(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(54)【発明の名称】神経活動をモニタするためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20220930BHJP
【FI】
A61N1/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022507671
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(85)【翻訳文提出日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 AU2020050806
(87)【国際公開番号】W WO2021022332
(87)【国際公開日】2021-02-11
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520083792
【氏名又は名称】ディープ・ブレイン・スティムレーション・テクノロジーズ・ピーティーワイ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・シンクレア
(72)【発明者】
【氏名】ヒュー・マクダーモット
(72)【発明者】
【氏名】アーサー・ウェスリー・テヴァタサン
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン・ブルス
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ファロン
【テーマコード(参考)】
4C053
【Fターム(参考)】
4C053BB12
4C053JJ02
4C053JJ04
4C053JJ13
4C053JJ21
4C053JJ40
(57)【要約】
方法であって、異なる振幅を有する複数の電気刺激を患者の脳の中の第1位置において印加すること;複数の電気刺激のそれぞれについて脳内の標的神経構造体からの共振応答を検出することを含み、各共振応答が、各個々の電気刺激によって誘発されるものであり;検出共振応答の2つ以上の間に1つ以上の共通波形特性における変化を判定し;変化に基づいて第1位置における治療的刺激の送達の有効性を判定する、当該方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
方法であって、
a.異なる振幅を有する複数の電気刺激を患者の脳の中の第1位置において印加すること;
b.前記複数の電気刺激のそれぞれについて前記脳内の標的神経構造体からの共振応答を検出すること
を含み、各共振応答が、各個々の前記電気刺激によって誘発されるものであり;
c.検出した前記共振応答の2つ以上の間に1つ以上の共通波形特性における変化を判定すること;及び
d.前記変化に基づいて前記第1位置における治療的刺激の送達の有効性を判定すること;
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記1つ以上の共通波形特性が、以下:
a)前記共振応答の振幅;
b)前記共振応答の再興;
c)前記共振応答の周波数または周波数の変化;
d)前記共振応答の時間包絡線;
e)前記共振応答の微細構造;
f)前記共振応答の減衰の速度;
g)前記刺激の開始と前記共振応答の振幅の時間的特徴の開始との間の遅延時間;
のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記変化に基づいて前記標的神経構造体の治療的刺激のための前記異なる振幅の振幅を選択すること
をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記変化に基づいて前記標的神経構造体の治療的刺激のための前記第1位置を選択すること
をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1位置とは異なる前記脳内の第2位置においてa~dを繰り返すこと、及び、
前記1つ以上の共通波形特性における前記変化を前記第1位置と前記第2位置とで比較すること、
をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記比較に基づいて前記標的神経構造体の治療的刺激のために前記第1位置及び前記第2位置のうちの1つを選択することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
選択された位置において前記標的神経構造体に治療的刺激を印加すること
をさらに含む、請求項4または5に記載の方法。
【請求項8】
前記第1場所において印加される前記複数の電気刺激が、複数の電極のうちの第1電極によって印加される、請求項5~7に記載の方法。
【請求項9】
前記脳内の前記第1位置と前記第2位置との間で第1電極を移動させること;及び
前記比較に基づいて前記標的神経構造体の治療的刺激のための最適な電極場所を決定すること;
をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第2位置において印加される前記複数の電気刺激が、前記複数の電極のうちの第2電極によって印加される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記第1場所において印加される前記複数の電気刺激が、前記第1場所において2つ以上の電極によって印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記2つ以上の電極のうちの少なくとも1つが、前記第1位置に位置していない、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記共振応答が2つ以上の電極において検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記患者が全身麻酔下にある、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
検出した前記共振応答の前記2つ以上の間に前記1つ以上の共通波形特性における前記変化を判定することが、
検出した前記共振応答の前記2つ以上の間での前記共通波形特性の前記1つ以上における変化の速度を決定することを含む、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
神経刺激システムであって、
脳内の標的神経構造体の中または近傍での埋込に適合した少なくとも1つの電極;
前記少なくとも1つの電極のうちの1つ以上に選択的に結合されており、異なる振幅を有する複数の電気刺激を患者の脳の中の第1位置において前記少なくとも1つの電極を介して印加するように構成された、信号発生器;
前記少なくとも1つの電極のうちの1つ以上に選択的に結合されており、前記複数の電気刺激の各々によって誘発された前記標的神経構造体からの共振応答を検出するように構成された、測定装置;ならびに
前記測定装置に結合されており、検出した前記共振応答の2つ以上の間に1つ以上の共通波形特性における変化を判定するように及び前記変化に基づいて前記第1位置における治療的刺激の送達の有効性を判定するように構成された、処理ユニット;
を含む、前記神経刺激システム。
【請求項17】
前記1つ以上の共通波形特性が、以下:
a)前記共振応答の振幅;
b)前記共振応答の再興;
c)前記共振応答の周波数;
d)前記共振応答の時間包絡線;
e)前記共振応答の微細構造;
f)前記共振応答の減衰の速度;
g)前記刺激の開始と前記共振応答の振幅の時間的特徴の開始との間の遅延時間;
のうちの1つ以上を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記処理ユニットが、前記変化に基づいて前記標的神経構造体の治療的刺激のための前記異なる振幅の振幅を選択するようにさらに構成されている、請求項16または17に記載のシステム。
【請求項19】
前記処理ユニットが、前記変化に基づいて前記標的神経構造体の治療的刺激のための前記第1位置を選択するようにさらに構成されている、請求項16~18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項20】
前記少なくとも1つの電極が、前記第1位置に第1電極を、及び前記第1位置とは異なる第2位置に第2電極を含み;
前記信号発生器が、前記第1及び第2電極の各々に前記複数の電気刺激を印加するように構成されており;
前記測定装置が、前記第1及び第2電極の各々に印加された前記複数の電気刺激によって誘発された前記標的神経構造体からの前記共振応答を検出するように構成されており;
前記処理ユニットが、
前記第2位置にある前記第2電極に印加された前記複数の電気刺激の各々によって誘発された検出した前記共振応答の2つ以上の間に1つ以上の共通波形特性における変化を判定するように;
前記第1電極での検出した前記共振応答の前記2つ以上の、前記1つ以上の共通波形特性における前記変化を、前記第2電極での検出した前記共振応答の2つ以上の間での1つ以上の共通波形特性における変化と比較するように;ならびに
前記比較に基づいて前記標的神経構造体の治療的刺激のために前記第1電極及び前記第2電極のうちの1つを選択するように;
構成されている、
請求項16~19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項21】
前記信号発生器が、前記選択された電極を介して前記標的神経構造体に治療的刺激を印加するようにさらに構成されている、請求項19または20に記載のシステム。
【請求項22】
前記複数の電気刺激が前記少なくとも1つの電極のうちの第1電極に印加され;
前記信号発生器が、前記第1位置とは異なる前記脳内の第2位置への前記第1電極の移動に応答して前記複数の電気刺激を前記第2位置にある前記第1電極に印加するように構成されており;
前記測定装置が、前記第2位置にある前記第1電極に印加された前記複数の電気刺激の各々によって誘発された前記標的神経構造体からの前記共振応答を検出するように構成されており;
前記処理ユニットが、
前記第2位置にある前記第1電極に印加された前記複数の電気刺激の各々によって誘発された検出した前記共振応答の2つ以上の間に1つ以上の共通波形特性における変化を判定するように;
前記第1位置で検出された検出した前記共振応答の前記2つ以上の間での前記1つ以上の共通波形特性における前記変化を、前記第2位置で検出された検出した前記共振応答の2つ以上の間での1つ以上の共通波形特性における変化と比較するように;ならびに
