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特表2022-543135薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーン及びその作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーン及びその作製方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 25/10 20130101AFI20220930BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20220930BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/4439 20060101ALI20220930BHJP
   A61K 31/54 20060101ALI20220930BHJP
【FI】
A61M25/10 502
A61L29/04
A61L29/16
A61K31/436
A61K31/4439
A61K31/54
A61M25/10 550
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506918
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(85)【翻訳文提出日】2022-03-25
(86)【国際出願番号】 CN2020072696
(87)【国際公開番号】W WO2021022799
(87)【国際公開日】2021-02-11
(31)【優先権主張番号】201910711649.7
(32)【優先日】2019-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522046195
【氏名又は名称】シャンハイ ハートケア メディカル テクノロジー コーポレーション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン、クオホイ
(72)【発明者】
【氏名】チャン、チェンチャオ
(72)【発明者】
【氏名】ワン、チュンイー
【テーマコード(参考)】
4C081
4C086
4C267
【Fターム(参考)】
4C081AC10
4C081BB06
4C081CE02
4C081DA02
4C081EA06
4C086AA01
4C086AA10
4C086BC17
4C086BC88
4C086CB22
4C086GA07
4C086GA08
4C086GA10
4C086GA16
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA11
4C086MA65
4C086NA12
4C086NA13
4C086ZA36
4C267AA07
4C267AA09
4C267AA74
4C267BB02
4C267BB03
4C267BB04
4C267BB06
4C267BB12
4C267BB19
4C267BB20
4C267BB26
4C267BB28
4C267BB39
4C267BB40
4C267CC08
4C267CC09
4C267GG02
4C267GG16
4C267HH08
(57)【要約】
本発明は、薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法を提供する。薬物受容体タンパク質阻害剤を薬物、水、エタノールと混合して薬液を得、超音波噴霧装置の手段によりバルーンの表層に薬液を前後に噴霧し、乾燥させて薬物被覆バルーンを作製する。また、薬物受容体タンパク質阻害剤は薬物代謝アイソザイム阻害剤、薬物代謝アイソザイム誘導剤、薬物受容体タンパク質阻害剤と薬物代謝アイソザイム阻害剤との混合物などの薬物代謝アイソザイム阻害剤に置き換えることもでき、薬物受容体タンパク質阻害剤又は他の薬物の薬物に対する添加量の比率を調整することによって、薬物被覆バルーンの薬物代謝サイクルをさらに調整及び制御することができる。この方法により作製された薬物被覆バルーンは内膜の構造を破壊することなく、効果的な制御可能な薬物代謝を実施することができ、薬物代謝を実施して、薬物被覆バルーンを使用する初期段階で薬物治療の効果を達成することができ、比率を調整することにより薬物の奏効期間を延長することができるという機能を有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップを含む、薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法:
ステップ1:薬物受容体タンパク質阻害剤、薬物、水、及びエタノールを混合して薬液を調製すること;
