(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】抗PD-1抗体およびその医学的使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220930BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220930BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220930BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220930BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220930BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220930BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220930BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220930BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220930BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20220930BHJP
A61K 47/52 20170101ALI20220930BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20220930BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20220930BHJP
A61K 31/4709 20060101ALI20220930BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220930BHJP
A61K 31/47 20060101ALI20220930BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220930BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220930BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220930BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20220930BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220930BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/54
A61K47/52
A61K47/62
A61K47/68
A61K31/4709
A61P43/00 121
A61K31/47
A61P35/00
A61K9/20
A61K9/08
A61P7/06
A61P35/02
G01N33/53 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506740
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(85)【翻訳文提出日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 CN2020106219
(87)【国際公開番号】W WO2021023108
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】201910711138.5
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201911105711.4
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201911105715.2
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】201911133858.4
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】522044146
【氏名又は名称】シーティーティーキュー-アケソ(シャンハイ) バイオメド テク カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ワン ゾンミン
(72)【発明者】
【氏名】チャン ペン
(72)【発明者】
【氏名】リ バイヨン
(72)【発明者】
【氏名】シア ユ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C076
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B064DA13
4B065AA01X
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4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
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4C076AA11
4C076AA95
4C076BB13
4C076BB17
4C076CC11
4C076CC27
4C076CC41
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4C076EE59
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA31
4C085CC01
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
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4C086AA01
4C086AA02
4C086BC28
4C086GA07
4C086MA01
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4C086MA04
4C086MA65
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4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA55
4C086ZB26
4C086ZB27
4C086ZC75
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA70
4H045BA71
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
モノクローナル抗体を開示する。このモノクローナル抗体は、SEQ ID NO: 19~21のアミノ酸配列を有するCDRを含む重鎖可変領域および/またはSEQ ID NO: 22~24のアミノ酸配列を有するCDRを含む軽鎖可変領域を有する。EUナンバリングシステムを用いて、抗体は、234、235、および237位のうちのいずれか2つまたは3つにおいて変異した重鎖定常領域を有する。FcγRIIIaおよび/またはC1qに対する変異抗体の親和性定数は、変異前のものよりも低い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体であって、
該抗体の重鎖可変領域が、それぞれSEQ ID NO: 19~21に記載されたアミノ酸配列を有するHCDR1~HCDR3を含み、かつ該抗体の軽鎖可変領域が、それぞれSEQ ID NO: 22~24に記載されたアミノ酸配列を有するLCDR1~LCDR3を含み;
該抗体がヒトIgG1サブタイプのものであり;
EUナンバリングシステムに従って、該抗体の重鎖定常領域が、234、235および237位のうちのいずれか2つまたは3つにおいて変異を含み、かつFcγRIIIaおよび/またはC1qに対する該抗体の親和性定数が、変異前と比較して変異後に減少し;好ましくは、親和性定数はFortebio Octetシステムによって測定される、
抗体。
【請求項2】
EUナンバリングシステムに従って、前記抗体の重鎖定常領域が、以下の変異:
L234AおよびL235A;
L234AおよびG237A;
L235AおよびG237A;
または
L234A、L235A、およびG237A
を含む、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
抗体であって、
該抗体の重鎖可変領域が、それぞれSEQ ID NO: 19~21に記載されたアミノ酸配列を有するHCDR1~HCDR3を含み、かつ該抗体の軽鎖可変領域が、それぞれSEQ ID NO: 22~24に記載されたアミノ酸配列を有するLCDR1~LCDR3を含み;
該抗体がヒトIgG1サブタイプのものであり;
EUナンバリングシステムに従って、該抗体の重鎖定常領域が、以下の変異:
L234AおよびL235A;
L234AおよびG237A;
L235AおよびG237A;
または
L234A、L235A、およびG237A
を含む、
抗体。
【請求項4】
EUナンバリングシステムに従って、前記抗体の重鎖定常領域が、
N297A、D265A、D270A、P238D、L328E、E233D、H268D、P271G、A330R、C226S、C229S、E233P、P331S、S267E、L328F、A330L、M252Y、S254T、T256E、N297Q、P238S、P238A、A327Q、A327G、P329A、K322A、T394D、G236R、G236A、L328R、A330S、P331S、H268A、E318A、およびK320A
より選択される1つまたは複数の変異をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体の重鎖可変領域が、SEQ ID NO: 2およびSEQ ID NO: 6より選択されるアミノ酸配列を含み;かつ
前記抗体の軽鎖可変領域が、SEQ ID NO: 4およびSEQ ID NO: 8より選択されるアミノ酸配列を含む、
請求項1~4のいずれか一項記載の抗体。
【請求項6】
前記抗体の重鎖可変領域がSEQ ID NO: 2に記載のアミノ酸配列を含み、かつ前記抗体の軽鎖可変領域がSEQ ID NO: 4に記載のアミノ酸配列を含む;
前記抗体の重鎖可変領域がSEQ ID NO: 2に記載のアミノ酸配列を含み、かつ前記抗体の軽鎖可変領域がSEQ ID NO: 8に記載のアミノ酸配列を含む;
前記抗体の重鎖可変領域がSEQ ID NO: 6に記載のアミノ酸配列を含み、かつ前記抗体の軽鎖可変領域がSEQ ID NO: 4に記載のアミノ酸配列を含む;
または
前記抗体の重鎖可変領域がSEQ ID NO: 6に記載のアミノ酸配列を含み、かつ前記抗体の軽鎖可変領域がSEQ ID NO: 8に記載のアミノ酸配列を含む、
請求項1~4のいずれか一項記載の抗体。
【請求項7】
重鎖がSEQ ID NO: 16に記載され、かつ軽鎖がSEQ ID NO: 12に記載される;
または
重鎖がSEQ ID NO: 18に記載され、かつ軽鎖がSEQ ID NO: 12に記載される、
請求項1~6のいずれか一項記載の抗体。
【請求項8】
前記抗体が、約10
-7 Mより大きい、例えば、約10
-6 M、10
-5 M、10
-4 M、または10
-3 Mまたはそれ以上より大きい親和性定数で、FcγRIIIa_F158、FcγRI、FcγRIIa_H131、FcγRIIIa_V158、および/またはFcγRIIbへ結合し;好ましくは、親和性定数がFortebio Octetシステムによって測定され;
好ましくは、前記抗体が、FcγRIIIa_F158、FcγRI、FcγRIIa_H131、FcγRIIIa_V158、および/またはFcγRIIbに対して結合シグナルを有しないかまたは0.1 nm未満の結合シグナルを有し;好ましくは、結合シグナルは、Fortebio Octetシステムによって測定された応答を指す、
請求項1~7のいずれか一項記載の抗体。
【請求項9】
前記抗体が、約10
-9 Mより大きい、例えば、約10
-8 M、10
-7 M、10
-6 M、または10
-5 Mまたはそれ以上より大きい親和性定数で、C1qへ結合し;好ましくは、親和性定数がFortebio Octetシステムによって測定され;
好ましくは、前記抗体が、C1qに対して結合シグナルを有しないかまたは0.1 nm未満の結合シグナルを有し;好ましくは、結合シグナルは、Fortebio Octetシステムによって測定された応答を指す、
請求項1~8のいずれか一項記載の抗体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項記載の抗体をコードする、単離された核酸分子。
【請求項11】
請求項10記載の単離された核酸分子を含む、ベクター。
【請求項12】
請求項10記載の単離された核酸分子または請求項11記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか一項記載の抗体と、コンジュゲート部分とを含む、コンジュゲートであって、
該コンジュゲート部分が、検出可能な標識であり;好ましくは、該コンジュゲート部分が、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、着色物質、または酵素である、
コンジュゲート。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか一項記載の抗体または請求項13記載のコンジュゲートを含む、キットであって、
好ましくは、該キットが、該抗体を特異的に認識する第2の抗体をさらに含み;任意で、第2の抗体が、検出可能な標識、例えば、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、着色物質、または酵素をさらに含む、
キット。
【請求項15】
サンプル中のPD-1の存在またはレベルを検出するためのキットを調製することにおける、請求項1~9のいずれか一項記載の抗体または請求項13記載のコンジュゲートの使用。
【請求項16】
請求項1~9のいずれか一項記載の抗体または請求項13記載のコンジュゲートを含む、薬学的組成物であって、任意で、薬学的に許容される担体および/または賦形剤をさらに含む、薬学的組成物。
【請求項17】
1つまたは複数の抗腫瘍化学療法薬をさらに含み;
好ましくは、該抗腫瘍化学療法薬がチロシンキナーゼ阻害剤であり;より好ましくは、該抗腫瘍化学療法薬が、アンロチニブもしくはその薬学的に許容される塩(例えば、塩酸塩)、またはレンバチニブもしくはその薬学的に許容される塩(例えば、メシル酸塩)である、
請求項16記載の薬学的組成物。
【請求項18】
前記薬学的組成物の単位用量が、前記抗体の質量に基づいて、100~1000 mg、200~800 mg、200~500 mg、300~600 mg、400~500 mg、または450 mgである、請求項16または17記載の薬学的組成物。
【請求項19】
請求項1~9のいずれか一項記載の抗体と、少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、または3つ)の抗腫瘍化学療法薬とを含む、治療的組み合わせ。
【請求項20】
前記抗腫瘍化学療法薬がチロシンキナーゼ阻害剤であり;好ましくは、前記抗腫瘍化学療法薬が、アンロチニブもしくはその薬学的に許容される塩(例えば、塩酸塩)、またはレンバチニブもしくはその薬学的に許容される塩(例えば、メシル酸塩)である、請求項19記載の治療的組み合わせ。
【請求項21】
前記抗体の単位用量が、100~1000 mg、200~800 mg、200~500 mg、300~600 mg、400~500 mg、または450 mgである、請求項19または20記載の治療的組み合わせ。
【請求項22】
前記抗腫瘍化学療法薬の単位用量が、0.1~100 mg、0.5~50 mg、1~20 mg、2~15 mg、4~12 mg、または8~12 mgである、請求項19または20記載の治療的組み合わせ。
【請求項23】
前記治療的組み合わせが、例えば固体薬学的組成物または液体薬学的組成物の形態の、固定された組み合わせ(fixed combination)であるか;または
前記治療的組み合わせが、固定されていない組み合わせ(non-fixed combination)であり、例えば、固定されていない組み合わせ中の抗PD-1抗体および抗腫瘍化学療法薬が、それぞれ、薬学的組成物の形態である、
請求項19~22のいずれか一項記載の治療的組み合わせ。
【請求項24】
請求項16~18のいずれか一項記載の薬学的組成物または請求項19~23のいずれか一項記載の治療的組み合わせと、添付文書とを含む、キット製品。
【請求項25】
腫瘍もしくは貧血を処置および/もしくは予防するための医薬を調製することにおける、または腫瘍もしくは貧血を診断するための医薬を調製することにおける、請求項1~9のいずれか一項記載の抗体、請求項13記載のコンジュゲート、請求項16~18のいずれか一項記載の薬学的組成物、または請求項19~23のいずれか一項記載の治療的組み合わせの、使用であって、
好ましくは、該腫瘍が、黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、膀胱癌、結腸癌、直腸癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、白血病、上咽頭癌、および子宮内膜癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、該肺癌が、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、および肺扁平上皮癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、該胃癌が、胃腺癌または胃食道接合部腺癌であり;
好ましくは、該腫瘍が、MSI-H/dMMR表現型の固形腫瘍であり;好ましくは、該腫瘍が、MSI-H/dMMR表現型の以下の腫瘍:
結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌、胃癌、中皮腫、肉腫、副腎皮質癌、悪性黒色腫、および卵巣胚細胞腫瘍
のうちの1つまたは複数より選択される、
使用。
【請求項26】
PD-L1へのPD-1の結合を遮断するための医薬、
PD-1の活性またはレベルをダウンレギュレートするための医薬、
生物中におけるPD-1の免疫抑制を軽減するための医薬、または
Tリンパ球中のIFN-γおよび/またはIL-2発現を増大させるための医薬
を調製することにおける、請求項1~9のいずれか一項記載の抗体、請求項13記載のコンジュゲート、請求項16~18のいずれか一項記載の薬学的組成物、または請求項19~23のいずれか一項記載の治療的組み合わせの、使用。
【請求項27】
好ましくは、前記腫瘍が、黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、膀胱癌、結腸癌、直腸癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、白血病、上咽頭癌、および子宮内膜癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、前記肺癌が、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、および肺扁平上皮癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、前記胃癌が、胃腺癌または胃食道接合部腺癌であり;
好ましくは、前記腫瘍が、MSI-H/dMMR表現型の固形腫瘍であり;好ましくは、前記腫瘍が、MSI-H/dMMR表現型の以下の腫瘍:
