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特表2022-543049スタチンによって誘発される血管石灰化の予防におけるアスコルビン酸塩
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】スタチンによって誘発される血管石灰化の予防におけるアスコルビン酸塩
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/197 20060101AFI20220930BHJP
   A61K 31/375 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/355 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/4415 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/51 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/525 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/714 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/4188 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/455 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/205 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/40 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/404 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/4418 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/505 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/366 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/22 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/122 20060101ALI20220930BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
A61K31/197
A61K31/375
A61P9/00
A61P9/14
A61P25/00
A61K31/355
A61K31/4415
A61K31/51
A61K31/525
A61K31/714
A61K31/4188
A61K31/519
A61K31/455
A61K31/205
A61K45/00
A61K31/40
A61K31/404
A61K31/4418
A61K31/505
A61K31/366
A61K31/47
A61K31/22
A61K31/122
A61P9/10 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022506423
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(85)【翻訳文提出日】2022-03-18
(86)【国際出願番号】 IB2020057063
(87)【国際公開番号】W WO2021019421
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】16/524,383
(32)【優先日】2019-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】19190436.6
(32)【優先日】2019-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】16/562,313
(32)【優先日】2019-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522040894
【氏名又は名称】マティーアス・ラート
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】マティーアス・ラート
(72)【発明者】
【氏名】ヴァジム・イヴァノフ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドラ・ニージェヴィーキ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C084AA22
4C084NA06
4C084ZA451
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA09
4C086BA17
4C086BA18
4C086BC05
4C086BC13
4C086BC17
4C086BC18
4C086BC19
4C086BC28
4C086BC42
4C086BC83
4C086CB09
4C086CB28
4C086DA39
4C086MA03
4C086MA04
4C086NA06
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA36
4C086ZA44
4C086ZA45
4C206AA01
4C206AA02
4C206CB27
4C206DB03
4C206DB56
4C206FA58
4C206FA59
4C206GA05
4C206GA36
4C206KA04
4C206MA03
4C206MA04
4C206NA06
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA36
4C206ZA44
4C206ZA45
(57)【要約】
少なくとも1種のスタチンおよびL-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩を含む医薬組成物を患者に併用投与することを可能にする投薬形態において、L-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩またはそれらを含む混合物を患者に投与することによって、患者の血管石灰化を処置または予防する方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタチン処置を受けている患者の併用処置に使用するためのL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩。
【請求項2】
患者の血管石灰化の処置または予防に使用するためのL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩。
【請求項3】
スタチンの投与によって患者に誘発される血管石灰化の処置または予防に使用するための、請求項2に記載のL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩。
【請求項4】
スタチンによって誘発される血管石灰化を緩和するための、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の使用。
【請求項5】
少なくとも1種のスタチンおよびL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩を患者に併用投与することを可能にする投薬形態において、少なくとも1種のスタチンおよびL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩を含む医薬組成物。
【請求項6】
少なくとも1種のスタチンおよびL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩が、物理的混合物として、または患者への併用投与を意図した別々の医薬組成物として存在する、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
心血管系疾患の予防または処置のための、請求項5または6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
心血管系疾患が冠動脈疾患、脳血管疾患または末梢血管疾患である、請求項5~7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
スタチンが、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンまたはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項5~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
アスコルビン酸塩が、水溶性もしくは脂溶性アスコルビン酸塩またはそれらの混合物から、好ましくはアスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルまたはそれらの混合物から選択される、請求項5~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
