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特表2022-543044ガラス物品を強化するための塩浴組成物、ガラス物品を強化するためにその塩浴組成物を使用する方法、およびそれにより強化されたガラス物品
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  • 特表-ガラス物品を強化するための塩浴組成物、ガラス物品を強化するためにその塩浴組成物を使用する方法、およびそれにより強化されたガラス物品 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】ガラス物品を強化するための塩浴組成物、ガラス物品を強化するためにその塩浴組成物を使用する方法、およびそれにより強化されたガラス物品
(51)【国際特許分類】
   C03C 21/00 20060101AFI20220930BHJP
【FI】
C03C21/00 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506416
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(85)【翻訳文提出日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 US2020040983
(87)【国際公開番号】W WO2021021393
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】62/880,969
(32)【優先日】2019-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス-モウアー,シニュー
(72)【発明者】
【氏名】ジン,ユィホイ
(72)【発明者】
【氏名】リー,アイザァ
(72)【発明者】
【氏名】マーフィー,ケリー アン
(72)【発明者】
【氏名】トゥルースデール,カールトン モーリス
【テーマコード(参考)】
4G059
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AA04
4G059AA08
4G059AC16
4G059AC18
4G059HB03
4G059HB13
4G059HB14
4G059HB16
4G059HB23
(57)【要約】
前記方法は、第1のアルカリ金属陽イオンを有するアルカリ含有ガラス物品を、0.1質量%から3質量%のナノ粒子および第1のアルカリ金属陽イオンの原子半径より大きい原子半径を有する第2のアルカリ金属陽イオンを有する少なくとも1種類のアルカリ金属塩を含む溶融塩浴に接触させる工程を有してなる。ナノ粒子は、半金属酸化物ナノ粒子および金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一方を含むことがある。この方法は、ガラス物品の溶融塩浴との接触を維持して、第1のアルカリ金属陽イオンを、溶融塩浴の第2のアルカリ金属陽イオンと交換させる工程も含む。さらに、この方法は、溶融塩浴との接触状態からガラス物品を取り出して、強化されたガラス物品を製造する工程を含むことがある。その強化されたガラス物品の表面加水分解抵抗滴定体積は、1.5mL未満であることがある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のアルカリ金属陽イオンを含むアルカリ含有ガラス物品を強化する方法において、
前記ガラス物品の少なくとも一部を、0.1質量%から3質量%のナノ粒子と、第2のアルカリ金属陽イオンを含む少なくとも1種類のアルカリ金属塩とを含む溶融塩浴に接触させる工程であって、該ナノ粒子は、半金属酸化物ナノ粒子および金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一方を含み、該第2のアルカリ金属陽イオンの原子半径は、前記第1のアルカリ金属陽イオンの原子半径より大きい工程、
前記ガラス物品の前記少なくとも一部の前記溶融塩浴との接触を維持して、該ガラス物品中の前記第1のアルカリ金属陽イオンを、該溶融塩浴の前記第2のアルカリ金属陽イオンと交換させる工程、および
前記溶融塩浴との接触状態から前記ガラス物品の前記少なくとも一部を取り出して、強化されたガラス物品を製造する工程であって、該強化されたガラス物品の表面加水分解抵抗滴定体積は、1.5mL未満である工程、
を有してなる方法。
【請求項2】
前記溶融塩浴が、NaNOおよびKNOの少なくとも一方を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ナノ粒子が、SiO、Al、TiO、BeO、またはSiO、Al、TiOおよびBeOの内の2つ以上の組合せを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記金属酸化物ナノ粒子が、300m/gから600m/gの平均表面積を有する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記ナノ粒子が、1nmから25nmの平均粒径を有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記溶融塩浴のpHが6から8である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記ガラス物品がガラス製医薬品包装である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記ガラス物品がガラス製バイアル瓶である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記塩浴の温度が350℃から500℃である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記強化されたガラス物品を洗浄して、前記金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一部を除去する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
第1のアルカリ金属陽イオンを含むアルカリ含有ガラス物品を強化するための塩浴系において、
0.1質量%から3質量%のナノ粒子と、第2のアルカリ金属陽イオンを含む少なくとも1種類のアルカリ金属塩とを含む塩浴であって、該ナノ粒子は、半金属酸化物ナノ粒子および金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一方を含み、該第2のアルカリ金属陽イオンの原子半径は、前記第1のアルカリ金属陽イオンの原子半径より大きい、塩浴、
を含み、
前記少なくとも1種類のアルカリ金属塩は、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ金属酸化物、またはアルカリ水酸化物の少なくとも1つに分解することができ、
前記ナノ粒子は、前記ガラス物品の表面と相互作用しない生成物を形成するために、前記アルカリ金属亜硝酸塩、前記アルカリ金属酸化物、または前記アルカリ水酸化物の前記少なくとも1つと能動的に反応することができる、
塩浴系。
【請求項12】
前記アルカリ金属塩が、NaNO、KNO、RbNO、CsNO、またはそれらの任意の組合せを含む、請求項11記載の系。
【請求項13】
前記ナノ粒子が、SiO、Al、TiO、BeO、またはそれらの任意の組合せを含む、請求項12記載の系。
【請求項14】
前記アルカリ金属陽イオンがKNOを構成し、前記少なくとも1種類の金属酸化物ナノ粒子がSiOを含む、請求項13記載の系。
【請求項15】
KNOの少なくとも一部が、KNO、KO、またはKOHの少なくとも1つに分解する、請求項14記載の系。
