IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ システム73 リミテッドの特許一覧

特表2022-543374多発動機切り替えシステム、および性能最適化方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-12
(54)【発明の名称】多発動機切り替えシステム、および性能最適化方法
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20221004BHJP
   H02P 9/00 20060101ALI20221004BHJP
   H02P 101/45 20150101ALN20221004BHJP
【FI】
B60L15/20 S
H02P9/00 Z
H02P101:45
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022506475
(86)(22)【出願日】2020-07-31
(85)【翻訳文提出日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 US2020044661
(87)【国際公開番号】W WO2021022232
(87)【国際公開日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】62/881,759
(32)【優先日】2019-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/988,334
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517407291
【氏名又は名称】システム73 リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】エルベイ, ウィリアム
(72)【発明者】
【氏名】パズ, ドロン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン, デュオ
(72)【発明者】
【氏名】バーグストロム, マティアス
【テーマコード(参考)】
5H125
5H590
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC11
5H125BA04
5H125CA02
5H125CA18
5H125CB02
5H125EE05
5H590AA02
5H590CA23
5H590CA28
5H590CB01
5H590CC11
5H590CD01
5H590CE05
5H590EA07
5H590EA10
5H590HA02
5H590HA04
5H590HA18
5H590HA27
5H590HA28
5H590JB02
(57)【要約】
運転サイクル全体において変数と条件を考慮する、性能基準の全体最適化を得る多発動機切り替えシステムおよび方法。システムの制御装置は、走行または運転サイクル全体にわたって発動機負荷の最適な分布を決定するという点で全体最適化を行うように適合しており、所与の時点と現条件の局所化された組とに対して最適化された解を逐次決定するのとは対照的である。制御システムが全体最適化を提供する一実施形態では、制御装置は、走行計画ツールを介して走行情報を受信する。制御装置は、走行情報を利用して運転サイクルを生成し、さらにこの情報を、制御装置によって実行される最適化処理に組み込んで、走行全体に対する最適解を決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所与のトルク要求に基づいてシステムにおける発動機からのトルクの最適な寄与を決定して、1つまたは複数の拘束条件の範囲内に留まりつつ運転サイクルにわたって所望の性能目標を達成するように全体最適化を実行することができる多発動機システムであって:
軸に機械的に結合された複数の発動機と;
前記複数の発動機それぞれに関連する効率データを記憶するデータベース、運転サイクル情報を受信する、そして前記複数の発動機へのトルク指令を生成する制御装置と、を具備しており;
前記制御装置が、前記発動機によるトルク寄与の考えられる組み合わせに対して、前記運転サイクルのすべての時間帯にまたがって最適化分析を実行することによって、前記複数の発動機に対するトルク指令を生成し、前記最適化分析が;
前記運転サイクル情報に基づいて、すべての時間帯にまたがる軸スピードとトルクとを計算することと;
前記効率データに基づいて、前記複数の発動機によるトルク寄与の考えられる組み合わせそれぞれについて、前記性能目標に関連する、すべての時間帯にまたがるコスト関数を計算することと;
前記トルク寄与の考えられる組み合わせの組から、関連するコスト関数に基づいて所望の性能目標に対して最適化される、そして1つまたは複数の拘束条件の範囲内に留まる、トルク寄与の1つまたは複数の最適な組み合わせを特定することと;
前記運転サイクルにおける各時間帯に対して、前記複数の発動機それぞれに対しトルク指令信号を生成して、前記トルク寄与の1つまたは複数の最適な組み合わせに基づいて、前記複数の発動機に前記軸を駆動させ、前記1つまたは複数の拘束条件の範囲内に留まりつつ前記運転サイクル全体にまたがって前記所望の性能目標を達成することと、
を含むシステム。
【請求項2】
前記性能目標が効率の最大化であり、前記発動機によるトルク寄与の考えられる組み合わせのそれぞれに対するコスト関数が、使用されるエネルギーの量である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記制御装置が、消費されるエネルギーを前記運転サイクルの各時間帯に対して推定し、前記制御装置が、前記運転サイクルに対する推定総消費パワーを出力する、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記1つまたは複数の拘束条件が、各発動機の温度を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記制御装置によって実行される最適化分析が、前記運転サイクルにおける各時間帯に対して、前記効率データおよび1つまたは複数の過渡現象に基づいて、前記運転サイクルにおける次の時間帯での前記複数の発動機における各発動機の効率を計算することをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記1つまたは複数の過渡現象が熱過渡現象を含み、前記制御装置によって実行される最適化分析が、熱過渡現象を計算して前記次の時間帯の終了時での前記複数の発動機それぞれの推定温度を決定することをさらに含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
電動輸送機器に格納され、前記複数の発動機が電動機である、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
走行計画ツールをさらに具備し、前記走行計画ツールが前記運転サイクル情報を生成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記制御装置によって実行される最適化分析が、制動からのエネルギー回生の最適化を統合することをさらに含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項10】
所与のトルク要求に基づいてシステムにおける発動機からのトルクの最適な寄与を決定して、1つまたは複数の拘束条件の範囲内に留まりつつ運転サイクルにわたって所望の性能目標を達成する、全体最適化を行う方法であって:
前記複数の発動機それぞれに関連する効率データを記憶することと;
運転サイクル情報を受信することと;
前記発動機によるトルク寄与の考えられる組み合わせに対して、前記運転サイクルのすべての時間帯にまたがって最適化分析を実行することによって、前記複数の発動機に対するトルク指令を生成することと、を含んでおり、前記最適化分析が:
前記運転サイクル情報に基づいて、すべての時間帯にまたがって軸スピードとトルクとを計算することと;
前記効率データに基づいて、前記複数の発動機によるトルク寄与の考えられる組み合わせそれぞれについて、前記性能目標に関連する、すべての時間帯にまたがるコスト関数を計算することと;
前記トルク寄与の考えられる組み合わせの組から、関連するコスト関数に基づいて所望の性能目標に対して最適化される、そして前記1つまたは複数の拘束条件の範囲内に留まる、トルク寄与の1つまたは複数の最適な組み合わせを特定することと;
前記運転サイクルにおける各時間帯に対して、前記複数の発動機それぞれに対しトルク指令信号を生成して、前記トルク寄与の1つまたは複数の最適な組み合わせに基づいて、前記複数の発動機に前記軸を駆動させ、前記1つまたは複数の拘束条件の範囲内に留まりつつ前記運転サイクル全体にまたがって前記所望の性能目標を達成することと、
を含む方法。
【請求項11】
前記性能目標が効率の最大化であり、前記発動機によるトルク寄与の考えられる組み合わせそれぞれに対するコスト関数が、使用されるエネルギーの量である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