前記比較に基づいて標的神経構造体の治療的刺激のための最適な電極位置を決定するように;
構成されている、
請求項16~18のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項23】
検出した前記共振応答の前記2つ以上の間に前記1つ以上の共通波形特性における前記変化を判定することが、
検出した前記共振応答の前記2つ以上の間での前記共通波形特性の前記1つ以上における変化の速度を決定することを含む、請求項16~22のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項24】
前記複数の電気刺激が、前記少なくとも1つの電極のうちの2つ以上の電極によって第1場所において印加される、請求項16~19のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項25】
前記2つ以上の電極のうちの少なくとも1つが、前記第1位置に位置していない、請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
前記共振応答が前記少なくとも1つの電極のうちの2つ以上において検出される、請求項16~19のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、脳深部刺激(DBS)に関し、詳しくは、DBSに応答した神経活動をモニタする方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
脳深部刺激(DBS)は、運動障害、ならびに他のてんかん、強迫性障害及び鬱病を含めた神経障害に対する確立された療法である。DBSは典型的には、投薬だけで症候を十分に制御することができない患者に対して施行される。DBSは、脳の特定の神経構造体の中または近傍、典型的には、視床下核(STN)、淡蒼球内節(GPi)及び/または視床の中に電極を外科的に埋め込むことを伴う。電極は、電気パルスを標的領域内に送達するように構成された大抵体内に埋め込まれる神経刺激装置に接続される。この電気刺激は、患者の症候との因果関係がある異常な脳活動を妨害するものと考えられている。刺激パラメータは、神経刺激装置に遠隔接続された、身体の外部のコントローラを使用して調節され得る。
【0003】
確立されたDBS技術は、運動障害の症候を軽減するのに有効であることが証明されているが、現状技術の装置にはいくつかの制限がある。特に、脳における正確な位置決めを確保するためのDBS電極の術中検査のための確立された技術、例えば、X線撮像、微小電極記録及び臨床評価は不正確である場合がある。その結果、電極はしばしば最適未満の場所に埋め込まれ、治療転帰の劣化、及び望まれない副作用という結果を招く。DBS装置は、埋め込まれた後に臨床医によって手動で調節される必要がある。これは典型的には、患者の症候の直近または短期間の改善についての概して主観的な評価に基づいて臨床医が刺激のパラメータを調節することを含む。治療効果は現れるのが遅いことがあるため、また、DBSパラメータ空間は広いため、パラメータの好ましい組を見つける作業は時間的及びコスト的に非効率的であり、最適未満の治療転帰を招くことがある。加えて、従来のDBSを用いた電気刺激の一定で不変な印加も、望まれない副作用を含めた最適未満の治療転帰、及びDBS刺激装置の電池寿命の短縮を招くことがある。
【発明の概要】
【0004】
本開示の第1の態様によれば、方法であって、a)異なる振幅を有する複数の電気刺激を患者の脳の中の第1位置において印加すること;複数の電気刺激のそれぞれについて;b)脳内の標的神経構造体からの共振応答を検出することを含み、各共振応答が、各個々の電気刺激によって誘発されるものであり;c)検出共振応答の2つ以上の間に1つ以上の共通波形特性における変化を判定すること;d)変化に基づいて第1位置における治療的刺激の送達の有効性を判定することを含む、当該方法が提供される。
【0005】
1つ以上の共通波形特性は、以下のうちの1つ以上を含み得る:共振応答の振幅;共振応答の再興;共振応答の周波数;共振応答の時間包絡線;共振応答の微細構造;共振応答の減衰の速度;刺激の開始と共振応答振幅の時間的特徴の開始との間の遅延時間。
【0006】
検出共振応答の2つ以上の間に1つ以上の共通波形特性における変化を判定することは、検出共振応答の2つ以上の間での共通波形特性の1つ以上における変化の速度を決定することを含み得る。
【0007】
方法は、変化に基づいて標的神経構造体の治療的刺激のための異なる振幅の振幅を選択することをさらに含み得る。
【0008】
方法は、変化に基づいて標的神経構造体の治療的刺激のための第1位置を選択することをさらに含み得る。
【0009】
方法は、第1位置とは異なる脳内の第2位置においてa~dを繰り返すこと、1つ以上の共通波形特性における変化を第1位置と第2位置とで比較することをさらに含み得る。方法は、比較に基づいて標的神経構造体の治療的刺激のために第1位置及び第2位置のうちの1つを選択することをさらに含み得る。方法は、選択された位置において標的神経構造体に治療的刺激を印加することをさらに含み得る。
【0010】
第1場所において印加される複数の電気刺激は、複数の電極のうちの第1電極によって印加され得る。方法は、脳内の第1位置と第2位置との間で第1電極を移動させること;及び1つ以上の共通波形特性における変化の第1位置と第2位置とでの比較に基づいて標的神経構造体の治療的刺激のための最適な電極場所を決定することをさらに含み得る。
【0011】
第2位置において印加される複数の電気刺激は、複数の電極のうちの第2電極によって印加され得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、第1場所において印加される複数の電気刺激は、第1場所において2つ以上の電極によって印加される。いくつかの実施形態では、2つ以上の電極のうちの少なくとも1つは、第1位置に位置していない。いくつかの実施形態では、共振応答は2つ以上の電極において検出される。
【0013】
方法は、脳内の第1位置から複数の電極を除去すること、及び永久的な1つ以上の電極を脳内の第1位置において埋め込むことをさらに含み得る。
【0014】
上記ステップのいずれかまたは全てにおいて、患者は全身麻酔下にあり得る。いくつかの実施形態では、少なくとも上記ステップa~dにおいて患者は全身麻酔下にあり得る。
【0015】
本開示の別の態様によれば、神経刺激システムであって、脳内の標的神経構造体の中または近傍での埋込に適合した少なくとも1つの電極;少なくとも1つの電極のうちの1つ以上に選択的に結合されており、異なる振幅を有する複数の電気刺激を患者の脳の中の第1位置において少なくとも1つの電極を介して印加するように構成された、信号発生器;少なくとも1つの電極のうちの1つ以上に選択的に結合されており、複数の電気刺激の各々によって誘発された標的神経構造体からの共振応答を検出するように構成された、測定装置;ならびに測定装置に結合されており、検出共振応答の2つ以上の間に1つ以上の共通波形特性における変化を判定するように及び変化に基づいて第1位置における治療的刺激の送達の有効性を判定するように構成された、処理ユニットを含む、当該神経刺激システムが提供される。
【0016】
検出共振応答の2つ以上の間に1つ以上の共通波形特性における変化を判定することは、検出共振応答の2つ以上の間での共通波形特性の1つ以上における変化の速度を決定することを含み得る。
【0017】
1つ以上の共通波形特性は、以下のうちの1つ以上を含み得る:共振応答の振幅;共振応答の再興;共振応答の周波数;共振応答の時間包絡線;共振応答の微細構造;共振応答の減衰の速度;刺激の開始と共振応答振幅の時間的特徴の開始との間の遅延時間。
【0018】
処理ユニットは、変化に基づいて標的神経構造体の治療的刺激のための異なる振幅の振幅を選択するようにさらに構成され得る。処理ユニットは、変化に基づいて標的神経構造体の治療的刺激のための第1位置を選択するようにさらに構成され得る。
【0019】
少なくとも1つの電極は、第1位置に第1電極を、及び第1位置とは異なる第2位置に第2電極を含み得る。信号発生器は、第1及び第2電極の各々に複数の電気刺激を印加するように構成され得る。測定装置は、第1及び第2電極の各々に印加された複数の電気刺激によって誘発された標的神経構造体からの共振応答を検出するように構成され得る。処理ユニットは、第2位置にある第2電極に印加された複数の電気刺激の各々によって誘発された検出共振応答の2つ以上の間に1つ以上の共通波形特性における変化を判定するように;第1電極での検出共振応答の2つ以上の、1つ以上の共通波形特性における変化を、第2電極での検出共振応答の2つ以上の間での1つ以上の共通波形特性における変化と比較するように;ならびに比較に基づいて標的神経構造体の治療的刺激のために第1電極及び第2電極のうちの1つを選択するように構成され得る。
【0020】
信号発生器は、選択された電極を介して標的神経構造体に治療的刺激を印加するようにさらに構成され得る。
【0021】
複数の電気刺激は少なくとも1つの電極のうちの第1電極に印加される。信号発生器は、第1位置とは異なる脳内の第2位置への第1電極の移動に応答して複数の電気刺激を第2位置にある第1電極に印加するように構成され得る。測定装置は、第2位置にある第1電極に印加された複数の電気刺激の各々によって誘発された標的神経構造体からの共振応答を検出するように構成され得る。処理ユニットは、第2位置にある第1電極に印加された複数の電気刺激の各々によって誘発された検出共振応答の2つ以上の間に1つ以上の共通波形特性における変化を判定するように;第1位置で検出された検出共振応答の2つ以上の間での1つ以上の共通波形特性における変化を、第2位置で検出された検出共振応答の2つ以上の間での1つ以上の共通波形特性における変化と比較するように;ならびに比較に基づいて標的神経構造体の治療的刺激のための最適な電極位置を決定するように構成され得る。
【0022】
いくつかの実施形態では、第1場所において印加される複数の電気刺激は、第1場所において2つ以上の電極によって印加される。いくつかの実施形態では、2つ以上の電極のうちの少なくとも1つは、第1位置に位置していない。いくつかの実施形態では、共振応答は少なくとも1つの電極のうちの2つ以上の電極において検出される。
【0023】