少なくとも1種のスタチン、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩、およびコエンザイムQ10を患者に併用投与することを可能にする投薬形態において、コエンザイムQ10をさらに含む、請求項5~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩10mg~100g、および少なくとも1種のスタチン5mg~100mgの1日投与量を含む、請求項5~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の他に、好ましくは微量ミネラル、ビタミン、およびそれらの混合物から選択される1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素をさらに含む、請求項5~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、L-カルニチンおよびベタインをさらに含む、請求項5~13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
医薬組成物中に、以下の量:
L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩:300mg~1000.2mg、
ビタミンE:27.5mg~82.5mg、
ビタミンB1:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB2:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB3:115mg~350.1mg、
ビタミンB5:16.7mg~50.1mg、
ビタミンB6:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB12:10μg~30μg、
葉酸:133.3μg~399.9μg、
ビオチン:33.3μg~99.9μg、
L-カルニチン:33.3mg~99.9mg、
ベタイン:23.3mg~69.9mg
を含む、請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
1つまたはそれ以上の微量栄養素が、ナイアシンを、好ましくはスタチンとの混合物中に含む、請求項13~15のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
ビタミンC、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、L-カルニチンおよびベタインを含む、またはそれらからなる組成の混合物1。
【請求項18】
医薬組成物中に、以下の量:
ビタミンC:300mg~1000.2mg、
ビタミンE:27.5mg~82.5mg、
ビタミンB1:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB2:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB3:115mg~350.1mg、
ビタミンB5:16.7mg~50.1mg、
ビタミンB6:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB12:10μg~30μg、
葉酸:133.3μg~399.9μg、
ビオチン:33.3μg~99.9μg、
L-カルニチン:33.3mg~99.9mg、
ベタイン:23.3mg~69.9mg
を含む、またはそれらからなる、請求項17に記載の組成の混合物1。
【請求項19】
組成の混合物1が、心血管系疾患を処置するための医薬組成の混合物1である、請求項17または18に記載の組成の混合物1。
【請求項20】
心血管系疾患が、冠動脈疾患、脳血管疾患または末梢血管疾患の少なくとも1つである、医薬組成の混合物1である、請求項19に記載の組成の混合物1。
【請求項21】
好ましくはアトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、またはそれらの混合物からなる群から選択されるスタチンをさらに含み、好ましくは5mg~100mgの1日投与量である、医薬組成の混合物1である、請求項17~20のいずれか1項に記載の組成の混合物1。
【請求項22】
好ましくは微量ミネラル、ビタミン、アミノ酸およびそれらの誘導体、またはそれらの混合物から選択される1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素を含み、より好ましくは1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素がスタチンとの混合物で存在することができるナイアシンを含む、請求項17~21のいずれか1項に記載の組成の混合物1。
【請求項23】
ビタミンCがアスコルビン酸塩の形態であり、アスコルビン酸塩が好ましくは水溶性もしくは脂溶性アスコルビン酸塩、またはそれらの混合物から選択され、より好ましくはアスコルビン酸塩がアスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルまたはそれらの混合物から選択される、請求項17~22のいずれか1項に記載の組成の混合物1。
【請求項24】
スタチン、混合物1、およびコエンザイムQ10の少なくとも1つを患者に併用投与することを可能にする投薬形態において、コエンザイムQ10をさらに含む、請求項17~23のいずれか1項に記載の組成の混合物1。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタチンによって誘発される血管石灰化を予防または緩和するためのL-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩またはそれらを含む混合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
スタチンは、HMG-CoA還元酵素阻害剤としても知られており、脂質低下化合物の一種である。
【0003】
コレステロールの低密度リポタンパク質(LDL)キャリアは、脂質仮説によって説明される機構により、アテローム性動脈硬化および冠動脈性心疾患の発症に重要な役割を果たしている。スタチンはLDLコレステロールの低下に有効であり、そのため心血管疾患のリスクが高い人の一次予防、および心血管疾患を発症した人の二次予防に広く使用されている。
【0004】
スタチンで処置すると、患者は、筋肉痛、糖尿病のリスク上昇、および肝酵素の異常な血中レベルを含む副作用を示す。
【0005】
一部の患者において、例えばロバスタチンは、ミオパチーおよび無症状であるが顕著で持続的な肝トランスアミナーゼの上昇を引き起こす。ロバスタチンおよび他のHMG-CoA還元酵素阻害剤によって生じるトランスアミナーゼレベルの増加は、メバロン酸合成の阻害の直接的な結果である。少数の患者で観察されるトランスアミナーゼレベルの上昇を妨げるため、特許文献1は、HMG-CoA還元酵素阻害剤に関連する肝臓障害を防止するために、有効量のHMG-CoA還元酵素阻害剤および有効量のコエンザイムQ10の補助的投与を教示している。
【0006】
さらに、スタチンは、血管石灰化を増加させることが知られており、これは心臓病の認知された危険因子である(非特許文献1)。
【0007】
最近、連続冠動脈血管内超音波検査を用いた8回の前向き無作為化試験の解析で、Puriら(非特許文献2)は、プラーク退縮作用とは無関係に、スタチンが冠動脈アテローム石灰化を促進すると結論付けた。
【0008】
動脈石灰化が心血管疾患発症の確立されたマーカーおよび予後指標であり、動脈石灰化における影響をスタチンが刺激していることと、CVD患者の臨床イベントにおけるスタチン補給の明らかに有益な効果との間には、まだ論争がある。一部の研究者は、これらの矛盾した証拠は、病変安定性がより大きくなる、スタチン処置下での動脈石灰化の「特別な」機構のためであるというもっともらしい説明を提供しており、これは、より少ないVH-薄被膜線維性粥腫(VH-thin-cap fibroatheromas)およびプラーク破裂、ならびにより石灰化した厚被膜線維性粥腫(thick-cap fibroatheromas)として定義される(非特許文献3)。
【0009】
血管石灰化は、冠動脈アテローム性動脈硬化に関連する病態生理学的プロセスであり、心血管疾患の罹患率および死亡率の予後マーカーである。
【0010】
血管平滑筋細胞(SMC)は、造骨性表現型分化を受ける並外れた能力を有している。内膜および内側の血管細胞層の石灰化により、平滑筋細胞、間葉系細胞、または血管周皮細胞にかかわらず、特にアルカリホスファターゼ活性、オステオカルシン産生、骨基質分泌の増加を特徴とする、骨芽細胞の分化が導かれる。平滑筋細胞から骨芽細胞への変換に関連する生化学的機構は詳述されているが、このプロセスを引き起こす、および/または制御する決定的な機構は、ほとんど解明されていない。
【0011】
最近の研究から、プラークの石灰化は動的なプロセスであり、血管の炎症の程度と関連していることが明らかになった。動脈硬化の様々な段階で生じるいくつかの炎症性因子は、動脈壁内に存在する骨芽細胞の発現および活性化を誘導することができ、その結果、カルシウムの沈着を促進することが知られている。
【0012】
脱分化した骨芽細胞様細胞とともに制御タンパク質の存在は、石灰化している血管細胞に指定された血管平滑筋細胞(VSMC)に由来することが示された。これらの細胞は、アテローム性動脈硬化性プラーク、特に石灰化周辺での骨の合成/再吸収に関与している。このように、血管壁における骨細胞の機能は、いくつかの局面で骨のものと類似していることが提案されている。しかし、in vitroの研究により、血管壁中と骨格における骨合成の制御は異なるという証拠が提供された。酸化ストレスまたは酸化LDLで刺激すると、骨格の骨芽細胞およびCVC(骨芽細胞の特徴を持つ血管細胞の集団)は、それぞれ骨形成の減少および増加という相反する反応を示した。
【0013】