【請求項16】
SiOの少なくとも一部が、KNO、KO、またはKOHの前記少なくとも1つと反応して、KSiOを形成する、請求項15記載の系。
【請求項17】
前記ナノ粒子が、300m/gから600m/gの平均表面積を有する、請求項11記載の系。
【請求項18】
前記ナノ粒子が、1nmから25nmの平均粒径を有する、請求項11記載の系。
【請求項19】
前記ナノ粒子が、少なくとも90質量%の、金属酸化物ナノ粒子および半金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一方を含む、請求項11記載の系。
【請求項20】
前記塩浴のpHが6から8である、請求項11記載の系。
【請求項21】
前記塩浴の温度が350℃から500℃である、請求項11記載の系。
【請求項22】
前記塩浴が、少なくとも1種類のアルカリ土類金属陽イオンをさらに含み、前記ナノ粒子が、前記ガラス物品の表面上に堆積しない生成物を形成するために、該少なくとも1種類のアルカリ土類金属陽イオンと能動的に反応できる、請求項11記載の系。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、ここに全て引用される、2019年7月31日に出願された米国仮特許出願第62/880969号の米国法典第35編第120条の下での優先権の恩恵を主張するものである。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、広く、ガラス物品を化学的に強化する方法に関し、より詳しくは、そのような強化中に使用するための塩浴組成物およびそれにより強化されたガラス物品に関する。
【背景技術】
【0003】
調質または強化されたガラスが、様々な用途に使用されることがある。例えば、強化ガラスは、物理的耐久性および耐破損性のために、スマートフォンやタブレットなどの消費者向け電子機器に使用されることがある。強化ガラスは、医薬品包装にも使用されることがある。そのような用途において、物理的耐久性に加え、ガラスの化学的耐久性が、医薬品包装の内容物の汚染を防ぐために重要である。しかしながら、従来のイオン交換過程などの従来の強化過程は、ガラスの化学的耐久性を低下させることがある。これは、少なくとも一部には、イオン交換に利用される溶融塩浴の劣化および/または分解により生じるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、ガラス物品を強化するための代わりの塩浴組成物が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の態様によれば、第1のアルカリ金属陽イオンを含むアルカリ含有ガラス物品を強化する方法は、そのガラス物品の少なくとも一部を、0.1質量%から3質量%のナノ粒子と、第2のアルカリ金属陽イオンを含む少なくとも1種類のアルカリ金属塩とを含む溶融塩浴に接触させる工程を有してなる。ナノ粒子は、半金属酸化物ナノ粒子および金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一方を含む。第2のアルカリ金属陽イオンの原子半径は、第1のアルカリ金属陽イオンの原子半径より大きい。この方法は、ガラス物品の少なくとも一部の溶融塩浴との接触を維持して、このガラス物品中の第1のアルカリ金属陽イオンを、溶融塩浴の第2のアルカリ金属陽イオンと交換させる工程をさらに含む。この方法は、溶融塩浴との接触状態からガラス物品の少なくとも一部を取り出して、強化されたガラス物品を製造する工程も含む。その強化されたガラス物品の表面加水分解抵抗滴定体積は、1.5mL未満である。
【0006】
第2の態様は、溶融塩浴が、NaNOおよびKNOの少なくとも一方を含む、第1の態様の方法を含む。
【0007】
第3の態様は、ナノ粒子が、SiO、Al、TiO、BeO、またはSiO、Al、TiOおよびBeOの内の2つ以上の組合せを含む、第1または第2の態様のいずれかの方法を含む。
【0008】
第4の態様は、金属酸化物ナノ粒子が、300m/gから600m/gの平均表面積を有する、第1から第3の態様のいずれかの方法を含む。
【0009】
第5の態様は、ナノ粒子が、1nmから25nmの平均粒径を有する、第1から第4の態様のいずれかの方法を含む。
【0010】
第6の態様は、溶融塩浴のpHが6から8である、第1から第5の態様のいずれかの方法を含む。
【0011】
第7の態様は、ガラス物品がガラス製医薬品包装である、第1から第6の態様のいずれかの方法を含む。
【0012】
第8の態様は、ガラス物品がガラス製バイアル瓶である、第1から第7の態様のいずれかの方法を含む。
【0013】
第9の態様は、塩浴の温度が350℃から500℃である、第1から第8の態様のいずれかの方法を含む。
【0014】
第10の態様は、強化されたガラス物品を洗浄して、金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一部を除去する工程をさらに含む、第1から第9の態様のいずれかの方法を含む。
【0015】
第11の態様によれば、第1のアルカリ金属陽イオンを含むアルカリ含有ガラス物品を強化するための塩浴系は、0.1質量%から3質量%のナノ粒子と、第2のアルカリ金属陽イオンを含む少なくとも1種類のアルカリ金属塩とを含む塩浴を含む。ナノ粒子は、半金属酸化物ナノ粒子および金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一方を含む。第2のアルカリ金属陽イオンの原子半径は、第1のアルカリ金属陽イオンの原子半径より大きい。少なくとも1種類のアルカリ金属塩は、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ金属酸化物、またはアルカリ水酸化物の少なくとも1つに分解することができる。ナノ粒子は、ガラス物品の表面と相互作用しない生成物を形成するために、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ金属酸化物、またはアルカリ水酸化物の前記少なくとも1つと能動的に反応することができる。
【0016】
第12の態様は、アルカリ金属塩が、NaNO、KNO、RbNO、CsNO、またはそれらの任意の組合せを含む、第11の態様の系を含む。
【0017】
第13の態様は、ナノ粒子が、SiO、Al、TiO、BeO、またはそれらの任意の組合せを含む、第11または第12のいずれかの系を含む。
【0018】
第14の態様は、アルカリ金属陽イオンがKNOを構成し、少なくとも1種類の金属酸化物ナノ粒子がSiOを含む、第11から第13の態様のいずれかの系を含む。
【0019】
第15の態様は、KNOの少なくとも一部が、KNO、KO、またはKOHの少なくとも1つに分解する、第14の態様の系を含む。
【0020】
第16の態様は、SiOの少なくとも一部が、KNO、KO、またはKOHの前記少なくとも1つと反応して、KSiOを形成する、第15の態様の系を含む。
【0021】
第17の態様は、ナノ粒子が、300m/gから600m/gの平均表面積を有する、第11から第16の態様のいずれかの系を含む。
【0022】
第18の態様は、ナノ粒子が、1nmから25nmの平均粒径を有する、第11から第17の態様のいずれかの系を含む。
【0023】
第19の態様は、ナノ粒子が、少なくとも90質量%の、金属酸化物ナノ粒子および半金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一方を含む、第11から第18の態様のいずれかの系を含む。
【0024】
第20の態様は、塩浴のpHが6から8である、第11から第19の態様のいずれかの系を含む。
【0025】
第21の態様は、塩浴の温度が350℃から500℃である、第11から第20の態様のいずれかの系を含む。
【0026】