消費されるエネルギーを前記運転サイクルの各時間帯に対して推定して前記運転サイクルの推定総消費パワーを出力することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記1つまたは複数の拘束条件が各発動機の温度を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記最適化分析が、前記運転サイクルにおける各時間帯について、前記効率データと1つまたは複数の過渡現象とに基づいて、前記運転サイクルにおける次の時間帯での前記複数の発動機における各発動機の効率を計算することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記1つまたは複数の過渡現象が熱過渡現象を含み、前記最適化分析が、前記熱過渡現象を計算して前記次の時間帯の終了時での前記複数の発動機それぞれの推定温度を決定することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
電動輸送機器に格納された制御装置によって実行され、前記複数の発動機が電動機である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記システムが、走行計画ツールを用いて前記運転サイクル情報をさらに生成する、請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記制御装置によって実行される最適化分析が、制動からのエネルギー回生の最適化を統合することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2019年8月1日に仮出願された米国仮特許出願第62/881,759号、および2020年3月11日に仮出願された米国仮特許出願第62/988,334号の優先権を主張し、これらの開示内容は、あたかも本明細書に完全に記載されているかのごとく、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明のシステムおよび方法は概して、多発動機システムおよび多発電機システムの分野に関する。より詳細には、本明細書に記載の本発明のシステムおよび方法は、最適化された性能および効率を与える制御装置および関連構成成分を含む、多発動機および多発電機のシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
複数発動機を有するシステムを制御するシステムおよび方法は、当該技術分野において公知である。しかしながら、既存のシステムは、真に最適化された効率的なやり方で動作することの妨げとなる大きな欠点を抱えている。
【0004】
例えば、多くの既存のシステムは典型的には、各発動機が受けるはずの負荷を決定するために、所与の時点、および現条件または瞬時の条件の所与の組に対する逐次的な局所最適化に依拠している。所与の時点に対する局所的なそうした最適化は、走行全体に関連する条件や変数を考慮していないという事実に大きな問題がある。その結果、これらのシステムは、発動機にかかる負荷の全体的で効率的な割り当てに備えることができず、例えば、一動作点での最適化が、後でオーバーヒートにつながる可能性がある。さらに、既存の多発動機システムがまさに温度を考慮する範囲内において、考慮されることは概して、事前に定義された特定の範囲内に発動機温度が収まるよう保証することだけであり、それ故、局所的な二者択一の決定となっている。さらに、既存のシステムはその最適化解に、電動輸送機器の場合のエネルギー回生(すなわち、制動)の最適化を一体化させていない。
【0005】
加えて、それらの方法とシステムの多くには、発動機間でトルク負荷を伝達する変速機が必要である。これらの変速機は、システムに機械的損失を招き、多発動機システムの効率的な動作の妨げとなる。これらの大きな欠点を回避しつつ、最適化された性能に備える多発動機または多発電機のシステムと方法を与えることが非常に望ましい可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で提供されるのは、発動機および発電機にまたがるトルク負荷の分布を全体最適化する、多構成成分最適化制御システムおよび方法である。タスク全体(例えば、電動輸送機器の場合、いくつかの実施形態では制動を通じたエネルギー生成を考慮することを含め、走行全体に関連する情報)を考慮して、また、臨界レベル以下に、または発動機およびシステム全体の効率的な動作を保証するレベルの範囲内に、発動機および発電機の温度を維持するなどの拘束条件を考慮して、本発明の制御システムは、現条件の時間的なスナップショットに基づく「局所」最適化に依拠するシステムよりも効率的な解を与えることが可能である。このようにして、本発明のシステムおよび方法は、既存のシステムの欠陥、つまり、所定の静的な効率曲線または効率範囲が使用され、これが、一連の独立した局所的決定を検討するのみであって、発動機および発電機の温度などの拘束条件を二者択一的で非最適化されたやり方でしか考慮しないという欠陥を克服するものである。
【0007】
一実施形態では、最適化制御システムは、複数発動機にまたがる駆動負荷の割り当てを最適化する高効率の発動機駆動システムである。そうすることで、このシステムは、システム内のいずれの個々発動機の効率レベルよりも高い効率レベルを達成する。本明細書に開示の発動機システムは、効率最適化の構成がなされた制御装置によって制御される多発動機システムであり、制御装置は、入力を与える複数センサと通信しており、この入力をもとに制御装置が、効率的な動作、特に、走行全体にわたるエネルギーの消費または回生(制動によるもの)の観点から効率的な動作を達成するために、複数発動機への必要な駆動信号を生成してもよい。
【0008】
本明細書に開示の最適化システムは、既存の発動機だけでなく、新たに設計される発動機にも適合させることができる。既存のまたは新たに設計される発動機は、同一軸(同一スピード)上の複数ディスクの形態、または、完全に独立した発動機どうしであって、各発動機がトルクとスピードの両方に関して個々の動作特性を維持するようにして他の発動機から独立している形態とすることができる。後者の形態では、歯車装置、例えば差動装置により、異なる発動機が車輪にトルクを伝達することができる。
【0009】
発動機最適化システムは、システム内の負荷の駆動に複数発動機が及ぼす寄与を、システムの最適化された性能が得られるようなやり方で制御するように、設計される。システムの一実施形態では、そのシステムは、トルクとパワーの各要求点での効率レベルに基づいて複数発動機に駆動タスクを動的に割り当てることによって、電池使用量とその結果としてのエネルギー損失を削減する。制御装置は、実時間での運転条件および発動機パワー曲線に従って電池使用量を最小化するという目標を得つつ、システム内の発動機それぞれのトルク百分率を決定し、それに応じて発動機の制御のための駆動信号を生成する。他の実施形態では、システムは、効率向上以外の性能目標、例えば加速度もしくは運転可能距離の最大化、または、許容される最小加速度を仮定した走行可能距離の最大化などの性能目標の組み合わせを満たすことを目的として、システム内の複数発動機を制御することが可能である。
【0010】
システムの制御装置は、走行(または運転サイクル)全体にわたって発動機負荷の最適な(エネルギー効率、または他の運転目標の最大化の観点から最適な)分布を決定するという点で全体最適化を行うように適合しており、これは、走行または運転サイクル全体を考慮せずに、所与の時点について、そして現条件の所与の組について最適化された解を逐次決定する(すなわち局所最適化する)のとは対照的である。制御システムが全体最適化を提供する一実施形態では、制御装置は、走行計画ツール(GPS搭載装置など)を通じて走行情報(道筋、全体の走行距離、制限スピード情報、および走行時間情報など)を受信する。この走行情報は、運転条件(例えば、高速道路運転、市街地または「ストップ・アンド・ゴー(stop and go)」、丘陵地、平地等)など、走行計画ツールによって与えられる他の走行因子および情報のみならず、走行計画ツールと通信する気象アプリケーションによって与えられる可能性のある、環境および気象に関する情報(例えば、温度、湿度、風力と風向等)をさらに含んでもよい。制御装置は、走行情報を利用して運転サイクルを生成し、さらにこの情報を、制御装置によって実行される最適化処理に組み込んで、走行全体にとっての最適解を決定する。加えて、制御装置は、全体最適化の妥当性を確認するために、周囲温度、内部発動機温度を含む発動機熱、軸回転スピード、発動機、発動機電流、およびトルク要求などの、車両上のセンサによって与えられる情報を使用してもよい。いかなる所与の瞬間についても、全体最適化から得られる解が、局所的最適化から得られる解と比較して最適であるとは限らない。しかし、走行全体を考慮する場合には、全体最適化が複数の逐次的な局所最適化の総和と等しいかまたは優れていることは、常に真である。
【0011】
別の実施形態では、最適化制御システムは、単独で、または複数発動機との組み合わせで発電機に適用される結果、複数発電機にまたがる利用可能なトルクの割り当てを最適化する高効率の発電機システムを実現する。そうすることで、このシステムは、システム内の個々の発電機の効率レベルよりも高い効率レベルを達成する。本明細書に開示の発電機システムでは、制御装置によって実行される効率最適化は、入力を与える複数センサからの入力に基づいて構成され、この入力から、制御装置は、動作範囲全体にわたって効率的な動作を達成するために複数発電機への必要な信号を生成する場合がある。
【0012】