ステップ2:ステップ1で調製した前記薬液を超音波噴霧装置に装填すること、並びに流量パラメータ及びバルーンの回転速度を設定すること;
ステップ3:前記超音波噴霧装置の超音波ノズルと前記バルーンとの間の距離を調整すること、周囲温度を18℃~28℃に制御すること、及び噴霧前にバルーンの表面をエタノールで濡らすこと;
ステップ4:前記超音波噴霧装置をオンにし、前記バルーンの軸方向に沿って前後に噴霧すること;及び
ステップ5:噴霧を受けた前記バルーンを乾燥させて、薬物被覆バルーンを得ること。
【請求項2】
前記ステップ1における前記薬物受容体タンパク質阻害剤が薬物代謝アイソザイム阻害剤又は薬物代謝アイソザイム誘導剤に置き換えられる、請求項1に記載の薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法。
【請求項3】
前記ステップ1における前記薬物受容体タンパク質阻害剤が前記薬物代謝アイソザイム阻害剤との併用のため混合される、請求項2に記載の薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法。
【請求項4】
前記薬物がラパマイシンであり、前記薬物受容体タンパク質阻害剤が、免疫親和性タンパク質であるFKBP12タンパク質の阻害剤である3-ピリジン-3-イルプロピル-(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソ-ペンタノイル)-ピロリジン-2-カルボキシレート、(3R)-4-(p-トルエンスルホニル)-1,4-チアザン-3-カルボン酸-L-ロイシンエチルエステル、及び(3R)-4-(p-トルエンスルホニル)-1,4-チアザン-3-カルボン酸-L-フェニルアラニンベンジルエステルから選択される1つ以上である、薬物代謝制御可能な請求項1に記載の薬物被覆バルーンの作製方法。
【請求項5】
前記薬物がラパマイシンであり、前記薬物代謝アイソザイム阻害剤が、CYP3A4アイソザイムの阻害剤であるポサコナゾール、エリスロマイシン、テリスロマイシン、HIVプロテアーゼ阻害剤、ポプラビル、テラプレビル、アミオダロン、アンプレナビル、アプレピタント、アトナビル、シメチジン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、ジルチアゼム、ドキシサイクリン、エノキサシン、フルコナゾール、フルボキサミン、イマチニブ、インジナビル、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、ネファゾドン、リトナビル、サキナビル、テリスロマイシン、ベラパミル、及びボリコナゾールから選択される1つ以上である、請求項2に記載の薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法。
【請求項6】
前記薬物がラパマイシンであり、前記薬物代謝アイソザイム誘導剤が、CYP3A4アイソザイムの誘導剤であるアプレピタント、バルビツール酸塩、ボセンタン、カルバマゼピン、エファビレンツ、フェルバミン酸塩、グルココルチコイド、モダフィニル、ネビラピン、オクスカルバゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、プリミドン、エトラビリン、リファンピシン、セントジョンズワート、ピオグリタゾン及びトピラマートから選択される1つ以上である、請求項2に記載の薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法。
【請求項7】
前記薬物受容体タンパク質阻害剤の前記薬物に対する比が0.25~4:1であり、前記薬物受容体タンパク質阻害剤の添加量の増加の関数として薬物代謝が減速する、請求項1に記載の薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法。
【請求項8】
前記薬物代謝アイソザイム阻害剤の前記薬物に対する比が0.25~4:1であり、前記薬物代謝アイソザイム阻害剤の添加量の増加の関数として薬物代謝が減速する、請求項2に記載の薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法。
【請求項9】
前記薬物代謝アイソザイム誘導剤の前記薬物に対する比が0.25~4:1であり、薬物代謝アイソザイム誘導剤の添加量の増加の関数として前記薬物の代謝速度が増加する、請求項2に記載の薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法。
【請求項10】