結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌、胃癌、中皮腫、肉腫、副腎皮質癌、悪性黒色腫、および卵巣胚細胞腫瘍
のうちの1つまたは複数より選択される、
腫瘍もしくは貧血を処置および/もしくは予防することにおける使用のための、または腫瘍もしくは貧血を診断することにおける使用のための、請求項1~9のいずれか一項記載の抗体、請求項13記載のコンジュゲート、請求項16~18のいずれか一項記載の薬学的組成物、または請求項19~23のいずれか一項記載の治療的組み合わせ。
【請求項28】
有効量の請求項1~9のいずれか一項記載の抗体、請求項13記載のコンジュゲート、請求項16~18のいずれか一項記載の薬学的組成物、または請求項19~23のいずれか一項記載の治療的組み合わせを、その必要がある対象に投与する段階を含む、腫瘍もしくは貧血を処置および/もしくは予防するための方法、または腫瘍もしくは貧血を診断するための方法であって、
好ましくは、該腫瘍が、黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、膀胱癌、結腸癌、直腸癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、白血病、上咽頭癌、および子宮内膜癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、該肺癌が、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、および肺扁平上皮癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、該胃癌が、胃腺癌または胃食道接合部腺癌であり;
好ましくは、該腫瘍が、MSI-H/dMMR表現型の固形腫瘍であり;好ましくは、該腫瘍が、MSI-H/dMMR表現型の以下の腫瘍:
結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌、胃癌、中皮腫、肉腫、副腎皮質癌、悪性黒色腫、および卵巣胚細胞腫瘍
のうちの1つまたは複数より選択される、
方法。
【請求項29】
有効量の前記抗体が、外科的処置の前もしくは後におよび/または放射線療法の前もしくは後に、その必要がある対象に投与される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記抗体の単位用量が、1 kg体重当たり0.1~100 mg、好ましくは1 kg体重当たり1~10 mgであり;あるいは、前記抗体の単位用量が、各対象において10~1000 mg、好ましくは50~500 mgであり;
好ましくは、用量が、3日、4日、5日、6日、10日、1週間、2週間、または3週間毎に1回投与され;
好ましくは、投与経路が点滴静注または静脈内注射である、
請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
前記抗体の投与が2または3週間のサイクルで行われ、かつ好ましくは、前記抗体が各サイクルの初日に静脈内投与され;好ましくは、前記抗体が2または3週間毎に1回投与される、請求項28~30のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、腫瘍治療および分子免疫学の分野、具体的には、抗PD-1抗体およびその薬学的使用に関する。より具体的には、本発明は、変異体抗PD-1抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
膜貫通受容体PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)は、CD28ファミリーのメンバーであり、活性化T細胞、B細胞および骨髄系細胞において発現される。PD-1のリガンド、PDL1(プログラム細胞死1リガンド1、またはPDL-1)およびPDL2(プログラム細胞死1リガンド2、またはPDL-2)は両方とも、B7スーパーファミリーのメンバーである。PDL1は、T細胞、B細胞、内皮細胞および上皮細胞を含む様々な細胞において発現され、PDL2は、樹状細胞およびマクロファージのような抗原提示細胞においてのみ発現される。
【0003】
PD-1/PDL1シグナル伝達経路は、免疫寛容、微生物感染および腫瘍免疫回避の制御において重要な役割を果たす。PD-1はT細胞のような免疫細胞において主に発現され、PD-1のリガンドPDL1は複数のヒト腫瘍組織において高発現される。PD-1/PDL1シグナル伝達経路を遮断することは、抑制されたT細胞を活性化し得、これは従って癌細胞を攻撃する。PD-1/PDL1シグナル伝達を遮断することは、腫瘍抗原特異的T細胞の増殖を促進し、腫瘍細胞殺傷プロセスを活性化し、さらに局所腫瘍成長を阻害することができる(Julie R et al., 2012, N Engl J Med., 366:2455-2465(非特許文献1))。
【0004】
PD-1/PD-L1は重要な特異的免疫チェックポイントである。PD-1/PD-L1複合体の形成は、抑制シグナルを伝達し、T細胞の免疫応答を負に制御する。それは、TCR媒介T細胞活性化、サイトカイン産生およびT細胞増殖を抑制し(Fife et al., (2011) Nature Immunology 10:1185-1193(非特許文献2))、相同抗原特異的T細胞における枯渇またはアネルギーを誘導し(Hofmeyer et al., (2011) Journal of Biomedicine and Biotechnology, 2011:1-9(非特許文献3))、Foxp3+制御性T細胞へのTh1細胞の分化を促進し(Armanath et al., (2011) Science Trans. Med., 3:1-13(非特許文献4); Francisco et al., (2009) J. Exp. Med., 206:3015-3029(非特許文献5))、エフェクターT細胞のアポトーシスを誘導する。PD-L1遺伝子の破壊は、アップレギュレートされたT細胞応答および自己反応性T細胞の産生をもたらした(Latchman et al., (2004) PNAS, 101:10691-10696(非特許文献6))。抗体によるPD-1またはPD-L1の遮断は、増大した抗腫瘍免疫に至る(Iwai et al., (2002) PNAS, 99:12293-12297(非特許文献7))。
【0005】
過去20年近く、研究者らは、癌を処置するための新しい免疫療法レジメンを提供することを期待して、特異的免疫チェックポイント阻害剤の開発に多大な努力を払ってきた。これらの中で、自然Tリンパ球免疫系は、その高い抗癌能力および広範かつ正確な特異性により、様々な腫瘍抗原に応答することができる。この新たに出現した癌免疫療法は、活性化エフェクター細胞の養子移入、関連する抗原に対する免疫化、または非特異的免疫賦活薬の提供による抗腫瘍免疫反応を増強する。従って、PD-1/PD-L1特異的免疫チェックポイント阻害剤は、関連する癌の処置についての可能性を有する。
【0006】
抗PD-1抗体の作用機序は、免疫細胞の表面上のPD-1タンパク質がそのリガンドであるPDL1またはPDL2へ結合することを遮断し、腫瘍を殺傷するように免疫細胞を活性化することである。現在、抗PD-1抗体が結合する免疫細胞上における抗体媒介ADCC、ADCPおよび/またはCDC活性によって引き起こされる損傷を軽減するまたは無くし、抗体療法の有効性を改善するために、新規の抗PD-1抗体の開発が依然として必要とされている。ADCC(抗体依存性細胞傷害)は、ウイルス感染細胞または腫瘍細胞のエピトープへの抗体のFab断片の結合、およびキラー細胞の表面上のFc受容体(FcR)への抗体のFc断片の結合によって媒介される、キラー細胞(NK細胞、マクロファージなど)による標的細胞の殺傷を指す。
【0007】
CDC(補体依存性細胞傷害)は、細胞膜の表面上の対応する抗原への抗体および補体C1qの連続結合、ならびにC2~C9の活性化によって形成される、膜攻撃複合体による標的細胞に対する溶解効果を指す。
【0008】
Fc受容体は、抗体Fc領域を認識して免疫反応を媒介するために特異的免疫細胞の表面上に発現される免疫グロブリンファミリーに属する。Fab領域が抗原を認識した後、抗体のFc領域は免疫細胞(例えば、キラー細胞)上のFc受容体へ結合して、貪食およびADCCなどの、免疫細胞の応答機能を開始する。
【0009】
Fc受容体によって認識される抗体のタイプおよび発現細胞のタイプに従って、Fc受容体は、主に3つのタイプ、FcγR、FcαRおよびFcεRに分類される。FcγRは、4つのサブタイプ、FcγRI (CD64)、FcγRII (CD32)、FcγRIII (CD16)およびFcRn (新生児Fc受容体)さらに分類され得る。これらの中で、FcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIは、ADCC効果と密接に関連している。FcγRIIIは、ADCCを媒介する最も優勢な分子であり、異なる細胞タイプにおいて、2つの高度に相同なサブタイプ、FcγRIIIaおよびFcγRIIIbがある。FcγRIIIa集団において、一塩基多型(SNP)の部位によって区別される2つのサブタイプ、高親和性を有するFcγRIIIa_V158および低親和性を有するFcγRIIIa_F158が存在する。FcγRIは、IgGのFc領域についてより高い親和性を有し、ADCCプロセスに関与し;FcγRIIは、3つのサブタイプ、FcγRIIa、FcγRIIbおよびFcγRIIc(それぞれ、CD32a、CD32bおよびCD32cとも呼ばれる)を含み、これらの中でFcγRIIaがADCC活性を有し;FcγRIIaについては、2つのサブタイプ、FcγRIIa_H131およびFcγRIIa_R131が、一塩基変異に起因してヒトに存在し;FcγRIIbは、抑制性受容体であり、近くのITAM経路を抑制する典型的な抑制性FcγRである。例えば、BCRへの免疫複合体の結合後、Fc断片は同じ細胞上のFcγRIIbへ結合し、B細胞活性化を負に制御し、抗体およびサイトカインの分泌を減少させる(Hogarth PM, Pietersz GA., 2012, NATURE REVIEWS DRUG DISCOVERY, 11(4):311-331(非特許文献8))。
【0010】
IgGファミリーは、重鎖定常領域中のフラグメント結晶化可能(Fc)領域中のアミノ酸が異なり、その結果、FcγRに対する親和性が異なる、4つのメンバー、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含む。IgG1は、ヒトにおいて最も豊富なサブタイプであり、また、モノクローナル抗体薬において使用される最も一般的なサブタイプである。IgG1は、様々なFcγRに結合し得、ADCCおよびCDC効果を誘導し得る。IgG2は、FcγRに対して最も低い親和性を有するが、FcγRIIaへ結合することによって依然として単球媒介ADCCを誘導し得る。IgG3は、FcγRへの最も高い結合能力を特徴とし、IgG1よりも大きなCDC効果およびADCCを誘導し得る。IgG4分子は、FcγRI以外のFcγRに対しては弱い結合を示し、CDCおよびNK細胞媒介ADCCを引き起こす確率がより低くなる。しかし、IgG4サブタイプの抗体は、FcγRIへの結合を通じてADCP効果を媒介することがあり、免疫細胞を標的とする抗体療法に存在するADCP効果は、免疫細胞に損傷を与え、薬理学的有害作用を引き起こす可能性がある。
【0011】
Zhangら(Zhang T et al, Cancer Immunol Immunother., 2018; 67(7):1079-1090(非特許文献9))およびDahanら(Dahan R et al., Cancer cell, 2015, 28(3):285-95(非特許文献10))は、Fc受容体への、PD-1およびCTLA-4などの免疫チェックポイントを標的とする抗体のFc断片の結合が、抗体依存性細胞傷害を含むFc依存性エフェクター機能誘導免疫細胞損傷に恐らく起因して、抗体媒介抗癌活性に悪影響を与えることを報告し、ここで、抗体依存性細胞貪食(ADCP)は免疫細胞損傷をもたらす重要な機構である。
【0012】
非扁平上皮非小細胞肺癌(NSCLC)および扁平上皮非小細胞肺癌(sNSCLC)は両方とも肺組織悪性腫瘍である。現在の治療戦略としては早期の手術が挙げられる。しかし、診断された肺癌患者の多くは進行期であり、手術および放射線療法に対して不良な反応を示す。従って、化学療法は重要な治療法となっている。現在、白金およびその他の化学療法薬の併用化学療法が、依然として、進行性sNSCLCおよびNSCLCを含む肺癌に対する第一選択化学療法である(Pfister DG. et al., J. Clin. Oncol., 2003, 22:330(非特許文献11); De Ruysscher et al., (2006) Annals of Oncology, 17:543-552(非特許文献12))。
【0013】
化学療法は、現在、主に以下の9つのクラスに分類される(He Jie, et al., Clinical Oncology, Beijing, People's Medical Publishing House, 2016:230-237(非特許文献13))。第一のクラスは、DNAへ直接結合してDNA複製を阻止する薬物であり、これらとしては、様々なアルキル化剤、マイトマイシン、ブレオマイシン、ダカルバジン、白金ベースの薬物(例えば、シスプラチンおよびカルボプラチン)、カンプトテシン、およびそれらの誘導体が挙げられる。第二のクラスは、主に腫瘍細胞の酵素系に影響を与え、DNAおよびRNAの前駆体の合成を遮断し、それによってDNAまたはRNAの形成を阻害する、核酸生合成を阻止するための薬物であり、これらとしては、メトトレキサート、フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、ヒドロキシ尿素およびシタラビンが挙げられ;そのような薬物は、主にS期の細胞に作用し、代謝拮抗化学療法剤および細胞周期特異的抗癌剤である。第三のクラスは、薬物がDNA二重らせん中へ挿入されてDNA二重らせんと非共有結合を形成する薬理学的機構を通じて転写に影響を与える化学療法薬であり、DNA依存性mRNAへのDNA上の遺伝情報の転写に干渉し、テンプレート機能を傷つけて転写を妨害する。第四のクラスは、チューブリンおよび有糸分裂に影響を与えるものであり、これらとしては、ビンカアルカロイド、ポドフィロトキシンおよびタキサンが挙げられる。第五のクラスは、リボソームの機能に影響を与え、タンパク質合成を遮断する薬物であり;そのような薬物の代表はハリングトニンであり、これは、タンパク質合成の開始を阻害し、リボソームを分解し、新生ペプチド鎖を放出するが、しかし、リボソームへのmRNAおよびtRNAの結合を遮断せず;そのような薬物は、核DNAおよび細胞質RNAの減少ならびにポリソームの脱重合を引き起こし、有糸分裂を阻害する。第六のクラスは、腫瘍細胞膜に影響を与える薬物、例えば、コンカナバリン(Con-A)およびフィトヘムアグルチニン(PHA)であり;それらは、細胞膜上の糖タンパク質受容体へ結合することができ、それによって、腫瘍細胞中におけるDNA合成に影響を与え、腫瘍細胞が分裂するのを防止する。第七のクラスは、三酸化ヒ素のような、アポトーシスを誘発する薬物である。第八のクラスは、内分泌系を制御することによって腫瘍を処置するホルモンであり、これらとしては、エストロゲン、抗エストロゲン薬、プロゲストーゲン、アンドロゲン、抗アンドロゲン薬、コルチコステロイド、および抗コルチコステロイド薬(ジクロロジフェニルジクロロエタンおよびアミノグルテチミドを含む)が挙げられる。第九のクラスは抗癌標的療法であり、これらとしては、モノクローナル抗体、上皮増殖因子シグナル伝達阻害剤(例えば、受容体型チロシンキナーゼ経路に対する標的薬)、ユビキチン-プロテアソーム阻害剤、および血管新生阻害剤が挙げられる。しかし、腫瘍細胞を殺傷することに加えて、化学療法薬は正常なヒト細胞も損傷し、そのため、癌患者についての従来の化学療法レジメンは、しばしば、深刻な毒性副作用を引き起こす。より重要なことには、明らかな毒性に加えて、化学療法薬は、化学療法薬を受容する患者において短期的な疾患制御および低い5年生存率を示すに過ぎない。従って、より低い毒性およびより高い有効性を有する薬物療法または併用療法を開発することは大きな意味がある。
【0014】
アンロチニブはキノリン由来チロシンキナーゼ阻害剤である。マルチターゲットチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)として、それは腫瘍血管新生および増殖シグナル伝達に影響を与える。主なターゲットは、受容体型チロシンキナーゼ 血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)1~3、上皮増殖因子受容体(EGFR)、線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1~4、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)αおよびβ、ならびに幹細胞因子受容体(SCFR)7、8および9を含む。第2相試験は、アンロチニブが、全生存期間についての潜在的利益を伴って無増悪生存期間を改善したことを示した(Han B, et al., Br J Cancer, 2018; 118(5):654-661(非特許文献14))。多施設、二重盲検、無作為化、第3相臨床試験は、アンロチニブが、中国人患者において全生存期間および無増悪生存期間を延長させたことを示した。知見は、アンロチニブは十分に許容され、進行性NSCLCを有する患者についての潜在的な第三選択またはさらなる処置であることを示唆した(Han B, et al., JAMA Oncol., 2018 Nov.; 4(11):1569-1575(非特許文献15))。
【0015】
特許番号WO2008112407(特許文献1)の実施例24は、キノリン由来チロシンキナーゼ阻害剤である1-[[[4-(4-フルオロ-2-メチル-1H-インドール-5-イル)オキシ-6-メトキシキノリン-7-イル]オキシ]メチル]シクロプロピルアミンおよびその製造方法を開示している。キノリン由来チロシンキナーゼ阻害剤の構造式を式Iに示す。塩酸アンロチニブは式Iの化合物の塩酸塩である。
【0016】
レンバチニブ、エーザイ(日本)によって開発された経口多標的チロシンキナーゼ阻害剤は、VEGFR1 (FLT1)、VEGFR2 (KDR)およびVEGFR3 (FLT4)のキナーゼ活性を阻害するマルチターゲット受容体型チロシンキナーゼ阻害剤である。正常な細胞機能に加えて、レンバチニブはまた、線維芽細胞増殖因子(FGF)受容体FGFR1、FGFR2、FGFR3およびFGFR4、「トランスフェクション中の再構成(rearranged during transfection)」(RET)受容体、KITならびに血小板由来増殖因子受容体α(PDGFRα)を含む、病原性血管新生、腫瘍成長および癌進行に関与する他の受容体型チロシンキナーゼを阻害する。レンバチニブはまた、肝細胞癌細胞株において抗増殖活性を示し、これは、活性化FGFRシグナル伝達、およびFGF受容体基質2α(FRS2α)のリン酸化の同時阻害に依存する。
【0017】
レンバチニブ、4-(3-クロロ-4(シクロプロピルアミノカルボニル)アミノフェノキシ)-7-メトキシ-6-キノリンカルボキサミドの構造は、米国特許第7,612,208号(特許文献2)の実施例368に開示されている。米国特許第7,253,286号(特許文献3)は、4-[3-クロロ-4-(シクロプロピルウレイド)フェノキシ]-7-メトキシキノリン-6-カルボキサミドメシレートと命名される、レンバチニブのメシル酸塩(即ち、レンバチニブメシル酸塩)を開示しており、その化学構造を下記に提供する(式II)。
【0018】