発電機最適化システムは、システム内の複数発電機の寄与を、システムの最適化された性能が得られるようなやり方で制御するように、設計される。システムの一実施形態では、システムは、所与のサイクルにおける利用可能なトルクの各点での効率レベルに基づいて複数発電機にタスクを動的に割り当てることにより、電流生成を、そしてその結果としてエネルギー変換損失を、最大化するものである。制御装置は、実時間条件に従って電流生成を最大化しつつ、システム内の発電機それぞれの利用可能なトルク百分率を決定する。他の実施形態では、システムは、効率向上以外の目的で、システム内の複数発電機を制御することが可能である。
【0013】
これらのそして他の態様と利点は、添付図面を適宜参照しつつ、以下の詳細な記載を読むことにより、当業者には明らかになろう。さらに、前述の概要が単なる例示であり、添付の特許請求の範囲が合法的に権利を有する均等物の範囲または幅をいかようにも制限することを意図するものではないと理解されるのが望ましい。
【0014】
本発明は、以下の例示的な諸図に関連して以下に記載されるが、ここで:
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の一実施形態による、車両に使用される多発動機システムの最上階層のブロック図であり;
図2図2は、本発明の実施形態による、制御装置の動作と、各発動機に対するトルク指令を制御装置が最適化するのに用いる処理とを例示するブロック図であり;
図3図3は、本発明の実施形態による、発動機トルク指令信号の決定に関連する処理に関連して制御装置が実行するステップを示すブロック図であり;
図4図4は、本発明の実施形態による、発動機間の負荷分担を決定して所与の軸スピードとトルクについての効率を最適化するのに使用されるラスタスキャン技術を例示するブロック図であり;
図5図5は、本発明の実施形態による、三変数(3つの発動機にまたがる負荷分担を最適化する場合)を最適化できるような、二次元空間における例示的な4×4ラスタを示しており;
図6a図6a~6cは、本発明の実施形態による、多発動機システムの動作の代表的な例であるCase 1の3つの大型発動機のパワー曲線と効率等高線を示しており;
図6b】同上;
図6c】同上;
図7a図7a~7cは、本発明の実施形態による、多発動機システムの動作の代表的な例であるCase 2の3つの大型発動機のパワー曲線と効率等高線を示しており;
図7b】同上;
図7c】同上;
図8a図8a~8cは、本発明の実施形態による、多発動機システムの動作の代表的な例であるCase 1の3つの小型発動機のパワー曲線と効率等高線を示しており;
図8b】同上;
図8c】同上;
図9a図9a~9cは、本発明の実施形態による、多発動機システムの動作の代表的な例であるCase 2の3つの小型発動機のパワー曲線と効率等高線を示しており;
図9b】同上;
図9c】同上;
図10a図10aは、本発明の実施形態の試験で使用されたUDDS運転サイクルのスピード対時間を示すグラフであり;
図10b図10bは、本発明の実施形態の試験で使用されたHWFET運転サイクルのスピード対時間を示すグラフであり;
図10c図10cは、本発明の実施形態の試験で使用されたUS06運転サイクルのスピード対時間を示すグラフであり;そして
図11図11は、本発明の実施形態による、制御装置の動作と、制御装置が各発動機のトルク指令の全体最適化を実行するのに用いる処理を例示するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は様々な形態で具現化することが可能であるが、簡略化と例示を目的として、そのいくつかの実施形態を参照することにより本発明の原理を記載する。しかしながら、本開示が、特許請求された主題の代表的な例と見なされるのであって、添付の特許請求の範囲を、例示の特定の実施形態に限定するものであるとは意図されないことは理解されよう。当業者には、これらの特定の細部に限定することなしに本発明を実施してもよいことは明らかであろう。他の実例では、周知の方法および構造は、本発明がむやみに不明確とならないよう、詳細には記載しなかった。
【0017】
本明細書に開示の多発動機切り替えシステムは、負荷を電動機が駆動するいずれのシステムの性能をも最適化するように適合させることができる。例示を目的として、本明細書で考察される実施形態のいくつかには、負荷を車両の駆動軸および車輪とするような車両に組み込まれる多発動機切り替えシステムを記載している。本明細書に記載の多発動機システムが、負荷を駆動するのに複数発動機を使用することのできる他の様々なシステムに適合可能であることは、容易に認識されよう。
【0018】
加えて、本明細書に開示の多発動機切り替えシステムは、いかなるタイプの電動機にも使用することができる。例示を目的として、本明細書で考察されるいくつかの実施形態には、DC電動機の使用を記載する。AC電動機、または他のタイプの電動機を、本明細書に記載の多発動機システムで使用してもよいことは、容易に認識されよう。
【0019】
加えて、本明細書に開示の多発動機切り替えシステムを使用して、駆動負荷に及ぼす発動機の寄与を制御することで、性能目標の様々な基準に対して所望のレベルのシステム性能を達成することができる。例示を目的として、本明細書で考察されるいくつかの実施形態は概して、発動機の寄与を制御して最大効率と最小の消費パワー量とを達成することを対象とする。本明細書に開示のシステムは、他の基準または性能目標、例えば最大の走行可能距離もしくは加速度、または、必要とされる最小レベルの加速度を仮定した最大走行可能距離などの基準もしくは性能目標の組み合わせを最適化できることは、容易に理解されよう。また、本明細書に開示のシステムが、発動機の寄与を制御することで、所与のしきい値、例えばシステムの可能な最大効率に等しいかまたはそれ以下であってもよい目標効率(または目標平均エネルギー消費)を達成できること、または、1つまたは複数の拘束条件、例えば発動機温度、全体時間、および/または最大加速度の境界の範囲内で性能目標を確実に満たすようにできることは、理解されよう。
【0020】
加えて、本明細書に開示の実施形態の多くでは、発動機の数および種類は、先験的に決定されたものと仮定される。発動機の最適な寄与を選択して特定の基準を実現する、本明細書に記載の方法および処理は、多発動機切り替えシステムに含めることになる発動機を決定するのに使用することができ、発動機のコスト、サイズ、および他の特性などの他の因子に対して制御しつつ、自動車運転者に観察された運転パターン(運転挙動、一般的な道路条件、および一般的な走行特性など)、および発動機の性能と効率に関する因子に基づくことを含むことは、容易に理解できるであろう。したがって、本明細書に記載の方法およびシステムは、発動機の部分的な組を発動機のさらに大きな組から選択して、または発動機の群を作り出して、所与の自動車運転者の運転目標を最もよく満たすようにすることができる。
【0021】
システム全体の実施形態の記載
【0022】
制御装置は、必要な出力を供給するために、発動機のトルク百分率を決定する。本明細書にさらに記載されるとおり、本明細書に記載のシステムは、運転サイクルおよび発動機パワー曲線の必要条件に従って、電池使用量を最小限にしつつ、発動機それぞれのトルク百分率を決定する。例えば、3つの発動機を有するシステムでは、1つの発動機、2つの発動機、または3つのそれぞれの発動機が、3つの小型発動機の運転サイクルおよびパワー曲線の必要条件に従って、最小限の電池使用量を与えるトルク百分率を与えるようにそのシステムが動作する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態による、車両に使用される多発動機システムの最上階層のブロック図である。多発動機システムは、発動機の所与の組の性能を最適化して、多発動機車両の操作者によるスピードとトルクの所与の必要条件に対する最高の効率を達成するように機能する。
【0024】
多発動機システムは、歯車装置システム106に接続された同一発動機軸104を駆動する、MA、MB、MCと指定された3つの発動機102a、102b、102cを有する。歯車装置システムは、発動機から発動機軸を介して伝達されるパワーを駆動軸108に伝え、この駆動軸が車両の車輪110にパワーを与える。示されているシステムは3つの発動機を有するが、システムは、2つ、3つ、またはそれ以上の発動機を含んでもよい。
【0025】
各発動機102a、102b、102cは、それぞれの駆動装置118a、118b、118cに結合される。これらの駆動装置が今度は、高電圧パワーバス128に結合され、このバスにより駆動装置が電圧コンバータ130に接続される。図1に示される実施形態では、発動機はDC電動機であり、したがって、コンバータはDC/DCコンバータであり、高電圧パワーバスはDC高電圧パワーバスである。発動機がAC電動機である他の実施形態では、システム構成成分は、AC/DCコンバータおよびAC高電圧パワーバスの使用によることを含めACパワーに適合している。電圧コンバータ130は、電池または電池群132の形態の再充電可能な電源に結合される。システム内のパワーは、発動機と電池に対して両方向に移動する:つまり、パワーが、電池132によって発動機102a、102b、102cに供給されて、発動機軸と駆動軸を駆動し、また、発動機102a、102b、102cにより制動を通じてまたは発動機のコイルに対する発動機軸の自由回転から生成されたパワーが、電池132に供給される。
【0026】