第22の態様は、塩浴が、少なくとも1種類のアルカリ土類金属陽イオンをさらに含み、ナノ粒子が、ガラス物品の表面上に堆積しない生成物を形成するために、その少なくとも1種類のアルカリ土類金属陽イオンと能動的に反応できる、第11から第21の態様のいずれかの系を含む。
【0027】
ここに記載された組成物、方法、および物品の追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に述べられており、一部は、その説明から当業者に容易に明白となるか、または以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付図面を含む、ここに記載された実施の形態を実施することによって認識されるであろう。
【0028】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方とも、様々な実施の形態を記載しており、請求項の主題の性質および特徴を理解するための概要または骨子を提供する意図があることが理解されよう。添付図面は、様々な実施の形態のさらなる理解を与えるために含まれ、本明細書に包含され、その一部を構成する。図面は、ここに記載された様々な実施の形態を示しており、説明と共に、請求項の主題の原理および作動を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1A】従来のイオン交換過程の説明図
図1B】従来のイオン交換過程の説明図
図2】約22℃の温度での約60分の期間に亘る、水酸化カリウムおよびシリカナノ粒子を含有する溶液のpHおよび導電率を示すグラフ
図3】約50℃の温度での約30分の期間に亘る、水酸化カリウムおよびシリカナノ粒子を含有する溶液のpHおよび導電率を示すグラフ
図4】約80℃の温度での約5分の期間に亘る、水酸化カリウムおよびシリカナノ粒子を含有する溶液のpHおよび導電率を示すグラフ
図5】水酸化カリウムおよびシリカナノ粒子の反応速度論のアレニウムプロットを示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここに記載された実施の形態は、イオン交換過程に使用される塩浴中の分解生成物の濃度を最小にして、塩浴の寿命を延ばし、長い時間に亘り、強化されたアルカリ含有ガラス物品の化学的耐久性を維持するための系および方法に関する。この方法は、概して、第1のアルカリ金属陽イオンを有するアルカリ含有ガラス物品の少なくとも一部を、0.1質量%から3質量%のナノ粒子と、第1のアルカリ金属陽イオンの原子半径より大きい原子半径を有する第2のアルカリ金属陽イオンを有する少なくとも1種類のアルカリ金属塩とを含む溶融塩浴に接触させる工程を有してなる。ナノ粒子は、半金属酸化物ナノ粒子および金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一方を含むことがある。この方法は、ガラス物品の少なくとも一部の溶融塩浴との接触を維持して、第1のアルカリ金属陽イオンを、溶融塩浴の第2のアルカリ金属陽イオンと交換させる工程も含むことがある。さらに、この方法は、溶融塩浴との接触状態からガラス物品の少なくとも一部を取り出して、強化されたガラス物品を製造する工程を含むことがある。その強化されたガラス物品の表面加水分解抵抗滴定体積は、1.5mL未満であることがある。これらの系および方法の様々な実施の形態が、添付図面を具体的に参照して、ここに記載される。
【0031】
範囲は、「約」1つの特定値から、および/または「約」別の特定値までと、ここに表すことができる。そのような範囲が表された場合、別の実施の形態は、その1つの特定値から、および/または他方の特定値までを含む。同様に、値が、「約」という先行詞を使用して、近似として表されている場合、その特定値は別の実施の形態を形成することが理解されよう。範囲の各々の端点は、他方の端点に関してと、他方の端点とは関係なくの両方において有意であることがさらに理解されよう。
【0032】
ここに用いられている方向を示す用語-例えば、上、下、右、左、前、後、上部、底部-は、描かれた図面に関してのみ使用され、絶対的な向きを暗示する意図はない。
【0033】
特に明記のない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程を特定の順序で行うことを必要とすると解釈されることも、またはどの装置についても、特定の向きが要求されていることも決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、その工程がしたがうべき順序を実際に挙げていない場合、または装置の請求項が、個々の構成部材に対する順序または向きを実際に列挙していない場合、もしくはそれらの工程が特定の順序に限定されるべきことが、請求項または説明において他に具体的に述べられていない場合、もしくは装置の構成部材に対する特定の順序または向きが列挙されていない場合、順序または向きがいかようにも暗示されることは決して意図されていない。このことは、工程の配列、操作の流れ、構成部材の順序、または構成部材の向き;文法構成または句読法に由来する明白な意味;および明細書に記載された実施の形態の数またはタイプに関する論理事項を含む、解釈に関するどの可能性のある非表現基準にも適用される。
【0034】
ここに用いられているように、「イオン交換浴」、「塩浴」および「溶融塩浴」という用語は、特に明記のない限り、同義語であり、ガラス物品の表面内の陽イオンが、塩浴中に存在する陽イオンと置換すなわち交換される、ガラス(またはガラスセラミック)物品とのイオン交換過程を行うために使用される溶液または媒質を称する。塩浴は、熱で液化されるか、または実質的に液相に他のやり方で加熱されることのある、硝酸カリウム(KNO)および/または硝酸ナトリウム(NaNO)などの、少なくとも1種類のアルカリ金属塩を含むであろうことが理解されよう。
【0035】
ここに用いられているように、「基板」および「物品」という用語は、特に明記のない限り、以下に限られないが、シート、バイアル瓶、三次元ガラス物品などを含む、任意の形状または形態のガラス材料を称する、同義語である。
【0036】
ここに用いられているように、「陽イオン」および「イオン」という用語は、特に明記のない限り、同義語と考えられる。「陽イオン」および「イオン」という用語は、1種類以上の陽イオンも称することができる。カリウムおよびナトリウムの陽イオンと塩が実施の形態に使用されているが、本開示の実施の形態は、これらの種に限定されないことを理解すべきである。本開示の範囲は、他の金属塩とイオン、特に、アルカリ金属の陽イオンと塩、並びに他の一価金属のものも含む。
【0037】
ここに用いられているように、「化学的耐久性」という用語は、ガラス組成物が、特定の化学的条件に曝された際の劣化に抵抗する能力を称する。詳しくは、ここに記載されたガラス物品の化学的耐久性は、USP<660>の「容器-ガラス」の「Surface Glass Test」にしたがって、水中で評価した。
【0038】
ここに用いられているように、名詞は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、複数の対象も指す。それゆえ、例えば、成分への言及は、文脈上明白に他の意味に解釈すべき場合を除いて、そのような成分を2つ以上有する態様を含む。
【0039】
最初に図1Aおよび1Bを参照すると、従来のイオン交換過程が概略示されている。図1Aおよび1Bに示されたイオン交換過程は、塩浴100中にガラス物品105を浸漬する工程(図1A)を含む。実施の形態において、ガラス物品105は、米国薬局方(USP)<660>の「容器-ガラス」により詳述されたような、タイプIガラスの基準を満たす、ホウケイ酸ガラスまたはアルミノケイ酸塩ガラスなどのケイ酸塩ガラスから作られることがある。タイプIガラスは、一般に、比較的高い加水分解抵抗および比較的高い耐熱衝撃性を有する。実施の形態において、ガラス物品105は、USP<660>により詳述されたような、タイプIIIガラスから作られることがある。タイプIIIガラスは、ソーダ石灰シリカガラスである。タイプIIIガラスは、中程度の加水分解抵抗を有する。実施の形態において、ガラス物品105は、USP<660>により詳述されたような、タイプIIガラスから作られることがある。タイプIIガラスは、ガラスの加水分解抵抗を改善するために、表面処理が施されたタイプIIIガラスである。