総薬物負荷量が変化しない条件下で薬物代謝速度を調節する、請求項1に記載の薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法に従って作製された薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーン。
【請求項11】
総薬物負荷量が変化しない条件下で薬物代謝速度を調節する、請求項2に記載の薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法に従って作製された薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーン。
【請求項12】
総薬物負荷量が変化しない条件下で薬物代謝速度を調節する、請求項3に記載の薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法に従って作製された薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬物被覆バルーンの技術分野に関し、特に、薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーン及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物被覆バルーンは、カテーテルを基とする薬物送達デバイスである。このコンセプトは経皮的血管形成術後の血管再狭窄を予防するために、1991年にHarvey Wolinskyにより提唱された。その作用機序は、薬物を運搬することにより内膜肥厚を抑制することである。バルーンの表面にコーティングされた薬物が病変に到達すると、バルーンを加圧することによってバルーンが病変を拡張し、同時に、コーティングされた薬物はそこで連続的に放出され、その結果、血管壁が薬物を完全に吸収し、再狭窄の発生を抑制することができる。薬物被覆バルーン法は、放射線療法、ポリマー又は他の徐放技術を必要とせず、バルーンの到達範囲内の全ての領域に薬物を送達することができる。
【0003】
薬物被覆バルーンは薬物を放出するためにバルーンを使用する新規な治療技術であり、経皮的血管形成術又はバルーン血管形成術などの介入技術を基として開発されている。治療技術はバルーンの表面上にパクリタキセルなどの抗増殖薬をコーティングすることであり、バルーンが血管壁の病変に到達し、伸張し、拡張し、血管壁の内膜と接触した際、血管壁の内膜を引き裂いてバルーンを加圧することによって、薬物は迅速に放出され、局所血管壁に移送され得る。薬物は局所的抗血管内膜過形成において役割を果たし、それにより血管内介入後の血管再狭窄を防止する。
【0004】
薬物が血管組織に入るには3つの方法がある。1:バルーンが膨張し、薬物がコーティング表面から放出され、迅速に溶解し、補助溶剤の作用下で内膜細胞に入る。2:バルーンが膨張し、内膜の一部を裂き、裂けた隙間に、薬物がバルーンの表面コーティングから落ちて入り、それによって薬物の長期かつゆっくりとした放出を達成する。3:薬物が血管壁組織と接触し、細胞の親油性部位と接触し、細胞の壁に付着し、その結果、血液が薬物を洗い流すことが困難になり、それによって薬物の長期放出を達成する。
【0005】
中国特許第201310594716号は、薬物被覆バルーンを作製するための方法を開示している。特許された薬物代謝減速方法は、バルーンを、内膜を裂く程度まで、より大きな直径まで膨張させることを必要とする。しかし、この方法はそれ自体が血管に対する一種の損傷であり、後の治癒過程において、病変部位はしばしば、より厚い内膜を形成する細胞増殖を刺激する。中国特許第201220483575号は、薬物の放出を制御可能な三酸化ヒ素でコーティングされたバルーンを開示している。三酸化ヒ素の急速な水溶性を利用して、三酸化ヒ素の徐放層でバルーンの表面を被覆する。徐放層には、三酸化ヒ素の代謝を阻害するために、均一な微細空洞(micro-cavities)が形成されている。バルーン膨張過程では、空洞の大きさを調節することにより空洞を膨張させて微細孔とし、血管壁で三酸化ヒ素を迅速に代謝させ、血管壁表面で均一に濃縮し、細胞の迅速な食作用を利用して細胞増殖を阻害し、再狭窄を阻害する効果を達成する。前記特許は徐放効果を達成するために、薬物と内膜との間の接触面積を減少させるべく、徐放層中の微細孔質構造を使用する。前記方法では徐放層を付加する。初期段階では、徐放層を最初に溶解させる必要がある。この期間中、薬物放出はなく、すなわち、術後初期には薬物効果がなく、これは、薬物被覆バルーンの治療効果を制限する。
【0006】