しかし、様々な腫瘍について、疾患は化学療法後も長期に渡って依然として制御不能であり、5年生存率も依然として非常に低い。従って、より低い毒性およびより高い有効性を有する薬物療法または併用療法を開発することは大きな意味がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】WO2008112407
【特許文献2】米国特許第7,612,208号
【特許文献3】米国特許第7,253,286号
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Julie R et al., 2012, N Engl J Med., 366:2455-2465
【非特許文献2】Fife et al., (2011) Nature Immunology 10:1185-1193
【非特許文献3】Hofmeyer et al., (2011) Journal of Biomedicine and Biotechnology, 2011:1-9
【非特許文献4】Armanath et al., (2011) Science Trans. Med., 3:1-13
【非特許文献5】Francisco et al., (2009) J. Exp. Med., 206:3015-3029
【非特許文献6】Latchman et al., (2004) PNAS, 101:10691-10696
【非特許文献7】Iwai et al., (2002) PNAS, 99:12293-12297
【非特許文献8】Hogarth PM, Pietersz GA., 2012, NATURE REVIEWS DRUG DISCOVERY, 11(4):311-331
【非特許文献9】Zhang T et al, Cancer Immunol Immunother., 2018; 67(7):1079-1090
【非特許文献10】Dahan R et al., Cancer cell, 2015, 28(3):285-95
【非特許文献11】Pfister DG. et al., J. Clin. Oncol., 2003, 22:330
【非特許文献12】De Ruysscher et al., (2006) Annals of Oncology, 17:543-552
【非特許文献13】Clinical Oncology, Beijing, People's Medical Publishing House, 2016:230-237
【非特許文献14】Han B, et al., Br J Cancer, 2018; 118(5):654-661
【非特許文献15】Han B, et al., JAMA Oncol., 2018 Nov.; 4(11):1569-1575
【発明の概要】
【0021】
概要
集中的な研究および創造的な努力によって、本発明者は、Fc受容体へのFc領域の結合能力を低下させるために、抗PD-1抗体構造のFc断片を相応に改変し、それによって、T細胞に対するADCC、ADCPおよび/またはCDC効果を低下させ、抗PD-1抗体の有効性を増加させた。本発明を以下に詳述する。
【0022】
本発明の一局面は抗体に関し、ここで、
抗体の重鎖可変領域は、それぞれSEQ ID NO: 19~21に記載されたアミノ酸配列を有するHCDR1~HCDR3を含み、かつ抗体の軽鎖可変領域は、それぞれSEQ ID NO: 22~24に記載されたアミノ酸配列を有するLCDR1~LCDR3を含み;
抗体はヒトIgG1サブタイプのものであり;
ここで、EUナンバリングシステムに従って、抗体の重鎖定常領域は、234、235および237位のうちのいずれか2つまたは3つにおいて変異を含み、かつFcγRIIIaおよび/またはC1qに対する抗体の親和性定数は、変異前と比較して変異後に減少し;好ましくは、親和性定数はFortebio Octetシステムによって測定される。
【0023】
本発明の一態様において、抗体はモノクローナル抗体である。
【0024】
本発明の一態様において、抗体は、抗PD-1抗体、好ましくは、抗PD-1モノクローナル抗体である。
【0025】
本発明のいくつかの態様において、抗体について、EUナンバリングシステムに従って、抗体の重鎖定常領域は、234、235および/または237位で以下の変異を含む:
L234AおよびL235A;
L234AおよびG237A;
L235AおよびG237A;
または
L234A、L235A、およびG237A。
【0026】
本発明において、特別の定めのない限り、位置番号の前の文字は変異前のアミノ酸を示し、位置番号の後の文字は変異後のアミノ酸を示す。
【0027】
本発明はまた抗体に関し、ここで、
抗体の重鎖可変領域は、それぞれSEQ ID NO: 19~21に記載されたアミノ酸配列を有するHCDR1~HCDR3を含み、かつ抗体の軽鎖可変領域は、それぞれSEQ ID NO: 22~24に記載されたアミノ酸配列を有するLCDR1~LCDR3を含み;
抗体はヒトIgG1サブタイプのものであり;
ここで、EUナンバリングシステムに従って、抗体の重鎖定常領域は、234、235および/または237位で以下の変異を含む:
L234AおよびL235A;
L234AおよびG237A;
L235AおよびG237A;
または
L234A、L235A、およびG237A。
【0028】
本発明のいくつかの態様において、EUナンバリングシステムに従って、抗体の重鎖定常領域は、
N297A、D265A、D270A、P238D、L328E、E233D、H268D、P271G、A330R、C226S、C229S、E233P、P331S、S267E、L328F、A330L、M252Y、S254T、T256E、N297Q、P238S、P238A、A327Q、A327G、P329A、K322A、T394D、G236R、G236A、L328R、A330S、P331S、H268A、E318A、およびK320A
より選択される1つまたは複数の変異をさらに含む。
【0029】
本発明のいくつかの態様において、抗体について、
抗体の重鎖可変領域は、SEQ ID NO: 2およびSEQ ID NO: 6より選択されるアミノ酸配列を含み;かつ
抗体の軽鎖可変領域は、SEQ ID NO: 4およびSEQ ID NO: 8より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0030】
本発明のいくつかの態様において、抗体について、
抗体の重鎖可変領域はSEQ ID NO: 2に記載のアミノ酸配列を含み、かつ抗体の軽鎖可変領域はSEQ ID NO: 4に記載のアミノ酸配列を含む;
抗体の重鎖可変領域はSEQ ID NO: 2に記載のアミノ酸配列を含み、かつ抗体の軽鎖可変領域はSEQ ID NO: 8に記載のアミノ酸配列を含む;
抗体の重鎖可変領域はSEQ ID NO: 6に記載のアミノ酸配列を含み、かつ抗体の軽鎖可変領域はSEQ ID NO: 4に記載のアミノ酸配列を含む;または
抗体の重鎖可変領域はSEQ ID NO: 6に記載のアミノ酸配列を含み、かつ抗体の軽鎖可変領域はSEQ ID NO: 8に記載のアミノ酸配列を含む。
【0031】
本発明の一態様において、抗体について、
重鎖はSEQ ID NO: 16に記載され、かつ軽鎖はSEQ ID NO: 12に記載される;
または
重鎖はSEQ ID NO: 18に記載され、かつ軽鎖はSEQ ID NO: 12に記載される。
【0032】
軽鎖および重鎖の可変領域は抗原の結合を決定し;各鎖の可変領域は、3つの超可変領域、即ち、相補性決定領域(CDR)を含む(重鎖(H)のCDRはHCDR1、HCDR2、HCDR3を含み、軽鎖(L)のCDRはLCDR1、LCDR2、LCDR3を含み;これらはKabat et al.によって定義され、Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Edition (1991), Volumes 1-3, NIH Publication 91-3242, Bethesda MDを参照されたい)。
【0033】
上記(1)~(3)におけるモノクローナル抗体のCDR領域のアミノ酸配列は、当業者に周知の技術的手段によって、例えば、VBASE2データベースによって分析される。
【0034】
本発明に関与する抗体14C12、14C12H1L1(hG1WT)、14C12H1L1(hG1DM)および14C12H1L1(hG1TM)は、同じCDRを有する。
【0035】
重鎖可変領域の3つのCDR領域のアミノ酸配列は以下の通りである:
HCDR1: GFAFSSYD (SEQ ID NO: 19)、
HCDR2: ISGGGRYT (SEQ ID NO: 20)、および
HCDR3: ANRYGEAWFAY (SEQ ID NO: 21)。
【0036】
軽鎖可変領域の3つのCDR領域のアミノ酸配列は以下の通りである:
LCDR1: QDINTY (SEQ ID NO: 22)、
LCDR2: RAN (SEQ ID NO: 23)、および
LCDR3: LQYDEFPLT (SEQ ID NO: 24)。
【0037】
本発明のいくつかの態様において、抗体は、約10-7 Mより大きい、例えば、約10-6 M、10-5 M、10-4 M、または10-3 Mまたはそれ以上より大きい親和性定数で、FcγRIIIa_F158、FcγRI、FcγRIIa_H131、FcγRIIIa_V158、および/またはFcγRIIbへ結合し;好ましくは、親和性定数はFortebio Octetシステムによって測定され;
好ましくは、抗体は、FcγRIIIa_F158、FcγRI、FcγRIIa_H131、FcγRIIIa_V158、および/またはFcγRIIbに対して結合シグナルを有しないかまたは0.1 nm未満の結合シグナルを有し;好ましくは、結合シグナルは、Fortebio Octetシステムによって測定された応答を指す。
【0038】
本発明のいくつかの態様において、抗体は、約10-9 Mより大きい、例えば、約10-8 M、10-7 M、10-6 M、または10-5 Mまたはそれ以上より大きい親和性定数で、C1qへ結合し;好ましくは、親和性定数はFortebio Octetシステムによって測定され;
好ましくは、抗体は、C1qに対して結合シグナルを有しないかまたは0.1 nm未満の結合シグナルを有し;好ましくは、結合シグナルは、Fortebio Octetシステムによって測定された応答を指す。
【0039】
本発明のいくつかの態様において、抗体はモノクローナル抗体である。
【0040】
本発明のいくつかの態様において、抗体はヒト化抗体である。
【0041】
本発明の別の局面は、本発明の任意の態様に従う抗体をコードする、単離された核酸分子に関する。
【0042】
本発明のさらに別の局面は、本明細書に開示される単離された核酸分子を含む、ベクターに関する。
【0043】
本発明のさらに別の局面は、本明細書に開示される単離された核酸分子またはベクターを含む、宿主細胞に関する。
【0044】
本発明のさらに別の局面は、抗体と、コンジュゲート部分とを含む、コンジュゲートであって、ここで、抗体が本発明の任意の態様に従う抗体であり、コンジュゲート部分が、検出可能な標識であり;好ましくは、コンジュゲート部分が、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、着色物質、または酵素である、コンジュゲートに関する。
【0045】
本発明のさらに別の局面は、本発明の任意の態様に従う抗体を含むかまたは本明細書に開示されるコンジュゲートを含む、キットであって;
好ましくは、キットが、抗体を特異的に認識する第2の抗体をさらに含み;任意で、第2の抗体が、検出可能な標識、例えば、放射性同位体、蛍光物質、発光物質、着色物質、または酵素をさらに含む、キットに関する。
【0046】
本発明のさらに別の局面は、サンプル中のPD-1の存在またはレベルを検出するためのキットを調製することにおける、本発明の任意の態様に従う抗体またはコンジュゲートの使用に関する。
【0047】
本発明のさらに別の局面は、本発明の任意の態様に従う抗体またはコンジュゲートを含む、薬学的組成物であって;任意で、薬学的組成物が、薬学的に許容される担体および/または賦形剤をさらに含む、薬学的組成物に関する。
【0048】
本発明の1つまたは複数の態様において、薬学的組成物は、1つまたは複数の抗腫瘍化学療法薬をさらに含み;
好ましくは、抗腫瘍化学療法薬はチロシンキナーゼ阻害剤であり;より好ましくは、抗腫瘍化学療法薬は、アンロチニブもしくはその薬学的に許容される塩(例えば、塩酸塩)、またはレンバチニブもしくはその薬学的に許容される塩(例えば、メシル酸塩)である。
【0049】
本発明の1つまたは複数の態様において、薬学的組成物の単位用量は、抗体の質量に基づいて、100~1000 mg、200~800 mg、200~500 mg、300~600 mg、400~500 mg、または450 mgである。
【0050】
本発明のさらに別の局面は、本発明の任意の態様に従う抗体と、少なくとも1つ(例えば、1つ、2つ、または3つ)の抗腫瘍化学療法薬とを含む、治療的組み合わせに関する。
【0051】
本発明の1つまたは複数の態様において、治療的組み合わせについて、抗腫瘍化学療法薬はチロシンキナーゼ阻害剤であり;好ましくは、抗腫瘍化学療法薬は、アンロチニブもしくはその薬学的に許容される塩(例えば、塩酸塩)、またはレンバチニブもしくはその薬学的に許容される塩(例えば、メシル酸塩)である。
【0052】
本発明の1つまたは複数の態様において、治療的組み合わせについて、抗体の単位用量は、100~1000 mg、200~800 mg、200~500 mg、300~600 mg、400~500 mg、または450 mgである。
【0053】
本発明の1つまたは複数の態様において、治療的組み合わせについて、抗腫瘍化学療法薬の単位用量は、0.1~100 mg、0.5~50 mg、0.5~10 mg、1~10 mg、2~8 mg、または1~5 mgである。
【0054】
本発明の1つまたは複数の態様において、治療的組み合わせについて、抗腫瘍化学療法薬の単位用量は、1~20 mg、2~15 mg、4~12 mg、または8~12 mgである。
【0055】
本発明の1つまたは複数の態様において、治療的組み合わせについて、ここで、
治療的組み合わせは、例えば固体薬学的組成物または液体薬学的組成物の形態の、固定された組み合わせ(fixed combination)であるか;または
治療的組み合わせは、固定されていない組み合わせ(non-fixed combination)であり、例えば、固定されていない組み合わせ中の抗PD-1抗体および抗腫瘍化学療法薬は、それぞれ、薬学的組成物の形態である。
【0056】
本発明のさらに別の局面は、本発明の任意の態様に従う薬学的組成物または本発明の任意の態様に従う治療的組み合わせと、添付文書とを含む、キット製品に関する。
【0057】
本発明のさらに別の局面は、腫瘍もしくは貧血を処置および/もしくは予防するための医薬を調製することにおける、または腫瘍もしくは貧血を診断するための医薬を調製することにおける、本発明の任意の態様に従う抗体、本明細書に開示されるコンジュゲート、本発明の任意の態様に従う薬学的組成物、または本発明の任意の態様に従う治療的組み合わせの使用であって、ここで、好ましくは、腫瘍が、黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、膀胱癌、結腸癌、直腸癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、白血病、上咽頭癌、および子宮内膜癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、肺癌が、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、および肺扁平上皮癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、胃癌が、胃腺癌、または胃食道接合部腺癌であり;
好ましくは、腫瘍が、MSI-H/dMMR表現型の固形腫瘍であり;好ましくは、腫瘍が、MSI-H/dMMR表現型の以下の腫瘍:
結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌、胃癌、中皮腫、肉腫、副腎皮質癌、悪性黒色腫、および卵巣胚細胞腫瘍
のうちの1つまたは複数より選択される、使用に関する。
【0058】
本発明の1つまたは複数の態様において、使用に関して、腫瘍は、再発性、転移性(例えば、リンパ行性転移、脳転移、および/または骨転移)、または難治性腫瘍である。
【0059】
MSIはマイクロサテライト不安定性を指す。マイクロサテライトは、1個、2個またはそれ以上のヌクレオチドの10~50個のリピートを含む、ヒトゲノム全体にわたるショートタンデムリピートである。腫瘍のような、ある異常細胞中のマイクロサテライトは、正常細胞と比較して、リピート単位の挿入または欠失によって長さが変更されている。そのような変更はMSIと呼ばれる。不安定性および程度に基づいて、MSIは、高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)、低頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-L)およびマイクロサテライト安定性(MSS)に分類され得る。MSIの主な原因はDNAミスマッチ修復(MMR)欠損である。ヒトミスマッチ修復遺伝子(MMR遺伝子)は、転写および翻訳を通じて対応のミスマッチ修復タンパク質を発現することができる。MMRタンパク質の非存在はミスマッチ修復欠損をもたらし得、このような欠損により、DNA複製の過程で塩基対ミスマッチが蓄積し、最終的にMSIがもたらされる。結腸直腸癌の約15%はMSI経路に起因する。これは結腸直腸癌において最初に報告され、胃癌、子宮内膜癌、副腎皮質癌などにおいても生じ得る(Baretti M et al., Pharmacol Ther., 2018; 189:45-62)。MSI-H/dMMR特徴はまた、その後の研究で、中皮腫、肉腫、副腎皮質癌、悪性黒色腫および卵巣胚細胞腫瘍においても見つけられた。
【0060】
MSI-HおよびdMMRは、2つの異なるアッセイの結果を示し、生物学的に一致しており、MSI-H/dMMRまたはMSI-high/dMMRと呼ばれ、一方、MSI-LおよびMSSは、MMR良好(proficient MMR)(pMMR)の表現型である。dMMRの検出は、腫瘍標本(外科標本および吸引標本を含む)に基づいて、MSH2、MLH1、MSH6およびPMS2の4つのミスマッチ遺伝子のタンパク質発現の免疫組織化学的アッセイを行うことである。4つのタンパク質のいずれかの非存在はdMMRを確認し;4つ全てのタンパク質の陽性結果はpMMR、即ち、完全ミスマッチ修復機能を示す。MSIの検出は、腫瘍細胞および体細胞中の繰り返されるDNA配列(マイクロサテライト配列)の長さを合わせ、その長さを比較することである。米国NCI標準に基づいてPCRを用いて5つの標準遺伝子座を検出する場合、2つ以上の遺伝子座における不一致はMSI-Hと定義される不安定性を示し、1つの不一致遺伝子座はMSI-Lを示し、5つの一致遺伝子座はMSSを示す。ハイスループットシーケンシング(次世代シーケンシング、またはNGSとも呼ばれる)もまた、マイクロサテライト不安定性を検出するための方法として使用することができる。PCRアッセイについて、5つを超える遺伝子座または追加のマイクロサテライト遺伝子座のような、より多くのマイクロサテライト遺伝子座が選択される場合、≧30%遺伝子座の不一致はMSI-Hと定義され、全ての遺伝子座の一致はMSSと定義され、0~30%の不一致はMSI-Lと定義される。
【0061】
本発明のさらに別の局面は、
PD-L1へのPD-1の結合を遮断するための医薬、
PD-1の活性またはレベルをダウンレギュレートするための医薬、
生物中におけるPD-1の免疫抑制を軽減するための医薬、または
Tリンパ球中のIFN-γおよび/またはIL-2発現を増大させるための医薬