【0040】
ガラス物品105は、比較的小さい陽イオン130、例えば、Liおよび/またはNa陽イオンなどのアルカリ金属陽イオンを含有することがあり、塩浴100は、高温で、より大きい陽イオン120(すなわち、ガラス物品の陽イオン130に対して)を含有する溶融塩101を含むことがある。すなわち、より大きい陽イオン120は、より小さい陽イオン130の原子半径より大きい原子半径を有することがある。より大きいアルカリ金属陽イオン120の例としては、塩浴100中に存在するKNOおよび/またはNaNOから解離した、Kおよび/またはNa陽イオンなどのアルカリ金属陽イオンが挙げられるであろう。ガラス物品105内のより小さい陽イオン130は、ガラス物品105から塩浴100中に拡散し、一方で、塩浴100からのより大きい陽イオン120は、ガラス物品105中のより小さい陽イオン130を置換する。ガラス物品105中のより小さい陽イオン130のより大きい陽イオン120によるこの置き換え(図1B)により、ガラス物品105の表面に表面圧縮応力(CS)が生じ、これは、圧縮深さ(DOC)まで延在し、それゆえ、ガラス物品105の耐破損性が改善される。
【0041】
イオン交換過程中に、塩浴中に存在するアルカリ金属塩が、アルカリ金属亜硝酸塩および/またはアルカリ金属酸化物に分解することがあるのが分かった。アルカリ金属硝酸塩のアルカリ金属亜硝酸塩への分解は、以下の式:
MNO→MNO+1/2O[M:Li、Na、またはK]
に示されている。アルカリ金属硝酸塩およびアルカリ金属亜硝酸塩の両方とも、以下の式:
MNOまたはMNO→MO+O+N(またはNO)[M:Li、Na、またはK]
に示されるように、アルカリ金属酸化物にさらに分解することがある。例えば、KNO塩が塩浴中に使用される場合、KNOは、400℃より高い浴温度で、2つの主要分解生成物:亜硝酸カリウム(KNO)および酸化カリウム(KO)に分解することが分かった。NaNO塩が塩浴中に使用される場合、NaNOは、KNOより低い温度(すなわち、約400℃より低い温度)で、NaNOおよびNaOの両方に分解するであろうと判断された。同様に、LiNO塩が塩浴中に使用される場合、にLiNOは、NaNOよりさらに低い温度で、LiNOおよびLiOの両方に分解するであろうと判断された。
【0042】
塩浴中のKOなどのアルカリ金属酸化物の存在は、その中で処理されるガラス物品の性質を低下させるであろうと判断された。詳しくは、塩浴中のアルカリ金属酸化物は、塩浴中のアルカリ金属酸化物が加水分解されて、水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ水酸化物が形成することにより、イオン交換中にガラス物品の表面をエッチングすることが分かった。このエッチングにより、ガラス物品の表面が劣化し、このことは、次に、ガラス物品の化学的耐久性に悪影響を及ぼすであろう。
【0043】
例えば、そのガラス物品は、ガラス製バイアル瓶などの、ガラス製医薬品包装であることがある。約800℃以上の温度など、高い処理温度でガラス製医薬品包装をイオン交換すると、USP<660>試験基準により判定されるような、水中のガラス製医薬品包装の耐劣化性(すなわち、表面加水分解抵抗またはSHR)が低下することが分かった。特定の圧縮深さおよび/または表面圧縮応力を達成するためのイオン交換過程の時間を減少させ、それによって、生産処理能力および製造効率を改善するために、より高いイオン交換処理温度が一般に使用される。しかしながら、ガラス物品のSHRの低下は、より低いイオン交換処理温度の使用を余儀なくさせ、それによって、生産処理能力および製造効率が低下するであろう。
【0044】
ここに記載された塩浴組成物およびそれを使用する方法を用いて、イオン交換過程の結果としてのガラス物品の表面加水分解抵抗の低下を防ぎ、それによって、塩浴の使用可能温度範囲を広げ、生産処理能力および製造効率を改善することができる。
【0045】
詳しくは、本開示の実施の形態は、半金属酸化物または金属酸化物ナノ粒子などのナノ粒子を含む塩浴組成物を含む。そのナノ粒子は、溶融塩の分解生成物と反応し、非反応性生成物を作り、それによって、その中で処理されるガラス物品の表面のエッチングを減少または軽減し、これにより、次に、ガラス物品の表面加水分解抵抗の劣化が軽減される。
【0046】
ここに記載された実施の形態において、第1のアルカリ金属陽イオンを含有するガラス物品は、溶融塩浴を利用するイオン交換過程により強化されることがある。実施の形態において、そのガラス物品の少なくとも一部は、溶融塩浴の溶融塩と接触させられる。ここに用いられているように、「接触」という用語は、溶融塩浴中の浸漬、または少なくとも部分的浸漬を含むであろう。そのガラス物品は、圧縮深さまで延在する表面圧縮応力をガラス物品の表面に生じるのに十分な処理時間に亘り溶融塩浴と接触させられることがある。実施の形態において、そのガラス物品は、約20分から約20時間の処理時間に亘り溶融塩浴と接触させられることがある。例えば、そのガラス物品は、約20分から約15時間、約20分から約10時間、約20分から約5時間、約20分から約1時間、約1時間から約20時間、約1時間から約15時間、約1時間から約10時間、約1時間から約5時間、約5時間から約20時間、約5時間から約15時間、約5時間から約10時間、約10時間から約20時間、約10時間から約15時間、または約15時間から約20時間の処理時間に亘り溶融塩浴と接触させられることがある。
【0047】
実施の形態において、塩浴組成物は、ガラス物品の第1のアルカリ金属陽イオンと異なる第2のアルカリ金属陽イオンを含むアルカリ金属塩を含む。実施の形態において、そのアルカリ金属塩は、例えば、アルカリ金属硝酸塩であることがある。ここに記載された実施の形態において、アルカリ金属塩中の第2のアルカリ金属陽イオンは、ガラス物品の第1のアルカリ金属陽イオンの原子半径より大きい原子半径を有する。例えば、限定ではなく、実施の形態において、第1のアルカリ金属陽イオンはLiであることがあり、第2のアルカリ金属陽イオンはKおよび/またはNaであることがある。それに代えて、またはそれに加え、第1のアルカリ金属陽イオンはNaであることがあり、第2のアルカリ金属陽イオンはKであることがある。
【0048】
アルカリ金属塩の相対的に大きい陽イオンは、ガラス物品内に含まれる相対的に小さい陽イオンと容易に交換し、置換するであろう。より小さいアルカリ金属陽イオンは、ガラス物品から塩浴のアルカリ金属塩中に拡散し、一方で、塩浴のアルカリ金属塩からのより大きいアルカリ金属陽イオンは、ガラス物品中に拡散し、ガラス物品中のより小さい陽イオンを置換(すなわち、それと交換)する。ガラス物品中のより小さいアルカリ金属陽イオンのより大きいアルカリ金属陽イオンによるこの置き換えにより、ガラス物品の表面に、圧縮深さまで延在する圧縮応力層が生じ、機械的傷害(例えば、引掻き、摩耗など)に続く破損に対するガラス物品の抵抗が増す。
【0049】