本明細書の全体を通して、「含む(comprise)」という語、または「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」などの変化形が、示された要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を包含するが他の任意の要素、整数もしくはステップ、または要素、整数もしくはステップの群を排除しないことを暗に意味していることは、理解されよう。
【0024】
これより、図面を参照して非限定的な例によって本開示の実施形態を説明することにする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】脳深部刺激(DBS)信号に応答した、神経構造体からの共振を示すグラフである。
【
図2】パターン化DBS信号に応答した、神経構造体からの共振を示すグラフである。
【
図3】患者の視床下核の近傍にある電極導線の異なる挿入深度における0.3mA、0.67mA、1.5mA及び3.38mAのパターン化刺激に応答した、神経構造体からの観察された共振をグラフに示す。
【
図4A】1.5mAの振幅を有するパターン化DBSに応答した、2つのピークに分岐し始めている誘発共振を示すグラフである。
【
図4B】2.25mAの振幅を有するパターン化DBSに応答した、2つのピークに分岐している誘発共振を示すグラフである。
【
図4C】3.375mAの振幅を有するパターン化DBSに応答した2つの別個な誘発共振ピークを示すグラフである。
【
図5】患者の視床下核の近傍にある電極導線の異なる挿入深度における0.3mA、0.67mA、1.5mA及び3.38mAのパターン化刺激に応答した、神経構造体からの観察された共振をグラフに示す。
【
図6】患者の視床下核の近傍にある電極導線の異なる挿入深度における0.3mA、0.67mA、1.5mA及び3.38mAのパターン化刺激に応答した、神経構造体からの観察された共振をグラフに示す。
【
図7】患者の視床下核の近傍にある電極導線の異なる挿入深度における0.3mA、0.67mA、1.5mA及び3.38mAのパターン化刺激に応答した、神経構造体からの観察された共振をグラフに示す。
【
図7A】患者の視床下核の近傍にある電極導線の異なる挿入深度における1.5mAのパターン化刺激に応答した、神経構造体からの観察された共振、及び挿入深度ごとのウェーブレット変換に基づく関連スペクトログラムをグラフに示す。
【
図7B】患者の視床下核の近傍にある電極導線の異なる挿入深度における3.38mAのパターン化刺激に応答した、神経構造体からの観察された共振、及び挿入深度ごとのウェーブレット変換に基づく関連スペクトログラムをグラフに示す。
【
図8】脳内埋込のための電極導線先端の模式図である。
【
図9】脳の視床下核の中に埋め込まれた電極導線の模式図である。
【
図10】DBSを施行するためのシステムの模式図である。
【
図11】脳内にDBS電極を配置するプロセスを示す流れ図である。
【
図12】複数の電極での刺激に応答した複数の電極での共振応答をモニタ及び処理するプロセスを示す流れ図である。
【
図13】
図12に示されるプロセスに従って脳内に埋め込まれた異なる電極において測定された、刺激信号に応答した共振応答をグラフに示したものである。
【
図14】治療的刺激期間と非治療的刺激期間との切替わりを誘発応答の共振活動特徴と対照してグラフに示す。
【
図15A】本開示の実施形態によるパターン化刺激信号を示す。
【
図15B】本開示の実施形態による別のパターン化刺激信号を示す。
【
図16】患者のSTN(小さい方の塊)及び黒質(大きい方の塊)の中に埋め込まれた電極アレイの三次元復元図である。
【
図17】A~Cは、電極アレイの位置決めを示す、患者の脳のMRIとCTとの融合スキャンである。
【
図18】電極位置に対するERNA振幅の変動をグラフに示す。
【
図19A】19個の脳半球についてDBS振幅に対するERNA周波数をグラフに示す。
【
図19B】19個の脳半球についてDBS振幅に対するERNA振幅をグラフに示す。
【
図19C】19個の脳半球についてDBS振幅に対する相対ベータ(RMS
13-30Hz/RMS
4-45Hz)をグラフに示す。
【
図19D】19個の脳半球についてERNA周波数と相関する相対ベータ(ρ=0.601、p<0.001)をグラフに示す。
【
図20A】19個の脳半球について、DBS後の連続する15秒期間の間の、及びDBS前の最後の15秒でのERNA周波数ウォッシュアウトをグラフに示す。
【
図20B】19個の脳半球についてERNA振幅ウォッシュアウトをグラフに示す。
【
図20C】19個の脳半球について相対ベータウォッシュアウトをグラフに示す。
【
図20D】19個の脳半球について200~400HzのHFO帯域におけるウォッシュアウトをグラフに示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示の実施形態は、脳での神経刺激における改善に関する。具体的には、本開示の実施形態は、DBS電極に印加された電気刺激に応答した誘発共振神経活動(ERNA)を比較することによって、脳におけるDBS電極の配置のための技術を改善するものである。
【0027】
DBS装置は、典型的に、一定な振幅の刺激を脳の標的領域に130Hzの一定な周波数で印加する。そのような刺激の印加が脳の標的領域からの神経応答を誘発すること、及び神経応答が共振成分を含むことが、以前に判明している。従来の周波数での連続的なDBSは、共振活動を観察するのに十分長い時間窓を可能にしない、ということが以前に報告された。しかしながら、(刺激信号をパターン化することなどによって)刺激が中断された後の脳における誘発神経応答をモニタすることによって、共振活動をモニタすることができる。このことは国際出願番号PCT/AU2017/050809に詳しく記載されており、これをもって参照によりその内容の全体を援用する。そのような技術は、運動器疾患に関連する身体作用を軽減することと、他の神経症状、神経精神障害、感覚障害及び疼痛の有害作用も軽減することとの両方のための用途を有する。
【0028】
図1は、パーキンソン病(PD)患者の視床下核(STN)の中に埋め込まれた電極導線、例えば、Medtronic(RTM)によって製造された3387電極導線を介して神経刺激装置から送達された130Hzの信号によって刺激された神経回路からの応答をグラフに示したものである。刺激パルスに対する各応答は、誘発複合活動電位(ECAP)成分を、ECAPの後に発生する誘発共振神経活動(ERNA)の成分と一緒に含む。ECAPは、刺激パルスから1~2ミリ秒以内に発生するのが典型的である。グラフは、一連の最後3つの60秒間連続刺激のパルスとそれに続く無刺激期間とに対する応答を示す。
図1に示される最初の2つの刺激パルスの各々に対する誘発共振応答は次の刺激パルスの開始によって、単一の二次ピークしか検出されないように中断されていることが分かる。しかしながら、第3(及び最後)のパルスに対する誘発共振応答はより長い間にわたって共振できており、このため、約30ミリ秒の刺激後期間にわたって少なくとも7つのピークを有する減衰振動の形態で明瞭に見えている。
【0029】
ある方法でDBSパラメータを制御することによって、治療的影響を何ら伴わずに、または望まれない副作用を引き起こさずに患者において共振神経応答(ERNA)を誘発する非治療的刺激を施行できることが見出された。そのような非治療的刺激は、共振神経回路または患者の症候状態に持続的変化を引き起こさずにERNAを確実に測定するために用いられ得る。非治療的刺激は好ましくは、パルスの短期バーストとそれに続く無刺激期間とを含む刺激を施行することによって成し遂げられ、ERNAはこの無刺激期間中に測定される。そうすることによって、患者に与えられる総電荷またはエネルギーは治療閾値未満となり、測定されるERNAは患者の自然状態(療法なし)に関する情報をもたらす。代替実施形態では、刺激信号の振幅を治療閾値未満に低減することによって、患者に与えられる全体電荷またはエネルギーが低減され得る。しかしながら、そうすることでERNAのピークの振幅も低くなり得、観察するのがより難しくなり得る。
【0030】
パターン化刺激は、患者の治療的刺激の間の誘発共振神経活動をモニタ及び分析するためにも用いられ得る。刺激信号をパターン化することによって、第1共振ピークを経た後またはより好ましくは2つ以上の共振ピークを経た後の共振応答をモニタするための時間窓を提供しつつも、治療的刺激を維持することができる。
【0031】
図2は、本開示の実施形態による一例としての治療的パターン化DBS刺激20及び関連する誘発共振応答をグラフに示す。刺激と応答との相関性を示すためにグラフの上にパターン化刺激20を示す。パターン化刺激では、連続していた130Hzのパルス列から単一のパルスが省かれている。したがって、パルス列は連続刺激のパルスの複数のバーストを含み、バースト同士は第1期間t
1だけ離隔しており、複数のパルスの各々は第2期間t
2によって隔てられている。パルス(または1つより多いパルス)の省略の前後での刺激の継続がDBSの治療的性質を維持する一方、パルスの省略は、ERNAの共振を次の刺激パルスによるこの共振の妨害の前にいくつかの(この例では3つの)共振周期にわたってモニタすることを可能にする。
【0032】
要するに、非治療的及び治療的刺激をパターン化することによって、従来の非パターン化刺激を用いた場合よりも長い期間にわたって誘発応答をモニタすることができる。かくして、刺激は、バースト同士が無刺激の第1期間t1だけ離隔しておりパルス同士が第2期間t2だけ離隔している複数パルスのバーストとして印加されることが好ましい。例えば、刺激信号は、130Hzでの一続きの10パルスのバーストを含み得る。結果の再現性を高めるために、多パルスバーストは無刺激の所定期間の後に繰り返され得る。例えば、多パルスバーストを1秒ごとに繰り返してもよい。第1期間t1の持続時間は第2期間t2のそれよりも長い。バーストの持続時間とバースト間の持続時間との比率は、ERNAの重要な特質を簡単かつ効率的にモニタできることを確保するように選択され得る。いくつかの実施形態では、各バーストの持続時間は、バースト間の無刺激の持続時間の1~20%となるように選択される。
【0033】
パターン化刺激は、(例えば130Hzの周波数の)治療的刺激に、より低い周波数(例えば90Hz)を有する刺激のバーストを差し挟むことによっても実現され得る。差し挟まれるこれらのバーストの周波数は、複数のERNAピークの観察を可能にするほど低いことが好ましい。同様に、差し挟まれるこれらのバーストの周波数は、DBSのための治療周波数範囲に入るほど高いことが好ましい。周波数間の遷移が急激であってもよいし、あるいは周波数の変化が緩やかであってもよい。パルスの周波数に傾斜を付けて周波数の急激な段階変化を回避することは有益であり得る。
