IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジーエヌ リザウンド エー/エスの特許一覧

特表2022-5431211人以上の所望の話者の音声を強調するバイラテラル補聴器システム及び方法
<>
  • 特表-1人以上の所望の話者の音声を強調するバイラテラル補聴器システム及び方法 図1
  • 特表-1人以上の所望の話者の音声を強調するバイラテラル補聴器システム及び方法 図2
  • 特表-1人以上の所望の話者の音声を強調するバイラテラル補聴器システム及び方法 図3
  • 特表-1人以上の所望の話者の音声を強調するバイラテラル補聴器システム及び方法 図4
  • 特表-1人以上の所望の話者の音声を強調するバイラテラル補聴器システム及び方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】1人以上の所望の話者の音声を強調するバイラテラル補聴器システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 25/00 20060101AFI20220930BHJP
   H04S 7/00 20060101ALI20220930BHJP
   H04R 5/033 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
H04R25/00 M
H04S7/00 340
H04R5/033 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506805
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(85)【翻訳文提出日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 EP2020071998
(87)【国際公開番号】W WO2021023771
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】19190822.7
(32)【優先日】2019-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503021401
【氏名又は名称】ジーエヌ ヒアリング エー/エス
【氏名又は名称原語表記】GN Hearing A/S
【住所又は居所原語表記】Lautrupbjerg 7, 2750 Ballerup, Denmark
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イェスパー ウデセン
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリック ニールセン
【テーマコード(参考)】
5D162
【Fターム(参考)】
5D162AA07
5D162CA26
5D162CD07
5D162DA04
(57)【要約】
本願は、受聴ルーム内における1人以上の所望の話者の音声を、屋内測位センサ及びシステムを使用して強調する、バイノーラル補聴器システム及び方法に関する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイノーラル補聴器システムのユーザのために、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法であって、前記バイノーラル補聴器システムは、前記ユーザの左耳及び右耳に又は耳内に装着されており、前記ユーザ及び前記1人以上の所望の話者の各々は、屋内測位センサ(IPS)が装備されたポータブル端末を携行しており、
a) 前記バイノーラル補聴器システムの左耳補聴器内に又は右耳補聴器内に搭載された頭部トラッキングセンサによって、所定の基準方向(θ)に対する前記ユーザの頭部の配向(θ)を検出するステップと、
b) 受聴ルーム内における前記ユーザの位置を、前記ユーザのポータブル端末によって提供される第1の屋内位置信号に基づいて、所定のルーム座標系を基準として特定するステップと、
c) 前記1人以上の所望の話者の前記ポータブル端末から、それぞれの屋内位置信号を受信するステップであって、前記屋内位置信号の各々は、前記所定のルーム座標系を基準として、前記受聴ルーム内部の前記関連付けられたポータブル端末の位置を示す、前記受信するステップと、
d) 前記1人以上の所望の話者の前記それぞれの位置、前記ユーザの前記位置(X,Y)、及び前記ユーザの頭部の前記配向(θ)に基づいて、前記ユーザに対する前記1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向を特定するステップと、
e) 前記左耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号及び前記右耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号に基づいて、1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号を生成するステップであって、前記1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号は、前記1人以上の所望の話者の前記それぞれの角度方向において最大感度を呈示する、対応する1つ以上の所望のモノラル音声信号を作り出すための前記生成するステップと、
f) 前記1人以上の所望の話者の前記それぞれの角度方向に基づいて、前記1人以上の所望の話者の各々についての左耳頭部伝達関数(HRTF)及び右耳頭部伝達関数(HRTF)を特定するステップと、
g) 例えば、周波数領域乗算又は時間領域畳み込みによって、前記1つ以上の所望のモノラル音声信号の各々を、関連付けられた左耳HRTFを用いてフィルタリングするステップであって、対応する1つ以上の空間化された所望の左耳音声信号を作り出すための前記フィルタリングするステップと、
h) 例えば、周波数領域乗算又は時間領域畳み込みによって、前記1つ以上の所望のモノラル音声信号の各々を、その関連付けられた右耳HRTFを用いてフィルタリングするステップであって、対応する1つ以上の空間化された所望の右耳音声信号を作り出すための前記フィルタリングするステップと、
i) 前記1つ以上の空間化された所望の左耳音声信号を前記左耳補聴器において結合し、第1の空間化されて結合された所望の音声信号を前記左耳補聴器の出力トランスデューサを介して前記ユーザの左鼓膜に印加するステップと、
j) 前記1つ以上の空間化された所望の右耳音声信号を前記右耳補聴器において結合し、第2の空間化されて結合された所望の音声信号を前記右耳補聴器の出力トランスデューサを介して前記ユーザの右鼓膜に印加するステップと、を備える、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項2】
前記頭部トラッキングセンサは、磁力計、ジャイロスコープ、及び加速度センサのうちの少なくとも1つを備えている、請求項1の、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項3】
前記1人以上の所望の話者の前記ポータブル端末からの前記それぞれの屋内位置信号の前記受信は、前記補聴器ユーザのポータブル端末によって、それぞれのワイヤレスデータ通信リンクを介して、又は、共有ワイヤレスネットワークを介して実施される、請求項1又は2の、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項4】
前記頭部トラッキングセンサから導出される、前記ユーザの頭部の前記配向(θ)を示す頭部トラッキングデータを、前記左耳補聴器又は前記右耳補聴器から前記補聴器ユーザのポータブル端末に、ワイヤレスデータ通信リンクを介して送信するステップと、
前記1人以上の所望の話者への前記それぞれの角度方向を、前記ユーザのポータブル端末のプロセッサによって特定するステップと、
前記1人以上の所望の話者への前記それぞれの角度方向を示す話者角度データを、前記ユーザのポータブル端末から前記左耳補聴器及び/又は前記右耳補聴器に、前記ワイヤレスデータ通信リンクを介して送信するステップと、をさらに備える、請求項1から3の何れか一項の、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項5】
前記ユーザのポータブル端末において、前記1人以上の所望の話者の前記ポータブル端末から、前記それぞれの屋内位置信号を受信するステップと、
前記それぞれの屋内位置信号を、前記ユーザのポータブル端末から、前記左耳補聴器及び前記右耳補聴器のうちの少なくとも1つに、ワイヤレスデータ通信リンクを介して送信するステップと、
前記左耳補聴器の信号プロセッサ及び/又は前記右耳補聴器の信号プロセッサによって、前記1人以上の所望の話者への前記それぞれの方向を計算するステップと、をさらに備える、請求項1から3の何れか一項の、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項6】
前記1人以上の所望の話者の各々に関連付けられた前記左耳HRTF及び前記右耳HRTFの前記特定は、
前記ユーザのポータブル端末の、揮発性メモリ、例えばRAM、又は、不揮発性メモリ、及び、前記左耳補聴器又は前記右耳補聴器の、揮発性メモリ、例えばRAM、又は、不揮発性メモリ、のうちの少なくとも1つに格納されたHRTFテーブルにアクセスするステップを備えており、
前記HRTFテーブルは、0度から360度の複数の音入射角について、複数の周波数点における、例えば大きさ及び位相として表現される頭部伝達関数を保持している、請求項1から5の何れか一項の、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項7】
前記HRTFテーブルから前記左耳HRTF及び前記右耳HRTFを選択することによって、前記1人以上の所望の話者の各々についての前記左耳HRTF及び前記右耳HRTFを特定するステップであって、前記左耳HRTF及び前記右耳HRTFは、前記所望の話者への前記角度方向に最も密接にマッチングしている音入射角を表す、前記特定するステップ、又は、
前記HRTFテーブルにおいて、前記所望の話者への前記角度方向に対する一対の隣接する音入射角を特定するステップ、及び、
前記所望の話者の前記左耳HRTFを特定するために前記対応する左耳HRTF同士の間を補間し、前記所望の話者の前記右耳HRTFを特定するために前記対応する右耳HRTF同士の間を補間するステップ、をさらに備える、請求項6に記載の、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項8】
前記ユーザのポータブル端末は、
前記ユーザのポータブル端末のディスプレイのグラフィカルユーザインターフェース上に、前記ルーム内における複数の有効な話者を、前記複数の有効な話者の各々の固有の英数字テキスト及び/又は固有のグラフィカルシンボルによって示すように構成されている、請求項1から7の何れか一項の、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項9】
