0028】
これにより、前記本発明の培地組成物は、Wntタンパク質の活性増進のためのものであってもよい。
【0029】
また、具体的に、本発明の培地組成物は、血清を含まない場合にも、オルガノイド培養に必要なWntタンパク質の活性を示すことを確認したところ、本発明の培地組成物はオルガノイド培養のためのものであってもよい。
【0030】
本発明において、「オルガノイド」とは、幹細胞又は臓器起原細胞から分離した細胞を再び培養して凝集、組み換えすることによって作られた細胞集合体を意味し、サスペンション細胞培養物から形成されたオルガノイド又は細胞クラスターを含むことができる。例えば、胃オルガノイド、小腸オルガノイド、結腸オルガノイド、肝オルガノイド、甲状腺オルガノイド、肺オルガノイド、又は脳オルガノイドであってよく、組織部位によって個別に適用されてよい。
【0031】
本発明において、「オルガノイド収得」は、オルガノイドを生成又は維持させることができるあらゆる行為を含む。例えば、オルガノイドを生存、成長又は増殖させることであってよく、幹細胞又は特定の組織から分離された細胞を特定機能を有する組織や器官細胞に分化させることであってよい。
【0032】
また、具体的に、本発明において、「基本培地」は、動物細胞の培養に通常使用される公知の培地であり、DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、MEM(Minimal Essential Medium)、BME(Basal Medium Eagle)、RPMI 1640、F-10、F-12、DMEM-F12、α-MEM(α-Minimal Essential Medium)、G-MEM(Glasgow’s Minimal Essential Medium)、IMDM(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、MacCoy’s 5A培地、AmnioMax、AminoMaxII complete Medium及びChang’s Medium MesemCult-XF Mediumからなる群から選ばれる一つ以上であるが、これに制限されるものではない。また、必要によって、ペニシリン-ストレプトマイシンのような抗生剤、又は補充剤などがさらに添加されたものでよい。
【0033】
また、具体的に、前記培地組成物は、上皮成長因子(EGF)、ノギン(Noggin)、チアゾビビン、CHIR99021及びCHIR99021の薬学的に許容可能な塩からなる群から選ばれる一つ以上をさらに含むことができ、これに制限されるものではない。
【0034】
前記CHIR99021は、下記の化1の化合物であって、6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリル(CAS番号252917-06-9)のことを指す。
【0035】
【化1】
【0036】
本発明の他の側面は、前記本発明の培地組成物において、幹細胞、幹細胞の集団、幹細胞から分化した細胞又は単離した組織断片を培養する段階を含む、オルガノイド収得方法に関する。
【0037】
例えば、多分化性幹細胞、成体幹細胞を培養及び分化させてオルガノイドを培養できる。このとき、前記多分化性幹細胞は、胚幹細胞又は逆分化幹細胞であってよい。
【0038】
前記オルガノイド培養に用いられる培地組成物は、上皮成長因子(EGF)、ノギン(Noggin)、チアゾビビン、CHIR99021及びCHIR99021の薬学的に許容可能な塩からなる群から選ばれる一つ以上をさらに含むことができ、これに制限されるものではない。
【0039】
本発明のさらに他の態様によれば、本発明は、アファミン(Afamin)又はその発現細胞、及びアルブミン(albumin)を有効成分として含む生物学的試料内のWntタンパク質の活性増進用の組成物を提供する。
【0040】
本発明で用いられるアファミン及びアルブミンについては既に詳述しており、過度な重複を避けるためにその記載を省略する。
【0041】
本発明において、「生物学的試料」という用語は、ヒトを含む哺乳動物から得られる、Wntタンパク質又はこれを発現させる細胞を含むあらゆる試料であり、組織、器官、器官類似体、細胞又はこれらの培養液を含むが、これに制限されない。