【0034】
印加する刺激の周波数を調節することに加えて、またはその代わりに、パルスの振幅を経時的に変調してもよい。これは、バースト内のいくつかのパルスを通してパルス振幅を増大させる傾斜、及び/またはバースト内のいくつかのパルスを通してパルス振幅を減少させる傾斜を付けることを含み得る。ERNAのモニタを強化するためには、観察窓に先行するパルスに固定の振幅を適用することが有益であり得、(例えば治療的利益を最大限にするために)この振幅が他の時間に適用されるそれとは異なる場合にはパルスの振幅に傾斜を付けて振幅の急激な段階変化を回避することが有益であり得る。
【0035】
上記のようなパターン化技術を用いて、異なる振幅を有する刺激に応答したERNAをモニタすることができる。これらの観察結果から、治療的刺激の有効性と、異なる振幅を有する刺激に応答した誘発共振の共通波形特性の変化との間に関係性が存在することが見出された。例えば、有効な治療的刺激を施行する電極では、刺激振幅を増大させることは誘発共振の振幅における変化をもたらす。対照的に、療法のための有効性がより低い電極では、刺激振幅における変化は誘発共振の振幅にあまり影響を及ぼさない。
【0036】
図3は、患者の視床下核の近傍にある電極導線の異なる挿入深度における(左から右に向かって)0.3mA、0.67mA、1.5mA及び3.38mAのパターン化刺激に応答して観察されたERNAをグラフに示す。刺激を130Hzで10パルスのバーストとして単一の電極に印加した。各振幅で、1秒あたり2回のバーストを各々4秒間にわたって印加した(つまり、振幅1つにつき8回のバースト)。ERNA応答を抽出し、高域フィルタ(3次バターワース型、fc=130Hz)及び低域フィルタ(1次バターワース型、fc=1000Hz)を用いて各応答をフィルタ処理することによってトレンド除去した。
図3中の各グラフのx軸上の深度目盛りは外科標的に対する相対的な電極の位置を表す。この標的が必ずしも理想的な電極場所に対応してはおらず、むしろ電極導線を埋め込む最中の目標となる場所を外科医に提供する患者の脳内の固定の基準場所に対応しているということに留意されたい。外科的埋込において、外科標的は、典型的には定位イメージングまたはそれに類似するものによって同定された解剖学的目印に基づいて選択され、典型的には治療標的よりも2~4mm程度深い。
【0037】
0.3mAの振幅での刺激に応答したERNAにあたる
図3中の最左グラフを参照して、ERNAの最大振幅は、外科標的、すなわち0の深度に現れることが見て取れる。しかしながら、刺激振幅が増大するにつれて、外科標的において測定されたERNAの振幅はあまり変化しないままであることが見て取れる。対照的に、-1、-2及び-3mmの所(すなわち、外科標的よりも1、2及び3mm上側)で観察されたERNAの振幅は大幅に増大しており、最大変化が-2の深度(すなわち、外科標的から2mmの所)にある。治療的DBSはこの場所において最も有効となり得ると考えられる。
【0038】
上記は、異なる埋込場所及び異なる振幅の両方で印加された刺激に応答したERNAを観察することによって治療的刺激のための最適な電極位置決めがより効率的かつより正確に実現され得ることを示している。
【0039】
場合によって誘発活動が複数の共振を含んでいることも、以前に見出されている。
図4a、
図4b及び
図4cは、それぞれ1.5mA、2.25mA及び3.375mAでの連続DBSに応答したERNAを示す。1.5mAにおいて、共振ERNAは単独ピークとして始まっているが、これは2つのピークにわずかに分岐し始めているのが見て取れる。2.25mAにおいて、優勢は2つのピークのうち後発の方に切り替わっている。他方、1.5mAで優勢であった先発ピークは、より低い振幅で継続している。3.375mAにおいては、2つのピークが存在しており、後発ピークが優勢である。これらの複数の共振ピークは、異なる神経回路における活動に対応していると考えられる。これらの共振応答(または他の特徴、例えば時間的またはスペクトル特質)間での相対振幅は治療状態の指標となり得る。
【0040】
ERNAにおける再興は、複数の共振応答が重なり合った結果であるという仮説が立てられる。
図5は、患者の視床下核の近傍にある電極導線の異なる挿入深度における(左から右に向かって)0.3mA、0.67mA、1.5mA及び3.38mAでの、
図3を参照して上に説明されているのと同じパターン化刺激に応答して観察されたERNAをグラフに示す。
図5は、より長い期間(75ms)にわたって観察されたERNAを示す。3.38mAの刺激に応答して-2mmの深度で観察されたERNAにおいて、再興が見て取れる。
【0041】
図6及び
図7は、
図3及び
図5を参照して上に説明されているのと同じパターン化刺激に応答して別の患者で観察されたERNAをグラフに示す。
図6が25msにわたるERNAを示す一方、
図7はより長い75msの期間にわたるERNAを示す。この患者の場合、
図6中により明瞭に示されている25msのより短い期間を通して、ERNA振幅における成長は外科標的及び-1mmにおいて同程度である。しかしながら、
図7に示される75msのより長い期間を通して、治療的刺激のための最適な電極配置に対応すると考えられる-1mmにおいてかなりの再興が認められる。したがって、ERNAにおける再興と最適な電極配置との間には相関性が存在すると見受けられる。
【0042】
図7A及び
図7Bは、それぞれ1.5mA及び3.38mAの刺激振幅について、外科標的から-2mm、-1mmの深度及び外科標的での、
図7に示されている観察されたERNA(左)を示す。
図7A及び
図7Bの各々の右には、各深度について、左に描かれたERNAに対応するウェーブレット変換に基づく関連スペクトログラムが示されている。各スペクトログラムは(上記の)刺激の8回のバーストに対する8つの応答のスペクトルの平均を表す。スペクトログラムは、MatLab(RTM)cwt関数(「モールス」ウェーブレット、ガンマ=5、時間帯域幅=120)、1オクターブあたり32音)を用いて生成された。
【0043】
ウェーブレットスペクトログラムは、再興が2つの周波数での重ね合わせまたは共振と一致しているという仮説を支持している。例えば、-1mmの挿入深度で観察されたERNAに対するウェーブレットスペクトログラムは、0とおよそ20msとの間に2つの周波数成分を含んでいるようである。およそ15msから、周波数成分は単一の周波数成分に融合しているようである。観察されたERNAの再興は、複数の周波数成分のこの融合の直後に起こっているようである。
【0044】
図7A~
図7B中の観察されたERNAグラフからは、刺激と観察されたERNAの開始との間の潜時が挿入深度によって変動することも見て取れる。具体的には、配置された電極が外科標的に近づくにつれて潜時が増大するようである。それゆえに、外科標的に対する電極の位置、標的に対する距離、標的に対する方向(複数の(つまり3つ以上)の電極を使用して三角法で測る)などを見極めるためにERNA開始潜時が用いられ得ることは認識されよう。
【0045】
ERNA波形の様々な特性、例えば、第1ピークまでの時間、ERNAピーク間の遅延時間、不定のERNA振幅及び再興が患者に特異的なものであり得ることは認識されよう。好都合なことに、DBS刺激を制御するためのそのようなデータへのいかなる依存も、刺激制御(例えば閉ループ制御)のための計画を生成するための各患者に関連するERNA波形及び運動障害の初期特性評価を基準とすることになる。
【0046】
刺激された神経回路の共振挙動における変化と患者の疾患症候との間の相関性の同定は、限定はされないが、DBS電極の最初の埋込及びその後の再配置の技術と併せて、DBS刺激のパラメータの設定、及びDBS療法進行中に即時にDBSパラメータを調節するためのフィードバック利用の技術を含めたDBS療法の態様を改良するいくつかの機会を提供する。
【0047】
これより、いくつかの実施形態を参照しながら上記誘発共振神経活動の複数の実用的用途について述べることにする。実施形態において、脳の片方または両方の半球の中の1つ以上の神経構造体の刺激のために1本以上の電極導線が使用され得、各導線は、各導線の先端付近に位置する1つ以上の電極を含み得る。各々の電極が、刺激、モニタ、または刺激とモニタとの両方のために用いられ得る。これらの電極のうちの1つ以上が埋め込まれ得る。埋め込まれた電極は、独立して使用され得るか、または脳もしくは頭蓋骨の外部に配置された1つ以上の電極に対して付加的に使用され得る。
【0048】
Medtronic(RTM)DBS導線モデル3387に組み込まれているような典型的なDBS電極導線先端70を
図8に示す。導線先端70は、第1電極72a、第2電極72b、第3電極72c及び第4電極72dを含む。電極72a、72b、72c、72dの各々は、脳内に埋め込まれた時点で、1つ以上の神経構造体に刺激を印加するためまたは刺激に対する神経回路からの誘発応答(ERNAを含む)をモニタし任意選択的に記録するために使用され得る。他の実施形態では、より多くの電極、または異なる大きさもしくはトポロジーを有する電極を備えた導線が使用され得る。加えて、1つ以上の基準電極は遠隔部位に位置し得、DBS導線上の1つ以上の電極を刺激のために作動させるかまたは信号モニタのために使用するときに電気回路を完結させるために使用され得る。
【0049】
導線先端70のための標的場所は神経構造体によって様々である。標的構造体の例としては、視床下核(STN)、黒質網様部(SNr)及び淡蒼球内節(GPi)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
図9は、脳内の標的構造体、この例では視床下核(STN)82に埋め込まれた導線先端70を示す。電極先端70を典型的な直径が5~6mmである視床下核(STN)82と交差させることが非常に困難な外科的作業となり得ることは認識されよう。現在、電極先端70を局在させるためには定位イメージング、微小電極記録、術中x線撮像などの技術、及び患者の症候を追跡評価しながら治療的刺激を印加することが用いられている。しかしながら、これらの方法は精度に欠けることがある。加えて、既存の方法は通例、患者が手技のために覚醒していることを必要とする、というのも、電極が脳内の標的構造体に対して好適な場所にあることを確認するために患者からの随意的応答が用いられ得るからである。この理由から、DBS療法の多くの潜在的レシピエントは外科手技中に覚醒していなければならないことを快く思わないので選択肢を拒絶する。