各所望の話者に関連付けられた前記固有の英数字テキスト又は前記固有のグラフィカルシンボルに作用することによって、前記ルーム内における前記複数の有効な話者から、前記1人以上の所望の話者を選択するステップをさらに備える、請求項8の、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項10】
前記補聴器ユーザのポータブル端末の前記グラフィカルユーザインターフェースは、
前記ルーム内における、前記複数の話者及び前記ユーザの空間的配置を描写する
ように構成されている、請求項8又は9の、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項11】
規則的な又は不規則な時間間隔で、例えば10秒に少なくとも1回、請求項1のステップa)~j)を繰り返すステップ、を備える、請求項1から10の何れか一項の、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項12】
水平面における、前記所望の話者のうちの少なくとも1人(A)への角度方向θは、以下の数式に従って計算され、
【数3】
式中、
、Yは、所定のルーム内座標系における前記水平面内のデカルト座標で前記ユーザの前記位置を表しており、
、Yは、前記所定のルーム内座標系における前記水平面内の前記デカルト座標で前記所望の話者の前記位置を表しており、
θは、前記水平面における前記ユーザの頭部の前記配向を表している、請求項1から11の何れか一項の、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法。
【請求項13】
ユーザの左耳又は右耳に又は耳内に配設するために構成されている左耳補聴器であって、第1のマイクロフォン配置、第1の信号プロセッサ、及び、マイクロフォン信号を第1のデータ通信チャネルを経由してワイヤレス送信及び受信するために構成された第1のデータ通信インターフェースを備えている、前記左耳補聴器と、
前記ユーザの右耳に又は耳内に配設するために構成されている右耳補聴器であって、第2のマイクロフォン配置、第2の信号プロセッサ、及び、前記マイクロフォン信号を前記第1のデータ通信チャネルを経由してワイヤレス送信及び受信するために構成された第2のデータ通信インターフェースを備えている、前記右耳補聴器と、
前記左耳補聴器及び前記右耳補聴器のうちの少なくとも1つに搭載されているとともに、所定の基準方向(θ)に対する前記ユーザの頭部の角度配向θを検出するように構成された、頭部トラッキングセンサと、
屋内測位センサ(IPS)が装備されているとともに、第2のデータ通信リンク又はチャネルを介して前記左耳補聴器及び前記右耳補聴器のうちの少なくとも1つにワイヤレス接続可能な、ユーザのポータブル端末と、を備え、
前記ユーザのポータブル端末のプロセッサは、
ルーム内部の前記ユーザの位置を、前記ユーザのポータブル端末の屋内位置センサにより提供される第1の屋内位置信号に基づいて、所定のルーム座標系を基準として特定することと、
1人以上の所望の話者の前記それぞれのポータブル端末から、それぞれの屋内位置信号を受信することであって、前記屋内位置信号の各々は、前記所定のルーム座標系を基準として、前記ルーム内部の前記関連付けられたポータブル端末の位置を示す、前記受信することと、
前記1人以上の所望の話者の前記関連付けられたポータブル端末の前記それぞれの位置、前記ユーザの前記位置(X,Y)、及び前記ユーザの頭部の前記角度配向(θ)に基づいて、前記ユーザに対する前記1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向を特定することと、
前記1人以上の所望の話者の前記それぞれの角度方向を、前記第2のデータ通信リンク又はチャネルを介して、前記左耳補聴器及び前記右耳補聴器に送信することと、を行うように構成されており、
前記左耳補聴器の前記第1の信号プロセッサは、
前記1人以上の所望の話者の前記それぞれの角度方向を受信することと、
前記左耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号及び前記右耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号に基づいて、1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号を生成することであって、前記1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号は、前記1人以上の所望の話者への前記それぞれの角度方向において最大感度を呈示する、対応する1つ以上の所望のモノラル音声信号を作り出すための前記生成することと、
前記1人以上の所望の話者のそれぞれの角度方向に基づいて、前記1人以上の所望の話者の各々についての左耳頭部伝達関数(HRTF)を特定することと、
前記1つ以上の所望のモノラル音声信号の各々を、その関連付けられた左耳HRTFを用いてフィルタリングすることであって、対応する1つ以上の空間化された所望の左耳音声信号を作り出すための前記フィルタリングすることと、
前記1つ以上の空間化された所望の左耳音声信号を結合し、第1の空間化されて結合された所望の音声信号を前記左耳補聴器の出力トランスデューサを介して前記ユーザの左鼓膜に印加することと、を行うように構成されており、
前記右耳補聴器の前記第2の信号プロセッサは、
前記1人以上の所望の話者への前記それぞれの角度方向を受信することと、
前記左耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号及び前記右耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号に基づいて、1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号を生成することであって、前記1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号は、前記1人以上の所望の話者への前記それぞれの角度方向において最大感度を呈示する、対応する1つ以上の所望のモノラル音声信号を作り出すための前記生成することと、
前記1人以上の所望の話者のそれぞれの角度方向に基づいて、前記1人以上の所望の話者の各々についての右耳頭部伝達関数(HRTF)を特定することと、
前記1つ以上の所望のモノラル音声信号の各々を、その関連付けられた右耳HRTFを用いてフィルタリングすることであって、対応する1つ以上の空間化された所望の右耳音声信号を前記右耳補聴器において作り出すための前記フィルタリングすることと、
前記1つ以上の空間化された所望の右耳音声信号を結合し、第2の空間化されて結合された所望の音声信号を、前記右耳補聴器の出力トランスデューサを介して前記ユーザの右鼓膜に印加することと、を行うように構成されている、バイノーラル補聴器システム。
【請求項14】
前記左耳HRTFは、前記左耳補聴器の前記第1のマイクロフォン配置の頭部伝達関数を、音響マネキン、例えばKEMAR又はHATSにおいて特定されたものとして表しており、
前記右耳HRTFは、前記右耳補聴器の前記第2のマイクロフォン配置の頭部伝達関数を、音響マネキン、例えばKEMAR又はHATSにおいて特定されたものとして表している、請求項13のバイノーラル補聴器システム。
【請求項15】
KEMARに装着された前記バイノーラル補聴器システムを用いて測定する場合、
前記左耳補聴器の前記1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号の前記各々の前記最大感度と最小感度との間の差は、1kHzにおいて10dBよりも大きく、
前記右耳補聴器の前記1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号の前記各々の前記最大感度と最小感度との間の差は、1kHzにおいて10dBよりも大きい、請求項13又は14のバイノーラル補聴器システム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本願は、受聴ルーム内における1人以上の所望の話者の音声を、屋内測位センサ及びシステムを使用して強調する、バイノーラル補聴器システム及び方法に関する。
【0002】
正常聴力の個々人は、いわゆるカクテルパーティー受聴状況、例えば、混雑したバー、喫茶店、食堂又はレストラン、或いは、コンサートホール又は同様の騒がしい受聴環境又は会場などの下において、音声明瞭性を達成するため、及び、状況認識を維持するために、所望の話者に選択的に注意を払うことができる。これとは対照的に、聴覚障害者にとって、騒がしい音環境において、1人の、又は場合によっては数人の、所望の、話者又は話し手の話を受聴することは、今もなお、日々の困難なタスクとなっている。
【0003】
結果的に、カクテルパーティー環境において所望の話者の話を聞き、理解することに纏わる問題は、聴覚障害者が1つ以上の聴力デバイスを装着しているときでさえも、聴覚障害者の主要な苦痛のうちの1つとなっている。既存のバイノーラル補聴器システムは、バイラテラルに又はバイノーラルにビームフォーミングされたマイクロフォン信号の、左耳及び右耳のマイクロフォン配置によって提供される1つ以上の元々のマイクロフォン信号に対する、信号対雑音比を改善するのに非常に効果的である。バイラテラルに又はバイノーラルにビームフォーミングされたマイクロフォン信号によりもたらされる信号対雑音比(SNR)の顕著な増大は、バイノーラルにビームフォーミングされたマイクロフォン信号の高い指向指数によって生じる。しかしながら、バイノーラルにビームフォーミングされたマイクロフォン信号のSNRの増大が概して望ましいとはいえ、バイノーラルにビームフォーミングされたマイクロフォン信号の指向性が高いときには、バイノーラルにビームフォーミングされたマイクロフォン信号の空間聴覚キュー、例えば、ILDやITDなどが歪むか、又は失われさえもするということが、今もなお、重大な問題となっている。ヒトの聴覚情報処理系(auditory processing system)は、これらの空間聴覚キューを使用して騒音下における受聴を改善しているため、聴覚障害者に対するバイノーラルにビームフォーミングされたマイクロフォン信号の実際の利点は、SNRの改善により示唆される利点よりも大幅に小さい可能性がある。
【0004】