特許文献2には、血中脂質改善剤組成物が開示されている。この医薬組成物は、アトルバスタチンと、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カルシウムまたはアスコルビン酸であり得るアスコルビン酸誘導体とを組み合わせている。アトルバスタチンおよびアスコルビン酸の共投与の効果は表8に示されている。アトルバスタチンおよびアスコルビン酸を投与した場合、血中FFAレベルが低下している、最後の項目参照。アトルバスタチンおよびアスコルビン酸を含有する組成物が表1~4に示されている。段落[0008]には、アトルバスタチンおよび特定のビタミン(アスコルビン酸)を共投与すると、血中の総コレステロールレベルが低下することが記載されている。
【0014】
特許文献3には、シンバスタチンおよびアスコルビン酸の組み合わせが開示されている。血中過酸化脂質レベル、血中FFAレベル、およびCPKレベルは、シンバスタチンおよびアスコルビン酸の組み合わせによって低下した。対応する医薬組成物は表1~表4に挙げられている。段落[0006]には、この組み合わせにより血中脂質レベルが改善されることが記載されている。
【0015】
特許文献4には、プラバスタチンおよびアスコルビン酸誘導体の組み合わせが開示されている。プラバスタチンおよびアスコルビン酸(ならびにさらにトコフェロールまたはトコフェロールおよび酪酸リボフラビン)の組み合わせにより、血中トリグリセリド濃度が低下し得ることが記載されている。段落[0007]には、薬物組成物が血中のトリグリセリドレベルを低下させることが記載されている。
【0016】
特許文献5には、乾癬の処置のためのスタチンとアスコルビン酸との組み合わせが開示されている。
【0017】
非特許文献4には、第1頁の結論として、アルファ-トコフェロール、ビタミンCおよび低用量のアトルバスタチンによる処置が冠動脈石灰化の進行に影響を与えないことが記載されている。
【0018】
非特許文献5は、要約においてin vitroでのVSMC石灰化におけるカルシウム拮抗薬およびスタチンの効果を記述している。増殖培地はアスコルビン酸を含んでいたが、50μg/mlの低レベルであった。処置を組み合わせることで、アトルバスタチン単独で観察されたものと同程度に、石灰化が促進されることが記載されている。
【0019】
非特許文献6には、第2.2節中の第4827頁に、石灰化を刺激するために、細胞を50μg/mlのアスコルビン酸およびGPと共に培養したことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】US4,929,437
【特許文献2】US2004/0023919A1
【特許文献3】US2004/0014712A1
【特許文献4】US2004/0009986A1
【特許文献5】WO03/072013A2
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Ikegami Y,Inoue I,Inoue K,Shinoda Y3,Iida S1,Goto S4,Nakano T5,Shimada A1,Noda M1.「PCSK9阻害剤およびスタチンの併用療法による冠動脈石灰化の年率は、スタチン単剤療法よりも低い(The annual rate of coronary artery calcification with combination therapy with a PCSK9 inhibitor and a statin is lower than that with statin monotherapy.)」NPJ Aging Mech Dis 2018;4:7
【非特許文献2】Puri R,Nicholls SJ,Shao M,Kataoka Y,Uno K,Kapadia SR,Tuzcu EM,Nissen SE.「アテロームの進行および退縮におけるスタチンの連続冠動脈石灰化に対する影響(Impact of statins on serial coronary calcification during atheroma progression and regression.)」J Am Coll Cardiol 2015; 65:1273-1282
【非特許文献3】Kadohira T1,Mintz GS,Souza CF,Witzenbichler B,Metzger DC,Rinaldi MJ, Mazzaferri EL Jr,Duffy PL,Weisz G,Stuckey TD,Brodie BR,Crowley A,Kirtane AJ,Stone GW,Maehara A.「経皮的インターベンションを受ける患者における慢性スタチン療法が臨床像および基礎病変の形態に与える影響(Impact of chronic statin therapy on clinical presentation and underlying lesion morphology in patients undergoing percutaneous intervention)」:ADAPT-DES IVUSサブスタディ.Coron Artery Dis 2017;28:218-224
【非特許文献4】Y. Aradら,Journal of the American College of Cardiology,第46巻,第1号,2005,第166-172頁
【非特許文献5】A.Trionら,Molecular and Cellular Biochemistry,第308巻,第1-2号,2007,第25-33頁
【非特許文献6】N.Skafiら、Journal of Cellular Physiology,第234巻,第4号,2018,第4825-4839頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の基礎となる目的は、スタチンの投与によって患者に誘発される血管石灰化を処置または予防することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的は、本発明によれば、以下の実施形態のうちの1つまたはそれ以上によって達成される。
第1セットの実施形態
1.スタチン処置を受けている患者の併用処置に使用するためのL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩。
2.患者における血管石灰化の処置、低減または予防に使用するためのL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩。
3.スタチンの投与によって患者に誘発される血管石灰化の処置または予防に使用するための、実施形態2に記載のL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩。
4.スタチンによって誘発される血管石灰化を緩和するための、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の使用。
5.少なくとも1種のスタチンとL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩とを患者に併用投与することを可能にする投薬形態において、少なくとも1種のスタチンとL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩とを含む医薬組成物。
6.少なくとも1種のスタチンおよびL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩が、物理的混合物として、または患者への併用投与を意図した別々の医薬組成物として存在する、実施形態5に記載の医薬組成物。
7.心血管疾患の予防または処置のための、実施形態6に記載の医薬組成物。
8.心血管系疾患が冠動脈疾患、脳血管疾患または末梢血管疾患である、実施形態5~7の1つに記載の医薬組成物。
9.スタチンが、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、もしくはそれらの混合物、もしくはいずれか他のタイプもしくは形態のスタチンからなる群から、またはスタチンとナイアシンの組み合わせから選ばれる、実施形態5~8の1つに記載の医薬組成物。
10.アスコルビン酸塩が、水溶性もしくは脂溶性アスコルビン酸塩またはそれらの混合物から、好ましくはアスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルまたはそれらの混合物から選択される、実施形態6~9の1つに記載の医薬組成物。
11.少なくとも1種のスタチン、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩、およびコエンザイムQ10を患者に併用投与することを可能にする投薬形態において、コエンザイムQ10をさらに含む、実施形態6~10の1つに記載の医薬組成物。
12.L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩10mg~100g、好ましくは100mg~10g、および少なくとも1種のスタチンの商業的に入手可能なまたは臨床的に適用可能な最低用量から最高用量、好ましくは5mg~100mgの1日投与量を含む、実施形態5~11の1つに記載の医薬組成物。
13.L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の他に、好ましくは微量ミネラル、ビタミン、およびそれらの混合物から選択される1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素をさらに含む、実施形態5~12の1つに記載の医薬組成物。
14.1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素が、ナイアシンを、好ましくはスタチンとの混合物中に含む、実施形態13に記載の医薬組成物。