を調製することにおける、本発明の任意の態様に従う抗体、本明細書に記載されるコンジュゲート、本発明の任意の態様に従う薬学的組成物、または本発明の任意の態様に従う治療的組み合わせの使用に関する。
【0062】
インターフェロンγ(IFN-γ)は、ナチュラルキラー細胞(NK)およびナチュラルキラーT細胞(NKT)によって主にかつ生来的に産生され、また、特異的抗原によって刺激されたCD4 Th1細胞およびCD8細胞傷害性Tリンパ球のような、エフェクターT細胞によって産生される。重要な自然免疫および獲得免疫サイトカインとして、IFN-γは、ウイルス感染症ならびに特定の細菌性および原虫性疾患感染症との戦いまたはこれらの抑制において重要な役割を果たす。その一方で、IFN-γは、マクロファージを活性化し、II型主要組織適合遺伝子複合体の発現を誘導し、免疫反応を活性化して腫瘍進行を制御することができる(Schoenborn JR, Wilson CB., Regulation of Interferon-γ During Innate and Adaptive Immune Responses, Advances in Immunology, 2007, 96:41-101)。本発明のインビトロ実験において、本明細書に開示される抗体は、IFN-γ分泌を誘導して免疫反応を活性化することができる。
【0063】
インターロイキン2(IL-2)はT細胞によって産生される。それは、T細胞サブグループを制御する増殖因子であり、免疫反応の制御における重要な因子である。それは、活性化B細胞の増殖を促進し、抗体応答、造血および腫瘍監視に関与する。組換えヒトIL-2が、黒色腫および腎腫瘍を含む、悪性腫瘍の治療について米国FDAによって承認された(Chavez, A.R., et al., Pharmacologic administration of interleukin-2, Ann. N.Y. Acad. Sci., 2009, 1182:p.14-27)。インビトロ研究は、本明細書に開示される抗体が、PD-1の免疫抑制を特異的に軽減し、T細胞を活性化し、IL-2生成を誘導することができ、腫瘍および寄生虫感染症などの疾患に対する療法における幅広い適用が期待できることを実証した。
【0064】
本発明のさらに別の局面は、インビボまたはインビトロ方法であって、有効量の本発明の任意の態様に従う抗体、本明細書に記載されるコンジュゲート、本発明の任意の態様に従う薬学的組成物、または本発明の任意の態様に従う治療的組み合わせを、その必要がある対象に投与する段階を含む、方法に関する。方法は以下より選択される:
PD-L1へのPD-1の結合を遮断するための方法、
PD-1の活性またはレベルをダウンレギュレートするための方法、
生物中におけるPD-1の免疫抑制を軽減するための方法、または
Tリンパ球中のIFN-γおよび/またはIL-2発現を増大させるための方法。
【0065】
腫瘍もしくは貧血を処置および/もしくは予防することにおける、または腫瘍もしくは貧血を診断することにおける使用のための、本発明の任意の態様に従う抗体、本明細書に記載されるコンジュゲート、本発明の任意の態様に従う薬学的組成物、または本発明の任意の態様に従う治療的組み合わせにも関連し、ここで、好ましくは、腫瘍は、黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、膀胱癌、結腸癌、直腸癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、白血病、上咽頭癌、および子宮内膜癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、肺癌は、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、および肺扁平上皮癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、胃癌は、胃腺癌または胃食道接合部腺癌であり;
好ましくは、腫瘍は、MSI-H/dMMR表現型の固形腫瘍であり;好ましくは、腫瘍は、MSI-H/dMMR表現型の以下の腫瘍:
結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌、胃癌、中皮腫、肉腫、副腎皮質癌、悪性黒色腫、および卵巣胚細胞腫瘍
のうちの1つまたは複数より選択される。
【0066】
本発明の1つまたは複数の態様において、本明細書に記載される抗体またはコンジュゲートに関して、腫瘍は、再発性、転移性(例えば、リンパ行性転移、脳転移、および/または骨転移)、または難治性腫瘍である。
【0067】
本発明の任意の態様に従う抗体、本明細書に記載されるコンジュゲート、本発明の任意の態様に従う薬学的組成物、または本発明の任意の態様に従う治療的組み合わせは、以下のために使用される:
PD-L1へのPD-1の結合を遮断すること、
PD-1の活性またはレベルをダウンレギュレートすること、
生物中におけるPD-1の免疫抑制を軽減すること、または
Tリンパ球中のIFN-γおよび/またはIL-2発現を増大させること。
【0068】
本発明のさらに別の局面は、腫瘍もしくは貧血を処置および/もしくは予防する方法、または腫瘍もしくは貧血を診断する方法であって、有効量の本発明の任意の態様に従う抗体、本明細書に記載されるコンジュゲート、本発明の任意の態様に従う薬学的組成物、または本発明の任意の態様に従う治療的組み合わせを、その必要がある対象に投与する段階を含み、ここで、好ましくは、腫瘍が、黒色腫、腎臓癌、前立腺癌、膀胱癌、結腸癌、直腸癌、胃癌、肝臓癌、肺癌、卵巣癌、白血病、上咽頭癌、および子宮内膜癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、肺癌が、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、および肺扁平上皮癌のうちの1つまたは複数より選択され;
好ましくは、胃癌が、胃腺癌または胃食道接合部腺癌であり;
好ましくは、腫瘍が、MSI-H/dMMR表現型の固形腫瘍であり;好ましくは、腫瘍が、MSI-H/dMMR表現型の以下の腫瘍:
結腸癌、直腸癌、子宮内膜癌、胃癌、中皮腫、肉腫、副腎皮質癌、悪性黒色腫、および卵巣胚細胞腫瘍
のうちの1つまたは複数より選択される、方法に関する。
【0069】
本発明の1つまたは複数の態様において、方法に関して、腫瘍は、再発性、転移性(例えば、リンパ行性転移、脳転移、および/または骨転移)、または難治性腫瘍である。
【0070】
本発明の1つまたは複数の態様において、方法に関して、投与は外科的処置の前もしくは後におよび/または放射線療法の前もしくは後に行われる。
【0071】
本発明の1つまたは複数の態様において、方法、ここで、
抗PD-1抗体の単位用量は、1 kg体重当たり0.1~100 mg、好ましくは1~10 mg (例えば、1 mg、2 mg、3 mg、4 mg、5 mg、6 mg、7 mg、8 mg、9 mgまたは10 mg)であり;あるいは、抗PD-1抗体の単位用量は、各対象において、10~1000 mg (例えば、約100 mg、約150 mg、約200 mg、約250 mg、約300 mg、約350 mg、約400 mg、約450 mg、約500 mg、約600 mg、約700 mg、約800 mg、約900 mgまたは約1000 mg)、好ましくは50~500 mg、100~400 mg、150~300 mg、150~250 mgまたは200 mgであり;
好ましくは、用量は、3日、4日、5日、6日、10日、1週間、2週間、または3週間毎に1回投与され;
好ましくは、投与経路は点滴静注または静脈内注射である。
【0072】
いくつかの態様において、抗PD-1抗体の投与は2週間(14日間)または3週間(21日間)のサイクルで行われ、好ましくは、抗PD-1抗体は各サイクルの初日(D1)に静脈内投与される。例えば、抗PD-1抗体は2週間(q2w)または3週間(q3w)毎に1回投与される。
【0073】
本発明において、特に定義されない限り、本明細書において使用される科学用語および専門用語は、当業者によって一般に理解される意味を有する。さらに、本明細書において使用される細胞培養、分子遺伝学、核酸化学および免疫学の実験室操作は、対応する分野において広く用いられている日常的な手順である。その一方で、本発明をよりよく理解するために、関連する用語の定義および説明を以下に提供する。
【0074】
本明細書において使用される場合、PD-1タンパク質(プログラム細胞死タンパク質1、NCBI GenBank: NP_005009.2)のアミノ酸配列を参照する場合、それは、PD-1タンパク質の全長、またはPD-1の細胞外断片PD-1ECD、またはPD-1ECDを含む断片を含み、それはまた、PD-1ECDの融合タンパク質、例えば、マウスまたはヒトIgGのFcタンパク質断片(mFcまたはhFc)へ融合された断片を含む。しかし、当業者は、PD-1タンパク質のアミノ酸配列中において、変異または改変(置換、欠失および/または付加を含むがこれらに限定されない)が、その生物学的機能に影響を与えることなく、自然に生成または人工的に導入され得ることを認識するだろう。従って、本発明において、用語「PD-1タンパク質」は、そのような配列およびその天然または人工バリアントを全て含むべきである。さらに、PD-1タンパク質の配列断片を記載する場合、それは、配列断片だけでなく、その天然または人工バリアント中の対応する配列断片も含む。
【0075】
本明細書において使用される場合、PDL1タンパク質(NCBI Genebank ID: NP_054862.1)のアミノ酸配列を参照する場合、それは、PDL1タンパク質の全長、またはPDL1の細胞外断片PDL1ECD、またはPDL1ECDを含む断片を含み;また、PDL1ECDの融合タンパク質、例えば、マウスまたはヒトIgGのFcタンパク質断片(mFcまたはhFc)へ融合された断片を含む。しかし、当業者は、PDL1タンパク質のアミノ酸配列中において、変異または改変(置換、欠失および/または付加を含むがこれらに限定されない)が、その生物学的機能に影響を与えることなく、自然に生成または人工的に導入され得ることを認識するだろう。従って、本発明において、用語「PDL1タンパク質」は、そのような配列およびその天然または人工バリアントを全て含むものとする。さらに、PDL1タンパク質の配列断片を記載する場合、それは、PDL1配列断片だけでなく、その天然または人工バリアント中の対応する配列断片も含む。
【0076】
本明細書において使用される場合、EC50という用語は、半最大有効濃度を指す。
【0077】
本明細書において使用される場合、用語「抗体」は、一般に2対のポリペプチド鎖(各対は1本の「軽」(L)鎖および1本の「重」(H)鎖を有する)からなる免疫グロブリン分子を指す。抗体軽鎖はκおよびλ軽鎖に分類される。重鎖はμ、δ、γ、α、またはεに分類される。抗体のアイソタイプは以下のように定義される。抗体のアイソタイプはIgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEと定義される。軽鎖および重鎖において、可変領域および定常領域は約12個またはそれ以上のアミノ酸の「J」領域によって連結され、重鎖はさらに約3個またはそれ以上のアミノ酸の「D」領域を含む。各重鎖は重鎖可変領域(VH)および重鎖定常領域(CH)からなる。重鎖定常領域は3つのドメイン(CH1、CH2、およびCH3)からなる。各軽鎖は軽鎖可変領域(VL)および軽鎖定常領域(CL)からなる。軽鎖定常領域は1つのドメインCLからなる。抗体の定常領域は、古典的補体系の第一成分(C1q)への免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)の結合を含む、宿主組織および因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。VHおよびVL領域は、高度可変領域(相補性決定領域(CDR)と呼ばれる)へさらに細分され得、その間に、フレーム領域(FR)と呼ばれる保存領域が分布している。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシル末端へ以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置された3つのCDRおよび4つのFRからなる。各重鎖/軽鎖対の可変領域(VHおよびVL)は抗体結合部位を形成する。各領域またはドメインへのアミノ酸の割当ては、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest (National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1987および1991))、Chothia & Lesk, (1987) J. Mol. Biol., 196:901-917、またはChothia et al. (1989) Nature, 342:878-883の定義に従う。用語「抗体」は、抗体を製造するためのいかなる特定の方法によっても限定されない。例えば、抗体は、特に、組換え抗体、モノクローナル抗体、およびポリクローナル抗体を含む。抗体は、異なるアイソタイプの抗体、例えば、IgG(例えば、サブタイプIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4)、IgA1、IgA2、IgD、IgEまたはIgMであり得る。
【0078】
本明細書において使用される場合、用語「mAb」および「モノクローナル抗体」は、高度の相同性を示す抗体の一群、即ち、自然に生じ得る自然変異を除いては、同一の抗体分子の一群に由来する、抗体またはその断片を指す。モノクローナル抗体は、抗原上の単一のエピトープに高度に特異的である。ポリクローナル抗体は、モノクローナル抗体と比べて、抗原上の異なるエピトープを一般に認識する少なくとも2つまたはそれ以上の異なる抗体を一般に含む。モノクローナル抗体は、一般に、Kohler et al. (Nature, 256:495, 1975)によって最初に報告されたハイブリドーマ技術によって得ることができ、また、組換えDNA技術によっても得ることができる(例えば、米国特許第4,816,567号を参照のこと)。
【0079】
本明細書において使用される場合、用語「ヒト化抗体」は、ヒト免疫グロブリン(レセプター抗体)のCDR領域の全部または一部が、非ヒト抗体(ドナー抗体)のCDR領域によって置き換えられる場合に得られる、抗体または抗体断片を指し、ここで、ドナー抗体は、期待される特異性、親和性または反応性を有する非ヒト(例えば、マウス、ラットまたはウサギ)抗体であり得る。さらに、レセプター抗体のフレーム領域(FR)のいくつかのアミノ酸残基もまた、抗体の性能をさらに改善または最適化するために、対応の非ヒト抗体のアミノ酸残基によってまたは他の抗体のアミノ酸残基によって置き換えられ得る。ヒト化抗体についてのさらなる詳細については、例えば、Jones et al., Nature, 321:522-525 (1986); Reichmann et al., Nature, 332:323-329 (1988); Presta, Curr. Op. Struct. Biol., 2:593-596 (1992); およびClark, Immunol. Today, 21:397-402 (2000)を参照のこと。
【0080】
本明細書において使用される場合、用語「単離された」は、自然状態から人工的手段によって得ることを指す。ある「単離された」物質または成分が自然の中に存在する場合、それは、変化がその自然環境中で起こる場合、およびそれが自然環境から単離される場合、または両方であり得る。例えば、ある単離されていないポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、ある生きている動物中に自然に存在する場合、そのような自然状態から単離されたより高い純度を有するそのようなポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、単離されたポリヌクレオチドまたはポリペプチドと呼ばれる。用語「単離された」は、物質の活性に影響を与えない人工もしくは合成物質またはその他の不純物の存在を排除しない。
【0081】
本明細書において使用される場合、用語「ベクター」は、ポリヌクレオチドが挿入され得る核酸ビヒクルを指す。ベクターが、挿入されたポリヌクレオチドによってコードされるタンパク質の発現を可能にする場合、ベクターは発現ベクターと呼ばれる。ベクターは、ベクターによって運ばれる遺伝物質要素が宿主細胞内で発現され得るように、形質転換、形質導入、またはトランスフェクションによって宿主細胞中へ導入することができる。ベクターは当業者に周知であり、プラスミド;ファージミド;コスミド;人工染色体、例えば、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC)、またはP1由来人工染色体(PAC);ファージ、例えば、ラムダファージまたはM13ファージ;および動物ウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。ベクターとして使用され得る動物ウイルスとしては、レトロウイルス(レンチウイルスを含む)、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス(例えば単純ヘルペスウイルス)、ポックスウイルス、バキュロウイルス、パピローマウイルス、およびパポーバウイルス(例えばSV40)が挙げられるが、これらに限定されない。ベクターは、プロモーター配列、転写開始配列、エンハンサー配列、選択要素、およびレポーター遺伝子を含むが、これらに限定されない、発現を制御する様々な要素を含み得る。さらに、ベクターは、複製開始点をさらに含み得る。
【0082】
本明細書において使用される場合、用語「宿主細胞」は、原核細胞、例えば、大腸菌(E. coli)もしくは枯草菌(bacillus subtilis)、真菌細胞、例えば、酵母細胞もしくはアスペルギルス属(aspergillus)、昆虫細胞、例えば、S2ショウジョウバエ細胞もしくはSf9、または動物細胞、例えば、線維芽細胞、CHO細胞、COS細胞、NSO細胞、HeLa細胞、BHK細胞、HEK 293細胞、もしくはヒト細胞を含むが、これらに限定されない、ベクターが導入され得る細胞を指す。
【0083】
本明細書において使用される場合、用語「特異的結合」は、抗体とそれが標的とする抗原との反応のような、2つの分子間の非ランダムな結合反応を指す。いくつかの態様において、抗原へ特異的に結合する抗体(または、抗原に特異的な抗体)は、抗体が、約10-5 Mより小さい、例えば、約10-6 M、10-7 M、10-8 M、10-9 Mまたは10-10 Mまたはそれ以下より小さい親和性(KD)で抗原へ結合することを意味する。
【0084】
本明細書において使用される場合、用語「KD」は、抗体と抗原との結合親和性を記載するために使用される、特異的抗体-抗原相互作用についての解離平衡定数を指す。より小さな平衡解離定数は、より強い抗体-抗原結合、および抗体と抗原とのより高い親和性を示す。一般に、抗体は、約10-5 Mより小さい、例えば、約10-6 M、10-7 M、10-8 M、10-9 Mまたは10-10 Mまたはそれ以下より小さい解離平衡定数(KD)で抗原(例えば、PD-1タンパク質)へ結合する。KDは、当業者に公知の方法を使用して、例えば、Fortebioシステムを使用して、決定することができる。
【0085】
本明細書において使用される場合、用語「モノクローナル抗体」および「mAb」は、同じ意味を有し、交換可能に使用することができ;用語「ポリクローナル抗体」および「pAb」は、同じ意味を有し、交換可能に使用することができ;用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、同じ意味を有し、交換可能に使用することができる。さらに、アミノ酸は、一般に、当技術分野において公知の一文字および三文字略語によって本明細書において示される。例えば、アラニンは、AまたはAlaによって示すことができる。
【0086】