米国特許出願公開第2019/174237号は、受聴環境においてユーザにより装着されるための左耳補聴器及び右耳補聴器を備える聴力システムを開示している。このシステムは、磁界送信機、BT送信機、FM又はWi-Fi送信機のような特定のルーム内「ビーコン」を場合によっては組み合わせた、補聴器システムの様々なセンサ、例えば、カメラやマイクロフォンアレイによって、受聴環境における所望の話者の位置を特定する。左耳補聴器及び右耳補聴器の各々は、所望の話者に向けて、複数のモノラルビームフォーミング信号を形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって、当該技術分野では、補聴器ユーザのために1人以上の所望の話者の音声を強調するバイノーラル補聴器システム及び方法であって、空間聴覚キューの保存性を改善しつつ、高い指向性を有するバイノーラルにビームフォーミングされたマイクロフォン信号を提供することのできる、バイノーラル補聴器システム及び方法に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の第1の態様は、バイノーラル補聴器システムのユーザのために、1人以上の所望の話者の音声を強調する方法であって、バイノーラル補聴器システムは、ユーザの左耳及び右耳に又は耳内に装着されており、ユーザ及び1人以上の所望の話者の各々は、屋内測位センサ(IPS)が装備されたポータブル端末を携行しており、
a) バイノーラル補聴器システムの左耳補聴器内に又は右耳補聴器内に搭載された頭部トラッキングセンサによって、所定の基準方向(θ)に対するユーザの頭部の配向(θ)を検出するステップと、
b) 受聴ルーム内におけるユーザの位置を、ユーザのポータブル端末によって提供される第1の屋内位置信号に基づいて、所定のルーム座標系を基準として特定するステップと、
c) 1人以上の所望の話者のポータブル端末から、それぞれの屋内位置信号を受信するステップであって、屋内位置信号の各々は、所定のルーム座標系を基準として、受聴ルーム内部の関連付けられたポータブル端末の位置を示す、受信するステップと、
d) 1人以上の所望の話者のそれぞれの位置、ユーザの位置(X,Y)、及びユーザの頭部の配向(θ)に基づいて、ユーザに対する1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向を特定するステップと、
e) 左耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号及び右耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号に基づいて、1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号を生成するステップであって、1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号は、1人以上の所望の話者のそれぞれの角度方向において最大感度を呈示する、対応する1つ以上の所望のモノラル音声信号を作り出すための生成するステップと、
f) 1人以上の所望の話者のそれぞれの角度方向に基づいて、1人以上の所望の話者の各々についての左耳頭部伝達関数(HRTF)及び右耳頭部伝達関数(HRTF)を特定するステップと、
g) 例えば、周波数領域乗算又は時間領域畳み込みによって、1つ以上の所望のモノラル音声信号の各々を、関連付けられた左耳HRTFを用いてフィルタリングするステップであって、対応する1つ以上の空間化された所望の左耳音声信号を作り出すためのフィルタリングするステップと、
h) 例えば、周波数領域乗算又は時間領域畳み込みによって、1つ以上の所望のモノラル音声信号の各々を、その関連付けられた右耳HRTFを用いてフィルタリングするステップであって、対応する1つ以上の空間化された所望の右耳音声信号を作り出すためのフィルタリングするステップと、
i) 1つ以上の空間化された所望の左耳音声信号を左耳補聴器において結合し、第1の空間化されて結合された所望の音声信号を左耳補聴器の出力トランスデューサを介してユーザの左鼓膜に印加するステップと、
j) 1つ以上の空間化された所望の右耳音声信号を右耳補聴器において結合し、第2の空間化されて結合された所望の音声信号を右耳補聴器の出力トランスデューサを介してユーザの右鼓膜に印加するステップと、を備える方法、に関する。
【0007】
補聴器ユーザ及び1人以上の所望の話者は、典型的には、受聴ルーム内におけるユーザと所望の話者との間の変動する相対的な位置及び配向を用いた動的なセッティングを形成することを、当業者は理解するであろう。したがって、上記のステップa)~j)は、ユーザの頭部の現在の配向(θ)と、ユーザに対する1人以上の所望の話者へのそれぞれの現在の角度方向と、を正確かつ確実に表すために、規則的な又は不規則な時間間隔で繰り返されてもよい。これらの方法ステップa)~j)は、規則的な又は不規則な時間間隔で、例えば、10秒に少なくとも1回、又は、少なくとも毎秒、又は、少なくとも100ms毎に、繰り返されてもよいことを、当業者は理解するであろう。
【0008】
1人以上の所望の話者のそれぞれのポータブル端末により生成された屋内位置信号の提供及び利用により、補聴器ユーザの視界(line of sight)が時折遮られるように所望の話者が受聴ルーム内を動き回るか又は高レベルの背景雑音が話者の声を損なわせる場合でさえも、受聴ルーム内部の所望の話者のそれぞれの位置を信頼可能に検出することが可能になる。
【0009】
第1及び第2の聴力機器又は補聴器の各々は、BTE、RIE、ITE、ITC、CIC、RICなどのタイプの補聴器を備えてもよく、これらに関連付けられた筐体は、ユーザの左耳及び右耳に又は耳内に配置される。
【0010】
頭部トラッキングセンサは、磁力計、ジャイロスコープ、及び加速度センサのうちの少なくとも1つを備えてもよい。添付の図面を参照して以下にさらに詳述するように、磁力計は、左耳補聴器及び/又は右耳補聴器の、磁北極又は別の所定の基準方向に対する現在の配向又は角度を示してもよく、それにより、補聴器がユーザの耳に又は耳内に適切に装着されるときのユーザの頭部の、磁北極又は別の所定の基準方向に対する現在の配向又は角度を示してもよい。ユーザの頭部の現在の配向又は角度は、好ましくは、水平面において表される。添付の図面を参照して以下にさらに詳述するように、頭部トラッキングセンサは、ユーザの頭部の配向又は角度の特定における精度及び/又は速度を改善するために、磁力計に加え、ジャイロスコープ及び/又は加速度センサといった他のタイプのセンサを備えてもよい。
【0011】
ポータブル端末の各々は、スマートフォン、モバイルフォン、セルラー式電話、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、又は、異なるタイプのワイヤレス接続及びディスプレイを有する同様のタイプのポータブル外部制御デバイスを含んでもよいし、又は、これらのデバイスとして実装されてもよい。
【0012】
1人以上の所望の話者の音声を強調する本方法のいくつかの実施形態において、1人以上の所望の話者のポータブル端末からのそれぞれの屋内位置信号の受信は、補聴器ユーザのポータブル端末によって、それぞれのワイヤレスデータ通信リンクを介して、又は、共有ワイヤレスネットワークを介して実施される。ユーザのポータブル端末及び1人以上の所望の話者のポータブル端末の各々は、データ、例えば、それぞれの屋内位置信号を交換するために、全てのポータブル端末間のワイヤレス接続を可能にするWi-Fiインターフェースを備えてもよい。上記のステップd)に従った、補聴器ユーザに対する1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向の特定は、ユーザのポータブル端末のプロセッサ、例えば、ユーザのポータブル端末のマイクロプロセッサ及び/又はデジタル信号プロセッサによって実施されてもよいし、左耳補聴器及び/又は右耳補聴器のプロセッサ、例えば、左耳補聴器及び/又は右耳補聴器のマイクロプロセッサ及び/又は信号プロセッサ、例えばデジタル信号プロセッサによって実施されてもよい。1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向の特定が、ユーザのポータブル端末のプロセッサにより実施される場合、ユーザの頭部の配向(θ)は、好ましくは、好適なワイヤレス接続又はリンクを介して、左耳補聴器又は右耳補聴器の頭部トラッキングセンサからユーザのポータブル端末に送信されなければならない。
【0013】
それ故に、本方法論の一実施形態は、
頭部トラッキングセンサから導出される、ユーザの頭部の配向(θ)を示す頭部トラッキングデータを、左耳補聴器又は右耳補聴器から補聴器ユーザのポータブル端末に、ワイヤレスデータ通信リンクを介して送信するステップと、
1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向を、ユーザのポータブル端末のプロセッサによって特定するステップと、
1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向を示す話者角度データを、ユーザのポータブル端末から左耳補聴器及び/又は右耳補聴器に、ワイヤレスデータ通信リンクを介して送信するステップと、をさらに備える。
【0014】
1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向の特定が、補聴器のプロセッサ、例えば、補聴器の信号プロセッサにより実施される、本方法論の代替的な一実施形態は、対照的に、
ユーザのポータブル端末において、1人以上の所望の話者のポータブル端末から、それぞれの屋内位置信号を受信するステップと、
それぞれの屋内位置信号を、ユーザのポータブル端末から、左耳補聴器及び右耳補聴器のうちの少なくとも1つに、ワイヤレスデータ通信リンクを介して送信するステップと、
左耳補聴器の信号プロセッサ及び/又は右耳補聴器の信号プロセッサによって、1人以上の所望の話者へのそれぞれの方向を計算するステップと、を備える。
【0015】
1人以上の所望の話者の各々に関連付けられた左耳HRTF及び右耳HRTFの特定は、
ユーザのポータブル端末の、揮発性メモリ、例えばRAM、又は、不揮発性メモリ、及び、左耳補聴器又は右耳補聴器の、揮発性メモリ、例えばRAM、又は、不揮発性メモリ、のうちの少なくとも1つに格納されたHRTFテーブルにアクセスするステップを備えてもよく、
HRTFテーブルは、0度から360度の複数の音入射角について、複数の周波数点における、例えば大きさ及び位相として表現される頭部伝達関数を保持している。
【0016】
1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向の特定が、ユーザのポータブル端末のプロセッサにより実施される場合、HRTFテーブルは、ユーザのポータブル端末の揮発性メモリ又は不揮発性メモリに格納されてもよく、ポータブル端末のプロセッサによりアクセスされてもよいことを、当業者は認識するであろう。1人以上の所望の話者の角度位置又は1人以上の所望の話者への角度方向の各々についての適切な左耳HRTF及び右耳HRTFデータセットは、ポータブル端末のプロセッサにより読み出されてもよい。取得されたHRTFデータセットは、左耳補聴器及び/又は右耳補聴器に、それぞれのワイヤレスデータ通信リンクを介して送信されてもよい。左耳補聴器の信号プロセッサは、上記のステップg)に従い、関連付けられた左耳HRTFを用いて1つ以上の所望のモノラル音声信号のフィルタリングを実施してもよく、右耳補聴器の信号プロセッサは、上記のステップh)に従い、関連付けられた右耳HRTFを用いて1つ以上の所望のモノラル音声信号のフィルタリングを、対応するやり方で実施してもよい。この実施形態は、左耳補聴器及び右耳補聴器におけるメモリリソース消費を低減し得る。