【0042】
本発明において、「Wntタンパク質の活性増進」は、対照群に比べてWntタンパク質の量又は生体内の固有の機能が測定可能な程度に有意に増加することを意味する。活性(activity)の増加は、単純な機能(function)の増加の他、安定性(stability)の増加による究極的な活性増加も含む。後述する実施例に見られるように、アファミンとアルブミンを含む本発明の組成物は、Wntタンパク質の試料内の量だけでなく、その活性を維持及び増加させ、Wntタンパク質を活性型の可溶性形態(soluble form)に維持することにより、凝集(aggregation)を遮断し、構造的安定性を増加させる。そこで、本発明の「活性増進用の組成物」という用語は、「安定性増進用の組成物」又は「安定化用の組成物」と表現されてもよい。
【発明の効果】
【0043】
本発明の培地組成物は、Wntタンパク質の活性を血清無しにも顕著に増加できるので、長期間にわたるオルガノイド培養のために用いれる。
【0044】
本発明の効果は、上記の効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明又は特許請求の範囲に記載された発明の構成から推論可能ないかなる効果も含むと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】Wnt3aが含まれている条件培地でのウシ血清アルブミン(BSA)濃度によるWntタンパク質の活性を測定した結果である。
図2】Wnt3a及びアファミンが含まれている条件培地でのウシ血清アルブミン(BSA)濃度によるWntタンパク質の活性を測定した結果である。
図3A】Wnt3aが含まれている条件培地におけるヒトアルブミン(rhALB)濃度によるWntタンパク質の活性を測定した結果を示すグラフである。
図3B】Wnt3a及びアファミンが含まれている条件培地におけるヒトアルブミン(rhALB)濃度によるWntタンパク質の活性を測定した結果を示すグラフである。
図4A】アファミン及びWnt3aを発現させる細胞(L3a-Afa)を5mg/mLの濃度のウシ血清アルブミン(BSA)(-)及び(+)条件で5日間培養した後、生成された条件培地の安定度を示す結果であり、生成された培地を37℃で0、24又は48時間培養した後に測定したWnt3aタンパク質の量を示すウェスタンブロット結果である。
図4B】Wnt3aのみを発現させる細胞(L3a)に、10%のウシ胎児血清(FBS)を入れて5日間培養した後、生成された培地の安定度を示す結果であり、生成された培地を37℃で0、24又は48時間培養した後に、Wnt3aタンパク質の量をウェスタンブロットで測定した結果(左側、右側の黒い線)及びWntタンパク質の時間別活性変化(右側の赤い線)をそれぞれ示す図である。
図4C】アファミン及びWnt3aを発現させる細胞(L3a-Afa)を5mg/mLの濃度のウシ血清アルブミン(BSA)(-)及び(+)条件で5日間培養した後、生成された条件培地の安定度を示す結果であり、生成された培地を37℃で0、2又は48時間培養した後に測定したWntタンパク質の時間別活性変化を示す結果である。
図4D】L3a-Afa細胞をBSA(-)及び(+)条件で5日間培養して生成した条件培地を、スクロース勾配遠心分離をして総13個の分画を得た後、それぞれの分画におけるWnt3aタンパク質の量をウェスタンブロットで測定した結果である。
図5】L3a-Afa細胞をBSA(-)及び(+)条件で5日間培養して生産した条件培地を用いてヒト大腸オルガノイドを培養することによってオルガノイド形成効率を測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本発明を例示するものに過ぎず、本発明が下記実施例によって限定されるものではない。
【0047】
実施例1.ヒトアファミン(Human Afamin,hAfamin)発現細胞の作製のためのプラスミド構築。
hAfaminを発現させる細胞を作製するためのプラスミドが構築された。
【0048】