電池132から発動機にパワーを供給する際には、電圧コンバータ130は、電池132からのパワーの電圧を、駆動装置118a、118b、118cに好適なレベルに変換し、電池132からの変換された電圧とパワーとを、パワーバス128を介して駆動装置に供給する。次いで、駆動装置118a,118b,118cは、それぞれの発動機102a,102b,102cを駆動する電流を選択的に供給する。
【0027】
発動機から電池にパワーを与える際には、発動機102a、102b、102cにより生成された電流が、それぞれの駆動装置118a、118b、118cに与えられる。それぞれの駆動装置118a、118b、118cは、この電流からのパワーを高電圧パワーバス128上に伝え、このパワーは、コンバータ130によって、電池132の再充電に好適な電圧レベルに変換される。一実施形態では、制御装置はまた、最適なエネルギー生成を達成することを目的として、各発動機に与えられるトルク負荷を決定するために、エネルギー生成に関する発動機の効率マップも利用する。
【0028】
システム操作者126、例えば車両の運転者は、スピードまたはトルクの増加の要求Tdの形態での、例えばアクセルペダル124を介することによる入力のみならず、スピード減少の形態での、例えばブレーキペダルを介することによる入力も与える。このように、操作者126は、車両の運転サイクルに関連する情報をシステムに入力する役割を果たすと言うことができる。車両の動作中、操作者は、要求されたスピードを、アクセルペダル124を介して指示することになるが、ここで、要求されたスピードは、運転サイクルの或る時点に対応するものである。与えられた車両スピードが、要求されたスピードに等しくなければ、操作者は、発動機からのトルクの増加を求める要求に対応するスピードの増加の要求を入力する。
【0029】
一実施形態では、システムは、速度とトルクの増加を求める操作者からの要求をどのように処理するかを決定できるようにする複数センサを含む。発動機軸センサ122は、発動機軸のスピードnを測定し報告する。システムはまた、それぞれの発動機102a、102b、102cに供給される電流iA、iB、iCの量を測定し報告する電流センサ112a、112b、112cを含む。トルクモニタ114は、感知された発動機電流iA、iB、iCを読み取り、この情報を使用して発動機のトルクを計算する。エネルギーモニタ116は、トルクモニタ114からの計算されたトルクと発動機軸スピードnを読み取って、発動機に供給されているかまたは代わりに発動機によって生成されているかいずれかのエネルギー量EMを計算する。システムは、電池132に供給されている、またはこの電池によって与えられている電流ibの量と電圧Vbを決定する、電流センサと電圧センサ134とをさらに含む。発動機軸のスピードn、発動機への/発動機からのエネルギーEMは、要求されたトルクTdと共に制御装置120に送信される。システムはまた、各発動機に関連する発動機温度センサ140a、140b、140cを含み、これらは各発動機についての温度、T’を与える。加えてシステムは、周囲温度センサ142を通して周囲温度T’を測定する。これらのシステムセンサから収集された情報は、様々なシステム機能のための入力として使用される。一実施形態では、制御装置120は、温度勾配と発動機効率への影響とを考慮し、測定された発動機軸スピードと所与のトルク要求とに基づいて、発動機駆動装置118a、118b、118cに送信される各発動機に対するトルク指令TA、TB、TCを生成する。別の実施形態では、制御装置は、運転目標を最適に満たすために、測定された発動機軸スピードと、所与のトルク要求と、他の測定された条件とを含め、収集された情報を使用し、最適条件からの逸脱に関して車両操作者にフィードバックを行うとともに運転挙動の修正に関して車両操作者に提案を行う。別の実施形態では、収集された情報は、個々の使用者の運転パターンを決定するために、そして運転パターンデータを作成するために使用される。
【0030】
制御装置の動作、および発動機負荷の最適化
【0031】
制御装置120は、電池から取り出されるエネルギーを最小限にするために、各発動機へのトルク指令を最適化する。図2aは、本発明の一実施形態による、制御装置120の動作と、各発動機に対するトルク指令TA、TB、TCを制御装置に最適化させる処理とを例示するブロック図である。上述のとおり、制御装置120は、運転サイクルにおける所与の動作点によって必要とされる発動機軸のスピードnと、現在のトルク要求Tdとを操作者から連続的に受信する。ステップ202では、制御装置はまた、データベース204から、システム内の発動機それぞれの効率に対応する効率データ、etaA、etaB、etaCを含む発動機データを取り出す。各発動機についての効率データは、異なる動作温度にまたがる効率を含め、スピードとトルクの可能な組み合わせにまたがるその発動機の効率を表す。図6~9に、大型小型の様々な発動機の効率データの例を与える。発動機効率データはまた、トルク、パワー、および温度に関する境界パラメータを含み、これらは発動機の仕様から導出することができるものである。データベース204に記憶された発動機データはまた、発動機の動作および特性に関する他の情報、例えば発動機の動作温度境界;システム内の各発動機(すなわち、発動機A、B、およびC)の熱応答パラメータ、例えば、発動機鋼の熱伝導率、および発動機による発熱と放熱に関する他の因子;ならびにシステム内の各発動機の初期発動機モデル抵抗も含む場合がある。
【0032】
図2は、本発明の一実施形態による、制御装置120の動作と、各発動機に対するトルク指令TA、TB、TCを制御装置に最適化させる処理とを例示するブロック図である。発動機効率データを取り出した後、制御装置は、ステップ208および212に進み、発動機効率情報の分析を実行して、電池からの最小のエネルギー使用量に備えるために各発動機の最適な寄与を決定する。この最適化を行うために、制御装置は、ラスタスキャン技術を実行し、次いで、個々の発動機それぞれによって与えられることになるトルク要求Tdのうちの最適な部分、すなわち百分率を決定する。制御装置分析の結果および出力は、1つ、2つ、または3つすべての発動機を、運転サイクルにおける特定の動作点でトルク要求に役立つ寄与を有するように駆動することであってもよい。ステップ214では、制御装置は、最適化分析によって決定されたトルク要求Td全体のうちの部分、すなわち百分率に対応する、各発動機駆動装置118a、188b、118cに対する発動機トルク指令信号、TA、TB、TCを生成する。例えば、発動機効率データおよび現在のスピードおよびトルク要求に基づいて、最も効率的なエネルギー使用量が、トルク要求の20%を供給する発動機A、トルク要求の30%を供給する発動機B、トルク要求の50%を供給する発動機Cから得られる可能性があると判定されるならば、制御装置は、発動機トルク指令信号TA、TB、TCをそれぞれの発動機駆動装置に出力し、この出力を、TAがTdの20%に等しく、TBがTdの30%に等しく、TCがTdの50%に等しくなるようにして行う可能性があるか;または、最も効率的なエネルギー使用量が、トルク要求の100%を供給する発動機A、それぞれ0%を供給する発動機Bと発動機Cから得られる可能性があると判定されるならば、制御装置は、発動機トルク指令信号TA、TB、TCをそれぞれの発動機駆動装置に出力し、この出力を、TAがTdの100%に等しく、TBとTCがTdの0%に等しくなるように、もしくは別の解として、TAがTdの50%に等しく、TBがTdの50%に等しく、TCがTdの0%に等しくなるようにして行う可能性がある。
【0033】
制御装置120の動作は、運転サイクルを通じて実時間で、またはほぼ実時間で行われ、これは、トルク要求と車両のスピードの変化とに基づいて制御装置が発動機トルク指令信号を連続的に調整するようにして行われる。特に、制御装置は、一定の区間で、または動作の連続的なループで、車両の動作の初めから終わりまで、図2に関連して記載される処理を連続的に通る。この分析は実時間またはほぼ実時間で行われるので、制御装置のプロセッサは理想的には、ステップ208および212における最適化計算(例えば、ラスタスキャン分析)を実時間またはほぼ実時間で実行するのに充分なスピードと帯域幅を有する。
【0034】
別の実施形態では、代わりにまたはこれに加えて制御装置は、非実時間での決定に基づいて、例えばプリロードされた規則の使用を通じて、発動機トルク指令信号を生成する。そのような一実施形態では、プリロードされた規則は、発動機特性および変数の所与の一組に基づいて予め実行された最適化計算に基づいて決定される。例えば、最適化計算を別々に実行し、これを使用して、(発動機の特性、例えば効率データに基づいて)トルク要求および軸スピードの可能な組み合わせの組にまたがって所与の必要条件(または必要条件の組み合わせ)を満たすように、最適な発動機トルク指令を前もって決定してもよい。次いで、これらの最適化計算の結果を使用して、制御装置がアクセスすることのできるメモリ、例えばメモリ204に記憶されるルックアップテーブルを構築する。動作中、ステップ208および212では、制御装置は次いで、所与のトルク要求と軸スピードを使用するルックアップテーブルを参照して、関連する発動機トルク指令を決定する可能性があるが、この発動機トルク指令は、温度拘束条件が満たされるよう保証することを含む必要条件または必要条件の組み合わせに対して最適化されているものとして予め計算されていたものである。一実施形態では、運転パターンデータおよび運転者の目標(運転可能距離の最大化または運転時間の最小化など)に基づいて、制御装置は、運転目標を最適に満たすために、操作者の運転挙動を修正することに関して操作者に提案することができる。