【0017】
本方法論の代替的な一実施形態によると、HRTFテーブルは、左耳補聴器又は右耳補聴器の揮発性メモリ又は不揮発性メモリに格納されており、これらの補聴器の信号プロセッサによりアクセスされる。左耳補聴器の信号プロセッサは、上記のステップg)に従い、関連付けられた左耳HRTFを用いて1つ以上の所望のモノラル音声信号のフィルタリングを実施してもよく、右耳補聴器の信号プロセッサは、上記のステップg)に従い、関連付けられた右耳HRTFを用いて1つ以上の所望のモノラル音声信号のフィルタリングを、対応するやり方で実施してもよい。この実施形態では、1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向の特定は、なおもユーザのポータブル端末のプロセッサにより実施されてもよいし、又は代替的には、左耳補聴器又は右耳補聴器の信号プロセッサにより実施されてもよいことを、当業者は認識するであろう。
【0018】
左耳HRTF及び右耳HRTFの特定は、HRTFテーブルがユーザのポータブル端末のメモリに格納されているか、それとも左耳補聴器又は右耳補聴器のメモリに格納されているか、に関わらず、特定の所望の話者の特定の角度位置について異なる方式で実施されてもよい。左耳HRTF及び右耳HRTFを特定する2つの異なる方式は、
HRTFテーブルから左耳HRTF及び右耳HRTFを選択することによって、1人以上の所望の話者の各々についての左耳HRTF及び右耳HRTFを特定するステップであって、左耳HRTF及び右耳HRTFは、所望の話者への角度方向に最も密接にマッチングしている音入射角を表す、特定するステップ、を備えてもよい。
【0019】
代替的には、特定することは、
HRTFテーブルにおいて、所望の話者への角度方向に対する一対の隣接する音入射角を特定するステップ、及び、
所望の話者の左耳HRTFを特定するために対応する左耳HRTF同士の間を補間し、所望の話者の右耳HRTFを特定するために対応する右耳HRTF同士の間を補間するステップ、によって実施されてもよい。対応する左耳HRTF同士は、一対の隣接する音入射角により表されるものであり、対応する右耳HRTF同士は、一対の隣接する音入射角により表されるものである。
【0020】
補聴器ユーザのポータブル端末は、ユーザのポータブル端末のディスプレイのグラフィカルユーザインターフェースを介して、特定の受聴ルーム又は環境において有効な(available)話者であって、好適に構成されたポータブル端末を装備した複数の話者の概要を、ユーザが得られるように支援するように構成されてもよい。グラフィカルユーザインターフェースは、好ましくはアプリによって提供されており、アプリは、ユーザのポータブル端末にインストールされるとともに、ポータブル端末により実行される。このような一実施形態によると、ユーザのポータブル端末は、
ユーザのポータブル端末のディスプレイのグラフィカルユーザインターフェース上に、ルーム内における複数の有効な話者を、複数の有効な話者の各々の固有の英数字テキスト及び/又は固有のグラフィカルシンボルによって示すように構成されている。
【0021】
ユーザは、それに応じて、各所望の話者に関連付けられた固有の英数字テキスト又は固有のグラフィカルシンボルに作用すること、例えばフィンガータッピングすることによって、ルーム内における複数の有効な話者から1人以上の所望の話者を選択してもよい。この、1人以上の所望の話者の選択は、ポータブル端末のタッチ感応式ディスプレイを提供することによって達成されてもよい。添付の図面を参照して以下にさらに詳述するように、本方法論は、補聴器ユーザのポータブル端末のグラフィカルユーザインターフェースが受聴ルーム内における複数の話者及びユーザの空間的配置を描写するように構成されることにより、複数の有効な話者について、ユーザに対してさらなる支援を提供してもよい。
【0022】
水平面における、所望の話者のうちの少なくとも1人(A)への角度方向θは、以下の式に従って計算されてもよい。
【0023】
【数1】
【0024】
式中、
、Yは、所定のルーム内座標系における水平面内のデカルト座標でユーザの位置を表しており、
、Yは、所定のルーム内座標系における水平面内のデカルト座標で所望の話者の位置を表しており、
θは、水平面におけるユーザの頭部の配向を表している。
【0025】
水平面における、他の所望の話者へのそれぞれの角度方向は、対応するやり方で実施されてもよい。
【0026】
本願の第2の態様は、
ユーザの左耳又は右耳に又は耳内に配設するために構成されている左耳補聴器であって、第1のマイクロフォン配置、第1の信号プロセッサ、及び、マイクロフォン信号を第1のデータ通信チャネルを経由してワイヤレス送信及び受信するために構成された第1のデータ通信インターフェースを備えている、左耳補聴器と、
ユーザの右耳に又は耳内に配設するために構成されている右耳補聴器であって、第2のマイクロフォン配置、第2の信号プロセッサ、及び、マイクロフォン信号を第1のデータ通信チャネルを経由してワイヤレス送信及び受信するために構成された第2のデータ通信インターフェースを備えている、右耳補聴器と、を備えるバイノーラル補聴器システムに関する。
このバイノーラル補聴器システムは、左耳補聴器及び右耳補聴器のうちの少なくとも1つに搭載されているとともに、所定の基準方向(θ)に対するユーザの頭部の角度配向θを検出するように構成された、頭部トラッキングセンサと、屋内測位センサ(IPS)が装備されているとともに、第2のデータ通信リンク又はチャネルを介して左耳補聴器及び右耳補聴器のうちの少なくとも1つにワイヤレス接続可能な、ユーザのポータブル端末と、をさらに備える。
ユーザのポータブル端末のプロセッサ、例えばプログラム可能なマイクロプロセッサ又はDSPは、
ルーム内部のユーザの位置を、ユーザのポータブル端末の屋内位置センサにより提供される第1の屋内位置信号に基づいて、所定のルーム座標系を基準として特定することと、
1人以上の所望の話者のそれぞれのポータブル端末から、それぞれの屋内位置信号を受信することであって、屋内位置信号の各々は、所定のルーム座標系を基準として、ルーム内部の関連付けられたポータブル端末の位置を示す、受信することと、
1人以上の所望の話者の関連付けられたポータブル端末のそれぞれの位置、ユーザの位置(X,Y)、及びユーザの頭部の角度配向(θ)に基づいて、ユーザに対する1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向を特定することと、
1人以上の所望の話者のそれぞれの角度方向を、第2のデータ通信リンク又はチャネルを介して、左耳補聴器及び右耳補聴器に送信することと、を行うように構成されている。
左耳補聴器の第1の信号プロセッサは、好ましくは、
1人以上の所望の話者のそれぞれの角度方向を受信することと、
左耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号及び右耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号に基づいて、1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号を生成することであって、1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号は、1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向において最大感度を呈示する、対応する1つ以上の所望のモノラル音声信号を作り出すための生成することと、
1人以上の所望の話者のそれぞれの角度方向に基づいて、1人以上の所望の話者の各々についての左耳頭部伝達関数(HRTF)を特定することと、
1つ以上の所望のモノラル音声信号の各々を、その関連付けられた左耳HRTFを用いてフィルタリングすることであって、対応する1つ以上の空間化された所望の左耳音声信号を作り出すためのフィルタリングすることと、
1つ以上の空間化された所望の左耳音声信号を結合し、第1の空間化されて結合された所望の音声信号を左耳補聴器の出力トランスデューサを介してユーザの左鼓膜に印加することと、を行うように構成されている。
右耳補聴器の第2の信号プロセッサは、
1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向を受信することと、
左耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号及び右耳補聴器の少なくとも1つのマイクロフォン信号に基づいて、1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号を生成することであって、1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号は、1人以上の所望の話者へのそれぞれの角度方向において最大感度を呈示する、対応する1つ以上の所望のモノラル音声信号を作り出すための生成することと、
1人以上の所望の話者のそれぞれの角度方向に基づいて、1人以上の所望の話者の各々についての右耳頭部伝達関数(HRTF)を特定することと、
1つ以上の所望のモノラル音声信号の各々を、その関連付けられた右耳HRTFを用いてフィルタリングすることであって、対応する1つ以上の空間化された所望の右耳音声信号を右耳補聴器において作り出すためのフィルタリングすることと、
1つ以上の空間化された所望の右耳音声信号を結合し、第2の空間化されて結合された所望の音声信号を、右耳補聴器の出力トランスデューサを介してユーザの右鼓膜に印加することと、を行うように構成されている。
【0027】
HRTFテーブルの左耳HRTF及び右耳HRTFは、好ましくは、KEMAR又はHATSといった音響マネキンにおいて特定された頭部伝達関数を表している。いくつかの実施形態において、HRTFテーブルの左耳HRTF及び右耳HRTFは、ユーザ又は音響マネキンのいずれかにおいて特定されたものとして、左耳補聴器の第1のマイクロフォン配置及び右耳補聴器の第2のマイクロフォン配置の頭部伝達関数を表してもよい。
【0028】
第1のワイヤレスデータ通信チャネル又はリンク、及び、その関連付けられたワイヤレスインターフェースであって、右耳補聴器及び左耳補聴器におけるワイヤレスインターフェースは、磁気コイルアンテナを備えてもよく、近距離磁気結合、例えば10MHzから20MHzの間の周波数範囲で動作し得るNMFIに基づいてもよい。ワイヤレスデータ通信チャネルは、右耳補聴器と左耳補聴器との間において、マイクロフォン信号に加え、様々なタイプの制御データ、信号処理パラメータなどを搬送するように構成されてもよい。それ故に、右耳補聴器及び左耳補聴器の計算負荷を分散させ、右耳補聴器及び左耳補聴器のステータスを連係させる。
【0029】