まず、pLVX-EF1a-IRES-Puro(Clontech)のビューロマイシンアセチルトランスフェラーゼ(puromycin acetyltransferase)遺伝子をブラスチシジン-Sデアミナーゼ(Blasticidin S deaminase)遺伝子に取り替えてpLVX-EIBlaが作製された。その後、ヒトアファミンコーディングシーケンス(human Afamine CDS)がPCRされ、プラスミドに挿入された。
【0049】
pCR-BluntII-TOPO-Afamin(MHS6278-211689548,Dharmacon)を鋳型、配列2、3をプライマーとし、pfu DNAポリメラーゼ(Solgent)で増幅した。準備したPCR機械にサンプルを入れ、70℃静止(Pause)、95℃・2分後に、95℃・20秒、50℃・20秒、68℃・2分の条件で5回サイクル(cycle)、及び95℃・20秒、60℃・20秒、68℃・2分の条件で20回サイクルを反復後に、68℃・3分、4℃静止の条件でPCRを行った。PCRが行われる間に1%アガロースゲル(agarose gel)を準備し、反応の終わったサンプルを1%アガロースゲルにかけてサイズを分離し、ゲル抽出(gel extraction)過程によってhAfaminを収得した。hAfamin切片はXba1制限酵素で切断するとともに、その後、pLVXEIBlaプラスミドのXba1制限酵素サイトに挿入してpLVX-EIBla-hAfaminプラスミドが作製された。
【0050】
hAfaminポリヌクレオチドは配列番号1で示す。また、PCRに使用したプライマー対は下記の表1に記載の通りである。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例2.hAfamin発現細胞の作製のためのレンチウイルス作製。
HEK293T細胞を6ウェル(well)プレートに4×10cells/wellの濃度でプレーティングし、24時間後にpLVX-EIBla-hAfamin:pxPAX2(addgene 12260):pMD2.G(addgene 12259)=4:3:1の比率で総2μg のDNAを形質転換させた。翌日、培地を取れ替えた後、48時間培養した培地を収集した。レンチウイルスが含まれているこの培地を、0.45μmフィルターに通過させた後、4℃で保管した。
【0053】
実施例3.アファミン発現細胞(L-Wnt3a-Afamin,L3a-Afa)作製。
L-Wnt3a(以下、L3a)細胞は、Dr.Hans Clevers(ユトレヒト研究所、オランダ)から入手したものである。前記L3a細胞は、Wnt3aが発現するように作製された細胞である。24ウェル(well)プレートに30%コンフルエンシー(confluency)となるようにL3a細胞を培養した後、新鮮培地(fresh medium)200μL及びpLVX-EIBla-hAfaminウイルス200μLを混ぜて感染させた。12時間感染させた後に培地を取り替え、72時間経過後に、60mm皿(dish)に移しながらブラスチシジン(blasticidin)10ug/mLを処理し、1週間選別することで、アファミン発現細胞(L3a-Afa)が得られた。
【0054】
実施例4.ヒトアルブミン(human albumin)の準備。
ヒトアルブミン(human albumin)は、Sigmaから購入したものである(Catalog Number A9731)。
【0055】
実施例5.条件培地(Conditioned media)の製造。
L3a細胞培養によるWnt3aが含まれている条件培地、及びL3a-Afa細胞培養によるWnt3a及びアファミンが含まれている条件培地がそれぞれ収得された。各条件培地にはウシ血清アルブミン又はヒトアルブミンが異なる濃度で添加された。
【0056】
5-1.ウシ血清アルブミン(Bovine serum albumin,BSA)が含まれた条件培地の製造。
L3a細胞及びL3a-Afa細胞のそれぞれが100mm皿(dish)で90%に達するまで培養される。L3a細胞及びL3a-Afa細胞のそれぞれが12mL PBSで2回洗浄された後、ウシ血清アルブミン(Bovine serum albumin,BSA)を0、0.3、1、2、5、10及び20mg/mLでそれぞれ添加したDMEM/F12培地、及び10% FBSを含んでいるDMEMにそれぞれ取り替えられた。その後、5日間培養した条件培地が取り込まれ、1,000rpmで3分間遠心分離して細胞を除去した後、0.45μmフィルターで濾過された。