そのため、当業者は薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンを開発し、薬物被覆バルーンを作製するための単純かつ効率的な作製方法を提供することに取り組んでいる。前記薬物被覆バルーンは内膜の構造を破壊することなく、効果的な制御可能な薬物代謝を実施することができ、薬物被覆バルーンの使用の初期段階で効果を達成するために薬物を放出することができるという利点を有する。一方で、薬物の奏効期間を延長しうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の上述の欠点に鑑みて、本発明によって解決されるべき技術的課題は、薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの提供の仕方及びその作製方法である。作製された薬物被覆バルーンは、内膜の構造を破壊することなく、効果的な制御可能な薬物代謝を実施することができ、薬物被覆バルーンの使用の初期段階で薬物治療の効果を達成するために薬物を放出することができ、薬物の奏効期間を増加させることができるという利点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下のステップを含む、薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法を提供する:
ステップ1:薬物受容体タンパク質阻害剤、薬物、水、及びエタノールを混合して薬液を調製すること;
ステップ2:ステップ1で調製した前記薬液を超音波噴霧装置に装填すること、並びに流量パラメータ及びバルーンの回転速度を設定すること;
ステップ3:前記超音波噴霧装置の超音波ノズルと前記バルーンとの間の距離を調整すること、周囲温度を18℃~28℃に制御すること、及び噴霧前にバルーンの表面をエタノールで濡らすこと;
ステップ4:前記超音波噴霧装置をオンにし、前記バルーンの軸方向に沿って前後に噴霧すること;及び
ステップ5:噴霧を受けた前記バルーンを乾燥させて、薬物被覆バルーンを得ること。
【0009】
また、前記ステップ1における前記薬物受容体タンパク質阻害剤は、薬物代謝アイソザイム阻害剤又は薬物代謝アイソザイム誘導剤に置き換えることができる。
【0010】
さらに、前記ステップ1における前記薬物受容体タンパク質阻害剤が前記薬物代謝アイソザイム阻害剤との併用のため混合されることもできる。
【0011】
さらに、前記薬物がラパマイシンであり、前記薬物受容体タンパク質阻害剤が、免疫親和性タンパク質であるFKBP12タンパク質の阻害剤である3-ピリジン-3-イルプロピル-(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソ-ペンタノイル)-ピロリジン-2-カルボキシレート、(3R)-4-(p-トルエンスルホニル)-1,4-チアザン-3-カルボン酸-L-ロイシンエチルエステル、及び(3R)-4-(p-トルエンスルホニル)-1,4-チアザン-3-カルボン酸-L-フェニルアラニンベンジルエステルから選択される1つ以上である。
【0012】
さらに、前記薬物がラパマイシンであり、前記薬物代謝アイソザイム阻害剤が、CYP3A4アイソザイムの阻害剤であるポサコナゾール、エリスロマイシン、テリスロマイシン、HIVプロテアーゼ阻害剤、ポプラビル、テラプレビル、アミオダロン、アンプレナビル、アプレピタント、アトナビル、シメチジン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、ジルチアゼム、ドキシサイクリン、エノキサシン、フルコナゾール、フルボキサミン、イマチニブ、インジナビル、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、ネファゾドン、リトナビル、サキナビル、テリスロマイシン、ベラパミル、及びボリコナゾールから選択される1つ以上である。
【0013】
さらに、前記薬物がラパマイシンであり、前記薬物代謝アイソザイム誘導剤が、CYP3A4アイソザイムの誘導剤であるアプレピタント、バルビツール酸塩、ボセンタン、カルバマゼピン、エファビレンツ、フェルバミン酸塩、グルココルチコイド、モダフィニル、ネビラピン、オクスカルバゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、プリミドン、エトラビリン、リファンピシン、セントジョンズワート、ピオグリタゾン及びトピラマートから選択される1つ以上である。
【0014】
また、前記薬物受容体タンパク質阻害剤の前記薬物に対する比が0.25~4:1であり、前記薬物受容体タンパク質阻害剤の添加量の増加の関数として薬物代謝が減速する。
【0015】
また、前記薬物代謝アイソザイム阻害剤の前記薬物に対する比が0.25~4:1であり、前記薬物代謝アイソザイム阻害剤の添加量の増加の関数として薬物代謝が減速する。
【0016】