【0035】
別の実施形態では、代替的、または追加的に、制御装置は発見的方法を使用して、必要条件または必要条件の組を満たすために、各発動機の準最適ではあるが充分な寄与を決定する。例えば、図2aおよび図2bのステップ208におけるそうした1つの代替実施形態では、制御装置は発見的方法を使用して、電池からの最小限のエネルギー使用量に備えるために、発動機間のトルク要求の準最適であるが充分な分割値を決定する。発見的方法を採用することによって、そして準最適解を決定することによって、制御装置は、所与の必要条件または必要条件の組(エネルギー使用量の最小化、走行可能距離の最大化等)にとって充分である発動機間の負荷分担の分割値を決定しつつ、さらに速やかに操作を実行することが可能である。
【0036】
図3は、本発明の実施形態による、発動機トルク指令信号の決定に関連して制御装置が実行するステップを示すブロック図である。まず、制御装置は、運転サイクルにおける動作点について、所与のスピードとトルク(n,T)で各発動機の相対効率を比較し、その点で最大効率を有する発動機を決定する。3つの発動機を有するシステムの場合には、この比較と決定は、ステップ302aおよび302bを含み、各発動機の効率が、システム内の他の各発動機の効率と比較される。より詳細には、ステップ302aでは、発動機Aの効率etaAが、発動機BおよびCの効率etaBおよびetaCと比較され、より大きいかどうか判定される。同様に、ステップ302bでは、発動機Bの効率etaBが、発動機AおよびCの効率etaAおよびetaCと比較され、より大きいかどうか判定される。発動機の数がさらに多いシステムの場合には、制御装置は、最大効率を有する発動機を決定するために、さらなる同様の比較ステップを経る可能性がある。あるいは、制御装置は、他のアルゴリズムを使用して、2つ、3つ、またはそれ以上の発動機について、どの発動機が最大効率を有するかを判定してもよい。
【0037】
最大効率を有する発動機がいったん見つかると、制御装置は、第1の条件を試験し、トルクレベルをチェックして、最大効率を有する発動機のトルク境界よりトルク必要条件Tdが大きいかどうかを判定する。図3を参照すると、ステップ304a、304b、および304cでは、制御装置は、トルク要求Tdを、運転サイクルにおける所与のスピードとトルクで最大効率を有していたと前のステップで判定された発動機のトルク境界と比較する。例えば、発動機Bが運転サイクルの所与の点で発動機効率のうち最大のものを有すると判定されたなら、ステップ304bでは、トルク要求Tdは、発動機Bのトルク境界TbBと比較されて、その境界を超えているかどうか、ステップ302aおよび302bを通じて判断される。最大効率を有する発動機のトルク境界をトルク要求が超えているならば、その発動機だけではその特定のトルク要求を満たすことができないので、制御装置は、複数発動機にまたがるトルク要求負荷の分担を実現する。その結果、制御装置は、多発動機最適化分析を実現するステップ208に進む。
【0038】
しかしながら、トルク要求がトルク境界を超えておらず、トルク境界が満たされるようになっている場合は、制御装置は第2の条件を試験して、必要なパワーを発動機が供給できるかどうか、または発動機パワー境界を超えているかどうかを判断する。ステップ306a、306b、および306cでは、必要とされる発動機パワーは、運転サイクルの所与の点で最大効率を有する発動機について計算される。発動機パワーは、トルク要求(例えば、ニュートン・メートル(Nm)単位)と発動機軸スピード(例えば、回転数/分(rpm)単位)の積として計算される。必要とされる発動機パワーが計算された後、制御装置は、次にステップ308a、308b、および308cで、発動機パワーを関連発動機のパワー境界と比較して、その発動機のパワー境界を超えているかどうかを判定する。例えば、先のステップ302aおよび302cで、発動機Cが運転サイクルの所与の点で発動機効率のうち最大のものを有すると判定され、さらにステップ304cで、トルク要求Tdが発動機Cのトルク境界TbCを超えていないと判定されるならば、制御装置は、必要とされる発動機パワーPCを発動機Cのパワー境界PbCと比較する。必要とされる発動機パワーが、関連発動機のパワー境界を超えているならば、その発動機だけでは特定のパワー要求を満たすことができないとも判断され、制御装置は、複数発動機またがるトルク要求負荷の分担を実現する。その結果、制御装置は、多発動機最適化分析を実現するステップ208に進む。
【0039】
しかし、2つの条件が満たされて、トルク要求と必要とされるパワーとが発動機境界を超えていないのであれば、制御装置は、運転サイクルの所与の発動機軸スピードとトルク(n,T)で最大効率を有すると判定された発動機にトルク要求を直接送信し、その発動機の発動機トルク指令をトルク要求Td全体とすることによって、これを行う。例えば、ステップ302aを通じて、発動機Aが発動機のうち最大効率を有すると判断されたなら、そしてステップ304aで、発動機Aのトルク境界条件が満たされていると判断されたなら、そしてその後、ステップ306aおよび308aを通じて、発動機Aのパワー境界条件が満たされていると判断されたなら、制御装置は、トルク要求Td全体に等しい発動機Aトルク指令TAを生成する。しかしながら、トルク境界条件またはパワー境界条件のいずれかが満たされていないならば、制御装置が多発動機動作に切り替って、複数発動機にまたがってトルク要求が分担されるようにし、制御装置は、多発動機最適化分析を実現する。
【0040】
図4は、運転サイクルの動作点での発動機間の負荷分担を決定して所与の軸スピードとトルクとについての効率を最適化するのに使用されるラスタスキャン技術を例示するブロック図である。上述のとおり、制御装置は、運転サイクルの所与の動作点での発動機スピードnとトルク要求Tdを受信する。制御装置は、複数発動機間で負荷分担が必要とされると判定した場合には、以下のラスタスキャン技術を実現して、各発動機が与えることになるトルク要求の百分率を決定し、この決定は、制御装置によって発動機駆動装置に送信される発動機トルク要求の合計が全トルク要求に等しくなるようにしてなされる。例えば、3つの発動機を有する表示のシステムにおいては、所与のトルク要求Tdに対して、制御装置120は、TA=Td*x、TB=Td*y、およびTC=Td*z、ここで0<=x<=1、0<=y<=1、0<=z<=1、および1=x+y+z、が成り立つようにして、発動機トルク指令TA、ZB、TCを生成する。ラスタスキャン分析を実行する際には、ステップ402および404で、制御装置はまず、m次元空間においてラスタを定義するが、ここでmは発動機の数以下の数である。加えて、制御装置は、定義された数の点または区間をm次元空間の各次元において有するようにラスタを定義するが、ここで、区間の数は、区間が多いほど精度が高まる結果となるような最適化計算に望ましい精度レベルに対応している。代表的な例としてだけではあるが、図5は、3つの変数を最適化できるような(3つの発動機にまたがる負荷分担を最適化する場合)、二次元空間における4×4ラスタを示している。示されている例では、二次元空間における4×4点のラスタは、xとyがそれぞれ、値0、0.333、0.667、および1を仮定した一定区間で定義される。各点では、zの値は、z=1-x-yであることが既知である。ステップ406では、一組の試験トルクが発動機の各々について定義され、各点での試験トルクは、トルク要求と、特定の発動機に対応するラスタ内の値との積に等しい。図4に示される例では、x次元におけるxの値は、発動機Aに割り当てられたトルク要求(TA)の百分率に対応し、y次元におけるyの値は、発動機Bに割り当てられたトルク要求(TB)の百分率に対応し、zの値(xおよびyによって定義される)は、発動機Cに割り当てられたトルク要求(TC)の百分率に対応し、TA=Td*x、TB=Td*y、およびTC=Td*zとなるようなものである。ステップ408では、各発動機について記憶された効率データに基づき、ラスタスキャンにおける各点について発動機の効率が計算される。ステップ410では、ステップ408で計算された効率を入力して、ラスタスキャンにおける各点でコスト関数が計算される。コスト関数は、その時点の最小電池エネルギーから導出される。三発動機システムの場合のラスタスキャンの場合には、コスト関数はF(x,y)=x/etaA+y/etaB+z/etaCの形式をとる。ステップ412および414では、制御装置は、計算されたコスト関数のそれぞれにまたがる最小コスト関数Fminを決定して、最小コスト関数が生じるラスタスキャン内の点を特定する。この点は、システムの最も効率的な動作を与えるために各発動機に割り当てられることになる、トルク要求の百分率に対応する。3つの発動機では、最小コスト関数Fminは、点(xmin,ymin,zmin)のところで生じる。ステップ416では、各発動機に対するトルク指令は、ステップ412および414で計算された最小値に基づいて計算され、この計算は、各発動機に、ラスタにおけるその発動機に対応するトルク要求と最小コスト関数Fminの点との積に対応するトルクが割り当てられるようにしてなされる。例えば、3つの発動機では、計算されるトルク指令は、制御装置によって次のように計算され:TA=Td*xmin、TB=Td*ymin、そしてTC=Td*zminである。ステップ418では、計算されたトルク指令は、それぞれの駆動装置に送信される。
【0041】