【0057】
5-2.ヒトアルブミン(human albumin)が含まれた条件培地の製造。
ウシ血清アルブミンに含まれた不純物がWntタンパク質活性に影響を与える点を考慮して、前記実施例4で作製したヒトアルブミンを用いた条件培地を製造した。具体的に、L3a細胞及びL3a-Afa細胞のそれぞれが100mm皿(dish)で90%に達するまで培養された。12mL PBSで2回洗浄した後、ヒトアルブミンが0、5mg/mLで添加したDMEM/F12培地に取り替えられた。その後、5日間培養した条件培地(conditioned medium)が取り込まれ、1,000rpmで3分間遠心分離して細胞を除去した後、0.45μmフィルターで濾過された。
【0058】
実験例1.Wntタンパク質活性確認。
1-1.ウシ血清アルブミン含有条件培地の適用時のWntタンパク質活性の確認。
前記実施例5-1で製造した条件培地での培養時のWntタンパク質の活性を測定した。具体的に、293-STF(ATCC)細胞を用いたレポーターアッセイ(reporter assay)が実施された。0.05%ポリ-L-リジン(poly-L-lysine)でコーティングした96ウェル(well)プレートに、293-STF細胞が70%コンフルエンシー(confluency)となるようにプレーティングされ、翌日、新鮮培地(fresh medium)100μLに培地を取り替えた後、条件培地50μLが添加された。10~14時間経過後に、通常のルシフェラーゼアッセイ(luciferase assay)が行われた。測定したWntタンパク質の活性は、FBS(fetal bovine serum)を入れた時の活性に対する%で示した。
【0059】
その結果、Wnt3が含まれている条件培地を加えた場合に、ウシ血清アルブミンの添加量が増加するほどWntタンパク質の活性が増加することを確認した。特に、ウシ血清アルブミンを5mg/mL以上添加した場合に、ウシ血清アルブミン無添加(0mg/mL)の条件培地を加えた場合に比べて、Wntタンパク質の活性が顕著に増加していることが確認された(図1)。
【0060】
また、Wnt3a及びアファミンが含まれている条件培地を加えた場合に、Wnt3のみ含まれている条件培地に比べてWntタンパク質の活性が顕著に増加することが確認された。特に、ウシ血清アルブミンも追加された場合に、FBSが加えられたレベルまでWntタンパク質の活性が増加した(図2)。このことから、オルガノイドの長期培養に障害となるFBSなどの血清を含まなくても、本発明の組成物を用いてオルガノイド培養に必要なWntタンパク質の活性を示し得ることが確認された。
【0061】
1-2.ヒトアルブミン含有条件培地の適用時のWntタンパク質活性の確認。
前記実施例5-2で製造した条件培地での培養時のWntタンパク質の活性が測定された。測定方法は、上記の実験例1-1の方法と同一である。
【0062】
その結果、ウシ血清アルブミンを添加した時と類似に、ヒトアルブミンを添加した培地においてWnt3aタンパク質活性が増加することが確認された。さらに、アファミン及びヒトアルブミンの両方を5mg/mL含む培地において、アファミンを含まない培地に比べて、Wnt3aタンパク質活性がより増加している効果が示された(図3)。
【0063】
この結果は、ウシ血清アルブミンの他にヒトアルブミンも用いることができ、ウシ血清アルブミンの不純物による影響まで排除させることにより、Wntタンパク質活性をさらに増大させることができることを示唆する。
【0064】
実験例2.培地組成によるWntタンパク質の量及び活性の測定。
L3a-Afa細胞をBSA(-)及び(+)条件で5日間培養することにより、Wnt3a及びアファミンが蓄積された条件培地が作製された。該作製されたWnt3a及びアファミン蓄積条件培地を37℃で0、24又は48時間培養後に、Wnt3aタンパク質の量が、ヒト或いはネズミの抗Wnt3a又は抗Wnt3抗体を用いたウェスタンブロットで測定され(図4A、左側)、時間別Wnt3aタンパク質の量の変化がグラフで図式化された(図4A、右側)。その結果、BSA(+)培地ではWnt3aの量が維持されるのに対し、BSA(-)培地では、培養48時間目にWnt3aの量が50%未満と減少することが確認された。このことから、培地内にアファミンが存在しても、アルブミンが共に存在する場合に限ってWntタンパク質の量が維持されることが明らかになった(図4A)。