【0051】
標的構造体内での電極先端70の電極の位置決めの精度は、一続きのパターン化刺激を用いて誘発共振応答を神経標的から発生させ測定することによって大幅に向上し得る。そのような技術は、電極をはるかにより正確に標的神経構造体に対する脳内の正しい場所に配置することができるので、患者が埋込手技中に覚醒している必要をなくすことができる。これは、十分な精度で電極を位置決めする上で患者によるフィードバックが何ら必要とされないので術中に患者が鎮静状態または全身麻酔下でいられることを意味する。
【0052】
本開示の実施形態によるDBS送達システム90の一例を
図10に示す。システム90は、一体化された複数の電極72a、72b、72c、72dを含む
図8の導線先端70を、処理ユニット92、信号発生器94、測定回路96及び任意選択のマルチプレクサ98と一緒に含んでいる。処理ユニットは、中央処理ユニット(CPU)100、記憶装置102、ならびにCPU100及び記憶装置102のうちの1つ以上に通信可能に結合された入力/出力(I/O)バス104を含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、マルチプレクサ98は、電極72a、72b、72c、72dを信号発生器94及び/または測定回路96に接続するかどうかを制御するために提供される。他の実施形態ではマルチプレクサが必要とされないことがある。例えば、代わりに電極72a、72b、72c、72dを信号発生器94と測定回路96との両方に直接接続してもよい。
図10では電極72a、72b、72c、72dの全てがマルチプレクサ98に接続されているが、他の実施形態では電極72a、72b、72c、72dのうちの1つまたはいくつかだけを接続してもよい。
【0054】
測定回路96は、1つ以上の増幅器、及び限定はされないがERNAを含めた神経応答を測定するためのサンプリング回路を含むデジタル信号処理回路を含み得る。いくつかの実施形態では、測定回路96は、受信した信号から局所電場電位を含めた他の情報も抽出するように構成され得る。また、測定回路96を信号発生器94と併せて使用して電極インピーダンスを測定してもよい。測定回路96は、処理ユニット92の外部にあってもよいし、またはその中に一体化されていてもよい。一方の測定回路96及び/または信号発生器94と、他方のI/Oポートとの間での通信は、有線のものであってもよいし、または無線結合によるもの、例えば、誘導結合、WiFi(RTM)、Bluetooth(RTM)などを介したものであってもよい。電力は、少なくとも1つの電源106によってシステム90に供給され得る。電源106は、患者の中に埋め込まれたときにシステム90の要素が電力を維持できるような、電池を含み得る。
【0055】
信号発生器94は、マルチプレクサ98を介して電極72a、72b、72c、72dのうちの1つ以上に結合され、処理ユニット92から受信した信号に基づいて各電極に電気刺激を送達するように作動することができる。この目的のために、信号発生器94、マルチプレクサ98及び処理ユニット92は、情報をそれらの間で転送できるように通信可能に結合されてもいる。
図10中の信号発生器94、マルチプレクサ98及び処理ユニット92は別個のユニットとして示されているが、他の実施形態では信号発生器94及びマルチプレクサが処理ユニット92と一体化されていてもよい。さらには、どのユニットが埋め込まれて、または患者の身体の外部に位置していてもよい。
【0056】
システム90は、1つ以上の入力装置108及び1つ以上の出力装置110をさらに含み得る。入力装置108は、限定されないが、キーボード、マウス、タッチパッド及びタッチスクリーンのうちの1つ以上を含み得る。出力装置の例としては、ディスプレイ、タッチスクリーン、光表示装置(LED)、音発生装置及び触覚発生装置が挙げられる。入力及び/または出力装置108、110は、ユーザーに例えばERNAの特性または後に得られた指標(例えば、脳内の神経構造体に対する電極70の接近)に関してフィードバック(例えば、視覚、聴覚または触覚フィードバック)を提供するように構成され得る。この目的のために、入力装置108の1つ以上は出力装置110、例えばタッチスクリーンまたは触覚ジョイスティックでもあり得る。入出力装置108、110はまた、処理ユニット92に有線または無線接続され得る。入出力装置108、110は、患者に装置の制御(すなわち患者コントローラ)を提供するように、または臨床医が刺激設定をプログラムしてERNA特性に対する刺激パラメータの影響のフィードバックを受信するのを可能にするように構成され得る。
【0057】
システム90の1つ以上の要素は可搬式であり得る。1つ以上の要素は、患者の中に埋め込むことができるものであり得る。いくつかの実施形態では、例えば、信号発生器94及び導線70は、患者の中に埋め込むことができるものであり得、処理ユニット92は患者の皮膚の外部にあり得、RF伝送(例えば、誘導、Bluetooth(RTM)など)を介した信号発生器との無線通信のために構成され得る。他の実施形態では、処理ユニット92、信号発生器94及び導線70は全て患者の身体の中に埋め込まれ得る。いずれの場合においても、信号発生器94及び/または処理ユニット92は、患者の身体の外部に位置するコントローラ(図示せず)と無線通信するように構成され得る。
【0058】
本開示の一実施形態は、測定されたERNAを用いて導線先端70を脳の標的構造体の中に局在させるためのシステム及び方法を提供する。導線先端70を脳内に埋め込むための操作の間、上記のような精度の低い位置決め技術に頼って脳内の神経構造体に対する相対的な電極の場所を推定する代わりに、システム90が使用されて、導線先端70の1つ以上の電極から受信された誘発応答信号の強さ及び質などの特性に基づいて即時フィードバックが外科医に提供され得る。このフィードバックは、標的構造体内での位置を三次元で推定するため及び電極を再配置すべきかまたは電極を除去して異なる軌道に沿って再び埋め込むべきかについての判断を知らせるために使用され得る。
【0059】
図11は、様々な振幅での刺激に応答して様々な電極場所でERNAが測定されるそのようなプロセスの一般例を示す。プロセスは、
図8を参照して説明されるような電極導線先端が術中に所定の軌道に沿って標的神経構造体に向かって進んだ状態でステップ112から開始される。電極導線を進ませる歩幅(または空間的分解能)は、外科医及び/または臨床医によって選択され得る。いくつかの実施形態では、歩幅は1mmである。ステップ112では、上記のようなパターン化刺激をY個の振幅のうちの振幅Aで電極に印加するが、このYは、導線先端70の電極に対して刺激のために用いられる異なる振幅の総数である。刺激は、導線先端70が埋め込まれている間、全時間にわたって印加され得る。あるいは、パターン化信号は所定回数、例えば10回繰り返され得る。誘発応答は、刺激を印加するために使用されたのと同じ電極で測定されてもよいし、または1つ以上の異なる電極で測定されてもよい。そうすることによって、標的神経構造体に対する相対的な各電極の場所のより正確な推定値が得られ得る。
【0060】
ステップ114でERNAが測定された後、ステップ115では、ERNAがパターン化刺激のY個全ての振幅について測定された場合、プロセスはステップ116へと続く。さもなければ、同じ場所にある電極(複数可)を使用してA~Yの異なる振幅でステップ112及び114が繰り返される。振幅増分の大きさは、本来患者に特異的なものであり得る様々な振幅のERNAについての正確な特性評価を可能にするのに必要とされる結果の細かさが得られるように、選択され得る。いくつかの実施形態では、刺激振幅は、
図3及び
図5~7に示されているように0.3mA、0.67mA、1.5mA及び3.38mAである。
【0061】
ステップ116では、Y個全ての振幅での刺激が印加され各々のERNAが記録された時点で、ステップ117で電極導線を進ませる。その後、標的神経構造体またはそれをわずかに超えた所にあり得る最大許容深度まで電極導線先端が挿入されるまで、ステップ112~116を繰り返す。
【0062】
ステップ112~116を繰り返すことによって、異なる振幅の刺激について、挿入軌道に沿った異なる場所での誘発応答のプロファイルまたはマップが生成され得る。誘発応答のプロファイルは、複数の電極からの、またはたった1つの電極からの測定結果を含み得る。異なる深度及び異なる振幅での誘発応答のプロファイルは、1つ以上の出力装置110に出力され得る。誘発応答のプロファイルはその後、ステップ118において、好ましい電極場所を同定できるか否かを判定するために比較され得る。好ましい電極場所の同定は、異なる挿入位置(例えば、最大共振をもたらす場所)での、とりわけ異なる刺激振幅での、振幅、減衰の速度、変化の速度、及び周波数の相対差または空間導関数を含めた異なるERNA特徴に基づき得る。
【0063】
好ましい電極場所の同定はまた、模範ERNA活動との比較に基づくものであってもよく、当該模範は、他の患者からの記録から導き出されたものとする。誘発応答のプロファイルは、構造体の境界及び交差する領域を含めた標的神経構造体を通り抜ける電極導線70の軌道(例えば、内側または外側領域を通り抜ける軌道)を推定するためにも用いられ得る。誘発応答のプロファイルは、標的構造体が挿入軌道と交差していないということが生じた場合に標的構造体に対する接近を推定するためにも用いられ得る。
【0064】
ステップ120において好ましい電極場所を同定できる場合、電極導線先端70はステップ122において、好ましい場所に電極を配置するような再配置がなされ得る。あるいは、多数の電極を有する電極導線先端を含む実施形態の場合、好ましい場所の最も近くに配置された電極を後の治療的刺激の印加における使用のために指定することができる。ステップ120において好ましい場所を同定できない場合、外科医及び/または臨床医は電極を除去して異なる軌道に沿って再び埋め込むことを選択し得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、(上記のような)最適な電極配置を判定するために使用される導線先端70は、そのような手技のためだけに使用される仮導線であり得る。したがって、刺激のための最適な場所を同定した後に導線先端70は除去され得、長期にわたるDBS療法のための永久的な電極または電極アレイに置き換えられ得る。
【0066】