本明細書において使用される場合、用語「薬学的に許容される担体および/または賦形剤」は、対象および有効成分と薬理学的にかつ/または生理学的に適合する担体および/または賦形剤を指す。そのような担体および/または賦形剤は、当技術分野において周知であり(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Gennaro AR編, 19th Ed., Pennsylvania, Mack Publishing Company, 1995を参照のこと)、pH調節剤、界面活性剤、アジュバント、およびイオン強度増強剤を含むが、これらに限定されない。例えば、pH調節剤としてはリン酸緩衝液が挙げられるが、これに限定されず;界面活性剤としては、カチオン性、アニオン性、または非イオン性界面活性剤、例えば、Tween-80が挙げられるが、これらに限定されず;イオン強度増強剤としては塩化ナトリウムが挙げられるが、これに限定されない。
【0087】
本明細書において使用される場合、用語「アジュバント」は、抗原と一緒にまたは事前に生物中へ送達されると、抗原に対する生物の免疫反応を増強するかまたは免疫反応のタイプを変えることができる、非特異的免疫増強剤を指す。アルミニウムアジュバント(例えば、水酸化アルミニウム)、フロイントアジュバント(例えば、完全フロイントアジュバントおよび不完全フロイントアジュバント)、コリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)、リポ多糖、サイトカインなどを含むが、これらに限定されない、様々なアジュバントがある。フロイントアジュバントは、動物実験において最も一般的に使用されるアジュバントである。水酸化アルミニウムアジュバントは、臨床試験においてより頻繁に使用される。
【0088】
本明細書において使用される場合、用語「有効量」は、所望の効果を得るかまたは少なくとも部分的に得るために十分な量を指す。例えば、疾患(例えばRA)に対する予防的有効量は、疾患(例えばRA)の発症を予防する、止める、または遅らせるために十分な量を指し;治療的有効量は、疾患に苦しむ患者における疾患およびその合併症を治癒するかまたは部分的に止めるために十分な量を指す。そのような有効量を決定することは、間違いなく当業者の能力の範囲内にある。例えば、治療目的に有効な量は、処置される疾患の重症度、患者自身の免疫系の全体的な状態、年齢、体重および性別などの患者の全身状態、投与経路、ならびに同時に行われる他の処置などに依存する。
【0089】
本明細書において使用される場合、用語「完全に無くされた」は、既存の装置(例えば、Fortebio Octetシステム)によって検出される場合の、結合シグナルの非存在または極めて弱い結合シグナルを指す。本発明の一態様において、結合シグナルの非存在または極めて弱い結合シグナルは、0.1 nm未満の結合シグナル(即ち、応答)を指す。
【0090】
「再発」癌は、以前の処置(例えば、手術)に反応した後、元の部位または離れた部位で再生する癌である。「局所再発」癌は、処置後、以前に処置された癌と同じ部位に発生する癌である。
【0091】
「転移」癌は、体のある部位(例えば、肺)から別の部位へ広がる癌を指す。
【0092】
有利な効果
本発明は、以下の技術的効果(1)~(9)のうちの1つまたは複数を達成する:
(1)本明細書に開示される抗体、特に、14C12H1L1(hG1TM)および14C12H1L1(hG1WT)は、PD-1/PDL1結合によって誘導される免疫細胞の免疫抑制を効果的に遮断し、ヒト末梢血単核細胞中におけるIFN-γおよびIL-2の分泌を誘導することができる。
【0093】
(2)本発明は、Fc受容体、即ち、FcγRI、FcγRIIa_H131、FcγRIIIa_V158、および/またはFcγRIIIa_F158への、抗体、特に14C12H1L1(hG1TM)の結合活性を完全に無くし、それによって、ADCC活性またはADCP活性を無くす。
【0094】
(3)本発明は、補体C1qへの、抗体、特に14C12H1L1(hG1TM)の結合活性を完全に無くし、それによってCDC活性を無くす。
【0095】
(4)本発明は、Fc受容体、即ち、FcγRI、FcγRIIa_H131、FcγRIIa_R131および/またはFcγRIIIa_V158への、抗体、例えば14C12H1L1(hG1DM)の結合活性を有意に減少させ、FcγRIIIa_F158および/またはFcγRIIbへの結合を完全に無くし、それによって、ADCC活性を有意に減少させる。
【0096】
(5)本発明は、補体C1qへの、抗体、特に14C12H1L1(hG1DM)の結合活性を完全に無くし、それによって、CDC活性を無くす。
【0097】
(6)本発明のモノクローナル抗体、特に、14C12H1L1(hG1TM)、14C12H1L1(hG1DM)および14C12H1L1(hG1WT)は、PD-1へ十分にかつ特異的に結合することができ、また、PDL1へのPD-1の結合を効果的に遮断することができ、それによって、生物中におけるPD-1による免疫抑制を特異的に軽減し、Tリンパ球を活性化する。これらの中で、PD-1抗体14C12H1L1(hG1TM)は、IFN-γおよびIL-2分泌に対して対照抗PD-1抗体ニボルマブおよび対照抗PDL1抗体5C10H2L2-IgG1mtのものよりも有意により強い誘導効果を有し、これは、腫瘍を予防および処置するための医薬を調製することにおける使用についての可能性を示す。
【0098】
(7)本明細書に開示される抗体は、上述の腫瘍を効果的に予防および処置する能力を有する。
【0099】
(8)本明細書に開示される抗体は、より低い毒性副作用を有する。
【0100】
(9)本明細書に開示される抗PD-1抗体、または本明細書に開示される治療的組み合わせ中の抗PD-1抗体は、化学療法薬との相乗効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【
図1】FcγRIに対する14C12H1L1(hG1DM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、50 nM、25 nM、12.5 nM、6.25 nMおよび3.12 nMである。
【
図2】FcγRIに対する14C12H1L1(hG4)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、50 nM、25 nM、12.5 nM、6.25 nMおよび3.12 nMである。
【
図3】FcγRIに対する14C12H1L1(hG1WT)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、50 nM、25 nM、12.5 nM、6.25 nMおよび3.12 nMである。
【
図4】FcγRIに対する14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、50 nM、25 nM、12.5 nM、6.25 nMおよび3.12 nMである。
【
図5】FcγRIに対する5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、50 nM、25 nM、12.5 nM、6.25 nMおよび3.12 nMである。
【
図6】FcγRIIIa_V158に対する14C12H1L1(hG1DM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、500 nM、250 nM、125 nM、62.5 nMおよび31.25 nMである。
【
図7】FcγRIIIa_V158に対する14C12H1L1(hG4)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、500 nM、250 nM、125 nM、62.5 nMおよび31.25 nMである。
【
図8】FcγRIIIa_V158に対する14C12H1L1(hG1WT)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、500 nM、250 nM、125 nM、62.5 nMおよび31.25 nMである。
【
図9】FcγRIIIa_V158に対する14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、500 nM、250 nM、125 nM、62.5 nMおよび31.25 nMである。
【
図10】FcγRIIIa_V158に対する5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、500 nM、250 nM、125 nM、62.5 nMおよび31.25 nMである。
【
図11】FcγRIIIa_F158に対する14C12H1L1(hG1DM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗原濃度は、それぞれ、500 nM、250 nM、125 nM、62.5 nMおよび31.25 nMである。
【
図12】FcγRIIIa_F158に対する14C12H1L1(hG4)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、500 nM、250 nM、125 nM、62.5 nMおよび31.25 nMである。
【
図13】FcγRIIIa_F158に対する14C12H1L1(hG1WT)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、500 nM、250 nM、125 nM、62.5 nMおよび31.25 nMである。
【
図14】FcγRIIIa_F158に対する14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、500 nM、250 nM、125 nM、62.5 nMおよび31.25 nMである。
【
図15】FcγRIIa_F158に対する5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、500 nM、250 nM、125 nM、62.5 nMおよび31.25 nMである。
【
図16】FcγRIIa_H131に対する14C12H1L1(hG1DM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図17】FcγRIIa_H131に対する14C12H1L1(hG4)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図18】FcγRIIa_H131に対する14C12H1L1(hG1WT)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図19】FcγRIIa_H131に対する14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図20】FcγRIIa_H131に対する5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図21】FcγRIIa_R131に対する14C12H1L1(hG1DM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図22】FcγRIIa_R131に対する14C12H1L1(hG4)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図23】FcγRIIa_R131に対する14C12H1L1(hG1WT)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図24】FcγRIIa_R131に対する14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図25】FcγRIIa_R131に対する5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図26】FcγRIIbに対する14C12H1L1(hG1DM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図27】FcγRIIbに対する14C12H1L1(hG4)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図28】FcγRIIbに対する14C12H1L1(hG1WT)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図29】FcγRIIbに対する14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図30】FcγRIIbに対する5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、200 nM、100 nM、50 nM、25 nMおよび12.5 nMである。
【
図31】C1qに対する14C12H1L1(hG1DM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、20 nM、10 nM、5 nM、2.5 nMおよび1.25 nMである。
【
図32】C1qに対する14C12H1L1(hG4)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、20 nM、10 nM、5 nM、2.5 nMおよび1.25 nMである。
【
図33】C1qに対する14C12H1L1(hG1WT)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、20 nM、10 nM、5 nM、2.5 nMおよび1.25 nMである。
【
図34】C1qに対する14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗体濃度は、それぞれ、20 nM、10 nM、5 nM、2.5 nMおよび1.25 nMである。
【
図35】C1qに対する5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイ。上から下への曲線対についての抗原濃度は、それぞれ、20 nM、10 nM、5 nM、2.5 nMおよび1.25 nMである。
【
図36】混合リンパ球反応へ14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)を添加することによるIFN-γ分泌アッセイ。
【
図37】混合リンパ球反応へ14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)を添加することによるIL-2分泌アッセイ。
【
図38】14C12H1L1(hG1WT)、ニボルマブ、および14C12H1L1(hG1TM)のADCP効果アッセイ。
【
図39】ヒト非小細胞肺癌細胞に対する14C12H1L1(hG1TM) + アンロチニブの殺傷効果アッセイ。
【
図40】14C12H1L1(hG1TM)による、マウス結腸直腸癌MC38細胞の増殖阻害。
【
図41】14C12H1L1(hG1TM)による、ヒト胃癌KATO III細胞に対する免疫細胞の効果的に増強された免疫反応。
【
図42】14C12H1L1(hG1TM)による、上咽頭癌CNE-2Z細胞に対する免疫細胞の効果的に増強された免疫反応。
【
図43】14C12H1L1(hG1TM)による、中皮腫NCI-H2452細胞に対する免疫細胞の効果的に増強された免疫反応。
【
図44】14C12H1L1(hG1TM)による、ヒト小細胞肺癌NCI-H446細胞に対する免疫細胞の効果的に増強された免疫反応。
【
図45】塩酸アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1TM)による、上咽頭癌CNE-2Z細胞に対する免疫細胞の効果的に増強された免疫反応。
【
図46】アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1TM)による、MSI-H/dMMR腫瘍SW48細胞に対する免疫細胞の有意に増強された免疫反応。
【
図47】14C12H1L1(hG1TM)による、非MSI-H/dMMR(即ち、MSS)表現型のヒト結腸直腸癌SW837細胞に対する免疫細胞の有意に増強された免疫反応。
【
図48】アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1TM)による、非MSI-H/dMMR(即ち、MSS)表現型のヒト結腸直腸癌SW837細胞に対する免疫細胞の有意に増強された免疫反応。
【発明を実施するための形態】
【0102】
詳細な説明
実施例を参照して本発明の態様を下記において詳細に説明する。当業者は、以下の実施例が本発明を説明するために過ぎず、本発明の範囲に対する限定と解釈されないことを理解するだろう。技法または条件が特定されていない場合、実施例は、当技術分野における文献(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, J. Sambrookら著, Huang Peitangら訳, 第3版, Science Pressを参照のこと)に記載される技法または条件に従って、または製品マニュアルに従って実施した。使用される試薬または機器は、それらの製造業者が特定されていない場合、市販の従来製品である。
【0103】
本発明の以下の実験において:
BALB/cマウスをGuangdong Medical Laboratory Animal Centerから購入した。
【0104】
抗PDL1抗体5C10H2L2-IgG1mtを、PCT公開公報第WO2017148424A1号に記載される方法によって調製した。
【0105】
抗PD-1抗体ニボルマブ(商標名:オプジーボ)をBristol-Myers Squibbから購入した。
【0106】
ヒト末梢血単核細胞は、ドナーのインフォームドコンセントを得て、Akeso Biopharma, Inc.において単離および調製された。
【0107】
Raji-PDL1は、トランスフェクションによりヒトB細胞Rajiに基づいてAkeso Biopharmaによって構築されたヒトPD-L1を発現する細胞である。
【0108】
Ficoll-Paque(商標)PLUS(またはFicoll-Paque PLUS)をGE Healthcareから購入した。
【0109】
ヒトIL-2 ELISAキットをDakewe Biotech Co., Ltd.から購入した。
【0110】
RPMI 1640培地、DMEM培地、トリプシン-EDTA(0.25%) フェノールレッドおよびブラストサイジンを全てGibcoから購入した。
【0111】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)エンテロトキシンB(SEB)をDianotechから購入した。
【0112】
FBSをExcell bioから購入した。
【0113】
マイトマイシンC(MMC)をStressmarqから購入した。
【0114】
アイソタイプ対照、ヒト抗ニワトリ卵白リゾチームIgG(抗HEL抗体、またはヒトIgG、hIgGと略される)の配列は、Acierno et al., 表題"Affinity maturation increases the stability and plasticity of the Fv domain of anti-protein antibodies" (Acierno et al., J Mol Biol., 2007; 374(1):130-146)によって報告された研究におけるFab F10.6.6配列の可変領域配列に由来する。
【0115】
実施例において使用したアンロチニブは、商標名Fukewei(登録商標)、一般名塩酸アンロチニブの下でのアンロチニブの塩酸塩であり、CTTQ Pharmaから購入した。
【実施例】
【0116】
予備実施例1:抗PD-1抗体14C12およびそのヒト化抗体14C12H1L1(hG1WT)の配列設計