制御装置120は、このラスタスキャン技術を実現して、2つ、3つ、またはそれ以上の発動機に対して最適化することができる。比較的多数の発動機に対しては、制御装置は、発動機間の最適な負荷分担を決定する他の技術、例えばコスト関数の勾配を使用する最急降下法を利用してもよい。例えば、5つより多い発動機が利用される場合には、制御装置は、所与の運転条件にとって最適な負荷分担を決定するのに、最急降下法を使用してもよい。さらに多数の発動機が関与する他の実施形態では、制御装置は、必要条件または必要条件の組を満たすために、各発動機の準最適ではあるが充分な寄与を決定するのに発見的方法を使用する。最適化技術の代わりに発見的方法を採用することによって、制御装置は、発動機が増えるのに伴いステップ208での計算がさらに複雑になるもかかわらず、ほぼ実時間でトルク指令を生成することが可能である。さらに多数の発動機が関与する他の実施形態では、制御装置は、非実時間での決定に基づいて、例えば、変数の組を仮定して事前の最適化計算に基づいて決定されプリロードされた規則の使用を通じて、発動機トルク指令信号を生成する。
【0042】
加えて、上記の技術は、性能を最適化するものとして記載されてはいるものの、同一技術を用いて、最適解ではなく所望のしきい値を満たす負荷分担を決定できることは理解される。例えば、制御装置が発動機間の負荷分担の制御を行って特定の走行可能距離(例えば、100マイル)を実現するよう、使用者が指定した場合には、制御装置は、上記の分析技術を使用して、発動機間の負荷分担のどの組み合わせが所与の走行可能距離を与えることができるかを決定する。これらの組み合わせから、制御装置は同一分析技術を使用し、別の指標に基づいて、例えば、効率を最適化すること、または最小加速度しきい値を満たすことに基づいて、どの組み合わせを使用するか決定することができる。
【0043】
以上、最大効率と電池からの最小エネルギー使用量に関して、多発動機最適化処理を説明してきたが、制御装置120は、様々な因子に基づいて、複数発動機間のトルク負荷分担を最適化してもよい。例えば、制御装置は、代替的に、または追加的に最大走行可能距離、または加速度、または、最大走行可能距離と最小レベルの許容可能な加速度などの因子の組み合わせに対して最適化してもよい。
【0044】
環境変数と温度とを含む全体最適化
【0045】
システム100はまた、環境の情報を利用して、運転サイクル全体にわたる全体最適化を実行することもできる。運転サイクル全体にわたるこのような全体最適化は、運転サイクルの性質により動作点が相関していて独立ではないようになっているという事実に基づいて、実行することができる。例えば、加速度に課される制限を含め、発動機やシステム全体に課される現実世界の拘束条件や物理的な制限が、所与の運転サイクルにおいて動作点どうしが互いに(スピードやトルクの点で)離れすぎることのないよう保証している。この関係を考慮し、各動作点では、過去のすべての点と将来の点とを考慮して新たな全体最適化が実行される。この全体最適化は、運転サイクルにおいて過去の動作点が将来の動作点に与える影響を考慮しているので、系列点の最適化の単なる総和を超えるものである。一例として、熱過渡現象を考慮すると、各動作点が将来の動作点に影響を与える。特に、熱はすぐには散逸せず、むしろ時間をかけて蓄積する場合があり、過去のトルク指令に基づくこの熱の蓄積は、システムにおける最適効率に備える複数発動機間のトルクの分布に影響を与えて、発動機の将来の動作性能を保護する。
【0046】
図11は、本発明の実施形態による、制御装置120の動作と、制御装置が特定の性能目標を満たすために各発動機に対するトルク指令の全体最適化を実行するのに用いる処理を例示するブロック図である。本明細書に記載の実施形態では、性能目標は、エネルギーを最小化することである。しかしながら、上述のとおり、他の性能目標または性能目標の組み合わせを全体最適化に使用してもよいことは理解されよう。また、1つまたは複数の拘束条件、例えば発動機温度、走行に要する最大時間、最大スピード、および/または最大加速度の境界内で性能目標が確実に満たされるよう、全体最適化を実行できることも認識されよう。
【0047】
上述のとおり、全体最適化は、運転サイクルにおいて過去の動作点が将来の動作点に与える影響を考慮する。本明細書で与えられる例では、全体最適化は、熱過渡現象を考慮する。しかしながら、発動機効率および性能に影響を与え得る他の過渡的な変数および条件を、発動機温度に加えて、または発動機温度に代えて、考慮してもよい。
【0048】
ステップ1101では、制御装置は、様々なシステム構成成分から入力情報を受信して、全体最適化を実行するのに使用することになる変数を初期化する。制御装置は、運転サイクル情報を走行計画ツールから直接受信し、代わりに走行計画ツールは、運転サイクル情報および運転サイクルの他の特性を制御装置が決定するための元になる走行情報を、制御装置に与える。次いで制御装置は、運転サイクルの過程にわたって時間t=(t,t,...,t)でのスピードとトルクデータ(ndi,Tdi)を決定するが、ここでtは時間、iは運転サイクルデータにおける時間ステップの添え字、tは運転サイクルにおけるi番目のステップでの時間、そしてt=(t,t,...,t)はi番目の時間ステップを指し、tは初期ステップ時間、そしてtは最終ステップ時間である。
【0049】
加えて、制御装置は、車両に関連する機械的データ、例えば、空気摩擦係数;システム内の各発動機k(すなわち、発動機A、B、およびC)の熱応答パラメータ、例えば、発動機鋼の熱伝導率および発熱や放熱に関連する他の因子;システム内の各発動機に対する初期発動機モデルパラメータR(T’k0);および発動機の電気機械パラメータ、例えば発動機バス電圧;およびいずれかの温度拘束条件または他の拘束条件(例えば最大加速度)を、データベース204または他のメモリ記憶装置から受信する、または入力する。これらの値は、全体最適化を実行する際の制御装置による使用のために、事前に計算または測定されてデータベース204に記憶される。これらの値はまた、制御装置によって実行される全体最適化の妥当性を確認するために使用される制御装置へのフィードバックを行うために、実時間で測定され計算される場合がある。
【0050】
ステップ1102では、制御装置は、時間変数を初期化する。例えば、制御装置は、i=0をとって、t=t=0に設定する。
【0051】
ステップ1103では、制御装置はまた、(ndi,Tdi)に基づいて、運転サイクルにおける動作点での加速度を算出する。加えて、制御装置は、発動機性能に影響を与えるあらゆる過渡的変数を更新する。示されている実施形態では、制御装置は、運転サイクルにおけるi番目のステップでの各発動機kの温度T’kiを更新する。時間t=0で、発動機温度T’kiを、各発動機に関連する発動機温度センサ140a、140b、140cを通じて決定してもよい。その後、発動機温度T’kiは、周囲温度T(これは周囲温度センサ142を通じて測定される)だけでなく、発動機内部の発熱および放熱の影響を受ける。発動機温度の測定値T’kiおよび周囲温度の測定値は、制御装置に与えられる。
【0052】
ステップ1104で、制御装置は最適化計算を開始する。本明細書に示される実施形態では、システムは、本明細書に開示のラスタスキャン技術を使用して、xおよびyの範囲にわたって最適化を開始するが、ここで0<=x<=1、0<=y<=1、0<=z<=1、1=x+y+zであり、x次元におけるxの値は、発動機Aに割り当てられたトルク要求(TA)の百分率に対応し、y次元におけるyの値は、発動機Bに割り当てられたトルク要求(TB)の百分率に対応し、zの値(xおよびyにより定義される)は、発動機Cに割り当てられたトルク要求(TC)の百分率に対応する。さらなる発動機を有するシステムの場合には、ラスタスキャン処理にさらなる次元が含まれる。(x,y)の範囲にわたる各値のところで、制御装置は熱計算を実行し、以下にさらに記載されるとおりコスト関数を決定する。
【0053】
ステップ1105では、制御装置は熱計算を実行して、発動機間のトルク要求の特定の割り当てを行うための発動機に対する温度の変化を決定する。制御装置は熱過渡現象を計算して、ti+1での各発動機kについて、i番目のステップの終わりでの時間帯Δt後のシミュレートされた温度T’k(i+1)を得る。この計算のために、制御装置は、データベース204から取り出された各発動機kについての発動機熱応答パラメータを使用する。
【0054】
ステップ1106では、制御装置は、所望の目的関数に関して、発動機間のトルク要求の特定の割り当てに対するコスト関数分析を実行する。各発動機kについて、制御装置は、温度T’k(i+1)、およびt(i+1)でのk番目の発動機の発動機パラメータのベクトルであるR(T’k(i+1))を計算する。各発動機kについて、制御装置は、動作点(nd(i+1),Td(i+1))、および時間t(i+1)での発動機kの効率ηk(i+1)を計算する。次いで制御装置は、性能基準に関係する(x,y)の点でのコスト関数F(x,y)を計算する。性能基準が効率に関して最大化される表示の実施形態では、コスト関数は、使用されるエネルギーの量である。
【0055】
ステップ1107では、制御装置は、最適化分析が範囲(x,y)全体にわたって実行されたかどうかを判定する。実行されていないなら、ステップ1112でxおよびyの値が更新されるが、これは、制御装置が、xの次の値を0<=x<=1の範囲内で選択し、次のyを0<=y<=1の範囲内で選択し、z=1-x-yであるzの次の値を計算するようにして行われ、次いでステップ1105および1106が、xおよびyの更新された値に関して実行される。いったん、最適化分析が範囲(x,y)全体にわたって実行されコスト関数がそのような点に対して導出されると、制御装置はステップ1108に移行する。