本開示の別の実施形態は、標的神経構造体に対する電極のアレイの相対位置を決定するための、及びその後に治療的刺激の印加のために使用すべき好ましい電極を選択するための、システム及び方法を提供する。このプロセスは、電極を配置するのに役立てるために、または治療的刺激を送達すべく装置をプログラムするときに以前に埋め込まれた電極を支援するために、電極埋込術中に実施されることもあり得る。刺激は、アレイの電極のうちの1つよりも多く、例えば電極アレイ70の場合の電極72a、72b、72c、72dのうちの2つ以上に対して印加され得る。パターン化刺激計画を用いる場合、電極72a、72b、72c、72dの1つ1つに刺激パターンの逐次的なバーストが印加され得る。あるいは、ある電極において全刺激パターンを印加してこれに続けて別の電極において別の全刺激パターンを印加してもよい。そうすることによって、電極アレイのどの電極が標的神経構造体の1つ以上への治療的刺激の提供のための最も良好な位置にあるか;例えば、電極72a、72b、72c、72dのうちのどれが標的神経構造体内に最も良好に配置されているかに関する判定がなされ得る。
【0067】
図12は、複数の電極のアレイからの誘発応答を測定するためのプロセス130の一例を示す。ステップ132において、X個の電極のアレイのうちの第1電極(例えば導線先端70の場合、電極72a)に、Y個の異なる振幅のうちの振幅Aの刺激を印加する。印加される刺激は、上記のようなバーストパターン化刺激であり得る。標的神経構造体からの誘発応答は、ステップ134においてアレイ中の電極のうちの1つ以上において測定される。例えば、導線先端70の場合、第1電極72aが刺激されている時に誘発応答が第2、第3及び第4電極72b、72c、72dにおいて測定され得る。さらに、またはあるいは、誘発応答は、刺激されている電極と同じ電極において測定され得る。いくつかの実施形態では、電極の1つ以上において受信された誘発応答は、記憶装置に格納され得る。1つ以上の電極において誘発応答が測定された時点で、別の電極が刺激のために選択される。これは、X個の電極のアレイの中の全ての電極が刺激されたか否か、つまりプロセスがシステム内の電極の全てを一巡したか否かを調べる確認をプロセス130がステップ136において行った後に、ステップ138に示されるようにカウンタをインクリメントすることによって成し遂げられ得る。刺激されずに残っている電極が存在する場合には、プロセスはアレイ中の次に選択された電極に刺激を印加することを繰り返す。アレイ中の全ての電極が刺激され、刺激に対する誘発応答が測定及び記録された場合、Y個の振幅のうちの別の刺激振幅が刺激のために選択され得る。これは例えば、全ての振幅Yが一巡したか否かを調べる確認をプロセス130がステップ139において行った後に、ステップ137に示されるようにカウンタをインクリメントすることによって成し遂げられ得る。その後、新たな刺激振幅Aでステップ132~138が繰り返され得る。ステップ139において全ての電極が全ての振幅で刺激されたことが分かった場合、結果としての測定された誘発応答は次にステップ140で処理される。
【0068】
誘発応答を処理することは、刺激及び測定のために使用される電極の異なる組合せの間で、ならびに刺激のために用いられる異なる刺激振幅の各々の間で、振幅、減衰の速度、変化の速度、及び周波数の相対差または空間導関数を含めた異なるERNA特徴を比較することを含み得る。例えば、処理は、刺激条件(例えば振幅)における変化に応答して誘発共振振幅における変化が最大となる電極を同定すること、または漸増する刺激振幅を通して測定された最大の再興もしくは再興における変化を有する電極を同定することを含み得る。好ましい電極場所の同定はまた、模範ERNA活動との比較に基づくものであってもよい。模範は、他の患者からの記録から、または1つ以上のモデルもしくはシミュレーションから導き出されたものであり得る。
【0069】
誘発応答の処理に基づいて、治療的刺激のために使用すべき好ましい電極がステップ142において選択され得る。ERNA処理の結果、及び好ましい電極の提案が1つ以上の出力装置110に出力され得る。プロセスが術中に実施された場合、ERNA処理の結果も、どの電極が標的神経構造体内にあるか、及び電極アレイを再配置すべきか否かを判定するために用いられ得る。結果は、同じまたは異なる患者における誘発応答の将来の処理のための1つ以上の模範を生成するためにも用いられ得る。
【0070】
誘発応答は、任意の配置にある1つもしくは2つまたは任意の数の電極において測定され得る。例えば、ERNAは、異なる組合せの電極から測定及び/または記録されることもあり得る。さらに、またはあるいは、測定電極の埋込及び/または配置が脳または頭蓋骨の外部になされてもよい。
【0071】
本発明者らは、別の電極での刺激に応答して各電極において測定された誘発応答を比較することによって、第1に電極のいずれかが標的神経構造体内に配置されているか否か、第2に電極のいずれかが標的神経構造体内の最適な場所に配置されているか否か、ならびに第3に標的神経構造体からの特定の電極の方向及び/または距離について、判定を下すことができることを発見した。いくつかの実施形態では、刺激に対する誘発共振応答(または共振応答の重ね合わせ)の存在、振幅、天然周波数、制振、変化の速度、包絡線、再興及び微細構造のうちの1つ以上は、電極アレイ中の最も効果的な電極を同定するために用いられ得る。好ましくは、異なる振幅でのパターン化刺激に応答したこれらの特性のうちの1つ以上における変化は、電極アレイ中の最も効果的な電極を同定するために用いられ得る。加えて、誘発応答(及び、異なる刺激振幅に応答した誘発応答の特性における変化)が刺激のために使用される電極の位置によって様々であることが分かり、このことは、標的神経構造体内に電極を局在させるために
図11に示されるプロセスを用いることの妥当性を例証している。
【0072】
図12のプロセス130及び本明細書に記載の他のプロセスは、振幅以外の刺激パラメータを変化させることによって(例えば、異なる刺激周波数を用いて)、またはステップ132において1つより多い刺激電極を使用して(例えば、1本以上の電極導線の上にある複数の電極によって刺激を並行して印加して)実施され得る。例えば、2つ以上の離隔した電極から刺激を印加することによって電気刺激が脳内の標的場所に誘導され得る。そのような電極は、標的場所ではなくその近傍の場所に配置され得る。電流ステアリングを利用して、電気刺激の中心地が標的場所または位置に集中するように電気刺激を脳内の標的場所または位置へと導いてもよい。そうするためには、特定方向に電流を導くために、2つ以上の離隔した電極のうちの1つ以上に振幅バイアスが印加され得る。そのような電流ステアリングは、固定されたものであってもよいし、または電気刺激の集中点の二次元的もしくは(3つ以上の離隔した電極による)三次元的移動を可能にする不定なものであってもよい。
【0073】
電気刺激に対する共振応答は、2つ以上の離隔した電極において測定され得る。そうすることによって、応答源である可能性のある場所または神経回路網に関係する指向的情報が得られ得る。1つ以上の電極によって得られた応答特性は、電流ステアリング(例えば、治療またはその他のための刺激を標的場所に誘導するように、同時に作動している電極を横切って電流の分布を設定すること)及び作動電極(例えば、刺激のためにどの電極を使用すべきか)の選択に役立てるために用いられ得る。例えば、上に述べたように、応答特性は、標的領域に対する相対的な活性化の空間的広がりを推定するために用いられ得る。この情報を用いて、2つ以上の電極を使用して刺激を脳の特定領域、すなわち標的構造体へ向かうように、かつ臨床医が刺激を望んでいない領域から離れるように誘導して、刺激プロファイルが形作られ得る。
【0074】
さらなる実施形態では、様々な病状を標的とすべく使用される刺激パラメータを最適化するために、ERNAを用いることもできる。例えば、一旦、電極アレイ、例えば導線先端70が標的神経構造体内で正確に位置決めされれば、ERNAを測定すること、精度ならびに時間効率及びコスト効率を改善すること、ならびに望ましくない副作用を軽減することによって、治療的DBSのための刺激パラメータの設定を支援することができる。
【0075】
脳におけるDBS電極の位置決めの精度を向上させることに加えて、刺激のための電極配置を選択すること、及び刺激パラメータを最適化して、ERNAは、電極の刺激を制御するためのフィードバックを生成するために用いられ得る。いくつかの実施形態では、フィードバックは、
図10に示されるシステム90を使用して実現され得る。
【0076】
一実施形態では、システム90は、好ましい患者状態に対応する波形模範を使用し得る。模範は、軽減された症候を有する患者での以前のERNAの記録を用いて生成され得る。例えば、投薬患者または有効な刺激処置を受けている患者から記録されたERNA模範が使用され得る。あるいは、健常患者、例えば運動障害がない患者から記録されたERNA模範が使用され得る。模範は、1名の患者または数名の患者からの多くの記録の平均から構築され得る。いくつかの実施形態では、完全な模範の代わりに、ERNA波形の選択された特徴が使用され得る。例えば、改善された電極配置及び治療的刺激の制御を可能にするために、ERNAのパラメータ、例えば、優勢な周波数及び振幅成分、及び/または時間的特徴が用いられ得る。いくつかの実施形態では、異なるERNA特性の好ましい範囲が画定され得る(例えば、刺激は、ERNA周波数が250~270Hzの範囲内にとどまるように制御される)。
【0077】
いくつかの実施形態では、上記のような刺激のバーストをERNAのモニタと組み合わせて用いて、治療的共振状態(例えば、副作用が最小限に抑えられて及び/または電力消費が最小限に抑えられて良好な症候抑制と相関する状態)が同定され得る。この情報から、好ましい治療状態を生むのに必要とされる治療的刺激パラメータが同定され得る。いくつかの実施形態では、これらのパラメータを使用して連続的な治療的DBSが標的神経構造体に印加され得る。
【0078】
共振状態を再評価するために、共振活動を同定するためのプローブバーストを治療的DBSに差し挟むことがある。これらのプローブバーストは、周期基準で、例えば10秒ごとに1回実施され得る。一実施形態では、10秒ごとに1秒間にわたってプローブバーストが印加され得(例えば130Hzで10個のパルス)、ERNAが評価され得る。その後、ERNAに基づいて治療的刺激パラメータが調節または維持され得る。例えば、最後のプローブバーストに対して相対的にERNAにおける変化が存在する場合、刺激パラメータは、ERNAが以前に測定されたERNA及び/または模範ERNAと同程度となるように、及び/またはERNA特性が所望の範囲内に入るように調節され得る。
【0079】