ユーザのポータブル端末を左耳補聴器及び右耳補聴器の少なくとも1つにワイヤレス接続する第2のデータ通信リンクは、ユーザのポータブル端末におけるワイヤレス送受信機と、それと互換性のあるワイヤレス送受信機であって、左耳補聴器及び右耳補聴器におけるワイヤレス送受信機と、を備えてもよい。ワイヤレス送受信機は、2.4GHzの産業科学医療用(ISM)バンドで動作するように構成されている無線送受信機であってもよく、Bluetooth(登録商標) LE規格に準拠していてもよい。
【0030】
ユーザのポータブル端末のプロセッサにより処理される様々なオーディオ信号、及び、左耳補聴器及び右耳補聴器のプロセッサにより処理されるオーディオ信号は、好ましくは、32kHz、48kHz、96kHzなどといった特定のサンプリングレート又は周波数においてデジタル符号化されたフォーマットで表される。
【0031】
第1のバイラテラルビームフォーミング信号を形成するために、当該技術分野において周知の様々な固定ビームフォーミングアルゴリズム又は適応ビームフォーミングアルゴリズム、例えば、遅延和(delay-and-sum)ビームフォーミングアルゴリズム又はフィルタアンドサム(filter-and-sum)ビームフォーミングアルゴリズムなどが適用され得ることを、当業者は理解するであろう。1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号の生成は、KEMARに装着されたバイノーラル補聴器システムを用いて測定する場合、左耳補聴器の1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号の各々の最大感度と最小感度との間に、1kHzにおいて10dBよりも大きな差をもたらすように構成されてもよい。同様に、1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号は、KEMARに装着されたバイノーラル補聴器システムを用いて測定する場合、右耳補聴器の1つ以上のバイラテラルビームフォーミング信号の各々の最大感度と最小感度との間に、1kHzにおいて10dBよりも大きな差をもたらすように構成されてもよい。
【0032】
ユーザのポータブル端末のプロセッサは、ソフトウェアでプログラム可能なマイクロプロセッサ、例えば、デジタル信号プロセッサ、又は専用のデジタル論理回路構成、又はそれらの任意の組み合わせを備えてもよい。左耳補聴器及び右耳のプロセッサの各々は、ソフトウェアでプログラム可能なマイクロプロセッサ、例えば、デジタル信号プロセッサ、又は専用のデジタル論理回路構成、又はそれらの任意の組み合わせを備えてもよい。本明細書で使用するような「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」などの用語は、ハードウェア、ハードウェア及びソフトウェアの組み合わせ、ソフトウェア、又は実行中のソフトウェアのいずれにせよ、マイクロプロセッサ又はCPUに関連するエンティティを指すことが意図される。例えば、「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」などは、プロセッサで稼働しているプロセス、プロセッサ、オブジェクト、実行可能なファイル、実行のスレッド、及び/又はプログラムであってもよいが、これらであることに限定されない。例示として、「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」などの用語は、プロセッサで稼働しているアプリケーション及びハードウェアプロセッサの両方を指し示す。1つ以上の「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、及び「システム」など、又はそれらの任意の組み合わせは、プロセス及び/又は実行のスレッド内に存在していてもよく、1つ以上の「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「コントローラ」、「システム」など、又はそれらの任意の組み合わせは、1つのハードウェアプロセッサにおいて、場合によっては他のハードウェア回路構成と組み合わせて、局在化されてもよく、及び/又は、2つ以上のハードウェアプロセッサ間で、場合によっては他のハードウェア回路構成と組み合わせて、分散されてもよい。また、プロセッサ(又は同様の用語)は、信号処理を実施することのできる、任意のコンポーネント又はコンポーネントの任意の組み合わせであってもよい。例えば、信号プロセッサは、ASICプロセッサ、FPGAプロセッサ、汎用プロセッサ、マイクロプロセッサ、回路コンポーネント、又は集積回路であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0033】
以下では、添付の図面を参照して、本願の好ましい実施形態についてより詳細に説明する。
【0034】
図1】本願の例示的な実施形態に従った、第1の双方向ワイヤレスデータ通信リンクを介して接続された左耳補聴器及び右耳補聴器と、左耳補聴器及び右耳補聴器に第2の双方向ワイヤレスデータ通信リンクを介して接続されたポータブル端末と、を備える、バイノーラル又はバイラテラル補聴器システムを概略的に示す図である。
図2】本願の第1の実施形態に従った、バイノーラル又はバイラテラル補聴器システムの概略ブロック図である。
図3】本願の第2の実施形態に従った、バイノーラル又はバイラテラル補聴器システムの概略ブロック図である。
図4】受聴ルーム内における、補聴器ユーザの頭部の配向と、それぞれの位置における複数の所望の話者へのそれぞれの角度方向と、が本願の例示的な実施形態に従ってどのように特定されるかを概略的に示す図である。
図5】本願の例示的な実施形態に従った、バイノーラル又はバイラテラル補聴器システムと、補聴器ユーザのポータブル端末のディスプレイ上のグラフィカルユーザインターフェースと、の使用状況を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下においては、添付の図面を参照して、本バイノーラル補聴器システムの様々な例示的な実施形態について説明する。添付の図面は、概略的なものであって、明確性のために簡略化されており、したがって、本発明の理解に不可欠な詳細を単に示しているに過ぎず、他の詳細は除外されていることを、当業者は理解するであろう。同じ参照番号は、全体を通して同じ要素を指す。したがって、同じ要素は、各図に関して必ずしも詳細に説明されている訳ではない。
【0036】
図1は、左耳補聴器10L及び右耳補聴器10Rを備えるバイノーラル又はバイラテラル補聴器システム50を概略的に図示しており、左耳補聴器10L及び右耳補聴器10Rの各々は、第1のワイヤレス通信チャネル12を経由して他方の聴力機器に接続するためのワイヤレス通信インターフェース34L、34Rを備えている。バイノーラル又はバイラテラル補聴器システム50は、バイノーラル又はバイラテラル補聴器システム50のユーザのポータブル端末5、例えば、スマートフォン、モバイルフォン、パーソナルデジタルアシスタントなどをさらに備えている。システム50の本実施形態において、左耳補聴器10L及び右耳補聴器10Rは、リアルタイムストリーミング及びデジタル化マイクロフォン信号や他のデジタルオーディオ信号の交換をサポートする双方向ワイヤレスデータ通信チャネル又はリンク12を介して互いに接続されている。左耳補聴器10L及び右耳補聴器10Rの各々には、固有のIDが関連付けられてもよい。バイノーラル補聴器システム50の、図示されるワイヤレス通信インターフェース34L、34Rの各々は、磁気コイルアンテナ44L、44Rを備えてもよく、近距離磁気結合、例えば、10MHzから20MHzの間の周波数範囲で動作するNMFIに基づいてもよい。ユーザのスマートフォン5と左耳補聴器10Lとの間の第2のワイヤレスデータ通信チャネル又はリンク15は、2.4GHzの産業科学医療用(ISM)バンドで動作するように構成されてもよく、Bluetooth LE規格、例えば、Bluetoothコア仕様4.0(Bluetooth Core Specification 4.0)以上のものに準拠してもよい。左耳補聴器10Lは、別個のBluetoothアンテナ36に結合されたBluetoothインターフェース回路35を備えている。右耳補聴器10Rは、右耳補聴器10Rがユーザのスマートフォン5と直接的に通信することを可能にする、対応するBluetoothインターフェース回路及びBluetoothアンテナ(図示せず)を備えてもよいことを、当業者は認識するであろう。
【0037】
したがって、左補聴器10Lと右補聴器10Rは、本バイノーラル補聴器システムのいくつかの実施形態におけるハードウェアコンポーネント及び/又は信号処理アルゴリズム及び信号処理機能の観点では、上記の固有の補聴器IDを除いて実質的に同一であってもよく、それにより、左補聴器10Lの特徴、コンポーネント、及び信号処理機能についての以下の説明は、特段述べられない限り、右補聴器10Rにも当てはまる。
【0038】
左補聴器10Lは、補聴器回路14Lに電力を供給するように構成された、ZnOバッテリ(図示せず)又は充電式バッテリを備えてもよい。左補聴器10Lは、以下にさらに詳述するように、好ましくは第1及び第2の全指向性マイクロフォンを少なくとも備えた、マイクロフォン配置16Lを備えている。左耳補聴器10Lの、図示されるコンポーネントは、1つ又はいくつかの補聴器筐体部分、例えば、BTE、RIE、ITE、ITC、CIC、RICなどのタイプの補聴器筐体部分の内部に配置されてもよく、同じことが右耳補聴器10Rにも当てはまる。
【0039】
左補聴器10Lは、プロセッサ、例えば、聴力損失プロセッサ(図示せず)を含み得る信号プロセッサ24Lをさらに備えている。信号プロセッサ24Lは、以下にさらに詳述するように、左補聴器のマイクロフォン信号に対し、及び、対側のマイクロフォン信号に対し、モノラルビームフォーミング及びバイラテラルビームフォーミングを実施するようにも構成されている。聴力損失プロセッサは、ユーザの左耳の聴力損失を補償するように構成されている。好ましくは、聴力損失プロセッサ24Lは、当該技術分野においてしばしば補充現象(recruitment)と呼ばれるユーザのダイナミックレンジの周波数依存性損失を補償するための、周知のダイナミックレンジコンプレッサ回路又はアルゴリズムを備えている。よって、信号プロセッサ24Lは、好ましくは、聴力損失補償信号を生成してラウドスピーカ又はレシーバ32Lに出力する。
【0040】