【0024】
第2セットの実施形態
1.好ましくはスタチンで処置されている、患者において、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩を患者に投与することによって、血管石灰化を処置または予防する方法。
2.患者をL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩で処置する方法であって、患者が少なくとも1種のスタチンで併用処置される方法。
3.心血管系疾患を処置、軽減または予防するために、患者に少なくとも1種のスタチンとL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩とを併用投与する方法。
4.スタチンによって誘発される血管石灰化を緩和するための、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の使用方法。
5.少なくとも1種のスタチンとL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩とを患者に併用投与することを可能にする投薬形態において、少なくとも1種のスタチンおよびL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩を含む医薬組成物。
6.少なくとも1種のスタチンおよびL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩が、物理的混合物として、または患者への併用投与を意図した別々の医薬組成物として存在する、実施形態5に記載の医薬組成物。
7.心血管疾患の予防または処置のための実施形態5に記載の医薬組成物。
8.心血管系疾患が冠動脈疾患、脳血管疾患または末梢血管疾患である、実施形態5~7の1つに記載の医薬組成物。
9.スタチンが、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、もしくはそれらの混合物、またはいずれか他のタイプもしくは形態のスタチンからなる群から、またはスタチンとナイアシンとの組み合わせから選ばれる、実施形態5~8の1つに記載の医薬組成物。
10.アスコルビン酸塩が、水溶性もしくは脂溶性アスコルビン酸塩、またはそれらの混合物から、好ましくはアスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルまたはそれらの混合物から選ばれる、実施形態5~9の1つに記載の医薬組成物。
11.少なくとも1種のスタチン、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩、およびコエンザイムQ10を患者に併用投与することを可能にする投薬形態において、コエンザイムQ10をさらに含む、実施形態5~10の1つに記載の医薬組成物。
12.L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩10mg~100g、好ましくは100mg~10g、および少なくとも1種のスタチンの商業的に入手可能なまたは臨床的に適用可能な最低から最高用量、好ましくは5mg~100mgの1日投与量を含む、実施形態5~11の1つに記載の医薬組成物。
13.L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の他に1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素をさらに含む、実施形態5~12の1つに記載の医薬組成物。
14.1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素が、微量ミネラル、ビタミン、およびそれらの混合物から選択され、好ましくは、スタチンとの混合物で存在し得るナイアシンを含む、実施形態13に記載の医薬組成物。
15.有効量の少なくとも1種のスタチンおよび有効量のL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩を併用投与することを含む、そのような処置を必要とする対象におけるスタチン関連の増加した血管石灰化の妨げる方法。
16.有効量のL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩を患者に投与することを含む、患者の血管石灰化を処置または予防する方法。
【0025】
第3セットの実施形態
1.ビタミンC、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、L-カルニチンおよびベタインを含むか、もしくはそれらからなり、好ましくはさらにスタチンを含むか、もしくはそれらからなり、または患者にスタチンの1回投与量で投与することを可能にする投薬形態における、好ましくは医薬の、組成の混合物1(composition mixture 1)。
2.好ましくは、心血管疾患を患う患者に1日用量として投与することを可能にする、混合物で栄養素を有する投薬形態における、少なくとも1種のスタチンを含む(医薬)組成物混合物1。
3.少なくとも1種のスタチンおよび混合物1またはL-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸が、物理的混合物として、または患者への併用投与を意図する別々の(医薬)組成物として存在する、(医薬)組成物。
4.心血管疾患の予防または処置のための(医薬)組成の混合物1。
5.心血管系疾患が、冠動脈疾患、脳血管疾患または末梢血管疾患である、(医薬)組成の混合物1。
6.スタチンが、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、もしくはそれらの混合物、もしくはいずれか他のタイプもしくは形態のスタチンからなる群から、またはスタチンとナイアシンとの組み合わせから選ばれる、(医薬)組成物1。
7.ビタミンCが、好ましくは水溶性もしくは脂溶性アスコルビン酸塩またはそれらの混合物から、好ましくはアスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルまたはそれらの混合物から選ばれるアスコルビン酸塩の形態である、(医薬)組成の混合物1。
8.少なくとも1種のスタチン、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩、およびコエンザイムQ10を患者に併用投与することを可能にする投薬形態においてコエンザイムQ10をさらに含む(医薬)組成の混合物1。
9.L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩10mg~100g、好ましくは100mg~10g、および少なくとも1種のスタチンの商業的に入手可能なまたは臨床的に適用可能な最低用量から最高用量、好ましくは5mg~100mgの1日投与量を含む(医薬)組成の混合物1。
10.L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の他に、好ましくは微量ミネラル、ビタミン、およびそれらの混合物から選択される1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素をさらに含む、(医薬)組成の混合物1。
11.1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素が、ナイアシンを、好ましくはスタチンとの混合物中に含む、(医薬)組成物。
12.(医薬)組成の混合物1は、好ましくは、単回投与または1日当たりの投与量として、以下のような栄養素:ビタミンC(アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム):300mg~1000.2mg、ビタミンE:27.5mg~82.5mg、ビタミンB1:3.3mg~9.9mg、ビタミンB2:3.3mg~9.9mg、ビタミンB3:115mg~350.1mg、ビタミンB5:16.7mg~50.1mg、ビタミンB6:3.3mg~9.9mg、ビタミンB12:10μg~30μg、葉酸:133.3μg~399.9μg、ビオチン:33.3μg~9.9μg、L-カルニチン:33.3mg~99.9mg、ベタイン:23.3mg~69.9mgを含む。
【0026】
(医薬)組成の混合物1は、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の代わりに用いることができる。
【0027】
本発明によれば、L-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩、またはビタミンCを含む栄養素もしくは医薬混合物が、特にスタチンと併用投与(co-administration)したときに、ヒトシステムにおける血管石灰化の処置または予防に有効であることが見出された。
【0028】
ビタミンCは、ヒトを含む特定の動物にとって必須栄養素である。臨床試験では、1日当たり500mgを超える用量で摂取したときに、内皮機能におけるビタミンCの有意な正の効果が示されている。心血管系疾患の処置または予防におけるその影響の可能性が議論されてきた。
【0029】
ビタミンCは非常に強力な抗酸化物質であり、コラーゲンおよび最適な細胞外マトリックス(ECM)の形成に必須である。血管壁の完全性および強度を保護することによって、リポタンパク質の沈着およびアテローム性動脈硬化の発症を防ぐことができる。
【0030】