実施の形態において、塩浴組成物は、KNOおよびNaNOの少なくとも一方を含むことがある。いくつかの実施の形態において、塩浴組成物は、KNOおよびNaNOの組合せを含むことがある。実施の形態において、塩浴組成物中のKNOおよびNaNOの濃度は、イオン交換過程後のガラス物品の表面に生じる表面圧縮応力、並びにイオン交換過程後の圧縮深さの両方を増加させるイオン交換を行うために、ガラス物品の組成に基づいてバランスがとられることがある。実施の形態において、塩浴組成物は、この塩浴組成物の総濃度に基づいて、NaNOよりも高い濃度でKNOを含む。実施の形態において、塩浴組成物は、約5質量%のKNOから約95質量%のKNOを含むことがある。例えば、塩浴組成物は、約45質量%のKNOから約50質量%のKNO、または約75質量%のKNOから約95質量%のKNOを含むことがある。実施の形態において、塩浴組成物は、約5質量%のNaNOから約95質量%のNaNOを含むことがある。例えば、塩浴組成物は、約50質量%のNaNOから約55質量%のNaNO、または約5質量%のNaNOから約25質量%のNaNOを含むことがある。ガラス物品中に深い圧縮深さを達成するために、塩浴組成物は、より高い濃度のNaNOを含むことがあり、そのガラス物品は、その深い圧縮深さを達成するために、より長い処理時間に亘り塩浴組成物中に保持されることがある。
【0050】
実施の形態において、塩浴組成物は、溶融塩浴を作り、それによって、イオン交換過程を促進させるのに十分な高温に加熱されることがある。実施の形態において、塩浴組成物は、350℃から500℃の温度に加熱されることがある。例えば、塩浴組成物は、350℃から475℃、350℃から450℃、350℃から425℃、350℃から400℃、350℃から375℃、375℃から500℃、375℃から475℃、375℃から450℃、375℃から425℃、375℃から400℃、400℃から500℃、400℃から475℃、400℃から450℃、400℃から425℃、425℃から500℃、425℃から475℃、425℃から450℃、450℃から500℃、450℃から475℃、または475℃から500℃の温度に加熱されることがある。しかしながら、溶融塩浴の温度が高すぎると、イオン交換過程を適切に制御するのが難しくなるであろうし、塩浴中のアルカリ金属塩の分解速度が増すであろう。
【0051】
ここに記載したように、アルカリ金属塩は、イオン交換過程中に分解することがある。アルカリ金属塩の分解速度は、溶融塩浴の温度が上昇するにつれて、増加することがある。実施の形態において、アルカリ金属塩は、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ金属酸化物、アルカリ水酸化物、またはその組合せに分解することがある。例えば、溶融塩浴中に存在するKNOは、KNO、KO、KOH、またはその組合せに分解することがある。この分解は、アルカリ金属塩から、直接的に(例えば、KNOからKNOへの還元)、または間接的に(例えば、KNOまたはKNOのKOへの還元およびKOからKOHへのその後の加水分解)生じることがある。
【0052】
ここに記載されるように、アルカリ金属硝酸塩の分解生成物は、ガラス物品の表面と相互作用することがある。例えば、KOHなどのアルカリ水酸化物は、ガラス物品の表面を腐食させ、またはエッチングすることがあり、これにより、次に、ガラス物品の化学的耐久性が低下することがある。詳しくは、この腐食またはエッチングは、ガラス物品の表面加水分解抵抗(SHR)を低下させることがある。SHRが低いガラスは、水または水溶液中で分解することがある。ガラス物品が、ガラス容器、ガラス製バイアル瓶、ガラス製アンプルなどのガラス製医薬品包装として使用される場合、ガラスの劣化は、ガラス製医薬品包装の内容物の効能に影響を与えるであろう。ここに述べたように、ガラス物品の表面のSHRは、USP<660>基準により詳述されたような、表面ガラス試験によって、測定することができる。SHRは、ガラス表面の化学的耐久性の尺度であり、試験溶液中のガラス成分の溶解度に関連する。USP<660>によれば、タイプIガラスとして分類されるガラスは、高い加水分解抵抗(例えば、3~5mLの充填容積を前提とすると、1.3mL以下の滴定体積をもたらす表面ガラス試験)を有し、それらは、ほとんどの経静脈および非経静脈組成物を収容するのに適したものとなる。
【0053】
USP<660>基準により詳述されたような、SHRは、前記ガラス物品からなるガラス製バイアル瓶または容器に、二酸化炭素を含まない水または純水を充填することによって決定されることがある。次に、充填されたバイアル瓶に、約1時間に亘り約121℃でオートクレーブサイクルが施される。次に、バイアル瓶内に得られた浸出液を、メチルレッドの存在下で弱塩化水素酸(例えば、0.01MのHCl)により中性に滴定する。浸出液100mL当たりの滴定剤の体積を使用して、ガラス物品のSHRを決定する。一般に、滴定体積が多いほど、劣った化学的耐久性に対応する(すなわち、浸出液は、ガラスから放出されたガラス成分をより多く含有し、それゆえ、ガラス成分の存在によるpH変化を相殺するために、より多くの滴定剤が必要になる)。
【0054】
強化されたガラス物品において、低い滴定体積および/または高い化学的耐久性が望ましいであろう。一般に、タイプIガラスにとって、1.5mL未満の滴定体積が望ましい。しかしながら、先に記載したように、イオン交換に使用される溶融塩浴内に、アルカリ水酸化物などの分解生成物が存在すると、ガラス物品の表面が腐食するおよび/またはエッチングされることがある。このエッチングにより、滴定体積の増加がもたらされることがあり、これは、化学的耐久性の低下に対応する。典型的に、強化されたガラス物品の滴定体積は、イオン交換を経るときの経過時間の関数として増加する。すなわち、ガラス物品が溶融塩浴と接触する時間が長くなるほど、滴定体積が大きくなる。例えば、約3時間に亘りイオン交換を経るガラス物品は、約0.9mLの滴定体積となることがあり、一方で、約10時間のイオン交換を経るガラス物品は、約1.1mLの滴定体積となることがある。
【0055】
典型的に、溶融塩の分解生成物と反応するかもしれない、添加剤が、強化されたガラス物品の化学的耐久性のどのような減少も最小にするか、またはなくすために、塩浴中に含まれる。しかしながら、従来の添加剤の多くは、溶融塩浴内の不十分な循環、高い活性化エネルギー、または望ましくない生成物の生成のために、一貫性のない結果を生じる。さらに、いくつかの従来の添加剤は、強化ガラスの生産要求を満たすのに必要な十分な数量で調達することが難しいことがある。
【0056】
この点に関して、塩浴組成物は、塩浴中でイオン交換が施されるガラス物品のSHRの低下を軽減するために、ナノ粒子を含む。実施の形態において、そのナノ粒子は、半金属酸化物ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子、またはその組合せを含むことがある。例えば、ナノ粒子は、シリカ(SiO)ナノ粒子、アルミナ(Al)ナノ粒子、チタニア(TiO)ナノ粒子、ベリリア(BeO)ナノ粒子、またはその様々な組合せの少なくとも1つを含むことがある。ナノ粒子は、アルカリ金属塩の分解生成物との反応性に基づいて、選択されることがある。例えば、シリカナノ粒子は、溶融塩浴内に存在するKOHと反応して、ケイ酸カリウム(KSiO)と水を形成することがある。同様に、アルミナナノ粒子は、溶融塩浴内に存在する水酸化ナトリウム(NaOH)と反応して、アルミン酸ナトリウム(NaAlO)と水を形成することがある。すなわち、ナノ粒子は、アルカリ金属塩の分解生成物と反応し、ガラス物品と反応しない(例えば、ガラス物品をエッチングまたは腐食しない)生成物を形成する。ナノ粒子の存在は、溶融塩浴内の分解生成物の濃度を減少させ、結果として、分解生成物とガラス物品の表面との間の相互作用を減少させることがある。このように、溶融塩浴内にナノ粒子を含ませると、従来の溶融塩浴(すなわち、ナノ粒子を含まない溶融塩浴)内でイオン交換が施されたガラス物品と比べて、強化されたガラス物品の化学的耐久性が増すであろう。
【0057】