信号プロセッサ24L、24Rの各々は、ソフトウェアでプログラム可能なマイクロプロセッサ、例えば、デジタル信号プロセッサ(DSP)を備えてもよいことを、当業者は理解するであろう。左耳補聴器10L及び右耳補聴器10Rの各々の動作は、ソフトウェアでプログラム可能なマイクロプロセッサにおいて実行される好適なオペレーティングシステムによって、制御されてもよい。オペレーティングシステムは、補聴器のハードウェア及びソフトウェアリソース又はプログラムルーチンを管理するように構成されてもよい。補聴器のハードウェア及びソフトウェアリソース又はプログラムルーチンは、例えば、バイラテラルビームフォーミング信号を計算し、第1及び第3のモノラルビームフォーミング信号を計算するように構成されたアルゴリズムといった様々な信号アルゴリズムの実行、聴力損失補償、及び、場合によっては他のプロセッサ及び関連付けられた信号処理アルゴリズム、ワイヤレスデータ通信インターフェース34L、いくつかのメモリリソースなどの計算を含んでいる。オペレーティングシステムは、補聴器リソースを効率的に使用するためのタスクのスケジューリングを行ってもよく、電力消費、プロセッサ時間、メモリロケーション、ワイヤレス送信、及び他のリソースを含む、コスト配分のためのアカウンティングソフトウェアをさらに含んでもよい。オペレーティングシステムは、ワイヤレスデータ通信インターフェース34L及び通信チャネル12を経由して、第1のモノラルビームフォーミング信号が右耳補聴器10Rに送信され、第2のモノラルビームフォーミング信号が右耳補聴器から受信されるように、ワイヤレスデータ通信インターフェース34Lの動作を制御してもよい。
【0041】
左耳補聴器10Lは、頭部トラッキングセンサ17をさらに備えており、頭部トラッキングセンサ17は、以下にさらに詳述するように、好ましくは、ユーザの耳に適切に装着されたときの、左耳補聴器10Lの、及び、補聴器ユーザの頭部の、磁北極又は別の所定の基準方向θに対する現在の角度配向θを示す磁力計を備えている。ユーザの頭部の現在の配向又は角度θは、好ましくは、水平面において測定された角度を表す。現在の配向θは、デジタル符号化されてもよく、又は、デジタルに表されてもよく、例えば信号プロセッサ24Lの好適な入力ポートを介して、信号プロセッサ24Lに送信されてもよく、又は、信号プロセッサ24Lにより読み取られてもよい。頭部トラッキングセンサ17は、磁力計に加え、他のタイプのセンサ、例えば、MEMSデバイスを備え得るジャイロスコープ及び/又は加速度センサをさらに備えてもよい。磁力計はユーザの頭部の配向の変化に対して比較的ゆっくりと反応し得るため、これらのさらなるセンサは、その角度配向θの特定において、頭部トラッキングセンサ15の精度又は速度を改善し得る。これらの迅速な変化は、ジャイロスコープ及び/又は加速度センサによって補償されてもよく、ジャイロスコープ及び/又は加速度センサは、磁力計と共に較正されてもよい。ユーザのスマートフォン5は、第1の屋内測位センサ(IPS1)とディスプレイを備えており、ディスプレイは、例えば、英数字シンボル、テキスト、グラフィカルシンボル、ピクチャなどをユーザに視覚的にレンダリングするために適切な解像度を有する、LED又はOLEDディスプレイである。ユーザのスマートフォン5のプロセッサ、例えば、専用グラフィックエンジン(図示せず)は、ディスプレイ6上の英数字シンボル、テキスト、及びグラフィカルシンボルの内容及びレイアウトを制御して、フレキシブルなグラフィカルユーザインターフェースを作成する。
【0042】
第1の屋内測位センサ(IPS1)は、例えばデジタルデータとして、第1の屋内位置信号を生成するように構成されており、この第1の屋内位置信号は、ユーザのスマートフォン5のプログラム可能なマイクロプロセッサ又はDSP(図示せず)に入力される。第1の屋内位置信号は、プログラム可能なマイクロプロセッサ又はDSPが、スマートフォン5及びそのユーザが位置している特定のルーム(図示せず)内部におけるユーザのスマートフォン5の例えばリアルタイムの現在の位置を、所定のルーム座標系を基準として直接的に又は間接的に特定することを、可能にする。プログラム可能なマイクロプロセッサ又はDSPは、特定の定位アルゴリズム、定位プログラム、又は定位ルーチンを実行し、屋内位置信号をルーム内部のスマートフォン5の現在の位置に変換してもよいことを、当業者は認識するであろう。様々なタイプのルーム座標系が利用されてよいことを、当業者は認識するであろう。一実施形態において、ルーム座標系は、図3を参照して以下にさらに詳述するように、ユーザ及び所望の話者について、水平面におけるデカルト座標(x,y)を使用する。第1の屋内測位センサ(IPS1)は、複数の位置送信機(図示せず)を受信し、複数の位置送信機に対して応答するように構成されており、それにより、屋内測位センサIPS1と複数の位置送信機を組み合わせたシステムは、ユーザのスマートフォンの現在の位置を、2メートル又は1メートルよりも優れた精度で、或いは、好ましくは0.5mよりも優れた精度で、規定してもよい。
【0043】
屋内測位センサIPS1及び複数の位置送信機は、屋内位置の特定及びトラッキングのための多数の周知のメカニズム、例えば、RF(無線周波数)技術、超音波、赤外線、視覚ベースのシステム、及び磁界のうちの、いずれか一つを利用してもよい。RF信号ベースのシステムはWLANを備えてもよく、WLANは、例えば、2.4GHzバンド及び5GHzバンド、Bluetooth(2.4GHzバンド)、ウルトラワイドバンド及びRFIDの技術において動作する。第1の屋内測位センサ(IPS1)は、三角測量、三辺測量、双曲線定位、及びデータマッチングなどといった様々なタイプの定位スキームを利用してもよい。WLANネットワークベースの一実施形態において、ユーザのスマートフォンは、複数のWi-FiホットスポットからのそれぞれのRF信号強度を検出することにより、その位置を特定してもよい。
【0044】
図2は、上述したバイノーラル又はバイラテラル補聴器システム50の例示的な一実施形態の概略ブロック図であり、左耳補聴器10L及び右耳補聴器10Rは、補聴器ユーザ1の左耳及び右耳に装着されている。補聴器10Lのマイクロフォン配置16Lは、到来する音又は衝突する音に応じて第1及び第2のマイクロフォン信号を生成する第1及び第2の全指向性マイクロフォン101a、101bを備えてもよい。第1及び第2の全指向性マイクロフォン101a、101bのそれぞれの音入口又は音ポート(図示せず)は、好ましくは、補聴器10Lの筐体部分のうちの1つにおいて、特定の間隔を空けて配置されている。音入口又は音ポート間の間隔は、筐体部分の寸法及びタイプに依存するが、5mmから30mmの間であってもよい。補聴器10Rのマイクロフォン配置16Rは、右耳補聴器10Rの筐体部分内に同様に搭載されるとともにマイクロフォン配置16Lと同様のやり方で動作する、同様の一対の第1及び第2の全指向性マイクロフォン101c、101cを備えてもよい。ユーザのスマートフォン5は、統合された第1の屋内測位センサ(IPS1)によって概略的に表されている。バイノーラル補聴器システム50は、図3において概略的に図示される3人の所望の話者又は話し手(A、B、C)により携行される3つのさらなるスマートフォン(図示せず)のそれぞれの内部に搭載された、第2の屋内測位センサIPS A(60)、第3の屋内測位センサIPS B(70)、及び第4の屋内測位センサIPS C(80)にさらにワイヤレス接続されている。
【0045】
図2の概略ブロック図は、本実施形態における、前述した信号プロセッサ24Lの機能性を図示しており、左耳補聴器内の信号プロセッサ24Lにおいて実行される信号処理アルゴリズム又は信号処理機能は、処理ブロック、例えば、音源角度推定器210、バイラテラルビームフォーマ212、HRTFテーブル213、空間化関数214、及び信号加算器又は信号結合器215により、概略的に図示されている。
【0046】
信号プロセッサ24Lの音源角度推定器210は、ユーザのスマートフォン5における第1の屋内測位センサ(IPS1)により生成された第1の屋内位置信号を受信するように構成されている。ユーザのスマートフォン5は、第1の屋内位置信号を、前述したBluetooth LE対応ワイヤレスリンク15を通じて、音源角度推定器210にワイヤレス送信するように構成されている。音源角度推定器210はさらに、3人の所望の話者又は話し手(A、B、C)のスマートフォン60、70、80によってBluetoothワイヤレスデータリンク又はチャネルを通じて送信されたそれぞれの屋内位置信号を、前述した左耳補聴器のBluetoothインターフェース回路35を介して、受信するように構成されている。これらの屋内位置信号は、受聴ルーム内部における関連付けられた所望の話者のスマートフォンの現在の位置を、所定のルーム座標系を基準として示す。このルーム座標系は、以下にさらに詳述するように、ルームの水平面におけるデカルト座標に依拠してもよい。音源角度推定器210はさらに、所定の基準配向又は角度θに対する、ユーザの頭部1の現在の角度配向θ又はユーザの頭部1の現在の向きを示す頭部配向信号を、頭部トラッキングセンサ15から受信するように構成されている。この点、図3を参照されたい。
【0047】
代替的な一実施形態において、ユーザのスマートフォン5は、自らの屋内位置信号と、3人の所望の話者又は話し手(A、B、C)のスマートフォン60、70、80により生成されたそれぞれの屋内位置信号と、の両方を送信するように構成されている。その実施形態において、所望の話者(A、B、C)のそれぞれのスマートフォン60、70、80は、それぞれのBluetoothワイヤレス通信リンク又はチャネルを通じてユーザのスマートフォン5にワイヤレス接続されているか、又は、所望の話者(A、B、C)のスマートフォン60、70、80及びユーザのスマートフォン5のそれぞれのWi-Fiインターフェースによって確立される共有Wi-Fiネットワークを経由してワイヤレス接続されている。所望の話者(A、B、C)のスマートフォン60、70、80は、それぞれの屋内位置信号を、ユーザのスマートフォン5に送信する。この実施形態では、左耳補聴器10Lは、所望の話者(A、B、C)のスマートフォン60、70、80への複数個のワイヤレスリンクを確立して運用する代わりに、ユーザのスマートフォン5への単一のワイヤレス通信リンク15、例えば、Bluetooth LE対応リンク又はチャネルを確立して運用するだけでよい。換言すると、ユーザのスマートフォン5は、所望の話者(A、B、C)のスマートフォン60、70、80のそれぞれの位置信号についての中継デバイスとして構成されている。
【0048】
音源角度推定器210は、ユーザのスマートフォン5及び所望の話者(A、B、C)のスマートフォン60、70、80の上述の屋内位置信号と、所定の基準角度θに対するユーザの頭部1の現在の角度配向θ又はユーザの頭部1の現在の向きを示す頭部配向信号と、に基づいて、ユーザの頭部の現在の配向に対する所望の話者(A、B、C)へのそれぞれの話者角度又は話者角度方向θ、θ、θを計算するように構成されている。図3には、所定の基準配向又は基準角度θに対する所望の話者(A、B、C)へのそれぞれの角度方向θ、θ、θが概略的に図示されている。図3には、所定の基準配向又は基準角度θに対するユーザの頭部の現在の配向又は現在の角度θもまた、概略的に図示されている。聴力機器ユーザ及び所望の話者(A、B、C)は、複数個の壁、天井、及び床により画定された受聴ルーム300内部に位置している。受聴ルームは、バー、喫茶店、食堂、オフィス、レストラン、教室、コンサートホール、又は、任意の同様のルーム又は会場などであってもよい。話者へのそれぞれの角度方向θ、θ、θと、θは、好ましくは、受聴ルームの水平面において測定され、即ち、床に平行に測定される。図3に概略的に図示されるように、ユーザの位置又はデカルト座標(X,Y)、及び、所望の話者(A、B、C)のそれぞれの位置又はデカルト座標(X,Y)、(X,Y)、(X,Y)は、受聴ルーム300の水平面におけるデカルト座標(x,y)で特定又は測定されてもよい。