抗PD-1抗体14C12およびそのヒト化抗体14C12H1L1(hG1WT)の重鎖および軽鎖のアミノ酸配列およびコーディングヌクレオチド配列は、それぞれ、中国特許公開公報第CN106967172A号(または第CN106977602A号)中の14C12および14C12H1L1のものと同一である。
【0117】
(1)14C12の重および軽鎖可変領域配列
14C12の重鎖可変領域のヌクレオチド配列:(354 bp)
【0118】
14C12の重鎖可変領域のアミノ酸配列:(118 aa)
【0119】
14C12の軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:(321 bp)
【0120】
14C12の軽鎖可変領域のアミノ酸配列:(107 aa)
【0121】
(2)ヒト化モノクローナル抗体14C12H1L1(hG1WT)の重および軽鎖可変領域ならびに重および軽鎖配列
14C12H1L1(hG1WT)の重鎖可変領域のヌクレオチド配列:(354 bp)
【0122】
14C12H1L1(hG1WT)の重鎖可変領域のアミノ酸配列:(118 aa)
【0123】
14C12H1L1(hG1WT)の軽鎖可変領域をコードするヌクレオチド配列:(321 bp)
【0124】
14C12H1L1(hG1WT)の軽鎖可変領域のアミノ酸配列:(107 aa)
【0125】
14C12H1L1(hG1WT)の重鎖のヌクレオチド配列:(1344 bp)
【0126】
14C12H1L1(hG1WT)の重鎖のアミノ酸配列:(448 aa)
【0127】
14C12H1L1(hG1WT)の軽鎖のヌクレオチド配列:(642 bp)
【0128】
14C12H1L1(hG1WT)の軽鎖のアミノ酸配列:(214 aa)
【0129】
予備実施例2:ヒト化抗体14C12H1L1(hG4)の配列設計
重および軽鎖可変領域は14C12H1L1(hG1WT)のそれと同一である。Igγ4鎖C領域(ACCESSION: P01861.1)を重鎖定常領域として使用し、Igκ鎖C領域(ACCESSION: P01834)を軽鎖定常領域として使用し、このようにして抗体14C12H1L1(hG4)を得た。14C12H1L1(hG4)の配列は以下の通りである。
【0130】
14C12H1L1(hG4)の重鎖のヌクレオチド配列:(1335 bp)
【0131】
14C12H1L1(hG4)の重鎖のアミノ酸配列:(445 aa)
【0132】
14C12H1L1(hG4)軽鎖のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 11と同一である。
【0133】
14C12H1L1(hG4)軽鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 12と同一である。
【0134】
予備実施例3:ヒト化抗体14C12H1L1(hG1TM)の配列設計
予備実施例1において得られた14C12H1L1(hG1WT)に基づいて、ヒト化変異体14C12H1L1(hG1TM)を、EUナンバリングシステムに従って重鎖のヒンジ領域中に、234位でのロイシンからアラニンへの点変異(L234A)、235位でのロイシンからアラニンへの点変異(L235A)、および237位でのグリシンからアラニンへの点変異(G237A)を導入することによって得た。
【0135】
14C12H1L1(hG1TM)の重鎖のヌクレオチド配列:(1344 bp)
【0136】
14C12H1L1(hG1TM)の重鎖のアミノ酸配列:(448 aa)
【0137】
14C12H1L1(hG1TM)軽鎖のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 11と同一である。
【0138】
14C12H1L1(hG1TM)軽鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 12と同一である。
【0139】
予備実施例4:ヒト化抗体14C12H1L1(hG1DM)の配列設計
14C12H1L1(hG1WT)に基づいて、ヒト化変異体抗体14C12H1L1(hG1DM)を、重鎖のヒンジ領域中に、234位でのロイシンからアラニンへの点変異(L234A)および235位でのロイシンからアラニンへの点変異(L235A)を導入することによって得た。
【0140】
14C12H1L1(hG1DM)の重鎖のヌクレオチド配列:(1344 bp)
【0141】
14C12H1L1(hG1DM)の重鎖のアミノ酸配列:(448 aa)
【0142】
14C12H1L1(hG1DM)軽鎖のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO: 11と同一である。
【0143】
14C12H1L1(hG1DM)軽鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO: 12と同一である。
【0144】
実験実施例1:Fc受容体FcγRIに対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性アッセイ
CD64としても公知の、Fc受容体FcγRIは、IgG抗体のFc断片へ結合し得、抗体依存性細胞傷害(ADCC)に関与する。Fc受容体への治療用モノクローナル抗体の結合能力は、抗体の安全性および有効性に影響を与える。FcγRIに対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数を、抗体のADCC活性を評価するためにFortebio Octetシステムを使用して、この実験において測定した。
【0145】
Fortebio OctetシステムによってFcγRIに対する抗体の親和性定数を決定するための方法は、以下のように簡単に説明される:サンプル希釈緩衝液は、PBS中0.02% Tween-20および0.1% BSAの溶液、pH 7.4であった。1μg/mL FcγRI溶液(Sinobio製)をHIS1Kセンサーへ添加し、センサー表面上にFcγRIを50秒間固定化した。FcγRIへの抗体の結合定数および解離定数を両方とも緩衝液中において決定し、抗体濃度は3.12~50 nM(二倍段階希釈)であった。固定化抗原を有するセンサーを緩衝液中において60秒間平衡化させ、次いで、抗体に対するセンサー上の固定化FcγRIの結合を120秒間決定し;抗体からのFcγRIの解離を120秒間決定した。温度は30℃であり、周波数は0.3 Hzであった。データをフィッティングし、1:1モデルで解析し、抗体についてのFcγRIに対する親和性定数を得た。
【0146】
FcγRIに対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)ならびに対照抗体5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイの結果を、表1および
図1~5に示す。
【0147】
(表1)FcγRIへの14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)、および14C12H1L1(hG1TM)、ならびに対照抗体5C10H2L2-IgG1mtの結合についてのキネティクス
【0148】
N/Aは、抗体が抗原に対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有したことを示し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0149】
結果は、14C12H1L1(hG4)および14C12H1L1(hG1WT)の両方が、それぞれ、5.80E-09 Mおよび2.52E-09 Mの親和性定数でFcγRIへ結合したことを示し;14C12H1L1(hG1TM)および5C10H2L2-IgG1mtは、FcγRIに対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0150】
結果は、FcγRIへの14C12H1L1(hG1DM)および14C12H1L1(hG1TM)の結合活性が、14C12H1L1(hG4)および14C12H1L1(hG1WT)と比較して効果的に無くされることを示唆した。
【0151】
実験実施例2:Fc受容体FcγRIIIaおよびそのサブタイプに対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性アッセイ
(1)FcγRIIIa_V158に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ
Fc受容体FcγRIIIa_V158(CD16a_V158としても公知)は、IgG抗体のFc断片へ結合し、ADCC効果を媒介し得る。FcγRIIIa_V158に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数を、抗体のADCC活性を評価するためにFortebio Octetシステムを使用して、この実験において測定した。
【0152】
Fortebio OctetシステムによってFcγRIIIa_V158に対する抗体および対照抗体5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数を決定するための方法は、以下のように簡単に説明される:サンプル希釈緩衝液は、PBS中0.02% Tween-20および0.1% BSAの溶液、pH 7.4であった。5μg/mL FcγRIIIa_V158をHIS1Kセンサー上に120秒間固定化した。センサーを緩衝液中において60秒間平衡化させ、31.25~500 nM(二倍段階希釈)の濃度の抗体に対するセンサー上の固定化FcγRIIIa_V158の結合を60秒間決定した。抗体を60秒間緩衝液中において解離させた。センサーを10 mMグリシンpH 1.5中において4回、各々5秒間、リフレッシュした。温度は30℃であり、周波数は0.3 Hzであった。親和性定数を得るために、データを1:1モデルフィッティングによって解析した。
【0153】
FcγRIIIa_V158に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)ならびに対照抗体5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイの結果を、表2および
図6~10に示す。
【0154】
(表2)FcγRIIIa_V158への14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)、および14C12H1L1(hG1TM)、ならびに対照抗体5C10H2L2-IgG1mtの結合についてのキネティクス
【0155】
N/Aは、抗体が抗原に対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有したことを示し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0156】
結果は、14C12H1L1(hG1DM)および14C12H1L1(hG1WT)の両方が、それぞれ、6.21E-07Mおよび6.54E-08Mの親和性定数でFcγRIIIa_V158へ結合したことを示し;14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1TM)および5C10H2L2-IgG1mtは、FcγRIIIa_V158に対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有し、従って、結果は解析されなかった。
【0157】
結果は、FcγR IIIa_V158への14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1TM)および対照抗体5C10H2L2-IgG1mtの結合活性が、14C12H1L1(hG1DM)および14C12H1L1(hG1WT)と比較して効果的に無くされることを示唆した。
【0158】
(2)FcγRIIIa_F158に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ
Fc受容体FcγRIIIa_F158(CD16a_F158としても公知)は、IgG抗体のFc断片へ結合し、ADCC効果を媒介し得る。FcγRIIIa_F158に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)、14C12H1L1(hG1TM)および対照抗体の親和性定数を、抗体のADCC活性を評価するためにFortebio Octetシステムを使用して、この実験において測定した。
【0159】
Fortebio OctetシステムによってFcγRIIIa_F158に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数を決定するための方法は、以下のように簡単に説明される:サンプル希釈緩衝液は、PBS中0.02% Tween-20および0.1% BSAの溶液、pH 7.4であった。5μg/mL FcγRIIIa_F158をHIS1Kセンサー上に120秒間固定化した。センサーを緩衝液中において60秒間平衡化させ、31.25~500 nM(二倍段階希釈)の濃度の抗体に対するセンサー上の固定化FcγRIIIa_F158の結合を、60秒間決定した。抗体を60秒間緩衝液中において解離させた。センサーを10 mMグリシンpH 1.5中において4回、各々5秒間、リフレッシュした。温度は30℃であり、周波数は0.3 Hzであった。親和性定数を得るために、データを1:1モデルフィッティングによって解析した。
【0160】
FcγRIIIa_F158に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)ならびに対照抗体5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイの結果を、表3および
図11~15に示す。
【0161】
(表3)FcγRIIIa_F158への14C12H1L1抗体およびそのアイソタイプの結合についてのキネティクス
【0162】
N/Aは、抗体が抗原に対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有したことを示し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0163】
結果は、14C12H1L1(hG1WT)が、1.02E-07Mの親和性定数でFcγRIIIa_F158へ結合したことを示し;14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1TM)および5C10H2L2-IgG1mtは、FcγRIIIa_F158に対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0164】
結果は、FcγRIIIa_F158への14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)および14C12H1L1(hG1TM)の結合活性が、14C12H1L1(hG1WT)と比較して効果的に無くされることを示唆した。
【0165】
実験実施例3:Fc受容体FcγRIIaおよびそのサブタイプに対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性アッセイ
(1)FcγRIIa_H131に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ
CD32a_H131としても公知の、Fc受容体FcγRIIa_H131は、IgG抗体のFc断片へ結合し得、抗体依存性細胞傷害(ADCC)に関与する。Fc受容体への治療用モノクローナル抗体の結合能力は、抗体の安全性および有効性に影響を与える。FcγRIIa_H131に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数を、Fc受容体への抗体の結合能力を評価するためにFortebio Octetシステムを使用して、この実験において測定した。
【0166】
Fortebio OctetシステムによってFcγRIIa_H131に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数を決定するための方法は、以下のように簡単に説明される:固定化希釈緩衝液は、PBS、0.02% Tween-20および0.1% BSAの溶液、pH 7.4であり、分析物希釈緩衝液は、PBS中0.02% Tween-20、0.02%カゼインおよび0.1% BSAの溶液、pH 7.4であった。5μg/mL FcγRIIa_H131をNTAセンサー上に約1.0 nmの固定化高さで固定化した。センサーをブロッキングのためにPBS中の0.02% Tween-20、0.02%カゼインおよび0.1% BSA、pH 7.4の緩衝液中において300秒間平衡化させ、12.5~200 nM(二倍段階希釈)の濃度の抗体に対するセンサー上の固定化FcγRIIa_H131の結合を、60秒間決定した。抗体を60秒間緩衝液中において解離させた。センサーを10 mMグリシンpH 1.7および10 mM硫酸ニッケル中においてリフレッシュした。温度は30℃であり、周波数は0.6 Hzであった。親和性定数を得るために、データを1:1モデルフィッティングによって解析した。
【0167】
FcγRIIa_H131に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)ならびに対照抗体5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイの結果を、表4および
図16~20に示す。
【0168】
(表4)FcγRIIa_H131への14C12H1L1抗体およびそのアイソタイプの結合についてのキネティクス
【0169】
N/Aは、抗体が抗原に対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有したことを示し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0170】
結果は、14C12H1L1(hG4)および14C12H1L1(hG1WT)の両方が、それぞれ、5.07E-08Mおよび5.74E-08Mの親和性定数でFcγRIIa_H131へ結合したことを示し;14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG1TM)および5C10H2L2-IgG1mtは、FcγRIIa_H131に対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0171】
FcγRIIa_H131への14C12H1L1(hG1DM)および14C12H1L1(hG1TM)の結合活性が、14C12H1L1(hG4)および14C12H1L1(hG1WT)と比較して効果的に無くされることを示唆した。
【0172】
(2)FcγRIIa_R131に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ
CD32a_R131としても公知の、Fc受容体FcγRIIa_R131は、IgG抗体のFc断片へ結合し得、抗体依存性細胞傷害(ADCC)に関与する。Fc受容体への治療用モノクローナル抗体の結合能力は、抗体の安全性および有効性に影響を与える。FcγRIIa_R131に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数を、Fc受容体への抗体の結合能力を評価するためにFortebio Octetシステムを使用して、この実験において測定した。
【0173】