本発明者らの以前の研究では、アスコルビン酸がin vitroでのSMCの過剰な増殖および移動を抑制することが示されている(Ivanov V,Ivanova S,Roomi MW,Kalinovsky T,Niedzwiecki A,Rath M.「アスコルビン酸、リジン、プロリンおよびカテキンの組み合わせによる大動脈平滑筋細胞の増殖および移動の細胞外マトリックス介在性制御(Extracellular matrix-mediated control of aortic smooth muscle cell growth and migration by combination of ascorbic acid, lysine, proline and catechins.)」J Cardiovasc Pharmacol 2007;50:541-547)。また、ビタミンCを産生できない点、ヒトリポタンパク質(a)を発現する点で、ヒトの代謝を模倣した遺伝子改変マウスにおける血管壁へのリポタンパク質沈着およびアテローム性動脈硬化の予防において、食事性ビタミンCは不可欠である(Cha J,Niedzwiecki A,Rath M.「低アスコルビン血症は、トランスジェニックマウスにおいて動脈硬化およびリポタンパク質(a)の血管沈着を誘発する(Hypoascorbemia induces atherosclerosis and vascular deposition of lipoprotein(a) in transgenic mice.)」Am J Cardiovasc Dis 2015;5:53-62)。臨床試験では、約4gのビタミンCを含む、毎日の微量栄養素補給により、初期の冠動脈疾患と診断された患者の冠動脈石灰化の進行を止めることができた(Rath M,Niedzwiecki A.(1996)「栄養補助食品プログラムは、超高速コンピュータ断層撮影によって記録された初期冠動脈アテローム性動脈硬化の進行を停止させる(Nutritional supplement program halts progression of early coronary atherosclerosis documented by ultrafast computed tomography.)」J Appl Nutr 1996;48:67-78)。
【0031】
このように、ビタミンCは血管壁内の細胞および細胞外の構造および機能の調節に決定的な役割を果たしていると考えられる。アスコルビン酸の最適な利用能では、とりわけ、コラーゲンおよびその他のECM分子の最適な合成によって血管壁の完全性および安定性がもたらされるであろう。慢性的なアスコルビン酸欠乏または初期の壊血病では、石灰化によるものを含む構造的に損なわれた血管壁に代償的に安定性を付加する代償的な機構が必要とされることがある。
【0032】
本発明者らは、血管SMC、ヒト皮膚線維芽細胞(DF)および不死化ヒト胎児骨芽細胞(FOB)におけるビタミンCの効果、ならびにこれらの細胞が血管石灰化に寄与する可能性を検討した。さらに、本発明者らは、スタチン系薬剤が血管石灰化を抑制することを期待して、現在何百万人もの患者に摂取されている事実を踏まえ、この調節過程に関連するスタチンの役割を評価した。それによって、本明細書に開示された発明に到達した。
【0033】
本発明によれば、アスコルビン酸またはL-アスコルビン酸としても知られているビタミンCが用いられる。代替物として、アスコルビン酸塩を用いることができ、アスコルビン酸塩、アスコルビン酸より強い塩基または酸との塩は、好ましくは水溶性または脂溶性アスコルビン酸塩またはそれらの混合物から選択され、より好ましくはアスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルまたはそれらの混合物からなる群から選択される。
【0034】
L-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩、またはビタミンC、E、B1、B2、B3、B5、B6、B12、葉酸、ビオチン、L-カルニチンおよびベタインを含む、またはそれらからなる組成の混合物1は、(好ましくは)スタチンで処置された患者に投与される。
【0035】
本発明の文脈では、スタチンは、HMG-CoA還元酵素阻害剤としても記載することができる。したがって、スタチンは、コレステロールを作るために必要な酵素HMG-CoA還元酵素を阻害する。したがって、スタチンは、心血管疾患のリスクが高い人の病気および死亡率を低下させる脂質低下薬のクラスに関する。すべての適切なスタチンは、本発明の文脈において用いることができる。好ましくは、スタチンは、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチン、またはそれらの混合物、またはいずれか他のタイプもしくは形態のスタチンなる群から、またはスタチンとナイアシンの組み合わせから選択される。
【0036】
本発明の一態様によれば、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩およびスタチンまたは混合物1は、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の他に1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素と共に投与することができる。例えば、スタチン、L-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩または混合物1、および1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素を含む医薬組成物をこの目的のために提供することができる。
【0037】
好ましくは、1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素は、混合物1またはL-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩と共に、およびスタチンと共に投与される。1つまたはそれ以上の微量栄養素は、好ましくは、微量ミネラル、アスコルビン酸塩/ビタミンCとは異なるビタミン、およびそれらの混合物から選択される。微量ミネラルは、ヒトが少量(微量)だけ必要とするものである。
【0038】
微量ミネラルは、好ましくは、ホウ素、コバルト(好ましくはビタミンB12の成分として)、クロム、銅、ヨウ素、鉄、マンガン、モリブデン、セレン、亜鉛、およびそれらの混合物から選択される。
【0039】
ビタミンCとは異なるビタミンは、好ましくは、ビタミンB複合体、ビタミンB1(チアミン)、ビタミンB2(リボフラビン)、ビタミンB3(ナイアシン)、ビタミンB5(パントテン酸)、ピリドキシン、ピリドキサール-5-リン酸、およびピリドキサミンを含むビタミンB6群、ビタミンB7(ビオチン)、ビタミンB9(葉酸塩または葉酸)、ビタミンB12(コバラミン)、コリン、ビタミンA(例えば、レチノールまたはプロビタミンAカロテノイド)、エルゴカルシフェロールおよびコレカルシフェロールを含むビタミンD、ビタミンE(トコフェロールおよびトコトリエノール)、ビタミンK1(フィロキノン)およびビタミンK2(メナキノン)を含むビタミンK、アルファカロテン、ベータカロテン、クリプトキサンチン、ルテイン、リコピンおよびゼアキサンチンを含むカロテノイドから選択される。微量栄養素には、例えば、葉酸、ビオチン、L-カルニチンおよびベタインが含まれうる。
【0040】
アミノ酸およびその誘導体には、ベタインおよびL-カルニチンが含まれる。さらなる微量栄養素は、好ましくは、ビタミンB6およびB12、葉酸およびベタインを含む。微量栄養素の好ましい組み合わせは、以下に説明するように、混合物1に含まれる。
【0041】
患者がスタチンで処置される場合、1日の投与量は、商業的に入手可能なまたは臨床的に適用可能な最低用量から最高用量までとすることができる。投与量は、好ましくは5~100mg、好ましくは10~80mg、より好ましくは10~40mg、最も好ましくは10~20mgの範囲内である。
【0042】
スタチン処置を受けている患者に投与されるL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の量は、好ましくは10mg~100g、より好ましくは100mg~10g、最も好ましくは200mg~5gの1日投与量である。
【0043】
L-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩(および場合により1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素)または後述の混合物1をスタチンと同時に、例えば、L-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩(および場合によりに1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素)または後述の混合物1、およびスタチンの両方を含む錠剤で投与することが可能である。さらに、L-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩(および場合により1つまたはそれ以上の追加の微量栄養素)または後述の混合物1とスタチンとを別々の医薬組成物で、しかし併用して投与することが可能である。用語「併用して」は、両有効成分の投与が、1日当たり1回の投与を基準として、0~5時間、好ましくは0~3時間、より好ましくは0~1時間の時間範囲内で行われることを意味する。
【0044】
スタチンおよびL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩(およびビタミンCとは異なる他の/追加の微量栄養素)の両方は、それを必要とする患者への単独のおよび別々の投与が十分に確立されているので、両方の有効成分、または混合物1およびスタチンの併用使用を確保しながら、知られた医薬もしくは栄養組成物または後述の混合物1を本発明にしたがって用いることができる。