また、前記薬物代謝アイソザイム誘導剤の前記薬物に対する比が0.25~4:1であり、薬物代謝アイソザイム誘導剤の添加量の増加の関数として前記薬物の代謝速度が増加する。
【0017】
本発明はまた、上記の薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンの作製方法に従って作製された、薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンを提供する。前記薬物被覆バルーンは、総薬物負荷量が変化しない条件下で薬物代謝速度を調節することができる。
【発明の効果】
【0018】
従来技術と比較して、本発明は、少なくとも以下の有益な技術的効果を有する。
(1)本発明は薬物受容体タンパク質阻害剤又は薬物代謝アイソザイム阻害剤を添加することによって薬物の代謝を緩慢にするものであって、薬物代謝を緩慢にするためにバルーンをより大きな直径に膨張させて内膜を裂く必要がなく、これにより、薬物代謝を緩慢にすることで治療効果を確保しながら、血管及び他の組織へのさらなる損傷を低減する。
(2)本発明はまた、薬物代謝アイソザイム誘導剤を添加することによって薬物代謝を促進する目的を達成することができる。
(3)本発明は、総薬物量が変化しない条件下で、薬物受容体タンパク質阻害剤又は薬物代謝アイソザイム阻害剤又は誘導剤の添加量を調整することにより、実際のニーズに応じて薬物代謝速度を調整し、薬物の奏効期間を増加させることができる。
(4)本発明によって提供される薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンには、徐放層の溶解を理由とする待機期間がない。手術後に薬物被覆バルーンを体内に導入した後、ゆっくりとした制御可能な薬物放出を開始することができ、薬物の治療効果を発揮することができる。
【0019】
以下、本発明の目的、特徴及び効果を十分に理解するために、本発明の概念、具体的な構成及び技術的効果について、添付図面を参照してさらに説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の好ましい実施形態による噴霧の概略図である。
図2】本発明の好ましい実施形態による薬物被覆バルーンの作製のフローチャートである。
図3】本発明の好ましい実施形態において使用される薬物受容体タンパク質FBKP12の活性部位の概略図である。
図4】本発明の好ましい実施形態で使用される薬物受容体タンパク質FBKP12の阻害剤である3-ピリジン-3-イルプロピル-(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソ-ペンタノイル)-ピロリジン-2-カルボキシレートである。
図5】本発明の好ましい実施形態において使用される薬物受容体タンパク質FBKP12の阻害剤である(3R)-4-(p-トルエンスルホニル)-1,4-チアザン-3-カルボン酸-L-ロイシンエチルエステルである。
図6】本発明の好ましい実施形態において使用される薬物受容体タンパク質FBKP12の阻害剤である(3R)-4-(p-トルエンスルホニル)-1,4-チアザン-3-カルボン酸-L-フェニルアラニンベンジルエステルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、技術的内容をより明確かつ理解しやすくするために、本発明の好適な実施例を、明細書中の図面を参照して紹介する。本発明は多くの異なる形態の例によって実施することが可能であって、本発明の保護範囲は、本明細書で言及した例に限定されない。
【0022】
以下の実施例では薬物としてラパマイシンを選択し、薬物被覆バルーンに噴霧する概略図を図1に示すが、図1において、超音波噴霧装置は、ノズルレール1、及び、ノズルレール1上に配置され、ノズルレール1に沿って移動する超音波ノズル2を含む。超音波ノズル2とバルーン3との距離はLであり、超音波ノズル2はバルーン3の軸4の方向に沿って前後に移動して噴霧を行う。
【0023】
薬物被覆バルーンを作製するための方法は図2に示されるとおりであり、そして以下を含む。
ステップ1(101):バルーンに噴霧されるべき薬液を調製する。以下の内容で詳細に説明される。
ステップ2(102):ステップ1で調製した薬液を超音波噴霧装置に装填し、流量パラメータ及びバルーンの回転速度を設定する。
ステップ3(103):超音波噴霧装置の超音波ノズル2とバルーン3との間の距離Lを調整し、周囲温度を18~28℃に制御し、噴霧前にバルーン3の表面をエタノールで濡らす。
ステップ4(104):超音波噴霧装置をオンにし、バルーン3の軸4の方向に沿って前後に噴霧する。
ステップ5(105):噴霧を受けたバルーン3を乾燥させて、薬物被覆バルーンを得る。
【実施例
【0024】