Fortebio OctetシステムによってFcγRIIa_R131に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数を決定するための方法は、以下のように簡単に説明される:固定化希釈緩衝液は、PBS、0.02% Tween-20および0.1% BSAの溶液、pH 7.4であり、分析物希釈緩衝液は、PBS中0.02% Tween-20、0.02%カゼインおよび0.1% BSAの溶液、pH 7.4であった。5μg/mL FcγRIIa_R131をNTAセンサー上に約1.0 nmの固定化高さで固定化した。センサーをブロッキングのためにPBS中の0.02% Tween-20、0.02%カゼインおよび0.1% BSA、pH 7.4の緩衝液中において300秒間平衡化させ、12.5~200 nM(二倍段階希釈)の濃度の抗体に対するセンサー上の固定化FcγRIIa_R131の結合を、60秒間決定した。抗体を60秒間緩衝液中において解離させた。センサーを10 mMグリシンpH 1.7および10 mM硫酸ニッケル中においてリフレッシュした。温度は30℃であり、周波数は0.6 Hzであった。親和性定数を得るために、データを1:1モデルフィッティングによって解析した。
【0174】
FcγRIIa_R131に対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)ならびに対照抗体5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイの結果を、表5および
図21~25に示す。
【0175】
(表5)FcγRIIa_R131への14C12H1L1抗体およびそのアイソタイプの結合についてのキネティクス
【0176】
N/Aは、抗体が抗原に対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有したことを示し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0177】
結果は、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)が、それぞれ、3.13E-08M、3.46E-08Mおよび2.32E-07Mの親和性定数でFcγRIIa_R131へ結合したことを示し;14C12H1L1(hG1DM)および5C10H2L2-IgG1mtは、FcγRIIa_R131に対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0178】
結果は、結合活性を有する抗体の中で、14C12H1L1(hG1TM)が、14C12H1L1(hG4)および14C12H1L1(hG1WT)と比較して、FcγRIIa_R131に対して最も弱い結合能力および最も低い結合活性を有することを示唆している。
【0179】
実験実施例4:FcγRIIbに対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数アッセイ
Fc受容体FcγRIIb(CD32bとしても公知)は、IgG抗体のFc断片へ結合し、免疫細胞の機能をダウンレギュレートし、免疫細胞の活性化および増殖を阻害し、サイトカインの分泌を阻害し得る。FcγRIIbへの抗体の親和性定数を、Fc受容体への14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の結合能力を評価するためにFortebio Octetシステムを使用して、この実験において測定した。
【0180】
Fortebio OctetシステムによってFcγRIIbに対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数を決定するための方法は、以下のように簡単に説明される:固定化希釈緩衝液は、PBS、0.02% Tween-20および0.1% BSAの溶液、pH 7.4であり、分析物希釈緩衝液は、PBS中0.02% Tween-20、0.02%カゼインおよび0.1% BSAの溶液、pH 7.4であった。5μg/mL hFcγRIIb-hisをNTAセンサー上に約1.0 nmの固定化高さで固定化した。センサーをブロッキングのためにPBS中の0.02% Tween-20、0.02%カゼインおよび0.1% BSA、pH 7.4の緩衝液中において300秒間平衡化させ、12.5~200 nM(二倍段階希釈)の濃度の抗体に対するセンサー上の固定化hFcγRIIb-hisの結合を、60秒間決定した。抗体を60秒間緩衝液中において解離させた。センサーを10 mMグリシンpH 1.7および10 mM硫酸ニッケル中においてリフレッシュした。温度は30℃であり、周波数は0.6 Hzであった。親和性定数を得るために、データを1:1モデルフィッティングによって解析した。
【0181】
FcγRIIbに対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)ならびに対照抗体5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイの結果を、表6および
図26~30に示す。
【0182】
(表6)FcγRIIbへの14C12H1L1抗体およびそのアイソタイプの結合についてのキネティクス
【0183】
N/Aは、抗体が抗原に対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有したことを示し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0184】
結果は、14C12H1L1(hG4)および14C12H1L1(hG1WT)の両方が、それぞれ、5.62E-08Mおよび6.13E-08Mの親和性定数でFcγRIIbへ結合したことを示し;14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG1TM)および5C10H2L2-IgG1mtは、FcγRIIbに対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0185】
結果は、FcγRIIbへの14C12H1L1(hG1DM)および14C12H1L1(hG1TM)の結合活性が、14C12H1L1(hG4)および14C12H1L1(hG1WT)と比較して効果的に無くされることを示唆した。
【0186】
実験実施例5:C1qに対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性アッセイ
血清補体C1qは、IgG抗体のFc断片へ結合し、CDC効果を媒介し得る。C1qへの治療用モノクローナル抗体の結合能力は、抗体の安全性および有効性に影響を与える。C1qに対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の親和性定数を、抗体のCDC活性を評価するためにFortebio Octetシステムを使用して、この実験において測定した。
【0187】
Fortebio OctetシステムによってC1qに対する抗体の親和性定数を決定するための方法は、以下のように簡単に説明される:サンプル希釈緩衝液は、PBS中0.02% Tween-20および0.1% BSAの溶液、pH 7.4であった。50μg/mL抗体をFAB2Gセンサー上に約2.0 nmの固定化高さで固定化した。センサーをブロッキングのために緩衝液中において60秒間平衡化させ、1.25~20 nM(二倍段階希釈)の濃度の抗原C1qに対するセンサー上の固定化抗体の結合を、60秒間決定した。抗原および抗体を60秒間緩衝液中において解離させた。センサーを10 mMグリシンpH 1.7中において4回、各々5秒間、リフレッシュした。サンプルプレートの振盪速度は1000 rpmであり、温度は30℃であり、周波数は0.6 Hzであった。親和性定数を得るために、データを1:1モデルフィッティングによって解析した。データ収集ソフトウェアはFortebio Data Acquisition 7.0であり、データ解析ソフトウェアはFortebio Data Analysis 7.0であった。
【0188】
C1qに対する14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)ならびに対照5C10H2L2-IgG1mtの親和性定数アッセイの結果を、表7および
図31~35に示す。
【0189】
(表7)C1qへの14C12H1L1抗体およびそのアイソタイプの結合についてのキネティクス
【0190】
N/Aは、抗体が抗原に対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有したことを示し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0191】
結果は、14C12H1L1(hG1WT)が1.35E-09Mの親和性定数でC1qへ結合したことを示し;14C12H1L1(hG1DM)、14C12H1L1(hG4)および14C12H1L1(hG1TM)は、C1qに対して結合しなかったかまたは極めて弱い結合シグナルを有し、従って、結果は解析されず、対応のデータが得られなかった。
【0192】
結果はまた、5C10H2L2-IgG1mtが4.43E-09の親和性定数でC1qへ結合したことを示し、これは、それがC1qに対して結合活性を有し、CDC効果を引き起こし得ることを示している。
【0193】
実験実施例6:末梢血単核細胞およびRaji-PDL1細胞の共培養システムにおける14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の薬力学的活性
この実験において、PD-1/PD-L1によって媒介される免疫抑制を軽減することにおける、抗PD-1抗体14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)、ならびに対照抗PD-L1抗体5C10H2L2-IgG1mtおよびニボルマブの薬力学的活性を、末梢血単核細胞およびRaji-PDL1細胞の共培養システムにおいて検出した。
【0194】
混合リンパ球反応中において、単離末梢血単核細胞(免疫担当PD-1を発現する免疫細胞を含有する)およびPD-L1を発現するRaji-PDL1細胞が共培養される場合、PD-1およびPD-L1の相互作用は、サイトカインIFN-γおよびIL-2の分泌の減少を示す、免疫細胞の機能阻害を媒介し得る。抗PD-1抗体または抗PD-L1抗体は免疫細胞のそのような免疫抑制を軽減し、サイトカイン分泌を増加させ得る。RajiはB細胞株である。上述した通り、B細胞は、腫瘍細胞に対する免疫細胞の免疫反応を媒介するために抗原提示細胞として使用され得る。本発明において、Raji-PDL1およびPBMC共培養システムを、抗PD-1抗体の薬理活性を評価するために使用し、Raji-PDL1、PBMCおよび腫瘍細胞共培養システムを、種々の腫瘍における抗PD-1抗体の薬理活性を評価するために使用した。
【0195】
末梢血単核細胞をFicoll-Paque Plus (GE Healthcare, Cat No.:171440-02)によって単離し、次いでSEB(0.5μg/mL)で2日間刺激した。刺激された成熟末梢血単核細胞(1×105細胞/ウェル)、およびMMC(2μg/mLの処理濃度を有するマイトマイシンC)で1時間処理されたRaji-PDL1細胞(1×105細胞/ウェル)を、96ウェルプレートへ添加し、その後、14C12H1L1(hG1WT)、14C12H1L1(hG1TM)、対照抗体ニボルマブまたは対照抗PD-L1抗体5C10H2L2-IgG1mtを添加した。混合物を十分に混合し、インキュベートした。3日後、培養上清を回収し、ELISAキット(Dakewe Biotech Co., Ltd.から購入した)によってIFN-γ分泌およびIL-2分泌について検出した。
【0196】
混合リンパ球反応中におけるIFN-γ分泌の結果を
図36に示す。結果は、PBMCおよびRaji-PDL1の共培養システム中において、14C12H1L1(hG1TM)が、同じ用量レベルで14C12H1L1(hG1WT)、ニボルマブまたは5C10H2L2-IgG1mtによって誘導されたものよりも有意により高いIFN-γ分泌を誘導したことを示した。
【0197】
混合リンパ球反応中におけるIL-2分泌の結果を
図37に示す。結果は、PBMCおよびRaji-PDL1の共培養システム中において、14C12H1L1(hG1TM)が、同じ用量レベルで14C12H1L1(hG1WT)、ニボルマブまたは5C10H2L2-IgG1mtによって誘導されたものよりも有意により高いIL-2分泌を誘導したことを示した。
【0198】
結果は、PD-1/PD-L1によって媒介される免疫抑制を軽減することにおける14C12H1L1(hG1TM)の薬力学的活性が、ニボルマブ、14C12H1L1(hG1WT)または5C10H2L2-IgG1mtのそれよりも有意に優れていることを示唆した。
【0199】
実験実施例7:CHO-K1-PD1に対するニボルマブ、14C12H1L1(hG1WT)および14C12H1L1(hG1TM)の抗体媒介貪食活性
抗体依存性細胞貪食(ADCP)活性を検出するために、マウスマクロファージをエフェクター細胞として使用し、PD1を過剰発現する細胞株を標的細胞として使用した。Blab/cマウス(Guangdong Medical Laboratory Animal Centerから購入した)の大腿骨骨髄を最初に無菌的に採取し、氷上で赤血球溶解バッファーによって5分間溶解させた。溶解をDMEM完全培地(10% FBSを含有する)で終了させ、溶解物を1000 rpmで遠心分離し、2回洗浄した。細胞ペレットを10 mLのDMEM完全培地中に再懸濁し、M-CSFを100 ng/mLのワーキング濃度で添加した。細胞を誘導のために細胞培養チャンバ中において37℃および5% CO2で7日間培養した。培地の半分を交換し、M-CSFを3および5日目に添加した。細胞の誘導を7日目に完了した。細胞を0.05%トリプシンで消化した。マクロファージを回収し、750× gで5分間遠心分離した。上澄みを捨て、細胞をDMEM完全培地(10% FBSを含有する)中に懸濁し、カウントした。細胞を適切な密度へ調節し、さらなる使用のために無菌EPチューブ中に入れた。
【0200】
CHO-K1-PD1細胞(PD1を過剰発現するCHO-K1細胞株)を170× gで5分間遠心分離し、PBSで1回洗浄し、再懸濁し、カウントした。生存能力を決定した。カルボキシフルオレセイン二酢酸サクシニミジルエステル(CFSE)をPBSで2.5μMへ希釈し、細胞を再懸濁した(染色密度: 1000万個の細胞/mL)。適量の細胞を細胞インキュベーター中において20分間インキュベートした。染色を停止するために、6 mLのDMEM完全培地を添加した。細胞を170× gで5分間遠心分離し、上澄みを捨てた。1 mLのDMEM完全培地を添加した。細胞をインキュベーター中において10分間インキュベートし、実験密度へ調節した。細胞をCHO-K-PD1-CFSEとコード付けした。
【0201】
試験抗体をDMEM完全培地中において20、2および0.2μg/mL(ワーキング濃度は10、1および0.1μg/mLであった)へ希釈した。抗HEL IgG1抗体および培地を、アイソタイプ対照群およびブランク対照群として使用した。研究デザインに従って、希釈された抗体およびCHO-K1-PD1-CFSE細胞を、マクロファージを含有する1.5-mL EPチューブ中へ添加した(最終体積は100μLであり、エフェクター対ターゲット比は50,000:150,000であった)。混合物を再懸濁のために十分に混合し、インキュベーター中において37℃で2時間インキュベートした。1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する800μLのPBSを、室温で各チューブへ添加した。混合物を500× gで5分間遠心分離し、上澄みを捨てた。細胞を800μLの1% PBSAで1回洗浄した。APC抗マウス/ヒトCD11b抗体(Biolegend, Cat. No.: 101212)をPBSAで400倍に希釈し、対応するサンプルへ100μL/サンプルで添加した。混合物を十分に混合し、氷上で40分間インキュベートし、800μLの1% PBSAで洗浄し、1200× gで5分間2回遠心分離し、上澄みを捨てた。細胞を再懸濁するために、200μLの1% PBSAを各チューブへ添加した。細胞をローディングチューブへ移し、BD FACS Caliburフローサイトメーターによって分析した。システム中のマクロファージはAPC
+陽性であり、貪食に関与したマクロファージはAPCおよびCFSE二重陽性であった。貪食比率は、APC陽性細胞数に対する二重陽性細胞数の比率と決定し、抗体媒介ADCP活性を評価した。P%によって示される、各群のADCP活性を、以下の式に従って計算した。
【0202】
【0203】
結果は、同じ濃度で、14C12H1L1(hG1WT)およびニボルマブの貪食率は、それぞれ、アイソタイプ対照抗HEL抗体のそれの3.94倍および4.26倍であったことを示し、これは、14C12H1L1(hG1WT)およびニボルマブがADCP効果を有することを示しており;同じ濃度で、14C12H1L1(hG1TM)の貪食率は、アイソタイプ対照抗体のそれに匹敵し、これは、14C12H1L1(hG1TM)がADCP効果を有さないことを示している。
【0204】
結果は、14C12H1L1(hG1TM)によって導入されたアミノ酸変異が、ADCP効果を効果的に無くすことができ、驚くべき技術的効果が得られることを示唆している。
【0205】
実験実施例8:ヒト非小細胞肺癌HCC827皮下異種移植腫瘍を担持するScid/beige免疫不全マウスモデルにおける14C12H1L1(hG1TM) + 塩酸アンロチニブの薬力学的評価
雌性Scid/beige免疫不全マウス(Vital Riverから購入した)を8つの群へ分けた。0.2μg/mLの黄色ブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)を100万個/mLのPBMC懸濁液へ添加した。PBMCを活性化のために3日間インキュベートし、PBMC上におけるPD1の発現を増加させた。0日目に、マウスへ800,000個のSEB活性化PBMCおよび6,000,000個のHCC827ヒト非小細胞肺癌細胞(GuangZhou Jennio Biotech Co., Ltd.から購入した)の混合物を皮下移植し、2つの群、アイソタイプ対照抗体群(即ち、上述のようにZhongshan Akeso Biopharmaによって調製された、抗HEL抗体)および14C12H1L1(hG1TM) + 塩酸アンロチニブ群へ分けた。30日間にわたって、14C12H1L1(hG1TM)を週1回尾静脈投与し(初回用量を細胞と共に皮下に共投与した)、アンロチニブを1日1回強制経口投与した。具体的なプロトコルを表8に示す。腫瘍を実験において連続的に測定し、体積を以下の式に従って計算した:(腫瘍の長さ) × b (腫瘍の幅) × b (腫瘍の幅)/2。
【0206】
【0207】
【0208】
結果は、14C12H1L1(hG1TM) + 塩酸アンロチニブが、ヒト非小細胞肺癌細胞の腫瘍体積の増加を有意に抑制したことを示し、これは良好な腫瘍殺傷効果を示す。
【0209】
実験実施例9:結腸癌MC38-hPDL1/hCD73皮下移植腫瘍を担持するC57BL/6-hPD1/hPDL1/hCD73マウスモデルにおける14C12H1L1(hG1TM)の薬力学的評価
マウスMC38細胞株はマウス結腸直腸癌細胞株である。MC38細胞株は、ヒトMSI-H/dMMR腫瘍を研究するための有用なモデルであることが実証された(Efremova M et al., Nat Commun., 2018; 9(1):32)。
【0210】