【0045】
例えば、アスコルビン酸塩を含み、スタチンと組み合わせて有利に用いることができる微量栄養素組成物は、混合物1である。混合物1は、ビタミン、L-カルニチンおよびベタインを含み、具体的には、ビタミンC、E、B1、B2、B3、B5、B6、B12、葉酸、ビオチン、L-カルニチンおよびベタインを含むかまたはそれらからなり、毎日の栄養補給のために用いることができる。通常、1日3錠(食事時に多量の液体(水、ジュース、お茶)と共に1錠を1日3回)を服用する。
【0046】
混合物1は、好ましくは、1~3錠の範囲で各栄養素を以下のように含有する:
ビタミンC(アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム):300mg~1000.2mg、
ビタミンE:27.5mg~82.5mg、
ビタミンB1:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB2:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB3:115mg~350.1mg、
ビタミンB5:16.7mg~50.1mg、
ビタミンB6:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB12:10μg~30μg、
葉酸:133.3μg~399.9μg、
ビオチン:33.3μg~99.9μg、
L-カルニチン:33.3mg~99.9mg、
ベタイン:23.3mg~69.9mg。
【0047】
混合物1は、相乗的な組み合わせで選択された微量栄養素を含む。この再構成処方は、他の基本処方、例えばVitacor Plus(商標)と組み合わせることができる。
【0048】
それは、正常なホモシステインおよびコレステロールの代謝を助ける重要な因子を有する、特定のビタミンおよびその他の微量栄養素のスペクトルを補う。錠剤は、通常、以下の成分:ビタミンC、セルロース充填剤、ビタミンB3、L-カルニチン酒石酸塩5.26%、離型剤ステアリン酸、ベタイン塩酸塩3.24%、ビタミンE、ビタミンB5、クロスカルメロースナトリウム、艶出し剤炭酸カルシウム、マルトデキストリン、離型剤二酸化ケイ素、艶出し剤シェラック、ビタミンB1、ビタミンB6、ビオチン、着色剤リボフラビン(ビタミンB2)、ヤシ油エキス、葉酸、ビタミンB2、レモン油、ビタミンB12、天然レモン香料を含む。
【0049】
ビタミンB6、B12、葉酸およびベタインは、正常なホモシステイン代謝を補助する重要な因子である。したがって、これらの微量栄養素の最適な供給は、正常なホモシステインレベルを維持するために不可欠である。
【0050】
医薬組成の混合物1の成分は、例えば、
a)正常なホモシステイン代謝を支えるベタイン、ビタミンB6、ビタミンB12および葉酸と共に
b)正常なエネルギー代謝を支えることに寄与するビオチンおよびビタミンBと共に
c)酸化ストレスに対する細胞の保護に寄与するビタミンCおよびビタミンEと共に
多くの方法で同時に細胞の代謝を支える。
【0051】
推奨される1日の投与量は、上記に示したとおりであるか、またはその10~300%、好ましくは20~200%、より好ましくは50~150%であることができる。使用されるアスコルビン酸塩は、好ましくは、同一量のアスコルビン酸カルシウムおよびアスコルビン酸マグネシウムから得られる。
【0052】
必要に応じて、成分もしくは混合物1および/またはスタチンの一方または両方を、US4,929,437に説明されているように、複合医薬組成物または別々の医薬組成物においてコエンザイムQ10と組み合わせることができる。
【0053】
本発明によれば、L-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩または混合物1は、血管石灰化、特にスタチンの投与によって患者に誘発される血管石灰化を処置または予防するために使用される。
【0054】
この文脈における用語「処置する」は、「緩和する」または「逆転させる」を意味する。
【0055】
「混合物1」、「医薬組成の混合物1」、「(医薬)組成の混合物1」または「医薬組成物」という用語は、本願を通じて、混合物1またはLアスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩を表すために使用される。
【0056】
具体的には、血管平滑筋細胞(SMC)、より具体的にはヒト大動脈平滑筋細胞(AoSMC)の石灰化を防止または緩和するものである。本発明は、特に、血管SMC、ヒト皮膚線維芽細胞(DF)、ならびに不死化ヒト胎児骨芽細胞(FOB)におけるビタミンCの好ましい効果に基づく。血管石灰化の過程では、血管平滑筋細胞(VSMC)の骨形成原細胞への形質転換が必要である。
【0057】
少なくとも1種のスタチンおよびL-アスコルビン酸もしくはアスコルビン酸塩または混合物1を患者に併用投与することは、心血管疾患、例えば冠状動脈疾患、脳血管疾患または末梢血管疾患を処置または予防するのに有用である。
【0058】
本発明を適用することにより、長期のスタチン処置下で観察される増加した石灰化を緩和、逆転または防止することができる。したがって、スタチン誘発性石灰化が有益であり得る、または有害な微小石灰化とは対照的に有益なマクロ石灰化(macro-calcification)が存在し得るという仮説的な解釈は必要ない。
【0059】
物質および方法
試薬
混合物1の栄養サプリメントは、米国薬局方標準手順(USP 2040 Disintegration and Dissolution of Dietary Supplements)に従って、以下のように溶解した。3回分の推奨された1日投与量(9錠)を粉砕し、0.1N HCl900ml中で懸濁した。37℃、75rpmのウォーターバスインキュベーター中で1時間インキュベートした後、サプリメント懸濁液を0.2mcm滅菌フィルターでろ過し、1mlアリコートを使用まで20℃で凍結し保存した。得られた混合物1溶液は、製造者の仕様に従って19mMのアスコルビン酸を含んでいた。すべての試薬は、異なる表示がある場合を除き、Sigma-Aldrich(セントルイス、MO、米国)からであった。
【0060】
細胞培養
正常ヒト皮膚線維芽細胞(DF)および不死化ヒト胎児骨芽細胞(hFOB)はATCC(マナサス、VA、米国)により供給された。ヒト大動脈平滑筋細胞(AoSMC)は、Cambrix(イーストラザフォード、NJ)から購入し、5~7継代で実験に使用した。細胞培養は、抗生物質および5%ウシ胎児血清(FBS、ATCC)を含むDMEM培地(ATCC)中で維持した。いくつかの実験では、細胞を、25mcMフォルスコリンを含むか、または含まない5mMベータ-グリセロリン酸で強化した5%FBS/DMEMとして定義される骨形成促進培地中で培養した。すべての細胞培養は、37℃、5%CO雰囲気で維持した。細胞生存率は、MTTアッセイでモニターした。
【0061】
AoSMCにおけるアルカリホスファターゼ活性アッセイ
AoSMCを96ウェルプレート中で培養し、コンフルエント層まで増殖させた。細胞を増殖培地中でアスコルビン酸と共に3日間培養した。細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、アルカリ緩衝液(Sigma)/1% Triton X100中の50mcl/ウェル 25mcg/ml 4-MUP(蛍光ALP基質、Sigma)を室温で1時間補充した。蛍光は360/450nmで測定した。
【0062】
細胞外マトリックス中のカルシウム蓄積
AoSMCをフィブロネクチン被覆プラスチックプレートに25,000/平方cmの密度で播種し、5~7日間コンフルエンスまで増殖させた。Ivanov V,Ivanova S,Kalinovsky T,Niedzwiecki A,Rath M.「植物由来の微量栄養素は、培養ヒト大動脈内皮細胞層の細胞外マトリックス組成を調節することにより、単球の接着を抑制する(Plant-derived micronutrients suppress monocyte adhesion to cultured human aortic endothelial cell layer by modulating its extracellular matrix composition.)」J Cardiovasc Pharmacol 2008;52:55-65.に記載されたように、2%FBSで補充されたDMEM中でアスコルビン酸または混合物1を指示濃度で72時間細胞に添加し、細胞が産生した細胞外マトリックスを、リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Life Technologies)中の0.5% Triton X100および20mM硫酸アンモニウムにより、室温でそれぞれ3分間、順次処理することにより曝露させた。PBSで4回洗浄後、0.6N HCl中37℃で48時間インキュベートすることによりECM層を可溶化した。可溶化したサンプルのカルシウム含量は、製造元のプロトコールに従ってTECO Caアッセイで測定した。
【0063】
ヒト培養細胞における骨芽細胞マーカーの発現