図14は、パターン化治療的刺激信号182とそれに続く非治療的パターン化刺激信号184とを含む(刺激の1回以上のバーストを含む)刺激計画178、及びこれに対応して好ましい状態186とあまり好ましくない状態188との間で変動するERNAの特性(例えば共振周波数)180をグラフで比較したものである。
【0080】
本明細書に記載の実施形態のパターン化信号を実現する様々な方法が存在する。
図15a及び
図15bは、2つの例示的なパターン化プロファイルを示す。
図15aにおいて、パターン化プロファイルは、連続刺激ブロック190の後の無刺激期間192を含み、この後にパルスのバースト194及びもう1つの無刺激期間196が続く。無刺激期間中にERNAが測定され得、(必要に応じて)治療的刺激信号が調節され得る。
【0081】
代替実施形態では、システムは、
図15bに示されるように、連続刺激の最後のパルス198の後にERNAをモニタし得る。モニタ期間200の後に治療的刺激が期間202にわたって調節され得、その後、調節されたパラメータで治療的刺激198が印加され得る。この計画も、周期的欠失パルスを有する連続刺激とみなされ得る。この目的のために、連続刺激は、パルスのバーストとみなされ得、無刺激期間は、
図2を参照して上に記載されている第1期間t
1とみなされ得る。
【0082】
他の実施形態では、モニタ期間200中に刺激を省く代わりに、刺激はパラメータの変更を伴うが維持され得る。例えば、従来の例えば130Hzの周波数での治療的刺激が治療的刺激期間198中に印加され得る。その後、モニタ期間200中に、異なる周波数を有する刺激が印加され得る。モニタ期間中に印加された刺激は、刺激期間中に印加されたものよりも小さくされ得る。例えば、この期間中の刺激周波数は90Hzの領域にあり得る。モニタ期間200中のこの刺激の周波数は、複数のERNAピークを観察するのを可能にするほど低くされ得る。同様に、モニタ期間200中に印加される刺激の周波数は、DBSのための治療的周波数範囲に入るほど高くされ得る。上に述べたように、周波数間の遷移は急激であってもよいし、あるいは周波数の変化が緩やかであってもよい。パルスの周波数に傾斜を付けて周波数の急激な段階変化を回避することは有益であり得る。
【0083】
さらに、またはあるいは、モニタ期間200中に印加される刺激の振幅は、治療期間198中に印加されるそれとは異なり得る。例えば、モニタ期間200中に印加される刺激の振幅は、治療的刺激198の間に印加されるそれよりも小さくされ得る。振幅の急激な段階変化を回避するために、いくつかのパルスを通して治療期間198とモニタ期間200との間で振幅傾斜を付けて刺激を遷移させてもよい。
【0084】
いくつかの実施形態では、振幅及び周波数以外の刺激の特性は刺激期間198とモニタ期間との間で異なり得る。そのような特性の例としては、刺激の周波数、振幅、パルス幅、正味の電荷、電極配置または形態が挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
上記の実施形態では誘発神経応答の刺激と記録との両方のために単一の電極アレイを使用しているが、他の実施形態では、片方または両方の脳半球の中の1つ以上の標的構造体の中の複数のプローブまたは導線の上に電極が分布していてもよい。同様に、脳の外部に埋込か配置かのどちらかがなされた電極を使用して誘発神経応答の刺激もしくは記録、または刺激及び記録の両方を行ってもよい。いくつかの実施形態では、微小電極及びマクロ電極の両方の組合せが予見できる任意の様式で使用され得る。
【0086】
本発明の実施形態のさらなる用途では、ERNA測定結果は、疾患もしくは症候群の進行もしくは寛解をモニタするために経時的に記録及び追跡され得、または(例えば患者の神経症状を分類するための)診断ツールとして用いられ得る。そのような実施形態は、万一(ERNAによって判定される)患者の状態が望ましくないまたは重篤な状態(例えばパーキンソニズム発作)へと悪化した場合に患者、介護者または臨床医に医学的警告を提供するためにも用いられ得る。
【0087】
さらに別の用途では、ERNAは、投薬用量を調節することなどの効果を含めた投薬の効果を経時的にモニタするために用いられ得る。そのような実施形態は、用量が必要な時または用量が抜けた時に患者に投薬警告を提供して彼らに気付かせるためにも用いられ得る。ERNAを用いて投薬効果を追跡することはまた、投薬が処方されたとおりになされているか否か、または投薬の効果が薄れてきており投薬調節が必要であるか否かに関する情報も臨床医に提供し得る。
【0088】
ERNAのさらなる解析及び結果の説明
DBSは共振神経活動を誘発する
DBSパルスによって生じる神経活動を調査して、バイオマーカーとして実現可能に使用され得る誘発応答が存在するか否かを見極めた。誘発活動を維持するために本発明者らは、広い記録帯域幅を用いるとともに、従来の非常に長い第2相を有する非対称パルスではなく対称2相パルスを刺激のために用いて刺激アーチファクトの時間的な持続時間を最小限に抑えた。
【0089】
PDはDBSの主力的な用途であるため、PDを有し手術台上で未だに覚醒していた患者のSTN内に埋め込まれた直後のDBS電極から記録を行った。さらには、運動、四肢の及び関連する機能の調節におけるSTNの役割はそれを、ジストニア、本態性振戦、てんかん及び強迫性障害のDBS治療を含めた複数の異なる用途との重要なつながりをもつ神経標的にしている。
【0090】
STN-DBSは、各パルスの後の典型的には4msあたりに、大きなピークを誘発することが見出された。DBSを中断する前の最後のパルスの後の活動を調べることによって、漸減する振幅を有する系列においてこのピークが最初のものであることが発見された。この応答は減衰振動に類似する形状を有しているので、本発明者らはそれを誘発共振神経活動(ERNA)と記載する。
【0091】
ERNAをさらに調査するために本発明者らは標準的な130HzのDBSを時間的にパターン化して、複数のピークを観察できるようにした。本発明者らは、1秒あたり1つのパルスを間引くものと、1秒あたり10個のパルスのバーストを印加するものとの2つの新規なパターンを採用した。「間引きパルス」パターンは、標準的な130HzのDBSと同程度の治療効果を有すると予期された、というのも、それは経時的に送達されるパルスの総数のたった0.77%の減少しか引き起こさないからである。対照的に、「バースト」パターンは、連続的DBSと比較して最も小さい治療効果を有すると予期された、というのも、たった7.7%のパルスしか送達されないからであり、したがってそれは、療法の非存在下での活動を調査するのに有用なプローブになる。誘発応答は、バーストの連続パルス間で振幅が増大して激しくなる傾向があり、刺激の持続時間がより長いと定常状態に達する。
【0092】
本発明者らは、DBS埋込術を受けている12名のPD患者(n=23半球)のSTNにバースト刺激を印加し、全症例において類似する形態を有するERNAを認め、それが患者集団に渡って測定され得る堅牢で信頼できる信号であることが示された。ERNAが空間的アーチファクトでなかったことを確かなものにするための対照として、本発明者らは、STNに対して内側にある白質領域である後部視床下領域(PSA)の中に埋め込まれた電極によって3名の本態性振戦患者(n=6半球)にもバースト刺激を印加した。PSAにおいてERNAは認められず、それがSTNに限局され得る電気生理学的応答であることが示唆された。
【0093】
ERNAはSTNに限局され得る
ERNAがSTNに対する相対的な電極位置によって変化することを確立するために、本発明者らは、3つの非刺激電極から記録しながら4つのDBS電極の各々に10秒のバースト刺激を連続的に印加した。DBS埋込術は、STN内に4つの電極のうちの2つを、DBSの利益が通常最も大きくなる背側STNの中に一方の電極が入り、腹側STN内にもう一方が入るように配置することを目的としていた。電極場所におけるこの変動は、STNの異なる領域からのERNA応答と核の外部のそれとの比較を容易にした。8名のSTN-PD患者(n=16半球)において、本発明者らは、ERNA振幅及び形態の両方が、刺激する及び記録する電極の位置に応じて変化したことを見出した。
図14は、1つの半球における各バーストの最後のパルスからのERNAの例を示すが、最大の振幅及び最も明瞭な減衰振動形態を有する応答は、標的STN位置にある2つの中間電極において起こっている。対照として、本発明者らは、PSA内には遠位電極を配置し、約2msを超える誘発活動を誘起しないことが以前に示されている振戦のためのもう1つの標的である視床中間腹側核の中には近位電極を配置することを意図した埋込軌道を用いて、2名の本態性振戦患者(n=4半球)にも刺激を印加した。
【0094】
ERNA振幅における変動は最も明瞭な特徴であったため、本発明者らはそれをさらなる解析のために使用した。全ての記録がSTNにおけるものであり独特な共振活動を含有する、というわけではなかったため、ERNA振幅を定量すべく本発明者らは4~20msに対して根平均二乗(RMS)電圧を算出した。STNに対する相対的な埋込電極位置を推定するために、術後CTスキャンと術前MRIとの融合(
図17)を用いて3D復元図(
図16)を作成した。赤核に対して相対的な盲目的測定に基づいて電極を、STNの上側にあるか、下側にあるか、または内部にあるかによって分類した。その後、STN内の電極を、背側にあるかまたは腹側にあるかのどちらかにさらに分類した。
【0095】
ERNA振幅は電極位置によって有意に変動し(Kruskal-Wallis、H(4)=45.73、p<0.001)、下側の電極だけはPSA領域との有意差がなかった(p=0.370)(
図18)。背側の電極は腹側及び上側に比べてより高くなる傾向があったとはいえ、それらは振幅が互いとは有意に異ならなかった。内側-外側及び前-後面における電極位置決めの変動、ならびに患者生理学上の根本的差異に起因して患者間で振幅に不同があることの理由を説明すべく、本発明者らは、各半球にわたって全ERNA振幅に対する応答を正規化した後にSTN-DBS電極からの記録を再び解析した。正規化後に事後比較から、背側及び腹側STNの間での振幅における有意差が明らかになった(Kruskal-Wallis、H(3)=14.94、p=0.002;事後のダン法、腹側対背側:p=0.043、上側対背側:p=0.081、下側対背側:p=0.002)。
【0096】
これらの結果は、ERNAがSTNに限局され得る及びSTNにわたって変動するものであることを示しており、電極埋込を刺激にとって最も有益な部位へと導くためのフィードバック信号としてのその利用を確立するものである。さらには、振幅における変動が最も明瞭な特徴ではあったが、他のERNA特質、例えば、周波数、潜時、及び変化の速度も、STN領域を判別する上での潜在的有用性を有している。