【0049】
デカルト座標を用いて、音源角度推定器210は、ユーザの頭部の配向θに対する所望の話者Aへの角度方向θを、以下の数式に従って特定又は計算するように構成されてもよい。
【0050】
【数2】
【0051】
音源角度推定器210は、ユーザの頭部の配向θに対する所望の話者B、Cへの話者角度又は話者方向θ、θをそれぞれ、対応するやり方で特定又は計算するように構成されてもよいことを、当業者は認識するであろう。受聴ルーム300内に存在し得るさらなる所望の話者のいずれに対しても、同じことが当てはまる。
【0052】
音源角度推定器210は、所望の話者(A、B、C)のそれぞれへの計算された角度方向θ、θ、θを、バイラテラルビームフォーマ212に送信するか、又はパスするように構成されている。左耳補聴器10Lのバイラテラルビームフォーマ212は、左耳補聴器10Lのマイクロフォン配置16Lにより提供される少なくとも1つのマイクロフォン信号と、右耳補聴器10Rのマイクロフォン配置16Rにより提供される少なくとも1つのマイクロフォン信号と、に基づいて、3つの別個のバイラテラルビームフォーミング信号を生成するように構成されている。右耳補聴器からの少なくとも1つのマイクロフォン信号は、双方向ワイヤレスデータ通信チャネル又はリンク12を経由して左耳補聴器に送信されてもよい。対応するやり方で、左耳補聴器からの少なくとも1つのマイクロフォン信号は、対応する右耳補聴器10Lのバイラテラルビームフォーマ(図示せず)で使用するために、双方向ワイヤレスデータ通信チャネル又はリンク12を経由して右耳補聴器10Rに送信されてもよい。
【0053】
少なくとも1つのマイクロフォン信号の各々は、全指向性信号又は指向性信号であってもよく、その後者は、マイクロフォン101a、101bからのマイクロフォン信号のモノラルビームフォーミング、及び/又は、右耳補聴器10Rのマイクロフォン101c、101dからのマイクロフォン信号のモノラルビームフォーミングによって作り出されてもよい。
【0054】
バイラテラルビームフォーマ212は、所望の話者Aの話者方向θから到着する音に対して最大感度を呈示する第1のバイラテラルビームフォーミング信号を生成する。したがって、第1のバイラテラルビームフォーミング信号のポーラパターンは、全ての他の角度方向において到着する音、特にユーザの頭部の後半分からの音に対して、この最大感度に比べて低減された感度を呈示してもよい。ユーザの頭部の後方向及び側方向から到着する音の、話者Aへの角度方向θから到着する音と比較した場合の相対的な減衰又は抑制は、1kHzで測定するとき、6dBより大きくてもよく、又は10dBより大きくてもよい。このやり方では、第1のバイラテラルビームフォーミング信号は所望の話者Aの音声によって支配され、一方で、他の所望の話者B、Cの音声成分は顕著に減衰され、角度方向θ以外の受聴ルーム内の他の方向から到着する環境騒音も同様に、顕著に減衰される。よって、第1のバイラテラルビームフォーミング信号は、第1の所望のモノラル音声信号MS(θ)とみなすことができる。ここで、「モノラル」とは、所望の音声信号MS(θ)が、対応する所望の右耳音声信号(図示せず)と一体となって、適切な空間キューを欠いていることを示す。特に、両耳間レベル差及び両耳間位相差/時間差を欠いていることを示すが、その理由は、これらの聴覚キューが、バイラテラルビームフォーミング動作により、抑制されているか、又は大幅に歪んでいるためである。
【0055】
バイラテラルビームフォーマ212はさらに、対応するやり方で、所望の話者B及びCへの角度方向θ、θ又は所望の話者B及びCの角度位置からそれぞれ到着する音に対して最大感度を呈示する第2及び第3のバイラテラルビームフォーミング信号を生成するように構成されている。即ち、バイラテラルビームフォーマ212を使用して、第1の所望のモノラル音声信号MS(θ)に対応する特性を有する第2及び第3の所望のモノラル音声信号MS(θ)、MS(θ)を作り出す。
【0056】
バイラテラルビームフォーマ212は、周知の様々なビームフォーミングアルゴリズム、例えば、遅延和ビームフォーマ又はフィルタアンドサムビームフォーマを利用して、バイラテラルビームフォーミング信号を生成してもよい。
【0057】
第1、第2、及び第3の所望のモノラル音声信号MS(θ)、MS(θ)、MS(θ)は、その後続いて、空間化関数214のそれぞれの入力に印加される。空間化関数214の役割は、適切な空間キュー、例えば、両耳間レベル差及び両耳間位相差/時間差などを、第1、第2、及び第3の所望のモノラル音声信号に導入する又は組み込むことである。空間化関数又はアルゴリズム214は、HRTFテーブル216のHRFTデータにアクセスすること、又はHRFTデータを読み取ることにより、所望の話者A、B、Cの各々に関連付けられた左耳HRTFを特定するように構成されている。HRTFテーブル216は、左耳補聴器10Lの揮発性メモリ、例えばRAM、或いは、不揮発性メモリ、例えばEEPROM又はフラッシュメモリなどに格納されてもよい。左耳HRTFテーブル216は、空間化関数214の実行中に、信号プロセッサ24Lの不揮発性メモリから、特定の揮発性メモリエリア、例えばRAMエリアにロードされてもよい。他の実施形態において、HRTFテーブル216は、ユーザのスマートフォンの不揮発性メモリ、例えばEEPROM又はフラッシュメモリなどに格納されてもよい。後者の実施形態において、ユーザのスマートフォンのプロセッサは、話者方向θに基づいて関連する左耳HRTFを特定してもよく、この関連する左耳HRTFをワイヤレス通信リンク15を介して左耳補聴器に送信してもよい。
【0058】
両方の例において、HRTFテーブル216は、好ましくは、0度から360度の複数の音入射角について、複数の周波数点における、複数個の左耳頭部伝達関数を保持又は格納している。複数個の左耳頭部伝達関数は、例えば、大きさや位相で表現される。HRTFテーブル216は、例えば、10度-30度の音入射角の刻みでHRTFを保持してもよい。HRTFテーブル216の左耳HRTF及び右耳HRTFは、好ましくは、音響マネキン、例えば、KEMAR又はHATSなどにおいて特定された頭部伝達関数を表している。いくつかの実施形態において、HRTFテーブル216の左耳HRTF及び右耳HRTFは、左耳補聴器の第1のマイクロフォン配置及び右耳補聴器の第2のマイクロフォン配置の頭部伝達関数を、ユーザにおいて又は音響マネキンにおいて、のいずれかで特定されたものとして表してもよい。
【0059】
空間化関数又はアルゴリズム214は、異なるメカニズムにより、角度方向θにおける所望の話者Aについての左耳HRTFを特定又は推定してもよいことを、当業者は認識するであろう。一実施形態において、空間化関数又はアルゴリズム214は、角度方向θに最も密接にマッチングするものを表す音入射角のHRTFを選択するように構成されてもよい。それ故に、現在の角度方向θが32度と推定され、左耳HRTFテーブル216が、20度、30度、40度などのような10度のインクリメントでHRTFを保持している場合、空間化関数214は、単に30度に対応する左耳HRFTを、話者Aへの角度方向θのHRFTの適切な推定値として選択する。空間化関数214の代替的な一実施形態は、HRTFテーブルにおいて、所望の話者Aの角度方向θに対する一対の隣接する音入射角を特定し、これらに対応する左耳HRTF同士の間を補間して、所望の話者Aの左耳HRTF(θ)を特定するように構成されている。それ故に、上述の左耳HRTFテーブル216を使用する場合、空間化関数214は、話者方向に対応する30度及び40度の左耳HRTFを選択し、各周波数点における音入射角30度の左耳HRTFと音入射角40度の左耳HRTFとの間を補間することにより話者方向32度(θ)についての左耳HRTFを計算する。例えば、線形補間又は多項式補間を使用して、32度の話者方向における左耳HRTFの優れた推定値を計算する。空間化関数又はアルゴリズム214は、好ましくは、対応するやり方で、角度方向θ、θにおける所望の話者B、Cについてのそれぞれの左耳HRTF(θ、θ)を特定又は推定するように構成されている。
【0060】
空間化関数214は、引き続き、音入射角32度において特定された左耳HRTF(θ)を用いて、例えば、第1の所望のモノラル音声信号MS(θ)及び左耳HRTFの周波数領域変換表現の周波数領域乗算を使用して、第1の所望のモノラル音声信号MS(θ)をフィルタリングする。代替的には、特定された左耳HRTF(θ)のインパルス応答と第1の所望のモノラル音声信号MS(θ)との直接的な畳み込みによる。これらの演算のいずれかにより、第1の所望のモノラル音声信号MS(θ)に対応する、第1の空間化された所望の音声信号が獲得される。第1の空間化された所望の音声信号は、第1の所望の話者Aへの実際の角度方向θに関連付けられた適切な空間キューを含む。空間化関数214はさらに、対応するやり方で、角度方向θ、θにおける、所望の話者B、Cについての左耳HRTF(θ)、HRTF(θ)のそれぞれの推定値を用いて、第2及び第3の所望のモノラル音声信号MS(θ)、MS(θ)をそれぞれフィルタリングするように構成されている。後者の演算により、第2及び第3の所望のモノラル音声信号MS(θ)、MS(θ)に対応する、第2及び第3の空間化された所望の音声信号が作り出される。
【0061】
信号加算器又は信号結合器215は、第1、第2、及び第3の所望のモノラル音声信号MS(θ)、MS(θ)、MS(θ)を加算又は結合して、空間化されて結合された所望の音声信号217を作り出す。空間化されて結合された所望の音声信号217は、左耳補聴器10Lの出力アンプ/バッファ及び出力トランスデューサ32Lを介して、ユーザの左鼓膜に印加されてもよい。出力トランスデューサ32Lは、D級アンプといった好適なパワーアンプ、例えば、デジタル変調されたパルス幅変調器(PWM)又はパルス密度変調器(PDM)などにより駆動されるミニチュアラウドスピーカ又はレシーバを備えてもよい。ミニチュアラウドスピーカ又はレシーバ32Lは、空間化されて結合された所望の音声信号217を、対応する音響信号に変換する。対応する音響信号は、左補聴器10Lの、好適に形作られ且つ寸法決定されたイヤプラグを介してユーザの鼓膜に伝達され得る。出力トランスデューサは、代替的には、本バイノーラル補聴器システム50の人工内耳インプラントの実施形態の、神経刺激用の電極のセットを備えてもよい。
【0062】
左耳補聴器10Lの信号プロセッサにより実施されるものに対応する演算が、右耳補聴器10Rの信号プロセッサ24Rによって、対応する処理ブロック及び回路、例えば、音源角度推定器、バイラテラルビームフォーマ、HRTFテーブル、空間化関数、及び、信号加算器又は信号結合器により、適用されてもよいことを、当業者は認識するであろう。
【0063】