I. 薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンを作製するために薬物受容体タンパク質阻害剤が用いられた
ラパマイシンはシグナル伝達を遮断し、異なるサイトカイン受容体を介してTリンパ球や他の細胞のG1期からS期への進行を阻止する。ラパマイシンは、Tリンパ球及びBリンパ球のカルシウム依存性及びカルシウム非依存性のシグナル伝達経路を遮断することができる。ラパマイシンはイムノフィリンFKBP12に結合してRAPA-FKBP12複合体を形成することができ、これはカルモジュリンに結合できない。また、ラパマイシンはT細胞の早期活性化を阻害したり、サイトカインの合成を直接減少させたりしない。FKBP12タンパク質は主にIle56を介して阻害剤と水素結合を形成し、Tyr82、及びTyr26、Phe46、Val55、Tyr59、His87及びIle90を介して疎水性相互作用ゾーンを形成する(FKBP12タンパク質の活性部位を図3に示す)。阻害剤のFKBP12への結合は、ラパマイシンのFKBP12への結合速度を効果的に遅くして、薬物被覆バルーンの薬物代謝を延長することができる。そこで、本発明では、FKBP12に予め結合する、ラパマイシン受容体タンパク質FKBP12の阻害剤を添加することにより、薬物バルーンの薬物代謝を延長する目的を達成する。
【0025】
FKBP12タンパク質の主な阻害剤は、3-ピリジン-3-イルプロピル-(2S)-1-(3,3-ジメチル-2-オキソ-ペンタノイル)-ピロリジン-2-カルボキシレート(薬物aと略す)、(3R)-4-(p-トルエンスルホニル)-1,4-チアザン-3-カルボン酸-L-ロイシンエチルエステル(薬物bと略す)、(3R)-4-(p-トルエンスルホニル)-1,4-チアザン-3-カルボン酸-L-フェニルアラニンベンジルエステル(薬物cと略す)である(分子構造図をそれぞれ図4、5、6に示す)。FKBP12タンパク質を結合する能力は、強力な方から弱い方の順に薬物c、薬物b、薬物aである。従って、以下の実施例において、添加されるFKBP12タンパク質阻害剤の型及び含有量は、ラパマイシン代謝を制御するために調節され得る。
【0026】
実施例1
薬物被覆バルーンを、以下の比及び方法に従って作製した。
1.FKBP12阻害剤である薬物a(3%)、ラパマイシン(1%)、水(5~10%)及びエタノール(82~93%)を括弧内の重量比率で混合し、ラパマイシン濃度52mg/mlの薬液を得た。
2.薬液を超音波噴霧装置に装填し、流量を0.01~0.1ml/分に設定した。
3.バルーンの回転速度を3~5.0 rev/sに設定し、噴霧前にバルーン3の表面をエタノールで濡らした。
4.超音波噴霧装置の超音波ノズル2とバルーン3との間の距離Lを10~30mmに調整し、周囲温度を18~28℃に制御した。
5.超音波噴霧装置の電源を入れ、バルーン3の軸方向に沿って10回前後に噴霧し、バルーン3上の最終薬物含有量を4.0μg/mmに制御した。
6.噴霧を受けたバルーン3を18~28℃の環境に置き、120分間乾燥させた。
【0027】
実施例2
薬物被覆バルーンを、以下の比及び方法に従って作製した。
1.FKBP12阻害剤である薬物c(4%)、ラパマイシン(4%)、水(5~10%)及びエタノール(82~93%)を括弧内の重量比率で混合し、ラパマイシン濃度52mg/mlの薬液を得た。
2.薬液を超音波噴霧装置に装填し、流量を0.01~0.1ml/分に設定した。
3.バルーンの回転速度を3~5.0 rev/sに設定し、噴霧前にバルーン3の表面をエタノールで濡らした。
4.超音波噴霧装置の超音波ノズル2とバルーン3との間の距離Lを10~30mmに調整し、周囲温度を18~28℃に制御した。
5.超音波噴霧装置の電源を入れ、バルーン3の軸方向に沿って10回前後に噴霧し、バルーン3上の最終薬物含有量を4.0μg/mmに制御した。
6.噴霧を受けたバルーン3を18~28℃の環境に置き、120分間乾燥させた。
【0028】
実施例3
薬物被覆バルーンを、以下の比及び方法に従って作製した。
1.FKBP12阻害剤である薬物c(5%)、ラパマイシン(1.25%)、水(5~10%)及びエタノール(82~93%)を括弧内の重量比率で混合し、ラパマイシン濃度52mg/mlの薬液を得た。
2.薬液を超音波噴霧装置に装填し、流量を0.01~0.1ml/分に設定した;
3.バルーンの回転速度を3~5.0 rev/sに設定し、噴霧前にバルーン3の表面をエタノールで濡らした。
4.超音波噴霧装置の超音波ノズル2とバルーン3との間の距離Lを10~30mmに調整し、周囲温度を18~28℃に制御した。
5.超音波噴霧装置の電源を入れ、バルーン3の軸方向に沿って10回前後に噴霧し、バルーン3上の最終薬物含有量を4.0μg/mmに制御した;