【0056】
ステップ1108では、制御装置は、最適化分析の結果を判定し、その結果のトルク指令を出力する。制御装置は、コスト関数F(x,y)の最小値であるFを、(x,y)の範囲にわたって計算する。制御装置は、Fに対応する最適値(x,y)=(xopt,yopt)とする。時刻ti+1で、(xopt,yopt)を用いて、制御装置は発動機に最適なトルクを出力する。次いで制御装置は、Δt=ti+1-tの間に消費された電池エネルギーを計算し、0<=t<=ti+1の時間帯にわたりそれまでに消費された全電池エネルギーを更新する。
【0057】
ステップ1109では、制御装置は、運転サイクルの終了に達したかどうかを判定する。制御装置は、ti+1>=tであるかどうかを判定する。運転サイクルの終了に到達しておらず、ti+1<tであるようならば、ステップ1110で時間変数を増分させて、tがti+1に増分し、iがi+1に増分するようにし、ステップ1102から1108が、tおよびiの更新された値に基づいて反復される。運転サイクルの終了に達し、ti+1>=tとなっているようならば、制御装置はステップ1111に移行する。
【0058】
ステップ1111では、制御装置は、全体最適化計算の結果、例えば、運転サイクルのために消費される全電池パワーを出力する。
【0059】
一実施形態では、運転サイクル、および全体最適化によって生成されたトルク指令の実現の過程にわたって、制御装置は、全体最適化の妥当性を確認するために、車両上のセンサからの現在の測定値、例えば周囲温度、内部発動機温度を含む発動機熱、軸回転スピード、発動機、発動機電流、およびトルク要求を使用する。
【0060】
別の実施形態では、制御装置は、更新された走行情報、更新された運転サイクル特性、および変数、例えば発動機温度、周囲温度について更新された測定値および計算値を考慮して、運転サイクル全体の過程にわたって全体最適化処理を頻繁に実行する。
【0061】
効率向上を示す多発動機システム動作のシミュレーション
【0062】
上記の多発動機システムは、様々なシステムに適用することができる。例示を目的として、電動輸送機器に関連したシステムの使用に関する例を与える。多発動機システムおよびその中の制御装置が、作業を実行する電動機を使用するシステムに適用できることは、理解されよう。
【0063】
本明細書に開示のシステムの適用に関する代表的な例を与えるが、これらの例は、運転パターンデータ、すなわち「運転サイクル」によって表される、異なる運転シナリオの下での車両内の発動機の組による電池使用量のシミュレーション研究に関連するものである。特定の発動機および運転サイクルを、以下の節に記載する。
【0064】
この代表的な例では、発動機にまたがる負荷分担は、本明細書に記載の最適化ルーチンに準拠して制御装置によって決定される。電池出力は、エネルギー使用量である。本明細書に開示のシステムの効率向上は、発動機にまたがる負荷分担を行わないシステムの電池使用量との比較によって示される。
【0065】
以下に記載のシミュレートされた試験では、大型発動機と小型発動機のそれぞれについて2つの事例を検討しており、この場合、異なる事例(Case 1およびCase 2)は、異なる特性を有する発動機の組に対応する。
【0066】
試験された発動機
【0067】
システムのシミュレートされた試験を、大型発動機と小型発動機の両方に関連して実行した。システム内の各発動機は、はっきりと異なるパワー曲線を有している。試験を目的として、大型小型両方の発動機を、同一抵抗を含む類似モデルで表現する。与えられた例では、発動機回路モデルを定義するために抵抗行列を使用する。回路モデルのパラメータは、大型発動機と小型発動機で同一である。
【0068】
図6は、本発明の実施形態による、多発動機システムの動作の代表的な例であるCase 1の3つの大型発動機のパワー曲線と効率等高線を示している。図7は、本発明の実施形態による、多発動機システムの動作の代表的な例であるCase 2の3つの大型発動機のパワー曲線と効率等高線を示している。図8は、本発明の実施形態による、多発動機システムの動作の代表的な例であるCase 1の3つの小型発動機のパワー曲線と効率等高線を示している。図9は、本発明の実施形態による、多発動機システムの動作の代表的な例であるCase 2の3つの小型発動機のパワー曲線と効率等高線を示している。
【0069】
大型発動機の場合には、効率ピーク領域は、(n,T)空間にわたって最適に広がっている。小型発動機の場合には、パワー曲線は、境界(拘束条件)により制限され、よって、境界内の(n,T)点のみが妥当であると見なされる。特に、パワー損失境界は、小型発動機の方を制限する。このシミュレーションでは、小型発動機の方をパワー損失境界以上に動作できないようにしている。大型発動機のパワー曲線は境界を有していないので、すべての(n,T)点を大型発動機が使用できる可能性がある。このシミュレーションでは、平面全体((n,T)の運転サイクル点で定義される)にわたり大型発動機の方が動作できるようにしてある。また、大型発動機と小型発動機は、同一の効率分布を有する場合のある一方で、有効な(n,T)点の異なる分布を有する場合がある。
【0070】
発動機の損失は、公称パワー曲線の値から算出した。本書に記載のモデリングと試験の場合には、発動機パワー損失値に推定総合効率0.96を使用して、計算を簡略化した。
【0071】
試験された運転サイクル
【0072】
本書に記載されたシステムを試験するのに使用される運転サイクルは、EPAによって与えられる(https://www.epa.gov/vehicie-and-fuel-emissions-testing/dynamometer-drive-schedulesを見られたい)。各運転サイクルは、各点での必要とされるスピードとトルクを特徴とする。本システムを試験するのに使用される基本的な運転サイクルに関する追加情報を、以下に与える。
【0073】
EPAの都市ダイナモメータ運転スケジュール(Urban Dynamometer Driving Schedule(UDDS))は、一般に「LA4」または「シティ・テスト(city test)」と呼ばれ、市街地走行条件を表す。これは、軽負荷車両(light duty vehicle)試験に使用される。UN/ECE規則53番では、EPA UDDSを「タイプ1試験(冷間起動後の排ガスを実証するもの)と等価な試験(Test Equivalent to the Type 1 Test)」と称している。図10aは、UDDS運転サイクルのスピード対時間を示すグラフである。
【0074】
ハイウェイ燃料経済性運転スケジュール(Highway Fuel Economy Driving Schedule(HWFET))は、60マイル毎時(mph)未満の高速道路運転条件を表す。図10bは、HWFET運転サイクルのスピード対時間を示すグラフである。
【0075】
US06運転スケジュールは、「補足FTP(Supplemental FTP)」運転スケジュールと認定されることの多い、高加速度の積極的な運転スケジュールである。図10cは、US06運転サイクルのスピード対時間を示すグラフである。
【0076】
シミュレートされた試験の結果
【0077】
発動機の2つの異なる組(Case 1およびCase 2)を使用するシステムのシミュレーションからは、本明細書に記載のシステムおよび技術を使用して、3つの小型発動機からなる組が、3つの大型発動機と同一効率を発揮し、いずれの個々の大型発動機よりも優れた効率を発揮することが示された。その結果、本明細書に記載のシステムおよび技術により、大型発動機システムよりも高効率な小型発動機からなる多発動機システムの実現が可能になる結果、発動機システムの性能向上とコスト削減となる。
【0078】
エネルギー生成の最適化
【0079】
上述のとおり、システム内の複数発動機は、上記のものとは逆の処理を通じて発電機としての役割をすることも可能であり、この場合、発動機を使用して電池用の電流を生成するために、駆動軸からのトルクをそれらの発動機に分布させる。例えば、車両が制動しているとき、制御装置は、利用可能なトルクを受ける発動機を駆動軸に選択的に係合させてもよく、それによって電流を生成する。そうしたシナリオでは、それぞれの駆動装置118a、118b、118cは、整流器システムとして働く。制御装置120からのトルク指令信号TA、TB、TCに基づいて、各整流器システムはパワーコンバータとして作用し、以下にさらに記載されるとおり、その対応する発電機によって扱われる利用可能なトルクの割合(よって、生成される電流全体の割合)を制御する。各整流器システムは、利用可能なトルクの一部分を扱うためにそれぞれの発電機を発電機軸104に係合させる程度を制御する。各整流器システムは、対応する発電機のパルス幅変調(PWM)デューティサイクルを調整して、その発電機により扱われるトルクの量、そして、その発電機により生成される電流の量を制御する。電流センサ112a、112b、112cは、各発電機により生成される電流を監視し、その電流は、発電機によって生成される電磁トルクTを計算するモニタ114に与えられる。第2のモニタ116は、電磁トルクTと発電機軸スピードnを取り込んで、発電機EGから取り出されるエネルギーを計算する。次いで各整流器は、DC高電圧パワーバス128にエネルギーを供給する。AC/DCコンバータ130は、インバータとして働き、エネルギーを、バス128から外部エネルギー負荷、例えばエネルギーグリッドまたはエネルギー貯蔵システムに転送する。