【0065】
また、同一の条件培地を用いて37℃で0、24、又は48時間培養をした後、時間別のWntタンパク質活性変化が、TOPflashアッセイを行うことで測定された(図4C)。要するに、Wnt信号伝達に反応するルシフェラーゼ発現細胞であるHEK 293 STFが、5×10/mLで96ウェルプレートにシードされ、24時間培養した後、前記作製した条件培地に入れた。その後、12~24時間後にルシフェラーゼアッセイを用いてWnt活性が測定された。その結果、BSA(+)培地では48時間目にもWnt3aの活性が約70%レベルに維持されるのに対し、BSA(-)培地では培養の大部分の活性が消失することが確認された。このことから、Wntタンパク質の量の他に活性においても、アファミンとアルブミンの組合せが必須であることが明らかになった(図4C)。
【0066】
なお、Wntタンパク質の形態を調べるために、L3a-Afa細胞をBSA(-)及び(+)条件で5日間培養して作製された条件培地を、スクロース勾配遠心分離をした後、各分画物に対するウェスタンブロット分析が行われた。図4Dに見られるように、アルブミンの欠乏した試料ではWntタンパク質が凝集して不活性化するのに対し(分画13)、アルブミンの存在する試料は、可溶性の機能的形態(functional form)が維持されることを観察し(分画2~6)、Wntタンパク質の活性形態の維持においてもアファミンとアルブミンの組合せが重要であることが明らかになった。
【0067】
実験例3.培地組成によるWntタンパク質のヒトオルガノイド形成効率の測定。
L3a-Afa細胞をBSA(-)及び(+)条件で5日間培養することによって作製された条件培地を用いてヒト大腸オルガノイドが培養された。ヒト大腸オルガノイドは、条件培地の他にN-アセチルシステイン(1mM)、B-27補充剤(2%)、R-スポンジン-1条件培地(10%)、EGF(50ng/ml)、ノギン(100ng/ml)、ニコチンアミド(10mM)、TGFβ抑制剤(A83-01,500nM)、p38抑制剤(10uM)を含めた。大腸の成体幹細胞がマトリゲルドーム(matrigel dome)内に入れられ、そこに前記培地を添加してオルガノイドが培養された。大腸オルガノイドは、10日に1回ずつ継代培養(passage)し、継代培養の度に細胞数を数えることにより、アオルガノイド形成及び成長効率が測定された。その結果、BSA(+)培地では、継代を繰り返しながらオルガノイド形成が続けて維持されるのに対し、BSA(-)培地では、早期に成長が中止することが観察された。このことから、アファミンとアルブミンの組合せによってWntタンパク質の活性が維持される場合に限ってオルガノイドが効率的に形成されることが明らかになった(図5)。
【0068】
前述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態に容易に変形可能であるということが理解できよう。したがって、以上で記述した実施例は、いずれの面においても例示的であり、限定的でないものとして理解しなければならない。例えば、単一型として説明されている各構成要素は、分散して実施されてもよく、同様に、分散しているものとして説明されている構成要素も、結合した形態で実施されてもよい。
【0069】
本発明の範囲は、後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲そしてその均等概念から導出されるあらゆる変更又は変形された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されるべきである。
【配列表フリーテキスト】
【0070】
配列番号1は、hAfaminを示す。
配列番号2は、XbaI-hAfamin U1を示す。
配列番号3は、hAfamin -XbaI L1を示す。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
【配列表】
2022543042000001.app
【国際調査報告】