空間化されて結合された所望の音声信号217は、いくつかの有利な特性を保有している。その理由は、この音声信号217が、所望の話者の各々の明瞭な音声のみを内包している一方で、放散する環境騒音と、他の角度において位置する所望しない/干渉する話者からの競合する音声と、が、1人以上の所望の話者に選択的に焦点を合わせているビームフォーミング演算によって抑制されるためである。換言すると、所望の話者により作り出された音声信号は、空間化されて結合された所望の音声信号217においては、強調されている。代替的に述べると、所望しない/干渉する話者及び環境騒音により作り出された音声信号は、空間化されて結合された所望の音声信号217においては、抑制されている。空間化されて結合された所望の音声信号217が、対応する空間化されて結合された所望の右耳音声信号(図示せず)と共に有している、注目に値する別の特性とは、所望の話者、例えばA、B、Cの音声が、受聴ルーム内の正しい空間的場所又は角度から発信されているように聞こえる点である。それ故に、本バイノーラル補聴器システム50のユーザの聴覚系は、所望の話者により発生した音声の、保存された空間キューにより利点を得ることができる。
【0064】
図3は、上述したバイノーラル又はバイラテラル補聴器システム50の第2の例示的な実施形態の概略ブロック図であり、特定の計算ブロック又は計算機能は、左耳補聴器10Lからユーザのスマートフォン5に移されている。より具体的には、音源角度推定器210が、左耳補聴器の信号プロセッサ24Lではなく、ユーザのスマートフォン5のプロセッサにより実行されている。ユーザのスマートフォン5のプロセッサは、それ自体の屋内位置信号と、3人の所望の話者又は話し手(A、B、C)のスマートフォン60、70、80によって生成されたそれぞれの屋内位置信号と、を受信するように構成されている。上述したように、ユーザのスマートフォン5及び所望の話者(A、B、C)のそれぞれのスマートフォン60、70、80は、スマートフォン60、70、80のそれぞれのWi-Fiインターフェースにより確立された共有Wi-Fiネットワークを経由してワイヤレス接続されてもよく、それぞれの屋内位置信号のワイヤレス送信及び受信を可能にしてもよい。左耳補聴器10Lは、頭部トラッキングセンサ17により生成されたような、左耳補聴器10Lの現在の角度配向θを、前述したBluetooth LE対応ワイヤレスリンク15を介して、ユーザのスマートフォン5に送信するように構成されている。それにより、ユーザのスマートフォン5の音源角度推定器210は、上述したやり方で、所望の話者(A、B、C)に対する話者角度又は話者角度方向θ、θ、θを計算することが可能になる。ユーザのスマートフォン5のプロセッサはその後、1人以上の所望の話者への方向であって、計算された方向を示す話者角度データを、ユーザのスマートフォンからBluetooth LE対応ワイヤレスリンク15を介して左耳補聴器10Lに送信する。ユーザのスマートフォン5は、話者角度データを、対応するBluetooth LE対応ワイヤレスリンクを介して右耳補聴器10Rにさらに送信してもよいことを、当業者は認識するであろう。左耳補聴器10Lは、好ましくは、送受信バッファ211を備えており、送受信バッファ211は、話者角度データの現在の角度配向データの送信及び受信をサポートするために、前述したBluetoothインターフェース回路及び別個のBluetoothアンテナを備えてもよい。角度方向θ、θ、θは、送受信バッファ211の出力から、バイラテラルビームフォーマ212の入力に印可され、さらに、HRFTテーブル216の入力にも印加される。信号プロセッサ24Lはその後続いて、本願の前述した実施形態に関して図2を参照して上述したように、同じ計算ステップ及び計算機能を実施する。
【0065】
Bluetooth LE対応ワイヤレスリンク15を通じて送信されるデータ変数の好適な適応により、より一層多くの計算機能又は計算ステップが、左耳補聴器10Lの信号プロセッサ24Lから、及び同様に右耳補聴器10Rの信号プロセッサ24Rから、ユーザのスマートフォン5のプロセッサに移されてもよいことを、当業者は認識するであろう。このような一実施形態によると、HRFTテーブル216はユーザのスマートフォン5のメモリ内に配置されており、ユーザのスマートフォンのプロセッサは左耳HRTF、即ち、HRTF(θ)、HRTF(θ)、及びHRTF(θ)と、対応する右耳HRTF(図示せず)を特定する。左耳HRTFはBluetooth LE対応ワイヤレスリンク15を経由して左耳補聴器10Lに送信されるとともに、右耳HRTFは対応するBluetooth LE対応ワイヤレスリンクを介して右耳補聴器10Rに送信される。
【0066】
さらに別の実施形態によると、左耳補聴器10Lの信号プロセッサ24Lにより実施される前述した計算機能又はステップの全ては、本質的に、ユーザのスマートフォン5のプロセッサに移される。ユーザのスマートフォン5のプロセッサは、バイラテラルビームフォーマ212の機能性又はアルゴリズムを実装し、HRTFテーブル213にアクセスしてHRTFテーブル213を読み出し、空間化関数214の機能性又はアルゴリズムと、信号加算器又は信号結合器215の機能性と、を実装するように構成されている。その後、ユーザのスマートフォン5は、空間化されて結合された所望の音声信号217を、Bluetooth LE対応ワイヤレスリンク15を介して左耳補聴器10Lに送信してもよく、空間化されて結合された所望の音声信号217は、音響信号又は電極信号に変換されて、ユーザの左耳に印加される。この実施形態において、左耳補聴器10Lは、好ましくは、左耳補聴器10Lの現在の角度配向θを、Bluetooth LE対応ワイヤレスリンク15を介してユーザのスマートフォン5に送信するように構成されている。加えて、左耳補聴器10Lは、補聴器10Lのマイクロフォン配置16Lにより与えられる1つ以上のマイクロフォン信号を、Bluetooth LE対応ワイヤレスリンク15を介してユーザのスマートフォン5に送信するようにも構成され、右耳補聴器10Rは、対応するやり方で、マイクロフォン配置16Rのマイクロフォン配置16Rにより与えられる1つ以上のマイクロフォン信号を、対応するBluetooth LE対応ワイヤレスリンクを介してユーザのスマートフォン5に送信するように構成されている。
【0067】
図4は、本願の例示的な実施形態に従ったバイノーラル又はバイラテラル補聴器システムの例示的な使用状況の概略図であり、バイノーラル又はバイラテラル補聴器システムは、補聴器ユーザのスマートフォン5のディスプレイ410上に例示的なグラフィカルユーザインターフェース405を含む。ディスプレイ410は、適切な解像度を有するLED又はOLEDディスプレイを備えており、ユーザに図示されるような、英数字シンボル、テキスト、グラフィカルシンボル、又はピクチャを視覚的にレンダリングしてもよい。ユーザのスマートフォン5のプロセッサ、例えば、専用グラフィックエンジン(図示せず)、及び/又は、前述したマイクロプロセッサは、ディスプレイ410上の英数字シンボル、テキスト、及びグラフィカルシンボルの内容及びレイアウトを制御して、フレキシブルなグラフィカルユーザインターフェース405a、405bを作成する。ユーザインターフェース405は、好ましくは、受聴ルーム、ホール、又はエリアに存在している複数の有効な話者のスマートフォン60、70、75、80及びそれらに関連付けられた話者A、B、C、Dなどを、話者の各々について、固有の英数字テキスト又は固有のグラフィカルシンボルを表示することによって識別するように構成されている。グラフィカルユーザインターフェース部分405bは、例えば、有効な話者のそれぞれの名前であるPoul Smith、Laurel Smith、Ian Roberson、及びMcGregor Thomsonを、固有の英数字テキストとして示している。有効な話者のスマートフォン60、70、75、80は、それらのBluetoothワイヤレスデータリンク及びインターフェースを通じて、又は、有効な話者のスマートフォン60、70、75、80及びユーザのスマートフォン5の、それぞれのWi-Fiインターフェースにより確立された共有Wi-Fiネットワークを通じて、ユーザのスマートフォン5にワイヤレス接続されてもよい。有効な話者のそれぞれのスマートフォン60、70、75、80とユーザのスマートフォン5との間のワイヤレスデータ接続及びワイヤレスデータ交換は、有効な話者のそれぞれのスマートフォン60、70、75、80及びユーザのスマートフォン5にインストールされた、専用のアプリ又はアプリケーションプログラムによって実施されてもよい。
【0068】
本願の一実施形態によると、最下部のグラフィカルユーザインターフェース部分405aは、受聴ルーム内部における補聴器ユーザ(私)及び有効な話者の空間的配置をさらに示すか、又は描写している。受聴ルーム内部における補聴器ユーザ(私)の現在の位置は、固有のグラフィカルシンボルによって示され、有効な話者のスマートフォンの現在の位置は、それぞれの固有のグラフィカルシンボルによって示される。本実施形態では、人のシルエットとして示される。この特徴により、補聴器ユーザ(私)には、受聴ルーム内における有効な話者、及び受聴ルーム内における補聴器ユーザ自身の位置又は場所に対する当該話者の場所についての、直感的且つ忠実な概要がもたらされる。グラフィカルユーザインターフェース部分405aの特定の実施形態において、補聴器ユーザ(私)は、有効な話者のうちの1人以上を、前述した所望の話者として、各所望の話者に関連付けられた固有の英数字テキスト又は固有のグラフィカルシンボルに作用することにより選択可能であってもよい。この所望の話者を選択する特徴は、便利なことに、ディスプレイ410をタッチ感応式ディスプレイとして提供することにより達成されてもよい。図示されるグラフィカルユーザインターフェース部分405a、405bのレイアウトでは、補聴器ユーザ(私)は、有効な話者A、B、Cを、所望の話者として選択している。したがって、グラフィカルユーザインターフェース410は、所望の話者の対応する固有のシルエット及び名前を、緑色でマークしている。これとは対照的に、選択されていないが有効な話者Dの固有のシルエット及び名前は、赤色でマークされている。
【0069】
本願の、上述した例示的な実施形態における左耳補聴器10Lの信号プロセッサ24Lは、ユーザ及び3人の所望の話者A、B、Cのそれぞれの位置と、ユーザの頭部の角度配向θと、に基づいて、ユーザの頭部1の配向に対する3人の所望の話者A、B、Cへのそれぞれの角度方向を特定するように構成されていることを、当業者は認識するであろう。しかしながら、代替的な実施形態において、左耳補聴器及び/又は右耳補聴器は、ユーザの頭部の配向θを、ワイヤレス通信チャネル15を介してユーザのスマートフォン5のプログラム可能なマイクロプロセッサ又はDSPに送信するように構成されてもよい。ユーザのスマートフォン5のプログラム可能なマイクロプロセッサ又はDSPは、ユーザの頭部1の配向に対する、3人の所望の話者A、B、Cへのそれぞれの角度方向、又は、3人の所望の話者A、B、Cのそれぞれの角度位置の特定を実施するように構成されてもよい。その後、ユーザのスマートフォン5は、3人の所望の話者A、B、Cへのそれぞれの角度方向を示す角度データを、上述のように、左耳補聴器又は右耳補聴器において使用するために、左耳補聴器又は右耳補聴器に送信してもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】