【0097】
ERNAはDBSによって変調される
治療的に有効なDBSによってERNAが変調されたか否かを調査するために、本発明者らは、60~90秒のブロックにおいて電流振幅(範囲0.67~3.38mA)が漸増する間引きパルス刺激を、10名のSTN-PD患者(n=19半球)に印加した。総じて、ERNAにおいて2番目及びその後のピークは、時間の経過とともに及び刺激振幅が増大するにつれて、共振活動の周波数の減少と整合して潜時の漸近的増大が起こって広がり離れていくことが一貫して認められることが分かった(
図5、
図6、
図21a~
図21e)。多くの場合、第1ピークの潜時も増大したが、この変化は全記録間で一貫してはいなかった。ピークの振幅も総じて変動することが認められ、大抵、各刺激ブロックの開始時にはより大きくて、その後徐々に弱くなった。
【0098】
これらの効果を定量するために、本発明者らは、ERNA周波数の代表的尺度として第1及び第2ピーク間の潜時の差の逆数を算出した。本発明者らはまた、ERNA振幅の代表的尺度として第1ピークと第1谷部との間の振幅差も算出した。その後、本発明者らは、各条件の45~60秒の期間の平均を解析のための漸近ERNA値の推定値として用いた。
【0099】
ERNA周波数は条件間で有意に減少した(一元配置反復測定(RM)ANOVA、F(4,94)=45.79、p<0.001)。事後比較(Holm-Sidak)は、2.25mAから3.38mAまで(p=0.074)を別とすれば、DBS振幅が1段上がるたびにERNA周波数が有意に減少したことを示した(
図19A)。周波数中央値は3.38mAにおいて130Hzの刺激速度のおよそ2倍である256Hzであった。STN-DBSは、STN軸索の即時励起、及びSTNの体細胞の抑制/回復の時間的経過ゆえに、淡蒼球内節内で刺激速度の2倍のペーシング効果を生み出すことで作用している可能性があることが提案された。
【0100】
ERNA振幅も条件間で有意に異なっていた(フリードマン、x
2(4)=41.31、p<0.001)。テューキー検定事後比較は、ERNA振幅が最初はDBS振幅とともに増加してその後1.5mAを上回るレベルで平坦部となることを示していた(
図19B)。これらの効果がDBSの治療効果と関係している可能性があるとはいえ、それらがあるいは、またはさらにはSTNにおける神経発火の飽和によるものである可能性もある。このため、本発明者らは次に、治療効果との相関性に関してERNA周波数に焦点を当てた。
【0101】
ERNAは治療効果と相関する
刺激の臨床的有効性は、統一パーキンソン病評価尺度(UPDRS、第22号及び第23号)に従って四肢動作緩慢及び硬直性を刺激の直前及び2.25mAでの60秒後に評価することによって裏付けられた。どちらの臨床兆候も2.25mAで有意に改善し、DBSが治療的なものであることが示された(ウィルコクソンの符号順位、動作緩慢:Z=-3.62、p<0.001、硬直性:Z=-3.70、p<0.001)。
【0102】
しかしながら、時間的制約が妨げとなって刺激強度の各段階での臨床検査ができなかった。それゆえ、ERNA変調と患者状態とを相関させるために本発明者らは、ベータ帯域(13~30Hz)の自発的LFP活動を用いた。ベータ帯域内での振動の過剰な同期はPDの病態生理学との関連性が強いとされており、その抑制は動作緩慢及び剛直性の運動障害における改善と相関していた。
【0103】
短時間フーリエ変換を用いて本発明者らは、ベータ活動の代表的尺度として、13~30Hz帯域内のRMS振幅を5~45Hz内のそれで除したものである「相対ベータ」を算出した。本発明者らはその後、各刺激振幅条件の45~60秒期間の間の平均値を求め、相対ベータが有意に変動することを見出した(一元配置RM ANOVA、F(4,89)=18.11、p<0.001)。事後検定(Holm-Sidak)は、3.38mAでは他の全ての条件と比較して、ならびに2.25mAでは0.67及び1mAと比較して有意な抑制を示した(
図19C)。これらの結果は、DBSによるベータ活動抑制が臨床兆候における改善と相関することを示した以前の研究と一致しており、約2.25mA以上において刺激が治療的に有効であったことを裏付けている。
【0104】
ERNA周波数をベータ活動と、したがって治療的有効性とさらに相関させるために、本発明者らは各条件間で15秒の非重複ブロックの平均値を比較した(
図19B)。ERNA周波数は相対ベータと有意に相関していた(ピアソン積率、ρ=0.601、n=90、p<0.001)。
【0105】
これらの結果は、ERNAが臨床的に重要なバイオマーカーであることを示している。さらには、その20~681μVp-pの範囲(中央値146μVp-p)の大きな振幅は、絶対値が0.9~12.5μVRMSの範囲(中央値2.2μVRMS)である自発的ベータLFP活動よりも桁が大きい。ERNA及びその独特な漸次変調された形態の堅牢性(
図5、6、7、21)は、ベータ帯域における患者間での固有の変動性、及びベータ帯域信号のノイズを伴う間欠発射する性質とは対照をなすものである。したがって、ERNAは、完全埋込型DBS装置と共に使用する上で、ノイズを伴う低振幅LFP尺度に比べてより扱いやすい信号である。
【0106】
ERNA変調が後続のDBSをウォッシュアウトする
本発明者らはまた、治療効果がウォッシュアウトされるときの活動における変化をモニタするために、治療的間引きパルス刺激の直前及び直後での60秒のバースト刺激の印加も行った(以下、DBS前及び後の条件という)。
【0107】
総じてERNAはDBS前において比較的安定したままとなり、バースト刺激の変調効果が最小限に抑えられたことを示していた。しかしながら、DBS後はすぐに、ERNAピークがより長い潜時で起こり、その後徐々に、そのDBS前の状態に戻っていった。これらの効果を定量するために、本発明者らは、15秒の非重複ブロック全体に対してDBS後のERNA周波数及び振幅の平均値を求め、それらをDBS前の最後の15秒と比較した。検査した半球全て(n=19)についてERNA周波数に差がみられ(フリードマン、χ
2(4)=70.23、p<0.001)、最後の45~60秒のブロック(テューキー、p=0.73)を除く全ての時点において周波数はDBS前の周波数に比べて有意に減少した(
図20A)。ERNA振幅も時間点間で有意に変動し(フリードマン、χ
2(4)=31.37、p<0.001)、DBS後の時間点での振幅間の差は、治療的刺激によって引き起こされた振幅抑制のウォッシュアウトを示していた(
図20B)。印加されたバースト刺激はDBS前及びDBS後の条件の間で一定であったため、ERNA周波数及び振幅に認められた変動はそのまま、DBS効果がウォッシュアウトされるときのSTN神経回路の状態における変化に帰属され得る。したがって、治療的に有効なDBSはERNA周波数及び振幅を両方とも変調し、このことは、ERNAが、バイオマーカーとして及び活動の機序を探るツールとして実現可能に使用され得る複数の特質を有することを示している。
【0108】
次に本発明者らは、DBS前及び後での相対ベータ活動を評価し、それが時間点間で有意に異なっていることを見出した(フリードマン、χ
2(4)=24.55、p<0.001)。以前の報告と一致して、DBS後はすぐに相対ベータが有意に減少し、30秒後にはDBS前のレベルにまでウォッシュアウトされた(
図20C)。間引きパルスの結果を支持してERNA周波数はDBS前及び後での相対ベータと有意に相関していた(ピアソン積率、ρ=0.407、n=152、p<0.001)。ERNA振幅も相対ベータと相関しており(ピアソン積率、ρ=0.373、n=152、p<0.001)、それも臨床及び機序における重要性を有していることが示唆された。
【0109】
本発明者らはさらに、観察されたERNA周波数と重複している高周波振動(HFO)帯域(200~400Hz)での自発的LFP活動を分析した。HFO帯域における変化は、運動状態及び効果的な薬物療法、とりわけベータ活動と共に、DBSの作用機序に関与していた。バースト刺激を用いることによって同時進行でのERNA及びHFOの分析が可能となった。というのも、バースト間の活動だけを含むようにデータを分割することができ、それによって、ともすればHFO帯域の原形を損ないかねない刺激アーチファクトを含有していないLFPエポックが得られたからである。
【0110】
HFO活動は総じて周波数の広帯域ピークによって特徴付けられたため、本発明者らはマルチテーパースペクトル推定値を算出し、その後、200~400Hzの間で起こっているピークの周波数及び振幅を決定した。15秒の非重複ブロックにおける平均を比較することで(
図20D)、本発明者らは、DBS後にHFOピーク周波数が最後の45~60秒のブロック(テューキー、p=0.077)までずっと有意に減少していることを見出した(フリードマン、χ
2(4)=45.18、p<0.001)。このウォッシュアウト傾向は、低めの周波数においてではあるがERNA周波数についてのそれと合致しており、2者間に有意な相関性がある(ピアソン積率、ρ=0.546、n=152、p<0.001)。DBS後すぐのHFOピーク周波数中央値は、治療的な3.38mA条件のERNA周波数(256Hz)と同程度である253Hzとなり、より長く連続する間引きパルス刺激の間にHFO活動がERNAと同じ周波数で起こることが示唆された。
【0111】
HFOピーク振幅に有意差は認められなかったが(フリードマン、χ2(4)=2.11、p<0.72)、しかしそれとERNA振幅とは有意に相関していた(ピアソン積率、ρ=0.429、n=152)。HFOピークの振幅(1μV未満)が非常に小さいことで、いかなる変調効果も記録中のノイズによって不明瞭にされた可能性がある。
【0112】
本開示の広い全体的な範囲から逸脱することなく上記実施形態に対して幾多の変形及び/または改変がなされ得ることは、当業者によって認識されよう。したがって、本発明の実施形態はあらゆる点において例示的かつ非限定的であるとみなされるべきである。
【符号の説明】
【0113】
72a 第1電極
72b 第2電極
72c 第3電極
72d 第4電極
82 視床下核(STN)
90 DBS送達システム
92 処理ユニット
94 信号発生器
96 測定回路
98 マルチプレクサ
100 CPU
102 記憶装置
104 出力(I/O)バス
106 電源
108 入力装置
110 出力装置
【国際調査報告】