6.噴霧を受けたバルーン3を18~28℃の環境に置き、120分間乾燥させた。
【0029】
II.薬物代謝アイソザイム阻害剤又は薬物代謝アイソザイム誘導剤を用いて、薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンを作製した
ラパマイシンはCYP3A4アイソザイムにより大部分が代謝されるため、全身吸収後のラパマイシンの吸収及び消失は、このアイソザイムに作用する薬物により影響を受ける可能性がある。CYP3A4の阻害剤はラパマイシンの代謝を遅らせて、ラパマイシンの血中濃度を上昇させることができ、またCYP3A4の誘導剤はラパマイシンの代謝を促進して、血中濃度を低下させることができる。
【0030】
したがって、本発明は薬物代謝制御という薬物被覆バルーンの目的を達成するために、CYP3A4アイソザイムの阻害剤又は誘導剤を添加することによって、ラパマイシンの代謝速度を制御する。
【0031】
中でも、CYP3A4の阻害剤は、ポサコナゾール、エリスロマイシン、テリスロマイシン、HIVプロテアーゼ阻害剤、ポプラビル、テラプレビル、アミオダロン、アンプレナビル、アプレピタント、アトナビル、シメチジン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、ジルチアゼム、ドキシサイクリン、エノキサシン、エリスロシン、フルコナゾール、フルボキサミン、イマチニブ、インジナビル、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、ネファゾドン、リトナビル、サキナビル、テリスロマイシン、ベラパミル、及びボリコナゾールから選択される1つ以上である。CYP3A4の誘導剤は、アプレピタント、バルビツール酸塩、ボセンタン、カルバマゼピン、エファビレンツ、フェルバミン酸塩、グルココルチコイド、モダフィニル、ネビラピン、オクスカルバゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、プリミドン、エトラビリン、リファンピシン、セントジョンズワート、ピオグリタゾン及びトピラマートから選択される1つ以上である。
【0032】
実施例4
薬物被覆バルーンを、以下の比及び方法に従って作製した。
1.CYP3A4阻害剤(2%)、ラパマイシン(2%)、水(5~10%)及びエタノール(80~92%)を括弧内の重量比率で混合し、ラパマイシン濃度52mg/mlの薬液を得た。
2.薬液を超音波噴霧装置に装填し、流量を0.01~0.1ml/分に設定した。
3.バルーンの回転速度を3~5.0 rev/sに設定し、噴霧前にバルーン3の表面をエタノールで濡らした。
4.超音波噴霧装置の超音波ノズル2とバルーン3との間の距離Lを10~30mmに調整し、周囲温度を18~28℃に制御した。
5.超音波噴霧装置の電源を入れ、バルーン3の軸方向に沿って10回前後に噴霧し、バルーン3上の最終薬物含有量を4.0μg/mmに制御した。
6.噴霧を受けたバルーン3を赤外線乾燥機に入れ、5分間乾燥させた。
【0033】
実施例5
薬物被覆バルーンを、以下の比及び方法に従って作製した。
1.CYP3A4阻害剤(4%)、ラパマイシン(1%)、水(5~10%)及びエタノール(80~92%)を括弧内の重量比率で混合し、ラパマイシン濃度52mg/mlの薬液を得た。
2.薬液を超音波噴霧装置に装填し、流量を0.01~0.1ml/分に設定した。
3.バルーンの回転速度を3~5.0 rev/sに設定し、噴霧前にバルーン3の表面をエタノールで濡らした。
4.超音波噴霧装置の超音波ノズル2とバルーン3との間の距離Lを10~30mmに調整し、周囲温度を18~28℃に制御した。
5.超音波噴霧装置の電源を入れ、バルーン3の軸方向に沿って10回前後に噴霧し、バルーン3上の最終薬物含有量を4.0μg/mmに制御した。
6.噴霧を受けたバルーン3を赤外線乾燥機に入れ、5分間乾燥させた。
【0034】
実施例6
薬物被覆バルーンを、以下の比及び方法に従って作製した。
1.CYP3A4誘導剤(3%)、ラパマイシン(3%)、水(5~10%)及びエタノール(80~92%)を括弧内の重量比率で混合し、52mg/mlのラパマイシン濃度を有する薬液を得た。
2.薬液を超音波噴霧装置に装填し、流量を0.01~0.1ml/分に設定した。
3.バルーンの回転速度を3~5.0 rev/sに設定し、噴霧前にバルーン3の表面をエタノールで濡らした。
4.超音波噴霧装置の超音波ノズル2とバルーン3との間の距離Lを10~30mmに調整し、周囲温度を18~28℃に制御した。
5.超音波噴霧装置の電源を入れ、バルーン3の軸方向に沿って10回前後に噴霧し、バルーン3上の最終薬物含有量を4.0μg/mmに制御した。
6.噴霧を受けたバルーン3を赤外線乾燥機に入れ、5分間乾燥させた。
【0035】