雌性C57BL/6-hPD1/hPDL1/hCD73マウス(Nanjing GemPharmatech Co., Ltd.から購入した)を8つの群へ分け、結腸癌MC38-hPDL1/hCD73細胞(Nanjing GemPharmatech Co., Ltd.から購入した) (2 × 106細胞/100μL/マウス)を右前肢上に皮下移植した。移植日をD0と定義した。投薬体積を体重に従って調節した:10μL/gマウス体重(g)。抗HEL抗体(調製および供給源は実験実施例8のものと同じである)または14C12H1L1(hG1TM)を、3週間にわたって、週2回、計6用量で、腹腔内投与した。具体的なプロトコルを表9に示す。腫瘍を実験において連続的に測定し、体積を以下の式として計算した:腫瘍体積(mm3) = (腫瘍の長さ × (腫瘍の幅)2)/2。
【0211】
【0212】
【0213】
結果は、アイソタイプ対照抗体と比較して、腫瘍成長が阻害されたことを示し、これは、14C12H1L1(hG1TM)が、MC38細胞の増殖を有意に阻害することができ、MSI-H/dMMR表現型の固形腫瘍、例えば結腸癌および/または直腸癌を効果的に処置することができることを示す。
【0214】
実験実施例10:14C12H1L1(hG1TM)による、ヒト胃癌KATO III細胞に対する免疫細胞の効果的に増強された免疫反応
PBMCをFicoll-Paque(商標)Plus試薬説明書に従って健康なヒト末梢血から単離し、単離されたPBMCをカウントし、凍結した。Raji-PDL1細胞をRPMI 1640 + 10% FBS完全培地中で培養し、KATO III細胞(Chinese Academy of Sciences Shanghai Cell Bankから購入した)をDMEM + 10% FBS完全培地中で培養した。PBMCを解凍し、0.5μg/mL SEBで2日間活性化した。実験当日に、Raji-PDL1細胞を2μg/mL MMCで1時間処理した。SEB活性化PBMCおよびMMC処理Raji-PDL1細胞を回収し、PBSで2回洗浄し、RPMI 1640 + 10% FBS完全培地中に再懸濁し、カウントした。Raji-PDL1およびPBMC細胞を1 × 105細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。対数増殖期のKATO III細胞を回収し、5 × 104細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。希釈された抗体を研究デザインに従って添加した。混合物を均一に混合し、5% CO2インキュベーター中において37℃で3日間インキュベートした。3日後、細胞培養上清を回収し、ELISA KIT説明書に従ってIL-2について試験した。この実験における培地は全て10% FBS + RPMI 1640であった。
【0215】
【0216】
結果は、ヒト胃癌KATO III細胞と共培養された14C12H1L1(hG1TM)が、14C12H1L1(hG1WT)またはニボルマブと比較してより高い薬理活性を示したことを示した。14C12H1L1(hG1TM)は、同じ濃度レベルでより多くのIL-2を分泌するようにPBMCを刺激することができ、胃癌の処置についての可能性を示す。
【0217】
実験実施例11:14C12H1L1(hG1TM)による、上咽頭癌CNE-2Z細胞に対する免疫細胞の効果的に増強された免疫反応
Raji-PDL1、CNE-2Z細胞(GuangZhou Jennio Biotech Co., Ltd.から購入した)およびPBMCを解凍し、ここで、PBMCを2時間解凍後に2日間SEB(0.5μg/mL)で刺激した。実験当日に、Raji-PDL1細胞をMMC(2μg/mLの処理濃度を有するマイトマイシンCおよび200 × 104細胞/mLの細胞処理密度)で1時間処理した。PBMCを回収し、処理されたRaji-PDL1細胞をPBSで2回洗浄した。PBMCおよびRaji-PDL1細胞を10 × 104細胞/ウェルで細胞プレートへ添加し、CNE-2Z細胞を3 × 104細胞/ウェルで添加した。抗体(300 nMの最終濃度および200μLの最終体積を有する)を実験デザインに従って添加し、細胞と共に3日間共培養した。培養上清を回収し、IL-2についてアッセイした。この実験における培地は全て10% FBS + RPMI 1640であった。
【0218】
【0219】
結果は、ヒト上咽頭癌CNE-2Z細胞と共培養された14C12H1L1(hG1TM)が、14C12H1L1(hG1WT)と比較してより高い薬理活性を示したことを示した。14C12H1L1(hG1TM)は、同じ濃度レベルでより多くのIL-2を分泌するようにPBMCを刺激することができ、上咽頭癌の処置についての可能性を示す。
【0220】
実験実施例12:14C12H1L1(hG1TM)による、中皮腫NCI-H2452細胞に対する免疫細胞の効果的に増強された免疫反応
Raji-PDL1、NCI-H2452細胞(Chinese Academy of Sciences, Shanghai Institutes for Biological Sciencesから購入した)およびPBMCを解凍し、ここで、PBMCを2時間解凍後に2日間SEB(0.5μg/mL)で刺激した。実験当日に、Raji-PDL1細胞をMMC(2μg/mLの処理濃度を有するマイトマイシンCおよび200 × 104細胞/mLの細胞処理密度)で1時間処理した。PBMCを回収し、処理されたRaji-PDL1細胞をPBSで2回洗浄した。PBMCおよびRaji-PDL1細胞を10 × 104細胞/ウェルで細胞プレートへ添加し、NCI-H2452細胞を3 × 104細胞/ウェルで添加した。抗体(300 nMの最終濃度および200μLの最終体積を有する)を実験デザインに従って添加し、細胞と共に3日間共培養した。培養上清を回収し、IL-2についてアッセイした。この実験における培地は全て10% FBS + RPMI 1640であった。
【0221】
【0222】
結果は、ヒト中皮腫NCI-H2452細胞と共培養された14C12H1L1(hG1TM)が、14C12H1L1(hG1WT)と比較してより高い薬理活性を示したことを示した。14C12H1L1(hG1TM)は、同じ濃度レベルでより多くのIL-2を分泌するようにPBMCを刺激することができ、中皮腫の処置についての可能性を示す。
【0223】
実験実施例12:14C12H1L1(hG1TM)による、小細胞肺癌NCI-H446細胞に対する免疫細胞の効果的に増強された免疫反応
PBMCをFicoll-Paque(商標)Plus試薬説明書に従って健康なヒト末梢血から単離し、単離されたPBMCをカウントし、凍結した。Raji-PDL1およびNCI-H446細胞(Chinese Academy of Sciences, Shanghai Institutes for Biological Sciencesから購入した)をRPMI 1640 + 10% FBS完全培地中で培養した。PBMCを解凍し、0.5μg/mL SEBで2日間活性化した。実験当日に、Raji-PDL1細胞を2μg/mL MMCで1時間処理した。SEB活性化PBMCおよびMMC処理Raji-PDL1細胞を回収し、PBSで2回洗浄し、RPMI 1640 + 10% FBS完全培地中に再懸濁し、カウントした。Raji-PDL1およびPBMC細胞を1 × 105細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。対数増殖期のNCI-H446細胞を回収し、8 × 104細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。希釈された抗体を研究デザインに従って添加した。混合物を均一に混合し、5% CO2インキュベーター中において37℃で3日間インキュベートした。3日後、細胞培養上清を回収し、ELISA KIT説明書に従ってIL-2について試験した。この実験における培地は全て10% FBS + RPMI 1640であった。
【0224】
【0225】
結果は、ヒト小細胞肺癌NCI-H446細胞と共培養された14C12H1L1(hG1TM)が、効果的に無くされたADCC、CDCおよびADCP活性に基づいて、14C12H1L1(hG1WT)およびニボルマブと比較して等価またはより高い薬理活性を示したことを示した。14C12H1L1(hG1TM)は、同じ濃度レベルで等価またはより多くのIL-2を分泌するようにPBMCを刺激することができ、小細胞肺癌の処置についての可能性を示す。
【0226】
実験実施例13:塩酸アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1TM)による、ヒト上咽頭癌CNE-2Z細胞に対する免疫細胞の効果的に増強された免疫反応
PBMCをFicoll-Paque(商標)Plus試薬説明書に従って健康なヒト末梢血から単離し、単離されたPBMCをカウントし、凍結した。Raji-PDL1およびCNE-2Z細胞(GuangZhou Jennio Biotech Co., Ltd.から購入した)をRPMI 1640 + 10% FBS完全培地中で培養した。PBMCを解凍し、0.5μg/mL SEBで2日間活性化した。実験当日に、Raji-PDL1細胞を2μg/mL MMCで1時間処理した。SEB活性化PBMCおよびMMC処理Raji-PDL1細胞を回収し、PBSで2回洗浄し、RPMI 1640 + 10% FBS完全培地中に再懸濁し、カウントした。Raji-PDL1およびPBMC細胞を1 × 105細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。対数増殖期のCNE-2Z細胞を回収し、3 × 104細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。希釈された抗体およびアンロチニブを研究デザインに従って添加した。混合物を均一に混合し、5% CO2インキュベーター中において37℃で3日間インキュベートした。3日後、細胞培養上清を回収し、ELISA KIT説明書に従ってIL-2について試験した。この実験における培地は全て10% FBS + RPMI 1640であった。
【0227】
結果を
図45に示す。抗HEL抗体およびアンロチニブ単独療法と比較して、14C12H1L1(hG1TM)、14C12H1L1(hG1WT)およびニボルマブは、有意に増加したIL-2分泌レベルによって特徴付けられるヒト上咽頭癌CNE-2Z細胞に対する免疫細胞の免疫反応を有意に増強した。14C12H1L1(hG1TM)は、14C12H1L1(hG1WT)およびニボルマブのそれよりも優れた薬理活性を有する。
【0228】
さらに、免疫細胞活性化を刺激することにおけるアンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1TM)の薬理活性は、14C12H1L1(hG1TM)単独療法、14C12H1L1(hG1WT)単独療法、およびニボルマブ単独療法のそれよりも優れており、また、アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1WT)およびアンロチニブと組み合わせてのニボルマブのそれよりも優れていた。
【0229】
上記の結果は、アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1TM)が、ヒト上咽頭癌の処置についての可能性を有することを示した。
【0230】
実験実施例14:アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1TM)による、MSI-H/dMMR腫瘍SW48細胞に対する免疫細胞の有意に増強された免疫反応
SW48はヒト結腸直腸癌細胞株であり、MSI-H/dMMR表現型と同定されている(Branch P et al., (1995), Cancer Res, 55(11): 2304-2309.)。14C12H1L1(hG1TM)による、MSI-H/dMMR表現型の腫瘍に対する増強免疫細胞応答を検出するために、それを使用した。
【0231】
PBMCをFicoll-Paque(商標)Plus試薬説明書に従って健康なヒト末梢血から単離し、単離されたPBMCをカウントし、凍結した。Raji-PDL1細胞をRPMI 1640 + 10% FBS完全培地中で培養し、SW48細胞(GuangZhou Jennio Biotech Co., Ltd.から購入した)をDMEM + 10% FBS完全培地中で培養した。PBMCを解凍し、0.5μg/mL SEBで2日間活性化した。実験当日に、Raji-PDL1細胞を2μg/mL MMCで1時間処理した。SEB活性化PBMCおよびMMC処理Raji-PDL1細胞を回収し、PBSで2回洗浄し、RPMI 1640 + 10% FBS完全培地中に再懸濁し、カウントした。Raji-PDL1およびPBMC細胞を1 × 105細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。対数増殖期のSW48細胞を回収し、2 × 105細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。希釈された抗体およびアンロチニブを研究デザインに従って添加した。混合物を均一に混合し、5% CO2インキュベーター中において37℃で3日間インキュベートした。3日後、細胞培養上清を回収し、ELISA KIT説明書に従ってIL-2について試験した。この実験における培地は全て10% FBS + RPMI 1640であった。
【0232】
【0233】
結果は、14C12H1L1(hG1TM)、14C12H1L1(hG1WT)およびニボルマブが、抗HEL抗体と比較して、IL-2の有意に増加した分泌レベルによって特徴付けられるMSI-H/dMMR表現型のヒト結腸直腸癌細胞SW48細胞に対する免疫細胞の免疫反応を有意に増強したことを示した。14C12H1L1(hG1TM)は、14C12H1L1(hG1WT)のそれよりも優れた薬理活性を有する。
【0234】
さらに、免疫細胞活性化を刺激することにおけるアンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1TM)の薬理活性は、14C12H1L1(hG1WT)単独療法、14C12H1L1(hG1TM)単独療法、およびニボルマブ単独療法のそれよりも優れており、また、アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1WT)およびアンロチニブと組み合わせてのニボルマブのそれよりも優れていた。
【0235】
上記の結果は、アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1TM)が、MSI-H/dMMR表現型の固形腫瘍、特に、MSI-H/dMMR表現型の結腸癌および/または直腸癌の処置についての可能性を有することを示した。
【0236】
実験実施例15:14C12H1L1(hG1TM)による、非MSI-H/dMMR表現型のヒト結腸直腸癌SW837細胞に対する免疫細胞の有意に増強された免疫反応
SW837は、非MSI-H/dMMR(即ち、MSS)表現型のヒト結腸直腸癌細胞株であり(Guo J et al., Cancer Res., 2011;71(8):2978-2987.)、この実施例において、14C12H1L1(hG1TM)による、非MSI-H/dMMR(即ち、MSS)表現型の腫瘍に対する増強免疫細胞応答を検出するために使用した。
【0237】
PBMCをFicoll-Paque(商標)Plus試薬説明書に従って健康なヒト末梢血から単離し、単離されたPBMCをカウントし、凍結した。Raji-PDL1細胞をRPMI 1640 + 10% FBS完全培地中で培養し、SW837細胞(Shanghai Honsun Biological Technology Co., Ltdから購入した)を10% FBS + Leibovitz's L-15完全培地(Gibcoから購入した)中で培養した。PBMCを解凍し、0.5μg/mL SEBで2日間活性化した。実験当日に、Raji-PDL1細胞を2μg/mL MMCで1時間処理した。SEB活性化PBMCおよびMMC処理Raji-PDL1細胞を回収し、PBSで2回洗浄し、RPMI 1640 + 10% FBS完全培地中に再懸濁し、カウントした。Raji-PDL1およびPBMC細胞を1 × 105細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。対数増殖期のSW837細胞を回収し、5 × 104細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。希釈された抗体を研究デザインに従って添加した。混合物を均一に混合し、5% CO2インキュベーター中において37℃で3日間インキュベートした。3日後、細胞培養上清を回収し、ELISA KIT説明書に従ってIL-2について試験した。
【0238】
【0239】
結果は、14C12H1L1(hG1TM)、14C12H1L1(hG1WT)およびニボルマブが、非MSI-H/dMMR表現型のヒト結腸直腸癌細胞SW837細胞に対する免疫細胞の免疫反応を有意に増強したことを示した。中用量群および高用量群における14C12H1L1(hG1TM)の薬理活性は、14C12H1L1(hG1WT)のそれよりも優れており、IL-2の有意に増加した分泌レベルによって特徴付けられた。
【0240】
上記の結果は、14C12H1L1(hG1TM)が、ADCC、CDCまたはADCP効果を効果的に無くしたことに基づいて、14C12H1L1(hG1WT)およびニボルマブと比べてより良いまたは等価の薬理活性を有したことを示し、これは、非MSI-H/dMMR(即ち、MSS)表現型の固形腫瘍、特に、非MSI-H/dMMR表現型の結腸癌および/または直腸癌の処置についての可能性を示す。
【0241】
実験実施例16:アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1TM)による、非MSI-H/dMMR表現型のヒト結腸直腸癌SW837細胞に対する免疫細胞の有意に増強された免疫反応
PBMCをFicoll-Paque(商標)Plus試薬説明書に従って健康なヒト末梢血から単離し、単離されたPBMCをカウントし、凍結した。Raji-PDL1細胞をRPMI 1640 + 10% FBS完全培地中で培養し、SW837細胞をLeibovitz's L-15 + 10% FBS完全培地中で培養した。PBMCを解凍し、0.5μg/mL SEBで2日間活性化した。実験当日に、Raji-PDL1細胞を2μg/mL MMCで1時間処理した。SEB活性化PBMCおよびMMC処理Raji-PDL1細胞を回収し、PBSで2回洗浄し、RPMI 1640 + 10% FBS完全培地中に再懸濁し、カウントした。Raji-PDL1およびPBMC細胞を1 × 105細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。対数増殖期のSW837細胞を回収し、5 × 104細胞/ウェルで96ウェルプレート上に播種した。希釈された抗体を研究デザインに従って添加した。混合物を均一に混合し、5% CO2インキュベーター中において37℃で3日間インキュベートした。3日後、細胞培養上清を回収し、ELISA KIT説明書に従ってIL-2について試験した。
【0242】
【0243】
結果は、アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1WT)およびアンロチニブと組み合わせてのニボルマブと比較して、アンロチニブと組み合わせての14C12H1L1(hG1TM)が、有意に増加したIL-2分泌レベルによって特徴付けられる非MSI-H/dMMR表現型のヒト結腸直腸癌SW837細胞に対する免疫細胞の免疫反応を有意に増強したことを示し、これは、非MSI-H/dMMR表現型の固形腫瘍、特に、非MSI-H/dMMR表現型の結腸癌および/または直腸癌に対する優れた治療効果を示す。
【0244】
本発明の特定の態様を詳細に説明したが、当業者は理解するであろう。様々な改変および置換が、開示された教示の全てに従ってそれらの詳細に対して行われ得、これらの変更は全て、本発明の保護範囲内にある。本発明の全範囲は、添付の特許請求の範囲およびその任意の均等物によって与えられる。
【配列表】
【国際調査報告】