実施の形態において、ナノ粒子は、望ましくないアルカリ金属陽イオンが、ガラス物品の表面上に堆積するのも防ぐことがある。先に記載したように、そのガラス物品は、イオン交換過程中に第1のアルカリ金属陽イオンを溶融塩浴中に放出することがある。例えば、Na1+陽イオンまたはLi1+陽イオンが、イオン交換中にガラス物品から放出されることがある。しかしながら、イオン交換が進行し、放出された陽イオンの濃度が増すにつれて、放出された陽イオンは、ガラス物品の表面上に堆積するであろう。これにより、溶融塩浴中に存在する第2のアルカリ金属陽イオンが、ガラス物品に入るのが阻害されるであろう。実施の形態において、ナノ粒子は、アルカリ金属陽イオンをナノ粒子の表面に結合させ、塩浴の全体に亘るアルカリ金属陽イオンの運動を防ぐことがある。このようにして、ナノ粒子は、放出された第1のアルカリ金属陽イオンがガラス物品の表面上に堆積するのを防ぎ、イオン交換過程の効率を増すであろう。
【0058】
いくつかの実施の形態において、ナノ粒子は、アルカリ土類金属陽イオンなどの望ましくない不純物が、ガラス物品の表面上に堆積するのも防ぐことがある。Ca2+および/またはMg2+などのアルカリ土類金属陽イオンが、不純物として塩浴中に存在することがある。これらのアルカリ土類金属陽イオンは、カルシウムおよび/またはマグネシウムの層をガラス物品の表面上に形成させることがある。この層は、アルカリ金属陽イオンがガラス物品から放出されるおよび/またはガラス物品に入るのを防ぎ、イオン交換過程を阻害するであろう。その結果、塩浴中のアルカリ土類金属陽イオンの存在は、強化されたガラス物品の線熱膨張係数(CTE)を低下させることがある。実施の形態において、ナノ粒子は、アルカリ土類金属陽イオンと反応して、例えば、ケイ酸カルシウム(CaSiO)などのアルカリ土類ケイ酸塩を形成し、ガラス物品の表面上に層が形成されるのを防ぐことがある。このようにして、ナノ粒子は、不純物がイオン交換過程を阻害するのを防ぎ、強化されたガラス物品のCTEを上昇させることがある。
【0059】
実施の形態において、ナノ粒子は、塩浴の熱伝導率も改善することがある。どの特定の理論で束縛されるものではないが、塩浴の熱伝導率がこのように増加すると、塩浴の温度均一性を改善し、その結果、その中で行われるイオン交換過程の均一性を改善するであろうと考えられる。すなわち、ガラス物品に与えられる圧縮応力は、ガラス物品の表面に亘り同様、または同一であろう。そのような均一なイオン交換過程は、非対称の圧縮応力の結果として生じるであろう、薄いガラス物品における反りを減少させるか、または防ぐであろう。
【0060】
前記塩浴組成物は、溶融塩浴内の少なくとも1種類の分解生成物の濃度を効果的に減少させるのに十分な量のナノ粒子を含むことがある。実施の形態において、その塩浴組成物は、約0.1質量%から約3.0質量%のナノ粒子を含むことがある。例えば、塩浴組成物は、約0.1質量%から約2.5質量%、約0.1質量%から約2.0質量%、約0.1質量%から約1.5質量%、約0.1質量%から約1.0質量%、約0.1質量%から約0.5質量%、約0.5質量%から約3.0質量%、約0.5質量%から約2.5質量%、約0.5質量%から約2.0質量%、約0.5質量%から約1.5質量%、約0.5質量%から約1.0質量%、約1.0質量%から約3.0質量%、約1.0質量%から約2.5質量%、約1.0質量%から約2.0質量%、約1.0質量%から約1.5質量%、約1.5質量%から約3.0質量%、約1.5質量%から約2.5質量%、約1.5質量%から約2.0質量%、約2.0質量%から約3.0質量%、約2.0質量%から約2.5質量%、または約2.5質量%から約3.0質量%のナノ粒子を含むことがある。その塩浴組成物がより少ない(すなわち、約0.1質量%未満)ナノ粒子を含む場合、溶融塩浴内のナノ粒子の有用性は、分解生成物と効果的に相互作用するのに十分ではないであろう。反対に、塩浴組成物がより多く(すなわち、約3.0質量%超)ナノ粒子を含む場合、過剰のナノ粒子が、イオン交換過程と干渉するであろう。
【0061】
ナノ粒子と少なくとも1種類の分解生成物との間の反応の反応速度定数(k)は、溶融塩浴内の少なくとも1種類の分解生成物の濃度を効果的に減少させるのに十分なことがある。反応の反応速度定数(k)は、反応の速度を定量化し、それゆえ、より大きい反応速度定数(k)は、ナノ粒子が溶融塩浴内の分解生成物の内の少なくとも1つと反応するより大きい能力を示すであろう。すなわち、より大きい反応速度定数(k)は、ナノ粒子が、分解生成物とガラス物品の表面との間の相互作用を減少させる能力と相関するであろう。実施の形態において、ナノ粒子と少なくとも1種類の分解生成物との間の反応の反応速度定数(k)は、約0.5から約12であることがある。例えば、ナノ粒子と少なくとも1種類の分解生成物との間の反応の反応速度定数(k)は、約0.5から約10、約0.5から約8、約0.5から約6、約0.5から約4、約0.5から約2、約2から約12、約2から約10、約2から約8、約2から約6、約2から約4、約4から約12、約4から約10、約4から約8、約4から約6、約6から約12、約6から約10、約6から約8、約8から約12、約8から約10、または約10から約12であることがある。反応速度定数(k)が十分に高く(すなわち、0.5以上では)ない場合、分解生成物の濃度は、効果的に減少せず、それゆえ、ガラス物品の化学的耐久性が低下してしまうであろう。
【0062】
実施の形態において、塩浴組成物のナノ粒子は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法で測定して、少なくとも300m/gの平均表面積を有する。例えば、塩浴組成物のナノ粒子は、約300m/gから約600m/g、約300m/gから約550m/g、約300m/gから約500m/g、約300m/gから約450m/g、約300m/gから約400m/g、約300m/gから約350m/g、約350m/gから約600m/g、約350m/gから約550m/g、約350m/gから約500m/g、約350m/gから約450m/g、約350m/gから約400m/g、約400m/gから約600m/g、約400m/gから約550m/g、約400m/gから約500m/g、約400m/gから約450m/g、約450m/gから約600m/g、約450m/gから約550m/g、約450m/gから約500m/g、約500m/gから約600m/g、約500m/gから約550m/g、または約550m/gから約600m/gの平均表面積を有することがある。金属酸化物ナノ粒子の表面積は、ここに記載されたように、ナノ粒子と、溶融塩浴の分解生成物との間の反応の反応速度定数(k)に直接的に相関があることがある。すなわち、ナノ粒子の表面積が大きいほど、溶融塩浴内に存在する分解生成物との反応の可能性が大きくなる。これによって、より少ないナノ粒子を使用して、塩浴組成物の性質に対する管理をよりうまく行え、ガラス物品の化学的耐久性を増すことができるであろう。
【0063】
実施の形態において、塩浴組成物のナノ粒子は、ブルナウアー・エメット・テラー(BET)法で測定して、約1nmから約25nmの平均粒径を有することがある。例えば、塩浴組成物のナノ粒子は、約1nmから約20nm、約1nmから約15nm、約1nmから約10nm、約1nmから約5nm、約1nmから約2.5nm、約2.5nmから約25nm、約2.5nmから約20nm、約2.5nmから約15nm、約2.5nmから約10nm、約2.5nmから約5nm、約5nmから約25nm、約5nmから約20nm、約5nmから約15nm、約5nmから約10nm、約10nmから約25nm、約10nmから約20nm、約10nmから約15nm、約15nmから約25nm、約15nmから約20nm、または約20nmから約25nmの平均粒径を有することがある。ナノ粒子がより小さい平均粒径(すなわち、約1nm未満)を有する場合、ナノ粒子の平均表面積および反応速度定数(k)が減少し、分解生成物と相互作用する能力が低下するであろう。さらに、ナノ粒子がより大きい平均粒径(すなわち、約25nm超)を有する場合、溶融塩浴内のナノ粒子の浮力が減少するであろう。これにより、ナノ粒子が溶融塩浴の底に沈み、溶融塩浴内の分解生成物との潜在的な相互作用および反応が減少するであろう。