実験では、AoSMC、DFおよびhFOB細胞を別々の96ウェルプラスチックプレートに25,000/平方cmの密度で播種し、5~7日間コンフルエンスまで成長させた。2%FBSで補充されたDMEM中で、試験化合物を表示濃度で72時間細胞に添加した。細胞層をPBSで3回洗浄し、PBS中の3%ホルムアルデヒドにより4℃で1時間固定した。固定した細胞層をPBSで4回洗浄し、1%BSA/PBSにより室温で1時間処理した。骨形成マーカーのイムノアッセイは、1%BSA/PBS中で一次モノクローナル抗体(R&D Systems)を2時間インキュベートした後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)で標識した二次ヤギ抗マウスIgG抗体を1時間インキュベートして順次実施した。保持されたペルオキシダーゼ活性は、最後の洗浄サイクル(0.1%BSA/PBSで3回)の後、TMBペルオキシダーゼ基質試薬(Rockland)を使用して測定した。光学密度は、プレートリーダー(Molecular Devices)を用いて450nmで読み取り、無補充2%FBS/DMEMでインキュベートした対照細胞サンプルのパーセンテージとして表示した。異なる細胞タイプにおける骨形成マーカーの発現を確実に直接比較するために、イムノアッセイ中、すべてのpcellで覆われたプレートを、同一かつ同時に処理した。
【0064】
統計解析
図中の結果は、少なくとも2つの独立した実験のうち最も代表的なものから3回またはそれ以上繰り返した平均±標準偏差SDである。サンプル間の差は、Excelソフトウェア(Microsoft)を用いて両側スチューデントt検定で推定し、0.05未満のpレベルで有意と認めた。
【0065】
図4A、4B、5Aおよび5Bの結果は、補充した対照に対するパーセンテージで表され、少なくとも2つの独立した実験の最も代表的なものから6回またはそれ以上繰り返した平均±SDとして示した。
【0066】
結果
例示的な実施形態を、添付した図面の図中に例として説明するが、限定されるわけではなく、その中で、同様の参照は類似の要素を示し、その中で、以下のとおりである:
【図面の簡単な説明】
【0067】
図1】培養ヒト大動脈平滑筋細胞における細胞外マトリックスの石灰化に対するアスコルビン酸による処理の効果を示す図である。
図2A】フォルスコリンを用いないAoSMC培養物におけるCa蓄積に対するシンバスタチンの効果を示す図である。
図2B】25mcMフォルスコリン入りのAoSMC培養物におけるCa蓄積に対するメバスタチンの効果を示す図である。
図3A】5mMベータ-グリセロリン酸および25mcMフォルスコリンを補充した骨形成培地中で4週間培養したヒト大動脈SMCにおける骨芽細胞マーカー発現に対する200mcMアスコルビン酸の効果を示す図である。
図3B】5mMベータ-グリセロリン酸および25mcMフォルスコリンを補充した骨形成培地中で4週間培養したヒト皮膚線維芽細胞における骨芽細胞マーカー発現に対する200mcMアスコルビン酸の効果を示す図である。
図4A】プレーン5%FBS/DMEMで4日間補充したAoSMCにおけるアルカリホスファターゼ活性に対する1mcMスタチンおよび混合物1(100mcMアスコルビン酸塩で)の効果を示す図である。MSU基質で90分間培養。
図4B】5mM b-GPおよび25mcMフォルスコリンで4日間補充されたAoSMCにおけるアルカリホスファターゼ活性に対する1mcMスタチンおよび混合物1(および100mcMアスコルビン酸塩)の効果を示す図である。MSU基質で95分間培養。
図5A】プレーン5%FBS/DMEMで5日間補充されたAoSMCにおいてアルカリホスファターゼ活性に対する1mcMスタチンおよび300mcMアスコルビン酸の効果を示す図である。
図5B】5%FBS/DMEM/5mM b-GP、25mcMフォルスコリン中で5日間補充されたAoSMCにおけるアルカリホスファターゼ活性に対する1mcMスタチンおよび300mcMアスコルビン酸の効果を示す図である。
【0068】
細胞の石灰化過程は、通常の細胞増殖培地(5%FBS/DMEM)中、様々な量のアスコルビン酸の非存在下および存在下で培養したヒトAoSMCにおいて調べた。AoSMCの石灰化過程は、細胞性アルカリホスファターゼの活性および細胞が産生する細胞外マトリックス中のカルシウム蓄積によって評価した(図1)。
【0069】
結果は、AoSMC培地にアスコルビン酸を最大300mcM補充すると、用量依存的に細胞外カルシウムのレベルが有意に低下し、細胞性アルカリホスファターゼの活性がより低くなることを示している。300mcMアスコルビン酸の存在下で、AoSMCによる細胞外Ca蓄積は20%減少し、アルカリホスファターゼ活性は80%減少した。
【0070】
図2Aに示した結果は、AoSMC層におけるカルシウム蓄積がシンバスタチン存在下で23%増加したことを示している。しかし、100mcMアスコルビン酸カルシウムが同時に存在すると、蓄積されたカルシウムは0.2mcg/ウェルの値まで54%減少し、これはシンバスタチンに暴露していない細胞で観察された値と相関していた。
【0071】
強化された石灰化促進条件下(フォルスコリン使用)およびスタチン(メバスタチン)存在下でのAoSMCにおけるカルシウム蓄積に対するアスコルビン酸の効果を図2Bに示す。結果から、1mMメバスタチン存在下でカルシウム蓄積は、対照の1.35mcg/ウェルからメバスタチン存在下で1.8mcg/ウェルに増加したことがわかった。しかし、100mcMアスコルビン酸塩を添加すると、カルシウム蓄積は、対照(非補充)値より下に19%減少した。
【0072】
SMCに加えて、本発明者らは、ヒト皮膚線維芽細胞(DF)および不死化ヒト胎児骨芽細胞(FOB)の細胞石灰化過程におけるアスコルビン酸塩の効果を、これらの細胞における様々な骨形成マーカーの発現の変化を評価することによって研究した。5mMベータ-グリセロリン酸および25mcMフォルスコリンを補充した培地で培養するなどによる骨形成促進条件で、異なるタイプの細胞におけるアスコルビン酸塩の効果を検証した。その結果、AoSMCおよびDF培養の両方において、試験したすべての骨形成マーカーの発現が100mcMアスコルビン酸の補充により有意に減少したことがわかった(図3)。骨形成促進培地中のhFOS骨芽細胞に4週間にわたりアスコルビン酸を補充すると、細胞毒性となった。対応するデータは、提示から省いた。
【0073】
本発明者らは、表1に示すように、試験ヒト細胞タイプにおける骨形成マーカーの発現レベルを比較した。その結果、通常の増殖培地では、オステオカルシン、オステオアドヘリン、デンチンマトリックスタンパク質1(DMP-1)、およびスクレロスチン(SOST)の発現は、DMP-1を除いて、骨芽細胞(FOB)において最も顕著で、繊維芽細胞(DF)がすぐ続いて、繊維芽細胞でのDMP-1の発現はFOB培養の発現をわずかに上回った。通常の増殖培地で培養したAoSMCにおける、これらの4つの骨形成マーカーの細胞発現は、FOBおよびDF培養よりも(2~4)倍有意に顕著に少なかった。
【0074】
本試験において、本発明者らは最大で300mcM濃度までの試験したアスコルビン酸がAoSMCによって産生されたECM中のカルシウム蓄積を減少させることができることを実証した。この効果は、細胞内のアルカリホスファターゼ活性の低下および骨芽細胞マーカータンパク質の細胞発現など、特定の代謝パラメータの変化によって示されるSMCの骨形成形質転換の阻止を伴った。高レベルの血清アルカリホスファターゼ(ALP)は、死亡率および心筋梗塞のリスクの上昇と関連している。ALPは無機ピロリン酸を加水分解し、これはリン酸カルシウム沈着の強い阻害剤である。
【0075】
【表1】
【0076】
生理的条件下(通常の細胞培養培地で培養された細胞)では、オステオカルシン、オステオアドヘリン、SOST/スクレロスチンの発現は、hFOS培養物で最も高く、hAoSMC培養物で最も低かった。これらのマーカーの発現は、hDF培養物では中程度であった。生理的条件下(通常の細胞培養培地で培養された細胞)では、DMP-1の発現はhDF培養物で最も高く、hAoSMC培養物で最も低かった。DMP-1の発現は、hFOS培養物では中程度であった。AoSMC培養物では、通常の培地と比較して骨形成促進培地の細胞補充により、試験したすべての骨マーカー(osteomater)の刺激を生じた。対照的に、hDFおよびhFOS培養液では、骨形成促進培地の添加により、試験したすべての骨形成マーカーの抑制を生じた。
【0077】
図4(AおよびB)および図5(AおよびB)に示した結果の説明は、それぞれ1mcM濃度で使用された様々なスタチン:シンバスタチン、メバスタチンおよびプラバスタチンの非存在下および存在下の細胞培養培地中で培養したヒト大動脈平滑筋細胞(AoSMC)において、細胞石灰化過程を調べたことを示している。AoSMCの石灰化過程は、細胞のアルカリホスファターゼ(ALP)活性によって評価した。この研究では、標準条件(5%FBS/DMEM)および石灰化促進条件(5mMベータ-グリセロリン酸(b-GP)および25mcMフォルスコリンを補充した5%FBS/DMEM-図4B)において、混合物1(アスコルビン酸塩を含む微量栄養素の組み合わせ)およびアスコルビン酸塩の効果を個々に評価した。
【0078】
図4Aに示した結果から、通常の細胞培養条件下におけるAoSMCのALP活性はシンバスタチンによって影響を受けないが、対照と比較してメバスタチン存在下では25%、プラバスタチン存在下では39%増加することが示された。混合物1を100mcMアスコルビン酸に相当する濃度で添加すると、ALP活性が低下した。その結果、ALPは対照で33%、シンバスタチン、メバスタチン、プラバスタチンの存在下でそれぞれ29%、25%、27%低くなった。プラバスタチンと混合物1との組み合わせは、石灰化過程を対照(無補充)で観察されるレベルまで低下させる結果となった。シンバスタチンおよびメバスタチンの存在下での混合物1は、ALP活性を対照値よりも下に低下させた。APL活性の低下に最も効果的なのは、混合物1とシンバスタチンとの組み合わせで対照値より33%低く、単独で適用された混合物1の効果とほぼ同等であった。
【0079】