実施例7
薬物被覆バルーンを、以下の比及び方法に従って作製した。
1.CYP3A4誘導剤(4%)、ラパマイシン(1%)、水(5~10%)及びエタノール(80~92%)を括弧内の重量比率で混合し、ラパマイシン濃度52mg/mlの薬液を得た。
2.薬液を超音波噴霧装置に装填し、流量を0.01~0.1ml/分に設定した。
3.バルーンの回転速度を3~5.0 rev/sに設定し、噴霧前にバルーン3の表面をエタノールで濡らした。
4.超音波噴霧装置の超音波ノズル2とバルーン3との間の距離Lを10~30mmに調整し、周囲温度を18~28℃に制御した。
5.超音波噴霧装置の電源を入れ、バルーン3の軸方向に沿って10回前後に噴霧し、バルーン3上の最終薬物含有量を4.0μg/mmに制御した。
6.噴霧を受けたバルーン3を赤外線乾燥機に入れ、5分間乾燥させた。
【0036】
III.薬物受容体タンパク質阻害剤と薬物代謝アイソザイム阻害剤を用いて、薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンを作成した
実施例8
薬物被覆バルーンを、以下の比及び方法に従って作製した。
1.CYP3A4阻害剤及びFKBP12阻害剤(2.5%)、ラパマイシン(2.5%)、水(5~10%)、及びエタノール(80~92%)の混合物を括弧内の重量比率で混合し、ラパマイシン濃度52mg/mlの薬液を得た。
2.薬液を超音波噴霧装置に装填し、流量を0.01~0.1ml/分に設定した。
3.バルーンの回転速度を3~5.0 rev/sに設定し、噴霧前にバルーン3の表面をエタノールで濡らした。
4.超音波噴霧装置の超音波ノズル2とバルーン3との間の距離Lを10~30mmに調整し、周囲温度を18~28℃に制御した。
5.超音波噴霧装置の電源を入れ、バルーン3の軸方向に沿って10回前後に噴霧し、バルーン3上の最終薬物含有量を4.0μg/mmに制御した。
6.噴霧を受けたバルーン3を18~28℃の環境に置き、120分間乾燥させた。
【0037】
上記の実施例において、一連の薬物被覆バルーンを、ラパマイシンを用い、薬液に添加される試薬のタイプ及び比率を調節することによって作製し、即時であり制御可能であり遅くなった薬物代謝達成することができることを検証した。
【0038】
このうち、実施例1、2、3では、FKBP12阻害剤を添加した。FKBP12タンパク質に対する薬物cの結合能は薬物aの結合能よりも強かったので、実施例2及び3で作製した薬物被覆バルーンは、実施例1よりも薬物代謝が遅かった。また、実施例2、3における薬物に対しての阻害剤の比率は、それぞれ50%:50%、80%:20%であった。実施例3における阻害剤の含有量は比較的高く、得られた薬物代謝は極めて遅かった。
【0039】
実施例4及び実施例5ではCYP3A4阻害剤を添加し、薬物に対してのCYP3A4阻害剤の比率はそれぞれ50%:50%及び80%:20%であった。実施例5における阻害剤の含有量は比較的高く、得られた薬物代謝は極めて遅かった。実施例6及び7ではCYP3A4誘導剤を添加し、薬物に対してのCYP3A4誘導剤の比率は、それぞれ50%:50%及び80%:20%であった。実施例7における誘導剤の含有量は比較的高く、薬物の吸収を大幅に促進することができ、得られた薬物代謝は極めて速かった。
【0040】
実施例8では、CYP3A4阻害剤及びFKBP12阻害剤を添加し、FKBP12阻害剤をラパマイシンの受容体タンパク質FKBP12に結合させてFKBP12を阻害し、同時にCYP3A4阻害剤がCYP3A4アイソザイムによるラパマイシンの代謝を阻害した。これらの2つの態様の効果が、ラパマイシンの代謝をさらに遅くするために共働する。
【0041】
さらに、本発明の実施例において作製された薬物代謝制御可能な薬物被覆バルーンは、作用部位に配置された後にすぐ薬物放出を実現することができるので、徐放待ち期間がなく、また作用過程においては阻害剤又は誘導剤とタンパク質との間で相互作用するので、バルーン膨張により引き起こされる内膜裂傷という副作用がない。したがって、本発明の薬物被覆バルーンはより良好な治療効果を達成することができ、当該分野で開示された従来技術と比較して有意な進歩を有する。
【0042】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明した。当業者は、本発明の概念に従って、創造的な作業なしに多くの修正及び変更を行うことができることが理解されよう。したがって、本発明の概念に基づいて論理分析、推論、又は限定された実験によって当業者により得られうる任意の技術的解決策は、特許請求の範囲によって請求される保護の範囲内にある。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】