【0080】
多発動機システム設計の最適化
【0081】
多発動機システム、例えば上記の三発動機システム100を構築するのに使用される発動機の選択もまた、上記の最適化技術に基づいて、効率に関して最適化することができる。それぞれ特定の特性(例えば、効率特性、トルク境界、パワー境界等)を有する発動機の組が与えられ、所望の数の発動機(例えば、3つの発動機)が与えられると、自動車運転者の観察された運転パターン(運転挙動、一般的な道路条件、走行特性など)に最も近い、所与の運転サイクルまたはサイクルの組にとって最適な発動機は、上記のラスタスキャン技術を使用して決定することができる。発動機の最適な寄与を選択して特定の基準を実現する、本明細書に記載の方法および処理は、どの発動機を多発動機切り替えシステムに含めるかを決定するのに使用することができ、発動機のコスト、サイズ、および発動機の他の特性などの他の因子を制御しつつ、発動機の性能および効率に関する因子に基づくことを含むことは、容易に理解されよう。
【0082】
本発明の実施形態によれば、多発動機切り替えシステムに含める発動機を選択するために、以下のシステムおよび処理が使用される。まず、運転パターンデータが発動機選択システムによって受信される。運転パターンデータは、上記の例示的な「運転サイクル」データと同様のデータを含んでおり、同様の処理によって生成されてもよい。一例では、運転パターンデータは、特定の個人による1回または複数回の運転事象の過程で記録された、所与の試験車両に乗った個人の加速度およびトルクの条件を記録することによって生成され、運転データは、発動機選択処理のための最終的な運転パターンデータが結果として得られるように組み合わされる。
【0083】
いったん運転パターンデータが受信されると、発動機選択システムは、発動機情報データベースから発動機情報データを受信する。この発動機情報データは、データベースに記憶され、複数発動機の動作特性に関するデータ、例えばそのような各発動機のパワー曲線および効率等高線;車両の機械的データ、例えば空気摩擦係数;システム内の各発動機k(すなわち、発動機A、B、およびC)の熱応答パラメータ、例えば発動機鋼の熱伝導率および発熱や放熱に関する他の因子;システム内の各発動機kに対する初期発動機モデル抵抗R(T’ k0);およびデータベースにシステムによって記憶される発動機の電気機械パラメータ、例えば発動機バス電圧を含む。発動機情報データはまた、発動機に関連する他の情報、例えばそうした各発動機のコスト、重量、およびスペースを含んでもよい。発動機情報データベースは、発動機選択システムにローカルに置いてもよいし、ネットワーク接続を介してアクセスされるリモートのデータベースであってもよい。
【0084】
発動機選択システムは、選択されることになる発動機の数を入力変数として受信する。発動機の数は、発動機選択処理に課される拘束条件として動作して、決められた数の発動機を発動機システムが出力するようする(例えば、システムに入力された発動機の数が3である場合、3つの発動機のみが車に適合するように選択されることになる)。
【0085】
発動機選択システムは、運転パターンデータ、発動機情報データ、および選択されることになる発動機の数を用いて、その運転パターンにとっての発動機の最適な組を決定する全体最適化処理を実行する。発動機選択システムによって実行される全体最適化処理では、運転パターンデータは、図11の全体最適化処理の記載の対象となった運転サイクルに対応しており、最適化分析用の発動機特性は、最適化処理に用いられる発動機効率データ(発動機パラメータを含む)に対応し、ラスタスキャンの次元数は、選択されることになる発動機の入力数によって設定される。コスト関数は、所望の基準、例えばエネルギー消費の最小化、加速度の最大化に基づいて定義することができる。効率に加えて、発動機の選択には、付加的な拘束条件や境界、例えば発動機のコスト、重量、およびスペースを考慮することができる。全体最適化処理に続いて、発動機選択システムは、所望の基準を満たす最適解を与える発動機の組み合わせを出力する。このようにして、発動機選択システムは、個人の運転パターンに合わせて個別に調整された発動機の組を与えることができ、また発動機の最適化された(例えば、最もエネルギー効率の高い)組を使用者に与える。
【0086】
加えて、運転パターンデータと運転者の目標(運転可能距離の最大化、または運転時間の最小化など)に基づいて、制御装置は、運転目標をより最適に達成するために運転者の運転挙動を修正することについて、その運転者に提案することができる。
【0087】
上記のラスタスキャン技術以外にも、他の技術を使用して、多発動機システムに対して発動機の選択を最適化することができ、そうした技術には、ネルダー‐ミード・シンプレクス(Nelder-Mead simplex)アルゴリズム、最急降下法、ニュートン法、またはニュートン‐ラプソン法などがある。
【0088】
本発明をいくつかの好ましい実施形態の観点から記載してきたが、本発明の範囲内に収まる多くの変更、入れ替え、および均等物が存在することを理解されたい。また、本発明の処理と装置の両方を実現する代替方法があることにも留意されたい。例えば、ステップは、添付図面に示された順序で実行される必要は必ずしもなく、適宜に再配置してもよい。したがって、添付の特許請求の範囲には、本発明の真の趣旨および範囲に収まるそうした変更、入れ替え、および均等物がすべて含まれることが意図される。
【0089】
上記システムの構成成分は、デジタル電子回路、または計算機ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェアに、またはそれらの組み合わせで実装することができる。本システムの構成成分は、計算機プログラム製造物、すなわち、情報担体において、例えば機械可読記憶装置において、または伝播信号において有形に具現化された計算機プログラムとして実装することができ、データ処理装置、例えばプログラマブルプロセッサ、計算機、もしくは複数の計算機による実行、またはそうしたデータ処理装置の動作制御を行う。
【0090】
計算機プログラムの実行に好適なプロセッサには、例として、汎用および特定用途向けマイクロプロセッサ、およびあらゆる種類のデジタル計算機のあらゆる1つまたは複数のプロセッサが含まれる。概して、プロセッサは、リード・オンリー・メモリ、またはランダム・アクセス・メモリ、またはその両方から、命令とデータを受信することになる。計算機の本質的な構成要素は、命令を実行するプロセッサと、命令とデータを記憶する1つまたは複数の記憶装置である。概して、計算機はまた、データを記憶する1つまたは複数の大容量記憶装置、例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスクを含むことになるか、またはそれからデータを受信する、それにデータを転送する、もしくはその両方を実行するように動作可能に結合されることになる。計算機プログラム命令とデータを具現化するのに好適な情報担体には、あらゆる形態の不揮発性メモリ、例えば、半導体メモリ装置、例えばEPROM、EEPROM、およびフラッシュメモリ装置;磁気ディスク、例えば、内蔵ハードディスクまたはリムーバブルディスク;光磁気ディスク;ならびにCD ROMおよびDVD-ROMディスクなどがある。プロセッサとメモリは、特定用途向けの論理回路を付属させるか、またはその中に組み込むことができる。
【0091】
本開示の文脈における(特に以下の特許請求の範囲の文脈における)用語「a」および「an」および「the」、ならびに同様の言及が使用されていれば、本明細書において別途表示があるか、または文脈から明らかな矛盾があるのでない限り、単数と複数の両方を対象範囲とするよう解釈されるものとする。本明細書に記載のすべての方法は、本明細書に別途表示があるか、または文脈から明らかな矛盾があるのでない限り、いかなる好適な順序で実行することもできる。本明細書で与えられるありとあらゆる例、または例示的な文言(例えば、好ましい、好ましくは等)の使用は、開示内容をさらに例示することしか意図しておらず、特許請求の範囲に制限を課すものでない。本明細書におけるいかなる文言も、特許請求されていない構成要素を本開示の実践に本質的なものとして表示しているのではないと解釈されるのが望ましい。
【0092】
本明細書には、複数の実施形態が記載されている。これらのうち、開示された実施形態の変形は、前述の開示を読めば当業者には明らかとなろう。本発明者らは、当業者がそのような変形を適切に採用する(例えば、特徴または実施形態を変更する、または組み合わせる)ことを予想しており、本発明者らは、本明細書に具体的に記載されている以外の方法で本発明が実施されることを意図している。
【0093】
したがって、本発明には、添付の特許請求の範囲に記載された主題の、準拠法で認められるあらゆる修正および均等物が含まれる。さらには、上記の構成要素のすべての可能な変形におけるそれらのいずれの組み合わせも、本明細書において別途表示があるか、または文脈から明らかな矛盾があるのでない限り、本発明に包含される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図7a
図7b
図7c
図8a
図8b
図8c
図9a
図9b
図9c
図10a
図10b
図10c
図11
【国際調査報告】