図4Bに示した結果は、石灰化促進条件下(5mMb-GPおよび25mcMフォルスコリン)では、シンバスタチンの存在により、対照と比較してALP活性が22%、メバスタチンでは39%、そしてプラバスタチンでは25%増加することを示している。スタチンの存在下および非存在下で混合物1を添加することにより、ALP活性は、混合物1なしの値と比較して、対照において52%、そしてシンバスタチン、メバスタチンおよびプラバスタチン存在下で、それぞれ52%、45%、44%減少した。通常の細胞培養条件と同様に、ALP活性の低下における混合物1の効力は、シンバスタチンと組み合わせた場合に最も高かった(対照と比較して40%)。混合物1とすべての試験スタチンとの組み合わせにより、APL活性は、対照レベルより下に有意に低下した。混合物1の有意なALP低下効果は、300mcM濃度で単独で使用されたアスコルビン酸に匹敵し、これは混合物1製剤に含まれるその相当量よりも3倍高い。
【0080】
図5Aの結果は、試験スタチンの存在下および非存在下でAoSMC培地に300mcMのアスコルビン酸を補充することにより、細胞アルカリホスファターゼ(ALP)の活性が有意に低下することを示す。通常の培養培地条件下では、アスコルビン酸はアルカリホスファターゼ活性を約43%低下させた。シンバスタチン存在下では、ALP活性は57%高く、300mcMのアスコルビン酸を加えた後、対照レベルまで減少した。同様にメバスタチンおよびプラバスタチンはALP活性をそれぞれ61%および60%増加させた。これらの刺激効果は、アスコルビン酸の存在下で、それぞれ29%および30%減少した。
【0081】
図5Bの結果から、石灰化促進条件下では、スタチンは、シンバスタチン、メバスタチン、およびプラバスタチンに対してそれぞれ30%、41%、および25%のALP活性の刺激増加を生じたことがわかる。アスコルビン酸塩の同時補充により、シンバスタチン、メバスタチン、およびプラバスタチン含有試料では、それぞれALP活性が36%、37%、および24%減少した。同じ実験条件下で、スタチンの非存在下でAoSMCに添加したアスコルビン酸は、ALP活性を29%低下させた。
【0082】
このように、本研究では、本発明者らは、混合物1および/またはビタミンCが、血管壁内部の細胞および細胞外の構造および機能の調節に決定的な役割を果たすことを証明する。アスコルビン酸塩または混合物1の最適に利用能により、血管壁の完全性および安定性は、とりわけ、コラーゲンおよび他のECM分子の最適な合成によってもたらされるであろう。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
【手続補正書】
【提出日】2021-06-28
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スタチンの投与によって患者に誘発される血管石灰化の処置または予防に使用するための、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、L-カルニチンおよびベタインを含む組成の混合物。
【請求項2】
スタチン処置を併用して受けている患者の処置に使用するための、請求項1に記載の組成の混合物。
【請求項3】
組成の混合物が以下の量:
L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩:300mg~1000.2mg、
ビタミンE:27.5mg~82.5mg、
ビタミンB1:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB2:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB3:115mg~350.1mg、
ビタミンB5:16.7mg~50.1mg、
ビタミンB6:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB12:10μg~30μg、
葉酸:133.3μg~399.9μg、
ビオチン:33.3μg~99.9μg、
L-カルニチン:33.3mg~99.9mg、
ベタイン:23.3mg~69.9mg
を含む、請求項1または2に記載の使用のための組成物混合物。
【請求項4】
アスコルビン酸塩が、水溶性もしくは脂溶性アスコルビン酸塩またはそれらの混合物から、好ましくはアスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルまたはそれらの混合物から選ばれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の使用のための組成の混合物。
【請求項5】
少なくとも1種のスタチンならびにL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩およびビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、L-カルニチンおよびベタインを患者に併用投与することを可能にする投薬形態において、少なくとも1種のスタチンならびにL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、L-カルニチンおよびベタインを含む医薬組成物。
【請求項6】
少なくとも1種のスタチンならびにL-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、L-カルニチンおよびベタインが物理的混合物としてまたは患者への併用投与を意図した別々の医薬組成物として存在する、請求項5または6に記載された医薬組成物。
【請求項7】
心血管系疾患の予防または処置に使用するための、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項8】
心血管系疾患が冠動脈疾患、脳血管疾患または末梢血管疾患である、請求項7に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
スタチンが、アトルバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、シンバスタチンまたはそれらの混合物からなる群から選択される、請求項5~8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
アスコルビン酸塩が、水溶性もしくは脂溶性アスコルビン酸塩またはそれらの混合物、好ましくはアスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルまたはそれらの混合物から選択される、請求項5~9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
少なくとも1種のスタチン、L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩、およびコエンザイムQ10を患者に併用投与することを可能にする投薬形態において、コエンザイムQ10をさらに含む、請求項5~10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩の1日投与量が10mg~100gであり、少なくとも1種のスタチンの1日投与量が5mg~100mgである、請求項5~11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
医薬組成物中に、以下の量:
L-アスコルビン酸またはアスコルビン酸塩:300mg~1000.2mg、
ビタミンE:27.5mg~82.5mg、
ビタミンB1:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB2:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB3:115mg~350.1mg、
ビタミンB5:16.7mg~50.1mg、
ビタミンB6:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB12:10μg~30μg、
葉酸:133.3μg~399.9μg、
ビオチン:33.3μg~99.9μg、
L-カルニチン:33.3mg~99.9mg、
ベタイン:23.3mg~69.9mg
を含む、請求項5~12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
ナイアシンを、好ましくはスタチンとの混合物で、さらに含む、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
組成の混合物中に以下の量:
ビタミンC:300mg~1000.2mg、
ビタミンE:27.5mg~82.5mg、
ビタミンB1:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB2:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB3:115mg~350.1mg、
ビタミンB5:16.7mg~50.1mg、
ビタミンB6:3.3mg~9.9mg、
ビタミンB12:10μg~30μg、
葉酸:133.3μg~399.9μg、
ビオチン:33.3μg~99.9μg、
L-カルニチン:33.3mg~99.9mg、
ベタイン:23.3mg~69.9mg
を含む、またはそれらからなる、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチン、L-カルニチンおよびベタインを含むか、またはそれらからなる、組成の混合物1。
【請求項16】
ビタミンCがアスコルビン酸塩の形態であり、アスコルビン酸塩が、好ましくは水溶性もしくは脂溶性アスコルビン酸塩、またはそれらの混合物から選択され、より好ましくは、アスコルビン酸塩が、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビル、パルミチン酸アスコルビルまたはそれらの混合物から選択される、請求項15に記載の組成の混合物1。
【請求項17】
さらにコエンザイムQ10を含む、請求項15または16に記載の組成の混合物1。
【国際調査報告】