【0064】
実施の形態において、塩浴組成物のナノ粒子は、ナノ粒子が、ナノ粒子の総質量に基づいて、90質量%超の金属酸化物または半金属酸化物ナノ粒子を含むように高純度を有することがある。例えば、塩浴組成物のナノ粒子は、ナノ粒子の総質量に基づいて、約90質量%から約99.9質量%、約90質量%から約99.5質量%、約90質量%から約99質量%、約90質量%から約95質量%、約95質量%から約99.9質量%、約95質量%から約99.5質量%、約95質量%から約99質量%、約99質量%から約99.9質量%、約99質量%から約99.5質量%、または約99.5質量%から約99.9質量%の金属酸化物または半金属酸化物ナノ粒子を含むことがある。ナノ粒子が十分に高い純度を有さない場合、強化されたガラス物品の品質に悪影響を及ぼすことのある汚染物質が塩浴組成物中に導入されるであろう。
【0065】
実施の形態において、ナノ粒子を含む溶融塩浴のpHは6から8である。例えば、ナノ粒子を含む溶融塩浴のpHは、約6から約7.5、約6から約7、約6から約6.5、約6.5から約8、約6.5から約7.5、約6.5から約7、約7から約8、約7から約7.5、または約7.5から約8であることがある。先に記載したように、水酸化カリウムなどのアルカリ水酸化物は、ガラス物品の表面をエッチングし、化学的耐久性を低下させることがある。しかしながら、実施の形態において、溶融塩浴内に存在する金属酸化物ナノ粒子は、アルカリ金属硝酸塩の分解生成物と反応することがある。これにより、溶融塩浴中に存在するアルカリ水酸化物の濃度が減少することがある。すなわち、金属酸化物ナノ粒子は、溶融塩浴中においてpH緩衝剤の働きをすることがある。その結果、溶融塩浴のpHは、強化過程中に生じることがあるエッチングの程度に関する信頼できる指標であることがある。例えば、塩基性pH(すなわち、7より大きいpH)は、溶融塩浴中のより高濃度の水酸化カリウムおよびエッチングの可能性の増加を示すであろう。酸性pH(すなわち、7より小さいpH)は、溶融塩浴内の減少した濃度の水酸化カリウムおよびエッチングの可能性の減少を示すであろう。
【0066】
実施の形態において、前記ガラス物品は、イオン交換過程後に、溶融塩浴との接触状態から取り出される。イオン交換を経た、結果として得られたガラス物品は、圧縮深さまで延在する圧縮応力を表面で有することがある。この圧縮応力および圧縮深さは、機械的傷害に続く破損に対するガラス物品の抵抗を増加させ、その結果、そのガラス物品は、イオン交換過程後に強化されたガラス物品であることがある。しかしながら、先に記載したように、溶融塩浴内に金属酸化物ナノ粒子が存在するために、強化されたガラス物品は、イオン交換後のSHR滴定体積により示されるように、化学的耐久性を維持するか、または改善された化学的耐久性を示しさえすることがある。このように、実施の形態において、強化されたガラス物品は、1.5mL未満、1.4mL以下、1.3mL以下、1.2mL以下、1.1mL以下、1mL以下、0.9mL以下、0.8mL以下、0.7mL以下、0.6mL以下、0.5mL以下、0.4mL以下、0.3mL以下、0.2mL以下、またさらには0.1mL以下のSHR滴定体積を有することがある。
【0067】
実施の形態において、強化されたガラス物品は、取り出された後に、濯がれるか、洗浄されることがある。具体的に、イオン交換過程は、先に記載したように、ガラス物品の表面上のアルカリ金属陽イオンの堆積をもたらすことがある。イオン交換過程は、同様に、ガラス物品の表面上に金属酸化物ナノ粒子の堆積ももたらすことがある。強化されたガラス物品の洗浄により、アルカリ陽イオンおよび/または金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一部が除去されるであろう。これにより、医薬品包装などの所望の用途のために、ガラス物品がさらに準備されるであろう。
【0068】
ここに記載されたイオン交換過程および塩浴組成物に曝されるガラス物品は、様々な形態を有することがある。例えば、ガラス物品は、ガラス板、シート、管、容器などであることがある。実施の形態において、ガラス物品は、液体、粉末など、医薬品組成物を収容するためのガラス製医薬品包装またはガラス製医薬品容器であることがある。例えば、ここに記載されたガラス物品は、Vacutainer(登録商標)、カートリッジ、注射器、アンプル、ボトル、広口瓶、フラスコ、小瓶(phials)、管、ビーカー、バイアルなどであることがある。
【実施例
【0069】
以下の実施例は、本開示の1つ以上の特徴を説明する。これらの実施例は、いかようにも、本開示の範囲、または特許請求の範囲を限定する意図はないことを理解すべきである。
【0070】
実施例1
金属酸化物ナノ粒子が水酸化カリウムを中和する能力を観察するために、約7nmの平均粒径を有するSiOナノ粒子、0.06gを1Lの0.001MのKOH溶液中に溶かした。次に、この溶液を約22℃に加熱し、400rpmで撹拌しつつ、溶液の導電率およびpHを、5分毎にモニタし、記録した。その結果が、図2にグラフで示されている。
【0071】
図2に示された結果から分かるように、水酸化カリウムの溶液内にシリカナノ粒子を含ませると、溶液の導電率とpHの両方とも、徐々に減少する。図から分かるように、pHの減少は、導電率の減少と直接的に相関がある。どの特定の理論で束縛されるものではないが、溶液の導電率とpHの両方の減少は、シリカナノ粒子は水酸化カリウムと反応するので、溶液内のカリウムイオン(K)および水酸化物イオン(OH)の減少または除去のためであろうと考えられる。1時間が過ぎると、溶液の導電率は、約225μS/cmから約175μS/cmに減少した。同様に、溶液のpHは、約11.05から約10.85に低下した。導電率のこの減少は、ナノ粒子が、溶液内の遊離イオンの濃度を減少させられることを示す。すなわち、ナノ粒子は、溶融塩浴内に存在するイオンと反応できるまたはイオンを結合できる。同様に、pHのこの低下は、ナノ粒子が、溶融塩浴内の水酸化カリウムを中和し、水酸化カリウムと、ガラス物品の表面との間の相互作用を軽減し、化学的耐久性に対する潜在的にマイナスな影響を低下させるのに効果的であろうことを示す。
【0072】
実施例2
実施例1に記載されたような手順を、約50℃の温度で再び行った。溶液の導電率およびpHを、5分毎にモニタし、記録した。その結果が、図3にグラフで示されている。
【0073】
図3に示された結果から分かるように、水酸化カリウムの溶液内にシリカナノ粒子を含ませると、溶液の導電率とpHの両方とも、徐々に減少する。30分の過程で、溶液の導電率は、約250μS/cmから約175μS/cmに減少した。同様に、溶液のpHは、約10.50から約9.95に低下した。導電率のこの減少は、ナノ粒子が、溶液内の遊離イオンの濃度を減少させられることを示す。すなわち、ナノ粒子は、溶融塩浴内に存在するイオンと反応できるまたはイオンを結合できる。同様に、pHのこの低下は、ナノ粒子が、溶融塩浴内の水酸化カリウムを中和し、水酸化カリウムと、ガラス物品の表面との間の相互作用を軽減し、化学的耐久性に対する潜在的にマイナスな影響を低下させるのに効果的であろうことを示す。
【0074】
実施例3
実施例1に記載されたような手順を、約80℃の温度で再び行った。溶液の導電率およびpHを、60秒毎にモニタし、記録した。その結果が、図4にグラフで示されている。
【0075】
図4に示された結果から分かるように、水酸化カリウムの溶液内にシリカナノ粒子を含ませると、溶液の導電率とpHの両方とも、徐々に減少する。5分の過程で、溶液の導電率は、約300μS/cmから約250μS/cmに減少した。同様に、溶液のpHは、約10.49から約10.37に低下した。導電率のこの減少は、ナノ粒子が、溶液内の遊離イオンの濃度を減少させられることを示す。すなわち、ナノ粒子は、溶融塩浴内に存在するイオンと反応できるまたはイオンを結合できる。同様に、pHのこの低下は、ナノ粒子が、溶融塩浴内の水酸化カリウムを中和し、水酸化カリウムと、ガラス物品の表面との間の相互作用を軽減し、化学的耐久性に対する潜在的にマイナスな影響を低下させるのに効果的であろうことを示す。
【0076】
実施例4
実施例1~3の結果を使用して、導電率の測定値の勾配を利用して、これら3つの実施例の様々な温度でのシリカナノ粒子と水酸化カリウムとの間の反応の反応速度定数(k)を決定した。その結果が、図5のアレニウスのプロットとして示されている。すなわち、図5は、ケルビンで測定された逆温度(1/T)に対してプロットされた反応速度定数の対数(ln(k))を示す。
【0077】
図5に示されるように、シリカナノ粒子が水酸化カリウムと反応する速度は、温度の上昇とともに比較的比例的に増加する。反応速度定数は、約22℃の温度で約0.75であった。反応速度定数は、約50℃の温度で約2.0に上昇した。反応速度定数は、約80℃の温度で約11.25に上昇した。この反応速度定数(k)は、ナノ粒子が、溶融塩浴内に存在する塩基を適切に中和し、塩基とガラス物品の表面との間の相互作用を軽減し、化学的耐久性に対する潜在的にマイナスな影響を低下させるのに十分な速度で溶融塩浴の分解生成物と反応するであろうことを示す。さらに、温度による反応速度定数(k)の増加は、塩基を中和する上でのナノ粒子の有効性が、溶液の温度の上昇とともに増加するであろうことを示す。この点に関して、このことは、ナノ粒子が、溶融塩浴の高温でそのような塩基の濃度を減少させるのに効果的であり、その結果として、従来の方法よりも効果的に溶融塩浴のpHを正確に制御するであろうことを示す。
【0078】
請求項の主題の精神および範囲から逸脱せずに、ここに記載された実施の形態に様々な改変および変更を行えることが、当業者に明白であろう。それゆえ、本明細書は、ここに記載された様々な実施の形態の改変および変更が、付随の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内に入るという前提で、そのような改変および変更を含むことが意図されている。
【0079】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0080】
実施形態1
第1のアルカリ金属陽イオンを含むアルカリ含有ガラス物品を強化する方法において、
前記ガラス物品の少なくとも一部を、0.1質量%から3質量%のナノ粒子と、第2のアルカリ金属陽イオンを含む少なくとも1種類のアルカリ金属塩とを含む溶融塩浴に接触させる工程であって、該ナノ粒子は、半金属酸化物ナノ粒子および金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一方を含み、該第2のアルカリ金属陽イオンの原子半径は、前記第1のアルカリ金属陽イオンの原子半径より大きい工程、
前記ガラス物品の前記少なくとも一部の前記溶融塩浴との接触を維持して、該ガラス物品中の前記第1のアルカリ金属陽イオンを、該溶融塩浴の前記第2のアルカリ金属陽イオンと交換させる工程、および
前記溶融塩浴との接触状態から前記ガラス物品の前記少なくとも一部を取り出して、強化されたガラス物品を製造する工程であって、該強化されたガラス物品の表面加水分解抵抗滴定体積は、1.5mL未満である工程、
を有してなる方法。
【0081】
実施形態2
前記溶融塩浴が、NaNOおよびKNOの少なくとも一方を含む、実施形態1に記載の方法。
【0082】
実施形態3
前記ナノ粒子が、SiO、Al、TiO、BeO、またはSiO、Al、TiOおよびBeOの内の2つ以上の組合せを含む、実施形態1に記載の方法。
【0083】
実施形態4
前記金属酸化物ナノ粒子が、300m/gから600m/gの平均表面積を有する、実施形態1に記載の方法。
【0084】
実施形態5
前記ナノ粒子が、1nmから25nmの平均粒径を有する、実施形態1に記載の方法。
【0085】
実施形態6
前記溶融塩浴のpHが6から8である、実施形態1に記載の方法。
【0086】
実施形態7
前記ガラス物品がガラス製医薬品包装である、実施形態1に記載の方法。
【0087】
実施形態8
前記ガラス物品がガラス製バイアル瓶である、実施形態1に記載の方法。
【0088】
実施形態9
前記塩浴の温度が350℃から500℃である、実施形態1に記載の方法。
【0089】
実施形態10
前記強化されたガラス物品を洗浄して、前記金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一部を除去する工程をさらに含む、実施形態1に記載の方法。
【0090】
実施形態11
第1のアルカリ金属陽イオンを含むアルカリ含有ガラス物品を強化するための塩浴系において、
0.1質量%から3質量%のナノ粒子と、第2のアルカリ金属陽イオンを含む少なくとも1種類のアルカリ金属塩とを含む塩浴であって、該ナノ粒子は、半金属酸化物ナノ粒子および金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一方を含み、該第2のアルカリ金属陽イオンの原子半径は、前記第1のアルカリ金属陽イオンの原子半径より大きい、塩浴、
を含み、
前記少なくとも1種類のアルカリ金属塩は、アルカリ金属亜硝酸塩、アルカリ金属酸化物、またはアルカリ水酸化物の少なくとも1つに分解することができ、
前記ナノ粒子は、前記ガラス物品の表面と相互作用しない生成物を形成するために、前記アルカリ金属亜硝酸塩、前記アルカリ金属酸化物、または前記アルカリ水酸化物の前記少なくとも1つと能動的に反応することができる、
塩浴系。
【0091】
実施形態12
前記アルカリ金属塩が、NaNO、KNO、RbNO、CsNO、またはそれらの任意の組合せを含む、実施形態11に記載の系。
【0092】
実施形態13
前記ナノ粒子が、SiO、Al、TiO、BeO、またはそれらの任意の組合せを含む、実施形態12に記載の系。
【0093】
実施形態14
前記アルカリ金属陽イオンがKNOを構成し、前記少なくとも1種類の金属酸化物ナノ粒子がSiOを含む、実施形態13に記載の系。
【0094】
実施形態15
KNOの少なくとも一部が、KNO、KO、またはKOHの少なくとも1つに分解する、実施形態14に記載の系。
【0095】
実施形態16
SiOの少なくとも一部が、KNO、KO、またはKOHの前記少なくとも1つと反応して、KSiOを形成する、実施形態15に記載の系。
【0096】
実施形態17
前記ナノ粒子が、300m/gから600m/gの平均表面積を有する、実施形態11に記載の系。
【0097】
実施形態18
前記ナノ粒子が、1nmから25nmの平均粒径を有する、実施形態11に記載の系。
【0098】
実施形態19
前記ナノ粒子が、少なくとも90質量%の、金属酸化物ナノ粒子および半金属酸化物ナノ粒子の少なくとも一方を含む、実施形態11に記載の系。
【0099】
実施形態20
前記塩浴のpHが6から8である、実施形態11に記載の系。
【0100】
実施形態21
前記塩浴の温度が350℃から500℃である、実施形態11に記載の系。
【0101】
実施形態22
前記塩浴が、少なくとも1種類のアルカリ土類金属陽イオンをさらに含み、前記ナノ粒子が、前記ガラス物品の表面上に堆積しない生成物を形成するために、該少なくとも1種類のアルカリ土類金属陽イオンと能動的に反応できる、実施形態11に記載の系。
【符号の説明】
【0102】
100 塩浴
101 溶融塩浴
105 ガラス物品
120 より大きい陽イオン
130 より小さい陽イオン
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】